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バトル・ロワイアル 〜狭間〜

1 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:48:06 ID:EjSdNpAY0
【参加者一覧】

【ハヤテのごとく!】7/7
〇綾崎ハヤテ 〇三千院ナギ 〇マリア 〇鷺ノ宮伊澄 〇桂ヒナギク 〇西沢歩 〇初柴ヒスイ

【ペルソナ5】7/7
〇雨宮蓮 〇坂本竜司 〇高巻杏 〇モルガナ 〇新島真 〇明智吾郎 〇刈り取るもの

【はたらく魔王さま!】6/6
〇真奥貞夫 〇遊佐恵美 〇芦屋四郎 〇漆原半蔵 〇鎌月鈴乃 〇佐々木千穂

【小林さんちのメイドラゴン】6/6
〇小林さん 〇小林トール 〇小林カンナ 〇上井エルマ 〇滝谷真 〇大山猛(ファフニール)

【魔法少女まどか☆マギカ】5/5
〇鹿目まどか 〇美樹さやか 〇巴マミ 〇佐倉杏子 〇暁美ほむら

【暗殺教室】5/5
〇潮田渚 〇赤羽業 〇茅野カエデ 〇狭間綺羅々 〇烏間惟臣

【モブサイコ100】4/4
〇影山茂夫 〇影山律 〇霊幻新隆 〇花沢輝気

【虚構推理】4/4
〇岩永琴子 〇桜川九郎 〇弓原紗季 〇鋼人七瀬

合計 44/44

【まとめwiki】
ttps://w.atwiki.jp/hazamarowa/sp/

617Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:20:36 ID:JNq/2/aU0
「そもそも寝てるヒマなんかじゃないんですよ。現実では今、殺し合いの真っ只中なんですから。」

「殺し合い……。」

 その単語を聞くと、胸の奥がつんと冷たく感じた。それ以上、考えたくない。

「……や。」

 殺し合いなんて、やりたくない。

 トール様と草原でじゃれ合っていると、楽しい。コバヤシと家でゴロゴロしていると、楽しい。才川と通学路でお喋りしていると、楽しい。

 この世界には、誰かと傷つけ合わなくても、楽しいことなんてたくさんある。なのに、どうして殺し合わないといけないのか。

「……私、こっちにいたい。トール様……遊ぼう……。」

「……。」

 塞ぎ込んでしまった私を前に、トール様はじっと立っている。悪いことを言ってるわけではないはずなのに、つい身体が竦んでしまう。このままじゃいけないのだと、本能が疼いているかのような感覚。

「カンナ。私たちはドラゴンです。」

「……うん。」 

「終焉をもたらせるだけの力が、私たちにはあります。その全てを賭けて、己が強さを証明する。私たちはかつて、そんな場所に身を置いていましたね。」

 ――それは。

 言葉に詰まる。また、自分のかたちを無くしていって、世界が曖昧になっていくような、そんな感覚。まるで殺し合いという現状すら、ドラゴンの避けられない本能であると、そう言っているようで。

「トール様も……殺し合えって言う?」

 ドラゴンはみんな、みんな戦いのことばっかり。

 群れの長として君臨しているお父さんも、戦いに明け暮れるばかりで私のことをまったく見てくれない。

 そして――だったら今のトール様も、おんなじ。

 そう、思った。

 そう、思っていた。

618Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:21:25 ID:JNq/2/aU0
「少し、違いますよ。」

「……?」

「殺し合わなくてもいい。でも……戦わないといけないんです。」

「それ、どう違う?」

「さあ。どこが違うと思いますか?」

「……トール様、イジワル。」

 分からない。

 戦ったら殺し合いになる。

 殺し合うには戦わないといけない。

 一体、その差はなんだというのか。

「少し、ヒントをあげましょうか。」

 むむむ、と頭を抱え始めた私に、トール様は優しく言った。

「あなたは……自分の目で見て、自分の耳で聞いて、そして自分の頭で考えて……カンナだけの答えを見つけたはずです。」

「私だけの……答え?」

 おぼつかない思考を何とか捻り、そして思い出す。この殺し合いが始まって、間もなくして出した答えを。

「……カンナ勢。」

 混沌勢と調和勢、対立する二つの勢力があるから争いが生まれる。『楽しい』を追求することを、やめてしまう。

 そんなの、私がやりたいことじゃない。そう、思った。だから、そう在れる居場所を――かたちを、作れたらと、願った。

「あれはあの場限りの口から出まかせだったんですか?」

「……それは。」

 新勢力を作ることの難しさは、他ならぬトール様に教えてもらった。敵対勢力となり得る集団は、弱い内に叩かれる。

 それでもカンナ勢を樹立したいと願ったのは、何故だったか。

619Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:21:52 ID:JNq/2/aU0
 殺し合いが始まって間もない時、スズノは私を殺しに来たのだと、分かっていた。

 ドラゴンが人間に命を狙われることは珍しいことではない。力を持つ者は狙われる。それはある種の摂理だ。だから、それ自体を怖いとは感じなかった。

 だけど、それでも怖いと感じたのは――スズノがハンマーを振り上げた時に見た、あの表情。それは自分の心を押し殺して、何か大切なものを失いながらも戦いに向かおうとする、いつかのトール様と同じ表情だった。

 かつてその先に待っていたものは、トール様が死んだという報告。日本に向かい、偶然トール様の魔力を検知するまでにぽっかりと心に空いてしまった穴と、それに伴う心の寒さを、今もまだ覚えている。

 ああ、そうだ。

 またあの寒さを、味わいたくなかった。仲良くなれるかもしれない人たちと殺し合ったら、また独りになってしまう。それが、イヤだったのだ。

「ですが力無き絵空事に、他者はついてきません。だからこそ――戦わなくては掴めない。」

 ここには、それを邪魔する者たちがいる。

 殺し合いに乗ってしまった者もいるだろう。

 すでに死んだ者たちは、憎しみの種となり、かくして蒔かれた争いの火種は、放っておいても燃え上がる。

 さらには、姫神という戦いを煽る者もいる。

 その争いの連鎖を、止めたいと願うなら――相応の力を、覚悟を示さなくてはならない。

「っ……!ㅤでも……!」

 ああ、そうだ。

 夢の世界で現実逃避をしている場合ではないと、すでに理解は追い付いているのだ。

「でも……。」

 弱々しくなっていく声。

 それでも、認めたくないものがあるのだ。

「カンナ、あなた……」

 この胸にずんとのしかかる、冷たさが。

 まだ、この夢を出たくないと、叫んでいるのだ。

620Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:22:26 ID:JNq/2/aU0
「……放送を、聞いてたんですね。」

「っ……!」

 胸がきゅっと締まるような感覚が襲ってくる。トール様の死を伝えられたのは、これが二度目だった。

「……なんで。」

 ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が零れ落ちてくる。

「なんで死んじゃった……? もっと一緒にいたい……。トール様、いなくならないで……。」

 トール様は、噛み締めるように少し笑い、そして小さく、ため息を漏らす。

「……ありがとう、カンナ。」

 間もなく、私の肩に、ぽんと置かれた手。温度なんて無いはずなのに、何故なのだろう。すごく……あったかい。

「――でも、ダメです。」

 我が子を諭す母親のような、厳しくも温かい言葉だった。頬に伝う涙を拭いながら、そっと、ひと言。

「いつか別れの時が来ても、その時は笑顔で。そう、決めていましたから。」

 コバヤシは、たったの百年もしない内に死んでしまう。いずれ来るその終わりを、なるべく考えないようにしていた。ドラゴンのスパンで考えると、ほんの僅かの時しか一緒にいられないと、分かっていた。

 でも、僅かな時でしかないと、知っているから。その一瞬を、無駄にしないよう足掻いて、もがいて。そして、散りゆくその時まで、戦い抜く。それが、人間の強さだ。

 トール様は、その強さに倣おうとしていた。別れすらも儚き生の道すがらに組み込んでしまえる、人間の強さを身につけようとしていた。
 
「……だから、お別れです。」

 ああ、そっか。

 それが、殺し合うではなく戦うための強さなのだ。

 胸を刺す冷たさを知っているからこその、別れを受け入れる強さ。その上で、今ある居場所を失わないように、前を向いて戦える強さ。

621Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:22:58 ID:JNq/2/aU0
「トール様……私、甘かった。まだ、スズノもコバヤシも戦ってる……。なのに私、逃げようとした。」

 己が孤独を受け入れられないが故に、居場所を求めた。だけど、欲しいのはそれだけじゃない。

 スズノが、泣いていたから。

 スズノのことが大切な誰かにも、そんな空白を味わってほしくないと、思ったから。

「もう私、逃げない。あのあったかさを、誰かにあげられるようになる。」
 
 皆が仲良くなれる道が、スズノたちの居場所になれるのなら。そんな想いのままに宣言したのが、カンナ勢でもあったのだ。

「あなたには、願いがあります。それは決して、殺し合いによって叶えられる願いではありませんね。」

「……うん。」

「それはきっと、途方もない願いでしょう。誰かの居場所になるのは、何かを壊すことよりもずっと、難しい。」

 ドラゴンであれば、大概のものは壊すことができる。それは種族の誇りであり、価値であり、そして――孤独でもある。友達の垣根なんてなく、親も子も常に牽制し合う孤高の種族。

 その孤独が、さびしかった。誰かに見てほしくて、ずっとずっと、心の奥底が冷えきったように寒くって。

「……私はずっと応援していますよ、カンナ。」
 
 人間がくれた、終焉をもたらせるだけの炎よりもずっと身を包んでくれる温もり。それは、独りでいられるだけの強さではなく、むしろ"弱さ"と呼べるものなのだろう。ドラゴンにとって、忌避すべきもの。だけど、それを求めている者にとっては、居場所となれるものだ。

 コバヤシがくれた、そんなあったかさ。それを、私も誰かに与えたい。だから、戦うのだ。

「さよなら、トール様。」

 私は、走り出した。

 前の見えない、暗い道を。

 凍てつくような、冷たい道を。

 それがどこに続いているのかも分からないまま、ただ、ひたむきに走り続けた。

622Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:23:54 ID:JNq/2/aU0
 すると、暗闇のその先。

