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バトル・ロワイアル 〜狭間〜
261
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:17:59 ID:nvDAoGCQ0
本来ならば、結末はもっとシンプルだった。
明智吾郎持ち前の『カリスマトーク』で警戒心を解かれていた遊佐恵美。そんな彼女の心臓に向けて放たれる、明智の影『ロビンフッド』の矢。気付いた時にはすでに回避も迎撃も間に合わず、その身を貫かれる――但し、それは遊佐が『聖剣の勇者』であったならばの話。
現在、遊佐の身体と融合しているはずの『進化聖剣・片翼(ベターハーフ)』は体内から失われていた。彼女がその手にしているのは聖剣ではなく、鷺ノ宮家に伝わる宝具『木刀・正宗』。その名の通り、所詮は木製の武器。聖剣と比べ、戦闘面において劣る箇所は数え切れない。
しかし木刀・正宗が有する、持ち主の動体視力を限界まで引き上げるチカラこそが、一瞬の判断力が試される先の局面で恵美の命を繋いだ。それが聖剣で無かったからこそ、遊佐は今ここに立っているのだ。
それならば――聖剣の勇者はもう死んだのだ。ここに立つのは勇者エミリアではない。ただの一剣士、遊佐恵美である。
仲間、聖職者、天使、そして――探偵。聞こえのいいものに、幾度となく彼女は裏切られ続けてきた。根付いた他者への不信はもはや拭うことが出来ず、明智の一件により確信した。この、人の醜さを凝縮したかのごとき世界で、誰かとの共闘を求められるのは気が重い。いつ裏切られるかの緊張――戦いへの不安以外を背負わなくてはならないなんて。人間のドロドロした思惑の渦に巻き込まれるなんて、もう真っ平だ。
もはや自分のためだけに戦えばいい。それが勇者にあるまじき考えだと言うならば、勇者の称号なんて、いらない。決意――というよりも、むしろ吹っ切れたとでもいう方が的確だろうか。それでも新たな心持ちで、遊佐は明智と対峙する。
一方の明智。先の一撃は確かに、『聖剣の勇者』を貫いた。しかしそれは、『遊佐恵美』を殺し切ることはできなかった。
それならば――明智もすでに敗北が決定したに等しい。尋問室に響く一発の銃声――相手を騙し切り、己の勝利を確信した上で放ったその一撃を以て、しかし相手の命は奪えなかった。その過程を辿った明智に待つのは、敗北と、その先の死でしかない。
そして今。心の怪盗団のリーダー、雨宮蓮ことジョーカーに騙され、殺し切ることができなかった明智がここでも遊佐を仕留め損なった。この世界でジョーカーと決着をつけることを望む明智が、遊佐を生かして帰すわけにはいかなかった。遊佐を逃がしてしまえば、ジョーカーまでもを仕留めきれない気がしてならないのだ。
言うなればそれは、ただの験担ぎ。くだらないと一蹴するのは簡単だ。しかし例えオカルトの類であろうとも、心の隅に僅かにも残る傷は看過できるものでもない。遊佐を殺すことはそもそもの目的である殺し合いの優勝とも、一切反しない。
明智もまた、どこか吹っ切れたような気分で遊佐と対峙する。
262
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:18:42 ID:nvDAoGCQ0
この時、互いに互いを負かしているという奇怪な状況が繰り広げられていた。たった一本の木刀により、完全な勝利と言うに値するものを両者ともに失っていた。己の糧となるものを挫かれた二人に、もはや『正義』と呼ばれる信念は存在していなかった。
それでも、己の正義を証明したいのなら。それを否定する者を。棄却せんと主張する者を。ただ、力でねじ伏せればいい。
正義は勝者に有り――この上なく月並みな答えを、正義を冠する二人は叩き出したのである。
明智は何も変わらずそこにいた。暗い夜の色に紛れることもせず、うっすらと浮かび上がる赤い仮面と、白く彩られた怪盗服。何もかもが先の明智と同じものだ。
片や、恵美の姿は大きく変貌を見せていた。日本在住のOL、遊佐恵美としての姿から、勇者エミリア本来の姿へのシフト。赤みがかった髪は今や見られず、蒼銀の髪が闇を彩っている。
精神的に、肉体的に、それぞれがそれぞれの『本性』を現した。両者ともに、それを見せて無事に済ませる腹積もりなど毛頭ない。
「ペルソナッ!」
声と同時に再び顕現したロビンフッドの矢が山なりに遊佐を捉え、降り注ぐ。
「天光駿靴っ!」
足の裏に聖法気を溜め込み、一気に解き放つ。本来であれば目視すら困難な遊佐の瞬足も、魔力の媒体となる破邪の衣無しには不完全。遊佐の人智を超えた速度の加速に驚いたように目を見開くも――しかしそれを逃がすことは無い。
「天光飛刃っ!」
「……甘いっ!」
背後を位置取った遊佐が放つは鋭敏な斬撃の塊。しかしその動きにいち早く反応を見せた明智は振り向きざまに呪怨を纏った刀を薙いで一陣の風となったそれを弾く。鈍い音が響き、斬撃が散開する。
「甘いのは……そっちよ!」
「なっ……!」
その直後。遊佐は、散開した斬撃の本来の軌道をなぞるように、空を蹴って接近する。明智の持つ刀と違い、木刀・正宗は切れ味というものを持たない。外観も完全に一般的な木刀のそれであり、パレスによる認知の殺傷力の付与も、かなり弱いものとなっている。認知世界の特質を知らない遊佐だが、互いの業物で鍔迫り合うことは不可能だという認識に一切の誤りはない。懐に潜り込めるタイミングは限られている。
263
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:19:20 ID:nvDAoGCQ0
刀を振ってから、再び体勢が整うまでの僅かな隙――しかし遊佐には充分すぎる。身体構造が人間と根本的に異なる悪魔の、さらに僅かな隙を縫って屠ってきた遊佐。『悪魔殺し』の異名を持つだけの実力は、人間に対しても上等な脅威である。
そこから振るうのは、斬れ味を持たない木刀・正宗ではなく。聖剣は没収できてもこれだけは奪えない、最も遊佐に馴染んだ古来よりの武器――拳。
「空突閃っ!」
素手とはいえ、聖法気の込められたそれは凶器と呼んでも差し支えない。かつて共闘した新島真(クイーン)の如きその気迫から、まともに受けてはならぬと感じ取る明智。ステップで後退しつつ刀を持っていない右腕でガードする。衝撃を相応に緩和したはずが、それでもなお痺れが残る。生命活動を担う臓器にまともに受ければ致命傷は避けられないだろう。明智が左手の刀を身体の前に踊らせ、防御と牽制を同時に行う。それを受け、遊佐は空突連弾への接続を断念して下がる。
そうして形成された両者の間隔は――遊佐にとっては聖法気を用いた数々の剣技を操るのに最適な射程だ。明智の刀の射程よりは遠く、ロビンフッドが弓矢を引く挙動を見せようものなら即座に接近し、斬り伏せる。二者択一のどちらにも対応できるよう木刀・正宗を前方に構え――対する明智はアルカナを砕き、遊佐の想定できない新たなカードを切った。
『――メガトンレイド』
遊佐の頭上に顕現したロビンフッドが、遊佐に空襲を仕掛ける。これまで弓矢による攻撃しか仕掛けてこなかったロビンフッドの、唐突な直接攻撃。不意をつかれ、回避の選択が間に合わず。
「――天衝光牙っ!」
消去法的に相殺を試みる。黄金色に煌めく雷光を宿した刃が振り抜かれた木刀・正宗の描いた軌道を彩り、ロビンフッドの腕と真っ向からぶつかり合う。
264
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:20:02 ID:nvDAoGCQ0
咄嗟の反撃で殺し切れなかった衝撃が遊佐へと、そしてその下の大地にまで降り注ぐ。巻き起こった砂煙が遊佐の辺り一面を包み込み――そして1秒も経たぬまま、大地の粒子は空気に紛れて流れていく。しかしそのほんの僅かな間、砂塵によって明智の全貌は巧みに隠されており――やはりまた、木刀・正宗によって研ぎ澄まされた五感の内の聴覚が、遊佐に『カチャリ』という仄かな金属音を通告する。
その音を、遊佐はかつて直に聞いている。魔術の発達していない日本において、背徳者オルバが調達した科学の結晶――拳銃。
その正体の模索が完了すると同時の判断だった。
「天衝嵐牙っ!」
木刀・正宗を一振り。同時、ニヤリと醜悪に笑う明智の手元から、鋭く響く爆発音。しかし放たれた銃弾は、撃ち出された銀色に煌めく風の刃によってその軌道を大きく逸らして虚空に消える。さらに相殺し切れない暴風が明智を襲う。しかし呪怨の篭った刀の一振りで防がれ、その実体を散らしていく。天衝嵐牙を防ぐのに刀を使い、さらには拳銃の存在まで確認した今、遊佐に接近を躊躇う理由は無い。聖法気の放出と共に空を蹴り、再び明智へと接近する。
(これまで見抜くのか。)
素直に、明智は感心していた。目くらましを受けた状態で拳銃の存在に気付けた遊佐の洞察力も然ることながら、銃撃を前にそれを防げる手段までもをペルソナ使いでもない人間が持っていたことに。
「掛かったね。」
感心とともに――幾重にも張った罠の、最後の一手を解き放つ。
――パリィン!
遊佐の接近を明智が認識するや否や、銃と共に明智の右手に握り込まれていたアルカナが破砕音を奏でた。
265
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:21:06 ID:nvDAoGCQ0
『ムドオン』
遊佐の到達点に、黒く染まった魔力の粒子が張り巡らされる。俊敏に空を翔ける遊佐はそれを目視しても停止することはできず、その中に愚直に突っ込んでいく。粒子は遊佐目掛けて集合していき、呪殺を特性とする結界を形成し始める。その範囲に入るや否や、ぞわりと背筋に走る悪寒。その魔力を、決して直接受けてはならない類のものであると遊佐の本能は察知した。
「天光……氷舞っ!!」
明智へと振り下ろされるはずだった木刀・正宗はその向かう先を変更し、遊佐に迫る呪怨に向けて翳される。魔力を凝固させる性質を持つ氷壁がムドオンを堰き止め、その場に繋ぎ止める。ターゲットに届かなかった呪怨はその形を保てずに間もなく消失する。しかしその一連の動作は全て、明智の射程内で行われており――明智が返しの斬撃を見舞うには充分すぎる隙であった。
「――うぐぅっ!!」
刀による一閃。それは元の材質こそプラスチックだが、パレスで殺傷力を付与されるまでもなく、元の持ち主の呪いによって本物以上の斬れ味を宿された刀。遊佐の身体を横薙ぎに裂き、撒き散らされた鮮血が辺りを赤く染め上げた。
血液を失ったことで、揺れる視界と共に意識が薄れる。意識の消失までもは許さず踏みとどまるも、やはり次の行動までのタイムラグは生まれる。そこに追撃を加えんと、明智は薙いだ刀を翻し、刺突を繰り出す。
しかし幾千の悪魔を屠ってきた遊佐。その身に傷を負ったことなど、もはや数え切れない。一度の不覚を取ったとて、その先を許す遊佐ではない。
「くっ……光爆衝波っ!」
「なっ!?」
武器ではなく、遊佐の身体が媒介する即座の聖法気の放出。波のごとく打ち寄せる聖法気の圧が明智を押し返し、刃が遊佐の心臓を刈り取ることはない。一方、明智が至近距離から受けた聖法気も、ロビンフッドをその身に宿すことで得た聖なる力への耐性によって、致命傷にはなり得ない。しかし、軽減してもなお身体を芯から突き刺すかの如き痛みの大きさが、遊佐が名乗った勇者という称号が決して誇張などではないことを十二分に証明していた。
「はは、そんな芸当もできるとは恐れ入ったよ。異世界の勇者……本当に興味深い。」
明智の有する、未知なるものへの好奇心。それは本来、初代探偵王子のキャラに倣って演じた『嘘』である。『恨み』に絡み取られた心の奥底では、復讐以外のあらゆるものに対して無関心でいた。少なくとも、そのつもりだった。
しかし模倣は次第に現実になっていたようで。今や、遊佐の魅せる未知の力に対して興味を示さずにはいられない。認知の異世界を知った数年前のあの時のごとき興奮が、今再び胸にこみ上げている。御伽噺の中でしかなかった勇者や魔王といった存在が実在しているのだ。
しかし、その興奮を冷ますように。その勇者本人はたった一言、吐き捨てた。
「勇者なんてどうだっていい。」
266
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:22:13 ID:nvDAoGCQ0
聖十字大陸エンテ・イスラ。闘争と侵略を生業とする魔王サタンの侵攻は、圧倒的な力を以て人間と神の勢力を絶望に追い込んだ。生き残った僅かな間を統率する最後の希望として立ち上がったのが、勇者エミリア・ユスティーナである。
人類の勝利、世界の奪還――正義の執行であろうとも、精神的成熟を終えていない彼女が背負い込むにはあまりにも重すぎた。
人々の期待が重圧として胸を締め付けることもあった。武功を挙げたかった者に疎まれることも少なくなかった。そんな彼女だが、燎原の火の如く魔王軍を駆逐し、遂には魔王をもエンテ・イスラから退けた。
誰かの命を救えた時、嬉しかったのは当然で。人々からの賞賛も挫けそうな時に立ち上がらせてくれた要因のひとつではあることも否定しない。けれど、その根幹にあったのは――彼女が、剣を取り戦えた理由はだが魔王たちによって葬られた父の面影と、復讐のために魔王を倒すという願い、ただそれだけだった。それだけで、よかった。
「私が戦うのは私のため。それ以上でも、それ以下でもないわ。」
だからこそ。エンテ・イスラの救世主としての実績も、彼女の出自も、捨て去っても構わない。彼女の背負う正義は、人々の望みであり彼女の望みではない。彼女が進むのは、ただ復讐のため。紛れもなく、己のため。勇者の称号など、彼女にとってはどうだっていいと吐き捨てられるだけの欺瞞でしかない。
「私は!!ㅤ父さんを殺したアイツらを……この手で断罪したい……!!」
これまでのどの言葉よりも感情的な一言だった。感情のコントロールが難しくなるという、木刀・正宗によって得られる力の副作用も少なからず影響しているのだろう。
しかしその言葉が――どれだけ明智の現状を否定するものだったのかも、彼女には知り得ない。
「……当たり前、だよな。」
次の瞬間には、仮面でも隠しきれないドス黒い殺意が剥き出しになる。
「『望まれない子』の気持ちなんて、皆に望まれる勇者サマには分からないだろうさ。」
復讐しか残っていない――その一点において、明智と遊佐に違いは無い。たったひとつ、違いを挙げるならその出自のみだ。しかしそれすらも、遊佐はどうだっていいと吐き捨てた。明智より特段恵まれていながらも。正義と個人的な復讐が同じ方向を向いていながらも。その価値に気付きもしない。
「せめて生まれることを望まれてさえいれば――俺は、それだけで良かった。良かったんだよ。」
明智とて、恵まれた出自を望んでいたわけじゃない。だけど、せめて平凡でさえ、あったなら――
「まあ、タラレバの話してもしょうがないよな。」
再び、向き直る。両者ともに言いたいことは全てぶつけた。後に待つのは衝突のみ。そして次の一撃で決着がつくと、どちらも確信する――否、次の一撃で決めてやる。
267
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:22:46 ID:nvDAoGCQ0
結構な量の血液を失い、ふらふらになりながらも。遊佐は全身の聖法気を集中させ、敵を見据える。今はただ、コイツを斬ればいい。その先を見通しながら勝てる相手ではないのだから――
「――天光駿靴。」
これまでのどの瞬間よりも速く、遊佐は明智の前方上空へ翔ける。そこから繰り出すは、敵の撃破のための瞬間火力に特化した剣技。
「届け――天光……炎斬ッ!!!」
紅蓮に煌めく閃熱が、夜空を紅く染め上げる。木刀・正宗が横薙ぎに振るわれると、勢いのままに対象に向けて解き放たれる。
「ブチ殺せ……ロビン……フッドオオォ!」
「なっ……」
――そんな遊佐の『速度』も『威力』も嘲笑うかの如く。
感情をぶちまけるように、血が滲むほどに強く握り込んだ拳でアルカナを叩きつけた。
「なに、よ……これ……!」
趣味とするダーツやビリヤード等で鍛えられた明智の空間把握力から繰り出される、徹底的に研ぎ澄まされた精度と練度から成る幾つものスキル――それら一切を忘れ去ったかのように。繊細さの対極を示すように荒々しく、物量に任せた呪怨の魔力。
『――マハエイガオン』
禍々しさに満ちた常闇が、天光炎斬の閃熱も、遊佐本人も、包み込んでいく。周辺一帯を呑み込む広域への無差別攻撃を前にしては、遊佐の速度も意味を成さなかった。
「私、は……」
元よりかなりの量の血液を失っていた遊佐は、攻撃の質の根本的な変化への戸惑いや、その圧倒的な威力に対して迎撃も適わない。為す術なく呑み込まれ、そして、その意識を落としていく。
――仮に、彼女が未だ聖剣の勇者であったならば。『進化聖剣・片翼(ベターハーフ)』によって最大限に高められた天光炎斬はマハエイガオンもを逆に喰らい、明智を焼き尽くしていたかもしれない。
遊佐の持つ武器が木刀・正宗であるからこそ始まった戦いは、遊佐の持つ武器が木刀・正宗であるからこそ終わった。これが彼女が勇者であることを捨てた故の結末であるのなら――或いは、下らない正義のなれの果てとでも、称されるべきものなのかもしれない。
268
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:23:19 ID:nvDAoGCQ0
■
「この殺し合いには、伊澄さんの知り合いも呼ばれてるんだよね?」
鷺ノ宮伊澄を先導しつつ、小林は尋ねる。親友の三千院ナギを初め、6人の知り合いが名簿に確認できた伊澄はそう答える。
「……嫌な質問かもしれないけどさ。この殺し合いに乗ってそうな人って、いる?」
「……一人、だけ。」
俯きながら、伊澄は答えた。その複雑そうな表情に、少し申し訳なくなる。一回り年下女の子に、知り合いを悪く言わせるなんて酷な話題だ。だけど、現状を正しく知るには避けては通れない道でもある。
「初柴ヒスイ。最近は会っていませんが……幼馴染の一人です。」
「……幼馴染、か。」
現在、古い知り合いとの繋がりがほとんど無い己の身に複雑な思いを馳せながら、小林は続く伊澄の話に耳を傾ける。
「ヒスイは……負けず嫌いでした。」
「負けず……嫌い……?」
簡潔に纏められた。簡潔すぎて、シリアスな流れに入っていけないくらいに。
「まあ……負けず嫌いといえばナギやワタル君や咲夜も……幼馴染は私以外全員負けず嫌いなんですけど……」
(しまらないな。)
心内でため息をつく小林。ちなみに、本人は決して認めないが伊澄も相当な負けず嫌いである。
「でも……ヒスイは違うんです。何というか……ええと……」
上手く言葉にできない伊澄。
「……なるほどね。分かった、気をつけとく。」
しかし、顔を覚えようとヒスイの顔を名簿で確認した小林は、大まかに合点がいった。その目元に――刀傷だろうか、とにかく日常生活ではまず形成されないであろう類の傷跡が大きく主張している。伊澄の疑念と合わせても、真っ当な生き方をしてこなかったことは想像がつく。
269
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:23:55 ID:nvDAoGCQ0
「嫌なもんだよね。知り合いを疑わないといけないなんて。」
「ええ、本当に……。」
そして、そんな話をしている時のことだった。
「!!ㅤ……ねえ、あれ……!」
見るからに禍々しい、黒く輝く魔力が遠くの空で弾けるのを、小林は見た。
(あの感じ……もしかしてファフッさん……?)
ドラゴンの世界の魔法に詳しいわけでもないが、あの黒いエネルギーはファフニールが稀に醸し出す『呪い』の力に似ている。殺し合いを推奨する世界で放たれた魔力。その意味を、戦いに結びつけずにいられるほど小林は楽観的ではない。あの場所で、もしかしたらファフニールが戦っているかもしれない。襲われての迎撃……であると信じたいが、自分がファフニールについて滝谷ほどに理解していないことも自覚している。
そして、その地点へ向かおうと足を速め――
「あれは、危険です。」
――伊澄が、小林の腕を掴む。
「お分かりかもしれませんが……あれは、呪いです。人の世にあってはならぬもの。それも、男性の方を女装させるような弱い呪いではありません。」
(何その妙に具体的な例は)
空気を読んでツッコミは入れない小林。
「私が行きます。私なら呪いには多少、対抗できますから。」
「ううん。私も行く。」
先ほど桜川九郎を前にした時とは違い、即決だった。
「どうして……」
伊澄が尋ねる。その理由は明らかだった。殺し合いにファフニールが関わっているのではないかと、疑ってしまったからだ。ここにはドラゴンが――殺し合わせちゃいけない奴らがいて。彼らを止められるのは、曲がりなりにも、僅かであっても、同じ時を共有した自分だけかもしれないから。
そんな、入り組んだ感情を全て一言に集約して伊澄に伝える。
270
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:24:22 ID:nvDAoGCQ0
「私のエゴだ。」
「……分かりました。」
仮に正しく伝わってはいなくとも――本気の想いは伝わる。
「絶対に、私の前に出ないでくださいね。」
「うん、分かった。」
伊澄は、これから命を預けるには頼りなく見えるくらいか細い手に御札――は没収されているため、代わりに支給されたタロットカードを手にして進む。
――意気揚々と、逆方向に。
「……こっちだよ。」
「え?」
……うーん、大丈夫かなあ。
不安がいっそう増しながらも、2人は戦いの起こっている地へと向かう。
271
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:25:01 ID:nvDAoGCQ0
そして、歩き始めて間もなく――唐突に伊澄がピタリと歩みを止めた。
「……来ます。」
気配、というものを感じたか。タロットカードをその手に構え、闇の先を見据える伊澄。それからすぐ、小林もその相手の姿を視認する。荒々しい息遣いのまま、まるでゾンビのようにのそのそと近付いてくる。
そして、相手が伊澄の姿を確認した瞬間。
「――邪魔を……するなッ!」
それは問答無用とばかりに、斬りかかって来た。
「……!ㅤさせない!」
手持ちのタロットに霊力を込めて投げ付ける。敵がそれを真っ向から斬り付けると、霊力とぶつかり合い、バチバチと淡い火花を起こして弾き合う。
「なにあれ、木刀?」
そんな光景を見ながら、タロットカードほどではないにせよ敵が手にしたその武器があまりにも殺し合いのイメージにそぐわず、小林は疑問を抱く。
しかし、伊澄はその武器を見てより一層、顔を険しくした。
「あれは――木刀・正宗……!」
伊澄もよく知る、鷺ノ宮家の宝具。それが今、己に牙を剥いていたのだから。
■
――精神暴走。
巷を騒がす廃人化事件の実行者、明智吾郎が持つもう一つの能力。
「ぐ……う……」
「どうやら、終わりだね。」
明智のマハエイガオンを受けて倒れた遊佐。一方、無傷ではないものの意識はハッキリしている明智。
「……待てよ。」
生殺与奪はもはや握っており、襲い来る苛立ちのままに一突きにブチ殺しても良かったのだが――実行に移そうとするその直前、ふと興味が沸いた。人間の心より出でるシャドウに暴走へといざなう魔力を注ぎ込み、他人の心を暴走させたことは何度もある。しかし、生身の人間に試したことはない。スキル『暴走へのいざない』を、遊佐相手にかけてみたらどうなる?
