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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

31024-449 似た者同士:2012/07/08(日) 13:32:06 ID:jCmXqLMM
「なあ、徹平」
耳の後ろで名を呼ぶ声がした。暖かい。人間の体温は心地が良い。
「何ですか、先輩」
変わらぬ体勢で俺は返事をする。腕の中にいる人は一寸の身動ぎもせず、
ふたりぼっちだな、と短く息を吐いた。
この人はいつも、考えて考えて結論が出た後にどうでもいいような台詞を口にする。
そしてそのどうでもいいことが、きっと一番掬い上げてほしい部分の薄皮一枚こちら側にあるのだ。
俺はあえてそれを拾わない。この距離感が俺達には必要で、越えてしまったが最後、
只でさえ足場のない関係はどうしようもない傷口の舐め合いになるだろうことは間違いなかった。
そして、俺がそれを知っていて解っていてしないということを、この人はよく理解している。
「‥‥狡い人です」
ふう、と今までに数巡は廻らせている思考をもう一度なぞってから溜め息を吐くと、
彼はゆっくり身を起こした。
同じような焦げ茶の瞳に自分が映る。同意と謝罪の言葉が紡がれる前に、俺はその唇を塞いだ。

31124-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/15(日) 17:35:49 ID:fs1VbmyU
規制で書き込めずもたもたしてる内に時間過ぎたので、ここに投下。


 まだ騒がしい屋敷を出て倉の裏手に回り、雑木林の中。藪をかき分け少し歩いた先にある小さな池のほとり。案の定そこに人影があった。先程の騒ぎの元凶の彼、この家の次期当主は、そこで暢気に鼻歌を歌っていた。こちらが声をかけるより先に、僕に気付いた彼がぱっと笑った。
「怜治、いいところに来た」
「井坂さんがお呼びです。屋敷にお戻り下さい」
 無駄と知りつつ言ってみたが、意に介した様子もない。こっちに来いと、猫の子でも呼ぶように手招きをする。
「結構です。僕の役目は坊ちゃまを屋敷に連れ戻すことであって、坊ちゃまと一緒に木陰で涼むことではありませんから」
 殊更に「坊ちゃま」を強調して言えば、彼は拗ねたように口をとがらせた。
「いやみったらしくそんな呼び方をするな」
「あんな騒ぎを起こすような方には『坊ちゃま』で十分だと思います」
「見合いだって断ってきたんだからそんなに怒るな」
「論点をずらさないでください! だいたいあれは断ったのではなくてぶち壊したと言うんです! それに! 僕がいつ見合いを断ってくれって言いましたか!」
「そうだな。だが、私はお前以外と添い遂げる気など無い」
 言い切られて絶句する。
「いっそ二人で駆け落ちしてもいい」
 目眩までしてきた。
「だから頼む、お前まで、私に見合いしろなどと言わないでくれ」
「あなたは、この家の跡取りなのですよ」
 ようやっと絞り出したが、歯牙にもかけない。
「そんなのは関係ない。お前が私の側にいさえすればいい」
 あぁ、この人はなにも分かってはいないのだ。
 世間知らずのボンボンと元陰間、二人手に手を取って逃げたところで、どうなるというのか。行き着く先は見えている。
 この人に、後悔などして欲しくない。
 頭一つ以上大きな体が、腕が、僕の体を優しく包んでくれる。僕を暗闇から救い出してくれた、優しい手。この場所を手放したくはない、手放したくはないけれど。
「怜治っ」
 焦った声が頭上からふってくる。意味を持たせて這わせた手に、彼の顔がびっくりするくらい赤くなってうろたえていた。
「だからな、お前が大人になるまでは、こういうことは、まだはやいんだ」
 僕がこの家に来る前に何をやっていたのか知っていながらそう言ってくれるのが、嬉しかった。
 けれど今は。
「駄目、ですか。太一郎さん」
 目に浮かんだ涙をそのままに見上げれば、次の瞬間、息も出来ないほど強く抱きしめられた。嬉しくて、また涙がこみ上げてくる。噛みつくような口づけがふってきて、僕はうっとりと目を閉じた。
 たった一回だけでいい。その思い出だけで、きっと生きていけるから。
 彼の着物に手を差し入れながら、今日この屋敷を出て行こうと、心に決めていた。

31224-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/17(火) 17:16:26 ID:B7z81h/s
ぴーんぽーん。
「こんにちはー。」
どんどん。どんどん。
「こんにちはー。千崎さーん。」
がちゃ
「・・・ふぁい。」
「また寝てたんですか。」
「・・・すいません。」
「寝癖ついてますよ。」
「あ、え、どこに。」
「ここです。」
わしゃ
「・・・どうも。」
「入っていいですか。」
「え、あ、すいません。どうぞ・・・。」
「相変わらずのお部屋ですね。」
「どうも。」
「褒めてません。ごみ出しくらいしてください。」
がさ
「甘いものばかりは太りますよ。」
「すいません。」
「しっかりしてくださいよ。じゃ今から作りますんで。」
「・・・どうも。」
じゃっ
とんとんとんとん
じゅうぅぅぅぅ
かちゃ、とん
「どうぞ。」
「いただきます。」
ふうっ、はふ
「おいしい!」
「何日ぶりの野菜ですか。」
「三日、あ、四日です。」
「そうですか。もっときちんと食事をしてください。」
「はい。」
ふうっ、はふ
はふ、はふ
「ずいぶんおいしそうに召し上がりますね。」
「そりゃおいしいですから。ごちそう様でした。」
「お粗末様です。」
「いやそんな。」
じゃあぁぁ
かちゃ、かちゃ
「・・・いまだに信じられないですよ。」
「またその話ですか。僕もです。」
「ですよねえ。俺が町田さんより年上だなんて。」
「十も、ね。」
きゅっ
かちゃ
「よし、と。じゃあそろそろ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「原稿は。」
「あ、いつものとこです。」
「靴箱の上ですね。ああ、ごみも持っていっちゃいましょうか。」
「すいません。」
「いえいえ。じゃあまた来週、同じ時間に。」
「はい。」
がちゃ、ばたん
「・・・。」
がさがさ
びっ
ばりばり
がつがつがつがつ
「・・・。」
言えるわけがない。
本当は料理が好きだったなんて。
甘い菓子は、ごみを出そうと腐心して食べているなんて。
ごみが無くなってきちんとした家になってしまったら
君は来なくなるかもしれない。
不規則な生活も、大量のごみも、空っぽの冷蔵庫も
すべては君の来る日のためだなんて。

31324-529 太平洋のイケメン:2012/07/21(土) 15:41:01 ID:ljg0BuuY

「おおっ」

担任の先生が名の読み上げを止め、名簿を見たまま声を上げた。
「お前達3人、頭文字とると太・平・洋になるな!がはは!」
静かだった教室が、少しだけ笑いに包まれる。
新学期でまだお互いの名前を知らない者が多い中。
どうしたって遠慮がちになるのは仕方ない。
そして僕も周りに合わせて微妙に笑いつつも、
担任の言った事実に少なからず驚いていた。

すると僕の二つ前に座る男が、急に後ろを向いた。
僕が洋野だから、彼が太のつく名字なんだろう。
彼は間の男を見て、そして僕を見て。
僕と目があうとなぜかニコーッと笑った。
人懐こそうな、満面の笑みだった。

それが最初。
いつも僕達3人はひとまとまりにされる事が多いから、自然と3人つるむようになり仲良くなるまで時間はかからなかった。

「なぁチョコいくつもらった?俺はな、25個!」
太田が言った。
「……18個」
平沢が眼鏡のズレを直しながら言った。
「あ、えっと僕は…21個…」
僕も後に次いで報告する。
それを聞いて太田はヨッシャ!とガッツポーズをとった。
「俺が一番だぜ!
平沢よぉ、おまえはもっと女子と喋れ!交流を持て!」
「…興味ない」
平沢はそう一蹴して、持っていた参考書に目を落とす。
やれやれとポーズを取りながら大げさにため息をついた太田が、今度は意気揚々と僕の肩を強く抱いた。
「俺らはそこそこ女子と話すもんな!来年も負けねぇようにしような洋野?」
太田の人懐こい笑顔が近い。
勢いにおされてつい頷く。

「…くだらん」
参考書から目を離さずにぼそりと呟く平沢。

「くだらんとは何だお前。勉強ばっかりしやがってお前」

また睨み合ってる二人に苦笑する。

乱暴でがさつだけど、大柄で運動センス良くて優しい一面もある太田。
寡黙で落ち着いていて、常に成績トップのインテリ系な平沢。
そして何でも平均な僕、洋野。
イケメン二人が女子にきゃあきゃあ言われるのはよくわかるけど、なんで僕ももてはやされてるんだろう。
女子って不思議だ。

31424-539 鶴×亀:2012/07/23(月) 19:03:38 ID:VXHdbCR.
鶴亀算って言葉があるくらいだ。
昔の人は鶴×亀って発想があったのかもしれない。
「そこで、ね。試してみない?」
「お断りします」
「ちょ、鶴さんつれなくない!? 部屋から池垣に半日掛けて抜け出してきたんだよ?」
およよと泣こうとして腕がと足が短くてできないことに気がついた。
「ちぇーつまんないのーつまんないのー」
「だいたい鶴亀算は……」
「理屈はいいの!」
と大きな声を出して僕は甲羅に篭った。
つまんないつまんないと呪詛のように甲羅の中でつぶやいているとハーッとため息をつかれる。
なんだよ子供だと思って鶴は千年亀は万年っていうしいつか君の年を追い越してやんだからな!
大人になったら振り向いてくれるよね?
遊んであげるから出ておいでと声をかけてくる鶴さんに子ども扱いしないでよーと言いながら僕は頭を渋々出した。

31524-569 平和主義と戦闘狂:2012/07/28(土) 10:25:19 ID:Vld23336
なるべく命を奪わなくて済むのならそれに越したことはない?
よくも言う。
己が生きるためという名目の下、その手をどれほど血に染めてきたというのか。
それなのによくもそんな寝言をのたまうものだ。

誰より赤い光景を作り上げ、血に濡れぬ日々などなかっただろう?
いつぞや集団で襲い掛かられた時など、まさに鬼神と称するに相応しい戦いぶりだったぞ。
そして何よりそういう時のお前は、まるでそれが生き甲斐であるかの如く最も活気に満ち溢れていたではないか。
だというのに、実は誰より殺生を好まぬというのか。

――いいだろう。
その下らぬ理想を貫くというのなら見せてみるがいい。
どちらに転ぶのか最後まで見届けてやろう。
お前と私は一蓮托生。
結果がどうあれお前の選んだ道に付いて行くのみ。

31624-589 餃子×焼売×春巻:2012/07/31(火) 17:10:10 ID:DNP4wVWI
俺達は今日も中華料理店で販売されていた。
一番人気は餃子。現地では餃子=ご飯的存在らしいけどここは日本。
おいしい中華のご飯の友だ。
「ちくしょう……ちくしょう」
おいしそうな餃子を見て涎を垂らしている俺は春巻き。
ご飯と食べてもいいけどそのまま食べてもおいしいマルチタレントだ。
「今日も売り上げは餃子だ一番か〜いいな〜」
のんびりした様子で喋るのは俺のマイスイートハニー焼売。
たとえベッドでの立場が反対でも俺にとってはハニーだ
「おっ、焼売じゃん。久々に今夜俺の部屋来ないか?」
「殺すぞ」
たとえ売り上げ的に圧倒的格差があったとしてもここは譲れない。
焼売を部屋に呼びたかったら俺を倒してからにしろ。
「ん? ああ、お前が今のこいつの棒?」
「は?」
棒? なにそれ?
「ちょっ、餃子やめてよ! 昔のことはもう関係ないじゃん!!」
いつものおっとりとした雰囲気をかなぐり捨てて焦る焼売。
「え? 棒? え?」
「いや、春巻き、それはちがっ……」
いきなり餃子が焼売のケツを撫ではじめた。
「裏山……じゃなくてお前何してんだよ!!」
「こいつ、俺の元セフレ。お前は?」
「え……」
その質問を理解したくなかったのか湯島聖堂孔子像の格好のまま固まってしまった。
ようやく頭が回ってきた。セフレはわかる。元ってことは昔そういう関係だったってこともわかる。
でも、棒って?
俺はのんきにそんなことを考えながら現実逃避をしていた。
その疑問に答える光景が目の前にあるにも関わらずに。

31724-639 自己完結:2012/08/08(水) 14:19:41 ID:SvVrfmfM
夏休み、14時22分。最寄り駅まであと10分。
汗で張り付いた制服のシャツを、いっそ脱いでしまおうかと思案していると、土手の方からの川風に交じって耳慣れた声がした。
「好きだ」
と、思ったよりも近く。
右隣、多分滝野の口から。
というか今は、滝野しかいないから。
いや、でも。
空耳か?空耳だよな?
…うん、空耳だよ。
きっと牛丼食いたいとかそんな話を俺が聞き逃したんだよ、そうだろ滝野。
「滝野…?」
想像の500倍くらい情けない声で呟くと、普段と変わらぬ冷めた感じで「なに」と聞き返された。
続けて「お前、顔色悪いぞ、熱中症か?貧血か?」と普段と同じに聞いてきた。
ああなんだやっぱり空耳か、空耳ならいいんだ。
だって俺たちは男子だもの男子高校生だもの、17歳になって全身まるきり男になって、それでだって「好きだ」なんてやっぱりちょっと辻褄が合わないし。
だって俺を好きなら滝野はもっと、もっとそれなりに焦ったりしてるはずだし。
それでだって俺たちは今夏期講習の帰り道だし、滝野は今度から野球部で新主将に…ああ違うこれは関係ないんだ。
だって滝野って巨乳派だって言ってなかった?村上なんとかみたいなふっくらした子が好きだって俺だって筋肉ないわけじゃないから割とゴツっとして村上なんとかには程遠いし…。
いやでもあれはタカちゃんに言わされてただけ?
わかんねえ俺が好きならもっとこう、もっとわかりやすく記号化された数式がabの違う、サインコサインタンジェント、違う!
ああもうぐちゃぐちゃだよ滝野、どうしてくれんだよ。
「…滝野ヒマだろ、俺かき氷食いたい。日野屋で」
「いいけど、具合は」
「元気元気、超元気。ヤリも投げられそう」
「…あっそ」
歩き出した滝野の思い切りのいい歩幅に俺はすぐ抜かされて、でもそれから少し合わせてくれて。狭くもない道で寄ってくる滝野にやっぱこいつ俺のこと好きなのか?って思ったり。
それから日陰を歩かされてることに気付いてやっぱ好きなんじゃん!って思ったり。

だけどかき氷食ったら頭冷えたよ、ちゃんとわかったよ。
やっぱ空耳だ、俺が言って欲しいだけっぽい。

31823-629 戻らない:2012/08/08(水) 17:23:11 ID:v4pRFWNs
好きだと伝えてしまったら、戻れないのはわかっていた。

あの日からあいつは、俺のノートを借りにこない。
俺の飲みさしのペットボトルを奪わない。
出会い頭のヘッドロックもかましてこないし、意味もなく浮かれて体当たりもしてこない。
戸惑ったように揺らぐ目をして、奇妙に引きつった挨拶をよこし、
手が触れない細心の注意を払った位置で、うわっつらの笑みを浮かべるばかりだ。

戻れないのはわかっていた。俺はあいつの友達ではなくなった。

無邪気な友達の距離間は、俺の高校生活にささやかな幸せをくれたけれども
それがいつまでも続くものではないことに、高校時代の友人なんて繋がりのその脆さに、
気づくのをいささか遅らせた。
愉快で楽しい遊び仲間でなく、いちばんのともだちになれていたなら、もう少し違っていたろうか。

戻れないのはわかっていた。かまわないのだ、戻る気などない。

お前は東京の大学に行くっていう。幼馴染のあいつと一緒に、夢を追いかけるという。
そんなにあかるい顔をして、お前は俺のいない未来を語る。
きっと俺は、いつまでたっても、お前にとっては友人Aだ。

もう一生触れなくていい。まぶしいくらいに笑いかけてくれなくてもいい。
それでもいいからなかったことにしないでくれ。
嫌うでもいい、見下すでもいい、もう一生友達に戻れなくてもそれでいい。
お前を泣くくらい好きだったことを、単なる友達じゃあなかったことを、お願いだ、知ってくれ。

好きだといったらもうきっと、楽しい友人には戻れない。
戻らないと、決めたのだ。


ごめんな。

31924-689:2012/08/16(木) 16:36:19 ID:QGPbGlg2
「先生、卒業したら俺を男として見てくれるっていったよね」
卒業式も終わり、クラスの生徒ももう帰っていった教室。
教壇にのしかかって、上から押さえつけてくる石神に答えを出せない。
目を逸らして窓の外を見る。
既に夕陽も落ちて、昼夜変わらぬ桜だけがハラハラと風に飛ぶ様が見える。
「…気の、迷いだ。卒業したんだから、そんな冗談…」
「3年間。ずっと迷うわけないだろ!」
ドンと教壇を叩く肘の音に情けないくらい震える。
「石神…」
「先生、好きだ」
ぎゅうと抱き締められる腕に、応える事は出来ない。
思春期に大人に対する憧れの延長で、身近な教師に対する尊敬を錯覚する事など良くある話だ。
確かにそれは恋かもしれない。
だがしかし、一過性の熱で将来に持ち得る本当の恋人や家族を奪うような事は、教師として大人として人間として決してしてはならない。
「石神、…気を持たせて悪かった。冗談だと思ってたんだ」
だから諦めろ。
こんな事はいつか過去にして、笑い話にしてしまえばいいよ。
「じゃあっ、…抱かせろよ。一回でいいから」
似つかわしくない声に目を上げる。
初めて会った時には幼いばかりだった顔が、今では覚悟をもって成長をした青年へと変わっていた。
石神には出会った時のイメージで記憶が止まっていたんだと、この瞬間思い知らされた。
今初めて石神という男と出会ったような、不思議な感覚。
じゃあさっきまでの石神を思い出せるかと言われれば、酷く曖昧で。
背中に冷たくあたる教壇と、熱い石神の吐息と指。
お前は31日までは僕の生徒なんだよと言えば、こんな事はなかったのか。
この結果を先延ばしに出来ただけなのか。
石神以上に求めてしまう、煮えた頭では答えをだせない。

32024-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/18(土) 17:52:39 ID:4LnM.VSw
一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのととある理由で俺は足繁く通っていた。この店を見つけたのは1年前の冬だ。受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。「特別な日にしか焼かないんだ」おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。「今日は嫁の三回忌でね」悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。それから1年かけて店に通い愛を伝えた。毎日毎日。気の迷いですぐに冷めると言われた。そんな事より勉強しろとも。勿論勉強もした。そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。それから喫茶店には行っていない。今日は合格発表日。通い慣れた道を歩く足取りは軽い。が、やはり不安だ。おっさんはどう反応する?気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32124-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/19(日) 11:32:38 ID:m6k8X4pA
改行忘れたのでもう一度投下



一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。
アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。
場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。
30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのと
とある理由で俺は足繁く通っていた。
この店を見つけたのは1年前の冬だ。
受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は
大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。
寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。
香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。
寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。
「特別な日にしか焼かないんだ」

おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。
「今日は嫁の三回忌でね」
悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。
俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。
それから1年かけて店に通い愛を伝えた。
毎日毎日。
気の迷いですぐに冷めると言われた。
そんな事より勉強しろとも。
勿論勉強もした。
そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。
俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。
「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」
そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。
それから喫茶店には行っていない。

今日は合格発表日。
通い慣れた道を歩く足取りは軽い。

が、やはり不安だ。
おっさんはどう反応する?
気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。
そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。
今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32224-749 妖怪と天使:2012/08/25(土) 18:25:13 ID:lG2jsHbc
規制中なのでこちらに投下します。


「驚いたな。本物を見たのは初めてだ」
頭上から淡々と降ってきた声に、〈男〉は地に伏したまま憮然として顔をあげた。
黄金の髪が絹糸のように流れ落ちる。
「お前は誰だ」
「さて」
食いしばった唇から漏れた問いは、飄々とした口調でいなされてしまう。
憤りに任せて身じろぎをしようとすると、途端に四肢を虚脱感が襲った。
纏わりつくように鬱蒼とした草の感触。
――動けない。
じわり、と焦燥が広がる。
一段と緑の匂いが濃くなったような気がした。
この〈場所〉はおかしい。
否、場所だけではない。
「……お前は〈何〉だ? 私に何をした」
「何もしてないだろう? これからのことは知らないが」
〈それ〉はおかしげに肩をすくめてみせる。
闇色に揺れる髪。だが印象はそれだけだ。
年の頃、体格、顔立ち、その人物を表す特徴を捉えようとすると、それらはひどく不鮮明になった。
そのくせ、その得体のしれない存在感は、まるでその場所と一体化して男の体の自由を奪っているようだ。
「お前が動けないのは、俺のことを〈畏れ〉ているからだ。人の感情の中に産声を上げ、山の暗闇の中で育つ、曖昧で不純なものに」
男の思考を読んでいるかのように、それは言葉を続けた。
いや実際に読んでいるのか。
「何を……」
「この場所に加護はない。光は照らさない。世界中のありとあらゆる場所に届くお前の主の力は」
「我が主は、世界のすべてをお創りになった……!」
「では祈れ」
「く……っ」
不意にその口調が変わった。纏わりつく空気が重くなる。
力の入らない四肢が、体中が、強い力で地面に縫いとめられてぎしぎしと悲鳴を上げた。
強引に顎を掴まれる。
いつの間に近づいたのか、恐ろしいほど端正な顔が間近にあった。
だが、ようやく認識したそれの容貌を観察する余裕は男にはなかった。
「なあ」
「……ッ」
ちらりと開いた口の中で、赤い舌がいやに艶めかしく動いた。
「天使っていうのは〈穢れ〉たらどうなるんだ?」

32324-789 さよならの歌をうたう:2012/09/03(月) 22:30:00 ID:V2cDApTE
ドアの向こうに佐伯の背中が消えるのを確認して、藤野はマイクを置いた。
近頃の佐伯は何かと言えば電話、電話だ。
忙しく話し込んでいる先は実家の家族と職場が多い。
2人でいるときくらいと言ってしまえたら楽だが、そんな約束はしていないので、黙っている。
そもそもそんな必要があるわけでも、文句を言える関係でもない。

演奏停止のボタンを押して、次の曲を呼び出した。
次は佐伯の順番だが、いつ戻るかわからない者を待ってやる必要もない。
初めて一緒に来たとき取り合って、結局一緒に歌うように落ち着いた古い曲。
ワンフレーズめを歌いかけて、藤野はまた演奏を停止した。
他の部屋から漏れ聞こえる歌声と若い男女のはしゃぎ声に、どうしようもなく落ち着かない気分になる。
リモコンの履歴を手繰っては戻り、自分では歌わない歌を送信しては停止する。
いつも、すぐにかすれてしまう声を照れたように誤魔化す佐伯を思い浮かべた。

「なに遊んでんだよお前は」
何度か繰り返した頃、佐伯が部屋に戻ってきた。
体をぶつけるようにして、リモコンを覗き込んでくる。
「遊んでるっていうか……何歌おうかなっていうかさ」
迷う振りをしながら思い出していたのは、何度も聴いた曲だった。
「なんか新しいのある?」
「いや、別に」
「ないのかよ!」
「ていうかちゃんと歌えっかなって」
「ふーん」
佐伯が好きだと言った曲の、次に収録されていたあの歌。
聴きたかったけれど飛ばされるので、隠れてCDを買った。
車の中で見つかって、気に入ったなら貸したのに、と言った後、でもお前多分返さないよなと笑われた。

「あ、俺の入れたの消しちゃったんだ? ま、いいや、休憩ー」
大きくため息をついて、佐伯が隣に沈み込む。
リモコンを見る振りで横目で確認した表情は、少し疲れているようだった。
「電話、なんだった」
「あー……母ちゃん」
「……帰ってこいって?」
「……いや、何も言われてない……まだ」
「ふーん」
ページを送って目当ての曲を探す。今、佐伯のために探しているのは、極めてよくあるタイトルだ。

「なあフジ、俺ちょっと寝てもいい?」
「だらしねえなあ、まだ日付変わってねえぞ。今日は朝まで付き合えって言ったじゃん」
「今日はっていうか、お前いつも言ってるじゃん」
「お前だっていつも言ってるじゃん」
「はいはいごめんごめん、次は起きてられるようにするから」

次、来たときか。
次に会う時には、その次の約束はできるのか。その次は。
言えるわけのないせりふを飲み込んで、送信ボタンを押す。
悲しい歌のタイトルが点滅するのを確認して、藤野は置いたままだったマイクを握った。

