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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第十章

1 ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:15:57
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


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ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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2崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:16:34
人類が宇宙に進出して育星霜――
外宇宙からの脅威【星喰い(ステライーター)】を殲滅するため、
銀星連邦議会は外敵掃討部隊『銀星騎士団(コズモリッター)』の設立を宣言。
騎士団を構成する人類の守護者『星蝕者(イクリプス)』の育成に着手した。

学園惑星『セラエノ』。
無数の銀星連邦加盟星から見出された『星蝕者(イクリプス)』候補生は特務士官育成機関『アカデミー』で集団生活を営み、
その適性を伸ばされ才能を開花させてゆく。

光剣の担い手“フォトンブレーズ”
星辰の射手“サジタリウス”
貫く流星“シューティングスター”
箱舟の漕手“ネビュラノーツ”
暗黒銀河の刺客“ダークマター”
黄道の魔術師“ゾディアック”
恒星破壊者“ジャガンナート”

特務教官として七つのクラスを持つ『星蝕者(イクリプス)』たちを育成し、来たるべき破滅に抗え!





“星蝕のスターリースカイ”





少女たちと星を繋ぐ戦いが今、幕を開ける――

3崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:20:10
「“あれ”……
 あの宇宙船が、イブリースの言っていた“あれ”……。
 ミハエルの言っていた、わたしたちの質問に答えられる者……なの……?」

空を見上げながら、なゆたは誰に言うともなく呆然とした表情で呟いた。
そう、なゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』のはるか上空に浮かんでいる被造物の群れは、
まさしく宇宙船としか形容しようがない。
それも、なゆたたちの良く知っているようなスペースシャトルやボイジャーのような現実のそれとは違う。
スタートレックや銀河英雄伝説などといったスペースオペラ作品に出てきそうな、
現代文明を遥かに超越した叡智の産物とおぼしき技術の具現化した存在であった。
むろん、そんなものはアニメや映画の中の話でしか知らない。――が、何らかの特殊映像や蜃気楼の類ではない。
それらは間違いなくこの地球に、なゆたたちの視界に実体を伴って厳然と存在していた。

イブリースは『ニヴルヘイムとミズガルズの戦争ではなかった』と言っていた。
で、あるのなら。
等しく死亡しているニヴルヘイムの魔物たちと、地球の人々。
両者を鏖殺したのは――。

「エンデ……!?」

なゆたは咄嗟に傍らのエンデへ顔を向けた。
『ブレイブ&モンスターズ!』のシステム、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』のエンデなら、
何か知っていることがあるのでは――そう思ったのだ。
しかし。

「……知らない。
 三つの世界のこと、『ブレイブ&モンスターズ!』にまつわることなら、すべての事柄がぼくのデータベースに入ってる。
 でも、あんな宇宙船のことは知らない。“あれ”は――」

日頃の眠たげな態度を引っ込め、ほんの少しだけ表情を強張らせながら、エンデが口を開く。

「異なる世界のものだ」

「アルフヘイムと、ニヴルヘイムと、ミズガルズ。
 その三世界の他に、まだ世界があるっていうこと……?」

「いいや。『ブレイブ&モンスターズ!』の世界は、あくまでその三つだけだ。未実装で終わったムスペルヘイムを除けば。
 けれど、あの宇宙船はそういうことじゃない。根本的に違うんだ」

エンデがかぶりを振る。ブレモンの中ならばまさしく全知全能と言っても差し支えない権能を持つエンデだが、
こればかりは完全にお手上げといった様子だった。
と、不意に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たちの周辺で轟音が鳴り響いた。
耳を劈くようなキャタピラの音と共に、整然と隊伍を組んだ戦車の群れが現れる。米陸軍の戦車大隊だ。
ネリス空軍基地に駐屯していた戦闘機部隊の全滅を知り、近隣の基地から派兵されてきたのだろう。
ざっと五十台はいる。他にも戦闘ジープや装甲車、銃火器で武装した歩兵を満載したトラックも見える。
世界に冠たる米軍の威信にかけて、この招かれざる外宇宙の客人(まろうど)を撃砕しようと、そんな断固たる意志が窺える。
さらに三十機ばかりの戦闘機がまるで航空ショーのように綺麗な編隊を組み、宇宙船めがけて飛んでゆく。
まさしく映画のような光景。今までミズガルズやニヴルヘイムでゲームの中のような光景を幾度も目にしてきたが、
これは別格だ。

先頭に陣取る超巨大な円盤型の宇宙船に接敵した戦闘機が、一撃必殺とばかりにミサイルを発射する。
翼下のウェポンベイからサイドワインダーが撃ち放たれ、一直線に宇宙船めがけて飛んでゆく。
命中。大きな爆発が起こる――が、宇宙船はどこも損害を受けていない。まったくの無傷、ノーダメージだ。
なおも後続の戦闘機がミサイルをありったけ発射するも、それらをすべて浴びて尚、宇宙船はまるで動じない。
文字通り、お前たちとは文明レベルが違うのだと。そう言いたげに威容を保ち続けている。
人類vs地球外生命体の作品あるあるだが、そんな悠長なことを言ってはいられない。

と、それまでされるがままで沈黙を保っていた宇宙船側に動きがあった。
円盤型宇宙船の下部から、無数の小さな何かがバラ撒かれ始めたのだ。
遠間からは、最初それが何なのか小さすぎてよく分からなかった。
しかし――宇宙船から出てきた夥しい数の其れが空を飛び、米軍の戦闘機へと蜂の群れさながらに吶喊したことで、
やっと正体が分かった。

「あ……」

その尋常ならざる驚異の光景に、なゆたはただただ目を丸くして驚愕する他ない。
サーフボードめいた板に乗っていたり、バイクのような乗り物に跨っていたり。
或いは背から翼を生やし、ジェットパックを装備し、全身に蒼白いオーラを纏って自在に空を翔ける者たち。

其れは、『人』であった。

4崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:24:55
其れらは、一様に少女であった。
だいたい下は小学校低学年くらい、上は高校生くらいの年頃であろうか。男や成人女性はひとりもいない。
人類であるということ以外、人種も肌の色もまちまちであったが、皆セーラー服をSFチックにアレンジした制服を着ている、
というところが統一している。恐らくデフォルトの制服を個人個人の好みで改造しているのだろう。
軍服めいて肌の露出が少ない者もいれば、水着のように肌も露わな改造をしている者もいる。
そんな少女たちが、米軍を相手に圧倒的な戦闘を繰り広げている。

「――ふッ」

スタンダードなセーラー服に黒タイツ、ローファーといった地球でも見かける出で立ちに、
毛先を切り揃えた腰までの黒髪を靡かせた日本人とおぼしき少女が、蛍光管のように淡い碧色に輝く直剣を持って跳躍する。
まるで池の飛び石を跳ぶように、源義経の八艘飛びのように、味方の乗り物や仲間の背を踏み台にして、
地上から離れること数百メートルの上空を文字通り宙を跳んで戦闘機へ肉薄する。
そして、一閃。光の刃が戦闘機の片翼をバターのように斬断すると、制御不能になった戦闘機は錐揉みしながら墜落していった。

「アーッハッハッハッハッハハァッ!」

ジェットパックを背負い、ビキニの水着の上に申し訳程度に制服を纏った白人の少女がウェーブのかかった髪を靡かせ、
哄笑をあげながら両手に持ったバカげた大きさの銃を所かまわず乱射する。複数の銃口と有り得ない長さの弾帯、
常識で考えれば到底実際に使えるとは思えない冗談のようなデザインの銃器だが、そんな銃から放たれた弾丸で、
まるで蚊トンボのように戦闘機が墜ちてゆく。弾丸もいくら使っても一向に尽きる気配がない、
アニメやゲームでよくある、弾数無限のコスモガンというものに違いなかった。

「墜ちろッ!!」

全身を蒼く輝くオーラに包んだ、黒髪をお団子に結い各所に中国風の意匠の入った制服を着た少女が、
しなやかな肢体を宙に舞わせては手に持った穂先にビーム刃を展開した長槍を一閃する。
途端に周囲にオーラで形成された小振りの鎗が十数本出現し、唸りを上げて戦闘機へと飛んで行った。
ミハエルの持つ神殺しの鎗グングニールの『白い閃光(ホワイトグリント)』に似ていてるが、
その威力は勝るとも劣らないように見える。

「……ああ……」

なゆたは絶望の呻きを漏らした。
人類の戦闘力、破壊力の粋が、まるで通じない。
戦闘機は間合いを離してミサイルを発射し、バルカンを乱射するものの、少女たちにはまるで当たらない。
また、当たったところで倒せるかどうかも疑わしい。外見は自分たちと何ら変わらない――いや華奢でさえあるが、
彼女たちは正真、なゆたたちの知っている世界の住人ではなかった。

不意に、ドドォォンッ!! と爆音が響く。地上で戦車隊が主砲を撃ったのだ。
地上へ降りた少女たちを迎え撃つため、展開した歩兵部隊が戦闘を開始する。
しかし、そんな米軍の攻撃を、少女たちは嗤いながら蹂躙してゆく。

「はははッ……脆い! 脆すぎる!」

分厚い鉄板で鎧われた装甲車を、巨大な機械の神馬二頭立てのチャリオットが踏み潰す。
象の足跡ほどもある蹄が鉄板をひしゃげさせ、アスファルトに鉄車輪の轍を刻みながら進んでゆく。
チャリオットの御者台に屹立するのは、飾緒つきの豪奢な礼服めいた詰襟制服に身を包んだ小柄な少女だ。
機神馬は少女の号令通りに動き、戦車を、装甲車を、そして歩兵たちを容赦なく蹴散らし、轢殺し、粉砕する。
その轍の跡には、潰れてもはや原型すら留めぬ無数の骸があるばかり――。

「―――――」

圧倒的攻撃力で殺戮を繰り広げる少女たちを相手に、歩兵たちが持っているアサルトライフルを半狂乱になって撃ちまくる。
しかし、当たらない。どころか、その攻撃の結果を見届ける前に、歩兵たちは首を胴から泣き別れにして絶命していた。
あたかも影のように、鎌鼬のように。死角から突如として出現した、口許を覆面で隠し忍びのデザインを取り入れた制服を着る、
ポニーテールの少女によって暗殺されたのである。バックスタブ、或いは忍殺。
首を喪った兵士たちが切断面から噴水のように血を噴き出して斃れる。其処にはもう、少女の姿はなかった。

「うふふ……。参りますよ?」

阿鼻叫喚の戦場の中で、場違いなほど幼い声が響く。声の主は小学校低学年くらいにしか見えない、幼い少女だった。
スタンダードスタイルのセーラー服の上にだぶだぶの白衣を纏い、大きなウィッチハットにゴーグルを装備している。
歩兵たちが戸惑う。が、この幼女もまた紛れもない侵略者。宇宙船から降臨した敵だった。
幼女が右手を伸ばすと、途端に其処から巨大な火球が生まれる。火球はたちまち爆裂し、辺りは一面火の海と化した。
焼け爛れ悲鳴を上げ、のたうち回る兵士たちを一瞥し、養女はにまあ……と嗤った。

「くくッ……ははははッ、はは――はぁっはっはっはっはっは―――ッ!」

ズズゥン……と大地が震動する。見れば半袖ミニスカ、白いニーハイソックスで褐色の肌を包んだ少女が、
狂的な喜悦の笑みを浮かべてゆっくりと戦車大隊へ向かって単身歩いてゆくところだった。……ただし、無手ではない。
翼を光の剣で切断され、墜落した戦闘機の残骸。その機首を片手で掴み、肩に担いで軽々と持ち運んでいる。
少女がぶぉん! と戦闘機を振り回す。鈍器として扱われた戦闘機と戦車とが激突し、派手な爆炎があがる。
莫迦力と言うのも莫迦らしい、そんな膂力だ。戦車を持ち上げて投げ飛ばし、砲塔を素手で捻じ曲げ、拳で装甲を貫く。

そんな、人知を超越した少女の形をした何かが、宇宙船から続々と降りてくる。

5崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:33:08
事ここに至り、上空に浮かぶ宇宙船の群れが――其処から出てきたこの少女たちがニヴルヘイムの魔物たちと、
地球の人間たちを一挙に相手取って屠り去ったのは明白だった。
確かに最初は、ニヴルヘイムの軍勢はミズガルズを手中に収めるべく米軍と戦闘するつもりでいたのだろう。
米軍も正体不明のモンスターたち出現の報を聞き、これを殲滅するために出動したに違いない。
実際に両陣営間で多少の戦闘はあったかもしれないが、それは微々たるものに過ぎない。
すぐにこの第三勢力が両者の間に乱入し、双方を一網打尽にしてしまったのだ。
それにしても、この少女たちは――

「うんうん、そのお気持ちはよォ〜くワカりますよォ〜! 皆さん、こう考えていらっしゃる!
 『いきなり何の脈絡もなく現れた、あの連中はドチラサマ? 誰か教えてェ〜ん!』とね――」

アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たちが固唾を呑んで戦闘に釘付けになっていると、
そんな声が突然間近で聞こえた。
見ればいつの間に来ていたのか、黒地に金の差し色の入った燕尾服を着込みシルクハットをかぶった長身痩躯の男が、
さも当然と言った様子でなゆたたちパーティーの中に紛れ込んで立っている。
男はボロボロの頭陀袋で頭部をすっぽり覆い隠しており、その頭陀袋にはクレヨンで子どもが雑にラクガキしたような、
いびつな大きさの黒丸だけの双眸と大きなギザ歯の口が描かれていた。
そのヘタクソなラクガキの顔が、何故か普通の生き物のそれのように自然に喜怒哀楽を作っている。
男は手に持ったステッキをくるくると器用に回転させ、しきりに得心がいったように頷いてみせた。

「そうでしょうとも、そうでしょうとも! 当然の思考です無理もありません! 皆さんは正常です! フー!
 まァ世の中正気と狂気は紙一重、同じアレなら踊らにゃソンソンなんて言ったりもしますが。ええ」

良かったですねェ、とぽんぽんっと気安くカザハの頭を撫でる。
なゆたが呆気に取られ、仲間たちも驚いている中、男はやっと自分を取り巻く空気に気付いたのか、

「おおーっとォこれは失礼! ワタクシとしたことがとォんだウッカリを。
 自己紹介がまだでしたねェ、皆さまお初にお目に掛かります。ワタクシの名前はナイ!
 いえいえ『名前が無い』のではなく『名前がナイ』なのですお間違えなきよう。
 本日は皆さまのナビゲーションを担当するよう仰せつかり、斯様に推参仕った次第にてございますです。ハイ」

ナイと名乗った男はシルクハットを取ると、滑稽なほど芝居がかった所作で大袈裟に会釈してみせた。
むろん、こんなNPCもモンスターもブレモンには存在しない。

「ナイ……ね。分かった。
 わたしは――」

なゆたもまた、ナイが名乗ったことで自らの名を名乗ろうとする。
しかし、ナイは白手袋を嵌めた左手を前に突き出すとそれを遮った。

「ストップ! それには及びません! 自己紹介はキャンセルで、時間の無駄ですからね。
 そう配慮して頂かずとも、ワタクシは皆さまのことをよォ〜く存じておりますので!」

「……わたしたちのことを……?」

「ええ。知っておりますとも、よォォ〜くねェ。
 ――人気がなさすぎて間もなくサービス終了してしまうオワコンにいつまでもしがみついて、
 傷を舐め合ってる負け犬オブ・ザ・イヤー御一行様……と。
 いえ、キングオブ落伍者の方がいいですかね? それともワールド敗北者ユニバースチャンピオン? どれがいいです?」

なゆたの顔を腰を折って覗き込み、いい加減に描かれたギザギザの歯を剥き出して、 
にゃひッ、とナイは気持ちの悪い笑み声を漏らした。

「まァでも仕方のないことと言えましょう! いつまでも大昔の『楽しかったころの記憶』に縛られて、
 辞めどきを見失う……古参あるあるというヤツですかねェ〜! しかし形あるものいつかは壊れ、
 始まったコンテンツもいつかは終わる。栄枯盛衰は世の理、どれだけ面白いコンテンツもいつかは飽きられる、これ運命!
 アナタ方の『ブレイブ&モンスターズ!』にも、そのときが来た……単にそれだけの話なのです!」

パーティーの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たちがその慇懃無礼な物言いに怒気を湛えても、ナイはどこ吹く風である。
例え憤怒に任せて攻撃を試みたとしても、まるで立体映像のようにすり抜けてしまうだろう。
この場に『在り』ながら『無い』。それがナイの特性らしい。

「しかァしご安心をォ! そんな往生際の悪い皆さまにご納得して頂くために、ワタクシが遣わされたのです!
 皆さまの為に、プロデューサーメッセージもご用意しておりますですよ。あのお方からの……ね。
 此れを見れば見苦しく生にしがみつく皆さまもだァ〜い納得! して死んで頂けますこと、これ請け合い!
 いやァ〜なんとラッキーなのでしょォ〜!」

くるくると踊るように振舞うナイの所作は何もかもが大袈裟で、まるでミュージカルのようだ。

「……あのお方……大賢者ローウェルのことかしら。あなたもローウェルに創られた存在ってことね……。
 いいわ、あなたがローウェルから全部説明するよう言いつけられて来たのなら――
 洗いざらい、何もかも喋って」

そんなナイの人を小莫迦にしたような振る舞いに眉を顰めながら、なゆたは口を開いた。

6崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:43:24
「じゃあ、教えて。
 ……あなたたちは。あの宇宙船は、そして中から出てきた女の子たちは……。
 いったい、何者なの……?」

「にゃひッ。いいですとも、お教え致しましょう! しかし――あぁ、それにしてもつらい!
 あのお方はなにゆえ、斯くも! 斯くも酷薄なる職務をこのワタクシに与えたもうたのか!」

ナイがオーバーアクションで右手を額に添え、嘆く真似をしてみせる。

「死刑囚でさえ、自身の死刑宣告を聞きたくは無いと申します。例え自分は九分九厘死刑と察しがついていようとも!
 ワタクシがその問いに答える、それはまさしくアナタ方にとっての死刑宣告も同じ。
 すなわち皆さま方が助かる可能性はゼロ! と宣言することと同義! ンンン〜ッなんたる残酷! なんたる殺生!
 皆さまの悲嘆を想像するだけで、ワタクシの心臓は引き裂かれてしまいそうですよォニャヒッヒッハハハハァ!」

途中までは芝居じみて嘆くふりをしていたが、顔は笑っている。
最終的に堪えられなくなったのか、ナイは耳まで裂けたギザ歯の口を大きく開き、ゲラゲラと声を上げて嗤った。

「というか。皆さま、既にうすうす勘付いておられるのでは?
 ワタクシの。かの船団の。そして少女たちの正体を――。
 それでもお聞きになりたいと? そんなにご自分が死刑になる確証が欲しいと……」

「くどい。さっさと答えて」

なゆたは唸るように言った。――珍しく苛立っている。
ナイの人を舐め切り、おちょくった態度に対して不快を隠そうともしない。

「何を言われようと、わたしたちは負けないから」

ぎゅ、と拳を強く握り込む。
ナイはこれでもかと大きく背を反らせ、頭陀袋に楽しげな笑み顔を作った。

「にゃはッ! にゃヒひはハははハッ!
 そうですか! そうですかァ〜これはこれは大変失礼をば! 此れから絞首台に上られる、
 皆さまの決意に水を差してワタクシとんだ野暮天野郎でございました! ンン〜心よりお詫び申し上げます!
 では――」

ビタリ! とナイはポーズを決めると、ステッキの先端で米軍と戦う少女たちを指した。
そして朗々と語る。

「彼女たちは『星蝕者(イクリプス)』。
 新作ソーシャルゲーム『星蝕のスターリースカイ』のキーパーソンにして、育成対象の少女たちなのです」

「……星蝕の……スターリースカイ……?」

「イエェェェェェス!! つい先日リリースが発表されたばかりの、究極にして至高のゲーム! 
 皆さま方『ブレイブ&モンスターズ!』に代わる、次の世代の……プロデューサー・ローウェルの最新作!
 それがあの宇宙船団の、少女たちの正体です! お気軽に『SSS(スリーエス)』とお呼びください!
 ちなみにワタクシ、SSSのUIとシステム解説を担当させて頂いております、ナビゲーションキャラでございまして」

ぎひひッ、とナイがラクガキの顔を笑ませる。

『星蝕のスターリースカイ』――

シャーロットとバロールの反対を押し切り『ブレイブ&モンスターズ!』を見限った大賢者ローウェルが製作した、完全新作RPG。
SFファンタジーという、ブレモンの中世ファンタジーとはまったく経路の違うジャンルでリリースされたゲーム。
ブレモンに代わる後継作。

「な……んて、こと……」

瞠目して呟く。シャーロットの記録の中で、ローウェルが『次』に着手していたことは理解していたが、
まさかここまで形になるほど進行していたとは。
だが、そんな最新作のキャラクターたちが、どうして地球へ乗り込んできたというのだろう?
同じ人物のプロデュースしたゲームだ、理論上は可能かもしれなかったが、その意図が分からない。
そんな疑問を口に出さずとも察したのか、ナイが饒舌に喋り続ける。

「あのお方は皆さま方をとても評価しておられます。
 どんな逆境にも挫けず生を掴み取ろうとする、ゴキブリ並みのしぶとさ……もとい、諦めない心を! ニャヒッ!
 ということで――このまま放っておいても侵食で消滅するアナタたちに、今までの働きに対するご褒美としてェ!
 最期の花道を用意してくださったのです! つまり……」

ひゅばッ! と素早い動きで明神に近付くと、右腕を伸ばして気安く肩を組む。

「最新ゲームのプレイヤーたちの『的』になって死ぬ栄誉を……ネ!」

明神から離れると、ナイはくるくる踊るように回ってエンバースの前に出た。
そうして、未だ一方的な蹂躙で米軍を嬲っている少女たちを再度ステッキで指す。

「彼女ら『星蝕者(イクリプス)』はSSSのクローズドβテストに当選したプレイヤーの皆さまが育成した、
 テストキャラクターなのです!
 応募総数、約2億8千万件! その中で選ばれた50万人のプレイヤーに、この世界をたっぷり破壊して頂き――
 SSSの爽快感! 面白さ! 楽しさをご理解頂こうというワケでして!」
 
それからちょっぴり改善点も教えて頂けるとウレシいですねェ! と、茶目っ気たっぷりにウインクする。

7崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:52:41
「な――」

ナイの物言いに、なゆたは絶句した。
クローズドβテストの的。そんなものはご褒美でも何でもない。
ローウェルは単に、ブレモンのことを廃品利用くらいにしか考えていないのだろう。
どうせ消える世界なら、新規ユーザーに新作の手触りを理解してもらうための試験場として使い捨てようという考えなのだ。
SSSテストプレイヤーのステータスを若干盛り気味にして、爽快感をたっぷり味わって貰えれば、
それが口コミとなって正式リリースの集客率増加にも繋がる。
抜け目がない、そしてブレモンの住人たちを何とも――まさにただのデータとしか捉えていない、非道な手法だった。

「最新ゲームの発展の役に立てるのです、喜ばしいことでしょう? まさにゲーマー冥利に尽きるというもの!
 存分に胸を張ればお宜しい! 次代の覇権ゲーの礎となって死ぬことが出来るのですから!」

どこからか十字架型の墓石を取り出し、ズドン! と『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たちの前に置く。
ついでとばかり手品のようにロザリオと聖書も引っ張り出すと、牧師の真似ごとをしてアーメン、と十字を切る。

「ワタクシが皆さまの最期を看取って差し上げます!
 皆さまがどのように斬られ! 撃たれ! 刺され! 潰され焼かれ溶かされ凍らされ……etcetc!
 ともかく! いかなる終焉を迎えたのか、その死に様を詳細にモニターし、あのお方へ確実に!
 御報告致しますのでご心配なく! あのお方は決して、アナタ方の死を無駄には致しませんとも!
 皆さまを構成するそのデータの1バイトに至るまで、SSSのために有効活用して下さることでしょう!
 いやァ、ワクワクするじゃあありませんか! ワクワクするでしょう? ワクワクしません? ワクワクしろ!!
 ニャルルラハハハハハハハッハハッハハ――――――ッ!!!」

「……いい加減にしたらどう。耳障りよ、ナイ」

ナイがひっくり返らんばかりに背を反らして嗤う。すると、新たな声が聞こえた。
視線を向けると、前方十メートル程先に数人の少女たちが立っている。その中の、中央に立つ日本人風の少女が喋ったらしい。
『星蝕のスターリースカイ』の育成対象であるメインキャラクターたちだ。
その属性は七つのクラスに分かれ、それぞれ個性的なスキルやアビリティを持つ。
少女たちの姿を一瞥し、ナイが爆笑を含み笑いに変えて応じる。

「これはこれは『星蝕者(イクリプス)』の皆さま。
 米軍を相手に無双するのはおやめになられたので?」

「ハ! くだらねぇ。ただ数が多いだけのザコじゃねぇか! そういうのはいいんだよ、そういうのは!」

SF的な意匠のあるアサルトライフルを携えたボーイッシュなショートカットの少女が肩を竦める。

「そうですわね。大量撃破の爽快感は最初こそ良いものですが、すぐに飽きてしまうもの。やはり楽しいのは――」

くるくるにカールした金髪の少女が、軽く右手を口許に添えてのお嬢様ポーズで言う。

「……強い者との戦闘。デバッグテストとしても、そちらの方が有益」

目許以外を覆面ですっぽりと隠した少女が、軽く両手で印を結ぶ。
ナイはすぐに一歩しりぞいた。

「ニャッハハ! ごもっとも、ごもっとも! 
 クローズドβテストの開催期間は長くありません。『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の皆さま、
 名残は尽きないところですが――歓談のお時間はそろそろお開きと致しましょう!
 お話しできてよかった、楽しかったですよ! ワタクシ、皆さまとの語らいのひとときを決して忘れません!
 エート……なに話したんでしたっけ? まぁいいですよね! ニャッハッハハッ!
 ではでは! ごきげんよう―――」

最後まで『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』をコケにした態度で右手をひらひらっと振ると、ナイは瞬く間に消滅した。
跡にはなゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』と、『星蝕者(イクリプス)』と呼ばれる少女が七人。
綺麗に前髪を切り揃えた姫カットの少女が可憐な唇を微かに開く。
だが、その少女はナイとは違い『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』と長々話すつもりはさらさらないらしい。
軽く仲間の少女たちに目配せすると、

「……行くよ」

とだけ告げた。
途端、我が意を得たりと他の少女――『星蝕者(イクリプス)』たちが『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』めがけて襲い掛かった。

魔導師めいた姿のセーラー服に身を包んだ幼女が右手を掲げると、無数の光の矢が迸ってカザハとカケルを狙う。
エンバースとフラウを無数の銃口が狙う。ショートカットの少女はニヤリと笑うと、両手に持った銃のトリガーを引いた。
炎を噴き出すロケットエンジンのノズルに長柄が付いたような槍を携えた北欧系の少女が、一直線に明神へと吶喊する。
褐色肌に白い長髪の少女が、物怖じするどころか好戦的な笑みを口辺に浮かべながらジョンへと肉薄する。
そして――明るく輝く刃を提げた姫カットの少女が、低く身を屈めて一気になゆたへと距離を詰めてゆく――。

8崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:58:51
「ポヨリン! 『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』――」

人間離れした速度で接近してくる少女を迎え撃とうと、なゆたはスマホを取り出しスペルカードを切ろうとした。
が、その暇がない。少女の振るう光刃をなんとか回避したものの、胸鎧を掠める。

「く……!」

歯噛みする。まだ、リューグークランとの戦闘で負ったダメージが回復していない。当然、疲労もそのままだ。
そして何より――前回のデュエルで使用したスペルカードがリキャストしていない。
まったく万全でない手負いの状態で、米軍を手もなく捻り潰した別ゲームのキャラクターを相手にするというのは無茶が過ぎる。
第一、なゆたたち『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は『星蝕のスターリースカイ』なるゲームのことを何も知らない。
よって相手がどんな手を使ってくるのか、まったく分からない。
ただ、米軍との戦闘を見ていたことで目の前の相手がライトセーバーじみた光刃を操る前衛職だということを知るのみだ。

「はッ!」

ぶぉん、と虫の羽音のような不快な音を立て、少女の光刃がなゆたを両断しようと迫る。
一撃でも貰えば、間違いなく致命となるだろう。対処法の分からないなゆたはただただ逃げ回るしかない。
成す術がないのは他の仲間たちも同様だろう。カザハとカケルの魔法は幼女の張った障壁によって悉く防がれ、
あべこべに幼女の爆裂魔法は容赦なく炸裂してふたりの灰を焼き、膚を焦がす。膨大な熱波の前では呼吸さえおぼつかず、
熱せられた空気を吸い込んでは深呼吸を必要とする呪歌は歌えまい。
エンバースの攻撃はほとんど届かない。エンバースの射程距離外から、銃使いの少女は巧みに射撃を連発してくる。
一見して盲滅法の無駄撃ちのようにも見えるが、その実エンバースとフラウの行動を予測し先回りして逃げ場を失くしている。
銃器だけではなく、時折自動追尾式の爆弾なども併用し、エンバースから完全に攻撃の機会を奪っている。
明神の死霊術をものともせず、槍使いの少女がその心臓を貫こうと吶喊してくる。矢継ぎ早の攻撃は、
『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にスマホを手繰る暇さえ与えない。完全なワンサイド・ゲームだ。
ガザーヴァも、まだ目覚めない。ガーゴイルの背にぐったりと突っ伏したままでいる。
圧倒的な戦力差。
その上、『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』と『星蝕者(イクリプス)』の間には、決定的な違いがあった。

『星蝕者にはATBの概念がない』――

「アッハハハハッ……ATB? そんな時代遅れの古臭いゲームシステムなんて、まだ採用してるゲームがあったんだ?」

「『星蝕のスターリースカイ』のジャンルはTPS視点アクションRPG……根本的なシステムが違う」

「悠長にゲージが溜まるのを待ってるような、ノロマのやるゲームじゃないんだよ……SSSはなぁッ!」

『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の行動には、すべてATBゲージが関係している。ゲージが溜まらない限り攻撃も、
防御も、スペルカードを切ることも出来ないのだ。
一方で『星蝕者(イクリプス)』たちはそんなものは関係ないとばかり、次から次へと行動を重ねてくる。
プロデューサーが同じというだけでまったくの別ゲームなのだから当たり前の話だが、
それで抗えという辺り無茶振りもいいところだろう。いや、
元々ローウェルは『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』を生かしておくつもりがない。ここで皆殺しにする気なのだ、
そのための死刑執行人として『星蝕者(エクリプス)』を差し向けている。

「オォォォォォラァァァァァッ!!!」

ガゴォン! という音を立て、ジョンに褐色少女の右拳が炸裂する。戦闘機を片手で持ち上げる、その威力は甚大だ。
ブラッドラストを使い『永劫の』オデットの力さえ我が物としたジョンであっても大ダメージは免れない。
そのくせ、ジョンが全力で少女を殴りつけようとも、少女はほとんどダメージを受けないのだ。

「み……、みのりさん……!」

なゆたは堪らず助けを呼んだ。ブレモンの管理者メニューを手中にしたみのりなら、何らかの手が打てるかもと思ったのだ。
が。

《あ、あかん! 強烈な干渉を受けとる! 外部からのアクセスを拒否できひん!
 なんやのこれ!? こんなんセキュリティハッカーのやることやろ!
 まともな精神の持ち主のやることやあらへんわ! 上位者や言うても、きちんとルールは守たらええのに!》

スマホからみのりの悲鳴が聞こえる。ニヴルヘイムではみのりとウィズリィが必死にファイアウォールを構築し、
外部からのクラッキングを阻止しようとしているのだろうが、ゲーム開発に関しては手練のローウェルと、
つい先日管理者になったばかりの新米であるみのりとでは役者が違いすぎる。

『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の必死の攻撃は、せいぜい『星蝕者(イクリプス)』に毛筋ほどの傷をつけることしか出来ない。
しかし、それは『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が弱いということではない。
単純に『星蝕者(イクリプス)』が強すぎるのだ。それはまるで、チートでも使っているかのように。
ローウェルはクローズドβテスト開催にあたって、応募に当選したプレイヤーを随分優遇したのだろう。
よって、今戦っている『星蝕者(イクリプス)』のステータスは最初からカンスト気味になっている。
正式リリースの暁にはもちろん調整され弱体化されるのだろうが、ここは事前登録者の呼び水とするためのテストの場だ。
後で直すと言ってしまえば、何でもできる。

「みんな! 撤退! 撤退よ……センターの中に入って!」

ポヨリンを抱き上げ、なゆたがありったけの声を張り上げて叫ぶ。
今の万全でない状態で戦ったところで、億にひとつの勝算もない。どころか万全であったとしても勝てるかどうか疑わしい。
一旦ワールド・マーケット・センターの中に退避して、体勢を立て直そうというのだ。

だが――

まったく異なるコンセプト、異なるシステム、異なる価値観のゲームに、対処する方法などあるのだろうか?


【『星蝕のスターリースカイ』クローズドβテストのテストプレイヤーたちが出現。ブレモンキャラの殲滅を開始。
 チート能力につき『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は勝ち目なし。
 全員退避し作戦会議をすることに。】

9embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:19:12
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅰ)】

『お前の言いたいことは分かったけどよ。望み薄じゃねえの?
 ずっとジジイにおんぶされながらニヴルヘイムを渡ってきて、地球で別れたわけだろ。
 こっち来てからの行方は知らないとか言ってたしよ』

「そうは言ってもどうせ手がかりなんてないんだ。取っ掛かりも今んとこコイツくらい、だろ?」

『フ……。僕は何ひとつ嘘は言っていないよ。そんな必要ないからね。
 ローウェルの行方は本当に知らない。信じるかどうかは君たち次第だけど』

「いい。俺はローウェルの居場所を聞いた覚えはないぜ。
 どうすれば辿り着けるか聞いたんだ。何か糸口があるだろ」

『僕がやったことに関しても、弁解するつもりなんてないさ。
 僕がニヴルヘイムの軍勢を地球へ連れてきた結果、たくさんの人が死んだ。魔物も。
 それが僕の罪で、償わなければならないというのなら受け入れようとも。ただ――
 そんな時間はないと思うけど』

「くどいぞ。俺がそんな事にはさせない……そう言った筈だ」

『君たちの質問に答えられる者がいるとしたら、それは……このワールド・マーケット・センターの外にいる。
 此処に来るときには見えなかったかい? まぁ、僕との闘いで頭がいっぱいだったというのなら無理もないか。
 でも、今なら君たちにも見えるはずさ……行って確かめてくるといい。
 僕は……もう二度と見たくない』

「……おい、俺に負けて気分が落ち込むのは分かるが。あんまり情けない事言うなよな」

慰め半分、当惑三割、不満二割といった口ぶり。
実際のところ、あのミハエルをこうも不安げにさせる存在――想像も出来ない。

『……みんな、行こう』

「……先に行っててくれ。すぐに追いつく」

エンバースがミハエルに向き直る/不敵な笑みを見せる――左手を口元に添えて密談の仕草。

「みんなは、なんだかいい感じに納得してくれたけどさ。
 俺は別に回りくどい駆け引きをした覚えはないぜ。
 あんな楽しいデュエル、一回きりで終わりだなんて認められるかよ、なあ?」

両手でミハエルの肩を掴む=力付けるように強く。

「俺が……いや、俺達だったな。俺達がなんとかしてやる――とは言ったもののだな。
 実際問題、お前が尻込みするほどの相手だ。俺も無事でいられるかは正直分からん」

エンバースが身を翻す/仲間達の後を追う――背を向けたままミハエルへ右手を一振り。

「つまり――敗北の余韻を楽しむのもほどほどにしといてくれよって事さ」

そうしてエンバースはワールドマーケットセンターの出入り口へ向かい――

「……あん?なんだ、わざわざ待っててくれた……」

『……ア……、アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』……』

「……って訳でもなさそうだな。おい、何があった?」

エントランスホールで膝を突く、傷だらけ/半死半生のイブリースを目の当たりにした。
しかしエンバースの反応は薄かった。合理的に考えれば然程驚くべき事でもないからだ。

10embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:19:33
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅱ)】

あのミハエルが思い出すだけで身震いさせられるほどの存在。
そんなものが外にいたのなら、イブリースがこうなっているのは――単なる当然の結果だ。
リューグークランのデッドコピーを前にしてもデュエルに熱中出来たエンバースが、今更そんな事で動揺する理由はない。

『イブリース!?』

「おい、あまり迂闊に動くなって。そいつをそんな風にしたヤツがまだ近くにいないとも限らないんだぞ」

死に体のイブリースを通り過ぎる/センターの出入り口へ向けて警戒態勢。

『……“あれ”は……。
 “あれ”は、一体なんだ……?』

『最初は、我が同胞たちとミズガルズの者たちが戦闘をしているものと思っていた……。
 ミハエル・シュヴァルツァーの連れてきた、ミズガルズを侵略しようとするニヴルヘイムの同胞たちと、
 それを阻止せんとするミズガルズの者たち……。その両者が相争うのを止めようとしたのだ……。
 だが……そうでは、なかった……』

「おい、しっかりしろ。ぶっ倒れるなら見たもの全部喋ってからにしろ」

『……ニヴルヘイムと……ミズガルズの戦争では、なかった……。
 我が……同胞たちを、蹂躙し……ミズガルズの者たちを……殺戮、する……。
 “あれ”は……いったい、なんな……の、だ……』

「魔物達も、地球の人間も殺して回る……?なんだそりゃ……どこのどいつだ」

戦慄と動揺が周囲を包んでいくのを感じる――エンバースはどこ吹く風だ。
今更、そんな空気を払拭する為に気を使う必要などないからだ。
まだ見ぬ敵に怯えている暇はない。畢竟、自分達は前に進むしかない――もうみんな分かっている。

『レッツ・ブレイブ……!』

「よし、行くか。レッツ・ブレイブだ」

ワールドマーケットセンターを出る――眼前に広がるのは破壊された街並み/敗戦の痕跡。
前衛を務めるエンバースが先行――あちこちに横たわる魔物と人間の死体へ近寄る=死因の確認。

『……なんて、こと……』

「警戒しろ。何体かの魔物は急所を一撃でやられてる。ふん、なかなか……鮮やかな手並みだぞ」

『“あれ”……
 あの宇宙船が、イブリースの言っていた“あれ”……。
 ミハエルの言っていた、わたしたちの質問に答えられる者……なの……?』

見上げるなゆたの視線の先――近未来的造形の、恐らくは宇宙船団。

『エンデ……!?』

「あー……アレはなんだ?アレもブレイブ&モンスターズ第二章の隠し玉か?」

11embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:19:53
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅲ)】

『……知らない。
 三つの世界のこと、『ブレイブ&モンスターズ!』にまつわることなら、すべての事柄がぼくのデータベースに入ってる。
 でも、あんな宇宙船のことは知らない。“あれ”は――』
『異なる世界のものだ』

『アルフヘイムと、ニヴルヘイムと、ミズガルズ。
 その三世界の他に、まだ世界があるっていうこと……?』

『いいや。『ブレイブ&モンスターズ!』の世界は、あくまでその三つだけだ。未実装で終わったムスペルヘイムを除けば。
 けれど、あの宇宙船はそういうことじゃない。根本的に違うんだ』

「……待て。お喋りはほどほどにして集中しろ。何かを……投下してるぞ」

『あ……』

投下された何かは――人だった。
翼/ジェットパック/全身に纏うオーラで飛行する、制服姿の少女集団。
それらが空を飛び交う――戦闘機を斬り裂く/撃ち落とす。
そうして地へ降り立っては今度は戦車とその随伴歩兵を蹂躙していく。

「クソ、どうなってる……連中は――」

『うんうん、そのお気持ちはよォ〜くワカりますよォ〜! 皆さん、こう考えていらっしゃる!
 『いきなり何の脈絡もなく現れた、あの連中はドチラサマ? 誰か教えてェ〜ん!』とね――』

「ああ?」

不意に背後から聞こえた声――振り返りざま、即座にダインスレイヴを薙ぐ。
そこにいたのは燕尾服/シルクハット/落書きめいた顔の描かれた頭陀袋/洒落たステッキ――長身痩躯の男。

「……なんだ、お前。今確かに斬ったよな?」

『そうでしょうとも、そうでしょうとも! 当然の思考です無理もありません! 皆さんは正常です! フー!
 まァ世の中正気と狂気は紙一重、同じアレなら踊らにゃソンソンなんて言ったりもしますが。ええ』

シルクハット野郎がカザハの頭を気安く撫でる/もう一度斬りつける――やはり手応えがない。すり抜けている。

『おおーっとォこれは失礼! ワタクシとしたことがとォんだウッカリを。
 自己紹介がまだでしたねェ、皆さまお初にお目に掛かります。ワタクシの名前はナイ!
 いえいえ『名前が無い』のではなく『名前がナイ』なのですお間違えなきよう。
 本日は皆さまのナビゲーションを担当するよう仰せつかり、斯様に推参仕った次第にてございますです。ハイ』

「ナビゲーション……ああ、大体分かった。NPCなんて殴れない事の方が多いもんな」

『ナイ……ね。分かった。
 わたしは――』

『ストップ! それには及びません! 自己紹介はキャンセルで、時間の無駄ですからね。
 そう配慮して頂かずとも、ワタクシは皆さまのことをよォ〜く存じておりますので!』

「だろうな。どうせお前もローウェルの差し金だろ」

『ええ。知っておりますとも、よォォ〜くねェ。
 ――人気がなさすぎて間もなくサービス終了してしまうオワコンにいつまでもしがみついて、
 傷を舐め合ってる負け犬オブ・ザ・イヤー御一行様……と。
 いえ、キングオブ落伍者の方がいいですかね? それともワールド敗北者ユニバースチャンピオン? どれがいいです?』

「……いいよそういうのは。時間の無駄だからな。さっさとNPCとしての役目を果たしてくれるか」

12embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:20:11
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅳ)】

『じゃあ、教えて。
 ……あなたたちは。あの宇宙船は、そして中から出てきた女の子たちは……。
 いったい、何者なの……?』

『にゃひッ。いいですとも、お教え致しましょう! しかし――あぁ、それにしてもつらい!
 あのお方はなにゆえ、斯くも! 斯くも酷薄なる職務をこのワタクシに与えたもうたのか!』

