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バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.04
1
:
NPC
:2019/03/22(金) 22:20:20 ID:c3.OE0YY0
ここは仮想空間を舞台した各種メディア作品キャラが共演する
バトルロワイアルのリレーSS企画スレッドです。
この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。
■したらば避難所
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/15830/
■まとめwiki
ttp://www50.atwiki.jp/virtualrowa/
■過去スレ
企画スレ ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1353421131/l50
Log.01 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1357656664/l50
Log.02 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/l50
Log.03 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1417239643/l50 <前スレ
87
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/12(金) 17:30:02 ID:IVXxf7k.0
以上で投下終了です。
ご意見などがありましたらよろしくお願いします。
88
:
名無しさん
:2020/06/12(金) 21:52:41 ID:MRnid2uE0
オーヴァンの台詞一つ一つが厭らし過ぎるわフォルテの性能が絶望的すぎるわ、
ユイが碑文使いに覚醒するわと……久々の投下は目が離せない展開が続いていて、
読み進めるのが勿体なかったです。投下乙でした!
以下、誤字等の指摘。
>>59
耐久度に余裕がはずだ。
→耐久度に余裕があるはずだ。
>>61
防御の肩を取った。
→防御の型を取った。
>>71
オーヴァンの体制を
→オーヴァンの体勢を
>>73
信念に準じた
→信念に殉じた
>>77
フォルテの体制を
→フォルテの体勢を
89
:
名無しさん
:2020/06/13(土) 07:55:38 ID:FFaqEYeA0
投下乙です。
これで何度目になろうかというキリトとフォルテの対決。
仲間の喪失を恐れてか、黒雪姫たちを遠ざけてしまった結果、今回はキリトの完全敗北となりましたね。
まあ今のフォルテが相手では、全員揃ってても勝てたかは怪しいところですけど。
そしてオーヴァンの精神攻撃が刺さる刺さる。果たしてこのあと、黒雪姫は再びオーヴァンに立ち向かうことが出来るのでしょうか。
Bチームの命運は、イニスを発現させたユイにかかっているといっても過言ではありませんね。
ただ気になった点が二つ。
一つ目は、作中でフォルテとキリトが打ち合っていましたが、ダーク・アームブレードは心意技。普通の武器でしかないキリトの剣では一撃で破壊されてしまうと思います。
カゲミツG4にしても、刀身が実体のないエネルギーであるため破壊されないだけで、フォルテの攻撃は普通に貫通するので、受け止めることはできないかと。
あと心意技とシルバー・クロウの飛行スキルやダスク・テイカーの略奪技は直接の関係はありませんよ。
加えて、ブラック・ロータスが地の文で「心意技を途中で止めることはできず、」といっていますが、心意技にシステムアシストはないので止めることは可能です。
途中で止めるのが危険だから押し切るしかない、とかならわかりますが。
二つ目は、ロビン・フッドの“顔の無い王”は姿と音だけでなく匂いも遮断できますよ。
実体がなくなったり無敵になったわけではないので、作中のような範囲攻撃による炙り出しは可能ですけど。
90
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/13(土) 08:06:58 ID:OTNfGn6E0
皆さま、感想及びご指摘をありがとうございます。
それでは修正点を修正スレに後ほど投下させて頂きますね。
91
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/13(土) 08:49:04 ID:OTNfGn6E0
指摘された箇所の修正版を修正スレに投下させて頂きましたので、確認をお願いします。
92
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:02:41 ID:KJtJ0qW.0
これより投下を始めます。
93
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:04:19 ID:KJtJ0qW.0
0
強い力。
使う人の気持ち一つで……
救い、滅び。どちらにでもなる。
1◆
――――その覚醒には誰もが驚いていることを、ユイ/イニス自身が感じていた。
体の奥底から力が溢れ出ていた。
碑文は世界そのものを大きく変える可能性を持つほどの力だ。それこそ、インターネットだけでなく現実世界にも影響を与えた事例もある。
ならば、この力さえあれば彼らと戦うことができた。
(これが……『惑乱の蜃気楼』イニス。幻影を自由自在に操り、そして高速移動で敵を攪乱することが可能……)
ユイの脳内にイニスの膨大なデータが流れ込み、全てを瞬時に理解した。
SAOのカーディナルシステムにより誕生したトップダウン型AIである彼女なら、膨大な情報処理が可能となっている。
だから、この力を振るった。
(絶対に、パパ達を守ります!)
ただ、大切なみんなを守りたいという気持ちを胸に、ユイ/イニスは飛び上がる。
天から見下ろす天使の如く神々しさを醸しながら、彼女は両腕を振るって無数の光弾を放ち、エネミー達を葬った。散弾銃を超える速度を誇る光弾を、エネミー達は対抗できない。
「あなたなんかに、パパを殺させませんッ!」
そして、キリトの命を奪おうとしたフォルテにも狙いを定めて、ユイ/イニスにも光弾を放つ。
フォルテは驚愕で目を見開いていたが、我に返ったかのように翼を羽ばたかせながら跳躍した。彼は不敵な笑みを浮かべながら、ユイ/イニスを目がけてバスターを放つ。
「望むところだ!」
そうしてバスターから放たれた光弾が迫りくるが、ユイ/イニスの巨体とプロテクトには意味を成さない。
ユイ/イニスは反撃として、巨木すらも凌駕する刃を振り降ろした。しかしフォルテ自身は微塵の動揺も見せず、高速スピードで回避する。その勢いを保ったまま、瞬時にユイ/イニスの目前にまで迫って。
「まずは試しだ……アースブレイカーを受けろッ!」
圧縮された高濃度のエネルギーを、顔面に目がけて解放した。
凄まじい爆音と共に炸裂したエネルギーは、並のアバターなら瞬時にデリートできるほどの威力を誇るだろう。しかし、今のユイ/イニスではほんの僅か後退させるだけに過ぎない。
94
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:05:03 ID:KJtJ0qW.0
「チッ、やはりこれだけでは通用しないか」
無論、システムを超越した憑神を簡単に倒せるとは、フォルテ自身も考えていなかったようだ。
今のフォルテはゴスペルを従えているから、碑文とAIDAの特性について把握していると考えるべき。そして、ユイ/イニスと同様に何らかの碑文に覚醒している可能性もあった。
しかしそんなことは関係ない。この場でフォルテを倒すため、もう片方の刃をフォルテに叩きつけた。
「ぐうっ…………!」
ユイ/イニスの巨刃を受けたフォルテは呻き声と共に吹き飛ばされる。
質量に圧倒的な差があるのだから、いかにフォルテでも防ぐことはできない。フォルテのダークネスオーラも、システムを超越する憑神の前では効果がなかった。
「さあ、まだです! まだ、私は――――!」
『――――――――――ッ!』
フォルテに追撃しようとしたユイ/イニスの耳に獰猛な叫びが響く。
まるで主の危機を駆けつけるように、あのゴスペルが突貫を仕掛けてくるのを見た。ユイ/イニスは反射的に弾丸を縦横無尽に放つものの、ゴスペルはその全てを回避する。
そしてユイ/イニスを目がけて衝撃波を放った。
『――――――――――ッ!』
衝撃波/ダイナウェーブの速度と範囲から、高い威力を誇ると瞬時に察知する。直撃すればユイ/イニスだろうと、プロテクトにダメージは避けられない。
だが、ユイ/イニスの機動力さえあれば、回避は容易だった。その勢いを保ったまま、ゴスペルの横に回り込んで弾丸を発射し、巨体を吹き飛ばす。
『――――――――――ッ!』
(やった……あのゴスペルにダメージを与えています……!)
ゴスペルの悲鳴を耳にして、ユイ/イニスは確かな手ごたえを感じる。
これまでは後方支援しかできず、パパやママたちを守ることができなかった自分だけど、ようやく戦えるようになった。あのゴスペルにだって、ダメージを与えている。
もちろん、これだけで倒せる訳がないので、ゴスペルはすぐに立ち上がってこちらを睨んできた。耳障りな叫びが聞こえてくるけど構わない。
そのまま衝撃波を3連続で発射してくるのを見て、天に向かって羽ばたいた。衝撃波の特性に気付いた瞬間、ユイ/イニスはゴスペルが大きく口を開けているのを見る。
口内ではエネルギーが収束されていき、ユイ/イニスを目がけて放たれた。衝撃波……ゴスペルショックパワーは世界に亀裂を刻みながら、ユイ/イニスを追跡する。
(ホーミング機能を持つ衝撃波? ですが、イニスの速度と能力なら問題ありません!)
高威力の衝撃波が迫りくるが、ユイ/イニスは決して狼狽しない。
その直後、ユイ/イニスの姿は消滅し、標的を失ったゴスペルショックパワーは世界の果てに去ってしまった。敵が消滅したことに驚愕するゴスペルの背後に、ユイ/イニスが現れてカウンターを放つ。
「反逆の陽炎ッ!」
ユイ/イニスは叫びと共に巨大な双剣を振るい、ゴスペルを吹き飛ばした。
ゴスペル自身のパワーは危険の領域に入るため、正面から戦うことは得策ではない。故に、ユイはイニスの特性を活かして遠距離からの攻撃で牽制しながら、カウンターでゴスペルにダメージを与える戦法を選んだ。
『――――――――――ッ!』
しかし、ゴスペルは倒れず、むしろユイ/イニスに向ける殺意がより濃厚になっている。
その叫びを耳にして、ユイは息を呑むが決して怯まない。ゴスペルが強敵であることは把握していたし、またパパ達はこれまで何度も危険な敵と戦い続けてきた。
だから今度は娘である自分が戦わないといけない。キリトの娘である誇りを胸にしながら、ユイ/イニスは真っすぐにゴスペルを睨んでいた。
95
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:05:50 ID:KJtJ0qW.0
「さあ、どうしたのですか? 私はここにいますよ!」
だからゴスペルを挑発しながら、双剣を構える。黒の剣士と称された父キリトの構えを自分なりに真似しながら。
AIDAの弱点はデータドレインだが、まずはプロテクトを破壊しなければいけない。ユイ/イニスは高速移動をしながら光弾を放つが、ゴスペルが口から放つ衝撃波によって相殺される。
(このままでは、同じことの繰り返しになります! 何か、ゴスペルの弱点さえわかれば……!)
言葉とは裏腹にユイ/イニスの中で焦りが生じた。
イニスが生み出す幻影を活かせばゴスペルの攻撃を回避することができるが、そこからの反撃は決定打にならない。イニス自体の火力と耐久力は他の憑神に比べて劣っており、どうしてもゴスペルの方が優位だった。
しかし、ユイは自分の特性を活かしながら攻撃を避けて、反撃を続ける。ゴスペルの一撃を受けたら致命傷に繋がるが、パパ達のためにも退けない。
「――――戻れ、ゴスペルッ!」
そして、ゴスペルを咎める叫びが世界に響いた。
ユイ/イニスとゴスペルが同時に振り向いた先では、あのフォルテが獰猛な笑みを浮かべながら漆黒の翼を羽ばたかせていた。先程のダメージなど気にも留めず、戦意を滾らせている。
ユイ/イニスがフォルテを睨む一方、ゴスペルはフォルテの元へ走る。
ゴスペルの足音は世界を震撼させていき、フォルテの全身から禍々しい深紅のオーラが黒泡と共に放たれた。そしてフォルテとゴスペルは融合し、圧倒的な闇の波動が爆音と共に拡散される。
(これは……フォルテとゴスペルが一体化したことで、情報密度が爆発的に向上しているのですか!?)
視界が濃厚な闇に飲み込まれながらも、ユイ/イニスは冷静に解析していた。
月海原学園にてスミスに感染したAIDAに立ち向かうため、カイトが<蒼炎の守護神(Azure Flame God)>に覚醒している。蒼炎の守護神のように、フォルテもまた真の姿を見せようとしているのか。
ユイ/イニスが警戒する中、フォルテとゴスペルを飲み込んでいた膨大な闇が炸裂し、圧倒的な巨体を誇るAIDA<Gospel>が姿を現す。先程、周囲を暴れまわっていたゴスペルと異なり、<Gospel>の体躯はユイ/イニスと同等かそれ以上だった。
「ただのザコかと思っていたが、どうやら違ったようだな!
ちょうどいい! この俺がキサマの碑文も喰らってやろう!」
フォルテの哄笑が<Gospel>の大きく開かれた口より発せられる。恐らく、フォルテと一体化した時点で<Gospel>の意識は残っていない。
しかし、ユイ/イニスには関係なかった。彼が全力を出すなら、それを打ち破ってこそフォルテのプライドも破壊することができる。
「望むところです!
私はパパを傷付けて、ユウキさん達の命を奪ったフォルテを許しませんし……ママ達の命を奪ったオーヴァンだって許すつもりはありません!
