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バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.04

1NPC:2019/03/22(金) 22:20:20 ID:c3.OE0YY0
ここは仮想空間を舞台した各種メディア作品キャラが共演する
バトルロワイアルのリレーSS企画スレッドです。

この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。


■したらば避難所
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/15830/

■まとめwiki
ttp://www50.atwiki.jp/virtualrowa/

■過去スレ
企画スレ ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1353421131/l50
 Log.01 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1357656664/l50
 Log.02 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/l50
 Log.03 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1417239643/l50 <前スレ

39ビュンビュン!激走ネットスラム! ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:47:51 ID:j3Zw.u1w0

「あの姫さんもそうだけどよ……あんたの顔を見ているとな、言えない何かを抱えているような気がするんだよ。自分一人で解決しようとするのは勝手だが、きちんと周りを見てくれよな」
「そ、そんなことはない! それよりも、今は残りのゴブリンを捕まえることが先決だろ!?」
「そりゃそうだけどねぇ……」
「道はこっちであってるのか!?」
「ああ。ここから少し左から、ゴブリンの声が聞こえてきた……あいつらのうちの誰かがいるはずだ」
「よし、なら行くぞ!」

 アーチャーからの問いかけをごまかすように、俺はアイアンを走らせた。
 俺の中にもう一人の『オレ』がいて、俺のことをごまかそうとしている……そんな話をみんなにどう伝えればいいのか。また、この状況下で俺と『オレ』の問題に余力を回すことなどできない。
 だからこそ、一刻も早くすべてを終わらせたいし、そのためにもプチグソレースに勝つ必要がある。

「ここはどこでゴブ!? 前が全然見えないゴブー!?」

 決意と共にアイアンを走らせている最中、濃煙の中から狼狽するようなゴブリンの声が聞こえてきた。
 その声を頼りにアイアンを走らせると、すぐにプチグソに乗るゴブリンが見つかったので、アイアンの重装甲で体当たりをする。

「ゴブァ!?」

 痛々しい悲鳴が聞こえて、ほんの少しだけ良心がうずくけれど、気にせずに走る。『早耳のヂャン』の名前がメニューに表示されたので、3体目のゴブリン捕獲に成功した。
 これで残りはあと二組になる。タイムリミットは1分40秒となっていて、まだ十分に余裕があることを確信した瞬間……どこからともなく、爆発音が響いてきた。

「何だ!?」
「ガキーン!」

 その轟音に驚愕して、俺は反射的にアイアンを止めてしまう。
 すると、アーチャーによって仕掛けられた煙幕が晴れてしまった。轟音が響く中、ネットスラムの大地がめらめらと燃え盛っている。

「おいおい……まさか、トラップが爆発したから俺の煙幕が吹き飛んだのか!?」

 アーチャーの叫びに俺は目を見開いた。
 彼が言うように、このネットスラムには罠が仕掛けられていて、その威力はエネミーを簡単に撃破するほどだ。そんな爆発が起きては、アーチャーの煙幕が吹き飛ばされても充分にあり得る。

40ビュンビュン!激走ネットスラム! ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:48:27 ID:j3Zw.u1w0
 辺りを見渡すと、黒雪姫とリーダーのゴブリンであるマルチナの姿が遠くに見えた。そして、もう一組のゴブリンとプチグソもいる。

「ご、ゴブ……? なんだ、大口を叩いておきながら、結局仲間を爆発させたでゴブー!」
「そ、そんな……!」

 ゴブリンの嘲笑に俺は愕然とする。
 キリトとユイちゃんの姿が見られない。まさか、俺のせいで二人はゴブリンたちの罠にはまってしまい、そのまま命を奪われてしまったのか? だとしたら、二人を殺したのは俺になる。
 俺の体は大きく震えていくが……

「ゴーブ! ゴーブ! ゴーブ! タイムリミットはあとわずかだけど、これで勝負は決まったでゴブー!」
「……ああ、勝負は決まった。お前の負けだ!」

 だけど、俺の絶望を吹き飛ばしてくれる頼もしい声が、上空より聞こえてきた。
 
「ゴブゥ!?」

 嘲笑から一変、驚愕するゴブリンには振り向かず、上を見上げてみる。満天の星空を背にしながら、翼を生やして急降下するキリトの姿が目に飛び込んできた。
 髪型や服装が変わっているが、その胸ポケットには笑顔のユイちゃんが収まっているので、彼はキリトで間違いない。
 驚愕で硬直しているであろうゴブリンを目がけて滑空し、そのままプチグソもろともゴブリンを吹き飛ばした。

「ゴブウウウウウウウウ!?」

 無残な悲鳴を発しながら、4組目のゴブリンも消滅していく。
 一方、キリトは自らの乗り物をオブジェクト化させて、バイクに乗る形でネットスラムに帰還した。

「『早寝のアルベルト』か……これで、残るはリーダーだけでいいんだよな、ユイ!」
「はい、残り時間は一分ですが充分に間に合います!」
「そうか! なら、今から黒雪を助けに行くか!」

 先程の爆発など関係なしに、キリトとユイちゃんは力強い笑みを向け合っている。
 見たところ、二人はダメージを受けていなさそうだ。

41ビュンビュン!激走ネットスラム! ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:50:19 ID:j3Zw.u1w0
「キリトにユイちゃん! 無事だったのか!?」
「ああ、おかげさまでな! ジローさんとアーチャーのおかげで敵を撹乱できたけど、もしかしたらエネミーが自分から罠に突っ込んで、巻き添えを食らうかもしれなかった。
 だから、俺はALOアバターに切り替えて空を飛び、空中からゴブリンを捕まえたのさ!
 案の定、ゴブリンはエネミーの自爆で油断していたからな」
「な、なるほど……」
「バイクから降りたら試合放棄になるけど、プレイヤーはレース中に空を飛んではいけないなんてルールはないからな! 着地する直前に、バイクに乗ってやった……そうすれば、バイクから降りたことにはならないだろ?
 俺たちは、飛び上がったんだ!」
「……なんて屁理屈だ!」

 あの煙幕の中で、キリトは飛行能力に特化したALOアバターに変わり、空に飛んでいた。
 俺が見ていたのはエネミーの爆発であり、キリトの作戦だった。エネミーが地雷を踏み、煙幕を吹き飛ばしてくれればゴブリンが捕まえやすくなる。また空を飛ぶ場面が目撃されなかったことで、リタイアしたように偽ることもできる。
 もちろん、成功するかはわからない危うい賭けだが、そもそも俺のアイディアすらも危険極まりなかった。危険な計画を重ねて、大きなリスクを覚悟したからこそ、リターンが得られたのだろう。

「それじゃ、姫様を助けに行くとしますか。といっても、俺たちがつく頃には終わりそうだけどな」

 アーチャーの言葉に頷きながら、俺たちは走る。
 残された時間は40秒を切っており、このプチグソレースの決着は近かった。


     4◆◆◆◆


 ただ、マルチナを追跡している。
 どれだけエネミーが襲いかかろうとも、確実に撃破して、前を進んでいた。
 元より、スピード自体はプチグソよりもバイクが勝っているため、距離は確実に縮んでいる。

「ゴブー!? ま、まさかアタシだけになるとはゴブ……」

 みんながゴブリンたちを捕まえてくれたおかげで、マルチナの士気もまた下がりつつあった。

「だ、だが! アタシはゴールド・ゴブリンズのリーダーとして、最後まで戦うゴブ!
 散っていった野郎共の無念を晴らすために、アタシは逃げ続けるでゴブよ!」
「……珍しく、同意見だ。私たちも、散っていったみんなのために戦っているのさ」

 ゴールド・ゴブリンズは気に入らないが、仲間意識だけは本物だ。元のゲームにおけるゴブリンたちがどんなキャラクターだったのかは知らないけれど、互いを思いやる気持ちは持ち合わせている。
 だからこそ、余計に許せなかった。絆の尊さを知っているはずなのに、他者を踏みつけにするこんなデスゲームに加担していることが。もしかしたら、システムによってGMには抗えないのだろうが、正当性には結びつかない。
 だが、ここで口にするつもりはない。システムによって強制された戦いなら、こちらが打ち勝ってやるまで。

「フン! ならば、アタシを捕まえてみろでゴブ! タイムリミットはもう30秒を切っているでゴブよ!」
「言われなくとも、そのつもりだっ!」

 私たちは互いに啖呵を切り合う。
 キリトたちは駆け付けてくれるだろうが、このネットスラムにはエネミーやトラップが大量に用意されているため、制限時間以内の救援に期待しない方がいい。
 私はバイクのハンドルを強く回しながら、ストレージを操作する。残るはマルチナだが、どんな罠が用意されているかわからないため、万が一の時に備えてアイテムを用意する。直感だが、この状況下では必要に思えた。
 アイテムを取り出してから、運転に意識を集中させようとした瞬間……マルチナの乗るプチグソが跳躍した。

「ゴブー!」

 走り幅跳びのように数メートル先に飛んでいく中、私はバイクを走らせる。

「さあ、みんなの仇ゴブ……特大の地雷を踏みやがれ〜!」

 そして、マルチナの叫びに呼応するように、ネットスラムの地面が大爆発を起こした。

42ビュンビュン!激走ネットスラム! ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:51:12 ID:j3Zw.u1w0


      †


「ヤッター! ヤッタでゴブー! あの真っ黒お姫様をバイクごと吹き飛ばしてやったでゴブ〜!」

 目の前で燃え盛る炎の壁を前にして、マルチナは高笑いしていた。
 ゴールドゴブリンズはネットスラムに仕掛けられたトラップの位置を把握しているため、敵を誘い込むことが可能だ。方向転換ができない所までに引き付けて、プチグソを跳躍させた。本来の『The World』には存在しない仕様だが、GMによって追加されている。
 対するにバイクは加速することで方向転換が困難となり、自分からトラップに突入する形になった。単純だが、効果はある戦法だろう。

「ゴブゴブ〜! タイムリミットは10秒……この距離だったら、あいつらはアタシを捕まえられないゴブ! このプチグソレース、アタシたちの勝ちでゴブよ〜!」

 キリトたちからは大きく離れており、彼らが全速力を出そうとも間に合わない。エネミーたちやトラップの影響もあり、間に合わないだろう。
 自らの勝利に酔いしれているのか、マルチナは大笑いしていた。このまま時間だけが経過すれば、ゴブリンたちの勝利に終わるだろう。

「……果たして、それはどうだろうな?」
「ゴブッ!?」

 しかし、ゴブリンズの勝利を許さない冷たい声が発せられたことで、マルチナは振り向く。
 マルチナが振り向いた先では、ブラック・ロータスがバイクに乗ったまま顕在していた。夢や幻などではなく、正真正銘の本人だ。

「あ、アンタは……! どういうことでゴブ!?」
「お前が私を罠にはめようとしていたのは見え見えだ。スペックで劣るバイクに、わざわざ実力だけで逃げようとは思えない。だから私はお前の後をわざと追いかけて、爆発の寸前に高く跳躍したのさ……親友の力を使ってな」
「し、親友の力……!?」

 淡々と語るブラック・ロータスの背中には強化外装・ゲイルスラスターが装着されていた。
 ブラック・ロータスにとって長年の親友であり、ネガ・ネビュラスの副官でもあるスカイ・レイカーが扱っていたゲイルスラスターを着装すれば、圧倒的な推進力で飛行することが可能だ。
 先程、キリトとユイがアルベルトを捕獲した場面から、ブラック・ロータスは新しい発想を得ていた。揺光のストレージから一時的に借りて、地面が爆発する直前に高く跳躍することでダメージを避けている。そのまま、空中でストレージを操作して蒸気バイク・狗王を一時的にしまい、地面に着地する頃にオブジェクト化させた。
 マルチナはロータスが爆発に巻き込まれる場面を直接見ていないため、大きく油断させることができている。加えて、大きく広がる爆炎によって、プチグソの移動範囲は制限された。
 罠を踏ませたつもりが、自らが用意した地雷によって追い込まれる結果になってしまう。残り時間は5秒を切ったが、もうマルチナに逃げ場などない。

「…………ゴブウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 後がないことを悟ったのか、咆哮と共にマルチナはプチグソを走らせる。
 同時にブラック・ロータスもバイクのハンドルを回して、真っ直ぐに突貫した。

「さあ、決着をつけようか」

 そこから先の結果は、あえて語る必要などない。圧倒的速度を誇る蒸気バイク・狗王の巨体で、プチグソごとゴブリンズを率いるマルチナを吹き飛ばした。
 制限時間は2秒を切った所で、【プチグソレース:ミッドナイト】の決着がつき、対主催騎士団が勝者となった。

43宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:52:01 ID:j3Zw.u1w0


     5◆◆◆◆◆


 そうして、俺たちはゴブリンズを相手にギリギリの勝利を納めた。
 勝利と同時に、ネットスラムに跋扈していた大量のエネミーは消滅し、トラップも起動しなくなる。みんなで捕まえたゴブリンたちは、敗北を認めたのか頷いていた。

「ゴ、ゴブ……また負けたでゴブ〜! 悔しいが、あんた達の走りのテクと機転の良さは見事だったゴブよ」

 マルチナからは先程までの覇気は微塵も感じられない。もう、俺たちにとっての脅威にはならないはずだ。
 そして、撃破数に応じてランキングも決まる。直接撃破した俺とジローさん、そして黒雪にゴブリン捕獲のカウントが加えられ、ナビゲーターを勤めていたユイやアーチャーには加算されていない。
 俺とジローさんが同率一位で、黒雪が二位になる。ユイには何も与えられないことだけが不満だが、文句を言っても仕方がない。
 
「約束通り、あんた達にはアイテムを渡すゴブ……勝者になったあんた達への褒美ゴブよ。
 しかし! 例え、何度敗れようとも……あたしたちのプライドは折れてないでゴブ! 再び来るのであれば、ゴールド・ゴブリンズは応えるでゴブよ!
 その時まで、あんたたちには敗北することなど許さないでゴブ!」

 その叫びを最後に、マルチナたちゴールド・ゴブリンズはネットスラムから去っていく。卑怯なトラップは仕掛けたけど、勝者に対する敬意は忘れていなかったから、元々のゲームでは悪い奴らではないのかもしれない。
 もっとも、レースのリターンマッチに付き合える余裕はないけど……

「皆さん、お疲れ様です」

 そして、俺たちの働きをねぎらってくれるのはユイだった。

「ああ。あいつらのトラップには苦労したけど、どうにか勝てたな……みんな、ありがとう。
 特にジローさんのアイディアがあったから、逆転ができた」
「……キリト、ごめんよ。俺が無謀なことを言ったせいで、みんなを危険な目に遭わせちゃって」
「何を言ってるんだ! 一度にゴブリンを3体も捕まえられたのは、ジローさんとアーチャーがいたからこそだ!
 俺だって、ユイがいたからあいつらをぶっ飛ばすことができたし、この通りピンピンしてる。だから、ジローさんを責める理由なんてないさ!」
「その通りガキーン!」

 落ち込むジローさんを励ましていると、今度はクソアイアンが割り込んでくる。

「我が主よ。あの圧倒的な状況を打ち破る策を生み出した、その機転の良さには敬意を感じるでガキーン! やはり、あなたこそが我が主と呼ぶにふさわしいでガキーン!」
「アイアン……」
「これからも、我が主には忠誠を誓うでガキーン……もしも、また何かあったらその笛で呼んでほしいガキーン!」

 そして、役割を果たして満足したのか、クソアイアンは姿を消した。
 ユニークな奴だったが、誠実なことは確かだった。ジローさんとアーチャーのことをきちんとサポートしてくれたし、何よりも彼がいなければ俺たちの勝利はなかった。立派な対主催騎士団のメンバーと呼ぶにふさわしい。
 いつか、また力を借りる時が来るかもしれないが、その時まで彼には休んでもらおう。

44宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:52:28 ID:j3Zw.u1w0

「……さて、果たして何がゲットできたのやら」

 俺はストレージを操作しながら、このイベントで得られたアイテムを探す。
 ここまで苦労したからには、相応の対価があるはずだ。この殺し合いの鍵を握るとまではいかなくても、何か大きな効果を秘めたアイテムが支給されてもおかしくない。
 微かな期待と共に指を動かしていくが、ストレージに書かれた名前を見て、俺の指はすぐに止まってしまった。

「……何……!?」

 口から出てきた声は震えていて、自分の目を疑っている。
 瞼をこすり、再び凝視するけど俺の前に表示された名前は微塵も変わらない。そのまま、オブジェクト化を選ぶと、それは俺の手中で実体化された。
 かつて、アインクラッドに囚われた俺が守りたいと思った少女……サチが俺のために残してくれた、あのメッセージ録音クリスタルだ。

「キリト……? それは、いったいなんだ?」
「サチの、クリスタル……」
「えっ?」
「サチが、俺のために残してくれたクリスタルだ……俺のためのメッセージが録音された、あのクリスタルだ……!」

 その瞬間、ジローさんだけでなく、周りにいるみんなが絶句するけど、今の俺に返答する余裕などない。
 クリスタルの形と、放たれる淡い輝きには見覚えがある。このクリスタルの中に、かつての俺を救ってくれたサチの想いが凝縮されていた。ここでクリスタルに触れれば、サチの歌声が再生されて、そして俺が思い出せないサチの最後の言葉を聞くことができるだろう。

 しかし、クリスタルのメッセージを聞くことができない。
 この指が動かなかった。サチを守れず、遠い過去の世界に置いて来てしまった俺に、今更サチの言葉を聞く資格があるとは思えなかった。

――キリト、それでお前は何を選ぶ?――

 不意に、AIDAによって生み出された過去の世界で聞いた、オーヴァンからの問いかけが脳裏に蘇る。

――何時か私も、貴方の未来に追いつけるかな――

 そして、そう言い残しながら”オワリ”を選んだサチの笑顔も、続くように蘇る。
 あれから俺は、未来のために戦ったはずだった。そうして、サチに続いてアスナまでも失ってしまったけど、今を生きているユイを守るために戦うと誓った。けれど、また迷いが生まれてしまう。
 サチが生きていた証が、こうして手のひらの中に戻ってきた。その事実に俺の胸中は乱れてしまい、息も乱れていく。
 だけど…………

「ようやく見つけたぞ! キリトッ!」

45宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:52:42 ID:j3Zw.u1w0

「……さて、果たして何がゲットできたのやら」

 俺はストレージを操作しながら、このイベントで得られたアイテムを探す。
 ここまで苦労したからには、相応の対価があるはずだ。この殺し合いの鍵を握るとまではいかなくても、何か大きな効果を秘めたアイテムが支給されてもおかしくない。
 微かな期待と共に指を動かしていくが、ストレージに書かれた名前を見て、俺の指はすぐに止まってしまった。

「……何……!?」

 口から出てきた声は震えていて、自分の目を疑っている。
 瞼をこすり、再び凝視するけど俺の前に表示された名前は微塵も変わらない。そのまま、オブジェクト化を選ぶと、それは俺の手中で実体化された。
 かつて、アインクラッドに囚われた俺が守りたいと思った少女……サチが俺のために残してくれた、あのメッセージ録音クリスタルだ。

「キリト……? それは、いったいなんだ?」
「サチの、クリスタル……」
「えっ?」
「サチが、俺のために残してくれたクリスタルだ……俺のためのメッセージが録音された、あのクリスタルだ……!」

 その瞬間、ジローさんだけでなく、周りにいるみんなが絶句するけど、今の俺に返答する余裕などない。
 クリスタルの形と、放たれる淡い輝きには見覚えがある。このクリスタルの中に、かつての俺を救ってくれたサチの想いが凝縮されていた。ここでクリスタルに触れれば、サチの歌声が再生されて、そして俺が思い出せないサチの最後の言葉を聞くことができるだろう。

 しかし、クリスタルのメッセージを聞くことができない。
 この指が動かなかった。サチを守れず、遠い過去の世界に置いて来てしまった俺に、今更サチの言葉を聞く資格があるとは思えなかった。

――キリト、それでお前は何を選ぶ?――

 不意に、AIDAによって生み出された過去の世界で聞いた、オーヴァンからの問いかけが脳裏に蘇る。

――何時か私も、貴方の未来に追いつけるかな――

 そして、そう言い残しながら”オワリ”を選んだサチの笑顔も、続くように蘇る。
 あれから俺は、未来のために戦ったはずだった。そうして、サチに続いてアスナまでも失ってしまったけど、今を生きているユイを守るために戦うと誓った。けれど、また迷いが生まれてしまう。
 サチが生きていた証が、こうして手のひらの中に戻ってきた。その事実に俺の胸中は乱れてしまい、息も乱れていく。
 だけど…………

「ようやく見つけたぞ! キリトッ!」

46宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:54:08 ID:j3Zw.u1w0
 俺を呼ぶ叫び声によって、沈みかけた意識が強制的に覚醒した。
 この声を忘れるわけがない。このデスゲームで二度も激突した宿敵であり、雌雄を決することを互いに臨んだ相手だ。奴の声を聞いたことで、俺は反射的にSAOアバターに切り替えながら、クリスタルをポケットにしまう。
 振り返ると、やはり奴の姿が目に飛び込んできた。俺と同じように、黒を基調としたカラーリングの死神……フォルテの姿が。

「お前は……フォルテ!」

 その名を叫びながら、俺は双剣を構えた。
 


      †


「なるほど、こんな所にいたとはね」

 フォルテがキリトたちと遭遇する場面を、少し離れた場面で視認している男がいる。
 その名をオーヴァン。彼もまた、遅れてネットスラムに到着して、キリトたちを発見した。フォルテとの協力を榊より指示されたが、フォルテにその意思が感じられないため、単独行動を取る羽目になる。
 もっとも、オーヴァンとしてはそれで構わない。自分たちの目的はユイの確保であり、キリトたちはあくまで障害物に過ぎず、フォルテは自ら排除を引き受けようとしている。あとは、隙を見てユイを捕えるだけだ。

「彼らの意識は、皆フォルテに向いている。今のフォルテなら、キリトを含めた3人を上手く抑えてくれるだろう……」

 キリトだけでなく、他の三人もフォルテを睨みつけている。全員、死神とは深い因縁で繋がっているはずだが、オーヴァンは特に興味を示さない。
 一応、フォルテも榊からユイの確保を命じられてはいるものの、戦いの衝動でキリトごとユイをデリートする危険もある。その前に、まずはユイを捕える方法を考えなければいけない。
 すべては”真実”を知るため。それぞれの因縁が絡み合った戦いが訪れるのを、オーヴァンは待ち望んでいた。

「さあ、宿命の刻が訪れた。ここが正念場となるだろう」

47宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:54:55 ID:j3Zw.u1w0

【A-10/ウラインターネット・ネットスラム/一日目・真夜中】

【Bチーム:ネットスラム攻略組】


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP70%/デュエルアバター 、令呪一画、徐々に芽生えつつある憎しみ、、蒸気バイク・狗王に乗っている
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、蒸気バイク・狗王@.hack//G.U. 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
0:目の前のフォルテに警戒。
1:ゲームをクリアする。
2:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
3:どんな手段を使おうとも、オーヴァンや榊たちを倒してみせる。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(中) 、ジローと共にクソアイアンに乗っている
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター、アーチャー(ロビンフッド)と共にクソアイアンに乗っている
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×2@.hack//G.U. 、プチグソの笛@.hack// 、不明支給品0〜1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:目の前のフォルテに警戒。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

48宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:55:18 ID:j3Zw.u1w0

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP65%、MP90%(+50)、疲労(大、SAOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ダークリパルサー、ユウキの剣、死銃の刺剣、エリュシデータ}@ソードアート・オンライン 、ナイトロッカーに乗っている
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、黄泉返りの薬×1@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、プリズム@ロックマンエグゼ3、サチのクリスタル@ソードアート・オンライン、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:今はフォルテと戦う。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ/ピクシー、キリトの胸ポケットの中
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:目の前のフォルテに警戒。
1:ゲームをクリアする。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:危険人物を警戒する。
6:私にも、碑文は使えるだろうか……。
7:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
8:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。

49宿命の刻 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:55:55 ID:j3Zw.u1w0

【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP100%、激しい憤怒、心意覚醒、憑神覚醒
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×2@.hack//G.U、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:キリトたちとの決着をつける。
1:仲間との絆を力とするキリトを倒し、今度こそ己が力を証明する。
2:すべてをデリートする。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
5:オラクルが警告した“災い”とやらも破壊する。
6:ネットスラムに辿り着いたら、一応はユイの身柄も確保する。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
 またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
 心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
 また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
 これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。
※オラクルを吸収し、預言の力を獲得しました。未来予測にどんな影響を与えるかは後の書き手にお任せします。
※オラクルが警告した“災い”の姿を予言しましたが、現段階では断片のみしか見えていません。今後、どうなるかは後の書き手にお任せします。
※オーヴァンから『忘刻の都 マク・アヌ』にて得た"情報"を聞きましたが、それほど重要視していません。


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:1500ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:ユイの身柄を確保する。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
6:ユイを確保したら、GMの隙を見て対主催生徒会と交渉するための鍵にする。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※スケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。
※榊からこのデスゲームの黒幕がモルガナであることと、その目的を聞きました。
 しかし、それが本当に“真実”の全てであるか疑問を抱いています。

50 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 14:56:43 ID:j3Zw.u1w0
以上で投下終了です。
ご意見などがあればよろしくお願いします。

51 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/01(日) 20:14:04 ID:j3Zw.u1w0
失礼します。
ブラック・ロータス及びキリトのエネミー撃破分のポイント加算部分で修正を
ブラック・ロータスは358ポイント、キリトは200ポイントで収録の際は修正させていただきます。

52名無しさん:2019/09/04(水) 15:30:12 ID:DuU9wJuQ0
投下乙です
ついにキリトとフォルテが激突しますか
ユイもオーヴァンに狙われている状況で、超強化されたフォルテの力に、キリトたちはどこまで立ち向かえるんでしょう

53 ◆k7RtnnRnf2:2019/09/13(金) 21:09:07 ID:NrAGbHEo0
感想ありがとうございます。
自作の『宿命の刻』を読み直したら、状態表の部分でキリトたちがまだバイクまたはプチグソに乗ったままになっていたため、該当箇所を修正させていただきます。

54名無しさん:2019/09/15(日) 08:29:59 ID:Vmfmk/Xw0
月報の時期となりましたので集計します。
140話(+ 2) 15/55 (- 0) 27.3

55 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:37:10 ID:IVXxf7k.0
これより予約分の投下を始めます。

56TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:38:16 ID:IVXxf7k.0


     0


「さっそく始まったようだな」

 ネットスラムにて相対するフォルテとキリトの姿に、嘲笑と共に榊は呟く。
 バトルロワイアルの表舞台から姿を消したキリト達は、いつの間にかネットスラムに現れていた。【プチグソレース:ミッドナイト】も攻略されているが、ゲームクリア自体はプランとして組み込まれているので別段問題はない。
 今はフォルテがキリトたちを相手に戦い、オーヴァンがユイを確保するための隙を伺っている。何の力も持たないジローに関しては興味などないし、この戦いに巻き込まれて敗退するだろう。

「しかし、残るメンバーの居所については未だ不明か……もっとも、このデスゲームに残された時間はほんの僅かだ。運命の時が訪れれば、奴らも尻尾を出さざるを得ないだろう」

 蒼炎のカイトとミーナ、そしてレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイの姿が見えない。恐らく、この3名はどこかに隠れて反撃のチャンスを狙っているのだろうが、この戦いでフォルテがキリト達を屠ればそれで終わりだ。
 フォルテは見境なくネットスラムを破壊するだろうが、そこはオーヴァンが上手くフォローしてユイを奪うはずだ。そしてGM側がユイの身柄を確保さえすれば、計画は大幅に進む。

「榊、そろそろ戦いが始まるようだね」

 淡々と紡がれた声に振り向くと、トワイス・H・ピースマンが姿を現した。
 その表情からは相変わらず感情が見えず、機械のように淡々としている。“役割”の為にトワイス自らが生贄になる時まで遠くないのに、一切の焦りや動揺が見られない。もっとも、余計な騒ぎを起こされるよりは余程マシで、榊自身もトワイスに大したこだわりがある訳でもなかった。

「彼ら……キリトとフォルテの戦いが始まったのも、このネットスラムだ。もうすぐ24時間が経過しようとする中、こうしてネットスラムで出会うことになるとは、何の因果だろうね」
「全くだよ! だが、キリトの命運はここで尽きるだろうな……今のフォルテは碑文やAIDA、そして心意や救世主の力を我が物とし、圧倒的な強化を果たしている! いかにキリト達が優れた力を持とうとも、今のフォルテからすれば赤子も同然だ。まぁ、最後の悪あがきだけは見届けてやることにしたさ」
「でしたら、私も混ぜて貰いましょうか」