「……まあ別に寝ててもいいけど、聴いてろよ」
「何だよそれ」

目を細めて佐伯が笑う。

「おい佐伯、聴いとけよ」
ハイハイ、と生返事を残して、腕を組んだ佐伯が目を閉じた。
つぶやくようにイントロが始まる。何度も何度も聴いたけれど、歌うのは初めてだ。
声が震える理由がわからないように、何度か咳き込む振りをする。

それでも届くように歌うからよく聴いてくれ。できれば最後まで目を開けずに。

324武家×軽業師:2012/09/04(火) 01:42:57 ID:ME5lb6gU
語りたくなりました。まわしついでに語るレベルですみません。
しかもハッピーエンドでもありません。

◇◇◇

軽業師とお武家様は本来身分が違う者同士。

出会いは町中。軽業師が綱渡りをしている場にお武家様が出くわす。
軽業師の華麗な技にお武家様は虜になってしまう。
そのうち軽業師の方も武士が気になってきて、ある日声をかける。
そしていつしか軽業師から誘って一夜の関係をもつ。幸せな一夜を過ごす。
だがお武家様はそれ以降、町には来なくなる。傷つく軽業師。


軽業師の技が話題となって、あるお殿様の屋敷で芸を披露することになった。
だがそこは軽業師を馬鹿にするようなゲスな武士ばかりの宴だった。
軽業師は顔に笑みを浮かべつつ武士に対し腹立たしい。特にお殿様は下品な人だった。
綱渡りの最中に武士の中に、関係をもったお武家様を見つける。
動揺して綱から落ちる。見ていた武士たちからは馬鹿にされる。

宴の後、心配したお武家様が軽業師の様子を見にくる。
怪我は軽かったので平気だと言う軽業師。
お武家様は「あんな危険な芸はやめろ。こんなことで命を落とすなど無駄死にだ」と言ってしまう。
軽業師のプライドを傷つける一言だったので、思わず
「あのお殿様とやらは、あなたが命をかけるにふさわしい人ですか?
あんな人に命をかけているあなただって私と同じ犬死にをするようなものだ」
「無礼な!」
と言い争い。
軽業師は手を出して金をよこせとお武家様に言う。
「ただで楽しもうなんてむしが良すぎでしょう」
怒りを隠しきれないお武家様。懐から銭を投げ捨てる。軽業師を辱める言葉も吐き捨てていく。
銭を拾いながら自嘲する軽業師。
お互いに好きな気持ちはあるのに、世界が違うのだと思い知る。
それ以降二人は会うことはなかった。

それでも軽業師はたまに綱の上から誰かを探してしまう。決しているはずのない人なのに。

お武家様は戦で亡くなる。殿は兵を置いて逃げてしまった。
「ああ、おまえの言ったことは本当のことだった…」と最後に軽業師を思い出して息絶える。

32524-809 武家×軽業師 1/4:2012/09/04(火) 10:59:07 ID:bxDDdcrQ
〈中世〉
高麗や唐土や天竺や波斯よりさらに西の果てから使節団が来朝した
俺は北面武士として、使節団が宿泊する屋敷の警備に当たっていた
端的に言うと一目惚れだ
使節団への歓迎の宴席で警備をしていたときだ
使節団に同行していた軽業師の少年が歌舞を演じ始めた
その美しさは言葉に表しようがなかった
髪は見たこともない白金色
瞳は秋晴れの澄んだ空の色
口さがない輩は「鬼のようだ」などと陰口を叩いていた
俺にはまさに極楽で神仏に仕える小姓の如く見えた
そして、その日の夜に警備係の職権を悪用して……夜這いした
無理矢理に向こうの獣の毛皮で織られた服を剥がすと下には雪のような肌が広がっていた
俺は夢中でその雪原に手と足と舌で跡を付けた
本当はどう考えているかは分からないが、はっきりと俺を拒んでないのも確かだった
それから連夜に渡って俺は体を重ねた
しかし、とうとうその日が来た
使節団は予定の日程を終え、故国に帰朝することとなった
明日の朝に都を離れる
やるのなら今夜しかない
俺は意を決した
少年を無理矢理に連れ出したが、すぐに気付かれてしまった
一時的な潜伏先として予定していた廃寺に潜り込んだが、すっかり周りを検非違使たちに囲まれていた
色に狂った男の末期として俺が自刃するのは当たり前だ
ただどうして自分が恋しい人をこのように巻き込んでしまったのか
「俺はこれから死ぬが、お前は全く死ぬ理由がないから生きて欲しい」
「俺に無理矢理に訳も分からず連れ出されたと言えばお前が罰されることもないだろう」
言葉が通じたかどうか分からないがそういう趣旨のことを俺は伝えた
いよいよ検非違使たちが踏み込んで来るようだ
ありがとう、一炊の夢だったが実に楽しかった
俺は小刀で首を切り裂いた
鮮血が溢れ、意識がかすみ始めた……
その最期の刹那に少年が俺が自刃に使った小刀を手に取って自らの首に刺したのが見えた

32624-809 武家×軽業師 2/4:2012/09/04(火) 11:01:39 ID:bxDDdcrQ
〈近代〉
俺の父親は箱館戦争で五稜郭に立て篭もって最後まで戦った武士だった
祖先を遡ると鎌倉時代辺りまで遡れる由緒正しい武士の家柄だ
ただ江戸の頃には貧乏な御家人に落ちぶれていたようだった
父親は五稜郭で死に損なって刀を置いてそのまま箱館に居ついて商売を始めた
俺は父親が髷を切ってから箱館で生まれた
父親はそれでも武士を完全に止められなかったようで、土地を借りて時代錯誤な剣道場を開いた
場所は露国の教会の目の前だった
一つだけ忘れられない思い出がある
俺が十五歳くらいの頃だったと思う
教会の催事で露国より軽業師の一団がやって来ていた
ご馳走も振舞われるとかで俺も信者でないのにちゃっかり客として紛れ込んだ
そこで凄いものを見た
剣を持って踊っている少年がこの世の物とは思えない美少年だった
俺は息を飲んだ
食べ物目当てだったのに食欲はどこかへ消え失せた
大鍋にたっぷり入った紅い汁物や露国風具入り揚げ饅頭が配られ始めていた
俺はそれを無視して夢中でその少年を探した
なぜか少年は大人たちから離れて教会裏手の白樺の林で一人で佇んでいた
俺はもう居ても立ってもいられなくなって……犯してしまった
一通りの行為を終えると少年は俺のことを責めることもせずにそそくさと教会の方に走って行った
俺はしばらく余韻に浸ってから教会に戻ると、食べ物は全てなくなっていた
少年は大人に告げ口などはしなかったようで、その後にお沙汰は何もなかった
あの少年はどうしているのか……ずーっと心に引っかかったまま時は流れた
その後に俺は地味に商売をしつつ父親から継いだ剣道場の師範も続けた
そして、お迎えがいつ来てもおかしくない齢になった
気がかりは樺太に引っ越した末の息子夫婦と孫のことだ
そろそろ時局の雲行きも怪しくなってきた
早めに樺太での仕事は切り上げて内地に戻って来いと何度も手紙を出したがどうなることやら

32724-809 武家×軽業師 3/4:2012/09/04(火) 11:03:23 ID:bxDDdcrQ
〈終戦直後〉
俺には一つだけ気がかりなことがあった
それは樺太で唯一できたロシア人の友だちのことだ
豊原にあった俺の家の隣家に住んでいたロシア人一家
そこに俺と同い年のロシア人の少年がいた
それはそれは凄い美少年だった
少年雑誌の冒険小説に出てきそうな白皙の美貌の持ち主だった
一家は元々はモスクワで代々続く軽業師の一族だったらしい
ところがロシア革命の混乱で赤軍から弾圧されそうになった
そして流れ流れて東の果てにまでたどり着いたそうだ
きっかけはよく覚えてないけどアイツとは子供のときからよく遊んでいた
親父さんは豊原の競馬場やら料亭の宴席なんかで芸をして生計を立てていた
アイツも親父さんと一緒に芸を見せていた
新しい芸を覚えると最初にこっそり俺にだけ見せてくれた
俺は俺でアイツに祖父から習った剣術を見せたりした
いよいよ戦局が激しくなっても、俺とアイツの友情は変わらなかった
そして日本は戦争に負けた
状況はよく分からなかったが、とにかく豊原に居続けたら危ないようだった
俺は両親と一緒に北海道に引き揚げることになった
アイツとはお別れだ
引き揚げ船に乗るために豊原を出発する前日に最後のお別れの挨拶をしに行った
もう二度と会えないことは何となく分かっていた
合意の上で近所の廃屋の中で体を重ねた
互いに果てて何とも言えない時間を過ごしていた
と、その空間の弛緩を銃声が破った
ソ連軍が侵攻して来たのだ
それからのことは余り記憶にない
ただ逃げることと家族を探すことに夢中だった
アイツに最後の「さよなら」を言うことができなかった
幸運にも北海道へと向かう引き上げ船に両親と一緒に乗ることができた
今はただただアイツの無事をひたすら祈るしかない

32824-809 武家×軽業師 4/4:2012/09/04(火) 11:06:12 ID:bxDDdcrQ
〈現代〉
俺は北海道で一番サッカーが強い高校のサッカー部のキャプテンなんかしている
今日は来日中のロシアの名門クラブのユースチームと試合をすることになった
一番の要注意はユースのロシア代表にも選ばれているフォワードの背番号11の選手だ
とにかくトリッキーなボール捌きが上手でディフェンダーをひょいひょい抜いてしまう
それで付けられたあだ名が『軽業師』なんだそうだ
ちなみに父親はロシアサーカスの芸人で代々続く軽業師の一族と言うのはコーチからの情報
俺も実は家計図なんか残っている武家の末裔だから、そういうのを聞くと燃えるな
さてそろそろグラウンドにあちらさんたちが到着したようだ
その刹那に俺は強烈な視線を感じた
視線の主は……アイツだ
あれが噂の軽業師か?
うわーっ、なんかラノベとかに出てきそうな銀髪の美形の凄いイケメンだわ
……何だろうか、この感じは?
初対面のはずなのにずーっと大昔から知ってた気がする
と、軽業師はいきなり俺の方に向かって猛ダッシュして来た
そして俺に思いっきり抱きついて大声で言った
「ヤットアエタネ!!! コンドコソゼッタイニハナサナイ!!!」
初対面十秒でいきなり凄いことになった
ただ俺もこの軽業師を絶対に離したくないとその瞬間から強く思うようになっていた

32924-869 潔癖症だった攻め:2012/09/11(火) 23:36:32 ID:oMkTkJSM
自分以外のものが不潔に思えて仕方のない時期があった。
例えば、ジュースの回し飲みなんてありえなかったし、ちょっとした物の貸し借りすら苦痛だった。
携帯用の除菌スプレーがお守り代わりだった。
潔癖症を隠したくて周囲から一歩退いていたら、「気難しい孤高の人」というレッテルを貼られていた。

お前と出会ったのは、その頃だ。
明るくて人懐っこくて、ぎこちない態度の俺にも屈託なく話しかけてきた。
お前は俺の対極にいて、俺の理想だった。うらやましかったし、憧れていた。

興味があると言っていたCDを貸した。「すげー良かった!」と笑顔で言われて、つられて笑った。
寒い冬の日、風邪気味だと言ったら巻いていたマフラーを渡された。ほんのり残った温もりが心地よかった。
お前の部屋で、二人で鍋をつついた。その日以降、誰かと同じ器から物を食べても平気になった。

除菌スプレーを持ち歩かなくなった頃、自分の欲を自覚した。
お前を俺だけのものにしたい、お前に触れたい、お前とつながりたい。
最初は信じられなかった。
今まで眠っていたそういう欲求が、一番身近なお前に向いただけじゃないかと思った。
自分の変な錯覚にお前を巻き込みたくないと思って、距離をおいた。
すごく身勝手な振る舞いだったと、今になって思う。
誘われるまま合コンに行って、女の子と知り合った。何度か二人で会って、そういう雰囲気になった。
でも違った。以前他人に感じていた、どうしようもない不潔感は消えていたが、ただただ「この子ではない」という違和感があった。
そこでようやく、俺は馬鹿な遠回りをしていたことに気付いた。彼女には、本当に申し訳ないことをした。

単純なことだ、順番が逆だったんだ。
潔癖症が治ったからお前を好きになったんじゃない、お前が好きでしょうがなかったから、潔癖症を乗り越えてしまったんだ。

本当はまだ、誰かと触れ合うと緊張する。だからうまくいかないかもしれない。それでも、俺は――



なおも言い募ろうとした彼の唇に、オレはそっと人差し指を押し当てた。
告白された時は、これ以上幸せなことはないだろうと思っていたのに、ヤバい、今、泣きそうだ。
訥々と語られたのは、彼の過去、彼の心、そして彼の変化の原因が他でもないオレという嘘みたいな事実。
「いいよ。おまえ相手なら、うまくいかないなんてありえねーもん」
言うなり、ガバリと抱き寄せられた。彼の鼓動が間近に聞こえる。
「ああ、本当に、お前はどこまで俺に甘いんだ」
耳元で囁かれて、思わず顔を上げる。目の前の瞳は、俺と同じくらい潤んでいて。

最初のキスは、二人分の涙の味がした。

33024-959 踏み台になる:2012/09/22(土) 21:55:26 ID:rf5rlYIw
規制ひどいんでこっちに投下



「はい原くんどうぞ」
横矢が壁に背をついて、バレーのレシーブのように腕を構えた。手は足を乗せるため上に向けられている。
「…横矢お前、マジちゃんとついてこいよ?」
「わかったから原くん、早くのぼって」
「一人で帰んなよ!?」
「わかったってばあ」

いつからだろう。横矢がこんなふうになったのは。
自然と踏み台になり、高いものには必ず手を伸ばす、悲しいほど当たり前になってしまったこの身長差。
見下ろされる居心地の悪さ。
こいつに威張り散らす俺をどこまでも滑稽なものに変えてしまう目線の差。
思春期と呼ばれる俺には吐き気がして当然の違和感だった。

深夜の学校に忍び込もう、そう言ったのは俺だった。
下らない度胸試しの一つで、先週バスケ部の森崎がやったばかりだった。校庭に忍び込み白線で書いた「森崎最強」。
もちろん森崎は翌日には校長教頭揃い踏みの中で土下座をするハメになったわけだが、校内での奴の好感度はあがった。田舎の娯楽だ。
それから何度か忍び込もうとした生徒がいたが、皆あえなく大人たちに捕まった。
森崎のあとに続ける者は未だ現れていないのだ。
それはちっぽけな自信をくじかれかけた自分にはチャンスに思えた。
ここで偉業をなしとげて、ひょろ長い図体をした横矢に負けない自分になるのだと、馬鹿げた鼓舞をした。
そして横矢にそれを見せ付けて、その時こそ安寧を手に入れられるのだと。

だがそんな夢物語の薄っぺらな脚本は、早々に破り捨てられた。
警備員だ。
当直室の様子は先程確かめてきたばかりだ。
故に声を荒げながらこちらへ走ってくるあの男は、教員ではない。
まさかここまで徹底されているとは。
「おい、横矢降ろせ!警備員!」
「うそ!?」
「撤収な!」
叩きつけるような心臓の音を聞きながら、汗だくになってもペダルを漕ぎつつけた。
そうして俺にはこんなこともできないのかと悔しさやぐちゃぐちゃとしたものが込み上げてきた。
涙になりそうだったそれを声にかえて吐き出した。文字にもならない叫びが人気のない道路に吸い込まれていく。

自分のことさえ持て余した俺は、その夜横矢がどうしたかなんて、気にもかけなかった。

次の朝ざわつく教室から見えたのは、校庭にいっぱい真っ白な「好き」の文字。
横矢を見ると目を細めて、俺の頭に手を置いた。
なぜだかそれは心地がよくて、胸には消し飛んだ不安の代わりにくすぐったいような予感。
自信ありげな横矢の顔にも、なぜかいらつくことが出来ない。
「今度は置いて行かないでね?」
お前が俺を置いていくから、と、言いかけてやめる。
「置いてかねえよ」
横矢が笑う。
俺も笑う。
季節はもうすぐ本当に秋。
肌寒い廊下の風の奥から、教頭の怒鳴り声が聞こえた。

33125-59 俺のこと好きなんだろ?:2012/10/04(木) 06:25:16 ID:o22jxjt.
私は常識を逸脱したものが著しく嫌いだ。
2年C組の原田は、私の理解の範疇から一歩、いや何歩も踏み外している。
何度注意しても直さないボサボサの金髪。
ゴムで縛った前髪が、教壇から一番遠い最後列とは言え、非常に目障りだ。
そして何より座り方がおかしい。
椅子の上で、ある時は体育座り、ある時は胡座、またある時は正座。
数学の授業なのにこいつが腐心しているのは間違いなく、難しい解を求めることよりも、難度の高い座り方に挑戦することだ。
今は坐禅を組もうとして、必死に右足の上に左足を乗せようとしている。
おい、落ちるぞ。

気づくと、教室のあちこちから含み笑いが聞こえる。
「先生、板書間違ってます」
「え?…」
黒板に目をやると、『原田からの距離』という、紛れもない自分の文字が飛びこんできて、息が止まりかけた。
「あ、あぁ…すまん」
慌てて『原点からの距離』と書き直す。
恥ずかしさで耳が熱い。
私がこんなミスをするなど初めてだ。意味がわからない。

突然、教室の後ろからガタッと大きな音がした。
やっと坐禅を組むのに成功したらしい原田が、バランスを崩しかけて机にしがみついた音だった。
生徒の目線は原田に集まり、その体勢を見て教室は笑いに包まれる。
私も思わず苦笑がもれる。
照れたように笑っていた原田の目が、いきなりこちらを向いたかと思うと、なぜかパアッと明るくなった。
「先生、笑った」
え?
「やっぱさー、先生、」
何だ。
「俺のこと好きなんだろ?」
何を言い出すんだこいつは。

一斉に笑い声が起きる。
「何言ってんだよ」
「原田が先生のこと好きなんだろ」
「お前数学の授業しか出ねーじゃん」
囃し立てる生徒の声がやけに遠くに聞こえる。
原田が何を考えているのかも、自分が次に取るべき行動も、何一つわからない。
こんなの、完全に私の理解の範囲外だ。
私はやっぱり、原田のことが大嫌いだ。

33225-139 軽薄色男受けが本気になる瞬間:2012/10/15(月) 00:31:05 ID:hLv8qZ.A
トロトロ書いてたら被ったのでこっちで萌え語りさせて下さい


恋愛的な意味や性的な意味で本気になる軽薄受けも萌えますが
個人的には戦闘的な意味で本気になる受けを推したいと思います
軽薄で色男、きっと情報を仕入れたり助っ人にするには重宝するけど
一生背中を預ける相棒としては心もとない微妙な存在なのでしょう
そしてそういう性格になったのにも暗い過去やらトラウマやらがあるのでしょう
そんなめんどくさい受が本気になる程惚れるまで攻は相当苦労したと思います
「そいつは止めとけ」と周りに反対され、実際に何度か受けに裏切られ
それでも受けを信じ背中を支え預ける事の出来る男前な攻めさん
そんな攻が瀕死のピンチになり逃げる事も出来ない絶体絶命の時こそ受けが本気を出すのです
明らかに格上の敵に囲まれ、攻めに「僕なんか置いて逃げろ!」と言われ
それでも引かずに出せる限りの本気で戦う覚悟を決める受け
「昔ならお前さんなんか簡単に見捨てれたのになぁ…」
なんて攻めにぎこちなく笑いかける受けはさぞ美しい事でしょう
その後は覚醒した受けが一人で勝っちゃうような愛の力最強展開も萌えますし
受もボロボロになった頃何かが切っ掛けで助かる負けイベント展開も美味しいと思います
(ボロボロの二人で「負けちゃったな」「負けちゃったね」な会話が入るとさらに良いと思います)
またボロボロになった受を見て愛の力で攻復活→力を合わせて逆転勝ち展開も素晴らしいですし
勝ち目が無いと悟った二人が心中するようなBADENDもそれはそれで良いと思います
ですが個人的には勝ち目が無いと悟った受けが最後の力で攻めを回復させる展開が好きです
回復した後「カッコよく護ってあげられなくてごめん」と言い残し死んでしまう受け
肉体は護られたが心は酷く傷付いた攻と肉体は死んだが心は報われた受の対比
そしてビターなEDは今まで軽薄だった受だからこそ生み出せる結果だと思います

つまり何が言いたいかというとたった一人の攻にだけ本気で尽くせる軽薄色男受めっちゃ萌える

33325-209 どんなぱんつはいてんの? 1/2:2012/10/25(木) 03:33:44 ID:9xOU8aik
「どんなパンツはいてんの?」

真夜中に女装して歩いてる所を幼馴染の亮に見られた
慎重に、慎重に、と気を使っていたつもりだったが努力は無駄だったようだ
性癖を除いてだが今まで真面目に生きて来たこの十数年もここで終わる
そういう覚悟を決めて今まで隠してきた全部を亮にぶちまけた
その結果返ってきたのが「どんなパンツはいてんの?」という言葉だ
「…僕の話聞いてた?」
「ん、聞いてたから、下着も女物なのか気になった」
「……普通のトランクスだよ」
呆然とした頭で半ば条件反射のように僕は答えたが
返ってきたのは「ふーん」という気の抜けた返事と
「お前心は女なの?」という更なる質問だった

「さっきも言ったろ!?男だよ!
 男なのに女の服着て喜んでる変態なんだよ僕は!
 やっぱり僕の話聞いてなかったんじゃないか!」
みっともない位取乱した僕といつも通り淡々とした態度の亮との
違いが悔しくておもわず感情のままに捲くし立てた
「いやお前"女装癖がある"とはいったけど心が男か女かは言わなかったじゃん
 ていうかさ、オレがお前の話ちゃんと聞かなかった事とかあったっけ?」
やっぱり亮は嫌味な位冷静で淡々としていて、僕は心底情けない気分だった
「…ないけどさ」
泣きそうな声でポツリと言うと
「だよなぁ」
何だか少し楽しそうな声が返ってきた

33425-209 どんなぱんつはいてんの? 2/2:2012/10/25(木) 03:34:43 ID:9xOU8aik
「こんな女装男と居る所見られたら君まで誤解されるよ
 大体亮だって僕が変態だって知って幻滅しただろ…、もうさっさと帰ってよ」
やっぱり泣きそうな声でそう言った瞬間堪えきれなくなった涙が一粒足元に落ちた
いい歳した男が女装して幼馴染の前でメソメソ泣いてる、本当になんて情けないんだろう
「まあオレもゲイでネコだからさ、変態同士って事でそんな気にしなくてもいんじゃない?」
感傷と絶望に浸っていた僕はサラリと告げられたとんでもない発言に弾けるように顔を上げた

「なッ、何それ!嘘!?僕の事からかってる!?」
「オレがお前に嘘ついた事とかあったっけ?」
「ないけどさ!ないけどさぁ…!!!」
夜中って事も忘れて大声で叫ぶ僕の口にしーっと人差し指を当てる亮
「そんなに信じらんないなら好みのタイプでも教えようか?
 えーと、真面目な慎重派で鈍感で思いつめやすい手のかかる感じの…」
「うわあ!いい、もういい!何かリアルでヤダ!」
余りにも衝撃的過ぎる展開に感傷と涙は引っ込んでしまった

僕は亮の手を引っ張って早足の大股でズカズカ家へと向う
「と、とにかく一回ちゃんと話しようよ、今日は僕の家に泊まって貰うからね!」
「なあ、さっきの続きさぁ、自分の事より他人の心配ばっかする様な奴が好みだよ、オレ」
「それはもういいってば!幼馴染の好みの男性像とか聞きたくないよ僕!」
すっかり忘れてたけど僕今女装中だし亮に色々聞かなきゃいけないし
速く部屋まで戻らないと、いつも通りゆっくり歩く亮を半ば引き摺るように進む
「…はぁ〜、にぶちん」
「え?亮なにか言った?」
「さあ、空耳じゃないの?どうでもいいけどさ、今日月綺麗だね」
言われて夜空を見上げてみると確かに今日の月は濃い黄色が綺麗だった
「ん、ほんとだ綺麗、言われるまで気付かなかった」
「ダロ」

(…やっぱ、にぶちん)

335強がらない:2012/10/27(土) 19:41:45 ID:9P9LIwa.
沢田は昔から強がりだ。

俺は今、沢田が大学で1番の美女に一世一代の告白をした河原の土手にいる。
沢田は隣に座っている。見てる奴なんか誰もいないのに、泣かない。沢田は幼稚園の頃から一度も、人前で泣かない。

しかし泣きたいのは本当は俺の方だ。
何が悲しくて10年も片想いをしている奴の告白を見届けなければならなかったのだ。
フられてホッとしているなんて、沢田には死んでも言えない。