「いるよなお前みたいなモブ。ボタン連打で与太話を飛ばしてたらもっかい話しかけちまうタイプだ」

『死刑囚でさえ、自身の死刑宣告を聞きたくは無いと申します。例え自分は九分九厘死刑と察しがついていようとも!
 ワタクシがその問いに答える、それはまさしくアナタ方にとっての死刑宣告も同じ。
 すなわち皆さま方が助かる可能性はゼロ! と宣言することと同義! ンンン〜ッなんたる残酷! なんたる殺生!
 皆さまの悲嘆を想像するだけで、ワタクシの心臓は引き裂かれてしまいそうですよォニャヒッヒッハハハハァ!』

「……これ、最後まで邪魔せず聞いたらアチーブメント貰えたりしないか?いや、俺がさっき殴っちまったな……」

『というか。皆さま、既にうすうす勘付いておられるのでは?
 ワタクシの。かの船団の。そして少女たちの正体を――。
 それでもお聞きになりたいと? そんなにご自分が死刑になる確証が欲しいと……』

『くどい。さっさと答えて』
『何を言われようと、わたしたちは負けないから』

「そういう感じだ。ほら、さっさとイベントを進めろよ」

『にゃはッ! にゃヒひはハははハッ!
 そうですか! そうですかァ〜これはこれは大変失礼をば! 此れから絞首台に上られる、
 皆さまの決意に水を差してワタクシとんだ野暮天野郎でございました! ンン〜心よりお詫び申し上げます!
 では――』

ナイのステッキが米軍を鏖殺してのけた少女達を指す。

『彼女たちは『星蝕者(イクリプス)』。
 新作ソーシャルゲーム『星蝕のスターリースカイ』のキーパーソンにして、育成対象の少女たちなのです』

『……星蝕の……スターリースカイ……?』

『イエェェェェェス!! つい先日リリースが発表されたばかりの、究極にして至高のゲーム! 
 皆さま方『ブレイブ&モンスターズ!』に代わる、次の世代の……プロデューサー・ローウェルの最新作!
 それがあの宇宙船団の、少女たちの正体です! お気軽に『SSS(スリーエス)』とお呼びください!
 ちなみにワタクシ、SSSのUIとシステム解説を担当させて頂いております、ナビゲーションキャラでございまして』

「こう言っちゃ悪いんだが……そういう長くお世話になるタイプのキャラならもっと可愛く作るべきだったろ。
 こっちのメロみたいにさ。SSS、ひとまずナビゲーターのクオリティじゃブレモンに完敗だな」

『あのお方は皆さま方をとても評価しておられます。
 どんな逆境にも挫けず生を掴み取ろうとする、ゴキブリ並みのしぶとさ……もとい、諦めない心を! ニャヒッ!
 ということで――このまま放っておいても侵食で消滅するアナタたちに、今までの働きに対するご褒美としてェ!
 最期の花道を用意してくださったのです! つまり……』

『最新ゲームのプレイヤーたちの『的』になって死ぬ栄誉を……ネ!』

「ほざけ。大方、本当ならウィズリィを送り込んだ辺りでケリを付けてるつもりだったんだろ。
 なのにしくじって、それっきりじゃダサすぎる。ちゃんと自分のプランで片付けた事にしないとな?」

目の前にやってきたナイに一歩詰め寄る/挑発的に鼻で笑う。

13embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:21:26
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅴ)】

『彼女ら『星蝕者(イクリプス)』はSSSのクローズドβテストに当選したプレイヤーの皆さまが育成した、
 テストキャラクターなのです!
 応募総数、約2億8千万件! その中で選ばれた50万人のプレイヤーに、この世界をたっぷり破壊して頂き――
 SSSの爽快感! 面白さ! 楽しさをご理解頂こうというワケでして!』
 
「けど、まあ……ちょっと面白そうだな、SSS。暫くプレイして話を進めて、未知の惑星に辿り着いて。
 その星の名前がミズガルズだったら……ちょっとテンション上がりそうだってのは分かるよ」

『最新ゲームの発展の役に立てるのです、喜ばしいことでしょう? まさにゲーマー冥利に尽きるというもの!
 存分に胸を張ればお宜しい! 次代の覇権ゲーの礎となって死ぬことが出来るのですから!』

「発展に役立つ?なら次のベータテストには俺も呼んでくれよ。今回は失敗に終わるだろうからさ」

『ワタクシが皆さまの最期を看取って差し上げます!
 皆さまがどのように斬られ! 撃たれ! 刺され! 潰され焼かれ溶かされ凍らされ……etcetc!
 ともかく! いかなる終焉を迎えたのか、その死に様を詳細にモニターし、あのお方へ確実に!
 御報告致しますのでご心配なく! あのお方は決して、アナタ方の死を無駄には致しませんとも!
 皆さまを構成するそのデータの1バイトに至るまで、SSSのために有効活用して下さることでしょう!
 いやァ、ワクワクするじゃあありませんか! ワクワクするでしょう? ワクワクしません? ワクワクしろ!!
 ニャルルラハハハハハハハッハハッハハ――――――ッ!!!』

『……いい加減にしたらどう。耳障りよ、ナイ』

不意に視界の外から聞こえた新たな声――星蝕者達が米軍との戦いを切り上げ、集合していた。

『これはこれは『星蝕者(イクリプス)』の皆さま。
 米軍を相手に無双するのはおやめになられたので?』

『ハ! くだらねぇ。ただ数が多いだけのザコじゃねぇか! そういうのはいいんだよ、そういうのは!』
『そうですわね。大量撃破の爽快感は最初こそ良いものですが、すぐに飽きてしまうもの。やはり楽しいのは――』
『……強い者との戦闘。デバッグテストとしても、そちらの方が有益』

「ああ、やっとクソ長いムービーシーンが終わるのか。おい、ちゃんとアンケに書いとけよ。
 可愛くもないナビゲーターの話が長くてもあんまり嬉しくないって」

『ニャッハハ! ごもっとも、ごもっとも! 
 クローズドβテストの開催期間は長くありません。『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の皆さま、
 名残は尽きないところですが――歓談のお時間はそろそろお開きと致しましょう!
 お話しできてよかった、楽しかったですよ! ワタクシ、皆さまとの語らいのひとときを決して忘れません!
 エート……なに話したんでしたっけ? まぁいいですよね! ニャッハッハハッ!
 ではでは! ごきげんよう―――』

「ああ、またな。次会う時はあの船の中を案内してくれよ」

やれやれと言わんばかりの深い溜息――真紅の眼光が星蝕者を睨み上げる。

「さて、と――」

『……行くよ』

戦闘開始――瞬間、エンバースがダインスレイヴを薙ぐ。
変幻自在の刃を伸長/手首の返しで切り払う=最速で敵全員を斬り裂く軌道。
だが――それが星蝕者達に届く事はなかった。
ガンナーの少女が既にこちらへ銃を向けている――その銃口が火を噴く。
速い。弾丸そのものは勿論、照準から射撃までの動作そのものも。
響く激しい金属音――咄嗟に斬撃の軌道を変えて弾丸を防ぐ他なかった。

14embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:25:08
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅵ)】

「……ふん」

エンバースが地を蹴る/大きく立ち位置を変える――自分を狙う射線から味方を遠ざける。
同時に再び剣閃――だが、やはり剣を振り始めた瞬間には銃口が己を睨んでいる。
銃火が閃く/弾丸が迫る=狙いは胸部の魂核――体捌きでは避け切れない。
ダインスレイヴで弾丸を弾く/弾く/弾く――弾幕が厚すぎる。
捌き切れない――常に動き続けて射線から逃れるしかない。

「なかなかのハンドスピードだ。ここ24時間で4回ほど死にかけてる俺を捉え切れないとはな!」

苦し紛れの遠吠え――とは言え実際問題、ショートウェーブヘア/水着制服少女の動作は機敏だ。
車載用にしか見えないサイズの、しかも大量の銃身を束ねた機関銃の二丁持ち。
それほどの重武装を軽々と取り回し、更にジェットパックを駆使してエンバース/フラウを常に視界内に捉え、追い続けている。

『アッハハハハッ……ATB? そんな時代遅れの古臭いゲームシステムなんて、まだ採用してるゲームがあったんだ?』
『『星蝕のスターリースカイ』のジャンルはTPS視点アクションRPG……根本的なシステムが違う』
『悠長にゲージが溜まるのを待ってるような、ノロマのやるゲームじゃないんだよ……SSSはなぁッ!』

「……ふん。俺達過激派ブレイブの間じゃ、そういうゲームは大味だとか底が浅いって言うんだぜ」

機関銃は二丁=必然、二つの射線に挟まれる瞬間が来る。
逆説、その合理的戦術がいつか来る事をエンバースは予測出来る。
そして予測さえ出来ていれば――後はリスクを冒すだけだ。

迫る二射線の片方へ飛び込む/地を蹴る/走り高跳びの要領で飛び越える。
遺灰の左足が撃ち抜かれて吹き飛ぶ――問題ない。
左足の断面から爆ぜる火炎/その爆風で空を蹴る/一息に距離を詰めて斬りかかる――筈だった。

だが――飛びかかるエンバースの軌道上に、赤く明滅するドローンの群体があった。
明らかに危険物=爆発物=機雷原――飛び込めば大ダメージは免れない。
してやられた。エンバースが敵の勝ちパターンを予測出来るなら――敵がその逆を出来ない理由はない。

「フラ――――――――ウッ!!」

今更空中で制動は不可能。エンバースが叫ぶ――フラウの触腕が主の右腕を掴む/引き寄せる。
追尾式の機雷同士が、一瞬前までエンバースのいた位置で接触――炸裂/炸裂/炸裂/炸裂。
強烈な爆風がエンバース/フラウをまとめて吹き飛ばす――どうにか受け身を取る。

「……はっ、はは……どうした。急に誰もいない場所を爆破したりして。
 もしかして……時代遅れのノロマにちょっとビビっちゃったのか?」

直撃は避けた/それでもダメージは重い――それでも萎縮するつもりはない。
それにまるきり収穫がなかった訳でもない。
フラウに引き寄せられながら、どうにか放ったダインスレイヴの斬撃。
それが少女の制服/左上腕を微かに斬り裂いていた――つまり少なくともダメージは与えられる。

「よし、よし。大分分かってきたぞ……そろそろ、お前の事を楽しませてやれそうだ」

直撃を貰えばその場でゲームオーバー/モーションの性能は敵の方が圧倒的/与えられるダメージは極めて微弱。
つまりこれはただの、そこそこやり甲斐のある――だが別に空前絶後というほどでもない縛りプレイ。
エンバースの赤熱する双眸がその輝きを強めていく――

『みんな! 撤退! 撤退よ……センターの中に入って!』

「……また後でな」

ゆらりと左手を振って後退/その指先で虚空を掴む/カーテンを勢いよく引くような動作――炎幕が空を踊る。
それが掻き消えた頃には『アルフヘイムの異邦の魔物遣い(ブレイブ)』一行は完全に姿を眩ませていた。

15embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:33:00
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅶ)】


「――さて。それじゃ次の目的地は連中の乗ってきた宇宙船って事になるのか?
 この世界の外側から来た船だ。ローウェルがどこにいようと追い回せるだろうよ」

センターへの撤退後、皆の呼吸が整った頃合いでエンバースはそう切り出した。

「……ああ、いや。まずはアイツらをやっつけないといけないんだっけ?
 悪いな。大して手こずりもしなさそうだったし、つい忘れちまった」

芝居がかった喋り方/皆を見渡す。

「……ちょっとわざとらしすぎたか?けど、心配するな。攻略法はある。だろ?」

自信ありげな/相変わらず少しぎこちない笑み。

「ひとまず……連中はTPSアクションRPGの出身らしい。アウトライダーズをプレイした事は?
 レムナントはどうだ?リスク・オブ・レインは?EDFシリーズも良かったな。
 4以降のバイオやスプラなんかも一応そうか?ちょっとシューター要素が強すぎるけど……」

TPSアクションRPG――ゲーマーなら一度や二度は触った事があるだろう。エンバースもそうだ。

「ま、とにかくだな。連中もRPGのキャラクターなら、そのステータスや能力の大部分は装備品由来の筈だ。
 つまり……まずは装備を奪うか、破壊するんだ。部位破壊で戦闘が有利になるイブリース戦とそう変わらないな?」

エンバースは心底楽しげだ――最初は皆を鼓舞する目的もあっただろうが。
今はもう、新しいコンテンツ/新しいゲームを前にしたゲーマーそのものだ。

「状態異常も有効かもな。アクション要素があるって事は、ヤバい攻撃はそもそも避けるのが前提になる訳だ。
 つまりレジスト関連のステータスはブレモンほど詳細に設定されていない……かもしれないぞ」

「スイッチ」を切れ――明神はさっきそんな事を言っていたが、生憎それは聞けない相談だった。
便宜上スイッチと呼んだそれはゲームのスキルなどではなく、ただの価値観だからだ。

世界も、未来も、そんなの関係ない。倫理観も感受性もノイズでしかない。
この世界はゲームなのだから――楽しめばいい。楽しんでいい。
何よりもまず目の前の戦いに熱中する事を。それを最高のデュエルにする事を――という価値観/優先順位。

その価値観が結果的に深い集中と、熱狂的な感情の昂りによるパフォーマンスの上振れを両立させているだけで。

言ってしまえばそれは課金とそう変わらない。
きっと最初は多くのプレイヤーが抵抗を覚える。お金を払ってガチャを回すなんてと。
だが一度課金してしまえば――次からはガチャ更新の度にそれが選択肢に入ってくる。

そして二度と課金をする前の精神状態に戻る事は出来ないのだ。

16embers ◆5WH73DXszU:2024/02/12(月) 02:34:13
【ニューエスト・コンテンツ(Ⅷ)】

「それにATBゲージがいらないとしても、なんの制限もないゲームなんて面白くないだろ。
 スキルにはクールタイムや固有のリソースがあってもおかしくないよな。検証してみる価値はあると思う」

そう言うとエンバースはもう一度皆を見渡した。

「……けど、これはあくまで俺向きのやり方だ。みんなはどうだ?何か見つけたか?」

問いかけ=穏やかな声。

「あまり深刻に捉えなくていい。なにせヤツらはキャラクター。
 そして俺達はプレイヤーだ。属性有利はこっちのもんだ」

ついでに右半分の生身の顔でウィンクしてみせる。
「スイッチ」はもう切れない――とは言え、別にそれでエンバースの感受性が完全に失われた訳でもない。
仲間を守る。思いやる。そうした今まで持っていた価値観が消えてなくなる訳でもない。
ただ少し――タガが外れやすくなっただけだ。

「……それと、なゆた。お前は……いや、まずは無事で良かった。
 だが……無茶はするなよ。次も銀の魔術師モードが発動するとは限らないんだ。
 クールタイムや固有のリソースがあるかもしれないのはお前も同じだ」

神妙な――不安/怒り/諦め/懇願――様々な感情が綯い交ぜになった表情。

「正直言ってだな……俺は今や世界最強のブレイブなんだぞ。
 待っててくれれば大体の事はなんとかしてやるから」

実際、ミハエルと次に戦ってまた勝てるかは分からない。
それでもエンバースは己が世界最強だと言い切った。
大言壮語一つでなゆたが少しでも自制を考えてくれるなら、安いコストだ。

17カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/18(日) 23:45:28
【カケル】
>「カザハ…君の言いたいことはなんとなくわかるよ…だから代わりに僕が言うね」
>「エンバース!訂正してもらおう…"俺"じゃなくて"俺達”に!」

「心の中、読まれちゃった……!」

自分はそんなに分かりやすく何かを言いたそうな顔をしていたのかという気恥ずかしさやら
ジョン君に想いを汲んでもらえた嬉しさやらでカザハがほんのり頬を染めている横で、なゆたちゃんがすかさずツッコミを入れる。

>「そこなんだ……」

あっ、これは多分“このバカップルどもめ!”って思われてますね……!
何はともあれ、ミハエルは、ローウェルの行方について本当に何も情報を持っていないらしい。

>「君たちの質問に答えられる者がいるとしたら、それは……このワールド・マーケット・センターの外にいる。
 此処に来るときには見えなかったかい? まぁ、僕との闘いで頭がいっぱいだったというのなら無理もないか。
 でも、今なら君たちにも見えるはずさ……行って確かめてくるといい。
 僕は……もう二度と見たくない」

「なんだよ。急にしおらしくなりきって……! 怖いじゃん!?」

戦闘開始前までの威勢はどこへやら、ミハエルは外にいる何かに怯え切っている様子。
エントランスホールまで戻ると、重傷のイブリースと気を失って倒れているエカテリーナとアシュトラーセがいた。

>「最初は、我が同胞たちとミズガルズの者たちが戦闘をしているものと思っていた……。
 ミハエル・シュヴァルツァーの連れてきた、ミズガルズを侵略しようとするニヴルヘイムの同胞たちと、
 それを阻止せんとするミズガルズの者たち……。その両者が相争うのを止めようとしたのだ……。
 だが……そうでは、なかった……」
>「……ニヴルヘイムと……ミズガルズの戦争では、なかった……。
 我が……同胞たちを、蹂躙し……ミズガルズの者たちを……殺戮、する……。
 “あれ”は……いったい、なんな……の、だ……」

その言葉を最後に、イブリースまでも昏倒する。

「嫌あああああああああああああああ!! “あれ”って何!?」

ビビり倒したカザハが皆に制止をかける。

「ねえ、今すぐは危ないよ! みんな戦える状態じゃないよ!
ガザーヴァは昏倒してるし、スペルカードも使い切ってるでしょ?
イブリースがこんなになる程の相手、今戦ったって勝ち目無いよ!
だから……まず相手の正体確かめてみて、危なくなったらいったん逃げようね!?
あのさ……ぼくも異邦の魔物使い《ブレイブ》だったんだ。”勇気”、あったんだよ……!」

>「レッツ・ブレイブ……!」
「レッツ・ブレイブ!」

18カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/18(日) 23:47:35
外に出ると、現実には存在しえないような宇宙船の群れが上空に浮かんでいた。

>「“あれ”……
 あの宇宙船が、イブリースの言っていた“あれ”……。
 ミハエルの言っていた、わたしたちの質問に答えられる者……なの……?」

>「……知らない。
 三つの世界のこと、『ブレイブ&モンスターズ!』にまつわることなら、すべての事柄がぼくのデータベースに入ってる。
 でも、あんな宇宙船のことは知らない。“あれ”は――」
>「異なる世界のものだ」

こちらが戸惑っている間にも事態は進み、制服美少女達が破壊の限りを尽くす、ぶっとんだ絵面が展開される。
いやいやいや、制服美少女って……そんなアホな!
よくありがちな美少女大量に出しときゃウケるだろう的なソシャゲじゃないんですから!
ん? ソシャゲ……?
まさか、そう……なのでしょうか。

>「うんうん、そのお気持ちはよォ〜くワカりますよォ〜! 皆さん、こう考えていらっしゃる!
 『いきなり何の脈絡もなく現れた、あの連中はドチラサマ? 誰か教えてェ〜ん!』とね――」
>「そうでしょうとも、そうでしょうとも! 当然の思考です無理もありません! 皆さんは正常です! フー!
 まァ世の中正気と狂気は紙一重、同じアレなら踊らにゃソンソンなんて言ったりもしますが。ええ」

「――誰!?」

「気軽に撫でないでくださいっ!」

カザハが突然頭を撫でられ、飛び退いて身構える。
エンバースさんが斬りつけるも、攻撃が通らずすり抜けているようだ。

>「おおーっとォこれは失礼! ワタクシとしたことがとォんだウッカリを。
 自己紹介がまだでしたねェ、皆さまお初にお目に掛かります。ワタクシの名前はナイ!
 いえいえ『名前が無い』のではなく『名前がナイ』なのですお間違えなきよう。
 本日は皆さまのナビゲーションを担当するよう仰せつかり、斯様に推参仕った次第にてございますです。ハイ」

ナイと名乗ったこの人物は、こちらのことを知っていると言う。

>「まァでも仕方のないことと言えましょう! いつまでも大昔の『楽しかったころの記憶』に縛られて、
 辞めどきを見失う……古参あるあるというヤツですかねェ〜! しかし形あるものいつかは壊れ、
 始まったコンテンツもいつかは終わる。栄枯盛衰は世の理、どれだけ面白いコンテンツもいつかは飽きられる、これ運命!
 アナタ方の『ブレイブ&モンスターズ!』にも、そのときが来た……単にそれだけの話なのです!」

>「……あのお方……大賢者ローウェルのことかしら。あなたもローウェルに創られた存在ってことね……。
 いいわ、あなたがローウェルから全部説明するよう言いつけられて来たのなら――
 洗いざらい、何もかも喋って」

ナイはしばらく勿体ぶった後に、ようやく核心を語るのであった。

19カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/18(日) 23:49:45
>「彼女たちは『星蝕者(イクリプス)』。
 新作ソーシャルゲーム『星蝕のスターリースカイ』のキーパーソンにして、育成対象の少女たちなのです」

>「……星蝕の……スターリースカイ……?」

>「イエェェェェェス!! つい先日リリースが発表されたばかりの、究極にして至高のゲーム! 
 皆さま方『ブレイブ&モンスターズ!』に代わる、次の世代の……プロデューサー・ローウェルの最新作!
 それがあの宇宙船団の、少女たちの正体です! お気軽に『SSS(スリーエス)』とお呼びください!
 ちなみにワタクシ、SSSのUIとシステム解説を担当させて頂いております、ナビゲーションキャラでございまして」

>「こう言っちゃ悪いんだが……そういう長くお世話になるタイプのキャラならもっと可愛く作るべきだったろ。
 こっちのメロみたいにさ。SSS、ひとまずナビゲーターのクオリティじゃブレモンに完敗だな」

「それに……主人公側の勢力の名前がイクリプスって、何か変じゃない……?」

カザハは新作ゲームの用語に何か違和感を感じているようだ。

>「あのお方は皆さま方をとても評価しておられます。
 どんな逆境にも挫けず生を掴み取ろうとする、ゴキブリ並みのしぶとさ……もとい、諦めない心を! ニャヒッ!
 ということで――このまま放っておいても侵食で消滅するアナタたちに、今までの働きに対するご褒美としてェ!
 最期の花道を用意してくださったのです! つまり……」
>「最新ゲームのプレイヤーたちの『的』になって死ぬ栄誉を……ネ!」

「そんな! 何も知らないプレイヤー達を殺戮に参加させるなんて……!」

「……きっと、上の世界の人にとってはゲームに出てくる敵キャラを倒してるだけなんですよ」

高度なAIに心はあるのか?という哲学的命題は、おそらく上の世界では無いという結論で決着が付いているのだろう。
前になゆたちゃんは、この世界はゲームとはいっても一人一人の人間の行動までは逐一制御されているわけではない、というようなことを言っていた。
ブレイブ&モンスターズというゲームは、NPCが自由意思を持っているかのように動くのがウリの一つだったのかもしれない。
が、上の世界から見れば、高度なプログラムで心を持っているかのように動いているだけと解釈されているのだ。

>「彼女ら『星蝕者(イクリプス)』はSSSのクローズドβテストに当選したプレイヤーの皆さまが育成した、
 テストキャラクターなのです!
 応募総数、約2億8千万件! その中で選ばれた50万人のプレイヤーに、この世界をたっぷり破壊して頂き――
 SSSの爽快感! 面白さ! 楽しさをご理解頂こうというワケでして!」

(ご、ごじゅうまんにん!? そんなの……浸食で消える前に世界が破壊しつくされちゃうよ……!)

20カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/18(日) 23:51:45
>「……いい加減にしたらどう。耳障りよ、ナイ」

放っておいたら延々としゃべり続けそうだったナイだが、
イクリプスの一人と思われる少女に制止され、戦闘が始まった。

>「……行くよ』

「「竜巻大旋風零式(ウインドストームオリジン)!!」」

多勢に無勢で一人一人相手にしてたらきりがない、ということで
開幕早々、二人がかりでレクステンペストの固有スキルの攻撃魔法を放つ。
並みのモンスターから結構強いモンスターまで一掃できる大規模攻撃魔法だが、魔術師系クラスらしき幼女の障壁に阻まれた。

「まずあの幼女を堕とすッ! 真空刃零式(エアリアルスラッシュオリジン)!」

「はいっ!」

幼女集中狙いで波状攻撃を仕掛けるも、ことごとく防がれる。
あの防御スキルの発動速度はいくら何でも早すぎやしません!?
お返しとばかりに幼女が爆裂魔法を放ち、爆風が巻き起こる。
体が軽いカザハが吹っ飛んでいきかけて、襟首を引っ掴んで確保して翼で出来るだけ覆い隠す。
身を焦がす膨大な熱波の中、呼吸すらもおぼつかない。
幼女が追撃をかけてくる。こんなものをまともにくらい続けたら……

(また焼肉になっちゃう……ってこと!?)

「伏せて!」

カザハがなんとか傘の杖を開き、私もその後ろに隠れて直撃だけは辛うじて免れる。
暴風の中で傘を開いたら普通は余計飛んでいきそうなものだが、そうならないのは流石すごい傘である。
しかし、防戦一方でこのままではやられるのは時間の問題だ。
呪歌はこんな状況ではとても無理だし、そもそも呪歌が歌えるほどの体力も残っていない。

「あぁああああああああ!
こんなことなら! さっき駄々こねてみんなを止めときゃ良かっだああああああ!!」

カザハは涙と鼻水を垂れ流しながら絶叫していた。
さっき一瞬ヘタレキャラが崩壊して心配になったけどやっぱ気のせいだったようです!

「あなたたち! いくらなんでもATBゲージ溜まるの早すぎるでしょう!」

>「アッハハハハッ……ATB? そんな時代遅れの古臭いゲームシステムなんて、まだ採用してるゲームがあったんだ?」
>「『星蝕のスターリースカイ』のジャンルはTPS視点アクションRPG……根本的なシステムが違う」
>「悠長にゲージが溜まるのを待ってるような、ノロマのやるゲームじゃないんだよ……SSSはなぁッ!」

21カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/18(日) 23:53:01
ATBゲージが視覚的に確認できるのはパートナーモンスターだけだが、
実際にはこちらの世界の存在は全員がATBゲージ方式で、
別にそんな感じがしないのはATBゲージがこの世界の尺度から見れば超速く溜まっているから、ということなのだろうか。
ATBゲージ方式のゲームの戦闘シーンって、
そういうものだと思って見るからゲージが溜まるまで突っ立ってても何も違和感が無いだけで、
冷静に見るとかなりシュールな光景ですよね……。
そもそもゲージ方式ではない向こうから見た私達は今まさにそんな状態に見えているのかもしれない。

「えっ、フルダイブじゃないの!? プレイヤーはお茶の間で画面の前に座ってるの!?」

「着眼点そこ!?」

とはいえ、ゲームがどの視点方式をとっているかというのは、戦闘システムと同じぐらい重要な情報かもしれない。
完全俯瞰視点かTPSかFPSかフルダイブかによって、相手が得られる情報量が全く違ってくるのだ。
フルダイブじゃないのは多分、3Dの映像技術が確立されている現代でもドット絵のゲームがあるのと同じ理屈だろう。

>「みんな! 撤退! 撤退よ……センターの中に入って!」

あまりに勝ち目のない状況に、なゆたちゃんが撤退の号令をかける。
でも、これって撤退すらままならない状況なんじゃ……。
私達が的として設定されているということは、倒したらいいことがあるということですよね!?
撤退しようとしたところで50万人に追撃されて袋叩きになりそう……!

>「……また後でな」

エンバースさんが炎幕を展開する。
私は移動速度に長けた馬形態に戻り、カザハが私の上に飛び乗った。

「撤退するなら今のうち――オールフライト!」

カザハが全員に飛行魔法をかけ、遅れそうになった人がいたら回収して全速力でセンター内を目指す。
こうして私達は、命からがらセンター内に転がり込んだ。今のところ、イクリプス達が追ってくる様子は無い。
うまいこと巻けたのか、それとも建造物の中には入れない仕様になっているのか?

「と、とりあえず助かった……」

>「――さて。それじゃ次の目的地は連中の乗ってきた宇宙船って事になるのか?
 この世界の外側から来た船だ。ローウェルがどこにいようと追い回せるだろうよ」
>「……ああ、いや。まずはアイツらをやっつけないといけないんだっけ?
 悪いな。大して手こずりもしなさそうだったし、つい忘れちまった」

エンバースさんが、芝居がかった口調で話を切り出す。
きっと皆を元気付けようとしているのだろう。

22カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/19(月) 00:19:28
>「……ちょっとわざとらしすぎたか?けど、心配するな。攻略法はある。だろ?」
>「ひとまず……連中はTPSアクションRPGの出身らしい。アウトライダーズをプレイした事は?
 レムナントはどうだ?リスク・オブ・レインは?EDFシリーズも良かったな。
 4以降のバイオやスプラなんかも一応そうか?ちょっとシューター要素が強すぎるけど……」

「TPSってカメラが自キャラの少し後ろにあるような視点のことだよね。
ダークク〇ニクルとか聖〇伝説4なら……あっ」

“西暦の千の位が2なら割と最近”は古代生物の感覚やで!? という私の心の声が通じたのか、カザハは口をつぐむ。
ちなみに前者はある程度近付いて〇ボタンを連打すると自動で照準合わせて攻撃してくれる親切設計だったけど
聖〇4はそんな親切設計じゃなくて暫く虚空に向かって剣ぶん回した後に「こんなクソゲーやってられるか」ってすぐ投げてましたね……。
クソゲーという点では世間の一般的見解と一致しているようですが。
幸いエンバースさんは深く突っ込まずに話を進めてくれた。

>「ま、とにかくだな。連中もRPGのキャラクターなら、そのステータスや能力の大部分は装備品由来の筈だ。
 つまり……まずは装備を奪うか、破壊するんだ。部位破壊で戦闘が有利になるイブリース戦とそう変わらないな?」

「あいつらの装備品といったらライトセーバーみたいなやつとか?
それからセーラー服……っぽい戦闘服?も単なるグラフィックじゃなくて特殊武装の可能性もあるよね……」

>「状態異常も有効かもな。アクション要素があるって事は、ヤバい攻撃はそもそも避けるのが前提になる訳だ。
 つまりレジスト関連のステータスはブレモンほど詳細に設定されていない……かもしれないぞ」
>「それにATBゲージがいらないとしても、なんの制限もないゲームなんて面白くないだろ。
 スキルにはクールタイムや固有のリソースがあってもおかしくないよな。検証してみる価値はあると思う」

「なるほど……」

色々な案が出てくるエンバースさんに、カザハが感心している。
流石最強のデュエリストだけあって、ゲームに対する造詣が深いですね……。
というか、気のせいかもしれないけどちょっと楽しそうじゃありません!?

>「……けど、これはあくまで俺向きのやり方だ。みんなはどうだ?何か見つけたか?」
>「あまり深刻に捉えなくていい。なにせヤツらはキャラクター。
 そして俺達はプレイヤーだ。属性有利はこっちのもんだ」

「そうだよね……! お茶の間で画面の前に座ってポテチ食べながら美少女の背中見て呑気に喜んでるような奴らに負けるものか!」

「エンバースさん、いいこと言いますね……」

こちらは向こう側から見ればゲームに出てくるNPCでしかなくて、
それが一つの真実であることには違いは無いが、こちら側から見ればまた別の真実があるのだ。
ターン制ならともかくアクションRPGでポテチ食べてる暇は流石にないと思いますけど!
エンバースさんが右目を瞑ってみせたのは、きっとウィンクしたんですかね?
あれ、エンバースさんってこんなお茶目なキャラでしたっけ!?

23カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/19(月) 00:23:24
>「……それと、なゆた。お前は……いや、まずは無事で良かった。
 だが……無茶はするなよ。次も銀の魔術師モードが発動するとは限らないんだ。
 クールタイムや固有のリソースがあるかもしれないのはお前も同じだ」
>「正直言ってだな……俺は今や世界最強のブレイブなんだぞ。
 待っててくれれば大体の事はなんとかしてやるから」

「銀の魔術師モードを発動した時は必ず生命の危機に瀕している」としても
「生命の危機に瀕すると必ず銀の魔術師モードが発動する」とは限らない――
これはカザハも常々気にしていることで、きっと他の皆も似たようなことは思っているだろう。
だけど、エンバースさんはなんともいえない神妙な表情をしていて、それ以上の何かを憂いているような……
例えば、彼の言う”固有のリソース”がとんでもない何かだとしたら……いえ、縁起の悪い憶測はやめましょう。

「世界最強……超かっけぇじゃん! 頼りにしてるから!
我、ゲームやっても全然下手糞でみんなみたいなゲーマーじゃないから……見当違いのこと言うかもだけど……」

カザハが不吉な予感を振り払うかのようにエンバースさんを盛り立てて見せてから、話題を作戦会議に戻す。

「さっきエンバースさんが炎幕張ってる間にうまいこと逃げ切れたでしょ?
上の世界のフルダイブじゃないゲームがこっちの世界のゲームと同じようなものだとすればだけど……
情報源が画面しか無い以上視覚情報の攪乱の影響をもろに受ける……のかも?」

もしもフルダイブでプレイヤーが実際にこの世界に入ってきているなら
視覚を攪乱しても魔力感知やら超音波探知やら果ては気配やらの感知方法がたくさんありそうだが
相手が画面を通してこっちを見ているならそういう抜け道は使えなさそうではある。
尤も、SSSに視覚以外の感知能力がゲームシステムとして搭載されてしまっていたらその限りではないのだが。
その可能性はひとまず置いておいて、視覚情報の攪乱という路線で更に踏み込むカザハ。

「SSSってどれぐらい親切設計のゲームなんだろう。
当然親切設計じゃない方がこっちには都合がいいわけだけど……
ある程度近付いたら自動で照準合わせてくれたり、
そこまでいかなくても敵キャラにターゲットマークみたいなの表示されてるのかな?
もしそうじゃない上級者仕様のゲームだとしたら……向こう側に絵柄を合わせてやれば、結構混乱するだろうね。
幻影(イリュージョン)のカード、まだ残ってるんだ」

クローズドβテストの参加者は50万人もいるので、当然お互いに自軍を一人一人認識しているはずはない。
セーラー服っぽい服を着た美少女だったら自軍、ぐらいにざっくり認識しているのだろう。
あれ? 絵柄を合わせる、とか真面目な顔をして言っているけど、要するにそれって、バーチャル美少女受肉……ってこと!?

「でもなぁ、虚空に向かって剣ぶん回してる奴が見当たらなかったんだよな……。
やっぱ自動で照準合うのかなあ……」

24カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/02/19(月) 00:24:10
小声でブツブツ言っているカザハに、2億8千万件の中から選び抜かれた50万人やで!? アンタとは違うんやで!?
と心の中で突っ込んでおく。
ところで、カザハはTPSだから画面で見る形式、という前提で話をしていますが、
よく考えるとTPSって飽くまでも視点の形式だからフルダイブの可能性も絶対無いとは言い切れないんですよね。
背後霊みたいな感じでキャラクターの背後で操ってる形式、という可能性も無くはない。
どちらにしても言えるのは、世界に干渉する主体(キャラクター)と世界を認識する主体(プレイヤー)が別個に存在していて、
プレイヤーの視点はキャラクターの少し背後にあるということ。ならば……

「視界を遮るなら、相手キャラのすぐ背後に幕を張ってやれば
こちらは影響を受けずに相手だけの視界を遮断できる……かもしれませんね」

幕を張る方法は多分いろいろあるだろう。
さっきのエンバースさんの炎幕もそうだし、私達も砂を浮遊させて視界を遮るぐらいの層を作ることは可能だ。

「それにしてもローウェル、シナリオライターもクビにしちゃって一人で作ってんのかな。
イクリプスって、日蝕とか月蝕の『蝕』って意味だよね。
どっちかというと、正義の味方側というより敵側みたいなネーミングじゃない?
それからあのナビゲーションキャラ、かわいくないのもそうだし、多分クトゥルフ神話のニャル様と元ネタを同じくするキャラだよね……。
それって思いっきり邪神じゃん!」

SSSのナビゲーションキャラ――ナイは名前とか特徴的な笑い方から鑑みるに、
地球における創作神話クトゥルフ神話のニャル様こと、ナイアルラトホテップとかニャルラトホテプとか呼ばれる邪神を元ネタにしたキャラ――
じゃなくて、それと共通の元ネタを持つキャラなのだろう。
元ネタと創作物に落とし込まれたキャラが必ずしも全く同じ属性とは限らないとはいえ、
ニャル様が邪神ならその元ネタも悪い奴である可能性は高い。
主人公の所属する組織とか雇い主が実は黒幕でした!というのも王道ではあるけど
それにしても最初からいかにも悪い奴っぽい名前付けるのは変ですよね……。

「あっ、ごめん、今こんな話してる場合じゃないよね……!
今はアイツらをやっつけることだけ考えなきゃ」

ひとしきりローウェルのセンスをディスったカザハは、はっと気づいて話を元に戻した。

「アイツら、自分達の方が絶対有利なシステムだと思ってドヤ顔してたけどそんなことないよね。
こっちはゲームシステム上はゲージ制コマンドバトルらしいから
習得したスキルで出来ると設定されていることなら無茶でも何でも出来てしまうけど……
向こうはプレイヤーが操作しきれない動きはどうしたって出来ないわけじゃん」

一見楽観的過ぎて能天気にも見えるが、皆を不安にさせないようにわざとそうしているのだろう。
何せ正攻法では刃が立たないのが分かり切っている上に、体力を使い果たして呪歌も満足に使えない状態なのだ。

「きっといろいろあるよ、TPSアクションというジャンルを逆手に取る方法……!」

25明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 01:57:46
>「フ……。僕は何ひとつ嘘は言っていないよ。そんな必要ないからね。
 ローウェルの行方は本当に知らない。信じるかどうかは君たち次第だけど」

エンバースの問いに、ミハエルは冷笑で返した。
思わず勇気パンチをその顔面に叩き込んでやりたくなったが、深呼吸でどうにか衝動を抑え込む。
アンガーマネジメントは社会人の必須スキルだ。

>「僕がやったことに関しても、弁解するつもりなんてないさ。
 僕がニヴルヘイムの軍勢を地球へ連れてきた結果、たくさんの人が死んだ。魔物も。
 それが僕の罪で、償わなければならないというのなら受け入れようとも。ただ――
 そんな時間はないと思うけど」

「なんだ、何言ってんだ、お前……?」

まるでラスベガスの惨状は結果論ですみたいな言い草がどうにも腑に落ちない。
罪を逃れるために詭弁を振り回してる、とかなら腹は立つけどまだ理解はできる。
だけど今の言葉は――本当に、本気で、他人事だと捉えているようだった。

何かが妙だ。
俺達とミハエルとの間に、重大な認識の齟齬があるような、座りの悪さを感じる。

>「君たちの質問に答えられる者がいるとしたら、それは……このワールド・マーケット・センターの外にいる。
 此処に来るときには見えなかったかい? まぁ、僕との闘いで頭がいっぱいだったというのなら無理もないか。
 でも、今なら君たちにも見えるはずさ……行って確かめてくるといい。
 僕は……もう二度と見たくない」

それだけ言って、ミハエルは自分の腕を抱いた。
怯えてる……?あの傲岸不遜のチャンピオンが、一体何にビビってるってんだ。

>「……みんな、行こう」

ミハエルの処遇は一旦保留にし、『質問に答えられる者』とやらのいる外を見に行くことにした。
エントランスホールまで戻ると、這々の体を引きずるイブリースの姿があった。

>「……ア……、アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』……」

「イブリース……?お前、その傷……」

イブリースは襤褸切れ同然の満身創痍だった。
鎧は砕け、体中に穴が空き、翼もぐちゃぐちゃ。対戦車バズーカの集中砲火でも受けたみたいな惨状だ。
市内に展開してる米軍とやりあった結果なのか――

「嘘だろおい……カテ公、アシュトラーセ……!」

イブリースの後ろには、同じくらいボロボロになった賢者2人の姿があった。
いずれも生きてはいるようだが、命があるのが不思議なくらい重傷を負ってる。
変身能力でドラゴンにだってなれるカテ公と、半竜の頑丈な肉体を持ってるアシュトラーセ。
十二階梯でも指折りの耐久力を持つ二人が、ここまでスタボロになるなんてことがあるか?

