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なぜか消えない星屑のようです

1ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:11:21 ID:dctwYSK2
ラノベ祭り参加作品

2ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:13:18 ID:dctwYSK2
その女と初めて出会ったのは、アパートの裏に広がるこんもりとしたちっぽけな山でのことだった。

いうなればその山の裾野に広がる竹林の片隅に、私は腹を抱えて蹲っていた。
つい数時間前に友人宅にて大量に煽った酒にやられたのだ。
私の胃は帰宅する私を待ってなどいられずに、だいたいアパートが見えてきたあたりから不気味に蠢き始めていた。
周りに手ごろな公衆便所もないので、仕方なく私はその竹林に駆けこみ、
せっかく胃に収めていたあらゆるものを一生懸命に吐き出していたわけである。

一仕事終え、開放感を覚えつつ見上げた先には、澄んだ夜空と煌めく星々があった。
どことなく抒情的な感想が込み上げてきたが、形になろうとするまもなく吐瀉物の饐えた匂いに蹂躙されてしまった。
はやく部屋に帰ってシャワーでも浴びよう。明日は一日休みなんだ。ぐっすり眠ってしまおう。
そう思い、私は再び入口の方へと振り向こうとする。

そのとき、視界の端で何かが光った。
竹林の中、なだらかな山の中腹の方である。

私は入口に向かっていた身体を再び山の方へと戻し、首を傾げた。
誰かがこの竹林の中にいるというのか。
まさかこの猫の額のような山で迷っているわけではあるまい。
近くの公道の街灯もギラギラと輝いているので、帰り道を求めて懐中電灯で彷徨う必要さえない。
ならばどうして光が見えたのだろうか。

興味本位から、私は竹林の奥へと足を進めた。
竹の間を縫い、雑草を踏み倒していく。
道は勾配を少しだけ大きくしたが、老人にも優しいと思われる程度だったので、
まだ20歳そこらの、しがない一学生風情のくせに体力だけは一丁前な私の支障にはならなかった。

3ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:14:33 ID:dctwYSK2
そうこうしているうちにも光は何度か放たれていた。
微かな光が数回起こっては、消えていく。
まさか竹でも光っているのかと思ったが、どうも光の方は固定されておらず、
高い方から低い方へと一定の軌道を動いているようだった。
光る玉のようなものが、ボールのように放られているのかもしれなかった。

やがて私は竹の密度が疎になる場所に辿り着いた。
自然の中で偶然できた広場だ。
そこには小さな断層があるらしく、膝丈ぐらいの段差があった。
私のいる側が下。山の頂上へ向かう側が上。

そして彼女は、上にいた。
私は彼女を見上げる形となった。

もっとも弱々しい月明かりの元ではっきり見えたわけではない。
よく見ようと目を凝らす前に向こうの方で「きゃっ」と叫び声があがり、
その声が男にしては高すぎることから、その時初めて相手が女性だと判断できた。

それも、どうやら私より数歳年下の女性のようだ。
暗がりに慣れてきた私の目が捉えた彼女の容姿はまだ幼さを纏っていた。
どう見積もっても20歳には満たないだろう。
年下の、高校生くらいだろうか。

4ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:16:08 ID:dctwYSK2
とにもかくにも、一人の女性がこんな夜中にうろうろするのは危険だろう。
だから私は彼女に話すべく、「おい!」と一声かけた。

ところが、彼女は返事などせず、息を吸い込んでいた。
何事だろうと見つめていると、突然彼女の上半身がしなり、私に顔を振り向けた。
その途端、私の視界は強い光により奪われた。
彼女はその口腔から光る何かを吐き出したのである。

思わず目を閉じた私のおでこに鈍い感触が走った。
石でもぶつけられたかのような感触で、血でもでたんじゃないかと心配になり、手で確かめる。
幸い流血はしていないようだった。
その間に草を踏み走る音が聞こえてくる。
恐る恐る目を開くと、彼女はすでにいなくなっていた。
先ほどの音は彼女が逃げた音だったのだろう。

呆然としながらも、私は自分の身辺を確かめた。
先ほどの光はいったいなんだったのか。
彼女は私になにを吹き付けていたのか。
気になって痕跡を探ると、すぐにそれは見つかった。

私の足元には、五つの角を持った星が落ちていた。

5ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:17:25 ID:dctwYSK2
蛍のような儚い光が、内部の中央から発せられている。白い光だ。
先ほど私の目を潰したものと比べると微かな輝きだったので疑問だったが、次第次第に弱まったとも考えられた。
何よりも、それを実際に手に持ってみた感触は、まさに石と同じであった。
私のおでこがちくりと痛んだ。痛みさえなければ夢だと片づけていたかもしれない。

(=゚д゚)「なんだ、これは」

なんだとは、私にぶつかった星に対してでもあったし、その場で起こった出来事全体に対してのことでもあった。
私の頭はすっかり混乱していた。
しかしここにいても何もないだろう。

やむなく私は、手に持った星をぐるぐる手の中で回しながら、アパートの入口へと向かうことにした。

酔いはすでに醒めていた。

こうして私は、星を吐く女と出会ったのである。





     ★     ★     ★

6ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:18:38 ID:dctwYSK2
「よう、旦那。朝ですぜ」

突然声を掛けられて、私は鈍く目を開けた。枕元の目覚まし時計は七時を指している。

(=-д-)「……随分早いな」

「日は昇ってますんでね」

(=-д-)「もう春休みなんだよ」

苛立ちながらも、私は再び目を閉じた。
余計なことしやがって。
ただでさえ疲れているんだ。
昼まで動かないでいても誰にも迷惑はかけないだろう。
もう一度深く眠りにつくとしよう。
頭の中ではスムーズに睡眠に誘われていく。

「おい旦那。あんた寝ぼけてるな? 思い出してみろよ、本当に起きなくていいのか?」

やかましい声が耳を突き刺し、眠りを邪魔してくる。
寝ぼけているかもしれないが、起きる理由はない。
思い出せと言われても、今日は大学の授業も友人との約束もなかったはずだ。
無論、彼女に呼び出される所以もない。そもそも私は独り身だ。

7ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:19:53 ID:dctwYSK2
思い出す――そういえば昨日の夜は不思議な目にあった。
見ず知らずの少女に星をぶつけられたのだ。
思い出したらおでこがまだ痛む気がした。
痛みは錯覚だとしても、昨夜の出来事は本当だ。
現に私にぶつかってきた星もあった。帰宅して机に置いて、そのままである。

それより前は友人の家で飲んでいた。
もともと彼の家には私的な家庭教師として赴くことがあった。
もちろん彼に対してではなく、彼の妹に勉強を教えに、である。
昨日もその一環だったのだが、彼の母親の計らいで夕食を賜ることになった。
娘の勉強の件もあるし、独り暮らしの私の食生活を案じたのでもあったらしい。

夕食が終わるころ、彼の父親が帰宅した。
その手には会社の取引先から貰い受けたらしいたいそう高級な酒が掲げられていた。
彼の父親が心優しくも、偶然その場に居合わせただけの私を晩酌に招待してくれた。
私は餌を与えられた子犬のように目を輝かせて何度も頷いた。
後にお酒どころか、その日の夕食さえ竹林にぶちまけることになるなんて当然予想できていない。

と、ここまで思い返したところで違和感が私の脳をつついた。
なんだろう。
その違和感の正体を探ろうとしていたら、耳にまたあの声が聞こえてきた。

「旦那、郵便受けに新聞が届いてましたぜ。ここに置いておきますんで」

8ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:21:10 ID:dctwYSK2
勝手にすればいいだろうと心の中で毒づく。
人がせっかく頭を働かせようとしているのに、またこいつは邪魔を。

まてよ、と私は思う。
そもそもこいつは誰だ。
私は独り暮らしのはずだ。
知らない人がこの部屋にいる?

