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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

1 ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:10:47
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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2 ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:11:30
【キャラクターテンプレ】

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【パートナーモンスター】

ニックネーム:
モンスター名:
特技・能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


【使用デッキ】

合計20枚のカードによって構成される。
「スペルカード」は、使用すると魔法効果を発動。
「ユニットカード」は、使用すると武器や障害物などのオブジェクトを召喚する。

カードは一度使用すると秘められた魔力を失い、再び使うためには丸一日の魔力充填期間を必要とする。
同名カードは、デッキに3枚まで入れることができる。

3崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:16:13
黄金色に実った麦畑が、見渡す限り続いている。
アルフヘイム屈指の農業地域、穀倉都市デリントブルグの誇る広大な田園だ。
デリントブルグの産出する農作物はアルメリア王国内のみならず世界各地へと輸出され、人々の腹を満たしている。
肥沃な大地によって良質な食物を大量に収穫できるデリントブルグは、まさにアルフヘイムの胃袋と言っていい。
そんなデリントブルグ田園地帯のあぜ道を、ゴトゴトと車輪を軋ませながら幌馬車が通る。
アコライト外郭での戦いを終えたアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちは、
ユメミマホロに別れを告げ、ジョンの『ブラッドラスト』の呪いを解くと同時にプネウマ聖教の協力を得るため、
一路万象樹ユグドラエアの麓に位置する聖都エーデルグーテを目指していた。
まずはエーデルグーテへと渡る紺碧湾都アズレシアへと至るため、橋梁都市アイアントラスへと向かわなければならない。

「はぁ〜……、のどかですなぁ〜」

幌馬車の御者台で手綱を握りながら、なゆたは大きく伸びをした。
アコライト外郭を出発してからというもの、天気は快晴、気温も快適。
景色はどこまでも続く牧歌的な田園風景と、とにかくのんびりした時間を過ごしている。
デリントブルグはゲームでも割と序盤に足を運ぶ場所のため、目立って警戒すべきモンスターも存在しない。
エーデルグーテを目指してはや四日ほどが経過したが、襲撃らしい襲撃も皆無である。
昼間はあぜ道に沿ってアイアントラスへの道を進み、陽が沈んだら野営する。
食糧や日用品は馬車に満載したし、各『異邦の魔物使い(ブレイブ)』のスマホのインベントリにも入っている。
もう、ガンダラの試掘洞のように歯ブラシ味の缶詰肉を食べなくてもいいし、旅は快適そのものだ。
バロールによって地球から無理矢理アルフヘイムに召喚されて以来、
なゆたは初めてと言ってもいい平和を満喫していた。

《あはは、ピクニック気分やなぁなゆちゃん。
 うちもその景色には親近感覚えるわ〜。実家を思い出すってこういう感じやろか?
 ほやけど油断したらあかんえ? 平和に見えても、何が起こってるかわからへんよってなぁ》

「はぁ〜い」

みのりに通信で窘められ、なゆたは大きく振り上げていた腕を下ろした。
そして、前方の景色に注視する。――もっとも、変わり映えしない一面の麦畑で危険も何もあったものではない。

《ま、うちも周辺のことはモニターしとるさかい、心配あらへんとは思うけど……。
 エンバースはんやカザハちゃんもおるし、第一ここいらのモンスターならみんなの敵やないやろしねぇ。
 それより、問題は――》

そう。
物理的な脅威よりも、なゆたたちにはもっと逼迫した脅威がある。

ジョンだ。

結局ジョンはアコライト外郭で他のメンバーが準備を整えている間、ずっと地下牢に入っていた。
それから、夜な夜な壁に向かって叫んでいるジョンの姿が兵士たちに目撃されている。なゆたもそれを聞いた。
帝龍との戦いが終わった際の状況と同じだ。ジョンはずっと、見えない何かへと語りかけている。
恐らく――かつて彼が殺したのであろう相手と。

また、ジョンは地下牢の石壁を殴りつけるという行為も繰り返していた。おかげで牢の中はボロボロである。
誰の目から見ても、ジョンの精神状態が危機的状況だというのは疑いようがない。
その原因がブラッドラストにあるのだとしたら、早急に手を打たなければならない。
時間が経てば経つほどその症状は重篤になり、いずれ彼は死ぬだろう。
文字通り、この旅は時間との戦いだった。

単に強大なモンスターを倒せというクエストなら、比較的簡単だ。自分が強くなればいいだけなのだから。
しかし、今パーティーが戦っている相手はモンスターではなく――『時間』である。
こればかりは鍛錬ではどうにもならない。
ゲームの中のクエストならカウントダウンが表示されているかもしれないが、この世界は現実。親切な表示は何もない。
一年後か、それとも明日か……ジョンがいつ血の終焉を迎えてしまうのかは、誰にも分からないのだ。

――今は……とにかくジョンを刺激しないようにしなくっちゃ。

ブラッドラストは戦闘スキルだ。それを使わせないためには戦闘をしなければいい。
戦いを連想させることも極力避ける。ジョンにはこの旅の最中、常に心穏やかでいてもらわなければならない。
モンスターのエンカウント率が極端に低いのが幸いした。それに、みのりの言うとおりエンバースとカザハもいる。
カケルに乗って哨戒するカザハが敵をいち早く発見し、エンバースがそれを屠る。
それで今のところは上手く行っている。今後もこのままの体制を維持できればベストだろう。

4崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:19:08
カザハとカケルが索敵、エンバースは敵がいた場合の迎撃担当。
明神は幌馬車の荷台後方に座って背後を警戒し、ガーゴイルに跨ったガザーヴァがそれに続く。ジョンは馬車の中で待機。
パーティーは各々役目を持っているが、その中でなゆただけが浮いている。
一応、御者台に座って馬の手綱を持ち、幌馬車を操っているという建前だが――馬は御者がおらずとも勝手に進む。
道は一本しかないのだから、よほど緊急の事態が起こらない限りはなゆたが何かしなければならない状況にはならなかった。
が、だからと言ってこのまま田園風景をボーッと眺めていていい、ということではあるまい。

とすれば――

「あー、おしり痛い! わたし休憩ー! エンバース、ちょっとここ代わってもらっていい?
 カザハと一緒に前方警戒よろしく!」

「……ああ」

当然、農道はアスファルトで舗装されていたりはしない。なゆたはゴトゴト揺れる馬車に座り続ける苦痛を訴え、
馬車の横を歩いていたエンバースに頼むと、御者台から後方の幌の中へと入った。
薄暗い幌の中には食料や日用品、人数分の毛布などの旅に必要な荷物が置いてある。
そして、ジョンの姿も。

「ジョン、遊びに来たよ〜」

幌の入り口にかけられた垂れ布をめくって中に入ると、なゆたはジョンに声をかけた。
大きな荷台の前方と後方にある入り口には垂れ布がかけられ、外界と隔絶されている。
万一の襲撃の際、ジョンが余計なものを見ないための備えだ。

「ごめんね、こんなところに押し込めて。ジョンも外の空気を吸いたいと思うんだけど……もう少しだけ辛抱して。
 アイアントラスに到着して魔法機関車と合流すれば、こんなこともしなくてよくなると思うから……」

そう慰めるように言ってみるものの、正直な話それも定かではない。
確かにアイアントラスへ到着すれば今よりも境遇はマシになるだろうが、彼の症状が良くなるわけではない。
それどころか時間経過によって悪化している場合も想定される。そうなれば、今より厳重な拘束もする必要が出てくるだろう。

「ここ、座ってもいい?」

なゆたはジョンの隣を指さすと、許可を得る前からそこに座った。
横座りの楽な姿勢で、荷物に凭れてジョンを見る。

「もし、何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってね。外に出すことはできないけれど――
 それ以外のことなら、出来るだけ叶えるから!」

なゆたはぐっ、と拳を握ってガッツポーズをしてみせた。
とはいえ、馬車の中でできることなどタカが知れているだろう。

「……どうして、僕のことを見捨ててくれないんだろう。
 どうして、こんなに世話を焼くんだろう。いつ暴走するかもしれない僕のために……
 って。思ってる?」

揺れる馬車の中で、なゆたは不意に訊ねる。

「ジョンは言ったよね。アコライトで――
 旅に僕は必要ない、って。
 それは違うよ。わたしたちの旅にあなたは必要なのか、それとも必要じゃないのか。
 決めるのはあなたじゃない……わたしたちだよ」

人の価値というものは、自分自身で決めるものではない。
例え100人中99人が不要だと。いらないという判断をしたとしても、たったひとりが必要だと――そう言うのなら。
その人には価値がある。なゆたは父からそう教わっていたし、自身そう信じてもいた。
そして。なゆたはジョンのことを必要だと思っている。
なゆただけではない、明神も。カザハも、エンバースもそうだろう。だとしたら、悩む要素はどこにもない。

「それにね。ぶっちゃけちゃうと、わたしはジョンのためにこうしてる訳じゃないんだ。
 わたしは、わたしのためにジョンを助けようと思ってる。
 アコライトでエンバースが言ってた。マホたんはわたしたちを守るため、守備隊のみんなを守るため、命を懸けてもいい……。
 そう考える自分のため、自分の望みのために死んだって。
 わたしもそう。あなたを助けるため、出来る限りのことをしたい。全力を尽くしたい。
 そう考える自分のため、自分の望みのためにそうするんだよ」

ね。
そう言って、なゆたはにっこり笑った。

5崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:23:31
「……わたしね。お母さんがふたりいるんだ」

ほんの少しの静寂を挟んで、なゆたは静かに話し始めた。

「ひとりは、わたしを産んでくれたお母さんで……もうひとりは、わたしを育ててくれたお母さん。
 わたしは……どっちのお母さんも、とっても好きだった」

軽く幌馬車の天井を見上げ、なゆたは過去の思い出を手繰るように言葉を紡ぐ。
地球にあるなゆたの家に、現在母と呼べる存在はいない。
なゆたの生母はなゆたが小学校低学年のころに離婚し、家を出ていった。
多数の檀家を抱える寺の住職で、新興宗教の教祖ばりの弁舌を用い日々豪遊に明け暮れる浪費家の父と、
平凡な一般家庭で育った母の夫婦生活は上手くいかなかったらしい。
生母はなゆたが幼いうちに家を去ったため、なゆたは生母から母らしいことは何もしてもらえなかった。
父ひとり、子ひとりのさみしい家庭。母の愛を知らない娘。

そんななゆたに母親の愛情を教えてくれたのは、隣家に住む幼馴染――赤城真一の母親だった。
なゆたの父は寺の仕事が忙しく、母屋にいることがほとんどない。
いつもひとりぼっちのなゆたを不憫に思ったのか、真一の母親は頻繁になゆたを赤城家へ招き、
またそうでないときは自身が隣の崇月院家へ出向いては、なゆたに惜しみなく母親としての愛情を注いだ。
本来娘が母親から伝授されるであろうすべてのこと、掃除、洗濯、料理、家事全般――を、なゆたは真一の母親から教わった。
赤城家の好物であるハンバーグの作り方も、秘伝だとこの母親に教えてもらったのだ。
幼いころに自分を捨てていったものの、生みの母親とは今では時々外で会う程度には仲良くやっている。
しかし、なゆたにとって本当の意味での母親は、生みの母親ではなかった。

「一緒にいるときは、おばさんって呼んでたけど。
 心の中では、ずっとお母さんって呼んでた。
 お母さんはきれいで、優しくて、でも時々厳しくて、柔らかくて、とってもいいにおいがして……。
 一緒にいるだけで幸せだった。わたしの憧れだった。
 わたしは将来きっと真ちゃんと結婚して、お母さんは本当にわたしのお母さんになるんだ。
 誰に気兼ねもしないで、お母さんって呼べるんだって。ずっと楽しみにしてたんだ――」

だが。
なゆたのそんな願いは、叶うことなく終わった。

なゆたが中学二年生の時、真一の母親が病に倒れたのだ。
難病だった。今まで聞いたこともないような病名で、臨床サンプルにするのだと連日多数の医師が入院した母の病室を訪れた。
静かな闘病の時間は、母には与えられなかった。

「真ちゃんは不良になってて、おじさんには仕事があって。雪ちゃんはまだ小さくて――
 お母さんの看病ができるのは、わたしだけだった。
 わたしはできる限り時間を作って、お母さんのお見舞いに行ったよ。お医者様にお願いして、宿泊許可を貰って。
 病院からそのまま学校へ行ったこともある。
 大変だったけど……でも、それでよかった。少しでもお母さんと一緒にいたかった。看病したかった。
 その苦痛をほんのちょっぴりでも、取り除いてあげられたなら……そう、思ってた」

だが、医療技術も看護資格もない中学生が甲斐甲斐しく病人の世話を焼いたところで、何になるだろう?
母親はみるみるやつれていった。医師たちが試しにと使用した新薬の副作用で髪は抜け、肌は乾き、往時の美貌は永久に喪われた。
それでも安寧は訪れない。母へ死後の献体に関する署名を迫る医師を、なゆたは花瓶を振りかざして追い払った。

「お母さんね……わたしの前じゃ、絶対に苦しいとか。つらいとかって言わないんだよ。
 投薬の副作用で、のたうち回りたいくらい苦しいはずなのに。死にたいくらい痛いはずなのに。
 わたしの顔を見たら、決まってこう言うの……『なゆちゃんの顔を見たら、元気になっちゃった』って……。
 浅い呼吸のままでね……」

なゆたの懸命の看護も虚しく、母親は発症して一年と二ヶ月後に亡くなった。
献体を提供はしなかった。なゆたは実父に乞い、少々強引な手段で病院から遺体を引き上げると、実家の寺で荼毘に付した。

「お母さんが亡くなる二日前に、わたしを枕元に呼んでね。
 身体を起こすことさえつらいだろうに、わたしの頭を胸に抱いて、こう言ったんだ。
 『なゆた、わたしのかわいい娘』って。
 『あなたのお陰で、とっても幸せだった。これからも、その優しさをみんなに分けてあげてね』って――」

母にとっては、それは心よりの言葉だったのだろう。
今わの際に悔いを残さぬように。母として与えた愛情に倍する、与えられた娘としての愛情に対する感謝。
だが――

6崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:26:11
「でもね――わたしは言えなかったんだ。『お母さん』って――お母さんは、わたしのことを娘って言ってくれたのに。
 わたしにもお母さんって。そう言って欲しかったはずなのに。
 わたしは言えなかった……あんなにも、お母さんの本当の娘になることを望んでいたのに……」
 
ジョンに語るなゆたの声が、かすかに震える。
母親が最後に言った言葉、それは紛れもなく遺言だった。
なゆたはそれを認めたくなかった。だから、だからこそ、母親の無言の要求に応えられなかった。
そこで『お母さん』と言ってしまったら、遺言を認めたことになる。彼女が死ぬことを認めたことになってしまう。
母親と一緒にこの先の未来を生きることを、諦めることになってしまう――。

結局、なゆたが声に出して『お母さん』と言ったのは、母親の棺の前でだった。
母親の棺に縋りつき、なゆたはそこで真一や遺族が見ているのも構わずお母さんと何度も呼んでは号泣したのだ。

「今でも夢に見ることがあるよ……お母さんの夢。元気だったころ、一緒に料理を作ったお母さんの夢と……
 病院のベッドで横になったお母さんの夢、どっちも。
 姿は全然違うけど……でも、どちらのお母さんもわたしを見つめてる。
 そんな夢を見るのは。わたしがまだ、そのときのことを引きずっているから……なんだろうね」

視線を落とし、なゆたは呟くように言った。

「お母さんって呼ぶべきだったのか、それとも呼ばない方がよかったのか。
 あのときのわたしは、答えを出せなかった。今も出せない。
 でも――これからまた同じような状況になれば、ひょっとしたら。答えが出せるのかもしれない。
 だから、わたしはこれからも人を助ける。お母さんが望んだように。わたしが望むように。
 ……ジョン、わたしがあなたのことを見捨てないのは、そういう理由だよ。
 わたしはわたしのことしか考えてない。
 単なるエゴで、あなたを救って。気持ちをすっきりさせたいだけなんだ」

全然優しくなんてないでしょ? そう言って眉を下げ、困ったように笑う。
だが、それで軽蔑されるようなことになったとしても、それはそれで構わない。
人間は行動に理由を求める。とにかく助けたい、理由もなく救いたい、ではジョンも納得できないだろう。
なゆたはジョンに胸襟を開くことで、彼が守られる理由を明示した。
それを聞いたうえでジョンがなゆたのことをどう思うかは、彼次第ということだ。

「わたしの力で誰も彼も救おうなんて、そんな神さまみたいなことを考えるほど自惚れてはないけれど。
 でも、このまま困っている人たちを助けて。出来る限りの、救える限りの人たちを救っていければ。
 何かを見つけられる気がする、何かが分かる気がする……。
 それはまだ、どんなものかさえ分からない。見当もつかないんだけど。
 それでも絶対あるはずなんだ。
 わたしの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としての戦いは、わたしの気持ちにケリをつける戦いでもあるの。
 付き合ってもらうわよ……ジョン。最後まで、わたしのこの戦いにね。
 ドロップアウトなんて、絶対許さないから!」

右手の人差し指でジョンを差し、それから茶目っ気たっぷりにウインクしてみせる。
そして後ろ頭を掻きながら、照れ臭そうに笑う。

「なんか、わたしのことばっかりベラベラ喋っちゃってゴメン! 退屈だった?
 わたしそろそろ戻るね。休憩とか言ってぐうたらしてばっかりだと、エンバースに怒られちゃう。
 それじゃまたあとで!
 エンバース、お待たせー! 休憩終わり! 手綱代わるねー!」
 
軽く片手を振ると、なゆたは元気よく幌を出ていった。

7崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:30:19
「あーぁー、ひーまー! ひまひまひまひま、ひぃぃ〜〜〜〜まぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」

パーティーの最後列でガーゴイルに跨っているガザーヴァが、辺り憚らず不平を漏らす。
アコライト外郭での復活劇からアルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に加わったガザーヴァだが、
今はトレードマークの黒甲冑を纏わず、軽装のままで同行している。
出発当初は敵襲を警戒するのと、戦いに備えて――ということできちんと鎧を着こんでいたのだが、それも二日で飽きた。
尤も、仮にモンスターが現れたとしてもこの近辺のモンスターはガザーヴァなら指で捻れるレベルである。
ゲームの中でプレイヤーと激戦を繰り広げたレイド級ボスモンスター、ニヴルヘイム最高戦力の一角という肩書は伊達ではない。
ということで、戦いもなく警戒する必要さえないガザーヴァは退屈を持て余し、だらけきっていた。
そのため、とりあえず近くにいる明神に対し、

「ねー明神、なんか面白い話して」

とか、

「ちょっとそこら辺の畑に火ぃつけてみない? ヒュー! おもしろそー!」

とか、

「あっち向いてホイしようず。負けたら槍で刺されるかほっぺにちゅーするかの二択で」

とか、ひっきりなしに話しかけている。
元々落ち着きのない性格で、脈絡もなくついでに理性も常識も通用しない喋り方からプレイヤーをイライラさせるのに定評がある。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に味方することを決めたからと言って、ウザさが解消されるわけではない。
三つ子の魂百まで、である。
ガザーヴァはしばらく馬腹を無意味に蹴ってガーゴイルをイラッとさせたり、
鞍の上で逆立ちしてみたり、突然歌を歌ってみたり(妙に上手い)、暇つぶしをいろいろと試行錯誤していたが、

「そーいえば、お前アコライトでパパに十二階梯の継承者は仲間じゃないのかーって言ってたけど」

と、思い出したように口にした。

「ホントにそう思ってんの?
 お前、ゲームやってたんだよな? 地球でブレモンのプレイヤーだったんだろ?
 なのに、そんなことも分かんないのかよ?」

さらにガザーヴァは言い募る。

「あいつらはパパの仲間なんかじゃないぞ。
 連中が従うのは正義とか悪とか、アルフヘイムとかニヴルヘイムとか。そんなんじゃなくて――
 ただ、大賢者ローウェルの意志だけ……だからな。
 モーロクじじいの意に沿うならアルフヘイム側にもなるし、ニヴルヘイム側にもなる。
 じじいの集めた、じじいの忠実な駒。それが十二階梯の継承者ってこと。オーケイ?」

