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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

439球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:46:49 ID:GGNzVLNQ0
“一度目”のとき、めだかのすぐそばに戦場ヶ原ひたぎがいたように、今回は鑢七花がいる。今の状況でめだかを復活させれば、また二の太刀が振るわれるかもしれないというのに。
デジャヴどころかパブロフの犬さながらの従順さで、過去と全く同じ行動をとった。
混乱のさなかにあったとはいえ、迂闊が過ぎる――しかし、真に愚かなのはそこではなかった。
一度目のときは「黒神めだかを生き返らせる」という目的自体は達していた。冷静に対処すればもっと少ない被害で済ませることはできただろうけど、結果から見れば成功したと言ってもいい。
今回はその目的すら果たせていない。
黒神めだかの死はなかったことになっていない。

「……!? お、『大嘘憑き』――!!」

めだかの死体に変化がないのを見て、もう一度能力を発動させる。
しかし何も起こらない。

「『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!!」

何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。
何も起こらない。

「な……何で」

頭を抱え、めだかの傍らに膝を付く球磨川。
まさか忘れたわけでもないだろう――安心院なじみにそれを聞いてから、まださほど時間は経っていない。
いや、時間が経過したからと言って忘れるような内容でもあるまい。『大嘘憑き』による死者の復活という、この殺し合いにおいてある意味最強のカード。その手札がすでに尽きているという重要な事実を。
傍から見ていた七実でさえ気付いた事実だ(実際に気付いたのは四季崎記紀だが)。直接聞かされている球磨川にわからないはずがない。
わからないはずがないなら、わかりたくないのか。
事実を事実として認めたくないのか。

「何をするつもり? 七花」

と、七実がここで口を開く。
“球磨川と七花の間に割って入った”鑢七実が、である。

「どけよ姉ちゃん――そいつを殺せないだろ」
「……冗談には付き合わないわよ」

頭を抱えてしゃがみ込むところまで含め、球磨川の一連の行動はあまりに無防備なものだったが、実際危ないところではあった。
めだかの死体を放り捨てた後、返す刀で球磨川に斬りかかろうとしていた七花の前に、七実が球磨川をかばう形で立ちはだかっていなければ、球磨川もめだかと同じように斬り捨てられていたかもしれない。

「とうとう気でも触れたのかしら? 大人しくしてたと思ったら、いきなりめだかさんに斬りかかるなんて。まるでしのびか何かのようじゃない」

七実の言い草に、七花は不快そうな表情を見せる――剣士に対してしのびのようだなどと言えば、七花でなくとも良い気分にはならないだろうが。

440球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:47:34 ID:GGNzVLNQ0
 
「思い出しただけだよ。おれが何をするべきだったのか」

いつでも斬りかかれる姿勢の七花に対し、構えることなくただ立っているだけの七実。
それはつまり、互いに臨戦態勢であることを意味している。

「考えてみりゃ、おれはもともと誰彼構わず斬り捨てるつもりでいたんだ。姉ちゃんだろうと、姉ちゃんの持ち手だろうと関係ねえ。おれが最後の一人になるまで、ただの刀として戦い続ける。最初からからそのつもりで、今もそうするべきだった」

だからそうした。
刀としてやるべきことをやった。
斬るべきものを斬った。

「だいたいここは決闘場とかじゃなくて戦場だろ。いくさの場で不意を突くのが卑怯なんて、姉ちゃんは言うつもりかよ」
「言うようになったわね、あなたも」

その単純な回答に、七実はため息で応える。

「まあ、あなたの行動理由についてはそれでいいわ――いえ、悪いのだけれど。でも七花、あなたがどういう理由で動いていようと、禊さんまで斬ることは許さない。
 禊さんに刃を向けることは、わたしに刃を向けることと同義。それをちゃんとわかっているのかしら?」
「……姉ちゃんは、変わったな」

ふっと、軽く表情を歪ませる七花。
七実の病魔の影響を受けているせいか、顔色は目に見えて悪く、呼吸も荒い。

「姉ちゃんは、誰かの刀になんてなるはずないと思ってた。誰かのためにそんな真剣な物言いをするなんて、夢にも思わなかったよ――まして、そんな得体の知れない男のために」
「わたしのことを知った気にならないでと言ったはずよ。それと禊さんへの侮辱はやめて頂戴」

ちなみに当の球磨川はといえば、二人の会話に気付く様子もなく、未だめだかのそばで放心したままである。

「そもそも恩知らずだとは思わないのかしら。七花、瀕死の重傷を負っていたあなたを助けたのは、わたしと禊さんだったはずよ。言うなれば命の恩人である禊さんを手にかけることについて、あなたは何とも思わないの?」
「だから関係ないんだよ――それに命の恩人っていうなら、おれと姉ちゃんに関してはお互い様だろ」

彼らしからぬ、皮肉めいた表情を七花は浮かべ、

「姉ちゃんが殺されかけたとき、おれは親父を斬り殺してまで姉ちゃんを助けたんだぜ。今さら姉ちゃんに、恩知らずだとか言われる筋合いなんて――」

言い終わる前に、七実は動いていた。
七実の手が動くのに気付いてとっさに避けようとした七花だったが、反応しきれずにその攻撃をもろに喰らう。
胸へと向けて投げられた大螺子、都合四本目の『却本作り』を。

「…………っ、ぐぅっ!」

すでに突き刺さっている三本の螺子に並ぶように、新たな大螺子が真っ直ぐに突き刺さる。
球磨川の『却本作り』の上から、さらに上書きし直された七実の『却本作り』。その影響に耐え切れず、七花は勢いよく地面へと突っ伏した。気を失ったのか、ぴくりとも動く気配がない。

441球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:50:39 ID:GGNzVLNQ0
過去を紐解いても、おそらく初めてではないだろうか。
一本でも凶悪極まりない、球磨川自身曰くつきと称するほどの過負荷である『却本作り』を、同時に四本もその身に受けた“人間”は。

「……見損なったわ、七花」

倒れ伏した弟の姿を、冷え切った目で七実は見る。

「父さんを引き合いに出してまで自分を正当化するなんて、あなたも堕ちたものね。あとでお仕置きしてあげるから、しばらくそこで大人しくしていなさい」

吐き捨てるようなその言葉に、当然ながら返事はない。
堕ちたものもなにも、七花の今までの言動は『却本作り』あってのものなので、三分の一程度は七実の影響を受けていたからこそと言えるのだが。
そのうえ残り三分の二は、言うまでもなく球磨川の影響である。
堕ちるところまで堕ちないほうがおかしいという話だ。

「な、七実ちゃん!!」

大声で呼びかけられ、七実は振り返る。
ようやく現状を認識したらしき球磨川が、めだかの死体を両腕で抱き起こし、血走った眼で七実を見ていた。

「きみの、きみが見取った僕の『大嘘憑き』で! めだかちゃんの死をなかったことにしてくれ!!」

要求というより、それはもはや懇願だった。放っておけば土下座せんばかりの勢いで、球磨川は痛切に叫ぶ。
仲間のためでなく、同類のためでなく、敵対する者のために恥も外聞もなく取り乱し、何かを懇願する。
あの球磨川禊が、である。

「……めだかさんを」

請われた側の七実は、そんな球磨川の態度には特に反応せず。
めだかの死体を指さし、一言一句区切るようにして言う。

「わたしの『大嘘憑き』で、めだかさんを蘇生――もとい、“黒神めだかの死をなかったことにしろ”、と。そうおっしゃるのですね? 禊さん」
「そ、そうだよ、早く――」

通常の心肺蘇生法を施すわけでもあるまいに、「早くしないと手遅れになる」と言わんばかりの焦りようだった。
無意味に急かす球磨川とは対照的に、七実はあくまで冷静沈着な面持ちのまま、

「相わかりました」

と、一も二もなく了承する。
牛の歩みのようにゆっくりと、球磨川の抱えるめだかの死体に近づいてゆき、血まみれの地面に丁寧な所作で屈みこむ。
そして死体の胸のあたり、手のひらの形に陥没した傷の上にそっと手をかざし、

442球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:51:51 ID:GGNzVLNQ0
 
「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」

そう唱えた次の瞬間には、すでに効果は表れていた。
球磨川の時とは違い、胸の傷も、あたりに撒き散らされた血も、すべてが“なかったこと”になっていた。
初めからなかったかのように、綺麗さっぱりと。










「――黒神めだかの『死体』を、なかったことにしました」










ただし、身体ごと。
黒神めだかの肉体ごと、それらは消えてなくなっていた。

「…………は?」

からっぽの腕の中を見て、空を抱いた姿勢のまま唖然とする球磨川。
今度こそ本当に、何が起こったかわからないといった表情で。

「ああ、“死体”は消せるようですね。“血”は消せるからいけるとは思っていたのですけれど、実際に試してみるまでは確証が持てなかったので、うまくいってよかったです」

やれやれと、一仕事終えた風に息をつく七実。

「黒神めだかそのものが消えてなくなったので、必然『黒神めだかの死』もまた、なかったことになったということになりますね。これにて一件落着です」
「…………」

絶句。
今の球磨川の心境を表すのなら、その二文字でこと足りるだろう。
確かに、なかったことにはなっているのかもしれない。少なくとも今、この場所において黒神めだかが死んだことを証明する手立てはない。
なにせ死体がないのだ。
かろうじて『大嘘憑き』の効果が及ばなかった首輪だけが申し訳程度に転がってはいるが、それが黒神めだかの首輪だとどうやって証明する?
仮に証明できたとして、「首輪が残っている」ことが「黒神めだかが死んだ」ことの証拠になるとどうして言える?
まさに悪魔の証明。
証拠隠滅ここに極まれりである。

「な、何やってんの、七実ちゃん――」

しかし、誰の目から見ても明らかだろう。
その行為が、球磨川の意に沿わないものであることくらいは。

443球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:52:20 ID:GGNzVLNQ0
 
「落ち着いて聞いてください、禊さん」

そっと球磨川の肩に手を置き、優しくささやきかける。
安心させるように。

「わたしはあなたの刀であり所有物です。あなたが命じるならば、わたしは何をおいてもその通りに動く心構えではあります。
 しかし、わたしの意思、わたしの判断というのもまた、わたしの中には存在します。あなたの指示を最適の形で成し遂げるために、それは必要なものですから。
 失礼ですが、今の禊さんは少々混乱しているようです。その状態では正しい判断ができないものと見なしましたゆえ、差し出がましい真似とは知りつつ、今回はわたしの独断において行動を決めさせていただきました」

不備があったら申し訳ございません――と頭を下げる七実。
球磨川からすれば不備どころの話ではないのだが。

「禊さんには言うまでもないことかもしれませんが、この『大嘘憑き』、すべてにおいて無限に使用できるというわけではないようですね。
 何でもなかったことにできるわけではないし、こと“生命”を対象に取る場合、ある種の条件下でなければ使用することができない。
 その条件のひとつが、『一定の回数しか使用することができない』であると推察しますが、いかがでしょうか」

球磨川は答えない。
七実はそれに構わず続ける。

「断言は致しかねますが、禊さんから見取った能力である以上、わたしの『大嘘憑き』にも同等の制限がかけられているはず。
 つまりわたしも、一定の回数しか“死をなかったことにする”ことはできないのです。
 ですから、禊さん。
 この能力は、あなたが死んだ時にこそ使われるべきでしょう。
 あなたの死をなかったことにする。これこそを最優先の使い道とすべき。
 そのためには、無駄遣いなどもってのほか。
 そんなもののために、貴重な残り回数を浪費するわけにはまいりません。禊さんの命をお守りするために、これは必要な選択なのですよ」

きっぱりと、七実は言い切った。
めだかの首輪を指さして、「そんなもの」と。
球磨川の懇願を、「無駄遣い」と。
七実はいかにもあっさりと、めだかの死体を“なかったこと”にしてみせたが、それは七実にだからこそできたことかもしれない。
生きた人間ですら、雑草と呼ぶ七実にとっては。
『すでに引き抜かれた雑草』など、生きている人間の血や肉片にすら劣るだろうから。

「……僕の話を聞いてなかったのかい、七実ちゃん」

球磨川の顔に浮かんでいるのは、もはや困惑の表情ではなかった。
明確な怒気。それのみが七実に向けられる。

「めだかちゃんに勝つことをまだ諦めないって、きみには言っておいたはずだ。何度でも、何度負けても、僕はめだかちゃんに勝つまで挑戦し続けるつもりでいたんだ。それなのに――」
「勝負ならもうついているではないですか」

怒気をぶつけられても、七実は一切ぶれない。

「奇しくも七花が言っていたことですが、ここは決闘場などではなく戦場です。いくさの場において、負けとは降伏であり逃走であり、そして死です。
 生き残った者が勝者であり、死んだ者が敗者と呼ばれる。それがいくさであり、戦場です。
 過程はどうあれ、禊さんは生き残り、黒神めだかは死にました。誰が何と言おうと、禊さんの勝ちは揺るぎないものです」

444球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:53:07 ID:GGNzVLNQ0
 
淡々と、当然のことを言って聞かせるように七実は話す。
おそらく七実は、自分が球磨川のためにとるべき行動をとっているだけだと、本心からそう思っていることだろう。
近しい者の死に取り乱す主に代わって、冷静な立場から意見を述べているだけだと考えているに違いない。
だから、気づいていない。
自分が今、いかに感情的な、自分にとって都合のいいように歪曲された考え方を持って行動しているのか、七実は気づいていない。
七実が指摘した『大嘘憑き』の回数制限については、言われるまでもなく球磨川も理解している。蘇らせる相手を選ぶべきという考えも、当然持っているはずだ。
そのうえで球磨川は、めだかを生き返らせようとした。七実に『大嘘憑き』を使わせてまで。
そんな黒神めだかに、七実はどんな感情を抱いただろうか。
七実よりもずっと、はるかに長い時間を球磨川と共有しているであろう黒神めだかに。
刀としてではなく、球磨川に惚れたひとりの人間として。
嫉妬? そうかもしれない。
羨望? それもあるだろう。
実際、七実は自分がめだかに嫉妬していることを自覚していた。球磨川が、めだかに対しての信頼を含んだ言葉を吐いたときに。
しかしそれは、本当にただの嫉妬だったのだろうか? 「少しだけの嫉妬」などという、ありきたりな感情で済んでいたのだろうか?
仮に、である。
七実がめだかに対して、自身でも気づかないうちに、嫉妬よりも深い負の感情を溜め続けていたのだとしたら?
球磨川が幾度となく特別な感情をのぞかせる黒神めだかに、羨望とはまるで別の思いを募らせていたのだとしたら?
あくまで仮説でしかない。ただそう考えると、七花がめだかに不意討ちを仕掛けた理由について、少し違った見方ができる。
七花は自分が凶行に走った理由のひとつを、球磨川と七実の闘争心にあると解釈した。『却本作り』を通じて流れ込んできた、めだかに対する二人の闘争心に同調したためだと。
その解釈はおそらく正しい。
ただ少なくとも、球磨川のほうにはめだかに対する闘争心こそあれど「殺意」までは持っていなかっただろう。肉を切らずに心を折るのが、球磨川一流の戦い方なのだから。
もしあのときの七花に、殺意が原動力としてあったのだとしたら。
『却本作り』を通じて寄越された黒神めだかに対する殺意。それがあの不意討ちを成功させたのだとしたら。
その殺意の出どころは、七実でしかありえまい。

「勝負は結果が全てです。他人の介入をもって漁夫の利を得る、これこそわたしたちにふさわしい『むなしい勝利』ではありませんか。禊さんの勝利、この目で確と見届けました」

すらすらと、微笑みすら浮かべて七実は語る。
まるで彼女らしくないことを、いけしゃあしゃあと。

「…………違う」
「今のあなたはもう敗北者などではありません。歴とした勝利者です。それをどうか御自覚なさってください」
「違う」
「あなたの悲願である黒神めだかとの勝負に立ち会うことができたことを、わたしも光栄に思います。おめでとうございます、禊さん」
「七実ちゃん」

す、と。
まるで波が引くように、球磨川の顔からすべての感情が消える。

「きみにはとても感謝しているよ。僕を生き返らせてくれたこともそうだけど、僕みたいなやつを好きになってくれたことや、僕の過負荷(マイナス)まで扱えるくらい一緒に駄目になってくれたことについては、本当に嬉しく思う。欣喜雀躍の思いだよ」
「そう言っていただけると、私も嬉しいです」

445球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:54:10 ID:GGNzVLNQ0
「でも僕には、めだかちゃんのほうが大事だ」

遠くを見つめる球磨川の瞳に、七実の姿は端も映っていない。
いや、もはや何も映していないのかもしれない。

「僕と敵対してくれるめだかちゃんが、どんなときでも僕の挑戦を受けてくれるめだかちゃんが、何があろうと駄目になんてならないめだかちゃんが、大嫌いで、大好きだった。
 きみなんかよりも、ずっとずっと大切な僕の宿敵だった」
「…………」
「僕はもう、めだかちゃんに勝つことはできない。ちゃんと勝つことも、ちゃんと負けることもできない。引き分けでも痛み分けですらもない、永遠に未定のままだ」

勝ちたかったなあ、と。
呆けた顔で、空虚に向けて球磨川は吐き捨てる。
自分の能力ゆえに誰よりも理解しているのだろう。黒神めだかの存在が、もはや取り返しのつかないものだということを。

「きみにはわからないだろうね、七実ちゃん。一番勝ちたかった相手に勝てないっていう気持ちは。勝つ機会を、永遠に奪われるっていう気分は」
「…………」

実際、七実にはわからないだろう。
「目的に向けて邁進できない」という点において、球磨川と七実は共通している――ただし、その理由は極端なまでに違う。
弱さゆえに努力できない球磨川と、手を伸ばすまでもなく何かを獲得できる七実とでは。
球磨川にとって、敗北とは日常の一部でしかないのかもしれない。負けを、失敗を前提にしてしか勝負に挑めない球磨川のマイナス思考は、常に勝ちを遠ざける。
めだかとの勝負にしても、それは変わらなかったはずだ。勝ちたいという意思はあれど、それは負けることを前提とした意思。「負けを糧にしていつかは勝つ」という、遠回りの敗北宣言に近い。
だが、このバトルロワイアルという舞台の中で球磨川はめだかに負けることすらできなかった。
『却本作り』を取り戻したうえで勝負に臨んだ球磨川だ――それで負けたところで、それをひとつの結果として受け入れることはできただろう。
最悪なのは、勝つ機会も負ける機会も球磨川には与えられていたということだ。めだかと対面し、戦いを挑み、めだかもそれに応えた。一度は勝負がつきそうな場面さえあった。
にもかかわらず、邪魔された。
戦場ヶ原ひたぎに水を差され。
鑢七花に割って入られ。
果ては仲間である鑢七実にさえ、横車を押すような真似をされた。
その怒りと絶望は、いったいどれほどのものだろう。

「きみの気持ちはとても嬉しい、だけど――」

そう言って、球磨川は大螺子を取り出す。そしてその先端を七実へと向け、

「きみなんか嫌いだよ、七実ちゃん」

そのまままっすぐに、七実の胸元へと突き立てた。
ぐしゃりと、肉の潰れる音。大螺子はまるで抵抗なく七実の華奢な身体を貫通し、背中からその切っ先を突出させる。
念のために言うが『却本作り』ではない。物理的な攻撃力を持つ、ただの大螺子。それがちょうど、かつて悪刀・鐚が突き刺さっていたあたりを貫いた。
その一撃を喰らって、七実は――

446球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:56:36 ID:GGNzVLNQ0
 


「――禊さんは、めだかさんが死んだことが悲しいのですね」


笑っていた。
否定され、拒絶され、身体を貫かれてなお、その微笑は毫ほども揺るがなかった。
まるでそれが、誇らしいことであるかのように。

「その悲しみは痛いほどわかります。わたしも、あなたが死んだときはとても悲しかった。二度とあなたが生き返らないとわかった時は、身を裂かれる思いでした」

七実はそっと球磨川の頭に手を回し、自分の胸元へと抱き寄せる。螺子が突き刺さったままの胸元に。

「本当は、ちゃんとわかっていました。あなたが望んでいるのが『むなしい勝利』などではないことを。あなたの友情が、ぬるくなんてないことを」

何度でも戦って、何度でも負けて。
それでも決して諦めない。
それがあなたですものね。

「私が嫌いだというならそれで構いません。殺したいほど憎いというなら、その憎しみも謹んでお受けいたします。ですがその前に、あなたの悲しみを癒すお手伝いをさせてください」

その囁きを、球磨川は硬直したまま聞いている。
球磨川としては、まさか七実が避けないとは思っていなかったのだろう。七実への拒絶を示すため、あえて避けなければ死ぬような攻撃を仕掛けて見せたのだろうが、認識が違っていた。
七実の刀としての覚悟を、球磨川への想いの深さと重さを、読み違えていた。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

言い聞かせるように七実は言う。球磨川と、おそらくは自分自身にも。

「あなたにとっての勝利とは、なにも黒神めだかに対する勝利でなくともよいはず。なのにあなたは、黒神めだかが唯一の目標であるかのような思いに囚われている。
 結果あなたは、一度は黒神めだかのせいで命を落とす羽目になっています。これではまたいつ、あなたが同じように命を落とすことになるとも限りません。
 わたしの『大嘘憑き』による死者の蘇生も、すぐに底をついてしまうでしょう」
「……割り切れっていうのかい」

七実の物言いをただの弁解と捉えたのか、球磨川の声に険が混じる。

「めだかちゃんの死を、もう仕方のないことだって、僕が生き残るために必要なことだって、そう言うんだね、きみは」
「いいえ、割り切るのではありません。なかったことにするのです」

ごふ、と血を吐きながら言う七実。
七実とはいえ、今の状態で喋り続けるのは至難のはずなのだが、それでも声だけは平静を保っている。

「あなたの命令は『黒神めだかの死をなかったことにする』だったはず。その命令を違えるつもりはありません」

447球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:57:24 ID:GGNzVLNQ0
「…………?」
「あなたのその悲しみに、あなたの責任はない。あなたは何も悪くありません。
 ならばこそ、あなたがそれを背負う必要も、割り切る必要もないはずです。
 だったら全部、忘れてしまえばよいではないですか」

割り切って1にするのでなく。
マイナスしてゼロにする。
虚構(なかったこと)にする。

「辛い現実なら、身を裂かれるような悲しみなら、忘れてしまえばいいのです。受け入れる強さも、乗り越える強さも必要ない。過負荷(わたしたち)らしく、弱いままに生きてゆけます」
「…………」
「大事なのは強がることではなく、弱さを受け入れること――そうですよね? 禊さん」

それは、球磨川自身が口にした言葉だった。
戯言遣いと八九寺真宵。その二人がある決断を迫られたとき、球磨川が語って聞かせた過負荷としての精神論。
七実が何をしようとしているのか、球磨川はようやく理解する。
理解できて当然だろう。そのとき球磨川自身がやったことと同じことを、七実はやろうというのだから。

「……僕は、めだかちゃんを守れなかった」

いつの間にか、球磨川は泣いていた。
七実に抱かれたまま、両目から滂沱として涙を流している。七実の胸元に零れ落ちた涙は、血と混ざり合ってすぐに見えなくなる。

「めだかちゃんが殺されたとき、一番近くにいたのが僕だった。それなのに、殺されるまでそれに気づくことができなかった。めだかちゃんと戦うのに夢中で、気づこうと思えば気づけたはずなのに、それなのに――」
「あなたは悪くありません」

懺悔のような言葉を遮って、もう一度同じことを七実は言う。
球磨川の吐露を、球磨川の言葉で優しく否定する。

「あなたは何も悪くない。ただ弱かっただけです。そしてわたしは、あなたに弱いままでいてほしい。過負荷(あなた)らしく、過負荷(わたしたち)らしくあってほしいのです」
「…………」
「わたしは、あなたを置いて死んだりはしません。あなたの望む限り、あなたが臨む限り、あなたの傍にいます」


死にぞこないだけれど。
生きぞこないだけれど。
生まれてくるべきではなかったけれど、それでも――


「あなたのために、生き続けますから」


だからどうか。
あなたがあなたであることを、やめないでください。

448球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:58:07 ID:GGNzVLNQ0
 

そう言って、七実は選択を委ねる。
胸に突き刺さったままの大螺子からは、とめどなく血が滴り続けている。それをどうこうしようとする気配すらなく、身じろぎひとつせずに球磨川からの返答を待つ。
球磨川もまた、身じろぎひとつせず。
沈黙と沈黙が重なり、時間だけが経過し。
そして――


