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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

27623-719 異端審問官(1/2):2012/03/25(日) 16:07:47 ID:EIFbeL3M
個人的萌えワードだったので妄想を語る。
(※注意:宗教的な知識は殆どありません。非常に偏った・間違ったイメージです)

「教会」「信仰」「司教」「異教徒」「異端」「狂信者」が出てくるような世界観が好きだ。
また「諮問機関」「懲罰委員会」などの集団が出てきた日には単語だけでwktkする。
だから、「異端審問官」はそのどっちも兼ね備えている存在であると言える。
もうその響きからしてかっこいいよ!(※個人的に)

「異端審問」とは、異端者(異教徒)の疑いのある者と裁判にかけるシステムらしい。(wikiより)
よって、それを執り行う「異端審問官」をキャラクターとして考えると次のようなポイントがある。
----------
1.信仰心
 信仰の代理人として異端を取り締まる職に就いているのだから、勿論、自身の信仰は疑うべくも無い。
 よく言えば「信心深い」「忠誠心の塊」、悪く言えば「妄信的」「頑固」。
 何かを絶対の拠り所にしているキャラは簡単には揺らがず、厄介だ。
 相手によっては、それは狂気に似たものと映り畏怖の対象になるだろう。

 同胞相手だと穏やかで慈悲深くて優しいのに、異端と見なしたものには冷徹冷酷。だとギャップ萌え。

 また、忠誠の対象が「教え」そのものであるのか、4.で述べる上司などの「個人」までも含まれるかで
 そのキャラクター性に微妙な違いが出てくると思う。(心を許すような人がいるのかいないのか)
 それから、忠誠が強固だからこそ、それが揺らいだときの不安定さを思うとそれも萌える。

2.疑うのが仕事
 疑わしきものを罰するのが仕事なので、恨みを買うことが非常に多いと思われる。
 完全に黒ならまだしも、白に近い灰色を黒と断じて裁くこともあるかもしれない。
 己の役目を「信仰のため」と割り切って淡々と処理する冷静キャラでもよいし
 常に葛藤し、心の奥底に罪悪感や人間らしい悲しみを押し込めて仕事をしているパターンでもいい。

 それまで仲良く接してきた相手が「異端者」となってしまいそれを罰することになってしまうかもしれない。
 異端と見なしたとたんに白黒きっぱりと応対が変わり、相手がそれに驚き怯え絶望してもいいし
 相手に「どうして?」と問いながらも最後には自分で手を下してしまってもいいし
 異端者となった相手を「自分を裏切った」とある意味斜め上の解釈をして病んだ反応をしてもいい。

27723-719 異端審問官(2/2):2012/03/25(日) 16:08:49 ID:EIFbeL3M
3.戦闘能力
 「罰する」とは究極の場合、相手の命を奪うことだと思われる。
 日本の裁判のように相手が身動き取れない状態だと楽かもしれないがそんなことばかりではないだろう。
 つまり、戦闘能力が高い異端審問官キャラがいても不思議ではないのではないか。
 また、一所にとどまって日々仕事をする以外に、異端者の集う場所(例えば村一個とか)に赴く、
 いわゆる出張型の異端審問官がいてもおかしくない。
 その場合は一対多数、または数人対大多数になるので、並みの腕では返り討ちにあってしまう。
 
 ごっつい武器を持ち込んでもいいけど、暗器も捨てがたい。 
 一見温厚そうな男が、神父服(牧師服?)の下にナイフとか拳銃とか隠してたり
 携帯してる聖書の間から薄い剃刀的なものが仕込まれているとか、萌えませんか。

 自分の行う殺生と信仰心の折り合いをどうつけているのか、それは2.のように色々パターンがあると思う。

4.あくまで実働部隊、組織の一員
 異端審問官とは、異端審問の実働部隊に属する一員である。
 その組織の中でリーダー的な地位などは存在するだろうが、それでも異端審問官は全体のトップにはなりえない。
 つまり「上司」「指令をしてくる人間」がいるわけであるし、同じ仕事の同僚もいるだろうし
 同じ信仰者ながら、異端審問とは離れた職に就いているキャラもいる筈である。

 本人を理解してくれてた上で遣っている出来る上司、
 汚れ仕事だと異端審問官を忌み嫌い蔑んでいる同胞、
 仕事は認め合っているけどどうも性格の反りが合わない同僚、
 過酷な仕事を心配して辞めさせようとするも本人信仰の塊なんで言う事きかず、頭を痛めてるお節介。
 また、元異端審問官で現異端者という「逃亡者」的立ち位置のキャラもありえる。

 異端審問官という身分を知っている組織内の人間でこれだけ相手がいるので
 これに「組織云々には疎い一般市民」を加えると更にパターンが多くなるのでは。
---------- 
このように、一言に「異端審問官」と言ってもいろいろと妄想が広がると思いませんか。
また、今回は異端審問官を主に据えて考えたが、敵役としても立つキャラだと考えます。
寧ろ敵役・悪役の方が似合うのかもしれない。

以上。

27823-729 竜と人間1/2:2012/03/27(火) 12:42:33 ID:uDh3kQ7.
規制されて書き込めなかったので、ここに

*****************

私が傷だらけの彼を連れ帰ると、集落の誰もが顔をしかめた。

「そんなものを拾ってきて、どうするつもりだ」
「傷を癒して故郷に帰す」
「やめておけ。お前も知っているだろう、残忍で獰猛な一族だ。」
「しかし、このままでは死んでしまう」
「死なせておけばいい」
「それなら私たちの方が余程残忍だ。可哀想に、こんなに弱って……」
「いずれ息を吹き返せば、お前に牙を剥くぞ」
「構わない。見たところまだ子供だろう、小さな牙だ」
「奴らの成長は早い。姿を覚えれば、やがて力をつけて復讐に来る」
「それでも一匹だ。私たちの敵ではない」
「群れで攻めてくることだってある」
「しかし」
「村に災いが訪れた時、お前はその責任を取れるのか」
「……」

私が押し黙ると、彼は首をもたげて不安げな表情を私に向けた。
私と彼の間には言葉がない。
しかし、彼の潤んだ瞳を見れば、彼が今すがれる存在は本当に私だけなのだということを切実に痛感できた。
……大丈夫だ。そう言い聞かせたかったのは彼になのか、私になのかは分からない。
私が必ず彼を守る。きっとそれは、あの森の奥で、か細く助けを呼ぶ声を聞いたその時から決まっていた事だったのだ。

「仕方ない、それならば」

堅い決意をはらんだ私の声色に、集落の空気が刹那ざわついた。

「せめて彼の傷が癒えるまで、この村の離れで暮らすことを許してほしい。そして、彼の回復を待って……」

異様な空気に彼が怯え、体を私にぴたりと沿わせる。
私はその小さな頭に頬を寄せながら、残りの言葉を静かに吐いた。

「私はここを出ていく。そして彼が二度とこの村に足を踏み入れぬよう、この身をもって寿命の終わりを見届けよう。……先に私の寿命が尽きるのであれば、彼を殺してでも。」

27923-729 竜と人間2/2:2012/03/27(火) 12:44:42 ID:uDh3kQ7.
忽ち豪豪とした非難の嵐が私と彼を襲った。
ある者は目を剥き血管を浮かせ、ある者は私に襲いかかろうともした。
私の一族は代々その高い誇りが支えていた。その名折れとなる私の罪は、それほどの罵詈雑言をもってしてもなお購えなかったのだ。
しかし、村長だけはただ一人静かに目を瞑り、やがて口を開いた。

「魅入られたか」

その深長な響きに、あれほどざわついていた場が波が引くように静かになる。
村長は群衆に向き直ると、鎮痛な面持ちで述べた。

「もう彼に私たちの言葉は通じぬ。こうなってしまってはもう終わりなのだ。どれほどの罵倒も、どれほどの迫害も彼の意志を動かせぬ」

村長は私に振り返り、言葉を続けた。

「それが、その生き物の魔性なのだ。最早私は、お前を仲間とは思わぬ。傷が癒えるまでだと?甘い、今すぐここから出ていくがいい」

私は彼を抱えたまま、迷いなく踵を翻した。
だがその背中に投げ掛けられた言葉は、その後いつまでも耳に残り続けることとなった。

「ただ……それがお前だったのは残念だったよ」



彼の息はまだ浅い。そうだ、泉を探そう。そこで、薬草を摘もう。……この前足では上手に拾えないかもしれないけれど。
私たちは彼の一族のように涙を流すことができない。しかし、張り詰めるように引き結んだ眉間に何かを悟ったのだろう、彼は柔らかい薄橙の前足を私の頬に添えてくれた。

「……哀れんでくれるか。なら……」

あぁ、きっとこの言葉は彼には理解できないだろう。
しかし私はまるで先程の彼のように、一心にすがり求める存在だった。ただただ、救いが欲しかった。

「お前たちの一族がするように、愛や誓いの……印がほしい」

少しの沈黙の後、彼は小さい花びらのような唇を私につけた。

28023-739 ツンデレの逆襲 1/2:2012/03/30(金) 01:22:39 ID:/BiUw3/w
(同じく規制でした)


「受野さん、とうとう俺たちも卒業ですね」
「そうだな。これでお前との鬱陶しい毎日ともおさらばだ」
「何でそんなこと言うんですか!俺はこんなに受野さんが好きなのに」
「それが鬱陶しいって言ってるんだろ。言うにつけてはやれ『受野さん好きです』だの『受野さん愛してます』だの……」
「だって、本当に好きなんですよ。言ってるでしょ、入学式であなたを見た時から俺は」
「その話も聞き飽きた。何度お前に愛を囁かれてもだ、とにかく俺は……」
「受野さん……」
「……いや、いい。何にせよ、この話をするのも今日で最後だ。今日ここで、俺はお前との関係に蹴りをつけようと思う」

そう言って受野さんが指を鳴らすと、突如物陰から大勢の男達が現れた。
ラグビー部や柔道部で見た厳めしい顔や、逆に学校では滅多にお目にかかれないような筋金入りの不良までいる。
中でも背筋を震わせるのは、皆が皆俺を見ては嫌な笑みを浮かべたり、指を鳴らしたり、ポケットからナイフを出し入れしたりしているところだ。
遠くには、黒塗りの車で乗り付けてこちらを伺っている者もいる。
似たような情景を、俺はテレビや小説で見たことがあった。これは……『御礼参り』だ。

28123-739 ツンデレの逆襲 2/3:2012/03/30(金) 01:26:11 ID:/BiUw3/w
「はは、お前のような馬鹿でもさすがに察しがつくようだな。」

受野さんが、見たこともないような鋭い笑みを浮かべて呟いた。

「そうだよ、今日だけのためにこれ程の人数を集めたんだ。なぁ……いい加減理解できただろう。俺はな、お前が鬱陶しくて堪らなかったんだよ。」
「……それは……」

喉がカラカラに渇き、指先が冷えて震える。
今すぐにでも膝をついてしまいそうな絶望は、果たして自分が私刑を受ける恐怖からか、それとも此ほどまでに受野さんに嫌われていた現実からだろうか。

「これでようやく言えるよ。攻山、本当はな……」

不良の一人がナイフを構えるのが、目の端に映る。
受野さんはゆっくりと息を吸い、叫んだ。


「俺の方がずっと好きだったよ!!」


……え?
固まる俺。
崩れ落ちる膝。
歓声が上がる暴漢の群れ。

狂喜乱舞の騒ぎの中、当の受野さんは耳まで真っ赤になりながらなおも言葉を続けた。

「それが何だ!お前は口を開けば好きです愛してますと!鬱陶しい、まるでお前の方がずっと俺を好きみたいじゃないか!そんな事は断じてなかったのにだ!」
「鬱陶しかったよ!最高に鬱陶しかった!俺の気も知らず遠慮もなしに気持ちを伝えてくるその不躾さも!その割にいつまでも敬語で話しかけてくる腰の低さも!……いつまで経っても名前で呼んでくれない余所余所しさも……」

そこまで言うと受野さんは少し涙声になり、ぐすりと鼻を鳴らした。
すると、受野さんの後ろに控えていた屈曲な男達は急に静かになり、小声で「がんばって!」「もうちょっと!」などと応援し始めた。……まさか、この男達は御礼参りのために呼ばれたのではなく……

28223-739 ツンデレの逆襲 3/3:2012/03/30(金) 01:32:58 ID:/BiUw3/w
「いいか!俺は今日でこんな毎日とはおさらばする!攻山、俺と……付き合え!」

目の前には、ただ男らしく突き出された受野さんの手のひらがあった。
地べたにへたりこみ未だ呆然としたままだった俺は、その手の上に操られたように自分の手を載せる。
途端、今度こそと言わんばかりに校舎を割るような雄々しい歓声が上がった。

「受野先輩おめでとうございます!」
「受野くん、よかったねぇ!」
「これで俺たち『受野・攻山を見守る会』もようやく本懐を遂げられるよ!」
「受野さんったら最後の最後で俺たちに『ついて来てほしい』なんて言うんだもんなぁ」
「可愛いよなぁ全く」
「受野さん、車のトランクにケーキ積んできましたよ!」
「じゃあ早速ケーキ入刀ですね!」
「スンマセン、こんなちっさいナイフしか用意できませんでしたが……」
「俺、ピアノ弾きますね!」

真っ赤な受野さんと真っ白な俺とを残して、『受野・攻山を祝福する会』の垂れ幕が盛大に掲げられる。
たまらず突進してきた男達の群れに揉まれ、受野さんと二人高々と胴上げされながら、俺はこの先の……幸せで、そして予想以上に騒々しいであろう日常に思いを馳せたのだった。

28323-819 朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 1:2012/04/11(水) 01:02:04 ID:7J7MKBtU
規制にひっかかりましたのでこちらで書かせていただきます。



「この小説って実体験が元になってんの?」
「あ、いや、違う・・・」
「ふーん。お前も兄貴亡くしてるだろ?この辺のカズヒコの喪失感って自分で感じたことじゃねーんだ」
「違うけど、その時の担当さんも少し私小説ぽいって・・・」
「やっぱ言われたのか。つか私小説でよく賞もらえたな」
「その後の展開、俺と全然違うから…」
「確かに、年齢誤魔化して夜働くタイプじゃないもんな。じゃあそんな見当違い言われてムカつかなかったのか?」
「・・・少し、似せた自覚あったし」
「兄貴のことくらいだろ?今の編集の・・・児島さん?お前の意向とかちゃんと汲めてんの?てかお前そんな言葉ったらずで
 よく小説家なんてなれたと思うわ。賞までもらってそこそこ売れて、この度めでたく処女作が映画になって、幸運残ってんの?」
「どうだろう・・・」
「まあ、俺と付き合ってる時点で幸運を超えた奇跡を手にしてるか。いざとなったら
 贅沢のぜの字も知らない田舎ものの引きこもり一人くらい俺が養ってやるから感謝してヒモになれよな」
「あ、ありがとう」

『―鯨幕に風花が散り、桜のようだと学生服の参列者が漏らした。肩に地面に落ちる間もなく消えるそれらは、
 もうすぐ本物の花弁に変わるだろう。冬と春の境界の雪だ。そして、兄は永遠にこの線を越えられない。
 真白い顔を眺めながらカズヒコは、兄が不在の残りの人生を考える。―』
「・・・北海道ってこの時期でもそんな寒いのか?分厚い上着いるか?」
「いるかも・・・さくら君行くの?仕事?」
「まあなー。これのさー・・・」
「あ、ごめん電話・・・児島さんだ」
「タイミング悪ぃなあ。とれば」
「ごめん・・・はい、もしもし…」




「・・・お待たせ…あの」
「何だよ」
「さくら君、カズヒコ役って」
「あ?あー電話それか。本当にタイミング悪いな」
「あの・・・」
「んだよ、そりゃこんな冴えない芋男とはいえ一応賞もらった人気作家の初映画化で話題あるし、だから
 俺に是非って話がきたんだよ。コテコテのカンドー作に出るのも悪くないしな。俺の演技の幅も見せられる」
「・・・」
「で、カズヒコの為に髪まで黒染めしたってわけ。どっかの誰かは気づきもしないけど」
「えっあ、似合ってると思ってた…」
「はいはい。でな、このロケから戻ってすぐ舞台あるから明日からその稽古ぶっ通すんだ」
「あ・・・じゃあ」
「うん、しばらく来れない。お前が寂しいだろうな、と思ってやりくりして休み作って来てやったわけ」
「ありがとう・・・」
「しとく?明日は読みあわせであんま動かないから」
「うん・・・えっ!・・・うん」
「じゃあ風呂入る。お前も来れば」

28423-819 朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 2/2:2012/04/11(水) 01:03:14 ID:7J7MKBtU
『先生お疲れ様です。え?いえいえ締め切りの話じゃないですよーあの、朝倉春哉さん。今結構ドラマや雑誌によく出てる売れっ子なんですが
 ああ、よかったご存じでしたか!その朝倉さんなんですが、今度の映画是非主演やらせて欲しいって突然監督さんにご本人から連絡あった
 らしいんです。先生は全てお任せするって言ってみえましたけど、えーっと、朝倉さんってカズヒコのイメージと少し違うから。もし
 ひっかかるようなら私から監督さんに伝えることもできるので・・・という、電話ですが・・・・・・あ、いいですか?あはは、即答ですね、実はファン
 だったりしますか?へえ…いえ、なんかイメージになかったので…とにかく良かった、了解しました、伝えておきます。』


「おい、何ぼさっとしてんだ。常々思ってたけど俺の隣でぼさっとするか普通」
「あ…ごめん」
「はいはい口だけだなー。そうだ、俺あっちからちょくちょく電話すると思うから、ちゃんと携帯電源入れとけよ」
「え、うん…珍しいね?」
「細かい確認。平凡カズヒコの気持ちはお前がよくわかってるだろ。やるからには完璧に演技したいんだよ。」
「でもカズヒコは俺ってわけじゃ」
「そうじゃなくても、お前が書いたんだろ、ばか。監督の方針優先にはなるけど、原作者の意見も尊重する役者でいたいし。まあ何より
 一番に自分のセンスを信じてるけど。」
「それでいいと思うな」
「撮影入ったら俺時間そんなとれないんだから、電話すぐ取れよ。あとテキパキ喋れよな」
「う、うん」
「とりあえず本一通り読んで、カズヒコが強がりなのかふっきれてるのかわかんないとこあったから、後で聞く。脚本で変わってくるかも知れないけどな」
「うん・・・あの」
「何」
「俺、さくら君が演じてくれるの嬉しいよ」
「ん・・・やるからには100万人泣かせる大ヒットにしてやる。」

(だから、俺が聞いたらちゃんと答えろよ。北海道に置いてきた自分の事も、口では絶対話さないくせに1冊本にするような、もう居ない、兄貴のことも。)

28523-859 お前が受けなの!? 1/3:2012/04/17(火) 19:56:53 ID:UeGclwNQ
萌えたものの間に合わなかったのでコチラで供養させてください

−−−−−−−−−−−−−−

「き、緊張する、よなぁ」
「…………」
コイツは、とてもクールな男だ。
初めて会った、一目見た瞬間から、何故か分かった。
コイツは無愛想で無骨で無表情で無口で、そして、一本気で一途な格好良い男なんだろう、と。
俗に言う、一目惚れ、というやつらしい、と紆余曲折を経て気付き、紆余曲折を経て距離を縮め、
紆余曲折を経て互いに同じ思いを共有していたことに気付き。
そんなこんなでようやく迎えた今夜、今日もコイツはとてもクールだった。
ヘラヘラ笑いつつ変な汗を掻く自分と違って、さほど表情に変化はないし、言葉も少ない。
これだからコイツのくれる想いに長らく気付かなかったのだが、今では多少は分かるようになった。
例えば今、身体はベッドの上で向かい合いつつも、顔はプイと横に向けてしまっている、これは「恥ずかしながらその通り」ということだ。
多分、そういうことだ。
……というか、コイツの感情を勝手に解釈する権利を、コイツはオレにくれたのだ。
『全部、お前の好きな風に取っていい』
コイツがそう言ったから、オレは好きな風に…"お前はオレの事が凄く好きで、愛しちゃってるのだと解釈するぞ”と伝えたら、コイツはそれに頷いた。
あまつさえ僅かに微笑んですら見せた。
とてもクールな男であるコイツが、だ。それまで口の端一つ上げた事の無いコイツが、だ。そこが大事だ。
コイツが手をそわそわさせていたので、手を握ったり。
コイツが腕をフラフラさせていたので、腕を組んだり。
コイツが足をグラグラさせていたので、膝に乗ったり。
好きなように解釈して、そうする度にコイツは少しだけ微笑んでくれた。
そのことがとても嬉しかったから、オレも嬉しさ全開で笑った。
オレが犬なら多分今頃シッポなど激しく振りすぎて彼方へ飛んで行っている。
そのくらい嬉しくて、楽しくて、幸せで……オレたちはこれでいいのだとコイツの微笑みがいつも教えてくれた。
コイツが出す小さなサイン、時には目にも映らないサイン、それをオレが読み取って、こうだろうなと、時にこうだといいなと解釈し、それを事実として受け止める。
それでいいのだと。
そして、今夜、だ。

28623-859 お前が受けなの!? 1/3:2012/04/17(火) 19:57:36 ID:UeGclwNQ
俗に言う初夜、と言うヤツだ。
いや、結婚したわけではないから正しくは違うのだろうが、初めては初めてなのだ。
彼とするのが初めてなのは勿論、正真正銘、人生で初めてなのだ。
彼もそう言っていて…お互いに…初めての…同性だけど、心底惚れた相手との…せっくす。
改めてそう思うと嬉し恥ずかし過ぎて、ワーキャー叫んで走り出したいような、そんな気分で高揚する。
しかしあまりにもアホ過ぎる姿は見せたくないので、ワハハ、と何となく笑って誤魔化す。
彼はこんな時も変わらない。
クールでクールでクールだ。ついでにクールだ。
でも多分内心はテンパってる。オレがそう解釈するならそうなのだ。
笑っているオレに『何がそんなにオカシイんだ?』そんな疑問を抱いている。
「悪ぃ、オレもギリギリでさ。でも、凄い…嬉しいっていうか」
『……俺も、嬉しい』そんな事を、考えてる。
「どうしよ。やっぱ……ここは、キスから、かな?」
『……多分』不安混じりの同意を。
とか、全部オレの一人芝居みたいなもんなんだけど。
でも、そこには確かに、彼がいるから。
「………あーッやっぱ緊張する!!!ホテルとか!ベッドの上とか!夜景見えちゃってるとか!」
耐えきれずベッドの上で立ち上がって、つい、バインバイン飛び跳ね出すオレ。そう、アホなのだ。大丈夫、分かっている。
分かっちゃいるけど止められないのが大丈夫じゃないけれど。
「恥ずかしーーーーーーーーーー!!!」
初夜なのと、アホなのと、両方の意味で何だか彼と面と向かっていられなくて、シーツの中に顔を鎮める。
シーツが冷たいのか、オレの顔が熱いのか、やけに気持ちいい。
しばらく、彼の視線に耐えられるまで、そうしていようと思って、しばらくそうした。
少しは落ち着いて、何事も勢いだと、バっと顔を上げる。
相変わらず無表情な彼。先程から1㎜も動いていないようにも見える鉄面皮。
でも。その風情が何となく不安そうに見えて。
『オレとするのが嫌になったか?』と言っているようで。
「べ、別にお前とヤるの、嫌になったわけじゃないぜ!?うん!むしろ、オレがどんだけこの日を待ったかと…
 いや、だからってド淫乱ビッチ野郎だと思われるのも嫌なんだけど…!!」
「…………」
「オレ、お前と!その……セッ…クス、したいから…!」
そうだ、オレはコイツと、セックスがしたいのだ。
コイツがそうしたいなら、その、オレのケツだって、差し出してもいい。
多分、半端なく痛くて気持ち悪くてオェッてなりそうだけど。
コイツのなら、いい。
コイツの身体が発する全ての望みに、オレの身体の全てで応えたい。
脳みそが沸騰するほど、コイツが好きだ。
好きで、好きで、好きで…好きだ。
オレは無口じゃないけどアホだから、あまり上手い言葉が浮かばない。
こんな想いを、どうやって言葉で伝えられる?
分からないから、ただじっと見つめた。
鉄面皮が、僅かに俯く。
『……良かった』そう言った気がした。
「…なぁ…お前も、オレと……したい?」
『ああ、したい』そう思ってくれてる。コイツなら。
言葉はない、表情も変わらない。
でも不意に、きゅ、と、手を握られる。
腕力握力共に並以上のコイツにしてはあまりに弱いその触れ方に、胸の奥がキュンとした。
「なぁ…お前がしたいこと、全部して。お前なら、何でもいい…何でもして…」
うっとりした気分でそう言った。
本気だった。

