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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第115話☆

1名無しさん@魔法少女:2012/12/13(木) 00:09:44 ID:6hLPLV4A
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所です。


『ローカル ルール』
1.他所のサイトの話題は控えましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

前スレ ☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第114話☆
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1341065580/

416畜生道14 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:01:58 ID:ODgWVm/I

「あの女のせいだ。
 あの女のせいだ。
 あの女のせいだ。あの女のせいだ。あの女のせいだ。
 凡人の分際で、クロノに取り入ろうとしたせいだ。
 何一つ取り得もない、街を歩けばゴキブリのようにそこらで見かける、平凡な女の癖にっ」

 ユーノは、独り事を呟きながら、いつもの自慰を開始した。
 端正に片づけられていた部屋は無残に散らかり、花畑のように自慰で使用した黄ばんだチリ紙で溢れていた。
 卓上に重ねられていた貴重な魔導書の山は崩れ落ち、代わりに卓上を占めるのは、クロノの写真やクロノの写り込んだ雑誌の切り抜きだ。
 偏執的なまでに集められた数々のクロノたち。
 それに囲まれて、ユーノは己の性器を激しく扱き上げた。

『ユーノ』

 妄想の中で、クロノはユーノを抱きしめ、そのおとがいをそっと持ち上げ、口づけを交わす。
 決して太くはないが、しっかりと筋肉のついた腕で抱きしめ、クロノはユーノを愛撫していく。
  
 ……これが、誤った妄執であることなど、最初から承知していた。

 だけど。
 ふと、疑問に思う。
 己は、クロノを抱きたいのか、クロノに抱かれたいのか。

「どちらでもいいか、クロノなら」

 自嘲じみた笑みを浮かべて、ユーノは再び自慰に没頭した。
 ユーノの妄想は具体性を失い、ただどろどろと己に絡みつく「クロノ」のイメージへと変化していった。
 このまま、性感の高まりと共に、妄想とクロノと同時に精を放つのが、ユーノの自慰の常だった。
 
 ところが、この日は妄想にいつもは入らないノイズが混じった。
 エイミィ・リミエッタ。
 クロノに抱き伏せられ、嬌声をあげるエイミィの姿が、脳裏に広がったのだ。
 ゆっくりとエイミィの性器を愛撫するクロノ。クロノの逞しい性器を口に含むエイミィ。
 クロノはエイミィの豊満な乳房をゆっくりと揉みしだき、片足を優しく持ち上げて己自身を――、
 妄想が無限に広がっていく。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、とうしてあの女が!!」

 ユーノは眼鏡を外して壁に叩きつけ、ガリガリと美しい金髪を掻きむしった。
 息を落ち着かせ、もう一度クロノと自分で妄想を始めようとする。
 しかし――何度思い浮かべてと、クロノに組み伏されるのは自分ではなく、あのエイミィなのだ。
 だって。
 
 自分とクロノの妄想は、本当にどうしようもない、己の下卑た欲望から生まれた下らない妄想だが。
 クロノとエイミィの性交は、恐らく本当に行われただろうことなのだ。

 壁の時計を目にする。
 もう、夜の10時をまわっていた。
 もしかしたら、クロノは今この瞬間もエイミィと抱き合っているかもしれない。セックスしているかもしれない。
 想像するだけで気が狂いそうになって、ユーノは再び叫び声をあげた。

 ドンドン。

 唐突に玄関を叩いた音が、ユーノを正気の世界へと引き戻した。
 誰だろう? 自分の部屋を訪れる相手がいるとすれば、なのはか、――それともクロノか。
 期待に胸を高まらせて、玄関の扉を開けると、アパートの隣人が怯えたような顔をして立っていた。

「すみません、もう夜も遅いので、少し静かにして頂けませんか……」

 おそるおそる、それだけを伝え、隣人はそそくさと去っていった。
 ユーノを見る視線は、以前までの優しい隣人に向ける親しげなものではなく、紛れもない、狂人を見る目だった。
 思わぬ中断に驚かされたが、ユーノはそれでも自慰を再開しようとした。
 払っても払ってもエイミィの顔は浮かび上がった。
 不思議なことに、自分の意中の相手でないにも関わらず、性器は今までと同様に、いや、今までにも増して固く屹立していた。
 不意に、ユーノの脳裏に閃きが浮かんだ。

 ――そうだ。この女の顔が消えないのなら。
 ――僕が、クロノの代わりに犯してやればいいんだ。
 ――僕が、クロノの代わりに、このエイミィ・リミエッタを!!

 数時間後、己の精液に塗れ、ユーノは息を荒げていた。
 素晴らしい時間だった。己がクロノと交わるのではなく、己がクロノの代わりとなることを想像しただけで――
 ユーノの欲望は途絶えることなく、幾度も幾度も繰り返し精を放ち続けた。

 それでも、まだ足りない。
 ユーノは不満げな色を瞳に浮かべ、卓上に転がっていた、一冊の魔導書を手に取った。

417畜生道15 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:02:53 ID:ODgWVm/I

         ○
 


 ――ユーノの取った行動を端的に述べよう。
 第97管理外世界に転移したユーノ・スクライアは、海鳴市から離れた土地に移動し、インターネットで目星をつけておいたペットショップに入店。
 己のフェレット形態に良く似た姿のフェレットを買い求めた。
 一般的に流通している品種とは多少異なる部位も多かったが、流通していた個体数が多かったため、瓜二つと言ってよい程似た個体を買い求めることができた。
 
 ユーノは購入したフェレットのサイズや特徴などを確認すると、迷いの無い手つきで予め用意していた薬物を首筋に注射し、毒殺した。
 その後、死体をアタッシュケースに詰め、遺跡発掘の名目で末端の管理外世界に移動。
 
 作業を、開始した。

 術式自体は、取り立てて変わった所の無い、使い魔の作成術式である。
 人造魂魄の憑依、依り代となるフェレットの肉体の蘇生、魔力リンクの作成。
 直接戦闘には不向きなユーノだが、補助的な魔法の技能の一部は高町なのはをも凌駕する。
 事前に入念な下調べと準備を行ってきたユーノにとって、使い魔の作成は特にこれといった困難を感じない簡単な作業だった。
 使い魔はただ存在するだけで主の魔力を消費する。 
 そのために、作成の際には契約として使い魔が成すべき目的を定め、それに合わせた適度な能力を設定することが重要となる。
 フェイトの従えているアルフなどは、己の分身として働く非常に高度な使い魔であるが、ユーノが求めていたのは、アルフのような汎用性の高い上級使い魔ではない。
 自分の乏しい魔力量でも使役できる、単一能。
 擬似的な知能を与え、自分が常日頃から使用している探索魔法や、情報整理魔法を使用できるように転写する。
 最後に、仕込んだ変身魔法を実行させ、その姿が自分と寸分違わぬことを隈なく確かめた。
 その後、単純な思考ロジックを組み立て、話し掛けられた際に己と良く似た返答を行うように、指示を行った。
 そう。

 ごく短時間、自分の影武者となることにのみ特化した使い魔を作成し、秘匿したのである。

 なのはやクロノといった親しい友人たちを長時間に亘って欺き続けることは、出来ないかもしれない。
 けれども、付き合いの短い無限書庫の同僚たちなら、忙しく仕事に没頭しているような演技をさせれば、十分に騙しきれるだろう。
 
 本物のこの自分には及ばないが、無限書庫の司書として、そこそこの実務もこなせるように仕込んである。
 新人のローレルなどよりは余程有能な司書として働くことが出来る筈だ。
 足りない分は、今晩少々残業をして明日のために備えよう。
 思いを巡らせるユーノの瞳は、これまで近しい友人達も誰一人目にしたことの無い、冷たい翠色に輝いていた。



        ○

418畜生道16 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:05:00 ID:ODgWVm/I


 買い物帰りに、近所の公園のベンチで一休みをするのがエイミィ・リミエッタの日課だった。
 ベンチに座り、時に携帯プレイヤーで好みの音楽に耳を傾け、時に手持ちの文庫本を読み進めたりもする。
 公園で鬼遊びやかくれんぼに興じる子供たちの姿を見るのが、エイミィが好きだった。
 柔らかな頬を赤く上気させて、全身で感情を表現しながら、走り回る子供達。
 エイミィは、そっと自分の下腹を撫でた。
 ……自分とクロノの間に子供が授かったら、あんな風に元気に逞しく育ってくれるだろうか? 
 うん。きっと元気に育ってくれるだろう。
 ――だって、クロノくんとあたしの子供なんだから。
 そう自分の中で納得して、エイミィは頬を染めた。
 ――あたしったら、何て気が早いことを考えてるんだろう。はしたない。
 胸に手を当て気を落ち着かせ、自分を宥めようしているのにも拘わらず、ついつい頬が緩んでしまう。
 仕方のないことだろう。
 エイミィは今まさに、人生の春を迎えていた。長らく付き合ってきた恋人のクロノからのプロポーズ。
 もっと先のことだと思っていたのに。幼馴染の自分でさえ予想もしなかった熱い求婚を受けて、喜ばない筈がない。
 式の日取りはどうしよう、会場はどうしよう、ドレスはどうしよう。
 ユーノやなのはのような親しい人間にはなし崩しのように知られてしまったけれど、親族友人達にはどうやって報せよう!
 頬が緩み、ついつい鼻歌まで歌ってしまいたいような気分になる。
 仕方のないことだろう。
 エイミィは、ぐるりと馴染みの公園を見まわした。
 春の香は消えかけ、若葉が木々の梢に萌え出でている。
 結婚して家庭に入れば、こうして買い物帰りにここで一休みする機会も、自然と減っていくのだろう。
 それを考えれば、少し寂しくもある。

 ――随分、もの思いに耽っていたらしい。
 夕日は西の嶺に消えかけ、街灯の火があちこちで燈り始めている。
 随分、遅くなってしまった。
 空を見上げれば、夕焼け空は灰色に濁り、通り雨を予告するような水気を含んだ風が吹きつけてきた。
 エイミィはベンチから腰を上げた。
 公園のあちこちで見かけていた遊ぶ子供達の姿は、もう影一つ見当たらない。
 ――さっきまであんなに沢山いたのに。きっと、暗くなったからお家に帰ったんでしょう。

 
 あたしも、はやく、かえらなきゃ。


 家路に向けて歩きだしたエイミィの口元を、後ろから男の掌がそっと塞いだ。

「?」

 よく状況の掴めていないエイミィの耳元に、男が囁いた。
 
「動くな」

 瞬時に事態を了解したエイミィの全身を、氷のような悪寒が貫いた。
 どうする? どうする? 管理局の非常時の緊急マニュアルにも、このような状況を想定したものがあった。
 エイミィにとって可能な選択肢は――絶対服従のみ。
 魔導師でも戦闘員でもないエイミィには、一切の反撃の手段は無い。
 素人が下手に反撃などして犯人を刺激すれば、命に係る事態になりかねない。
 だから、どんなことがあっても、犯人に逆らうような真似をしてはいけないと、きつく戒められていた。

 エイミィは粛々と犯人の指示に従った。
 両手を後ろ手にまわされ、手錠をかけられた。猿轡を噛まされた。
 恐怖に満ち満ちた時間を、エイミィは心の中で最愛の婚約者の名前を繰り返し唱えながら耐え忍んだ。
 幸いだったのは、犯人が魔導師ではなかったことだ。
 犯人が魔導師ならば、封時結界を張り、外部からの行き来を遮断した上、手錠などではなく、バインドで全身を束縛された筈だ。
 だから。
 だから、きっと誰かが通りかかる。誰かが自分を見つけて、助けを読んでくれる。
 ――エイミィは、愚かにもそう考えていた。

 犯人は、全身を黒い服に包んだ、不気味な男だった。
 背丈は丁度、クロノと同じぐらい。そんな些細なことに、エイミィは苛立ちを感じた。
 目出し帽をすっぽりと頭からかぶり、その顔と表情は伺い知ることができない。
 ただ、血走った瞳が爛々と狂気を湛えてエイミィを見据えていた。
 犯人――ユーノ・スクライアは、見せつけるようけるようにポケットナイフを取り出して、その刃をちらつかせた。
 今回の犯行に当たって、偽装には細心の注意を払ってある。変身魔法による体格の変形、声色の偽装。
 そして、使用した結界は、ユーノの発掘した秘中の秘。
 それが結界であるということを、魔導師にすら悟らせない、最高に秘匿性の高い結界である。
 エイミィがそれに気付かなかったのは当然といえば当然だ。しかし、エイミィは一般人の犯行であることを確信して、通行人が通りかかる瞬間を待ち続けた。

