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バトル・ロワイアル 〜狭間〜

361 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 18:00:30 ID:RLTQPusQ0
投下完了しました。

362名無しさん:2021/03/08(月) 22:06:52 ID:xahGDhzc0
投下乙です。
ほとんどの作品について、キャラクターを軽く知っている程度なのですが、それでも読む気持ちにさせる展開運びでした。
驚いたのは、鷺ノ宮伊澄がここまで戦闘能力が高かったことです。もちろんハヤテやヒナギク、虎徹のように戦えるキャラクターが居るのは承知していましたが、暴走したとはいえ勇者と拮抗するレベルとは思わず。
そして、それ以外のキャラクターも、とても丁寧に描写されていると感じました。
成熟した大人らしく、常人である自分と戦闘力を持つ他者との差異を理解しつつ、その境界を飛び越えることもできる小林さんの描写が特に好きです。
遊佐は暴走させられた挙句、殺人という禁忌を犯してしまい、そんな自分を許せず頭を冷やそうとした結果……。
漆原は「エミリアの精神力はガラス」と言っていましたが、まさにその通りで、もう少し図太く生きることができていれば、結果は違ったのかもしれません。
最後に、外道に進んだ蓮。彼はこれからどこまで堕ちてくれるか、楽しみです。瞬殺の再現も粋ですね。

363 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/29(月) 02:29:16 ID:mc9R4X.I0
暁美ほむら、茅野カエデ、桜川九郎で予約します。

364 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:09:27 ID:29vLwlxU0
最後に少し絡ませようと思っていましたが、どうにも蛇足っぽくなったので申し訳ありませんが桜川九郎の登場は取り消します。

改めて、暁美ほむら、茅野カエデで投下します。

365Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:10:20 ID:29vLwlxU0
ㅤ殺し合いを恐れる一般的な思考の持ち主の場合、動くのならば夜明けを待つに越したことはない。奇襲を受けにくいのはそれだけで一種の安心材料になる。

ㅤでは逆に、夜中の時間帯に大胆に移動している者は何が目的か。電気の消えた小屋の中に潜伏したまま、茅野カエデは迫り来る影を見つめていた。その手には一本の包丁。料理用であり、人を殺すには些か心許ない代物であるが、エクボによる身体能力の向上も併せればファフニールの腕を切断することも可能。実際の殺傷力としては充分だ。

「見たところ、人を探しているようだな。この暁美ほむらって奴だ。」

ㅤ夜目の効くエクボが対象を観察し、名簿と照らし合わせながら茅野に伝える。この殺し合いにはエクボの知り合いも茅野の知り合いも招かれている。ほむらもまた、知り合いが招かれており、それを探していると見て良さそうだ。夜の暗闇にも億さず突き進む様を見るに、探し人は同時に庇護対象でもあるのだろうか。

「あの人にも守りたい人がいるのかもね。でも、だからといって譲れない。」

ㅤ包丁を手に握り、ほむらの接近を待つ。立ち位置は扉の死角。小屋を散策するため、ほむらは次第に近付いてくる。

(大丈夫。私はずっと殺意を隠して生活してきたんだ。)

ㅤほむらの足音が聴こえるほど、近くに。まだ気付かれている様子は無い。

ㅤそして、ほむらは扉の前に立つ。次の瞬間、開かれると思われた扉は――

――ガァンッ!

ㅤ開かれず、蹴り破られた。本質的に、ほむらは他者を信じない。殺し合いに乗る者からの奇襲を警戒しての行動が、殺し合いに乗らない者に不信感を与えてしまいかねない行動であっても躊躇はしない。そもそも自分は、他の者たちとは違う時間を生きている。言葉も気持ちも、人が抱くべきそれからかけ離れてしまっている。彼女の行動理念の根底にあるのは、鹿目まどかただ一人。そんな献身とも言えるほむらのスタンスが、茅野の奇襲を打ち崩す。

「ッ……!」

ㅤ死角に潜んでいた茅野の頬に砕けた扉の木片が掠り、僅かに苦悶の声をあげる。それを感知するや否や、ほむらは大胆なバックステップで茅野との距離をとった。

(気付かれた……!)

ㅤ第一の刃が刺さらなかった以上、離脱も選択肢の内だろう。しかし、目の前に現れたのは体格で劣るでもない少女だ。正面戦闘であっても決して引けを取る茅野ではない。

366Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:11:06 ID:29vLwlxU0
「おい。あいつ、銃を持ってるぞ!ㅤ距離を詰めろ!」

ㅤエクボの指示を即座に実行する茅野。まるで訓練された兵のごとき反応速度。照準を合わせる暇もなく、突き出された包丁を89式小銃で受けることとなる。

「やるよ、エクボ!」

「おう。」

ㅤしかし、本来は武器である銃器。防御に用いれど所詮は即席のものに過ぎない。エクボの憑依による身体能力強化により、難なく掻い潜られる。

「うぐっ……!」

ㅤそして包丁は、ほむらの右肩に突き刺さる。そしてすぐさま引き抜かれ、血がどくどくと流れる。

ㅤ殺せんせーの身体とは違う生身を抉る感触。慣れたものでは無いが、しかし憑依したエクボが動かしていることにより躊躇が入り込む余地はない。エクボは命令に逆らえる立場ではないし、彼もまた、生き残るのに必死な生き物のひとつ。

「まだっ!」

ㅤ引き抜いた包丁で追撃に走ろうとする茅野。そうと決めたら一直線――彼女の性分であり、殺人をも厭わぬ決心は、決して揺らぐことはない。

ㅤ茅野の腕がほむらの額に伸びる。回避は不可能。コンマ1秒先に、ほむらの頭を貫く未来は見えた。

ㅤまどかを助けるまで前に進み続ける少女と、己が決意を貫くまで決して止まらない少女。その二人を取り巻く世界は、想いを乗せて巡り続ける。しかし、この瞬間。ほむらの腕に宿る時計の針が止まり――そして、パレスの時は止まった。遠いどこかで想像力の怪物と対峙しているほむらの大切な友達も、遠いどこかで誤解から始まった殺し合いを観察している茅野の想い人も――この殺し合いを形成する全ての参加者を巻き込んで、パレスは完全なる停止を見せた。

ㅤそして止まった時間の中、唯一その空間を闊歩するほむらは驚愕に目を見開いていた。いつもと異なり、ただその場に立っているだけで体力を消耗していくのを感じる。現実世界に比べて構造が異なるパレス内において、時間停止の魔法は長くは維持できない。茅野を仕留めにかかるこのタイミングで初めて、ほむらはそれに気付いた。

ㅤ右肩を刺され、銃は満足に構えられない。魔力を用いれば応急処置くらいはできるかもしれないが、時間停止に集中している今それは不可能。

ㅤ焦る気持ちと裏腹に、間もなくして刻限は到来する。止まっていた時間が動き始める。

367Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:13:22 ID:29vLwlxU0
「えっ!?」

ㅤやむ無く、停止した世界で迎撃より回避を選んだほむら。コンマ1秒前まで対象を捉えていたはずの茅野の刺突は空を切る。

(今の移動、瞬間移動か何かか?)

「でも、そんなに距離は離せないみたいね。」

ㅤほむらが動いた先も、目視が可能な距離。さらに、心無しか息も多少乱れている。それなら、瞬間移動であっても実質的には殺せんせーの方がよっぽど速い。先生を追い詰めた私なら、間違いなく殺れるはず。

ㅤ対峙するは、魔法で右肩の治療をしながら至近距離で銃を構えるほむら。

ㅤソウルジェムを身に付けておらず、正体が魔法少女であるかも分からない相手。下手に人体の急所を狙えば殺しかねない。姫神との接触を目的とする以上、奴について何かを知っているかもしれない相手を殺すのは惜しい。

ㅤそこでまずは無力化することを最優先した場合、真っ先に狙うはナイフを握った右手だ。凶器を落とせば、これまで見てきた範囲での彼女の脅威は半減する。

――ダァンッ!

ㅤ銃声が、闇夜に木霊する。触手を失った茅野は、今やただの人間。音速を超える銃弾に為す術なく右手のナイフごと撃ち抜かれるのが当然の帰結。

「……っ!」

ㅤしかし硝煙の先に映るは、血に濡れた右手に包丁を構えた茅野の姿。魔法少女とて、銃弾を腕に受ければ肉体が壊れる。人間であれば尚更だろう。

ㅤ確かに、右手を狙った狙撃だった。しかし、身体の軸から大きく逸れた右手という場所であったことが災いした。茅野には銃弾が放たれる瞬前に銃口の向きから着弾点を予測することが可能であった。かつて触手をその身に宿し、マッハ戦闘に適応していたことによる茅野の反射神経、それは触手を失ってもなお健在である。

ㅤもちろん銃弾の速度を人の身で完全に躱し切ることは出来ず、掌の皮を抉られて火傷を含む激痛に襲われる。しかし、それだけだ。手にした包丁は離していない。

「痛みなんて、もうとっくに慣れてる。」

ㅤ茅野には、定期的なメンテナンスもできない触手の侵蝕による地獄の苦しみの中で、ずっと平常心を保ち続けてきた一年がある。プライバシーというものを知らない、神出鬼没の殺せんせーのことだ。自分の家であっても気を抜くことは出来ない。常に気を張らないといけない一年は、まるで殺し合いの世界のよう。

ㅤそれを耐え抜いてきた茅野にとって、撃たれた痛みを我慢して武器を振るうことくらい、赤子の手をひねるより容易い。

「決めたの。自分の心だって殺して、"友達"を演じてみせるって。」

ㅤお姉ちゃんと殺せんせーの間に何があったのか知ろうともせずに、ただ復讐のために費やした"空っぽ"な一年だった。だけどその空白があったからこそ、この局面で耐え抜ける。その空白が、渚のための殺しを後押ししてくれる。

「それが私の戦う理由。彼がくれた命で、私は彼を守りたいから。」

ㅤだから、渚の知りえないここで人を殺す。"友達"として、彼のための献身なんておくびにも出さないままに殺して――そして死ぬことによって、彼を生還させる。

368Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:14:21 ID:29vLwlxU0
ㅤこれは愛ではなく狂信の域であると判ずる者もいるだろう。けれど、茅野の時間は姉を失ったあの日、すでに止まっていたのだ。唯一茅野を突き動かしていた復讐というゴールすら、殺せんせーの過去を知った時に掻き消えた。そんな"茅野の時間"を動かしてくれたのは、他ならぬ彼なのだ。

ㅤ銃撃の反動で回避できないほむらの胸を狙い済ました暗殺者の刺突が迫る。人の生命活動を担う心臓の位置だ。しかし魂をソウルジェムに移し変えられた魔法少女にとって、そこは何ら命に関わる部位ではない。

ㅤ魔法少女についての情報の不足。こればかりは、茅野に補えるものではない。本来ターゲットのリサーチは怠らない殺し屋であっても、異世界の知識はどうにもならない。

(心臓じゃねえ!ㅤ左手だ!ㅤ左手の甲の宝石を狙え!)

ㅤしかし、他者の肉体を乗っ取り、魂を操ることのできるエクボだからこそ分かる。目の前の少女の身体は抜け殻だ。反面、左手の甲に装着された物体『ソウルジェム』から彼女の魂を感じる。

ㅤ茅野は理由の分からぬエクボの指令に一瞬困惑を見せるも、自分に見えないものが見えているエクボの言葉を信じ、実行に移す。

「なっ……!」

ㅤ先ほどまでソウルジェムを狙う気配も無かったというのに、突如として死に直結する一撃が突き付けられた。茅野の一撃は、正確にほむらのソウルジェムの中心を捉え、命中させる。当ててしまえば、あとはその破壊のために腕に力を込めるのみ。

(くっ……私は、死ぬわけにはっ……!)

ㅤ何度も何度も世界を繰り返して、魔法少女たちの"終わり"も幾度となく見てきた。時に苦悶に満ち、後悔に苛まれながら、その魂を散らしていく様を。そして時に、絶望に呑まれ異形の魔女として生まれ変わる様を。

ㅤだけど私だけは、目を覆いたくなるほどの絶望を生き抜いてきた。それは偏に、常に前に進ませてくれる、大切な友達の存在があるから。彼女がいてくれるから、私は決して絶望に負けない。魔法少女になった彼女を待つのは絶望の未来だけ。だから、あの子を取り残して死ぬわけにはいかない。

「まどか……私――」




――パキィンッ!




ㅤどこか綺麗な音を奏でながら、砕ける。キラキラと煌めく破片が夜の闇に散らばっていく。

「――まだ……終われない……!」

ㅤ破砕音を聞いたほむらは一瞬、死が見えた気がした。しかし、自分はまだ立っている。先の音の正体を認識し、まだ終わっていないことを確信する。

ㅤ砕けたのは茅野の持っていた包丁。元より殺傷力の小さい調理用でしかない上、それはファフニールの血や肉片を浴びていた。かの邪龍の血肉に宿る呪いをその刀身に受けていた。結果、エクボの身体能力強化込みであっても、ソウルジェムを砕けるだけの硬度を持っていなかった。

ㅤしかし、もしかするとそれだけではないかもしれない。何せここは人の心が大きく影響を及ぼす認知世界。まどかのため――その一心に込められた想いが、或いはソウルジェムが砕ける前に"食いしばる"ことを許したのかもしれない。何にせよ、ほむらは丸腰の茅野の前に今もなお立っている。

ㅤそしてほむらは確信する。茅野のスタイルは戦闘ではない。貪欲に、相手を殺す一撃を叩き込む瞬間に全てを込める暗殺者のスタイルだ。支給品の武器も他に持っているかもしれない。包丁に元から血がついていたことを考えても、他の参加者を殺して奪ったことも考えられる。手心を加えては、その隙を突かれかねない。

(惜しいけれど、ここで確実に潰しておくべきね。)

ㅤ魔法少女に渡り合う未知の力は、或いはまどかを救う足掛かりになるかもしれない。しかしその脅威は、たった今身をもって体感した。

369Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:19:34 ID:29vLwlxU0
「"友達"を演じる、と……そう言ったわね。」

ㅤそして――彼女の戦う理由も、聞いてしまった。自分と同じく誰かのため。それはまるで、自分の生き写しの如き生き方だ。

「あなたがその相手と何を望んでいるかなんて分からない。だけど、これだけは言わせてもらう。」

ㅤされど、二人の願いは叶わない。絶望に沈む誰かの存在は、履き捨てねばならないのだ。

ㅤだからこそ、ほむらは茅野の胸に銃口を突き付ける。殺し合いに乗っている彼女は、自分の願いの障害になる。

「――随分と、生ぬるい決心ね。」

ㅤその覚悟を、ほむらはこの世界に来る前から、とうに成している。巴マミも、美樹さやかも、佐倉杏子も、その誰が死んだとしても、それがまどかが助かった世界ならば妥協する用意はできている。例えそれをまどかが望まずとも。あの子が絶望する結果になったとしても。

「私はあの子のためならあの子の敵にだって回ってみせる。」

ㅤ本当は、あの子の友達として、真っ正面から絶望を受け止めてあげたい。だけど、それはできない。繰り返す世界を重ねる度に、私は本来の私から遠ざかっていく。語る言葉も、まどかとは異なるものになっていく。友達のふりさえ、できなくなっていく。

「まどかさえ生きていれば、私はそれでいい。」

ㅤ二度目は無い。至近距離では誤射もない。躊躇なく引き金は引かれる。銃口の先にあるのは、一人の少女の身体。弾丸に貫かれ、その身を散らしていく。

ㅤしかし、触手細胞に鍛えられた反射神経の残り香か。或いは、自分と重ね合わせた相手に対するほむらの無意識の手心か。僅かに着弾点が逸れ、即死を免れた茅野。

ㅤ結果は変わらない。数秒後には散る命。ほむらと相討ちに持ち込む体力も手段も、もう残っていない。

ㅤただし、散り行く命は走馬燈を見た。

『――やめろ茅野!!ㅤこんなの違う!!ㅤ僕も学習したんだよ!!ㅤ自分の身を犠牲にして殺したって……後には何も残らないって!!』

ㅤ触手の暴走で曖昧な記憶の中、渚が掛けてくれた言葉。それは痛いほどに今の自分を言い表していた。

ㅤ自分の身を犠牲にして、ただあなたのためにと他人を殺して……そして、何も残らない。空っぽのまま、終わっていく。それが嫌で、空っぽに呑まれたくなくて、殺し合いに乗ったはずだったのに。

「ああ……わた、し……間違ってた……のか、な……」

ㅤ僅かな延命により抱いてしまった絶望の中で、茅野は息絶えた。今の自分が真に空っぽであったことを、この上なく自覚してしまった。

370Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:22:55 ID:29vLwlxU0
「……ごめんなさい。」

ㅤ他者を殺すことに特段の躊躇は無いけれど、絶望する前に即死させて楽にしてやれなかったこと、その一点においてほむらは申し訳ないと思った。死を前にして、魔女になる前に殺してくれとソウルジェムを差し出すまどかを撃った時のように、茅野が絶望に沈む前に介錯することもできたはずだ。それは彼女が勝手に銃弾を避けようとした結果かもしれないが、自分の撃った手が狂わなかった保証もない。だから、だろうか。声の届かない目下の骸に言葉を掛けるという、らしくないことをしてしまうのは。

「あなたが間違っていたんじゃない。ただ、何を選んでも間違いなだけ。」

ㅤ例えば。想い人のために願いを行使し、見出した希望の代償に魔女と堕ちていった美樹さやか。例えば、魔法少女の真実に耐え切れず、他の魔法少女たちと心中しようとした巴マミ。例えば、願いを叶えた結果として家族を失った佐倉杏子。例えば、魔法少女の真実を知ってなお、誰かのためにインキュベーターと契約を結ぼうと動くまどか。

ㅤ世界を何度繰り返しても、誰もが正しい世界なんて無い。進む道次第で誰とて容易に間違い得る。そして運命は迷路のように分岐点を幾つも与えてくれるからこそ、真に理想から離れた間違った道に、誰もが遅かれ早かれ進んでいく。

ㅤそして、時間軸によってはこの殺し合いは開かれていない。それならば、どこかの分岐で間違えてこの殺し合いに呼ばれた地点で、少なくとも理想的な道は失われているのだ。

ㅤ自己満足。もしも、絶望に沈んだその先に行き着く世界があるのなら、この声を聞き遂げて少しでも救われてくれればいい。

「――言い得て妙だな。」

ㅤ死者への追悼に、言葉が返された。

ㅤ茅野の死体からにゅるりと出てきたのは、支給主を失い、中立となったエクボ。

「……あなたがこの子を操っていたの?」

ㅤ自分が殺した、無実だったかもしれない少女の死体を見下ろしながら尋ねる。他人を操るのは、魔女の所業だ。しかし操られた人は、魔女のせいで起こした行動の責任を負わなければならない。もし茅野が、目の前の緑色の存在に操られていたのだとしたら。

「いいや。身体はちょくちょく操っていたが、殺し合いに乗ったのはコイツの意思だ。だからそこは気にする必要ねえよ。」

「……そう。それは良かったわ。」

ㅤ悪い想像は否定された。そして目の前の存在が、高度な言語能力を有するのだと気付く。ほむらの知る魔女は言語を理解しない。すなわち、目の前にいるのは既知の魔女とは異なる存在。やもすれば姫神の持つ力にも繋がり得る未知の力だ。

「そんで、どうせだから俺様も連れて行ってくれねぇか?ㅤコイツのザックに入ったカプセルを持っていけば俺の所有者になるからよ。」

「見返りは何かしら。」

ㅤ情報を聞き出そうとした矢先の提案だった。ほむらにとって願ってもない話だ。しかし、あくまで主導権を握るためにも、下手に出るわけにもいかない。

「俺様の英智を持ってすれば参謀でもいいのだが、単純に戦力は増すだろうな。」

「……まあ、ひとまずは充分としましょう。ただ、何かおかしな動きを見せたら殺すわよ。」

「心配するな。このカプセルのせいか、お前に逆らうようなことはできねぇ。」

ㅤほむらは茅野の支給品を、丸ごと持って行く。この戦いで得られたのは、少しばかりの戦力と――求めていた、異なる世界の未知なる力。これは、果たして絶望を打ち破る希望なのだろうか。

ㅤもし、この夜の先に希望を見出せなかったら。どう足掻いてもまどかを救えないと心の底から感じてしまったら。私は絶望に負けて魔女になってしまう。積み重ねては無に返してきた繰り返す悪夢の果てにまどかを救えなかったその時こそ、茅野が最も恐れた"空っぽ"に飲み込まれてしまう。

ㅤだから愚直に前に進む。そうするしかないのだ。鈍色の空。人が死に、想いが潰えていく絶望の夜。明けない夜はないとは言うけれど――その先で、空は綺麗な青さで待っててくれていると信じて。

【茅野カエデ@暗殺教室ㅤ死亡確認】

【残り 38人】

【C-2/小屋前/一日目ㅤ黎明】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3)、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しないと。

※C-2の小屋の扉はほむらによって蹴破られています。

371 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:23:20 ID:29vLwlxU0
投下完了しました。

372 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/01(木) 12:52:56 ID:6Ddi32uE0
投下お疲れ様です!

Get ready, dig your anger up!
伊澄…ハヤテやナギと再会できずでしたが、小林さんを守ることができたのは彼女にとって最善だったのではと思います。
小林さんの「大人」としての立ち位置は新隆と並びこのロワの潤滑油になりますね。
また、伊織の神世七夜に守られたとき、ドラゴンにかけていて「ああ!なるほど!」となりました。。
そして、弱り切った恵美を鮮やかに仕留めるジョーカーと読んでいてハラハラして非常に感服しました。
個人的に、放送後の小林さんとルシファーの悔やむであろう反応が気になります!