まー、そんなじじいにも従わないよーな出来損ないもいるけどさー。とガザーヴァは両手を頭の後ろで組んで言った。
ゲームの中では、十二階梯の継承者たちはプレイヤーの選択肢によって敵にも味方にもなる。
徹頭徹尾味方というスタンスを取るのは『虚構の』エカテリーナくらいのものだ。
実際、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはゲームの中でデリントブルグに侵攻した『覇道の』グランダイトと戦ったはずだし、
魔王バロールの護衛を務める『真理の』アラミガとも幾度となく矛を交えたはずである。
決して、十二階梯の継承者は協力者ばかりではない。
そして――

「これからは、敵はニヴルヘイムの連中ばっかりだと思わない方がいいと思うよー?
 黎明あたりはじじいの意図に反してるパパのこと殺したくて仕方ないだろーしー。
 アイツ、じじいにどっぷり心酔しちゃってるからさ。
 そんな黎明の息のかかった禁書とかが攻めて来たって全然おかしくないもんなー」

ガザーヴァは何でもないことのように、ひとつの重要な情報を零した。


『バロールは大賢者ローウェルの意図に反している』。


当初、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちはバロールもローウェルも一貫して『侵食』に対抗するため動いていると思っていた。
しかし、ふたりの目的は異なっており、特にバロールは明確にローウェルの思惑とは違う行動を取っているという。
だが――そういうことであれば、キングヒルで初めてバロールに会った際に彼が言っていた言葉も辻褄が合う。

『え? そうなの? どこでそんな話を聞いたんだい? ご老人に会った……んじゃないよね?』
『聖灰たちには指示を出しているみたいだし、師は師で侵食に対していろいろ考えているんだと思うが――』

バロールはローウェルがどこにいるのか把握していなかったし、ローウェルが何をしているのかも確認していなかった。
当時は単なる連携の不備かと思っていたが、両者が反目あるいは敵対しているというのなら、分からないのは当然だ。

そう。

最初から、明神たちの認識はズレていたのである。

8崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:35:23
「えーっ? 知らなかったのかよ?」

ガザーヴァは意外そうに驚いた表情を浮かべた。

「パパがあのモーロクじじいの言うことなんて聞くかよ。トーゼン刃向かってるよ、刃向かうしかないじゃん。
 てーか、そもそもパパがじじいのくたばったショックで悪堕ちしたとか超ウソんこだし。
 あんなん、連中がパパを悪者に仕立て上げようとして都合よく捏造した大本営発表に決まってるだろ!」

ははーん! とガザーヴァは肩を竦めた。
それから、ちょうどいいヒマつぶしのネタを見つけたとばかりに熱っぽく話を続ける。
バロールは話したくなかったのか、まだ時期尚早と思っていたのか――のらりくらりと明神の追及をかわしたが、
おしゃべりで有名なガザーヴァにそんな忍耐を要求する行為ができるはずもなかった。
おまけにガザーヴァは誰よりもバロールの近くでその行動を見てきた、文字通りの生き証人である。

「お前ら、パパの目的も分かんないままパパの下で働いてたのか……。きゃはッ、まぁそれはそれでいっか!
 そんで? パパがローウェルと敵対してる事実が明るみになって、十二階梯が敵になるってのが分かったワケだけど。
 どーすんの? 今からでも行先変えて、じじいに仲間にして下さいって言いに行く?
 間違って魔王の傘下になっちゃってました、ゴメンなさーいって?」

くくッ、とガザーヴァは真紅の目をチェシャ猫のように細めて嗤う。
こういうときのガザーヴァは心底楽しそうだ。基本的に混乱を好む、根っからの『混沌・悪』属性である。
バロールは確かに酷薄な人物であるし、犠牲を厭わない非情なところがある。
人好きのする笑顔とフニャフニャした態度で誤魔化されがちだが、すでに多くの罪を犯している。
……しかし。

「パパが悪党だからって、ローウェルが善人だとは限らないよなー?」

そうだ。
物語の世界ならともかく、現実の世界では単純な勧善懲悪の構図は成り立たない。
アコライトで帝龍が十二階梯から助力を受けている旨の発言をしたこと。
敗北した帝龍のスマホがアルフヘイムに鹵獲されないよう、マリスエリスと思しき狙撃手によって破壊されたこと。
それらの状況から推察するに、十二階梯の何名かは確実に現在ニヴルヘイムに手を貸している。
一方でバロールに手を貸す十二階梯は存在しない。それは、ローウェルの意図がニヴルヘイム側にあることを意味している。
アルフヘイムに侵攻し、すべての破壊を目論むニヴルヘイムのどこに正義があるのだろう?
或いは、明神たちの想像さえできないマクロな観点から、何事かを推し進めようとしているのか――。

「じじいのやろうとしてることは知らんけど、パパのやりたいことなら分かるぞ。
 パパの目的は今も昔も変わらない……パパはこの世界を守りたいだけなんだ。
 このアルフヘイムと、ニヴルヘイムと、そして地球の三界。
 それがずっと続いていけばいいと思ってる。
 もっとも、パパにとって大切なのはこの『世界』、つまり器であって、その中身……ヒュームとかモンスターとかは、
 さして重要じゃないんだけどさ」

バロールは創世の魔眼を持つがゆえ、神にも等しい視座を有する。
だが、その視座には欠点も存在する――世界全てを見通せる代わり、あまりに小さなものに焦点を当てることができないのだ。
そのためバロールはひとつひとつの命を重視できない。『種族を構成する単位のひとつ』としか認識できない。
人間がシムシティやシムアースなどの環境ゲームをするときと同じだ。
それらのゲームにおいて人間の個々の人格などは反映されず、ただ総人口数がウインドウに表示されるだけであろう。
だからこそ、使えないと思った者を平然と切り捨てられる。
バロールはその視座でもって『一巡目』でもこの世界を救おうとした。
その最短の方法としてアルフヘイムに侵攻し――魔王と呼ばれ、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』に討伐され、死んだ。

だが、それで果たして世界は平和になっただろうか?
真一の垣間見た幻視では、バロール亡き後ニヴルヘイムを滅ぼしたアルフヘイムの民は地球へ侵攻している。
バロールが死亡することで、最悪の結末のフラグが立ったのだ。
そして、何者かが禁じられた魔法『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』を発動し、すべてが巻き戻った。

「パパがこの二巡目でも死ねば、間違いなく一巡目と同じことが起きるだろーな。
 単に地球に攻め込む連中がアルフヘイムからニヴルヘイムに変わるだけさ。
 ローウェルの目的なんて知らないし、ぜんぜん興味もないけど、連中はどうしてもそれをやりたいみたいだ。
 パパをやっぱり悪者だった! って決めつける前に、連中の目論見を暴くのが先だと思うけどね。ボクはさぁー」 

そう言うと、ガザーヴァはさんざん喋り倒して満足したらしく、ガーゴイルに縛り付けたザックをまさぐってお菓子を食べ始めた。
単に所属をアルフヘイムに変更しただけで、一巡目としていることが全く変わらないバロール。
一方ニヴルヘイム陣営に手を貸し、地球侵攻に繋がる何事かを成し遂げようとしている大賢者ローウェル。

どちらが正しいとも、間違っているとも言い難い状況のまま、荷馬車はアイアントラスへ向けて進んでゆく。

9崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:38:14
「……なあ、フラウ。いい加減に機嫌を直したらどうだ」

馬車の右側を歩きながら、黒ずくめの焼死体がスマホの中のフラウに話しかける。
その声は小さく、他人には聴き取れない。

《お言葉ですが、機嫌は悪くありません。ただ自問自答しているだけです》

スマホの中からフラウが返す。無機質な、冷淡とも取れる声音だった。
アコライトでフラウはそれまでのパートナー、マスターであった男と離別した。
今、フラウに向かって話しかけている男は、マスターとそっくり同じ外見で、同じ記憶を有し、同じ感覚を有する――
しかし、マスターとは違う存在だった。
外見も中身も、何もかもが同一であれば、それは同じ人物ではないのか?
フラウはスマホの中でそれをずっと考え続け、そして――暫定的にひとつの結論を出した。
そうではない、と。

ユメミマホロがいい例だ。アコライト外郭の帝龍との戦いで、マホロは我が身を犠牲にして活路を開き、死んだ。
現在アコライト外郭にいるのは、死んだユメミマホロとまったく同じ記憶と外見を有する別人。二代目ユメミマホロだった。
それと同じことがエンバースの身にも起こった、ただそれだけだ。

「もう過ぎたことだ。不可逆的な事象を振り返ったとしても、それは感傷でしかない。違うか?」

《あなたに聞かせてやりたいものです。そのセリフ》

過去の未練、妄執、悔恨がすべてだった、かつてのエンバースに。
そんなフラウの皮肉を、今のエンバースは無機質に受け流す。

「……共感しろとは言わないさ。ただ、慣れろ」

《善処します。何年かかるか分かりませんが》

会話はそれで終わった。
そのまま、一行は大した障害もなく農道を進んでゆく。

《なゆちゃん、みんな、聞こえとる? この先、あと4kmくらいの場所に小さな村があるみたいやねぇ。
 今日はそこに泊まるのがええんちゃう? 長旅やからね、野営ばっかりじゃ疲れてまうやろし。
 体力は極力温存していかなあかんえ?》

「そうだね、そうしよう。わたしもお風呂に入りたいし……」

なゆたは小さく頷いた。
夕刻になり、太陽がゆっくりと遠くに見える山の向こうへ沈んでゆく。
茜色の夕映えが黄金色の麦穂を、まるで火のついたように真っ赤に染め上げている。
そう――

『火のついたように』。

「……ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

くんくん、と鼻をひくつかせ、御者台のなゆたが怪訝な表情を浮かべる。
最初は夕照の赤さかと思っていたが、違う。実際に麦畑が燃えている。その証拠に遠くで黒煙が空へと立ち昇ってゆくのが見えた。
それは瞬く間にその量を増してゆき、やがて猛火となって周囲に燃え広がっていく。

「これは……!」

自然災害か、それとも野焼きの火が燃え移ったか。いずれにしても放っておける事態ではない。
ガザーヴァが慌てて両手を振る。

「ボ、ボクじゃないぞ!? ボクはやってないからな! 無罪! ノットギルティ!」

「消火しなくちゃ、早く! みんな、炎がこれ以上燃え広がらないように食い止めて!
 わたしに時間をちょうだい、ゴッドポヨリンで一気に消し止めるから!」

なゆたは素早く御者台から飛び降りると、スマホを取り出しスペルカードを切った。
水属性のレイド級モンスターであるG.O.D.スライムならば、大規模火災であっても消火することは充分可能だろう。
ただ、ゴッドポヨリン召喚には時間がかかる。パーティーはそのための時間稼ぎをしなければならない。

「これ以上焼けるのは御免蒙りたいな」

エンバースがスマホからフラウの触手を召喚し、燃える麦の穂を刈り取って延焼を防ぐ。
ガザーヴァも闇属性の魔法を駆使し、炎を闇に呑み込ませ鎮火を図る。
しかし。

「思ったよりも火勢が強い……!」

見渡す限りの麦畑に対し、火災に当たる『異邦の魔物使い(ブレイブ)』はたったの6人。
ゴッドポヨリンが召喚されない限り、燃え広がる速度の方がずっと早い。
そして――

10崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:41:27
チュンッ!

消火活動に当たるカザハの右頬を、突然飛来してきた何かが掠めた。
カザハの頬が薄く切れ、血が滲む。もし直撃したとしたら、きっと甚大なダメージを負っていたことだろう。
それは明らかに何者かによる攻撃だった。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちを、さらに遠距離よりの飛来物が襲う。

「狙撃を受けてる……!」

なゆたの脳裏を、アコライト外郭の戦いの最後で帝龍のスマホを破壊した狙撃手の存在がよぎる。
『詩学の』マリスエリス――
大賢者ローウェルの高弟、十二階梯の継承者のひとり。
アルフヘイム最高戦力のひとりに数えられ、ゲームでは幾度となくプレイヤーを助けてくれた、魔弾の射手。
もしも彼女がバロールに味方するなゆたたちを敵と認識していたとしたら、襲撃を受けてもおかしくはない。

麦畑に放火し、炎と煙、熱でパーティーを包囲しながらの狙撃。
周囲の被害というものをまるで度外視した、非情な戦法だ。だがこの上なく有効である。
なゆたたちは火を放ってはおけない。自分たちだけ安全な場所に逃げるという手段を好まない。
何とかして炎を鎮めようとする。結果的にこの場に釘付けになることになり、襲撃者への対処もままならない。
襲撃者はなゆたたちの手の届かない場所から、悠々とパーティーを狙い撃ちにすればいいだけだ。

「く……、こんな、ところで……!」

麦畑の燃える猛烈な炎を前に、馬車を曳いている馬が怯え棹立ちになっていななく。
煙を吸い込まないように口許を押さえながら、なゆたは歯を食い縛った。
ゴッドポヨリン召喚までには、あと数ターンはかかる。
だが、このままではその前にみんな炎に巻かれて全滅するのは明らかだった。

――間に合わない――!

少し前までののどかな日常から一転、絶望的な状況に立たされる。
各人の奮闘も空しく、燎原の火は留まることなく燃え広がってゆく。事態を収拾する効果的な方策は存在しない。
なゆたは思わず空を仰いだ。

しかし、次の瞬間。

「スキル! 『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』!!」

どこかから、そう声が聞こえた。
そして、火災に抗う『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちの頭上に一体の巨大なモンスターが出現する。
光背を輝かせ、王冠と神の金環を頂き、三対の翼を持った巨大な黄金のスライム。

G.O.D.スライム――

『ゴオオオオオオオオオオオム!!!!』

G.O.D.スライムは純白の翼を一打ちさせると、その全身からスプリンクラーのように莫大な量の水を撒き始めた。
『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』。G.O.D.スライムの持つスキルのひとつである。
本来は水属性の全体攻撃だが、それを消火のために使用している。
その水量たるや、地球最大の滝であるエンジェル・フォールの名を冠するに相応しい。
あれほど燃え広がっていた炎は、ものの5分ほどですっかり消え失せてしまった。
麦畑の火災が鎮まると、何者かからの狙撃も止まった。
恐らく、火が消し止められ作戦が崩れたために攻撃を中断し撤退したのだろう。
マリスエリスは気のいいお姉ちゃんという物腰の反面、機を見るに敏な性格である。
少しでも仕事の成功確率が下がれば、強行はしない。撤退は正しい判断と言えるだろう――こちらにとっては甚だやり辛いが。
襲撃者は去った。
だが、謎がまだ残っている。

「……な……んて、こと……」

なゆたは愕然として目を見開いた。
頭上にいるのは、紛れもなくG.O.D.スライムである。
だが、『ポヨリンではない』。
ポヨリンはなゆたの足許でスペルカードによるバフを待っている最中だ。まだG.O.D.スライムには進化していない。
だとしたら――このG.O.D.スライムはいったい、どこから来たのだろう?

11崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/27(金) 20:47:03
「危なかったわね。怪我はない?」

キラキラと光を纏いながら、一仕事を終えたG.O.D.スライムが消えてゆく。
麦畑の焼け跡に佇む『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の前に、そう言いながら現れたのは、三人の人影。
ひとりは長い栗色の髪をバレッタで纏め、ブラウンのスカートスーツに身を包んだ、30代前半くらいのキャリアウーマン風の女性。
もうひとりはウェーブのかかったアッシュブロンドの髪の、何やらやたらフリフリしたゴスロリ衣装を着た20歳前後の女性。
最後のひとりは黒髪をボブカットにした小柄でぽっちゃりした体格の、パーカーにジーンズという出で立ちの20代中盤程度の女性。
全員女性だ。しかも、明神たちの見慣れた格好――つまり地球の衣服を身に着けている。
ぽっちゃりした女性の足許に、王冠をかぶり緋色のマントを羽織った何やら偉そうなスライムがいる。
スライムヴァシレウス――膨大なスライム系統樹の上位に位置するモンスターで、
ヴァシレウス(君主)の名にふさわしく準レイド級の強さを持つスライムである。

考えるまでもなく、この三人はなゆたたちと同じ地球から来た『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だった。
恐らく先ほどのG.O.D.スライムも、このスライムヴァシレウスがコンボによって進化したものだったのだろう。

「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」

「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

長身のキャリアウーマンを中心にして、左右に控えるぽっちゃりとゴスロリが口々に言う。
なゆたは三人に向かってぺこりと頭を下げた。

「あ……はい……。その、危ないところを助けてくれてありがとうございます。えと、あなたたちは……」

「見てワカるっしょォ〜? ウチらも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! この世界の危機に召喚されたの☆」

「ま〜た活躍してしまったっス。向かうところ敵なしっスね、自分ら」

「やっぱり……!」

なゆたは思わず満面に気色を湛えた。
バロールはとにかく下手な鉄砲とばかりにアルフヘイム各地へ『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した。
多くの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』は死亡したが、中にはなゆたたちのように生き残っている者もいるのだ。
この三人はそういう『生き残り』のうちの三人なのだろう。
モンスターの跋扈する過酷な世界で生存している辺り、実力的にも申し分のないプレイヤーなのは間違いない。
そのうちの一人がなゆたと同じスライム使いだというのは、奇遇というしかないが。
だが――

なゆたと明神が驚愕するのは、これからだった。

「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」

三人のリーダーらしいキャリアウーマン風の女性が、凛とした佇まいで告げる。
外見の割にかわいいハンドルネームである。

「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」

ゴスロリがきゃるんっ☆ とばかりに目許にピースサインを添えてポーズを取る。
外見通りにはっちゃけた性格らしい。

「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」

ぽっちゃりがニィ……と右の口角に不敵な笑みを浮かべる。
三人はポケットや懐からばばっ! とスマホを取り出すと、液晶画面をなゆたたちに向けて突き出した。
スマホのホーム画面、その待ち受けには、なにやらキラキラした感じのイケメンの画像が設定されている。
その相貌を見間違えることなどありえない。ブレモンのプレイヤーなら誰しもが知る、その人物は――



「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」


三人は口を揃えてそう名乗った。

「マル様……親衛隊……!」

なゆたは再度驚愕して目を見開いた。

そして。

「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

やたらと通るイケボと共に、三人の後ろから青年がひとり歩み出てくる。
腰まであるサラサラの長い白金色の髪、これぞイケメンとでも言うべき整った顔立ち。
動きやすく改造された白灰色のローブを纏い、手甲とブーツを装備し手にはバロールのものと同じトネリコの杖を持った美丈夫。

『聖灰の』マルグリット。


【ジョンに身の上話をする。ガザーヴァは明神と問答。
 襲撃者による狙撃と火災、マル様親衛隊登場。『聖灰の』マルグリットと再会】

12ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:02:55
--------------------------------------------------

「ほんとうにどんっくさわねアンタ!」

地面に叩きつけられた僕を見下ろす少女が一人。

「そんな事いったってこんなのかてっこないよ〜」

「ジョン!女の子に投げられて悔しくないわけ?あんた本当に男?さっさと立ち上がりなさい!」

彼女は父と母の知り合いの一人娘で、武術で名を上げた家の一人娘。
彼女の才能は小学生の時点で大人を遥かに超え、倍の身長・体重の僕を軽々と投げ飛ばすほどだった。

「いたいのもうやだよ〜」

一方この頃内気で、日課以外の運動がそれほど好きじゃなかった僕。
体は成人男性の平均程大きいが、彼女以外の友達を作れず、体ばっかり大きくて小心者・・・それがこの頃の僕
痛い事なんかキライだったし、戦うという行為なんて論外だ。

「はあ〜あ・・・私もあんたくらい体がおっきかったらな〜」

「僕も君ほど才能があったらすこしはこの内気な性格もなおるのかな・・・」

彼女は常にトップにいたが、体の成長と共にそう遠くない内に身体的な差で抜かれる事を予見していた。

「うるさい!あんたが才能に目覚めたら私の練習台にならないでしょ!」

「や〜め〜て〜よ〜!!!」

何度も畳に叩き付けられ!痛くはないが小さい女の子に一切の抵抗ができず投げられているという
精神的ダメージが限界に達しそうなそのとき・・・!颯爽と救世主が!

