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複数ジャンルバトルロワアルR2

1名無しさん:2016/07/15(金) 10:32:45 ID:bma5ZPlU0
当企画は2014/1/06に企画され、1/18にパロロワ総合板にてスタートした『複数ジャンルバトルロワイアル』のリスタート企画です。
企画の性質上、キャラの死亡や流血等、残酷な内容を含みます。閲覧の際には十分ご注意ください。

執筆時は以下のルールを参照してください。
ルール
ttp://www65.atwiki.jp/fsjrowa_two/?page=%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB

制限一覧
ttp://www65.atwiki.jp/fsjrowa_two/?page=%E5%88%B6%E9%99%90%E6%A1%88%E4%B8%80%E8%A6%A7

【基本ルール】
全員で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品は基本的には全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器(覇者の剣や艦装等)、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨、アクセサリー、身分証明証・財布などは持ち込みを許される(特殊能力のある道具を除く)。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
1.ディバック どんな大きさ・物量も収納できる。以下の道具類を収納した状態で渡される
2.参加者名簿、地図、ルールブック、コンパス、時計、ライトの機能を備えたデバイス。(バッテリー予備、及びデバイスそのものの説明書つき)
3.ランダム支給品 何らかのアイテム1〜3個。
ランダム支給品は参加作品、現実、当企画オリジナルのものから支給可能。参加外、およびスピンオフの作品からは禁止。
4.水と食料「一般的な成人男性」で2日分の量。

【侵入禁止エリアについて】
・放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
・禁止エリアに入ったものは首輪を爆発させられる。
・禁止エリアは最後の一名以下になるまで解除されない。

【放送について】
6時間ごとに主催者から侵入禁止エリア・死者・残り人数の発表を行う。

【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。

生存時
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他

死亡時
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名

2名無しさん:2016/07/15(金) 10:39:27 ID:bma5ZPlU0

【作中での時間表記】(基本的に0時スタート)
深夜:0:00〜2:00
黎明:2:00〜4:00
早朝:4:00〜6:00
朝:6:00〜8:00
午前:8:00〜10 :00
昼:10:00〜12:00
日中:12:00〜14:00
午後:14:00〜16:00
夕方:16:00〜18:00
夜:18:00〜20:00
夜中:20:00〜22:00
真夜中:22:00〜24:00



【予約について】
したらば掲示板の予約スレでトリ付きで行います。
予約期間は、5日間、延長期間は2日間。最大7日間とします。
この期間以内に本スレに作品を投下してください。
これは秒単位ではなく、5日後(もしくは7日後)の24時までに投下すれば可。
それを越えても連絡がない場合は予約は自動的に破棄とします。


【投下作品について】
本スレに投下後、24時間経過して意見や展開に関する修正要求がなければ作品が通った事になります(誤字・脱字等はwikiで修正できる為、そうした修正要求は作品通過を伸ばす修正要求とはなりません)。
また、意見や修正要求があった場合、作品の修正を行い、再度投下をお願いします。それが投下され、問題なく24時間経過すれば作品が通ります。誤字、脱字程度の修正はここまでしなくても構いません。
内容や展開に不安がある場合は、あらかじめ仮投下スレなどに投下をお願いします。

修正要求も、主観的な意見は不可。明確な修正理由が書かれていない場合は、修正の必要はないかと。
主に、「キャラの行動が原作と剥離する」や「展開に無理がある」、「原作や過去のSSと矛盾している」、「ルール違反である」などの正当な理由を論理的に説明でき、かつ不満が多い場合が修正対象となります。
その場合は、議論スレに誘導してください。

3名無しさん:2016/07/15(金) 10:42:52 ID:bma5ZPlU0
OPを代理投下します

4序章:2016/07/15(金) 10:43:41 ID:bma5ZPlU0

…闇の帷が開かれ、集められた者たちの意識が覚醒する。
目を覚まし、見た“そこ”は奇妙な場所だった。
RPGに出てくるような玉座、それを十メートル程の間隔を挟み囲む大勢の人々。
周りは闇に包まれ、痛いほどの静寂。少し肌寒い。
此処は何処なのか、一体いつこんな場所に連れてこられたのか。
調べようとしても、動けない。意識はハッキリしているのに体が石になったかのように一歩が踏み出せない。
ここへ至るまでの記憶は欠落しているように霞がかり、どれ程自問しても答えは出ない。
出ない答えは不安を加速させ、この空間で唯一“異物”たる玉座に目を向けさせる。

すると、先ほどまで誰も居なかったはずの玉座の隣に、独りの道化師/死神が立っていた。
道化師は見ていると馬鹿にされている様な嫌悪感を抱く、そんな嗤い仮面を着けていた。
その下の表情は当然うかがい知れない。

「御機嫌よう皆さん。ボクはキルバーン、以後お見知りおきを」

仮面の道化師は馴れ馴れしく会釈をする。
集められた者達の視線は仮面の道化師に引き寄せられていた。
まるでこれからショーを観覧しようとしている観客の様に。
誰も彼もが無言の中、道化師の言は続く。

「皆さんに集まってもらったのは他でもない。
さるお方の命により、これから皆さんには――――ちょっと殺し合いをしてもらいます」

5序章:2016/07/15(金) 10:44:30 ID:bma5ZPlU0

殺し合い。
その言葉により俄かに会場がざわめく。

「反則は無し。生き残り、この玉座に座る権利を得た勇者には何でも好きな願いを叶える権利を贈呈するよ」
「スッゴ〜イ!何でも!?」
「あぁ、何でもさ。死んでしまった人の蘇生。憎い相手への復讐。恋の成就とかも…ね…!!」

奇妙な道化師の背後からこれまた奇妙な一つ目のピエロが現れ、無邪気にはしゃぐ。
だが、その無邪気さはこの状況ではただ不気味なだけだった。

「ただし、ゲームがダラダラとした物にならない様に禁止エリアを用意させてもらうよ」
「禁止エリア?」
「ずっと隠れてたり逃げたりしないよう入っちゃいけない場所を指定させてもらうのさ」
「もし、禁止エリアになった場所にいたらどうなるの?」

一つ目ピエロがわざとらしく興味深げに尋ねた。
それを受けた死神はクスリと笑い、ああそれはねと言葉を紡ぐ―――

その時だった。


「……」


未だに動くことのできない人々中から飛び出す影があった。
その影の主は、純白の軍服を纏った男だった。
小柄ながら精悍な顔つきをした男は駆ける勢いそのままに腰に備えられてあった軍刀を抜刀する。

彼は別に義憤に駆られて飛び出したわけではない。
単に彼は道化師を敵とみなし、加えて、周りが動けぬ中動けるのは自分だけだった、という話だ。
この距離ならば一息の内に接近できる。距離を詰めた後は袈裟から道化師を切り捨て、
一つ目のピエロから鎮守府へと帰還するための情報を聞き出す。


上手くいくはずだった。
事実、此方を舐め腐っていた死神の懐に飛び込むのはそう難しい事ではなかった。

「な、何ッ…!!」
「うわァッ!」
「………!!」

一閃。

仮面の下に驚愕を浮かべたであろう道化師。鎌を振り上げるが遅い。
ピエロは慌てて飛び退く。
男はそれを見ても何の感慨も沸いてこない、という表情で死神の胴を泣き別れさせた。

6序章:2016/07/15(金) 10:45:42 ID:bma5ZPlU0

▼  ▼  ▼

耳鳴りがする。
だぼだぼと汚らわしい血を流す道化師の腰から上が無くなった胴体を蹴り飛ばしながら、彼はそんなことを思った。
血はマグマの様に滾っており、あわや大火傷の惨事だった。

「提督……」

それは誰が言った呼びかけだったか。
機械的な耳鳴りに顔をしかめながら提督(アドミラル)と呼ばれた少年は、まだ血の付いた軍刀を握り、自らを呼んだ声の方へ振り返る。

視界に彼が着任した鎮守府の艦娘達が映った。

「…………」

少しバツが悪い想いが沸いたが、今はそれどころではない。
ひとまず、残ったピエロに鎮守府へ帰る方法を吐かせ、鎮守府に戻った後弁明しよう。


「ク〜〜クックックック……」


ただでさえ耳鳴りで不快な所へ、耳障りな笑い声が響いた。
視線を少しずらすと、先ほどのピエロが自分を嘲笑していた。
まるで全ては脚本通りと言わんばかりに。
演出ありがとうと言わんばかりに。
これ以上なく不快だった。

「……」

この場所から帰すまで、泣いたり笑ったりできなくさせるために、
何よりあの薄気味の悪い笑みを止めるために彼は一歩踏み出した。
そして、そこで気づく。
自分の首に嵌められた冷たい物質の存在に。

それと同時に、ピーッ!という音が彼の耳を叩き、悟る。

ああ。

先ほどからしていた音は、耳鳴りなどでは無かったのだ。
あの一つ目の化け物の笑いは本当に脚本通りことが進んでいることへの優越感から来た笑みで。
自分は、嵌められたのか。

「―――――!!!」



ぱあんという音と共に、ホールが一瞬閃光に包まれた。
その後には、紅い血の大輪が残っているだけだった。

「て、てい、とく……?」

呆然とした少女の声がする。
ピエロはそれを見て満足げな顔を浮かべると、真っ二つにされた道化師の前に降り立つ。
掌から光が溢れ、道化師の躯に降り注いだ。

「……ありがとうピロロ。
さて、この通り、自分たちは超小型の爆弾が内蔵された首輪を取り付けられたのは分かって貰えたと思う」

7序章:2016/07/15(金) 10:46:16 ID:bma5ZPlU0

それは上辺だけを検めればまさしく縋りたくなる奇跡だった。
一つ目ピエロの手から光が収まると、先ほど両断され死に絶えていた道化師が蘇ったではないか。
驚愕の表情を浮かべる贄達の様相を見て道化師は得意げに続ける。

「禁止エリアに長時間留まっていたり、長時間死人が出なければ首輪を爆破させてもらう。
勿論、反抗しようとする愚か者にも。
…黒の核晶(コア)と言えば一部の人はピンとくるかもね」
「ドカンだよッ!」

人々は一斉に自身の首を確認する。
一人残らず、冷たい金属の戒めがそこにあった。

「禁止エリアの発表は六時間ごとの定期放送で死者の名前とともに発表させてもらう。
どちらも重要な情報だから聞き逃さないようにね。
ちなみに、各放送までに出た死者の数が余りにも少ないようだったら、全員の首輪を爆破して優勝者なし、ということになる」
「何それ、ツマンナ〜イ」
「うん、そうだねピロロ。だからキミ達が『全員の安心』を得ようとするなら、まずは誰か赤の他人を殺しておく事をオススメするよ」

"彼ら"には知る由も無いが、禁止エリアの説明も終わったことでこの始まりの儀もいよいよ以て佳境に入った。
そのフィナーレを飾るために、再び死神はくつくつと笑う。

「さて…そろそろ説明も終わるから、本来の”見せしめ”のコにも入場してもらおう」

そう言って死神がパチンと指を鳴らすと、傍らの空玉座に一人の少女が現出する。


「カツミ……?」


呆然と、死神から見て客席の人垣から声が上がった。
カツミと呼ばれた黒髪の少女は力ない視線を彷徨わせ、声の主のその名を呼ぶ。
やめろと止める暇さえ無かった。
道化師の笑い仮面の口角が、吊り上がった気がした。


「涼……」



それが最後。
首輪が無機質な電子音をけたたましく鳴らし、少女の体が爆ぜた。

8序章:2016/07/15(金) 10:47:34 ID:bma5ZPlU0


「貴様ァアアァアアア!!!!!」


涼と呼ばれた青年の悲痛な咆哮が大気を揺らす。
だが、これ以上ない憎悪を呼び水としても―――彼の右腕は往時とは違い、答えなかった。
体も先ほどと変わらず、近づくことさえできない。
死神はそんな彼を見て、喜色満面だった。
呆然とされるより、これが見たかった。次の瞬間にはそう言いそうな。
しかし、死神は自分の役目を弁えている。
敢えて青年を無視し、向き直った。

「さァ、これでこのショウが夢や遊びじゃないことは分かってもらえたと思う、
なんせこんなに血の匂いで一杯だからね」
「まだわかってない奴はよっぽどバカか薄情者の人でなしだよ!」
「それでは、これから君たちをボクが用意したデイパックと共に専用の会場へ送らせてもらおう。
非力な人もデイパックの中身次第では十分チャンスはあるかも…!」
「頑張って〜」


そのピエロの言葉で締めくくり、キルバーンは集められた参加者を一望する。
そして、指を弾いた。
同時に―――あの突然現れたカツミという少女と同じく、人々は突然消えていく。
意識ごと泥の様な闇に飲まれていく。
そして…数秒後には、玉座を囲んでいた人々はすべからく消え去っていた。