Nocte of desperatio
共に奉仕スタンスであるほむらと茅野のバトル!
善戦しましたが茅野の想い一歩及ばず! 無念が残るでしょうね……
さらに悲しいのは渚の参戦時期が本当の茅野を知る前だということ……ロワならではの悲しき想いですね……
愚直に進むほむらの想いがどこまで行くのか行くすえが楽しみです。
また、エクボと組んだほむら。きゅうべえとは違ったコンビになるでしょうね。
キラキラと煌めく破片が夜の闇に散らばっていく
↑包丁が砕けた際の表現、とても美しく感じました。

初柴ヒスイ・桜川九郎で予約します。

373 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:03:29 ID:JHHrRQ9E0
投下します。

374この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:06:30 ID:JHHrRQ9E0
躊躇ーーーーー決心がつかず、ぐずぐずすること。ためらうこと。
広辞苑より引用

ザザ〜ン……
水波がゆらゆらと流れている。

「……」
港の波止場に腰を下ろし、それを静かに見つめるヒスイ。

(あの、ナギが……)
ヒスイの頭の中に渦巻くのは先ほど行った『真倉坂市工事現場』での戦闘……

「私は、この殺し合いが気に入らない!だから、モナと戦う!!ヒスイ!たとえ、幼馴染のお前相手でも私は戦う!!!」

幼馴染の一人であるナギのケツイ……

初柴ヒスイにとって三千院ナギは三千院家の遺産継承者争いのライバルの1人かつ幼馴染4人組の1人。

(マリアやクラウスと変わらない日々をただ流されて生きていると思っていた……)
性格は非常に我儘で気が強く、マンガ好きで引きこもり気質。
運動音痴で50m走を走っただけでへばってしまう……そんな幼馴染。

しかし、幼馴染4人組の中でもナギはヒスイにとって特別ーーーーー
(そう…ナギは伊澄や空前絶後のバカとは違う……)
↑《なんやてー!》
ヒスイの独白に幼馴染の1人、愛沢咲夜のツッコミが入る……というか入れるな。

(口では容赦しないと言ったが……)
幼馴染との決別をした……つもりなのだが、ヒスイの心中にはいまだ、躊躇がある。

《あら?私からのプレゼントをあげたのに……》
ヒスイの脳裏に響く声……

《さっそく腕を一本失うなんて……ガッカリだわ》
法仙夜空。
ヒスイに仕えたメイドーーーーー
今は、ヒスイを「王」とするため英霊化したーーーーー

「……夜空」
果たして目の前の夜空は英霊化した本人か、はたまたパレスの効果で現れた、認知の存在か定かではないが……

「私に説教するつもりか?」
《いいえ。ただ肩を落としているだけよ》
ふぅ…やれやれといった仕草を見せる夜空。

375この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:10:38 ID:JHHrRQ9E0
《私は、あなたを王とするために命を引き換えにその力を与えたのよ?》
《あなたのことだから、幼馴染が相手だったから無意識に手を抜いたんじゃないの?》
《そんな体たらくは見るにたえないわよ》
夜空なりの叱咤激励。

「黙れ。……わざわざ言いに出てこないで黙って見ていろ」
夜空の言葉にヒスイは思いだす。

「……くだらん。私が欲しいのは勝利の果てに掴む願いだ。頂上で胡座をかいていれば与えられるようなものでは無い。」
それは、殺し合いに参戦するために姫神に対して放った言葉。

改めて、【勝利の上で手に入れる世界】へのケツイを深める。

「私は、もう躊躇しない。ナギや伊澄……どんな相手でも殺す。そして私は「王」となる!」
夜空の言葉にヒスイは返答すると、ナギから渡された全快点滴パックを取り出す。

《……フ、それでこそあなたね。……負けは許さないわよ》
ヒスイの躊躇を捨てたケツイに夜空は姿を消す……

☆彡 ☆彡 ☆彡

全快点滴パック を一つ内服し終わると腰を上げる。

ダメージ並び疲労が全回復したのかヒスイの顔つきに笑みが浮かぶ……

「さぁ!勝者は私だ!!」

初柴ヒスイは闘いをやめない。王座を掴むまでーーーーー

【C-2/草原/一日目 早朝 】

【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 武見内科医院薬セット@ペルソナ5 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.次の闘いへ向かう
2.王となるのは私だ。
3.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――
4.次に出会ったときナギと決着をつける…どちらかの死で。
5. 誰が相手でも躊躇しない
※ナギと次会ったときは決着をつけます。
※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。

【支給品紹介】
【サタンの宝剣@はたらく魔王さま!】
エミリアが砕いたサタンの角からつくられた魔剣。真奥貞夫を魔王サタンの姿に戻すほどの魔力を宿しており、手にした者にその魔力を供給する。鞘に収まっている間は魔力の供給は起こらないが、常人には鞘から抜くことすらままならない。

【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合しているが、天王州アテネと融合したキング・ミダスの英霊と同じように不可逆的な破壊が可能だと考えられるため、状態を整理しやすいように道具欄に記載してある。その形状は上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕であり、現在は下段の右腕が粉砕された。残りは3本

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×2 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   ナオール錠100mg×2 ダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 ダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

376この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:13:02 ID:JHHrRQ9E0
☆彡 ☆彡 ☆彡

ヒスイが休憩をしていた同時刻。
別の波止場を歩く九郎。

「…いないか」
(岩永のことだから、もしかしたら……と思ったけど)

九郎は岩永琴子並びに弓原沙希と共通している『真倉坂市工事現場』へ向かっていたが、進行上の近くに『港』があるため、Cー1へ寄り道をしたのだ……

(港……紗季さんとは結びつかないけど、岩永とは縁があるからな……)
それは、とある港町での事件ーーーーー
人形が電撃を放ち魚を殺すというなんとも鋼人七瀬に劣らない内容の事件。
それは、人の願いが捻じられたために起きた悲しき事件ーーーーー
そして、その事件は岩永琴子が【可憐にして苛烈】が強く現れた事件でもある。

もちろん、地図上の港がその港町とは限らないわけだが、九郎はもしかしたらと思い、寄り道をしたのだがーーーーー
(結局、無駄足に終わったな……予定通り、工事現場へ向かうとするか)
港をぐるりと見渡すが、残念ながら九郎の探し人は見当たらず、水波がただ、静かに音を鳴らしている……

(それにしても……)
九郎は自分の両掌を眺める……

(公園で爆死した時……掴めなかった)
九郎は先ほどの負け犬公園で伊澄による【撃破滅却】で殺された時のことを想起する。

(再生する時、未来が一本しか視えなかった……)
桜川九郎は2つの妖怪の能力、人魚の【不老不死】と件(くだん)の【未来決定能力】を有する。

未来決定能力ーーーーー言葉通りならなんとも素敵な能力であると100人中100人が思うだろう。
しかし、その能力は【一度死ぬ】ことが前提とされる能力。
つまり、くだん(運命決定能力)のみでは、意味をなさない。
人魚の【不老不死】とセットで能力の価値を高める。

(未来はいつも未知で未定となっているはず…)
そう、未来は未知で未定なのだが、先ほどの死で見えた未来は【一本】しか視えなかったーーーーー【その場で蘇る】というただ一本のみ。

(視える未来が一本だけなら、くだんの能力はまるで意味をなさない)
本来、未来にある無限の分岐を一本にしてしまえるのが予言獣くだんの力。
だからこそ、桜川の当主はその能力を欲したのだ。
たとえ、自らの血を分けた縁の者の命を多く失うとしてもーーーーー

それが、到達点が一本しかないのなら、運命決定力はなんの意味もなさない。

(もしかして、くだんの能力が封じ込められているのか?それが六花さんが今回、企んでいることなのか……?)
九郎は波止場に腰を下ろしながら、思考するがーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

(ふぅ……やはり、まずは岩永との合流が先決だな)
改めて、岩永琴子の頭脳が必要だと感じた九郎。
ケツイを改めて深めると腰を上げ、歩きだす。

(はじめは、茶番だと思っていたがくだんの能力を封じているとなると、この不老不死も、もしかすると何かしらの制限をかけられているのかもしれない……だとすると安易に死ねないな……)

この殺し合いが茶番ではなくなったかも知れないーーーーー九郎の脳裏に一抹の不安が生まれた。

【C-1/港/一日目 黎明 】

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:真倉坂市工事現場に向かう
1.桜川六花の企みを阻止する。
2. もしかして不老不死にも何か制限がかけられているのか?
※件の能力が封じ込められていることを自覚しました。
※不老不死にも何か制限がかけられているのではないかと考えています。

377この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:13:15 ID:JHHrRQ9E0
投下終了します。

378この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:40:17 ID:JHHrRQ9E0
毎回すみません…
先ほどの「この両手でつかめるもの」ですが、
ヒスイの時間帯ですが、ほむらと茅野の時間帯が黎明だということを失念しておりました……
【C-2/草原/一日目 早朝 】 ではなく、【C-2/草原/一日目 黎明 】に修正します。
他にも何かありましたら修正いたします。

379 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/04(日) 22:31:18 ID:s39JiUsk0
投下お疲れ様です!
ヒスイにとってやはり夜空は特別な存在。自身の四肢欠損は大して気にしなさそうなヒスイですが、夜空の一部を失うことは独白話を使って感傷に浸るの、好きです。やはりヒスイの性格、パロロワに映える。ところで、対話まで果たしたことでいよいよ夜空がヒスイのペルソナじみてきた……w

九郎の不死能力の扱いについては主催側に六花さんがいる以上どこまで制限していいのか(できていいのか)が難しいところだと思いますが、少なくとも未来決定能力は無制限に使えると悪用し放題なので、人魚の肉の方はぼかしつつくだんの能力だけを狭めた丁度いい落としどころになっていると思います。何が起こるか分からない認知世界で、制限について警戒を始めたのも九郎にとってはかなり大きいかなと。

ところで、今回の話で全キャラが黎明に突入しました。第一回放送も目前に見えてきました。書き手・読み手の皆さんに感謝を申し上げると共に、これからも、どうか本企画をよろしくお願いします。

380 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/07(水) 22:25:34 ID:JpbYaLf60
芦屋四郎、霊幻新隆で予約します。

381 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/09(金) 16:27:16 ID:DmDiXeiE0
感想ありがとうございます!

この両手でつかめるもの
原作のヒスイが力を授けて消滅した夜空に放った「礼はいわんぞ」が好きで(本当はお礼をいいたいはずなのに)、今回、感傷に浸ってもらいました(今後、激戦が続きそうなので)
自分も書いていて、夜空ペルソナじゃね?と思っちゃいました(笑)
九郎君はそうなんです。主催者側に六花さんがいるので、扱いがどうしても……また、話の核となりそうな虚構推理の九郎君とおひいさまは2zEnKfaCDc様の考えもあると思うので、どうかな?と思ったのですが、今回、丁度いい落としどころといっていただきほっとしました。
放送後は死者が知らされるので、色々な参加者の反応が今から気になります。

382 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:01:12 ID:9.SMMfhs0
投下します。

383100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:01:35 ID:9.SMMfhs0
ㅤトールと別れた霊幻と芦屋は、当初の予定通りに『霊とか相談所』を目指し住宅街エリアを歩いていた。

 実際のところ、霊幻は少しばかり弁の立つ人間に過ぎない。特殊な科学技術など持ち合わせていないし、漫画みたいに首輪の解析や精密機器のハッキングなんてとてもじゃないが出来やしない。機械に疎いらしい芦屋よりは幾分かはマシだろうが、それでも専門外もいい所だ。せめて仕事に使っているパソコンがあればいいのだが、現実的に考えればそれも望み薄だろう。それに何なら、通信機器ならば他の施設にもあるかもしれないし、もしくは霊とか相談所含めどこにも無いかもしれない。

 ただ、相談所の名が示す通り、霊幻の元には日々幾つもの問題事が持ち込まれていた。中には本物の霊能力案件もあるが、ほとんどはマッサージや会話などで解決可能だ。何か問題に取り組む際は事務所で考えることがもはや霊幻のルーティンワークとなっている。

ㅤ……と、つまるところ霊とか相談所を目指す理由としては験担ぎ程度だ。必然性なんてさしてありはしない。少しでも合理的な理由があればすぐさまそちらへ乗り換えることも厭わないだろう。

「僭越ながら……」

「ん?」

「『マグロナルド幡ヶ谷駅前店』に立ち寄ってもよろしいでしょうか。魔王様がいらっしゃるならばここの可能性が高いので。」

「おう、いいぞ。」

ㅤだから、そこで断る理由も特に無かった。厳密には、理由はあるがそこは口約束でカバーできる範囲。

「だが俺も命がかかってるんでな。せめて寄り道中は、24時間の期限は停止しておけよ。」

「ええ、もちろんですとも。」

ㅤ24時間の期限。それを過ぎれば、芦屋は真奥を生還させるために他の参加者を殺す。その対象は霊幻とて例外ではない。寄り道をするということはそれだけ霊幻が生き残る道を探す時間が減ることに繋がるのである。

「それにしても……霊幻さんは打算的な方なのですね。」

「お、皮肉か?」

「いいえ、むしろ褒め言葉と受け取っていただければ。」

「そいつはどうも。」

ㅤ乏しい家計を握る芦屋は、時給をきっちりいただくことだけは何があろうと譲れない。逆に、自分のことであっても時間を設定した側としてそこにルーズであることは許さない。その点、霊幻も似た性分である。互いにそういう人物であると共有できているのであれば合意もすんなり形成できるし信頼にも足るものだ。

ㅤこういったやり取りを繰り返している内に、霊幻にも次第に見えてきている。当初トールとやいのやいの言い合っていた芦屋も、ゆっくり話してみれば割と理性的な奴だ。何が利で何が損か、冷静に分析せずにはいられない性分をしている。それを霊感商法に利用しているかどうかの差はあるかもしれないがかなり自分と似たタイプだ。

「なあ、アンタの言う魔王様ってのはどんな奴なんだ?」

 逆に、芦屋ほどの奴を感情的に突き動かす真奥とやらにも少しばかり興味が沸いた。数秒後、霊幻は後悔することとなる。

「それはもう素晴らしい方です。」

ㅤキラキラと目を輝かせて語る芦屋。ああ、こいつ本当、真奥って奴のことになると語彙力が低下するのな。

「紛れもなく王の器というものですよ。こんな催しさえなければ、エンテ・イスラの支配――いえ、日本を含めた世界征服をも必ずや、実現してくださっていたでしょう。」

「……へぇ、ソイツは一度お目にかかってみたいもんだな。」

ㅤその気迫には霊幻も気圧される。尊敬というよりも崇拝の域。下手に否定しようものなら普通以上に怒らせてしまいかねない。名簿の顔写真を見るに真奥は大人――いい歳して世界征服などを本気で考えている真奥に若干の不信感が芽生えるも、持ち前の処世術で当たり障りなく回答する。

384100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:02:17 ID:9.SMMfhs0
「もちろん私としても早々に合流したいものですよ。ですからこうして魔王様のバイト先に向かっているのです。」

 さっきまで世界征服がどうとか言ってたのにバイトかよ……と心内でつっこむ霊幻。ちなみに仮に口にしていても、芦屋もそこについては同意見である。何はともあれ間もなく、二人はさしたる弊害もなくマグロナルド幡ヶ谷駅前店に到着した。警戒しながら自動ドアを通り抜け、入店する。

 芦屋の知る限り、イートインスペースは入口から見て死角。こちらの来店はドアの音で伝わるため、誰かが潜んでいれば一方的に居場所を探られる。その可能性は考えた上で動かなくてはならない。それが、殺し合いの地で成すべき合理的判断。魔王軍の知将である芦屋は当然にそれを理解しているし、対人の危機察知能力の高い霊幻も含めそれを仕損じる二人ではない。

「――いらっしゃいませーっ!」

 しかし彼らが目にした存在は、すべき警戒すらも忘却の彼方に消し飛ばした。



ㅤ殺し合いという命の危機に瀕してみれば、それまでの平穏な日々と対比せずにはいられない。たまに外敵が現れることはあったが、闘争を良しとするエンテ・イスラに比べればバイトのシフトの入りで一喜一憂できる日々は平和といって差し支えまい。

ㅤしかし、もうあの日々には戻れない。戻るべきですらない。

ㅤ日本との繋がりがこのような形で切れてしまうことへの無念はある。魔力を取り戻した上でエンテ・イスラに帰還する機会は何度かあった。だけど、立つ鳥跡を濁さず、日本でやり残したことは少なからずあった。放って帰るには心が痛む友人がいた。人間関係がしがらみになって、離れる者を繋ぎ止める――それは悪魔には無い思考形態だ。なんの冗談か、悪魔が人間を模倣したのだ。

ㅤそして今、そのしがらみはもう無い。佐々木千穂は死んだ。仮に上手く誰も死なずに日本に帰れたとしても、第二の佐々木さんを出さないために、魔王様はこれ以降日本の誰とも関わることはあるまい。

ㅤ日本との関わりを絶つ覚悟ならすでにできている。家計のやりくりに四苦八苦するあの日々は、もう取り戻せないものであると解っている。

ㅤだから、有り得ないのだ。

ㅤ未来像から切り捨てたものを、佐々木千穂の存在を、今ここで目の当たりにするなんてことは。

「佐々木……さん……?」

「おい、なにが起こっている?」

 殺し合いの地に首輪をしていない人間が居て、店員の仕事をしているのは霊幻から見ても奇妙な光景だ。だが、それ以上に芦屋の驚き様は妙だった。幽霊を目の当たりにした依頼人がする表情と同じ、目の前の現実に常識を覆された人間の顔だ。ポーカーフェイスで嘘を吐くことに慣れていたはずの自分も、モブの超能力を初めて目にした時はそんな顔をしていたのかもしれない。

385100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:03:52 ID:9.SMMfhs0
「ご注文はお決まりですか?」

ㅤ少女――佐々木千穂の姿かたちをした認知存在は、笑顔のまま顔をこちらに向ける。メニューの端に小さく書かれた営業スマイルのマニュアル対応としては100点満点だろう。

「……姫神に首輪を爆破された、我々の友人です。」

「あ?」

ㅤ霊幻には、千穂の顔は『どこかで見たような』程度の認識でしかなかった。人が散見される中で突然吹き飛んだ少女の顔など、正確に覚えてなどいない。逆に、血飛沫が舞い散る首無しの胴体の方が忘れたいほど鮮明に脳裏に焼き付いている。

ㅤだが、芦屋は違う。友人として幾度となくお世話になった彼女の顔を――そして魔王様を筆頭に自分たちにのみに向けられるマニュアルとは違う笑顔を、忘れられるはずもない。

「……いえ、違いました。」

ㅤしかし、目の前の少女の笑顔は、いつかとは違う。自分にも霊幻にも一切の分け隔てのない、ただの営業スマイル。千穂を前にした芦屋の挙動に躊躇うでも心配するでもなく、ただただ機械的に業務を遂行している。

「こんなもの、佐々木さんじゃありません。」

 彼女は人間だった。決して、殺し合いの世界の一端を担うロボットのような存在ではなかった。

 目の前にいるのは今は亡き友ではない。人間として、『芦屋四郎』として接するべき存在ではない。不祥の表情に染まり切った芦屋の顔面には、次第に黒塗りの紋様が浮かび上がっていく。毒気のない清涼な顔付きは、悪魔としての悍ましさに染まっていく。

「……ただの人形です。」

ㅤ彼女の生を、否定する。佐々木千穂は死んだ。どれほど悲しくとも、悔しくとも、その事実を曲げることはできない。こうして動いて、喋って、そして当たり障りなく笑っていても、そんなものは彼女の生きた証すら貶める茶番でしかない。佐々木さんの能面を貼り付けた何かが、そこに在った。それが、佐々木さんとの数え切れない思い出を無理やり塗り潰しに掛かっているように思えてならなかった。

 無表情のままに振り抜かれた芦屋――否、アルシエルの腕は、少女の頭を吹き飛ばした。この殺し合いの開幕を告げた遺体と同じように、それこそが本来の彼女の姿だと己の心に刻みつけるかのように。

「……霊幻さん。」

 そして彼女を終わらせ、元の姿に戻った芦屋は、自分の行いを再確認するように、彼女の首を飛ばした右手をじっと凝視する。テレパシーなど使えなくても、他人の挙動から心を読むのが得意な霊幻には見える。その底にある感情は、後悔。そして自責。

「私は湧き上がる怒りのままに、彼女を模した人形を殺しました。」

 当然、その感情の原因は"千穂"を殺したことだ。

「人形なら壊したの間違いだろ。」

「私にとってはそうかもしれません。だけど、魔王様にとっては、亡くした友人の……いえ、もしかしたらそれ以上に大切な人の、唯一面影を感じられる残滓だったかもしれないのにっ……!」

 攻撃を受けた少女は、血を撒き散らすこともなく消失した。その挙動ひとつ見ても、芦屋が消した存在が霊の類であったことにもはや疑いはない。だから、芦屋は責められるべきではないのだろう。

 だが、降霊を願って霊とか相談所を訪れる依頼人がいたように、亡き人の形をした霊に価値を見出す者がいるのも確かだ。真奥とやらがどっちなのかは分からないし、それならば芦屋の思うところについても一理ある。感情的になる前に、一度熟考すべきだったのは間違いないのだ。しかし霊幻からすれば『佐々木さん』とやらの姿をした霊がどれほど芦屋に違和感を与えたものなのかも不明だ。冷静さを欠くのも仕方がない程度には生前の彼女を冒涜するようなものだったのか、分からない。

 嘘八百を並べるにもリサーチは欠かしてはならないのが霊感商法の基本だ。信用、ただそれだけを武器に生きる霊幻は露呈すれば即座に信用の株が崩れ落ちる嘘を安易に用いるわけにはいかない。だから佐々木さんについて何も知らない以上、迂闊なことを言うべきではない。分かっている。分かっているのだ。

386100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:04:31 ID:9.SMMfhs0
「――心配ねえよ。」

 だというのに、気付けば口をついて出ていた。不用意なひと言、炎上のもと。しかしもはや後悔先に立たず。すでに賽は投げられたのだ。

「『不気味の谷』といってだな、人形とかロボットとか、人の形をしたもんはリアルになればなるほど生理的に受け付けなくなるもんだ。お前だけじゃなく、人類が共通して抱く心理学の権威に裏付けられた思考形態だよ。」