「ワヒューン」

「・・・?犬?」

ぐったりしている僕の目の前に変な泣き声の犬が現れる。

「あ!こら部長!ここには入っちゃいけないっていったでしょ!」

「・・・ヘッ」

主人に怒られているのにこのふてぶてしい態度・・・。

「っていうか部長って名前?えーと・・・このダックスフンドの・・・」

「コーギー!この子の種類はコーギー!見た目からして全然違うでしょ!?どうやったら間違えるわけ!?
 そしてこの子の名前は部長って名前!こいつすっごく偉そうでしょ?だから部長!」
「ワヒューン」

世の中の部長は偉そうにしているという偏見オブ偏見、そして致命的なネーミングセンス。

「いやこれネーミングセンスないなんてレベルじゃ・・・」

「へえ・・・?まだそんな生意気な事言えるほど余力あるんだ?じゃ休もうと思ったけどもうちょっと付き合ってもらおうかしら?」

「や〜め〜て〜〜〜!!!!」

「うるさい!その腐った根性叩きなおしてやるわ!」

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13ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:03:15

「それで君に何回も投げられて・・・同情した部長に止められてさ・・・
 お前には才能も足りなければ度胸もない!あたしを超える才能と度胸を身につけなさいって!できればアンタは---」

僕は目の前にいる彼女の成れの果てに向かってずっと話しかけていた。
当初は目の前にいるという事に動揺し、錯乱していたが・・・今はもう馴れてしまった。
最初こそ喋っていたがそれからというもの、一切喋らずしかし僕の視界から外れずを貫いている。

>「ジョン、遊びに来たよ〜」

皆頻繁に様子を見に来てくれる。
その優しい心が僕を冷静にしてくれる・・・でもそれと同時に僕にその優しさが重くのしかかる。

>「ごめんね、こんなところに押し込めて。ジョンも外の空気を吸いたいと思うんだけど……もう少しだけ辛抱して。
 アイアントラスに到着して魔法機関車と合流すれば、こんなこともしなくてよくなると思うから……」

優しさは人を救う光になりえる・・・だが

>「もし、何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってね。外に出すことはできないけれど――
 それ以外のことなら、出来るだけ叶えるから!」

罰を求める人間には・・・これほど苦痛な物はないだろう。
なゆが優しさを僕にくれるたび、僕の淀んでいる心をほんのすこしだけ綺麗にしてくれる。

でも少しだけだ。
綺麗になったより倍の淀みになって僕の心を締め付ける。
許してなんてほしくない、ただお前なんていらないと、お前なんて居なければいいと言ってほしかった。

>「……どうして、僕のことを見捨ててくれないんだろう。
 どうして、こんなに世話を焼くんだろう。いつ暴走するかもしれない僕のために……
 って。思ってる?」

なゆが優しい言葉を言うたびに僕の心が綺麗にそして壊れていく。
優しい言葉に異を唱えることすらできずに・・・

>「ジョンは言ったよね。アコライトで――
 旅に僕は必要ない、って。
 それは違うよ。わたしたちの旅にあなたは必要なのか、それとも必要じゃないのか。
 決めるのはあなたじゃない……わたしたちだよ」

優しさは、時にどんな凶器よりも鋭いという。

>「それにね。ぶっちゃけちゃうと、わたしはジョンのためにこうしてる訳じゃないんだ。
 わたしは、わたしのためにジョンを助けようと思ってる。
 アコライトでエンバースが言ってた。マホたんはわたしたちを守るため、守備隊のみんなを守るため、命を懸けてもいい……。
 そう考える自分のため、自分の望みのために死んだって。
 わたしもそう。あなたを助けるため、出来る限りのことをしたい。全力を尽くしたい。
 そう考える自分のため、自分の望みのためにそうするんだよ」

時に、どれだけの現実よりも酷で、地獄より激しい痛みに苛まれると。

14ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:03:30
>「……わたしね。お母さんがふたりいるんだ」
>「ひとりは、わたしを産んでくれたお母さんで……もうひとりは、わたしを育ててくれたお母さん。
 わたしは……どっちのお母さんも、とっても好きだった」

「・・・とても素晴らしい人だったんだろうね」

>「一緒にいるときは、おばさんって呼んでたけど。
 心の中では、ずっとお母さんって呼んでた。
 お母さんはきれいで、優しくて、でも時々厳しくて、柔らかくて、とってもいいにおいがして……。
 一緒にいるだけで幸せだった。わたしの憧れだった。
 わたしは将来きっと真ちゃんと結婚して、お母さんは本当にわたしのお母さんになるんだ。
 誰に気兼ねもしないで、お母さんって呼べるんだって。ずっと楽しみにしてたんだ――」

>「真ちゃんは不良になってて、おじさんには仕事があって。雪ちゃんはまだ小さくて――
 お母さんの看病ができるのは、わたしだけだった。
 わたしはできる限り時間を作って、お母さんのお見舞いに行ったよ。お医者様にお願いして、宿泊許可を貰って。
 病院からそのまま学校へ行ったこともある。
 大変だったけど……でも、それでよかった。少しでもお母さんと一緒にいたかった。看病したかった。
 その苦痛をほんのちょっぴりでも、取り除いてあげられたなら……そう、思ってた」

>「お母さんね……わたしの前じゃ、絶対に苦しいとか。つらいとかって言わないんだよ。
 投薬の副作用で、のたうち回りたいくらい苦しいはずなのに。死にたいくらい痛いはずなのに。
 わたしの顔を見たら、決まってこう言うの……『なゆちゃんの顔を見たら、元気になっちゃった』って……。
 浅い呼吸のままでね……」


なゆは辛そうにその当時の事を語る。
その顔を見ればわかる・・・その人がいかになゆに救われたのか。
優しさがない人間にはこんな顔はできないだろうから・・・。

>「でもね――わたしは言えなかったんだ。『お母さん』って――お母さんは、わたしのことを娘って言ってくれたのに。
 わたしにもお母さんって。そう言って欲しかったはずなのに。
 わたしは言えなかった……あんなにも、お母さんの本当の娘になることを望んでいたのに……」

>「お母さんって呼ぶべきだったのか、それとも呼ばない方がよかったのか。
 あのときのわたしは、答えを出せなかった。今も出せない。
 でも――これからまた同じような状況になれば、ひょっとしたら。答えが出せるのかもしれない。
 だから、わたしはこれからも人を助ける。お母さんが望んだように。わたしが望むように。
 ……ジョン、わたしがあなたのことを見捨てないのは、そういう理由だよ。
 わたしはわたしのことしか考えてない。
 単なるエゴで、あなたを救って。気持ちをすっきりさせたいだけなんだ」

だからといって悪人まで助ける必要はないだろう。
僕みたいな悪人を・・・。

15ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:03:48
>「わたしの力で誰も彼も救おうなんて、そんな神さまみたいなことを考えるほど自惚れてはないけれど。
 でも、このまま困っている人たちを助けて。出来る限りの、救える限りの人たちを救っていければ。
 何かを見つけられる気がする、何かが分かる気がする……。
 それはまだ、どんなものかさえ分からない。見当もつかないんだけど。
 それでも絶対あるはずなんだ。
 わたしの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としての戦いは、わたしの気持ちにケリをつける戦いでもあるの。
 付き合ってもらうわよ……ジョン。最後まで、わたしのこの戦いにね。
 ドロップアウトなんて、絶対許さないから!」

>「なんか、わたしのことばっかりベラベラ喋っちゃってゴメン! 退屈だった?
 わたしそろそろ戻るね。休憩とか言ってぐうたらしてばっかりだと、エンバースに怒られちゃう。

「まってくれ」

立ち去ろうとするなゆを引き止める。

「僕に・・・こんな事言う資格はないが・・・」

「親が子の為命を捧げる事はあっても、子が親の為に命を捧げる道理なし・・・だ」

「君がその人の事を本当に母親と思っているなら・・・縛られるな。
 その人だってなゆを悩ませる為に、縛るために言ったんじゃないと思う
 完全に忘れろといってるわけじゃない、だがそれに悩み、縛られ続けて危ないことする必要はない」

「親は子を命掛けで守る義務があるし・・・子供には親に心配させない義務がある」

一つの考えに縛られる程危険なものはない、それも母親同然の人に関してなら尚更だ。
言葉は人を強くする無限の可能性を秘めている。だが同時に強烈な呪いになる事を僕はしっていた。

「・・・すまない・・・出すぎたことを言った・・・所詮人殺しの言葉だ・・・聞き流してくれ」

軽く片手を振ると、なゆたは出て行った。

なにやってるんだ俺は・・・明かりがついた場所にいるなゆと
道を踏み外し、戻れないとわかっているのにそれでも元の道に帰ろうとする愚か者の僕。

絶対相容れない存在のなゆに・・・僕が偉そうに・・・。

正直にいえばいつでもこの場から逃げ出すことはできる。
バロールのかけた封印も半分解けているし、なんなら自力で全部解除できるだろう。

僕が今それをしない理由は・・・彼女だ。視界の端に必ず存在し、僕が逃げ出そうとするとそれを阻止しようとする。
かといって最初のようになにかを話すわけでもなくただ視界の中を移動したり、ただじっとしていたり。

「わかるだろう?なゆの明るさを、彼女のような子の近くに僕みたいな危険物はいらないんだ
 だから僕を解放してくれ・・・頼むよ・・・」

彼女は実態のない僕がみている幻覚だ。
だから彼女を無視するのはこの場所を静かに抜け出すより遥かに簡単だ。

でも僕にはそれをする度胸は・・・ない。
彼女をもう一度・・・どうにかするなんて事は・・・。

16ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:04:08
少し時間が立った後、異変が置き始める。

「・・・焦げ臭い?」

なにかが燃えている臭いがするが、少なくとも中にあるものが燃えているわけではないようだ。

「なゆ!おーい!なにかあったのか!?なゆ!」

>「狙撃を受けてる……!」

「なっ・・・!?」

外の景色を直接みていないのでわからないが・・・狙撃されているという事を見晴らしがいい場所。
そしてこげた臭い・・・周りに燃えやすいなにかがある状況。

狙われるべくして狙われた状況という事か・・・。

「なゆ達より僕のほうがスナイパー処理に慣れている!僕がでる!許可をくれ!」

当然なゆ達からの許可の返答はない。
内心舌打ちをする。僕なら弾丸ではなく矢なら撃ち落しながら前進できる自信がある。
完全に接近することはできずとも、体勢を立て直せる時間くらいは稼げるだろう。

くそ・・・許可なんて必要ない・・・!いくしかない!

>「……な……んて、こと……」

飛び出した僕が・・・見たのは・・・巨大なスライム。

「これは・・・ポヨリンじゃない・・・?」

しかし周辺の火を鎮火している様子を見るに敵ではないだろうが・・・。

>「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」

>「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

なんだがとってもうざい・・・もといとっても個性的な女性3人組が現れた。

顔の確認だけしたジョンは中に戻り様子を伺う。

>「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」
>「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」
>「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」
>「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」

やっぱりとってもうざい・・・もとい非常に個性的な彼女達が自己紹介をする。

とってもうざい・・・いや能天気な・・・いやノータリンなこいつらが今までこの世界で生きてこれたのか・・・。
女性は男性よりも生存率は高いとは思う。理由はちょっとゲスだが男性より用途が多いから。
しかし、ノータリンな・・・少しオツムが足りないこいつらが上手く世間を渡っていけるとは思えないし・・・いや
あえてやばい奴を演じて身を守っている説もあるか・・・?。
たしかにアコライトの兵士もふざけていたけど根はマジメだったし・・・。

ジョンがどこまで信用していいのか悩んでいるその時。

>「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

やっぱりこいつらを信用するのはやめようと決心するのだった。

17ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/03/29(日) 23:04:26

「変な奴を信仰する変な奴ってそれはもう変な奴でいいのでは?」

と思わず周辺の身内に聞こえてしまうほどの大きな音量で零れてしまうほど。
ジョンにとってとってもうざい4人組はどうでもよかった。
どうでもいいというか係わり合いになりたくないタイプだった。

ちょっと混乱してしまったが・・・敵であればすぐ制圧する必要があるし、味方であるというなら適当に同調しておく。

「なあ!なゆ!煙が充満して結構辛いんだ!一回外にでてもいいか?」

見たところ3人+一人は対術に関しては素人であるようだし、なにかあったら直ぐ制圧するためにも近づく事にする。

「ゲホッゲホッ」

わざとらしい演技をしながら外にでる。

「失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです」

営業モード全開で女性陣に近づいていく。
たとえ嫌いな人間であろうと愛想よく立ち回る
友達がいない期間がながかった僕が身に着けた表面上だけでも仲良くするテクニック。

嫌いな奴に嫌いだ。というのは簡単だ・・・だがそれではそれ以上利益も、情報も手に入らない。
情報やコネは武器になる・・・特に日本という国や・・・この世界では・・・。

マホロの時はついカッとなって対立してしまった・・・。
それを反省し、今回は最初から営業モード100%でいく作戦だ。

今こそバロールにもらった最強の兵器を出すときがきた・・・!
バロールをも唸らせた・・最強の兵器・・・それは・・・!

「お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です」

実際はバロールはケショーヒンを伝手で調達してくれただけで認めた事などないがそんな事は関係ない。
だが知っている有名人が認めたと聞けばそれだけでなんかいい品感がでる。

完璧だ!そうジョンは思っていた・・・しかし!
ジョンは長いアイドル生活で基本的な事が抜けていた!
親しくない人間からのプレゼントは割とガチで重いということを!

しかもそれが軽い物ではなく高そうな瓶に入っているようなケショーヒン(化粧品)セットなどという
ちょっとお高めな物は人によっては普通に嫌がられる事なのだと!

「?どうしたんだみんな?」

たとえ周囲からこいつまじかよ・・・という視線を送られてもまったく理解できないのである!
なぜなら基本的な事をわかっていないから!プレゼントすれば泣いて喜ぶが基本のアイドル生活基準なジョンには!

「ニャー・・・」

「?」

【ジョン・適当な理由をつけて外に
 営業(アイドル)モードフルパワー
 

 もし敵だった場合直ぐに始末できるように4人に接近】

18カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:08:19
「ジョン君、なんか久しぶりだね」

カザハは出発して最初の野営の見張り(ジョン君の見張りを兼ねている)の時、ジョン君に話しかけた。
ジョン君は出発までずっと地下牢に入っており、幻覚に苛まれていたらしい。
なのでこうしてゆっくり話すのは祝勝会の時以来となる。

「観念して大人しく連れてってもらった方がいいと思うよ。
ゲーマーの矜持だか何だか知らないけど超お人好し頑固者が3人も揃ってるんだもの。
逃げ出したところで地の果てまで追われる羽目になりそう」

カザハはそう言って苦笑する。

「ボクは違うよ? 今までなんとなくいい奴っぽく見えてたとしたら前の飼い主の意思を投影してただけだ。
もともとこっちの世界のモンスターだったんだ。我に返ってすぐ脱走しようと思った。
異邦の魔物使いなんてやってられるか!ってね。でも……出来なかった。何故なら――」

解放《リリース》をタップして私を解放する操作をして見せる。

「スマホが呪われてるんだもん! ほら見て! 出来ないでしょ!?」

【いつもうちのバカ達がお世話になっております】

「呪いは黙ってて! つーかお前誰だよ!?」

また怪文書が出てきた。誰なんでしょうね、本当に!

「そんなわけで……少なくともエーデルグーテまでは一緒に行くよ。
あの3人に乗せられてだとしても最終的にはボクのことを助けてくれたでしょ?
だから今度はボクが乗せられてみるのも悪くないかなって」

見張りが終わると、私はカザハに抱き枕にされた。

《まだ脱走するつもりなんですか?》

「分かんない……」

19カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:10:12
===================================

>「おるんかーーーーーい!!!」

「明神さん、どうしたの……あ゛あ゛ぁあああああああああああああああ!!」

いきなりずっこけながら登場した明神さんに、努めて平静を装って反応しようとするカザハだったが、
その手に置き手紙が握られていることに気付くとローマ字入力では表現できない奇声をあげた。

「カケル、食べて食べて今すぐ食べて!」

あろうことか投げつけられた手紙を私に食わせて証拠隠滅しようとしてきたので断固拒否した。
カザハがブツを処分し忘れているのに気付かなかった私もうかつだったけど!

《白ヤギさんじゃないですよ!? モンスター虐待反対!》

>「いいか、この先絶対に、こんな書き置き一つで消えるんじゃねえぞ。
 お前が飽きようが嫌になろうが知ったこっちゃねえ。
 俺の伝説を歴史に刻むのは、お前だ。ガザ公がそうであるように、お前の代わりなんかどこにも居ねえんだ」

「…………」

カザハは言われた言葉の意味を噛みしめるかのように明神さんを見つめ返した。
無言の数秒間が流れ、一陣の風が吹き抜けていく。そして――

「ずきゅーん!」

謎の効果音を口で言いながら胸に手を当てて大袈裟な動作で膝から崩れ落ち、そのまま正座した。
一瞬情緒ありげな雰囲気だったのに何その意味不明なリアクション! 急所を撃ち抜かれたんですか? クリティカルヒットですか!?

>「あとなぁ、前からお前には言いたいことがあったんだよ。
 昨日なんやかんやで結局言いそびれちまったから今言うぞ、謹聴しとけ」

カザハは正座したまま有難いお言葉を拝聴する。

>「……おかえり、カザハ君」

「た、ただいま……!」

===================================

20カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:12:59
「おかえりってどういう意味だったんだろう……」

(どこまで察してるんでしょうね……)

もちろん単純に向こう側に行きかけて帰ってきた、という意味かもしれないが、それ以上のことを直観的に理解しているのかもしれない。
ガザーヴァが体を自由に動かせなかったのと同様に、カザハは何も自分の意思で考えることを許されなかった。
それがガザーヴァの精神干渉に対する唯一にして最強の防衛策だったからだ。
何かを考えようものならすぐに隙を突かれて乗っ取られていただろう。
カザハは胸のあたりを押さえて大真面目に言った。

「この辺が変な感じだ……。どうしよう、心筋梗塞で死ぬかもしれない……!」

(そこまで歳じゃないですよね!? いや、こっちの世界ではガチで年寄りだったか! ……じゃなくて!)

大変だ、別の意味で致命傷かもしれない!
あれ本当にクリティカルヒットしてたんですか!? ふざけてるようにしか見えませんでしたよ!?

「じゃなかったら何?」

(いや、なんでもないと思います!)