419畜生道17 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:06:43 ID:ODgWVm/I

 ユーノはナイフをちらつかせながら、エイミィを彼女の愛用のベンチの傍の石畳に押し倒した。
 恐怖に震える彼女を満足げに見下ろすと、その刃で緩慢にエイミィの服を首筋から股下にかけて切り裂いていった。
 ここに至って、犯人の目的が単なる物取りや傷害ではないことを、エイミィがはっきりと理解した――理解できてしまった。

「んんっ……」

 今まで、震えながらも気丈に犯人を睨みつけていたエイミィが、顔を歪めて涙を零した。
 彼女の脳裏に去来したのは、犯人への恐怖か。それとも、これまでの輝かしいクロノとの思い出か。
 歯を食いしばるエイミィの顔面を、ユーノは唇から瞼まで獣のように舐め上げた。
 粘り気のある唾液が、エイミィの唇を汚した。幾度も、クロノから優しい口づけを受けた唇を。
 
「ひぃ」

 猿轡を噛み締め、頤を上げて白い喉元を晒しながら、エイミィは呻いた。
 彼女は恐怖と不快感と、それ以上の屈辱に、必死で耐えていた。
 ユーノの舌は、ねっとりとエイミィの乳房を這いまわり、徐々に股間へ向かって降りていく。
 エイミィは、ナメクジと百足の群れにでも這いまわられているように、不快げに顔を歪めた。
 小雨が、ぽつり、ぽつり地面に黒い染みを作りはじめた。
 夜気に晒されたエイミィの裸体にも、容赦なく雨粒が降り注ぐ。

 ユーノは思う存分にエイミィを辱め、その顔が屈辱に歪み、恐怖に震えるのを愉しんだいた。
 しかし、その瞳の奥に希望の灯火を残していることに気づき、不快げに目だし帽の舌の顔を歪めた。
 きっと、信じているのだ、この女は――クロノがきっと、助けてくれる。
 かっと、激情の炎がユーノの奥で燃え上がった。
 玩弄して屈辱に泣き噎ぶ顔を愉しむのはもうやめだ。助けなど来ないと――クロノはお前如きを助けないと教えてやる。
 ユーノは感情を昂らせれば昂らせるほど、頭の奥が冷えていくのを感じていた。
 
 この女から、何もかもを奪ってやる。

 ぐい、とユーノは落ちつた動きでエイミィの両足を押し開いた。
 エイミィの秘所が、冷たい外気に晒された。


 瞬間、エイミィは緊急時のマニュアルの内容も忘れて、全身全霊の力を籠めて、犯人の鳩尾を蹴り飛ばした。
 これから犯人に犯されるのだと思った瞬間に、脳裏に浮かんだクロノの顔が、エイミィに火事場の馬鹿力を与えていた。
 不意をつかれたのか、ユーノは毬のように跳ね飛び、公園の芝生へと転がった。
 両手を縛られたままエイミィは立ちあがり、必死に駆けだした。
 鳩尾を蹴り飛ばされたユーノは、芝生の上で嘔吐にえずいていた。
 今なら逃げられるかもしれない、そんな希望が、エイミィの足を動かしていた。

 公園の構造は熟知していた。最短経路で出口に向かえば、二分と経たないうちに、外に出られる筈だった。
 エイミィは走って、走って、走って――この公園はこんなに広かったっけ? と疑問を抱き、
 その瞬間、後ろから突き飛ばされるようにしてユーノに取り押さえられた。
 後ろ手に縛られていたエイミィは受け身も取れず、石畳みに顔面から倒れ伏した。
 
「舐めた真似をしやがって」

 目だし帽の中の瞳は、憤怒と狂気に血走っていた。
 ユーノはゆっくりとポケットナイフを取り出し、悪戯をした子供をお仕置きするように、エイミィの顔面を切りつけた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 猿轡を噛まされ、エイミィが声無き悲鳴を上げる。
 力任せに顔面に叩きつけられた刃は、運よく猿轡の一端を切り落としていた。
 エイミィの口許から、はらりと猿轡にしていた布片が舞い落ちる。
 その機を逃さず、エイミィは金切り声を上げて叫んだ。

「嫌、嫌ああああっ、誰か、助けてぇ、クロノ、クロノ、クロノっ!」
「その名前をお前が呼ぶなよっ」

 ユーノは理不尽な怒りを露に、組み伏せているエイミィの顔面を切りつける。
 犯人は子供の落書きのように、縦に横に、エイミィの端正な顔を切り裂いていった。
 エイミィは苦痛を恐怖に叫びながら、周囲へ助けを求め、クロノの名を呼び続けた。

420畜生道18 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:08:43 ID:ODgWVm/I
 
 ユーノは鬱陶しげに耳を押さえ、嗜虐的な笑みを浮かべると、顔を隠していた目だし帽を脱いだ。

「そんなに叫ぶなよ、僕ならここにいるよ」
「……嘘、クロ、ノ」

 エイミィが喉を詰まらせた。
 顔中を無残に切り裂かれ、視界の殆どは血で滲んでいても、見紛う筈はない。
 憎むべき犯人の顔は、エイミィの最愛の人、クロノ・ハラオウンと瓜二つだった。
 だが、その瞳は、愛すべき婚約者の優しげな目とはまるで似つかず、

「違う、あなたはクロノなんかじゃない!」

 愛する人の姿を汚した唾棄すべき犯人に、心底からの軽蔑と憎悪を籠めて、エイミィは叫んだ。
 ユーノは、獣じみた唸り声を上げ、怒りを剥き出しにして、エイミィの口中にポケットナイフを差し込んで、乱暴に掻き混ぜた。
 もはや言葉にもならない悲鳴と泣き声が漏れる。

「黙れ、僕はクロノだ、今だけは僕がクロノ・ハラオウンなんだ!
 お前のような凡人がっ、クロノの隣にいる資格なんてないんだ!
 イイザマだ! ははっ、二度と見られない顔にしてやった。
 でも、クロノがそんな程度で君を捨てるような男じゃない。例えどんなに傷物になったとしても――
 いや、傷物になればなるほど、君を深く愛するだろう!
 結局、損をするのは僕じゃないか!
 被害者面するなよ! クロノに愛されてるくせに! それ以上何か欲しいんだ!」

 口から泡を吹きながら叫ぶ言葉は、まるで人間の喋り方の体を為しておらず、獣の唸りのようだった。
 内容も支離滅裂で、まるで意味が通っていない。
 エイミィには、ユーノが何を言っているのか、寸分すらも聞きとれなかった。
 顔中の切創から流れだした血糊でエイミィの顔面は埋め尽くされ、その視界は完全に闇に閉ざされた。

 ユーノは、目の前の女がもはや何の脅威にもならないことを確認して、冷たく見下ろした。

 ――何故、クロノがこの女を選んだのかわからない。何の価値もない凡婦だ。
 ――ただ。
 ――どんな辛い時も、絶望的な時も、この女だけは、笑っていた気がする。

 血まみれのポケットナイフを投げ捨てる。
 両の掌を広げると、どちらも毒々しい程の朱に染っていた。

 ――自分が、狂いかけていることは、解っている。
 ――自分が、間違っていることも、解っている。

 己の顔を撫でると、生臭い鉄の香りがした。
 クロノ・ハラオウンそのものの己の顔を、ペタリ、ペタリとユーノは撫で続ける。

 ――なのは、クロノ。僕は、本当に君達が好きだったんだ、憧れていたんだ。
 ――本当に、君達のようになりたかったんだ。
 ――でもこれで、色々無くしてしまうだろう。
 ――僕の未来、僕の思い出、僕の矜持、僕の友達。

 顔が血で汚れるのも構わず、ユーノは己の顔を押さえる。

 ――クロノ、僕は君になった。君になれた。
 ――今日一日の、偽物の君に過ぎないけれどね。
 ――代わりに、僕が本当の意味で君のようになれる可能性は、完全に失われてしまったけれど。
 ――いいんだ、どうせ僕なんかが、君の隣に並べる可能性なんて、最初から無かったに違いないんだから。

 無残な姿で横たわるエイミィに視線を落とす。

 ――クロノ、君には本当に悪いと思ってるんだ。
 ――けれども。

 ユーノのズボンの下で、性器が熱を持って頭を擡げる。
 これだけの凄惨な場にありながら、ユーノはかついてない興奮に胸を高まらせていた。
 もはや阻む力もないエイミィの両足を掴み、ぐいと押し広げた。
 宝石でも愛でるように、その性器に顔を近づけ、うっとりと頬を緩める。

「ここに、クロノが……」

 その事を考える度に、背筋に電流が駆け抜けるような衝撃が走り、すぐにでも果ててしまいそうになる。
 ユーノは獣のように息を荒げながら、限界まで怒張した己の性器を取り出した。

 ――けれども。
 ――この女を通じてでも、クロノ、君と繋がりたいという欲望を、僕は押さえきれそうにない。

 
 ユーノははち切れそうな己自身をエイミィの入り口にそっとあてがった。
 弱々しくエイミィが地面を掻き、小さな悲鳴を上げる。
 ユーノは、そのまま己の欲望に身を任せた。

421畜生道19 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:09:50 ID:ODgWVm/I


  ○


 
 全てが終わっても、エイミィは身体を縮めて、無残な姿で凍えそうな子猫のように震えていた。
 簒奪者である筈のユーノの顔には、達成感の欠片もなく、空虚な瞳で小雨の降りしきる公園の暗がりを見つめていた。
 ユーノはぼんやりとした視線を、凌辱され尽くされた彼女の秘所に落とす。
 そこに流れる、見まごうことなき純潔の証の血を見つめて、静かに嘆息をする。

「婚約者相手に、結婚するまで貞節を守るだなんて、生真面目な君らしいや」

 小雨は徐々に雨脚を強め、情事の熱の冷め行くユーノの肌を、容赦なく打ちつけた。
 ……全てを幣として差し出して、遂にユーノは何一つとして手に入れられなかった事を悟った。



      ○



「はじめまして、モコ・グレンヴィルです。今日からこの無限書庫でお世話になります」

 少女は勢い良く頭を下げた。

「じゃあ、分からないことがあれば、当面はわたしに聞いてね」
「はい、よろしくお願いしますっ、ローレル先輩」

 ところで、とモコは目を輝かせてローレルに訊ねた。
 
「こちらの無限書庫には、名物になってる凄い司書長さんがいるって聞いたんですが……?」

 その言葉を聞いた職員一同の表情に、苦々しい翳りが生まれたのにモコは気付かなかった。

「ああ、彼ね……」

 そう呟くローレルの言葉の端には、諦めの響きがあった。
 ローレルは手早く手元の端末に、ユーノ・スクライアの顔写真と公開されている個人情報を表示して、モコに突きつけた。

「はい、これがうちの名物司書長、ユーノ・スクライアさんね。もし廊下ですれ違うことでもあったら挨拶しといて。
 ……と言いたいところだけど、そんな機会はまず無いでしょうね」

 モコは、ユーノの顔写真を食い入るように見つめて、瞳を輝かせた。

「うわあ、司書長さん、凄いイケメンじゃないですかぁ!
 齢もあたしと幾つも変わらないし、こんな大きな施設の司書長さんなら年収も凄そうだし、あたし、アタックしちゃおうかなあ!」

 その言葉を聞いて、ローレルは気まずそうに目を逸らして頬を掻いた。

「う、うん、まあ、わたしもちょっと前まではそう思ってたんだけどね」
「? ユーノ司書長、なにか酷い欠点でもあるんですか? 女癖が悪いとか……」
「そういう訳じゃないんだけど、ちょっとね……」

 ローレルに耳打ちされた内容を聞いて、可笑しくて堪らないとばかりにモコは吹き出した。

「何それ、変〜なの! やっぱり、天才肌の人って変人ばっかりなんでしょうかね?」

 やってられない、とばかりにローレルは宙を仰ぐ。

「そうそう、天才サマの考えてることはわたしら凡人には分からんわ。
 せっかく猫被って媚売ってたわたしが馬鹿みたいじゃん。
 あ〜あ、どこかに金持ちでいい男、いないかな〜」


     ○

422畜生道20 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:13:40 ID:ODgWVm/I

 ……その後、ユーノは唯ひたすらに無限書庫での仕事に没頭するようになっていた。
 エイミィ・リミエッタを襲った不幸な事件について、彼女の友人たちは共に悲しみ、義憤した。
 彼女の婚約者であるクロノ・ハラオウンは長期の休暇を申請し、心身に深い傷を負ったエイミィに優しく寄り添い、共に悲しみに身を浸した。
 管理局の担当機関による必死の捜索が行われたが、犯人の足取りは未だ掴めていない。
 目撃者はなく、魔力の残存反応も見られなかったため、非魔導師の一般人による通り魔的な突発的凶行と見られている。
 被害者の証言から、犯人が変身魔法を使った可能性も示唆されたが、数々の状況証拠は一般人による犯行であることを示していた。
 エイミィ・リミエッタが犯人の素顔を目にしたのはごく短時間であり、その最中に顔面に対する複数の切創を加えられていることから、エイミィの見たクロノの顔は、恐慌状態に陥った彼女が見た錯覚だろうと結論づけられた。
 ユーノ・スクライアが捜査の容疑者の線上に浮かぶことは一度として無かった。
 当然と言えば当然だろう。あまりに動機が存在しない上に、犯行の時間帯には盤石なアリバイが存在していたからだ。