>「……“あれ”は……。 “あれ”は、一体なんだ……?」

イブリースは死に体の浅い呼吸を繰り返しながら、言葉を絞り出した。

>「……ニヴルヘイムと……ミズガルズの戦争では、なかった……。
 我が……同胞たちを、蹂躙し……ミズガルズの者たちを……殺戮、する……。
 “あれ”は……いったい、なんな……の、だ……」

ミハエルの言った、「もう二度と見たくない」という言葉が脳裏をよぎる。
三魔将と十二階梯を瀕死に追い込み、世界チャンプすら恐れをなすような何かが、『外』に居る。
俺たちは今から、そいつと邂逅するんだ。

26明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 01:58:54
 ◆ ◆ ◆

>「……なんて、こと……」

センターの外、ラスベガス市街地は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
崩壊した街、破壊された兵器、そこかしこに転がる人々の死体。
それらは俺たちが最初にここへ来た時と変わらない。
変化があったとすれば、重油のような黒雲の立ち込めるラスベガスの空。

「なんだよアレ、宇宙船……宇宙船……!?」

空を埋め尽くすのはまさしく宇宙船だった。
それもNASAみたいな宇宙開発機関が打ち上げてる、いわゆるスペースシャトルじゃない。
SFに出てくるような、異質でバリエーションに飛んだ外観の『船』――

剣と魔法のファンタジーに侵略してきた、異なる世界観の何かだった。

>「“あれ”……あの宇宙船が、イブリースの言っていた“あれ”……。
 ミハエルの言っていた、わたしたちの質問に答えられる者……なの……?」
>「……知らない。
 三つの世界のこと、『ブレイブ&モンスターズ!』にまつわることなら、すべての事柄がぼくのデータベースに入ってる。
 でも、あんな宇宙船のことは知らない。“あれ”は――」
>「異なる世界のものだ」

なゆたちゃんはエンデに問うが、エンデは歯切れ悪く答えるばかりだった。
これまでシステムの代弁者として、聞かれたことには必ず回答を寄越してきたエンデが――
『知らない』と、そう言った。

俺たちが目の前の光景を受け入れられずに硬直する中、事態はどんどん転がっていく。
ラスベガスに到着した米軍の増援が宇宙船団と激突。
大量のミサイルが船団に着弾するが、目立った損害は与えられない。
反撃として繰り出されたのは、

「人……?」

宇宙船が発射したのは、超科学のミサイルとかじゃなく、『人』だった。
空中にばらまかれた無数の人影は、ラスベガス上空で戦闘機と激突したあたりでディティールが明らかになる。

それらは少女だった。
服装も、乗り物も、手に握る武器らしきものもバラバラで統一性がない。
唯一共通項があるとすれば、いずれも10代と思しき少女達であることと――
――そいつらが一様に、近代兵器もロクに歯が立たない圧倒的な戦闘力を有していること。

少女が剣を振るう。上空で戦闘機が真っ二つになる。
少女が二丁の巨大なマシンガンから弾をばらまく。無数の爆発、命の失われる花が咲く。
少女が槍を掲げる。数えるのも馬鹿らしくなる光の槍の群れが、鋼鉄の兵器を食い荒らしていく。
古代の戦車が現代の戦車を踏み潰す。歩兵の群れを一人の少女が見えない速度で殺し回る。
巨大な火球を放り投げて地上部隊を焼き尽くす。物理法則を無視した怪力が装甲車を腑分けしていく。

「なんなんだよ……なんなんだよこれは!俺たちは何を見せられてんだ!!」

>「うんうん、そのお気持ちはよォ〜くワカりますよォ〜! 皆さん、こう考えていらっしゃる!
 『いきなり何の脈絡もなく現れた、あの連中はドチラサマ? 誰か教えてェ〜ん!』とね――」

不意に、隣で俺たちのものじゃない声が聞こえた。
思わずスマホに手をかけながら飛び退く。そこに居たのは、やはり新手の人影だった。

27明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 01:59:34
こっちは人……と断定できない。
燕尾服とシルクハットは紳士然としたものだが、こいつには『顔』がなかった。
ズタ袋を頭から被り、顔があるべき場所には目鼻を模した落書きがあるだけ。
落書きは生きてるみたいに『表情』をぐるぐる変える。
地獄絵図に発狂したラスベガスの市民には、思えない。

>「おおーっとォこれは失礼! ワタクシとしたことがとォんだウッカリを。
 自己紹介がまだでしたねェ、皆さまお初にお目に掛かります。ワタクシの名前はナイ!
 いえいえ『名前が無い』のではなく『名前がナイ』なのですお間違えなきよう。
 本日は皆さまのナビゲーションを担当するよう仰せつかり、斯様に推参仕った次第にてございますです。ハイ」

『ナイ』と名乗ったその何かは、大仰なモーションで頭を下げた。
なゆたちゃんは自己紹介に応じようとするが、ナイは慇懃無礼な仕草でそれを制した。

>「ええ。知っておりますとも、よォォ〜くねェ。
 ――人気がなさすぎて間もなくサービス終了してしまうオワコンにいつまでもしがみついて、
 傷を舐め合ってる負け犬オブ・ザ・イヤー御一行様……と。
 いえ、キングオブ落伍者の方がいいですかね? それともワールド敗北者ユニバースチャンピオン? どれがいいです?」

「……なるほど?そういう感じか。お前の自己紹介もこれで要らなくなったぜ。
 ブレモンをオワコン呼ばわりする馬鹿はこの世でローウェルただ一人だ」

ナイはローウェルから遣わされた、奴の言葉を借りればナビってわけだ。
もう大体わかったからさっさと本題に入って欲しい。

>「じゃあ、教えて。
 ……あなたたちは。あの宇宙船は、そして中から出てきた女の子たちは……。
 いったい、何者なの……?」
>「にゃひッ。いいですとも、お教え致しましょう! しかし――あぁ、それにしてもつらい!
 あのお方はなにゆえ、斯くも! 斯くも酷薄なる職務をこのワタクシに与えたもうたのか!」

そこからナイのくっちゃべる戯言の半分くらいは耳に入らなかった。
何故かといえば、本当に戯言だったからだ。
前置きが……前置きが長い!!

「嘘だろこいつ……『お教えしましょう』つってからどんだけ前置きすんだよ。
 牛歩戦術でもローウェルに頼まれたのか?もっと会話の上手い奴をナビに寄越せって言っとけ」

>「……これ、最後まで邪魔せず聞いたらアチーブメント貰えたりしないか?いや、俺がさっき殴っちまったな……」

「取得率低そうなアチーブだな……テキスト送りオートにして風呂入ってた奴しか取れねえよ」

たっぷり一分近く喋りちらしてから、ようやくナイは本題を切り出した。

>「彼女たちは『星蝕者(イクリプス)』。
 新作ソーシャルゲーム『星蝕のスターリースカイ』のキーパーソンにして、育成対象の少女たちなのです」

もたらされた衝撃の事実――のはずだが、俺は奴の期待通りに驚く気にはなれなかった。
こんだけ時間かけてムービー見せられりゃアホでも察する。
明らかに世界観を逸脱したような宇宙船に、一騎当千の戦闘力を有した『少女達』。
この世界がゲームだっていう大前提を振り返れば、どうやったって結論は見えてくる。

こいつらは……別のゲームのキャラクター達だ。

28明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:00:32
>「イエェェェェェス!! つい先日リリースが発表されたばかりの、究極にして至高のゲーム! 
 皆さま方『ブレイブ&モンスターズ!』に代わる、次の世代の……プロデューサー・ローウェルの最新作!
 それがあの宇宙船団の、少女たちの正体です! お気軽に『SSS(スリーエス)』とお呼びください!
 ちなみにワタクシ、SSSのUIとシステム解説を担当させて頂いております、ナビゲーションキャラでございまして」

「星蝕のスターリースカイ……シャーロットがなんか言ってやがったな。
 ローウェルは新しいゲームの開発にご執心だって。これかぁ……」

>「こう言っちゃ悪いんだが……そういう長くお世話になるタイプのキャラならもっと可愛く作るべきだったろ。
 こっちのメロみたいにさ。SSS、ひとまずナビゲーターのクオリティじゃブレモンに完敗だな」

「それな。毎日ログイン画面でこいつのツラ見んの?ログボのスタンプもこいつに押してもらうの?
 今からでもその頭巾脱いで美少女だったことにしたほうが良いって!
 プレイアブルが軒並み少女ってことは、SSSの主要ターゲットは男性プレイヤーだろ」

ナビキャラっつったら作品の顔みてえなモンだよぉ……?
こんな3分で作りましたみてえな雑キャラデザじゃぜってえ売れねえって!
ただでさえ「うるさい」、「うっとおしい」、「話が長い」の三重苦なんだからさぁ!

>「それに……主人公側の勢力の名前がイクリプスって、何か変じゃない……?」

「あ?そうなの?なんて意味だっけ、イクリプス……」

ナイのデザインに仮借ない酷評を加える俺とエンバースとは違い、カザハ君は別のところに引っかかりがあったみたいだ。
詳しく聞くよりも先に、ナイはまたぞろ御託を並べ始めた。

>「あのお方は皆さま方をとても評価しておられます。
 どんな逆境にも挫けず生を掴み取ろうとする、ゴキブリ並みのしぶとさ……もとい、諦めない心を! ニャヒッ!
 ということで――このまま放っておいても侵食で消滅するアナタたちに、今までの働きに対するご褒美としてェ!
 最期の花道を用意してくださったのです! つまり……」

ナイの姿が消えた。と思ったら、2メートルはあったはずの距離を詰め、俺の隣に出現する。
肩を掴まれた。

>「最新ゲームのプレイヤーたちの『的』になって死ぬ栄誉を……ネ!」

「ああもう!クソだるい絡み方すんなや!!」

急に機敏な動きしやがったせいで話が頭に入ってこなかったが、
プレイヤー達の的になる?そいつはつまり――

>「彼女ら『星蝕者(イクリプス)』はSSSのクローズドβテストに当選したプレイヤーの皆さまが育成した、
 テストキャラクターなのです!
 応募総数、約2億8千万件! その中で選ばれた50万人のプレイヤーに、この世界をたっぷり破壊して頂き――
 SSSの爽快感! 面白さ! 楽しさをご理解頂こうというワケでして!」
 
「なんだよそりゃ……!俺たちを、この世界の命を!
 新作ゲームの試し切りに消費しようってのかよ……!」

29明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:02:09
――>『次回作を作る時に、いちいちマップと敵キャラを全部作り直すなんて面倒だからだ。
   お前は……お前はただ殺されるべき時を待つ家畜のように、仲間達を出荷したんだ』

かつてエンバースがイブリースに告げた言葉が頭に蘇る。
こいつの予言がドンピシャでハマった形だ。
ローウェルはブレモンのリソースを、体験版のフィールドとして活用しやがった。

>「けど、まあ……ちょっと面白そうだな、SSS。暫くプレイして話を進めて、未知の惑星に辿り着いて。
 その星の名前がミズガルズだったら……ちょっとテンション上がりそうだってのは分かるよ」

「だったら舞台はラスベガスじゃなくてニューヨークでやるべきだろうがよ!
 西海岸に自由の女神はいねえよ!」

>「ワタクシが皆さまの最期を看取って差し上げます!
 皆さまがどのように斬られ! 撃たれ! 刺され! 潰され焼かれ溶かされ凍らされ……etcetc!
 ともかく! いかなる終焉を迎えたのか、その死に様を詳細にモニターし、あのお方へ確実に!
 御報告致しますのでご心配なく! あのお方は決して、アナタ方の死を無駄には致しませんとも!
 皆さまを構成するそのデータの1バイトに至るまで、SSSのために有効活用して下さることでしょう!
 いやァ、ワクワクするじゃあありませんか! ワクワクするでしょう? ワクワクしません? ワクワクしろ!!
 ニャルルラハハハハハハハッハハッハハ――――――ッ!!!」

>「……いい加減にしたらどう。耳障りよ、ナイ」

ゲラゲラ笑うナイにいい加減堪忍袋がパンクしそうになったその時、
『イクリプス』とか呼ばれた少女達がいつの間にか寄ってきて、爆笑を制した。

>「これはこれは『星蝕者(イクリプス)』の皆さま。
 米軍を相手に無双するのはおやめになられたので?」
>「ハ! くだらねぇ。ただ数が多いだけのザコじゃねぇか! そういうのはいいんだよ、そういうのは!」

ナイのクソみてえに長いお喋りの間に、市街地の戦闘は終結を迎えてきた。
結果は言うまでもなく、イクリプスの圧勝――後に転がるのは、兵器の残骸と兵士の死体ばかりだ。
こいつの話を聞いてる間に助けられる命があったんじゃないか。
今更ながらそんな考えが浮かぶ。

>「そうですわね。大量撃破の爽快感は最初こそ良いものですが、すぐに飽きてしまうもの。やはり楽しいのは――」
>「……強い者との戦闘。デバッグテストとしても、そちらの方が有益」

イクリプス共が俺たちを見遣る。
次のターゲットは俺たち。まっすぐ向けられた殺意の群れに、胃袋が竦み上がるのを感じた。

>「ニャッハハ! ごもっとも、ごもっとも! 
 クローズドβテストの開催期間は長くありません。『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の皆さま、
 名残は尽きないところですが――歓談のお時間はそろそろお開きと致しましょう!
 お話しできてよかった、楽しかったですよ! ワタクシ、皆さまとの語らいのひとときを決して忘れません!
 エート……なに話したんでしたっけ? まぁいいですよね! ニャッハッハハッ!
 ではでは! ごきげんよう―――」

言いたいことだけぶち撒けてナイが消える。
そうしてこの場には、俺たちとイクリプスだけになった。
ムービーシーンは終わりだ。ここからは、イクリプスの言葉を借りるなら……『強い者との戦闘』。
SSSで言うところの、ネームドボス戦。撃破対象となるのは、俺たちだ。

30明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:03:16
「……まぁそう焦んなよ。こう見えて俺たちボロボロでさぁ。
 はじめから体力バーの削れたボス戦なんてお前らもつまんねえだろ?
 お互いぐっすり寝てから日を改めて戦おうぜ――」

ダメ元でそう交渉してみるが、俺の言葉が届いているのかいないのか、

>「……行くよ」

イクリプスはガン無視で突貫してきた。

「ふざけやがって!瀕死のボスにボコられて吠え面かくなよッ!!」

俺の元に迫りくるのは槍を構えたイクリプス。
身にまとう衣装のデザインは北欧系、元ネタはヴァルキュリアってところか。

「戦乙女はマホたん一人で間に合ってんだよ!!」

攻撃に使えるカードはほぼ使い切り、ベル=ガザーヴァは未だダウン中。
ブレイブとしてのリソースは殆ど手元に残っちゃいない。

「ヤマシタ!怨身換装――モード『重戦士』!!」

近接戦闘特化のモードでヤマシタを喚び出し、バルゴスの大剣をイクリプスに叩き込む。
合わせて『闇の波動』を横合いから回り込むように発射。

対するイクリプスは槍さばきだけで大剣の軌道を捻じ曲げる。
そこへ殺到する波動は――

「おいおいおい、今の当たってただろうが……!!」

直撃。にも関わらず、まるでダメージが入った様子がない。
まるでふわふわのスポンジボールが当たったみたいに意に介さない。

いや、実際ダメージにはなっているんだろう。
素の防御力とHPが高すぎて、ミリほども削れてないだけ。

反撃の槍は的確に心臓を狙ってきた。
あまりにも正確な軌道はかえって読みやすい。横っ飛びで回避して、こちらからも反撃を――

「ちょっ、ちょっと待て!連続行動はズルだろ!?」

イクリプスはさらに突いてきた。二段、三段と連携する。
やがて回避にも限界が訪れる。

「ダボハゼがぁ!寄ってきてくれるならこっちのモンだぜ!
 ――『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』、プレイ!!」

飛びながらスペルを起動。物理無効のトーチカが降ってきて、イクリプスだけを中に閉じ込めた。
トーチカの中から壁をぶん殴る音が聞こえる。耐久は多少減ったが、すぐに破られるダメージじゃない。

あの槍は物理だけの武器ではあるまい。
とはいえ、属性ダメージだけでトーチカを破るには相応の時間がかかるはずだ。
これでようやく、こいつを打破する戦略が練れる――

31明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:04:18

「……あ、あのぉ?何回殴るんですか……?」

打撃音が響く。トーチカが揺れる。
何度も、何度も何度も、俺の想定していないペースで耐久が削れていく。
ATBゲージを貯めてから殴っているとはとても思えない攻撃頻度だ。

「こいつの再行動、早すぎんだろ!ATBはどうしたATBは!」

>「アッハハハハッ……ATB? そんな時代遅れの古臭いゲームシステムなんて、まだ採用してるゲームがあったんだ?」
>「『星蝕のスターリースカイ』のジャンルはTPS視点アクションRPG……根本的なシステムが違う」
>「悠長にゲージが溜まるのを待ってるような、ノロマのやるゲームじゃないんだよ……SSSはなぁッ!」

「ノロマとかそういう話かなぁ……!?」

アクションとコマンド制RPGじゃジャンルが全然違うだろうがよ!
別物のゲームを並べてどっちが凄いかショボいかみたいな話すんの良くないと思うな僕は!

とはいえ、別ゲーからの侵略者共が別ゲーのシステム携えて襲いかかってくる現状は、
『コマンド制にはコマンド制の良さがあるよ!』の一言でどうにかなるものじゃなかった。
クソ、面白そうじゃねえかSSS!据え置き機とコントローラーでプレイしたいぜ!

>「みんな! 撤退! 撤退よ……センターの中に入って!」

「りょ、了解……!つってもこいつら普通に入ってこないか……!?」

>「……また後でな」
>「撤退するなら今のうち――オールフライト!」

ハイバラが炎の壁で俺たちとイクリプスとを隔絶する。
その隙にカザハ君がフライトを炊き、向上した機動力で一目散にセンターの中へと駆け込んだ。

32明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:05:07
 ◆ ◆ ◆

「追ってこない……?どういうこった、マップのロードが終わってないのか?」

ハイバラの炎の壁が解かれれば、俺たちがセンター内に逃げ込んだことは自明の理だろう。
追ってこない理由はないはずだが、一向にドアが破られる様子はなかった。
何一つ確証はないが、敢えて理由をつけるなら、SSSはオープンワールドじゃないってことなんだろう。
今回のβテストは『ラスベガス市街マップ』を舞台にしていて、建物内はまだSSSのマップとして扱われてないんだ。
今頃ローウェルが突貫でSSS用にセンター内のマップデータを構築してるのかも知れんが、
とにかく多少はこれで時間が稼げた。

>「――さて。それじゃ次の目的地は連中の乗ってきた宇宙船って事になるのか?
 この世界の外側から来た船だ。ローウェルがどこにいようと追い回せるだろうよ」

「……ツッコミ待ちなんだよな?めんどくせえからセルフでやれよ」

>「……ああ、いや。まずはアイツらをやっつけないといけないんだっけ?
 悪いな。大して手こずりもしなさそうだったし、つい忘れちまった」

「適当言いやがって。あのストライクウィッチーズみてえな奴にボコボコにされてんの見たからな俺」

>「……ちょっとわざとらしすぎたか?けど、心配するな。攻略法はある。だろ?」

思わずツッコミ入れちまったが……この期に及んで『攻略法はある』と自信もって言えるこいつの振る舞いは、
絶望的なこの状況にあってこの上なく心強かった。
そう、攻略法は……ある。何も弱点のない完全無敵なプレイアブルキャラなんかゲームとして面白くないからだ。

>「ひとまず……連中はTPSアクションRPGの出身らしい。アウトライダーズをプレイした事は?
 レムナントはどうだ?リスク・オブ・レインは?EDFシリーズも良かったな。
 4以降のバイオやスプラなんかも一応そうか?ちょっとシューター要素が強すぎるけど……」
>「TPSってカメラが自キャラの少し後ろにあるような視点のことだよね。
 ダークク〇ニクルとか聖〇伝説4なら……あっ」

「三人称視点のアクションRPGって枠組みなら、モンハンとかダクソとかもそうだよな。
 まぁあの辺は高速アクションバトルによる爽快感!って感じじゃなさそうだけど」

SFっぽい感じで言うとファンタシースターシリーズとかが近いのかね。
やったことないからいまいちピンとこねえわ。
それにしてもTPSか……サードパーソン・シューティングってわりにイクリプスの中にガンナーは少なかった。
Sはシューティングじゃなくてスラッシャーの方か?

……いかん、オタクの悪い癖で話がどんどん脱線しそうだ。

>「ま、とにかくだな。連中もRPGのキャラクターなら、そのステータスや能力の大部分は装備品由来の筈だ。
 つまり……まずは装備を奪うか、破壊するんだ。部位破壊で戦闘が有利になるイブリース戦とそう変わらないな?」
>「状態異常も有効かもな。アクション要素があるって事は、ヤバい攻撃はそもそも避けるのが前提になる訳だ。
 つまりレジスト関連のステータスはブレモンほど詳細に設定されていない……かもしれないぞ」
>「それにATBゲージがいらないとしても、なんの制限もないゲームなんて面白くないだろ。
 スキルにはクールタイムや固有のリソースがあってもおかしくないよな。検証してみる価値はあると思う」

「……ああ、なるほど。回避に関わる部分で言うと、その理屈は連中の攻撃にも適用されるかもな。
 照準を自分で合わせなきゃならない。当たるタイミングを自分で見出して当てなきゃいけない。
 アクションゲーである以上、そこが面白さのキモになるだろうからな」

対する俺たちはコマンド制RPGだから、命中の成否は『命中率』と『回避率』で定義される。
攻撃を必中させるバフもある。避ければ良いだけの攻撃が、『絶対に避けられない』状況を作れる。

33明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:07:49
>「あまり深刻に捉えなくていい。なにせヤツらはキャラクター。
 そして俺達はプレイヤーだ。属性有利はこっちのもんだ」

「軽く言ってくれるぜ。CPU相手のレイド戦で散々煮え湯を飲まされてきたってのによ」

状況は依然として最悪だ。
システムがまるきり違うゲームのキャラ相手に、俺たちがどれだけ食い下がれるかはわからない。

「でもまぁ……お前の言う通りだぜ、『エンバース』。これは形を変えただけのPVEだ。
 ゲームである以上、必ず解法はある。何もかもが八方塞がりってわけじゃないはずだ」

そして俺たちには、世界最強のプレイヤーが付いてる。
絶望には、まだ早い。

>「さっきエンバースさんが炎幕張ってる間にうまいこと逃げ切れたでしょ?
 上の世界のフルダイブじゃないゲームがこっちの世界のゲームと同じようなものだとすればだけど……
 情報源が画面しか無い以上視覚情報の攪乱の影響をもろに受ける……のかも?」

カザハ君はエンバースとは別の視点で、SSSの特徴を分析する。

>「SSSってどれぐらい親切設計のゲームなんだろう。当然親切設計じゃない方がこっちには都合がいいわけだけど……
 ある程度近付いたら自動で照準合わせてくれたり、
 そこまでいかなくても敵キャラにターゲットマークみたいなの表示されてるのかな?
 もしそうじゃない上級者仕様のゲームだとしたら……向こう側に絵柄を合わせてやれば、結構混乱するだろうね。
 幻影(イリュージョン)のカード、まだ残ってるんだ」

「おお、めっちゃ良いこというじゃねえかカザハ君!
 アクションゲーなら同士討ちの可能性もターン制よりずっと大きくなる。
 フレンドリーファイアが無効だとしても、仲間かどうかの判定にリソースを消費させられるぜ」

カザハ君の提案は、瞬間的な判断を要求されるアクションゲーならではの攻略法だ。
同士討ちが発生しないとしても、高火力のスキルを味方に空振りしたんじゃ意味がない。
大技はそれだけクールタイムも大きいはずだ。必ず敵に当てられる状況になるまで使用を控えるはず――

>「視界を遮るなら、相手キャラのすぐ背後に幕を張ってやれば
 こちらは影響を受けずに相手だけの視界を遮断できる……かもしれませんね」

「そこなんだけど、イクリプスに『中の人』が存在してるかどうかは検証する必要があるな。
 ナイは連中を『育成されたキャラクター』って言ってたけど、これはキャラがオートで動いてるって意味なのか?
 でも、SSSのプレイ感を体験させるためなら連中の中身がプレイヤーでなきゃいけないよな」

ようはこの企画が、『体験版』なのか『ティザームービー』なのか。
相手が単なるBotなのかプレイヤーなのかで、取りうる戦略は大きく変わる。

>「それにしてもローウェル、シナリオライターもクビにしちゃって一人で作ってんのかな。
 イクリプスって、日蝕とか月蝕の『蝕』って意味だよね。
 どっちかというと、正義の味方側というより敵側みたいなネーミングじゃない?」

「さっき言ってた『変』ってのはこのことか……」

確かに言われてみりゃ『蝕む』って言葉のイメージはプレイアブルの組織名にはそぐわない。
まぁなんかダークヒーロー的なひねり方してるのかも知れんが。
『正義の味方』ではなく『悪の敵』みたいなニュアンスはオタク好きそうだもんな。
ぼくもだいすきです。

34明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:10:03
>「それからあのナビゲーションキャラ、かわいくないのもそうだし、
 多分クトゥルフ神話のニャル様と元ネタを同じくするキャラだよね……。それって思いっきり邪神じゃん!」

「うん……『ニャルラハハハ』とか笑ってやがってもんな。
 鳴き声で自己紹介するアニメのポケモンじゃねえんだぞっていう」

味方側に邪神いるのおかしくない?ってのはまぁ、うん、わからんでもないわ。
ナイだかアルだかラトホテプだか知らねえが、キャラデザから設定まで雑の塊かよ。

ブレモン自体が北欧神話をベースにしたチャンポン世界観だから、
同じプロデューサーの次回作が100年前の大人気ホラー小説を元ネタにしてたとしても、
まぁそういう開発なんでしょうという割り切り方はできる。
『上の世界』にもラヴクラフト先生がいんのかな。

「外宇宙からの侵略者どもの頭目だから邪神、ってことなんだろう。
 ……待てよ。だとしたら連中は、自分たちが『侵略者』っていう自覚があるのか?」

>「あっ、ごめん、今こんな話してる場合じゃないよね……!
 今はアイツらをやっつけることだけ考えなきゃ」
>「アイツら、自分達の方が絶対有利なシステムだと思ってドヤ顔してたけどそんなことないよね。
 こっちはゲームシステム上はゲージ制コマンドバトルらしいから
 習得したスキルで出来ると設定されていることなら無茶でも何でも出来てしまうけど……
 向こうはプレイヤーが操作しきれない動きはどうしたって出来ないわけじゃん」

「おいおいどうしたカザハ君、今日のお前めちゃくちゃ冴えてるじゃん!」

>「きっといろいろあるよ、TPSアクションというジャンルを逆手に取る方法……!」

ゲーマーじゃないと言ってたが、こいつ結構ゲームやってんな……?
いわゆる高難度のアクションゲーとは違い、操作量の少ないコマンド制RPGは誰もがプレイしやすい。
カザハ君の指摘するブレモンならではの優位性は、そこに着目したものだ。

「俺たちにはゲージ溜まってからじっくりコマンドリスト開いて行動を選択する猶予がある。
 アクションゲーにはそれがない。アクションしながら選択できるスキルには限りがあるはずだ。
 ショートカットキーを活用したとしても扱えるスキルはせいぜい4つから8つくらいが関の山だろ。
 各スキルのリキャストをリアルタイムで管理し切るにはもっと減らす必要があるかもな」

つまり――使えるスキルの数と戦略の幅という優位性がブレモンにはある。
何もかもがSSSの下位互換とは言えないはずだ。

「……イクリプスは、無敵じゃない。
 キャラを全面に押し出したゲームである以上、『得意分野』と『弱点』は必ず存在する。
 プレイアブルのクラスを7種も用意してるってことは、キャラ同士で弱点を相互に補完するプレイが前提のはずだ。
 ブレモンと同じ運営なら、オンラインマルチのノウハウを活かしたいだろうしな」

βテストでステータスを盛っていようが、ゲーム性の根幹をなす部分は変えていないはずだ。

「もうひとつ、エンバースの言ってたクールタイムにまつわる話だ。
 イクリプス共のクールタイムが『スキルごと』に設定されているものだとしたら、
 火力を出し続けるには各スキルが腐らないよう常に使い続ける必要があるはずだ」

クールタイム制のアクションゲーには、理想的な火力を出すための最適解が存在する。
使用可能な状態のスキルをいつまでも使わないのはそれだけ火力のロスに繋がる。
だからプレイヤーは、クールタイムが空けた瞬間から順番にスキルを再発動する『スキル回し』のプランを構築する。
つまり真っ当にプレイしていれば、全部のスキルが使用可能な瞬間なんてものはそもそも存在しないのだ。

「俺たちにとってクールタイムにあたるものはATBゲージだが、こいつはオーバーチャージで溜め込める。
 ゲージを消費しない行動……エンバースがスマホ直すまで擦りまくってた『ブレイブ殺し』の戦術。
 オーバーチャージしまくって一気にぷっぱすれば、一回限りでイクリプスを上回る瞬間火力を出せる」

35明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:12:07
そこまで言って、俺は天井を仰いだ。
このエリアはまだブレモンの影響力が勝ってるが、外はもうSSSのフィールドだ。
異なる2つのゲームが同じ世界の中にある。ソシャゲ的に言えば、コラボイベントにあたるものだろう。
そして俺たちはコラボを迎える立場じゃない。これは『SSSのコラボイベント』――
ブレモンは、SSSの世界に入り込んできたコラボ先のゲームだ。

――>『此処に来るときには見えなかったかい? 
   まぁ、僕との闘いで頭がいっぱいだったというのなら無理もないか。
   でも、今なら君たちにも見えるはずさ……行って確かめてくるといい』

ミハエルはそう言った。見えないわけがねえだろ。
俺たちはヴィゾフニールで空からこの街に来たんだぞ、空中の宇宙船に気付かないわけあるか。

空からはラスベガスを埋め尽くす膨大なニヴルヘイムの軍勢を見た。
道中には魔物に食い殺された兵士や民間人の死体だって見た。
街のどこにも、イクリプスとかいう場違いな世界観の存在は欠片も居やしなかった。

つまりナイやイクリプス、あの宇宙船団は、ついさっき現れて――
ローウェルお得意の世界改変で『はじめからラスベガスに居たことになった』んだ。
ミハエルの率いた軍勢がもたらした被害も人死にも、イクリプスの手によるものに書き換えられた。

思えば、ミハエルはエンバースに負けたあの瞬間から急に弱気な発言をするようになった。
あの傲慢なチャンピオンが、イクリプス相手に挑みもしないのも不自然ではある。

ミハエルが可哀想になってきた。
ラスベガスを火の海に変えた悪逆非道の敵役だったはずのあいつは、
未知の侵略者から尻尾巻いて逃げてセンターに引き籠もる腰抜けだったことにされちまったわけだ。

ミハエルがローウェルの――プロデューサーのお気に入りだったことは疑いようもあるまい。
そして……見限られた。きっかけはやはりエンバースに負けたことだろう。
プロデューサーに飽きられ、寵愛を失ったキャラクターの、これが末路の姿だった。

「……さっきカザハ君の言ってたことだけどさ、イクリプス共はどういう感情で地球に侵略してんだろうな。
 見た感じあいつらも人間だろ。街破壊して人間虐殺する露悪なゲームが3億人だかに売れるとは思えねえんだが」

『上の世界』の社会構造や一般常識は俺たちに知る術もないが、
シャーロットいわく大人気だったっていう『本来のブレモン』のシナリオが人間視点での冒険譚である以上、
地球の人間と価値観や倫理観はそう変わらないと考えられる。

SF兵器で米軍とバトル!っていうコンセプトならまだ理解できんこともないが、
ラスベガスの民間人も大量に犠牲になってる。
まだイクリプス共はプレイヤーの入ってないNPCって線の方が納得はいく。

36明神 ◆9EasXbvg42:2024/03/03(日) 02:13:32
「ナイが本当に邪神で、プレイヤーからはミズガルズがゴブリンの巣かなんかに見えてるのかもな。
 ほんで終盤に自由の女神でも見て『なんてことだここは地球だったのか』……みてえなオチ。
 ぜってえ荒れるよ俺ならアンチスレ100は立てられる自信あるね」

駄目だまた話が脱線した。考察の余地にはしゃいでる場合じゃねえってのに。

「いずれにせよ、このイクリプスとの戦いは癇癪起こしたローウェルのちゃぶ台返しじゃない。
 プロデューサーによる真っ当なプロモーション活動の一環だ。
 顧客が存在する以上、後出しジャンケンで世界のルールをコロコロ書き換えられることはない。
 ゲームとしての面白さを確保するための弱点は、容易に潰せないはずだ」

そして考えるべきは、イクリプスの攻略法以外にもある。
『俺向きのやり方』――アンチの視点から見たSSSはどうだ?

「SSSは……言っちゃなんだが美少女ゲーの類だよな。
 イケメン盛りだくさんのブレモンとは客層がだいぶ違ってる。
 SSSがどんだけ覇権をとろうが、課金の出どころが違う以上ブレモンと共存できるはずだ。
 どちらが生きるかくたばるか、ゲームクリアとゲームオーバー以外にも、第三の結末は必ず存在する」

新ゲームの体験版で、敵を根絶やしにして完全勝利なんてことあるか?
ユーザーの購買意欲を訴求するならこういう落とし所が望ましいはずだ。
『我々の戦いはまだ始まったばかり。あなたの協力が必要です!』。

「掴み取るんだ。――『俺たちの戦いはこれからだ』エンドを!」


【戦術案:①回避バフと命中バフを活用②スキルの選択幅の多さで勝つ
     ③ATBのオーバーチャージで瞬間火力を確保
 検証事項:イクリプスはBotなのかプレイヤーがいるのか】

37ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:41:07
>「フ……。僕は何ひとつ嘘は言っていないよ。そんな必要ないからね。
 ローウェルの行方は本当に知らない。信じるかどうかは君たち次第だけど」

ミハエルは…ある程度予想していた答えを出す。
劣勢になったとしてもなんの干渉もなかったが故に…明らかに捨て駒だったリューグークランにミハエル…

勝てば儲けもん…いや最初から負ける事も分かっていたかもしれない。

>「君たちの質問に答えられる者がいるとしたら、それは……このワールド・マーケット・センターの外にいる。
 此処に来るときには見えなかったかい? まぁ、僕との闘いで頭がいっぱいだったというのなら無理もないか。
 でも、今なら君たちにも見えるはずさ……行って確かめてくるといい。
 僕は……もう二度と見たくない」

ミハエルは謎の存在を示唆し…

>「……みんな、行こう」

これ以上の問答は意味がないと判断したなゆの一声で僕達は外にでようとする
そして出口に向かおうとした僕達の前に…イブリースが現れる。全身傷だらけの死に体で。

>「イブリース……?お前、その傷……」

僕達が…作戦を、死力を尽くしてイブリースを追い詰める事が精一杯だった。
そんな相手をこの短時間で追い詰めるほどの…存在がいるのか…?外に。

>「……ニヴルヘイムと……ミズガルズの戦争では、なかった……。
 我が……同胞たちを、蹂躙し……ミズガルズの者たちを……殺戮、する……。
 “あれ”は……いったい、なんな……の、だ……」

そう言うとイブリースは大量の血を吐き地に伏せる。

外には…イブリースを止めるような奴はいないと思っていたが…第三者の加入があったとみていいだろう。
ローウェルが用意したとしか考えられない…わざと僕達を一か所に集めて殲滅戦を仕掛けれるほどの…強力な存在を用意して…、

ミハエルとリューグークランを捨て駒にできるほどの存在が…外に…いる。
この消耗した状態で出会いたくないが…恐らく逃げれないだろう。

>「レッツ・ブレイブ……!」

「レッツ…ブレイブ…!」

なゆが…僕が…みんなが…覚悟を決めて出口に向かい…そして――

38ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:41:36
外にでた瞬間飛び込んできたのは死体の山…鉄くずになったと思われる兵器たち…余りにも無残な光景。
そして…血の匂いより…色濃い…感じた事のない匂い。

近場にある死体を調べると傷口が見こた事もないような焼けこげた…?溶けてる…?なんていえばいいのかわからない致命傷になったと思われる傷があった。
そう思えば現代兵器で…大口径の重機による傷が致命傷だと思われる死体もある…が兵士達が持っている武器とは比較にならないほど巨大な兵器でやられている。

「人体が溶けてる…?なんだこの感じ…まるでSF映画のビーム兵器でやられたような…いや…まさか…そんな…」

内心そんな馬鹿なと一笑しようとした瞬間…明神が叫ぶ。

>「なんだよアレ、宇宙船……宇宙船……!?」

>「“あれ”……
 あの宇宙船が、イブリースの言っていた“あれ”……。
 ミハエルの言っていた、わたしたちの質問に答えられる者……なの……?」

僕以外の仲間達が全員空をみてそう言った。そんな馬鹿な。そう思った…しかし現実は…想像よりはるか上を行っていた。

「創作より現実のほうが奇怪とはよく言うが…まさか…こんな…」

宇宙船。なにを馬鹿なと思うかもしれないが…そうみんなが口をそろえて言ってしまうのも頷ける。
静かに…真上を飛んでる事を音で判断できないのがおかしいほどの円盤型だけじゃない…球体…ブロック状…あらゆる不可解な飛行物体が…僕達の頭上にいるのだ。

>「……知らない。
 三つの世界のこと、『ブレイブ&モンスターズ!』にまつわることなら、すべての事柄がぼくのデータベースに入ってる。
 でも、あんな宇宙船のことは知らない。“あれ”は――」

そりゃそうだろ。と心の中で思った。
現代背景に突然あんな宇宙船…サムライがショットガンを撃つかの如く違和感…要するに“時代が違う”のだ

「いやいや!ゲームの設定遵守しろよ!…こんなのもはや別ゲーじゃないか…!……え?……ゲームが違う…?」

どう考えても現代ベースの僕達より明らかに発達している文明…。

>「アルフヘイムと、ニヴルヘイムと、ミズガルズ。
 その三世界の他に、まだ世界があるっていうこと……?」

>「いいや。『ブレイブ&モンスターズ!』の世界は、あくまでその三つだけだ。未実装で終わったムスペルヘイムを除けば。
 けれど、あの宇宙船はそういうことじゃない。根本的に違うんだ」

エンデが分からない…つまりこのゲームの…ブレイブ&モンスターズ!というカテゴリーの存在ではない。

根本的に違う存在だとしたら……この宇宙船達は。
ローウェルの隠し玉…それは未実装データを引っ張ってくるとか…チート権限をフル活用するだとか…そんなあまっちょろいもんじゃなかったんだ。

39ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:41:51
各宇宙船の入り口?射出口?が開き…大量にそこからなにかが放たれる。

何が…米軍の飛行機ですら遅いと言わんばかりに高速で動き…一瞬光輝いたと思ったらその瞬間米軍の飛行機が一瞬で全滅する。
光だけでみれば…花火など比較にならないほどに…眩しくて…煌びやかだった。それが人の死を持って映し出される絶景だと脳が理解を拒むほど…美しかった。

>「あ……」

なゆが間抜けな声を出す。でも…仕方なかった。こんな光景を唐突に見せられて現実を瞬間的に受け入れられる人間なんていない。

>「人……?」
>「クソ、どうなってる……連中は――」

近くに寄ってくる今ならわかる…あれは…人間だった。
いや…人間かどうかは分からない…とにかく…未成年以下と思われる…女性の姿をしている…人型だった。
サーフボードのような物に乗り…手には違った兵装を持ち…恐らく…笑って人を殺している…、

>「なんなんだよ……なんなんだよこれは!俺たちは何を見せられてんだ!!」

止めようのない暴力が…目の前で淡々と行われている。
僕達には…止めようがない。ただ指をくわえて残酷なこの光を…見させられている。

>「うんうん、そのお気持ちはよォ〜くワカりますよォ〜! 皆さん、こう考えていらっしゃる!
 『いきなり何の脈絡もなく現れた、あの連中はドチラサマ? 誰か教えてェ〜ん!』とね――」

>「そうでしょうとも、そうでしょうとも! 当然の思考です無理もありません! 皆さんは正常です! フー!
 まァ世の中正気と狂気は紙一重、同じアレなら踊らにゃソンソンなんて言ったりもしますが。ええ」

突然…後ろから現れた何かが…そう笑いながらカザハの頭に手で触れようとする。

「!!!なにしてんだお前!」

カザハに触れようとした手目掛けて蹴りを放つ。
いくら消耗していようが…この蹴りを躱せるのはイブリースですら難しい…この僕の全力の蹴りをお見舞いしたはずだったのだが

避けられた…いや…今のは避けたというより…すり抜けた?
動きが見えなかっただけなのか…?くそ…どっちにしろ当たらなかったって悔しい事実だけが残る。

>「……なんだ、お前。今確かに斬ったよな?」

エンバースも間髪入れずにダインスレイブで攻撃したが…手ごたえはなかったようだ。

「だ…大丈夫か!?カザハ!?」

どうやら本当に軽く叩いただけだったらしい…本当によかった。

「お前…一体なんなんだ」

>「おおーっとォこれは失礼! ワタクシとしたことがとォんだウッカリを。
 自己紹介がまだでしたねェ、皆さまお初にお目に掛かります。ワタクシの名前はナイ!
 いえいえ『名前が無い』のではなく『名前がナイ』なのですお間違えなきよう。
 本日は皆さまのナビゲーションを担当するよう仰せつかり、斯様に推参仕った次第にてございますです。ハイ」

実体がないのか…?それにしても…身のこなしも完璧だったが…。

「あの空中痴女船団のナビゲーションにしては自分ホラーな見た目だな…」

今…まさに人を襲っている美少女型の人型達は…全員ジャンルは違うが美少女といって差し支えない。
そのナビゲーターが…ヘタクソな顔の描かれた頭陀袋をかぶってるって…どんな世界設定なんだ?

40ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:42:03
>「しかァしご安心をォ! そんな往生際の悪い皆さまにご納得して頂くために、ワタクシが遣わされたのです!
 皆さまの為に、プロデューサーメッセージもご用意しておりますですよ。あのお方からの……ね。
 此れを見れば見苦しく生にしがみつく皆さまもだァ〜い納得! して死んで頂けますこと、これ請け合い!
 いやァ〜なんとラッキーなのでしょォ〜!」

こっちのリアクションを全て無視し…聞いてるだけで不愉快なのに内容まで不愉快を垂れ流す不愉快頭陀袋。

>「……あのお方……大賢者ローウェルのことかしら。あなたもローウェルに創られた存在ってことね……。
 いいわ、あなたがローウェルから全部説明するよう言いつけられて来たのなら――
 洗いざらい、何もかも喋って」

少しイラついた口調でなゆが問い詰める。正直我慢の限界だった…僕だけじゃなく…ひたすら僕達を無視し続けて喋るこの頭陀袋に全員が。

>「死刑囚でさえ、自身の死刑宣告を聞きたくは無いと申します。例え自分は九分九厘死刑と察しがついていようとも!
 ワタクシがその問いに答える、それはまさしくアナタ方にとっての死刑宣告も同じ。
 すなわち皆さま方が助かる可能性はゼロ! と宣言することと同義! ンンン〜ッなんたる残酷! なんたる殺生!
 皆さまの悲嘆を想像するだけで、ワタクシの心臓は引き裂かれてしまいそうですよォニャヒッヒッハハハハァ!」

>「……これ、最後まで邪魔せず聞いたらアチーブメント貰えたりしないか?いや、俺がさっき殴っちまったな……」

「僕も蹴っちゃたけど…なあ…こいつの話聞く必要あるか?」

>「というか。皆さま、既にうすうす勘付いておられるのでは?
 ワタクシの。かの船団の。そして少女たちの正体を――。
 それでもお聞きになりたいと? そんなにご自分が死刑になる確証が欲しいと……」

>「くどい。さっさと答えて」

この長話の間も虐殺は続いてるわけで…無駄に消耗したくないから話を聞いているにすぎない。
そして…奴のいう通り答えは僕達の中で恐らくでている…。みんな認めたくないだけで。

>「彼女たちは『星蝕者(イクリプス)』。
 新作ソーシャルゲーム『星蝕のスターリースカイ』のキーパーソンにして、育成対象の少女たちなのです」

>「……星蝕の……スターリースカイ……?」

「イクリプス…」

今虐殺を行っている少女たちの総称…それは分かった。
だがなぜそれが虐殺に繋がるのか…いや聞かなくてもここまでくればなんとなくわかるよ…
わかるけど本当に…それはゲームの開発者がする事なのか?愛着はないのか?ローウェルは…自分が生み出した子供…ゲームを…なんとも思ってないのか…?

