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パラレルワールド・バトルロワイアル part2

1 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:17:06 ID:hUjGYcYM
『バトル・ロワイアル』パロディリレーSS企画『パラレルワールド・バトルロワイアル』のスレッドです。
企画上、グロテスクな表現、版権キャラクターの死亡などの要素が含まれております。
これらの要素が苦手な方は、くれぐれもご注意ください。

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14757/1309963600/

【外部サイト】
パラレルワールド・バトルロワイアルまとめwiki
http://www45.atwiki.jp/pararowa/
パラレルワールド・バトルロワイアル専用したらば掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/14757/

320接触 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/09(木) 20:27:44 ID:eSEoQ3Xs
「なるほど。ギアスユーザーについて、だいたいは理解しました。魔女因子の侵食、抑制剤。なるほど」
 校内の保健室で、マオは自分の持つ情報を全て開示しなければならなくなった。
 別に脅されているというわけではない。村上峡児の態度は、マオの素性や能力のことを詳しく教えても教えなくても良い、というものだ。
 ただ、相手に能力を向けたため、詳しく話さない場合は監視が厳しくなりそうだったのだ。
 魔女を探したいマオにとって、実力のある村上の警戒心は解きたい。
 ゆえに、オルフェノクの寿命に目をつけて、彼が興味を持ちそうな話題をした。
「そうさ。ボクは能力で君たちの問題を知っている。ギアスユーザーの解決策である魔女因子は、君たちにも有益なものだと思うけど?」
「もちろんです。マオさん、よく私に打ち明けてくれました。魔女因子の解析を我が社で行い、あなたにも技術提供をすることを約束します。
もっとも、この状況を打破しなければなりませんが」
「どうにかするつもりなのね。まあ、その実力なら当然かしら?」
「実力など関係ありません。やるべきことを、やれる人がやるだけ。それだけの話しですよ、マオさん」
 マオは肩をすくめて、村上が煎れたコーヒーを口に運ぶ。
 苦味を味わい、心地良い匂いを堪能してからまたも問いかける。
「まあ、ボクがあなたたちの支援を受けるには、世界を超える技術が必要だけどね」
「もちろん奪うつもりですよ。そんな技術、あんな輩に預けておくわけにはいきません。もっと有効に使うべきです」
「あっそ」
 割と失礼に会話を打ち切ったが、村上が気分を害した様子はなかった。もちろん、力で読み取っている。
 そういえば心を読むために目を覗く必要があるのを伝えているはずだが、今まで逸されたことは一度もなかった。
 本心を読まれるくらいどうとでもない、という自信があるのだ。うんざりするほどぶれない男である。
「そういえば、私たちは確かめなければならないことがある。
私が魔王と名乗る男、ゼロと接触したことはお伝えしましたね」
「そうね。ボクもこの校舎で出会っている。魔王の力であなたと出会ったあと、ここに移動したと考えるのが自然ね」
「そのことですが、時間帯を整理しませんか?」
 マオは彼の意見とすりあわせ、それぞれのゼロと出会った時間を照らしあわせた。
 すると不可解なことがわかる。
 村上が魔王と出会った時間と、マオが目撃した時間は重なる部分が多いのだ。
「どういうことなの?」
「考えられることは、魔王が分身できるのか。それとも二人いたのか、と言ったところでしょうか」
「二人いたとすれば、片方が偽物と考えたほうがよさそうね。けど、ボクが目撃した方もギアスユーザーにふさわしい身体能力だった」
「私と戦った相手は、私や上の上のオルフェノクを数名束ねても、苦労しそうな実力者でしたね。これは調査を進める必要があります。よろしいですか?」
「どのみち会ってみないと、ってわけね。了解」
 マオが納得の意を伝えた後、人のうめき声が聞こえる。
 どうやらオーキドが目覚めたようだ。村上がベッドの方に向かった。
 彼女はコーヒーに息を吹きかけ、口元に運ぶ。
 ポケモンはマオが預かることになった。村上に渡そうかと尋ねたが、それはこの儀式を潰してからでいいと言われた。
 こちらが反抗しても簡単に潰せるという自信から来るのだろう。
 自分をオルフェノクにしたい、という追求からどう避けるか。目下一番の悩みである。
 だが、悪いことばかりではない。
 村上はあの魔王(らしき相手)に互角に渡り合った。心を読めるため、本当であることを確認した。
 それ程の実力者を敵に回さずに済んだのは、素直に幸運によるものだと感謝する。
 ならば、マオがすべきことはオルフェノクになることを避けつつ、村上を敵に回さないことだ。
 そうであるかぎり、彼は自分をどうこうするという気はない。
 希望が少し湧いた、と右手の痛みに耐えながら、目を覚ましつつあるオーキドに視線を向けた。

321接触 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/09(木) 20:28:08 ID:eSEoQ3Xs

【C-3/アッシュフォード学園 校庭/一日目 朝】

【マオ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:魔女細胞の浸食(中)
[装備]:左目の眼帯
[道具]:共通支給品一式、魔女細胞の抑制剤、モンスターボール(サカキのサイドン・全快)
コイルガン(5/6)@コードギアス 反逆のルルーシュ、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本:ナナリーの魔道器を奪って魔女となり、この『儀式』から脱出する
1:村上と行動。オルフェノク化は避けたい
2:ナナリー、C.C.、二人のゼロに接触したいが、無理は出来ない。
3:『ザ・リフレイン』の多用は危険。
4:抑制剤を持つものを探す
5:この『儀式』から脱出する術を探す
[備考]
※日本に到着する前からの参戦です
※海砂の記憶から断片的なデスノート世界の知識と月の事、及び死神の目で見たNの本名を知りました。
※スザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)


【村上峡児@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、人間態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、拡声器、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本:オルフェノクという種の繁栄。その為にオルフェノクにする人間を選別する
 1:マオのギアス、魔女因子に興味。
 2:ミュウツーに興味。
 3:選別を終えたら、使徒再生を行いオルフェノクになる機会を与える
 4:出来れば元の世界にポケモンをいくらか持ち込み、研究させたい
 5:魔王ゼロはいずれ殺す。
[備考]
※参戦時期は巧がラッキークローバーに入った直後


【オーキド博士@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本:ポケモンの保護、ゲームからの脱出
0:現状の把握。
1:プラズマ団の思想には賛同できない。 理解は出来なくもないが。
2:ミュウツーについては判断できる材料を持ちきれていない。
3:オルフェノクに興味
[備考]
※プラズマ団について元々知っていることは多くありません。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)

322接触 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/09(木) 20:28:26 ID:eSEoQ3Xs
投下終了します
問題点がありましたら、指摘をお願いします

323名無しさん:2012/02/10(金) 15:53:59 ID:5GaTLles
投下乙です
社長はやっぱり頼もしいなあ!人類の敵だけど
他のギアス勢がパラレルワールドをしっかり理解してるか
気づかなくても通常営業なのに比べると
マオはナナナ世界と原作のギャップに振り回されてるな

324名無しさん:2012/02/10(金) 16:03:51 ID:XWTHFbHo
投下乙です

社長が頼もしいのは同意。ただ人類の敵なスタンスがどう転ぶか…
人間で碌でもない連中が多いからなあw
マオはとりあえず社長と行動を共にするのか
こいつはこいつで脱出以外にもやる事あるから忙しそうw

325名無しさん:2012/02/10(金) 19:10:51 ID:qePtBLsg
投下乙です。やっぱ社長は格って物があるなぁ、しかしマオも結構ヤバげだしオーキド博士の胃が心配だw

326 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/13(月) 23:13:39 ID:TRaQzhBE
『独りの戦い』においての誤字脱字などを修正、またマミさんの状態表に書き忘れたことがあったので加筆しましたので報告しておきます
追記内容は以下の通りになります
備考欄に※第一回定時放送を聞き逃しました。禁止エリア、死者などは把握していません

327 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:06:43 ID:yLPKO6/U
投下します

328憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:07:18 ID:yLPKO6/U


「■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」
 獣のような咆哮が周囲に響き渡る。
 ビリビリと空気が震え、地面が揺れる錯覚を起こした。
 草加雅人はアルティメットファインダーと呼ばれる、ファイズの黄色いレンズの下から視線を向けた。
 警戒しないといけない相手だが、本命はあの化け物ではない。
 大柄のオルフェノクが両足を踏ん張って、丸太のように太い豪腕を受け止めていた。
 両手に竜の頭を模した武装をつけたオルフェノクは、この世で一番殺さなければならない存在だ。
 ギリッ、と奥歯を噛み締める。草加雅人は静かにファイズショットを起動させた。



 時間は放送の終わりまで遡る。
 草加の隣でまどかはホッとしていた。彼女の知り合いは全員無事だったのだ、無理も無い。
 草加もひとまず安心といったところか。啓太郎が死んだことに対して、悲しむふりをしておく。
「まさか彼が……」
 そうつぶやいた途端、まどかは申し訳なさそうな顔をしていた。
 おおかた、自分のことだけ喜んで罪悪感を感じているのだろう。わかりやすい。
「あの、草加さん……」
「大丈夫だ、まどかちゃん。彼ならこうなる可能性のほうが高かったんだ」
 沈んだ声を演出しながら、間桐邸の門をくぐる。ここには用はない。
 彼女の家に向かい、済ますべきことを済ましてから流星塾に向かうだけだ。
 なるべく寄り道はしたくない。目的地に向かって歩き出した。


 あまり時間は経たなかったと思う。
 間桐邸を離れて歩道をしばらく歩いていたとき、急に空気が一変する。
 そして突然、大気が震えた。
 吹き飛ぶような衝撃と誤解するほど、爆発的な怒声。
 尻もちをつくまどかをかばいつつ、発信源を探した。
 もっともすぐに見つかる。『それ』は隠れもせず、隠れられるような存在でもなかった。
 パワータイプのオルフェノクよりも一回り大きい体躯。
 柱そのもののような豪腕。杭のように地面にそびえ立つ両足。
 牙を剥き出しに周囲を薙ぎ払いながら進み続けるバケモノが現れた。
 まだ距離はあるというのに、押し潰されると錯覚するほどの迫力がある。
 まどかを立たせながら、草加は流れるようにベルトを巻いた。
「まどかちゃん、できるだけ君の家の方向に逃げるんだ。俺は足止めしたあと、君を追いかける」
「そんな、無茶です!」
「無茶でもやらなくてはいけない。俺に任せるんだ」
 などと言いながら、冷静に生き残る算段を立てる。
 ベルトにファイズフォンを叩き込んだのと、まどかを突き飛ばしたのはほぼ同時だった。
 ブラッドラインに沿って外装が作られる中、相手が視界に入ったはずの自分に反応しないことを気づいた。
 目が見えていないのだろうか。ならばチャンスだと、草加はファイズフォンを変形させる。
 シングルモード、という電子音を確認するのと、トリガーを迷いなく引く。
「こっちだ!」
 草加の声に釣られて、敵はこちらを見た。その顔面に赤い閃光が飛び込む。
 ほぼ効果はないが、自分をターゲットと定めたようだ。
 さて、どうしたものかと草加は思考する。
 この化物から逃げるだけなら距離を取ることで余裕でできるのだが、戦うとなれば話は別だろう。
 現状、まどかを守るのはついででしかなく、さほど優先順位が高いものではない。
 適当に相手をして、逃げてからまどかと合流するか。
 そう考えをまとめた時、背中に衝撃が走る。
「ガハッ! くっ、なにを……」
 よろめきながら振り向き、声を失った。
 忘れもしない。ドラゴンを模した両腕と禍々しい雰囲気を持つオルフェノク。
 ラッキークローバーの一人で、自分たちの仇である男だ。
「きさまぁ!」
「邪魔しないでくれるかな? あれは僕の獲物だ」
 ドラゴンオルフェノクは草加を尻目にバーサーカーへと接近する。
 その灰色の背中を睨みつけながら、草加は歯を食いしばった。

329憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:07:57 ID:yLPKO6/U



 Lたちがバーサーカーを発見するのに大して苦労はなかった。
 ただひたすら直進する相手だ。しかも痕跡を山ほど残している。
 ただ、発見したときに北崎が不機嫌になるのを見逃さなかった。
 その理由を察するのも簡単だったが。
「ファイズのベルトか。邪魔だね」
「知っているのですか?」
「いつも僕達の邪魔をする連中さ。でも、いい遊び相手でもあるんだ。……今はいらないけどね」
 最後の一言が冷たい声音に変わる。同時に魔人の影が顔に浮かんだ。
 ゼリーが潰れたような音が連鎖しながら、隣人が姿を変える。
「冷静に頼みますよ。あなたが勝つにはその灰化能力以外、手はないのですから」
「わかっているよ」
 北崎はそう言い残して戦場へと走った。
 さっそくファイズと呼んだ相手を吹き飛ばしている。協調するのが最善だと思うのだが。
 そして頭の中でどうにかする手を探っているLの視界に、一人の少女が目に入った。
 ポリポリと頭をかきながら、戦場を凝視している彼女に近寄る。
 視線の先に集中しているせいか、Lの足音に気づかない。なんとも危なっかしい。
「よろしいですか? ボーッとしていると危険ですよ」
「ひゃっ!」
 びくっと震えてからおさげの少女はこちらを見た。
 目線で挨拶をして、再び北崎たちへと視線を移す。
「申し遅れました。私、探偵のLです」
「Lさん……? もしかして、夜神さんの言っていた……」
「夜神……若い方ですか? それとも歳をとった方ですか?」
「ええと、年をとった警察官の方で、あなたのことを仲間だと言っていました。はじめまして、わたしは鹿目まどかです」
「そうですか。さっそくで申しわけありませんが、ファイズのベルトを使っている方とお知り合いですか?」
「え? なんでベルトを知って……もしかして草加さんの仲間の方から聞いたのですか!?」
「いいえ。私はあそこで戦っている彼から聞きました」
「戦っているって……まさかオルフェノクと……」
 まどかが一歩後ずさる。一般的な判断は出来るくらい、頭が冷えたようだ。Lは淡々と続ける。
「どう取るかはあなたの勝手ですが一応説明させてもらいますと、私は彼を倒すために共に行動しています。
彼らと敵対するというのなら、あなた方と手を結べると思うのですが、どうですか?」
「倒すため……それで一緒にいるなんてどうして……」
「彼に同行者を殺されましてね。犯罪者は裁かれねばなりません。そのための手段を探し、彼自身は自分の目的のために私を放置している。
おおまかに言えばそのような関係でしょうか」
 まあ、あの厄災を潰すために一時休戦という形ですが、と締めくくる。
 まどかの瞳はこちらを信じきれていない迷いがあったが、かまわない。
「それにしてもまずい。ばらばらで戦っているだけならともかく、ファイズの方は北崎さんまで相手にしようとしていますね。
これでは二人ともあの怪物に殺されてしまいます」
「そんな! 草加さんは……」
「下手すれば彼だけ死ぬでしょうね。よって、あなたの手を借りたいのですが……」
「なんでも言ってください! わたしにできることなら、なんでもします!」
 Lが最後まで告げる前に、彼女は助力を申し出た。
 もう少し優柔不断かと思ったが、話が早い。あとは彼女がどれだけ、草加という人間に信頼されているか。
 これが鍵だろう。
「それでは鹿目さん。あなたに早速お願いしたいことがあります。それは…………」

330憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:08:26 ID:yLPKO6/U


 グッ、と軽く呻いて草加は両足を踏ん張った。
 やはりカイザでないため調子が狂う。首もとをさすり、苛立ちながら後ろに跳ぶ。
 瞬間、踏みしめていた地面が爆ぜて、土砂が天高く舞い上がった。
 拳を打ち下ろしたままの姿勢であるバーサーカーを見据えながら、フォンブラスターの銃弾で牽制をする。
 一瞬でも目を離せば殺られるだろう。草加にとっての仇にして、最大の敵である北崎を殺す機会だというのに。
「はあぁ!」
 オルフェノクとなった北崎が、右腕をバーサーカーの脇腹へとねじ込んだ。
 ひたすら真っすぐに、全力で。
 自分では死にはしないでも、耐えられない一撃だ。なのに、黒い怪物は微動しただけでさほど堪えていない。
 怒りで気が狂いそうになる。
 北崎は、ドラゴンオルフェノクは自分の獲物だ。流星塾の仲間の、自分の仇なのだ。
 なのに、かろうじて人の形をしているとわかる薄汚い存在に自分たちを殺した牙が通用しない。
 腕を無造作に振るうだけで最強のオルフェノクが吹き飛んでいく。
 許せない。
 それだけの力が自分にはない。それどころか使い慣れた力(カイザ)すらない。
 長年の仇をどこの馬の骨かもわからない化物によって奪われかけている。
 ふざけすぎだ。あれは存在してはいけない。
 なにがなんでも倒す。

「■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」

 バーサーカーの咆哮が轟き、鉄槌のごとく拳をドラゴンオルフェノクが受け止めた。
 その姿を冷静に見つめ、ファイズショットを起動させる。
 赤い光を携え、甲高い待機音を奏でながら一足飛びにバーサーカーの腹に打ち込む。
 硬いタイヤを殴ったような感触が腕に伝わったのと同時に、後ろに下がる。
 あの程度ではかすり傷にもならない。たたみかけるためにファイズポインターを足に装着した。
「草加さん、あの化物の動きを止めて!!」
 懐かしい声が聞こえた気がした。あの日、いじめられていた草加に手を差し出した少女の声。
 頭の片隅でまどかの声だとわかるのに、かつての安心感のままにバーサーカーを蹴った。
 獣のような唸り声が頭上から聞こえる。嵐のような暴力が飛び込む前に、エンターキーを押し終えた。
 『EXCEED CHARGE』と並のオルフェノクには死刑宣告となるつぶやき。
 鳴り終わると同時に赤い円錐が黒い泥にまとわりつかれたヘラクレスを縛り上げる。