「……殿。」

 声が、きこえる。

「……ナ殿。」

 私の名前を呼ぶ、声が。

 その声の方向に、ただ一心に、走り始めた。

 その先に何が待っているか分からないけれど――感じたのだ。あの声はどことなく、あったかい、と。



「……カンナ殿!」

「……ん。」

 目を覚ましたカンナが目の前に見たのは、彼女を揺すり起こした鈴乃の姿だった。戦闘中で流し聞きだったとはいえ、放送の中にカンナの名前が無いことを確認し、急いで走ってきた鈴乃。カンナに残る弾痕を確認し、銃弾が角に命中していたことを見て、生存理由と大した怪我ではないことがハッキリと分かったところでほっと胸を撫で下ろす。

「よかった……ああ、無事……だったか……。」

「……スズノ、一体何があった!?」

 心配そうに語る鈴乃には、おびただしいほどの傷痕。自分が寝ている間に、一体何があったというのか。

「それは……話せば長くなるが……。」

 鈴乃は語る。

 襲撃者との戦いの決着が付かないままに、カンナの下に駆け付けたこと。

 襲撃者と関係があるかもしれない青髪の少年のこと。

 その際に助けてくれた、襲撃者の知り合いらしき少女に、襲撃者の相手を任せているということ。

「……行こ。」

 それらを受けて、カンナは答えを出す。

 鈴乃の話によると、元の世界からの知り合い同士が殺し合っているとのことだ。殺し合いなんて強制されなかったら、手を取り合えていたかもしれない二人。混沌勢と調和勢、対立する勢力であっても時に仲良くできるというのに、それでも戦う羽目になってしまった二人。

 そんな悲しい宿命に、差し伸べられる手があるのなら。

623Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:24:21 ID:JNq/2/aU0
「殺し合いは、止める。トール様が教えてくれた強さの形……無駄にしないために。」

「カンナ……殿……?」

 気絶する前とは、まるで別人のようなその決意。カンナの中で何かが変わったように見える。

「正直に言うと、私は反対だ。襲撃者の強さは身をもって体験したし、カンナ殿の安全も次こそ保証できないかもしれない。」

 それは、当然の発露だった。

 カンナの生存に、鈴乃がどれだけ安堵を得たのか、カンナは知らないのだろう。

 そこに、重ねてカンナに死のリスクを背負わせるのが、本意であるはずがない。

「……だが、他ならぬ私を救ってくれたカンナ殿の決意に、私は報いたい。」

 それでも。

 その覚悟は、本物だと身をもって知っているから。

 カンナ殿であれば、かの殺し合いの渦中にも、心を届けられるかもしれない。彼女の言葉には、力がある。まさしく、この殺し合いの参加者にすら至ることなくその命を散らした少女、佐々木千穂のように。

「こっちだ。共に行こう、カンナ殿。」

 初めにカンナ殿に抱いた印象も、同じものだった。だが、だからこそだろうか。ドラゴンであると分かっていたはずなのに、カンナ殿も彼女と同じ、護るべき対象として見ていたところは否めない。

 だが、今のカンナ殿からは、魔王や勇者と同じ、己が信念のために戦おうとする意志をひしひしと感じ取れる。

 なればこそ、伝えるべき言葉は『ついてきて』ではない。殺し合いに反逆する同士として、隣り立つことを要請する言葉であろう。

(そうだな。先ほどまで殺し合い、互いの命を奪いかけた相手……。上等じゃないか。)

 利害関係や運命的な特異点があれば、勇者と魔王ですらその手を取り合うことがある。分かり合うことを諦めるには、あまりにも早すぎる。

 ふと、零した笑み。カンナ殿の無事な姿を見れば、存外全てがうまくいくのではないか、と、そんな希望すら湧き上がってくる。

624Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:25:20 ID:JNq/2/aU0
 そんな考えを抱いていた、その時だった。

「今のは……!」
「悲鳴だった!」

 鈴乃とカンナが遠くに感知した、轟くばかりの悲鳴。マミと杏子が戦っていたはずの場所からは少し離れており、彼女らによってもたらされたものであるかは不明瞭だ。

 だが、そんなことは関係ない。あの絶叫を無視できる二人ではなかった。一瞬、互いに目を合わせ、頷き合う。



 それは、名状し難き悲惨な光景だった。

 少女は、首を切り裂かれて死んでいた。

 女性は、片目を潰され、心臓を一突きにされて死んでいた。
 
「遅かった、か……。」

 あまり動じないほどに死体を見慣れている自分に、どこかモヤモヤした気分を残しながらも、すぐさま死体に駆け寄る。

「どうやら営利な刃物で殺されているようだ。それにまだ温かい。時間はさほど経っていないようだな……。」

 つまり、何かが少しズレていれば助かっていたかもしれない命だ。その責任を抱え込んでしまうような性分ではないが、どうしても、救えたもしもがちらついてしまう。

「……支給品も奪われている、か。回収の手際も良いようだ。最初からそのつもりで殺したのだろうな。何より厄介なことに――魔力戦闘の痕跡が残っていない。」

 魔力の隠密に特化した暗殺者も、いるにはいる。だが、これほどまでにまったく魔力の痕跡を消せるとなると、相当な手練れだと見ざるを得ない。或いは、そもそも魔力を用いていない場合も考えられる。どちらにせよ、近くにいたとしても探知は困難だという結論を出さざるを得ない。

 そんな時、死体の傍で何やらじっとしているカンナに気づく。
 
「カンナ殿、無理に見る必要は無い。検死ならば私が……。」

 しかしカンナは俯いたまま、ある方角を指さした。
 
「……あっち。」

「む……?」

625Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:25:56 ID:JNq/2/aU0
 意図が即座に読めない鈴乃。

 カンナの指さした方向は、先ほどまでマミと戦っていた戦場に向いている。

「来て!」

 走り出したカンナを慌てて追いかける。彼女には何が見えているのか、まだ、分からない。マミと杏子の戦場は元々目指していた場所であるため、その方向に向かうことに不都合は無いのだが、それでもカンナには他の何かを感じ取っているように見えた。

 そして、走り出すこと僅か数十秒。

「あれは……!」

 聖法気で視力に補正をかけた鈴乃の目が、ある少年の姿を捉えた。

(もしやあの二人を殺したのは……!)
 
 その時、様々な物事に合点がいく。

 潮田渚――あの少年が、自分とマミの戦いに居合わせた無力な一般人などではなく、マミと組んで参加者を排除するために動いているのだとしたら。

 先ほど渚が明確にマミを庇うかのような行動を取ったにもかかわらずそれを疑うことができなかったのは、違和感があったからだ。たとえば、現に渚は一度、マミの攻撃の射線上に入っていた。あの戦いの中で明確にこちらに殺意を向けて来ることもなかった。

 どれも決定的な要因とは言えないが、それでも、マミと渚が手を組んでいると断じるには、矛盾する点が見られたのは確か。

 そしてそれは確かに、間違っている。あの戦い自体が勘違いから始まったことなど、今となってはもはや把握のしようがない。何故なら、その事実に唯一感づいた渚自身が、それを秘匿することを選んだのだから。

 だとしても、この状況下。渚が二人を殺害したことはもはや疑いの無い事実である。

 ”カンナ勢”が他人を殺した渚の処遇をどうするのかは、ただちに決められるものではない。だが、どういう処遇にせよそれは渚の拘束が先んじる必要がある。

(くそっ……何故私は、気づけなかったんだ……!)

 鈴乃は渚を追い始める。なるべく遮断していた気配であるが、間もなくして向こうもこちらに勘付いたようだ。殺害現場から速足で離れていたのが、全力疾走での逃げ足に変わる。向かう先は、マミと杏子が戦っている場所。そして――

626Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:27:00 ID:JNq/2/aU0
「スズノ……あのケータイ、何かがいる。気を付けて……。」

 先ほどカンナが行なったのは、魔力探知ではない。ただの人間に過ぎない渚に、その方法での追跡は通用しない。

 カンナが感知したのは、モバイル律から発せられる微弱な電波である。電気をエネルギー源として用いるカンナには、ドラゴンとしてのスペックも相まって、空気中の電波すらも感じ取ることが可能である。

「……思ったよりも早く気付かれたみたい。じゃあ、それでいいんだね、律。」

「はい。私の収集したデータによれば、その方法が最も効率的かと思われます。」

 この戦いに、殺し合いに乗っている者なんて一人もいないはずだった。

 だけど、運命の悪戯によって手のひらから零れ落ちた不安の種は、悪意という名の花となって開花した。
 
 枝分かれするように生まれた、魔法少女たちの戦場と、殺し屋と暗殺者の戦場。

 ――二つの戦いは、一つの戦場へと収束していく。

627Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:28:00 ID:JNq/2/aU0
連作の一部投下を終了します。
引き続き、同メンバーで予約します。

628 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/01(土) 01:27:43 ID:8dOUvn3I0
申し訳ありません、予約を延長します。

629 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/08(土) 02:10:24 ID:YdXq94EQ0
申し訳ありません。もう1日だけ延長させて下さい。

630 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:30:23 ID:/xQ2Ewqo0
重ねての延長失礼しました。
投下します。

631Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:31:18 ID:/xQ2Ewqo0
「――私は魔法少女を"救済"する。」

 救済――何ともまあ、前向きで希望に満ちた言葉だ。だが、その本質はねじ曲がっている。

「……本気で、言ってんのかよ。」
 
「私がこういう時に冗談を言ったこと、あったかしら?」

「はっ……冗談より100倍タチ悪いぜ。」

 その意味するところは、すなわち魔法少女の掃討。
 
「……でも、良かったとも思っているのよ。」

「はぁ……?」

 マミが、手を天に翳す。この座標は、先程まで長きに渡り鈴乃とマミの戦いが繰り広げられていた場所だ。すでに戦場全体に魔力で練られたリボンの糸が張り巡らされている。マミの手の動きに連動し、杏子の足に糸が絡み付く。

「っ……!?」

「最初に、あなたを終わらせることができたなら……」

 糸は足に巻き付いたまま、上昇。それに伴って持ち上がる杏子の身体。

「……もう昔のことで迷わなくて済むもの。」

 直後、銃声が鳴り響く。杏子の幻惑魔法を絡めた小細工の巧さはマミも知るところ。だったら――下手に行動を許す前に……不意の一撃で仕留める!