でも。沢田と違って強がれない俺は、好きな奴が悲しそうなのを見て、そして、俺が1番言われたいことをあんな女に言っていたのを見て、懸命に涙を我慢している。

「しん、なんでお前が泣きそうなんだ」
沢田は俺の顔なんか見なくても、俺が泣きそうなのをわかっている。
「お前が強がって泣かないからだ」と答える。本当は違うが。

「じゃあ、お前が泣けないと言うのなら、おれはもう強がらない。泣くよ。お前も泣け」

驚いて隣を見ると、沢田は初めて俺の前で泣いていた。ただ静かに、涙を流していた。

だが、俺は泣かなかった。
沢田、知っていたか?
俺は、お前が俺の目の前で安心して泣けるような男になるのが、小さい頃からの夢なんだよ。
大きく息を吸って、沢田の手を握った。

「沢田、俺はお前の事がずっと」

336暗殺者と虐殺者:2012/10/31(水) 12:16:44 ID:5jva7xIM
暗殺者は受けた仕事を淡々とこなし感情は込めないし仕事を選ぶこともない。
虐殺者のほうは自分の価値観で仕事を選び、許せないと思った奴だけを残虐な殺しかたで殺す。
全然違う人種なのにお互いを「人殺しは斯くあるべき」と尊重していた。

顔も名前も知らなかった2人が偶然出会い、同業者ならではの鋭さでお互いに正体を知られ、自分を偽ることなく関係を築き上げていき、今までの罪と向き合い2人で足を洗うかと悩みだしたその時、それぞれに対して殺意を向ける復讐者が現れ、暗殺者には虐殺者暗殺の依頼が、虐殺者には暗殺者虐殺の依頼が届く。



…という心中ENDまっしぐらな設定を数分で思いついた。
誰か最後まで完成させてくれたらいいのに。

33725-459 京都人×東京人:2012/12/04(火) 06:48:56 ID:KoHSiJGY
地元の人から見たら京都弁が間違ってる感じがありまくりですが
脳内補正していただけると助かります。
==========

出会ったのは夏の頃、その1年後に同棲することになった2人。
「食事の支度は交代で」というルールになり、最初のうちは
「はぁ? なんでお出汁取るのに昆布使わへんの?」
「えー、そんな薄い色の醤油使った煮物なんて美味しくなさそう」
とか言いつつ少しずつ妥協点を見出してきたのだけど、
大晦日の晩に正月用の雑煮の仕込みをしているときに
作り方の決定的な違いに気がついてケンカになった。
「嫌やわぁ、切り餅なんてめっそうもない。
 ましてやお醤油色の雑煮なんて絶対あきまへんえぇ!」
「おい、それ味噌汁に餅入れただけだろ、
 そんなの正月じゃなくても食えるじゃねーか!」
そのままケンカは互いの実家のお節料理の違いにまで発展し、
「もういい! 黒豆のちょろぎを馬鹿にする奴の顔なんか見たくない、
 ここから出ていけ!」
「出てけとは何様どすか?! いも棒の美味しさを分からへん人のことなどもう知らん、
 言われなくても行くわぁ!」
と京都人の方が家出することになった。

当初はお互い頭が沸騰していて気がつかなかったけど、
あとは餅を茹でて入れるだけの状態まで作った白味噌雑煮の味見をした東京人、
実は普段食べている味噌汁よりも奥深い味わいで美味しいことに気がつき、
慌てて部屋を飛び出して京都人を探しに行く。
一方の京都人、あまりに慌てていたので上着を着るのを忘れ、
東京人が飛び出したのと入れ違いにこっそり部屋に戻ってきた。
自分が雑煮を仕込んでいた鍋とは違う鍋が台所のコンロに乗っているのを見つけ、
そこには東京人が仕込んだ澄まし雑煮の汁が入ってたので何気なく味見。
実は「あまりに醤油の色をつけたら食べにくいだろう」と思って
東京人が京都人に合わせて薄口醤油で仕上げてあることに気がついた。
やはり京都人も慌てて東京人を探しに部屋を出ようとしたところ、
玄関先で鉢合わせ。
「お前何やってるんだよ?」
「さぶいぼ立つほどひやこいさかいに上着取ってこよか思うて。
 あんさんこそ何してますの?」
「探しに行くのにむやみに歩き回るよりはと思ったから自転車の鍵を取りに…。
 というかさぁ、互いに作った雑煮を1杯ずつ食えばいいんじゃないか?」
「ああ、それがええ。ほなそうしましょ」
翌朝互いに作った雑煮を交換して食べたが
「うっぷ。さすがに餅4つは多い…」
「あーしんどい。他のごっつぉ入らんわぁ」
と苦しいお腹をさすりながら足を伸ばし、
こたつに入ったまま畳に寝転ぶ姿はどちらの地方も差がないのだった。

この2人は毎年正月の雑煮をそうやって2杯食べるといいと思うよ。

33825-639 酌み交わす:2012/12/20(木) 13:00:17 ID:8oJIvay6
萌え語りさせてください
1.忘年会で返杯につぐ返杯で、酔ってタメ口になって和気藹々と明るく酌み交わすリーマンが一番に浮かぶけど

2.バブルの頃のクリスマス
デートの予定もないしバカ騒ぎのパーティも苦手で不参加の男同士(両片思い)が食事でもと出かけるが、どの店も満席で入れない
どっちかの家に行くのもなんか気恥ずかしくて、街うろついてやっと見つけたのは純和風の小料理屋
店の雰囲気でビールではなく熱燗頼むけど、お銚子や杯の扱いに慣れてなくてぶつけたり入れすぎたりと、ぎこちなく酌み交わして数十年
一緒に暮らしてる二人が、こんな冬の夜にコタツに入って熱燗をごく自然に酌み交わしながら鍋つついて暮らしてる、なんてのもいい

3.それなりの地位のライバルが、お前がまさかこんな所にくるのかって路地裏の屋台で鉢合わせ
帰るのは自分が逃げるみたいで嫌で、気に入らないけど同席することに
やる気のない店主が二人の間に一升瓶置いて仮眠してしまう
「冷かよ!」と文句言いながら飲むんだけど瓶の手酌は注ぎにくくて、会話はないのに自然と酌しあってコップ酒を酌み交わすとか

冬、男同士、酒って萌えの宝庫だ!

33925-699 あいみての のちのこころに くらぶれば:2012/12/28(金) 14:07:22 ID:hHGhJdFs
規制にひっかかってダメでした。700さんじゃありません。

-------------------

百人一首漫画にのせられて、競技カルタをはじめてみた。
やってみたら面白くなってしまって、俺は才能もあったみたいで
トントン拍子に勝てるようになってしまった。
運動神経もいいし、耳もいいし、勘もいい。地元では敵なしだった。
あまりにもちょろかったから俺は天狗になっていたんだろう。先輩から軽く戒められた。
「お前は確かに強い。でも、もっと強い人はたくさんいるぞ」
そりゃあいるのだろうけれど、そうですねと流していた。

ある日、お前の競技スタイルと違うから参考になるだろうと、先輩がDVDを持ってきてくれた。
テレビ出演してる時点で相当うまい人なんだろうとは思っていた。
だが、予想よりも強かった。本当に強かった。
こんな札の取り方があるんだ、守り方があるんだと、驚いた。
しばらく声も出なくて、やっと出た一声は
「この人と対戦するにはどうしたらいいんですか?」だった。
「お前、名人戦に出るつもりなのか」と先輩に笑われた。
その頃の俺は、名人戦にはどうやったら出られるのかも知らなかった。

彼とはじめて対戦するのは、それほどかからなかった。
別に俺が名人戦に出られるようになったわけじゃなく、
彼が地元に招待されて記念試合を若手としてくれたからだ。
あっさりと俺が負けた。彼は礼をしてニッコリしながらさっさと席をたってしまった。
俺はこんなに弱かったんだと茫然自失だった。

それ以降の俺は人が変わったように練習の虫になってしまった。
地元では練習相手が見つからず、カルタの為に引っ越していた。
もう一度、彼と戦いたくて。
もう一度、彼に逢いたくて。

『「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」
恋しい人と逢瀬を遂げてみた後の恋しい思いに比べれば、昔の恋心などなかったようなものです―――』

女とやったら忘れられなくなりましたなんて、エロ思考な歌だと思っていたけれど、
それぐらい夢中になれる人に会ってしまったんだな。

数年たち、俺の目の前には彼がいる。
「よくここまでこれたね」
「頑張ったんで」
「思ったより遅かった」
今までの、冗談ではない本当に血のにじむような努力が頭の中を駆け巡り、
カチンときた俺はふてくされながら
「はあ?そうですか? 俺は思ったより早かったですけど」というと
「僕が年をとってから来れられても、卑怯だよ」と彼はさらりと答える。
そのくらいのハンデをくれたっていいじゃねえかと俺は心の中で毒づいた。
「じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
礼をして、俺は耳を澄ませた。
あとは、札を読む音と、畳のなる音だけが響いた。

34025-649 坊ちゃん×幼馴染の使用人:2013/01/02(水) 18:52:52 ID:kMwHVWgY
お題を見た時、坊ちゃん×坊ちゃんの幼馴染's使用人と勘違いしたw
萌語りをします。

腐れ縁の使用人がタイプ過ぎて、毎日押しかけたりセクハラしたり、引き抜きさせてくれと頼み込んだりする攻めに、面白がっている主人(幼馴染)の手前全力拒否できないドン引きな快活な受け。
攻めが大規模かつ空回りのプレゼントを用意したり、真面目になる攻めに時々絆されるけど身分の違いに迷う受けだったり、腐れ縁だからこそ攻めに辛い忠言をする幼馴染だったり。
スピンオフには、攻めの使用人×幼馴染なんて如何だろうか。


幼馴染の使用人に坊ちゃんと呼ばれる一般人の内気攻め。主人の昔からのご友人としか認識しない笑顔仮面の受け。
金持ちの使用人としてのしがらみや建前ばかりの受けの世界が分らなくて、理解しようと頑張りつつも本音を聞き出したいと受けに訴える攻め。攻めの真っ直ぐさに遠ざけたくなったり、攻めに近しい主人に嫉妬する自分に驚愕したりする受け。
幼馴染は昔から支えてくれた攻めと受けが幸せになることを何よりも望んで色々裏で手を回せばいい。


始めは文章を書くつもりだったが、途中で挫折しました。はい。

34125-729 寝正月:2013/01/03(木) 16:52:00 ID:jwbArMPs
正月早々病で床についているのは縁起が悪いので『寝正月』と言い換えるとは、先人たちは洒落ている。
だが、言い方を変えも病気は病気だ。
通いの者は三が日は休みを取って家には一人きり、さてとうしたものか。
食欲はないので、水だけで持たないだろうか?
ラチもないことを考えていると、縁側のガラス戸の開閉音と小走りの足音が聞こえてくる。
そして私のいる寝間の障子がからり開かれた。
「ああ、やはり寝込んでる」
「入ってくるな。風邪がうつるぞ!」
予想通りの相手に語尾を強めて言うが、彼は聞いていないかのように全く気にせず枕元に腰を下ろした。
「茶会に来ていなかったから、もしやと思ってきてみたら案の定だ」
「・・・・・・」
少しでも接触を避けるためと、こんな情けない姿を見られたくないのとで布団を目元まで引き上げるが、彼は腰を下ろすと手にしていた折り詰めを枕元に置く。
「料理を詰めてもらった。食べるか?」
今はまだ味の濃いものは欲しくなく、首を横に振る。
「なら蜜柑はどうだ?」
そういって袂から取り出しされた小ぶりの蜜柑を、つい凝視してしまう。
「剥いてやろうか?」
「自分で出来るから、とりあえず出て行ってくれ」
布団越しに小声で頼む私に、彼はあきれたようにため息をつき、
「せっかく来てやったのに、冷たい奴だな〜」
「うつしたくないから、出て行けと言ってるんだ!」
つい大声を上げてしまった私に、彼は怒るどころか笑顔を向けた。
「俺は丈夫だから平気だ。だから、お前が良くなるまでついていてやる」
「・・・・・・」
まったく人の話を聞かない彼に腹が立つよりも、呆れるよりも、一人でなくなることへの安堵を感じた。
「とりあえず粥でも作ってやろう」
「お前が!?」
「米と水があればなんとかなるだろ?」
それを食べるのは私か?と心配になったが、勝手場に向かう彼の後ろ姿を見送りまあいいかと思えてきた。
彼がいるなら、寝正月も捨てたものではないだろう。

34225-739 強くてニューゲーム(1/2):2013/01/04(金) 01:22:21 ID:8zR/OyEI
やり直しているんです。
彼と何の障害も無く一緒に居られるために。

僕は平民の出で、彼は良家の次男坊です。
身分差など気にせず、彼は対等に接してくれました。僕を見下したりしなかった。
僕の描いた絵を彼が褒めてくれて、屋敷に招いてくれたのが交流のきっかけです。
僕らは最初は良い友人になり、僕は彼の元へよく通うようになりました。
そしてじきに友情を越えて愛し合うようになったのです。
そのことはバレませんでしたが、彼の両親は、友人としての僕すら認めてくれませんでした。
無学な貧乏絵描きなど、友人に相応しくないと交友を阻まれたのです。
出自を考えれば当然のことだったのかもしれません。
しかし僕は諦められなかった。彼を説得し、僕らは逃げた。
ところが優しい彼は、捨ててきてしまった家族のことをずっと気にしていて、何度も連絡を取ろうとした。
その度に僕は説得していたけれど、そのうち彼は気に病むあまり、本物の病に倒れてしまったのです。
来世で会おうという僕への言葉と、家族の謝罪の言葉を口にして、彼は逃亡先で息を引き取りました。
僕は泣きました。同時に、どうしようもなく悔しかった。
来世だなんて、そんなもの。会えるかどうかわからないじゃないですか。
僕は嫌だった。僕は今生で彼と結ばれたかった。堂々と彼の隣に居たかった。
だから、やり直した。

彼の両親に見下されないように、僕は必死で勉強しました。
絵で稼いだ金はすべて本へとつぎ込みました。彼に釣り合う教養を手にしたかった。
ところがやはり反対されたのです。今度は家柄が釣り合わぬと言われました。
しかも、彼が席を外しているときに、ひどく高圧的に。
息子は将来この家を背負う人間なのだ、君のような者と付き合っていると堕落すると。
なんて馬鹿馬鹿しい人達なんだろうと思いました。あんな人達と彼とが血が繋がっているなんて。
あのときの悔しさが腹の底で蘇りました。僕は我慢できなかった。
その頃はすでに、僕と彼の関係は深くなっていました。
彼が僕の部屋で眠っているときを見計らって僕は彼の屋敷へ向かい、火を放ちました。
これで邪魔者は居なくなると僕は安堵していました。
ところが、計算外のことが起こった。
夜が明けぬ内に彼が目を覚まし、僕が居ないのを不審に思い、家の方へ戻ってきてしまったのです。
燃え盛る家を見て半狂乱になった彼は、僕の制止も聞かず家に飛び込んだ。
そして炎に包まれて、彼は焼け死んだ。
僕は心から後悔した。それこそ死ぬほどに。
だから、やり直した。

今度は彼に出会うずっとずっと前から、僕は準備しました。
慣れない媚を売って愛想笑いを浮かべて金持ち連中に取り入って、とある家の養子に収まりました。
屈辱的なこともありました。我慢も沢山しました。好きな絵を描く時間もなかった。
でも彼と共に居られない辛さに比べれば、なんということもありませんでした。
これで平民だと馬鹿にされることはなくなったのだから。
そして進学させて貰い、僕は彼に再び会うことができた。
それはこれまでの出会いとは違ったけれど、彼は彼のままでした。僕の愛する彼でした。
すぐに僕と彼は良い友人になった。今度は彼の両親も何も言いません。
僕は嬉しかった。してきた事がようやく報われたのだと。
ところが、また計算外のことが起こった。いや、起こっていた。
彼に、許婚が居たのです。そんなもの僕は知らなかった。
『過去』にそんな女性などいなかった。
しかし『今』はそれが現実でした。
僕が彼に釣り合うよう必死に努力していた陰で、彼は僕ではないひとを好きになっていたのです。
信じられなかった。
何も変わらない筈なのに、不都合な現実を変えたきただけの筈なのに、変わってしまっていた。
絶望する僕には気付かないようで、彼は僕に笑いかけました。
「うちに来て絵を描いてくれないか」と。よりにもよって、彼と許婚の二人の絵を。
そのときどんな顔をしてどんな返事をしたのかはよく覚えていません。
ただ、家を訪ねる約束をして、一旦帰宅して、僕は絵筆の代わりに、ナイフを握りました。

34325-739 強くてニューゲーム(2/2):2013/01/04(金) 01:24:47 ID:8zR/OyEI

僕はやり直しているんです。
彼を愛しています。彼も僕を愛してくれています。
彼の隣に居るためにやり直しているのに、どうしてこんな風になってしまうのだろう。
今度こそ、今度こそ、上手くやらないと。
あの、僕は死刑になるんですよね?二人も殺してしまったのだから、そうなりますよね?
捕まるなんて、これも計算外だった。
時間が勿体無い。早く死刑にしてください。僕は、早くやり直さなければならないのです。



「馬鹿だな、君は」
私は目の前の男に言葉を投げたが、彼の瞳は虚ろでこちらの言葉は届いていないようだ。
言いたいことをただ一方的に喋るだけ喋って、あとは薄く笑みを浮かべているだけ。
彼の言を信じるのなら、またやり直すことができると確信しているからだろう。
「君は一刻も早く死にたいようだが、今の君は神経衰弱だと診断されている。
 よって死刑にはならない。『今回の』君は、残りの一生を病院の中で暮らしていくことになる」
勿論、死は平等だからこの男にもいつか訪れるだろう。しかし、それは彼の望む時期ではない。
彼にとって辛い事実を突き付けているも同然の筈だが、やはり彼からの反応は無い。
しかし私は構わず彼に語りかける。
「まったく、君の執念には呆れを通り越して感心するよ。それは君の美点でもあると思うが、同時に欠点でもある。
 先程も言ったが、君は馬鹿だ。美点を美点として制御できれば、いくらでも幸せになれるだろうに」
一つのことに目標を定めると、周りが見えなくなる性質なのだろう。
しかし見えなくなるにしても限度がある。
「今にして思えば、駆け落ち程度で驚いていたのは浅はかだったよ」
私は少し前屈みになって、男の瞳を覗き込む。
「邪魔な家族を殺そうとしたところまでは、理解したくもないが理解しよう。
 しかし、まさか弟本人にまで手にかけるとは思わなかった。婚約者諸共とは言え、ね」
「おとうと……?」
男はぼんやりとそう呟き、不思議そうに首を傾げた。
もしや会話が成り立つかと期待して続く反応を待ったが、またすぐに彼の瞳は虚空へ戻ってしまう。
私はため息をつき、背もたれに凭れ掛かった。
「私の話を簡潔にしてあげよう。
 一度目、私は君達を追って愚かにもこの身体で屋敷の外に一人出て事故に遭った。
 二度目、君の放った火にまかれて逃げられないまま焼け死んだ。
 三度目、弟に君を屋敷に招くように頼んだ。『一応の用心で』、警備員と医者を手配した。
 それからこれは私の希望が混じった推測だ。
 一度目、弟は君の目を盗んで一度だけ実家へと連絡を取り、私の死の経緯を知った。
 二度目、私の身を案じ、弟は自分の危険も省みず私を助けに向かおうとした」
目を細めて彼を見据える。
恐らく、弟を失ったと同時にこの男は死を選んだ筈だ。
ならばもし、彼が自殺を選ばず――選ぶことができず、このまま無様に生き長らえたら。
考えているとふと背後でノックの音がして、ドアが開く気配がした。
「お時間です」
聞こえてきた事務的な声に、私は振り向かずに頷く。
「ああ、結構だ。行こう」
静かな足音が背後まで迫り、失礼しますとの声と共に、私の車椅子はゆっくりと方向転換する。
私は最後にもう一度男の方を見やり声を投げる。
「また来るよ。次はカンバスと絵の具を持って。実は、私は君の描く絵画のファンなんだ」
反応は無い。
私は笑みを浮かべた。視界の隅で迎えの男が僅かに眉を顰めたが、何も言わなかった。

真っ白な部屋を退室し、無機質な廊下を進みながら私は問いかける。
「弟達の容態はどうかな?」
「はい。依然、意識は戻られておりませんが、峠は越えたと先ほど連絡が」
「それは良かった。落ち着いたら花を持って見舞いに行こう。
 しかしまずは、先方への根回しが優先だな。あとは父さんと母さんにも適当な説明が必要か」
あまりご無理をなさりませんように、という言葉が降ってくる。私は鷹揚に頷いてみせた。
わかっている。
わかっているが、逸る気持ちを抑えるのは難しいのだ。
今度こそ、私は何をも失うわけにはいかないのだから。

34425-749 猫っぽい人×犬っぽい人:2013/01/06(日) 00:41:36 ID:Pqo1mpqw
職場の飲み会、その二次会の帰り、店横の路地での出来事。
好きです、と彼は呟くように言った。
真っ赤にした顔を俯かせて、俺のコートの袖を掴まえている。
「初めて会ったときから、初対面ってカンジがしなくて……きっと一目惚れなんです」
そのままの姿勢で、つっかえつっかえ喋っている。
「自分でも、おかしいって思います。でも俺、気がついたら、先輩のことばかり見てて」
「お前、酔ってるな」
「酔ってます。酔ってなきゃ、こんな告白できないです」
やや乱暴な口調と共に、彼は意を決したように顔をあげる。
まだ少し幼さが残る顔は、強気な声とは裏腹に今にも泣きそうだった。
感情が顔に出やすいんだなと考えている俺に、彼は繰り返した。
「好きです。俺、先輩が好きです」
「………」
酔っ払った冗談だろうとか、反応を見て後でからかうのだろうとか、そんな風に考えることもできたが
そのときの俺はただ「本気なんだろうなあ」とぼんやり思っていた。
彼が配属されてきてからからまだ一ヶ月しか経っていない。そこまで多く言葉を交わした覚えも無い。
それでもなんとなく、彼は本気なのだと確信していた。なんとなく確信、というのも変だが。
とにかく、ならばこちらも真面目に返さなければならない、そう思った。
「そっか。ありがとう」
言って、空いていた左手で彼の頭をぽんぽんと叩く。
それに驚いたのか軽く目を瞠っている相手に、続けた。
「ごめんな。俺、明日は早出だからもう帰らないとならない」
ごめん、と俺は頭を下げた。
途端、ずっと掴まれていた右腕が解放される。
次の瞬間には、彼は俺とは比べ物にならないくらい深く頭を下げていて、そして
「すいませんでした!」
と叫んだかと思うと、くるりと回れ右をして、恐ろしい速度で走り去っていく。
否、走り去っていくと俺の脳が認識した頃には、走り去っていた。
俺はぽかんとしていた。
なんだ今の一連の動作は。瞬間芸か。本当に瞬間すぎてついていけなかった。
「…………」
それからしばらくの間、その場に突っ立ったまま考えた。
電話して呼び戻そうかと考えたが、そういえば彼の携帯番号を知らない。
「……。ま、いいか」
どうせ明日また会社で会うのだから、そのとき聞けばいい。そう判断して帰宅することにした。

今思えば、俺も多分に酔っていたのだ。

その三日後に判明したこと。あのとき彼は、俺にお断りされたと思ったらしい。
「だって、謝られたから、俺はてっきり…」
「ありがとうって言ったろ?」
「もう帰るって言ったじゃないですか」
「早出」
「確かにそう聞きましたけど!」
フラれたと勘違いした彼は、あの後クソ寒い中、公園で一晩泣き明かし
その翌日から風邪で会社を休んだ。正直、馬鹿だと思う。
そして俺も馬鹿だ。彼に連絡を取ったのはその更に二日後だった。
「嫌いな奴の頭は撫でない」
「宥められたんだと思いました。先輩に気を遣わせて、俺、申し訳なくて。居たたまれなくなって」
気持ち悪がられるの覚悟してましたから、と言う。
この三日間、彼がどんな気持ちで寝込んでいたのか想像して、俺は一つ息を吐いた。
「ごめん。これからはもう少しきちんと喋るよう心がける」
「っ、俺も、もっとちゃんと、話を聞くようにします!本当にすいませんでした!」
これからよろしくお願いしますっ、とまた勢い良く頭を下げている。
面白いやつだなあと今更のように思う。
「うん。よろしく」
再び、彼の頭をぽんぽんと叩いた。

34525-829 イカ×タコ:2013/01/17(木) 23:55:45 ID:1Uy9IfeI
神様は不公平だ。
イカもタコも海の悪魔と呼ばれ同じように恐れられているのに、実は奴と僕には差がある。
今まさに、それを思い知らされていた。
イカの手に僕の五本の手と大事な部分は絡み付かれ抵抗出来なくされているのに、イカにはまだ二本も自由な手があってそれが僕の体をくまなく這い回る。
「離せこのすっとこどっこい!」と悪態をついても、いずれこの唯一動かせる口の中にもイカの手が潜り込んで掻き回されるんだ。
悔しい。
手の本数が違うだけで抵抗出来ないなんて……。
 