「しかし、我々は悪魔であって……」

「……は?ㅤ現にお前、異物感覚えて消し飛ばしてんじゃねーか。」

 これまでのどの言葉よりも荒々しく、しかし正しい一言だった。

「いいか、オメーが悪魔だろうがドラゴンだろうが知ったこっちゃねえ。霊能力者や超能力者がいるように、そういうのもいるもんだってことで流しといてやるよ。」

 人間の形をしたものを消し飛ばしたのを目の当たりにした上で、芦屋の中の悪魔の力をそういうものだと軽く流した。この地点で、芦屋と霊幻を隔てるものは何も無い。

「だがな、勘違いすんなよ。そういうちょっとした感覚においてはどう足掻いても凡人なんだよ。特別でも何でもねえ。」

 芦屋は、人間を知らない。知ろうともしていなかったし、そしてそれ故に、かつてエンテ・イスラの侵攻に失敗した。だからこそ、霊幻の語る人間に対して何も言えない。悪魔として認知存在を殺した自分が、人間的な思考に囚われていたことなど、考えてすらいなかった。

 そして、思う。悪魔の誇りを捨てたかのように俗世に交わろうとしていた魔王様も、霊幻と同じことを考えていたのではないだろうか。悪魔の力を度外視した時、自分に何が残っているか。他の人間と、何が違うのか。それを見定めるために、『人間』として生きていたのではないか。

 霊幻にとっては勢いで言った言葉であったが――芦屋には、長きに渡る疑問に解が与えられた心持ちであった。

「……すみません、取り乱しました。おっしゃる通りです。」

「分かりゃいい。さて、行くぞ。」

 最後に二人は、奇襲に警戒しつつイートインスペースへと向かう。今の騒ぎで出てこない辺り、友好的な人物はおそらく居ないのだろうが、しかしせっかく立ち寄ったのだ。念には念を入れるに越したことはない。

 認知存在との別れ。それ即ち、芦屋にとっての佐々木千穂との完全な決別。他人と永遠の別れの後に『もう一度』が与えられることなど有り得ないのだ。それは、否定して然るべき邂逅なのだ。

 だが――少なくとも一度目は、有り得るものだ。そしてここが殺し合いの世界であると、六時間前には知っていたはずなのだ。



ㅤこの殺し合いにはモブが呼ばれている。その地点で殺し合いのパワーバランスの上限には少なくともモブクラスの超能力者が設定されていると分かる。芦屋やトールも悪魔だとかドラゴンだとか、底が見えねえ。まあ、俺よりよっぽど上なのは間違いないんだろうな。んで、パワーバランス最底辺がおそらく俺だ。

ㅤもしかしたらモブより強い奴もいるかもしれねえし、俺が小突いただけで死ぬような奴もいるかもしれねえ。だが、単体戦力の振れ幅は"最小でも"モブから俺まではあるってことだ。そして仮にモブが全力で殺しにかかってくれば俺は息をする暇もなく死ぬ。

 つまりこの世界じゃ、誰が死んだっておかしくないんだ。格下の誰かを一方的に嬲り殺せるだけの力を誰かが持っていたとしても、俺とモブのパワーバランスの振れ幅の範疇と言える。『この世界には実力が同じくらいの奴が招かれているとは限らないんだし、仕方ねえよな』と、言えてしまうのだ。

 ん、長々と悪いな。目の前の光景を自分に納得させようとしているんだ。まあ……こういうことだってあるんだろうなって、そう思える理屈を何とか探しているんだ。まあひとつ言えることは、ここで焦っているのはただただ俺の落ち度だな。名簿を見て、モブの名前を確認した時から、これはありえる未来として想像しておかないといけないことだったんだろうよ。

「おいおい、マジかよ……。」

 平静を取り戻した芦屋と共にイートインスペースに向かい、そして直面したのは、影山律――モブの弟が、死んでいた。

387100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:04:56 ID:9.SMMfhs0
【E-6/マグロナルド幡ヶ谷駅前店/一日目 早朝(放送直前)】

【芦屋四郎@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら真奥貞夫を優勝させる。
一.魔王様はご無事だろうか……。
二.魔王様と合流するまでは、協力しつつ霊幻さんを見定めましょう。

※ルシフェルとの同居開始以降、ノルド・ユスティーナと出会う以前の参戦です。

【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝以外の帰還方法を探す。
一.俺の事務所で情報収集できりゃいいんだが。
二.モブたちも探してやらないと。
三.律が死んでるのかよ……
※島崎を倒した後からの参戦です。

※認知存在・『ササキチホ』が消滅したことで、マグロナルド幡ヶ谷駅前店での参加者に対するマグロバーガーの供給が停止しました。

※パレス内で参加者が死んでもその人物の認知存在は現れません。

388 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:05:10 ID:9.SMMfhs0
投下完了しました。

389 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/14(水) 20:59:42 ID:itZzWKOU0
投下お疲れ様です!

100円スマイルの少女人形
新隆と芦屋の関係は、時間と言う制約がありますが、やはり良いなと個人的にすごく思います。
認知存在とはいえ「ササキチホ」の首を刎ねたことに対する芦屋に解を与えた新隆は、勢いとはいえ霊感商法をしてきている経験があるからこそなんだなと思いました。
「だがな、勘違いすんなよ。そういうちょっとした感覚においてはどう足掻いても凡人なんだよ。特別でも何でもねえ。」
↑の特に「凡人」はモブを間近に接してきている新隆が言うと重みが増しますね。
 認知存在との別れ。それ即ち、芦屋にとっての佐々木千穂との完全な決別。他人と永遠の別れの後に『もう一度』が与えられることなど有り得ないのだ。それは、否定して然るべき邂逅なのだ。
↑ここの一文は色々と考えさせられ胸にくるものがありました。
そして、ついに律の…と対面。
新隆は何を想いどう動くのか…楽しみです。

三千院ナギ、モルガナ、鋼人七瀬で予約します。

390 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/16(金) 02:15:04 ID:Nl7Q7Kww0
高巻杏、刈り取るもの、小林トール、上井エルマ、美樹さやか、赤羽業で予約します。

391 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:47:43 ID:Mpg4reLw0
投下します。

392バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:49:27 ID:Mpg4reLw0
火炎放射器ーーーーー水の代わりに発火した液体燃料を噴射する巨大な水鉄砲
航空軍事用語辞典++より引用

「……」
私は両手を合わせて捧げるーーーーー

「……」
黙とうをーーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー黙とうを捧げる前ーーー 三千院ナギ

ーーーザッ

「ここは……」
ヒスイとの闘いを生き抜いた私とモナはヒスイが歩いてきたであろう東を歩いていた。

「闘技台だな」
そこは、まるで古代ローマのコロッセウムを彷彿させるような建物。

「……大丈夫かナギ?」
おそらく、私の歩みが遅くなってきたのに気づいたのだろう……モナが話しかけてきた。
私は心配させたくないからーーー

「あ…ああ。大丈夫だ……ふふん♪モナも見ただろ?○ッチの○也にも負けない私の大リーグボールを!星○馬には悪いが私が巨○の星だ!!」
強がった。しかし、正直疲れている。
それもそうだ。ハヤテと出会う前は50m走を走っただけでへばってしまうほど、極度の運動音痴。そんな私がいくら、ヒスイに威勢のいい宣言をしてもそう、体が急に適応できるはずがない。

「……入るぞ」
私はやせ我慢しつつも短くモナに移動を促した。
それには理由があるーーーーー

「ナギ…そこの猫の言う通り、私は姫神側の人間で、既に参加者を一人殺した――――」
先ほど闘った幼馴染のヒスイが放った脳裏から離れない言葉。

なぁーーーヒスイ、嘘だろ?お前が人を殺したって?嘘に決まってるよな?私に発破を掛けるつもりで言ったんだろ?

泣き虫で煮え切れない私のためにーーー
私は藁にも縋るようにヒスイの殺人を否定して闘技台に入った。
そこで目にしたのはーーーーー

ーーーーー闘技台の中央に仰向けで斃れている男の死体だった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

393バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:52:17 ID:Mpg4reLw0
ーーー黙とうを終えてーーー 三千院ナギ

「……」
名簿を見ると、名前は烏間というそうだ。
正直、名簿に載せてある目つきが怖いが、この損傷を見る限り、殺したのはヒスイだろうーーーー

「なぁ、モナ」
私はモナに提案をする。たとえ、それが自分を危険に晒す可能性が上がるとしてもーーー

「……どうした?」
私と一緒に黙とうをしていたモナは私の雰囲気を感じ取ったのか静かに次の言葉を待ってくれている。

「この、烏間……という男だが、このままでは不憫だ……簡単でいいから墓を作ってやりたい」
私の言葉にモナは難色を示す。

「……ナギ。気持ちは分かるが、ここで、疲労を重ねると、さっきのヒスイのような殺し合いに乗った人物が襲い掛かってきたら、一網打尽にされる恐れがある。それに……ナギも会いたい人がいるんだろ?」

正論だ……モナが言っていることは私にも痛いほど伝わる。
もし、こうしている間にハヤテやマリアの命が奪われたのだとしたら私は一生後悔をするだろう。
だけどーーー

「わかっておる!!」
モナは悪くない。だが、私は声を大きく張り上げるーーー

「こうしている間もハヤテやマリア……伊澄にヒナギクにハムスターと私の大切な人の命が危険にさらされているやも知れない!だけど!!この烏間を殺めたのは私の幼馴染なんだ!!!だから、私がアイツの代わりに供養してやらないと!!!!」
正直、烏間という男がどういう男かは私にもわからん。
目つきがちょっと怖いし、もしかしたら悪い男だったのかももしれない。
だが、烏間を殺したのはヒスイ。私の幼馴染だ。
だからこそ、私が供養してやらねば……放送が流れれば、おそらく、こうしたこと(墓づくり)はもうできない。

「頼む……我儘をいうのはこれっきりだ」
そう言い終わると私はモナに頭を下げた。

「「……」」
「たく…しょうがねぇなー」
モナは頭をポリポリとかいてーーー
「よしッ!善は急げだ!!さっとやっちまおぜ!!」
ーーーありがとうモナ。

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー墓づくりを終えてーーー モルガナ

「はぁ…はぁ…はぁ…」
一旦、外へ出て烏間の墓を作り終えたワガハイとナギは疲労を回復させようと乱れた呼吸と体力を回復させようと闘技台の中へ戻り、休憩をしている。

……チラッ
(ナギの奴……精神的にも参ってやがる……)
幼馴染が殺した男の墓づくり、体力・精神どちらも負担は軽くはないはずだ……
何かいいのはないか……
(そうだ!たしかワガハイの支給品に……)

「これでも、聴いてみるか?」
ワガハイはナギに支給品のCDを渡した。

「これは何なのだ?」
キョトンとした顔で受け取る。

「なんでも、このCDを聴くと「火炎ゴッドファイアー」とかいう必殺技を会得できるらしい」
ーーー桜川六花という人の字でCDに付属していた紙にそう書いてあった。
ちょっと嘘くさいが、ナギの気分転換になればいいとワガハイは薦めた。

「おお! 」
案の定、ナギの目が曇りから漫画のヒーローが新しい必殺技を披露するのを期待に満ちた目に代わりやがった。

「モ…モナ!早く、私にそのCDを聴かせるのだ!!」

「そんなに慌てんなって!え〜と、ラジカセもセットだったな……)
ワガハイはナギに急かされつつもザックからラジカセを取り出すとーーー
ガチャ!……CDが再生される。

ーーー火炎放射とわたしーーー
完全燃焼しよ☆
ららら 防犯ベルの一種です バーニーング
背中のタンク 純情な 乙女の嗜みです♪
だって 命を差し出す〜 覚悟切り〜
だって とうぜんお持ちでしょ〜
ごめ〜んね 鳥があおほど ひいちゃった♪
アチチの痛み メララの快感を全部〜♪
分け合いたいの 一緒に!
お願い 叶えて石油王♪
あなたの夢をも 焼き払い〜
まる焦げで ごめんなさいの あとさらい〜
お願い いいでしょ 耐熱〜
愛は裸になれること♪
炙り〜(炙り〜)尽くして(尽くして) 火炎放射器で 完全燃焼しよ☆
チャチャチャ♪ チャチャチャン♪♪

394バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:54:18 ID:Mpg4reLw0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー青春火吹き娘ーーー 三千院ナギ

「「……」」
な、何なのだ!?この国会○事堂や金○寺が燃えている前で可愛らしく踊る魔法少女のような歌詞は!?
リリカル・トカレフ・キルゼムオールみたいな魔法でも使うのか!?三千院奥義書でも、もっとマシな技が書かれているはずだ!……たぶん。

「ま…まぁ、これでナギも必殺技を会得できたってわけだ……」
おい、モナ。そうはいっておるが、腕組みしながら渋い顔をしておるではないか!!

「おい。本当にこれで会得できたのか?」
ラジカセからCDを取り出すと、ラジカセをザックに仕舞いつつ私はモナに疑問を投げかける。

「あ…ああ。そのはずだ」
(火炎放射器……パレスの力なら具現化できてもおかしくないが……)

「どうにも胡散臭い……」
(火炎放射器を使う女……肉体言語だな)

私とモナはそれぞれ、【火炎放射器を扱う女】を【想像】した。

「ん?」
ふと、何か気配を感じ、その方向へ目を配るーーーすると。

ズズ……

突如、靄のようなものが私たちの前に現れたかと思うと人の姿に変わった。
その人物は女性でなんと、バカでかい鉄鋼を片手で持っているだけでなく背中には「火炎放射器」を背負っていた。

「一体何なのだ!?あの「汚物は消毒だ〜」と叫びそうな女は!?」
(それに、あれは火炎放射器ではないか!?)

まるで、先ほどのCDの歌詞に出てきた女のようだーーー
「やべぇ!ここは一度、退くぞ!!」

モナの提案に賛成の私はそのまま闘技台の外へ向かおうとする…が

「……!!」
潰れたのか顔が見えない女は私とモナの前へ一瞬に移動した。

「ナギ!!離れろ!!!」
ボォォォオオオオオオオ!!!!!!
モナの言葉と同時に女は焼き払うかの如く、火炎を勢いよく噴射してきた。

「うわぁああ!」
「あらよっと!」
危なかった!モナの言葉がなければ、私は炙りつくされてもおかしくなかった。
膝を擦りむいて痛いなどと言ってはいられない。

(くそっ!火炎が激しくてあの女に攻撃できない!!)
モナはどう攻撃をするべきか悩んでいるようだった。

「モナ!あそこの壁に攻撃しろ!!」
「そしたら、ガルーラをして、後ろの壁も同様にだ!!」
「!?」
(一体!?……へっ!ナギが自信満々に指示を出したんだッ!!乗ってやるぜ!!!)
「よし!任せろ!」

そう、それはーーー
ーーー駒捌きーーー

「意を示せ!ゾロ!!」
モナの言葉に応じたペルソナは風を舞い上げ、私の指示通り女ではなく、壁に攻撃を仕掛けた。
ゾロの怒涛の攻撃に闘技台の壁は崩れ落ち女に降り注ぐ。

「……!」
当然、女は攻撃を中止し、先ほど見せた超スピードで私たちの後ろへ回り込む。
火炎放射器は燃やした液体を【直線状】に出すのが特徴ーーーつまり、攻撃を避けた後、私とモナを確実に炙りつくすには、後ろへ回り込むのが定石だ。

「……」
再び、火炎放射器で私たちを狙いに定めると炎を放つがーーー

「ガルーラ!」
モナのペルソナが起こした勢いのある風は火炎放射器の炎を殺す。
そして、風の勢いは火炎だけでなく女をも吹き飛ばす。

「引導を渡す!」
場所は違えど再び、攻撃による瓦礫の落下。
火炎放射器による攻撃中かつ吹き飛ばされた状態で避けることはできずーーー

ガラガラガラガラ!!!!!!
女は私の予想通り瓦礫の山に埋もれた。

「うむ!チェックメイトだ!!」
「撤退撤退てったーい!」
無理は禁物。モナと共に急いで闘技台から逃げ出すーーー

395バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:55:24 ID:Mpg4reLw0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー モルガナ

「はぁ…はぁ…」
おかしいーーー追いかけてこない?
てっきり、追いかけてくるかと思ったが火吹き娘の姿は見当たらなかったーーー

「……」
(あれで、仕留められる相手じゃないが……)
あれこれ考えても仕方がないな……ワガハイとナギは温泉と書かれた旅館へ辿り着いた。

「そろそろ放送も流れる。一度、温泉で休憩しながら聴くとするか……」
本格的な戦闘ではなかったとはいえ、ヒスイに鋼人七瀬と主催側のジョーカーともいうべき存在との連戦はナギの限界を迎えていた。
放送も流れる頃だ。
ワガハイはナギに提案をする。

「あ……ああ。そうしよう。私ももうこれ以上は走れん……」

(案の定、疲れ切ってるな……よし、ナギの奴に労いをかけてやるか)

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
ワガハイはそう言いつつ手を挙げる。
ワガハイの意図に気づいたのかナギは苦笑しながらーーー
「フン。当たり前だ!私の指示なのだから!!」

ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。
ピリピロリン♪
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが5に上がった!

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー 三千院ナギ

私とモナは火吹き女から逃げ切ると温泉旅館へ辿り着いた。

(全く……何なのだ!何なのだ!!あの女は!?)
私はあの名も分からぬ火吹き娘に憤慨する。
その横でーーー

「そろそろ放送も流れる。一度、温泉で休憩しながら聴くとするか……」
モナからの提案。
私は疲れ切っているのもありーーー
「あ……ああ。そうしよう。私も、もうこれ以上は走れん……」
賛成した。

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
モナは手を挙げている。
なるほど、モナの意図に気づく私。
(モナめ。私を労わろうと……ふふ)
つい私は苦笑すると同様に手を挙げてーーー
ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。

放送ーーーーー死者の名前も知らされる。

「……」
(なぁ、ハヤテ……マリア……死んでいないよな?大丈夫だよな?)
私は、不安を抱きつつも疲れた体と心を休めようと旅館の扉を開いたーーー

396バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:55:37 ID:Mpg4reLw0
【B-5/温泉/一日目 早朝(放送直前)】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大) 不安(小) 膝に擦り傷 手の爪に砂や泥
[装備]:CD火炎放射器と私@虚構推理
[道具]:基本支給品 CDラジカセ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつける
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!……生きているよな?
4.烏間なる人よ……成仏してくれ
※モルガナとのコープが5になりました。以下のスキルを身に付けています。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。
【支給品紹介】

【火炎放射器と私@虚構推理】
モルガナに支給された音楽CD。鋼人七瀬の生前……七瀬かりんが主演に抜擢されたドラマ青春火吹き娘のOPソング。
実は桜川六花により、再生をして生まれた想像によってパレスの力と合わさり鋼人七瀬が強化されるようになっていた。なお、お詫びのつもりなのか再生するためのラジカセは付属品扱いとして支給されている。

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】※ヒスイに渡さなかった分
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×1 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   タケミナイエールZ×2 味方全体のダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 味方全体のダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)疲労(中) SP(低)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?
3.ここで一度休息も兼ねるか……
※ナギとのコープが5になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は放送毎に補充)

397バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:55:54 ID:Mpg4reLw0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ガラガラと音を立てながらも瓦礫の山から這い出た火吹き娘……ならぬ鋼人七瀬。

「……」

このまま、ナギとモルガナを追うのか、別のエリアへ行くのかわからない……が、一つだけわかるのは想像力の怪物が取るべき行動は何も変わらない。

参加者の襲撃ーーーーーそれが自身に課せられているのだから。

【B-3/闘技台/一日目 早朝】
【鋼人七瀬@虚構推理】
[状態]:ダメージ(極小)
[装備]:鉄鋼@虚構推理 火炎放射器@虚構推理
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の襲撃

※パレスの認知と桜川六花の虚構が混ざり存在している。ただの物理攻撃では倒せない。
※致命傷を与えられると、靄に包まれ、別のエリアへ移動する。
※噂や想像が鋼人七瀬に影響を良くも悪くも与えます。
※CD【火炎放射器と私】により、火炎放射器が装備に加わりました。
※その他の状況はまだ不明。

※B-3闘技台の外に烏間の墓(簡易)があります。

398バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:56:08 ID:Mpg4reLw0
投下終了します。

399 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/18(日) 18:49:42 ID:OK/kbbbU0
投下お疲れ様です!
鋼人七瀬の殺傷力が単純な打撃だけではなくなってしまった……
原作の鉄骨をぶん投げる想像も厄介な方向に進めていましたが、九郎のタンク無しで挑むのはかなりキツい相手に仕上がってきてるんじゃないでしょうか。

ところでこのまま採用するには1点気になったのですが、黎明時に工事現場(B-2)にいたナギとモルガナが闘技台での烏間の埋葬にかかる時間やCDを聴く休憩を経て早朝の放送直前に温泉(B-5)まで辿り着いているのは、ナギの運動能力の無さを考えれば、仮に黎明開始時から4時間丸々使っていたとしても少し速すぎるかなと感じました。恐縮ですが、最終位置をB-3か4辺りに見直ししていただけると助かります。

400バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:27:28 ID:Mpg4reLw0
ご指摘ありがとうございます。
最終位置の見直しをいたします。
次作以降は移動距離をもう少し考えていきたいと思います。

401バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:35:04 ID:Mpg4reLw0
修正を投下します。

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー モルガナ

「はぁ…はぁ…」
おかしいーーー追いかけてこない?
てっきり、追いかけてくるかと思ったが火吹き娘の姿は見当たらなかったーーー

「……」
(あれで、仕留められる相手じゃないが……)
あれこれ考えても仕方がないな……ワガハイとナギは草むらで汚れるのを覚悟で座り込んだ。

「そろそろ放送も流れる。一度、休憩しながら聴くとするか……」
本格的な戦闘ではなかったとはいえ、ヒスイに鋼人七瀬と主催側のジョーカーともいうべき存在との連戦はナギの限界を迎えていた。
放送も流れる頃だ。
ワガハイはナギに提案をする。

「あ……ああ。そうしよう。私ももうこれ以上は走れん……」

(案の定、疲れ切ってるな……よし、ナギの奴に労いをかけてやるか)

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
ワガハイはそう言いつつ手を挙げる。
ワガハイの意図に気づいたのかナギは苦笑しながらーーー
「フン。当たり前だ!私の指示なのだから!!」

ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。
ピリピロリン♪
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが5に上がった!

