したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

312名無しさん:2014/03/15(土) 00:27:25 ID:satE6Pg20
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
144話(+2) 17/45 (-0) 37.7(-0.0)

313 ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:00:29 ID:GqeB6rDY0
投下します

314Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:01:28 ID:GqeB6rDY0



ほんとのことだけで生きてゆけるほど
僕らは強くないさ強くなくていい
――――いい?





『また勝てなかった』






「――でも次は、勝つ」






『……とは言ったもののどうしようか。めだかちゃん見失っちゃったし』
「さっきまでのお姿が台無しですよ」

いつものように、けれどどこか嬉しそうにため息をついてわたしは球磨川さんの返事を待ちます。
今のわたしは彼の刀。
従僕が主人に逆らわないようにわたしも所有者である球磨川さんの指示がないかぎり動けません。
七花もきっと――ああ、とがめさんがいなくなった後は自由に行動したのかしらね。
かつてのわたしのように。
そうでなければ錆ついた意味がないのですから。
……こうして思うと錆びるのも悪くはない――むしろいい。
七花に会ったら謝らなくてはいけませんね。
とは言ってもまだ会いたくない、会うとしてもそのときを引き延ばしたいと思っているわたしがいるのも事実。
七花に殺してしまってもらいたい。
球磨川さんに最期まで付き従いたい。
相反する二つの思い。
どちらを優先するかでこれからの行動にかなり響いてしまします。
…………………………さて。
こういうときにこそ四季崎が茶々を入れるかと思ったのに静かですね。

――なぁに、こいつは冗談抜きでおもしろそうなものが見れると思ったからな――おれが干渉して左右しちまうのはもったいねえ――

つまりこれからはもうちょっかいをかけられることもないと。

――まあそういうことだと思ってくれていい――おまえの機嫌を損ねてこの先が見れなくなっても困るしな――呼ばれない限りは出るつもりもねえよ――

それはありがたい、と素直に受け取っておきましょうか。

『どうしたの、七実ちゃん?さっきから黙っちゃって』

では迷うのもほどほどにして本題に戻りましょう。

「いえ、少し考え事を」
『ふうん……?まあ、いいけど。僕としてはめだかちゃんを探したいところなんだけどね』
「ではそうしましょうか」
『……七実ちゃんのしたいことがあるなら優先するよ?』

315Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:01:54 ID:GqeB6rDY0
「今のわたしはあなたの刀。あなたのすることに異論は唱えず、あなたの命令があれば誰が相手だろうと斬る、一本の刀です」
『そういう堅っ苦しいのは抜きにしていいって。あたりも暗くなってきたしとりあえず……』

途中で球磨川さんの口が止まった理由はわたしにもわかったので何も言いません。
視界を少し滑らせて林へ目線を向けるだけ。
草がかすれるような小さな音ではなく木が倒れた大きな音のした方向へ。

『めだかちゃんじゃないとは思うけど行ってみる?』
「禊さんがしたいのならそのように」

そして。
そして。
そして。
それは林に踏み入れてすぐ見つかった。
ところどころが溶けた倒木。
その側にうつぶせで倒れている男。
短くなったぼさぼさの髪。
見覚えのある泥だらけの着物。
わたしは男を――彼を知っている。

「…………七花?」

まだ会いたくはないと思っていたはずの弟の姿。
探していたうちは見つけることはできず、いざ逢いたくないと思ってしまった途端に遭ってしまうとはままならない。
本当に、ままならない。

「――おーるふぃくしょん」

球磨川さんが何かを言うよりも先に勝手に動いた。
動いてしまったと言った方が正しいのかもしれない。
ただ、七花が、弟が、無様に倒れているのを見ていられなかったのかもしれないしそうでなかったのかもしれない。
とにかく、結果としてわたしは『おーるふぃくしょん』を七花に使った。
その後のことを考えずに。
その前のことを『なかったこと』にした。

――幽霊の笑い声が背中を撫でたような気がした。





髪は戻った。
顔の傷も消えた。
けれど、泥は落ちていない。
おかしい。
わたしの見稽古が不完全だった?そんなはずはない。
ならばもう一度――

「おーる――
『やめた方がいい』

使おうとして球磨川さんに止められる。

『七実ちゃんらしくない反応だったけど、それが探していた弟くんだったのかな?』

今更ながらに気づいてはっと息を呑む。
刀になると決めたばかりなのに勝手な行動を――あまつさえ斬らずに治すとは。
だが、心の中では安心もあったのだろう。
ぬるい友情をモットーのひとつに掲げる球磨川さんなら、

316Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:02:46 ID:GqeB6rDY0
『うん、よかったじゃないか。ずっと探してたんだろう?会うことができてよかったね!』

きっとこうやって不問にするだろうと期待していたのだから。

「よかった――いえ、ここは素直に悪かったと言っておきますか。『まだ』会いたくはありませんでしたし」
『そういうものだよ、過負荷(ぼくら)はね。そして弟くんが被っている泥も過負荷だ』
「……どういう意味ですか?」
『過負荷を『大嘘憑き』で『なかったこと』にすることはできない。やっと気づいたことだけどね』
「ああ……それでわたしの病魔も消せなかったのですね」
『申し訳ないけどそういうこと。過負荷でこんなことをするとなると心当たりは江迎ちゃんしかないけど……』
「あら、江迎という名前だったのですか、彼女」
『ん?僕は学園で七実ちゃんと一緒になったときは江迎ちゃんはいなかったはずだよね?』
「その前に少しだけ会ったのですよ。彼女が桃の髪をした女で間違いないのならば、ですが」
『うんうん、江迎ちゃんに間違いないね』


『それで』


飄々とした声色が、


『一応確認しておくけど」


変わる。


「そのとき七実ちゃんは江迎ちゃんに何をしたのかな?」


有無を言わせないものへ。

「……毟ろうとしましたが逃げられました、というよりかは逃がしたと言った方が正しいですかね」

だから答える。
素直に。
正直に。
実際にそのときのわたしは彼女の『弱さ』を見取らないためにあえて戦闘を早めに切り上げさせた。
当初は連戦に向かないこの体で長期戦をするわけにはいかないという事情があったからこそのものだと思っていたのだけれど。
閑話休題。

『なら問題はないね!まあ、僕が江迎ちゃんと会ったときは泥舟ちゃんと仲良くやっていたし』

括弧をつけて球磨川さんはさっきまでのように話します。
ただ、動揺しているようにも見えたのは気のせいだったのでしょうか。
最初の放送の直後にも似たような反応を見た気がします。
あのときは、確か――阿久根とか言う方が呼ばれていましたっけ。
宇練さんと遭遇したときに話していたはず。



――ああ、なるほど



ぬるい友情だなんて自身で謳ってはいたけれど、実際は全然ぬるくなんかないのね。
むしろ熱い友情って言ってしまっていいくらいじゃない。
まあ、わたしにも同じことが言えるんだけど。

317Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:03:48 ID:GqeB6rDY0
「先程は勝手な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。弟が被ってるその泥について詳しく聞きたいのですが……」
『だからそんな堅苦しくなくていいのに……弟くんは、なんというか――感染してる、って感じかな』
「感染……ですか?」
『かなあ。僕も初めて見るからなんとも言えないけど……弱さが内からじゃなくて外に出てるとでもいうのか』
「弟本人には何の問題もなく、泥だけが問題だと?」
『だろうね。「大嘘憑き」で傷は消えたのに泥が落ちてないのがその証拠だ』
「木が倒れたのも、枝が所々不自然に落ちているのもそれによるものだと」
『そう思って間違いないだろう。やっぱり七実ちゃんとしては弟くんがこのままになってるのを見過ごすわけにはいかないよね?』
「……え?それはもちろんですが」

反射的に答えたわたしが球磨川さんを見ればその手には螺子が。


『だから』


この螺子は――黒神めだかとの戦いで使っていたもの。


『悪いけど』


それがどんどんと伸びていき――


『こうさせてもらうよ』


七花を背中から、貫いた。

――幽霊の声は聞こえない。





真庭蝙蝠を追っていたはずだが途中から記憶がない。
足を滑らしたのか頭をぶつけたのか猛烈な頭痛に襲われたのか――それすらもわからない。
ただ、気がついたら急速に意識がはっきりして、そして今まで全身に走っていた痛みが消えていた。
人の気配を感じて飛び起きる。
……おかしい。
体の感じがいつもと違う。
被った泥とは関係ない、奥底から出るような違和感。
けど、そんなものを気にする余裕はなかった。
なにせ、おれの胸の中央から『何か』が飛び出ているのだから。
痛みはないが、こんなものが刺さっていて平静にしていられるおれではない。
胸の中央ってどうしても悪刀のことを思い浮かべちまうし……

「七花」

なんてことを思っていたら呼び止められた。
ようやく視線を動かすと目の前に二人いた。
一人は知らない顔だ。
そしてもう一人は――

「姉ちゃん……?」
「ええ、そうよ」

本当に、いた。
死んだはずの姉ちゃんが。

318Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:04:21 ID:GqeB6rDY0
おれがこの手で殺したはずの姉ちゃんが。

「本物、なのか?」

知ってるやつで死人じゃない方が珍しかった。
名簿にとがめがいた、まにわにがいた、宇練銀閣がいた。
真庭鳳凰も、左右田右衛門左衛門も、真庭蝙蝠も、おれが殺したはずなのに実際にいた。
それでも生きているときから死人のようだった姉ちゃんが生きていることが信じられなくて。
だから、つい、馬鹿げたことまで訊いていた。
ここまで来て、本物じゃないはずがないというのに。
頭の悪いおれでもいいかげん気づくようなことなのに。
ただ、それでも。


「今更なことを訊くのね、気づいているくせに」


「でも、ひとつ言っておかないといけないことがあったわ」


「わたしは今、この人――禊さんの刀だから」


「命令とあらば七花を斬るし、今は七花に斬られるつもりもない」


「最初は七花に殺してもらうつもりだったんだけど……色々と事情が変わって」


「ごめんなさいね」


耳を疑った。
だって、姉ちゃんが、あの姉ちゃんが誰かの刀になるだなんて。
一度とがめの刀になるという話もあったけど、あれは本気じゃなかったはずだったし。
何が姉ちゃんをそこまで変えたかなんて……一つしかないじゃないか。


『せっかく姉弟で会えたところでそんな物騒なこと言うわけないじゃないか、七実ちゃん』


『おっと、自己紹介が遅れたね』


『僕は球磨川禊。箱庭学園の3年-13組生で今は七実ちゃんの持ち主ということになっている』


『それと、君の胸に刺さってるそれは僕のスキル「却本作り」によるものさ』


『君が被っていた泥は過負荷によるものだったから「大嘘憑き」じゃどうしようもできなくてね』


『仕方がないから「却本作り」で上書きさせてもらった』


『例えるなら消しゴムで消せない落書きがあったから修正液を使ったというところかな』


『副作用というか本来の効果で肉体も精神も技術も頭脳も才能も僕と同じになるけど』

319Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:04:45 ID:GqeB6rDY0


『そこはまあ、不可抗力として受け止めておいてくれ』


『あのままだと君は無残に腐っていくのみだったんだし僕はそれを助けたんだ』


『だから』


『僕は悪くない』


姉ちゃんを変えたのは姉ちゃんの持ち主に決まっている。
じゃなかったら姉ちゃんが持ち主――球磨川の刀になろうだなんて思わないはずだ。
かつておれがとがめの心意気に惚れたように。
それだから、なのか。
それなのに、なのか。
何の感情も湧いてこない。
驚き、だとか。
怒り、だとか。
悲しみ、でさえも。
昔のおれでさえも何かしらの反応はできたはずだろうに。
それもこれも胸に刺さったこいつのせいだというのだろうか。
だとしたらどうなのだろう。
ありがた迷惑なのか。
それともただ素直に感謝か文句のどちらかを述べればいいのかも――わからない。
ただひとつ言えたことは――


「物騒な音が聞こえたから何事かと思って来てみれば……球磨川、貴様らの仕業か?」


乱入者によって考える余裕などなくなったということだ。


「おや、鑢七花。なぜ貴様がここにいる?」


そして、おれにとっては絶好の雪辱を晴らす機会だというのに怒りは湧いてこない。
闘争心だけは膨れあがっていたが。





ん、また僕の出番かい?
やれやれ、語り部なんてそこにいる誰かに担当させればいいじゃないか。
そうもいかないから僕がやるはめになってるんだろうけどね。
確かにこの四人の中で誰かに語り部をやらせるというのはいい判断ではない。
彼らのこれまでの因縁を考えるなら第三者視点で語るというのが得策だ。
だからといって僕なんかにやらせず神様にでもやらせときゃあいいのに。
それとも、悪魔様にやらせるかい?――なんてね。
まあ色々と承知の上なんだろうけど、一応言っておくぜ。
これから先何が起ころうと――僕には一切関係ないし、僕は一切関係していない。



「ひたぎちゃんを追いかけていたんじゃなかったのかい?どうしてこんなとこにいるのさ」

320Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:05:19 ID:GqeB6rDY0

球磨川くんがめだかちゃんに尋ねる。
その疑問は至極尤もだが、ここは割愛して僕が答えておこうか。
一言で言えば見失ってしまったのさ。
闇雲に探し回ったけど足跡一つ見つけることはできず、七花くんが被った過負荷の影響で木が倒れた音を聞き駆けつけたわけだ。
いやはや、人識くんの逃げ足には感服するね。
40キロ後半強の女子高生を背負ってめだかちゃんから逃げおおせるとは。
かつて人類最強と鬼ごっこをやってたりもしたんだし殺し名の皮を被ってるだけあって伊達ではないということかな。
そういえば七花くんのこれまでも曖昧だったっけ。
なに、彼は途中で力尽きただけさ。
何重にも着ていた着物のおかげで体幹部は被害が薄くて済んだものの剥き出しの手足や頭はそうもいかなかった。
頭痛と吐き気に苛まれながら触れた木の枝を溶かして落として進んでいたものの、とうとう限界を迎えた――ということさ。
球磨川くんと七実ちゃんの発見が遅かったらそのまま死んでいてもおかしくなかっただろうね。
その後の対処も彼らの持ち得る手段としてはおよそ的確だったと思うよ。
まず『大嘘憑き』で損傷した肉体を回復させ、『却本作り』で上書きすることで過負荷がこれ以上感染することを防ぐ。
ほぼ最善の手法ではあったのだが、彼らは気づいてないだろうね。
気づく必要もないだろうけど。
それにあたって七花くんの色々が犠牲になってはいるが、そんなものは些事だろう?
じゃあ彼らの今の話に戻ろうか。
僕がここで話している間にまどろっこしいところは済ましてしまったようだし。
ふーん、球磨川くんは七実ちゃんに待機の命令を出したのか。

「私は貴様がここにいる理由を聞きたいのだがな、鑢七花。貴様にはまだ眠ってもらうはずだったが」

めだかちゃんにとっての目下の疑問は七花くんの存在だ。
彼女にとって彼はまだデング熱の影響下で高熱で動けなくなってるはずだったしね。
しかし『五本の病爪』は元々僕のスキルだったのに伝聞だけで完成させてしまうとはなあ。
病気を操るスキルとはいえ、基本的には相手を病気にすることの方が当然使い道は多い過負荷なんだが。
まあ、あのままあそこにいれば江迎ちゃんの過負荷の影響で骨の髄まで残らなかっただろうけどさ。

「あんたがいなくなってからしばらくしたらなんともなくなったよ。疲れとかは残っちまったけどな」

おかげで右衛門左衛門とやったときは苦労したよ、というぼやきはめだかちゃんには聞こえなかったようだ。
聞こえてたところで時間の問題だったんだろうけど。
だがそれでも七花くんの発言はめだかちゃんを動揺させたようだ。
言ってしまえば中途半端な対応をしてマーダーを自由にしてしまったんだから。

「そもそもめだかちゃんはなんでひたぎちゃんにこだわるんだい?やっぱり善吉ちゃんを殺されたから?」

そしてここにいるのはめだかちゃんの動揺が治まるまで素直に待つような人じゃない。
特に――球磨川くんはね。
それにしてもちゃんと見抜いていたんだなあ。
そこは弱さという弱さを全て知り尽くしている球磨川くんだからこそだろうけど。
案外カマをかけただけかもしれないけどね。
いずれにせよ、図星だったわけで。

「……っ、それもある、が、先程左右田右衛門左衛門の名が呼ばれてしまったからな。彼奴の主君である戦場ヶ原ひたぎ上級生になおのこと会わねばならん」
「ちょっと待て。右衛門左衛門の主君が誰だって?」
「戦場ヶ原ひたぎ、と聞いたがそれがどうした」
「おれはそんなやつ知らねえぞ。あいつの主君は否定姫だけだ」
「しかし、確かに……」
「あいつは最期まで否定姫の腹心だったよ。殺したおれが言うんだから間違いない」
「なっ、貴様……殺したとはどういうことだ!」
「もういいよ、めだかちゃん」