 
 影武者を務めた使い魔は、誰一人その存在を知られることなく、ユーノに契約を解除されて塵として消えた。
 ユーノの社会的信用は極めて高く、わざわざ使い魔を作成してアリバイを作らなくとも、彼に嫌疑の瞳が向けられることは無かっただろう。
 なら、何故ユーノは自分の似姿の使い魔などを作ったのか。
 それは、狂い、歪みきっていたが、彼なりの美意識だったのだろう。
 ユーノは、クロノ・ハラオウンになりたかった。クロノ・ハラオウンになった。
 ならば、その時、ユーノ・スクライアという人間が、自分の他に存在していなければならなかったのだ。
 その行為の真意を知るものは無く、知られる必要も無かっただろう。
 だって、それはどこまで行っても、ユーノのマスターベーションに過ぎないのだから。


 ユーノへの取り調べは、エイミィ、もしくはクロノに怨みを抱くものがいないかを尋ねるごく短いものに留まった。
 取り調べの最中、ユーノは内心の恐怖と罪悪感を隠し通した。
 全てを吐露してしまうことで楽になれたのかもしれないが、その時にクロノやなのはが自分にどんな視線を向けるのか。
 考えただけで、ユーノの心は萎縮し、ただただ口を噤むことしか出来なかった。
 結論から言えば、エイミィ・リミエッタを暴行した犯人は捕まらなかった。
 非常に高い検挙率を誇る現在のミッドチルダの官憲を欺ききったユーノの特製の結界は、矢張り凡夫の及ぶものでは無かったということが、最も皮肉な形で証明されたことになる。

 しかし、二度目は無いだろう。
 ユーノがどこかでもう一度同じ術式を使用すれば、それがエイミィ暴行事件の犯行で使用されたものと同一であることを管理局は見抜くだろう。
 再びなのはの隣で戦うために編み上げた秘蔵の結界術式は、ただ婦女暴行の為だけに使用されて、永久に祓うことの出来ない穢れに染まることになった。
 
 ――もう二度と、好きとは言えない。好きと言っていた自分が許せない。 
 ――もう二度と、自分の中のどんな過去も思い出も、愛でることなど許せない。
 ――もう二度と、こんな自分が何かを誇ることなどあってはならない。

423畜生道21 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:14:30 ID:ODgWVm/I

 誇りも、夢も、思い出も、希望も、自分の全てを捨て去っても、償いきれない罪。
 なのは達の出身地、第97管理外世界には、「お天道様に顔向けできない」という言葉がある。
 人倫の道を踏み外した人間を謗る慣用句である。それは、正に自分の事だとユーノは臍を噛みしめる。
 幾度、自殺を考えたことだろう。
 薄汚い自分の命一つでは何の贖いになるとも思えないが、少なくとも楽になることだけはできる。
 自分を苛み続けている、今この苦悩から逃れる。その為だけに命を絶とうという甘やかな誘惑が、幾度脳裏を過ったことか。
 しかし、ユーノの中の冷静で打算的な部分が、この誘惑を退けた。
 今ここで命を絶てば、間違いなく一種の変死として扱われる。
 ただでさえエイミィの事件の直後で管理局が神経質になっている頃合いなのだ。
 ユーノの死後、動機の解明や殺人の可能性の調査、そして今までユーノが無限書庫の司書長として残した成果の業務整理など、様々な形での司直の介入が予想される。
 
 その結果として、自分の犯した罪が明るみに晒されるだろうことが、ユーノには容易に予想できた。
 
 クロノやなのはに己の罪行を知られて見下げ果てられるのは、「死んでもいや」なのだ。
 何という醜悪な自己愛なのだろう。何て見下げ果てた卑屈な自尊心なのだろう。
 
 無限書庫の底の暗闇の中で、ユーノは幾晩も罪悪感と自己嫌悪で噎び泣いた。

 天才達の間でコンプレックスに悩まされてきたユーノ・スクライアという人間は、今ここに、己の価値の全てを喪失した。 
 もう、百の成果も、千の賞賛も、ユーノの心に仄かな焔すら燈すことは無い。
 ユーノ・スクライアという器は、完全に罅割れてしまったのだ。
 もう、何を注いでも満たされることはない。


 残された道は、無限に逃避を続けるのみ。
 司書業に専念し、自分が適切に管理を続ける限り、件の結界術式が外部に漏れる心配はない。
 ――自分の罪行が、明るみに出ることはないと。

  
 償いきれぬ、己の罪の重さから逃げるかのように。
 全てから、なにより自分自身から逃げるかのように、ユーノ・スクライアは人の姿を捨て、フェレットとして無限書庫の底に潜り続ける。
 数週間が過ぎても、数ヶ月が過ぎても、――ユーノはただフェレットとして無限書庫に潜り続けた。
 その働きぶりには無限書庫の司書の誰もが舌を巻き、ユーノの成果をは過去100年の捜索結果を凌駕するものとして、数多くの賞賛を浴び、業績に伴う褒章が決定された。
 しかし、ユーノは受賞式を欠席し、代理としてローレル・アップルヤードが出席した。
 再三に亘る司書達の説得にも耳を貸さず、ユーノは授賞式の当日もフェレットとして無限書庫の捜索に没頭していたという。
 希有な才能を持った無限司書の司書長は、稀代の変人であるとの噂がミッドチルダの各地で囁かれ、その奇癖の原因を憶測する下世話な噂が各地で流れたが、真相に至るものは存在しなかった。
 部隊への参入の話など、最初から無かったかのように立ち消えた。
 外の世界では、目まぐるしく時代は流れ続ける。機動六課の結成、ジェイル・スカリエッティ事件――幾つも大きな事件が、なのはやクロノ達を翻弄したが、ユーノは全てに無関心だった。
 請われることがあればすぐさま必要な資料を検索して提出したが、己から外界に関わることは一切なく、過去の友人達はそんなユーノを案じて声をかけていたが、ユーノがそれに応じることは二度と無く、やがては交流も失われていった。
 事件で心身に深い傷を負ったエイミィだったが、ミッドチルダの最先端の医療と、献身的なクロノの介護の甲斐あって、その後、時折笑顔を浮かべる程度には恢復していることを追記しておく。
 三年遅れのささやかな結婚式が営まれたが、当然のようにそこにはユーノの姿は無かった。
 今日も、ユーノはただひたすら、子鼠が車輪を回すかのように、フェレットの姿で書庫の探索に没頭し続けている。

424畜生道22 ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:15:55 ID:ODgWVm/I


  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  ちくしょう‐どう〔チクシヤウダウ〕【畜生道】

1 仏教で、六道の一。悪業の報いによって死後に生まれ変わる畜生の世界。
2 非道徳的な情事、性交。近親相姦。


  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 エピローグ


 ミッドチルダの無限書庫の底には、一匹のフェレットがいる。
 かつては人であった筈のフェレットだ。
 そう遠くない昔、一つの出会いがあった。フェレットと一人の少女の出会いだ。
 その小さな出会いは、多くの次元世界を救ったのかもしれない。――しかし、当のそのフェレットは救わなかった。
 非凡なる才能を持っていた筈のフェレットは、だがしかし、余りに輝かしい才の持ち主を直視し過ぎたせいで、己の才を信ずることができなかった。
 フェレットは、今日もその四つ足で地を這い、黒く濡れた鼻をひくつかせ、黴の香の漂う古書の匂いを小さな胸に吸い込んだ。
 狭く苦しい筈の書架の隙間も、マフラー程度の大きさの身体のフェレットから見れば広過ぎる。
 フェレットは虚ろに、何処までも茫漠と続く書庫の隙間に視線を彷徨わせた。
 ――小動物そのものの貌からは、何の表情も読み取ることもできない。
 円く小さな黒い瞳をしばたたかせ、フェレットは手近な書に視線を落とした。



 ミッドチルダの無限書庫の底には、一匹のフェレットがいる。
 かつては人であった筈のフェレットだ。
 ……だがそれも、今となっては昔の話。


 ――己は人に非ず。心根賤しき、けだものなり。


 フェレットは自らをそう戒めて、今日も深く暗い窖の底で小さな体を丸め、ただ一匹、本の頁を捲っている。


 END.

425アルカディア ◆vyCuygcBYc:2013/02/10(日) 16:21:13 ID:ODgWVm/I
お目汚し、大変失礼いたしました。
お気分を害された方などいらっしゃりましたら、お気に入りのSSなどで気分転換をされて下さい。

ユーノ祭りの中、このようなユーノを貶めるようなSSを書いてしまい、申し訳ありません。
作者なりの歪んだユーノへの愛が籠められています。

さて、大変盛況なユーノ祭りですが、このような後味悪いSSで〆るのは申し訳ないので、
これからも、後味のよい素敵なSSを皆さまどんどん投下されて下さい!

426名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 17:18:04 ID:QUC/9T7U

 惜しみなくGJ

 単なる欝のための欝なら中指立てて読み飛ばすのだけど、きっちり読ませる欝ほど恐ろしいモノはない

427名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 19:15:14 ID:2tbTF836
狂気というか病的というか……GJでした
最初ユーノにとってのレイハさんは「輝き」だったのに後半では「血の雫」か
初めは穏やかなはじまりだったのにどうしてこうなった

428名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 19:35:48 ID:cA8e50ps
万感の想いを込めて、最高だった、と言いたい。

正に至高の欝。

後味が悪くて心地よいとはなんちゅうアンビバレンツやろうなぁ・・・アルカディア氏の筆致の冴えはいつも本当に痺れる。

429名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 22:11:17 ID:TLm37nGM
いやぁ、すごい…。
読み物で久しぶりに震えとドキドキがきました。
今夜眠れるかな?

430名無しさん@魔法少女:2013/02/10(日) 22:26:39 ID:bgpa3rv2
うんまあ感覚の違いだと思うけどあまりぴんとこなかった
そんじゃね

431名無しさん@魔法少女:2013/02/11(月) 01:16:53 ID:FWqv26sU
おおうなんちゅうものを読ませてくれるんや……
破滅的な展開が待っていると分かっているのにスクロールする手が抑えられなかったぜ……

432KAN:2013/02/11(月) 11:05:21 ID:dQ8saOv6
ご無沙汰してます。遅ればせながらユーノ祭りに参加させていただきます。
・ユーなの
・エロなし
・甘い系
この手の要素が駄目な方はスルーしてください。

433キス 1:2013/02/11(月) 11:08:45 ID:dQ8saOv6

 紙巻き器から取り出した完成品を手に取り、状態を確認する。巻き具合も葉の密度も問題なし。
既に手慣れた作業なので失敗することは稀だが、念のためだ。
 それをシガレットケースに収めて、以前作ってあった一番古い1本を取り出して咥えると、
作業をしていた机の上に置いてあったライターを手に取る。古めかしい装飾が施された、
普通のオイルライターより一回り大きめのそれは、過去の文明で使われていたものを
形だけ模したものだ。
 昔のままならドラムを回転させた摩擦でオイルに点火するところだが、これにオイルは
組み込まれていない。外見は古くても中身は現代のものだ。魔力を燃料に自分の魔力光と
同じ色の炎を点す仕組みになっている、魔導師専用の道具だった。
 それでも雰囲気は必要ということだろうか。機能的には意味がない回転ドラムは備わっていた。
回さなくても発火するが、ドラムを回すタイミングで魔力を込める者が大半だという。
 だからというわけではないが、ユーノもそれを実行した。独特の摩擦音に合わせるように
魔力を込めると翠玉色の炎が起きる。それを紙巻きの先端に近づけると数秒で紙巻きに火が点った。
煙に乗って甘い匂いが鼻腔をくすぐる。もともと『これ』は匂いを楽しむ物でもあったが、
それでは紙巻きにした意味がない。
 ゆっくりと、吸う。口に広がっていくのは甘味と爽快感。疲れた身体に活を入れるような、
意識をはっきりさせてくれるような、そんな感覚。