▼  ▼  ▼

9序章:2016/07/15(金) 10:48:52 ID:bma5ZPlU0



斯くして、幕間はこれにて終劇。
これから巻き起こる闘争に正義はなく、栄光もまたありはしない。
誰に知られるでもなく墓標なき泥の下で苔むし腐り、消え果てる者たちの物語。
それでも、穢れきった奇跡を求め62の命を捧げよう。

彼ら彼女らが帰るべき場所は、もう、どこにもない。






【主催】
【キルバーン@DRAGON QUEST-ダイの大冒険-】


【提督@艦隊これくしょん-艦これ- 死亡】
【赤木カツミ@ARMS 死亡】


【GAME START】

10名無しさん:2016/07/15(金) 10:53:33 ID:bma5ZPlU0
投下終了です

wiki
ttp://www65.atwiki.jp/fsjrowa_two/pages/1.html

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17582/

地図
ttps://m.imgur.com/a/dgm6h

【参加者名簿】

5/5【結城友奈は勇者である@アニメ】
○結城友奈/○東郷美森/○犬吠埼樹/○犬吠埼風/○三好夏凛
4/4【PERSONA3 THE MOVIE@アニメ】
○結城理/○アイギス/○荒垣真次郎/○タカヤ
5/5【ガールズ&パンツァー@アニメ】
○西住みほ/○秋山優花里/○河嶋桃/○角谷杏/○西住まほ
5/5【HUNTER×HUNTER@漫画】
○ゴン=フリークス/○キルア=ゾルディック/○ヒソカ/○ゲンスルー/○ネフェルピトー
6/6【DRAGON QUEST -ダイの大冒険-@漫画】
○ダイ/○ポップ/○クロコダイン/○ザボエラ/○ハドラー/○バーン
4/4【ARMS@漫画】
○高槻涼/○新宮隼人/○巴武士/○キース・シルバー
6/6【仮面ライダー鎧武@実写】
○葛葉紘汰/○駆紋戒斗/○呉島光実/○呉島貴虎/○戦極凌馬/○レデュエ
3/3【ターミネーターシリーズ@実写】
○T-800(1)/○T-800(2)/○T-1000
6/6【艦隊これくしょん-艦これ-@ゲーム】
○大井/○北上/○妙高/○那智/○足柄/○羽黒
5/5【東方Project@ゲーム】
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット/○東風谷早苗
5/5【魔法少女育成計画シリーズ@小説】
○スノーホワイト/○リップル/○ラ・ピュセル/○森の音楽家クラムベリー/○ピティ・フレデリカ
5/5【Fate/Apocrypha@小説】
○ジーク/○赤のセイバー(モードレッド)/○黒のライダー(アストルフォ)/○黒のアサシン(ジャック・ザ・リッパー)/○ルーラー(ジャンヌ・ダルク)
4/4【フルメタル・パニック!@小説】
○相良宗介/○千鳥かなめ/○テレサ・テスタロッサ/○ガウルン

63/63

予約はしたらばの予約スレでお願いします

11名無しさん:2016/07/15(金) 15:20:23 ID:qq6LKySYO
投下乙です

黒幕はヴェルザーか
首輪が超物騒w

12名無しさん:2016/07/16(土) 00:50:50 ID:yTGe8t4E0
バーン様都落ちww

13 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:41:12 ID:0lAzLi0.0
投下します。

14霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:41:59 ID:0lAzLi0.0
☆〝赤〟のセイバー


 「クソが。うぜえ真似をしやがる」

  吐き捨てるように言い放った騎士は、その粛然とした外見とは裏腹に粗暴な口調の持ち主だった。
  白と赤の色彩を基調とした鎧で身を覆い、艶やかな金髪をポニーテールで纏めている。
  一介の女騎士とは明らかに踏んできた場数、経験の違うものが彼女にはあった。
  そして今、騎士の女は怒っている。
  このような巫山戯た催しに自分を巻き込んだこと。
  更に言うなら、遊戯の公平性とかいう訳の分からない理屈で自身の宝具に手をかけたことに、反逆の騎士モードレッドは隠そうともせず苛立ちを露わにしていた。
  不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)が無いのは、百歩譲って目を瞑ろう。
  だが愛剣――燦然と輝く王剣にして、我が父を滅ぼす邪剣。
  クラレントの刃が没収されていることだけは、流石に我慢がならなかった。

  サーヴァントにとっての宝具とは、多くの場合生き様であり、誇りの象徴だ。
  中には違う者もあるかもしれないが、少なくともモードレッドにとってはそうだった。
  それに何処の誰とも分からない下衆が汚い手で触れた挙句、支配者面をして強奪だと?
  許せる筈がない。少しでも気を抜けばこめかみの血管が変な音を立てそうなくらい、今のモードレッドはご立腹であった。

 「どうやら余程死にたいらしいな――いいぜ。自殺志願だってんなら、介錯引き受けてやるよ」

  モードレッドは元々、聖杯戦争に召喚されていたサーヴァントだ。
  殺し合いを遂行すること自体に躊躇いはないし、むしろ生前から慣れ親しんだ趣向でさえある。
  だが無辜の人民に手を掛けて喜ぶほど、反逆の騎士は腐りきった人物ではない。
  まして、これほどの狼藉を働いた奴の口車に乗るなど、モードレッドの矜持が許さなかった。

 「そうでなくてもてめえは殺す。このオレを苛つかせた報いは、てめえの首で支払ってもらうぜ」

  一人でキルバーンに挑んだとしても、勝てる自信はある。
  しかしあの下衆も、どうやら馬鹿ではない。
  自分の選んだ駒に反逆されて命を落とすような滑稽な事態を招かないように、きちんと備えをしているようだった。
  それが、こうしている今もモードレッドを戒めている首輪の存在。
  力ずくで外そうものならば、サーヴァントであろうと痛い目を見るどころでは済まない筈だ。
  何せ、今のモードレッドは霊体化が出来ない。恐らくあのキルバーンが施した措置だろうと、彼女は冷静にそう踏んでいた。
  かと言って、自分にこの首輪を解除できるような手先の器用さと技術があるかと問われれば、忌々しいが否と答えるしかない。
  誰か、この腹立たしい首輪を解除できる人間が必要なのは明白だ。

 「面倒臭えが、他の連中と足並みを揃えないことにはどうにもならねえか」

  あの道化師は確か、黒の核晶とか言っていた。
  そして一部の人ならピンと来るのではないか、とも。
  まずはその『一部の人』に接触し、首輪についての情報を得るのが先決だろう。
  主催への反抗以前に、飼い犬か何かのようなこんな姿を強いられるのは騎士の矜持が許さない。

15霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:42:55 ID:0lAzLi0.0
  
  因みに殺し合いに乗った参加者については、言うまでもない。
  ――排除する。

  余程しち面倒臭い事情でもない限り、道化師の犬に成り下がった連中に用はない。
  幸い、使えそうな武器は手元にある。楼観剣とかいう、東洋風の長刀だ。
  愛剣に比べれば数段劣る代物だったが、それでもちょっとした宝具くらいの性能はある。
  宝具を取り戻すまでの場繋ぎの武器としては、十分合格点を与えられるだろう。
  ぶんぶんと楼観剣を素振りしてみて、良し、とモードレッドは一つ頷く。

  流石に使い慣れていないこの剣でサーヴァントと切った張ったしろと言われれば厳しいが、まずまともな英霊なら、この催しに乗ろうなどとは考えもすまい。
  ルーラーの聖女でなくたって、そうだ。
  こんな下衆な趣向に乗るような英霊は、そもそもからしてまともではない。
  
 「――てめえみてえにな!」

  物陰から迸った斬撃を、モードレッドは瞬間的に察知し、その場から飛び退くように回避する。
  見覚えのある太刀筋……もとい、刃の使い方だ。
  そう、今思い出した。文字通り抹消されていた情報が、脳の奥から蘇ってきた。

  モードレッドの猛禽のような視線を受けて尚、涼しい顔で刃を構えているのは一人の少女。
  いや。――少女の姿をした、もっとおぞましいもの。
  愛らしい顔と小柄な体躯の内に、災害のような暴威を秘めた小さな怪物。
  名簿で存在を確認した時から、モードレッドは此奴だけは、と思っていた。
  危険人物の中の危険人物。手を取り合うなど絶対に不可能な、相容れない敵の一人。

 「元気そうじゃねえか、〝黒〟のアサシン。いや……ジャック・ザ・リッパーって呼ばれる方が好きかよ?」
 
  返事は言葉ではなく、殺意で返った。少女を中心に巻き起こる、硫酸の霧。
  サーヴァント以外なら長居は確実に死に直結する彼女の宝具は、しかしある程度の矮化を見せていた。
  だがそれは決して、無害になったという訳ではない。
  人体に対して有害なことには何の変わりもないし、長く浴びれば重篤な傷にも当然繋がる。
  こうして展開される、ジャック・ザ・リッパーの主戦場。
  死界魔霧都市(ミストシティ)――倫敦の悪夢が時を超えて顕象される。
  
 「上等だぜ、返り討ちにしてやるよクソガキッ!!」

  裂帛の叫びをあげて、モードレッドは楼観剣の柄を力強く握り締め、ジャックの刃を迎え撃った。

  霧中に火花が散る。
  鮮やかな色合いの火花だった。
  それに見惚れている暇は両者共に、ない。
  モードレッドの剣が片手間に相手できるようなものではないのは当然として、ジャックの戦闘能力も、その見た目からは想像もできないほど高いのだ。
  何故なら彼女は天性の魔。元々人間ではない、独自の戦闘スタイルを持ったサーヴァント。
  単なる匹夫の夜盗と一括りにして考えた日には、円卓の騎士とて痛い目を見るのは間違いない。

16霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:43:38 ID:0lAzLi0.0

 「そらよ!」

  横薙ぎに振るわれる刀身は、一切の容赦なく、ジャックの胴を両断せんとしていた。
  常人ならば見切ることも叶わずに半身を泣き別れにされること請け合いの一撃を、しかしジャックは体を数ミリ後退させるだけで難なく回避する。
  返し手で振るわれた刃がモードレッドの鎧に傷を刻む――やってくれたな、とその口許が笑みの形に歪み、ジャックに体当たりに等しい一撃を返した。
  矮躯の定めとして、軽々ジャックは吹き飛ばされる。
  無論簡単に受け身を取って立て直すが、一瞬の隙を逃すまいと突撃してくるのはモードレッドだ。
  騎士の戦いというよりは、どこかストリートファイトじみた戦法……だからこそ、ジャックのような無法の相手にも遅れを取らない。
  
 「ッ――」

  モードレッドの一閃を刃で受け止めたジャックの顔が歪む。
  力勝負では、やはりモードレッドに分がある。
  逆に言えば、速度の面ではジャックが遥かに優っていた。
  高速で懐に潜り込んでからの連撃。モードレッドにはない速さがそこにある。
  刀身で冷静に防いでいくが、流石に苦しいものを感じずにはいられない。
  腐っても相手はサーヴァント。楽に勝てる相手では、やはりないようだ。

 「ちょこまか飛び回りやがって、小蝿かてめえは!」
 
  悪態をつきながら逆袈裟に振り上げた刃で、強引にジャックのペースを奪う。
  右、左、上、下と振るっていく楼観剣の剣閃を、ジャックもまた驚異的な動体視力で見極め対処していく。
  そしてモードレッドが攻撃の手を一瞬でも緩めると、

 「――解体するよ」

  こうだ。
  そこを見逃さぬと、鋭い刺突やら斬撃やらが飛んでくる。
  やはりどうにも気に入らない相手、面倒な相手だ。
  せめて宝具があれば、もう少し戦況を有利に運べるのだが……無い物ねだりをしても仕方がない。

 「解体(バラ)されるのはてめえの方だぜ、アサシンッ!!」

  自分はアーサー王の子だ。
  それが、武器の有無を理由に不貞腐れていていい筈がない。
  この程度の相手、片手落ちでも倒すくらいでなくては、自分の追い求める境地には程遠い。
  ジャックの目が一瞬、驚きに見開かれた。
  明らかに攻めの速度と強さが上がっている――まるでそれは、暴風か何かのように。

 「くッ――……邪魔!」

  追い縋るジャックだが、手数では優っていても、火力ではやはり打ち負けていた。
  流石に、最優秀のクラスと呼ばれるセイバーのサーヴァント。
  正面戦闘でアサシンクラスが勝るのは至難の業である。
  
 「そいつぁオレの台詞だ!」

  ジャックのナイフの片方が、衝撃に耐え切れず宙を舞った。
  砕けてはいないようだが、これでジャックは、正真正銘の片手落ちの状況に陥る。
  不味い。彼女の焦りが、モードレッドには手に取るように分かった。
  だからこの機を無駄には決してしない。元々、此奴は逃がせば逃がすだけ面倒になる相手なのだ。
  倒せる時に倒さなければ、いつまでも悪戯に屍の山が積み上がっていくだけ。
  そしてその『倒せる時』とは、言うまでもなく今である。

17霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:44:39 ID:0lAzLi0.0
こ れ で も く ら え
 「Take That, You Fiend――!」

  ジャックが大きく体勢を崩す。
  身を低くして懐への侵入を試みているようだが、無駄だ。
  モードレッドは迫る彼女にそのまま痛烈な斬撃を見舞い、再び大きくその体を吹き飛ばした。
  ナイフの回収の暇など、勿論与えない。
  
  あと一手。
  あと一手の駄目押しがあれば、勝負が決まる。
  双方がそう認識していたから、双方が共に必死だった。
  何としてでも倒す。何としてでも生きる。
  されど圧倒的に盤面は傾いており、あわやこれまでかと思われた、まさにその時。

 「……?」

  モードレッドが一瞬、頭の後ろに意識を取られた。
  反射的に、彼女は後ろを振り返る。
  それは全く不明の事態。サーヴァントでなければ、気付きもしなかっただろう小さな異常。
  後頭部に、髪の毛を抜き取られるような痛みが走ったのだ。
  周囲は霧の流れ以外は殆ど無風状態で、髪が千切られるような自然の要素はどこにもない。
  髪の一本程度どうでもいいと言ってしまえばそれまでだが、今の痛みは、物凄く不吉なものを感じる痛みだった。
  そしてモードレッドが晒したその一瞬で――

 「……えっ」

  そんな声を残して。
  ……ジャック・ザ・リッパーというサーヴァントは、モードレッドの眼前から、完全に消失を果たしていた。

 「…………は?」

  思わずそんな声が漏れてしまったことを、誰が責められようか。
  撤退を選んだ? いや、そんな筈がない。如何にあのアサシンが高い敏捷性を有していたとしても、あまりにも速すぎる。
  モードレッドほどの英霊が、撤退を感知すら出来なかった。
  ……そんなことが、果たしてあり得るのか?
  周囲を見渡しても、何処にもそれらしい姿はない。
  それどころか情報抹消のスキルが仕事をし始め、瞬く間にモードレッドの中から、〝黒〟のアサシンの情報という情報が消えていく。
  残ったのはアサシンというクラスと、名簿にある『ジャック・ザ・リッパー』という真名だけだ。

18霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:45:31 ID:0lAzLi0.0
 「だー、畜生! またこれかよ!!」

  思わずそう叫び散らすモードレッドだったが、どうにも狐につままれたような思いだった。
  ……あの時感じた、髪を抜かれる感触。不吉な感覚。
  あれは一体、何だったのだろうか。
  もはやアサシンについて覚えていることはごくごく僅かだが、あの時『髪を抜かれた』ことについては、記憶にはっきりと残っている。
  
  それはつまり、あの時自分に干渉したのは、ジャック・ザ・リッパーではない『何者か』だったという証明ではないのか。
  不気味な事実に眉を顰めながら、モードレッドは溜息を大きく吐き出した。

  今日は、長い一日になりそうだ。


【C-8/一日目・深夜】
【赤のセイバー(モードレッド)@Fate/Apocrypha】
[状態]:疲労(小)、苛立ち
[装備]:楼観剣@東方Project
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:キルバーンを殺す。
1:まずは首輪をどうにかしたい。
2:殺し合いに乗った参加者は余程のことがない限り排除。
3:黒のアサシンには警戒。
4:さっきの……何だったんだ?
5:アサシンの追跡がてらに、この辺りから離れる。
※参戦時期は少なくとも、ジャック・ザ・リッパーと戦闘した以降です


☆ピティ・フレデリカ

  モードレッド。
  円卓の騎士の一人にして、アーサー王の一人息子。
  そして、アーサー王伝説に終止符を打った『叛逆の騎士』。
  アーサーの姉であるモルガンによって生み出された彼女は、言ってしまえば、生まれながらに悪女という存在と縁のある人物だった。
  だから彼女は、髪を抜き取られたあの一瞬、耐え難い不吉なものを感じたのかもしれない。
  悪女という一点で、このピティ・フレデリカという魔法少女に匹敵する者は、何しろそうは居ないのだから。

 「……だれ、あなた」
 「ピティ・フレデリカと申します」

  可愛らしい銀髪の少女が、フレデリカに刃を向けている。
  顔に傷があるものの、そんなもの気にもならないくらい、可愛らしい少女だ。
  見た目の可憐さならば、魔法少女に匹敵する。
  この世のものとは思えない美しさを湛えた人外の彼女達に、優に匹敵している。

19霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:46:04 ID:0lAzLi0.0

 「勘違いしないで下さい。私は、貴方の敵ではありません」

  フレデリカは、警戒を露わにしている少女……ジャック・ザ・リッパーに優しく笑いかけた。
  しかしジャックの表情は硬い。当然だろう。彼女にしてみればフレデリカは、突然自分を不明な手段で拉致してのけた、正体不明の危険人物以外の何物でもない。
  むしろ、いきなり斬りかかられていないことを幸運と思うべきだ。
  
  ジャック・ザ・リッパーというサーヴァントは、倫敦の街で生を得ることなく死んでいった、胎児(こども)達の怨念の集合体だ。
  故に痛みを嫌い、好意には脆く、敵意には極めて敏感な習性を持つ。
  そんなジャックだから、フレデリカが自分に敵意を抱いていないことはすぐに分かった。
  ……だが、分からないことだらけだ。あんなことをした意味も、意図も。
  分からないことが多すぎて、フレデリカはジャックの目に、ひたすら不気味な存在として写った。
  こうしてナイフを向けられているのに、全く動じた様子が見られないのもそうだ。
  フレデリカは、サーヴァントではない。ならばただの人間なのかという話だが、彼女にはこの女は人間ではないと直感させるものがあった。
  奇妙な雰囲気。神秘的なまでの美貌。全てが調和して、一つの異界のようにすら見える。

 「一つ質問が。貴方は何故、このゲームに乗ろうとお考えに?」
 「………」
 「玉座に座る権利を得た勇者には、何でも好きな願いを叶える権利を与える。
  キルバーンはそう言いました。貴方は、願いを叶える力を欲しているのですか?」
 「そうだよ」

  そう。
  ジャックは、そこははっきりと断言した。

 「わたしたちは――かえりたいの。おかあさんの中に……ううん。おかあさんのところに、かえりたいの」
 
  ジャック・ザ・リッパーの願いは胎内回帰だ。
  母の胎内に帰ること。それを聖杯に願うべく、あの世界に現界した。
  そこで彼女は、『母』を見つけた。自分に優しくして、想ってくれる、かけがえのない母を。
  ――しかし、母は死んだ。弓兵の一矢にかかって、ジャックの前で死んだ。
  彼女はその死を見届けた後の時間軸から、この殺し合いへと召喚されているのだ。
  だから彼女の願いは、玉座に座って全能になることではない。
  ……かえりたい。母の中に。けれど、母はもう居ない。
  だからまずは、取り戻す必要がある。母の待つ場所を、取り戻す必要がある。

 「では私が、お力添えを致しましょう」
 
  フレデリカはそれを聞くと、二度三度ゆっくり頷いてから、そうジャックに進言した。
  
 「……どうして?」
 「生き残れるのは一人だけ。そのルールは、勿論承知していますよ。
  ですが抜け道があればそれに越したことはない。私も、まだやり残していることが少なからずありますからね」
 「じゃあ……それがなかったら?」
 「その時は、貴方を責任持って元の世界に返しましょう。玉座に座る権利も、お譲りしましょう」

  こればかりは、フレデリカの方便だった。
  というよりかは、そうなった時にどうするかを、フレデリカはまだ決めていない。
  あくまでも彼女はルールの抜け道を探して、ちゃっかり帰還することを狙っているのだ。
  願いを叶える力というのは、フレデリカが持つよりも、もっと適任が居ると彼女は考えている。
  だからそこには、フレデリカはさほど執着していなかった。
  事情が変わって優勝を狙うことになったなら、折角だし何かに使うかもしれないが……今のところはこうして簡単に譲ると言えるような、その程度のものでしかない。

20霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:46:48 ID:0lAzLi0.0
 「どうして、そこまでしてくれるの?」
 「慈善事業とでも言っておきましょうか」
 「じぜん……?」
 「要は、人助けですよ」

  フレデリカは、少女が好きだ。
  だが、誰でもいいわけじゃない。
  その点でジャック・ザ・リッパーは、フレデリカの眼鏡に適う少女だった。
  彼女の頭髪を見た時にフレデリカが抱いた感情は――ゾッとするほどの、寒さ。
  何百メートルという高所から真下を見下ろした時のように、吸い込まれるような感覚があった。
  ジャックは、一人ではない。『わたしたち』と自称するように、集合体である。
  何人、何十人、何百人という子供の思念の集合体。
  その髪は複数の人間の髪々が結合し、混じり合い、不気味ながらも美しいコントラストを描いているように、フレデリカには見えた。
  髪を通じて、『彼女たち』の生き様と性質を垣間見た。

  魔法少女のように綺麗ではない。
  可憐でもない。
  吸い込まれるような不気味さは、すなわち人を自滅に誘う自殺衝動だ。
  こんな髪の持ち主を、フレデリカは見たことがなかった。
  気付いた時には耐え切れず、干渉してしまっていた――本当は様子見をしつつ、髪を集める程度の気持ちだったというのに。

 「それでも私が信用できないのであれば……仕方ありません。殺されるのは少々勘弁願いたいところなので、頑張って貴方から逃げることにしましょう」
 
  その言葉を聞いたジャックの刃が――動く。
  そのまま振り抜かれて……フレデリカの首の皮の寸前で、止まった。

 「……いいよ」
 「いいよ、とは?」
 「助けられてあげる」

  「ありがとうございます」とフレデリカは微笑む。
  何とも、奇妙な光景だった。

 「……それで、ここからどうするつもりなの? おかあさ――……や、違くて、えぇと……」
 「そうですね。私は貴方の『おかあさん』ではありませんし……」

  かと言ってマスターとか、師匠とか、そういうのも変だ。
  フレデリカは別に呼び捨てでもいいのだが、何と呼ばせたものかと頭を捻り。
  ぽんと、手を打った。

 「では、『先生』と。そうお呼びください」
 「せんせい?」

21霧幻少女育成計画 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:47:53 ID:0lAzLi0.0

  不思議な、不思議な響きだった。
  ジャックは、学校を知らない。
  人に教えられるということを知らない。
  初めて口にするその響きは不思議と暖かくて、悪くないものだったから――

 「……うん、わかった。よろしくね、せんせい」

  そう言って、少しだけ笑うのだった。


【C-8・工場内部/一日目・深夜】
【黒のアサシン(ジャック・ザ・リッパー)@Fate/Apocrypha】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ジャックのナイフ@Fate/Apocrypha
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:おかあさんのところに帰りたい
1:せんせいと行動する
2:赤のセイバーには注意。
※参戦時期は玲霞死亡後です。
※『暗黒霧都』は、制限で毒素がやや減衰し、広げられる範囲も縮小されています。しかし有毒性があることには変わりありません。

【ピティ・フレデリカ@魔法少女育成計画シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:水晶玉@魔法少女育成計画シリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2、ジャック・ザ・リッパーの髪、モードレッドの髪
[思考・行動]
基本方針:生還する。
1:ジャックの髪は良い。
2:スノーホワイトやクラムベリーに強い興味。接触したいが、我慢すべきか……
3:モードレッドの髪も良い。
4:参加者の髪をなるべく集めておく
5:リップルとも再会したいが、洗脳が解けている可能性があるため細心の注意を払う。
※参戦時期はLimited以後です。
※水晶玉の魔法については、以下の制限が加えられています。
・水晶玉を通じて干渉できるのはエリア内の存在のみ。
・世界越しの干渉も勿論不可能。


支給品説明

【楼観剣@東方Project】
モードレッドに支給。
魂魄妖夢が使用している刀で、一振りで幽霊十体分の殺傷能力があるとされる。

【ジャックのナイフ@Fate/Apocrypha】
ジャック・ザ・リッパーに支給。
彼女が普段から使用しているナイフ。宝具ではない。
複数本存在するが、全て含めて一個の支給品という扱いのようだ。

【水晶玉@魔法少女育成計画シリーズ】
ピティ・フレデリカに本人支給。
フレデリカが魔法を使うために必要な水晶玉で、対象の髪の毛を指に巻くことで対象を水晶玉に映し出すことが出来る。
対象への干渉も可能。ただし、これを破壊されるとフレデリカは魔法が使えなくなる。

22 ◆i9L4GKxxpw:2016/07/16(土) 17:48:10 ID:0lAzLi0.0
以上で投下を終了します。何かあればお願いします

23名無しさん:2016/07/16(土) 18:09:36 ID:ifqeBf/w0
投下乙です

聖杯でも中々見ないモーさんをロワで見る事になるとは
貴方の父上並行世界じゃその下種の口車に割と乗ってるんだよなぁ……
ジャックちゃんはやはり乗ったか、LS2014の大暴れが記憶に新しい彼女だが今ロワではどうなるか
そして安定の師匠、離脱能力に加えて霧の奇襲性とはかなり厄介なコンビだ

24名無しさん:2016/07/16(土) 19:07:24 ID:6STYSgPsO
投下乙です

結局、本人支給は特に制限無しになったの?