「――うん、そうだね、七実ちゃん」


そして、球磨川は選択する。
逃げる選択を、弱さを受け入れる選択を。


「きみの思う通りに、やってちょうだい」


それを聞いて、七実は。


「――委細、承知いたしました」


とても満足そうに、首肯した。




「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」




そして、七実は宣告する。
取り返しのつかない解答を、球磨川に与える。


「禊さんの中の、『黒神めだかに関する記憶』を、なかったことにしました」



   ◇     ◇



『……何やってんの? 七実ちゃん』

きょとんとした顔で、球磨川は問いかける。
“なぜか”自分の頭に手を回し、胸元に押し付けるようにして抱え込んでいる七実へと。

「ああ、これは失礼」

そう言って腕をほどき、少し名残惜しそうに身体を離す七実。

「ご気分はいかがですか? 禊さん」
『うん? んー、なんか頭がぼーっとするけど、悪い気分じゃないよ。むしろすっきりしてるっていうか――ってあれ? そういえば僕、今まで何してたんだっけ?』

449球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:58:49 ID:GGNzVLNQ0
「ランドセルランドに向かう途中ではなかったですか?」
『いや、それは覚えてるけど……そもそもなんで車から降りたんだっけ?』
「“とらんく”の中が狭すぎたせいでは?」
『そこに入れって言ったの七実ちゃんだよね』

記憶の辻褄が合わないことに戸惑っている様子の球磨川。
ぼんやりと遠くを見つめながら、頭を振ったり首を傾げたりしている。

『大きい蟹がどうとか言ってた気がするんだけど』
「夢でも見ていたのではないですか?」
『夢? そうかなあ――』

訝る球磨川に対して、七実は、

「……もしかすると、少しばかり記憶が混乱しているのかもしれませんね」

探るように、確かめるように言う。
切り込んで、鎌をかける。

「黒神めだかが、死んだことの衝撃で」

無表情で、平然とした口調で。
いつも通りの七実の喋り方で。

『黒神、めだか――?』

その名前を、球磨川は頭の中で反芻する。記憶を掬い取るように、何度も。
その様子を七実はじっと見つめる。つぶさに見、観察する。
『大嘘憑き』による記憶の消去。
それがどの程度まで作用しているのか、実のところ七実にもわかっていない。
『大嘘憑き』自体アンコントローラブルな能力であるし、球磨川の記憶の中身を具体的に知り得ない以上、どの記憶をなかったことにするのか恣意的な操作などできるはずもない。
球磨川の様子を見る限り、黒神めだかの死に取り乱していた間の記憶はなかったことになっているようだが。
それを確認するため、あえて黒神めだかの名前を出したのだろうが――果たして。

『誰それ?』

と、球磨川は言った。

『やだなあ、七実ちゃん。週刊少年ジャンプの熱血系主人公じゃないんだから、見ず知らずの人が死んだくらいで僕がそんな取り乱すわけがないじゃない』

傾げた首を、さらに傾げて。
直角に傾げた首で、へらへらと笑う。

「……ええ、そうですね、失礼しました。今の言葉は――忘れてください」

その反応を見て、にこりと微笑みを返す七実。

450球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:59:36 ID:GGNzVLNQ0
 
「あ、そういえばこれ、そこに落ちていたので拾っておきました」

お返しします――と差し出したのは、球磨川の大螺子だった。
言うまでもなく、七実の胸に刺さっていた大螺子だ。『大嘘憑き』による処理はすでに済ませてあるようで、血や肉片がこびりついたままということも当然ない。
胸の傷も、いつの間にか跡形もなく消え去っている。完治しているところを見ると、死者の蘇生でなく怪我を対象とした『大嘘憑き』を使用したのだろう。
ぎりぎり間に合った、といったところか。
間に合わなかったら間に合わなかったで、七実としては構わなかったのだろうが。

『落ちてたっていえば、これもここに落ちてたんだけど。これって誰の首輪? 僕の首輪は七実ちゃんが持ってるはずだよね』

めだかの遺した首輪を差し出す球磨川。
首輪についた血も、すでに処理済みのようだ。ついでに球磨川の制服についていた血も、戦場ヶ原ひたぎの分も含めて消えていた。
手際が良いにもほどがある。

「さあ、わたしは存じ上げませんが……一応拾っておいてはいかがですか? 何かの役に立つかもしれませんし」
『んー、まあいいや、七実ちゃんにあげる』

さりげなく押し付けられた首輪を、七実は黙ってデイパックにしまう。

『……七実ちゃんさあ、何かいいことでもあったの?』
「はい? なぜですか?」
『なんかうきうきしてるように見えるよ、恋愛(ラブコメ)してる女子高生みたいに。ていうか七実ちゃん、そんな顔もできたんだ』

無言で七実は球磨川の頬を打った。平手で。

『……ごめん七実ちゃん。今なんで僕が平手打ちされたのか、本気でわからないんだけど』
「申し訳ありません、今のは照れ隠しです」
『照れ隠し? 照れ隠しだったの? 今の』
「わたしが嬉しそうに見えるというなら、それはあなたがそばにいるからでしょう」

そう言って、もたれかかるように身を寄せてくる。

「あなたがいることが、わたしの幸せですから」
『やっぱりちょっとテンション高くない? 本当に何かあったの?』

球磨川が問いただそうとした、その時。

「…………う」

かすかなうめき声とともに、倒れていた七花が身を起こす。
意識はまだ朦朧としているようで、立ち上がる様子はない。顔色も依然として、いや前にもまして悪くなっている。
球磨川はそれを見て『なんで七実ちゃんの弟さんがまた倒れてるんだっけ?』というように首を傾げている。

451球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:00:57 ID:GGNzVLNQ0
七実はしばしそれを見つめてから、

「――禊さん、少しだけお時間をいただけますか」
『ん? いいよ。弟さんと何か話でもするの?』
「ええ、ちょっとお別れの挨拶を」

球磨川から離れ、しずしずと七花のほうへ歩いてゆく七実。
苦しげに喘ぐその様子を見下ろすようにして、

「もう起き上がれるようになるとは流石ね、七花」

と、七花だけに聞こえるくらいの囁き声で言った。
四本もの『却本作り』が刺さっていることを考えると、確かに早い復調と言えるかもしれない。
もっとも『却本作り』は使用者の精神によって効果の強弱が決まるため、球磨川の絶望が消し去られ、七実が幸福になった結果として『却本作り』の効力が弱まった、と考えるのが妥当かもしれないが。

「めだかさんを殺してくれたことについては感謝するわ。まさかあなたが、そこまでできるとは思っていなかったから」

腐っても虚刀流当主ね――と、七実はくすくす笑う。
七実にとっては冗談のつもりだったのかもしれない。

「だけどね」

おもむろに。
七花の隆々とした右腕を、七実のたおやかな両手がつかむ。『荒廃した過腐花』による感染部位を避けるようにして。

「禊さんを斬ろうとしたこの右手には、しかるべき罰を受けてもらわないとね」

そう言って七実は。
手首のあたりから、七花の右手を力任せに引きちぎった。

「…………っ! があああああああああああああああああああああっ!!」

空を裂くような絶叫。
おそらく凍空一族の怪力を使ったのだろう。まったく手こずる様子なく、小枝でも折るように手首を分断した。

「そんなに騒がないで頂戴、大の男がみっともない。わたしの治癒力を渡してあるから、この程度で死にはしないわ」

ちぎり取った手首を、ごみでも放るかのように七花の目の前に投げ捨てる。
七実ならば、もっと綺麗に切断する方法などいくらでもあっただろうに、あえて力任せという暴力的な手段に頼った。
そうするのが、今の七花には適切だとでも思ったのだろう。

452球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:01:21 ID:GGNzVLNQ0
 
「これに懲りたら、二度と禊さんを斬ろうなんて思わないことね――じゃあ、ここでお別れね、七花」
「は――はあ?」
「当たり前でしょう。あなたとはいえ、禊さんを手にかけようとした相手とこれ以上一緒にいるわけにはいかないもの。同行するのはここまでよ」
「き、斬らないのかよ、おれを」
「あら、なんでわたしがあなたを斬ると思うの?」
「な、なんでって――」

七実を相手取る以上、逆に斬り殺されるくらいの覚悟は当然していただろう。
その覚悟をさらりと躱され、七花はとまどいを隠せない。

「か、刀は斬る相手を選ばない――んじゃなかったのかよ」
「今は禊さんの刀よ。命じられない限り、みだりに斬ったりはしないわ。あなたがとがめさんの刀だったときもそうだったんじゃなくて?」
「…………」

返す言葉がなく沈黙する七花。
あるいは、とうに気が付いていたのかもしれない。七実が球磨川に惚れたことを察した時点で、七実の心情の変化に。
とがめの刀として旅をするうちに、刀らしさに代わり人間らしさを得ていった七花には。
ただの刀としてでなく、人間としての生き方を学んでいった七花には。
かつての自分と重ね合わせることで、七実の現状を多少なりとも想像できたのかもしれない。
逆に、七実のほうがはっきりと自覚できていないのではないだろうか。
自分はあくまで刀にすぎないと主張する七実には。
殺すことも、死ぬことさえも身近であたりまえのことだったはずが、誰かが殺されたことに怒り、誰かが死んだことにむせび泣く。その変化がどういう意味を持つのか。
それがたとえ、たった一人のためだったとしても。
球磨川禊という存在が螺子込まれたことで、自分が刀から人間に近づきつつあるということに。

「――まあ、本当は禊さんに斬りかかった時点で斬り捨てているところだけれど、今回だけは特別に見逃してあげる」

次はないわよ――と釘を刺し、近くに落ちていたデイパックと鉄扇を拾い上げる。どちらも黒神めだかの遺品だ。
デイパックの中身を素早く検分し、そのうちいくつかを自分のデイパックの中身と移し替え、残った分をデイパックごと七花に投げてよこす。

「こっちはあなたにあげるわ。これからどうするかはあなたの自由だけど、生き残りたかったら余計なことはやめて、せいぜいおとなしくしてなさい」

そう言って七実はあっさりと踵を返し、球磨川のもとへと戻る。

「お待たせしました、さあ参りましょう」
『……きみの弟さん、何か悪いことでもしたの?』
「どうかお気になさらず。家族同士でのちょっとした話し合いですから」
『あのまま放っておいて大丈夫? ていうか何で『却本作り』が一本増えて――』
「あのこにはあのこなりの生き方がありますから。わたしたちがこれ以上干渉する必要はないでしょう」
『ふうん、七実ちゃんがいいならまあいいけど――あー、ちょっと待って待って七実ちゃん』
「はい、何か」
『ランドセルランドはそっちじゃない。こっち』
「…………」

453球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:02:19 ID:GGNzVLNQ0
 
コンパスと地図を手にさっさと歩き出す球磨川。七実もすぐさまそのあとを追おうとする。

「ま――待てよ、姉ちゃん」

それを七花は、なおも追い縋ろうとする。
無駄とは知りながら、悪あがきをする。

「待たないわよ、なんでわたしが待つと思うの? しつこいからこの際はっきり言ってしまうけど、わたしはもうあなたに興味はないのよ」

待たないと言いつつ、首だけ振り返って七花を見る。
しかしその視線は、家族に向けられるものとは思えないほど冷め切っていた。

「あなたがまた本気で戦ってくれるなら、もう一度あなたに殺されるつもりでいた。殺されたいと思っていた。
 でも今のあなたには、殺されてやる気も戦ってあげる気も起こらない。それともあなたは、そんな状態でまだわたしと戦おうというの?」

七花の胸元を再び指差す。
弱さを体現した球磨川と、回復力こそあれど脆弱さを極めた七実、その二人の弱さを反映する四本の『却本作り』。
今の七花の身体は、戦うにはあまりに脆すぎる。長時間はおろか短時間の戦闘ですらそうはもたないほどに。
七花が不意討ちを選んだ真の理由は、実のところそこにある。
長時間にも短時間にも耐えることができないなら、開始と同時に決着する、そんな戦い方を選ぶしかあるまい。
『一瞬での、一撃による必殺』――確実に勝つにはそれしかないということを、きっと本能で理解していたのだろう。

「もうひとつ、あなたに感謝しておくわ、七花。あなたが背中を押してくれたおかげで、わたしは生き続けることを選ぶ決意ができた。
 わたしはもう、あなたにも、誰にも殺されてやるつもりはない。禊さんがいる限り、わたしはどこまでも一緒に生きてゆく」

生き方を選べなかった七実が、唯一選んだはずの死に方。
彼女が唯一、殺されることを望んだはずの相手。
そのたった一人の相手が価値を失ったことで、生き方を選ぶきっかけとなった。
しかしそれは。
唯一の肉親である鑢七花を突き放す選択に他ならない。

「あなたが悪いのよ、七花」

ようやく、七実は笑顔を見せる。
ただしそれは、球磨川に見せたような柔和な微笑みでなく。
侮蔑と憐憫を含んだ、冷笑だった。

「あなたが、そんなにも弱くなってしまうから。そんなにも弱くならないと生き続けることすらできないような身体に、あなたがなってしまうから。
 わたしも禊さんも、あなたが死なないように助けてあげただけ。それであなたが弱くなったのはあなたの責任。だから――」

最後にはもう、冷笑すらも引っ込めて。
その顔に浮かんでいたのは、胡乱で、空っぽで、取ってつけたような。
虚構のような、笑みだった。


「わたしは悪くない――いえ、悪いのかしら」


今度こそ振り返ることなく、七実は球磨川の後を追ってゆく。二人の姿は、すぐに夜の闇にまぎれて見えなくなる。
後に残されたのは、右手を失くし、腐敗に侵され、四つの弱さを螺子込まれ、ただ茫然と膝をつく、一本の刀だけだった。

454球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:02:48 ID:GGNzVLNQ0
【一日目/真夜中/D-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『3番はランドセルランドに向かおう』
『4番……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします



【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(1〜3)、球磨川の首輪、黒神めだかの首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒にランドセルランドに行く
 1:命令があるまでは下手に動かない
 2:七花のことは放っておきましょう
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:…………。
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

455 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 14:03:24 ID:GGNzVLNQ0
投下終了です

456名無しさん:2014/11/02(日) 23:37:45 ID:lDPwAN/Q0
投下乙です
うわあ、うわあとしか言いようが無い展開の連続で…いやあ、凄い
前話の引きが引きだっただけに大変なことになるだろうとは思っていたけどもこれは…(語彙不足)
七実の冷徹な判断力が恐ろしいことこの上なかったし、残りの男性陣も時間が経てば色々ありそうだしで
タイトル元ネタであろう掟上今日子の備忘録の内容にもちゃんと被ってるし見事と言う他ありませんでした

ですが指摘が一点だけ
作中で出てくるめだかの首輪についてですが、139話で外れており、以降どうなったかについて記述がありません
仮にその後持ち歩いていたとしても、147話冒頭でめだかが脱いだ服が149話の備考においてデイパックの中にあることが書かれてあるため首輪もデイパックの中にあると考えるのが自然です
作品の本筋は変わらなくとも、描写について大きく変更せざるを得ないため修正が必要になるかと思います

457 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 23:57:45 ID:GGNzVLNQ0
感想&ご指摘ありがとうございます。
>>456の指摘もそうですが、それ以前に球磨川の大螺子が139話ですでに破壊されていました。
どちらも修正してみるつもりでいますが、最悪破棄にするかもしれません。
申し訳ありませんでした。

458名無しさん:2014/11/03(月) 02:13:43 ID:4yD0KqsA0
姉ちゃんが男作ってどっか行っちゃった…

459名無しさん:2014/11/03(月) 17:42:38 ID:wP2A6qgo0
投下乙です
もうなんていうか凄まじい展開の連続なのは確かだわ…
よくこんなの書けるわあ 凄い

460名無しさん:2014/11/04(火) 22:31:00 ID:FqPkfOo60
投下おつでした!
お姉ちゃんがすごいお姉ちゃんしておられる……
でれても錆びてないというか錆びて切れ味が悪くなったせいで余計に肉を苦痛とともに削ぎ落とす刀になっちゃったというか
丸くなってないな、この人!
ある意味文字通り病んでれだこれー!?
しかしこれ、この後の二人もだけど、刀としては文字通り刃どころか手刀ならぬ主刀が欠けてしまった七花もどうするんだ……

461 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:55:18 ID:fWV1lgbY0
お待たせしました。修正版投下します

462球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:56:02 ID:fWV1lgbY0
デジャヴ。
黒神めだかの死に様を目の当たりにして、それに既視感を覚えるのは自然であり必然とも言える――彼女の一度目の死、すなわち戦場ヶ原ひたぎによる殺害を見ている者ならば。
焼き直しであり、やり直し。
失敗のやり直し。
一度目の死は、球磨川禊の『却本作り(ブックメーカー)』を受けた直後の隙を突かれたことによる死。より正確に言うなら、『却本作り』を自ら受け入れ、自ら喰らうことを選んだゆえの死。
二度目の死は、やはり球磨川と、交霊術により会話を可能とした戦場ヶ原ひたぎと人吉善吉。この三人に意識を向けすぎていたため、七花に不意討ちを狙う隙を与えてしまったことによる死。
過程や相手は諸所違えど、めだかが命を落とした原因は根本のところで共通している。
「他人と向き合いすぎたため」、殺された。
誰かに対して真正面から真摯に向き合い、その言葉を、思いを、願いを、恨みを、憎しみを、すべてを受け入れ、受け止めたからこそ、背後にいた者に、または蚊帳の外にいた者に気付けなかった。
一度ならず二度までも。
真っ直ぐに向き合って、真裏から刺された。
ただし、黒神めだかはそれを失敗とは呼ばないかもしれない。迂闊と言えば迂闊だし、結果として命を落としている以上うまくやったとは言えないだろうが、それでも決して、生半可な覚悟で彼女は誰かに臨んだわけではない。
球磨川は彼女にとって、数年間戦うことを待ち焦がれていた因縁の相手だったし、善吉と戦場ヶ原のときなど、自分のせいで死んだ(とめだか自身は思っている)者の遺した思いとまで向き合っているのだ。
大げさでなく、命を懸けて。
そういう意味で、めだかは自分自身の信念に殉じたとも言える。自分の信じる道に従い、その結果として命を落としたとなれば、確かにそれを失敗と呼ぶのは無粋かもしれない。
誰かのために生きることを宿命とした彼女が、誰かのために死んだのだとしたら。
皮肉ではあれど、妥当とは言える結末だろう。
だからこの場合、失敗したと言うべきは球磨川のほうだった。球磨川こそ過去から学び、同じ失敗を繰り返さないよう心に留めておくべきだった。
二度もめだかの正面に立ちながら、二度もめだかへの不意討ちを看過し。
今なお、同じ失敗を繰り返そうとしている球磨川禊こそ。



   ◇     ◇



「う――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

めだかが殺されたのを見て、球磨川は火のついたように絶叫した。
悲鳴とも怒号ともつかない金切り声を上げながら、地面に転がっためだかへと駆け寄り、

「『大嘘憑き(オールフィクション)』――っ!!」

間髪いれず、己の過負荷(マイナス)を発動させた。
“一度目”のときと寸分違わぬ様相で。

「黒神めだかの死を、なかったことにした――!!」

愚の骨頂と言うならこれがまさにそうだろう。
自分がなぜ一度、戦場ヶ原ひたぎに殺されたのか、めだかを生き返らせたとき、なぜそれをかばう羽目になったのか、完全に忘却している。
“一度目”のとき、めだかのすぐそばに戦場ヶ原ひたぎがいたように、今回は鑢七花がいる。今の状況でめだかを復活させれば、また二の太刀が振るわれるかもしれないというのに。
デジャヴどころかパブロフの犬さながらの従順さで、過去と全く同じ行動をとった。
混乱のさなかにあったとはいえ、迂闊が過ぎる――しかし、真に愚かなのはそこではなかった。
一度目のときは「黒神めだかを生き返らせる」という目的自体は達していた。冷静に対処すればもっと少ない被害で済ませることはできただろうけど、結果から見れば成功したと言ってもいい。
今回はその目的すら果たせていない。
黒神めだかの死はなかったことになっていない。

「……!? お、『大嘘憑き』――!!」

めだかの死体に変化がないのを見て、もう一度能力を発動させる。
しかし何も起こらない。

「『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!!」

何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。
何も起こらない。

463球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:56:38 ID:fWV1lgbY0
 
「な……何で」

頭を抱え、めだかの傍らに膝を付く球磨川。
まさか忘れたわけでもないだろう――安心院なじみにそれを聞いてから、まださほど時間は経っていない。
いや、時間が経過したからと言って忘れるような内容でもあるまい。『大嘘憑き』による死者の復活という、この殺し合いにおいてある意味最強のカード。その手札がすでに尽きているという重要な事実を。
傍から見ていた七実でさえ気付いた事実だ(実際に気付いたのは四季崎記紀だが)。直接聞かされている球磨川にわからないはずがない。
わからないはずがないなら、わかりたくないのか。
事実を事実として認めたくないのか。

「何をするつもり? 七花」

と、七実がここで口を開く。
“球磨川と七花の間に割って入った”鑢七実が、である。

「どけよ姉ちゃん――そいつを殺せないだろ」
「……冗談には付き合わないわよ」

頭を抱えてしゃがみ込むところまで含め、球磨川の一連の行動はあまりに無防備なものだったが、実際危ないところではあった。
めだかの死体を放り捨てた後、返す刀で球磨川に斬りかかろうとしていた七花の前に、七実が球磨川をかばう形で立ちはだかっていなければ、球磨川もめだかと同じように斬り捨てられていたかもしれない。

「とうとう気でも触れたのかしら? 大人しくしてたと思ったら、いきなりめだかさんに斬りかかるなんて。まるでしのびか何かのようじゃない」

七実の言い草に、七花は不快そうな表情を見せる――剣士に対してしのびのようだなどと言えば、七花でなくとも良い気分にはならないだろうが。

「思い出しただけだよ。おれが何をするべきだったのか」

いつでも斬りかかれる姿勢の七花に対し、構えることなくただ立っているだけの七実。
それはつまり、互いに臨戦態勢であることを意味している。

「考えてみりゃ、おれはもともと誰彼構わず斬り捨てるつもりでいたんだ。姉ちゃんだろうと、姉ちゃんの持ち手だろうと関係ねえ。おれが最後の一人になるまで、ただの刀として戦い続ける。最初からからそのつもりで、今もそうするべきだった」

だからそうした。
刀としてやるべきことをやった。
斬るべきものを斬った。

「だいたいここは決闘場とかじゃなくて戦場だろ。いくさの場で不意を突くのが卑怯なんて、姉ちゃんは言うつもりかよ」
「言うようになったわね、あなたも」

その単純な回答に、七実はため息で応える。

「まあ、あなたの行動理由についてはそれでいいわ――いえ、悪いのだけれど。でも七花、あなたがどういう理由で動いていようと、禊さんまで斬ることは許さない。
 禊さんに刃を向けることは、わたしに刃を向けることと同義。それをちゃんとわかっているのかしら?」
「……本当に、変わったよな。姉ちゃんは」

ふっと、軽く表情を歪ませる七花。
七実の病魔の影響を受けているせいか、顔色は目に見えて悪く、呼吸も荒い。

「姉ちゃんは、誰かの刀になんてなるはずないと思ってた。誰かのためにそんな真剣な物言いをするなんて、夢にも思わなかったよ――まして、そんな得体の知れない男のために」
「わたしのことを知った気にならないでと言ったはずよ。それと禊さんへの侮辱はやめて頂戴」

ちなみに当の球磨川はといえば、二人の会話に気付く様子もなく、未だめだかのそばで放心したままである。

「そもそも恩知らずだとは思わないのかしら。七花、瀕死の重傷を負っていたあなたを助けたのは、わたしと禊さんだったはずよ。言うなれば命の恩人である禊さんを手にかけることについて、あなたは何とも思わないの?」
「だから関係ないんだよ――それに命の恩人っていうなら、おれと姉ちゃんに関してはお互い様だろ」

464球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:57:16 ID:fWV1lgbY0
 
彼らしからぬ、皮肉めいた表情を七花は浮かべ、

「姉ちゃんが殺されかけたとき、おれは親父を斬り殺してまで姉ちゃんを助けたんだぜ。今さら姉ちゃんに、恩知らずだとか言われる筋合いなんて――」

言い終わる前に、七実は動いていた。
七実の手が動くのに気付いてとっさに避けようとした七花だったが、反応しきれずにその攻撃をもろに喰らう。
胸へと向けて投げられた大螺子、都合四本目となる『却本作り』を。