以前、腹が立ってイカの顔に墨を吐いてやった。
でも僕の墨は辺り一面に広がるけど、その分拡散するのも早くて何の役にも立たない。
仕返しとばかりにイカが吐いた墨は粘度があって、目の前を塞がれたように何も見えなくなってしまった。
そのせいで、イカの手の動きを何時もより強く感じてしまった。
歯がゆい。
墨の質だけで抗えなくなるなんて……。

ああ、イカの手の動きが早くなって僕はまた何も考えられなくなっていく。
何か囁いているイカの言葉も、もう聞こえない……。

34625-829 イカ×タコ:2013/01/20(日) 09:42:41 ID:Aa3NuFjI
「よう無事だったか、タコ」
「その呼び名、やめてくんないっすか。手賀木さん」

悪りい悪りいと悪びれなく笑い、手賀木さんは俺の頭、正確にはカツラをぐしゃぐしゃにする。それを無視しながら、俺は今回の報酬のアタッシュケースを無造作に放った。

「にしても、タコは本当化けるな。この前の筋肉バカの姿と今のインテリが同じ奴とは誰も気づかねえよ」

アンタ以外はな、そう脳内で呟く。いわゆる"普通の世界"で、自分の特技を自己満足に披露していたのは、もう随分前だ。

『なあ兄ちゃん、タコって知ってっか?他の生物に化けては、周りに溶け込んで、体の形まで変えちまうんだ』

安らかな深海に留まっていた。

『兄ちゃん。普通の世界つうのは、つまらねえと思わねえか?』

急流や危険ばかりある海中を泳ぐ気なんてなかったのに。

「つか、手賀木さんは化けねえのかよ」
「義手まで誤魔化すのは面倒だ。適材適所つうのが世の中にはあんだよ」

まあでも、真田の為には、化けてやらんこともねえかもな。

右頬を冷たい右手で左頬を温かい左手で撫でられる。
その仕草に心まで搦め奪られたのは、随分前だ。
強い目から逃れられなくなったのは、随分前だ。

「成功の祝いに美味いもんでも食いに行くか、タコ」
「、皮くらい剥がさせて下さいよ」

乱れたカツラを外しネクタイを緩めながら、札束を持った手賀木さんの後を追いかけた。

34725-901 閉鎖的な二人:2013/01/27(日) 09:28:09 ID:AsLSjejA
あの二人は自己完結してる――それが二人の人間関係をよく知る僕の印象だ。
良くも悪くも二人だけの世界だ。すごい剣幕で喧嘩をしたかと思えば、誰も理由を知らないうちに仲直りしていたりする。
僕はそのことについて苦言をこぼすけど、「それで今まで問題がなかった」なんて気にもとめない表情で言われると頭が痛くなる。
この二人のことをクラスの大半は容認している。でも、それでも不満は貯まるんだ。
二人に言いにくいからって僕が愚痴に近い文句を言われていることを知っていて、こういったことを言うんだから嫌になる。
確かにこの二人は美形だ。顔がそっくりの双子だ。だからなんとなくふたりだけの世界を作っていても仕方がないという雰囲気ができている。
生徒はもちろん先生までだって「双子だもん心の奥底では通じ合ってるもんねー」なんていうくらいだ。
顔の似ている双子は似てない双子や普通の姉妹、兄弟より特別に見られやすい。
バカバカしい。顔が似てても年齢が一緒の双子でも他人が通じ合えるか。神秘的がどうのこうの漫画の読みすぎだ。
俺だって双子だけど相手のことを上の兄ちゃん位しか理解していない。顔も似ていないから二人のように特別視されてもいない。
誤解がないように言わせてもらうけど、僕は自分が特別扱いされたい訳じゃない。
ただクラスの、なんとなく双子だからみたいな風潮をやめてほしいだけだ。

放課後達見が聞いてきた時だってそうだ。
「なー、シゲー、達也ー。今日どこ行く?」
「あそこは?」
あそこってどこだよ。
「あの辺最近治安悪いらしいからダメ」
なんでわかるんだ。テレパシーか。顔が似ている双子には似ていない双子と違ってそういう機能でもあんのか。
「じゃああの辺」
「おっいいな! じゃあそうしよ」
「結局どこに決まったんだ?」
全く理解できていない僕が二人に聞くと声を揃えて「え?」なんて聞き返される。
「今の話の流れからわかるでしょ」
「あそことかあの辺でわかるか」
「このあたりで治安が悪いと言ったら、あの店だろ? トイレが発展場になってるって噂の」
「んでもって金欠の俺らが、ある程度の時間遊ぶのにちょうどいい場所といえばカラオケだろ?」
「僕は君らみたいにツーカーじゃないから」
そんな風に呆れても二人は理解できないらしく首をかしげていた。

34825-969 お隣さん:2013/02/03(日) 23:07:33 ID:mI4n82us
「あ」
「……はようございます」

玄関のドアを開けると、ちょうど隣に住む男が部屋の鍵を閉めているところだった。
俺と目が合った瞬間、彼がぺこりと頭を下げた。
寝起きなのか、最初の方があくび交じりだった。

「おはようございます」

挨拶をされたので俺も頭を下げる。
今日の彼はスーツだ。
彼と鉢合わせするときは大体私服だったが、ここ数日スーツ姿の彼と会うことが多い。
……もしかすると、就活か?なんて推測してみる。
大体仕事に出かける時間に彼と出くわすので顔は知っているけれど
俺は彼がどんな人間なのか、仕事は、趣味は、その他もろもろ何も知らない。

思えば彼が引っ越してきて1年あまり。
今の若者にしては珍しく、タオルを持って引っ越しのあいさつに来た彼。

「隣に越してきた田賀っす。よろしくお願いします」

と、どこか間延びした口調に、どうも、と礼を言うくらいだった。
その後も特に交流はなく、顔を合わせたら挨拶を交わすくらいだったのだが。

「スーツ姿、決まってますね」

その日は彼に、そんな一言を口にしてみた。
特にたくらみも、考えもない言葉だった。つまり気まぐれだ。

「……あ、ありがと」

だが、彼の方は普段挨拶しか交わさない俺の言葉によほど驚いたらしい。
目を丸くして俺を見て、たどたどしくそう答えた。
ああ、まずかっただろうか。突然こんなこと言ってしまって。
気まずさにその場をすぐに立ち去ろうとしたら、彼が俺に向かって声をかけた。

「すげ、うれしいっす」

振り返ってみた彼の顔は、いつもの彼よりくしゃりと笑っていた。

34926-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 1/2:2013/02/10(日) 18:27:56 ID:GHP.xgIU
残念 間に合わなかったので供養します


「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?
 心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」
パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。
俺にはよくわかる。
江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。
会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。
若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。
「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」
おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。
俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。
だからなのか。
……美味いと思えない。
食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃなく、
何と言ってダメ出しをしようかずっと考えてたからだ。
江島はそれも察している。だからこそ、お茶を濁そうとしている。
他のチームメンバーを味方につけて、多分俺が否定的なことを言おうものなら
『お前はすぐそうだ、なんでもダメだ、無理だとバックギアに入れる』
と、さっき言ったような印象操作で自分の意見を通そうとするだろう。
お気楽企画だと思って手を抜きやがって。
俺は黙って座ったままでいる。

35026-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 2/2:2013/02/10(日) 18:29:52 ID:GHP.xgIU
「……でさ、タメちゃん。どうしたらいいと思う?」
江島がこんな顔になるのは、ふたりきりの時に限る。
こいつのこの悲しい性分を知ってるのは俺だけ。
「キムチ、やめよう」
俺は考えていたことをようやくぼそぼそと口にする。
俺の小さな声を聞き取るために江島が耳を寄せてくるが、その距離も許す。
呼吸器の弱い俺は、人前で大きな声で意見を言うのは苦手だ。その小さな声を江島が拾ってくれる。
「キムチはいい加減ありふれてる。このままじゃただの普通の激辛ラーメンだ、だろう?」
「……それでいいかと思ったんだがな」
「期間限定だからこそ、話題性は必須」
チームメンバーは俺の事を悲観論者、暗い面白くない奴だと思ってるだろう。
でも俺は自分を知っている。これでも俺はなかなかのアイデアマンだと思うのだ。
ただ、人に好かれない自分も知ってる。だから、江島を待つのだ。
江島こそ、真の悲観論者だ。太陽のように振る舞った後、必ず怖くなって俺を頼る。
こうしてギブアンドテイクの関係が成り立った。
江島に利用されてるとは思わない。俺が利用しているのだ。
「あのな、江島。みんなコッテコテには飽きてると思うんだよな。俺なら、俺が食べたいのはさ……」
俺は、俺の案を江島に授けてやった。
聞いた江島は、
「それ、お前の好みじゃん! でも美味そうだよね、なんかいけそう?」
やっと、肩の荷を下ろしたように笑った。

「呑んだ後にあっさりお茶漬け、の代わりに『のりわさびラーメン』」
シリーズには和風スープ黒ごしょう、梅かつお。
俺達の企画は、若い女性や年配層に受けて小ヒットとなった。
「やっぱりなー、当たると思ったんだよ」
江島は、今日も大きな声でみんなの真ん中だ。似合ってる。
俺は、自分好みの商品を世に送り出せて満足。
みんなに教える必要はない。俺達はベストコンビなのだ。

35126-49 いい声の人:2013/02/15(金) 00:34:22 ID:.0gLvtCQ
ぎりぎり間に合わんかった…


「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。
曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。
す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。
滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。
ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。
旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。
最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。
上ずった低音の、嬉しそうな声で。
その声が隣の平凡な僕に向くことはない。
そう、思っていた。

「好きだ」
すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。
声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。
耳に湿った温もり。息の音。
背中には僕より少し大きな手。
「な、んて・・・」
ひっくり返りそうな、無様な僕の声。
「好き、って何が、を・・・?」
面食らった僕を抱きしめたまま、彼は確かに笑った。
耳に心地の良い音が滑らかに滑り込んでくる。
「好きだよ。君を・・・愛してる」

35226-89 やっと愛するお前のところへ行ける:2013/02/20(水) 10:18:17 ID:0LDanBCk
港を一望できる小高い丘の頂に造成された公営墓地
その東側の片隅にアイツの墓はあった
少しだけ伸び始めた白髪混じりの坊主頭に初冬の風は冷たい
自分は24歳だけど今の自分を見て誰もが40代だと思うだろう
あれから7年ですっかり老け込んでしまった
ずっとこの日を待っていた
ただいざこの日を迎えるとそれが何なのだという虚しさが猛烈に込み上げて来る

アイツとはずーっと幼馴染みでダチだった
高1の夏に部活の合宿で行った長野の山奥で関係は劇的に進んだ
それからは猿みたいにやりまくった
男子高校生なんて性欲の塊みたいなもんだからな
あの日はオレもアイツも17歳の高2の秋の夜だった
一緒に帰る途中に寄ったコンビニで実に他愛ないことで口げんかした
コンビニを出て別々に帰宅の途に就いた
アイツはオレと別れてから約10分後に何者かに刺されて死んだ
直前にアイツとけんかしたことだけを根拠に警察はオレを逮捕した
しかしひどい話だ
起訴したときにはオレが犯人ではないことは警察も検察も分かっていたそうだ
防犯カメラを見直したらアイツが殺された現場近くに不審な男が映っていた
顔認証でソイツは強盗致傷と強制わいせつ前科のある男だと分かった
警察も検察も真っ青になったらしいがオレは既に逮捕されていた
まあ警察も検察も何よりもメンツが大切だからな
オレは全力で否認したけど裁判では実に簡単に有罪
なんでオレが今は娑婆に居るのかって?
真犯人が調子に乗って強盗殺人なんかやって逮捕されたからよ
取調べで余罪を洗いざらい喋ってオレの無実が証明されたのさ

両親は事件を苦に夫婦して自殺しちゃったよ
オレは一人っ子だからもう天涯孤独なんだな
もう今さらどうでもいいよ
これから生きてて何になるよ?
アイツの墓の隣がおあつらえ向きに無縁仏専用の納骨堂なんだ
そこに入ればオレはずっとアイツの隣に居られる訳だ
ははははは
もう何もかも無駄で可笑しくてバカでどうしようもねーよ
こんな世の中ととっととおさらばだ
あの世でアイツと一緒に人生の続きをやり直すんだ
アレはアイツの墓の前で静かに硫黄の臭いを嗅いで目をつむった

35326-109 紙の花:2013/02/24(日) 13:10:54 ID:02/eITC.
 下校間際になって、ダチにこれからどうすると聞いてみた。
「オレ塾」
「生活指導の呼び出し」
「デート」
 珍しく全員が予定を口にしたので、オレは驚きと落胆で大声を出してしまう。
「誰も暇なやついねぇの?」
「みたいだな」
「で、どうした?」
「誕生日だから、何かおごってもらおうと思ったのに」
「ばか!」
「そんなのはちゃんと先に言っとけ!」
「今日は無理だから今度な」
「ちぇっ」
 確かに事前アピールしてなかったから仕方ないとすねながらも諦めるオレを残して、ダチはそれぞれに行ってしまった。
 仕方ない、家に帰ったら何かあるかもしれないと帰りかけるとアイツと出くわす。
「一人なんて珍しいな」
「皆用があるんだって。オレの誕生日だっていうのに」
「誕生日?今日が?」
「ああ」
「…………」
 何か複雑な表情をしたアイツはカバンからノートを取り出すと一枚破り、何かしはじめた。
 説明も何もなくただ見ていると、正方形に切り取ったノートを折って畳んで開いてあっと言う間に花の形にした。
「鶴は見舞いの、兜は子供の日のイメージだから。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
 手際の良さと思いがけないプレゼントに驚きながら、折り紙の花を受け取った。
「聞いたからにはお祝いしなきゃな」
「オマエって器用で律儀なんだ」
 裏も表も白だけどちゃんと花に見える元ノートを眺めて、つい顔がほころんでしまうほど喜んでいる自分に気付きあわてて表情を引き締めた。
「お前の誕生日っていつ?」
「夏だけど」
「ふーん。好きな物なに」
「何だよ急に」
 オレ、コイツの事もっともっと知りたくなった。

354幼なじみ 1/10:2013/03/05(火) 19:53:45 ID:dSuCcf7s
本スレ(Part26) 180〜の投稿です。(投稿分も一応再掲させてください)



「おい、こんなもん付いてるぞ」
屋上の給水塔の陰で居眠りぶっこいていたら、声をかけられた。
手にもってるのは、「バーカバーカ」と書かれたノートのきれっぱし。
あー、寝てる間に頭に貼られてたのか。またか。いまどき、小学生でも
しないようなイタズラの犯人はわかってる。1ヶ月前に転校してきたスガワラだ。
なぜか俺を目の敵にして、こんなガキっぽいイタズラを延々と続けてくれている。
上靴にアマガエルが入ってたり、ロッカーの体操服が全部裏返しだったり、
移動教室に行ったら俺のイスだけなかったり。

355幼なじみ 2/10:2013/03/05(火) 19:54:52 ID:dSuCcf7s
とってくれた紙をひらひらさせながら、サトルもため息をついた。
「ヒロム、お前、ほんとにアイツとなんもないの?」
サトルは中坊の頃から同じクラスになり続けている腐れ縁だ。進級するたびに
クラス委員になる典型的なデキるヤツ。そのサトルにも、アイツの行動はわけが
わからないらしい。ない。ほんとにないよ。なんでだろうな。
ノートから雑に破り取った紙に書かれてる単純すぎる罵言を見ながら、俺も
ため息。なんで転校生にここまで絡まれるのだか。

356幼なじみ 3/10:2013/03/05(火) 19:55:47 ID:dSuCcf7s
転校してきた初日に隣の席になったもんだから「よろしく」と挨拶をしたとき、
スガワラは妙な顔をして口の中でもごもごとなにか言った。
「なに?聞こえなかった」と聞き直したら、憮然とした顔をしてそっぽを向いた。
スガワラとの交流といえば、それだけだ。
聞きなおしたのが悪かったのか。挨拶もされたくなかったのか。わからん。
わからんが、仕掛けてこられるのは実害といえるほどの害があるようなことでもないので、
最初はとまどったものの、最近はもう基本的にスルーすることにしている。

357幼なじみ 4/10:2013/03/05(火) 19:56:39 ID:dSuCcf7s
「そのうち、もっと古典的なイタズラもされそうだな。教室のドアをあけたら黒板消し落下、とか」
それは教師に対するイタズラの定番だろ。クラスメイト用じゃねーだろー。
「古典的かつ落下といえば、タライの落下もはずせない」
てめ、他人事だと思って気楽に言ってやがるな、このやろう。
「悪い悪い、メガネが挟まって痛い、はなせ」
ヘッドロックかけてやったら、笑いながらほどこうともがくサトル。いつものじゃれあい、
いつもの軽口のたたきあい。
一応、俺もメンタルは人並みにあるので、意味もなく目の敵にされてるっぽい雰囲気
なのは精神的に少しコタえてはいる。こうやってサトルとじゃれあうことが少し心地よい。

358幼なじみ 5/10:2013/03/05(火) 19:57:26 ID:dSuCcf7s
そんな感傷的なことをちらりと考えたとき、突然頭上からどばーっと水が降ってきた。
俺もサトルもずぶ濡れで、一瞬、なにが起きたのかわからなかった。雨?いや、そんな馬鹿な。
ゲリラ豪雨っても局地的すぎんだろ、おい。
あっけにとられて見上げた給水塔の上に、ちらっと小さい人影が見えた。
「スガワラッ!」
濡れたメガネをはずして水滴を振り払っているサトルを見て、さすがに俺の怒りも沸騰した。
俺だけならまだしも、サトルまで巻き込みやがって。それに、これはさすがにやりすぎだろう!

359幼なじみ 6/10:2013/03/05(火) 19:58:25 ID:dSuCcf7s
給水塔のハシゴをすばやくよじ登り、反対側から飛び降りようとしているスガワラをとっつかまえて
組み伏せる。小柄なスガワラを拘束するのは簡単だったが、じたばたと暴れるのをやめようとしない。
おとなしくしろよ!なんなんだよ一体!
「はなせよっ!ヒロムのばかやろうっ!」
思いがけずに呼び捨てにされ、悔しそうに見上げてくる顔が、ふいに古い記憶とオーバーラップした。
あれっ…お前、もしかして、シュンちゃん?
「なにいってんだよ、バカヒロム!今更なんなんだよ!」

360幼なじみ 7/10:2013/03/05(火) 19:59:31 ID:dSuCcf7s
負けん気一杯で真っ赤になっている小さい顔は、幼なじみのシュンちゃん、シュンヤの顔だった。
思い出せないくらいに小さい頃からの幼なじみ。保育園でも幼稚園でも小学校でも、負けず嫌いで
すぐに喧嘩腰になって、でもチビだからすぐ泣かされて、泣かされてもしつこくくらいつくあのシュンヤ?
うわ、まじ?なつかしーな、おい。
「俺のことすっかり忘れてたくせに!お前なんか大っ嫌いだ!俺は、お前のこと忘れたことなんてなかったのに!」
あー、そういえば、転校していくときに手紙書くとか電話するとか言ったっけか。いや、でも、
それって何年前よ。ガキの頃のそういう約束って、お約束で忘れたりなし崩しになるもんだろう。
っていうか、お前からも手紙とか来たことなかったような気がするけど。

361幼なじみ 8/10:2013/03/05(火) 20:00:16 ID:dSuCcf7s
「俺は出したんだ!一回だけ!返事がこなかったからずっとその後出せなかったんだ!」
あー、えーと、そういうことがあったようななかったような。だってほら、ガキの頃って、手紙とか書くような
時間ねーじゃん、遊ぶの忙しいし。
「だから、いい加減に離せよっ!俺が悪いんじゃないんだから!」
反応に困りきっていたら、背後からサトルの声。
「ヒロム、離してやれよ。お前が悪いみたいだぞ?」
え?お前までそういうこと言うわけ?
「僕が一番、ヒロムとの腐れ縁が長いと思っていたけどな」

362幼なじみ 9/10:2013/03/05(火) 20:00:58 ID:dSuCcf7s
笑みを含んだサトルの声に反応したのは、俺よりシュンヤの方だった。
「そうだよ!俺がヒロムの一番だったんだからな!お前も嫌いだ!」
あー、そういえば、シュンちゃんは俺が他の子と仲良くしてると、よく色々とイジワルをして相手の子を
泣かせて怒られていたっけな。あー、そういうことですか。はぁ。
「まあ、ヒロムはそこで間抜け面さらしてないで。ほら、スガワラも立って」
びしょぬれのままさわやかスマイルを浮かべられるサトルに俺は心底感じいったが、シュンヤは
そんな気にはなれないようだった。
制服のホコリを払ってくれるサトルの手を振り払って、今度こそ給水塔から飛び降り、振り返りざま
「ベーーーーーー、だ!」
そのまま、駆けてってしまった。おいおい…それはどう考えても、高校生のやることじゃないと思うの
だがなぁ…。

363幼なじみ 10/10:2013/03/05(火) 20:01:37 ID:dSuCcf7s
つか、サトル、悪いな。どうやら俺のせいで巻き込んでしまったようだ。お前にまでイタズラが
波及しなきゃいいんだけどな。
俺が少し恐縮してみせると、サトルは意外なことにニヤリと笑った。
「まあ、これで理由もわかったし。僕としても受けて立つにやぶさかではないからいいよ」
え?なにその台詞?意味わからないんですけど。
「ヒロムはわからなくていいんだよ。うん、わからなくていい」
なんでそんなニヤニヤ笑ってるんですか、サトルさん。え?一体どういうことなのー?