 トワイスに向けた問いかけを遮るように、新しい声が割り込んでくる。
 この場に現れたのはアリスだった。苦虫を噛んだような表情で歩み寄る彼女を見て、榊は嘲笑を浮かべる。

「これはこれはアリス君。何やら穏やかじゃない様子だが……どうかしたのかな?
 少なくとも、私とトワイスは“今のところは越権行為に及んでいない”はずだったが」
「何をぬけぬけと……榊、あなたもご存じのはずでしょう? “運命の預言者”オラクルがフォルテと接触し、そして自らの手で脱落をしたことを」
「ああ、そのことか」

 さもつまらなそうに榊が答えると、アリスの表情は更に歪んでいく。
 その様子に満足感を抱きながら、榊は言葉を続けた。

57TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:38:48 ID:IVXxf7k.0

「“運命の預言者”は自分の意思でフォルテと接触し、そして自らの手でフォルテに吸収された……何を伝えたのかまではここにいる我々は把握していないが、あれは彼女自身の行動だ。私も、トワイスも何の関係もない。
 まさか、アリス君は我々がフォルテを誘いこみ、そしてオラクルに接触させたとでも言いたいのかな?
 そんなことは不可能だ! あの部屋の扉を操る権限を持っているのは、部屋の主であるオラクルか……それこそ、VRGMユニット、ナンバー001である“彼女”でなければ不可能だ。
 そして“彼女”はゲーム進行のためとはいえ、余程のことがない限り特定のプレイヤーのみを優遇するなどありえない。そのことは、君自身がよく知っているはずだが?」

 オラクルは部屋から出入りすることができない代わりに、ゲーム中は扉を自由に操作することができる。あの対主催生徒会が集まる月海原学園も例外ではないが、オラクルはそれを行わなかった。
 モルガナの目的を果たすためにヒースクリフとオーヴァンに接触したのだから、対主催生徒会を相手に“預言”を使ってはデスゲームを破綻させられてしまう。ダークマンもデータ回収のためにミーナと接触したが、デスゲームの根幹に関する情報は与えていない。
 そしてオラクル自身の行動を制限する権限など、他のGMが持っていなかった。故にオラクルの消滅によって、榊またはトワイスがペナルティを与えられるなどありえない。

「もっとも、君が私たちを疑っているのなら好きにすればいいさ。特に探られて困るようなこともないのだから。
 ただ、デスゲーム運営の邪魔だけはやめて頂きたいな。計画の第三段階に入るまで、時間は残されていないからね」

 アリスを侮蔑するような物言いで釘を刺す。
 案の定、彼女から睨まれるが構わない。アリスから疑心を抱かれているが、オラクルの件については無関係だ。コピー・ロックマン達についても、アリスはおろか他のGMでも触れることができない場所に隠しているため、探られる心配もない。

「……ええ、私とて承知しています。オラクルの部屋は簡単に侵入できるエリアではありませんし、また外部から操作することも不可能であると」
「フフッ、わかっているじゃないか。いかに私とて、彼女の部屋を操る権限など持っていないからね。
 そしてフォルテが去った後、オラクルの部屋も侵入不可能となった。恐らく、オラクルが何か仕掛けを施したのだろうが、ここにいる私達では手の付けようがないな……
 ワイズマンなら内側から操作できるかもしれないが、君たちも知っているようにあの様だ。ワイズマンのアバターと『第四相の碑文』は、今は諦めるしかあるまい」

 オーヴァンとフォルテを見送った後、榊はオラクルの部屋にアクセスを試みたが侵入不可能となっていた。恐らく、オラクルがフォルテと接触する前に何らかの仕掛けを施して、時間経過と共にロックをかけたのだろう。
 “彼女”ならばオラクルの部屋にかけられた鍵を解除できるかもしれないが、そんな手間をかける訳がない。計画も第三段階に入ろうとしている今、このような些事に付き合うことは許されないからだ。

「どうやら、これがネットスラムで繰り広げられる最大にして最後の戦いになるだろう……果たして、誰が生き残るのかな?」

 榊は嗜虐的な笑みを保ったまま、ウインドウを見続けていた。


     1◆

58TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:40:33 ID:IVXxf7k.0
「まさか、こんな所にいたとはな……」

 その姿と声を忘れられる訳がない。
 キリトにとっては決して解けない因縁で繋がり、幾度となく激突した相手だ。現れたネットナビ・フォルテは獰猛な笑みを浮かべており、全身から禍々しいオーラを放っている。
 これまで何度も戦い、その度にフォルテの強さをキリトは味わった。だが、今のフォルテから放たれる殺気は桁外れで、相対するだけで全身に痛みが駆け巡りそうだ。

「……俺も、ネットスラムでお前と再会するとは思わなかったぞ」

 もちろん、ここで無様に逃げ出す選択肢などキリトの中には存在しない。
 フォルテとの決着をつける時がようやく訪れたのだし、今は守らなければいけない娘と仲間たちがいる。みんなのためにも、ここでフォルテを倒さなければいけなかった。

「力を貸そう、キリト」

 黒雪……ブラック・ロータスは俺の隣に立ってくれる。
 彼女もフォルテとは因縁があった。聞いた話では、ブラックローズや緑衣のアーチャーと力を合わせてフォルテを打ち破ったらしい。ダン・ブラックモアというプレイヤーの仇でもあるから、黒雪もフォルテと闘いたいのだろう。

「いいや、黒雪。ここは俺に任せてくれ……こいつとは、俺一人で戦わないといけないんだ」

 しかし今は、あえて黒雪の助け舟を断った。

「何を言っているんだ!? 奴は君一人の手に負える相手ではない!」
「そうかもしれない。だけど、俺はフォルテと絶対に決着をつけないといけないんだ……それに、黒雪にはユイとジローさんを守ってほしい。二人を戦いに巻き込みたくないからな」

 黒雪の気持ちはありがたいし、またフォルテとたった一人で戦うのは危険極まりない。
 そんな相手だからこそ、ユイとジローさんを逃がしておきたかった。デスゲームのフィールドには未だにエネミーが潜んでいる以上、不意打ちを受ける危険もある。
 何よりも、ユイを胸ポケットの中に潜ませたままにしたくない。ユイがフォルテの攻撃を受ける可能性だってある為、信頼できる黒雪に任せたかった。

「パパ……」

 胸元から俺を呼ぶユイは悲しげな表情を浮かべており、声も震えている。
 ユイが不安に思う気持ちは充分に理解しているが、ここでフォルテを倒さなければいつかユイにも被害が及ぶ。だから、俺は力強い笑みで応えた。

「俺なら大丈夫だ、ユイ。俺は絶対にみんなの所に帰ってくる……俺がユイとの約束を破ったことがあったか?」
「……いいえ! ありません! 私はパパを信じていますし、誰にも負けない勇者であることを知っています! 絶対に負けないでください!」

 ユイは俺の胸ポケットから飛び出し、黒雪たちの隣に向かってくれた。

「キリト……絶対に勝つんだぞ」
「黒雪こそ、みんなを頼んだぞ」

 これでたった一つの心配事がなくなり、俺は全力で戦うことができる。 
 黒雪だけじゃなく、ロビンフッドやクソアイアンもいるから大丈夫だ。黒雪はみんなを先導して、ジローさんとロビンフッドがクソアイアンに跨りながらここから去っていく。ユイはジローさんの肩を借りていた。
 みんなの背を見届けた後、俺は再びフォルテに振り向いた。

59TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:41:05 ID:IVXxf7k.0

「まさか、キサマ一人で俺と戦うつもりとはな」
「不満か? フォルテ」
「いいや、余計な奴らにキサマとの一騎打ちを邪魔されては興が削がれる……さあ、始めようかッ!
 ――《ダーク・アームブレード》ッ!」

 その叫びと共に、フォルテは猛スピードで突貫しながら暗黒色の刃を展開し、勢いよく振るってきた。
 以前の戦いでも行った戦法を前に、俺もまた双剣を交差させる形で防御を選び、激突した。だが、その衝撃は凄まじく、これまでの戦いとは比較にならない。

「ぐっ!?」

 フォルテの一閃によって、俺は悲鳴をこぼしながら弾き飛ばされた。
 瞬時に体勢を立て直したが、フォルテの剣戟は迫る。俺は慣れたSAOアバターによるスペックで回避を選ぶが、コスチュームが掠められた。反撃の為、ダークリパルサーでフォルテの刃を弾き返すが、奴の勢いは微塵にも衰えない。
 むしろ、いつの間にかバスターとなった左手を突き出し、銃口を輝かせた。

「受けろ!」

 光弾による機銃掃射が行われるが、俺は高く跳躍したことで回避に成功する。
 しかし次の瞬間、標的を失ったエネルギーの塊が大爆発を起こし、俺はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。爆風に巻き込まれながらも着地し、フォルテを睨みつける。
 一方のフォルテは笑っていた。圧倒的な優越感に浸っていて、まるで俺のことなど取るに足りない存在と見下しているように思える。

「どうしたんだ、キリト? 俺とたった一人で戦うと意気込んでおきながら、この様か?」
「ふざけるなっ!」

 フォルテの嘲笑が迫るが、俺とて言われっぱなしにするつもりはない。
 俺は再び突貫し、ダークリパルサーを振るう。だが、フォルテが持つ闇の刃に受け止められてしまい、衝突音が空しく響いた。
 鍔迫り合いになり、俺はフォルテを弾き飛ばそうとするも、漆黒の体躯は微塵も揺らがない。ならば、一度背後に飛んで距離を取った瞬間、気付いてしまった。
 これまで共に戦ってきたダークリパルサーの刀身に僅かなヒビが入っていることを。

(これは……!?)
「そら、次だっ!」

 だけど、その疑問に意識を向けることはできない。
 フォルテは闇の刃で再び斬りかかってきた為、立ち止まれなかった。俺はダークリパルサーを振るうことで、フォルテの刃を弾き返す。今度は大丈夫そうだった。
 このヒビに危惧を抱くが、今は深く考えている余裕などない。かつてヒースクリフとの一騎打ちで折られたことはあるものの、あの時とは違って耐久度に余裕がはずだ。
 何よりも、リズが俺の為に作ってくれた名剣だから、簡単に折れることはありえない。俺はそう言い聞かせながら、エリュシデータを振るう。だが、フォルテの身を守るダークネスオーラによって弾かれてしまった。
 しかし、俺はその衝撃すらも利用して、フォルテと上手く距離を取ることに成功する。だが。

(どうすればいい……フォルテには……)
「フォルテにはオーラや予測があるから、ソードスキルは通用しない」

 まるで俺の思考を読み取ったかのように、フォルテは言葉を紡いだ。

「奴は俺の戦闘スタイルを把握しているから、一筋縄ではいかない……まさか、キサマがそんな弱音を見せるようになったとはな」
「なっ……お前は、何を言っているんだ……!?」
「フン、ほんの少し見てない間にここまで弱くなっていたとはな。所詮、キサマは”絆”の力とやらがなければ何もできない弱者だったということか」
「……違う!」

 嘲りに激高しながら突貫し、俺はダークリパルサーを振るうが避けられた。

60TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:42:51 ID:IVXxf7k.0
(しまった! あいつは……)
「『あいつは先読み能力を持っていた』……知っていながら、わざわざ飛びかかってきたとはな!」

 素早く俺の真横に回り込んだフォルテから、がら空きになった脇腹をめがけてハイキックを叩きこまれてしまう。その衝撃で俺は容易く吹き飛び、地面に叩き込まれた。
 激痛で悶え、せき込みながらも俺は考えていた。フォルテは先読みだけでなく、俺の思考そのものを把握していて、俺の僅かな挙動すらも読み取った上で戦っている。
 だが、ピンクの能力はそこまで高性能ではなかったはず。仮に持っていたとしても、彼女一人では相応の反動が襲いかかるはずだ。
 なのに、何故フォルテは悠然と立ったままでいられるのか?


 キリトは知らないが、今のフォルテが有する未来予測の能力は格段に強化されている。
 ピンクの持つ先読み能力をベースに、『THE MATRIX』の世界で機械に反旗を翻す人類を導いた『運命の預言者』オラクルの予言が加わっていた。オラクルの予言は世界の運命自体を変革する程に凄まじく、またネオやエージェント・スミスの来訪すらも簡単に予知している。
 そして今のフォルテは心意と救世主の力を獲得しており、従来のシステムを上書き(オーバーライド)することを可能とした。フォルテは自らの予知能力を応用し、他者の行動だけでなく思考の予測すらも成功した結果、キリトの心すらも読み取っている。
 もちろん、フォルテは日本エリアでの戦いにおいて、過剰に未来予測を行えば相応の反動が襲いかかるデメリットも把握している。故に、思考予測を数秒間のみに留めることで、情報処理による負荷を軽減した。
 例え僅かな情報でも、思考を読み取られたというプレッシャーを与えれば平常心を崩すことは可能であり、またキリトはフォルテの未来予測のデメリットを知らない。故に、自らの思考が読み取られるという、致命的な不利を背負わされてしまった。



「さあ、次はどうするつもりだ? まさか、こんな所で終わりな訳がないだろうな?」

 俺の焦燥すらも見抜いているのか、フォルテは尚も嘲笑してくる。
 悔しいが、今のフォルテに対抗する術がまるで思いつかない。いや、仮に策が出てきたとしても、フォルテの予知能力の前では容易く破られてしまう。

「そんな訳……ないだろ!」

 それでも、俺はフォルテを目掛けてダークリパルサーを振るうが、暗黒色の刃で受け止められた。ソードスキルですらなく、ただ勢いに任せた一閃などフォルテにとって何の脅威でもない。
 ただ、俺は諦められなかった。ここで倒れる訳にはいかないし、何よりもユイ達に約束をしたから。

「どうかな? キサマは今まで幾度となく俺と戦い、そして勝利を掴んだが……キサマ一人だけで俺に届いたことはなかったはずだが?」
「そ、それは……違う!」

 嘲りに心が揺らぎ、そのまま鍔迫り合いに負けてしまう。倒れることだけは避けたが、俺の心は平静を保てなくなった。
 口では否定したものの、フォルテの言葉は事実だ。これまでの戦いでは確かにフォルテを打ち倒したが、それは力を貸してくれる恋人や仲間がいたからで、俺一人では確実に負けている。
 アスナやシルバー・クロウとの”絆”の力があったが、今は隣に誰もいない。俺自らが黒雪達を逃がすため、殿を務めてしまったのだから。キシナミやレオ達もそれぞれのミッションがあり、助けなど期待できなかった。

「この期に及んで、まだ見苦しい言い訳を続けるのか……まぁ、どうでもいいが。
 キサマは結局、あの女……アスナを見殺しにしたのだからな」
「ッ! ア、アスナは……!」
「キサマ達人間がどれだけ”絆”の力を掲げようとも、所詮はすぐに失ってしまう程度のもろさに過ぎない!」
ーーキサマはあの人間を守ろうとしているようだが、守れていない……そして、今まで忘れていたのではないのか?

 目の前に立つフォルテと、悪夢の中で見たフォルテの言葉が重なってしまう。
 あの悪夢のように、俺は誰も守ることはできなかった。アスナとサチを失い、心を通わせた仲間達はみんないなくなっている。俺を信じてくれたシルバー・クロウだって、オーヴァンによってPKされた。
 それでも、守るべき娘であるユイがいるから、俺は戦わないといけなかった。キシナミや黒雪たちだって戦っているから、俺も力を尽くさないといけなかった。その想いがあるから、俺は剣を握って戦うことができた。

61TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:43:48 ID:IVXxf7k.0

「……そんな訳がない! みんなは俺を信じてくれた! だから、俺は戦えるんだ!」

 この気持ちを証明するため、俺はダークリパルサーとエリュシデータを構える。
 そして、腹の底から叫びながら力強く走り、剣を振るう。案の定、漆黒と白銀の刃はフォルテのダーク・アームブレードに受け止められるが、関係ない。バックステップを取って距離を取る。
 少しでもフォルテを足止めするため、俺は構えたが……

「”絆”にそこまでしがみつくか……反吐が出るッ!」

 フォルテは憤怒で表情を歪めながら、あの《ダーク・アームブレード》を横に一閃する。
 暗黒色のエフェクトに込められた殺意を前に、反射的にダークリパルサーとエリュシデータを交差させる形で構え、防御の肩を取った。
 ……次の瞬間、フォルテが浮かべた笑みの意味に気付かないまま。

「させるかっ!」

 迫りくる闇の刃を、俺は二つの刀で受け止める。
 しかし、拮抗は起こらない。何故なら、耳障りな破壊音と共に、俺が握っていたダークリパルサーとエシュリデータの刀身が砕け散ったからだ。

「な、何……!?」

 美しく煌く欠片が散らばる中、俺は驚愕する。
 二つの魔剣がこうも容易く砕け散るなどありえないからだ。確かにフォルテのステータスは凄まじいが、SAOで数多の敵を打ち倒したダークリパルサーやエシュリデータも決して弱くない。
 しかし、俺自身の誇りが砕かれたショックに浸る余裕はない。何故なら、フォルテの攻撃は尚も迫るからだ。

「ッ!? 光剣・カゲミツG4だっ!」

 俺は反射的にハセヲのストレージから光剣・カゲミツG4を取り出し、フォルテの刃を防ぐ。
 理由はない。ただ、フォルテの刃が実体を持たないから、俺もエネルギーで構成された光剣(フォトンソード)で立ち向かっただけ。その咄嗟の判断が成功したのか、フォルテの刃を受け止めることに成功する。
 だが、状況は悪くなっているし、共に戦った名剣達が破壊された事実を受け入られないままだ。

「ほう? そんな剣を持っていたとはな……」

 フォルテは感心したような笑みを浮かべる。
 一方で俺は、今のフォルテが持つ剣の正体について推測していた。これまでの戦いでは闇の刃を使っていなかった為、元から持っていた能力とは考えられない。
 後天的に得たスキルの産物と考えるべきだろう。

「フォルテ、お前のその剣は……まさか心意なのか!?」
「フッ、やはり気付いたか。そうだ、この俺が心意でキサマの剣を破壊してやったのさ!」

 フォルテの叫びに、俺は歯を食いしばってしまう。
 黒雪から聞いていたが、まさか心意システムがここまで驚異的だったとは。シルバー・クロウを初めとするブレイン・バーストのプレイヤーが抱く強いイメージを元に事象の上書き(オーバーライド)を発生させて、システム外の現象すらも実現させる技だ。
 シルバー・クロウは飛行スキルを持ち、ダスク・テイカーは他者のスキルの略奪を可能とするため、プレイヤーごとに心意の特性は異なっている。ならば、フォルテは自らの心意によって武器破壊を成し遂げたのだろう。
 カゲミツG4は非実体剣であるため、武器破壊の影響を受けなかったのかもしれない。だが、フォルテの心意があれば破壊される危険は充分にある。心意に対抗する術や知識を持たない俺では、カゲミツG4でフォルテを打ち破る方法がまるで思いつかなかった。

62TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:44:45 ID:IVXxf7k.0
『シャアアアアアアアアァァァァァァァァッ!』

 俺の焦りを打ち破るように、獰猛な叫び声が鼓膜を刺激する。
 振り向くと、どこからともなく大量のエネミーが姿を現していた。奴らは群れを成しながら、俺達に殺意を込めた視線を向けている。四足歩行から全長10メートルは軽く超えるエネミーもいるため、一斉に襲いかかったりなどしたら一巻の終わりだ。

「チッ……水を差す奴らだ」

 その一方、フォルテは舌打ちと共に呟く。
 そっけない対応に違和感を持ち、振り向くと……フォルテの全身に奇妙な紋章が浮かび上がっていた。紋章の出現に伴い、周囲の空間に歪みが生じていく。

『ッ! アアアアァァァ!』

 その途端、耳元からカイトの叫びが聞こえてきた。

『キリトさん! すぐにその場から撤退して、黒雪姫さんたちと合流してください!』

 続くように、明らかに狼狽したレオの叫びが鼓膜を刺激する。

「レオ!? 何を言っているんだ、今はフォルテと……!」
『いいえ、これは命令です! カイトさん曰く、今のフォルテからはAIDAと同等の反応が検知されたようです!』
「何!?」

 その言葉が証明するように、フォルテから放たれるオーラの影響か、ネットスラムが震えていく。
 只ならぬ雰囲気にエネミー達も後ずさりするが、もう手遅れだった。

「邪魔者を一匹残らず食らい尽くせ……“ゴスペル”ッ!」

 フォルテの叫びと共に世界そのものが大きく塗りつぶされていき、そのAIDAが姿を現した。
 サチやアスナ、そしてオーヴァンに憑依したAIDAとは大きく違い、獅子を彷彿とさせる姿だ。漆黒の巨体には赤い筋が走っており、血のような輝きを放っている。

「――――――――!」

 そしてゴスペルと呼ばれたAIDAは、世界を震撼させる程の叫びを発しながらエネミーの群れに向かって突貫した。
 ゴスペルの威圧感を前にしては数など意味を持たない。ある者は踏み潰され、ある者は爪で抉られ、またある者は一瞬で喰われた。一方的に蹂躙するその姿は、まさに百獣の王にふさわしい。

「これで邪魔者は入らなくなった……さあ、続きを始めようか」

 ゴスペルが暴れまわる中、まるで何事もなかったかのようにフォルテは振り向く。

「……フォルテ、いつの間にAIDAまで……!?」
「元はあのアスナとやらのAIDAだ。あの女と違い、俺はゴスペルを従えたのさ」

 俺のトラウマを抉るように、フォルテは嗤い続ける。
 きっと、俺がアスナを守れなかったことを知った上で、アスナのことを侮辱し続けているはずだ。俺が否定できないことも見抜いている。
 そして今のフォルテは圧倒的な優位に立っていることも見せつけているのだろう。心意やAIDAを持っているなら、まだ未知のスキルを所有してもおかしくない。
 だけど、俺は逃げるつもりはなかった。どの道、フォルテが展開した空間によって逃げ場を失ったのだから、今は戦うことしかできない。

「……なら、俺はこのカゲミツG4で戦ってやる! 例え剣が破壊されても、俺は絶対に諦めないからな!」
「ほう? その減らず口も、いつまで続くか見物のだな!」

 圧倒的な不利に陥りながらも、俺は剣を振るう。
 俺が握るカゲミツG4とフォルテが構えるダーク・アームブレードが衝突し、火花が散った。

63TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:45:41 ID:IVXxf7k.0


     2◆◆


 キリトにフォルテのことを任せてから、黒雪姫に先導してもらう形で俺達は撤退している。
 黒雪姫はバイクに乗って走り、俺……ジローは緑衣のアーチャーと共にアイアンの背中に腰かけている。俺の肩に乗っているユイちゃんは、キリトのことが心配なのか不安な表情を浮かべていた。
 ユイちゃんに向けて、励ましの言葉を考えたけれど……

「お前は……オーヴァン!?」

 黒雪姫の叫びによって、俺はそっちに意識が向いた。
 アイアンが足を止めた途端、その姿が目に飛び込んでくる。左肩より禍々しい漆黒の爪を生やしながら、色眼鏡をしたから俺達を見つめてくる長身の男……オーヴァンが俺達の前に現れた。

「やあ、また会ったね。君は確か、ブラック・ロータス……だったかな? シルバー・クロウやスカーレット・レインの良き友人と聞いたよ」

 まるで、軽い挨拶をするようにその名前を呼ばれた途端、俺の中で怒りが湧き上がってくる。
 オーヴァンはシルバー・クロウやニコの仇だ。それなのに、二人の名前を軽々しく口にされることが我慢できない。DG-0を実体化させて、握り締めようとしたが……

「黙れ」

 そんな俺の感情が生温く思えるほどに、冷たい声色が聞こえてきた。

「私はずっと待っていた……お前を見つけ、そしてこの手で葬る時をッ!」
 
 声の主である黒雪姫は、激情の叫びと共にオーヴァンを目掛けて飛びかかる。
 黒雪姫はその二刀流を振るうが、オーヴァンの爪によって容易く受け止められてしまった。オーヴァンは右手に構える銃剣を振るうが、黒雪姫は素早く後退することで回避する。
 そして、勢いを利用して再度突貫を仕掛けるが、今度はオーヴァンが簡単に回避した。

「悪いが、今の俺は君に用がない。ここは、大人しく引いてくれないだろうか?」
「私がお前の言葉など聞くと思ったか!? ハルユキ君の命を奪い、ニコやシノンなど……多くのプレイヤーの仇である、お前の言葉など!」

 黒雪姫……いや、ブラック・ロータスは韋駄天の如く勢いで刃を振るい続けるが、オーヴァンはその全てを安々と避けていた。
 黒雪姫が遅いのではなく、オーヴァンがあまりにも早すぎるのだ。黒雪姫の速度が風とするなら、オーヴァンはまるで瞬間移動を使っているかのように。
 やがて、オーヴァンは黒雪姫の背後に回り込むが、黒雪姫は瞬時に振り向きながら一閃した。彼女の速度は常人を遥かに超えるはずなのに、オーヴァンにはまたしても届かない。

「ハルユキ君……それはもしかして、シルバー・クロウのことかな?」

 そんな中、回避をしたオーヴァンは何食わぬ顔で問いかけてくる。

「そうだ! お前がその手にかけたことを、忘れたとは言わせない! 私が最も信頼し、そして誰よりも強くて熱い心を持つバーストリンカーだ!」
「なるほどね。しかし、それならどうして俺の手にかかってPKされたのだろうね?
 君が言う強さとやらを持っていたのなら……呆気なく負けることはありえなかったはずだが? 強くて熱い心を持っているハルユキ君は」
「黙れ! お前が、その名前を口にするなっ!」

 黒雪姫の怒りを焚き付けるように、オーヴァンは嘲笑していた。
 彼女の気持ちはわかるけど、このままではまずい。オーヴァンに挑発されて、何をするかわからなかった。
 だから、俺は黒雪姫の元に向かおうとしたけど。

64TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:46:31 ID:IVXxf7k.0

「ちょい待ち! 姫様、落ち着けよっ!」

 いつの間にか、緑衣のアーチャーは黒雪姫の隣に立っていた。彼は黒雪姫を制止するように右腕を伸ばしている。

「そこをどくんだアーチャー! 私は、あの男を絶対に屠らなければいけないんだ!」
「気持ちはわかるけどよ、どう考えても無理だ! 前にも4人がかりで戦ってもあの野郎に歯が立たなかったことを忘れたのか!?」
「だからどうした!? アーチャーこそ、あの男の手にかかってPKされた者たちの無念を知っているはずだ!」

 今までの信頼関係が嘘のように、二人は言い争いをしていた。
 本当はこんなことを口にしたくないのはわかっている。だけど、オーヴァンという仇を前にして冷静さを失い、心が乱れていたのが痛いほどに伝わった。

「おやおや、仲間割れか。まぁ、俺にはどうでもいい話だし、好きに続けてくれ。用があるのは彼女……ユイだからね」

 そしてオーヴァンは、俺の肩に乗っているユイちゃんに視線を向けてくる。
 反射的にユイちゃんを庇うように俺は一歩前を進んだ。

「ユイさえ渡してくれれば、他のプレイヤー達には危害を加えない。フォルテはどう思うかは知らないが、少なくとも俺は約束しよう」
「ふざけるな! ユイちゃんをお前なんかに渡すわけがないだろ!?」
「そうです! 私も、ママを奪ったあなたの元には行きません!」

 オーヴァンの言葉は到底受け入られる訳がない。ユイちゃんだって断固として拒否した。
 どうして大切な仲間であるユイちゃんをオーヴァンに引き渡さなければいけないのか。仮に渡したとしても、ユイちゃんがPKされてしまうのは目に見えている。

「オーヴァン……みんなの命を奪っておきながら、挙句の果てにユイを渡せだと!? 絶対に、私の手でたたっ斬ってやる!」
「お、おい! 姫様!」

 オーヴァンの一方的な言葉に感情が爆発したのか、黒雪姫はアーチャーの頭上を飛び越えて、落下の勢いを利用して双剣を振るった。まさにギロチンの如く勢いだが、オーヴァンは漆黒の爪で軽々と受け止める。
 アーチャーの呼びかけも無視して、今も余裕綽々なオーヴァンの命を奪わんとしていた。

「悪い、ジロー! ユイのことを頼めるか!? 今の姫様はどう見たってやばい……あのままにしたら、間違いなくやられちまう!
 すぐに姫様を連れてくるから、先にみんなの所に戻っていろ! じゃあな!」

 そしてアーチャーは黒雪姫を助けるため、戦場を走った。
 アーチャーはああ言ってくれたけど、俺だって黒雪姫やキリトのことが心配だ。けれど、何の力も持たない俺が突っ走ったって、PKされるだけ。

(おい『オレ』! 何をぼさっとしてるんだよ!? ここはあいつらに任せて、とっとと逃げるぞ!)