「■■■、■■■■■■■■――――!!」

 なのに、胸部装甲に相手の腕がかすめた。
 軽々と吹き飛ばされながらも、草加は眼下の敵を睨み続ける。
「褒めてあげるよ、君」
 北崎の偉そうなつぶやきに苛立ちが加速した。
 拘束されたバーサーカーへとドラゴンオルフェノクは抱きつく。
「僕は最強なんだ。だから消えてよ。……早く」
 最後だけ低いつぶやきとなって、バーサーカーの体が灰へと変換されていく。
 抵抗しようともがいているが、クリムゾンスマッシュの拘束だけならまだしも、最強のオルフェノクに動きを制限されているのだ。
 逃れられようがなかった。いや、逃れられないはずだった。
「くっ!? まさか……」
 北崎の声音に初めて焦りが混ざる。バーサーカーは徐々にではあるが、北崎とフォトンブラッドの捕縛を解き始めていた。
 ゆっくりと、門をこじ開けるように。
 草加は右足を振り回し、一瞬だけ迷ったがポインターを敵へと向けた。
 再び赤い拘束具がバーサーカーの動きを縫いとめる。
「ハハッ、君は最高だよ!」
 北崎の賞賛もどこ吹く風で、両足に力を込めた。
 だが、膝が崩れて跳べない。悔しくて痛いほど唇を噛み締める。
「■■■、■■■、■■■■■!!」
「抵抗しても無駄だよ。僕は強いんだからっ!」
 一際北崎の声音が高くなる。灰化の速度が増して灰がファイズの仮面にかかった。
 足が力を取り戻したときには、バーサーカーの全身は灰へと変わっていた。

331憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:08:58 ID:yLPKO6/U



「あそこまでうまくいくとは思いませんでした」
 Lは口とは裏腹に、さほど動揺せず状況を分析していた。
 彼の作戦はただひとつ。草加にバーサーカーの動きを止めさせて、北崎で倒すというものだ。
 そういった技があることをまどかも初めて知ったが、驚くべきは草加の対応力か。
 もともと、仲が悪い相手とも戦闘時のみなら動きを合わせられる男だ。同行者である少女がまだ知ることはないが。
「あっはっはっは! ざま〜みろ、僕に勝てる奴はいないんだ」
 灰の山で北崎が変身を解き、機嫌良さそうに笑っている。
 二車線道路の真ん中で灰と戯れる少年と、変身を解かないファイズの姿は傍目から奇妙だった。
 その様子を見ていたまどかは不安になる。震えながら立ち上がるファイズの後ろ姿は今まで見たことがないものだからだ。
 胸に強い感情を秘め、魔女や強い相手に立ち向かう。その姿はまるで……
「まだ終わっていません! 北崎さん、草加さんはそこから下がってください!」
 左隣のLが急に大声を張り上げた。北崎は訝しげに首をかしげている。
 多少ではあったが、距離をとっていたためファイズのほうが先に気づいた。
「■■……」
 低い、獰猛な獣の唸り。少年が戯れていた灰を見る。
 砂山がうねりながら人の姿を型どった。砂ひとつぶひとつぶが骨を、筋肉を、皮膚を構成していく。
 信じられないことだが、再生をしているらしい。
「しつこい、もう一度灰にしてやる!」
 北崎はオルフェノクに変わって再生途中のバーサーカーへと触れた。
 すると、まどかは新たな絶望が訪れたことを理解した。
「なんで灰化しない……」
 伝説上の生き物を模したオルフェノクが戸惑い、隙が生まれる。
 横から再生途中の腕が叩きつけられた。人類の敵であるとはいえ痛々しい光景に、まどかは思わず息を呑む。
 ファイズが立ち上がって相対するが、戦端が開かれる前にLが呼び止めた。
「北崎さん、草加さん。いったん退いてください。予想外の事態ですので、体勢を立て直しますよ」
 草加は振り返り、Lからまどかへと視線を移した。
 少し迷ったように見える。だけど結局、こちらへと戻ってきた。
「北崎さん」
 うながす声に北崎は一度地面を蹴りつけた。顔には悔しさが刻まれている。
 変身を解いた草加もなにか言いたげだったが、まどかの腕をとってLたちの間に入った。
 やがて、再生途中の化物を置き去りに四人はその場から逃げた。

332憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:09:17 ID:yLPKO6/U



「なるほど、そういうことか」
 道中、一瞬即発の草加と北崎を前にLはすべてを説明終えた。
「事情はわかったし、夜神さんの件もあるから君は信じよう。だけどL、そいつを制御できるなんて思い上がらないことだ。こいつは殺す以外手はない」
「生意気だね、君。今相手してやろうか?」
 北崎の挑発に応えようとする草加の腕を、まどかは掴んだ。
 今の状態で勝てるとは思えない。草加はこちらを見ることもなく、ため息と共に腕を下げてくれた。
「まあ、現状だと私にも余裕がないので、あの怪物の対策を練りたいと思います」
「……あいつが命を複数持っていたなんてね。J君みたいに、三つなのかな」
「オルフェノクにも似たような能力者がいたのですか?」
「まあね。こちらの攻撃が通用しなくなるってのも、ちょっと意味が違うけど似ている」
「前回より強くなる、ということですか。厄介ですね」
「話はもうこれで終わりでいいかな。僕はあいつを始末したい」
「こちらもお前と長く一緒にいるつもりはない」
 敵対する二人は拒絶の意思を見せる。
 北崎には別の目的があり、草加は現状だと勝てないと理解して、まだ争いには発展しない。
 ただ、胃の痛くなる光景ではある。
「それでは我々はアレの情報を集めます。北崎さん、その方針でよろしいですか?」
「構わないよ。じゃあ僕はあっちに向かうから、追いかけてきて。面倒だしあとは任せる」
 北崎はそう言い残し、離れていった。
 姿が見えなくなり、まどかはLに尋ねてみる。
「Lさん、あの人は危険ですし、わたしたちと一緒にきませんか?」
「申し出はありがたいのですが、私にも目的がありましてね。そして、それは草加くん、あなたと利害が一致します」
 ほう、と草加がつぶやいたのを確認して、Lは頷いてから続けた。
「私はあなたに彼を倒して欲しいのです。それもただ倒すのではない。彼に罪を刻みこみ、後悔させてから倒してほしい。
そのための手段を私が考えます。ですので、合流場所を決めて協力し合いませんか?」
 Lの提案を受けて、彼は考えるように顎へと手を当てた。
 まどかはどう結論をつけるのか判断がつかなかったが、草加の返答は早かった。
「こちらこそ手を貸してほしい。あいつらは存在が罪だ」
「ふむ? まあ北崎さん個人に関しては同感です。それで、どこで合流しますか?」
「夜神さんとはすでに合流場所を決めているが、別の時間と場所がいいだろうな。なんの戦力もない状態で鉢合わせされるとまずい。
三回目、四回目の放送のどちらかにD−五の病院で会おう。禁止領域に指定されたなら、その上のエリア、遊園地に変更だ」
「了解しました。それではお互い無事で」
「行く前に忠告だ。おそらくあいつは全部聞いている」
「知っています。それで死ぬのなら、あの化け物を殺すことも、この儀式を潰すことも、北崎さんに敗北を刻み込むこともできないでしょう。それでは」
 飄々と答えながら彼は去っていった。
 その背中を見届ける草加の表情には苛烈な感情が浮かんでいる。おそらく北崎に対してだろう。
 しかし、とまどかは考える。
 初めて草加の激しい感情を目にした。オルフェノクを許せない、許しちゃいけないものがあるのだろう。
 踏み込んではいけないのかもしれない。だが以前、踏み込まなかった結果、一度さやかも杏子もマミも喪うことになった。
 ならば自分は拒絶されようと聞き出すべきだろうか。
 まどかは怒りを秘める青年を前に、結論をつけられずにいた。



【D-5/中央の丘/一日目 朝】

【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:負傷(中)、疲労(中)
[装備]:ファイズギア@仮面ライダー555(変身解除中)
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本:園田真理の保護を最優先。儀式からの脱出
1:真理を探す。ついでにまどかに有る程度、協力してやっても良い
2:オルフェノクは優先的に殲滅する。そのためにLと組む
3:鹿目家に向かった後、流星塾に向かう。その後、Lとの約束のため病院か遊園地へ
4:佐倉杏子はいずれ抹殺する
5:地図の『○○家』と関係あるだろう参加者とは、できれば会っておきたい
[備考]
※参戦時期は北崎が敵と知った直後〜木場の社長就任前です
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました

333憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:09:33 ID:yLPKO6/U

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:擦り傷が少々
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜3(確認済み)
[思考・状況]
1:ひとまず自分の家へ
2:さやかちゃん、マミさん、ほむらちゃんと再会したい。特にさやかちゃんと。でも…
3:草加さんは信用できる人みたいだ。もっと踏み込むべきか?
4:乾巧って人は…怖い人らしい
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆〜ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました


【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、スペツナズナイフ@現実、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)、
    予備弾倉(9mmパラベラム×5)、シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋。
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:北崎を用いて、バーサーカーを打倒する。まずは情報集め。
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:魔女の口付けについて、知っている人物を探す
4:3or4回目の放送時、病院または遊園地で草加たちと合流する
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※北崎のフルネームを知りました。
※北崎から村上、木場、巧の名前を聞きました。


【北崎@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、使用済RPG-7@魔法少女まどか☆マギカ、虎竹刀@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:バーサーカーを殺し、Lに見せ付けた後で優勝する
1:バーサーカーへの対抗手段を探る。
2:バーサーカーには多少の恐怖を感じている。
3:村上と会ったときはその時の気分次第でどうするか決める
[備考]
※参戦時期は木場が社長に就任する以前のどこかです
※灰化能力はオルフェノク形態の時のみ発揮されます
 また、灰化発生にはある程度時間がかかります

334憤怒 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:09:50 ID:yLPKO6/U

【D-4/道路/一日目 朝】

【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:黒化、十二の試練(ゴッド・ハンド)残り8、灰から再生中、灰化に抵抗可能
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
0:■■■■■■
[備考]
※バーサーカーの五感は機能していません。直感および気配のみで他者を認識しています

335 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/26(日) 19:10:09 ID:yLPKO6/U
投下終了します。
何かありましたら指摘をお願いします。

336名無しさん:2012/02/26(日) 21:31:28 ID:5HMQHqlU
投下乙です!ああ、これで北崎はバサカに対して完全な無力に……でもまあJさんって同僚の能力からバサカの特性に気付いただけ貢献はしたか?

337名無しさん:2012/02/26(日) 23:23:37 ID:pGvj/qN2

555本編のようなハラハラする絶妙なバランスで成り立っているすれちがいでした

338名無しさん:2012/02/27(月) 00:43:47 ID:pOqkfOvc
投下乙
Lが上手くさばいてる……!草加と北崎という最悪な相手によくぞここまでやったものだ
バサカさん、アウト1ー。スコア獲得はいつの日か……

339名無しさん:2012/02/28(火) 01:25:26 ID:vD.d7buE
投下乙です

Lはよく捌いてくれたぜw
最悪な相手同士の中でよくやった
素直に凄いと思えるよ

340名無しさん:2012/03/14(水) 15:26:41 ID:rOQr6zL.
乙です。
草加…使い慣れないファイズでココまで戦えるのはすごいな

341 ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:18:37 ID:ntcazsgI
暁美ほむら、アリス、ミュウツーを投下します

342外見と心象の違い ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:20:00 ID:ntcazsgI

 知っている人間の死をどう反応すればいいのか、ミュウツーは決めかねていた。
 サトシに対して良き感情は抱いている。同時に人間という種にはいまだ複雑な感情だ。
 ポケモンであるがゆえ、個人と種をわけて考えるのが難しかった。
 自分を生み出し、利用していた連中しか知らず、人間とは彼らのような存在しかいないと思い込んでいたのもある。
 それに優しき少年は亡くなったのに、悪の限りを尽くすロケット団の首領は生きていた。
 いずれ奴とも決着をつけないとならない。ただ、どう対応するかはいまだ迷っていた。
 人間という存在がわからないからだ。
 さて、とミュウツーは移動を再開する。ちょうど南は禁止領域に指定されるようだが、どうしたものか。
 公園に即した道路をゆっくり歩きながら、周囲の気配を探った。
 瞬間、銃声が聞こえる。続けて、ポケモンの鳴き声、いや泣き声が聞こえてきた。
 銃弾を打たれた恐怖の声ではない。悲哀に満ちた想いが込められていた。
 導かれるようにミュウツーは向かう。
 交差点を曲がると、目的の相手は簡単に見つかった。それもそうだ。
 彼はサイドカーと呼ばれる人間の乗り物に乗る少女の腕に抱かれて、泣いていたのだから。
 人間がいる可能性も考慮していたミュウツーは相手が気づくのを待った。結果、黒髪の少女のほうが反応する。
「動かないで」
 かすかにミュウツーは動揺する。あっさりと背後に回られ、銃器をつきつけられたのだ。
 とはいえ、より気にかかることがある。あくまでポケモンに話しかけた。
『誰かの死を悲しんでいるのか?』
 ミュウツーの問いかけに、ポッチャマが顔を上げた。
 彼を抱いている方の少女は驚いていたが、銃を持つ娘は微動だにしない。
『私は危害を加える気はない。ただ、彼と話がしたいだけだ』
 心からの訴えが風に乗る。黒髪を流すままにしている彼女は、無表情を保っていた。



「お互い、探している人は無事みたいね」
 目が覚めたほむらの言葉を聞きながら、ナナリーの無事をアリスは喜んだ。
 禁止領域と死者を記録している彼女の側で、サイドカーはやはり舗装された道路に限る、と感想を持った。
 このバイク(に変形するKMFもどき)の走破性は高いのだが、凸凹の道は腰にくる。
 できることなら、移動はちゃんとした道路に限定したいと内心文句をつけた。
 もっとも、そうはいかないだろうが。
「……なにか動いた」
 冷静な言葉にはっと意識を戻す。そこからはプロ意識も働き、周囲を警戒した。
 視界の端に何かが動く。グロッグの感触を確かめながら、次の展開を待った。
「ポッチャマ〜ポチャー……」
「ペ、ペンギン?」
 曲がり角から無謀に現れた存在に、アリスは驚いた。
 相手は生物というより、ペンギンのぬいぐるみのような愛らしい存在だ。
 思わずグロッグを下げ、無防備に近寄ろうとする。
「待ちなさい。何を仕掛けてくるかわからない。慎重に行動して」
「わ、わかっているって」
 反論しながらも、警戒態勢を崩さないほむらにやり過ぎだと感想を抱いた。
 目の前のペンギン? は涙を流し、悲しんでいる。今すぐにでも駆け寄って抱きしめてあげたい。
「喋れる、もしくはテレパシーが使える? 事と次第によってはあなたの命はないわ」
 冷徹な警告も無視して、ただ泣き伏せている。進展のない状況にほむらが苛立ったのか、一発足元に撃った。
 銃弾の乾いた音が晴天に響き渡る。
「ちょっと、いきなり発砲はないでしょ!」
「こういう生物が一番油断ならないことを、私は経験しているわ」
 無感情な瞳に甘いと責められているような気がして、アリスはむかっ腹を立てた。
 そもそもこの子は銃を撃たれても反応せず、ただ泣いているのだ。事情はわからないが、ほむらの行動は行き過ぎている。
 無言でバイクを降り、銃を収めてから近寄った。

343外見と心象の違い ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:20:57 ID:ntcazsgI
「あなた……」
「ねえ、君。どうしたの?」
 アリスが優しい口調で聞き出そうとしても、相手はイヤイヤと首を振るだけだ。
 涙が止まらない生物をとりあえず抱き上げてバイクに戻るり、ほむらの咎めるような視線は無視した。
「ほら、泣いて吐き出せるものは全部吐き出して、すっきりしちゃいなさい」
「あなたは随分と余裕ね」
「皮肉? でも、こんなに無防備でいる相手を撃つのはちょっとね」
 「甘いわね」と吐き捨てるほむらを一瞬だけ睨んだが、もう一つの足音に反応せざるを得なかった。
 またも現れた来訪者は人間でなかった。ただ、愛らしい手元の動物と違い、2メートル近い身長の白い怪物だ。
 切れ目の大きな瞳がこちらに向けられ、口がへの字に曲げられている。意思の疎通が期待できそうにない。
「動かないで」
 なのにほむらはあっさりと後ろに回ってから警告した。答えを期待しているわけではないだろう。
 アリスも返ってくるとは思っていない。
『誰かの死を悲しんでいるのか?』
 しかし予想外の出来事は起きる。低い声の問いかけに答えるように、腕の生物が顔を上げる。
『私は危害を加える気はない。ただ、彼と話がしたいだけだ』
「信用できないわ。あなたはインキュベーターの知り合いかしら?」
『インキュベーター? 私はそのポッチャマと同じくポケモンの一種だ。ミュウツーという』
 アリスは腕の子がポッチャマという名前であることを、頭の片隅においておく。
 相手の言葉通り殺意がないため、ほむらにアイコンタクトを送った。
 だが、銃を収める気配がない。
「ほむら?」
 しかたなく話しかけるが、無視される。アリスはどうするか迷ったが、先にミュウツーが動いた。
 容赦無くほむらは引き金を引こうとするが、それより先に謎の光が彼女の腕を上に向けさせた。
 ポケモンの技、サイコキネシスを手加減した形だとまだわからなかった。
『先に言っておくが、私にその武器は通用しない』
「そう。なら……」
「やめなって。いざというときは私のギアスとあなたの魔法で逃げることができるし、ひとまず様子を見るわよ」
 こちらの指示に対し、不満気な態度を返されるが放置しておく。
 彼らの行動を見届けるのが先だ。
『感謝する。ポッチャマと言ったな。さきほど泣いていた言葉の中に気になる名前があった。ヒカリ、サトシ、と』
「ポ、ポチャ!?」
『私はヒカリという少女を知らない』
 ポッチャマが明らかに落胆したような態度を示す。
『だが、サトシという少年は知っている。彼の優しさに救われたし、その最期も偶然教えられた』
「ポチャ! ポチャポチャ、ポチャ!!」
『残念ながら、彼は殺されてしまった。ポケモンバトルの最中、不意を突かれた。手持ちのリザードンがそう教えてくれた』
「ポチャ……ポチャチャ……」
 またも涙ぐむポッチャマにアリスは焦る。どうやら、ヒカリやサトシと言った人物は彼にとって大切な人らしい。
 アリスにとってかつての妹や、ナナリーのように。
『サトシを殺した女は、因果が巡ったのか別の殺人者に殺された。しかし、私の胸は晴れない。お前もそうなのか?』
「ポチャ〜」
『言うまでもなかったな』
 それからしばらくは、ポッチャマの嗚咽があたりに響いた。
 アリスはゼロたちが追いつく可能性も、他の襲撃者に襲われる可能性も考えて警戒を続けた。
 彼らが大切な人を喪った、悲しみに浸る時間を作るために。