ここで、この私が二人もろとも葬ってみせます!」
真の力を発揮したフォルテを前にしてもユイ/イニスは微塵も臆すことなく、それどころか煽ってすらいた。
何故なら、自らの中から力が湧き水のように溢れていたからだ。イニスの碑文と適合したことで、この力が増幅されたのかもしれない。
力を得て、ゴスペルとも戦えることを実感し、フォルテやオーヴァンを倒せるという希望を胸に抱いていた。
「……ユイ、よすんだ! 今のフォルテはお前一人で戦えるような相手じゃない!」
そんな中、眼下から叫んでくる父の姿が見える。
キリトは心配そうな表情でユイ/イニスを見上げていた。娘の身を案じてくれているけど、今ばかりは父の言うことを聞けない。
現実の娘のように、たまには親に反抗したかった。
96
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:07:32 ID:KJtJ0qW.0
「大丈夫です、パパ! 私なら、みんなを守ることができます!」
「待ってくれユイ! ユイィィィィィィィィィィッ!」
パパの呼ぶ声を無視して、私はフォルテ/<Gospel>と睨み合う。
子どもの反抗期で親は悲しむ話は聞いたことがあるけど、改めて実感する。でも、今はパパのためにワガママを貫き通したかった。
この気持ちに応えて、イニスの力がどんどん増幅されていけばフォルテやオーヴァンを倒すこともできるのだから。
ユイは気付かない。
碑文に覚醒し、力を振るったことで暴走状態になりつつあることを。
かつてハセヲは『死の恐怖』スケィスの碑文に覚醒した時、志乃を奪った三爪痕の復讐から力に溺れていた。ハセヲの心の闇は増幅し、己の感情に任せて碑文を使い続けてしまい、暴走状態になってクーン/メイガスを嬲った過去がある。
同様に、ユイもイニスの力を振るってエネミー達を撃破し、フォルテとゴスペルにダメージを与えたことで慢心した。そしてフォルテやオーヴァンに対する復讐が果たせると確信して、これまで溜まっていた感情が昂ってしまう。
普段のユイならば、冷静な判断を導いて自らが戦おうとしない。しかし、キリト達を守れるという自負が、次第にフォルテとオーヴァンの復讐にすり替わってしまい、その闇に碑文が反応した。
結果、イニスの力が増幅されていくと同時に、ユイ自身も碑文に飲み込まれようとしていた。
2◆◆
「これは、厄介なことになったな……!」
そんなユイ/イニスの異常に気付くことができた人間はたった一人。
『再誕』コルベニクの碑文使いにして、真の三爪痕となって『The World』で暗躍し続けたオーヴァンだけだった。
ユイの碑文覚醒は流石のオーヴァンも想定外であり、また動揺している。何故なら、目的であるユイ自身が碑文の力で暴走しては、いずれ自滅する危険があった。
ユイは自分達に対する憎しみを抱いており、その心の闇がイニスに反応している。それ自体は構わないが、ユイのアバターが破壊されてはミッション自体が破綻する。フォルテも闘争心を剥き出しにしているため、力を制御せずにユイを破壊する危険があった。
例え碑文に覚醒したユイであっても、今のフォルテと戦わせる訳にはいかない。暴走の末にフォルテと相討ちになる可能性があり、または戦闘でエリア崩壊が進んでユイを巻き込む恐れもある。
「……どうやら、俺が出向かなければいけないようだ」
不本意だが、今はコルベニクの力でユイ/イニスを止めなければいけない。
八咫の設立したG.U.の真似事をするとは、何の因果だろうか? そう自嘲しながら一歩前に踏み出した瞬間、道を阻むように漆黒のアバターが現れる。
「待て、オーヴァン……! まだ、私との戦いは終わっていないぞ……!」
息も絶え絶えに、アバターをよろめかせながらも、ブラック・ロータスは構えていた。
彼女の殺意は衰えることを知らず、ダイヤの如くバイザーは紅い輝きを放っている。きっと、緑衣のアーチャーとクソアイアンを殺されたことで、怒りを燃やしているはずだ。
ロータスにも興味はあるが、今となっては優先順位が低い。シルバー・クロウとスカーレット・レインの死を利用して、ロータスの怒りを引き出すことで心意について探ろうとした。いずれ、GMと戦う時が訪れるのだから、心意の特性を知って損はない。
だが、今は最優先はユイの確保だ。ロータスも利用価値はあるが、これ以上は邪魔になる可能性がある。
出る杭は早急に叩かなければいけない。
「いいや、君はもう終わりだ。
真実を見せてあげよう――――」
そしてオーヴァンは疾走する。
シルバー・クロウとスカーレット・レインが辿り着いた真実に、ブラック・ロータスもまた辿り着こうとしていた――――
97
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:09:06 ID:KJtJ0qW.0
――――決着はほんの一瞬だった。
ロータスが刃を振るうが、オーヴァンが目前にまで迫り、次の瞬間にはこのアバターを通り過ぎたように見えた。
驚愕する暇もなく、全身に違和感が駆け巡る。しかし、一瞬で稲妻が迸るような衝撃と激痛に変わってしまった。
「――――があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
そして刻まれるのは《異形の聖痕》。オーヴァンの左肩に宿る漆黒の爪によって、ロータスのボディに無残な傷跡が刻まれてしまい、絶叫する。
シルバー・クロウとスカーレット・レインが味わった苦痛が、こうしてブラック・ロータスにも襲いかかったのだ。
元より、満身創痍だった彼女に抵抗することはできない。激痛と爪痕から放たれる赤い輝きによって、ロータスの意識は掻き乱されていった。
「黒雪姫えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
そんなロータスを案じる叫びによって、ほんの少しだけ覚醒する。
《異形の聖痕》を刻まれて力なく倒れていくロータスは、自らの痛みがほんの少しだけ和らいで、漆黒のアバターが誰かに抱きかかえられるのを感じた。
「大丈夫か!? 今、治癒の雨を使ったからな!」
「…………ぅ、あぁ………………っ……」
ジローが狼狽した表情で叫ぶけど、ロータスの意識は痛みで朦朧とするせいで返事ができない。
《異形の聖痕》をまともに受ければどんなプレイヤーでも致命傷は避けられず、ブラック・ロータスもまたデリートされるはずだった。しかしHPが0になる前に、ジローが咄嗟に治癒の雨を使ったことでほんの数%だけHPが残されている。
もっとも、まともに戦うことなどできないが。
「フッ。仲間に助けられてよかったじゃないか」
起き上がるどころか、言葉すらも紡ぐことができないロータスを見下ろす男がいる。
さも滑稽なものを相手にするように、オーヴァンは笑っていた。しかし、すぐに背を向けてこの場から去っていく。
「ま、待て…………オーヴァ……ン…………ッ! わ……た…………し、は…………ッ!」
「シルバー・クロウ達の仇も取れないまま、無様に朽ちていくといい。君はしょせん、ただの操り人形に過ぎなかったのさ。
塵にも劣る、君の感情など興味はない。俺にとっては無意味だからな」
冷たい宣言によって、ロータスの息は止まる。
この怒りと憎しみに興味を向けられず、むしろ初めから存在しなかったかのように言い放っていた。
それは違うと叫びたい。この手でオーヴァンを八つ裂きにし、己の罪を認めさせて無様に許しを請わせ、その果てに首を撥ねてやりたかった。
けれど、オーヴァンは去っていく。腕も伸ばそうとするどころか、微塵も動かない。ジローが自分のことを呼ぶ声も、どこかに消えてしまった。
(ち、違う…………私の思い出は無意味なんかじゃない…………!
私は、ハルユキ君のおかげで立ち上がることができた……! ハルユキ君がいてくれたから、私も彼のように飛びたいと願ったんだ! だから、この気持ちは私にとっての宝物なんだ!
ハルユキ君が、いてくれたから……!)
そして、オーヴァンの背中がすぐに見えなくなるが、それでも立ち上がろうと力を込める。
何もできなかった。ハルユキ君の仇を取るどころか、ロビンフッドとアイアンまでも死なせてしまい、そして自分は完膚なきまで叩きのめされてしまう。
だけど、戦わないといけない。自分の全てが否定されようとも、ハルユキ君達の無念を晴らすと決めたのだから、絶対に立つべきだった。
98
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:10:14 ID:KJtJ0qW.0
(彼は……ハルユキ君は……私を何度も助けてくれた……!
彼は私の、誇りなんだ…………だってハルユキ君は、私のことを……何度も助けて、くれたんだ…………!
一人じゃ、何もできなかった私に……空を飛ぶ勇気を、くれたんだ…………!)
今はもういない有田春雪から何度も助けてもらった。
銀色の翼を羽ばたかせながら、加速世界の新しい希望になり、一度全てを失った黒雪姫にも。ハルユキ君が幾多の困難を乗り越えてくれたおかげで、私も力と勇気を与えられた。
そんなハルユキ君がいたからブラック・ロータスは黒の王として復活し、そして多くのバーストリンカーを導けている。
(ハルユキ君は、とっても強い……! 強かったから、私だって彼のように強くあろうと、頑張れた……!
それにハルユキ君からは、たくさんの思い出を貰った……楽しかったことや面白かったこと、いっぱい教えてもらった……!
そうだろう、ハルユキ君? 君と過ごした時間や、君がくれた思い出は私にとって……大切な宝物なんだ!)
雪の中に取り残されてマッチを灯す少女のように、黒雪姫は懐かしい幻を見つめていた。
ハルユキ君が見せてくれた優しくて暖かい笑顔を見て、胸がときめく自分。他の少女に鼻の下を伸ばすハルユキ君を見て、嫉妬する自分。加速世界に立ちはだかる数多の敵をハルユキ君と力を合わせて、充実感を抱いた自分。
一つ一つの思い出がかけがえのない宝物で、まるで宝石箱のように輝いていた。
けれど、ハルユキ君との時間は終わってしまった。
(会いたいよ……! また、ハルユキ君と会って話がしたいよ…………!
私は強くなるから、ハルユキ君の隣にいさせてくれ……! 強くなるためにも、キミの声を聞かせてくれ!
キミの声が聞きたい……! でも、キミの声が聞こえないんだ……ハルユキ君…………!)
ハルユキ君のために戦えなかった無力感と共に、バイザーの下で涙が澎湃と溢れ出す。
大事な仲間を守る意思も、このデスゲームを仕組んだ主催者を倒す決意も、オーヴァンに対する禍々しい憎悪も消えてしまい、ただの無力な少女に成り下がっている。
せめて、最後に残ったハルユキ君との思い出だけでも抱えたかったが、それすらも遠くに消えてしまう。だから、彼の名前を呼ぶしかなかった。
しかしハルユキとの思い出に縋ろうとした瞬間、彼の姿が徐々に遠ざかっていく。
(嫌だ、嫌だよハルユキ君…………! 私を一人にしないでくれ…………!
私にはハルユキ君が必要なんだ! ハルユキ君がいなければ、これから先の人生で何が起きても全く意味がない…………!
ハルユキ君! キミは私の誇りだから、私の声に応えてくれよ…………! ハルユキ君…………!)
助けを求める少女の声に答えてくれる者は誰もいない。
そうして、自分が一人ぼっちになってしまったことを悟った彼女は、意識を手放した。
かつて、自らの過去を暴かれた時と同等か、あるいは遥かに凌駕する程の絶望と無力感によってブラック・ロータス/黒雪姫の全てが零(ゼロ)になってしまう。全てを失った彼女は零化現象に陥ってしまい、何もできない。
(助けてくれ……! ハルユキ君……!)