おやおや、一気に核心に触れてしまったみたいだね。
いよいよ種明かしの時間にでもなるのかな。

321Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:06:13 ID:GqeB6rDY0
「めだかちゃん、君は間違えていたんだよ。
「最初からね。
「君が阿良々木暦くんを殺さなければひたぎちゃんは善吉ちゃんを殺すことはなかった。
「ひたぎちゃんは君を殺そうと躍起になる必要はなかったし、僕も殺されずに済んだんだ。
「僕はまあ、こうして生き返ることができたけど、他の人はそうもいかない。
「左右田ちゃんの件だって君の対応は間違っていた。
「何があったのかは知らないけど、想像はできるよ。
「どうせ君のことだから馬鹿正直に言うことを信じたんだろう?
「実を言うと僕も左右田ちゃんには一度会っていてね。
「彼からは殺されかけたんだよ。
「敵前逃亡したからあえなく勝てずじまいの無様な姿を晒しただけだったけど。
「まあ僕がどんな姿を晒そうがそれは関係のない話だ。
「重要なのは彼が殺し合いに乗っていたことだよ。
「別に殺し合いに乗ったこと自体は重要じゃない。
「パニックになってなりふり構わず他人を襲うことだってないわけじゃない。
「まあ左右田ちゃんはわかってて乗ったみたいだったけど。
「おっと、こんなことは今はどうでもいいことだったね。
「肝心なことは一点。
「君はみすみす彼を見逃したことで他の人を危険に晒したんだ。
「しかもそれだけじゃなく同じことを弟――七花くんのときにもしたわけだ。
「順番が逆かもしれないけどそんなことは関係ないね。
「左右田ちゃんよりかは剣呑だったようだけど、いずれにしてもマーダーを野に放ったのには変わりない。
「しかも七花くんは左右田ちゃんを殺しちゃったわけだ。
「わからないかい?
「君が対処を間違えたからこうなったんだよ。
「何もしなくても人が人を殺すなんて明らかだ。
「現にもう28人死んでいるんだしね。
「だというのに君は何もしていないに等しい。
「人殺しを看過できないからと手元において監視することもせず。
「これ以上の被害を出さないために心を鬼にして殺すこともせず。
「一見安全策ともとれるようなことをしたつもりで放置したんだ。
「実際は安全でもなんでもなかったのが明らかだけどね。
「ああ、そういえばどうして君が暦くんを殺したことを僕が知っているかについて説明していなかったっけ。
「どこかで誰かが誰かを殺した瞬間の映像が手に入るようでね、それをまた別の誰かがネットに流してるんだよ。
「携帯電話とかパソコンとかがあれば誰でも簡単に見ることができる代物だ。
「つまり、大多数の人間に君の所業は知られているということだよ。
「生憎僕はそういった物は持ってなかったんだけど人脈はそれなりに築いていたからね。
「もちろんばっちり見させてもらったよ。
「そしてガッカリした。
「まさか君がいの一番に人殺しをするだなんてね。
「だからさっき会えたときは嬉しかったんだよ。
「君は僕の気持ちを受け入れてくれた。
「ま、ひたぎちゃんにすぐ邪魔されちゃったけど。
「今は邪魔の入らない状況でリベンジってところだというのに。
「なんだいその体たらくは。
「そういう意味では今のめだかちゃんの格好はとってもお似合いだと思うよ。
「その服、まるで『お前に生徒会長はふさわしくない』って言われてるようじゃないか」

たたみかけたねえ。
いつものめだかちゃんならそれこそ先程のように突っぱねて「こまけえこたぁいいんだよ」みたいなこと言って向かっていったんだろうけどタイミングが悪かった。
むしろよかったとでも言うのかな。
七花くんの存在、そして発言で動揺した隙を球磨川くんは見逃さなかったわけだ。
滅多に見られないめだかちゃんの弱さが垣間見えた瞬間ではあったわけだしねえ。
『却本作り』で七花くんは半分封印されているようなものだし七実ちゃんは球磨川くんの不利益になるような行動はしない。
御託はいいからめだかちゃんは実際にどうしたのか教えてくれって?
僕としても楽しみではあったんだが控えさせてもらうよ。
続きをお楽しみに、ってね。
だって、そこまで語ってしまうのは野暮というものだろう?

322Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:06:54 ID:GqeB6rDY0
【一日目/夜中/E-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」


今度こそ僕は、勝つ。
黒神めだかに、僕は勝つ。
――七実ちゃんもその気みたいだしさ


[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える?
 0:命令があるまで待機。
 1:七花以外は、殺しておく?
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

323Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:07:15 ID:GqeB6rDY0

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語
[道具]支給品一式、否定姫の鉄扇@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:もう、狂わない
 0:? ? ?
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先?
 3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
 4:再び供犠創貴と会ったら支給品を返す
 5:零崎一賊を警戒
 6:行橋未造を探す
[備考]
 ※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです
 ※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします
 ※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
  ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
 ※都城王土の『人心支配』は使えるようです
 ※宗像形の暗器は不明です
 ※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです
 ※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)
  また、『五本の病爪』の制限があることに気付きましたが詳細はわかっていません
 ※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです
 ※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
 ※供犠創貴とかなり詳しく情報交換をしましたが蝙蝠や魔法については全て聞いていません
 ※『大嘘憑き』は使えません
 ※鑢七実との戦いの詳細は後続にお任せします
 ※首輪が外れています


【鑢七花@刀語】
[状態]『却本作り』による封印『感染』?、覚悟完了?
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:? ? ?
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない?
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

324 ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:09:25 ID:GqeB6rDY0
投下終了です
ひっどいぶん投げであることは自覚してるので何かあれば遠慮なく言ってください

325名無しさん:2014/03/21(金) 16:09:24 ID:6D.WYJYA0
投下乙です。
さあめだかちゃんツケ払いの始まりだ

持ち主を喪った七花のところに、持ち主を手に入れた七実が現れるというのが皮肉…

326名無しさん:2014/03/22(土) 12:17:50 ID:NKDZe7os0
投下乙です

327 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:18:23 ID:eR1uFKvU0
零崎人識と戦場ヶ原ひたぎの投下を開始します。

328冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:19:49 ID:eR1uFKvU0

「人間の死には、『悪』という概念が付き纏う。ってのが兄貴の持つ信念みたいなもんだった」
「……………………」

全く唐突に零崎人識は語り出す。
別に誰に聞かせるようでもなく。
別に誰に言ってるようでもなく。
別に誰にどうするようでもなく。
ただ思い付いた事を喋るように。
ただ思い出した事を呟くように。
ただ、懐かしむような顔をして。

「それを言ってた兄貴に何か言ったような気がする。
 逆になんにも言ってないような気もする。
 だが思ってるんだ。
 人間の死には、『悪』なんて概念は必要ないってな」
「……………………」
「聞いちゃいねーか」

かはは、と零崎さんは笑った。
言いたかったのはそれだけだったらしい。
黙々と歩き続ける。
静かに、手を伸ばす。
腕を、零崎さんの首に。

「よっと」

絡み付く直前、動いた。
零崎さんがどう動いたかまるで分からない。
しかし次の瞬間、わたしの体は地面に落ちていた。
何が。
そう思っても体が動く。
殆んど間髪を入れず体を起こして、包丁を抜く。
それを、軽く肩を竦めるだけで、零崎さんは何も言わなかった。
何も出さず、来るなら来いとでも言うように。
何かあるのかしら。
ゆっくりと時間が流れる。
でも、決心が付いた。
不意に踏み出す。
首へと包丁を突き出す。
対してただ一歩踏み出しただけに見えた。
次の瞬間には、わたしの手から包丁は消えていた。
零崎さんの手に包丁が握られ、肩が裂けた。
何が起きたのよ。

「くっ……!」
「で、さぁ」

向き直って肩を抑える。
何事もなかったような顔で。

「どう思う?」
「……何がよ」
「人間の死には一体何が必要か、さ」

329冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:22:13 ID:eR1uFKvU0
片手で包丁を弄び、零崎さんは笑った。
気圧されたように下がっていた。
下がって、しまった。
それを全く見もせずに。
指先で自在に包丁を弄ぶ。
答えなど求めてないような。
答えなど聞く気もないような。
答えなど元から知ってるような。
鼻っから期待してないような顔で。

「……………………知らないわ」
「そうか?」
「生きるのには一体何が必要かは知ってるけどね」
「……へぇ」

包丁が止まる。
笑ったままの人識が、わたしに向いた。
先を促すように顔を動かす。
それでも油断なく。
むしろ何時でも逆に殺せるように、でしょうね。
一本の刀を抜く。
片手で振り回すのは無理ね。
鞘を投げ捨てて、柄を両手で握り、その鋒を真っ直ぐ向けて。

「思いよ。思いさえあれば、生きていけるわ」
「俺は水と食い物だと思うけどな」
「そう言う事じゃないでしょ?」
「どう言う事なんだろうな」
「からかってるの?」
「さぁ? それで」
「何事もなかったように続けるつもりね」
「もちろん」
「呆れ果てた愚物ね」
「殺人鬼なんでな」
「あなたって最低のクズだわ」
「また妙な所から持ってきたな、おい」
「そうでもないわ。それよりあなたの所為で話が逸れたじゃない」
「俺の所為かよ!?」
「じゃあ誰の所為よ」
「お前の所為だろ」
「あなたって」
「それはもう良いから」
「ちっ」
「おい、今舌打ちしなかったか?」
「あぁ、ごめんなさい。次からは聞こえないようにするわ」
「そっちか!? 謝るのはそっちか?!」
「少しは落ち着きなさいよ。ハゲるわよ」
「ハゲるかよ」
「その歳で白髪なんだから分からないわよ?」
「あー。確かにな。もうすぐ二十歳だけどそれでこれはまずいかなー」
「え?」
「え?」
「……ごめんなさい。あなたって、幾つ?」
「え? 19」
「……うそ、あなたの身長、低過ぎ?」
「おい。おい! 失礼だなおい!」
「ご、ごめんなさい。真面目に話をするわ。それで、何の話だったかしら? 最近の投稿スピード? 死者数?」
「おい。おい……そんなあからさまに話題変えようとするなよ……」
「チビ」
「殺すぞ!」

330冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:23:39 ID:eR1uFKvU0
やれやれと。
どちらとも言わず首を振った。
それぞれの獲物の切っ先を向け合ったまま。

「復讐するわ。
 黒神めだかに。
 優勝するの。
 阿良々木くんのために。
 どんなに罪に塗れても良い。
 どんな罰でも甘んじて受ける。
 どんな重みを背負ったって良い。
 だからこそ、私は、絶対勝つのよ。
 あなたを殺して、黒神も殺して。
 彼がそんな事願ってなくても
 絶対に別けも渡しもしない。
 押し潰されたまま生きる。
 叶えるわ、彼の復活を。
 それだけ決意してる。
 それでも勝てるの? 勝てると、思う?」
「なぁ」

ただ呟く。
問い掛ける。
笑ったままで。
髪を軽く掻揚げ。
包丁の先をを向け。
どうでもよさそうに。
零崎さんは言ってくる。

「人間生物を殺すにはどうすれば良いと思う?」
「………………決まってるでしょ」
「お? どうするんだ?」
「こうすれば、いいのよ!」

一歩の踏み込み。
刀が振り下ろされる。
にやにやと笑ったまま。
零崎さんが包丁でそれを受け止め、

「は」

あっさりと斬れ、

「あああああ!?」

体を捻った。
早過ぎない、ちょっと。
刀はそのままの勢いで地面を斬って、止まった。
それも勢いがなくなって、と言う形で。
肩の痛みの所為で振り回し辛い。
慎重に刀を持ち上げる。
その頃には多分五歩くらい、人識が下がっていた。

「はああああ!? はあ? はあああ! はああああ?!」
「…………」

331冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:25:39 ID:eR1uFKvU0
うるさい。
やたら叫んでうるさい。
無言で踏み込み。
刀は横薙ぎに振る。
包丁の残った鉄の部分で受け止めた。
でも関係なく斬れる。
体に届く前にはしゃがんで逃げていた。
今度は十歩以上。
すばしっこいわね。

「ねーよ! ねーよ!! 幾らなんでも有り得ねーっての!」
「何がよ」
「馬鹿、そりゃ、包丁が斬られることがだよ!」
「なんでよ? こっちは刀、そっちは包丁。不思議でも何でもないわ」
「馬っ鹿! これだから素人が! 素人の素振りの威力なんてたかが知れてるわ! あーあ、そう言えば随分あっさりあいつの首を落としてると思ったわ!」
「そうでもないでしょ」
「あるわ! 首の骨の太さ考えてみろ! ナイフだったら何回かは受けれるぜ、普通! 包丁でも一回はいけるって」

話をしながら、向こうから距離を詰める。
自然な動作で。
むしろ私の方が身構えた。
何かあるのかしら。
しかし五歩ほどの所で止まり、服に手を入れながら目を細めた。
その目は私ではなく刀身に注がれている。
よく知らないけど、珍しいのかしら。

「…………何よ?」
「気にしてなかったが、珍しいモンだなそれ」
「私が知るわけ無いでしょ」
「もうちょいよく見てみたいな」
「近付いたら見れるわよ?」
「真っ二つになるくらいじっくり?」
「ご名答」
「そのついでに答えてくれよ」
「なにを」
「お前はさ、心ってどこにあると思う?」
「……頭の中じゃない?」
「そっか」
「もう良いかしら?」
「良いぜ」
「じゃぁ」

死になさい。
言いながら、踏み込んだ。
今度は逃がさない。
斜めに振り上げた刀。
真っ直ぐ、振り下ろす。
対して零崎さんは。
服の中を掻いていた手を出すと。
軽く横に一歩動いた。
だけ。
逃がさない。
強引にでも追おうと腕を動かす。

332冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:27:15 ID:eR1uFKvU0
「!」

空を、斬る。
斬った。
零崎さんが移動した場所はそのままだったのに。
そうして。
何もなかったみたいに。
私の横に。
立った。
にも関わらず、わたしは動かない。
否。
動けない。
腕も真っすぐにしか下ろせなかった。
顔もまるで、動かない。
違う。
指の一本も動かない。

「な、こここれれはは……!?」
「極限技」
「きょく?」
「もとい、曲芸糸。糸ってのは、イトだぜ? 思ったより強度があるだろ?」

そう言われれば、体の至る所に妙な喰い込みが見える。
糸。
細い食い込みが幾つも。
まさか急に体が動かなくなった時の。
そう、気付いた。
気付くのはあまりに遅過ぎた。
歯軋りをし、それでも無理矢理体を動かす。
動かそうとする。
動けない。
至る所が裂け、血が滲み、宙に赤い糸の存在を示す。
しかしそれだけ。
どれだけ血を流そうと、体がほとんど動かない。
指一本分すら動けていない。
むしろ動こうとすればするほど肉に食い込んで、骨が軋む。
それでも。
動こうとしている内に、手から、刀を奪うようにして取られた。
目と目が、合う。
今まで、見た事のない。
目が。
なによ、この目。
まるで、まるで。
思考が止まった。
一瞬の怯みだったと思う。
切っ掛けになったんでしょう。
見逃しては、くれなかった。

333冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:31:08 ID:eR1uFKvU0
「ちなみに人間生物をどうやって殺せばいいかだけどよ、俺は」
「まちなさ」
「こうすればいいと思う」

一歩。
前に進んできた。
切っ先を上げて。
さながら別れのために手でも振ろうとするように。
それだけだった。
それだけで、止んだ。
世界が、真っ赤に染まる。
喉から血が溢れていくのを感じる。
それで 、歯を剥く。
首 伸ばしてでも。
動かないなり でも。
動ける ら噛み付い でも殺す。
私は。
私 まだ。
何も出 ていな のよ。

「  、   」

引 抜かれた。
拍子に体から、何か 消え 。
嫌 。
待ちな いよ。
待ってよ。
胸を、刺さ た たい。
痛くは い。
痛み ない。
 だ、致命 な何 がされた。
それだ は分かっ 。
紛れ うのない致命 を。
与 ら た。

「   !」

 だよ。
ま 、生き る。
そ 声を張っ も、何 出な 。
なにか 流 出て くのだ を感じ 。
動き さい、体。
う きな い、腕。
首で いい。
口 も い。
 でもい 。
わたし ゆう ょう て、阿 々 くん 。
って、 ら。
あそ にい の 、

「      ?」

 良々  んじゃ い。
いつ らそ に。
 づかな った 。
いた らい  、いえ  い に。
もっ  や き  い 。
ばか。

334冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:33:02 ID:eR1uFKvU0





一分も経たず、戦場ヶ原ひたぎの動きは止まった。
片手を振る。
細い糸が手に集まった。
横に人識が動くのと、ゆっくりと、ひたぎの体が地面に倒れたのはほとんど同時。
血溜りに、沈んだ。
湿った音を立てて。
崩れ落ちていた。
それでも人識は刀を振る。
手始めに足を斬る。
次に脚を。
振り下ろされて腰が。
薙がれて胴を。
刺された胸を。
内蔵が解され。
肩を。
腕を。
手を。
指を。
首を。
喉を。
顎を、口を、歯を、鼻を、耳を、目を、脳を。
次々と解して。
丹念に並べて。
骨も揃えられ。
血溜りの中に、晒された。

「殺して解して並べて揃えて、晒してやった」

かはは。
と。
人識は血溜りの傍に腰を下ろす。
崩れ落ちた肉塊を眺め。
不意に、

「見当たらねえ、か」

首を振った。

「やっぱやるもんじゃねえわ、こんな事」

思い出したような顔で立ち上がり、伸びをする。
すぐ傍に落ちていた刀の鞘を拾い、刀を振る。
血が点々と跡を残す。
鞘に仕舞う。
ついで血溜りの中のデイパックを鞘に引っ掛けるように拾い上げ。
歩き始めた。
方向は、E-6。
戯言遣いとの合流地点。
そちらに向けて、歩き始めていた。

335冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:34:31 ID:eR1uFKvU0



「あ、そーだ。どーせだから今は亡きおにーちゃんに合わせて言っとくか」



「それでは――零崎を始めよう」



「なんて――――かはは、そんな柄じゃねえな」



「そんな人間じゃなかったろ、俺。いやいや鬼だし人間失格だった」



「ったく、何勝手に死んでんだよ…………本当に、よ」



【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ 死亡】



【一日目/夜/D-5】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、医療用の糸@現実、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×8(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×2@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:戦場ヶ原ひたぎ殺しちまったけどま、いっか。
 1:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 2:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴を捕まえるか殺す。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:この刀(斬刀・鈍)、ちょっと調べてみるか。
 6:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には戯言遣い、ツナギ、携帯電話その2、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



 ※D-5の戦場ヶ原ひたぎの死体は、特に頭の部分を念入りに解された状態で並べられています。

336 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:37:55 ID:eR1uFKvU0


以上です。
後半一部は読み難いけど割と読めるのを目指して書きました。
いやぁ、色々と展開を考えていましたけど比較的マシな終わり方になり一安心です。
何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。

337 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:44:33 ID:eR1uFKvU0
早速で失礼します。

>>332
21行目内の 曲芸糸 ではなく 曲絃糸 でした。
Wikiに記載する際に変更をよろしくお願いします。

338 ◆ARe2lZhvho:2014/03/23(日) 09:15:02 ID:6ztwDIJE0
投下乙です!
前話が前話だったから絶対穏やかじゃすまないだろうと思ってたら案の定というかでも衝撃的というか
シリアスで始まるのかと思ったらナチュラルにギャグにシフトしてそういや斬刀の威力に驚くよなあと納得しかけた矢先にこれは…!
ヶ原さんの断片的な最期もいいし、一人になったことでやっと零れ出た人識の本音がもうね
指摘としては、>>330
>包丁の先をを向け。
をが二つあります
状態表の携帯電話についての記述がおかしくなっているところがありますのでそこも修正が必要かと

また、拙作のVelonicaですが別所で指摘を受けたため修正してWikiに収録します
『泥』の対処の描写を増やすのみで本筋には影響はありませんが約一名状態表が大幅に変更になるかと思いますがよろしくお願いします

339名無しさん:2014/03/23(日) 11:39:50 ID:8V2l6yOA0
投下乙です

うわああああっ
凄い事になっちゃってるよおお
戦場ヶ原さん、お休み…

340 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:19:35 ID:HI3cDlfE0
お二方投下乙です!

>Velonica
前々からそういうフラグはたってましたがいよいよ始まりましたね。めだかちゃん。
ごめんなさい、今回書く話が書く話なものでめだかちゃんに関して上手い感想が言えませんが、
とりあえず七花さあ……真偽不明の血のせいなのかなあ……w
あと七実さんかわいいです。うーん、球磨川のカリスマやなあ……。
(修正は個人的にはOKだと思います)
というわけでこれから繋がせてもらいますね!

>冠善跳悪
あーあ、あーあ! 半分覚悟していたけどやっぱりえぐい。えぐいぞ。
悲鳴をあげながら読ませていただきました。やばいぐらい面白かった(語彙貧困)。
戦場ヶ原最期の声も甚く胸に刺さるし、
人識のぼやきも、そうだよなあ、ってしみじみしちゃう。
合間合間のとぼけた会話なんかも西尾らしいと同時に後半の悲壮感を誘うし。
改めてすごく面白かったです! とにかくそう思わせる傑作でした。
ひたぎさん、お疲れ様、南無南無

341 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:20:44 ID:HI3cDlfE0
そういうわけで投下を始めます

342 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:21:35 ID:HI3cDlfE0
少々遡り。
戦場ヶ原ひたぎは球磨川を神様モドキと呼んだが、
その実、球磨川はどうしてそのように呼ばれたのか、覚えがない。
さもありなん。
神様を知っている人間なんて限られている。
神様がいる理由を知る人間なんてごくわずか。
球磨川が知らないのも、当然の結論だ。

だが。
対して戦場ヶ原ひたぎは神様に遭ったことがある。
紆余曲折を経て。
あまりの辛さに。
あまりの悶えに。
あまりの、思いに。
神に願った。
神を頼った
決して悪いことではない。
神頼みなんて、大半の人間がすることだ。
ひたぎがどれほど本気で頼ったのかは関係ない。
事実、彼女は、神に遭った。
おもし蟹。
思いとしがらみの神。
思いを奪っていく。
否、思いを奪ってくれる神様。
神に遭ったことで、ひたぎは思うのを止めた。
重さをなくしたのだ。
等価交換。
実際に等価なのかもこの場には関係ない。
結論として。
戦場ヶ原ひたぎは重みを失って、思いを失って、辛さから、解放された。
悩みもなく、全てを捨てることが出来た。

その様と、辛さに苛まれ、闘っていたが、
結果として記憶を奪われた八九寺真宵が重ね合わさって見えた。

同時に。裏側として。
おもし蟹と球磨川禊が。
少しダブって見えたのだ。

とはいえあくまでモドキ。
神とはまるで違う。
全くと言っていいほど、性質は違う。
第一球磨川の記憶消去は本人の意思をまるで無碍にしていた。
あんなのが神であるものか。
戦場ヶ原ひたぎは理解していた。
故にひたぎの意識があくまでめだかから揺らぐことなく、今に至っている。

むろん球磨川禊は知らない。
知らないが。
後にこの世に神様がいることだけは認識する。
モドキならぬ、本物。
本物にして化物。
黒神めだかを中心にして化物の話を、知ることとなる。



  ■■■■

343 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:23:24 ID:HI3cDlfE0

「つまりは球磨川よ、私は脱げばいいのだな」


間髪いれずに脱ぐ。
一瞬の出来事に周囲三人(内一人はそれどころではなかったにしろ)は呆気にとられた。
どうして自らの胸倉を掴むようにして、そのまま空を切るように腕を振っただけで、下着姿になることが出来るのか、とか。
そういったツッコミはこの場には適さない。
たわわに実った胸元から取り出した鉄扇を扇ぐ彼女に対し、
対面する学ランの男・球磨川禊は間を置き、呆れたように訊ねる。

「きみは人の話を聞いていたのかい」
「年がら年中誰からの相談をも請け負うこの私に、愚問をするでないぞ球磨川」

澄ました顔を濁らすことなく、球磨川の瞳を睨みかえさんと。
以後も扇ぎ続け、静かに告げる。

「私は、出来ることから済ませただけだ。
 似合わないと言われて何食わぬ顔で着ていられるほど、私も図々しくない」

どうだろうね、と球磨川は肩をすくめ、
逃げず、格好つけず括弧つけず、めだかと向きあう。

「僕が言いたいのはそう言うことじゃないんだけどなあ」
「安心しろ、分かっておるよ。貴様の言わんとすることは」

そこで始めて、めだかは顔に陰を差し、
扇で口元を覆うようにして語る。

「言われるまでもなく、私は殺人を犯したよ。
 阿良々木暦、多くを知っている訳ではないが、戦場ヶ原ひたぎ先輩がああも心酔する人間だ。
 偉大なる人格者だったんだろうよ。おぼろげながらも私だって覚えておる」

悔いに満ちているんだろう。
語り口が僅かに震えているのを、球磨川は感じた。
めだか当人も気付いたのか、言葉をそこで切ると、大きく息を吸って、再度紡ぐ。

「きっと私の後悔なんて、意味ないんだろうよ。
 さっき戦場ヶ原先輩と対面してようやく理解した。
 私がどう思おうとも、私は実際に罪を犯した。
 その事実はどう足掻いても拭えない。そして許されることもないのでだろう」

球磨川禊が死んでいた頃。
黒神めだかと戦場ヶ原ひたぎは、無言で向かい合っていた。
正鵠を射るならば、動けなかったから、という言葉を脚注に加えるべきだろうが。
ともあれ、その時にめだかは察した。
ひたぎの瞳の色を見て。
憎悪に染まるその瞳を見て。
否応なしに伝わる。
自らの罪深さを。洗脳されていたからでは済まされないほどの、行いだと。

間を置き。
一つ息を付く。
扇を止める。
自然な風が周囲の木々を鳴らすのを聞き、
三度扇を扇ぐと瞳に輝きを灯し、しっかりとした口調で宣告す。

「しかしだ、球磨川。だからといって、人を信じない理由にはなりえないだろう?
 確かにそこの鑢七花は殺し合いに乗っていたのかもしれないよ。
 冷静になって考えてみれば、左右田右衛門左衛門に嘘を吐かれていたのかもしれない」

“凍る火柱”
頭を冷やす。
考えてみれば明瞭。
仮にも殺し合いに乗った人間の言葉だ。
信憑性があるとは言い切れない(それは七花にしたって同じだが)。
客観的に考えて、この場で七花が妙な嘘をついて食って掛かる理由がない以上、
そしてあの場、明らかにめだかに協同しようとは考えていなかった左右田を疑うべきなのは、やはり明らか。
明らかには違いない。
でも。

「それでも、人間を信じることが、人を殺してしまった私でも出来る、数少ないことだと信じておる。
 人間は分かりあえる。普通も、特別も、異常も、過負荷も、悪平等も関係なく。それは、貴様を通じて学んだことだぞ、球磨川」

めだかは左右田を信じたことを恥じていない。
恥じるべきことではないと考える。
人を信じることが肝要なのだ、と。
あまりに正しく、まっすぐに、異常だった。

「もう一度言おうか、球磨川」

仕切り直す様に。
黒神めだかは、扇を音を立て閉じ、球磨川を指す。
不敵に佇む球磨川に動じることなく言い張った。

344 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:24:43 ID:HI3cDlfE0

「私は誰からも気持ちも受け止めるつもりだよ。
 それは勿論、そこの鑢七花だって同じだ。少し後回しになってしまうが、彼とだっていつかは向きあうさ」

七花の胸に刺さる三本の“却本作り”に一瞥をくれ、
もう一度球磨川に向き直る。
扇で扇ぐ、その顔はどこまでも凛と澄んでいて、涼しげだ。

「今は殺し合いに乗っているのかもしれない。
 だが、かつては素朴純朴、人間として真っ当な人生を歩んでいたんだろう。
 理不尽にも殺し合いに巻き込まれやむを得ない事情や背景を抱え彼らは闘っているにすぎまい」

私と違ってな、と。
最後に彼女は付け加え。
謳い文句を、
彼女が彼女たるに相応しい言葉を以て。

「ならば、まだ取り返しがつくのならば、救わねばなるまい。手を差し伸べてやらねばなるまい。
 私は見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた女だよ。そこに殺人鬼も過負荷もない。同じ、愛すべく人だ」

左手を胸の前で握る。
ここに心があるんだ、と言わんばかりに。

「球磨川よ、現に左右田右衛門左衛門は鑢七花に殺された。
 放置をしたことは、確かに判断を誤ったのかもしれん、それでも、私は決して人を殺さなかったことを後悔はしない。
 人殺しの罪深さを、私は知っているつもりだ。知ってるが故に、“殺す”なんて真似は絶対にしない。
 そしてその罪深さをこの鑢七花のような人間に悟らせるのが、今の私にできる最善だ」

これが今の私の答えだ、そう、締めくくる。
鉄扇をぱちん、と鳴らして閉じる。
流れるように鉄扇を胸元に仕舞い、下着姿のまま、威風堂々と仁王立ち。
球磨川禊は誇らしげな様子をしばし、黙視し、そして。

「そう」

極めて簡素に。
されど見定めるような視線は変わらず。

「じゃあいいよ、行こう。めだかちゃん。ならば試してみようじゃないか。
 きみのスタンスがどれだけ愚かで、どこまで馬鹿げてるか。きっとすぐに分かるさ」


  ■■■■

345 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:25:14 ID:HI3cDlfE0
却本作りの影響を受けてからと言うもの、鑢七花の熱量が急速に冷めていたのは、三人が共有する暗黙の事実だった。
めだかも多少戸惑ってはいたが、それまでそうしていたように、“五本の病爪”で無力化を図って、
戦場ヶ原ひたぎを追う旅路を続けた。球磨川もそれに続き、予定通り、七実が七花を連れる。ほどなくして七花は眠る。
忍法足軽もあって、手を引くには七実の虚弱さでも十分だった。

このような形で二人を追っていた鑢七実、
普段と比べては周囲に対する注意力も散漫になっていた、が。
“それ”がなんなのかは直ぐに分かる。
死霊山を壊滅させた末に、それとなく手に入れた“交霊術”を以て。
七実は感じる。
人が向こうに居るという旨を二人に伝えると、二人は進路を変えて、ほどなくして“そこ”に至った。

“なにか”がある。

肉のように見えた。
そんな曖昧な印象を抱かざるを得ないほど、ぐちゃぐちゃな“なにか”がある。
強烈な死の臭い。
血の臭いだ。もしかすると人間の肉の臭いなのかもしれない。
ともあれ生理的嫌悪を彷彿させるのに十分な異臭と塊が、そこにはあった。
“それ”を見て、七実は。

「ひたぎ、さん」

思わず声に出てしまう。
あまりの思いに。
重すぎる、思いに。
もしくは重さじゃ量れないほどの禍々しき思いに。
数刻前、球磨川禊を殺したことに関してさえもチャラにしてしまいそうなほどの思いの塊が集約されている。
決して穏やかなものではない。
少し気を抜けば圧倒されてしまいそうな“思い”。
募り募った怨念が顕現していた。

「“これ”が戦場ヶ原ひたぎ、だと」

ふと呟いた七実の言葉を聞き逃す黒神めだかではなかった。
呟くように、確かめるように、自問するように、小さな声で、だけどはっきりと反芻する。

「鑢七実。確かに今、そう言ったか?」
「ええ。“これ”は間違いなく戦場ヶ原ひたぎの肉塊でしょう」
『うん。頭がやけに徹底的に破壊されているから分かり辛いけれど、
 服装らしき布切れといいひたぎちゃんであるという可能性は十分あるね、これは』

商店街のくじ引きでも行うような気軽さと遠慮なさを前面に押し出して、肉塊に手を突っ込む。
弄り、確かに血濡れてこそいるが布切れであろうとそれを取り出して『大嘘憑き』と呟いた。
大嘘憑きで血が捌ける。
だからこそ、よくわかる。
“それ”は紛れもなく戦場ヶ原の着衣していた服であり。
肉塊はどうしようもなく戦場ヶ原ひたぎのものだと。
黒神めだかは認識せざるを得なかった。
震える足を、手で押さえながら、震える声で問う。

「ちなみにだ、鑢七実。貴様は推理だてて判断したわけじゃあるまい。どうして、“判った”んだ?」
『そういや僕も気になってたんだよね。どうしてなの?』
「“交霊術”っていう技です。会得した当初は大したものではないと思っていましたけれど。
 めだかさん、あなたなら、わたしから忍法爪合わせを会得したあなたならこれぐらい訳ないと思いますが」
「ああ、そうだな。みなまで言わんでもいい」

そう言って。
めだかは一度瞼を閉じた。

『めだかちゃん、わざわざ聞かなくてもいいんだぜ』
「止めるな球磨川、止めないでくれ」

私には聞かねばならない義務がある、と。
数秒後、彼女は大きく息を吸って。
今しがた七実の“姿”を見て“完成”させた“交霊術”を発動させる。
瞼を、ゆっくりと開けた。

「あ、」

最初は絞り出すような声だった。

「ああああああ、」

しかし次第に、声ははっきりとした絶叫として、張り上げられた。
普段から、親からさえも疎まれて育った鑢七実でさえ、あまりの“思い”に一度はたじろいだのだ。
人を幸せにすることだけが生きる目的だった黒神めだか。
そのためには幼馴染さえ見限った、蔑ろにした黒神めだか。
しかし、今、その幸せにするべき“人”から、溢れんばかりの飽和した“思い”が、めだかを裏切る。
純粋な悪意が襲い、害意が苛み、嫌悪が虐げる。
加えて言うなら、七実のそれを、さらに完成させた交霊術はより晴れやかに、思いを伝えているのだろう。
澄んで澄んで澄み渡った怨嗟の声が、めだかを直撃する。

黒神めだかに。
戦場ヶ原ひたぎの。
“思い”は。
“恨み”は。
“憎しみ”は。
重い、重い、オモイ。
志半ばに殺されてしまった彼女の“声”は。
実態をもたないまま、されど確実にめだかの心を凌辱する。

346 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:27:12 ID:HI3cDlfE0

「あ゙あ゙あ゙あ゙ああああああああああああああああああああああアあ!!」

発狂したように叫ぶ。
思い伝わるままに。
膝をつき。
頭を抱え。
喉を裂けんばかりにひっかき。
喉を潰さんばかりに吠える。
いつしか声が止んだ。
単に喉に限界が来ただけだろう。
胸を掻き毟る。
心を裂くかのように、何回も何回も。
ひたすら、なにかに憑かれたように、何回も何回も。
掻く、毟る。
いつしか手は自分の血で濡れたいた。
意識した、途端疲労が襲う。
這いつくばる。
今度はまだ乾き切っていないひたぎの血が、彼女の長い髪、肉をと染め上げた。
下着の色も、すっかり白から赤へと変色している。