344外見と心象の違い ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:21:21 ID:ntcazsgI



『私を信用してくれて助かった。礼を言う』
「まあ、あなたよりこの子を信用したからね。正直、まだ疑っているわ」
『そうか。人間ならそれが普通なのか?』
「私の場合は訓練の結果でもあるし。ほむらの方はわからないけど」
 距離をとっているほむらに話をふるが、彼女は一瞥しただけで沈黙を守る。
 なんとも警戒心の高いものである。アリスの方は油断はしていないもの、今すぐ襲い掛かることはないと判断する程度には心を許していた。
 油断だと蔑まれたのなら、それでもいい。誰かを失って悲しむ相手を、たとえ人間でなくても見捨てることができなかった。
(ああ、そうか)
 妹を亡くしたときの自分と、今のポッチャマを重ねたのだ。
 泣きつかれて眠った彼を優しく抱き直し、ミュウツーと向き合う。
「それであなたはどうするの? 私たちと一緒に行く?」
『いや、私は人間を見て回りたい。美樹さやかという、興味のある相手も見つかったことだしな』
「美樹さやかって、ほむらの知り合いよ」
『そうか。ならば、彼女らは学校に集まり、各方面に散った。美樹さやかは北の方面だったが……ポッチャマと仲間のポケモン、ピカチュウは東の方面に向かった。
まさか旧知の彼らと、ポッチャマが知り合いとは思わなかったが』
「へえ。で、私たちはどうするの?」
「……そのポッチャマの仲間とかいう連中を追いましょう」
「どういう風の吹き回し?」
「簡単なことよ。美樹さやかと再会するのはやめたほうが身のため。南には化け物がいるわ。
なら、比較的安全な東に向かうのは当然の判断よ。もっとも、ミュウツーの言うことが本当なら、だけど」
 彼女の疑り深さに辟易しながらも、ミュウツーの顔を伺う。
 彼の表情の変化はわかりづらく、不快に思っているかどうかは判断つかなかった。
『忠告しておく。その東には殺人者も向かっていた。充分気をつけておくことだ』
「うん、ありがとう。他に誰かいた?」
 アリスの質問がきっかけになって、学園の出来事が目の前のポケモンより語られる。
 ほむらの反応は薄かったが、興味がないのだろう。
 ただ、自分は聞き逃せないことが多かった。
「C.C.!? こんなところでウィッチ・ザ・ブリタニアの話を聞くなんて……」
『知っているのか? 彼女はニャースに信頼されていたようだが』
「私たちにとっては死活問題よ」
「ならどうするの? C.C.を追いかけるのかしら?」
 アリスはポッチャマを抱き直しながら、首を横に振った。
「私のことはあと。ナナリーを優先したい」
「そう。なら言うことはないわ。それと、ゼロらしき人物のことはわかっているわね?」
「乾巧に教えたように平行世界とか言うんでしょ。わかっているけど、南にいるゼロと同じ思想かな?」
「そう見たほうが危険は少ないでしょうね」
「かもね。ミュウツーも気をつけて。南にいるゼロはバケモノだから。それと、オルフェノクの木場って奴は人間をつけ狙っている」
『人間を? 私に話しかけた海堂と呼ばれた男はむしろ守ろうとしていたが』
 片眉をしかめ、うなだれた巧の姿を思い出す。
 胸のどこかが重くなりながら、木場の情報を教えた。
「乾巧って人を裏切ったみたい。私たちと別れた、菊池啓太郎が殺された。強化スーツを召喚できるし、実力も魔王と同等と見ていいかも。とにかく、気をつけて」
『人を裏切った。なら、あの場にいた人間も危ないということか』

345外見と心象の違い ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:21:48 ID:ntcazsgI
 ミュウツーは微かにうなずき、踵を返す。
「どうするの?」
『この付近にいる人間に警告をする。普通の人間を魔王と名乗る輩や、仲間を裏切るような男の犠牲にさせるのは良くないだろう。
私はまだ人間を理解できないが、それくらいは判断がつく』
「そう、じゃあ縁があったらまた会いましょう」
『ああ。それとサカキには気をつけろ。奴はロケット団という組織を率いていた。私からはもうそれだけだ』
 ミュウツーはいい終ると自分たちのもとから離れていった。
 その背中を見届け、頬を緩めながら息を吐く。
「もう気がすんだかしら?」
「刺々しいわね。不満でいっぱいってこと?」
「別にそうでもないわ。ただ、外見が愛らしいからといって肩入れするのはどうかと思うだけよ」
「あんたぬいぐるみにでもトラウマがあるわけ?」
 呆れ半分で言うが、ほむらは肯定も否定もしなかった。
 彼女は無言で半壊のサイドカーに移るよう促す。アリスがポッチャマを抱いているため、運転を代わるつもりなのだろう。
 サイドバッシャーが発進し、比較的安全と思われる東に向かう。
 あいかわらず何を考えているかわからない相手だ。
 特にミュウツーにではなく、ポッチャマに警戒をする態度は。
 まあ、特に手を出す気はないみたいだ。アリスはならばこの子の仲間に会わせてあげたいと、ぼんやりと思った。




【D-2とC-2の境目の公園/一日目 朝】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの濁り(少)、疲労(中)、頭蓋骨骨折(回復中)
[服装]:魔法少女変身中
[装備]:盾(砂時計の砂残量:中)、グロック19(15発)@現実、(盾内に収納)、ニューナンブM60@DEATH NOTE(盾内に収納)、サイドバッシャー(サイドカー半壊)@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品一式、双眼鏡、黒猫@???、あなぬけのヒモ×2@ポケットモンスター(ゲーム)、ランダム支給品0〜1(武器類はなし)
[思考・状況]
基本:アカギに関する情報収集とその力を奪う手段の模索、見つからなければ優勝狙いに。
1:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
2:協力者が得られるなら一人でも多く得たい。ただし、自身が「信用できない」と判断した者は除く
3:ポッチャマを警戒中。ミュウツーは保留。
4:サカキは警戒。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※参戦時期は第9話・杏子死亡後、ラストに自宅でキュゥべえと会話する前
※『時間停止』で止められる時間は最長でも5秒程度までに制限されています
※ソウルジェムはギアスユーザーのギアスにも反応します

346外見と心象の違い ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:22:10 ID:ntcazsgI

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(小)
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(15+1発)@現実、あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)、
    ポッチャマ(モンスターボールなし。泣きつかれて眠っている)@ポケットモンスター
[道具]:共通支給品一式、ヨクアタール@ポケットモンスター(ゲーム)
    C.C.細胞抑制剤中和剤(2回分)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。余裕があればこの世界のナナリーも捜索。
1:とにかくゼロ達のいた場所から離れる
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい
4:余裕があったらナナリーを探す。
5:ほむらの隠し事が気になるが重要なことでなければ追求はしない
6:ポッチャマを気にかけている
7:ミュウツーはとりあえず信用する
8:サカキを警戒
最終目的:『儀式』から脱出し、『自身の世界(時間軸)』へ帰る。そして、『自身の世界』のナナリーを守る
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※『ザ・スピード』の一度の効果持続時間は最長でも10秒前後に制限されています。また、連続して使用すると体力を消耗します



【ミュウツー@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:軽傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本:人間とは、ポケモンとは何なのかを考えたい
1:まだ、相手を選びつつ接触していく
2:プラズマ団の言葉と、Nという少年のことが少し引っかかってる。
3:できればさやかと海堂、ルヴィア、アリスとほむらとはもう一度会いたいが……
4:プラズマ団はどこか引っかかる。
5:サカキには要注意
[備考]
※映画『ミュウツーの逆襲』以降、『ミュウツー! 我ハココニ在リ』より前の時期に参加
※藤村大河から士郎、桜、セイバー、凛の名を聞きました。 出会えば隠し事についても聞くつもり
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)

347 ◆qbc1IKAIXA:2012/04/16(月) 20:22:31 ID:ntcazsgI
以上で投下を終わります。
ミスがありましたら、指摘をお願いします。

348名無しさん:2012/04/18(水) 03:03:58 ID:NHodsOy2
投下乙です!ほむほむは相変わらず必要な事を言わないなぁ。まあ今のさやかあちゃんはどうあがいても絶望だし切り捨てたのはナイス判断かw

349名無しさん:2012/04/18(水) 20:27:26 ID:CZXCRjgE
投下乙です
ほむほむはなあ…w
さやかちゃん切り捨ては、まあ、相性悪い上にまどか至上主義だからなあw

350名無しさん:2012/04/19(木) 20:22:25 ID:djsGsMf2
遅ればせながら投下乙。ほむらさん、もうちょっとこう、手心というか……

351名無しさん:2012/05/23(水) 19:07:59 ID:Exv8fNZ2
ほむらが順調に草加第2号になろうとしてますなぁ・・・もし何かの間違いで出会ってしまったら・・・

352名無しさん:2012/05/24(木) 18:32:22 ID:QiAWKxV6
親近憎悪か同族嫌悪か…

353名無しさん:2012/05/27(日) 20:09:32 ID:FMEKPP4Y
まあ二人とも「自分はこんな奴とは違う」って否定するだろうけどな

354名無しさん:2012/05/28(月) 16:36:22 ID:xZ48PHOE
方向性は微妙に違うがウザさではいい勝負だろうw

355名無しさん:2012/05/29(火) 23:44:11 ID:iGWKlxkc
何かこないだからほむほむアンチがいないか?
一応注意するけどそういう特定のキャラをけなすような発言は控えた方が自分も周りも幸せだぞっと

356名無しさん:2012/06/01(金) 17:56:01 ID:Jgo7PJIU
別にアンチじゃないよ、草加に似てるなと思っただけで
誤解があったなら謝る。すまなかった

357名無しさん:2012/06/01(金) 18:39:04 ID:1EfzzF6Q
アンチとかではなく自分の好きなキャラがウザキャラ扱いされて目が付いただけだろう
自分の主観でアンチ認定はしないほうがいいぞ

358名無しさん:2012/06/01(金) 18:41:58 ID:Jgo7PJIU
言い忘れたけど自分は>>351

359名無しさん:2012/06/02(土) 15:05:49 ID:uURx3Otc
草加さんは愛する者の為に命を捨てて戦う程の人格者なんだから草加扱いは悪口じゃないさ
二人とも愛の為にちょっと過激な行動を取ってるだけだしさ

360名無しさん:2012/06/02(土) 21:02:00 ID:XDxS3b6c
うるせぇ(首が折れる音)再現するぞ

361名無しさん:2012/06/03(日) 04:54:48 ID:tabisBvQ
>>355だけど何かすまんかった……雑談に変なの沸いてたからってちょっと過剰反応だったか?

あ、それと草加さんを殺っちゃうならつサイガドライバー

362名無しさん:2012/06/04(月) 00:09:28 ID:QQ.iGGck
二人が付き合いにくいキャラなのは同意するけどな
ただその二人以外のキャラもクセが大きいぞ

363名無しさん:2012/06/05(火) 18:33:30 ID:Eb8.MxvY
真里、啓太郎、まどか、マミさん(精神が追い詰められてなければ)は
基本まともじゃないか?
杏子や海堂はいざという時はしっかりしてるし

364名無しさん:2012/06/05(火) 22:40:19 ID:9Ucz00sE
他作品も含めていいなら(ただし非マーダーのみ)
N、バゼット、ミュウツーとかがぶっちぎりでロロも相当
あと士郎、たっくん、まどか辺りも意外と曲者

365名無しさん:2012/06/05(火) 23:21:12 ID:yRJHGMOA
>>363
頭可笑しくないマミさんってもうマミさんの意味なくね?ってのは10話のイメージが先行し過ぎるかw
でもおりこでも直後に立ち直るとはいえ死ぬしか顔したしなぁ

366 ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:03:45 ID:cIIvhIGs
ギリギリになってしまい申し訳ありません
これより投下を始めます

367hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:07:31 ID:cIIvhIGs
市街地を歩く三つの人影。乾巧、衛宮士郎、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

食事の後、一人で行こうとする巧だったが放っておけない士郎が一緒に行くと言い出したのだ。
無論巧は付き添いなんかいらないと言ったのだが、士郎は付いていくと譲らず巧のほうが折れる形となった。そしてイリヤは士郎についていくことになったのだ。
その最中だった。放送が始まったのは。

そして放送が終わった後、しばらく歩いたところでルビーが不意に声を出した。

『…イリヤさん、何かすごく嫌な気配を感じるのですが。
 どうもこちらに近づいてきて――』
「…む、あなたは、イリヤスフィール?」
「『ゲッ?!』」

突如現れたスーツ姿の女。
その姿を見た途端、思わず身構えてしまうイリヤ。ルビーも悲鳴に近い声をあげてしまう。

「『バ、バゼット?!!』」
「ああ早く転生、転生を!!」
『いや〜…、今のイリヤさんでは勝ち目なさそうですよ…。士郎さん達もいることですしこの場はおとなしく降参したほうが…』
「そんな〜!!」
「…その反応はやめてください。さすがに傷付きます」
「あー、落ち着けイリヤ。あんたは?」
「バゼット・フラガ・マクレミッツといいます」

士郎から見ればそこまでおかしい人には見えなかった。
イリヤの知り合い、かつルビーのことも知っているということはつまり彼女も魔術関係者ということなのだろう。

「俺は衛宮士郎。イリヤの、その…、兄だ」
「乾巧だ。こいつらとはここで会った」
「なるほど、………。
 一つ伺いますが、彼の素性は分かっているのですか?」

軽い自己紹介の後、バゼットが問いかける。
彼というのは乾巧のことである。

「いや、今のところ軽く自己紹介しただけだけだ。でも信用できると俺は思うぞ」
「ちょっと失礼」
『きゃーどこ触ってんですか〜!』

368hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:09:19 ID:cIIvhIGs
おもむろにルビーを掴みあげるバゼット。
三人には何やらバゼットが怒っているような気がした。

「ゼルレッチ卿の礼装ともあろうあなたが不用意に姿を晒すなど、何を考えているのです?」
『いやぁ、じーっとしているのも性に合わないですし。
 それに私みたいな道具っていちいち話していないと存在とか忘れられそうじゃないですか』
「言っている意味が分かりません。それが存在を明かしてよいことにどうして繋がるのですか」
『だってほら、あなたは知ってるでしょうけど私ってここを抜け出すにはどうしたらいいか〜とか、そういうことに一番近いと思うのですよ。
 それなのに情報を集められなければ何もできないじゃないですか』
「……」

バゼットにはそれが正しいのかどうかの判断まではつかなかった。
ただそれを否定するには彼女とルビーとの関わりがあまりにも薄すぎた。
もしこれが凛やサファイアであったなら反論できただろう。

『もっと状況に応じて臨機応変に生きたほうがいいですよ。特にここから出たいのであれば。
 最悪記憶操作という手段もありますし、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃないですか?』
「仕方ありませんね、今だけはその口車に乗せられておきます。しかし話す際の言葉は慎重に選んでください」

「ねえ、お兄ちゃん、いったい何の話をしてるの?」
「あー、まあイリヤは知らなくてもいいことだ」

そんな会話を脇で聞いていた三人。
その会話の意味が分かったのは士郎だけだった。
だからイリヤの問いかけも適当に誤魔化しておいた。
イリヤが魔術師の掟などに触れる必要はないのだから。


「話は終わりました。積もる話もあるようですし腕の処置もしたい。どこか休息の取れる場所はないものか」
「そういえばバゼット、その傷…」

と、イリヤが気付いたように左腕に目をやった。
見ると切り裂かれたスーツの中からは乾いた血の色が見える。

「この件も含めて、色々と伝えておかなければならないこともあります」




369hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:11:47 ID:cIIvhIGs

そうして4人と1本が入ったのは一件の民家である。
生活感などなく、ただ民家にありそうなものを詰め込んだような家。おそらく住人など元から存在しないのだろう。
そしてそんな空間であるからこそ、一般家庭にありそうなものであればある程度はおいてあった。
スーツの袖を千切ったバゼットが傷口の縫合に使っている救急箱、ナイロン糸もそういったものなのだろう。

最も、麻酔も無しにも関わらず声一つあげることなく自分の腕を黙々と縫っていく姿というのは色々とすごい光景であったが。
イリヤは早々に部屋から逃げ、巧も空気を吸ってくるといって出て行ってしまった。
故に今は士郎とバゼットだけが部屋に残っていた。

残ったといっても特にコレといった会話があったわけではない。
せいぜい士郎が手伝いを申し出て、断られたくらいのものだ。

何かしていたかった。彼にとっても彼女があの放送で呼ばれたことは少なからずショックだったのだから。

(遠坂…)

士郎にとっては友人であり仲間であった。ある種の好意も抱いていたかもしれない。
ある意味では全てのきっかけであり、そしてセイバーを失った今では数少ない味方であった。
その存在の死は衛宮士郎には思いのほか堪えるものだったようだ。

(桜…、俺は―――)

彼女はどうしているのだろうか。
やはり自分の姉の死に悲しんでいるのだろうか。あるいはあの影となって人を襲ったりなどしてはいないか。
もし、さっきの放送で彼女の名前が呼ばれていたら俺はどうなっていたのだろうか。
あるいは、どうするべきなのだろうか。
答えは未だ見つからなかった。