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー 三千院ナギ

私とモナは火吹き女から逃げ切ると、草むらに座り込んだ。

(全く……何なのだ!何なのだ!!あの女は!?)
私はあの名も分からぬ火吹き娘に憤慨する。
その横でーーー

「そろそろ放送も流れる。一度、休憩しながら聴くとするか……」
モナからの提案。
正直、草むらだと服が汚れるが私は疲れ切っているのもありーーー
「あ……ああ。そうしよう。私も、もうこれ以上は走れん……」
賛成した。

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
モナは手を挙げている。
なるほど、モナの意図に気づく私。
(モナめ。私を労わろうと……ふふ)
つい私は苦笑すると同様に手を挙げてーーー
ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。

放送ーーーーー死者の名前も知らされる。

「……」
(なぁ、ハヤテ……マリア……死んでいないよな?大丈夫だよな?)
私は、不安を抱きつつも疲れた体と心を休めようとしたーーー

402バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:37:19 ID:Mpg4reLw0
【B-4/草むら/一日目 早朝(放送直前)】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大) 不安(小) 膝に擦り傷 手の爪に砂や泥
[装備]:CD火炎放射器と私@虚構推理
[道具]:基本支給品 CDラジカセ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつける
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!……生きているよな?
4.烏間なる人よ……成仏してくれ
※モルガナとのコープが5になりました。以下のスキルを身に付けています。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。
【支給品紹介】

【火炎放射器と私@虚構推理】
モルガナに支給された音楽CD。鋼人七瀬の生前……七瀬かりんが主演に抜擢されたドラマ青春火吹き娘のOPソング。
実は桜川六花により、再生をして生まれた想像によってパレスの力と合わさり鋼人七瀬が強化されるようになっていた。なお、お詫びのつもりなのか再生するためのラジカセは付属品扱いとして支給されている。

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】※ヒスイに渡さなかった分
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×1 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   タケミナイエールZ×2 味方全体のダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 味方全体のダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)疲労(中) SP(低)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?
3.ここで一度休息も兼ねるか……
※ナギとのコープが5になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は放送毎に補充)

403バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:52:32 ID:Mpg4reLw0
修正の投下を終えます。

また、感想ありがとうございます。

バトロワ「青春!火吹き娘!」
七瀬かりんのアイドルの火炎放射器ネタは強化に繋がるなと思い今回書きました。
やはり、鋼人七瀬攻略には九郎君が必要不可欠になるかもしれませんね。

404 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/19(月) 20:36:14 ID:XZ3ne1VE0
修正投下お疲れ様です。
企画主としては『自作以降』を考えてくれているのが嬉しいばかりです。これからも是非ともよろしくお願い致します。

405 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/22(木) 18:16:56 ID:psL.Fs6Q0
申し訳ありません、予約延長します。

406 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:08:35 ID:clBd8qig0
今のところは前編だけですが、投下します。

407Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:10:15 ID:clBd8qig0
 こんなの、怖いに決まってる。

 悪い大人たちを相手にするのも、何故かモルガナの声を聞いた明智から捜査されているのも、殺し合いに巻き込まれたのも、全部、全部が怖い。

 ましてや敵はメメントスを徘徊するあの超強力シャドウ。これまでは次のフロアまで逃げていれば何事もなく終わっていたけれど、しかし今回ばかりはそうもいかない。

ㅤ命をかけて戦ってる人がいるから。刈り取るものという圧倒的強者を前にして、今にも掻き消えてしまいそうな弱き者の声が聞こえるから。それを見捨てて逃げるわけにはいかない。弱きを助け、強きを挫くは怪盗の美学。友人を傷付けた鴨志田への、そして自分への怒りから芽生えた反逆の意志。今もなおそれに従って突き進むからこそ、杏のペルソナは彼女と同じく、前を向く。

「ペルソナッ!」

ㅤ掛け声とともに杏の背後に顕現した影――カルメンはアギラオを放つ。その狙いは当然、刈り取るもの。業火が敵の身にまとわりつき、死神は僅かに仰け反る。

(効いてる!ㅤうん……私たち、強くなっているんだ!)

ㅤ今はもう、鎖の音を聴くだけでモルガナカーを全力発進させて逃げていた頃とは違う。怪盗団も世間に注目され、操るペルソナも強くなっている。

「まだまだッ!」

ㅤ追撃とばかりに、手にしたマシンガンを乱射する。その一撃一撃は刈り取るものに対し決して重くはないが、しかし着実にダメージを与え続ける。それを脅威と判断したか、はたまた偶然か、刈り取るものの銃口は杏に向かう。

「ヤバッ……」

ㅤ同じ銃という業物を持ってしてもその性質は異なる。連射に長けたマシンガンとは違い、刈り取るものの長銃はその一撃で確実に相手の命を奪う。片腕と片方の銃を落としていたとしても、弾丸一発の脅威は何も変わらない。

「私が……相手だぁっ!」

ㅤその時、射線上に割って入ったエルマの剛力から繰り広げられる斧での斬撃が、刈り取るものの長銃とぶつかり合う。力という分野においてはドラゴンの中でも最上級のエルマ。刈り取るものがどれほど高位のシャドウであろうとも、エルマのドラゴンとしての力が大きく制限されていても、単純な力では正攻法で敵わない。長銃を押し退け、そしてエルマは食らいつく勢いでもう一撃を加えんと迫る。

――空間殺法

「なっ……!」

ㅤ瞬時に、刈り取るものはエルマの背後に回り込んでいた。同時に、エルマの身体に刻まれる裂傷。

ㅤドラゴンという種族は、次元が違う。己の強さに絶対の自信を持っているため、基本的に搦め手を用いないし、用いるまでもない。魔法の中でも比較的簡単な部類である『認識阻害』ですら、覚えること自体が軟弱と見なされかねない。そしてエルマも、さほど極端でなくともその例に漏れない。良くも悪くも純粋であるが故に、『スキル』に対しても真っ向勝負で挑む。

408Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:10:55 ID:clBd8qig0
「痛ったあぁ……!」

 人の基準だとどう見ても痛いで済む傷では無いのだが、エルマがドラゴンであることが幸いしたか。図らずもエルマの肉体は『タンク』として機能する。

「今だああっ!」

ㅤスキルを使った直後の隙を見出し、さやかが前線に立つ。裏付けるは、先ほどの応酬から来る経験則に由来する一撃入れられることへの確信。

「……!ㅤ何かが来る!」

ㅤその時、戦場を俯瞰していたカルマからかかる制止の声。しかし、すでに前進を始めていたさやかは止まれず。

「なっ……!」

――ブフダイン

ㅤ刈り取るものを取り囲むように、歪に尖った氷塊が降り注ぎ、さやかの身に突き刺さる。上方からの攻撃はソウルジェムに命中することはなかったが、右肩に受け、剣が持ち上がらずに刈り取るものには届かない。

「大丈夫?」

「むっ……すまん、助かった。」

ㅤカルメンのディアラマでエルマの治療を終えた杏はその超人地味た耐久力に驚きつつも、さやかの治療に向かう。しかしさやかは無用途ばかりに左手を突き出して制止し、自身の魔法で右肩を癒す。回復、と言うよりもむしろ再生に近いと杏は感じた。機能不全に陥るほどの傷を容易く治癒している。癒しを願いとしたさやかの魔法は、杏の扱う備え付けの回復スキルよりも効果が高い。

「さぁて、もいっちょやっちゃいますか。」

ㅤそして、何事もなく戦線に復帰するさやか。回復スキルの使い手として、自身より優れたモルガナを知っている杏はそれに何の疑問も抱かない。エルマも人間の魔法使いの存在は知っている。この催しに招かれているだけのことはあり、只人とは一味違う能力の持ち主だ。

 しかし、刈り取るものはそれ以上に生物の規格を外れている。現状は誰も欠けることはなく、そして再び死線は繰り広げられる。アクシデントひとつで如何様にも崩れ得る危険な戦いだ。即死級の攻撃の合間に小さな一撃を当て続けなくてはならない。

 その場では、この上なく戦いの緊張感が張り巡らされていた。

409Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:11:23 ID:clBd8qig0


 争いは嫌いだ。人と人が勝手に争って、おいしいものを作れる人間がどんどん死んでいく。

ㅤだから私は、それを禁じた。聖海の巫女として人の上に立って、人の枠組みの中で調和を保った。それが正しいと思っていたし、何より彼らが持ってくる料理がとてもおいしかった。

ㅤ杏から聞いた、『心の怪盗団』の話はとても興味深かった。かつての私のように信仰を糧に平和を生み出そうとするのではなく、悪をもって世を正すという発想。混沌勢のようなやり方で、調和を導くというものだ。仮にそれが叶うのならば、ドラゴンの勢力争いの構図すらも一変させかねない。

ㅤ信じたいと思った。権能ある者によって選定された人柱が世の理に抗おうと言うのだ。威信無しに世を変えること、それは私がやろうとも思わなかったことだから。

(戦う理由はそれでいい。だが、勝てるかと言われれば……。)

ㅤこの戦いの中でもエルマは唯一、刈り取るものの多彩なスキルと渡り合っていると言える。しかしそれ以上に、刈り取るものの基礎能力自体がエルマを上回っている。

 杏もさやかも、力が一歩及ばずながら拮抗する戦局を耐え抜いている。

「……やっべ。俺、やってることかなり地味じゃね?」

ㅤそんな中、人の常識を超えたこの戦闘に、カルマだけが取り残されていた。

 敵に殺せんせーのようなどうしようもない速さがあるわけではない。しかしトライアンドエラーで挑める殺せんせーとは異なり、ここでエラーをしようものなら次はないのだ。

(しかもアイツ、なーんか速くなってるし。)

ㅤ杏とエルマが乱入した辺りからか、或いは腕を斬り落とした時からか、刈り取るものの攻撃の頻度は目に見えて上がっている。しかも、その原因が分からないときたものだ。腕を落とせば殺せんせーの触手なら弱体化するものだが、人智を超えたこの化け物にも当てはまるかは不明。

 分からないというのは厄介なもので、今が最大であるのかも不明である。これ以上速くならないという保証すらどこにも無いのだ。

 仮に時間経過で成長していく怪物であるとするならば、手が付けられなくなる前に何としても今ここで倒しておかなくてはならない。仮説の正しさの検証すらできないままに、逃走という選択肢は失われている。

(んー、渚くんがいっつも殺せんせーの弱点メモとってたのも今なら分かる気がするなぁ。)

ㅤ思い出交じりの考察を遮るように、刈り取るものの銃口がカルマに向く。

410Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:12:48 ID:clBd8qig0
「おっと。」

ㅤ飛び退いて乱射を回避。いつも殺せんせーの速度を追っているカルマ。それより遅い銃弾など、これだけの距離ならばまだ避けられる。だが、距離を詰めれば避けるのは不可能であるし、先ほど受けた超能力のような攻撃も連発されたら相当マズイ。

(やっぱ俺は指揮を執る方が向いているか。)

ㅤ魔法少女であるさやかは現にブフダインを耐えている。杏は背中によく分からないものを使役して戦っているし、エルマもあの攻撃を受けて五体満足ならば大丈夫だろう。だが、自分はただの人間だ。ちょっとした攻撃を受けようものならよくて致命傷、最悪の場合は死ぬ。全員生存を前提とするのならば、離れた位置で”ナビ”でもしているのがいちばんだ。

「……ってのは分かってるんだけどね。」

 カルマのその手には、支給されたメリケンサック。カルマの力で人に振るえば、文字通り他者を殺しかねない紛うことなき凶器である。そして、銃弾の届かない遠距離では無用の長物にしかならない武器。装備し、そしてお互いの射程距離内へと向かっていく。

「さすがに女の子三人に丸投げして高みの見物決め込むわけにもいかないもんね。」

ㅤ普段の暗殺とは違い、ここは命賭けの戦場。さやかだけならまだしも、他二人は安全地帯から指揮を任されるだけの信頼を築いていない。皆が命を懸けて戦っている中、一人避難して口だけ出している奴を誰が信用できるものか。特に自分は渚と真逆、何かにつけて謀を警戒されやすいタイプだ。自分が背後に控えているだけでも杏とエルマが戦闘ばかりに集中できない可能性もある。役立たずであるならまだいい。いや、プライドの問題で決してよくはないのだが、それでも毒にも薬にもならないのなら及第点だ。だが、人死にのある戦場で足を引っ張るのだけは御免だ。

「まったく、何でそこで格好付けちゃうかなぁ……。そんで?ㅤ作戦って何よ。」

 杏とエルマの乱入でなあなあになってしまったが、何か作戦があるとカルマは言った。(言語を解するかは不明だが)刈り取るものに聞かれず口頭で伝わる距離まで近づいてきたことでその話題を掘り起こすさやか。

「ん? ああ、あれナシで。」

「……はぁ!?」

「隙を見てアイツの銃口に何かしら詰め物でも詰め込んだら腔発起こして自爆してくれると思ったんだけどね、腕ごと斬り落とせる馬鹿力見せられちゃあ、そっちを頼りにするよ。」

「まあ、それはそうかもしれないけど……」

ㅤどんな作戦でも実行してやると息巻いたさやかとしては、どことなく毒気を抜かれた気分だ。

 例えば、水場で殺せんせーを襲撃したイトナに対し水を以て対抗したように。例えば、殺し屋スモッグの所持していた毒ガスをくすねてグリップを撃破したように。カルマは使えるものなら敵のものだろうが構わず戦術に組み込んでいく。そこには自分のものを利用されて負けた相手の悔しがる顏を見たいという悪趣味な思考の癖も兼ねているのだが、この局面でそれを優先する道理はない。

 エルマの怪力は使える、それがカルマの導き出した答え。実際、銃口にぴったり詰まるサイズのものを探し出すのもひと手間であるし、それを詰める瞬間はゼロ距離で銃撃を受けるリスクもある。それらを鑑みて第二の刃に即座に切り替える決断力も、暗殺者の素質の一つ。

411Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:13:18 ID:clBd8qig0
 ただ、カルマが抱いた――否、むしろ「押し付けた」とも言えるエルマへの期待。それには一つだけ問題があった。

 現にその怪力を眼前で発揮しているのだから、妥当な期待ではある。しかし、そもそもが人間の常識を超越したドラゴンという存在。さらにエルマはその中でも異色だろう。したがってカルマは気づかない。カルマほどれほどの策士であっても、気づける理由がない。エルマの怪力を補助する、あるひとつの要因について。

(こんな時だというのに……お腹がすいて力が出ないとはっ!)

 エルマの燃費はすこぶる悪いということを。

ㅤ銃撃という具体的な危険性を振り撒く腕を何度も何度も狙ってはいるが、刈り取るもの自身の高い耐久性も相まって、なかなか二本目の切断までに至らない。幸いなのは、お腹をすかせてなお単体での戦力を最も有するエルマが腕を集中的に攻撃しているために銃撃が他三人に狙いを定めることが無いことだろうか。

 しかしそれすらも、刈り取るものの多種多様なスキルを前には無意味。

――マハフレイダイン

 人数差をも物ともせず、辺り一面で核熱の球が爆ぜる。エルマすら防御に回るその威力、カルマも杏も耐え難いほどの激痛に表情を歪ませ、その場に膝をつく。

ㅤ重い。複数人への攻撃であっても、決して威力が分散することなどなく、等しく重厚な一撃を刈り取るものは撃ち出している。

「こんな……ものっ……!」

 そんな中で唯一さやかだけが、その痛みを魔法で文字通り「無視」して突っ切る。両腕で剣を肩より高く持ち上げ、思いのままに振るう。

 あの時と同じ感覚だ。敵の攻撃が間違いなく自分を打ち据えても、一切痛覚には響かない。危険を通達するはずの痛みが訪れない。こんな戦い方はダメだと、自分を咎める親友の声は痛いほど耳に残っている。まどかに見せれば、きっと痛みを無くした自分なんかよりもよっぽど傷付くのだろう。

 でも、自暴自棄になって魔女と一緒に自分までもを壊してたあの時とは違う。まだ自分を人間として見てくれているヤツがいるんだって、少しだけかもしれないけれど、それでも安心できたから――だから、あたしはそれに報いたい。

「たあああああっ!」

 横一文字、交錯する両者の影。刈り取るものの身体に"critical"の一撃が刻まれる。さやかの魔力を乗せた斬撃。斬りつけた部分から血の代わりに黒いモヤが噴き出す。

「よしっ!」

 確かな手応えと共に振り返る。

「なっ!?」

 しかし、さやかの渾身の一撃をもってしても刈り取るものは倒れない。さやかの斬撃を脅威と認め、斬りつけた勢いで背後に回ったさやかへ向き直る。

412Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:14:04 ID:clBd8qig0
 刈り取るものの向いた方向から見てさやかを狙っているのは明白。しかしその場の誰も動けない。マハフレイダインを凌いだエルマも、即座に反撃に動けない程度のダメージを受けている。

ㅤ刈り取るものはスキルを発動する時の所作として銃を天に掲げる。一方のさやか、氷や核熱の次は雷か、それとも風か。来たる一撃に備え、剣を構える。

――超吸魔

ㅤしかし放たれたのは、目に見える現象として言い表せる類のものではなかった。何が起こったのかも分からぬまま、さやかの肉体にもソウルジェムにも一切の傷を残すことなく魔力のみを吸い取った。

 驚愕に目を見開きながらその場に崩れ落ちるさやか。元々、痛みを消すのに多くの魔力を用いていた。そこに追い討ちのごとく魔力を奪われ、大部分を失った。

「……ッ!!」

ㅤそれにより、魔法で遮断していた痛みが機能し始める。カルマと杏がその場に崩れ落ちたように、さやかもまた全身を駆け巡る熱さを前にしてどさりと倒れ込む。

ㅤさやかは死んでいない。それがこの場の幸いであり、同時に二次災害を引き起こし得る種でもある。さやかの倒れた場所は刈り取るものが狙わずとも、マハ系スキルの波状攻撃の巻き添えを受ける位置だ。そしてこの場の誰も、さやかを"見捨てる"という選択肢を持っていない。刈り取るものの撃破に先んじて倒れたさやかの"救助"が、最優先事項として立ちはだかる。

「ペル……ソ……ナァッ!!」

ㅤ真っ先に救助に駆け出すのは杏。回復スキルの制限されているこの世界で、この怪我はすぐに癒せるものでは無い。それでも、今のレベルで扱うには手に余るであろう『ディアラハン』を強引に編み出し、自身に施して駆け出す。誰かを救いたい、それこそが杏の戦いの根底にある反逆の意志。

「さあ、行くよカルメン!ㅤアギダインッ!」

ㅤ軽くなった身体で、先の一撃よりもいっそう強力な爆炎を繰り出す。命中した瞬間、炎は『火炎ブースタ』によってさらに激しく燃え上がり、刈り取るものの動きを大きく制限する。

「はあぁっ!」

ㅤ追撃とばかりに、鎖に守られている箇所の隙間から腹に斧を押し込むエルマ。

「このままっ……押し出すっ!!」

 斧という凶器を用いてなお、まるで相撲のような光景だった。勢いのままに、怪力を余すことなく発揮し、刈り取るものの巨体をぐんぐんと後退させていく。

 刈り取るものの背後にいたさやかよりも、さらに奥へ。マハフレイダインの傷を最も残していながらも走り出していたカルマは、旋回の必要すらなくさやかの下へ辿り着いた。

「大丈夫?」

ㅤ熟れた手つきでヒョイとさやかの身体を軽く抱え上げるカルマ。突き刺さる全身の痛みを感じさせない程度に飄々とした能面を貼り付けて、目指すのは動けないさやかの戦線離脱。無駄の無い挙動で戦場から離れ始めた。

「何が大丈夫、よ。カルマだって傷だらけじゃん……。」

「でも俺は強いから動けるよ。それに……」

「……それに……なに?」

「……んーん、何でも。」

ㅤこの場に中村でもいれば弄り倒されそうな光景だ。というか自分だったら否が応でも弄り倒す。

 そんなことを考えている時だった。

「っ!」

ㅤカルマの視界が突然に、ぐらりと揺れた。深い傷の中の運動に加え、たった今加えられたさやかの体重による負荷。ガタが来るのは思った以上に早かった。

ㅤそして、戦線離脱を前に見せたその隙は決して小さくない。

 限界を超えて捻り出されたアギ系最高峰の火力を誇る杏のアギダイン。腹を突き破る勢いで振るわれたエルマの斧。さやかの救助に用いられた攻撃手段は決して軽いものでは無い。

 しかし、それらをもってしても刈り取るものを停止させるには至らない。

413Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:14:39 ID:clBd8qig0
「カルマ、危ないっ!」

ㅤ抱えられたままのさやかの声。

ㅤ刈り取るものの銃口が、さやかを抱えたカルマへと向く。

 僅かに、静寂――そして次の瞬間には、冷たい銃声がその場の音を奪い去った。

ㅤ久々に、死の感覚を覚えた。殺せんせーを教師として"殺そう"としたあの時よりも、より濃厚な死の色が迫っていた。

 死神の名を冠する刈り取るもの、その称号は飾りではない。

ㅤしかし、どうしたことか。その死は未だ訪れない。

「――まったく、情けないですね。」

ㅤ射線上に割り込んだひとつの影が、両腕で銃弾を受け止めていた。その行動だけでなくシルエットすら、人の常識を優に超えている。ヘッドドレスを挟んで頭で主張するは、エルマより多い二本のツノ。身に付けたヴィクトリアンメイドのエプロンドレスからは巨大なしっぽがはみ出て揺れている。