25名無しさん:2016/07/16(土) 19:31:53 ID:ifqeBf/w0
wikiのルールでは支給品枠が二つ分消費されるっぽいので不明支給品枠は0〜1になるのかな

26 ◆.J6vxcKjNU:2016/07/16(土) 22:11:59 ID:s6JKGoLg0
投下します

27兵士と士官 ◆.J6vxcKjNU:2016/07/16(土) 22:13:14 ID:s6JKGoLg0

 汗がぽたぽたと滴って、空間が熱気で歪む。溶鉱炉における熱さというのは、その他屋内におけるものではなく、
屋外蒸し暑さと同じ、逃れたくともどうしようもできない、包み込まれるような感触なのだ。

 艦娘たちにとって溶鉱炉という場所は、ある種の特別な意味を持っている。
彼女の肢体を取り巻く艤装、あるいは彼女たち自体を構成する、その素材として、鉄鋼は欠かすことができない。
彼女たち――羽黒と那智――は、今までにこんな場所など訪れたことはなかったが、
それでも、なにか、自分たちの出自を刺激するような感覚だとか、始まりの感覚を覚えていた。その逆のものも。

 羽黒と那智は艦娘である。妙高型重巡姉妹の次女と四女、人類の味方として日夜、敵対する深海棲艦と戦っている。
艦娘に対する定義として、明確なものはない。見た目は少女から女性、麗しく、あるいは可愛らしく、
彼女たちが日々を送る基地、巡る時間の中での平和な時間は、彼女たちは外見相応の個性を持っている。
食事に舌包みをうったり、甘味に目を輝かせたり、梅雨空に憂いて見たり――、それこそ何ら生産性のない話に興じたりもする。
しかし、戦場においては、目測で敵を測り、身体に纏う、火器その他、大砲から魚雷までを放ち、敵を容赦なく撃滅する。

 彼女たちは、アンバランスだ。あどけなく振る舞いながら、一般人類の小集団を軽く超える戦力を持つ。
出自も公開されず、ただそうあるから、命、存在を掛けて、指揮官に従い、人類に味方し、敵をなぎ倒す。
定義について、明確でないのも、あるいは故意によるものかも知れない、人類はまた、彼女たちを扱いかねているのかもしれない。

 さて、二人の話に戻る。彼女たちは、平時から姉妹艦の縁として、長女の妙高、三女の足柄も加え、仲良く暮らしていた。
彼女たちはバランスの良い姉妹だった、しっかりものの妙高に、武人然としてどこか抜けている那智、
活発で周囲を元気づける足柄、気弱ながらも芯には強さを持つ羽黒。彼女たちは彼女達の指揮官、提督を取り巻きながら日常を築く。
海軍としての性質上、明日をも知れない生活ではあったが、それでも、それなりの日々を過ごしていた。

 しかし、環境は変わって、殺し合いの舞台に呼ばれ、彼女たちの提督は死に、彼女たちの立場、目的、使命は宙に浮く。
彼女たちの目線からすれば、この場には滅ぼすべき深海棲艦はいない。 いるのは同じ艦娘と人間、判別着きがたい者だけだ。
ここに至って、艦娘は、使命や命令とは違う、独自の判断を問われることとなった。ここにいる二人、那智はいまだに思案にふけり、
羽黒は玉座を目指す道を選んだ。だから、溶鉱炉の二人は、姉妹たる彼女たちは、手を取りあうことはなく――互いに砲をむけている。

28兵士と士官 ◆.J6vxcKjNU:2016/07/16(土) 22:16:05 ID:s6JKGoLg0

 溶鉱炉という場所は、各所に障害物及び高低差が存在する。
ゆえに水上ほどの機敏さが発揮できない艦娘たちもなかなか決定打を与えられない。
牽制としての支給品、……拳銃の発砲音が散発的に響く、羽黒は間隙に主砲の砲撃を叩きつけるべく、那智は接近し制圧しようと。

 「何故だ!」

 那智は、声を張り上げた。気を取らせて接近する、という気持ちもあるが、
何よりもあの気弱で心優しい羽黒が、姉である自分に向けて、明確な殺意を向けてくる理由が知りたかった。

 「羽黒……!」

 破裂音が止み、場が溶鉱炉の稼働音のみになり――羽黒の声が辺りに響いた。

 「那智姉さん……は、噂を聞いたことがありますか?」

 「……?」

 「私達が、深海棲艦に沈められたり、戦うことができなくなって艦娘として解体された後――どこかでまったく同じ私達が建造されるって」

 「ただの噂だ! それに、何の関係が――」

 「司令官は、私たちにとって、私にとって良い提督でした! 私達のことを思ってくださいましたし、私達も彼に尽くしました」

 「ああ、そうだ、だが、死んでしまった」

 「殺されました! 私達の提督です! 大きく見たら一人の死かもしれないけれど、私の提督だったんです!」

 「殺したのは、私達をここに連れてきた連中だろう! あいつらは、彼の仇だ、それなのに――」

 「仇を討って、どうなるんですか?! それでもとに戻って、他の提督が来て、その後に私が沈んで、もし、噂がほんとうだったなら!」

 「落ち着け! 羽黒!」

 「違う私は、また違う士官の元に行きます……! 私達の提督のことは知りません! 今の羽黒として意志ある私は、そんなのは、いやです!」

 「しかし、願いを叶えるということは、お前は、姉妹を――!」

 「殺します! 妙高姉さんも、足柄姉さんも、那智姐さんも! 殺して、提督をよみがえらせます!」

 「羽黒……!」

 「それが、私という、羽黒なんです!」

 最後の方は、いつものように切羽詰まった涙声であった。けれど、その声には、強い覚悟と意志が宿っている。

29兵士と士官 ◆.J6vxcKjNU:2016/07/16(土) 22:17:21 ID:s6JKGoLg0

 那智は、彼女の頭上に向けて、副砲を放ち、堕ちる埃と物で目くらましをした。
そして、壁に主砲で穴をあけると、そのまま外に飛び出した。

 顔は苦渋に満ちている。そのまま、走って、走って、走り続けて、息を切らせて、木に寄り掛かった。
未だ、暗い空を見上げる彼女の顔には、汗が浮かび、呼吸音を漏らしていたが、どこか――ぞっとするものが、あった。

 (そうか、それが貴様か、羽黒……私は、提督一人の死がお前以外の死と釣り合うとは思えない)

 (だが、私たちの提督は、死んだ。世界のため、私たちを率いた男は志半ばで死んだ)

 (ならば、私たちの、私のするべきことは、意志を継ぎ、深海棲艦を戦うこと、奴らを、滅ぼすこと。これならば、釣り合う)

 那智は、考える、考えて、結論を出す。……結局のところ、彼女がこの結論にたどり着いたのは、
指揮官を失ったこと、そして、艦娘として今まで過ごしてきた日常に耐えられなかったからかもしれない。

 (私の願いは、深海棲艦の根絶。可能な限り、勝利を目指す)

 (だが、それが敵わなければ、皆の内の誰かを優勝させる。それがどんな願いであろうと)

 親しき者の蘇生であっても、元の世界に帰れば、深海棲艦と戦うのだ。

 (もしくは、この殺し合いの打破、彼らはきっと集団を作る。妙高や足柄辺りはそこに参加するだろう)

 (そのために、戦闘力なき技術者はできる限り見逃す。ただ、その集団にとって私は敵だ)

 (同じ艦娘である参加者を巡って疑心暗鬼になるかもしれない、それを避けるためには――)

 一人、対主催の同胞を殺さなければならない、それも、妙高か、足柄を。

 (そうすれば私の単独犯だ。累は及ばない。それでもなお、艦娘が全滅したなら)

 そこまで思考して、那智は思った。この殺し合いに巻き込まれたのは、たかだか、重雷装巡洋艦二隻、重巡四隻。

着実に戦力が強化されている今、それだけの戦力がなくなったところで――いったい、どれほどの影響が出るだろう?

そこに至って、那智は小さく笑った。それは、思わず漏れてしまったというような素直な、乾いた笑みだった。

30兵士と士官 ◆.J6vxcKjNU:2016/07/16(土) 22:19:57 ID:s6JKGoLg0

【G-7・溶鉱炉周辺/一日目・深夜】
【羽黒@艦隊これくしょん-艦これ-】
[状態]:疲労(小)精神消耗(大)
[装備]:妙高型の艤装(連装砲 連装高角砲 魚雷)@艦隊これくしょん-艦これ-
[道具]:基本支給品一式、拳銃
[思考・行動]
基本方針:私という羽黒として、提督を蘇生する
1:那智姉さんを追いかけて――殺す。
2:艤装の消耗を危惧、できるかぎり拳銃を使う。
※溶鉱炉周辺に破壊音が響きました。また、内部に戦闘痕、一部壁に穴が開いています

【G-7・溶鉱炉周辺/一日目・深夜】
【那智@艦隊これくしょん-艦これ-】
[状態]:疲労(小)精神消耗(小)
[装備]:妙高型の艤装(連装砲 連装高角砲 魚雷)@艦隊これくしょん-艦これ-
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、
[思考・行動]
基本方針:深海棲艦を撃滅する
1:とりあえず羽黒から逃げる。
2:可能な限り生き残りを狙う。
3:同じスタンスの艦娘と許容範囲の技術者は見逃す
4:対主催陣営の団結のため、対主催の艦娘を一人殺す(できれば、妙高か足柄)
5:結局のところ、どうなっても大勢に影響はない。

31名無しさん:2016/07/16(土) 22:20:07 ID:s6JKGoLg0
投下終了です

32名無しさん:2016/07/16(土) 23:30:11 ID:ifqeBf/w0
投下乙です

やはり提督の影響力は大きかった……
好きに設定を肉付けできそうでこれからも面白そうですな艦むす勢は
羽黒ちゃんは乗り那智さんは半ばやっけぱちムーブ
どちらも未来に暗雲が立ち込めている…

33名無しさん:2016/07/17(日) 00:10:46 ID:kwD88I7o0
投下乙です。

艦娘はやっぱり乗る子がいるよなぁ・・見せしめ提督の影響力は大きい。
姉妹艦同士で殺し合うとは悲しい物語だ

34 ◆.J6vxcKjNU:2016/07/17(日) 00:26:50 ID:GfoB8ujE0
すみません、修正です

そして、艦娘として今まで過ごしてきた日常に耐えられなかったからかもしれない。

そして、艦娘として今まで皆と過ごしてきた日常がもう戻らないことに耐えられなかったからかもしれない

35 ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 00:44:39 ID:8.xjhgKk0
投下します

36魔法騎士は白雪姫の夢を見る ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 00:48:26 ID:8.xjhgKk0
「泣かないで、スノーホワイト」

ラ・ピュセルは鞘から剣を抜き、柄をスノーホワイトに向けて膝をついた。
刃渡り五十センチほどの刃がキラキラと輝いている。

「たとえこの身が滅びようとも、貴女の剣となることを誓いましょう。我が盟友、スノーホワイト」


㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


ミスリル作戦部西太平洋戦隊に所属する軍曹、相良宗介が目を覚ましたのは
廃墟のような建物の中だった。その気になれば息をするように人を殺すことも
可能な彼だが、軍に命令を下されたわけでもないのにこのような理不尽な殺し合い
に乗るなど馬鹿げていると考えていた。とにかく、一刻も早くかなめを保護し
この島から脱出しなくては。支給品の確認を終え、建物の内部を息を潜めながら
移動する。するとしばらくして辿りついた部屋の中央に女性が倒れているのを発見した。
女騎士を思わせる風貌の美しい少女が青ざめた顔でぐったりと横たわっている。
頭に角の様な髪飾りを付けトカゲの尻尾が尻から生えているように見えるが
一応人間だろう。参加者かもしれない。どうする見捨てるか、救助するか。

(まあ、助けない理由もないだろう。大丈夫だ、問題ない)

そう判断した宗介は女騎士を抱きかかえ楽な姿勢で仰向けに寝かせる。
彼女の顔が青ざめていて息をしていない事に気づいた宗介はビキニの様な
胸当てを支給されたコンバットナイフで躊躇なく切り裂き、その下にある
黒いブラジャーも特に迷いなく中央で切って外した。女生としてほどよい形と
触り心地のよさそうなたわわな胸がぶるんと音を立てて飛び出したが宗介は特に
何も感じることなく女騎士のその豊満な胸部に耳を強く押し当てた。