部屋の外の廊下、イリヤは傍にルビーを伴って座り込んでいた。

『いいんですか?士郎さんとバゼットさんを二人きりにしたりして』
「……」

よくはなかった。一時休戦とはいえバゼットのこと完全に信用できたわけではないのだから。
それでも今あの空間にはなんとなく戻りたくなかったのだ。

『やっぱりですか。イリヤさん、凛さんの件はまだ受け入れられてはいませんか?』
「……」

イリヤにとって、彼女はある意味全てのきっかけといえる存在であった。
突然現れ、自分を下僕にし、何かとルヴィアと共に変なトラブルを持ち込んでくるトラブルメーカー。

イリヤにはそんな遠坂凛が死んだという事実は未だに受け入れきれていない。
それも当然だろう。今まで彼女自身戦いに身を投じてきたとはいえ、その中で死を見たことはなかったのだから。
ましてイリヤ自身は魔術師ではない。いくら魔法少女に変身できるとはいえ精神的には一般人、小学生なのだ。

370hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:16:14 ID:cIIvhIGs
「…正直、凛さんが死んだって聞いたとき、全然実感なんて沸かなくて、そのうちどこかから出てきそうな気がして。
 ひょっとしたらこれは夢で、もし目を覚ましたらいつもどおりにみんなと騒がしくするような日々に戻れるんじゃないかって、心のどこかで思ってて」
『残念ですがこれは現実のようですね』
「…」
『イリヤさん、あなたは死という現実を目の当たりにしてしまった。
 ですがだからといって、あまり背負いすぎないようにしてください。特に士郎さんのことなど』
「え…っ?」

なぜそこでその名前が出てくるのか、イリヤには分からなかった。

『私もこれまであえて深くは触れてこなかったことですが、今後のために一応言っておくことにします。
 彼は衛宮士郎です。しかしあなたの想う彼とは別人だということは頭に入れておいてください』
「そ、それは…」

イリヤ自身も分かっている。だがどんな存在だろうと衛宮士郎であることには変わりないのだと。
そう考えて受け入れてきた。
だが、ルビーが言うのはそういった話ではないのだ。
なんとなくそんな気がした。

「そんなの、ルビーに言われなくても…」
『それならこっちも安心なのですが』
「…ねえルビー、それならさっき放送で呼ばれた凛さんは――」
『こちらはどちらにしても確信がとれません。あまりそれに期待しすぎないほうがいいと思いますよ』

凛が死んだのが悲しかったはずなのに、ルビーが難しいこと言い出すせいで頭の中が混乱してしまう。
などと思っていると、巧が出ていこうとするのが目に入った。

「あれ…?乾さん行くの?」
「ああ、どうせ俺がいても邪魔っぽいしな」
『おや、士郎さんがそんなこと言いましたかね?』

話しながらも既に靴を履いている。放っておくと本気で出ていきそうだ。
そうなったらきっとお兄ちゃんは追うだろうしそのままあの時のようにセイバーやロボットに出会ってしまうかもしれない。

「待って!」
「…何だよ」
「別に乾さん、殺し合いに乗ってるとかじゃないんでしょ?
 だったらみんなで協力すればいいじゃない。どうして一人でやろうとするの?」
「やらなきゃいけねぇことがあるんだよ。他の奴を巻き込む気はねえ」
『巻き込む、という表現もおかしいですね。きっと士郎さんなら進んで手伝ってくれるでしょうし』
「それがうっとおしいって言ってんだよ」
『おや、もしかしてあれですか?自分が傷つくのはいいけど人が傷つくのは見たくないって本心を見せたくない、とか?』
「…」

一瞬巧の動きが止まる。
その時だった。

「おーい、もう終わったから戻っても大丈夫だぞ」

士郎の声が聞こえる。バゼットの縫合が終わったのだろう。
イリヤは部屋に戻り、巧もタイミングを逃したと言わんばかりに靴を脱ぎなおし、その後に続いた。

371hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:20:49 ID:cIIvhIGs



「それにしても、バゼットさんでもあのセイバーに勝てないなんて…」
『さすがは本物の英霊は格が違うといったところでしょうか』

バゼットが治療を終えた後、居間にて4人はそれぞれの情報を交換していた。
まず出た話は、セイバーの件。バゼットの怪我についての話題が最初となったために出てきた話だった。
斑鳩という施設にいるニアという存在、呉キリカという少女、そしてセイバー。

『もし移動していれば、おそらく彼女はこことは反対側のイリヤさんの家の方角に向かったでしょうね』

それを聞いてイリヤは安心し、士郎は複雑な気持ちになった。
というかバゼットで勝てないとなるとかなり厳しいのではないか、とイリヤは思っていた。


「さて、それではあなたのこともお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「そういえば乾のことまだ聞いてなかったな。この際だし、色々と教えてくれないか?」
「…」

巧の言う情報をまとめたところ、園田真理、草加雅人、長田由香、海堂直也が仲間となりうる人物。
村上峡児、北崎、そして木場勇治が危険人物、ということらしい。
ついでにオルフェノクという存在がどのようなものか、おおざっぱに説明もしてもらっておいた。

「人間を襲うことで仲間を増やす怪物、ですか」
「ああ、元は人間だったって言ってもそうなったら人間の心を無くすんだよ」
((え?))
(なるほど、そういうことですか。全く難儀なものですねえ)
「死徒のようなもの、という認識でよいのでしょうか」

最後のは小声での呟きである。
何はともあれ、士郎達3人の会った人物の中にはその者達はいなかった。それ以前に出会った人物もそこまでいたわけではない。
一方、巧はこの6時間ほどの間に随分と多くの人物と出会っていた。彼の知り合いも多くいたが、士郎達の知り合いはいなかったのだが。

魔王を名乗る仮面の男、ゼロ。
魔法少女を名乗る少女、暁美ほむら、佐倉杏子、そして巴マミ。
アリスという少女にマントを羽織ったルルーシュ・ランペルージという男。

バゼットが好奇心からか魔法少女というものについて詳しく聞きたがっていたが巧は詳しいところまで覚えてはいなかったため説明することはできなかった。

372hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:25:05 ID:cIIvhIGs

『なるほど、魔法少女ですか、興味深い話ですねぇ。ぜひとも会ってMS力を測ってみたいものですね』
「ねえ巧さん、その巴マミって人のことなんだけど―」

巴マミ。金髪で髪をロールしている少女。
イリヤは知っていた。あの金色のロボットが暴れていたあそこで黒髪の男を殺そうとしていたあの人のことだ。
巧の言っている巴マミと同一人物とは思えない。だが状況から言って同一人物としかありえないだろう。

「おい、どういうことだよそれ?!あいつがそんなことするかよ!!」
「だからこっちも分からないんだよ。そもそもあのロボットは何だったんだ?」
「さっき言ったルルーシュとかいうやつが撃ったあとでいきなり出てきたんだよ。
 ああくそ、何がどうなってんだよ…」

話せば話すほどどうなっているのか分からなくなる。
巴マミがそんなことを理由もなくやるはずがない。撃たれたことで混乱していたのだろうか?
考えがまとまらない中、意外なところから思わぬ情報が放たれた。

「一つよろしいですか?マントの男に金色のロボット、と言いましたね?」

会話に入り込んでくるのはバゼット。

「何か知ってるのか?」
「私が知っているわけではありません。
 ただ、私の出会った者の中に呉キリカという少女がいまして。
 仲間と判断し、ここから東にある斑鳩という施設に送ったことは伝えましたね」

呉キリカ。巧はその名前をどこかで聞いたことがある気がした。だがよく思い出せない。
情報のほとんどは啓太郎任せにしていたせいか、と自身のことながら思う。正直知り合いの知り合いのことまでは覚えていない。
そういえば鹿目まどかとナナリー・ランペルージという少女もいたな、と思い出す。

「彼女はここに来てすぐ、冬木大橋とされるあの橋の近くでその存在と交戦したと聞きました。
 マントの男が金色の戦闘兵器を召喚した、とも」
「おいちょっと待て、あいつはスマートブレインが崩れるあそこで会ったって言ってたんだぞ。
 何でそんなところにいるんだよ、おかしいじゃねえか」

巴マミがあの崩壊現場で会ったというルルーシュと金色のロボットを駆るマントの男。
同一人物としたら位置と時間が一致しない。

『あー、これはもしかしてあれですね』
「あれって何よルビー?」
『ほら、あれですよ。平行世界にいる同じ顔をした別人っていうのもいるんじゃないですか?』
「なるほど、確かにそれなら辻褄は合います」

イリヤ自身、クロという存在があったためその辺の理解は早かった。
しかし巧には理解が追い付いていなかった。

と、そこまで話したときだった。
士郎が顔を険しくして立ち上がったのは。

「みんな、気をつけろ」
「お、お兄ちゃん?」
『やばいですよイリヤさん、ここ狙われてます』

373hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:27:14 ID:cIIvhIGs



呉キリカ。彼女は斑鳩を出発後、当初の予定通りに美国邸を目指して移動していた。
その最中であった。魔力を発する存在を感じ取ったのは。

「ん〜、複数?ってことは何人か集まってるってことかな〜?」

複数人相手となると意外と手こずる可能性がある。
魔力消費は抑えておかなければ織莉子を見つけたときにかっこ悪い姿を晒すことになるかもしれない。
この場合は賭けになるが短期決戦で結界を絞って爪を増やして攻撃力をあげるか。
あるいは広めに範囲をとることで分散させて各個撃破にするか。

「ま、その辺は臨機応変に、ってことで」

戦略などを考えるのは得意ではないのだろう。
細かいことは突っ込んでから考えればいい。
そんな、彼女らしいといえばらしい考えの下、キリカはその民家を中心に結界を張る。
そして発動を確認した後そこに突っ込んだ。



それが飛び込んできたのは、結界が張られたことに気付いた士郎とルビーが警戒を促した直後であった。

―ガシャーン!!
窓が割れた、どころかその窓の周囲までもを人の通れる大きさに切り裂きそれは現れた。

「とーう!愛の魔法少女、呉キリカちゃんいざ参上!!」

そんな謎の口上と共に現れたのは黒い服に身を包んだ眼帯の少女だった。
その出現に最も驚いていたのはバゼットである。

「あなたは呉キリカ…?!ニアのところに向かったのではなかったのですか?!」
「お、誰かと思えば大恩人!ってことはちょっと早まったかな〜。
 うーん、まあでも、その、あれだ、些細だ」

バゼットを見て一瞬何か考え込む様を見せるも、直後に自己完結している様子のキリカ。

「まあどうせここで殺せば一緒だろうし、ね!!」

キリカは不意に部屋にあった机を打ち上げ、バゼット、そしてその近くにいた巧に投げつける。
轟音とともに壁が崩れたことによる煙が巻き上がり、視界が塞がれる。

374hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:30:15 ID:cIIvhIGs
最初に襲いかかったのは士郎。
彼を狙ったことに特に意味はない。ただ目についたというだけだ。

「っ…!早い…!」

士郎は干将莫邪を構えて迎え撃とうとするもあまりの速さに対応が追い付かなかった。
それでもかろうじてその手の爪を受け止め切り返したが、それもあっさりとよけられてしまう。

「お兄ちゃん!!」

と、そんなキリカの横から魔力弾を撃ち込むイリヤ。既にその姿は魔法少女のものとなっている。
士郎の前に出て庇い、目の前の敵と向かい合う。

「後ろに下がってて!!
 あなた、お兄ちゃんに手を出さないで!」
「へぇー、君も魔法少女だったんだね。
 じゃ、君から殺すとしようか」

魔法少女であったという事実がキリカの注意を引いた。
それは士郎から気を逸らすことには成功したが、彼女の意識をイリヤが直接受け止めることになってしまった。
純粋かつ狂気に満ちた視線がイリヤに注がれる。

「………!?」

そしてそれはイリヤが恐怖を感じるには十分なほどのものだった。

『イリヤさん!』
「イリヤ!!」

近づくキリカに身動きが取れないイリヤを呼びかけるルビー。そしてイリヤの様子に気付き前に飛び出す士郎。
飛び出した士郎はその手の双剣を振りかざし牽制しようとした。
しかし魔法少女であるイリヤを殺すことを優先としたキリカは士郎を踏み台にすると同時に蹴り飛ばし、増した勢いのままその凶刃をイリヤに向ける。
吹き飛ぶ士郎と立ち尽くすイリヤ。

―ザン
「―――あ」

ルビー自身が作った障壁によりその爪が体を貫くことはなかった。
しかしそれでも守りきれなかった衝撃はイリヤの腕に深い傷を作っていた。
痛みと体から流れ落ちる生々しい赤い液体。それは恐怖で身をすくませていたイリヤをさらにパニック状態に追いやる。
思考が止まり、ルビーを取り落してしまった。

「ほらほら、ぼーっとしてると死んじゃうよ!!」

それでも敵は待ってなどくれない。素早い身のこなしでさらなる一手がイリヤにせまる。

「避けろ、イリヤーー!!」

375hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:31:53 ID:cIIvhIGs
一方投げつけられた机の近くにいた巧は態勢を立て直していた。
投げられた机の影に隠れたせいかバゼットの姿は見えない。
見ると、キリカと言った魔法少女が士郎を吹き飛ばしてイリヤに肉薄する瞬間が目につく。
急いでオルフェノクへと変身して助けに行こうとする。
だが、

「…!!くそ、こんな時に…!!」

これまでの戦いでのダメージが回復しきっていなかったのだろう。
体の痛みが変身を遅らせてしまう。そして相手の動きはその一瞬を命取りとするほどのものであった。
腕を斬られて動けないイリヤとそんな彼女に迫る黒い魔法少女。
変身している暇すらもない。急いでイリヤの元に飛び出し、抱きかかえた態勢で倒す。

「あ……、乾さ――」
「ぼーっとしてんじゃねえよ」

イリヤは庇うことができたものの、巧の肩からは血が流れていた。
それでもキリカの攻撃は終わっていない。起き上がろうとする巧の後ろで爪を振り上げて肉薄し――

「―――お?」

そんな彼女の横から高速の拳が叩きつけられた。

「んぎゃっ?!」

悲鳴を上げて吹き飛ばされるキリカ。
壁を突き抜け廊下の外まで飛んでいったようだ。

「大丈夫だったん――っておい!」

近くまで寄ってきたバゼットはイリヤの足、そして起き上がって近くにいた士郎の腕を掴み、キリカの入ってきた窓があったはずの穴に放り投げた。

「うおっ?!」
「きゃ!」

士郎はどうにか態勢を立て直すが、足を掴まれたイリヤにはそのようなことができるはずもなく。
慌てて飛び出した巧がどうにか受け止めることで地面に激突することは避けられた。

「この場は私に任せてください」

そう言い残してバゼットは窓の前に棚やソファを倒してバリケードを作った。
バゼットの姿は見えなくなるが中からの何かが壊れる音は外まで聞こえてくる。

376hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:34:12 ID:cIIvhIGs
「バゼット!!」
「おい、行くぞ!」
「行くって…、バゼットはいいのかよ!?」
「いいわけねえだろ、でもこいつはどうすんだよ!」

そう言って見せられたのは巧の腕で震えるイリヤ。
腕の傷は深くはないものの血はまだ止まっておらず、少しずつではあるが傷から流れ出ていた。
こんな状態のイリヤを連れたまま戦うことができるかといえば×だった。

「お兄ちゃん…」
「イリヤ…、くそっ…!」

その苛立ちはイリヤを守りきることができなかった自分へのもの。
今はここを離れ、イリヤの手当てをすることが優先なのだろう。
あのような危険人物に一人仲間を残して行くことに後ろ髪を引かれる気持ちを残し、3人はここから離れた。

「…あれ、ルビー…?」



「さて、これで邪魔は入りません」

確か彼女自身が魔法少女、といったか。
このような結界を瞬時に作り出す魔術師というとかなりの能力を持っていることになる。
仮にも魔術協会の人間として、それを惜しみもせずに人目にさらすような者を放置しておくわけにはいかない。
それに"魔法"少女などというものを自称されるのもあまり気のいいものではなかった。

やがて壁を壊しながらキリカはその姿をみせる。

「あはははは、意外とやるじゃないか大恩人!!」
「あなたは優勝を狙ってはいないのではなかったのですか?」
「そうだよ、私は愛しい人を生き残らせるためにみんな殺して回るつもりなんだからさ」
「なるほど、そういうことでしたか」

つまり、これは自分の認識の甘さが招いたことか。
おそらくニアはもう生きてはいないだろう。
彼の計画はそれなりに有用なものであり、可能かどうかは別として失うには惜しいものではあった。
そこにはバゼットも若干は責任を感じずにはいられなかった。

「それではあなたは私の敵か」
「あーあ、本当ならあの魔法少女から殺したかったんだけどね。
 まあ君は大恩人だし特別だから先に殺してあげるよ!」
「そう簡単にいくとは思わないことだ」

あの速さ自体は脅威ではあるがかつて戦った英霊の影、そしてあのセイバーに比べれば劣る。対処できないほどではない。
腕のあの爪にさえ気をつければどうとでもなるだろう。
あとは一応支給品に脅威となるものがないかということにも注意しておかねばなるまい。

「なにしろ私の仕事はあなたのような存在を狩ることなのですから」

爪を振りかざして迫るキリカの前で、バゼットはルーンの刻まれた手袋をはめた。

377hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:36:00 ID:cIIvhIGs


『よよよ、ひどいですよイリヤさん…。
 このバーサーカー女とこんな中二病魔法少女もどきのところにおいていくなんて…』
「片づけたらすぐに追いかけます。それまでは静かにしていなさい」

【G-3/市街地/一日目 朝】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:干将莫邪@Fate/stay night、アーチャーの腕
[道具]:基本支給品2人分(デイバッグ一つ解体)、お手製の軽食、カリバーン@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:ここから離れ、イリヤの治療をする
2:桜、遠坂、藤ねえ、イリヤの知り合いを探す(桜優先)
3:巧の無茶を止める
4:“呪術式の核”を探しだして、解呪または破壊する
5:桜……セイバー……
6:
[備考]
※十三日目『春になったら』から『決断の時』までの間より参戦
※アーチャーの腕は未開放です。投影回数、残り五回
[情報]
※イリヤが平行世界の人物である
※マントの男が金色のロボットの操縦者


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中) 、ダメージ(小)、右腕に切り傷(中)
[装備]:なし
[道具]:クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:痛みと恐怖で思考が纏まらない
2:ミユたちを探す
3:お兄ちゃんには戦わせたくない
4:乾巧の子供っぽさに呆れている
5:あまりお兄ちゃんの重荷にはなりたくない
6:バーサーカーやセイバーには気を付ける
7:呉キリカに恐怖
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
[情報]
※衛宮士郎が平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?
※マントの男が金色のロボットの操縦者、かつルルーシュという男と同じ顔?