「……ん、メイド?」

ㅤ殺し合いの場にそぐわぬ衣装にカルマは疑問を覚える。

「エルマ、貴方がついていながら何やってるんだか。」

「トール!」

ㅤエルマをはじめとした多くのドラゴンが、人間たちと交わって生活を始めた原因となるドラゴンが、硝煙の中より姿を現した。

 このような場面ではこの上なく心強い旧友の出現に、エルマは胸を躍らせる。他3人、その中でも特に杏はエルマから知り合いの話は概ね聞いていたため、エルマと実力が互角らしいトールの来訪には頼もしさを覚えるばかりだ。

「ここは私とエルマで引き受けます。あなた達は下がっていてください。」

「っ……! 大丈夫、まだやれるわ。」

 さやかは何とか戦う意思を表明する。それを冷めた目で見下しながら、トールは呟いた。

「本当は、あなた方下等生物がどうなろうと私は一向に構わないんですよ?」

「か、下等!?」

「お、おいトール……そんな言い方は……」

 杏はエルマと比べたトールの当たり方に驚愕を見せる。

「でも、小林さんなら見捨てるなと言うでしょうから。だから死なせない、ただそれだけです。分かったら早く失せてください。」

 善意とは、程遠い。もしもが起これば、トールはたった今助けようとしている者たちとて皆殺しにしてしまえる。

 そして――だからこそ、エルマ以外を突き放す。決して誰かと絆を深めようとはしない。頭の中の小林さんの『助けろ』という声のみに付き従って、その場の者たちを『生かす』ことのみ実行に移す。小林さん以外の人間に、助ける価値なんて見出さないから。

「……。」

 黙って助けられろと言わんばかりのトールの主張に、さやかは言い返せない。言い返せるだけの言葉も無ければ、実力も備えていないから。

「行こう。」

「っ……!ㅤでも……!」

 同行者のカルマも危険に無闇に飛び込むのは好まないタチだ。実力があり、戦う気概もある者がすると言っているのだ。それを改めて止める気は起こらない。

「杏は二人を連れて行って回復してやってくれ。トールなら大丈夫だ。」

「……分かった。気を付けて、エルマ。」

 カルマとさやかの二人は、杏とエルマが到着する前から刈り取るものと戦っていた。ドラゴンとの種族差とかペルソナとか、そういった要因抜きに消耗が激しいのは自明の理。回復が必要なのも当然だ。さやかの治癒魔法の回復力は杏も観測したが、超吸魔を受けたさやかにどこまで治癒が使えるかはわからない。敵は刈り取るものだけではないし、まだ戦える杏もそれに同行するだけの道理はある。

 こうして、二人のドラゴンを残し、三人は死神の暴れる戦場から離脱する。その胸に抱くは、最後まで戦いに携われなかったことへの不甲斐なさであり、残した二人のドラゴンの心配であり、そして撤退という手段を用いてでも必ず誰も死なせないという、殺し合いへの反逆の意志でもあった。

 逆に言えば――それだけだった。この状況で抱くべき懸念が存在することを、この場の誰も知らない。誰も、知りえない。

ㅤ魔力の大部分を無くしたさやかのソウルジェムが、僅かに見せつつある陰りを。そして、濁りきったソウルジェムが生み出す、魔法少女の末路を――

414Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:15:12 ID:clBd8qig0


ㅤトールが加勢に来てから、戦局は大きく変わった。

ㅤ範囲攻撃を多く扱う刈り取るものを相手に、人数を揃えることは必ずしも有利に繋がらない。刈り取るものの攻撃に耐えながら、その上で攻撃を続けられる者のみが、刈り取るものと同じ舞台に立つ資格を持つ。

 トールとエルマはその点において何ら問題は無い。ドラゴンという、人を超越した存在。多彩な属性を纏うあらゆる攻撃を真っ向から迎え撃てるだけの実力を備えている。

「お前と共闘することになるとはな。」

「足だけは引っ張らないでくださいね。」

「ああ!ㅤもちろんだとも!」

 刈り取るものという強敵を前にしてもエルマはどこか上機嫌だ。トールが、小林さんを守るためなりふり構わず殺し合いに乗っている可能性を、僅かながらも危惧していたから。こうして再会し、その仮説が否定されたことが喜ばしくて仕方がなかった。

「……くるぞっ!」

 再会を喜ぶ暇も与えず、刈り取るものは銃撃で二人に狙いを定める。

「させるかっ!」

 素手であるトールの前に躍り出たエルマが斧で銃弾を弾く。その隣を突っ切り、素手ならではの素早さで刈り取るものの身体を抉り出しに走るトール。

――ジオダイン

 本気を出した刈り取るものの第二撃の速度は、ドラゴンすらも凌駕する。直進するトールに向けて放たれた電撃の一閃。

「遅い。」

 右に身体を逸らして回避する。目の前には、刈り取るものの巨体。勢いのままに、ドロップキックを決める。ドラゴンの剛力にスピードまで加えた一撃。只人ならば即座に命を散らすほどの衝撃が、刈り取るものを襲う。しかし、ロクに効いている手ごたえを感じない。刈り取るものは微風を受けたかの如く動じずそこに佇んでいる。

(なるほど、エルマが苦戦するだけのことはある。)

 武器を持ったエルマが倒し切れていない敵ならば、優先すべきは威力よりも手数か。迎撃のフレイダインを回避しつつ、鉄よりも硬い爪を尖らせた両腕でラッシュを叩き込む。

「退け、トール!」

 後方から、斧を振りかぶったエルマの追撃が迫る。攻撃の手を止め、退避するトール。

「食べろおおおっ!」

 それを言うなら『くらえ』だ。心の中でツッコミを入れるトールをよそ目に、重い斬撃が刈り取るものを縦に断つ。鎖の音を撒き散らしながら銃を振り回し、刈り取るものはもがき苦しみ始める。

 どれだけ重い攻撃も、刈り取るものは回避するそぶりすら見せない。まるで鎖につながれた人柱のように、迫るものすべてを受け入れる。攻撃を受け入れてなおそれを真っ向から耐え抜く規格外の生命力。それが、刈り取るものの真骨頂。そんな刈り取るものが今、単眼をギョロリと二人に向けている。

 それはまさに、死神の本領。この上なくビリビリと伝わってくる殺意の発露。

「どうやら怒らせてしまったようですね。」

「それなら私も怒っているぞ。殺し合いなんかさせられて、ろくに飯が食えていない。」

「……相変わらずですね。まあ私も、小林さんを巻き込んだことについては逆鱗ベタ触れ案件なのですが。」

 死地に見合わぬ軽口。それは本来、ドラゴンが強者であるが故に生まれる余裕だ。しかし今や、それは次第に虚勢でもあった。ドラゴンから見ても、明らかな脅威だ。滅ぼし方が、思いつかない。渾身の一撃を何度も炸裂させてなお、刈り取るものは依然として立ち塞がり続ける。相手の攻撃も、いつまでも凌いでいられるほど温くはない。

 敵の強さを改めて実感する。長期戦が必須でありながら、相手の攻撃はこちらの命をお構いなしに狙ってくる。まるでいつか戦ったエヘカトル(ルコア)のように、基礎ステータスの格が違うのだ。それでいて傍観勢からは程遠いスタンスなのだから厄介なことこの上ない。

(私たちはまだいい。ただ、こんなのが小林さんの前に現れようものなら……!)

 トールの表情がそっと陰りを見せる。

 刈り取るものほどの生物が、他に居ないとも限らない。否、先ほど去っていった3人とて、小林さんを殺そうと思えば容易く殺せるだけの実力はある。それと出会ってしまった大切な人の末路を、苦しいほど想像してしまった。

 絶対に避けたい未来――それならば、どうする?

 決まってる。危険を排除するために、大切な人を守るために、誰もかも殺せ。破壊してしまえ。混沌の囁きが、トールの心を掻き乱す。

 間もなくしてトールは何かを振り払うように、ぶんぶんと首を横に振った。

415 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:16:10 ID:clBd8qig0
前編投下完了です。
後編はまた日を改めて投げようと思います。

416 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:31:36 ID:iXFr6OyQ0
後編投下します。

417Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:33:08 ID:iXFr6OyQ0
 トールとエルマ――かつては犬猿の仲と呼ぶにふさわしい間柄であった二人。同じ戦場で共闘する経験など一度もありはせず、連携自体が即席のものだ。そもそも、混沌勢と調和勢で立場が真逆である以上共通の敵というのも滅多に現れるものではないし、ドラゴンという個人志向の強い生き物であることも共闘に向いていない。

 その上で、二人はこの上ない連携を見せていた。実力が互角であると謳える程度には、互いの実力を理解し、戦いの一挙一動の癖は分かっている。それに合わせる程度、ドラゴンの超越的戦闘センスをもってすれば容易い。

ㅤ大振りの業物を扱うエルマの攻撃の隙を、身軽なトールが手数でカバーする。トールが小技で圧倒している間に、エルマが大きな一撃を入れる。互いが互いの弱点を補い合って――まるで、分業をどこまでも突き詰めた人間社会のよう。死神の名に恥じぬだけの威力を誇る迫り来る炎を、氷を、雷を、風刃を、二人は優に凌いでいく。

 その絶技に、名前などない。己の技に名を授けるは、人の生の儚さに由来する。己の亡き後にも、己が付けた名の技を遺すことで己が生を証明するためだ。永き時を生きるドラゴンにはその必要がない。歴史とともに、ドラゴンの名とその功績は永劫刻まれる。

 彼女らは、ドラゴン。時に恵みをもたらす神として。時に破滅をもたらす災禍として。様々な形で祀られ、畏れられてきた存在。

――火炎ガードキル

ㅤ双竜を前に攻めあぐねたか、刈り取るものは二人の守りを崩す方針に切り替える。掲げた銃口より辺りに満ちた光が、トールとエルマを包み込む。

「っ……! 何かされたようだが……。」

ㅤ光に照射されるや否や、熱を通さぬ龍の鱗に赤く、鋭く走った亀裂。その現象に一瞬驚くも、そこに一切の痛みは伴わない。

 一体何をくらったのか、その正体の模索が完了する前に、その箇所を目掛けて刈り取るものは虚ろな眼光を向ける。

――マハラギダイン

 次の瞬間には、耐火の性質を備えたトールとエルマの鱗が燃え上がる。鱗を貫通し、素肌を焼かれたかの如き火傷は、凡そ両者が一度も受けたことのない類の傷だ。熱い、痛いを通り越して痛覚が機能を忘れるほどの火傷。それに伴っておのずと湧き上がるは、未知の感覚に対する恐怖。たとえドラゴンであれど、生物としての本能には抗えない。

「熱ッ……何ですかこの威力は……!」

「さっきのは火をよく通す魔法か……それがあれば焼き肉がもっと早く食べられるかもしれないな。」

「こんな時にまで食欲ですか……。」

 相変わらずですね、と鼻で笑いつつ、目の前の死神に対しても嘲笑を投げかける。

418Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:34:00 ID:iXFr6OyQ0
 刈り取るもの、それは集合的無意識<メメントス>の奥底にこびりついた人の心の畏怖の現れ。存在そのものが、眠れる恐怖心を引き起こす絶対者だ。

 しかしトールもエルマも、恐怖にただ沈むことはない。混沌と調和、二つの勢力というドラゴンの大きな枠組みにも組み入れられることなく、己の意志を貫いてきた二人のドラゴン。例え相手が集合的無意識に語り掛ける恐怖の存在であれど、その感情に迎合されるほど単純ではない。

 そして、何よりも心の底から湧き上がる想いがある。かつて敵対し、そして和解した腐れ縁とも言うべきライバルとの共闘。仲直りしてもやはり憎たらしいような、それでいてどこかこそばゆいような、つかず離れずの距離感だった旧友と、今やこうして背中を預け戦っている。

 その事実が、トールとエルマの中に少なからず高揚感を与える。恐怖よりも強く突き動かす感情が二人の中にはあった。

「それにしても、まったく舐められたものですね。」

「ああ、ドラゴンを前に炎をひけらかすとはな。」

 火炎を司るは、ドラゴンの矜持にして不可侵領域。

 刈り取るものは、そこに土足で踏み込んだ。それも一度のみならず、二度。火炎ガードキルが継続しているトールとエルマに、再びマハラギダインが迫る。

 それを前に、ニィと笑う二人のドラゴン。

ㅤ刈り取るものの放った業炎を包み込むように、二人の吐いた火球がマハラギダインを真っ向から潰す。ドラゴンの伝承に火山の存在が切っても切り離せないのと同様、炎を操ることにおいてドラゴンが引けを取ることは有り得ない。ましてや、この場にいるドラゴンは一体ではない。最大級の火力の炎が二体分。大気ごと爆ぜるような大爆発が、その場を包み込んだ。

(まだ生きていますか。)

 その中心部にいた刈り取るものは、予期せぬ反撃に引き下がる暇もなく爆発の餌食となる。煙霧の立ち込める戦場の中の刈り取るものにトドメを刺すため、トールは走り出す。小林さんの捜索という第一目標が達成されていない現状、刈り取るものを相手に時間を食うのも憚られる。

「待てっ!ㅤトール!」

「!?」

ㅤその時エルマが側面から飛び込んで、トールを押し出す。何をする――トールがそう口に出す前に、一瞬前までトールがいた空間に銃弾が走る。そこにいたのは、トールを突き飛ばしたエルマ。弾丸が、彼女の胴体を貫いた。

――ワンショットキル

ㅤ安易な魔法攻撃が通用しないと分かった刈り取るものが行うは、煙で隠した死の銃撃。ドラゴンの、ドラゴンであるが故の慢心。エルマよりも遅れて戦闘に参加したトールはそれが抜け切っていなかった。数万年に及ぶ、長きを通り越して永きと言い表せるだけの生きてきた時間の積み重ねは、易々と変われない。そして――人の心に住まう刈り取るものは、そういった心の隙を見逃さない。

「……何やってんですか、エルマ。」

 胸を撃ち抜かれ、しかし心臓への直撃を免れたエルマは死んではいない。だが、刈り取るものの強力なスキルの連打も、銃撃も、対処しながら戦えるほど傷が浅くもない。この戦線で戦い抜きながら生き延びるだけの力を、エルマは失った。

 トールとエルマの実力は互角。戦力確保の観点からは、庇う必要なんてなかった。

 その上で、エルマは言う。

「生きて帰ってくれ、トール。あの日々が……大切、なんだろう?」

 その言葉に少しだけ口ごもり、寂しそうな顔を見せたエルマ。

 エルマにとっても、人間たちと共存するあの世界は大切だ。儚いながらも尊いものであると知っている。だけど、その気持ちはトールが抱いているそれほどではない。小林さんへの執着はトールよりも明らかに劣っているだろうし、他に特別な人間がいるわけでもない。かけがえの無い友人が共にいるのであれば、何なら元の世界に戻ったっていいくらいだ。

ㅤ私が守りたいのはあの世界じゃないんだ――そんな気持ちがどこか心の奥底に潜んでいる自覚があった。だからこそ、誰かが傷つくのならば、トールより私が率先すべきではないか?

 何とも自暴自棄な理屈だ。それは分かっている。だが、身体が動いてしまったものは仕方がない。

「そうですね。確かにあの日々は私にとってとても大切なものです。だから私は、あの日常を守りたい。」

 その気持ちを、僅かに察するトール。ああ、そういえばここは、本来一人しか生き残れない世界だったな、と今さらながら思い出した。

 他でもないトール自身、小林さんを優勝させると謳っていたのだ。それの意味するところはつまるところ、小林さん以外の皆殺しだ。当然、そこには自分もエルマも含まれている。ならば目の前でエルマが深い傷を負っている現状は、甘んじてどころか、喜んで受け入れるべき事象である。エルマという最大級の敵が消え、これで一歩、小林さんの優勝に近づくのだ。

419Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:34:51 ID:iXFr6OyQ0
「……でも、そこにあなたも含めての守りたい日常なんですよ。」

 エルマの想いに報いるかのごとく、トールは少しだけ素直な言葉を吐いた。初めて聞いたトールの本音に、エルマは目を丸くする。

「帰ってくれじゃなくて、一緒に帰ろう、とでも言ってくださいよ。」

 小林さんを優勝させるのが、最も手っ取り早い自分の願いの成就の手段だ。だけど、それは小林さんの願いじゃない。自分を庇って戦闘不能に陥ったエルマをどこか咎めたい今の自分の存在が、まさにその証明だった。

「一緒に帰りましょう、エルマ。この殺し合いを、ブチ壊した後で。」

 トールの目から陰りが消えて生気が宿る。その見据える先に存在する死神に向けて、咆哮を上げながら飛び込んでいく。

 殺し合いに乗るか脱出を図るか、愛と倫理の狭間で揺れていたトールのバトル・ロワイアルは、今ここに始まりを告げた。



 住宅街エリアを構成する建物の一室。刈り取るものとの戦いから離脱した三人は、それぞれの治療にあたっていた。

「ありがと、もう大丈夫。自分で動けるわ。」

 特にダメージの大きかったさやかも、杏が回復スキルを重ねることで何とか自立できるまで回復した。

 元々タフなカルマも、元より回復スキルをかけていた杏も、さやかより早く回復している。

 しかし肉体はともかく、精神に受けたダメージも少なからずある。容貌自体が生理的嫌悪感を促す刈り取るものの、更に圧倒的な能力を目の当たりにした三人。その心には、死という概念への恐怖が深く根付いている。

「じゃあ私、戻るね。」

 その上でそう言った杏を、カルマは意外そうな顔で見つめる。

「トールって人は下がってろって言ってたけど?」

「別にトールの方の言うことを聞く筋合いもないし。エルマに任された私の役目はアンタたちの回復。それはひとまず済んだでしょ。」

 杏は、正直に言えばトールに良い印象は抱いていない。エルマと同じドラゴンである点から実力に信頼が置けるのは確かであろうが、初対面で下等生物と言い放たれたことへの悪印象はぬぐい切れてはいない。実際のところトールの言葉は三人を遠ざけるための優しさでもあったのだが、コミュニケーションによる相互理解の工程を経ていないがために、改心させてきた大きな権力をひけらかす悪人たちとの差が埋められていない。

420Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:35:26 ID:iXFr6OyQ0
「じゃああたしも戻るわ。人数は多いに越したことはないし……」

「悪いけど……アンタたちは連れていけない。」

 杏はキッパリと言い放った。その強い物言いに、ムッとしながらさやかは理由を問う。

「今度こそ死ぬって言ってんの。」

 カルマは身のこなしこそジョーカーにも劣らぬ卓越っぷりであるがペルソナを持っていない。さやかも、超吸魔で魔力を吸われた以上は戦えないはず。

 トールやエルマと比べて戦力不足であることは、客観的に見て事実であった。

「んー、俺も正論だと思うよ。」

 カルマも、杏の発言に続く。

「最初にヤツと遭遇した俺等は充分戦ってるし、ここで離脱したって誰にも責められない。命を無駄にする方が良くないと思うけどな。」

「……それでも。やっぱりあたし、見捨てたくは……」

 しかしさやかの悔しそうな表情は、到底納得しているようではなかった。

「ゴメン、ちょっと酷い言い方しちゃったね。」

 そんなさやかに、杏は語り始める。

「本当は、違う。アンタたちを助けたいのは、全部、私のためなんだ。」

 唐突にしおらしくなった杏を前に、さやかは反論の口を止める。

「私ね、大切な友達がいた。でも、もう取り戻せない大切なものを奪われて……助けられなかった。私が今戦っているのは、その子――志帆のような子を出さないため。アンタたちを死なせてしまったら……きっと私、その時のように後悔する。」

 今の杏を形成しているのは、あの日屋上から飛び降りた志帆に報いるためだ。志帆が鴨志田からされていたことに気づけなかった事実は、どう足掻いても消えない。

 だから、これから先、彼女のような犠牲者を出さないこと。それだけが、贖罪の手段だ。

「だから、助けさせてよ。」

 断じて、志帆のためではなく。断じて、カルマとさやかのためでもなく。これは、自分のための戦い。

 あの日の痛みに、志帆の苦しみに、何かしらの意味を見出そうとするある種の逃避。

「……そっか。」

 杏の告解に、さやかは複雑そうに俯いた。

421Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:36:30 ID:iXFr6OyQ0
 友達を助けられなかった後悔。契約に迷っていたせいでマミさんを失った自分と、どことなく重なった。マミさんみたいに、皆を助ける魔法少女になろうと、後悔が呪いのように己を律することは、共感できる。

――だけど、仁美を助けたことを後悔してしまった自分と、真逆のようにも思えた。自分の卑しさを再認識させられたようで――眩しくて、仕方がなかった。

「ゴメン、それでも――あたしも譲れないんだ。」

 俯いたままに――さやかは残存する魔力を放出する。不意に発せられたそれは、瞬時にカルマと杏を昏倒させるだけのショックを与える。

 ドサリ、と二人が膝を付く音をよそ目にさやかは振り返る。見据える先は、刈り取るものの戦場。

「二人の言うこと、正しいと思う。でもあたしは、誰かを見捨てるような魔法少女にはならないって決めたの。」

 長い間気絶させるほどの威力は出していない。ずっと放置するのは刈り取るもの関係なしに危険であるし、それほどの魔力も残っていない。だから、急いで向かわないと――

「――待ってよ。」

 背後から、さやかを呼ぶ声。振り返れば、昏倒させたはずのカルマは立ち上がっていた。口元から血を滴らせながら、滑らかな動きでさやかの前に立ち塞がる。

「さやかはさ、死ぬ気なの?」

 どうやら舌を噛んで、その痛みで強引に意識を保ったらしい。そういう処置もできないよう、不意に一瞬で意識を奪ったつもりだったが、或いは予見されていたか。カルマの、初めて会った時から何でも見透かしている様子ならば、納得もできる。

