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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第九章

607崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/01/30(火) 13:09:39
>しかしだな、俺の見解はこうだ。今のデュエルはすげー楽しかったが――次はもっと楽しくなるぞ

エンバースが不敵に笑う。半分だけ蘇生した、歪な顔で。
常識的な観点だとひどく不気味で不自然な其れは、何なぜだかとても格好良くなゆたには見えた。

>おまっ……ふざっ……ふざけんな!次なんかあるわけねえだろ!!
 おいハイバラ!!こっち向けよ、おい!!楽しくデュエルできて情でも移ったか!?
 またぞろGルートがどうとか寝言垂れやがったらぶっ飛ばすぞ!!

>俺の実力はもう十分に分かっただろ?だから次はお前も最初からフルスロットルでやれる。
 俺は俺でお前の手の内はある程度把握した。次はもっと長く遊べるぞ。
 お互い、上手く切れなかった手札がまだある筈だ。あるよな?俺にはある
>それに多分だけど、フラウもリュシフェールも不完全燃焼だろ?


当然のように明神が反撥し、今にも掴みかからんばかりに食って掛かる。
が、エンバースはお構いなしだ。どころか、これだけ死力を尽くしたデュエルの後だというのに、
もう次のデュエルのことを考えているらしい。
そんなエンバースの良く言えば筋金入りのデュエリスト、悪く言えば空気を読まないデュエル莫迦ぶりに、
さしものミハエルも呆気に取られたような表情を浮かべていたが、

「……ハ……、ハハハ……。
 君はすごいな、ハイバラ。この世界で僕以上にデュエルを愛する人間はいないと思っていたけれど。
 ああ、そうだな……。次も。その次も、デュエル出来るといいな……」

そう、小さく笑ってみせた。
こんなエンバースのマイペースぶりに、マイディアたちリューグークランの面々もさぞかし振り回されてきたのだろう。
カザハもジョンも絶句しているように見える。無理もない反応だ。

>つまりだな、俺はお前を順当に裁かれても困るんだ。だから――心配するな。大丈夫だ。
 やってしまった事。起きてしまった事。俺が全部なんとかしてやる。分かるか?

というのに、エンバースはまったく斟酌しない。まさしく独壇場だ。
そして――

>この世界のエンディングは――俺が決めるって言ってるんだ

絶対王者を下し、晴れて世界最強となった焼死体は、そう自信たっぷりに言い放った。
なんの根拠も後ろ盾もない言葉だったが、その声にはエンバースならひょっとして本当にやってしまうかも、
と思わせるような、不思議な説得力がある。

>カザハ…君の言いたいことはなんとなくわかるよ…だから代わりに僕が言うね

唇をわななかせるカザハの内心を代弁しようと、ジョンが前に出る。

>エンバース!訂正してもらおう…"俺"じゃなくて"俺達”に!

「そこなんだ……」

あんまり緊張感のなさすぎる宣言に、思わず眉を下げて笑ってしまう。
ただし、それはそれで大事なことだ。この物語は自分たち全員のもの。全員が自分の物語の主人公なのだ。
その行く末は、たったひとりが決めていいものではない。
この場にいるかけがえのない仲間たち、そのひとりも欠けずにグッドエンディングを迎える。
そうでなければならない。

>だから答えろ。ローウェルにはどうすれば辿り着ける。なんかあるだろ。
 お前ほどのゲーマーが『このゲーム』の攻略法を考えもしなかった?そんな訳あるか

エンバースがミハエルへ訊ねる。
そこで、なゆたも明神同様やっとエンバースがどういうロジックで物事を進めようとしているのかが理解できた。
余計な差し出口を挟むこともなく、ポヨリンを抱きしめながら事の成り行きを見守る。

>お前の言いたいことは分かったけどよ。望み薄じゃねえの?
 ずっとジジイにおんぶされながらニヴルヘイムを渡ってきて、地球で別れたわけだろ。
 こっち来てからの行方は知らないとか言ってたしよ
>……こいつ、『最初』はどうやってローウェルに接触したんだ。
 VIP待遇で召喚された瞬間ジジイが揉み手してお出迎えしてくれたとか?
 そうでないなら……ブレイブ側から運営にコンタクトをとる手段でもあるのか