 そんな俺の疑問と悩みを察しているかのように『オレ』が叫ぶ。
 いつものように俺を小馬鹿にした様子ではなく、明らかに狼狽した様子だ。フォルテやオーヴァンのような強敵が立て続けに現れたのだから、いくら『オレ』でも焦っているのだろう。

(……何を言ってるんだよ。俺だけが逃げるなんて……)
(バカか!? 『オレ』達だけで何ができるんだよ! あいつらはみんな『オレ』達を逃がしたんだぞ!? だったら、それに甘えりゃいいじゃねえか!)
(そうかもしれない……確かに、俺達だけじゃ何もできないかもな)
(わかっているなら、さっさと……)
(そうやって、逃げたからニコだって殺されたんだろ!?)

 『オレ』の甘言を振り払うように、俺は心の中で大きく叫んだ。

65TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:47:17 ID:IVXxf7k.0
(あのスミスから逃げなければ、ニコが死ぬことはなかったんだ! 俺は確かに弱いさ……けど、弱いからって逃げていい理由にはならないだろ!?)
(本気で言っているのか!? ここで逃げなきゃ、ユイがオーヴァンの野郎に奪われるかもしれねえし、何よりも『オレ』達だって殺されるんだぞ!?)
(逃げたって、あいつらが俺達を追いかける可能性は充分にあるだろ! それに、ここで黒雪姫達みんなを見捨てて、二人だけでレオ達の所に戻ったって、それからどうするつもりだ!?)

 学園での戦いで、俺はニコを連れて逃げたことを忘れない。
 あそこで逃げたせいでスミスだけでなくオーヴァンとも戦う羽目になってしまい、ニコは死んだ。だから、今度は黒雪姫達の為にも絶対に逃げたくなかった。
 何よりも、みんなを見捨てて月海原学園に戻っても、俺自身が後ろめたさに苦しむだけ。それにGMの打倒には黒雪姫達の力が必要だから、絶対に見殺しにする訳にはいかなかった。

(『オレ』……こんな時に甘いことを言うなよ! って、おい!? 無視するなよ!)

 だから今は『オレ』の言葉を無視して、ユイちゃんに目を向ける。

「ユイちゃん。君はどうしたい? 君が逃げたいなら、俺は君を連れてみんなの所に戻るけど……」
「いいえ、私は逃げません! パパだって戦っていますから、私も……何かできることを考えます!」
「……そっか! なら、俺はそれまでユイちゃんのことを守るよ!」

 ユイちゃんの力強い決意に、俺も応えたい。
 そんな俺の意志に寄り添ってくれたのか、アイアンも隣で威風堂々と佇んでいる。まさに高潔な騎士の風格を纏っていた。

「我が主がそれを望むのであれば、私も共にいるでガキーン! 何があろうとも、みんなを守るでガキーン!」
「アイアン……ありがとう!」

 だから、俺は忠臣であるアイアンにもお礼を言った。
 今はみんなの無事を願いながらユイちゃんを守る。その決意を固めようとした瞬間……世界が大きく変わっていく音を聞いてしまった。



 やる気が 6上がった
 体力が 5下がった
 こころが 4上がった
 信用度が 3上がった



     3◆◆◆



「ーー《奪命撃(ヴォーパル・ストライク)》ッ!」

 黒雪姫/ブラック・ロータスは右腕に灼熱を纏わせながら繰り出した突きは、オーヴァンのかぎ爪によって弾かれてしまう。
 まさに命を奪う一撃で、並のバーストリンカーなら大ダメージを避けられない技のはずだ。しかしオーヴァンはまともな反応せず、まるでそよ風でも浴びているかのように悠々と立っている。
 だけどロータスには関係ない。オーヴァンが強敵であることはとっくに把握しているのだから、一撃が届くまで何度も食らい付くつもりだ。

66TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:48:13 ID:IVXxf7k.0
「おお、怖い怖い。そういえば、スカーレット・レインも今の君みたいに怒りを見せてくれたね。シルバー・クロウ……いや、ハルユキ君を殺したのは、俺だと口にしたら」
「何だと!?」
「彼女も君も、ハルユキ君のことをさぞかし大切に思っていたみたいだね。だけど、君達の思い出が積み重なることは永遠にない。
 俺が、二人を殺したのだから」
「……オーヴァアアアアアアアアァァァァァァァァァンッ!!!!」

 オーヴァンの言動が腹立たしく、フラストレーションを込めた叫びと共に刃を振るう。
 しかし怒りに任せたロータスの一閃など、オーヴァンに届くわけがない。その速度と反射神経からすれば、回避も容易だった。
 

「ハルユキ君」の名前を強調し、それでいて彼らとの思い出を愚弄するオーヴァンを許せなかった。
 ただ、オーヴァンに対する殺意と憎悪だけがロータスを満たしている。ハルユキ君を奪い、そして今もなお彼の死を嗤い続けるオーヴァンはこの手で叩き潰さなければ気が済まなかった。
 ハセヲにとっても因縁深い相手だが、ここで必ず仕留める。例え刺し違えようとも、ハルユキ君達の仇を取るまでは何度でもオーヴァンに挑むつもりだ。

「どうした、ハルユキ君の仇を取るんじゃないのか? ハルユキ君のように無様に殺されたいのかな?」
「黙れえええええええぇぇぇぇぇぇっ!」

 オーヴァンの不快な言葉を遮る叫びを乗せながら振り降ろされる二つの刃は、銃剣によって受け止められてしまう。確実に命中したものの、オーヴァンは嗤っていた。

「そういえば、君も真実を求めていたそうじゃないか」

 そんな意味深な言葉と共に、オーヴァンの左肩に宿る漆黒の爪……三爪痕は周囲に無数の黒泡を吹き出しながらしなり、ロータスの右足に絡みつく。
 そのまま放り投げられ、ロータスは地面に激突した。凄まじい衝撃を感じるも、胸に宿る激情は痛み程度で萎えることはない。
 ただ、未だにあざ笑い続けるオーヴァンを睨んでいた。

「一つ教えてあげよう。今、君に迫ったのは危険な友人……ハルユキ君を生贄にするくらい、凶暴な奴だ」
「……ならば、その爪でハルユキ君を……!」
「その通り。俺とこいつが、ハルユキ君を殺したのさ」

 オーヴァンが言葉を紡ぐ度に湧き上がる三爪痕の黒泡が、ハルユキを嘲笑うかのように見える。
 AIDA。ハセヲ曰く己の意志を持って『The World』にて事件を起こした電脳生命体で、碑文使いでなければ対抗することはできない。心意システムならばAIDA撃破の可能性はあるが、あの三爪痕は蒼炎のカイトを瞬時に屠るほどの突然変異体だ。

(……いや、関係ない。どんな相手だろうと、ハルユキ君の無念を晴らすと決めたのだから!)

 自らの中で芽生えつつある弱音を抑え込み、ハルユキ君達との絆を糧に立ち上がる。
 そして刃はよりどす黒くなっていく。オーヴァンと三爪痕に対する憎悪から負の心意が生まれ、AIDAに迫る程の漆黒で染まっていた。
 
「さあ、おいで。君がハルユキ君の仇を取ってくれるんじゃないのかな?」
「……望むところだ!」

 仇敵に飛びつくため、ロータスは構えを取る。
 憎しみと共に飛ぼうとした直後、小さな爆音と共に視界が大量の煙で遮られた。唐突な出来事に驚愕する暇もなく、腕が軽く引っ張られるのを感じる。
 振り向くと、アーチャーが明らかな怒りの表情を煙幕の中で見せていた。

67TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:50:51 ID:IVXxf7k.0
「アーチャー!? どういうつもりだ!」
「いい加減にしろよ姫様! 一体、何を考えてやがる!」
「それはこっちの台詞だ! どうして私の邪魔をするんだ!? 私は……私はハルユキ君の仇を取りたいだけなんだ!」
「そんなの俺が知らないとでも思ったか!? あんたの気持ちはわかるけどよ、無謀に決まってるだろ!? 今はユイやジローを連れて、さっさと……」
「ふざけるな! ここでオーヴァンを殺さなければ、また誰かがPKされる!」

 頼りになる仲間であるはずのアーチャー……英霊ロビンフッドが疎ましく見えてしまう。
 何故、ハルユキ君の敵討ちを邪魔するのか?
 何故、この怒りと憎しみを理解してくれないか?
 何故、オーヴァンとの戦いに協力してくれないのか?
 いくつもの疑問が湧き上がり、その度に苛立ちが強まった。まるで全てのものから拒まれているという疑心すら、ロータスの中で生まれてしまう。

「私のサーヴァントならば、私の邪魔をするな! 私は、オーヴァンをここで殺してみせる!」
「姫様……頼むから俺の話を聞いてくれ! 今の姫様はな――」
『――――――――――ッ!』

 その直後、ロビンフッドの言葉と共に煙幕を吹き飛ばす程の叫びが、周囲を震撼させた。
 視界が元に戻った瞬間、いつの間にか闇に染まった世界の中で巨大な怪物が顕在している。獅子の如く獰猛な叫びが、肌にピリピリと突き刺さった。

「まさか、フォルテがゴスペルを呼び出すとは……これで俺達は閉じ込められてしまったな」

 一方で、オーヴァンはゴスペルと呼ばれた怪物を見上げながら、涼しい表情で口を動かしている。

「どうやら、フォルテは君達を逃がすつもりはないらしい。しかし、俺ならばトライエッジの力でこの空間から脱出することができる……ユイを引き渡してくれれば、君達四人だけでも逃がしてあげよう」
「ふざけるなっ!」

 オーヴァンの甘言が迫るが、ロータスは憤怒を込めて真っ向から否定した。

「お前の要求など私が飲むと思ったか!? オーヴァンの次に、フォルテ達をこの手で屠ればいいだけの話だっ!」
 アーチャーの煙幕がゴスペルの叫びで晴れて、これで心置きなくオーヴァンとの戦いに集中できる。
 後ろからアーチャーとゴスペルの声が聞こえてくるが、振り向かない。この空間を生み出したのがフォルテとゴスペルなら、オーヴァンの後に始末すればいいだけの話。
 それにオーヴァンがこの空間を自由に出入りできるなら、いつでも逃げ出せるはず。

「私は絶対にお前を許さないし、ここから逃がすつもりもない! 覚悟しろ、オーヴァンッ!」
「フッ……その意気だ。せっかくだから、君の”力”をもっと俺に見せてくれ」
 

     4◆◆◆◆


「待てよ、姫様! 姫様!」

 緑衣のアーチャー/ロビンフッドは必死にブラック・ロータスを呼びかけるが、当の本人は微塵も耳を貸さずに突貫した。
 そんな彼女を尻目に、あのゴスペルと呼ばれた巨大なAIDAがロビンフッドを喰らおうと襲いかかる。

『――――――――ッ!』
「うおっ! 狙いは俺かよ!?」

 ゴスペルは突貫してくるが、ロビンフッドは跳躍することで軽々と避けた。
 生前よりロビンフッドは森林を何度も駆け抜けて、過酷な環境を逃走経路に利用したことが何度もある。例えゴスペルから標的にされても、わざわざ受ける訳がない。
 反撃で弓矢を射るが、ゴスペルの硬質感が溢れる体躯によって弾かれてしまった。

68TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:52:17 ID:IVXxf7k.0

「チッ……どうやら、一筋縄ではいかなそうだな」

 現れたゴスペルは並のエネミーと圧倒的に格が違う。
 その巨体から放たれる威圧感や殺意はもちろんのこと、俊敏さも桁外れだ。ロビンフッドとて高い俊敏性を誇るが、恐らくはゴスペルも互角。サイズが圧倒的に勝っている分、激突の衝撃も凄まじいだろう。
 しかも、ゴスペルの周囲には奇妙な黒泡が多数浮かび上がっていた。黒泡を見て、ゴスペルはAIDAという化け物であるとロビンフッドは推測する。

「確か、AIDAは碑文使いじゃければまともに戦うことができない連中だよな?
 カイトが持ってるデータドレインも弱点みてーだけどよ……なんてこった! 俺じゃどうすることもできねえぞ!?」

 ゴスペルが振るう爪を軽々と回避するも、ロビンフッドの表情は焦燥で染まっている。
 AIDAはシステムから外れた生命体であるため、対抗するにはシステムを超越する力が必要だ。もちろん、このデスゲームならば何らかの制限がかかり、AIDAの脅威も抑えられているかもしれないが、それでもロビンフッドに対抗策はない。
 赤いドレスを纏ったセイバー・ネロやガウェインのように単体で圧倒的な火力を持っているならともかく、ロビンフッド自身の耐久や筋力はそこまで優れていなかった。故に、一度でもゴスペルの攻撃を受けたら致命傷になりかねないし、またロビンフッドの攻撃もダメージを期待できない。
 頼みのハセヲやカイトはここにいないし、AIDAについて詳しいであろうオーヴァンがゴスペルを倒したりしないだろう。仮に力を貸したとしても、その後にユイを奪われるだけ。
 一応、アーチャーとして破壊工作のスキルを持っているが、それがゴスペルに通用するとは思えない。以前、ネットスラムを蹂躙したスケィスも足止めできなかったのだから。

『ギシャアアアアアアァァァァァァァッ!』
「うげっ! こんな時にエネミーかよ!? 頼むから空気読んでくれよ……!」 

 そんなロビンフッドの不幸を嗤うように、どこからともなくエネミーの集団が現れる。
 エネミー軍団のイベントはまだ続いているため、GMからの刺客として送り込まれたのだろう。ロビンフッドにとっては最悪のタイミングだった。

『――――――――ッ!』

 そしてゴスペルも咆哮した。
 振り向くと、その獰猛な瞳はより赤い輝きを増していくのを見て、ロビンフッドの背筋に悪寒が走る。野生動物が獲物を見つけた時の輝きとよく似ているからだ。

「おいおい……悪いが、俺は喰っても美味くねえからなッ!」

 そんな捨て台詞と共に、アーチャーは煙幕を再び発生させる。
 矢継ぎ早で宝具【顔のない王】を展開させて、この姿を隠しながら走った。逃走ではなく、ゴスペルにダメージを与える方法を一つでも多く見つけるため。
 そして数10メートルほど走った後、一撃を放つために準備する。魔力が消耗していくのを感じるが、出し惜しみなどできない。

(ゴスペルって言ったか? そんなに腹ペコなら、たんまり食わせてやるよ! 餌は自分からやってきたからな!)

 煙幕の中にて、ゴスペルの叫び声とエネミーの悲鳴を耳にしながらロビンフッドは構えた。
 助けが期待できないなら、敵を利用すればいい。自分からのこのこと現れたエネミー達をゴスペルの囮にして、その隙にロビンフッドは宝具を展開させる。成功の可能性は限りなく低く、またゴスペルが真っ先にロビンフッドの元に向かったら破綻する作戦だ。
 しかし、無謀を選ばなければいけない状況まで追い込まれている。

(姫様はオーヴァンの野郎にご執心で、キリトはあの死神に狙われてる。ユイとジローはどうなっているかわからねえ以上、魔力なんざいくらでも使ってやるさ。)
 このままじゃ、姫様達を助けるどころか全員お陀仏だ……それだけは勘弁したいぜ!)

 オーヴァンとフォルテという現存プレイヤーの中で残された危険人物が同時に現れて、戦力が分断された。そして己のマスターとなったロータスはシルバー・クロウの敵討ちに妄執し、オーヴァンを相手に無謀な戦いを選んでいる。
 今の彼女には何を言っても聞いたりせず、ただオーヴァンに対する憎悪を燃やしていた。大切な人の仇がいたら心を乱されるのは充分理解しているし、ロビンフッドもダン・ブラックモアを奪ったあの死神……フォルテを許すことはできない。
 しかし、今は復讐の時ではなかった。

69TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:53:17 ID:IVXxf7k.0

「我が墓地はこの矢の先に……! 森の恵みよ、圧政者への毒となれ!」

 静かに、それでいて強い闘志を込めた呟きは周囲の喧騒に飲み込まれた。
 ゴスペルはエネミー達を相手にした”食事”の最中だから、イチイの木を仕込むことができる。真正面ではなく、影に隠れたことでロビンフッドの十八番となるトラップを用意できた。

「毒血……深緑より沸き出ずるッ! 隠(なばり)の賢人、ドルイドの秘蹟を知れ――!
 いっちょいきますか! 【祈りの弓/イー・バウ】ッ!」

 そしてロビンフッドは宝具【祈りの弓】を展開させた瞬間、煙幕を飲み込むようにイチイの樹が現れる。冥界に通じる伝説が残された樹を目がけて猛毒の弓を放ち、爆発を起こした。
 AIDAはあのスケィスと同様に、データドレインを使わなければ倒すことはできない。故に少しでもダメージを与えられるよう、宝具を使わなければいけなかった。そうすれば、レオやカイト達の有利に繋がる。

「……チッ、やっぱりそう上手くはいかねえか」

 しかし、ロビンフッドの僅かな希望はすぐに裏切られた。
 爆発の炎からあのゴスペルが何事もなかったかのように現れたからだ。しかも、口に銜えたエネミーの片腕を飲み込みながら。

(……なんだ? 煙幕を出す前よりデカくなってる気がするが……まさか、エネミー達を食って成長しやがってるのか!?)

 ロビンフッドの宝具を受けてダメージを受けているどころか、ゴスペルの体躯は更に巨大化していた。


 フォルテによって分離させられてから、ゴスペルはネットスラムに現れたエネミーを無差別に喰らい続けて、その度にデータを獲得している。フォルテがゲットアビリティプログラムで無数のデータを奪い続けたように。
 また、ロビンフッド達は気付いていないが、破壊されたネットスラムのデータもエネミーごと捕食しており、その分だけゴスペルもまた成長している。結果、【祈りの弓/イー・バウ】のダメージも減少していた。
 そしてゴスペルとは、碑文や救世主の力による加護を受けたことで、<Tri-Edge>や<Glunwald>のように突然変異体となったAIDAだ。通常のAIDAを圧倒的に上回る情報濃度だけでなく、碑文使い特有のプロテクトを誇る。故に、ゴスペルのプロテクトにダメージを与えられても、致命傷には至らなかった。
 

『――――――――ッ!』

 巨大化したゴスペルの瞳が、ギラリと、輝くのを見てロビンフッドは戦慄する。【顔のない王】で姿を隠している自分の位置を、正確に補足しているかのようだった。

(姿を隠している俺と目が合った……!? まさか、臭いで俺のことに気付いたのか!?)

 戦場特有の喧噪とステルススキルで身を隠し、証拠を残していない。音と視界では完全に隠したなら、後は嗅覚で気付いたとしか考えられなかった。
 案の定、ゴスペルは口を大きく開きながら、衝撃波……ダイナウェーブをロビンフッドに吐き出した。超音速の振動はネットスラムを容赦なく抉りながら、ロビンフッドを吹き飛ばしていく。

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 全身が粉々に砕かれてしまいそうな衝撃により、ロビンフッドの【顔のない王】もまた剥がされてしまう。
 前に戦ったフォルテの攻撃も凄まじかったが、ゴスペルは遥かに上をいく。そんなゴスペルを従えている今のフォルテは規格外とも呼べるし、ここにいる全員が束になっても勝てる訳がない。
 それこそ、オーヴァンの要求を飲めば助かる可能性はあるかもしれないが、真っ平御免だった。オーヴァンが裏切る可能性の方が圧倒的に高いし、何よりも黒雪姫達を裏切りたくない。

70TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:56:32 ID:IVXxf7k.0

「参ったぜ……こりゃ、潮時って奴か。向こうで、ダンナにどやされる……かもな」

 激痛を堪えながらもロビンフッドは立ち上がるが、その一方で死を覚悟していた。
 腹を括るのはこれで二度目になるが、今度は本当に助からない。複数のトラップや宝具を展開してもゴスペルには届かず、こちらの魔力はもう残り僅か。ゴスペルは小細工が通じる相手ではないし、口で惑わすどころかそもそも会話すらできない。
 しかも、この異空間を生み出したであろうフォルテとゴスペルは未だに健在で、ユイを除く全員を皆殺しにするつもりだ。時間稼ぎで逃がすこともできず、また助けも期待できない。
 残された結果は、全滅の二文字だろう。あの岸波白野達なら逆転の秘策を思いつくだろうが、ロビンフッドに奇跡を起こす程の力や勇気はなかった。

(あーあ……まさか、こんな結果に終わるなんてな。まぁ、俺は元々つまんねえ生き方しかできなかったし、姫様やダンナが憧れるような正統な道を歩けなかったけどな……
 けどよぉ、やっぱり夢ってのはどうしても持っちまうんだよな。大切な人を守れるようになったり、誇りの持てる生き方ってのに挑戦して、悪くねえと思ったんだ。
 ダン・ブラックモアの遺志を継いだ姫様……黒雪姫達を守れることに、誇りを感じていたのさ)

 ゴスペルがじりじりと迫る中、ロビンフッドは溜息を吐く。
 ゴスペルはロビンフッドの罠を警戒しているのか、すぐには突撃してこない。獣のくせに妙な知恵だけは持っているようだが、逆に有り難かった。
 どの道、最後の一撃は届かないだろうから、せめて思い出に浸る時間だけでも欲しかったからちょうどいい。動けなくはないが、ゴスペルを相手に悪あがきをしても無意味だろう。

(……悪いな、ダンナ。俺は最後までろくでなしのサーヴァントだったさ。ダンナの願いも叶えられねえし、俺自身が胸を張った生き方もできなければ、姫様達だって守れない。
 アンタの所に逝ったら、いくらでも――――)
「――――ぐあっ!」

 諦観の境地に至り、最期の時が訪れるのを待ったロビンフッドの耳に悲鳴が響く。
 突然の声に意識が覚醒し、振り向いたロビンフッドは見てしまった。己が忠誠を誓ったマスターである黒雪姫/ブラックロータスが、オーヴァンに追い詰められていた姿を。

「…………姫様ッ!?」

 体の激痛や心を縛った諦めを無視して、ロビンフッドは走る。
 途中、エネミーの群れが現れるが、自らの身体能力を活かして合間を縫うように駆け抜ける。過ぎ去ったエネミー達はゴスペルの餌になることを祈りながら、走り続けた。
 こんな自分を信じてくれた大切な人を守るために。



     5◆◆◆◆◆



「そういえば、ハルユキ君は消えゆきながらも口にしていたな……先輩、と」

 戦いの最中、オーヴァンが不意にこぼした言葉によって、ロータスの心は大きく動かされた。

「その先輩というのは、君のことなのかな?」
「……それが、どうした!?」
「君とハルユキ君はずいぶん深い絆で繋がっていたみたいだからね、聞いてみたかったのさ」

 まるで自分達の思い出を踏みにじるようにようなオーヴァンの笑みに、ロータスはより勢いを強くした一閃を放つ。
 しかし、オーヴァンの銃剣によって防がれてしまい、そこから言葉を続けた。

71TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 16:58:42 ID:IVXxf7k.0

「もしかしたら、ハルユキ君は君に助けを求めていたんじゃないかな? 俺に殺されそうだから、先輩に助けてほしかった……」
「黙れッ! ハルユキ君は強い! 本当なら、お前にも負けないはずだった……!」
「でも、事実としてハルユキ君は殺されて、今は俺がここにいる。ハルユキ君が死にゆく時、先輩はどこで何をしていたのだろうね?」
「そ、それは……!」

 オーヴァンの嘲笑う声に、頭が殴られたと錯覚するほどの衝撃をロータスは感じた。
 ハルユキ/シルバー・クロウの名が書かれたメールが送られたのは2度目のメンテナンスであり、そこまでの6時間でオーヴァンに命を奪われている。
 その間、ロータスは何をしていたのか? ダン卿の遺志を継ぎ、ブラックロータスやアーチャーとの絆を実感して『黒薔薇騎士団』を結成した裏で、ハルユキ君は命を奪われてしまっていた。
 そんなロータスの動揺を察したのか、オーヴァンの笑みは更に悪辣な雰囲気を帯びていく。
 
「先輩が他のプレイヤー達と仲良くしている間、ハルユキ君は深く傷つき、そして命を落とした。
 先輩がハルユキ君の所に駆けつけてくれれば、ハルユキ君が死ぬこともなかった……ハルユキ君はなんてかわいそうだろうねぇ」
「……お前が、お前がそれを言うかッ!?
 お前がハルユキ君を……ニコやシノン達の命を奪わなければ、こんなことにはならなかった!」
「なるほど。確かにそれも理に適っている。そもそも俺がいなければ、ハルユキ君達も殺されなかったからね。
 でも、君がハルユキ君を守ることもできたんじゃないかな? ハルユキ君の危機に駆けつけもせずに、憧れの先輩は一体何をやっていたのか……?
 それとも、先輩が駆けつける前に殺されてしまうくらい、ハルユキ君は……」
「……ふざけるなあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 その先の言葉を遮るため、猛獣の如く叫びを発しながら全霊を込めた一撃でオーヴァンを弾き飛ばす。
 怒りと憎しみで生まれる負の心意を得て、オーヴァンの体制を崩すことに成功した。
 ようやく生じた隙を前に、ロータスは心意を込めながら両手の剣を振るい、9つの光を出現させた。

「これを受けろ……スターバーストストリィィィィィィィッムッ!」

 流星の如く勢いで繰り出される突きはオーヴァンに迫る。
 星光連流撃(スターバーストストリーム)はロータスが持つ左右の剣で16連突きを繰り出し、敵に大ダメージを与える心意技だ。例えオーヴァンだろうと、隙を見せた状態では対抗できる威力と速度ではない。
 憎しみを乗せた希望が仇敵を跡形もなく消し飛ばすことに期待した、その瞬間だった。

「遅い」

 そんな呟きが耳に届いた瞬間、オーヴァンの三爪痕は大量の黒泡が吹き出しながら、ロータスの双剣に迫る勢いで暴れだした。
 そこでロータスは初めて気付く。例え体制を崩されても、オーヴァンは未だに笑い続けていたことに。そして、オーヴァンはロータスが心意技を使うことすらも、初めから予測していた。
 しかし、心意技を途中で止めることはできず、双剣と三爪痕は衝突した。傍目からは残像すらも残す程の速度で、並のバーストリンカーであれば瞬時に敗退に追い込める威力だが、オーヴァンはロータスのあらゆる突きを確実に弾いている。
 それでも諦めきれるわけがなく、最後の一撃に全力を込めるが、それすらも三爪痕に弾かれた。

「あっ……!」
「さあ、乗り越えてみせてくれ!」

 ロータスは愕然とするが、オーヴァンの勢いが止まることはない。全力が届かず、希望を砕かれた姿を目がけて三爪痕を振るった。
 まるで、星光連流撃が通用しなかったロータスを嘲笑うかのように、三爪痕は縦横無尽にデュエルアバターを抉っていく。反撃はおろか防御もできず、ロータスは甘んじて受けることしかなかった。

「ぐっ!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ハッハッハ! どうした!?」

 神速の勢いで刻まれる三爪痕の斬撃に悲鳴を上げるロータスを、オーヴァンは哄笑する。
 一切のダメージを受けずに余裕綽々なオーヴァンを前に、疲労が蓄積されたロータスでは対抗できない。その猛攻を前に悲痛な叫びを発することしかできず、また蓄積される痛みによってHPも確実に減少していた。
 そして何度目になるかわからない一閃の後、ロータスのアバターは容赦なく地面に叩き付けられた。

72TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:02:33 ID:IVXxf7k.0

「――――ぐあっ!」

 一瞬、意識が朦朧としたが、激痛によって覚醒する。
 そして顔を上げた瞬間、あのオーヴァンがこちらを不敵な笑みと共に三爪痕を構えていた。

「これで終わりか? 君がハルユキ君を喪った怒りと憎しみは、そんな安っぽかったのかな?」
「なん、だと……!?」

 オーヴァンの侮蔑に怒りが湧き上がるが、立ち上がることができない。
 ちっぽけな訳がないと叫びたかった。この剣を振るい、オーヴァンを両断してやりたかった。胸の中に宿るどす黒い炎は、誰かの命を奪えそうなほどに燃え上がっている。
 だけど、体が言うことを聞かなかった。