(微かに鼓動は聞こえる。だが呼吸はしていない。このままでは確実に死に至るだろう)

柔らかい胸から頭を離し双丘の中央の胸骨に両手で30回の圧迫を行った宗介は、
女騎士の首を傾け、気道確保の姿勢を取らせた後、手の親指と人差し指で鼻を
つまんで女騎士の唇を大きく開けた。そして女騎士の柔らかい桃色の唇を覆うように
自身の唇を密着させ、口内に息を吹き込み始めた。宗介の大量の唾液が口内に流し込まれる
のと同時に酸素が女騎士の肺へと送り込まれ、徐々に鼓動が正常に回復していく。

37魔法騎士は白雪姫の夢を見る ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 00:48:51 ID:8.xjhgKk0
㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹

「―――そうちゃん!死なないで!そうちゃーーん!」

聞きなれた可愛らしい少女の声が聞こえる。全身の骨が軋んで動けない。
瞼が重くて目も開けたくないが身体を激しく揺さぶっているこの子に応えてあげなきゃ
いけないと思ってゆっくりと瞼を開けていく。半分血のにじんだ視界に、
涙で顔がくしゃくしゃになったセーラー服の様な衣装を着た純白の魔法少女、
スノーホワイトの姿が映った。地濡れの女騎士ラ・ピュセルは傷だらけの指を顔に持っていき、
彼女の目から流れ出る涙を拭ってあげた。スノーホワイトは安堵の浮かべてラ・ピュセルを抱きしめる。

「そうちゃん!よかった!無事だったんだね!」
「あ、うん……こら小雪、魔法少女の時にそうちゃんはやめなさいって言ってたでしょ?」
「ご、ごめんねそうちゃ……でもそうちゃんも小雪って呼んでるよ?」
「……うぅっ」
「ふふっ、つい言っちゃうんだよねっ」

ラ・ピュセル、岸部颯太とスノーホワイト姫河小雪は魔法少女になる前からの幼馴染である。
岸辺颯太という名前の示す通り彼は男の子でありながら魔法少女に選ばれた異端な存在であり、
幼少のころから魔法少女に憧れながら男であるがゆえに世間体を気にしてそれを隠してきた
彼がソーシャルゲーム魔法少女育成計画によって魔法少女になれた時の悦びは女子の非では
なかったという。そして奇跡はもう一つ起きた。小さいころによく魔法少女ごっこで遊んでいた
姫河小雪と魔法少女として出会い、もう一度コンビを組めたことだ。これはまさに運命だった。

(でも、キミを泣かせてしまったね、小雪。僕は情けないよ)

少し思い出してきた。ある日突然始まった、互いのマジカルキャンディーを奪い合う
デスゲーム。困った人の心の声が聞こえるが戦闘力を持たない、というかそもそも
戦いたくないスノーホワイトを守る為、襲い掛かる敵を次々撃破してわりと調子に乗っていた
時にあの恐るべき強敵、森の音楽家クラムベリーと対峙したのだ。

『いやあ、なかなか楽しませてもらいましたよ』
『でも勝てないんですけどね』
『あなたは真剣勝負において大切なことが致命的に欠けているのですよ』

そして、結局相手にもならずにボコボコにされた。いや、クラムベリーの楽しめたという
言葉通り何発か当てることには成功していたが、一体何が足りなかったのか。

(……あれ?)

いや、待て。あの戦闘はどうやって終わった?目で視えない音の衝撃波で内臓をやられた後
右腕を切断され馬乗りになったクラムベリーがもっと血を見せて下さいとハイになりながら
次々と顔面に拳を叩き込まれて――――。

「でも良かった。死んじゃうかと思ったよそうちゃん」
「あ、ああ?生きていたのか?僕は……スノーホワイト!?」
「……んっ」

38魔法騎士は白雪姫の夢を見る ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 00:49:17 ID:8.xjhgKk0
気が付くと、上目遣いのスノーホワイトが目を閉じてゆっくりと唇を近づけて来ていた。
極限状態で感情が昂っているんだろうか。ラ・ピュセルの鼓動が激しくなる。

(ちょっ!いきなりなにやってるのスノーホワイト!?僕たち中学生だよ!?まだ早すぎるよ!)

だが、なんだかよく判らないが九死に一生を得た身、明日死ぬかもしれない状況下。
勇気を振り絞って行動に出た愛しき幼馴染の気持ちに応えてあげないのは男じゃないだろう。
今の見た目は女の子だけど。ラ・ピュセルはスノーホワイトの両肩を掴んで優しく告げた。

「愛してるよ、小雪」

そうして互いの唇が初々しく触れ合った。スノーホワイトの息が口の中に流し込まれる。

(……う!小雪の唾液が口の中に!小雪意外と激しい!?……あれ?)

目を閉じたラ・ピュセルはなにか、違和感を感じた。

(臭っ!?なんかすっげー臭い!?ちゃんと歯を磨いてるの小雪!?
 いや駄目だ!小雪を臭いとか言っちゃ駄目だ!こういうのがムードが大事―――)

葛藤するラ・ピュセルの視界が段々とボヤけていき。

㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹

「ふうっ!ふっ!ふぅ!ふっ!」

竜の意匠を施した女騎士風の少女、ラ・ピュセル、岸部颯太がスノーホワイトとの
ファーストキスを果たした後、再び目を開けると、顔面に大量の傷を負った屈強な男性が視界に出現した。
男は魔法少女に変身した颯太の唇を激しく奪って唾液を口内に流し込みながら息を吹き込んでいる。
さらに胸当てとブラジャーは無惨に切り裂かれて露出した胸を男に揉みしだかれていた。
あまりに非現実的な光景にラ・ピュセルの思考は長期間停止し………………

(くぁwせdfrtgyふじこl;p:@」!!!!!!!????? )

反乱狂になったラ・ピュセルは右手に魔法の剣を出現させ男の首を狙って振り上げた。
それに気づいた男は咄嗟に剣を躱し、後転しながらラ・ピュセルから距離を取る。

「良かった。気が付いたか」
「なにしてんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

あまりの気持ち悪さに瞬時に建物の壁際まで飛びもたれかかったラ・ピュセルは
相良宗介と自分のものが混ざり合った唾液を袖でごしごしと急いで拭き取りながら、
こちら警戒させないようにそれなりに優しい顔を向ける宗介も視界に入らずに
ひたすら思考を混乱させる。

(奪われた?奪われた!?ファーストキスを?スノーホワイトに捧げる純潔をこんな男に!?
 レイプ?レイプされたのか僕は?この男に!男なのに!さっきまでは夢!?これが……現実!?)

ああ、そうだ。現実はいつだって非情だ。思い出した。
自分はクラムべリーに無惨にも敗れて原型も留めぬほど肉体を破壊され殺されたのだ。
なぜこんな場所にいる?ここは地獄なのか?
だが夢の中のスノーホワイトは消え、今目の前の見ず知らずの男に
颯太の理想の魔法騎士ラ・ピュセルは穢された。これが現実!

39魔法騎士は白雪姫の夢を見る ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 00:49:41 ID:8.xjhgKk0
(………許さない。こいつを!ぶっ殺す!)

始めて芽生える本気の殺意。ああ、ようやく理解できた。
これが、クラムベリーが言っていた、戦士としての自分に致命的に足りないものだったのか。
「正々堂々と戦い、お互いを認め合う」ことをイメージしながらクラムベリーと相対した自分は
最初から勝ち目など無かった。あれは勝負などではなく殺し合いだったのだから。

自分が救助した筈の名も知らぬ女騎士に只ならぬ殺気を覚えた宗介は身構えた。
幼少期から戦場で生き抜き、人を殺した数は軽く3桁を超える彼の直観は女騎士に
危険なものを感じているが、助けたことを後悔はしていない。
少女が持つダガーの様な剣。あれでこれからこちらを攻撃して来るのだろう。
突撃による死殺、投擲、考えられるあらゆる攻撃パターンを想定し、
隙をついて武器を奪って無力化し落ち着かせる。自分ならそれが可能だと確信していた。
そして宗介を激しく睨み付ける女騎士は手に持ったダガーを逆手に持ち、
その刃を背後の壁に突き刺した。

「?」

女騎士の意味不明な行動に一瞬困惑する宗介。
そしてこれが、彼が見た最期の光景だった。


㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹


全身が血にまみれたラ・ピュセルは二つのディバッグの中身を確認し、
少しずつ現状を理解しながらながらふとさっきまで男が立っていた場所を見る。
地面に血の海が広がり粉々になった肉片や内臓のパーツがその辺りに飛び散っていて
男の原型は何処にも残っていない。そしてなぜか、
まるで電車のレールの様な跡が地面に伸びており、遠くの壁に孔が空いている。

剣の大きさを自由に変えられるよ

それがラ・ピュセルの持つ魔法能力。故に魔法騎士ラ・ピュセルの剣は大剣にもレイピアにもなり、
自分が持てる大きさが上限であり下限。元々高い筋力を持っている為思ったよりかなりの大きさに
変形可能だが、地面に剣を置いた状態で利用した場合は更に上限は増す。
そして、どんなサイズだろうが大きくなる時は一瞬で変化する。
もしラ・ピュセルが数キロメートルの剣を作ってすぐに刃渡り数十センチに戻した場合、
先端とそこに置いてあるものの速度は音速を遥かに凌駕するのだ。

「名付けてマッハ轢き逃げアタック。……いや、ドラゴンクラッシュとかにしようかな」

正々堂々とした勝負に拘るあまり、相手を確実に殺してしまうような魔法の使い方は
今まで出来なかった。あの男のおかげで迷いを振り切った今の自分は以前よりずっと強い。

「悪かったよ森の音楽家クラムベリー。今度は失望させない」

リベンジを果たすため、愛しい姫を守る為、血濡れの魔法騎士は歩き始めた。

【相良宗介@フルメタルパニック! 死亡】

【E-5・廃墟/一日目・深夜】
【ラ・ピュセル@魔法少女育成計画シリーズ】
[状態]:健康、服の胸元がはだけている
[装備]:魔法の剣@魔法少女育成計画シリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:スノーホワイトを守る
1:森の音楽家クラムベリーと再戦して勝利する
2:これが殺し合い……!
※参戦時期は森の音楽家クラムベリーに殺害された直後です。

40名無しさん:2016/07/19(火) 00:50:02 ID:8.xjhgKk0
終了です。

41名無しさん:2016/07/19(火) 01:42:23 ID:BEpGd0TAO
流石に扱いが雑すぎでは…
死亡直後からの参戦とはいえラ・ピュセルが人を殺してなんとも思ってないというのは流石に違和感がある気もしますし

42 ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 02:20:38 ID:8.xjhgKk0
分かりました。>>38以降を以下の内容に修正します。すみませんでした。

43 ◆uwJySQdXGI:2016/07/19(火) 02:21:09 ID:8.xjhgKk0

気が付くと、上目遣いのスノーホワイトが目を閉じてゆっくりと唇を近づけて来ていた。
極限状態で感情が昂っているんだろうか。ラ・ピュセルの鼓動が激しくなる。

(ちょっ!いきなりなにやってるのスノーホワイト!?僕たち中学生だよ!?まだ早すぎるよ!)

だが、なんだかよく判らないが九死に一生を得た身、明日死ぬかもしれない状況下。
勇気を振り絞って行動に出た愛しき幼馴染の気持ちに応えてあげないのは男じゃないだろう。
今の見た目は女の子だけど。ラ・ピュセルはスノーホワイトの両肩を掴んで優しく告げた。

「愛してるよ、小雪」

そうして互いの唇が初々しく触れ合った。スノーホワイトの息が口の中に流し込まれる。

(……う!小雪の唾液が口の中に!小雪意外と激しい!?……あれ?)