「…………っ、ぐぅっ!」

すでに突き刺さっている三本の螺子に並ぶように、新たな大螺子が真っ直ぐに突き刺さる。
球磨川の『却本作り』の上から、さらに上書きし直された七実の『却本作り』。その影響に耐え切れず、七花は勢いよく地面へと突っ伏した。気を失ったのか、ぴくりとも動く気配がない。
過去を紐解いても、おそらく初めてではないだろうか。
一本でも凶悪極まりない、球磨川自身曰くつきと称するほどの過負荷である『却本作り』を、同時に四本もその身に受けた“人間”は。

「……見損なったわ、七花」

倒れ伏した弟の姿を、冷え切った目で七実は見る。

「父さんを引き合いに出してまで自分を正当化するなんて、あなたも堕ちたものね。あとでお仕置きしてあげるから、しばらくそこで大人しくしていなさい」

吐き捨てるようなその言葉に、当然ながら返事はない。
堕ちたものもなにも、七花の今までの言動は『却本作り』あってのものなので、三分の一程度は七実の影響を受けていたからこそと言えるのだが。
そのうえ残り三分の二は、言うまでもなく球磨川の影響である。
堕ちるところまで堕ちないほうがおかしいという話だ。

「な、七実ちゃん!!」

大声で呼びかけられ、七実は振り返る。
ようやく現状を認識したらしき球磨川が、めだかの死体を両腕で抱き起こし、血走った眼で七実を見ていた。

「きみの、きみが見取った僕の『大嘘憑き』で! めだかちゃんの死をなかったことにしてくれ!!」

要求というより、それはもはや懇願だった。放っておけば土下座せんばかりの勢いで、球磨川は痛切に叫ぶ。
仲間のためでなく、同類のためでなく、敵対する者のために恥も外聞もなく取り乱し、何かを懇願する。
あの球磨川禊が、である。

「……めだかさんを」

請われた側の七実は、そんな球磨川の狼狽には特に反応せず。
めだかの死体を指さし、一言一句区切るようにして言う。

「わたしの『大嘘憑き』で、めだかさんを蘇生――もとい、“黒神めだかの死をなかったことにしろ”、と。そうおっしゃるのですね? 禊さん」
「そ、そうだよ、早く――」

通常の心肺蘇生法を施すわけでもあるまいに、「早くしないと手遅れになる」と言わんばかりの焦りようだった。

465球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:57:50 ID:fWV1lgbY0
無意味に急かす球磨川とは対照的に、七実はあくまで冷静沈着な面持ちのまま、

「相わかりました」

と、二つ返事で了承する。
牛の歩みのようにゆっくりと、球磨川の抱えるめだかの死体に近づいてゆき、背負っていたデイパックを邪魔そうに脇に下ろしてから、血まみれの地面に丁寧な所作で屈みこむ。
そして死体の胸のあたり、手のひらの形に陥没した傷の上にそっと手をかざし、

「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」

そう唱えた次の瞬間には、すでに効果は表れていた。
球磨川の時とは違い、胸の傷も、あたりに撒き散らされた血も、すべてが“なかったこと”になっていた。
初めからなかったかのように、綺麗さっぱりと。










「――黒神めだかの『死体』を、なかったことにしました」










ただし、身体ごと。
黒神めだかの肉体ごと、それらは消えてなくなっていた。

「…………は?」

からっぽの腕の中を見て、空を抱いた姿勢のまま唖然とする球磨川。
今度こそ本当に、何が起こったかわからないといった表情で。

「ああ、“死体”は消せるようですね。“血”は消せるからいけるとは思っていたのですけれど、実際に試してみるまでは確証が持てなかったので、うまくいってよかったです」

やれやれと、一仕事終えた風に息をつく七実。

「黒神めだかそのものが消えてなくなったので、必然『黒神めだかの死』もまた、なかったことになったということになりますね。これにて一件落着です」
「…………」

絶句。
今の球磨川の心境を表すのなら、その二文字でこと足りるだろう。
確かに、なかったことにはなっているのかもしれない。少なくとも今、この場所において黒神めだかが死んだことを証明する手立てはない。
なにせ死体がないのだ。
埋めたわけでも、焼いたわけでも、沈めたわけでもなく、死体そのものを最初からなかったことにする。
これ以上の証拠隠滅がはたしてあるだろうか?

「な、何やってんの、七実ちゃん――」

しかし、誰の目から見ても明らかだろう。
その行為が、球磨川の意に沿わないものであることくらいは。

466球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:58:53 ID:fWV1lgbY0
 
「落ち着いて聞いてください、禊さん」

そっと球磨川の肩に手を置き、優しくささやきかける。
安心させるように。

「わたしはあなたの刀であり所有物です。あなたが命じるならば、わたしは何をおいてもその通りに動く心構えではあります。
 しかし、わたしの意思、わたしの判断というのもまた、わたしの中には存在します。あなたの指示を最適の形で成し遂げるために、それは必要なものですから。
 失礼ですが、今の禊さんは少々混乱しているようです。その状態では正しい判断ができないものと見なしましたゆえ、差し出がましい真似とは知りつつ、今回はわたしの独断において行動を決めさせていただきました」

不備があったら申し訳ございません――と頭を下げる七実。
球磨川からすれば不備どころの話ではないのだが。

「禊さんには言うまでもないことかもしれませんが、この『大嘘憑き』、すべてにおいて無限に使用できるというわけではないようですね。
 何でもなかったことにできるわけではないし、こと“生命”を対象に取る場合、ある種の条件下でなければ使用することができない。
 その条件のひとつが、『一定の回数しか使用することができない』であると推察しますが、いかがでしょうか」

球磨川は答えない。
七実はそれに構わず続ける。

「断言は致しかねますが、禊さんから見取った能力である以上、わたしの『大嘘憑き』にも同等の制限がかけられているはず。
 つまりわたしも、一定の回数しか“死をなかったことにする”ことはできないのです。
 ですから、禊さん。
 この能力は、あなたが死んだ時にこそ使われるべきでしょう。
 あなたの死をなかったことにする。これこそを最優先の使い道とすべき。
 そのためには、無駄遣いなどもってのほか。
 そんなもののために、貴重な残り回数を浪費するわけにはまいりません。禊さんの命をお守りするために、これは必要な選択なのですよ」

きっぱりと、七実は言い切った。
黒神めだかの存在を、「そんなもの」と。
球磨川の懇願を、「無駄遣い」と。
七実はいかにもあっさりと、めだかの死体を“なかったこと”にしてみせたが、それは七実にだからこそできたことかもしれない。
生きた人間ですら、雑草と呼ぶ七実にとっては。
『すでに引き抜かれた雑草』など、生きている人間の血や肉片にすら劣るだろうから。

「……僕の話を聞いてなかったのかい、七実ちゃん」

球磨川の顔に浮かんでいるのは、もはや困惑の表情ではなかった。
明確な怒気。それのみが七実に向けられる。

「めだかちゃんに勝つことをまだ諦めないって、きみには言っておいたはずだ。何度でも、何度負けても、僕はめだかちゃんに勝つまで挑戦し続けるつもりでいたんだ。それなのに――」
「勝負ならもうついているではないですか」

怒気をぶつけられても、七実は一切ぶれない。

「奇しくも七花が言っていたことですが、ここは決闘場などではなく戦場です。いくさの場において、負けとは降伏であり逃走であり、そして死です。
 生き残った者が勝者であり、死んだ者が敗者と呼ばれる。それがいくさであり、戦場です。
 過程はどうあれ、禊さんは生き残り、黒神めだかは死にました。誰が何と言おうと、禊さんの勝ちは揺るぎないものです」

淡々と、当然のことを言って聞かせるように七実は話す。
おそらく七実は、自分が球磨川のためにとるべき行動をとっているだけだと、本心からそう思っていることだろう。
近しい者の死に取り乱す主に代わって、冷静な立場から意見を述べているだけだと考えているに違いない。
だから、気づいていない。
自分が今、いかに感情的な、自分にとって都合のいいように歪曲された考え方を持って行動しているのか、七実は気づいていない。

467球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:59:23 ID:fWV1lgbY0
七実が指摘した『大嘘憑き』の回数制限については、言われるまでもなく球磨川も理解している。蘇らせる相手を選ぶべきという考えも、当然持っているはずだ。
そのうえで球磨川は、めだかを生き返らせようとした。七実に『大嘘憑き』を使わせてまで。
そんな黒神めだかに、七実はどんな感情を抱いただろうか。
七実よりもずっと、はるかに長い時間を球磨川と共有しているであろう黒神めだかに。
刀としてではなく、球磨川に惚れたひとりの人間として。
嫉妬? そうかもしれない。
羨望? それもあるだろう。
実際、七実は自分がめだかに嫉妬していることを自覚していた。球磨川が、めだかに対しての信頼を含んだ言葉を吐いたときに。
しかしそれは、本当にただの嫉妬だったのだろうか? 「少しだけの嫉妬」などという、ありきたりな感情で済んでいたのだろうか?
仮に、である。
七実がめだかに対して、自身でも気づかないうちに、嫉妬よりも深い負の感情を溜め続けていたのだとしたら?
球磨川が幾度となく特別な感情をのぞかせる黒神めだかに、羨望とはまるで別の思いを募らせていたのだとしたら?
あくまで仮説でしかない。ただそう考えると、七花がめだかに不意討ちを仕掛けた理由について、少し違った見方ができる。
七花は自分が凶行に走った理由のひとつを、球磨川と七実の闘争心にあると解釈した。『却本作り』を通じて流れ込んできた、めだかに対する二人の闘争心に同調したためだと。
その解釈はおそらく正しい。
ただ少なくとも、球磨川のほうにはめだかに対する闘争心こそあれど「殺意」までは持っていなかっただろう。肉を切らずに心を折るのが、球磨川一流の戦い方なのだから。
もしあのときの七花に、殺意が原動力としてあったのだとしたら。
『却本作り』を通じて寄越された黒神めだかに対する殺意。それがあの不意討ちを成功させたのだとしたら。
その殺意の出どころは、七実でしかありえまい。

「勝負は結果が全てです。他人の介入をもって漁夫の利を得る、これこそわたしたちにふさわしい『むなしい勝利』ではありませんか。禊さんの勝利、この目で確と見届けました」

すらすらと、微笑みすら浮かべて七実は語る。
まるで彼女らしくないことを、いけしゃあしゃあと。

「…………違う」
「今のあなたはもう敗北者などではありません。歴とした勝利者です。それをどうか御自覚なさってください」
「違う」
「あなたの悲願である黒神めだかとの勝負に立ち会うことができたことを、わたしも光栄に思います。おめでとうございます、禊さん」
「七実ちゃん」

す、と。
まるで波が引くように、球磨川の顔からすべての感情が消える。

「きみにはとても感謝しているよ。僕を生き返らせてくれたこともそうだけど、僕みたいなやつを好きになってくれたことや、僕の過負荷(マイナス)まで扱えるくらい一緒に駄目になってくれたことについては、本当に嬉しく思う。欣喜雀躍の思いだよ」
「そう言っていただけると、私も嬉しいです」
「でも僕には、めだかちゃんのほうが大事だ」

遠くを見つめる球磨川の瞳に、七実の姿は端も映っていない。
いや、もはや何も映していないのかもしれない。

「僕と敵対してくれるめだかちゃんが、どんなときでも僕の挑戦を受けてくれるめだかちゃんが、何があろうと駄目になんてならないめだかちゃんが、大嫌いで、大好きだった。
 きみなんかよりも、ずっとずっと大切な僕の宿敵だった」
「…………」
「僕はもう、めだかちゃんに勝つことはできない。ちゃんと勝つことも、ちゃんと負けることもできない。引き分けでも痛み分けですらもない、永遠に未定のままだ」

勝ちたかったなあ、と。
呆けた顔で、空虚に向けて球磨川は吐き捨てる。
自分の能力ゆえに誰よりも理解しているのだろう。黒神めだかの存在が、もはや取り返しのつかないものだということを。

「きみにはわからないだろうね、七実ちゃん。一番勝ちたかった相手に勝てないっていう気持ちは。勝つ機会を、永遠に奪われるっていう気分は」

468球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 11:59:50 ID:fWV1lgbY0
「…………」

実際、七実にはわからないだろう。圧倒的な弱さを持つ球磨川と、例外的な強さを持つ七実とでは、勝負の捉え方がまるで違う。
球磨川にとって、敗北とは日常の一部でしかないのかもしれない。負けを、失敗を前提にしてしか勝負に挑めない球磨川のマイナス思考は、常に勝ちを遠ざける。
めだかとの勝負にしても、それは変わらなかったはずだ。勝ちたいという意思はあれど、それは負けることを前提とした意思。「負けを糧にしていつかは勝つ」という、遠回りの敗北宣言に近い。
だが、このバトルロワイアルという舞台の中で球磨川はめだかに負けることすらできなかった。
『却本作り』を取り戻したうえで勝負に臨んだ球磨川だ――それで負けたところで、それをひとつの結果として受け入れることはできただろう。
最悪なのは、勝つ機会も負ける機会も球磨川には与えられていたということだ。めだかと対面し、戦いを挑み、めだかもそれに応えた。一度は勝負がつきそうな場面さえあった。
にもかかわらず、邪魔された。
戦場ヶ原ひたぎに水を差され。
鑢七花に割って入られ。
果ては仲間である鑢七実にさえ、横車を押すような真似をされた。
その怒りと絶望は、いったいどれほどのものだろう。

「きみの気持ちはとても嬉しい、だけど――」

と。
七実が脇に置いていたはずのデイパックが、いつの間にか球磨川の手に移動している。
そこから取り出されたのは、一丁のクロスボウだった。元は匂宮出夢の支給品だったものと思しき、独特のシルエットを持つ射出武器。
その銃口を、球磨川はゆるやかに七実の胸元へと向け、

「きみなんか嫌いだよ、七実ちゃん」

そのままあっさりと、引き金を引いた。
ざくり、と肉を穿つ音。放たれた矢は七実の胸の真ん中、ちょうど悪刀・鐚がかつて突き刺さっていたあたりへと命中する。一拍遅れて噴き出した血が、着物を瞬く間に赤く染め上げた。
『却本作り』とは違う、物理的な殺傷能力を持つクロスボウの矢。
その一撃を喰らって、七実は――


「――禊さんは、めだかさんが死んだことが悲しいのですね」


笑っていた。
否定され、拒絶され、身体を射抜かれてなお、その微笑は毫ほども揺るがなかった。
まるでそれが、誇らしいことであるかのように。

「その悲しみは痛いほどわかります。わたしも、あなたが死んだときはとても悲しかった。二度とあなたが生き返らないとわかった時は、身を裂かれる思いでした」

七実はそっと球磨川の頭に手を回し、自分の胸元へと抱き寄せる。矢が突き刺さったままの胸元に。

「本当は、ちゃんとわかっていました。あなたが望んでいるのが『むなしい勝利』などではないことを。あなたの友情が、ぬるくなんてないことを」

何度でも戦って、何度でも負けて。
それでも決して諦めない。
それがあなたですものね。

「私が嫌いだというならそれで構いません。殺したいほど憎いというなら、その憎しみも謹んでお受けいたします。ですがその前に、あなたの悲しみを癒すお手伝いをさせてください」

その囁きを、球磨川は硬直したまま聞いている。
球磨川としては、まさか七実が避けないとは思っていなかったのだろう。七実への拒絶を示すため、あえて避けなければ死ぬような攻撃を仕掛けて見せたのだろうが、認識が違っていた。
七実の刀としての覚悟を、球磨川への想いの深さと重さを、読み違えていた。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

言い聞かせるように七実は言う。球磨川と、おそらくは自分自身にも。

469球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:00:21 ID:fWV1lgbY0
 
「あなたにとっての勝利とは、なにも黒神めだかに対する勝利でなくともよいはず。なのにあなたは、黒神めだかが唯一の目標であるかのような思いに囚われている。
 結果あなたは、一度は黒神めだかのせいで命を落とす羽目になっています。これではまたいつ、あなたが同じように命を落とすことになるとも限りません。
 わたしの『大嘘憑き』による死者の蘇生も、すぐに底をついてしまうでしょう」
「……割り切れっていうのかい」

七実の物言いをただの弁解と捉えたのか、球磨川の声に険が混じる。

「めだかちゃんの死を、もう仕方のないことだって、僕が生き残るために必要なことだって、そう言うんだね、きみは」
「いいえ、割り切るのではありません。なかったことにするのです」

ごふ、と血を吐きながら言う七実。
七実とはいえ、今の状態で喋り続けるのは至難のはずなのだが、それでも声だけは平静を保っている。

「あなたの命令は『黒神めだかの死をなかったことにする』だったはず。その命令を違えるつもりはありません」
「…………?」
「あなたのその悲しみに、あなたの責任はない。あなたは何も悪くありません。
 ならばこそ、あなたがそれを背負う必要も、割り切る必要もないはずです。
 だったら全部、忘れてしまえばよいではないですか」

割り切って1にするのでなく。
マイナスしてゼロにする。
虚構(なかったこと)にする。

「辛い現実なら、身を裂かれるような悲しみなら、忘れてしまえばいいのです。受け入れる強さも、乗り越える強さも必要ない。過負荷(わたしたち)らしく、弱いままに生きてゆけます」
「…………」
「大事なのは強がることではなく、弱さを受け入れること――そうですよね? 禊さん」

それは、球磨川自身が口にした言葉だった。
戯言遣いと八九寺真宵。その二人がある決断を迫られたとき、球磨川が語って聞かせた過負荷としての精神論。
七実が何をしようとしているのか、球磨川はようやく理解する。
理解できて当然だろう。そのとき球磨川自身がやったことと同じことを、七実はやろうというのだから。

「……僕は、めだかちゃんを守れなかった」

いつの間にか、球磨川は泣いていた。
七実に抱かれたまま、両目から滂沱として涙を流している。七実の胸元に零れ落ちた涙は、血と混ざり合ってすぐに見えなくなる。

「めだかちゃんが殺されたとき、一番近くにいたのが僕だった。それなのに、殺されるまでそれに気づくことができなかった。めだかちゃんと戦うのに夢中で、気づこうと思えば気づけたはずなのに、それなのに――」
「あなたは悪くありません」

懺悔のような言葉を遮って、もう一度同じことを七実は言う。
球磨川の吐露を、球磨川の言葉で優しく否定する。

「あなたは何も悪くない。ただ弱かっただけです。そしてわたしは、あなたに弱いままでいてほしい。過負荷(あなた)らしく、過負荷(わたしたち)らしくあってほしいのです」
「…………」
「わたしは、あなたを置いて死んだりはしません。あなたの望む限り、あなたが臨む限り、あなたの傍にいます」


死にぞこないだけれど。
生きぞこないだけれど。
生まれてくるべきではなかったけれど、それでも――


「あなたのために、生き続けますから」


だからどうか。
あなたがあなたであることを、やめないでください。


そう言って、七実は選択を委ねる。
胸に穿たれた矢からは、とめどなく血が滴り続けている。それをどうこうしようとする気配すらなく、身じろぎひとつせずに球磨川からの返答を待つ。

470球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:00:53 ID:fWV1lgbY0
球磨川もまた、身じろぎひとつせず。
沈黙と沈黙が重なり、時間だけが経過し。
そして――


「――うん、そうだね、七実ちゃん」


そして、球磨川は選択する。
逃げる選択を、弱さを受け入れる選択を。


「きみの思う通りに、やってちょうだい」


それを聞いて、七実は。


「――委細、承知いたしました」


とても満足そうに、首肯した。




「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」




そして、七実は宣告する。
取り返しのつかない解答を。
救いようのない救いを、球磨川に与える。


「禊さんの中の、『黒神めだかに関する記憶』を、なかったことにしました」



   ◇     ◇



『……何やってんの? 七実ちゃん』

きょとんとした顔で、球磨川は問いかける。
“なぜか”自分の頭に手を回し、胸元に押し付けるようにして抱え込んでいる七実へと。

「ああ、これは失礼」

そう言って腕をほどき、少し名残惜しそうに身体を離す七実。

「ご気分はいかがですか? 禊さん」
『うん? んー、なんか頭がぼーっとするけど、悪い気分じゃないよ。むしろすっきりしてるっていうか――ってあれ? そういえば僕、今まで何してたんだっけ?』
「ランドセルランドに向かう途中ではなかったですか?」
『いや、それは覚えてるけど……そもそもなんで車から降りたんだっけ?』
「“とらんく”の中が狭すぎたせいでは?」
『そこに入れって言ったの七実ちゃんだよね』

471球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:01:28 ID:fWV1lgbY0
 
記憶の辻褄が合わないことに戸惑っている様子の球磨川。
ぼんやりと遠くを見つめながら、頭を振ったり首を傾げたりしている。

『大きい蟹がどうとか言ってた気がするんだけど』
「夢でも見ていたのではないですか?」
『夢? そうかなあ――』

訝る球磨川に対して、七実は、

「……もしかすると、少しばかり記憶が混乱しているのかもしれませんね」

探るように、確かめるように言う。
切り込んで、鎌をかける。

「黒神めだかが、死んだことの衝撃で」

無表情で、平然とした口調で。
いつも通りの七実の喋り方で。

『黒神、めだか――?』

その名前を、球磨川は頭の中で反芻する。記憶を掬い取るように、何度も。
その様子を七実はじっと見つめる。つぶさに見、観察する。
『大嘘憑き』による記憶の消去。
それがどの程度まで作用しているのか、実のところ七実にもわかっていない。
『大嘘憑き』自体アンコントローラブルな能力であるし、球磨川の記憶の中身を具体的に知り得ない以上、どの記憶をなかったことにするのか恣意的な操作などできるはずもない。
球磨川の様子を見る限り、黒神めだかの死に取り乱していた間の記憶はなかったことになっているようだが。
それを確認するため、あえて黒神めだかの名前を出したのだろうが――果たして。

『誰それ?』

と、球磨川は言った。

『やだなあ、七実ちゃん。週刊少年ジャンプの熱血系主人公じゃないんだから、見ず知らずの人が死んだくらいで僕がそんな取り乱すわけがないじゃない』

傾げた首を、さらに傾げて。
直角に傾げた首で、へらへらと笑う。

「……ええ、そうですね、失礼しました。今の言葉は――忘れてください」

その反応を見て、にこりと微笑みを返す七実。

『それよりもさ、なんで僕こんなもの持ってるんだろう? たしか七実ちゃんが持ってたやつだよね、これ』

と、手に持っていたクロスボウを七実に示してみせる。引き金に指をかけたままなので実に危なっかしい。

「ああ、それでしたら大螺子がなかったので、代わりのものが必要だと」
『え? 僕がそう言ったの?』
「いえ禊さんでなく」
『…………? よくわかんない……』
「いえ――もしよろしければ差し上げますけど」
『そう? んー、じゃあ遠慮なく』

珍しい玩具でも貰ったように、球磨川はクロスボウをデイパックにしまう。
言うまでもないが、七実に刺さっていた矢はすでに引き抜かれている――というより、矢そのものを射創と着物の血ごと『大嘘憑き』でなかったことにしたようだ。

472球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:02:01 ID:fWV1lgbY0
球磨川の制服についていた血も、戦場ヶ原ひたぎの分も含めてすべて消し去られている。
いっそ清々しいほどの証拠隠滅だった。

『……七実ちゃんさあ、何かいいことでもあったの?』
「はい? なぜですか?」
『なんかうきうきしてるように見えるよ、恋愛(ラブコメ)してる女子高生みたいに。ていうか七実ちゃん、そんな顔もできたんだ』

無言で七実は球磨川の頬を打った。平手で。

『……ごめん七実ちゃん。今なんで僕が平手打ちされたのか、本気でわからないんだけど』
「申し訳ありません、今のは照れ隠しです」
『照れ隠し? 照れ隠しだったの? 今の』
「わたしが嬉しそうに見えるというなら、それはあなたがそばにいるからでしょう」

そう言って、もたれかかるように身を寄せてくる。

「あなたがいることが、わたしの幸せですから」
『やっぱりちょっとテンション高くない? 本当に何かあったの?』

球磨川が問いただそうとした、その時。

「…………う」

かすかなうめき声とともに、倒れていた七花が身を起こす。
意識はまだ朦朧としているようで、立ち上がる様子はない。顔色も依然として、いや前にもまして悪くなっている。
球磨川はそれを見て『なんで七実ちゃんの弟さんがまた倒れてるんだっけ?』というように首を傾げている。
七実はしばしそれを見つめてから、