必死に、世界で一番大切な男の子の優しい笑顔を思い浮かべようとして、黒雪姫はゼロになった。
3◆◆◆
「黒雪姫! 黒雪姫! しっかりしてくれよ、黒雪姫ッ!」
俺は黒雪姫のアバターを必死に揺らしながら叫ぶけど、彼女は何も答えてくれない。
その体に刻まれている無残な傷跡には見覚えがある。月海原学園からネットスラムに向かう最中にも見ており、ニコも受けたであろう爪だ。あまりの痛々しさに目を背けたくなるが、そんなことは許されない。
今はただ、どうすれば黒雪姫を助けられるのかを考えていた。肉体が消えていないので死んでおらず、気を失っているだけかもしれない。でも、すぐ近くで苛烈な戦いが起きているのに、呑気に構えていられなかった。
99
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:11:56 ID:KJtJ0qW.0
「ど、どうすれば……!?」
「ジローさんッ! 黒雪に、何があったんだ!?」
焦りで考えがまとまらない俺の耳に、焦燥感に溢れたキリトの声が響いてくる。
ユイちゃんが巨大なモンスターになって、しかも黒雪姫がオーヴァンに酷い傷を負わされた直後だ。冷静でいられるわけがない。
でも、俺はキリトのことも心配だった。
「キ、キリト! お前……大丈夫なのか!?」
「全然、大丈夫じゃない。だけど、なんとか生きてる…………って、今は俺のことよりも黒雪だ! まさか、黒雪は……!」
「アバターは消えてないから、多分生きていると思う! でも、全然起きてくれないんだ! オーヴァンのせいで……!」
みんなを傷付けたオーヴァンと、何もできなかった俺自身の怒り。
やり場のない感情は胸の中にこびりついていて、ただ表情をしかめるしかできなかった。
「……あれ? キリト。お前、どうして剣を持っていないんだ?」
その最中、俺はキリトが剣を構えていないことに気付いてしまう。
いくらフォルテがユイちゃんに戦いを挑んだからって、キリトが剣を下ろすとは考えられなかった。
俺は疑問を口にした瞬間、キリトの表情が一気に曇る。
「俺の剣はフォルテに破壊されて、残ったアイテムと力はみんな奪われた……だから、俺は戦うことができない」
「なっ……マジかよ!?」
「俺はユイやジローさん達を守りたかった! でも、もう無理なんだ……!」
悲痛な言葉を聞いただけで、キリトの憤りと悲しみが伝わった。
キリトの身に何が起きたのかを俺は知らない。ただ、ユイちゃんに戦わせてしまい、自分が何もできないことを悔しんでいるはずだ。
俺だって、力がなかったせいでニコを死なせたから、キリトの気持ちはわかる。今だってユイちゃんが戦うことになってしまい、どんな酷い目に遭わされてもおかしくない。
だけど、今の俺がキリトに何を言えばいいのか、全然思いつかなかった。
「――――うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺の葛藤をぶち壊すような、ユイちゃんの叫び声が響く。
顔を上げた瞬間、イニスになったユイちゃんが巨大化したゴスペルと戦っているのが見えたけど、様子がおかしかった。
「ゆ、ユイちゃん!? 大丈夫かー!?」
俺の叫びが聞こえていないのか、ユイちゃんは答えてくれない。
その姿に恐怖を感じる。上手く言えないけど、ユイちゃんであってユイちゃんでいなくなっているような……得体のしれない不安で胸がいっぱいになった。
体力が 8下がった
こころが 9下がった
信用度が 2下がった
技術が 10下がった
100
:
世界の終わりがはじまる力
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:13:30 ID:KJtJ0qW.0
3◆◆◆
「消し飛べえっ! 《ドリリングヘッド》ッ!」
フォルテの怒号と共に、<Gospel>の頭部がドリルの如く高速回転を起こす。声量を上回る程の回転音を響かせながら、獅子の顔はユイ/イニスを目がけて発射された。
速度と<Gospel>自身のサイズから推測すると、直撃すればユイ/イニスでもプロテクトを破壊されかねない程に驚異的な威力を誇る。《ドリリングヘッド》の回転は世界を容赦なく抉り、この憑神空間すらも砕きかねない。
射線に位置するエネミー達が回転に巻き込まれる音を聞きながら、ユイ/イニスは冷静に次の一手に移る。迫りくる<Gospel>の頭部を高速移動で回避しながら、両腕を掲げながら突進した。
「《惑乱の飛翔》を受けなさいッ!」
フォルテ/<Gospel>の目前に瞬時に迫って、ユイ/イニスは両腕を力強く振るう。
キリトやアスナ達がソードスキルで数多の敵を打ち倒したように、ユイ/イニスもまた《惑乱の飛翔》による攻撃を選んだ。フォルテ/<Gospel>の巨体を崩すには、同じ規模の武器になるイニスの両腕が必要だった。
飛行から生まれる勢いを乗せた一撃は、フォルテ/<Gospel>を吹き飛ばす。
「ぬっ……!」
案の定、フォルテ/<Gospel>の呻き声が聞こえて、確かな手応えを感じた。
矢継ぎ早にユイ/イニスは両腕を振り回し、フォルテ/<Gospel>の体躯を守るプロテクトに傷をつけていく。黒の剣士キリトの戦いを真似るように。
フォルテ/<Gospel>の頭部は瞬時に再生したが、反撃を許してはいけない。そのまま、フォルテ/<Gospel>を破壊するために一撃を降り下ろそうとしたが。
「……《ゴスペルキャノン》ッ!」
フォルテ/<Gospel>は逆上して、大きく開いた口に膨大なエネルギーが収束されていく。
目が眩むほどの輝きを前に、ユイ/イニスは自らの姿を透明にしながら回避行動を選んだ。しかし、フォルテ/<Gospel>が放射した灼熱の勢いは凄まじく、回避が間に合わずにユイ/イニスの巨体に直撃する。
「きゃああああああぁぁぁぁっ!?」
巨体を揺るがす程の衝撃に、ユイ/イニスは悲鳴を発しながら吹き飛ばされていく。
元より、イニスは接近戦を得意とせず、また攻撃力及び耐久性は他の憑神と比較して高くない。その為、碑文とAIDAが共鳴し合い、爆発的な進化を果たした<Gospel>の技を一つでも受けてはプロテクトが大幅に削られてしまう。
『痛み』の信号がユイ/イニスのアバターに駆け巡るも、彼女は堪えながら体勢を立て直す。覚醒したイニスから湧き上がる力が、ユイに勇気を与えていた。
(やはり、無暗に接近するのは危険です……ここは遠距離から仕掛けていかないと!)
不幸中の幸いか、フォルテ/<Gospel>の《ゴスペルキャノン》を受けて、距離が大きく開いている。相手が得意とする接近戦に持ち込まずに、上手く攪乱することが可能だ。
遠く離れたフォルテ/<Gospel>に標的を定めて、無数の光弾を発射した。しかし、その全てがフォルテ/<Gospel>の周囲で静止し、そして映像の逆再生の如くユイ/イニスを目がけて反射された。
(弾丸の反射!? まさか、プリズムのような特性もAIDAは持っているのですか!?)
ユイ/イニスは驚愕するものの、自らの速度さえ活かせば難なく回避することができる。
問題はゴスペルが弾丸を回避する能力を持っていることだ。シノンはエージェント・スミスに立ち向かう時、プリズムというアイテムで攻撃を反射させたことがあるらしい。
厳密にはプリズムはダメージを周囲に拡散させる効果だが、フォルテ/<Gospel>も同等のスキルを保有していると考えるべきだ。つまり、弾丸などの射撃攻撃はゼロ距離でなければ意味を成さなくなっている。
遠距離からの攻撃は通用しないことを、ユイ/イニスは悟ってしまった。
フォルテ/<Gospel>は自らに宿す『救世主の力』によって、ユイ/イニスの光弾を反射させていた。
『救世主の力』はマトリックスそのものを根本から変革させる程の力を持ち、救世主ネオはその力で数多の危機を乗り越えている。
フォルテはネオを打ち倒すことで『救世主の力』を奪い取り、更なる進化を果たした。AIDAの支配すらも打ち破り、そして自ら一体化させた<Gospel>も『救世主の力』の影響を受けている。
ネオはフォルテとの最終決戦で、『救世主の力』を利用してフォルテの弾丸を防いだ。同じように、フォルテ/<Gospel>もまた『救世主の力』でユイ/イニスが放つ光弾を静止させて反射させていた。
101
:
世界の終わりがはじまる力
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:15:12 ID:KJtJ0qW.0
「ユイと言ったか? まさか、この期に及んで怖気付いたのではないだろうな?」
次の一手を思考を遮るように、フォルテ/<Gospel>の冷淡な声が世界に響く。
「まぁ、それも当然か! キサマは所詮、キリト……いや、あの負け犬に成り下がった人間の娘なのだからなッ!」
そして、フォルテ/<Gospel>の叫びに込められた確かな侮蔑を、ユイ/イニスは感じた。
「ぱ、パパが負け犬……!? 何を言っているのですか!? パパは――――!」
「ヤツはただの負け犬だ! 剣を砕かれ、全ての力をこの俺に奪われて、惨めに震えるだけの負け犬だろう? キサマに戦いを任せて、自分一人は何もせずに隠れるような臆病者だ!」
「ふざけないでください! パパを……パパを侮辱することは許しませんッ!」
フォルテ/<Gospel>の嘲りに耐えきれず、ユイ/イニスは怒りのまま飛翔する。
案の定、フォルテ/<Gospel>は口から衝撃波を発射するが、ユイ/イニスの機動力を活かせば回避可能だ。横を通り過ぎていく衝撃を他所に、感情のままで双剣を振るったが、フォルテ/<Gospel>は跳躍する。
追いかけるようにユイ/イニスが振り向くと同時に、フォルテ/<Gospel>は散弾銃の如く勢いで光弾を連射したが、負けじとユイ/イニスも光弾を放つことで相殺した。
「侮辱だと? 俺は事実を言ったまでだ!
あの負け犬は俺に敗れ、そして戦意を失っているだろう? キサマを守ると言いながら、キサマに戦いを投げ出している! もしかしたら、今もどうやってここから逃げ出せるのかを考えているかもしれないぞ?」
「そんなはずはありません! パパは今まで、どんな危機に陥ろうとも必ず立ち上がってきました! あなただって、過去に二度もパパに負けたはずです!」
「だが、この三度目は俺が勝利を手にした!
そしてキサマの言葉が正しければ、どうして今すぐに立ち上がろうとしないのだろうな? あの時も、キサマがいなければ確実に負け犬はデリートされていた……奴は負け犬として、敗北を認めたのだ!」
「絶対にありえませんッ!」
フォルテ/<Gospel>が侮蔑する度に、ユイ/イニスは激高と共に光弾を発射した。
その速度とエネルギー量は先程に比べて向上しており、フォルテ/<Gospel>に着弾してダメージを与えている。まるで、ユイの怒りがイニスに共鳴しているようで、弾丸反射すらも使う余裕を与えなかった。
フォルテ/<Gospel>の巨体が揺れると同時に、ユイ/イニスは再び突進を仕掛けて剣を叩き込もうとする。しかし、フォルテ/<Gospel>はその巨大な口でユイ/イニスの一閃を受け止めた。
ダメージを与えられていくが、ユイ/イニスの勢いはこの程度で止められない。ただ、フォルテ/<Gospel>の撃破だけを考えていたからだ。
ユイ/イニスはもう片方の剣を突き刺そうとしたが、身を捻ったフォルテ/<Gospel>に放り投げられてしまい、またしても吹き飛ばされる。
「くっ……まだです! まだ、私は……!」
それでも、ユイ/イニスは瞬時に立ち上がった。
全ては愛するパパを守るため。パパは戦えなくなっているだけで、本当はとても強いことを娘であるユイ自身が証明したい。父の命だけでなく、誇りだって守りたかった。
もちろん、フォルテ/<Gospel>を打倒するための切り札をユイ/イニスは持っている。
イニスの碑文に覚醒したことでデータドレインも会得したため、まともに受ければフォルテ/<Gospel>でもひとたまりもない。だが、無策にデータドレインを放っても回避されるだけであり、何よりもフォルテ自身も碑文について知っているはずだった。
(フォルテから、イニスの碑文とよく似た反応が検知できる……やはり、フォルテも碑文使いとして覚醒しているのですか!?)
波長自体は微妙に異なるが、今のフォルテ/<Gospel>からは碑文の波動が感じられた。
AIDAと碑文は互いに惹かれ合い、そして一つになることで力が爆発的に向上する。スミスに感染した蜘蛛のAIDAがイニスを取り込んだことで強化されたように、フォルテ/<Gospel>も碑文の影響で膨大な情報量を得たはずだ。
しかし、フォルテ/<Gospel>の情報密度は蜘蛛のAIDAを遥かに凌駕している。碑文の他にも、何らかの力を取り込んで強化している可能性があった。
102
:
世界の終わりがはじまる力
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:16:42 ID:KJtJ0qW.0
(だとすると、パパが戦えなくなったのはデータドレインでスキルを奪われたから……!?)
だが、ユイ/イニスが抱くのはフォルテ/<Gospel>に対する恐怖ではなく怒り。
フォルテは碑文使いに覚醒したことでデータドレインも手に入れて、キリトのスキルを強奪したのだろう。データドレインは防御不可能であり、システム外の力を持たないキリトでは対抗する術を持たない。
(ならば、私のデータドレインさえ使えば、フォルテからパパのスキルを奪い返すこともできます!)
そんな突拍子もない考えが、ユイ/イニスの中で芽生えた。
奪われたなら、奪い返せばいい。カイトもデータドレイン砲でスミスから碑文を奪ったように、イニスのデータドレインがあればキリトのスキルを取り戻せる可能性もある。フォルテ達を撃破して、レオの力を借りればキリトも復活できるはずだ。
父の力を取り戻せる希望が芽生えた瞬間、アバターの動きを阻害する痛みが和らいだことを感じて、ユイ/イニスは自らの剣を構えて飛び上がる。
「フォルテ! あなたがパパから奪ったものを……私が絶対に取り戻します!」
「面白い……やれるものなら、やってみろ!」
フォルテ/<Gospel>に負けないほどの闘争心を漲らせながら、ユイ/イニスは距離を詰めていく。
ユイ/イニスは無数の光弾をフォルテ/<Gospel>に目がけて放つ。フォルテ/<Gospel>の力で全ての弾が停止し、反射させられるが問題ない。自らのアバターを透明化させれば、着弾することはなかった。
その機動力でユイ/イニスは敵の目前にまで迫ると同時に姿を現し、巨大な双剣でフォルテ/<Gospel>を吹き飛ばす。
「むっ!?」
(いける……これなら、いけます!)
苦悶の声を漏らす死神を前に、ユイ/イニスは確かな手ごたえを感じた。
先程からいくども繰り返したが、やはりフォルテ/<Gospel>には幻惑の攪乱から不意打ちを仕掛ける戦法こそが有効だ。フォルテ/<Gospel>自身のパワーは驚異的だからこそ、機動力と幻惑を活かして回避し続けることができる。
(やっぱり、私が強く願う度にダメージ量も増えています! ならば、いずれフォルテを撃破することも不可能ではありません!)