「……そうかよ。」

 次の瞬間、杏子にしっかりと狙いを定めたマミの眼前に展開されるは、咲き乱れるがごとき閃撃の嵐。

 拘束を成していた糸は即時引きちぎられ、自然落下と共に狙い済まされた銃撃は空を切った。

「まだアンタは……そこにいるんだな。」

『――また負けたー! マミさんのリボン卑怯だよ!』

 かつて、宙に吊るされながら発したひと言。マミと修行していた、あの時のあたしだったらきっと、この一撃で決まっていたのだろう。

 だが、そうはならなかった。

 着地と共に射程の差を埋めるため、前進。遠距離から放たれる砲撃の厄介さは分かっている。だが一発限りのマスケット銃を捨て、新たに生成するまでのリロードは必須。それなら、その合間を叩く!

632Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:32:01 ID:/xQ2Ewqo0
「――あなたこそ、また手加減してもらえる、なんて思っていないわよね?」

 その時、銃が動かされる金属音を感知した。音の方角に目をやることはできない。なぜなら、その方向は東であり、西であり、北でも南でもあった。気が付いた時には、足元の草木で覆い隠しながらリボンによって遠隔操作された幾つもの銃口が杏子を狙っていた。

「ぐっ……!」

 気付いた瞬間、足元の糸を切断し、背後の銃の操作を裁ち切る。処理しきれなかった分の銃弾は槍をぶん回して受けるも――受けきれなかった弾が胴を撃ち抜く。その痛みの一部を遮断、そして一部を甘受しながら突撃に割く魔力を温存し、殴り込む。

 その一撃を受けるは、すでに発砲済みのマスケット銃を横に構えての防御。先の銃撃の痛みで腕に力が入らず、そのような即席の防御であっても受け止められる。

(だが、この射程なら押し勝てる。このまま――)

 その時目に映ったのは、マミが背中のリボンを用いて引き金を引かんとしている一丁
 咄嗟に防御の構えに入る杏子。相対するは、ふっと口元に笑みを浮かべたマミの姿。直後に、下っ腹に衝撃が走る。

 防御を潜り、腹部に打ち付けられたのは魔法でも銃弾でもない、ただの蹴りであった。仄めかされたマスケット銃は使用済みで、弾が込められていないブラフ。それは、鈴乃に対しても一度用いた手だ。

 だが、魔法少女として増幅された筋力から放たれた蹴りは、偏食により一般的な少女の体重よりも軽い杏子の身体を吹き飛ばすには十分な威力を持つ。結果として生み出された距離は、新たなマスケット銃を生成するだけの時間稼ぎには十分だった。

「っ……このっ!」

「なっ……ぐうっ……!」

 だが、吹き飛ばされる寸前に、鎖鎌状の槍をマミの腕に巻き付け、引っ張り上げる。右肩が外れてもその拘束が緩むことはない。そのまま槍を振り下ろせば、土煙を巻き上げながら、マミの身体は大地に思い切り叩き付けられた。

「はぁ……ちったあ、目ぇ覚めたかよ?」

 確かな手応えと共に、土煙の先に向けて問い掛ける。次第に晴れゆく視界に映ったのは、負傷した右腕を庇いながら、のそのそと立ち上がるマミの姿。

「その腕じゃあもう撃てないだろ。この勝負、あたしの勝ちだ。」

「……。」

 元より、鎌月鈴乃と戦い続けていたマミに対し、杏子は戦いらしい戦いをしていない。消耗度合いから見ても、この勝負は杏子の側に傾いていた。殺すことなく無力化するという杏子の目的に沿った措置も、互いに全力を出している時には難しかっただろう。

 だが、もう利き腕を潰した。この状態では狙いを定めるのも困難だ。だが、その目に諦めの色は宿っていない。

「……あなたは、それでいいの?」

 静寂が訪れた戦場で、マミはゆっくりと口を開く。

「もう私たちは普通の人間には戻れない。もしかしたら、周りの人間を巻き込みながら、殺し合わされ続けるかもしれない。」

「……んなもん、元締めとの接触無しには分かんねぇだろ。」

「元締めとの接触って……姫神と世間話でもするつもり?」

 そもそも、これは殺し合いなのだ。最後の一人だけしか生き残れないという前提がある。

「それに……どちらにせよ、同じことなのよ。この疑念を抱いたまま、誰かと交流することなんてできない。だったら――」

633Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:32:30 ID:/xQ2Ewqo0
 その瞬間、マミの腕に絡み付いたリボンが、強引にマミの腕を動かした。外れた関節を無理やり動かす痛みに、マミの顔が大きく歪む。痛み自体は魔力で抑えることができるが、残り少ない魔力をそんな事に回す余裕はない。

「――ここでその連鎖の根本を絶つ方がみんなのためだって、そう思っちゃうじゃない?」

 杏子の心臓めがけ、引き金が引かれる。

 槍はマミの拘束に用いており、防御には使えない。

「……そう簡単に、この命くれてやるわけにはいかないさ。」

 しかし硝煙のその向こう、杏子は息絶え絶えながら立っていた。支給された小道具を前面に構え、銃弾を防御。それはただのマンホールであったが、槍で成すことができない、面の防御となる。

「救済とか何とか言ってさあ、結局それ、魔法少女みんな巻き込んでのただの心中じゃんか。」

 ――いつかの記憶が、頭をよぎる。

 あたしの願いが、バラバラに引き裂いてしまった家族の記憶。

 あたしのかたちがなくなっていくような、絶望。

 ――そして。

 そんなあたしにかたちを与えてくれた、たった一人の"家族"の記憶。

「そう、かもしれないわね。もちろん、最初からあなたに受け入れてもらえるなんて、思ってないわ。」

 マミが口を開く度、いつかのしあわせが段々と、色褪せていく。記憶が、塗り替えられてしまう。

「だから恨みつらみは……向こうで聞いてあげるわ。全部が終わった後に、ね。」

 ――かたちが、きえてしまう。

634Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:32:53 ID:/xQ2Ewqo0



「はっ……はっ……!」

 ――渚は、走っていた。

 走り込みの訓練を行なったことはある。

 だが、ターゲットが殺せんせーである以上、逃げるための訓練は全くしていないではないが、どうしても比重は小さい。元より、身体能力ではクラスでも底辺の渚だ。相手の視界に入ってしまった地点で、追跡者を撒くのは不可能に近い。

「このまま逃げても追い付かれる確率、99%。」

 戦況を俯瞰している律が、分析を述べた。だがそれは、このまま逃げた場合の確率。

「しかし私であれば足止めは可能です。一時しのぎにしかならないでしょうが。」

「……分かった。お願い。」

「承知しました。」

 その掛け声と共に、支給品を詰めたザックから飛び出た"それ"に、追跡者の二人はぎょっとした様相を見せた。

「何だ、これは?」

「らじこん……!」

 カンナの評した通り、それは数台の電動式ラジコン。

 しかし、その実は子供の玩具とは違う。超能力集団『爪』の幹部、羽鳥が戦闘用兵器として用いていたものである。

「――対象、参加者:鎌月鈴乃。射撃を開始します。」

 笑顔と共に発せられた電子音声に対応するかの如く、搭載された幾多の銃器を惜しみなく撒き散らす。

「なっ……ぐあっ……!」

 日本に来て日が浅い鈴乃に、電子機器の心得などない。仮にあったとて、ラジコンと銃器が結びつくはずもないだろう。不意に受けた一斉射撃に、全身を撃ち抜かれることとなった。魔力で生成されたものではないため、魔避けのロザリオの効力もはたらかない。

635Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:33:42 ID:/xQ2Ewqo0
「スズノ!」

 後ろを走っていたため、射撃のダメージ自体は浅かったカンナ。しかし、鈴乃の受けた傷を放置して追跡する選択肢は彼女にはなかった。鈴乃に駆け寄り、その前方に立ち塞がる。

「――続けて攻撃を開始。」

 律も渚も分かっている。この程度の射撃で迎撃できる相手ではない、と。それ以上に超次元の戦いを、特に渚は、マミの戦場で目に焼き付けている。しかし、不意を付くことができた今だからこそ、追撃のチャンスがある。

 そして再びの、一斉射撃。対象はカンナではなく、初撃で膝をついた鈴乃。仮に庇うのであれば、カンナに確定的に命中させることができる。

「……! あのケータイから操ってる!」

 ラジコンを操作しているのが渚ではなく、モバイル律から発せられる電波であるとその能力によって勘づいたカンナ。

「痛っ……!」

 だが、その理解においついたとて、射撃を封じるには至らない。避けられない鈴乃の代わりに弾丸を受け、その身におびただしいまでの弾痕を刻んでいく。

「カンナ殿!」

 患部を押さえつつ、何とか立ち上がる鈴乃。追撃に備えられた銃器へと改めて対峙する。

 そして、放たれた銃声と共に、ひと声。聖法気を、解き放つ。
 
「――武光烈波!」

 大槌より発された聖法気の嵐が、銃弾を纏めて吹き荒らした。

「――っ!」

 人工知能の知識と経験の外にあった、エンテ・イスラの魔術。物理法則の通用しないそれを前に、軌道の計算も安易には不可能だ。

「……次の射撃も防がれる確率、88%」

 律がはじき出した答えは、渚の心に焦燥を積もらせていく。敵へと続く道は、開け始めている。

 だが、律としては次の射撃を放つより他にない。しかしそれは、計算通りにすべて弾かれ――

「――武身鉄光っ!」

 ラジコンの中の一機に向けた一閃。破壊力に特化したそれは、元は玩具でしかない電子機器を即座に粉砕した。

636Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:34:07 ID:/xQ2Ewqo0
「あと二機だ! カンナ殿!」

 ロザリオを元に生成した大槌を手に、カンナに呼びかける。

「――攻撃を開始します。」

 律――そのフルネームは、自立思考固定砲台という。

 その名に集約されている通り自立思考を生業とし、生徒と共に成長していく人工知能である。その学習力たるや、殺せんせーの速度に対しても即座に適応するレベル。その演算力は、この戦場においても発揮される。詠唱から発現までの時間、その威力、狂わされる弾道。エンテ・イスラの魔術という科学にとって未知の領域に対しても、間もなくしてその計算に組み込んだ。

(っ……! 何という精密な操作か……!)