28723-859 お前が受けなの!? 3/3:2012/04/17(火) 19:59:06 ID:UeGclwNQ
「………………」
それから、数分。
もしかしたら、数十分。
どうなったかというと、どうにもなっていない。
弱々しく握られた手以外、指一本触れられない。
無表情な顔が、いつもより少し強張っているようにも見える。
勝手に解釈するなら。
「……オレ……魅力ない?」
泣きそうになりながら聞くと、コイツは首を振った。
魅力が無いわけではないらしい、が、何だか変な顔をしている。
といってもやはり無表情なので、何となくそんな気がしただけなのだが。
困惑したようなその雰囲気を、何とか解釈してみるとするならば。
『……何でも、していいのか?』とかだろうか?
「………えっと………さすがに、その、あんまマニアックなのは、初っ端はちょっとアレだけど……
 いや、どーしてもお前がしたいならさ、そりゃ、オレも何とか頑張ってみるけど、っていうか…」
『そうじゃなくて…』
どうも、違うらしい雰囲気だ。
何だろう。
勝手に解釈して良い、というのはこういう時に難しい。
何か行動があれば解釈しやすいのだが、さっきからコイツはピクリともしない。
普通、好き合ってる同士でベッドの上にいて、熱烈な愛の言葉を告げられたら、もう少し何かあっても……
と、そこまで考えて、思った。
もしかして。
「……お前、ひょっとして、オレと同じ事考えてた…?」
「……………」
「オレになら、何されても良いって?何でもしてほしいって?
 触られても、舐められても?……ケツ、掘られても?」
ぎゅっと、握られた手に力が込められる。
少しだけ寄った眉間。
「……………」
それでも辛抱強く待ってみると、コクリと、小さく頷いた。
沈黙。
のち……爆笑。
「あははははは!!!そっか…お前も、そうだったんだ…!
 分かんねーよ!だって!お前、男だし!メッチャ男だし!!そりゃ、オレも男だけどさー!
 ってお前も分かんなかったよなーそりゃそうだ!!」
よく見れば、コイツもほんの少しだけ口の端が上がっている。
苦笑いにしてはやけに優しく見えるそれは、いつもオレの勝手な解釈を許してくれたけれど。
勝手に、都合良く解釈する事の、させる事の、根底にある意味。
卑怯だよな、オレも、お前も。
好き合ってるのに、何やってんだか。
オレは何だかとても爽快な、一皮向けたような気持ちになった。
「やっぱさ、お前、口下手なのは分かるけど、もうちょい頑張れ!
 んでさ、言おう!したい事をさ!オレも、お前の気持ち伺うの止めるから!
 オレ、お前の事好きだし!先に進んでいきたいし!」
「………分かった」
「足りない!」
「……………………………………好き、だ」
オレは今まで恋人から、そんな言葉も聞いた事がなかったのだ。
嬉しい。嬉しい、嬉しい、嬉しい!
「お前が、好きだ……………」
確かめるように噛み締めるように言葉を絞り出すコイツが、イトオシくて堪らない。
「オレさぁ、お前を触りたいし、触られたい!」
「………オレも」
「もうちょい!」
「………さ、……触りたい。お前に…触られ……」
「よし!そうしよう!!!」
今まで、楽しかった。
あれはあれで良かった。
でも、多分これからはもっと楽しくなる。
そんなことを思いながら、オレ達はしたい事をして、そうやって初夜を迎えたのだった。


結果。
「お前が受けなの!?」
オレ達の悪友でありオレ達の恋愛の立役者でもある女が、俺たち2人を交互に見てそう宣った。
どうもオレ達の夜は、傍から見て意外過ぎる所に着地したらしい。
根掘り葉掘り聞いたのはソッチのくせに、失礼な反応だと思う。
「でも、俺達が、そうしたいから」
そう言ったコイツを、オレは好きで好きで、好きだ。
多分、今までよりも、ずっと、ずっと。
愛したい。
そう思う。

28823-879 ずっと友達:2012/04/20(金) 22:03:13 ID:leHmlLyU
 テレビで、コンビの芸人がわめいている。
 相方のことが大好きなんだと、臆面もなくうそぶいて、司会者にも他の出演者にも、そしてくだんの相方にまで手酷くツッコまれている。
 藤田が眠っていてよかった。でなければ俺は結構なうろたえを見せただろう。

 ──なぜ、友人と仲良くなりすぎてはいけないのか。

 今日、俺と藤田は釣りに行った。防波堤から簡単に釣るやり方が面倒でなくていい。
 釣果はたくさんの小アジ。昼過ぎには切り上げて、そろいで買った小出刃でふたり、ひいひい言いながらぜいごと頭を落とした。
 塩とこしょうで唐揚げにして、半分は砂糖と醤油と酢をかけて南蛮漬け。
 汚れたクーラーボックスを洗うついでに風呂に入って、日差しの強かった昼間の乾きをビールで埋めて、アジを際限なく食いながらテレビを見る。
 たぶん、今日も藤田は帰らない。
 職場でも何かと引き合いに出されるほど、俺達は仲の良い友達だった。
 こんなふうに週末いっしょに遊んでお互いの家に泊まる、学生時代は良かったが最近では人に話すと驚かれるようなつきあいが、もう十数年続いている。
 腐れ縁ともいうべき、同じ大学から同じ社に就職した藤田とは、もう離れる気がしない。
 何度かの異動もあったし、藤田が地方に赴任した期間もあったが、友情は変わることなく今も続く。

 ──強すぎる友情は、別の名で呼ばれるべきなのか。

 昼間の暑さと満ちた腹のせいで、さっさと寝っ転がった藤田と同様、俺も半分眠っている。
 思い出すのはこの一週間のこと。ああ、今週も忙しかったなぁ、今日のアジはそのご褒美だったな……なんて。
 実に忙しかった一週間だった。そんな中、煮詰まった残業中に馬鹿話になった折、生意気な後輩が俺をからかったのだった。
「アヤシイんじゃないですか?」
 あの後輩はつまらないことをよく言うのだった。気に留めるような価値もない軽口だ。
 彼女もいない俺が、おなじく独り者の藤田とばかり遊んでいるなんて、それはいわゆる同性愛ではないか。
 言って後輩はぎゃあぎゃあ笑った。
 そんな……馬鹿な、本当に愚にもつかない話。みんな笑って修羅場が和んだ、それだけの話。

 ──大人の男が友人を持ってちゃいけないのか。

 上司や仕事先に結婚を促されてヘラヘラする。合コンにも誘われ、適当に行く。
 女に興味がないわけじゃない。性癖はいたってノーマル、誰だって俺のPC見ればわかる。
 結婚だってしないつもりじゃなかった。単に出会いがなかったのだ。俺の人生において確定しつつこの状況は不本意である。
 もう何年かすれば四十才になる、出世もしそうになく格好良くもない俺に、嫁は来ないだろう。親も何も言わない。
 不況のこの時代、世相は暗く、その日を暮らすのにせいいっぱい。
 たまの週末に友達と好きなことをするくらい、許されてもいいじゃないかと思う。
 結婚した友人達はそろって幸せそうでもあり、大変そうでもある。ただ一点、普通に世間に溶け込んでいることがうらやましい。
 いつの間にか異端となった俺は、何も悪いことなどしていないのだ。

 ──俺達の関係は、とがめられるようなことなのか。

 夜になって冷えてきた。昼間暑いと反対に夜は冷える。
 見れば藤田が縮こまっている。小さな毛布をとってきて、かけてやる。
 ──相方になら俺、抱かれてもええと思ってるんです。
 さっきのテレビが脳裏によみがえる。
 あのとき、藤田が眠っていてくれて本当によかった。……そう思うのはなぜなんだろう。
 天井に顔を向けて眠る藤田は、目をつぶっていてもまぶしいのか眉を寄せたしかめっ面だ。
 初夏の日差しに一日で日焼けした赤黒い頬には、俺同様、年齢に応じたたるみが見える。
 こいつも社内で何か言われたりするんだろうか。
 それなりにいい男だとは思うのだが、状況的に藤田にも彼女はできないだろう。
 それなら。
 ずっと友達で……いいか? 藤田。
 この先あと三十年近く、定年まで勤め上げるとして、その間一緒にいてくれるか、俺と。

 ──いつまでも続く友情は、愛とは違うのか。

 ……くだらない。
 たったひとつわかるのは、藤田と俺の関係が間違いなく友情で、そして、だからこそ、かけがえのないものだってことだ。
 この年になって、新たな友人など作れない。ましてや彼女や結婚など、もう面倒だ。
 ずっと友達。藤田がいればそれでいい。
「……ッ」
 急に涙がこみ上げてきて、眠る藤田を見ながら声を出さずに俺は泣いた。
 今、すごく幸せだと思ったのだ。

28923-929 いっしょにごはんをたべよう:2012/04/26(木) 17:49:36 ID:SaDsTj4g
人の機嫌を損ねないようにといつも自信なさげに喋る鴨居が、今日はいつにもまして気遣わしげな視線をよこす。
心配ごとでもあるのだろうか。不思議に思いながらも「どうかしたのか」と直接に聞くことはせず、大池は缶の中に僅かに残っていたコーヒーを飲みきって口を開いた。
「休みだよ、そりゃ」
「だよな、土曜日だもんな」
「いや、実際土曜休めるのとか久しぶりだよ」
「そうか」
鴨居が焦った顔になった。失言だった、と早くも後悔しているらしい。また迷ったように視線を泳がせ、右手に持ったままの手帳を開いたり閉じたりしている。
高校時代によくつるんでいた友人たちは、鴨居のこういったのろさを面白がって、ときには少し馬鹿にすることもあり、悪い言い方をすれば笑いもの扱いだった。
彼らの意識としては友達同士ののりでからかっているだけだし、鴨居も一緒になって笑っていた。しかし大池はそれがいつも気に食わなかった。
だから誰かを交えて鴨居と話すより二人だけでのんびりと喋る方が好きだった。

自販機の横にあるごみ箱に向かって歩き出したら、鴨居がとことことついてきた。大池が「これ捨てるだけ」と言って空き缶を示すと、鴨居が慌てて「ごめん」と謝った。
会社から帰る途中、乗り換えをする駅のホームでばったり会って、彼が手帳や携帯をいじりながらそれとなく質問するのに応えるという形式の立ち話が始まり、既に十分ほど経過している。電車もいくつか逃した。
特に用がないならここで別れて帰ればいいのだが、彼が何か言いたそうにしている気がして、大池は「じゃあまた」と言いだせずにいた。
缶を捨てて鴨居に向き直ると、彼と一瞬だけ目があった。運動音痴という自称を裏付けるような彼の小柄な体格は、社会人になってスーツを着ていてもどこか頼りなげだった。
大池としては、鴨居が話したいことを話せるまで待つつもりだが、心配症の彼は大池の気を悪くするからと遠慮して途中でやめてしまうかもしれない。
できるだけ話しやすいようにと大池は「もうすぐ四月終わるなあ」と何でもない一言を挟んだ。
「あのさ」
鴨居がようやく意を決してくれたようだ。
「明日俺も休みだし、一緒に飯とか、どうかな」
十分かかって切り出す話がそれか。
怒られることでもしたみたいに縮こまって返事を待つ鴨居の俯いた顔を見ながら、大池が少し笑った。
「俺もちょうど誘おうと思ってたんだ」
鴨居が視線を上げて大池を見た。彼は「そうか」と呟き、安心したようにやわらかく微笑んだ。
高校を卒業しても鴨居のことばかり思い出していたのは、その顔を見るのがとても好きだったからだ。
次の電車が来るまであと二分ある。同じホームで乗り換える大池と違い、鴨居は階段を下りて地下鉄に乗るはずだ。
ここに留まっているのは大池が電車に乗り込むのを見送るつもりなのだろう。
鴨居に悪い気がしたが、あと少しの間でも何となく一緒にいたいのは大池も同じだったので、二人で並んだままホームの時計を見ていた。

290名無しさん:2012/04/28(土) 22:09:31 ID:uVFmN8R2
本スレ>>950です。初投下でたくさんのGJをいただき大変嬉しかったので、続編を投下してみます。一応カプには絡みませんが、モブで一瞬女の子が出てきますので注意。



やあみんな!部長だよ!趣味はサークルで女の子と遊んだり女の子と遊んだり女の子と遊んだりすることだよ!それともう一つ、おれのマイブームをご紹介するぜ!

我が愛しい部室に入ると、火村が退屈そうにスマホをいじっているぞ!風谷と一緒じゃないとは珍しいな!こいつらこの間の焼肉でやっとくっついたっぽいからな!おれが気を利かせて2人にしてやっただけあるぜ。

「おーす!風谷は?」
「買い出し行ったよー…あーヒマだわー、部長面白い事言ってー」
おぉーっとネタ振りだ!これは期待に応えなきゃな!それでは渾身のネタを一発!

「お前と風谷ってもうセックスした?」
「っ⁉ぶほ‼ゲホッ‼」
おお、むせてるむせてる☆
「いやー!まぁお前ら2人が仲いいのは全然良いけどね?サークルの企画もお前らのおかげで最近充実してるし」
「げほ…部長には関係ないだろ…ほっとけよ」
おお♪食いついてきましたね!これは楽しくなってきましたヨ!
「関係なくないよ?おれ風谷好きだしー」
「…は?」
おれを見る火村の目が燃えるようです!これは怒ってますねー!ここからが腕の見せ所ですよ!
「はっきり言ってお前に風谷の隣は渡せないなー。お前童貞だし?優しく出来るのかなー?風谷、いつもみたいに苦労するだろうなー…お前さ、」
ここでたっぷり溜めてかーらーの!

「風谷のこと、幸せに出来るの?」

「っ!……」
はい決まったー!火村君の燃えるようだった目は涙が浮かんでおります!
ここでおれは部室を出る!おっと、同じサークルの女の子だ!
「あれー?部長じゃないですかぁー、楽しそうですねぇ」
「うん!最近ハマってることがさっきものすごく上手くいったんだー!」
「何にハマってるんですかー?水野部長ー」
「んー?消火活動☆」

29124-19攻め大好きな不良受け:2012/05/07(月) 03:12:21 ID:aYj2p476
間に合わなかったのでこちらに


煩いくらい鳴っている目覚ましを
ほとんど叩く様に止めて時間を確認した。
7時ぴったりを示した時計をみつめてもぞもぞと起き上がる。
顔を洗って歯も磨いてからほぼ金色に近い髪をセットする。
7時30分
朝飯をゆっくり食べてから制服に腕を通す。
ワイシャツの前を盛大に開け、アクセサリー置場にあるものを片っ端から着けていく。
7時50分
学校へは歩いて20分ほどで着いてしまうので暫くコーヒーを飲みながらテレビをみる。
遅刻ギリギリの時間を見計らってから俺は家を後にした。
学校が見えたところでチャイムがなった。
校門までダッシュで走ると門を閉めようとしていたやつが俺に気がつきため息を吐いていた。
「ギリギリセーフ!!」
息を切らしながら俺は目の前の風紀委員長に笑うと委員長はもう一度ため息を吐いた。
「ギリギリ過ぎですね。それに服も髪もアクセサリーも校則違反ですよ。」
眼鏡をクイッと持ち上げ困った顔の委員長に俺はニッコリと笑いかけた。
「わかってるよ!放課後指導だろ?風紀室でいいんだよな!」
「全く君って人は何回目ですか」
「んー10回目?」
「12回です。大事な放課後を指導なんかで潰してはつまらないでしょうに…」
「そーでもねぇーよ?」
「今日も校則の復習ですよ?」
「わかった!じゃあまた放課後な!」
「全く…」
やれやれと委員長は小さく首をふったが俺はにやける口元を押さえつつ校内へと走った。
放課後が楽しみでしかたない。
だって髪を染めてるのもアクセサリーをジャラジャラつけてるのも、
朝わざと遅れてくるのも全部この放課後の為だ。
委員長が大好きだから、かまってほしいから。
そして今日こそは気持ちを伝えるんだ!
そんでもって委員長を押し倒してやるんだ!
俺はそんな事を考えながら教室へと向かった。



この時の俺はまだ知らない。
放課後、気持ちを伝えて押し倒そうとしたのを逆に押し倒され足も腰も使い物にならず委員長におぶられて帰ることを。

29224-79皆の人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 01:19:31 ID:2S0UtCog
流れそうなフインキなのでこちらで。



どんなに煩い人ごみの中でも、お前のいる場所はすぐわかる。
お前が話すと、空気がやわらぐ。
お前が歩くと、空気が流れる。
お前が笑うと、空気が光る。

…下駄箱の向こうから、がやがやと声が聞こえる。
帰りにどこそこへ寄ろうだの、なんやかやを食べようだの。
全くお前は見かけるたびに誰かに何か誘われている。
「あー悪りい、今日用事あるから!」
つれないお前の返事の所為で、残念な空気がその場を覆うのが手に取るようにわかる。
罪な野郎だ。
同情の視線を横に流すと、大股で近づいてくるその影ひとつ。
馬鹿馬鹿しくも、胸がどきんと打った。

「よっ!おひとりさま?」
「……。」
「じゃあ、いっしょ帰ろ!」
「…用事は?」
「え?」
「用事があるって、今。」
「あーいや、てかあれ、お前と帰るから。」
「は」
「ね?」
「ね、って」
「教室からお前が下駄箱向かうの見えてさ」
「…」
「なんかさ、人とかいっぱいいてもお前はすぐに見つかるんだよね。やっぱ愛の力かな〜」
「…知るか馬鹿」

他人と慣れ合うのは、弱い奴だと思っていた。
誰かと空気を共有するのなんて御免だった。
一人が楽だった。
筈なのに。

お前の空気になら、飲まれてもいい。
そんなことを思いながら、ひと気のない道を選んで帰った。
つないだ手が、あたたかかった。

29324-79 みんなの人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 11:40:35 ID:uIdkXa2U
水遁食らってしまって書き込めませんでした。
代行お願いできれば助かります。遅刻申し訳ありません


コンクリートがむき出しの雑居ビルの中は、走っても走っても先が見えない。
ぜえぜえと自分の吐息ばかりが響いて、
それを聞きつけて今にも奴が迫ってくるのではないかと言う恐怖が繰り返し思考を停止させた。
違う、落ち着け、逃げるのをあきらめるな。
ああ。正義の味方、だなんて甘い響きの言葉で武装する連中など、これだからくそったれなのだ。

連中は「正義のヒーロー」だ。とどのつまりは、国家が雇った、軍より自由な傭兵でしかないのだけれど。
最新式の武器と暗視スコープ、一糸の乱れもない組織立った捜索でこちらを確実に追い詰める。
それを自分は何度も見てきた。
裏町で自分を育てたあの気のいい小さなマフィアの連中も、そのあとに自分を利用した薄汚いゲリラ連中も、
思想には共感したが行為がいささか強行だったレジスタンスの連中も、みんな、みんな。

刺すような視線が自分の妄想なのか、本当にどこかから監視されているのか、もうわからなかった。
半ばやけのような気持ちで足を止め、手近の一室に座り込む。ごつりと壁に預けた背中から、じわじわと熱が逃げた。
上着はとうに手放して、相棒の銃のカートリッジはもう最後だ。
破れたシャツからむき出しの腕に無数の擦り傷がある。これだけで済んでいるのはむしろ幸運と思うべきだった。
大勢で「力をあわせて悪を殲滅」するのが連中の常套手段なのに、あいつは今日、たった一人で俺の前に現れた。

ちくしょう、と小さくつぶやいた声が部屋に消える。
自分のようなちんけな悪党など、一人で十分とでも言うのだろう。そのとおりだくそ、ついでに見逃しておけ。

「そういうわけにもいかないからね」

不意に扉の向こうから声がした。
身構えるより早く、ドアがどかんと大きな音とともにゆがみ、もう一度爆音を立てて崩れ落ちた。
最新鋭のスコープと、薄く軽いくせにショットガンくらいには耐える装甲。
正義のヒーローがそこにいた。

「……仕事熱心だな」


吐き捨てて銃を構える。こけおどしにもならないことは分かっていたけれど。
疲労と絶望で目がかすむ。
表情の見えない暗視スコープの、その向こうで奴がどんな顔をしているか。
思い出そうとしたけれどあきらめた。

自分の中では、まだガキのころのあいつの顔のままなのだ。

29424-79 みんなの人気者×一匹狼:2012/05/14(月) 11:41:06 ID:uIdkXa2U
じり、と後ずさりながら相手と距離をとる。
「ガキの頃はミサだって適当にしてたくせによ。随分立派に成長したもんだ、ヒーロー」
「真面目にやれって怒ったのはあなただろ。だからこうして職務に励んでいるのに」

苦笑の気配だけが伝わる。そうして、無造作に一歩、長いレンジで距離を詰められた。
反射的に引き金を引く。きんと硬い音だけが響き、ヒーローは微動だにしない。

同じ町で育った、弟分だった。唯一のともだちだった。そのはずだった。
あのファミリーがなくなって、道が分かれるまではの話だ。

さらに一歩。壁に追い詰められる。相手の表情は見えない。

「……見逃せよ。おれはもうどこの組織にも属してない。単なるちんぴらだ」

ああ。なんてことだ、あの洟垂れに命乞いだなんて! けれどもそれしかないのだ!
もういちど、笑う気配だ。今度は吐息の音が聞こえるほど、顔が近かった。
そうして奴は見えない笑いと一緒に言った。わかってるよ。

「おれが、そのために、みんな潰してきたんだ」

目を見開いた。
自分を育てたあの気のいい小さなマフィアの連中も、そのあとに自分を利用した薄汚いゲリラ連中も、
思想には共感したが行為がいささか強行だったレジスタンスの連中も。

「な、」

口を開きかけたところで腹に重い一撃が来た。
げほ、と咳き込んでくず折れる。暗く沈んでいく意識の向こう、笑いを含んだ声が聞こえた。

「だからもう、あんたは俺のところに来るしかないだろう?」



(翌日の新聞には、殺人・強盗の疑いで男が捕らえられたことが、ごくごく小さく報じられた。
 国家保安隊の特例措置により、ある士官の監督下におかれることも)

29524-169 宇宙人:2012/05/25(金) 22:27:02 ID:VNYfHvLg

「あぁっっっっちぃー」
熱帯夜だというのに、俺は友人の星野に呼ばれて近所の高台にある公園にきていた。

「なぁに言ってんだよ宇野!今日は流星群だぞ⁉宇宙人からの何らかのメッセージを見逃したらどうすんだよ!」
星野は昔から宇宙人が大好きで、流星群なんか起きた日にはテンションが上がりまくる。その度に連れ回される俺のことも少しは考えてほしい。

星野に腕を引かれながら、この町で一番高い公園の丘を登る。
いつもは体を触られることなんて滅多にないのに。この時だけはなりふり構わないようだ。

頂上で空を見上げると、ちょうど星が流れ始めているところだった。
「うおおおおおおおスゲー‼宇宙人よ、オレの前に現れてぇぇぇぇ‼」
星野は流星群に夢中だ。だから気づかない。俺が星野の顔を見つめている事も、俺がどんな気持ちで星野の宇宙人狂いに付き合っているのかも。
星野の関心を全て奪う、宇宙人なんかいなければいい。星野がたまには俺の方を見てくれますようにと、流星に祈った。

296名無しさん:2012/05/29(火) 00:41:49 ID:YGc4iCl6
被ってスレ汚しして申し訳ありませんでした……
一応分割したのの続き含めて、投下しておきます

 しゃっ、と鉛筆が紙の上を滑っていく音が聞こえる。その音が、何を描いているのか俺には見えない。だからただ、鉛筆をころころ変えていく先輩をぼーっと見つめていた。
 どうせすぐ汚れるから、なんて安物のシャツばかり着ているくせに、どこか洗練された雰囲気と。
 大変機嫌良さそうに和んだ、端麗な顔。
 その顔が俺の方を見て、手を止めて、笑う。自分が軽くときめくのが分かって、なんか悔しい。
「……やー、本当にナオ君っていい体してるよね」
「んな、そういう言い方やめてくださいってば」
 音声がつくだけで雰囲気が台無しだから。
「え、褒めてるんだよ、ナオ君の筋肉凄いって。好みだよ」
「いや、俺のことじゃなくて」
「そういえば、そろそろ寒いでしょ。もう上着ていいよ、モデルありがとう」
 俺の言葉をさらっと流して、先輩はまた鉛筆を握る。マイペースな様に脱力しつつ、俺は椅子の背にかけていたタンクトップへ手を伸ばした。
 服を着て椅子に座り直したところで、手を動かしながら先輩がまた話しかけてくる。
「あ。そういえばナオ君、専門は陸上だっけ」
「そっすよ」
「だからかな。触った感じだと、下半身も逞しいんだよね」
「え」
「こないだ暗くてあんまり見えなかったからさ」
「ちょっとせんぱ、ストップ」
「今度は明るいところで見」
「わーわーうわーーーー!!」
 ここ校内ですから! 誰か聞かれたらどうするんだよ!
 思わず立ち上がった拍子に、椅子に足を引っ掛け転がしてしまった。騒音の二重奏に先輩は目を見開いて、それからさもおかしそうに笑う。
「ナオ君、本当に可愛いなあ。そういう所も好きだよ」
「……先輩が楽しそうで嬉しいっすよ」
 起こした椅子の背にぐったり凭れて、俺は熱くなる耳を両手で塞いだ。

297296:2012/05/29(火) 00:45:14 ID:YGc4iCl6
24-189 芸術学部生×体育学部生

を名前に入れ忘れていました
重ね重ね申し訳ありませんでしたorz

29824-209 ツンデレ×ツンデレ:2012/05/31(木) 11:55:59 ID:CWtpoLIo
「何、こんな時間に。」
ほろ酔いの俺をそう言って迎えたのは、眉間に皺を寄せた恋人だった。

「終電なくなってさ、タクシーなら俺の部屋よりこっちのが近いんだよ。」
突然悪かった、と言い訳する俺に、恋人は容赦がなかった。

「野宿すればいいのに。」
「……何が哀しくて誕生日にホームレス体験せにゃならん。」
「何事も経験だよ。これでまた一つ寿命に近づいたわけだし。」
「お前、おめでとう位言えねーのか。」
「こんな時間まで遊んでくるやつに言うおめでとうはないね。」

恋人の口調はあくまで軽いが、どうやら結構怒っているらしい。
くりくりとした大きな瞳は全く笑っていなかった。

「お世話になってる上司がご馳走してくれるって言うの、断れないだろ。」
言い訳のような事情説明をしながら、水を取り出すために冷蔵庫を開ける。
と、綺麗にリボンのかかった箱がど真ん中に鎮座していた。
そう、それはどう考えても、誕生日ケーキだった。

そりゃ不機嫌な筈だ、と内心頭を抱えながら呆然としていると、リビングから声がした。深夜番組に夢中な彼は、俺が冷蔵庫の中を見た事には気付いていないらしい。

「でも残業終わってから飯食って飲んでって、どこの店?会社の近くあんまり良いとこないじゃん。」

「あー、ほらこないだお前とも行ったじゃん。アンチョビのピザがウマいとこ。」
あぁ。と納得したような返事のあと、
「あれ?」
という声がして、しまったと思った。
案の定、にやにやと笑みを浮かべた男が近づいてくる。
「あそこからって、うちのほうが近かったっけー?いつの間にそんなルート出来たのかなー?」
「……うるせー。」
「誕生日に僕の顔が見たかったって素直に言ったら?」

そんな恥ずかしいこと言ってたまるか。心のなかで呟く俺に、すっかり機嫌の治った恋人はニヤニヤ笑いをやめない。

「全く、昔っから素直じゃないんだからもう。仕方ないから僕1人で食べる為に買ったケーキ、ちょっとだけあげても良いよ?」

「……お前もたいがい素直じゃないな。」
「何か言った?」
鼻歌混じりに冷蔵庫を開ける恋人に、思わず苦笑した。
意地っ張りはお互い様だ。
END

29924-259 受けに乳首責めされて喘ぐ攻め:2012/06/07(木) 12:39:26 ID:gglyJ1io
規制で泣いてこちらに。長文妄想です。
=======
喘ぎ攻めに萌える!
ここはひとつ主従関係、主×従でどうだろう。下克上要素が二度美味しい!