球磨川はそんなめだかの姿を見て。
特に表情を変えたりはせず。
詰め寄り、労わるように肩を抱く。
あくまでいつものように、普段通りに、なじるように問い掛ける。

「分かるだろう、めだかちゃん。これがきみの犯した間違いだ。
 むろん、ひたぎちゃんが死んだのはきみの所為じゃない。ただその事実はそれだけでしかない。
 きみは人間失格にひたぎちゃんを任せてしまったんだってね。殺人鬼を無用に信じてしまったのは、どうしようもなくきみだ」

ぐちゃり、球磨川はひたぎの肉を掴みあげ、
めだかの前で弄ぶようにいじくりまわす。
ぐちゅり、ぐちゅり。
音は止まない。
めだかは動かず。
ただ、蹂躙される肉塊を虚ろ気な瞳で見つめた。

「左右田ちゃんを殺した七花くんを見逃したのもきみ。
 きみの異常なまでの甘さが、あるいは二つの死を招いたのかもしれないね」

「      ぁ  」

なおもめだかは立ち上がらず。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

「勘違いしないでほしいけど、僕はきみを責めたいわけじゃない。
 ただ、そろそろいい加減。きみも上じゃなくて前を向く時が来たんじゃないかな。ほら、前には現実が待ち構えてる。」

「ぅ、  ォえ 、げほっ 」

なおもめだかは物語らず。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

「なるほど、人を信じる。いい言葉だね。実にプラスな考えだ。
 きみは特上の異常(アブノーマル)で極上の正(プラス)だった、人間としてきみの行いは正しかった。正しすぎた。
 変な言い回しだけど、化物じみてるとしか言いようがないほどに。故に対処を間違えてしまった。」

「あ゙、ああ、  あ」

なおもめだかは凛とせず。
ぐちゅ、ぐしゃり。
肉が、崩れ落ちた。

「さあ、めだかちゃん、認めちゃえよ。そうすれば楽だぜ。
 “私は間違えるべきだった”って。正しいだけじゃいけないんだって。ほら、一緒に堕ちてこうよ。
 たまには先輩らしく、きみの手を引っ張ってやるのも、悪くないさ」

血に塗れた手を、自らの制服で拭う。
黒い制服が一部朱に染まる。
その時だった。

347めだかクラブ  ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:29:15 ID:HI3cDlfE0

「あ、ああああああっ!」

不意に、としか言いようがないほど唐突に。
黒神めだかが叫ぶ。
何事だと問う前に、黒神めだかの身体が浮いた。
球磨川禊も、鑢七実も何もしていない。
さも自然かのように、めだかの身体は誰の意思をも鑑みず、ぐんぐんと追いやられ、
壁に激突した。
激突し、張り付けられて、そのまま動かない。動けそうにない。
磔刑のごとく。
ともすれば強風に叩きつけられたようにも見える。
しかし、七実と球磨川、両者共々周囲に気を張るが何も感じることが出来ない。
当然だ。
周囲には人影一つない。
“そこ”にいるのは。
いや、“どこにでも”いるのは。

「か、 、 か、に?」
「蟹? 蟹なんて見えないけど、七実ちゃんはどう?」
「いえ、わたしには」

圧迫されているからか、喉が潰れるほど叫んでいたからか。
息も絶え絶えに、されど確かにそう言った。
今もなお、壁に身体がめり込んでいく。
彼女の名前は黒神めだか、潰されて死ぬほど軟に構成されてはいないだろうが、
罅割れていく壁が、力の強力さを物語っていた。
人間を超越する力。
怪物をも凌駕する力。
神の力。
神様の力。


かつて戦場ヶ原ひたぎが行き遭った怪異、神様。おもし蟹。
蟹は今、黒神めだかに恵みを施さんと、この場に君臨した。




―――――第×箱 めだかクラブ――――

348 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:33:00 ID:HI3cDlfE0
投下終了します。
演出上の都合上状態表はオールカットしました。
wiki収録の際には、時間帯は夜中、場所はD-5 ひたぎの死体の近くでお願いします。

同じくひっどいぶん投げを自覚しているので何かありましたら遠慮なく言ってください!

349名無しさん:2014/04/01(火) 00:50:22 ID:5iGXenO.0
投下乙です!
これはひどい(褒め言葉)
ヶ原さんが球磨川を神様モドキと言った理由に納得し、似合わないから脱ぐという思考回路に笑いが漏れたけど穏やかに済むはずもなく
えぐい、実にえぐいわあ…
普通なら死んだら終わりなんだけど終わりにさせない手段があるというのも考え物
発狂一歩手前まで行ってそこに現れた救世主
果たしてめだかちゃんはズルをするのかどうか

350名無しさん:2014/04/01(火) 21:13:11 ID:KXpboMtA0
投下乙です

ここはパロロワ、原作とは違う展開が当たり前
だからめだかちゃんとクマーの物語もまた原作と違う訳で…
俺もこれはひどい(褒め言葉)と思う
めだかちゃんがここでズルをするのかしないのか気になる

351名無しさん:2014/04/02(水) 23:42:32 ID:URg/f89E0
さすがマイナスと言わざるを得ない
誰一人として得してないもんな
このままじゃめだかちゃんもどうなるかわからないしめだかちゃんが球磨川を改心させなかったら球磨川はずっとそのままだし
その球磨川についていく七実と、この先どうなるかわからない七花も・・・
果たしてめだかちゃん、そして球磨川一行もどうなるんだろうか

352名無しさん:2014/04/04(金) 00:35:18 ID:WV.MwyOA0
投下乙です

冒頭でいきなり脱ぎ始めたのを見て、ああこれぞめだかちゃんだってなった
普段のめだかちゃんなら絶対にズルはしないんだろうけど、その「普段じゃない」状態に持っていくのが上手い

353 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:14:04 ID:UxVDJzFM0
◆mtws1YvfHQ だった者です。

櫃内様刻、無桐伊織、真庭鳳凰の投下を開始します

354狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:18:21 ID:UxVDJzFM0

音がした。
足音が聞こえてきた。
慌てて揺するのと、それと目が合ったのは同時だった。
殺気が膨れ上がる。
抑えようとしてなのか分からないけど。
何か覚えがあるような、ないような、そんな。
でもそれは有り得ない。
だって。

「あら……初めまして」

そう言う彼女とは、初めて会うんですから。



トリガーを落として向ける。
その相手。
見知らぬ相手だ。
金髪の女。
服装がまるで合っている。
時代錯誤の貴族と言われても納得出来るだろう。
牛刀を引き摺ってさえなければ。
それに何故か見覚えのある。
それが、口を開いた。

「あんた達ってまさかこの殺し合いに参加しちゃってたりする訳?」
「……さあね」
「ふーん、否定する」
「…………」
「そんな小さな物向けてきた所で威嚇にもなりはしないわよ?」

とりあえず無言で引き金を引いた。
その足元に向けて。
乾いた音が鳴って、床に穴が空く。
警告だ。
弾が入っていると証明するための。
不愉快そうに顔を歪めた。
だけだった。
距離を縮めてこようとしないが、
遠ざかろうともしない。

「…………ふーん。え、何よそれ? 初めて見るわね」
「銃だよ、銃。見て分からないのか?」
「はっ、否定する。銃ってのはもっと筒が長いのを言うのよ。まぁ例外はあるけど。それとも何かしら。変態刀の一つ、炎刀がそれだって言うのかしら?」
「……僕の質問に答えてもらう」
「否定する。義理がないわとね」
「義務はあるぞ」

もう一発。
弾がもったいないけどそうも言ってられない。
何か可笑しい。
銃を知らないだと。
テレビを見た事がある奴ならまず知ってる。
見た事がなくとも普通知識として知ってる。
歴史なり何なりの授業の教科書に載ってるような物だ。
なのに知らない。
有り得ない。
まして可笑しいのは、銃と言えば、筒が長い物、と言う言葉。
ライフルか。
それだったら拳銃を知って然るべき。
だとするなら、拳銃を知らない上で筒の長い銃を知っている。
火縄銃とかか。
まさか、と思わないでもない。

355狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:20:02 ID:UxVDJzFM0

「否定する」
「……立場が分かってるのか?」
「馬鹿らしいこと言うじゃない。だったらさっさと足をそれで何とかすれば良いじゃないの。それをしないのは出来ないから? いいえ、元からするつもりがないからでしょ?」
「出来るさ」

するつもりは確かにない。
仲間が一人でも欲しい状況なんだから。
足手まといを作るのは下の下。
敵対するようなら容赦はしない。

「交換条件と行きましょう」
「なに?」
「いや、わたしさ。ついさっきまで寝てたのよ。起きたら持ち物全部なくなっちゃってて困ってる訳」
「だから?」
「食べ物頂戴? そしたら話せるだけの事は話すわよ? あ、ついでにこれ上げるから」
「…………………………」

うん。
持っていた牛刀を捨てて。
出刃包丁とナイフが五本にフォークが五本。
懐から出して捨てた。
うん。
図太いってレベルじゃねぇぞ。
図太いってレベルじゃねぇぞおい。
殺し合いの最中で寝て。
起きたら持ち物がなくなってて。
挙げ句の果てに食べ物の要求。
図太いってレベルじゃねぇぞ。
今まで生きてるのが不思議なレベルじゃねぇか。
しかも持ち物がなくなってるって事を寝てる間に盗られたとすれば。
運が良すぎる。
具体的に言えば、怪しいってレベルじゃないぐらい怪しい。

「…………」
「で、どうなのよ。くれるの、くれないの?」
「どうこうする前に条件がある」
「何かしら?」
「服を脱げ」
「……は?」
「脱げ。そしたら渡す」

脱いだら怪しい。
よっぽど空腹なら分からないでもないけど、そんな様子じゃない。
もし脱いだら、油断させて近付くのが目的と考えて良いだろう。
これが今、考えうる最良の手だ。
どうくる。

「うわぁ」
「うわぁ」

そんな考えを巡らせてると、前後から声がした。
え。
あ。

356狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:21:21 ID:UxVDJzFM0

「……えーと、お嬢ちゃん? 早急にその人と別れるのをお勧めするわ」
「生憎ですけど足の骨が折れてるので……」
「そう……まぁ、服は剥がれないようにだけしなさいね? そ、それじゃ失礼するわ」
「待て待て待て待て待て! 冗談だって、冗談!」
「否定する。冗談で人に脱げとか人としてどうかと思うわ」
「武器を持ってないかの確認をしたかっただけなんだ!」
「否定する。だったら他に方法なんて幾らでもあるでしょ。数ある方法から脱げを選ぶとかもう終わってるんじゃない?」
「これに関しては私からフォローは出来ませんから頑張って下さい」

くそ。
四面楚歌か。
いや二人だから前門の虎に後門の狼。
何とか言い訳しないと僕の信用がマッハで底値だ。
くそ。
何でよりにもよって脱げなんて言った、僕。

「……近付いてグサリなんて嫌だからな。一番手っ取り早い方法を選んだんだよ」

どうだ。
完璧な言い訳だ。
なんか心なし向けられる視線に殺気やら何やらが混じってる気がするけど気のせいだろう。
そうだよね。

「………………まぁ、そう言う事にしましょうか」

長い沈黙の末に、その女はそう言った。
信用を取り戻せた。
伊織さんの視線に軽蔑のような何かが混じってる気がするけど気のせいだ。
気のせいだから。

「でさぁ。脱ぐのは論外として、どうすれば食べ物くれる訳?」
「いやもう良いよ、やるよ」

デイパックの中を探る。
ついでに、首輪探知機を取り出す。
えーと、名前は。

「…………」

思わず。
引き金を引いた。
当てなかったのは僕にまだ理性が残っていたからだ。
有り得ない、と。
あいつの四肢の三本をとうに斬った。
だけど今、目の前にいる相手はちゃんと全部ある。
顔も違う。
いや顔は変装するなり何なりと手は幾らでもある。
だけど手足はどうしようもない。
どうみても生きて動いてるそれはどうにも出来ない筈なんだ。
だからこそ、当てなかった。

「ちょっとちょっと! いきなり何よ!?」
「黙れ。今からする質問にすぐ答えろ。さもないと殺す」
「いや、だから食べ物さえ」
「答えろ」
「わ、分かったわよ。で、その質問ってのは?」
「名前は?」
「否定姫よ」

357狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:22:57 ID:UxVDJzFM0

有り得ない。
有り得るはずがない。
確か犠牲者の一人の名前だ。
思い違いのはずもない。
確かに死ぬ姿を見た。
鳳凰に殺される所を。
まさか変装か。

「顔を引っ張れ」
「え、誰の?」
「お前自身の顔をだ。今すぐ」
「嫌よ、痛いじゃない」
「殺すぞ」
「……あーもう! 何なのよ!」

そう言いながら腕を捲って、両頬を引っ張り始めた。
まるで破れる気配もない。
特殊メイクとかなら破れるか取れるかしてるはずだ。
まさか、本物なのか。
有り得ない。
だけど顔を真っ赤にして引っ張ってる姿はどう考えても血が通ったそれだ。
訳が、分からない。
放送が嘘なのか。
この首輪探知機が嘘なのか。
目の前のあの姿が嘘なのか。
一体何が嘘なのか。

「真庭鳳凰!」

叫んでいた。
否定姫の動きが止まった。
目が僕を見る。
疑わしそうに。

「真庭鳳凰? どうして今、その名前が出るのかしら?」
「騙されないぞ。真庭、鳳凰」
「だーかーら、何でその名前が、今、出るのよ!」

違うのか。
間違ってるのか。
真庭鳳凰じゃないのか。
否定姫なのか。
否定姫じゃないのか。
分からない。
分からない。
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないワカラナイ。
ワケガワカラナイ。

「っ!」

視界が、一瞬、歪んだ。
そして気付けば、そこに、時宮時刻が、いた。

「ぅ!」



しがみ付いたのと、様刻くんが引き金を引いたのはほんの少しの差でした。
しがみ付いたお陰で弾は天井に当たっただけで済みましたが。
いやいや、そうも言ってる場合じゃないんですけどね。

358狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:25:12 ID:UxVDJzFM0

「落ち着いて下さい! 落ち着いて!」
「時宮っ!」
「死にました! 放送してたでしょう!」
「……そうだ。死んだんだ。あいつは、死んだ」
「死にました。えぇ、死にました」
「…………悪い。少し、混乱してて。ごめん。伊織さん……?」
「なんで疑問系なんですか。まぁ良いですけども」

いやぁ、危なかった。
あと一歩遅ければ彼女、死んでたでしょう。
一息付きながら目を向けます。
殺気の籠った目ですね。
いや、分からないでもないですけど。
脱げと言われた挙げ句に何発も射たれたら。
当たってはないですけど。
理由は分かります。
納得も出来ます。
しかしながら、違和感は拭えません。
それだったら脱げと言われてから出てくる物でしょう。
なのに、私達を見付けてから殺気が出ていた。
気がするんですけど。
何とも言えないんですよねぇ。
裏の世界にまだ足首まで入ってるか入ってないかって言うドの付く素人ですし。
様刻くんが落とした首輪探知機を覗いてみると、

「なるほど」

私と様刻くん。
それに真庭鳳凰の名前がキッチリ載っています。
でもどう見たって鳳凰には見えません。
特殊メイクの線も散々顔を引っ張ってる姿で消えました。
一応両腕片足が義手的な物の可能性を考えないではないですけども。

「……ないですよねぇ」

人識くんが拾ってきた物より違和感なく動いてるあれはどう見たってモノホンですからね。
別人としか考えられない訳で。
でもそうなると。
首輪探知機が間違っている。
あるいは首輪が間違っている。
その二択と言う至極面倒臭いどっちかになると言う事で。

「…………あ」

まだ映像を確認してませんでしたね。
確か否定姫が殺される映像があったはず。
それを確認すれば良いじゃないですか。
いえでもあれが嘘の可能性もなくはないし。
でもそうなると放送に嘘があった。
それこそ何のメリットがあってそんな事をするんでしょうか。
例えば、参加者側を混乱させる目的。
今更混乱させてどうなるんでしょうね。
次。
疑心暗鬼に陥らせる策。
既に散々人が死んでるんですから全く関係ない話です。
最早全員が全員疑心暗鬼でも可笑しくないんですから。
でも考えてみれば。
もっと早い段階で現れる事があったとすれば疑心暗鬼には持ち込めたかも。
ずっと寝ていたのが本当だとしたら、ですけど。

「ご開帳」

359狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:29:21 ID:UxVDJzFM0

まあ百聞は一見。
再生。



映像。
寝ている否定姫。
現れる真庭鳳凰。
起こしてしばらく何事かを話して。
倒れた。
いや寝直した。
少し経ち。
意を決したように鳳凰が腕を挙げ。
降ろされた。
当然の事のように首は転がり、辺りは、血に沈んでいく。
その頃には鳳凰の姿はなくなっていた。



「……と言う風に、映像では物の見事に死んでるんですけど、あなた」
「いやいやいやいやいやいや。待ちなさいって! え、じゃあ何かしら? わたしは亡霊か何かって訳?!」
「映像を信じるならそうなる訳です」
「その映像とやらよりもわたしを見なさいよ! 五体満足! 首だって付いてるわよ! どこをどう見たら転がるような首になってるのよ! と言う事で全身全霊を持って否定するわ! その映像とやらは間違ってると否定する!」