 攻撃の隙間を縫って、明確にこちらの弱みに対して密度の高い攻撃を仕掛けてきている。一機落としたからといって、決して弱体化はしていない。

「……電気には……電気!」

 直後、カンナの周りに強力な電磁波が発生する。

「む……制御ができません!」

「えっ!?」

 律のラジコンの遠隔操作にも干渉するだけの電磁波。それを体内で生成させるカンナの魔法も、やはり科学の想定し得ぬところ。

 ラジコンは地に落ち、鈴乃とカンナの行く手を遮ることはなくなった。

「制御を取り戻すまで30秒ほどかかります。そして、30秒後には、渚さんの逃げ道を確保しましょう。……それまで時間を稼げますか?」

「そうは言ったって……。」

 鈴乃の身のこなしは、マミとの戦いを観察していて織り込み済みだ。それに付いてきているカンナも、見た目年齢に適さない力を秘めている。

 一方の渚は、一般人上がりでしかない。魔力や聖法気といった人間の逸脱性もなく、ただ暗殺の訓練を受けているだけの中学生。そしてそれは、戦闘の訓練とは違う。警戒され、戦いを挑まんとされている今、その素養は大きなアドバンテージとなり得ない。

 ラジコンの制御を取り戻すまでの30秒は、この場で戦い続けなくてはならない。

637Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:34:29 ID:/xQ2Ewqo0
(……いや、やれるかどうかは関係ない。)

 律の妨害無しに逃げたところで、すぐに追い付かれるのは間違いないから。

 やる以外の選択肢は無い。だったら――殺す気で。

「……仕方ない、か。」

 観念したように立ち止まった渚に、一瞬、怯む二人。その眼には、裏の仕事を手に付けてきた鈴乃から見ても、はたまた闘争にすべてを賭けてきたドラゴンを多く見てきたカンナから見ても、底の見えない殺気が宿っていた。

「聖職者、クリスティア・ベルの名において、汝の罪を問う。」

 それでも怖気付くことなく、鈴乃は厳かに口を開く。

「何故殺したか……この世界においてそれは愚問だ。その一切を不問としよう。」

 力のある者に殺しを命じられた。

 殺しに走ってしまった子供に、それ以上の理由なんて必要無いだろう。

「私が問うは、ただひとつだ。……貴様はこれからどうする。」

 殺し合いを、促進する者がいる。その認識は、初めから持っていた。

 他ならぬ鈴乃自身が殺し合いに乗ろうとしていたことのみではない。この世界に蔓延する悪意のような醜悪な気配。人々を殺し合いに駆り立てている何かが、ここにはある。

 そんな悲しみに呑まれてしまった者たちに差し伸べる手が、カンナ勢だ。すでに死者は13人。中には罪を犯した者もいるだろう。カンナ殿の家族を殺した者も――遊佐を殺した者も。

 そう、これは――彼らを赦すための、戦いなのだ。

638Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:34:58 ID:/xQ2Ewqo0



 辺り一面に撒かれたリボンと糸の罠。それだけ見ても、相当な手数の魔法を用いている。さらにそれだけではなく、生成しては使い捨てられるマスケット銃のひとつひとつも、折れた腕を無理やりに動かす回復魔法自体も――マミを戦いから離脱させる限界というものを、魔力を浪費することで繋いでいるのが現状。

 片や鈴乃と戦っていた後であるにもかかわらず杏子とマミが互角に渡り合えている裏には、魔力量においての代償が伴っている。

「なあ、ソウルジェム、濁りが溜まってんじゃんか。もう、限界なんだろ。」

 その結果待っている結末を、杏子は言えない。

 誰かを守ることを戦う理由に据えているマミに、その根底を揺るがす、魔法少女の真実を伝えるわけにはいかない。それはまさに、願いが絶望へと反転する瞬間に他ならない。

「敵の心配なんて、随分と余裕ね?」

 マミには、止まれない理由がある。たとえそこに前提知識の欠落があったとしても、戦うに値するだけの願いを携え今この場に立っている。

「私は選んだの。この殺し合いに勝ち残るべきは、私やあなたじゃない。」

 世の中には、誰かを脅かす存在がある。だけど、誰かを守る存在があって、そんな存在に守られる側の人間もいる。

 魔法少女は、誰かを守る存在であると、ずっと思っていた。奇跡を信じてキュゥべえに縋ることしかできなかった自分のような、救いを求める誰かに、手を差し伸べられるのなら――あの夜に家族を見捨てて命を繋ぎ止めた意味も、きっとあるだろう、と。

 だが、他ならぬ選定者であるキュゥべえが、この力で他者を殺せと言っているのだ。魔法少女に誰かを守る生き方など認めないと、首輪と共にそう叩き付けられたのだ。

「だってそうでしょう? 生きているだけで他者を巻き込んで死なせてしまうなんて……そんなの魔女と同じじゃない。」

「……。」
 
 杏子には、何も言い返せなかった。魔法少女が魔女そのものであることを、すでに知っているから。
 
「私はそれでも――誰かを守りたいと思う。だったら滅ぼすべきは何かなんて、決まっているでしょ? それが私の選択。それが私の、最後の正義。」

 たとえ飛躍した論理であっても、マミの言い分に相応の理を認める真実がある。それは決して、マミには知られてはならないということもわかっている。

 真実に力はなく、虚構のみがマミを止める手立てとなる。紗季さんから鋼人七瀬の話を聞いた時、そんな器用な真似は自分にはできないと、そう思った。だが、それを諦めてしまえばマミは救えない。

639Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:35:23 ID:/xQ2Ewqo0
「納得なんてしなくていいわ。結局は私のエゴだもの。でも――」

 一方のマミ。納得も理解も、とうに諦めている。

 それを求める相手が仮にいたとして、それはグリーフシードを落とさない使い魔を倒すのをやめてしまった杏子ではない。

「――信念も無ければ、私を殺す覚悟も無い。そんなあなたに、私は負けない。」

 力は自分のために使うべきだと、かつてそう謳ったことがある。だが、その信念は現状、曲げられている。彼女自身を守るためのみに行動するのなら、魔法少女を殺そうとしている自分を殺せばいい。

 だが、現実はどうか。

 杏子の槍に宿るのは殺意ではない。信念を曲げながら、ただ私の前に立ち塞がっている。

 私とは違い、何も選んでいない者。選べないとも、言えるだろう。そんな甘さを見せた相手に、負けたくない。負けてなるものか。

 ――そんな奮起と共にかけた言葉だった。

「……そうかよ。」

 返ってきた言葉に纏った感情が何であるのか、マミには検討がつかなかった。

「そうかもしれねーな。アンタから見たあたしは、軸なんて何もなしに、ただ止めに来ただけの奴に見えるだろうよ。」

 銃撃を警戒してか、跳躍。木々を伝っての空襲を謀る杏子を前に、マミは魔力の糸を生成し、木々の合間に張り巡らせる。

 そのまま空中に留まれば、糸による拘束が。地上に降りれば、着地狩りとばかりの砲撃が、備えられている。

640Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:35:53 ID:/xQ2Ewqo0
「でも――浅いね。あたしの本質なんざ、ハナから何も変わっちゃいないさ。」

 対する杏子――そのどちらの手も、想定済み。第三の択として、足場であったが今や罠と化した木を、一閃にて斬り倒す。倒れた木は銃弾を受ける盾となる。魔力の糸は地に落ち、杏子の進路を阻むことはない。

(ああ、そうさ。あたしがどうしてここにいるか。そんなの、分かりきってんだ。)

 ――落ちていく。

 まるで足場が、最初からなかったかのようにどこまでも、落ちていく感覚。伴うは、喪失。

 ――ああ。

 何もかもが、うまくいかない人生だった。

 隣人のために身銭を切ることを厭わない、父さんみたいな。そんな正義のヒーローに、憧れていた。だから、そんな父さんが、少しでも報われてほしくて――手を伸ばした奇跡は、絶望の入口だった。

 願った奇跡の分、それが絶望として返ってくる。それが魔法少女のさだめだと謳われるくらいに、必然的な結末だったのかもしれない。

 ――だけど、それでも。

 もしもやり直せるのなら――今度こそはハッピーエンドってやつを目指してもいいだろ?

 神様ってやつは皮肉なもんだ。全て投げ打って、その先に与えられた、【やり直し】の機会がそこにあった。

 あたしと同じ誤ちを犯そうとしていた魔法少女、美樹さやか。彼女は結局、分かり合うことのないまま魔女になった。救う方法を模索して、だけどそれの叶わないまま、あたしの人生は幕を閉じる。

 報われず、奈落へと落ちたままに、かくして終わりを迎えるはずであった。

 ――しかし、神の祝福は与えられた。

 突如として開かれた殺し合い、それには魔女になったはずのさやかも、おそらくは人間として、参加させられていた。これは二度目の挑戦だ。今度こそ、彼女を救えるかもしれない。まだ、あたしの目指すべき道は途絶えていない。

 そう、思っていた。なればこその、痛みだった。

 期待をすればするほど。登れば、登るほど。

 裏切られ、落ちた時の痛みはよりいっそう、大きくて。

 定時放送で呼ばれた、さやかの名前。崩れゆく願い。

 ――ああ、まただ。

 かたちを失っていくかのごとき、この感覚。

 あたしが、きえてしまいそうなこの剥離に身を委ねてしまえれば、どれだけ心地よいだろうか。

641Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:37:00 ID:/xQ2Ewqo0
『……ねぇ、マミさん。』

 ――いや。

『マミさんは、あたしのこといつも友達って言ってくれるけどさ……』

 まだだ。まだ、あたしに与えられた神の祝福は、残っている。

『あたしにとってのマミさんは、友達っていうのとは……ちょっと違うっていうか』

 かつて失ってしまった"家族"が、目の前でまた、皆を巻き添えに死のうとしているんだ。

 贅沢な大円団なんざ、とっくに終わってるかもしれない。これをハッピーエンド、なんて言っちまったら、零しちまったさやかに失礼かもしれない。でも、零したもんばかりに執着して、手の届く範囲にある守れる大切なものをまた零しちまうのは御免だ。