嫌な汗が一挙に吹き出し、私は喚きながら上半身を跳ね上げた。
「誰だお前!」と叫びつつ、目を見開いて首を振る。
しかし、予想していたような人影はどこにも見当たらない。
状況が呑み込めず、私は目を数回瞬いた。

誰もいないわけがない。私は確かに声を聴いていた。
新聞だって枕元にある。私にはまるで覚えのない、今日の日付の新聞が。

そこまで意識が向いたところで、新聞の端を蠢く何かがあるのに気付いた。
天気予報の項目の近くだ。
灰色なので新聞と同化して見えたらしい。
影もあるので、動くとすぐに何かがあるのがわかった。

9ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:22:26 ID:dctwYSK2
☆「今日も冷え込みますねえ、気を付けねえと」

声は、明らかにそれから聞こえてきていた。
それは喋っていた。
灰色の――星である。

昨日拾ったはずの彼は、どうやら今天気予報を見ていたらしい。
二本の棘を脚に見立てれば顔を下に向けている態勢だ。
そう見えないこともない。

やがて彼はしなっていた腰を反らし、上方を剥いている棘の面を向けた。
人間らしく言えば、顔を向けた。
目も鼻も口もない、のっぺらぼうの星の顔。

(=;゚д゚)「うっひゃあ」

我ながら情けない叫び声だったと思う。
こればかりは擁護のしようがない。
しかし現実として私は意識が飛ぶほどに驚き、そして一気に布団へと倒れこんだ。
視界が黒くなり、混乱に飲み込まれようとする間、
「旦那! しっかりしなせえ!」といういやに軽快な声だけが届いていたが、やがてそれも聞こえなくなった。

10ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:23:47 ID:dctwYSK2
やっとのことで目を覚まし、星が動いて話しかけてきているという事実と
向き合えるようになったのは10時ごろのことだった。
日は揚々と南天目がけて進行している。
世の中の大抵の人も既に目を覚ましているだろう。
酔いつぶれた人は大抵寝ているだろうが、私は起きて、星と向かい合っていた。

(=゚д゚)「お前は何だ」

私は星に問いかけた。

☆「さあ」

(=゚д゚)「さあじゃないよ。答えてくれよ」

☆「本当に知らないんでい。あっしはいつの間にかここにいましたんで」

星はひらひらと手を振って、否定の意思を示した。
思ったより柔らかい材質なのかもしれない。

(=゚д゚)「昨日のことは覚えてないのか?」

☆「わかりゃしませんよ。あっしは生まれたてでしたんでね。旦那も、赤ん坊の頃なんか覚えてやしないでしょう?」

道理と決めつけるには納得いかない点が多々あったが、
ここで立ち止まっていてもしかたないので私は渋々頷き、話を続けることにした。

11ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:25:21 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「結局、星さんよ、お前は自分が何ものかはわからんと」

☆「へい」

(=゚д゚)「それじゃ、お前を吐き出した奴のこともわからないか?」

☆「それは……もしかして女の子のことですかい?」

やや間をおいてから、星さんは答えてくれた。

(=゚д゚)「覚えているのか!?」

勢いづいて詰め寄ったものの、星さんは「ええと」と口を濁らせた。

☆「覚えているわけじゃねえんです。ただなんとなく、寂しい少女だなっていう覚えがあるんです。
 本能的に刷り込まれているんじゃねえですかね」

歯切れ悪く答えると、星さんは申し訳なさそうに片手で頭をかいていた。

(=゚д゚)「寂しい少女だったのか、あいつは?」

☆「はあ、なぜかはわからんけども、そういう気がするんです。当然なんで寂しいのかはわかりやせん」

私は唸って考え込んだ。
これ以上得られる情報はないだろう。
なぜだかわからないけど寂しい少女の口から吐き出された星さんは、少女のことを詳しく知らない。
もっと知るためには少女に会って聞くしかない。

12ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:26:40 ID:dctwYSK2
☆「旦那、渋い顔しなすって、大丈夫ですかい? あっしはお役に立てそうですかね?」

星さんが控えめに言う。
私は気まずくなって頬をぽりぽりとかいて、それから答えた。

(=゚д゚)「何も知らないよりは幾分ましだよ。ありがとう、星さん。呼び方これでいいよな?」

☆「おうってもんでさあ!」

そう元気に応えて、星さんは大きく頷いた。
見た目ではわかりにくいが、どうやら喜んでいるらしい。
可愛げがないこともない。

私と星さんはそれから小一時間ほど相談しあい、今宵またあの山へと足を運ぶことに決めた。
もし会えないならまた次の日も、その次の日も登ってみる。
私の記憶も星さんの記憶も曖昧なので、易々と人探しもできない。
少女とコンタクトをとるためには、今のところそれしか方法がなかったのである。





     ★     ★     ★

13ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:27:49 ID:dctwYSK2
それから数日間、私は彼女に会おうと努力した。

彼女が星を吐く姿は、竹林の隙間からたびたび見ることができた。
夜更けにキラキラ輝くので容易に気づくことができたのだ。
ほぼ二、三日おきに彼女はあの崖に立ち、身を屈ませて星を吐く。
光の滝が口から発せられるが、地面に触れる頃には輝きを失って消え去ってしまう。

てっきり星さんのような謎の生物が量産されるものだとばかり思っていたのだが、私の認識は改められた。
星さんは特別な存在らしい。

このように、彼女を見つけることは簡単にできた。
しかし近づくとなると難儀であった。
わずかでも物音がすれば彼女はすぐに身を隠してしまうのである。
まるで小動物のような身のこなしであり、私は何度も舌を巻いた。

彼女は何度も逃げた。
最初に逃げられたときは、もうここに来ないかもしれないと思って残念にも感じたのだが、
彼女は臆することなくやってきて星を吐き続けていた。
私が不思議に思いながらも近づくと、また逃げてしまう。
この繰り返しであり、彼女の目的は依然として不明なままであった。

14ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:28:52 ID:dctwYSK2
そうこうしているうちに、私は一つの作戦を思い付いた。
崖の上にある木の陰に隠れて待ち伏せをするというものだ。
崖の淵に歩み寄った彼女をやり過ごすことができるのではないかと踏んだのである。

果たしてその作戦は成功した。
彼女は何事もなく崖へと歩んでいき、私には目もくれず、いつものように星を吐き始めたのである。
普段は口から発せられる光のせいでよく見えていなかった少女の後ろ髪を見つめながら、
私はじりじりと息をひそめて彼女に近づいた。

傍から見れば犯罪めいて見えたかもしれないが、憚る気にはならなかった。
夜中なのだ、どうせ誰も見ていない。
逸る気持ちをどうにか静めつつ、私は彼女の背中をちょいと叩いた。
割れ物に触るときの気分そのものであった。

彼女の反応は予想以上だった。
「ぎゃあ」という立派な叫び声を張り上げた彼女は、瞬時にその身を翻して私の顔面に腕を振り向けてきた。
パーではなく、グーだ。

私は鼻を強かに打ち付けられた。
血の匂いが鼻腔に噴出し、口にもその味が届いた。
彼女の攻撃をもろに食らうのはこれで二度目であった。

15ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:30:02 ID:dctwYSK2
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい!」

謝ってきたのは彼女の方である。
私は滲む視界に、頭を下げる彼女の姿がぼんやりと浮かんでいた。

(=+д+)「いや、こちらこそ突然すまない」

痛みは残るものの、だんだん視界もはっきりしてきた。
彼女を見据えて私は言葉を続けた。

(=゚д゚)「しかし君こそ、こんな夜中に何をやっているんだ? もう随分長いこと星を吐き出しているようだが」

私の言葉を受けて、彼女は「え?」と目を見開いた。

ξ゚⊿゚)ξ「どうして知っているんですか?」

(=゚д゚)「見ていたんだよ。ほら、これ」

私が胸ポケットから取り出したのは、灰色にくすんだ星さんだった。
彼女はまじまじとそれを見つめ、「これが何か?」とでも言いたげな顔で私を見上げた。

(=゚д゚)「君が吐いた星だよ。こいつが私にぶつかってきたんだ。それで君も見つけた」

☆「そうだぜ、お嬢ちゃん」

16ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:31:11 ID:dctwYSK2
喋りだした星を、彼女はぎょっと見つめた。
しかしすぐに、困惑した顔が私に向けられた。

ξ゚⊿゚)ξ「え、でも、私の星は出したら消えちゃうはずですよ? なんで残っているんですか? しかも喋っているし」

(=゚д゚)「なんでと言われても……わからないのか?」

まさかという思いで問いかけたが、彼女はあっさりと首を縦に振ってしまった。
私は落胆の溜息をついた。

(=゚д゚)「それじゃあ、君はなんで星を吐いているんだ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それは……」

彼女は不自然に言葉を濁らせた。
私は不安な気持ちになった。

(=゚д゚)「まさかそれもわからないのか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「わからない……いえ、なんとなくはわかっているんです。理屈はわからないんですけれど」

自信なさそうに前置きをしてから、彼女は説明をした。

17ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:32:31 ID:dctwYSK2
ξ゚⊿゚)ξ「たとえば、嫌なことがあったり、むしゃくしゃしたり、
 そういうときにここに来て、思いっきり口を開いて、その、出すんです。
 声を出さずに叫ぶみたいにするんです。そうしたら、星が飛び出していくんです。
 全部出て行っちゃうとすっきり気持ちよくなるんですよ。
 私もすっごく不思議に思っているんです。でも仕組みはわかりません」

ξ゚⊿゚)ξ「そういう病気みたいなものです。
 高校生になったころからできるようになって、
 でも家や人前でやるとみんなびっくりするだろうからできなくて。
 それでこの場所に来てこっそり吐いていたんです。
 出した星が、まさかちゃんと人にぶつかるなんて思っていなくて……」

そこまで言って、彼女はちらりと私を見、「ごめんなさい」と一言添えた。

私ももう彼女を責める気にはなっていなかった。

誠実に謝っている以上、彼女を恨む必要もない。
それに、彼女の説明からすれば、彼女は嫌なことを発散するためにこの行いをしていたのだろう。
彼女の説明を聞いて、私は星さんの彼女に対する説明を思い出していた。
あの子は寂しい女の子。