例えば攻めは冷えた焔のような王。
自信に溢れた燃える獅子の瞳と牙を隠さず、しかし世の勝利者が必ずそうであったように、
機を窺い獣の息を殺す慎重さは凍えるほどに冷静で、ひとたび燃え上がれば勢いは破竹。
誰もが彼を敬い、恐れ、生きた伝説──怖ろしい神のように周りの人間は魅了された。

そんな君主には、古くから影のように付き従う部下が居た。
一見目立たず、有用な奏上を皆の前で行うわけでもなく、外地で華々しい戦果を挙げるわけでもない。
しかし王は彼を重用し、遠征の時には彼に内地の全権を任せ、第一の者だと言って憚らない。

古株であるだけの腰巾着。王が彼を手放さないのは、使い慣れた道具なだけに『具合が良い』のだろう……、
そのように謗る声は隠されようともしなかったが、部下は静かな無表情を崩そうともしない。
ただ、過去に彼のことを引き合いに王自身を謗る者があった時、相手を叩き切らんとする烈火の如き怒りを見せたこともあるが、
王のとりなしを受けて以後はそのような事もなくなった。

傍目にも親密過ぎるような王と部下に、しかし体の関係はない。
いや、なかった。
部下は、王に長らく身を焦がす劣情を抱いていた。
王の、鍛えぬかれた美しいからだと触れるだけで切れそうな魂の輝きに、己の身を焼かせ、燃え尽きてしまいたかった。
強く、神のように崇められる王の、誰も知らぬひと欠片の脆さを愛していた。

王が部下に触れたのは、ある大戦に勝利した夜だった。
王がまだ若き日に、瞳を燃え立たせて、今の部下となった男に語った将来の計画。
まさに大陸の覇者となるまであと一歩まで迫ったその日の晩、したたか酔った王は寝屋まで王を運んだ部下の腕を引き、無理やりに組み敷いた。

部下は抵抗した。全力で抗い、それでも王の身に傷をつけないように爪も拳も用いなかった。
己を押さえつけて貫く王に、身が引き裂かれる思いをしようとも、王自身の体にはひとたびも触れなかった。
押さえ込んでいた劣情が顔を覗かせ、王を求めて熱く身を捩じらせても、掠れた一声すら発しなかったのだ。

吐精し、部下を押さえ込んでいた指先を緩め、王は呟いた。
「──おそろしいのだ」
傷付き、疲れ果てた身を横たえていた部下は、その夜一度も合わせなかった瞳を、のろりと王のもとへと上げた。
王の顔は、暗がりの中でよく見えない。

おそろしい。私は、おそろしいのだ。小さな、常の王では考えられない細い息が繰り返し漏れる。
部下はぼんやりとそれを聞き、それから震えた。
このひとが、今夜己を求めた理由。あの王が、全てを手に入れようとしている王が、ただの一人の男になってまで己を貫いた理由を、その一声で理解したのだ。

「……」部下は、きしむ身を起こして、王の耳元に囁きを寄せた。一言、──王として出会う前の、一人の男の名を呼んだ。
王の…彼の身が揺らぐ。来たる嵐に怯える子どものようなその身を、抱き締めるのに今は躊躇うことなどなかった。
抱き締め、髪を撫でて首筋に口付け、落ち着かせるように寝かせながら、彼の厚い胸元に舌を這わせる。
日ごろ考えられない脆さで従った体が、胸を啜られ僅かに捩れた。

「──」王が、彼が、最愛の友の名を呼ぶ。
部下は、再び愛しく脆い太陽の名を囁き、胸元を執拗なほどにただ愛撫を重ねる。
「…ないてください」
部下の小声に、僅かに上がった王の息が止まった。構わずもう一度、声を向ける。
「啼いてください。あなたは涙を流せない。だから、せめて、わたしの前でぐらい、……わたしの為に」
彼の、力が抜けた雄を掌で包み、胸を唇に含んで舌先で転がすように吸い上げる。
闇の中、震えた王の唇が、掠れた声を零した。
低く甘やかな声に、部下は裂かれた下肢までもが疼くような熱さを覚える。声を聞きたい。ないた声を、あなたの弱さを、わたしだけがすべて。
胸を舐めるたびに、泣くような息が零れ、抑えた涙のように声が零れた。

──続きは妄想で!

30024-279 二人がかりでもかなわない:2012/06/09(土) 14:05:29 ID:ZVZ7KrbE
昼休みの教室内、トイレから戻ると、むさ苦しい友人たちが顔を寄せ合っていた。
なにかおぞましい儀式でも行われているのかと近付いてみると、そこにあったのは幼い頃からよく見慣れた光景だった。
「なにやってんの?」
劣勢と思しき二人が声を上げる。
「あ、上原!加勢してくれよ!」
「おかえり!放課後のラーメンかかってんの!」
「ふーん」
ごく一般的な表現をするならばそれは腕相撲と呼ばれるものに似ていた。
ただし行われていたのは多対一、つまり小中高と野球一筋の体育会系代表である日野の右腕に、友人の森と園部がなりふり構わずぶら下がっていた。
「上原が入ったぐらいで負けるかっつーの」
明るく笑う日野に煽られ、園部が余計ムキになる。
「来い上原!三本の矢作戦だ!」
三本の矢とは力を込めるのが人だから使える言葉であって、象だの虎だのハリウッド仕込みのゴリラだのを相手にしても意味はないのだ。
従ってモテたいだけのバスケ部員二人に根暗バンドマンが一人加わったところで、校内屈指の強打者に勝てる訳もない。
「あと10秒で倒せなかったら俺の勝ちだからな」
白い歯を見せて笑う日野。
なぜか吸い寄せられるように、上原はその横顔へ口付けた。
「…へ?」
力の均衡が崩れ机が大きくガタン、と揺れた。しゃがんでいた園部が尻餅をつく。
「うえはら…」
日野はそれだけ呟くとぽかんと口を開け、子供のような顔をしている。耳まで真っ赤だ。
「俺らの勝ち?」
上原の声にはっとしたように森が横から「ラーメン!」と叫んだ。
日野は呆然としたままで「わかった、放課後な」とだけ答える。
5分前を知らせる予鈴が鳴り始めると、教室は一層騒がしくなった。
森と園部に続いて、上原も自分の席へ戻る。
手を引いてそれを止めたのは日野だった。まだ頬が赤い。

喧騒に消えた言葉の先は、他の誰にも聞こえなかった。

30124-299 何考えてるのか分からない受け:2012/06/12(火) 18:00:52 ID:lZgq9ngo
《日本人は何を考えているのかわからない》
というのは、外国人にとって共通認識としてあるらしい。
わからないでもない。
日本には、はっきりと言葉にしないでも空気読めよ的な文化があるから。

俺が今いる大学の寮には様々な国から来た留学生がいる。
英語圏の人間は、世界中どこでも言葉が通じると思ってる。
日本に留学しに来てるなら、もう少し日本語の勉強して来い。
《日本人はミステリアスだ》と言って、
自分の勉強不足をこっちのせいにするなとは思う。

特に俺と同じ部屋で生活している金髪の男には声を大にして言いたい。

《コージは日本人だから仕方がないけど、たまには愛の言葉も言っていいんだよ》
じゃねーよ。
百歩譲って愛の言葉を言うにしてもお前にじゃないから。
お前には言ってるから。俺はお前が本気で嫌いだって言ってるから。
誰だよ。「いやよ、いやよも好きのうちなんだ」とか言って、
こいつに間違った日本語の意味を教えたのは。
言葉が余計通じなくなったじゃねーか。
《日本人は無表情で何を考えてるか読み取れない》
とか言って抱きつくんじゃねーよ。
俺の眉間のしわが見えないのかよ。スキンシップなんかいらないから。
《日本人はシャイだ》みたいに自分に都合よくとるな。
俺が怒れば怒ったで
《君が怒る理由がわからない。一体僕が何をしたっていうんだ?》
とか言うな。俺の勉強の邪魔はするわ、俺に近づいた女は蹴散らすわ、
やりたい放題じゃねーか。
大学の寮っていうのはなあ、勉強するところなんだよ。
昔の日本と違って、今は就職サバイバルなんだよ。
俺は同室のお前にこれ以上振り回されたくないんだよ。
そう訴えると
《もう一度ゆっくり言ってくれる?》
と返されたので、説明する気力が失せた。
俺にはお前が何を考えているのかさっぱりわからない、と口にしたら
《英語の勉強ならベッドで習うのが一番上達するよ、カモンコージ》
とベッドから俺を手招きするので、俺は思い切り頭を叩いてそいつを部屋から追い出した。

30224-349 低身長×高身長:2012/06/17(日) 03:14:05 ID:TOXnNMRA
君に関する僕の特権。

一つ。抱きつくと君の心臓の音が聞けること。
触れるたび君が生きてる証拠を聞けるなんて最高だ。
君は僕らが抱きしめあうと僕がコアラ状態になることを気にしてるみたいだけど、僕は君に抱きしめられ
るのが好きだから、全く問題ないんだよ。

二つ。キスするときに背伸びできること。
男の身に生まれながら、彼氏にキスするときのオンナノコゴコロを味わえるなんて、なかなかお得な人生
じゃないか? 少なくとも僕はそう思っているよ。
散々恥じらってから僕のために屈んでくれる君のキスを待つのも大好きだ。

三つ。セックスのときに君のやさしさを全身で感じられること。
重いから、っていつも下になって、でも無反応はいけないって、いつも一生懸命応えてくれる君が、僕は
いとおしくてたまらない。とても、とても恥ずかしがりやの君なのに。
不慣れなころ、君の体が逃げてしまって、ずり上がって、ベッドヘッドに頭をぶつけて、思わず二人で笑
い合ったのはいい思い出だね。

四つ。君の好きなところを挙げていくと、こんな風に、嬉しいのと恥ずかしいのとでしゃがみこんだ君の
つむじを見られたときの嬉しさ。
君にはわからないだろう? 見慣れてしまっているからね。
伏せていた顔をあげたときの可愛さといったら! 見ているだけで幸福が胸に満ちるよ。

ほんとうはもっとあるんだけれど、言い尽くせないくらい君が好きだよ。
愛しているんだ。
君と、ずっと一緒に生きていきたい。
だから、そんなに泣いていないで、顔をあげて、返事を聞かせてよ。
……お願い。

303302:2012/06/17(日) 03:18:21 ID:TOXnNMRA
すいません、名前欄ミスりました
24-329 です

30424-339 ぱっと見A×Bと見せ掛けて略:2012/06/19(火) 21:45:50 ID:.Q6oJVIE
ぱっと見A×Bと見せ掛けて実はB×Aなのかと思ったらやっぱりA×B


「なあ、俺、お前のことすきだよ」
二人で宅飲みをした夜、話のついでにひょいと言ってみたときの、奴のポカン顔ときたら最高だった。

「……………、………は、?」
次の発言までたっぷり40秒。パズーなら鳩逃がして家を出るレベル。
あーそのジワッジワ赤くなる顔とかすばらしいね、連写モードで撮影したい。
そんでコマ撮り動画にしてやりたい。
俺が表情を真顔から一ミリも崩さず、だまってじっと見つめていたら、
奴の顔はとうとう鎖骨のあたりから額まで真っ赤になってしまった。
「なん、なに、……いきなり、……」
ようやく何やら突っ込もうとしているようだけど、焦りすぎて言葉がわやわやだ。
かわいー奴め。

ほんとうに、こいつは言葉で感情を表現するのが不得手だ。
口に出す前にやたら考え込むし、
考えすぎて結局何が言いたいかよくわかんなくなるのもしょっちゅうだ。
おまけに表情を作るってスキルがすこんと抜け落ちてるもんだから、
初めて会う人にはいちいちいちいち誤解される。
だから、その白い顔が透かせる血色が、伏せられがちな目線が、
じつはなによりこいつの心を反映することに気がついたのは、多分俺くらいなもんだと思う。

「ふはは。顔真っ赤」
笑って、指先でつっと奴の頬に触る。あっつい。発火しそうだ。
ますます困ったように奴の視線が揺らぐ。
「おま、……お前、また、からかって……」
「うん? あれ、バレた?」
好きだよ、と同じくらいの温度でさらりと言ってみたら、指先の下ですっと表情が冷えた。
揺らいでいた視線が一点を見つめて固まる。
ああほんとこいつはわかりやすい。
ちゃんと見れば分かる。何も言わない分、目線に、肌に、こいつの心は透けている。

冷えた頬を、そのまま手のひらで包む。指先に、こいつの薄い耳たぶが柔らかく当たる。
「嘘だよ。ほんとだよ」
「……、……ぁ、……、………?」
混乱しきった目で奴が俺を見上げる。ちょっとぞくぞくする。
もっといじめたい気持ちをぐっとこらえて、相手の顔に額を押し当てた。
「からかったのが嘘。すきなのがほんと。
 お前が俺のことすきなのくらい、わかるよ、わっかりやすいもんお前」
ゆっくりささやくと、間近の目が見開かれるのが気配だけで分かった。
奴の手のひらがおれの手に重なる。ちょっと震えているもんだから笑ってしまう。
ああ、ほんとにかわいい奴。

そんな風に余裕ぶっこいて考えてたから、キスされたのは不意打ちだった。
「っ! ばか、待っ」
しかもいきなりどぎついやつだ。待て、と言おうとした口に舌が潜り込んで中を探る。
閉じる間もなかった目が至近距離でかち合う。ばかやろうお前は閉じろ。
目が合うとだめだ。
感情を透かしやすいこいつの目が、必死さをこれでもかってくらい伝えてくるもんだから
引き剥がそうとした腕がほだされる。

不器用に、俺の歯並びを全部覚えようとでもするみたいに、口の中をあいつの舌が這い回る。
呼吸が苦しくなって唇を逃がす。追いかけられてまた塞がれる。
「……、……」
せわしい口付けの合間の奴の吐息が、俺の名前を呼んでいるのに気がついて、腰からざわっと何かが這い登った。
言葉で感情を表現するのが苦手なこいつは、愚直に幾度も俺の名前だけを呼ぶ。
俺の反応をこんなときばかり目ざとく感じ取った奴は手のひらをおれの腹から背中へと這わせてくる。
肌が直接触れ合って震える。ぞくぞくする。
ああ。もう。

「っ!」
一瞬の隙を突いて口付け返すと、奴は身体全体を強張らせて息を呑んだ。
その期に乗じてぐいと相手に体重をかける。
不意を突かれたあいつは、目を丸くして俺を見上げながら倒れこんだ。
「ふ、……きょとんとしちゃって」
ささやく声は少し上ずっている。あーやばいな、これは俺がやばい。
奴の腿に跨って、顎の先に口付ける。奴が驚いたように身じろいだ。
「……なん、」
あいつの声も震えている。軽く齧ったらびくっと跳ねた。
「……なんでって? 俺だってお前すきだもん。キスさせろよ。
 お前ばっかりしまくってずるい。そうだろ?」
俺が問いかけると、奴は何か言おうとして、考えるように視線をさまよわせた。
口に出す前に、言葉を選んで、咀嚼して、再検討して。
させませんけど。
言葉がまだくすぶってるあいつの口を、俺はふさぎなおす。
「……っ、……」
考える余裕なんて与えてはやらない。このままなしくずしだ。

お前の攻略法なんてとっくの昔にシミュレート済みです。
そのわっかりづらい感情表現、ここまで読み解けるのは俺だけだ。
ここまで来んのに、どんだけお前のこと見てきたと思ってんの。なめんなよ。

30524-369 背中合わせ:2012/06/25(月) 00:07:11 ID:.FrmVSsM
「あらら、見事に囲まれてんな、俺ら」
「ざっと20頭はいますね。しかもみんな尻尾が赤いですよ。
 レッドテイルキメラ、キメラの中でも一番どう猛な種類ですね」
「この辺りにはツノツノネズミしかいないって情報、やっぱりガセだったか。
 どうもうさんくさいと思ったんだよな、あの商人…」
「まんまとはめられてしまいましたね。貴方は喧嘩っ早くて
 すぐ手が出るからあちこちで恨みを買っていますものね」
「恨みを買ってるのはあちこちで毒舌吐きまくってるお前の方じゃねーの?」
「僕は正しいと思うことを正しい表現で伝えているだけですよ……って、
 その話は後にした方が良さそうですね。
「だな。んじゃ、俺の右手の方向が若干手薄っぽいからあそこを突破しようぜ。
 合図したら突っ込むから魔法で援護頼むわ」
「それはいいですけど、えーと、その…腰の方は大丈夫ですか?
 すみません、昨夜、月明かりの下で見る貴方があまりにも魅力的だったもので
 つい度を過ごしてしまいました…」
「あぁ、気にすんなって。つか俺絶好調よ?魔法使いの精ってなんか活力の
 素でも含まれてんじゃねーの?てくらい」
「そうですか、ならよかった。というかそれ興味深い仮説ですね。
 今度ゆっくり研究してみましょうか…」
「そのときは喜んで協力するぜ。とりあえず、今は…」
「はい」
「行くぜ!」

30624-369 背中合わせ(1/2):2012/06/25(月) 00:46:46 ID:kZUnIqKQ
扉をぶち破った俺の目に飛び込んできたのは、剥き出しの背中に焼印を押し付けられている彼の姿だった。


「他人の背中というものは、こんなにも温かかったのですね」
彼はそう言って、こちらに身体を傾けてきた。
俺は少しだけ前のめりになったが、ぐっと腹に力を入れて押し留まる。
すると彼はくすくす笑いながら、更に体重をかけてくる。まるで子供がふざけているようだ。
「おい」
軽く諌めると、背中から「すみません」と苦笑交じりの声が返って来た。
「こういう事は初めてなものですから、とても新鮮で」
「俺だってこんな状況ねえよ」
男二人、後ろ手に縛られてまとめて鎖でぐるぐる巻きに拘束される状況など。
目の前にある鉄の扉に思い切り蹴りを入れた。当たり前だがびくともせず、足に痺れがはしる。
全身に力を込めてみたが、鎖の戒めが緩むこともなかった。人の身ではどうすることも出来ない。
不自由なことこの上なかった。暴れだしたい衝動を舌打ちしてやり過ごす。
と、こちらが大きく動いた所為か、背中越しに彼が小さく呻いた。
俺ははっとして緊張させていた背の力を抜き、後ろに問いかける。
「傷むのか、背中」
「いえ、大丈夫です。なんともありません」
すぐに答えが返ってきたが、それはきっと嘘だ。

あのとき。
牢獄に踏み込んだあのとき、彼の背中にあった羽は既に斬り落とされていた。
純白の、綺麗な羽だった。
俺はその柔らかさがとても気に入っていた。俺には無いものだったから。
本人には一度も言ったことがなかったが。
今、その羽のあった場所には、忌々しい烙印が焼き付けられている筈だ。
背中越しにあの焼印の熱が伝わってくるような気がして、俺は顔をしかめた。

「……勿体無いことしたな」
半分は本音、半分は誤魔化しで、俺はそう言った。
彼は可笑しそうに「勿体無い、ですか」と笑う。
「そうですね。貴方に撫でて貰えなくなるのは、確かに少し残念です」
彼らにとっては命に等しいものの筈なのに、背中から聞こえる声に陰りはない。
「けれど失わなかったとしても、撫でてくれる人がいなくなっては、意味がありませんから」
どちらにせよ同じことです、と軽い調子で返される。
一体、羽と何を天秤にかけたのか――かけさせられたのか、俺は訊かなかった。
聞けばおそらく、俺は衝動を抑えられなくなる。

30724-369 背中合わせ(2/2):2012/06/25(月) 00:48:13 ID:kZUnIqKQ

きつく奥歯を噛み締める俺をよそに、「それに」と彼は言葉を続ける。
「すっきりしたお陰で、こんな風に貴方の背中に思い切り寄りかかれるようになりました。
 誰かに背中を預けることがこれほど温かくて心地よいものだなんて、羽があった時は分からなかった」
「…………」
「本当に、貴方と出会ってから、私は色々なことを知ってばかりです」

ふと、後ろで縛られた手に彼の指先が触れた。探るようにして、優しく掌を重ねてくる。
「貴方が助けに来てくれて嬉しかった。私は幸せ者ですね」
「それは、結局のところ助けられなかったことへの嫌味かよ」
「そうですね。半分くらいは」
からかうような声と共に、背中が少しだけ揺れた。俺がよく使う言い回しを真似たつもりらしい。
「お前な……」
「でももう半分は本心です。最後の最後まで貴方と一緒に居られて、私は本当に幸せだと」
指と指を絡め、強く握り締められる。
「ありがとうございます」
しっかりとした声音が、牢の中に響いた。
その声に処分を待つ者の怯えや恐れは感じ取れなかった。俺への恨みの響きも無い。迷いも痛みも後悔も。
どんな顔で感謝の言葉など紡いでいるのか。確かめてやりたかったが、この体勢ではそれも叶わない。
ただ、彼の体温が伝わってくるだけだ。

なぜ『奴ら』が俺とこの男を引き離さずに二人一緒に縛り上げて閉じ込めたのか。
簡単だ。この密着した状態では『化け物』は本性を現さない。
鉄の扉を切り裂く鋭い爪も、狭い壁など吹き飛ばせる刃の如き翼も、
現したと同時に背にある者の身体を傷つけ引き裂いてしまうだろう。
だから愚かな化け物は本性を現さない。理性を総動員して、本能に近い破壊衝動を必死で抑え込む。

狙いは半分は成功している。しかし、もう半分は失敗だ。
奴らは正しく理解していない。
自分達が切り捨てた『同胞』は、『化け物』の理性の留め金であるのと同時に、引き鉄でもあることを。

不意に泣き出したい衝動にかられた。
これから男が続けて何を言おうとしているのか、俺には察しがついている。
処刑を待つこの絶望的な状況下で、彼がなにを望むのかもわかっていた。
聞きたくないと思った。しかし、聞きたいとも思っていた。
俺は彼の何もかもが好きで、だから背中の彼を感じながら、ただ目を閉じる。