 盾代わりの大木の、その向こう。露わになったマミの姿が、視界に映る。

「ティロ――」

「――なっ……!」
 
 自身よりも大きな大砲を前方に構え、こちらへ突き付けていて。

「――フィナーレ!」

 いつ、道を間違えたのか。

 決別したはずのマミの死を聞いて、その後釜の魔法少女の様子を見に、見滝原に戻った時か。

 ――或いは。

 そもそもマミと決別を選んだ時か。

 ――或いは。

 ハッピーエンドなんて、父さんの夢に縋り始めてしまった時か。



 ――ああ、落ちていく。

 まるでかたちを、失ったかのように。

 想い出が、セピア色の中に沈んでいく。

 鳴り響くは、割り砕くが如き砲撃音。

 
 
 

『――お願いっていうか……図々しいついでっていうのもなんだけど……。あたしを、マミさんの弟子にしてもらえないかな?』

642Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:37:40 ID:/xQ2Ewqo0
 ――罪を犯した者が報いを受けるとするならば、それはいつのことだろう。

 かつて、ある執事は、虚空に向けてそう問い掛けた。

 王として進むべき道を誤った罪を背負った真奥貞夫は、その報いとして今がある。最後まで、王であり続けること。それを責務として、己に課している。

 いつ、報いを受けるのか――その答えを鈴乃が答えるとするならば、『常に』である。

 赦すと、宣言することは簡単だ。だが、それだけでは禊となり得ない。遊佐が、親の仇である真奥に対し、一時的とはいえ刃を納めている現状。それは、真奥の背負った報いによるものだ。

 平常、己の罪と向き合う覚悟を以て、報いと成せ。これは、『カンナ勢』を口先だけの夢物語にしないため、その覚悟を問う審判である。

 その言葉の裏に垣間見える鈴乃の境遇など、渚に伝わることはないのだろう。だが、試すが如き鈴乃の瞳。適当にはぐらかせる類のものでないことは、十二分に伝わった。

「……僕、は。」

 ――罪、か。

 誰かを殺すことが罪なのだとしたら、僕たちは、罪のために進んでいる。

 恩師に、この刃を突き付けるため。

 恩師に、銃弾を叩き込むため。

 恩師を――殺すため。

「――選んだこの道を、間違いだなんて思わないし、言わせない。」

 もしも、殺せなかったら。

 烏間先生が導いてくれた道も、茅野が隣で歩いてくれていた道も、その全てが――欠けた思い出になってしまう。

 先生を、殺す。その目的を、果たすため。

「だから、その選択に伴うものは全部、背負っていく。」

 たった、40人程度。

 この殺し合いにも勝ち抜けない僕が、果たして、殺せんせーを殺せるか?

 証明するんだ。僕の力を、他ならぬ僕自身に。

「そうか……。ならば多少、手荒な方法を取らざるを得ない。」

 直感めいた確信が渚の中にある。

 この人は、僕よりもずっと優れた――暗殺者だ。

 伝説の殺し屋"死神"のような、乗り越えられない高い壁。

(でも、今回は殺せば勝ちというわけじゃない。)

 カンナは電磁波の維持に精一杯で即座に動けそうにない。普段の、ドラゴンの力をもってすれば電磁波を撒き散らしながら身体能力で敵を圧倒することもできたかもしれないが、パレスに課せられたドラゴンの力の部分的な制限により、精密な力の操作を不可能にしている。

(30秒。ただ、それだけ凌げば、こっちの勝ちだ。)

 それは偏に、律への信頼である。

 30秒稼げば、カンナの電磁波による電子干渉を突破できると彼女は言った。だったら、信じるのみだ。

643Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:38:13 ID:/xQ2Ewqo0
「――武身鉄光っ!」

 ロザリオを大槌へと変質させる鈴乃の奥義。先ほどまでマミに向けられていたそれが、今度は渚に牙を剥く。

 質量という殺傷力の塊を前にして、怖くないはずがない。己が死を忌避するは、避けられない本能。

(集中力を、研ぎ澄ませ!)

 だが――見える。

 対殺せんせーを想定した訓練、そして実践の賜物か。人間離れした脚力と腕力から繰り広げられるその軌道は決して、見切れないものではない。

「うぐっ……!」

 両腕を前面に出し、かつバックステップを挟んで防御。途方もない痛みが腕越しに伝わってくるが、その大部分を軽減する。

 腰には、ナイフが備えられている。先ほど二人を殺害した凶器であり、返り血で赤く染まっていることだろう。そして弓原紗季の支給品にも、一本のナイフが入っていた。すなわち武器は二本。クラップスタナーの準備も整っている。

(……反撃、して来ない?)

 鈴乃が感じた違和感。

 二度、三度、攻防を交わすにあたって、その疑念は確信へと変わる。

(――殺気が、感じられないだと?)

 鈴乃もまた、殺さない程度に無力化することを意図し、渚を追い詰め続けた。だが、決定打が入らない。

 こちらの攻撃の芯が見切られているかのごとく、一撃の重みを完全に"殺され"ている。

「――お待たせしました、渚さん。」

 そしてカンナの電磁波の干渉を無力化する電波を編み出した律が、戦いの終了の合図を唱える。同時に動き出すは、地に落ちていた二台のラジコン。

「ゴメン、スズノ。これムリ……!」

 電波を放出し続けて疲れきったカンナが、それでもなおラジコンの制御を奪われた上で膝をつく。

 ラジコンの照準が向かうは、明確に隙を見せたカンナ。

「カンナ殿っ!」

 即座に聖法気で編み出した嵐がその弾丸を逸らすが、その反動で次の一手は遅れてしまう。

 その間に、渚は180度向きを変え、再び走り出した。

「しまっ……」

 カンナ殿の無事が最優先であり、この場における最善を打っているのは間違いない。だがその上で、渚の逃走を許してしまう結果となった。

(くそっ……完全に調子を狂わされた……!)

 30秒の間、渚はナイフを用いなかった。

 仮にナイフを取り出していたならば、それは"殺し合い"となり鈴乃の対応もまた変わっていただろう。

 30秒を稼ぐのに、これが鈴乃による"詰問"の体のままでいたこと――たった今、渚が地に両足をつけて立っている要因はただそれだけである。

644Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:38:43 ID:/xQ2Ewqo0


 
 ――硝煙のその向こう。

 まだ、杏子の命は絶えることなくそこに存在していた。

 防いだわけではない。大木に隠し、杏子の隙を突いた一撃だった。

 マミが手心を加えたわけでもない。命を奪う覚悟は、決まっていた。

 その上で、杏子が今、地に両足を付けて立てているその理由――

「――これは、幻……!?」

 魔法少女の魔法の力は、叶えた願いに由来する。

 親友との出会いをやり直した暁美ほむらの魔法が、時間操作であるように。

 想い人の腕を治した美樹さやかの魔法が、再生の力であるように。

 自身の命を繋ぎ止めた巴マミの魔法が、対象の拘束であるように。

 杏子の扱う魔法は、幻惑。人を惑わせ、誑かす魔法。その願いの根底がくじかれ、一時期は扱うことのできなくなっていた魔法であったが――今、再び発現した。

 ティロ・フィナーレによって撃ち抜かれた杏子は、魔法によって生成された虚像。蜃気楼の奥から現れた、本物の杏子が今、マミへと飛びかかる。

「いい加減――観念しやがれっ!」

 槍に紐付られたチェーンは、ティロ・フィナーレの反動で一時的に動きが鈍くなったマミを、即座に捕縛した。

 マミは木々に縛り付けられ、最初こそもがく様子を見せるが、間もなくして無駄だと悟ったようで、次第に大人しくなっていった。

645Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:42:11 ID:/xQ2Ewqo0
「……これで、落ち着いて話ができるな。」

「……。」

「よくわかんねーけど、先走っちゃってさ、アンタらしくないよ。」

「……この殺し合いの裏にキュゥべえがいるってわかった時。確かに驚いたわ。そんなことないって、思いたかった。」

 観念したのか、その言葉には先ほどまでとのトゲとは違い、どことなく柔らかさがあった。

「でも、同時に……すごく、しっくりきたの。キュゥべえは……なんというか、根本的に価値観が違うって思ったこと、これまでにもたくさんあったから。」

 基本的に魔法少女は、損得勘定で動いていた。

 成長したら人々を襲うと分かっていながらも、グリーフシードを落とさないからと魔女の使い魔を放置することなんて、当たり前であるかのような。

 キュゥべえにも、それを勧められたことは数え切れない。今にして思えば、他の魔法少女たちにも、キュゥべえはそうやって接していたのだろう。

「だから私は、最初から間違えていたの。あんな悪魔の囁きに乗って……ずっと魔法少女として誰かを守っているつもりだったのに……そしてきっと、これからも、間違え続けるんでしょうね。」

「――違う!」

 その気迫に、マミは気圧されてしまう。

「魔法少女のシステムにどんなに醜い裏があったとしてもさ……マミが助けた人たちは、マミが居ないと死んじまってた。そこは曲がらねえんだ。そして――」

 それは、かつてのすれ違い。

 かつて、己が願いで家族を失って、絶望の淵に立たされた杏子が、それでも魔女になることなくいられたのは。

 そんな杏子を気遣い、見守ってくれる存在がいたから。魔法少女だとか関係なく、誰かを救おうと頑張る人間が、周りにいたから。

 たった、それだけ。

 マミを魔法少女の呪いから解き放ち得るひと言が、交わされていなかったから、二人はここまで、すれ違ってしまったのだ。

 ――そして、それは。

 この場にいる誰もが、予期し得ぬ出来事であった。

646Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:43:48 ID:/xQ2Ewqo0
「――巴さん!」