光弾の威力と速度は向上し、剣の重みも増していた。
月海原学園で得た情報によれば、碑文使いの感情に呼応して憑神もまた力を増幅するらしい。ならば、ユイの怒りに応えてイニスも力を増幅し、ダメージも増えたと考えるべきだ。
やがて、碑文使いの心の闇を増幅させるが、比例してイニス自身も強化されるはず。ユイがフォルテに対する怒りを燃やす程、いずれイニス自身も相応の力を発揮する。
「覚悟しなさい、フォルテ! 私はあなたを絶対に許しませんし、パパを侮辱した罪はその命で償ってもらいます!」
激情に比例してイニスの紋章も激しく輝いて、世界は大きく震えた。
碑文から膨大な力が無限に溢れ出し、気持ちが昂っていく。このまま力を得れば、フォルテやオーヴァンだけでなく、このゲームを仕組んだGMもろとも世界全てを破壊できそうだ。
「手始めとしてフォルテを破壊して、それからママの敵討ちにオーヴァンを跡形もなく消し飛ばしてみせます! 私の力なら――――!」
――――その叫びは、唐突な鼓動によって遮られる。
ノイズと共に時間が静止し、自分自身が遠くに放り込まれるような奇妙な感覚を抱いた。
一体何が起きたのか? そんな違和感が生まれた瞬間、イニスの大きな叫び声が耳に響く。
「えっ……? 何が起きたのですか?」
そんな疑問を他所に、イニスはフォルテ/<Gospel>に飛びかかった。
ユイの意思を無視するように暴れて、双剣を振り回す。怒涛の勢いで振るわれる刃はフォルテ/<Gospel>の巨体を確実に抉っていくも、敵は灼熱を発射してイニスを吹き飛ばした。
イニスは僅かに呻き声を漏らすが、ユイは痛みをほとんど感じない。ただ、猛獣のように暴れるイニスがフォルテ/<Gospel>と戦う光景を、俯瞰するように見るしかなかった。
103
:
世界の終わりがはじまる力
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:19:47 ID:KJtJ0qW.0
「ど、どうして……!? どうして、イニスをコントロールできないのですか!?」
ユイは気付かない。
怒りと憎しみによって強化されたイニスが、ユイではコントロールできないほど暴走したことを。
憑神は碑文使いの感情に呼応して強化される。ユイ自身の考案は間違いではないが、憑神は心の闇を増幅させる意味を真に理解していなかった。負の感情に任せて力を振るえば、いずれ憑神が制御できなくなる程に暴走する。
ユイは高性能を誇るAIであり、キリトやアスナたちの戦いを幾度も見守り、時にアドバイスを行った。しかし、ユイ自身が戦闘に参加した経験は非常に少なく、その為に自らが力に溺れる可能性に至らなかった。
加えて、フォルテからの嘲りで怒りが更に湧き上がり、力を発揮することを優先してしまう。ユイ自身はイニスから与えられた力に溺れ、復讐を優先してもっとも大事な覚悟を失ってしまった。
大切なもの失う覚悟と、大切なものを守る覚悟。その二つを。
『ガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!』
そんなユイに対する罰や嘲りのように、イニスは咆哮し続けた。
フォルテ/<Gospel>から与えられるダメージなど気にも留めず、巨大な剣を振るって攻撃をし続ける。その姿は凶悪なボスモンスターと変わらず、これほど醜い怪物が自分から生まれたことがユイには信じられなかった。
フォルテ/<Gospel>を確実に押していくが、その姿にユイは恐怖を抱いた。
「待って! 待ってください、イニス! 私の言うことを聞いてください!」
先程までの怒りや戦意が嘘のように、不安の表情でユイは叫ぶが届かない。
自分の願いを叶えるように力を発揮しているが、これは違う。だからイニスの名前を呼び続けるけど、その叫びを無視して攻撃し続けていた。
やがてフォルテ/<Gospel>を遠くに吹き飛ばす。それほどの力が発揮されたことに、今のユイは恐怖で震えていた。
「ククク……そうだ! その力だ!
キサマが力を振るってこそ、破壊する意味がある! 俺と同じように、破壊し続けろッ!」
愉悦を込めたフォルテの叫びは、ユイの心を深く抉る。
「ち、違います……! 私は、パパ達を守りたかったから……! 破壊するために、イニスの力を使ったのではありませんっ!」
必死に否定するユイの呼吸は荒くなるが、その声を聞く者は誰もいない。後ずさろうとしても足は動かず、むしろイニスの暴走は激しくなる。
一方、フォルテ/<Gospel>は《ゴスペルキャノン》を発射するが、イニスは天に高く跳躍したことで軽々と回避した。
そのままイニスがフォルテ/<Gospel>を見下ろした瞬間、ユイは見てしまう。ユイが守りたかったキリト達が、不安そうにイニスを見上げる姿を。
「ぱ、パパ……!?」
ユイが名前を呼ぶと同時にイニスの周囲にエネルギーが集まった。
圧倒的な輝きとエネルギー量が感じられた瞬間、ユイの全身に悪寒が走る。
「ま、まさか……! やめてください、イニス! あそこには、パパ達がいます!」
だからユイは必死に叫ぶが、イニスは止まらない。
104
:
世界の終わりがはじまる力
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:22:18 ID:KJtJ0qW.0
「逃げてください、パパ! ここからすぐに逃げてください! このままじゃ、イニスが……パパ達を……パパ達を……!
逃げて、パパ! 逃げてええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
せめてキリト達だけでも逃がしたかったが、ユイの叫びは誰にも届かない。
暴走したイニスに捕らわれた彼女の声は、もう誰も聞くことができなかった。
『グガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!』
無情にも、ユイの願いを踏みにじるようにイニスはエネルギーを開放した。
同じタイミングでフォルテ/<Gospel>が口から発車した灼熱と衝突し、盛大な爆発を起こして世界を容赦なく震撼させる。
しかし、フォルテ/<Gospel>から外れた光弾が、キリト達を目がけて進んでいた。
「パパああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ユイの悲鳴と共に、光弾が爆発を起こす。
自分のせいでパパ達を傷付けてしまったのか? フォルテ達を相手に戦えるという驕りが、この結果を招いたのか?
こんなのは違う。ただ、パパを守るために戦いたかっただけで、こんな結末を望んでいたわけがない。その願いを叶えてくれるために、イニスは力を貸してくれたのではないのか?
「来たれ、『再誕』――――――――コルベニク!」
ポーン、と唐突に響いたハ長調ラ音と共に、唯一にして最悪の救世主の名前が宣言される。
続くように、<蒼炎の守護神(Azure Flame God)>を遥かに凌駕する情報密度と共に、神々しい純白の輝きが世界を照らした。光はほんの一瞬で収まった瞬間、ユイ/イニスとフォルテ/<Gospel>を遥かに凌駕する巨神が顕在していた。
「『再誕』のコルベニク…………オーヴァンなのか!?」
圧倒的な存在感を放つ巨神に息を呑んだ瞬間、男の声がユイの耳に響く。
我に返りながら振り向くと、キリト達の姿が見えた。現れた巨神は、まるでキリト達を庇うように顕在しており、思わず安堵を抱いてしまう。
「その通りさ。お前にこの姿を見せるのは、これで二度目になるな」
しかし、続くように発せられた男の低い声で、ユイの心はほんの一瞬で憎しみに染まる。
何故なら、この男は愛する母・アスナの仇であり、キリトを絶望のどん底に叩き落とした憎きオーヴァンだからだ。事実、キリトからも名前を呼ばれていて、何よりも巨神の左肩からは生えたどす黒い爪はAIDAの反応が感じられる。
「ま、まさか……オーヴァンにパパを助けられた……!?」
「どうやら、俺はユイからキリトを守った恩人になってしまったみたいだ。あと一歩遅かったら、キリト達はユイに殺されていたからね」
オーヴァン/コルベニクにとっては何気ない一言で、言葉では言い表せない衝撃と共にユイを絶望へ叩き落とした。
母の仇によって、父の命を助けられてしまう。しかも、父の命を奪おうとしたのは他ならぬ娘自身だ。信じたくなかったけど、オーヴァンの言葉は全て紛れもない真実で、否定できない。
このままオーヴァンがコルベニクを顕現させなければ、確実にキリト達の命は奪われていたから。
「お前が恩人だと!?
ふざけるな! お前は、アスナやシルバー・クロウ達の命を奪い、黒雪のことも傷付けただろうが!?
そんなお前を恩人と認めてたまるかっ!」
「だが、事実としてお前達はユイに殺されかかった。暴走したユイから戦えないお前達を俺が守ってやったことに、何の間違いがあるんだ?」
キリトは必死に叫んでくれるが、オーヴァンはあっさりと切り捨てる。
オーヴァンの言葉は毒のようにユイを蝕んでいき、その瞳から澎湃と涙が溢れ出した。高性能のAIであるが故に現実逃避も許されず、ただ事実を受け入れるしかない。
醜い怪物となった娘から愛するパパを守ってくれたのは、他ならぬオーヴァンであることを。
105
:
世界の終わりがはじまる力
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:23:55 ID:KJtJ0qW.0
「オーヴァン……キサマ、何のつもりだ!?」
「悪いが、これ以上は見ていられない。ここで終わらせてもらうぞ」
フォルテ/<Gospel>の叫びを無視して、オーヴァン/ゴスペルはイニスに振り向く。
本能で何かを察したのか、イニスの狂気が僅かに揺らぐ。僅かに芽生えた隙を付き、オーヴァン/コルベニクはイニスを遥かに凌駕する速度で突貫しながら、左肩に宿る<Tri-Edge>を振るった。
イニスは双剣を交差させて防ごうとするが、<Tri-Edge>の一閃に打ち負けてしまう。がら空きになったイニスの体躯を目がけて、<Tri-Edge>の爪が振るわれ続けて、ユイの視界が大きく揺らいだ。
「きゃああああぁぁぁぁぁっ!?」
「ユイ!? ユイいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ! やめろ、オーヴァン! やめてくれえええぇぇぇっ!」
ユイの悲鳴とキリトの叫びが重なるが、<Tri-Edge>は止まらない。<Tri-Edge>が力を発揮すれば、暴走したイニスなど赤子も同然だった。
例え暴走して力が増幅したイニスだろうとも、オーヴァンは元より戦闘スタイルを把握している。また、コルベニクは”最強の憑神”と畏れられており、<Tri-Edge>はコルベニクの影響で突然変異体となった0番目のAIDAだ。
圧倒的な戦闘力はもちろんのこと、憑神の切り札であるデータドレインすらも通用せず、また撃破されても『再誕』で復活することが可能だ。元より戦闘力で劣り、また手札は全て把握されているイニスにコルベニクを倒す方法は存在しない。
「終わりだ」
反撃はおろか、防御や回避すらも許さない<Tri-Edge>の一閃により、イニスの勢いは弱まる。そしてオーヴァン/コルベニクは頭上に渦球を形成し、炸裂させて無数の針をイニスに突き刺した。
《掃討の魔針》を正面から受けて、何かが砕ける音を耳にした瞬間、ユイは自分から力が失っていくのを感じる。
元より、フォルテ/<Gospel>との戦いで消耗した所に、圧倒的な力を誇るオーヴァン/コルベニクと<Tri-Edge>の攻撃を受けたことで、限界を迎えてしまった。
プロテクトブレイクで世界が砕け散り、ユイは何も言えないまま落ちていった。
†
「……あ、うぁ……っ……」
イニスの顕現が解除されて、ユイは地面に倒れ伏せている。
ダメージは深いだろうが、少なくとも致命傷ではない。コルベニクと<Tri-Edge>は手加減させたが、フォルテ/<Gospel>に深手を負わされている危険があり、またこれ以上の暴走は自滅の危険がある。
ユイだけではない。タルヴォスの碑文に覚醒したフォルテも暴走するリスクが存在した。碑文を同時顕現させては暴走する危険が高まるため、オーヴァン/コルベニクは早期決着を選んでいる。
その甲斐があってか、こうしてユイのアバターは消去されずに済んだ。
「……ぱ、ぱ…………わた、し、は……」
「悪いが、君には眠ってもらおう。月の下で穏やかに休むといい」
呻き声を漏らすユイに向けて、オーヴァンは月のタロットを使う。
敵を睡眠状態にする効果があり、ウラインターネットに位置するショップで購入していた。顕現の解除後に抵抗させないため、月のタロットで眠らせる必要がある。コルベニクの乱入が遅れたのも、ショップに向かっていたからだ。
また、導きの羽や完治の水も購入して、自らのポイントが0になったが構わない。出し惜しみなど下らないし、今は迅速な帰還とユイの治療が最優先だ。
「待て、オーヴァン! キサマ……俺の勝負に水を差すつもりか!?」
案の定、フォルテは喰ってかかる。いつの間にか、フォルテも<Gospel>を解除したことで、世界は完全に元通りとなっていた。
コルベニクに警戒したのか、イニスとの戦いで割り込まなかったことが幸いだ。フォルテの相手をしながら、ユイを確保するのはオーヴァンでも骨が折れる。
だが、一応はフォルテを説得するべきだろう。
「忘れてはいないか? 俺達の目的は最初からユイを確保することで、君もそれを了承したからキリトと戦えたはずだが?」
「ぬっ……」
「俺はユイを連れて先に戻るから、後は君の好きにしてくれ。ちょうど、キリト達も揃っているしな」
オーヴァンが説得したら、不承不承だがフォルテも受け入れたようだ。
そしてユイの体を抱えながら導きの羽を手に取り、帰還の準備を整える。もうここには用がない。
「待て、オーヴァンッ! ユイを……ユイを返してくれ!」
「ユイちゃん!」
案の定、キリトとジローの叫びが聞こえてくるが振り向かない。
フォルテと戦うことができず、ただ無様に泣き叫ぶだけの彼らなど興味がなかった。戦意も既に感じられない。
故に、オーヴァンは導きの羽を使って、ユイと共にこの場から去っていった。
106
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:24:57 ID:KJtJ0qW.0
4◆◆◆◆
「ユイイイイイイィィィィィィィィィィィィィッ!」
オーヴァンに捕らわれて、そのまま消えてしまったユイちゃんを前にキリトは泣き叫んでいる。
俺も悔しかった。何もできず、みんなが傷付いていく姿をただ見ていることしかできなかった無力さに。
「フン……ここまで惨めな姿を晒すとは」