>「あのお方は皆さま方をとても評価しておられます。
 どんな逆境にも挫けず生を掴み取ろうとする、ゴキブリ並みのしぶとさ……もとい、諦めない心を! ニャヒッ!
 ということで――このまま放っておいても侵食で消滅するアナタたちに、今までの働きに対するご褒美としてェ!
 最期の花道を用意してくださったのです! つまり……」

>「最新ゲームのプレイヤーたちの『的』になって死ぬ栄誉を……ネ!」

ブレモンだって…苦労して作り出した世界だろうに…それを…簡単に…壊せる物なのか…?僕には…理解できなかった。

41ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:42:20
>「彼女ら『星蝕者(イクリプス)』はSSSのクローズドβテストに当選したプレイヤーの皆さまが育成した、
 テストキャラクターなのです!
 応募総数、約2億8千万件! その中で選ばれた50万人のプレイヤーに、この世界をたっぷり破壊して頂き――
 SSSの爽快感! 面白さ! 楽しさをご理解頂こうというワケでして!」

「…ゲームは作った人間からしてみれば子供のような物のはず…ローウェルが本当にそうしろと言ったのか?」

>「ワタクシが皆さまの最期を看取って差し上げます!
 皆さまがどのように斬られ! 撃たれ! 刺され! 潰され焼かれ溶かされ凍らされ……etcetc!
 ともかく! いかなる終焉を迎えたのか、その死に様を詳細にモニターし、あのお方へ確実に!
 御報告致しますのでご心配なく! あのお方は決して、アナタ方の死を無駄には致しませんとも!
 皆さまを構成するそのデータの1バイトに至るまで、SSSのために有効活用して下さることでしょう!
 いやァ、ワクワクするじゃあありませんか! ワクワクするでしょう? ワクワクしません? ワクワクしろ!!
 ニャルルラハハハハハハハッハハッハハ――――――ッ!!!」

「…聞く気も言う気もないって事か…」

この頭陀袋ピエロにこれ以上なにを問いただしても意味はないだろう。
文字通りこいつはローウェルの意志を伝える為の…見た目はホラーだがやってる事はただの伝書鳩となんら変わらない。
もし力ずくで捕獲に成功したところで…なにもわかりはしないのだろう。

>「……いい加減にしたらどう。耳障りよ、ナイ」

どうやらあっちのメンバーにもウザがられてるようだ。
あれがかわいいキャラ扱いだったらどうしようかと思ったけど…感性は僕達と一緒だってわかってよかったよ

…米軍の戦闘機より高速移動できる化け物少女軍団が目の前にいるって事実そのものは全然よくないけど。

>「これはこれは『星蝕者(イクリプス)』の皆さま。
 米軍を相手に無双するのはおやめになられたので?」
>「ハ! くだらねぇ。ただ数が多いだけのザコじゃねぇか! そういうのはいいんだよ、そういうのは!」

やはり人が目の前で死んでも…自分で殺してもなんとも思う事はないらしい。
ゲームの1NPCが死んだくらいに思ってるのか…別に本物だろうと構わないのか…

大体は前者だろう。CBTの運営側が用意した的でしかないわけだ…もちろん僕達も。

>「ニャッハハ! ごもっとも、ごもっとも! 
 クローズドβテストの開催期間は長くありません。『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の皆さま、
 名残は尽きないところですが――歓談のお時間はそろそろお開きと致しましょう!
 お話しできてよかった、楽しかったですよ! ワタクシ、皆さまとの語らいのひとときを決して忘れません!
 エート……なに話したんでしたっけ? まぁいいですよね! ニャッハッハハッ!
 ではでは! ごきげんよう―――」

先の戦闘で消耗してる僕達にここでもう一度戦闘に入るという選択肢は本来ない。
しかし…超技術を目の前に作戦会議もなしに全員で逃走という事も…できるわけがない。
全員でバラバラに逃げれば一人くらいは逃げれるだろうけど…二度と全員で顔を合わすことなどできないだろう。

>「……まぁそう焦んなよ。こう見えて俺たちボロボロでさぁ。
 はじめから体力バーの削れたボス戦なんてお前らもつまんねえだろ?
 お互いぐっすり寝てから日を改めて戦おうぜ――」

となれば

>「さて、と――」

>「……行くよ」

部長はもう戦えない…カードを使いすぎてしまった…僕も正直だるいけど…やるしかない。

43ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:42:52
身を構え…痴女少女軍団をみた瞬間とある少女と目が合う。
なぜそうしたのか…なぜあれだけの数がいる少女軍団の中でなぜピンポイントで彼女と目があったのかはわからないけど…本能だった。

褐色肌に白い長髪の少女だった。間違いなく美少女である。
返り血がいい塩梅で体につき…不思議な出で立ちを更に…美しくしている。
ゲームのキャラなら間違いなく人気がでるだろうな…そんな事さえ思う。

「ハハッ…」

僕達は近くないけど遠くもない距離で…見つめ合っていた…惹かれ合って…お互いに…。
胸が高鳴る。中身はともかく…見た目はかわいい美少女と目が合ったから…?…いや違う

10秒にも満たない見つめ合いの末に…お互いに心が通じ合うのを感じる。

あぁ…これは間違いない…これが…運命の出会いというものなのだろう。
あの子と僕は今…間違いなく同じ事を…考えていて…これから10秒もしない内にそれは…確実に実行に移されるだろう。

「部長…僕から離れすぎず…近すぎずをキープしてくれ」

僕と褐色少女の口角が不気味に釣りあがる。
あぁ…みんながこっちみてなくてよかった…こんなのみんなには見させられないよ。

>「「竜巻大旋風零式(ウインドストームオリジン)!!」」
>「まずあの幼女を堕とすッ! 真空刃零式(エアリアルスラッシュオリジン)!」

カザハが大規模魔法攻撃を放ち場は一気に乱戦に突入する。

しかし僕は不動だった。力を貯めてこの次の展開に備えていた。
来ると分かっていれば限界まで集中できる。

なぜ遠距離じゃなくて近接攻撃で来るのが分かってるかって?…そりゃわかるさ。
あの見つめ合った時…ほんの10秒ほどだったけど…理解できた…。


あぁ…あいつと戦うのが一番面白そうだって。


「さあ!こい!」

そう叫んだ瞬間カザハの竜巻を切り裂きながら少女が現れる。
僕は…命を賭けて…命を削り合うのが好きだ…だからこそ…この少女から感じる熱を浴びて…気分が高揚する。

>「オォォォォォラァァァァァッ!!!」
 「ウオオオオオオラアアアア!」

そして拳と拳がぶつかり合った時…僕達はゼロ距離でお互いの目を見る。
なびく長い髪…そして整った美しい顔…そして瞳に宿る…狂気。

あぁ…やっぱりこいつは…
僕と同類の…戦闘狂だ。

44ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:43:08
ドゴオオオオオオオオン!

「ハハ…ハハハハ!」

たった一度のぶつかり合い。たった一回…拳と拳を突き合わせただけ…それなのに…
力量差がいやというほど伝わってくる。

「こりゃ…こんなのがいっぱいいるなんて…イブリースが叶わないわけだ…僕の右腕はちょっと特別なんだけど」

武装使っていない…純粋なパワー比べでさえ勝てる気がしないほどの…力の差。
永劫の加護を使ってさえ痛みを感じるほどなら…他の部位でまともに受けたらその部位とおさらばすることになるだろう。
こんなのが後何人いるんだ…?考えるだけでゾッとする

>「アッハハハハッ……ATB? そんな時代遅れの古臭いゲームシステムなんて、まだ採用してるゲームがあったんだ?」

他の水着少女がそう叫ぶ。

僕達はコンボを成立させるためにそれなりの時間を必要とする…しかも回数制限すらある。が相手にはない。
そして彼女達が使う一つ一つのスキルや武装…それが僕達のコンボよりも遥かに強い技…
なるほど…これが世界チャンピオンやリューグークランをも捨て駒にできる本命の実力って事か…

「まいったな…僕なんて連続攻撃すら受けてないのに…」

目の前の少女は不敵に笑い…指を動かし僕を挑発する。
完全に遊ばれている…武装を使わないだけではなく…純粋な身体能力すら本気でない可能性がある

「ハハ…ちょっと…楽しくなってきちゃったな」

殴って…殴り返して…僕達だけ子供の喧嘩のように…馬鹿の一つ覚えのように。
永劫の恩恵(右腕)で受け止めて…右腕が悲鳴をあげるまでその殴り合いは続いた。

「はあ…はあ…困ったな…どうも…文字通り手も足もでないや
てゆーか…君の体…金属でできてるみたいに固いな…どうなってんだ…?女の子は柔らかいもんだろ?」

本調子じゃないのはもちろんある…だがそれだけじゃない戦力差。
やっとの事相手を殴り飛ばしてみても……まるで地面を殴ってるみたいに固いしダメージは明らかに入ってない。
圧倒的だ…生物としての格が違うと言ってしまっていい。

「頼むよ…僕はブレイブでいたいんだよ…だから…」

誰に向かって言ってるのか…僕はボソボソと…フラフラと言葉を零す。
体がいたい…全身の骨という骨が今にも限界を迎えそうなのを感じる…

ああ…まただ…また…僕の体が…快楽で打ち震えている。

絶望的な状況だ…絶望の状況下だからこそ…楽しくてたまらない。
小細工なしの殴り合いだ…この世界にきて…やっと出会えた…同類との…。

イブリースでさえ…信念というものが邪魔をした。それすらない…闘争が目の前にある。
狂気だ…信念なんて純粋なものはなく…ただひたすら強い奴と戦いたいいう後先考えぬ狂気だけを色濃く残した…美しいながらも残酷な美少女が目の間にいる。

なんでこんな楽しいことを…我慢しなきゃいけない?

「もっと遊ぼう」

ブレイブらしくないから…もうやめようと思ったけど…ちょっとだけ解放してもいいよな…ほんのちょっとだけ…少しだけだから…先っぽだけ…。
せっかく…楽しくなってきたんだ…もう少し…少しだけこの子で遊んでいたいんだ…。

僕の体から少し赤い波動が出始めたその時…なゆの叫ぶ声を聞き…ハっと我に返る。

>「みんな! 撤退! 撤退よ……センターの中に入って!」

なゆの判断は妥当…いや遅すぎるくらいだった。

ゴゴオオオオ・・・・

エンバースの炎の壁が僕と少女を分断する。
正直気休めだ。この少女達に掛かればこんな壁あってないようなものだろう。

「……今は見逃してくれないか」

言葉などなくても邪魔をされ…怒りが見て取れる褐色少女にそう告げる。

「君に決定権なんてないんだろうけど…見逃してくれれば必ず…もっと君を楽しませてあげると思うんだ…だから君から提案してみてくれないかな」

命乞いにしか聞こえない…いやまあ実際命乞いではあるんだけど…

「代わりに…必ず君を満足させてあげるから」

>「撤退するなら今のうち――オールフライト!」

「またね」

どっからどうみても見っともない負け惜しみ満載の命乞いを決めたのち…カザハの魔法で僕は回収された。

45ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:43:28
「はあああああああ・・・・・一体なにやってるんだ僕は!!」

もうやらないって決めたのに!その場に流されて僕はまた!あんな禍々しい力に頼ろうとするなんて!
焼け焦げた死体の匂いとか…あの場の雰囲気とか…そんなのに流されて…しかもあんな負け惜しみ全開の捨て台詞まで吐いて…お前中二病か!?何歳だよ!!

なゆのが撤退の合図を出さなかったらきっと手遅れになってた…。
もうやらないって…みんなに誓ったのに…結果的にはしなかったけど…。

「はあ〜〜〜…よし!反省終わり!切り替えよう」

いつまでも悔やんでばかりもいられない。とりあえずは恥ずかしい思いをしただけで済んだのだから…まともな反省会は後だ。
あの狂気に引き込まれない…それだけ覚えて気を付ければいい。

とりあえず…無事逃げ込めたのはいいが…いつ奴らが踏み込んでくるかわからないこの状況で情報整理は…とは思ったが…
情報がないと逃げる算段すらできないのが今の僕達である。

>「ひとまず……連中はTPSアクションRPGの出身らしい。アウトライダーズをプレイした事は?
 レムナントはどうだ?リスク・オブ・レインは?EDFシリーズも良かったな。
 4以降のバイオやスプラなんかも一応そうか?ちょっとシューター要素が強すぎるけど……」

「ええと…なんか銃が手前にあるのがFPSで…キャラが映ってるのがTPSでいいんだっけ?」

僕はゲームにあまり詳しくない。やったことがないわけではないが…情報として語れるほどではない。

>「ま、とにかくだな。連中もRPGのキャラクターなら、そのステータスや能力の大部分は装備品由来の筈だ。
 つまり……まずは装備を奪うか、破壊するんだ。部位破壊で戦闘が有利になるイブリース戦とそう変わらないな?」

>「それにATBゲージがいらないとしても、なんの制限もないゲームなんて面白くないだろ。
 スキルにはクールタイムや固有のリソースがあってもおかしくないよな。検証してみる価値はあると思う」

「でも…どこまでが装備なんだ…?あの中身はともかく見た目上は美少女のあの水着をひっぺがすのか?
しかたないとはいえ…どう考えても犯罪じゃないのか…?それは」

エンバースがいう装備には当然あの水着も含まれているだろう。
いくら必要とは言え…あれを…壊したりするのは…なんかこう…ダメなんじゃないか…色んな意味で。

>「……イクリプスは、無敵じゃない。
 キャラを全面に押し出したゲームである以上、『得意分野』と『弱点』は必ず存在する。
 プレイアブルのクラスを7種も用意してるってことは、キャラ同士で弱点を相互に補完するプレイが前提のはずだ。
 ブレモンと同じ運営なら、オンラインマルチのノウハウを活かしたいだろうしな」

>「でもなぁ、虚空に向かって剣ぶん回してる奴が見当たらなかったんだよな……。
やっぱ自動で照準合うのかなあ……」

「カザハのいう自動照準が…そのキャラの特性…個性スキルである可能性はあると思う
さすがに自動で狙いを定める機能がデフォルトだったら僕達に勝ち目なんてないし…そもそもそれゲームとして楽しくないだろ」

余りにも情報が少なすぎる。
だれだけ話し合おうとも恐らく正解だろう…止まりにしかならない…それに…今の僕達は消耗もしている・・・。

正直言って日を改めたいというのが本音ではあるが…実力が上の相手から逃げるのは不可能に近い…倒す算段を付けるのがよっぽど現実的だろう。

46ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/03/05(火) 12:43:47
>「アイツら、自分達の方が絶対有利なシステムだと思ってドヤ顔してたけどそんなことないよね。
こっちはゲームシステム上はゲージ制コマンドバトルらしいから
習得したスキルで出来ると設定されていることなら無茶でも何でも出来てしまうけど……
向こうはプレイヤーが操作しきれない動きはどうしたって出来ないわけじゃん」

とりあえず僕の所感をみんなに共有する事にした。

「そう…それなんだが…さっき…少女と殴り合った感じ…彼女は自分は相手より強い事は分かっているが…具体的にどう強いのか分かってない…そんな感じがした
なんていえばいいか…なんていうか…体の出力に頼りっきりというか…
例えばこのスキルはとっても強いです。強いけどそれは出の速さだったり…後隙の少なさだったり…当たり判定のデカさだったり…次の展開の良さだったり…
いろんな強みがあるわけだろ?その強みを理解せずとりあえず出してる感があるんだよな…それでも十分僕達より強いわけだが」

彼女達は本当の意味で戦闘を経験していない。そんな気がする
有利な条件で弱い相手を一方的に虐殺するだけでは…自分の体の限界を知る事はできない。

「中身が人間だろうとNPCだろうと…ザコ狩りしかしてないなら…明神のいう弱点を突かれた時に自分にどんな事が起きるのか…それすら理解してない奴もいると思う。
例えば異常状態…凍るとかオーバーヒートするとか…あの見た目なら感電するとか?…どこまで実装されてるかわかんないけど…
さらに言うならコンボシステムや回避のシステムをちゃんと扱えるのか…どこまでの性能なのかしってるどうかさえも怪しいな…
だって彼女達にはマジメに回避する必要性がある攻撃も真面目にコンボを叩き付けなけりゃ死なない敵も…いなかっただろうから」

チュートリアルで説明は当然受けただろう…しかし人が真に物事を理解するのは…使ってそれが活用できた時だと思う。
なぜなら僕はチュートリアルをちゃんと読むがいざ実戦の時には完璧に忘れていたからね!え?みんなそうじゃないの?みんなそうだよね?

ゲームに詳しくない僕がみんなに提供できる唯一の情報。
あの戦闘狂に付き合わず兵器を使ってくれるような奴と戦っていれば…もっと違った情報を提供できたかもしれないが…過ぎた事をいっても仕方ない。

「うーん…あくまで10発前後殴り合っただけの直感だから…そしてあくまでも僕の出会った少女はそんな気配がしてたってだけ覚えておいてくれ」

イブリース達がどれだけ善戦したかにもよるけど…あの数だ…イブリースでさえ逃げるのが精一杯だっただろう。
少なくとも現実でもゲームでも…PSが成長するのは苦難に出会った時…強敵に出会った時だ…それはあいつらだって変わらないはず。

自分の有能さに…全能感に酔いしれている今だけが唯一のチャンスと言っても過言じゃない。

「本当は全員で逃げ出そうぜって言いたい所なんだけど…勝負すらまともにできるかどうかわからない相手に全員五体満足で逃げるなんて…不可能だからね」

一通り全員で案を出し終え議論した後…しばしの沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは…明神だった

>「……さっきカザハ君の言ってたことだけどさ、イクリプス共はどういう感情で地球に侵略してんだろうな。
 見た感じあいつらも人間だろ。街破壊して人間虐殺する露悪なゲームが3億人だかに売れるとは思えねえんだが」

>「ナイが本当に邪神で、プレイヤーからはミズガルズがゴブリンの巣かなんかに見えてるのかもな。
 ほんで終盤に自由の女神でも見て『なんてことだここは地球だったのか』……みてえなオチ。
 ぜってえ荒れるよ俺ならアンチスレ100は立てられる自信あるね」

「いや…それはないんじゃないか?…少なくとも異形の化け物には見えてないと思うね
あの頭陀袋がなんて言ったか忘れたのか?米軍を相手に無双するのはおやめになられたので?って言ってたし」

頭陀袋は間違いなく米軍と…そう言い放った。
なにかのフィルターで聞こえなくなってる可能性も否定はできないけど…可能性は低いだろう。

「そもそも…人間はゲームという媒体を通せばほとんどの場合同じ人型を殺す事は売上やゲーム人気に殆ど絡まないと思うんだ……大抵の場合はね
どれだけ現実味を帯びてようと…胸糞悪い設定でもそれは技術や製作者の上手さであって現実じゃない…そして相手はNPCか中身に人間がいようと関係ない
対人ありのゲームならなおさらさ…相手を半殺しにして屈伸…煽り…された経験あるんじゃないか?なんならした経験も…結局それの延長線上に過ぎないんじゃないかな」

当然だが現実じゃ絶対できない事のほうが楽しいのは当たり前の話である。

「現実とゲームがごっちゃになって精神がゲームにとらわれた本物のやべー奴もいるだろうし……そんな奴をテスターに選ぶ畜生じゃないと願いたいね」

ゲームの中で思いっきり犯罪してみたいだとか…だれしもが思う事であるし…美少女になりたい願望だってゲームなら簡単に叶えられる。
無双してモテ男になりたい。イケメンハーレムの中でおもしれー女になりたい…願望はいくらでも尽きない
まあそれがゲームやマンガ…アニメなどの面白さが日々上がっていく理由でもあるのだが…

「あっ…ごめん…別に空気を悪くするつもりはなかったんだけど」

別に口論したかったわけじゃないのに…なんか自然とそんな感じになって…空気を悪くしてしまった。
はあ…本当に僕は何歳になればちゃんと空気が読めるようになるのか…。

「えーと…本音を言うなら回復するまで全力で今すぐ逃げたいけど…それができないのなら
エンバースの水着を脱がす作戦と…明神の少女達の弱い所を突く作戦…同時進行でいくべきだと思う
ATBゲージを貯めて集中砲火は…出たとこ勝負でかますのは…余りにもリスクが高すぎるから…最後の手段にしてほしいな…そもそも僕はもうカード残ってないし」

要は試せるもん全部試そうぜっていう話なのだが…僕にはこれ以上にいい案は少なくとも僕には出せない。
エンバースと明神以上の案を脳筋の僕にだせというのは少し無理がある。なんとも悲しく歯がゆい事だが…受け入れなければいけない事実でもある。

その分前線で成果を出す…それしかない。

「強いていうなら装備を剝がすのを優先気味にして……一部の兵装…僕達が使えたりしないかな?
ブレモンのデータの一部使われたりしてれば兵装のちょっとした機能だけ使えたり…さすがに望みすぎか」

一部のデータが次のゲームに入ってるというのもまた…珍しくない話のはずだ。
ブレモン側の技術が使われているならその部分だけ仮使用できたり…さすがに希望的観測すぎる…か

結局の所…出たとこ勝負するしかない今の僕達にとって…今のうちに考えられるすべての可能性を求めるしかない。
戦闘が始まれば考える暇など僕達には一切与えられないだろうから…こうやって顔突き合わせて相談する時間なんてもってのほかだ。

僕達はなにがあろうと負けるわけにはいかない。
けれど・・・不思議と絶望感なんてものはなかった…みんなとならどんな困難だって乗り越えられる。そう理解しているから

「ま…僕達ならなんとかなるさ…困難は今に始まった事じゃない。だろ?慢心するのはよくないけど…気を張りすぎてもいい事はないよ」

>「SSSは……言っちゃなんだが美少女ゲーの類だよな。
 イケメン盛りだくさんのブレモンとは客層がだいぶ違ってる。
 SSSがどんだけ覇権をとろうが、課金の出どころが違う以上ブレモンと共存できるはずだ。
 どちらが生きるかくたばるか、ゲームクリアとゲームオーバー以外にも、第三の結末は必ず存在する」

>「掴み取るんだ。――『俺たちの戦いはこれからだ』エンドを!」

「いやそれじゃ終わっちゃうんじゃないかな…」



【戦闘狂同士の一目ぼれに遭遇する】
【水着少女達は自分の力を100%ちゃんと理解して扱えないんじゃないかという疑問】
【兵装を剥がしてさらにそれを自分達で使えないか?という希望を持つ】

47崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/14(木) 21:55:45
『星蝕者(イクリプス)』らの襲撃を受けたエンバースたちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は、
息も絶え絶えにワールド・マーケット・センターの中へ退避した。
とはいえ、センターは要塞でもなければシェルターでもないただの建物にすぎない。
エントランスの入口はガラスの自動ドアだし、『星蝕者(イクリプス)』もその気になれば容易く侵入し、追撃できるだろう。
しかし、予想に反して『星蝕者(イクリプス)』たちがセンターの中に入ってくることはなかった。

>追ってこない……?どういうこった、マップのロードが終わってないのか?

明神が訝しむ。
裏付けも何もないが、しかし明神の考察はきっと的を射ている。
非オープンワールドの、定められたステージ内で戦闘をするタイプのTPSでは、通常ステージの中にわざわざ入れる建物は作らない。
構造物はあくまでも射線を切るための障害物や高低差を表すギミックといった程度の存在でしかないのだ。
だから、『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は建物内にいる間は安全であると言える。
『ブレイブ&モンスターズ!』と『星蝕のスターリースカイ』の明確な差異がひとつ健在化した形だ。

>ひとまず……連中はTPSアクションRPGの出身らしい。アウトライダーズをプレイした事は?
 レムナントはどうだ?リスク・オブ・レインは?EDFシリーズも良かったな。
 4以降のバイオやスプラなんかも一応そうか?ちょっとシューター要素が強すぎるけど……

さっそくエンバースが口火を切る。
絶望的なほどの戦力差をまざまざと見せつけられたばかりだというのに、エンバースの半分生身になった面貌には、
まったく悲壮感がない。どころか楽しげでさえある。
それこそ、新作ゲームを与えられたゲーマーそのものといった様子だ。
世界が破滅の危機に瀕しているというのに不謹慎――以前ならそう思ったかもしれないが、
今その世界を救うために必要なことは、まさしくその“ゲーマーとしての視座”であった。

>ま、とにかくだな。連中もRPGのキャラクターなら、そのステータスや能力の大部分は装備品由来の筈だ。
 つまり……まずは装備を奪うか、破壊するんだ。部位破壊で戦闘が有利になるイブリース戦とそう変わらないな

>状態異常も有効かもな。アクション要素があるって事は、ヤバい攻撃はそもそも避けるのが前提になる訳だ。
 つまりレジスト関連のステータスはブレモンほど詳細に設定されていない……かもしれないぞ

>それにATBゲージがいらないとしても、なんの制限もないゲームなんて面白くないだろ。
 スキルにはクールタイムや固有のリソースがあってもおかしくないよな。検証してみる価値はあると思う

ゲームにおいて最大のカタルシスを得られる瞬間とは、『苦戦の末に強敵を斃した時』と決まっている。
その快感はジャンルを問わない。横スクロールACTで熾烈なステージギミックを踏破したとき。
STGで地獄めいた弾幕を掻い潜ったとき。ソウルライクARPGでボスキャラを撃破したとき。
道のりが険しければ険しいほど、苦労すれば苦労するほど、試練を乗り越え勝利したときのアドレナリンの分泌量は増す。
カカシを相手にいくら最強を気取ったところで、すぐに飽きてしまうのだ。
先程、『星蝕者(イクリプス)』は米軍をただ数が多いだけの雑魚はもういい、と言っていた。
強い者との戦いの方が楽しい、と。
ならば、『星蝕者(イクリプス)』も無敵ではない。
敗北するかもしれないというスリルと、プレッシャーを撥ね退け勝利したときの達成感が、ゲームの楽しさを生むからだ。
完全無敵モードではそれこそデバッグテストにもなるまい。
システム上の、ステータス上の、ルール上の制約を凌駕した先にゲームの醍醐味はある。
ならば、それを衝く。

>……それと、なゆた。お前は……いや、まずは無事で良かった。
 だが……無茶はするなよ。次も銀の魔術師モードが発動するとは限らないんだ。
 クールタイムや固有のリソースがあるかもしれないのはお前も同じだ

「あ……、うん……」

ゲーマーならではの視点で提案の先陣を切ったエンバースが、不意になゆたの方を向く。
エントランスの椅子に腰掛けたなゆたは、そんなエンバースの言葉に小さく頷いた。
自らの手に視線を落とし、軽く開いたり閉じたりしてみる。特に異常は感じられない。
体調は悪くないし、気分も平常通りだ。もちろんリューグークランとの闘いで消耗してはいるが、
それはここにいる皆も一緒だろう。
ただ、エンバースが心配する気持ちもわかる。なゆたは未だに銀の魔術師モードへの確実な覚醒の仕方を理解していない。
『死にそうになれば覚醒する』なんて、あやふやな条件にすべてを賭ける訳にはいかない――そう考えるのは当たり前だ。
……だ、けれども。

>正直言ってだな……俺は今や世界最強のブレイブなんだぞ。
 待っててくれれば大体の事はなんとかしてやるから

見事チャンピオンを下したエンバースが、いつものように気取った調子で告げる。
まさしく余裕綽々といった様子だが、マイディア――乙夜マリとの闘いを経たなゆたには、その気持ちが痛いほど分かった。
大切だから、心配だから、自分に任せろと言ってしまうエンバースの優しさが。
それはきっと、なゆたが仲間たちに抱いている想いと変わらない。

「ありがとう、エンバース。
 そうだね、不確定な銀の魔術師モードにいつまでも頼ってられない。頼るならここにいるみんなを頼るよ。
 ただ……待ってることだけはしない。わたしはわたしの力で、わたしの道を切り拓く。
 わたしはカメのお城の中で、オーバーオールのヒーローが助けに来てくれるのを待ってるだけのヒロインじゃないから!」

まぁあのお姫さまも最近めっちゃ戦ってるけどね! なんて言うと、なゆたはおかしそうに笑った。

48崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/14(木) 21:56:08
>さっきエンバースさんが炎幕張ってる間にうまいこと逃げ切れたでしょ?
 上の世界のフルダイブじゃないゲームがこっちの世界のゲームと同じようなものだとすればだけど……
 情報源が画面しか無い以上視覚情報の攪乱の影響をもろに受ける……のかも?

自分はゲーマーじゃないけど、と前置きして、カザハもまた自分の考えを口にする。

>SSSってどれぐらい親切設計のゲームなんだろう。
 当然親切設計じゃない方がこっちには都合がいいわけだけど……
 ある程度近付いたら自動で照準合わせてくれたり、
 そこまでいかなくても敵キャラにターゲットマークみたいなの表示されてるのかな?
 もしそうじゃない上級者仕様のゲームだとしたら……向こう側に絵柄を合わせてやれば、結構混乱するだろうね。
 幻影(イリュージョン)のカード、まだ残ってるんだ

>アイツら、自分達の方が絶対有利なシステムだと思ってドヤ顔してたけどそんなことないよね。
 こっちはゲームシステム上はゲージ制コマンドバトルらしいから
 習得したスキルで出来ると設定されていることなら無茶でも何でも出来てしまうけど……
 向こうはプレイヤーが操作しきれない動きはどうしたって出来ないわけじゃん

UI周りの利便性はゲームにおいて死活問題だ。
カメラの視点やゲージの位置、ボタン配置――その他にも重要なものはいくつもある。
SSSはTPSだとナイが暴露した以上、カメラはある程度限定される。無双シリーズやモンハン、DMCなどといった感じの、
キャラクターの背中を見ながらプレイする方式なのだろう。
そもそもフルダイブにせよリモコン方式にせよ、ゲームをすることに視覚が必要不可欠な以上、
目晦ましは有効な手段になるかもしれない。
また、アクションRPGと銘打っているだけに、カザハの言うようにプレイヤーのスキル以上のことは出来まい。

>おいおいどうしたカザハ君、今日のお前めちゃくちゃ冴えてるじゃん!

いつになく鋭い着眼点のカザハに対し、明神が快哉を叫ぶ。

>俺たちにはゲージ溜まってからじっくりコマンドリスト開いて行動を選択する猶予がある。
 アクションゲーにはそれがない。アクションしながら選択できるスキルには限りがあるはずだ。
 ショートカットキーを活用したとしても扱えるスキルはせいぜい4つから8つくらいが関の山だろ。
 各スキルのリキャストをリアルタイムで管理し切るにはもっと減らす必要があるかもな

>……イクリプスは、無敵じゃない。
 キャラを全面に押し出したゲームである以上、『得意分野』と『弱点』は必ず存在する。
 プレイアブルのクラスを7種も用意してるってことは、キャラ同士で弱点を相互に補完するプレイが前提のはずだ。
 ブレモンと同じ運営なら、オンラインマルチのノウハウを活かしたいだろうしな

>俺たちにとってクールタイムにあたるものはATBゲージだが、こいつはオーバーチャージで溜め込める。
 ゲージを消費しない行動……エンバースがスマホ直すまで擦りまくってた『ブレイブ殺し』の戦術。
 オーバーチャージしまくって一気にぷっぱすれば、一回限りでイクリプスを上回る瞬間火力を出せる

>いずれにせよ、このイクリプスとの戦いは癇癪起こしたローウェルのちゃぶ台返しじゃない。
 プロデューサーによる真っ当なプロモーション活動の一環だ。
 顧客が存在する以上、後出しジャンケンで世界のルールをコロコロ書き換えられることはない。
 ゲームとしての面白さを確保するための弱点は、容易に潰せないはずだ

明神が目をつけたのは、ブレイブ&モンスターズ! と星蝕のスターリースカイのジャンルの違いだった。
アクションRPGであるSSSは常にキャラクターを動かし続ける必要がある。
群がる敵の攻撃を回避し、狙いを定め、撃破しつつ自らのバフ、回復などを同時にこなすという、マルチタスクを強いられる。
限られた時間の中で使えるスキルには限度があり、あまり戦略的・戦術的なスキルは使えない。
自然と、プレイヤーの動きはパターン化されていくことになる。ソウルライクゲームのように、
敵の行動を頭に叩き込んで攻略してゆくようなジャンルのものなら、それが尚更顕著になる。
明神はそこを衝こうというのだ。
明神の言う通り、SSSには七つのクラスが存在する。そこにはプレイヤーを飽きさせない為という目的もあるだろうが、
マルチのパーティプレイ前提という目論見も垣間見ることが出来る。
個性豊かなクラスでチームを組み、互いの短所を補い合って強敵を斃す。マルチプレイの最も楽しい要素のひとつだ。
それはつまり、個々のクラスには明確な弱点がある――ということの確たる証拠であろう。

>そう…それなんだが…さっき…少女と殴り合った感じ…彼女は自分は相手より強い事は分かっているが…
 具体的にどう強いのか分かってない…そんな感じがした
 なんていえばいいか…なんていうか…体の出力に頼りっきりというか…

ゲームの知識が殆どないジョンは、あくまで直に闘った際に覚えた所感を口にする。

>中身が人間だろうとNPCだろうと…ザコ狩りしかしてないなら…
 明神のいう弱点を突かれた時に自分にどんな事が起きるのか…それすら理解してない奴もいると思う。
 例えば異常状態…凍るとかオーバーヒートするとか…あの見た目なら感電するとか?
 …どこまで実装されてるかわかんないけど…

『星蝕のスターリースカイ』はまだリリース前の、クローズドβテストの状態だ。
今回のミズガルズ――地球への侵攻を試金石としてこれからデバッグや調整などを適宜行い、
最終的な正式リリースに漕ぎ着けるというプランなのだろう。
当然、抽選によって択ばれたテストプレイヤーたち、即ち現在センターの外にいる『星蝕者(イクリプス)』たちは、
誰もが今回初めてSSSというゲームに触れたのだろう。事前のプレスリリースと当選時の説明で、
勿論ある程度の理解はしているだろうが、それでも直接触れるのは初めてに違いない。
歴戦のネトゲ廃人だろうと、重課金者だろうと、プロのゲーマーだろうと、『最初』はある。
初めて触った瞬間にルールを完全に理解し、法則を把握し、性能を充分に引き出せる者など存在しない。
誰しも最初は下手なのだ。そうして訓練と研鑽、経験を積み重ね、上達していく。それがゲームというものの面白さだろう。
『星蝕者(イクリプス)』がまだシステムに習熟しておらず、立ち回りを学習していない今のうちに叩く。

49崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/14(木) 21:56:39
「ふふっ」

侃々諤々、対SSSの攻略法を議論する仲間たちをエントランスの椅子に腰掛けて眺めながら、なゆたはそっと目を細めた。

「楽しそうだね、マスター」

なゆたの隣に佇んでいるエンデがぽつりと零す。
エンバースや明神の遣り取りに視線を向けたまま、うん、と返す。

「なんか……いいなぁ、って。
 どんなにつらいことがあったって、悲しいことがあったって、こうしてみんなで集まって。
 知恵を出し合って、一見絶対無理って難易度をしたゲームの攻略法を考えていく……。
 元々フォーラムでもやってたことで、当たり前の作業だったんだけど、
 こうしてみんなと出会って……たくさんの旅をしてきて。
 改めて、楽しいって思ったんだ。
 ゲームって、やっぱり最高に面白い! って」

かつて、考古学的な大発見を自ら解き明かそうという大望を抱いた人間がいた。
途方もない、到底不可能な、夢物語と言うしかない荒唐無稽な望みだった。
その人物はほうぼうを巡って信頼に足る仲間を集め、夢の実現に乗り出した。
道程は苦難を極めた。常人ならば一生に一度直面するかしないかの危難にも、幾度となく直面した。
だがその人物は決して諦めることなく、ありとあらゆる艱難辛苦を乗り越え、ついに念願の大発見へと辿り着いた。
しかし。
その人物が最も喜びを感じたのは、長年の夢である大発見を目の当たりにした時ではなく――
苦楽を共にしてきた仲間たちと、その発見を前に握手を交わした時だったという。

結果がすべてだと、そういう意見だってあるだろう。
過程がどうであろうと、結果を残せなければ無意味だと。確かに特定の分野においてそれは真実だ。
けれどゲームの世界では、それは必ずしも絶対的な真理ではない。
マリオカートで最下位だって。桃太郎電鉄で、モノポリーで、いただきストリートでビリだって。
それを以てそのゲームたちをクソゲーだと、面白くないと言うプレイヤーがいるだろうか?
仮に結果を残せなくても、くやしい思いをしたとしても。
その過程は楽しかったはずだ、盛り上がったはずだ。そこには笑顔が、歓声が、喜びが――必ずあるのだ。

ここにいる仲間たちは、皆それを知っている。ゲームの内容で楽しむことは勿論、こうして仲間同士知恵を出し合い、
力を合わせることこそが尊く、嬉しいのだと。
むろん、負けるつもりなんてない。あの『星蝕者(エクリプス)』たちには、何が何でも勝つ。
この逆境さえも楽しんで勝利する。目の前の頼もしい仲間たちなら、必ず成し遂げてくれるだろう。

『……もう、わたしの役目は終わりなのかもしれませんね――』

「え?」

前触れもなく聞こえた声に、なゆたは驚いてキョロキョロと周囲を見回した。

「マスター、どうかした?」

「エンデ、今何か言った?」

「いいや、何も」

いつものやや眠そうな表情で、エンデが答える。

「……うーん? 空耳かな……」

なゆたは首を傾げたが、結局気にしないことにした。
だが、なゆたは気付かなかった。
その“声”は外から聞こえたのではなく――
なゆたの心の中から聞こえた、ということに。

《私からも一言、いいかしら》

突然空中にディスプレイが展開され、ニヴルヘイムにいるウィズリィの顔が大写しになる。

《ミズガルズに『星蝕者(イクリプス)』が干渉することを阻止できなくて、ごめんなさい。
 大賢者様……いいえ、大賢者の方が管理者としての力量も、権限も強かったから……。
 ただし、私とミノリもやられっぱなしではないわ》

ウィッチハットをかぶった少女は、ふんと軽く笑みを浮かべてみせた。

《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

まったく別のゲームのシステムと大量のテストプレイヤーたちを無理矢理召喚する、そんな大規模な干渉を、
完全に痕跡を残さずに遂行するというのはどんな腕の立つプログラマーであったとしても難しい。
ウィズリィとみのりは管理者権限をフル活用し、ローウェルの足跡を逆探知してその所在を解き明かそうしているらしい。

50崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/14(木) 21:57:17
「ローウェルの居場所を……!? 本当!? ウィズ!」

絶望に次ぐ絶望の中での思いがけない朗報に、なゆたは思わず歓声を上げた。
今まで決して居場所を明らかにせず暗躍していたローウェルの現在地を特定し、其処に乗り込めるとしたら、
この長い戦いに終止符を打つことが出来るかもしれない。
それでなくとも、今までアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』はローウェルの行動に対し、
後手後手に回ることを余儀なくされてきた。いつでもローウェルに先手を取られ、或いは出し抜かれ、
辛酸を舐めさせられ苦渋を飲まされ続けてきたのだ。
そんなローウェルに一矢報い、此方が攻勢に出られるというのなら、そんなに望ましいことはあるまい。

《ええ。今、ミノリが取り掛かっているわ……か細い糸を手繰るような試みだけれど、絶対に辿り着いてみせる。
 でないと、貴方たちのバックアップをすると言って此処に残った意味がないもの。
 だから――》

ウィズリィが『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の顔を見回す。

《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》

必要なのは、みのりとウィズリィがローウェルを追い詰めるための時間だった。

「わかった! 任せておいて!」

仲間たちの意見を聞くまでもなく、なゆたは即答した。
椅子から立ち上がり、足許にポヨリンを従えて空中に展開されたディスプレイに歩み寄る。

「みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって」

くるりとスカートの縁を揺らし、ディスプレイから仲間たちへと振り返る。

「どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。
 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど」

たはは……と困り顔で笑いつつ、人差し指で右頬を掻く。

「あと、βテストっていうのも大事だよね。そういうのって、大抵期間限定でしょ?
 だから、きっと『星蝕者(イクリプス)』の侵攻には時間制限があるんじゃないのかな」

シャーロットでないなゆたに上位者の時間の概念がどうなっているのかは知る由もなかったが、
地球基準で考えればクローズドのテストプレイ期間というのは四日から長くても一週間程度が一般的だ。

「わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない」

先程明神の指摘した『星蝕者(イクリプス)』はセンターの中に入ってこられない、というシステムの穴を衝いた作戦だ。
ローウェルが大規模なマップの改変でも行わない限り、センターは外部からのどんな攻撃も通さない、
アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にとってこの上なく堅固な要塞として機能する。
いかなローウェルとて、そこまで大掛かりな修正をするとなればそこそこ時間を要するだろう。
クローズドβテストの期間が終了するまで、そしてみのりとウィズリィがローウェルの居場所を特定するまで、
このセンターを中心に持久戦を行う。それがなゆたの提案だった。

ラスベガスを巨大なひとつのステージと考えた場合、隠れる場所も戦う場所も大量にある。
一大観光地のため大きなホテルもレストランも数多く存在するから、休憩場所や食糧には事欠かない。
奇しくも、破壊されたリゾート地は圧倒的な兵数の不利を覆すゲリラ戦を展開するにはもってこいのフィールドと言えた。

「もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ」 

なゆたはスマホをタップすると、インベントリからアイテムをひとつ取り出した。
それは、膨大な魔力を秘めたひとつの指環。
アルフヘイムへ召喚されたばかりのときに手に入れた、大賢者に縁のある魔具。
『ローウェルの指環』。
それを右手の薬指に嵌め、自身のスペルカードをすべてリキャストする。
回復したスペルカードのうち『高回復(ハイヒーリング)』をプレイ。対象は――未だ昏倒している『禁書の』アシュトラーセ。