「……まあ、無理だろうな。」
以前より、精神暴走を人間に直接作用させることは不可能であると明智は予想していた。心を暴走させるスキルがシャドウを介して人間に通用するのは、シャドウが人の心そのものであるからこそだ。それに対して人間の肉体は、心以外の要素が占める割合が大きすぎる。
272
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:25:32 ID:nvDAoGCQ0
「まあいいか。どうせダメ元だ。」
「ぐぁ……ぁ……」
最も脳に近い頭を掴み、魔力を流し込んでいく。本来であれば、明智の予測の通り。心に作用する能力は、身体には作用しない。流れ込む魔力に耐えられず、ショック死するのが関の山だろう。
しかしこの時の遊佐は、明智も意識していなかった要素として――木刀・正宗を手にしていた。感情のコントロールが効きにくくなる副作用により、心への働きかけがより強く、扇動されて――
「魔王サタン……ッ!ㅤよくも……私のお父さんを……!!」
「……これは驚いた。」
――結果、遊佐の持つ最も強い感情――魔王サタンへの『怒り』の感情が、暴走した。心の穢れを象徴するように、蒼銀の髪は灰色に濁っていき、目に灯した光はスっと消えていった。精神暴走を起こした者に見られる症状だ。
「アハハ……いいよ。お前の復讐、手伝ってやるよ。」
それを、利用しない手は無いと思った。遊佐の実力は先の戦いで証明済み。そんな遊佐が、怒りのままに、己の身を一切厭わず魔王サタンとやらに襲いかかったならば――
「せいぜい、厄介そうな魔王とやらと、ついでに他の参加者もをブチ殺して来てくれよ。」
――『サマリカーム』
明智のスキルにより、呪怨に侵食された遊佐の身体はみるみるうちに回復していく。ニイジマ・パレスで冴さんのシャドウがルールを制定したように、このパレスにも特有のルールが与えられているのだろうか。サマリカームの効きがいつもより悪く感じるが、それでも『戦闘不能』だった遊佐は立ち上がるまで回復し、そしてブツブツと『魔王』の二文字を呟きながら何処かへ立ち去っていく。
■
そして、現在。小林と伊澄の前に、暴走する怒りのままに魔王サタンを探し回る機械と化した遊佐が立ち塞がる。
「――殺す……魔王サタン……この手で……」
木刀・正宗によって始まった戦いは、木刀・正宗によって終わって――
「邪魔する奴も……全員、殺すっ!!」
――そして、木刀・正宗によって、次の戦いへと導かれていく。
273
:
反転のデスパレート
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:26:03 ID:nvDAoGCQ0
【E-3/平原/一日目 黎明】
【明智吾郎@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:呪玩・刀@モブサイコ100 オルバ・メイヤーの拳銃(残弾数7)@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝する
一.雨宮蓮@ペルソナ5だけは今度こそこの手でブチ殺す。
※シドウ・パレス攻略中、獅童から邪魔者を消す命令を受けて雨宮蓮の生存に気付いた辺りからの参戦です。
※スキル『サマリカーム』には以下の制限がかかっています。
①『戦闘不能』を回復するスキルなので、死者の蘇生はできません。
②戦闘不能回復時のHPは、最大の1/4程度です。
③失った血液など、体力以外のものは戻りません。
【D-3/平原/一日目 黎明】
【鷺ノ宮伊澄@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:御船千早のタロットカード@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギとの合流のため、負け犬公園に向かう
1.木刀・正宗を持った敵(遊佐)に対処する。
2.ナギに『向こう側』の世界を見せたくない。
【遊佐恵美@はたらく魔王さま!】
[状態]:精神暴走(攻↑ 防↓)、 ダメージ(中)
[装備]:木刀・正宗@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:魔王サタンを殺す。邪魔する者も全員殺す。
一.この怒りの向くままに。
※木刀・正宗が奪われたり、破壊されたりした場合に精神暴走状態がどうなるのかは以降の書き手さんにお任せします。
【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:対先生用ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1.ひとまず伊澄さんと一緒に負け犬公園に向かおう
【支給品紹介】
【オルバ・メイヤーの拳銃】
明智に支給された拳銃。合計8発の弾が込められたオルバの拳銃。1発消費し、7発となっている。元が本物であるため、パレスの効果で戦闘ごとに装填されることはない。
【御船千早のタロットカード@ペルソナ5】
伊澄に支給されたタロットカード。御札の代わりに霊力を込めて使っている。現状、枚数は特に指定はしない。
274
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/08/27(木) 03:26:31 ID:nvDAoGCQ0
以上で投下を終了します。
275
:
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:21:19 ID:411F1Oq.0
投下お疲れ様です!
反転のデスパレード
明智と遊佐の濃厚なバトル描写、圧巻でした!
遊佐、一歩及ばず!!改めて、ペルソナは呪文が多彩なので、敵に回すと非常にやっかいですね…
伊澄が意気揚々と逆方向へ歩きだすのは爆笑しました(笑)
暴走した遊佐…伊澄と小林さんの命運は如何に!!
完成したので、投下します。
276
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:22:26 ID:411F1Oq.0
現実―――いま目の前に事実として現れているもののこと。
桂ヒナギクは困惑していた。
今まで、教会地下迷宮探索をしたり、ロボットと戦ったり、ミコノス島で黄金の王の亡霊と対峙したりなど、様々な某ネコ型ロボットの大長編のような場面を切り抜けてきた。
しかし、『殺し合い』というバイオレンスな場面は精神に陰りを与える―――
桂ヒナギクは無力感に苛まれていた。
あの場において自分は何もできなかった。
坂本とかいう金髪の少年のように姫神に反逆の意志を見せることもなく、ただ観客Aとして立ち、少女の頭と首が離れるのを唖然と眺めていた……
「千穂さん…といっていたかしらね」
死んだ少女…佐々木千穂とは、ほんの少し会話を交わしただけ…別に友人でもない。だが、自分と同じ【居るだけで安心できる人】がいたのだ!!
もう、佐々木千穂は大切な人と会話を交わすことはないのだッ!!!
両眼を瞑るヒナギク……
「絶対に負けないわよ…ッ!!」
白皇学院の生徒会長としてこれ以上、情けない姿を見せるわけにはいかない。
目をカッと見開いたヒナギクは行動に移す。
デイパックの名簿を手に持つとパラパラパラと勢いよくページを捲る……
「…よしッ!名前と顔は覚えたわ」
普通なら『いやいやいや、ギャグでしょ!?』とツッコむところだが、
1000人はいる白皇学院全員の生徒の名前と顔を把握しているヒナギクにとって44人は苦にもならない。
ヒナギクは名簿の記載から思案した。
三千院ナギ―――同じ白皇学院に通う生徒で大切な友人。中々、剣道部へ顔を出さないのが、もどかしいが……
マリア―――ナギに使えるメイドさん。ハヤテ君のことで相談を聞いてもらったりアドバイスをくれる大人のお姉さん。たまにストレートに突き刺さる言葉は勘弁してほしいけど……
西沢歩―――学校は違うが、ナギ同様大切な友人。そして、恋のライバル―――
鷺ノ宮伊澄―――ナギや私と同じ白皇学院に通う生徒。結構、面倒事に巻き込まれるとき、よく関わる子……
初柴ヒスイ―――ナギの幼馴染の一人らしい。私自身は面識がないからなんとも言えない……
綾崎ハヤテ――――ナギに使える執事で、私の想い人―――
「…ハヤテ君」
好きだが自分から告白するのは【負け】と感じるヒナギク。
だが、一抹の不安がヒナギクを覆う。
「もし、ハヤテ君が…私が死んだら?」
最悪の光景を浮かび、それを取り除くよう頭を振るヒナギク。
「…大丈夫よ。私もハヤテ君もこんな場所で死んだりはしないわ!」
精神を落ち着かせようと自分に言い聞かせるヒナギク。
今後の事を考えながら歩いていると……
「ッ!?あれは!!」
視線の先に見えるのは自分と同じ桃色の髪をした少女が鉄鋼をもつ紫髪の女性に襲われている。
「……」
プルプルと体を震わせるヒナギク……
「白桜ッ!!!!!」
主の声に呼応して白桜は神速に鉄鋼女へ突っ走る!!!!!!
☆彡 ☆彡 ☆彡
277
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:25:47 ID:411F1Oq.0
「はぁぁぁあああ!!」
白桜の一閃が鋼人七瀬に叩き込まれるッ!
―――が白桜の刃は鋼人七瀬の体をすり抜ける……
(やっぱり、攻撃が通らない!?)
「……」
ブンッ!握りしめた鉄鋼が振り回される。
(攻撃を受けとめることができない…けど、避けきれるッ!)
ヒナギクは鉄鋼の動きを読み、紙一重で避けている。
鋼人七瀬による鉄鋼攻撃は動作こそ単純だが、一撃その身に浴びれば致命傷へとつながりかねない。
現に白桜を装備したヒナギクでさえも衝撃を殺しきれず、打ち飛ばされたのだ。
(うッ!?…あまり長期戦はできないわね…)
腰の痛みに脂汗が額に浮かぶ。
鋼人七瀬と戦うには、不死の体をもつか、それこそ、人の身でない頑丈な体をもつ者しか対抗手段はない……
「ヒナギクさん!」
(どうしよう!?私に何かできないことはないのかな?)
鹿目まどかは涙目で自分のデイパックの中身を確認する。
出てきたのは中心に鈴がついているリボン……説明書には【これを身に付ければ、あなたもハーマイオニーになれる】と書いてあるだけ…
一見、見ればただのコスプレ用のリボン……しかし、まどかはその名を目にして。
(ハーマイオニーってたしか…)
まどかは、ハーマイオニーの名前に小説の魔法使いの少女が頭に浮かんだ……
「あうッ!?」
鉄鋼の直撃こそ避けているが、腰の痛みがヒナギクの動作を遅くしていく……
まどかは、そんなヒナギクの姿を見ると意を決して、鈴のリボンを首元に装着すると両手で祈る!!
(お願い!何も取り絵もない私だけど…ヒナギクさんに力を貸して!!!)
カッ!! すると、リボンから光が放ち…!!
「こッ…のぉぉぉおおお!!胴!!!!!!」
バシィィィイイイ!!!!!
ヒナギクの力を込めた胴が…鋼人七瀬の腹にヒットする!
「……!?」
「え?当たった!?」
攻撃を繰り出したヒナギクはもちろん、鋼人七瀬も驚きを見せた。
パレスは認知の世界―――
キュゥべえと契約をかわしていない、まどかはただの中学生の少女……
しかし、インキュベーターに【魔法少女】としての素質を見込まれている。
まどかが身に付けた綾崎ハーマイオニーのリボンが【魔法】の【媒体】となって【祈り】が通じたのだ!!
「ヒナギクさん!!」
「まどかさん!?…ありがとう。これならアイツをブッ倒せるわ!!」
ピロピロリン♪ ♪ ♪
ヒナギクはまどかに視線を向けると、攻撃が通用した理由を瞬時に察して、サムズアップしてウインクした☆
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【審判】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
コープのランクが4に上がった!
ヒナギクの白桜の連打が鋼人七瀬に次々とヒットする!
攻撃が通るようになり、鋼人七瀬も動作がゆっくりとなる。
(…腰の痛みがなければ…ッ!)
一気に畳みかけてぶっ飛ばしたいが腰の打撲がそれを許さない―――
「……!!」
ブオッ!!!
「しまッ・・・!?」
「ヒナギクさんッ!!」
鉄鋼がヒナギクの顔面に迫る―――
ガッ!!!!!
☆彡 ☆彡 ☆彡
278
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:26:13 ID:411F1Oq.0
幻想―――根拠のない空想。とりとめのない想像。
大山猛(ファフニール)は激怒していた。
人間の手により左腕を切断されたことに。
混沌勢に属する自分が襲撃者の命を刈ることができなかった己に怒っていた。
大山猛(ファフニール)は自己を見つめ直していた。
(俺は、弱くなったのか?)
(人間と関わるようになったからか?)
(人間ごっこをし続けている結果がこれなのではないか?)
ファフニールの目がどんどん濁っていく。
(いや…アイツは強くなっている…人間と関わって)
しかし、人間と関わることで強くなったドラゴンがファフニールの身近にいる。
ファフニールの脳裏に浮かぶドラゴン―――トールは守るべき財宝を見つけた者の強さを身に付けている。
(俺は…アイツのように人間と関わることで強くなるのか…?)
ファフニールの疑問に答えはまだ出ない。
互いに無言で歩いていると、滝谷が何かに気づき発した。
「ファフ君!あれ!!」
滝谷が指さす方角に映るのは、二人のピンク髪の人間と鉄鋼を振りまわす危なげな女―――
「このままでは、あの女たちは死ぬな―――」
ファフニールの見立てでは、ピンク髪の二人の死を予見していた。
「…どうする?今のうちに別のエリアに移動する?」
滝谷の選択……
それは、見捨てる――――非情だが、生き残るためには必要な一手かも知れない……
「ふん。…悩む暇があるなら力を磨き続けることが俺のやるべきことだ」
「え?」
ファフニールは一直線に戦いの場へ走った―――
☆彡 ☆彡 ☆彡
279
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:26:42 ID:411F1Oq.0
ガッ!!!!!
「……え!?」
死を覚悟したヒナギク。
そんなヒナギクの眼前に右前腕で鉄鋼を受け止める男性―――
「あの人、腕ッ!!」
青ざめるまどか―――
鉄鋼の威力を見続けてきた、まどかには分かる。
『あれ』を生身で受けたら無事で済まないことを……
「…大丈夫だよ」
「…えッ!?」
震えるまどかの肩を落ち着かせるように優しく手を置きながら話しかける滝谷。
「ファフ君はとっても強いでヤンスから」
眼鏡をかけると、中指でクイッと持ち上げる滝谷。
ドガァァアア!!!
鉄鋼を右前腕で受け止めたファフニールはすかさず、左足で鋼人七瀬の鳩尾深く蹴る!
ズザァァァアア!!!
蹴りの衝撃で鋼人七瀬は地面に足をつけたまま、吹っ飛ぶ。
「チッ…殺すつもりで蹴ったんだが、気に入らん……」
「あ…あなた!大丈夫!?」
不満な顔に声のファフニールにヒナギクは心配そうに声をかける。
「問題ない。それより、邪魔だ。下がっていろ女」
「…はい?」
ピキッ☆
ヒナギクは笑顔のまま眉をひそめる。
「……」
鋼人七瀬は乱入してきたファフニールに鉄鋼を振り回そうとするが…
「胴ぉぉぉぉ!!!!!」
ヒナギクは鉄鋼に構えるファフニールの前を通り過ぎると、鋼人七瀬に鋭い胴をお見舞いする!
ヒナギクの胴に吹っ飛び横転する鋼人七瀬。
「…おい。どういうつもりだ?言葉が通じないのか?」
ファフニールは自分の忠告を聞かずに退かないヒナギクにイライラした声で諫めるが……
「悪いけどそういうわけにはいかないのよ」
ヒナギクは腰の痛みを感じさせない凛とした声で――――
「私、生徒会長だから、目の前で困っている人を助けないわけにはいかないの」
ファフニールに言い放つ―――
☆彡 ☆彡 ☆彡
280
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:27:32 ID:411F1Oq.0
虚構―――実際にはない、作り上げたこと。作り事を仕組むこと。
鋼人七瀬は悠然と立ち尽くす―――
存在を否決され、確かに消滅したはずだった……
一度、根付いた話はそう覆ることもなく、復活をするはずがない。
鋼人七瀬は指令に従う―――
復活したのなら鋼人七瀬が行うことはただ一つ……
姫神・再度自分を生み出した桜川六花の想像力が鋼人七瀬の原動力となる。
殺し合いという場において座り込むという愚行を犯しているピンク髪の少女の命を刈ろうと……
無情に鉄鋼を振り下ろす。
☆彡 ☆彡 ☆彡
281
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:28:07 ID:411F1Oq.0
幾度となるヒナギクとファフニールの攻撃を受け、倒れても起き上がっては襲い掛かる鋼人七瀬。
(チッ…埒が明かない。癪だが、仕方がないな…」
ファフニールは眉を顰めるとヒナギクへ視線を向けて。
「おい女!俺に合わせろ!!」
「嫌よ。あなたが私に合わせなさい!!」
「ドラゴン相手に対等のつもりか人間」
今すぐにも、ヒナギクを呪い殺しにかかってもおかしくない形相で睨むファフニール。
「そうよ」
ヒナギクはファフニールの眼光に怯まず凛と答える―――
「…フン。言ったからには、やってみらうぞ」
ーーパリィン!
「ええ―――小手ぇぇ!!」
鋼人七瀬の鉄鋼を持つ手右手に人七瀬の鉄鋼を持つ手右手に力強い小手がお見舞いされる!!
「…ッ!?」
さしもの鋼人七瀬も鉄鋼を手から放す―――
「いまよぉぉぉぉ!!」
「―――上々だ。女」
ズンッ!!!
ファフニールの拳が鋼人七瀬の腹を突き破るッ!
「……ッ!!??」
拳を引き抜くと同時にまわし蹴り!!
鋼人七瀬の首があらぬ方向へ向いて地面に伏した。
「やったわ!!…ん?」
喜ぶヒナギク。
「……」
ファフニールはヒナギクから顔をそらしつつも、右腕を挙げている。
「……クス」
ファフニールの意図を察したヒナギクは微笑むと―――
「やったわね♪」
ハイタッチを行った―――
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【陰者】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
コープのランクが4に上がった!
大山猛(ファフニール)が「呪サポート」・「ドラゴンサーチ」・をしてくれるようになった。
ズズズ…ゴキッ!!
鋼人七瀬は起き上がると、曲がった首を元通りに戻す。
「チ…しぶといな」
「まだ、やるつもり?」
ヒナギクとファフニールはうんざりした様子で構え直すが……
「「「「……消えた?」」」」
鋼人七瀬は靄に包まれると姿を消した―――
☆彡 ☆彡 ☆彡
282
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:32:00 ID:411F1Oq.0
対峙していた鋼人七瀬が影もなく姿を消したため、互いに自己紹介を交わす―――
「ドラゴン…まさか、空想上の生き物だと思っていたけど実在するなんて…驚きだわ」
「ドラゴン…なんだか、とってもカッコイイですね♪」
ファフニールがドラゴンであることにそれぞれ違う反応を見せるヒナギクとまどか。
「ふん…それより、これからどうする?足手まといになられるのだけは、勘弁してほしいが」
「そうね。この場合、「どちらが」だけど♪」
「「……」」
協力し合ったばかりの2人の間に火花が散る―――
ピロピロリン♪ ♪ ♪
「ヒ…ヒナギクさん!!」
「むむ!これが、リアルツンデレでヤンスか!?…まま!後、数時間で放送が流れるでヤンスから。それを聞いてから、今後の方針を立てては?」
つかの間の休息――――
【C-3/平野/一日目 黎明】
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一. 放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.まどかと行動を共にする。
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※ファフニール・鹿目まどかとのコープが4になりました。
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)について知った。
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:綾崎ハーマイオニーの鈴リボン
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも
三.ヒナギクと行動を共にする。
※ヒナギクとのコープが4になりました。まだスキルは解放されません。
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)について知った。
【支給品紹介】
【綾崎ハーマイオニ―の鈴リボン@ハヤテのごとく】
鹿目まどかに支給された鈴リボン。本来なら、ただのコスプレ道具だがまどかの持つ素質とパレスの認知が融合してヒナギクに祈りを届けた。
結果、ヒナギクは「怪異なる存在」に攻撃を与えられるようになった。現在はただのコスプレ道具―――(※また、リボンから祈りが届く力が発動するかは後続の書き手様に一任します)
滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない
三.小林さんの無事も祈る
[備考]
アニメ第6話と原作第54話(滝谷とファフニール)より後からの参戦です。
【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
三.ふん、生意気な女だ…(ヒナギクに興味を抱いた)
※ヒナギクとのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「呪サポート」バトル中、一定の確率で相手を呪う
「ドラゴンサーチ」この殺し合いの場で出会った人物のみ、自分の周辺エリア(四方)にいる参加者をサーチすることができます。
[備考]
滝谷真と同時期からの参戦です。
【?-?/?/一日目 黎明】
「……」
とあるエリアに出現する鋼人七瀬。
これからも彼女は参加者を襲う。それが自らに課せられた想像力だから―――
【鋼人七瀬@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:鉄鋼@虚構推理
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の襲撃
一.……
※パレスの認知と桜川六花の虚構が混ざり存在している。ただの物理攻撃では倒せない。
※致命傷を与えられると、靄に包まれ、別のエリアへ移動する。
その他の状況はまだ不明。
283
:
現実・幻想・虚構
◆Oamxnad08k
:2020/08/30(日) 20:33:21 ID:411F1Oq.0
投下終了します。
――パリィン!、使わせていただきました。
284
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/01(火) 20:08:37 ID:lqI.iiPo0
投下お疲れ様です!
このロワの鋼人七瀬をどう扱うかですが、不死性を完全否定すると恐ろしさに欠ける微妙なマーダー、原作通りだと単に勝ち目のないマーダーで、落とし所が難しかったと思うんですよね。
その点、普通に殺しても復活する鋼人七瀬の『どうにもならない』不死性と、まどかの祈りとパレスの特性による『どうにかなるかもしれない』要素の両方を出してて、その難しかった落とし所を絶妙に見出しているなあと感じました。特に鋼人七瀬の原作の脅威は大体その不死性だけに帰着してしまっていて、身体能力に秀でた異能力持ちが相手だと仮に七瀬が殺されずともそれらを殺せる展開にはしにくい気もしていたんですよね。だからこそ、殺せない相手には早々にワープさせることができるというのも、神出鬼没という一要素を個性にできて面白いと思いました。
そしてヒナギクとファフニールが反目し合いながらもコンビネーションバッチリなの、すごく面白いですね。オープニングの扱いもあって登場話ではシリアス寄りに書いてたヒナギクですが、ファフニールに軽くあしらわれての「ピキッ☆」はめちゃくちゃヒナギクならではの反応だと思いました。
285
:
◆Oamxnad08k
:2020/09/03(木) 21:54:17 ID:T2NhGftc0
感想ありがとうございます!