「――禊さん、少しだけお時間をいただけますか」
『ん? いいよ。弟さんと何か話でもするの?』
「ええ、ちょっとお別れの挨拶を」

球磨川から離れ、しずしずと七花のほうへ歩いてゆく七実。
苦しげに喘ぐその様子を見下ろすようにして、

「もう起き上がれるようになるとは流石ね、七花」

と、七花だけに聞こえるくらいの囁き声で言った。
四本もの『却本作り』が刺さっていることを考えると、確かに早い復調と言えるかもしれない。
もっとも、『却本作り』は使用者の精神によって効果の強弱が決まるため、球磨川の絶望が消し去られ、七実が幸福になった結果として『却本作り』の効力が弱まった、と考えるのが妥当かもしれないが。

「めだかさんを殺してくれたことについては感謝するわ。まさかあなたが、そこまでできるとは思っていなかったから」

腐っても虚刀流当主ね――と、七実はくすくす笑う。
七実にとっては冗談のつもりだったのかもしれない。

「だけど」

おもむろに。
七花の隆々とした右腕を、七実のたおやかな両手がつかむ。『荒廃した過腐花』による感染部位を避けるようにして。

473球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:02:30 ID:fWV1lgbY0
 
「禊さんを斬ろうとしたこの右手には、しかるべき罰を受けてもらわないとね」

そう言って七実は。
手首のあたりから、七花の右手を力任せに引きちぎった。

「…………っ! があああああああああああああああああああああっ!!」

空を裂くような絶叫。
七実の病魔による苦痛が逆に痛みを緩和しているとはいえ、あまりに荒々しい手際に七花は身悶える。
おそらく凍空一族の怪力を使ったのだろう。まったく手こずる様子なく、小枝でも折るように手首を分断した。

「そんなに騒がないで頂戴、大の男がみっともない。わたしの治癒力を渡してあるから、この程度で死にはしないわ」

ちぎり取った手首を、ごみでも放るかのように七花の目の前に投げ捨てる。
七実ならば、もっと綺麗に切断する方法などいくらでもあっただろうに、あえて力任せという暴力的な手段に頼った。
そうするのが、今の七花には適切だとでも思ったのだろう。

「これに懲りたら、二度と禊さんを斬ろうなんて思わないことね――じゃあ、ここでお別れね、七花」
「は――はあ?」
「当たり前でしょう。あなたとはいえ、禊さんを手にかけようとした相手とこれ以上一緒にいるわけにはいかないもの。同行するのはここまでよ」
「き、斬らないのかよ、おれを」
「あら、なんでわたしがあなたを斬ると思うの?」
「な、なんでって――」

七実を相手取る以上、逆に斬り殺されるくらいの覚悟は当然していただろう。
その覚悟をさらりと躱され、七花はとまどいを隠せない。

「か、刀は斬る相手を選ばない――んじゃなかったのかよ」
「今は禊さんの刀よ。命じられない限り、みだりに斬ったりはしないわ。あなたがとがめさんの刀だったときもそうだったんじゃなくて?」
「…………」

二の句が継げず黙り込む七花。
七実の胸中がすべて理解できるはずもない。ただ、かつて誰かの刀だった七花にとって、惚れた相手に遵従するその心情だけは理解できるだろう。
二人に違いがあるとすれば、七花が学んだのが人としての生き方であるのに対し、
七実が今現在歩んでいるのは、あくまで過負荷としての道であるということだが。

「――まあ、本当は禊さんに斬りかかった時点で斬り捨てているところだけれど、今回だけは特別に見逃してあげる」

次はないわよ――と釘を刺し、近くに落ちていたデイパックと鉄扇を拾い上げる。どちらも黒神めだかの遺品だ。
デイパックの中身を素早く検分し、そのうちいくつかを自分のデイパックの中身と移し替え、残った分をデイパックごと七花に投げてよこす。

「こっちはあなたにあげるわ。これからどうするかはあなたの自由だけど、生き残りたかったら余計なことはやめて、せいぜいおとなしくしてなさい」

そう言って七実はあっさりと踵を返し、球磨川のもとへと戻る。

「お待たせしました、さあ参りましょう」
『……きみの弟さん、何か悪いことでもしたの?』
「どうかお気になさらず。家族同士でのちょっとした話し合いですから」
『あのまま放っておいて大丈夫? ていうか何で『却本作り』が一本増えて――』
「あのこにはあのこなりの生き方がありますから。わたしたちがこれ以上干渉する必要はないでしょう」
『ふうん、七実ちゃんがいいならまあいいけど――あー、ちょっと待って待って七実ちゃん』
「はい、何か」
『ランドセルランドはそっちじゃない。こっち』
「…………」

474球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:03:00 ID:fWV1lgbY0
 
コンパスと地図を手にさっさと歩き出す球磨川。七実もすぐさまそのあとを追おうとする。

「ま――待てよ、姉ちゃん」

それを七花は、なおも追い縋ろうとする。
無駄とは知りながら、悪あがきをする。

「待たないわよ、なんでわたしが待つと思うの? しつこいからこの際はっきり言ってしまうけど、わたしはもうあなたに興味はないのよ」

待たないと言いつつ、首だけ振り返って七花を見る。
しかしその視線は、家族に向けられるものとは思えないほど冷め切っていた。

「あなたがまた本気で戦ってくれるなら、もう一度あなたに殺されるつもりでいた。殺されたいと思っていた。
 でも今のあなたには、殺されてやる気も戦ってあげる気も起こらない。それともあなたは、そんな状態でまだわたしと戦おうというの?」

七花の胸元を再び指差す。
弱さを体現した球磨川と、回復力こそあれど脆弱さを極めた七実、その二人の弱さを反映する四本の『却本作り』。
今の七花の身体は、戦うにはあまりに脆すぎる。長時間はおろか短時間の戦闘ですらそうはもたないほどに。
七花が不意討ちを選んだ真の理由は、実のところそこにある。
長時間にも短時間にも耐えることができないなら、開始と同時に決着する、そんな戦い方を選ぶしかあるまい。
『一瞬での、一撃による必殺』――確実に勝つにはそれしかないということを、きっと本能で理解していたのだろう。

「もうひとつ、あなたに感謝しておくわ、七花。あなたが背中を押してくれたおかげで、わたしは生き続けることを選ぶ決意ができた。
 わたしはもう、あなたにも、誰にも殺されてやるつもりはない。禊さんがいる限り、わたしはどこまでも一緒に生きてゆく」

生き方を選べなかった七実が、唯一選んだはずの死に方。
彼女が唯一、殺されることを望んだはずの相手。
そのたった一人の相手が価値を失ったことで、生き方を選ぶきっかけとなった。
しかしそれは。
唯一の肉親である鑢七花を突き放す選択に他ならない。

「あなたが悪いのよ、七花」

ようやく、七実は笑顔を見せる。
ただしそれは、球磨川に見せたような柔和な微笑みでなく。
侮蔑と憐憫を含んだ、冷笑だった。

「あなたが、そんなにも弱くなってしまうから。そんなにも弱くならないと生き続けることすらできないような身体に、あなたがなってしまうから。
 わたしも禊さんも、あなたが死なないように助けてあげただけ。それであなたが弱くなったのはあなたの責任。だから――」

最後にはもう、冷笑すらも引っ込めて。
その顔に浮かんでいたのは、胡乱で、空っぽで、取ってつけたような。
虚構のような、笑みだった。


「わたしは悪くない――いえ、悪いのかしら」


今度こそ振り返ることなく、七実は球磨川の後を追ってゆく。二人の姿は、すぐに夜の闇にまぎれて見えなくなる。
後に残されたのは、右手を失くし、腐敗に侵され、四つの弱さを螺子込まれ、ただ茫然と膝をつく、一本の刀だけだった。

475球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:03:55 ID:fWV1lgbY0
【一日目/真夜中/D-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『3番はランドセルランドに向かおう』
『4番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします



【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(1〜3)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒にランドセルランドに行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:七花のことは放っておきましょう
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:…………。
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします





支給品紹介

【クロスボウ@戯言シリーズ】
匂宮出夢に支給。
弓矢と銃を組み合わせたような武器。
「クビツリハイスクール」にて萩原子荻が使用。
本ロワでは6発まで連射可能、予備の矢18本セット。

476 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:05:23 ID:fWV1lgbY0
以上で修正版投下終了です。
クロスボウだけかなり強引にねじ込みましたが、それ以外での大きな変更はありません。
黒神めだかの首輪については、これまで通り所在不明ということにさせてもらいます。

477名無しさん:2014/11/08(土) 12:13:15 ID:2qgjmBSM0
修正乙です
大筋に変更はないので感想は割愛させていただきますが、それならば問題ないかと
七実の支給品がそのままになっているのはWiki編集の際に直せば大丈夫ですかね?

478 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 14:52:23 ID:QKtkK1CYO
>>477
確認漏れしてました。そこだけ修正お願いします。
重ね重ねすみません。

479名無しさん:2014/11/15(土) 00:17:46 ID:tn2S.PQA0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
152話(+2) 15/45 (-0) 33.3(-0.0)

480 ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 21:54:12 ID:kaJTrOxA0
皆様投下お疲れ様です&月報乙です。
それでは私も投下させていただきます

481 ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 21:56:17 ID:kaJTrOxA0
 一見三竦みのようにも見えるが、その実零崎人識が圧倒的有利な状況下であった。
 曲弦糸。糸を繰る技。
 時には撥ねて――時には裂いて――時には解して――時には時には。
 この時間軸上の人識には不可能にせよ、勿論使い方次第では殺人術としても機能する。
 そして、この術の本質は索敵や拘束にも用いることができる点だ。
 ただ糸を操るだけ。シンプルな技。しかしそれだけにその使い勝手は凄まじい。

「俺はこれまで、心っつーのは物体的なものだと信じて疑わなかった。
 てゆーか今でもそう信じてるんだけどな、しかし反して心なんていうものはどこにも見当たらない訳だ」

 さながらマリオネットのように、糸に吊られた二人の人間は素面の表情のままに、しかし内心どうしたものかと、頭を働かせる。
 刀を振ろうと試みるが、糸が相手なのにどうしてか切り落とすことさえ叶わない。
 宗像形はそれを、雲仙冥利の《鋼糸玉(スリリングボール)》かと連想したが、どうにもその様なものとは思えずにいた。
 一方で真庭蝙蝠は、人識のとった攻撃の考察などせず、まさに生死の境目とも言える場面に出くわして、これから判断に迫られている。
 ――突如降臨したその《鬼》はそんな様子ににやにやと眺めた。

「さっきの戦場ヶ原ひたぎの心だってそうだった。
 あいつは頭にあるとかぬかしてやがったが、どこにも見当たらなかった。
 これに限らずこれまで確か十何人の人間の心を覗き見ようとしても、どこにもない」

 俯瞰的に現状を確認してみよう。
 舞台はネットカフェのその一階。
 ロビーと連なっていたその部屋には、今現在は約五百の剣が咲き誇っている。
 内一本は四季崎記紀が生み出しし、完成形変態刀が一振り、絶刀・鉋であり、
 その他の剣は同じく完成形変態刀が一振り、千刀・ツルギだ。

「だから俺は、やっぱり諦めるべきなんじゃないかと思うわけ。
 一度そうしたんだから、これからもそんなものを追い求めなくてもいいんじゃないかって俺もいるんだ。
 何分一度、クソッタレな赤色から答えを明示させられちゃあ、敵わねえよな」

 その巨大な空間の中心で、《冥土の蝙蝠》真庭蝙蝠と《枯れた樹海》宗像形は向かい合い、制止している。
 ピクリとも動かない。すぐ隣で人識が佇んでいるというのに、しかしどうすることもできずにいた。
 人識は手袋をはめ、しっかりと指で糸を繰りつつ滔々と語る。

「それでも、心を見てみたいという俺は確固たるものとして存在している。
 どうしようもなくアホで、おそらくそれ故に死んでしまった兄貴に教えてやりてえのさ。
 ――普通であり続けたいと願う、アホな兄貴によ。ま、せめてもの手向けっつーやつか」

 らしくもねーか、と独り言つ。
 かはは、と笑う人識の正面、真庭蝙蝠と宗像形は短く紡ぐ。

「宗像」
「なんだ」

 少女の声――りすかの声をした蝙蝠が声を発する。
 それは確かに小声ではあったが、人識にだって聞こえているだろう。
 だが、こうなってしまった以上はやむをえまい。
 おおよそ気紛れで戯言を垂れ流している内に――と。

「一瞬だけ協力しろ」
「……なんだ」

 眉を顰めるが、しかしこのままでは自らの命の危機であることには変わりない。
 瞬間の逡巡の後に簡単に返す。
 それを由とした蝙蝠は横目で人識の姿を窺いつつ、箱庭学園で邂逅した《王》を想起する。
 人識は斬刀を力強く握り、誤って糸を斬らない範囲で切っ先を蝙蝠に向けた。

「どっちつかず、別段今の俺に拘りがあるわけでもない。
 だからこれで最後にしようと思ってるんだ。これで出るなら好し、出ないのならまた好し。だから」

 人識は何の容赦もなく、斬刀を突きつける。
 チクリとした感触がした。それはつまり、蝙蝠と斬刀との距離は零であることを示す。
 反して蝙蝠は落ち着いた口調で――《王》を――《「魔法使い」使い》を――《死線の蒼》を頭に浮かべ、宗像に問う。

「《異常(アブノーマル)》ってなんだ」

482 ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 21:57:13 ID:kaJTrOxA0
 極めて簡素な問い。
 宗像形は答える。

「《何かをすれば必ずそうなる》こと――《自分は「そういう存在」と思う》ことだよ」

 かつて雲仙冥利が言ったことを。
 先刻玖渚友に対して言ったように、告げる。
 宗像らの持つ――その《絶対性》を。あくまで逃れることのできない一種の呪縛を。

 そんな宗像の言葉に重ねるように、人識が一人、言葉を続ける。

「おめーら二人は知ってるかい?
 心っちゅーんがどこにあるかをさ。教えてくれよ、てめーらの冥土の土産によ」

 冥土の土産。
 その言葉を聞いて、蝙蝠は僅かに口角をあげて。

「分かった。じゃあこれでまた敵同士だ」

 瞬間の同盟を破却した。

 そして。
 彼の思考は一つの人物に絞られる。 
 意識する意識する。
 認識する認識する。
 確信する確信する。革新する。
 《王》、《発信(アクティブ)》、《創帝(クリエイト)》。
 そんな彼の異常性――曰く《人の心を操る》ことが自分にもできると。

        
「――――《跪け(ヒザマズケ)》」



 ○


 改めて説明するまでもないが、真庭蝙蝠が誇る忍法の一つ《骨肉細工》は相手を模倣する技だ。
 姿かたちは勿論のこと声質・体質、時に本質そのものさえも吸収する。
 相手の才能や天性までをも、自らのものとして体現してしまう、そんな技なのだ。
 思い返して見てほしい――尤も今現在の真庭蝙蝠の時間軸とはそぐわない話ではあるが――彼が鑢七花に化け、絶刀・鉋で襲った場面。
 つまりは真庭蝙蝠の死に際のことを振り返ってみよう。彼の敗因はなんだったであろうか。
 そう、鑢七花を体現しきったが故に起きた悲劇。
 《刀を扱えない》特性、つまり《刀を使用としても必ず失敗してしまう》特性故に敗北を喫した。
 それは、人間の《異常性(アブノーマル)》さえも体現する証左に他ならない。

 そして今現在、零崎人識が跪き、その反動で曲弦糸が解かれ、真庭蝙蝠と宗像形が自由の身となったこの場面を引き起こしたのは、
 紛れもなく真庭蝙蝠の《骨肉細工》――いや、この場合は《骨肉小細工》と言うのが適切か――の再現性の賜物と言ったところだろう。

 宗像形の助言に従い、《創帝(クリエイト)》都城王土が出来ることは自分にも絶対にできると認識した。
 曰く――人の心を操る。箱庭学園にて能力(スキル)の持ち主から直接聞いたことである。

「――――成程ねえ。確かにこれは説明が難しい」

 いつの間に声帯を変えたのか、供犠創貴の声で一人得心する。
 実際、都城王土の《異常性》の仕組みそのものは理解してはいるが、だからといって、使い方を学んだわけではない。
 自分は人の心を操れるという絶対的な確信が、現在起きている現象を引き起こしたの過ぎないのだ。

「《言葉の重み》か。懐かしいな、だから殺す」

 宗像形は手にしていた千刀を振り上げる。
 目掛けるは零崎人識の頭。《悪》を殺すべく、確固たる意志を以て。
 跪く人識の頭は、実に狙い易かった。

483 ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 21:57:37 ID:kaJTrOxA0

 そんな時だった。

「う、うう、うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!」

 刀を振り下ろし――もう間もなくで人識の命が断たれるとなったその直前。
 跪いていた当の本人、零崎人識が熱烈に叫んだ。

 叫んでから、人識は跪いた姿勢から横に跳ねる。
 それから一秒も待たず、数瞬前まで人識の頭があった場所に、ミリとも違わず千刀が振り下ろされた。

「へえ、動けるのか。だから殺す」

 攻撃の手を緩める道理はない。むしろここからが千刀巡りの真骨頂とも言える。
 宗像はそこらに刺さっている次の千刀に手を伸ばした。
 さも当然のように柄は宗像の手に収まり、すかさず人識に追撃する。
 跪いた拍子に斬刀を手放してしまった彼は、宗像と同様に近くに転がっている千刀を抜き取り、宗像の攻撃を弾く。
 右腕で放たれた一撃目を弾いたはいいものの――宗像により地に刺さっていた千刀の一本が蹴り飛ばされる。
 円を描く千刀は綺麗に人識へと向かう。弾くのは無理と咄嗟の判断を下し、軽快なステップで後方へ飛ぶ。
 未だ宗像の追撃の手は緩まらないが、一息つく暇は出来た。そこで思いの丈を叫んだ。
 
「び、ビビったあ! なんでテメーが《ソレ》を使えんだよ!
 あー、気合とはよく言ったもんだぜ。見たこともねえ善吉くんとやらには感謝しなきゃな」

 戦場ヶ原ひたぎと共に都城王土と遭遇した直後のこと。
 《一度味わったことのある》、という戦場ヶ原の言葉に疑問を覚えた人識が尋ねたときの話である。
 その時に様々なことを聞いたのだが――中でも特筆すべき内容は、人吉善吉という少年が、《言葉の重み》に耐えたというものだ。
 仕組みは単純明快。気合と根性。少年ジャンプさながらの理論である。

 それで、現在。
 零崎人識は再び立ち上がる。
 気合と根性の力を遺憾なく発揮して、《言葉の重み》を打破した。
 結界術などに耐性を持つことができた人識の器用さを加味しても不可能な事柄ではないだろう――。

 というのも理由として挙げられるが、それではあんまりにあんまりなので、ここで説得力を補強しよう。
 真庭蝙蝠が《言葉の重み》を使用した時の状況を思い返す。
 基部は零崎軋識、右腕と両足は都城王土、喉は水倉りすか、とつまりは忍法《骨肉小細工》を使用していた真っ最中であった。
 
 《骨肉小細工》には瞬時に身体の一部を変態させられる点と複数人の身体を同時に変態させられるという点。
 主に二つの利点がある反面、最大にして致命的な欠点がある。
 それは、変態した人間の力を良くても80%程しか使用できない点だ。
 すなわち、今回真庭蝙蝠が使った《言葉の重み》は不完全なものに過ぎないのである。
 都城王土本人の、換言すると100%の力を出し切った《言葉の重み》を味わった人識には確かに温いものだったのかもしれないだろう。

「はあ……、おれの奥の手があっさり打ち破りやがって、ふざけた野郎だ」

 人識の質問には答えず、ある種の呆れの混じった口調で応える。
 そう答える真庭蝙蝠はネットカフェの窓枠にしゃがみこんでいた。
 未だ宗像形と零崎人識はせめぎ合う中、一人戦線を離脱しようとしている。 

「きゃはきゃは――やってられっかよ。おれはここで退散するとするぜ」

 勝てない勝負を真っ向からするわけがない。
 彼はしのびなのだ。――先ほどまでが、おかしかっただけ。
 刀の毒に犯されてしまっただけであり、彼の本分は卑怯卑劣、不意を打つことにある。
 だから逃げた。
 非難を浴びようがなんだろうが、繰り返そう――彼はしのび。
 勝てない勝負を、ましてや真っ向勝負などするはずがない。
 彼は姿を消し、その場には宗像形と零崎人識だけが残る。

 蝙蝠の行為を許すまいと引きとめようとした人識であったが、一人の人間が間に入る。
 立ち塞がったのは、宗像形だった。
 《正義》の、男である。

「おいおい、逃がしていいのかよ」

 もう完全に蝙蝠の気配を逃してしまった人識は諦めたように肩をすくめ、宗像に問うた。
 宗像はピクリとも表情を変えず、坦々と答える。

「彼は確かに敵だ。殺さなくちゃいけない。
 でも、それでも優先すべきはきみだ。また変な技を使えないうちにね」
「ちっ、やっぱ気付いてやがったか」

 人識は露骨に嫌そうな顔をして答える。
 確かに現在、人識は曲弦糸が使えなくなった。
 理由としては明瞭で、跪いた際に糸が絡まったこと、及び宗像形が糸を斬ってしまったに起因する。
 元々はただの糸だ。そこに特別性など皆無である。それなら宗像が糸を斬り落とすことだって、何らおかしくない。
 千刀で一撃を振るいながら、人識の問いに対する答えを続ける。

484背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 21:58:24 ID:kaJTrOxA0
「それにさっきの口ぶりだと、既に戦場ヶ原ひたぎって人を殺しているらしい。
 それは見過ごせない。僕は火憐さんに代わり、悪を裁くんだ」

 阿良々木火憐の志を引き継ぎ――だけども彼女にはなれなかった彼は、人識を殺す覚悟を固めていた。
 《正義の味方》でなく、《正義そのもの》であろうとする彼は、人識に刃を向ける。
 対する人識は抜き取った千刀で宗像の攻撃をいなしながら、へらついた表情を浮かべた。

「あーそう。そりゃ重畳。殺人鬼が世間的には悪ってのは否定すべくもないな」

 元々武器の扱いそのものには難のある宗像――加え片腕が欠損した隻腕の彼を相手は容易い。
 おまけに出血多量で意識も正常ではないのであろう。剣筋が時折ぶれている。満身創痍であった。
 それでも、人識は宗像を殺すに至っていない。
 理由の一つに、どうせ殺すなら斬刀・鈍がいいということ。
 二つに、意識が朦朧としているとは言え、殺されない技術にも精通する宗像の隙そのものは零に等しいこと。
 面倒くさいと内心毒を吐きつつ、坦々と宗像の攻撃をいなし続ける。

「ちなみに火憐ってのはお前が看取ったりでもしたんか?」
「僕が引導を渡したんだ」
「ふーん、まあ変に気負うなよ。俺だって似たようなことをやったんだしな」

 匂宮出夢のことを想起しながら適当に相打つ。
 そこで、ふと思い出す。

「火憐って阿良々木火憐だよな? もしかすっと八九寺真宵って名前に聞き覚えはねーか?」
「……知らないよ。知ってても教えるつもりもないが」

 《負完全》球磨川禊が起こした七面倒臭い事態の解法でも見つけられたらとも思ったが、そんなに上手く事は運ばないようだ。
 思い返せば思い返すだけ、薄幸な女児だと感じるばかりである。

「まあ、いいや」

 考えていても仕方のないことだ。
 少なくとも、この場を何とかしない限りは。
 ここに立ち寄ったのは失敗だったかなあ、とぼんやりと思う人識である。

「で、なによ。火憐の遺志を引き継いで正義の味方にでもなるんかい?」
「違うよ。僕は正義そのものになるんだ。火憐さんの遺志を引き継ぐなんてたいそれたことはできないけどね」