「ぅ……」

瀕死の重傷から一転、体力を全快させたアシュトラーセは右手で頭を押さえながらゆっくり起き上がった。
そんなアシュトラーセに大まかな事情を説明し、回復魔法を依頼する。
スペルカード『高回復(ハイヒーリング)』は対象一名のライフを回復させることしか出来ないが、
アシュトラーセら高位の魔導師ならば全体回復魔法で他の負傷者を癒すことも出来る。
状況説明を受けたアシュトラーセが全体回復魔法を唱えると、
対リューグークラン戦で受けた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の傷と疲労がみるみるうちに癒えてゆく。
アシュトラーセと同じく『星蝕者(イクリプス)』の襲撃を受けたイブリースとエカテリーナ、
そして限界以上の力を使い果たして死んだように眠っていたガザーヴァも回復し、戦列に復帰する。

51崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/14(木) 21:59:08
「……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……」

明神の隣でふわふわと宙に浮きながら胡坐をかき、現在の状況を聞いたガザーヴァがぼやく。

「あのリューグーナントカをやっつけりゃ、残るは大ボスのクソジジーだけじゃなかったのかよ?
 ったく、次から次へと……やっつける方の身にもなれってんだよ! なー、明神!」

息つく暇もなく出現する敵に対して心が折れるのではなく、あくまで面倒くさいと言い放つあたり、
幻魔将軍の面目躍如といったところだろうか。

「もし、リューグークランの人たちが味方になってくれてたら心強かったんだけどね」

あはは、とガザーヴァの文句に眉を下げ、なゆたが小さく笑う。
日本最強チームであり、偉大な先達であったリューグークランがもしもここに健在で、
一緒にSSSに対抗してくれたとしたら、そんなに頼もしいことはなかっただろう。
だが、彼らはもう消えてしまった。自分たちに未来を託して。
第一クランの皆は望まざる復活によってローウェルに蘇らせられた人々だ。これ以上苦しみを味わわせず、
安らかな眠りについて貰いたいと思う。
クランの皆はなゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に、
最後まで諦めず戦う覚悟の大切さを教えてくれた。勇気を与えてくれた、それだけでも充分というものだろう。

「まだ、外には生き残りの人たちやニヴルヘイムの魔物がいるかもしれない。
 それを見つけてセンターの中に保護して、同時に戦力も拡充していこう」

「オレが『星蝕者(イクリプス)』どもの襲撃を受けたとき、あちこちにまだ同胞たちの気配があった。
 これ以上奴らの隙にはさせん。同胞の命を少しでも多く救えるなら、それに勝ることはない」

「そうじゃな。フィールドを探索し、生存者の発見に努める。
 然る後にこのワールド・マーケット・センターに収容し、負傷者には回復を。
 戦える者は戦力として対『星蝕者(イクリプス)』に出撃して貰う……というのが良策かの」

なゆたの提案に、アシュトラーセやガザーヴァと同じように回復したイブリースとエカテリーナが頷く。

「治療は任せて頂戴。本職ではないけれど、精一杯務めさせて貰うわ」

目下、此方の手勢の中で高位の回復魔法を扱えるのはアシュトラーセとエカテリーナだけだ。
しかしエカテリーナの虚構魔術はこういったゲリラ戦で真価を発揮する。回復役よりは外に出て、
魔術を用い『星蝕者(イクリプス)』を眩惑しての生存者の救出という役回りが一番だろう。
そのぶん独りで後方支援を務めるアシュトラーセの負担は大きいが、やむを得ない。

「しっかし、相手は50万。対してこっちはモンスター合わせても20人以下。
 そのうえ相手はクソジジーの肝煎りで常時バフが掛かってる状態なんだろ?
 バランスもクソもあったモンじゃねーなー! やっぱブレモンはクソゲー!」

「大丈夫! できるよ! だってもうわたしたちよりずっと前に、半年以上もの長い間、
 地上を埋め尽くす量の敵を相手に籠城して持ち堪えた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』がいるんだもん!」  

そう。
なゆたたちはかつて、夥しい数のドゥーム・リザードやヒュドラ、イナゴの群れに少数だけで立ち向かい、
最終的に見事勝利を勝ち取った『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』を知っている。

「へっ。あったりめーだろ。
 イクリップだかスクラップだか知んねーケド、ケチョンケチョンにしてやんよ!
 ポッと出の女キャラどもに、誰がブレモンさいかわキャラかってコトを教えてやる!」

ふふん、とガザーヴァは不敵な笑みを浮かべてみせた。
クソゲーだの何だのと文句を言ってみるのも、ガザーヴァなりの愛情表現のひとつらしい。
そんなブレモンの中で虚勢でも何でもなく、心の底から自分とそのマスターのコンビが地上最強だと信じて疑わない。
そして、それは他の仲間たちも同じだろう。

反面、そんな仲間たちに対し懸念がない訳ではない。
それは『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』である限り絶対に逃れられない、
宿痾とも言うべきシステム上の弱点の存在であった。
『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』のスペルカードは、一度使用してしまうと原則24時間経過しなければリキャストしない。
ウィズリィの『多算勝(コマンド・リピート)』など、即座にカードをリキャストさせるスペルもあるが、
大抵の場合単体であったり何らかの制限が存在しており、もちろん多用も出来ない。
後のことを考えず総力を結集して戦えば、きっと『星蝕者(イクリプス)』を打破することも不可能ではないだろう。
なゆたたちは長い長い旅の果て、そこまでの力を手に入れた。
だが『星蝕者(イクリプス)』ひとりを倒すのに手持ちのスペルカードを使い切ってしまっては意味がない。
今回のSSSの侵攻に関しては、一度勝てばすべての決着がついた今までの戦いと違い、
いつになるとも分からないウィズリィとみのりの解析完了を待って戦い続けなければならないのだ。
とすれば、消耗を可能な限り抑えながらの戦いが大前提となる。
だいたい今現在だって明神たちはリューグーとの戦いでスペルカードの大部分を使い果たしているのだ。
SSSが建物に手出しできないのをいいことにじっと建物の中に閉じ籠り、
24時間経過するのを待てば――という作戦もないこともなかったが、
それでは外にいるかもしれない生存者を見捨てることになる。
継戦能力の低さ、それは『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の致命的なウィークポイントであった。
当然持久戦、籠城戦という作戦との相性も悪い。

だが――

52崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/14(木) 21:59:41
「……まだ、戦意を喪ってないのかい。
 あれだけのものを目にしても」

不意に声が聞こえる。其方を見ると、リューグークランと闘ったトーナメントの会場にいたはずのミハエルが立っている。

「ミハエル……」

「破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、
 まったく理解できないよ」

ふ……、とミハエルは力なく笑ってみせた。
その表情に、デュエルをしていたときの狂気さえ孕んだ覇気は感じられない。
しかし、ミハエルは何もアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の士気を下げにわざわざ姿を現したのではなかった。
ミハエルがなゆたやエンバース、ジョンたちの顔を一頻り見回す。
そうして『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たちの瞳から希望の光が消えていないことを確かめると、
ブレモン絶対王者は自分の衣服のポケットをまさぐった。

「だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう」

ポケットから出した右手をエンバースたちへと突きつける。
開いたその手のひらの上には、すっかり見慣れたデザインの指環が乗っていた。
つい今しがた、なゆたがアシュトラーセたちを回復させるために用いた、
スペルカードのリキャストと超強化の効果を秘めたレアアイテム――『ローウェルの指環』。
それが、しかも四つ。

「ローウェルの指環……! 確かに、あなたが持っていたとしても不思議ではないけど……」

ミハエルは少し前までローウェルと同盟関係にあった。ローウェルからこのチートアイテムを与えられていたとしても、
何もおかしくはない。ただ、数が多すぎる。こういったレアアイテムは、通常ひとり一個が限度のはずだ。
訝しんでいると、すぐにミハエルは一度かぶりを振った。

「これは……僕のものじゃない。
 本来、リューグークランに与えられたものだ」

リューグークラン。
どうやらローウェルは対ハイバラを想定し、復活させたリューグークランのメンバーに必勝を期してひとり一個ずつ、
指環を渡していたらしい。
けれどもそんなローウェルの目論見に反し、リューグークランの皆は誰ひとり指環を使用しなかった。
ミハエルはそんなクランの使わなかった指環を預かっていたらしい。

「彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう」

ローウェルの指環があれば、『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』のシステム上の弱点を完全に克服することは無理でも、
多少は負担を減らすことが出来るようになるだろう。 

「そっか、リューグークランのみんなが……」

マイディアかあいうえ夫か、何れが考えたにしろ、リューグークランはそこまで先を見通していた。
デュエルの中でハイバラを復活させ、その仲間たちの成長を促し、更には最後の戦いへむけて背中を押す。
おまけに自分たちを倒した後続の者たちへレアアイテムのご褒美まで用意していたとは――。

「はは……、やっぱり全然敵わないなァ」

仲間たちがそれぞれ指環を手にするところを見ながら、なゆたは小さく笑った。
偉大な先達がそこまで自分たちの為にお膳立てしてくれたのだ、
応えなければ『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』の名折れというものだろう。

「これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!
 気合入れていこーっ!」

仲間たちを鼓舞しようと、なゆたは大きく右腕を天井に突き上げた。
が、勢い余ったのかバランスを崩し、かくんと膝が折れるとそのままへなへなと床に尻餅をついてしまった。

「あ……、あれ?」

ポヨリンが心配そうに寄り添ってくる。なゆたはすぐに立ち上がろうとしたが、気持ちに反して脚に力が入らない。
結局、仲間に助け起こされて何とか立ち上がった。

「オイオイ、なーにやってんだよモンキン! これから大一番ってときにさぁー!」

ガザーヴァが呆れたように半眼で吐息する。

「ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……」

今一度全身に力を込め直すと、なゆたは眉を下げて恥ずかしそうに笑った。

54崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/03/15(金) 01:27:45
アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たちの目の前、虚空に大きく展開されたディスプレイに、
ラスベガス主要部を俯瞰したマップが表示されている。マップのあちこちには青色と赤色の光点が無数に散らばっており、
明滅を繰り返していた。
ウィズリィが管理者権限の一部を利用して作成したものだ。
マップの中央部、自分たちの現在位置であるワールド・マーケット・センターとおぼしき場所には、
一ヶ所に集まった白色の光点も存在している。これは恐らく自分たちの識別信号ということだろう。

《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

マップ上に存在する赤い光点は夥しい数ではあるものの、蟻の這い出る隙間もない――というほどではない。
米軍やニヴルヘイム軍との大規模な戦闘が一旦終了し、目につくあらかたの敵を撃破してしまったことで、
『星蝕者(イクリプス)』たちも小休止を決め込んでいるのかもしれない。
今は上空に停泊している宇宙船群の中に大多数が引っ込んでしまっているのだろう、ひょっとするとレベルアップしたり、
スキルポイントを割り振ったりして自身を強化している最中という可能性もある。
マップの中を活発に動き回る赤い光点に対して、青い光点は当然と言うべきか殆どが動かずにいる。
建物の残骸や地下などに隠れ、息を殺しているのだろう。
目下、そういった生存者を救出するのが自分たちの最優先事項と言える。

「この青い点を全部回るってのは、ちょっと骨が折れるな……」

ガザーヴァが右手の小指を唇に添え、難しい表情で首を傾げる。
一口にラスベガス主要部と言ってもその範囲は広範で、青い点はその各地にまばらに存在している。
無数に蠢いている赤い点を回避しつつすべてを回収というのは、確かに容易なことではない。

「ならば複数の部隊を編成し、手分けして救援に当たればいい。
 寡兵ならば個々に役割を設け、無駄のない効果的な運用をするのが戦術の基本というものだ」

腕組みしながらイブリースが短く提案する。
今、この場で一番青い光点を救出に行きたいのは間違いなくイブリースだろうが、強靭な忍耐力で何とか耐えている。

「いや、万一『星蝕者(イクリプス)』と戦闘になった場合、人数を分けてしまっては確固撃破される恐れがあろう。
 ここは固まって行動すべきではないか? 人命救助しようとして我らがやられてしまっては、それこそ本末転倒じゃ」

イブリースの分散案に対して、エカテリーナがと集中案を挙げる。
いずれの案にも一長一短があり、どちらが優れているとも言い難い。

《どういった形態で作戦行動に移るかは、そちらで考えて貰うとして……。
 目下のところ、マップ上で重要とされる箇所は四ヶ所ね。ブック、表示して頂戴》

ウィズリィの指示によって、マップ内のブロック数ヶ所が色分けされピックアップされる。

《まずはフレモント・ストリート・エクスペリエンス。
 ここはリゾートホテルが立ち並んでいる区画で、この通り青色の光点が最も多くなっているわ。
 対して赤の光点はそこまで多くない……》

ホテルが多いということは、宿泊客などの生存者が建物内に避難していると考えるべきだろう。
またレストラン、ブティックなども多数あり衣食住にまつわる施設が多い点から、このブロックを押さえるのは急務と言えた。
持久戦には補給物資の確保が何より大切である。

《次に、マンダレイ・ベイ。
 このラスベガスでも有数のカジノホテルのようね。ここにも青の光点は多い……人命救助を考えるなら、
 此処も捨ててはおけないわ》

ラスベガスのメインコンテンツと言えば、なんといってもカジノだ。
従って世界的にも有名なこのカジノホテルに生存者が多く集まっているというのは当然の流れであろう。
また。そういった施設は急な傷病者の為に救護所や中には簡易的な病院も併設している場合があり、継戦能力向上に欠かせない。

《第三に、ザ・ストリップ。ラスベガスのメイン・ストリートね。現在みんなのいる、
 ワールド・マーケット・センターの真正面、目抜き通りがそれよ。此処は……ラスベガスで最も破壊の痕跡が大きい、
 恐らくは最大の激戦区となった場所だと思う。生存者は絶望的だけど、敵の攻略への糸口が見つかる……かも》

行きでは一目散にワールド・マーケット・センターを目指していたため、あまり周囲の景色に気を配る余裕がなかったが、
センターのすぐ近くで米軍とニヴルヘイム軍、そして『星蝕者(イクリプス)』の大規模戦闘が勃発したというのだ。
その爪痕は甚大で、建物のほとんどは破壊され、舗装道路は砕け、いまだに無数の屍が転がっている。

《最後に、ストラトスフィア。
 ラスベガスで最も高い展望台を擁するホテルね。……見ての通り、このホテルはSSSの飛空艦隊の真下に位置している。
 当然、赤の光点も一番多いわ。ただ――もし此方から攻め込むとしたら、此処が基点となるでしょう》

「なるほど」

マップを眺め、ウィズリィの説明を聞きながらなゆたは頷いた。それから、仲間たちの意見を募る。
みのりとウィズリィがローウェルの居場所を特定するまで、どうやって『星蝕者(イクリプス)』の攻勢を凌ぐか。
分散と集中いずれの作戦で、どこから調査に乗り出すか。決めるべきことは多い。

ローウェルは多くの人々を間接的に殺戮した。プロデューサーの職権を濫用し、世界を滅茶苦茶にした。
そんなときに不謹慎だと、そう言う者もいるかもしれない。
だが、ここはゲームの世界。なゆたたちが現実だと思っていたものさえ、より上位の存在がプレイするゲームに過ぎなかった。
で、あるのなら。
ゲームは楽しむもの、それがゲームという概念の発明された古来より不変の真理であるのなら――

この場で一番楽しんだ者、それが勝者だ。


【なゆた、みのりとウィズリィがローウェルの居場所を特定するまでの間、持久戦を提案。
 ミハエル、パーティー全員にローウェルの指環を支給。
 ウィズリィ、ラスベガス四ブロックのどこから先に探索するか意見を募る】

55embers ◆5WH73DXszU:2024/03/21(木) 03:09:49
【ニューゲーム・ニュールール(Ⅰ)】


ワールドマーケットセンターのエントランスホール。
イクリプス達による追撃の気配は――未だない。

『ありがとう、エンバース。
 そうだね、不確定な銀の魔術師モードにいつまでも頼ってられない。頼るならここにいるみんなを頼るよ。
 ただ……待ってることだけはしない。わたしはわたしの力で、わたしの道を切り拓く。
 わたしはカメのお城の中で、オーバーオールのヒーローが助けに来てくれるのを待ってるだけのヒロインじゃないから!』
『まぁあのお姫さまも最近めっちゃ戦ってるけどね!』

「はっ……フライパンで敵の頭をブン殴るなんて、いかにもお前らしいよな。かなりハマり役だぜ」

『さっきエンバースさんが炎幕張ってる間にうまいこと逃げ切れたでしょ?
 上の世界のフルダイブじゃないゲームがこっちの世界のゲームと同じようなものだとすればだけど……
 情報源が画面しか無い以上視覚情報の攪乱の影響をもろに受ける……のかも?』

「ああ……忍法クソカメラの術か。確かにアクションゲームには付き物だ」

『おいおいどうしたカザハ君、今日のお前めちゃくちゃ冴えてるじゃん!』

「……いつものカザハ君がどれくらい冴えていないかについては、追求しないでおこうかな」

『俺たちにはゲージ溜まってからじっくりコマンドリスト開いて行動を選択する猶予がある。
 アクションゲーにはそれがない。アクションしながら選択できるスキルには限りがあるはずだ。
 ショートカットキーを活用したとしても扱えるスキルはせいぜい4つから8つくらいが関の山だろ。
 各スキルのリキャストをリアルタイムで管理し切るにはもっと減らす必要があるかもな』

『イクリプスは、無敵じゃない。
 キャラを全面に押し出したゲームである以上、『得意分野』と『弱点』は必ず存在する。
 プレイアブルのクラスを7種も用意してるってことは、キャラ同士で弱点を相互に補完するプレイが前提のはずだ。
 ブレモンと同じ運営なら、オンラインマルチのノウハウを活かしたいだろうしな

「『何もかもが得意で弱点がない人権キャラ』と『なんの取り柄もない産廃キャラ』を忘れてるぜ。
 正直言って、前者はいる可能性が高いと思っていた方がいい。
 考えてもみろ。SSSのプロデューサーはローウェルだぞ。ゲームバランスなんて取るつもりないだろアイツ」

『いずれにせよ、このイクリプスとの戦いは癇癪起こしたローウェルのちゃぶ台返しじゃない。
 プロデューサーによる真っ当なプロモーション活動の一環だ。
 顧客が存在する以上、後出しジャンケンで世界のルールをコロコロ書き換えられることはない。
 ゲームとしての面白さを確保するための弱点は、容易に潰せないはずだ』

「……顧客にバレないようにズルをするって線もあり得るけどな。なんたって敵はローウェルだ」

『そう…それなんだが…さっき…少女と殴り合った感じ…彼女は自分は相手より強い事は分かっているが…
 具体的にどう強いのか分かってない…そんな感じがした
 なんていえばいいか…なんていうか…体の出力に頼りっきりというか…』

「システム上のレベルやステータスはさておき……経験値不足って事か?
 ヤツらが当て勘や駆け引きのノウハウに乏しいとすれば……大分やりやすくなるけど」

《私からも一言、いいかしら》

ふと中空に浮かび上がるホログラム・ディスプレイ。

56embers ◆5WH73DXszU:2024/03/21(木) 03:10:14
【ニューゲーム・ニュールール(Ⅱ)】

「ウィズリィ。システムへの干渉はどうなった?退けられたのか?」

《ミズガルズに『星蝕者(イクリプス)』が干渉することを阻止できなくて、ごめんなさい。
 大賢者様……いいえ、大賢者の方が管理者としての力量も、権限も強かったから……。
 ただし、私とミノリもやられっぱなしではないわ》

「……いいね。聞かせてくれ」

《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

『ローウェルの居場所を……!? 本当!? ウィズ!』

《ええ。今、ミノリが取り掛かっているわ……か細い糸を手繰るような試みだけれど、絶対に辿り着いてみせる。
 でないと、貴方たちのバックアップをすると言って此処に残った意味がないもの。
 だから――》
《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》

『わかった! 任せておいて!』

なゆたは即答/エントランスの椅子から跳ね上がる――ディスプレイを背に一行を見渡す。

『みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって』

「まあ……そうだな。俺もそろそろ、24時間で何回死に損なえるかゲームは飽きてきた」

『どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。
 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど』

「……どうでもいいっちゃどうでもいいんだが、アイツらって全く同じ存在があの船の中に50万人いるのか?
 アイデンティティとか平気なのかよ。俺は結構気にしちゃうけどタイプなんだけどな、そういうの」

『あと、βテストっていうのも大事だよね。そういうのって、大抵期間限定でしょ?
 だから、きっと『星蝕者(イクリプス)』の侵攻には時間制限があるんじゃないのかな』

「時間制限……なんか、そう言われると今すぐここを飛び出してヤツらと時間いっぱい戦闘しなきゃいけない気持ちになるな」

『わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない』

「俺に異論はない……が、やるなら一回一回の戦闘を効果的にしよう。
 こちらの思惑がバレる前に色々と検証しておきたい事がある」

『もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ』

なゆたがスマホをタップ/ローウェルの指環を装備――カードをリキャスト。
すぐに【高回復(ハイヒーリング)】をプレイ――対象は重傷のまま手を施しかねていたアシュトラーセ。

『ぅ……』

「待て待て落ち着け。無理に喋るな。あれだけの大怪我だ。
 傷は癒えても内臓からの出血が喉や気管に残っているだろ。
 ゆっくり息を吸って、そうだ、全部吐け……よし。ほらよ、水だ」

最低限、人心地つかせる=結局その方がパフォーマンスが上がるから――そうして全員の治療/情報共有が完了。

57embers ◆5WH73DXszU:2024/03/21(木) 03:10:32
【ニューゲーム・ニュールール(Ⅲ)】

『……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……』
『あのリューグーナントカをやっつけりゃ、残るは大ボスのクソジジーだけじゃなかったのかよ?
 ったく、次から次へと……やっつける方の身にもなれってんだよ! なー、明神!』

「リューグークランだ。超カッコいい名前だろうが。どうして忘れられるかね」

『もし、リューグークランの人たちが味方になってくれてたら心強かったんだけどね』

「……そうか?アイツら絶対、リベンジマッチしに勝手にそこら辺ほっつき歩いてるぜ」

ややぶっきらぼうな語り口――たとえ感受性を押し殺せるとしても、あえて悲しみを直視したいかは話が別だ。

『まだ、外には生き残りの人たちやニヴルヘイムの魔物がいるかもしれない。
 それを見つけてセンターの中に保護して、同時に戦力も拡充していこう』

『オレが『星蝕者(イクリプス)』どもの襲撃を受けたとき、あちこちにまだ同胞たちの気配があった。
 これ以上奴らの隙にはさせん。同胞の命を少しでも多く救えるなら、それに勝ることはない』

『そうじゃな。フィールドを探索し、生存者の発見に努める。
 然る後にこのワールド・マーケット・センターに収容し、負傷者には回復を。
 戦える者は戦力として対『星蝕者(イクリプス)』に出撃して貰う……というのが良策かの』

「戦力……魅力的な響きではあるが、ヤツらは俺達がちょこっとだけ苦戦するレベルの相手だぜ。
 かなり上手く運用しない限りは、無駄な死傷者を増やすだけになるぞ。
 勿論……かなり上手い運用法についても心当たりはあるが」

『しっかし、相手は50万。対してこっちはモンスター合わせても20人以下。
 そのうえ相手はクソジジーの肝煎りで常時バフが掛かってる状態なんだろ?
 バランスもクソもあったモンじゃねーなー! やっぱブレモンはクソゲー!』

『大丈夫! できるよ! だってもうわたしたちよりずっと前に、半年以上もの長い間、
 地上を埋め尽くす量の敵を相手に籠城して持ち堪えた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』がいるんだもん!』

「……なるほどな。あの時とは些か状況が異なるが――
 確かにあの戦場ではブレイブに及びもつかない魔物が戦力として機能していたな」

エンバース=何やら考え込む仕草――参考にする部分が些か的外れではあるが。

『……まだ、戦意を喪ってないのかい。
 あれだけのものを目にしても』

ふと視界の外から声が聞こえた/ミハエル・シュバルツァーの声――エンバースがそちらへ振り返る。

「……まあ、どうせやるしかないからな。それに――」

『破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、
 まったく理解できないよ』

「そうやって俺がハナから諦めてたら、お前とのデュエルもあんなに楽しくはならなかったんだぜ」

エンバースの不敵な笑み/ミハエルが力なく笑う。

58embers ◆5WH73DXszU:2024/03/21(木) 03:11:48
【ニューゲーム・ニュールール(Ⅳ)】

『だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう』

『ローウェルの指環……! 確かに、あなたが持っていたとしても不思議ではないけど……』

「指環が……四つ?いや、数は関係ない……ただ、何かがおかしいぞ……妙な違和感があるというか……」

『これは……僕のものじゃない。
 本来、リューグークランに与えられたものだ』

「いや、俺が気にしてるのはそこじゃない。だが……」

『彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう』

「まあ、アイツららしいな……カッコつけの、バカ野郎どもだ」

『これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!
 気合入れていこーっ!』

なゆたの号令/拳を高く突き上げる――そのままよろめいて、尻餅をついた。
エンバースの、半分だけ再生した心臓がどくんと跳ねる。

『あ……、あれ?』

「……立てないのか?」

呆然としたエンバースの口から声が零れ落ちる。
安否を問うでもない/気遣いでもない――ただ目の前の出来事を否定して欲しい。
その一心だけが宿った声が。

だが結局――返答はなかった。

「――なら仕方ないな。確かにハマり役とは言ったが……ほら、お手を拝借しても?お姫様?」

だからエンバースは――茶化すように笑った。
目の前の出来事がまるで大した事じゃないみたいに。
実際、魔王城からの強行軍を鑑みれば消耗していない方がおかしいくらいなのだ。
むしろ今の内にその兆候が見て取れたのは僥倖でさえある――力になってやるべきだと認識出来たのだから。

チャンピオンを倒した事が、かつての仲間達にもう大丈夫だと伝えられた事が、
エンバースの精神を良い意味で前向き/楽観的に――そして強固にしていた。

『ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……』

「いいや逆だ。お前は少し気を抜け。管理者メニューを開いた時から一番無茶してるんだ。ほら、歩けるか?」

なゆたの手を引く/肩を掴む/向きを反転――背中を押して先ほどまで座っていた椅子に強制送還。
有無を言わせず椅子に座り込ませる――その隣に腰を下ろす。

59embers ◆5WH73DXszU:2024/03/21(木) 03:13:54
【ニューゲーム・ニュールール(Ⅴ)】

「ここにいろ。座って、楽にするんだ……よし。それじゃ、ええと……何の話をしてたんだっけ。
 あー……そうだ。まず生存者を保護するとして、それらをどう探すんだ?居場所の目星は付けられるのか?」

《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

『この青い点を全部回るってのは、ちょっと骨が折れるな……』

「ここがアルフヘイムならともかく、土地勘もないしな」

《どういった形態で作戦行動に移るかは、そちらで考えて貰うとして……。
 目下のところ、マップ上で重要とされる箇所は四ヶ所ね。ブック、表示して頂戴》

作戦行動の候補地は四つ。
フレモント・ストリート・エクスペリエンス=歩行者天国/生存者多数/敵は手薄。
マンダレイ・ベイ=黄金色に輝くカジノホテル/生存者多数――屋内に入れさえすれば戦闘は回避可能。
ザ・ストリップ=ラスベガスのメインストリート/先の戦闘の激戦区――戦闘データの収集が見込める。
ストラトスフィア=成層圏の名を冠するカジノホテル/直上にSSS艦隊――反攻の橋頭堡はここ以外にあり得ない。

なゆたが皆に意見を募る――エンバースは相変わらず悩む素振りさえ見せなかった。

「そもそも、お前らこのミズガルズでも『門』は使えるのか?使えるなら話は早いんだが」

身も蓋もない質問――とは言え、仮に門が使えなくとも考えはある。

「門が駄目でも、とりあえず落ち着いてメトロや……あまり気は進まないが下水道のマップを用意しよう。
 管理者メニューを使えばそう難しくないよな?その後は……方法はなんでもいいんだが、検証しておきたい事がある。
 ヤツらはメトロや下水道には侵入可能なのか、地形や建物を破壊出来るのか、その辺をハッキリさせとかないと」

どんなゲームの攻略でも最初にするべき事は決まっている――仕様の確認/追求だ。

「それが分かったら……手分けして、さっき挙がった四箇所を全部確認したい。
 ヤツらのベータテスト同様、俺達の戦いも時限イベントみたいなもんだ。
 時間をかければ負傷者の生存率は下がるし……SSS撤退後は拾えないアイテムとかも落ちてるかもしれない」

どうにもズレたバランス感覚――これはもう簡単には元に戻らない。

「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

傾向と対策はゲームの基本――逆説、手の内が知れる前に成果を出すべき=エンバースの主張。

60カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/03/25(月) 22:52:50
>「SSSは……言っちゃなんだが美少女ゲーの類だよな。
 イケメン盛りだくさんのブレモンとは客層がだいぶ違ってる。
 SSSがどんだけ覇権をとろうが、課金の出どころが違う以上ブレモンと共存できるはずだ。
 どちらが生きるかくたばるか、ゲームクリアとゲームオーバー以外にも、第三の結末は必ず存在する」
>「掴み取るんだ。――『俺たちの戦いはこれからだ』エンドを!」

>「いやそれじゃ終わっちゃうんじゃないかな…」

「第一部完! の定番文句だから大丈夫だ問題ない! 言われてみればそうだよね。
そもそも後継作というなら普通何かしらの要素は被せてきそうなもんだけど世界観もジャンルも全く別物じゃん!
後継というより新規開拓だわあれは。あっちはあっちで栄えてくれればいいんじゃないの」

皆が一通り意見を言い終えたところで、空中にウィズリィちゃんが映し出された。

>《私からも一言、いいかしら》
>《ミズガルズに『星蝕者(イクリプス)』が干渉することを阻止できなくて、ごめんなさい。
 大賢者様……いいえ、大賢者の方が管理者としての力量も、権限も強かったから……。
 ただし、私とミノリもやられっぱなしではないわ》
>《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

>「ローウェルの居場所を……!? 本当!? ウィズ!」

>《ええ。今、ミノリが取り掛かっているわ……か細い糸を手繰るような試みだけれど、絶対に辿り着いてみせる。
 でないと、貴方たちのバックアップをすると言って此処に残った意味がないもの。
 だから――》
>《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》

>「わかった! 任せておいて!」

正直50万人を相手にまともに戦って勝利を収めるのは現実的ではないと内心思っていたが、
時間稼ぎをすればいいというのなら、希望が見えてきた。

>「みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって」

>「どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。
 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど」
>「あと、βテストっていうのも大事だよね。そういうのって、大抵期間限定でしょ?
 だから、きっと『星蝕者(イクリプス)』の侵攻には時間制限があるんじゃないのかな」
>「わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない」

「これ言ったら身も蓋も無いんだけど……
相手が本当に建物の中に入ってこれないんならずっと引き籠ってたら時間稼ぎだけなら出来るんじゃ……」

61カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/03/25(月) 22:54:32
言っても無駄とは分かっていながらも、一応言ってみる。うん、分かってるよ!
この期に及んで廃ゲーマー達が「それじゃあ面白くない」とか「生存者を出来るだけ多く救出してハイスコア目指そう」みたいなことを言い出すんやろ!?
無駄と分かっていながらどうして言うかというと、こういうことを言いそうなヘタレ担当が他にいないので様式美というやつだ。

「――ですよねー!」

まあ実際いくら戦いに勝ってもローウェルに面白くないと思われたら未来は無いし、出来ることなら生存者は救出したい。
もっと足元を見て考えても、こちらが本気で引き籠り作戦に出たなら、
ローウェルだってそれに対抗して急ごしらえで建物の中のマップを増設するだろう。

>「もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ」

なゆがスペルカードを使うと、アシュトラーセが一瞬で瀕死の重傷から復活した。

「えっ!?」

そういえば、『高回復(ハイヒーリング)』ってそんな凄いスペルカードだったのか……!
そういえばそうだったんだけど今まで使っているのを見たのが主に戦闘中だったせいで
「あまりにも敵の攻撃が苛烈すぎて焼石に水」という状況が多すぎて感覚が狂っている……!

更にアシュトラーセが、皆に回復魔法をかける。
ちょっと回復待ちで場がわちゃわちゃしている隙に、ジョン君を近くに呼び寄せる。

「ジョン君……」

先ほど撤退するときに、逃げ遅れそうになっていたジョン君をカケルに乗せて回収した。
単純に逃げ遅れただけならいいのだが、多分そうではない。
おそらく拳を交わしていたと思われる、褐色肌の美少女の方を名残り惜しそうに見ていた。
ジョン君は強い者との戦闘に惹かれてしまう存在で、あの美少女がそうだったのだろう。
これはまずい。
別に相手が美少女だからまずいとかそういうわけではなく仮にガチムチマッチョでも同じことで。
あれ、自分は誰に対して言い訳しているんだろう。
とにかく、さっきは無事に回収できたから事なきを得たけど、今その性質を発揮したら最悪の事態になる可能性がある。

「もしもあの美少女と遭遇しても後先考えずに突撃したら駄目だよ!?」

今回は我慢してもらってどうにかなったとしても、根本的な問題として
ジョン君は強い者と戦わないと死んじゃうタイプの人間で、
でも好き好んで強い敵とガチで戦ってたらいつか死ぬかもしれないわけで……
えっ、これ無理ゲーじゃね!? その時、天啓のごとく閃いた!

(我が超強くなって時々死なない程度に相手してあげればジョン君色んな意味で死なないし死なずに済む……ってこと!?)

「不可能、というツッコミは置いとくとしても
それ以前に戦闘自体が目的じゃなくて何かの目的のための手段って時点で
戦闘民族的には満足できないと思うんですよね……」

カケルが冷静にツッコんだ!

62カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/03/25(月) 22:56:33
「あ、今思考が変な方向に行ってるので気にしないで下さい」

そして解説した!
そうしている間にガザーヴァ達が復活した。

>「……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……」

「起きて早々呑気過ぎやろ!?」

なかなか目を覚まさないものだからなんかのフラグだったらどうしようかとちょっとだけ思ってしまったよ!?
べ、べつに心配なんかしてないんだからッ!

>「へっ。あったりめーだろ。
 イクリップだかスクラップだか知んねーケド、ケチョンケチョンにしてやんよ!
 ポッと出の女キャラどもに、誰がブレモンさいかわキャラかってコトを教えてやる!」

ああ妹よ、一応顔のモデリングは共通のものが使われている以上
そういう巻き込まれ事故が発生しかねない発言は厳に慎んでほしいんだけど……。
ビジュアルが微妙な自称さいかわキャラはマーケティングによってはおもしろ愛されキャラとして成立するけど
実際にかわいいキャラが自分でそんなことを言ったら敵が量産されるだけやろ!?
でも顔が共通である以上これを口に出したら自分がさいかわキャラだと
間接的に自分で言ってやがるって思われかねないわけでツッコむことすらできないじゃん!?
いや実際はガザーヴァが言ってるのは小悪魔な性格も含めた総合評価だろうから違うんだよ!?
と心の中で言い訳を繰り広げているうちに、いつの間にかミハエルが来ていた。

>「……まだ、戦意を喪ってないのかい。
 あれだけのものを目にしても」

「手伝ってくれるの……!?」

やっと戦意を取り戻したのかと思ったら、違った。

>「破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、
 まったく理解できないよ」

マジで大丈夫!? キャラ変わっちゃってない……?
エンバースさんとの戦いの最中に頭でも打ったんだろうか。

>「だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう」

>「ローウェルの指環……! 確かに、あなたが持っていたとしても不思議ではないけど……」

>「これは……僕のものじゃない。
 本来、リューグークランに与えられたものだ」
>「彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう」

実際に誰がいい出したかは分からないけど、あいうえ夫さんだったらめっちゃ言いそう……。
指輪を受け取り、左手の薬指にはめようとすると、カケルに止められた。

63カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/03/25(月) 22:57:34
「あっ、そこは誤解を招くから駄目」

「なんで? まあいいや」

特にこだわりは無いのであまり深く考えずに右手の薬指にはめる。

>「これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!
 気合入れていこーっ!」

なゆは、突然力が抜けたように床に尻もちをついた。

>「あ……、あれ?」

「なゆ!?」

>「……立てないのか?」
>「――なら仕方ないな。確かにハマり役とは言ったが……ほら、お手を拝借しても?お姫様?」

(これっていかにも、“フラグ”っぽくない……!?)

いやいやいや、それはこの世界がゲームだってことを意識し過ぎでしょ!
それ言ったら自分なんかしょっちゅうヘタレてるじゃん!?
頭をふるふると横に振って、一瞬浮かんでしまった不吉な考えを振り払う。

>「ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……」

>「いいや逆だ。お前は少し気を抜け。管理者メニューを開いた時から一番無茶してるんだ。ほら、歩けるか?」

なゆは、エンバースさんによって強制的に座らされた。

>《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

手分けして救援にあたる案を出すイブリースに対し、エカテリーナがまとまって行動する方がいいのではないかと言う。

>《どういった形態で作戦行動に移るかは、そちらで考えて貰うとして……。
 目下のところ、マップ上で重要とされる箇所は四ヶ所ね。ブック、表示して頂戴》

マップ内に、4つの重要箇所が提示される。

>「そもそも、お前らこのミズガルズでも『門』は使えるのか?使えるなら話は早いんだが」
>「門が駄目でも、とりあえず落ち着いてメトロや……あまり気は進まないが下水道のマップを用意しよう。
 管理者メニューを使えばそう難しくないよな?その後は……方法はなんでもいいんだが、検証しておきたい事がある。
 ヤツらはメトロや下水道には侵入可能なのか、地形や建物を破壊出来るのか、その辺をハッキリさせとかないと」

メトロや下水道……! いかにもRPGっぽい発想に、思わずちょっと興奮してしまう。
でもゲームでは王道でも実際に自分が下水道に潜入するのは確かに気が進まないかも……!

64カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/03/25(月) 22:58:17
>「それが分かったら……手分けして、さっき挙がった四箇所を全部確認したい。
 ヤツらのベータテスト同様、俺達の戦いも時限イベントみたいなもんだ。
 時間をかければ負傷者の生存率は下がるし……SSS撤退後は拾えないアイテムとかも落ちてるかもしれない」
>「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

4か所全てを手分けして一斉に探索する、というのがエンバースさんの意見のようだ。
確かに、全員で1か所ずつ回っていては悠長すぎるかもしれない。

「間をとって、3か所手分けして探索した後に残りの一か所を全員で行くのは?」

分散行動と団体行動の折衷案を出してみる。

「フレモント・ストリート・エクスペリエンスとマンダレイ・ベイは
建物の中中心で行動すればいいから戦闘になる可能性は少ない……と思う。
生存者の救出を目的にするなら目立つ大人数で行くよりも小回りの利く少数でいったほうがいいかも……。
ザ・ストリップはそれよりは戦闘になる確率が高そうだから前2か所よりはちょっと大目の人数を割り振ってさ……。
こちらから攻め込むとしたらストラトスフィアは最後に全員で行った方がいいんじゃないかな?
他の場所で運よく戦力になる生存者とか攻略情報が見つかったら生かせるし……
反撃の拠点なら、やっぱり全員で行きたいじゃん!?」

そこまで言って、付け加えるように言う。

「飽くまでも籠城戦だから、積極的にこちらから攻め込むのが得策かは検討しなきゃだけど……」

まあ、多分聞く耳持たないんだろうけど!? 様式美なので仕方がない。

65明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:04:29
>「そもそも…人間はゲームという媒体を通せばほとんどの場合同じ人型を殺す事は売上やゲーム人気に殆ど絡まないと思うんだ…… 
大抵の場合はね。どれだけ現実味を帯びてようと…胸糞悪い設定でもそれは技術や製作者の上手さであって現実じゃない…
 そして相手はNPCか中身に人間がいようと関係ない。対人ありのゲームならなおさらさ…相手を半殺しにして屈伸…煽り…
 された経験あるんじゃないか?なんならした経験も…結局それの延長線上に過ぎないんじゃないかな」

「プレイヤーと敵が"対等"って前提ならその理屈も分かるんだよ。俺もプレイヤー相手になら屈伸しまくるしな。
 ただ、このクローズドβにおける前半戦の相手は装備に大きな格差のある米軍や、ラスベガスの無抵抗の市民。
 やってることはただの"弱いものいじめ"だ。何が楽しいんだそれ……」

気持ち悪いのは、SSSの連中の"目的"が一向に見えてこないこと。
弱い敵をひたすらボテクリ回すだけの底の浅いゲームなのか?
無双ゲーにしたって『自軍を勝利に導く』とか『拠点を守る』とかシナリオを通じた大義みたいなものがあるはずだろ。
野放図に虐殺するだけのゲームなんざ30分もやりゃ飽きが来る。……ってのが、ゲーマーとしての見解だ。

うーん……結局『上の世界』の価値観や倫理観は地球とは根本的にズレてて、
アリの巣に水を注ぎ入れるような暗い楽しみがメジャーな感じなのか?