うーん。
顔真っ赤にして否定されました。
やっぱりどう見ても血の通った本物。
何だけどなぁ。

「……んもぅ!」

ついに何やら思い立ったようです。
足を鳴らして寄ってくる。
咄嗟に様刻くんが拳銃を構え直したけども遅く、近付いた所で手を伸ばした。
渡せと言う風に。

「貸しなさい」

実際言いました。
気圧された。
とでも言うんでしょうか。
渡してしまいました。
それに対して否定姫がした事と言えば、元の位置に戻って手のひらを付けたり叩いたり。
まるで赤ん坊のように適当極まりない行動をぶつけると言う事。
慌てた風の様刻くんが助け船を出さなければ壊す所でしょう。

360狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:31:28 ID:UxVDJzFM0

「…………」

その様子を少し離れたまま見ている訳ですが。
怪しい様子がない。
何処かに武器を隠してる感じでもない。
でもやっぱり殺気はある。
それでも、様刻くんなら大丈夫。
そう言う信頼感があった。
だから知らない。
様刻くんの中の、最早半分以上狂ってしまった願いも。
それを叶えようともがいてる内心も。
だからこそ生まれていた焦りも。
狂っている視覚も。
一回巧く行ったせいで、いざとなれば影を縫い止めて逃げれると思っている油断も。
分かってるようで何一つ分かってなかった。

「…………んー……一応分かったわ」
「じゃあ再生してみて」
「ここを……押して……うん、動いたわ」
「あぁ」
「寝てるわね」
「寝てるね」
「……あ、鳳凰ね」
「鳳凰だな」
「そう言えばあなたってこいつのこと、どの程度知ってるの?」
「そう言うそっちは?」
「殺人特化の忍者集団、その実質的な頭領でしょ。あいつがいなきゃ」
「あいつがいなきゃ?」
「あぁごめんごめん、気にしないでちょうだい」
「そう」
「って言うかまさか名前は知っててどう言う奴か知らなかったの? あ、起きた」
「知らないよ。でも……そうか、頭領か」
「何よ」
「殺人特化って言う割には意外とチョロいのかもなってね。半分はさっさと死んでる訳だしさ」
「……」
「どうした?」
「別に。ふーん、そう。もう六人死んだのね……寝直したわね、わたし」
「寝過ぎじゃないか? それと六人だと?」
「えぇ。十二頭領って言われてるの位は知ってるでしょ?」
「……いや、知らない。つまり鳳凰の奴は実質無力だとしても……まだあんなのが十人いるのかよ…………あ、死んだぞ」
「死んだわね。いや、でも否定する。この通りわたし、生きてるし。え? 生きてるわよね?」
「そうだな。主催の連中が首輪の銘を間違えた……のかな? 返して貰うぞ」
「ありがとね。そっか、ふーん。そう使うのねぇ、それ」
「そうだよ。あ、そうそう伊織ちゃん」
「あ、そうそう様刻くん」

その瞬間。
様刻くんが私に目を向けた中で。
初めて、違和感に遭った。
今まで奇妙な感覚はあっても違和感がなかった中で。
否定的な女性の言葉の中で。
初めての違和感だった。
何の。
そう聞かれれば今なら分かる。
名乗ってないのに、何で名前を知ってるのか。
私の名前は様刻くんが呼んだけど。
様刻くんの名前を私は呼んでない。
そう気付く前に。
様刻くんが私に何か言おうとしていた中で、

361狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:33:41 ID:UxVDJzFM0

「た…………ぇ……ぉ…………ぉえ?」
「ご苦労だった。死ね」

胸から、足を生やしていた。
気付いた。
その足が、散々わたしを痛め付けていた足と。
初めて気付いた。
向けられ続けていた殺気に、感覚が鈍ってしまったのだと。
初めて気付いた。
探知機に、間違いはなかったのだと。
初めて、思い出した。
この世には、訳の分からない何かが存在していた事を。
人を人形みたいにする技術があるのなら、

「あの厄介な技を使われては困るからな。嬲りたい所を否定し殺したが。さて鬼よ」

音を立てて、様刻くんが倒れた。
様刻くんだったモノが倒れた。
穴から別物のように、血が広がっている。
人の皮を被る技術があっても、人の肉を借りる技術があっても、

「おぬしはどうしてくれようか?」

可笑しく、ないのだと。
真っ赤な片足で。
否定的に。
鋭い目で笑う女の顔を。
嘲笑う目は。
猛禽のような目は紛れもない。
真庭鳳凰を見て、思い出した。



【櫃内様刻@世界シリーズ 死亡】

362狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:35:26 ID:UxVDJzFM0



【1日目/夜中/G−6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)、混乱(小)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:…………はい? 鳳凰? え、どう言う事?
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:人識くんとランドセルランドへの電話は……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像は匂宮出夢と零崎双識については確認しています。他の動画を確認したか、またこれから確認するかどうかは以降の書き手さんにお任せします。



【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(中)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、「ガスバーナー@現実」
    (「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:こいつの反応を見て、殺せそうなら殺し無理そうなら退く。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:可能そうなら図書館に向かい、少女の体を頂く。
 5:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※スマホの使い方は大まかに把握しました。しかしそれ以外は全く分かっていません。



 ※様刻の荷物が遺体の傍にあるのか伊織の傍にあるのかは、後の書き手様方にお任せします。なお荷物は以下の通りです。

遺体の傍確定
 スマートフォン@現実、デザートイーグル(3/8)@めだかボックス
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

不明
 支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
 炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
 輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
 首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
 「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
 中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
 食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
 (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

其処ら辺の床の上
 牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実

363 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:37:10 ID:UxVDJzFM0
題名考えていなかったので若干間が空きまして申し訳ありません。

改めて考えて真庭鳳凰の命結びの反則性能に笑った。
アニメからしてどう見ても生物だからまず見破れないですし変装ってレベルじゃねえぞ。
欠点がないでもないですけども。
あと書いていて思いましたが私、鳳凰が十本指に入るくらい好きなのかも知れません。
予想外の発見と言う奴でしょうか。

何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。
直しは色々あってどなたかにお任せする可能性がありますけれど。

364 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 01:42:44 ID:UxVDJzFM0
ジャーンジャーンジャーン(げえ、鳳凰!)

修正の協議をした結果、私の時間がない所為で修正した場合にはご都合主義感が否めない作品になる事が判明しました。
バトルロワイヤルに過剰なご都合主義は必要ないと言う私の考えの元、今回の作品は破棄とさせて頂く事にしました。
でももったいないのでおまけにでも突っ込んでおいて頂ければと幸いです。

一応感想など頂ければ次の反省などになるので是非にもお願いします。

365名無しさん:2014/05/05(月) 01:49:08 ID:IkIWy8EIO
投下乙です

あー、駄目だったかー、様刻駄目だったかー・・・
首輪探知機が出てきたときは確実にアウトかと思ったけど、DVDの映像すら余裕ですっとぼける鳳凰の度量にはもう感服するしかない
というか否定姫の演技が驚きの再現率すぎてもう・・・

366名無しさん:2014/05/05(月) 11:35:52 ID:uXomqaJQ0
投下乙です

言われてみればご都合主義感がなあ…
これが破棄になるとか残念
めげずにまた書いてください

367名無しさん:2014/05/07(水) 10:06:11 ID:LYzEwAys0
破棄は残念ですが確かに前話を読むと探知機を確認していないのは不自然になってしまいますね…
ですが否定姫な人格の鳳凰の描写は唸らざるをえないものがありましたし様刻くんの混乱やそれに対処する伊織ちゃんかわいい
また作品を読めるのを楽しみにしております
最後になりましたが投下乙でした

368名無しさん:2014/05/15(木) 13:27:56 ID:qB/H1W760
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
147話(+3) 16/45 (-1) 35.6(-2.1)

369 ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:11:52 ID:nwLFk3pc0
某所にて問題なしとの意見をいただけたので予約分、本投下します

370解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:12:44 ID:nwLFk3pc0
とある一室。
モニターもマイクもなく、ソファーとテーブルだけが置かれた簡素な部屋。
応接室と呼ぶには多少威厳が足りないその場所に『彼女』はいた。
ソファーの中央に腰掛け、何をするでもなく目を閉じたまま佇んでいる。
眠っていると呼称するには背筋がきちんとしすぎているし、考え事をしているというには彼女の醸し出す雰囲気に似付かなかった。
笑みを浮かべ、時折口元や眉が僅かに微動だにするが、それだけ。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
不意にガチャリ、とドアノブを捻る音が響く。

「あひゃひゃ、こんなところにいたんですか。てっきりこのまま匂わすだけ匂わせといて登場しないものだと思ってたんですけどねえ、安心院さん?」

這入ってきた小柄な女は部屋の主となっていた女――安心院なじみに話しかける。
尊大な言葉を裏切らず、態度にも相手を敬うという姿勢は感じられない。

「正直気付かれずにいられるのもそろそろだと感じていたところだったし。ま、真っ先にここに来るのは君だと思ってたけどね、不知火ちゃん」

一方、それまでしていた行為を中断させられたはずなのに気にもとめず安心院なじみは表情を変えることなく目を開けると、女――不知火半袖に応えていた。
ぽきゅぽきゅと独特の擬音を鳴らして不知火半袖が対面に座るのを待つと続けて口を開く。

「君こそこんなとこにいていいのかい? 萩原ちゃんが用事があるんじゃなかったっけ」
「もちろん問題ありませんよ。というより、そこまで把握してるんなら説明するまでもないでしょう?」
「さあね。実は当てずっぽうの可能性だってないわけじゃないんだぜ?」
「当てずっぽうならもう少しぼかすでしょう。例えば、『西部の腐敗をほっといていいのかい?』とか」
「ああ、それはそうだ。僕としたことが迂闊だったかな」
「萩原さんの名前を出しておいて迂闊もなにもあったものじゃないでしょう」

あひゃひゃ、とこれまた独特の笑い声で返すと一拍置いたのち、向き直る。
御託はいい、本題に入ろうじゃないかと物語るように。
そして安心院なじみも逆らわない。

「お互い聞きたいこともあるだろうし、それじゃ、僕からでいいかい?」
「別にいいですけどせっかくですから公平性を出しましょうよ」
「『質問は交互にしよう』ってやつかい」
「さすが、理解が早くて助かります」
「言うまでもないとは思うけど正直に頼むよ」
「もちろんですよ。正喰に、ね」

お互い笑みを浮かべてはいたが、それは柔和とはほど遠かった。

371解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:14:28 ID:nwLFk3pc0





「最初の質問は……そうだな、どこで僕の存在に気付いたんだい?」
「きっかけはハードディスクの中身、ですよ。今になって思えば決定的過ぎましたね。
 それと詳細名簿と死亡者DVDですか。私でも把握してないことはありますから誰かがやったと言われても納得はできなくもないですがやっぱり不自然でした。
 まあ確信したのは零崎双識の様子ですが。あれ、カメラには映ってませんでしたけど双識さんの様子を見れば何かがあったのかくらいは察しがつきます」
「やっぱり出しゃばりすぎちゃったかねえ。まあいいや、次は不知火ちゃんの番だよ」
「どうやって、は聞くまでもないことでしたね。どうしてわざわざこの世界に来たんですか?」
「ちょっとした寄り道の途中さ。僕もあちこちの世界を渡り歩いてきたがこんなに捻くれた世界を見たのは初めてだったものでね」
「捻くれた、ですか。そりゃまあ五つも世界繋がっちゃいましたしねえ。せっかくですしどんな世界を見てきたのか教えてくださいよ」
「別に大したもんじゃないさ。
 隕石が東京のど真ん中に落ちたけど運よく全住人が避難していて怪我人が一人で済んだはいいが、一緒に堕ちてきた宇宙人を巡っててんやわんやする世界とか、
 地球によって全世界の人口の三分の一が減少させられ、魔法少女や人造兵器たちと奮闘する無感情な英雄のいる世界だとか、
 不思議な街に住み、十七番目の妹が死ぬたびに映画を見に行き熊の少女と交流を深めることになる男がいる世界だとか、
 就職活動中のはずだった女性がなぜか探偵と共に殺人事件の解決に付き合わされることになった世界だとか、
 苗字は違えど同じ名前を持つ者達が奇妙な本読みに遭遇しては価値観の違いについて考える世界だとか、
 ああ、そうそう。デスノートとかスタンド使いのいる世界にも行ったねえ」
「最初二つがスケール大きすぎません? というか実在したんですか、デスノートとスタンド使い」
「僕は傍観に徹しただけさ。基本的には次の世界に渡るための踏み台でしかなかったから無用な干渉は避けたかったし。
 でも、結末を知っていたとはいえ実際に見ると滾るよ、ああいうやつは。さすが名シーンと言われるだけはあったね」
「それについては私も興味がないではないですが、今はやめておきますか。それじゃ、安心院さんの番ですので二つどうぞ」
「さっきのまで含めなくてもいいのに、律儀だねえ」
「質問は質問でしたから」
「ならお言葉に甘えるとするよ」

そう言ってしばしの間黙りこむと、ふむ、と一人で勝手にうなずいて再び口を開いた。
悪そうな笑みを浮かべたまま。

「じゃあ、紫木ちゃんや神原ちゃんはいるのに行橋くんはいないくて都城くんにああ偽った理由、それと、不知火ちゃん、君は不知火ちゃん本人でいいのかな?」
「……………………」
「黙り込むなんて雄弁な不知火ちゃんにしては珍しいねえ? まさか理由を知らない、なんてわけがないだろう」
「……あひゃひゃ、本当に人が悪いですね。いや、この場合は人外が悪いというべきですか」
「なんなら洗いざらい話してしまってもいいんだぜ?」
「それはまだ早いのでご勘弁願いたいところですね。…………わかりました、わかりましたよ」
「やっぱり僕の想像通りなのかなあ」
「もったいぶらなくて結構ですって。ええ、その通りですよ。
 行橋未造なんて最初からここにいません。都城王土にはそういう理由をすり込んだだけです、その方が動かしやすいですからね。
 雪山や密室に閉じ込めて放置とかじゃ人質にすらなりませんし。万一何かあっては人質の意味がありません、マーダーと遭遇したら本末転倒もいいとこですよ」
「『ここ』に置いておくという手もなくはないと思ったけどね」
「やむにやまれぬ事情ってやつですよ。正直に言うなら必要性を感じなかった、というところですか。
 紫木一姫と神原駿河は最初は参加者にするつもりだったんですが『失敗』だったらしくて、見せしめにする手もなくはなかったんですが。
 せっかくなんであえて主催側においてみようかという話が持ち上がりましてああなった次第ですよ。
 二つ目の質問は証明する手立てはありませんがこうやってあなたの目の前にいること、情報の精度からご本人と思ってくださいとしか言いようがないですね」
「『証明する手立てはありませんが』――ねえ。どこぞの人類最悪じゃないがよく言ったものだよ」
「そう言われましてもね――おっと、失礼」

会話を中断させたのは無機質な電子音だった。
不知火半袖は音源――携帯電話をポケットから取り出すと、対面に一応の許可を得て応答ボタンを押す。

372解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:15:13 ID:nwLFk3pc0
「はいはーい、不知火ちゃんですよ。……終わった? それで現在位置は? ……なるほどねー。止められたのは元凶だけってこと? まあ仕方ないか。
 デイパックは回収してる? うんうん。その場所がセーフならあっち側も大丈夫でしょ、一応。ご苦労様、策士さんには報告しとくからそのまま戻ってちょーだい」

簡潔に通話を終えるとポケットに電話をしまい、向き直った。

「お待たせしました。んじゃ私の番ですけど今の電話の内容説明しときます?」
「その必要はないんじゃないかな。要するに江迎ちゃんが最期に残した過負荷がこれ以上拡がらないようにしてきたんだろう? 不知火ちゃんが、直接」
「あひゃひゃ、余計なお世話でしたか。首輪やらデイパックやら、それに地面や外壁などを腐らせないようにしたのが仇になった感じみたいでしたね」
「僕に言わせればそもそもそうやって能力に制限をかけるってのがおかしいとは思うんだけど、ね」
「『大嘘憑き』でバンバン生き返らせられては破綻しちゃうじゃないですか。『完成』も然りですよ」
「それなら殺し合わせなければいい話じゃないのかい。これも少し視点を変えれば仮説が浮かび上がるんだけど」


「完全な人間は参加者四十五人の中にはいない――とかね」


「どうかな? 僕の想定は」
「……質問は私の番のはすですよ。…………その質問に対しては沈黙をもって判断してくださいな」
「質問したつもりじゃなかったんだけどねえ。ま、沈黙をもらえただけ僥倖ってことにしておこう」
「言ってくれるじゃないですか、久しぶりに会ってもそのふてぶてしさは相変わらずですねえ。じゃ、質問に戻らせてもらいますか。
 どうして『平等なだけの悪平等』のあなたがここではこんなに介入するんですか? 他の世界を『踏み台』と言ってのけた、あなたが」
「ここがイレギュラー中のイレギュラーってのもあるけど、別世界とはいえ友達が巻き込まれてるのにほっとけないだろう」