434キス 2:2013/02/11(月) 11:10:43 ID:dQ8saOv6
 それを十分に堪能し、紙巻きを口から離して、息を吸った時と同じくらいゆっくりと吐き出す。
細い紫煙が揺らめきながらのぼり、霞んで消えていった。
 発掘作業や無限書庫での検索業務、論文執筆で根を詰める時。精神安定と気分転換を求めて吸う、
スクライアが独自配合した紙巻きだ。
 それ程頻繁に使う物ではないのだが、市販されているわけではないので作成にどうしても手間を要する。
空いた時間にこうやって補充するしかないのが欠点だ。それに、作って長い間放置していると
香りも味も落ちてしまうので、大量に作り置きしておくわけにもいかない。
 とりあえず、シガレットケース1箱分。吸うペースを考えると、これが美味いままで吸える適量だ。
 さて、もう一口と紙巻きを咥えようとしたところで物音が聞こえた。それはドアのスライドする音。
来訪者を告げる音だ。当然ロックは掛かっているので、来訪者はそれを解除して入ってきたことになる。
 それができる来訪者はただ1人のみ。足音が徐々に近づいてきて、
「ユーノ君、こんにち――」
 声を掛けながらドアを開けて姿を見せたなのはが、ユーノを見て固まる。その視線はユーノの
手にある物に注がれていて、次にユーノが作業をしていた机に向けられて、
「だっ、駄目だよユーノ君! 管理局員が葉っぱに手を出すなんてっ! 管理局員じゃなくても駄目だけどっ!」
 盛大な勘違いを放ってくれた。タバコは駄目だよ、くらいの誤解を受けることはユーノも覚悟していたが、
まさかそこまで飛躍するとは。

435キス 3:2013/02/11(月) 11:12:15 ID:dQ8saOv6
 とは言え、そうなってしまう部分があるのも仕方ない。普通なら煙草をわざわざ紙巻きで
作る者は少数であるし、なのはは捜査官としての経歴も持っているのだ。その頃にそういった物を
目にしていて、そこから連想した可能性も否定はできない。 
「いや、なのは、これはそんな物騒な違法薬物とかじゃないから」
 ユーノは手招きしながら紙巻きを咥え、吸う。警戒というか不安を隠せないまま近づいてくる
なのはが間合いに入ったところで、煙をなのはに向けて吹いた。
 驚き離れようとしたなのはの足が止まる。ひくひくと鼻を動かして煙を吸い込み、甘い、と呟き、
「これ、ユーノ君のお部屋の匂いだ」
 と聞こえる声で口にした。
「そうだよ。以前、これを焚いた事があるのは覚えてる?」
 ユーノの問いになのはが頷き指した先には一基の香炉があった。なのはの記憶の中では、
それはユーノが香を焚く時に使っていた物であり、先の煙の匂いはその時の香の匂いと同じものだった。
「それと同じ物だよ。香として使う方が一般的なんだけどね。そういうわけだから、これは違法でも危ない物でもない。納得した?」
 意地悪くユーノが笑うと、なのははばつが悪そうに頬を膨らませた。なにせ自分の一番大切な人が
違法薬物に手を染めているなどという勘違いだったのだ。
「で、もしよかったら、吸ってみる?」
 口から離した紙巻きの向きを変え、ユーノはなのはにそれを差し出す。

436キス 4:2013/02/11(月) 11:13:30 ID:dQ8saOv6
「さっきも言ったけど違法薬物じゃないし、煙草でもないから身体に害があるわけじゃないし、
中毒性もない。吸い過ぎると気分悪くなるけど、人体に酷い影響を与えるものじゃないしね」
「え、と……」
「香で嗅ぐのと大差はないよ。場所を選ばない分、こっちがお手軽ではあるけどね」
 躊躇いつつも、なのははそれを受け取った。恐る恐る口にして、吸い、煙を吐き出す。
「甘い……それに、スッとする。うん、お香で嗅いだ時よりも強いというか、濃いね。
ユーノ君、これいつも吸ってるの?」
「いいや、疲れた時とか頭がボーッとする時とかにしか吸ってないよ。今のそれは、在庫処分的な
意味で吸ってたんだ。新しく作り直したからね」
「そうなんだ」
 言いながらもうひと吸いしようとしたなのはであったが。
(今のそれ……?)
 先のユーノの言葉を反芻する。そうだった。この紙巻きは、さっきまでユーノが吸っていた物だ。
つまり、ユーノの口が咥えていた物であるわけで、ということは、
(ゆ、ゆーのくんと、か、かかかか間接キ――!?)
 その事実を認識し、なのはが咽せた。
「ちょ、なのは、大丈夫?」
「だっ、大丈夫だよっ!? 何でもないよっ!? ホントだよっ!?」
 背中をさすってくれながら心配そうに見るユーノに対し、なのはは顔を真っ赤にして
そう誤魔化すことしかできなかった。顔を逸らし、紙巻きを吸う。
 そんな態度を不思議に思いながらもユーノはシガレットケースを手に取った。中から
1本を取り出して咥え、火を点けようとライターに手を伸ばしかけて、なのはを見る。
 先程渡した紙巻きを吸っているなのはの姿がそこにあった。煙草を吸う女性というとあまり
良いイメージがないのだが、赤い顔で必死に落ち着こうとしているその様は何とも可愛らしい。

437キス 5:2013/02/11(月) 11:16:03 ID:dQ8saOv6
 そこで、ふと思い出したものがあった。今とはまったくシチュが違うけれど、映画や小説等で
たまに見かける、煙草を吸う男女による行為。
 もちろん今までにやったことはないし、上手くいくかも分からないが、やってみたくなった。
だから、ライターを手に取るのは中止して、
「なのは、ちょっとこっち向いて」
「え?」
 声を掛け、振り向いたなのはに顔を寄せる。紙巻きを持ち、なのはの咥えた紙巻きに
その先端を近づけた。なのはの火にこちらの紙巻きの先端を触れさせ、火が移ったところで、吸う。
いつもどおりの味と香りが広がった。よし、うまくできた。
 なのははそのまま固まってしまった。顔は赤いままで、しかし紙巻きを吸うことは止めていないようで。
灰が落ちる前に香炉を灰皿代わりに差し出すと、ちゃんと灰をそこに落とした。
 やがて、ユーノもなのはも紙巻きを吸い終える。なのはは未だに固まっている。というか、
どこか惚けているようにも見えた。
「なのは、どうかした? ひょっとして合わなかった?」
 紙巻きが駄目だったのかと尋ねると、なのはは顔を少しだけ逸らして首を振った。
「ううん、そうじゃなくて……えと、さっきの……」
 こちらをちらりと見て、視線を逸らして、またこちらを見て。そんな事を繰り返しながら、
「え、っとね……すごく、ドキリとしたの」
「何が? 何に?」
「ほら、ユーノ君が自分の紙巻きに火を点けるために、顔を近づけたでしょ? あの時。
すごく顔が近くて、でもそれだけじゃなくて……普段は見られない雰囲気というか、大人っぽいというか、
色気があるというか……とにかく、すごくドキリとしたの。それに、紙巻きの匂いというか……
さっき、ユーノ君のお部屋の匂いだって言ったけど、これってユーノ君の匂いでもあるんだよ」
 そう言われると、そうなのかもしれない、とユーノは思う。紙巻きとして吸うのもそうだし、
香として焚くこともする。匂いが染みついていてもおかしくはない。
「だから、ね……この匂いに包まれていると、まるでユーノ君に包まれてるみたいで……」
 潤んだ瞳と紅潮した顔がこちらに向けられた。ゆっくりと、その顔が近づいてくる。
それにどういう意図があるのかは分かった。
 だから、ユーノも顔を近づける。程なく、2人の唇が重なった。
「……ユーノ君の味がする」
 すぐにも触れ合える距離でなのはが呟いた。
「えー、と……僕の方も同じ味がするわけなんだけど……じゃあ、これからは、僕にとってこの味は、
なのはの味ってことでいいのかな……」
 少し困ったような顔をして、それでもユーノはそう言って。
 再度、唇が重なった。今度はより深く、より情熱的に。

438KAN:2013/02/11(月) 11:17:58 ID:dQ8saOv6
以上です。
何だか久々に甘々系のユーなの短編を書けた気がしますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
それでは機会がありましたら、また。

439名無しさん@魔法少女:2013/02/11(月) 11:41:58 ID:YWKWEHcM
リアルタイム投下に遭遇…
甘めええぇぇえええ

440名無しさん@魔法少女:2013/02/11(月) 11:50:32 ID:ZcgTvy36
>>438
グッジョォォォブ!
エロはないけど自然に甘甘なよいSSでした。

あれ?ユーノ祭りでなのはが相手なのってこれで2作目だ。

441名無しさん@魔法少女:2013/02/11(月) 12:07:36 ID:cUmUctuQ
GJ! なんか、ユーノ祭りが始まると聞いて、「こんなのが来るんじゃないかな」
と俺が予想していたようなSSが初めて来た気がする。
尋常じゃない変化球ばかりで、ストレートが逆に新鮮。

442名無しさん@魔法少女:2013/02/11(月) 18:40:23 ID:2d..PlAc
>>441
あれ?
俺いつの間に書き込んだんだ?

443名無しさん@魔法少女:2013/02/12(火) 03:20:14 ID:OwqWVcZY
ああ、ユーなのはこの甘さがたまらねえ。
結構癖になるよなこの甘さは。

444名無しさん@魔法少女:2013/02/12(火) 07:34:44 ID:6gsQ1JK.
吐き気を催す欝ばかりが氾濫する中、とてもよい中和剤になりました。

445くしき:2013/02/12(火) 22:43:30 ID:aRkxnGuM
甘々も鬱々もよいではありませんか
好きなものを選んで読めるバイキングですよ

では投下いかせて頂きます
・非エロ
・時系列的にはPSPゲームの二作目「GOD」の解決直後の話となります
・ユーノさんとシュテルさんがお話しするお話
・タイトル「太陽と明星」

では次からゆきます

446くしき:2013/02/12(火) 22:44:34 ID:aRkxnGuM
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

夜の闇を払うように、ちりちりと無数の火の粉が舞い踊る。

近くに停泊中の次元航行艦アースラの照明も喧噪も、木々や岩山を隔てたこちら側には届いてない。
荒涼とした無人の管理外世界を、立ち昇る火の粉だけが、淡く照らしている。

その灯かりの中、ただ1人佇む人影があった。

いや―――そもそも火の粉は、何かを燃やして生まれたものではない。
人影の周囲から微細な泡のように次々と小さな火が湧き出し、夜天へと舞い上がっているのだ。

闇の中、己の発する火で映し出される、陰影の強いシルエット。
暗闇に溶け込む紫紺の衣を纏い紅い杖を持った、小柄な少女。

『星光の殲滅者』(シュテル・ザ・デストラクター)。

高町なのはの姿を以って顕現した、理知と冷徹の『理』のマテリアル。
そして内に静かな熱情を秘める、炎熱の魔導師。

シュテルは瞑想するように目を閉じ―――自然体でただ、そこに佇んでいた。

447太陽と明星:2013/02/12(火) 22:45:27 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「あれ、シュテル……? どうしたの、こんな所で」

どのくらいの時間、そうしていたのか。
そんなシュテルの背後から、遠慮がちに柔らかな声がかけられた。

「……」

それまで微動だにしなかったシュテルが、ゆっくりと目を見開いてそちらへと向き直る。

シュテルが侍らせる炎に照らし出されていたのは、少女と身の丈とさほど変わらない、やはり小柄な人影。
炎の織り成す陰影の下でも映える金色の髪をした、少年。
ユーノ・スクライアだった。

「盾の守護獣との再戦の誓いを、先ほど果たして参りました。
 今は、胸の内に燻る戦火の余熱を鎮めているところです。
 ―――心躍る、良き戦でしたから」

不意に声をかけられたはずのシュテルは、驚く素振りもせず、あっさりと少年からの問いに答えた。
その際に身に纏う火の粉の勢いが少し強まったのは、戦いの余韻を反芻しての、感情の昂りだろうか。
少女の怜悧な容貌に一瞬だけ、獣性を充足させた猫の表情が浮かぶ。

「ああ、そうなんだ。
 そういえば、なのはも君と戦う約束をしたって言ってたね。
 ……やっぱりエルトリアに行くまでには、なのはとも決着をつけるの?」

「はい、戦わぬ選択肢はありえません。
 我が師とも思えぬ、愚問ですね。
 それとも私の心の内をすべて見透かした上での、弟子に宛てたあえての問いでしょうか」

「いや勝手に深読みされても。別に何も考えは無いよ。
 なのはも乗り気だったし、当事者同士納得してるならいいと思うけどね」

「ナノハと伍するか、越えられるのか―――後塵を拝するのか。
 いかな結果になろうとまずは決着をつけねば、この胸の炎の昂ぶりは本当の意味では鎮まりません。
 ナノハと私、同門弟子同士の戦いと相成りますが、師匠は手を出さずに見守りください」