こんな感じで旅は何日か続いた。

「あぁ……逃げたい……」

アコライトを出発してから何度目かの逃げたいである。

「静かにしたら息出来なくて死ぬの? マグロなの!?
しかもなんでグラフィックが全身鎧か怪しからんヘソ出しファッションの両極端の二択なの!? 風紀が乱れるでしょ!」

《ヘソ出しはNGで絶対領域はOKなんだ……》

カザハはガザーヴァの騒々しさが耐えられないらしい。
私達は幸いにも哨戒担当だから行軍中は直接は騒がしさの被害に遭わなくて済むのが救いだ。
1巡目で何回も会ってたからああいうキャラなのは知ってたけどまさか素で常にあの調子とは思いませんでした。
敵だった時は全くの演技ではないにしてもちょっとテンション上げてキャラを大袈裟に演出ぐらいはしてると思ったけど甘かった。
でも、狂暴性はともかく落ち着きの無さという点では昔のカザハも似たようなもんだった気がする。
元飼い主に「ちょっとは静かにしんさい!」ってよく叱られてたっけ。
昔の自分を見ているようでいたたまれない説かなり信憑性あるけど言ったら怒られそうだから黙っておこう。

21カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:15:21
「あー、あー、マイクテストマイクテスト。エンバースさん、聞こえるー?」

糸電話のようなことが出来る風属性のスキル《ウィンドボイス》で戦闘班と音声を繋ぎ、ジョン君が敵襲の気配を察する前に敵を排除する体勢を作っている。
モンスターとのエンカウント率は極端に低く、弱いモンスターにたまに遭遇する程度だ。
そしていつの間にか夕方になり、この日の行軍も何事もなく終わると思われた。

「ああ、夕日が綺麗だなー」

>「……ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

「……って燃えてんじゃん! 誰だタバコをポイ捨てしたのは!」

>「消火しなくちゃ、早く! みんな、炎がこれ以上燃え広がらないように食い止めて!
 わたしに時間をちょうだい、ゴッドポヨリンで一気に消し止めるから!」

「カケル、《カマイタチ》!」

風属性の私達はどっちかというと炎を燃え広がらせる方は得意だが、その逆となると地味に草を刈るぐらいしか出来ることはない。
ゴッドポヨリンさんなら消し止められるかもしれないが、召喚までに時間がかかるのが難点だ。
と、目にも止まらぬ閃光が一瞬だけ至近距離を通り過ぎていったような気がした。

「……ん?」

カザハは右頬に手を当てて、その手をまじまじと見た。

「ぎゃあああああああああああああ!? 血が出てるぅうううううううううう!
一歩間違えたら死んでるじゃん! もう嫌だぁああああああああああああ!!」

>「狙撃を受けてる……!」

「みんな麦の中に隠れて! 全員でゴッドポヨリンさん召喚の援護をするんだ!」

私達はなゆたちゃんの横に降り立ち、カザハは地面に降りて伏せた。
延焼範囲は広く、地味に消火活動をしたところで焼石に水だろう。
一刻も早くゴッドポヨリンさんを召喚する方に注力した方がいいかもしれない。
カザハがなゆたちゃんに【ヘイスト】をかけようとしたときだった。

>「スキル! 『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』!!」

G.O.D.スライムが現れ、大量の水を撒き始めた。

「あれ? ゴッドポヨリンさん意外と早かった……?」

が、どうやらポヨリンさんではないようで。

22カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:16:22
「え、じゃああのスライムは誰……?」

>「危なかったわね。怪我はない?」
>「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」
>「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

全体的にテンション高めな三人娘が登場。
リーダーっぽいセンターを左右が固めるそのスタイル、水戸黄門と助さん角さんですか!?
なゆたちゃんが若干引き気味にお礼を言う。

>「あ……はい……。その、危ないところを助けてくれてありがとうございます。えと、あなたたちは……」

>「見てワカるっしょォ〜? ウチらも『異邦の魔物使い(ブレイブ)』! この世界の危機に召喚されたの☆」
>「ま〜た活躍してしまったっス。向かうところ敵なしっスね、自分ら」
>「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」

あ、さちだからさっぴょんなのね。

>「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」

ハンネはともかくりゅくすって本名なんですかね……? いわゆるキラキラネームというやつなんでしょうか。

>「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」

なるほど、きなこだからきなこもち大佐……待って、なんか嫌な予感がしてきた。

>「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」

>「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

「マル様親衛隊がリアルにマル様の親衛隊してるだと……!?」

>「失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです」

ジョン君が部長さんを駆使して営業活動を始めた。部長さんは女子受け抜群のはずだ。

23カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/01(水) 00:17:30
「デリントブルグに寄ろうと思ってたんだけどいきなり火事に巻き込まれて……。助かったよ。
君たちはどこに行くの? もしかして聖地巡礼? ボク達この前アコライト防衛戦に勝ってきたんだ。
今も超頼りになるブレイブが守ってくれてるから君達の聖地はしばらく安泰だと思うよ」

1巡目で味方だった者も、今回も味方とは限らない。
このタイミングで助けに現れたということは、少なくともマリスエリスと繋がっていることはなさそうだが……。
マルグリットが今どの勢力に属しているか等の情報を聞き出せたらいいのだが、マル様親衛隊は悪名高い過激派集団でもある。
マル様本人と話したら怒られそうだし、明神さんのプレイヤーネームがバレでもしたら乱闘騒ぎ待った無しだろう。
カザハはきなこもちさんの足元にいるポヨリンさんより大分偉そうなスライム(スライムヴァシレウス)をまじまじと見る。
スライム使いのきなこもちさんにターゲットを定めたようだ。

「立派なスライムだね……!
ボクらのクラスじゃなくてパーティーのリーダーは元祖ゴッドスライム提唱者のモンデンキント先生なんだ!
折角だから一緒に記念撮影とかどうかな?」

モンデンキント先生の威光でまずはスライム使いから陥落させる作戦ですかね!?

>「お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です」

ジョン君がいきなり文字通りの営業を始め、暫し微妙な沈黙が流れた。
これ絶対試供品をたくさんあげておいてから最後に高額な商品を買わせる手口だ……。

>「?どうしたんだみんな?」
>「ニャー・・・」

「ガンダラの酒場のマスターにでもあげたら喜ばれるんじゃないかな?」

そう言ってケショーヒンの話題を終了させようとしたカザハだったが、気付かなくていい事に気付いてしまった。

「……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!」

適当にセットの中の一つを取ってインベントリの中に入れてしまった。

「効果を実演してみるから見ててね! ケショーヒン使用、対象ジョン君と明神さんとエンバースさん!」

《何故に男性陣を対象にする!?》

なんか魔法っぽい謎エフェクトが発動しちゃってるし……! どうなっても知りませんよ!?
エンバースさんに至ってはこれこそまさにエンバーミングってか。誰が上手い事言えと。

24明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:09:36
ガタゴトガタゴト揺れる馬車。
真新しい轍と、一面に広がる銀世界ならぬ金世界は、もう何日も代わり映えしない。
幌に背中を預けながら、俺は本日何度目かの大あくびをした。

「暇だよぉぉぉぉぉん……」

後方警戒を任じられた俺だったが、ぶっちゃけ何かやるべきことがあるわけでもない。
穀倉都市デリンドブルクはアルメリアの中でもかなり平和な地域で、敵対的なモンスターも少ない。
あぜ道を進んでいく馬車を、わざわざ追いかけてまで襲撃するような存在はそもそも居ないのである。

そして、敵性モンスターにかち合うとすれば、それは馬車の進行方向。
つまりカザハ君とエンバースの受け持ちであって、俺の出番はやっぱりなかった。
まぁ平和なのは良いことですわ。レベリングのために狩りしてるわけでもねえしな。

これが船旅なら、まだのんびり釣り糸でも垂れてれば良かった。
しかし見渡す限りの麦畑に釣り針を投げたって、作物にたかる虫ぐらいしか引っかからないだろう。
かといって幌の中に引きこもって警戒を疎かにするわけにもいかず、まったくの手持ち無沙汰だ。

こうも揺れてちゃ、スマホ弄るのも難しい。
俺三半規管弱い人だし。ソッコーで乗り物酔いしそう。

そういうわけで、空前絶後のヒマに襲われた俺は、見張りがてら魔法の練習をしていた。
アコライトの戦いじゃたった2回魔法使っただけでガス欠になっちまった。
魔力の節約、効率の良い使い方の研究、基礎的な魔力量の向上……こなすべき課題は多い。
ジョンが引きこもっちまってる以上、護身術の訓練は出来ない。その分の時間を、有効活用すべきだ。

バロールの魔法マニュアルを読破し、アコライトのオタク殿たちにも相談にのってもらって、
まず魔力の性質について理解を深めることにした。
ここ4日くらい魔力を引き出してはこねくり回す中で、大体どういうものかわかってきた。

魔力は、あらゆる生き物が体内に有する、カロリーとは別のエネルギーだ。
意志によって自在にコントロールでき、肉体を活性化させたり、体の外に引きずり出すこともできる。
生物と同様、大地にも膨大な魔力が巡っていて、これを抽出・加工したものがいわゆる成形クリスタル。

体外に出した魔力は、形状や性質を自在に変えられる流動体のように振る舞う。
そのまま発射すれば弾丸となり、武器に纏わせれば強固な被膜と化して威力を引き上げる。
そして、呪文や魔法陣によって独自の性質(属性)を付与し、特定のはたらきをもたせる技術が、『魔法』だ。

「ジョン、いるか?」

幌を開けて中に軟禁されてるジョンに声をかける。
こいつはアコライトの牢屋から馬車の中までずっと隔離されたままでいた。
今はおとなしくしてるようだが、そのうち暇すぎて発狂しちまうかもしれねえからな。
何かしらの娯楽は必要だろう。

「不肖明神、一発芸やります。御覧ください」

練り上げた魔力を糸状に変化させ、あやとりのように指の間へ張り巡らせる。
先端に掌サイズの円盤をふたつくっつけた、ヨーヨー状の物体を生成。
巡る糸同士の間をぶらぶらと揺れるヨーヨー、その姿こそすなわち!

「――ストリングプレイ・スパイダーベイビー!
 ……以上です。ご観覧ありがとうございました」

25明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:10:43
ハイパーヨーヨーのトリックを披露するだけ披露して俺は幌をサっと閉じた。
うーんスベったかな。カザハ君だったら大ウケした気がする。多分あいつ直撃世代だし。
暇にあかせた練習のおかげで、引き出した魔力の形をすばやく変化させられるようにはなった。
あとは魔法への移行をどれだけ迅速に出来るかだ。まだまだ練習しねえとな。

>「あーぁー、ひーまー! ひまひまひまひま、ひぃぃ〜〜〜〜まぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」

「おっガザ公じゃん。見て見て俺の激ムズトリック、スパイダーベイビー!」

最後尾でぶつくさ垂れていたガザーヴァは、俺のトリックを一瞥すると鼻で笑った。
は?ブレモン界の中村名人と呼ばれたこの俺を嘲笑いましたか今?
見てろよ、ループ・ザ・ループとか出来るようになってやっから。

ガザ公は俺以上に退屈耐性がないらしく、あっちこっちにちょっかいかけて回っている。
俺も見張りがてら多少は付き合ったが、二人で出来る遊びなんかたかが知れていた。
もうこいつとしりとりすんのヤだよ……る攻めばっかしてきやがるしさぁ。

>「そーいえば、お前アコライトでパパに十二階梯の継承者は仲間じゃないのかーって言ってたけど」

ふと、何故か鞍の上で逆立ちしているガザーヴァが言った。

>「ホントにそう思ってんの?
 お前、ゲームやってたんだよな? 地球でブレモンのプレイヤーだったんだろ?
 なのに、そんなことも分かんないのかよ?」

「どーいう意味だよ、俺の知らない裏設定でもあるってのか」

>「あいつらはパパの仲間なんかじゃないぞ。
 連中が従うのは正義とか悪とか、アルフヘイムとかニヴルヘイムとか。そんなんじゃなくて――
 ただ、大賢者ローウェルの意志だけ……だからな。

「ああ?そりゃ十二階梯だって一枚岩じゃねえだろうよ。グランダイトみてえな好き勝手やってる奴もいるし。
 でもバロールはお爺ちゃんの一番弟子なんだろ?
 だから奴はローウェルの代理として、ローウェルの指示で俺たちを動かしてた。
 ……ってわけじゃ、ないのか?」

>「これからは、敵はニヴルヘイムの連中ばっかりだと思わない方がいいと思うよー?
 黎明あたりはじじいの意図に反してるパパのこと殺したくて仕方ないだろーしー。
 アイツ、じじいにどっぷり心酔しちゃってるからさ。
 そんな黎明の息のかかった禁書とかが攻めて来たって全然おかしくないもんなー」

「ちょっ、ちょっと待て、バロールがローウェルの意図に反してる?
 じゃあ何か、この侵食から世界を救う云々の話は、ローウェルが発案したものじゃなくて……
 魔王バロールが勝手にやってることだってことかよ」

考えてみれば、俺たちをクエスト越しに操っていたのはいつもバロールだった。
そこにローウェルの意志はぴくちり介在していなくて、俺たちは奴のツラも声も知らないままだ。
『バロールはローウェルの代理人』……その認識自体が、事実ではなかった。

>「えーっ? 知らなかったのかよ?」

ガザーヴァは頓狂な声を上げる。

>「パパがあのモーロクじじいの言うことなんて聞くかよ。トーゼン刃向かってるよ、刃向かうしかないじゃん。
 てーか、そもそもパパがじじいのくたばったショックで悪堕ちしたとか超ウソんこだし。
 あんなん、連中がパパを悪者に仕立て上げようとして都合よく捏造した大本営発表に決まってるだろ!」

26明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:11:55
「初耳だよゥッ!なんでそういう重要な情報伏せてんだあのクソ魔王!」

いろんなことの前提条件が根こそぎぶっ壊れていく。
バロールの野郎が闇落ちしたきっかけは、師匠であるローウェルの死。
それなら、ローウェルを死なせなければバロールはアルフヘイムの味方のままでいるはず。
それが、あの胡散臭いイケメンを一応でも信用できる根拠だった。

だけど、元からローウェルとバロールの間に亀裂が入っていて、
それぞれ別々の思惑のもと動いているのだとしたら。
俺たちは、どっちの味方をすりゃ良いんだ。

>どーすんの? 今からでも行先変えて、じじいに仲間にして下さいって言いに行く?
 間違って魔王の傘下になっちゃってました、ゴメンなさーいって?」

「……それもアリっちゃアリだな。先方の出方次第だけどよ。
 俺たちだって好きで魔王の手先やってるわけじゃない。あいつに義理立てする理由もないしな」

俺たちがバロールの指示で動いているのは、現状他に寄る辺がないからだ。
アルメリアで行動する以上、この国のインフラを握ってるバロールを袖には出来ない。
あいつがその気になれば、関所全部閉ざして俺たちを国の中に閉じ込めることだって出来る。
物資の援助を全部打ち切られれば、待ってるのはゆるやかな飢え死にだ。

だから、首尾よく国境を超えてフェルゼン公国に入れたなら。
あるいはエーデルグーテまで行って、バロールとは別のパトロンを確保出来たなら。
とっととローウェル側に鞍替えしちまったって構わない。

……だけど。

>「パパが悪党だからって、ローウェルが善人だとは限らないよなー?」

「そこなんだよなぁ。バロールは言うまでもなく人権無視のクソ野郎だけど。
 お爺ちゃんがもっとやべえ奴って可能性は十分ある。あの弟子の師匠だもんよ。
 似たりよったりのクソ同士なら、まだ顔見知りのクソの方が座りは良い」

結局のところ、俺たちには情報が足りない。
雲の上でいかなる思惑が働いているのか、断片的にしか認識出来ない。

誰が善人で、誰が悪者なのか。ローウェルが何を目的に活動しているのか。
わからないこと尽くしの現状じゃ、身の振り方を考えることも出来ない。

とどのつまり、俺たちに出来るのは目先の問題の解決だけだ。
振り払う火の粉を払い続けて、いずれ見えてくる真実に備えるしかない。

27明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:12:24
>「じじいのやろうとしてることは知らんけど、パパのやりたいことなら分かるぞ。
 パパの目的は今も昔も変わらない……パパはこの世界を守りたいだけなんだ。

ガザーヴァの分析は、多分信用出来る。
バロールの姿を一番間近で見て、その目的の為に戦ってきた奴の言葉だ。
確かにやり方に問題はあった。だから、そのやり方を変えてみたのが今の『二巡目』なんだろう。

ここでバロールと敵対すれば、『一巡目』と同じやり方になるってことだ。
一度は世界を救い、しかし根本的な解決にはならなかった、ゲームのシナリオと。
少なくとも、それではダメだったと、失われた歴史が証明している。

>「ローウェルの目的なんて知らないし、ぜんぜん興味もないけど、連中はどうしてもそれをやりたいみたいだ。
 パパをやっぱり悪者だった! って決めつける前に、連中の目論見を暴くのが先だと思うけどね。ボクはさぁー」 

「へっ。バロールの野郎にさんざん裏切られた割には、パパのやり方が間違ってるとは言わねえんだな。
 お前はあの野郎を手放しに全否定しても良い立場なんだぜ」

ガザーヴァは脊髄と悪意が直結してるような非の打ち所のない悪者だが、
ものの見方はびっくりするくらい公平だ。
そして正しい。俺たちはバロールと同じくらい、ローウェルに対しても警戒を持つべきだ。

「ガザーヴァ。俺はお前とは友達だけど、お前のお父さんとまでお友達になったつもりはねえ。
 ローウェルの方に理があるなら、ノータイムで掌返して、ニブルヘイムについたって良いんだ」

忘れはしない。
あいつが地球から拉致ってきたプレイヤーが、ろくな支援もなくこの世界で死んでいったことを。
バロールが、地球の人間を何人も見殺しにしていることを。

「それでも、バロールが一巡目の地球滅亡よりマシな結果にしようとしてるのは分かる。
 十二階梯をひっ捕まえてでも、ジジイが何考えてるか聞き出そう。
 奴らのやり方が地球にとって良いか悪いか分かるまでは、魔王の手先にでもなってやるよ」

それに――バロールの元には石油王が居る。
おいそれとバロールに弓引いて、あいつを人質にとられるのもつまらないからな。

 ◆ ◆ ◆

28明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:13:04
>「……ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

夕暮れにさしかかり、そろそろ野営の準備をしようというところ。
ガザーヴァと『いっせっせーの』をしていた俺は、なゆたちゃんの声に背筋を伸ばした。
馬車の前に回ってみれば、麦畑がぼうぼうと燃えている。
焼畑農業の季節でもない。穂を丸々実らせて収穫を待つ麦が、炎上していた。

>「ボ、ボクじゃないぞ!? ボクはやってないからな! 無罪! ノットギルティ!」

「分かってるよ!ガチの下草火災とかなんも面白くねーからなぁ!」

言ってる場合じゃない。
密集した麦は簡単に延焼し、またたく間に一面が炎に包まれる。
黒々とした煙が風に巻かれ、視界を灰色に染め上げる。

>「消火しなくちゃ、早く! みんな、炎がこれ以上燃え広がらないように食い止めて!
 わたしに時間をちょうだい、ゴッドポヨリンで一気に消し止めるから!」

「了解……つったって、俺もやべえなこれ」

ワックスと革で出来たアンデッドのヤマシタは炎に極端に弱い。
召喚すればフィールドダメージで即成仏だろう。
かといって生身で出来る消火活動もたかが知れてる。

「とりあえず……馬車は避難させとかねえと」

インベントリから布を取り出し、水で濡らして馬の頭に被せる。
煙を吸わせるのもまずいが、火に怯えて暴走されるのを防ぐためだ。
訓練された馬車馬らしく、視界を塞いでやれば落ち着きを取り戻した。

>「これ以上焼けるのは御免蒙りたいな」
>「カケル、《カマイタチ》!」

カザハ君とエンバースがそれぞれ麦を刈り落とし、火の周りに空間をつくる。
延焼速度はこれで落ちるはずだ。あとはゴッポヨの降臨を待てば――。

そのとき、何かが風を切って飛来し、カザハ君の頬をかすめた。

>「ぎゃあああああああああああああ!? 血が出てるぅうううううううううう!
 一歩間違えたら死んでるじゃん! もう嫌だぁああああああああああああ!!」
>「狙撃を受けてる……!」

「狙撃だとぉ!?このクソ忙しいときに、どこのどいつだ!!」

つい声を荒げちまったが、想像以上に深刻な状況だ。
炎の対処で足止めされたところをに、文字通りの狙い撃ち。
つまりこの火事も含めて、何者かの術中にハマってるってことだ。

>「みんな麦の中に隠れて! 全員でゴッドポヨリンさん召喚の援護をするんだ!」

「冗談キツいぜ……どっから撃ってきやがった?警戒は万全だったはずだ」

少なくとも俺たちが索敵できる範囲には、狙撃手も放火犯も居なかった。
つまりもっと遠方、それこそ地平線の向こうに狙撃手は居るってことになる。

「……マリスエリス」

脳裏を過るのは、アコライト防衛戦の一幕。
気絶した帝龍のスマホを撃ち抜いた、超長距離狙撃の射手。
『詩学の』マリスエリスが、この惨状の犯人だってのか?

