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新西尾維新バトルロワイアルpart6

469球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/08(土) 12:00:21 ID:fWV1lgbY0
 
「あなたにとっての勝利とは、なにも黒神めだかに対する勝利でなくともよいはず。なのにあなたは、黒神めだかが唯一の目標であるかのような思いに囚われている。
 結果あなたは、一度は黒神めだかのせいで命を落とす羽目になっています。これではまたいつ、あなたが同じように命を落とすことになるとも限りません。
 わたしの『大嘘憑き』による死者の蘇生も、すぐに底をついてしまうでしょう」
「……割り切れっていうのかい」

七実の物言いをただの弁解と捉えたのか、球磨川の声に険が混じる。

「めだかちゃんの死を、もう仕方のないことだって、僕が生き残るために必要なことだって、そう言うんだね、きみは」
「いいえ、割り切るのではありません。なかったことにするのです」

ごふ、と血を吐きながら言う七実。
七実とはいえ、今の状態で喋り続けるのは至難のはずなのだが、それでも声だけは平静を保っている。

「あなたの命令は『黒神めだかの死をなかったことにする』だったはず。その命令を違えるつもりはありません」
「…………?」
「あなたのその悲しみに、あなたの責任はない。あなたは何も悪くありません。
 ならばこそ、あなたがそれを背負う必要も、割り切る必要もないはずです。
 だったら全部、忘れてしまえばよいではないですか」

割り切って1にするのでなく。
マイナスしてゼロにする。
虚構(なかったこと)にする。

「辛い現実なら、身を裂かれるような悲しみなら、忘れてしまえばいいのです。受け入れる強さも、乗り越える強さも必要ない。過負荷(わたしたち)らしく、弱いままに生きてゆけます」
「…………」
「大事なのは強がることではなく、弱さを受け入れること――そうですよね? 禊さん」

それは、球磨川自身が口にした言葉だった。
戯言遣いと八九寺真宵。その二人がある決断を迫られたとき、球磨川が語って聞かせた過負荷としての精神論。
七実が何をしようとしているのか、球磨川はようやく理解する。
理解できて当然だろう。そのとき球磨川自身がやったことと同じことを、七実はやろうというのだから。

「……僕は、めだかちゃんを守れなかった」

いつの間にか、球磨川は泣いていた。
七実に抱かれたまま、両目から滂沱として涙を流している。七実の胸元に零れ落ちた涙は、血と混ざり合ってすぐに見えなくなる。

「めだかちゃんが殺されたとき、一番近くにいたのが僕だった。それなのに、殺されるまでそれに気づくことができなかった。めだかちゃんと戦うのに夢中で、気づこうと思えば気づけたはずなのに、それなのに――」
「あなたは悪くありません」

懺悔のような言葉を遮って、もう一度同じことを七実は言う。
球磨川の吐露を、球磨川の言葉で優しく否定する。

「あなたは何も悪くない。ただ弱かっただけです。そしてわたしは、あなたに弱いままでいてほしい。過負荷(あなた)らしく、過負荷(わたしたち)らしくあってほしいのです」
「…………」
「わたしは、あなたを置いて死んだりはしません。あなたの望む限り、あなたが臨む限り、あなたの傍にいます」


死にぞこないだけれど。
生きぞこないだけれど。
生まれてくるべきではなかったけれど、それでも――


「あなたのために、生き続けますから」


だからどうか。
あなたがあなたであることを、やめないでください。


そう言って、七実は選択を委ねる。
胸に穿たれた矢からは、とめどなく血が滴り続けている。それをどうこうしようとする気配すらなく、身じろぎひとつせずに球磨川からの返答を待つ。


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