「おっと、俺としたことが忘れていた。そういえば、こいつに殺されたのは”しの”……シノンも含まれていたね」
「何……!?」

 唐突な言葉に驚愕する。
 このネットスラムで出会ってから共に戦い、そしてハセヲの心を取り戻すために力を尽くしたシノンをオーヴァンは忘れたというのか。だが、何故ここでシノンの話を出してきたのか。
 その疑問に対する答えは、折り畳まれていくかぎ爪だった。

「まさか……!」
「彼女の痛みも教えてあげよう」

 そして放たれるAIDAの爪が、ロータスに襲い掛かる。
 反射的に、彼女の脳裏でシノンの最期が浮かび上がった。あの時の彼女のように、AIDAの爪でアバターを貫くつもりか。
 ロータスは回避しようとするが、体がまともに動かない。オーヴァンに殺されたシノンのように、無情な最期が訪れようとしたが――

「……姫様あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ――耳をつんざくほどの叫びが響き、緑色の背中がロータスの前に割り込んできた。
 「ぐっ……!」と呻き声が聞こえた途端、男の背中が爪に貫かれている光景が見える。三爪痕の黒泡が吹き出した途端、男は膝を崩した。

「姫様……どうやら、ご無事のようだな……」

 そして、その男……アーチャーは苦悶を堪えた笑みを浮かべながら、ロータスに振り向く。
 無慈悲にも爪が引き抜かれた途端、アーチャーが倒れていくのを見て、体の痛みなど忘れたように立ち上がった。

「アー……チャー……? どう、して……!?」
「どうしても、何も……俺は、サーヴァントだからな……マスターを守って、当然だろ……?」
「な、何……!?」

 その途端、ようやくロータスは気付いた。
 オーヴァンに対する憎しみに支配されていた自分を咎め、そして守ろうとしていたことに。だけど自分はアーチャーの言葉に耳を貸さなかったどころか、邪魔者扱いすらしていた。
 ダン卿は自分を信じて、アーチャー/ロビンフッドとの契約を繋いでくれた。それなのに、ハルユキ君達の仇を討つことだけにこだわりすぎて、たった一人で突っ走ってしまう。

73TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:04:00 ID:IVXxf7k.0

「わ、私のせいで……アーチャーが……!?」
「へっ、んなわけないだろ……?
 姫様を、守り切れなかったら……オレはダンナを裏切っちまう。ダンナは、姫様たちの無事を祈っていた……だろ? だから、オレも……姫様達の無事を祈るだけだ。
 姫様、あんたは今……あのヤローに対する憎しみでいっぱいなはずだ。それはわかるけどよぉ……それだけじゃ、いけねえ」

 そうして、ロビンフッドの体も足元から消えてしまう。
 もう、時間が訪れてしまった。蘇生アイテムの制限時間も過ぎてしまい、またどんな回復アイテムも通用しない。

ーー道半ばで散った者の遺志を継ぐことは確かに立派な心がけじゃ。だが悲しいことに、それは時に勘違いされて……挙句の果てには受け継ぐ者を縛り付ける呪いにもなるのじゃ

 ネットスラムにて出会ったタルタルガと呼ばれたご老体の言葉が蘇る。
 彼の言う通りだ。自分はみんなの遺志をはき違えて、一人で暴走した挙句にロビンフッドを傷付けてしまった。
 ……いや、まだ最後の望みはある。ロビンフッドと自分を繋ぐ、令呪さえ使えば可能性があった。

「あ、アーチャー……令呪をもって命ずる! 生きろ……生きてくれッ!」

 聖杯戦争に参加したマスターとサーヴァントを結ぶ絆の象徴である令呪。魔力を込めることで、サーヴァントはマスターのどんな命令でも従うと聞いた。
 後のことなど関係ない。アーチャーの命を繋げるため、最後の一画を使ったけれど、何も変わらなかった。

「姫様……気持ちは嬉しいけどよ、どうも俺はここまでみたいだ。まぁ、元々俺は死んでいるし、いつかこうなるのは覚悟してた……
 ただ……自分を責めるのは、やめろよ……」
「どうしてだっ!? 私のせいで、私のせいで……アーチャーが……!」

 悲しみと後悔で感情が乱されて、まともに言葉を紡ぐこともできない。
 そんなロータスを察しているのか、アーチャーは優しく微笑んだ。いつもの彼からは想像できないほど、穏やかで温かい笑顔だ。

「言ったろ? 俺は姫様を守るサーヴァントだからな……ダンナはご立派だから、きっとこうすることを望んだはずだ。
 ダンナは最期までくだらねえ信念に準じた……俺には出来すぎた、マスターさ……誇りとか、信念とか、全く余計すぎるけどよぉ……案外悪くないわ。
 姫様……俺やダンナを、がっかりさせないで……くれよ?」
「アーチャー……! ならば、もっと私達を……! 私達を……!」
「大丈夫だ、姫様達は前を進める……胸を張っても、いいんだぜ?
 なんたって、姫様はこの俺が認めた……最高のマスター……だからな」

 そんな、真っすぐな激励を告げた瞬間、アーチャーの体は光り輝く。
 心の底から満足したような笑みを見せながら、アーチャー……英霊ロビンフッドは消滅した。



【アーチャー(ロビンフッド)@Fate/EXTRA Delete】



「あ、あ、あ、あ、あ…………!」

 ロビンフッドの死を前に、ロータスは慟哭した。
 彼が見せてくれた笑みと過ごした時間。全てが頭の中で駆け巡り、まともに思考することができなかった。
 彼を死に追いやったのは私だ。彼の言葉を無視しなければ、こうして喪うこともなかった。

74TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:07:26 ID:IVXxf7k.0

「最期まで忠義を果たしてくれるとは、立派な騎士だったね」

 やがて、ロビンフッドの命を奪った男の言葉が耳に飛び込んできて、ロータスは顔を上げる。

「お、オーヴァン…………ッ!?」
「しかし、肝心のマスターがふぬけてしまったとはこれでは、犬死だな」
「犬死……だと!? アーチャーは……アーチャーは……!」
「ならば、俺を止めてみせろ」

 淡々と言葉を紡ぎながら、オーヴァンはあらぬ方向に銃口を向けた。
 思わず振り向いて、ロータスは驚愕する。オーヴァンが構える銃剣の先には、ジローがいたからだ。

「ま、まさか……!? やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 ロータスの叫びと同時にオーヴァンは光弾を放つ。
 圧縮されたエネルギーは突き進み、そして――



     6◆◆◆◆◆◆



(なぁ、お前はこんな時になっても本気でどうにかできると思っていやがるのか!?
 さっさとユイを渡しさえすれば、ここから……!)
(うるさい! お前こそ、オーヴァンが約束を守るなんて本気で思っているのかよ!?)

 脳裏で『オレ』は必死に叫んでいるが、俺もまた怒号で返す。
 『オレ』は俺のエス(深層)であり、俺自身が気付いていない本心を伝える存在だ。そしてこの状況でユイちゃんを渡せと叫んでいるということは、俺は心のどこかで自分だけが助かりたいと思っていることになる。

(ああ! お前が言っているように怖いよ! 俺だって、逃げれるなら逃げたいさ!
 けどな、それ以上にユイちゃんをオーヴァンに奪われることの方が怖いんだよ!)
(お前……そんな綺麗事を言って『オレ』達が殺されたらどうするつもりだ!?
 『オレ』達が殺されたら、パカの所にも戻れねえんだぞ!)
(ユイちゃんを渡すのはOKで、パカの所に戻れないのはダメだっていうのか!? こんな時に、パカの話を持ち出したりするな!)

 ここで俺が死んだらパカの所に戻れなくなり、パカが一人ぼっちになってしまう。『オレ』の言葉は正しいし、俺はパカの為にも絶対に生きなければいけない。
 だけど『オレ』は俺とパカの思い出を利用して、都合よく助かるための言い訳にしていた。それは俺が抱いている本心だからこそ、絶対に負けてはいけなかった。
 だからこそ、俺は『オレ』に負けないためにも、ユイちゃんを守るために銃を構えている。ネットスラムは奇妙な空間に飲み込まれて、いつエネミーが襲いかかってくるかわからないが、せめてもの抵抗だ。

「ユイちゃん、大丈夫だから! 俺は、君を絶対にオーヴァンから守ってみせるからな!」
「ジローさん……で、でも……この空間はAIDAによって展開された空間なんです! だから、今の私達ではどうやっても脱出できませんし、あのゴスペルを戦うことも不可能です!」

 ユイちゃんの叫びによって、俺の励ましは楽観的観測でしかないことに気付く。
 彼女が言うように、今の俺は何もできないただの人間だ。キリトや黒雪姫達のように戦えないし、またAIDAを倒すためのスキルだって持っていない。弾丸が通用する相手だったら最初から苦労しなかった。

「……くそっ。せめて、レオ達と通信できればヒントを貰えたかもしれないのに!」
「この異空間は外部からの影響を完全に断ち切るみたいなので、通信も遮断されたのです。多分、あのゴスペルを倒さない限り……」

 そうして俯いてしまうユイちゃんの姿に、俺は自分の無力さを痛感してしまう。
 この空間に放り込まれてから、レオ達との通信を試みたが繋がらなくなってしまった。AIDAが生み出す異空間はハセヲやオーヴァンのような碑文使いか、彼らと同等の力を持つカイトでなければ干渉することができず、ここにいる俺達ではどうすることもできない。
 せめてもの救いが、あのゴスペルというAIDAがエネミーを優先して狙ってくれていることだけだが、いつ俺達に気付いて襲いかかってもおかしくなかった。

「ッ!? アーチャーさんッ!?」

 そんな不安に捕らわれていた瞬間、ユイちゃんが叫ぶ。
 何事かと思って振り向くと、あのアーチャーが黒雪姫を庇ってオーヴァンの一撃を受けていた。オーヴァンの爪はアーチャーの胸を深く抉っており、一目見ただけで致命傷とわかる。
 そうして、涙を流す黒雪姫を他所に、アーチャーは消えてしまった。

75TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:09:11 ID:IVXxf7k.0

「そ、そんな…………!」

 アーチャーの死に震えてしまう。
 また、頼りになる仲間がいなくなった。俺に力がなかったせいで、アーチャーを死なせてしまった。
 しかし、そんな無力感に浸る時間すらもなく、俺に銃口を向けているオーヴァンの姿が目に飛び込んでしまう。

「――――我が主よ、危ないでガキィィィィィィィィィィィンッ!」

 続くように聞こえてきたのはアイアンの叫び。
 俺を守るようにアイアンが突進した瞬間、鎧のような巨体をエネルギー弾が呆気なく貫いた。
 ドサリと、アイアンの巨体が倒れてしまう。

「アイアン……? アイアンっ!?」

 俺はすぐにアイアンの元に駆け寄って、絶句した。
 オーヴァンが放った弾丸の傷は深刻だったのか、アイアンのボディは至る所が崩れ落ちており、もう助からないと一目で理解できる。
 それでも、俺は回復アイテムをアイアンに使って助けようとするけど、効果はない。何故なら、回復アイテムの効果はプレイヤーにのみ適応されるのであって、NPCに等しいアイアンを回復させることはできなかった。

「我が主よ……怪我はないでガキーン……?」
「アイアン、なんで……!?」
「かの者、アーチャーは己の主を守るために……命を尽くした、ガキーン……
 ならば私も、忠義を尽くすため、我が主を守っただけ、で、ガキーン……」
「そんな……! だったら、俺をもっと守ってくれよ! これは、俺からの命令だぞ!?」
「その情愛だけでも、私は感謝でいっぱいでガキーン……!
 我が主よ、どうか生きて……ガキーン!」

 そんな力強い感謝の叫びをあげるアイアンは、ニコリと微笑んでくれる。
 俺を守るために命を託してくれた忠義の騎士のアイアンは、そうして消えてしまった……



【クソアイアン@.hack// Delete】
【プチグソの笛@.hack//】はクソアイアンと共に消滅しました。




「あ、アイアン……! アイアン……ッ!」

 アイアンが消えていくのをただ見ることしかできなかった俺は、愕然としてしまう。

(見ろ、だから言ったんだよ! オレが悠長なこと言ってるから、アーチャーもアイアンも死んじまったんだろ!?)

 そんな俺を咎めるように『オレ』は明らかな怒りを込めて叫んだ。

76TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:10:50 ID:IVXxf7k.0
(ユイ一人を守ろうとして、この様かよ!? 結局、あいつら二人が死んじまったじゃねえか!)
(そ、それは……!)
(そもそも、最初からカッコつけようとしなけりゃ、こんなことにならなかったんだ! 『オレ』達はレオに守られていりゃ良かったんだよ!
 何がキリト達についていけば、何かできることが見つけられそうな気がするだよ!? 何にもできてねえじゃねえか!)

 苛立ちと侮蔑が混ざった『オレ』の言葉を、俺は否定することはできない。
 確かに、生徒会室でレオは俺のことを止めたけど、俺はワガママを押し通してついてきた。そのせいで、アーチャーとアイアンを守ることができず、俺はこうして危険に陥っている。

(……じゃあ、どうすれば……!?)
(決まってるだろ!? さっさとユイをオーヴァンの野郎に渡すんだよ!)
(な、何!? そんなことをしたらユイちゃんが……!)
(いつまでそんな甘いことを言う気だよ! そうやってヒーロー気取りでいると、今度はキリトと黒雪姫だってすぐに殺されちまうだろ!? 『オレ』達が助かるには他に方法がないだろ!?)

 その叫びの通り、俺達に助かる方法は残されていない。
 オーヴァンはユイを狙っているから、ユイさえ渡せば見逃してくれるだろう。上手く条件をつければ、フォルテを任せることだってできるはず。
 ならば、俺はユイちゃんを……


   A.渡す
  >B.渡さない


(……いいや、俺はユイちゃんを絶対に渡さないさ)

 ……『オレ』の提案を、俺は静かに否定した。

(オレ……まさか……!)
(『オレ』がしつこく言うなら、俺の心のどこかにはユイちゃんをオーヴァンに渡してやりたいって気持ちがあるんだろ? それは、認めないといけないな。
 ユイちゃんを守りたいと言っておきながら、無意識のうちに我が身可愛さにユイちゃんを売ろうとしている……)
(そこまで知ってるなら、さっさと……!)
(言ったはずだぞ! そうやって仲間を売って自分だけが生き残って、一体なんになるんだと!?
 お前は俺が楽になるためのアドバイスをしているつもりだろうが、俺は絶対に嫌だ! それにアーチャーとアイアンは、俺達のために命を賭けてくれた……だから、俺だってユイちゃんを守りたいんだ!
 それにお前は言ったよな! 俺達が仮に死んだとしても、その時に考えればいいって……なら、俺もその時まで考えないことにしてやるさ!)

 思考停止の極みだが、俺は『オレ』への当てこすりのように告げる。
 事実、俺はスミスとの戦いでは自分が死ぬと考えずに特攻した。結果、俺は一度死んだみたいだけど、カイトに助けてもらっている。今の俺を守ってくれる人はいないし、むしろ俺自身がユイちゃんを守る盾になるべきだ。
 ヤケになっていると自覚しているが、少なくとも俺自身に嘘をつきたくない。
 
(ケッ……そうかよ! なら、勝手にしやがれ!)
(ああ、勝手にしてやるさ!)

 不貞腐れたのか、それきり『オレ』は何も言わなくなった。
 俺の心はまだ弱いままだから、いつまた出てきてもおかしくない。学園の時みたいに自分の心と向き合い切れていると言いきれないし、現実逃避でしかないだろう。
 だけど、我が身可愛さにユイちゃんをオーヴァンに売ることだけは絶対に嫌だ。これだけは紛れもない本心だし、その決意を貫くことができてよかったと思っている。

「――――うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「パパ!?」

 でも、俺自身の選択を喜ぶ暇もなく、男の絶叫とユイちゃんの悲鳴が聞こえた。
 何が起きたのか、と俺が振り向いた瞬間、キリトとフォルテの姿が見える。しかし、今までの頼りになる姿から想像できないほど、キリトは弱っていた。

「き、キリトッ!?」
「パパアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!」

 追い詰められたキリトの姿に、俺とユイちゃんもまた叫んでしまった。


 やる気が 2上がった
 体力が 20下がった
 こころが 15下がった
 信用度が 1上がった

77TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:12:12 ID:IVXxf7k.0



     7◆◆◆◆◆◆◆



 最早、絶体絶命と呼べる状況だった。かつてGGOにて死闘を繰り広げたデスガンを相手にしていた時のように。
 この異空間に閉じ込められてから、レオ達と通信することができなくなり、そして俺のあらゆる攻撃はフォルテに防がれている。もちろん、脱出方法だってまるで思いつかない。
 アスナ達を失ったことで精神的に参っていたことに加えて、アスナを縛りつけていたAIDAと再び出会うことでトラウマが抉られて、俺の心は既に余裕がなくなっていた。
 ダークリパルサーとエシュリデータを砕かれても、カゲミツG4で立ち向かっている。しかし、この剣すらも破壊されてしまう恐怖と、俺自身の思考が読み取られてしまうというプレッシャーでどうしても防御を優先していた。


 また、体が重くなっていくのを感じる。
 戦いによる消耗で動きが鈍くなっているのではない。まるで、見えない重りをいつの間にか付けられているように、全身の動きが遅くなっていた。
 AIDAの魔剣が生んだ減速空間に飲み込まれた時と似ている。あの時のように動きがスローモーションになっていないことが、唯一の救いだろう。
 だが、体の動きが鈍くなっているせいで、俺は迂闊に攻撃を仕掛けられなかった。



「どうした、キリト? さっきから守りに走っているようだが……怖気づいたのか?」
「誰が、怖気づくかッ!」

 そんな明らかな挑発にも乗ってしまい、カゲミツG4を振るう。しかし、闇の剣で容易く防がれてしまった。
 すぐ目の前にまでいるフォルテは笑っている。これ以上の抵抗は無意味だと、歪んだ笑みが語っているようだ。

「そういえば、キサマはあのクズデータ……レンを守ろうとした時、必死になって戦っていたな?」
「何!? レンさんは、レンさんはクズデータなんかじゃない!」
「そうか……もしも、あの時のようにお前の仲間を俺が殺してやったら、キサマは更なる力を発揮するのか?
 確か、ユイとか言ったか? キサマの実の娘であるデータは」
「ッ! ふざけるな! ユイには、絶対に手を出させないッ!」

 ユイの名前を口に出された瞬間、俺は激昂する。
 フォルテはユイも狙おうとしていた。俺への見せしめのようにレンさんを破壊したように、今度はユイまでもその手にかけるつもりだったのか。
 アスナやシルバー・クロウを奪われ続けたのに、最後に残されたユイだけは喪いたくない。
 ユイは黒雪達に任せているが、ここで俺が倒れたらフォルテの手がみんなに迫る。ユイを守るためにも、絶対に負けられなかった。

「ユイは、絶対に守ってみせる! 《ヴォーパルストライク》ッ!」
 
 だから俺は、ユイを守るための一撃として零距離からの《ヴォーパルストライク》を放つ。
 密接された状態だから、回避や防御のしようがない。例えフォルテが心意技を持っていようとも、カゲミツG4なら破壊される危険も低かった。
 ソードスキルを叩き込み、フォルテの体制を崩そうとしたけれど――――

「――――《ダークフリーズオーラ》ッ!」

 ――――フォルテの叫びと共に、世界が静止した。

78TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:13:19 ID:IVXxf7k.0
 放ったはずのソードスキルが発動しない。
 いや、俺のアバターそのものが動かなくなってしまった。指先一つを動かすこともできず、また言葉を紡ぐこともできない。まるでバグで強制フリーズしたように、体が言うことを聞かなかった。
 思考すること自体はできるので、死亡した訳ではなさそうだ。しかし、あまりにも唐突すぎる金縛りに困惑するしかない。

「なるほど、ダークネスオーラとAIDAの力を組み合わせてみたが、まさかここまでとはな」

 俺が静止する一方、フォルテは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
 ダークネスオーラとAIDAの力を組み合わせた? まさか、俺が動けなくなったのはフォルテの力なのか!?


 《ダークフリーズオーラ》とは、フォルテがAIDAの力を完全に獲得したことで編み出した新たなるオーラだった。
 魔剣マクスウェルに宿るAIDAは持ち主の攻撃ダメージを増幅させて、周囲に減速効果をもたらす空間を展開させる。フォルテはその空間を自らのオーラと複合させる形で発動させて、キリトの動きを止めたのだ。
 また、今のフォルテは心意と救世主の力も活かして、ギガフリーズのイメージも組み合わせていた。ギガフリーズとは究極のプログラム・セネナードが所有する凍結プログラムであり、『選ばれし者』と呼ばれるネットナビ以外のあらゆるナビを凍結させる効果を持つ。
 結果、《ダークフリーズオーラ》に巻き込まれたキリトはフリーズし、身動きが取れなくなってしまった。心意などのシステム外の力を保有していれば抵抗できたかもしれないが、システムの範疇に収まる力しか持たないキリトはダークフリーズオーラに対抗できない。


 そして魔剣マクスウェルのAIDAを支配し、新たにゴスペルを生んだことでフォルテのオーラ自体も大きく変化していた。
 一定以下の攻撃を防ぐ性質を持つフォルテのオーラに、AIDAが持つ減速効果のフィールドが加わっている。その為、隣接するプレイヤーは自動的に減速するようになり、キリトも戦いによって動きが鈍ってしまっていた。
 もちろん、フォルテから大きく離れれば減速の影響を受けないが、キリトは自ら一騎打ちを引き受けている。故に、本人も気づかぬ間に減速効果を受けてしまい、窮地に立たされてしまった。



「キリト、どうした? 俺からユイ達を守るのではなかったのか?」

 フォルテは嘲笑しながら、あらぬ方向に目を向ける。
 俺は微塵も動くことはできないが、奴が見つめる先にはユイ達がいるであろうことは理解できた。AIDAの異空間に全員が閉じ込められたのだから、いつでも追いつけるのだろう。
 フォルテを止めたかったが、まともに喋ることすらできない。レンさんを失った時のように、何もできないまま終わってしまうなんて絶対に嫌だ。

「……だが、ヤツら如きいつでも始末できる。今は、もう一つの新しい力をキサマで試してみるとするか」

 フォルテは不敵な笑みと共に振り向きながら右腕を掲げた瞬間、光り輝く腕輪が回転しながら出現する。
 その腕輪を見て、体が動けば目を見開く程に驚愕した。何故なら、月海原学園で休息を取っていた時、レオから聞いた『The World』の腕輪の特徴とよく似ていたからだ。
 俺の目前に突きつけられて、激しく回転しながら腕輪の輝きは更に増していく。そこから起きる現象を予測し、俺はすぐさま回避しようとするが体は凍結したままだ。
 やがて回転が止まった腕輪は、まるで大砲のような威圧感を放ちながら眩い輝きを放つ。

「キサマの全てを奪い尽くしてやろう――《データドレインG.A.P》ッ!」

 その叫びと共にフォルテの腕輪から膨大なエネルギーが解放されて、凍結空間もろとも俺のPCボディを容赦なく貫いた。

「――――うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 全身を砕かれてしまうと錯覚する痛みによって、俺は絶叫する。
 データドレインは世界そのものを根本的に変える力を持つほどの力だ。その輝きは俺の視界と意識を丸ごと塗り潰し、そして全てを奪い取っていく。
 皮肉にも、データドレインを受けたことでようやく凍結から解放されて、俺は崩れ落ちてしまった。

79TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:14:59 ID:IVXxf7k.0

「ぐ、うっ……!」

 データドレインの影響で視界が揺らぎ、呻き声を漏らす。
 次の瞬間、強烈な違和感が俺の全身を駆け巡った。この手に持っていたはずのカゲミツG4は消滅しており、アバター自身にも力を感じない。

「な、何……!?」

 不意に、俺はウインドウを操作して、絶句した。ストレージを確認しても大量のアイテムが消失しており、アバターの変更もできない。どういう訳か、折れた青薔薇の剣だけが俺のストレージに残されていたが、これでは戦えなかった。
 もちろん、対主催生徒会の共有インベントリや通信システムも消失している。

「ククク……なるほど、これがキリトが持っていた力か」

 フォルテの笑い声が耳に響き、顔を上げる。
 奴は俺を見下しながら、その手にカゲミツG4を握り締めていた。その姿に、最悪の可能性が俺の脳裏に過る。

「か、カゲミツG4!? まさか、俺のスキルとアイテムを……!」
「その通り! 俺がデータドレインでキサマからあらゆるものを奪い取ってやったのさ!」

 その哄笑は、俺にとって絶対的な敗北を意味していた。



 フォルテがキリトに放ったデータドレインG.A.Pは、従来のデータドレインより大幅に強化されていた。
 データドレインは強化される度に、威力向上のみならず標的からアイテムを奪い取る能力も加算される。また、フォルテの場合はゲットアビリティプログラムもデータドレインに加わり、撃破せずともプレイヤーのアビリティを奪うことが可能となった。
 これにより、キリトはあらゆるアイテムと他ゲームのアバターを奪われて、完全に初期化している。もちろん、共有インベントリと生徒会との通信機能も失い、仲間達からのサポートも受けられなくなった。


「俺はこの時をどれだけ待ったことか……全てを奪い、そしてキリトを破壊するこの時を!」

 そしてフォルテはカゲミツG4をストレージに収納しながら、再びダークアームブレードを展開させる。

「ま、まだだ……! まだ、俺は……!」
「ならば、俺に抵抗してみせろっ!」

 ゆっくりと歩み寄るフォルテを俺は睨みつけるが、それ以外に何もできない。
 事実、俺に抵抗の術は残されていなかった。あらゆる武器とスキルは奪い尽くされて、戦う力は一つも残っていない。折れた青薔薇の剣を装備しても戦えるわけがなかった。
 ふと、折れた青薔薇の剣に意識を向ける。まさかこの剣にはシステム外の力が働いていて、データドレインの影響を受けなかったのか? その可能性も思い立ったが、今の危機を脱することはできない。
 逃走など意味を持たなかった。フォルテは俺の動きを凍結させるオーラを有しており、それ以前にこの異空間に閉じ込められているので逃げ場はない。
 もっとも、ユイを守らなければいけないので、逃げるつもりは微塵もなかったが。

(ユイ……お前だけでも、どうか生きてくれ――!)
「パパアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!」

 俺が無事を祈るのと同時に、ユイの叫びが俺の耳に届いた。


 キリトは気付かない。
 フォルテとの戦いの最中、サチのクリスタルがポケットから密かに零れ落ちていたことに。
 残された希望はまだそばに転がっているが、彼はまだ気付いていなかった。

80TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:18:16 ID:IVXxf7k.0


     8◆◆◆◆◆◆◆◆


 みんながいなくなっていく。
 ロータスさんを守るためにアーチャーさんが、私とジローさんを守るためにアイアンさんがいなくなった。
 ジローさんは私を守ってくれると言ってくれたけど、このままではジローさんもPKされてもおかしくない。ロータスさんはオーヴァンに追い詰められて、そのせいでアーチャーさんまでも奪われたのだから。

(どうすれば……どうすれば……!?)