29明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:13:38
>「なゆ達より僕のほうがスナイパー処理に慣れている!僕がでる!許可をくれ!」

燃えていない麦畑に飛び込み、頭を低くしていると、馬車の方からジョンの声が聞こえた。

「ばっか、出てくんな!俺たちでどうにかしてやらぁ!」

そりゃジョンの言う通り、対狙撃戦ならこいつの方が分があるだろう。
だけどそれは、ジョンを再び戦場に引きずり出すことになる。
こいつの終焉を、早めることになる。

>「く……、こんな、ところで……!」

なゆたちゃんの悲痛な叫びも、狙撃と炎に飲み込まれる。
追い詰められていた。進退極まり、壊滅は時間の問題だ。

ゴッドポヨリンさんの召喚には最短でも7ターンかかる。
7本分ATBがたまるまでの時間が、気の遠くなるほど長い。

どうする。俺の独断でジョンを解き放つか。
――こいつ一人を犠牲にして、俺たちが助かる。そういう選択を、出来るのか。

そのとき、頭上に光明が差した。

>「スキル! 『急転直下の大瀑布(エンジェル・フォール)』!!」

光明っていうか、後光だった。
出現した影は巨大なスライム。金色に輝くその威容は、

「ゴッドスライム……間に合ったのか……!」

スライムの体から降り注ぐ豪雨。
大量の水からなる波濤は麦畑の大火を押し流し、かき消していく。
あれほど止まらぬ勢いだった火災も、それ以上の物量でもってすれば儚い。
またたく間に火が消し止められ、炭化した麦の残骸と泥濘だけがあとに残った。

「やるじゃねえかなゆたちゃん!この土壇場で、時短コンボを思いつくなんてよ」

狙撃が止むと同時、麦畑から体を起こしてなゆたちゃんに声をかけた。
しかし鎮火の立役者であるはずの彼女は、ただ呆然と空を見上げている。

>「……な……んて、こと……」

ふと足元に眼をやれば、そこには小さいままのポヨリンさんが居た。
あれ、なんでここにポヨリンさんが?
お前ゴッドになってお空に居るんじゃなかったの。

なゆたちゃんにならって空を見る。
そこにはやはり、滞空するゴッドスライムの姿があった。

「え。じゃあアレ、誰だよ」

>「危なかったわね。怪我はない?」

輪郭を溶かすように消えていくゴッドスライムを見守っていると、
不意に地上から声をかけられた。
見れば、3つの人影がこちらに近づいて来ている。

いかにも仕事できそうなスーツ姿の女。
年齢に見合わないフリルいっぱいのゴスロリ衣装の女。
パーカーにデニムとカジュアルな格好したマシュマロ系女子。

30明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:14:21
三人の女は全員、この世界のいかにも中世欧州っぽい服装ではなく、
俺たちのよく知る地球のものを着ている。
それに、マシュマロ女の足元に居るのはスライムヴァシレウスだ。
高レアの準レイド級……こんな初期マップの僻地に出てくるようなモンスターじゃない。

つまりは――

「新手のブレイブだと……!」

俺たちと同じように、アルフヘイムに拉致られてきたブレモンプレイヤー。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が三人、目の前に現れた。

>「自分たちがたまたま通りかかってよかったっスね。恩に着て欲しいっス」
>「だよねだよねぇ〜☆ ウチらがいなかったら、今頃死んでたんじゃなぁ〜い? キャハッ☆」

「お、おう……またなんかイロモノっぽいのが出てきたなぁ……」

いやいや、命の恩人にそーいうこと言っちゃうのは良くない。
みた感じこのマシュマロさんがスライムを進化させたのがあのゴッドなんだろうし。
モンデンキント以外であのコンボ使いこなしてる奴初めて見たわ。

バロールは無作為にプレイヤーを地球から拉致し、この世界に放り込んだ。
何もわからないまま死んじまった奴も居れば、こうして生き残ってきた奴も居る。
他ならぬ俺たちがそうであるように、バロールの支援を受けない『野良ブレイブ』も確かに存在したのだ。

「とにかく助かったよ。それに野良のブレイブと合流できたのも良かった。
 俺たちは王都経由でここまでクエストを進めて来たんだ。そっちは?」

>「自己紹介がまだだったわね。私は悠木沙智(ゆうきさち)――ハンドルネームは『さっぴょん』よ。よろしくね」

キャリアウーマンが颯爽と名乗る。
ほーん、さっぴょんさん。えらくポップな名前っすね。

……なんかどっかで聞いたことある名前だ。
なんだっけ、ええと、もう喉のあたりまで出かかってんだけど。

>「ウチは柳沢りゅくす☆ ハンネは『シェケナベイベ』! シクヨロ☆」
>「そして自分が佐野喜奈子っス。ハンドルは『きなこもち大佐』。三人揃って――」

「んー……んんー……?」

ゴスロリ女がシェケナベイベ、マシュマロさんがきなこもち大佐。
二人の名前が先のさっぴょんと脳内で結びつき、俺は非常に嫌な予感がしていた。

いや!これはもう確信と言って良い!
こいつら三人を、俺は知っている!もちろんリアルじゃない、ゲームの中でだ!!

>「「「マル様!! 親衛隊!!!」」」

ばばーん!と効果音でもつきそうなばっちり決めポーズと共に差し出されるスマホ。
そこには予感通り、ブレモンのドル箱こと『聖灰』のマルグリットが笑顔で表示されている。
そしてマル様を神の如く崇め奉り、愛を燃やし続ける信者集団こそが、

「「マル様……親衛隊……!」」

なゆたちゃんと俺の復唱がハモった。
マル様親衛隊……だとぉ!!?
運命の神はかくも残酷なのか。よりにもよってこいつらが来ちゃったかぁ……。

31明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:15:08
ブレモン界隈において、関わっちゃいけないやべえ奴とされる存在はふたつある。
ひとつは言うまでもなくうんちぶりぶり大明神とかいうクソ荒らし野郎だ。
ブレモンのネガキャン行為に至上の悦びを見出す変態、救いようのない馬鹿である。

そしてもうひとつが――『マル様親衛隊』。
今目の前に居る三人は、その主要メンバーだ。

マル様親衛隊は、『聖灰の』マルグリットをこよなく愛するプレイヤーで構成されたギルドで、
規模の大きさやファン活動の"濃さ"で高い知名度を誇る。マル様クラスタ最大手と言って良いだろう。
対人ガチ勢の親衛隊長をはじめ有力プレイヤーが何人も在籍してるしな。

一方で、親衛隊には悪名も多い。
連中はかなり極端な同担拒否であり、身内以外のマル様ファンを蛇蝎の如く嫌っている。
解釈違いを巡ってしばしば他のファンギルドと衝突しては、その尽くを殲滅して後には草一本残らない。
我こそはマル様を一番に愛する者と、臆面もなく喧伝するその姿はもはや狂信者の類である。

――人呼んで、『アコライトの狂犬』。
そしてランカー最上位層に名を連ねる『さっぴょん』は、そのリーダーだ。

かつてゲーム本編でアコライトが滅亡した時、俺はこいつに今どんなお気持ちかインタビューしに行ったことがある。
廃墟でさっぴょんの周りをぐるぐる回りながらNDK!NDK!と繰り返してたらいつの間にか集まった親衛隊にボコボコにされた。
それだけに飽き足らず連中は俺の死体スクショして雑コラした挙げ句フォーラムに張り出しやがって、
おかげでしばらく顔出す度に死体コラが貼られまくってロクに荒らしが出来なかった。

まったくもう!よくないよねそういうの!
人が気持ちよく荒らしてるの邪魔するなんてサイテーだよ!!!

ちょームカついたから対立勢力軒並み焚き付けて煽動し、親衛隊包囲網なんてもんも企画した。
だが、総勢60名からなるアンチ親衛隊連合軍は、たった4人の幹部によって壊滅させられた。

――『ミスリルメイデン』さっぴょん。
――『親衛隊のやべえ奴』シェケナベイベ。
――『次世代型チルドレン』きなこもち大佐。
――『火力マシマシ防御カタメ』スタミナABURA丸。

親衛隊が最強最悪の過激派信者集団として君臨し続けられたのは、
ひとえに奴らがブレモン界隈でも有数の強力なプレイヤーだったからだ。

そんな狂人どもを目の前にして、否が応でも緊張感が背筋を駆ける。
仲良し四人組は一人足りてねえようだが、そもそも知り合い同士が纏まって拉致られてること自体が奇跡的な確率だ。
あれ、そういやなゆたちゃんと真ちゃんもリアルで幼馴染同士なんだっけか。
ちょっと偶然重なり過ぎじゃない?バロールさん??

そして俺はもうひとつ、猛烈にイヤな予感がしていた。
仮に。この親衛隊の世界ひとつ跨いだ集結が、単なる偶然でないのなら。
それこそニブルヘイムのピックアップ召喚みたく、有力かつ結束力のあるプレイヤーを意図的に喚び出したものならば。
誰かの作為が、働いているのなら。

予感を裏付けるように、朗々とよく通る気障ったらしい声が響く。

>「おお……、これは全知全識なる智慧の神の御手か、あるいは叡知の頂に座す我が賢師の御導きか!
 神の掌に等しく雄大なるこの大地に於いて、よもや再びかたがたと相まみえられようとは!
 これぞ砂海に一粒の砂金(いさがね)を見出すが如し! まさに不思議の業、神変霊異と申すしかありますまい!」

32明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:16:42
親衛隊の後ろから、ローブ姿の男が一人、歩み出た。
狂犬どもの熱っぽい視線を反射するようにキラキラ輝くプラチナの長髪。
いっそ腹立たしいまでに白い歯と、彫刻じみた凄絶な美貌。

――『聖灰の』マルグリット。
親衛隊が現人神と崇拝し、その一挙一動を礼賛する、十二階梯の継承者が一人。

試掘洞での邂逅以来、ローウェルを巡る因縁の発端となった男と、俺たちは再会した。

「出ちゃったよ……狂犬どもの御神体が……」

相変わらず何言ってっかわかんねーなこいつ。
ニホンゴムツカシイネ。俺IQ低いからなんも伝わんねえわ!

>『あいつらはパパの仲間なんかじゃないぞ。
 連中が従うのは正義とか悪とか、アルフヘイムとかニヴルヘイムとか。そんなんじゃなくて――
 ただ、大賢者ローウェルの意志だけ……だからな』

ガザーヴァの言葉が頭の中をリフレインする。
とすれば、この再会はバロールの差配によるものじゃない。
マルグリットの裏で糸引いてんのはローウェル。あのジジイの差し金ってことだ。

どういうつもりだ。
親衛隊が俺たちを助けに入ったのも、偶然通りかかったからなんかじゃないはずだ。
おそらくはマルグリットの指示によるもので、暫定狙撃犯のエリにゃんはマル公と結託している。
この邂逅が、言葉通りのマッチポンプで企図されたものだとすれば。

「ちょいこっち。耳貸せ……親衛隊の連中は味方じゃない。マル公もだ。
 敵かどうかはまだ分かんねえが、少なくとも信用は出来ない」

マル公とわいきゃいやってる親衛隊どもを尻目に、俺は仲間たちへ耳打ちする。
バロールとローウェルは対立していて、マルグリットはローウェル側の人間。
ガザーヴァから得た情報を、端的に伝えた。

「親衛隊はブレモンきってのやべえ奴らだ。そのやばさはこの俺をも凌ぐ、っつったら分かるよな。
 連中の判断基準は善悪じゃなく、マル公のセリフの解釈だ。
 奴がアルフヘイムに弓引けと言えば、親衛隊どもは喜んで矢を番えるだろうよ」

それに。親衛隊を信用できない理由はもう一つある。

「おかしいだろ、有力ギルドのメンバーが3人も固まって召喚されるなんてよ。
 バロールの10連ガチャじゃ確率的にまず起こりようのないリザルトだ。
 つまり奴らは――ピックアップされてる可能性がある」

有力プレイヤーを名指しで喚び出す、ピックアップ召喚。
それが出来るのは現状、ニブルヘイムだけのはずだ。
大賢者ローウェルなら、弟子のバロールより強力な召喚魔法が使えるってことなんだろう。

>「なあ!なゆ!煙が充満して結構辛いんだ!一回外にでてもいいか?」

ぼっ立ちで思案していると、ジョンが白々しく声を上げた。
おいおい大丈夫かよ。戦闘終わってるとはいえ、今すぐ敵対するかもわかんねえ相手だぞ。
そんな無防備に出てきちゃって――

>「失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです」

いや誰だよ。お前そんなキャラだっけ!?
と思ったけどよく思い出してみりゃこいつ、王都で初めて会った時もこんな感じだったな。
アレか。初対面限定の営業モードって奴っすか。

33明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:18:00
>「お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です」

ってガチの営業する奴があるかよ!
粗品で化粧品配るとかお前保険のおばちゃんかよぉ!?
だがこれは良い流れだ。どう転んでも美味しい。よっしゃ、乗ったるで!

>「?どうしたんだみんな?」

「いやちょっと、ちょっと待ってよジョン君さぁ……初対面でこんな高価なプレゼント渡すぅ?
 なんぼ羽振りの良いスポンサーがついて金余ってるからって、ほら皆さん引いちゃってるじゃん」

初対面の相手との交渉は、初動でどれだけマウントとれるかがキモだ。
高価な贈り物は、『この程度は粗品みたいなもんどすえ?』という資金力の示威になる。
石油王!俺に力を貸してくれ!京都人の奥ゆかしき交渉術を見せてやろうぜ!

マルグリットが出向いてきたなら好都合だ。
どの道継承者は二三人捕まえて尋問しなくちゃならなかった。
交渉を通して、奴の出方を見る。その目論見を暴き出す。

畳み掛けるぞ!カザハ君、カモン!(指パッチン)

>「ガンダラの酒場のマスターにでもあげたら喜ばれるんじゃないかな?」

あーっ?なに話流そうとしてんだもっと広げて広げて!
すげえ喜ぶだろうけどさ!でも多分俺があげるなら100均の化粧水でも喜ぶよあいつ。

>「……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!」

カザハ君はそう言うとケショーヒンをひとつつまみ上げて、インベントリに放り込む。
いいぞ!実演販売でお客様の購買意欲を爆上げだ!

>「効果を実演してみるから見ててね! ケショーヒン使用、対象ジョン君と明神さんとエンバースさん!」

「なんで俺たちなんだよ!?……ぐえっ!」

なんかこうポワポワした泡みたいなエフェクトがカザハ君のスマホから飛んで、
俺の顔面に直撃した。
何が起こった!?指先で頬を撫でる。

「なんだこれは……!このお肌のハリ、十代ん時のそれだ……!!」

めっちゃプルプルすりゅぅ……ほっぺたが指に吸い付いてくりゅぅ……。
思わずミラーモードにしたスマホで確認すれば……誰だこいつは!
表情筋の死んだ疲れ切った社畜面が、まだハツラツとしていた学生時代に戻ってる!

やがて効果が切れたのか、しおしおと元の萎びたフェイスに変わっていく。
絶望を長く深く刻まれた、世の中の全てが気に入らないかのような陰気な顔。
俺ってこんなふうに歳とってたんだ……気付かなかった……怖ぁ……。

34明神 ◆9EasXbvg42:2020/04/07(火) 06:19:28
「ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!」

……おっと、取り乱してしまいましたな。失敬。
親衛隊はドン引きしながら一部始終を見ていた。勝ったな。

「それはそれとしてだ。久しぶりじゃんマル公、穴蔵で狩りパ組んで以来だな。元気にしてた?」

親衛隊の連中をチラ見しながら、あえて親しげにマル公に声をかける。
奴らにとってマル公は神だ。対等であることを自身に許さず、その足元に傅くことでのみ近づける。
再会したマル公が俺たちとの『過去』を示唆したことは、内心穏やかじゃあないだろう。

俺はマル公と一緒に狩りもしたことあるお友達だぜ!お前ら信者とは親しさのランクがちげーんだよっ!
……という小学生から政治家まで幅広く用いられるマウントテクニックだ。
それに加えて、もう一捻り入れてみようか。

「ガザっち、ちょっと隠れてろ。親衛隊がお前の正体に気付いたら確実に厄介なことになる。
 いいか絶対出てくんなよ!あいつらガチで殺しにかかってくんぞ」

先んじてガザーヴァは幌の中にしまい込んでおく。
親衛隊にとって幻魔将軍は聖地を更地に変えた張本人、恨んでも恨みきれない仇敵だ。
ガザ公が鎧脱いでて良かった。流石にこの美少女が現場将軍だとは気付くまい。
これでよし、続けよう。

「こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな」

雑に俺プラス三名を紹介して、天を仰ぐ。
大仰な仕草で、なゆたちゃんを示した。

「そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!」

親衛隊幹部が一人、きなこもち大佐は上位ランカーのスライム使い。
そして在野のほとんどのスライム使いがそうであるように、
なゆたちゃんことモンデンキントから薫陶を受けたチルドレンだ。

多くのチルドレンがモンデンキントの劣化コピー、後追いにしか焼き上がらなかったのに対し、
きなこもち大佐はぽよぽよコンボを下敷きに独自の戦術を編み出し、ただのチルドレンとは一線を画す存在となった。
確か奴は、自身がチルドレン出身だと公言していた。
異世界で思わぬ再会を果たした過日の師匠に対し、思うところはあるはずだ。

もっと言うなら、チルドレン以外にも、モンデンキントのネームバリューは有効にはたらく。
俺たちを、迂闊に手を出せない強者の集団だと思わせられるだろう。

オモックソ虎の威を借りちまってるけど、まぁ、許してにゃん。
許してにゃん!!!!!!!!!

「――以上だ!」


【マウントをとりつつ牽制のためにモンデンキントの威を借りる】

35崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 20:57:42
「マル様親衛隊……ですって……!?」

明神と共に、なゆたは絶句した。
まさか、あのブレモン界の問題児。少しでもブレモンに詳しいプレイヤーならその存在を知らないはずがない強者。
ブレモンでも突出した狂信者集団と、このアルフヘイムで遭遇することになろうとは――

>マル様親衛隊がリアルにマル様の親衛隊してるだと……!?