(=゚д゚)「もう頭は下げなくていいぞ。それと、何かあるんなら言ってみな。聞いてやるから」

何やら嫌なことがあって、寂しい目にあっているというのならば、この子はただの憐れな少女にすぎないのだろう。
そうであれば、ひとまず話を聞いてやろうではないか。
人間、話してみれば案外すっきりするものだ。
星吐きに病みつきになるよりは健全に、彼女を諭してやるべきだろう。
そんな憐れみと親切心が私には沸き起こっていた。

18ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:33:50 ID:dctwYSK2
ξ゚⊿゚)ξ「いいんですか?」

彼女は私を見つめて言った。
口調は真剣そのものだった。
その眼差しに、私はにっこりと微笑み返した。
精一杯の慈愛の表現である。

彼女はすぐに顔を綻ばせた。
よほど話し相手がほしかったのだろうか。
彼女は私の横にしゃがみこんで話を始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「私、実は高校で孤独なんです。いじめ、って言っちゃっていいと思うんですけど――」

私は彼女の横に座り、星々を見上げつつ話を聞いていた。
クラスメートに蔑ろにされること、陰口を叩かれること。時として暴力を振るわれかけること。
綴られる話はなかなかに凄惨な内容であり、時折彼女の顔にも翳りが差した。

彼女のそんな仕草も納得できる。
私だったら話すのも躊躇う内容である。

19ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:35:00 ID:dctwYSK2
今時の高校生はこうも軽々と非道を行えるものなのか。
少しばかり年が離れているだけで、これほどまでに秩序は乱れ、モラルは崩壊してしまうものなのか。
彼女のいる環境が特殊なのかもしれないが、私の受けた衝撃は計り知れなかった。
私は彼女の受けた苦痛を想い、胸を痛めた。

もはや星をぶつけられた痛みなどどこかへ素っ飛んでしまっていた。
話が終わる頃には涙さえ湛えていた。私は彼女をすっかり信頼しきり、安易な慰めの言葉しか思いつかない自分を恥じた。

(=;д;)「そうか。君はそんなに辛い目に会ってきていたのか」

☆「うう、あっしも涙が止まらねえです」

胸ポケットで星さんも嘆いていた。
どこが目なのかわからないが、のっぺりとした顔の表面が湿っていた。
それが彼なりの涙なのだろう。
星さんは手の部分を器用にくねらせて、表面の水滴を拭っていた。
私もまた目を腕でこすっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「お話、聞いてくれてありがとうございます」

彼女は小さな声で謝辞を述べた。
それから「あの……」と、身体をもじもじさせつつ言った。

20ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:36:13 ID:dctwYSK2
ξ゚⊿゚)ξ「私、まだまだ弱いから。だからこれからも、ここに来て星を吐いちゃうと思うんです。それでも、いいですか?」

(=;д;)「もちろんいいとも。もう何も言わないさ。好きなだけ吐けばいい」

私はつらつらと本心を述べた。
思えば自分はなんて狭量だったのだろう。
たかが星をぶつけられたくらいで何を怒っていたのだ。
星を吐くのも、理屈はわからないが事情があるならそっとしておけばいいじゃないか。
私が夜中にこの竹林を通ることになったら、気を付ければいい。それだけのことだ。
我慢すべきは私の方なのだ。彼女には、気の済むまで好きにやらせればいいのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます。それじゃ、今日はこれで、おやすみなさい」

彼女は控えめながらも、先頃よりは数段明るい調子で別れの挨拶をした。
無邪気なその声に、私もまた「おう」と爽やかに答えた。

彼女は竹林の先へと行ってしまった。
公道の方である。
彼女の家がそちらの方にあるのだろう。

素直ないい子だった。
私の感想を集約すればこうなる。

21ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:37:19 ID:dctwYSK2
☆「旦那、そろそろ部屋に帰りましょうや」

胸ポケットの星さんが急かした。

(=゚д゚)「そういえば、お前は消えないのか?」

☆「さあて、あのお嬢さんも知らないようですし、さっぱりでい」

お手上げとばかりに、星さんは両手を凹の字に曲げた。
肩があれば竦めているのだろう。

私は仕方ないのでまた星さんを連れていくことにした。
私の暮らす、アパートのあの部屋へ。

私と星を吐く女は、こうして出会い、そして別れた。
接点など無いのだから、これが普通である。少し変わった出会いをしたというだけだ。

ところが、私と彼女は再び出会うことになる。
数回にわたって。
そして私は思い知らされるのだ。
私は彼女のことを、何もわかっていなかった、と。





     ★     ★     ★

22ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:38:32 ID:dctwYSK2
数日後のある日、私は大学内の小ホールを訪れていた。
教室が並ぶ廊下の端にある、黒い観音扉で仕切られた部屋だ。
普段大学で講義を受けるだけの学生たちは、この小ホールの存在すら知らないだろう。
見たことはあっても、その厳かな佇まいから、近づこうとは思わない。

しかし、その中は案外穏やかだ。
橙色の照明が暖かみをふりまいており、木造の机や椅子、床や梁などと調和しているからだろう。
聞いた話だと、このホールは大学創始の頃にはすでにあったらしい。
代々演劇部の人たちが、このホールを劇場として大切に使ってきた。
その歴史の香りが内部に充満しているわけである。

そして、私が見ているのも演劇部の劇であった。
ウン十年前の先輩方と同じように、ホールに並べられた長椅子に座って壇上を見つめる。
このように記述すれば多少は趣が感じられるかもしれないが、
目の前で展開されているストーリーの珍妙さが同程度であったかはわからない。

壇上では、俳優の男子学生がセーラー服を着て立っている。
女子高生の専売特許であるはずのそれが
きつそうに表面を張っている痛ましいさまから、私はどうしても目を離すことができなかった。
そんな、一観客である私の内情など知る由もなく、壇上の彼は両手を広げて天を仰ぎ、声を荒げて嘆いていた。

「ああ、神よ。私とはいったい何なのでしょうか」

23ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:39:30 ID:dctwYSK2
こっちがききたい、そんな突っ込みが天界から降り注ぐ気がしてならなかったが、
思いの外ストーリーはオカルトには走らず、ひたすら真面目に堅実に展開していった。

主人公であるらしき彼が汗を撒き散らしつつ自我に纏わる哲学的お題目を熱弁するが、
ぴちぴちのセーラー服が全てのシリアスを蹴散らしていく。
探求と破壊、自我の本質にこれでもかと肉薄する学生演劇を、私は口を鯉のように開けて眺めていた。

誘ってくれた友人には大変申し訳ないが、私は話のひとかけらも理解できていなかった。
途中の数分間眠っていたせいもあるかもしれない。
とにかく若く、突き抜けるような劇であることだけはわかった。
だからこの演劇は、ただの春休みを持て余した大学生である私が見るべきものではないのだ。
もっと若さを見たいと思っている、中年や壮年、老年の人々にこそ見せるべきなのだ。
もっと、失われた若さの幻影に胸を熱くしてくれるような人たちに。

思考の中で提案しているうちに、私はいつの間にやら再び眠りに落ちていた。
慌てて目覚めたときにはすでにカーテンコールの場面であった。
たくさんの学生たちが観客に向けて頭を下げている。
こんなに登場人物がいたのかと驚かされた。

24ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:40:41 ID:dctwYSK2
( "ゞ)「今日は来てくれてありがとうな」

周りの観客が帰り支度を始める最中、聞き覚えのある声がした。
振り向くと私より頭一つ大きい男だった。
身体つきはやせ細っており、上に伸びることだけを考えて生きている植物を想起させる。
顔も細く、目も細く、狐と揶揄されることもかつてはしばしばあった。
名を関ヶ原デルタという。
この学生劇団の俳優の一人であり、中学時代からの私の友人でもある男だった。

(=゚д゚)「随分と複雑な内容だったな。途中で置いてけぼりを食らったよ」

眠っていたことを暴露しないのは、私なりの優しさである。

( "ゞ)「それはすまなかったね。今回の脚本担当が哲学科で、最近エリクソンに熱を上げているんだ。
 日本に蔓延る『自我』と『アイデンティティ』の混同を晴らすと息巻いていた結果がこれさ。
 まあ、好き勝手にやれるのがうちの流儀なんだ。そう考えれば全然的外れともいえない。
 むしろ全力で好き勝手やってくれやがったと言える。勇ましいことだね」

言っている間に、デルタは自分の肩に貼りついている粘着性の何かを剥がしていた。
なぜスライム状の物体が肩に貼りつく展開になったのかはわからなかったが、
下手に墓穴を掘りたくないので、私はできる限りの憐れみの視線を送るに止めておいた。

25ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:41:47 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「それにしても、お前がこれほど演劇に凝るとは思っていなかったよ」