「もう我慢しなくて良い。さあ、貴方は此処から逃げなさい」

羽を失ってもなお凛とした声が、俺に命じた。

30824-399 死ぬまで愛してると、死ぬほど愛してる:2012/06/29(金) 12:10:09 ID:ccN5p/TY
「死ぬまで愛してる」
そういった草野は死んだ、トラックとキスして。
馬鹿な奴。相手のドライバー居眠りじゃないかってまぁそいつも死んじゃったワケだけど。
ああもう俺は誰を恨めばいいのかとか。
誰も恨まないで良いように草野が運転手まで連れてっちゃったのかとか。
もう8年も、瞼の裏には横断歩道の黒と白、それに本来加わるはずの無いお前の赤。
フラッシュバックがなんだお前に会えるなら安いもんだ。
トラウマがなんだ、俺はまだこんなにもお前を愛してる。

「死ぬまで愛してる」
そう言った草野。
難しいことを考えるのが嫌いだった草野。
なぁおい死ぬまでって、誰がだよ。俺かよお前かよ。
お前だったらもう8年も経っちゃってさ、乾パンだって期限切れるっつうの。
それとも俺が死ぬまでかよ、なんとか言えよ草野。
お前知らねえの?俺まだあの部屋住んでるんだぜ二人で借りてた2LDK、家賃高えし、お前の会社のが近いし、大体広いし。どうしてくれんだバカヤロウ。
俺が死ぬまで愛してるって言えよ、夢枕に立てよ。
砕けた骨でも崩れた顔でもこの際ウェルカムだよ、昔みたいな白い歯がみたいとか言わねえよ。
愛してるって、俺が死ぬまでだって言えよ。言わないといい加減あと追うぞ。俺は死ぬほど愛してんだからさぁ。

30924-429 満月手前:2012/07/04(水) 18:47:43 ID:9RRHU/9s
「淳くんはどの月が一番好き?」
授業が終わり、駅へ向かう夜道の上で、横を歩く慧に不意に尋ねられた。
「月?」
「ほら、半月とか新月とか色々あるじゃん」
月の好みなど考えたこともなかった。
慧と知り合ってもうすぐ一年だが、未だに彼の言うことはよくわからない。よくわからないが、面白い。
「んー……三日月?」
「へー、なんで?」
「まあ、なんとなく」
何故かすぐに思い浮かんだのだが、理由までは分からなくて言葉を濁した。
「僕はね、あのくらいが一番好き」
慧が指さした先には、青白い月が冴え冴えと浮かんでいた。
少し歪な輪郭は、満月手前といったところか。
「意外だ」
「なんで?」
「もっとはっきりした、わかりやすい形のが好きだと思った」
俺が言うと、慧は「なにそれ」と少し憤慨してみせた。
「……咲きかけの蕾と一緒だよ。今から満ちてくって希望があって、完璧じゃない。
 それくらいが一番いいんだよ。いっそずっと今のままならって、思うくらい」
「満月にならないほうが良いってことか?」
「そうかもしれない。一度完璧になってしまえば、後は欠けていくのを恐れなきゃいけない。
 だったらいっそ、満月なんて来なくていいって思うんだ。僕はこう見えて臆病者だからね」
満ちきらない月を見上げたまま、慧は歌うように言った。
口調の軽さとは裏腹に、その横顔はどこか苦しそうだった。

俺は決して鋭い方ではないが、慧はただ月の話をしているのではないような気がした。
何か悩んでいるのだろうか。わからないが、そうだとしたら、少しでも力になりたい。

「慧」
「んー?」
「欠けてく月を見るのが怖いなら、俺も傍で見ててやる。
 そうやって新月の夜もやり過ごしたら、今度は一緒に月が満ちるのを待てばいい」
未完成の月を見ながら、つぶやくようにそう告げた。
慧は何も答えない。嫌な気分にさせてしまっただろうかと、少し焦って顔を戻すと、
「……」
彼は黙ったまま、真顔で穴が空くほど俺の顔を見つめていた。
「なんだよ」
「いやー……反則でしょそれは」
「何が」
あまりに熱心に見つめられるので、なんだか居心地悪くなってぶっきらぼうに返す。
「なんでも。あー、淳くんにそんなこと言われたら、満月怖いとかバカらしくなってきた。
 うん、むしろ見たいね満月!」
そう言いながら、妙に浮かれた調子で肩を組んできた。
さっきとは一転して明るい表情にホッとして、されるがままになっておく。
「今でもだいぶ丸いから、もうすぐ見れるぞ」
「うん。……きっと、もうすぐ見えるね」
俺のすぐそばで、慧は笑っていた。細められた眼が三日月に似ていると、その時気づいた。

31024-449 似た者同士:2012/07/08(日) 13:32:06 ID:jCmXqLMM
「なあ、徹平」
耳の後ろで名を呼ぶ声がした。暖かい。人間の体温は心地が良い。
「何ですか、先輩」
変わらぬ体勢で俺は返事をする。腕の中にいる人は一寸の身動ぎもせず、
ふたりぼっちだな、と短く息を吐いた。
この人はいつも、考えて考えて結論が出た後にどうでもいいような台詞を口にする。
そしてそのどうでもいいことが、きっと一番掬い上げてほしい部分の薄皮一枚こちら側にあるのだ。
俺はあえてそれを拾わない。この距離感が俺達には必要で、越えてしまったが最後、
只でさえ足場のない関係はどうしようもない傷口の舐め合いになるだろうことは間違いなかった。
そして、俺がそれを知っていて解っていてしないということを、この人はよく理解している。
「‥‥狡い人です」
ふう、と今までに数巡は廻らせている思考をもう一度なぞってから溜め息を吐くと、
彼はゆっくり身を起こした。
同じような焦げ茶の瞳に自分が映る。同意と謝罪の言葉が紡がれる前に、俺はその唇を塞いだ。

31124-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/15(日) 17:35:49 ID:fs1VbmyU
規制で書き込めずもたもたしてる内に時間過ぎたので、ここに投下。


 まだ騒がしい屋敷を出て倉の裏手に回り、雑木林の中。藪をかき分け少し歩いた先にある小さな池のほとり。案の定そこに人影があった。先程の騒ぎの元凶の彼、この家の次期当主は、そこで暢気に鼻歌を歌っていた。こちらが声をかけるより先に、僕に気付いた彼がぱっと笑った。
「怜治、いいところに来た」
「井坂さんがお呼びです。屋敷にお戻り下さい」
 無駄と知りつつ言ってみたが、意に介した様子もない。こっちに来いと、猫の子でも呼ぶように手招きをする。
「結構です。僕の役目は坊ちゃまを屋敷に連れ戻すことであって、坊ちゃまと一緒に木陰で涼むことではありませんから」
 殊更に「坊ちゃま」を強調して言えば、彼は拗ねたように口をとがらせた。
「いやみったらしくそんな呼び方をするな」
「あんな騒ぎを起こすような方には『坊ちゃま』で十分だと思います」
「見合いだって断ってきたんだからそんなに怒るな」
「論点をずらさないでください! だいたいあれは断ったのではなくてぶち壊したと言うんです! それに! 僕がいつ見合いを断ってくれって言いましたか!」
「そうだな。だが、私はお前以外と添い遂げる気など無い」
 言い切られて絶句する。
「いっそ二人で駆け落ちしてもいい」
 目眩までしてきた。
「だから頼む、お前まで、私に見合いしろなどと言わないでくれ」
「あなたは、この家の跡取りなのですよ」
 ようやっと絞り出したが、歯牙にもかけない。
「そんなのは関係ない。お前が私の側にいさえすればいい」
 あぁ、この人はなにも分かってはいないのだ。
 世間知らずのボンボンと元陰間、二人手に手を取って逃げたところで、どうなるというのか。行き着く先は見えている。
 この人に、後悔などして欲しくない。
 頭一つ以上大きな体が、腕が、僕の体を優しく包んでくれる。僕を暗闇から救い出してくれた、優しい手。この場所を手放したくはない、手放したくはないけれど。
「怜治っ」
 焦った声が頭上からふってくる。意味を持たせて這わせた手に、彼の顔がびっくりするくらい赤くなってうろたえていた。
「だからな、お前が大人になるまでは、こういうことは、まだはやいんだ」
 僕がこの家に来る前に何をやっていたのか知っていながらそう言ってくれるのが、嬉しかった。
 けれど今は。
「駄目、ですか。太一郎さん」
 目に浮かんだ涙をそのままに見上げれば、次の瞬間、息も出来ないほど強く抱きしめられた。嬉しくて、また涙がこみ上げてくる。噛みつくような口づけがふってきて、僕はうっとりと目を閉じた。
 たった一回だけでいい。その思い出だけで、きっと生きていけるから。
 彼の着物に手を差し入れながら、今日この屋敷を出て行こうと、心に決めていた。

31224-489 コドモっぽい大人×オトナな子供:2012/07/17(火) 17:16:26 ID:B7z81h/s
ぴーんぽーん。
「こんにちはー。」
どんどん。どんどん。
「こんにちはー。千崎さーん。」
がちゃ
「・・・ふぁい。」
「また寝てたんですか。」
「・・・すいません。」
「寝癖ついてますよ。」
「あ、え、どこに。」
「ここです。」
わしゃ
「・・・どうも。」
「入っていいですか。」
「え、あ、すいません。どうぞ・・・。」
「相変わらずのお部屋ですね。」
「どうも。」
「褒めてません。ごみ出しくらいしてください。」
がさ
「甘いものばかりは太りますよ。」
「すいません。」
「しっかりしてくださいよ。じゃ今から作りますんで。」
「・・・どうも。」
じゃっ
とんとんとんとん
じゅうぅぅぅぅ
かちゃ、とん
「どうぞ。」
「いただきます。」
ふうっ、はふ
「おいしい!」
「何日ぶりの野菜ですか。」
「三日、あ、四日です。」
「そうですか。もっときちんと食事をしてください。」
「はい。」
ふうっ、はふ
はふ、はふ
「ずいぶんおいしそうに召し上がりますね。」
「そりゃおいしいですから。ごちそう様でした。」
「お粗末様です。」
「いやそんな。」
じゃあぁぁ
かちゃ、かちゃ
「・・・いまだに信じられないですよ。」
「またその話ですか。僕もです。」
「ですよねえ。俺が町田さんより年上だなんて。」
「十も、ね。」
きゅっ
かちゃ
「よし、と。じゃあそろそろ。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「原稿は。」
「あ、いつものとこです。」
「靴箱の上ですね。ああ、ごみも持っていっちゃいましょうか。」
「すいません。」
「いえいえ。じゃあまた来週、同じ時間に。」
「はい。」
がちゃ、ばたん
「・・・。」
がさがさ
びっ
ばりばり
がつがつがつがつ
「・・・。」
言えるわけがない。
本当は料理が好きだったなんて。
甘い菓子は、ごみを出そうと腐心して食べているなんて。
ごみが無くなってきちんとした家になってしまったら
君は来なくなるかもしれない。
不規則な生活も、大量のごみも、空っぽの冷蔵庫も
すべては君の来る日のためだなんて。

31324-529 太平洋のイケメン:2012/07/21(土) 15:41:01 ID:ljg0BuuY

「おおっ」

担任の先生が名の読み上げを止め、名簿を見たまま声を上げた。
「お前達3人、頭文字とると太・平・洋になるな!がはは!」
静かだった教室が、少しだけ笑いに包まれる。
新学期でまだお互いの名前を知らない者が多い中。
どうしたって遠慮がちになるのは仕方ない。
そして僕も周りに合わせて微妙に笑いつつも、
担任の言った事実に少なからず驚いていた。

すると僕の二つ前に座る男が、急に後ろを向いた。
僕が洋野だから、彼が太のつく名字なんだろう。
彼は間の男を見て、そして僕を見て。
僕と目があうとなぜかニコーッと笑った。
人懐こそうな、満面の笑みだった。

それが最初。
いつも僕達3人はひとまとまりにされる事が多いから、自然と3人つるむようになり仲良くなるまで時間はかからなかった。

「なぁチョコいくつもらった?俺はな、25個!」
太田が言った。
「……18個」
平沢が眼鏡のズレを直しながら言った。
「あ、えっと僕は…21個…」
僕も後に次いで報告する。
それを聞いて太田はヨッシャ!とガッツポーズをとった。
「俺が一番だぜ!
平沢よぉ、おまえはもっと女子と喋れ!交流を持て!」
「…興味ない」
平沢はそう一蹴して、持っていた参考書に目を落とす。
やれやれとポーズを取りながら大げさにため息をついた太田が、今度は意気揚々と僕の肩を強く抱いた。
「俺らはそこそこ女子と話すもんな!来年も負けねぇようにしような洋野?」
太田の人懐こい笑顔が近い。
勢いにおされてつい頷く。

「…くだらん」
参考書から目を離さずにぼそりと呟く平沢。

「くだらんとは何だお前。勉強ばっかりしやがってお前」

また睨み合ってる二人に苦笑する。

乱暴でがさつだけど、大柄で運動センス良くて優しい一面もある太田。
寡黙で落ち着いていて、常に成績トップのインテリ系な平沢。
そして何でも平均な僕、洋野。
イケメン二人が女子にきゃあきゃあ言われるのはよくわかるけど、なんで僕ももてはやされてるんだろう。
女子って不思議だ。

31424-539 鶴×亀:2012/07/23(月) 19:03:38 ID:VXHdbCR.
鶴亀算って言葉があるくらいだ。
昔の人は鶴×亀って発想があったのかもしれない。
「そこで、ね。試してみない?」
「お断りします」
「ちょ、鶴さんつれなくない!? 部屋から池垣に半日掛けて抜け出してきたんだよ?」
およよと泣こうとして腕がと足が短くてできないことに気がついた。
「ちぇーつまんないのーつまんないのー」
「だいたい鶴亀算は……」
「理屈はいいの!」
と大きな声を出して僕は甲羅に篭った。
つまんないつまんないと呪詛のように甲羅の中でつぶやいているとハーッとため息をつかれる。
なんだよ子供だと思って鶴は千年亀は万年っていうしいつか君の年を追い越してやんだからな!
大人になったら振り向いてくれるよね?
遊んであげるから出ておいでと声をかけてくる鶴さんに子ども扱いしないでよーと言いながら僕は頭を渋々出した。

31524-569 平和主義と戦闘狂:2012/07/28(土) 10:25:19 ID:Vld23336
なるべく命を奪わなくて済むのならそれに越したことはない?
よくも言う。
己が生きるためという名目の下、その手をどれほど血に染めてきたというのか。
それなのによくもそんな寝言をのたまうものだ。

誰より赤い光景を作り上げ、血に濡れぬ日々などなかっただろう?
いつぞや集団で襲い掛かられた時など、まさに鬼神と称するに相応しい戦いぶりだったぞ。
そして何よりそういう時のお前は、まるでそれが生き甲斐であるかの如く最も活気に満ち溢れていたではないか。
だというのに、実は誰より殺生を好まぬというのか。

――いいだろう。
その下らぬ理想を貫くというのなら見せてみるがいい。
どちらに転ぶのか最後まで見届けてやろう。
お前と私は一蓮托生。
結果がどうあれお前の選んだ道に付いて行くのみ。

31624-589 餃子×焼売×春巻:2012/07/31(火) 17:10:10 ID:DNP4wVWI
俺達は今日も中華料理店で販売されていた。
一番人気は餃子。現地では餃子=ご飯的存在らしいけどここは日本。
おいしい中華のご飯の友だ。
「ちくしょう……ちくしょう」
おいしそうな餃子を見て涎を垂らしている俺は春巻き。
ご飯と食べてもいいけどそのまま食べてもおいしいマルチタレントだ。
「今日も売り上げは餃子だ一番か〜いいな〜」
のんびりした様子で喋るのは俺のマイスイートハニー焼売。
たとえベッドでの立場が反対でも俺にとってはハニーだ
「おっ、焼売じゃん。久々に今夜俺の部屋来ないか?」
「殺すぞ」
たとえ売り上げ的に圧倒的格差があったとしてもここは譲れない。
焼売を部屋に呼びたかったら俺を倒してからにしろ。
「ん? ああ、お前が今のこいつの棒?」
「は?」
棒? なにそれ?
「ちょっ、餃子やめてよ! 昔のことはもう関係ないじゃん!!」
いつものおっとりとした雰囲気をかなぐり捨てて焦る焼売。
「え? 棒? え?」
「いや、春巻き、それはちがっ……」
いきなり餃子が焼売のケツを撫ではじめた。
「裏山……じゃなくてお前何してんだよ!!」
「こいつ、俺の元セフレ。お前は?」
「え……」
その質問を理解したくなかったのか湯島聖堂孔子像の格好のまま固まってしまった。
ようやく頭が回ってきた。セフレはわかる。元ってことは昔そういう関係だったってこともわかる。
でも、棒って?
俺はのんきにそんなことを考えながら現実逃避をしていた。
その疑問に答える光景が目の前にあるにも関わらずに。

31724-639 自己完結:2012/08/08(水) 14:19:41 ID:SvVrfmfM
夏休み、14時22分。最寄り駅まであと10分。
汗で張り付いた制服のシャツを、いっそ脱いでしまおうかと思案していると、土手の方からの川風に交じって耳慣れた声がした。
「好きだ」
と、思ったよりも近く。
右隣、多分滝野の口から。
というか今は、滝野しかいないから。
いや、でも。
空耳か?空耳だよな?
…うん、空耳だよ。
きっと牛丼食いたいとかそんな話を俺が聞き逃したんだよ、そうだろ滝野。
「滝野…?」
想像の500倍くらい情けない声で呟くと、普段と変わらぬ冷めた感じで「なに」と聞き返された。
続けて「お前、顔色悪いぞ、熱中症か?貧血か?」と普段と同じに聞いてきた。
ああなんだやっぱり空耳か、空耳ならいいんだ。
だって俺たちは男子だもの男子高校生だもの、17歳になって全身まるきり男になって、それでだって「好きだ」なんてやっぱりちょっと辻褄が合わないし。
だって俺を好きなら滝野はもっと、もっとそれなりに焦ったりしてるはずだし。
それでだって俺たちは今夏期講習の帰り道だし、滝野は今度から野球部で新主将に…ああ違うこれは関係ないんだ。
だって滝野って巨乳派だって言ってなかった?村上なんとかみたいなふっくらした子が好きだって俺だって筋肉ないわけじゃないから割とゴツっとして村上なんとかには程遠いし…。
いやでもあれはタカちゃんに言わされてただけ?
わかんねえ俺が好きならもっとこう、もっとわかりやすく記号化された数式がabの違う、サインコサインタンジェント、違う!
ああもうぐちゃぐちゃだよ滝野、どうしてくれんだよ。
「…滝野ヒマだろ、俺かき氷食いたい。日野屋で」
「いいけど、具合は」
「元気元気、超元気。ヤリも投げられそう」
「…あっそ」
歩き出した滝野の思い切りのいい歩幅に俺はすぐ抜かされて、でもそれから少し合わせてくれて。狭くもない道で寄ってくる滝野にやっぱこいつ俺のこと好きなのか?って思ったり。
それから日陰を歩かされてることに気付いてやっぱ好きなんじゃん!って思ったり。

だけどかき氷食ったら頭冷えたよ、ちゃんとわかったよ。
やっぱ空耳だ、俺が言って欲しいだけっぽい。

31823-629 戻らない:2012/08/08(水) 17:23:11 ID:v4pRFWNs
好きだと伝えてしまったら、戻れないのはわかっていた。

あの日からあいつは、俺のノートを借りにこない。
俺の飲みさしのペットボトルを奪わない。
出会い頭のヘッドロックもかましてこないし、意味もなく浮かれて体当たりもしてこない。
戸惑ったように揺らぐ目をして、奇妙に引きつった挨拶をよこし、
手が触れない細心の注意を払った位置で、うわっつらの笑みを浮かべるばかりだ。

戻れないのはわかっていた。俺はあいつの友達ではなくなった。

無邪気な友達の距離間は、俺の高校生活にささやかな幸せをくれたけれども
それがいつまでも続くものではないことに、高校時代の友人なんて繋がりのその脆さに、
気づくのをいささか遅らせた。
愉快で楽しい遊び仲間でなく、いちばんのともだちになれていたなら、もう少し違っていたろうか。

戻れないのはわかっていた。かまわないのだ、戻る気などない。

お前は東京の大学に行くっていう。幼馴染のあいつと一緒に、夢を追いかけるという。
そんなにあかるい顔をして、お前は俺のいない未来を語る。
きっと俺は、いつまでたっても、お前にとっては友人Aだ。

もう一生触れなくていい。まぶしいくらいに笑いかけてくれなくてもいい。
それでもいいからなかったことにしないでくれ。
嫌うでもいい、見下すでもいい、もう一生友達に戻れなくてもそれでいい。
お前を泣くくらい好きだったことを、単なる友達じゃあなかったことを、お願いだ、知ってくれ。

好きだといったらもうきっと、楽しい友人には戻れない。
戻らないと、決めたのだ。


ごめんな。

31924-689:2012/08/16(木) 16:36:19 ID:QGPbGlg2
「先生、卒業したら俺を男として見てくれるっていったよね」
卒業式も終わり、クラスの生徒ももう帰っていった教室。
教壇にのしかかって、上から押さえつけてくる石神に答えを出せない。
目を逸らして窓の外を見る。
既に夕陽も落ちて、昼夜変わらぬ桜だけがハラハラと風に飛ぶ様が見える。
「…気の、迷いだ。卒業したんだから、そんな冗談…」
「3年間。ずっと迷うわけないだろ!」
ドンと教壇を叩く肘の音に情けないくらい震える。
「石神…」
「先生、好きだ」
ぎゅうと抱き締められる腕に、応える事は出来ない。
思春期に大人に対する憧れの延長で、身近な教師に対する尊敬を錯覚する事など良くある話だ。
確かにそれは恋かもしれない。
だがしかし、一過性の熱で将来に持ち得る本当の恋人や家族を奪うような事は、教師として大人として人間として決してしてはならない。
「石神、…気を持たせて悪かった。冗談だと思ってたんだ」
だから諦めろ。
こんな事はいつか過去にして、笑い話にしてしまえばいいよ。
「じゃあっ、…抱かせろよ。一回でいいから」
似つかわしくない声に目を上げる。
初めて会った時には幼いばかりだった顔が、今では覚悟をもって成長をした青年へと変わっていた。
石神には出会った時のイメージで記憶が止まっていたんだと、この瞬間思い知らされた。
今初めて石神という男と出会ったような、不思議な感覚。
じゃあさっきまでの石神を思い出せるかと言われれば、酷く曖昧で。
背中に冷たくあたる教壇と、熱い石神の吐息と指。
お前は31日までは僕の生徒なんだよと言えば、こんな事はなかったのか。
この結果を先延ばしに出来ただけなのか。
石神以上に求めてしまう、煮えた頭では答えをだせない。

32024-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/18(土) 17:52:39 ID:4LnM.VSw
一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのととある理由で俺は足繁く通っていた。この店を見つけたのは1年前の冬だ。受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。「特別な日にしか焼かないんだ」おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。「今日は嫁の三回忌でね」悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。それから1年かけて店に通い愛を伝えた。毎日毎日。気の迷いですぐに冷めると言われた。そんな事より勉強しろとも。勿論勉強もした。そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。それから喫茶店には行っていない。今日は合格発表日。通い慣れた道を歩く足取りは軽い。が、やはり不安だ。おっさんはどう反応する?気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32124-699シナモンの効いたアップルパイ:2012/08/19(日) 11:32:38 ID:m6k8X4pA
改行忘れたのでもう一度投下



一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。
アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。
場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。
30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのと
とある理由で俺は足繁く通っていた。
この店を見つけたのは1年前の冬だ。
受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は
大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。
寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。
香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。
寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。
「特別な日にしか焼かないんだ」

おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。
「今日は嫁の三回忌でね」
悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。
俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。
それから1年かけて店に通い愛を伝えた。
毎日毎日。
気の迷いですぐに冷めると言われた。
そんな事より勉強しろとも。
勿論勉強もした。
そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。
俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。
「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」
そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。
それから喫茶店には行っていない。

今日は合格発表日。
通い慣れた道を歩く足取りは軽い。

が、やはり不安だ。
おっさんはどう反応する?
気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。
そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。
今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。

32224-749 妖怪と天使:2012/08/25(土) 18:25:13 ID:lG2jsHbc
規制中なのでこちらに投下します。


「驚いたな。本物を見たのは初めてだ」
頭上から淡々と降ってきた声に、〈男〉は地に伏したまま憮然として顔をあげた。
黄金の髪が絹糸のように流れ落ちる。
「お前は誰だ」
「さて」
食いしばった唇から漏れた問いは、飄々とした口調でいなされてしまう。
憤りに任せて身じろぎをしようとすると、途端に四肢を虚脱感が襲った。
纏わりつくように鬱蒼とした草の感触。
――動けない。
じわり、と焦燥が広がる。
一段と緑の匂いが濃くなったような気がした。
この〈場所〉はおかしい。
否、場所だけではない。
「……お前は〈何〉だ? 私に何をした」
「何もしてないだろう? これからのことは知らないが」
〈それ〉はおかしげに肩をすくめてみせる。
闇色に揺れる髪。だが印象はそれだけだ。
年の頃、体格、顔立ち、その人物を表す特徴を捉えようとすると、それらはひどく不鮮明になった。
そのくせ、その得体のしれない存在感は、まるでその場所と一体化して男の体の自由を奪っているようだ。
「お前が動けないのは、俺のことを〈畏れ〉ているからだ。人の感情の中に産声を上げ、山の暗闇の中で育つ、曖昧で不純なものに」
男の思考を読んでいるかのように、それは言葉を続けた。
いや実際に読んでいるのか。
「何を……」
「この場所に加護はない。光は照らさない。世界中のありとあらゆる場所に届くお前の主の力は」
「我が主は、世界のすべてをお創りになった……!」
「では祈れ」
「く……っ」
不意にその口調が変わった。纏わりつく空気が重くなる。
力の入らない四肢が、体中が、強い力で地面に縫いとめられてぎしぎしと悲鳴を上げた。
強引に顎を掴まれる。
いつの間に近づいたのか、恐ろしいほど端正な顔が間近にあった。
だが、ようやく認識したそれの容貌を観察する余裕は男にはなかった。
「なあ」
「……ッ」
ちらりと開いた口の中で、赤い舌がいやに艶めかしく動いた。
「天使っていうのは〈穢れ〉たらどうなるんだ?」