地球での記憶なのか、カザハも驚愕している。なゆた&明神とは驚きのベクトルに若干の違いがあるが。
明神がなゆたとカザハ、エンバースに耳打ちする。

>ちょいこっち。耳貸せ……親衛隊の連中は味方じゃない。マル公もだ。
 敵かどうかはまだ分かんねえが、少なくとも信用は出来ない
>親衛隊はブレモンきってのやべえ奴らだ。そのやばさはこの俺をも凌ぐ、っつったら分かるよな。
 連中の判断基準は善悪じゃなく、マル公のセリフの解釈だ。
 奴がアルフヘイムに弓引けと言えば、親衛隊どもは喜んで矢を番えるだろうよ

「分かってる。……いや、やばさのレベルでは昔の明神さんもどっこいだったけどー!
 それはともかく、手放しに喜べる状況でないことは確かね……。
 親衛隊はさっきまで味方だった相手さえ、僅かな解釈違いで即座に敵認定する人たちだから……」

なゆたもぼそぼそと声を潜める。
性善説を掲げて憚らない、底抜けに善人のなゆたでさえ『できるなら関わり合いになりたくない』と思うような手合いだ。
その危険性は導火線に火のついた爆弾の比ではない。
そんな連中が敵か味方か分からないと言うのは、とてもではないが気が休まらない。
いっそきっぱり敵だと言われた方がすっきりするくらいだ。 

>おかしいだろ、有力ギルドのメンバーが3人も固まって召喚されるなんてよ。
 バロールの10連ガチャじゃ確率的にまず起こりようのないリザルトだ。
 つまり奴らは――ピックアップされてる可能性がある

「――連中がニヴルヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』かもしれないという可能性か。
 簡単な話だ。だったら叩き潰す、帝龍を仕留めたようにな。俺たちにはそれが出来――」

「……ううん、難しいと思う」

エンバースの言いかけた言葉を、なゆたがかぶりを振って否定する。
そうだ。
確かに自分たちのパーティーは数多くの激戦と死闘を潜り抜けてきた。
アコライト外郭での超レイド級モンスター、アジ・ダハーカ攻略などは大金星と言える勝利だっただろう。
だが――そんな自分たちをもってしても、きっと。目の前にいる、この三人組には勝てないだろう。
この三人のことを、なゆたは知っている。明神もきっと(私怨込みで)熟知しているはずだ。

『親衛隊のやべえ奴』シェケナベイベ。
闇属性のアンデッドモンスター、ゾンビの最終進化系『アニヒレーター』を中核とした、
デスメタルコンボを使うプレイヤー。そのデス・ヴォイスはユメミマホロの柔らかな天使の歌声とは対極の、
鼓膜を破壊しありとあらゆるデバフを齎す破壊の音波だ。
いわゆるマル様親衛隊包囲網では、反親衛隊連合軍の大半が彼女のデスメタルコンボによって壊滅的な打撃を受けた。

『次世代型チルドレン』きなこもち大佐。
『スライムマスター』モンデンキントの高弟(といってもなゆた本人は弟子とは思っていない)。
最低7ターンの時間を要するのが致命的弱点となっているぽよぽよ☆カーニバルコンボを独力で改良・進化させ、
実に5ターンでG.O.D.スライム召喚を実現した『もちもち♪アドバンスコンボ』の提唱者。
親衛隊の切り込み隊長として、親衛隊に弓引く者の悉くを葬り去ってきた剛の者である。

そして――そんな強豪のさらに上に君臨する親衛隊長『ミスリルメイデン』さっぴょん。
徒名の通り聖属性の『ミスリルメイデン』をパートナーモンスターとする、日本屈指のトップランカー。
ミスリルメイデンを核とし、ミスリルナイト、ミスリルビショップ、ミスリルルークなどミスリル系モンスターで編成された、
いわゆる『ミスリル騎士団』は、他の追随を許さない圧倒的な強さを誇る。
その戦い方はまさに制圧、蹂躙、征服と呼称するのが相応しい。

明神の指摘通り一人足りないようだが、それでもこの面子が揃っているというのは特筆に値する。
偶然とは考えづらい。ここはやはり、ニヴルヘイムのピックアップガチャと考えるのが妥当だろうか。

36崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 20:58:00
なゆたはゲーマーだ。したがって、ゲーマーの思考というものが染みついている。
それはどれだけ拭おうとしても拭いきれない癖だ。無意識にゲームの経験を下敷きにものを考えてしまう。
もし仮に戦闘になったなら、シェケナベイベは倒せるかもしれない。
自分が全力をもって当たれば、きっときなこもち大佐も倒せるだろう。
だが、さっぴょんはいけない。さっぴょんだけは相手が悪い。
なぜなら――地球にいた頃のオンライン対戦でなゆたは『一度もさっびょんに勝てなかった』。
無敵のぽよぽよ☆カーニバルコンボをひっさげ、スライムマスターと呼ばれてなお、さっぴょんに一矢も報いることができなかった。
さっぴょんはそれほど強いのだ。

そして――幹部二人に勝てるかもしれないというのも、あくまで『彼女ら単騎に自分たちが全員で挑んだ場合』だ。
戦闘になれば、当然彼女たちもパーティーを組むだろう。そして、団結した彼女らの強さは既に実証されている。
複数のギルドが強者を集めた60名からなるアンチ親衛隊連合軍を、彼女たちは文字通り蹂躙したのだから。

「……ぐぬぬ」

むろん、アルフヘイムで召喚されて以来、なゆたたちは激戦を経て経験を積んだ。
地球にいた頃とは段違いに強くなっているだろう――が、それは彼女たちも同様であろう。
バロールに召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』と違い、ミハエルや帝龍たちはニヴルヘイムに客分扱いされていた。
が、といってぬるま湯に浸かっていたという訳ではないだろう。親衛隊は親衛隊で戦いの経験を積んでいるはずだ。
となれば、ますます戦って勝てる可能性は低い。

>立派なスライムだね……!
 ボクらのクラスじゃなくてパーティーのリーダーは元祖ゴッドスライム提唱者のモンデンキント先生なんだ!
 折角だから一緒に記念撮影とかどうかな?

「ちょ! 何言ってるのーっ!?」

出来れば正体は知られずにおきたい。そう思っていたところ、突然身内にバラされてなゆたは仰天した。
きなこもち大佐が眉を顰める。

「はぁ? モンデンキント? ……何言ってるっス?」

なゆたたちのパーティーを見回し、小さく鼻を鳴らす。
カザハの作戦はあっさりスルーされた。明神の時もそうだったが、よもや自分の師匠が女子高生だとは思わないらしい。

>なあ!なゆ!煙が充満して結構辛いんだ!一回外にでてもいいか?

親衛隊、ならびにマルグリットに対してどう接していいのか決めあぐねていると、馬車の中からジョンの声がした。
あまりに衝撃的なことに頭が追い付いていなかったが、確かにこの焼け跡の中で密室にいるのはつらいだろう。
どこか白々しく咳をしながら、ジョンが幌の中から出てくる。

「あっ、ジョン……」

まだ、マルグリットや親衛隊の真意が分からない。ひょっとしたら戦闘になってしまうかもしれない。
ジョンは仲間を護るためならどれほどでも非情になるし、我が身を顧みなくなる。
親衛隊が少しでも敵対的なそぶりを見せれば、きっとジョンは彼女たちを排除しようと動くだろう。
そんな中にジョンを出すのは危険だ、なゆたは無防備に親衛隊へと近付くジョンを制そうとした、が――

>失礼しました・・・僕の名前はジョンアデル・・・気軽にジョンとお呼びください
 こちらは相棒の部長です。ちょっとふてぶてしい奴ですがかわいい子ですよ、ふかふかです

マホロのときの敵意100%の時と違い、ジョンの態度は物柔らかだった。
キングヒルで初めて会ったときのような慇懃な振る舞いに、なゆたは肩透かしを食らって僅かにつんのめる。

>お嬢様方、お近づきの印にこれをどうぞ。王都で話題のケショーヒンセットです。
 僕達のしっている化粧品とはちょっと違う物ですが・・・効果は間違いないですよ!あのバロールもみとめた品です

さらにジョンは幌馬車の中から化粧品を数点取り出した。
むしろ化粧品なんていつ調達したのか。このためだとしたら用意がよすぎる。

『化粧品だって? そんなもの、何に使うんだい? まさか君が使うの? ははは、そうかそうか! いや皆まで言わなくていい!
 誰にだって人に言えない趣味嗜好はあるものさ。いいとも、キングヒルで手に入る最高のものを用意しよう!
 はっはっはっ! なになに、いいってことさ!』

バロールは何か盛大に勘違いしていたようだが、結果オーライである。
しかし。

「……えぇー……」

なゆたは半眼になって口許を引き攣らせた。
さすがに、初対面の人間が有名人のネームバリューを盾に怪しげな化粧品を勧めてくるという絵面は怪しいことこの上ない。
それこそネットの胡散臭い美容品だの、情報商材だのといったレベルだ。
世間ずれしているとは言えないなゆたでさえ、これが悪手であることは理解できる。
その証拠にジョンに化粧品を差し出されたきなこもち大佐とシェケナベイベは怪訝な表情を浮かべている。

37崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 20:58:25
「何スかコレ? ハァ? ケショーヒン?」

「えぇ……ないわぁ……ってかコイツ、ジョン・アデルっつった? あのション・アデル? マジ?」

「知ってるんスか、副隊長」

「知ってる知ってるー。顔だけは」

「ふぅーん。……マル様の方が兆倍素敵っスね」

きなこもち大佐がジョンの顔を値踏みするようにまじまじと見る。
評価は芳しくはなかった。

「あちゃぁ……」

逆に親衛隊に警戒心を抱かせてしまったかもしれない。なゆたは右手で額を押さえた。

>……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!
>ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!

ジョンの出した化粧品にカザハと明神が食いつき、目の前で寸劇が繰り広げられたが、
当然のように親衛隊の反応は芳しくない。
その後もパーティーに対するきなこもち大佐とシェケナベイベの酷評は続いた。

「てか、パートナーモンスターがコトカリスって! こんなネタモンスター連れてるプレイヤー初めて見たし!
 見たとこ大して鍛えてもないっぽいしぃ。マジ引くわぁ……ひょっとしてこれも女ウケ狙ってる系? ぱねーし」

「他はシルヴェストルとユニサスに、ダークシルヴェストルとダークユニサス。エンバースとスライムっスか。
 ザ・エンジョイ勢! って感じっスね……エンバースとダークシルヴェストルとダークユニサスはまぁまぁっスけど。
 他はザコもいいとこっス。こんなゴミパーティーでよくも今まで生き延びてこられたモンっスねぇ〜?」

「こら、二人とも言いすぎよ? たとえ低レアモンスターしかいないニワカ勢でもいいじゃない。
 マル様が必要だと仰っておられるのだから……そうですよね、マル様?」

「あ、あはは……すみませんねえ、ニワカのエンジョイ勢で……」

リーダーのさっぴょんがふたりを諌めるも、見下されていることには変わりない。なゆたは米神に青筋を浮かべて愛想笑いした。
これだ。この排他性、親衛隊とはこういう人種だった。自分たちとフォロワー以外を頑として認めない。
プレイの多様性というものを考えず、にわか勢と見下して憚らない。
いつか物申してやろうと思っていたが、まさか直に顔を合わせることになろうとは。

>それはそれとしてだ。久しぶりじゃんマル公、穴蔵で狩りパ組んで以来だな。元気にしてた?

親衛隊の濃厚すぎるキャラクターに気圧されていると、不意に明神がマルグリットへ声をかけた。
これでもかというほど馴れ馴れしい。だが、なゆたはそんな明神の思惑をすぐに察した。
つまりこれは牽制だ。自分はお前たちの崇拝するマルグリットとこんなにも近しいんだ! とアピールすることで、
狂犬たちに首枷をつけようとしている。自分たちに礼儀知らずなマネをすれば、
お前たちのマルグリットが黙ってないぞ――と。
実際なゆたと明神はガンダラでマルグリットと共闘しているのだし、何一つ嘘は言っていない。
そして、根が単純なのかお人よしなのか、当のマルグリットはそんな明神の駆け引きにまるで気付いていないようだった。
親衛隊はじめ多数の女性プレイヤーを虜にした甘いマスクを向け、穏やかに明神へと笑いかける。

「ええ、まこと久闊でございますな。ご健勝で何より――
 いやさ、貴君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ならば当然の仕儀にございましょうや。
 なればこそ、我が賢師も貴君らの力を恃みにしようというもの」

「こんなエンジョイ勢とマル様が一緒に戦ったとか、マジ信じられんし」

「いいえ、いいえ。エンジョイ勢だからこそよ、シェケちゃん。
 マル様はブレモン唯一無二の正真正銘の英雄だもの……弱者に手を差し伸べてこそ、でしょう?」

「一回野良でパーティー組んだ程度のザコの顔まで覚えてるなんて、マル様はやっぱパネェっス!
 マジ惚れ直すっス……!」

「あはぁん! マル様ぁ〜! サイッコーだし!」

マルグリットの言葉にさっそく親衛隊が賛辞を贈る。
眩暈がしそうだ。いや既にしている。

38崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:09:27
「オイオイオォ〜イ! ちょっち待ってくれるー?
 さっきから聞いてたらザコだのニワカだの、さんざん好き勝手言ってくれちゃってさー?
 マル様親衛隊ィ? ハ! オマエらなんてボクがアコライトを更地もごがご」

矢継ぎ早な悪罵に耐えきれなくなったらしく、ガザーヴァが身を乗り出して口を出す。
が、これも明神がガザーヴァの口を塞ぎ無理矢理幌の中に押し込んで制した。ファインプレーだ。
さらに明神は言い募る。

>こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな

「明神……? 何かひっかかるわね」

「シクヨロシクヨロー。まぁー短い付き合いになると思うケドぉー?」

「あいや、別におたくらの名前とか興味ないっス」

三者三様の反応である。が、三人ともこちらのパーティーへの興味は薄いようだった。
マルグリット以外の生命体は一律カボチャ、くらいの認識なのだろう。
しかし。

>そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!

「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

まるでeスポーツの大会で出場選手でも紹介するかのような調子で、明神がなゆたを紹介する。
先程カザハが紹介したときは有耶無耶になったが、さすがに今回はそうはいかない。
地球でもよく知るプレイヤーの名前が二度も出て来ては、親衛隊もさすがに注目せざるを得ないだろう。

「モンデンキントって、あのモンデンキント?」

「え? マジ? このコが? えっ? ……マジで?」

「いやいや、こんな小娘がお師匠なワケないっス!
 お師匠はもっと大人で、聖人で、マル様ほどじゃないにせよ立派なお方っスよ!」

やはりと言うべきか、きなこもち大佐はキングヒルでの明神のようなリアクションを見せている。
三人の視線がマルグリットに集まる。なゆたが本物なのか偽者なのか、彼の判断を待っているそぶりだ。
親衛隊の無言の懇願に対して、マルグリットは柔和な微笑を浮かべながら一度頷く。

「ええ、間違いなく。
 試掘洞以降、黎明の賢兄より伺いました。稀代のスライム使い、その名も月の子(モンデンキント)。
 試掘洞にてバルログをただ一撃にて屠りし勇姿、いまだ我が瞼裏に焼き付いております」

「あはは、あの月子先生がこんな可愛い女の子だったなんて! 分からないものねぇ!」

「ッパネェ……! モンキンってこんなお子ちゃまだったんだ……マジビビルっしょ!」

「う、嘘っス……お師匠が、自分のお師匠がこんな……こんな……。
 いくらなんでも属性盛りすぎじゃないっスかね……?」

「ええと……なんかゴメンナサイ……」

さすがに崇拝するマルグリットの太鼓判があっては否定できない。親衛隊は納得した。
しかしきなこもち大佐だけはがっくりと地面に膝をついている。なゆたは思わず謝った。

「でも、バルログをワンパンなんてできるのは自分の知る限りお師匠くらいしかいないっス。
 認めるしかないようっスね……!」

「あら。私もできるけど」

「あーしもー」

「社交辞令っス。気にしないでほしいっス」

尊敬する師匠を前にしても、慇懃無礼なのは変わりなかった。

39崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:09:47
「と、ともかく、マルグリットがここへ来てくれて助かったよ。ありがとう。
 さっきカザハも言ってたけど、あなたたちはこれからどこへ?
 わたしたちはここからアズレシアを経て、最終的にはエーデルグーテへ行こうと思ってるんだけど……」

「私は貴君らをお迎えに上がったのです。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ」

「迎えに来た? わたしたちを?」

「然り」

マルグリットは鷹揚に頷いた。

「賢師の命に依りて、我ら十二階梯はこの未曽有の危難に対処する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めています。
 この三名も同じく我が招聘に応じ、本来の陣営より離脱し馳せ参じてくれた『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 貴君らにも、是非同道頂きたい。賢師もそれをお望みです。
 かつて貴君らに預けた『ローウェルの指輪』がその証……賢師に選ばれし『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の」

ガンダラの試掘洞で達成したクエストの報酬、ローウェルの指輪。
実在するかさえ不確定であった超絶レアアイテムは、単なるスペルカードのブーストアイテムではなかった。
最初にこのアルフヘイムの地に降り立ってから、既になゆたたちはローウェルに選ばれていた、ということらしい。
と、するならば。
魔法機関車の燃料切れとクリスタル確保のタイミングがあまりに噛み合っていたため、なゆたたちはずっと、
キングヒルへ来いというクエストとローウェルの指輪を手に入れろというクエストの出どころは同一と思っていたが――
バロールのアルフヘイム陣営とローウェルの十二階梯陣営ということで、それぞれバラバラの依頼だったらしい。
ガザーヴァが言っていた『敵はニヴルヘイムだけじゃない』という言葉がさっそく実証された形だ。
今はまだ、マルグリットやローウェルが敵なのかどうかは定かでない。今後のなゆたたちの去就次第だろう。
しかし、これでアルフヘイム、ニヴルヘイムに次ぐ第三勢力の存在が明らかになったわけだ。

「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」

「居心地悪いと思ってたんスよねぇ。そんな自分たちを、マル様が迎えに来てくれたんス!」

「あぁ……、本物のアルフヘイムで、まさか本物のマル様にお会いできるだなんて……!
 これってやっぱり運命よね! 私たちマル様親衛隊は、マル様に出会うべくして召喚されたのよ!」

明神の予想通り、マル様親衛隊は元々ニヴルヘイムのピックアップ召喚で召喚されたらしい。
でなければ、こんなに近しい間柄のプレイヤーを纏めて召喚することなど不可能だろう。
しかし、三人はマルグリットに出会ったことであっさりとニヴルヘイム陣営を裏切り十二階梯勢についた。
なゆたや明神にとっては『ですよねー』な当然すぎる結果だが、
ニヴルヘイムの首魁イブリースにとっては予想外の事態だろう。今にも歯軋りが聞こえてきそうだ。

「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」

「スタミナさんっスか? もういないっス」

「もういない?」

きなこもち大佐の物言いに、なゆたは首を傾げた。

「除名だよ除名ー。つーかさーアイツ、こっちに召喚されたらビビッちゃってさー。
 マル様のために戦えるんだよ? 超絶光栄じゃん! 望むところじゃん? マル様に刃向かう連中なんて全殺しっしょ?
 あーしら最強だし! なのに戦いたくないとか言い出してさぁー。だ・か・ら!」

「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

さっぴょんがクスクスと哂い、きなこもち大佐がクククとほくそ笑み、シェケナベイベがケラケラと嗤う。

「―――――――」

なゆたはぞっとした。
この三人は、あれだけ仲良くしていた幹部さえも僅かな意見の違いで放逐したのだ。
しかも、ただ放逐したのではない。なゆたの予想が正しければ――三人は戦うことに反対した幹部に制裁を加えたのだ。
そして最終的に『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の命綱とさえ言えるスマホを破壊した。
この世界において『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がスマホを失うことは死に直結する。
それを、この三人はしたのだ。躊躇いなく。

――狂ってる。

改めて、なゆたはマル様親衛隊という組織の恐ろしさを痛感した。

40崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:10:00
夜になり、なゆたたちパーティーとマルグリット、マル様親衛隊は当初予定していた村に到着した。
一件だけある酒場兼宿屋にチェックインする。もっとも、今は総勢10名の大所帯(馬除く)だ。
宿屋の部屋とベッドには限りがある。なゆた、ガザーヴァ、親衛隊の5人が宿屋を使い、
明神、エンバース、カザハ、ジョン、マルグリットの男衆は馬車で宿泊ということになった。
馬二頭は厩である。
マル様も当然宿を使うべきと主張する親衛隊や、明神と寝たいと駄々をこねるガザーヴァによって部屋割りは揉めに揉めた。

「貴君らがバロール師兄の許に身を寄せていることは存じております。
 したが、敢えて申し上げましょう。貴君らは師兄に欺かれている。ていよく利用されているだけなのです」