返ってきた質問の答えに、きょとんとした表情を浮かべ、不知火半袖はそれまでどのような質問を投げかけられたときよりも長く沈黙し、


「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あなたが!? 友達!? 聞き間違いじゃないですよね!? 一体全体実際問題何があったらそんな風になるんですか!
 封印が解けてる時点でおかしいとは思ってましたけど、あなたそんなキャラじゃなかったでしょう! 別世界だからキャラも別だなんてオチが待ってませんよね!?
 黒神めだか? 球磨川禊? それとも人吉善吉? あるいは彼ら全員? 更にそれ以外の生徒会の面々も含めて? 誰があなたをそこまで変えたんですか?
 というか正直誰でも構いませんけど、安心院さん、あなたそんなことする人だったんですか!? いやー、これはびっくりですよほんとにもう!
 無駄足踏んで無駄骨折ったとか今まで思っててごめんなさいね! それを聞いただけで来た甲斐ありましたよ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


目尻に涙を浮かべ、腹を抱えてこれでもかと身を捩った。

「……いやはや、まさかここまでおもしろい反応を示してくれるとはね」
「からかったわけじゃないでしょうに。あー笑いすぎてお腹痛い」
「補足しておくと君も友達の範囲に入ってるんだぜ、不知火ちゃん」
「これ以上笑わせないでくださいよ。もっと話を聞きたいところですが時間が押してるのが残念で仕方がないですね。
 どうせ後々空き時間ができるでしょうしまた来ますよ。安心院さんも子猫の相手しなければいけないんでしょう?」
「なあんだ、知ってたのか」
「これでもリアルタイムで情報を把握できる身分にいるものでして」

ぴょこんとソファーから飛び降り不知火半袖は入ってきたドアへと向かう。
そのまま出ていくと思われたが、ドアが閉まる直前に顔を覗かせた。

「あ、そうそう。最後に一ついいですか?」
「言ってごらん。答えられるものなら答えてあげるさ」
「どうして真っ直ぐ帰らないんです? あなたならできないわけがないでしょうに」
「なあに、ちょっとした気まぐれだよ。土産話になるかもと思ってね」


※腐敗の拡大は止まりました。が、腐敗そのものはそのままなので範囲内に入れば『感染』します。

373 ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:19:52 ID:nwLFk3pc0
投下終了です
主催と部外者(でも介入はしてる)しかいない話なのでツッコミどころ満載かもしれませんがいつも通り誤字脱字指摘感想等あればお願いします

JDCトリビュートと蹴語未把握でメタネタにぶっこめなかったのがなあ…

374名無しさん:2014/06/03(火) 19:44:10 ID:G23IC3/I0
投下乙です

375名無しさん:2014/06/04(水) 12:32:33 ID:Au3ANND6O
投下乙です!
とうとう夢の中だけじゃ飽きたらずモノホンが出てきちまったか・・・
まあ人外さんに関しては基本的に中立を保つ様子だし、どっち陣営にしても大きな脅威にはならない・・・はず
というかどちらか一方に味方しだしたらこのロワ終わる

376 ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:08:44 ID:vWjUZsFU0
投下します

377My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:10:03 ID:vWjUZsFU0
ただ、立ち尽くす。
その異様な光景に。
神がおわす情景に。
その場の四人は動けないでいた。
うち一人は病魔による激痛と能力による症状で気絶しており、うち一人は神様直々に磔にされていたためだが。
残る二人の男女は状況の不明さに手出しできないでいる。
傍観者の男女の名は球磨川禊と鑢七実、倒れ臥す男は鑢七花。
そして、神に磔にされているのが何の皮肉か名字に神を宿す女、黒神めだか。
以上が、この話の登場人物だ。
あくまで存命の者に限るが。


   ■   ■


「これは、どういう、ことですか」

ようやく口を動かし、か細い声を出したのは七実だった。
問いかけの形をとっていることからわかるように、独り言ではなく訊ねる相手がいる。

――こいつは神様だな――
「神様? しかし、彼女は蟹と」

答えたのは隣に立つ球磨川ではなく、交霊術を使う彼女にしか見えない、幽霊と呼んでもよいのかすらわからない怪しい存在――刀鍛冶・四季崎記紀。
四季崎からもたらされた情報にすぐさま彼女は疑問を呈す。

――蟹の神様だよ――おもし蟹――重いし蟹、重石蟹、それに、おもいし神とも呼ばれたりするが――要は人から重みを失わせるのさ――
「重みを失わせる……仮にそうだとしても、この状況は」
――怒りを買っちまっただけなんじゃねえのか?――神様相手にゃ十分狼藉働いただろ――

狼藉という言葉に七実は思い返して納得する。
叫び。
自らを掻き毟り。
地面に這い蹲り。
過負荷でもなければ人間相手でも無礼な行いだ。
それがましてや、神様だったらば。

――それっぽいところに手をかけて、それっぽく手を引けば引きはがせるだろうぜ?――なんせ蟹だからひっくり返してしまえば何もできないしな――
「勝手にやるわけにもいかないでしょう。それにわたしまで神の怒りを買いたくはありません」
――見えてないなら大丈夫だろうさ――第一、おまえには失いたい思いはないだろう?――
「思い? 重みではなく?」
――おっと、言葉足らずだったか――おもし蟹は思いと一緒に重みを奪う神なのさ――奪うという言い方もなんだがな――

しばし、七実は思考する。
目の前の状況。
四季崎の言葉。
蟹。
神様。
おもし蟹。
重みを失わせる。
失いたい思い。
思いと重み。
奪うという言い方もなんだが……?

378My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:10:45 ID:vWjUZsFU0
「つまり――重みと引き換えに、思いを失わせてくれる神、とでも」
――ご名答――下手な行き遭い方をしてしまうと、存在感が希薄になるらしいが――まあこいつはなくてもいい情報だな――
「重みを失えば体が軽くなるのは予想がつきます。それこそ、常に忍法足軽を使うかのように。しかし、思いを失うというのは」
――忘れるのとは違うな――思うのをやめる、悩むのをやめる、そんなところか――失ったことを後悔しない保証はないが――
「どうしてそのようなことを知っているのかはこの際置いておきましょう。今更な話ですし」
――くくっ――元々は占い師の家系なんでな――なんて言っても、説得力の足しにもならないだろうがよ――
「ですが、今までの話が本当だとして、神は……おもし蟹は、一体何を奪おうと」
――さあな――さすがにそこまではこのおれにもわからねえよ――例えるなら、そうだな――刀であるおまえらが刀であることを捨てる、とか――
「わたしたちが刀でなくなるような……それに匹敵するような思いを失いたいと願っているとしたら――」

仮定につぐ仮定。
信憑性の欠片もない情報。
鵜呑みにするには無理がありすぎる。
七実は再度めだかを見遣るが何度目を凝らしても蟹がいるとは思えない。
強いて言うなら、彼女の両脇に4つずつ深い罅割れがあることだろうか。
言われてみれば蟹の足跡に見えなくもない。
視線をめだかから外し、足元に落とす。
そこには、自身も突き刺した螺子の影響もあってか頭髪を黒と白のまだらに染めたまま倒れる弟がいる。
気絶していてなお表情は苦しそうだったし、肌も青白い。
七実はため息を一つ零し、





「くだらないですね」





一笑に付した。


「そのようなことで悩むくらいなら最初から持たなければいいというのに。或いは、もっと早い段階で捨てるべきだったのですよ。
 少なくともここで神に頼るなどという、ずるい真似をするよりかは」


そして、





「ああ、全くもってくだらないよ」





追随する者がいる。


「七実ちゃんが誰と話してたのか僕にはわからないし、どうしてそんなことを知っているのかもどうでもいい。
 断片的な内容からじゃ推測するのも難しいし、正解しているという保証もない」


だが、

379My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:11:38 ID:vWjUZsFU0


「それでも確実に言えることは、」


「めだかちゃんはこんなところでズルをするような人じゃない」


「そんなめだかちゃんなんて僕は認めない」


「そして最初から持たない方がいい、もっと早く捨てていれば、なんて甘えるめだかちゃんも認めない」


後半部分。
見解の相違が生まれ、


「だから七実ちゃん、手出しは一切しないで」


それに七実は、


「……委細承知」


球磨川禊にそこまで言われてのける黒神めだかに少しだけ、嫉妬した。


   ■   ■


七実は交霊術を「ただの記憶」と称したし、事実それ以上のものを見ることはできなかったが、めだかが「完成」させた交霊術は本領を遺憾なく発揮している。
ゆえに。

――あなたにはわからないでしょう――私にとって阿良々木くんがどれほど大切な存在だったか――

――よくも、よくも阿良々木くんを殺してくれたわね――

――阿良々木くんがされたように、心臓を貫いて殺してやるわ――

――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――

現在進行形で戦場ヶ原ひたぎの怨嗟の声はめだかを苛み続ける。
武器はおろか、肉体すら持たないひたぎは唯一残った言葉でもって暴力を振るう。
行動にできるできないは関係なく、ただ思いの丈をぶつける。ぶつけ続ける。
反論の余裕は与えることなく。
言い訳の理由を求めることなく。
反省の意思すらも拒絶するように、たたみかける。

380My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:12:54 ID:vWjUZsFU0
――おもし蟹さまに願うのかしら――この重みを取り除いて欲しいと――

――願えば楽になれるわよ――その罪の意識から逃れられるわよ――

――いっそのことあの神様モドキの言うとおりに墜ちてしまうのもいいんじゃないかしら――

――正しいままでいるというのはとっても大変なことだものね――

――私の知っている本物は一度化物になったこともあったけれど――最初から化物のあなたはそんな逃げ道すらあるのかどうか――

――そう考えると、ほら、千載一遇のチャンスよ――化物をやめられるチャンス――

一転して優しい口調になるも、それもめだかを苦しめるため。
かつて自身が行き遭い、重さを失ってから後悔しなかった日がなかったように。
めだかもその選択をしたことを後悔して後悔して後悔して地獄に堕ちてしまえばいい、と。
残されたものが言葉しかないのならその言葉を最大限活用する。
交霊術を用いてからやっと訪れた沈黙に回答を求められたと判断しためだかは恐る恐る口を動かす。

「化物を、やめろ、と……見知らぬ他人の、役に立つ、ために、生まれた、という、私、の信念を捨てろ……と、そう言う、のか、戦場ヶ原、ひたぎ、上級生」

――信念、ね――言ってくれるじゃない――阿良々木くんを殺しておいてどの口がほざくのかしら――

「わかって、いるさ……拭えない罪、だということも、許されない罪悪、であろうことも……だが、償うことは、できる……!」

ぞわっ、と一段と迫力が増した。

――償う?――誰に償うというの?――私にはもう何をしようと贖えないわよ――
――本来ならこうして話をすることだってできないというのに――
――それとも見知らぬ他人に償うというのならとっても滑稽ね――
――私以外に償うというのならそれは償いとは言わない、ただの自己満足――
――そもそもあなたのその信念も随分と破綻しているわよね――
――見知らぬ他人の役に立つ――上辺だけ聞けばそれはそれは立派でしょうけれど――見知った知人はどうなのかしら――
――自分のことを顧みず、周囲も蔑ろにして――それで遠い他人の役に立とうだなんて、おこがましいにも程があるわ――
――ああ、そういえば――阿久根高貴――彼、あなたのために私を殺そうとしてたわね――
――もしかして、初耳だった?――人吉くんがいなければ死んでいたところだったのよ――
――彼もあなたに心酔してたようだったけれど――今の今までそのことに気づかなかったようじゃ、その信念は――

ただの戯言と呼んでも差し支えない言葉の羅列。
だが、その中に混ぜられた阿久根高貴の凶行という情報。
これまで見続けてしまった、聞き続けてしまった膨大な怨念。
おもし蟹の存在。
それらがめだかの精神を疲弊させ、正常な判断力を奪い去り、



――その信念は無理で、無茶で、無駄だったとしか、言い様がないわ――



戦場ヶ原ひたぎは、とどめを刺す。


「無理で、無茶で、無駄だった、と――私のしてきたことは、そういうことだったと、いうのか……?」


――ええ、その通りね――
――そんなことはねーぞ、めだかちゃん――


そこに、割り込む声があった。

381My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:13:32 ID:vWjUZsFU0


   ■   ■


「善、吉……?」

知っている。
めだかは知っている。
声の主をめだかは知っている。
だが、知っていたところですぐに理解できるかどうかは別の問題で。

「はは……ついに、気が触れでもしたか……」

いよいよ幻覚を見てしまったのかと錯覚してしまう。

――カッ――第一声がそれってのはさすがにないと思うぜ?――

――人吉、くん……――

――おっと、今は黙っててもらおうか、戦場ヶ原さん――散々しゃべったんだ、少しは休憩してろよ――

――そう言われてはいそうですかと引き下がるとでも?――

――俺に一個、貸しがあるはずだよな――それに、俺の目の前でめだかちゃんをどうにかできると思ってるなら――大間違いだ――

――…………、わかったわ――今だけはおとなしくしておいてあげる――でも、あなたこそ黒神めだかをどうにかできるだなんて思わないことね――

しかし、戦場ヶ原ひたぎまで反応を示すとなれば話は変わる。
人吉善吉が目の前にいる、と認めざるを得ない。

「本当に、善吉、なのか……? なら、どうして……」

――恥ずかしい話だけど、実はずっといたんだよな――めだかちゃんが俺を連れてってくれたっていう言い方もあれだけどよ――

「まさか……腕章、か?」

――正解――だから今までめだかちゃんが何をやってたかってのも全部見てた――小学生の目の前で着替えるとこまでな――

「なっ……」

――ただ、『敵』と言われる心当たりなんてなかったし――様子がおかしいところもあったから――正直言うと、心配してた――

「そうか……安心しろ、と言ったのに、このざまでは、な……」

――できれば俺だってこのまま引っ込んでいたかったさ――めだかちゃんならこの状況でも何とかすると信じてたし――でも――

「文字通り、化けて出られて、しまわれては……立つ瀬も、ない」

――それはめだかちゃんが交霊術なんてのを使ってるからだろ?――使わなきゃ……ってのは野暮な話か――

「当然、だろう……義務、がある」

――やっぱりそう言うよな――それでこそめだかちゃんだ――だけど、それでも言わせてもらう――

おもし蟹の圧迫は未だに続き、いいかげん痺れを切らしてもいい頃だが、めだかが肯定も否定もしない以上おもし蟹はこの場から消え去ることはない。
それをわかっていて、善吉はめだかに告げる。

382My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:14:29 ID:vWjUZsFU0





――めだかちゃん、お前は間違っている――





めだかが過去に聞いた、善吉が未来で言った言葉を。


   ■   ■


少々時間を遡り。

「ねえ、禊さん。立ち話でもよろしいでしょうか」

二人は端的に言うなら暇だった。
手出しをするなというのは、つまり見ていることしかできないということであり。
言われた七実はもちろん、球磨川もその例に漏れず。
かといってこの場を離れるなどもってのほかで。
七実が話を切り出すのも不自然ではないことではあった。

『うん? 構わないよ』

球磨川も時間を持て余していたことは事実だったので七実の提案に応じる。

「めだかさんが言っていたことについて、どうお考えですか?」
『別に、いつものめだかちゃんって感じじゃないの? 正論しか言わない、そしてそれを当然のように他人に強要している、ね』
「正論ですか」
『正論だよ。「国境をなくせば戦争はなくなる」みたいなことを平気で言うような、そういう正論さ』
「だとしたら、彼女は無知なのでしょうね」
『どうしてそう考えるんだい?』
「『かつては素朴純朴、人間として真っ当な人生を歩んでいたんだろう』、めだかさんが言っていたことです。
 そして、それをわたしたち姉弟にも当てはまると信じて疑っていない」
『まあ、めだかちゃんはそういう子だからねえ』
「私も七花も、とても人間として真っ当な人生など歩いでいないのに、そもそも人生と呼べたかどうかすら不明瞭だというのに……」
『勝手な話だね』
「ええ、勝手な話です」
『でもなんで今になって話すんだい? それこそさっき言ってもよかっただろうに』
「一応、対象は七花だったでしょうし、あの場で話す必要性をあまり感じなかったので」
『ふうん』

まだ思うところはあるようだったが、七実は会話を打ち切った。
打ち切る理由が生じてしまっていては球磨川も続きを促すことはない。

「あら、いつの間に起きていたのね、七花」
「……ついさっきから、だよ」
「それで、調子はどうかしら」
「相変わらず、最悪だ。……姉ちゃんはずっとこんな風に生きて、生き損なってたんだな」
「その程度でわかった気にならないで欲しいものだけど」
「う……ごめん。えっと、それで、何がどうなってるんだ?」
『そこら辺の説明は話すと長くなっちゃうからなあ……ところで君はそんな格好で大丈夫なのかい?』
「それだが、おれの服がどこに行ったか知らないか?」

383My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:15:21 ID:vWjUZsFU0
話し声がきっかけなのかはわからないが、目覚めた七花に二人は話しかける。
気を失ってから、そもそも森で倒れてからの経緯も当然把握していないため七花も現状を認識しようと問いかける。
それを聞いた球磨川は頬をぽりぽりと掻くと気まずそうに口を開いた。

『あー……、そういえばなかったことにしちゃったんだっけ。仕方ない、ここは僕の』
「禊さん、それでしたら」
『うん?』
「わたしの荷物の中に服があったのでそちらでいいかと。少なくとも、えぷろんよりかは」
『ここに来て? なんだか作為的なものを感じるなあ』
「いつまでも裸でいられては困るでしょう」
『まあ、この場合はご都合よりモラルを取るべきだよね』
「二人とも、何の話を」
『こっちの話さ』