32324-789 さよならの歌をうたう:2012/09/03(月) 22:30:00 ID:V2cDApTE
ドアの向こうに佐伯の背中が消えるのを確認して、藤野はマイクを置いた。
近頃の佐伯は何かと言えば電話、電話だ。
忙しく話し込んでいる先は実家の家族と職場が多い。
2人でいるときくらいと言ってしまえたら楽だが、そんな約束はしていないので、黙っている。
そもそもそんな必要があるわけでも、文句を言える関係でもない。

演奏停止のボタンを押して、次の曲を呼び出した。
次は佐伯の順番だが、いつ戻るかわからない者を待ってやる必要もない。
初めて一緒に来たとき取り合って、結局一緒に歌うように落ち着いた古い曲。
ワンフレーズめを歌いかけて、藤野はまた演奏を停止した。
他の部屋から漏れ聞こえる歌声と若い男女のはしゃぎ声に、どうしようもなく落ち着かない気分になる。
リモコンの履歴を手繰っては戻り、自分では歌わない歌を送信しては停止する。
いつも、すぐにかすれてしまう声を照れたように誤魔化す佐伯を思い浮かべた。

「なに遊んでんだよお前は」
何度か繰り返した頃、佐伯が部屋に戻ってきた。
体をぶつけるようにして、リモコンを覗き込んでくる。
「遊んでるっていうか……何歌おうかなっていうかさ」
迷う振りをしながら思い出していたのは、何度も聴いた曲だった。
「なんか新しいのある?」
「いや、別に」
「ないのかよ!」
「ていうかちゃんと歌えっかなって」
「ふーん」
佐伯が好きだと言った曲の、次に収録されていたあの歌。
聴きたかったけれど飛ばされるので、隠れてCDを買った。
車の中で見つかって、気に入ったなら貸したのに、と言った後、でもお前多分返さないよなと笑われた。

「あ、俺の入れたの消しちゃったんだ? ま、いいや、休憩ー」
大きくため息をついて、佐伯が隣に沈み込む。
リモコンを見る振りで横目で確認した表情は、少し疲れているようだった。
「電話、なんだった」
「あー……母ちゃん」
「……帰ってこいって?」
「……いや、何も言われてない……まだ」
「ふーん」
ページを送って目当ての曲を探す。今、佐伯のために探しているのは、極めてよくあるタイトルだ。

「なあフジ、俺ちょっと寝てもいい?」
「だらしねえなあ、まだ日付変わってねえぞ。今日は朝まで付き合えって言ったじゃん」
「今日はっていうか、お前いつも言ってるじゃん」
「お前だっていつも言ってるじゃん」
「はいはいごめんごめん、次は起きてられるようにするから」

次、来たときか。
次に会う時には、その次の約束はできるのか。その次は。
言えるわけのないせりふを飲み込んで、送信ボタンを押す。
悲しい歌のタイトルが点滅するのを確認して、藤野は置いたままだったマイクを握った。

「……まあ別に寝ててもいいけど、聴いてろよ」
「何だよそれ」

目を細めて佐伯が笑う。

「おい佐伯、聴いとけよ」
ハイハイ、と生返事を残して、腕を組んだ佐伯が目を閉じた。
つぶやくようにイントロが始まる。何度も何度も聴いたけれど、歌うのは初めてだ。
声が震える理由がわからないように、何度か咳き込む振りをする。

それでも届くように歌うからよく聴いてくれ。できれば最後まで目を開けずに。

324武家×軽業師:2012/09/04(火) 01:42:57 ID:ME5lb6gU
語りたくなりました。まわしついでに語るレベルですみません。
しかもハッピーエンドでもありません。

◇◇◇

軽業師とお武家様は本来身分が違う者同士。

出会いは町中。軽業師が綱渡りをしている場にお武家様が出くわす。
軽業師の華麗な技にお武家様は虜になってしまう。
そのうち軽業師の方も武士が気になってきて、ある日声をかける。
そしていつしか軽業師から誘って一夜の関係をもつ。幸せな一夜を過ごす。
だがお武家様はそれ以降、町には来なくなる。傷つく軽業師。


軽業師の技が話題となって、あるお殿様の屋敷で芸を披露することになった。
だがそこは軽業師を馬鹿にするようなゲスな武士ばかりの宴だった。
軽業師は顔に笑みを浮かべつつ武士に対し腹立たしい。特にお殿様は下品な人だった。
綱渡りの最中に武士の中に、関係をもったお武家様を見つける。
動揺して綱から落ちる。見ていた武士たちからは馬鹿にされる。

宴の後、心配したお武家様が軽業師の様子を見にくる。
怪我は軽かったので平気だと言う軽業師。
お武家様は「あんな危険な芸はやめろ。こんなことで命を落とすなど無駄死にだ」と言ってしまう。
軽業師のプライドを傷つける一言だったので、思わず
「あのお殿様とやらは、あなたが命をかけるにふさわしい人ですか?
あんな人に命をかけているあなただって私と同じ犬死にをするようなものだ」
「無礼な!」
と言い争い。
軽業師は手を出して金をよこせとお武家様に言う。
「ただで楽しもうなんてむしが良すぎでしょう」
怒りを隠しきれないお武家様。懐から銭を投げ捨てる。軽業師を辱める言葉も吐き捨てていく。
銭を拾いながら自嘲する軽業師。
お互いに好きな気持ちはあるのに、世界が違うのだと思い知る。
それ以降二人は会うことはなかった。

それでも軽業師はたまに綱の上から誰かを探してしまう。決しているはずのない人なのに。

お武家様は戦で亡くなる。殿は兵を置いて逃げてしまった。
「ああ、おまえの言ったことは本当のことだった…」と最後に軽業師を思い出して息絶える。

32524-809 武家×軽業師 1/4:2012/09/04(火) 10:59:07 ID:bxDDdcrQ
〈中世〉
高麗や唐土や天竺や波斯よりさらに西の果てから使節団が来朝した
俺は北面武士として、使節団が宿泊する屋敷の警備に当たっていた
端的に言うと一目惚れだ
使節団への歓迎の宴席で警備をしていたときだ
使節団に同行していた軽業師の少年が歌舞を演じ始めた
その美しさは言葉に表しようがなかった
髪は見たこともない白金色
瞳は秋晴れの澄んだ空の色
口さがない輩は「鬼のようだ」などと陰口を叩いていた
俺にはまさに極楽で神仏に仕える小姓の如く見えた
そして、その日の夜に警備係の職権を悪用して……夜這いした
無理矢理に向こうの獣の毛皮で織られた服を剥がすと下には雪のような肌が広がっていた
俺は夢中でその雪原に手と足と舌で跡を付けた
本当はどう考えているかは分からないが、はっきりと俺を拒んでないのも確かだった
それから連夜に渡って俺は体を重ねた
しかし、とうとうその日が来た
使節団は予定の日程を終え、故国に帰朝することとなった
明日の朝に都を離れる
やるのなら今夜しかない
俺は意を決した
少年を無理矢理に連れ出したが、すぐに気付かれてしまった
一時的な潜伏先として予定していた廃寺に潜り込んだが、すっかり周りを検非違使たちに囲まれていた
色に狂った男の末期として俺が自刃するのは当たり前だ
ただどうして自分が恋しい人をこのように巻き込んでしまったのか
「俺はこれから死ぬが、お前は全く死ぬ理由がないから生きて欲しい」
「俺に無理矢理に訳も分からず連れ出されたと言えばお前が罰されることもないだろう」
言葉が通じたかどうか分からないがそういう趣旨のことを俺は伝えた
いよいよ検非違使たちが踏み込んで来るようだ
ありがとう、一炊の夢だったが実に楽しかった
俺は小刀で首を切り裂いた
鮮血が溢れ、意識がかすみ始めた……
その最期の刹那に少年が俺が自刃に使った小刀を手に取って自らの首に刺したのが見えた

32624-809 武家×軽業師 2/4:2012/09/04(火) 11:01:39 ID:bxDDdcrQ
〈近代〉
俺の父親は箱館戦争で五稜郭に立て篭もって最後まで戦った武士だった
祖先を遡ると鎌倉時代辺りまで遡れる由緒正しい武士の家柄だ
ただ江戸の頃には貧乏な御家人に落ちぶれていたようだった
父親は五稜郭で死に損なって刀を置いてそのまま箱館に居ついて商売を始めた
俺は父親が髷を切ってから箱館で生まれた
父親はそれでも武士を完全に止められなかったようで、土地を借りて時代錯誤な剣道場を開いた
場所は露国の教会の目の前だった
一つだけ忘れられない思い出がある
俺が十五歳くらいの頃だったと思う
教会の催事で露国より軽業師の一団がやって来ていた
ご馳走も振舞われるとかで俺も信者でないのにちゃっかり客として紛れ込んだ
そこで凄いものを見た
剣を持って踊っている少年がこの世の物とは思えない美少年だった
俺は息を飲んだ
食べ物目当てだったのに食欲はどこかへ消え失せた
大鍋にたっぷり入った紅い汁物や露国風具入り揚げ饅頭が配られ始めていた
俺はそれを無視して夢中でその少年を探した
なぜか少年は大人たちから離れて教会裏手の白樺の林で一人で佇んでいた
俺はもう居ても立ってもいられなくなって……犯してしまった
一通りの行為を終えると少年は俺のことを責めることもせずにそそくさと教会の方に走って行った
俺はしばらく余韻に浸ってから教会に戻ると、食べ物は全てなくなっていた
少年は大人に告げ口などはしなかったようで、その後にお沙汰は何もなかった
あの少年はどうしているのか……ずーっと心に引っかかったまま時は流れた
その後に俺は地味に商売をしつつ父親から継いだ剣道場の師範も続けた
そして、お迎えがいつ来てもおかしくない齢になった
気がかりは樺太に引っ越した末の息子夫婦と孫のことだ
そろそろ時局の雲行きも怪しくなってきた
早めに樺太での仕事は切り上げて内地に戻って来いと何度も手紙を出したがどうなることやら

32724-809 武家×軽業師 3/4:2012/09/04(火) 11:03:23 ID:bxDDdcrQ
〈終戦直後〉
俺には一つだけ気がかりなことがあった
それは樺太で唯一できたロシア人の友だちのことだ
豊原にあった俺の家の隣家に住んでいたロシア人一家
そこに俺と同い年のロシア人の少年がいた
それはそれは凄い美少年だった
少年雑誌の冒険小説に出てきそうな白皙の美貌の持ち主だった
一家は元々はモスクワで代々続く軽業師の一族だったらしい
ところがロシア革命の混乱で赤軍から弾圧されそうになった
そして流れ流れて東の果てにまでたどり着いたそうだ
きっかけはよく覚えてないけどアイツとは子供のときからよく遊んでいた
親父さんは豊原の競馬場やら料亭の宴席なんかで芸をして生計を立てていた
アイツも親父さんと一緒に芸を見せていた
新しい芸を覚えると最初にこっそり俺にだけ見せてくれた
俺は俺でアイツに祖父から習った剣術を見せたりした
いよいよ戦局が激しくなっても、俺とアイツの友情は変わらなかった
そして日本は戦争に負けた
状況はよく分からなかったが、とにかく豊原に居続けたら危ないようだった
俺は両親と一緒に北海道に引き揚げることになった
アイツとはお別れだ
引き揚げ船に乗るために豊原を出発する前日に最後のお別れの挨拶をしに行った
もう二度と会えないことは何となく分かっていた
合意の上で近所の廃屋の中で体を重ねた
互いに果てて何とも言えない時間を過ごしていた
と、その空間の弛緩を銃声が破った
ソ連軍が侵攻して来たのだ
それからのことは余り記憶にない
ただ逃げることと家族を探すことに夢中だった
アイツに最後の「さよなら」を言うことができなかった
幸運にも北海道へと向かう引き上げ船に両親と一緒に乗ることができた
今はただただアイツの無事をひたすら祈るしかない

32824-809 武家×軽業師 4/4:2012/09/04(火) 11:06:12 ID:bxDDdcrQ
〈現代〉
俺は北海道で一番サッカーが強い高校のサッカー部のキャプテンなんかしている
今日は来日中のロシアの名門クラブのユースチームと試合をすることになった
一番の要注意はユースのロシア代表にも選ばれているフォワードの背番号11の選手だ
とにかくトリッキーなボール捌きが上手でディフェンダーをひょいひょい抜いてしまう
それで付けられたあだ名が『軽業師』なんだそうだ
ちなみに父親はロシアサーカスの芸人で代々続く軽業師の一族と言うのはコーチからの情報
俺も実は家計図なんか残っている武家の末裔だから、そういうのを聞くと燃えるな
さてそろそろグラウンドにあちらさんたちが到着したようだ
その刹那に俺は強烈な視線を感じた
視線の主は……アイツだ
あれが噂の軽業師か?
うわーっ、なんかラノベとかに出てきそうな銀髪の美形の凄いイケメンだわ
……何だろうか、この感じは?
初対面のはずなのにずーっと大昔から知ってた気がする
と、軽業師はいきなり俺の方に向かって猛ダッシュして来た
そして俺に思いっきり抱きついて大声で言った
「ヤットアエタネ!!! コンドコソゼッタイニハナサナイ!!!」
初対面十秒でいきなり凄いことになった
ただ俺もこの軽業師を絶対に離したくないとその瞬間から強く思うようになっていた

32924-869 潔癖症だった攻め:2012/09/11(火) 23:36:32 ID:oMkTkJSM
自分以外のものが不潔に思えて仕方のない時期があった。
例えば、ジュースの回し飲みなんてありえなかったし、ちょっとした物の貸し借りすら苦痛だった。
携帯用の除菌スプレーがお守り代わりだった。
潔癖症を隠したくて周囲から一歩退いていたら、「気難しい孤高の人」というレッテルを貼られていた。

お前と出会ったのは、その頃だ。
明るくて人懐っこくて、ぎこちない態度の俺にも屈託なく話しかけてきた。
お前は俺の対極にいて、俺の理想だった。うらやましかったし、憧れていた。

興味があると言っていたCDを貸した。「すげー良かった!」と笑顔で言われて、つられて笑った。
寒い冬の日、風邪気味だと言ったら巻いていたマフラーを渡された。ほんのり残った温もりが心地よかった。
お前の部屋で、二人で鍋をつついた。その日以降、誰かと同じ器から物を食べても平気になった。

除菌スプレーを持ち歩かなくなった頃、自分の欲を自覚した。
お前を俺だけのものにしたい、お前に触れたい、お前とつながりたい。
最初は信じられなかった。
今まで眠っていたそういう欲求が、一番身近なお前に向いただけじゃないかと思った。
自分の変な錯覚にお前を巻き込みたくないと思って、距離をおいた。
すごく身勝手な振る舞いだったと、今になって思う。
誘われるまま合コンに行って、女の子と知り合った。何度か二人で会って、そういう雰囲気になった。
でも違った。以前他人に感じていた、どうしようもない不潔感は消えていたが、ただただ「この子ではない」という違和感があった。
そこでようやく、俺は馬鹿な遠回りをしていたことに気付いた。彼女には、本当に申し訳ないことをした。

単純なことだ、順番が逆だったんだ。
潔癖症が治ったからお前を好きになったんじゃない、お前が好きでしょうがなかったから、潔癖症を乗り越えてしまったんだ。

本当はまだ、誰かと触れ合うと緊張する。だからうまくいかないかもしれない。それでも、俺は――



なおも言い募ろうとした彼の唇に、オレはそっと人差し指を押し当てた。
告白された時は、これ以上幸せなことはないだろうと思っていたのに、ヤバい、今、泣きそうだ。
訥々と語られたのは、彼の過去、彼の心、そして彼の変化の原因が他でもないオレという嘘みたいな事実。
「いいよ。おまえ相手なら、うまくいかないなんてありえねーもん」
言うなり、ガバリと抱き寄せられた。彼の鼓動が間近に聞こえる。
「ああ、本当に、お前はどこまで俺に甘いんだ」
耳元で囁かれて、思わず顔を上げる。目の前の瞳は、俺と同じくらい潤んでいて。

最初のキスは、二人分の涙の味がした。

33024-959 踏み台になる:2012/09/22(土) 21:55:26 ID:rf5rlYIw
規制ひどいんでこっちに投下



「はい原くんどうぞ」
横矢が壁に背をついて、バレーのレシーブのように腕を構えた。手は足を乗せるため上に向けられている。
「…横矢お前、マジちゃんとついてこいよ?」
「わかったから原くん、早くのぼって」
「一人で帰んなよ!?」
「わかったってばあ」

いつからだろう。横矢がこんなふうになったのは。
自然と踏み台になり、高いものには必ず手を伸ばす、悲しいほど当たり前になってしまったこの身長差。
見下ろされる居心地の悪さ。
こいつに威張り散らす俺をどこまでも滑稽なものに変えてしまう目線の差。
思春期と呼ばれる俺には吐き気がして当然の違和感だった。

深夜の学校に忍び込もう、そう言ったのは俺だった。
下らない度胸試しの一つで、先週バスケ部の森崎がやったばかりだった。校庭に忍び込み白線で書いた「森崎最強」。
もちろん森崎は翌日には校長教頭揃い踏みの中で土下座をするハメになったわけだが、校内での奴の好感度はあがった。田舎の娯楽だ。
それから何度か忍び込もうとした生徒がいたが、皆あえなく大人たちに捕まった。
森崎のあとに続ける者は未だ現れていないのだ。
それはちっぽけな自信をくじかれかけた自分にはチャンスに思えた。
ここで偉業をなしとげて、ひょろ長い図体をした横矢に負けない自分になるのだと、馬鹿げた鼓舞をした。
そして横矢にそれを見せ付けて、その時こそ安寧を手に入れられるのだと。

だがそんな夢物語の薄っぺらな脚本は、早々に破り捨てられた。
警備員だ。
当直室の様子は先程確かめてきたばかりだ。
故に声を荒げながらこちらへ走ってくるあの男は、教員ではない。
まさかここまで徹底されているとは。
「おい、横矢降ろせ!警備員!」
「うそ!?」
「撤収な!」
叩きつけるような心臓の音を聞きながら、汗だくになってもペダルを漕ぎつつけた。
そうして俺にはこんなこともできないのかと悔しさやぐちゃぐちゃとしたものが込み上げてきた。
涙になりそうだったそれを声にかえて吐き出した。文字にもならない叫びが人気のない道路に吸い込まれていく。

自分のことさえ持て余した俺は、その夜横矢がどうしたかなんて、気にもかけなかった。

次の朝ざわつく教室から見えたのは、校庭にいっぱい真っ白な「好き」の文字。
横矢を見ると目を細めて、俺の頭に手を置いた。
なぜだかそれは心地がよくて、胸には消し飛んだ不安の代わりにくすぐったいような予感。
自信ありげな横矢の顔にも、なぜかいらつくことが出来ない。
「今度は置いて行かないでね?」
お前が俺を置いていくから、と、言いかけてやめる。
「置いてかねえよ」
横矢が笑う。
俺も笑う。
季節はもうすぐ本当に秋。
肌寒い廊下の風の奥から、教頭の怒鳴り声が聞こえた。

33125-59 俺のこと好きなんだろ?:2012/10/04(木) 06:25:16 ID:o22jxjt.
私は常識を逸脱したものが著しく嫌いだ。
2年C組の原田は、私の理解の範疇から一歩、いや何歩も踏み外している。
何度注意しても直さないボサボサの金髪。
ゴムで縛った前髪が、教壇から一番遠い最後列とは言え、非常に目障りだ。
そして何より座り方がおかしい。
椅子の上で、ある時は体育座り、ある時は胡座、またある時は正座。
数学の授業なのにこいつが腐心しているのは間違いなく、難しい解を求めることよりも、難度の高い座り方に挑戦することだ。
今は坐禅を組もうとして、必死に右足の上に左足を乗せようとしている。
おい、落ちるぞ。

気づくと、教室のあちこちから含み笑いが聞こえる。
「先生、板書間違ってます」
「え?…」
黒板に目をやると、『原田からの距離』という、紛れもない自分の文字が飛びこんできて、息が止まりかけた。
「あ、あぁ…すまん」
慌てて『原点からの距離』と書き直す。
恥ずかしさで耳が熱い。
私がこんなミスをするなど初めてだ。意味がわからない。

突然、教室の後ろからガタッと大きな音がした。
やっと坐禅を組むのに成功したらしい原田が、バランスを崩しかけて机にしがみついた音だった。
生徒の目線は原田に集まり、その体勢を見て教室は笑いに包まれる。
私も思わず苦笑がもれる。
照れたように笑っていた原田の目が、いきなりこちらを向いたかと思うと、なぜかパアッと明るくなった。
「先生、笑った」
え?
「やっぱさー、先生、」
何だ。
「俺のこと好きなんだろ?」
何を言い出すんだこいつは。

一斉に笑い声が起きる。
「何言ってんだよ」
「原田が先生のこと好きなんだろ」
「お前数学の授業しか出ねーじゃん」
囃し立てる生徒の声がやけに遠くに聞こえる。
原田が何を考えているのかも、自分が次に取るべき行動も、何一つわからない。
こんなの、完全に私の理解の範囲外だ。
私はやっぱり、原田のことが大嫌いだ。

33225-139 軽薄色男受けが本気になる瞬間:2012/10/15(月) 00:31:05 ID:hLv8qZ.A
トロトロ書いてたら被ったのでこっちで萌え語りさせて下さい


恋愛的な意味や性的な意味で本気になる軽薄受けも萌えますが
個人的には戦闘的な意味で本気になる受けを推したいと思います
軽薄で色男、きっと情報を仕入れたり助っ人にするには重宝するけど
一生背中を預ける相棒としては心もとない微妙な存在なのでしょう
そしてそういう性格になったのにも暗い過去やらトラウマやらがあるのでしょう
そんなめんどくさい受が本気になる程惚れるまで攻は相当苦労したと思います
「そいつは止めとけ」と周りに反対され、実際に何度か受けに裏切られ
それでも受けを信じ背中を支え預ける事の出来る男前な攻めさん
そんな攻が瀕死のピンチになり逃げる事も出来ない絶体絶命の時こそ受けが本気を出すのです
明らかに格上の敵に囲まれ、攻めに「僕なんか置いて逃げろ!」と言われ
それでも引かずに出せる限りの本気で戦う覚悟を決める受け
「昔ならお前さんなんか簡単に見捨てれたのになぁ…」
なんて攻めにぎこちなく笑いかける受けはさぞ美しい事でしょう
その後は覚醒した受けが一人で勝っちゃうような愛の力最強展開も萌えますし
受もボロボロになった頃何かが切っ掛けで助かる負けイベント展開も美味しいと思います
(ボロボロの二人で「負けちゃったな」「負けちゃったね」な会話が入るとさらに良いと思います)
またボロボロになった受を見て愛の力で攻復活→力を合わせて逆転勝ち展開も素晴らしいですし
勝ち目が無いと悟った二人が心中するようなBADENDもそれはそれで良いと思います
ですが個人的には勝ち目が無いと悟った受けが最後の力で攻めを回復させる展開が好きです
回復した後「カッコよく護ってあげられなくてごめん」と言い残し死んでしまう受け
肉体は護られたが心は酷く傷付いた攻と肉体は死んだが心は報われた受の対比
そしてビターなEDは今まで軽薄だった受だからこそ生み出せる結果だと思います

つまり何が言いたいかというとたった一人の攻にだけ本気で尽くせる軽薄色男受めっちゃ萌える

33325-209 どんなぱんつはいてんの? 1/2:2012/10/25(木) 03:33:44 ID:9xOU8aik
「どんなパンツはいてんの?」

真夜中に女装して歩いてる所を幼馴染の亮に見られた
慎重に、慎重に、と気を使っていたつもりだったが努力は無駄だったようだ
性癖を除いてだが今まで真面目に生きて来たこの十数年もここで終わる
そういう覚悟を決めて今まで隠してきた全部を亮にぶちまけた
その結果返ってきたのが「どんなパンツはいてんの?」という言葉だ
「…僕の話聞いてた?」
「ん、聞いてたから、下着も女物なのか気になった」
「……普通のトランクスだよ」
呆然とした頭で半ば条件反射のように僕は答えたが
返ってきたのは「ふーん」という気の抜けた返事と
「お前心は女なの?」という更なる質問だった