 あの時。
 殺人衝動が消えた時。
 阿良々木火憐に誓ったこと。
 火憐に寄り添い生きていくことを、彼は今でも鮮明に覚えている。

「宗像くん、俺は他人の考えを理解しようだなんて殊勝な奴じゃねえが、
 それでも一つだけ、道を説いてやるよ。――なんて、殺人鬼に説かれちゃ終(し)めーだよな」

 宗像の一太刀を払いながら、かはは、と笑みを零す。
 
「人一人殺した程度で何かがどうにか変わるかよ。
 感傷に浸るのは勝手だろうが、履き違えちゃいけねえよ」

 ――だとしたら、俺は五月に十二回は転生している。
 人識は冗談めかして嘯く。

「よくいうじゃん。スプラッター映画やゲームが人間に悪影響を与えるっての。
 俺は順序が逆だと思うんだよな。――暴力や流血沙汰が好きだからそういう映画とかを観るんだろ? ってな。
 人間は人間を変えられないように、人間は人間では変わらないんだよ」

 変われない男。
 自分と鏡映しの欠陥製品を思い浮かべながら言う。
 つまりは、自分に言い聞かせる風でもあった。

「だから、背負わなくたっていいんだぜ? 変に縛られないでよ、好きなように生きればいいんじゃないのか?」

 変に気負っても兄貴みてーに死ぬだけだぞ。
 宗像にも聞き取れないような声で呟く。
 宗像は多少の間をあけ、それから彼の言葉を否定する。

「それも違うよ。零崎人識くん。人間は人間を変えることが出来る。
 それが――あんまり寓話的なことは言いたくないんだけど――きみの言うところの心の力だ」

 阿良々木火憐の姿が脳裏をよぎる。
 哀川潤の言葉が脳裏をかすめる。
 様々な出会いがあった。別れがあった。
 ――その中で、ようやく宗像形と言う存在は変わることができたんだと、彼は覚える。

485背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 21:59:22 ID:kaJTrOxA0
「人を裁く以上、多少の無茶はあるかもしれない。ともすれば火憐さんの望まないことだってやる羽目になるかもしれない。
 それでも僕は、火憐さんの心に応えたいんだ。それが、僕のしたいことだから」

 彼女の信じた、自分自身を信じる。
 ――《正義そのもの》としての使命を、全うしたい。
 人識にしてみればついていけない思考だった。辟易とした表情を浮かべる。

「わっかんねえなあ。じゃあ教えてくれよ。心はどこにあんだ?」

 先ほどの問いを繰り返す。
 宗像は迷うことなく答えた。

「だったら殺してみなよ。僕の中には火憐さんのような、燃える心があるはずだから」

 だから、殺すと。
 凄まじい速さで突きを繰りだす。
 人識は愉快そうに頬を歪ませる。

「へえ」

 ここでようやく、人識の意識が宗像へ向く。
 藍色の瞳の奥で燃える情動を感じた。
 そういえば、《正義そのもの》の属性(カード)は解してねえな、と独り言つ。

「そりゃあいいや」

 人識の瞳の色が変わる。
 飄々とした、掴みどころない態度が一変した。
 少しでも近づけば、良いも悪いもなくすべて等しくバラバラにされそうな佇まい。
 《殺し名》序列第三位の座に違わぬ気迫――鬼迫。これはまさしく、《鬼》の証。

 宗像の突きを人差し指と中指で挟む。
 それだけで、刀の動きが完全に静止する。
 宗像は刀を手放し、一度距離を置く。

 だが、攻撃の手はあくまで緩めない。
 偶然の産物でしかないが――今この場は、千刀巡りの舞台の上。
 宗像の土俵の上なのだ。次なる刀を携え、地と並行に構える。

 人識は挟んだ刀を刀身から折って捨てる。
 そして新たに千刀を握った。斬刀ではないのが口惜しいが――それは蝙蝠の時のためにとっておこう。
 意を改め、標的を両の瞳が捉える。両手に刀、つまりは臨戦態勢だ。
 今ここで言うべき言葉は決まっている。


「そんじゃいっちょ、殺して解して並べて揃えて、晒してやんよ」
「だから裁」



 ――――ボン、と鳴り響く軽い音。


「く」


 その次の言葉を繋ぐはずの口が、頭もろとも宙を舞う。
 頭部をなくした身体が、徒然と立ち尽くしている。
 爆発による火花が原因だろう、宗像の首元だったであろう場所は、微かに燃えていた。

486背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 22:00:32 ID:kaJTrOxA0

 ○


 供犠創貴と真庭蝙蝠とが宗像形とはどういう人間かの説明を受けた後。
 つまりは玖渚友とネットカフェで対談した後のこと――真庭蝙蝠は一人退室するように促される。
 理由としては宗像形の見張りという尤もなものであったが、しかし真庭蝙蝠が真面目に仕事をしたかと言うとそんなことはなかった。

 真庭蝙蝠は考える。
 裏切るのならそろそろ頃合いなのではないかと。
 しかし、供犠創貴、及び玖渚友が単なる無能ではない、同時に非力な人間であることは承知していた。
 結果としてまだその時機ではないと判断する。殺す機会はいずれあるだろう――ともすれば、自分が手を下す必要もないかもしれない。
 それでも、何か弱みを握ることはできないだろうかと、残された供犠と玖渚の会話に耳を傾ける。

 真庭忍軍は暗殺に特化したしのびではあるが、忍者である以上諜報活動などの基礎などは会得していた。
 幸いなことに、ネットカフェに防音装置は備え付けられてなかったので辛うじて会話を聞きとることができる。
 蝙蝠からしてみれば残念ながら、二人の(ついでに場に居合わせている水倉りすかの)弱みなどを握ることはなかった。

 それでも無駄であったかと言ったら、そういうわけではなかった。
 耳にしたその瞬間こそ、大して意味のない行為であったと流したが、思い返して見ると中々愉快な会話である。

「――つまり、都城王土の《異常性(アブノーマル)》は《人心掌握》というよりかは、《電気操作》っていうことか」
「そう。環境次第では雷の放出も可能なようだけど、行橋未造がいない今は不可能だとは思うよ」

 供犠が言葉にして整理するのを、玖渚が補足を加えながら確かな情報として固める。
 これそのものも蝙蝠にとっては有益な情報ではあったが、《異常性》の使用法を認知していない。
 そこまで重要性を感じずにいた。

「確かに人間には電気信号が流れている――その電気を操れば擬似的な《人心掌握》は可能だな」
「厳密に言うと機械と人間とに流れている電気は別物なんだけど――まあ結果として操れるんだからその辺は良いかな」

 そこで一度会話が途切れた。
 仕切り直す様な溜息が蝙蝠の耳にも届く。
 
「しかし驚いちゃった。きみたち、都城王土に遭遇していたんだね。それはなんともな奇縁だよ」
「ぼくとしてはあんたが都城王土を知っていることの方が驚きだけどな」
「その辺は追々としてさ、何か掴めた?」

 しばらくの間が合って、供犠の声が聞こえる。

「さっき首輪の構造とか解説してたけどさ。――言って首輪も所詮はコンピュータで動くような代物だろ?」
「まあ、そうだね。現状どうしようもないっていうのが判明したけど、設備と道具さえしっかりしてれば何とか出来なくもない……ってのは話したよね」
「ああ、その点に関しては信用するほかないからな。信用はしている。けど」

 そこで、供犠は言葉を区切る。
 推察するに、頭の中で情報を整理して、何か言葉を選んでいるようだ。

「あいつの《電気操作》は主催者の一員の能力だ。都城王土が実地班だったことを踏まえても、あまり対策が練られてないんじゃないかと思ってな」
「確かにそうかもしれないけど、それがどうしたの? 話を聞く限り――行橋未造を探さないことには、彼をこちら側の駒として考えるのは早計じゃない?」
「その通り。だけど、そいつの力なら首輪の解除ぐらいなら可能である確率は高そうなのには違いない」
「むー、もしかして首輪の解析なんて無意味だって言いたいの?
 僕様ちゃんの苦労を全否定だなんておーぼーだー! 英語風に言うとOH Border!」
「そういうつもりもないんだがな、これまで通り首輪の解析にも努めてほしいんだが……」

 そこで、供犠は会話を打ち切った。
 まだ確証を持てることではない。話すような時機ではない、と。
 しばらくの間をおいて、今度は玖渚から言葉を切り出す。

「……さっきは、ああ言ったけど、都城王土が必ずしも首輪を解除できるかって言うと、そういうわけじゃないことは覚悟しておいてよ。
 人質が囚われている件といい、元々の不知火袴との関係性を顧みても、彼は主催の中でも単なる末端である可能性は重々ある」
「末端ならば切り捨てても構わない――首輪の構造なんて知る必要もないってことか」
「敢えて常識に囚われるんならさ、解析解除なんて、構造を知ってこその話じゃない?
 それこそ、彼に僕の《異常性》でもあれば話は別だけどね。残念ながらそうじゃない」
「蓋を開けてみないことには分からない、か。どちらであれ、もう一度会う必要があるようだ」

487背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 22:01:52 ID:kaJTrOxA0

 どちらのものかも分からない溜息を聞いて、蝙蝠は静かに鼻を鳴らす。
 首輪の解析なんて関係ない。結局のとこ、ルール無視をしない限り、自分が優勝すればいい話なのだ。

 随分と昔にも感じるが、スーパーマーケットで某戯言遣いが真庭忍軍の長・真庭鳳凰に告げたように、
 優勝した後、不知火袴と言う老人が当初の約束事を反故する可能性もある。
 最後となった者の首輪を爆発して幕を締めくくる――なんて落ちも考えられる以上、そりゃ首輪を解除するに越したことはない。
 しかし、それでも最優先に考えるべきことにはどうしても思えない。

 これ以上はいいだろう――と真庭蝙蝠は踵を返し宗像形の眠るロビーへと向かう。
 足音一つ立てずに歩く様は、まさにしのびの鑑と言えた。


 ○


 その姿は――不思議と整ったものである。
 傲然とした風貌に、逆立つ青髪に、青い瞳。
 真庭蝙蝠が変態した姿は、紛れもなく都城王土と、玖渚友。
 《改竄(ハッキング)》と《発信(アクティブ)》の結合体だ。

 忍法《骨肉小細工》応用編。
 複数人の姿に擬態して――他人の《異常性(アブノーマル)》を複合するという技術。
 今回の場合は玖渚友の《超人的電脳理解》及び《改竄技術》と、都城王土の《電気操作》の複合により、超越的な改竄能力を手に入れた。
 それは、このバトルロワイアルにおいて肝ともなる首輪の誤作動を招くほどの力を持っている。

 真庭蝙蝠は逃げちゃいなかった。
 むしろ、ずっと機を窺っていたのだ。
 宗像形の溢れんばかりの殺意に紛れてひっそりと、ネットカフェの外で。
 殺意に敏感な零崎人識でも捉えきることは出来なかった。
 曲がりなりにも、身を隠すのはしのびの得意分野なのだ。

 そして現在。
 宗像形の首輪が爆発し、宗像形の首が宙を舞っている。
 明らかに――火を見るよりも明らかに、死んだ。

「――っ!」

 人識は僅かに垣間見た殺意の出所へ駆けつけるべく、ネットカフェを窓から飛び出した。
 しかしそこには人の姿はとっくになく、もぬけの殻である。

「蝙蝠、か?」

 言葉にしてみるが、返事が返ってくるわけもない。
 しばらく沈黙し、考察してみるも、これといった妙案が浮かぶ訳もなく、確固たる証拠を発見することもなかった。
 手詰まりである。
 深い溜息を吐き、げんなりと肩を落とす。
 結局のところ、人識は何の成果を得ることもなかったのだから。

 殺そうと思えば、曲弦糸で縛りあげた時に殺せただろう。
 しかし零崎人識はそれをしなかった。
 率直に告げるなら、恐れたのだ。
 零崎一族の切り込み隊長にして長兄・零崎双識から伝え聞いている奇襲。
 曰く、手裏剣砲。口から凶器を解き放つ技だという。
 そんなものがあると聞いちゃあ、のこのこと近づく訳にはいかなかったのだ。
 故に確かめるように一歩一歩着実に歩を進めたのだ――その結果が今現在だと言うと、てんで笑えないが。

 それでも人識は笑う。
 かはは、といつもと変わらぬ調子で。

「逃げられちまっちゃあ仕方ねえか」

 気持ちを切り替えた人識はネットカフェに戻り、突き刺さった千刀の幾つかを見繕い、落ちていた斬刀と絶刀を拾い上げる。
 ついでにと、宗像のものであったろうディパックの中身を移し替えた。斬る
 少し整理の必要があるとも感じたが、斬る、最終的にはドラえもんよろしく四次元ポケット空間の利便性に、斬る、甘んじる。
 どれだけ入れても、斬る、満たされないというのはありがたいものだ。

488背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 22:02:36 ID:kaJTrOxA0
 
 出発の準備を済ませて軽く身体を伸ばす。
 軽く欠伸をしながら斬る。
 宗像形の身体を切り刻む。
 液体と固体との区別がつかなくなった頃、彼は手を休めた。

「…………ねえじゃんかよ、正義の心」

 やれやれといった調子で呟いて、されど昔ほど気に留めることもない。
 むしろ良く斬れる斬刀・鈍の切れ味に興味が惹かれる。
 ――何でも切れるとはよく言ったものだ。
 骨も肉も関係ない。この刀を前にしたら、そんなものはもはや同一である。

 満足いったのか、にやりと口角をあげると。

「さてと、そろそろ欠陥製品が死にかけててもおかしくない頃かな」

 戯言遣い――《なるようにならない最悪》――《無為式》。
 死んだ魚のような目をした彼をちょっくらおちょくりに行くかと、ランドセルランドへ歩み出す。

 途中転がっていた摩訶不思議な格好をした死体を通り過ぎ――。
 そこで思い出したように、そして面倒臭そうに。


「そういや伊織ちゃんはどうしてっかねえ。いまいち気乗りしねえが、どーすっかなあ」


 呟くのであった。



【1日目/夜中/D-6】

【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×6@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数、絶刀・鉋@刀語
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 1:水倉りすか、供犠創貴を捕まえるか殺す。この辺りにはいるんだろうし。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

489背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 22:03:44 ID:kaJTrOxA0


 ○


 さて、行方を眩ました真庭蝙蝠。
 彼の行った作戦は成功でもあり――同時に失敗でもあった。
 確かに見事、首輪を爆発させるという結果には辿りつく。
 だが、実のところ真庭蝙蝠が狙ったのは宗像形ではない。《殺人鬼》零崎人識である。
 さもありなん、これまでの《零崎》との奇縁を断ちきる必要もあり、かつ、人識の力が想像よりもはるかに強大だったからだ。
 《言葉の重み》に一定の耐性を得てしまった今、正体不明の奇術・曲弦糸を何度も何度も使われては敵わない。
 加え、陰から覗いてみるに、何も彼の本分は曲弦糸にあるわけではないらしい。
 観察すればするほどに、出鱈目な奴である。
 だから排除しようとした。

 しかし、ここで計算違いが起こる。
 というよりも、単純に蝙蝠が見誤っていた。
 正鵠を射るならば、過信をしてしまったというべきか。

 真庭蝙蝠が当初推測したように、忍法《骨肉小細工》の再現度は良くて精々が80%。
 仮に玖渚友と都城王土との異常性の再現度が並立して100%を誇ることに成功したならば、今回の失敗は起こらなかったかもしれない。
 だが現実には、忍法《骨肉小細工》で80%を越すことはない――完璧とはよほど言い難いのだ。

 ならば。
 多少の過ちが起こることは道理とも言える。
 完璧ではないのなら、それが偶然であれなんであれ、どうしても綻びは生じてしまう。
 間違って宗像形の首輪を爆発させてしまったという過ちも、起きる可能性は十分にあった。

 彼の名誉のために補足するならば、ただでさえ蝙蝠が忍法《骨肉小細工》を使用したのは、先ほどが初めてなのだ。
 使い勝手など掴めていなくても仕方のないこと――《異常性》の結合させるという応用技術を実行できただけでも本来なら称賛に値する。
 失敗したのには、確かに彼自身に非はあるだろう。それでも責められるべき話ではないのだ。

 さらに付け足すならば、変態する相手の片割れが玖渚友であったというのは始末が悪かった。
 玖渚友自身、自ら内包する《異常性》を御しきれているかというとそうではない。
 あの青髪を――天才ゆえの劣性の証を見れば、一目瞭然である。
 身体を崩壊させてしまうほどの過剰すぎる《異常》――極めて特異な代物を他人の《異常性》と併用できるはずがない。
 ましてや失敗したからと言って、首輪の爆発を連続して起こせるはずもない――そんなことをしたら蝙蝠の身体が自壊する。

「――――っっっ」

 目眩がする。
 かつてないほどの嘔吐感が苛む。
 組み合わせとしてはこれ以上ないほど上出来なものだったが、噛み合わせはこれ以上なくなく悪かった。
 《暴君》と《王》の手綱を一度に引きうけるのは、流石に無茶が過ぎる。

 失敗を悟った蝙蝠は、直ぐ様――今度こそ真の意味で戦線を離脱する。
 人識とは紙一重。
 身体が都城王土であったことが幸いした。
 全身から発せられる、肉体が引きちぎられるような強烈な違和感の中、それでも辛うじて逃げることができる。
 走りながら《骨肉小細工》を使用して、変態する片割れを玖渚友から零崎軋識へと代えた。
 そうすることで、徐々に身体を蔓延っていた苦痛が収まっていく。

 忍法《骨肉小細工》は、皮肉なことに名前の通り、所詮は小細工にすぎず、小手先でしかない。
 万事がうまく進むだなんて、あり得ない――それこそ《「魔法使い」使い》のように、作戦を入念に練り闘うことを滅多にしない蝙蝠のことだ。
 今回の首輪の爆発だって、転がっていた断片(フラグ)を拾い上げただけに過ぎないのだから。
 失敗はどうであったって、ついて回る。

 人識を撒けたと判断し、足を止めて呼吸を整える。
 一息ついたところで、お家芸である《骨肉細工》で姿を都城王土で統一した。
 なんだかんだで、やはり一つの身体で統制を執るのが落ち着くことに違いない。

「忍法《骨肉小細工》」

 さて、どうしたものか。
 身体に生じる違和感――正直なところ、もう二度と味わいたくない。
 それでも、可能性を感じる技であることには確信を持っている。
 事実、ルールを無視したわけでもないのに首輪を爆発させる離れ技をやってのけた。
 これは是非とも活用したい。もっともっと、自分の可能性を確かめてみたい。

490背信者(廃心者)  ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 22:04:11 ID:kaJTrOxA0

 ――とはいえ、乱用できないのは正直なところだ。
 他の身体で組み合わせたらどうなるのか、まるで見当が付かない。
 もしかすると、今回蝙蝠が味わった不快感を上回る衝撃が襲うかもしれない。
 そうなるといよいよ逃げることさえ叶わなくなるだろう。

 首輪を爆発させることだって同様だ。
 今回こそ、運悪く――いや、運よく宗像形の首輪が誤作動したけれど、あの場面、真庭蝙蝠の首輪が誤作動する恐れだって、十二分にあった。
 陰からこっそり奇襲を仕掛けようとして、勝手に自滅していては、それこそ目もあてられない事態に陥る。

 まだ研究が必要だ。
 まだまだ追究が必要だ。
 それまでは封印するべきか……?
 しかし使用してみないことには探求もなにもない。
 堂々巡りする思考の果て、一つの案に収斂する。

「ここまで来たんだ、あのがきを利用するだけ利用し尽くしてやるか……?」

 自称するだけあり、彼の頭脳は利用する価値がある。
 実際、蝙蝠が《骨肉小細工》という発見に行きついたのも――首輪を爆発させるという発想に辿りついたのも、供犠創貴の言葉があったが故だ。
 懸念要素として、彼自身は非力ではあるが拳銃と言う凶器が挙げられる。それでも心臓さえ守れさえすれば十分に対応できる。

「そりゃいいや」

 きゃはきゃは、といつものように笑う。
 すっかりいつもの調子を取り戻したようだ。

「つっても、ちょいと疲れちまったな……」

 宗像形の戦闘の際の傷は、先ほどの《変態》で癒されている。
 さもありなん。彼の《骨肉細工》は本来《擬態》に意味があるのだ。
 余計な傷のついた擬態に何の意味がある? そんな邪魔でしかない傷など残すわけがない。
 どうやって? ――小さな子どもから巨漢の男まで変態する彼に、今更その程度の理屈を求める方がどうかしている。

 しかし、それでも疲れは溜まるものだ。
 慣れないゆえか、余計な神経を使う《骨肉小細工》の使用も相まって、想像以上の疲労が蓄積されている。
 嘆息しながら腰を下ろす。

「どうすっかねえ」

 真庭蝙蝠は零崎人識の声でけらけら笑う。
 それはそれは、愉快そうに。


【1日目/夜中/E-5】

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、都城王土に変態中
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう? あるいは休む?
 2:強者がいれば観察しておく
 3:行橋未造も探す
 4:黒神めだかに興味
 5:鳳凰さまが記録辿りを……? まさか川獺が……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、宗像形、元の姿です
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました。




 ○



 切り刻まれた死体がある。
 約五百の墓標に沈む、解された死体があった。
 元の名を、宗像形と言う。

 その姿は凄惨かつ悲惨なものだった。
 あくまで正義を標榜し、邁進した男の末路にしてはあまりに憐れな幕切れである。
 恐らくは死ぬその直前まで、何が何だか分からなかっただろうに――。


 ――それでも彼は救われたのだろう。
 最後の最後まで、正義を信じ、阿良々木火憐と共に寄り添うことができたのだから。
 誰が何と言おうとも、報われ、悪を排する正義に殉ずることが出来たのだ、と。


 なんて、心にもないことを言うつもりはない。
 宗像形。
 《正義》に囚われた男。
 人は決して他人になれるわけないのに、《正義そのもの》に妄執しまった男。
 
 
 人を愛した殺人鬼、ここに死す。


 ――人間の死には《悪》って概念が付き纏うんだとよ
 じゃあ、彼にとっての《悪》とはなんだったのだろう。
 真庭蝙蝠が引き起こした偶然で死んでしまった彼の、なにが《悪》かったのだろう。




【宗像形@めだかボックス 死亡】

491 ◆xR8DbSLW.w:2014/11/26(水) 22:05:30 ID:kaJTrOxA0
以上で投下終了です。
何か指摘感想などありましたらよろしくお願いします。

492 ◆xR8DbSLW.w:2014/11/28(金) 00:30:51 ID:YO65HuEk0
別所で指摘を受けましたので、少し修正を加えます。

>>488

>やれやれといった調子で呟いて、されど昔ほど気に留めることもない。
>むしろ良く斬れる斬刀・鈍の切れ味に興味が惹かれる。
>――何でも切れるとはよく言ったものだ。
>骨も肉も関係ない。この刀を前にしたら、そんなものはもはや同一である。

の最後に以下の一行を追加。

 実はこの時、誤って薄刀・針をも斬ってしまったのだが、認識もしてない人識には関係のない話だった。


及び、同じく>>488

>「さてと、そろそろ欠陥製品が死にかけててもおかしくない頃かな」

>戯言遣い――《なるようにならない最悪》――《無為式》。
>死んだ魚のような目をした彼をちょっくらおちょくりに行くかと、ランドセルランドへ歩み出す。

>途中転がっていた摩訶不思議な格好をした死体を通り過ぎ――。
>そこで思い出したように、そして面倒臭そうに。

>「そういや伊織ちゃんはどうしてっかねえ。いまいち気乗りしねえが、どーすっかなあ」

>呟くのであった。


を、以下の文章に差し替えます。


「さてと、そろそろ欠陥製品が死にかけててもおかしくない頃かな」

 戯言遣い――《なるようにならない最悪》――《無為式》。
 死んだ魚のような目をした彼をちょっくらおちょくりに行くかと歩み出す。

 玄関に差し掛かったところで、はたと電話の主を思い出す。
 欠陥製品を思い浮かべていたら、あの溌剌とした声を連想したらしい。

「そういや無事に、禁止エリアから逃れられたのかね」

 心配する間柄でもない。
 それでも聞いてしまった以上は意識してしまう。
 もしかすると先の宗像形のように首が飛んでいるかもしれない。

「――なんて、そんな柄でもなさそうだな」

 あの一瞬だけで理解した。
 理解させられた――というべきか。
 なるほど、欠陥製品の知り合いなだけある。
 人識は一人納得し、場所も場所だし案外近くに居るかもなと――適当なようで殊の外事実をかすったことを口走るが、
 彼としても深く考えて喋った訳ではない。あっさりと流す。

「あー、そういや」

 何も考えなくてもいい時に限って、無駄に頭は働くものだ。
 鮮烈な印象を残した彼女との会話を思い返していると、会話中に出てきたあのスパッツ女を思い出す。
 あーあ、と漏らしてから、面倒臭そうに。