そして俺達の道を塞いでいたフォルテは、心の底から軽蔑した目線で俺達を睨んでいる。
しかし、圧倒的な殺意はそのままで、構えているバスターには膨大なエネルギーが集まっていた。今のフォルテなら、俺達3人をすぐに殺せるはず。
「……人間、キサマは一体なんだ?」
「えっ?」
そんな中、フォルテが予想外の言葉を口にしてきたことで、俺は呆気に取られてしまう。
「キサマの中から、キサマと全く同じ声がもう一つだけ聞こえている。まさか、何者かがプラグインでもしているのか?」
「なっ……!? お前、もしかして『オレ』のことを……!?」
「まぁ、どうでもいいさ。キサマ如きが、俺を止められる訳がないからな」
フォルテの言葉に俺は動揺した。
あいつは俺の中にいる『オレ』に気付いている。どんな能力を使ったのか知らないけど、フォルテは俺の心を読んで『オレ』の存在にたどり着いたのだ。
しかし、俺達が戦う手段を持たないことを察したのか、すぐに興味をなくす。
「跡形もなく消えてしまえ」
フォルテが収束したエネルギーが俺達に向けられて、放たれるまであと僅かだ。
もう、俺達にどうすることもできない。キリトはユイちゃんを奪われて戦意喪失し、黒雪姫は未だに眠り続けている。もちろん、俺にこの危機を乗り越える力など持っていなかった。
『……ジローさん!? 聞こえますか、ジローさん!? 一体、何が――――』
世界が元に戻ったおかげか、ようやくレオの通信が聞こえてくる。
でも、レオでもどうすることもできない。今から駆けつけても間に合う訳がないし、何よりもユイちゃんを奪われてしまったのだから。
俺が殺されるのはこれで2度目になるけど、今度は走馬灯すらも見えない。だから、せめてパカのことだけでも考えたかった。
(ごめん、パカ……やっぱり俺は――――)
大切な少女の笑顔を思い出そうとした瞬間、唐突に世界が大きく振動する。
膨大なノイズと共に、俺の意識ごと足元が崩れ落ちることを感じて、すぐに何も見えなくなった。
5◆◆◆◆◆
「ミッションクリアおめでとう、オーヴァン。確かにユイの身柄を確保できたようだね」
導きの羽を使って知識の蛇に帰還した途端、榊が満足げな表情で出迎えてくる。
彼だけではない。白衣の男……トワイス・H・ピースマンと見知らぬ金髪の少女も並んでいた。
107
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:28:53 ID:KJtJ0qW.0
「私の名はアリス。榊やトワイスと同じ、GMの一人です。以後、お見知りおきを」
オーヴァンの疑問に答えるように、アリスと名乗った少女は前に出る。
華奢な体躯を黄金の鎧で纏い、装飾の至る所には青色が混ざっていて、どこか中世の騎士を彷彿とさせるアバターだ。
アリスにユイを渡すと、深く礼をする。この態度から考えて、彼女がGMの監督役である可能性が高かった。
「俺は君達の仲間になったからには、これくらいのことはしないとね。これで、君の評価は上がったかな?」
「あなたが余計なことをしない限り、私は何も言いません。ユイを確保したことについては、高く評価しています」
鎌をかけてみたが、アリスは特に動じない。無論、彼女が口を滑らすとも思えなかったので、問題ないが。
「それにしても、やはりオーヴァンは期待通りの働きをしてくれるね。
フォルテもあと少しで合格だったのだが、やはりキリトとの勝負を優先させた……まぁ、ユイさえ確保できれば問題ないのだがね。
もう、彼らはゲーム崩壊に巻き込まれたのだから。表向きには敗退扱いにするが、生存の可能性もあるから探索だけはするつもりだ。
もっとも、ネットスラム自体は修復不可能だし、何よりも役目を終えたエリアだから修復の必要もないが」
榊の称賛を受けても、オーヴァンは特に何も感じない。
オーヴァンが帰還してすぐに、ネットスラムは完全崩壊したようだ。元々、ネットスラムではフォルテやスケィスゼロが幾度も暴れたことで、崩壊は更に進行する。
一応、メンテナンスの度に修復したようだが、あくまで表向き。そんな状態で憑神やAIDAなどが力を発揮したことでネットスラムの至る所に亀裂が走り、コルベニクがイニスと戦った頃には崩壊寸前だった。
もしも、オーヴァンがあと一歩でも遅れていたら、ユイも崩壊に巻き込まれた危険もあったらしい。
「榊、俺はこれから岸波白野達を探すために破壊された学園に向かう。今後のためにも、彼らの居所を探った方が得だと思うからね」
「それもいいかもしれないね。
では、君には対主催生徒会の捜索を命じよう。いい結果を待っているよ」
オーヴァンの提案に榊が頷く。
これで、今後の行動方針が定まった。オーヴァンとしても、対主催生徒会と接触する機会を狙っていたので、動きやすくなる。
「さて、お喋りもいいが我々にはまだやるべきことがあるはずだ。榊、アリス……ユイを連れて、例の場所に向かおうじゃないか」
「そうだったね、トワイス。
ユイも手に入れた以上、我々の計画も大幅に進む。要である彼女をデスゲームに生き残らせたのだから、相応の成果が得られる。
その報酬として、オーヴァンの移動範囲が増えるだろう……その先で何が待っているか、我々も把握しきれないので気を付けてくれよ」
得意気な笑みを浮かべる榊と、相も変わらず表情を動かさないトワイスはカオスゲートに向かい、何処かへ去っていく。
残るアリスはオーヴァンに警戒の視線を向けた後、ユイを抱えながら知識の蛇から去っていった。
「……どうやら、あまり時間は残されていないようだ」
そう呟いたオーヴァンもまた知識の蛇から去っていく。
ユイの確保に成功したことでGMの計画は確実に進行した。デスゲームの『真実』に辿りつく時まで遠くないが、オーヴァンからすれば準備不足に等しい。
榊らの語った”計画”の全貌は未だに知れず、またこちらの戦力も不充分だ。現段階でGMとの戦いに突入しても勝ち目は薄い。だからこそ、岸波白野達のヒントが残されているであろう月海原学園を調査する必要があった。
その為にも、向かうべき場所もある。
†
オーヴァンが辿りついたのは『忘刻の都 マク・アヌ』にて顕在する巨大な塔の前だった。
不気味な威圧感を放つ塔の扉に触れた瞬間、先程とは異なって侵入することができるようになった。恐らく、ユイを確保した報酬としてGMから権限を認められたのだろうが、今はまだ侵入しない方が良さそうだ。
榊とアリスから釘を刺された以上、現段階では侵入自体が罠であるリスクが高い。
108
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:30:00 ID:KJtJ0qW.0
(今はこの忘刻の都……そして、ここで出会った”あの人物”のことを交渉の道具にしなければいけない。俺が求める『真実』を得るには、彼らの力が必要不可欠だ)
恐らく、対主催生徒会はユイがGMの手に落ちたことを把握しているはず。
彼らにユイの居所を教え、そして忘刻の都の情報を提供すれば交渉に応えるだろう。追跡者についても、ユイを取り戻す為ならこちらの要求を飲まざるを得ない。
(その為にも……もう一度だけ会う必要がある)
オーヴァンの願いに応えるように、忘刻の都にノイズが走った。
そして空気が静止する中、足音が聞こえてくる。新たに感じた気配に笑みを浮かべながら、オーヴァンは振り向いた。
案の定、”あの人物”が現れる。
「やはり、君か――――――」
”あの人物”を前に、オーヴァンは…………
【?-?/知識の蛇→?/一日目・真夜中】
※システム外の力が振るわれ続けた影響で、ネットスラム全域が修復不可能なほどに完全崩壊しました。
※キリト、ブラック・ロータス、ジロー、フォルテの4名は崩壊に巻き込まれて消息不明になっています。表向きでは敗退扱いとなります。
【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP0%、PP0%、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ/通常アバター、イニスに覚醒、自分自身に対する絶望、睡眠中
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:?????????
0:?????????
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。
※キリトを守りたいという気持ちに応えて、イニスの碑文が覚醒しました。
109
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:30:45 ID:KJtJ0qW.0
【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:バトルロワイアルを完遂させ、己が目的を達成する。
2:再構築したロックマンを“有効活用”する。
3:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第二相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。
【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。
【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。
110
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:31:58 ID:KJtJ0qW.0
【?-?/忘刻の都/一日目・真夜中】
【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP40%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:現れた人物と話をする。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
6:月海原学園に向かい、GMの隙を見て対主催生徒会と交渉する。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※スケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。
※榊からこのデスゲームの黒幕がモルガナであることと、その目的を聞きました。
しかし、それが本当に“真実”の全てであるか疑問を抱いています。
※忘刻の都の塔に侵入可能となっています。
【????@??????】
支給品解説
【月のタロット@.hack//G.U.】
指定した相手1体を睡眠状態にする。
111
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:33:32 ID:KJtJ0qW.0
6◆◆◆◆◆◆
「あれ……ここは……?」
倦怠感と痛みを感じながら、ジローは瞼を開いた。
足元が崩れて、そのまま落下したことで意識を失っていたらしい。
まさか、俺は死んだのかと背筋が凍ったが、意識はある。すぐ隣では黒雪姫が倒れたままだ。
「く、黒雪姫……! 黒雪姫、しっかりしてくれ! 黒雪姫!
キリトは……キリトはどこなんだ!? キリト、いるなら返事をしてくれ! キリトッ!」
黒雪姫のアバターを揺すっても、彼女は目を覚まさなかった。
キリトのことも探したけど、彼の姿は見当たらない。周囲を見渡してみたけど、人の気配は感じられなかった。
不幸中の幸いか、フォルテはいないので狙われることはなさそうだ。
「な、何なんだよここは……どうして俺達がこんな場所にいるんだ……!?」
そして、周囲に漂う冷たくて重苦しい空気を感じて身震いする。
空想上で語られる地獄の中に放り込まれたようで、ただの人間に過ぎない俺は不安になった。レオに通信してみるが、俺からのSOSは届かない。
迷子のように動揺していて、これから何をすればいいのか考えられなかった。黒雪姫は起きないし、さっきの件で不貞腐れたのか『オレ』は口を開かない。
「…………そういえば、フォルテはなんで『オレ』のことに気付いたんだ?」
『オレ』を思い出すと同時に湧き上がる疑問。
まるで『オレ』を察知したかのようだったが、『オレ』は俺の深層であるので誰かが気付ける存在ではない。それこそ、心を読まない限り不可能だ。
だけど、ここにフォルテがいない以上は考えても仕方がない。今は黒雪姫やキリトを助けて、レオ達にユイちゃんが捕まったことを伝えるべきだ。
「どうすれば……?」
その時、俺の視界に大きなシルエットが飛び込んでくる。
先程、俺達がいたネットスラムには存在しなかったような建築物のようだ。もしかしたら、あそこに誰かがいるのか?
そんな僅かな可能性を賭けて、一歩前に踏み出した瞬間。
「…………な、なんだよこれは!?」
その異様な光景に、俺は絶句した。
体力が 40下がった
こころが 13下がった
変化球が 9下がった
やる気が 20下がった
【?-?/????/一日目・真夜中】
112
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:35:13 ID:KJtJ0qW.0
【Bチーム:ネットスラム攻略組】
※ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ゲームの表エリアの外に放り込まれました。
【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP数%/デュエルアバター 、強い憎しみと悲しみと絶望、零化現象、《異形の聖痕》が刻まれている
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、蒸気バイク・狗王@.hack//G.U. 、不明アイテム×1
[ポイント]:358ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:――――――――――――
0:――――――――――――
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。
※《異形の聖痕》が刻まれ、自分の無力感に絶望して零化現象が起きました。
【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×1@.hack//G.U. 、不明支給品0〜1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:なんだよ、これ…………!?