「さっきも言ったろ!?男だよ!
 男なのに女の服着て喜んでる変態なんだよ僕は!
 やっぱり僕の話聞いてなかったんじゃないか!」
みっともない位取乱した僕といつも通り淡々とした態度の亮との
違いが悔しくておもわず感情のままに捲くし立てた
「いやお前"女装癖がある"とはいったけど心が男か女かは言わなかったじゃん
 ていうかさ、オレがお前の話ちゃんと聞かなかった事とかあったっけ?」
やっぱり亮は嫌味な位冷静で淡々としていて、僕は心底情けない気分だった
「…ないけどさ」
泣きそうな声でポツリと言うと
「だよなぁ」
何だか少し楽しそうな声が返ってきた

33425-209 どんなぱんつはいてんの? 2/2:2012/10/25(木) 03:34:43 ID:9xOU8aik
「こんな女装男と居る所見られたら君まで誤解されるよ
 大体亮だって僕が変態だって知って幻滅しただろ…、もうさっさと帰ってよ」
やっぱり泣きそうな声でそう言った瞬間堪えきれなくなった涙が一粒足元に落ちた
いい歳した男が女装して幼馴染の前でメソメソ泣いてる、本当になんて情けないんだろう
「まあオレもゲイでネコだからさ、変態同士って事でそんな気にしなくてもいんじゃない?」
感傷と絶望に浸っていた僕はサラリと告げられたとんでもない発言に弾けるように顔を上げた

「なッ、何それ!嘘!?僕の事からかってる!?」
「オレがお前に嘘ついた事とかあったっけ?」
「ないけどさ!ないけどさぁ…!!!」
夜中って事も忘れて大声で叫ぶ僕の口にしーっと人差し指を当てる亮
「そんなに信じらんないなら好みのタイプでも教えようか?
 えーと、真面目な慎重派で鈍感で思いつめやすい手のかかる感じの…」
「うわあ!いい、もういい!何かリアルでヤダ!」
余りにも衝撃的過ぎる展開に感傷と涙は引っ込んでしまった

僕は亮の手を引っ張って早足の大股でズカズカ家へと向う
「と、とにかく一回ちゃんと話しようよ、今日は僕の家に泊まって貰うからね!」
「なあ、さっきの続きさぁ、自分の事より他人の心配ばっかする様な奴が好みだよ、オレ」
「それはもういいってば!幼馴染の好みの男性像とか聞きたくないよ僕!」
すっかり忘れてたけど僕今女装中だし亮に色々聞かなきゃいけないし
速く部屋まで戻らないと、いつも通りゆっくり歩く亮を半ば引き摺るように進む
「…はぁ〜、にぶちん」
「え?亮なにか言った?」
「さあ、空耳じゃないの?どうでもいいけどさ、今日月綺麗だね」
言われて夜空を見上げてみると確かに今日の月は濃い黄色が綺麗だった
「ん、ほんとだ綺麗、言われるまで気付かなかった」
「ダロ」

(…やっぱ、にぶちん)

335強がらない:2012/10/27(土) 19:41:45 ID:9P9LIwa.
沢田は昔から強がりだ。

俺は今、沢田が大学で1番の美女に一世一代の告白をした河原の土手にいる。
沢田は隣に座っている。見てる奴なんか誰もいないのに、泣かない。沢田は幼稚園の頃から一度も、人前で泣かない。

しかし泣きたいのは本当は俺の方だ。
何が悲しくて10年も片想いをしている奴の告白を見届けなければならなかったのだ。
フられてホッとしているなんて、沢田には死んでも言えない。

でも。沢田と違って強がれない俺は、好きな奴が悲しそうなのを見て、そして、俺が1番言われたいことをあんな女に言っていたのを見て、懸命に涙を我慢している。

「しん、なんでお前が泣きそうなんだ」
沢田は俺の顔なんか見なくても、俺が泣きそうなのをわかっている。
「お前が強がって泣かないからだ」と答える。本当は違うが。

「じゃあ、お前が泣けないと言うのなら、おれはもう強がらない。泣くよ。お前も泣け」

驚いて隣を見ると、沢田は初めて俺の前で泣いていた。ただ静かに、涙を流していた。

だが、俺は泣かなかった。
沢田、知っていたか?
俺は、お前が俺の目の前で安心して泣けるような男になるのが、小さい頃からの夢なんだよ。
大きく息を吸って、沢田の手を握った。

「沢田、俺はお前の事がずっと」

336暗殺者と虐殺者:2012/10/31(水) 12:16:44 ID:5jva7xIM
暗殺者は受けた仕事を淡々とこなし感情は込めないし仕事を選ぶこともない。
虐殺者のほうは自分の価値観で仕事を選び、許せないと思った奴だけを残虐な殺しかたで殺す。
全然違う人種なのにお互いを「人殺しは斯くあるべき」と尊重していた。

顔も名前も知らなかった2人が偶然出会い、同業者ならではの鋭さでお互いに正体を知られ、自分を偽ることなく関係を築き上げていき、今までの罪と向き合い2人で足を洗うかと悩みだしたその時、それぞれに対して殺意を向ける復讐者が現れ、暗殺者には虐殺者暗殺の依頼が、虐殺者には暗殺者虐殺の依頼が届く。



…という心中ENDまっしぐらな設定を数分で思いついた。
誰か最後まで完成させてくれたらいいのに。

33725-459 京都人×東京人:2012/12/04(火) 06:48:56 ID:KoHSiJGY
地元の人から見たら京都弁が間違ってる感じがありまくりですが
脳内補正していただけると助かります。
==========

出会ったのは夏の頃、その1年後に同棲することになった2人。
「食事の支度は交代で」というルールになり、最初のうちは
「はぁ? なんでお出汁取るのに昆布使わへんの?」
「えー、そんな薄い色の醤油使った煮物なんて美味しくなさそう」
とか言いつつ少しずつ妥協点を見出してきたのだけど、
大晦日の晩に正月用の雑煮の仕込みをしているときに
作り方の決定的な違いに気がついてケンカになった。
「嫌やわぁ、切り餅なんてめっそうもない。
 ましてやお醤油色の雑煮なんて絶対あきまへんえぇ!」
「おい、それ味噌汁に餅入れただけだろ、
 そんなの正月じゃなくても食えるじゃねーか!」
そのままケンカは互いの実家のお節料理の違いにまで発展し、
「もういい! 黒豆のちょろぎを馬鹿にする奴の顔なんか見たくない、
 ここから出ていけ!」
「出てけとは何様どすか?! いも棒の美味しさを分からへん人のことなどもう知らん、
 言われなくても行くわぁ!」
と京都人の方が家出することになった。

当初はお互い頭が沸騰していて気がつかなかったけど、
あとは餅を茹でて入れるだけの状態まで作った白味噌雑煮の味見をした東京人、
実は普段食べている味噌汁よりも奥深い味わいで美味しいことに気がつき、
慌てて部屋を飛び出して京都人を探しに行く。
一方の京都人、あまりに慌てていたので上着を着るのを忘れ、
東京人が飛び出したのと入れ違いにこっそり部屋に戻ってきた。
自分が雑煮を仕込んでいた鍋とは違う鍋が台所のコンロに乗っているのを見つけ、
そこには東京人が仕込んだ澄まし雑煮の汁が入ってたので何気なく味見。
実は「あまりに醤油の色をつけたら食べにくいだろう」と思って
東京人が京都人に合わせて薄口醤油で仕上げてあることに気がついた。
やはり京都人も慌てて東京人を探しに部屋を出ようとしたところ、
玄関先で鉢合わせ。
「お前何やってるんだよ?」
「さぶいぼ立つほどひやこいさかいに上着取ってこよか思うて。
 あんさんこそ何してますの?」
「探しに行くのにむやみに歩き回るよりはと思ったから自転車の鍵を取りに…。
 というかさぁ、互いに作った雑煮を1杯ずつ食えばいいんじゃないか?」
「ああ、それがええ。ほなそうしましょ」
翌朝互いに作った雑煮を交換して食べたが
「うっぷ。さすがに餅4つは多い…」
「あーしんどい。他のごっつぉ入らんわぁ」
と苦しいお腹をさすりながら足を伸ばし、
こたつに入ったまま畳に寝転ぶ姿はどちらの地方も差がないのだった。

この2人は毎年正月の雑煮をそうやって2杯食べるといいと思うよ。

33825-639 酌み交わす:2012/12/20(木) 13:00:17 ID:8oJIvay6
萌え語りさせてください
1.忘年会で返杯につぐ返杯で、酔ってタメ口になって和気藹々と明るく酌み交わすリーマンが一番に浮かぶけど

2.バブルの頃のクリスマス
デートの予定もないしバカ騒ぎのパーティも苦手で不参加の男同士(両片思い)が食事でもと出かけるが、どの店も満席で入れない
どっちかの家に行くのもなんか気恥ずかしくて、街うろついてやっと見つけたのは純和風の小料理屋
店の雰囲気でビールではなく熱燗頼むけど、お銚子や杯の扱いに慣れてなくてぶつけたり入れすぎたりと、ぎこちなく酌み交わして数十年
一緒に暮らしてる二人が、こんな冬の夜にコタツに入って熱燗をごく自然に酌み交わしながら鍋つついて暮らしてる、なんてのもいい

3.それなりの地位のライバルが、お前がまさかこんな所にくるのかって路地裏の屋台で鉢合わせ
帰るのは自分が逃げるみたいで嫌で、気に入らないけど同席することに
やる気のない店主が二人の間に一升瓶置いて仮眠してしまう
「冷かよ!」と文句言いながら飲むんだけど瓶の手酌は注ぎにくくて、会話はないのに自然と酌しあってコップ酒を酌み交わすとか

冬、男同士、酒って萌えの宝庫だ!

33925-699 あいみての のちのこころに くらぶれば:2012/12/28(金) 14:07:22 ID:hHGhJdFs
規制にひっかかってダメでした。700さんじゃありません。

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百人一首漫画にのせられて、競技カルタをはじめてみた。
やってみたら面白くなってしまって、俺は才能もあったみたいで
トントン拍子に勝てるようになってしまった。
運動神経もいいし、耳もいいし、勘もいい。地元では敵なしだった。
あまりにもちょろかったから俺は天狗になっていたんだろう。先輩から軽く戒められた。
「お前は確かに強い。でも、もっと強い人はたくさんいるぞ」
そりゃあいるのだろうけれど、そうですねと流していた。

ある日、お前の競技スタイルと違うから参考になるだろうと、先輩がDVDを持ってきてくれた。
テレビ出演してる時点で相当うまい人なんだろうとは思っていた。
だが、予想よりも強かった。本当に強かった。
こんな札の取り方があるんだ、守り方があるんだと、驚いた。
しばらく声も出なくて、やっと出た一声は
「この人と対戦するにはどうしたらいいんですか?」だった。
「お前、名人戦に出るつもりなのか」と先輩に笑われた。
その頃の俺は、名人戦にはどうやったら出られるのかも知らなかった。

彼とはじめて対戦するのは、それほどかからなかった。
別に俺が名人戦に出られるようになったわけじゃなく、
彼が地元に招待されて記念試合を若手としてくれたからだ。
あっさりと俺が負けた。彼は礼をしてニッコリしながらさっさと席をたってしまった。
俺はこんなに弱かったんだと茫然自失だった。

それ以降の俺は人が変わったように練習の虫になってしまった。
地元では練習相手が見つからず、カルタの為に引っ越していた。
もう一度、彼と戦いたくて。
もう一度、彼に逢いたくて。

『「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」
恋しい人と逢瀬を遂げてみた後の恋しい思いに比べれば、昔の恋心などなかったようなものです―――』

女とやったら忘れられなくなりましたなんて、エロ思考な歌だと思っていたけれど、
それぐらい夢中になれる人に会ってしまったんだな。

数年たち、俺の目の前には彼がいる。
「よくここまでこれたね」
「頑張ったんで」
「思ったより遅かった」
今までの、冗談ではない本当に血のにじむような努力が頭の中を駆け巡り、
カチンときた俺はふてくされながら
「はあ?そうですか? 俺は思ったより早かったですけど」というと
「僕が年をとってから来れられても、卑怯だよ」と彼はさらりと答える。
そのくらいのハンデをくれたっていいじゃねえかと俺は心の中で毒づいた。
「じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
礼をして、俺は耳を澄ませた。
あとは、札を読む音と、畳のなる音だけが響いた。

34025-649 坊ちゃん×幼馴染の使用人:2013/01/02(水) 18:52:52 ID:kMwHVWgY
お題を見た時、坊ちゃん×坊ちゃんの幼馴染's使用人と勘違いしたw
萌語りをします。

腐れ縁の使用人がタイプ過ぎて、毎日押しかけたりセクハラしたり、引き抜きさせてくれと頼み込んだりする攻めに、面白がっている主人(幼馴染)の手前全力拒否できないドン引きな快活な受け。
攻めが大規模かつ空回りのプレゼントを用意したり、真面目になる攻めに時々絆されるけど身分の違いに迷う受けだったり、腐れ縁だからこそ攻めに辛い忠言をする幼馴染だったり。
スピンオフには、攻めの使用人×幼馴染なんて如何だろうか。


幼馴染の使用人に坊ちゃんと呼ばれる一般人の内気攻め。主人の昔からのご友人としか認識しない笑顔仮面の受け。
金持ちの使用人としてのしがらみや建前ばかりの受けの世界が分らなくて、理解しようと頑張りつつも本音を聞き出したいと受けに訴える攻め。攻めの真っ直ぐさに遠ざけたくなったり、攻めに近しい主人に嫉妬する自分に驚愕したりする受け。
幼馴染は昔から支えてくれた攻めと受けが幸せになることを何よりも望んで色々裏で手を回せばいい。


始めは文章を書くつもりだったが、途中で挫折しました。はい。

34125-729 寝正月:2013/01/03(木) 16:52:00 ID:jwbArMPs
正月早々病で床についているのは縁起が悪いので『寝正月』と言い換えるとは、先人たちは洒落ている。
だが、言い方を変えも病気は病気だ。
通いの者は三が日は休みを取って家には一人きり、さてとうしたものか。
食欲はないので、水だけで持たないだろうか?
ラチもないことを考えていると、縁側のガラス戸の開閉音と小走りの足音が聞こえてくる。
そして私のいる寝間の障子がからり開かれた。
「ああ、やはり寝込んでる」
「入ってくるな。風邪がうつるぞ!」
予想通りの相手に語尾を強めて言うが、彼は聞いていないかのように全く気にせず枕元に腰を下ろした。
「茶会に来ていなかったから、もしやと思ってきてみたら案の定だ」
「・・・・・・」
少しでも接触を避けるためと、こんな情けない姿を見られたくないのとで布団を目元まで引き上げるが、彼は腰を下ろすと手にしていた折り詰めを枕元に置く。
「料理を詰めてもらった。食べるか?」
今はまだ味の濃いものは欲しくなく、首を横に振る。
「なら蜜柑はどうだ?」
そういって袂から取り出しされた小ぶりの蜜柑を、つい凝視してしまう。
「剥いてやろうか?」
「自分で出来るから、とりあえず出て行ってくれ」
布団越しに小声で頼む私に、彼はあきれたようにため息をつき、
「せっかく来てやったのに、冷たい奴だな〜」
「うつしたくないから、出て行けと言ってるんだ!」
つい大声を上げてしまった私に、彼は怒るどころか笑顔を向けた。
「俺は丈夫だから平気だ。だから、お前が良くなるまでついていてやる」
「・・・・・・」
まったく人の話を聞かない彼に腹が立つよりも、呆れるよりも、一人でなくなることへの安堵を感じた。
「とりあえず粥でも作ってやろう」
「お前が!?」
「米と水があればなんとかなるだろ?」
それを食べるのは私か?と心配になったが、勝手場に向かう彼の後ろ姿を見送りまあいいかと思えてきた。
彼がいるなら、寝正月も捨てたものではないだろう。

34225-739 強くてニューゲーム(1/2):2013/01/04(金) 01:22:21 ID:8zR/OyEI
やり直しているんです。
彼と何の障害も無く一緒に居られるために。

僕は平民の出で、彼は良家の次男坊です。
身分差など気にせず、彼は対等に接してくれました。僕を見下したりしなかった。
僕の描いた絵を彼が褒めてくれて、屋敷に招いてくれたのが交流のきっかけです。
僕らは最初は良い友人になり、僕は彼の元へよく通うようになりました。
そしてじきに友情を越えて愛し合うようになったのです。
そのことはバレませんでしたが、彼の両親は、友人としての僕すら認めてくれませんでした。
無学な貧乏絵描きなど、友人に相応しくないと交友を阻まれたのです。
出自を考えれば当然のことだったのかもしれません。
しかし僕は諦められなかった。彼を説得し、僕らは逃げた。
ところが優しい彼は、捨ててきてしまった家族のことをずっと気にしていて、何度も連絡を取ろうとした。
その度に僕は説得していたけれど、そのうち彼は気に病むあまり、本物の病に倒れてしまったのです。
来世で会おうという僕への言葉と、家族の謝罪の言葉を口にして、彼は逃亡先で息を引き取りました。
僕は泣きました。同時に、どうしようもなく悔しかった。
来世だなんて、そんなもの。会えるかどうかわからないじゃないですか。
僕は嫌だった。僕は今生で彼と結ばれたかった。堂々と彼の隣に居たかった。
だから、やり直した。

彼の両親に見下されないように、僕は必死で勉強しました。
絵で稼いだ金はすべて本へとつぎ込みました。彼に釣り合う教養を手にしたかった。
ところがやはり反対されたのです。今度は家柄が釣り合わぬと言われました。
しかも、彼が席を外しているときに、ひどく高圧的に。
息子は将来この家を背負う人間なのだ、君のような者と付き合っていると堕落すると。
なんて馬鹿馬鹿しい人達なんだろうと思いました。あんな人達と彼とが血が繋がっているなんて。
あのときの悔しさが腹の底で蘇りました。僕は我慢できなかった。
その頃はすでに、僕と彼の関係は深くなっていました。
彼が僕の部屋で眠っているときを見計らって僕は彼の屋敷へ向かい、火を放ちました。
これで邪魔者は居なくなると僕は安堵していました。
ところが、計算外のことが起こった。
夜が明けぬ内に彼が目を覚まし、僕が居ないのを不審に思い、家の方へ戻ってきてしまったのです。
燃え盛る家を見て半狂乱になった彼は、僕の制止も聞かず家に飛び込んだ。
そして炎に包まれて、彼は焼け死んだ。
僕は心から後悔した。それこそ死ぬほどに。
だから、やり直した。

今度は彼に出会うずっとずっと前から、僕は準備しました。
慣れない媚を売って愛想笑いを浮かべて金持ち連中に取り入って、とある家の養子に収まりました。
屈辱的なこともありました。我慢も沢山しました。好きな絵を描く時間もなかった。
でも彼と共に居られない辛さに比べれば、なんということもありませんでした。
これで平民だと馬鹿にされることはなくなったのだから。
そして進学させて貰い、僕は彼に再び会うことができた。
それはこれまでの出会いとは違ったけれど、彼は彼のままでした。僕の愛する彼でした。
すぐに僕と彼は良い友人になった。今度は彼の両親も何も言いません。
僕は嬉しかった。してきた事がようやく報われたのだと。
ところが、また計算外のことが起こった。いや、起こっていた。
彼に、許婚が居たのです。そんなもの僕は知らなかった。
『過去』にそんな女性などいなかった。
しかし『今』はそれが現実でした。
僕が彼に釣り合うよう必死に努力していた陰で、彼は僕ではないひとを好きになっていたのです。
信じられなかった。
何も変わらない筈なのに、不都合な現実を変えたきただけの筈なのに、変わってしまっていた。
絶望する僕には気付かないようで、彼は僕に笑いかけました。
「うちに来て絵を描いてくれないか」と。よりにもよって、彼と許婚の二人の絵を。
そのときどんな顔をしてどんな返事をしたのかはよく覚えていません。
ただ、家を訪ねる約束をして、一旦帰宅して、僕は絵筆の代わりに、ナイフを握りました。

34325-739 強くてニューゲーム(2/2):2013/01/04(金) 01:24:47 ID:8zR/OyEI

僕はやり直しているんです。
彼を愛しています。彼も僕を愛してくれています。
彼の隣に居るためにやり直しているのに、どうしてこんな風になってしまうのだろう。
今度こそ、今度こそ、上手くやらないと。
あの、僕は死刑になるんですよね?二人も殺してしまったのだから、そうなりますよね?
捕まるなんて、これも計算外だった。
時間が勿体無い。早く死刑にしてください。僕は、早くやり直さなければならないのです。



「馬鹿だな、君は」
私は目の前の男に言葉を投げたが、彼の瞳は虚ろでこちらの言葉は届いていないようだ。
言いたいことをただ一方的に喋るだけ喋って、あとは薄く笑みを浮かべているだけ。
彼の言を信じるのなら、またやり直すことができると確信しているからだろう。
「君は一刻も早く死にたいようだが、今の君は神経衰弱だと診断されている。
 よって死刑にはならない。『今回の』君は、残りの一生を病院の中で暮らしていくことになる」
勿論、死は平等だからこの男にもいつか訪れるだろう。しかし、それは彼の望む時期ではない。
彼にとって辛い事実を突き付けているも同然の筈だが、やはり彼からの反応は無い。
しかし私は構わず彼に語りかける。
「まったく、君の執念には呆れを通り越して感心するよ。それは君の美点でもあると思うが、同時に欠点でもある。
 先程も言ったが、君は馬鹿だ。美点を美点として制御できれば、いくらでも幸せになれるだろうに」
一つのことに目標を定めると、周りが見えなくなる性質なのだろう。
しかし見えなくなるにしても限度がある。
「今にして思えば、駆け落ち程度で驚いていたのは浅はかだったよ」
私は少し前屈みになって、男の瞳を覗き込む。
「邪魔な家族を殺そうとしたところまでは、理解したくもないが理解しよう。
 しかし、まさか弟本人にまで手にかけるとは思わなかった。婚約者諸共とは言え、ね」
「おとうと……?」
男はぼんやりとそう呟き、不思議そうに首を傾げた。
もしや会話が成り立つかと期待して続く反応を待ったが、またすぐに彼の瞳は虚空へ戻ってしまう。
私はため息をつき、背もたれに凭れ掛かった。
「私の話を簡潔にしてあげよう。
 一度目、私は君達を追って愚かにもこの身体で屋敷の外に一人出て事故に遭った。
 二度目、君の放った火にまかれて逃げられないまま焼け死んだ。
 三度目、弟に君を屋敷に招くように頼んだ。『一応の用心で』、警備員と医者を手配した。
 それからこれは私の希望が混じった推測だ。
 一度目、弟は君の目を盗んで一度だけ実家へと連絡を取り、私の死の経緯を知った。
 二度目、私の身を案じ、弟は自分の危険も省みず私を助けに向かおうとした」
目を細めて彼を見据える。
恐らく、弟を失ったと同時にこの男は死を選んだ筈だ。
ならばもし、彼が自殺を選ばず――選ぶことができず、このまま無様に生き長らえたら。
考えているとふと背後でノックの音がして、ドアが開く気配がした。
「お時間です」
聞こえてきた事務的な声に、私は振り向かずに頷く。
「ああ、結構だ。行こう」
静かな足音が背後まで迫り、失礼しますとの声と共に、私の車椅子はゆっくりと方向転換する。
私は最後にもう一度男の方を見やり声を投げる。
「また来るよ。次はカンバスと絵の具を持って。実は、私は君の描く絵画のファンなんだ」
反応は無い。
私は笑みを浮かべた。視界の隅で迎えの男が僅かに眉を顰めたが、何も言わなかった。

真っ白な部屋を退室し、無機質な廊下を進みながら私は問いかける。
「弟達の容態はどうかな?」
「はい。依然、意識は戻られておりませんが、峠は越えたと先ほど連絡が」
「それは良かった。落ち着いたら花を持って見舞いに行こう。
 しかしまずは、先方への根回しが優先だな。あとは父さんと母さんにも適当な説明が必要か」
あまりご無理をなさりませんように、という言葉が降ってくる。私は鷹揚に頷いてみせた。
わかっている。
わかっているが、逸る気持ちを抑えるのは難しいのだ。
今度こそ、私は何をも失うわけにはいかないのだから。