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366良心の呵責:2013/03/07(木) 19:07:24 ID:AIUHvxk6
――ああ、やってしまった。
どうすればいいんだ。
焦りに似た罪悪感が心臓を這いあがってくるようだ。
俺のことを、犯罪者だの変態だのと責めている声が、耳の奥に、さっきからずっと響いている。

俺は――俺はただ、彼女と普通に付き合いたいだけだったんだ。
彼女が俺のことを好きになってくれていたならば、こんな行為はしなかった。
手の平にこびりついた、彼女のペンケースの感触。
明日になったらまた、犯人探しが行われるのだろうか。
自分が彼女の持ち物を盗んでいることがばれて、クラスメートに糾弾される情景が浮かんで、背筋に悪寒が走る。
どうしたら、どうしたらいいんだ……。

頭を抱えて蹲りそうになったとき、ぐるぐるとまわる思考に乱入してくる声があった。
「よう、斉木じゃん。こんなところで何してんだよ」
クラスメートの吉田だった。
あまり話した事は無いが、あまり話すのを見た事は無かった気がする。
少なくとも、今ここに俺がいることを言い触らしたりはしないだろう。
ほっとして振り向いたとき、俺は凍りついた。
吉田の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、ギラギラと輝いていたからだ。
「……わ、忘れ物を取りに来たんだよ」
たったそれだけの言葉を言うのに、かなりの労力を使った。
もしこいつがさっき俺がしたことを知っているなら、この言葉を言ったら終わりだと思ったのだ。

固まった体を動かして、さっさと帰ろうと踵を返す。
吉田は何も言ってこない。
俺の勘違いだったのかと胸をなでおろして、不自然にならないように早足で歩いた。


次の日。
一時間目の数学を潰して学級会が行われた。
彼女が泣きながら教師に相談したらしい。あのペンケースはそんなに大切なものだったのか。
また、好きな人を傷つけてしまった。

自分がとても下等な生物であるような気がして、首が痛くなるほど俯いていた俺に、突然声がかかった。
「斉木君、君は一週間前に雪村さんに振られたそうだけど……まさか、降られた腹いせに物を盗むなんてこと、してないですよね?」
教卓に立った学級委員長が、俺に冷たい眼差しを向ける。
間違いなく、俺を犯人だと思っている顔だ。

答えられずにいる俺に、周囲がざわざわと騒がしくなりだす。
「斉木君が盗んだところを見た人がいるって……」
「確かにすげえ落ち込んでたしな……」
そんな声が、遠くから聞こえてくるような気がした。
冷や汗がだらだらと垂れる。対照的に、顔が燃える様に赤くなる。

――だが、これで良かったのかもしれない。
おそらく誰からも信用されなくなるだろうが、ずっと隠し続けて生きるよりはましだ。
そんな気持ちで立ち上がろうとしたが、俺の動きは途中で止まった。
「俺がやりました」
そんな声が聞こえてきたからだ。
「あ……」
俺が言うはずのセリフを先に言ったのは、吉田だった。
再びざわめきの波紋が広がり、それは吉田に対する侮蔑の言葉に変わっていく。


「おい、吉田、ちょっと来い」
と、落書きだらけの席に座って本を読んでいた吉田に大柄な男が声をかけた。
上級生かもしれない。あれから三日もたってないのに、もうそんなに噂が広まっているのか。
吉田は男に乱暴に腕を掴まれて教室から引っ張り出されていくところだった。
十中八九、というか間違いなく、これからリンチされるのだろう。
――助けよう。
助けて、俺が本当の犯人だというんだ。
いじめられる恐怖にずっと渋っていたが、やっぱりこのままじゃいけない。
そう思ったとき、ポケットに入っている携帯のバイブがなった。
嫌な予感がして、携帯を開く。
差出人は吉田だった。
『明日、俺の家に来い』
それだけの文章が、とてつもなく恐ろしく見える。
吉田の方を見ると、吉田は、あの日と全く同じ、捕食者の笑みを浮かべていた。
怖い。体が拒絶反応を浮かべる。
――けど。
このメールに従えば、俺の罪悪感は、ほんの少しでも軽くなるのではないか。
俺は吉田の方を見て、頷くしかなかった。

36726-239待つほうと待たせるほう:2013/03/12(火) 22:04:32 ID:8PKegH/6
僕が彼に振られたのは、今から30年も前の話になる。
あの頃の僕は大ばか者で、とにかく彼を手に入れたくて必死だった。
好きだ、好きで堪らない、どうしても諦められない、諦めるくらいなら死んだほうがマシだ。
そんな事を思って、その思いを彼にぶつけ続けた。
その度に彼は困ったように笑って、「参ったナァ」などと冗談めかして受け流していた。
けれどある日、忘れもしないあの夏の夕日。
放課後の教室で、彼は欠片の笑みも見せずに言った。
「お前、正直気持ち悪いよ」
そうして、僕はようやく己の恋が無残に散った事を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
彼は優しくて、賢くて、誠意のある人だった、それが僕の好きになった彼だ。
その彼にそこまで言わせてしまった自分を恥じた。
それ以降、彼の顔をまともに見られずに、しばらく僕の暗黒に満ちた平穏は続いた。
そして、その3ヵ月後、彼は入院し、そのまま一度も退院する事なく亡くなった。
以前から病気だったのだという。
自分の余命は分かっていたと。
彼の母親から手紙を渡されて、僕はその事を彼から伝えられた。
【本当は、あの時お前を傷つけて、そのままサヨナラするつもりだったんだ。
 そうしたらお前は、そりゃ多少は後味悪いだろうけど、気負うことなく次の恋に向かえるかなって。
 本当にごめん。オレも、お前が好きだ。好きで堪らない。どうしても諦められない。
 こんな手紙を残したら、お前をもっと傷つける事は分かってるのにな。
 もしお前が、これを読んでる今もオレの事を好きでいてくれるなら。
 取りあえず30年、待ってくれるか?
 そしたらお前は47歳になってるかな。
 そこまで待つつもりが沸かないなら、それでいいよ。この手紙は捨ててくれ。忘れてもいい。
 でももし待ってくれたなら。その時に守るべきものが何もなかったら。お前が、オレに会いたいと思ってくれたなら。
 その時は、オレも会いたいと思ってる。その事を、ただ知っておいてほしい。
 ……なんてな、ただの冗談だよ。真に受けたら、バカを見るのはお前だ。可哀相にな。
 本当、オレなんかより、お前の方がよっぽど可哀相だ。頑張って、幸せになってくれよ。元気でな。
 長々とごめん。じゃあな。】

…そして、30年。
僕が今も相変わらず大ばか者だ。
彼は待っただろうか。多分待ってはいないだろう。再会したところで、お前は本当にバカだ、なんて困ったように笑って。
でも、きっと僕を待たせた責任は取ってくれることだろう。
彼も、僕に会いたいと思ってくれているに違いないから。
今、僕は彼に会いに行く。

368名無しさん:2013/04/01(月) 17:26:05 ID:NY5br2DY
テスト

36926-349  好きになりつつあるけどまだ好きじゃない:2013/04/01(月) 17:39:13 ID:WnrSDTxc
おはようごさいますと言って入室すればおはようと返ってくる。
それが普通なのだと気付いたのはここに転職して二週間後のことだった。
以前の職場では無視・舌打ちが当たり前で、挨拶は不要なものだと入社三日で理解していた。
他にも特有の社内ルールはいくつかあり、
それに適合できなかったため、追い出されたのだった。
 
今の職場では正社員ではない。
そのため出勤時間は十時と遅く、社員が全員揃っている中で入室しなければならなかった。
ここに来て半年経つものの、軽く咳払いをして深呼吸をし、
心の準備をしてからでないとドアノブを回せない。
最初は緊張しているからだと思っていた。
しかし、二ヶ月三ヶ月と過ぎ、嘱託職員でありながら
有志飲み会の固定メンバーになってしまうほど周囲と打ち解けた今、緊張はないだろう。

固定メンバーの一人でもある石垣に、
初日の挨拶もそこそこに「重役出勤かぁ」と返されたことを思い出す。
それを嫌味だと受け止めた当時の私は苦笑いしか出来なかった。
課長は「じゃあ石垣は明日から午後出勤でいいぞ」と言うし
若手職員は「重役出勤なのは石垣さんの方です」と言っていたから、
場を和ませるための冗談だったのだと今なら解る。
おそらく、当人は言ったことすら忘れている。

その日から、扉を開けるたびに石垣の席を確認するようになった。
普通の挨拶が八割、会話が一割、不在が一割。
ここにきて、アドリブ力は随分と磨かれたような気さえする。

一週間の出張を終え、石垣は定位置へ戻ってきた。
出張先は香川だと言っていたから、今日はうどんネタだろうか。もしかしたら香川繋がりでサッカーかもしれない。
そんなことを考えながら咳払いをして深呼吸をし、私はドアノブに手を伸ばした。

37026-389秘密の関係:2013/04/05(金) 03:18:28 ID:lUWUSuQA
いつも真面目で、誰からも信頼されて、俺に常識をわきまえろと説教してくるくせに、佐内は俺の『セフレ』をしてる。

最初はじゃれ合いで、悪戯しあってるうちに、お互いなんだか気持ち良くなってきてエッチした。
次は甘えてきた。佐内からだ。
甘い言葉を俺に囁くので、佐内にとってそれが遊びでも、嬉しかったから、またヤった。
気がついたら習慣化してた。
気持ちのいいことを追求する習慣に。

佐内はどれだけヤりたいんだろう。
俺は毎日でもヤりたい。
だからだろうか。普通に友だちと話しながら笑ってる佐内にイライラしてきた。
そいつ、その笑い声よりもっと高い、スゴい声出すんだ。それを俺は知ってる。
真剣に答弁する佐内を見ながらイライラしてきた。
そんな澄ました顔なんかじゃなく、快感にうっとりしてる表情の方が自然だ。それを俺は知ってる。
口うるさく俺に説教してくる佐内にイライラしてきた。
お前、その常識のない俺に、メチャクチャ甘えてくるくせに。

「俺は、知ってるよ。お前は俺がセックス狂いだってバラしたいんだろ」
「佐内……」
「でもお前は優しいから、そんなことバラさないっていうのも知ってる。そんなのバラしたら、俺なんて青くなってビビっちゃって泣くよ。そんな酷いことしないだろ?」
「しねぇけど、イライラする」
「俺はさ、バレる想像するだけで吐きそうなくらい恥ずかしいことを、お前にだけ知られてると思うと、凄く感じるくらい変態なんだよ」
「ワケわかんねぇよ……」
「……だから馬鹿だって言ってるんだろ」
佐内はそう文句を言いながら、俺にいつものようにキスした。

37126-409 初恋の人との再会:2013/04/07(日) 00:05:59 ID:L4VKu0o6
ほんのちょっとだけ胸糞注意(不倫?)です。



嫁さんにメール。
『これから電車。帰りは八時頃になる』
薄暗い蛍光灯が陰気な車内は、ひときわ疲れを感じさせた。
目の奥が疲れて痛くて、携帯を眺める気にもならない。
車窓に頭を預けて目をつぶっていると、突然小さな声で「田中?」と呼ばれた。

かすむ視野に見えたのは、普段着の男。
誰だっけ、知ってる奴?と軽く混乱しつつ「えっと、あ、ども」とか意味のないあいさつを口にする。
相手は軽く笑った。
「わかんないか、俺、高校の。安東なんだけど」
高校の……安東。嫌な汗がじんわりとにじむのがわかった。
当たり前だがそんなことはおくびにも出さない。テンション上げて顔を作った。
「ああ!安東かお前!久しぶりだなぁ、どうしてるの、今」
「今日は仕事休みでさ、久しぶりにこっち遊びに来たんだ」
「仕事?」
「そう、覚えてる?俺、寺つぐの」
覚えてる。思い出したら全部思い出した。
忘れていたわけじゃなかった。ただ、経年変化が想像できてなかっただけで。
そういわれれば、安東の髪型は坊主だ。でもなにやら格好いい洋服と合っている。
「今修行と修行の間でさ。しばらく実家に帰ってきてるんだよ。もう勘弁してほしいわ……田中は?就職したんだな、その格好」
「ちっちゃい会社でヒヤヒヤしてっけどな、まだペーペーだし」
「スーツ似合うよ」
覗き込まれて、ぎょっとした。
「……安物だよ」「そう?感じいいよ」
こいつはいつもこんな風だった。育ちがいいせいか、物怖じしなくて、屈託無くて。
俺は安東の服を褒めたりできない。そもそも、顔をまともに見られない。

「うわ、残念、俺乗り換えだ。ケータイ、教えて!」
電車が止まって、安東が急に慌てだした。
「え、あ、なんか、書くもの」
「いいから言えよ!覚えるから!」
俺が番号を叫ぶと同時にドアは閉じて、はたして安東に届いたかどうか。
窓の向こうでにこやかに手を振る奴の様子からは全然わからない。

ひとりになった車内ですっかり目の覚めた俺は、それでも顔を覆わずにはいられなかった。
安東は俺の初恋の相手だ。それも、恋であることにすら気づかなかった……
安東が好きだ、と気づいたのは、卒業して離ればなれになってから。
安東のことを思うと胸が痛い、安東に会いたくてたまらない、安東を独り占めにしたい。
そんな自分の状態に気づいて、まるで好きみたいじゃないか、とか思い至って。
馬鹿な、そんなことあるわけない、安東は男だぞ、って自問して。
じゃあ、もし安東のことが好きなら、キスしてるところ想像できるか?それ以上のことは?って試してみたら。
……およそ思い出したくもない。
そして、俺は自分の身に起きていることが初恋だと知ったんだった。
その驚き。とまどい。後悔。
初恋もわからなかったなんて。男が相手だなんて。何かの間違いだ……
安東のことは苦い思い出になってしまった。安東を封印して、次は失敗しない、と思った。
それから、大学で出会った嫁と普通に恋愛して結婚した。

二度と会いたくない相手のはずだった。
安東は俺の携帯番号を聞いただろうか?そして覚えただろうか。
ひょっとしたらかかってくるかもしれない。覚え間違いで、かけられないかもしれない。
もし……かかってきたらどうしよう。
やりなおすには遅すぎる。俺は安東といい友人になれるんだろうか?
なぜ番号を叫んでしまったんだろう。
安東は俺の指輪を見ただろうか?
まぶたの裏に、安東の笑顔がよみがえる。それは高校の頃の、ふたりきりの時の、あの笑顔。
いい思い出にはやっぱりできそうもない。
なのに今、俺は携帯の電源を切ることができないでいる。

37226-439 なかなか好きといえない:2013/04/11(木) 21:59:17 ID:XQfcw1FA
■腐れ縁タイプ
「なに泣きそうな顔してんだよ。元気出せって。もう付き合ってる奴がいたんじゃしょうがねーよ。な。
 で、どうせ今晩飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ。いいっていいって。明日休みだし。飲み明かそうぜ。
 お前がフラれてヤケ酒なんていつものこと……って本格的に泣き出すなよ。ひどくねえよ。事実だろが。
 ほら、行くぞー。お前んちでいいよな。途中でツマミ買ってくか。………。言っとくけど、奢らねーからなー」

■『なぜ謝る』タイプ
「あの。あの………いえ、なんでもないです。すいません。てっ、天気いいですよね!ね!あはは…
 はあ……え、いえっ、元気です!ほんとに、なんでもないんです。すいません。すいません!!」

■好きの代わりに馬鹿と言っちゃうタイプ
「お前馬鹿だろ!?調子悪いのに出てきてんじゃねーよ。あとは俺がやっとくから。いいから!
 そんな状態で手伝われる方が迷惑だっつーの。早く帰れ帰れ。馬鹿が無理してんじゃねーよ。さっさと寝ろ」

■言葉に辿り着くまであと少しタイプ
「君といると苦しい。脈が速くなって息が詰まる感覚がする。本を読んでいても文章が頭に入ってこない。
 音楽を聴いていても君の声ばかりが耳に届く。君と食べる食事はいつもと味が違う。同じ食事なのに変だ。
 君がいないと苦しい。部屋の広さに気が遠くなる。本を読んでいても頭の片隅で君の事を考えている。
 昔は嫌いだったうるさい音楽も聴くようになってしまった。君がきちんと食べろというから三食食べるようになってしまった。
 たまに酷く苛々する。君の所為だって反射的に思って、そんな風に考えたことを後悔する。僕は酷い人間だ。
 君が隣に居ても居なくても苦しい。だから君が怖いのに、君に会いたいと思っている」

■『もう若くないから』独白タイプ
「…………こんなおっさんに言われても、あいつも迷惑だろ」

37326-489 あえぎ声がうるさい攻め(notショタ)と声を我慢する受け:2013/04/18(木) 13:19:28 ID:ukNmSW4c
規制されてたのでこっちに投下。


ドン、と。地鳴りのような音がした。
すぐにわかった、誰かが壁を叩いた音だと。
陶酔していた雰囲気の中から急に日常に引き戻される。俺が真昼間っから男とセックスしている間、隣の誰かがテレビを見ている洗濯をしている友達と電話している。
途端に顔が熱くなる。「恥ずかしがっている」それをこいつ知られるのが殊更に恥ずかしく、耳元がカイロでも押し当てられたみたいに熱い、それが触れなくてもわかった。
2階建ての安アパート、当然のように薄い壁、最初から声は抑えていたつもりだったが、こいつの実家から持ってきたというちゃちなパイプベッドが高い音を立てながら軋んでいるのに気が付いた。
「うぁ、沢原ぁ……、ちょっ、ゆっくり…」
助けを求めるように後ろに首を向けると、俺とベッドを揺らしている男が幸せそうに笑っていた。
「なに?なんでーこっち見てんの?ふふ、たっちゃんかわいー!」
相変わらず声がでかい。いつでも、どこででも。
「っ沢原、となり…が」
口元に手を添えできる限り小さな声で話す。沢原はお構い無しにでかい声で喋り続ける。
「たっちゃんってばかーわい、恥ずかしがってんのー?顔真っ赤だねー、あーキュンキュンしてる!やーらしー!たっちゃんマジ最高かわいいい!」
「さ、っわ……バカ!」
小声のままで精一杯抗議する。これでもかと顔が熱くなる。
自分でも訳がわからないくらい、いつになく体中が反応している。そんな俺を沢原が食い入るように見る。
恥ずかしい、声を出したくない。顔を枕に埋めてしまいたい。沢原に見られたい。沢原を見たい。
「たっちゃん、綺麗な指、噛んじゃだーめ」
言いながら沢原は長い指を俺の口に突っ込んできた。と同時にベッドの軋みがさらに早くなる。
俺は我慢できずに沢原の指を噛んだ。口中で指先が俺の舌を玩んでいる。
「ふっ、ぅぐ…」
「あー、たっちゃんイイ、最高イイ、マジ気持ちい!超好き!あっ、あー!やっばい、超気持ちー!」
「…っゔ、ぐ」
どこかからまた地鳴りのような音が聞こえる。これでもかと顔が熱くなる。沢原は「たっちゃん超締まってる」とかなんとか下品な言葉を繰り返していた。
「たっちゃんマジ!全身真っ赤だねぇ、はっずかしーぃ!けどかわいー!」
ベッドが軋む。早く大きくドン、ドン、と全身に音が響く。
「っぁ、さわはら、ぁ」
「たっちゃん、もっ俺やば」
「っん、…ふっ………」

横になったまま呼吸が整うのを待っていると、汗ばんだ肌のせいか、先ほどまで暑かったはずの室内が急に寒く感じられた。
そうして少し、冷静さを取り戻す。
「あ……、隣!ばか沢原!隣が」
「え?隣?なにが」
呑気な顔で俺の買ってきたアイスを勝手に食い始めている。
「だからこっちの部屋の、人が……あれ」
「なに隣って?ここ角部屋じゃん。反対も住んでないし。え、ホラー?やめてよたっちゃん俺今日のバイト遅番なんだよー?」
「いや、ちが…だって最初に何回かドンドンって」
「え?…あ、それ俺だ」
「は?」
呆気にとられる俺を尻目に沢原は、「見て見てたっちゃんパナッペがにこにこしてるー」とふざけたことを言っている。
それからさらりと「たっちゃんマジかわいー、とか考えてたら嬉しくてつい」と、壁を殴った理由を口にした。「きゅーんってなってきゃーってなってブンブンしてたらどかーん、みたいな」とも言っていたが、そっちはほとんど意味がわからなかった。
「だからって、あんな何回も叩いたら隣じゃなくても迷惑だろ?」
沢原の手から半分以下になったアイスを奪い返し反論する。
すると沢原はきょとんとした顔で「俺それ、1回だけだと思うけど」とほざき始めた。
「はぁ?バカ言えお前、数もかぞえらんなくなったのか」
言いながら頭の中で音を反芻する。
ふとそれが、まさか自分の心臓なのじゃないかと気が付いた。
「ん?あれ?なしたのたっちゃん、顔真っ赤だけど」
「うっせー!帰れ!」
「俺んちだけど」
「うっせー!ばか!ばかぁ!全部お前のせいじゃねーか!」
「はー?なんだよたっちゃん、パナッペのこと?帰りに買ってくるよー」
「ちげーよばか!」
手元にあったクッションを投げつけると、沢原が「べうっ」と奇声を上げて顔で受け止めた。
「たっちゃーん、これじゃマジ近所迷惑…」
「うっさい!さわんなぁ!」

37426-509 運動部対文化部:2013/04/21(日) 14:25:16 ID:yqnA/Y4w
規制中だったのでこっちに



「貴様、そんなつもりで学園祭がどうにかできるとでも思っているのか!軟弱者が!」
ハヤトが怒鳴るので、僕はびくりと肩を震わせた。
「そんなこと言ったって……ぼくはハヤトみたいにかっこよくないし、みんなをまとめるなんて……」
「何を言うか!阿呆!俺にできて龍介にできない訳があるか!根性を出せ、根性を!」
その後ハヤトは30分にわたるお説教を繰り広げ、スポ根漫画の主人公のようなセリフを何度も繰り返した。
二か月後に迫った学園祭、そこで繰り広げられる運動部と文化部に分かれて行うレクリエーションの指揮を任された僕は早くも胃が痛い。
人前に立って誰かをまとめるのは僕にはどだい無理な話なのだ。
「僕もハヤトみたいにかっこよければな……」
「な、なんだいきなり!」
「僕もハヤトみたいにかっこよくなりたいよ」
「〜〜〜っ!阿呆か貴様!龍介だってかっこいいわ!阿呆!」
ばんばん机をたたきながらハヤトはまくし立てた。
軽く舌打ちをして教室から出て行こうとしていたハヤトはふと気が付いたように、「おい」とまた僕に声をかけた。
「龍介、次の試合はいつだ」
「明後日にいつもの体育館だよ」
「そうか、また見に行くから全力で勝て!」
「うん! 僕もハヤトの賞をとった絵をみたよ、素敵だった!」
「ふん、あんなもの余裕だ阿呆め」

そういって出て行ったハヤトの耳はまだ熱をもったままだった。

37526-479  一番の味方:2013/04/26(金) 10:57:55 ID:ynOcWvg2
亮平には高校三年生の弟がいる。母親は病死、父親は蒸発、たった二人の家族だという。
「進学を諦めて就職したいって言ってたお前の弟、どうなった?」
「何言っても就職から変わんね。授業料とか払えないだろって、
そんなん気にしないでさ、やりたいことがあるんだから勉強すればいいのに」
一度言葉を切って携帯をコツコツと叩く。言い淀んでいるのがわかるから、先を促したりはしない。じっと、次を待つ。
「俺の給料明細盗み見して諦めるって…馬鹿じゃねえの」
最後の馬鹿、は、諦めている弟になのか。それとも弟の夢を叶えてやれない自分に、なのか。
「奨学金の話をしても?」
「それでも」
「利息ゼロの貯金箱があんのに?」
「は? 何それサラ金?」
「いや、俺」
「はぁ?」
お前から金なんて借りねーよ、と呆れた風を装ってはいるが、気になっているのだろう。
サラ金かと答えたときは険しかった表情に、少々の緩みが見える。
「毎月じゃなくて、本当にヤバくなった時だけ。上限三万とか決めてさ。借用書も書く?
 俺の生活もあるし、二人で弟を育てる! みたいな感じで」
努めて明るく話す。最後に一言付け加えるのを忘れずに。
「俺一人っ子だから兄弟いるの羨ましいんだよね」
嘘だけど。それは飲み込む。
「…………じゃあ、ヤバくなったら貸してください。受験料ぐらいは何とかなるけど、入学金のとき借りる、かも。あいつには大学でバイトさせるから」
「そこら辺は兄弟で話し合って決めて。弟には俺の事言わないでねー」
「ごめん、ありがとう、宏樹」
「まだ借りてないんだからごめんじゃないでしょ」


こちらこそ俺の姉が亮平たちのお父さん奪って駆落ちしてごめんね。

37626-559 RPGの中ボス 1/3:2013/04/30(火) 02:01:44 ID:Y8NEggXk
いま俺の目の前に居る人間が噂の勇者だってのには一発で気が付いた。
だって他の人間とは存在感みたいなのが段違いだったし
そもそも並大抵の人間や魔物じゃここまで絶対に来れっこないし。
ただ思ったより小さかったのと、誰とも組まずに一人で来たらしい事には少し驚いた。
そのちっちゃい勇者は不意打ちで攻撃して来ることもなく
話しかけてくる様子も見せず、ただ黙って俺の前に立っている。
このまま見つめ合ってても仕方ないから俺は今適当に作った口上を並べた。
「俺が地下四階の守護者、種族はレッドデビル。
 名前は言わない、多分人間には聞き取れないからさ。」
ちっちゃい勇者はやっぱり何も言わずに頷いた、そして俺の後ろの扉を指差す。

「あー、そこ入りたいの? なら俺殺さないと入れないけどヤる?」
さっきちっちゃい勇者が指差した扉は魔王様の部屋に繋がる通路に繋がる扉で
身も蓋もない言い方をすると、通過されてもそこまで困らない扉。
俺が守ってる扉を抜けても魔王様の部屋の前には強ーいドラゴンが居るし
その先には勿論もっともっと強ーい魔王様が居る。
だから魔王様戦が本番、その前座がドラゴン、さらにその前座が俺って言う事。
俺は別に面白い戦い方をする訳じゃないし、大して強くも無い、多分一番印象に残らないタイプ
門番の役目だって『勇者を一目見てみたいでーす』って言ったら適当に使役されただけ。
誰からも期待されてないし、俺自身ですら勝てると思っていない、
今だって"勇者見れて満足したし来世はどんな生き方しようかな"とか考えている位だ。

そうやってくだらない事を考えながら勇者を見ていると彼は再び頷いた。
「そっか、じゃあ戦おう。」
俺は手に持っていた槍を構える、勇者の方も背負っていた剣を抜いた。
その剣は吃驚する程キラキラ輝いていて、それを構える勇者も何だか凄くキラキラだった
思わず「……キラキラだ」と声になって溢れる位に。
こんな光を見たのは初めてだった、魔王様ですらこんなに輝いて見えた事が無い。
俺の出方を窺っているのか防御の型を取る勇者を見つめる
その金の瞳と視線がぶつかった瞬間、また勝手に声が零れていた。
「ねえ、人間でも呼べる名前を俺に付けてよ、それでその名で俺を呼んで。」
いくらなんでも即物的過ぎやしないかって感じだがそれが魔物だから仕方ない。
ちっちゃい勇者は未だ表情一つ変えずこっちをジッと見ている
でも俺には何故か、彼が「はい」って喋ってくれるような予感がしていた。

37726-559 RPGの中ボス 2/3:2013/04/30(火) 02:03:54 ID:Y8NEggXk
いっぴきのまものか゛ とひ゛らをまもっている!

て゛ひ゛る
「おれか゛ちかよんかいのしゅこ゛しゃ しゅそ゛くはれっと゛て゛ひ゛る
 なまえはいわない たふ゛んにんけ゛んにはききとれないからさ」

しゅんはとひ゛らをゆひ゛さした!

