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バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.04

104世界の終わりがはじまる力 ◆k7RtnnRnf2:2020/06/26(金) 14:22:18 ID:KJtJ0qW.0

「逃げてください、パパ! ここからすぐに逃げてください! このままじゃ、イニスが……パパ達を……パパ達を……!
 逃げて、パパ! 逃げてええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 せめてキリト達だけでも逃がしたかったが、ユイの叫びは誰にも届かない。
 暴走したイニスに捕らわれた彼女の声は、もう誰も聞くことができなかった。

『グガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!』

 無情にも、ユイの願いを踏みにじるようにイニスはエネルギーを開放した。
 同じタイミングでフォルテ/<Gospel>が口から発車した灼熱と衝突し、盛大な爆発を起こして世界を容赦なく震撼させる。
 しかし、フォルテ/<Gospel>から外れた光弾が、キリト達を目がけて進んでいた。

「パパああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ユイの悲鳴と共に、光弾が爆発を起こす。
 自分のせいでパパ達を傷付けてしまったのか? フォルテ達を相手に戦えるという驕りが、この結果を招いたのか?
 こんなのは違う。ただ、パパを守るために戦いたかっただけで、こんな結末を望んでいたわけがない。その願いを叶えてくれるために、イニスは力を貸してくれたのではないのか?

「来たれ、『再誕』――――――――コルベニク!」

 ポーン、と唐突に響いたハ長調ラ音と共に、唯一にして最悪の救世主の名前が宣言される。
 続くように、<蒼炎の守護神(Azure Flame God)>を遥かに凌駕する情報密度と共に、神々しい純白の輝きが世界を照らした。光はほんの一瞬で収まった瞬間、ユイ/イニスとフォルテ/<Gospel>を遥かに凌駕する巨神が顕在していた。

「『再誕』のコルベニク…………オーヴァンなのか!?」

 圧倒的な存在感を放つ巨神に息を呑んだ瞬間、男の声がユイの耳に響く。
 我に返りながら振り向くと、キリト達の姿が見えた。現れた巨神は、まるでキリト達を庇うように顕在しており、思わず安堵を抱いてしまう。

「その通りさ。お前にこの姿を見せるのは、これで二度目になるな」

 しかし、続くように発せられた男の低い声で、ユイの心はほんの一瞬で憎しみに染まる。
 何故なら、この男は愛する母・アスナの仇であり、キリトを絶望のどん底に叩き落とした憎きオーヴァンだからだ。事実、キリトからも名前を呼ばれていて、何よりも巨神の左肩からは生えたどす黒い爪はAIDAの反応が感じられる。

「ま、まさか……オーヴァンにパパを助けられた……!?」
「どうやら、俺はユイからキリトを守った恩人になってしまったみたいだ。あと一歩遅かったら、キリト達はユイに殺されていたからね」

 オーヴァン/コルベニクにとっては何気ない一言で、言葉では言い表せない衝撃と共にユイを絶望へ叩き落とした。
 母の仇によって、父の命を助けられてしまう。しかも、父の命を奪おうとしたのは他ならぬ娘自身だ。信じたくなかったけど、オーヴァンの言葉は全て紛れもない真実で、否定できない。
 このままオーヴァンがコルベニクを顕現させなければ、確実にキリト達の命は奪われていたから。

「お前が恩人だと!?
 ふざけるな! お前は、アスナやシルバー・クロウ達の命を奪い、黒雪のことも傷付けただろうが!?
 そんなお前を恩人と認めてたまるかっ!」
「だが、事実としてお前達はユイに殺されかかった。暴走したユイから戦えないお前達を俺が守ってやったことに、何の間違いがあるんだ?」

 キリトは必死に叫んでくれるが、オーヴァンはあっさりと切り捨てる。 
 オーヴァンの言葉は毒のようにユイを蝕んでいき、その瞳から澎湃と涙が溢れ出した。高性能のAIであるが故に現実逃避も許されず、ただ事実を受け入れるしかない。
 醜い怪物となった娘から愛するパパを守ってくれたのは、他ならぬオーヴァンであることを。


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