「伊織ちゃんはどうしてっかねえ。いまいち気乗りしねえが、どーすっかなあ」


 呟くのであった。


という形に変更します。ご迷惑おかけしました。
この他にも指摘感想等ありましたら、よろしくおねがいします

493名無しさん:2014/11/28(金) 08:48:53 ID:1TMOol1.0
投下と修正乙です
結果だけ見れば蝙蝠の一人勝ちか
でもその場所にそのままいたら七実ねーちゃんがやってくるかもしれないからさっさと動いた方がいいぞ…w
しかし誤作動はまずないと言われていた首輪を暴発させるとは骨肉小細工すげー
割を食った宗像くんは運が悪かったんだね、としか…
お疲れ様でした

494名無しさん:2014/12/19(金) 00:47:21 ID:u4KXhvyI0
告知age
明日20日に毒吐き別館の交流雑談所にて毎年恒例のロワ語りが行なわれるのでよろしければご参加ください

495 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:40:18 ID:IG39iMCA0
投下を開始します

戯言使い、八九寺真宵、羽川翼、櫃内様刻、無桐伊織、日和号です

496三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:42:08 ID:IG39iMCA0

 0



「ずばり聞いてもよろしいでしょうか?」

などと言ってみます。
それに対する返事は簡単なものでした。

「私に分かることだったら」

ならば、とでも言うように。
頷いた彼女に言ったのです。

「実は、優勝する気はないでしょうか?」

と。



 1−1



ともあれ一人で歩いていた。
ランドセルランドは思いの他に広い。
幸か不幸か暗くもない。
これでもかとある照明の数々を観れば分かるけど。
空の満月すら霞んで見えるほどだ。
そう言えば夜間営業なんてしてて良いのかと思わないでもない。
全くこれっぽっちも現状にそぐわない考えだけど、何ともなしに思いながら。
ともあれ一人で歩いていた。
三人一組で歩き回ってると広過ぎるからだ。
いや、理由はそれだけじゃない。
一人で済ませたい事があった。
現状の整理。
他にいても出来るじゃないか、と誰かに突っ込まれれば確かにその通りだろう。
だけど一人でこそ捗る思考もある訳で。
その辺りはご容赦願いたい。
それも理由の一つに過ぎない。
言ってしまえば戦力の分散。
真宵ちゃんと翼ちゃん、それにぼく。
はっきり言おう。
戦闘力がない。
申し訳程度に銃があるけどそんな代物を意に介さない、もとい威と解さないような相手を知っている。
あの二人は言うに及ばず。
全身口を呼び起こす魔法使いツナギ。
忍と言うには変わった装束の真庭鳳凰。
えーと誰だったかいた気がするけどまあいいや。
人間未満。
それを慕っていた古風な刀の鑢七実。
人間失格。
最強が評価の言葉を口にしたその家賊達。
そして。
人間未満が勝ちたいと言った。
大嘘でも戯言でもない真実を口にした、口にさせた黒神めだか。

497三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:43:54 ID:IG39iMCA0

「……あれ?」

銃が役立ちそうにない相手、多過ぎないか。
そう思ってみて首を振った。
潤さんからして今更だった。
それにそもそもの話だけど。
ぼくの武器は、銃じゃない。
舌先三寸の戯言なんだから。
それこそがまあ戯言だけど。
兎にも角にも、居る気がするんだけどどうしても名前は元より存在自体思い出せない一人は置いといて、十一人。
おいおいおい。
ぼくが知ってるだけでこれだ。
間接的に入れてるのもまあいるけど、大体直接遭った相手だ。
知らない人もいれたらどうなることやら。
今更のように放り込まれた場所の恐ろしさを感じずにはおれない。
と、同時に不審にも思う。
何度目になるかも分からない不審を。

「………………」

どうして何の戦力を持ち合わせてもいない一般人がこんな人外魔境の中に放り込まれているのやら、と。
そう言う意味で考えられるのはバランスの調整か。
例えば一部のゲーム。
最強のカードが最弱のカードにのみ破れ得るルールがある。
過ぎた弱さは強さをも上回る、などと言う都合の良い論理展開をされても困る訳だけど。
だけど実際。
強い相手から見れば弱い相手は見逃す対象になるかも知れない。
弱い相手から見れば強い相手の隙を逃す訳がないかも知れない。
強いが故に弱者に晒す隙。
弱いが故に強者を逐う念。
これがあるいは全てを台無しにしかねない。
卓袱台をひっくり返すみたく『虚構』にだ。
あるいは、

「…………」

あるいは。
友情と努力が勝利をもたらすとでも本気で思っているのではないだろうか。
全くもって戯言だった。
そうして何度目かになる思考を一旦閉じる。
徹底的に情報が、と言うより向こうの意図が読めない。
だから無価値。
脇道に逸れ過ぎだ。
要するに一カ所に三人集まってても無意味だ。
何かしら逆転の一手がある場合ならまだしも。
それ以外でも三人集まっても下手したらエサ。
食い散らかされるのがオチ。
いや。
分散した結果が各個撃破なんてのも悪魔的でもあると言えばある。
でも悲鳴の一つでもあれば、銃声の一つでもあれば、対抗し得る時を稼げるかも知れない。
全部ただの戯言だ。
本当の所は違う。
単なる言い訳。
この場合、はなはだ状況とは合わないことだけど、気まずくなったのが一つある。
自分の口で確かに言ったけどさ。
聞いてくれるなと思わないでもないけど。
聞かれたら答えるしか、ないじゃあない。
黒の下着って言っちゃったわけだけども。
でも、それでも、だ。
あの非難の籠もった真宵ちゃんの目はキツい。
無意識なんだろうけどさ。
無意識なんだろうけどさぁ。
割と真面目に。
見たくて見た訳じゃないし。
見たのは確かだけど、あんなの不可抗力ですやん。

498三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:44:21 ID:IG39iMCA0

「いやいやいやいやいや」

自分の心の中の台詞までおかしな事になってきてる。
言ってしまってから思い返すと。
ブラック翼ちゃんが現れた時の姿。
黒の下着。
白い素肌。
うん、不健全の極みだ。
今でこそ服を着てるけど、意外にメリハリのある体。
友が下着姿でいたとしてもどうとは思わないだろうに。
戯言だけど。
あ。
この場合は戯言で済ませない方が良かったんじゃ。
足を止めて思い返しても遅い。
むっつり認定だ。
いやだが待って欲しい。
口に出していないだけぼくは無実であり無罪だろう。
などと訳の分からない言い訳をしてみる。
戯言だけどね。
そう言う事に、しておこう。

「…………」

そぞろそぞろ、で意味はあってたと思う、歩き続ける。
先行きは見えない。
はっきり言えば雲の隙間ほどの光も見当たらない。
でもそれは。
多分きっと。
皆が集まれば解決できる。
僅かであっても光が見えてくるはずだ。
はずだ。
こんな考え。
ご都合主義なこと極まりないだろう。
ごくありふれた甘過ぎる程の期待だ。
でも、と。
多分、と。
思わないではおれない。
今までは今までで上手く行かない事が多過ぎる。
だからこそ、と思いたい。
あの人が前に言った事を、思い返さずには居られない。

499三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:44:48 ID:IG39iMCA0

『ハッピーエンド以外認めねぇっつーの』

こんなぼくに。
十字架に押し潰されたぼくに。
墓地に埋め尽くされたぼくに。
そうなる資格があるかとか。
そうなって良いのかだとか。
関係なく。
感心なく。
シニカルな笑みを浮かべてただ一言、そう言ってくれた。
ああはっきり言おう。
未だに信じられない。
ぼくは信じたくない。
でも多分本当の事だ。
否が応も有りも無く。
哀川潤は死んだのだ。
否定も否決も否認も。
意味も持ちはしない。
事実事象が実体として実行された。
何がどうしてそうなったかまでは知りようは、ないけれど。

「哀川さん」

未練がましく、試しに、呼んでみる。
反応はない。
普段ならきっと、偶然近くでにもいた潤さんに頭を叩かれる所だろうけど。
敵認定されたくないけれども。
反応はない。
だからこれは全く無意味な宣誓だ。
全く無価値でしかない宣言だろう。
それでもあの世にいるかも知れない潤さんに、伝えない訳にはいかない。
空を見て思う。
空を観て想う。
戯言だけど。
戯事だけど。

「ハッピーエンドに、してみせますよ」

500三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:46:02 ID:IG39iMCA0


 1−2



「なんでそんなことを聞くのかしら?」

近くのジェットコースターが二周ぐらいはした頃でしょう。
ゆっくりとその目が細くなりました。
さながら。
獲物を狙う虎のように。
と言うのは当然ながら言い過ぎです。
私の先入観がそうさせている物。
理解しています。
了解しています。
ですが一度でも。
一度でも思ってしまえば、その視野を捨てるのは至難の技です。
いやーな汗が、流れるのを感じます。
見詰め合ってどれだけ過ぎたのか。
音の感覚も何時の間にか消えていた所で、ふと羽川さんの表情が弛みました。
同時に、

「はふっ」

っとどうも止めていたらしい息が漏れます。
ですが一度でも口に出してしまったことは戻るものではありません。
どことなくひんやりとした空気が流れています。
肝試しってレベルの話じゃありません。
いやまあ優麗なんですけども。
失礼、噛みました。

「……それで、なんでまた私が優勝する気なんじゃないかって思ったの?」
「いえ、ただのギャンです」
「ギャン? モビルスーツの?」
「失礼、噛みました」
「そうなの」
「そうです」

くっ。
流石は羽川翼さん。
思うように私のペースに持ち込めませんね。
ですがしかし。
それでこそ噛み甲斐があると言うものです。

「聴覚としてですね」
「……噛んだ?」
「しちゅれい、かみゅまむた」
「噛み過ぎよ」

501三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:46:59 ID:IG39iMCA0

くっ。

「ふっふっふ……お遊びは止めろと言うことですか……良いでしょう……」
「…………まあ、良いか」

おっと、何やら遠い目をされている気がしますね。
しかし私は気にしませんよ。
強い子ですから。

「んー、何からお話ししましょうか?」
「じゃあそもそも、なんでそう思ったかだけでも聞かせてもらえる?」
「それは簡単です。あなたは頭が良いからです」
「答えに」
「なっています」
「……聞かせてもらえる?」
「頭が良いあなたなら、きっと気付いているんじゃないかと。これの終わりを」
「………………」
「いえ、これはあらかじめ伏線を張って置く訳ですけども別に洒落言使いさんを否定したくて言う訳じゃありませんよ?」
「…………」
「長々と言うのもあれですから言ってしまいましょうか。この先の行方、と言いますかこのバトルロワイヤルとか言う大層ふざけた催しの結末ですが、

 トゥルーエンド以外にありえないでしょう。

 ああ、いえいえ、別に戯言使いさんを否定したいから言ってる訳じゃないんですよ?」
「えぇ、分かってる」
「えぇ、そうでしょう。なら、わたしの言おうとしていることも分かってますよね?」
「これの結末は、バットエンドはなりようがあってもハッピーエンドになりようがない。そう言うことよね?」
「はい。大変言い辛いことですから中々言えない事でしたけど、この際はあなたにだけぶっちゃけちゃおうかなーと」
「何で私に言うのかな?」
「んもー、そうやってはぐらかそうとする」
「そう言うつもりは、ないんだけどね」
「ぶっちゃけちゃいましょうよ。ズバリ言うわよしちゃいましょうよ。夜の女子会みたくーチョーヤバーイみたいな」
「残念だけど私、そう言うのに参加したことないから分からないかな」
「でも本心を晒すと言う意味ぐらいは分かりますよね?」
「……はぁ。分かった」
「と言うことですのでどうぞ」
「いーさんは、皆を幸せにしたい」
「はい。一気に思い出しましたから気付きました。ですがそれは、よくよく考えなくても不可能なんですよ」
「……言い換えればハッピーエンドを迎えたい。でももう死人が出た以上、どうやってもハッピーエンドにしようがないって言うんでしょう? 仮に限りなくそれに『近い』ものになったとしても、それはどうやっても『近い』以上には成り得ない」
「…………はい」
「……気が、重いことにね」
「……はい」
「最早どうやろうとも、ハッピーエンドに持って行きようはない」
「…………………………羽川翼さん」
「何かな、真宵ちゃん?」
「言いましたよね、本心を晒そうって?」
「言ったね」
「だったらなんで、嘘を付くんです?」
「嘘?」
「えぇ、嘘です。わたしでも思い付いたことを、あなたが思い付かないはずがないんですから」
「それはどうかしら? 別に私は何でも知ってる訳じゃないわ」
「知ってることだけ、ですか?」
「その通り。知らないことは知らないもの」
「では状況を整理しましょう。今現在の所の死人は何人でしょうか?」
「 人ね」
「でしたらこの人達を何とかする方法がありますか?」
「ないわね」
「あります」
「ない」
「ある」
「無い」
「有る」
「無いわ。死んだ人をどうにかする方法なんて無いに決まってるじゃない」
「あるじゃあないですか。二人」
「二人も?」
「も、などと言ったのはまあ聞き逃しておきましょう。兎も角として二人。

 主催と球磨川禊。

 このお二人ならば可能でしょうね、死んだ人をどうにかするのも」
「だったら簡単ね。球磨川さんを説得して最後まで乗り越えた上で何とかして貰う。それが理想解でしょう?」
「はい、そうです。球磨川さんが、説得に乗って、皆を何とかしてくれる。これが理想解です。はい、理想です」
「そうね」
「はい。理想です。理想なんです。理想に過ぎません」
「……なにが言いたいのかしら?」
「お分かりでしょう? 第一に、あの人が説得に乗ってくれるかどうか。第二に、そもそも言う通りにしてくれるか。第三に、本当に当てになるのかどうか」

502三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:48:32 ID:IG39iMCA0

当然、お分かりの事でしょうけれど。
そう。
言って間を置きます。
長々と話しましたがこれです。
第一に、球磨川さんがそもそも説得かどうかはともかくとして乗ってくれるかどうか。
同じテーブルとは言わなくとも有耶無耶にして済ませられる可能性があります。
第二に、説得できたとして言う通りにしてくれるのか。
あんな性格の人ですから、まあ絶対的に悪い人ではないとは言わざるを得ないのが悔しい所なのですが、わたしがやられたみたいに自分の基準で考えて何やかんややらかしかねない懸念があります。
第三に、最後に、当てになるのか。
これは言うに及ばず、と言った所でしょう。
わたしの記憶のように、何かの要因で完全にそうする事が不可能だったりでもすれば。
その時点でハッピーエンドなんて不可能になります。
つまりこう言う事です。
球磨川禊と言う人物は、頼るには心許なくかと言って無視するにはそれは許されない。
こちらの考えを引っかき回すだけ引っかき回してあとは知らんぷり。
そんな感じの人です本当に。
言ってしまえば、可能性があるだけに厄介。
なんですよねぇ。
それっきりで、口を閉ざしました。
そう。
つまり。
ハッピーエンドを目指すならば、

「おや?」
「あら?」

まさに都合の良いタイミングで、電話のベルが鳴りました。



 2−1



などと決意表明した所で観客も居なければ客席もない。
あるのは勝手に動き回って轟音を、普段ならそれに人間の高音を、まき散らす座席が動き回っているだけ。
そんな中を勝手気儘に動き回っても何の価値もないんだろうに。
さてと。
潤さんを思いだしたんだから、当然あとの二人にも言及しないといけないか。
一人は、まあ、正直思考の中でもあんまり関わりたくないけど。

「真心」

503三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:49:56 ID:IG39iMCA0

心残りを、静かに、呟いてみる。
橙なる種。
代替なる朱。
無論、ぼくにとって彼女の代わりはいないけど。
それでもあそこでは、赤色に変わる橙色だった。
人類最強に対する人類最終。
人類の最終存在。
哀川潤が主人公なら、さながら隠しボス。
ちなみにぼくは村人だろう。
今は、だけど。
それよりも彼女、真心が死んだと言われて信じられる人間がこの世にいるかと聞かれれば、答えは絶対にノゥだ。
知った上でならなおの事。
一度は死んだはずなのに。
ぼくの前に現れてくれた。
そして死んだ。
死んでしまった。
また、死んだ。

「哀川さんが死んだと考えてるんだから、当然真心も死んだと考えるべき……何だろうな」

………………
返事がない。
はっはっは。
なんだぼく。
やっぱりまだまだ信じられてない。
未練がましさが抜けそうにない。
いやでもそれでも良いのかな。
それとも悪いことだったか。

「悪い、か」

見れば分かる。
見れば覚える。
見れば出来る。
何でも出来る。
出来ないことなんてない。
それで、また一人を思い出した。
近しいと言う意味で言えば、彼女が近い。
鑢七実。
彼女には今、人間未満が憑いている。
そう言う風に、あるいは、ぼくが着いていれば。
そう思うのはありきたりな後悔だ。
ありきたりな、自己満足だ。
ぼくがいてどれだけの役に立てるかなんて知れてるのに。
それでも傍に居れれば何か変わっていたのかも、なんて。
変わろうとする気持ちは自殺。
変えたいと思う気持ちは他殺。
全くもって戯言だ。
一体どれだけ殺すつもりだろう。
ぼくを。
様々な人達を。

504三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:51:14 ID:IG39iMCA0

「あーあ。ごめん、真心」

やっぱりぼくはこう言う人間だ。
どれだけ後悔しようとも。
どれだけ更改しようとも。
お前のために、涙一つ流せそうにない。
お前のために、死のうなんて思えない。
決心したんだから。
主人公であろうと。
不埒な友情を結んで。
無駄な努力を重ねて。
勝利、しようと思う。
お前を殺した、なんて言わない。
復讐が虚しいからなんて言わない。
ただただぼくのためなんだから。
生き残りたい。
生き残りたい。
死にたくない。
ただ生きたい。
それ以上ない。
それ未満でも、ない。
だからぼくは。
自殺します。

「さようなら。忘れないよ」



 2−2



電話をかけながら待ちます。
この際は出られても出られなくても私側に不都合はないので。
何せ電話です。
向こうは何処から私がかけているか分からなくとも、私は何処にかけているのか分かるのです。
ふふふ。
なんと圧倒的有利な状況でしょうか。
いやまあ電話に有利も何もあったもんじゃないですから。
関係ないと言えば全く関係ない訳です。
むしろ電話に誰も出られない可能性もそこそこあるのです。
つまり時間の無駄。
無駄無駄無駄。
一人損。
出来るなら向こうにいるかも知れない誰かしらを巻き込みたいですね。

「……うーん、出ません」

505三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:52:16 ID:IG39iMCA0

三十秒ぐらい経過。
誰も出ません。
これはあれですか。
うっかり出たらミサイルランチャーでも打ち込まれるとでもお考えでしょうか。
はははまさか。
あり得ないと言えないんですよこれが。
とんでもない物がぶち込まれてる可能性もありますから。
ついさっきまで内容全部をじっくりくっきり見ていた感想です。
心臓をぶち抜いたりと酷い酷い。
ぶっちゃけ何が起きても驚かないと言いますか。
ちらりと横目で伺ってみます。
相変わらず寝たままなので、様刻さんの寝顔を伺うと言うだけですが。
そうです。
私が勝手にかけているのです。
自己判断ですよ自己判断。
一眠りしてからの判断です。
冗談です。
ちょっと寝落ちしたりしてただけで私はちゃんと起きていました。
そんな事情はさておいて、時間が少し経ったのは良かったのか悪かったのか。
それはそろそろ分かってきました。
一分は経とうかと言う時間。
軽い、と言うかかなりの嫌がらせに近い時間です。
どうやら誰もいないんでしょうか。
もう電話切っても良いですよね。

「なーなろーくごーよん」
『もしもし』
「さーんにーいいーちぜーろ崎でーす。と言うギリギリの所でした。初めまして」
『初めまして』
「ずばり突然で申し訳ないですが情報交換をしたいのですが、よろしいですか? あ、ちなみに私は殺し合いは出来るだけ避けたい方です」
『そう。なら一応だけど私もその方だわ』
「それは幸先の良い事です。そう言う事でしたらそちらから何か聞きたい事が有ればどうぞ。次は私、と言う風で」
『じゃあ有り難く。そちらは今、何人居るのかしら』
「っ!」

おっと可笑しいですね。
いきなりの質問がそれだとは。
さっきも「達」なんて言葉は使ってませんから言葉からじゃあ分からないと思うんですが。
とりあえず周辺に誰かいないかとモニターを見てみますが、二つしか浮かんでませんね。
どう言う事でしょうか。

「……よくお分かりですね」
『一人ではまさか反対派として動き辛いと思ったから何となく、かしら。仮に肯定派が居たら逃げるか電話をもっと早く切ってるかなって。勘よりもあやふやな理論だけど』
「さようですか。ちなみに私を居れて今は二人です。一応反対派で大丈夫かと。それで私の質問は、言うまでもないですね」
『こっちは今は二人。さっきまで三人で、それより前は八人だったわ。今は全員反対派で良いと思うけど、八人の時は何とも言えないかな?』
「それは何でまた?」
『好戦的だけどある人の言う事を聞く人と、主催に対して随分お冠だけど特に反対派と言う訳じゃないのよこれが』
「一言で言うと、面倒くさいのが二人も居た、と」
『まあ……そう言う事ね』

一瞬軽い間が空きました。
ため息を付いた、との認識でよろしいでしょうか。
だとすれば随分面倒臭い人なんでしょうね。
思い出しただけでため息が出るんですから。
ちなみに私は人識くんを思えばため息が出ますが、それは別方向のため息です。

「はぁ」

506三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:54:02 ID:IG39iMCA0

全く、人識くんは何処に。
それを聞くための電話でもあるのですが。
しかし。
横目で引き続き眠っている様刻くんを見てしまいました。
彼が欲しがるであろう情報も得ないといけない訳ですから、これはまた面倒臭い。
いえ。
現在の情報としてあるのはランドセルランドにいる方は二人か三人。
それよりも前にもう五人いて、内二人は面倒な人。
あと相手の声からして女性。
そこまでですので、はい、情報を待ちます。
向こうが欲しがっている情報を聞けば、

『それじゃ、零崎人識について教えて貰えるかしら?』
「………………」

………………
さて。
どう判断するべきか。
これはあれですか。
人識くんがやらかしたと見るべきなんでしょうか。
それとも零崎について何か知りたいとかはないですねわざわざ固有名詞で来ましたからはい。
うわぁ。
何だって電話口であんな冗談かましちゃったんでしょう。
言い訳のしようがないじゃないですか。

「……身長はやや低め。性格はいまいち分かり辛いですが優しかったりします。気にしてる人が京都にいるとかいないとか」
『……………………』

あ、これまずい。
相手が欲しい情報が出るまで喋る羽目になる奴だ。



 3−1



自殺は当然実際に死ぬ訳じゃないけれど。
そう思った所でさて、困った。
いよいよもって思い出さなきゃいけない最後の一人がきてしまった。
いや、思い出さないと言う手もある。
あるんだけど、そう言う訳にも行かない。
何せ彼は、ラスボスだ。
この場合はだった、と言う方が正しいだろうけど。
ともあれ彼はラスボスだ。
人類最悪の遊び人。
物語を速読しようと言う人間。
分かり易いことに世界の、物語の終わりなんて物を夢想し実行しようとしていた男。
ある意味では自殺人。
因果なことに哀川潤の父親。
主人公の父親がラスボスなんて今時流行らないだろうに。
事実そうだったんだから仕方ない。

「……狐さん」

507三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:55:55 ID:IG39iMCA0

西東天。
彼の物語が終わりを告げたらしい。
死にそうにもない彼も死ぬ。
ぼくの知る限りの死にそうにない三人衆が揃って死ぬなんて。
それも僅か三時間の間にほぼ同時に。
もしも生きていたらなんと言うのやら。
物語が加速しているとでも。
それとも、物語が終わりを迎えようとしているとでも。
戯言だ。
これ以上なく。
でもどっちだって良い。
どっちだって構わない。
幕を引こうと彼に言った。
世界は終わらせないと彼に言った。
ならぼくがするのは簡単だ。
村人がやれそうなことじゃないけれど。
大言壮語も甚だしいけど。
やることに変わりはない。
変わりがあってたまるか。
最後にきっと笑ってやる。
手に届くだけ助けれたと。
言えるために。
あがいてやる。
もがいてやる。
今頃あの世とやらにでも居て、胡座をかいて読み進めているんだろう。
地獄。
天国。
監獄。
鎖国。
どれもあなたにとって変わらないんでしょうから、今も読んでいるんでしょう。