 ボロボロになりながら駆け付けてきた少年の姿。

 拘束されたままのマミは、その姿を見て名前を呼ぶ。その声に現れているのは、若干の焦燥と、また生きてここに現れたことへの安堵。

 マミの知り合いであると察しをつけ、拘束を受けたマミに駆け寄ってくる少年に、マミの敵ではないと釈明を始める杏子。

 それを受け、少年は落ち着いた表情で立ち止まって小さく笑みを零した。改めて、杏子がマミの方へと向き直り――

「……っ!?」

 ――次の瞬間、杏子の首筋に一筋の閃光が走った。

 首から生えた、一本のナイフ。

「……お……前……まさ、か……!」

 潰れた喉で、懸命に言葉を紡ぐ杏子。何とか振り返った彼女が、その眼に映したのは――

「……っ!」

 ――杏子が置いてきた二人、まどかと紗季さんが持っていたはずの、端末。

 あの二人がどうなったのか、想像には難くない。現にこうして――自分は虚をつかれ、首を切り裂かれているのだから。

 そして杏子の視界は、黒く、黒く塗りつぶされていった。

 その執行者は、たった今、警戒すらされずに二人の前に現れた少年――潮田渚であることは、それを目前にしたマミには分かった。

「なぎ、さ……君?」

 だが、その行動が彼と結び付かない。

 だって、渚くんは。

 魔女のような、誰かを傷付ける存在じゃなくて。

 ――この殺し合いで生き残ってほしいと願った、守られる側の人で、あるはずで。

「……嘘。」

「ごめんなさい、巴さん。」

 渚の手には、もう一本のナイフ。

 目の前には、拘束されたままのマミの姿。

 首筋に、さらに一閃。

 頸動脈を切り裂かれた少女が二人、その現場に出来上がった。

「――渚さん。急いで、この場を離れてください。」

 電子音声に導かれるまま、渚は走り去っていく。

647Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:44:11 ID:/xQ2Ewqo0



「――スズノ、まだ息ある!」

「――頸動脈をこれほど深く損傷しているのに信じられないが……」

 閉ざされた意識の中に、声が聞こえてきた。

 杏子とマミの"死体"を見つけた鈴乃とカンナ。その身体に残された傷跡は、まどかと紗季のやり口と酷似している。そもそも、取り逃した相手が逃げた先。犯人は、考えるまでもなく分かっている。

「……あたし、は。」

 死体が起き上がるような光景だった。

 まどかと同じ程度に、首をぱっくりと斬られていた赤髪の少女が、何事も無かったかのように――とは言えないが、それでも傷口に対してあまりにも軽傷のように立ち上がった。

「っ……! おい、マミっ!」

 弾かれたように、杏子は動き出した。連戦の疲れも、あるのだろう。自分より目覚めるのが遅く、横たわったマミに、手を伸ばす。

 死んでいないのは、分かっている。魔法少女の生命を繋ぐコアはソウルジェムだ。首を切られたところで、それが原因で即座に死に繋がることはない。

 だが、肉体の再生にも魔力を消耗する。いや、それ以前に、あれが少なからず信頼関係を築いていたように見えた相手からの、裏切りだったのはあたしにも分かる。

 だってあの時、消えゆく視界の淵に映った、少年を見るマミの眼は――あの時と同じだったのだから。

 嫌な予感がする。一度、掴めなかった経験に裏打ちされた、確かな予感。そして、その予感は――的中する。

「待ってくれ、マミ――」
 
 伸ばした手の先、巴マミの髪飾りに装飾されたソウルジェムが、ドロドロとその色を濁らせていき――そして、砕けた。

「――っ!!」

 直後、世界がぐにゃりと大きく歪んだ。

 緑が広がる森は、クレヨンでされた子供の落書きのように、不気味に混ざった色に染まっていく。

「何だ……これは……!」

「何が起こってる!?」

「――くそっ……あたしは、また……!」

648Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:44:49 ID:/xQ2Ewqo0

 
 かたちあるものは。

ㅤいつかはこわれて、きえてしまう。

ㅤぴしりと、おとをたてながら。

ㅤぽろぽろと、あふれるままに。

ㅤひびわれて、こぼれて。

ㅤそして、かたちをなくしていく。

ㅤ――ああ、まただ。

ㅤわたしのかたちが、とけだしてゆく。

ㅤこわい、こわいよ。

ㅤだけど。

ㅤわたしがいつか、かたちをなくしたそのあとは。





ㅤ――かたちなきしあわせを、つかめますように。

649Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:45:08 ID:/xQ2Ewqo0
【C-4/D-4境界付近/おめかしの魔女の魔女結界/一日目 午前】

※D-4境界付近に、『おめかしの魔女の魔女結界』が生成されました。おめかしの魔女(巴マミ)が死亡するまで残り続けます。また、近付いた人物が結界に取り込まれることも起こり得ます。

【おめかしの魔女(巴マミ)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:魔女化
[思考・状況]
基本行動方針:無差別
[備考]:魔女化に至るまでの状況が原作スピンオフとは異なるため、本ロワオリジナル要素が付与されている可能性があります。
 
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品0〜2 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)ㅤマンホール@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:現状を何とかする
2:鋼人七瀬に要警戒

※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.目の前の存在と戦う
二.千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.スズノをまもる!

※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。

650Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:47:19 ID:/xQ2Ewqo0




「……何、これ。」

 渚は自分の行動の結果起こった出来事について、詳細を把握していない。鈴乃とカンナに気づかれ、それだけの時間は与えられなかった。律の言う通りの攻撃を行い、言われるままに立ち去った結果、背後の景色が消失したという現状。それは、殺せんせーという常識を逸脱した超生物と関わってきた渚から見ても異常な出来事だった。

『――なるほど。現状は把握しました。向こうで参加者巴マミと佐倉杏子が交戦中なのですね。』

 律と手を組み、殺し合いに乗ることを決めて間もなく。二人の殺し屋は大まかな状況を共有し合っていた。
 
『――でしたら、作戦があります。』

 律の提唱した作戦は、以下の通り。

『――作戦その1。二人の戦闘に割り込んで、佐倉杏子と巴マミの両名を殺害してください。おそらくは死にませんが、殺す気で構いません。』

 律は、紗季に支給されていた頃、杏子と紗季の情報共有のすべてを聞いていた。その際に、彼女たちの交友関係と、魔法少女とは何であるのかを含め、情報を"学習"していった。

『――作戦その2。その際に可能であれば、佐倉杏子に私のいる端末を見せてください。彼女に鹿目まどか、弓原紗季の死を伝達するにはそれで充分でしょう。』

 魔法少女が魔女と化す条件――絶望。

 杏子とマミの関係性や、彼女たちの人格を統合して計算した結果、最も最悪の形で彼女たちの絶望を引き起こす計画を、律は導き出したのである。 

『――作戦その3。その後、可能な限り素早くその場を撤退してください。それに失敗したら、その時は……死を覚悟した方がいいかもしれません。』

 そして渚は、鈴乃とカンナの介入という想定していない自体に遭いながらも、それを実行し、そして成功させた。

 それは偏に、渚の才能の結果である。

 暗殺の才能のみならず、死をも恐れずに窮地に飛び込んでいけるその胆力。

「上手くいけば二人の魔女が生まれているはずですが……少なくとも一人は成功したようですね。」

「えっと、ひとまず……何が起こっているのか説明してもらってもいい?」

「はい、もちろんです!ㅤでは……どちらに参りましょうか?」

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカㅤ死亡確認】
【弓原紗季@虚構推理ㅤ死亡確認】
【残りㅤ34人】

651Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:47:37 ID:/xQ2Ewqo0
【D-4/教会付近/一日目 午前】
 
【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 モバイル律 不明支給品(0〜2) 、鹿目まどかの不明支給品(1〜2)、弓原紗季の不明支給品(0〜1)、ジュース@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む
一:どこかで腰を据えて律と詳しい情報共有をする。
二:何ができるか、何をすべきか、考える。

※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【支給品紹介】
【マンホール@モブサイコ100】
佐倉杏子に支給。何の変哲もないただのマンホール。

【羽鳥のラジコン@モブサイコ100】
弓原紗季に3個セットで支給され、渚に渡ったのちに鈴乃たちによって破壊。
原作では詳細が判明する前に破壊されたが、何らかの武器が搭載されていたものとしている。

652 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:47:52 ID:/xQ2Ewqo0
投下完了しました。

653 ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:01:07 ID:nYiRLucc0
ゲリラ投下します。

654眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:01:43 ID:nYiRLucc0
 C-2にある森の中の木かげで、僕――桜川九郎は思索していた。

 岩永を巻き込まないよう単独で初柴ヒスイを追うという行動方針を決めたのはいい。岩永が僕との合流を考えているのであれば向かう先はおそらくB-2、真倉坂市工事現場だろう。それ以外に僕らの知る固有名詞の地名は地図上に存在せず、暗黙の了解的に集まろうと企てられる場所が存在していない。

 また、同様の理由で紗季さんもB-2での集合を目指し得る。元より地図の端にあるB-2に、積極的に他害を試みる者が向かうとも思い難い。僕がいなくても、B-2を目指す岩永の安全は比較的確保されているのだ。安心、と呼んでしまえる状況ではないけれど、少なくとも危険は未来決定能力のない僕がいたところで大きく改善されるものでもない。

 それよりも、気にすべきはヒスイの側だ。彼女は六花さんのことを語っていたし、僕の不死の力と未来決定能力についても知っているようだった。未来を掴めなくなった僕が唯一、この両手で掴めるもの。絶対に、逃がしてなるものか。
 
 それに、殺し合いに乗っている彼女を止めることは岩永や紗季さんの安全にも直結する。個人的な事情を抜きにしても、彼女を追わない理由はなかった。

 だが、一度不覚を許し、海に落ちたところからスタートしているのだ。岸に上がった時にはすでにヒスイの姿は見えなくなっていたし、石製の港であったために足跡を辿るようなこともできそうになかった。つまり今は、海に落とされる前にヒスイが向いた先に向かって何となく進んでいるに過ぎない。彼女が進路を僅かばかり逸らしてしまえば見失ってしまう。