まぁしかし、ここでイクリプス共の内面を考察しててもなんの結論も出るまい。
結局米軍無双はあくまで前菜で、ボス敵であるブレイブとの戦いに比重を置いてると考えりゃ矛盾もないしな。

「……うん、やめとこう。半端に敵を想像すりゃ足元掬われんのはこっちだ。
 先のことを考えるにはもうちょっと情報が要る。目先の火の粉を払うことから手をつけるべきだ」

>「現実とゲームがごっちゃになって精神がゲームにとらわれた本物のやべー奴もいるだろうし……
 そんな奴をテスターに選ぶ畜生じゃないと願いたいね」

「……そういう、ゲーマーの類型に当て嵌まらねえ頭のおかしい例外がいるかもしれねえしな」

なにせ敵は50万人。その全員が真っ当にゲームを楽しむプレイヤーとは限るまい。
ジョンが触れたような基地の外に居る奴や、マジで虐殺を楽しめる奴もいるだろう。
こればっかりはサイコロを何度も振るしかない。

>「えーと…本音を言うなら回復するまで全力で今すぐ逃げたいけど…それができないのなら
 エンバースの水着を脱がす作戦と…明神の少女達の弱い所を突く作戦…同時進行でいくべきだと思う
 ATBゲージを貯めて集中砲火は…出たとこ勝負でかますのは…余りにもリスクが高すぎるから…
 最後の手段にしてほしいな…そもそも僕はもうカード残ってないし」

「オーケー。リソースが絶対的に足りてねえのは俺も同じだ。
 水着を脱がすか……いいなそれ。あっ、違うよ?他意はないよ?ないけどね?
 美少女ゲーなら武装の大破とかで服が脱げてもおかしくない。いや、あるべきだ!!
 "イクリプスの水着は脱げる"……そういう機能は、かなり高確率で実装されてると考えられる」

むかーし艦これとかDMM系列で流行ってた擬人化系のブラウザゲームでは、
流血とか欠損を伴わないダメージ描写として『脱衣』がよく使われていた。
ようは特殊な衣服が肉体的なダメージを肩代わりして破損するって設定だったわけだな。
まぁ実際はなんていうかこう、お色気的なサービスの面もあったんだろうが……。

>「強いていうなら装備をはがすのを優先気味にして……一部の兵装…僕達が使えたりしないかな?
 ブレモンのデータの一部使われたりしてれば兵装のちょっとした機能だけ使えたり…さすがに望みすぎか」

「……いや、俺はお前の賭けに乗るぜ、ジョン。武装の鹵獲は積極的に試すべきだ。
 そういうハクスラ的なシステムはゲームを面白くするうえであってもおかしくない。
 ハクスラでなくても、例えば死んだ味方がドロップした武器を引き継いで使うみたいなシステムがあるかもだ。
 武装の破壊がイクリプスにどういう影響をもたらすか、検証の項目に加えよう」

>《私からも一言、いいかしら》

喧々諤々やってるところに、不意に虚空にウィンドゥが出現した。
表示されたのはウィズリィちゃんだ。

66明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:05:27
>《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

「……マジか!」

確かシャーロットによれば、ローウェルはアバターを介してしかこの世界に干渉できないみたいな話があった。
つまり、どんだけデータを好き勝手弄ろうが、別ゲーを強引にコンバートして融合させようが、
その全ては必ずミズガルズのどこかで行われているということ。
管理者権限があればアクセスログの追跡ができるってわけだ。
言うほど簡単な作業ではあるまい。必要なのは人手と、権限と、そして――

>《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》

――『時間』。
50万人のイクリプス、まともにぶつかりゃ秒で溶かされる究極の武力を相手に、
十分な時間を稼ぎ切る。それが俺達に課せられたミッションだった。

>「みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって」

ウィズリィちゃんの提案を受けて、なゆたちゃんが俺達を振り返る。

>「どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど」
>「……どうでもいいっちゃどうでもいいんだが、アイツらって全く同じ存在があの船の中に50万人いるのか?
 アイデンティティとか平気なのかよ。俺は結構気にしちゃうけどタイプなんだけどな、そういうの」

「SSSがキャラクリするタイプのゲームなら、案外船の中でオシャレ装備の品評会でもやってるかもな」

しかしまぁ連中が船の中でどう生活してんのかは気になる……。
50万人だぜ。大航海時代の奴隷船みたく、起きて半畳寝て一畳でぎっちり詰め込まれてんのか?

>「あと、βテストっていうのも大事だよね。そういうのって、大抵期間限定でしょ?
 だから、きっと『星蝕者(イクリプス)』の侵攻には時間制限があるんじゃないのかな」

「ナイの野郎も言ってたな、『βテストの時間は限られています』って。
 ……βテストが終わった後のこの世界がどうなるのか、わかんねえのが怖いところだが」

普通はテスト結果のフィードバックのためにサーバーを閉じて作業を行うわけだが、
シャーロットの言を信じるならサーバーの電源をオンオフするレベルの根本的な権限はローウェルにはないはずだ。
流石にSSSの正式サービスをこのバックアップサーバーでやるってこともないだろう。
データを丸ごとコピーして本番機に移し替える腹づもりなのかもしれない。

>「わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない」

「プレイヤーが手出しできない場所に籠城する……ひひっ、ワールドツアーじゃん。
 リオレウスに死ぬほどイライラさせられた記憶が蘇ってきたわ」

最近の作品ではだいぶ改善されたが、昔のモンハンじゃ空飛んだモンスターがいつまでも降りてこずに、
攻撃の届かないマップ外周を延々と回り続ける遅延行動が頻発していた。
ついたあだ名が『ワールドツアー』。言うまでもなくクソ行動だが、時間稼ぎにはピッタリだ。

>「俺に異論はない……が、やるなら一回一回の戦闘を効果的にしよう。
 こちらの思惑がバレる前に色々と検証しておきたい事がある」

「持久戦には賛成だな。50万人相手に殲滅戦なんざやれるとも思えん。
 っつーかさ、イクリプス……仮に倒せてもそのうちあの船からリスポーンしてくるんじゃねえの」

67明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:07:00
流石にアクションゲーで死んだらキャラロストですお疲れ様でしたってことにはなるまい。
なにがしかのデスペナはあるだろうが、拠点で復活するシステムはあると考えるべきだ。

>「これ言ったら身も蓋も無いんだけど……
 相手が本当に建物の中に入ってこれないんならずっと引き籠ってたら時間稼ぎだけなら出来るんじゃ……」

「実際、建物っつう絶対安全な領域に居続けるなら時間は稼げるだろうぜ。
 ただ、ローウェルに安易な安地潰しはさせたくない。ある程度ゲームを成り立たせる必要がある」

俺達が建物に引き籠もって一向に出てこなければ、ユーザーからの不満を受けてローウェルはパッチを当てるだろう。
例えば建物内のマップデータの実装。あるいは、『建物そのものを完全にデリートする』とかな。
逆に言えば、ゲームとして成立しているうちはそういう極端なパッチを当てることはないと考えられる。
なんの制約もなくひたすらにプレイヤーに有利なパッチを当て続ければ、βテストの意味をなさなくなるからだ。

>「もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ」 

なゆたちゃんがローウェルの指環を使い、アシュトラーセを回復する。
回復したアシュトラーセがさらに回復魔法を使って、全員の傷が癒えた。
黒刃の頭突きに砕かれた右手をグッパする。問題なく動く。

>「……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……」
>「起きて早々呑気過ぎやろ!?」

「ガザーヴァ……!復活したみてーだな、良かった……」

カザハ君との慣れないセッションで力尽きたガザーヴァも、ボヤきながら目を覚ます。
枯れた喉も癒えたようだった。

>「あのリューグーナントカをやっつけりゃ、残るは大ボスのクソジジーだけじゃなかったのかよ?
 ったく、次から次へと……やっつける方の身にもなれってんだよ! なー、明神!」

「わかるわ……。わんこそばみてえにホイホイ戦力を逐次投入しやがって。
 メインディッシュまでにお腹いっぱいになっちまったらどうすんだよ」

死闘を繰り広げてリューグークランに勝利しても、状況は一向に好転しない。
それでも、絶望じゃなく強気に由来したガザーヴァのボヤきは、俺にもう一度立ち上がる力をくれた。

>「もし、リューグークランの人たちが味方になってくれてたら心強かったんだけどね」
>「……そうか?アイツら絶対、リベンジマッチしに勝手にそこら辺ほっつき歩いてるぜ」

「ひひっ、黒刃の野郎がイクリプス相手にどこまでトロール突っ張れるかみてやりたかったな」

もういなくなってしまった連中のことを、少しだけ思う。
エンバースがそうであるように――奴らならきっと、新規実装の強敵相手にテンション上げてただろう。

>「まだ、外には生き残りの人たちやニヴルヘイムの魔物がいるかもしれない。
 それを見つけてセンターの中に保護して、同時に戦力も拡充していこう」
>「戦力……魅力的な響きではあるが、ヤツらは俺達がちょこっとだけ苦戦するレベルの相手だぜ。
 かなり上手く運用しない限りは、無駄な死傷者を増やすだけになるぞ。
 勿論……かなり上手い運用法についても心当たりはあるが」

「どっかで足切りは必要だろうな。参戦させるならレイド級……最低でも準レイドは欲しい。
 ワンパンで即死せず、退避して回復して再出撃――ゾンビ戦法ができるモンスターが望ましい。
 その辺の選定と具体的な指揮はイブリース、お前に任せるぞ」

同胞の生存を第一に考えるイブリースなら、戦力外を戦線に投入して無駄死にさせる愚はおかすまい。
最悪、ニヴルヘイムについては後方支援に徹させても構わない。
持久戦、籠城戦の良いところは、砦自体が戦力として機能するが故に、寡兵だろうが多兵だろうがやることが変わらない点だ。

68明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:08:24
>「しっかし、相手は50万。対してこっちはモンスター合わせても20人以下。
 そのうえ相手はクソジジーの肝煎りで常時バフが掛かってる状態なんだろ?
 バランスもクソもあったモンじゃねーなー! やっぱブレモンはクソゲー!」
>「大丈夫! できるよ! だってもうわたしたちよりずっと前に、半年以上もの長い間、
 地上を埋め尽くす量の敵を相手に籠城して持ち堪えた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』がいるんだもん!」  

「……持ち堪えただけじゃない。ユメミマホロは、籠城戦に『勝った』。
 俺達がマホたんを勝たせたんだ。アコライトで出来たことを、もう一度ラスベガスで再現すれば良い」

>「……まだ、戦意を喪ってないのかい。あれだけのものを目にしても」

士気を高める俺達の横合いから、不意に声が飛んできた。
振り返れば、いつのまにかミハエルが会場から出てきていた。

>「破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、まったく理解できないよ」

「お前バトル前に自分で言ったこと忘れたのかよ。『真のデュエリストなら云々』ってやつ。
 考えるんだよ、どんなに絶望的な状況だろうが……相手にどうやって勝つか、最後まで」

――>『真のデュエリストなら! 例え身の回りで何が起こっていようと!
 自身の足許にまで火が迫っていようと! いいや凶弾に斃れ、或いは化け物に生きたまま身体を貪り食われようと!
 意識が途切れる最後の瞬間まで自分のデッキの構築! パートナーモンスターの育成!
 自らのスキルツリーのビルドを考えているものだろう!!』

ミハエルのあの言葉は、発言の経緯はともかくブレイブのスタンスとしては間違っちゃいないと思ってる。
思考はブレイブの武器だ。武器は最後まで手放すな。諦めるのは、死んだ後でもできるんだから。

>「だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう」

「急にNPCみたいなこと言うじゃん……」

ミハエルが差し出したのは、4つの指環だった。ローウェルの指環。
……ローウェルの指環!?なんでこんなもん4つも持ってんだよこいつ!

>「これは……僕のものじゃない。 本来、リューグークランに与えられたものだ」

曰く、リューグークランの連中はローウェルから一つずつ指環を受け取り、
それをそのままミハエルに投げつけて放棄したらしい。

>「彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう」

ミハエルとリューグークランの関係は、俺が思うようなドライな感じではなかったらしい。
指環を差し出すミハエルの感情は伺い知れない。
ハイバラを通じたなにがしかのシンパシーめいたものがあったのかもしれない。

「……エンバース、そこのチャンピオンのケツ叩いてやれよ。
 イクリプス相手にビビってんじゃねえよって。戦力って意味なら、こいつ以上に頼りになる奴ぁ居ねえだろ」

ミハエルのウルレアパートナーならイクリプスに手も足も出ずにワンパンされるってことはあるまい。
指環でリキャストを戻せば、半端な魔物より遥かに強力な戦力になるはずだ。
いつまでフニャフニャしてんだよこのチャンピオンは!ローウェルに見限られてショボくれてんのか!?

69明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:09:47
>「これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!気合入れていこーっ!」
>「あ……、あれ?」

なゆたちゃんが右腕を振って気炎を上げる。
しかしすぐにふらつき、膝を折ってしまった。

「あっ、おい!大丈夫かよ――」

言ってから、自分の無慮を俺は呪った。
大丈夫なわけがあるかよ。ニヴルヘイムからこっち、連戦続きじゃねえか。
そうでなくともこいつは管理者メニューの解放のために身体に負担をかけまくってる。
瀕死を発動条件としたシャーロットモードを何度も発動してるってことは――
何度も死にかけてるってことじゃねえか。

>「ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……」
>「いいや逆だ。お前は少し気を抜け。管理者メニューを開いた時から一番無茶してるんだ。ほら、歩けるか?」

なゆたちゃんの介抱をエンバースに任せて、自分の額を拳で打つ。
……いつの間にか俺は、なゆたちゃんとシャーロットを同一視していたのかもしれない。
ピンチになりゃ勝手にシャーロットが降りてきていい感じに回復させてくれると――
そんな風に割り切ってたのかもしれない。

違うだろ。ここに居るのはなゆたちゃんだ。俺の仲間だ。
この期に及んで会社クビになったプログラマのことなんざ当てにすんなよ。
この世界のことは、俺達が自分で考えていかなきゃいけないことだろ。

>「ここにいろ。座って、楽にするんだ……よし。それじゃ、ええと……何の話をしてたんだっけ。
 あー……そうだ。まず生存者を保護するとして、それらをどう探すんだ?居場所の目星は付けられるのか?」
>《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

「うへぁ、すげえ量……でも50万って感じではねえな。大半はお船ん中でβテストの感想でも語り合ってるのかね」

俺達が戦場から撤退した以上、イクリプスの多くもまた一時撤収していると見ていいだろう。
今市内を飛び回ってる赤い点は、殺し足りない連中が残党狩りでもしてるって感じか。
青い点、ブレモン由来の生体反応も点在してる。こっちは固まって動かない。
俺達と同じように、建物内が安全だと気付いた籠城組ってところだろう。

>「この青い点を全部回るってのは、ちょっと骨が折れるな……」
>「ならば複数の部隊を編成し、手分けして救援に当たればいい。
 寡兵ならば個々に役割を設け、無駄のない効果的な運用をするのが戦術の基本というものだ」
>「いや、万一『星蝕者(イクリプス)』と戦闘になった場合、人数を分けてしまっては確固撃破される恐れがあろう。
 ここは固まって行動すべきではないか? 人命救助しようとして我らがやられてしまっては、それこそ本末転倒じゃ」

イブリースとカテ公がそれぞれ分散と集中の二案を投じる。
具体的な方針は後で決めるとして、大まかな目標地点の情報も欲しいところだ。

>《どういった形態で作戦行動に移るかは、そちらで考えて貰うとして……。
 目下のところ、マップ上で重要とされる箇所は四ヶ所ね。ブック、表示して頂戴》

求めに応じて、ウィズリィちゃんは4個所の目標地点をそれぞれ示した。
フレモント・ストリート、マンダレイ・ベイ、ザ・ストリップ、ストラトスフィア。
それぞれに戦術的な意義と……危険度の違いがある。

70明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:11:30
>「門が駄目でも、とりあえず落ち着いてメトロや……あまり気は進まないが下水道のマップを用意しよう。
 管理者メニューを使えばそう難しくないよな?その後は……方法はなんでもいいんだが、検証しておきたい事がある。
 ヤツらはメトロや下水道には侵入可能なのか、地形や建物を破壊出来るのか、その辺をハッキリさせとかないと」

「確かラスベガスって下水道の暗渠を不法占拠したスラムみたいなのがあったよな。
 人が住めるサイズのトンネルが街のそこかしこに伸びてるなら、比較的安全にどの目標地点にもアクセスできるはずだ。
 最悪……攻撃魔法で即席のトンネルをこさえりゃ良い。ブレモン側の住人なら構造物の破壊は可能だろうしな」

>「それが分かったら……手分けして、さっき挙がった四箇所を全部確認したい。
 ヤツらのベータテスト同様、俺達の戦いも時限イベントみたいなもんだ。
 時間をかければ負傷者の生存率は下がるし……SSS撤退後は拾えないアイテムとかも落ちてるかもしれない」

「4つのうちどれか一つを選ぶってのは俺も賛成できんな。ぶっちゃけ全部重要だろこれ。
 生存者の救出は最優先の大前提として……得られる情報も時間経過で腐ると考えるべきだ」

>「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

エンバースは分散案を支持した。
やるなら全部の地点で同時多発的に行動を開始すべき……これは連中のタゲを散らす意味でも重要だろう。

>「間をとって、3か所手分けして探索した後に残りの一か所を全員で行くのは?」

カザハ君は折衷案を提じた。

>「フレモント・ストリート・エクスペリエンスとマンダレイ・ベイは
 建物の中中心で行動すればいいから戦闘になる可能性は少ない……と思う。
 生存者の救出を目的にするなら目立つ大人数で行くよりも小回りの利く少数でいったほうがいいかも……。
 ザ・ストリップはそれよりは戦闘になる確率が高そうだから前2か所よりはちょっと大目の人数を割り振ってさ……。
 こちらから攻め込むとしたらストラトスフィアは最後に全員で行った方がいいんじゃないかな?
 他の場所で運よく戦力になる生存者とか攻略情報が見つかったら生かせるし……
 反撃の拠点なら、やっぱり全員で行きたいじゃん!?」

「んー確かに。4つの中じゃストラトスフィアが一番後回しにできる。
 つうか敵のお膝元だし、積極的に攻勢をかける理由は今んとこないな。
 生存者救出のために行くとしても、地下を使った安全な退路が確保できたのを確認後だ」

あそこはクソでかいホテルタワーだから、他よりも籠城はしやすいと考えられる。
生存者には申し訳ないが、待っててもらうしかあるまい。

「俺はカザハ君の案を推すぜ。ストラトスフィア以外の3地点に同時に部隊を投入する。
 目的は生存者の救出と情報収集。そして地下の安全性の確認。
 地下が安全なら、ストラトスフィアから順次生存者を搬出していく――。
 カザハ君は例のボイチャ魔法を全員に頼む。
 手分けするにせよしないにせよ、ドンパチやってる中じゃ声も届かねえだろうしな」

反攻作戦を開始すれば、ラスベガスは再びビームと弾丸の飛び交う地獄と化すだろう。
船で暇こいてる連中も出てくるはずだ。

「……実際んトコ、βテスター50万人が一度にラスベガスに投入されるってことはないと思う。
 フィールドの面積に対して人が多すぎる。空を自由に飛び回るならなおさら広い空間が必要だ。
 仮にイクリプスが僚機とのニアミス回避のために10メートル四方の空間を確保するとして、
 マップもう一回出せるか?……ラスベガスの都市部面積は約30万平方メートル。
 どんぶり勘定になるが、大体3000人くらいが同時にフィールドに存在できる上限だろ。
 どうですかこの出血スーパーお値引き!多少は希望が見えてきたんじゃないですか?」

71明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:12:51
少なくとも、50万人をいっぺんに相手することはまずあり得ないと考えられる。
イクリプスの中身がプレイヤーだとして、βテストの期間中ずっとログインしてるはずもない。
飯を食う、風呂に入る、寝る。クソだってするし仕事や学校……に相当するタスクのあるプレイヤーもいるだろう。
テスターが50万人いるってのはフカシじゃねえだろうが、同時接続数はもっと少ないと見て良いはずだ。

「情報収集については……ローウェルの指環には発信機の機能があったよな。
 連中はおそらくボス標的のマーカーとしてこれを追って来る。
 うまく誘い込めばイクリプスに無駄足踏ませたり、一体を孤立させるチャンスがあるはずだ。
 装備の破壊とドロップ、そして……鹵獲が可能かどうかを検証しよう」

ジョンの言ってた『剥ぎ取った装備の利用』が可能であるなら、
イクリプスを一体でも倒せば持久戦の継続に大きく寄与する。
俺達が使っても良いし、救出した戦力に持たせたって良い。

「『倒したイクリプスがどうなるか』も知りたい。死ぬのか。死体は残るのか。リスポーンの有無や地点は。
 デスペナで装備ドロップっつうのが一番ありがたいが……。
 なんらかのスコアやボーナスが敵側である俺達に加算される可能性も低くはない」

リスポーンできるにせよ、ゲームとして最低限の緊張感を持たせるならデスペナは必須だろう。
仮に重いデスペナが課せられるなら、助命を引き換えにした交渉の余地が出てくるかもしれない。

「それから、イクリプスの戦術目標を確認したい。
 ゲームである以上、勝利条件と敗北条件があるはずだ。
 目標としているものが分かれば、それを阻止する形で持久戦もやりやすくなる」

単に敵対勢力を殲滅するのが目的か。敵拠点を一定時間制圧したり、巨大爆弾でも仕掛けようとしてるのか。
逆に連中にとって制圧されたら敗北の拠点もあるかもしれない。ストラトスフィアとかな。

「最後に……手分けするなら、激戦区のザ・ストリップには俺が行く。
 『俺のやり方』には、敵の多い場所の方が望ましい」

俺のやり方――アンチのやり方。
ブレモン運営との長きにわたる闘争で培われた、他人のモチベを下げる術。
プレイしてきたゲームをクソゲーだと主張する、ロジックの技術。

「βテスターは、テスターであると同時に潜在的な顧客と言って良い。
 テストしたゲームの出来の良し悪しで正式版をプレイするか決めるわけだからな。
 『クソゲーだからやめる』ってのもβテストとしては重要なフィードバックだ」

72明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:16:58
50万人もいれば、当然運営に対して好意的なプレイヤーばかりとは限らない。
ただでさえローウェルはブレモンの唐突なサ終でユーザーからの信頼を失ったばかりだ。
気合入ったローウェル信者を除けば、テストに参加しつつも猜疑的なプレイヤーは一定数存在するはずだ。

「持久戦は……イクリプス側から見れば著しく爽快感を損なう。
 かといってゲーム自体は成立してるから、極端なテコ入れでゲームを根本から覆すことも出来ない。
 積み重なった不平・不満はいずれ、『SSSはクソゲー』という評価に着地する。
 嫌気がさしてプレイするのをやめるテスターも出てくる。
 ……戦って倒す以外にも、イクリプスの数を減らす方法があるってことだ」

ゲームをクソゲーだと感じる瞬間。百戦錬磨のアンチの俺なら、そいつを余すことなく汲み取れる。
敵に何をやられたらクソかを判断し、最大限プレイヤーをイラつかせる立ち回りが出来る。
籠城戦で例に挙げたワールドツアーの他にも、アクションゲーをクソゲーに変えるムーブはいくつかある。

「敵は50万人も居るんだ。全員の意思を統一出来てるわけがねえ。
 このゲームに不満を抱えてる奴は必ず居る。そいつを見つけ出して教えてやるのさ。
 『SSSってクソゲーだよな』ってな。そしてその情報をテスター間で共有させる」

ゲーム運営にとってアンチの最も厄介な点は、その『伝染力』だ。
論理を伴ったアンチの言葉は共感を生む。潜在的な不満を顕在化させ、新たなアンチを生む。

原点回帰だ。見せてやるぜ。フォーラムに2年粘着し続けた、うんちぶりぶり大明神の面目躍如を!

「――俺が奴らをSSSのアンチにしてやる」


【提案:指環の発信機機能を使ってイクリプスを誘い込む。手分けするならザ・ストリップで持久戦しつつアンチ活動
 検証項目:イクリプスの装備の破壊と鹵獲の可能性、デスペナとリスポーン、勝利・敗北条件】

73ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:01
>「システム上のレベルやステータスはさておき……経験値不足って事か?
 ヤツらが当て勘や駆け引きのノウハウに乏しいとすれば……大分やりやすくなるけど」

「とりあえずボタン押してるだけっていうか…うーんどううまく言えばいいのか…」

僕達は知恵を出し合う。
今までも圧倒的な不利を何度も…話し合い団結する事で乗り越えてきた。

相手にはない僕達の圧倒的なアドバンテージ…絆
うわなんか思っててちょっと恥ずかしくなってきた!

>《私からも一言、いいかしら》

作戦がある程度固まりつつある中…今まで沈黙を続けてきたディスプレイの向こうにいるウィズリィが話を始める。

>《ミズガルズに『星蝕者(イクリプス)』が干渉することを阻止できなくて、ごめんなさい。
 大賢者様……いいえ、大賢者の方が管理者としての力量も、権限も強かったから……。
 ただし、私とミノリもやられっぱなしではないわ》

まさか相手がブレモンの範疇を超えてくるなんてだれが想像できただろうか?
今回の件はまさに相手のほうが一枚上手だっただけだ…だれが悪い事なんてない。

>《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

「それは…!」

>「ローウェルの居場所を……!? 本当!? ウィズ!」
>《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》
>「わかった! 任せておいて!」

「そう言うのは簡単だがなゆ…」

いつ相手がこの場所に踏み込んできてもおかしくないこの状況で時間稼ぎなんて…
それに50万?さっきみたいなのが?…うーん現実的ではないのでは…。

>「みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって」

むしろそれしかできないと言ったほうがいい気がするが…言葉はとりあえず飲み込んでおいた。

>「どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。
 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど」

>「わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない」

>「俺に異論はない……が、やるなら一回一回の戦闘を効果的にしよう。
 こちらの思惑がバレる前に色々と検証しておきたい事がある」
>「持久戦には賛成だな。50万人相手に殲滅戦なんざやれるとも思えん。
 っつーかさ、イクリプス……仮に倒せてもそのうちあの船からリスポーンしてくるんじゃねえの」

「持久戦って簡単に言うけど…僕達だけじゃ無理だ!せめてなにかしらのバックアップが無ければそれこそ遊撃戦を仕掛けても各個撃破されて終わるぞ」

>「もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ」 

なゆはそう言うとローウェルの指環を嵌めアシュトラーセに向かって高回復を唱えた。

>「ぅ……」

生きるか死ぬかの瀬戸際をさ迷っていた者でさえ瞬間的に回復する。
超上位のヒーリングカードならあり得ない事じゃないんだろうが…少なくとも一度のヒールでは治しきれない傷だった。

ローウェルの指環…人数分あったりしないかな…せめてリキャスト24時間だけでも解決すれば…いやない物ねだりしても仕方ないか…。

アシュトラーセは起き上がり事情を把握すると…この場にいる戦える者…イブリースとエカテリーナ…そしてガザーヴァを回復させるのだった。

74ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:18
>「……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……」

戦えるものが次々と起き上がり、事情を聴き…準備を整える。
相手が50万に対して総動員してもなお…不安な数ではある…いくら全員が実力者といえども…だ。

「早いとこと水着をはぎ取って自分達で使えるか試してみるか…明神も賛成してくれたしうまく一人だけ誘い出せれば…いやでもそんなうまい事運ぶわけないよな…」

旗からきいたら犯罪者にしか聞こえない…いや実際女の子の水着を剥いで自分できようと言っているので間違ってはない…
そんな危険が危ない独り言を呟いていたら後ろからカザハに声を掛けられた。

>「ジョン君……」

どうした…?とは聞き返さなかった。
カザハが何を聞きたいのか…何を言いたいのか言い出す前から…検討はついていた。

>「もしもあの美少女と遭遇しても後先考えずに突撃したら駄目だよ!?」

思えばカザハとの付き合いも結構長くなってきた。もちろん心のつながりも。
だからだろう…僕が逃げ遅れたのではなく…強制的に連れ戻されるまで自分の意志で最後の最後まで戦っていたことがわかったのだろう。もちろん…その理由も。

「…………あぁ」

なんともやる気のない…生返事だけが僕の口からでた。
決してカザハの事が大事じゃないとか…そんなわけじゃない。

ただ…初めてなんだ。初めてゲームやおもちゃを買ってもらった子供のように…それしか考えられなくなるような…あの気持ちが。
僕に制御できるだろうか…もし誘われたらフラフラとついていってしまうんじゃないか…自分で自分を信用するなんて…今の僕には…。

「あっ…」

カザハと目が合う。うまく言えないけど…純粋な目で見つめられるだけで…。

「…意外と問題ないかも」

カザハはなにそれ!っと僕の体をぽかぽかと叩く。
僕もなんでそういったか分からないのだから仕方なかった

>「しっかし、相手は50万。対してこっちはモンスター合わせても20人以下。
 そのうえ相手はクソジジーの肝煎りで常時バフが掛かってる状態なんだろ?
 バランスもクソもあったモンじゃねーなー! やっぱブレモンはクソゲー!」

「…相手はブレモンどころかよそ様なわけだが…ま…でもいくら不利とはいえだ」

>「大丈夫! できるよ! だってもうわたしたちよりずっと前に、半年以上もの長い間、
 地上を埋め尽くす量の敵を相手に籠城して持ち堪えた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』がいるんだもん!」  

「そうだね」

歌と踊り…そして希望で本来死の運命しかない人々を導いた前例を僕達を知っている。
こんな事でいちいち絶望してたら…ブレイブとして恥じだよ…それは。

とはいえ…僕達…ブレイブは継続戦闘に向いていないのは問題だ。
相手がザコならシンプルに肉体が強い僕やエンバース…それにイブリースがカードを一切使わず応戦すればいいが…、

一人一人が圧倒的なステータスを誇り、その上50万という圧倒的戦力を誇っている水着少女達…。
外で生き残ってる戦闘できそうな人手を探せるとは言えども…その為に一々カードを使っていては本末転倒だ。

75ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:31
>「……まだ、戦意を喪ってないのかい。
 あれだけのものを目にしても」

>「手伝ってくれるの……!?」

「カザハ」

僕は手でカザハを引っ張る。
ミハエルの心はとうに折れている。もし言葉だけでも手伝うと言っても…こんなのについてこられても足手まといだ。

>「破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、
 まったく理解できないよ」

「やる気を下げたいだけならさっさと黙ってくれないか?ゾンビに言葉をかけてあげれるほど僕達に余裕ないんだ」

これ以上この場の雰囲気を下げる発言を繰り返すなら…しかたない気絶でもさせるか…そんな事を考える。

>「だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう」

しかしミハイルはふっ…と卑屈な笑みをみせ…自分のポケットからあるアイテムを取り出し…僕達に見せた。

>「ローウェルの指環……! 確かに、あなたが持っていたとしても不思議ではないけど……」

僕達の懸念だった継続戦闘力のなさ…それを解決するアイテム…
これがあれば希望が…かなり濃くなる…そんな夢のようなチートアイテムが…4つも…

>「これは……僕のものじゃない。
 本来、リューグークランに与えられたものだ」

>「彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう」

>「まあ、アイツららしいな……カッコつけの、バカ野郎どもだ」

指輪を一つ受け取り…指にはめようとする。
リューグークラン…自分達が死んだ後の事すら考えて用意してくれていた。

自分達で使えば自分達の命だけでも助かっただろうにそれをせず…僕達に残してくれたのだ。

「エンバー」

僕はエンバースにこれをつけてもいいのか?もらっていいのか?…そう声を掛けようと思ったけど…エンバースから発せられる圧に押されて言葉を途中で飲み込んだ。
指輪から…表情こそみえなかったがエンバースから覚悟を感じる。それを確認するなんて行為は…余りにも無粋だと…気づいた。

「それでも…この指輪を付けるのは…今の僕には…中々難しいな…」

僕はぼそりとそう呟くと指輪を見つめる事しかできなかった。

76ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:47
>「これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!
 気合入れていこーっ!」

>「あ……、あれ?」

「なゆ!?」

>「……立てないのか?」
>「オイオイ、なーにやってんだよモンキン! これから大一番ってときにさぁー!」

なゆが極度の疲労からか体勢を崩す。
無理もない…今日に入ってから今までどれだけの死線を乗り越えて来たかを考えれば。

なゆは決してか弱い女の子ではない…だが超人でも…僕のようなジャンキーでもない。
こんな少女を旗印にしなければいけない自分の無力を…僕は噛みしめる事できない。

>「ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……」

休めと言えない状況が…行ってあげられない自分が…悔しい。
言えないならせめて…これからの戦いで…なゆの負担を軽くしよう…僕にできる事はそれしかなかった。

>《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

「……このラスベガスに…もうこれだけしかいないのか?」

外の惨状はなにも水着少女達だけが作ったわけじゃない。
イブリースの配下と…米軍が大なり小なり戦闘していたはずだ。

元々いた民間人の数…戦争行為を行ってた数…合わせればこのマップが青色で埋め尽くされてなければいけない。
それなのポツリポツリと青点があるだけ。 一つの青点が何十人も重なっていようとも元の人数と比較するまでもない。
分かっていたことではあるけど…。

>「この青い点を全部回るってのは、ちょっと骨が折れるな……」
>「ならば複数の部隊を編成し、手分けして救援に当たればいい。
 寡兵ならば個々に役割を設け、無駄のない効果的な運用をするのが戦術の基本というものだ」
>「いや、万一『星蝕者(イクリプス)』と戦闘になった場合、人数を分けてしまっては確固撃破される恐れがあろう。
 ここは固まって行動すべきではないか? 人命救助しようとして我らがやられてしまっては、それこそ本末転倒じゃ」

どんな案でいくにせよ…安全に生存者を移動させる手段がほしい所ではある。
僕達だけなら気づかれたら逃げる・隠れる・戦う…まあいろんな手段を取れるとは思うが生存者を引き連れていたらとれる手段は殆どない。

しかし大人数になればなるほど隠れる事もまた難しい。

>「門が駄目でも、とりあえず落ち着いてメトロや……あまり気は進まないが下水道のマップを用意しよう。
 管理者メニューを使えばそう難しくないよな?その後は……方法はなんでもいいんだが、検証しておきたい事がある。
 ヤツらはメトロや下水道には侵入可能なのか、地形や建物を破壊出来るのか、その辺をハッキリさせとかないと」

「メトロ…下水道…たしかにありだな」

直接この避難所まで地下鉄や下水道までを掘ってもいい。
普通の人間なら不可能だが…僕達だけなら今すぐにでも実行できるだろう。

77ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 21:00:35
>「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

「そうだな…多くても1チーム3人までが…いいと思う
先頭を行き、非常事態になっても先導を続ける奴が一人。殿を務めるのが一人。両方こなす中間管理が一人…それ以上はいても邪魔になるだけだと思う」

>「間をとって、3か所手分けして探索した後に残りの一か所を全員で行くのは?」

>「フレモント・ストリート・エクスペリエンスとマンダレイ・ベイは
建物の中中心で行動すればいいから戦闘になる可能性は少ない……と思う。
生存者の救出を目的にするなら目立つ大人数で行くよりも小回りの利く少数でいったほうがいいかも……。
ザ・ストリップはそれよりは戦闘になる確率が高そうだから前2か所よりはちょっと大目の人数を割り振ってさ……。
こちらから攻め込むとしたらストラトスフィアは最後に全員で行った方がいいんじゃないかな?
他の場所で運よく戦力になる生存者とか攻略情報が見つかったら生かせるし……
反撃の拠点なら、やっぱり全員で行きたいじゃん!?」

カザハのいう事は…理には適っている。
どれだけの戦力が揃うかはわからないが…

>「俺はカザハ君の案を推すぜ。ストラトスフィア以外の3地点に同時に部隊を投入する。
 目的は生存者の救出と情報収集。そして地下の安全性の確認。
 地下が安全なら、ストラトスフィアから順次生存者を搬出していく――。
 カザハ君は例のボイチャ魔法を全員に頼む。
 手分けするにせよしないにせよ、ドンパチやってる中じゃ声も届かねえだろうしな」

「場所がどこであれ…やっぱり生存者最優先にして…を目視…魔法…スキル…その全部で確認するまで戦闘は最小にしてほうがいいと思う
反撃と生存者救助はやはりわけるべきでは?…別にこのマップの精度を疑ってるわけじゃないんだけど…ただ…万に一つでも…
もしかしたら生存者がいるかもしれないと頭に過ぎったら…僕達は全力を出せない。これじゃせっかくの力を腐らせる事にもなる
敵につまらない揺さぶりを掛けられない為にも…そんな状況になるわけにはいかない」

生命力が低下している人間や魔物…つまり命が消えかけているような存在は…もしかしたらレーダーに映らないかもしれない。
どれだけウィズリィが自信を持っていると言ってもほんの1%でも…脳裏を過ぎる心配事は戦闘に影響を及ぼす。
なゆ達は…嘘だと分かっていてももしかしたらって思ってしまうほど…お人よしだから

「心配しすぎ?…そうは思わないな。普通の魔物や人間は…ちょっと距離を取った程度じゃ…僕達の全力戦闘の余波だけでも死ぬぞ」

状況を整理がひと段落したところで明神がさらに思いついたようにしゃべり出す。

>「……実際んトコ、βテスター50万人が一度にラスベガスに投入されるってことはないと思う。
 フィールドの面積に対して人が多すぎる。空を自由に飛び回るならなおさら広い空間が必要だ。
 仮にイクリプスが僚機とのニアミス回避のために10メートル四方の空間を確保するとして、
 マップもう一回出せるか?……ラスベガスの都市部面積は約30万平方メートル。
 どんぶり勘定になるが、大体3000人くらいが同時にフィールドに存在できる上限だろ。
 どうですかこの出血スーパーお値引き!多少は希望が見えてきたんじゃないですか?」

「確かに…メタな事いうなら…いくら僕達はお目当てネームドボスとはいえ…50万も一気に襲い掛かるのはお祭りゲーとしてはいいかもしれないけど…
普通のゲームだったらわけわからないままボスが討伐される…まさにクソゲーだもんな…」

>「情報収集については……ローウェルの指環には発信機の機能があったよな。
 連中はおそらくボス標的のマーカーとしてこれを追って来る。
 うまく誘い込めばイクリプスに無駄足踏ませたり、一体を孤立させるチャンスがあるはずだ。
 装備の破壊とドロップ、そして……鹵獲が可能かどうかを検証しよう」

本当は戦闘その物を回避したいところではあるけど…全部回避するのは難しい。
なら逆に情報を相手に与えて抜け駆けしてきた奴を捕まえる事ができれば…いろんな検証ができる。
水着少女達との決戦前にその情報が手に入る入らないはかなりの差がでる。

「でもやはり生存者を率いてる間はしずらいし…捕獲班を別途に用意するのはどうだろう?それだと人数別れすぎか…?
そもそもそんな都合よく一人だけでくるようなアホがいるとは…」

ドヤッ!!!と明神のドヤ顔が僕の言葉を吹き飛ばす。…ちょっとうざい

78ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 21:00:54
>「持久戦は……イクリプス側から見れば著しく爽快感を損なう。
 かといってゲーム自体は成立してるから、極端なテコ入れでゲームを根本から覆すことも出来ない。
 積み重なった不平・不満はいずれ、『SSSはクソゲー』という評価に着地する。
 嫌気がさしてプレイするのをやめるテスターも出てくる。
 ……戦って倒す以外にも、イクリプスの数を減らす方法があるってことだ」

みんなが必死に頭を使い唸っている中…明神はあくどい顔をしていた。
どこかでみたなあんな顔…テレビで…なんだっけ…時代劇の…。

>「敵は50万人も居るんだ。全員の意思を統一出来てるわけがねえ。
 このゲームに不満を抱えてる奴は必ず居る。そいつを見つけ出して教えてやるのさ。
 『SSSってクソゲーだよな』ってな。そしてその情報をテスター間で共有させる」

クックックと我慢できない邪悪な笑みが明神から零れ落ちる。

>「――俺が奴らをSSSのアンチにしてやる」

「どこかでみたことあると思ったら…この邪悪さ……悪代官だ…」

明神の長年の経験からくる笑みと思考は邪悪そのものだ。
後輩ゲームを潰しますと宣言しているのだから当たり前なのだが…理にはかなっていた。

たしかに僕が戦った褐色肌の女も戦闘を楽しんでいた。そして邪魔をされていた事に怒っていた。
テストに参加したのに楽しめないなら遊ぶ事をやめるのは…プレイヤーとしては当然の選択ではある。

「明神の言った通り徹底して焦らし続ければ…リスクを冒してわざわざ誘導しなくても向こうから飛び込んでくる確率はぐっとあがる…
ゲームをやめさせて敵の数を減らすことも…相手が一人なら水着を引ん剝く事も…
…そこまでうまくいかないまでも捕まえてごうも…んんっ!………あ〜……
尋問して口割らせれば敵のある程度の弱点やスキルの情報を吐かせることだってできる…!」

事前に口裏を合わされないように別々の場所で同じ時間に同じ情報を聞き出す事ができれば情報の正確さも格段によくなる
とはいえ…生存者救出が最優先なのは変わりがないので…できたら嬉しい目標に止めるのがいいんだろうけど。

「すごいよ明神…一気に希望も…やる事も明確化してきた…!」

だが希望ってのは大事だ…これから戦うメンバーが増えれば増えるほど目に見えてる希望ほどいい物はない。
僕達の士気が高いだけじゃだめだ…一致団結する為にはこれから一緒に戦うメンバー全員の士気も重要だ。

「方向性がある程度決まってきたけど…まずは…だ。何するにしてもとりあえず生存者の事を第一に考えたいよな…
出来る限り水着少女達と戦えるような人材以外で…生存者を迅速に安全地帯まで運ぶことができる人材を優先的に集めたいところではあるけど……
イブリース…君の仲間で心当たりとかないのか?」

いくらイブリースに移動適正がありなおかつ移動するスキルがあったとしても身一つではとてもじゃないが足りない。
アシュトラーセやみんなも移動させるの魔法やスキルの類は持っているだろうが…そも戦闘面で強い人材を生存者誘導だけに使う事自体は非効率だし…
捕獲作戦を実行する時にできる限りその場で仲間になったメンバーより技をお互いに知り尽くしている相手と組みたいというのもある。

そんなに都合よくいかないだろうけど…

「…うーん…ない頭で僕が考えるよりこの手の作戦はできる人に任せよう!
僕はゲリラ戦…ローウェルの指環に頼らず比較的静かにゲリラ戦を仕掛けられるし…それにアイドル業で忘れられがちだけど
自衛隊…殺す数より救う数が多い軍隊出身だから応急処置やその場の判断はある程度慣れているつもりだ
まぁ………魔法があるような環境だとちょっと微妙かもだけど…うまく使ってほしい!必ず期待に応えよう!」

できる事ができる仲間に任せる。

前の僕ならそんな無責任な事をするなんてあり得ないと自分である程度勝手に考え行動していただろう。
でも今ならわかる。困難を前に自分一人でできる事などたかが知れている。