「あたなに」

この物語を。
ああ、そうだ。
前言を撤回しよう。
物語を終わらせよう。
でも物語は続くんだと。
思う存分知らせてやろう。
終わっても終われない漫画のように。
うだうだと続き続ける漫画のように。
読み終えても次巻のある本のように。
長々と書き続く、そんな本のように。
物語は終わらない。
物語は終われない。
だって物語は続き続けるんだから。
精々読んでいて下さい。
あの笑顔でも浮かべて。
飽きても読んで下さい。
犯しそうに笑ったまま。

508三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:56:55 ID:IG39iMCA0

「世界を終わらせなんてしない」

一生を終えても終わらない、物語を。
えぇと、漫画を愛してるんでしたか。
愛してると言うんだからお楽しみに。
とびっきりありきたりなお仕舞いを。
都合良過ぎる程度には良いお終いを。
この物語の終幕を。
ハッピーエンドを。
待っていて下さい。



 3−2



ちょっとえげつのない光景が目の前で繰り広げられています。
何と言いますか。
根ほり葉ほりと言う言葉がこれ以上なく相応しいと言いますか。
相手がはぐらかそうとしている所を巧い具合に誘導して喋らせてるとか。
さり気なく口を挟んでは会話を広げさせてると言いますか。
えぐいですね。
誘導尋問にも程があります。
しかもメモを片手間にしてるんですからこれはもう。

「えぐい」

おっとっとお。
うっかり口が滑ってしまいました。
滑るのは舌がわたしのキャラです。
危うくキャラを崩壊する所でした。
気にするのはあくまでキャラです。
視線は全く気にしない気にしない。
なので視線はノーサンキューです。

「うん、ありがとう。そこまで話して貰えれば十分よ」

どうやら聞きたい事は聞き終えたようです。

「え? ああ、そうね知ってるわ。八人の時に居た一人なの。でも行動が読めなかったからちょっと気になってね」
『 ?        』
「うん、それだけよ。でも殺人鬼だとか自分で言ってたからちょっとね」
『  、   』
「それで、今度はそちらの番だけど何が聞きたい?」
『     、    ?』
「今? それはちょっと分からないけど……一応ここに集まる事になってるわ。それじゃあ次はこっちの番だけど、良い?」
『  』
「こっちの人員の名前を教えるから、あなたの名前ともう一人の名前を教えて貰える?」
「羽川さん?」
「あ、ちょっと待って貰える?」

509三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:57:48 ID:IG39iMCA0

相手の返事も聞かず、ボタンの一つを押しました。
保留でしょう。
音楽が流れ始めてすぐにわたしを見ます。

「今の残った人数と私達、それに向こうの二人の名前を知れればそれぞれの概ねの動向が分かるわ」
「なるほど、メリットはそれですか」
「デメリットはこっちの人の名前が知られること。当然、彼女達の口から主戦肯定派に情報が漏れる可能性もあるかな?」
「その彼女達ですか? 肯定派の可能性はないんですか?」
「あるわね」

平然とそう言われてしまいました。
いや、その答えは予想外なんですけど。
そう思ってみても笑ったままです。
わたしの反応はどうも予想通りのようです。
人が悪い。
悪い人。
どっちが正しいんでしょうか。
はてさて。

「その場合だと彼女達は反対派の中に飛び込んできた肯定派になる訳だけど、困った事に私達の中にそのどちらでもない人が二人紛れ込んでいるわ」
「……球磨川禊さんと、鑢七実さんですか」
「そう。あの二人は、まあ、変な言い方だけどどうあっても死にそうにない二人。そして球磨川さんといーちゃんさんは妙に繋がり有った所があるみたいね」
「問題点が二つ有ります。お分かりでしょうけど」
「えぇ。今話している二人が来るまでの間に戻ってくるのかどうか。戻ってきたとしてもその二人に対する対抗馬みたいに動いてくれるか」
「問題だらけじゃないですか!」

問題だらけじゃないですか!
とは言ったものの。
デメリットばかりを考えるのもどうかとも思います。
あの二人がきた場合のメリットを考えてみましょう。
いやまだ合流すると決まっている訳ではないですが。

「メリットは本当に先程の物だけですか?」
「……んー。言い辛い所では二人の関係者を説得し易くなる、とか?」
「説得の後に物理が付いてる気がするんですが」
「違うわよ」
「違うんですか?」
「物理じゃなくて脅迫よ」
「余計にタチが悪くなってますよそれ!」

え、何ですかこれ。
ここまでアグレッシブな人でしたっけ。
まるでわたしの心を読んでいたように、また小さく笑いました。
少しばかりぞっとするような。

510三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:59:38 ID:IG39iMCA0

「私、ちょっと怒ってるの」
「ほ、ほぅ?」
「確かに私が人を殺す可能性はあるけど、真っ正面から言われちゃったから」
「……その節はどうも申し訳ありませんっ」
「いいの。気にしないで。だから頑張れるだけ頑張ろうと思えた訳だし」
「た、例えば?」
「使える手は使えるだけ使うって。多少のデメリットには目を瞑らないと。だからごめんね?」
「何がでしょうか?」
「巻き込む事になるかも知れないけど。いざとなったら逃げてね?」

そこまで言って、笑ったまま、電話のボタンを見せつけるように押しました。



 4−1



さて困った。
待つまでの間が実際手詰まりだった。
石の上にも三年居れるなんて言われた事はある。
でも同時に言われた事に、結果が分かってるから、なんて言われたな。
実際そうだし。
最大の理由でもある。
待てなくなった。
そうじゃなきゃ一人で歩き回ってないし。
いや別に気まずかったから逃げた訳じゃないし。
本当だし。

「やばいやばい」

友と合流さえ出来れば如何様にでもやりようはある。
だろう。
何せ友だし。
けども逆説、いなければどうしようもない。
待つのは慣れている。
結果が分かってるなら。
だけど何もしないで待つのは間違いはないけど待ち甲斐もない。
何か出来る事は有りはしないか。
ぼく一人で。
いや、あの二人に協力して貰ってでも構わない。
この状況。
今の情勢。
現状を少しでも好転させ得る材料は。
何処かで何かして見逃してる要素は。
向こうが見落としている何かないか。

511三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:01:12 ID:IG39iMCA0

「……あ」

あった。
一つだけあった。
忘れていただけの。
ぼくが見落としてるだけで。
向こうは見落としてないだろう要素。
それも好転させるのではなく、悪転させる方。
そしてそれはよくよく考えてみなくても潤さんと関わりの深い事柄だ。
殺人鬼。
零崎人識。
人間失格は何で殺しを止めていたんだった。
人間失格は何で殺人行動を収めていたんだ。
気付けば人間生物の殺害方法を考えていたなんて戯言をぼくに漏らしたあいつは、どう言う要素で殺人行動を納めていた。
潤さんだ。
潤さんが約束したからだ。
そう、あの診療所であいつ自身が言っていた。
その潤さんが死んだ今となってみればどうだ。
人間失格を抑える要素は意志以外存在しない。
よしこれだ。
あいつに電話するために一人で行動していたんですぼくは。
それにあいつが人殺しするなんて思えないし。
まあ、殺人鬼だけど。
殺人鬼だけど。
などと思いながら携帯電話を取り出す。

「人間認識」

まさにその時。
実際問題最悪の瞬間。
轟音鳴り響く中で無機質な声が、

「は?」
「即刻斬殺」

鉄塔の立ち並ぶ中。
鉄柱が聳え立つ中。
百メートルは離れているだろう向こう側で。
無機質な目が。
確かにぼくを捉えていた。

512三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:02:34 ID:IG39iMCA0



 4−2



『もしもし』
「もしもし」
『良かった、切られてるかと思って』
「いやまあ、この際ですから知れる事は知っておきたいので」
『じゃあ、教えて貰えるってことで良いのね?』
「はい、構いませんよこの際は。ただしそちらからと言う事ともしも違っていたら」

と。
わざと一度切って反応を見ます。
電話越しでも伺おうと言う雰囲気が知れます。

「殺します」
『……良いわ』
「随分あっさりと乗るんですね。もし誰かが嘘の名前を言ってる可能性がありますよ?」
『信じているから、なんて言葉じゃ甘いかな……』
「そうですか。では、お名前をどうぞ」
『私の名前は羽川翼。えーと、名前を言っても……良いのね? 八九寺真宵ちゃん。そして戯言使いさん』
「……例のふざけた名前の人がですか」
『あとはさっき言った零崎人……っ!』
「っ!」

妙な。
音が。
響いてきましたね。
軽やかな音。
聞こえた気がしました。

『悪いけどしばらくしたらまた連絡します。電話番号を』
「……」

早口。
今までの口調が完全に崩れた。
一瞬の間を置いてから電話番号を口にしました。
即座に切られた、音。
白けた音が響くのを聞きながら、耳を離しました。
何が起きたのか。
伸ばし掛けた手をそこで引き留めます。
起こしてすぐに向かい始めるべきか。
返事の連絡を待ってから動くべきか。
どうしましょうか。
一向に、様刻さんが起きる気配はありません。
しかし。

「ランドセルランド」

どうもそこが台風の目何でしょうか。
うわぁ。
行きたくない。

513三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:03:55 ID:IG39iMCA0




【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:あれ(日和号)は明らかに不味い。逃げる
 1:玖渚を待つ。待ってる間だけでも少し動く
 2:掲示板を確認しておこう。
 3:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 4:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
  5:気まずいからって逃げるんじゃなかった。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※日和号に向けて発砲しつつ逃走を始めました

【日和号@刀語】
[状態]損傷なし
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
  2:人間・認識。即刻・斬殺
[備考]
 ※戯言使いを発見しています



【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶復活、それに伴う体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。なぜ発砲音が?!
 0:まったく、戯言さんは!
 1:羽川さんと共に戯言さんの待ち人を待ちましょう。
 2:黒神めだかさんと話ができればよいのですが。
 3:羽川さんの髪が長かったのはそういう事情でしたか。
 4:戦場ヶ原さんも無事だといいんですが……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※戯言使いの「主人公」は、結果のために手段を問わないのではないかと言う危惧を覚えました
 ※拳銃の発砲音を聞きました

【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   真庭忍軍の装束@刀語、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。まず発砲音を確かめる
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……
 1:阿良々木くんに関しては感情の整理はつかない。落ち着くまで保留
 2:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
 3:戦場ヶ原さんは大丈夫かなあ。
 4:真宵ちゃん無理しないでね。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※拳銃の発砲音を聞きました
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。後ほど連絡ができればする予定です

514三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:06:00 ID:IG39iMCA0


【1日目/夜中/G−6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み) 、眠気(小)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:曲識、軋識を殺した相手は分かりました。殺します。
  1:人識君について引き続き情報を集めます。
 2:様刻さんが起きたら玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:ランドセルランドが台風の眼のようですけど、どうしましょうか?
 6:羽川さんはちょっと厄介そうな相手ですね……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像は匂宮出夢と零崎双識については確認しています。他の動画を全て、複数回確認しました。

【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、睡眠、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:zzz……。
 1:休んだら玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

515 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:08:10 ID:IG39iMCA0
以上です。

久し振りの所為かいつも以上に突っ込みどころがありそうなので感想などよろしくお願いいたします。
疑心と強襲のお年魂ですとやりたかったのにマニアワナカッタ……

今年もよろしくお願いします

516名無しさん:2015/01/02(金) 18:50:54 ID:iDadAYkg0
投下乙です
危ない、危ないよどこもかしこも!
両脚折れてるのに伊織ちゃんがっつりロックオンしてるし羽川も不穏だし
何より、せっかく持ち直したいーちゃんに日和号来るとかほんとさあ
そういえば原作の扱いがああだったからなんとも言えないけど実際日和号の耐久ってどれくらいなんでしょうね…?
本体部分も金属だろうから銃弾も弾きそうですが、さてはて

いくつか指摘を
まず>>496
いーちゃんは日之影さんのことを覚えてないようですがいーちゃんが起きてる状態で対面したのは死亡後です
『知られざる英雄』が発動している状態で遭遇していた八九寺などはともかくいーちゃんに影響が残ってるのはいかがなものかな、と
もちろん何かしらの理由があるのならそれで構いません
次に>>501
>「では状況を整理しましょう。今現在の所の死人は何人でしょうか?」
>「 人ね」
と羽川のセリフから人数が抜けています
最後に>>507のいーちゃんのモノローグ
>ぼくの知る限りの死にそうにない三人衆が揃って死ぬなんて。
>それも僅か三時間の間にほぼ同時に。
これは6時間の間違いでしょうか?

細かいところばかりで申し訳ありませんがいずれもすぐ修正できる類のものかと

517 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:46:06 ID:lzyVG9wo0
それぞれ修正していきます。

ただし、日之影に関しては他の方と相談のうえでまあ大丈夫そうなので放置の方向で

518 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:49:57 ID:lzyVG9wo0
>>501


くっ。
流石は羽川翼さん。
思うように私のペースに持ち込めませんね。
ですがしかし。
それでこそ噛み甲斐があると言うものです。

「聴覚としてですね」
「……噛んだ?」
「しちゅれい、かみゅまむた」
「噛み過ぎよ」

くっ。

「ふっふっふ……お遊びは止めろと言うことですか……良いでしょう……」
「…………まあ、良いか」

おっと、何やら遠い目をされている気がしますね。
しかし私は気にしませんよ。
強い子ですから。

「んー、何からお話ししましょうか?」
「じゃあそもそも、なんでそう思ったかだけでも聞かせてもらえる?」
「それは簡単です。あなたは頭が良いからです」
「答えに」
「なっています」
「……聞かせてもらえる?」
「頭が良いあなたなら、きっと気付いているんじゃないかと。これの終わりを」
「………………」
「いえ、これはあらかじめ伏線を張って置く訳ですけども別に洒落言使いさんを否定したくて言う訳じゃありませんよ?」
「…………」
「長々と言うのもあれですから言ってしまいましょうか。この先の行方、と言いますかこのバトルロワイヤルとか言う大層ふざけた催しの結末ですが、

 トゥルーエンド以外にありえないでしょう。

 ああ、いえいえ、別に戯言使いさんを否定したいから言ってる訳じゃないんですよ?」
「えぇ、分かってる」
「えぇ、そうでしょう。なら、わたしの言おうとしていることも分かってますよね?」
「これの結末は、バットエンドはなりようがあってもハッピーエンドになりようがない。そう言うことよね?」
「はい。大変言い辛いことですから中々言えない事でしたけど、この際はあなたにだけぶっちゃけちゃおうかなーと」
「何で私に言うのかな?」
「んもー、そうやってはぐらかそうとする」
「そう言うつもりは、ないんだけどね」
「ぶっちゃけちゃいましょうよ。ズバリ言うわよしちゃいましょうよ。夜の女子会みたくーチョーヤバーイみたいな」
「残念だけど私、そう言うのに参加したことないから分からないかな」
「でも本心を晒すと言う意味ぐらいは分かりますよね?」
「……はぁ。分かった」
「と言うことですのでどうぞ」
「いーさんは、皆を幸せにしたい」
「はい。一気に思い出しましたから気付きました。ですがそれは、よくよく考えなくても不可能なんですよ」
「……言い換えればハッピーエンドを迎えたい。でももう死人が出た以上、どうやってもハッピーエンドにしようがないって言うんでしょう? 仮に限りなくそれに『近い』ものになったとしても、それはどうやっても『近い』以上には成り得ない」
「…………はい」
「……気が、重いことにね」
「……はい」
「最早どうやろうとも、ハッピーエンドに持って行きようはない」
「…………………………羽川翼さん」
「何かな、真宵ちゃん?」
「言いましたよね、本心を晒そうって?」
「言ったね」
「だったらなんで、嘘を付くんです?」
「嘘?」
「えぇ、嘘です。わたしでも思い付いたことを、あなたが思い付かないはずがないんですから」
「それはどうかしら? 別に私は何でも知ってる訳じゃないわ」
「知ってることだけ、ですか?」
「その通り。知らないことは知らないもの」
「では状況を整理しましょう。今現在の所の死人は何人でしょうか?」
「二十八人ね。えぇ、誰も死んでなければ、だけど」
「そうです、なんと全体の三分の二近くです。でしたらこの人達を何とかする方法がありますか?」
「ないわね」
「あります」
「ない」
「ある」
「無い」
「有る」
「無いわ。死んだ人をどうにかする方法なんて無いに決まってるじゃない」
「あるじゃあないですか。二人」
「二人も?」
「も、などと言ったのはまあ聞き逃しておきましょう。兎も角として二人。

 主催と球磨川禊。

 このお二人ならば可能でしょうね、死んだ人をどうにかするのも」
「だったら簡単ね。球磨川さんを説得して最後まで乗り越えた上で何とかして貰う。それが理想解でしょう?」
「はい、そうです。球磨川さんが、説得に乗って、皆を何とかしてくれる。これが理想解です。はい、理想です」
「そうね」
「はい。理想です。理想なんです。理想に過ぎません」
「……なにが言いたいのかしら?」
「お分かりでしょう? 第一に、あの人が説得に乗ってくれるかどうか。第二に、そもそも言う通りにしてくれるか。第三に、本当に当てになるのかどうか」

519 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:52:05 ID:lzyVG9wo0
>>507


西東天。
彼の物語が終わりを告げたらしい。
死にそうにもない彼も死ぬ。
ぼくの知る限りの死にそうにない三人衆が揃って死ぬなんて。
それも僅か六時間の間にほぼ同時に。
もしも生きていたらなんと言うのやら。
物語が加速しているとでも。
それとも、物語が終わりを迎えようとしているとでも。
戯言だ。
これ以上なく。
でもどっちだって良い。
どっちだって構わない。
幕を引こうと彼に言った。
世界は終わらせないと彼に言った。
ならぼくがするのは簡単だ。
村人がやれそうなことじゃないけれど。
大言壮語も甚だしいけど。
やることに変わりはない。
変わりがあってたまるか。
最後にきっと笑ってやる。
手に届くだけ助けれたと。
言えるために。
あがいてやる。
もがいてやる。
今頃あの世とやらにでも居て、胡座をかいて読み進めているんだろう。
地獄。
天国。
監獄。
鎖国。
どれもあなたにとって変わらないんでしょうから、今も読んでいるんでしょう。

「あたなに」

この物語を。
ああ、そうだ。
前言を撤回しよう。
物語を終わらせよう。
でも物語は続くんだと。
思う存分知らせてやろう。
終わっても終われない漫画のように。
うだうだと続き続ける漫画のように。
読み終えても次巻のある本のように。
長々と書き続く、そんな本のように。
物語は終わらない。
物語は終われない。
だって物語は続き続けるんだから。
精々読んでいて下さい。
あの笑顔でも浮かべて。
飽きても読んで下さい。
犯しそうに笑ったまま。

520 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:56:11 ID:lzyVG9wo0
>>509


相手の返事も聞かず、ボタンの一つを押しました。
保留でしょう。
音楽が流れ始めてすぐにわたしを見ます。

「今の残った人数と私達、それに向こうの二人の名前を知れればそれぞれの概ねの動向が分かるわ」
「なるほど、メリットはそれですか」
「デメリットはこっちの人の名前が知られること。当然、彼女達の口から主戦肯定派に情報が漏れる可能性もあるかな?」
「その彼女達ですか? 肯定派の可能性はないんですか?」
「あるわね」

平然とそう言われてしまいました。
いや、その答えは予想外なんですけど。
そう思ってみても笑ったままです。
わたしの反応はどうも予想通りのようです。
人が悪い。
悪い人。
どっちが正しいんでしょうか。
はてさて。

「その場合だと彼女達は反対派の中に飛び込んできた肯定派になる訳だけど、困った事に私達の中にそのどちらでもない人が二人紛れ込んでいるわ」
「……球磨川禊さんと、鑢七実さんですか」
「そう。あの二人は、まあ、変な言い方だけどどうあっても死にそうにない二人。そして球磨川さんといーさんは妙に繋がり有った所があるみたいね」
「問題点が二つ有ります。お分かりでしょうけど」
「えぇ。今話している二人が来るまでの間に戻ってくるのかどうか。戻ってきたとしてもその二人に対する対抗馬みたいに動いてくれるか」
「問題だらけじゃないですか!」

問題だらけじゃないですか!
とは言ったものの。
デメリットばかりを考えるのもどうかとも思います。
あの二人がきた場合のメリットを考えてみましょう。
いやまだ合流すると決まっている訳ではないですが。

「メリットは本当に先程の物だけですか?」
「……んー。言い辛い所では二人の関係者を説得し易くなる、とか?」
「説得の後に物理が付いてる気がするんですが」
「違うわよ」
「違うんですか?」
「物理じゃなくて脅迫よ」
「余計にタチが悪くなってますよそれ!」

え、何ですかこれ。
ここまでアグレッシブな人でしたっけ。
まるでわたしの心を読んでいたように、また小さく笑いました。
少しばかりぞっとするような。

521 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:57:20 ID:lzyVG9wo0



以上で修正を終わります。
Wiki編集のほうをよろしくお願いします

522 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:39:20 ID:sIP1vxS60
修正乙です
Wiki収録の際に細かい誤字なども訂正したので確認していただけると助かります
それではこちらも投下します

523玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:40:36 ID:sIP1vxS60

「「かんぱーい」」

真庭蝙蝠がいなければ宗像形の兇刃からまず逃れられなかったであろうぼく、供犠創貴はブースの扉を開けた先、女子二人が酌み交わす光景を見て、

「……………………」

しばらく沈黙していた。





「やっほー、おかえり創貴ちゃん」
「おかえりなさいなの、キズタカ」

無言で立ったままのぼくに玖渚友と水倉りすかは気さくに声をかける。
それほど席を外したつもりはなかったはずなのだが、その間に随分と仲を深めていたらしい。
このネットカフェの一階部分全域が戦場になる可能性がある以上二階に移動したいと玖渚が願い出たのは合理的な判断だったし、ぼくたちも好都合だと承諾した。
死体を移動させるのは容易なことではないが必要なのは首輪だけであり、頭を切り離せば済む問題だ──このときの蝙蝠の反応については今更述べるまでもない。
りすかを残さなければならない以上、ソファータイプの一人用ブースよりも複数で利用できるいわゆる座敷タイプの方がいいだろうという考えもなんらおかしくない。
……しかし、ドリンクバーで飲み物を取りに行った上ドーナツを広げるのはいくらなんでもくつろぎすぎではないだろうか。
剣戟の音は間違いなく聞こえていたはずだろうに。

「まあまあ、そんな顔しなくても大丈夫だって。創貴ちゃんの分もちゃんとあるからさ」
「そういうことが言いたいんじゃない」

悪態をつきながら腰を下ろし、ドーナツを一つ取る。
チョコレートがふんだんに練り込まれた生地の上から更にチョコレートで上半分をコーティングした、ダブルチョコレートだ。
頬張る。
うむ、甘い。

「じゃ、創貴ちゃんも戻ってきたことだしいいかな」
「何を」
「いーちゃんにメールを送りたいんだ。できれば一刻も早く送りたかったのにりすかちゃんが創貴ちゃんが戻るまでダメって言うから」
「それくらい別に……いや、いい心がけだ」

見張っていろ、との指示に対しちゃんと必要な意思を汲み取ってくれたのは上出来だ。
ドーナツを持っていない方の腕でりすかの頭を撫でてやる。

「ま、僕様ちゃんもせっかくの同盟を解消したくはなかったしね。そんじゃあお言葉に甘えて」

言うが早いか玖渚の手が携帯電話に伸び、淀みなくボタンを叩いていく。
その間にりすかに確認をとっておくか。
念のために。

「怪しい素振りはしていたか?」
「なかったの」
「ドリンクバーには二人で行ったか?」
「もちろん……でもすごくうるさかったのが下からなの」

というかその状況でよくドリンクバーに行けたな。
まあ、まだうるさいのは確かだし戦況が互角なら逆に安全と考えるのは悪くはない判断ではあるが……

「休憩しない? って提案したのは僕様ちゃんだよ。一々声を出すりすかちゃんはかわいかったねえ」

やっぱり玖渚の発案か……いくらなんでもりすかにしては度胸がありすぎると思ったんだ。
金属音が飛び交う中を共に乗り越えたと思えば親近感が湧くのもある意味仕方のないことか。
そうしているうちにメールを送り終えたようだ。
少しの間動きが止まる。

524玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:41:27 ID:sIP1vxS60
再び指を数回動かし、また止まった。
そしてまた操作したかと思えばぼくに画面を見せてきた。


 to:いーちゃん
 title:もしかして
 text:ランドセルランドに腕4本脚4本のロボットが襲ってくるかもしれないから気をつけてね
    なんなら僕様ちゃんたちがいるネットカフェに来てもいいけどその場合は教えてくれると嬉しいな
    案外いーちゃんのことだからこのメールを読んだときにはもう遭遇しちゃってるかもしれないけど、僕様ちゃんは対処法を知らないからそのときはそのとき!