現実・幻想・虚構
鋼人七瀬の扱いには悩み、思慮を重ね、このように描写しました。
個人的にバイオハザードのネメシスをイメージしています(笑)
神出鬼没なら大胆なマップ移動も可能になると思いそうしました!
ヒナギクとファフニールなら反目し合いながらのタッグかなぁ〜と個人的に感じたのでこうしました。
ヒナギクならではの「ピキッ☆」は、ファフニールの態度なら違和感ないかな…と。
美樹さやか・赤羽業・刈り取るもの・杏・エルマで予約します。
286
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/04(金) 22:53:13 ID:jKa1boAI0
雨宮蓮で予約します
287
:
◆L9WpoKNfy2
:2020/09/06(日) 15:28:57 ID:Vqfipf560
投下いたします。
288
:
◆L9WpoKNfy2
:2020/09/06(日) 15:29:51 ID:Vqfipf560
失礼しました。別のスレと間違えてしまいました。
大変申し訳ございません。
289
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/07(月) 23:31:17 ID:77j5Tu2Q0
投下します。
290
:
さよならメモリーズ
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/07(月) 23:31:50 ID:77j5Tu2Q0
――桜が、咲いていた。
出会い、そして別れ。桜の木に付随するドラマは、その向かう先が真逆でありながら同時に存在している。何よりも桜は綺麗だ。その煌めきで多くの人々の目を引き付け、視線を奪っていく。それは、闇に紛れて目立つことなく獲物を奪う怪盗の在り方と、完全に対をなす光景だった。
心の怪盗団のリーダーにして、今や殺し合いの地に立つ一人のマーダーでもある男、雨宮蓮。彼は今、優雅にその存在を主張する幾つもの桜の木を、憂いに満ちた眼を仮面で隠したまま、ただぼんやりと眺めている。まるで、夢の中に入ったように上の空に。目の前に繰り広げられる景色を吸収していた。
そして、その瞳の先に映るのは――
4月――桜が導く出会いの月。自分にとってのそれは、破滅へのカウントダウンだった。何となく、理不尽が許せないと思って。無力だというのに、正義感を振りかざして。
その結果が、薄汚い屋根裏部屋と、行きたくもない秀尽学園への『投獄』だった。同級生からは白い目で見られ、尾ひれをつけて増幅していく噂は止むことを知らない。保護観察付きの前歴とは、どこまでも付きまとってくるものなのだと思い知らされた。
そんな闇の中だからこそ、安易に光に惹かれて手を伸ばしてしまった。突如覚醒したペルソナの力。同じ反逆の心を宿した者たちは確かに自分の居場所になっていて。共に心の怪盗団『ザ・ファントム』を結成した頃は、保護観察だとか、前歴だとかを忘れていられるくらい、楽しかった。だからこそ、そこで終わっておけばよかったんだ。
本当は分かっていたはずなのに。正義感を振りかざして、社会の闇に立ち向かった結果がいかなるものなのか。それなのに、手に入れたペルソナの力に浮かれていたか、それとも改心を続けていけば自分を冤罪に導いたあの男と再び会えるとでも信じていたのか。
ㅤ分からない。分からないが、その結末は分かっている。
291
:
さよならメモリーズ
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/07(月) 23:32:25 ID:77j5Tu2Q0
自分は、殺された。
もう、あの平穏な日々に帰ることも。
もう、桜の季節を迎えることも。
何もかもができない。絶望的なほどに、不可逆的な終わりだった。こうして今ここにいること自体が、もはや何かの奇跡でなければ説明できない事象なのだ。
「俺は、生きていたかった。」
心の中に浮かんだ、ただひとつの気持ちを口に出す。その想いを認め、もう一度見上げた夜桜はやはり綺麗で――憎らしいと思えた。可憐に咲き誇る満開の夜桜は、その先に、反逆の絆で結ばれた仲間たちを映し出した。
みんな、眩しいくらいに笑っていて。みんな、いちばん楽しかったあの頃のままで――銃弾に貫かれて深い深い闇の底へと沈んでいった自分を、決して受け付けないように思えた。
最後にもう一度、彼らの姿を焼き付けるように凝視して――
「――クイーンメイブ!」
数ある仮面の中から選ばれたペルソナが、砕けたアルカナより顕現する。怪盗団の始祖――『魔術師』のアルカナを冠するその影は、そっと桜の木々に手を伸ばし――振り下ろす。
292
:
さよならメモリーズ
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/07(月) 23:33:20 ID:77j5Tu2Q0
――『アギダイン』
その手の先から、夜を照らすように光り輝く炎の魔力が立ち上って――それは瞬く間に、眼前に広がる桜色を、燃え上がる赤に染め上げた。
真っ赤な景色の中、出会ってきた者たちの顔が、蜃気楼に吸い込まれて消えていく。出会いそのものがなかったかのように、雨宮の心の中にあった未練までもが消失していくかに思えた。
次第に色を失って焼け落ちていく木々。枝から僅かに落ちた花びらは、その風情の大部分を失いながらも未だ綺麗さは残っていて、その中心で一人醜悪に笑う男の姿を引き立てていた。
「……さよならだ。」
クイーンメイブの姿が、立ち並んでいた桜の木と共に、還るべきであったアルカナごと消えていった。それだけではなく、『戦車』、『恋愛』、『皇帝』……共に反逆を誓い、絆を深めていった仲間たちを象徴するアルカナも、次々と、雨宮の心から消滅していく。
そして、たった二つのアルカナだけが残った。
『愚者』――雨宮蓮の反逆の心を示すアルカナ。
そしてもう一つ――『正義』。
そのアルカナが示す男、明智吾郎との戦いはまだ終わっていない。自分を殺した借りはまだ返せていないし、この殺し合いに奴が参加していることも分かっている。
今度こそは、逆にブチ殺してやる――怪盗団の信念からかけ離れた新たな決意とともに、焼け野原と化した花見会場を後にした。
【E-2/花見会場/一日目 黎明】
【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーも、殺そう。
三.明智五郎は、この手で殺された借りを返す
※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にアルカナ属性が『正義』のペルソナが一体います。詳細は後続の書き手様にお任せします。
293
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/07(月) 23:33:39 ID:77j5Tu2Q0
投下終了しました。
294
:
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 22:56:22 ID:RZGqJt0.0
完成したので投下します。
295
:
魔法少女の時間
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 22:57:45 ID:RZGqJt0.0
「ねぇ。美樹さんは【幽霊】って信じるタイプ?」
「そうね……魔女に出会う前の私ならそんなのいるわけないじゃんと否定してたかな……あんたは?」
「俺?……美樹さんとほぼ同じかな。ただ、いるとしたら挟間さんが黒魔術で呼び寄せたのかもしれないと思うかな」
「……幽霊って召喚できるものなの?」
他愛もない会話をするカルマとさやか―――
首輪を解除するため、地図を確認していくつかの候補から決めた場所…霊とか相談所を目指して歩いている2人。
「それにしても霊とか相談所なんて、いかにも怪しげな名前ね……」
「はは!本当、ウソ臭い名前だね〜。でも、だからこそ何かあるのかもしれない」
(……あいつ。赤羽業といったかしらね。さっきから聞いているけど、クラスメイトの名前がポンポン出てくるわね……一匹狼のような雰囲気に見えるけど、意外と社交的なのかしら?)
(……美樹さんは、あまり男子と会話をしない女子かな?いかにも普通の女子中学生にしか見えないけど、魔法少女で…【ゾンビ】…ね)
互いの印象を胸に秘めて2人は住宅街を歩く。歩く。歩く―――
☆彡 ☆彡 ☆彡
296
:
魔法少女の時間
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 22:59:17 ID:RZGqJt0.0
「ねぇ、何か音が聞こえない?」
「……聞こえるね」
―――チリリリリ……
静寂な住宅街を歩く2人の耳に低い金属音がこびりつく。
視線の先に見えたのは――――刈り取るもの。
「……あれ、人だと思う?」
「んなわけないでしょ……どうみても化け物」
(でも、あの姿、まるで……魔女。銃を持っている……マミさん)
刈り取るものがこれ見よがしに手にしている2丁の長銃を見て、さやかは魔法少女にしては異色なマスケット銃を扱う巴マミを想起した―――
さやかの思案とはよそにカルマは焦る……
(……あれは、ヤバい…)
カルマの脳に危険信号が鳴り響く。
プロの殺し屋と同等…それ以上の危険の香りを発する刈り取るものにカルマの導き出した答えは【隠れてやりすごす】
「美樹さん。あれはヤバい……隠れてやり過ごそう」
「……わかった。あんたは隠れていなよ。あいつは私が引き受ける」
悪いやつを許さない…さやかの正義感が退くのを拒否した。
「……ほおっておいたほうが賢明だけどねぇ」
そうこうしているうちに……
トゥ―――トゥ―――
DANGER!
2人はサイレンが鳴った感覚がした。
ドキュゥゥン!
「なっ!?」
「美樹さんッ!!」
空間から針が出現するとがさやかの体を貫く…ムドオン。
即死効果を与えるスキル。
「…なんともない?」
美樹は体を貫かれても変化がないことに、不思議がる……
そう、美樹さやかは契約により魔法少女へと存在を変化させた。
魂はソウルジェムに移されているため、死の呪文はBLOCKされたのだ。
「……大丈夫そうだね」
「ええ。…その外見は、見掛け倒しってわけ?こちらもいくよ!!」
さやかは自らの青いソウルジェムを手に取ると―――変身した。
制服姿のさやかは凛々しい剣士のようなマント付きの衣装に肩だしスタイルの魔法少女になった――――
「へぇ……魔法少女って本当なんだ。帰ったら竹林に話してやるか」
(……そして、あれが美樹さんの……)
魔法少女に変身したさやかにカルマは感嘆と同時に美樹が自らをゾンビと形容するソウルジェムを見つめた……)
「やぁぁああ!!」
ザンッ!!
さやかは血のシミターで刈り取るものを斬るッ!!
「……」
ドキュゥゥン!
さやかの斬撃をものともせず、刈り取るものは次の行動を起こす。
「ぐうぅぅ!?」
「うッ!?」
カルマとさやかは頭を抱える―――念動スキルのマハサイダイン。
脳に直接ダメージを与えるスキルに2人は踏ん張るが、やはり殺せんせーを暗殺する訓練を受けているとはいえ、中学生でしかないカルマの方はダメージが大きい。
「こっ…のぉぉおお!!」
ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!
さやかは複数の剣を召喚し刈り取るものへ投擲をする。
刈り取るものも長銃でいくつかの剣を打ち落とすが、何本かをその身で受け、ひるむ。
その隙にカルマの様態に気づいたさやかは抱えて一軒家の屋根へ飛び移る。
「……サンキュ。助かったよ」
「あんたは、そこでじっとしていて!あいつはあたしがぶっとばしてやるからさ」
屋根にカルマを下すとさやかは刈り取るものへ戦いに挑もうとする……が。
「まった。美樹さんだけじゃ、あいつを斃すのは難しいよ。何か勝算があるの?」
カルマの問いかけに……
「私は大切な人を守るためこの力を望み魔法少女になった……だから戦う」
さやかは刈り取るものをキッと見据える……
297
:
魔法少女の時間
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 23:00:06 ID:RZGqJt0.0
「…それに、その気になれば痛みなんて完全に消しちゃえるんだから」
さやかの自嘲した言葉……
「…やっぱり、私はゾンビ…人じゃない」
「美樹さんはゾンビじゃないよ」
カルマの言葉にさやかはムッとした表情を見せる。
「……何がいいたいの。気休みならよして」
「別に気休めなんかじゃないさ。ゾンビって死体のまま蘇った人間のことを指す言葉だよ?美樹さんは死んだの?」
「……死んだようなものじゃない。こんな体で身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ……」
「……」
すると、カルマはさやかを抱きしめる―――
「なッ!?」
「…キスもしたほうがよかった?」
「…ッ!?馬鹿いってんじゃないわよ!!」
さやかは顔が真っ赤になる…
(ふ…ふりほどけないッ!?)
魔法少女として変身した自分をガッチリと放さないように抱きしめるカルマ。
「大切な人を守るために魔法少女になったんでしょ?…凄いじゃん。大切とはいえ人の為全てを捧げるなんて。それとも、魔法少女になったことやっぱり後悔してるの?」
「…ちがう。私はいい加減な気持ちで契約をしたんじゃない…」
「だったら、美樹さんは人間だよ。それでも自分をゾンビと卑下するなら、すれば?」
「でも、その瞬間から、誰も美樹さんを【人間】として見てくれない……本当に【ゾンビ】さ」
「あんた…」
「俺の名前は【赤羽業】……自己紹介はしたよね?」
「……カルマ」
「よく言えました。……さやか」
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【戦車】のペルソナ「ドキュゥゥン! ダァアン! ダァアン!」ならん…
「ッ!?よっと」
「はッ!!」
刈り取るものの至高の魔弾を避ける2人―――
「……普通、ここで撃つ?」
「撃たないね。少なくとも俺は。ってことは…あっれぇぇえ?、もしかして刈り取るものさんは空気読めない人?」
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
コープのランクが4に上がった!
美樹さやかが「魔法少女トーク」・「魔法少女の追い打ち」・「ステルスダッシュ」をしてくれるようになった。
298
:
魔法少女の時間
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 23:02:57 ID:RZGqJt0.0
「……」
ドキュゥゥン!!
カルマの挑発にも刈り取るものは意に介さず、コンセントレイトを唱える。
刈り取るものは精神を集中した……
「……やっぱり、殺せんせーとは全然反応が違うね。コミュ障はやりにくいなぁ……」
「軽口叩かないで、何かいい作戦はないの?カルマ!!」
カルマの返しにさやかは案はないのか、問いかけるッ!
「……いいけど、実行できんの?……おれの作戦、死ぬかもよ?」
「私は死なない!だから、遠慮なく作戦を実行しなさいッ!!」
「…OK」
(とはいえ……圧倒的に人数が足りない…せめて後、2人はほしいな……)
カルマの額から冷や汗が滴り落ちる。
刈り取るもの相手に2人では無謀に近い行為……
ドキュゥゥン!
刈り取るものの強化されたメギドラ―――
「カルマッ!!」
「…ッ!?これは、ヤバ……」
カルマの命を刈る光の光線が降りそそ―――
バララララララ!!!!!!!
マシンガンから放出される無数の対先生BB弾が複数の電柱にヒットすると、カルマの目の前に崩れ落ちてメギドラを防ぐ!
「はぁああ!!」
勇ましい声と同時にレテの斧が刈り取るものに鋭く斬りおとされるッ!!
某RPGゲームでいうなら会心の一撃!
刈り取るものの右腕が刈り取られ空中を舞うと地面に堕ちる―――
カルマと美樹に加勢したのは、高巻杏と上井エルマ。
住宅街から聞こえてきた戦闘音に駆け付けてきたのだッ!
「ありがとう。…正直、助かったよ」
まさかの加勢に素直に感謝の言葉をカルマは口にする。
「気にしないでッ!まずは、アイツをどうにかしましょ!!」
「礼にはおよばん、人間さん。……む、いや、後でよければ食料を少し分けてくれないか―――?」
4VS1
赤羽業・美樹さやか・高巻杏・上井エルマ・刈り取るもの
はたして、命を【刈り取られる】のは――――
299
:
魔法少女の時間
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 23:03:57 ID:RZGqJt0.0
【E-6/住宅街エリア/一日目 黎明】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(小) ソウルジェムの濁り(小)
[装備]:血のシミター
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神葵を倒し、元の日常に帰る
1.刈り取るものに対処する
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.もしまどかを見つけたら……どうしよう
※第8話、雨の中まどかと別れた直後からの参戦です。半ば放心状態だったため、ルールを全て把握できていません。
※呼び名があんた→カルマに変わりました。
※赤羽業とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「魔法少女トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、魔法・魔力を扱う参加者であれば、交渉をやり直せる
「魔法少女の追い打ち」カルマの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「ステルスダッシュ」ダッシュ中、敵に気づかれにくくなる。
【支給品紹介】
【血のシミター@ペルソナ5】
美樹さやかに支給された剣。ガンカスタムが施されており、「中確率で絶望付着」の効果が付いている。
【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.刈り取るものに対処する(逃げも一手と考えている)
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな
※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。
※美樹さやかとのコープが4になりました。
※呼び名が美樹さん→さやかに変わりました。
【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.刈り取るものを斃す
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
三.食料確保も含め、純喫茶ルブランに向かう
四.怪盗団のメンバーと合流ができたらしたい
※エルマとのコープが3になりました。
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※杏はパレスということから、オタカラがあるのではと考えています。
【支給品紹介】
【サブマシンガン※対先生用BB弾@暗殺教室】
本来は人体には無害のBB弾だが、パレスの効力により対先生ナイフと同じく、本来は持っていない殺傷力を有する。
杏はBB弾でも殺傷できることを理解している。 ※マガジンを一つ消費 残りのマガジン数は後続の書き手様にお任せします。
【上井エルマ@小林さんのメイドラゴン】
[状態]:健康 空腹(小)
[装備]:レテの斧@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料なし) 不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神の殺し合いを阻止する。
一.刈り取るものを斃す
二.調和を乱す姫神は許さん!…あ、お腹が空いた…
三.トール・カンナと出会えたら、協力を願う
四.小林さんに滝谷さんに出会ったら保護する
姫神により全身ドラゴン化や魔法が制限されていることを把握しています。
※参戦時期はトールと仲直りした以降。
※杏とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「エルマの応援」エルマと絆を結んだ者は身体能力がほんの少しだが、底上げされる。
「エルマの本気応援」エルマと同行中している限り戦闘中、経験値が上昇する。(相手の技を見切るなど)
【支給品紹介】
【レテの斧@ペルソナ5】
上井エルマに支給された斧。ガンカスタムが施されており、「中確率で忘却付着」の効果が付いている。
【刈り取るもの@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(小) SP消費(小) 右腕欠損
[装備]:刈り取るものの拳銃×1@ペルソナ5
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:命ある者を刈り取る
※杏とエルマの助太刀乱入により、1回行動から2回行動に切り替わりました。
300
:
魔法少女の時間
◆Oamxnad08k
:2020/09/09(水) 23:04:27 ID:RZGqJt0.0
投下終了します。
301
:
◆Oamxnad08k
:2020/09/10(木) 23:23:03 ID:LGZX2AD60
投下お疲れ様です!
さよならメモリーズ
ジョーカーこと雨宮連の心情が伝わりました。
そうですよね。4月は、惣治郎との関係も深くないので、邪険に扱われるわクラスメイトの白い目などまさしく秀尽学園は囚人を投獄する意味合いが強いかと。
そして、「俺は、生きていたかった。」からの仲間との決別に切なさを感じました。
302
:
◆2zEnKfaCDc
:2020/09/11(金) 15:58:09 ID:e71yzksk0
投下お疲れ様です!
カルマの挑発にも乗らず、さやかの(敵に回すと厄介なことこの上なさそうな)痛みを無視しての特攻でも倒れないタフさを持つ刈り取るもの、どことなく天敵感が拭えない。それぞれ芯を持ってる二人ですけど、結局は生身の人間に過ぎないカルマと、魔法少女の中でもルーキーなさやかという、フィジカル面の不安が露呈した感じがありますね。だからこそ、ドラゴンのエルマと刈り取るものを知るパンサーが合流したのは心強い。ここからどう転がるか、楽しみです。
303
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/01(金) 21:32:58 ID:D4KXpwcQ0
感想有難うございます!
トリップが変わっていますが、◆Oamxnad08kです。
「魔法少女の時間」
書いていてカルマの描写が難しく悩み…さらに人外との相手をするから、なおさらでした(汗)
カルマとさやかだけで刈り取る者との対峙は厳しいと思いエルマとパンサーを合流させました。
この闘いの結末がどうなるのか、自分としても楽しみです。
坂本竜司、西沢歩、マリア、真奥貞夫で予約します。
一部(とうかほぼ)自己リレーとなること申し訳ありません。
304
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 12:54:51 ID:J67pqHTw0
完成したので投下します。
305
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 12:56:42 ID:J67pqHTw0
ーーーーーザッ!!
建物前で足を止める二人。
「ここって…」
「旅館みてーだな」
歩は地図を広げて確認する。
「うん。そうだね。ここはB5の「温泉」みたい」
「ってことは、温泉旅館か…」
「温泉旅館かぁ〜…思い出すなぁー」
歩の脳裏に想起されるのは、下和田温泉での出来事。
ハヤテが伊豆の下和田温泉旅行へ行くことを知った歩は同じくそこへ向かった!
《……自転車で。》
「そ、それは、電車賃が足りなかったからしょうがなかったの!」
「歩…何処に向かって言ってんだ?」
若干、あきれ顔で歩に声をかける竜司。
「はうあぁ!?」
いまだ、天の声に反応(ツッコむ)する恐るべき歩のスキル。
「な…何でもないよッ!ほ…ほら、入ろ?」
「お…おう」
ガラガラ……
歩が入り口の扉を開けるとそこは…
「いらっしゃいませ♪」
ーーーーーメイドのお出迎えだった。
☆彡 ☆彡 ☆彡
「そうですか…マリアさんもまだハヤテ君とナギちゃんに出会っていないんですね…」
歩とマリアは現状確認をしていた…
「ええ。西沢さんもまだのようみたいですね……はい。とりあえず、これで傷は大丈夫ですよ」
「さーせん。マリアさん」
マリアは竜司の膝の擦り傷を消毒して絆創膏を貼り終える。
「さてと…どうしようか?竜司君」
「そうだなぁ〜…まずは、旅館内に何かないか探索する…」
歩と竜司の話し合いに…
「温泉に入りましょう♪」
マリアの唐突の提案が介入してきた。
「「え?」」
「やっぱり、「温泉」旅館なんですから温泉に入るのが道理ですわ♪」
「まぁ…それはそうだけど…な?」
「うん。なんか、この状況では入りずらいよね…」
殺し合いという状況において流石に乗り気になれない二人だが…
「この旅館には豊富な食材があったの。二人がのんびりと湯に浸かっている間に三千院家特別フルコースの準備をしておきますわ♪」
マリアの熱気に。
「そこまで言うなら…」
「入るとすっか」
温泉に浸かることを決めた歩と竜司。
「それでは、混浴ですよね?準備は万端ですわ♪」
「ちょッ!?マ…マリアさん!?」
「ま…マジかよ!?」
驚く歩と竜司
「冗談です♪ちゃんと、男湯・女湯で準備しております」
「…ほっ」
「はは…そうっすよね……」
安堵した歩とちょっぴり残念がる竜司……
☆彡 ☆彡 ☆彡
306
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 13:02:09 ID:J67pqHTw0
「ふ〜いい湯だぜ〜…」
体を洗い、温泉に浸かる竜司。
「いやー、それにしてもマリアさん。歩が言った通り、美人で出来る女性って感じだったよな〜」
湯に浸かりながらマリアの印象を一人呟く竜司。
「それに、メイドさんだろ?…くぅ〜メイドといやぁ、あなたの!為に!何でも!!のメイド!!!」
「天使のような治療に美味しそうな料理の提供!!!……はっ!?」
「これが、メイドルッキンパーティなのか!?