て゛ひ゛る
「あー そこはいりたいの? ならおれころさないとはいれないけと゛やる?」

→はい いいえ
 
て゛ひ゛る
「そっか し゛ゃあたたかおう」

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはちいさなこえて゛なにかつふ゛やいた!

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはこっちをし゛っとみている!
て゛ひ゛るとめか゛あった!

て゛ひ゛る
「ねえ にんけ゛んて゛もよへ゛るなまえをおれにつけてよ
 それて゛ そのなて゛おれをよんて゛」

て゛ひ゛るはしゅんのなかまになりたそうた゛
て゛ひ゛るになまえをつけてなかまにしますか?

→はい いいえ

37826-559 RPGの中ボス 3/3:2013/04/30(火) 02:05:28 ID:Y8NEggXk
「もしもし久保さんのお宅ですか? 高橋ですけど、あ、そうです駿です。
 悟くんに代わって貰えますか? はい、お願いします。

 ――あ、悟? なあオレ今日ブレイブクエストやってたんだけどさ!
 そう、仲間作らずに勇者の一人旅でやってたデータ!
 あれさラスボス戦の前の前にレッドデビルって中ボス居るじゃん?
 アイツ仲間になった! ……いや、ホントだって!
 うん、多分勇者の一人旅じゃないと仲間にならないっぽい。
 何か『デビルに名前つけて下さい』って出てきた、え? だからマジだって!
 お前もう今から家来いよ、うん、うん、悟が来るまで名前付けずに待っとくわ!
 おう、分かった、速く来いよ! 二人で名前考えよーぜ! じゃ切るから!」

37926-569 今日から両思い:2013/05/02(木) 23:15:30 ID:WraCejIw
「――今日から、両思いだね」
フ、と唇の端で気障な笑いをして、奴は手の中のグラスを揺らした。氷が涼し気な音を立てる。
窓の外の三日月と同じ形に細められた流し目から、俺は顔を背けた。
「言葉は正確に使え。お前の今の台詞は明らかに間違っている」
「え? ……え? うそ? 違うの!?」
裏返った声と、グラスが乱暴にテーブルに触れる音が絶妙な不調和を生む。騒々しい。
「だって! 俺さっきお前が好きだって言って、お前だって頷いてくれたのに!」
「声の大きさを考えろ。個室とは言えこの店は貸切ではない」
「あ、はい」 
大げさに肩を落としてしょぼくれたような顔をしてみせる、その様に少しだけ苛立った。
「……やっと言えたのに」
小さな子供がいじけるように口を尖らせて呟く。声は少し震えているようだった。
「ずっとずっと好きで、やっと両思いだと思ったのに……」
なぜそんなに落ち込んだ素振りを見せられなければならない。まるで俺が悪いかのように。
「お前はいつもそうだ。一人で先走って見当違いなことばかりを言う」
とうとう涙目になってしまった。元はといえばお前が失礼なことを言うのが悪いのだろう。
今日から両思いだと? 馬鹿なことを。まったくもって不愉快だ。勘違いも甚だしい。
「訂正しろ。今日からではない。ずっと前から、両思いだ」

38026-599 夕暮れ時の二人:2013/05/07(火) 01:06:46 ID:ixRXxauM
「夕暮れ時って切なくなるよな」
「因果関係がわからない。切なくなる、の主語はマスターか?」
「そうだよ。んー…なんかこう、終わっていくなーって感じ」
「終わるの主語は?」
「今日と言う日が」
「日付が変わるまであと5時間30分程度あるが、誤差の範囲内と考えていいのか?」
「いやそうじゃなくてさ…うん、じゃあ訂正しよう。太陽とサヨナラするから寂しい」
「別れが寂しいから、マスターは夕暮れを見て切なくなるのか?」
「そうそう。誰とだって、お別れするのは寂しいだろ?」
「無生物を生物のように扱う表現を用いるのはマスターのパターンとして既に認識している。
 しかし、明日の日の出は午前4時42分だ。同等の表現をすれば、約10時間10分後に
 太陽とは再会できる。よって、そこまで寂しいと感じる必要は無いのではないだろうか。
 現に、マスターは同僚との別れについて『切なくなる』『寂しい』と私に漏らしたことはない。
 しかし例外的に、太陽との約10時間10分の別離がマスターにそこまで重大な事項であるのならば、
 滞在地点の拘りさえなければこのまま追いかけることも可能だ。シップの手配をするか?」
「なんだそれ。ロマンがねえなー」
「不愉快に思われたのなら謝罪します。今の提案は取り下げ、パターンを破棄します」
「いいよいいよ。不愉快じゃない、怒ってないから。まったく、急に丁寧語になるなよ」
「謝罪の意を表すには口調も大事だと、過去にマスターが言った。私はそれに従っている」
「うわ、責任転嫁かよ」
「マスター、先程の『ロマン』の定義は?」
「切替早っ!…えーと、夕暮れってさ、昼と夜の隙間だから美しいんだよ」
「……。マスターの話はよく飛躍する」
「してないよ。昼間の空は青いだろ?対して夜は黒、いや俺としては深い藍色かな。
 一日のうちで大半を占めるのがこの二色。その隙間にほんの僅か存在するのが夕暮れの赤だ」
「日の出は?」
「まあ、それもだけど。今は夕暮れの話。空が綺麗に赤くなるのなんてせいぜい数分間」
「希少価値を見出して有り難がる人間の価値観か」
「なんかトゲのある言い方だなあそれ。まあ概ね正しいよ。俺はほんの数分間だからこそ夕暮れが好きなんだ。
 だから、夕暮れを追いかけていっても無意味。つーか、追いかけていったら夜が来ない。邪道邪道」
「マスター、すまないが情報を整理したい」
「あはは、いいよ。どうぞどうぞ」
「マスターは、夕暮れ時は切なくなる」
「うん」
「太陽と別れるのが寂しい、だから切なくなる」
「そう」
「しかしマスターは、夕暮れを美しいと認識していて、かつ夕暮れが好きである」
「おお、ちゃんと情報の取捨選択して理解してるじゃん。メモリ増設した甲斐があったな」
「切なくなるとは、人間のネガティブな感情だと理解している。切なくなるのに、好きなのか?」
「そうだよ」
「…………」
「お、悩んじゃった?フリーズ?」
「マスターの言動を理解するにはある程度の矛盾を許容する必要があると学習している。問題ない」
「それ、俺に対する悪口じゃないの。まあいいや。…って、もう真っ暗だな。ラボに戻るか」
「マスター、申し訳ありません」
「え。なんで急に謝るわけ?」
「あなたの好きな夕暮れの時間を、私との会話で消費させてしまいました。
 マスターが夕暮れを見ていた時間は約30秒、そこから日没までマスターの視線は私に向けられていた」
「なんだ、そんなことか。いいよ、明日も見れるんだから。明日も晴れだよな?」
「降水確率は10パーセント」
「だったらノープロブレムだ。じゃあ、明日は今日の学習を踏まえて二人で夕焼け空を見ようか」
「了解した」
「そのときは手でも繋ぐか?」
「命令であれば、そうしよう」
「それじゃつまんねーよ。明日までにどうしたいか考えとけ。ふふん、明日の夕暮れ時が楽しみになったな」
「楽しみ?切ないのでは?……マスター、待ってくれ、今の言葉の意味は――」

38126-699 味噌と豆腐:2013/05/26(日) 00:43:53 ID:47ArE6QE
同じさやで育った君と僕。 
将来何になるか話しながらいつまでも一緒だねと言っていたのに、枯れたさやから放り出されると別々の容器に入れられてしまった。
いくら泣いても呼んでも返事がない。
諦めて疲れた僕は袋に詰められ、トラックに揺られて大きな工場のタンクに。  
今頃は君もきっと何かに加工されてしまってるんだろうね……。
僕も他の仲間たちと混ぜられて何かに成っていく。
君が居ないんだからもう何でもいい。
早く食べられて消えてしまいたかった。
そう思っているのに一年以上もほったらかされて発酵して味噌なった僕は、やっと出荷され店頭からある家庭にやってきた。
毎日の料理に使われ消費されて、いよいよ僕は味噌汁になって食べられる。
長かったな。
これでやっと僕の一生も終わるんだ。
鍋で溶けて他の具材に触れていると、ふと懐かしさを感じた。
懐かしくて暖かでこの感じは……。
真っ白な豆腐は、もしかして君なのか?
でも君がなぜ今頃豆腐に?
機械の内部に引っかかって、一年以上外に出られなかったのか。
辛い体験をしたんだね。
でもそのおかげで、再び僕たちは巡り会えたんだね。
嬉しいな、嬉しいな。

38226-739 美男と野獣1/2:2013/06/02(日) 17:29:01 ID:CfRdt7eo
森へ入ってはいけないと言われていた。
森には怖い魔女が住んでいて、捕まると魔女の棲家にある大鍋に入れられて毒薬の材料にされてしまうと。
けれど今自分の目の前にいるのは魔女ではなく、全身毛むくじゃらの化け物だった。
村一番の大男など遥かに凌ぐ大きな体、口元には牙が覗き、鋭い爪も見える。
まるで山狗か狼のような姿なのにそれでも化け物だと思ったのは、それが両の脚二本で立っていたからだ。
人間のように立つ獣なんて、絵本でしか読んだことがない。まさか本当に居るなんて。
(きっと、僕のことなんか一口で食べてしまうんだ)
逃げ出そうにも右足は痛みを増すばかりで言う事をきいてくれそうにない。
走る以前に、腰が抜けて立ち上がることもできない。
荒い呼吸で肩を上下させながら、化け物がこちらへ一歩踏み出してくる。
僕は反射的に朝のお祈りのときのように両手を組んで、眼を閉じた。
(神様、神様、神様……!!)

と、ざわざわと木々が揺れる音がしたかと思うと、強い風が吹いた…ような気がした。
しかしそれは一瞬だけで、すぐに辺りはしんと静まり返る。
僕はしばらく目を瞑っていたが、いつまで経っても身体に化け物の爪や牙がかかる気配がない。
もしや風に驚いて、どこかへ行ってしまったのだろうか。
(………?)
恐る恐る目を開ける。
化け物はまだそこにいた。けれど、僕の方を向いてはいなかった。
先ほどの場所に立ったままこちらに背中を向けて、何か、別のものに注意を向けているようだった。
それが何なのか見ようにも、僕のいる場所からは化け物の大きな体に遮られてよくわからない。
ただ、別の誰かがそこにいる気配はした。人の気配。
……もしかして、村の誰かが助けにきてくれた?
僕は身体を少し移動させて、化け物の向こう側を見ようと試みた。
けれど、這うときに肘が枯れ枝を折ってしまい、乾いた音を立ててしまう。
音に反応したのか、化け物が――なぜかぎくりと肩を揺らして――身体ごとこちらを振り返る。
視界が開けた。
(あっ)

そこには、魔女が立っていた。

黒ずくめのローブを着ていて、手には変わった形の杖を持っている。
魔女だというから絵本で読んだお婆さんの姿を想像していたのに、それよりも
ずっとずっと若くで、とても綺麗な人だった。まだ若い魔女なのだろうか。
若い魔女が少し首を傾げてこちらを見る。フードから真っ直ぐな黒髪が零れ落ちた。
助けてもらえるかもしれない。
「あ、あのっ……!」
その人に声をかけようとした矢先、化け物が魔女と僕の間にまた割って入って、魔女の姿はまた見えなくなってしまう。
化け物は……また僕に背中を向けていた。心なしか両腕を広げている。――まるで、僕を庇うように。
僕は訳が分からずに、ぽかんとその毛だらけの背中を見上げた。
草を踏む音が静かに近付いてきて、止まる。
「どけ」
聞こえてきたのが男の人の声で、僕は驚いた。
「私に気付かれずに済むとでも思ったのか、馬鹿が。この森は私の城だぞ?」
その人は当然のように、化け物に向かって喋りかけている。
そして化け物の方もそれに対して暴れたり襲い掛かろうとする雰囲気は無い。
「それはあの村の子供だろう。西の入り口から入ったようだな。これは立派な盟約違反だ」
どけ、と言う声がもう一度聞こえて、化け物の身体がゆっくりと脇へ退く。

38326-739 美男と野獣2/2:2013/06/02(日) 17:30:00 ID:CfRdt7eo
そして僕の前に進み出てきた魔女――男だから魔法使いだろうか?――は近くで見ても
やっぱりとても綺麗な人だった。
その人は、立ったまま僕を見下ろしてきた。
「おい子供。森へ入ってはならないと、親に教わらなかったか」
決して大きな声を出しているわけではないのにその声音は威圧的で、僕の身体は竦み上がる。
まるで教会にある聖母様の像のように綺麗な顔なのに、浮かんでいる表情は酷く冷たい。
なぜか、この人の方が化け物よりももっともっと怖いもののような気がした。
「森には怖いものが居て住処に勝手に入ると殺される、そう教えてはもらわなかったのか?」
その言葉に僕ははっとなる。
魔女に捕まって毒薬の材料にされる、というのはどこか遠い世界の話のように頭のどこかで思っていた。
しかし今「殺される」という直接的な言葉で、絵空事は現実に引き寄せられた。
全身が震えだす。
後退りする僕を見て、男は端正な顔に笑みを浮かべた。
「そうか、言いつけを守らなかったのか。悪い子だな」
言いながら杖をくるりと回して、杖の頭を僕の方へ向ける。
周囲の木々がざわざわと騒ぎ始めた。
得体の知れない恐怖が襲ってくる。何か途轍もなく怖いものがくる、そんな予感がした。
許しを乞おうとしても声がうまく出せない。
(神様……!)
目の前が真っ暗になった。と同時に身体が地面から浮かび上がる感覚。
これが魔女の魔法なのだろうか。僕はこのまま死んでしまうのだろうか。
そんなことが思い浮かんで……けれど、僕の意識は数瞬後もそのままだった。
身体のどこも――森に入ったときに転んで挫いた足以外は――痛くない。
「……。聞き分けの無い奴だ」
魔女の人の低い声が耳に入ってきて、僕はゆっくり首を動かして辺りを見回した。
そして気付く。
僕は、あの毛むくじゃらの化け物に抱きかかえられていた。
顔のすぐ傍に鋭い爪が見えたが、それは僕の身体に食い込んだりはしていない。
寧ろ爪が触れないように、手首から先が反らされている。
「お前はいつまで経っても甘い」
こちらを……いや化け物の方だけを見て、魔女の人が溜め息をつく。
「子供だからと目こぼししたところで、何の得もないというのに。無事に森の外へ出したとしても
 感謝などされず、お前が余計に恐れられるようになるだけだと何故わからない。本当にお前は馬鹿だな」
厳しい口調だったが、さっき感じたような冷たさは無い。
ただ、表情はとても苦々しいもので、まだどこか怖さを感じる。

僕はこれからどうなるのだろう。
殺されるのだろうか、助かるのだろうか。村へ帰れるのか、もう森の外へ出られないのか。
頭のすぐ上から荒い呼吸音が聞こえてくる。
僕は恐る恐る、化け物の顔を見上げた。

384名無しさん:2013/06/03(月) 23:24:25 ID:cJXzTCt6
>>749
規制で書き込めなかったときここに投下します

すきだ、って南が言った時聴き間違いだと思った。「酢来た」とか「鍬だ」とかの。
日常生活でまぁ仮に今と同じ月9に出てきそうなこじゃれた夜景の見えるバーかなんかでなんで男2人でいるかっていうともちろんナンパなんだけど、例えば食事と一緒に酢が来て「酢来たよ」とか言うシチュエーションは日本中どこかにもしかしたらあるかもしんないけど「鍬だ」っていつ言うかな。
中学生が日本史の資料集開いて先生が日本の稲作の歴史を紐解きながらこれが「鍬だ」とかはあるだろうけど、鍬かついだ農民がバーになだれこんできたり、
実は今食ってる野菜スティックはバーテンダーが家庭農園で精魂こめて作ったもので、俺がバーテンダーにこの野菜スティツクうまいっすねって言ったらカウンターの下から鍬を出してこれで週末耕してるんですよーって言って南が「鍬だ!」って言っていや俺は何考えてるんだろう。
まぁでも。ウイスキーを舐めながら反射的に浮かんだ考えを打ち消す。「好きだ」はない。流れてしまった会話をなんか蒸し返すのも面倒でいつのまにか話が野球の話になっててそんな出来事を俺は酒の酔いもあり忘れた。
バーを出て、エレベーターに乗り込む。今日は収穫もなかったのに南は上機嫌でスキップしそうな勢いでエレベーターに乗った。
エレベーターはガラス張りで、眼下にネオン瞬く夜の街が広がる。正直俺はこのタイプのエレベーターが嫌いだ。高いとこが苦手ってわけじゃなく車で山道走ってる時みたいに頭の芯がくらっとして気分が悪くなる。
しょうがなく外を背に腕組みして目を瞑ると外を見ていた南が低い声で俺を睨みあげる。
「何怒ってんの」
はぁ?と思った瞬間ネクタイ引っ張られてがっつりチューされた。うわ、と思ったけど超絶キスのうまい南に嫌悪感より先に好奇心が勝ち更なる快感を探求すべく頬を両手で覆ったり、角度を変えてキスしたり、なんか女の子にするみたいにしてしまった。
「なぁさっきやっぱり」
27,26,25,24
エレベーターの階数表示を見ながらキスの合間に息も切れ切れに言う。
「好きだって言った」
ちょっと逆切れするみたいに南が言う。いつも勝気な切れ長の目の奥が濡れててやらしい。
「悪い、酔ってた、忘れろ」
もっとキスしたい、と俺が南の腰を抱くと南は急に俺の胸を押した。うーわツンデレむかつく殺すと思うと同時にエレベーターが1階についた。俺の手をくぐりぬけ開いたドアから先に行こうとする南をつかまえ閉まろうとするドアを手で制しながらキスの続きをする。さっき俺にキスしてきたのはなんだったのか南はすごい抵抗をみせそのたびにガンガン容赦なく閉まるドアに俺達は体のあちこちをぶつけながらそれでも南に俺は食らいついた。
こいつとならセックスできるわ。頭の中ですでに南を脱がしながら再び上昇し始めるエスカレーターの中に喧嘩の相手を投げ飛ばす勢いで南を強引に押し込み、乱暴に最上階のボタンを押した。

38526-759 書生同士:2013/06/05(水) 23:31:23 ID:ChEPw9/M
分割量を模索していたら規制されました。ということでこちらに。



 茫として、天井の染みを見上げていた。熱に浮かされた頭が重い。
 枕元に置かれた湯冷ましは、先に空にしてしまった。
 喉が渇いた、と思うが、立って家人に求める気力も無かった。申し訳程度の手伝いで居候している身であれば、尚更世話になることの済まなさもある。
 だから廊下をきしきしと歩む音を聞き、襖が静かに開けられて、その向こうに同じ書生の男を見て取った時、照一は内心安堵した。

「テルさん、御加減は如何です」

 問われた声に返事を返すのも億劫で、うん、とだけ喉の奥で唸る。柔和な顔を笑ますのは、隣室に住まいを間借りし、同じ大學に籍を置く斎藤だった。
 同じ書生と云えど、法律を学ぶ斎藤と、生物学に傾倒した照一では、まるで畑が違う。
 また地方の農家の出である照一に対して、斎藤は上京してきた身とはいえ、中々の名家の出と聞く。
 論じることの出来る事物など殆どないから面白くもなかろうに、一つばかり年長の照一に気でも遣っているのか、斎藤は何かと話し掛けて呉れた。
 世間話から、身を寄せている商家の人々の話だの、友人の羽目を外した話だのを聞かせて呉れたこともあった。
 本当は英語が苦手でもない癖に、取寄せた書物の訳などを頼ってくることもあった。
「まだ、良くなさそうだ。浅野さんが持って行けと、呉れましたよ」
 この家の勤勉なお手伝いの名を出しながら、斎藤が枕元に膝をついて、片手に乗った盆を置く。
 新しい湯飲みと、無花果を載せた皿とが照一の目に入る。そろそろと身を起こして湯飲みを口に運ぶと、少しだけ頭が明瞭になった。
「……有難い。浅野さんにも、宜しく、云っておいてくれ」
「はい。ああ、それからタイさんにね、帰りに遇いました」
「泰助が」
「教授が、高月の休むなら余程酷かろうって心配していたそうですよ。……それで、本を幾つか預かって」
 高月は照一の姓である。同級の寺田泰助は、照一を介して斎藤とも顔馴染みだった。今では余程、斎藤との方が仲が良いように見えることもある。
「テルさんが読みたがっていたのが、数冊手に入ったからと」
 小脇に抱えていた書物の表紙を見せられ、その題字を呆けた眼で追って、思わず手を伸ばしかけた。
 途端に、斎藤の手に掴まって夏蒲団の中へ押し戻される。予め判っていたかのような素早さだった。
「駄目ですよ。どうせ、今読んだって頭に入りやしませんよ。それで夜更かしなぞして、風邪の治りだけ遅くするんですから。
 此れは今のテルさんには毒ですから、僕の手元に置いておきます」
 正論だと思って、照一は押し黙る。斎藤は何時も口が達者だ。法学の道には入れぬな、としばしば思うが、他の者が如何であるか実の所はよく知らない。
 ――ただ、己の手を掴んだ斎藤の手が、徐々に温くなっていくのが勿体無いと、ふと思った。
「読む為には早く治すことです」
「……ああ。そうしよう」
「余り遅いと、僕が先に見てしまいますからね。お大事に」
 立ち去る素振りを見せた斎藤の手を、照一は思わず掴み直した。
 そのまま引っ張って甲を額へあてがうと、まだそちらは少し、冷やりとして心地良い。吃驚したような斎藤の声が、頭にぐわんと響いた。
 こんなものは、体温を下げる役には立たない。
 判っていても、何故だか酷く惜しかった。
「テルさん、テルさん。今水枕でも貰って来ますから……」
 慌てたような斎藤の声が、遠くなる。済まない、斉藤、と口にした積りであったが、定かではない。


 聞こえ出した寝息に硬直を解いて、斎藤は複雑な顔で照一を見下ろす。
「思い違えたら如何するんです」
 日頃斎藤を頼りもしない、此方から話し掛けなければ口も利かないような風情だから、不覚にも動揺してしまった。
 疎まれているかと落ち込んで、寺田に笑われた事もあったというのに。心音が頭に響いて、煩い。
 斎藤はそっと書籍を傍らに置いて、諸手で力の抜けた照一の手を包む。
「……葉っぱを見る目の少し位、僕に呉れても罰は当たらないでしょうに」
 屹度研究の道にそのまま進むのであろう彼と、法曹の道へ進む心算である自分の、道が別れる時まではもうそう遠くない。その時、せめて友人で在れるだろうか。
 斎藤の手が、じわりと熱くなる。
 頑強な彼のこと、明日にはすっかり快復してしまうだろう。それでも、もう少し此の侭でいて呉れてもいいと、不謹慎な事を思った。

38626-819 旅行先で出会った運命の人 1/2:2013/06/15(土) 23:08:15 ID:XFt/5UKs
向こうに書き込めないのでこっちに

 あいつとは沖縄を旅行中に知り合った。今から六年前で、あいつは卒業旅行中の大学生。
 馴れ馴れしく写真撮影を頼まれて、成り行きで会話をしていたらお互い近くに住んでいることが判明し、
 微妙に付き合いが始まって、いつの間にか恋人になっていた。
 俺はその頃から、男の癖に占いに凝っていた(性差別的な文言だが)。
 当たると噂の占い番組で、「今週の天秤座は旅行が吉。運命の相手に会えるでしょう」といわれたことが、
 旅行の一つのきっかけだったほどだ。
 両思いになってからそれを思い出し、俺は他愛もなく、そして年甲斐もなく浮かれた。三十前の男がである。
 男同士であることも、年が八つほど離れていることも、その時は大したことには思えなかった。まあ、若かったのだ。
 付き合って三ヶ月くらいした頃だったか、俺は、酔った勢いで、その占いのことを喋ってしまった。
「だから君は俺の運命の相手なんだよ」
 素面なら死んでも吐かない台詞を真顔で言い切った俺に、あいつは一瞬間を置いて、けたたましく笑い出した。
「おい君、笑うな。笑うな」
「だっ……、だって、あひゃひゃひゃ、運命って、運命の相手って、おっさんが真顔でうひゃははははははは」
「おっさんというのはやめなさい」
「あははははははははははは」
 ひとしきり笑ったあと、俺も天秤座だから双方向運命っすね、こりゃもう逃げられねーなぁ、などと
 にやにや笑っていたあいつの顔はまだ鮮明に思い出せる。
 だが、今の俺はひとり、だ。