とにかく、偶然にも七実の支給品の中に服、もっと言えば袴、更に細かく言うなら七花が昔着ていたものがあったため着替えについては事なきを得た。
男の裸エプロンとか誰得だよ、全裸の男を描写するの心情的に辛いんじゃという誰かの心の声は無視していただきたい。
その最中、他の支給品のゲームに出てくるような剣と服の中に紛れていた白い鍵に興味が移ったことで、登場人物が増えたことを示唆する呟きを耳にした者はいなかった。


   ■   ■


ここに来る前に自身が聞いた言葉だ。
同じことを聞かされたところでショックを受けることはない。
ない、はずなのに。
どうしてこうも響くのか。
響くということは暗に認めているからなのだろうか。
自身は間違っていた、と。
見知らぬ他人の役に立つために生まれてきたのではない、と。
戦場ヶ原ひたぎという『結果』を見せつけられては否定などできるはずもない。

「やはり、貴様も、そういう言う、のか……」

――早とちりしないでくれよ――めだかちゃんは『見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた』って――俺が昔言ったことだ――

「……」

――実際にめだかちゃんはそれをやってのけた――ずっと見てた俺が疑問を抱かない程に――

「…………」

――だけど、死んでから初めて考えたんだ――それは正しかったのかって――死んでから考えるってのもおかしな話だけどな――

「………………」

――で、思ったんだよ――俺はなんて重荷を背負わせてしまったんだろうって、さ――

「……………………」

――たった二歳のときの口約束にも満たない言葉をずっと実行し続けるなんて――異常すぎるにも程があるぜ――

「…………………………」

――だから間違ってたのは、そんな無理難題をやってのけためだかちゃんで――そんな無茶苦茶を押しつけた俺で――それを止めようとしなかった誰もだ――

「………………………………」

――でも、その行いの結果を俺が見てたように――めだかちゃんも見たはずだろ?――決して無駄なんかじゃなかったって――

否定しつつもかけてくれる優しい言葉。
だが、それを易々と受け入れられるかというと、そんなことはなく。

384My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:16:19 ID:vWjUZsFU0

「それ、でも、だ……現に、私、は失敗して、いる……」

――人間なんだ、失敗しない方がおかしいぜ――大事なのはどう対処するかじゃないのか?――いっそのこと無視したっていいんだ――

「し、しかし!」

――そういうことに、してしまえ――これは罪悪感から見た幻覚だったとかでいいんだよ――最初に否定しておいてあれだけど、気が触れた、でいいんだよ――

「そんなこと、できる、わけが……!」

――なら、幽霊に唆された、でもいい――その都度一々対応するなんて馬鹿のやることだ――一旦後回しにしたって誰も責めやしない――

「そんなに、言う、なら、唆される、ついでに、教えてくれよ……なあ、私は、なんのため、に、生まれて、きたのだ?」

――………………そんなの――俺が知るかよ――それでも言わせてもらうなら――自分で、考えろ――

「ふふ……野暮、なことを、聞いて、しまった、か……」

――ただ、これだけは保証する――例え周りが全員敵でも――俺はめだかちゃんの味方だ――

「敵になる、と言った、ばかりで、手の平を、返す、か……つくづく、貴様、というやつ、は……」

――そこのところがよくわかんねえんだけど――今は些細な問題か――

「そう、だな……些細な、問題だ」

――最後にアドバイスっつーか景気付けっつーか――戯言とでも思ってくれていいんだけどよ――めだかちゃんは敵が強い程燃えるタイプなんだから――

だったら、と一拍置いて。



――敵だらけのこの状況を解決する、という難問に取り組まないわけないよな?――



その挑発ともとれる問いについ、めだかは破顔してしまう。

「本当に、貴様、は……! そう言われて、否定など、できる、はず、ない、だろうが……!」

――やっと笑ってくれたな、めだかちゃん――じゃあ、まずは二つ――やることやんなきゃな――

「ああ……最後、どころか、死後まで、迷惑を、かけた」

――カッ――気にするなよ――それじゃ、待たせちまったな――戦場ヶ原さん――後は好きにしな――できるならの話だけどよ――

――まさかこんな茶番で私が納得するとでも思ってるわけじゃないでしょうに――

「もちろん、だ、が……少し、待って、くれないか? この、ままでは、話しにくい、から、な……」

視線を落とす。
本来なら地面が見えるだろうところに世界最大ではないかと思う程の蟹がいる。
何も言わず。
どこを見ているかも曖昧。
耳があるかどうかも疑わしい。
それでも有無を言わせない迫力を出している。
これが神か。
得心する。
大きく息を吸って、吐いた。

385My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:17:24 ID:vWjUZsFU0

「長々と待たせてすまなかった。悪いが、後回しでも抱えると決めた以上こいつは持っていかれるわけにはいかないのだ。
 神に対して失礼な物言いなのは十分承知しているが、お引取り願いたい」

その答えを待っていたかのように蟹は消えた。
還ったとも言うべきか。
前触れもなくいなくなったことで支えを失い一気にその場にくずおれた。
胸部を圧迫する存在が消えたことで一気に肺に空気が流れ込む。
久方ぶりの感覚にげほげほと咳き込んだ。
立ち上がらず、足を直す。
そのまま、額を地面につけた。


「ごめんなさい」

――どういうつもり?――

「身勝手な振る舞いなのはわかっている。だが、最初にするべきだったのだ」

――そうされたところで今更――

「自己満足だということもわかっている。しかし、悪いことをしたら謝るものだろう」

――だから、なんだというの――

「傲慢だったよ。何が更生させる、だ。過ちを自覚しておきながら、赤の他人には『すまないと思っている』と言っておきながら、当の本人には何も言ってなかった」

――わかっているの――

「洗脳されていたという言い訳が通用しないということもわかっている」

――わかっているの?――

「重々承知している。だから何度でも言おう」

――わかっているの……!?――

「阿良々木暦を殺したのは私だ、本当に、ごめんなさい……!」

――それが火に油を注ぐだけでしかないというのをわかっているの!!――

「球磨川じゃないんだ、死人に対しできることなど、こうして謝ることくらいだ。本来ならこうして声を聞くことだってできん。憤怒とはいえ反応があるだけましだ」

――無駄よ――何を言われたところで納得なんて――

「ああ、そうさ。納得などしないことなどわかっている。思えば先ほど言った償いというのも馬鹿馬鹿しい話だ。できることなど結局自己満足に終わるのに、な」

――そんなに言うなら自己満足を貫けばいいわ――私には決して届かない自己満足を――

「貫くさ。せいぜいできることなど不知火理事長を問い詰めて優勝者を出さないまま願いを叶えさせる、くらいだがな。その暁には阿良々木上級生にもきちんと謝ろう」

――それが実現できたとして阿良々木くんはともかく私は絶対に許さないわ――

「承知の上だ。交霊術を使わなくなったところで私に憑いて回るのだろう? 私の自己満足を最後まで見ていけばいいさ」

――なるほど、確かに人吉くんの言うとおり今のあなたには何を言っても意味がないようね――だったら憑かず離れず失敗するように祈って――いや、呪ってあげるわ――

「それで結構。その方が私もやりがいがある」

――忘れないことね――あなたが死ぬのをずっと待っていることを――今すぐにでも殺してやりたいことを――

386My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:18:02 ID:vWjUZsFU0

「それだけのことをしたからな……済まなかった。


 …………これでいいんだろう?」

――ああ、上出来だぜ――それじゃあ、また、いつかだな――

「うむ」

戦場ヶ原ひたぎの霊も人吉善吉の霊も消える。
見えなくなっただけで近くにいるのだろう。
頭を上げると球磨川たちが何かやっている。
どうやら鑢七花が目覚めていたらしい。
立ち上がりながら、もう一度言うべきことがあったと思い出す。


「ありがとう、善吉」


誰にも聞こえないような大きさで、でも、届いてると確信して、口に出した。


   ■   ■


蟹がいなくなったらしいということは三人も気づいていた。
直後土下座しためだかの様子を見てまだ事態は終わっていないと静観していたが、それも終わったらしい。

「やあ、めだかちゃん。調子はどうだい?」
「万全、とは言えないがな。善吉のおかげだ」
「善吉ちゃん?」
「憑いてきてもらってたんだよ。……私が不甲斐ないばかりにな」
「いつまでも未練たらしく、かい」
「それに私は何度も助けられたのだ、そう言うな」
「これからどうするのさ」
「端的に言うなら、そうだな……自己満足に付き合ってもらえるか?」
「人間を信じるついでに幽霊も信じるなんて馬鹿なことを言わないよね」
「幽霊とて元は人間だろう? ちょっと唆されただけさ。そういうのも、悪くない」
「……ははっ、本当にきみはおもしろい。だったらさ、今ここで、邪魔の入らない状況で、再開といこうよ」
「ここで断っても無駄なんだろう? いいだろう、まずは貴様からだ」
「−13組代表、球磨川禊」
「なんだ、名乗るのか?」
「関係ないとわかってても、なんとなくね」
「正直な感想を述べるなら私は生徒会長失格なのだけどな……まあよい、それでも今だけはこう名乗らせてもらうよ」

387My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:18:46 ID:vWjUZsFU0




















「箱庭学園第九十九代生徒会長黒神めだか「ああ、関係ないな」だッ……!?」




















ごぽっ。
そんな音と共に口から大量の鮮血が吐き出される。
ぶんっ。
胸に陥没させた左手を引き抜くついでに腕を振るったことでいとも簡単に体は転がっていった。
うまくいくかは賭けだった。
痛くない場所などないし、思い通りに動く保証などどこにもない。
病弱で軟弱な体で虚刀流を放って耐えられるかもわからない。
だが、思い返す。
姉は凍空一族の怪力を見取っていて、それが体に弊害があったようなことは言っていなかった。
そもそも虚刀流の技だって使う分には全く問題はなかったはずだ。
そうと決まれば後は簡単だった。
球磨川禊も鑢七実も黒神めだかに対する闘争心は十全にある。
気持ちの問題は何もしなくても勝手に解決していた。
虚を突いて、一気に近づき、最速の奥義を、鏡花水月を繰り出す。
途中に鉄扇が落ちていたから防がれることもないのも確認済みだ。
そして、結果、うまくいった。
反動で全身が痛むが、関係ない。
相手が姉ちゃんであろうとも、関係ない。
おれは言う。

388My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:19:23 ID:vWjUZsFU0





「腐ろうが、錆びようが、朽ちようが、そのまま果てようが、関係ない」



「おれはおれらしくやるだけだ」



「だから悪いとは――思わない」





刀は斬る相手を選ばない。
例え相手が刀であろうとも。
例え相手が家族であろうとも。


【一日目/真夜中/D-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:? ? ?
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています

389My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:20:02 ID:vWjUZsFU0
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(1〜3)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える?
 0:? ? ?
 1:七花以外は、殺しておく?
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



【鑢七花@刀語】
[状態]『却本作り』による封印×3(球磨川×2・七実)、病魔による激痛、『感染』?、覚悟完了?
[装備]袴@刀語
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:二人を斬る
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない?
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

390My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:20:33 ID:vWjUZsFU0





愉快ユカイと見えないダレカは笑う。










――ほら、言ったとおりになった――










【黒神めだか@めだかボックス 死亡】





※D-5に黒神めだかのデイパックが放置されています。内容は以下の通りです。
 支給品一式、『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
※D-5に否定姫の鉄扇@刀語が放置されています。
----
支給品紹介

【袴@刀語】
鑢七実に支給。
鑢七花が刀集めの旅の途中で穿いていたもの。
七花いわく、「動きやすいし、戦いやすい」

【勇者の剣@めだかボックス】
鑢七実に支給。
安心院なじみがスキル見囮刀(ソードルックス)で精製したもの。
蛮勇の刀同様、使い手を選ぶため球磨川禊がかつて持ったときは手を滑らせて自分の胸を刺したことも。

【白い鍵@不明】
鑢七実に支給。
小さい真っ白な鍵。
鍵には鍵穴がつきものだが…?

391 ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:23:25 ID:vWjUZsFU0
投下終了です
どうしても一ヶ所ご都合に頼らざるを得ない部分があったのですがそこだけはご容赦ください
視界に入っているので大嘘憑きで蘇生もできなくはないですがそこも空気を読んで欲しいなーって…
それ以外で指摘等あればお願いします

392名無しさん:2014/07/08(火) 23:37:39 ID:pMyNV9E.0
投下乙です

ちょ、おまああああっ!?
もしかしたら、めだかちゃんはズルをして…行ってもおかしくなかったがそこに来て善吉キター
クマーも本当にめだかちゃん想いだなあ。嫉妬するお姉さんが可愛いと思ったw
そしてめだかちゃんは…でも最後に…
うわあ、クマーの???が怖い

393名無しさん:2014/07/15(火) 01:01:55 ID:F0m5OQQU0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
149話(+2) 15/45 (-1) 33.3(-2.3)

394名無しさん:2014/07/20(日) 02:07:00 ID:xLyoQkNI0
投下乙です

めだかちゃん・・・一撃必殺にやられたか・・・

395名無しさん:2014/07/30(水) 10:59:28 ID:m06tZOrE0
久々に来たらめだかちゃんが…
続きが気になる

396名無しさん:2014/08/01(金) 01:57:01 ID:UPksUqLk0
投下乙です。
衝撃の展開ばかりが注目されてるんだけど、これめだかちゃんとガハラさんの決着(?)もすごいわ
どっちかが下手に折れたらキャラ崩壊になりかねないところを、ギリギリのラインで互いを殺さずに結論を出している

397名無しさん:2014/08/06(水) 02:53:20 ID:8JhHwSUY0
おー、こうなったか
投下乙です
まさかここで最後に七花がもっていくとは
そこまで思いっきりめだかちゃんやっといて、これは憎い流れだった!

398 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:52:10 ID:DxJa6RA20
わぁい、供犠創貴、真庭蝙蝠、宗像形、零崎人識投下します

399変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:53:24 ID:DxJa6RA20



まず牽制に一発撃つ。
動いたように見えただけで、気付けば避けられた。
戦闘力も中々悪くない。
そう判断を下す中、何時の間にか手にしていた刀で突きを放ってくる。
避けられない。
分かっていたような調子で蝙蝠が絶刀で防いだ。
横振りをし、互いに距離を置く。
拳銃を構えるがこっちもしっかり目を向けてきている。
まだ冷静だ。
どう乱して隙を突くか。
考えていると、宗像の手が動いたのが見えた。
見えただけだ。
気付いてみれば刀を投げていたらしい。
音を立てて傍へ飛ぶ。
やはり蝙蝠に守られている。

「へぇ」

などと思わず感嘆の声を漏らす。
ぼくが、じゃない。
宗像が、だ。

「守るとは意外だ。だから殺す」

更に手が動いた。
絶刀が煌めき、二本の刀が左右に飛ぶ。
拳銃を構えるが隙があるとは思えない。
舌打ちしていると、僅かに前に出ている蝙蝠の言葉が聞こえた。

「三回だ」
「……三回?」
「おお、三回。あと三回だけ守ってやるからそれまでに逃げな。きゃはきゃは」
「邪魔か」
「邪魔だ」

もう一度舌打ちする。
とは言え動きの一つもまともに見取れてない現状だ。
邪魔なのは事実だろう。
一本の刀を払い落とし、蝙蝠が笑う。
「おれはどちらでも構わない」とでも言うように。
しかし。
しかし蝙蝠に任せる。
それだけが果てしなく心配だ。
どうにも妙な所がある。
裏切る可能性がある。
いや、裏切る可能性がないのはりすか位でそれ以外だったら誰にでもあるが。
だが。
そう思っている間に宗像と蝙蝠がぼくの前で鍔競り合っていた。
二回目。
考えてる時間もない。

400変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:54:37 ID:DxJa6RA20
「任せる」
「きゃはきゃは!」
「逃げるのかい? 良いよ、逃げても――――だから殺す」

走る。
りすか達のいる部屋に向かって。
宗像の言葉が聞こえ、金属音がした。
蝙蝠の気味の悪い声もする。
一発。
階段が近付いた所で振り返る。
それをまるで狙い澄ましていたかのような、実際狙い澄ましていたんだろう、宗像と、目が、合った。
咄嗟に拳銃を向けようとする。
それより向こうの動きが早いと知っていても。
手を持ち上げている途中、何もなかったはずの宗像の手に刀が握られていた。
やけに。
ゆっくりと時間が過ぎるように感じる。
りすかの魔法の影響か。
末期の集中で生じる思考か。
そんな考えが頭を過ぎる。
中。
その中で、最後に聞こえたのは、

「抱腹絶刀!」

蝙蝠の声だった。



刀が乱れ飛ぶ。
ある刀は窓を突き破り。
ある刀は壁に突き刺さり。
ある刀は本棚を崩壊させる。
宗像形の取った戦法は単純だった。
数打てば当たる。
否。
数投げれば当たる。
既に投擲した刀の数は四百と二十一本。
ネットカフェの内部至る所、刀が突き刺さっている状態だった。
それと同じだけの数の刀の鞘も転がっているような状況だった。
しかしなおも投げる。
苦汁を嘗めるように。
休まずに投げ続ける。
何故か。
簡単だ。
当たらないからだ。