鎮まりかけていた火の粉が、闘志という燃料を得て、再度荒ぶる。
何にせよ、シュテルが戦いに気負い、そしてそれ以上に愉しみにしている事だけは確かだった。

「……あと何回も言うけど、僕のことはユーノでいいから。
 君のせいで、未来から来た子たちからの『すごい人たち』の師匠だっていう誤解が解けないんだよ」

「本質は違えど、今の私の駆体も戦技も、ナノハのデータをベースとしています。
 貴方が、ナノハの体に仕込み開発した技術も知識も経験も、同じように私の血肉に刷り込まれているのです。
 ゆえにこの身も、心も、貴方あってのもの―――師匠が、私の師匠である事実は変わらないのですよ」

「いや確かに嘘は言ってなけど、それは相当に語弊がある言い回しだからっ!」
 
「何か問題でも?
 それともナノハに対して誤解を否定せねばならないような、爛れた関係をすでに築いているのですか?
 さすが師匠、隅に置けませんね。あやかりたいものです」

困りきった表情でユーノは申し出るが、シュテルのどこまでが本気は分からない慇懃無礼な振る舞いは、止まらない。
ついにユーノは諦めて、話題を切り替えた。

「うん……まあ、いいや。君に敵わないことだけは分かったよ。
 じゃあ、本題だけど。
 ……僕を、ここに呼び出した理由は?」

「そうですね。理由は、簡単なものです」

そう。
人気の無い夜の森の中、ユーノがここに来た理由は、ただひとつ。
シュテルからの―――より正確には、匿名でのこの場への呼び出しに応じたためだ。
指定された場所で目印とばかりに炎を纏う姿から、呼び手がシュテルであるのは明らかだった。
そしてシュテルも、決め付けたユーノの言葉を特に否定せずに続ける。

「ナノハとの戦いへの勝利に、万全を期すため。
 それまでに師の屍を乗り越え、その死を糧として―――さらなる高みに至りたいと思います」
 
少し不穏な単語が会話に入り混じるが、口調も声のトーンも、全く変わらない。
シュテルにとっては日常の延長上にあるごく自然な思考であり、会話。
そして、ごく当たり前の行動。

「私に殺されてください、師匠」

448太陽と明星:2013/02/12(火) 22:46:06 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「え……!?」

ふっ、と。
それまでシュテルの周囲で揺らいでいた火の粉が、一斉に消えた。
ユーノがここに来る際に使用していた光源は、シュテルの纏う灯りがあれば不要と判断したため、すでに消している。

無人の荒野に不意に降ろされた、夜の帳と。
そして新たに灯し直される、一条の『火』。
いや―――

「!」

ユーノは咄嗟にバリアジャケットを纏い、飛行魔法で真上へと躊躇なく跳んだ。
一閃―――現れた『火』は剣の軌跡を描き、直前までユーノの居た空間を薙ぎ払う。
迸る熱気はその先の岩棚に炸裂し、斬撃の形そのままに岩を溶かし崩した。

シュテルが手にしていたルシフェリオンの先端に炎の魔力を通し、槍のように『斬りつけた』のだ。

「―――シュート」

上空に跳び不意の斬撃をかわしたユーノを、シュテルは逃がさない。
ルシフェリオンの空振りと同時にシュテルの足元に魔法陣が展開、すぐさま6個の紅い誘導弾が宙のユーノを追う。

「チェーンバインドっ!」

ここでユーノは初めて魔法を使う余裕が生まれた。
対象は、ルシフェリオンを振り切って体勢が崩れたシュテル―――ではない。

緑の魔力鎖が展開するのは、ユーノの前面。
複数の魔力鎖が網目状に交差し、放たれた魔力弾そのものを投網のように絡め取った。

「ファイアッ!」

「くっ……」

さらにルシフェリオンを構え直したシュテルの追撃―――魔力弾を捕縛したユーノを、紅蓮の砲撃が狙い撃つ。
抜き撃ちとはいえ、炎に変換された大魔力の砲撃は、絶大な殺傷能力を秘めている。

しかしユーノはその砲撃を見越したように、斬撃や魔力弾には使わなかったシールドを厚く、大きく展開。
バリア越しに溢れる熱気に顔をしかめながらも、シールドは自体は堅牢で、揺るがず。
必殺であるはずの砲撃を、むしろ一連の連続攻撃の中で最も危なげなく受け止めきった。

「よく、すべて止めきれましたね。
 不意打ちから早々に焼滅していただくつもりだったのですけれど」

「……戦うのは2回目だからね。
 最初のをかわせたのは奇跡に近いマグレだけど、そこからの追撃パターンは前と一緒だったから助かったんだ。
 むしろ今のは、君の得意な砲撃で不意を打たれてたら、杖より隙は大きくても逃げられなかったと思う」

「なるほど、師の助言に感謝です。
 隙の少ない近接攻撃を初手に選択しましたが、不慣れゆえにかえって予備動作を気取られましたか。
 戦術構築レベルでの手落ちとは、理のマテリアルにあるまじき失態でした」

シュテルの忌憚の無い賛辞に、ユーノは驚愕と緊張で乱れた息を整えながら答える。

ユーノは今の攻防だけですでに息が上がり、冷や汗が吹き出ている。
一方のシュテルは息ひとつ乱さず、静かに、そして熱い闘志を絶やさずにユーノを見据えている。

少女の殺意は、まぎれもない本物。
そして語られる賛辞も謝意もやはり、一片の皮肉すら含まぬ、心からのものだ。

シュテルは、なのはと戦うためのいわば前哨戦として、ユーノを殺そうとしている。
迷いの無い行動から、シュテルの中でこの理屈は明白なものであることは間違いない。

けれど、とユーノはシュテルの言動に疑問を抱く。
それははたして、シュテルの本意なのだろうかと。

449太陽と明星:2013/02/12(火) 22:47:03 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「……シュテル、少し訊きたいことがあるんだ」

「なんなりと、どうぞ」

シュテルはルシフェリオンをユーノへと照準しながらも、さして戦い自体の続きを促すわけでなく、淡々と答えた。
それを受け、ユーノは息を整えながらゆっくりとシュテルへ問いかける。

「僕と君が戦う理由なんだけれど。
 ……別に僕を倒さなくても、なのはとは何の憂いも無く戦えるはずだよ。
 君自身も最初に言っていた通り、感情の区切りとしてなのはと戦うのであって、勝敗は関係ないはずだから」

「……?」

「だから改めて訊いてみようと思う。その上でで答えが変わらないなら、それでかまわないよ。
 ―――君は、何のために僕と戦うの?」

そう、ユーノはシュテルの言動に齟齬を感じた。
シュテルの言葉通りなら、ユーノを殺すのは、なのはとの戦いに勝利するため。
けれど戦いに勝敗は無関係であると、直前にシュテル自身が口にしているのだ。

「……」

ユーノの問いかけに、シュテルはルシフェリオンをユーノへと向けたまま沈黙した。

なぜこの局面で訊くのかという、疑問からではない。
その言葉を、時間稼ぎや命乞いと受け取ったわけでもない。
自らの言葉と行動の乖離を指摘され、それを否定する言葉が出なかったのだ。

何ら疑念を抱かなかった想いが、ユーノの一言でゆらぐ。

糧を得ねば、なのはに勝てないのか。
そこまでなりふりかまわずに勝たねばならぬ戦いなのか。
そもそも、その相手がユーノでなければならないのか。

改めて理論的に考えれば、導かれる答えはすべて『否』だ。

なのはとの戦いに、勝敗は無関係。
勝つに越したことは無いが、負けてもそれは己の未熟であり、それは受け入れられる。
なのはとの前哨戦であれば、盾の守護獣とすでに戦っており、それでも足らぬのならば、強者はまた別に居るだろう。
いかに技巧者でなのはの師といえ、戦う手段を持たない結界魔導師を戦闘の相手に選ぶ必然性は皆無だ。

ならばなぜユーノと、だまし討ち同然の行為を行ってまで戦いたかったのか。

「……」

「理由は、見つかったかい?」

シュテルが、仮にも戦いの中で無防備に内面を見返す経験は、後にも先にもこの時だけだったかもしれない。
そしてユーノはそんな少女をただ、見守っていた。
友人を気遣う少年の表情であると同時に、弟子の自覚を促す師のような面差しでもあった。

ユーノには、シュテルの行動に対して、ある程度の確信めいた推測がある。

例えば、彼女のオリジナルである高町なのはが戦うには、いつも確固たる理由があった。
なのはにとっての戦いとは、話し合えない相手との対話手段。
伝えたい想いを伝え、伝えきれない想いを読み取るための、声にならない言葉なのだ。

ならば、シュテルがこの戦いを仕掛けた理由は―――

「そう、ですね……見つかりました」

考えに沈んでいたシュテルの瞳に、意思の光が戻る。
けれどその表情は直前までのクールさとは違い、いささか朱が差しているようにも見えた。

「私ですら気付かなかった真意に気付かせていただいた、師の慧眼には感服いたします。
 しかしながら―――同時に、いささか業腹でもあります」

「……え? えぇ?
 なにか僕が、気に障るようなことでも……!?」

それは、ひょっとしたらユーノが初めて間近で見る、シュテル個人の静かな『怒り』だったかもしれない。
そしてその激情は、目の前のユーノへと向けられていた。

「ナノハを越えるため。
 最初に出会ったときにつかなかった、貴方との決着をつける為。
 理由はいくらでも後付けができますけれど、本当のところは……」

足を前後に広げて腰を落とし、ルシフェリオンを水平に構えた、全力砲撃を行う際の、なのはと同じ構え。
その切っ先に、全開の炎熱の魔力が問答無用ともいえる勢いでチャージされていく。

「ちょっと、話を聞いてくれるんじゃ……!?」

「聞きました。答えです。
 とりあえず1度、その記憶も体も余さず焼滅されて下さい。すべてはそれからです」

それまでのクールな言動を翻し、突然感情的になったシュテルによる極大砲火が、ユーノへと放たれた。

450太陽と明星:2013/02/12(火) 22:48:01 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「失礼―――少々、取り乱しました」

「うん。
 冷静に連続攻撃されたときよりも、今のほうが正直もうダメだと覚悟したのは秘密だけどね」

シュテルはいつも通りの涼しげな慇懃さで、スカートの端をわずかに摘み上げながら優雅に一礼してみせた。

地面をマグマ化させる熱量の砲撃をサーチライトのように振り回してユーノを追い駆けた直後とは思えない、平静な姿。
一瞬の激昂を、砲撃の熱として発散させてしまったような変わり身の早さだ。

一方のユーノは全身を燻らせながらも、何とかシュテルと向かい合っている。
砲撃の余波で周囲は焼け焦げ、暗闇の中に点在するマグマ溜まりが淡く照らす、別の意味での異世界の光景だ。

「それで……」

「本心を言えば。
 ただ貴方と、解り合いたかっただけなのかもしれません」

話を続けようとするユーノを遮り、シュテルは先ほどの続きを―――改めて気付かされた本意を、端的に語った。

ほぼ、ユーノの予想していた通りの答え。
相互理解のための最も効率良いコミュニケーション手段として、この少女は理性に基づき『戦い』を選択したのだ。
自分自身ですら気付かずに。

気持ちや考えを、言葉で他人に伝えるのが不器用で。
それどころか周囲の機微に聡くても、自分の事には、まるで鈍感。

やはり高町なのはとシュテルは、外見とはまた違う意味で、どこか似ている。
訥々と内面を語るシュテルを見ながら、ユーノは改めて2人の不思議な縁を感じていた。

「うん……そうだったんだ」

「ただし。
 だからといって、『貴方のことを知りたかった』などと本人も気付かぬことを、気付くように仕向けるとは……
 世界の終わる刻まで後悔に塗れながら煉獄で焼かれ続けられるべき、情緒に欠けること甚だしい行為です」

砲撃後の一礼以降、戦いの気配を収めていたシュテルの瞳が、再び静かに熱を帯びる。
斬撃にも砲撃にも移行できる炎の魔力を宿しつつ、ルシフェリオンの切っ先がユーノに向けられた。

「え……あ、うん、その……ごめん。
 軽々しく、生意気なこと言っちゃって……」

「何故謝らなければならぬのかを理解していない謝辞など、意味がありません。
 ……朴念仁なのは、他人を笑えたものではないでしょうに」

攻撃の脅威よりも、シュテルの静かな激情に晒されたことに戸惑い、とっさに頭を下げるユーノ。
しかしシュテルは、ユーノがその理由もわからぬまま謝罪していることを看破し、ぴしゃりと切り捨てた。

シュテルの矛盾を指摘して動機を見抜く洞察力がありながら、それによる感情の機微はまるで読み取っていないのだ。
そんなユーノのちぐはぐな朴訥ぶりが、シュテルから再燃しかけた炎を冷ました。