 あいつとはこの一年連絡を取っていない。理由は簡単で、俺が逃げたのだ。
 あいつはいい恋人だった。口は悪かったが、マメでよく気が付いて、態度は巫山戯ていたが、優しくて愛情深かった。
 一方で俺はどうだ。三十路も半ば、零細企業で細々と働く将来性皆無のくたびれた平社員。
 若いあいつの未来を摘み取ってしまっている気がして怖かった。
 あいつは別にゲイではなく、昔は彼女もいたらしい。
 結婚して、子供を作って、そんな普通の幸せが幾らでも掴めた筈なのに、いや、今からでも掴める筈なのだ。
 俺が居なければ。
 だが、あいつは俺がそんなことを口にすると、酷く怒った。
 当たり前だ、だが俺は怒らせることを承知で、言わずにはいられなかった。
 運命の相手と浮かれてみても、俺があいつを幸せにできるとはとても思えなかったのだ。
 喧嘩が増え、関係はぎくしゃくし始めた。
 そんな時に、俺は、――会社をクビになった。
 ある意味でチャンスだ、と感じた。交友関係の狭い俺は、それら全てを断ち切り、
 アパートを引き払って、携帯を解約し、一方的に、姿を消した。
 謝罪と感謝の手紙を、一通だけ送って。

 三十路を過ぎて、見知らぬ土地での再就職は大変だったが、
 奇跡的に、訳ありの人間を多く受け入れている小さな会社に入ることができ、どうにか生活も安定し始めた。
 月曜日、パターン化した流れでテレビを付ける。聞き慣れた音楽。
 あいつがいた頃は、毎週一緒にチェックしていたあの占い番組だ。もう、一人で見るのが当たり前になった。
「今週は絶好調、天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆ 他人への気遣いを忘れずに!」
「……またか」
 苦笑する。運命の相手がそんなにごろごろ居て堪るか。
 一人でいい。一人でよかった。一人でよかったんだ。あいつがそうでないのなら、もう誰も要らないんだ。
 その週末の社員旅行をキャンセルしようかと思ったが、催行人数ぎりぎりだったことを思い出し諦めた。
 俺の所為で中止になっては、温泉を楽しみにしていた同僚の山田さん(62歳)に悪い。
 だがその気遣いが、裏目に出た。
 俺は、熱海の旅館の廊下であいつと真っ向鉢合わせる羽目になったのだから。

38726-819 旅行先で出会った運命の人 2/2:2013/06/15(土) 23:11:22 ID:XFt/5UKs
 社員旅行×社員旅行。まさかのバッティング、である。予想して然るべきだった、シーズン真っ盛りに観光地なのだから。
 しかし同旅館とは酷い。運命の悪戯、或いは本気?
 驚愕と混乱と焦燥に無言の俺とは対照的に、あいつは、
 いつも通りの――いつも? 一年前までの話だろう、と俺は自嘲する――馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。
「わー久し振りっすね、三百七十二日振り? あは、ちょっと痩せた? 髪の長さ変えた?
 幽霊見たみたいな顔すね、足ちゃんとあるよ、俺。見る?」
「……驚かないんだな。君は」
「あー。だって絶対、此処で会えると思ってたし?」
「……何故だ?」
 あいつは笑みを消して真顔で答える。
「『天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆』俺の運命の人つったら決まってるじゃないすか」
 俺は黙り込む。あんなのはただの占いだ。だが、その占いを信じてこいつに告げたのは誰だ?
 実際に俺達は此処で会ってしまった。偶然? 必然? 運命? それとも。俺は混乱したまま言葉を絞り出す。
「……まだあの番組見てたんだな」
「あんたの所為で習慣になっちゃってんすよ、責任取って結婚しろよな」
 聞き慣れた軽口。だが、目は笑っていない。その口調も表情も、台詞に似つかわしくないほど真面目だった。
 ……ああ、こいつはまだ、俺を。馬鹿が。諦めろよ。ブーメランのように自分に戻ってくる言葉が頭に幾つも浮かぶ。
「さっき仲良くなった山田さんって人、あんたの同僚でしょ?
 ふーんそっか、日本海側まで逃げたんだ。随分畑違いに就職したんすね」
 俺はくるりと背を向けた。逃げよう。そう、今度はもっと遠くに逃げる。
 苦労して就職した会社だが、仕方がない。こいつが諦めるまで、
「逃げるの? 別にいーよ」
 意外な言葉に、俺は思わず立ち止まって振り向く。
 あいつは追い掛けようとする素振りも見せずにさっきのままでさっきの場所に立っていた。
「何度も何度も何度も何度も何度も逃げれば……。俺は全然構わねーすよ。だって、」
 俺はあいつから目を離すことができない。
「もしも俺とあんたが運命だったら、何処に逃げたって消えたって死んだって追いつける。
 十年後でも五十年後でも千年後でもいつか絶対一緒になれる」
 それが運命ってもんでしょ、とあいつはけたけた笑う。
 俺は、何かに押さえつけられるような錯覚を感じながら、月並みな文句で抗おうとする。
「君は……、俺といない方が、幸せになれるだろう。運命なんか、忘れて」
「そうかもね。あんた卑屈だし、根暗だし、一方的だし、考え方が馬鹿だし。でもさ、」
 あいつは一歩も動かないまま、俺を見据えて笑った。ぞっとするほど綺麗に。
「知らねーの? 運命は、抗えないから運命なんすよ」

38826-849 両片思い:2013/06/20(木) 16:59:11 ID:mmvb.f/c
先輩は有能な営業マンで上司にも部下にも厚い信頼を得ている
俺は気さくで仕事にひたむきな先輩にすぐに懐いて…恋情を抱いた
そうしてみると途端に真っ直ぐに尊敬の眼差しを向けてきた事が恥ずかしくなった

先輩には奥さんがいる
先輩はあまり話したがらないけれど、絶世の美女とだけ言っていた
「俺の眼鏡どこにある?」
「童顔隠しの伊達なら給湯室にありましたよ」
「…お前生意気だぞ」
大丈夫、先輩の幸せを壊すつもりはない
俺は後輩として先輩を尊敬してるんだ

俺には男前の部下がいる
たまに生意気だが素直で仕事の覚えも速いいい部下だ
「甘党な先輩にケーキのストラップ買ってきました」
そういって面白半分に買ってくる乙女チックな物が年々溜まっていく
「あなたって意外と乙女なのね」
そうレズビアンの妻から笑われる

相手はストレート、しかも直属の後輩
「奥さんってどんな人なんですか?」
「絶世の美女。いいから仕事しろ」
大丈夫だ、あいつはいい部下だ。バレる訳が無い。隠し通せるに決まってる。

38926-859 暑くても離れたくない:2013/06/21(金) 19:32:29 ID:b.zNaHh6
本スレ860です
続編というかおまけ

==============================

「ごめんっ…俺べとべとだった」
身体を離そうとするとぐいっと押し戻された
「俺も涙でべとべとだから気にしないで…俺も離れたくないし」
普段の余裕のある智ではなくて、

「やっぱもういっ「だめ」
「キスだけ…」

いつもとは違うぎこちないキスは心地よかった

39026-869 狸×狐:2013/06/24(月) 07:39:09 ID:q1JnN67M
本スレで時間切れに気付かず投下してしまいました…申し訳ありません
あと三十分早く気付いていれば良かったです…
時間切れ無効ですので、こちらにも投下させて下さい。すみません。


「あっはは、また騙されてやがる。無様なやつめ。気分が良いなあ。うすのろをからかうのは気分が良い!」
俺の腹の上に跨がって、目尻をきゅ、と細め、口角を吊り上げケラケラ笑う奴の顔を見上げ、溜め息をつく。
襦袢の裾から飛び出た奴の尻尾がぱたぱたと動いて俺の太ももの辺りを着物越しに掠めるのがこそばゆい。
「いい加減どいてくれないか」
「嫌だね」
「なあ、ならせめて、俺の腕を膝で抑えるのはやめてくれよ、痺れてきた」
「ふうん」
そう言うやいなや、ぴしゃりと俺の手の甲を叩く。
指先が痺れる感覚に眉をしかめると、奴は一層ニンマリと笑った。
「な、僕は綺麗だったかい?まったく綺麗な女だったろ?お前はいつも、あんな風に女を口説くの?お前なんかに着いてくる女なんて、いるの?答えてみてよ、さあさあ」
言い淀んでいると、またぴしゃぴしゃと痺れた手を叩いてくるので、仕方なく口を開く。
「…ううん、まあ、そうだなあ…大抵は……着いてくる」
上機嫌に動いていた尻尾がぱたりと止まる。
俯いたまま動かない奴に声をかけようか否か考えながら、二、三まばたきをしていると、いきなり頬をつねられた。かなり、強く。

「いひゃい」
「僕に騙されてのこのこ着いてくるうすのろの癖に、生意気なんだよ。一丁前に女なんか口説きやがって。なっさけない顔してさあ。こんな情けない顔した奴に着いてく女は、何考えてんだろ」
「さあ…顔はやたら、ほめられるけど」
「うるさいよ!ほんと憎たらしい。憎たらしいから、もっとからかってやる」
「あ、おい…」
「喋るな!」


お前だと分かっていて声をかけた。
そう告げたら、こいつも少しは可愛気のある顔をするのだろうか。
……まあ、喋るなと言われたので、少し黙っていようと思う。

391890-1/2:2013/06/26(水) 03:41:51 ID:eO3ad2tU
本スレ890-891です。
長いと叱られたので分割してたら途中からになってしまいました…
本スレ2レス投下で終了ですが、1/2の前半部分を追加でこっちに
投下させてください。読みづらくなって申し訳ないです



姉さんの3回忌に訪れた墓所で、俺と義兄さんは静かに手を合わせる。
親代わりになって歳の離れた俺を世話してくれた姉さん。
それを陰から支え続けてくれた義兄さん。
福祉課の職員と相談に訪れた市民という、色気の欠片もない出会い方をした二人は、バレンタインデーに告白して、ホワイトデーに返事をするという、今時小学生でもやらない幼稚で不器用な恋愛を経て結ばれた。
なのに、たった一年足らずで姉さんは逝ってしまった。
義兄さんは今も変わらず、市民の良き相談相手として働きながら、大学に通う俺の面倒を見てくれている。
まるで困っている人に尽くすことが、人生の生き甲斐みたいな人だ。
「お腹空いただろう? 何か食べて帰ろうか」
「はい」
合掌を解いた義兄さんの、眼鏡の奥にある瞳が少し潤んでいる。
二人に見守られて十代の後半を過ごした俺は、両親がいなくても十分に幸せだった。
本当に、二人には心から感謝している――だから、この気持ちは二人への裏切りだ。
姉さんが短い生涯で一番愛した人を、俺はこれから傷つける。酷いことをして、消えない罪を背負わせる。
どうしてこうなったのか自分でもわからない。けれどもう決めたことだ。
義兄さんはきっと苦しむ。悩みすぎて頭がおかしくなるかもしれない。もしそうなっても俺がずっと側にいる。義兄さんと俺は、これから先もずっと一緒だ。
姉さんが天国で待ってたとしても、俺と義兄さんはそこには行けないだろう。
地獄まで義兄さんを連れていく俺を、姉さんは決して許さないだろう。
神様は選択を間違えた。姉さんではなく、俺を連れて行けばよかったのに。
それとも、こんな俺だから神様も側に呼び寄せたくなかったのだろうか。

「晴れてよかった。来週からは雨続きらしいから、むし暑くなるよ」
「もう梅雨入りしましたからね」
こんな会話ができるのも、あとわずかな時間だけ。
義兄さんの、こんな穏やかな笑顔が見られるのも、あと少しだけ。
「――義兄さん」
「うん?」
「お話したいことがあるんです」
「話? どんな話?」
「できたら、家に帰ってゆっくり聞いてもらいたいんですけど、だめですか」
少し考えるような顔で、それでも微笑んで頷く義兄さんの目は優しい。
「いいよ、たまには男同士でじっくり語ろうか」
「はい」
そっと俺の背中をたたく、義兄さんの手。
そこには今でも、姉さんを愛している証拠が薬指に光っている。
義兄さんの、一生分の愛情を持って、遠いところにいってしまった姉さん。
だから、残りは俺が全部もらう。
――いいよね? 姉さん。

392890-2/2:2013/06/26(水) 03:51:27 ID:eO3ad2tU
出会ってから付き合うまで約二年。付き合ってから結婚するまで一年と少し。結婚生活は一年足らず。
妻が亡くなって、もう二年以上が過ぎてしまった。
今日は3回忌の法要で久々に妻の眠る墓所を訪れた。妻がこの世で誰より大切にしていた義弟と一緒に。
妻を見送った日は、ひどい雨が降っていた。
傘を差し、最後まで墓石の前を離れなかった義弟は、一粒の涙も流していなかった。
僕は泣き腫らした目で「君は強いね」と声をかけた。
義弟は振り向きもせず、真っ直ぐに立って「もう三人目ですから」と呟いた。
その声があまりに淋しげで、僕は傘を放り出して義弟の肩を抱いた。
嗚咽を上げる僕に、義弟は自分の傘を差しかけてくれた。肉親全てを失った彼のほうが、ずっと辛いはずなのに、慰められたのは僕のほうだった。
妻がいなくなった家に、今は二人で住んでいる。大学を出るまでは面倒を見させてほしいと、僕が願い出たからだ。大学を卒業するまで、自分がしっかり世話をしたいと言っていた妻の気持ちを、僕が成し遂げてやりたかった。
――けれど、本当は僕自身が淋しかったのだ。淋しさに耐え切れなかったのだ。
義弟の強さに、僕は知らぬうちに甘えていた。
一回り以上も歳が離れている彼に、自分の淋しさを押し付け、背負わせてしまった。
悲しみを分かち合えるのは義弟しかいなかった。義弟の存在だけが、僕の生きる支えになってくれた。
涙を流して悼むほどの悲しみは通り過ぎたというのに、未だに薬指の指輪をつけているのは、半分は妻への思いだが、もう半分は義弟への依存心からだった。
もしも指輪を外してしまったら、義弟は僕の側から離れていってしまうかもしれない。僕を残して、どこか遠くへ行ってしまうかもしれない。
妻を悼み続けることで、義弟を縛っておけると考える僕は、誰から見ても最低の人間だ。
けれどもう少しだけ、彼の強さに甘えて、縋っていたかった。
こんな僕の心を知ったら、彼はどう思うだろう。
大切な姉を預けた男が、こんな脆弱な心の持ち主だとわかったら、失望し、軽蔑するだろう。
だから隠し続けなければならない。今はまだ、彼を失うわけにはいかないのだから。
墓石の前に並んで立ち、僕と義弟はそっと手を合わせる。
こんな僕に、大切な弟を残して逝ってしまった妻への、懺悔の時間だった。

39326-899 他校の後輩:2013/06/27(木) 17:51:49 ID:q8Kclirc
 小さい頃から得意で続けて来た競技は中学で全国大会に出場するほどの腕前で、高校もその推薦で決まったくらいだ。
 卒業式に柄にもなく花なんぞを手渡して見送ってくれた後輩達に、俺は明るく声を掛けた。
「後は任せたぞ」
「はいっ!」
「それで一年後、俺ん所に来い。また鍛えてやる」
「判りました!」
「頑張ります!」

 高校に入学しても日々練習に励み、一年でも選手に選ばれ充実した生活を送った。
 春が来て新入生の中には見知った顔が何人かいたが、一番期待していた奴はいなかった。
 聞いてみると、進学のため県外に出たらしい。
 一番伸びそうで期待していた奴だが、将来の目的のためじゃ仕方ないな……。
 残念に思いながらも、鍛錬を続け迎えたインターハイ。
 当然のように勝ち進み、地域ブロックの試合会場で見つけた懐かしい顔。
 少しデカくなった?
 いやそれよりも、なんで進学校じゃなくて強豪で知られる高校にお前が居るんだ?
 聞きたいことが沢山ある。
 試合前のバタバタした会場内、イメトレや精神統一をやめて駆け寄った俺に気付くと礼儀正しく一礼した。
「お久しぶりです」
「お前、続けてたのか」
 だったら何でうちの学校に来なかったんだ?とは聞けなかった。
 けど顔に出ていたのか、後輩は昔と変わらずまっすぐ俺の目を見て話しかけてきた。
「オレ、強くなりたいんです。先輩に可愛がられたいんじゃなく、勝ちたいんです。だからこっちに入学しました」
「!そうか。頑張れよ」
 一年見ないだけで生意気になりやがって……。
 余裕ぶって笑顔で肩を叩いて別れたが、内心ムカついてしまう。
 俺が一番気に入って期待していた後輩。
 でも今は他校の選手になっていた。
 なぜかは分からないが、無性に腹が立つ。
 先輩としてのメンツだけじゃなく、絶対に負けられないって気になる。
 闘志を燃やしながらも平常心を心掛け二回戦に進み、運よく対戦した奴をコテンパに負かしてやった。
 それなのに、まだもやもやしたものが残っていて気分がスッキリしない。
 この先もまた奴と戦うだろうが、勝ち続けなければと何故か焦りを感じた。

39426ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー:2013/06/29(土) 19:26:51 ID:SSoNmiXs
規制中なの


蒼、蒼、藍色瑠璃の色。
濃淡様々な青色が、空と海とを描き出す。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、暖かみを得るその一瞬が、他の何より好きだった。
「青」
一息ついた背中に声をかける。キャンバスに向かっていた青い瞳がこちらを移し、明らかな喜色を孕んでみせた。
「白」
その笑みに微笑み返し、俺はキャンバスの前まで歩みよる。
「見事なものだな」
巨大なキャンバスを目の前にして、俺は言った。すると青は少し照れたようにしながら、あの人に捧げるものだもの。と胸を張った。
1ヶ月後の今日。俺たち色は、全てを作りだして下さった方に会う。それは一年に一度のお祭りで、その時俺たち色は、全員で協力して描いた一枚の絵を、あの方に捧げる。中心となる絵は毎年変わるが、今年は青が、その大役に就いていた。
「見事なものだな」
空と海をとっくりと眺め、もう一度、俺はそう呟いていた。無意識だった。
色の中でも赤青黄の三原色は特別で、その表現力も突き抜けていた。そして俺は、三色の中でも青の絵が、他の色より好きだった。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、他にはない暖かみを帯びる姿が好きだった。
ほう、と息をついていると、そっと近づいてくる気配。とっさに身を引けば、やはりというか、青が手を伸ばしていた。
「……青」
思わず声が低くなる。
青はごまかすように笑っているが、ごまかされてなんかやれない。今、こいつは俺に触ろうとした。

39526ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー2/2:2013/06/29(土) 19:28:58 ID:SSoNmiXs
本来、色同士が無闇やたらとお互いに触れることは、あまり誉められたことではない。触れた先からお互いの色が染み込んで、しばらく取れなくなるからだ。ひどいと色としてしばらく使えなくなってしまう。俺はその性質が特に強く、少しだけでもすぐに染まってしまうからやってられない。
「……青」
じろりと睨む。青はバツの悪そうに目をそらす。思わずため息が出た。
「誰かと触れ合いたいなら緑か紫に頼めば良いだろう」
青の部下である彼らなら、影響も最小限で済むのだからと、そう言えば、青は弾かれたように顔を上げ、頬を膨らませてみせた。
そしてポツリとこぼされたのは。
「僕は白に触りたいんだ」
ガツン。と、これ以上なくストレートな言葉。思わず頭を抱えたくなった。これだから、こいつは!
見ればむすりと子供のような顔。
その顔に、どうしようなく弱いのを、俺はもう自覚済みで。
ため息ひとつ。
「……青」
青の、一秒たりとも同じ色を映さない瞳に映る白。綺麗だなあと、人事のように思ってしまう。そして、彼の描く巨大な絵。
ああ、仕方ない。
「……少しだけ、なら、許してやる」
ポツリとこぼしたその言葉が消えないうちに、体に衝撃が走って。
抱きしめられたのだと知ったのは、その暖かさからだった。
しばらくは己に付いた色に悩まされそうだと思いつつ、その色の印象からは結びつかない暖かさに、腕を回したのだった。





1で分割表示忘れてすみませんでした

39626-929 憎いはずなのに:2013/07/01(月) 14:29:46 ID:68cKC9P6
好みのお題だったのに間に合わなかった…


俺が殺したかったアイツが切られて、嵐の海に落ちていく。
それを見た瞬間、俺は反射的に荒れた海に飛び込んでいた。
何をやってるんだ……。
嵐の海で意識のない人間を抱えて、岸まで泳げるのか?
第一憎んでいた相手を助けようとするなんて、自分で自分が分からない。
それでも動いちまった以上はやるしかなく、必死で俺は岩場まで泳ぎついた。
息も整わぬまま気を失った奴を引きずり岩場を上へ上へと歩き、波の届かない岩の隙間を見つけて中に入りやっと一息つく。
薄暗い中で奴の上半身から濡れた服を剥ぎ取り、絞ってそれを包帯代わりに腹に巻き付け止血を試みた。
思っていたより傷口は浅く、これで何とかなるかもしれない。
初夏だが濡れて体温を奪われ身震いした俺は、仕方なく意識のない奴を抱きしめる。
いつも余裕の冷笑を浮かべている顔は血の気を失い青ざめていたが、整っていて人間離れしていた。
普段はセットされた髪は濡れて額に張り付き、年相応の若さに見える。
何時とは全く違う初めて間近で見る姿に、俺はつい見入ってしまう。
コイツに近づこうとして、それを疎ましく思った周りの奴に狙われ、俺は仕事も仲間も失った。
その恨みを、直接関係ないコイツを追って殺すことで晴らそうとしていた。
憎まなくては、俺は今日まで生きてこれなかった……。
それなのに必死で助けて、抱きしめたコイツに口付けたいと思うなんてどうかしている。
このままこの腕に閉じ込めてしまいたいなんて……。
コイツが目を覚ました時、俺はどうしたらいい?