 もしもくだんの力がパレスの制約を受けていなければ、死んでは未来を掴み取って、正しい方角へ向かうことができただろうが、この世界でそれは叶わない。
 
 さらに、くだんの力に制約があるのならば、殺し合いを茶番と化してしまうだけの人魚の力すら、どうなっているのかは分からない。怪我を避けるよう行動するのは、一般的な人間が当たり前のように行なっているものでありながら、それが習慣から抜けてしまった僕にとっては簡単なものでも無い。高低差があろうものなら安易に飛び降りてショートカットしそうになる。入り組んだ地形では足場の悪さに足を取られれば、立ち止まらなければ足を欠損し得る。

 ……何とも、不都合だ。

 一応、伊澄さんに爆殺された時に人魚の力で蘇ってはいる。これからも復活できるのか、どこまで機能するのかなどは分からないが、それでも普通の人間とは異なる身体ではあるらしい。だというのに、命を惜しまないといけない限り、この身体はただの人間よりも動きが鈍くなってしまう。

655眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:02:07 ID:nYiRLucc0
(伊澄さんといえば……どうやら亡くなってしまったみたいだ……。)

 今しがた思い起こした名前を、放送から聞こえた声と重ね合わせた。ゲームが始まって間もなく出会った少女。自分を殺した相手であるとはいえ、それでも和解に至り、情報交換のためにひと時を共にした彼女の死に、思うところがないはずもない。

 鷺ノ宮伊澄は、口を閉ざした岩永と同じようなお嬢さまらしさを備えながら、岩永と違う意味で心配になる少女だった。まるで彼女の周りだけ違う時間が流れていると錯覚させてしまうような。他者を惹き付け、釘付けにしてしまうような。高嶺の花、と言うとうまく言い表せているだろうか。この催しは、そんな花を無理やりに摘み取ってしまった。

 何故、殺されなくてはならなかったのか。そんな哲学的な疑問よりも先に、浮かぶ疑問がある。

 何故、彼女が殺されたのか。

 何せ、僕はそんな彼女に一度殺されている。

 仕組みなんて分からない、遠距離からの有無を言わさぬ爆殺。たとえ殺意をもって襲ったとしても、普通の人間であれば彼女に近付くことすらできないだろう。

 不意打ちで殺したか、伊澄さんの射程外から銃殺でもしたのか、それともその相手が伊澄さんを超える超常的な力を持っていたのか。だとして、一般人だったはずの小林さんが同行しながらも生きているのはどういう状況なのか。

(……なんて考えても、仮説を出すことくらいしかできないな。深入りはやめておこう。)

 結局、伊澄さんの力をこの目にした以上、心に留めておくしかないのだ。この世界ではどんな不思議な事が起こってもおかしくないのだ、と。

656眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:02:32 ID:nYiRLucc0
 ――そして僕は、その心持ちを改めて実感することになる。

 考え事に耽っている間に、木々の合間から陽の光が差し込んだ。そろそろ放送から一時間が経過し、時刻にして七時頃。本来だったらベッドから目を覚ます時間か、と、恨めしげに眠い目を擦る。

「……ん?」

 そんな時、ふと、背中に違和感を覚えた。
 
 いつの間にかザックの重量が変わっているような気がする。

 いや、そればかりか――確認しようとザックを降ろしてみれば、明らかにザックの中で何かが暴れている。幼い頃に受けた実験の代償に、全身の痛覚が機能していない僕は衝撃を信号として受け取ることはなかったが、一体何時から暴れていたのだろうか。

「いや、でも最初に支給品を確認した時は生き物の類は入っていなかったはず……。」

 それに最初から暴れていたとしたら、一時的に同行していた小林さんか伊澄さんが気付くだろう。
 
 と、これまでのゲームの流れに思考を回したところで――気付く。そもそも、何故このザックは、伊澄さんに殺された時、身体が爆散するほどの衝撃に見舞われながらも、無事でいるのか?

「……見てみるとするか。」

 不死身の癖はなかなか抜けない。危険物かもしれないというのに、気付けば躊躇無くザックを開け放っていた。

657眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:03:03 ID:nYiRLucc0
「……う?」

 中から出てきたのは――幼子であった。

「子供……?」

 見るに、3歳かそこらといったところだろうか。背丈ほどある銀髪の中に混ざるメッシュの、瞳と同じ紫色の髪が文字通り異彩を放っている。

「……君は、一体……。」
「なまえ?」

 見てくれは外国人のそれをしている幼子は、感嘆交じりに漏らした言葉に、同じ日本語で返してきた。

「――アラス・ラムス。」
「アラス・ラムス……?」
「う。なまえ。」

 教養レベルの外国語知識の辞書の中にないその名前が、どの国の言語体系に沿うものなのか分からない。だが、それを差し置いても疑問は山ほどある。

 アラス・ラムスはいつからザックの中に入っていたのか。
 アラス・ラムスはこれまで何をしていたのか。
 アラス・ラムスは何者なのか。

 だが、それらの疑問を差し置いて、真っ先に込み上げてきたものがあった。

 自立歩行が自在にできる年齢ではないアラス・ラムスは、やむを得ず僕の腕の中に収まっている。得体の知れない存在であるとはいえ、この殺し合いの環境の中で放置するほどの薄情さはさすがに備わっていない。

 そう、僕は今――まるでこの子の父親のように赤子を抱き抱えている。平凡な顔つきだという自覚はあるが、それ故に、20代前半の父親というパブリックイメージにも相応に沿っている光景なのだろう。

(なんていうか、岩永には見せられないな……。)

 ショウジョウバエの如く喚く自称恋人の面持ちを脳裏に浮かべては、小さくため息。

 ああ――どうやら今日は、厄日の予感だ。

658眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:03:18 ID:nYiRLucc0
【C-2/草原/一日目ㅤ朝】

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 全身が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)、進化聖剣・片翼(アラス・ラムス)
[思考・状況]
基本行動方針:初柴ヒスイを追う。
1.桜川六花の企みを阻止する。
2.もしかして不老不死にも何か制限がかけられているのか?
3.アラス・ラムスについて知る。
※件の能力が封じ込められていることを自覚しました。
※不老不死にも何か制限がかけられているのではないかと考えています。

【支給品紹介】
【進化聖剣・片翼(アラス・ラムス)】
桜川九郎に支給された意思持ち支給品。
「イェソド」の欠片の一つである宝珠のアラス・ラムスが、遊佐恵美の持つ進化聖剣・片翼と融合し、意思を持った聖剣となった。
殺し合い開始時は0時であり、九郎の支給品袋の中で聖剣のフォルムで眠っていた。005話では、聖剣の力で鷺ノ宮伊澄の「八葉六式『撃破滅却』」を防いでいる。
7:00に起床。幼子のフォルムへと変化した。

659眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:03:53 ID:nYiRLucc0
以上で投下を終了します。

660ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:21:09 ID:qA5aa4tg0
投下します

661ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:22:54 ID:qA5aa4tg0
 滝谷は静かに昇りきった朝陽を眺める。
 夜通しのネトゲや、デスマーチを終えた朝とかの気分以上に重いものだ。
 こうも簡単に人が死んでいくのは分かるが、それにしてもあっさり過ぎる。
 世間的には自殺、事故、他殺問わず日々多くの人が死んでいくが、基本それは縁遠いものだ。
 一日中ずっと歩いていればの話だが、壱日もあれば外のエリアぐらいは一周できるはず。
 その範囲内で死ぬのは別だ。海の向こうの国でも、数百キロ離れた土地の人間でもない。
 人。龍。魔法少女。他にもいるであろう存在が一堂に他者の意によって集められ死んでいく。
 鋼人七瀬みたいな怪異とかでもなければ、その道を選ばなかったかもしれない人でも、
 殺すと言う選択肢が生まれてしまった世界で、そうせざるを得なかった理由を抱いて挑む。
 そういった人達の思惑の一時的な結果。ただの言葉の羅列。しかし聞き流すことはできない。
 律が提示したカエデと言う少女は、自分達の預かり知らぬ場所で命を落としたようだ。
 彼女を警戒するようにと言った発言はなかったのを見るに、元は温厚な人物だったのだろう。
 恐らくその道を選ばざるをえなかった側。姫神によりコミュニティを破壊された被害者と言ってもいい。
 事実、滝谷自身も姫神達によってそのコミュニティを破壊されてしまったようなものだから。

「……そっか……」

 トールの死。
 小林でも自分でもなく、ドラゴンである彼女が真っ先に。
 ファフニールの方が強いとしても、そもドラゴンの力は別格だ。
 制限はされていようともその強さは並の人間の比にならないのは、
 カエデや鋼人七瀬との交戦からも十分に伺うことができる。
 トールも同じぐらいの強さにオミットされてる可能性は高い。
 あれだけあれば大概は殺せる。別に殺してほしいわけではないが、
 今まで出会った人物であればほぼ全員一人で倒せてしまうだろう。
 それでも死ぬ。あってほしくなかった現実を突き付けられたが、

「随分落ち着いているようだな。」

 思いのほかあっさりとした一言だけで終わったことにファフニールが訝る。
 ドラゴンにとって人間の生は余りに短いし、同時に長すぎるファフニールにとっては、
 人の死と言うものに対する感情は希薄になりやすい。滝谷が死ぬ場合は分からないが。
 一方で人は人の死を重くとらえるものだ。どのような経緯であっても基本は揺るがない。
 だからこそ葬式、埋葬と言った儀式のような行為が存在している。
 昔から続く人の習わしでもある。

「そもそも、ファフ君たちがいる時点予想できたことだからね。
 参加者か支給品か、ドラゴンキラーができる人がいるのは予想できるよ。」

 予想するべきことでもないけどね、とぼそりと呟く。
 と言うより、最初の襲撃を考えればこれは予想できた話である。
 姿を変えれず、ドラゴンが使えるやりたい放題な魔法もあらかた制限。
 左腕がなかったとはいえ続けて出会った鋼人七瀬も(一応)ヒナギクと協力もあった。
 これだけの制限を受けていては、エルマやトール、カンナでも十分殺せる。
 もっとも、滝谷が仮に殺し合いに乗ったところで勝てる気はしないが。
 支給品のアレを使わない限りは、と言う注釈もつけて。