竜司の脳裏に浮かぶのは、かつて、ジョーカーこと雨宮、それに怪盗団の協力者三島と共に悪を成敗するために調査しに行った極秘ミッション「メイドルッキンパーティ」のことを振り返っていた。
「何だかよくわかりませんが、褒めてくれて、ありがとうございます💗」
「え?」
素敵な声に振り返るとそこに立っていたのは…
「ちょっ…マリアさん!?」
魅力な体はバスタオルで隠されているがマリアだった!
「ど…どうしたんすか!?料理を作っているんじゃ…」
「もう、とっくに作り終えましたわ。なので、時間が余ったから来ちゃいました♪」
湯気の光に輝く髪。
「それで…」
魅惑な瑞瑞しい唇。
「は、はい!」
「ご一緒でもいいですか?」
はじける笑顔。
マリアの誘いに竜司は…
「もちろんっす!大歓迎です!!」
鼻の下はもうデレデレだった。
「…じゃあ、今からそちらに歩きますので、それまで目を瞑って後ろを向いていて下さりますか?」
「りょ…了解っす!」
竜司はマリアの言う通りにする。
スタスタ…
「…」
(ゆ…夢じゃねぇよな?)
スタスタ……
「……」
(あの時は、腹が痛くなっちまったけど、今度こそ…ッ!!)
そう、メイドルッキンパーティは結局、腹が痛くなったために最後までいられず途中離脱した苦い思い出がある。
ドキドキドキ!!!
(俺、もう死んでもいい……)
竜司の興奮が限界を迎え……
「…死んでもらいます」
307
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 13:02:33 ID:J67pqHTw0
「……へ?」
ビリビリビリビリッッッ!!!
マリアの非情の言葉と共に竜司が浸かる湯に投げられたのは電源が入っているドライヤー。
そう、竜司を仕留めるのにマリアが選んだのは【感電死】
(…料理に毒を仕込むのも考えましたが、一人ずつ確実に仕留めるならまずは、防ぎようがない方法で!)
そう、マリアは歩と竜司と出会ってから二人を仕留める気でいたのだ。
(竜司君は姫神君との対応を見る限り、考えなしに行動を起こす。それは、ナギにとって+にはならない)
(西沢さんは…申し訳ないけど、戦力にはならない…ハヤテ君やナギと再会してしまったらそこから仕留めるには難しい…ここで2人共死んで頂きますわ…ッ!!)
マリアの企み通り竜司は碌に反応できずドライヤーが湯に入るのを眺めることしかできなかった。
「…申し訳ありません。これもナギを優勝させるため…」
ナギを優勝させるとはいえ、竜司の命を奪ったことに対する負い目の言葉を吐くマリア…
「…わりぃな。マリアさん…俺じゃなかったら成功してたと思うぜ?」
BLOCK
「なッ!!??」
「ぶっ込め!ジオ!!」
ビリィィィ!!!
「きゃあああああぁぁあ!?」
反撃のジオを喰らう!!
ドサッ……崩れ落ちるマリア……
「…安心しな。膝の擦り傷の治療の礼で威力は抑えておいたぜ」
「ななな…何?何?竜司君!!いまの悲鳴マリアさん!?」
男湯の騒ぎに気づき、バスタオルを急いで巻いて男湯に駆け付けた歩。
「歩…」
「マリアさん!?だ…大丈夫ですか!?」
倒れているマリアを発見して近づこうとする歩。
「歩!感電するかもしれねぇから近づくなッ!!」
竜司が歩を制止しようと肩に手をかけ…
「「あ」」
はらり…歩のバスタオルがゆっくりとずり落ちる………
「「…………」」
「い…いやぁぁぁぁああああ!!」
☆彡 ☆彡 ☆彡
308
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 13:03:53 ID:J67pqHTw0
「わ…ワリィ…でもそんなに、見てはいねぇから…」
「「そんなに!?」ってことは、見たんだよね!?ね!?」
「だから!そんなに…」
「デリカシー。この言葉の意味が分かるかな?竜司君?」
「お…おう。本当にスミマセンでした…」
☆彡 ☆彡 ☆彡
「でも、どうして…マリアさんが?」
「…さっき、マリアさんはお嬢様を優勝させるためと言っていた。それじゃねーかな?」
「ナギちゃんを……」
信じられないといった顔で気絶しているマリアを見つめる歩。
歩の呟きに返答しながら気絶しているマリアをメイド服に着替えさせた後(着替えは歩が行った)旅館に置いてあった縄で縛る竜司。
「うしッ!とりあえず、これで大丈夫だろ?」
マリアを縛り終える。
「さて…と、歩。ワリィがマリアさんは殺し合いに乗っているから同行は無理そうだぜ?」
「うん…そうだね。行こう!……ごめんなさいマリアさん」
歩は気絶して縛られたマリアに頭を下げるとマリアの持ち物を入手して竜司と共に旅館を後にした……
【B-5/温泉/一日目 黎明】
※旅館の宴会場にはマリアが作った料理が2人前置いてあります。ただし1つは毒入り。
【マリア@ハヤテのごとく!】
[状態]:気絶 束縛中 負傷(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギ@ハヤテのごとく!を優勝させる。
1.……
2.姫神くん、一体何が目的なの?
※メイドを辞めて三千院家を出ていった直後からの参戦です。
☆彡 ☆彡 ☆彡
「ねぇ。竜司くん…一つ聞きたいことがあるんだけど…」
「!?。お…おう…何だ?」
歩の呼び止めにビクッとする竜司。
「竜司君の好きな女の子のタイプって何?」
「おれ?…しいていうなら日焼けとかしてわりと筋肉あって、運動センスありそうな感じ?」
「あー。でも、色白で眼鏡が似合う図書委員タイプも捨てがたいな…」
「……」
「ど…どうした歩…?」
「別に〜。さっき、私のを見たのに一つも当てはまってないな〜と思っただけだよ」
「だから、本当に悪かったって!今度、ラーメンおごるからさッ!!な?」
「…いっておくけど、私、結構食べるからね」
「え!?マジで!?…お手柔らかに頼みます…じゃダメ?」
「もーーッ!竜司君は甲斐性なしなのかな?かな?」
ピロピロリン♪ ♪ ♪
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
殺し合いの最中、2人の絆は深まっていく……
309
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 13:04:48 ID:J67pqHTw0
【B-6/平野/一日目 黎明】
【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 SP消費(極小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認) マリアの基本支給品、チェンソー
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
二.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
三.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
四・姫神を倒した後、歩にラーメンをおごる
※歩とのコープが4になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※歩のを一瞬だけ見てしまいました。
【支給品紹介】
【チェーンソー@現実】
マリアに支給された武器だが、現在は竜司が所持している。使用人の少ない三千院家の庭の手入れはマリアも行っていたので、ある程度使い慣れているかもしれない。
【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明) マリアの不明支給品(0〜2)(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:竜司と殺し合いに反逆へ歩む
一.皆で生き残りたい
二.竜司君との反逆で強くなりたいけど…見られた……うう。ハヤテ君…
三.ハヤテ君…私、ハヤテ君に伝えたいことがあるから
四.マリアさん…どうして…
※竜司とのコープが4になりました。
獲得スキル
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前
※竜司に自分のを一瞬だけ見られました。
☆彡 ☆彡 ☆彡
竜司と歩が去った後、数刻がたち……
ーーーーーザッ。
「ここは…旅館か。服も調達したいし、とりあえず入ってみるか」
扉に手をかけようとした瞬間!!
(この魔力は…坂本のか?)
旅館内の竜司のペルソナ、キッドによる魔力の残滓に気づいた真奥は意を決して旅館の扉をーーーーー
【B-5/温泉/一日目 黎明】
【真奥貞夫@はたらく魔王さま】
[状態]:健康 右ほほ腫れ
[装備]:Tシャツにパンツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神にケジメをとらせる
一.旅館内の探索(服と居るかもしれない坂本)
二.パレスについて知っている参加者を探す。ついでに服を調達するか…
三.坂本に会ったら、一発殴る
※参戦時期はサリエリ戦後からアラス・ラムスに出会う前
※会場内で、魔力を吸収できることに気づきました。
空間転移…同一エリア内のみの移動 エリア間移動(A6→A1)などはできない。
ゲート…開くことができるが、会場内の何処かに繋がるのみ。
魔力結界…使用できない。
催眠魔術…精神が弱っている場合のみ効果が効く。
310
:
温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/02(土) 13:06:32 ID:J67pqHTw0
投下終了します。
地図B-5に温泉ですが、旅館を付け足してしまいました。申し訳ありません。
もし、問題ありましたら修正いたします。
311
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/03(日) 00:14:26 ID:DnHQ/zRQ0
投下お疲れ様です!
旅館については、差し当っては出典のないニュートラルな施設については、ある程度弄っても問題ありません!
例えば、(マリアが言及していないので今からそうなることはまずないでしょうが)『三千院家の温泉が再現されている』みたいな設定付与しても大丈夫です。
マリアさん、頭脳も身体能力も完璧超人だけれど、しかし一般人でしかないのはこの世界では弱い方なんですよね……。殺し合いの世界で料理を出されても普通は警戒しますが、知り合いの歩がいた分、毒殺だったら上手くいっていたかもしれないのがまた惜しいところ。マリアを始めハヤテ勢の女の子は風呂と何かと相性悪いのがよく分かりますね。
さて、予約の地点では不穏に思えた真奥と竜司も出会いそうで出会わず……千穂の死を巡る一悶着はおあずけですかね。
鎌月鈴乃、潮田渚、巴マミで予約します。
312
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/03(日) 00:34:19 ID:DnHQ/zRQ0
そういえばトリップを変えられたようですが、wikiの方の扱いはどうしましょう?
特に希望がなければ、これまでと同じトリップ(◆Oamxnad08k)を本編一覧に表示する作者の名前のところに表示して、『書き手紹介』の欄で「◆Oamxnad08k(◆s5tC4j7VZY)」と表記する形にしようと思うのですが、どうでしょう?
313
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/01/03(日) 19:44:40 ID:mqwmyg6M0
感想有難うございます!
「温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ 」
地図を見たとき、「温泉」とあったので、温泉(水)→「感電死」キッドがペルソナの竜司はBLOCKとなるのが
構想の元ネタとなり今回こうなりました。
旅館の了承有難うございます。
「三千院家の温泉」←なるほど!盲点でした!!
真奥と竜司はまだ早いかなと思いおあずけさせちゃいました!(ただ、ロワなのでどう転がるかはわかりませんね)
トリップですが、突然の変更で手間かけさせてしまいますが、
◆Oamxnad08k(◆s5tC4j7VZY)の形でよろしくお願いします。
314
:
名無しさん
:2021/01/06(水) 00:56:46 ID:8IyOl0Ko0
投下乙です。
ワンポイントから発想していって一転二転のバトル、そして新しいフラグと次につなぐスマートな話だったと思います。
予約の方も個人的にどう動かせばいいか悩んでいたところなので楽しみに読ませてもらいたいです。
315
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:47:35 ID:0QnhVMjw0
投下します。
316
:
闇夜に秘めし刃
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:49:03 ID:0QnhVMjw0
ㅤどうやら世の中とは、本当に望んだものほど手に入らないようにできているらしい。
ㅤかつて、友人というものを望んだ。暗部である私が関わる相手は間もなく死ぬ――他でもない、私の手によって。今日も明日も、さよならを言わずに済む相手が欲しかった。するとどうなったか。千穂殿は殺され、魔王と勇者は今も殺し合わされているではないか。
ㅤ次に、こんな殺し合いの世界の中に希望を見出してみた。
ㅤカンナ勢――あんな小さな竜の子が、戦いを辞めろと叫んでいるのだ。勇者だろうと魔王だろうと、仇も宿命も一旦は忘れ、手を取り合うことだって出来ると、本気で信じているのだ。馬鹿馬鹿しいと一蹴しつつも、縋りたいと思った。その光景こそ千穂殿の望んでいたものに他ならないのだから、彼女への手向けに作り上げてやろうと意気込んだ。
ㅤその結果起こったのは、気の緩みだった。殺し合わなくていいのだと思い安心し、敵襲への警戒も遅れ、カンナ殿が撃たれ――それに続く想像を押し殺すように機関銃を前方に構え、駆け出す。一刻も早く、可能な限り速く。狙撃を受けたカンナから離れ、的を自身に定めさせるように。
ㅤ大丈夫だ。カンナ殿は生きている。何せ幼くともドラゴン、銃弾如きで死ぬはずがない。ああ、信じろ。そして誓った通り、狙撃手を無力化した上で必ず戻るのだ。それ以上にできることなど、ない。
(結局、こうなるのだな。)
ㅤつい数刻前まで戦わないことを願っていたというのに、もう戦いに身を投じている。もはや疑う余地はない――これが私の運命なのだ。平和を掴み取ることなど許されぬ。神か天使か、人智の及ばぬ超越者がそれを望んでいるのだ。信徒たる私は、その神託に従うのみ。ああ、教会にいた頃と同じだ。
「……くそったれ。」
ㅤ人生のすべてであったはずの信仰をひと言吐き捨てて、鎌月鈴乃は戦場へと駆ける。
「っ……!」
ㅤ待ち受けていたのは、先ほどよりも濃い弾幕の嵐。銃器同士の戦いでは両者の接近とともに、狙いを定める過程が削ぎ落とされていく。覚悟はしていたが、相手の銃器の扱いは鈴乃の想像を超えていた。少なくとも素人のなせる技ではない。カンナと考察した通り、この場に一般人というものはそうそう紛れ込んでいないのだろう。
ㅤインテ・エスラの民であるのかは分からないが、相手は戦いに身を投じてきた人物。常より命を失う覚悟はできているだろうし、向こうはこちらの命を取りに来ることだろう。殺しを躊躇することなどない。身を守るために、カンナ殿の雪辱を晴らすために、殺してしまえ――頭に浮かんだ考えを、鈴乃は首を振って否定する。
ㅤ今の私は、異端審問官クリスティア・ベルとしてここに立っているのではない。因縁も宿命も超え手を取り合う勢力、カンナ勢のいち構成員だ。戦いが避けられないのなら、犠牲を生まない形で戦ってやろうとも。千穂殿の、生前の最も大きな願いを掴み取るために――
317
:
闇夜に秘めし刃
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:49:42 ID:0QnhVMjw0
■
ㅤ本当に望むものが手に入ったことなんて、一度もない。あの日、魔法少女になった日から、私の人生は妥協塗れだ。
ㅤ魔女退治のために奮闘すればするほど、友達との心の距離は離れていく。当然よね、誰も本当の私の心に触れられないんだもの。そもそも私が開いていないんだもの。
ㅤ正義のために戦うことに不満はない。そうしなければあの日に私は両親とともに死んでいたのだし、何より、死をも覚悟した時に誰かが手を差し伸べてくれるあの温かさを他人に与えられるなら、それはとっても、嬉しいことだから。
ㅤでも――心の底では、何かが満たされなかった。春の日差しも届かない地の底にひっそりと残る雪のような何かを、私はずっと、心の奥で感じていた。
ㅤあの時、鹿目さんと美樹さんに出会えて、その冷たさの正体が、ようやく分かった気がする。私は寂しかったんだ。誰かに、頑張ったねって言ってほしかったんだ。私は正義の味方でも何でもない、ただの女の子なんだ。
ㅤ殺し合い――もし私がなりたかったような正義の味方だったら、こんなものには乗らずに、乗っている人も説得して、皆で力を合わせて脱出するのを目指すのだろう。
ㅤだけど、殺し合いに来る直前、魔女に殺されかけたことで、自分がいかにちっぽけな存在であるのか、思い知ってしまった。危うく、魔法少女になる決意をしてくれた鹿目さんや、何か叶えたい願いがあるらしい美樹さんを置いて死んでしまうところだった。そんな私が、理想の正義の味方気取りなんて、できないわよね。
ㅤだったらまた、妥協しましょう。私は私が思っているほど、皆を守ることなんてできないけれど、それでも本当に守りたいものだけは、絶対に守ってみせる。それを脅かす者たちを、殺してでも。
ㅤ大切な人を失うくらいなら、正義の味方なんてやめてやる。潮田くんは私が守る。
ㅤ敵は逃げることなく、真っ直ぐに接近してくるようだ。その瞬間、マミの決意はいっそう高まった。
ㅤ死にたくないがためにやむを得ず殺しに走るのならまだ理解できる。本当に追い詰められた時に些細な光を提示されれば、それに縋るしかないのは経験済みだ。しかし相手は、こちらも銃撃を見せ、それでも接近してくるのだ。保身などではなく、積極的に殺しに来ていると見るべきだ。
318
:
闇夜に秘めし刃
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:50:14 ID:0QnhVMjw0
(だったら、加減なんてしてられないわねっ!)
ㅤ近づく鈴乃に向けて数発、魔法少女のチカラにより生み出した使い捨てのマスケット銃を撃っては捨て、撃っては捨てを繰り返しながら次々と放ち込む。魔女相手ならいざ知らず、人を相手にするには十分に、数回は殺せる火力だ。
(嘘っ……!)
ㅤしかし弾は、そもそも的に当たっておらず、鈴乃の前進を阻むことはなかった。ベテランとして魔女を狩り続けるのに、毎日マスケット銃を撃ち続けたマミの腕前をもってすれば、あの程度の距離で誤射は有り得ない。つまり鈴乃は、放たれた銃弾、その全てを躱していたのだ。
ㅤリボンを武器へと変える魔法少女のチカラは、戦場では魔力の続く限り無尽蔵に武器を補給できる。しかし、それが魔力で作られたものであればこそ、その銃撃の性質は魔法攻撃に他ならない。即ち――鈴乃が身に付けているアクセサリ『魔避けのロザリオ』による制約を受けることとなる。致命傷となる決定打を当てられないまま、マミは鈴乃の接近を許した。
ㅤ次第に、夜の暗闇の中でも互いの姿の全貌が見え始める。ここで初めて、互いにとって互いが"襲撃者"である奇妙な関係の二人が対面することとなった。
「うおおおおおっ!」
ㅤ鈴乃は雄叫びと銃声を轟かせつつ、辺り一体に弾幕をばら撒く。決して弾を一点集中させず、威力よりも範囲に。そして臓器よりも手足への狙いに、重きを置いた射撃。殺しはしない。あくまでも目的は殺害ではなく無力化だ。但し、カンナ殿を害した報いとして多少の怪我は甘受してもらう。
――それはまさに、組織の暗部であった彼女の在り方と対極にあるかの如く。
ㅤそう、これは暗殺ではない。彼女にとっての暗殺とは、殺したくないと叫ぶ己の感情を殺しながら相手の命を奪う行いだ。対する現状、鈴乃に殺意はなく、そして心の底には轟々と燻る怒りがある。この戦いは何もかも、暗殺とはほど遠い。強いて、呼び名を付けるのなら――これは決闘。
「ぐうぅッ……!」
ㅤ弾丸が命中したマミは悲痛な声を捻り出し、次のマスケット銃をその手から零し落とす。マミが絶えず撃ち続けていた弾幕が止み、それを好機と捉えた鈴乃は肉薄し、マミの制圧にかかる。
319
:
闇夜に秘めし刃
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:50:51 ID:0QnhVMjw0
「覚悟っ!」
ㅤマミの手元に鈴乃を撃退できる支給品はない。そして組み付きの技術ならば、対人戦に慣れた鈴乃の側に理があるのは必然。腕から肩にかけてミニミ機関銃で撃ち抜かれたマミを、鈴乃は一瞬の内に押し倒し――
「――悪いわね。」
――直後、口角を上げて笑うマミの顔を見た。
「なあっ!?」
ㅤしゅるる、と衣が擦れる音がしたかと思えば、次の瞬間にはマミの腰を取り巻くリボンが鈴乃の体を包み込む。
「くっ……!」
ㅤそのリボンは瞬く間に両の腕を縛り上げ、辺りの木々により固定する。
「こんなの、警戒もできなかったでしょ?」
ㅤソウルジェムを身に付けておらず、和装に身を包んだ鈴乃の姿は、魔法少女のそれとことごとくかけ離れている。それ故に、魔法少女のチカラを知らないとマミは判断し、罠をかけたのだ。
「私たち魔法少女はね、鍛錬すれば痛みも消せちゃうのよ。後学のために覚えておきなさい。次があれば、だけど。」
ㅤ撃たれた腕を平然とぶん回し、一周させる。痛がるフリをして武器を落とすことで、鈴乃の接近を誘ったのだ。
ㅤそして腰元のリボンを腕ごとぐるりと経由したマミの手には、一本のマスケット銃。その銃口の向く先は当然、拘束された鈴乃である。
ㅤ魔法少女について知らなかったことが、鈴乃が拘束を受けた理由だった。マミの指先が、トリガーに掛かる。
「それじゃあ、さようなら。」
ㅤそして、当然――マミもまた、鈴乃の、エンテ・イスラの魔力のことなど知り得ない。マスケット銃が撃たれる直前ギリギリまで、マミに勝利を確信させ――
――タァンッ!
ㅤ銃声と同時、解き放つ――
「――武身鉄光!」
ㅤ首から提げたロザリオが、突如として巨大な大槌と化し、放たれた銃弾を弾いた。
「えっ……!」
ㅤ鈴乃と一緒に拘束していたロザリオの体積を一気に増すことで、リボンによる拘束を振り払う。
ㅤそして大地に降り立った鈴乃の目の前には、突然の出来事に呆然とし、すでに弾丸の篭っていないマスケット銃のみを手にしたマミ。武器ではないものを瞬時に武器と化するその技は、マミの扱う魔法と酷似している。もしかして鈴乃も魔法少女なのか、と。この状況下においては限りなく"無駄"な思考に戦場での貴重な一瞬を注ぎ込んでしまった。そのために、マスケット銃を持ち替えることを失念していた。
320
:
闇夜に秘めし刃
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:51:46 ID:0QnhVMjw0
(……まだっ!)