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、治療済み、肩から背中に掛けて切り傷
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:木場を元の優しい奴に戻したい。
1:隙を見て二人の元から離れたいが、なんとなく死なせたくない
2:この場所から離れる
2:衛宮士郎が少し気になる(啓太郎と重ねている)
3:マミは探さない
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識?
※マントの男が金色のロボットの操縦者

378hollow ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:38:07 ID:cIIvhIGs
【G-3/民家/一日目 朝】


【バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身裂傷、左腕重傷(骨、神経は繋がっている、応急処置・縫合済)、疲労(中)
[装備]:ルーンを刻んだ手袋
[道具]:基本支給品、逆光剣フラガラック×3@プリズマ☆イリヤ、カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ、
[思考・状況]
基本:何としてでも生き残る。手段は今の所模索中
1:呉キリカの排除
2:セイバーを追い詰めれるだけの人員、戦力を探す
3:とりあえず会場を回ってみる
4:障害となる人物、危険と思しき人物は排除する
5:呉キリカを撃破後、イリヤスフィール達と合流する
[備考]
※3巻の戦闘終了後より参戦。
※「死痛の隷属」は解呪済みです。
※セイバーやバーサーカーは、クラスカードを核にしていると推測しています。
※魔法少女やオルフェノクについて、ある程度の知識を得ました(が、先入観などで間違いや片寄りがあるかもしれません)



【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ダメージ(中)、ソウルジェムの穢れ(3割)
[装備]:魔法少女姿
[道具]:基本支給品、穂群原学園の制服@Fate/stay night、お菓子数点(きのこの山他)
    スナッチボール×1、魔女細胞抑制剤×1、ジグソーパズル×n、呉キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ
[思考・状況]
基本:プレイヤーを殲滅し、織莉子を優勝させる
1:織莉子と合流し、彼女を守る。ひとまずは美国邸が目的地。
2:大恩人を殺し、魔法少女(イリヤ)を追う。
3:まどかとマミは優先的に抹殺。他に魔法少女を見つけたら、同じく優先的に殺害する
4:マントの男(ロロ・ヴィ・ブリタニア)を警戒。今は手を出さず、金色のロボット(ヴィンセント)を倒す手段を探る
[備考]
※参戦時期は、一巻の第3話(美国邸を出てから、ぬいぐるみをなくすまでの間)
※速度低下魔法の出力には制限が設けられています。普段通りに発動するには、普段以上のエネルギー消費が必要です
※バゼット・フラガ・マクレミッツから、斑鳩の計画とニアの外見的特徴を教わりました。
※バゼット・フラガ・マクレミッツを『大恩人』と認定しました。

379 ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/06(水) 00:39:40 ID:cIIvhIGs
投下終了です
おかしなところがあれば指摘お願いします

380名無しさん:2012/06/06(水) 00:41:08 ID:3B6i8APE
投下乙!
キリカちゃんはあいかわらずトラブルメーカーっすな
ルビーが離れちゃってどうなるか先が読めないw
GJっす

381名無しさん:2012/06/06(水) 12:11:04 ID:iCTT9.CM
投下乙です!
バゼットさんやっぱりいい仕事をしますねw
イリヤの方は、感情が現実に追いついていないといった感じですか。

指摘としては、ルビー(カレイドステッキ)はマスターから十メートル以上離れられませんよ、ってところですね。
そしてルビーがいるなら、イリヤの治癒は出来てしまうというw
あと、いつお手製の軽食を食べるんでしょうw

382名無しさん:2012/06/06(水) 15:48:22 ID:FlM3kH7I
投下乙です

うんうん、こういうこの先がどうなるのかみたいなゴタゴタなのが読みたかったんだよw
久々の投下だぜw

383名無しさん:2012/06/06(水) 18:39:27 ID:OvDDP71A
投下乙です
あれ?キリカと比べたら草加の方がマシじゃね?と一瞬思ってしまった
後長田さんの名前が間違ってますよ

×長田由香○長田結花

384 ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/07(木) 08:22:57 ID:H96g1FbA
感想、指摘ありがとうございます
誤字の方はwikiで修正するとして、
>>381
見落としていました
ただそのままの意味で解釈すると展開自体が変わりそうでもあるので
1、本当にそのままの意味、イリヤから離れられない
2、イリヤから離れると行動できなくなる
3、自分から離れることはできないが、支給品として所持者が変わるのは問題ない
のいずれかの解釈で考えているのですが修正したほうがよいでしょうか?
現SSの時点では一番下の解釈が最も近いのですが

385名無しさん:2012/06/07(木) 09:37:03 ID:y97/Ki5M
>>384
2か3で問題無いと思いますよ
修正お待ちしています

386名無しさん:2012/06/07(木) 10:28:32 ID:/XTzD4ZE
投下乙です!まあキリカはアホの子で行動が読めない分下手なステルスより厄介っていうねw

所有者が死んだりした時を考えると3ですかね?

387 ◆Z9iNYeY9a2:2012/06/09(土) 20:09:49 ID:QAuOKTGs
文章を加筆した部分を修正スレに投下しておきました
ご確認お願いします

388 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:32:41 ID:0Ts8TUk2
投下します

389漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:35:18 ID:0Ts8TUk2
警察署を出発した夜神月。
行先は特に決まっていなかったのだが、しいて言えば安全の確保できる場所に移動したいと考えていた。
今の自分にはノートどころか力になりそうな支給品もないのだ。
あったといえば一本の黒い剣と赤いカードのようなもの。
黒い剣のほうは自分に扱えるものとは思えなかったがどうやら何かしらの力を秘めている様子。駆け引きには使えるだろう。
赤いカードのほうは逃げに徹するのであればそれなりに有用な道具となる。一度しか使えないのがネックだが。

そうして移動しているうちに、大きな戦闘音が聞こえてきた。
警察署から見て南のほうからの音だ。そこまで距離が離れてもいないようだ。

(まさかこの近くで戦闘が…?)

下手に動くと巻き込まれる可能性もある。
見晴のよい離れた場所から様子をうかがうことにしたのだった。

(あれはオルフェノクとかいう生物、それに金色の…ロボット?!)

あんなものまでこの場にあるというのか。
驚愕する月を後目に状況は進んでいく。
場に現れた白い少女と戦う銃使いの少女。あれも魔法少女とかいうものなのだろうか。
そして金髪の少女が、巨大な銃を手に飛び上がり、発砲した。
爆音が響く中で周囲は火に包まれ、その場にいたオルフェノク、白い少女たちは散り散りになって去って行った。

やがて残った金色のロボットも消滅し、マントを羽織った男がその場に残った。

(あの男が、ロボットを動かしていたのか)

男は道に残った一人の男の死骸に近づき、しばらくした後去って行った。

(どうするか…)

あの男は間違いなくこの殺し合いに積極的な一人だろう。
多くの参加者を殺して回るはずだ。
であれば、もし後に裏切ることが前提であっても今は手を組んでおけばことが有利に進むかもしれない。
問題は、今自分の手元にはカードが少なすぎることだ。交渉が決裂したときのことを考えると心もとない。

(いや、もしかしたら賭ける価値はあるかもしれない)

男は近くにあった建物に入っていった。地図にもあるバー・クローバーという施設らしい。

月は支給されていた剣を手に、そしてカードをいつでも使えるようポケットに入れて男を追った。
あのような男の前でこんな剣を持っていても気休めにしかならないだろうが、逆にいえば気休めくらいにはなる。

390漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:36:06 ID:0Ts8TUk2

「誰かな?」

入るために敢えて足音を聞こえるように歩いて、バー・クローバーに入った。
こそこそして入っては余計な警戒を抱かせてしまうからだ。
そして目論見どおりに相手に気付かせる。

「僕は夜神月、さっきのロボットから君が出てくるのを見てね。好奇心から会いにきたんだ」
「ほう、あれを見て私に会いに来るか。なかなかの度胸だ。
それで、要件は何だ?まさかその剣で私を殺せると思っているわけではないのだろう?」

ここまでの会話の中で月はこの男についてある程度の推察を立てた。
おそらくこの男は殺し合いに乗っていても無差別に殺しまわっている男ではない。
いわゆる立ち回りを気にする性格のようだ。
であれば、いける。そう確信した。

「単刀直入に言いましょう。僕と手を組みませんか?」



放送が始まったとき、二人はFー4エリアを目指してバイクを走らせていた。

男の名はロロといった。ロロ・ヴィ・ブリタニア。
殺し合いに乗ってこそいるものの慎重に行動することを心掛けているという。
自分のスタンスに近かったため、申し出をすんなりと受けてもらえた。
なぜそこを目指していたかというと、彼の探すとある人物がそちらに向かうのを月が見かけたためだ。
そういった事情で移動した二人は、突如響いた放送に思いを馳せた。

(松田、美空ナオミ、こいつらが死んだのは僥倖だな。だが)

共に自分の存在を脅かしうる者だった二人。敵が少しは減ったことになるだろう。
ニア、メロ、そしてLが生きているのは警戒しておく必要があるだろうが。
しかし、弥海砂。彼女が死んだのは若干でこそあるものの痛手だった。
彼女がそこまで長生きできる存在とは思っていない。だがこれほどまでに早く死ぬとは。

「C.C.、ゼロ。共に健在か」

そんな月の傍で呟くロロ。だがその名前の意味は分からない。
まだお互いの知り合いについての情報交換を行った程度だ。
会話に気を取られて襲われでもしたら事だ。詳しい情報交換は落ち着いた場所ですることにしていた。

そうしてF‐4にたどり着いたが、ロロの目当ての人物は見つけることはできなかった。
既に移動したということだろう。手がかりもなく、虱潰しに探し回るほど暇なわけでもない。
一旦その人物の捜索は打ち切りどこかに拠点を構えることにするという。

そうして結局警視庁まで戻ってきていた。近くにある施設として、ただ都合のよかっただけである。
それでも月としては一度来た場所だ。何か変化があればすぐに分かる。

「おや、夜神月君ではないですか」

と、警視庁に入ったところで月にとっては数時間前に聞いた声が聞こえた。

見ると、入ってすぐの受付付近の席にゲーチスが座り、その傍で美樹さやかが眠りについていた。

391漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:37:20 ID:0Ts8TUk2



それは偶然だった。
ふと美樹さやかの遺骸にもう一度目を落としたことでそれに気づくことができた。

「これは…?」

彼女の欠けた頭部の形が若干元に戻っているようだった。
さらに近づいてみると、少しずつ彼女の傷が再生していく様子がわかる。

「そんな魔法のようなことが―――ああ、そういうことですか?」

口にして気付いた。
美樹さやかは魔法少女だと言っていた。ならばもしかすると有り得ないことも起こしうるのかもしれない。
例えば致命傷を負っても生存することが可能である、とか。

「ふふふ、美樹さやか。あなたは本当に楽しませてくれますね」

もしまだ彼女が生きているならまだ利用することができる。
目が覚めたときが楽しみになってくる。

だがこの場で彼女の目覚めを待っているというのも危険だ。
政庁から離れつつどこか腰の下ろせるような場所に移動するべきか。
意識のない美樹さやかを抱える。近くに落ちているバッグの回収も忘れない。

そうしてたどり着いたのが警視庁であった。
美樹さやかの目的地へは彼女が目覚めてから移動すればよい。

そうしているうちにやってきたのが、

「おや、夜神月君ではないですか」

夜神月、そして黒髪の男であった。



月としてはゲーチスとの遭遇はどちらかといえば避けたかった部類だ。
彼からは得体のしれない黒さを感じており、底知れぬ不気味さがあったからだ。
それでももし己の世界にいる者であったならばここまで警戒しなかっただろう。
だが、彼の住む世界は月にとってはあまりに未知数。何かしらの力を隠し持っていても不思議ではない。
しかし、出会ってしまったものは仕方ない。できれば迅速にこの場を去りたい。
触らぬ神に祟りなしというやつだ。変に刺激してはまずい。

392漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:38:33 ID:0Ts8TUk2
そう思っていた矢先であった。

「お前、乗っているな?」

ロロが、その月が避けていた部分に触れたのであった。

「乗っている、とは何のことでしょうか?」
「ふん、お前のその腹に隠している闇、隠しきれてはいないぞ?」

ロロはあくまで、直感的に感じ取ったことを言ったにすぎない。
それは月にとっては相容れないやり方だ。

「…あまりそういうことを口に出すのは感心しませんよ。
私はゲーチスと言います。あなたは?」
「ロロ・ヴィ・ブリタニア。いずれ魔王となる男だ」

このやり取りの中で月は直感した。
こいつは狡猾で頭も回る男だ。しかし己の力を過信している節がある。
そうでなければあのような大胆な問いかけはできないだろう。もし何か起これば力ずくで全てを終わらせられるのだから。
実際にそれが可能なほどの力を持っているからたちが悪い。
が、そこが付け入る隙になる。

そしてそれと同じ印象をゲーチスも感じ取っていた。
最もゲーチスは彼の能力を知らないため、月ほど確信することはできなかったが。

それを知ってか知らずか、ロロは話を進める。

「俺も乗っている者だ。だがさすがに全ての参加者を殺すのは骨が折れる。
どうかな?我らと手を組まないか?」
「なるほど、そういうことでしたか。では月君もやはり?」
「ええ」
「ほう、なかなか喰えないお人じゃないですか」

おどけるような口調で話すが、月には彼なら薄々気づいていたのではないかという気がしてならなかった。
自分がゲーチスの黒さをうっすらと感じ取ったように。

「残念ですが私にはある目的がありまして。おそらくあなた達と相容れるものではないかと思うのです」
「そうか、残念だ。ではこの場での一時休戦と軽い情報交換くらいは頼めるかな?」
「それくらいならいいでしょう。しかし会ったばかりの人間をそう信用するというのも考えてしまいますね」
「なら、お互いの持つ手札をそれぞれ公開して話すというのはどうですか?
僕は彼の力を知っていますし、それだけでは不公平になりますから」

ここで敢えて主導権を握ろうと意見を出す月。あまり流されてばかりはまずい。
ロロの力は概ね把握している。だが彼はどれほど把握されているかまではわかっていないはずだ。
だから彼としても話さざるを得ないだろう。
これは取引でもある。ゲーチスの隠しているものを知ることもできるのだから。

「ふん、いいだろう。お互い隠し事はなしだな」
「仕方ありませんね」



393漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:39:06 ID:0Ts8TUk2
ロロは己の持つ能力についてを話した。
ナイトメアフレームという機動兵器、そしてジ・アイスという能力。

ゲーチスは己の持つポケモンについてを話す。
サザンドラという3つの首を持つドラゴン。波動、エネルギー弾を操ることができる。

月は何の能力を持っているわけでもない。だから改めて支給品を開示した。
バイクと黒い剣。しかし今この状況ではこの程度では焼け石に水くらいのものしかないだろう。
するとロロが誰のものを持ってきたのか、持っていたもう一つのバッグから取り出した何かを投げて寄越した。
ゲーチスの持つボールと同じものに見える。開くと、中には全身に刃のついた人型に近い生き物が出てきた。
どうやらこれは元々はゲーチスのポケモンであったらしい。それがロロの拾ってきた誰かのバッグのあったとか。
本来なら自分のものであると取り戻そうとしそうなものだが、ゲーチスは月に預かっていてもらいたいとそれを受け取ることを了承してくれた。
しかも親切なことに傷ついたキリキザンに薬まで施してくれた。

無論、全てを明かしたといっても馬鹿正直に本当に全部話した者はこの中にはいない。
ロロはギアスの能力はヴィンセント搭乗時しか使用できないような言い方をした。もしもの時に油断をさせておくためだ。
ゲーチスは、波乗り、大文字技の存在は隠しておいた。一つは万一の時に水場を移動経路として使う時のため、もう一つは使い勝手を考えての話だ。ポケモンを知らない二人だからこその隠し事だ。
月はポケットに隠したレッドカードの存在は言わなかった。唯一にして一度きりの、今の月にとって最も実用的なアイテムである。小さなものであったため最初に会った時も隠し通すことができたものだ。

こうして上げた以上に、さらにゲーチスは後ろで眠る美樹さやかの詳細についても敢えて詳しくは話していない。
先ほどの戦闘行為のダメージが残っているため眠っているとしか伝えていないのだ。
もし、この少女について詳細を聞けばこのロロという男は彼女を己の手駒にできないかと考えることだろう。それは困る。
美樹さやかは自分の駒として扱っていきたいのだ。このような男に奪われるわけにはいかなかった。
幸いさやかとはここに来てからずっと共にいる仲でいる上、彼女の事情はある程度承知済みだ。もしもの時でも彼女の扱いにはこちらに分がある。
そういった考えがあった。
そもそもゲーチスの欲しているのはあくまで手駒。協力者ではないのだ。それに自分の隠すべき部分
今争いはしないといってもいずれは潰しあうことになるのは目に見えているのだから。


一方で月は若干の焦りがあった。
この場において最も立場の低いのは自分だろうという自覚があった。
ロロやゲーチスのような強力な力があるわけではない。
ゲーチスから施されたキリキザンというポケモンがあってもだ。いや、むしろそれこそが警戒に値する。
これは罠か、あるいはもし自分が裏切ることがあっても対処できるという意図があるかということだ。
だがそんな焦りを表に出すことはない。それに気付いていないという意志表示のためだ。

394漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:40:38 ID:0Ts8TUk2
「さて、では情報交換タイムといこうか」

そして場を仕切るロロ。
各々が様々な思惑を胸に秘めたまま、未だ目覚めないさやかの傍で情報交換が始まった。


【E-3/警視庁/一日目 午前】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:意識なし
[装備]:ソウルジェム(濁り中)
[道具]:
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。主催者を倒す
1:????
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)