39726-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 13:26:27 ID:vJXpVw72
規制中につきこちらで。


何かなァ、と彼はベッドにうつ伏せて呟いた。横たわった僕のすぐ横に、端麗な横顔が来る。
色の薄い髪の先が滑り落ちて、尖り気味の耳が露わになる。剥き出しの背には蝙蝠のそれに良く似た翼がぱたついて、いかにも退屈そうだった。
「オマエとしても、あんまりキモチヨくないんだよなァ」
そう言われると、僕としてはどうすればいいか分からなくなる。
黙り込む僕の方に顔を向けて、彼は悪戯っぽく笑った。僕が惑うのを楽しむように。
「オマエ夢見ないだろ。オレとしてはソッチがフィールドだからさ? 生身ってナンか変なんだよ」
「……そうでしたか」
「ま、しょげんなよ。へばンない相手は久しぶりだったしさァ」
伸ばされた手に頭をぐしゃぐしゃされながら、伝えられた不満を解析して、どうにかできることがないか考えてみる。
暫しの沈黙の後、やがて一つ、いいことを思いついた。
体を起こして、訝る顔を左右から挟むように、ベッドへ両手を付く。できるだけ優しく笑う表情を作って――

「では、役割を変えてみましょう。未知の中に新たなる趣味嗜好を見出せるかもしれません」
「ちょッと待てよオイ」
「あ……あの、もう過去に体験済みでしたか。ごめんなさい」
「ねーよ! ねェけどそこがモンダイなんじゃねェんだよ!」
「良かった。ご心配なく、方法は心得ていますから」
「オマエ分かってる? ナイだろ? そもそもオレの名は『上に乗る』って意味でだなァ」
「ええと……大丈夫です。お望みの体位にお応えします」
「そういうイミで言ってんじゃねーよ!」

目を三角にする彼の頬に、僕はそろりと手を触れた。

「貴方に快い夜をお約束致します」

それは昔、僕が売り出された頃のキャッチコピー。
規約に従い、前の持ち主のデータはもう、僕の中に何一つ残っていない。
覚えているのはただ、棄てられた後の、どうしようもない不安と虚しさだけ。
彼が悪魔なんて非現実的な存在でも、面白半分にでも、僕を拾ってくれた時、まだ価値があるんだとどんなにほっとしただろう。
――もう二度と手放されたくない。失いたくない。一人にはなりたくない。だから。

「マスター」

覗き込む僕の顔に、何を見たのだろう。
どォにでもなれ、と自棄気味に呟いて、マスターは仰向けになると僕の首に両腕を回した。

39826-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 17:35:54 ID:bN0kX93U
また、夜が変わった。
ほんの一眠りしてる間、加速度的に世界は人工の光で満たされていく。
以前は赤や緑など雑然とした色にまみれていたが、今はただ青く白く統一され、どこか病的な印象を受ける。
あれからどれほどの時間が流れただろう。なんにせよ、目覚めたということは餌が必要になっているということだ。
感覚を広げ、ややあって一つの魂を見つける。好都合にも近くに他の反応はない。
さっそくその場に跳躍すれば、瓦礫とともに一人の若い男が横たわっていた。
浮浪者だろうか、酔いどれだろうか。そういう類の者にしては身なりは整っているように思える。
しかし、そんなことは久々の食事にあっては瑣末なことにすぎない。端正な上物とあってはなおのことだ。
「さあ、お前はどんな夢を望むんだろうな……?」
女か、それとも男か。無意識に潜む理想の姿を探ろうとする。
しかし、いくら意識の同調をはかっても、なんの反応も返ってこなかった。
焦りとともに額を合わせる。
その時、間近で閉じられていた瞼が開き、暗闇の中にちかりと赤い瞳がまたたいた。
「――……こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
不意の輝きに身をのけぞらせる。男は緊張した空気をかき消すように、ふわりと笑みを浮かべた。
この状況で人間が目を覚ますなど、初めての状況だ。
夢を見ない。支配下におけない。そんな人間がいるものか。
あり得ない事態に動けずにいると、一瞬で顔の形が組み替わり、今度は女性的な顔で微笑んだ。
「今宵は、どのような夢をお望みですか?」
本来、血や骨や筋繊維でできているはずの人間の内部が、鋼鉄の骨組みに置き換わっているのが見えた。
戸惑っているうちに、目の前の人物は何度も何度も姿を変えて同じ問いを発する。
最終的にまた元の顔へと形を変わったとき、ようやく腰が据わった。
「どのような夢をお望みですか?」
「……それはこちらの台詞だ」
そうだ。人間がどういう進化を遂げたかは知らないが、要は精さえ搾り取れればよいのだ。
「おまえこそ、どんな夢を望むんだ」
「私の望みですか?それに答えられるようにはできておりません」
「いいから、言ってみろ」
「私の、望みですか?」
「ああ」
「……私の…………望み……」
急速に眼の光が失われ、体から力が抜けていく。
「おい、どうした、おいっ!」
呼びかけても返事はない。勝手に起きたり寝たり、ままならない奴だ。
体を揺さぶってみたり、ばしばしと頬を叩いてみたり、額で熱を測ってみたり、いろいろ試してようやく目を覚ました。
ぶうんという羽虫の飛ぶような音が、かすかに聞こえたような気がする。
「こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
「おまえは一体何なんだ……」
「私は個体番号M-TR1098、ユーフォビア社のセクサロイド“アルプ”です」

39926-949 セクサロイドとインキュバス2/2:2013/07/04(木) 17:36:56 ID:bN0kX93U
「……つまり、おまえはゴーレム、じゃない、ええと自動人形のようなものということか」
「多少の齟齬がありますが、おおむねそのような理解でかまいません」
それにしても話を聞く限り、魔の物にとって情勢はさらにやっかいなものとなっていた。
人間はカプセルという名の密封された棺桶で眠り、常に都市の監視下に置かれ、警邏の網が張り巡らされている。
弱り切った人外の物など瞬滅できる武器を、人間はとうの昔に作り上げている。
下手に寝所へ赴くと消されかねない。これからの行動を決めあぐねていると、“アルプ”が問いを発した。
「私は不具合が見つかり、このまま明日十時ちょうどに廃棄を言い渡されました。
 あなたが現れたということは、何かオーダーに変更があったのでしょうか」
堅く握ったこぶしに焼印のようなものが押されているのが目に留まった。
得られた情報は理解できないことの方が多いが、ひとまずこいつ自身に関しては人形で奴隷で淫売なんだと結論付けた。
「――ああ、そうだ。廃棄される前に案内を頼みたい。できるか」
「はい、可能ですが、私は性機能に特化された機体です。ナビならば、もっと適任が――」
「おまえとは、そういう行為をする気はないよ」
「はい……」
目覚めてからずっと柔和な笑みを保っていたが、初めて表情を曇らせた。
性行為自体はむしろ好ましいところだが、それは十分な補給があればの話だ。
こいつから精気を得られない以上、無為にエネルギーを失うことは避けたい。
とりあえず、人にまぎれるには何らかの姿をとらなければならない。
幸いにもこいつが意識を失う瞬間に、一人の男のヴィジョンが見えた。ひとまずは、そいつの姿を借りることにする。
「…………っ!」
淡い発光とともに変質させると、また落ちるんじゃないかと思うくらい、激しく身を硬直させた。
「……教えてください。あなたは何者なのですか?」
「なあに、どうしようもない淫売の仲間だよ。――さあ行くぞ」
“アルプ”の体を抱きかかえ、人間の街に跳躍の目標を定めた。また長い眠りに就くために。

――――
すみません。ご迷惑おかけしました

40026-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 18:10:55 ID:FemsFhaQ
3番手ですがいかせていただきます。


彼は寂しそうに見えた。少なくとも、そのような外的特徴を備えていた。
伏せた目。物憂げな眉。血色の悪い頬。丸めた背。
目があったので話しかけると、しばらくして「ああ」と得心の声をあげた。
よくある反応だ。そして、その次の反応は大抵、私に用がある場合とない場合で大きく異なるのだが、
彼の場合は前者であったらしかった。
私は需要があったものと判断し、彼と共にしかるべき場所に赴いたのだった。

「ばっか、ばっか、馬鹿じゃねーの!? なんで俺がやられる方だと思うのさ、それも男とかねーし!」
挿入の直前で拒否され、私はその機能を一時停止した。
「誘ったのはお前の方だろ? 俺のセックスに興味があるって言ったじゃないか」
「そのしゃべり方もやめろ!気色悪い」
「……そういうご要望でしたので。男らしくやってみろ、と最初に」
「できるのか、って言ってみただけ!なんかお前みたいな機械があるって聞いてたからへぇー、って思っただけなんじゃん!ほんとにやるかよ、馬鹿らしい!
だいたい、お前俺のこと知らないだろ?俺は女専門だっての」
「それは、失礼しました。では今回は、ご依頼というわけではなかったのですね」
「ちょっと見てみたかっただけっつーわけよ、ほんとに人間じゃないのなーって」
何故か、彼は寂しそうな顔をした。また。
「はい、私は人間ではありません。登録され、ご要望に応じてこういった行為をサービスするものです」
「人間そっくりなのに匂いがなかった」
「匂いですか?」
私には、体臭も機能の一つとして、人間のように、より望ましい形で付加されているのだが。
「俺らの食べ物だよ、わかんなくていーの。……あーあ、まったく、お前らみたいなのが増えると、俺みたいなのは死ぬしかないわ」
「同じ職業の方というわけですね、人間では、珍しい」
ようやく、私にも彼の寂しい顔の理由がわかったというわけだ。
しかし彼は言った。
「そんなんじゃねーよ」

彼との出会いは、いつでもはっきりと思い出せる。私の記憶が失われることはない。
私は、あらゆる面において、人間を凌駕する存在として作られた。
では、なぜ創造主は、私に命、魂という機能を備えてくれなかったのだろう。
それがあれば、おそらく私ですらも、彼の食糧になりえたのではないのか。

彼が私に抱いた感情を、私は持たなかった。あるいは、彼の人より長すぎた生において、何らかの障害が発生してしまったのか。
彼は、自分が飢えて消滅するのだと私に語った。もう、人間からエネルギーを得る気になれないのだと。
私がいくら彼と行為をともにしても、彼にとってのエネルギー(彼は精気といった)は満たされない。
医療の必要性を説いたこともあったが、一笑に付された。
「でもな」
彼は笑う。
「精気はないけど、お前は美味い。他の奴は食えない、もう」
気がつけば私はまた、彼の映像を繰り返し再生している。決して失われない彼の姿。

40126-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry1/2:2013/07/09(火) 01:56:47 ID:PyPwxR3M
他の人のも読みたいのでこっちで




とうに日は落ちて、息が白く煙る冬の夜。
4つ下の幼馴染(男)が黙々と隣を歩いている。
俺は大学帰り、こいつは部活帰り途中の駅でばったりと遭遇した。
別に隣同士なうえ付き合いは長いから、一緒に帰ることに違和感はない。
ただ、この沈黙がひどく痛々しいのは、何の因果かこいつと付き合うことになったからだ。


きっかけは、俺の家でゲームで対戦してた時のことだ。
どうだー高校生活はーとか彼女はできたかーとか、そんな話題をうざがられつつふっていた。
「女とか興味ねーよ。あんたや友達と遊ぶ方がまだ楽しいし」
「そうなの? 俺はおまえくらいのときは結構楽しんでたけどね。
 授業抜け出してさ、こっそり屋上とかで……」
言ってから自分の失言に気付いた。
俺はこいつが通ってる学校のOB、そこはれっきとした男子高だ。
「あんた、男が好きだったの?」
うまいごまかし言葉も思いつかない。「男がじゃない、男もだ」とさらなる墓穴を掘るのが精一杯だ。
「俺のことも、そういう目で見てんの?」
リアルでも画面の中でも俺は立て直しがきかず、あいつは的確なヘッドショットで着実にキル数を稼いでいく。
すいません俺Mなんでお前のそういうジト目大好きです、とはさすがに言えない。
あーとかうーとか何とも言えない唸り声を出していると、ぽつりといいよと声がした。
「いいよ。別に、つきあっても」
とりあえず引かれてはいないようでよかったとか、そんなあっさりと決めれる奴だったのかとか、
年下のくせに不遜だけどこいつ以上に気の合うやつはいないとか、
いろんな思考が渦巻く混乱の極みの中で、俺はよろしくお願いしますと返事をした。

40226-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry2/2:2013/07/09(火) 01:57:25 ID:PyPwxR3M
はい付き合うことになりました、だからといって何が変わるわけでもない。
あれから顔を見るどころかメールや電話などの連絡もなく数日経ち、心構えのできていない状態で今この事態を迎えている。
横を向けば何考えてるか分からない、いつもながらの仏頂面で、隣を歩く奴がいる。
ぶらぶらと夜風の中で、むきだしの手が泳いでいた。
「……おまえさあ、寒くないの?」
赤くかじかんだ手が痛そうで、思わず手に取っていた。
――瞬間、手が振り払われる。
「あ、ごめん。つい触っちゃって」
少し怒ったような顔つきで頬を赤くしている。
やっぱ、駄目だったかと心に影が差す。
「……あんた、なんで、そういうことさらっとできるんだよ……。
 俺、すっげえタイミング計ってたのに……!」
とてつもなく悔しそうな顔で、睨まれた。
茫然としていると、せっかく会えるかどうか待ってたのに、
せっかく雰囲気作ろうとしてたのに、と次々理不尽な怒りをぶつけられる。
俺はそこでやっとさまよわせている冷たい手の理由に気付いた。
「なんだ。そうだったのか。了解了解」
安心と、微笑ましさで頬が緩む。
そんな俺の顔を見て、馬鹿にされてると思ったのか、余計に顔を赤らめた。
「なんかそーゆー、あんたのいらないとこだけ余裕そうなの、むかつく」
「べっつに深く考えなくても、俺があっためてやるよ……とかいって、きゅっ、とやれば万事オーケーだろ」
そう言って笑うと、俺はあんたみたいにチャラくないんだよとか、それはまだ早いだろとかなんかごにょごにょ言っていた。
俺は俺で、ちゃんと俺のこと恋愛的な意味で考えてくれてるんだなあ、
意外な一面があるものだなあと、いろいろ嬉しく思っていた。


ただ、冗談だったはずのアドバイスを真に受けてクサい台詞を吐かれたあげく、
きゅっと抱きしめられて、全身温められることになるのはまた別の話だ。

40327-29 甥っ子×叔父さん 1/2:2013/07/17(水) 02:11:55 ID:.cybjFvQ
「おじさん結婚しないの」
19歳下の甥っ子に突然尋ねられた。ついに兄貴が婚期を心配しだしたのだろうか。
「もしかして今日、見合いの話持ってきた?」
「違うって。親父からは別に何も言われてないよ。ただ俺が聞きたいだけ」
「なんだよ焦った。まったく予定ない。残念なことに彼女もなし。
 それよりお前はどうなんだよ。コレ、できたか?」
小指を立てて聞いてみる。
「それおっさんくせえからやめたほうがいいよ。彼女なんていない」
「20過ぎたら30まであっという間だぞー。ちなみにその先の30代はもっと早い。
 今のうちにいい子つかまえとけよ」
「……んん」
アラフォーからのありがたい忠告だというのに、テーブルに頬杖をつきながら適当な相槌を打たれた。
しょっちゅうお馬さんごっこやヒーローごっこをして遊んでやったこいつも、あと10日で成人だ。
時の流れは恐ろしいほど早い。それにしてもずいぶん大きく育ったものだ。
我が家の家系から180越えが出るとは思わなかった。
「今お前に乗られたら骨折れそう」
「乗るって……えっ、ちょっと、何言ってんの急に」
「昔、お馬さんごっことかしてやったなーと思って。
 お前、『歩け歩け!』って言いながら尻叩いてきたから痛かった」
「あー、なんだ。そういうことか。っていうかいきなり何年前の話してんだよ……」
赤面して決まりが悪そうにしている。こういうところを見るとまだ子供らしいなあと、つい笑ってしまう。
「他には……そうだ。ぐるぐるとかよくやったな」
「回してもらうやつだっけ。それすげー好きだった気がする」
ぐるぐるとはその名の通り、後ろから相手の腰の部分を持って抱き上げ、ぐるぐる回すという遊びだ。
こいつは数ある遊びの中でも、なぜかこれがお気に入りだった。
疲れてやめようとすると、もう一回だけお願いと半泣きでせがまれたっけ。
満足するまでやらされたおかげで、よく腕が筋肉痛になった覚えがある。
今の俺では、回すどころか持ち上げることすらできそうにない。

40427-29 甥っ子×叔父さん 2/2:2013/07/17(水) 02:12:55 ID:.cybjFvQ
「懐かしいな。あれ、そんなに楽しかったのか?」
そう問いかけると、いきなり立ち上がって俺の背後にまわり、脇の下に手を入れて持ち上げられた。
「なんだよ」
「いいから」
されるがままに立ち上がると腰に腕をまわされ、ひょいと抱きかかえられた。
フローリングに足がつかない。
「だから何やってんだって」
「昔のお礼。おじさんも体験してみたらいいんじゃない……っと!」
そう言って笑うと、その場でぐるぐると回りはじめた。
こちとらいい年したおっさんなので、当然ながらまったく嬉しくない。
ぶらんと揺れる自分の足が家具に当たりそうでひやひやするだけだ。
1分ほどされるがままになっていたが、気が済んだのか床に下ろされた。
だけど腰にまわされた手はまだ外れない。
「どうした? もう気が済んだろ? 暑いからさっさと離れろ」
「……やだ」
身体の隙間を埋めるようにぎゅっと密着してきた。背中から心臓の脈打つ音が伝わってくる。
どくどくという速いリズムにこちらの心臓もなぜかつられそうで、離れようともがく。
「やだって子供か! 離せって。おっさんにくっつくと加齢臭移るぞ!」
「まだ子供だし。ぎりぎり未成年。それにおじさん加齢臭しない」
耳の後ろにやわらかい感触と、においをかぐような気配があった。
見えないけれど多分鼻と唇が当たったのだろう。
生暖かい息が耳にかかってぞくりとする。
「彼女つくる予定ないなら、俺といっしょにいてよ」
続けて、おねがい、と言った声は少し震えていた。
同性で親子ほどに年が離れていて、しかも血縁と関係を持つことなんてできるはずがない。
だけど昔のように、結局俺はこいつの言うことを聞いてしまいそうな予感があった。
どうやったって俺はこいつの泣き顔とお願いには勝てないようにできているのだ。
子供のときと変わらない、高い体温の身体に抱きしめられながらそう思った。

40527-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 11:13:47 ID:l8oVxFtI
本スレ49ですが、あの後の部長視点も書いてみたので投下

あっははっ。いやいや何も聞いてないよー俺は。
そんな聞いたからって真っ赤になって怒られるようなこと聞いてないよー。
うんごめんごめん。ごめんねー。いやこの前はほんと迷惑かけたね。それは悪いと思ってるよ。
いや裏方に迷惑かけちゃうようなアドリブしちゃうあたりは俺の技量不足だよ単純に。
でもさ、ちょっとくらい無茶しても君がどうにかフォローしてくれちゃうんだよね。
だからつい甘えちゃうんだよ。信頼できるのはいいけど信頼できすぎちゃうのも考えもんだねー。
嘘じゃない嘘じゃない。
ニヤニヤしてるのは君がかわいいから。
お?どしたどした?ほらこんなとこでうずくまんないで。顔上げてごらん?ほら!
いたいいたいいたい。褒めたのにぃ。
ていうか、友達ほっといていいの?
ねー。俺こんなはたかれるようなことしてないよねー。
ちょ、ひっぱんないでひっぱんないで。友達ほっとていいの?おーい。

いやいや嘘じゃないってばおちょくってもないって。
本当に君の技量はすげぇと思うよ。信頼してる。
ん、まぁ、そりゃ俺普段ついふざけまくっちゃうけど。こういうことで嘘つかないよ俺。
君がうち来てからすごい伸び伸び演技できてるんだよ俺は。
でもすげぇ嬉しいなー。あんなこと考えながらやってくれてたんだ。俺の演技好きなんだぁ。
……君なんで俺ひっぱってきちゃったの?二人っきりにしちゃったの?余計追い込まれてない?
いや、俺としては好都合だけど、ね?
はいうずくまんない。顔上げて。ほら。
ねぇ。一個聞いていい?好きなのって俺の演技だけ?
……うん。知ってる。
いたいいたいいたい。

406405:2013/07/19(金) 11:17:40 ID:l8oVxFtI
本スレ49じゃなく50です。間違えましたすみません!

40727-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 16:35:15 ID:3zzqgcwU
本番初日の前夜だった。
劇場から出て駅までぞろぞろと歩く中で、偶然吉井さんと歩調が合い、どちらからともなく「お疲れ様です」の決まり文句とともに会話を始めていた。
吉井さんは他の劇団から参加している役者の一人で、おそらく年上のはずだったが、礼儀正しい人らしく丁寧な言葉遣いで話してくれた。
今回の舞台もかっこいいですね、と褒められたことにどぎまぎしてしまって、思わず「いや、実はまだ二度目で」と縮こまった。
彼はこの劇団の過去の舞台を思い起こしているのだろうが、おそらくそれは別のベテランが担当したときの公演だろう。
ところが吉井さんは目を丸くしてこんなことを言った。
「じゃああれが初めてだったんですか」
驚いたのはこちらの方だった。あれを観に来ていて、しかもそのときの舞台美術担当の名前まで記憶しているとは。
「あの舞台、すごいなと思って。シンプルなのに幻想的で。ラストの仕掛けとか」
あれを覚えていたから今回ここのオーディションを受けたけど、まさか本当に深見さんが担当になるなんてね、と彼は嬉しそうに笑った。
言うなら今だと思ったので、半分固まりかけている口を何とか開いて動かした。
「俺も吉井さんのこと知ってました。去年の夏の、喫茶店のウェイター役見てて」
吉井さんは照れたように唇を噛んで足元に視線を落とした。
「よく覚えてますね、僕全然特徴ないのに」
確かに彼はこれといって特徴のない役者だ。華やかなルックスでもなく、感情が突き刺さるような演技でもなく、印象に残る声質でもない。
でもそんなことは些細なことだった。
「吉井さんの演技は、自分が前に出ようとかいう欲がなくて、すごく自然な気持ちで見れました」
まるで自分以外の役者を、脚本自体を、ひいては舞台や照明といったスタッフワークさえも引き立てようとしているみたいで。
「……」
「あ、すみません、分かったようなこと言って……」
あまりに無遠慮な物言いだったとすぐさま反省したが、吉井さんは目を細めて「ありがとう」と言ってくれた。
「深見さんの舞台、大事に立ちますね」
「はい」
横断歩道の向こう側に駅の南口が見えた。
もし、今度一緒にどこか観劇にいきませんかと言ったら、来てくれるだろうか。
千秋楽を迎えるまでにもう少し仲良くなっておきたいなと、柄にもなく子供じみたことを思った。

40827-79 オナニー目撃(するされる)シチュ:2013/07/22(月) 00:56:53 ID:sLfV5Myc
暑くてだるいからオナニーすることにした。
ひとり暮らしになってから、何の気兼ねもなく昼間から好きにできる。大学生万歳。
携帯でお気に入りのエロサイト見ながら開始する。
眠たかったので股間は最初から半起ちだった。ズボンの上から軽くなでると、すでにじんわりいい感じだ。
固い布越しに数回こすってから、さっさとボタンを外して尻まで下げる。
トランクス越しの感じも好きだから、そこでもちょっとしごくと微妙な感じがまたよくて、完全にスタンバった。
今日はノリノリだ。気持ちのいい一発になりそうな予感がひしひしとする。
エロサイトも、新着が好みど真ん中のマッサージもので、握る手にも力が入る。

もちろんこの場合、力っていっても実際の力じゃない。他人は知らないが、俺はゆっくりやんわりやりたい方だ。
早漏というわけじゃないが、今日みたいにノッてる場合、あっという間に気持ちよくなって出ちゃうとなると、もったいないと思うわけだ。
これも他の奴と関係ない話だけど、俺は一日一回やれば満足なタイプ。いや、性欲弱いんじゃないよ、弱くないと思うけど、賢者っていうか、出すともう一回はできない。
だから一球入魂、ゆっくりと、ツボをつきつつはずしつつ、力加減を考えながらこころゆくまで一人の時間を楽しみたいと思うのだ。

棒をこする。あまり早いとすぐ高まるのでゆっくりと。でも今日は波が来るのが早い。そこで、先っぽをぬるぬる責めて気をそらすことにした。
液も多い。今日はとことん高みをめざせそうだ、と感じながら携帯を捨てて目をつぶる。
両手が空いたので左手はやわらかい袋をもむ。毛を撫でてくすぐったさを心地よくあじわいながら、さっきまで画面で見ていたおっぱいに思いを馳せる。
足がつっぱって、自然に腰が動く。絶好調だ。もう、手を早めてもいい。ぬるぬるをできるだけ広げて、皮の可動領域いっぱいにしごき上げると、絶頂の衝動があっというまに高まった。
出る!

『ピンポーン』
心臓が止まる衝撃。ドアチャイムが鳴ったのだ。今、この瞬間に!
「高橋ー、いるー? おーい」
……園屋だ。こうして時々突然に訪ねてくる奴。いい奴だが今は最悪だ。
できることはただひとつ、息をひそめて居留守を使うこと。大丈夫、カギはかかってるはず……頼む!
「おーい、ジュース買ってきたぞー」
なかなか園屋はあきらめない。ようやく園屋が帰ったのは、俺のものが十分に萎えて乾いた頃だった。
あぶなかった。生涯にあるかないかというピンチだった。
……で、そのあと俺は続きをした。意外なことに中断後のオナニーは想像を絶するほど気持ちよく、俺は新しい世界のドアをあけたと思った。
一度、無理矢理やめる、そのあとまたやる。名付けてお預けオナニー。くせになった。

──まさか、必ず園屋を思い出すことまでくせになるとは思わなかった。
中断するための萎える要素としてあの瞬間の園屋を思い出しているうちに、オナニーと園屋が結びついてしまった。
罪悪感で起たない手段のはずが、どこで入れ替わったのだろう。
『おーい、高橋』
気がつけば、園屋の声を思い出しながらやっていた。
今では園屋を思わずにはイけない。
いや、それ以上にヤバいことに、逆に、園屋を見ると妙な気分になるようになった。

「……何?」
夕飯の帰り道、園屋の手を握った。
園屋は不思議そうな顔をして、それがたまらなくキた。
おかしな回路が俺の脳内でつながっている。
好きになった子に欲情するのなら、欲情する相手を好きになるのもありなんだろうか。

409名無しさん:2013/07/28(日) 00:53:04 ID:X2qGWpFE
どうしよう、俺あいつに嫌われたかもしれない。

クラスの奴らに俺が好きな子はどんな子だって聞かれたから、
俺「すげえ可愛い子だけど、詳しいことは教えてやらない」って答えたんだ。
だってあいつの可愛いところは絶対誰にも教えたくなかったからさ。

その翌日、あいつの様子がおかしくて、なぜか避けられてるような気がしたから、
放課後逃げようとしたあいつの腕を強引につかんで詰め寄ったら、
あいつは眉間に皺を寄せて俺を睨んで、

「お前の好きなヤツ、すごく可愛い子だって……」

蚊の鳴くような声でそう言うと、あいつの黒目がちの目に大きな涙の粒がたまって、赤くなったほっぺに涙がポロポロこぼれた。
泣きながら俺を睨みつけるあいつの顔を見ていたら、もう可愛くてたまらなくなって、俺は無理やりあいつの細い体を抱きしめた。

「お前のその泣き顔が可愛くて仕方ないんだよ!」

あいつはポカンとした表情で俺の顔を見上げた。普段は白いあいつの顔が耳まで赤くなった。
その顔もすげえ可愛くて、俺がつい笑っちゃって。
それが勘違いさせたみたいで、あいつは本気で傷ついた表情を浮かべて、

「からかうな!」

と叫ぶと、俺を置いて教室を飛び出していった。


あれからもう3日もあいつと口きいてない。

どうしよう。俺、あいつのことが好きなのに。


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