ㅤしかし咄嗟の判断で、そのマスケット銃を即座に鈴乃に向け、空砲を放つ。響き渡る発射音に、ありもしない実弾を警戒し、鈴乃はマミへの攻撃を中断して回避行動に移った。
「……ブラフ、か。どうやら生成した銃は一発ずつしか撃てないらしいな。」
ㅤ実弾が発射されないのを確認し、苦々しい表情で呟く。魔族とは異なり屈強な肉体を持たない代わりに、人はその頭脳を用いて相手を騙すものであると、鈴乃は知っている。たった今相手にしているのが魔物ではなく人であるのだと、改めて認識する。
「貴方こそ。その手品で隠し札は最後かしら?」
ㅤ対するマミも、魔法少女のような力を持つ人間と戦うのは、杏子の面倒を見ていた頃に経験したことこそあるが、それでも久々だ。意識的に作るポーカーフェイスで冷や汗を隠す。鹿目さんたちの前で『いい先輩』を演じていたように、優位に立つためには余裕を見せろ、と自身に言い聞かせながら。
ㅤ誤解から始まった決闘は、互いの理解を微かに、されど確かに、深めていく。それに伴うかのように、夜の闇もまた次第に深まっていく。決闘のため、それぞれの守りたいものから目を離し続けることで、彼女たちの焦燥や不安も加速していく。
ㅤ夜明けは――未だ、遠い。
【C-4/D-4境界付近/一日目 黎明】
【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.マミを無力化する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。
※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。殺し合いに乗る者を殺してでも、皆を守る。
一:鈴乃を撃破する。
二:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。
※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
321
:
闇夜に秘めし刃
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:52:28 ID:0QnhVMjw0
ㅤ地帯を形成するある一本の大木の裏。息を殺しながら、潮田渚は弾丸が飛び交う戦場を眺めていた。
ㅤマミは自分を戦場から離そうとしていたようだが、渚は見ておくべきだと思った。この殺し合いの場が、どんな世界であるのか。
(これが……殺し合い……。)
ㅤそれは、話で聞いていたよりも数段、身の毛のよだつ光景だった。無尽蔵にばら撒かれるその弾丸ひとつひとつが自分の命を奪いかねない。かつて殺せんせーの指揮の下、クラスの皆でガストロに立ち向かった時とは違う。この世界に立ち向かうのは、自分の身ひとつだ。
(でも、僕らが平和に暮らしている間にも、地球のどこかではこんな光景が毎日、当たり前のように繰り広げられていた。)
ㅤこれまでも、意識してこなかったわけではない。ビッチ先生のような、戦場に生きてきた人たちに比べれば、自分たちの暗殺に賭ける想いは弱いと。
(だというのに、地球を救える舞台に立っているのは僕たちだ。)
ㅤ僕たちは、地球を担うだけのものを差し出せていない。
ㅤ渚の気持ちを加速させるように、マミは魔法少女のチカラを渚に隠していた。
ㅤ自分だって暗殺のことは話していないし、自分の技術の底も見せていない。彼女にだって、事情は少なからずあるのだろう。だけど殺し合いの世界で、平然と、他人を殺せるだけの刃を隠していた事実は渚の心に警鐘を鳴らす。
ㅤ高鳴る鼓動を抑え込み、戦場を観察する。生き残るために。地球を救うために。僕に何ができるのか。何を、するべきなのか。
ㅤ最近、気付いてしまったこと――僕には、暗殺の才能がある。こんな殺し合いの世界であっても、何かができるチカラがある。だって、この場の誰にも――暗殺者(ぼく)の姿は見えてないから。
【D-4/C-4境界付近/一日目ㅤ黎明】
【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:何ができるか、何をすべきか、考える。
二:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
三:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。
※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
322
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/06(水) 20:53:16 ID:0QnhVMjw0
以上で投下を終了します。
323
:
名無しさん
:2021/01/08(金) 04:09:50 ID:yApD/Vf60
投下乙です。
こういう対主催同士が誤解からドンパチし合う展開はいいですね、ええ大好きです。
互いに持ちうるカードをうまく使いながらもメタ的には状況が悪い方向にしか転んでないっていうのが久々に楽しめました。
324
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/01/28(木) 18:41:04 ID:HbnAwGd.0
芦屋四郎、小林トール、霊幻新隆で予約します。
それと、話の中のメンバーには含まれませんが、そちらが単独で進行すると食い違うので高巻杏、刈り取るもの、上井エルマ、美樹さやか、赤羽業も予約しておきます。
325
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:10:49 ID:srTXwefs0
投下します。
326
:
不調和ㅤ〜カビ問題〜
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:11:45 ID:srTXwefs0
「さて……ひとまず脱出を目指すのは良しとしましょう。しかしひとつハッキリさせなくてはならないことが。」
ㅤ南下の最中、悪魔大元帥アルシエルこと芦屋四郎は、唐突に切り出した。
「何でしょう?」
ㅤ混沌の竜、トールは何かの結論を断じようとする芦屋の一言に多少、警戒を見せる。先ほどまで、小林さんと真奥貞夫のどちらを優勝させるかという、決着のつかない論争を繰り広げたばかり。ここでかの議論を再燃させるような無益なことを芦屋が始めるとは思えないが、ひとまず耳を傾ける。また、似たようなことを考えながら、その議論の仲裁を務めた自称霊能力者、霊幻新隆も芦屋の次の言葉を待つ。
ㅤこうしてふたりの聞く体勢が整ったのを見て、芦屋は口を開く。
「我々の最終目的は当面の間は脱出、ということになっていますが、厳密にはそうではありません。」
「と、いうと?」
ㅤ霊幻が尋ねる。脱出を目指さないのであれば殺し合うということになるが、まさかその提案ではあるまい。先の議論の行方から転換するには早すぎる。24時間――それだけの猶予を、脱出の目処を立てるのにもらったはず。あれからせいぜい、1〜2時間ほどしか経っていない。
「お忘れですか?ㅤ私たちがいかにしてこの殺し合いに招かれたか。」
ㅤ芦屋の問いに、トールは不服そうに答える。魔法を扱える人間の存在を知ってはいるが、魔力の反応すら検知させず、ドラゴンの力ごと封じるような力は知らない。
「お忘れも何も、そもそも覚えていませんよ。どうやったかなんて全くもって不明です。」
ㅤそこは霊幻も同じだった。唐突にこの会場に連れてこられたそれを超能力の類だとは予測したが、それにしてもその方面に相当な力があるはずのモブのそれと比べても大きく性質を異としている。
ㅤたぶん出会ったことは無いだろうが、超能力組織『爪』の中に瞬間移動する奴がいたというのは花沢から聞いたことがある。しかし、ソイツとて大勢の他人を一斉に瞬間移動させるような芸当はできないだろう。
327
:
不調和ㅤ〜カビ問題〜
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:12:30 ID:srTXwefs0
「そう、分かりません。つまりあの姫神という男が存する限り、仮にここを脱出できたとしても再び拉致される恐れがあるということです。」
「ふむ、一理あるな。」
ㅤ問題というのは一時的な解決では意味を成さない。台所のカビを掃除しても、カビが生育する環境を質さなければ意味が無いのと同じだ。
「つまりはカビが生えない環境づくりが大切なのです。だというのに漆原といったら、平気で食べこぼすわ開封した食料を放置するわ……」
「ん、どうしたこいつ。」
「酔った小林さん並に脈絡ないですね。」
ㅤふと正気に返った芦屋が、コホンと咳をして本題に戻す。
「……と、失礼。つまり我々は姫神を放置するわけにはいかないのですよ。」
「まあ言いたいことは分かった。脱出した後、姫神への対応をどうするかってことだな。」
「ええ、そういうことです。」
ㅤ問題の難しさに反して、トールと霊幻は迷いのない顔付きであった。
「そんなの決まってますよ。」
「ああ、決まってる。」
ㅤそしてトールと霊幻は、タイミングを揃えて高らかに宣言する。
「燼滅です。」
「警察に通報しよう。」
ㅤその後、お互いに驚愕の表情で目を合わせたのは言うまでもない。
「いやいやいや、警察ごときの手に負える事態じゃないでしょう。」
「お前こそ物騒なんだよ。やられたら倍返していいのはドラマの中だけだ。」
「奴は小林さんを危険に巻き込んだんですよ?ㅤ法も倫理も私を止めるに至りませんよ!」
「ルールを守って戦ってこその勝利ってもんだろ?」
ㅤ二人はちらりと芦屋を見る。お前の意見を述べよ、と無言の圧力をこの上なくかけながら。
ㅤ実際、トールと同じく異世界出身である芦屋としてはトールの意見に近い。日本に攻め込んできたオルバ・メイヤーに限っては日本の司法にその処遇を任せたが、その時とは事情が大きく違う。何と言っても佐々木千穂の命が奪われているのだ。その地点で真奥を中心とした全面戦争は避けられぬものであるし、恩赦を与える余地も、理由もありはしない。
328
:
不調和ㅤ〜カビ問題〜
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:13:05 ID:srTXwefs0
ㅤしかし、霊幻の語る遵法論は真奥の掲げるそれとどことなく重なり、芦屋が一概に否定できるものでもない。郷に入っては郷に従えと言うように、悪魔の姿を取り戻してもなお日本の秩序を壊そうとしない真奥のやり方には、一切疑問に思うところがないというわけではないが、その信念は元よりの崇拝感情抜きに尊敬に値するものだ。
「お、落ち着いてください。取らぬ狸が過ぎますよ。」
ㅤ結果、芦屋はどちらにつくでもなく、『保留』という形でニュートラルに争いを諌めるに留まった。
「ま、それもそうだ。」
「ふん、命拾いしましたね。」
ㅤここでも、半ば冗談交じりとはいえ物騒な捨て台詞を吐くトール。そんな彼女に向けて、芦屋は語りかける。
「ところでトールさんは、なかなかに好戦的なのですね。」
「……まあ、仮にも混沌勢ですからね。問題ですか?」
「いえ、そういうわけではありません。」
ㅤ芦屋は皮肉を放ったつもりはない。異世界出身の悪魔である芦屋から見れば、闘争を好む者とてことさら異端ではない。トールの好戦的な側面もあくまで個性のひとつとして捉えているし、トールもそのニュアンスは感じ取っている。
「ただドラゴンというのは、むしろこういった催しには積極的に乗るようなタイプに思えたので。」
ㅤエンテ・イスラでは人間と魔族、或いは魔族同士の殺し合いなど茶飯事だった。力こそ正義という名目の下、好戦的な者ほど積極的に侵略を進め、殺し合っていた。そんな衆を統率する立場だった魔王サタンも、なかなか統制がとれず苦労していた。魔物に殺されたというエミリアの父は、そういった輩に殺されたのだろう。
ㅤ興味深いと思った。何故、力こそ正義を大々的に掲げられる環境であるこの世界で、実力主義に生きるドラゴンが実力を行使せずにいるのか。
「否定はしません。力を使えば大体のものは手に入りますしね。何より、話が早い。」
ㅤ口角を緩め、笑みを浮かべるトール。その存在感は、霊幻にもうっすらと実力を感じられるほど圧倒的だ。隙を与えれば本当に眼前のふたりを焼き尽くすかのようにすら思える。
ㅤそんな堂々とした佇まいを崩さず、トールは続ける。
「でも生憎、私は欲しいものがあるわけじゃありません。ただ、失いたくないものがあるだけなんですよ。」
ㅤドラゴンの長い寿命の枠組みの中では、人の寿命など一瞬のようなものだ。だから、その一瞬を楽しみたい。その一瞬に染まりたい。それが、トールのただひとつの願いだった。
「おかしいですかね?」
「いえ。きっと魔王様も、同じようなことを仰ると思いますよ。」
ㅤ腑に落ちたように、芦屋は笑った。
「ま、要は喧嘩が強ければ立派な人間ってわけじゃねえってこった。」
ㅤそこに霊幻が口を挟む。
ㅤそれは、彼が弟子の影山茂夫に教えていることでもある。力を悪戯に行使しないこと。それが、社会のいち構成員として超能力と共に生きるということだ。
ㅤだからこそ、この殺し合いは肯定してはならない。平穏に生きていたい者たちを、首輪で脅して強制的に暴力の中に引き込む、汚いやり口だ。『爪』の奴らのように自分の力に溺れているでもない、目的すら見えない邪悪。
ㅤ絶対に、破綻させてみせる。
ㅤそれぞれが、決意を胸に抱える。
ㅤ人間と、ドラゴンと、悪魔と。種族が違えど、特別な"力"に向き合い続けてきた者たち。時に衝突することはあれど、またある時には協調もある。こうやって擦り合わせられる価値観があることを知っているからこそ、時を同じくすることができるのだ。
329
:
不調和ㅤ〜カビ問題〜
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:13:39 ID:srTXwefs0
ㅤそんなことを考えながら、住宅街エリアに立ち入った、その時だった。
「……っ!ㅤ今のは……!」
「銃声、ですね。」
「……?ㅤあ、ああ!ㅤそうだな。バッチリ聞こえたぜ。」
ㅤ約1名は聞き取れなかったものの、異世界出身のドラゴンと悪魔は、その並外れた聴力で戦闘の音を感知した。
「急いで!ㅤ早く行きましょう!」
ㅤその先に小林さんがいるかもしれない――誰よりも焦燥を抱くのは勿論、トールである。芦屋の探し人の真奥も、霊幻の探し人たちも、どちらも戦闘面での心配には及ばない。
「……お言葉を返せば、私としては得策ではないかと。」
ㅤトールの焦燥に反し、芦屋は冷静に答えた。
「行けば必ずリスクが伴います。パソコンの技術などに秀でている霊幻さんにもし万が一のことがあれば、この世界からの脱出とてままならないかもしれません。」
ㅤ最低限の技術ならば漆原にもあるだろうが、彼は日本に来たばかりな上、貧乏暮らしでろくな環境も与えられていない。霊幻にはおそらく遠く及ばないだろう。
「それにお忘れですか?ㅤ霊幻さんが呪いの書物を使わぬよう、我々は見張らなくてはならないということを。」
ㅤ感情的なトールと、比較的冷静な芦屋。議論となれば分がある側は明らかだった。
「いや、いいよ。行ってこい。」
「……!ㅤしかし……!」
ㅤ霊幻はザックから『呪いアンソロジー』をおもむろに取り出す。禍々しさを醸し出すその表紙――急を要する状況も相まって、芦屋もトールも霊幻の一挙一動に注目する。
ㅤ霊幻はそれを――その場に放り棄てた。
「……え?」
ㅤ2人とも、困惑する。その動作ひとつで、2人が霊幻に付き添う理由のひとつが消滅したのだから。
「あのなぁ、最初っからお前らの知り合いを呪うつもりなんかねえよ。あん時はそう言わねえと俺が殺されかねなかったが、今となっちゃ何の得もありゃしねえ。」
ㅤそしてトールの方をビシッと指さして、霊幻は言い放つ。
「ほら、お前はとっとと行ってこい。守りてぇやつがいるんだろ?ㅤんで、芦屋。お前は俺と来い。これでいいだろ。」
ㅤ自身の生存のみを狙うのなら、トールも、そして呪いアンソロジーも手放さないのが霊幻にとっての得策のはず。まだ完全には信用し切れない様子で、伺うような表情をトールは見せつつも――
「分かりました。それでは行ってきます。」
――結局、戦闘の方が気になるらしく、すぐに走り去って行ってしまった。
「……私としては、少なくとも約束の期限である24時間の間は、貴方の保護を優先したいところだったのですが。」
「まあ、そのためでもあるんだけどな。」
ㅤ霊幻の言葉に、首を傾げる芦屋。しかし、霊幻の説明には続かない。
ㅤトールのためだ、と口では言いながらも、結局それは自分のためなのだ。仮に小林さんとやらが死んでしまえば、もはやトールに脱出を目指す動機は無くなってしまう。むしろ、優勝すれば小林さんとやらを生き返らせることも出来るのだからそちらに傾く可能性が高い。放送は数時間後。トールを敵に回すことを考えれば――仮に小林さんの命の危機が迫っていても間に合うよう動いてもらうのが、霊幻自身の安全のためにも都合がいい、というだけだ。
(――綺麗事言っちゃいるが、結局は俺も厄介なヤツは他に回したいっつーだけなんだろうな。)
ㅤ少しだけ罪悪感を覚えながら、霊幻は芦屋とともに歩き始める――と、その前に――地面に落ちて皺の入った本を拾い上げた。『呪いアンソロジー』、先ほどトールの前で捨てて見せた本である。
「……それはちゃっかり持っていくんですね。」
「ん、当たり前だろ。」
330
:
不調和ㅤ〜カビ問題〜
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:14:51 ID:srTXwefs0
【E-5/住宅街エリア/一日目ㅤ黎明】
【芦屋四郎@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら真奥貞夫を優勝させる。
一.魔王様はご無事だろうか……。
二.魔王様と合流するまでは、協力しつつ霊幻さんを見定めましょう。
※ルシフェルとの同居開始以降、ノルド・ユスティーナと出会う以前の参戦です。
【小林トール@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:銃声のした戦場に向かう。優勝者を出すしかないなら小林さんを優勝させる。
一.小林さん、一緒に帰りましょうね!
二.無理そうなら小林さんが優勝してくださいね。その為なら私、なんだってしますから!
※コミケのお手伝い以降の参戦です。
※刈り取るもの、もしくは高巻杏の放った銃声を聞きました。具体的にどのタイミングの銃声なのかは、以降の書き手さんにお任せします。
【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝以外の帰還方法を探す。
一.俺の事務所で情報収集できりゃいいんだが。
二.モブたちも探してやらないと。
※島崎を倒した後からの参戦です。
331
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/04(木) 18:15:06 ID:srTXwefs0
投下完了しました。
332
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/11(木) 06:41:15 ID:PTLf30fU0
投下お疲れ様です!
闇夜に秘めし刃
鈴乃とマミの決闘、ほむらも手も足もだせないリボンの拘束を武身鉄光で破る鈴乃にそれを空砲のマスケット銃で動きを止めるマミと互いの力が交わりあうバトル、迫力がありました!
渚は選択の時が近づいていますね。
秘めた刃は果たしてどちらの道を選ぶのか…ドキドキします。
不調和ㅤ〜カビ問題〜
姫神への対応に燼滅を口に出すところや力を使えば大体のものは手に入りますしねの部分など改めてトールは一歩間違うとマーダーになる危うさを感じました……
小林さんの存在がトールを繋ぎとめているんだなと……小林さん、死なないでくれ!と祈っちゃいます。
また、素直に警察に任せようやトールを現場に向かわせる理由に呪いアンソロジーをちゃっかり拾うなど新隆らしさ全開で読んでいて楽しませてもらいました。
最後にカビに例えられる姫神に笑っちゃいました(笑)
弓原紗季・佐倉杏子で予約します。
333
:
本当の気持ちと向き合えますか?
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/13(土) 11:48:14 ID:JmHiLPSE0
投下します。
334
:
本当の気持ちと向き合えますか?
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/13(土) 11:49:49 ID:JmHiLPSE0
深夜の負け犬公園。
私はそこで魔法少女と名乗る子と出会った。
その子…杏子は知り合いが通ってたという見滝原中学へ向かうようだーーーーー
後は、私の返事のみ。
杏子と同行するのか、しないのか
「私は……」
(うん…やはり、ここは九朗君と合流をするのが先かしら)
(九朗君やあの娘(岩永)との共通場所は工事現場しかない。ここで、すれ違ったらおそらく出会う確率はグッと低くなるわ……)
誘いの申し出に申し訳ないと思いつつも私は同行を断ろうとしたがーーーーー
「!!」
杏子の目を見た瞬間、言葉が途切れたーーーーー
「……」
あの目は、他人…特に大人を心から信用できず、荒んではいるが、自分の為に力を行使することで心の平穏を保っている子供の目。
鋼人七瀬が起こした事件について弓原沙希は独自で調査をしているが本来、交通課の婦警である。
職務上、周囲や親との人間関係が拗れてしまったために無免許運転を行う非行少女達との接点も多い。
そういう子達は皆、一人ぼっちの寂しさに悲しんでいる目をしている。
佐倉杏子の目は正にそんな彼女達と同じだったーーーーー
「ん?結局、あんたはどっちなんだ?」
言葉を紡ぐのを中断した私に杏子は怪訝そうな表情を見せる。
「私は……」
改めて返答を口として開こうとしたがーーーーーー
ブルルル!!
「きゃッ!?」
突如、お尻のポケットに入れておいた支給品のスマホが震え出した。
「なッ……何なの!?」
スマホを取り出すと……
「はじめまして♪本日からあなたの支給品として働く「律」と申します。よろしくお願いします。」
スマホが喋りだしたーーーーー
☆彡 ☆彡 ☆彡
335
:
本当の気持ちと向き合えますか?