【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:左腕に軽度の火傷(処置済)
[装備]:普段着、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×2、モンスターボール(サザンドラ(ダメージ小))@ポケットモンスター(ゲーム)、病院で集めた道具(薬系少な目)
    羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4、不明支給品1
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:情報交換を行う
2:表向きは「善良な人間」として行動する
3:理屈は知らないがNが手駒と確信。
4:切り札(サザンドラ)の存在は出来るだけ隠蔽する
5:美樹さやかは自分の駒として手元に置く
6:政庁からはなるべく離れる
7:今のところロロと組むつもりはない
※本編終了後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※「まどか☆マギカ」の世界の情報を、美樹さやかの知っている範囲でさらに詳しく聞きだしました。
(ただし、魔法少女の魂がソウルジェムにされていることなど、さやかが話したくないと思ったことは聞かされていません)
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※月、ロロにはサザンドラの存在と使う技を明かしました。しかし波乗り、大文字の存在と美樹さやかの詳細については話していません


【ロロ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、左頬に切り傷(軽度)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、コルト・ガバメント(5/7)@現実、モンスターボール(空)、不明ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本:この殺し合いの優勝者となる
1:ゼロとC.C.の正体を確認し、抹殺してゼロの力を手に入れる
2:ナナリーを抹殺する
3:巴マミを抹殺する。なるべく残酷な方法で
4:夜神月を利用する
5:手駒にできそうなプレイヤーを見つけたら、戦力として味方に引き入れる
6:もう1人のロロ(ロロ・ランペルージ)の名前に違和感
7:ゲーチス、月と情報交換を行う
[備考]
※参戦時期は、四巻のCODE19と20の間(ナナリーを取り逃がしてから、コーネリアと顔を合わせるまでの間)
※ジ・アイスの出力には制限が設けられています。普段通りに発動するには、普段以上のエネルギー消費が必要です
※ヴィンセントには、召還できる時間に制限があります
 一定時間を過ぎると強制的に量子シフトがかかりどこかへと転移します
 また、再度呼び出すのにもある程度間を置く必要があります
 (この時間の感覚については、次の書き手さんにお任せします)
※ゲーチス、月にはヴィンセント、ジ・アイスについて明かしました。しかしヴィンセント使用中でなければジ・アイスは使えないと誤解させる言い回しをしています
[情報]
※「まどか☆マギカ」の魔法少女、オルフェノクについての簡易的な知識
※ルルーシュ・ランペルージとゼロ(ルルーシュ)が別個として存在していると認識

395漆黒の会談 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:41:46 ID:0Ts8TUk2
【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:健康
[装備]:スーツ、
[道具]:基本支給品一式、レッドカード@ポケットモンスター(ゲーム)、エクスカリバー(黒)@Fate/stay night、ジャイロアタッカー@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
    キリキザン(体力半分ほど)ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:優勝し、キラとして元の世界に再臨する
1:情報交換を行う
2:しばらくはロロと行動
3:元の世界で敵対していた者は早い段階で始末しておきたい
4:ミサと父さん(総一郎)以外の関係者の悪評を広める
情報:ゲーチスの世界情報、暁美ほむらの世界情報、暁美ほむらの考察、アリスの世界情報、乾巧の世界情報(暁美ほむら経由)
※死亡後からの参戦
※ロロ、ゲーチスにはレッドカードの存在は明かしていません


【レッドカード@ポケットモンスター(ゲーム)】
ポケモンに持たせると、攻撃技を当てた相手を強制的に交代させるアイテム。
本ロワにおいては参加者も使用可能である。
ポケモンに発動した場合の効果はゲーム準拠。
参加者に発動した場合は戦闘可能範囲外まで強制移動させられる。

【エクスカリバー(黒)@Fate/stay night】
セイバーの所有する宝具。ただし聖杯の泥の影響で黒化している。
真名を解放することで膨大な魔力を解放可能。だがこれが可能なのは基本的にセイバー本人のみ。

396 ◆bbcIbvVI2g:2012/06/16(土) 21:42:59 ID:0Ts8TUk2
投下終了です
頭脳派キャラはあまり得意ではないのでおかしい所があれば指摘いただけると幸いです

397名無しさん:2012/06/16(土) 23:06:04 ID:4/cn/B7Y
投下乙!
悪い奴らは手を組むものさ

398名無しさん:2012/06/17(日) 00:00:16 ID:/zl/pLBg
投下乙です!月からすれば少なからず駆け引きがやれる腹黒共より、どう動くか分からない錯乱さやかあちゃんが一番厄介だと思うんだ……ほら、やっぱり危険人物しかいないじゃないですかw

399名無しさん:2012/06/17(日) 12:57:54 ID:TIpgiHuk
投下乙です

頭脳派キャラを書くのは難しいがこいつらならこうするだろうなみたいな展開はまだなんとかなるかもね
情報交換はどうなるか気になる。そしてさやかちゃんは会議が終わる前に目を覚まさないと…どうせこの三人ならどうさやかちゃんを利用するかの算段とかもするだろうなあw

400名無しさん:2012/08/23(木) 14:09:50 ID:4tOA1eRA
予約キター

401 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:19:01 ID:E5hoQQIY
これより本投下を始めます

402Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:20:10 ID:E5hoQQIY
藤村大河。
穂群原学園の英語教師。弓道部の顧問。剣道5段。
彼女のプロフィールとしてはこのくらいのものしかないだろう。少なくともこの場においては。
魔術師などではなく、当然のことながらオルフェノクでも魔法少女でもポケモントレーナーでもない。本当の意味で一般人である。
しかし、そんな彼女でも様々な人物と関わりがあった。

魔術師殺しの異名を持つ男、衛宮切嗣。
そんな男の息子、衛宮士郎。
間桐家の魔術師、刻印虫を植え付けられた少女、間桐桜。
他にもサーヴァントや元暗殺者といった存在にも関わりを持っている。

そのような正気の沙汰ではない環境にありながら、それらの異端と関わることもなく、なのに彼らに少なからず影響を与えていた。
衛宮士郎は赤い外套の英霊となり記憶を摩耗させた中においても彼女のことは大切に思っていた。

そして、間桐桜にとってもかけがえのない人間の一人だった。




「ピカ、ピカ。
…ピカピ、ピカピ」

嫌な予感はあった。
突然ピカチュウが駆け出したときにはすでに止めることなどできなかった。
だがNは確かに聞いた。駆け出す直前、ピカチュウが”ヒカリ”と呟いたのを。

Nがその呟きの意味を理解したときには手遅れだった。
追いかけた三人が見たのは、もはや原型を留めていないほどボロボロにされた人間の死骸だった。
辛うじて見える帽子が、おそらく知った人間が見た際の判断材料になるかもしれないという程度のものだった。

ルヴィアも顔を顰め、大河は口を押えて立ち尽くしている。
ピンプクはゾロアークの体毛に入っていたので、これを見てすぐにボールに戻したことでピンプクには見られずに済んだ。

「ピカピ、ピカピ」

ピカチュウはなおもヒカリだったものに呼びかけ続けている。
自分のマスターの死を直接知ることになったのはついさっきのことだ。立て続けに見てしまった仲間の無残な亡骸に大きなショックを受けているのは明白だった。

「N君、ピカちゃんをその子から離してあげて」
「…ピカチュウ」

Nはピカチュウに声を掛ける。
しかしあくまで掛けるだけだ。もしここで離れろと言うと、ピカチュウの意志を捻じ曲げることになるのだから。

403Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:21:19 ID:E5hoQQIY

「…ねえ、N君、この子の姿を隠してあげられる何か、持ってない?」
「今そういった者は持ってないけど、ゾロアーク」
「クシュウ」

ゾロアークに言うと、ヒカリの周囲の空間だけ景色が変わる。
次の瞬間にはヒカリには白い布がかぶせられていた。
当然これは幻影であり、実際にそこに布があるわけではない。しかし今、この場においての視覚的な気休めにはなるし、大河にとってはそれで充分だと思った。

「…?そういえばルヴィアさんは?」
「彼女なら、ちょっと離れるって。でもすぐに戻ってくるって言っていたよ」





嫌な予感があった。
その少女の死体からそう離れていない場所、そこからどうしようもなく嫌なものをルヴィアは感じた。

そもそもここはあの女、間桐桜と戦った近くの場所だ。あの時あの女はこの方向に何があると言っていた?
そしてあのヒカリという少女の傍に落ちていた、血に染まった斧。

見てはいけない気がした。だが見なければいけない気もした。
予感はそれに近づくにつれて確信に近づいていき、そして、

「まったく無様ですわね。ミストオサカ」

そこには、あの時間桐桜の言ったように、頭の割られた遠坂凛の姿があった。

「あなた、どれくらいの借金を残しているか分かっているんですの?
 まさかあなたが借りたものまで返せない人間だったなんて、つくづく見下げ果てましたわ」

その口調は普段の凛に接する彼女の口調と何ら変わりはない。傍から見れば死体と話しているとは思えないだろう。

「さて、そうなった場合、残りの借金はどうしましょうか…、そういえばあなたには妹がいるんでしたわね。
 この際ですし、肩代わりしてもらいましょうか。そしてあなた方遠坂家は、まともに借りたものを返すこともできない情けない一族と末代まで語り継いであげますわ」

いつもであれば、ここで蹴りの一つでも飛んでくるのが普通といえるほどの暴言の数々。しかしそれが動くことなどなかった。

「あなたとの腐れ縁もここまでですわね。それでは、さようなら」

と、こうしてルヴィアと凛の別れは、ルヴィアにとっていつも通りのやり取りで終わりを遂げた。

404Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:21:48 ID:E5hoQQIY



ヒカリを弔ってあげたいと言ったのは大河だった。

「こんな女の子をこんな姿で放っておくなんてできない」
とのことだった。

ピカチュウは顔を涙で濡らしながら同意し、Nもピカチュウの友達を埋葬することを手伝うと申し出た。

「分かりましたわ。ただ、私は少し気になることがありますのでお先に行かせてもらいたいのですが、よろしいかしら?」
「あー、うん、そうよね。これは私の我儘なんだし。でも気を付けてね」

もし彼女がいない間に全てを終わらせられるならそれに越したことはない。
それにこっちにはNや複数のポケモンも共にいるのだ。過剰な期待はできないが何かあった時には逃げることは可能だろう。

「あ、あとね、桜ちゃんに会ったら―――」
「分かっていますわ。その辺りも心配せずともよいですから」

おそらく大河の期待とは正反対のことをしようとしているのだな、と思いつつ。
ルヴィアは北へ歩きだした。





どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私は、ただ先輩に死んでほしくなかった。先輩を守りたかった。
きっと先輩は私のためなら命を惜しまないだろう。
でもそんなのは嫌だった。
姉さんのように、一人でも戦える力が欲しかった。

そう思った矢先に、それを見つけてしまった。
デルタギア。
これを使えば一人でも戦うことはできる。先輩に守ってもらわなくても自分の身は守れる。

そう、守りたかっただけだった。
なのに、気がついたら目の前には男の人が倒れていた。正気を取り戻したときには遅かった。
でもそんな気持ちをどこかにやってしまうぐらいそれが楽しくて。それがおかしいことにも気付けなくて。

そんな時、血塗れの斧を持って走る少女を見つけた。
きっと人を殺したんだ。あの人は悪い人なんだ。そう思ったとき、とても自然にその人を撃った。
そして、自分がどうするべきなのかに気付いた。
悪い人を殺そう、と。それが先輩を守ることに繋がる、と。
そう言い訳をして、やってはいけないことを肯定してしまって。

そうして、自分がおかしくなっていることに気が付かないまま、こうしてみんなと行動していました。

405Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:22:14 ID:E5hoQQIY



「それはたぶんバーサーカーだと思います」
「バーサーカー…、狂戦士、ですか?」

合流を済ませた4人は、それまであったことについての情報交換を行っていた。
当初、タケシがグレッグルに殴られたり桜が頭痛を起こしたりと色々な意味でのトラブルもあったが今は落ち着いている。

「はい。でもごめんなさい、名前くらいはわかりますけど、あまり詳しいことは知らなくて…」
「ああいいのよ。名前が分かっただけでも今のところは十分だし。
 でもちょっと気になるんだけど」

バーサーカーについての説明を受けた真理は新たな疑問を問いかける。
バーサーカー、そしてセイバーなる者。彼らの存在自体は美遊からも聞いていた。
聞いていた、と言っても外見や特徴を聞いたわけではなくただ注意するようにと言われたくらいだが。
それだけではなく、桜と美遊の知り合いには衛宮士郎以外にも被っている部分が見受けられた。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、藤村大河。
だが桜は美遊の存在は知らないと言っていた。それだけならばそこまでおかしいとは感じなかっただろう。友達の友達に交友関係があるとも限らない。
問題は美遊の話したクロエ・フォン・アインツベルンについて話した時のことだ。
彼女からはその子はイリヤの双子の姉妹だと聞いていたのだが、そんな人は知らない。
桜自身、イリヤのことはよく知っているが双子の存在など初耳だ。
というより、知らないではなく、桜にとってはそんなものいないはずなのだ。

「本当に知らないのね?」
「はい…」
「そういえば真理さん、覚えてますか?美遊ちゃんが言ってたあの――」
「もしかして、平行世界がどうとか言う話?正直よく分からなかったけど」
『平行世界だと?』

その単語に反応したのはナナリーにしか見えない少女だった。

(ネモ?分かるの?)
『まあな。こいつらに今から言うことを伝えろ』

‐‐‐‐

「えっと、じゃあこの桜さんと美遊の知っている人たちとは違う可能性があるの?」
「ええ、そうらしいです」

ナナリーはネモが言うことを分からないなりに分かりやすく伝えた。と言ってもナナリー自身も分かってはいないのだが。
ただ、もしそうならゼロと兄であるルルーシュが同じ場所にいる説明もつくかもしれないとネモは言っていた。

「それにしても、すごいですねナナリーちゃんは。私の知らないようなことまで知ってて」
「いえ、たまたま知ってただけですから…」

ナナリーにはその言葉をただの感心と受け取りたかった。
しかし、そういった桜の言葉からは明らかに何か含みがあるような気がしてならなかった。
実際、傍にいるネモの警戒も解けてはいない。

情報交換をしながら、四人は一人を除いて特に不安を抱えることもなく歩いていく。

406Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:22:42 ID:E5hoQQIY

そして、彼らが彼女と出会ったのはポケモンセンターを出てしばらく歩いたところにある橋の近く。
そこに、その少女はいた。

「また会いましたわね、マトウサクラ」
「……!」

目の前に立っていたのは金髪でドレスのような服を着た少女。彼女を見たときの桜の表情はすさまじいものだった。

「何で、あなたがこんなところにいるんですか?」
「それはこっちのセリフでしてよ。まさか集団に紛れ込むなんて思ってもいませんでしたもの」

知り合いなのか、とこの場で問いかけられるものはいなかった。
二人の表情や刺々しい会話、そして殺気はただ事ではないことはナナリー、真理、タケシにもすぐに察しがついたからだ。
しかしその後の会話の内容はその中の一人にはあまりにも大きな事実だった。

「一つ尋ねますわ。ヒカリという帽子の少女を殺したのはあなたですの?」
「名前は知らないですけど、帽子をかぶった女の子を殺したのは私ですね。それがどうかしたんですか?」
「なぜ殺したんですの?」
「だってあの人真っ赤に染まった斧を持って歩いてたんですよ?そんな危ない人、殺さないといけないじゃないですか。
 まさかそれで死んだのが姉さんだとは思いもしませんでしたけど」
「嘘だ!!ヒカリはそんなことしない!!」

会話を聞いてタケシが声を荒げる。
三人は状況に付いていけていない。突如現れた少女に突然の罪を晒されることにも、その罪を何事もなかったかのように流す桜にも。
唯一その被害者かつ加害者(桜曰く)である少女の知り合いであったタケシが反射的に反応できただけだ。

「あら?タケシさん、もしかして人殺しを庇うんですか?」
「――っ!?」

その言葉に何を思ったのか、おもむろにバッグから取り出したデルタギアを構え、殺気を放ちながら近づいてくる桜。
さっきまでとのあまりの変わりように身動きを取ることができないタケシ。
だがそのタケシに近づく桜の目の前を黒い何かが通り過ぎた。

「お止めなさい。あなたの相手は私でしてよ」

少女が桜の目の前に向けて指から何かを放ったのがネモには視認できた。
そんな彼女の注意を自分に向けようとする金髪の少女。そして続けた言葉が桜の注意を向ける決定的な言葉となった。

「はぁ、全く、そんな女にはシェロ―エミヤシロウのことなんて任せられませんわね」

ピタリ、と桜の動きが止まる。
その時ナナリー以外の皆が見た桜の表情は忘れられないだろうほどのものだった。

「なんで、あなたまで先輩のこと知ってるんですか…!」
「気に障ったんですの?ならその方から離れなさい。
 あなたの苛立ちなら私が押さえつけて差し上げますわ」
「――変なところばっかり姉さんを思い出させて。いいですよ、まずあなたから殺してあげます。
 変身――」
『complete』

今は桜には目の前の女しか目に入っていない。こいつを早くこの世から、目の前から消し去りたい。
デルタギアのデモンズスレートの影響に強く侵された精神は桜の意識を殺すことに向けさせていた。
そして、それは確実に桜を、そして桜の内を侵食していた。

ここに二人の少女によるリターンマッチが開幕した。

「ま、真理さん、どういうことなんですかこれ?!」
「知らないわよ、私に聞かないでよ!」

一方タケシと真理の二人は今だに混乱が解けない。この短時間に想定外な情報が色々と増えすぎた。

『だからあの女とは離れておけと言ったが、まあここで奴の正体を知る者と会えただけ幸運、か?』
「……」

そしてそんな彼らを尻目に桜を見つめるネモと、その傍にいるナナリーは冷静に状況を見守っていた。

407Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:23:20 ID:E5hoQQIY


「ピカ…」

埋葬は終わり、ピカチュウは悲しそうな目をヒカリに向ける。
Nはその中に、ヒカリとの本当の別れの悲しみと同時に、自分が最も大切に思っていた存在を同じように弔えなかったことへの後悔を感じ取れていた。
しかしNにはピカチュウの思いが分かっても、それを汲み取ることはできない。
アッシュフォード学園での出来事の中ではそれに気付けなかったというのに。