451太陽と明星:2013/02/12(火) 22:49:49 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「まあ、よいでしょう。
 貴方の後にはナノハと戦い、そしてその後は―――再会叶わぬ、刻を隔てた世界へと往くのです。
 無粋な我が師も、そして不屈の好敵手のことも。
 戦いの内で余すことなく識り、記憶に留めておきましょう」

依然、炎気を纏うルシフェリオンを構えたままではあったが、雰囲気を緩めてシュテルは語りかける。

「それと、腫れ物に触るように言葉を選ばずとも、もっと明け透けに話していただいて結構ですよ。
 こうして知る機会を設けているように、師としての敬意のほかに、貴方自身にも近しい想いはあるのですから」

「うん……ありがとう」

融解した地面からわずかに照らされるだけの少女の表情は、なのはの話に及ぶと愉しげになり、口数も増える。
だからユーノは、自然となのはの話題を口にした。

「じゃあ、聞かせてもらうけど……君にとって、やっぱりなのはの存在は大きいの?」

「はい。
 心の在り方を好ましく思います。
 ゆえに、もっと知り合いたい―――だから、戦います。師と同じように」

最初の頃のフェイトと話しているようだと、ユーノは1年前の出来事を思い出した。
なのはという共通の知人の話題を経ることで、滑らかに溝が埋まっていくのを感じる。
まるでその場に居ない高町なのはが、2人を繋げているように。

「なのはのことが、好きなんだね……ああ、変な意味じゃなくて」

「すこし、違いますね。
 親愛や友情と言うよりは―――憧憬と郷愁、でしょうか」

「……あこがれている、ってこと?
 それに生まれた世界も時代も違うのに、懐かしむような共通点があるの?」

シュテルの不思議な物言いに、ユーノは会話の流れを掴めずに困惑する。

ユーノの見る限り2人の関係は気の合う好敵手といった雰囲気で、互いの憧れというイメージからは遠い。
なのはの存在に、故郷への想いを感じるというシュテルの言葉の意図は、なおさらだ。

「……」

そしてその言葉を口にした後で、シュテルの表情が少し改まる。
また何も考えずに話しすぎたかと慌てるユーノを尻目に、少女は構えを解いて、唐突にくるりとユーノへと背を向けた。
永い時を歩んできた達観と、幼い子供のような繊細さを背負う、小さな背中だ。

「あ、そのっ……」

「……今からは、独り言です。
 私の言葉は誰にも語らず、夜明け前までに胸の内で焼却してください」

火の消えたルシフェリオンを片手に持ち替えたシュテルが、そのまま夜天を見上げる。
少女の後姿を見ていたユーノも、つられて夜空を見た。

夜といってもまだ夜半にも及ばず、シュテルが仰ぐ夜明け前の紫色の天には、まだ遠い。
けれど少女はそこに想いを馳せるかのように、ユーノに背を向けて、『独り言』を語りだした

452太陽と明星:2013/02/12(火) 22:51:11 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「柄にもなく、取りとめも無く、想うことはあります。
 ……我らマテリアルの出自や、そのパーソナリティの在り方について。
 理のマテリアルとしての理論ではなく、正反対の―――感傷と情動な物言いですけれど」

「……」

マテリアルの出自。
古代ベルカの時代に、紫天の書の構成体として創られたプログラム。
後に夜天の書に組み込まれ、闇の書の中に沈み、けれど意識は保ちながら、外界を観察し続けた日々。
その頃から『星光の殲滅者』の名もパーソナリティも確立し、胸に灯る『火』も確かにあった。

けれど、とシュテルは続ける。

「闇の書の枷から放たれてこの駆体を得たのは、3ヶ月前―――あの街の、冬空の下。
 ナノハのデータを得た『今の私』は、それ以前の私とは明確に異なる存在として顕現しました。
 だから今の私の故郷は案外、あの街と言えるのかもしれません。
 ……ナノハと同じ街の生まれという事になりますね」

永きを過ごしたはずの本来の駆体の感覚を思い出すことさえ出来ないほどに、新たな体は心地良くシュテルに馴染む。
あるいは元来のデータと、高町なのはのデータとの整合性が良かっただけの、単なる偶然の結果なのかもしれない。

ただ唯一、自分のものではないという違和感を感じるとすれば、それは―――胸の内で燃える、炎の熱さだ。
魔力と熱情の双方の源である胸の内の火は、時にシュテル自身が持て余すほどに熱く、強い。

確かに、覚えているのだ。
過去の自分はもう少し冷徹で―――御しきれぬほどに、熱くはならなかった。

原因を求めるとすれば、それは外からの要因。
つまりシュテルは、炎熱変換ではない心の熱を、高町なのはから受け継いだとも結論付けられる。

ゆえに、これはただの憶測であり、叙情であり、あるいは願望であるやもしれませんが、とシュテルは前置きした。

「レヴィは、闇の書に蒐集されたフェイト・テスタロッサが抱えていた心の『痕』から。
 ディアーチェは、闇の書が記録していた八神はやての拭い得ぬ心の『罪』から。
 そして私は―――
 闇の書の管制人格や騎士たちがナノハとの戦いの中で感じ取った、心の『火』から生まれたのではないのか、と」

だから、私の胸の内に在る、想いの源である『火』は、ナノハ自身の輝きなのかもしれません。

少女は、夜天を見上げながら呟いた。

453太陽と明星:2013/02/12(火) 22:52:18 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

過去と形を変えた、今の自分が自分であるが故のデータの、オリジナル。
『同郷』の先達。
それゆえの憧れと、故郷を同じくするものへの親近感。

そこに込められるシュテルの、高町なのはへの本当の想いは―――

「……別れたくないと、思っているんだ?」

「―――!」

思わず、ユーノの口から考えが漏れる。
同時にぴくりと、高町なのはと同じ後姿が震えた。

「……」

「その、ごめん……」

『独り言』という名の内心の吐露に、口を挟んでしまったこと。
そしてその言葉がまたしても、確信を突いてしまったこと。

先ほど、こっぴどくシュテルに非難されたばかりだというのに。
ユーノは自分の無神経ぶりを、本気で自虐する。

「―――このまま、貴方達がいる世界に留まるのも、とても魅力的だと思えるのは確かですね」

けれどシュテルは今度は咎めることなく、淡々とユーノの呟きに答えた。

「シュテル……」

「今更ですよ。
 見識のわりに気の利かない無粋な師匠のことも、記憶に留めておくと申し上げたでしょう。
 ……それに」

と、背を向けたときと同じく唐突に、シュテルはユーノへと向き直る。

いつものクールな立ち居振る舞いとは雰囲気が異なる、外見相応の少女の仕草で。
あるいは、猫の瞳のように気まぐれに燃え移る気性こそが、普段は表に出せないこの少女の本質なのかもしれない。

「私とて、矜持も羞恥もあります。
 出自を同じくする同胞にも話せぬ内心はありますし、それを抱えて葛藤するのも皆と変わりません。
 ……今、この場で話さなければ、おそらくはこの身が朽ちるまで誰にも言えぬ想い。
 ナノハでもなく、もう会うことのない誰かならよいというわけでもなく―――貴方なれば、話せたことです」

「そう……なんだ」

不意に向けられた素直な少女の一面に妙にどぎまぎとしながらも、ユーノはシュテルの胸の内を想う。

シュテルは行き場の無い葛藤を抱え、どこかで発散させる機会を望んでいたのかもしれない。
そんな少女が、自制心を払い内面を晒す事が許される機会と相手を得たのだ。
それが始めは死線をくぐる戦闘への欲求という形で現れ、そして今は取り留めない言葉となっている。

できれば穏便な形が良いのだが、そういった相手として選ばれたこと自体を、ユーノは嬉しく思う。
ならば、気の済むまでは話し相手であとうと、戦いの相手であろうと、付き合うべきだろう。
夜明け前までに忘れろ、ということは、少なくともそれまでは多少踏み込んで話してもいいのだろうから。

454太陽と明星:2013/02/12(火) 22:53:34 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「もし君たちがこの時代に残ったとしたら……そんな『もしも』の未来が、あったなら。
 君は管理局の嘱託魔導師にでもなって、なのはと一緒に空を飛ぶの?」

「それも、好いですね。
 ……けれど私の『故郷』では―――明星は、権威にはまつろわぬものなのですよ。
 ゆえに王のお守でもしながら、晴耕雨読の生活でもいたしましょうか」

唐突に振られた無意味な話題にも、シュテルは満更でもなさそうに考える。

『王』と『盟主』を抱く身でありながら、権威に従わぬという、矛盾に満ちた物言い。
シュテルを従わせているのは、義務や権威ではなく、ひとえに上に立つ者の人柄なのだろう。
ゆえに彼女は未練を断ち切り、未だ見ぬ世界へと旅立つのだ。

「……なのはは、残念がるだろうね。
 きっと君はフェイトやはやてとは違う意味で、いい友達になれただろうから」

「決着がついた後は、共に空を飛ばないかと誘われました。
 それで満足していただきましょう」

「うん……なのはにとっては、最高の親愛の言葉なんだと思うよ。
 なのはが魔法に出会って一番うれしかったのは『空を飛べること』だって言っていたからね」

高町なのはと同じ空を飛ぶことに想いを馳せるシュテルの顔は、まぎれもなく愉しげだった。
けれど、と少女は言葉を続ける。

「それに……ナノハと共に駆ける青空は、私には眩し過ぎるのですよ」

「眩し過ぎる?」

何度目になるかと言う意外な言い回しに、ユーノはただ相槌を打つ。
シュテルは、まだ何か言葉を続けようとしてる。
遮らずに最後まで、その胸の内を知りたかった。

「私が飛ぶのは、闇から暁へと変わりゆく、夜明け前の紫色の天。
 ゆえに私の座は、ナノハの隣ではなくディアーチェの懐にあるのです。
 明星は―――掴み得ぬ太陽に挑むために、紫天の空で一番強く輝く星なのですから」

明星。
太陽が昇る前の空で最も明るく輝くが―――太陽が現れればその輝きにかき消されてしまう星。

シュテルは、自分が明星であり、高町なのはが太陽だと例えている。

世界で、もっとも強い『火』―――並び立たず、それゆえに焦がれ、それでも掴みえぬ『太陽』。
それがシュテルのにとっての、高町なのはという存在なのだ。

「さて―――」

そこまで言い切ると、シュテルは下げていたルシフェリオンを両手で構え直した。

感情に振り回された外見年齢相応の少女は、もうそこに居ない。
目の前に居るのは、戦いによって師を知ろうとする、クールな理のマテリアルだ。

「―――胸のうちに篭る熱を、曝したところで。
 先ほどの続きを、お願いしたいのですが」

455太陽と明星:2013/02/12(火) 22:54:34 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

ユーノの返答を得るまでもなく、息苦しいほどに熱く、2人の周りの魔力が高まってゆく。
どこからともなく、誘蛾のようにゆるゆると焔気が渦を巻き、シュテルの掲げるルシフェリオンに集い始めているのだ。

「そうだね。なるべく期待に沿えるように、がんばってみるよ」

ユーノも特に文句も言わず、そして最初の奇襲のときのような焦燥と緊張に支配されることもなく。
『対話』に逸り、再び殺気すら纏い始めた少女へと向き合った。

「私の全力にして全開の炎―――抗う術は、ありますか?」

ユーノを知るために、全力で。
思いの丈を、全開に。
半身であるルシフェリオンに、すべてを込める。

「期待に添えられるよう、努力はしてみるよ。
 僕も結界魔導師として、なのはの集束砲撃をどう防ぐのかを考えなかったわけじゃないからね」

「はい―――では、魅せてください」

その言葉を合図に、ルシフェリオンの先端へと集まる魔力が、緩やかな流れから火の渦のように一気に高まった。

「疾れ、明星(あかぼし)。すべてを焼き消す焔と変われ」

高町なのはのそれを星屑が集まる様に例えるならば、シュテルのそれはさながら、火の粉の群舞。
あるいは、ユーノを待つ間に吹き上げていた炎の魔力も、この為の布石だったのかもしれない。

「我が魔導の、全てを賭けて」

炎熱の魔力を乗せた、集束砲撃。
魔力変換の資質は大魔力の運用と両立し得ないという常識をも組み伏せる、理の外にある切り札。
集まる魔力が同じと仮定すれば、炎熱変換を加味して、破壊力では高町なのはをも上回る一撃。

熱く、強く、理詰めで組み上げられた理不尽という、この少女自身を象徴するかのような魔法。

「轟熱滅砕―――真・ルシフェリオン・ブレイカー!」

456太陽と明星:2013/02/12(火) 22:55:38 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