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/13(土) 11:56:10 ID:JmHiLPSE0
「それで、あなたは、姫神により支給品とされたのね」
《はい。その通りです。今はスマホ内にしか活動できないのでモバイル律です💗》
「……」
(魔法少女の次は超科学……頭が痛いわ)
私の支給品のスマホから話しかけてきた少女の声の主は律。
正式名称は、自律思考固定砲台というらしい。
なんでも、「殺せんせー」…その名前にツッコミたいところだが……とにかく、その殺せんせーの命を狙うために椚ヶ丘中学三年生へ編入。
編入始めは、命じられたプログラムを遂行する機械として生徒たちとの協調性もなく命を狙っていたが、殺せんせーによる改造によりE組の皆と溶け込めたようだ。
卒業後は本体は解体されたが、データはネット上に住み、日々進化を重ねているそう。
《E組での学校生活を終え、私は電子の海を漂いながら進化をしていた日々でした。ですが…姫神と名乗る人物が私(データ)をサルベージしてスマホにインストールしたのです》
「そして、私に支給されたというわけね……」
《はい。それと、おそらく私と紗季さん、杏子さんの世界は別々の可能性があります》
「えっ!?」
「はぁ!?どういうことだよ」
モバイル律の指摘に私のみならず杏子も驚きを隠せない。
☆彡 ☆彡 ☆彡
「月が常時三日月……そんなことはニュースにもなっていないし、目にもしたことがないわ」
「アタシも右に同じ。空の月が三日月のままなんて見たことねーな」
律のいた地球では、月で行われていた実験により7割破壊されて常に三日月の状態になってしまったようだ。
もっとも、一時的だったみたいで今は元通りになったらしいが……
《私もインターネット上で活動していますが、「鋼人七瀬まとめサイト」なるサイトは聞いたことがありませんし、魔法少女の存在も同様です》
「一応あなたの仮説には説得力があるわね……」
(なるほど。それなら、確かに魔法少女なんて存在、想像力の怪物にカテゴリーされてもおかしくない。もしも、本当に実在するのならば別世界なら……)
紗季はモバイル律の仮説に納得する。
「それにしても、すげーな。それだけで、そんなことまで考えちまうなんて」
杏子はモバイル律の仮説に素直に称賛する。
《はい。暗殺の一年で機能拡張(べんきょう)しましたから》
Vサインで笑顔を見せる律。
「ん?まてよ、じゃあ、アンタの機能で首輪とかも解除できたりするんじゃないか?」
杏子の指摘は私も同様に考えついていた。
《残念ながら、私の機能は大幅に制限されています……》
画面上の彼女は悲しそうに首を横に振る。
《紗季さんのスマホには私の意識(データ)だけでなく、ウイルスデータも仕込まれています……迂闊に手を出すと私の意識(データ)は消去されてしまうようプログラムされています……》
「それは、そうよね……殺し合いを強要する奴がそんな機能を有したのを支給するはずがないわ」
(でも、それにしても機械とはいえ意志がある律を支給品にするなんて、どういうつもりかしら?…やっぱり姫神の裏には六花さんがいる?)
私は改めてこの騒動の裏に六花さんがいるのではないかと疑惑を強める。
「ちっ…それは仕方がねーな…で、話しが逸れたけど、どうするんだ?」
そうだった。返答するはずがモバイル律との会話でしそびれていた…しなければ。
「そうね……正直、九朗君との合流は優先したいけど、律の仮説を信じるならば、戦力を確保することが重要。だから私はあなたと共に行くわ」
杏子と同行をする。本当の理由は「そんな目をするあなた(杏子)がほっとけないだが、それが今の私の本当の気持ち
「…そうか!まっ!いざとなりゃアタシが守ってやるよ!大船に乗った気持ちでいな!!」
杏子は嬉しそうな表情を隠しきれない。
336
:
本当の気持ちと向き合えますか?
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/13(土) 11:59:01 ID:JmHiLPSE0
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【女教皇】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
コープのランクが4に上がった!
紗季が「警察の追い打ち」・「現実トーク」をしてくれるようになった。
「よし。それじゃあ、行きましょうか」
(九朗君…無事でいてね…やだ、未練…ね)
私は九郎君(元彼)のことを気にかけつつも杏子との同行を選択したーーーーー
☆彡 ☆彡 ☆彡
「あれはッ!?」
負け犬公園を離れ、数刻、集団を見つけた。
どうやら、杏子の知り合いがいたらしく、彼女は集団に駆け寄る。
「紗季さん。私たちも急ぎましょう」
「ええ。……情報収集……ね」
私も杏子に遅れぬよう駆け抜けるーーーーー
選んだ気持ちを後悔しないために。
【C-3/平野/一日目 黎明】
【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:モバイル律
[道具]:不明支給品1〜2、ジュース@現地調達(スメルグレイビー@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:杏子をほおっておけないため見滝原中学へ同行する
2:可能であれば九朗君、岩永さんとの合流
3:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
4:魔法少女にモバイル律……別の世界か……
※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※杏子とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「警察の追い打ち」杏子の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「現実トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、人間であれば、交渉をやり直せる
【支給品紹介】
【モバイル律@暗殺教室】
弓原沙希に支給されたスマホ。律の意識(データ)が登録されている。姫神の手により首輪へのハッキング機能などロワの破綻に繋がる機能を制限するためウイルスが埋め込まれている。機械に詳しい参加者ならば、あるいは駆除できるかもしれない……?
現在、モバイル律にどのような機能があるのかは後続の書き手様に委ねます。
【スルメグレイビー@ペルソナ5】
杏子が八つ当たりで側面がひしゃげた自動販売機から手に入れたジュース。
飲んだ者の体力を(小)回復
攻撃低下&命中・回避上昇の効果付き。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:紗季と見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…
4:あれは、まどかッ!?
※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません
【マッスルドリンコ@ペルソナ5】
杏子が八つ当たりで側面がひしゃげた自動販売機から手に入れたジュース。
飲んだ者の体力を(小)回復
防御低下&攻撃上昇の効果付き。
337
:
本当の気持ちと向き合えますか?
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/13(土) 12:00:36 ID:JmHiLPSE0
投下終了します。
今回、支給品に意思がある律を出しました。
問題等ありましたら修正いたします。
338
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/02/19(金) 02:18:26 ID:02Uf/e4M0
投下お疲れ様です。
警察という立場から荒れ気味な杏子の本質を見抜くのが、紗季さんならではだなと感じました。まどか達と合流し、異世界の考察のキッカケとなり得るか、楽しみですね。
モバイル律に関しては問題ありません。実のところ、私も誰に支給するか考えていました。
意思持ち支給品の可否については、完成した後にNG出すのは忍びないのでこの際に規定しておこうと思います。意思持ち支給品のルールとしては「①人間などの禁止」、「②立場的にいち参加者として確立しない程度」、「③キャラに伴い関連する『道具』を支給すること」の三つにします。
①について、人間禁止は特に説明不要だと思いますが、人間でなくても同作品の参戦キャラと種族や立ち位置が並んでいる「イルル@メイドラゴン」や「百江なぎさ@まどマギ」みたいなのも禁止とします。
②については、「ゴーストカプセル(最上啓示)@モブサイコ」や「殺せんせー@暗殺教室」のように、参加者の戦闘補佐というよりはむしろ戦闘の主体となって、明らかに『参加者と支給品のどっちと戦っているのか分からない』となり得る強キャラは禁止とします。あとは願いを叶えられると優勝特典の有難みが薄れますし、魔法少女が増えるとオリジナル設定の付与があまりにも自由になりすぎるので「キュウべえ@まどマギ」は名指しで禁止しておきます。
③は支給品であるという名目と、従う相手(所有者)を分かりやすくしたいが故のルールです。「シラヌイ@ハヤテ」を支給したい場合は、所有者を示すために身に付けている鈴を支給する、といった形でしょうか。それを参加者が所持している限りは命令に従う、紛失した場合はNPCキャラと同等の扱いとします。ただし本作のモバイル律や、未登場ですが「アラス・ラムス@はたらく魔王さま」のように、身体が道具の形をしており用途と直結しているキャラはそれ単体でOKとします。
339
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/02/20(土) 13:44:32 ID:tHr.cgOM0
意思持ち支給品についての規定、承知いたしました。
感想ありがとうございます。
本当の気持ちと向き合えますか?
紗季さんの「警察」という職を活かしたいなと思い、杏子との同行にさせました。
また、個人的に紗季さんは数少ないThe一般人ポジションだと思っていましたので、サポート役として律を支給しました。
合流後の展開は自分としても楽しみです。
340
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/02(火) 00:46:03 ID:9NOU0u4.0
鷺ノ宮伊澄、雨宮蓮、遊佐恵美、漆原半蔵、小林さん、花沢輝気で予約します。
341
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:42:10 ID:RLTQPusQ0
投下します。
342
:
Get ready, dig your anger up!【前編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:43:31 ID:RLTQPusQ0
「私の邪魔を、するな……。」
ㅤ小林と伊澄、2人の前に立ち塞がったのは、怒りの感情を暴走させた勇者、遊佐恵美。人々を護り、導くはずだったかつての面影は残っていない。今の彼女は心を焼く怒りのまま、魔王を殺すことだけを目指す脅威の化身。虚ろに彷徨うその瞳には深く闇が根差していた。
ㅤしかし、彼女を構成するものは何一つ変化していない。人類の尺度で言えば規格外の聖法気は、闇に染まれど健在である。その圧倒感は、小林が終焉帝と直面した時に感じたそれと同じ。血走った目、既に人を殺していてもおかしくない激戦の跡が見られる全身の生傷、小林の素人目ながらに、危険度を理解出来る。
「できれば、話し合いで済ませたいところなのですが……そうもいかないようですね。」
ㅤ鷺ノ宮伊澄は最も早い段階で警戒を見せていた。遊佐の業物である木刀・正宗は鷺ノ宮家の宝具。元を辿れば伊澄の所有物だ。それは遊佐にとってある意味幸運だったのだろう。伊澄は遊佐の精神暴走の間接的原因を把握出来ている。危険人物と断定され、問答無用に排除される未来よりはよほど先が見込めるだろう。
ㅤしかし伊澄にとっては、決して幸運とは言えない。相手が純粋な殺人鬼だと思っていれば、躊躇わず防衛戦に入ることもできていただろう。だが、遊佐の暴走があくまで本人の意思とは別にあると気付いた以上、殺傷に少なからず躊躇いが生まれる。ましてやその原因が、己の宝具にあると推測していれば尚更だ。
「少々荒っぽいですが……力ずくで鎮めさせていただきます!」
ㅤ胸を差す罪悪感に手を震わせながら、タロットカードに霊力を込める。一般人である小林は感じ取れないが、エンテ・イスラの民である遊佐は、その力の脅威を感じ取る。
「へえ……?ㅤ禍々しい力ね。まるで、悪魔のよう。」
ㅤ聖法気を正の力とするならば、伊澄のそれは負の力。悪魔の――自分が殺すべき相手の力だ。それを感じ取ったからには、生かして帰す道理は無い。伊澄の全身を包む和服から連想されるはずのかつての友人の姿も、今の遊佐には浮かばない。
「つまりあなたは私の敵。殺してやるわ。」
(速いっ……!)
ㅤ動いたのは遊佐。天光駿靴で即座に伊澄の背後を取り、聖法気を込めた木刀・正宗でその首を狙う。
「っ……!」
ㅤ熊の爪とて通さない結界を張ってもなお、全身にビリビリと巡る衝撃。現在降りかかる身の危機をこの上なく感じ取った伊澄は顔をしかめる。
「伊澄さんっ!」
ㅤ先ほどまでの伊澄ののんびりした様子が消え去ったことに、小林もまた危機感を覚えずにはいられない。小林は叫ぶ。その音に反応し、遊佐の視線が小林に移る。
343
:
Get ready, dig your anger up!【前編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:44:18 ID:RLTQPusQ0
(いけないっ……!)
ㅤ今の遊佐は制御が効かない。誰を標的と定めるかの予測が付かない。今は自分の霊力に惹かれていても、何かの拍子に小林が狙われる可能性もある。
「これをっ!」
ㅤ遊佐の連撃の合間を縫って小林の足元に棒状の何かが投げ付けられる。怪異たちの知恵の神が歩行の補助に用いていたステッキ。本来、何の力も備わっていないはずのそれは大地に突き刺さり、足元に星型の結界を形成する。
「私の霊力を宿しています。その結界の中にいる限り、敵は易々とは手を出せません。」
ㅤすげえな、とゴーストスイーパーとやらの能力に舌を巻くばかり。自分の知る範囲で言うところの認識阻害のようなものだろうか。
「ドラ〇ンクエストで言うところだと聖域の〇物のようなものです。」
「あ、うん……。」
ㅤ分かる人には分かる説明を終え、再びタロットを手に遊佐の攻撃への対処に回る伊澄。安全確保といえば聞こえがいいが――要は戦力外通告だ。
ㅤいや、分かっている。分かっているのだ。力も無いのに自分も戦いたいなど、自分のエゴに過ぎないのだと。分を弁えねば伊澄さんの負担になるだけだと。自分に出来ることは、伊澄さんの戦いの気を散らさないようここでじっとしておくことだけ。それ以上を望めば死ぬ。
ㅤ拳を握る。種族差という越えられない壁がそこにある。それを越えてしまえば、もう私は人間とは言えないのだろう。ヨモツヘグイ――黄泉の竈で煮た肉を食べてしまえばもうその地点で常世の人には戻れないという。この戦いに介入するというのは、そういうことだ。私が人である限り。人でありたいと願う限り。手を出すのは、余計なことでしかない。
(ありがとうございます、小林さん。)
ㅤ氷晶が爆ぜ、業火の舞い散る戦場の中、横目で小林が魔法陣の中に収まったのを確認すると、持てる全ての集中力を目の前の敵に傾ける。
「――八葉六式・撃破滅却。」
ㅤ伊澄がタロットを翳すと、眼前に大爆発が巻き起こる。霊力の流れを察知し、事前にバックステップで回避した遊佐は無傷。しかし爆風で後方に退避した伊澄も相まって、両者の間には大きく距離が開く。遊佐の聖法気を込めた剣技であっても、目視による回避が存分に間に合う距離だ。剣術を扱う遊佐を相手に、近距離戦は本来、伊澄には分が悪い。
ㅤ物量の嵐とばかりに、タロットに魔力を込めて次々と放つ伊澄。だが、遠距離攻撃が回避しやすいのは遊佐にとっても同じこと。その隙間を縫って避け続け、伊澄の霊力ばかりが消耗していく一方。
(このまま……正宗さえ破壊すれば……。)
ㅤしかし両者間では勝利条件が大きく異なる。伊澄の命を奪えば勝てる遊佐と、遊佐を正気に戻せば勝てる伊澄。精神暴走を媒介している木刀・正宗の破壊こそが、伊澄の狙いである。
ㅤ自分を狙う攻撃には敏感に対処できても、武器のみを狙う攻撃まで対応するのは困難なはず。事実、避けきれず木刀・正宗で弾かざるを得なかったタロットは、着々と武器へのダメージを重ねていく。
(これで決めてみせる――!)
ㅤそして、タロットへの対処に追われていた遊佐。次の伊澄の行動への対応を遅らせることとなる。自分から距離を離した伊澄があえて接近し、再び距離を詰める。その手には『死神』を模した1枚のタロット。
「術式・八葉――」
ㅤ伊澄の纏う霊力が、守りから攻めに転じたことを感知し、チャージのために一歩引き下がる遊佐。精神暴走の影響で防御力が下がっていることを、遊佐は本能で理解している。それならば迎撃するより他にない。刀に聖法気を宿し、力には力の理論で返す。
「――建御雷神(タケミカヅチ)!」
「――天衝光牙ッ!」
ㅤ二人の放つ雷撃がぶつかり合い、弾ける。そのエネルギーの眩さに、傍観者の小林ですら視界を白く塗り潰される。ましてや、当事者の二人はその爆心地にいるのだ。両者ともに一時的にその視界は失われる。
344
:
Get ready, dig your anger up!【前編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:46:46 ID:RLTQPusQ0
「空突――」
ㅤ戦場の二人に平等に訪れた空白の数秒間。しかしそれは、遊佐への大きなアドバンテージだ。身体能力そのものは人間の域を出ない伊澄は、数秒で遊佐を撹乱するだけの行動を起こせない。しかし身体能力の尺度が違う遊佐。視界の消えた刹那の時を利用して伊澄の背後に回り込む。
ㅤ視界が開けた時、手持ちのタロットに霊力を込め終えた伊澄の眼前に、遊佐は見えない。
「後ろ!!ㅤ後ろだぁぁ!!」
「――連弾ッ!!」
「うぐっ……!」
ㅤ小林の助言虚しく、次々と放たれる遊佐の拳が伊澄の背に命中する。結界も間に合わず衝撃をまともに受け、吹き飛ばされた勢いのままに大地を転がり、平穏な日常では見ることも無かったであろう大きさの血の塊を吐き出す。
ㅤよろよろと起き上がれば、眼前には追撃に走る遊佐の姿。タロットを取り出す暇も無い。しかし臓器への攻撃を許すわけにもいかない。右手に霊力を込め、突き出す。
ㅤ対するは、風の刃を纏った木刀・正宗による刺突。聖法気により鋭利さを得た宝具を、咄嗟の抵抗では相殺し切れるはずも無く――まるで瓦の如く、伊澄の右の掌を骨ごと砕いた。
「ッ――!」
ㅤ決壊し、弾け飛ぶ血飛沫。苦悶に表情を歪ませつつも、霊力を爆ぜさせ、遊佐の追撃を遠ざける。
ㅤそうして再び保たれた一定の距離。文字通り息づく暇もなかった攻防にインターバルが訪れる。同時に、余裕が生まれて口内から血の味がじわじわと広がってくる。
ㅤ戦況は大きく不利に傾いた。聖法気を纏った木刀・正宗が思った以上に丈夫であったことも、体内に宿す聖法気は感知していたが遊佐の剣術の腕までもは外観では見切れなかったことも、この戦局を動かした何もかもが伊澄の想定の外にあった。
ㅤ伊澄は、基本的に敗北というものを知らない。光の巫女として天賦の才を持って生まれた彼女は、霊力をはじめ異能の力の類において対人で不覚をとったことは殆ど無かった。
ㅤここで与えられた四肢欠損の激痛。先の応酬は紛れもない敗北に終わり、そして痛みの先の死まで見え始めている。年端も行かぬ少女の心を折るには、充分すぎる。
ㅤこうなればもはや敗走も手だ。鷺ノ宮家の秘術『強制転移の法』を用いれば、小林さんごと何処かへ瞬間移動して逃げることも可能。しかし、暴走を起こした遊佐の扱う武器が木刀・正宗であるために、その選択肢は奪われた。鷺ノ宮家に伝わる宝具のせいで、誰かの命が奪われる事態を引き起こすわけにはいかない。知り合いたちは全員、そしてその中でも特にナギは、遊佐と渡り合えるほどの実力を持たない。ナギも同じ舞台に招かれている現状、能力のある自分がここで倒さなくてはならない。
ㅤそして、逃げられない理由はもう一つ。
「もう終わり?ㅤ悪魔のくせに、手応えないのね。」
ㅤカチン、と。伊澄の悪癖、負けず嫌いが発動する音がした。もはや口上とも言える安い挑発は、伊澄にはむしろ効果的に働いた。
ㅤ当然よ、と言葉は返さない。返すのは霊力をたっぷり溜め込んだタロットの洗礼で充分だ。
――建御雷神・四面
ㅤ四方から降り注ぐ雷撃が、遊佐の身体を包み込む。一点突破が破られたならば、波状攻撃を仕掛けるのみ。簡単な理屈。しかし、右手を失い霊力注入もままならない状態で、威力を分散させてしまったことは悪手だった。
ㅤ魔王軍との戦いで押し寄せる幾千の悪魔。それに対し、勇者エミリアのパーティーは4人。その頭数の差をしてなお、勇者は敵を駆逐してきた。
ㅤ広範囲の波状攻撃への対処ならば、遊佐の右に出る者はいない。
345
:
Get ready, dig your anger up!【前編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:47:23 ID:RLTQPusQ0
「光爆衝波ッ!」
ㅤ聖法気を撒き散らし、迫る雷を霧散させる。極雷の道を開いた先に見えるは、伊澄の姿。元より非力な少女の動きが、失血によりさらに鈍っている。霊力を用いての大技も、練る時間を遊佐は与えない。
「しまっ――」
ㅤ木刀・正宗を斜めに構える。既に敵は見据えており――フェイントを織り交ぜることもなく、ただ一直線に向かうだけ。
「死になさい。」
ㅤかつて勇者だった者は、正義を忘れ、斬り付ける。燎原の中に咲いた花を手折るように、それは容易く、一人の少女の命を奪うはずだった。
「……どうして。」
――そこに、割って入る者がいなければ。
「人間の人生なんて、あの子らからすれば刹那のようなものなんだろうけどさ……」
ㅤ助けに入った者を見た伊澄は驚愕に目を見開く。小林が、伊澄を庇い遊佐の斬撃を受けていたのだ。
「伊澄さんは、その刹那に全力を尽くしてくれている。」
ㅤその手には、伊澄が先ほど投げつけたステッキ。遊佐の斬撃を受け止めるも、すぐに真っ二つに切断される。
「だから私も――命をかけるよ。」
ㅤ霊力を用いる伊澄を悪魔の類と見ている遊佐の目に映る小林は、己が導くべき力無き人々である前に――仇討ちの『邪魔者』だ。そこに、容赦は生まれない。
ㅤ次の瞬間には、小林の胴体を斬り付けていた。
■
ㅤ私に、何ができる?
ㅤ私はただのOLだ。特異点があるとするならば、少しばかりドラゴンと関わっているというだけ。私自身に価値があるわけじゃない。
ㅤそんな私に、何ができる?
ㅤ結論としては、何もできない。魔力や霊力なんて無いし、暴走する遊佐を打ち倒すことなんて出来やしない。身の程は、分かっているつもりだ。
ㅤこうやって"人間"と"それ以外"で線引きしてしまえれば、きっと楽だ。人間だからできない。人間とは違うからできるだろう。
(と、そこで思考停止するのは簡単だけどさ。)
ㅤ身の丈にあった分業と言えば聞こえはいいが、その実は分断――悪くいえば迫害。関わらないのが吉であると、互いに不干渉を決め込むことこそが最善であると、そう唱えているだけだ。
ㅤでも、そうじゃない。そんなこと、私は望んじゃいないんだよ。いつだったか、ドラゴンと対等のつもりか、とファフニールに聞かれたことがある。その時、私はそうだと答えた。ここで自分がただの人間であることを理由に戦いを伊澄さんに丸投げしてしまえば、多分私は同じ答えが言えなくなる。
ㅤ確かに自分はただの人間だ。だけど、何度か命を賭けたおかげで感覚だけは常人離れしている自覚はある。
(そうだ。私には力なんてない。でも、そんな私にも出来るのは――)
ㅤ大地に突き刺さって安全を保証してくれているステッキを思い切り引き抜いた。
(――守りたいものを守るために、命を賭けることくらいだろ!)
ㅤ弾除けだと言うならそうなればいい。伊澄さんが勝負を決めてくれるためのひと時を、全力で整えてやればいい。
ㅤ対抗手段とするには頼りないステッキを盾に、遊佐の斬撃にめいっぱい食らいついた。
346
:
Get ready, dig your anger up!【前編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:47:58 ID:RLTQPusQ0
――バキッ!