そういいながら、私は高校時代までのデルタのことを思い浮かべていた。
彼は背が高くて目立っていたが、その内実は目立つことが大嫌いな男であった。
どれだけ人目を避けようとしても、身体的特性が邪魔をする。
存在そのものが悲しい板挟みにあっていた彼は、一時期人との交流もままならないほどに暗く沈み込んでいた。

だから、同じ大学に入った彼が演劇を始めたと聞いたとき、私は驚きというよりもまずその話が嘘だろうと決めつけた。
実際に彼の演技を目にしたのは一年生の秋の頃で、私の誤解もそのときようやく正すことができた。

( "ゞ)「うん。僕も思ってなかった。なんだか面白いんだよね」

(=゚д゚)「目立つことが嫌だとばかり思っていたんだけどな」

( "ゞ)「そりゃまあ、目立つけど。でも、ここでは目立った方がいいんだよ。だから気楽なんだ」

デルタはのほほんと言ってのける。
私は「なるほど」と妙に感心しているうちに、彼は「さて」と話題を切り替えた。

( "ゞ)「それじゃ、職場に向かってもらうよ。先生」

デルタの呼称に対して私は眉を吊り上げた。

26ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:42:57 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「お前の先生じゃない」

( "ゞ)「我が家ではみんなそう呼んでいるんだから、いいじゃないか」

私が先生と呼ばれている理由、それは私が家庭教師として関ヶ原家を訪ねているからだった。
デルタの妹、関ヶ原スパムの先生として。

関ヶ原家のある街に着いた頃には、夕日が煌々と地上を照り付けてきていた。
日は少しずつ伸びてきているようではある。

スパムは来年度で高校三年生になる。あとひと月足らずだ。
受験のための勉強も既に始めているが、
私が彼女の先生になったのはそれよりもずっと前、彼女が高校生になったときのことであった。

大学が同じということで、受験が終わり次第何度かデルタの家に遊びに行った。
そのうちにデルタが妹に私を紹介した。
「とても勉強を教えるのが巧い、この人のお蔭で同じ大学に入ることができた」などという文言を添えて。

だいたい同じ大学に通っている時点で、大学入試に求められる学力に大差がないことはあからさまなのに、
スパムは目を輝かせて私に飛びついてきた。
後々振り返ってみるに、彼女は宣伝文句で勧められるところっとやられてしまうタイプなのだろうと思われた。
事実テレビCMで流れている大層大袈裟な売り文句に対しても同種の反応を示す様を目撃することがよくあったからだ。

スパムへの家庭教師をかれこれ丸二年続けていることになる。
彼女は決して物覚えが悪いわけではなかった。
勉強するモチベーションが薄かっただけであり、私が訪ねるようになってからは机に向かう時間が増えた。
もちろんそれは私が来るからしかたなく、という義務的な行動だったのだが、
関ヶ原家の母の目には劇的な変化のように映ったらしい。

27ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:44:04 ID:dctwYSK2
私は気が付けば関ヶ原家に丁重に迎えられる身分となっていた。
関ヶ原家の玄関を跨ぐ際には必ずにこやかなお迎えがいて、机のそばには季節に合ったお茶が運ばれてきた。
隙あらば夕食さえ奢ってもらえるようになった。
さすがに毎度甘えるわけにもいかなかったが、財布がさみしいときに、少しだけ。

関ヶ原家を訪ねることは、私の日常だった。
今日もまた、その日常のために私は足を進めていた。
夕暮れを背に受けながら。

ところが、関ヶ原家の暮らす一軒家が路地の先に見えてこようとする前に、デルタの携帯電話が鳴った。

( "ゞ)「あれ、これスパムのいる高校の番号だ」

妹の名をぽつりとつぶやくと、ちらりと私に目を合わせた。
それから首を傾げつつ、電話に応えた。

それから数秒、デルタは「はい」と「ええ」を繰り返していた。
聞き役に回っている。
どこか他人行儀な話し方なのが気になった。
妹相手に、そのような話し方をするだろうか。

28ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:45:12 ID:dctwYSK2
( "ゞ)「……なんですって!?」

と、突然デルタが大きな声を上げた。
声が夕暮れの住宅街を飛んでいく。
デルタが演技でもなく大きな声を出すのを久しぶりに見た気がして、私はただならぬ異変を感じた。

( "ゞ)「わかりました。すぐに向かいます」

電話を切ってから、デルタは大きなため息をついた。

(=゚д゚)「何があった? スパムちゃんじゃなかったのか?」

(; "ゞ)「いや、担任の先生だったよ。スパムが少し……トラブってて」

デルタはそこまで言って頭を抱えてしまった。

私はもどかしく思いながら、状況を推測する。

(=゚д゚)「つまり、学校に呼び出されたのか」

29ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:46:09 ID:dctwYSK2
(; "ゞ)「ああ、そうなんだ。母さんに連絡する前に、僕に連絡してきたらしい。行かないと」

(=゚д゚)「なら、私も行く」

(; "ゞ)「え?」

デルタが目をぱちくりさせて、私を見下ろした。

(; "ゞ)「いいのかい? 時間かかるかもよ」

(=゚д゚)「どうせ暇だよ。それに、先生が生徒の心配するのは普通だろう。受験にも影響するかもしれないし」

(; "ゞ)「ああ、そうか。そうだ、大変だ」

重大さが後から押し寄せて感じられたらしく、デルタは慌てて元来た道を戻ろうとした。
私もまた慌てて彼の後を追いかけた。

スパムのいる高校はこの街にあり、必死に走れば30分程度。
時間はかかるが、わざわざタクシーを拾うよりは安く済む。
何より、一度動き出したデルタがおとなしく止まってくれるとは思えない。
今はこれが最善の方策だった。

夕日に照らされ、デルタの細長い身体が真っ赤に燃えていた。
ひたすらまっすぐ、妹の元へ。





     ★     ★     ★

30ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:47:51 ID:dctwYSK2
スパムの通う高校に辿り着いたとき、デルタの携帯電話が再びベルを鳴らした。
私のデルタの二人とも、玄関へ向かおうとする身体が止まる。

( "ゞ)「もしもし……」

電話に応えたデルタは、数秒ののちに「えっ」と驚嘆の声を張り上げた。

(; "ゞ)「そんなこと言われましても、もう来ちゃいましたよ」

デルタの意味ありげな目線が私に向けられた。
眉を寄せる仕草から、どうにも困っているらしいとはわかったが、具体的な内容までは察することができない。

( "ゞ)「はあ、それじゃあとりあえず応接室でいいんですね」

そういって、首を捻りながらデルタは電話を切った。
次いで私に向かって口を開く。

( "ゞ)「問題はなんとかするから、来なくてもいいですよって言われたよ」

(=;゚д゚)「そんな、今更」

私が呆れた調子で言う。
デルタも同感という面持で頷いていた。

31ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:49:14 ID:dctwYSK2
( "ゞ)「きっとこんなに早く駆けつけてくるなんて思ってなかったんだな。平日だもの。
 保護者の電話番号を一応聞いたけど、僕が休みでこのあたりをふらついていることには気づかなかったみたいだ」

(=゚д゚)「なるほど。それでも、結局行くんだろ?」

( "ゞ)「そりゃあ、何かあったことは確かだからね。妹と会って話を聞かないと」

(=゚д゚)「そうなると……兄妹水入らずで話し合った方がいいか?」

すっかり拍子抜けした私は、腰の低い提案をしたが、すぐにデルタに首を振られてしまった。

( "ゞ)「先生なんだから、聞きなよ。それに、一人では気まずい」

(=゚д゚)「気まずいって、どうしてだよ。自分だってかつては高校生だったんだろ。何も怖がることはないはずじゃないか」

( "ゞ)「あるよ」

デルタは遠いものを見るような目で、校舎を全体的に眺めた。

( "ゞ)「ここは女子高なんだ」

何をばかな、という言葉が口から出かかったが、思い直して飲み込んだ。
自分の身になって考えれば、思春期真っ只中の女子ばかりの空間に入り込むことに、抵抗がないわけではなかったからだ。

32ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:50:44 ID:dctwYSK2
ところが、玄関をくぐると、ゆるいスーツを着た恰幅のいい男が立っていた。
どことなく、出鼻を挫かれた気分になる。
話をしてみると、スパムの担任の先生であることがわかった。
名を田中という。デルタに電話を掛けてきていたのもこの人物であるらしい。

(゜3゜)「いやはや、まさかもう来ていらっしゃるとは思っていなくて。誠に申し訳ない」

謝罪とともに、田中先生は頭を下げた。
頭頂部にある髪の薄い部分がよく見えた。
生徒たちが群がって男の頭皮をふざけて押し合う姿が思い浮かばれた。

( "ゞ)「スパムは無事なのでしょうか」

デルタが心配そうに聞く。

(゜3゜)「ええ、もちろん。実をいうとクラスメートと多少口喧嘩になった程度なのです。
 しかし相手の女生徒がなかなか意地っ張りでして、大事になりかけたところ、気づいた先生方で止めに入ったのです。
 スパムさんも興奮気味で、だから私もあなたに電話をしたのです。しかし、今は落ち着いています」