底無しに高まる炎熱の魔力に対し、ユーノは臆せず魔法を唱える。
それに応じてユーノとシュテルを隔てるように現れたのは、広大な翠色の魔力シールド。

ただし、大出力の砲撃を受け止める『壁』のような堅牢なイメージはない。
面積自体は集束砲撃の直径を丸ごと飲み込むほどに広いが、相応の厚みがないのだ。
むしろ印象は、通常のシールドをそのまま大きく広げたような『膜』。
そんなシールドが、砲撃発射の瞬間に十数枚、ユーノとシュテルの間に重ねられるように配置された。

シールドを複数重ねて砲撃の威力を削ぎ、止める魂胆か。
いや。
その手段では高町なのはの集束砲撃すら止められないと、他ならぬユーノ自身がデータを検証して結論付けている。

事実、シールドはルシフェリオンブレイカーに触れた瞬間に、全く威力を削ぐこともなく割れ砕けた。

「―――ッ!」

そう、シールドであるにもかかわらず、砲撃の威力は削がれなかったのだ。
ならば『膜』の役割は、単純な防御ではない。

足を止めて砲撃を射出するシュテルが、ユーノの展開した『膜』の特性に気付いた。
最初のシールドを砕き通過した砲撃が、わずかな角度ながら外側へと『逸れた』のだ。
そして2枚目、3枚目と続けて通過するうちに同じ角度ずつ砲撃は外側へと流され―――

屈折角度を計算して、砲撃の射出角度の修正―――不可能。
シュテルは、もてるリソースの全てを砲撃出力と集束制御に割り当てている。
文字通りの全力の一撃であり、この砲撃射出中にリソースの再割り振りを行う余裕が無い。
何かを為すのは、すべて砲撃を撃ちきった後だ。

そして、最後のシールドが砕けた瞬間にシュテルの砲撃は止まる。
ユーノのすぐ脇から後方にかけての大地は大きく抉られ、溶岩流さながらに融解しているが、肝心のユーノは無傷。
全開の一撃は、余波でユーノの肌を火照らせる程度に留まり、全てが受け流されていた。

まるでシュテルの射出時間と総エネルギー量までを計算に入れて配置したような、幕引きだった。

457太陽と明星:2013/02/12(火) 22:58:35 ID:aRkxnGuM
▼▼▼

「……こうまで読み切られると、さすがに自分の不甲斐なさに立腹致します」

開口一番、シュテルは怜悧な表情の下に自分への苛立ちを滲ませる。
怒るというよりは、拗ねるような口調だ。

ユーノのことはこの上なく認めているが、それと悔しさはやはり別物である。
通じないとすれば、仕える王の沽券に係わのだ。

「そこまで褒められるものじゃないよ。
 ……さっきも言ったけど、僕は君の手の内をU-D戦まで含めて全部見ているわけだから、対策も立てられる。
 次はもう効かないし、新しい対抗手段なんて思い付かないから、一度だけしか効かないだまし討ちだよ」

「そこは誇ればいいのです。
 勝者が己を卑下する行為は、破られた側への侮辱になりますから。
 それに、お見せしましょうか―――いかな防御であろうとも、穿ち貫く技を」

水平に構えたルシフェリオンの切っ先に火が灯り、槍の穂先そのものの硬質のストライクフレームが形成される。
同時にその刃を包むように、爆発的な推進力を生み出す炎の6枚の羽が現われた。

「猛れ、甕星(みかぼし)。全てを穿つ、焔槍と変われ」

A.C.S――― 高速突撃砲。
高町なのはがリインフォースとの戦いで見せた、シールドをその穂先で貫いての、零距離砲撃。

意地になって負けを認めない子供のようだ、とユーノはシュテルを見て思う。
もしかしたら、高町なのはの攻撃をすべて受けきれたなら、彼女もこんな表情を浮かべるのだろうか。

「まあ、ここまできたら最後までつき合わせてもらうけどね。
 ……でも極論、僕には君を倒せない。それだけは確かなんだけど」

「簡単です。私に、『参りました』と言わせてください。
 それで最初にして最後の逢瀬は、お開きにしましょう」

「難しいよ……もう手持ちの引き出しも少ないんだし」

「大丈夫。できますよ、私の師匠であるならば。
 では、往きます―――ユーノ・スクライア。
 貴方のすべてを、識るために」

かくしてこの対話は、夜明けまで―――この世界が紫天の空を迎えるまで続けられた。

▼▼▼

翌朝。
戦場の傍らで気絶していた盾の守護獣が、煤まみれのまま1人でアースラに歩いて帰って来たのは、また別の話。

458くしき:2013/02/12(火) 22:59:11 ID:aRkxnGuM
以上でした。

では、失礼いたします。

459名無しさん@魔法少女:2013/02/13(水) 00:15:54 ID:tyeMiXUA
乙乙
砲撃言語って言葉が読んでる間ちらちら頭をよぎったw

460名無しさん@魔法少女:2013/02/13(水) 01:07:18 ID:BXmnE.qk
>>458
投下乙です。
伝えなければならない…分かり合うとはこんなにも物騒だということを(ぉ

461名無しさん@魔法少女:2013/02/13(水) 01:39:24 ID:qQtccN6A
乙乙

何故か前書き部分のユーノとシュテルがお話しのところで
OHANASHIと読んでしまったが砲撃言語という意味では間違ってなかったw

462名無しさん@魔法少女:2013/02/13(水) 13:38:02 ID:OuujjZkY
2人の間なら~確~かに、感じぃぃぃぃらぁれるぅ~♪
先生、続きが読みたいです

463acht ◆bcRa4HtgDU:2013/02/13(水) 21:00:25 ID:qQtccN6A
|д`) どうもおばんです 寒さがきつくて筆が進まず遅刻失礼しました
例によって一晩仕様のゆーなの短編です

・甘さを感じる暇なんてなかった
・Vivid直前
・フェイトそんはまともだけど不憫
・独自設定

以上の要素が含まれておりますのでご注意下さい
タイトルはネタバレなので最後につけます悪しからず

464acht ◆bcRa4HtgDU:2013/02/13(水) 21:01:38 ID:qQtccN6A


世間を騒がせたJS事件から半年。機動六課も無事役目を終えて解散し、高町なのはは原隊である教導隊に復帰した。
しかしながら半年の間、無理をせずに療養していたにも関わらず、未だ後遺症は癒えておらず、デスクワークが彼女の主な仕事になっていた。
もっとも、それだけが彼女が仕事の方向を変えた理由ではない。
ヴィヴィオを引き取り、母としての役割を持つことになったことは無関係ではないはずである。


「ただいまー」

「お帰りなのは」


大抵の場合、まだ仕事をしている同僚たちにちょこっとだけ罪悪感を覚えつつ、なのはは定時で帰ることが多くなった。
寝る時間すら削って指導に全力全開で向かう姿勢から、もしかするとこの若さでワーカーホリックなのではと心配していた周囲は一様に胸をなでおろしたという。
むしろ最近では、今日は珍しく早く帰宅しているフェイトの方が働きすぎなのでは、と言われるほどである。
尚、このことについて人間変わるものだな、と年寄りくさいことを言ったクロノは三十前の人間の台詞じゃないねという妻の“口撃”で轟沈している。


「やあなのは、お邪魔してるよ」

「お帰りなのはママー」


こちらも仕事人間疑惑のある無限書庫司書長がヴィヴィオと戯れていた。フェレット姿で軽く手を挙げる様がどこかキマっているのは気のせいだろうか。
ただしユーノの場合、歴史の資料の宝庫とも言える無限書庫という仕事場は、息抜きのためにこもってもいいとさえ思う空間なので仕事中毒とは少し違うのだが。
ヴィヴィオは休日に結構な頻度で無限書庫の一般開放区画へ行って本を読んでいる。自分なりにJS事件で思うことがあったのだろう。
古代ベルカ関係の文献を解説書片手に四苦八苦しながら読んでいるのを休憩中だったユーノが手ほどきして以来、すっかり仲良しになってしまったようである。


「ただいま。うちの方に来るのは珍しいねユーノくん」


確かにそうだね、とあごに手を当てて神妙な顔をするフェレット。付き合いが長いせいかなのはには表情が分かるのだが、周囲は黙って首を横に振る。
書庫で会った縁とでも言うのだろうか、ヴィヴィオとユーノが出会うのは専ら無限書庫や図書館、本屋など、書物繋がりが多いという。
約束もせずにどうしてそうよく遭遇するのかとなのははいぶかしんだが、行きつけの場所を両者に伝えていたのが本人であることは忘れているようである。
ヴィヴィオがユーノを解放すると彼はぴょんとソファーに飛び乗って変身魔法を解除した。
あごに手をあてたポーズはそのままなのだが、どうして皆にはフェレット姿だと表情が想像できないのだろうか。


「実は最近知ったのだけれど、なのはの故郷では夫婦は結婚指輪というものをするらしいね」

「そうだよユーノくん」


ヴィヴィオの頭を撫でていたフェイトが怪訝そうな表情で顔を上げる。
ユーノは博学ではあるが、管理世界ならともかく、管理外世界の風習を知らなくても無理はない。
だが、この話の流れで何故唐突に結婚指輪とか夫婦という言葉が出てくるのだろう。
フェイトは一瞬、自分がフェイトママ(父)というポジションならば、
なのはママ(母)とおそろいの結婚指輪をするべきなのかと思ったが、いや、それはおかしいだろうと打ち消した。
立ち位置はともかく、それはおそらく法的な夫婦のするものだ。友達感覚のアクセサリーとしてのおそろいならともかく。


「そうなると、僕はなのはとおそろいの結婚指輪か、それに代わるようなものを贈るべきなんだろうか」

「んーでも指輪は教導のときに危ないから外すことになっちゃうからねぇ」


なんだかんだでやっぱりこういうリラックスした時でも仕事思考が入ってしまうんだな、とフェイトは心の中で苦笑しながらヴィヴィオを抱き上げようとして――

465acht ◆bcRa4HtgDU:2013/02/13(水) 21:02:25 ID:qQtccN6A





「え」






停止した。









「えっと、なのは、ユーノ。それってどういう」

「あれ、言ってなかったっけ」

「そういえば六課結成のどたばたで伝え損ねたような気もするね」

「忙しかったから仕方ないね。わたしの里親をどうしようかーとかもあったんだろーし」


あはは、と笑う二人とフェイトママ知らなかったの、と不思議そうな顔で見上げるヴィヴィオ。


完全に凍結状態だったフェイトが解凍され、真相を聞き出して愕然とするまで、もうしばし、時間がかかるのであった。

466acht ◆bcRa4HtgDU:2013/02/13(水) 21:04:20 ID:qQtccN6A

タイトル『結婚したって本当ですか?』
実はなのはさんとユーノは既に結婚していた説。

ワーカホリックさんたちだから式を挙げている余裕がありません。

どうも作中の既婚者さんがデスクワーカーであっても指輪をしている様子がないので結婚指輪の文化はミッドにはないっぽい。
なのはさんは言うまでも無く教導官なので普段はしてない。
→じゃぁなくてもいいか(現実主義者二人が集まるとこうなる

両親
→ユーノ側はそもそも許可をとる相手がいるかすら怪しいし、高町家はなのはが決めたことならなんだかんだで通してしまいそう(中卒→警官を認める家族だし

仕事中毒じゃなかったと見せかけてやっぱり思考が仕事中毒だったでござるという話でした。
ユーノとなのはは一緒にいるのが自然すぎて周りが変化に気付かない甘さというのが似合うんじゃないでしょうか

467acht ◆bcRa4HtgDU:2013/02/13(水) 21:05:40 ID:qQtccN6A
追記

知らないのはフェイトさんだけじゃなくてはやてとか他の面々も全く気付いてません
フェイトそんだけ除け者ってわけじゃないんだよ あたふたさうるふぇいとそんかわいい

468空の狐:2013/02/13(水) 23:36:47 ID:atpqfn56
ありそうで怖い。そして、フェイトそんの慌てる顔が目に浮かびます。

ところで、14日はバレンタインですが、
0時からバレンタインネタのを投稿してもよろしいでしょうか?

469名無しさん@魔法少女:2013/02/13(水) 23:56:27 ID:a4fTjFI6
YOU ヤッチマイナYO !