(この感覚、何回目になるかな。)
ㅤ勇者の一撃を前に、ステッキは簡単に砕ける。
(わかんないけど……今度こそ、死んだかもな。)
ㅤそして防具らしきものを失った小林に、木刀・正宗の一撃が思い切り叩き込まれた。
ㅤ次に小林の全身を支配した感覚、それは――
「いっ……」
――痛みだった。
「痛ッてぇぇぇぇぇ!」
ㅤステッキに込められていた伊澄の霊力は、木刀・正宗を受け止めた際に超能力の一種である聖法気を吸収した。そのため小林が受けたのは、殺傷力の低い木刀による打撲のみ。素手で熊をも倒す勇者の剛腕による木刀、それはそれで悶絶じゃ足りないほどに痛い。だが、それ止まりだ。命に関わる致命傷からは程遠く――
「くっ……離せ……離せええええっ!!」
ㅤそしてそれ故に、小林は受け止めたそれを掴んで離さないことができた。
ㅤ小林ごと貫くわけにもいかず、その隙に迂闊に攻撃は放てない伊澄。しかし小林は、必殺技を溜め込むには充分すぎる時間、遊佐の拘束を果たした。
「この……消えろッ!」
「うわあっ!」
ㅤ振りほどかれた小林は、わざと大袈裟に転がって伊澄の巻き添えを食わないようその場を離れる。
「あとは、私が!」
ㅤ伊澄の手には一枚のタロット。霊力を編み込み、天に掲げる。
「……どうか、悪く思わないで。」
ㅤ小林が駆け付けて、そして繋いでくれたこの一瞬。熱く燃えたぎる闘志とは遠くかけ離れた性格伊澄である。しかしそれでも静かに灯る心根が、遊佐に訪れた千載一遇の隙を捉えて離さない。
「術式八葉上巻・別天津神(ことあまつがみ)!!」
ㅤ地を破り、霊力で形成された宝剣が浮き上がる。次第にそれらは融合し、依代となったタロットが示す通りに"悪魔"の形へと変わっていく。鮮明に存在を主張する異形を、遊佐はどこか、懐かしさを覚えながら睨み付け――そして、放たれる。標的は木刀・正宗――勇者の命を救いつつも、勇者を闇に堕とした元凶でもあるひと凪ぎの宝剣。
「……不思議な感覚。」
ㅤ強大な力を前に、遊佐は小さく呟いた。
ㅤ悪魔を模した、どす黒く醜悪な見た目の霊力の塊。だがこうして目の前にしてみると、その性質はどことなく温かい。
ㅤ初めての感覚じゃない。いつだったか、昔にもこんなことがあった気がする。嫌悪の対象だと信じてきたものが、その実は悪しきものとは遠かったことへの困惑――それに伴う葛藤の日々を、遊佐の頭には浮かばない。身を焦がすほどの怒りが、その日々を塗りつぶしてしまっている。
ㅤしかし己へと迫るそれが到達する寸前、遊佐の目に僅かに光が灯る。それは正気からは遥か遠い。しかし、悪魔への怒りだけを昂らせた精神暴走状態の遊佐であれば決して取ることのないであろう行動を、遊佐は選び取る。
347
:
Get ready, dig your anger up!【前編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:48:32 ID:RLTQPusQ0
「――天光鏡閃。」
ㅤ悪魔を模した攻撃に対して取った行動は、怒りに身を任せての破壊ではなく――反射。
ㅤ木刀・正宗を翻し、霊力の表層をそっと撫で上げ、返す。まるで寄せては返す波の如く、別天津神は力のベクトルを真逆に変え、伊澄へと向かっていく。
「――そんなっ……!」
ㅤゴーストスイーパー鷺ノ宮伊澄。退治してきた悪霊は数いれど、己の強大な力が、そのまま向かってきた経験は未だ無い。
ㅤましてや、聖なる力を操る勇者と、歪な力で形成された悪魔が、共に己に向かって来る光景。勝てるビジョンなど浮かばない。
(相殺するしかっ……!)
ㅤ別天津神は伊澄の必殺技の一つ。その威力は伊澄が最も理解している。温存は許されない。伊澄に到達する直前、霊力をありったけ込めた結界を張り巡らせ――
「はぁ……はぁ……」
ㅤその威力の大半を、殺し切った。しかし相殺を図ってなお受けた傷は決して浅くはなく、しかも戦線を切り抜けたその姿は外目にも分かるほど、異常をきたしており――
「伊澄さん!」
ㅤ小林が駆け寄る。伊澄の古風な美貌を彩っていた黒髪は、雪のように白く染まっていた。霊力が切れた時に起こる変化であり、それ自体命に別状は無い。しかし、その状態とは別に命の危機は迫っている。
「駄目……逃げ……て……」
「逃がすわけないでしょう?」
ㅤエミリア・ユスティーナ。数多の悪魔を灰燼に化してきた聖剣の勇者は未だ、膝を着くこともなく五体満足で立ちはだかる。射程内に捉えるは、異形の力を用いた少女、伊澄。
「悪魔なんておぞましい存在、生きてていいはずがないの。お前も、そして邪魔をしたお前も、みんな、みんなブチ殺してやる。」
ㅤその精神に、かつての面影は残っていない。支離滅裂な思考から繰り出される言葉に、辻褄など無い。木刀・正宗の副作用とか、精神暴走とか、そんな一切合切を知らない小林にも、遊佐が人間としてのタガの外れている存在であることくらいは分かる。
ㅤだからこれは、ただのエゴに過ぎないのだろう。
「――ふざけんなっ!」
ㅤ終焉帝の時とは違う。対話では解決しないことなんて、分かり切っているのに。
「そりゃ悪魔ってのは私の管轄外だよ。私はせいぜい、ドラゴンについて人よりちょっと知ってるだけのOLだ。それでも、この子とはアンタより関わってる。」
ㅤ敵の狙いが伊澄さんだと言うなら、今すぐにでも見捨てて逃げるべきだ。2人まとめて死ぬぐらいならよほど合理的だし、その選択で見捨てられる彼女自身、それを望んでいる。
「んで?ㅤこんないい子つかまえておぞましいだって?ㅤよくもまあ適当ぬかせるもんだ。」
「……黙れ。」
「分からないものと分かり合える可能性を捨てたアンタに、私は負けない!」
「そこを退け……!ㅤ邪魔だああああっ!」
ㅤ斬られるっ!ㅤそう覚悟を決めたその瞬間だった。小林に斬り掛かろうとしていた遊佐の動きが停止する。何が起こっているのか、立ちすくむ小林も、霊力が切れた伊澄にも理解できない。遊佐は、たった今の今まで目の前にいた二人の存在を忘却したかのごとく明後日の方向を向いていた。
「――見つけたわ。」
ㅤ視線を遊佐の向く先に移す。そこには、二人分の人影。そしてその内の一人は、ただの人間である小林よりも、今や霊力を宿していない伊澄よりも、そしてその他もろもろの誰よりも、優先して殺しに行くべき人物の中の一人。
「何で……」
「ククッ……私の、本当の敵……!」
「何で……!ㅤお前が人間と殺し合ってんだよ、エミリアっ……!」
「――ルシフェル。私は……お前を、討つ!」
ㅤ漆原半蔵。本来の名を悪魔大元帥ルシフェル。いつかは敵同士、されどまたいつかは共闘相手。彼らの宿命の在り方は常に揺れていた。
ㅤそして今――殺し合いの明確な"敵"として、彼らは再び相対する。
348
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:50:29 ID:RLTQPusQ0
ㅤ初めは、ただの興味だった。ひとまず"勝ち馬"を高いところから探すため、『展望台』を目指して移動していた漆原と花沢。その道中、誰かが膨大な魔力のような何かを放出するサマが遠目に見えたから、寄り道がてら様子を見に行ったまでだ。
ㅤ漆原と花沢、どちらにとっても知っているヤツの攻撃じゃ無かったし、殺し合いに乗っているヤツがいるのだろう、程度の認識。佐々木千穂が殺された地点で魔王も勇者も、姫神の言うことなんざ決して聞きはしない。影山茂夫は、元よりこんな催しに乗る性格ではない。そういう意味で、二人の探し人はどちらも信用されていた。
ㅤだからこそ、目の前の光景が信じられなかった。遊佐が殺し合いに乗っているというだけでなく、そのターゲットが悪魔でもその他の異形の類でも何でもない、人間であるということに。
「どうしちまったんだよ。」
ㅤ漆原から遊佐へのこの問いは、二度目だ。一度目は、日本で宿敵のはずの遊佐と真奥がまるで腐れ縁のように馴れ合っていた時のこと。高潔なる勇者と残虐無慈悲なる魔王は何処に消えたのか、困惑を込めてそう尋ねた。そして今回は――その時とは真逆の意味合いで用いられている。しかし、一度目よりもいっそう驚いている自分がいた。
「佐々木千穂が殺されたんだぞ!ㅤそれなのに……お前は、そんな奴じゃなかっただろ!」
「黙れっ!」
ㅤ遊佐の全てを理解していたとは思わない。何千、何万年という天使の寿命の中のたかだか数ヶ月を共にしただけだ。何かのキッカケで人は変わる。聖なる加護を得た天使ですら退屈を前には堕天した。いわんや、遊佐は勇者とはいえ人間。変わることだってあるだろう。
ㅤ勇者が悪魔を攻撃する、それはハブがマングースと戦うくらいに当たり前の事象だ。心変わりの範疇で有り得るものではあると、理論上は理解している。だけど、それを認められない自分もいた。
ㅤ遊佐は漆原の方を向くと、迷いも見せず斬り掛かる。木刀・正宗を介して暴走した怒りが、本質的に向いている先にいる存在。思い出よりも怒りが先行する。したがって、誰よりも率先して斬り伏せにかかる。
「天光炎斬っ!」
「おい、せめて話を聞けって!」
「天光風刃っ!」
ㅤ狂乱、されど一心不乱。長きに渡る過去の宿命と、その期間に負けない程度には積み上げてきた思い出、その両方をふるい落とすかのように遊佐は斬撃に身を任せる。
ㅤ戦いたいのか、戦ってもいいのか。思考はもはやぐちゃぐちゃだ。戦い――否、戦いですら無いのかもしれない。とにかく目の前の現実に身が入らない。遊佐の斬撃が既に眼前に迫っている。こんな形での決戦なんて、お前も望んでいなかっただろうに。
「漆原さん!」
ㅤ気が付けば、漆原を据えていた木刀・正宗がいくつもの線状の念動力の塊に絡め取られている。その力の主は花沢。変わり果てた遊佐と元からの知り合いでなく、誰よりも客観的に現状を俯瞰していた彼は、かつて寺蛇からラーニングした空鞭(からぶち)で漆原への攻撃を遮る。
ㅤ遊佐が剣をさっと凪ぐと、一瞬で全ての空鞭が解かれる。格下に用いるべき空鞭では、今の遊佐は止められない。
「感傷に浸ってる場合じゃ無いみたいだよ。」
ㅤしかし、漆原が覚悟を決めるまでの刹那の時間稼ぎには充分だ。
「……悪い。」
ㅤ目の前にいるのは、かつて敵対したエミリアでも、ましてやかつて共闘した遊佐でもない何かだ。信じたくないが、認めざるを得ない。
「でもここからは僕も、ちゃんとはたらくよ。」
ㅤ背からは堕天使を象徴するかの如き黒く染まった翼。背丈の低い漆原が持てば頭に届くほどのリーチを持つ三つ又の槍<トライデント>を自身の一部のごとく振り回す。人間、漆原半蔵ではなく、悪魔大元帥ルシフェルとしての頭角を現した。紛うことなき臨戦態勢である。
349
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:51:00 ID:RLTQPusQ0
「あは……あはははははっ!」
ㅤ人が恐れ、畏怖するべき悪魔。それを見た遊佐は、高らかに笑う。いつもの遊佐とは明らかに違う様子だ 。武器を叩き付けるかのように荒々しい剣技も、繊細にこちらを詰めるいつかの遊佐のそれと大きく違っている。
(だから別人だと割り切れればいいんだろうけど。)
ㅤ生憎、白髪を揺らめかせるその姿は紛れもない勇者エミリアだ。
(まったく、やりにくいったらありゃしない。)
ㅤ確かに武器の相性だけで言えば、リーチの問題で槍は剣に強い。しかしそれは命の取り合いである場合に限る。
ㅤ最終的に遊佐を殺せと言われれば、漆原はそれを実行出来るだろう。だが、その場合は遊佐に何が起こったかを知る数少ない手がかりを失うこととなる。それに――仲間とまでは呼べずとも、少なくともある程度は"味方"であったはずの遊佐を殺すのは好ましくない。現状は殺意があるのが遊佐だけである以上、リーチの差は有利にならない。むしろ近距離に入るのをどうしても許してしまう分、槍側の不利とさえ言える。
ㅤ漆原の繰り出す槍を潜り抜け、懐に潜り込む遊佐。
「させるかッ!」
――サイコ掌打
ㅤそこに花沢が割り込み、遊佐へ念動力を叩き付ける。人数だけは明確に遊佐に勝っている点だ。吹き飛ばされた遊佐は草原を転がり、しかし痛みも感じさせぬような勢いで起き上がり、再び漆原へと斬り掛かる。
「僕のことなんて眼中に無いとでも言いだけだね。」
ㅤ攻撃しても、攻撃しても、相手は決して自分を見ない。視線だけではない。相手の世界に、ハナから自分という登場人物が居ないかのように。相手から見た自分が、"その他大勢"ですらないような疎外感。突き放されたような孤独――花沢の脳裏に映るのは、一人の男の姿。超能力以外の自分がいかにちっぽけな凡人であるかを思い知らされた大切な出会いであり、しかし同時に心の底に渦巻くトラウマでもある邂逅。
「でも君は、彼の領域にはほど遠いよ。彼は、人を傷つけるような人間じゃない。」
ㅤ花沢が向けた手のひらの向く先の空気が爆ぜる。しかし手応えは無い。爆風の勢いをも利用した天光瞬靴により漆原の背後に回っていた。
(眼中に無いどころか、戦闘環境として利用されている……!?)
ㅤ漆原が"勝ち馬"と謳っていただけのことはある。2対1の状態でも上手く立ち回れる戦闘センス。相手の技を利用して自分の利に落とし込む適応力。まるでこれまでの人生を戦いだけに費やしてきたかのように、その全てが高い水準にある。
「天光炎斬っ!」
ㅤそのまま繰り出されるは瞬間火力に秀でた渾身の一撃。
(だけど、負けるわけにはいかないんだ。)
――重層バリア
ㅤ次の瞬間、漆原に何重ものバリアが貼られる。
ㅤ一枚、二枚、三枚……瓦のように砕けていくバリアも、漆原の振り向きざまの反撃も合わせて遊佐の斬撃を防ぎ切る。
「ふっ……やっと気づいてもらえたみたいで嬉しいよ。」
ㅤそのバリアの源が漆原ではなく、"もう一人"にあると分かり、遊佐は花沢を睨み付ける。
「どうやら僕でも、君と同じ舞台には立っているようだ。」
350
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:51:44 ID:RLTQPusQ0
■
(これは……助かった……のか……?)
ㅤ一方、遊佐から殺される直前でその矛先を変えられ、小林はどう動いていいやら分からずにいた。小柄な少女とはいえ、傷の浅くない伊澄を抱えて遠くに逃げられるほど力持ちではない。
ㅤ迷っていると、伊澄が掠れた声で何かを伝えようとしているのに気付く。
「あの人は、木刀・正宗に操られているんです。」
「木刀・正宗?ㅤ大層な名前だけど、要はあの木刀が原因ってこと?」
ㅤ伊澄は小さく頷いた。
「おそらくはあれを壊せば正気に戻るはずです。」
ㅤ勝機、というよりは誰も死なずに済む希望が見えてきた。乱入者との会話から察するに、旧知の仲であるようだ。元々の遊佐がどんな人物なのか、小林は知らない。しかし漆原の反応を見るに、殺し合いに乗っている方が不自然な人物であると推察はできる。
「その木刀を壊せ!ㅤそれで元に戻るかもしれない!」
ㅤ声の掠れた伊澄に代わり、小林が大声で伝達する。こちらの目標を遊佐にも聞かれてしまうが、あらゆる攻撃が目まぐるしく交錯するあの戦場に密談できる距離まで接近できる小林では無い。
「なーんだ、そんなことか。」
ㅤ小林のメッセージを受け取った漆原はあっさりと了承する。解決策のハードルがあまりにも低く、拍子抜けしたか。しかし幾分かは振るう槍も軽くなったように感じられた。
「分かりやすくていいじゃんか。倒すべきものがハッキリしてるなんてさ。」
ㅤシリアスな雰囲気醸し出して損したなぁ、と。洗脳された知り合いを前にしたにしては不自然なほどに軽口で、笑い飛ばす。改めて、目の前に存在する者が宿命の深い"聖剣の勇者"ではなく、ただ洗脳された凡人一人であることを、意識する。
「来いよ。聖剣以外を扱うお前に負けるわけがない。」
ㅤ聖剣――その名を聞いた瞬間、何かが遊佐の頭を駆け巡る。常に頭を支配しているこの感情。今まで、そこには別の何かの声が響いていたはずだ。それは、あの憎き魔王を殺すことを躊躇させる要因、そして思い出。己を母と慕うあの声を、遊佐は思い出せない。暴走する怒りの邪魔となる感情は、脳の隅に追いやられている。
「天光飛刃っ!」
「効かないっての。」
ㅤ槍の側面で飛ぶ斬撃を弾く。攻撃の精度はいつもより荒い。集中すれば、むしろ対処はいつもより楽であるとすら言える。
ㅤ漆原の魔力弾を縦横無尽に回避しながら、反撃の機会を伺う遊佐。撃てる魔力弾にも限りはある。遊佐ではなく、本当の敵のために温存したいのが本音だ。魔力と聖法気のぶつけ合いだと、お互いに消耗が激しい。
「あはは……ずっとこの時を待ってた……!」
「お前はもう……」
「父さんの仇と、どっちかが死ぬまで殺し合える……この時を!」
「……黙ってろよ!」
ㅤ聴きたくのない、遊佐の形をした何かとの会話を拒むように流された魔力の波。なまじ遊佐の出生を語り、少なからず彼女自身の願望が混ざっている言葉である分、それが木刀に膨張された感情であると分かっていても気分が悪い。
ㅤ遊佐は身を屈めたまま後進。余波を軽減しつつ距離を置く。だが、花沢がそれを逃がさない。
351
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:52:23 ID:RLTQPusQ0
「引き剥がすよ!」
ㅤ両手合わせて十の指から、それぞれに空鞭を形成する花沢。一本一本の強度は足止めできるものでなくとも、敵の注意が自分にも向いた今、僅かにでも注意を逸らすことはできる。
ㅤ木刀・正宗だけでなく、両腕、両足、胴体――すなわち全身を拘束するために空鞭が迫る。
「天光氷舞ッ!」
ㅤその全ては一瞬で凍り付いた。魔を凝固させ、繋ぎ止める力は念動力に対しても存分に機能する。そして横凪ぎに一振り、空鞭がバラバラに砕かれる。
「今だっ!ㅤ漆原!」
「分かってるよ!」
ㅤ細かい氷塊と化した空鞭が崩れ落ちる道を、少年は翔ける。その手には一本の槍――かつては調和を護るドラゴンが扱っていた三つ又の竜槍。空鞭の対処に用いた木刀に向け、投擲する。
ㅤ花沢の念動力で後押しされた槍は又の間に木刀・正宗を括り付け、遊佐の手から木刀・正宗を剥がし、その先の地面に落ちる。
「――空突……閃!」
ㅤこのまま制圧する――そう思い進む漆原の腹に聖法気を込めた遊佐の拳が叩き込まれた。木刀にすら殺傷力を付与する聖法気。拳に纏えば、やはりそれも凶器となる。
「っ……!」
ㅤ媒体となった木刀・正宗を落としても、体内に明智の魔力は残っている。それが尽きるまで、遊佐の暴走は終わらない。そして、暴走する遊佐の身体能力は健在。
「ぐっ……!」
「死ね……漆原っ!」
ㅤ仰向けに倒れた漆原に、遊佐がマウンティングポジションを取る。先の一撃では止まらない。空突閃の雨、空突連弾への接続が始まる。
「させるかっ!」
ㅤ自由に動けるのは花沢のみ。空鞭で両腕を絡め取り、振り下ろされようとしている腕を止める。そこまでは成功した。ただし、そこから先は根比べ。
(力が……強すぎるッ……!)
ㅤ遊佐の元々の怪力に加え、精神暴走による破壊力の増強。空鞭が引きちぎられ、その拳が漆原に行使されるまで遠くない。
(でも、今お前は僕のことをルシフェルじゃなく、漆原と呼んだ。)
ㅤ遊佐の中で何かが変わろうとしている。エンテ・イスラの勇者ではなく、日本で生きた遊佐恵美としての心を、取り戻しつつある。
「負けるな、遊佐。」
ㅤ自分は悪だ。エミリアから父親を奪った魔王軍に所属する一人。彼女でないにせよ、決して少なくない人々の居場所を奪ってきた。許されようなんて思っちゃいない。
「僕のことなんか許さなくていい。真奥のヤツも、芦屋だってそうだ。」
ㅤだけど、それでも。日本で過ごしたあの日々が、空っぽだったなんて言わせない。得体の知れない洗脳なんかに、あの日々を塗り潰させなんかしない。
「だけど……聖剣の勇者以外に裁かれるなんてお断りだ。」
ㅤ天界に比べて出来ることは少ないけれど――少なくともあの世界は、退屈しなかったんだ。真奥や芦屋がいたからというだけではない。敵であるからこそ上下関係もなく遠慮なく接することのできた、お前たちが居たからだ。
「ぐっ……う……私……は……」
ㅤぽたり、と。遊佐の瞳から涙が零れ落ちた。媒体を失って弱まりつつある洗脳に抗っている。その様子を遠目に見て――花沢はある男のことを思い出す。
(影山君。彼女はあの時の君と同じだ。暴走する感情を、止めて欲しいんだろ?)
ㅤ空鞭に全てを込める内、次第に全身の力が抜けていく。それでも念動力だけは緩めない。己の内から込み上げてくる感情に必死に抗って泣いている遊佐の姿が、彼に重なったから。あの時、彼も泣いていた。暴走する力を止めて欲しいと願っていた。
(彼女からも君と同じ、心の底の優しさが伝わってくる。彼女の力を――人に向けさせちゃいけない……!)