目を閉じたラ・ピュセルはなにか、違和感を感じた。

(臭っ!?なんかすっげー臭い!?ちゃんと歯を磨いてるの小雪!?
 いや駄目だ!小雪を臭いとか言っちゃ駄目だ!こういうのがムードが大事―――)

葛藤するラ・ピュセルの視界が段々とボヤけていき。

㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹㈹

「ふうっ!ふっ!ふぅ!ふっ!」

竜の意匠を施した女騎士風の少女、ラ・ピュセル、岸部颯太がスノーホワイトとの
ファーストキスを果たした後、再び目を開けると、顔面に大量の傷を負った屈強な男性が視界に出現した。
男は魔法少女に変身した颯太の唇を激しく奪って唾液を口内に流し込みながら息を吹き込んでいる。
さらに胸当てとブラジャーは無惨に切り裂かれて露出した胸を男に揉みしだかれていた。
あまりに非現実的な光景にラ・ピュセルの思考は長期間停止し………………

(くぁwせdfrtgyふじこl;p:@」!!!!!!!????? )

反乱狂になったラ・ピュセルは右手に魔法の剣を出現させ男の首を狙って振り上げた。
それに気づいた男は咄嗟に剣を躱し、後転しながらラ・ピュセルから距離を取る。

「良かった。気が付いたか」
「なにしてんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

その後、ラ・ピュセルが落ち着くまで宗介は彼女の殺意に満ちた斬撃を
実に10分近く死に物狂いで回避し続けたのだった。




「汚された……僕のファーストキス……ごめんね、スノーホワイト……」
「心配するな、あれは人工呼吸だ。カウントに入れなくていい」
「うるせぇ」

相良宗介から10メートルほど離れた壁際で、ラ・ピュセルは千切れたブラジャーを結んで直していた。
どうもこの男は心肺の停止していた自分に応急処置を施してくれた恩人で変質者などではなかったらしい。
彼がかなりの腕前の軍人でなかったら間違いなく殺してしまっていたであろう。颯太は深く深く反省した。

「……そうか、僕は死んだんだよね」

現実は非情だ。スノーホワイトに再び会うこともなく自分は惨殺された。
思えば最初から勝ち目など無かった。ラ・ピュセルは「正々堂々と戦い、お互いを認め合う」
ことをイメージしながらクラムベリーと相対したが、あれは勝負などではなく殺し合いだったのだから。

「殺し合い、本気の殺意。僕に足りなかったもの」

そしてまた殺し合いが始まった。反省は活かすものだ。
ラ・ピュセルは剣を強く握りしめた。

「悪かったよ森の音楽家クラムベリー。今度は失望させない」


【E-5・廃墟/一日目・深夜】
【ラ・ピュセル@魔法少女育成計画シリーズ】
[状態]:健康、服の胸元が
[装備]:魔法の剣@魔法少女育成計画シリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:スノーホワイトを守る
1:森の音楽家クラムベリーと再戦して勝利する
2:ファーストキス……ノーカン、ノーカンだから!
※参戦時期は森の音楽家クラムベリーに殺害された直後です。

【相良宗介@フルメタルパニック!】
[状態]:疲労(中)
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:かなめを保護して脱出する
1:殺し合いを始めた連中は許さない
2:なんとか誤解は解けたか……

44 ◆neIGTsycrM:2016/07/19(火) 15:41:04 ID:FTsiJxV20
皆様、投下お疲れ様です!

>霧幻少女育成計画
開幕から見応えのあるバトルだ、すげえ
モーさんは安定感がありそうな対主催だなあ…どっかの父上も見習って下さい
そしてジャックとフレデリカのコンビ、こっちは行動方針から能力まで危険過ぎて怖いなあ どうなる

>兵士と士官
うっわあ…これはキツイのがきたなあ
建造ドロップでの被りをこう表現した上での羽黒のスタンスは悲痛だ
那智さんの覚悟もかなり辛い…救いはあるのだろうか

>魔法騎士は白雪姫の夢を見る
ラ・ピュセル、とんでもない夢をw
しかし殺し合いに関しては何処か不安があるスタンス、スノーホワイトの状態にもよるがこの覚悟は怖い
宗介がどこまでストッパーになれるかなあ

それでは、自分も予約分を投下させていただきます

45 ◆neIGTsycrM:2016/07/19(火) 15:44:11 ID:FTsiJxV20

この殺し合いの会場に、合計で四の橋が存在している。
そのうち、今彼女が─────妙高型重巡洋艦姉妹が一番艦、妙高が立っているのは、その中でも最も南に位置するもの。
東には市街、西には平原と、真逆の世界が広がるその場所で、彼女は静かに佇んでいた。

「提督…」

呟くのは、先の一幕で勇敢なる雄姿を見せ、しかしそれ故に権謀に謀られ命を落とした勇敢なる青年の呼称。
彼は決して名を名乗る事は無く、自分達艦娘にもただ「提督」或いは「司令官」と呼ぶようにと呼びかけていた。
それが何故かと推測する者、本名を知ろうとあの手この手を試す者、秘密に触る事を良しとしない、或いは単に興味が無いが為に静観を決め込むもの─────様々な話題で盛り上がっていたものだった。
今考えれば、あの剣技もそれに関連するものだったのかもしれないな、なんてことを考える。

けれど。
彼は、死んだ。

艦娘は、深海棲艦との戦争に於ける兵器である。
それはどれだけ可愛げな外見で繕おうとも変わらない純然たる事実であり、表面上は明るく見えようと皆その認識を失ってはいない。
大破進軍という愚行を犯さぬ賢明な提督であったお陰で轟沈する艦娘こそ数少ないが、それでもその心の何処かには永遠に残りチクチクと精神を突き刺す針山がある。

仲間を失う、痛み。
永遠に、その声も温もりも共に過ごす時間もやって来なくなる、そんな苦痛。
誰かの死は、否応なくその誰かを知る人にそんな痛みを植え付ける。
それをまさか、前線に立つ仲間ではなく提督に対して抱く事になるとは思わなかったが。

「皆さんに、何と言えば良いのでしょうね…」

那智も羽黒も、あの鎮守府で過ごす姿はとても楽しそうだった。足柄はこういう事を伝えるには向いていないだろうし、大井と北上の二人に任せるというのもどことなく不安はある。特に、提督を嫌っているような素振りが多く見られていた大井には。
今この場に招かれた中では自分だけが巡洋艦姉妹の中で長女ということもあるし、伝える役目は恐らく自分が担うことになるだろう。
荷が重いとは思いつつも、しかし誰かがやらなければならないことだ。
ならば、そんな役目は妹たちに押し付けるわけにはいかない。

─────尤も。

「まあ、まずは─────帰ってから、ですね」

帰らなければ、話にならない──────話すことすら、出来ない。
殺し合い。
戦争でさえもまだ秩序があると思わせる、血と暴力に塗れていることを端的に表現するワード。
きっと、普段自分たちがしている争いよりも、もっと腥く、もっと無惨な、そしてもっと陰鬱な戦場が広がるであろうことは想像に難くない。

それでも、生き延びる。
この殺し合いを打ち破って脱出し、元居た場所に帰るのだ。
そして──────。

「…さて、行きましょうか」

まずは、この首輪だ。艦娘や妖精の技術を以てしても、簡単には解けそうにないこの首輪。
解決するためのキーワードとしては─────あの男が言っていた、黒の核晶という言葉か。あれを知る人間に会い、話を聞く必要があるだろう。
それ以外にも、仲間を集めることやあの主催の居場所を突き止めることなど、やらなければならないことは少なくない。

橋の縁に立ち、大きくひとつ深呼吸。
ひとまずの目的地は、艦娘の仲間が集まるだろうと思われる鎮守府。そしてそこへと向かうなら、やはりこの方法が一番早いだろう。
深呼吸をひとつして、方角に間違いが無いか確認し。
そうして、彼女は─────水面が眼下に広がる宙へと、その身を華麗に踊らせた。





「いや、ちょっと何やってんのよっ!?」


そして。
彼女が海面へと身を踊らせるよりも早く─────黄金の風が、その身体を攫って飛び去った。

46 ◆neIGTsycrM:2016/07/19(火) 15:48:13 ID:FTsiJxV20



「はあ、はあ─────大丈夫、です、か?」

息も絶え絶えに橋の支柱の一本に捕まり、息を荒げている少女の姿。
それを見上げ、妙高はしばらく不思議そうな顔をしたあと─────しまった、という表情に変わる。
今の姿は、下手に見ないでも自殺そのものだった。
艦娘が海上を移動出来るというのは鎮守府では常識だとかそういう以前に受け入れられる現実だ。
だが、それを知らない者にとっては今の自分の行為は殺し合いを受け入れられず身を投げたというふうに見られても仕方がない。

「あの…大丈夫です。別に自殺しようとか思ってはいないですから」
「へ?」

ひとまずそれだけを言うと、当然ながら少女は呆気に取られたような表情を浮かべた。
しかし、どうしたものか。
説明するならば、艦娘についての話は絶対にしなければならない。
しかし、軍事機密であるこれを話すにあたって、現時点では二つほど問題がある。
まず、機密を話しても良いのかという問題。
これについては、現状が殺し合いであるという都合上致し方なしと言えるだろうからそこまでの問題ではないとして。
もう一つの、問題は。

「とりあえず、一回上か下か、どちらかに移ってもよろしいでしょうか…?」

橋の支柱の一つという場所が、あまりに長話には向いていないという事だった。




「……それ、本当なんですか?」
「ええ。…というより、そちらの勇者の話の方が私にとっては衝撃だったのですが」

橋の上に戻っての説明、兼情報交換が始まって、早数分。
両者が明かした自分についての話は、互いにそれまで住んでいた世界の常識を覆していた。
勇者、バーテックス、大赦、神樹、鎮守府、艦娘、提督、深海棲艦、エトセトラエトセトラ。
辛うじて「外敵を倒し世界を護る」という共通点があったからこそ理解は出来たが、しかしそれを現実として信じるには無理がある。
それも当然と言えば当然─────四国以外の世界が滅んでいる一方で、太平洋を自在に駆けて敵を撃滅しているなんて事実は流石にあり得ない。

「平行世界、というものでしょうか」
「なるほど、確かにそれは…ありそうだけど、そう簡単にあって良いのかというか」
「…そうですね。思っていたよりも主催の力は強いのかもしれません」

その言葉に、風も僅かに顔を俯ける。
平行世界というあまりに突飛な発想は、しかし互いの持つ武器や艤装といった品々が現実性を保証している。
そうなると、首輪以外にもそんな世界云々についても調べなくてはならないのでは─────頭が痛くなりそうだ、と

「…すいません、それで、なんですけど」

と。
そこで、風が声を上げる。
何かを思い詰めたかのように引き締まった顔は、何かに焦っているようで。

「探したい人たちが、いるんです。私の仲間が」

それ自体は、妥当な提案だ。
この殺し合いにおいて、信頼できる仲間は多いに越したことはない。
けれど、風がそれだけのことを言おうとしているのは、すぐに分かった。
だから、妙高もその次の言葉を待ち。

「だから、二人で分かれて探したいと、そう思ってます」

─────空気の温度が、ほんの僅かに下がった気がした。
それを真剣に言っているのは、声と表情からありありと伝わってきた。
けれど。
妙高もまた神妙な面持ちで、その口を開いた。

「それは、止めた方が良いかと」
「…っ」

それは、当然の制止だった。
風本人も自覚はあったようで、目を伏せて押し黙る。
しかし、それも束の間。再び顔を上げて、勢いのままに叫ぶ。

「でも、手分けした方が─────」
「落ち着きなさい」

再び、今度はその途中から言葉を遮る。
遮られて声を一度止めたその隙に、なおも強い言葉を続ける。

「これは殺し合いだと、あのキルバーンという男が言いました。
ならば、絶対に死なないなんて事はあり得ない」
「だったら、尚更─────」
「─────だからこそ。私たちが一人で行動して命を落としては、意味がありません」

47 ◆neIGTsycrM:2016/07/19(火) 15:50:50 ID:FTsiJxV20

妙高は、艦娘─────曲がりなりにも、海上で深海棲艦との争いを生業とする生粋の軍人だ。
だからこそ、こと戦場での振る舞いについては彼女はよく理解しているといっても差し支えはないだろう。
そんな彼女が今言ったのは、しかしそれでも簡単なこと。
単独行動などといった自分を危険に晒す行為は、仲間を助けるどころか更なる悪影響を及ぼす危険性がある。
そうなっては元も子もない、という、単純な理屈だ。

「それ、でも…」

それでも、風はすぐには頷かない。
頭では分かっていても、それを実行するのには躊躇いがある。
関係の薄い人間であれば、ここまでの気持ちは抱かないだろう。
となれば、その理由は。

「……大切な、人なのですね」

流石に、それを察せない程に妙高は馬鹿でも淡白でもない。
危険を冒してでも、一刻でも早く見つけたい仲間。
きっと、自分たちにとっての鎮守府の仲間たちと同じような─────

「はい。大切な仲間…それと、妹が」

そこで。
風の口から聞いた、その言葉を、聞いて。
妙高の脳裏にも、過るものがあった。

「妹、ですか」




─────覚えている、ことがある。
自分の記憶と呼んでいいのかは、微妙だけれど。

あのやたらと暑い夏の日に、壊れかけのラジオから流れてくる音声。
それを、脱け殻のような表情で聞いていた自分。
遅すぎるという嘆きの言葉は、果たして口から漏れていたのか。
姉妹の中でたった一人生き延びたことへの、止まらない後悔。