田中先生の簡単な説明が終わっても、デルタは聞き足りないようだったが、「あとの話はスパムさんに直接で」と止められた。
これ以上私に聞かれても困る、という口ぶりであった。

33ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:52:01 ID:dctwYSK2
女子高といっても、すでに放課後であるためか、女子生徒たちの姿を目にすることはなかった。
校庭や体育館、音楽室等で部活動に勤しむ掛け声が聞こえてくることが唯一の存在証明である。
その他は、校舎内を見る限りでは特別なものはなかった。
ごくありふれた高等学校の姿である。
私がいた高校よりも清潔感がある気がしたが、私の通っていた高校が殊更酷かっただけかもしれない。

私たちは無機質な白い扉へと案内された。
黒い小さなプレートに白文字で「応接室」と書かれている。
担任の先生が開き、中にいた女の子の目がこちらに向いた。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「お兄ちゃん!」

そう叫んだ彼女こそが、デルタの妹、関ヶ原スパム本人であった。
最初に室内に入ったデルタから、次第に後続の私へと彼女の目が動く。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それに、え、トラギコ先生……? どうして?」

私の名を呼びつつ、彼女は目を瞬かせた。

(=゚д゚)「今日は家庭教師の日だからな」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あ、そっか。お兄ちゃんだけ来るものかと思っていたからびっくりしちゃった」

スパムは軽妙な笑いを付け加えた。あまりの明るさに、私もデルタも唖然とする。

34ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:53:12 ID:dctwYSK2
( "ゞ)「お前、なんでそんなに元気なんだ?」

デルタが質問する。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どうして?」

( "ゞ)「どうしてって……クラスメートと喧嘩したって聞いてきたんだけど」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「ああ、うん。でもいつものことだし。ね、たっちゃん」

スパムの目が向き、次いでデルタと私の視線も田中先生へと向けられる。
田中先生は薄い髪を撫でて低く唸った。

(゜3゜)「あんまりそういう言い方をするのは、良くないですよ。スパムさん。
 あの子にはあの子なりに怒る理由があったんですから。ただ少し、その、怒る頻度は普通の人より多いですが」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「うん。ごめんね、たっちゃん。もう少しで終業式なのに、こんなトラブル起こしちゃって」

たっちゃんというのがあだ名であることに気づき、
あまりに似つかわしくないので思わず私が笑いそうになっているなんて気づきもせず、田中先生は長々と溜息をついていた。

問題の生徒の名を、田中先生は教えてくれた。
田中先生の受け持つクラスの子、つまりスパムのクラスメートである。

35ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:54:12 ID:dctwYSK2
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「でもね、本当に喧嘩とか、そんな大げさなものじゃないよ。
 模試の成績のこと友達と話していたら、自慢しているって誤解されたの。全然そんなんじゃないのに」

(=゚д゚)「悪かったのか?」

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「え、ふ、普通……」

私の期待がこもった質問を、スパムは歯切れ悪く受け流した。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「とにかくね、それでむかっときちゃって、言い返しちゃった。
 いつも自慢してるのそっちじゃん、ってね。そうしたら、騒ぎ始めちゃって」

言葉を言い終わるときに、口からちらりと舌を出した。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それで、たっちゃんたちが気づいて止めに入って、あたしを含めて当事者たちを捕獲。
 個別にお話ししていたってわけ。ね? 騒ぐことないくらいしょうもないことでしょ?」

( "ゞ)「しょうもなくないよ」

デルタは笑わず、突き刺すように言った。
珍しい態度だったためか、スパムの顔も真顔になる。

36ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:55:32 ID:dctwYSK2
ヽiリ,,゚-゚ノi「……騒ぎを起こしたのは、うん、やりすぎたよ。ごめん」

唇をなめてから、彼女は囁くように言った。
聞き取りにくくはあったけれど、それに応えるデルタの頷きは明確だった。
思わず私がふらふら視線を泳がしていたら、同じく所在なさげな田中先生と目が合うことになった。

ヽiリ,,゚-゚ノi「でもね、言い訳じゃないけど、あの子はもともとそういうとこあるからね」

( "ゞ)「そういうところ?」

デルタが聞くと、「そうなんだよね」とスパムは項垂れた。

ヽiリ,,゚-゚ノi「普段無口なのに、妙に他人に突っかかっていっちゃうの。それで、たっちゃんも困っているんだから」

不意に名前を呼ばれた田中先生がぎくりと目を剥いた。

(゜3゜)「だから、スパムさん。そういう言い方は良くないんですよ」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「えー、でもそうでしょ?」

(゜3゜)「それは、まあ、よくお友達に突っかかってしまう性格ではありますが、それは彼女の個性であってね」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「個性って言ったって、それで自分勝手にして他人を傷つけちゃダメでしょ」

(゜3゜)「うーん、それは、うう、そうですよねえ」

田中先生の言い返す気力が削がれていくのが、彼の萎みこむ声からよく伝わってきた。

37ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:56:59 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「それほどその子はトラブルメーカーなのですか?」

気になったので質問してみると、田中先生は観念するかのように頷いた。
まるで田中先生を責め立てているみたいで気が引けてしまった。

(゜3゜)「普段は大人しい子なのですがね、気に入らないことがあると口を挟んでしまう癖があるんですよ。
 自分の価値観が強固であることは大事なことなのですけれど、そのせいで時には他人とぶつかってしまう。
 私が担任になってからの一年間、そういう無関係な子たちに被害が及ばないようにと気を使ってはいたんですけれど、
 まさか終業式間際でこんな事件を起こすとは」

言いたいことを粗方押し出してしまうと、田中先生はなおのこと肩を落として項垂れた。
教師として、生徒のことを精一杯に思い、それでも溜まっていた蟠りを一挙に流したのだろう。
全身から力が抜けていってしまったようである。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「たっちゃん、もう大丈夫だよ。あたしは無事だから」

スパムが気を使うと、田中先生が引き攣り気味に笑みを浮かべた。

(゜3゜)「そうですね。とりあえず君は無事みたいだ。
 お兄さん方はどうぞ、スパムさんを連れて帰宅してください。私はこれから例のあの子と話し合ってきますので」

38ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:58:25 ID:dctwYSK2
田中先生はひとつ大きなため息をついた。
それから背筋を伸ばして私たちに向かい合う。
これから先の一仕事に向けて気持ちを切り替えたのだろう。
教師としての意地を垣間見た気がした。

田中先生が扉へ歩き出すのを見て、私はスパムとデルタの方を振り向いた。兄妹の目も私に向けられた。

( "ゞ)「さて、帰ろうか」

デルタが最初に切り出す。

(=゚д゚)「それじゃ、スパム。後で模試の成績表を見せろよな」

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「え、見るんですか!」

(=゚д゚)「当たり前だ。だいたい、模試があったなんて知らなかったぞ。なんで教えてくれなかったんだ」

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「それは、あれですよ。
 うまくいってたら、見せる。家庭教師の先生にとってはサプライズになりますよね。
 うまくいってなかったら、隠す。先生の心は平穏を保たれる。ね、平和でしょ?」

(=゚д゚)「平和もいいが、嘘つきは嫌いなんだ」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あー……わかる」

スパムが状況をわきまえずに訳知り顔で言うものだから、私は眉を顰めた。

39ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 22:59:52 ID:dctwYSK2
背後で扉の開く音がした。
田中先生が外へと出たのだろう。

(=゚д゚)「わかるって、何がだ」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「トラギコ先生、嘘とか苦手そうだなって思って。正直者そうだしね」

(=゚д゚)「それは……騙されそうってことか?」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それもある」

あっさりと言ってのけ、くすくす笑う。
呆れて言い返そうとする私を尻目に、彼女の横に立つデルタも笑った。

(=゚д゚)「なんだよ、二人とも同じこと考えて――」

言葉が途切れた。
その理由は、扉の外側で誰かの怒鳴り声が聞こえたからだ。
「遅いじゃないですか!」と叫んでいる。

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「あの子だ」

スパムは微かに顔を青くさせて言った。
例の彼女がすぐそばにいるのだろう。

40ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:01:32 ID:dctwYSK2
( "ゞ)「少し待とうか。外の様子をみて、安全なら帰ろう」

デルタの提案に、私とスパムは同意する。
発端の口論の当事者であるスパムと鉢合わせれば面倒事になるかもしれない。
大人しくしている方が得策だ。

スパムはソファに座ったままで、私とデルタが入口へと忍び足で向かった。

扉に近づくと声もはっきり聞こえてきた。
どうやら、怒鳴られている相手は田中先生であるらしい。

「すいませんねえ。しかしスパムさんとの話し合いも大切ですから」

「それにしたって、遅すぎます。
 そちらでゆったりと話し合っている間、私だって教室で待たされていたんですよ?
 廊下を歩く先生や生徒の冷たい目線を感じるたびに、どんなに心細かったことか」