401変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:56:01 ID:DxJa6RA20
「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」

決して広くなく、むしろ物が雑多に置かれている分だけ狭く感じる。
そんなネットカフェを、真庭蝙蝠は飛び回る。
蝙蝠が取ったのは逃げの戦法。
本棚の上を駆け。
テーブルを蹴り。
天井を跳ね回り。
そして隙を突く。

「しゃっ!」
「っ!」

突き。
ただの突きではない。
絶刀・鉋。
頑丈さに焦点を置かれた刀。
更に蝙蝠の、変態した殺人バット振りの愚神礼賛零崎軋識の、身体能力が合わさり受けに使われた刀を容易く砕く。
だが、駄目。
受けられた衝撃で蝙蝠の手元が止まった瞬間、既に宗像の手には別の刀。
別にして同一。
千刀・ツルギ。
全く同一の使い捨ての刀。
首へと振るわれそして宙を斬った。
既に蝙蝠の姿はテーブルの上にある。
再び、刀が投げられるに到った。

「きゃはきゃはきゃは」

完成形変態刀二本。
絶刀。
千刀。
一本で国一つと言われるだけ有りその戦いは地味であり、凄まじい。
もしこの現場に供犠創貴がいれば。
既に串刺しになってそこらの壁にでも磔られていただろう。
幸か不幸か。
逃げた最後の瞬間。
刀を投げ付けようとした刹那。
注意が逸れたその時。
蝙蝠がその隙を逃すまいと突きを放っていなければ。
宗像が蝙蝠の突きを防がなければ。
創貴は、磔になっていただろうが。
とにもかくにも戦いは続く。
延々と刀が投げ続けられ。
延々と鞘を投じては出し。
延々と様々な場所を駆け。
隙を見ては、突きを放ち。
見付けられては刀で防ぐ。
延々と。
延々と。
続くかに見えた。

402変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:56:47 ID:DxJa6RA20
「!」

異変は、宗像から起きた。
刀を取り出しはした。
しかし、別の刀。
薄刀・針。
薄過ぎる芸術品と言って差し支えのない刀。
その刀身を光が透ける。
笑ったのは蝙蝠だった。
簡単な話。
待っていたのだ。

「きゃはきゃは! やっとかよ!」

本棚は最早壊れた物しかないからか、蝙蝠が床を蹴る。
振るわれる絶刀を宗像は下がって避ける。
受けれないから、避けるしかない。
待っていたのだ。
蝙蝠は。
なるほど宗像の所有する暗器の技は驚くべき物だ。
何処からともなく刀が現れる。
しかし。
それは。
何もない所から現れる訳ではない。
あくまでもある物を出せる。
それだけなのだ。
故に。
千刀を使い切る瞬間を。
投げ終えるその時を。
蝙蝠は待っていた。
粘り強く。
辛抱強く。

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」
「くそっ!」

殺しの技術。
殺さない技術。
宗像の有するそれは卓越した物である。
しかし果たしてそれは。
生粋の殺人鬼の体と生粋の殺人忍の経験。
その二つを併せ持つ相手に勝る物なのか。
それは、宗像が圧されていると言う状況が全てを物語っていた。

403変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:57:32 ID:DxJa6RA20
「おいおいどーしたっちゃ? だから殺すんじゃなかったっちゃぁあ?!」
「言われなくとも分かってる。だから、殺す!」

刺さっていた千刀を持って押し返す。
しかし一瞬。
数回打ち合えば強度の差が出る。
それだけではない。
と言うよりむしろこっちが大本命だ。
片手と両手。
生じる威力も自ずから出る。
その差はどう足掻いても埋め難い。
つまり簡単に言えば、宗像は全てに置いて蝙蝠に負けている。
それでもまだ負けていないのは、執念からだろう。
悪を裁く。
一念によって。
だが所詮、思いによって覆せる差などそう有りはしない。
千刀が折れる。
柄から手を離して次を取ろうと空を掻く中、

「抱腹、絶刀っ!」

宗像の肩に、刀が、突き刺さった。



貫かれたのは、左肩だった。
幸運にも。
いや、咄嗟に避けようとした結果、左肩に刺さった。
刺さった向き。
刃は体の外側に向けてだ。
良かった。
そう息を吐く。
蝙蝠の顔、今は軋識の顔だけど、が歪むのが間近に見える。
末期の息とでも勘違いしたんだろうか。
勘違いしてくれて良かった。
だから殺す。
刀一本もなく、身軽な体を横へとずらす。
ゴリッ。
とでも形容するような音が体を伝ってくる。
この先、最早左肩はまともに動かす事は出来ないだろう。
なんて考えながら、さっき取り損ねた刀を取った。
幸い蝙蝠は近い。

404変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:58:01 ID:DxJa6RA20
「んな、ぁ――」

僕の行動が予想外だったようだ。
単に、刀を取るために体をずらして、その所為で左肩が抉られただけなのに。
だから、

「殺す」

横に薙ぐ。
後ろに飛び退く事で避けられた。
でも幸いな事に、絶刀を落としていった。
それを、蝙蝠に向けて蹴り放つ。
宙を回転しながら飛んでいく刀。
蝙蝠なら平然と取れるのだろう。

「だけど」

殺す。
取ろうと手を伸ばし掛けた瞬間。
逃さず近付いて、今度はこっちが突きを放つ。
身を捩って避けられる。
でも絶刀がその胸元を裂いていった。

「ぐお」

怯んだ。
だったら殺す。
斬り殺す。
刀を振る。
跳んで避ける。
返す刀を投げて追撃。
それは蝙蝠が両手に挟んで止めた。
流石だ。
でも問題なく殺す。
次の刀は既に取ってある。
胴を斬り裂くつもりで振る。
でもそれは服を斬るに留まった。

「ちぃっ」

舌打ちした蝙蝠が、持っていた刀を振ってくる。
だけど数合。
打ち合っただけで折れた。
絶刀を一回二回受けていたのかもしれない。
だから殺す。
透かさず振り上げる。
とは言え流石に速い。
逃げに入っているその姿を認め、振り下ろしてた刀を離す。
生憎、頭の近くを掠めていっただけだった。
ついでに言えばとっくに割れていた窓から外に出て行った。
でも問題ない。
駆け寄り際に次の刀を取る。
偶然にも蝙蝠の近くに刀はない。
ただ逃げる。
その後を追う。
けども、壊れた本棚の一部を蹴り飛ばされやむなく足を止めた。
追おうにも、少し離れた所で既に立ち止まっている。
手には絶刀を握って。
ああ、やたら後ろに下がっていくと思ったらそう言う事か。

405変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:58:38 ID:DxJa6RA20
「……きゃはきゃは、なるほどなるほどちゃ。むやみやたらと投げてたのは、この準備を整えるためだった訳かっちゃ?」
「さぁ? でも名付けるならこの状況――」

見回しながらおどけてみせる。
あえて余裕を装う。
正直、左肩の痛さでまともに考える事もままならない。
ただの偶然だ。
到る場所に刺さった刀が、あたかも僕に味方するようにある。
ただの偶然。
投げようと。
折れようと。
砕けようと。
関係ない。
地形が。
千刀が。
味方している。

「――千刀巡り、とでも言うのかな。だから殺す」



消耗品としての刀。
そうは知ってても折るのにどうしても手心加えちまう。
何せ四季崎の作った完成形変態刀十二本が一つ。
千刀・ツルギ。
千本で国一つ買える刀な訳だ。
困った。
特に困るのは宗像だ。
まさか肩にぶっ刺しても平然と戦い続けるとは。
だが。
と、そのぶっ刺した肩を睨む。
血止めもせずに戦えばそりゃ血が出る。
出続ける。
何れは出血で死ぬだろう。
だからそれを待てば良い。

「きゃはっ!」

なんて甘い事考えるかよ。
ぶっ刺したい。
斬り殺したい。
絶刀・鉋で殺したい。
何度も何度も切って斬り付けて斬り裂いて斬り開いて斬り解いて殺して殺して殺して殺して殺して。
殺してやりたい。
だってのに。

406変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:59:13 ID:DxJa6RA20
「抱腹絶刀!」
「――だから? 殺す」

まるで。
まるで千刀が味方してるようじゃねえか。
いや実際問題偶然だ。
偶然折れてもすぐ近くに千刀の一本がある。
投げてもその傍に千刀が刺さったままある。
偶然だ。
偶然に過ぎないはずだ。
だってのにまるで。
そう、まるで千刀の持ち主みたいに。

「余裕で振る舞ってんじゃねえぜ! きゃは!」
「っく、う」

全力の横振りを叩き込む。
当然片手で受けれる訳がない。
刀は折れ、吹っ飛んでいった。
一気に距離を詰め絶刀を振り下ろす。
だが外れた。
逸らされた。
千刀で、だ。
偶然近くに刺さってた。
本格的に嫌な感じがしてきた。
条件で言えば全部が全部、俺の方が勝ってるはずだろ。
動き回って攻めてるのは俺の方だ。
だってのに何で、

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃは」

こんなに、追い詰められてる気分になってんだ。
殺したい。
殺したい。
殺したい。
だからよ。
刀風情が。
邪魔するんじゃねえ。

「いい加減に」
「っぐ」
「死ねぇ!」

砕ける。
持ち変える。
堂々巡りが続く。
なんだってんだ。
なんだってんだ。
なんだってんだ。

407変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:59:53 ID:DxJa6RA20
「っ?!」

袈裟切り。
避けるために下がった。
その脚が、何かを踏んだ。
少しだけ滑る。
そう。
致命的な少し。
振り上げられる千刀。
防ごうにも、絶刀の重量じゃ間に合わない。
分かった。
確信できた。
離せば逃げれる。
そう確かに思った。
だってのに、手を離せられない。

「あ」

なるほど。
こりゃ毒だ。
思い当たってみればどっかから可笑しかった。
絶刀で斬り殺したいと思う辺り可笑しかった。
卑怯。
卑劣。
それが売りなのに真っ向から斬りあってんだ。
全く笑えない。

「だから……裁く!」
「が、ぁああ!?!」

斜めに切り裂かれる。
着いた片足で後ろに跳んでなければ死んでいた。
幸いにして致命傷とまではいかないだろう。
だが、今、受けたのは拙過ぎる。
絶刀が手から落ちた。
いやそれはむしろ良い事かも知れない。
だが状況が一気に最悪にまで落ち込んだ。
体勢を立て直そうとするよりも、痛みでか足が滑って転ぶ方が早い。
それでも。
這うようにしてでも距離を置く。
置きながら確認する。
踏んだのは、千刀の折れた刀身。
つくづく敵らしい。
危機と相まって、手心を加える理由もいよいよなくなってきた。
この状況を脱せられれば、だが。

「………………」

冷めた目が俺を見る。
正義、ねえ。
正義のために殺す、ねえ。

408変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:01:08 ID:2PP8tqhg0
「きゃは、きゃは」

下らねえ。
喰鮫にでも聞かせてやりたい。
きっとあいつはこう言うだろう。
「そんな理由を作って殺すぐらいなら、そもそも殺さなければいい」と。
「殺すのならば一々、理由付けするのは下らないし、馬鹿馬鹿しい」と。
「楽しいですね楽しいですね楽しいですね……人殺し、楽しいですね」と。
笑って殺すだろう。
理由もなくたって殺す。
なんであいつが死んだんだか。
なんて。
軽い現実逃避をしてる間にも宗像の奴が近付いてくる。
余裕を持って。
警戒からか。
油断からか。
どちらにしろ、時間が足りない。
現状一番良いのは都城王土の体だ。
全てが最上位にくる体。
だが、そうなるために骨肉細工をする時間はない。
しかしまあ刀を振り下ろされれば、腕だろうが足だろうが今の筋力じゃ止めるには足りないだろう。
今の、軋識の体じゃ。
今しか機会がない。
試して、みるか。
そうして。
目を閉じた。
こいつが起きる前。
供犠創貴との会話を思い返す。

409変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:01:45 ID:2PP8tqhg0



「なあ蝙蝠」
「なんだ?」
「お前の魔法だが」
「忍法だ」
「どっちでも良い。とにかくそれは、全身しか変える事が出来ないのか?」
「どう言う意味だよ?」
「簡単な話だ。部分部分を別の人間のパーツに組み替える事が出来ないのかって言ってるんだ」
「パーツ?」
「……腕だけ別の人間の物にするとか、そんな感じだよ。あるいは、完全に別の形にするとか。このマンガみたいにさ」
「封神演義? きゃはきゃは、別の人間の体をねえ?」
「どうだ?」
「そりゃ出来ないな」
「……」
「きゃはきゃはきゃは。
 人間ってのは何だかんだ言って全部が全部合わさって統制が取れてんだよ。
 足、腰、腹、腕、首、頭、その全部で。
 声聞きゃあ分かるだろ?
 人それぞれってのが。
 重心の取り方だけでもそれぞれ違うんだ。
 それなのに一部だけ別の人間の物にするってのはつまり、その統制が崩れるってこった。
 例えばお前の足だけ別の人間の足だったらどうする?
 長さが違う。
 重さが違う。
 筋量が違う。
 それで十分な動きが出来る訳がねえ。
 あくまでその封神演義ってのに出てる奴が絵に過ぎないからってだけで、どうやったって」
「蝙蝠」
「ちっ……なんだ」
「つまり、「可能」って事だよな」
「………………」
「まあ聞けよ。
 今の話を聞く限りじゃあどうやってもその結論に行き着く。
 お前が言ってるのはあくまで出来ない事にするためのお理由付けだ。
 長さが違う?
 重さが違う?
 筋量が違う?
 それがどうした?
 それが出来ない理由になるのか?
 ならないよな。
 単にお前が、お前自身に限界を付けてるだけなんだから。
 骨肉細工。
 聞けば聞くほどよく出来てる。
 やろうと思えばお前自身の想像で、最強の肉体を作り上げる事だって出来るじゃないか」
「それは」
「出来ないのか? 本当に、出来ないのか?」
「精進が足りないんだよ」
「お前は今まで化けた人間の数を覚えてるのか?」
「…………」
「なあ蝙蝠」

410変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:02:24 ID:2PP8tqhg0



「一歩、踏み出せ」



真剣白刃取り。
情け容赦なく振り下ろされた刀を、蝙蝠は足で止めた。
足。
そこだけが、今までと異なった物に変わっていた。
宗像の表情が変わる。
余裕が、驚きに。
足で圧し折られた刀を見て、愕然に。
動きが止まったのはどれだけか。
十秒か。
三十秒か。
一分か。
とにかく、蝙蝠の腕が、抜き手が放たれるまで硬直が続いた。
飛び退いた宗像の、心臓があったであろう場所で蝙蝠の右手が握り締められ、解かれる。
当然のようにすぐ脇にあった刀を抜く宗像。
その視線の先で、両足で立つ蝙蝠の姿は、酷くチグハグだった。

「……きゃは」

両足が可笑しい。
右腕が左腕と違う。
別に人間の体を付けたように、奇妙な外見。
その蝙蝠が、自分の喉を左手で触れ、動かした。

「きゃはきゃ」「はきゃは」「きゃは」「きゃ」「は」「きゃは」「きゃはきゃは」「きゃ」「はきゃは」「きゃはき」「ゃはきゃ」「は」「きゃは」「きゃは!」

笑う声。
次々と声が変わっていく。
不気味さからか、宗像が一歩後ろに下がった。
そこで、笑い声は止まった。
声だけ止めて、蝙蝠が笑う。
口が裂けんばかりに。

「名付けるのが、忍法・骨肉小細工なの…………なんてな!」

子供の、小さな少女のような声で、言った。

411変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:03:14 ID:2PP8tqhg0

「部分だけ別の人間に変える。なるほど、やってみりゃ案外なんて事ねえし想ってたほど難しくねえが……出せる力は八割が良い所か?」
「…………」
「笑えよ、宗像。お前のお陰だぜ、こうなれたのは?」
「……その腕に、見覚えがある」
「そうかい。もう少ししたら教えてやるよ」
「必要ない。だから」
「冥土の土産によ!」
「裁いて、殺す!」

同時に、二人が間合いを詰める。
上段に振り上げられた刀が。
構えて繰り出される右腕が。
同時に、

「これは兄貴の言葉なんだが」

止まった。
その動きが止まった。
今まさに振り下ろされようとする刀が。
今まさに貫こうと構えられていた腕が。
おおよそ一メートルほどの距離を置いて、不自然に止まった。
その、二人の間に一人、居た。
唐突に、居た。
最初からその場に居たかのように極自然に。
にやにやと笑って。

「人間の死には『悪』って概念が付き纏うんだとよ」
「な、なななな」
「が、がががが」
「お? 何が言いたいかって? そうだな。派手に暴れ回ってた所為で、外にまで刀吹っ飛ばしてた所為で、出所探して歩き回ってた俺の耳にド派手な騒音が入った所為で、いやそもそも偶然俺がこっちの方に用があった所為で、俺が来ちまったって訳だ。えーっと宗像とか言ったっけ? あと、蝙蝠。まあ要するにだ」

どちらを向くでもなく、ゆっくりと刀を抜き、言い放つ。
奇しくも。
完成形変態刀十二本の内の二本。
千刀。
絶刀。
更に。
一本。
斬刀。
十二本の内の一本を持つその青年は、一言。

「二人ともこれ以上なく、運が『悪』かった――――ってこった」

と。
笑って言った。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板