34425-749 猫っぽい人×犬っぽい人:2013/01/06(日) 00:41:36 ID:Pqo1mpqw
職場の飲み会、その二次会の帰り、店横の路地での出来事。
好きです、と彼は呟くように言った。
真っ赤にした顔を俯かせて、俺のコートの袖を掴まえている。
「初めて会ったときから、初対面ってカンジがしなくて……きっと一目惚れなんです」
そのままの姿勢で、つっかえつっかえ喋っている。
「自分でも、おかしいって思います。でも俺、気がついたら、先輩のことばかり見てて」
「お前、酔ってるな」
「酔ってます。酔ってなきゃ、こんな告白できないです」
やや乱暴な口調と共に、彼は意を決したように顔をあげる。
まだ少し幼さが残る顔は、強気な声とは裏腹に今にも泣きそうだった。
感情が顔に出やすいんだなと考えている俺に、彼は繰り返した。
「好きです。俺、先輩が好きです」
「………」
酔っ払った冗談だろうとか、反応を見て後でからかうのだろうとか、そんな風に考えることもできたが
そのときの俺はただ「本気なんだろうなあ」とぼんやり思っていた。
彼が配属されてきてからからまだ一ヶ月しか経っていない。そこまで多く言葉を交わした覚えも無い。
それでもなんとなく、彼は本気なのだと確信していた。なんとなく確信、というのも変だが。
とにかく、ならばこちらも真面目に返さなければならない、そう思った。
「そっか。ありがとう」
言って、空いていた左手で彼の頭をぽんぽんと叩く。
それに驚いたのか軽く目を瞠っている相手に、続けた。
「ごめんな。俺、明日は早出だからもう帰らないとならない」
ごめん、と俺は頭を下げた。
途端、ずっと掴まれていた右腕が解放される。
次の瞬間には、彼は俺とは比べ物にならないくらい深く頭を下げていて、そして
「すいませんでした!」
と叫んだかと思うと、くるりと回れ右をして、恐ろしい速度で走り去っていく。
否、走り去っていくと俺の脳が認識した頃には、走り去っていた。
俺はぽかんとしていた。
なんだ今の一連の動作は。瞬間芸か。本当に瞬間すぎてついていけなかった。
「…………」
それからしばらくの間、その場に突っ立ったまま考えた。
電話して呼び戻そうかと考えたが、そういえば彼の携帯番号を知らない。
「……。ま、いいか」
どうせ明日また会社で会うのだから、そのとき聞けばいい。そう判断して帰宅することにした。

今思えば、俺も多分に酔っていたのだ。

その三日後に判明したこと。あのとき彼は、俺にお断りされたと思ったらしい。
「だって、謝られたから、俺はてっきり…」
「ありがとうって言ったろ?」
「もう帰るって言ったじゃないですか」
「早出」
「確かにそう聞きましたけど!」
フラれたと勘違いした彼は、あの後クソ寒い中、公園で一晩泣き明かし
その翌日から風邪で会社を休んだ。正直、馬鹿だと思う。
そして俺も馬鹿だ。彼に連絡を取ったのはその更に二日後だった。
「嫌いな奴の頭は撫でない」
「宥められたんだと思いました。先輩に気を遣わせて、俺、申し訳なくて。居たたまれなくなって」
気持ち悪がられるの覚悟してましたから、と言う。
この三日間、彼がどんな気持ちで寝込んでいたのか想像して、俺は一つ息を吐いた。
「ごめん。これからはもう少しきちんと喋るよう心がける」
「っ、俺も、もっとちゃんと、話を聞くようにします!本当にすいませんでした!」
これからよろしくお願いしますっ、とまた勢い良く頭を下げている。
面白いやつだなあと今更のように思う。
「うん。よろしく」
再び、彼の頭をぽんぽんと叩いた。

34525-829 イカ×タコ:2013/01/17(木) 23:55:45 ID:1Uy9IfeI
神様は不公平だ。
イカもタコも海の悪魔と呼ばれ同じように恐れられているのに、実は奴と僕には差がある。
今まさに、それを思い知らされていた。
イカの手に僕の五本の手と大事な部分は絡み付かれ抵抗出来なくされているのに、イカにはまだ二本も自由な手があってそれが僕の体をくまなく這い回る。
「離せこのすっとこどっこい!」と悪態をついても、いずれこの唯一動かせる口の中にもイカの手が潜り込んで掻き回されるんだ。
悔しい。
手の本数が違うだけで抵抗出来ないなんて……。
 
以前、腹が立ってイカの顔に墨を吐いてやった。
でも僕の墨は辺り一面に広がるけど、その分拡散するのも早くて何の役にも立たない。
仕返しとばかりにイカが吐いた墨は粘度があって、目の前を塞がれたように何も見えなくなってしまった。
そのせいで、イカの手の動きを何時もより強く感じてしまった。
歯がゆい。
墨の質だけで抗えなくなるなんて……。

ああ、イカの手の動きが早くなって僕はまた何も考えられなくなっていく。
何か囁いているイカの言葉も、もう聞こえない……。

34625-829 イカ×タコ:2013/01/20(日) 09:42:41 ID:Aa3NuFjI
「よう無事だったか、タコ」
「その呼び名、やめてくんないっすか。手賀木さん」

悪りい悪りいと悪びれなく笑い、手賀木さんは俺の頭、正確にはカツラをぐしゃぐしゃにする。それを無視しながら、俺は今回の報酬のアタッシュケースを無造作に放った。

「にしても、タコは本当化けるな。この前の筋肉バカの姿と今のインテリが同じ奴とは誰も気づかねえよ」

アンタ以外はな、そう脳内で呟く。いわゆる"普通の世界"で、自分の特技を自己満足に披露していたのは、もう随分前だ。

『なあ兄ちゃん、タコって知ってっか?他の生物に化けては、周りに溶け込んで、体の形まで変えちまうんだ』

安らかな深海に留まっていた。

『兄ちゃん。普通の世界つうのは、つまらねえと思わねえか?』

急流や危険ばかりある海中を泳ぐ気なんてなかったのに。

「つか、手賀木さんは化けねえのかよ」
「義手まで誤魔化すのは面倒だ。適材適所つうのが世の中にはあんだよ」

まあでも、真田の為には、化けてやらんこともねえかもな。

右頬を冷たい右手で左頬を温かい左手で撫でられる。
その仕草に心まで搦め奪られたのは、随分前だ。
強い目から逃れられなくなったのは、随分前だ。

「成功の祝いに美味いもんでも食いに行くか、タコ」
「、皮くらい剥がさせて下さいよ」

乱れたカツラを外しネクタイを緩めながら、札束を持った手賀木さんの後を追いかけた。

34725-901 閉鎖的な二人:2013/01/27(日) 09:28:09 ID:AsLSjejA
あの二人は自己完結してる――それが二人の人間関係をよく知る僕の印象だ。
良くも悪くも二人だけの世界だ。すごい剣幕で喧嘩をしたかと思えば、誰も理由を知らないうちに仲直りしていたりする。
僕はそのことについて苦言をこぼすけど、「それで今まで問題がなかった」なんて気にもとめない表情で言われると頭が痛くなる。
この二人のことをクラスの大半は容認している。でも、それでも不満は貯まるんだ。
二人に言いにくいからって僕が愚痴に近い文句を言われていることを知っていて、こういったことを言うんだから嫌になる。
確かにこの二人は美形だ。顔がそっくりの双子だ。だからなんとなくふたりだけの世界を作っていても仕方がないという雰囲気ができている。
生徒はもちろん先生までだって「双子だもん心の奥底では通じ合ってるもんねー」なんていうくらいだ。
顔の似ている双子は似てない双子や普通の姉妹、兄弟より特別に見られやすい。
バカバカしい。顔が似てても年齢が一緒の双子でも他人が通じ合えるか。神秘的がどうのこうの漫画の読みすぎだ。
俺だって双子だけど相手のことを上の兄ちゃん位しか理解していない。顔も似ていないから二人のように特別視されてもいない。
誤解がないように言わせてもらうけど、僕は自分が特別扱いされたい訳じゃない。
ただクラスの、なんとなく双子だからみたいな風潮をやめてほしいだけだ。

放課後達見が聞いてきた時だってそうだ。
「なー、シゲー、達也ー。今日どこ行く?」
「あそこは?」
あそこってどこだよ。
「あの辺最近治安悪いらしいからダメ」
なんでわかるんだ。テレパシーか。顔が似ている双子には似ていない双子と違ってそういう機能でもあんのか。
「じゃああの辺」
「おっいいな! じゃあそうしよ」
「結局どこに決まったんだ?」
全く理解できていない僕が二人に聞くと声を揃えて「え?」なんて聞き返される。
「今の話の流れからわかるでしょ」
「あそことかあの辺でわかるか」
「このあたりで治安が悪いと言ったら、あの店だろ? トイレが発展場になってるって噂の」
「んでもって金欠の俺らが、ある程度の時間遊ぶのにちょうどいい場所といえばカラオケだろ?」
「僕は君らみたいにツーカーじゃないから」
そんな風に呆れても二人は理解できないらしく首をかしげていた。

34825-969 お隣さん:2013/02/03(日) 23:07:33 ID:mI4n82us
「あ」
「……はようございます」

玄関のドアを開けると、ちょうど隣に住む男が部屋の鍵を閉めているところだった。
俺と目が合った瞬間、彼がぺこりと頭を下げた。
寝起きなのか、最初の方があくび交じりだった。

「おはようございます」

挨拶をされたので俺も頭を下げる。
今日の彼はスーツだ。
彼と鉢合わせするときは大体私服だったが、ここ数日スーツ姿の彼と会うことが多い。
……もしかすると、就活か?なんて推測してみる。
大体仕事に出かける時間に彼と出くわすので顔は知っているけれど
俺は彼がどんな人間なのか、仕事は、趣味は、その他もろもろ何も知らない。

思えば彼が引っ越してきて1年あまり。
今の若者にしては珍しく、タオルを持って引っ越しのあいさつに来た彼。

「隣に越してきた田賀っす。よろしくお願いします」

と、どこか間延びした口調に、どうも、と礼を言うくらいだった。
その後も特に交流はなく、顔を合わせたら挨拶を交わすくらいだったのだが。

「スーツ姿、決まってますね」

その日は彼に、そんな一言を口にしてみた。
特にたくらみも、考えもない言葉だった。つまり気まぐれだ。

「……あ、ありがと」

だが、彼の方は普段挨拶しか交わさない俺の言葉によほど驚いたらしい。
目を丸くして俺を見て、たどたどしくそう答えた。
ああ、まずかっただろうか。突然こんなこと言ってしまって。
気まずさにその場をすぐに立ち去ろうとしたら、彼が俺に向かって声をかけた。

「すげ、うれしいっす」

振り返ってみた彼の顔は、いつもの彼よりくしゃりと笑っていた。

34926-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 1/2:2013/02/10(日) 18:27:56 ID:GHP.xgIU
残念 間に合わなかったので供養します


「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?
 心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」
パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。
俺にはよくわかる。
江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。
会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。
若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。
「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」
おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。
俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。
だからなのか。
……美味いと思えない。
食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃなく、
何と言ってダメ出しをしようかずっと考えてたからだ。
江島はそれも察している。だからこそ、お茶を濁そうとしている。
他のチームメンバーを味方につけて、多分俺が否定的なことを言おうものなら
『お前はすぐそうだ、なんでもダメだ、無理だとバックギアに入れる』
と、さっき言ったような印象操作で自分の意見を通そうとするだろう。
お気楽企画だと思って手を抜きやがって。
俺は黙って座ったままでいる。

35026-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 2/2:2013/02/10(日) 18:29:52 ID:GHP.xgIU
「……でさ、タメちゃん。どうしたらいいと思う?」
江島がこんな顔になるのは、ふたりきりの時に限る。
こいつのこの悲しい性分を知ってるのは俺だけ。
「キムチ、やめよう」
俺は考えていたことをようやくぼそぼそと口にする。
俺の小さな声を聞き取るために江島が耳を寄せてくるが、その距離も許す。
呼吸器の弱い俺は、人前で大きな声で意見を言うのは苦手だ。その小さな声を江島が拾ってくれる。
「キムチはいい加減ありふれてる。このままじゃただの普通の激辛ラーメンだ、だろう?」
「……それでいいかと思ったんだがな」
「期間限定だからこそ、話題性は必須」
チームメンバーは俺の事を悲観論者、暗い面白くない奴だと思ってるだろう。
でも俺は自分を知っている。これでも俺はなかなかのアイデアマンだと思うのだ。
ただ、人に好かれない自分も知ってる。だから、江島を待つのだ。
江島こそ、真の悲観論者だ。太陽のように振る舞った後、必ず怖くなって俺を頼る。
こうしてギブアンドテイクの関係が成り立った。
江島に利用されてるとは思わない。俺が利用しているのだ。
「あのな、江島。みんなコッテコテには飽きてると思うんだよな。俺なら、俺が食べたいのはさ……」
俺は、俺の案を江島に授けてやった。
聞いた江島は、
「それ、お前の好みじゃん! でも美味そうだよね、なんかいけそう?」
やっと、肩の荷を下ろしたように笑った。

「呑んだ後にあっさりお茶漬け、の代わりに『のりわさびラーメン』」
シリーズには和風スープ黒ごしょう、梅かつお。
俺達の企画は、若い女性や年配層に受けて小ヒットとなった。
「やっぱりなー、当たると思ったんだよ」
江島は、今日も大きな声でみんなの真ん中だ。似合ってる。
俺は、自分好みの商品を世に送り出せて満足。
みんなに教える必要はない。俺達はベストコンビなのだ。

35126-49 いい声の人:2013/02/15(金) 00:34:22 ID:.0gLvtCQ
ぎりぎり間に合わんかった…


「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。
曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。
す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。
滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。
ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。
旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。
最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。
上ずった低音の、嬉しそうな声で。
その声が隣の平凡な僕に向くことはない。
そう、思っていた。

「好きだ」
すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。
声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。
耳に湿った温もり。息の音。
背中には僕より少し大きな手。
「な、んて・・・」
ひっくり返りそうな、無様な僕の声。
「好き、って何が、を・・・?」
面食らった僕を抱きしめたまま、彼は確かに笑った。
耳に心地の良い音が滑らかに滑り込んでくる。
「好きだよ。君を・・・愛してる」

35226-89 やっと愛するお前のところへ行ける:2013/02/20(水) 10:18:17 ID:0LDanBCk
港を一望できる小高い丘の頂に造成された公営墓地
その東側の片隅にアイツの墓はあった
少しだけ伸び始めた白髪混じりの坊主頭に初冬の風は冷たい
自分は24歳だけど今の自分を見て誰もが40代だと思うだろう
あれから7年ですっかり老け込んでしまった
ずっとこの日を待っていた
ただいざこの日を迎えるとそれが何なのだという虚しさが猛烈に込み上げて来る

アイツとはずーっと幼馴染みでダチだった
高1の夏に部活の合宿で行った長野の山奥で関係は劇的に進んだ
それからは猿みたいにやりまくった
男子高校生なんて性欲の塊みたいなもんだからな
あの日はオレもアイツも17歳の高2の秋の夜だった
一緒に帰る途中に寄ったコンビニで実に他愛ないことで口げんかした
コンビニを出て別々に帰宅の途に就いた
アイツはオレと別れてから約10分後に何者かに刺されて死んだ
直前にアイツとけんかしたことだけを根拠に警察はオレを逮捕した
しかしひどい話だ
起訴したときにはオレが犯人ではないことは警察も検察も分かっていたそうだ
防犯カメラを見直したらアイツが殺された現場近くに不審な男が映っていた
顔認証でソイツは強盗致傷と強制わいせつ前科のある男だと分かった
警察も検察も真っ青になったらしいがオレは既に逮捕されていた
まあ警察も検察も何よりもメンツが大切だからな
オレは全力で否認したけど裁判では実に簡単に有罪
なんでオレが今は娑婆に居るのかって?
真犯人が調子に乗って強盗殺人なんかやって逮捕されたからよ
取調べで余罪を洗いざらい喋ってオレの無実が証明されたのさ

両親は事件を苦に夫婦して自殺しちゃったよ
オレは一人っ子だからもう天涯孤独なんだな
もう今さらどうでもいいよ
これから生きてて何になるよ?
アイツの墓の隣がおあつらえ向きに無縁仏専用の納骨堂なんだ
そこに入ればオレはずっとアイツの隣に居られる訳だ
ははははは
もう何もかも無駄で可笑しくてバカでどうしようもねーよ
こんな世の中ととっととおさらばだ
あの世でアイツと一緒に人生の続きをやり直すんだ
アレはアイツの墓の前で静かに硫黄の臭いを嗅いで目をつむった

35326-109 紙の花:2013/02/24(日) 13:10:54 ID:02/eITC.
 下校間際になって、ダチにこれからどうすると聞いてみた。
「オレ塾」
「生活指導の呼び出し」
「デート」
 珍しく全員が予定を口にしたので、オレは驚きと落胆で大声を出してしまう。
「誰も暇なやついねぇの?」
「みたいだな」
「で、どうした?」
「誕生日だから、何かおごってもらおうと思ったのに」
「ばか!」
「そんなのはちゃんと先に言っとけ!」
「今日は無理だから今度な」
「ちぇっ」
 確かに事前アピールしてなかったから仕方ないとすねながらも諦めるオレを残して、ダチはそれぞれに行ってしまった。
 仕方ない、家に帰ったら何かあるかもしれないと帰りかけるとアイツと出くわす。
「一人なんて珍しいな」
「皆用があるんだって。オレの誕生日だっていうのに」
「誕生日?今日が?」
「ああ」
「…………」
 何か複雑な表情をしたアイツはカバンからノートを取り出すと一枚破り、何かしはじめた。
 説明も何もなくただ見ていると、正方形に切り取ったノートを折って畳んで開いてあっと言う間に花の形にした。
「鶴は見舞いの、兜は子供の日のイメージだから。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
 手際の良さと思いがけないプレゼントに驚きながら、折り紙の花を受け取った。
「聞いたからにはお祝いしなきゃな」
「オマエって器用で律儀なんだ」
 裏も表も白だけどちゃんと花に見える元ノートを眺めて、つい顔がほころんでしまうほど喜んでいる自分に気付きあわてて表情を引き締めた。
「お前の誕生日っていつ?」
「夏だけど」
「ふーん。好きな物なに」
「何だよ急に」
 オレ、コイツの事もっともっと知りたくなった。

354幼なじみ 1/10:2013/03/05(火) 19:53:45 ID:dSuCcf7s
本スレ(Part26) 180〜の投稿です。(投稿分も一応再掲させてください)



「おい、こんなもん付いてるぞ」
屋上の給水塔の陰で居眠りぶっこいていたら、声をかけられた。
手にもってるのは、「バーカバーカ」と書かれたノートのきれっぱし。
あー、寝てる間に頭に貼られてたのか。またか。いまどき、小学生でも
しないようなイタズラの犯人はわかってる。1ヶ月前に転校してきたスガワラだ。
なぜか俺を目の敵にして、こんなガキっぽいイタズラを延々と続けてくれている。
上靴にアマガエルが入ってたり、ロッカーの体操服が全部裏返しだったり、
移動教室に行ったら俺のイスだけなかったり。

355幼なじみ 2/10:2013/03/05(火) 19:54:52 ID:dSuCcf7s
とってくれた紙をひらひらさせながら、サトルもため息をついた。
「ヒロム、お前、ほんとにアイツとなんもないの?」
サトルは中坊の頃から同じクラスになり続けている腐れ縁だ。進級するたびに
クラス委員になる典型的なデキるヤツ。そのサトルにも、アイツの行動はわけが
わからないらしい。ない。ほんとにないよ。なんでだろうな。
ノートから雑に破り取った紙に書かれてる単純すぎる罵言を見ながら、俺も
ため息。なんで転校生にここまで絡まれるのだか。

356幼なじみ 3/10:2013/03/05(火) 19:55:47 ID:dSuCcf7s
転校してきた初日に隣の席になったもんだから「よろしく」と挨拶をしたとき、
スガワラは妙な顔をして口の中でもごもごとなにか言った。
「なに?聞こえなかった」と聞き直したら、憮然とした顔をしてそっぽを向いた。
スガワラとの交流といえば、それだけだ。
聞きなおしたのが悪かったのか。挨拶もされたくなかったのか。わからん。
わからんが、仕掛けてこられるのは実害といえるほどの害があるようなことでもないので、
最初はとまどったものの、最近はもう基本的にスルーすることにしている。

357幼なじみ 4/10:2013/03/05(火) 19:56:39 ID:dSuCcf7s
「そのうち、もっと古典的なイタズラもされそうだな。教室のドアをあけたら黒板消し落下、とか」
それは教師に対するイタズラの定番だろ。クラスメイト用じゃねーだろー。
「古典的かつ落下といえば、タライの落下もはずせない」
てめ、他人事だと思って気楽に言ってやがるな、このやろう。
「悪い悪い、メガネが挟まって痛い、はなせ」
ヘッドロックかけてやったら、笑いながらほどこうともがくサトル。いつものじゃれあい、
いつもの軽口のたたきあい。
一応、俺もメンタルは人並みにあるので、意味もなく目の敵にされてるっぽい雰囲気
なのは精神的に少しコタえてはいる。こうやってサトルとじゃれあうことが少し心地よい。

358幼なじみ 5/10:2013/03/05(火) 19:57:26 ID:dSuCcf7s
そんな感傷的なことをちらりと考えたとき、突然頭上からどばーっと水が降ってきた。
俺もサトルもずぶ濡れで、一瞬、なにが起きたのかわからなかった。雨?いや、そんな馬鹿な。
ゲリラ豪雨っても局地的すぎんだろ、おい。
あっけにとられて見上げた給水塔の上に、ちらっと小さい人影が見えた。
「スガワラッ!」
濡れたメガネをはずして水滴を振り払っているサトルを見て、さすがに俺の怒りも沸騰した。
俺だけならまだしも、サトルまで巻き込みやがって。それに、これはさすがにやりすぎだろう!

359幼なじみ 6/10:2013/03/05(火) 19:58:25 ID:dSuCcf7s
給水塔のハシゴをすばやくよじ登り、反対側から飛び降りようとしているスガワラをとっつかまえて
組み伏せる。小柄なスガワラを拘束するのは簡単だったが、じたばたと暴れるのをやめようとしない。
おとなしくしろよ!なんなんだよ一体!
「はなせよっ!ヒロムのばかやろうっ!」
思いがけずに呼び捨てにされ、悔しそうに見上げてくる顔が、ふいに古い記憶とオーバーラップした。
あれっ…お前、もしかして、シュンちゃん?
「なにいってんだよ、バカヒロム!今更なんなんだよ!」

360幼なじみ 7/10:2013/03/05(火) 19:59:31 ID:dSuCcf7s
負けん気一杯で真っ赤になっている小さい顔は、幼なじみのシュンちゃん、シュンヤの顔だった。
思い出せないくらいに小さい頃からの幼なじみ。保育園でも幼稚園でも小学校でも、負けず嫌いで
すぐに喧嘩腰になって、でもチビだからすぐ泣かされて、泣かされてもしつこくくらいつくあのシュンヤ?
うわ、まじ?なつかしーな、おい。
「俺のことすっかり忘れてたくせに!お前なんか大っ嫌いだ!俺は、お前のこと忘れたことなんてなかったのに!」
あー、そういえば、転校していくときに手紙書くとか電話するとか言ったっけか。いや、でも、
それって何年前よ。ガキの頃のそういう約束って、お約束で忘れたりなし崩しになるもんだろう。
っていうか、お前からも手紙とか来たことなかったような気がするけど。

361幼なじみ 8/10:2013/03/05(火) 20:00:16 ID:dSuCcf7s
「俺は出したんだ!一回だけ!返事がこなかったからずっとその後出せなかったんだ!」
あー、えーと、そういうことがあったようななかったような。だってほら、ガキの頃って、手紙とか書くような
時間ねーじゃん、遊ぶの忙しいし。
「だから、いい加減に離せよっ!俺が悪いんじゃないんだから!」
反応に困りきっていたら、背後からサトルの声。
「ヒロム、離してやれよ。お前が悪いみたいだぞ?」
え?お前までそういうこと言うわけ?
「僕が一番、ヒロムとの腐れ縁が長いと思っていたけどな」

362幼なじみ 9/10:2013/03/05(火) 20:00:58 ID:dSuCcf7s
笑みを含んだサトルの声に反応したのは、俺よりシュンヤの方だった。
「そうだよ!俺がヒロムの一番だったんだからな!お前も嫌いだ!」
あー、そういえば、シュンちゃんは俺が他の子と仲良くしてると、よく色々とイジワルをして相手の子を
泣かせて怒られていたっけな。あー、そういうことですか。はぁ。
「まあ、ヒロムはそこで間抜け面さらしてないで。ほら、スガワラも立って」
びしょぬれのままさわやかスマイルを浮かべられるサトルに俺は心底感じいったが、シュンヤは
そんな気にはなれないようだった。
制服のホコリを払ってくれるサトルの手を振り払って、今度こそ給水塔から飛び降り、振り返りざま
「ベーーーーーー、だ!」
そのまま、駆けてってしまった。おいおい…それはどう考えても、高校生のやることじゃないと思うの
だがなぁ…。

363幼なじみ 10/10:2013/03/05(火) 20:01:37 ID:dSuCcf7s
つか、サトル、悪いな。どうやら俺のせいで巻き込んでしまったようだ。お前にまでイタズラが
波及しなきゃいいんだけどな。
俺が少し恐縮してみせると、サトルは意外なことにニヤリと笑った。
「まあ、これで理由もわかったし。僕としても受けて立つにやぶさかではないからいいよ」
え?なにその台詞?意味わからないんですけど。
「ヒロムはわからなくていいんだよ。うん、わからなくていい」
なんでそんなニヤニヤ笑ってるんですか、サトルさん。え?一体どういうことなのー?