「これなら問題はないよね?」

下手な情報は漏らしていないということらしい。
メールに記載してあったロボットは掲示板にあったあの動画でとがめとかいう女性を殺したものだろうか。
確か玖渚本人の話によれば詳細名簿にも載っておらず、誰かの支給品か主催が配置したかということもわかってないとのこと。
だが、宗像形らも遭遇していたことからあの地域一帯だけを徘徊しており、不要湖から出る可能性は低いだろうというのが玖渚の見立てだったはずだ。
なぜ今更。
そんなぼくの顔を見て、玖渚友は語り出した。

「疑問を浮かべてる顔をしてるね?
「もちろんちゃんと説明するよ。
「と言っても気づいたのはりすかちゃんのおかげだけどね。
「ほら、さっき都城王土の話をしたでしょ?
「それに創貴ちゃんがいなくなった後もりすかちゃんが興味を持ってね。
「電気もりすかちゃんの弱点の一つである以上、対策を練っておくのは殊勝だと思うし、主催側である彼についてはしっかり考えておくべきだと僕様ちゃんも思ったからさ。
「創貴ちゃんたちが会った後、彼がどうしていたかについては全く情報がないし。
「ないだけで、僕様ちゃんの知ってる誰かが、僕様ちゃんの知らない誰かが遭遇してることは十分に考えられるけどね。
「最悪の可能性というのは常に想像しておかないといけないもの。
「例えば、都城王土が言ったことは嘘で忠実な主催の手先だった、だから盗聴機もしっかり仕掛けられていてこの会話も主催に筒抜け、だとか。
「例えば、主催にとっては都城王土の行動すら想定内であり、今更僕様ちゃんたちがどんな反抗をしようと無意味に終わる、とかさ。
「それに比べたらあのロボットが都城王土に操作されてランドセルランドに向かうことなんてマシな部類でしょ?
「マシな部類って言っても襲われる人間はたまったもんじゃないと思うけど、それはそれ、これはこれ。
「あのDVDは会場の中全てを監視していると言ってるのと同義なんだし、それを踏まえれば多くの人間がランドセルランドに向かっていることは予想できただろうからね。
「創貴ちゃんたちにとって黒神めだかとの同盟のうまみも薄れてるだろうし、いーちゃんをこっちに呼んだことについては問題ないでしょ?
「これがただの僕様ちゃんの考えすぎ、だたの思い過ごし、杞憂ならいいけど本当に本当だったらいざランドセルランドに着いたら餌食になりました、じゃ冗談じゃ済まないし。
「創貴ちゃんたちが恐れてる零崎人識との邂逅だって、見つかる前に隠れるなりすればいいだろうしね。
「さすがにそれくらいは僕様ちゃんだって気遣うよ。
「見つかった場合?
「いや、さすがにそこまでは保証できないって。
「邪魔したら僕様ちゃんだって殺されちゃうかもしれないし。
「むしろランドセルランド行ったら出会い頭に問答無用で老若男女容赦なく、殺されて解されて並べられて揃えられて晒されるかもしれないんだから、それに比べたらね。
「ま、どっちにしてもまだ時間はあるはずだし続けようか」

……本当に油断できやしない。

525玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:41:52 ID:sIP1vxS60



「やっぱ電話の一つでもかけてやった方がいいかねえ」

「いやいや、だからと言って俺からかける必要性ってないだろ」

「『人識くんったらそんなに私のことが心配だったんですか? 余計なお世話ですよう』とかなんとか言って茶化すに決まってる」

「俺にだけ教えて向こうには教えてない、なんてこともねーだろうし」

「さすがにそれくらいの気遣いくらいはしてるだろ」

「仮に場所とかがわかったとしてどうにかなることでもねーしな」

「それで向こうからかけてこないってことはそれだけの理由がないってことだろ、うんうん」

「かといって欠陥製品にかけるのもなあ……あ、そういや」

「ってダメじゃん! ぜってー声聞かれた瞬間切られるのがオチだっつーの」

「ちぇっ、どうせなら全部聞き出しといてくれりゃーよかったのによ」

「あーあ、こんなときコナン君の蝶ネクタイがありゃ楽勝なんだが」

「ま、高望みしすぎなのはわかってるけどな」

「……ん? こいつは……」

「…………へえ」

526玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:42:36 ID:sIP1vxS60



「で、首輪に魔法、ないしはスキルが使われてるかもしれないってのが僕様ちゃんの考えなんだけど、どうかな?」
「難しいのが実行なの。考えるのが簡単なのが理論だけど、危険があるのが暴発」
「ぼくもりすかと同じ意見だ。『魔法使い』でも『魔法』使いでもそんな繊細な魔法式が使えるとは思えない」
「魔法陣の可能性は……もっとありえないか」
「あの影谷蛇之ですら二十本もダーツを作ってはいなかったのに、その倍以上となるといくらなんでも無理がありすぎる、とぼくは思うが」
「だよねえ。さっちゃんからの情報をもらう前に形ちゃんからそれとなく話を聞いてはみたけど、思い当たる人はいないって言ってたし」
「そうでなくとも便利ではないのが魔法なの」
「ファンタジーやメルヘンじゃあありません、ってことかなあ。さすがに他の世界にはこういう技術はないと思うんだけどなあ」

そして現在、静かになったブースでぼくも交えて主に首輪についての考察が広げられている。
しばらく経ってもどちらも上がって来ないということは相討ちか、大方重傷を負いつつも辛勝したというところだろう。
考えたくはないが宗像形が生きているかもしれない以上確認しに行くようなことはしない。
そこで死ぬようであれば蝙蝠はそこまでの駒だったということだ。
玖渚の考えによれば首輪の外殻には未知の物質が使われており、おそらくそれは魔法かスキルによって作られたのではないかとのことらしい。
顕現『化学変化』の魔法を使えばできなくはないかもしれないだろう。
だが、それを見せしめの分も含めて計四十六も作るとなると、さすがに無理があるのではないだろうかというのがぼくとりすかの考えだ。
そうでなくともそう都合よく目的に沿うような魔法があるとも思えない──水倉神檎でもあるまいし。

「普通に考えたらさ」

そう言って玖渚は箱からドーナツを一つ取り出した。
小さな球が八つ連なって一周しているポン・デ・リングだ。
八つの球を四つと四つに分ける。

「こんな風に二つのパーツを組み合わせて首に嵌めるものでしょ?」
「だろうな」
「いくら二重構造になってて内側はこのようになっているとしても、外側もこうなってないとおかしいと思うんだよね」
「ただ作るだけならできなくはないだろうな」
「問題なのが人間に嵌めるということ?」
「それなんだよねえ。内側を普通に嵌めたとしても綺麗にコーティングするのだって……あ、ちょっとごめんね」

雑音がないと着信音がよく響く。
電話ではなくメールか。
二つに分かれたポン・デ・リングが箱に戻される。
……口をつけてたわけでもないしいいか。
読み終えるとそのまま畳んでポケットにしまった。

「……返信しなくていいのか?」
「いーちゃんがこっち向かうってさ。それと創貴ちゃんたちには朗報かな、零崎人識は別行動になったからいないって」

ぼくが反応を返すより早く、りすかが大きく息を吐き出した。
さっきの話を聞いたとき随分と肩をこわばらせていたからもしやとは思っていたが、未だに恐怖心が消えていないらしい。
いざというときそれが妨げにならなければいいんだが……

「ところでさ、今こうして私は創貴ちゃんたちにありとあらゆる情報を提供してるわけだけど、これって大きく分けて三つのパターンがあると思うんだよね」

それを一瞥した玖渚がふいに話題を切り換えた。
不思議には思ったが返す意外の選択肢が浮かばない。

「パターン? 何のだ」
「情報を差し出す理由、とでも言えばいいのかな」
「わたしたちとクナギサさんみたいな?」
「それが一つめだね。利害の一致とか取り引き材料で情報交換したり一方的に渡したり」
「二つめはぼくとりすかのようなもの、か」
「うん、損得感情抜きでそれだけのことをする価値がある相手の場合だね。私といーちゃんみたいな、さ。

527玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:43:19 ID:sIP1vxS60
 それで最後、三つめ」





「目的が時間稼ぎの場合、だな。もしくは相手を動揺させるのが狙いだったりってのもあるか?
 いずれにせよ言えることは相手を消すためであり、渡してしまっても問題ないということ、だろ?」





ぼくのものでもなく、りすかのものでもない、もちろん玖渚友のものでもない第三者の声が割り込んだ。





「大正解! 言われた通り私は時間稼ぎに徹したし殺さないで欲しいな」
「ご心配なく。気まぐれをおこさなきゃな」

即座にぼくは立ち上がり、りすかの腕をつかんで体の向きを反転させる。
扉に背を向けたままでいるのは明らかにまずい。
直後、音もなく扉がこちらに向かって倒れ込んできた。
身構えたときにはぴたり、とぼくとりすかの首筋に刀が突きつけられる。
……あれは蝙蝠が持っていた刀だ、ということは蝙蝠は──などということは考えさせてはくれないらしい。

「さっき言ったメールの内容はほとんど嘘。
「いーちゃんからじゃなくてしーちゃんからだったんだよね。
「さっき言ったでしょ?
「『最悪の可能性は常に想像しておくもの』だって。
「創貴ちゃんが戻ってきたということは少なくとも圧倒的有利な状況ではないということ。
「だからあらかじめ手を打っといたんだよね。
「いーちゃんのメールには追伸を。
「『しーちゃんが探してる相手ならここにいるからしーちゃんがそこにいるなら一緒にいた方がいいかもねって伝えといて』って。
「そしていーちゃんと離れた可能性もあったからひたぎちゃんにも同時にメールした。
「『ネットカフェにしーちゃんが探してる人がいるよ。方向的に黒神めだかを殺せるかもしれないしあなたにとっても悪い話じゃないと思うけど』って。
「創貴ちゃんたちの前で二回手を休めたのはそのためだよ。
「携帯の操作権を渡さなかったとはいえ、いーちゃんへのメールをちゃんと最後まで読めばわかっただろうにね。
「仮にしようとしたところでさせなかったけど。
「あのとき直接しーちゃんの連絡先を取得してなかったから伝わるか不安ではあったんだけど、ひたぎちゃんを殺して携帯をちゃんと回収してくれたから結果オーライ。
「裏切った理由?
「そんなの決まってるじゃん。
「ぐっちゃんを、私の所有物を壊したからだよ。
「例え役立たずでも、捨てたものでも壊していい理由にはならないよ。
「拾われるだけでも不愉快なのにましてや壊されるなんて、ねえ?
「気づいてないとでも思ってた?
「真庭蝙蝠がぐっちゃんと『だいたい』同じ顔をして、私がカメラ越しで見たのと同じ服を血だらけで着ていて、わからないとでも思った?
「真似られるだけでも不快なのに、壊した相手を目前にしてそれを壊し返せるチャンスを逃がすような真似をするとでも?
「もちろん、打った布石が無駄に終わる可能性もあったからそのときはさっきまでの続きをやっていただろうけど、こうなってしまった今それはどうでもいいことだよね。
「という感じで、どうかな?」

528玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:44:16 ID:sIP1vxS60

「うんにゃ、解説ごくろーさん──ということでお終いの時間だ、ガキのお遊びにしてもやりすぎだぜ?

 殺して、
 解して、
 並べて、
 揃えて、
 晒して、
 刻んで、
 炒めて、
 千切って、
 潰して、
 引き伸ばして、
 刺して、
 抉って、
 剥がして、
 断じて、
 刳り、
 貫いて、
 壊して、
 歪めて、
 縊って、
 曲げて、
 転がして、
 沈めて、
 縛って、
 犯して、
 喰らって、
 辱めて、
 
 そして最後に殺して解して並べて揃えて晒してやんよ――老若男女、容赦なしだ」


そしてぼくに向けた。
闇を刻み込んだような、深い眼を。
神を使い込んだような、罪深い瞳を。
さて、この程度の『障害』をどう乗り越えるか。
ぼくは睨み返す。

529玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:44:55 ID:sIP1vxS60
【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪×2(浮義待秋、真庭狂犬)、ランダム支給品(0〜4)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 0:とばっちりを受けないようにしないと。
 1:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 2:いーちゃんは大丈夫かなあ。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。また真庭蝙蝠たちの協力により真庭狂犬の首輪も入手しました
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします
 ※本文中で提示された情報以外はメールしていません
 ※零崎人識からのメールにより以下の情報を入手しています
  ・戯言遣いと球磨川禊たちが高確率で離れている可能性
  ・戦場ヶ原ひたぎと宗像形の死亡および真庭蝙蝠の逃亡


【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×6@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:今度こそ逃がさねえ。
 1:いやはや、ちょうどいいタイミングでの情報提供に感謝だな。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

530玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:45:28 ID:sIP1vxS60
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康、人識に斬刀を突きつけられている
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:玖渚友も排除せざるを得ない、か……
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠は残念だが……
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません
 ※玖渚友から彼女の持つ情報のほとんどを入手しました
 ※真庭蝙蝠は死んだ可能性が高いと考えています


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]零崎人識に対する恐怖(大)、人識に絶刀を突きつけられている
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:キズタカに従う
 1:? ? ?
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします


[備考]
玖渚友たちがいるブースの中央にミスタードーナツの詰め合わせ@物語シリーズが置いてあります
中身はエンゼルフレンチ、ストロベリーホイップフレンチ、二つに割れたポン・デ・リング、D−ポップです


----
支給品紹介
【ミスタードーナツの詰め合わせ@物語シリーズ】
想影真心に支給。
阿良々木暦が忍野メメに差し入れようとしていたものだったが結果はご存知の通りである。
中身はゴールデンチョコレート、フレンチクルーラー、エンゼルフレンチ、ストロベリーホイップフレンチ、ハニーチュロ、
ココナツクルーラー、ポン・デ・リング、D−ポップ、ダブルチョコレート、ココナツチョコレート。
劇伴の曲名にもなった忍野メメが好きなオールドファッションは入っていない。

531 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:48:11 ID:sIP1vxS60
投下終了です
いつも通り誤字脱字指摘感想その他何かありましたらお願いします

今年も新西尾ロワをよろしくお願いします

532名無しさん:2015/01/09(金) 00:04:17 ID:lcPRYFYs0
投下乙です。

>三魔六道
羽川と対等にやりあおうとする八九寺に今までにないしたたかさを感じた。
「実は、優勝する気はないでしょうか?」
この質問に対する羽川の真意やいかに。
そしていーちゃんはやっぱりジョーカーを引く運命にあるのね……

>玖渚友の利害関係
誰か玖渚から携帯電話を取り上げろ!ww
殺人鬼とサヴァンの即興連係プレイが鮮やかすぎてキズタカたちが可哀想になるレベル。これもう詰んでますわ。
玖渚が裏切った理由のところはなるほどなと思った。図らずも共通の敵を持ってることになるんだなぁこの二人。
ブチ切れモードの二人を相手に、りすかチームに生き残る術はあるのか否か。

533名無しさん:2015/01/15(木) 09:50:47 ID:dbIbJO7g0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
155話(+3) 14/45 (-1) 31.1(-2.2)

534名無しさん:2015/03/15(日) 00:28:21 ID:OmFWEF5g0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
155話(+0) 14/45 (-0) 31.1(-0.0)

来期は投下できるようにしたいですね…

535 ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:40:50 ID:dCRMcRFk0
お久しぶりです
予約分投下します

536鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:42:34 ID:dCRMcRFk0




想像よりまず行動力



1-1



なんて厄日なんだと愚痴りたくもなるが、それは最初からだった。
突如襲い掛かってきた謎のロボット。
それから逃れるために、慌ててジェリコで発砲したものの。

「――――っ……」

腕に走ったずきりとした痛みに思わず顔をしかめる。
刀傷、ではない。
むしろそうだったらどんなによかったことか。
主にぼくの体面が。
頭か胴体か、それとも手足についた合計八本の刀のどれかはわからないが、それにぶつかった銃弾が跳ね返ってきたようで。
腕を掠っただけだから傷そのものは大したことはないけども。
そのときの衝撃でジェリコを落としてしまったのは失態だ。
拾うために生じる隙と見捨てることで僅かでも離れられる距離。
天秤にかけ、即座に後者を選び。
あとはただ、ひた走った。
救いだったのは、ぼくの疾走の速度がロボットの移動速度より速かったこと。
そして、さすがに建物は斬れなかったこと。
おかげでこうして安全圏で呼吸を整えることができる。
どうやらロックオンされてしまったみたいで、離れていってはくれないけれど。
なぜそれがわかるかというと、今も向かい合っているからだ。
窓越しに。
外の様子を見ようと近づいた瞬間に割られたときには驚いたけども。
突然刀が生えてきたように見えたときはたいそう驚きましたけれども。
それがぼくに届かないとわかれば、多少は余裕も生まれるというものだ。
窓が小さかったことと飛び道具が無かったことに感謝しよう。
さて。
狙われているとはいえ危機を凌いだとなると、考えることもできてくる。
真宵ちゃんと翼ちゃんは、無事なのだろうか。
ぼくが今こうしてロボットを引き付けてる間は大丈夫かもしれないが、それは目の前のこれ一体だけだったらの話だ。
一体だけとは限らないし、そうでなくとも他に危険人物がいないという保証はどこにもないのだ。
こんなことになるのなら真宵ちゃんからの目線に耐えてでも一緒にいるんだった。
せめて、もう一つ携帯でもあれば向こうの状態がわかるのに。
そう思って携帯を取り出してみれば。
あれ。
メールが届いている。
いつの間に。
と言っても、ぼくが逃げていた間だろう。
零崎に電話しようと思ったときにはなかったんだし。
どれ、内容は――


 from:玖渚
 title:もしかして
 text:ランドセルランドに腕4本脚4本のロボットが襲ってくるかもしれないから気をつけてね
    なんなら僕様ちゃんたちがいるネットカフェに来てもいいけどその場合は教えてくれると嬉しいな
    案外いーちゃんのことだからこのメールを読んだときにはもう遭遇しちゃってるかもしれないけど、僕様ちゃんは対処法を知らないからそのときはそのとき!

537鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:43:47 ID:dCRMcRFk0


ああ、その通りだよ。
現在進行形で遭遇してるよ。
対処法が無理でもどうせなら攻略法くらいつけてくれてもよかったんじゃないか。
ん。
よく見たら続きがあるぞ。
もしかして――


P.S.しーちゃんが探してる相手ならここにいるからしーちゃんがそこにいるなら一緒にいた方がいいかもねって伝えといて


……零崎はいないんだよなあ。



1-2



どうしましょう。
いえね、迷ってるわけではないんですよ。
行きたくない、という感情にはそもそも行かなくてはならない、という前提があるわけでして。
行った方がいいというのはわかってるんですよ。
武器はそれなりにあるとはいえ、使う側である私たちが万全ではないですからね。
それに、戯言遣いさんって玖渚さんが探している方ですし。
そういった点である程度は信頼がおけます。
少なくとも損得で考えれば得の方が多くなるくらいには。
でも、そのためには様刻さんに連れていってもらわなければいけませんからねえ。
また私をおぶらせることになるのは気が引けます。
いくら私がやせ形で軽い義手をつけているといっても40kg後半強の荷物は重いでしょう、さすがに。
とはいえ、周囲に誰もいないうちはまだ大丈夫です。
便利ですねえ、首輪探知機。
『誰か』ではなく『誰が』いるかわかるのは心強い。
今も異常なし、っと。
こうなったら曲識さんや軋識さんを殺したのが誰かについて考えてみましょうと思いましたが、手がかりないんですよねえ。
いえ、DVDはじっくり見ましたから外見についてとかはわかりますが。
それにしたって曲識さんを殺したあの赤い女の子――掲示板の情報によると水倉りすかでしたか――、いくらなんでも強すぎません?
殺されたと思ったら血の海の中から復活するってなんですか。
殺しても死なないって、どうやって殺せばいいんですか。
よく聞く話ですと「死ぬまで殺し続ける」なんてのがありますが、殺すたびにあんな風になられちゃひとたまりもありませんよう。
それこそこちらの命がいくつあっても足りません。
玖渚さんなら弱点とかわかってたりするんですかねえ。
それとは関係ないところで気になるところがないでもないのですが。
映像見る限りですと、首輪、外れていませんよね?
普通に生き返る(というのもおかしな表現ですが)のならまだしも、途中完全に体の原型留めていないじゃないですか。
あれで外れない方がおかしいですよ、むしろ。
そもそもの話、人間じゃないですよね、あの子……
軋識さんを殺した人の方も色々考えなければなりませんし。
双識さんのお姿を騙ったことについては捨て置けません。
なぜ双識さんではないのかわかるのかですって?
あの家賊思いの双識さんです、まかり間違っても軋識さんを殺すなんてことはありえません。
それに、途中から総白髪の小柄な女性になっていたことを思えば変装でもしていたのでしょう。
あれを変装と言っていいのかどうかは語弊がありますが。
……なんか、人間業でできないことをやってのける方、多すぎませんかねえ。
挙句の果てには触れてもいないのに人体を腐らせるとか、何がどうなったらそうなるんですか。
哀川のおねーさんだって大概ではありましたけども、それでもできることに限度はありましたよう。

「……はあ」

538鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:44:20 ID:dCRMcRFk0

ため息も漏れてしまうというものです。
って。
おっとっと。
手を滑らせてしまいました。
足を添え木で固定されていると拾うのも一苦労ですね。
まあ骨折というだけで色々大変なんですけど。
そう思って落とした探知機を拾おうとしてみれば。
端に光点が一つ。
どうやらかなり正確に探知できるようですねえ、なんて悠長なことは言ってられなくなりました。
だって表示されていたんですもの。

「真庭鳳凰」と。



1-3



真庭鳳凰は思索に耽っていた。

一言で表せば簡潔極まりないが、鳳凰本人にとってはただ事ではない。
鳳凰はただ、気付いただけだ。

――目指す先である薬局に櫃内様刻と無桐伊織の二人がいるのでは

と。
無桐伊織の怪我の治療のため、彼らも薬局を目的地にしていてもおかしくはない。
それだけならば何の問題もない。
元より櫃内様刻には借りを返すつもりであったのだ。
むしろ好都合である。
だがしかし。
鳳凰は更に考えを一歩進めた。
進めてしまった。

――二人が我を待ち構えている可能性を否定できぬ

そもそもなぜ鳳凰が出会う前から様刻と伊織の名前がわかったかといえば、首輪探知機があったからだ。
探知機が何を持って対象を判断しているかといえば、その名の通り首輪だろう。
つまり、いかな変装をしても首輪を他人のものと取り替えない限りは探知機の表示は変わらない。
そして彼らの手元には探知機がある。
鳳凰の名前を見て無反応でいられるわけがなく。
逃げ出すか迎撃するかそれとも他の手段を取るか、いずれにせよのうのうと殺されてくれるとは思えない。
元々鳳凰が持っていた数々の武器に加え、あの『矢』のような彼ら自身の武装もあるだろう。
更に、薬局にいるという仮定を捨てても、彼らが探知機を持っているという事実は変わらない。
別の場所から虎視眈々と鳳凰を狙っている可能性だってある。
現状、鳳凰が持つ武器のことごとくが近接用で、遠距離からの攻撃には為す術が無い。

――否、だからなんだというのだ

浮かんだ考えをそう否定して歩みを進めようとした鳳凰だったが、足が動くことはなかった。
真庭狂犬のような例外でもない限り寿命には抗いようがないように。
わかっていたとしても鳳凰にはどうしようもない罠が張られていたとしたら?
万一の可能性にいちかばちかで進むという考えが否定される。
楽観的な思考は全て否定され、否定的なものばかりが頭を占める。
一度認識してしまえば、振り払おうとしても脳裏に焼き付いたまま離れない。
思考の堂々巡りが始まって、はや数時間が経過していた。
ゆえに、傍から見ればこう表現するのもやむなしである。


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