それが、『妙高』のあの日の元風景。

─────那智、足柄、羽黒。
もう、貴方達を先に逝かせはしません。
それが、此の世にもう一度生を受けた妙高としての。
あの戦争で、妙高型重巡洋艦で唯一、貴方達を犠牲にして生き残ってしまった『妙高』としての、果たさねばならない責なのですから。



だから。
だから、絶対に─────皆で、帰りましょう。
あの戦争で成し得なかった、國へと帰る未来を。

「あの…妙高さん」
「何ですか?」
「…妙高さんも、もしかして」
「ええ、三人ほど。勝手に姉を置いていくような不孝者ですがね」
「っ…なら」
「ええ」

自分を犠牲にして、なんて言わない。
生き残ったものがどんな悲しみを抱くかなんて、自分が一番知っている。
だから、自分が死ぬわけにはいかない。
そして、彼女たちを死なせるわけにもいかない。



「だから、今度こそ。

『一緒に』、帰りたいんです」



四人で一緒に、帰る未来を。

今度こそは、掴み取りましょう。

48 ◆neIGTsycrM:2016/07/19(火) 15:55:23 ID:FTsiJxV20





─────それで、いいのか。

妙高さんの言うことは、確かに筋が通っている。
皆を助ける前に自分たちが命を落とすことは本末転倒であると、自分も頭ではそう分かっている。

だけど、駄目だ。
この場に招かれた自分の知り合いは、勇者としての力を持つ勇者部のメンバーだけだ。
ならば。
私は、犬吠埼風は。
彼女たちを「勇者」にして、辛い戦いを強いて、その結果として身体の一部を不自由にさせて。
挙げ句に、こんな事にまで巻き込んでしまった私は。

自分を犠牲にしてでも、あの子たちを元の世界にする責任があるのではないか。

私は、どんな目に遭ってもいい。
その代わり、みんなは絶対に助けなければならない。
それが、勇者部部長─────犬吠埼風としての、役目なのではないかと。
風の心を占めていたのは、そんな責任感だった。
「わかり、ました」

犬吠埼風は、物分かりが悪い少女ではない。
目の前の大人の忠告を聞き分けずに行動するほどに、子供ではない。
むしろ、同年代の少女の中でも大人といえる方だろう。
けれど、大人になりきることは、それでもまだ出来ていない。
自分の中の責任を上手く処理できるほど、人間ができているわけではない。

だから、彼女が内に抱え込んだ責任感は。
未だ、その行方を決めることなく彷徨っている。
有り得た未来では、それは様々な支えによって持ち直したけれど。
有り得ない未来へと招かれた彼女の感情は、未だその行く先を─────




【H-6/橋上/1日目・深夜】
【妙高@艦隊これくしょん-艦これ-】
[状態]:健康
[装備]:妙高型の艤装(連装砲、連想高角砲、魚雷)@艦隊これくしょん-艦これ-
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:必ず、姉妹四人揃って元の世界に戻る。
1:風と一緒に行動する。
2:讃州中学校に向かった後に鎮守府へ。


【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、勇者に変身、満開ゲージ:0
[装備]:犬吠埼風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:勇者部の皆を無事に元の世界に戻す。その為なら、自分は─────
1:妙高と一緒に行動。
2:まずは讃州中学校に行きたい。その後は妙高に従って鎮守府に向かう。
[備考]
※参戦時期は六話、東郷から満開の代償についての仮説を聞いてから以降です。

49 ◆neIGTsycrM:2016/07/19(火) 15:58:27 ID:FTsiJxV20
投下終了です。
タイトルは「想い想い」です。

50 ◆AOioqVcMTw:2016/07/19(火) 23:23:37 ID:DIDKuHMw0
投下乙です

風先輩は成程この時期から来たか、中道にしてどちらにも触れやすい。
そして、姉妹と未来を掴もうとする妙高姐さんは頼もしいですね
自分も投下します

51 ◆AOioqVcMTw:2016/07/19(火) 23:24:18 ID:DIDKuHMw0

それはまさに死闘だった。
天の頂に最も近い場所で繰り広げられるぶつかり合い。
肉を砕き、骨を軋ませ、歯を噛みしめながらの殴り合い。
勇者と大魔王。
そう呼ばれる者達が行う闘争としては、余りにも泥臭く、清廉さに欠けると言わざるを得ない殺し合い。
己の肉体と闘気のみに全てを篭めた魂の削り合い。

彼の騎士をまぎれもなく今わの際まで追い詰め、神が鍛えし剛剣すらへし折り、
それでも。それでもなお、彼は敗れた。

その身に残されたなけなしの闘気を全開放し、飛翔する勇者。
それを追う鬼眼の魔獣。
魔獣が求めてやまなかった太陽を背に、勇者が身を翻す。
直後、正しく急転直下の勢いで魔獣に迫り―――、

(さよなら…大魔王バーン…)

そして、ユメは終わる。
その身を二つに分かたれ、石となり朽ち逝く彼が聞いた、それが最後の言葉だった。

52 ◆AOioqVcMTw:2016/07/19(火) 23:26:16 ID:DIDKuHMw0

「ヴェルザーめ…魔界で石になりながら横たわる膨大な時間に何をしていたかと思えば、こんな蠱毒の計画を進めていたとはな」

雲の切れ目に浮かぶ月に照らされながら、独りの偉丈夫が立ち尽くしていた。
高貴さを示すような洗練されたローブに身を包み、鬼すら慄く二本の角を生やした銀髪の美青年。
大魔王バーンと呼ばれた魔族の、全盛期の姿がそこに在った。

「元よりヤツが余の首と地上を狙っているのは知っていたが、ダイ達とこういった形で共倒れを狙うとは、まったくもって喰えぬ竜よ
………あるいは、それに留まらぬ別の目的があるのか」

バーンの脳裏に浮かぶは石の彫像になってなお畏れられ、魔界に置いて唯一自分と並びうる実力者。
この殺し合いの裏に居るであろう冥竜王ヴェルザーの姿だった。

「まるで狗の如く余に首輪などを嵌めたのは業腹ではあるが……
この大魔王すらチェスの駒としようとするその野心は流石余と魔界の覇権を争った者と言わざるを得んな」 

二度、三度と、朽ちたはずの自分の躰の感触を確かめるように掌を握りしめる。
その手からは暗黒闘気が漏れ出し、彼の力の強大さを表していた。
だが、

「鬼眼に力を感じぬ…余の力を制限するために不完全な復活にしたのはこのためか」

53 ◆AOioqVcMTw:2016/07/19(火) 23:27:51 ID:DIDKuHMw0

含み笑いが漏れ出す。

「フフ…良いだろう、ヴェルザー。余を復活させた義理は果たそう。
しばらくはお前の狂宴に一口乗ろうではないか」

元より、弱肉強食を至上とする彼に、力を誇示することへの躊躇は無い。
そう、今の彼にとって人間とは路上の石ころでは無く、滅ぼすべき敵なのだ。
矮小な割に閃光の様に、鮮烈で、それでいてひどく醜く悍ましい。
魔族とは決して相容れぬ種族。
それを、黒の核晶の爆破を巡る戦いで彼は知った。
故に侮りは存在しない、あの歪な種族が居る限り、魔族に繁栄は無い。
生ある限り『勝利』の二文字を、太陽を、天を目指す。
大魔王としての矜持を捨て、称号を捨て、肉体を捨て魔獣となった経験を経て『勝利』への渇望はより強くなったと言える。

何より、ここにはあの宿敵が―――、

「ダイよ…竜の騎士よ。余は一度お前に敗れたが、それはお前も同じ事。
 生ある限り、殺し合うのが余と貴様の定めよ」

きっとダイもこう思う事は確信している。
もし。ダイが、アバンの使途が此処に居なければ、
バーンは自身に首輪などと言う汚らわしい物を付けたヴェルザーの意思に反し、ゲームに逆らう道もあったかもしれない。

だが、勇者が居る以上、彼は大魔王として相対する。しなければならない。
勝利、その二文字のためならば、この首輪の戒めも、屈辱も耐えて見せよう。

ここには、悠久の時を生きた自分にすら知り得ない“何か”がある。
或いは竜の騎士すら脅かすかもしれないそんな確信じみた予感を彼は感じていた。

「………では、行くか」

この殺し合いに置いて己が宿敵はどう動くのか。
彼の周りにいる者達はアバンの使途と同じく高潔な者達といえるのか。
それとも―――己が守ると誓った人間たちに裏切られるのかもしれない。
全てを確かめ、検めるには、まず自分が動かねば始まるまい。



「ヴェルザー。余は貴様に義理はあっても貴様に従う義務はない
 余を冥府の道から引き戻した事、精々後悔せぬことだ」

大魔王の挑戦が始まる。


【大魔王バーン@DORAGON QUEST ?ダイの大冒険-】
[状態]:健康、真の肉体、鬼眼封印
[装備]:[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:“大魔王”にして“魔獣”として、ゲームに乗る
1:ダイを探す。
2:首輪の解除も検討に居れ動く。
[備考]
※不完全な復活のためある程度力が制限されています。
※鬼眼の力は一切制限されています。

54大魔王の挑戦 ◆AOioqVcMTw:2016/07/19(火) 23:34:10 ID:DIDKuHMw0
投下終了です

また、現在位置が抜けていたので追記を
【H-6/橋上/1日目・深夜】

55名無しさん:2016/07/20(水) 00:57:43 ID:nMDzjO3QO
投下乙です!
バーン様は真の姿か…制限にもよりますが、やはり対主催の大きな壁になりそうですね

一つだけ指摘を
この前の作品「想い想い」と場所が被ってしまっていますので、それだけ修正が必要かと思われます

56 ◆AOioqVcMTw:2016/07/20(水) 08:01:27 ID:fWy2n53M0
失礼しました
現在位置を【G-7/1日目・深夜】に修正します

57 ◆TE.qT1WkJA:2016/07/22(金) 06:19:43 ID:6/32u1/w0
予約分を投下します

58勝たなきゃすぐに崖っぷち ◆TE.qT1WkJA:2016/07/22(金) 06:20:28 ID:6/32u1/w0
遮蔽物一つない平原の真ん中で、長身の女性が苦渋に歪んだ顔をして蹲っていた。
普段の彼女を知る人物ならば、大層驚くことであろう。
彼女は妙高型重巡洋艦3番艦、足柄なのだから。

「提督…」

声を震わせながら、目の前でその命を散らした青年の呼び名を呟く。
艦娘の中でもとりわけ活発で好戦的な部類に入る足柄とて、敬っていた上官の死を何とも思わないわけではない。
むしろ、深い悲しみが足柄を覆っていた。

「死んだ…?あの人が?」

信じたくない。嘘であってほしい。
だが、あの時に起こったことは全て事実だと理性では理解していた。
現に、自分の首を覆う忌まわしき鉄塊と見知らぬ場所に飛ばされたことがそれを示している。

「誰も、あの道化師に勝利できなかった…」

深海棲艦との戦いの日々において、足柄は『勝利』の二文字にこだわっていた。
戦場を求め、次々と出撃していたのも全ては勝利を得るためだ。
無論、そのための鍛錬を怠らない。練度は姉の妙高がさらに上を言っていたこともあり、己の強さを求める姿は一部の艦娘の手本にもなっている。
時には、今は亡き提督に次の作戦をせがんだり、「勝つ」こととかけてカツカレーを鎮守府の皆に振る舞ったこともあった。

「……っ」

今一度、自分達を嘲笑っていた道化師とピエロの姿を思い返す。
憎い。この手で殺してやりたい。提督を葬ったあの主催者の顔を浮かべるだけで心に憎悪の炎が宿る。
だがそれ以上に、足柄の心には大きな風穴が穿たれていた。故に、その場から動けずにいた。

「もうあの人に勝利を捧げることができないなんて…」

勝利だけが、足柄の誇りだと思っていた。
されど、提督へ勝利を捧げることもまた、足柄の誇りであった。
しかし、足柄の勝利を捧げるべき人はもういない。
勝利を捧げて、心から誇らしく思えるあの人はもういない。

あの人なら、自身の命を預けてもいいと思えた。
あの人の元でなら、力を全て出し切れると思えた。
仮にこの殺し合いが終わったとして、元の世界へ戻った足柄は誰の元で戦えばいい?
提督のいない深海棲艦との戦いなど、想像できなかった。
たとえそれに勝利したとしても、そこにあるのは虚無感。渇き。
勝利が自分を呼んでいると意気揚々に出撃していた姿は見る影もなかった。
そこで、足柄ははたと気づく。