酒場でテーブルを囲み、夕食を摂りながら、マルグリットが物柔らかな態度でなゆたたちを説得する。
その声、その態度、その雰囲気だけで、マルグリットが正義の側、光の側に属しているということが伝わってくる。
マル様親衛隊でなくとも、マルグリットの慇懃な態度を見ればその言葉を信じたくなってしまうだろう。
バロールが明らかに隠し事をしている、情報の開示を避けているならば尚更だ。

「師兄もまた、世界の救済を考えてはおられるのでしょう。
 さりながら……師兄のそれは真の救済にあらず。ただ、世界を欲しいままにしたいだけなのです。
 我が賢師はそれをお許しにならなかった。ゆえ、賢師は師兄を破門にされたのです。
 このまま師兄に使嗾され続けたとて、貴君らに安寧は決してなきもの……と断言させて頂く」

「バロールは、やっぱりわたしたちを騙しているっていうこと?」

「遺憾ながら」

マルグリットは首肯した。
確かにバロールの発言や行動には謎が多いし、目的のために犠牲を厭わないところがある。
ガザーヴァのことを道具としてしか見ていなかった点なども、いまだに不信感として燻り続けている。
かの元第一階梯がなゆたたちに開示している情報とは別の目的で動いているのは間違いないだろう。
しかし、それをもってバロールを見限るのは早い、ようにも思う。
何より今はまだローウェルの思考が見えない。
ローウェルもまた侵食に備えようとしているのは確かだろうが、彼には彼の思惑もあるはずだ。
それがなゆたたちにとって何を意味するのか、それを見極めるまでは結果は出せない。

「つか、バロールって魔王っしょ? 殺せば?
 なんならあーしが殺す? 10ターンくらいでイケるっしょ、アイツなら」

シェケナベイベがパスタをフォークで巻き取りながら、こともなげに言う。

「自分ら三人がかりなら5ターンってとこっスかね」

「んー、私はパス。きなちゃん、シェケちゃん、お願いね」

「そんなこと言って、あーしらがバロール殺してる間にマル様と抜け駆けしようなんて問屋が卸さないし! 隊長!」

「んー? ふふふ、ばれたか」

「きたないさすが隊長きたない」

完全にバロールのことを舐めている。
バロールは十二階梯の継承者の頂点に君臨していた男。大賢者ローウェルの一番弟子にしてマルグリットの兄弟子にあたる。
ストーリーモードのラスボスであり、この世界でも最高の魔術師である。
当然、やすやすとやられるとは思わない……が。
親衛隊の物言いには、ひょっとしたら成し遂げてしまうのではないか――そう思わせる説得力があるのも事実だった。
だが、そんな親衛隊三人の言葉にマルグリットがかぶりを振る。

「いえ、お三方。師兄の力を見縊られぬよう。
 師兄は今世最大にして最強の魔術師。破門となり我らと袂を分かった今もなお、その創世魔法に衰えはありますまい。
 お三方の力量は重々承知しておりますが……何卒軽はずみな行動は慎まれよ。何より――
 見目麗しいレディの身がたとい毛筋ほどであっても傷つくなど、このマルグリットにとって耐え難き苦しみなれば」

そう言って、マルグリットは笑った。
ぱぁぁぁぁぁぁぁ……!! と効果音でも出ていそうな、とびきりの笑顔だ。実際光り輝いているような気さえする。

「ふはぁ……マル様ぁぁぁん!!」

「あひぃん……!」

「おぶぅ!? と、尊すぎて死ぬっス……!」

さっぴょんが横ざまに椅子から転げ落ち、シェケナベイベが感極まってビマビク震え、きなこもち大佐が鼻血を垂らして突っ伏す。
一事が万事こんな感じで、鬱陶しいことこの上ない。
だが、この四人が戦力ではなゆたたちを遥かに上回っているのは事実なのだ。

41崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:10:49
「ところで……月の子よ、貴君らはエーデルグーテへ行かれるとのこと。
 なにゆえ斯様な遠方へ? 聖地巡礼という訳でもありますまい」

「あ。ええと……」

マルグリットに訊かれ、なゆたは無意識にジョンの方へと視線を向けた。
ほんの少しだけ逡巡してから、

「……ちょっと、呪いを解きに行こうかなって」

とだけ言った。
教えられないと黙秘しては親衛隊の不興を買うだろうし、といって懇切丁寧に事情を説明してやる必要もない。
何より、これはジョンの問題だ。ジョンも会ったばかりの者たちに自分の苦境を知られたくないだろうし、
何よりなゆたがペラペラと喋っていいことではない。

「なるほど。委細承知致しました」

ただ、そんななゆたの意図など関係なくマルグリットはあっさりと納得したようだった。
ゲームの中でも、マルグリットは篤実かつ実直な人物としてキャラメイクされている。
その誠実さ、悪く言えば単純でバカ正直なところをゲームの中でも様々な人物に利用され、
ときにプレイヤーの味方として、ときに敵として接触していくのである。
親衛隊を始めとするマル様フォロワーも、そんなマルグリットの『強くてイケメンなのにどこか抜けている』ところに
魅力を感じているのだろう。母性愛や庇護欲を掻き立てられる、とでも言えばいいか。
なゆたはイケメンにはまるで興味がないタイプなので、マルグリットには全然ツボを刺激されないのだが。

「解呪ということであれば、確かに聖都より適切な場所はございますまい。……ならば、我らも聖都へ同道致しましょう。
 幸い聖都の頂点、プネウマ聖教の教帝オデットは十二階梯の継承者が一翼、我が賢姉にて。
 貴君らの解かんとしている呪詛がいかなる類のものかは存じませぬが、賢姉にかかれば解呪などいと容易きこと。
 私の伝手にて賢姉に渡りをつけましょう、如何?」

「本当!?」

なゆたはガタッ! と椅子から立ち上がり、身体を前にのめらせて食い入るようにマルグリットへ顔を近付けた。
これぞ、渡りに船である。
『ブラッドラスト』を解くために聖都へ向かおうと思い立ったものの、聖都に到着した後のことは何も考えていなかった。
ただ、聖属性の本拠地である聖都へ行けばきっと解呪の手段もあるだろう、と何となく考えていただけだ。
そんな何とも頼りない、ふわっとした作戦にマルグリットは確かな手段を提供してくれるという。
プネウマ聖教の教帝オデットは聖属性魔法のエキスパート。聖属性に関しての知識はバロールをも凌ぐ。
オデットならば、ブラッドラストを解呪する方法もきっと知っているだろう。
もしオデットがそれを知っていたとしても、なゆたたちだけでは教帝に謁見することなど夢のまた夢だ。
しかし、そんな問題もオデットの弟弟子であるマルグリットがいれば一発解決だ。
無意識にヘイトをばら撒くマル様親衛隊と長旅をするというのは精神的な疲労が半端なさそうだったが、
親衛隊は何せ無類の強豪である。単純に戦力がアップするというのはメリットであろう。
何より戦える頭数が増えれば、それだけジョンが戦う機会も避けられる。
今はとにかく、ジョンにブラッドラストを使わせない。それが何より優先すべきことなのだ。

「勿論ですとも。お役に立てて重畳至極、その代わり――」

マルグリットが微笑みながら告げる。

「ことが成り、解呪が成功した暁には……我らと共に賢師にお会い頂く。宜しいか」

むろん、世話になりっぱなしではいられない。便宜を図ってもらえば、当然その代償を支払う義務も発生する。
いかなお人よしのマルグリットとて、ボランティアでやっている訳ではない。ローウェルの遣いでやっているのだ。
オデットに会って解呪をしてもらえば、マルグリットに大きな借りができる。
そうなれば、ローウェルに会うというマルグリットの希望を断りづらくなってしまう。
といって、ここで分かったと了承してしまうのはあまりに危険だ。

「……その……」

なゆたは口ごもった。ここで嫌だと言えたなら、いったいどれだけ楽か。
しかし言えない。ジョンの呪いを確実に解くためには、オデットの協力とマルグリットのパイプは必要不可欠だ。
約束できない、と言わなければならない。しかし協力はして欲しい。
懊悩。だが――

「ヤダ」

そんな場の空気を全く読まない人物が、ひとりだけいた。

42崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:12:17
「ジョンぴーの呪いを解きたいってーのはヤマヤマなんだケドーぉ、じじいの思惑に乗ってるみたいでキモチワルイんだよねー。
 こっちの力借りたいんだったら、手下なんて寄越さないで本人が来るのがスジなんじゃないっスカーぁ?
 あ、それとも老いぼれすぎちゃって足腰立たなくなっちゃってる? 要介護的な? んならしょーがねぇーかぁー! きひひッ!」

ガザーヴァは無理矢理幌馬車の中に押し込められた鬱憤を晴らすかのようにまくし立てた。
ガタッ! と瞬時にシェケナベイベときなこもち大佐が立ち上がり、殺気に満ちた眼差しでガザーヴァを睨みつける。
瞬時にマルグリットが右手を水平に伸ばし、狂犬二頭の動きを制する。
もっとも、ガザーヴァにとって憎悪は賛辞にも等しい。
水を得た魚のように、その舌が滑らかさを増してゆく。

「それにさぁー、ボクらさっきそちらさんのお仲間に襲撃受けてんだよネー。
 『詩学の』エリスマリスだっけ? マリスエリスだっけ? まぁーどっちでもいっか!
 畑に火ィーつけた上に狙撃とか、えっぐいコトするよねー! ボクでも感心……もといドン引きするレベル!
 オマケにそんなお仲間に襲わせといて、自分は助けに来るフリして恩売って……マッチポンプってヤツ? エゲツナーイ!」

「……『詩学』が貴君らを狙撃?
 あまつさえ、先ほどの火災も『詩学』の仕業と……? そんな筈は……」

マルグリットが困惑げな表情を見せる。
しらばっくれるにしては演技が堂に入っている。第一、マルグリットはそんな腹芸のできる人物ではない。
本当にマルグリットが知らないのだとしたら、マリスエリスが独断でやったこと――ということなのだろうか?
なゆたは首を傾げた。
ガザーヴァの横槍で場の雰囲気が悪くなった、そのとき。

「別に、あんたたちの無罪を証明してやるわけじゃないが――」

それまでテーブルにつきながらも一言も喋っていなかったエンバースが、徐に口を開いた。

「本当に、あれはマリスエリスの仕業か?」

「どういう意味? エンバース」

なゆたが訊ねる。

「……なに。俺の記憶では、確か十二階梯のマリスエリスという奴は自然を愛するキャラじゃなかったか、と思ってな」

確かに『詩学の』マリスエリスは吟遊詩人を本職としており、その詩の題材も戦いや恋より自然の美しさを語るものが多かった。
そんなマリスエリスが、例え目的があったとしても畑を焼くなどという景観を著しく損なう行動に手を染めるだろうか?
王都の美しい白亜の色合いと、整然と並ぶ柱。その景色が美しいと、ゲームの中でバロールに弓を引いたマリスエリスが。

「それにだ。奴は確か、魔力の矢を飛ばすのだったな。だったら――
 ……『これ』は何だ?」

そう言ってエンバースはコートの内懐をまさぐり、何か小さなものをつまんで取り出した。
細長く鋳造されたそれは『弾丸』だった。
この世界にふさわしくない、地球由来の産物。ライフル弾。
それが、エンバースの懐から出てきた。

「それは……」

「カザハが狙撃を受けた地点の近くに落ちていた。間違いなく俺たちを狙ったものだろう。
 マリスエリスはいつ、得物を魔弓からライフルに変えた? 
 それに……奴は『雲の上のドラゴンの目を地上から射貫く』射手だったよな――? 得物を変えて手許が狂ったか?」
 
そうだ。マリスエリスはこのアルフヘイムでも随一の射手。
そんなマリスエリスに一度狙われれば、逃げ延びることは不可能である。
だというのに、なゆたたちは全員生き残っている。
周囲の被害をものともしない焼き討ち、ライフルの弾丸、事情をまるで知らない身内。
これらの証拠が齎す結論とは、つまり――

「襲撃者は……マリスエリスじゃ……ない……?」

敵は、別にいる。

43崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/04/18(土) 21:12:43
「……ニヴルヘイムの者でしょうか。いずれにせよ放っておく訳には。
 やはり、同道はさせて頂きます。貴君らを賢師の許へとお連れする、それは我が第一の任なれど――
 侵食の脅威に乗じて破壊を目論むニヴルヘイムの尖兵もまた、見過ごしてはおけませぬ。
 貴君らと共に在れば、遅からずニヴルヘイムの者どもとも相まみえることとなるはず。
 微力ながら加勢致します、今は協調し絆を強めることこそが、闇を切り拓く一条の光明となりましょう」

「ええと……でも、ローウェルの所は……」

「はは……それは暫し脇に除けておきます。
 確かに賢師の厳命は我が大事なれど、無理強いは私の好むところではありません。
 まして恩を売り、その代価に望まぬ行為を強いるなど……ゆえ、先ほどの私の言葉はどうかお忘れに。
 まずは貴君らの目的の達成に尽力致します。その後で、よしや我が献身に何か感じ入ることがあったなら。
 そのとき、改めて答えをお聞かせ願います」

マルグリットははにかむように笑った。
それは何らの打算も思惑もない、掛け値なしの笑顔。
正真、マルグリットは今言ったままのことを胸中で考えているのだろう。
親衛隊は油断できない難物ぞろいだが、それを率いるマルグリットのことは信じてもいいのかもしれない。
何より、やはり戦力アップは何にも勝る魅力だ。
エーデルグーテへの道のりは遠い。その道中、きっとまたニヴルヘイムの刺客がやってくるだろう。
そんなとき、戦闘に加わってくれる存在が多いのは何より心強い。
それが十二階梯の継承者と、ブレモンのトップランカーと来れば尚更だ。

だとすれば。

「じ、じゃあ……お言葉に甘えて。
 エーデルグーテまでよろしく、マルグリット。親衛隊の皆さんも……頼りにして、ますね」

なゆたは迷わなかった。
ハイリスク・ハイリターンの選択だったが、この状況で選り好みはしていられない。
多少のリスクは織り込み済みで突き進んでゆくしかないのだ。

「承知致しました。月の子よ、明神殿にジョン殿、カザハ殿も――何卒お任せあれ。
 このマルグリット、『聖灰』の名に懸けて。必ずやお役に立ってご覧に入れましょう!」

マルグリットがキラキラと輝くような笑顔を向け、爽やかな所作で右手を差し出してくる。握手の仕草だ。
どこまでも憎らしいほどイケメンな男である。ならばとばかり、なゆたも右手を差し出して悪手に応じようとした――が。

ぺちん!

「あいた!」

それまで黙って遣り取りを見ていたさっぴょんが立ち上がり、なゆたの手を叩いたのだ。
なゆたはビックリして手を引っ込めた。

「たとえ知人であろうと、マル様に触れることは許さないわ」

さっぴょんが険しい表情で言い放つ。
その纏う気配は先ほどガザーヴァの挑発に乗って立ち上がったシェケナベイベときなこもち大佐の比ではない。

「ぅ……、すいません……」

「わかればいいの。……マル様がお決めになったことなら、私たちに言うことは何もないわ。
 護衛でも露払いでも、なんでもこなしてみせましょう。改めてよろしくね、みんな」

「かしこまりー。ホントはさっさとバロール殺して、アンタらふん縛ってったほーが楽なんだろーケドぉー。
 別にいっか。ま、あーしらがいれば百人力ってヤツ? 大船に乗った気で的な?」
 
「自分たちは無敵っスから。おたくらは馬車の木目でも数えてるといいっス。フヒッ」

酷い態度と言い草だ。
が、問題児だろうと何だろうとしばらくは一緒に旅をする仲間だ。仲よくしなければいけないだろう。

「あ、あはは……心強いわ、はは……うん……」

――失敗した。
なゆたは数分前に自分が下した決断を、早くも後悔することになった。


【『聖灰の』マルグリットとマル様親衛隊が聖都まで一時的にパーティーに参入。
 マル様親衛隊のヤバさの片鱗を垣間見る。】

44ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:09:45
>……待って。それってもしかしてガチで魔法のアイテムだったり? ちょっと面白そう!
>ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!

どうしてこうなった?
女性をほぼ確実に落とせる(とジョンは思っている)
必殺アイテムを出したら、カザハに中身をぶちまけられ、明神は中毒に。

どうしてこうなった?なんで?

男3人が遊んでいる中、自称親衛隊が部長を囲んでいた。

>「てか、パートナーモンスターがコトカリスって! こんなネタモンスター連れてるプレイヤー初めて見たし!
 見たとこ大して鍛えてもないっぽいしぃ。マジ引くわぁ……ひょっとしてこれも女ウケ狙ってる系? ぱねーし」

「いや別に狙ってるわけでは・・・」

>「他はシルヴェストルとユニサスに、ダークシルヴェストルとダークユニサス。エンバースとスライムっスか。
 ザ・エンジョイ勢! って感じっスね……エンバースとダークシルヴェストルとダークユニサスはまぁまぁっスけど。
 他はザコもいいとこっス。こんなゴミパーティーでよくも今まで生き延びてこられたモンっスねぇ〜?」

「・・・」

>「こら、二人とも言いすぎよ? たとえ低レアモンスターしかいないニワカ勢でもいいじゃない。
 マル様が必要だと仰っておられるのだから……そうですよね、マル様?」

自分の中で黒いなにかが湧き上がる。

>「あ、あはは……すみませんねえ、ニワカのエンジョイ勢で……」

なぜこんなにも上から目線なんだ?
絶対の自信があるからか?モンスターが強いから?

僕なら・・・モンスターを呼び出す前にお前ら3人の首を切り落とす事だってできるのに

僕達を馬鹿にする馬鹿3姉妹はどう強く見積もっても痴漢対策の護身術程度の実力だろう。
モンスター込みなら僕よりは強いだろうけど・・・。

>「ええ、まこと久闊でございますな。ご健勝で何より――
 いやさ、貴君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ならば当然の仕儀にございましょうや。
 なればこそ、我が賢師も貴君らの力を恃みにしようというもの」

それよりも気になるのはこの男だ。
こんなに人を馬鹿にする馬鹿3人を咎める事すらせず後ろにふんぞり返っている。

自分はまともですよ風を装ってるこの男のほうがよっぽどクソかもしれない。

>「一回野良でパーティー組んだ程度のザコの顔まで覚えてるなんて、マル様はやっぱパネェっス!
 マジ惚れ直すっス……!」

>「あはぁん! マル様ぁ〜! サイッコーだし!」

盲目的な信仰は狂気すら感じる。

45ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:09:59
>こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな

>「明神……? 何かひっかかるわね」
>「シクヨロシクヨロー。まぁー短い付き合いになると思うケドぉー?」
>「あいや、別におたくらの名前とか興味ないっス」

この3馬鹿はどうやら子供ですらできる事もできないらしい。
なんでこんなクソ共がこっち側なんだ・・・?なゆ達が特別なだけ?

>そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!