 何にせよ意識と肉体が結合していないあたしにはできない芸当ね、と内心で少し毒づいた。

「そうね、死ぬのも厭わないわ。」

「姫神を倒すって言ったのは? まさか、諦めたなんて言わないよね?」

「別に、自殺しにいくわけじゃないわ。ただ、誰かを見捨ててでも生き延びようとはしたくないだけよ。そんなことしたら、あたしは本当に自分っていうのに絶望しちゃう。多分その時が、あたしが身も心もゾンビってやつになるときなんだと思う。」

 さやかの言葉の意味するところはあくまで比喩だ。とはいえ両人のあずかり知らぬ実態として、魔力を失ってソウルジェムに穢れが溜まっている現状、大きな負の感情を抱くことは文字通りさやかの肉体を別のものに変える結果をもたらし得るだろう。

「だから止めないで。」

「止めないよ。」

「だからさあっ! って……えっ……?」

 カルマの口から、予想だにせぬ言葉が飛んできた。舌を噛んでまで強引に立ち塞がっている以上、自分を止めようとしているのだと思っていたのに。

「死んでも貫きたい矜持があるんでしょ? それを死んでほしくないから止めるって言うんじゃ、殺せんせーを殺すかどうかで喧嘩してる渚くんにも、殺せんせーを殺すと決めた自分にも筋が通らないし。」

 それに、カルマも知っている。他者に心から失望したとき、自分にとってそいつは死んだのと同然なのだと。仮にその対象が、他者ではなく自分だったとしたら――その先は、想像に難くない。一学期の期末試験、似た感覚は味わっている。

「……やけに物分かりがいいのね。あんた、もうちょっとひねくれものだと思ってたわ。」

 止めないのなら、カルマが何故自分の前に立ち塞がったのかは謎でしかない。しかしそこを追究する意味こそさやかにはないため、やれやれと言わんばかりにカルマを押しのけて行こうとする。

 そして両者がすれ違うその瞬間に、再びカルマは口を開いた。

「そんじゃあさ――俺も俺の信念に従って行きたい! ……って言っても止められないよね?」

――前言撤回。カルマは、誰よりもひねくれものだ。

 一度相手の主張を認めることで、同じ理屈に対する反論を許さない。A組野球部とのエキシビジョンマッチの時にも使った手である。

 何が渚くんにも自分にも筋が通らない、だ。綺麗ごと押し並べて、結局あたしを一人で行かせないという主張<わがまま>を通すための譲歩的要請法<ドア・イン・ザ・フェイス>じゃないか。

「……はぁ、もう、分かったわよ。」

 してやられたなあ、と頭を抱えるさやか。最初の魔力をぶつけた段階で一人で戦いに出向くつもりだったが、これ以上口論していると気絶している杏も目を覚ましかねない。

422Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:37:07 ID:iXFr6OyQ0



「――でも、ごめんね。」


――ドスッ……


「――なっ……」

 だから――強行突破しかなかった。カルマの胴に、さやかの持つ剣でのみね打ちが炸裂した。

「っ……! 待っ……!」

 ここにきての更なる不意打ちを、警戒していなかったではない。しかしカルマには、気絶寸前まで陥った麻痺の影響が残っていた。加えて、魔法少女と化したさやかの身体能力。

 成すすべなく、追撃に今度こそ意識を沈めていく。

「それでもあたしは、あんたには……カルマには、生きててほしいんだ。こんな姿になったあたしを人間だって言ってくれたこと、すごく嬉しかったから。」

 ……それに。本心では戦いに戻るべきじゃないって思っているはずなのに。戦場に戻るのは死ぬリスクが高いって分かってるはずなのに。あたしを一人にさせない、ただそのために一緒に行こうとしてくれたことも、嬉しかった。

(でもその優しさ……今の私には辛すぎるんだ。)

 こんな私を、人間だと言ってくれる人がいる。

 こんな私と、一緒に居たいと思ってくれる人がいる。

 どうしても、期待してしまう。もし元の世界に戻れたとして、恭介も同じようにあたしを受け入れてくれるんじゃないか……って。

 落差があった方が、落ちた時は痛いんだ。もし、その願いが成就しなかったとしたら。その祈りが、届かなかったとしたら。僅かにでも希望を抱いた分だけ、きっと絶望も深くなる。

「だからあたし……死ぬなら人間である内に死にたい。」

 さやかは、振り返ることなく走り出した。

 杏を気絶させるのに魔力を浪費したこと。カルマの望むことに背いたこと。様々な要因が、さらにソウルジェムを濁らせていく。彼女を、少しずつ”人間”から遠ざけていく。

【E-6/住宅街エリア 民家/一日目 早朝】

【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マッハパンチ@ペルソナ5
[道具]:不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.美樹さやかを刈り取るものから保護する。
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな

※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。
※呼び名が美樹さん→さやかに変わりました。

【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.刈り取るものを斃す
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
三.食料確保も含め、純喫茶ルブランに向かう
四.怪盗団のメンバーと合流ができたらしたい
※エルマとのコープが3になりました。
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※姫神がここをパレスと呼んだことから、オタカラがあるのではと考えています。

【支給品紹介】
【マッハパンチ@ペルソナ5】
カルマに支給されたナックル。速+3の効果がある。

423Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:37:42 ID:iXFr6OyQ0




 自分に立ち向かうあの時のイルルは、きっとこんな気持ちだったのだろう。戦いに身を投じるだけの決意があって、それでも決意の大きさは力と比例しない。それだけで敵は倒せない。守りたいものは、守れない。

 エルマが脱落したことは、確実に戦局を動かしていた。こちらの攻撃力は半減、それに対し敵の攻撃はシンプルに倍だ。本来、頭数を揃えて戦っても激戦かつ長期戦が必須の刈り取るもの相手に、単身で挑んでいるのだ。文字通り絶え間ない弾幕、そのすべてがトールの命を刈り取らんと狙っている。弾き飛ばしていた竜の爪は次第にボロボロになっていく。同時に、人間の身体への負荷も決して小さくない。認知の世界の制限によって肉体という名の殻に押し込まれた竜の魂が、全力を出せずにもどかしいと叫んでいる。

(落ち着け、私。)

 自分が勝負を急いだせいで、エルマに庇われる事態に陥ったのだ。動悸を抑え、腰を落として構える。冷静に、刈り取るものの一挙手一投足を観察する。

――空間殺法

 刈り取るものが放つは、エルマを翻弄した瞬間の絶技。網状の亀裂が空間に形成される。交錯の瞬間、その線に沿って斬撃が走る。

「見切ったっ!」

 嚙み合った腕と銃が、ピシリと音を立てて衝突し合う。ドラゴンの本能を理性で鎮めた故の、刹那の防御、そして拮抗。

 そこから先は竜の剛力に任せた力業だ。刈り取るものの叡智の結晶たるスキルを、強引に押し返す。

 そして、前進。一歩ごとに大地が揺らぎ、風が震える。だが渾身の一撃にはそれでも足りぬ。大きな攻撃を担当するエルマがいない今、ちまちま攻めていても埒が明かない。全身全霊、力を込めて一気に殴り抜く!

 方針を決め、どの歩みよりも力強く踏み込む。伴った震脚で振動が一面に響き渡る。

 勢いのまま、金剛石の如き硬度の爪が振るわれる。刈り取るものの身体に巻き付いた鎖とぶつかり合い、金属音をかき鳴らした。

 手ごたえとしては、充分に効いている。それでも、体力の量そのものが桁違いと言うべきか。刈り取るものはどんな属性の攻撃にも、相性というものはありはしない。あらゆる攻撃がそのまま通用する上で、それを真っ向から潰すのが刈り取るものの真骨頂だ。

――ハマオン

 瞬時に対象の命を奪う光の結界が、トールの周囲に形成される。それは混沌を生業とするトールには、いっそう大きな効果を発揮する。

「まずい……!」

 攻撃に踏み込んだ手前、即座に回避に移れない。強引に、力任せにそのまま突っ切ろうとしたその時、トールの周囲にもう一つ、光の結界が張り巡らされ、ハマオンと衝突し相殺する。

(これは……エルマの張った結界ですね。助かりました。)

 真っ当にタイマンを挑めば、勝てない。おそらくは、この会場にいる誰も。刈り取るものを単騎撃破できる者など居ない。

 だが、トールは一人ではない。ドラゴンという単体で完結する生物でありながら、しかし今は仲間がいる。殺し合いに乗らないと決めたからこそ、誰かと協力することができる。

 刈り取るものを、真っ赤に燃え上がるブレスが襲う。巻き付いた鉄鎖を媒介し、刈り取るものの全身に熱が伝道していく。

424Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:38:13 ID:iXFr6OyQ0
(動きが鈍った……今ッ!)

――氷結ガードキル

 トールの全身に青く刻まれた刻印。先ほど受けたのと同じ、属性耐性を消滅させる類の術式か。ならば現状、問題は無い。

(スキルを受ける前に、殴り、抜くっ!)

――ズンッ……

 深々と突き刺さった鋭爪。刈り取るものはゆっくりとダウンをとる。ここにきて初めて見せた刈り取るものの大きな隙。それを見逃すトールではない。追撃の乱打が顔面を襲う。

「これでっ……!」

 刈り取るものが起き上がると同時に一歩引き下がり、同時に、震脚。

 大きく踏み込んだ一撃が迫る。

――タァンッ!

 しかし、敵の反応は一瞬早く、銃撃が踏み込んだ脚を撃ち抜いた。

「ぐっ……!」

 重量を支える支柱を失い、バランスを崩すトール。即座に立ち直るが、その一瞬の隙に迫るはガードキルを付与したところに形成された氷塊<ブフダイン>。回避の択を失ったトールは、持ち前の爪で受け止める。威力の大部分を殺すも、その代償に、ピシリと音を立てて凍り付く爪。凍結で脆くなったところにさらに衝撃を与えれば、容易に砕けるであろうことは見える。

(こうなってしまえばもう攻撃には使えない……) 

 それならば、攻撃の要となる武器は爪を用いない徒手空拳だ。しかし並の生物を遥かに凌駕する拳も、刈り取るものを前にしては心細い。こうなればエルマの使っていた武器を貸借するか――

「受け取れっ! トール!」

 まるで以心伝心。紡いできた絆が、要請よりも早くエルマを動かした。振り返ると、此方に向けて弧を描きながら投擲された斧が迫ってくる。

――パシッ。

 一切の危うげなくそれを受け取るトール。実力が同じ二人だ。普段から武器を用いているかどうかの差はあれ、エルマに扱えてトールに使えぬ道理はない。道具の扱いに慣れておらずとも、攻撃力の確保には、申し分ない。

 エルマの助けによって持ちこたえた命。エルマから受け取った斧のバトン。情けなくて腹立たしいほどに、奴のお膳立てを受けすぎている。だけど、悪い気はしない。強大な敵を討つため手を取り合って立ち向かう――それはどこか、ドラゴンに挑む人間のようで。ドラゴンのしがらみごと、何かを破壊してくれる気がした。

 脚を怪我して踏み出せないトールは翼を広げ、羽ばたく。瞬く間に刈り取るものの上をとったトールは、そのまま上空から接近。

「ぐおおおおおおおおおおっ!!」

 咆哮と共に、重力に身を任せ斧を振りかぶる。

425Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:38:48 ID:iXFr6OyQ0
 その気迫を前に、刈り取るものの思考回路は安易なスキルでの相殺はできないと判断する。

 繰り出すは、刈り取るもの最強のスキル。

――メギドラオン

 ドラゴンの意地と、死神の本領。両者は、破壊力を宿してぶつかり合う。

 ドラゴンのもたらす混沌が、死神の展開する幻想が、辺り一面を灰色に塗りつぶすように侵食していく。空白の中に、吞み込まれていく。

「おい……トール……?」

 破壊の中へと消えていったトールに、エルマは声を振り絞って語り掛ける。

 そして煙幕は、次第に晴れる。二つの強大な力の着弾点となった箇所から出でたのは――

「っ……!」

――至高の魔弾

 死神の銃口の先――エルマに狙いを定め、そして、放たれる。

 トールと刈り取るものが激突し、立っているのが刈り取るもの。その意味が汲み取れないエルマではない。理解してなお、しかしそれが認められない。トールが負けたなど、断じて信じない。神々の軍勢に単身突っ込んでもなお生きて帰ったトールが。真っ向勝負で敗北したなど、決して――

 目の前に迫る弾丸よりも、その事実の方がエルマにとっては大きかった。



「なっ……!」

 さやかが駆けつけた時、エルマは目の前に迫る死を受け入れていたように見えた。実際は、それ以上の驚愕を前に呆然としていたに過ぎないのだが、さやかはその姿をいつかの自分と重ねてしまった。魔法少女の真実を受け入れられず、ただ正義の名の下に殺してくれる魔女を探していた、かつての自分と。

「せああああああっ!!!」

 小細工をかける魔力も残っていない。さやかはただ、刈り取るものに愚直に突っ込んでいく。

 この惨状を見るに、トールとエルマは負けているのだ。それならば、二人が回復できる時間を稼ぐため。二人と、そして遅れて来るであろうカルマと杏にバトンを繋ぐため。少しでもこの場から距離を離し、少しでもダメージを与える。

「なっ……何故戻ってきた! 杏殿は一体……!」

 さやかの身を任せたはずの杏。百歩譲ってさやかと一緒に戻ってくるならばまだ理解できよう。しかし、さやかだけが戻ってくるとはどういう了見か。

 トールの最後の攻撃で受けた傷も残っている刈り取るもの。その気迫を押し返せない。後退し、勢いを殺しつつ受けようとするが、なお突き進むさやかの進軍を止められない。

(とにかく……私も……加勢、に……!)

 このままだとさやかが死ぬ。そう直感するも、エルマの身体はろくに動かない。刈り取るものを引き下がらせているさやかとの距離が離れていくこともあり、結界を形成するにも届かない。

 これから杏も戻ってくるのか? この状態を回復できるとすればそれが頼りか。

 そう思い、ひとまず何とか起き上がろうとしたエルマが砂煙の先に見たのは――トールが倒れている姿であった。ドラゴンの力強さも感じさせず、まるで人間のように、弱々しくその場に崩れ落ちていた。

「くっ……トール…!」

 無い力を振り絞って這って、何とかトールの下に辿り着く。

 杏のように回復スキルが使えるエルマではないが、とりあえず、大丈夫か――そう声を掛けようと、その身体に触れた。

426Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:39:21 ID:iXFr6OyQ0
「――嘘、だ。」

 信じられない、受け入れがたい真実がそこにあった。

 トールは死んでいた。

 まだ温かみを帯びたトールの身体が、秒刻みで冷たくなっていくのをこの上なく体感できる。ドラゴンの、鋭敏に研ぎ澄まされた感覚は、それができてしまう。どうしようもないくらい、トールは死んでいた。

「……なあ、お前には守るべき人ができたんじゃないのか?」

 トールは以前より一層強くなっていた。守りたいものが明確であるからこそ、揺らがぬ強さがあった。

「返事をしてくれよ、トール……。」

 亡骸が言葉を返さぬは摂理。エルマの声は、虚空へ吸い込まれていく。それでもエルマは、構わず紡ぎ続ける。

「いなくなったお前が見つかって……私は安心したんだぞ……。仲直りもできたし……いや、喧嘩してた時でもいい。お前が生きていてくれているだけで……それだけで良かったんだ。」

 そっと、亡骸に覆いかぶさって抱きかかえた。ぼろぼろと零れ落ちる涙が、トールの身体を濡らしていく。

 体温が完全に無くなってしまう前に、最後に思い切り抱擁を交わし――

「……ああ、弱音は終わりだ。」

――ガッ……!

 思い切り、その胴体にかぶりついた。

――ぐしゃ、ぐしゃ

 無心で振り動かす顎の動きに伴って、命だったものが唾液と混じりその形を無くしていく。共に人間の世界を見て回った記憶も、価値観が瓦解し、殺し合った苦い記憶も、トールと共にした様々な思い出ごと噛み砕く。
――ぐしゃ、ぐしゃ

 骨を砕く感触も、血の匂いへの生理的嫌悪も、そういった諸々の不快感は、驚くほど感じなかった。そんな余裕も無いくらいに、ただただ無心で。何も食べるにしても全身で感じ取っていた味覚も、機能していないのかと思えるほどに壊れていた。

――ぐしゃ、ぐしゃ

 おいしくない。

――ぐしゃ、ぐしゃ

 血肉で腹は満たされても、胸にぽっかりと空いた穴が冷たいんだ。

――ぐしゃ、ぐしゃ

――ぐしゃ、ぐしゃ

――ぐしゃ、ぐしゃ

 …………

 ……………………

 やがて、咀嚼音も血を啜る音も、途絶えていく。そこにドラゴンが存在していたことは、大地に染み付いた血の跡だけが語っていた。魔力を宿したツノも、ドラゴンの能力で解毒可能な程度の毒を帯びた尻尾も、もはや何一つ残っていない。その全てをエルマが文字通り喰らい尽くした。

「お前の仇は私が討つよ。小林さんも私が守ってやる。」

「それに……毒を食らわば皿まで、と言うしな。お前が守りたかったあの世界の調和も守ってやろう。」

「だから、見ていてくれ、トール……。」

「ちゃんと、見守っていてくれよ。」

「お前の存在を、まだ感じていたいんだ。」

「お前がいないと、何を食べたっておいしくないんだよ。」

 ドラゴン一匹分の肉体と、それが宿す魔力。残さず喰らったエルマは”戦闘不能”状態を脱し、立ち上がる。

 呪いのようにその身を蝕んでいた空腹も、殺し合いを命じられてなお抜けきっていなかったドラゴンであるが故の余裕も、エルマにはもう無い。

 その目に見据えるは、友の仇の死神だけ。

 その胸に宿すは、友より受け継いだ決意だけ。

 殺し合いというものの意味を改めて認識し――エルマのバトル・ロワイアルは、今ここに始まりを告げた。

427Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:40:11 ID:iXFr6OyQ0
【小林トール@小林さんちのメイドラゴン 死亡】

【残り 37人】

【E-6/住宅街エリア/一日目 早朝】

【上井エルマ@小林さんのメイドラゴン】
[状態]:ダメージ(大) 満腹
[装備]:無し
[道具]:基本支給品(食料なし) 不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:トールの願いを継ぎ、姫神の殺し合いを阻止する。
一.刈り取るものを斃す
二.小林さんを保護する
三.滝谷やカンナと出会えたら、協力を願う
姫神により全身ドラゴン化や魔法が制限されていることを把握しています。
※参戦時期はトールと仲直りした以降。
※杏とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「エルマの応援」エルマと絆を結んだ者は身体能力がほんの少しだが、底上げされる。
「エルマの本気応援」エルマと同行中している限り戦闘中、経験値が上昇する。(相手の技を見切るなど)

428Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:41:04 ID:iXFr6OyQ0


 エルマが、友の遺骸を喰らっているその時。刈り取るものを戦場から切り離していた魔法少女は、終わりを迎えていた。

 元より単体で刈り取るものと渡り合うには実力の足りないさやか。その力を支えていた魔力すらも残っていない状況では、必然の帰結だった。

 身体が、動かない。

 もはや空っぽの魔力。消せなくなった痛みをすべて受け入れながら、さやかは気力だけでここに立っている。一秒でも長く、時間を稼げ。一撃でも多く、刈り取るものにダメージを遺せ。

(あたしらしく……なんて柄じゃないかもしれないけどさ。)

――ワンショットキル

 穢れの満ちたソウルジェムが、遂にグリーフシードへと変わっていくその瞬間。刈り取るものの放った一発の銃弾は”美樹さやか”を砕いた。

 太陽の昇った空に、蒼く煌めく結晶がきらきら、きらきらと浄化されていく。

(――でも、魔法少女の最期としてはたぶん、綺麗なんじゃないかな……って。)

 砕けて消えた命の中、少女は夢をみた。

 コンサートホールの中心で、手にしたヴァイオリンを奏でる一人の少年。

 客席に座る大衆の一部となった少女は、彼のためのステージを眺めながら、絶望とは程遠い微笑みを見せる。

 紡がれし演目は――絶望の中でも縋るように、女神への祈りに身を捧げるいつかの曲ではなく。蒼く澄み渡った彼女の想いを乗せるかの如く、どこまでも自由奔放な狂詩曲。

 いつまでも、ただいつまでも、彼に自由を与えた奇跡のために――彼女のために、泡の中で奏で続ける。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

【残り 36人】

【E-6/住宅街エリア外/一日目 早朝】

【刈り取るもの@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(大) SP消費(大) 右腕欠損 
[装備]:刈り取るものの拳銃×1@ペルソナ5
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:命ある者を刈り取る

429 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:41:31 ID:iXFr6OyQ0
投下完了しました。

430名無しさん:2021/05/05(水) 18:33:02 ID:hzugHmjI0
メイドラゴンキャラが登場するパロロワ初めて読んだ。
トールとエルマの共闘からの死別とか、まさに読んでみたかったものに出会えたって感じがする。
今後楽しみにしてます。書き手でも無いのにレス失礼しました。

431 ◆2zEnKfaCDc:2021/05/06(木) 04:37:10 ID:rEpuBnxQ0
>>430
感想ありがとうございます。メイドラゴン、それぞれのキャラが何かしら価値観抱いててパロロワに向いてると思うんですが、なかなか採用されませんよね……。
投下はちょくちょくやって行こうと思うので、是非ともご覧いただければと思います。


それでは、明智吾郎で予約します。

432 ◆2zEnKfaCDc:2021/05/08(土) 20:09:35 ID:PAdzgH0s0
すみません、リアルの用事が入ったので予約破棄します。

433 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:17:32 ID:88dC1J8E0
私用や創作スランプ地味たものが重なって長らく期間を空けてしまいましたが、ゲリラ投下します。

434救い主にはなれやしない ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:18:17 ID:88dC1J8E0
 温泉旅館を出てからというもの、歩はどことなく落ち着かない様子だった。そわそわとせわしなく後ろを気にしているかと思えば、青みがかった髪をくるくると弄りながら何かを考えているような顔つきやしぐさを見せる。元より落ち着きのない性格ではある歩だが、ここ一時間は特にそれが顕著だ。殺し合いを命じられているのもあるのだろうが、その原因が他にあることは明らかだった。

「大丈夫か、歩?」

 見るに堪えず、竜司は声をかけた。ハッとしたように我に返る歩。洞察を巡らせ、竜司は続ける。

「トイレ行きたいんだろ?ㅤすぐ探すから待っててくれよな――」

――ぺちーんっ!