人間には成長する時間も、才能も限られている。
だからお互いを頼り合うのだ…自分にないものを妬むより…自分もそうなろうと無理な努力を続けるのではなく補い合う。



まだちょっと口に出すのは…僕には無理だけど…そこは少し許してほしいかな

【全力で戦う為に生存者救助最優先案を提案】

79崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:09:24
《それじゃ、こういうのはどうかしら。
 ジョンさんの言う通り、チームはスリーマンセルが三つ。
 ナユタとエンバースさん。カザハとジョンさん。それからミョウジンと――》

ウィズリィが提案する。
ただ、アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は五人パーティーだ。二人ずつで組むとなるとどうしても端数が出る。
ミハエルはエントランスのエンバースたちよりやや離れたところにいるが、相談に加わろうとはしない。
希望的観測だけではミハエルを動かすことは難しい。彼も戦力として当て込むなら、
SSSを向こうに回しても充分に戦える――という証拠を提示してやらなければならないだろう。

「別に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』でペアになんなきゃダメってワケでもねーだろ。
 トーゼン、ボクは明神についてく。明神だろ、ボクだろ、んでマゴット!
 それでスリーマンセル成立だ。ヤマシタとガーゴイルはいつでも呼び出せるから除外で」

《んん……、何かバランスが悪い気がするわね……。
 それに、マゴットもミョウジンのパートナーモンスターでしょう?》

「細かいこと言うなよな魔女子。別にそれでいーじゃん、戦力的にはボクたちチーム明神だけで充分!」

意地でも明神派の身内だけで固めようとするガザーヴァであったが、そんな中、

「では、妾もザ・ストリップへ同道させて貰おうかの」

『虚構の』エカテリーナが名乗りを上げた。

「ザ・ストリップはこの地で最大の激戦区。今現在うろついておる敵も多い。
 此方としても頭数は少しでも多い方がよかろう、どうじゃ? 明神」

「え〜?」

「そんな顔を致すでない。
 人命優先で逃げながらの持久戦を展開すればよいモンデンキントやカザハらと違い、
 其方らは戦いながらアンチを増やす持久戦を展開せねばならぬ。
 ならば、必ずや妾の虚構魔術が役立つであろう。多数の敵を翻弄し手玉に取る、それが虚構魔術の真骨頂ゆえ」
 
ヤダヤダ、とあからさまに嫌な顔をするガザーヴァであったが、明神に説得されると渋々といった具合で納得し、
エカテリーナの同行を認めた。

《うん、それならバランスもいいんじゃないかしら。どう?ナユ――》

ディスプレイの中のウィズリィはなゆたに視線を向けた。最終的な判断はリーダーであるなゆたに委ねられるが、
肝心のなゆたはといえば、

「…………」

眠っていた。
目を閉じ、隣に座るエンバースの身体にやや凭れ掛かるようにして、静かな寝息を立てている。
エンバースによって半ば無理矢理椅子に座らされた途端、すとんとまるで電源が落ちるように眠ってしまったのだった。

「……寝かしておいてやろうかの」

エカテリーナが小声で呟く。
実際に、今まで短時間で幾度も死ぬような戦いを繰り返してきたのだ。
作戦開始までせめて少しでも休ませておいた方がいい、と継承者たちは頷いた。
イブリースも文句はないらしく腕組みして沈黙している。
最終的にチームはなゆた(ポヨリン)、エンバース(フラウ)、『黄昏の』エンデのチーム。
カザハ、カケル、ジョン(部長)のチーム。
そして明神(ヤマシタ、マゴット)、ガザーヴァ(ガーゴイル)、『虚構の』エカテリーナの三チームに決まった。

「私と兇魔将軍はこのワールド・マーケット・センターにいるわ。
このラスベガスで一番大きな収容施設がここになるから、生存者はどんどんこっちに運んできて頂戴。
怪我人がいれば治療するし、休ませる場所だってあるでしょう。
道中、医薬品や治療道具、食糧……なんでもいいから、役立ちそうなものがあればそれも送ってくれると嬉しいわ」

「オレも打って出たいところだが、已むを得ん。
 ニヴルヘイムの同胞たちを発見したら、これを見せてやれ。
 大人しく貴様らに従うはずだ。その者たちも此処へ連れてきてもらおう。
 保証は出来んが、作戦に有用な力を持っている者も確保できるやもしれん」

イブリースは鎧の懐から三分の一に分割された鎖付きのメダリオンを取り出すと、ジョンに差し出した。
それを見てガザーヴァが声を上げる。

「三魔将の割符! あったなぁー、そんなの! オマエまだ持ってたんだ?
 パパから貰ったものなんか全部捨てたと思ってた!」

三魔将の割符。
ニヴルヘイム最高戦力たる三人の魔神が持つ、支配者の証。

「……まあ……な」

イブリースはほんの僅かに目を細めた。
仲間意識の強いイブリースのこと、袂を別ったかつての上司に対しても、何らかの情は残っているのかもしれなかった。

80崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:14:01
《みんなのスマートフォンからも、マップを閲覧できるようにしておいたわ。
 それから、この回線も常時開放しておくから。生存者がいたら報告して頂戴。
 こちらから『門』を開いて、ワールド・マーケット・センターに収容できるようにするわ》

ウィズリィが全員に指示する。
これで、パーティーを三つに分割した後でも各自がマーカーの標示されたマップを適宜確認することが出来る。
ニヴルヘイム謹製の『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』は術者が一度行った場所にしか門を開けない。
だが、世界を俯瞰して見ている管理者であるウィズリィならその問題は解決だ。

《探索の際は、こまめにセンターに戻ってきて適宜補給と回復を受けて頂戴。
 それから、連絡は密にね。どんな小さなことでも、何か異常があればすぐに報告して。
 こちらからも常にモニターはしているけれど、相手は未知の敵よ。
 何が起こるかまったく予想できないから》

虚空に表示されたディスプレイ、そこに複数のウインドウが開きマップを指し示す。

《スキャンしたところによると、このラスベガスにはメトロ――魔法機関車みたいなものかしら? が地下に走っており、
 地下街もあるわ。その下には更に下水道も存在している。
 地上を通らずとも、それらを使用すればラスベガス全体を行き来することは可能そうね。
 ただし――》

ウィズリィが一瞬口籠もる。
ラスベガスは世界有数の一大観光地である。当然、観光客を楽しませ利便性を追求することに特化している。
砂漠の暑い日差しの下を行かなくとも、冷房の効いた地下を進んでいけるということだ。
だが、地下鉄自体は存在していても運行は当然止まっているし、移動するなら徒歩で行く必要があるだろう。

《このワールド・マーケット・センターやマンダレイ・ベイなどのホテルは外から攻撃されても破壊されないと思うし、
 『星蝕者(イクリプス)』に侵入されることもないと思う。
 彼女らにはマップ上の敵を倒すことはできても、障害物として配置された建物を壊すことは出来ない。
 だから、戦闘の際は地形も効果的に使うことが出来るわね。ビルなどで射線を切れば、相手の攻撃は届かないということ。
 でも、先程の戦闘を見るに……マップ上のオブジェクトに干渉することは出来そうだったわね。気を付けて頂戴》

ジョンと交戦した『星蝕者(イクリプス)』は、墜落した戦闘機の残骸を鈍器代わりに振り回していた。
建物などと違い、動かせるものは『星蝕者(イクリプス)』でも動かせるということか。

《それと……メトロや下水道は通常のマップとして認識されているとの結果が出たわ。
 つまり、『星蝕者(イクリプス)』にとっても侵入は可能、ということね。残念だけど》

マップが切り替わる。まるでアリの巣のように何層にも入り組んで構築されている、
それはメトロと地下街、下水道の複合配置図だった。やはりと言うべきか、メトロと地下街にも赤い光点がまばらに見える。
ただし、鹵獲を試みるにはちょうどいい数と言えなくもない。
下水道に光点は皆無と言っていい。いくら異界のゲームプレイヤーと言っても、わざわざ汚い場所には行きたくないのだろう。

「基本は下水道を通っていくことになりそうね。スラムがあるのだったかしら?
 ……エーデルグーテで私たちが『永劫』の賢姉に対抗していたときと同じようなものかしら。
 あのときも、私たちは聖罰騎士の手を逃れて信徒たちを隠し村へ保護するのに、地下に広がる万象樹の根を使っていたから」

アシュトラーセが右手を顎先に添え、マップを見ながら呟く。

「んじゃ、モンキン焼死体チームとバカザハジョンぴチームが下水道を進む間、
 ボクらは真正面から打って出ればいーってコトだな。
 コソコソすんのはボクの流儀じゃないから、ちょーどイイや!
 いっちょド派手にブチかましてやんよ!」

ガザーヴァが暗月の槍を高く掲げる。
根拠のない強がりではない、ガザーヴァにはガザーヴァなりの勝算があるらしかった。
ただ、明神の作戦を成功させるにはひとりでも多くの『星蝕者(イクリプス)』の目を引く必要がある。

「作戦は決まりじゃな。
 ならば、善は急げじゃ。さっそく出立を――」

エカテリーナが軽く周囲を見遣る。
なゆたは、まだ眠っていた。

「ぅ……ん、んん……。
 ……はっ!? わ、わたし、寝てた? ゴメン! こんな大事な話してるときに……!」

仲間たちの誰かが揺り起こすと、なゆたはすぐに目覚めた。

「……マスター」

『ぽよぉ……』

傍らのエンデが心配そうな表情を浮かべる。ポヨリンもなゆたの膝の上で不安そうに主人の顔を見上げている。
他のメンバーよりも疲労が蓄積しているのは、誰の目にも明らかだった。

81崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:17:44
「モンデンキント……貴方」

アシュトラーセも眉をひそめている。
とても十全な状態とは言えない。本来ならば、救助活動よりも自身の回復を待つ側であろう。
しかしなゆたはエンバースに肩を借りてゆっくり立ち上がると、ガッツポーズをしてみせた。

「大丈夫、大丈夫! 今ちょっと寝られたから、元気いっぱい! 体力マックスだから!
 ね、カザハ、わたし寝てる間に寝言とか言ってなかった? ヨダレ垂れてない?」

口許をゴシゴシと右腕の袖で拭い、誤魔化すように笑ってみせる。

「その状態で外へ出るのは危険だ。
 ……オレがお前の代わりに行く。お前はここで継承者と一緒に、生存者の保護に当たってくれればいい」

見兼ねてイブリースが交代を提案する。
なゆたとシャーロットを同一視するほど愚かではないが、といって別人とも思えずにいるイブリースにとって、
やはりなゆたは見捨てておけない特別な存在ということらしい。

《そうね……。その方がいいかもしれないわ。みんなはどう?》

ディスプレイのウィズリィも特に反対しない。
『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』達が各々の意見を出すと、なゆたは小さく微笑んだ。
今にも泡沫のように儚く溶け消えてしまいそうな、淡い笑み顔だった。

「ありがとう、みんな。
 わたし……行くよ。何があっても、ここは行く。後ろで待ってるなんて出来ない」

「マスター、でも」

「最後まで歩きたいんだ。みんなと、一緒に」

《ナユタ――》

「……連れて行って。エンバース」

エンデとウィズリィの心配をよそに、なゆたはエンバースの袖を軽く掴むと、短く懇願した。
決然とした、不退転の意志の籠もった声。

「やれやれ……これは梃子でも考えを曲げぬ覚悟じゃな。
 妾たちの知っておる『救済』の賢姉は、このような強情な御方ではなかった筈じゃが……」
 
「そうね。いえ、むしろ引っ込み思案でほとんど自らの意見も出さなかったような」

エカテリーナとアシュトラーセが十二階梯の継承者として、姉弟子であったシャーロットとなゆたとを比較する。
ゲームの中でも『救済の』シャーロットは自身に関係するイベント以外ではあまり発言しない、
物静かで影の薄いキャラクターだった。そんな性格に反して性能的には光属性の人権キャラのため、
戦闘においては引っ張りだこであったのが皮肉なところだが。
そんなふたりの会話に、なゆたはアハハ、と笑うと、

「そうかもね。でも、それって当たり前のこと。
 だって、わたしはシャーロットじゃない。あくまで普通の女子高生!
 モンデンキントこと崇月院なゆた、だから――」

そう、なゆたは『救済の』シャーロットではない。単にシャーロットの記録とスキルを移植されただけの、
なんの変哲もない人間だ。
そんな人間が幾度も瀕死となり、本来上位者が用いるべき技能『銀の魔術師』を用い、
限界以上の体力と精神力を消費して激戦を潜り抜けている。
で、あるのなら。

「さあ――行こう!
 わたしたちの助けを待ってる人たちを保護して、『星蝕者(イクリプス)』も倒す!
 そして最後にはローウェルをやっつけて、ブレモンがまだまだ伸びしろのあるコンテンツだってことを教えてあげなくちゃ!」

ばっ! となゆたは右手を大きく横に振ると、大見得を切ってみせた。
その拍子に、さらり……と光の粒子がまた、ほんの少しだけその身体から零れ落ちる。

まるで、砂時計の中の砂が落ちていくかのように。

82崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:23:09
眼前に、凄惨な破壊の光景が広がっている。
崩れ落ちたビルに、墜落した戦闘機。
砲塔が融解し履帯の外れた戦車が、あたかも巨大な獣の骸のような残骸を晒して横たわっている。
捲れ、ひび割れたアスファルトのせいで歩きづらいことこの上なく、至る所にクレバスのように大きな裂け目が出来ている。
噎せ返るような火薬と死のにおいもきつい。ニヴルヘイムの魔物が吐いたブレスか、米軍のミサイルか。
それとも『星蝕者(イクリプス)』たちの用いる未知の兵器の発したものか、いまだに空気は熱せられており、
時折熱い風が一行の髪や衣服を撫でてゆく。
いわゆるアポカリプス系映画のような光景。しかし、目の前のこれは映画のセットでもなければCGでもない。
紛れもない本物――そもそも上位者のゲームであるところのこの世界において、
本物というものが存在するならば、の話だが。

「あーあ、ハデにやってくれちゃって、まぁ」

槍を水平にして両肩に担ぎながら、大通りを闊歩するガザーヴァがぼやく。
煌びやかだったはずのネオンは砕け、オブジェは倒壊し、ビルの壁面に設けられていたディスプレイはもう何も映していない。
かつての一大観光都市であった面影はもはや欠片もなく、ただただ死と破壊だけが蔓延する世界。

「なぁ、明神。
 この街、スッゲーキレイなとこだったんだろ?
 瓦礫を見ただけでも分かるよ。きっとスッゲェキラキラ光ってて、ピカピカに輝いてる街だったんだろうな」

瓦礫や横倒しになった車、爆発し黒焦げになった戦車などの近くには米兵や人間の一般人の亡骸の他、
サイクロプスやワイバーン、ゴブリンなどニヴルヘイム由来のモンスターの死体も無数に転がっている。
視界に生存者の姿はなく、またマップにも青色の光点は表示されていない。
無慈悲かつ徹底的な虐殺の後。『星蝕者(イクリプス)』の仕業に違いない其れに、ガザーヴァは眉を顰めた。

「……壊される前に来たかったな」

ぽつり、と呟く。
一巡目の世界で自分の終焉の地となった、アコライト外郭。
そこから先の世界を見る、それを何よりの楽しみとしていたガザーヴァだ。
世界の境界を飛び越えてアルフヘイムでもニヴルヘイムでもない世界に行くというのは、
きっとさぞかし心躍る気持ちであったことだろう。
だというのに、視界に入るのは一面の破壊の跡ばかり。落胆するのも無理からぬことだろう。

「管理者としての力を用いれば、破壊される前の状態に戻すことも出来るのではないか?
 それこそ『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』の技術を応用するなどしてじゃな。
 師父ローウェルをお止めし、侵食を取り除くことが出来さえすれば、そういった研究も出来るようになるであろうよ」

エカテリーナが仮説を口にする。
消えゆくデータを丸ごとバックアップしコピーできるくらいなら、
街ひとつのデータを破壊される前に復元することも可能なのでは、と言っている。

「そーだよな。ん! じゃあ、サッサとスクラップどもをやっちゃって!
 クソジジーもバーン! って吹っ飛ばして! このキレーな街、元に戻そーぜ!
 この街はミズガルズいちのカジノの街だったんだろ?
 んじゃ、一切合切終わった暁にはカジノでギャンブル三昧だー!」

「これこれ、カジノで遊ぶと申しても、元手がなければ遊べまい。
 ミズガルズでルピは使えるのか? クリスタルは? でなければ妾たち、素寒貧ぞ」

「んーなの、どーとでもなるって!
 それこそ石油王に頼んで、管理者メニューでサイフの中身いじってもらえばさ!」

なー! と明神の方を振り返って笑う。
管理者メニューで所持金を設定できるのなら、そもそもカジノで稼ぐ必要などないのでは? と思ってはいけない。
ガザーヴァにとっては明神と一緒にカジノで遊ぶ、それが一番重要なのだから。
がんばるぞー! と槍を高々掲げ、元気いっぱいに鬨の声を上げる。
まるで、これから数十万の『星蝕者(イクリプス)』を相手に絶望的な持久戦を展開する身とは思えない。

「ま……何か目標を持つということは善いことじゃな。
 目的のため、何としてでも生き残らねばという気になる。
 何にせよ――先ずは連中を何とかせぬことには始まらぬが、な……!」

小気味よさそうに笑うと、エカテリーナは軽く肩を竦めた。
そして、長煙管を手に空を仰ぎ見る。
視線の先には、既に十騎ばかりの『星蝕者(イクリプス)』が出現していた。

「……やっと出てきたのね。
 建物の中に閉じ籠って、ブルブル震えてるだけの相手じゃ埒もないと思っていたんだけれど――
 死ぬ覚悟が出来た、ってことかしら?」

穂先がビーム刃になった長大な槍を持ち、中華風の意匠を加えたセーラー服を着たお団子髪の少女が、
すう……と音もなく地上へ降り立つ。
『星蝕者(イクリプス)』側には他にも日本刀持ちや巨大なドローンのようなプロペラ付きの機械に乗った少女などもいる。
姿はずいぶん異なるが、皆SSSの七つのクラスいずれかに相当するキャラクターたちなのだろう。
どうやらキャラメイクはオープンワールドRPGばりに自由らしい。

「ヘッ。そりゃこっちの科白だってーの。
 ザコを殺して最強気取りのテメーらに、ホントの最強ってのがどういうモンか教えてやるよ!
 お代は――テメェらの命でなァッ!」

狂暴な笑みを顔にへばりつかせ、ガザーヴァは上空の少女たちを挑発した。

83崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:28:05
「ははッ! 久しぶりの運動だァ! 明神――ボクは『遊ぶ』ぜえッ!
 命令はその後にしろよな!」

戦術も作戦もあったものではない。
ドンッ! と土煙を立て、ガザーヴァが槍をしごいて『星蝕者(エクリプス)』へと襲い掛かる。
槍使い以外の『星蝕者(エクリプス)』が散開する。が、戦闘は仕掛けてこない。
SSS側にとっても、これは初めての『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』との戦いである。
先ずは相手がどれ程の実力を持っているのか、どのような戦い方をするのかを見極めたいということなのだろう。

「オォラァァッ!!」

ガザーヴァが空中から大振りに暗月の槍を振り下ろす。
槍使いの少女――クラス・シューティングスターは半身をずらすと、苦もなくそれを避けてみせた。
しかし、ガザーヴァの攻撃は終わらない。卓越した身体能力をフルに発揮し、矢継ぎ早に刺突や斬撃を繰り出してゆく。
それに負けじとシューティングスターも迎撃に打って出る。互いの槍が幾度もぶつかり合い、
激しく競り合うように火花を散らす。
高く跳躍し、柔らかな肢体を縦横に躍動させてのそれは、まさしく達人同士の戦いだ。
人知を超えた戦闘能力の持ち主同士の戦闘は、それ自体がまるで示し合わせた演舞のように華麗で、目を瞠るほど美しい。

「ボクの動きについて来られるなんて、ちょっとはやるじゃねーの。褒めてやんよ」

「……フン」

愉しげに笑うガザーヴァに対して、シューティングスターはあくまで無表情を貫いている。
が、といって何も感じていないという訳ではないらしい。鍔迫り合いから一旦間合いを離すと、
槍使いは今までに倍する速度で手数を増やしてきた。

ボッ!!

「おっ?」

ガザーヴァが一瞬驚いた表情を見せる。
ビーム刃での薙ぎ払い二連に、六本の小型槍を展開しての多重攻撃。波動を纏いながらの強烈な突撃。
目にも止まらぬコンビネーションだ。そのどれもが必殺の威力を秘めている。
出力を上げたシューティングスターのビーム刃から発せられる熱気が、明神のところにも伝わってくることだろう。
今までの一進一退の攻防から一転、ガザーヴァは瞬く間に防戦一方の状況に追い込まれてしまった。

「おっととっとっとっ! アブネーアブネー!」

ガザーヴァの米神を汗が伝う。
巧みに暗月の槍を取り回し、柔軟な肉体を駆使して防御と回避を成功させているものの、
攻撃までにはまったく手が回らない――といった状態だ。

「ふ……、手も足も出ないでしょう!? 旧作のボス敵程度が、身の程を知りなさい!」

ドッ! ドドッ! と大気をどよもしてシューティングスターがラッシュを続ける。
ガザーヴァはそんな相手の一挙手一投足にピジョンブラッドの双眸を向け、ただただ回避に専念しているように見えた。
状況は圧倒的に不利だ。いかなガザーヴァでもいつかは集中力が途切れ、体力が尽きて致命的な一撃を貰ってしまう。

「そろそろ頃合いかしら……! ――さあ、死になさい!」

「うわぁ! もうダメだー!」

今まさにガザーヴァへとどめ刺そうと、シューティングスターが全身にオーラを纏っての突進を繰り出してくる。 
穂先を前方に構え、蒼白いオーラの尾を引いて飛翔するその姿はまさしく流星、シューティングスターだ。
ガザーヴァは哀れっぽく悲鳴を上げた。そしてガザーヴァは成す術もなく『星蝕者(エクリプス)』の槍に貫かれ――

……たりは、しなかった。

「――なワケねーだろ、バーカ」

突進してくる死の流星を真正面から迎え撃つと、ガザーヴァは大きく上体を捻って身構える。
そして少女の突き出す槍を紙一重で躱すと、絶妙のタイミングでその喉元にカウンターの右ハイキックを叩き込んだ。

「ごっ!?」

まったく予期せぬ反撃に対処するいとまもあらばこそ、
シューティングスターは自らの突進のスピードもそのままに、喉元へ炸裂したガザーヴァの右脚を支点に勢いよく一回転すると、
ダダァァァンッ!! と地響きを立てて地面へうつ伏せ叩きつけられた。
信じられない光景だった。様子見を気取っていた『星蝕者(イクリプス)』たちは皆、呆気に取られている。
中でも一番信じられないのはシューティングスター自身だろう。盛大に吐血し、がりり……と地面に爪を立てる。

「ガハッ! ……い、いったい何が……」

「オイオイ、頭コカトリスかよ。三歩動いたら聞いたコト全部忘れんのか?
 ボクは『遊ぶ』って言ったんだぜ?」

相変わらず天秤棒のように槍を両肩で担ぎながら、ガザーヴァが呆れたようにシューティングスターを一瞥する。

「遊ぶ……ですって……?」

「せっかくのオモチャ、すぐぶっ壊しちゃったら面白くねーじゃん。
 でももういいや、分析も終わったし……オマエの攻撃は全部見切っちゃったからさ」

もう引っ込んでいいぞ、とばかり、シッシッと右手を振る。

84崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:33:48
「……見切った? 見切った、と言ったの?
 この私の攻撃を? 最強の『星蝕者(イクリプス)』の攻撃を……?」

「おーよ」

「ふざ……けるなァァァッ!」

シューティングスターは奇襲の痛手もまったく感じていないような素早い動きで起き上がると、
端正な面貌を憤怒に歪めてガザーヴァへと飛びかかった。
先程の戦いで見せた怒涛のラッシュに輪をかけた激しい攻撃は、あたかも流星雨のよう。
が、当たらない。
破壊の嵐めいたシューティングスターの攻撃が、まるで功を成さない。
先程まではガザーヴァが防御行動を取る程度には当てられていたのだが、今はそれすらない。
しかも、ガザーヴァは必死なふうでもない。鼻歌交じりにシューティングスターの猛攻を往なしている。

「なっ」

言ったろ? とガザーヴァがにんまり笑う。
どうやら、見切ったというのはガザーヴァ流のブラフでも何でもない、紛れもない事実らしい。

「お、おのれェェェェッ!」

「何回やったって無駄だって……の!」

侮辱され、激怒したシューティングスターが槍を突き出す。しかしガザーヴァはそれを予想通りとでもいうように先回りすると、
穂先ではなく槍の石突で横殴りにシューティングスターの左頬を痛撃した。
まるで未来視、予知能力でも持っているかのような反撃の手際に、シューティングスターは再度攻撃をまともに受けると、
横回転しながら吹っ飛んだ。
どしゃり、と音を立て、SSSの槍使いは地面に横倒しになるとそのまま動かなくなった。
そして、その姿が武器の槍もろとも霧のように掻き消える。

「ンー。鹵獲作戦は無理かぁー。ま、そりゃそーだよな」

つまらなそうに呟く。戦いは序盤こそ『星蝕者(イクリプス)』優勢かに思われたが、
終わってみればガザーヴァの完全なワンサイドゲームだった。
どうして、こんなことになったのか。

「ふん、旧作のキャラだからといって舐めて掛かるからこうなる。
 次は私だ、格の違いというものを見せてやろう」

「いーぜ、いーぜぇ。
 明神、コイツの動きをよぉーく見てろよ。そしたら、コイツらの弱点がすぐ分かるハズだから」

様子見していた『星蝕者(イクリプス)』のひとりが前に進み出る。ガザーヴァは連戦だが、まったく疲労の色はない。
むしろウォームアップが終わった程度だ。
そして――シューティングスター戦と同じように最初は防御と回避に徹し、少しすると攻勢に転じて、
最終的にはやはり『星蝕者(イクリプス)』に一撃の有効打も許すことなく完封してしまった。
ドシャア! と音を立て、次鋒が沈む。『星蝕者(イクリプス)』たちは声もない。

「分かったか? 明神?」

槍を地面に立て、ガザーヴァが明神の方を見る。

「コイツら、攻めのパターンが少なすぎンだよ。バリエーションに広がりがなくておんなじ技ばっか使ってくるから、
 それさえ見切っちまえば当たるワケねー、ってコト!」

大抵のアクションゲームにおいて、初撃――攻撃の起点のモーションはキャラクターごとに固定で決まっている。
そこから弱攻撃に行くか、強攻撃に派生するか、必殺技を繰り出すかでコンボを組み立てていくわけだが、
SSSは爽快感を重視したゲーム性のためゲーム初心者でもボタンを連打しているだけでコンボができるようになっている。
システム上、格闘ゲームのようにありとあらゆる状況から技を選択して、という形には成り得ないのだ。
結果、どうしても攻撃が単調になる。ガザーヴァはそれを看破し、完璧に凌いでみせた――ということらしい。
 
「ミズガルズの人間たちやウチのザコ相手ならそれでも良かっただろうケド、ボクには通じないぜ。
 ひとりひとりなんてまだるっこしい、全員でかかってこいよな!
 ボクはレイド級なんだよ、レイド級ってのは元々、一対多で戦うようにできてンだ。
 そら……人間相手に無双してたオマエらに、今度は――ボクが無双してやンよ!」

暗月の槍を構え、さも愉快げに不敵な笑みを浮かべると、
ガザーヴァは『星蝕者(イクリプス)』を前に啖呵を切ってみせた。

85崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:40:28
「先程は不覚を取ったが……。此度はそうは行かぬぞ。
 妾の虚構魔術、その精髄を見せてくれよう!」

エカテリーナがおもむろに長煙管を吸い、紫煙を吐く。
魔力を含んだ紫煙は瞬く間に周囲へ拡散すると、まるで霧のように皆の視界を覆った。
明神の得意とするスペルカード『迷霧(ラビリンスミスト)』に似ているが、ただ視認性を悪くするだけでは終わらない。
エカテリーナの煙は中にいる者の目を惑わせ、自分以外はすべて敵であるかのように誤認させてしまう。
結果、『星蝕者(イクリプス)』たちは同士討ちを始めてしまうことになる。
難点といえば『星蝕者(イクリプス)』だけでなくアルフヘイム側にも効果が及んでしまうという点だが、
煙の有効範囲にいるのがガザーヴァだけなら問題はない。元々自分以外は全員敵である。

「……どうやら、連中に此方の魔術へ抵抗(レジスト)する術はないようじゃな」

ふぅっ、と紫煙を吐き、エカテリーナが状況を観察する。
煙の範囲内に入っている『星蝕者(イクリプス)』たちは例外なく虚構魔術の影響を受け、
少なからず同士討ちを始めてしまっている。
その混乱に乗じてガザーヴァが怯んだ者たちを狩って回る。効果は抜群のようだった。
同様、明神の持つ妨害に特化したスペルカードも命中すれば十全な効果を発揮する。
SSSは3DアクションRPGである。従って純粋なRPGであるブレモンと違い、
デバフ効果を齎す地形やトラップは基本的に『回避する』という方式で防ぐしかないのである。
ひょっとしたらそういったアイテムも存在するのかもしれないが、
見たところこの場にそういった物を持ち込んでいるプレイヤーはいないようだった。
事前にネットで攻略法を見ていたり、攻略本をあらかじめ読んで対策を練っていない限り、
特殊効果を打ち消すアイテムというものは、基本的には一度負けて再戦する際に二の轍を踏まぬよう持ち込むものであろう。
スペルカードや魔法によって行動を阻害された『星蝕者(イクリプス)』の攻撃ならば、
一般人の明神であっても回避や防御は容易だろう。手駒にはヤマシタもマゴットもいる。

「最初はヤベー連中が来たと思ったケド……なーんだ、大したコトねーなァ! あっははははははッ!!」

自分のターンとばかりに縦横無尽に跳ね回り、気持ちよさそうに槍を振り回して敵を駆逐しながら、ガザーヴァが笑う。
ガザーヴァが『星蝕者(イクリプス)』を倒すたび、まるで雲霞のように後続のプレイヤーが参戦し、襲い掛かってくる。
だが、その誰もガザーヴァを倒すことは出来ない。どころか皆、
ガザーヴァの槍や暗黒魔法によって蚊トンボか何かのように墜とされてゆく。
確かに、『星蝕者(イクリプス)』は恐るべき手合いである。
その力は通常の人間やモンスターを遥かに凌ぎ、命を容易く蒸発させる超兵器を持っている。
が、その反面リリース前のβ版ということでプレイヤーに技術の蓄積がなく、
スキルや武器の解析も進んでいない。
何より、『星蝕者(イクリプス)』たち自身がおのれの力を使いこなせていない――。
反面、ブレイブ&モンスターズ! はフォーラムやWiki、各種動画によって徹底的な分析や研究が行われ、
モンスターやスキル、アイテムの性能をほとんど完全に発揮することが出来るのだ。

「く、くそッ、どういうことだ……!? 先程とは動きがまるで別物だ!
 チートでも使ってるのか!?」

『星蝕者(イクリプス)』のひとりが混乱の中で呻く。
緒戦で敗北したイブリースやエカテリーナらのことを言っているのだろうが、
単に彼らは初めて対峙した『星蝕者(イクリプス)』の手の内が分からず、わからん殺しで遅れを取ってしまっただけなのだ。
何も、兇魔将軍や十二階梯の継承者の実力が『星蝕者(イクリプス)』より劣っているという訳では決してない。
だから。

充分な準備と冷静な判断力、今までの長い旅で培ってきた経験を用いれば、
決して『星蝕者(イクリプス)』は倒せない相手ではないのだ。
尤も、それは一対一や少数と戦った場合である。何せ、SSS側には50万人とさえ言われる圧倒的な頭数がいる。
少数の『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』だけでは、とても太刀打ちできるものではない。
だからこそ。

「明神、頼むぞ。此処に居る者ども、皆アンチにするのじゃろう?」

新たな虚構魔術で更に戦場を混乱状態に陥れながら、エカテリーナが明神を見る。
そして長煙管を軽く振ると、明神に魔法を付与する。
『扇動(アジテーション)』――魔力で拡声し広範囲に声を届ける魔法だ。

「この者たちが一斉にSSSを見限り、撤退する様はさぞかし壮観であろうな。
 師父の呆気に取られた顔が目に浮かぶわ……そら、見事為遂げてみせい!」

同士討ちを恐れてか、『星蝕者(イクリプス)』たちは煙の中での攻撃を手控えしている。
皆が皆戦闘に集中している状態なら明神の声も届かないかもしれないが、
今ならばきっと有効に作用することだろう。
そして、首尾よく明神のプランが成功すれば、SSS側の戦力を大幅に削減することが出来る。

百騎以上いる『星蝕者(イクリプス)』の視線が、明神へと集まった。

86崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:46:12
カザハとジョンは青い光点のもっとも多いフレモント・ストリート・エクスペリエンスの人命救助を担当することになった。

《地下道を通って、ストリート内の青い光点……アルフヘイムとニヴルヘイム由来の人々を、
 このワールド・マーケット・センターへ避難誘導して頂戴。
 転移門はこちらで開くから、貴方たちは要救護者がいる場所まで行って、私に報告してくれればいいわ》

スマホの液晶画面でウィズリィがふたりに指示する。
大量の避難民を、地下道をいちいち歩いて誘導し搬送するというのは想像を絶するほど骨が折れる仕事だが、
ウィズリィが転移門を任意の場所に出現させられるというのなら話は早い。
薄暗く臭い下水道を歩き、マップ上の青い光点が密集している場所へ赴く。
地下駐車場を経由して大きなリゾートホテルのひとつに入り、エントランスに到着すると、
ホテルの宿泊客らしい人々が身を寄せ合って外の爆発音や震動に怯えているのが見えた。

「あ……、あんたたちは……?」

明らかに普通とは異なる人間が魔物を率いて現れたことに対して、人々が怯えた反応を見せる。
しかし、ジョンやカザハが説明すれば、もっと安全な場所があるということで皆おとなしく指示に従うだろう。

《転移門を開くわね》

ウィズリィが管理者権限でエントランスに転移門を開く。
門を潜れば、ホテルからマーケット・センターまで一瞬で移動することが出来る。
マーケット・センターのブレモン世界大会会場などは避難所にはもってこいだろう。
ぞろぞろと人々が列をなして転移門を潜ってゆく。
一軒目のホテルの救助が完了すれば、次の場所だ。転移門を消し、
ジョンとカザハはまた下水道を通って別のホテルや建物に行くという行動を繰り返すことになる。
そうして、マップに標示された青い光点の半分ほどを救助し、また下水道を移動していると、

「おやおやおやぁ〜?
 ドブネズミみてゃぁーに下水道を伝って悪さしとるヤツがいると思ったら――」

不意に、非常灯の微かな光に照らされた下水道の中で、声が聞こえた。

「アンタらかにゃ。アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たち」

「よーっ! こんなトコでまで会うだなんてキグーだなぁー! ははッ!」

見れば、狼耳にふさふさした尻尾の女と、ごつい籠手に脛甲を装備した短躯のホビットが前方に立っている。
十二階梯の継承者『詩学の』マリスエリスと、『万物の』ロスタラガム。

「ナルホドにゃァ……『星蝕者(イクリプス)』の寄り付かない下水道を使って人命救助とは、
 なかなか考えたもんだにゃ。
 ただにゃぁ……そんな小細工、アタシたちには通用しにゃーて。
 アタシもロスやんも、地下を通るのは得意だで」

ロスタラガムが能天気にカザハたちへ右手を大きく振り、マリスエリスがゆっくり狼咆琴(ブラックロア)に触れる。
マリスエリスは吟遊詩人の他に斥候(スカウト)、暗殺者(アサシン)のスキルを持っているし、
ホビットであるロスタラガムは元々大地の精霊ノームの眷属で地下にはめっぽう強い。

「そーゆーコトだ!
 でもさ、よかったー! 師匠のめーれーでこの世界に来たんだけど、何が何だかわかんなくてさ!
 イスリクプ? ってやつらも、おれたちのいうことぜんぜん聞いてくれないし……。
 おもしろくないなーっていってたんだよ! なー、エリ!」

「ちょっ、ロスやん! そういうコトはペラペラ喋ったらいかんでしょぉ!? 連中は敵だがね!」

「えー? そうなのか?」

シーッ! と右手の人差し指を口許に立てるマリスエリスに対して、ロスタラガムはキョトンとしている。
INTの著しく低いロスタラガムにとっては、敵だとか味方だとかの概念はよく理解できないことらしい。
このふたりもローウェルによって何かに使えるかもしれない駒として地球へ連れてこられたのだろうが、
案の定と言うべきか別ゲーム由来の『星蝕者(イクリプス)』とは折り合いが悪く、苦労しているらしい。

「とっ……とにかく、おみゃーさんらを見つけてまった以上、見過ごすことはできにゃぁンだわ。
 大人しく観念してちょぉ?」

気を取り直したマリスエリスがパチン! とフィンガースナップを鳴らすと、
その途端虚空に『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』が出現する。
むろん、遭難者救助のためのものではない。門の奥から、凄まじいまでの殺気が溢れてくる。
そうして――門を通り、やがて二十名ばかりの『星蝕者(イクリプス)』がジョンたちの前に現れた。

「こんなところに隠れていたとは……地上をいくら虱潰しにしても、下らない雑魚しか出てこない筈ですね」

スチームパンク風の意匠のセーラー服にとんがり帽子、表紙に多数の歯車のついた分厚い書物を手にした少女――
恐らくは魔術師のクラス・ゾディアックが口を開く。

「でも、もう終わりですよ。ここには二匹だけですか? まぁ、物足りないですがいいでしょう。
 皆さん、スコアは早い者勝ちで……いいですね」

ちら、と背後の『星蝕者(イクリプス)』たちへ目配せする。
よかろう、だとかいいと思いまーす、などと他プレイヤーが発言する。『星蝕者(イクリプス)』にとって、
ジョンとカザハはスコア稼ぎをするためのターゲットにしか見えていないらしい。
それはあたかも、ブレモンのプレイヤーがモンスターの討伐数を競うときのように。

87崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:50:40
「あ、あの……」

今にも攻撃を開始しようと『星蝕者(イクリプス)』が身構える中、マリスエリスが恐る恐るといった様子で声を掛ける。

「何ですか」

「え、ええと、その……『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』を見つけて、『星蝕者(イクリプス)』の皆さんに報告したのは、
 アタシたちだで……どうか、ナイ様にはよしなに……」

「褒美にありつきたいと? 浅ましい……やはり時代遅れの旧作のキャラは思考が低俗ですね。
 いいでしょう。忘れていなかったら伝えますよ」

「……あ、ありがとうございます……にゃ」

眉を下げて愛想笑いをすると、マリスエリスはロスタラガムを伴って後方へ退いた。

「さて。では、始めましょうか。誰が殺しても恨みっこなし――ですよ!」

ドンッ!!