歯切れの良い澄んだ声が、田中先生と対極であるため、際立って聞こえてきた。
相当気の強い女性の姿が思い浮かばれようとするが、その途中私の脳裏を何かの影が掠めた。

「ええ、本当にすいません。しかし話し合いの場所は教室なのに」

「だから! 遅いから迎えに来たんです! スパムさんが応接室にいることは友達から聞いていましたから」

41ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:02:48 ID:dctwYSK2
あの子の声がまた聞こえて、私はまた妙な気分になった。
どうも自分は、この声を知っている気がする。

私はデルタの制止を押し切って応接室の扉を開いた。
好奇心が芽生えたからである。

廊下に立ち、話し合っている二人の姿を見つける。
ほんの三メートルと離れていない位置に彼女たちはいた。
見覚えのある後頭部がまず見えていて、それをなびかせて、彼女もこちらを振り返った。
怒りに歪んでいた顔が、表情の掻き消えたまっさらな顔になり、やがて驚愕ために目と口が見開かれた。
私もまた、同じように目を見開き、声を上げる。

(=゚д゚)「お前は……」

その途端、彼女は道の先へと走り出した。
田中先生が「ツンさん、待ちなさい!」と言って追いかけていく。
先ほど教えてくれた彼女の名前だ。

私の視界で彼女がみるみる小さくなっていったが、私はその場から動けないでいた。

なぜならば、今しがた私と視線を交わした、スパムとの喧嘩相手が紛れもなく、
あの竹林の先の小高い丘で出会った少女であったからである。





     ★     ★     ★

42ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:04:11 ID:dctwYSK2
私が帰宅したのは日が暮れてからだった。
先日からの同居者である星さんは四畳半の真ん中に転がっていた。
下には新聞が敷かれている。
尖った両腕がほんの少し上体を浮かせているのに気づいて、彼がただ寝ているわけではなく新聞を読んでいるのだとわかった。

☆「お帰りなさいでさあ、旦那。あっし、だんだん文字が読めるようになってきやしたぜ。
 NIS諸国における旧ソの爪痕はまだまだ根深えですねえ」

その後も星さんは流暢に世界情勢の予想図を語り続けた。
それらの情報が新聞を一日分読んだだけで仕入れられるものなのかは疑問だったが、
星さんには申し訳ないことに今の私の興味関心は全く別のところにあった。

(=゚д゚)「なあ、星さん。あんたを吐き出した女の子のことについて話したいんだけど、いいか?」

星さんの話は私の声で打ち切られた。星さんは特に項垂れもせずに話を止めた。

☆「へえ、何かあったんですかい。あんな健気な子に、まさか何かあったんじゃねえでしょうね」

(=゚д゚)「それなんだが……どうもあの子は健気ではないらしいんだ」

私はツンについて知り得たことを星さんに伝えた。
家庭教師としての仕事の最中、関ヶ原スパムから仕入れた情報である。

43ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:05:27 ID:dctwYSK2
率直に言ってしまえば、ツンは苛められてなどいないらしい。
確かに他人とぶつかることは多かったが、それは我が強いことの表れであった。
気に入らないことがあればすぐに表に出してしまい、その結果として、たびたび同級生に口論をふっかけていたという。
今回のスパムの事件もその一端である。

もっとも、ここ一年ほどはさして大きな衝突事件は起こっていなかった。
それは偏に担任の田中先生による監視・危険予測といった不断の努力の賜物なのだ、とスパムは涙ながらに語っていた。

☆「それじゃ、なんですかい。ツンさんってえのはあっしらに嘘をついていたんですかい」

星さんは納得いかない様子だった。
私は口元をくねらせて唸った。

(=゚д゚)「どうだろうな。少なくとも、私やお前が思い描いていたような耐え忍ぶ悲劇的な女性像とはかけ離れていたようだ。
 そのギャップを嘘と言っていいのかは、判断しがたい。
 彼女は周りとの衝突することを苛められていると解釈していたのかもしれない。ありていに言えば被害妄想だな」

☆「しかし、そうはおっしゃいますがね。ツンさんは確かに寂しいんですぜ」

44ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:06:55 ID:dctwYSK2
星さんは自信たっぷりに言う。

☆「それがあっしにはわかるんです」

(=゚д゚)「なんでわかるんだ」

☆「あっしはあのお嬢さんの中から出てきたんですからね。
 ぼんやりとですが、お嬢さんの感じていたものが記憶に残っているんでさあ」

星さんは腕のとんがりで、ちょいちょいと頭をついた。

(=゚д゚)「残っているといったって、いったいどんなことが」

☆「ですから、ぼやーっと、寂しい、これです」

それ以上具体的には話せないらしい。
私は眉根を寄せて考えた。
彼女は我が強い。彼女は寂しい。彼女は衝突する。彼女は苛められている。

イメージはなかなか固まらなかった。
彼女が何者であるかは、未だ解決できそうにない。

45ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:08:30 ID:dctwYSK2
その晩、私は星さんを胸ポケットに入れて例の竹林に足を運んだ。
彼女が来るかもしれないという予想はとても淡いものであった。
実際彼女は来ず、痕跡もなかった。
月の移動が認識できるほどに待ち続けたのち、私はその場を後にした。





     ★     ★     ★





翌日の晩も、その翌日の晩も同じことをしが、空振りという結果は変わらなかった。

46ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:09:43 ID:dctwYSK2
彼女は私を避けはじめたのだろう。
たまたま来れなくなった可能性もなくはないが、
あの日高校で見た彼女の驚愕の顔と走り去る後姿を思い出すたびにその可能性は押し潰され、私の胸がちくりと痛んだ。
誰であれ、避けられるのは嫌なものである。

☆「旦那、気落ちしないでくだせえ。彼女も消えちまったわけではねえんですから、いつかまた会えますぜ」

星さんはそういって、胸元から私を慰めてくれた。

(=゚д゚)「ありがとう。ところで星さん、あなたはいったい何なのだろうな」

☆「さあてね、あっしのことは、あっしにはわかりゃしません」

そういうと、星さんは快活に笑い飛ばした。
きっと星さんに顔があれば、大口開けて笑った表情になっているのだろうと思った。

そのとき、ふと思った。
彼女はいままでどんな表情だっただろう。
星を吐くときは辛そうで、私と出会ったときは微笑んではいたものの力なく、そして学校では怒っていた。
私はまだ、彼女が元気に笑う姿を見たことがなかった。






     ★     ★     ★

47ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:11:00 ID:dctwYSK2
やがて一週間の時が流れた。
私の期待はすでに情けないほどに萎んでいたが、足は自然と竹林へ向かっていった。

冬の竹林は静かなのだけれど、春が近づくにつれて風が強まり、笹の擦れる音がうるさくなっていた。
この一週間で、春は着実に喧しく私たちの街に押し寄せてきていた。

「だいぶあったかくなってきやしたぜ、旦那」

春が来ているせいか、星さんは上機嫌だった。
でも、私の気分は暗澹としていた。
焦っていたのかもしれない。
彼女と会えないままに、季節が私を置いてけぼりにして、そのまま周回遅れにしていく気がした。

竹林の密度が薄くなり、開けた草原に辿り着いた。
中心を横切る数十センチの崖。大きな常緑樹。山の頂へ向かうなだらかな地面。
一週間前の景色から、まだそこまで変わっていないが、そのうち草木が増えるくらいの変化はするのだろう。

(=゚д゚)「…………やあ」

48ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:12:10 ID:dctwYSK2
崖の上に、彼女はいた。
寝間着のまま、体育座りをして、顔を両足の間に挟んでいた。
寝ているのかとも思ったけれど、私の声に確かに反応していた。
誤魔化すつもりでも、もうだめだ。

気だるそうに起き上げた彼女の顔は、妙にのっぺりとしていた。
怒っているのかとも思えたが、どんな顔をしていいのかわからないという意味合いにも取れた。
いずれにしろ、私とはあまり会いたくなかったのだろうという私の予想は当たっていた。

私は彼女の横に座った。
彼女は嫌がりもせず、じっと前を見ていた。
つまり、私は見ていない。
だから私も彼女を見つめず、星空を眺めることにした。

(=゚д゚)「苛められていないらしいな」

世間話を求めてなどいないだろうから、さっそく、私は彼女に本題をぶつけた。

49ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:13:22 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「先週君と口論になったあの子、関ヶ原スパムは私の友人の妹なんだ。
 あの日はそいつの家に行く予定があって、その途中で連絡が来たから、私も学校に行った。
 だからあの応接にいたんだ。そして君を見つけてしまった」

彼女はまだ喋ろうとしない。
仕方ないから、私はできる限り静かに話を続けた。

(=゚д゚)「別に知り合いと口論になっていたから、恨んでいるとか、そういうことはない。
 私はただ、君がどうして自分のことを『苛められている』などと評したのかがわからないだけなんだ。
 君はごく普通に、学園生活を生きているじゃないか。寂しくもない」