1:今は黒雪姫を守りながら、レオ達の元に戻りたい。
2:ユイちゃんの事も、守りたかったけど……。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
113
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:37:57 ID:KJtJ0qW.0
7◆◆◆◆◆◆◆
フォルテは翼を羽ばたかせて飛んでいた。
ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ゲームの外に放り込まれても飛び続けている。
まだ、戦いは終わっていないからだ。
「……俺が生きているなら、奴らも生きている可能性が高そうだ」
自らの生存を根拠に、先のネットスラムで戦っていた人間達も今もどこかにいるとフォルテは確信していた。
だが、無様な負け犬をわざわざPKする気にならず、あれほど湧き上がっていたキリトに対する怒りも冷め切っている。もはや、名前を口にする気力すらも沸かない程に失望していた。
もちろん、何か残されたスキルがあるかと警戒して、思考予測で3人の脳内を覗き込んだ。その結果、ジローと呼ばれた人間の中に別の人格が潜んでいることは判明したが、フォルテからすれば弱者に変わりはない。
「もっとも、今となっては負け犬どもはどうでもいいが」
あの負け犬がまた新たなる力を持って挑むのであれば、徹底的に破壊してもいい。しかし、その可能性には期待できないだろう。
何故なら、オーヴァンにユイが連れて行かれる時も、惨めに泣き叫んでいただけだから。
自らの怒りを無意味にされたも同然だが、もう負け犬どもに興味はない。惨めに朽ち果てようとも、知ったことではなかった。
「ヤツらに使ったこの力……人間相手ならば充分だろうが、まだ足りない。
これだけでは、オーヴァンや榊……そして“災い”を破壊し尽くすには足りないな」
<Gospel>と《ダークフリーズオーラ》、そして《データドレインG.A.P》で先の戦いを優位に進めることができた。しかし、全てを喰らうには不充分だろう。
オーヴァン/コルベニクとの決着をつけるにしても、相討ちまたは満身創痍になった上での勝利は避けられない。AIDAと碑文を喰らったからこそ、オーヴァン/コルベニクの異質さが理解できた。
また、ゲーム外に放り込まれてから“災い”……―――の気配は更に強まっていき、殺気も高まっている。ネットスラムでの戦いも、“災い”にとっては児戯に等しく、その気になればすぐにでも集まったプレイヤー達を奈落に放り込めたはずだ。
「だからこそ、俺は力を手にしなければいけないッ!
俺が手に入れられる力はこんなものではないはずだ! まだ、どこかにあるはずだ……俺を強くして、そしてより強大で完璧な存在にさせる力があるはずだ!
その全てを手に入れるまで、俺は戦い続ける! そして、最強の存在になってみせるッ!」
ただ、力を求めていた。
どこかに、更なる進化を果たすための力があるはずだ。GMが用意した駒から力を奪ってもいいし、あるいはネットの海から新たなる力を探す必要もある。
今はただ、“災い”に立ち向かうための新たなる力だけが必要だった。
「俺は強くなる……そして、全てをデリートする! 例え何者が待ち構えていようとも、俺は負けない!
キサマがいかに強大だろうと、俺はそれを超えてみせる! 待っていろ……―――ッ!」
預言の力で存在を知った“災い”……―――の姿を思い浮かべながら、フォルテは飛び続ける。
“災い”がどれだけ強大だろうとも、その闘争心が衰えることはありえなかった。
114
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:40:15 ID:KJtJ0qW.0
【?-?/????/一日目・真夜中】
【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP30%、激しい憤怒、心意覚醒、憑神覚醒、キリト達に対する失望
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ユウキの剣、死銃の刺剣、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×3@.hack//G.U、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド 、プリズム@ロックマンエグゼ3、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜5個(内0〜2個が武器以外、1個が水系武器なし)、参加者名簿、基本支給品一式×3
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:今は新たなる“力”を得るために戦う。
1:すべてをデリートする。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
4:オラクルが警告した“災い”とやらも破壊する。
5:負け犬の人間どもに興味はないが、力を取り戻したなら相手をしてやってもいい。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。
〇AIDA<????>の減速空間の効果により、フォルテと隣接するプレイヤーの速度を自動的に減速させることが可能です。フォルテから離れれば減速から解除されます。
○エネミー及び破壊されたネットスラムのデータを捕食した結果、AIDA<Gospel>は成長しています。
※オラクルを吸収し、預言の力を獲得しました。未来予測に伴い、特定プレイヤーの思考すらも予測することが可能です。ただし、乱発すると相応の負荷がかかります。
※オラクルが警告した“災い”の姿を予言しましたが、現段階では断片のみしか見えていません。今後、どうなるかは後の書き手にお任せします。
※オーヴァンから『忘刻の都 マク・アヌ』にて得た"情報"を聞きましたが、それほど重要視していません。
※《データドレインG.A.P》を使い、キリトからスキルとアバターを奪い取りました。
※思考予測からジローの深層意識に気付きましたが、あまり興味がありません。
115
:
闇に沈む心
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:44:49 ID:KJtJ0qW.0
8◆◆◆◆◆◆◆◆
ネットスラムの崩壊によってゲーム外に放り込まれた者達は生きていた。
ジローとブラック・ロータス、フォルテはそれぞれ異なる未知のエリアに放り込まれて、新たなる道を歩もうとしている。
そして、最後の一人であるキリトもまた、表エリアからでは把握できないエリアに流れ着いていた。
未だに眠り続けている彼の傍らには、サチが残したクリスタルが転がっている。
キリトがクリスタルに手を指をつければ、いつでもそのメッセージを聞くことができるだろう。その時、彼にどんな感情を与えるのかは誰にもわからない。
彼は多くのものを失い続けた。
最愛の人を殺され、仲間達は次々とPKされてしまい、そしてたった一人の愛娘も仇敵に奪われた。
大切なものを守るための力すらも失った彼が目覚めた時、何を思うのか。
そんなキリトを悲しげな表情で見つめる人物がたった一人だけいた。
目覚めたキリト深い絶望を味わい、そんな彼のために何もできないことを知っている。
だからこそ、誰の手も届かないこのエリアに転送するしかなかった。このエリアならば誰の目にも届くことはないし、キリトが戦うこともない。
ネットスラムの崩壊により、GM達の目をほんの一瞬だけ誤魔化すことができたので、このエリアにキリトを匿った。その場しのぎでしかないが、キリトを救う方法は他にない。
ただ、今はキリトだけに目を向けていられない。
GMはユイの確保に成功して、デスゲームも既に第三段階に突入しようとしていた。“波”は止まることがなく、xxxxが訪れるまで近い。
今は自らのやるべきことを果たすため、この場を去った。このエリアに干渉できるのはたった一人しかいないため、今のところは他のGMに存在を気付かれることもない。
自らを見つめていた人物に気付かないまま、キリトは未知のエリアで眠っていた。
【?-?/????/一日目・真夜中】
※何者かによってキリトはゲーム外のエリアに転送されました。
※現段階ではGMからも捕捉されることもありません。
【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP40%、MP80%、疲労(大)、気絶/SAOアバター、データ完全初期化
[装備]:なし
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、サチのクリスタル@ソードアート・オンライン
[ポイント]:200ポイント/0kill(+1)
[思考・状況]
基本:――――――――
0:――――――――
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※ALOアバター及びGGOアバターの変更ができなくなりました。
※《データドレインG.A.P》を受けたことで、全てのスキルとアイテムをフォルテに奪われて、また共有インベントリと通信システムの設定も消えています。
※折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンラインが奪われなかった正確な理由は不明です。
※ダークリパルサー及びエリュシデータ@ソードアート・オンラインが破壊されました。
※傍らにサチのクリスタル@ソードアート・オンラインが落ちていることにまだ気づいていません。
116
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:46:02 ID:KJtJ0qW.0
以上で投下終了です。
ご意見などがありましたらよろしくお願いいたします。
117
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/27(土) 18:22:31 ID:VIH9T4K.0
VRロワの皆様にご報告を。
今回の投下作の収録において、最後のキリトパートなど◆NZZhM9gmig氏の更正が入った方を収録させて頂くことを報告させて頂きます。
◆NZZhM9gmigとの話し合いの結果、今回の話は事実上の合作となったため、投下時と収録後で内容が異なることをどうかご了承くださいませ。
最後に、今回の話を執筆するにおいて様々なご提案をして頂いた◆NZZhM9gmig氏に、心より感謝を申し上げます。
118
:
名無しさん
:2020/06/28(日) 00:26:46 ID:lV.sqAvY0
投下および構成・収録乙でした
119
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 19:55:48 ID:mqM5Fyzc0
これより予約分の投下を開始します。
120
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 19:57:08 ID:mqM5Fyzc0
1◆
「何なんだよ……この、どす黒い樹は!?」
天に向かって雄々しくそびえ立つ“それ”を前に、堪らず俺の体が震えてしまう。
俺が建築物だと思って近づいたそれは、建築物などではなく、巨大な大樹だった。だが、どう考えても普通の……自然に成長した植物ではない。
大樹はあらゆる樹皮と枝が黒く、高さは暗黒色と濃紫、そして群青をかき混ぜた冥い空のせいで天辺が視認できない。
空気は光と闇の両方を遮る程に重苦しく、大きく吸えば全身が鉛になりそうで、空の色と合わさって薄気味悪い雰囲気を見事に演出されている。
そして何よりも、一枚の葉っぱもない大樹の枝には、蓑虫を彷彿とさせる何かが大量に生えていた。
「枝に生えているのは木の実……じゃない。あれは……まさか、人!? 人が枝から吊るされているのか……!?」
だが目を凝らして見えるのは、蓑虫なんて生易しいものじゃない。鳥かごを彷彿とさせる巣の中に、人間がぶら下がっているというおぞましい光景だ。
しかも、一人だけじゃない。数えるのも億劫になる程、生身の人間が惨たらしく干されていて、その全てがどす黒く染まっていることもおぞましさに拍車をかける。
「あ、あ、あ、あ、あ…………うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺はたまらず、腰を抜かしながら絶叫した。
これまで、デウエスやオカルトテクノロジーにまつわる超常現象に関わり、そしてこのデスゲームでも困難を乗り越えたから、心が強くなっているつもりだった。
しかし、目の前の黒い大樹から与えられる生理的嫌悪感は、そんな俺の心を折るには充分だった。
「ひ、ひいっ……何なんだよ……何で、こんなのがあるんだよっ!?」
仮想世界の住民である今の俺でも、生身の肉体みたいに嘔吐する。
口から溢れ出た嘔吐物の演出も妙にリアルで、ただ嫌悪感が無意味に溜まる。続くように、瞳からは涙も流れた。
胸が重くなる苛立ちに、子どものように叫ぶしかない。
『――――ジローさん! 聞こえますか、ジローさん!?』
そんな俺を助けるように、待ち望んでいた声が聞こえる。
レオの通信が届いたことに気付いた瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。
「……レオ? レオなのか!? 俺だ、ジローだ!」
『ジローさん! よかった、無事だったのですね。急に皆さんの反応がロストしたので、とても心配しました。
ですが、こうして通信が回復したのなら幸いです。ジローさん、手早く状況を説明してもらえませんか?』
「状況は……俺にもよくわからない。いきなりネットスラムが崩壊して、それで……。
ユイちゃんがオーヴァンに攫われて、キリトも……死んではいないはずだけど、今どこにいるかは……。
それに、黒雪姫がオーヴァンに重傷を負わされて、目を覚ましてくれないんだ……! アバターにも酷い傷痕が残ってるし……」
助け船が来たことで心が軽くなり、俺は必死に話す。
ここがどんな場所なのかわからないし、上手く説明できる自信もない。せめて、何があったかだけでも伝える必要があった。
『……なるほど、わかりました。キリトさんとユイさんのことは、ひとまず後にしましょう。
まずは黒雪姫さんです。詳しい理由はわかりませんが、アバターが大規模な損傷を受けたせいで、彼女は行動できなくなっているのかもしれません。
少し待っていてください。僕の方でなんとかしてみます!』
「何とかするって、どうやって?」
俺の疑問に対する答えは、突如として黒雪姫のアバターから発せられた謎の光だ。
漆黒色の鋭利な女性アバターは、ほんの一瞬で変わっていく。蝶を彷彿とさせる漆黒の翼を背負い、おとぎ話に出てくるお姫様みたいなドレスをまとったアバターになった。
まさに黒雪姫と呼ぶにふさわしい愛嬌溢れる姿だ。その顔立ちも人形のように整っていて、ロングヘアも黒いきらめきを放っていた。
121
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 19:58:00 ID:mqM5Fyzc0
「く、黒雪姫!? レオ、一体何をしたんだ!?」
『僕の方から黒雪姫さんのPCにアクセスして、使用アバターを切り替えさせたんです。以前ニコさんのPCを解析したことがあったので、そのおかげで何とかなりました。
この学内アバターは戦闘に不向きですが、もし彼女が目を覚まさない理由がアバターの損傷にあるのなら、これで目を覚ましてくれるはずです。
…………もっとも、彼女の心のケアはジローさんに任せることになりますが』
レオは冷静に説明してくれるが、その表情は曇っていることが伺える。
それは当然だった。俺達は一度消息不明になり、しかも心身共に傷付いた状態だ。
しかもユイちゃんは攫われて、キリトの居場所だって俺達は知らないし、ここがどこかわからない以上は探しようがない。
何よりも、一番心配なのは黒雪姫だ。レオ達のサポートに期待できず、俺が彼女を支えるしかない。
『ジローさん。今、二人の転送されたエリアの情報を検出しました。
『黒い森』、『牢獄』、『電子』……途切れ途切れですが、今のところ判明しているキーワードは、この三つです。
このまま情報の検出と、ジローさん達の元に行くためのルートも調べますので、それまで無茶な行動は控えてくださいね』
「わかったよ、レオ! ここがどんな場所なのかわからないけど……黒雪姫は任せてくれ!」
レオという希望を前に、俺は全力で叫んだ。
学園にいるみんなを安心させたいという気持ちが生まれた一方、俺の心が再びどんよりと重くなる。この不気味な景色にマッチする程、暗くなりそうだ。
頑張りたい気持ちはあるけど、やっぱり怖くてたまらない。
「それにしても、ずいぶんと高い所だな……ここから落ちたらとても助からないぞ……」
そして、周囲を見渡してみると、俺達は『黒い大樹』の枝に乗っていることが分かった。遥か遠くを見渡すと、地平線にまで黒い大樹の枝や根っ子が伸びており、その先端がとても見えない。
「……樹は一本しかないけど、とんでもなく大きいから『黒い森』なのか? じゃあ、あとの『牢獄』と『電子』って一体……?」
「……うっ……ここは……?」
謎のエリアについて考えていると、呻き声が聞こえてくる。
振り向くと、気を失っていた黒雪姫が体を起こしながら瞼を開けてくれた。
「黒雪姫! よかった、気が付いたんだな!」
「ジローさん、なのか……? ここは一体……? それに私はどうして……」
「ここは、『黒い森』って言うらしいけど、詳しいことはわからない。さっきの戦いでネットスラムが壊れて、いつの間にか俺達はここにいたんだ。
でも、キリトとフォルテは……多分、別の場所に飛ばされたんだと思う。
ユイちゃんは……オーヴァンに連れていかれた……」
俺は頭の中を整理して、黒雪姫に今の状況を話す。
彼女を支えられるのは俺だけだから、できるだけ冷静さを保つ。少しだけだが、こうして話せるほどに落ち着いている。
……ユイちゃんの名前を口にした瞬間、俺と黒雪姫の表情は一気に曇ったけど。
「ユイが、オーヴァンに連れていかれた……!?」
「……ごめん。俺に力がなかったせいで、ユイちゃんを守れなくて……」
それきり、俺は意気消沈する。
ユイちゃんがオーヴァンに傷付けられていく凄惨な場面を忘れることができない。彼女はきっと助けを求めていたはずなのに、俺は何もできなかった。
俺に力さえあれば、ユイちゃんだって取り返せたはずだった。
122
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:00:01 ID:mqM5Fyzc0
「…………改めて訊くが、ここはずいぶんと、醜悪な場所だな。一体なんなんだ……?