『死の恐怖』で体が震えていた。
 自分自身だけでなく、大切なパパ達を失うという可能性が思考を満たしていた。
 オーヴァンはママやシノンさんを奪い、フォルテはユウキさんを奪った。クロウさんレインさんなど、二人の手にかかったプレイヤーは多くいる。そんな悲劇はもう繰り返したくない。
 けれど、どうすればこの危機を脱せるのかまるでわからなかった。エージェント・スミスとの戦いのように、カイトさんやガウェインさんの救援も期待できない。また空間からの脱出方法も持たなかった。


 ――――ハ長調ラ音。
     ピアノで音色を奏でるような音が、私の頭に響いた。


 同時に私の脳裏にイニスの名前が浮かび上がる。
 そして思いついた。碑文さえあれば、パパ達を守ることができることに。だけど、私は碑文使いではないし、仮に使っても力を扱いきれる保証もない。
 碑文は圧倒的な力を持つので、失敗したらオーヴァンやフォルテに悪用されるだろう。そんな不安で、イニスに対する警戒心が芽生えたが……

「――――うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「パパ!?」

 ……パパの絶叫が、私の思考を吹き飛ばす。
 驚きながら振り向くと、パパがフォルテを前に膝をつく姿が見えた。フォルテはその腕から伸ばした暗黒色の剣を掲げながら、パパに迫る。
 数秒先の未来を予測して、私は飛び出した。《ナビゲーション・ピクシー》が解除されて通常アバターに切り替わるけど、構わずに走る。

「パパアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!」

 私が叫んだ瞬間、パパとフォルテが同時に振り向いた。
 一歩進むたびに、私の中でパパを守りたいという気持ちが強くなっていた。そして、脳裏に響くピアノの音色も大きくなり、イニスの名前も再び浮かび上がる。
 足元から波紋が広がり、世界も少しずつ変わっていた。

「私は、パパを……みんなを守りたい! だから、私に力を貸してください……! この声に、応えてくださいっ!」

 自らの体に水色の紋様が浮かび上がっていくのを感じた瞬間、世界も少しずつ震えていた。
 パパやジローさんが私を呼ぶ声が聞こえてくるけど、振り向かない。フォルテがバスターを構えてきたけど、私は微塵も臆さなかった。

「私はここにいます! だから、来てください――――イニス!」

 その名前を叫んだ瞬間、世界が大きく変わっていった――――

81TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:20:09 ID:IVXxf7k.0

 ――白千草のように穢れのないボディを誇りながら、天使の如く輪を背負う巨神が現れた。
 モルガナの碑文の第二相にして、『惑乱の蜃気楼』イニスの力にユイは覚醒していた。その覚醒により暗黒色の世界に、宇宙の広大な憑神空間が混ざり合って、世界をより混沌とさせる。

「何だと……!?」
「まさか、彼女が……!?」

 あのフォルテとオーヴァンですらも、ユイ/イニスを見上げながら驚愕していた。

「ユイちゃん……? ユイちゃんなのか!?」
「君が、ユイなのか!?」

 ジローさんとロータスさんも、この覚醒に驚いている。

「ゆ、ユイ……? どうして……!?」

 そしてパパも、心底驚いたように目を見開いていた。



 この空間に跋扈するエネミー達は後ずさり、ゴスペルも警戒するように唸り声をあげている。
 つまり、私はイニスに認められたのだ。みんなを守るための力を、手に入れることができた。碑文さえ使うことができれば、パパ達を守ることだってできる。

「私が、パパを……みんなを守りますっ!」

 そうして、私は世界を震撼させるほどの叫びを響かせた。



     9◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「イニス……だと!? まさか、彼女が碑文を所持していたのか!?」

 そしてイニスの覚醒に驚愕したのはGMも同じ。
 榊はもちろんのこと、トワイスとアリスも予想外の出来事に目を見開いていた。

「榊、君はこの事態を予測したのかい?」
「いいや、いくら私でもこれは把握していない。
 エージェント・スミスがアトリから奪って以来、所在が知れなかったが……どうやら、学園の戦いに敗れたスミスから手に入れたと考えるのが妥当だろう。
 だが、この状況で覚醒するとは……」

 榊は表情をしかめている。
 ユイは計画の要であり、そのアバターには膨大な量のデータが込められていた。彼女ならば碑文を扱うにふさわしいかもしれないが、相手はあのフォルテだ。
 フォルテにもユイを奪うミッションについては伝えたものの、それほど重要視していないはず。もしもユイと戦ったりなどしたら、勢いに任せて破壊する危険すらあった。

「……仕方がない。今はオーヴァンに任せることにしよう。
 オーヴァンならばコルベニクを使い、上手くユイを生かしたまま確保するはずだ。君達も、異論はないね?」
「えぇ。緊急事態ですが、流石に私達が介入するわけにもいきません。
 榊が言うように、オーヴァンに任せるしかないでしょう」
「フォルテにもミッションを伝えたみたいだけど、果たして彼はそこまで器用かどうか……だからこそ、オーヴァンもいてくれるのだろうけどね」

 榊の提案にアリスとトワイスも頷く。
 そうして、GMが眺める画面の向こう側では、覚醒したユイ/イニスがその力を振るっていた……

82TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:21:43 ID:IVXxf7k.0


【A-10/異空間/一日目・真夜中】


【Bチーム:ネットスラム攻略組】
※異空間が展開されたことでレオ達との通信が遮断されています。


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP30%/デュエルアバター 、強い憎しみと悲しみ
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、蒸気バイク・狗王@.hack//G.U. 、不明アイテム×1
[ポイント]:358ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
0:オーヴァンを何としてでも殺してみせる。
1:ゲームをクリアする。
2:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
3:どんな手段を使おうとも、オーヴァンや榊たちを倒してみせる。
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×2@.hack//G.U. 、不明支給品0〜1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:ユイちゃん……!?
1:ゲームをクリアする。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

83TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:22:52 ID:IVXxf7k.0

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP40%、MP80%、疲労(大)、SAOアバター、データ完全初期化
[装備]:なし
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン
[ポイント]:200ポイント/0kill(+1)
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:ユイ…………!?
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※ALOアバター及びGGOアバターの変更ができなくなりました。
※《データドレインG.A.P》を受けたことで、全てのスキルとアイテムをフォルテに奪われて、また共有インベントリと通信システムの設定も消えています。
※折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンラインが奪われなかった正確な理由は不明です。
※ダークリパルサー及びエリュシデータ@ソードアート・オンラインが破壊されました。
※傍らにサチのクリスタル@ソードアート・オンラインが落ちていることにまだ気づいていません。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ/通常アバター、イニスに覚醒
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:パパ達を守るために戦う。
1:ゲームをクリアする。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:危険人物を警戒する。
6:私にも、碑文は使えるだろうか……。
7:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
8:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。
※キリトを守りたいという気持ちに応えて、イニスの碑文が覚醒しました。

84TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:25:34 ID:IVXxf7k.0
【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP40%、激しい憤怒、心意覚醒、憑神覚醒
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ユウキの剣、死銃の刺剣、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×3@.hack//G.U、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド 、プリズム@ロックマンエグゼ3、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜5個(内0〜2個が武器以外、1個が水系武器なし)、参加者名簿、基本支給品一式×3
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:キリトたちとの決着をつける。
1:仲間との絆を力とするキリトを倒し、今度こそ己が力を証明する。
2:すべてをデリートする。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
5:オラクルが警告した“災い”とやらも破壊する。
6:ネットスラムに辿り着いたら、一応はユイの身柄も確保する。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
 またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
 心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
 また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
 これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。
〇AIDA<????>の減速空間の効果により、フォルテと隣接するプレイヤーの速度を自動的に減速させることが可能です。フォルテから離れれば減速から解除されます。
○エネミー及び破壊されたネットスラムのデータを捕食した結果、AIDA<Gospel>は成長しています。
※オラクルを吸収し、預言の力を獲得しました。未来予測に伴い、特定プレイヤーの思考すらも予測することが可能です。ただし、乱発すると相応の負荷がかかります。
※オラクルが警告した“災い”の姿を予言しましたが、現段階では断片のみしか見えていません。今後、どうなるかは後の書き手にお任せします。
※オーヴァンから『忘刻の都 マク・アヌ』にて得た"情報"を聞きましたが、それほど重要視していません。
※《データドレインG.A.P》を使い、キリトからスキルとアバターを奪い取りました。


【《ダークフリーズオーラ》】
魔剣マクスウェルのAIDAが使う減速空間と、心意及び救世主の力から生み出したギガフリーズのイメージを組み合わせて生み出した新しいオーラ。
発動した瞬間、フォルテからある一定距離まで近づいているプレイヤーの動きを強制的に凍結させます。ただし、心意などのシステム外の力を持っていれば対抗できるかもしれません。


【《データドレインG.A.P》】
フォルテのゲットアビリティプログラムとデータドレインを組み合わせた強力なスキル。
標的となった相手のデータ改竄だけでなく、アイテムとスキルの強奪も可能です。

85TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:26:42 ID:IVXxf7k.0
【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP50%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:1500ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:ユイの身柄を確保する。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
6:ユイを確保したら、GMの隙を見て対主催生徒会と交渉するための鍵にする。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※スケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。
※榊からこのデスゲームの黒幕がモルガナであることと、その目的を聞きました。
 しかし、それが本当に“真実”の全てであるか疑問を抱いています。

86TRIALS of AI ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:28:15 ID:IVXxf7k.0


【?-?/知識の蛇/一日目・真夜中】


※オラクルの部屋に通じる道が閉ざされてしまい、現状では侵入不可能となっています。


【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:バトルロワイアルを完遂させ、己が目的を達成する。
2:再構築したロックマンを“有効活用”する。
3:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第二相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。


【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。


【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。
[備考]
※性格、風貌は原作11-12巻におけるシンセサイズを施されていた状態に準拠しています。
※が、従うべき対象はモルガナへと再設定されているようです。

87 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/12(金) 17:30:02 ID:IVXxf7k.0
以上で投下終了です。
ご意見などがありましたらよろしくお願いします。

88名無しさん:2020/06/12(金) 21:52:41 ID:MRnid2uE0
オーヴァンの台詞一つ一つが厭らし過ぎるわフォルテの性能が絶望的すぎるわ、
ユイが碑文使いに覚醒するわと……久々の投下は目が離せない展開が続いていて、
読み進めるのが勿体なかったです。投下乙でした!

以下、誤字等の指摘。

>>59
耐久度に余裕がはずだ。
→耐久度に余裕があるはずだ。

>>61
防御の肩を取った。
→防御の型を取った。

>>71
オーヴァンの体制を
→オーヴァンの体勢を

>>73
信念に準じた
→信念に殉じた

>>77
フォルテの体制を
→フォルテの体勢を

89名無しさん:2020/06/13(土) 07:55:38 ID:FFaqEYeA0
投下乙です。
これで何度目になろうかというキリトとフォルテの対決。
仲間の喪失を恐れてか、黒雪姫たちを遠ざけてしまった結果、今回はキリトの完全敗北となりましたね。
まあ今のフォルテが相手では、全員揃ってても勝てたかは怪しいところですけど。
そしてオーヴァンの精神攻撃が刺さる刺さる。果たしてこのあと、黒雪姫は再びオーヴァンに立ち向かうことが出来るのでしょうか。
Bチームの命運は、イニスを発現させたユイにかかっているといっても過言ではありませんね。

ただ気になった点が二つ。
一つ目は、作中でフォルテとキリトが打ち合っていましたが、ダーク・アームブレードは心意技。普通の武器でしかないキリトの剣では一撃で破壊されてしまうと思います。
カゲミツG4にしても、刀身が実体のないエネルギーであるため破壊されないだけで、フォルテの攻撃は普通に貫通するので、受け止めることはできないかと。
あと心意技とシルバー・クロウの飛行スキルやダスク・テイカーの略奪技は直接の関係はありませんよ。
加えて、ブラック・ロータスが地の文で「心意技を途中で止めることはできず、」といっていますが、心意技にシステムアシストはないので止めることは可能です。
途中で止めるのが危険だから押し切るしかない、とかならわかりますが。

二つ目は、ロビン・フッドの“顔の無い王”は姿と音だけでなく匂いも遮断できますよ。
実体がなくなったり無敵になったわけではないので、作中のような範囲攻撃による炙り出しは可能ですけど。

90 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/13(土) 08:06:58 ID:OTNfGn6E0
皆さま、感想及びご指摘をありがとうございます。
それでは修正点を修正スレに後ほど投下させて頂きますね。

91 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/13(土) 08:49:04 ID:OTNfGn6E0
指摘された箇所の修正版を修正スレに投下させて頂きましたので、確認をお願いします。

92 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:02:41 ID:KJtJ0qW.0
これより投下を始めます。

93キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:04:19 ID:KJtJ0qW.0

     0


 強い力。
 使う人の気持ち一つで……
 救い、滅び。どちらにでもなる。



     1◆



 ――――その覚醒には誰もが驚いていることを、ユイ/イニス自身が感じていた。


 体の奥底から力が溢れ出ていた。
 碑文は世界そのものを大きく変える可能性を持つほどの力だ。それこそ、インターネットだけでなく現実世界にも影響を与えた事例もある。
 ならば、この力さえあれば彼らと戦うことができた。

(これが……『惑乱の蜃気楼』イニス。幻影を自由自在に操り、そして高速移動で敵を攪乱することが可能……)

 ユイの脳内にイニスの膨大なデータが流れ込み、全てを瞬時に理解した。
 SAOのカーディナルシステムにより誕生したトップダウン型AIである彼女なら、膨大な情報処理が可能となっている。
 だから、この力を振るった。

(絶対に、パパ達を守ります!)

 ただ、大切なみんなを守りたいという気持ちを胸に、ユイ/イニスは飛び上がる。
 天から見下ろす天使の如く神々しさを醸しながら、彼女は両腕を振るって無数の光弾を放ち、エネミー達を葬った。散弾銃を超える速度を誇る光弾を、エネミー達は対抗できない。

「あなたなんかに、パパを殺させませんッ!」

 そして、キリトの命を奪おうとしたフォルテにも狙いを定めて、ユイ/イニスにも光弾を放つ。
 フォルテは驚愕で目を見開いていたが、我に返ったかのように翼を羽ばたかせながら跳躍した。彼は不敵な笑みを浮かべながら、ユイ/イニスを目がけてバスターを放つ。

「望むところだ!」

 そうしてバスターから放たれた光弾が迫りくるが、ユイ/イニスの巨体とプロテクトには意味を成さない。
 ユイ/イニスは反撃として、巨木すらも凌駕する刃を振り降ろした。しかしフォルテ自身は微塵の動揺も見せず、高速スピードで回避する。その勢いを保ったまま、瞬時にユイ/イニスの目前にまで迫って。

「まずは試しだ……アースブレイカーを受けろッ!」

 圧縮された高濃度のエネルギーを、顔面に目がけて解放した。
 凄まじい爆音と共に炸裂したエネルギーは、並のアバターなら瞬時にデリートできるほどの威力を誇るだろう。しかし、今のユイ/イニスではほんの僅か後退させるだけに過ぎない。

94キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:05:03 ID:KJtJ0qW.0

「チッ、やはりこれだけでは通用しないか」

 無論、システムを超越した憑神を簡単に倒せるとは、フォルテ自身も考えていなかったようだ。
 今のフォルテはゴスペルを従えているから、碑文とAIDAの特性について把握していると考えるべき。そして、ユイ/イニスと同様に何らかの碑文に覚醒している可能性もあった。
 しかしそんなことは関係ない。この場でフォルテを倒すため、もう片方の刃をフォルテに叩きつけた。

「ぐうっ…………!」

 ユイ/イニスの巨刃を受けたフォルテは呻き声と共に吹き飛ばされる。
 質量に圧倒的な差があるのだから、いかにフォルテでも防ぐことはできない。フォルテのダークネスオーラも、システムを超越する憑神の前では効果がなかった。

「さあ、まだです! まだ、私は――――!」
『――――――――――ッ!』

 フォルテに追撃しようとしたユイ/イニスの耳に獰猛な叫びが響く。
 まるで主の危機を駆けつけるように、あのゴスペルが突貫を仕掛けてくるのを見た。ユイ/イニスは反射的に弾丸を縦横無尽に放つものの、ゴスペルはその全てを回避する。
 そしてユイ/イニスを目がけて衝撃波を放った。

『――――――――――ッ!』

 衝撃波/ダイナウェーブの速度と範囲から、高い威力を誇ると瞬時に察知する。直撃すればユイ/イニスだろうと、プロテクトにダメージは避けられない。
 だが、ユイ/イニスの機動力さえあれば、回避は容易だった。その勢いを保ったまま、ゴスペルの横に回り込んで弾丸を発射し、巨体を吹き飛ばす。

『――――――――――ッ!』
(やった……あのゴスペルにダメージを与えています……!)

 ゴスペルの悲鳴を耳にして、ユイ/イニスは確かな手ごたえを感じる。
 これまでは後方支援しかできず、パパやママたちを守ることができなかった自分だけど、ようやく戦えるようになった。あのゴスペルにだって、ダメージを与えている。
 もちろん、これだけで倒せる訳がないので、ゴスペルはすぐに立ち上がってこちらを睨んできた。耳障りな叫びが聞こえてくるけど構わない。
 そのまま衝撃波を3連続で発射してくるのを見て、天に向かって羽ばたいた。衝撃波の特性に気付いた瞬間、ユイ/イニスはゴスペルが大きく口を開けているのを見る。
 口内ではエネルギーが収束されていき、ユイ/イニスを目がけて放たれた。衝撃波……ゴスペルショックパワーは世界に亀裂を刻みながら、ユイ/イニスを追跡する。

(ホーミング機能を持つ衝撃波? ですが、イニスの速度と能力なら問題ありません!)

 高威力の衝撃波が迫りくるが、ユイ/イニスは決して狼狽しない。 
 その直後、ユイ/イニスの姿は消滅し、標的を失ったゴスペルショックパワーは世界の果てに去ってしまった。敵が消滅したことに驚愕するゴスペルの背後に、ユイ/イニスが現れてカウンターを放つ。

「反逆の陽炎ッ!」

 ユイ/イニスは叫びと共に巨大な双剣を振るい、ゴスペルを吹き飛ばした。
 ゴスペル自身のパワーは危険の領域に入るため、正面から戦うことは得策ではない。故に、ユイはイニスの特性を活かして遠距離からの攻撃で牽制しながら、カウンターでゴスペルにダメージを与える戦法を選んだ。

『――――――――――ッ!』

 しかし、ゴスペルは倒れず、むしろユイ/イニスに向ける殺意がより濃厚になっている。
 その叫びを耳にして、ユイは息を呑むが決して怯まない。ゴスペルが強敵であることは把握していたし、またパパ達はこれまで何度も危険な敵と戦い続けてきた。
 だから今度は娘である自分が戦わないといけない。キリトの娘である誇りを胸にしながら、ユイ/イニスは真っすぐにゴスペルを睨んでいた。

95キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:05:50 ID:KJtJ0qW.0

「さあ、どうしたのですか? 私はここにいますよ!」

 だからゴスペルを挑発しながら、双剣を構える。黒の剣士と称された父キリトの構えを自分なりに真似しながら。
 AIDAの弱点はデータドレインだが、まずはプロテクトを破壊しなければいけない。ユイ/イニスは高速移動をしながら光弾を放つが、ゴスペルが口から放つ衝撃波によって相殺される。

(このままでは、同じことの繰り返しになります! 何か、ゴスペルの弱点さえわかれば……!)

 言葉とは裏腹にユイ/イニスの中で焦りが生じた。
 イニスが生み出す幻影を活かせばゴスペルの攻撃を回避することができるが、そこからの反撃は決定打にならない。イニス自体の火力と耐久力は他の憑神に比べて劣っており、どうしてもゴスペルの方が優位だった。
 しかし、ユイは自分の特性を活かしながら攻撃を避けて、反撃を続ける。ゴスペルの一撃を受けたら致命傷に繋がるが、パパ達のためにも退けない。



「――――戻れ、ゴスペルッ!」

 そして、ゴスペルを咎める叫びが世界に響いた。
 ユイ/イニスとゴスペルが同時に振り向いた先では、あのフォルテが獰猛な笑みを浮かべながら漆黒の翼を羽ばたかせていた。先程のダメージなど気にも留めず、戦意を滾らせている。
 ユイ/イニスがフォルテを睨む一方、ゴスペルはフォルテの元へ走る。
 ゴスペルの足音は世界を震撼させていき、フォルテの全身から禍々しい深紅のオーラが黒泡と共に放たれた。そしてフォルテとゴスペルは融合し、圧倒的な闇の波動が爆音と共に拡散される。

(これは……フォルテとゴスペルが一体化したことで、情報密度が爆発的に向上しているのですか!?)

 視界が濃厚な闇に飲み込まれながらも、ユイ/イニスは冷静に解析していた。
 月海原学園にてスミスに感染したAIDAに立ち向かうため、カイトが<蒼炎の守護神(Azure Flame God)>に覚醒している。蒼炎の守護神のように、フォルテもまた真の姿を見せようとしているのか。
 ユイ/イニスが警戒する中、フォルテとゴスペルを飲み込んでいた膨大な闇が炸裂し、圧倒的な巨体を誇るAIDA<Gospel>が姿を現す。先程、周囲を暴れまわっていたゴスペルと異なり、<Gospel>の体躯はユイ/イニスと同等かそれ以上だった。

「ただのザコかと思っていたが、どうやら違ったようだな!
 ちょうどいい! この俺がキサマの碑文も喰らってやろう!」

 フォルテの哄笑が<Gospel>の大きく開かれた口より発せられる。恐らく、フォルテと一体化した時点で<Gospel>の意識は残っていない。
 しかし、ユイ/イニスには関係なかった。彼が全力を出すなら、それを打ち破ってこそフォルテのプライドも破壊することができる。

「望むところです!
 私はパパを傷付けて、ユウキさん達の命を奪ったフォルテを許しませんし……ママ達の命を奪ったオーヴァンだって許すつもりはありません!
 ここで、この私が二人もろとも葬ってみせます!」

 真の力を発揮したフォルテを前にしてもユイ/イニスは微塵も臆すことなく、それどころか煽ってすらいた。
 何故なら、自らの中から力が湧き水のように溢れていたからだ。イニスの碑文と適合したことで、この力が増幅されたのかもしれない。
 力を得て、ゴスペルとも戦えることを実感し、フォルテやオーヴァンを倒せるという希望を胸に抱いていた。

「……ユイ、よすんだ! 今のフォルテはお前一人で戦えるような相手じゃない!」

 そんな中、眼下から叫んでくる父の姿が見える。
 キリトは心配そうな表情でユイ/イニスを見上げていた。娘の身を案じてくれているけど、今ばかりは父の言うことを聞けない。
 現実の娘のように、たまには親に反抗したかった。

96キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:07:32 ID:KJtJ0qW.0
「大丈夫です、パパ! 私なら、みんなを守ることができます!」
「待ってくれユイ! ユイィィィィィィィィィィッ!」

 パパの呼ぶ声を無視して、私はフォルテ/<Gospel>と睨み合う。
 子どもの反抗期で親は悲しむ話は聞いたことがあるけど、改めて実感する。でも、今はパパのためにワガママを貫き通したかった。
 この気持ちに応えて、イニスの力がどんどん増幅されていけばフォルテやオーヴァンを倒すこともできるのだから。


 ユイは気付かない。 
 碑文に覚醒し、力を振るったことで暴走状態になりつつあることを。
 かつてハセヲは『死の恐怖』スケィスの碑文に覚醒した時、志乃を奪った三爪痕の復讐から力に溺れていた。ハセヲの心の闇は増幅し、己の感情に任せて碑文を使い続けてしまい、暴走状態になってクーン/メイガスを嬲った過去がある。
 同様に、ユイもイニスの力を振るってエネミー達を撃破し、フォルテとゴスペルにダメージを与えたことで慢心した。そしてフォルテやオーヴァンに対する復讐が果たせると確信して、これまで溜まっていた感情が昂ってしまう。
 普段のユイならば、冷静な判断を導いて自らが戦おうとしない。しかし、キリト達を守れるという自負が、次第にフォルテとオーヴァンの復讐にすり替わってしまい、その闇に碑文が反応した。
 結果、イニスの力が増幅されていくと同時に、ユイ自身も碑文に飲み込まれようとしていた。



     2◆◆



「これは、厄介なことになったな……!」

 そんなユイ/イニスの異常に気付くことができた人間はたった一人。
『再誕』コルベニクの碑文使いにして、真の三爪痕となって『The World』で暗躍し続けたオーヴァンだけだった。
 ユイの碑文覚醒は流石のオーヴァンも想定外であり、また動揺している。何故なら、目的であるユイ自身が碑文の力で暴走しては、いずれ自滅する危険があった。
 ユイは自分達に対する憎しみを抱いており、その心の闇がイニスに反応している。それ自体は構わないが、ユイのアバターが破壊されてはミッション自体が破綻する。フォルテも闘争心を剥き出しにしているため、力を制御せずにユイを破壊する危険があった。
 例え碑文に覚醒したユイであっても、今のフォルテと戦わせる訳にはいかない。暴走の末にフォルテと相討ちになる可能性があり、または戦闘でエリア崩壊が進んでユイを巻き込む恐れもある。

「……どうやら、俺が出向かなければいけないようだ」

 不本意だが、今はコルベニクの力でユイ/イニスを止めなければいけない。
 八咫の設立したG.U.の真似事をするとは、何の因果だろうか? そう自嘲しながら一歩前に踏み出した瞬間、道を阻むように漆黒のアバターが現れる。

「待て、オーヴァン……! まだ、私との戦いは終わっていないぞ……!」

 息も絶え絶えに、アバターをよろめかせながらも、ブラック・ロータスは構えていた。
 彼女の殺意は衰えることを知らず、ダイヤの如くバイザーは紅い輝きを放っている。きっと、緑衣のアーチャーとクソアイアンを殺されたことで、怒りを燃やしているはずだ。
 ロータスにも興味はあるが、今となっては優先順位が低い。シルバー・クロウとスカーレット・レインの死を利用して、ロータスの怒りを引き出すことで心意について探ろうとした。いずれ、GMと戦う時が訪れるのだから、心意の特性を知って損はない。
 だが、今は最優先はユイの確保だ。ロータスも利用価値はあるが、これ以上は邪魔になる可能性がある。
 出る杭は早急に叩かなければいけない。

「いいや、君はもう終わりだ。
 真実を見せてあげよう――――」

 そしてオーヴァンは疾走する。
 シルバー・クロウとスカーレット・レインが辿り着いた真実に、ブラック・ロータスもまた辿り着こうとしていた――――

97キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:09:06 ID:KJtJ0qW.0




 ――――決着はほんの一瞬だった。
 ロータスが刃を振るうが、オーヴァンが目前にまで迫り、次の瞬間にはこのアバターを通り過ぎたように見えた。
 驚愕する暇もなく、全身に違和感が駆け巡る。しかし、一瞬で稲妻が迸るような衝撃と激痛に変わってしまった。

「――――があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 そして刻まれるのは《異形の聖痕》。オーヴァンの左肩に宿る漆黒の爪によって、ロータスのボディに無残な傷跡が刻まれてしまい、絶叫する。
 シルバー・クロウとスカーレット・レインが味わった苦痛が、こうしてブラック・ロータスにも襲いかかったのだ。
 元より、満身創痍だった彼女に抵抗することはできない。激痛と爪痕から放たれる赤い輝きによって、ロータスの意識は掻き乱されていった。

「黒雪姫えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 そんなロータスを案じる叫びによって、ほんの少しだけ覚醒する。
《異形の聖痕》を刻まれて力なく倒れていくロータスは、自らの痛みがほんの少しだけ和らいで、漆黒のアバターが誰かに抱きかかえられるのを感じた。

「大丈夫か!? 今、治癒の雨を使ったからな!」
「…………ぅ、あぁ………………っ……」

 ジローが狼狽した表情で叫ぶけど、ロータスの意識は痛みで朦朧とするせいで返事ができない。
《異形の聖痕》をまともに受ければどんなプレイヤーでも致命傷は避けられず、ブラック・ロータスもまたデリートされるはずだった。しかしHPが0になる前に、ジローが咄嗟に治癒の雨を使ったことでほんの数%だけHPが残されている。
 もっとも、まともに戦うことなどできないが。

「フッ。仲間に助けられてよかったじゃないか」

 起き上がるどころか、言葉すらも紡ぐことができないロータスを見下ろす男がいる。
 さも滑稽なものを相手にするように、オーヴァンは笑っていた。しかし、すぐに背を向けてこの場から去っていく。

「ま、待て…………オーヴァ……ン…………ッ! わ……た…………し、は…………ッ!」
「シルバー・クロウ達の仇も取れないまま、無様に朽ちていくといい。君はしょせん、ただの操り人形に過ぎなかったのさ。
 塵にも劣る、君の感情など興味はない。俺にとっては無意味だからな」

 冷たい宣言によって、ロータスの息は止まる。
 この怒りと憎しみに興味を向けられず、むしろ初めから存在しなかったかのように言い放っていた。
 それは違うと叫びたい。この手でオーヴァンを八つ裂きにし、己の罪を認めさせて無様に許しを請わせ、その果てに首を撥ねてやりたかった。
 けれど、オーヴァンは去っていく。腕も伸ばそうとするどころか、微塵も動かない。ジローが自分のことを呼ぶ声も、どこかに消えてしまった。



(ち、違う…………私の思い出は無意味なんかじゃない…………!
 私は、ハルユキ君のおかげで立ち上がることができた……! ハルユキ君がいてくれたから、私も彼のように飛びたいと願ったんだ! だから、この気持ちは私にとっての宝物なんだ!
 ハルユキ君が、いてくれたから……!)