ξ゚⊿゚)ξ「寂しいですよ。独りですし」

ようやく飛び出してきた声は、毅然というほかない雰囲気を纏っていた。
私は一呼吸置いてから次の言葉を探した。

(=゚д゚)「君の言っていた、苛めっていうのは、概ね他人が君を蔑ろにしているって内容だったと記憶しているが……
 君は自分から他人とぶつかっていたんだってな」

50ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:14:42 ID:dctwYSK2
ξ゚⊿゚)ξ「ぶつかるなんて、言い方の問題です。
 私は正しいと思うことを言っていただけです。こんなに大事になったのは、久しぶりですけど」

(=゚д゚)「どっちにしろ、それなら苛めだなんて言い方は相応しくないだろう。君は自分できっかけを作っているんだから」

私が窘めようとするも、彼女は頑なに首を横に振った。

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、苛めです。そのせいで私は孤独になっているんです」

(=゚д゚)「だから、それも自分で他人を避けてるだけで」

ξ゚⊿゚)ξ「避けたくなるような人しかいないからですよ」

(=゚д゚)「そんなこと言ってたらいつまでも――」

私の言葉が言い終わる前に、閃光が走り、私の横腹に途轍もない衝撃が襲い掛かってきた。
目の前が白黒に瞬き、身体が容赦なく横滑りに吹き飛ばされる。
何か固いものが私に体当たりしてきたことが察せられたが、概ねわけもわからないままであった。

51ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:15:50 ID:dctwYSK2
私は素っ頓狂な声を上げて、草原が身を削る痛みを味わった。
止まってしばらく痛みを耐え、呼吸を整えてから彼女の方を見やった。

くらくらする視界の向こう側に、光る星があった。
滲んだ目には眩しすぎる。
大きさもかなりのもので、横に立つ彼女が腰かけられるくらいだった。

(=+д+)「な、何を」

ξ゚⊿゚)ξ「この星、大きさも変えられるんです。私の思いのままなんです」

(=+д+)「それを吐いたっていうのか? いったいなんなんだその能力は」

ξ゚⊿゚)ξ「どうだっていいですよ、そんなこと」

吐き捨てるように言ってから、彼女は星に座り込んだ。
ちょうど椅子の形になるように星の表面が凹む。
私に攻撃した時は固かったのに、彼女の手にかかれば自由に動く。
真に奇怪な物体だった。

52ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:17:22 ID:dctwYSK2
ξ゚⊿゚)ξ「残念です。少しだけ期待していたけれど、所詮あなたも私のことなんてわかってくれないんですね」

(=+д+)「何言ってんだお前」

ξ゚⊿゚)ξ「もういいです。さようなら。もう二度と会うこともないと思います。それじゃ」

文の区切れを殊更に強調して、彼女は上を向いた。
星々は輝いているが、月がほっそりとしているので、相対的に見れば暗い。
地上にある彼女の星の方が、その大きさもあってやたらと目立っていた。

と、見ている傍からその星がふわりと浮かんだ。
私が驚愕の瞳を向けているうちに、私の目線を超え、あっという間に上昇していった。
そしてその最中、彼女はあたりに星を撒き散らした。

口から出た星は小さな流星となって地面に降り注いだが、落ち切る前に燃え尽きていった。
誰かにぶつかることもなく。

(=゚д゚)「どこへいくんだ!」

私は彼女を見上げて叫んだが、彼女はさらさら応える気もないようだった。
首を真上に向けて星を振り上げ、自分で浴びて遊んでいる。
星屑を浴びた彼女の髪や寝間着がキラキラ輝きを放つようになり、彼女は満足そうににやけていた。

53ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:18:48 ID:dctwYSK2
彼女の高度はすでに周りの竹を越えようとしつつあった。
私の届かないはるかな場所で、まるで全てに達観したような笑顔で、彼女は星を吐き散らしていた。


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☆「旦那、どうするんでえ」

唖然としていた私を正気に戻したのは、胸ポケットに隠れていた星さんの声だった。

☆「あのままじゃ、あのお嬢さんどっかいっちまいますぜ。いいですかい」

(=#゚д゚)「良いわけがない」

私がすぐさま反論した。
胸中がにわかにざわめき始める。
なぜだか無性に、腹が立った。

54ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:20:23 ID:dctwYSK2
今をもってはっきりと彼女の正体がつかめた。

自分は誰からも理解されていないなどと思い込んで自分だけの世界に閉じこもり、
そのくせその思い込みを打破しようともせず、
自分の身に降りかかる悲劇として豪勢にも飾っておこうとしている。

ツンという女は、自分に酔っているのだ。

私にその悲劇の素晴らしさを伝えようとして、私がスパムとの件もあり、
思ったよりも理解を示さなくなってしまったから、早々に離れることにしたに違いない。
今日この場にいたのは、最後のチャンスを分け与えたいうつもりだったのだろう。
そして私が彼女を咎めようとしたから、彼女は飛んで行ってしまったのである。

(=#゚д゚)「星さん、あいつを止めよう」

頭上では彼女の乗った星が緩やかに横移動を始めている。
私は星さんを引っ張り上げ、目の前に持ってきた。

55ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:21:42 ID:dctwYSK2
☆「へい、どうするんですかい」

(=゚д゚)「星さん、あの女の星も飛べるんだ。あんたも飛べるだろう?」

☆「そうなんですかい? やったこたあねですが、思いっきり投げてくれりゃできるかもしんねえです」

(=゚д゚)「よし、あいつをはたき落とそう」

☆「へ?」

(=゚д゚)「あいつは目の前の現実からとことん逃げたいみたいだからな。思いっきり現実に引き戻してやるんだ」

☆「それは……いや、わかった。やりやしょう。これもお嬢さんのためでんな」

(=゚д゚)「ありがとう、星さん。ほんの一週間だったけど、君と過ごせて楽しかったよ」

私は星さんに礼を言い、空に向かって振りかぶった。
目標である彼女はすでにかなり移動しており、山の向こう側へと優雅に飛んでいる。

56ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:22:55 ID:dctwYSK2
☆「いってきやすぜ」

(=゚д゚)「ああ、頼む」

私は思いっきり、星さんを投げた。

星さんはまっすぐに彼女目がけて空を飛行した。
最初は私の力によって、そして私の力が弱まってくる途中からは、自力で空を浮遊して行ったのだろう。
みるみる星さんの姿は小さくなり、彼女へと接近する。
彼女はまだ気づく様子もない。

そして。

「ぎゃっ」

悲鳴は夜空を横切って私の耳に確かに届いた。
優雅もへったくれもない、カエルが潰れたときのような音だった。

57ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:23:52 ID:dctwYSK2
山の上の木々へ向かって、彼女が落ちていくのが見えた。
枝の上に振り落ちるのは痛いだろうが、私の知ったことではない。
彼女が無事地上に戻ってきたことだけが重要であり、その一連の行く末を見届けられて、私は大変満足した。
これで彼女も頭を冷やすだろう。

夜風が私の頬を撫でた。
冬の風より柔らかな、春の前触れ。

私は竹林を帰ることにした。
もともと私が暮らしていた場所へ。

こうして私は、星を吐く女を撃退したのである。





     ★     ★     ★

58ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:24:54 ID:dctwYSK2
月日は流れ、スパムの高校も春休みへと突入した。
大学生である私にしてみれば、高校生はそれほど遅くまで学校に縛られていたのかと思ってしまう時期であった。

学期末最後のテストの結果が終業式の直前に配られていたものの、
スパムは終業式を言い訳に忙しさを訴え、なかなか私に見せようとはしなかった。
私がよくやく関ヶ原家の門を潜れたのは、終業式を実に五日過ぎてのことだった。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「家庭教師なのにまじめすぎますよ」

私を出迎えてくれたスパムはさっそく文句を言った。

(=゚д゚)「仕方ないだろう。生徒の成績は把握したいんだ」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「メールじゃダメなんですか?」

(=゚д゚)「直接見なきゃ信用できない。お前はデルタと違ってサボるところはとことんサボるからな」

そのデルタは演劇部の稽古に行っている。
公演も終わったばっかりだというのに、まだ練習することがあるのか。
あいつこそ熱心すぎる、と突っ込みたくなった。

59ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:26:08 ID:dctwYSK2
関ヶ原家での家庭教師学習は専ら居間で行われていた。
兄妹ともに小さいころから勉強は今の大きなテーブルでと決まっていたらしい。
私としても他人の部屋に入り浸るのは気が引けたので、都合がよかったとも言える。

兄妹の母親が運んでくれた飲み物を粛々と受け取ると、スパムの世間話に耳もくれず、さっそく成績表チェックが始まった。
できる限りの緩慢さでスパムが取り出した厚紙を、素早くひったくって開く。
それをメモ用紙に書き写しているのを、スパムは心底嫌そうに傍観していた。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「そういう個人情報、ちゃんと守ってくださいよね。うっかりメモを道で落しちゃったりとかしないように」