364<削除>:<削除>
<削除>

365<削除>:<削除>
<削除>

366良心の呵責:2013/03/07(木) 19:07:24 ID:AIUHvxk6
――ああ、やってしまった。
どうすればいいんだ。
焦りに似た罪悪感が心臓を這いあがってくるようだ。
俺のことを、犯罪者だの変態だのと責めている声が、耳の奥に、さっきからずっと響いている。

俺は――俺はただ、彼女と普通に付き合いたいだけだったんだ。
彼女が俺のことを好きになってくれていたならば、こんな行為はしなかった。
手の平にこびりついた、彼女のペンケースの感触。
明日になったらまた、犯人探しが行われるのだろうか。
自分が彼女の持ち物を盗んでいることがばれて、クラスメートに糾弾される情景が浮かんで、背筋に悪寒が走る。
どうしたら、どうしたらいいんだ……。

頭を抱えて蹲りそうになったとき、ぐるぐるとまわる思考に乱入してくる声があった。
「よう、斉木じゃん。こんなところで何してんだよ」
クラスメートの吉田だった。
あまり話した事は無いが、あまり話すのを見た事は無かった気がする。
少なくとも、今ここに俺がいることを言い触らしたりはしないだろう。
ほっとして振り向いたとき、俺は凍りついた。
吉田の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、ギラギラと輝いていたからだ。
「……わ、忘れ物を取りに来たんだよ」
たったそれだけの言葉を言うのに、かなりの労力を使った。
もしこいつがさっき俺がしたことを知っているなら、この言葉を言ったら終わりだと思ったのだ。

固まった体を動かして、さっさと帰ろうと踵を返す。
吉田は何も言ってこない。
俺の勘違いだったのかと胸をなでおろして、不自然にならないように早足で歩いた。


次の日。
一時間目の数学を潰して学級会が行われた。
彼女が泣きながら教師に相談したらしい。あのペンケースはそんなに大切なものだったのか。
また、好きな人を傷つけてしまった。

自分がとても下等な生物であるような気がして、首が痛くなるほど俯いていた俺に、突然声がかかった。
「斉木君、君は一週間前に雪村さんに振られたそうだけど……まさか、降られた腹いせに物を盗むなんてこと、してないですよね?」
教卓に立った学級委員長が、俺に冷たい眼差しを向ける。
間違いなく、俺を犯人だと思っている顔だ。

答えられずにいる俺に、周囲がざわざわと騒がしくなりだす。
「斉木君が盗んだところを見た人がいるって……」
「確かにすげえ落ち込んでたしな……」
そんな声が、遠くから聞こえてくるような気がした。
冷や汗がだらだらと垂れる。対照的に、顔が燃える様に赤くなる。

――だが、これで良かったのかもしれない。
おそらく誰からも信用されなくなるだろうが、ずっと隠し続けて生きるよりはましだ。
そんな気持ちで立ち上がろうとしたが、俺の動きは途中で止まった。
「俺がやりました」
そんな声が聞こえてきたからだ。
「あ……」
俺が言うはずのセリフを先に言ったのは、吉田だった。
再びざわめきの波紋が広がり、それは吉田に対する侮蔑の言葉に変わっていく。


「おい、吉田、ちょっと来い」
と、落書きだらけの席に座って本を読んでいた吉田に大柄な男が声をかけた。
上級生かもしれない。あれから三日もたってないのに、もうそんなに噂が広まっているのか。
吉田は男に乱暴に腕を掴まれて教室から引っ張り出されていくところだった。
十中八九、というか間違いなく、これからリンチされるのだろう。
――助けよう。
助けて、俺が本当の犯人だというんだ。
いじめられる恐怖にずっと渋っていたが、やっぱりこのままじゃいけない。
そう思ったとき、ポケットに入っている携帯のバイブがなった。
嫌な予感がして、携帯を開く。
差出人は吉田だった。
『明日、俺の家に来い』
それだけの文章が、とてつもなく恐ろしく見える。
吉田の方を見ると、吉田は、あの日と全く同じ、捕食者の笑みを浮かべていた。
怖い。体が拒絶反応を浮かべる。
――けど。
このメールに従えば、俺の罪悪感は、ほんの少しでも軽くなるのではないか。
俺は吉田の方を見て、頷くしかなかった。

36726-239待つほうと待たせるほう:2013/03/12(火) 22:04:32 ID:8PKegH/6
僕が彼に振られたのは、今から30年も前の話になる。
あの頃の僕は大ばか者で、とにかく彼を手に入れたくて必死だった。
好きだ、好きで堪らない、どうしても諦められない、諦めるくらいなら死んだほうがマシだ。
そんな事を思って、その思いを彼にぶつけ続けた。
その度に彼は困ったように笑って、「参ったナァ」などと冗談めかして受け流していた。
けれどある日、忘れもしないあの夏の夕日。
放課後の教室で、彼は欠片の笑みも見せずに言った。
「お前、正直気持ち悪いよ」
そうして、僕はようやく己の恋が無残に散った事を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
彼は優しくて、賢くて、誠意のある人だった、それが僕の好きになった彼だ。
その彼にそこまで言わせてしまった自分を恥じた。
それ以降、彼の顔をまともに見られずに、しばらく僕の暗黒に満ちた平穏は続いた。
そして、その3ヵ月後、彼は入院し、そのまま一度も退院する事なく亡くなった。
以前から病気だったのだという。
自分の余命は分かっていたと。
彼の母親から手紙を渡されて、僕はその事を彼から伝えられた。
【本当は、あの時お前を傷つけて、そのままサヨナラするつもりだったんだ。
 そうしたらお前は、そりゃ多少は後味悪いだろうけど、気負うことなく次の恋に向かえるかなって。
 本当にごめん。オレも、お前が好きだ。好きで堪らない。どうしても諦められない。
 こんな手紙を残したら、お前をもっと傷つける事は分かってるのにな。
 もしお前が、これを読んでる今もオレの事を好きでいてくれるなら。
 取りあえず30年、待ってくれるか?
 そしたらお前は47歳になってるかな。
 そこまで待つつもりが沸かないなら、それでいいよ。この手紙は捨ててくれ。忘れてもいい。
 でももし待ってくれたなら。その時に守るべきものが何もなかったら。お前が、オレに会いたいと思ってくれたなら。
 その時は、オレも会いたいと思ってる。その事を、ただ知っておいてほしい。
 ……なんてな、ただの冗談だよ。真に受けたら、バカを見るのはお前だ。可哀相にな。
 本当、オレなんかより、お前の方がよっぽど可哀相だ。頑張って、幸せになってくれよ。元気でな。
 長々とごめん。じゃあな。】

…そして、30年。
僕が今も相変わらず大ばか者だ。
彼は待っただろうか。多分待ってはいないだろう。再会したところで、お前は本当にバカだ、なんて困ったように笑って。
でも、きっと僕を待たせた責任は取ってくれることだろう。
彼も、僕に会いたいと思ってくれているに違いないから。
今、僕は彼に会いに行く。

368名無しさん:2013/04/01(月) 17:26:05 ID:NY5br2DY
テスト

36926-349  好きになりつつあるけどまだ好きじゃない:2013/04/01(月) 17:39:13 ID:WnrSDTxc
おはようごさいますと言って入室すればおはようと返ってくる。
それが普通なのだと気付いたのはここに転職して二週間後のことだった。
以前の職場では無視・舌打ちが当たり前で、挨拶は不要なものだと入社三日で理解していた。
他にも特有の社内ルールはいくつかあり、
それに適合できなかったため、追い出されたのだった。
 
今の職場では正社員ではない。
そのため出勤時間は十時と遅く、社員が全員揃っている中で入室しなければならなかった。
ここに来て半年経つものの、軽く咳払いをして深呼吸をし、
心の準備をしてからでないとドアノブを回せない。
最初は緊張しているからだと思っていた。
しかし、二ヶ月三ヶ月と過ぎ、嘱託職員でありながら
有志飲み会の固定メンバーになってしまうほど周囲と打ち解けた今、緊張はないだろう。

固定メンバーの一人でもある石垣に、
初日の挨拶もそこそこに「重役出勤かぁ」と返されたことを思い出す。
それを嫌味だと受け止めた当時の私は苦笑いしか出来なかった。
課長は「じゃあ石垣は明日から午後出勤でいいぞ」と言うし
若手職員は「重役出勤なのは石垣さんの方です」と言っていたから、
場を和ませるための冗談だったのだと今なら解る。
おそらく、当人は言ったことすら忘れている。

その日から、扉を開けるたびに石垣の席を確認するようになった。
普通の挨拶が八割、会話が一割、不在が一割。
ここにきて、アドリブ力は随分と磨かれたような気さえする。

一週間の出張を終え、石垣は定位置へ戻ってきた。
出張先は香川だと言っていたから、今日はうどんネタだろうか。もしかしたら香川繋がりでサッカーかもしれない。
そんなことを考えながら咳払いをして深呼吸をし、私はドアノブに手を伸ばした。

37026-389秘密の関係:2013/04/05(金) 03:18:28 ID:lUWUSuQA
いつも真面目で、誰からも信頼されて、俺に常識をわきまえろと説教してくるくせに、佐内は俺の『セフレ』をしてる。

最初はじゃれ合いで、悪戯しあってるうちに、お互いなんだか気持ち良くなってきてエッチした。
次は甘えてきた。佐内からだ。
甘い言葉を俺に囁くので、佐内にとってそれが遊びでも、嬉しかったから、またヤった。
気がついたら習慣化してた。
気持ちのいいことを追求する習慣に。

佐内はどれだけヤりたいんだろう。
俺は毎日でもヤりたい。
だからだろうか。普通に友だちと話しながら笑ってる佐内にイライラしてきた。
そいつ、その笑い声よりもっと高い、スゴい声出すんだ。それを俺は知ってる。
真剣に答弁する佐内を見ながらイライラしてきた。
そんな澄ました顔なんかじゃなく、快感にうっとりしてる表情の方が自然だ。それを俺は知ってる。
口うるさく俺に説教してくる佐内にイライラしてきた。
お前、その常識のない俺に、メチャクチャ甘えてくるくせに。

「俺は、知ってるよ。お前は俺がセックス狂いだってバラしたいんだろ」
「佐内……」
「でもお前は優しいから、そんなことバラさないっていうのも知ってる。そんなのバラしたら、俺なんて青くなってビビっちゃって泣くよ。そんな酷いことしないだろ?」
「しねぇけど、イライラする」
「俺はさ、バレる想像するだけで吐きそうなくらい恥ずかしいことを、お前にだけ知られてると思うと、凄く感じるくらい変態なんだよ」
「ワケわかんねぇよ……」
「……だから馬鹿だって言ってるんだろ」
佐内はそう文句を言いながら、俺にいつものようにキスした。

37126-409 初恋の人との再会:2013/04/07(日) 00:05:59 ID:L4VKu0o6
ほんのちょっとだけ胸糞注意(不倫?)です。



嫁さんにメール。
『これから電車。帰りは八時頃になる』
薄暗い蛍光灯が陰気な車内は、ひときわ疲れを感じさせた。
目の奥が疲れて痛くて、携帯を眺める気にもならない。
車窓に頭を預けて目をつぶっていると、突然小さな声で「田中?」と呼ばれた。

かすむ視野に見えたのは、普段着の男。
誰だっけ、知ってる奴?と軽く混乱しつつ「えっと、あ、ども」とか意味のないあいさつを口にする。
相手は軽く笑った。
「わかんないか、俺、高校の。安東なんだけど」
高校の……安東。嫌な汗がじんわりとにじむのがわかった。
当たり前だがそんなことはおくびにも出さない。テンション上げて顔を作った。
「ああ!安東かお前!久しぶりだなぁ、どうしてるの、今」
「今日は仕事休みでさ、久しぶりにこっち遊びに来たんだ」
「仕事?」
「そう、覚えてる?俺、寺つぐの」
覚えてる。思い出したら全部思い出した。
忘れていたわけじゃなかった。ただ、経年変化が想像できてなかっただけで。
そういわれれば、安東の髪型は坊主だ。でもなにやら格好いい洋服と合っている。
「今修行と修行の間でさ。しばらく実家に帰ってきてるんだよ。もう勘弁してほしいわ……田中は?就職したんだな、その格好」
「ちっちゃい会社でヒヤヒヤしてっけどな、まだペーペーだし」
「スーツ似合うよ」
覗き込まれて、ぎょっとした。
「……安物だよ」「そう?感じいいよ」
こいつはいつもこんな風だった。育ちがいいせいか、物怖じしなくて、屈託無くて。
俺は安東の服を褒めたりできない。そもそも、顔をまともに見られない。

「うわ、残念、俺乗り換えだ。ケータイ、教えて!」
電車が止まって、安東が急に慌てだした。
「え、あ、なんか、書くもの」
「いいから言えよ!覚えるから!」
俺が番号を叫ぶと同時にドアは閉じて、はたして安東に届いたかどうか。
窓の向こうでにこやかに手を振る奴の様子からは全然わからない。

ひとりになった車内ですっかり目の覚めた俺は、それでも顔を覆わずにはいられなかった。
安東は俺の初恋の相手だ。それも、恋であることにすら気づかなかった……
安東が好きだ、と気づいたのは、卒業して離ればなれになってから。
安東のことを思うと胸が痛い、安東に会いたくてたまらない、安東を独り占めにしたい。
そんな自分の状態に気づいて、まるで好きみたいじゃないか、とか思い至って。
馬鹿な、そんなことあるわけない、安東は男だぞ、って自問して。
じゃあ、もし安東のことが好きなら、キスしてるところ想像できるか?それ以上のことは?って試してみたら。
……およそ思い出したくもない。
そして、俺は自分の身に起きていることが初恋だと知ったんだった。
その驚き。とまどい。後悔。
初恋もわからなかったなんて。男が相手だなんて。何かの間違いだ……
安東のことは苦い思い出になってしまった。安東を封印して、次は失敗しない、と思った。
それから、大学で出会った嫁と普通に恋愛して結婚した。

二度と会いたくない相手のはずだった。
安東は俺の携帯番号を聞いただろうか?そして覚えただろうか。
ひょっとしたらかかってくるかもしれない。覚え間違いで、かけられないかもしれない。
もし……かかってきたらどうしよう。
やりなおすには遅すぎる。俺は安東といい友人になれるんだろうか?
なぜ番号を叫んでしまったんだろう。
安東は俺の指輪を見ただろうか?
まぶたの裏に、安東の笑顔がよみがえる。それは高校の頃の、ふたりきりの時の、あの笑顔。
いい思い出にはやっぱりできそうもない。
なのに今、俺は携帯の電源を切ることができないでいる。

37226-439 なかなか好きといえない:2013/04/11(木) 21:59:17 ID:XQfcw1FA
■腐れ縁タイプ
「なに泣きそうな顔してんだよ。元気出せって。もう付き合ってる奴がいたんじゃしょうがねーよ。な。
 で、どうせ今晩飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ。いいっていいって。明日休みだし。飲み明かそうぜ。
 お前がフラれてヤケ酒なんていつものこと……って本格的に泣き出すなよ。ひどくねえよ。事実だろが。
 ほら、行くぞー。お前んちでいいよな。途中でツマミ買ってくか。………。言っとくけど、奢らねーからなー」

■『なぜ謝る』タイプ
「あの。あの………いえ、なんでもないです。すいません。てっ、天気いいですよね!ね!あはは…
 はあ……え、いえっ、元気です!ほんとに、なんでもないんです。すいません。すいません!!」

■好きの代わりに馬鹿と言っちゃうタイプ
「お前馬鹿だろ!?調子悪いのに出てきてんじゃねーよ。あとは俺がやっとくから。いいから!
 そんな状態で手伝われる方が迷惑だっつーの。早く帰れ帰れ。馬鹿が無理してんじゃねーよ。さっさと寝ろ」

■言葉に辿り着くまであと少しタイプ
「君といると苦しい。脈が速くなって息が詰まる感覚がする。本を読んでいても文章が頭に入ってこない。
 音楽を聴いていても君の声ばかりが耳に届く。君と食べる食事はいつもと味が違う。同じ食事なのに変だ。
 君がいないと苦しい。部屋の広さに気が遠くなる。本を読んでいても頭の片隅で君の事を考えている。
 昔は嫌いだったうるさい音楽も聴くようになってしまった。君がきちんと食べろというから三食食べるようになってしまった。
 たまに酷く苛々する。君の所為だって反射的に思って、そんな風に考えたことを後悔する。僕は酷い人間だ。
 君が隣に居ても居なくても苦しい。だから君が怖いのに、君に会いたいと思っている」

■『もう若くないから』独白タイプ
「…………こんなおっさんに言われても、あいつも迷惑だろ」

37326-489 あえぎ声がうるさい攻め(notショタ)と声を我慢する受け:2013/04/18(木) 13:19:28 ID:ukNmSW4c
規制されてたのでこっちに投下。


ドン、と。地鳴りのような音がした。
すぐにわかった、誰かが壁を叩いた音だと。
陶酔していた雰囲気の中から急に日常に引き戻される。俺が真昼間っから男とセックスしている間、隣の誰かがテレビを見ている洗濯をしている友達と電話している。
途端に顔が熱くなる。「恥ずかしがっている」それをこいつ知られるのが殊更に恥ずかしく、耳元がカイロでも押し当てられたみたいに熱い、それが触れなくてもわかった。
2階建ての安アパート、当然のように薄い壁、最初から声は抑えていたつもりだったが、こいつの実家から持ってきたというちゃちなパイプベッドが高い音を立てながら軋んでいるのに気が付いた。
「うぁ、沢原ぁ……、ちょっ、ゆっくり…」
助けを求めるように後ろに首を向けると、俺とベッドを揺らしている男が幸せそうに笑っていた。
「なに?なんでーこっち見てんの?ふふ、たっちゃんかわいー!」
相変わらず声がでかい。いつでも、どこででも。
「っ沢原、となり…が」
口元に手を添えできる限り小さな声で話す。沢原はお構い無しにでかい声で喋り続ける。
「たっちゃんってばかーわい、恥ずかしがってんのー?顔真っ赤だねー、あーキュンキュンしてる!やーらしー!たっちゃんマジ最高かわいいい!」
「さ、っわ……バカ!」
小声のままで精一杯抗議する。これでもかと顔が熱くなる。
自分でも訳がわからないくらい、いつになく体中が反応している。そんな俺を沢原が食い入るように見る。
恥ずかしい、声を出したくない。顔を枕に埋めてしまいたい。沢原に見られたい。沢原を見たい。
「たっちゃん、綺麗な指、噛んじゃだーめ」
言いながら沢原は長い指を俺の口に突っ込んできた。と同時にベッドの軋みがさらに早くなる。
俺は我慢できずに沢原の指を噛んだ。口中で指先が俺の舌を玩んでいる。
「ふっ、ぅぐ…」
「あー、たっちゃんイイ、最高イイ、マジ気持ちい!超好き!あっ、あー!やっばい、超気持ちー!」
「…っゔ、ぐ」
どこかからまた地鳴りのような音が聞こえる。これでもかと顔が熱くなる。沢原は「たっちゃん超締まってる」とかなんとか下品な言葉を繰り返していた。
「たっちゃんマジ!全身真っ赤だねぇ、はっずかしーぃ!けどかわいー!」
ベッドが軋む。早く大きくドン、ドン、と全身に音が響く。
「っぁ、さわはら、ぁ」
「たっちゃん、もっ俺やば」
「っん、…ふっ………」

横になったまま呼吸が整うのを待っていると、汗ばんだ肌のせいか、先ほどまで暑かったはずの室内が急に寒く感じられた。
そうして少し、冷静さを取り戻す。
「あ……、隣!ばか沢原!隣が」
「え?隣?なにが」
呑気な顔で俺の買ってきたアイスを勝手に食い始めている。
「だからこっちの部屋の、人が……あれ」
「なに隣って?ここ角部屋じゃん。反対も住んでないし。え、ホラー?やめてよたっちゃん俺今日のバイト遅番なんだよー?」
「いや、ちが…だって最初に何回かドンドンって」
「え?…あ、それ俺だ」
「は?」
呆気にとられる俺を尻目に沢原は、「見て見てたっちゃんパナッペがにこにこしてるー」とふざけたことを言っている。
それからさらりと「たっちゃんマジかわいー、とか考えてたら嬉しくてつい」と、壁を殴った理由を口にした。「きゅーんってなってきゃーってなってブンブンしてたらどかーん、みたいな」とも言っていたが、そっちはほとんど意味がわからなかった。
「だからって、あんな何回も叩いたら隣じゃなくても迷惑だろ?」
沢原の手から半分以下になったアイスを奪い返し反論する。
すると沢原はきょとんとした顔で「俺それ、1回だけだと思うけど」とほざき始めた。
「はぁ?バカ言えお前、数もかぞえらんなくなったのか」
言いながら頭の中で音を反芻する。
ふとそれが、まさか自分の心臓なのじゃないかと気が付いた。
「ん?あれ?なしたのたっちゃん、顔真っ赤だけど」
「うっせー!帰れ!」
「俺んちだけど」
「うっせー!ばか!ばかぁ!全部お前のせいじゃねーか!」
「はー?なんだよたっちゃん、パナッペのこと?帰りに買ってくるよー」
「ちげーよばか!」
手元にあったクッションを投げつけると、沢原が「べうっ」と奇声を上げて顔で受け止めた。
「たっちゃーん、これじゃマジ近所迷惑…」
「うっさい!さわんなぁ!」

37426-509 運動部対文化部:2013/04/21(日) 14:25:16 ID:yqnA/Y4w
規制中だったのでこっちに



「貴様、そんなつもりで学園祭がどうにかできるとでも思っているのか!軟弱者が!」
ハヤトが怒鳴るので、僕はびくりと肩を震わせた。
「そんなこと言ったって……ぼくはハヤトみたいにかっこよくないし、みんなをまとめるなんて……」
「何を言うか!阿呆!俺にできて龍介にできない訳があるか!根性を出せ、根性を!」
その後ハヤトは30分にわたるお説教を繰り広げ、スポ根漫画の主人公のようなセリフを何度も繰り返した。
二か月後に迫った学園祭、そこで繰り広げられる運動部と文化部に分かれて行うレクリエーションの指揮を任された僕は早くも胃が痛い。
人前に立って誰かをまとめるのは僕にはどだい無理な話なのだ。
「僕もハヤトみたいにかっこよければな……」
「な、なんだいきなり!」
「僕もハヤトみたいにかっこよくなりたいよ」
「〜〜〜っ!阿呆か貴様!龍介だってかっこいいわ!阿呆!」
ばんばん机をたたきながらハヤトはまくし立てた。
軽く舌打ちをして教室から出て行こうとしていたハヤトはふと気が付いたように、「おい」とまた僕に声をかけた。
「龍介、次の試合はいつだ」
「明後日にいつもの体育館だよ」
「そうか、また見に行くから全力で勝て!」
「うん! 僕もハヤトの賞をとった絵をみたよ、素敵だった!」
「ふん、あんなもの余裕だ阿呆め」

そういって出て行ったハヤトの耳はまだ熱をもったままだった。

37526-479  一番の味方:2013/04/26(金) 10:57:55 ID:ynOcWvg2
亮平には高校三年生の弟がいる。母親は病死、父親は蒸発、たった二人の家族だという。
「進学を諦めて就職したいって言ってたお前の弟、どうなった?」
「何言っても就職から変わんね。授業料とか払えないだろって、
そんなん気にしないでさ、やりたいことがあるんだから勉強すればいいのに」
一度言葉を切って携帯をコツコツと叩く。言い淀んでいるのがわかるから、先を促したりはしない。じっと、次を待つ。
「俺の給料明細盗み見して諦めるって…馬鹿じゃねえの」
最後の馬鹿、は、諦めている弟になのか。それとも弟の夢を叶えてやれない自分に、なのか。
「奨学金の話をしても?」
「それでも」
「利息ゼロの貯金箱があんのに?」
「は? 何それサラ金?」
「いや、俺」
「はぁ?」
お前から金なんて借りねーよ、と呆れた風を装ってはいるが、気になっているのだろう。
サラ金かと答えたときは険しかった表情に、少々の緩みが見える。
「毎月じゃなくて、本当にヤバくなった時だけ。上限三万とか決めてさ。借用書も書く?
 俺の生活もあるし、二人で弟を育てる! みたいな感じで」
努めて明るく話す。最後に一言付け加えるのを忘れずに。
「俺一人っ子だから兄弟いるの羨ましいんだよね」
嘘だけど。それは飲み込む。
「…………じゃあ、ヤバくなったら貸してください。受験料ぐらいは何とかなるけど、入学金のとき借りる、かも。あいつには大学でバイトさせるから」
「そこら辺は兄弟で話し合って決めて。弟には俺の事言わないでねー」
「ごめん、ありがとう、宏樹」
「まだ借りてないんだからごめんじゃないでしょ」


こちらこそ俺の姉が亮平たちのお父さん奪って駆落ちしてごめんね。


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