「タイガさん、友達との別れとは、悲しいものなのかな?」
「うん、悲しいものよ。それがもう二度と会えない―なんてことになったら特に」
「……」

Nには実感することができなかった。
ポケモンをトモダチといったが、彼らの力を借りた後はすぐに野に返した。
人間の手で拘束したくないがための方針であったが、それゆえ深いつながりを持ったものとの別れというものはなかったのだ。

「僕は、本当にポケモン達とトモダチだったのかな?」
「うーん、よく分からないけどさ、そういうのって付き合いの長さだけで築けるものでもないのよねー。
 案外出会って数日で仲良くなる、なんてことも少なくないのよ」
「でも、僕は彼らと別れるときに悲しいとは思わなかった。僕にとって彼らはトモダチじゃなかったのだろうか…」

もしかしたら、その悲しい、という感情があるからこそポケモントレーナー達はポケモンを手放さないのだろうか。

「タイガにとって、大事な人っているの?」
「うん、いるよ。そうねー、ここにいちゃう人でいうと二人、かな。
 士郎っていう弟分みたいな男の子と、桜ちゃんって、こっちは言ったかな?妹分みたいな女の子」

その名前を出したときの彼女の顔は、あのトレーナーに付き従うポケモン達を連想させた。
ああ、そうだったのかと納得する。

今まで自分はポケモン達の、人間に対する怒りしか知らなかった。そのようなポケモンとばかりいさせられたから。
でも、そんな僕でも大切だと思える存在を作ることができるのだろうか。
あのトレーナーのポケモン達のように。藤村大河にとっての彼らのように。

「いつかそのシロウって人にも会ってみたいな」
「あははは、それいいかもね。でも気を付けてね。士郎ってパッと見じゃ分からないけど結構扱いづらいんだから」

と、その時だった。

「ピカ?」

ピカチュウの耳が動き、ルヴィアの歩いて行った方を向く。
二人が耳を澄ますと、何かがぶつかるような音が聞こえてきた。

「もしかしてルヴィアさんに何かあったんじゃ…。
 急ごう、N君!!」

そしてNと大河は音の方向へ向けて走り出した。

408Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:23:55 ID:E5hoQQIY



先に近づいてきたのは桜の方だった。
怒りに任せて握った拳を叩きつける。シンプルだがそこにデルタのスペックが合わさるとそれだけでも洒落にならない。

するとルヴィアは懐から取り出したマッチにおもむろに火をつけ上に放り投げる。
突然の行動に気を取られそちらを警戒する桜。次の瞬間飛んできたのは頭に向けての飛び蹴りだった。
元々ダメージを負っていた場所に与えられた衝撃はデルタの鎧を通してでもそれなりのものであり、桜は足元をふらつかせる。
そしてふらついたところを至近距離からのガンドで吹き飛ばす。

朦朧とする意識の中吹き飛ぶ桜。しかし一度戦った相手か、あるいは侵食された精神が攻撃に比重をおいていたためかその後の対応は異常なほど早かった。
かろうじて受け身をとれた桜はいつの間にか手にしていたシャンパンのボトルを投げつける。
無論そのようなものをまともに受けるルヴィアではない。が、それが目の前で弾けては話が別だ。
破片や中のワインが飛び散る中でかろうじて防ぐことができたため大事に至る怪我はなかったが、驚いたまま桜をにらむルヴィア。
飛んでいくそれを桜はデルタムーバーの光線で撃ちぬいたのだ。
一見離れ業に見えるがよく見ると周囲には焦げた跡が見える。腹部には軽いものだが熱線による傷が、ドレスのスカートも数か所穴が開いている。

「今あなたがやってたこと、マネしてみたんですがどうですか?」
「生意気な小娘だこと」

桜はすでに起き上がっており、ルヴィアも傷自体は大したことはない。
ベルトの力はスペックこそ確かだが、桜にはそれを使いこなせてはいない。銃を使わせないようにして確実に体を抑えていけば勝つことはできる。
それはさっきの戦いの中でも気付いていたことだ。
だが、なぜだろうか。ルヴィアの中には妙に苛立ちがあった。

「全く、このような凶暴女をシェロの傍に置いておくなんて、周りの大人は何を考えているのでしょうか」

思い出すのは藤村大河から聞いた間桐桜、衛宮士郎の話。
あることを境に、士郎とは家族同然の生活をしているという桜。それを自然なものと受け入れる士郎。
そこにイリヤスフィールはいないのだから、自分の知る士郎とは違うことは分かっている。
それでも、士郎の近くにいられる彼女を羨ましく感じるところもあったのかもしれない。
だからふと呟いたその言葉自体は彼女に対する煽りだったのだろう。

「それはこっちのセリフです。せっかく先輩は私を守ってくれるって、ずっと傍にいてくれるって言ってくれたのに。
 こんな体の私を受け入れてくれるって言ったのに。
 なのに後から姉さんが私から先輩を盗ろうとする。私が欲しかったもの全部持ってるくせに、今度は先輩まで!」
「そんな人がせっかくいなくなったと思ったのに、なんであなたはそんなに姉さんにそっくりなんですか?
 あなたも私から先輩を奪うんですか?」

桜の心中を聞いて彼女、そして士郎がどのような状況、関係にあるか大まかな把握はできた。こんな体、というのが何を指しているのかは分からなかったが。

そして言葉を終わらせた直後、デルタムーバーともう一つ、支給されていたらしき拳銃をこちらに向けてくる桜。
しかしただ撃つという行為の速さに限ってはルヴィアのほうが早い。ガンドにより両手のそれらは打ち払われて後ろに落ちる。

おそらく自分ではこの女を止めることはできないだろう。大河には悪いがここで殺すしかない
そう自分の中で確定させるが、その判断が少し遅かったことに気付いたのはすぐだった。

「桜ちゃん!!」

そう、その藤村大河がやってきたからだ。

409Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:26:28 ID:E5hoQQIY
「―――え…、あれ…。藤村…先生?どうして――」

隙、というレベルではない。直前まで何をしていたかすら忘れてしまったとでもいうほどの動揺を見せる。
もし今なら仕留めるのは容易かっただろう。ガンドでベルトを撃ち、変身を解除させればあとはこちらのものだ。

それができなかったのは、桜に走り寄る大河に当たりかねないからだ。

「桜ちゃん、それ外して!桜ちゃんはそれのせいでおかしくなってるだけだから!
 大丈夫、先生もちゃんと守ってあげるから!ね?」

デモンズスレートで凶暴化していたはずの精神さえも虚と化し、暴れたかった思いもどこかへ行ってしまう。
しかしベルトを外して変身を解こうとするのを見て、

「ダメ!!止めて!!」

大河を思い切り突き飛ばした。
ルヴィアは近くに倒れこんだ彼女を起こし、大河を庇うように前にでる。

「これは外さないで…、こんなに汚れた私を藤村先生には見られたくない…」

桜にとって、藤村大河は士郎に次ぐ大切な人だった。

間桐の家にいる間は蟲漬けの日々。学校に行っても偽りのようにしか感じられない日常。
そんな中でも衛宮士郎と、藤村大河と共にいる時間だけは心から笑うことができた。

そして士郎が桜の中で全てを受け入れた人であるなら、大河は日常、平穏の象徴だった。
故に、こんな人を殺した姿を、憎悪にまみれて汚れた顔を見られたくはなかった。

そもそも先生は一般人、魔術とは無縁の人間なのだ。
いつか自分が体に埋め込まれたものによって変貌していったとしても、彼女だけには無関係でいて欲しかった。

「何言ってるの!そんな辛そうな声出して私が放っとけると思ってるの?!」

そんな桜の思いとは裏腹に、大河は自分に関わってこようとする。

「桜ちゃんはそんなことする子じゃないんだから、だから、ね?そんなもの捨てて一緒に帰ろう?
 罪を償っていくことは私もちゃんと支えてあげるから」

ああ、先生はまだ私があの日々に戻れると思っているんですね。
でもダメなんです。だって――

「駄目なんです、もう…。先生は私のこと先輩の家にいる時しか知らないじゃないですか…。
 私は先生の思っているような人間じゃない、化物なんですよ…」

ここで殺した人数だけではない。それ以前にも既に人を死なせたことはあるのだ。
加えてデルタギアが自分によくない影響をもたらしていることはわかっている。もうあの生活に戻れるとは思わない。

なのにそんな私を、先生は助けようとする。そんなことには耐え切れなかった。

「私、ここでどんなことしてきたか知ってますか?もう三人も殺してるんですよ。
 私の罪はそれだけじゃないんです。それに、私の体はもう化物になってるんです」

もう戻れないのならばいっそ突き放してほしかった。化物なんかと一緒にいられないと。

「……やっと本音話してくれたね」

なのに藤村先生はそんな私も受け入れようとする。その優しさがあまりに辛い。

「大丈夫、桜ちゃんがどんなになっても桜ちゃんなのは変わらないから。士郎だってそんなことじゃ絶対見捨てたりしないから。
 だからそれを渡して」

それまで皆が何かを隠しており、肝心なところで支えになってあげられない。そう感じていた大河にとって、桜が自分の本音をぶちまけてくれたのは嬉しかった。

410Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:27:19 ID:E5hoQQIY
そんな想いを受け入れて楽になりたいという思いと、それまでの行動ゆえに受け入れてはいけないという思い、そこにデルタギアを手放したくないという思いが重なり思考が混乱していく。

「だ、だってこれを無くしたら私は先輩を…、私は…、私は…!あああああああああああああああああ!!!」

これを手放したら先輩を守ることができない。それは怖い。
混乱する思考は、本来ではありえない、藤村大河に襲いかかるという暴挙をとらせる。
本人ですらわけが分かってない。しかし一般人に向けられたそれはとてつもない脅威なのだ。


「ミスフジムラ!!下がって!!」
「あ、ごめんルヴィアさん!これちょっと貸して!」

その様子を見て大河を庇おうとするルヴィアだが、大河は自分のバッグを渡す代わりにルヴィアのバッグに入っていた剣を取り出し桜の前に出てしまう。

「な…っ?!
 マトウサクラ!!止まりなさい!!」

ルヴィアの声も届かず拳を振りかざす桜。
その場にいた誰もが大河の死を確信し、目を逸らす。

キーーーーン

しかし響いてきたのは大きな金属音だった。
目の前を見ると、桜の拳は大河の横を過ぎ、大河の両刃剣は刃のない側面でデルタの頭を打っていた。

「ほらね桜ちゃん、そんなになったって桜ちゃんはこんな私にも勝てないんだよ?
 桜ちゃんは桜ちゃんなんだから」

ドサッ
完全に戦意を喪失したのか桜は座り込む。それと同時にデルタの変身が解除される。
焦点の合わない目を彷徨わせる桜を、大河は抱きしめる。

「ちゃんと私も面倒見てあげるから、士郎と一緒に帰ろ?また桜ちゃんの作るご飯食べたいな」
「藤村…せん…せ――」



「とりあえずはこれで一件落着、といったところかしら?」
「そのようだね」
「あらN、いたんですの?」

Nの存在に気付いたのは、このいざこざに一段落ついた時だった。
今まで何も声を出さなかったこともあり気付くのが遅れてしまった。

「彼女、すごいね。あの人を止めるなんて」
「まあおそらく私には無理なことであるのは確かですわね」

話している間、ピカチュウは複雑そうな表情でNの足元にいた。
自身の主であり友であった人間の敵を殺した人。少なからず思うところもあるのだろうか。

「ミスフジムラにとってよっぽど大切な人だったのでしょうね。だからこそ命を賭けてでも助けようとしたのでしょう」
「大切な人、か」


そう呟いたNが何を考えているのか、ルヴィアには分からなかった。

411Tiger&Cherry ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:28:37 ID:E5hoQQIY


「…終わったの、よね?」
「きっと大丈夫です。彼女から殺気は感じられません」

真理とタケシの混乱はだいぶ前には収まっていた。
桜を止めるために戦いに割り込むことも考えてはいたものの、ナナリーがあのフジムラと名乗る女の人を信じて見守ろうという強い言葉に従って見ていた。

『…はぁ、人を見る目はやはりお前の方が上か』

ネモの呟きに何が含まれているのか、ナナリーには分からない。
ただ、あの桜の叫びはあまり他人事とは思えないようなところがあった気がする。

「もう大丈夫なんだから、タケシ、それ仕舞いなさいよ」

真理としてはタケシがカイザギアを使わざるを得ない局面に入らなかった安心が大きかった。
また、桜の言っていた自分が化物、という言葉が妙に気になりもした。
しかしそれ以上に思うこともあった。

(…私もあの人みたいに巧を受け入れることができるかな…?)


「あ、あそこにいるのは…、お〜い、ピカチュウ!!」
「ピカ?!ピカピー!!」

帽子をかぶった男の傍に見えた黄色いのとピンク色の生き物。
どうやらタケシの探していたポケモンらしい。

ピカチュウ達は走り寄り、青年もその後ろにゆっくり続いている。タケシも駆け出そうとする。






ぞわっ

「…ピカ?!」
「ゲコッ?!」
「え?」
『ナナリー!!タケシを止めろ!!』



藤村大河が、桜がどんなになっても受け入れるといったのは本心である。
彼女にとってもう桜は家族の一員に等しい存在であり、桜にとっても間桐の家族とは比べ物にならないほど大切に思っていた。

もしも化物が彼女の中にいるならそれを退治しても桜を助ける。そんな意気込みもあった。
なにより、そんなもののせいで泣いてほしくはなかった。

だから――

(士郎、ごめん)

桜を抱きしめる自身の背後に、こんな自分でもわかるほどのおぞましい存在を感じ取り、
それが体を切り刻む痛みを感じ取る瞬間があっても。
それに体を食われているのを感じ取っても。

藤村大河は声を上げることもなく、また桜に恨みを抱くようなことは一瞬もなかった。
最後に浮かんだのは、かつて憧れた人の遺したたった一人の家族、彼女のもう一人のとても大切な存在。

【藤村大河@Fate/stay night 死亡】

412悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:30:06 ID:E5hoQQIY
あれ…、藤村先生…?どうしたんですか?
なんでこんなところで寝ているんですか?
あれ?これ…何?この赤い液体何なの?
だって、今先生は先輩とみんなで帰ろうって――
じゃあこの地面に転がっている手は何なの?
どうして先生にはお腹が、足が無いの?

こんなの、違う違う違う私じゃない。
違う、これをやったのは………私?

「いやああああぁぁぁぁぁ!!!!!」



それは藤村大河が、ではなく間桐桜が不幸だったというべきだろう。

彼女自身が言った通り、桜の体には有り得てはならないはずのものが存在している。
間桐臓硯によって埋め込まれた聖杯の破片。
本来であれば(少なくとも他者にとっては)それ自体が大事になるはずはなかったが、彼女の属性、それに間桐の魔術属性が合わさったことで黒い影による惨劇が起きてしまった。

そして、ここで一つの要因が入り込む。
デルタギアの副作用、デモンズスレート。
不適合者の凶暴性をあげ、攻撃的な性格を植え付ける作用。

桜はここに来て半日も経たない間、何度それを使って変身しただろうか。
デルタの力に魅入られ、この短期間に既に6度変身している。
そしてその度に彼女の精神を侵していることに桜は気が付かなかった。

その結果、僅かに感じた力を失うことへの恐れが増幅され、そして放心した結果―――

しかしそれだけならばそのようなことは起こらないはずだ。彼女は今まで殺意をもって人を襲うことに耐えてきたのだから。
だから、不幸だったのだ。

桜は一度、彼女に会った時、一瞬、ほんの一瞬だがおいしそうと、そう思ってしまったことがあった。
それが致命的だった。これは常に魔力を求めて空腹だったのだから。それはもう藤村大河を餌として認識してしまっていたのだから。
だからこれを彼女の前で顕現させてはいけなかったのだ。

それだけでは終わらない。
間桐桜は既に4体の英霊を取り込んでいる。聖杯として完成するには程遠いものだが、普通に考えればそれは莫大な魔力である。
そして、冬木の聖杯である以上、その魔力のもたらすものは決まっている。

すなわち殺戮。

その意志が。桜が強固な意志で押しとどめていた呪いが。
彼女の感情爆発により、溢れ出した―――

413悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:30:42 ID:E5hoQQIY


それに対する確実な対応ができたものはいなかった。
グレッグルがタケシを殴り飛ばしたことでタケシは事なきを得たが。
藤村大河を助けられた者はこの場にはいなかった。

だがそれを責めるのも酷な話だ。
それを前にしては、ネモですら戦慄を覚える存在だったのだから。

「いやああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

その桜の叫び声と共に、

「うわあ?!」
「な、なにこれ…!」

彼らの周囲には漆黒の影が覆っていた。

「これは…一体…」


唯一、魔術師でありあれを見たルヴィアだからこそ分かることがあった。
これは異常なほどの濃度を持つ魔力の泥。おそらくはあの時の間桐桜の使った影の魔術に近い何か。
これに取り込まれたらおそらくは命はないということ。

しかし警告するまでもなかった。
この場にいる誰もが、生物としてその危険性を理解したからだ。

「タイガさん!!ルヴィアさん!!」


皆の周囲を侵食するように現れたその泥だが、唯一Nの周りには少量しか存在していなかった。
おそらく桜がNという存在をこの場において認識していなかったためであろう。

「N!早くここから離れなさい!!
 いいですこと?後ろを向いて、絶対に振り向かずに走りなさい!」

今ここにNがいてもおそらくできることはない。ルヴィア自身自分の身を守るのが精いっぱいだ。
ピカチュウやゾロアークも泥に向けて攻撃しているが、成果が出てないことはNも分かっていた。
Nが一瞬、顔を歪めたように見えた後、ピカチュウ、ゾロアークを伴い後ろを向いて走り出した。

それを確認した後、ルヴィアは泥に向けてガンドを撃ち、泥を弾こうとする。が、魔力の量が違いすぎた。大海に小石を投じるようなものだ。

(せめて宝石でもあれば―――っ!)