ㅤ心地良い音が響くと共に、渾身の平手打ちが竜司を打ち付けた。

「じょ……ジョーダンっす……空気を軽くしたくて……ハイ……」

「まったく!ㅤ竜司君はもうちょっとデリカシーってもんを身につけるべきなんじゃないかなぁ!」

 顔に赤い手のひら印を刻んだ竜司は涙目になりながら謝罪を重ね、歩の怒りを何とか鎮める。

「え、ええと……マリアさん……だよな?」

「うん。本当に、大丈夫なのかな……?」

「……それは、わからねえ。ただ、ああするしかなかったとは思うけどな。」

「まあ……それは私も、そう思うけど。」

 ナギちゃんのためという大義名分があったとしても、マリアさんが殺し合いに乗っていたという事実は動かない。そんなこと、分かってる。

 今回命を狙われたのは竜司君だったけど、場合によってはその矛先は自分に向いていたかもしれない。考えるだけでも、とっても怖い。三千院家に忍び込んで、黒服の人たちに捕まった時の恐怖とは違う。ナギちゃんと下田温泉に向かっている時に殺し屋に追いかけられた時とも違う。一度は知り合って、同じ時を共有した相手が、裏で自分の命を狙っていると知った時の恐怖は、同じ土俵じゃ比べられない。同行なんてできっこないし、他の誰かがマリアさんの犠牲になるかもしれないことを考えると動きを封じるのもやむを得ないと思う。

「……でも、何とかできないかなってのも思ってるんだ。悪いのはマリアさんじゃなくて、姫神って人だからさ……。」

 その上で、私はそう言える。いや、言わなくちゃいけないんだと思う。ハヤテ君と帰りたい日常に、もうマリアさんはいなくてもいいなんて思わない。もしもそう思ってしまった時、きっと私はナギちゃんもヒナさんも、……もしかすると、ハヤテ君も。大切な人たちに見切りをつける心の準備ができてしまう。

「そっか、優しいんだな、歩は。」

「そっ、そんなことないよ!?」

 唐突に、しかもダイレクトに褒められたことに驚いて、慌てふためいたように否定した。

「だって、私にはマリアさんを責める資格なんてないもん。」

 かく言う私だって、一度は殺し合いという魔力と、それに巻き込まれているいちばん大事な人の存在に、殺し合いに乗る自分を考えたのだから。確かに私は、殺し合いに乗っていない。だけどそれは、仮に一度は死んだハヤテくんを生き返らせることが可能であるとしても、大切な友達をたくさん殺し、色々なものを諦めたその先の未来に希望が見えなかったからだ。

435救い主にはなれやしない ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:19:18 ID:88dC1J8E0
「私だって、一歩間違えてたらマリアさんみたいに乗ってたかもしれない。だから、マリアさんのことも許したいんだ。」

「分かった。でもな、歩はどこかで少し間違ってたとしても、人を殺したりはできなかったと思うぜ?」

「そ、そうかな?」

「ああ。……最初はさ、俺のせいで死んでしまった人がいたその現実に耐えきれなくって、正直、死んでしまいたくなってた。救ってくれたのは、歩なんだ。苦しんでる人をほっとけない歩が、人殺しなんてできるわけがねえ。」

「あっ……。」

 あと一歩で壊れてしまいそうな竜司君の姿が、歩の脳裏にフラッシュバックした。見えない何かに追われるかのごとく怯えきって、もはや前も後ろも見えていないような、ついつい飛び出していってしまうほど痛ましい有り様。ああ、マリアさんの身を案じている今だからこそ、わかる。あれは、もしもの自分が行き着く先だった。殺し合いに怯えるままに誰かを傷付け、殺してしまったなら。きっと私は耐えられない。

「違うよ、竜司君。」

 もしもあの時、殺し合いを恐れる自分がずっと草むらの中に隠れたままだったとしても、いつかは見つかっていただろう。その頃には不安も恐怖もいっぱいになっていて、手元には手頃な凶器もあって。その場合はたぶん、相手がどんな人かも確かめないままに、それを振り下ろしていただろう。

 その場合に死んでしまうのは私か、それとも相手か。分からないけれど、どっちにしても最悪だ。そうならなかったのは、出会ったのが竜司君だったからだ。あの状況、少なからず怖かったはずなのに姫神に反逆してみせた人。誰も死ななくていい未来を求める私に、最初の一歩を踏み出す勇気をくれた。

436救い主にはなれやしない ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:20:32 ID:88dC1J8E0
「私だって、キミに救われてたんだよ。」

「お……!?ㅤお、おおぅ……。」

ㅤ照れを隠せない竜司君をよそ目に、私は堂々と告げる。

「ねえ、竜司君。私、決めたよ。」

 私は、竜司君に救われた。でも、マリアさんはそうじゃなかった。……悲しいけど私も、マリアさんは救えなかった。積み重ねた思い出が足りなかったから。でも、たった一人だけマリアさんを救える人を、私は知ってる。

「――ナギちゃんを、マリアさんのとこに連れていこう!」

 ナギちゃん、あれで強情だからさ。姫神の言いなりになんてならないだろうし、マリアさんに優勝させられるのなんてもっと嫌がると思うんだ。だからマリアさんも、ナギちゃんに叱ってもらえばきっと目も覚める。そしたら、みんなで姫神に反逆する道も見つけられる。

 方針は決まった。大好きな人たち、一人だって妥協してやるもんですか!

【C-5/平野/一日目 早朝】

【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 SP消費(極小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認) マリアの基本支給品、チェーンソー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
二.三千院ナギを探し、マリアの下へ連れていく
三.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
四.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
五.姫神を倒した後、歩にラーメンをおごる
※歩とのコープが4になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明) マリアの不明支給品(0〜2)(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:竜司と殺し合いに反逆へ歩む
一.皆で生き残りたい
二.ナギちゃんをマリアさんに会わせる
三.竜司君との反逆で強くなりたいけど…見られた……うう。ハヤテ君…
四.ハヤテ君…私、ハヤテ君に伝えたいことがあるから
※竜司とのコープが4になりました。
獲得スキル
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前

437 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:20:59 ID:88dC1J8E0
投下完了しました。

438名無しさん:2021/07/13(火) 18:30:08 ID:n9mGcXBM0
乙です
互いに歩み寄り世界という視野を広めて行ってる感じ
ふたりのまっすぐな決意と誠意が微笑ましかったです
時系列は前の方だけど最後にハヤテにかける言葉は原作と同じ方向性になるんだろうなとある安定さを感じさせる西沢歩でした

439 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/14(水) 07:55:24 ID:EUVoZWQM0
投下お疲れ様です!

Rhapsody in Blue
4人を相手にしても捌く姿は流石は刈り取る者、シリーズの裏ボスだと感じさせられました。
そして後半はトールとエルマのタッグ燃えました!
しかし、トール……前編の最後で不穏な空気を醸し出しましたがここでとは……!
放送後の小林さんの姿を思うとせつないですね……
エルマはトールの意思を引き継ぎ、腹ペコきゃらという一種のギャグ描写がなくなりましたが、応援したいです!
カルマがさやかに提示した譲歩的要請法は後に官僚となる正にカルマらしいやり方だなと思いました。
だけど、カルマにとって苦い別れになってしまい、意識を取り戻した後の彼を思うと、せつないですね……

「でも俺は強いから動けるよ。それに……」

「……それに……なに?」

「……んーん、何でも。」

ㅤこの場に中村でもいれば弄り倒されそうな光景だ。というか自分だったら否が応でも弄り倒す。
↑読んでてニヤニヤしちゃいました。
紡がれし演目は――絶望の中でも縋るように、女神への祈りに身を捧げるいつかの曲ではなく。蒼く澄み渡った彼女の想いを乗せるかの如く、どこまでも自由奔放な狂詩曲。
↑この『自由奔放な狂詩曲』がカルマとの交流の影響なのではと私は個人的に感じられてとても好きです。

救い主にはなれやしない
「大丈夫か、歩?」

 見るに堪えず、竜司は声をかけた。ハッとしたように我に返る歩。洞察を巡らせ、竜司は続ける。

「トイレ行きたいんだろ?ㅤすぐ探すから待っててくれよな――」

――ぺちーんっ!

ㅤ心地良い音が響くと共に、渾身の平手打ちが竜司を打ち付けた。

「じょ……ジョーダンっす……空気を軽くしたくて……ハイ……」

「まったく!ㅤ竜司君はもうちょっとデリカシーってもんを身につけるべきなんじゃないかなぁ!」

 顔に赤い手のひら印を刻んだ竜司は涙目になりながら謝罪を重ね、歩の怒りを何とか鎮める。
↑このやり取り……好きですねぇ〜(笑)もう、脳内再生鮮明にできました!
竜司は歩に歩は竜司と互いに『すくわれた』二人は、やはりロワは始めの出会いが大切なんだと改めて思わせてくれました。
2人の姫神への反逆、応援したいですね。

綾崎ハヤテ、新島真、岩永琴子で予約します。

440 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:38:12 ID:RCvNo2.c0
投下します。

441岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:39:39 ID:RCvNo2.c0
推理ーーーーー既にわかっている事柄をもとにし、考えの筋道をたどって、まだわかっていない事柄をおしはかること。
Oxford Languagesの定義より引用。

「えっと……貴方は?」
「新島真。貴方達と同じ、参加者の1人よ」
ハヤテの問いに真は名前を伝える。

ジッ―――。
真は執事服を身に纏う少年と杖を手にする少女の体を観察する。

(おそらく私と同じ高校生と……小学……いや、中学生?それにしても深窓の令嬢に見えるわ)
真は2人の身長から大体の年齢を予想する。
それと同時に少女の纏う雰囲気に同性ながらも可愛らしいと見惚れる―――

そう考えていると―――

「ちなみに私は20歳。もう酒が飲める歳です」
真の思考を読んだかのように岩永は語尾を強めて訂正する。

「え……!?」
(え!?嘘でしょ!?だってその容姿……どうみても……)
真は少女の年齢に吃驚する。
自分よりも年上には視えなさそうな可憐な少女に―――

「不快に感じさせたのなら謝るわ。ごねんなさい」
「いえ、よく間違われるので。それに、私の連れも驚いているようですし」
岩永はジロリとハヤテに目線を向ける。

「い、いや〜……僕、てっきり中学生ぐらいだと思ってました」
ハヤテはスミマセンといった様子で岩永に謝罪する。

「そろいも揃って失礼な!私はこれでもコーヒーはブラックですし、魚のワタの味だってわかりますし、なんなら精「わぁああああ!!!!!」」
岩永は自分は大人だと理由を添えて抗議するが遮るハヤテ。
「い……岩永さん!良い子が読むサ○デーでは御法度な台詞ですよ!
「別に、本当のことを言ってるだけですよ。それを言うなら私は〇ンデーではなく少年マガ「ワーワー聴こえなーい!」」
ハヤテと岩永のワイワイしたやり取りを横目に―――

(な、何なの!?この娘……まるで卑俗)
先ほどまでの評価が180°変わる少女の言動に真は呆気にとられる。

「はぁ……とにかく、そういうところがデリカシー無しと判断されるんですよ?……そうそう自己紹介が遅れました。私は岩永琴子。そして―――」
「綾崎ハヤテです」
遅れながら、真に自己紹介をする2人。

☆彡 ☆彡 ☆彡

442岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:41:24 ID:RCvNo2.c0
「残念だけど、そのナギというお嬢様には会っていないわ」
「そうですか……」
真の言葉にハヤテはガクリと肩を落とす。

「……」
(どうやら、2対1でも問題なさそうね……)
真は2人の先ほどの様子から1人でも対処できると判断した。

(だけど、やっぱり”ここ”で戦闘はしたくない。彼らが外に出たら、間髪入れずにヨハンナで仕留めるとしよう)
自分にとって脅威でないなら、何も無理してルブラン内で殺す必要もない。
それに、やっぱりここで殺すのは――――
真の心中にあるのは仲間たちとの絆の場所が、血で汚れるのは好まないこと。
そんな真の考えが、結果的にハヤテと岩永の命がほんの少し延命されることとなる。

「……」
一方、先ほどから岩永は顎に手を当ててずっと物思いにふけている。

「あの……岩永さん?どうしましたか?」
岩永の異変に気づいたハヤテは心配そうに話しかける。

―――ぽんッ
岩永は何かひらめいたのか手を打つとハヤテと真に話しかけた。

「お二人とも……一度、ここで朝食をとりましょう♪」

「「……え?」」

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――ガチッ
ボウッ―――
「一通り、店内の設備はきちんと動くみたいですね。岩永さんは何かリクエストありますか?」
ハヤテはガスコンロに火がついたのを確認すると、ザックの食料を眺めながら岩永に食べたいのがあるのか尋ねる。

すると―――

「鰻のかば焼き」

「……はい?」
まさかの岩永のリクエストにハヤテは笑顔で動きを止める。

「なければ、牡蠣もしくはレバーで何か料理をお願いします」
「あの……その食材のチョイスって……」
なんとなくハヤテの脳内に先ほどの岩永の発言からピンク色が連想される―――

「ええ。性がつく食べ物です。九郎さんはそういったことに無頓着ですから、代わりに私がしっかりと補給しないと夜を張り切って過ごすことができませんので」
そして、ハヤテの予想通り、ピンクな内容を恥ずかしげもなくいいのけた。

「え、えっと……カレーでよろしいでしょうか?」
「はぁ……仕方がありません。妥協しましょう」
岩永はハヤテの提案を不服そうに了承した。

「……」
(品性……)
真はため息をつき、眉間に皺を寄せた―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

443岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:42:43 ID:RCvNo2.c0
―――タンッ
タンッ!タタン!!
リズムよくニンジンが一口大に切られる。

ジュゥゥゥ―――
その隣で真は小麦粉をフライパンで炒める。

「すみません……手伝ってもらっちゃって」
ハヤテに申し訳なさそうに真にお礼をいう。

「……構わないわ。全てやってもらうのも、申し訳ないから」
(それにあの子と話すと疲れそうだから―――)
岩永の品性を疑わせる会話を聞いていたら頭に頭痛がするため、真はハヤテのカレー作りを手伝うこととした。

それと―――彼女の目を見ていると不安に駆り立てられるからだ。
”人を殺めた自分の罪”を暴かれるのではないかと―――

クミンやターメリックといったスパイスと混ぜた小麦粉からカレー粉としての香りが出たので、フライパンを一度下し―――

ザクッ―――ザクッ。
繊維に沿って玉ねぎが切られ―――

ジュウウウ―――
飴色になるまで炒められる。

次に塩・胡椒で味付けした牛ひもも肉を炒める。
「結構、本格派に作るのね」
「ええ。せっかくなら、豪華にと。……岩永さんってなんだかお嬢様みたいに舌が肥えてそうなので」
牛肉のカレーは本場インドではなく欧米で生まれたカレーだ。

牛もも肉を炒めながらニンジンを投入する。
それに刻み生姜にニンニク、すりおろした林檎を加えたらカレー粉を加え、水を入れる。

そこに〇〇〇〇を投入する。
「え!?それを入れるの!?」
真はハヤテが入れたのに驚愕する。

「秘密ですよ♪」
ハヤテは驚く真にハヤテをウインクする。

次にコンソメ―――”ビーフコンソメ”を投入。

「ビーフコンソメ?」
「はい。コンソメの中でもビーフコンソメはパンチが効いていますので。他のコンソメだとコクが弱くて美味しくないんですよ」
ハヤテは真に説明を加えながらカレー作りを進める。

―――ローリエ、ウスターソース、ヨーグルト、チョコ、ハチミツに”インスタントコーヒー”

「コーヒー!?」
(たしか蓮が、ルブランのカレーには”インスタントコーヒー”を入れているって話していたのを聞いたことがあるけど……彼も入れるなんて!」
真はハヤテのカレー作りに眺める―――

沸騰したら弱火で30〜40分煮込む。
仕上げにバターを投入して―――

「さて、これで完成です♪」

―――上手にできました♪―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

444岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:45:30 ID:RCvNo2.c0
「おや?完成したのですね。……いい匂いがして食欲を湧き立てますね」
ハヤテと真がカレーを調理している間、岩永はルブラン内を探索していた。
探索を終えた丁度いいタイミングだったらしい。

「出来立てが一番ですからね……さぁ、食べましょう!」
3人はテーブルの席に座ると―――

「「「いたたぎます」」」

食事を開始した―――

「これは……」
「おいしい……ッ」
ハヤテのビーフカレーは美味かったようだ。

「お口に合って良かったです」
ハヤテは味わう2人の表情にニコリと笑う。

「それと、このカレールーにはかくし味として”赤ワイン”が使われていますね?」
「凄い……正解です。よくわかりましたね」
ハヤテは岩永の指摘に感嘆する。

「ビーフやチキンカレーといったお肉と”赤ワイン”の相性はマッチします。ですが、量を間違えると渋みが強くなり台無しとなります。しかし、シャトードルー赤をチョイスするとは……」
「岩永さんは”大人”ですので、香りがよく女性らしさを前面に出したシャトードルーが似合うと思いました」
「流石、名家のお嬢様の執事として働いているだけありますね」
岩永は満足そうにカレーを食する。

―――食事をしている最中。

「ところで、新島さんはこのルブランのことを知っていますね?」
「……どうしてそう思うの?」
岩永は、真に質問をする。

「簡単です。この地図には綾崎さんの”負け犬公園”私の” 真倉坂市工事現場”と関係者に関わる施設が置かれているからです。そして、新島さんは明らかに店の内部に詳しかった。ですよね?綾崎さん」
「は、はい……調理道具など色々と置かれている場所に精通していました」
ハヤテも岩永の指摘に同意する。

「……」
(目ざといわね……まぁいいでしょう。どうせ、この後始末するのだから―――)
真は認知世界……”パレス”のことを話したところで理解できないだろうと判断し、2人に認めると同時にパレスの事を話す―――

「パレス……認知ですか……」
(やはり、姫神のこの力は秩序に反する。やはり認めるわけにはいかない)
岩永は真から聞いたパレスを聞き、思案する―――

「そういえば、真さんはここに来るまで、何があったのですか?」
「……刈り取るものに襲われて、”死にかけた少年”に会って……」
虚構を交えながら真は話す―――。
少年の死を看取った後、ハンバーガー店へ寄り、ルブランへ辿り着いたと。

それからもいくつか情報交換をしながら食事が進み、やがて―――
―――ひとときな朝食が終わる。

☆彡 ☆彡 ☆彡

445岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:46:48 ID:RCvNo2.c0
ハヤテが食器を洗い片付けをしている最中―――
ついに―――

「新島さんにお聞きしたいことがあるのですが」
「?何をかしら」

―――真の心の奥に踏み込みますか…?