 そして、オーヴァンの背中がすぐに見えなくなるが、それでも立ち上がろうと力を込める。
 何もできなかった。ハルユキ君の仇を取るどころか、ロビンフッドとアイアンまでも死なせてしまい、そして自分は完膚なきまで叩きのめされてしまう。
 だけど、戦わないといけない。自分の全てが否定されようとも、ハルユキ君達の無念を晴らすと決めたのだから、絶対に立つべきだった。

98キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:10:14 ID:KJtJ0qW.0

(彼は……ハルユキ君は……私を何度も助けてくれた……!
 彼は私の、誇りなんだ…………だってハルユキ君は、私のことを……何度も助けて、くれたんだ…………!
 一人じゃ、何もできなかった私に……空を飛ぶ勇気を、くれたんだ…………!)

 今はもういない有田春雪から何度も助けてもらった。
 銀色の翼を羽ばたかせながら、加速世界の新しい希望になり、一度全てを失った黒雪姫にも。ハルユキ君が幾多の困難を乗り越えてくれたおかげで、私も力と勇気を与えられた。
 そんなハルユキ君がいたからブラック・ロータスは黒の王として復活し、そして多くのバーストリンカーを導けている。

(ハルユキ君は、とっても強い……! 強かったから、私だって彼のように強くあろうと、頑張れた……!
 それにハルユキ君からは、たくさんの思い出を貰った……楽しかったことや面白かったこと、いっぱい教えてもらった……!
 そうだろう、ハルユキ君? 君と過ごした時間や、君がくれた思い出は私にとって……大切な宝物なんだ!)

 雪の中に取り残されてマッチを灯す少女のように、黒雪姫は懐かしい幻を見つめていた。
 ハルユキ君が見せてくれた優しくて暖かい笑顔を見て、胸がときめく自分。他の少女に鼻の下を伸ばすハルユキ君を見て、嫉妬する自分。加速世界に立ちはだかる数多の敵をハルユキ君と力を合わせて、充実感を抱いた自分。
 一つ一つの思い出がかけがえのない宝物で、まるで宝石箱のように輝いていた。

 けれど、ハルユキ君との時間は終わってしまった。

(会いたいよ……! また、ハルユキ君と会って話がしたいよ…………!
 私は強くなるから、ハルユキ君の隣にいさせてくれ……! 強くなるためにも、キミの声を聞かせてくれ!
 キミの声が聞きたい……! でも、キミの声が聞こえないんだ……ハルユキ君…………!)

 ハルユキ君のために戦えなかった無力感と共に、バイザーの下で涙が澎湃と溢れ出す。
 大事な仲間を守る意思も、このデスゲームを仕組んだ主催者を倒す決意も、オーヴァンに対する禍々しい憎悪も消えてしまい、ただの無力な少女に成り下がっている。
 せめて、最後に残ったハルユキ君との思い出だけでも抱えたかったが、それすらも遠くに消えてしまう。だから、彼の名前を呼ぶしかなかった。

 しかしハルユキとの思い出に縋ろうとした瞬間、彼の姿が徐々に遠ざかっていく。

(嫌だ、嫌だよハルユキ君…………! 私を一人にしないでくれ…………!
 私にはハルユキ君が必要なんだ! ハルユキ君がいなければ、これから先の人生で何が起きても全く意味がない…………!
 ハルユキ君! キミは私の誇りだから、私の声に応えてくれよ…………! ハルユキ君…………!)

 助けを求める少女の声に答えてくれる者は誰もいない。
 そうして、自分が一人ぼっちになってしまったことを悟った彼女は、意識を手放した。
 かつて、自らの過去を暴かれた時と同等か、あるいは遥かに凌駕する程の絶望と無力感によってブラック・ロータス/黒雪姫の全てが零(ゼロ)になってしまう。全てを失った彼女は零化現象に陥ってしまい、何もできない。

(助けてくれ……! ハルユキ君……!)

 必死に、世界で一番大切な男の子の優しい笑顔を思い浮かべようとして、黒雪姫はゼロになった。



     3◆◆◆



「黒雪姫! 黒雪姫! しっかりしてくれよ、黒雪姫ッ!」

 俺は黒雪姫のアバターを必死に揺らしながら叫ぶけど、彼女は何も答えてくれない。
 その体に刻まれている無残な傷跡には見覚えがある。月海原学園からネットスラムに向かう最中にも見ており、ニコも受けたであろう爪だ。あまりの痛々しさに目を背けたくなるが、そんなことは許されない。
 今はただ、どうすれば黒雪姫を助けられるのかを考えていた。肉体が消えていないので死んでおらず、気を失っているだけかもしれない。でも、すぐ近くで苛烈な戦いが起きているのに、呑気に構えていられなかった。

99キミの声が聞こえない ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:11:56 ID:KJtJ0qW.0

「ど、どうすれば……!?」
「ジローさんッ! 黒雪に、何があったんだ!?」

 焦りで考えがまとまらない俺の耳に、焦燥感に溢れたキリトの声が響いてくる。
 ユイちゃんが巨大なモンスターになって、しかも黒雪姫がオーヴァンに酷い傷を負わされた直後だ。冷静でいられるわけがない。
 でも、俺はキリトのことも心配だった。

「キ、キリト! お前……大丈夫なのか!?」
「全然、大丈夫じゃない。だけど、なんとか生きてる…………って、今は俺のことよりも黒雪だ! まさか、黒雪は……!」
「アバターは消えてないから、多分生きていると思う! でも、全然起きてくれないんだ! オーヴァンのせいで……!」

 みんなを傷付けたオーヴァンと、何もできなかった俺自身の怒り。
 やり場のない感情は胸の中にこびりついていて、ただ表情をしかめるしかできなかった。

「……あれ? キリト。お前、どうして剣を持っていないんだ?」

 その最中、俺はキリトが剣を構えていないことに気付いてしまう。
 いくらフォルテがユイちゃんに戦いを挑んだからって、キリトが剣を下ろすとは考えられなかった。
 俺は疑問を口にした瞬間、キリトの表情が一気に曇る。

「俺の剣はフォルテに破壊されて、残ったアイテムと力はみんな奪われた……だから、俺は戦うことができない」
「なっ……マジかよ!?」
「俺はユイやジローさん達を守りたかった! でも、もう無理なんだ……!」

 悲痛な言葉を聞いただけで、キリトの憤りと悲しみが伝わった。
 キリトの身に何が起きたのかを俺は知らない。ただ、ユイちゃんに戦わせてしまい、自分が何もできないことを悔しんでいるはずだ。
 俺だって、力がなかったせいでニコを死なせたから、キリトの気持ちはわかる。今だってユイちゃんが戦うことになってしまい、どんな酷い目に遭わされてもおかしくない。
 だけど、今の俺がキリトに何を言えばいいのか、全然思いつかなかった。

「――――うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 俺の葛藤をぶち壊すような、ユイちゃんの叫び声が響く。
 顔を上げた瞬間、イニスになったユイちゃんが巨大化したゴスペルと戦っているのが見えたけど、様子がおかしかった。

「ゆ、ユイちゃん!? 大丈夫かー!?」

 俺の叫びが聞こえていないのか、ユイちゃんは答えてくれない。
 その姿に恐怖を感じる。上手く言えないけど、ユイちゃんであってユイちゃんでいなくなっているような……得体のしれない不安で胸がいっぱいになった。


 体力が 8下がった
 こころが 9下がった
 信用度が 2下がった
 技術が 10下がった

100世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:13:30 ID:KJtJ0qW.0



     3◆◆◆



「消し飛べえっ! 《ドリリングヘッド》ッ!」

 フォルテの怒号と共に、<Gospel>の頭部がドリルの如く高速回転を起こす。声量を上回る程の回転音を響かせながら、獅子の顔はユイ/イニスを目がけて発射された。
 速度と<Gospel>自身のサイズから推測すると、直撃すればユイ/イニスでもプロテクトを破壊されかねない程に驚異的な威力を誇る。《ドリリングヘッド》の回転は世界を容赦なく抉り、この憑神空間すらも砕きかねない。
 射線に位置するエネミー達が回転に巻き込まれる音を聞きながら、ユイ/イニスは冷静に次の一手に移る。迫りくる<Gospel>の頭部を高速移動で回避しながら、両腕を掲げながら突進した。

「《惑乱の飛翔》を受けなさいッ!」

 フォルテ/<Gospel>の目前に瞬時に迫って、ユイ/イニスは両腕を力強く振るう。
 キリトやアスナ達がソードスキルで数多の敵を打ち倒したように、ユイ/イニスもまた《惑乱の飛翔》による攻撃を選んだ。フォルテ/<Gospel>の巨体を崩すには、同じ規模の武器になるイニスの両腕が必要だった。
 飛行から生まれる勢いを乗せた一撃は、フォルテ/<Gospel>を吹き飛ばす。

「ぬっ……!」

 案の定、フォルテ/<Gospel>の呻き声が聞こえて、確かな手応えを感じた。
 矢継ぎ早にユイ/イニスは両腕を振り回し、フォルテ/<Gospel>の体躯を守るプロテクトに傷をつけていく。黒の剣士キリトの戦いを真似るように。
 フォルテ/<Gospel>の頭部は瞬時に再生したが、反撃を許してはいけない。そのまま、フォルテ/<Gospel>を破壊するために一撃を降り下ろそうとしたが。

「……《ゴスペルキャノン》ッ!」

 フォルテ/<Gospel>は逆上して、大きく開いた口に膨大なエネルギーが収束されていく。
 目が眩むほどの輝きを前に、ユイ/イニスは自らの姿を透明にしながら回避行動を選んだ。しかし、フォルテ/<Gospel>が放射した灼熱の勢いは凄まじく、回避が間に合わずにユイ/イニスの巨体に直撃する。

「きゃああああああぁぁぁぁっ!?」

 巨体を揺るがす程の衝撃に、ユイ/イニスは悲鳴を発しながら吹き飛ばされていく。
 元より、イニスは接近戦を得意とせず、また攻撃力及び耐久性は他の憑神と比較して高くない。その為、碑文とAIDAが共鳴し合い、爆発的な進化を果たした<Gospel>の技を一つでも受けてはプロテクトが大幅に削られてしまう。
『痛み』の信号がユイ/イニスのアバターに駆け巡るも、彼女は堪えながら体勢を立て直す。覚醒したイニスから湧き上がる力が、ユイに勇気を与えていた。

(やはり、無暗に接近するのは危険です……ここは遠距離から仕掛けていかないと!)

 不幸中の幸いか、フォルテ/<Gospel>の《ゴスペルキャノン》を受けて、距離が大きく開いている。相手が得意とする接近戦に持ち込まずに、上手く攪乱することが可能だ。
 遠く離れたフォルテ/<Gospel>に標的を定めて、無数の光弾を発射した。しかし、その全てがフォルテ/<Gospel>の周囲で静止し、そして映像の逆再生の如くユイ/イニスを目がけて反射された。

(弾丸の反射!? まさか、プリズムのような特性もAIDAは持っているのですか!?)

 ユイ/イニスは驚愕するものの、自らの速度さえ活かせば難なく回避することができる。
 問題はゴスペルが弾丸を回避する能力を持っていることだ。シノンはエージェント・スミスに立ち向かう時、プリズムというアイテムで攻撃を反射させたことがあるらしい。
 厳密にはプリズムはダメージを周囲に拡散させる効果だが、フォルテ/<Gospel>も同等のスキルを保有していると考えるべきだ。つまり、弾丸などの射撃攻撃はゼロ距離でなければ意味を成さなくなっている。
 遠距離からの攻撃は通用しないことを、ユイ/イニスは悟ってしまった。


 フォルテ/<Gospel>は自らに宿す『救世主の力』によって、ユイ/イニスの光弾を反射させていた。
『救世主の力』はマトリックスそのものを根本から変革させる程の力を持ち、救世主ネオはその力で数多の危機を乗り越えている。
 フォルテはネオを打ち倒すことで『救世主の力』を奪い取り、更なる進化を果たした。AIDAの支配すらも打ち破り、そして自ら一体化させた<Gospel>も『救世主の力』の影響を受けている。
 ネオはフォルテとの最終決戦で、『救世主の力』を利用してフォルテの弾丸を防いだ。同じように、フォルテ/<Gospel>もまた『救世主の力』でユイ/イニスが放つ光弾を静止させて反射させていた。

101世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:15:12 ID:KJtJ0qW.0



「ユイと言ったか? まさか、この期に及んで怖気付いたのではないだろうな?」

 次の一手を思考を遮るように、フォルテ/<Gospel>の冷淡な声が世界に響く。

「まぁ、それも当然か! キサマは所詮、キリト……いや、あの負け犬に成り下がった人間の娘なのだからなッ!」

 そして、フォルテ/<Gospel>の叫びに込められた確かな侮蔑を、ユイ/イニスは感じた。

「ぱ、パパが負け犬……!? 何を言っているのですか!? パパは――――!」
「ヤツはただの負け犬だ! 剣を砕かれ、全ての力をこの俺に奪われて、惨めに震えるだけの負け犬だろう? キサマに戦いを任せて、自分一人は何もせずに隠れるような臆病者だ!」
「ふざけないでください! パパを……パパを侮辱することは許しませんッ!」

 フォルテ/<Gospel>の嘲りに耐えきれず、ユイ/イニスは怒りのまま飛翔する。
 案の定、フォルテ/<Gospel>は口から衝撃波を発射するが、ユイ/イニスの機動力を活かせば回避可能だ。横を通り過ぎていく衝撃を他所に、感情のままで双剣を振るったが、フォルテ/<Gospel>は跳躍する。
 追いかけるようにユイ/イニスが振り向くと同時に、フォルテ/<Gospel>は散弾銃の如く勢いで光弾を連射したが、負けじとユイ/イニスも光弾を放つことで相殺した。

「侮辱だと? 俺は事実を言ったまでだ!
 あの負け犬は俺に敗れ、そして戦意を失っているだろう? キサマを守ると言いながら、キサマに戦いを投げ出している! もしかしたら、今もどうやってここから逃げ出せるのかを考えているかもしれないぞ?」
「そんなはずはありません! パパは今まで、どんな危機に陥ろうとも必ず立ち上がってきました! あなただって、過去に二度もパパに負けたはずです!」
「だが、この三度目は俺が勝利を手にした!
 そしてキサマの言葉が正しければ、どうして今すぐに立ち上がろうとしないのだろうな? あの時も、キサマがいなければ確実に負け犬はデリートされていた……奴は負け犬として、敗北を認めたのだ!」
「絶対にありえませんッ!」

 フォルテ/<Gospel>が侮蔑する度に、ユイ/イニスは激高と共に光弾を発射した。
 その速度とエネルギー量は先程に比べて向上しており、フォルテ/<Gospel>に着弾してダメージを与えている。まるで、ユイの怒りがイニスに共鳴しているようで、弾丸反射すらも使う余裕を与えなかった。
 フォルテ/<Gospel>の巨体が揺れると同時に、ユイ/イニスは再び突進を仕掛けて剣を叩き込もうとする。しかし、フォルテ/<Gospel>はその巨大な口でユイ/イニスの一閃を受け止めた。
 ダメージを与えられていくが、ユイ/イニスの勢いはこの程度で止められない。ただ、フォルテ/<Gospel>の撃破だけを考えていたからだ。
 ユイ/イニスはもう片方の剣を突き刺そうとしたが、身を捻ったフォルテ/<Gospel>に放り投げられてしまい、またしても吹き飛ばされる。

「くっ……まだです! まだ、私は……!」

 それでも、ユイ/イニスは瞬時に立ち上がった。
 全ては愛するパパを守るため。パパは戦えなくなっているだけで、本当はとても強いことを娘であるユイ自身が証明したい。父の命だけでなく、誇りだって守りたかった。


 もちろん、フォルテ/<Gospel>を打倒するための切り札をユイ/イニスは持っている。
 イニスの碑文に覚醒したことでデータドレインも会得したため、まともに受ければフォルテ/<Gospel>でもひとたまりもない。だが、無策にデータドレインを放っても回避されるだけであり、何よりもフォルテ自身も碑文について知っているはずだった。

(フォルテから、イニスの碑文とよく似た反応が検知できる……やはり、フォルテも碑文使いとして覚醒しているのですか!?)

 波長自体は微妙に異なるが、今のフォルテ/<Gospel>からは碑文の波動が感じられた。
 AIDAと碑文は互いに惹かれ合い、そして一つになることで力が爆発的に向上する。スミスに感染した蜘蛛のAIDAがイニスを取り込んだことで強化されたように、フォルテ/<Gospel>も碑文の影響で膨大な情報量を得たはずだ。
 しかし、フォルテ/<Gospel>の情報密度は蜘蛛のAIDAを遥かに凌駕している。碑文の他にも、何らかの力を取り込んで強化している可能性があった。

102世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:16:42 ID:KJtJ0qW.0

(だとすると、パパが戦えなくなったのはデータドレインでスキルを奪われたから……!?)

 だが、ユイ/イニスが抱くのはフォルテ/<Gospel>に対する恐怖ではなく怒り。
 フォルテは碑文使いに覚醒したことでデータドレインも手に入れて、キリトのスキルを強奪したのだろう。データドレインは防御不可能であり、システム外の力を持たないキリトでは対抗する術を持たない。

(ならば、私のデータドレインさえ使えば、フォルテからパパのスキルを奪い返すこともできます!)

 そんな突拍子もない考えが、ユイ/イニスの中で芽生えた。
 奪われたなら、奪い返せばいい。カイトもデータドレイン砲でスミスから碑文を奪ったように、イニスのデータドレインがあればキリトのスキルを取り戻せる可能性もある。フォルテ達を撃破して、レオの力を借りればキリトも復活できるはずだ。
 父の力を取り戻せる希望が芽生えた瞬間、アバターの動きを阻害する痛みが和らいだことを感じて、ユイ/イニスは自らの剣を構えて飛び上がる。

「フォルテ! あなたがパパから奪ったものを……私が絶対に取り戻します!」
「面白い……やれるものなら、やってみろ!」

 フォルテ/<Gospel>に負けないほどの闘争心を漲らせながら、ユイ/イニスは距離を詰めていく。
 ユイ/イニスは無数の光弾をフォルテ/<Gospel>に目がけて放つ。フォルテ/<Gospel>の力で全ての弾が停止し、反射させられるが問題ない。自らのアバターを透明化させれば、着弾することはなかった。
 その機動力でユイ/イニスは敵の目前にまで迫ると同時に姿を現し、巨大な双剣でフォルテ/<Gospel>を吹き飛ばす。

「むっ!?」
(いける……これなら、いけます!)

 苦悶の声を漏らす死神を前に、ユイ/イニスは確かな手ごたえを感じた。
 先程からいくども繰り返したが、やはりフォルテ/<Gospel>には幻惑の攪乱から不意打ちを仕掛ける戦法こそが有効だ。フォルテ/<Gospel>自身のパワーは驚異的だからこそ、機動力と幻惑を活かして回避し続けることができる。

(やっぱり、私が強く願う度にダメージ量も増えています! ならば、いずれフォルテを撃破することも不可能ではありません!)

 光弾の威力と速度は向上し、剣の重みも増していた。
 月海原学園で得た情報によれば、碑文使いの感情に呼応して憑神もまた力を増幅するらしい。ならば、ユイの怒りに応えてイニスも力を増幅し、ダメージも増えたと考えるべきだ。
 やがて、碑文使いの心の闇を増幅させるが、比例してイニス自身も強化されるはず。ユイがフォルテに対する怒りを燃やす程、いずれイニス自身も相応の力を発揮する。

「覚悟しなさい、フォルテ! 私はあなたを絶対に許しませんし、パパを侮辱した罪はその命で償ってもらいます!」

 激情に比例してイニスの紋章も激しく輝いて、世界は大きく震えた。
 碑文から膨大な力が無限に溢れ出し、気持ちが昂っていく。このまま力を得れば、フォルテやオーヴァンだけでなく、このゲームを仕組んだGMもろとも世界全てを破壊できそうだ。

「手始めとしてフォルテを破壊して、それからママの敵討ちにオーヴァンを跡形もなく消し飛ばしてみせます! 私の力なら――――!」

 ――――その叫びは、唐突な鼓動によって遮られる。
 ノイズと共に時間が静止し、自分自身が遠くに放り込まれるような奇妙な感覚を抱いた。
 一体何が起きたのか? そんな違和感が生まれた瞬間、イニスの大きな叫び声が耳に響く。

「えっ……? 何が起きたのですか?」

 そんな疑問を他所に、イニスはフォルテ/<Gospel>に飛びかかった。
 ユイの意思を無視するように暴れて、双剣を振り回す。怒涛の勢いで振るわれる刃はフォルテ/<Gospel>の巨体を確実に抉っていくも、敵は灼熱を発射してイニスを吹き飛ばした。
 イニスは僅かに呻き声を漏らすが、ユイは痛みをほとんど感じない。ただ、猛獣のように暴れるイニスがフォルテ/<Gospel>と戦う光景を、俯瞰するように見るしかなかった。

103世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:19:47 ID:KJtJ0qW.0

「ど、どうして……!? どうして、イニスをコントロールできないのですか!?」

 ユイは気付かない。
 怒りと憎しみによって強化されたイニスが、ユイではコントロールできないほど暴走したことを。
 憑神は碑文使いの感情に呼応して強化される。ユイ自身の考案は間違いではないが、憑神は心の闇を増幅させる意味を真に理解していなかった。負の感情に任せて力を振るえば、いずれ憑神が制御できなくなる程に暴走する。
 ユイは高性能を誇るAIであり、キリトやアスナたちの戦いを幾度も見守り、時にアドバイスを行った。しかし、ユイ自身が戦闘に参加した経験は非常に少なく、その為に自らが力に溺れる可能性に至らなかった。
 加えて、フォルテからの嘲りで怒りが更に湧き上がり、力を発揮することを優先してしまう。ユイ自身はイニスから与えられた力に溺れ、復讐を優先してもっとも大事な覚悟を失ってしまった。


 大切なもの失う覚悟と、大切なものを守る覚悟。その二つを。


『ガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!』

 そんなユイに対する罰や嘲りのように、イニスは咆哮し続けた。
 フォルテ/<Gospel>から与えられるダメージなど気にも留めず、巨大な剣を振るって攻撃をし続ける。その姿は凶悪なボスモンスターと変わらず、これほど醜い怪物が自分から生まれたことがユイには信じられなかった。
 フォルテ/<Gospel>を確実に押していくが、その姿にユイは恐怖を抱いた。

「待って! 待ってください、イニス! 私の言うことを聞いてください!」

 先程までの怒りや戦意が嘘のように、不安の表情でユイは叫ぶが届かない。
 自分の願いを叶えるように力を発揮しているが、これは違う。だからイニスの名前を呼び続けるけど、その叫びを無視して攻撃し続けていた。
 やがてフォルテ/<Gospel>を遠くに吹き飛ばす。それほどの力が発揮されたことに、今のユイは恐怖で震えていた。

「ククク……そうだ! その力だ!
 キサマが力を振るってこそ、破壊する意味がある! 俺と同じように、破壊し続けろッ!」

 愉悦を込めたフォルテの叫びは、ユイの心を深く抉る。

「ち、違います……! 私は、パパ達を守りたかったから……! 破壊するために、イニスの力を使ったのではありませんっ!」

 必死に否定するユイの呼吸は荒くなるが、その声を聞く者は誰もいない。後ずさろうとしても足は動かず、むしろイニスの暴走は激しくなる。
 一方、フォルテ/<Gospel>は《ゴスペルキャノン》を発射するが、イニスは天に高く跳躍したことで軽々と回避した。
 そのままイニスがフォルテ/<Gospel>を見下ろした瞬間、ユイは見てしまう。ユイが守りたかったキリト達が、不安そうにイニスを見上げる姿を。

「ぱ、パパ……!?」

 ユイが名前を呼ぶと同時にイニスの周囲にエネルギーが集まった。
 圧倒的な輝きとエネルギー量が感じられた瞬間、ユイの全身に悪寒が走る。

「ま、まさか……! やめてください、イニス! あそこには、パパ達がいます!」

 だからユイは必死に叫ぶが、イニスは止まらない。

104世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:22:18 ID:KJtJ0qW.0

「逃げてください、パパ! ここからすぐに逃げてください! このままじゃ、イニスが……パパ達を……パパ達を……!
 逃げて、パパ! 逃げてええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 せめてキリト達だけでも逃がしたかったが、ユイの叫びは誰にも届かない。
 暴走したイニスに捕らわれた彼女の声は、もう誰も聞くことができなかった。

『グガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!』

 無情にも、ユイの願いを踏みにじるようにイニスはエネルギーを開放した。
 同じタイミングでフォルテ/<Gospel>が口から発車した灼熱と衝突し、盛大な爆発を起こして世界を容赦なく震撼させる。
 しかし、フォルテ/<Gospel>から外れた光弾が、キリト達を目がけて進んでいた。

「パパああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ユイの悲鳴と共に、光弾が爆発を起こす。
 自分のせいでパパ達を傷付けてしまったのか? フォルテ達を相手に戦えるという驕りが、この結果を招いたのか?
 こんなのは違う。ただ、パパを守るために戦いたかっただけで、こんな結末を望んでいたわけがない。その願いを叶えてくれるために、イニスは力を貸してくれたのではないのか?