それになぜ、私のアバターがデュエルアバターから変わってるんだ?」
『それについては、僕の方から説明させていただきますね。
おはようございます、黒雪姫さん。無事目を覚ませたようで何よりです』
いつの間にか周りを見渡していた黒雪姫は、嫌悪感を露わにしながら呟く。
それにレオが通信越しに応え、詳しく説明していく。
黒雪姫の元のアバターが、酷い損傷を受けていたこと。そのせいか一向に目を覚まさなかったため、遠隔操作で学内アバターへと変更したこと。
この場所が、ネットスラム崩壊の影響で飛ばされた未知のエリアであること。救助のためにここへ来る方法を調査しているが、やはり時間がかかること。
「……どうやら、二人には手間をかけさせてしまったらしいな。
すまない。それと、ありがとう」
「そんな! 謝られるようなことでも、ましてやお礼を言われるようなことでもないって!
結局俺は、オーヴァンとの戦いで、大したことは何もできなかったんだし……」
『そうですよ、黒雪姫さん。どうしても謝礼がしたければ、無事に帰還できたその時に。
生きて帰ってくることが、僕たちにとって何よりの成果ですので』
「俺も、みんなのところに早く帰りたいよ。ここは空気も淀んでいるみたいだし、周りも不気味すぎるし……」
本音を言えば、現実世界に帰りたいのだが、それは言っても仕方がないだろう。
「……そうだな。まずはこのエリアを調査して、脱出経路を探そう。後のことは、それからだ」
黒雪姫はそう言うと、自分の状態を確かめるためにかメニューを開いて、なにかを躊躇うようにそのまま閉じた。
そうして立ち上がろうとした黒雪姫だけど、すぐにふらついてしまう。
俺は反射的に彼女の体を支え、そして気づいてしまった。
黒雪姫の白い肌に、元のアバターに刻まれたものと同じ歪な三角の傷痕が、うっすらと痣のように浮き出ていることに。
「だ、大丈夫か黒雪姫!? 無理をしちゃダメだ! 今はここで休もう!」
「……そんな暇はないだろう!? 私達がこうしている間にも、あの男は……オーヴァンは生きているんだ!
ユイが連れて行かれたなら、すぐに救出するべきだ! レオ達のことを待っている暇などない!」
その事に気づいているのかいないのか、俺の言葉を、黒雪姫は怒号で弾き飛ばした。
黒雪姫の気持ちはわかるし、俺だって今すぐにでもユイちゃんを助けに行きたい。
でも下手に動くのは危険で、何よりも傷痕が黒雪姫にどんな影響を及ぼすのかすらわからない。
……けれど、黒雪姫の言葉もまた事実だ。一刻も早く助け出さないと、ユイちゃんが酷い目に遭わされる可能性は充分にあった。
そしてそのためには、すぐにでもみんなと合流しないといけない。今の俺たちだけでは、フォルテどころかオーヴァン一人にさえ敵わないのだから。
「……わかったよ、黒雪姫。でも、絶対に無理はしないでくれよ。今は、俺がそばにいるから」
「私なら、大丈夫……と言いたい所だが、その気持ちは受け取っておくよ。ジローさんがいてくれれば、心の支えにもなるから」
黒雪姫は弱々しく微笑む。
でも、本当は心が深く傷付いているはずだ。オーヴァンには完膚なきまで叩きのめされて、ユイちゃんは囚われてしまい、泣き面に蜂みたいにこんな薄気味悪いエリアに放り込まれてしまう。
今のところ、エネミーみたいな危険な奴の気配はないけど、何が起きてもおかしくない。俺はDG-0を構えながら、黒雪姫を先導するように歩いた。
123
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:01:30 ID:mqM5Fyzc0
「何かあったら、すぐに言ってくれよな?」
「わかっているよ」
少しでも気を紛らわすように声をかけるけど、全然心が落ち着かない。
どす黒い樹にぶら下がる人間はどう見ても死んでいて、呼吸をすると気分が悪くなってしまう。まるで毒ガスの中を歩いているように錯覚し、俺達はいつ倒れてもおかしくなかった。
一応、治癒の雨は一つだけ残っているけど、それが役に立つのか。そもそも俺達は本当にここから脱出できるのか。
前を進むたびに、俺の中で不安が湧き上がってきて、折れた心が更に折れそうになる。
(やっぱり本物の人間……だよな? でも、火傷してもこんなに黒くなるのか……?)
何よりも、ぶら下がっている人間の姿を見せつけられるだけで、また嘔吐しそうだ。
現実では到底ありえない光景だが、デウエスに関係するハッピースタジアムを経験し、その上でこのデスゲームに巻き込まれたから、絵空事とは切り捨てられない。
それでも、地獄のような光景がただの夢であってほしい、そんな希望を抱きながら進んでいると――――“彼”の姿を見つけてしまった。
「…………う、渦木さん!?」
ハッピースタジアムに捕らわれた開田君を救うため、現実と電脳世界の両方で力を合わせた刑事・ウズキが蓑虫のようにぶら下がっていた。
しかも、呪いのゲームではなく現実の刑事としての姿で。
「渦木さん! 俺です、ジローです! 目を開けてくださいッ!」
『どうしたんですか、ジローさん!? いったい何を見つけたんですか!?』
「渦木さんが! 俺の知り合いが、蓑虫みたいに木に吊るされてて……! くそっ、この!」
『ウズキ? その名前は、確か一回目のメールで……』
俺はウズキさんを救うため、叫びながらDG-0を取り出し、鳥かごに弾丸を放つ。
しかし、銃声が空しく響くだけで、弾丸はあっさりと弾き返されてしまった。
それでも、諦めずに黒く汚されたウズキさんを引っ張り出そうとするけど、びくともしない。
「……どうして!? 渦木さんが、ここに……!?」
「……に、ニコなのか!?」
「えっ!?」
俺の動揺を煽るような黒雪姫の叫びが聞こえて、反射的に振り向く。
すると、青ざめた顔で顔を上げている黒雪姫の姿が目に飛び込んできた。彼女の視界を追うように、俺も顔を上げた瞬間、絶句する。
何故なら、俺やカイトを守るためにオーヴァンと戦い、そして命を散らせた少女――――ニコが無惨な姿で囚われていたからだ。
「ニコ……っ! ニコッ! ニコォッ! 俺だ、ジローだ! 目を開けてくれよ、ニコッ!」
ニコを助けたくて、俺は必死に叫ぶ。もちろん、ニコは目を覚ましてくれない。
ニコも渦木さんも、二人とも死んだはずなのにどうしてこんな所にいるのか? まさか、二人とも実は生きていて、ここに逃げ出していたのか?
いいや、ありえない。渦木さんはわからないけど、ニコは死んだということを俺は確かに実感した。だから、実は生きていたという可能性に縋れるわけがないのだ。
だけど、それならどうして二人がこんな悪趣味な形で囚われているのか? 誰が、何のために二人にこんな仕打ちをしたのか?
「……あ、ああ、あ……!」
――――しかし、俺の思考は黒雪姫の震える声によって、またしても遮られた。
思わず、俺は振り向く。いつの間にか、黒雪姫はへたり込んでいた。
彼女が見上げている先には、小柄で小太りの少年が囚われていた。
124
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:05:41 ID:mqM5Fyzc0
「……は、ハルユキ君…………!?」
「は、ハルユキ!? ハルユキって、まさか……!?」
黒雪姫は答えてくれないけど、その名前に俺は一瞬で気付く。
有田春雪(ハルユキ)……黒雪姫が最も信頼したシルバー・クロウのリアルでの名前だ。
つまり、ここに囚われている少年こそが、黒雪姫にとって一番大切な人だ。
『『牢獄』……『電子』……ま、まさか……!?』
通信から聞こえてくるレオの声は、明らかな驚愕と動揺が感じられる。
「な、何だよレオ!? 何に、気付いたんだよ!?」
『……まだ、確定ではありませんが……この黒い樹に吊るされた人たちは、デスゲームで敗退したプレイヤー達の……電子化、いえ、霊子化された魂です!
だから、ジローさん達が見たハルユキさんやレインさんは……敗退後、魂だけがここに、囚われたのでしょう…………。
きっと、このデスゲームに始まって以来、全てのプレイヤーは……敗退と同時に『黒い森』に魂を囚われるシステムになっているはずです……』
震えるレオの推測に、俺は絶句した。
そして、レオから聞いた『牢獄』というワードの意味を、ようやく理解する。
このデスゲームで命を奪われたプレイヤーは、ただ消えるのではない。オカルトテクノロジーで人間を電脳世界に引きずり込むように、魂だけがデータ化されて囚われる仕組みになっているのだろう。
俺が巣のようだと思っていた鳥かごは、文字通りの『牢獄』だったのだ。
「何だよ、それ……何が、どうなっているんだよ……!?
どうして、ニコ達がこんな目に……遭わなきゃいけないんだよっ!?」
しかし、そんな理屈など納得できない。
答えの出ない疑問と、ニコ達を愚弄した者への憤りで、俺の心は掻き乱されてしまう。
俺がどれだけ叫んでも、ニコと渦木さん、そしてハルユキが目を覚ますことはない。どす黒く染まった全身の肌で、一目見ただけでニコ達の死を痛感するが、とても受け入られなかった。
「は、ハルユキ君ッ! 私だ! 黒雪姫だ!
私はここにいるぞ! キミは私のことをずっと探していたのだろう!? こうしてここに来たから、早く目を覚ましてくれ! ハルユキ君!
私もキミを探していた! だから、こうしてここまで来たんだ! キミと話がしたい……キミとまた毎日を過ごしたいんだ! ハルユキ君!」
そして、俺とレオの通信が聞こえていないように、黒雪姫は叫び続けた。
明らかに正気を欠いている彼女の姿に、俺は何も言えない。レオから黒雪姫のケアを頼まれたが、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
大好きな人の変わり果てた姿を見せつけられて、落ち着ける人間がどこにいるのか?
もしここにパカが囚われていたとしたら、とても冷静でいられる自信が、俺にはなかった。だから、今の俺がどんな言葉を投げかけても、黒雪姫の耳に届くわけがないのだ。
「……シルバー・クロウ」
唐突に、足音と声が聞こえてくる。
「っ!?」
振り向いて、俺は驚愕した。
いつからそこにいたのか。一目見ただけで、”赤い”、という印象を与えてしまう少女が、まっすぐに歩いてくる。
見たところ、年齢はまだ12歳か13歳程度で、ニコと同じか少し上くらい。
プラチナブロンドのボブヘアには赤いメッシュが入っていて、ワンピースもケープも、陰鬱な世界にはそぐわないほどに赤い。
一方で肌はすけるように白く、そして何故か、彼女は裸足だった。
ひたひたと、小さな足音が静止した世界で響き渡る。
125
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:08:26 ID:mqM5Fyzc0
「お、女の子……!? なんで、こんなところに……!?」
『ジローさん、彼女はプレイヤーではなくNPCです。
恐らく、何らかのイベント用に配置されたのかもしれませんが、どうしてこんな場所に……?