     はい     いいえ

―――はい。

岩永は真に真の話題を振った―――

「正義の怪盗についてです」
「―――ッ!」
岩永の”正義の怪盗”というワードは先ほどまでの空気を一瞬で吹き飛ばした。

「何を言っているのかわから「坂本竜司」
否定しようとする真の言葉に重ねる。

「姫神に食って掛かった金髪の少年の名前です。聞き覚えがありますよね?」
「……」
沈黙の様子を見せる真に岩永は話を続ける。

「名簿に載っているのは50音順な為、一見誰と誰が関係しているかを知るのは難しいです。ですが、綾崎さんの知っている名前を聞くと5人。そして、私は、3人いることが分かりました。名簿上の記載には44人。ここから考えると、この殺し合いには大体4〜6人のまとまりができているグループが6〜8つ程度存在すると考えていいでしょう。そして、坂本竜司も当然まとまりのグループに属している。新島真さん……貴方はそのまとまりのグループの1人では?」

「さぁ……どうだ「―――あのバカ……」
「!?」
再び、自分の言葉を遮る岩永の言葉に真は体をピクッと震わせる。

「彼が正義の怪盗だと姫神に指摘された後、実に非常に小さい声でしたが、確かにそう呟く声が聞こえました。その声の方向には黒猫が1匹……そして名簿には黒猫ではありませんが、それに近い姿……”モルガナ”と記載されています。つまり、モルガナと坂本竜司は同じグループ」
パレスの外と中ではモルガナの姿は異なるが、顔写真付きの名簿なら、違っていても勘が良い者なら辿りつくだろう。

「そしてモルガナと坂本竜司の服装からおそらく”雨宮蓮・高巻杏・明智吾郎 ”も同じグループと推測できます。それと……近しい服装の貴方」

「……私がそのグループの1人だとして何か問題でも?」

ああ―――この娘は確かに

「では、今度こそ本題に入りましょう」

「貴方は正義の怪盗団の1人だが姫神の殺し合いに乗って、既に一人殺めている」

―――私の罪を暴く者だった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

446岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:49:18 ID:RCvNo2.c0
シィィン―――。
静寂……いや緊迫の空気に包まれるルブラン。

「何を根拠にそんな妄言をいうのかわからないけど、冗談じゃ済まないわよ?」
真の目線は鋭く岩永を突き刺す。

「……」
ハヤテの食器を拭く手が止まっている。

しかし、岩永は臆することなく―――

―――ズダンッ
勢いよくステッキを床に鳴り響かせる。

「話を続けましょう」
その口調は品性を窺わさせたときとは違う、神のように荘厳な力強さを感じさせる。

「貴方は先ほどの情報交換で”刈り取るもの”と戦っていた少年を看取ったといっていましたね?」
「……ええ。そうよ。だから、私は彼の支給品を受け取った。それに何か疑問でも?」
そう、間違ってはいない。確かに真が殺した影山律は刈り取るものと対峙していたのだから。

「だとすると、大きな矛盾が生じる」
―――スッ。
岩永は服のスカートのポケットから一枚の紙を取り出す。

『只今、ハンバーガーを一人一個プレゼント中!ぜひお立ち寄りください。マグロナルド幡ヶ谷駅前店』
「なッ!?」
チラシに書かれている内容に真は狼狽する。

「これは、住宅街エリアに配られているらしいチラシです。ここ、ルブランにも配られていました」
岩永はそのチラシを机上に置く。

「そのチラシがなんだというの?」
真は内心穏やかではないが、落ち着いて岩永に話す。

「もし、少年が刈り取るものとの戦闘で死んだとするならば、ハンバーガーが2つあるのはおかしい。なので、本当に2つあるというのならつまり、貴方と少年の分にしかほかならない。つまり少年が死んだのは、刈り取るものとの戦闘ではなく、その後に死んだ」

「ちょっと、待って!どうして私のザックにハンバーガーが2つあると判るの?」
そう、ザックの中身を知っていなければそれは唯の憶測に過ぎない―――
真は『ハッタリ』と見抜くが―――

「その少年から貴方がハンバーガーを2つ所持していると教えられたとしたらいかがです?」
「!?」
岩永は涼し気な表情で淡々と話す。

なんと、岩永は殺された少年が教えてくれたと荒唐無稽なことを言いだした。

「はぁ……!?何をバカな……」
(まさか……少年の幽霊ですって!?ば……馬鹿馬鹿しい……わ!)
真は内心動悸が走るが、なんとか精神を落ち着かせて、岩永の根拠を切って捨てようとするが―――

「でしたら、今すぐ、そのザックの中身を全て出してください。もし、バーガーが”2つ”あれば……私の推理はQ.E.D. ……証明終了です」

―――これからのことを考え、ハンバーガー一つでもおしいと回収したのが仇となった。

「……」
真は琴子の目を見据えてただじっと立っている。

「私は法の番人ではありません。貴方達の怪盗活動を糾弾するつもりはありませんが、姫神の思惑に乗り、異能の力(ペルソナ)で人を殺した貴方の行いは秩序に反しています」
岩永も真の両眼を見据える。

「新島真。貴方は”正義の怪盗団”ではありません。唯の”ひとでなしの人殺し”です」
ステッキの先端を新島真に突きつけながら宣告する。

―――私の罪を暴く

ルブラン内は沈黙の空気に包まれる。

「悪いけど……ここで2人とも死んでもらうわッ!」
(仕方がないけど……逃がすわけにはいかない!)
ルブラン内を荒らしたくはなかったが、ここに至ったらそんな躊躇はしてられない―――
真はヨハンナを召喚しようと動く。

―――が。

「ペルソ『ボォオオン!!!』

爆発音が鳴り、その直後―――

突如、ルブラン全体の照明が落ちた。
ルブランが深淵に包まれる。

「い……い、いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
真の絶叫がルブラン内の壁という壁に反響し合う。

「ごめんなさい!ごめんなさい!助けてお姉ちゃあああああん!!!」
真は蹲り、涙を流す。

その隙に―――

―――ザッ。
綾崎ハヤテは一瞬で岩永琴子をお姫様抱っこしてルブランから出ると、外に立てかけてあったデュラハン号で一目散にその場を去った。

☆彡 ☆彡 ☆彡

447岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:50:30 ID:RCvNo2.c0
「……どうして、あの人が”殺し合い”に乗っていると判ったのですか?」
ハヤテはデュラハン号のペダルを漕ぎながら岩永に問いかける。

「それは簡単ですよ。まず彼女のライダースーツの足元に血がこびりついていました。おそらく、少年を殺した後、荷物をザックに入れている最中、ついたのでしょう。そして、彼女が貴方とカレー作りをしている最中に実はコッソリとザックの中身をチェックしていたのですよ」

「はぁ……」
ハヤテは岩永の根拠を聞き、素直に感嘆する―――

(まぁ……本当に”聞いた”からなんですが)
実は先ほどの岩永琴子の推理は真に語ったようにある”人物”から殺された顛末を聞かされていたからだ。

―――新島真に殺され、彼女に憑いている”影山律”本人から。

ルブランで真と自己紹介を交わしている最中、真に憑りついていた影山律は琴子が霊である自分の存在を”視えている”ことに気づき、話しかけてきたのだ。

―――彼女は殺し合いに乗っていると。

影山律から自身が殺されるまでの顛末を聞いた岩永はこのままルブランから出ると、真が襲い掛かってくると判断をしたため、逃げる隙を見出そうと朝食を提案したのだ。

(ですが……依然として妖怪達の姿は見えない。やはり”パレス”とやらの力の作用か?おそらく、正義の怪盗団はパレスとやらの現象に詳しいはず。できれば、乗っていないメンバーと接触したい。それと、影山律といった霊……兄のことを心配していた。放送で自分の名前が流れたらおそらく会場にいる全員死ぬだろうと……現状、放送を止める手立てはない。杞憂ですめばいいのですが―――)

岩永があれこれと思案している最中―――

(でも、岩永さんの推理……本当に”聞かされた”のを組み立てているかのようだった……もしかして、岩永さんも視えていたりして?)
ハヤテの額に汗が流れる。

なぜなら、綾崎ハヤテも新島真が殺人鬼だということを”知っていた”。

―――そう、綾崎ハヤテも新島真に憑いている” 影山律の幽霊”を目視して彼の告白を聞いていたからだ。(ハヤテは律の告発を岩永琴子ではなく自分に向かって話していると勘違いしている)

アレキサンマルコ教会(執事とらのあな)の神父の亡霊リィン・レジオスターなど
綾崎ハヤテも”霊”を視ることができる体質を有する。

だから一刻も早く彼の主である三千院ナギを探したいのにも関わらず、岩永の指示に従い”朝食”を作るという一見タイムロスに繋がりかねない行為を受け入れたのだ。

「しかし、彼女が”暗所恐怖症”だったのは僥倖でした」
岩永は因縁がある隕石を眺める―――

(それにしても、処分したはずの”これ”が支給されているとは―――)
そう、逃げる時間を稼ぐために、自身に支給された隕石の電撃を放つ力でルブラン内のブレーカーを破壊して、店内を暗幕にして逃げた。
幸いなのは、新島真が極度の暗闇が怖がりだったこと。(正確には幽霊嫌いだが)
もし新島真が腰砕けでなければ、すぐさま真のペルソナ『ヨハンナ』による追跡で戦闘は避けられなかっただろう。

―――ギュッ

「あ、あのー岩永さん?」
ハヤテは戸惑う。
あれほど、男女の関係に拘る岩永が自身の腰を掴んだことに。

「その……私に付き合ったために、負け犬公園へ向かうのに大幅な時間ロスをしてしまいましたからね。急いで負け犬公園へ向かいましょう。それと貴方の作った朝食のカレー……美味しかったですよ。九郎さんにも食べさせたいぐらいに」
そう言い終えると、岩永はハヤテの腰に掴む手をさらにギュッと固く握りしめる。

(それと……新島真が負け犬公園へ辿り着く前に探索を終えなければ……)
恐らく、彼女は死にもの狂いで追いかけてくるだろうと推測したから―――

「それじゃあ、しっかりと掴まっていて下さい!」
ハヤテはフフ……と笑むとデュラハン号のペダルを全力で漕ぐ。

―――そう、疾風の如く。

448岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:50:45 ID:RCvNo2.c0
【D-5/草原/一日目 早朝】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:デュラハン号@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.急ぎ、負け犬公園へ向かう
三.新島真並びに心の怪盗団に注意する
四.岩永さん……コ○ン君みたいな推理でしたね……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※影山律の亡霊から顛末を聞きましたが、詳しくは理解できていません。
※岩永が自分と同様霊が見えると気づいてはいません。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【デュラハン号@はたらく魔王さま!】
岩永琴子に支給されたボロい自転車。真奥貞夫の扱うサイズであるため、岩永が運転することはできない。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5 ピノッキオの隕石@虚構推理
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
三.急ぎ、負け犬公園へ向かう。
四.新島真並びに正義の怪盗団に注意する。(乗っていないメンバーから詳しい話を聞きたい)
五・影山律の心配が杞憂で済めばいいと願う(それとできれば成仏させてやりたい)
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※影山律の亡霊から兄の事と超能力と新島真のペルソナについて大体を聞きました。
※綾崎ハヤテが霊を見える体質だとは気づいてはいません。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5】
岩永琴子に支給されたステッキ。これを用いて攻撃すると稀に何らかの状態異常付与の効果がある。

【電撃を放つ隕石@虚構推理】
岩永琴子に支給された隕石。五センチ大の黒い石。かつて”キノッピオ”これを用いて攻撃すると周囲に電撃を放つ効果がある。威力は一撃で死なないように抑えられている。

☆彡 ☆彡 ☆彡

449岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:51:05 ID:RCvNo2.c0
―――カランカラン。

「はぁ……はぁ……」
息絶え絶えになりながらも、ルブランから退出することができた真。

「は……はやく……あの2人をし……始末しないとッ!」
(怪盗団の皆に知られる前にッ!)

「ヨハンナッ!!!」
真の呼びかけにペルソナがその場に出現し―――それに跨る。

「新島真。貴方は”正義の怪盗団”ではありません。唯の”ひとでなしの人殺し”です」
脳裏に浮かぶのは先ほどの岩永の宣告。

「許さないわよ……岩永琴子。貴方だけはッ!!」
(おそらく、お嬢様を探す彼のゆかりの場所……負け犬公園へ向かっているはず!)

居場所を守るため、血で汚す道を選んだ自分のケツイを否定した女。
許すわけにはいかない―――

ブロロロロ―――ッ!!!!!

バイクに乗り、追いかける。
2人の口を封じるために―――
受け入れてくれる自分の居場所を守るために―――

【E-5/純喫茶ルブラン前/一日目 早朝】

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大) 琴子への怒り(大) 憑りつかれている
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団のメンバー以外を殺し、心の怪盗団の脱出の役に立つ。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
3.急ぎ、負け犬公園へ向かい2人(ハヤテ、琴子)を探し出し、殺す。(岩永琴子最優先)

※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※心残りに囚われている影山律の霊が憑りついていますが、特に害はありません。(心残り(自分が死んだと知った影山茂夫が心配)が解消されると成仏します)
※岩永の少年(律)の話はハッタリだと思っています。

450岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:51:26 ID:RCvNo2.c0
【支給品紹介】

【アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン】
影山律に支給された防具。本来はドラゴンの攻撃を通さない性質を持つが、パレス内ではドラゴンの攻撃の軽減程度に抑えられている。

【さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ】
影山律に支給された武器。第2話でゲルトルートと戦いに行く前に巴マミの魔力によって強化された。

【マグロバーガー@はたらく魔王さま!】
マグロナルド幡ヶ谷駅前店で参加者1人につき1個テイクアウトできる。魚介類のマグロは入っていない。パレス内では微小なHP回復効果がある。認知存在の店員が具体的に誰の姿をしているのかは以降の描写にお任せ。

451岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:52:43 ID:RCvNo2.c0
投下終了します。
ちょっと、内容が内容(ロワで殺された人物の霊描写)もありますので、何かありましたら、修正か破棄などいたします。

452 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/18(日) 16:35:18 ID:M4uyxrPk0
投下お疲れ様です。
ルブラン組、ついに開戦。バイクレースのようなハイスピードバトルなので、移動先も巻き込んで何かしら起こしてくれそうで楽しみですね。

ただ、大変申し訳ないのですが霊の扱いについてはこのまま通し難くなっています。というのも、『未練を残して死んだキャラは霊としてパレス内に留まり、見えるキャラには声を届けることもできる』という虚構推理準拠のルールは、律だけがそうなる理由はないため、全キャラに適用されてしまうからです。
本ロワのキャラには本来見えないものが見える特性を持つキャラが多く、未練が晴れるまで死亡キャラが多くのキャラとコミュニケーションを自由に取れる状況は、パロロワにおける退場の概念を壊しかねません。それを懸念して38話で示した『※パレス内で参加者が死んでもその人物の認知存在は現れません』という規定にも、霊なので厳密には抵触したわけではありませんが、黒寄りのラインかなと判断させていただきます。

申し訳ありませんが、律の霊のくだりの再検討をお願いしたいです。

453 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:44:48 ID:dm0p2SwI0
感想並びにご指摘ありがとうございます。

律の霊のくだりを変更しました。
お手間をかけますが、ご確認のほうよろしくお願い致します。
流れとしては
それからもいくつか情報交換をしながら食事が進み、やがて―――
―――ひとときな朝食が終わる。

☆彡 ☆彡 ☆彡の次からです。

454 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:45:40 ID:dm0p2SwI0
「それでは、もしお嬢様を見かけたら保護をお願いします」
綾崎は真に尋ね人である三千院ナギの保護を頼むよう頭を下げる。

「……ええ。わかったわ」
(でも、ごめんなさいね。その約束はできないわ……)
真はハヤテに約束するが、当然、その約束を本当に守るつもりはない―――

自身が守るべき人は”怪盗団の皆”だけなのだから―――

「それでは、いきましょうか岩永さん」
「……ええ」
2人はルブランを退店しようと真に背を向ける。

(ふぅ……寄り道にはなったけど、やるべきことは変わらないわッ!)
2人が退店したと同時にヨハンナで仕留める。
それは、揺るぎない真のケツイ。

ハヤテがドアノブに手をかけた瞬間―――
岩永は口を開く。

「私は法の番人ではありません。貴方達の怪盗活動を糾弾するつもりはありませんが、姫神の思惑に乗り、異能の力(ペルソナ)で人を殺した貴方の行いは秩序に反しています」
「なッ!?」
まさかの岩永の言葉に、真はペルソナを呼び出そうとした思考が一瞬だがストップする―――

―――そして

『ボォオオン!!!』

爆発音が鳴り、その直後―――

突如、ルブラン全体の照明が落ちた。
ルブランが深淵に包まれる。

「い……い、いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
真の絶叫がルブラン内の壁という壁に反響し合う。

「ごめんなさい!ごめんなさい!助けてお姉ちゃあああああん!!!」
真は蹲り、涙を流す。

その隙に―――

―――ザッ。
綾崎ハヤテは一瞬で岩永琴子をお姫様抱っこしてルブランから出ると、外に立てかけてあったデュラハン号で一目散にその場を去った。

☆彡 ☆彡 ☆彡

455 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:46:52 ID:dm0p2SwI0
「……どうして、あの人が”殺し合い”に乗っていると判ったのですか?」
ハヤテはデュラハン号のペダルを漕ぎながら岩永に問いかける。

「それは簡単ですよ。ずばり女の勘です」
岩永はふふん!と話す

「はぁ……」
ハヤテは岩永の根拠を聞いて、釈然としない様子―――

(まさか、ここで音無会長との経験が活かされるとは……)
岩永はかつて、妖の力に頼り、成功してしまった人物に出会ったことがある。
それが―――音無会長だ。

(一度、妖などの力で成功体験を得た人物は、平気でそうした力に頼るようになる)

―――新島真の殺気は普通の殺人者とは異なる空気を纏っていた。

新島真の第一印象が正にそれだった。
だから、逃げる隙を見つけるため、2人に朝食を作ってもらう最中に店内を探索したのだ―――

(ですが……依然として妖怪達の姿は見えない。やはり彼女が言っていた認知……”パレス”とやらの力の作用か?おそらく、他の正義の怪盗団もパレスとやらの現象に詳しいはず。できれば、乗っていないメンバーと接触したい)

岩永があれこれと思案している最中―――

(でも……女の勘ですか。真さんにお嬢様のこと伝えたのは失敗だな。素直に岩永さんのことを信じておけばよかった……)
ハヤテの額に汗が流れる。

岩永が朝食を提案してきたとき、ハヤテは賛同することはできなかった。
”それよりも一刻も早くお嬢様を探しにいきたい”ハヤテは岩永にそう進言しようとしたが見てしまった。
―――そう、岩永の掌に張り付いている小さく千切られた紙の字を。

その紙には”このまま出たら危険です”という字が書かれていた―――

だから一刻も早く彼の主である三千院ナギを探したいのにも関わらず、岩永の指示に従い”朝食”を作るという一見タイムロスに繋がりかねない行為を受け入れたのだ。

だけど、心の奥には彼女が危険人物には見えなかったために、ハヤテはお嬢様……三千院ナギの名を喋ってしまった。

「しかし、彼女が”暗所恐怖症”だったのは僥倖でした」
岩永は因縁がある隕石を眺める―――

(それにしても、処分したはずの”これ”が支給されているとは―――)
そう、逃げる時間を稼ぐために、自身に支給された隕石の電撃を放つ力でルブラン内のブレーカーを破壊して、店内を暗幕にして逃げた。
幸いなのは、新島真が極度の暗闇が怖がりだったこと。(正確には幽霊嫌いだが)
もし新島真が腰砕けでなければ、すぐさま真のペルソナ『ヨハンナ』による追跡で戦闘は避けられなかっただろう。

―――ギュッ

「あ、あのー岩永さん?」
ハヤテは戸惑う。
あれほど、男女の関係に拘る岩永が自身の腰を掴んだことに。

「その……私に付き合ったために、負け犬公園へ向かうのに大幅な時間ロスをしてしまいましたからね。急いで負け犬公園へ向かいましょう。それと貴方の作った朝食のカレー……美味しかったですよ。九郎さんにも食べさせたいぐらいに」
そう言い終えると、岩永はハヤテの腰に掴む手をさらにギュッと固く握りしめる。

(それと……新島真が負け犬公園へ辿り着く前に探索を終えなければ……)
恐らく、彼女は死にもの狂いで追いかけてくるだろうと推測したから―――

「それじゃあ、しっかりと掴まっていて下さい!」
ハヤテはフフ……と笑むとデュラハン号のペダルを全力で漕ぐ。

―――そう、疾風の如く。

456 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:47:08 ID:dm0p2SwI0
【D-5/草原/一日目 早朝】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:デュラハン号@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.急ぎ、負け犬公園へ向かう
三.新島真並びに注意する
四.真さんにお嬢様の事を話したのは失敗でした……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【デュラハン号@はたらく魔王さま!】
岩永琴子に支給されたボロい自転車。真奥貞夫の扱うサイズであるため、岩永が運転することはできない。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5 ピノッキオの隕石@虚構推理
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
三.急ぎ、負け犬公園へ向かう。
四.新島真に注意する。(乗っていないメンバーから詳しい話を聞きたい)
五.さて……次、彼女と対峙したらどうしましょうか……(彼女の持つ力を危険視)
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
※新島真ならびに正義の怪盗団は何かしらの異能の力を有しているのではと推測しています。

【怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5】
岩永琴子に支給されたステッキ。これを用いて攻撃すると稀に何らかの状態異常付与の効果がある。

【電撃を放つ隕石@虚構推理】
岩永琴子に支給された隕石。五センチ大の黒い石。かつて”キノッピオ”これを用いて攻撃すると周囲に電撃を放つ効果がある。威力は一撃で死なないように抑えられている。

☆彡 ☆彡 ☆彡

457 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:47:51 ID:dm0p2SwI0
―――カランカラン。

「はぁ……はぁ……」
息絶え絶えになりながらも、ルブランから退出することができた真。

「引き出す……つもりが、逆に引き出されるなんて……ッ!」
迂闊だった―――
上手く情報を引き出して始末するつもりが、蓋を開けてみれば、自分の情報を引き出されただけに等しい結果となってしまった―――

「ヨハンナッ!!!」
真の呼びかけにペルソナがその場に出現し―――それに跨る。

(だけど、どうして私が乗っていると気づいたのかしら……?気づかれるようなことは話してはいないはず……)
真は岩永の不意の宣告に疑問を抱く。

「どちらにせよ、この体たらくじゃ怪盗団のブレーンを名乗ることはできなくなるわッ!」
(おそらく、お嬢様を探す彼のゆかりの場所……負け犬公園へ向かっているはず!)

居場所を守るため、血で汚す道を選んだ自分のケツイを否定した女。
許すわけにはいかない―――

ブロロロロ―――ッ!!!!!

バイクに乗り、追いかける。
2人の口を封じるために―――
受け入れてくれる自分の居場所を守るために―――

【E-5/純喫茶ルブラン前/一日目 早朝】

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大) 自分への怒り(大)
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団のメンバー以外を殺し、心の怪盗団の脱出の役に立つ。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
3.急ぎ、負け犬公園へ向かい2人(ハヤテ、琴子)を探し出し、殺す。
※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※ハヤテ・岩永の関係する場所を知りました。

【支給品紹介】

【アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン】
影山律に支給された防具。本来はドラゴンの攻撃を通さない性質を持つが、パレス内ではドラゴンの攻撃の軽減程度に抑えられている。

【さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ】
影山律に支給された武器。第2話でゲルトルートと戦いに行く前に巴マミの魔力によって強化された。

【マグロバーガー@はたらく魔王さま!】
マグロナルド幡ヶ谷駅前店で参加者1人につき1個テイクアウトできる。魚介類のマグロは入っていない。パレス内では微小なHP回復効果がある。認知存在の店員が具体的に誰の姿をしているのかは以降の描写にお任せ。

458 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:48:06 ID:dm0p2SwI0
修正の投下を終わります。

459 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/18(日) 22:05:07 ID:M4uyxrPk0
修正投下お疲れ様です。クイーンが弱ったおじいちゃんと同じオーラを纏ってしまった……!

律の側も真を殺そうとしていたので神の視点ではある程度免責できていた真ですが、ここでハヤテたちを付け狙うことでズルズルと戻れなくなってきているように見えますね。真は動揺に弱いタイプですがまだペルソナ勢は誰も退場していない。バイクレースで精神的に優位に立てるのがどちらなのか、先が楽しみです。

マリア、真奥貞夫で予約します。

460 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:27:22 ID:iMlYWmW60
投下します。


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