「勝利を捧げることこそが、私の本当の誇りだったのね…」

今更そんなことに気付いても仕方ないのに。
思わず、自棄めいた溜め息を漏らしてしまう。

「私は…どうすれば…」

59勝たなきゃすぐに崖っぷち ◆TE.qT1WkJA:2016/07/22(金) 06:21:11 ID:6/32u1/w0





「そのままではお前は蹂躙されるだけだ」

足柄の背後に、ザクザクと砂利と雑草を踏みつぶす音と共に男の声がかけられる。
軍人の職業柄か、足柄はバッと効果音をつけて振り返り、支給された艤装を構えて臨戦態勢を取る。
赤いシャツに黒いロングコートを着た青年が、いつしかそこに立っていた。
腹のあたりには黒いベルトのようなものをつけている。足柄からすれば民間人の部類に入るだろうか。
だが、鋭い目つきと発される威圧的なオーラから、ただ街角で遊び歩いているような若者ではないとすぐにわかった。

「戦う気概くらいはまだ残っているようだな。…あの時、飛び出した白い軍服の男――提督と言ったか。お前の知り合いだろう。
お前と同じような服を着た気の弱そうな女が声を上げているのを見た」
「羽黒…」

思えば、提督の死を目の当たりにしたのは足柄だけではない。
あまりプライベートに踏み込んだことがない大井や北上はともかく、他の妙高型の姉妹がそれをどう受け取るかはある程度察しがつく。
その中でも特に心配なのが羽黒だ。気弱な一方で芯の強い妹だが、その芯の強さが間違った方向へ行きそうな気がしてならない。
殺し合いに乗っている可能性は…いや、考えるのはよそう。
自分のことで手一杯なのに、身内とはいえ他者のことを考えるほどの余裕は今の足柄にはない。
問題は、目の前にいる青年への対処だ。

「あなたは…『乗っている』の?」
「もしそうだとしたら、どうする?」
「あなたを倒すわ」
「自分が何をすればいいのかも分からないのにか?」
「…!」

男にそう言われて、動き出しそうになった身体が固まる。
今の足柄には、この殺し合いをどうしていくかすらも明確に定まっていない。
あくまで殺し合いを否定して道化師に楯突くか。提督を取り戻すために最後の一人になるべく覚悟を決めるか。
それがままならない状態で戦っても、それは自衛のためのその場しのぎにしかならない。
己を失い、死に怯え、死から逃げるために戦うなど、『飢えた狼』の名が泣く。

「なら…あなたはどうするの?」
「決まっている。この狂った催しを壊し、『力』でキルバーンを屈服させる」

この殺し合いを打破する――そこそこの強い精神と実力を備えていれば、それなりの数の参加者がそう答えるであろう言葉を、男は口にした。

60勝たなきゃすぐに崖っぷち ◆TE.qT1WkJA:2016/07/22(金) 06:21:53 ID:6/32u1/w0

「じゃあ、この首輪はどうするの?生殺与奪を握られている限り、勝利は限りなく遠いわよ」
「いずれ首輪を外す力も、全てを超える強さも手に入れる。こんな巫山戯たゲームなどで俺は死なん!あんな卑劣な手を使う奴が強いなど、俺が認めるか!」

青年はこんなに力強く話しているというのに、自分は随分と弱気をことを言う、と足柄は内心で自嘲する。提督を失ったせいか。
こんな空っぽな自分でなければ、首輪が何だと言って勝利を求めて東奔西走していたかもしれないのに。
対して、この青年はキルバーンの取った行動に対して強い怒りを示しているようだった。
まるで、卑怯な手を使う者は弱い奴しかいないのだと言わんばかりに。

「――けど、『助けない』のね?」

だが、足柄は男の表情からその言葉に『弱者を助ける』という意味合いが含まれていないことを悟っていた。
この男は、所謂一般人を助ける気など毛頭ない。最初から、このゲームの主催者を見据えているのだ。

「この世界のルールは弱肉強食だ。弱い奴が消え、強い奴だけが生き残る。殺し合いなら尚のことだ。
信じられるのは己の力だけ…。戦うことを放棄した者は、生きている資格などない」

もし青年の言葉を聞いている者が他の艦娘だったとしたら、大抵は反発されたことだろう。
だが、足柄はそれを不快とは感じなかった。
この青年は、自身が負けるとはこれっぽっちも思っていない。
そこには、勝利やそのための力を貪欲に求め、卑怯な手を使うでもなく真正面から敵に向かっていく強さがあった。
首輪をつけられても、圧倒的な差を見せつけられても、本気で『力』を以てキルバーンを倒そうとしているのが見て取れる。
自身の限界を認めておらず、いかなる相手に叩きのめされようとも屈服しないのだろう。

――まるで、狼みたいね。

青年の垣間見せた強さに、足柄は心のどこかで共感と高揚を感じていることを自覚し、戸惑う。
同時に、この感覚がかつての提督に抱いていたものと同じだと気付くのに、時間はかからなかった。

――この男なら、あるいは。

「あなた、名前は?」
「…駆紋戒斗だ」
「私は妙高型重巡洋艦3番艦、足柄。駆紋戒斗…私も一緒に連れていきなさい!」
「その調子だと来るなと言っても無理矢理ついてきそうだな。…一応聞いておくが、何故だ?」
「私が何をすべきか、分かった気がしたの。このままウジウジしていると、あなたの言った通り弱者として蹂躙される未来しかない」

ようやく、足柄は元々の活発さを取り戻したかのような笑みを浮かべた。
誇りを取り戻したかのような、満足げな笑みだった。

「見極めさせてもらうわ。あなたが勝利を捧げていい人がどうか」
「…好きにしろ」




【D-1/草原/1日目・深夜】

【足柄@艦隊これくしょん-艦これ-】
[状態]:提督を失った悲しみ、戒斗に対する共感と高揚
[装備]:妙高型の艤装(連装砲、連想高角砲、魚雷)@艦隊これくしょん-艦これ-
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:自分が新たに勝利を捧げるべき者を見極める
1:戒斗についていく

【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:健康
[装備]:戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊し、力でキルバーンを制する
1:殺し合いを破壊できるだけの強さを手に入れる
2:首輪を外す力を手に入れる
3:卑怯な手を使うキルバーンが強いとは絶対に認めない
[備考]
※参戦時期はデェムシュとの初戦(23話)〜ロード・バロンに変身(43話)するまでです。
※レデュエにつけられた傷の有無は、後続の書き手の方にお任せします。

61 ◆TE.qT1WkJA:2016/07/22(金) 06:22:14 ID:6/32u1/w0
以上で投下を終了します

62名無しさん:2016/07/23(土) 00:22:57 ID:u9wBajr20
投下乙です

かんむすは個性に沿ったスタンスの取り方だなぁ
個人的には別の意味で足柄さんが飢えてなくてほっとしました
戒斗さんはバーン様とある意味通じる可能性が微レ存…?

63名無しさん:2016/07/23(土) 10:51:29 ID:GOhR5VGA0
投下乙です、足柄さんが婚期に飢えてないだと!!

64 ◆uwJySQdXGI:2016/07/23(土) 15:31:21 ID:5CIKJngA0
投下します

65一人戦車道-Lonely&Panzer- ◆uwJySQdXGI:2016/07/23(土) 15:31:59 ID:5CIKJngA0
「むう」

西住まほは考えていた。四次元ディバッグとかいう胡散臭いブツを開けたら
ゴロリと音を立てて転がり落ちてきた、この巨大な金属の球体についてである。
なんかどこかで見たことがある。いや、自分は知っている。
この前、エリカと二人で海へ遊びに行った時に、確かこいつと同じ形をした
バレーボールをドヤ顔で持っていたのを覚えている。名前は確か――。

「……で、私にこれに乗って戦えという事か?」

まほは名簿を確認する。妹のみほの他大洗女子学園の生徒が4人拉致されているらしい。
黒森峰女学園から、というか他の学園から連れて来られているのは自分一人である。
一 体 な ん の 嫌 が ら せ だ。
やや憤慨した後、まほは寂しそうに笑う。本来戦車は数人のチームで運用する物。
幾ら西住流戦車道の後継者とはいえ一人っきりではこの戦車が精一杯なのだろう。
疲れたまほは深く溜息を尽き、諦めたように謎の金属球をポンポンと叩いた。

「まさか本当に実在したとはな。一応ドイツ製らしいが履歴、戦歴の記録が一切残されていない幻の兵器。
 まあいい、これも何かの縁だ、私と一緒に初の戦歴とやらを作ってみるか?」

そう言いながらまほは球体のハッチを開け、他に支給されていた機関銃と共に内部へと乗り込んだ。




「会長ぉぉぉ〜〜どこですかぁぁぁ〜〜!!!」

大洗女子学園生徒会広報、河嶋桃は半泣きになりながら静まり返った学園艦の街を一人彷徨っていた。
冷静沈着で生真面目そうな外見とは裏腹に、人並み外れたレベルで小心者で臆病で逆境に弱い彼女が
理不尽な殺し合いに放り込まれるなどといった異常な状況に精神が耐えられるはずもない。

「だ、駄目だ。しっかりしなくては。それに、会長ならなんとかしてくれる筈!……ん?」

なにやら聞き慣れた駆動音が背後から近づいてくる。キャタピラの走行音だ。
敵かもしれない。しかし、ひょっとしたら大洗女子の誰かが駆けつけてきたのかもしれない。
そんな期待と不安が入り混じった表情で桃ちゃんは振り向く。

「会長!?……えぇ!?」

そこに居たのは、鋼鉄のダンゴムシだった。

この兵器の名はクーゲルパンツァー。日本語に訳すと玉戦車。
第二次世界大戦中のドイツで開発されたとされる装甲戦闘車輌である。
5ミリ厚の装甲を持ち、2サイクル単気筒エンジンを搭載して機動する
一人乗り戦車だが、何故か実際に使われた記録が一切残されておらず
ソ連軍が満州で捕獲した実機がモスクワのクビンカ戦車博物館に
ひっそりと飾られているということ以外すべてが謎に包まれた戦車なのだ。

その戦車道全国大会ですら使われなかった謎兵器がなぜこの会場に。いや、問題は。
こんなもん知っている兵器マニアは大洗では秋山優花里くらいしかいないということだ。

「うわぁぁぁ!!!バケモノだぁぁぁ!!!」

突然現れた意味不明な物体に恐怖が臨界点を突破した桃ちゃんは手に持ったハンドガンを
反射的に発砲する。だが射撃が下手な桃ちゃんは全く当てることが出来ず、いい感じに飛んだ
弾丸も微妙に角度を変えられることで球状の機体や装甲の厚い車輪部を利用して弾かれてしまう。
しばらくするとクーゲルパンツァーの前面の小さい穴から銃口が迫り出してきて
パラララという軽快な音と共に桃ちゃんの足元目掛けて発砲してきた。

「ぎゃあああ!!撃ってきたぁぁぁ!!殺される!!助けて会長ぉぉぉぉ!!!!」

パニックに陥った桃ちゃんはクーゲルパンツァーに背を向け一目散に走って逃げだした。

66一人戦車道-Lonely&Panzer- ◆uwJySQdXGI:2016/07/23(土) 15:32:20 ID:5CIKJngA0

「おい待てキミ!!しまった、私としたことが……」

クーゲルパンツァーの内部でグロスフスMG42機関銃のグリップを握っている西住まほは
いきなり発砲されたので思わず威嚇射撃を行ってしまったことを悪手だったと反省した。
まずハッチを開けて顔を出すべきだったか?だがあの状態ではいきなりヘッドショットを
かまされていた可能性も否定できない。あの制服は大洗女子学園のものだ。
とうことはあのメガネ娘はみほの友達の可能性が非常に高い。
放置していては危険だ。何とか保護しなくては。

「仕方がない。路地裏にでも追い込んで捕獲して落ち着かせるか」

そう判断したまほはクーゲルパンツァーを起動して全力疾走する桃ちゃんを
轢かない程度の速度でゆっくりと追いかけ始めた。

「ひいいい!!!追って来たぁぁ!!!殺されるぅぅぅ!!!」

学園艦の誰も居ない静かな市街の道路を女子高生と球体が直列に並んで走る。
規模は小さくなったがこれもまた一つの戦車道なのだ。




【D-5・学園艦/一日目・深夜】
【西住まほ@ガールズ&パンツァー】
[状態]:健康
[装備]:クーゲルパンツァー、グロスフスMG42機関銃
[道具]:基本支給品一式、MG42の予備弾薬
[思考・行動]
基本方針:西住みほを保護する
1:河嶋桃を捕獲する
2:この戦車、本当に使えるのか?

【河嶋桃@ガールズ&パンツァー】
[状態]:疲労(中)
[装備]:USSRトカレフ(0/8)
[道具]:基本支給品一式、トカレフの予備弾薬、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:杏と合流する
1:化け物だぁぁぁぁぁぁ!!!
2:逃げる

67名無しさん:2016/07/23(土) 15:32:44 ID:5CIKJngA0
終了です

68名無しさん:2016/07/23(土) 16:02:01 ID:u9wBajr20
投下乙です
桃ちゃんのこのダメダメっぷり、実に桃ちゃんだw
まほ姉が嫌がらせか?と自問する所で二度笑わせてもらいました


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