……いえ、彼女は、まさか……』
俺とレオは驚愕する中、謎の少女はじっとこちらを見つめている。
いや、正確には俺の後ろ……黒雪姫とハルユキに視線を向けていそうだった。
そして、謎の少女が歩を進めることで、その存在にようやく気付いたのか黒雪姫も振り向いてくる。
「…………君は?」
「彼は、《オワリ》を探していたヒト。
そして、どんな《終わり》でも、僕は受け止めて見せるって言っていた……でも、この《オワリ》は彼がノゾむカタチではなかった」
黒雪姫の問いかけに反して、謎の少女は意味深な言葉を紡いだ。
しかし、まるで藁に縋るように、黒雪姫は少女に詰め寄る。
「まさか、ハルユキ君を知っているのか!? 教えてくれ、彼のことを!
私がいない間、ハルユキ君がこの世界で何をしていたのか!? 少しだけでもいい、ハルユキ君のことを教えてくれっ!」
「お、おい! 黒雪姫!」
少女の肩を掴みながら叫ぶ黒雪姫を、俺は静止しようとする。
だけど、黒雪姫は俺の言葉に耳を傾けず、また謎の少女も微塵に動揺しなかった。雪のように白い肌は、今の黒雪姫と対比するように煌いている。
「どうした!? なぜ、教えてくれない!? 私は……私は知りたいだけなんだ! ハルユキ君のことを!」
「待ってくれよ、黒雪姫! そんな乱暴にしてたら、彼女だって答えられないだろ!」
やがて俺は見ていられなくなり、黒雪姫を少女から無理矢理引き離した。
黒雪姫は未だに落ち着きを見せず、一歩間違えたら少女を傷付けてもおかしくない。
未だに息を荒げている黒雪姫の前で、少女は瞬きもせずに俺達を見つめている。
「わたしはリコリス。試されし夢産みの失敗作。
アナタ達は、彼の遺志を継いでくれた。だから、彼の想いを、アナタ達に――――」
そんなリコリスの言葉と共に、俺達の視界は眩い閃光に飲み込まれてしまう。
――――アナタは終わりを探すヒト?
白い光の中、何も見えない俺の耳に少女の声が聞こえてくる。
先程のように、意味深な問いかけだった。
――――それがどんな《終わり》でも、僕は受け止めて見せる
続くように聞こえてくるのは、力強い少年の声。
その言葉と同時に、銀色の人型アバターが浮かび上がった。エメラルドの如く緑色の輝きを放つバイザーは、力強さを醸し出している。
――――アナタのオワリが、アナタに優しいものでありますように
そして、少年を称えるような少女の声も光の中で響き渡った。
126
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:11:30 ID:mqM5Fyzc0
『……ジローさん! ジローさん! 聞こえていますか!?』
レオの通信により、俺の意識は覚醒した。
気が付くと、先程の光は収まっており、リコリスと名乗った少女が立っていた。
「ハルユキ君だ……」
その一方で、黒雪姫は地面にへたり込みながら涙を流していた。
「ハルユキ君は彼女と会っていたんだ……シルバー・クロウとして戦いながら、彼女に自分の意思を示してくれたんだ。
なのに、私は……何をやっていたんだ!? 私は、ハルユキ君のように戦えていないのに……!」
「黒雪姫……もしかして、あの子はハルユキのことを教えたかったんじゃないかな。
ハルユキは強くあろうとしたから、黒雪姫にもそうあってほしかった……それを伝えるために、現れたんじゃないのか?」
それは根拠のない楽観的思考だ。
でも、先程の幻はリコリスが見せてくれたのだろう。
だとすれば彼女は、悲しみに沈んだ黒雪姫を助けるため、俺達の前に現れたのかもしれない。
「【noitnetni.cyl】を、わたしにください」
そして紡がれるのは静かな声。
リコリスの優しい声を受けて、黒雪姫は顔を上げる。
『黒雪姫さん! 彼女の言葉に従って、【noitnetni.cyl】を渡してあげてください!
覚えてますか? ネットスラムで行われていた、もう一つのクエストを。きっと、これはネットスラムで行われるはずだったミッションです!
そのキーキャラクターである彼女もまた、ネットスラムの崩壊により、ジローさん達のようにこのエリアに流れ着いたのでしょう』
レオの推測に、俺と黒雪姫は目を見開いた。
また、俺は思い出す。ネットスラムにはプチグソレースの他にも、リコリスという少女の謎が秘められていたことを。
シルバー・クロウが始めたという、過去を掘り起こすクエストのことを。
だとすれば、やはり、この少女こそがリコリスなのか?
127
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:13:35 ID:mqM5Fyzc0
「【noitnetni.cyl】を探してくれると、彼は言ってくれた」
「【noitnetni.cyl】……これのことか?」
少女に導かれるまま、黒雪姫はウインドウを操作して三つの拡張子をオブジェクト化した。
ネットスラムで用意されたクエストで入手したアイテムであり、エリアが崩壊した今となっては用途がなくなったように思える。
けれど、【noitnetni.cyl】をオブジェクト化させた瞬間、リコリスはようやく表情を動かしてくれた。
「ありがとう」
【noitnetni.cyl】を見て、少女は笑みを浮かべる。陽の光のような暖かさが込められており、絶望に満ちた世界を照らしてくれそうだ。
「…………これで、いいのか?」
少女に導かれるまま、黒雪姫はリコリスに3つの拡張子を渡そうとして。
「…………プレイヤーナンバー026、ジロー。
そしてプレイヤーナンバー040、ブラック・ロータス。
まさか、お前達がこのエリアに流れ着いていたとは」
だけど、黒雪姫の善意を踏みにじるように、敵意に満ちた鋭い声が響き渡った。
「誰だ!?」
俺は反射的に振り返る。
見ると、金色の甲冑を纏った少女が、俺達のことを睨んでいた。いや、甲冑だけでなく腰にまで届く長髪も金色で、リコリスとは違う意味で、灰色の世界で存在感を放っていた。
『ジローさん! 彼女の名はアリス……GMの一人です!』
「GMだと!? じゃあ、あの榊の仲間か!」
レオからアリスと呼ばれた少女を前に、俺は反射的に銃を構える。
当然ながら、アリスは微塵も臆することはないが、露骨に不快感を露わにしていた。
「……確かに、表向きでは同盟を結んでいます。しかし、あの男と同類に見られるのは不本意ですね。
もっとも、あなた達には関係のない話ですが」
そう言いながら、アリスは剣を構える。
殺意を乗せた刃の輝きを前に、俺は身震いする。彼女は俺達をここで殺そうとしていた。
まともに戦っても勝てる訳がない。だけど、やるべきことは一つあった。
128
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:17:29 ID:mqM5Fyzc0
「黒雪姫、ここは俺が引き受ける! 彼女を連れて……」
振り向きながら叫ぶが、途中で止まる。
俺の後ろにいるのは黒雪姫だけで、リコリスはいつの間にか姿を消していた。しかも、【noitnetni.cyl】はそのままだ。
「あれ!? 彼女はどこに行ったんだ!?」
「わからない! いつの間にか、消えてしまったんだ……まるで煙のように!」
「なんだって!?」
黒雪姫の叫びに絶句する。
せっかくハルユキの遺志を受け継げると思ったのに、これでは台無しだ。ハルユキの無念だって晴らせる訳がない。
「……まさか、彼女までもがこのエリアにいるとは驚きです。
ですが、今はまず、ジローとブラック・ロータスの二人に対処しなければ」
そして、何か心当たりでもあるのか、アリスは口を開く。
彼女の言葉は気になるけど、それどころじゃない。学内アバターの黒雪姫は戦えないし、レオの助けも期待できないからだ。
でも、俺はここで諦める訳にはいかない。黒雪姫を連れて逃げようとしても、アリスに追いつかれるだけ。
「やれるものなら、やってみやがれ! 俺が、黒雪姫を守ってみせる!」
「威勢だけはいいですね。いいでしょう……あなたが私と戦うなら、やってごらんなさい」
俺が闘志を燃やす一方、アリスは心底つまらなそうに俺達を睨みつけている。
まさに、蛇に睨まれた蛙のように不利だけど、俺は一歩も引かない。黒雪姫やニコは命がけで戦ったのだから、ここで逃げる訳がなかった。
そして、死に満ちた世界の中で、新しい戦いが始まった。
やる気が 5上がった
こころが 3上がった
体力が 4下がった
129
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:18:50 ID:mqM5Fyzc0
2◆◆
――――そうしてワタシは、彼等の戦いを俯瞰する。
本来であれば、このエリアの管理はワタシの役割であり、つまり彼らに対応するのはワタシのはずだった。
しかし彼らがこのタイミングでこのエリアへと落ちてきたのは、本当にイレギュラーな事態であり、そしてワタシには今、彼等と接触できない理由があった。
故にワタシの代わりに、アリスに彼らの対応を頼んだ。
――――リコリス。
彼女と彼らの接触は、今の状況ではタイミングが悪すぎたのだ。
彼女のイベントをクリアすることで得られるモノを、今、■に知られるわけにはいかなかった。
結果として彼等は窮地に陥ったが、この状況を切り抜けられないようでは、どのみち未来はないだろう。
……いずれにせよ、あの少年王にこの場所が知られた以上、遠からずこのエリアの役割――ひいてはこの『世界』の正体も明かされるだろう。
そしてそうなれば、たとえ彼等の命運がどうなろうと、彼等の仲間は、遠からずここに訪れる。
であれば、その時こそが、xxxxの始まりとなるだろう。
なぜならここは、シークレットカテゴリ・オブジェクトナンバー003、ラベリング“黒牢樹”を擁する外層領域。
そのエリア名をを、『電脳霊子監獄 黒牢樹の森』。
通称『電子監獄』と呼ばれる、“モルガナ”、“堕天の檻”に続く、この電脳世界第三の中枢なのだから。
【?-?/電脳霊子監獄 黒牢樹の森/一日目・真夜中】
130
:
宵闇
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:19:48 ID:mqM5Fyzc0
【Bチーム:ネットスラム攻略組】
【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP数%/学内アバター 、強い憎しみと悲しみと絶望、零化現象、『三爪痕』が刻まれている
[装備]:{サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『選ばれし』、『絶望の』、『虚無』 、noitnetni.cyl_1-2-3 }@.hack//、パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、{破邪刀、ヴォーパルの剣}@Fate/EXTRA、{蒸気バイク・狗王、死のタロット}@.hack//G.U.、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、不明アイテム×1
[ポイント]:358ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:――――――――――――
0:私は……ハルユキ君の遺志を…………
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。
※共有インベントリにより、所有しているアイテムが表記とは異なる可能性があります。
※デュエルアバターに『三爪痕(サイン)』が刻まれました。『三爪痕』は学内アバターにも痣として浮き出ています。
※自分の無力感に絶望して零化現象が起きました。
※レオによって学内アバターに切り替えられたおかげで、行動自体は可能になりました。
しかし、もしデュエルアバターになった場合、零化現象の影響で行動不能となります。
【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、ピースメーカー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、インビンシブル(大破)@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×1@.hack//G.U. 、不明支給品0〜1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:アリスから黒雪姫を守る。
1:今は黒雪姫を守りながら、レオ達の元に戻りたい。
2:ユイちゃんの事も、守りたかったけど……。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※共有インベントリにより、所有しているアイテムが表記とは異なる可能性があります。
【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。
4:ジローとブラック・ロータスに対処する。
【■■(■■■)@ 】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:GMユニットとして“役割”を果たす。
0:―――堕天の玉座にて、アナタを待つ。
1:自身の目的を果たすために、モルガナの望みを叶える。
2:もしもの時のために、何かしらの手を打っておく。
3:まだ、彼らにリコリスの真実を知られる訳にはいかない。
[備考]
※■■の役割は『電子監獄』の管理、ひいてはこの■■■■の■■です。
※GMとしての役割とは別に、“表側”での役割も有しています。
※第?相の碑文@.hack//を所有しています。
131
:
◆k7RtnnRnf2
:2020/07/03(金) 20:21:48 ID:mqM5Fyzc0
以上で投下終了です。
また、今回の投下作も◆NZZhM9gmig氏との合作になることを報告させて頂きます。
前回に引き続き、今回の投下において様々なご意見を下さった◆NZZhM9gmig氏には、改めて感謝を申し上げます。
ご意見等がありましたら、よろしくお願いします。
132
:
名無しさん
:2020/07/04(土) 10:39:31 ID:pPUJnw5c0
投下乙です
二人が飛ばされた謎のエリア
そこで見つかった死んだはずのプレイヤーたちとリコリス
そして始まったアリスとの戦い
徐々にデスゲームの謎も明かされてきて、佳境が近づいてきたって感じですね
133
:
名無しさん
:2020/07/04(土) 14:25:12 ID:tc6efo9o0
投下乙でした
Quantum出展のの電子監獄だけでも驚きというのに、ハルユキがフラグを建てていたリコリスがここで再登場するとは…
134
:
名無しさん
:2020/07/15(水) 21:14:14 ID:ki7r04aA0
月報の時期なので集計します。
143話(+ 3) 15/55 (- 0) 27.3
135
:
名無しさん
:2023/01/01(日) 17:38:36 ID:VWxvByZM0
エタっちゃったか残念
136
:
名無しさん
:2023/10/23(月) 17:40:53 ID:tTFvefIs0
マダー?
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