「フ……。僕は何ひとつ嘘は言っていないよ。そんな必要ないからね。
 ローウェルの行方は本当に知らない。信じるかどうかは君たち次第だけど」
 
はん、とミハエルは軽く肩を竦めて笑った。
ミハエルの目的は自分に匹敵する強者と心置きなく全力を出し尽くして闘うこと、その一点に尽きる。
ニヴルヘイムから世界大会開催会場であるこのワールド・マーケット・センターに帰還した時点で、
ローウェルの企みに加担する理由もローウェルの動向を把握する必要も、ミハエルにはない。

608崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/01/30(火) 13:15:21
「僕がやったことに関しても、弁解するつもりなんてないさ。
 僕がニヴルヘイムの軍勢を地球へ連れてきた結果、たくさんの人が死んだ。魔物も。
 それが僕の罪で、償わなければならないというのなら受け入れようとも。ただ――
 そんな時間はないと思うけど」

ミハエルは淡々と告げる。デュエルに敗れたことで自棄になっている訳でも、開き直っている訳でもない。
ただ――何か、此方の知らない決定的なことを知っている。そんなふうだ。

「君たちの質問に答えられる者がいるとしたら、それは……このワールド・マーケット・センターの外にいる。
 此処に来るときには見えなかったかい? まぁ、僕との闘いで頭がいっぱいだったというのなら無理もないか。
 でも、今なら君たちにも見えるはずさ……行って確かめてくるといい。
 僕は……もう二度と見たくない」
 
ミハエルはそう言うと、思い出すのもいやだというように自らの身体をぎゅっと両腕で強く抱き締めた。
ブレモン絶対王者の金獅子を以てして『二度と見たくない』と言わしめる存在。
それは、いったい何か?
なゆたはミハエルの様子にただならぬ不安を感じたが、意を決して抱いていたポヨリンを足許に下ろし、拳を握り込むと、

「……みんな、行こう」

と切り出した。
マーケット・センターの外にいる者が何者であるにせよ、それがこの世界を崩壊へ導くローウェルに与する者だというのなら、
知らないふりをすることはできない。
リューグークランとの闘いでスペルカードは使い切っているし、体力だって減っている。
疲労はまるで回復しておらず、休息が必要なのは間違いない。
しかし、休んでいる暇はないのだ。今こうしている間にも、ニヴルヘイムの軍勢と地球の軍隊が戦闘をしているのだろう。
これ以上犠牲者を増やさないためにも、先へ進まなければ――。
そうしてミハエルを会場に残し、ワールド・マーケット・センターを出ようとエントランスホールまで戻ると――

「……ア……、アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』……」

低く呻く声が聞こえる。
なゆたたちがミハエルとの決戦にマーケット・センターへ突入する際、仲間たちと米軍との戦闘を止めるべく、
別行動したはずのイブリースが、広大なエントランスの中央で片膝をつき肩で荒い息を繰り返していた。
イブリースの全身は血まみれだった。暗黒魔城ダークマターでの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』との闘いの後、
傷ついた肉体を回復させ全快したはずのイブリースであったが、再度瀕死の重傷を負っている。
鎧は各所が砕け、屈強な肉体の各所には穴が開き、二対の巨翼は襤褸と化して、負傷していない場所はひとつとしてない。
生きているのが不思議といった有様で、イブリースはなゆたたちを見た。

「イブリース!?」

なゆたは思わず駆け寄った。
兇魔将軍イブリースはニヴルヘイム最高戦力・三魔将のひとり。
いくら地球の軍隊の兵器が強力だったとしても、そうそう簡単にこれほどまでの重傷を負うとは考えづらい。
イブリースの前では、同じく血まみれになったエカテリーナとアシュトラーセが気を失って倒れている。
ふたりとも生きてはいるものの、見るも無残な酷い怪我を負っている。大賢者の弟子たる十二階梯の継承者、
傑出した実力を持つふたりがこうまで傷つくなど、俄かには考えづらい。
外で繰り広げられているニヴルヘイムと米軍の戦闘は、三魔将と継承者の介入さえ撥ね退けるほど熾烈だというのだろうか?
エンデが素早く姉弟子たちに回復の魔法を施す。息も絶え絶えといった様子でイブリースはなゆたたちを見回すと、