「それでいい。奴らの言葉を鵜呑みにするつもりはないが、
 仮にそうであるならばそれぐらいの冷静さを持っておくことだ。」

 脳内に送られたキュウべぇと名乗った放送の人物は、
 マイナスの感情が増幅している人たちが次第に増えている様子を伝えた。
 いかにどれだけ平常心を保っていられるかもこの戦いの鍵になるはずだ。
 だから、そういう意味でも表であろうとそういう風に装える気概が必要だと。
 (なお、テレパシーをやられたことでファフニールは露骨に不愉快な顔になっている)

「奴がもし死んだとするならば、人を知りすぎたかもしれんな。」

 共に生きることを後悔しない。その為に彼女は戦って死んでいった。
 もし彼女が死ぬビジョンがあるとするなら、そういうものだと思える。
 昔のように自身やケツァルコアトル、神々の軍勢に殴りこんだような、
 ただの混沌派なドラゴンとは違う、何かを守るために抗ったのだと。
 人間にかぶれた故に死んだかもしれないと考えると、
 それは皮肉なものだが同時にそれはらしくもあった。
 だから悼みはしない。仮にらしくなかろうと悼むことはないが。

「さて、放送も聞いて何処へ行くのが先決か。ファフ君は何かあるかな?」

662ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:23:26 ID:qA5aa4tg0
 当面の方針通り、放送を聞いてから動く考えをするものの、
 放送の死者にはカエデやさやかなど、気になる名前は他にもあった。
 しかしそれを聞いたとしても具体的に何かが変わるわけでもなく。
 あるとするならばヒナギクも杏子達も他の人達は南の方角へと進んでいる。
 西から東へ行くように行った今、行くとするならば北か東の二択だろうと。
 尋ねてみても返事がなく、顔を向けるとファフニールは南へと顔を向けていた。
 普段不機嫌そうな視線ではなく、どちらかと言えば凝視する類の眼差しで。

「どうしたんだい?」

「変な魔力を感じている。」

「魔力はさっぱりだから分からないけど、
 南なら魔法少女である杏子ちゃんってことは?」

 魔女の結界。
 渚の手によって発生したそれは、
 多くの参加者が認識するのは容易ではない。
 魔女の結界は普段は外からすれば何の変哲もない空間だ。
 条件を満たしたりこじ開けたり引きずり込まれると空間ががらりと変わる。
 あくまでドラゴンであるファフニールだから揺らぎを感じただけのもの。

「どうだろうな。異なる世界の魔力だ。
 これが呪いの類かどうかも判断がつかん。」

 一方であくまで揺らぎ程度だ。
 本来ならばもっと細かく把握できたかもしれないが、
 現状ではその程度のことしか認識できなかった。

「どうする? 弓原さんやまどかちゃんも一般人みたいだし加勢も……」

 窮地の可能性だってある。
 救援要請で魔力を発したのも否定できない。
 滝谷としては行こうと思っていたところだったが、

「その話、詳しく聞かせてもらえる?」

 後頭部に硬いものを押し付けられながら、
 背後に突如として現れた少女が冷徹に呟く。
 後頭部のそれが何か見えずともすぐに理解し両手を上げる滝谷。

(気配は感じていたが、この小娘……今のは時間に干渉したのか?)

 ファフニールが行くかどうかを尋ねなかったのは、
 その前に人の気配が近くにあったからと言うのはあった。
 だが高速移動と言ったものではない。ケツァルコアトルのような、
 時間に干渉でもしなければなしえないような気配の移動をしている。
 つくづく此方が後手に取られるような相手ばかりに出会い舌打ちをかます。

(シャドウ、か。)

 インキュベーターが主催
 それについてほむらは余り驚かなかった。
 いてもおかしくはない。そういう奴だと認識してるから。
 問題はシャドウ、認識。それらのワードが何を意味するのか。
 それがほむらにとってはどういう意味かはまだ分からなかった。
 此処まで出会えた参加者は道を違えた少女ただ一人だけ。
 その少女だってまともに話し合っていないのだから、
 彼女は致命的なまでに情報戦において乏しい領域にいる。
 事実上誰一人として参加者の情報を持ち合わせていない。
 何より、まどかの名前が出た以上知っていると思って動いた。
 ……なのだが、まどかの名前を聞いたことで少しばかり先走りすぎて、
 交流すればいいだけの所を半ば脅しをかけるようになってしまっている。

「そいつを殺した瞬間貴様を殺す。」

663ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:24:48 ID:qA5aa4tg0
 インキュベーターが主催。
 それについてほむらは余り驚かなかった。
 いてもおかしくはない。そういう奴だと認識してるから。
 問題はシャドウ、認識。それらのワードが何を意味するのか。
 それがほむらにとってはどういう意味かはまだ分からなかった。
 此処まで出会えた参加者は道を違えた少女ただ一人だけ。
 その少女だってまともに話し合っていないのだから、
 彼女は致命的なまでに情報戦において乏しい領域にいる。
 事実上誰一人として参加者の情報を持ち合わせていない。
 何より、まどかの名前が出た以上知っていると思って動いた。
 ……なのだが、まどかの名前を聞いたことで少しばかり先走りすぎて、
 交流すればいいだけの所を半ば脅しをかけるようになってしまっている。

「そいつを殺した瞬間貴様を殺す。」

 オーラを醸し出しながらファフニールは拳を作る。
 魔女と何度も、飽きるぐらいに戦ってきたほむらでも気圧されそうな殺意。
 先の少女も偶然が重なって勝てた。だがそれが今回もとは限らない。
 選択肢を見誤ったかと頬に汗が伝うも、

「まあまあ。見たところまどかちゃん達と同学年みたいだし、
 友達の安否って言う可能性もあるかもしれないんだからさ。
 だから銃を降ろしてもらえないかな? 時間的にも精神的にも不安だから。」

 先の魔力が何かを知りたい。
 そういう意味でも早く話し合いのテーブルにつけたい。
 勿論現代的な武器と言う存在はドラゴンと交流こそあれど、
 終焉帝に出会った小林みたいな危機的状況とは縁遠い彼なので、
 銃と言う武器であれば彼女以上に驚くべきものではあるし不安もある。
 下手に動けば撃たれる焦燥感をずっと維持されると、
 本当にもしもだが変な気を起こしそうなのも含めての提案だ。
 ドラゴンと人間が一緒に過ごす非日常的な日常を過ごしていても、
 滝谷はどちらかと言えば小林程踏み込んでもいない人間なのだから。

「戦闘はそっちの彼に、交渉はこっちに……仲がいいみたいね。
 少し急いでたから、そこについては謝るわ。それで、話を伺いたいのだけど。」

 かなりふてぶてしい態度ではあるが、
 別に滝谷もファフニールも気にしない性格なのと、
 時間も押してる可能性があるので搔い摘んでではあるが話し合う。
 カエデを仕留めたのは彼女であったことが分かってもさして驚くことも、
 精々狙われたことをちょろっと話す程度でそれ以上のことはなく。
 一方でほむらにとっては今までの分を巻き返せるだけの人物を、
 更に杏子とまどかの認識のずれも含めて多くの情報を得られている。

「それで南へ行ったはずんだけど、
 ファフ君が魔力を感じたみたいだからどうしようか、って状態だね。」

「……まさか、魔女化?」

 ファフニールが感じ取った魔力。
 単なる魔力ではない可能性を考えると、
 最もありうるのであれば魔女化が妥当だと思えた。

「小娘が言ってた奴だな。さやかと言う奴もそうなったと。」

「……答えが分からないわね。」

 放送で死亡と言われたさやかは、魔女になっただけで死んでないとか。
 マミか杏子のどちらかが何らかの原因で魔女になってしまったのか。
 或いは、まどか自身が魔女……なんてことはさすがにないことは分かっている。
 あれが出てしまえば世界が終わる。殺し合いそのものが破綻してしまう最早核爆弾。
 これだけはないにせよ、此処に来る時間のずれが明確な答えを出すことはできない。

「どちらにしても、まどかがいるなら私は行くわ。
 来るかどうかは好きに任せるけど、もし魔女ならやめておきなさい。
 何があってもおかしくない。そこの彼を死なせたくないなら、尚更ね。」

 一途に想うまどかと言う存在の居場所を教えてくれたからか、
 或いはファフニールの在り方が何処か自分に似ていたからか。
 その忠告と共にほむらは時間停止を使いつつ移動を始める。

「とのことだが、どうするつもりだ?」

「餅は餅屋かな。それに、魔法少女と関係が深いなら、
 杏子ちゃんとも連携はうまくできるだろうから安心だと思う。」

「そうか。」

 とりあえず人探しに北か東に行く。
 結局のところその方針に何が変わるわけでもなかった。
 何も変わらない。二人の関係性のように、ただ淡々と。

 此処でついていかなかったのは、ある意味幸運かもしれない。
 ファフニールが観測した先にある結界の中にはまどかの死体もあるのだから。
 それを見れば、ほむらが何をするかは……最早語る必要はないだろう。

【C-4/一日目ㅤ朝】

664ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:25:07 ID:qA5aa4tg0
【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜2(確認済み)、試作人体触手兵器@暗殺教室
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.北か東へ。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない。
三.小林さんの無事も祈る。
四.そっか、彼女が……
五.餅は餅屋、向こうの事は彼女に任せよう。
[備考]
※アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。

【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
三.……トール、逝ったか。
四.あの小娘(ほむら)時間に干渉してるのか?
[備考]
※アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。
※ほむらの能力を何となく感づいてます。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3)、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しに南へ向かう。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。

665ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:25:38 ID:qA5aa4tg0
投下終了です

666 ◆2zEnKfaCDc:2023/09/29(金) 19:09:36 ID:bvZj3FOA0
投下お疲れ様です。
滝谷とファフニールから見たトールの死、悲しむというよりはどこか達観して外側から眺めているかのような温度感が好きです。特に開幕のコミュニティに対する滝谷の価値観の描写が本当に滝谷らしくて、メイドラゴン勢の中でもイロモノ感の拭えない彼を参戦させた甲斐があったなあと思いました。
そしてマミさんのところにほむらも向かうことで、そろそろまどマギ勢全体の命運が大きく左右されそうですね。まどかの死自体はいずれ放送での伝達が確定事項ですが……果たしてどうなるのか。


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