「来たれ、『再誕』――――――――コルベニク!」

 ポーン、と唐突に響いたハ長調ラ音と共に、唯一にして最悪の救世主の名前が宣言される。
 続くように、<蒼炎の守護神(Azure Flame God)>を遥かに凌駕する情報密度と共に、神々しい純白の輝きが世界を照らした。光はほんの一瞬で収まった瞬間、ユイ/イニスとフォルテ/<Gospel>を遥かに凌駕する巨神が顕在していた。

「『再誕』のコルベニク…………オーヴァンなのか!?」

 圧倒的な存在感を放つ巨神に息を呑んだ瞬間、男の声がユイの耳に響く。
 我に返りながら振り向くと、キリト達の姿が見えた。現れた巨神は、まるでキリト達を庇うように顕在しており、思わず安堵を抱いてしまう。

「その通りさ。お前にこの姿を見せるのは、これで二度目になるな」

 しかし、続くように発せられた男の低い声で、ユイの心はほんの一瞬で憎しみに染まる。
 何故なら、この男は愛する母・アスナの仇であり、キリトを絶望のどん底に叩き落とした憎きオーヴァンだからだ。事実、キリトからも名前を呼ばれていて、何よりも巨神の左肩からは生えたどす黒い爪はAIDAの反応が感じられる。

「ま、まさか……オーヴァンにパパを助けられた……!?」
「どうやら、俺はユイからキリトを守った恩人になってしまったみたいだ。あと一歩遅かったら、キリト達はユイに殺されていたからね」

 オーヴァン/コルベニクにとっては何気ない一言で、言葉では言い表せない衝撃と共にユイを絶望へ叩き落とした。
 母の仇によって、父の命を助けられてしまう。しかも、父の命を奪おうとしたのは他ならぬ娘自身だ。信じたくなかったけど、オーヴァンの言葉は全て紛れもない真実で、否定できない。
 このままオーヴァンがコルベニクを顕現させなければ、確実にキリト達の命は奪われていたから。

「お前が恩人だと!?
 ふざけるな! お前は、アスナやシルバー・クロウ達の命を奪い、黒雪のことも傷付けただろうが!?
 そんなお前を恩人と認めてたまるかっ!」
「だが、事実としてお前達はユイに殺されかかった。暴走したユイから戦えないお前達を俺が守ってやったことに、何の間違いがあるんだ?」

 キリトは必死に叫んでくれるが、オーヴァンはあっさりと切り捨てる。 
 オーヴァンの言葉は毒のようにユイを蝕んでいき、その瞳から澎湃と涙が溢れ出した。高性能のAIであるが故に現実逃避も許されず、ただ事実を受け入れるしかない。
 醜い怪物となった娘から愛するパパを守ってくれたのは、他ならぬオーヴァンであることを。

105世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:23:55 ID:KJtJ0qW.0

「オーヴァン……キサマ、何のつもりだ!?」
「悪いが、これ以上は見ていられない。ここで終わらせてもらうぞ」

 フォルテ/<Gospel>の叫びを無視して、オーヴァン/ゴスペルはイニスに振り向く。
 本能で何かを察したのか、イニスの狂気が僅かに揺らぐ。僅かに芽生えた隙を付き、オーヴァン/コルベニクはイニスを遥かに凌駕する速度で突貫しながら、左肩に宿る<Tri-Edge>を振るった。
 イニスは双剣を交差させて防ごうとするが、<Tri-Edge>の一閃に打ち負けてしまう。がら空きになったイニスの体躯を目がけて、<Tri-Edge>の爪が振るわれ続けて、ユイの視界が大きく揺らいだ。

「きゃああああぁぁぁぁぁっ!?」
「ユイ!? ユイいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ! やめろ、オーヴァン! やめてくれえええぇぇぇっ!」

 ユイの悲鳴とキリトの叫びが重なるが、<Tri-Edge>は止まらない。<Tri-Edge>が力を発揮すれば、暴走したイニスなど赤子も同然だった。
 例え暴走して力が増幅したイニスだろうとも、オーヴァンは元より戦闘スタイルを把握している。また、コルベニクは”最強の憑神”と畏れられており、<Tri-Edge>はコルベニクの影響で突然変異体となった0番目のAIDAだ。
 圧倒的な戦闘力はもちろんのこと、憑神の切り札であるデータドレインすらも通用せず、また撃破されても『再誕』で復活することが可能だ。元より戦闘力で劣り、また手札は全て把握されているイニスにコルベニクを倒す方法は存在しない。

「終わりだ」

 反撃はおろか、防御や回避すらも許さない<Tri-Edge>の一閃により、イニスの勢いは弱まる。そしてオーヴァン/コルベニクは頭上に渦球を形成し、炸裂させて無数の針をイニスに突き刺した。
《掃討の魔針》を正面から受けて、何かが砕ける音を耳にした瞬間、ユイは自分から力が失っていくのを感じる。
 元より、フォルテ/<Gospel>との戦いで消耗した所に、圧倒的な力を誇るオーヴァン/コルベニクと<Tri-Edge>の攻撃を受けたことで、限界を迎えてしまった。
 プロテクトブレイクで世界が砕け散り、ユイは何も言えないまま落ちていった。



     †



「……あ、うぁ……っ……」

 イニスの顕現が解除されて、ユイは地面に倒れ伏せている。
 ダメージは深いだろうが、少なくとも致命傷ではない。コルベニクと<Tri-Edge>は手加減させたが、フォルテ/<Gospel>に深手を負わされている危険があり、またこれ以上の暴走は自滅の危険がある。
 ユイだけではない。タルヴォスの碑文に覚醒したフォルテも暴走するリスクが存在した。碑文を同時顕現させては暴走する危険が高まるため、オーヴァン/コルベニクは早期決着を選んでいる。
 その甲斐があってか、こうしてユイのアバターは消去されずに済んだ。

「……ぱ、ぱ…………わた、し、は……」
「悪いが、君には眠ってもらおう。月の下で穏やかに休むといい」

 呻き声を漏らすユイに向けて、オーヴァンは月のタロットを使う。
 敵を睡眠状態にする効果があり、ウラインターネットに位置するショップで購入していた。顕現の解除後に抵抗させないため、月のタロットで眠らせる必要がある。コルベニクの乱入が遅れたのも、ショップに向かっていたからだ。
 また、導きの羽や完治の水も購入して、自らのポイントが0になったが構わない。出し惜しみなど下らないし、今は迅速な帰還とユイの治療が最優先だ。

「待て、オーヴァン! キサマ……俺の勝負に水を差すつもりか!?」

 案の定、フォルテは喰ってかかる。いつの間にか、フォルテも<Gospel>を解除したことで、世界は完全に元通りとなっていた。
 コルベニクに警戒したのか、イニスとの戦いで割り込まなかったことが幸いだ。フォルテの相手をしながら、ユイを確保するのはオーヴァンでも骨が折れる。
 だが、一応はフォルテを説得するべきだろう。

「忘れてはいないか? 俺達の目的は最初からユイを確保することで、君もそれを了承したからキリトと戦えたはずだが?」
「ぬっ……」
「俺はユイを連れて先に戻るから、後は君の好きにしてくれ。ちょうど、キリト達も揃っているしな」

 オーヴァンが説得したら、不承不承だがフォルテも受け入れたようだ。
 そしてユイの体を抱えながら導きの羽を手に取り、帰還の準備を整える。もうここには用がない。

「待て、オーヴァンッ! ユイを……ユイを返してくれ!」
「ユイちゃん!」

 案の定、キリトとジローの叫びが聞こえてくるが振り向かない。
 フォルテと戦うことができず、ただ無様に泣き叫ぶだけの彼らなど興味がなかった。戦意も既に感じられない。
 故に、オーヴァンは導きの羽を使って、ユイと共にこの場から去っていった。

106闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:24:57 ID:KJtJ0qW.0


     4◆◆◆◆


「ユイイイイイイィィィィィィィィィィィィィッ!」

 オーヴァンに捕らわれて、そのまま消えてしまったユイちゃんを前にキリトは泣き叫んでいる。
 俺も悔しかった。何もできず、みんなが傷付いていく姿をただ見ていることしかできなかった無力さに。

「フン……ここまで惨めな姿を晒すとは」

 そして俺達の道を塞いでいたフォルテは、心の底から軽蔑した目線で俺達を睨んでいる。
 しかし、圧倒的な殺意はそのままで、構えているバスターには膨大なエネルギーが集まっていた。今のフォルテなら、俺達3人をすぐに殺せるはず。

「……人間、キサマは一体なんだ?」
「えっ?」

 そんな中、フォルテが予想外の言葉を口にしてきたことで、俺は呆気に取られてしまう。

「キサマの中から、キサマと全く同じ声がもう一つだけ聞こえている。まさか、何者かがプラグインでもしているのか?」
「なっ……!? お前、もしかして『オレ』のことを……!?」
「まぁ、どうでもいいさ。キサマ如きが、俺を止められる訳がないからな」

 フォルテの言葉に俺は動揺した。
 あいつは俺の中にいる『オレ』に気付いている。どんな能力を使ったのか知らないけど、フォルテは俺の心を読んで『オレ』の存在にたどり着いたのだ。
 しかし、俺達が戦う手段を持たないことを察したのか、すぐに興味をなくす。

「跡形もなく消えてしまえ」
 フォルテが収束したエネルギーが俺達に向けられて、放たれるまであと僅かだ。
 もう、俺達にどうすることもできない。キリトはユイちゃんを奪われて戦意喪失し、黒雪姫は未だに眠り続けている。もちろん、俺にこの危機を乗り越える力など持っていなかった。

『……ジローさん!? 聞こえますか、ジローさん!? 一体、何が――――』

 世界が元に戻ったおかげか、ようやくレオの通信が聞こえてくる。
 でも、レオでもどうすることもできない。今から駆けつけても間に合う訳がないし、何よりもユイちゃんを奪われてしまったのだから。
 俺が殺されるのはこれで2度目になるけど、今度は走馬灯すらも見えない。だから、せめてパカのことだけでも考えたかった。

(ごめん、パカ……やっぱり俺は――――)

 大切な少女の笑顔を思い出そうとした瞬間、唐突に世界が大きく振動する。
 膨大なノイズと共に、俺の意識ごと足元が崩れ落ちることを感じて、すぐに何も見えなくなった。


     5◆◆◆◆◆


「ミッションクリアおめでとう、オーヴァン。確かにユイの身柄を確保できたようだね」

 導きの羽を使って知識の蛇に帰還した途端、榊が満足げな表情で出迎えてくる。
 彼だけではない。白衣の男……トワイス・H・ピースマンと見知らぬ金髪の少女も並んでいた。

107闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:28:53 ID:KJtJ0qW.0
「私の名はアリス。榊やトワイスと同じ、GMの一人です。以後、お見知りおきを」

 オーヴァンの疑問に答えるように、アリスと名乗った少女は前に出る。 
 華奢な体躯を黄金の鎧で纏い、装飾の至る所には青色が混ざっていて、どこか中世の騎士を彷彿とさせるアバターだ。
 アリスにユイを渡すと、深く礼をする。この態度から考えて、彼女がGMの監督役である可能性が高かった。

「俺は君達の仲間になったからには、これくらいのことはしないとね。これで、君の評価は上がったかな?」
「あなたが余計なことをしない限り、私は何も言いません。ユイを確保したことについては、高く評価しています」

 鎌をかけてみたが、アリスは特に動じない。無論、彼女が口を滑らすとも思えなかったので、問題ないが。

「それにしても、やはりオーヴァンは期待通りの働きをしてくれるね。
 フォルテもあと少しで合格だったのだが、やはりキリトとの勝負を優先させた……まぁ、ユイさえ確保できれば問題ないのだがね。
 もう、彼らはゲーム崩壊に巻き込まれたのだから。表向きには敗退扱いにするが、生存の可能性もあるから探索だけはするつもりだ。
 もっとも、ネットスラム自体は修復不可能だし、何よりも役目を終えたエリアだから修復の必要もないが」

 榊の称賛を受けても、オーヴァンは特に何も感じない。
 オーヴァンが帰還してすぐに、ネットスラムは完全崩壊したようだ。元々、ネットスラムではフォルテやスケィスゼロが幾度も暴れたことで、崩壊は更に進行する。
 一応、メンテナンスの度に修復したようだが、あくまで表向き。そんな状態で憑神やAIDAなどが力を発揮したことでネットスラムの至る所に亀裂が走り、コルベニクがイニスと戦った頃には崩壊寸前だった。
 もしも、オーヴァンがあと一歩でも遅れていたら、ユイも崩壊に巻き込まれた危険もあったらしい。

「榊、俺はこれから岸波白野達を探すために破壊された学園に向かう。今後のためにも、彼らの居所を探った方が得だと思うからね」
「それもいいかもしれないね。
 では、君には対主催生徒会の捜索を命じよう。いい結果を待っているよ」

 オーヴァンの提案に榊が頷く。
 これで、今後の行動方針が定まった。オーヴァンとしても、対主催生徒会と接触する機会を狙っていたので、動きやすくなる。

「さて、お喋りもいいが我々にはまだやるべきことがあるはずだ。榊、アリス……ユイを連れて、例の場所に向かおうじゃないか」
「そうだったね、トワイス。
 ユイも手に入れた以上、我々の計画も大幅に進む。要である彼女をデスゲームに生き残らせたのだから、相応の成果が得られる。
 その報酬として、オーヴァンの移動範囲が増えるだろう……その先で何が待っているか、我々も把握しきれないので気を付けてくれよ」

 得意気な笑みを浮かべる榊と、相も変わらず表情を動かさないトワイスはカオスゲートに向かい、何処かへ去っていく。
 残るアリスはオーヴァンに警戒の視線を向けた後、ユイを抱えながら知識の蛇から去っていった。

「……どうやら、あまり時間は残されていないようだ」

 そう呟いたオーヴァンもまた知識の蛇から去っていく。
 ユイの確保に成功したことでGMの計画は確実に進行した。デスゲームの『真実』に辿りつく時まで遠くないが、オーヴァンからすれば準備不足に等しい。
 榊らの語った”計画”の全貌は未だに知れず、またこちらの戦力も不充分だ。現段階でGMとの戦いに突入しても勝ち目は薄い。だからこそ、岸波白野達のヒントが残されているであろう月海原学園を調査する必要があった。
 その為にも、向かうべき場所もある。


     †


 オーヴァンが辿りついたのは『忘刻の都 マク・アヌ』にて顕在する巨大な塔の前だった。
 不気味な威圧感を放つ塔の扉に触れた瞬間、先程とは異なって侵入することができるようになった。恐らく、ユイを確保した報酬としてGMから権限を認められたのだろうが、今はまだ侵入しない方が良さそうだ。
 榊とアリスから釘を刺された以上、現段階では侵入自体が罠であるリスクが高い。

108闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:30:00 ID:KJtJ0qW.0

(今はこの忘刻の都……そして、ここで出会った”あの人物”のことを交渉の道具にしなければいけない。俺が求める『真実』を得るには、彼らの力が必要不可欠だ)

 恐らく、対主催生徒会はユイがGMの手に落ちたことを把握しているはず。
 彼らにユイの居所を教え、そして忘刻の都の情報を提供すれば交渉に応えるだろう。追跡者についても、ユイを取り戻す為ならこちらの要求を飲まざるを得ない。

(その為にも……もう一度だけ会う必要がある)

 オーヴァンの願いに応えるように、忘刻の都にノイズが走った。
 そして空気が静止する中、足音が聞こえてくる。新たに感じた気配に笑みを浮かべながら、オーヴァンは振り向いた。
 案の定、”あの人物”が現れる。

「やはり、君か――――――」

”あの人物”を前に、オーヴァンは…………



【?-?/知識の蛇→?/一日目・真夜中】


※システム外の力が振るわれ続けた影響で、ネットスラム全域が修復不可能なほどに完全崩壊しました。
※キリト、ブラック・ロータス、ジロー、フォルテの4名は崩壊に巻き込まれて消息不明になっています。表向きでは敗退扱いとなります。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP0%、PP0%、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ/通常アバター、イニスに覚醒、自分自身に対する絶望、睡眠中
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:?????????
0:?????????
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。
※キリトを守りたいという気持ちに応えて、イニスの碑文が覚醒しました。

109闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:30:45 ID:KJtJ0qW.0

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:バトルロワイアルを完遂させ、己が目的を達成する。
2:再構築したロックマンを“有効活用”する。
3:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第二相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。


【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。


【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。

110闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:31:58 ID:KJtJ0qW.0


【?-?/忘刻の都/一日目・真夜中】



【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP40%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:現れた人物と話をする。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
6:月海原学園に向かい、GMの隙を見て対主催生徒会と交渉する。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※スケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。
※榊からこのデスゲームの黒幕がモルガナであることと、その目的を聞きました。
 しかし、それが本当に“真実”の全てであるか疑問を抱いています。
※忘刻の都の塔に侵入可能となっています。


【????@??????】


支給品解説
【月のタロット@.hack//G.U.】
指定した相手1体を睡眠状態にする。

111闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:33:32 ID:KJtJ0qW.0



     6◆◆◆◆◆◆



「あれ……ここは……?」

 倦怠感と痛みを感じながら、ジローは瞼を開いた。
 足元が崩れて、そのまま落下したことで意識を失っていたらしい。
 まさか、俺は死んだのかと背筋が凍ったが、意識はある。すぐ隣では黒雪姫が倒れたままだ。

「く、黒雪姫……! 黒雪姫、しっかりしてくれ! 黒雪姫!
 キリトは……キリトはどこなんだ!? キリト、いるなら返事をしてくれ! キリトッ!」

 黒雪姫のアバターを揺すっても、彼女は目を覚まさなかった。
 キリトのことも探したけど、彼の姿は見当たらない。周囲を見渡してみたけど、人の気配は感じられなかった。
 不幸中の幸いか、フォルテはいないので狙われることはなさそうだ。

「な、何なんだよここは……どうして俺達がこんな場所にいるんだ……!?」

 そして、周囲に漂う冷たくて重苦しい空気を感じて身震いする。
 空想上で語られる地獄の中に放り込まれたようで、ただの人間に過ぎない俺は不安になった。レオに通信してみるが、俺からのSOSは届かない。
 迷子のように動揺していて、これから何をすればいいのか考えられなかった。黒雪姫は起きないし、さっきの件で不貞腐れたのか『オレ』は口を開かない。

「…………そういえば、フォルテはなんで『オレ』のことに気付いたんだ?」

『オレ』を思い出すと同時に湧き上がる疑問。
 まるで『オレ』を察知したかのようだったが、『オレ』は俺の深層であるので誰かが気付ける存在ではない。それこそ、心を読まない限り不可能だ。
 だけど、ここにフォルテがいない以上は考えても仕方がない。今は黒雪姫やキリトを助けて、レオ達にユイちゃんが捕まったことを伝えるべきだ。

「どうすれば……?」

 その時、俺の視界に大きなシルエットが飛び込んでくる。
 先程、俺達がいたネットスラムには存在しなかったような建築物のようだ。もしかしたら、あそこに誰かがいるのか?
 そんな僅かな可能性を賭けて、一歩前に踏み出した瞬間。

「…………な、なんだよこれは!?」

 その異様な光景に、俺は絶句した。


 体力が 40下がった
 こころが 13下がった
 変化球が 9下がった
 やる気が 20下がった


【?-?/????/一日目・真夜中】

112闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:35:13 ID:KJtJ0qW.0

【Bチーム:ネットスラム攻略組】
※ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ゲームの表エリアの外に放り込まれました。


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP数%/デュエルアバター 、強い憎しみと悲しみと絶望、零化現象、《異形の聖痕》が刻まれている
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、蒸気バイク・狗王@.hack//G.U. 、不明アイテム×1
[ポイント]:358ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:――――――――――――
0:――――――――――――
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。
※《異形の聖痕》が刻まれ、自分の無力感に絶望して零化現象が起きました。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×1@.hack//G.U. 、不明支給品0〜1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:なんだよ、これ…………!?
1:今は黒雪姫を守りながら、レオ達の元に戻りたい。
2:ユイちゃんの事も、守りたかったけど……。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

113闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:37:57 ID:KJtJ0qW.0


     7◆◆◆◆◆◆◆



 フォルテは翼を羽ばたかせて飛んでいた。
 ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ゲームの外に放り込まれても飛び続けている。
 まだ、戦いは終わっていないからだ。

「……俺が生きているなら、奴らも生きている可能性が高そうだ」

 自らの生存を根拠に、先のネットスラムで戦っていた人間達も今もどこかにいるとフォルテは確信していた。
 だが、無様な負け犬をわざわざPKする気にならず、あれほど湧き上がっていたキリトに対する怒りも冷め切っている。もはや、名前を口にする気力すらも沸かない程に失望していた。
 もちろん、何か残されたスキルがあるかと警戒して、思考予測で3人の脳内を覗き込んだ。その結果、ジローと呼ばれた人間の中に別の人格が潜んでいることは判明したが、フォルテからすれば弱者に変わりはない。

「もっとも、今となっては負け犬どもはどうでもいいが」

 あの負け犬がまた新たなる力を持って挑むのであれば、徹底的に破壊してもいい。しかし、その可能性には期待できないだろう。
 何故なら、オーヴァンにユイが連れて行かれる時も、惨めに泣き叫んでいただけだから。
 自らの怒りを無意味にされたも同然だが、もう負け犬どもに興味はない。惨めに朽ち果てようとも、知ったことではなかった。

「ヤツらに使ったこの力……人間相手ならば充分だろうが、まだ足りない。
 これだけでは、オーヴァンや榊……そして“災い”を破壊し尽くすには足りないな」

<Gospel>と《ダークフリーズオーラ》、そして《データドレインG.A.P》で先の戦いを優位に進めることができた。しかし、全てを喰らうには不充分だろう。
 オーヴァン/コルベニクとの決着をつけるにしても、相討ちまたは満身創痍になった上での勝利は避けられない。AIDAと碑文を喰らったからこそ、オーヴァン/コルベニクの異質さが理解できた。
 また、ゲーム外に放り込まれてから“災い”……―――の気配は更に強まっていき、殺気も高まっている。ネットスラムでの戦いも、“災い”にとっては児戯に等しく、その気になればすぐにでも集まったプレイヤー達を奈落に放り込めたはずだ。

「だからこそ、俺は力を手にしなければいけないッ!
 俺が手に入れられる力はこんなものではないはずだ! まだ、どこかにあるはずだ……俺を強くして、そしてより強大で完璧な存在にさせる力があるはずだ!
 その全てを手に入れるまで、俺は戦い続ける! そして、最強の存在になってみせるッ!」

 ただ、力を求めていた。
 どこかに、更なる進化を果たすための力があるはずだ。GMが用意した駒から力を奪ってもいいし、あるいはネットの海から新たなる力を探す必要もある。
 今はただ、“災い”に立ち向かうための新たなる力だけが必要だった。
 
「俺は強くなる……そして、全てをデリートする! 例え何者が待ち構えていようとも、俺は負けない!
 キサマがいかに強大だろうと、俺はそれを超えてみせる! 待っていろ……―――ッ!」

 預言の力で存在を知った“災い”……―――の姿を思い浮かべながら、フォルテは飛び続ける。
 “災い”がどれだけ強大だろうとも、その闘争心が衰えることはありえなかった。

114闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:40:15 ID:KJtJ0qW.0



【?-?/????/一日目・真夜中】



【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP30%、激しい憤怒、心意覚醒、憑神覚醒、キリト達に対する失望
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ユウキの剣、死銃の刺剣、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×3@.hack//G.U、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド 、プリズム@ロックマンエグゼ3、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜5個(内0〜2個が武器以外、1個が水系武器なし)、参加者名簿、基本支給品一式×3
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:今は新たなる“力”を得るために戦う。
1:すべてをデリートする。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
4:オラクルが警告した“災い”とやらも破壊する。
5:負け犬の人間どもに興味はないが、力を取り戻したなら相手をしてやってもいい。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
 またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
 心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
 また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
 これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。
〇AIDA<????>の減速空間の効果により、フォルテと隣接するプレイヤーの速度を自動的に減速させることが可能です。フォルテから離れれば減速から解除されます。
○エネミー及び破壊されたネットスラムのデータを捕食した結果、AIDA<Gospel>は成長しています。
※オラクルを吸収し、預言の力を獲得しました。未来予測に伴い、特定プレイヤーの思考すらも予測することが可能です。ただし、乱発すると相応の負荷がかかります。
※オラクルが警告した“災い”の姿を予言しましたが、現段階では断片のみしか見えていません。今後、どうなるかは後の書き手にお任せします。
※オーヴァンから『忘刻の都 マク・アヌ』にて得た"情報"を聞きましたが、それほど重要視していません。
※《データドレインG.A.P》を使い、キリトからスキルとアバターを奪い取りました。
※思考予測からジローの深層意識に気付きましたが、あまり興味がありません。

115闇に沈む心 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:44:49 ID:KJtJ0qW.0


     8◆◆◆◆◆◆◆◆



 ネットスラムの崩壊によってゲーム外に放り込まれた者達は生きていた。
 ジローとブラック・ロータス、フォルテはそれぞれ異なる未知のエリアに放り込まれて、新たなる道を歩もうとしている。
 そして、最後の一人であるキリトもまた、表エリアからでは把握できないエリアに流れ着いていた。


 未だに眠り続けている彼の傍らには、サチが残したクリスタルが転がっている。
 キリトがクリスタルに手を指をつければ、いつでもそのメッセージを聞くことができるだろう。その時、彼にどんな感情を与えるのかは誰にもわからない。


 彼は多くのものを失い続けた。
 最愛の人を殺され、仲間達は次々とPKされてしまい、そしてたった一人の愛娘も仇敵に奪われた。
 大切なものを守るための力すらも失った彼が目覚めた時、何を思うのか。


 そんなキリトを悲しげな表情で見つめる人物がたった一人だけいた。
 目覚めたキリト深い絶望を味わい、そんな彼のために何もできないことを知っている。
 だからこそ、誰の手も届かないこのエリアに転送するしかなかった。このエリアならば誰の目にも届くことはないし、キリトが戦うこともない。
 ネットスラムの崩壊により、GM達の目をほんの一瞬だけ誤魔化すことができたので、このエリアにキリトを匿った。その場しのぎでしかないが、キリトを救う方法は他にない。
 


 ただ、今はキリトだけに目を向けていられない。
 GMはユイの確保に成功して、デスゲームも既に第三段階に突入しようとしていた。“波”は止まることがなく、xxxxが訪れるまで近い。
 今は自らのやるべきことを果たすため、この場を去った。このエリアに干渉できるのはたった一人しかいないため、今のところは他のGMに存在を気付かれることもない。


 自らを見つめていた人物に気付かないまま、キリトは未知のエリアで眠っていた。



【?-?/????/一日目・真夜中】
※何者かによってキリトはゲーム外のエリアに転送されました。
※現段階ではGMからも捕捉されることもありません。


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP40%、MP80%、疲労(大)、気絶/SAOアバター、データ完全初期化
[装備]:なし
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、サチのクリスタル@ソードアート・オンライン
[ポイント]:200ポイント/0kill(+1)
[思考・状況]
基本:――――――――
0:――――――――
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※ALOアバター及びGGOアバターの変更ができなくなりました。
※《データドレインG.A.P》を受けたことで、全てのスキルとアイテムをフォルテに奪われて、また共有インベントリと通信システムの設定も消えています。
※折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンラインが奪われなかった正確な理由は不明です。
※ダークリパルサー及びエリュシデータ@ソードアート・オンラインが破壊されました。
※傍らにサチのクリスタル@ソードアート・オンラインが落ちていることにまだ気づいていません。

116 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:46:02 ID:KJtJ0qW.0
以上で投下終了です。
ご意見などがありましたらよろしくお願いいたします。

117 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/27(土) 18:22:31 ID:VIH9T4K.0
VRロワの皆様にご報告を。
今回の投下作の収録において、最後のキリトパートなど◆NZZhM9gmig氏の更正が入った方を収録させて頂くことを報告させて頂きます。
◆NZZhM9gmigとの話し合いの結果、今回の話は事実上の合作となったため、投下時と収録後で内容が異なることをどうかご了承くださいませ。
最後に、今回の話を執筆するにおいて様々なご提案をして頂いた◆NZZhM9gmig氏に、心より感謝を申し上げます。

118名無しさん:2020/06/28(日) 00:26:46 ID:lV.sqAvY0
投下および構成・収録乙でした

119 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 19:55:48 ID:mqM5Fyzc0
これより予約分の投下を開始します。

120宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 19:57:08 ID:mqM5Fyzc0
     1◆


「何なんだよ……この、どす黒い樹は!?」

 天に向かって雄々しくそびえ立つ“それ”を前に、堪らず俺の体が震えてしまう。
 俺が建築物だと思って近づいたそれは、建築物などではなく、巨大な大樹だった。だが、どう考えても普通の……自然に成長した植物ではない。

 大樹はあらゆる樹皮と枝が黒く、高さは暗黒色と濃紫、そして群青をかき混ぜた冥い空のせいで天辺が視認できない。
 空気は光と闇の両方を遮る程に重苦しく、大きく吸えば全身が鉛になりそうで、空の色と合わさって薄気味悪い雰囲気を見事に演出されている。
 そして何よりも、一枚の葉っぱもない大樹の枝には、蓑虫を彷彿とさせる何かが大量に生えていた。

「枝に生えているのは木の実……じゃない。あれは……まさか、人!? 人が枝から吊るされているのか……!?」

 だが目を凝らして見えるのは、蓑虫なんて生易しいものじゃない。鳥かごを彷彿とさせる巣の中に、人間がぶら下がっているというおぞましい光景だ。
 しかも、一人だけじゃない。数えるのも億劫になる程、生身の人間が惨たらしく干されていて、その全てがどす黒く染まっていることもおぞましさに拍車をかける。

「あ、あ、あ、あ、あ…………うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 俺はたまらず、腰を抜かしながら絶叫した。
 これまで、デウエスやオカルトテクノロジーにまつわる超常現象に関わり、そしてこのデスゲームでも困難を乗り越えたから、心が強くなっているつもりだった。
 しかし、目の前の黒い大樹から与えられる生理的嫌悪感は、そんな俺の心を折るには充分だった。

「ひ、ひいっ……何なんだよ……何で、こんなのがあるんだよっ!?」

 仮想世界の住民である今の俺でも、生身の肉体みたいに嘔吐する。
 口から溢れ出た嘔吐物の演出も妙にリアルで、ただ嫌悪感が無意味に溜まる。続くように、瞳からは涙も流れた。
 胸が重くなる苛立ちに、子どものように叫ぶしかない。

『――――ジローさん! 聞こえますか、ジローさん!?』

 そんな俺を助けるように、待ち望んでいた声が聞こえる。
 レオの通信が届いたことに気付いた瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。

「……レオ? レオなのか!? 俺だ、ジローだ!」
『ジローさん! よかった、無事だったのですね。急に皆さんの反応がロストしたので、とても心配しました。
 ですが、こうして通信が回復したのなら幸いです。ジローさん、手早く状況を説明してもらえませんか?』
「状況は……俺にもよくわからない。いきなりネットスラムが崩壊して、それで……。
 ユイちゃんがオーヴァンに攫われて、キリトも……死んではいないはずだけど、今どこにいるかは……。
 それに、黒雪姫がオーヴァンに重傷を負わされて、目を覚ましてくれないんだ……! アバターにも酷い傷痕が残ってるし……」

 助け船が来たことで心が軽くなり、俺は必死に話す。
 ここがどんな場所なのかわからないし、上手く説明できる自信もない。せめて、何があったかだけでも伝える必要があった。

『……なるほど、わかりました。キリトさんとユイさんのことは、ひとまず後にしましょう。
 まずは黒雪姫さんです。詳しい理由はわかりませんが、アバターが大規模な損傷を受けたせいで、彼女は行動できなくなっているのかもしれません。
 少し待っていてください。僕の方でなんとかしてみます!』
「何とかするって、どうやって?」