「……“あれ”は……。
 “あれ”は、一体なんだ……?」

と、腹の底から憤怒を搾り出すように言った。

「“あれ”……?」

なゆたには、イブリースが何を言っているのか分からない。エンバースや明神たちにも分からないだろう。
しかし。

「最初は、我が同胞たちとミズガルズの者たちが戦闘をしているものと思っていた……。
 ミハエル・シュヴァルツァーの連れてきた、ミズガルズを侵略しようとするニヴルヘイムの同胞たちと、
 それを阻止せんとするミズガルズの者たち……。その両者が相争うのを止めようとしたのだ……。
 だが……そうでは、なかった……」

そこまで言うと、イブリースは大量に吐血した。

「……ニヴルヘイムと……ミズガルズの戦争では、なかった……。
 我が……同胞たちを、蹂躙し……ミズガルズの者たちを……殺戮、する……。
 “あれ”は……いったい、なんな……の、だ……」

ぐらりと巨躯を傾がせると、イブリースは力尽きたようにずずぅん……と音を立てて倒れた。
なゆたは思わず息を呑む。――信じられない光景だった。
あのイブリースが、アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』全員が総力を結集させ、
やっとの思いで退けたほどの強敵だった兇魔将軍が、目の前で血まみれになって昏倒している。
それに、イブリースの残した“あれ”という言葉。
ミハエルが二度と見たくないと言った何者かと、其れは同一の存在なのだろうか?
不吉な予感に胸が締め付けられる。身が竦む。
けれど――立ち止まってはいられない。

「レッツ・ブレイブ……!」

己を鼓舞するように呟くと、なゆたはエントランスホールの出口を潜った。

609崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/01/30(火) 13:23:38
目の前に、惨状が広がっている。

破壊され半ばから倒壊したビル群に、墜落した戦闘機の残骸。ひしゃげた戦車、炎上し黒焦げた車両。
そこかしこに米軍とおぼしき兵士の亡骸。逃げ遅れ戦闘に巻き込まれたらしい一般人の遺骸は数えきれない。
被害はミズガルズ――地球ばかりではない。ニヴルヘイムの魔物たちの死骸も、あちこちに転がっている。
キュクロプスやゴブリン、グリフィン、ワイバーン、オーク――ブレモンではおなじみのモンスターたち。
無残な鏖殺の跡。建物はまだちろちろと火を残して燃え燻っており、火災の煙と濃厚な血臭で噎せ返りそうだ。
見渡す限りの焦土。
けれども、それは侵略者となったニヴルヘイムの魔物と、侵略に立ち向かう米軍が激突した結果――ではなかった。

「……なんて、こと……」

なゆたは瞠目した。
戦闘の痕跡は確かにある。執拗で徹底的な破壊と根絶の証が。
だが、ニヴルヘイムとミズガルズの両軍が殺し合ったという痕跡はない。
つまり。
ニヴルヘイム軍と米軍は『お互い以外の者に殺された』ということだ。そして――

なゆたたちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は、それを見た。

『インデペンデンス・デイ』という映画がある。
世界中の主要都市の上空に地球外生命体の乗った巨大なUFOが出現し、無差別攻撃を始める――という映画だ。
『宇宙戦争』という映画がある。
こちらも地球外生命体が落雷と共に現れ、世界中の都市へ侵略攻撃を仕掛けてくるという内容である。
そして。今、なゆたたちの目の前に広がる光景は、それらの映画の中に出てくるシーンと酷似していた。

黒く渦巻く分厚い雲の隙間から、黄金色の光が降り注いでいる。
そしてその光を背に、全長数キロにも見える巨大な円盤状の何かが幾つも空に浮かんでいる。
円盤だけではない。葉巻状、キューブ状、中には飛行機のような翼を持っていたり、艦船のような形状のものもある。
空をほとんど埋め尽くす数のそれらは多くのバリエーションがあり、形も大きさもバラバラだったが、
何なのかはすぐに理解できた。あたかもなゆたたちを睥睨するように浮かぶそれら、
聖書に記された終末の刻に降臨した裁きの天使たちのように、一種の神々しささえ纏って群れ成す者たち。
それはアルフヘイムともニヴルヘイムとも、ましてやミズガルズとも違う――







外の世界から来た船団であった。


【『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』頂上決戦終了。
 イブリース、エカテリーナ、アシュトラーセは瀕死の重傷。
 ワールド・マーケット・センター上空に正体不明の船団出現。
 第九章完。】


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