『星蝕者(イクリプス)』たちが一気にジョンとカザハへ襲い掛かってくる。
その攻撃は相変わらず強烈だ。盲滅法に乱射される銃や、ライトセーバーじみた光刃をまともに喰らえば、
ブラッドラストで強化したジョンであっても大ダメージは免れない。カザハやカケルはもっとだろう。
ただし、冷静にその攻撃を見極めれば、決して避け切れないものではない。
また、狭い下水道での戦闘になったというのも『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にとっては結果的に有利に働いた。
『星蝕のスターリースカイ』は自在にフィールド内を駆け回り、空を飛んでド派手なエフェクトの攻撃で雑魚を薙ぎ倒す、
爽快感重視のゲーム性であった。
従って、下水道のような狭いマップではどうしても動きが阻害され、性能を存分に発揮することが出来ない。
例えば多少のダメージを覚悟のうえで接近すれば捕えるのは不可能ではないし、殴り倒すことも可能だろう。
とはいえ、拘束までは出来ない。例え首根をひっ掴み、無力化に成功しても、
『星蝕者(イクリプス)』はすぐに掻き消えてしまう。
理由は簡単――プレイヤーがもはやこれまでと判断し、自らログアウトしたのだ。
当然、武器も拾って使うようなことは出来ない。確かにその場にはあるのだが、ジョンやカザハが触れることは出来ず、
やがて消滅してしまう。

「ええい、こんなβテストのエネミーにどれだけ手古摺っているんです!?」

ゾディアックが魔法の光弾を乱射しながら叫ぶ。
ジョンとカザハがどれだけ倒しても、『星蝕者(イクリプス)』はまったくその数を減らさない。
マリスエリスの出現させた『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』から、無尽蔵と言っていいほど続々と出現してくる。
このままではジリ貧だ。
『星蝕者(イクリプス)』のビーム刃の槍がジョンの左腕を穿ち、腹筋を光の剣が薙ぐ。
カザハの頬をレーザーライフルの閃光が掠め、カケルの胴に魔術の衝撃が炸裂する。
まるでハーメルンの笛吹きのように、新たな『星蝕者(イクリプス)』が列をなして続々と門から出現する。
一対一では『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に分がある。が、敵には『数』という最大の武器がある。
『大軍に兵法なし』と言うように、単純な物量差はいかなる戦術や身体的優位をも凌駕するのである。
圧倒的多数を前に、ジョンとカザハに勝ち目はないように見えた。
せめて、もう少しだけでも味方が居れば――。

「……なぁ、エリ」

「何にゃ」

「いーのか? 加勢しなくて」

「アタシたちはあくまで『星蝕者(イクリプス)』の補佐にゃ。それ以上のことは越権行為だがね。
 それに、アタシらが加勢しなくたって『星蝕者(イクリプス)』が勝つに決まっとるにゃ」

「いや、じゃなくてぇー……『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にさ」

「はぁ? なんでアタシらが『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に加勢なんて――」

突然の相棒の言葉に、戦闘範囲外で戦いを眺めていたマリスエリスが思わず声を荒らげる。
が、ロスタラガムは斟酌しない。

「だってさ、アイツらはおれたちとおんなじセカイの奴らなんだろ? でもイスリスプはちがう。
 んならおれたちも『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に手ぇー貸してやったほうがいいんじゃないのか?
 エリだって、イクリスプは気に入らないーってゆってたじゃんか」

「……ロスやん」

マリスエリスはロスタラガムの前に屈み込むと、視線の高さを合わせた。

「もう、ブレモンは終わりなのにゃ。アタシらの世界は消滅する。それは神さまが……いんにゃ、
 神さまより偉い師父が決めたことなんだわ。
 『創世』の師兄も、『救済』の賢師も、師父には敵やぁーせん。みんな、みんな消えてまうがや。
 でもアタシとロスやんはそうじゃにゃあ。アタシらは生き残る……そして新しい世界に居場所を見つけてみせる。
 そのためには、今はあの『星蝕者(イクリプス)』やら、ナイやらの言うことを聞いとくしかにゃぁも」

「んー……」

世界は侵食に冒され、十二階梯の継承者は崩壊した。
そんな中、マリスエリスはロスタラガムと是が非でも生き残る道を選んだ。そのためにローウェルの走狗となり、
見返りにSSSに拾い上げて貰おうとしたのだ。
例え、他の何を捨ててでも。
そんなマリスエリスを、ロスタラガムは不得要領といった表情で見詰めていた。

88崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:54:42
マンダレイ・ベイ・リゾートは天空を貫く塔ストラトスフィアを除き、ラスベガスで最も目立つ建物である。
東南アジアの黄金郷をイメージした、金色に輝く巨大なホテルは遥か遠くからでもよく見え、存在感を放っている。
世界的にも有名なリゾートホテルであるから、毎年何十万人という利用客が訪れるのだが、
今回もその例に漏れず多くの人間が利用し、その末にSSSの襲撃を受けていた。
ホテル本館に加えて多くの新館、プール、水族館にサーカス、アリーナ会場、ライブハウス等、
複合リゾート施設であるだけにその施設は多岐に渡っており、マーケットや病院なども併設されている。
ここを押さえることが出来れば、人命救助はもっと楽になるはずだ。
そんな巨大へホテルへ、なゆたとエンバースは地下街を通って潜入していた。

「来るよ、エンバース!」

地上に比べ、地下街を闊歩している『星蝕者(イクリプス)』の数はずっと少ないものの、
皆無という訳ではない。此方の姿を見ると、サーフボードのような物に乗った『星蝕者(イクリプス)』と、
黒衣に身を包み短刀を二振り逆手に持った暗殺者めいた『星蝕者(イクリプス)』が此方へ突っ込んでくる。
なゆたは身構えた。

「こんなに綺麗な街をメチャクチャにして……絶対に許さない!
 ポヨリン! スパイラル頭突き!!」

『ぽよよよっ!』

なゆたの号令一下、ポヨリンが弾丸のように『星蝕者(イクリプス)』へ肉薄する。
が、当たらない。『星蝕者(イクリプス)』の中でも特に速度と機動力に特化したクラスのキャラクターらしく、
屋外と違って行動に制限のある地下街でもまるで問題ないとばかりに俊敏に動き回っている。

「死ね……ッ!」

暗殺者めいた『星蝕者(イクリプス)』、クラス・ブラックホールがエンバースとフラウに飛びかかってくる。
素早い上に隙が少なく手数の多い攻撃は確かに脅威だが、しかしエンバースとフラウのタッグならば凌ぎ切ることが可能だろう。
攻撃の幅が少なく、起点がいつも同じモーションだというのも、数合打ち合えば理解できるはずである。
ブラックホールはコンビネーションの最後に自らの持っている両手のダガーをブーメランのように投擲する。
そして、ダガーが弧を描いて戻ってくるまで動けない。その隙を狙って攻撃することは難しくあるまい。
また、『火酒(フロウジェン・ロック)』を用いた攻撃やデバフ魔法などにも抵抗力がなく、
避ける以外に対処法はないらしい。
エンバースがブラックホールを倒すと、『MISSION FAILED』の表示と共にその身が装備品もろとも消滅する。
恐らく宇宙船の中にあるであろうベースキャンプ的な施設まで強制送還されたのだろう。
ワールド・マーケット・センター前で戦闘した相手と比べ、今の『星蝕者(イクリプス)』は明らかに動きに甘さがあった。
が、それは別に不思議なことではない。
50万人もプレイヤーが存在するのなら、上手な者と下手な者の差が顕著になるのは当然のことだ。
どうやら、最初に遭遇した『星蝕者(イクリプス)』たちはプレイヤーの中でも相当な上澄みであったらしい。
しかし――

「く、ぅ……!」

エンバースがブラックホールを倒した後も、なゆたはもうひとりの『星蝕者(イクリプス)』を相手に苦戦していた。
サーフボードに乗った『星蝕者(イクリプス)』――クラス・ネビュラノーツが素早いということもあるが、
それ以上になゆたの行動が精彩を欠いている。

「ッ、『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』プレイ……!」

ネビュラノーツがポヨリンに体当たりを仕掛ける。
なゆたはなんとかスペルカードを発動し、ポヨリンを鋼の塊に変えて凌いだが、
いつもならばもっと余裕を持って対処できていたはずだ。
エンバースが加勢すると、ネビュラノーツはすぐにエンバースとフラウへ標的を変えた。
弱い相手と戦うよりも、強い者を倒した方がスコアが稼げる――とでも思っているのだろうか。
ネビュラノーツの強みはまるでサーフィンでもするように空中を縦横無尽に翔ける機動性と、そこから放たれる衝撃波である。
まるでひとりだけシューティングゲームでもやっているかのように、
ネビュラノーツのサーフボードの先端から衝撃弾が放たれ、マシンガンのように掃射してくる。
だが、高い機動力と俊敏性を獲得した代償として、サーフボードを駆る本体そのものはそこまで高性能ではないようだった。
一旦捕まえてしまえば、ネビュラノーツをサーフボードから引き摺り下ろすことは容易い。
得物を喪失した『星蝕者(イクリプス)』は、そこで終わりだ。すぐに『MISSION FAILED』という文字列が表れ、
フィールドから消滅した。

「あ、ありがと、エンバース……。助かっちゃった」

戦闘終了後、なゆたがエンバースに礼を述べる。

「チョコマカ動き回る敵って、そんなに闘ったことなかったから……。
 わたし、アクションゲーム苦手なんだよね。っていうかそもそもゲームを本格的に始めたのなんて、
 ブレモンが初めてだったし……」

あははと元気があるように振る舞い笑っているものの、その表情には疲労の色が濃い。
ポヨリンが心配そうに寄り添うのをひと撫ですると、なゆたはスマホをポケットに仕舞った。

「……大丈夫だよ、なんともない。
 これから、沢山やらなくちゃならないことがあるんだから……頑張らなくちゃ。
 エンバース、行こう。大勢の人たちが困ってる。救助の手を求めてるはずだから――」

なゆたは地下街の前方を右手で指すと、長い髪とマントを揺らして歩き始めた。
さらり……と、またほんの僅かに金色の粒子を零して。

89崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:58:08
マンダレイ・ベイに到着し、エントランスホールに入ると、
やはりそこには『星蝕者(イクリプス)』の攻撃から逃れてきた人々が大勢避難していた。

「皆さん、落ち着いてください! これから皆さんを安全なところに誘導します!」

避難している人々に大声で説明し、次いでウィズリィに頼んで転移門を開けて貰う。

「二列に並んで、落ち着いてゆっくり進んでくださーい!」

ぞろぞろと人々が転移門を潜ってゆく中、懸命に誘導を試みる。
だが、素直に指示に従う者ばかりではない。中には我先にと他の人間を押しのけて門を潜ろうとする者もおり、
そういう人間はなゆたでは手に負えずエンバースに協力してもらう他なかった。
また、怪我をしている者や足腰の弱い老人もいる。
なゆたはそういった者を見かけるたびに駆け寄り、インベントリの中からあらかじめ用意していた救急キットを使って、
負傷者に簡単な応急手当をしたり、しきりに声を掛けて励ましたりした。

「大丈夫、絶対にみんな助けてみせるから……。
 だから元気出して。全部、救って……ハッピーエンドに……」

そう言って怪我人を慰めながら、包帯を巻く。
ぽた、ぽた、と額から顎を伝い、汗が点々と床に落ちる。
なゆたの顔は蒼白だった。これではどちらが要救護者なのか分かったものではない。
といって、避難誘導を疎かにすることもできない。普段はなゆたに寄り添うばかりで基本的に何もしないエンデまでが、
主人の体調を見兼ねて誘導のため徒列整理に当たっている。
そんな中。

「お、お願いです……息子を、息子を探してください……!」

五十代くらいの女性が、不意になゆたとエンバースにそんなことを言ってきた。
話を聞くと、持病のあるその女性のため薬を手に入れようと、
息子がマンダレイ・ベイに併設されている病院区画へ薬を手に入れるために単身行ってしまったのだという。
ホテルも病院も建物内で『星蝕者(イクリプス)』は侵入できないが、
両者を繋ぐ通路はその限りではない。
もしその息子が病院への移動中、『星蝕者(イクリプス)』に見つかっていたとしたら――。

「……わかりました。おばさんはここで待っててください。
 わたし、すぐに見つけて……きます……!」

なゆたは即答した。
しかし、体力が精神に付いて来ない。病院へ続く連絡通路に足先を向けるも、すぐにふらりと大きくよろめくと、
エンバースの胸に身体を預けるように崩れ落ちた。

「ぅ……」

熱がひどい。よくも、こんなコンディションで人命救助などと言ったもの――といった状況だ。
救護が必要なのはなゆたの方である。
だというのに、なゆたはエンバースの腕を掴むと、なんとか立ち上がって自力で歩こうとする。

「ゴメン……ちょっと、眩暈がしただけ……。
 何も、心配いらないから……早く、おばさんの息子さんを……探しに行こう……」
 
はぁはぁと浅く短い呼吸を繰り返しながら、なゆたは立ち上がろうと無駄な努力を繰り返す。
探し人も重要だが、その前になゆたの治療をしなければならないだろう。

「早く……、早く……行かな、きゃ―――」

なんとか気力だけで意識を繋ぎ止めていたものの、それさえもやがて尽きたらしく、
なゆたはエンバースの腕の中でかくり、と項垂れると、意識を失った。

「……ここは僕たちが受け持つ。だから、エンバースはマスターを病院へ。
 病院には医師もいるだろう。ミズガルズの医療が今のマスターにどれほど役立つかは分からないけれど」

エンデがエンバースに提案する。
といっても、エンデとポヨリンだけでは大勢の人々を御するには限界がある。
今はひとりの頭数でも欲しい。フラウもここへ置いてゆくことになるだろう――つまり。
エンバースは、ひとりでなゆたを病院に連れて行かなければならない。
しかもその道中には『星蝕者(イクリプス)』が徘徊している可能性が高く、見つかれば戦闘は避けられない。
けれど。それでも。

崇月院なゆたの命運は、エンバースに委ねられた。


【三隊に部隊編成してそれぞれ作戦開始。
 明神・ガザーヴァ・エカテリーナ組:ザ・ストリップ
 カザハ・ジョン組:フレモント・ストリート・エクスペリエンス
 なゆた・エンバース組:マンダレイ・ベイ
 
 明神の時間稼ぎのため、ガザーヴァとエカテリーナが『星蝕者(イクリプス)』と対峙。
 ジョンとカザハ、マリスエリス&ロスタラガムと遭遇。大量の『星蝕者(イクリプス)』と交戦。
 継承者二名には思うところがある模様。
 なゆた昏倒。】

90embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:01:41
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅰ)】

《それじゃ、こういうのはどうかしら。
 ジョンさんの言う通り、チームはスリーマンセルが三つ。
 ナユタとエンバースさん。カザハとジョンさん。それからミョウジンと――》

『別に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』でペアになんなきゃダメってワケでもねーだろ。
 トーゼン、ボクは明神についてく。明神だろ、ボクだろ、んでマゴット!
 それでスリーマンセル成立だ。ヤマシタとガーゴイルはいつでも呼び出せるから除外で』

「そうとも。別にブレイブだけで固まる必要はない。ならイブリースをそこに混ぜても当然、問題ないよな」

《んん……、何かバランスが悪い気がするわね……。
 それに、マゴットもミョウジンのパートナーモンスターでしょう?》

『細かいこと言うなよな魔女子。別にそれでいーじゃん、戦力的にはボクたちチーム明神だけで充分!』

「とは言え、イブリースの戦闘スタイルは正直ヤツらと相性が良くなさそうだ。となると――」

エンバース=ガザーヴァの主張は何処吹く風――説得するよりさっさと結論を出してから丸め込んだ方が手っ取り早い。

『では、妾もザ・ストリップへ同道させて貰おうかの』
『ザ・ストリップはこの地で最大の激戦区。今現在うろついておる敵も多い。
 此方としても頭数は少しでも多い方がよかろう、どうじゃ? 明神』

「適任だな。それで決まりだ」

『え〜?』

『そんな顔を致すでない。
 人命優先で逃げながらの持久戦を展開すればよいモンデンキントやカザハらと違い、
 其方らは戦いながらアンチを増やす持久戦を展開せねばならぬ。
 ならば、必ずや妾の虚構魔術が役立つであろう。多数の敵を翻弄し手玉に取る、それが虚構魔術の真骨頂ゆえ』
 
「往生際が悪いぞガザーヴァ。いいか、こういう時は発想を逆転するんだ。
 ここは一度仕方なく折れてやった事にしておけ。実際はお前がひたすら駄々をこねてただけだが。
 とにかく一つ貸しにしておく。するとその貸しが後々――」

エンバースの双眸が一際紅く煌めく。

「虚構魔術を用いた明神さんの複製体逆ハーレムになって返ってくるんだ。
 確かに、所詮複製は複製だ。だがそれはそれとして――
 沢山の明神さんに囲まれるのはきっと楽しいぞ。分かったらここは大人しく退け」

もっとも実際の虚構魔術はエカテリーナ自身が虚構を纏うというもの。
仮に群体の形成が可能であったとしても、その逆ハーレムは甚く虚しいものになる。
が――しかしその虚しさこそが虚構魔術の妙味なのかもしれないなと、エンバースは勝手に納得してそこで話を打ち切った。

《うん、それならバランスもいいんじゃないかしら。どう?ナユ――》

「……どうした?まだ何か気になる点でも――」

視線を隣のなゆたへ――彼女は目を閉じて、小さく寝息を立てていた。

『……寝かしておいてやろうかの』

「正直あまりいい兆候ではないけど……そっとしておくって事には同意見だ」

91embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:02:15
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅱ)】

ブレイブは勇気というステータスでその性能を向上させる。
アルフヘイムのブレイブ一行はそのシステムを何度も体現してきた。
ただの日本生まれの一般人達が幾多の戦場を乗り越えて、今や世界を救うか否かの分水嶺にいる。

とりわけ崇月院なゆたの勇気はずば抜けている。
何の確証もない「目覚め」とやらの為に死地へと飛び込んでいった。
管理者メニューの起動では通常でさえ命取りになる筈の取り立てを二人分受け持つ事もした。

その崇月院なゆたが「疲れ果てて、つい居眠りをしている」。
これはゲーム的に解釈すれば極めて単純な事実を示していた。
「勇気によってもたらされていた補正値を、積み重なった消耗がとうとう上回った」のだ。

問題は――その事実を認識する事は出来ても、変えようがないという事だが。

『私と兇魔将軍はこのワールド・マーケット・センターにいるわ。
 このラスベガスで一番大きな収容施設がここになるから、生存者はどんどんこっちに運んできて頂戴。
 怪我人がいれば治療するし、休ませる場所だってあるでしょう。
 道中、医薬品や治療道具、食糧……なんでもいいから、役立ちそうなものがあればそれも送ってくれると嬉しいわ』

「……その事なんだが、一つ考えがある。長くなりそうだから、色々一段落した後にでも話すよ。
 でも、そうだな……ひとまずここ以外の避難所になりそうな場所を探しておいて欲しい。
 ほら……どんなものでも予備があった方が安全だろ?」

エンバース=何やら思わせぶり。

《みんなのスマートフォンからも、マップを閲覧できるようにしておいたわ。
 それから、この回線も常時開放しておくから。生存者がいたら報告して頂戴。
 こちらから『門』を開いて、ワールド・マーケット・センターに収容できるようにするわ》

「待った、どうせなら俺達のスマホをこの世界のインフラに接続出来ないか?
 ローウェルの妨害を受ける度に通信が不安定になるんじゃ危なっかしい。予防策を取っておこう」

《スキャンしたところによると、このラスベガスにはメトロ――魔法機関車みたいなものかしら? が地下に走っており、
 地下街もあるわ。その下には更に下水道も存在している。
 地上を通らずとも、それらを使用すればラスベガス全体を行き来することは可能そうね。
 ただし――》

イクリプスは建造物――およそ街/マップとして認識出来そうなものは破壊出来ない。
ただし自動車や街灯といった「地形に属さないもの」は例外になる。
メトロや下水道はイクリプスの侵入可能区域――エンバースは腕組みをして思索に耽る。

『基本は下水道を通っていくことになりそうね。スラムがあるのだったかしら?
 ……エーデルグーテで私たちが『永劫』の賢姉に対抗していたときと同じようなものかしら。
 あのときも、私たちは聖罰騎士の手を逃れて信徒たちを隠し村へ保護するのに、地下に広がる万象樹の根を使っていたから』

「問題は、下水道は万象樹の根ほど聖なる感じじゃないって事だ。言い出しっぺの俺が言うのもなんだけど」

「作戦は決まりじゃな。
 ならば、善は急げじゃ。さっそく出立を――」

エカテリーナの視線の先=未だ眠ったままのなゆた。
ふと、このまま寝かせておいた方がいいのでは――そんな考えが頭をよぎる。
なゆたの疲労は既に限界だ。今の状態で十分なパフォーマンスが発揮出来るとは思えない。

しかし一方で、起こした方がいい理由にも心当たりがない訳ではなかった。
差し当たって――無断で置き去りにするのは不実であるとか、そうした理由が。
エンバースはなゆたが枕代わりにしている肩を小さく揺すった。

92embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:02:27
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅲ)】

『ぅ……ん、んん……。
 ……はっ!? わ、わたし、寝てた? ゴメン! こんな大事な話してるときに……!』

「おはよう。世界最強のブレイブ様の右腕の寝心地はどうだったか、後で聞かせてくれ」

『モンデンキント……貴方』

『大丈夫、大丈夫! 今ちょっと寝られたから、元気いっぱい! 体力マックスだから!
 ね、カザハ、わたし寝てる間に寝言とか言ってなかった? ヨダレ垂れてない?』

「やめとけ。空元気なのは見れば分かる」

『その状態で外へ出るのは危険だ。
 ……オレがお前の代わりに行く。お前はここで継承者と一緒に、生存者の保護に当たってくれればいい』
《そうね……。その方がいいかもしれないわ。みんなはどう?》

エンバースは何も言わない。どうする事が合理的なのかは一目瞭然で、わざわざ自分が言うまでもないからだ。
やめておいた方がいいに決まっている――それでも、なゆたは決意を示すかのように微笑んだ。

『ありがとう、みんな。
 わたし……行くよ。何があっても、ここは行く。後ろで待ってるなんて出来ない』
『マスター、でも』

エンバースは何も言わない。結論は既に出ている。お互いに――後はそれを示し合うだけだ。

『最後まで歩きたいんだ。みんなと、一緒に』
『……連れて行って。エンバース』

なゆたがエンバースの袖を掴む/己を見上げる瞳と目が合う。

「……ポヨリンさんがイブリースにやられて、お前がパーティを抜けると言い出した時。
 あの時俺達はみんなでお前を引き止めたよな。俺もそうした」

エンバースの口元が僅かに笑みを描いた――安心しろよ、と促すように。

「だから今更――やっぱり今回は一緒に行けないなんて言い出すのはフェアじゃないよな」

己の袖を掴むなゆたの右手を掴み返す/強く引き寄せる――まるでダンスの一幕。

「今度は俺が応える番だ。好きなだけ俺を頼りにしろ。どこへだって連れて行ってやる」

『やれやれ……これは梃子でも考えを曲げぬ覚悟じゃな。
 妾たちの知っておる『救済』の賢姉は、このような強情な御方ではなかった筈じゃが……』 
『そうね。いえ、むしろ引っ込み思案でほとんど自らの意見も出さなかったような』

――そりゃそうだ。だってシャーロットってGMのアバターだろ。自己主張激しいの普通に嫌だろ。なあバロール。
なんて考えがエンバースの脳裏をよぎる――が、言葉にはしないでおいた。どうせ上手く伝わりもしないだろう。

『そうかもね。でも、それって当たり前のこと。
 だって、わたしはシャーロットじゃない。あくまで普通の女子高生!
 モンデンキントこと崇月院なゆた、だから――』

『さあ――行こう!
 わたしたちの助けを待ってる人たちを保護して、『星蝕者(イクリプス)』も倒す!
 そして最後にはローウェルをやっつけて、ブレモンがまだまだ伸びしろのあるコンテンツだってことを教えてあげなくちゃ!』

「……早くも、さっきまでのしおらしさが恋しくなってきたな。
 おい、威勢がいいのは結構だが装備をちゃんとチェックしろよ。下水道だぞ、下水道。
 毒耐性のアクセで諸々レジスト出来ると思うか?クソ、半分生身に戻る前なら良かったんだが――」

93embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:04
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅳ)】


エンバース/なゆたの目的地=マンダレイ・ベイ・リゾート。
暫しマップとにらめっこをした結果、目的地へは地下街を通るのが最適と結論が出た。
下水道を想定した装備の選出は徒労に終わったが、その事をエンバースが残念に思う事はなかった。

そうして暫く無人の地下街を進んでいくと――いた。イクリプスが二人が行く手を阻んでいる。

「……ベータテストの最中にわざわざこんな地下街をほっつき歩いているって事は、お前ら浅パチャ勢だな。
 とりあえずマップのあちこち歩き回ってみようとか思って来たんだろ?
 いいと思うぜ、そういう楽しみ方もあるよな。邪魔するつもりはないぜ。ここは見逃してやるから――」

『来るよ、エンバース!』

「――最後まで言わせてくれよ。さっさと失せろって」

『死ね……ッ!』

「悪いな。生憎もう死んでる」

迫る剣閃/剣閃/剣閃――同じ数だけ響く金属音=防御音。

「もっともお前が俺を殺せないのは、別にそんな理由じゃないらしい」

不敵に笑ってみせる――ものの、やはりイクリプスは速い。
3DアクションRPGというシステムに保証されたスピード感はエンバースにとっても脅威だ。

受ける分にはどうにかなっているが――問題は攻めだ。
実力の拮抗を時に「先に動いた方がやられる」と表現するように、先手を取るという事は存外難しいものなのだ。
特にこの相手――イクリプス・ブラックホールは見るからにスカウト型=スピード特化。

一方で――ブラックホールはそんな事はお構いなしに飛びかかってきた。
影をも置き去りにするかのような鋭いステップイン/右から弧を描き迫る剣閃。
それらを弾く/受け流す/躱す――今度はさっきよりも際どい。

エンバースは困惑を禁じ得なかったからだ。
自分が遅れを取りつつあるから――ではない。
ブラックホールの二度目の攻撃が――初手の連撃と殆ど代わり映えしなかったからだ。
あえて隙を見せてカウンターを誘われているのかとも思った。
それでかえって防御が際どくなっていたが――どうもそうではなさそうだ。

再三、ブラックホールがエンバースへ迫る――剣閃を躱す/躱す/躱す。
やはり斬撃は単調=今度は一転、ダインスレイヴで受ける必要さえない。

そして連撃の最後=両手のダガーを投擲する――その直前。
両手を振りかぶる瞬間に合わせてエンバースは反撃に出た。
ダインスレイヴの横薙ぎ――半信半疑/小手調べ程度の一撃だった。

まさかこんな安直なカウンターが通る筈がない。
そう思いながら放った刃が――いとも容易くブラックホールの首を刎ねた。

「……なるほどな。イブリースは相性が悪かったか」

イブリースは足を止めて敵と正面から合する戦闘スタイル――つまり単純なステータスの差を押し付けられやすい。
同胞を守るべく進んで敵の的にならねばならない状況であれば尚更だ。
もっとも――今倒したブラックホールは恐らくイクリプスの中でも下振れの部類なのだろうが。

「なゆた、そっちは――」

『く、ぅ……!』

なゆたを振り返る/見るからに防戦一方/攻めに転じる兆しも見えない――見かねたエンバースが加勢に入る。

94embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:17
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅴ)】

「よう。お前のツレはもう落ちたぜ。どうやらお前ら、やられるとログアウトされるんだな。
 折角のベータテストをログイン戦争で終えたくないけりゃ――」

イクリプス・ネビュラノーツは聞く耳持たず仕掛けてきた。
サイバーチックなサーフボードを乗りこなす遊撃手タイプ。
サーフボードの先端から放たれる衝撃波の弾幕――別に大した攻撃ではない。
威力はさておきその性質はダークネス・クラスターと大差ない。
つまり――

「オーケイ。少し遊んでやるよ」

エンバースが弾幕に真正面から飛び込む。
弾幕の濃淡を見極め/その最も薄いルートを選び抜き/潜り抜ける――弾幕渡り。
無傷のまま/最短距離でネビュラノーツへと詰め寄り――右手のフィンガースナップを一つ。
指先から火花が散る/それがたちまち激しく燃え盛る――閃光と化す。
目眩まし=効果は覿面――サーフボードの制御を失ったネビュラノーツが地下街のあちこちに激突する。

「なるほど。そうなるのか――なら、これはどうだ?」

エンバースが胸部の炎に左手を突っ込む/引き抜く/蒼炎が尾を引いて溢れ出す。
炎が海月のように/魚のように宙を泳ぐ=低速/空間制圧型の弾幕――というだけではない。
空間を回遊する超高熱の炎は周囲の気温を跳ね上げるのだ。

「冷たいお飲み物はお持ちかな?出発前にちゃんと持ち物をチェックしてきたか?
 ……なるほど、なるほど。ちゃんと辛そうだな。こういうのも効くのか」

まじまじと敵の様子を観察するエンバース。
その視線に耐えかねたか、ネビュラノーツが再びサーフボードを急浮上。
炎魚の弾幕を撃ち落とす/同時に側面へと急速に回り込み――だが不意にサーフボードが急停止した。
動揺するネビュラノーツがどう足掻いてもサーフボードはその意に従わない。
何故=炎魚を目眩ましにして周囲に張り巡らせたフラウの触腕に絡め取られているから。

「さて、それじゃ最後に……」

無造作にネビュラノーツへ歩み寄る/サーフボードから蹴落とす。
そうして主を失ったサーフボードへ乗ろうとして――足を踏み外してつんのめる。
ややバツが悪そうにネビュラノーツを睨むと――彼女は既にフィールドから退去されつつあった。

〈装備の鹵獲は出来なさそうですね〉

「いや、まだ分からん。分かったのは完全に無力化されたイクリプスは装備ごと消えるって事だけだ。それより――」

『あ、ありがと、エンバース……。助かっちゃった』

「気にするなって。連れて行ってやるって言ったろ」

『チョコマカ動き回る敵って、そんなに闘ったことなかったから……。
 わたし、アクションゲーム苦手なんだよね。っていうかそもそもゲームを本格的に始めたのなんて、
 ブレモンが初めてだったし……』

「……これが終わったら、箸休めに何か別ゲーでもするか?ちょっと気が早いけど……
 みんなで出来るヤツでさ。それこそマイクラとか……お前はどうだ?何か気になるゲームとかさ――」

他愛のない/ぎこちない雑談――休憩時間の捻出を試みる。

『……大丈夫だよ、なんともない。
 これから、沢山やらなくちゃならないことがあるんだから……頑張らなくちゃ。
 エンバース、行こう。大勢の人たちが困ってる。救助の手を求めてるはずだから――』

「……ああ、それもそうだな」

空元気なのは分かっている――そして空元気だと隠せていない事を、なゆたも分かっているだろう。
それでもこうして意志を貫くのが、なゆたのアイデンティティだとエンバースはよく知っている。
そこに口を挟む事は出来なかった。

95embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:33
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅵ)】


『皆さん、落ち着いてください! これから皆さんを安全なところに誘導します!』

マンダレイ・ベイ・リゾートには事前の情報通り大勢の避難民がいた。
エンバースはあえて抜き身のダインスレイヴを持ち込んでいた。
突然の来訪者が良くも悪くも「異常」である事を手っ取り早く証明する為だ。
群衆の制圧には――慣れていた。一周目ではそうした事が必要な時も多々あった。

それはそれとして、マスターアサシンローブのフードは目深に。
体の左半分が焼死体の姿は余計な混乱を招くに違いない。

「聞いての通りだ。今から『門』を開く。見た目は少し悪いが――
 詮索はなしだ。誰も質疑応答に時間をかけたくないだろ?」

『二列に並んで、落ち着いてゆっくり進んでくださーい!』

群衆がなゆたの呼びかけに応えて動き出す――多目に見積もって、半分くらいは。
残りは――押し合いへし合いだ。一刻も早くこの場を離れたいと我先に門を目指す。

「……フラウ」

呼びかけを受けたフラウの触腕が踊る/群衆の間を駆け抜ける。
蜘蛛糸のごとく細分化した触腕/だがそれは紛れもなく竜の腕――ただの一般人が抗える筈もない。

「急ぐ気持ちも分かるけど……心配しなくていい。大丈夫だ。門は勝手に閉じないし、俺達は逃げない」

避難誘導はフラウに任せ周囲を見回す――なゆたは歩行も覚束ない傷病者などを援助していた。
が――遠目にも分かるくらいに顔面蒼白だ。

『大丈夫、絶対にみんな助けてみせるから……。
 だから元気出して。全部、救って……ハッピーエンドに……』

見かねたエンバースがなゆたの右腕を掴む/応急処置に割り込んで手早く済ませる。
怪我人を最大限穏やかに見送ってから、なゆたの両肩を掴んで目を合わせる。

「……おい、ここは俺達に任せて少し休め。自分でも分かっているだろうが……ひどい顔色だぞ。
 考えてもみろ。ずっとここで息を潜めて生き永らえて、やっと助けが来たかと思ったら、
 ソイツはへろへろで今にもぶっ倒れそう。お前ならどう思う」

意地を張るのはいい。それがなゆたをなゆた足らしめているならもう仕方ない。
だが――だとしてもこんな風に擦り切れていくのは見過ごせない。

「お前は十分よくやってる。けど、無茶をするなら……今じゃないだろ。
 ここぞという時に備えるんだ。一回休んだくらいで置いていったりしないから――」

『お、お願いです……息子を、息子を探してください……!』

不意に、視界の外から聞こえた懇願の声/縋り付く右手――エンバースは一度深呼吸をして、そちらを振り返る。
そこにいたのは初老の女性/事情=息子が医薬品を求め病院区画へ独断専行――嫌な予感がした。

『……わかりました。おばさんはここで待っててください。
 わたし、すぐに見つけて……きます……!』

「おい……!」

なゆたが即答/すぐに歩き出す/すぐによろめき倒れかける――エンバースがそれを支える。

96embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:54
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅶ)】

『ぅ……』

「クソ、言わんこっちゃない……」

『ゴメン……ちょっと、眩暈がしただけ……。
 何も、心配いらないから……早く、おばさんの息子さんを……探しに行こう……』 

「……どうしたんだ、お前」

エンバースは困惑を隠し切れない――なゆたは自分が一番よく分かってる筈だ。
最早虚勢を張って誤魔化し切れる状態ではない――むしろ虚勢を張る事すら出来ていないと。

『早く……、早く……行かな、きゃ―――』

振り絞るようにそう言って――なゆたは意識を失った。
エンバースは――かえって安堵していた。
こうならなければ、どう止めていいかまるで分からなかった。

『……ここは僕たちが受け持つ。だから、エンバースはマスターを病院へ。
 病院には医師もいるだろう。ミズガルズの医療が今のマスターにどれほど役立つかは分からないけれど』

「……少なくとも、回復魔法よりは希望が持てるかもな」

エンバースがダインスレイヴを己の胸部へ格納/なゆたを抱き上げる――病院区画へ歩き出す。

〈その状態で行くつもりですか?一度門の向こうに彼女を返して、病院で改めて――〉

「フラウ。これは見るからに時限イベントだ。それに――」

〈何か気の利いた事を言おうとしてるんでしょう。どうぞ〉

「茶化すなよ……明神さんはヤツらをSSSのアンチにしてやるって息巻いてたけど。
 アレで気がついたんだ。それって別に――逆でもいいよなって」

〈逆、ですか?〉

「そう。シンプルにブレモンが面白そうだって思わせてやればいいんだ」

〈……どうやって?彼らは敵ですよ?〉

「こうやるんだ」

なゆたを抱えたままスマホをタップ/タップ/タップ。
フラウが増殖/増殖/増殖――融合=ナイツロード・イミテーションを特殊召喚。
ダインスレイヴをフラウへ格納/魔力刃が触手のファイバーを通して全身へ循環――血管めいた真紅の模様が浮き上がる。

97embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:05:14
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅷ)】

エンバースはそのままマンダレイ・ベイの外へ。
周囲には――先ほどの交戦がきっかけで集ったであろうイクリプスのパーティ。
互いが双方を認識する/エンバースが胸部に収めたダインスレイヴを右手で掴む――弁を開くように捻る。

「邪魔だ。通してくれ」

イクリプスが一斉に襲い来る/エンバースの全身から蒼炎が溢れる/周囲に大きく渦を巻く。
描き出される紅と蒼の炎魚の群れ――高速/低速/周期性/誘導性/爆発型/炎上型/閃光型=彩り鮮やかな弾幕。
燃え盛る火柱がイクリプスの進路を制限/爆発性の炎魚は機雷の役割を果たす。
それらを嫌って炎魚の駆逐を試みれば――閃光型の「当たり」を引く事になる。
ただでさえ煌々と瞬く炎の魚群は眩く、イクリプスの――ひいてはそのプレイヤー達の視界にさえ負荷をかける。

〈それで?これでどうやってブレモンを好きにさせるんです?〉

そして、その火柱/爆炎/閃光で埋め尽くされた視界=クソカメラの中をフラウが暗躍/暗殺。

「いいんだよ、これで。堂々とこいつらを圧倒しろ――ああ、だけど一つだけ忘れるな」

エンバースがふと空を見上げる/戦場を見下ろす「視点」があるだろう方へ。

「最高にカッコよくカメラに映るんだ――思わず、このブレイブ&モンスターズをインストールしたくなるくらいにな」

イクリプスの襲撃の中を、エンバースはまっすぐ病院区画へと歩いていく。
駆け抜けたり、急ぎ足になる事さえしない。

「……ウィズリィ、みのりさん。俺の付近の生体反応を精査する事は出来るか?
 別にコイツらを全員やっちまってから、のんびり探してもいいんだけどさ」

どうせ、なゆたを運ぶだけでなく人探しも並行しなくてはならないのだ。
であればとことん優雅に、悠々と、徹底的に見栄え良くやり抜くまでだ。

98カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:30:31
【カザハ】
>《それじゃ、こういうのはどうかしら。
 ジョンさんの言う通り、チームはスリーマンセルが三つ。
 ナユタとエンバースさん。カザハとジョンさん。それからミョウジンと――》

頭脳派のウィズリィちゃんが、戦略的に有効と思われる組み合わせを考案する。
飽くまで戦略的に有効と思われる組み合わせであり、他意は無い。ここ重要。

>「別に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』でペアになんなきゃダメってワケでもねーだろ。
 トーゼン、ボクは明神についてく。明神だろ、ボクだろ、んでマゴット!
 それでスリーマンセル成立だ。ヤマシタとガーゴイルはいつでも呼び出せるから除外で」

>《んん……、何かバランスが悪い気がするわね……。
 それに、マゴットもミョウジンのパートナーモンスターでしょう?》

うーん、まあ、マゴット君も辛うじて人型だけど……!

>「ザ・ストリップはこの地で最大の激戦区。今現在うろついておる敵も多い。
 此方としても頭数は少しでも多い方がよかろう、どうじゃ? 明神」

>「え〜?」

継承者が同行してくれるというありがたい申し出を、あろうことか駄々をこねて拒否するガザーヴァ。

「あのさあ! 我儘ばっかり言わないの! 修学旅行の班分けじゃないんやで!?」

仲良しグループだけで組みたいとか、こんな時にまで何を言っているんだこの子わ!
いや、修学旅行の班分けでも「内輪で組みたいからお前くんな」みたいな排他的なこと言ったらアカンと思う!
あれ? なんでだろう、涙出てきた……。

「泣いちゃった!」

「やかましいわ!」

しかしエカテリーナさんはへこたれずに食い下がる。流石継承者、メンタルの強さも半端ない。

>「往生際が悪いぞガザーヴァ。いいか、こういう時は発想を逆転するんだ。
 ここは一度仕方なく折れてやった事にしておけ。実際はお前がひたすら駄々をこねてただけだが。
 とにかく一つ貸しにしておく。するとその貸しが後々――」
>「虚構魔術を用いた明神さんの複製体逆ハーレムになって返ってくるんだ。
 確かに、所詮複製は複製だ。だがそれはそれとして――
 沢山の明神さんに囲まれるのはきっと楽しいぞ。分かったらここは大人しく退け」

(楽しいのか!? それ……!)

エンバースさんの丸め込み(?)が功を奏したのかはよく分からないが、
とにかく、スリーマンセルが3つという名目の実際は頭数バラバラなチーム分けが出来上がった!
え、待って。カケルは我のパートナーモンスターなのになんで人数に数えられてるんだろう……。
ガザーヴァは正式なパートナーモンスターじゃないから人数に数えるのは分かるとしても。
マゴット君は一応二足歩行だけど人数の算定外っぽいよ?
どうやら人数に数えるかの判定基準はある程度以上人間に近い姿をしているかということらしい。
でも、激戦区の人数が多めで、人命救助がメインで目立たない方がいいうちのチームが人数少な目になっているので結果オーライだ。

99カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:33:08
【カケル】
>《うん、それならバランスもいいんじゃないかしら。どう?ナユ――》

なゆたちゃん、人数バラバラじゃないかーい!って突っ込んでくれませんかね……!?
……って寝てる!?

>「……寝かしておいてやろうかの」

「えーと、うちのチームは継承者さんは付いて来てくれないんですかね……?」

>「私と兇魔将軍はこのワールド・マーケット・センターにいるわ。
このラスベガスで一番大きな収容施設がここになるから、生存者はどんどんこっちに運んできて頂戴。
怪我人がいれば治療するし、休ませる場所だってあるでしょう。
道中、医薬品や治療道具、食糧……なんでもいいから、役立ちそうなものがあればそれも送ってくれると嬉しいわ」

「……ここを守る人員も必要ですよね。いえ、大丈夫です」

うちのチーム、これで大丈夫なのか――!?
最も戦闘になる確率が低いチームなので戦力的な意味ではなく、
私が心配しているのは「ちょっと部長さん、あれどう思います!?」な状況にならないかということだ。
世界が滅びるかの瀬戸際で呑気に乙女ゲー時空に突入しようものならローウェル大激怒でサ終待ったなしやわ!

>「オレも打って出たいところだが、已むを得ん。
 ニヴルヘイムの同胞たちを発見したら、これを見せてやれ。
 大人しく貴様らに従うはずだ。その者たちも此処へ連れてきてもらおう。
 保証は出来んが、作戦に有用な力を持っている者も確保できるやもしれん」

>「三魔将の割符! あったなぁー、そんなの! オマエまだ持ってたんだ?
 パパから貰ったものなんか全部捨てたと思ってた!」

効果としては水戸黄門の印籠みたいなやつらしい!

>《みんなのスマートフォンからも、マップを閲覧できるようにしておいたわ。
 それから、この回線も常時開放しておくから。生存者がいたら報告して頂戴。
 こちらから『門』を開いて、ワールド・マーケット・センターに収容できるようにするわ》

「行った先からこっちに帰る用の門はいつでも開ける……ってこと!? すごいじゃん!」

行きの行程を省略できないということは、メンバーが誰もいないところへ開くことは不可能なのだろう。
そうだとしても、物凄い効率アップだ。

100カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:34:00
>《探索の際は、こまめにセンターに戻ってきて適宜補給と回復を受けて頂戴。
 それから、連絡は密にね。どんな小さなことでも、何か異常があればすぐに報告して。
 こちらからも常にモニターはしているけれど、相手は未知の敵よ。
 何が起こるかまったく予想できないから》

報告連絡を密にってどこかで聞いたことがあるようなフレーズ……!
ウィズリィちゃんよ、アルフヘイムの魔女っ娘なのに何故に地球の会社員みたいなことを言っているんですかね……!?

>《スキャンしたところによると、このラスベガスにはメトロ――魔法機関車みたいなものかしら? が地下に走っており、
 地下街もあるわ。その下には更に下水道も存在している。
 地上を通らずとも、それらを使用すればラスベガス全体を行き来することは可能そうね。
 ただし――》
>《このワールド・マーケット・センターやマンダレイ・ベイなどのホテルは外から攻撃されても破壊されないと思うし、
 『星蝕者(イクリプス)』に侵入されることもないと思う。
 彼女らにはマップ上の敵を倒すことはできても、障害物として配置された建物を壊すことは出来ない。
 だから、戦闘の際は地形も効果的に使うことが出来るわね。ビルなどで射線を切れば、相手の攻撃は届かないということ。
 でも、先程の戦闘を見るに……マップ上のオブジェクトに干渉することは出来そうだったわね。気を付けて頂戴》
>《それと……メトロや下水道は通常のマップとして認識されているとの結果が出たわ。
 つまり、『星蝕者(イクリプス)』にとっても侵入は可能、ということね。残念だけど》

>「基本は下水道を通っていくことになりそうね。スラムがあるのだったかしら?
 ……エーデルグーテで私たちが『永劫』の賢姉に対抗していたときと同じようなものかしら。
 あのときも、私たちは聖罰騎士の手を逃れて信徒たちを隠し村へ保護するのに、地下に広がる万象樹の根を使っていたから」

「そうだね。我々の行先は一番生存者がたくさんいそうだ……。
ジョン君、敵の情報収集は他のチームに任せてさ、敵がいない下水道で行こう。
一人でも多く助けようね……!」

>「んじゃ、モンキン焼死体チームとバカザハジョンぴチームが下水道を進む間、
 ボクらは真正面から打って出ればいーってコトだな。
 コソコソすんのはボクの流儀じゃないから、ちょーどイイや!
 いっちょド派手にブチかましてやんよ!」

>「作戦は決まりじゃな。
 ならば、善は急げじゃ。さっそく出立を――」


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