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バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.04
97
:
キミの声が聞こえない
◆k7RtnnRnf2
:2020/06/26(金) 14:09:06 ID:KJtJ0qW.0
――――決着はほんの一瞬だった。
ロータスが刃を振るうが、オーヴァンが目前にまで迫り、次の瞬間にはこのアバターを通り過ぎたように見えた。
驚愕する暇もなく、全身に違和感が駆け巡る。しかし、一瞬で稲妻が迸るような衝撃と激痛に変わってしまった。
「――――があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
そして刻まれるのは《異形の聖痕》。オーヴァンの左肩に宿る漆黒の爪によって、ロータスのボディに無残な傷跡が刻まれてしまい、絶叫する。
シルバー・クロウとスカーレット・レインが味わった苦痛が、こうしてブラック・ロータスにも襲いかかったのだ。
元より、満身創痍だった彼女に抵抗することはできない。激痛と爪痕から放たれる赤い輝きによって、ロータスの意識は掻き乱されていった。
「黒雪姫えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
そんなロータスを案じる叫びによって、ほんの少しだけ覚醒する。
《異形の聖痕》を刻まれて力なく倒れていくロータスは、自らの痛みがほんの少しだけ和らいで、漆黒のアバターが誰かに抱きかかえられるのを感じた。
「大丈夫か!? 今、治癒の雨を使ったからな!」
「…………ぅ、あぁ………………っ……」
ジローが狼狽した表情で叫ぶけど、ロータスの意識は痛みで朦朧とするせいで返事ができない。
《異形の聖痕》をまともに受ければどんなプレイヤーでも致命傷は避けられず、ブラック・ロータスもまたデリートされるはずだった。しかしHPが0になる前に、ジローが咄嗟に治癒の雨を使ったことでほんの数%だけHPが残されている。
もっとも、まともに戦うことなどできないが。
「フッ。仲間に助けられてよかったじゃないか」
起き上がるどころか、言葉すらも紡ぐことができないロータスを見下ろす男がいる。
さも滑稽なものを相手にするように、オーヴァンは笑っていた。しかし、すぐに背を向けてこの場から去っていく。
「ま、待て…………オーヴァ……ン…………ッ! わ……た…………し、は…………ッ!」
「シルバー・クロウ達の仇も取れないまま、無様に朽ちていくといい。君はしょせん、ただの操り人形に過ぎなかったのさ。
塵にも劣る、君の感情など興味はない。俺にとっては無意味だからな」
冷たい宣言によって、ロータスの息は止まる。
この怒りと憎しみに興味を向けられず、むしろ初めから存在しなかったかのように言い放っていた。
それは違うと叫びたい。この手でオーヴァンを八つ裂きにし、己の罪を認めさせて無様に許しを請わせ、その果てに首を撥ねてやりたかった。
けれど、オーヴァンは去っていく。腕も伸ばそうとするどころか、微塵も動かない。ジローが自分のことを呼ぶ声も、どこかに消えてしまった。
(ち、違う…………私の思い出は無意味なんかじゃない…………!
私は、ハルユキ君のおかげで立ち上がることができた……! ハルユキ君がいてくれたから、私も彼のように飛びたいと願ったんだ! だから、この気持ちは私にとっての宝物なんだ!
ハルユキ君が、いてくれたから……!)
そして、オーヴァンの背中がすぐに見えなくなるが、それでも立ち上がろうと力を込める。
何もできなかった。ハルユキ君の仇を取るどころか、ロビンフッドとアイアンまでも死なせてしまい、そして自分は完膚なきまで叩きのめされてしまう。
だけど、戦わないといけない。自分の全てが否定されようとも、ハルユキ君達の無念を晴らすと決めたのだから、絶対に立つべきだった。
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