 俺の疑問に対する答えは、突如として黒雪姫のアバターから発せられた謎の光だ。
 漆黒色の鋭利な女性アバターは、ほんの一瞬で変わっていく。蝶を彷彿とさせる漆黒の翼を背負い、おとぎ話に出てくるお姫様みたいなドレスをまとったアバターになった。
 まさに黒雪姫と呼ぶにふさわしい愛嬌溢れる姿だ。その顔立ちも人形のように整っていて、ロングヘアも黒いきらめきを放っていた。

121宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 19:58:00 ID:mqM5Fyzc0
「く、黒雪姫!? レオ、一体何をしたんだ!?」
『僕の方から黒雪姫さんのPCにアクセスして、使用アバターを切り替えさせたんです。以前ニコさんのPCを解析したことがあったので、そのおかげで何とかなりました。
 この学内アバターは戦闘に不向きですが、もし彼女が目を覚まさない理由がアバターの損傷にあるのなら、これで目を覚ましてくれるはずです。
 …………もっとも、彼女の心のケアはジローさんに任せることになりますが』

 レオは冷静に説明してくれるが、その表情は曇っていることが伺える。
 それは当然だった。俺達は一度消息不明になり、しかも心身共に傷付いた状態だ。
 しかもユイちゃんは攫われて、キリトの居場所だって俺達は知らないし、ここがどこかわからない以上は探しようがない。
 何よりも、一番心配なのは黒雪姫だ。レオ達のサポートに期待できず、俺が彼女を支えるしかない。

『ジローさん。今、二人の転送されたエリアの情報を検出しました。
 『黒い森』、『牢獄』、『電子』……途切れ途切れですが、今のところ判明しているキーワードは、この三つです。
 このまま情報の検出と、ジローさん達の元に行くためのルートも調べますので、それまで無茶な行動は控えてくださいね』
「わかったよ、レオ! ここがどんな場所なのかわからないけど……黒雪姫は任せてくれ!」

 レオという希望を前に、俺は全力で叫んだ。
 学園にいるみんなを安心させたいという気持ちが生まれた一方、俺の心が再びどんよりと重くなる。この不気味な景色にマッチする程、暗くなりそうだ。
 頑張りたい気持ちはあるけど、やっぱり怖くてたまらない。

「それにしても、ずいぶんと高い所だな……ここから落ちたらとても助からないぞ……」

 そして、周囲を見渡してみると、俺達は『黒い大樹』の枝に乗っていることが分かった。遥か遠くを見渡すと、地平線にまで黒い大樹の枝や根っ子が伸びており、その先端がとても見えない。

「……樹は一本しかないけど、とんでもなく大きいから『黒い森』なのか? じゃあ、あとの『牢獄』と『電子』って一体……?」
「……うっ……ここは……?」

 謎のエリアについて考えていると、呻き声が聞こえてくる。
 振り向くと、気を失っていた黒雪姫が体を起こしながら瞼を開けてくれた。

「黒雪姫! よかった、気が付いたんだな!」
「ジローさん、なのか……? ここは一体……? それに私はどうして……」
「ここは、『黒い森』って言うらしいけど、詳しいことはわからない。さっきの戦いでネットスラムが壊れて、いつの間にか俺達はここにいたんだ。
 でも、キリトとフォルテは……多分、別の場所に飛ばされたんだと思う。
 ユイちゃんは……オーヴァンに連れていかれた……」

 俺は頭の中を整理して、黒雪姫に今の状況を話す。
 彼女を支えられるのは俺だけだから、できるだけ冷静さを保つ。少しだけだが、こうして話せるほどに落ち着いている。
 ……ユイちゃんの名前を口にした瞬間、俺と黒雪姫の表情は一気に曇ったけど。

「ユイが、オーヴァンに連れていかれた……!?」
「……ごめん。俺に力がなかったせいで、ユイちゃんを守れなくて……」

 それきり、俺は意気消沈する。
 ユイちゃんがオーヴァンに傷付けられていく凄惨な場面を忘れることができない。彼女はきっと助けを求めていたはずなのに、俺は何もできなかった。
 俺に力さえあれば、ユイちゃんだって取り返せたはずだった。

122宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:00:01 ID:mqM5Fyzc0
「…………改めて訊くが、ここはずいぶんと、醜悪な場所だな。一体なんなんだ……?
 それになぜ、私のアバターがデュエルアバターから変わってるんだ?」
『それについては、僕の方から説明させていただきますね。
 おはようございます、黒雪姫さん。無事目を覚ませたようで何よりです』

 いつの間にか周りを見渡していた黒雪姫は、嫌悪感を露わにしながら呟く。
 それにレオが通信越しに応え、詳しく説明していく。
 黒雪姫の元のアバターが、酷い損傷を受けていたこと。そのせいか一向に目を覚まさなかったため、遠隔操作で学内アバターへと変更したこと。
 この場所が、ネットスラム崩壊の影響で飛ばされた未知のエリアであること。救助のためにここへ来る方法を調査しているが、やはり時間がかかること。

「……どうやら、二人には手間をかけさせてしまったらしいな。
 すまない。それと、ありがとう」
「そんな! 謝られるようなことでも、ましてやお礼を言われるようなことでもないって!
 結局俺は、オーヴァンとの戦いで、大したことは何もできなかったんだし……」
『そうですよ、黒雪姫さん。どうしても謝礼がしたければ、無事に帰還できたその時に。
 生きて帰ってくることが、僕たちにとって何よりの成果ですので』
「俺も、みんなのところに早く帰りたいよ。ここは空気も淀んでいるみたいだし、周りも不気味すぎるし……」

 本音を言えば、現実世界に帰りたいのだが、それは言っても仕方がないだろう。

「……そうだな。まずはこのエリアを調査して、脱出経路を探そう。後のことは、それからだ」

 黒雪姫はそう言うと、自分の状態を確かめるためにかメニューを開いて、なにかを躊躇うようにそのまま閉じた。
 そうして立ち上がろうとした黒雪姫だけど、すぐにふらついてしまう。
 俺は反射的に彼女の体を支え、そして気づいてしまった。
 黒雪姫の白い肌に、元のアバターに刻まれたものと同じ歪な三角の傷痕が、うっすらと痣のように浮き出ていることに。

「だ、大丈夫か黒雪姫!? 無理をしちゃダメだ! 今はここで休もう!」
「……そんな暇はないだろう!? 私達がこうしている間にも、あの男は……オーヴァンは生きているんだ!
 ユイが連れて行かれたなら、すぐに救出するべきだ! レオ達のことを待っている暇などない!」

 その事に気づいているのかいないのか、俺の言葉を、黒雪姫は怒号で弾き飛ばした。
 黒雪姫の気持ちはわかるし、俺だって今すぐにでもユイちゃんを助けに行きたい。
 でも下手に動くのは危険で、何よりも傷痕が黒雪姫にどんな影響を及ぼすのかすらわからない。
 ……けれど、黒雪姫の言葉もまた事実だ。一刻も早く助け出さないと、ユイちゃんが酷い目に遭わされる可能性は充分にあった。
 そしてそのためには、すぐにでもみんなと合流しないといけない。今の俺たちだけでは、フォルテどころかオーヴァン一人にさえ敵わないのだから。

「……わかったよ、黒雪姫。でも、絶対に無理はしないでくれよ。今は、俺がそばにいるから」
「私なら、大丈夫……と言いたい所だが、その気持ちは受け取っておくよ。ジローさんがいてくれれば、心の支えにもなるから」

 黒雪姫は弱々しく微笑む。
 でも、本当は心が深く傷付いているはずだ。オーヴァンには完膚なきまで叩きのめされて、ユイちゃんは囚われてしまい、泣き面に蜂みたいにこんな薄気味悪いエリアに放り込まれてしまう。
 今のところ、エネミーみたいな危険な奴の気配はないけど、何が起きてもおかしくない。俺はDG-0を構えながら、黒雪姫を先導するように歩いた。

123宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:01:30 ID:mqM5Fyzc0
「何かあったら、すぐに言ってくれよな?」
「わかっているよ」

 少しでも気を紛らわすように声をかけるけど、全然心が落ち着かない。
 どす黒い樹にぶら下がる人間はどう見ても死んでいて、呼吸をすると気分が悪くなってしまう。まるで毒ガスの中を歩いているように錯覚し、俺達はいつ倒れてもおかしくなかった。
 一応、治癒の雨は一つだけ残っているけど、それが役に立つのか。そもそも俺達は本当にここから脱出できるのか。
 前を進むたびに、俺の中で不安が湧き上がってきて、折れた心が更に折れそうになる。

(やっぱり本物の人間……だよな? でも、火傷してもこんなに黒くなるのか……?)

 何よりも、ぶら下がっている人間の姿を見せつけられるだけで、また嘔吐しそうだ。
 現実では到底ありえない光景だが、デウエスに関係するハッピースタジアムを経験し、その上でこのデスゲームに巻き込まれたから、絵空事とは切り捨てられない。
 それでも、地獄のような光景がただの夢であってほしい、そんな希望を抱きながら進んでいると――――“彼”の姿を見つけてしまった。

「…………う、渦木さん!?」

 ハッピースタジアムに捕らわれた開田君を救うため、現実と電脳世界の両方で力を合わせた刑事・ウズキが蓑虫のようにぶら下がっていた。
 しかも、呪いのゲームではなく現実の刑事としての姿で。

「渦木さん! 俺です、ジローです! 目を開けてくださいッ!」
『どうしたんですか、ジローさん!? いったい何を見つけたんですか!?』
「渦木さんが! 俺の知り合いが、蓑虫みたいに木に吊るされてて……! くそっ、この!」
『ウズキ? その名前は、確か一回目のメールで……』

 俺はウズキさんを救うため、叫びながらDG-0を取り出し、鳥かごに弾丸を放つ。
 しかし、銃声が空しく響くだけで、弾丸はあっさりと弾き返されてしまった。
 それでも、諦めずに黒く汚されたウズキさんを引っ張り出そうとするけど、びくともしない。

「……どうして!? 渦木さんが、ここに……!?」
「……に、ニコなのか!?」
「えっ!?」

 俺の動揺を煽るような黒雪姫の叫びが聞こえて、反射的に振り向く。
 すると、青ざめた顔で顔を上げている黒雪姫の姿が目に飛び込んできた。彼女の視界を追うように、俺も顔を上げた瞬間、絶句する。
 何故なら、俺やカイトを守るためにオーヴァンと戦い、そして命を散らせた少女――――ニコが無惨な姿で囚われていたからだ。

「ニコ……っ! ニコッ! ニコォッ! 俺だ、ジローだ! 目を開けてくれよ、ニコッ!」

 ニコを助けたくて、俺は必死に叫ぶ。もちろん、ニコは目を覚ましてくれない。
 ニコも渦木さんも、二人とも死んだはずなのにどうしてこんな所にいるのか? まさか、二人とも実は生きていて、ここに逃げ出していたのか? 
 いいや、ありえない。渦木さんはわからないけど、ニコは死んだということを俺は確かに実感した。だから、実は生きていたという可能性に縋れるわけがないのだ。
 だけど、それならどうして二人がこんな悪趣味な形で囚われているのか? 誰が、何のために二人にこんな仕打ちをしたのか?

「……あ、ああ、あ……!」

 ――――しかし、俺の思考は黒雪姫の震える声によって、またしても遮られた。
 思わず、俺は振り向く。いつの間にか、黒雪姫はへたり込んでいた。
 彼女が見上げている先には、小柄で小太りの少年が囚われていた。

124宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:05:41 ID:mqM5Fyzc0
「……は、ハルユキ君…………!?」
「は、ハルユキ!? ハルユキって、まさか……!?」

 黒雪姫は答えてくれないけど、その名前に俺は一瞬で気付く。
 有田春雪(ハルユキ)……黒雪姫が最も信頼したシルバー・クロウのリアルでの名前だ。
 つまり、ここに囚われている少年こそが、黒雪姫にとって一番大切な人だ。

『『牢獄』……『電子』……ま、まさか……!?』

 通信から聞こえてくるレオの声は、明らかな驚愕と動揺が感じられる。

「な、何だよレオ!? 何に、気付いたんだよ!?」
『……まだ、確定ではありませんが……この黒い樹に吊るされた人たちは、デスゲームで敗退したプレイヤー達の……電子化、いえ、霊子化された魂です!
 だから、ジローさん達が見たハルユキさんやレインさんは……敗退後、魂だけがここに、囚われたのでしょう…………。
 きっと、このデスゲームに始まって以来、全てのプレイヤーは……敗退と同時に『黒い森』に魂を囚われるシステムになっているはずです……』

 震えるレオの推測に、俺は絶句した。
 そして、レオから聞いた『牢獄』というワードの意味を、ようやく理解する。
 このデスゲームで命を奪われたプレイヤーは、ただ消えるのではない。オカルトテクノロジーで人間を電脳世界に引きずり込むように、魂だけがデータ化されて囚われる仕組みになっているのだろう。
 俺が巣のようだと思っていた鳥かごは、文字通りの『牢獄』だったのだ。

「何だよ、それ……何が、どうなっているんだよ……!?
 どうして、ニコ達がこんな目に……遭わなきゃいけないんだよっ!?」

 しかし、そんな理屈など納得できない。
 答えの出ない疑問と、ニコ達を愚弄した者への憤りで、俺の心は掻き乱されてしまう。
 俺がどれだけ叫んでも、ニコと渦木さん、そしてハルユキが目を覚ますことはない。どす黒く染まった全身の肌で、一目見ただけでニコ達の死を痛感するが、とても受け入られなかった。

「は、ハルユキ君ッ! 私だ! 黒雪姫だ!
 私はここにいるぞ! キミは私のことをずっと探していたのだろう!? こうしてここに来たから、早く目を覚ましてくれ! ハルユキ君!
 私もキミを探していた! だから、こうしてここまで来たんだ! キミと話がしたい……キミとまた毎日を過ごしたいんだ! ハルユキ君!」

 そして、俺とレオの通信が聞こえていないように、黒雪姫は叫び続けた。
 明らかに正気を欠いている彼女の姿に、俺は何も言えない。レオから黒雪姫のケアを頼まれたが、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
 大好きな人の変わり果てた姿を見せつけられて、落ち着ける人間がどこにいるのか?
 もしここにパカが囚われていたとしたら、とても冷静でいられる自信が、俺にはなかった。だから、今の俺がどんな言葉を投げかけても、黒雪姫の耳に届くわけがないのだ。

「……シルバー・クロウ」

 唐突に、足音と声が聞こえてくる。

「っ!?」

 振り向いて、俺は驚愕した。
 いつからそこにいたのか。一目見ただけで、”赤い”、という印象を与えてしまう少女が、まっすぐに歩いてくる。
 見たところ、年齢はまだ12歳か13歳程度で、ニコと同じか少し上くらい。
 プラチナブロンドのボブヘアには赤いメッシュが入っていて、ワンピースもケープも、陰鬱な世界にはそぐわないほどに赤い。
 一方で肌はすけるように白く、そして何故か、彼女は裸足だった。
 ひたひたと、小さな足音が静止した世界で響き渡る。

125宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:08:26 ID:mqM5Fyzc0

「お、女の子……!? なんで、こんなところに……!?」
『ジローさん、彼女はプレイヤーではなくNPCです。
 恐らく、何らかのイベント用に配置されたのかもしれませんが、どうしてこんな場所に……?
 ……いえ、彼女は、まさか……』

 俺とレオは驚愕する中、謎の少女はじっとこちらを見つめている。
 いや、正確には俺の後ろ……黒雪姫とハルユキに視線を向けていそうだった。
 そして、謎の少女が歩を進めることで、その存在にようやく気付いたのか黒雪姫も振り向いてくる。

「…………君は?」
「彼は、《オワリ》を探していたヒト。
 そして、どんな《終わり》でも、僕は受け止めて見せるって言っていた……でも、この《オワリ》は彼がノゾむカタチではなかった」

 黒雪姫の問いかけに反して、謎の少女は意味深な言葉を紡いだ。
 しかし、まるで藁に縋るように、黒雪姫は少女に詰め寄る。

「まさか、ハルユキ君を知っているのか!? 教えてくれ、彼のことを!
 私がいない間、ハルユキ君がこの世界で何をしていたのか!? 少しだけでもいい、ハルユキ君のことを教えてくれっ!」
「お、おい! 黒雪姫!」

 少女の肩を掴みながら叫ぶ黒雪姫を、俺は静止しようとする。
 だけど、黒雪姫は俺の言葉に耳を傾けず、また謎の少女も微塵に動揺しなかった。雪のように白い肌は、今の黒雪姫と対比するように煌いている。

「どうした!? なぜ、教えてくれない!? 私は……私は知りたいだけなんだ! ハルユキ君のことを!」
「待ってくれよ、黒雪姫! そんな乱暴にしてたら、彼女だって答えられないだろ!」

 やがて俺は見ていられなくなり、黒雪姫を少女から無理矢理引き離した。
 黒雪姫は未だに落ち着きを見せず、一歩間違えたら少女を傷付けてもおかしくない。
 未だに息を荒げている黒雪姫の前で、少女は瞬きもせずに俺達を見つめている。

「わたしはリコリス。試されし夢産みの失敗作。
 アナタ達は、彼の遺志を継いでくれた。だから、彼の想いを、アナタ達に――――」

 そんなリコリスの言葉と共に、俺達の視界は眩い閃光に飲み込まれてしまう。



 ――――アナタは終わりを探すヒト?

 白い光の中、何も見えない俺の耳に少女の声が聞こえてくる。
 先程のように、意味深な問いかけだった。

 ――――それがどんな《終わり》でも、僕は受け止めて見せる

 続くように聞こえてくるのは、力強い少年の声。
 その言葉と同時に、銀色の人型アバターが浮かび上がった。エメラルドの如く緑色の輝きを放つバイザーは、力強さを醸し出している。

 ――――アナタのオワリが、アナタに優しいものでありますように

 そして、少年を称えるような少女の声も光の中で響き渡った。

126宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:11:30 ID:mqM5Fyzc0


『……ジローさん! ジローさん! 聞こえていますか!?』

 レオの通信により、俺の意識は覚醒した。
 気が付くと、先程の光は収まっており、リコリスと名乗った少女が立っていた。

「ハルユキ君だ……」

 その一方で、黒雪姫は地面にへたり込みながら涙を流していた。

「ハルユキ君は彼女と会っていたんだ……シルバー・クロウとして戦いながら、彼女に自分の意思を示してくれたんだ。
 なのに、私は……何をやっていたんだ!? 私は、ハルユキ君のように戦えていないのに……!」
「黒雪姫……もしかして、あの子はハルユキのことを教えたかったんじゃないかな。
 ハルユキは強くあろうとしたから、黒雪姫にもそうあってほしかった……それを伝えるために、現れたんじゃないのか?」

 それは根拠のない楽観的思考だ。
 でも、先程の幻はリコリスが見せてくれたのだろう。
 だとすれば彼女は、悲しみに沈んだ黒雪姫を助けるため、俺達の前に現れたのかもしれない。

「【noitnetni.cyl】を、わたしにください」

 そして紡がれるのは静かな声。
 リコリスの優しい声を受けて、黒雪姫は顔を上げる。

『黒雪姫さん! 彼女の言葉に従って、【noitnetni.cyl】を渡してあげてください!
 覚えてますか? ネットスラムで行われていた、もう一つのクエストを。きっと、これはネットスラムで行われるはずだったミッションです!
 そのキーキャラクターである彼女もまた、ネットスラムの崩壊により、ジローさん達のようにこのエリアに流れ着いたのでしょう』

 レオの推測に、俺と黒雪姫は目を見開いた。
 また、俺は思い出す。ネットスラムにはプチグソレースの他にも、リコリスという少女の謎が秘められていたことを。
 シルバー・クロウが始めたという、過去を掘り起こすクエストのことを。
 だとすれば、やはり、この少女こそがリコリスなのか?

127宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:13:35 ID:mqM5Fyzc0

「【noitnetni.cyl】を探してくれると、彼は言ってくれた」
「【noitnetni.cyl】……これのことか?」

 少女に導かれるまま、黒雪姫はウインドウを操作して三つの拡張子をオブジェクト化した。
 ネットスラムで用意されたクエストで入手したアイテムであり、エリアが崩壊した今となっては用途がなくなったように思える。
 けれど、【noitnetni.cyl】をオブジェクト化させた瞬間、リコリスはようやく表情を動かしてくれた。

「ありがとう」

 【noitnetni.cyl】を見て、少女は笑みを浮かべる。陽の光のような暖かさが込められており、絶望に満ちた世界を照らしてくれそうだ。

「…………これで、いいのか?」

 少女に導かれるまま、黒雪姫はリコリスに3つの拡張子を渡そうとして。

「…………プレイヤーナンバー026、ジロー。
 そしてプレイヤーナンバー040、ブラック・ロータス。
 まさか、お前達がこのエリアに流れ着いていたとは」

 だけど、黒雪姫の善意を踏みにじるように、敵意に満ちた鋭い声が響き渡った。

「誰だ!?」

 俺は反射的に振り返る。
 見ると、金色の甲冑を纏った少女が、俺達のことを睨んでいた。いや、甲冑だけでなく腰にまで届く長髪も金色で、リコリスとは違う意味で、灰色の世界で存在感を放っていた。

『ジローさん! 彼女の名はアリス……GMの一人です!』
「GMだと!? じゃあ、あの榊の仲間か!」

 レオからアリスと呼ばれた少女を前に、俺は反射的に銃を構える。
 当然ながら、アリスは微塵も臆することはないが、露骨に不快感を露わにしていた。

「……確かに、表向きでは同盟を結んでいます。しかし、あの男と同類に見られるのは不本意ですね。
 もっとも、あなた達には関係のない話ですが」

 そう言いながら、アリスは剣を構える。
 殺意を乗せた刃の輝きを前に、俺は身震いする。彼女は俺達をここで殺そうとしていた。
 まともに戦っても勝てる訳がない。だけど、やるべきことは一つあった。

128宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:17:29 ID:mqM5Fyzc0

「黒雪姫、ここは俺が引き受ける! 彼女を連れて……」

 振り向きながら叫ぶが、途中で止まる。
 俺の後ろにいるのは黒雪姫だけで、リコリスはいつの間にか姿を消していた。しかも、【noitnetni.cyl】はそのままだ。

「あれ!? 彼女はどこに行ったんだ!?」
「わからない! いつの間にか、消えてしまったんだ……まるで煙のように!」
「なんだって!?」

 黒雪姫の叫びに絶句する。
 せっかくハルユキの遺志を受け継げると思ったのに、これでは台無しだ。ハルユキの無念だって晴らせる訳がない。

「……まさか、彼女までもがこのエリアにいるとは驚きです。
 ですが、今はまず、ジローとブラック・ロータスの二人に対処しなければ」

 そして、何か心当たりでもあるのか、アリスは口を開く。
 彼女の言葉は気になるけど、それどころじゃない。学内アバターの黒雪姫は戦えないし、レオの助けも期待できないからだ。
 でも、俺はここで諦める訳にはいかない。黒雪姫を連れて逃げようとしても、アリスに追いつかれるだけ。

「やれるものなら、やってみやがれ! 俺が、黒雪姫を守ってみせる!」
「威勢だけはいいですね。いいでしょう……あなたが私と戦うなら、やってごらんなさい」

 俺が闘志を燃やす一方、アリスは心底つまらなそうに俺達を睨みつけている。
 まさに、蛇に睨まれた蛙のように不利だけど、俺は一歩も引かない。黒雪姫やニコは命がけで戦ったのだから、ここで逃げる訳がなかった。
 そして、死に満ちた世界の中で、新しい戦いが始まった。


 やる気が 5上がった
 こころが 3上がった
 体力が 4下がった

129宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:18:50 ID:mqM5Fyzc0


     2◆◆


 ――――そうしてワタシは、彼等の戦いを俯瞰する。
 本来であれば、このエリアの管理はワタシの役割であり、つまり彼らに対応するのはワタシのはずだった。
 しかし彼らがこのタイミングでこのエリアへと落ちてきたのは、本当にイレギュラーな事態であり、そしてワタシには今、彼等と接触できない理由があった。
 故にワタシの代わりに、アリスに彼らの対応を頼んだ。

 ――――リコリス。
 彼女と彼らの接触は、今の状況ではタイミングが悪すぎたのだ。
 彼女のイベントをクリアすることで得られるモノを、今、■に知られるわけにはいかなかった。
 結果として彼等は窮地に陥ったが、この状況を切り抜けられないようでは、どのみち未来はないだろう。

 ……いずれにせよ、あの少年王にこの場所が知られた以上、遠からずこのエリアの役割――ひいてはこの『世界』の正体も明かされるだろう。
 そしてそうなれば、たとえ彼等の命運がどうなろうと、彼等の仲間は、遠からずここに訪れる。
 であれば、その時こそが、xxxxの始まりとなるだろう。

 なぜならここは、シークレットカテゴリ・オブジェクトナンバー003、ラベリング“黒牢樹”を擁する外層領域。
 そのエリア名をを、『電脳霊子監獄 黒牢樹の森』。
 通称『電子監獄』と呼ばれる、“モルガナ”、“堕天の檻”に続く、この電脳世界第三の中枢なのだから。


【?-?/電脳霊子監獄 黒牢樹の森/一日目・真夜中】

130宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:19:48 ID:mqM5Fyzc0

【Bチーム:ネットスラム攻略組】

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP数%/学内アバター 、強い憎しみと悲しみと絶望、零化現象、『三爪痕』が刻まれている
[装備]:{サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『選ばれし』、『絶望の』、『虚無』 、noitnetni.cyl_1-2-3 }@.hack//、パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、{破邪刀、ヴォーパルの剣}@Fate/EXTRA、{蒸気バイク・狗王、死のタロット}@.hack//G.U.、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、不明アイテム×1
[ポイント]:358ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:――――――――――――
0:私は……ハルユキ君の遺志を…………
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。
※共有インベントリにより、所有しているアイテムが表記とは異なる可能性があります。
※デュエルアバターに『三爪痕(サイン)』が刻まれました。『三爪痕』は学内アバターにも痣として浮き出ています。
※自分の無力感に絶望して零化現象が起きました。
※レオによって学内アバターに切り替えられたおかげで、行動自体は可能になりました。
 しかし、もしデュエルアバターになった場合、零化現象の影響で行動不能となります。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、ピースメーカー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、インビンシブル(大破)@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×1@.hack//G.U. 、不明支給品0〜1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:アリスから黒雪姫を守る。
1:今は黒雪姫を守りながら、レオ達の元に戻りたい。
2:ユイちゃんの事も、守りたかったけど……。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※共有インベントリにより、所有しているアイテムが表記とは異なる可能性があります。


【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。
4:ジローとブラック・ロータスに対処する。


【■■(■■■)@              】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:GMユニットとして“役割”を果たす。
0:―――堕天の玉座にて、アナタを待つ。
1:自身の目的を果たすために、モルガナの望みを叶える。
2:もしもの時のために、何かしらの手を打っておく。
3:まだ、彼らにリコリスの真実を知られる訳にはいかない。
[備考]
※■■の役割は『電子監獄』の管理、ひいてはこの■■■■の■■です。
※GMとしての役割とは別に、“表側”での役割も有しています。
※第?相の碑文@.hack//を所有しています。

131 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 20:21:48 ID:mqM5Fyzc0
以上で投下終了です。
また、今回の投下作も◆NZZhM9gmig氏との合作になることを報告させて頂きます。
前回に引き続き、今回の投下において様々なご意見を下さった◆NZZhM9gmig氏には、改めて感謝を申し上げます。
ご意見等がありましたら、よろしくお願いします。

132名無しさん:2020/07/04(土) 10:39:31 ID:pPUJnw5c0
投下乙です
二人が飛ばされた謎のエリア
そこで見つかった死んだはずのプレイヤーたちとリコリス
そして始まったアリスとの戦い
徐々にデスゲームの謎も明かされてきて、佳境が近づいてきたって感じですね

133名無しさん:2020/07/04(土) 14:25:12 ID:tc6efo9o0
投下乙でした
Quantum出展のの電子監獄だけでも驚きというのに、ハルユキがフラグを建てていたリコリスがここで再登場するとは…

134名無しさん:2020/07/15(水) 21:14:14 ID:ki7r04aA0
月報の時期なので集計します。
143話(+ 3) 15/55 (- 0) 27.3

135名無しさん:2023/01/01(日) 17:38:36 ID:VWxvByZM0
エタっちゃったか残念

136名無しさん:2023/10/23(月) 17:40:53 ID:tTFvefIs0
マダー?


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