その存在を肌で感じ取り振り返る。
背後に現れたのは最初に間桐桜と戦った時に現れた影。
そして振り向いた瞬間には、すでにその触手は目の前に迫っていた。



「くそっ、こうなったら…」

グレッグルによって事なきを得たタケシはグレッグルをボールに戻し、カイザギアを取り出していた。
タケシにはこれに対する知識などない。が、もしあのベルトのせいでこうなったのならこれで対抗できると思ったのだ。
もうこれしか手段がないと判断しての彼なりの決意。

「タケシ駄目!それよりちょっと貸して!!」

と、真理がカイザフォンを取り上げ、携帯電話型のそれを銃のような形に折り曲げる。

『Single mode』

ボタンを押し、カイザフォンを向けた瞬間、それから光線が放たれる。
銃器でもなかなかダメージを与えられないオルフェノクにもダメージを与え、あわよくば倒しうる威力の武器。
確かにそれは当てた部位の泥を消し、地面を露出させた。しかしそれだけだ。周りがすぐにその隙間を覆っていく。

「駄目!これじゃカイザでもたぶん無理、変身してもこれじゃ勝てない!」
「でもマリさん、だったらどうしたら―――危ない!!」

そのまま隙間を覆い尽くそうとし泥の一部が跳ねあがり。
跳ねあがった黒い泥は真理に降り注いだ―――

414悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:31:06 ID:E5hoQQIY
『ナナリー、しっかりしろ!!』
「ネ、ネモ…、これは何なの…?」
『私にも分からん。だがこれはいわば悪意の塊だ。
 解き放たれれば多くの人間を殺すぞ』
「これも、サクラさんが…?」
『少なくともあの女が関わっているのは確実だ。
 ……ナナリー、構わないな?』
「私なら大丈夫、大丈夫だから。だからお願い、みんなを助けて!」



真理に降りかかろうとした泥。しかし真理をそれが冒すことはなかった。
ルヴィアに襲いかかる影の触手。だがルヴィアの肉体は健在だった。

地面から生えた別の触手のような何かが真理に飛び散った泥を、ルヴィアに襲いかかった多数の触手を全て斬り払ったのだ。
謎の触手は地面へと戻り視界から消える。と同時にルヴィアはまた別の大きな魔力に似た気配を感じ取る。

そこに立っていたのは、4メートルはあろうかという巨人。生物的であり鋼の巨人といったほうがいいだろう。
この状況で新手の敵かと警戒したとき、その巨人はルヴィアの傍に立つ影を手に持っていた太刀で切り裂いた。
影が形を失って崩れると同時、さらに振りかざした太刀で今度は周囲の木々を切り裂いた。

倒された木々は泥を押しとどめる防波堤と高台としての足場を形成していく。
巨人はルヴィア、真理、タケシをおもむろに掴み、倒された木々の上に運び上げる。

(敵、ではないですの…?)

未だ警戒心は解けない。特に真理にはそれがかつて見た巨大オルフェノクや黒い巨人を連想させ、恐怖心を呼び起こさせる。

『お前たち、早くここから離れろ!!』

しかし、それらは巨人から発せられた声を聞いた瞬間消え、新たに困惑を生み出す。

「な、ナナリーちゃん?!」
『話はあとだ、今からこいつらから抜けられるように足場を作る。お前たちは急いでここから抜け出せ!!』

言うが早いか、巨人は木を切り倒していく。その先、橋を渡ったあたりにはこの泥は届いていないようだ。
しかし泥は防波堤として倒された木々を徐々に汚染、消滅させていっており、足場として倒している木々も長くは持ちそうにない。

「もう!!あとでちゃんと説明してよ!?」

そう言って三人は走り出した。
背後を警戒して、ルヴィアが殿を務めて再び現れた影を牽制しつつ進んでいく。


そして、抜け出すまでの足場を形成するまでもう少しといったところで、彼女は現れた。

「ふふふ、みなさん、どこへ行くんですか?」

三人の後ろに迫っていた影は消失、それと同時に光線が巨人を狙って放たれる。
間桐桜―仮面ライダーデルタ。黒い泥が蠢く中で彼女の放つ銀色のフォトンはこの場では何より異質であり、不気味だった。

「さく―――」
『振り返るな!早く行け!』

放たれた光線を太刀で弾いたナナリーは叫び、ルヴィアすらも残らせようとしない。
間桐桜はもう自分の手に負える存在ではなくなったのだと、いや、元々手に負えるようなものではなかったのだと。
ルヴィアは今更ながらに気付かされた。

415悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:32:28 ID:E5hoQQIY


「へぇ、ナナリーちゃんもやっぱり普通の子じゃなかったんですねぇ」
『……』

ネモは無言で桜に向けてブロンドナイフを発射する。

「う…っ」

桜の体は吹き飛ばされるが、デルタを破壊することはできなかった。
しかし内側には相当のダメージが届いているはず。なのに彼女はゆっくりと、痛みなど感じていないかのように起き上がる。
同時に、マークネモの足元に黒い影が現れる。

『ちぃっ…!!』

その触手がしなる前にネモは下がり、触手の攻撃範囲から逃れる。

間桐桜、いや、デルタを相手にするにはこの得体のしれない泥と神出鬼没の影はあまりにやっかいだった。
特に泥。もしマークネモが足を失い、自身の乗るここまで泥が侵食してきたら対処することはできない。
今はネモが全力でそれの侵攻を抑えている状態であり、ゆえに桜との戦闘に完全には専念できていなかった。



「ねえ、あなたのお兄さん、死んだんだっていってましたよね?
 大切な大切なお兄さん、殺されちゃって。殺した人のこと憎くないですか?」
『…何が言いたい?』
「その人、一緒に殺しにいきませんか?今の私ならあなたのそんな気持ちを叶えてあげられると思うんです」

一瞬、ほんの僅かにナナリーの感情に乱れが生じたのをネモは感じ取る。

(やめろナナリー、こいつの言葉に耳を貸すな!)

さっきの会話の中で投げかけた言葉を、この時ばかりは後悔した。
もしナナリーがそれを望んでしまえば、ナナリーと契約している限りそれに抗う術はない。

「ふふふ、こんな泥人形さんなんかに嫌な感情全部押し付けて、ナナリーちゃんって本当に悪い子♪」

次の瞬間、デルタのいた場所に頭上から太刀が叩きつけられた。
しかし次の瞬間には桜はマークネモの背後に移動しており、そこから光線で撃たれ背から火花が散る。

(くそ、未来視が乱れた…。あんな言葉で心を乱されたか)

しかしある程度の行動のパターンは読めた。
この泥と影は桜を襲うことはない。彼女自身が出しているものなら当然だろう。しかし上手く連携が取れているわけでもなさそうだ。どうにも持て余しているようにも見える。
そして桜自身はあまり動いていない。ほとんどあの強化服の力に頼り切りだ。
加えてそれをもっても、ほとんどが射撃主体。マークネモを相手にするにはそれが最良なのかもしれないし、単純に彼女自身のセンスの問題かもしれない。

背後を振り返ると、さらに光線を放ってくる。
そういう未来が見えたネモは振り向かず飛び上がり、そこからブロンドナイフを飛ばし続ける。
避けることもできずまともに受けているようだったが、狙いは分かっているのかベルトには直撃することはなかった。

地面に着地すると同時に、その場にいた影を踏み潰して行動を封じる。
そして態勢を崩したままの桜にナイフを射出。その腕、足を貫く。

痛みは壮絶なはずにも関わらず無言で動かない桜を、そのまま木に張り付けにする。
ピクリとも動かない桜。
あとはベルトを外し、止めを刺せば終わる。生身状態の桜を斬りつければ、彼女とて殺せるはずだ。

(すまんなナナリー、もうこいつにはこれしか手はないんだよ)

ナナリーの中には殺すことへの抵抗を感じもした。
しかしこの女は生かしておけばもっと多くの人を殺す。それを防ぎたければここで終わらせるしかない。

マークネモは太刀を構えたまま、ベルトに手を伸ばした。

416悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:33:26 ID:E5hoQQIY
時間を掛ければナナリーに危険が迫る。だから迅速に、確実に殺せるようにしなければいけない。
ネモは焦っていた。この得体のしれないものにナナリーが侵されることを。
だから見過ごしてしまった。腕を貫いてもまだ、桜のその手はデルタムーバーを離していないことを。

早く決めたければそのままその太刀で首を落とせばよかったかもしれない。
しかし彼女は、そのスーツを過大評価してしまった。外さなければ倒すのは難しいと思ってしまった。
あるいは、ナナリーの優しさが踏み込ませることを躊躇わせてしまったのかもしれない。


そして、桜に意識を向けるネモは気付いていなかった。
桜のデルタギアを奪われることへの恐怖が、無意識のうちに先の影とは別の、影の使い魔を顕現させていることに。
小人ほどのそれが現れたことに、ネモは足元にそれが取りつくまで気付かなかった。

『な…!まだ、こんな――』

その一瞬、刺さったナイフの力がほんの少し緩み。

「チェック」≪exceed charge≫
『しまった―……!』

ようやく未来を見た時には手遅れだった。
目の前の銀の三角錐がマークネモを撃ちつけていたのだから。

この場においては戦闘中常に未来を見続けるには、そう意識していなければ見ることはできない。
最初に戦ったロロは相性的に不利であり、追い詰められていたこともあって気付けなかったのだ。
そうとは気付かず意識をそれから外してしまった。

今更未来を見ても遅い。見えるのは、この三角錐を通しての必殺のキックを放つ桜。
そんなもの見えたところで動けなければ同じだ。
そして、そのキックはおそらくこのマークネモを持ってしても耐えきることはできない威力を持つと出ている。

(ここまでなのか…?)

マークネモが破壊されれば、ナナリーはこの泥に飲み込まれ、死ぬ。
こちらの拘束から既に解放された桜はこちらに向けてそれを放とうとしている。

(ここで、ナナリーは死ぬ、のか…?こんな女に殺されて…)

こうしている間も、ナナリーからは桜に対する怒りを感じることはできない。
いつもそうだ。この少女は己の怒りを殺し、常に優しい存在であることを心掛け、揚句優しい世界などという夢のような話を信じ続けている。

そして、そんな彼女の負の感情を背負ったのが私――

(…違う)

ならばこの、ナナリーを守りたいという感情は何なのだ?
そう、あの日契約した時から、ナナリーから負の感情を受け取りC.C.のコピーからネモへと変化したあの時から。
ナナリーを守り抜くと決めたはずだ。

(そう、こんな女に殺されるわけにはいかない――
 私はナナリーを守る。私は――)

胸をポインタでロックされ動けないはずの体、その中で太刀を持っていた右腕がピクリと動く。

『泥人形じゃない!私は、ナイトメア・オブ・ナナリーだ!!』

そしてそのキックがマークネモを貫く寸前、

『あああああああ!!』

拘束された中で唯一動いた右腕、その持っていた太刀がデルタを切り裂いた―――

417悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:34:15 ID:E5hoQQIY


「急いで!早くしないとあの影が追っかけてくるんでしょ!?」
「落ち着いて、今はあの影は付いてきてませんわ。だから焦らないで!」
「でもナナリーちゃんは……うわっ!」

泥の上に倒れた木々を踏み台にして進んでいく三人。

例の影をナナリーが引き受けたと言ってもゆっくりはしていられない。
足元の木々はゆっくりと泥に溶かされて消滅していっているからだ。

「あ、やばい!向こうの木、もうほとんど残ってない!!」
「そういえばマリさん、あれ、あの道具!!」
「え!これ?!」

次の木に飛ぼうとした時、その木はほとんど溶け掛けており、人一人乗ることもできそうになかった。
そこで真理はバッグからJの光線銃を取り出し、その木に向かって発射。
すると木はあのときのタケシのように固まり、三人が飛び乗っても大丈夫なほどには頑丈になっていた。

しかし、

「あれ…、次は…?」

そう、それが限度だった。その先の足場は踏み場もないほどに崩れていた。硬化させる以前の問題だ。

ドドドド、ドン

「偶然木が倒れましたわ。行きましょう」

と思っていると、突如木が倒れ新たな足場ができる。

(根元がボロボロだったのが幸いでしたわ)
「あの木もそれで硬くできます?」
「え、ええ。大丈夫、まだ弾は残ってる」

そうしてどうにか次に移ったもののあと少しのところで届いていない。
さらに、ここにきてルヴィアが体の不調を訴え始めた。

「大丈夫ですか?!」
「ええ、大丈夫ですわ…。少し魔力を――いえ、なんでもありませんわ」
「俺に捕まってください。出てこい、グレッグル!!」

タケシはルヴィアの体を支えて歩き、真理の安全をグレッグルに任せる。
が、今迂闊に動くことはできない。先に進めないのだから。
ここはナナリーが追ってくるのを待つしかない。そう思った矢先だった。

「な…、まだ、追ってきますの…?」

泥の中からあの黒い影がまたしても現れる。

「そんな…!じゃあナナリーちゃんは…」
「グ、グレッグル!毒針!!」

グレッグルはタケシの指示に従い口から紫色の針を吐き出すが、その進行を緩めることすらできない。

やがてそれの使役する無数の触手は彼らを捉える。
カイザの変身も間に合わない。

「うわあああ!!」






「リザードン、火炎放射!ピカチュウ、十万ボルト!ゾロアーク、気合玉!」
「グオオオオ!!」「チュウウウウウ!!]

諦めかけた時、影に向けて空から炎と電気と青白い球が降り注いだ。

418悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:35:30 ID:E5hoQQIY

その声を聴き空を見上げた時、タケシは走馬灯でも見ているのかと思った。
その時に空を飛んでいたのは、帽子をかぶりリザードンに乗ってピカチュウを連れた、あれは――

「サト――いや、違う」
「N!どうして戻ってきましたの?!」
「この子達がそう願ったんだよ」


それはあの時離れだしてすぐのこと。
ピカチュウはタケシのことを助けたいと、そう言ったのだ。
これ以上仲間を失いたくないと。無理でも全力を尽くしたいと。
それはリザードンも同じだったようで、ボールを通してもその声が聞こえてきた。

だから、体にダメージの残っているリザードンに無理をいってポケモンセンターまで急いでもらったのだ。
それはリザードン自身が望んだ無茶だった。

そして皆の体力を回復させたのち、今に至る。

「そうだったのか…。ピカチュウ、すまなかったな」
「ピカ」
「ポケモンセンターまで向かったせいで、少し遅くなってしまったことは謝るよ」
「私は逃げろ、といいましたのに。まあ今回は礼を言っておきますわ」
「それに僕も何だか嫌だったしね。見捨てるのは」

Nにはもっと早くから大河の運命が見えていた。にもかかわらず止めることはできなかった。
その判断に間違いがあったと思いたくはなかったが少なからず後悔はあった。
だから見捨てられなかったのだ。

その後リザードンの手により泥から抜け出すことができた。しかし依然ナナリーは追ってこない。
どうしたことか、泥自体は少しずつ減りつつあるが彼女が戻らない以上油断はできない。

「マリさん、俺が行きます」
「タケシ?」
「これがあれば、サクラさんを止められるかもしれない。そうですよね?
 三人は逃げてください。ここは俺がナナリーちゃんとサクラさんを助けてきます」
「そんな…!なら私が行くわよ!何であんたが行かなきゃいけないの?!」
「ピカ!」「グウウ!!」
「ハハハ…、ごめんな、お前たち。こんな辛いことばかり背負わせて。
 でもこういうのは、男である俺がやるべきなんです」

その悲しそうな言葉の中には強い決意があるように見えた。
サトシやヒカリと会うこともできずに自分だけ生き延びてしまったことへの罪悪感もあったのだろう。
それに桜はヒカリに会ったということも気になっていたのだ。

「なるほど、その気概、なかなか見上げたものですわ」
「あなたは――「でも」

と、ルヴィアはそんなタケシの腰を持ち上げ、

「ぐわぁ?!!!」

バックドロップの要領で地面に投げた。

「残念でしたわね。それは私の役割ですわ」

手加減はしたが意識は飛んだようだった。
若干強引だった気がしないでもないが、こうでもしなければおそらく止めることはできないだろう。

419悪意と悪夢―聖杯と魔女 ◆Z9iNYeY9a2:2012/08/31(金) 16:36:39 ID:E5hoQQIY
「あなた達、早く行きなさい。その少女は私が助けますわ」
「待ってよ、何でそこであんたが残るのよ?一緒に行けばいいじゃない。
 ナナリーもきっと戻ってくるから…」
「あれには少し因縁も残っていますし、何よりこうなったのは私の甘さが原因。
 ここから南に下った辺りにカイドウという男と美遊、私の妹がいるはずですわ。詳しい場所はそこにいるキツネが知ってるはず。彼らと合流しなさい」

美遊、そして海堂直也、彼らならば力になってくれるだろう。
特に美遊、そしてカレイドステッキはこの状況を打破しうるかもしれない。もしもアカギ達が第二魔法を使えるというのならば。

「え…、海堂…?それに美遊ちゃんって…、あなたもしかしてルヴィアゼリッタさん?!」
「知ってるなら話は早いですわ。後のことはN、頼みましたわよ」
「―――分かった。あと最後に質問させて。
 また、会えるかな?」
「少し厳しいですわね」
「分かったよ。じゃあ、気を付けて」

あるいはその時藤村大河のバッグを受け取った時には、Nにはその先の彼女の運命は分かっていたのかもしれない。
それでも、最後に掛けた言葉は再会を信じての言葉だった。

そうしてNは気絶したタケシを抱え、真理を無理に引っ張ってその場を離れていった。

(巧―――)

真理は、こんな状況で一人だけ何もできていないのが悔しかった。
そんな彼女が今望むことは一つ。巧に早く会いたい。それだけだった。


【C-5/森林/一日目 午前】

【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:疲労(中)、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:Jの光線銃(2/5)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)、ファイズアクセル@仮面ライダー555、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:巧とファイズギアを探す
1:ここから離れる
2:タケシたちと同行
3:南にいる美遊、海堂と合流?
4:巧以外のオルフェノクと出会った時は……どうしよう?
5:名簿に載っていた『草加雅人』が気になる
6:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
7:並行世界?
[備考]
※参戦時期は巧がファイズブラスターフォームに変身する直前
※タケシと美遊、サファイアに『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えましたが、誰がオルフェノクかまでは教えていません
 しかし機を見て話すつもりです   
※美遊とサファイア、ネモ経由のナナリーから並行世界の情報を手に入れました。どこまで理解したかはお任せします


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