>「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

>「ええ、間違いなく。
 試掘洞以降、黎明の賢兄より伺いました。稀代のスライム使い、その名も月の子(モンデンキント)。
 試掘洞にてバルログをただ一撃にて屠りし勇姿、いまだ我が瞼裏に焼き付いております」

本当になゆ事モンデキントは超がつくほどの有名人らしい。
3馬鹿が反応を変えたあたりガチである事が伺える。

こんな事ならもっとプレイヤーの事とかもっと調べとくんだったなあ・・・
こんどカザハがもってた本を貸してもらおうかな。

>「でも、バルログをワンパンなんてできるのは自分の知る限りお師匠くらいしかいないっス。
 認めるしかないようっスね……!」
>「あら。私もできるけど」
>「あーしもー」
>「社交辞令っス。気にしないでほしいっス」

カザハはいい意味で馬鹿かもしれないが
こいつらは悪い意味での馬鹿。いや挨拶も最低限の気遣いもできない時点で人間ですらないかもしれない。

「チッ・・・お前らいいかげんに」
>「と、ともかく、マルグリットがここへ来てくれて助かったよ。ありがとう。
 さっきカザハも言ってたけど、あなたたちはこれからどこへ?
 わたしたちはここからアズレシアを経て、最終的にはエーデルグーテへ行こうと思ってるんだけど……」

さすがに堪忍袋が切れ、口を挟もうとすると手でなゆに止められる。

クソッ・・・僕のせいでなゆ達がこんな奴にペコペコしなきゃいけないなんて・・・

>「賢師の命に依りて、我ら十二階梯はこの未曽有の危難に対処する『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を集めています。
 この三名も同じく我が招聘に応じ、本来の陣営より離脱し馳せ参じてくれた『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
 貴君らにも、是非同道頂きたい。賢師もそれをお望みです。
 かつて貴君らに預けた『ローウェルの指輪』がその証……賢師に選ばれし『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の」

怪しすぎる、いや逆か?
堂々と不貞を働く馬鹿3人とそれを咎めないその主。
とてもじゃないが頼みごと・相談事をしにきたとは思えない。逆に嫌な奴と思わせて断らせたいっていうなら分かるが。

「・・・君達はどうやってこの世界にきたんだ?」

46ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:10:16
>「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」
>「居心地悪いと思ってたんスよねぇ。そんな自分たちを、マル様が迎えに来てくれたんス!」
>「あぁ……、本物のアルフヘイムで、まさか本物のマル様にお会いできるだなんて……!
 これってやっぱり運命よね! 私たちマル様親衛隊は、マル様に出会うべくして召喚されたのよ!」

なるほど、こんな奴らがなゆ達と同じ経緯で召喚されるわけがなかった。
全部を召喚方法で判別するのはさすがに危険だが・・・これだけははっきりわかる。

>「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」
>「スタミナさんっスか? もういないっス」

こいつらは・・・僕同様・・・この世に・・・いや元の世界でも不必要な・・・クズだ。

>「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

人によっては直接手を下さないだけやさしいと思うかもしれない・・・けどそれは違う。
間接的に殺す事によって自分は人を殺してないと言い張るクズにすらなりきれない
自分を正常と思い込んでる異常者の常套手段にすぎない。

間接的といえども死んだ原因に意図的に自分がやった行為が含まれるならそれは立派な殺人だ。

そのスマホを破壊された人間がどんな人間だったかはわからない、それでも。
スマホというこの世界における唯一信用できる絶対的な力。
それを破壊されたその人のその後は容易に想像できる。

帝龍や、3クズのいう事を統合すれば碌な場所ではないのはほぼ確実だし。
コストを払って召喚した人間がゴミになったと分かればどんな扱いをうけるかもわからない。
必要ないとその場で殺されるならまだいい方だ。
もしかしたら僕達が会う頃にはまともに口が聞けないような状態になっている可能性もある。

ゲラゲラと笑い話にように話す彼女達はもう救いようのないクズだ。
人はこいつらを狂っているというだろう・・・でもそれは違う。

こいつらは人間の皮を被った異常者として正常なのだ。

47ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:10:48
一通りの話し合いが終わり、夜に懇親会を開くという事になった。

「そろそろいかないと・・・」

立ち上がりたいが・・・吐き気がする・・・原因は分かりきっている。
同属嫌悪と・・・こんな奴らになゆがペコペコしないといけない状況にしてしまっている僕自身に。

予想以上に気分が悪い、今すぐこの吐き気の現況を無くしてしまいたい

殺してしまいたい。

約束を破りたくない。

でも殺してしまえばすぐ楽になるのに・・・。



さぞかし同属を殺すのは気持ちいいだろうなあ



宿屋の中が騒がしくなってきている。

「早くいかなきゃいけないのに・・・」

きっとあの3クズに今あったら・・・殺してしまうかもしれない。

僕はマルグリットが先に言ったのを見てからカザハと明神エンバースの3人に話しかける。

「ハア・・・ハア・・・すまない・・・明神、カザハ、エンバース・・・僕もう我慢できそうにないんだ」

3人に這いずりながらすりよっていく。
大きな声がでない、普通の声すらでない。

逃げようと距離を取ろうとする3人を捕まえ抱きしめる。

「ハア・・・ハア・・・すまない・・・3人とも・・・」

大きな声がでないので、3人の耳元でささやくように

「なゆに・・・僕は今日はいけないと伝えてくれ」

48ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2020/04/24(金) 14:11:01
気分が悪いのと裏腹に・・・体から溢れんばかりの力がみなぎっているのを感じる。

「今あの3クズに会ったら・・・殺してしまうだろうから・・・」

理由はいくらでもでっち上げることはできた。でもしなかった。

もちろん僕に余裕がなかったのもあるが
変な嘘をついてもし、3クズを連れて僕を探し回ったりなんかされたらたまらない。
ついてこない可能性のほうが高いが、マルグリットになにか言われたらくる可能性もある

それに・・・僕はみんなにまだ僕の罪を隠している。

「もうバレてるだろうし明神には言ったと思うけど・・・僕は人を殺した事がある
 こっちの世界にくる前に・・・なんの罪もない女の子を・・・」

「ハハッ・・・笑えるだろ?同属嫌悪って奴だよ」

もはや作り笑いすらできない乾いた笑い

「前はこんなに喧嘩っ早くなかったはずなんだけど・・・この世界に来てから壊れちゃったのかな?
 あいつらを殺してやりたくてしょうがないんだよ。君達を馬鹿にする3クズもその主も
 原因を作ってみんなに迷惑をかけてる僕自身も」

「なゆと約束したはずなのに!そんな事一瞬でどこかいって暴れだしそうなんだ!」

押さえきれずに体からブラットラストのエフェクトが漏れ始める。

「これ以上・・・君達に嘘はつきたくないんだ
迷惑をかけるのだって・・・この世界にきてから助けてもらってばっかりなのに・・・」

バロールから貰い受けた拘束具を差し出す。
拘束した相手の気力を奪い、意識を失わせる特殊効果付の拘束具。
備えはいくらあってもいい。とバロールから渡された物がこんな早く役に立つなんて・・・

「時間がない・・・これで・・・僕を繋いでからいってくれないか・・・心配しないでくれ念の為だ
 マルグリットが帰ってくる前に外してもらえ・・・れば・・・」

拘束が終わったのを見て、安心したのか、効果が聞いてきたのか気が遠くなってきた。

「なゆにも伝えてくれ・・・ジョンという男はあの3クズのように救いようのない人間なんだって
 あいつは人殺しのロクデナシだって・・・君達が言えばきっとなゆだって・・・」

「頼むからあんな奴らの言う事を・・・僕の為に聞かないでくれって・・・そんな事をするくらいなら見捨ててくれって」

ジョンの意識は闇の中に。

「頼んだ・・・よ」

謎の少女の霊に見守られ 溶けていった。

49カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:39:45
ケショーヒンの効果が発動した。
明神さんやジョン君は若干若返って見え、エンバースさんは小奇麗な焼死体になっている。
ケショーヒンの効果は、一時的にグラフィックがプリクラかフォトショ加工のようになるというものらしい。
でもちょっと持続時間が短すぎる気がする。

>「ああああ!若さが!若さが失われていく!醜く老いさらばえていく!
 な、な、なぁ!ケショーヒンもっとくれよ!まだあるんだろ?もっとくれよぉ!!」

「おおお落ち着いて! そんなに変わらないから! フォトショで加工した程度だから!」

明神さんがケショーヒン中毒を起こしてしまった。
このケショーヒンとかいうやつって普通に流通してたらいけないガチでヤバいやつなんちゃうの!?
自分達で毒見(?)したおかげで初対面の相手にあげることにならなくて正解だったかもしれない。
その後も親衛隊は言いたい放題だった。
モンスターの良し悪しをレア度等表面的なことでしか判断していないらしい。

>「こら、二人とも言いすぎよ? たとえ低レアモンスターしかいないニワカ勢でもいいじゃない。
 マル様が必要だと仰っておられるのだから……そうですよね、マル様?」
>「あ、あはは……すみませんねえ、ニワカのエンジョイ勢で……」

まずいよ、なゆたちゃんが青筋浮かべてるよ!

(ポヨリンさんの強さを見抜けないなんてモンキンチルドレン破門じゃね?)

《間違いなく破門ですね……》

元々マル様>>(超えられない壁)>>月子先生だったんだろうし破門にされたところでそんなにダメージなさそうだけど!

>「それはそれとしてだ。久しぶりじゃんマル公、穴蔵で狩りパ組んで以来だな。元気にしてた?」

以前共闘した、とは聞いてたけどそんな仲良しなノリ!?
マル様は特に引くわけでもなくナチュラルに応答していた。

>「ええ、まこと久闊でございますな。ご健勝で何より――
 いやさ、貴君ら『異邦の魔物使い(ブレイブ)』ならば当然の仕儀にございましょうや。
 なればこそ、我が賢師も貴君らの力を恃みにしようというもの」

>「こんなエンジョイ勢とマル様が一緒に戦ったとか、マジ信じられんし」
>「いいえ、いいえ。エンジョイ勢だからこそよ、シェケちゃん。
 マル様はブレモン唯一無二の正真正銘の英雄だもの……弱者に手を差し伸べてこそ、でしょう?」
>「一回野良でパーティー組んだ程度のザコの顔まで覚えてるなんて、マル様はやっぱパネェっス!
 マジ惚れ直すっス……!」
>「あはぁん! マル様ぁ〜! サイッコーだし!」

「話が前に進まない……」

カザハは親衛隊を生暖かい目で見つめていた。
が、マル様以外に興味がなさそうな点はこちらにとって好都合と言える。
これならガザーヴァや明神さんの正体がバレる可能性は低いだろう。

50カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:42:02
>「こっちもイカレたメンバーを紹介するぜ。俺は笑顔きらきら大明神、ブレモンを愛する一般優良プレイヤーだ。
 さっき名乗ったイケメンがジョン。こっちの意味不明生物がカザハ君と愛馬のカケル君。
 そこの死体がエンバース君。こいつらはマル公もお初だったよな」
>「そしてェーーっ!何を隠そうこの御方こそが我らのリーダー!
 国内最強のスライム使い!ついた異名がスライムマスター!誰が呼んだか月子先生!
 ――モンデェェェェェェンキントォォォォォ!!!!」

>「明神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!???」

なゆたちゃんがモンデンキントということをなかなか信じなかった親衛隊だが、マル様の証言でようやく信じた。

>「と、ともかく、マルグリットがここへ来てくれて助かったよ。ありがとう。
 さっきカザハも言ってたけど、あなたたちはこれからどこへ?
 わたしたちはここからアズレシアを経て、最終的にはエーデルグーテへ行こうと思ってるんだけど……」
>「私は貴君らをお迎えに上がったのです。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』よ」

つまるところ、ローウェル陣営からのヘッドハンティングだった。
バロールさんに体よく騙されていた気がするが、バロールとローウェルはそもそも別の陣営で、
かといってローウェルがニヴルヘイムに付いているというわけでもないらしい。
最初から三つ巴の構図だったようだ。

>「あーしらも元はニヴルヘイムの連中に召喚されたんだケドぉー。
 アイツら陰気臭いし、男ばっかでムサ苦しいし。つーかミハエルとか帝龍とか話合わんし」
>「居心地悪いと思ってたんスよねぇ。そんな自分たちを、マル様が迎えに来てくれたんス!」
>「あぁ……、本物のアルフヘイムで、まさか本物のマル様にお会いできるだなんて……!
 これってやっぱり運命よね! 私たちマル様親衛隊は、マル様に出会うべくして召喚されたのよ!」

「うん、きっとそうだね。ニヴルヘイム陣営ご愁傷様……」

明神さん大当たり。
冷静に考えてみれば、仲良しが3人揃って召喚されるなんて偶然では有り得ないわな。
その視点で見てしまうと、バロールさんが本当に完全ランダム召喚なのかも怪しくなってくるわけだが。
なゆたちゃん真ちゃんがセットで召喚されてるだけでも凄いけど、
その上ある意味なゆたちゃんの宿命のライバルの明神さんがほぼ同じ時期に偶然遭遇する程度の近距離に召喚されていたのも割と凄い。
もしかしたら、関係性がある者同士が召喚されやすい等の何らかのバイアスがあるのかもしれない。
ところで、こうして他陣営からのヘッドハンティングで手駒を掻き集めているということは、ローウェル陣営は召喚技術を持っていないのだろうか。
ローウェルは大魔術師バロールの更に師匠にあたる大賢者なので、持っていてもおかしくなさそうな気もするが……。

>「えと、確か親衛隊って幹部クラスの人がもうひとりいたような……」
>「スタミナさんっスか? もういないっス」
>「もういない?」
>「除名だよ除名ー。つーかさーアイツ、こっちに召喚されたらビビッちゃってさー。
 マル様のために戦えるんだよ? 超絶光栄じゃん! 望むところじゃん? マル様に刃向かう連中なんて全殺しっしょ?
 あーしら最強だし! なのに戦いたくないとか言い出してさぁー。だ・か・ら!」

「ビビるのは至って普通だけど……マル様親衛隊幹部がマル様のヘッドハンティングを拒否なんてちょっと意外……」

51カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:42:57
確かに、マル様のために戦うことを拒否したところで、ニヴルヘイムの下で戦わされるか野良ブレイブになって露頭に迷うかだ。
どっちにしろ戦わないといけないならニヴルヘイム陣営よりはマル様に付いていきそうなものだが……。
ここまでは親衛隊を割と生暖かい目で見ていたカザハだったが、次の言葉で奴らの本当のヤバさを思い知ることになった。

>「親衛隊に臆病者は必要ないわ。例えそれが幹部であってもね。
 彼女は置いてきた。ま……運がよければ生き延びるでしょう。
 もっとも――『彼女のスマホは、もう壊れてしまっているけれど』――」

(深く関わらないようにしよう……)

本当は深くどころか全く関わりたくないが、これでも重要人物のローウェルの手下のマル様の更に手下なので、表面上は取り繕うしかない。
なし崩し的に当初予定していた村に到着し、大所帯で宿にチェックインする。
親衛隊がいる以上万事すんなりいくということはなく、今度は部屋割りで一悶着である。
なゆたちゃんがリーダー権限発動とかマル様が(親衛隊に対する)マル様権限発動してなんとか話がまとまった。
最初からマル様とその親衛隊をまとめて宿に放り込んでこちらは今まで道中でやっていた通りに馬車宿泊にすれば
親衛隊や現場将軍が騒ぐこともなく無難に収まったのであろうが、
敢えてそうしなかったのはマル様陣営が怪しい動きをしないように見張るためと
マル様と親衛隊を引き離してマル様から情報を引き出せる状態を作るためだろう。
(マル様と親衛隊が一緒になっているとまともな会話がほぼ出来ない)
その代償として、なゆたちゃんが混ぜるな危険の危険物取扱いを一手に引き受けることになってしまったわけだが……。
そして夕食会という名の会談が開かれることとなった。が、ジョン君の様子がおかしい。

>「早くいかなきゃいけないのに・・・」

「どうしたの? 風邪ひいた!? 仕方が無いよずっと野営続きだったもの。
宿の方に泊まれるようになゆに言ってみるね」

明神さんにヒヨコみたいになついてるガザーヴァに交代してって言えば喜んで交代してくれそうだね。
問題は親衛隊が”こっちに来るならマル様でしょ!”ってキレそうな事だけど!

>「ハア・・・ハア・・・すまない・・・明神、カザハ、エンバース・・・僕もう我慢できそうにないんだ」

「まさか……でも道中で戦いらしき戦いはなかったはず……!」

這いずりながら寄ってくる様子に、尋常ではないことに気付く。
考えられるのはブラッドラストの進行だが、道中でジョン君は一度も戦っていないし、もちろんブラッドラストも使用していない。

>「なゆに・・・僕は今日はいけないと伝えてくれ」
>「今あの3クズに会ったら・・・殺してしまうだろうから・・・」

「アイツらか……!」

ブラッドラストの進行を早めるのは戦闘だけではないらしい。
過激すぎる親衛隊の言動によって呪いの進行が早まってしまっているようだ。

>「もうバレてるだろうし明神には言ったと思うけど・・・僕は人を殺した事がある
 こっちの世界にくる前に・・・なんの罪もない女の子を・・・」

「聞いたよ、ブラッドラストの習得条件……」

52カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:44:58
確かにブラッドラストの習得条件は人を殺したことがあることだ。
しかし、その習得条件における”人を殺した”の定義にどこまで含まれるのかは不明だ。
明確な殺意を持った殺人だけなのか、不慮の事故で結果的に死者が出てしまった事まで入るのか。
また、客観的事実が基準なのか、本人の認識が基準なのかも分からない。
そしてガチで殺人の前科があったら、多分自衛隊には入れないはず。
そうなると不慮の事故なのか、あるいは時間の巻き戻しのバグの影響で
ジョン君の認識している事実とこの世界線での公式の事実がずれている、なんていう可能性も無くはない。
が、今は実際がどうだったかはあまり重要ではない。実態はどうであれジョン君はブラッドラストに侵されているのだ。

>「ハハッ・・・笑えるだろ?同属嫌悪って奴だよ」

「そんなことない! アイツら、絶対誰かを助けたことなんてただの一度も無いもの!
忘れないで。もしジョン君がいなかったら今生きてない人がたくさんいる。
ボクも、アコライトのオタク達も……ううん、ジョン君がいなかったらきっと負けて全員死んでたよ」

カザハはジョン君の手を取って落ち着かせようとする。

>「前はこんなに喧嘩っ早くなかったはずなんだけど・・・この世界に来てから壊れちゃったのかな?
 あいつらを殺してやりたくてしょうがないんだよ。君達を馬鹿にする3クズもその主も
 原因を作ってみんなに迷惑をかけてる僕自身も」
>「なゆと約束したはずなのに!そんな事一瞬でどこかいって暴れだしそうなんだ!」

「ジョン君、駄目……!」

>「これ以上・・・君達に嘘はつきたくないんだ
迷惑をかけるのだって・・・この世界にきてから助けてもらってばっかりなのに・・・」

ブラッドラストのエフェクトが現れ始める。ジョン君はどこに隠し持っていたのか、拘束具を差し出した。

「これって……」

53カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2020/04/29(水) 19:45:48
>「時間がない・・・これで・・・僕を繋いでからいってくれないか・・・心配しないでくれ念の為だ
 マルグリットが帰ってくる前に外してもらえ・・・れば・・・」

「でも……うん、分かった」

当初はブラッドラストを使わせなければ大丈夫かと思っていたが、事態は思っていた以上に切迫しているようだ。
カザハは一瞬逡巡した様子を見せるも、拘束を引き受けた。

>「なゆにも伝えてくれ・・・ジョンという男はあの3クズのように救いようのない人間なんだって
 あいつは人殺しのロクデナシだって・・・君達が言えばきっとなゆだって・・・」
>「頼むからあんな奴らの言う事を・・・僕の為に聞かないでくれって・・・そんな事をするくらいなら見捨ててくれって」

「うん、上手く言っとくからさ……今は休んで」

>「頼んだ・・・よ」

ジョン君が気を失うように眠った途端に掌を返す。

「バカだなぁ。なゆは超頑固で負けず嫌いなんだから……言えば言うほどムキになるに決まってるでしょ。
明神さん、これジョン君にあげてもいいかな? 今これが必要なのはジョン君の方だから」

そして、以前明神さんから貰った聖女の護符を外してジョン君に付けさせる。

「ジョン君、これ、明神さんとボクから。効果はボクの時に立証済みだから。きっと君も守ってくれる……」

カザハは私にジョン君を見ておく役を頼むと、明神さんとエンバースさんに声をかけた。

「二人とも、行こう。ジョン君はカケルが見といてくれるからね」


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