(=゚д゚)「そんなことするか。それよりも、聞きたいことがあるんだ」

動かす手を止めず、私は言った。

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「な、なんですか」

スパムがぎくしゃくしながら言う。

(=゚д゚)「安心しろ、成績のことじゃないよ」

60ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:27:21 ID:dctwYSK2
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あれ、そうなんですか」

(=゚д゚)「ああ……ツンのその後についてだ」

私はこの話を作業しながら聞くことに決めた。
無暗に感情的にならずに済むと思ったからである。
もともとこの話を聞きたいがためにスパムの家を訪ねた面もあったが、そのことは言わないでおいた。

ヽiリ,,゚-゚ノi「あの子は……普通にしていますよ。普通」

スパムは声を低くしながらも、渋々といった様子で答えた。

ヽiリ,,゚-゚ノi「あれから特に何も言ってこないし。まあ、テスト前だからかもしれないですけど、ね」

(=゚д゚)「普通、か」

淡々と答えるからこそ、それ以上何も言うことはないのだとわかる。
思えばスパムとツンはクラスメートではあるものの、仲良いわけでもないし、むしろあの事件においては当事者だった。
必要以上にお互いについて知る必要もないのだと、私は後から気づいた。

これでは聞いても仕方ないと、別の話題を考えていたとき、唐突にスパムが質問をした。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「で、なんでこんなこと聞いたんですか?」

61ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:28:36 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「え?」

はっとスパムの顔を見ると、きょとんと首を傾げていた。

(=゚д゚)「なんでって、そりゃあ、あの時知った人だから、気になったんだよ。いいだろうそれくらい」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「んん、んー? そんなに気になりますか? 赤の他人の、しかもどちらかというと悪いイメージの人を」

(=゚д゚)「悪いイメージ?」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「だって、初めて会ったのはあの応接室ですよね? 
 そのときはツンちゃんの喧嘩腰の姿しか見ていないですし……あれ、違うんですか?」

途端に、スパムの目が光を帯びる。
私は背筋が寒くなった。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「え、え? 知り合いなんですか? ツンちゃんと?
 でもあの日ツンちゃんのこと知りたがっていたし、もしかして顔だけ知っているだけだったとか」

(=゚д゚)「勝手に話を進めるな」

一人盛り上がる彼女を諌めた。
おかげで作業は中断である。

62ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:30:06 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「……確かに見たことはあった」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「えー、ほんとですか! どこで?」

(=;゚д゚)「それはちょっと」

ツンとの出会いを説明するためには、ツンが夜な夜な竹林に赴き星を吐くという行為についてまで説明しなければならない。
しかしここでそれを逐一説明したところで、スパムがそれを理解してくれるかはわからなかった。
それにツンが、この話を他人にしてもらいたいと思っているとも限らない。
私は彼女を正したいとは思ったが、彼女そのものが嫌いなわけではなかったからだ。
必要以上に傷つけるわけにもいかない。

と、私が自らを律しているうちに、スパムが口元を押さえて息をのんだ。
私はワンテンポ遅れて、スパムが何やらあらぬことを考えていることに気づいた。

(=;゚д゚)「待て、別に人に言えない場所とか言うわけではないぞ。ただ説明がしづらいんだ。わかってくれ」

63ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:31:15 ID:dctwYSK2
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「トラギコ先生」

(=;゚д゚)「なんだ」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「青少年保護育成条例って」

(=;゚д゚)「抵触しない」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あれー、違いますよ。どんな条例なのかなーってふと気になって質問しただけですよ。
 何をすごい速さで答えているんですか。いったい何を想像しているんですか。
 だいたい抵触しないって、あれは未成年とのあれを禁止するだけで、付き合うだけなら抵触しないんですよね。
 だからその答えはそういう意味にも――あいたっ」

私の指からボールペンが弾け、スパムの側頭部に襲い掛かった。
耳のあたりを抑えて呻く彼女を、私は冷めた目で見つめていた。

(=゚д゚)「すまない、手が滑った。わざとじゃない」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「棒読みじゃないですか! 怒りました? 怒っちゃいました?」

残念なことにスパムは一切めげず、質問を繰り返した。
これはいけない、と私は立ち上がった。

64ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:32:10 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)「スパム、せっかくの春休みだ。大いに遊ぶといい。
 そうだ、こんなときに勉強のこと考えても身につくわけがないだろう。それじゃあな」

喚くスパムを尻目に荷物を抱え、玄関へと向かう。
これ以上スパムの雰囲気に飲まれたら、あることないこと捏造されてしまいそうだ。

ツンのことは気にはなる。しかしそれは関係があるからゆえだ。
私があんな女に惹かれるわけがない。どちらかと言えば救ってやりたい。
そして私としてできることはすでに終わった。だからもうあの子と関わることはない。余計なことはしないでいい。

頭の中で自分に言い聞かせているうちに、玄関の前に辿り着いた。
ドアノブを握り、関ヶ原家の母に急用のため帰宅すると言い伝える。
真後ろにスパムがいて、飛び掛かろうとしていたが、構うことなく扉を開けた。
今の私は止まるわけにはいかないのだ。

途端に、視界が明滅した。

65ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:33:15 ID:dctwYSK2
鼻に当たった感触。骨は折れこそしないものの、痛みが急速に顔面を覆い尽くした。
あまりの眩みに立っていられず、「ああぁ……」と涙声を発しながらその場にしゃがみこんだ。

視界の先には、石があった。
五つに尖った不思議な石。
それは絵にかいた星のよう。

そして彼は立ち上がった。

☆「旦那、ただいまでさあ!」

久しぶりに聞く星さんの声は、頭に痛いほど明朗快活だった。

(=+д+)「なんでぶつかってきたんだよ」

鼻を押さえつけながら質問すると、星さんは鼻を鳴らした――ような音を出した。

☆「あっし、あのあとツンさんにとっ捕まっていたんでい。縛られて、脅されて。
 で、旦那を見つけ出してぶつかってきたら解放してやると言われましてね」

66ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:34:32 ID:dctwYSK2
(=+д+)「なにが命令だ。もうあの女と私は関係ないだろう」

☆「どうだか。ツンさんはそう思ってないかもしれないですぜ。
 これから先も、旦那に山ほど星屑をぶつけてくるのかも」

星さんはぴょんぴょん跳ねてアピールしていた。
彼女はそうは思っていない。妙に恐ろしい言葉だ。
私は彼女に目を付けられてしまったとでもいうのか。

(=゚д゚)「冗談じゃない」

私は星さんを胸ポケットに押し込めた。
まだ大丈夫なはずだ。あんな怪しげな女と関わらずとも、平穏に生きていく方法くらい残されているはずだ。
急いでそれを模索しなければならない。

最悪あのアパートを引き払うことになるかもしれないが、自らの身の安全のためだ。
もしもあの家を特定され、毎晩星が私の顔面に降り注ぐようにでもなるかもしれない。
そうなる前に、逃れるのだ。
星吐き女の魔の手から。

67ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:36:18 ID:dctwYSK2
私は開きっぱなしのドアノブに手を掛け、押し戻そうとした。
と、ここで思い出した。
私はドアを開けていたのである。

自然と関ヶ原家を振り返る形になり、関ヶ原スパムと顔を合わせることにもなった。
目を見開いて、唇を引きつらせている彼女は、今起きた現象から渦巻く疑念を体現していた。

ヽiリ,;゚ヮ゚ノi「あの……それは?」

恐る恐る、スパムの指が私の胸ポケットに伸びる。
星さんが半身を出して手を振って応えていた。
言い逃れができるとはとても思えなかった。

私は関ヶ原スパムに、ツンとの出会いを説明しなければならないだろう。

星のことも、星を吐く女のことも、
私が彼女と戦ったことも、まだその戦いが終わっていないということも。

68ブーン系の名無しさん:2014/03/21(金) 23:37:51 ID:dctwYSK2
(=゚д゚)




(=-д-)=3




観念しなければならない。
これらはすべて、自分の身に振りかかった現実であり、呪縛なのだ。
逃れることはできない。


(=゚д゚)「驚かないで聞いてくれ」


そして私は、星を吐く女の愚痴を始めた。





〜おわり〜

69 ◆MgfCBKfMmo:2014/03/21(金) 23:38:46 ID:dctwYSK2
おわりです。

さようならー。

70ブーン系の名無しさん:2014/03/22(土) 00:39:06 ID:???
乙ー あの可愛い絵からこんな話が作られるとは。すごいな。

71ブーン系の名無しさん:2014/03/22(土) 08:36:21 ID:UqcbJZWY
え?
終わりなのか?

72ブーン系の名無しさん:2014/03/22(土) 17:35:44 ID:4CnIiE0g
創作板の>>508から配達

乙、これからが面白くなっていきそう続編を希望します

73ブーン系の名無しさん:2014/03/22(土) 18:55:47 ID:cGF8VWRE
続きなし?

74ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 00:06:01 ID:sK2TgTl2
おつおつ


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