ㅤ絶対に止めるという意志。後悔に由来する力は、100%(限界)を超えて発揮される。
352
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:53:51 ID:RLTQPusQ0
「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ㅤしかし、遊佐は止まらない。彼女の、救国の勇者たる功績。それは今は無き聖剣だけでなく、彼女自身の能力に由来するのだ。
ㅤ氾濫する感情。混ざり合って、溶け合って――そして暴走する。実家の畑を焼かれた怒りは。父親の命を奪われた怒りは。とうに限界など、超えている。
ㅤ突如、花沢の身体が浮き上がる。念動力の類では無い物理的な力。一瞬途切れた意識で、空鞭ごと持ち上げられ、振り回されていると気が付く。
ㅤまずい、と空鞭を消す。支点を失ったことにより、遠心力で吹き飛んでいく。そうして落ちた先は、小林と伊澄の居る地点の近く。怪我の浅い小林が心配そうに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ……なんとか……。だけど、彼が……」
ㅤ念動力の大部分を浪費して、正直、立っているのも限界だ。だけど問題は、遊佐を漆原の前で自由にしてしまったこと。
ㅤ遊佐は再び木刀・正宗を拾い上げる。絶好の機会に遊佐を止められなかった――僕はまた、力が足りなかった。
「悪魔なんて……許さない……。仇を討つのは……今がチャンスなの……。」
ㅤ睨み合う漆原と遊佐。
「だ……け……ど……」
ㅤしかし、遊佐の様子がおかしい。あの漆原への執着にしては、邪魔者を吹き飛ばした今、漆原以外にターゲットとなりうる相手はいない。だというのに、漆原を殺すように動いていない。そして――
「私……こんな……決着……は……いらないっ……!」
――遊佐は殺意を、否定した。
ㅤまともに回らない頭だからこそ、最も素直で実直な言葉だった。様々に駆け巡り続ける因縁と感情の、その果てにあるただひとつの想い。それが今、引きずり出された。
「エミリアっ……!ㅤその剣を捨てろ!」
「ううぅ……私……私はっ……!ㅤく……うぐっ……!」
「おいっ!」
ㅤ遊佐は漆原に背を向ける。日本での様々な出来事が追憶となって、虚ろな脳裏に駆け巡り、決死の想いで怒りを抑え込んだ。一時的に木刀・正宗を手放したことも機能したか、或いは、佐々木千穂の死が怒り以外の感情をも揺さぶっていたか。
ㅤ何かが変わったのだ。遊佐を突き動かしていた動きの、何かが。まるで白昼夢の中にいるかのようにふらふらと、漆原から離れていく。
ㅤしかし――精神暴走は終わらない。
「……?」
ㅤその仕草が、あまりにも今までの精神暴走とかけ離れていたからこそ――何が起こっているのか分からず、漆原は判断が遅れてしまった。
ㅤ天光瞬靴――遊佐の視線の先にいる者たちに気付いた時には、既に手遅れ。漆原に最優先で滾っていた怒りが消滅した今、遊佐のターゲットなりうる者は――
「みんな、逃げろッ!」
ㅤ確かな実力を持って遊佐を妨害した花沢。力は無くとも、遊佐の前に立ち塞がった小林。そして霊力を用いる"悪魔"の如きゴーストスイーパー、伊澄――
「しまっ……」
「これ、マズ……」
「……っ!」
――彼らは全員、同じ場所に集まっていた。
「天光……炎斬ッ!!!」
ㅤ花沢も伊澄もガス欠、そして小林は実力不足。まさに一網打尽の布陣だった。
ㅤ明かりの点り始めた早朝の空を、煌めく紅炎が染め上げた。
353
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:54:26 ID:RLTQPusQ0
■
ㅤここ数十分だけで、何回死を覚悟したか分からない。たった一つだけ言えるのは――私、小林は結局のところ、まだまだ生き延びているということだ。
ㅤ私に力は無い。何かをした記憶も無い。どう考えても、私の心臓が今も動いているのは、私以外の誰かによるものだ。
ㅤ視界が暗い。目をやられたのかと一瞬思ったが、間も無く何かが自分に覆い被さって影になっているのだと気付く。
ㅤそして次第に、暗闇に目が慣れていく。影を作っていたものの正体が明らかになっていく。
ㅤ小林は気付いた。自分を守っていたものの正体――"ドラゴン"に。
ㅤ役目を終えたドラゴンは霧のように姿を消した。その先に見えるのは、龍の形をした強大な力の塊とぶつかり合い、倒れた遊佐。そして、刀身が砕け、刀としての役割を失った木刀・正宗。そして、私と同じくドラゴンに守られていた花沢。
ㅤそして――タロットを掲げた伊澄。
「術式八葉上巻・神世七代(かみよのななや)……良かった、何とか間に……合っ……」
ㅤ糸が切れたように、伊澄はその場に崩れ落ちる。
「伊澄さん……?」
ㅤ返事は無い。元より霊力が底を尽きていた上で無理やりに呼び出した神世七代――足りなかった霊力は、生命力で補われた。さらにただでさえ負担の大きい必殺技。全てを終えた伊澄は間もなく、その命を枯らしていた。
「……僕たちは、この子に守られたようだ。」
ㅤ歯痒そうに、花沢が呟く。私から見れば段違いの能力を持っているはずのこの少年も、その根本にある気持ちは、おそらく私と同じ――無力感。
(そういえば、これは殺し合いだったんだなあ。)
ㅤそんなこと最初から分かっていたはずだった。それなのに、その実感は何故失われていたのか――少しだけ考えて、理解した。彼女が隣に居たからだ。殺伐とした世界も彼女の空気に引き込んでしまうような、マイペースかつ天然な少女――この世界を形作る悪意なんて言葉からは甚だ遠く、間違ってもこんな残酷な催しで死んでもいいような子じゃなかった。
354
:
Get ready, dig your anger up!【後編】
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:54:51 ID:RLTQPusQ0
■
ㅤゴーストスイーパーとしての才覚に恵まれて生きてきました。悪霊の除霊に苦戦したことはほとんどありません。力を持っているだけに、頼られ、必要とされ――それはもしかしたら幸せなことなのかもしれませんけれど。だけど本当は――ヒーローに憧れていたりもしていたのです。
ㅤヒロインがピンチな時は必ず駆け付けて、助けてくれるヒーロー。だけど私には、生まれもっての力があります。誰かのピンチに駆け付ける側の存在でしたから、いつしかそれは私には無縁なものと諦めていました。
ㅤでも、ハヤテ様と出会った時、思いました。この人は私のヒーローになってくれるんじゃないかって。見た目も、自分の身も厭わずに助けに来てくれたところも、小さい頃にテレビで見た特撮ヒーローにそっくりだったから。……と、まあ結局、ハヤテ様のヒロインは私ではなくナギでしたけれど。それでも、ずっとずっと、胸の片隅にひっそりと抱いてきた夢が、再び膨れ上がったような気がしたのです。
ㅤだから、嬉しかったんですよ。本当に不安だったあの時、あなたが死の危険を顧みずに駆け付けてくれたことが。あの時、私を助けに来てくれたことが。
ㅤきっとあなたは知らない。あなたの勇気に、どれだけ私が救われたことか。私だけのヒーロー、小林さま。守られることができなくてごめんなさい。だけど私は……あなたを守れてよかった。
【鷺ノ宮伊澄@ハヤテのごとく!ㅤ死亡】
355
:
Coming down, could you fill your satisfaction?
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:55:59 ID:RLTQPusQ0
ㅤそれから遊佐が意識を取り戻すまでの数十分、気が休まる時は無かった。伊澄が死んだ今、『木刀・正宗を破壊すれば遊佐が元に戻るかもしれない』という不確定情報について詳細を詰めることはできない。遊佐が目を覚ました時にどう動くかなど、誰にも予想のしようがない。
ㅤ三人で遊佐をマークしつつ、彼女がどういう人物であったのか、漆原は語る。花沢は二度目であるが、遊佐一人に焦点を絞って話している分、その点においてはより詳細的だ。
「と、つまり君の連れが死んだ原因の一端は僕たちにあると言っても過言じゃない。」
ㅤしかし、どう足掻いても漆原の主観は入る。彼の語る中身にどこか自責の念が含まれていると小林は感じた。
「遊佐だけじゃない、僕とも組めないというならそれでもいい。僕は遊佐と同行するだろうし、小林には花沢を付けるよ。」
ㅤ彼女が正気に戻るならの話だ、と曇った表情で付け加える。
ㅤ遊佐に起こっていた精神暴走の詳細は知らないが、それでも遊佐が伊澄を殺すに至った流れの中に、漆原たち魔王軍の存在が前提となっていることは小林にも分かる。
「それは違うんじゃない?」
ㅤその上で、小林は口を挟んだ。
「原因を責任とすり替えてる。不要なもんまで背負い込みすぎると潰れるよ。」
ㅤ魔王と勇者。混沌と調和。ありきたりといえばそうなのだろう。二項対立なんて異世界に限らず、日本でもしょっちゅう起こっていることだ。ましてや日本の倫理観の尺度で、異世界出身の漆原を責める気など小林には無い。
「別にいいよ。そうじゃなきゃ、こいつが全部背負っちまうだろ。」
ㅤだけど、漆原も引けない理由はある。
「エミリア、実力は折り紙付きでも精神力はガラスだから。だからそれでいいんだよ。」
「……ん、じゃあ止めないよ。」
ㅤそれなら大丈夫か、と小林もそれ以上は追及しない。敵対勢力だとか言っても、何だかんだ相手を理解した上で思いやれる心はある。たぶん、将来的に何かしらの落とし所を見つけるのにも大事なことだ。
ㅤ責任の所在ってのは面倒なものだ。上の命令でやりました、悪いのは全部姫神です――責任なんてそれで押し付けてしまえればいいのだろうけれど、もちろんそんなので色んな宿命が片付けば世界はもっと平和なんだろう。
ㅤでも、かといって殺し合いに反抗する者同士でギスギスしたくはないじゃないか。今の自分たちにできることは、死んだ伊澄さんの分まで生きてやることでしかない。
356
:
Coming down, could you fill your satisfaction?
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:56:48 ID:RLTQPusQ0
「これは……夢……?」
ㅤここで、遊佐が意識を取り戻す。仮に襲ってきても対応できるよう、漆原と花沢が前に。そして小林は後ろに。
「……現実だよ、エミリア。」
「じゃあ、私……」
ㅤ両腕に残った感触を確かめるように、自分の手のひらをまじまじと見つめる。そして、瞳に陰りを見せつつ、口を開く。
「……殺したのね。」
ㅤ正気に戻っていた。或いは、戻らない方が幸せだったのではないかと思えてしまうほどに。しかし自身の認知は誤魔化しようもない。目の前には、もの言わぬ死体となった少女。そしてなお鮮明に残る、精神暴走状態の記憶。
「おい、エミリアっ……!」
「その名前で呼ばないでッ……!」
ㅤ叫び声と共に襲い来る全身の激痛。伊澄の神世七代を刀剣一本で受け止めた代償は、少なからず響いている。
「もう私は、勇者なんかじゃないんだから……。」
ㅤか細い声で呟く。遊佐の手には、殺しの要因となった木刀・正宗はもう残っていない。ただ、記憶だけ。それだけが、遊佐の罪悪感を掻き立てる。
ㅤそんな遊佐に――救いの手の可能性が差し伸べられる。
「ベルならその記憶も消せるかもよ。もちろん、お前が望めばだけど。」
ㅤその意味するところが決して軽くないことくらい、漆原にも分かる。
ㅤだけど、悪行を重ねてきた者のたったひとつの善行で地獄に蜘蛛の糸が垂らされることがあるというなら、遊佐はこれまでに救ってきた多くの命の先にいる。少しくらい、救われたっていいじゃないか。
ㅤ背負うものを降ろした上で戦えば、振るう剣は軽くなるのは当然。人類の希望を乗せて戦ったエンテ・イスラでの対悪魔戦よりも、日本で独り、ただ自分のために戦っていた時の方がどれほど気楽だったか。
ㅤそれと同じ。罪悪感で戦えなくなるくらいなら、忘れてしまう方が戦いにおいては合理的だ。分かっている。分かってはいるのだ。
「……ごめん。ちょっと頭を冷やしてきてもいいかしら。」
「ああ。」
ㅤそして、漆原も分かっている。きっと、遊佐はその道を選ばないのだと。もしも真奥や芦屋や自分が、奪った命を忘れたままのうのうと日本で暮らしていたとしたら、遊佐はそれを決して許さないだろう。許さないからこそ、自分の罪を背負って生きることを選択する。愚直で、非合理的で、だけど嫌いじゃない。少なくともアイツはそういう奴だ。
「遊佐。」
「……なに。」
「全部終わったら、佐々木千穂の墓参りに行こう。」
「……うん。」
「そして、その子もだ。」
「…………そう、ね……。」
「だからそれまで死ぬなよ。その後は僕が悪魔大元帥として手にかけてやるから。」
「………………。」
「僕だって、お前の聖剣以外に斬られてやるつもりなんかないからね。」
「……………………ッ!」
ㅤ遊佐は走り出してどこかへと消えて行った。去り際に小さく呟いた一言は、誰にも届くことは無かった。
「行かせて良かったのかい?」
ㅤ花沢が尋ねる。
「この子と同行していた小林がアイツを許せないって言うなら話は別だっただろうけど。」
「許すとか、許さないとか、どっちも私が言えた義理じゃないと思う。」
ㅤそう言って、小林は首を横に振った。
357
:
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◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:57:20 ID:RLTQPusQ0
「これからはどうするんだい?」
ㅤ漆原と花沢が元々目指していた展望台は、遊佐を含む"勝ち馬"を探すためだった。だけど、今の出来事を踏まえた上で、彼女を戦力として頼るのは酷だ。当然、探しているメンバーは他にもおり、展望台に向かうメリットは消えていない。
「……とりあえず遊佐が戻るのを待って……そして6時間ごとの放送とやらを聞こう。決めるのはそれからだ。」
ㅤ時間としては、殺し合いの開始から6時間が経過しつつある。姫神の言っていた定時放送とやらが間もなく始まるはずだ。
ㅤそして、彼らは放送を迎えることとなる。相応の、衝撃と共に――
【D-3/草原/一日目 早朝】
【漆原半蔵@はたらく魔王さま!】
[状態]:腹部の打撲
[装備]:エルマの三叉槍@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界の知り合いと力を合わせ、殺し合いを打倒する。
一.遊佐が気持ちの整理を付けるのを待つ。
二.第一回放送を待つ。
※サリエルを追い払った時期より後からの参戦です。
【支給品紹介】
【エルマの三叉槍@小林さんちのメイドラゴン】
人間形態のエルマが扱う「トライデント」に分類される槍。エルマの身長並の流さを持ち、漆原の体格だと少し大きめ。
358
:
Coming down, could you fill your satisfaction?
◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:57:56 ID:RLTQPusQ0
■
「許すとか、許さないとか、どっちも私が言えた義理じゃないと思う。」
ㅤ彼女を許せるのも、許せないのも、きっと伊澄さんだけなのだ。本人が死んだ今、もう第三者が何かを言えるものでもない。
ㅤそもそも、あの木刀は何だったのだろうか。漆原がエルマの使っていた槍を持っている辺り、支給品が参加者に由来するものである可能性は高い。それを考えると、伊澄さんがその事情に詳しくても特におかしくはない。実際、彼女のアドバイス通りにすれば遊佐の暴走は止まったわけだ。
ㅤだけど、伊澄さんが死んだことでそれ以上詳しく知る機会は失われた。だから、許すとか許さないとか以前に、その前提、理解の段階に踏み込めていないのだ。彼女が抱えていたやむを得ない事情というのがあまりにも軽ければ許せなくなるかもしれない。逆に、人の死をもたらしたことさえ許してしまえるようになるかもしれない。それはどっちも、怖いことだ。どっちつかずで居られるのならそれでいい。
(結局、立場を明確にするのは怖いだけなのかもしれないな。)
ㅤ私はすでに大人だ。少なくとも、ある程度の哲学を胸の内に抱く程度には。だからこそ自覚している。私はズルい。流されることを良しとして、責任を負うことから逃れようとする大人のズルさだ。
ㅤでも、それができない子だっている。誰かに流される生き方を割り切れず、全ての責任を背負ってしまう子が。遊佐もおそらくそういうタイプだ。
(私にも、何かできることはないもんかね。)
ㅤメンタルケアなんて柄じゃないけれど、大人のズルさというのも、教えてあげられればいいんだけどね。
【D-3/草原/一日目 早朝】
【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:胴体に打撲
[装備]:対先生用ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2) 折れた岩永琴子のステッキ@虚構推理
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.遊佐が気持ちの整理を付けるのを待つ。
【支給品紹介】
【岩永琴子のステッキ@虚構推理】
岩永琴子が歩行の補助に用いていたステッキ。伊澄が霊力を込めることによって、ドラゴンクエ〇トで言うところの〇域の巻物のように乗った者が相手に狙われなくなる魔法陣を生成する力を発揮していたが、今やただの折れたステッキ。
359
:
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◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 17:58:28 ID:RLTQPusQ0
■
("勝ち馬"、か……。)
ㅤ漆原がそう呼んでいた者は、少なくとも殺し合いを加速させてしまった。そこを責める気など無いが、れっきとした事実。
(確かに遊佐さんの力は規格外だった。武器があんな木刀ではなく真剣だったとしたら、或いは、影山君より……?)
ㅤそして遊佐が強かったこと。これも間違いなく事実なのだ。
ㅤだけど、忘れてはならない。どれだけ頼られている人物でも、結局は一人の人間に過ぎないいうこと。心が折れもする。挫けることもある。それで当然なのだ。
ㅤ漆原の話によると、彼女は勇者として世界の期待を背負って生きてきたらしい。父親を失った17歳の少女が、今度は世界中の人間の命を背負うことになって――それがどれほど、彼女の負担となっていただろう。花沢には想像もつかない。超能力結社"爪"との戦いも、世界の命運を分ける最前線に立っていたのは僕じゃなくて彼だ。そして他ならぬ僕も、ただの中学生に過ぎない彼に、期待を押し付けて――そしてここでも、彼に頼ろうとしている。
(――嫌な時はなぁ!ㅤ逃げたっていいんだよ!)
ㅤ霊幻さんが言っていた言葉。あの時は綺麗事だと思った。影山君が戦わずして事態を鎮められるはずがないと思った。
("勝ち馬"だとかいって影山君に頼るのは終わりだ。)
ㅤだけど今なら、その意味も分かった気がする。人々の分まで宿命を背負い込んだ遊佐に、本当に必要だった存在は何だったのか――きっと、霊幻さんのような、逃げることを許してくれる人だったと思うんだ。
(僕がなるしかない、か。遊佐さんの、逃げ道にはさ。)
【D-3/草原/一日目 早朝】
【花沢輝気@モブサイコ100】
[状態]:念動力消費(大)
[装備]:金字塔のジャケット@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
一.遊佐が気持ちの整理を付けるのを待つ。
二.影山茂夫への尊敬と、無意識な恐怖。
三.影山茂夫には頼りきりにならないようにする。
※『爪』の第7支部壊滅後からの参戦です。桜威に刈られた後のカツラを装着してますが、支給品ではなく服装扱いです。
360
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◆2zEnKfaCDc
:2021/03/08(月) 18:00:01 ID:RLTQPusQ0
■
ㅤ大切な人を失う気持ちは、よく分かっている。その喪失は、遊佐が勇者として悪魔たちと戦う原動力。易々と割り切れるものではなく、亡霊のように、延々と纒わり付くものだと知っている。
ㅤ伊澄は生き返らない。だから、自分にできることは奪った分だけ誰かを救うことでしかない。有り体に言えば、仕事のミスは以降の働き方で補うしかないということ。
ㅤつまり、自分は誰かの大切な人を奪った上で、しかし姫神の打倒を目指す者としてその誰かを救わなくてはならない。"ヤツら"が私にやったことを、私も誰かに押し付けなくてはならないということだ。
ㅤ状況的に、姫神のせいにすることも明智吾郎のせいにすることも容易だ。しかしそれを認めてしまえば、"ヤツら"の罪も赦さなくてはいけなくなるかもしれない。
『――なんで私に……人に優しくするのよ!ㅤ優しくできるなら……なんで私のお父さんを殺したの!』
ㅤいつか、真奥に叩き付けた言葉。残虐なものと信じて止まなかった魔王が、悪逆非道の限りを尽くして然るべきだと思っていた存在に向けられた優しさ。乖離していく感情と現実の狭間に耐えられなかった。あんな想いを相手が抱くと知っていながら、素知らぬ顔で罪を償えというのか。
ㅤこれ以上、考えたくなかった。真奥貞夫という人間がどういう奴なのか――どういう状況でどう考え、どう動く奴なのかを、少なからず理解しているからこそ。彼らが自分を前に背負ってきた気持ちが、分かってしまう。
ㅤ理解し、共感してしまえば、許してしまう。そもそもアイツ自身がやったわけではない――それを言い訳に、自分の父が殺されたことすら、水に流してしまう。それが怖かった。自分がいま抱いている感情を認めたくなかった。
ㅤ結局、遊佐を真に許していないのは、遊佐自身でしかなかったのだ。犯した罪に対し、罰が与えられることもなく。贖罪とて、誰かを苦しめることを知っている。失ったものはどう足掻いても取り戻せず、今から掴めるのはもう代替の未来でしかない。佐々木千穂が欠けた日常と同様、鷺ノ宮伊澄がいない世界しか、取り戻せない。それを本当の意味で埋められるものなど、この世の何処にも在りはしないのだ。
ㅤ同じだ。魔王討伐を果たしても、実家の田畑が、そして父が戻ってこないのと、何も変わらない。妥協以外で、生まれてしまった空白を満たせるものは何も無い。誰かを守るための力で、誰かの理想を奪ってしまったのだから――
ㅤその時――背後から着地音のような何かが聴こえた。
ㅤ明智との戦いでの負傷。
ㅤ伊澄と漆原・花沢との連戦。
ㅤそして、木刀一本で立ち向かった伊澄の必殺技。
ㅤすでに、遊佐の肉体はボロボロ。精神面は、言わずもがな。
ㅤしたがって、すでにそれを防ぐ手段は無い。手持ちの戦力において、遊佐はもはやそれの格下でしかなかった。
(ああ、これが――)
ㅤ真っ直ぐに己に向かうそれを、認識した時にはもう手遅れ。通り過ぎる一陣の黒い風――すれ違いざまに、遊佐の首を砕く。眠りにつくように、消失していく意識。
(――私への、罰、なのかな。)
ㅤ消え行く命。絶える鼓動。目の前で終焉を迎えていく"それ"を眺めつつ、男――雨宮蓮は醜悪に笑う。
ㅤ"瞬殺"――それは本来、弱き者を守るために、竜司と特訓して身につけた技術であるはずだった。彼もまた、誰かを守るための力で誰かの理想を奪う者。
ㅤ誰かの理想が、ここにまたひとつ、潰えた。
【遊佐恵美@はたらく魔王さま!ㅤ死亡】
【残りㅤ39人】
【D-3/森/一日目 早朝】
【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーも、殺そう。
三.明智五郎は、この手で殺された借りを返す
※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にアルカナ属性が『正義』のペルソナが一体います。詳細は後続の書き手様にお任せします。
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