470空の狐:2013/02/14(木) 00:02:00 ID:z4n2vN.U
ありがとうございます。
それでは、『みんなのバレンタイン』始めます。
ユーノ編、トーマ編、エリオ編の三段構成です。

471みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:02:45 ID:z4n2vN.U
 バレンタインデー、それは親しい異性に対してプレゼントを贈る日なのだが、日本ではいつの間にか女性がチョコレートを贈る日となってしまった。まあそこはチョコレート会社の陰謀であろう。
 本来は地球の宗教の祭日が変化したものではあるものの、地球、特に日本からやってきた者たちの手によっていつの間にか管理局でも広まっていたのだった。

「司書長、受け取ってください!」
「ありがとう」
 休み時間に新人の女性司書からチョコを受け取る。本日二十個目のバレンタインチョコだった。
 司書の子を見送ってから袋の中に入れる。
「毎年のことだけど、多いねえ」
「だいぶ慣れたけどこの量はちょっと……ねえアルフ」
「手伝わないよ。ていうかそれは失礼だと思うよ」
 まったくもってその通り。女の子が作ってくれたチョコを他の誰かに食べさせるなんて……
 しばらくは間食は全てチョコかなとユーノは諦めて、
「ユーノくーん!」
 聞きなれた女の子の声に振り向く。

472みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:03:30 ID:z4n2vN.U
「なのは」
 そこにいるのは管理局の制服に身を包んだ幼馴染の女性。
 その手には可愛らしくラッピングされたチョコ。
「はい、バレンタインのチョコ」
「ありがとうなのは」
 チョコを受け取ってそれを袋に入れようとしたけど、
「えっと、ユーノくん、できたらすぐに食べてほしいかな」
 そんな風になのはがお願いしてきた。
「え? うーん、そうだね折角もらったんだから」
 ささっとユーノはラッピングを解く。
 出てきたなのはのチョコはハート型の直球なデザインだった。特に変わったところはないなあと思いながらチョコを食べる。
 最初に感じたのはビターな味。砂糖は控えめで、チョコの持つ本来の香りと苦みが口の中に広がる。少しなのはっぽくないなとユーノが思った瞬間に甘みが広がる。
 クリーミーな甘みがビターな甘みと一体となって段々と味が変わっていく。見ればチョコの中にチョコとは違う白いクリームのようなものが入っていた。
「これ、面白いね。二段階に味が変わるんだ」
「うん、毎年普通のチョコだと飽きちゃうかなって思って。どうだった?」
「すごくおいしかったありがとう」
 ユーノの言葉になのはは華やかな笑顔を浮かべる。
 その後ろでアルフはあちーっとワザとらしく汗を拭っていた。

473みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:04:07 ID:z4n2vN.U
 そして、なのはを見送って、ユーノは仕事に戻ったのだが、なんか書庫の入り口の方が騒がしくなっていた。
「私が先だよ!」
「違うわね私が先よすずか!」
 またもよく知る声、それも二人。
「何してるのすずか、アリサ?」
 ちょっと呆れ気味にユーノは二人に声をかける。
 ユーノに気づいた二人はお互いから距離を取って居住まいを正す。
「こんにちはユーノくん」
「久しぶりねユーノ」
「うん、久しぶり二人とも、とりあえず、司書長室に来ない? お茶くらい出すよ」

474みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:05:28 ID:z4n2vN.U
 ユーノから出されたお茶で、これまで全速でここまで来た二人は喉を潤してからそれを出す。
「はい、ユーノくん」
「感謝しなさいよ。暇でもないのにわざわざ異世界までチョコレート届けに来たんだから」
 すずかはそっと差し出して、アリサは若干突き出すと言ったほうがいいかもしれない。
 前にバレンタインの時に仕事で地球に行けなかったことがあったから、二人とも当日に届けに来てくれたのかもしれない。それが嬉しいような、ちょっと情けないような、ユーノは複雑な気持ちだった。
「ありがとう二人とも」
 二人からチョコレートを受け取る。
 それから、じっと期待するようにこっちを見る二人の視線にやっぱり食べないといけないのかなと考えてラッピングを剥がす。
 アリサは大きめのトリュフチョコレート、すずかはハートのチョコレートだった。
「いただきます」
 で、まずはアリサのチョコレートを食べる。
 柔らかなチョコレートが口の中に溶け広がる。ラム酒の香りと生クリームが混ぜられた柔らかなチョコの味が広がる。
「うん、おいしいね」
「私が作ったのだから当然よ」
 ふふんとアリサは笑う。だが、なんでか不敵な笑みをすずかは浮かべている。

475みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:06:54 ID:z4n2vN.U
 続いてお茶を飲んで口を改めてからすずかのチョコを食べる。
 すずかのチョコは普通においしいチョコだった。変わったところはないシンプルなチョコレート。だが……
 口の中に違和感を感じてユーノはペッとそれを吐き出した。出てきたそれは、一枚の紙だ。
「なにこれ?」
 作っているときに混じったのかなと思ったが、畳まれた紙の隙間になんか文字が見えた。
 なんだろうと思って開くと、そこには、
『私はあなたが大好きです。すずか』
 それにユーノは固まる。
「すずか?」
 アリサがすずかに迫った。
「えっと、アリサちゃん怖いよ?」
「あんた、協定忘れてないかしら?」
 協定? なんの話だろうとユーノは疑問に抱くけど、それを今のアリサに問いずらかった。
「えー、破ってないよアリサちゃん。チョコの中にメッセージペーパー入れるなんてよくあることでしょ?」
 白々しいすずかの言葉にアリサはごきごきと拳をならす。
 えーっととすずかは視線を中空に漂わせてから、
「じゃあねユーノくん!」
 一目散にアリサから逃げ出した。
「待ちなさい!!」
 それをアリサは追いかける。
「と、とりあえず仕事に戻ろうかな」
 一人残されたユーノはそう決めて書庫に仕事に戻った。
 きっと友達的な意味さとユーノは自分に言い聞かせるが、そんなものバレンタインである以上言い訳にもならないのである。

476みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:07:44 ID:z4n2vN.U
 そして、仕事が終わって、
「やっほー、ユーノばれんたいんちょこ持ってきたぞー!!」
 と元気よくレヴィがユーノの背後から抱きついてきた。
「うわレヴィ!?」
 背中に押し付けられた二つの膨らみにユーノは真赤になる。
 ユーノは実はレヴィが苦手だった。フェイトと同じように豊かに育った女の身体。それなのに、子供のようにユーノにべたべたと甘えてくる。
 男として嬉しいことは嬉しいのだが、その過剰すぎるスキンシップにほとほとユーノは困っていた。
「まったく、貴様はもう少し落ち着かんか」
 と、遅れてディアーチェがユーノの元へと飛んでくる。
 ふと、ユーノはディアーチェの身体を観察する。はやてと同じようなスレンダーな肢体。レヴィと比べるまでもない膨らみ。
「どこを見ている塵芥?」
「いや、別にみてませんよ王?」
 ぎろりとディアーチェに睨まれて、とりあえず誤魔化す。余談だが、紫天一家では一番小さい。ユーリもレヴィよりも若干負けているが、なかなかなサイズに育っている。
 ディアーチェははあっと息を吐く。
「貴様の分のチョコだ。王からの贈り物、喜んで受け取るがいい」
「ありがとうございます王」
 自分の無意識な行動でディアーチェを不快にしてしまったため、ユーノは恭しく臣下の礼をしつつチョコを受け取る。
「はい、僕からもだぞ!」
「ありがとうレヴィ」
 二人からチョコを受け取る。二人もすぐに食べてあげた方がいいかなとユーノはすぐにチョコを取り出す。

477みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:09:31 ID:z4n2vN.U
 レヴィのチョコは雷の形をしている。ディアーチェは羽根のようなデザインのチョコパイだった。
 まずはレヴィのをユーノは食べる。口に入れた瞬間、ユーノは口の中に広がった甘みに驚く。
 甘い、とにかく甘い。甘いモノ嫌いなクロノなら二口目を躊躇しそうなほどの甘さ。はっきり言ってチョコの風味は僅かにしかしない。そして、この甘みは……
「リンゴとハチミツ?」
「お! 隠し味がわかった? すごいぞユーノ!!」
 うん、隠し味っていうけどまったく隠れてない。完全に全面に押し出されている。むしろチョコを支配するような分量が入っているはずなのに、見た目はチョコのままというとんでもないマジックにユーノはどう作ったのかをレヴィに聞きたくなった。
 それでもそれをユーノは押し隠してレヴィに笑顔を向ける。
「うん、すごくおいしいよレヴィ」
「ふふーん、そうだろー。すごいぞ、甘いぞ、おいしいぞー!!」
 えっへんとレヴィは胸を張る。嘘は言っていない。不味くはないのだ。ただ、味はチョコが隠し味になってしまっているが。
 続いてディアーチェのチョコレート。
 さくっとクリスピーな食感と、ぱきっと硬いチョコ。さくさくのパイと硬いチョコの触感が交互に口の中を広がるのが楽しい。
「ディアーチェのもすごくおいしいよ」
「ふっはっは、もっと褒めるがいい!」
 上機嫌にディアーチェは笑い声をあげたのだった。

478みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:10:19 ID:z4n2vN.U
 レヴィとディアーチェを見送ってやっと自宅に帰宅できた。
「おかえりなさい師匠」
「あ、ただいまシュテル」
 普通に自宅で待っていたシュテルにもうユーノは慣れてしまっていた。別にスペアキーを渡してるわけでもないのにそこにいるが、ツッコんだら負けである。
「師匠、その、えっと……」
 シュテルは口ごもりながらもそれを出す。
「ば、バレンタインチョコです」
 それはフェレットの形をしたチョコレートだった。
 そして、その下に『I LOVE MASTER』と刻まれている。
「ありがとうシュテル」
「いえ、それよりも」
「うん、さっそくいただくね」
 フェレットの頭から口の中に入れる。
 表面はぱきっと固く、中からとろりと中から別のチョコが流れ出す。
 表面をコーティングしているチョコはカカオのもつ本来の香りとビターな味わい。中身はミルクチョコの優しい味わい。本来のチョコの味を表面で楽しんでから、中身のミルクチョコの柔らかな口当たりが舌を包んでくれる。
 形といい中身といいかなり手が込んでいる。さすがは凝り性のシュテルだった。
「うん、すごくおいしい。シュテルは料理うまいよね」
「そ、そんなことありません」
 恥ずかしそうに頬を赤らめるシュテルに微笑んだ。

「て、感じかな僕のバレンタインは」
 バレンタインの翌日、居酒屋でユーノはトーマと飲みながら昨日のバレンタインをそんな風に語った。
「なんていうか……あまーい」
 トーマは素直にそう思った。周りの女性陣かなりユーノに惚れ込んでいる。その上、一部はかなり積極的だ。特にこちらになかなかこれないエルトリアメンバーと管理外世界の幼馴染二人。
「で、ユーノさんとしては、誰が本命なんですか?」
 ちょっとわくわくしながらトーマは問うてみるが、
「うーん、まだ決められないかなあ」
 この朴念仁フェレットはまだ決められないとおっしゃられるのだ。
 それにヴィヴィオが「ユーノ司書長は穏やかな心が激しい鈍感さで目覚めたスーパー草食系」と称していたことを思い出した。
 彼に誰かを選ばせるのは難しい。酷ではあるが、女性陣には頑張っていただけなければならない。
 トーマはそのうち起こりえるかもしれない司書長争奪戦で彼が犠牲者にならないことだけを祈った。主にナイスなボートにはならないでほしい。
「そういうトーマくんはどうなのかな?」
「俺ですか? ええっと……」
 トーマは思い出す。昨日のバレンタインを。

479みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:10:49 ID:z4n2vN.U
「トーマ、はいチョコレート」
 アイシスがチョコレートをトーマに渡す。
「ありがとうアイシス」
「いいよお礼なんて。じゃあエリオやヴァイスさんにも渡してくるから!」
 そう言ってアイシスは二人を捜しに行ってしまう。
 現在、特務六課でもバレンタインを迎え、チョコレートのプレゼントが始まっていた。
 なのはは訓練後に全員に義理チョコを渡した後に、どこかに行ってしまった。まあ、たぶん無限書庫かなあとトーマはあたりをつけていた。
 フェイトは義理チョコ配ってから出かけている。誰かにチョコを渡しに言ったのか、それとも渡す相手がいないのを誤魔化すためか。
 はやては、むしろ現在進行形でチョコを作っている。仕事が忙しくてなかなか作る暇がなかったようである。
 シグナムはヴァイスにチョコを渡しにいっている。しばらくはヘリポートに近づかないのが身のためだろう。
 ヴィータ、チョコアイスを振る舞っている。本命を尋ねたら殴られた。
 シャマルは……大量のチョコを抱えながら隊舎の中を歩き回っている。男性陣は絶対に彼女に巡り合わないよう、交代で細かく動向をチェックしている。
 こんな感じで六課は賑わっていたが、トーマにとって気がかりなことが一つあった。リリィである。
 なぜか、十日以上前からリリィははやてに頼み込んで空き部屋を二つも借りて、なにもない時間にそこに詰めている。
 一体何をしているのか気になるものの、絶対入っちゃダメと言われたために、誰も近づかない。
 何をしているのかはトーマにも秘密だった。バレンタインチョコを作っているのかとも思ったものの、十日間はいくらなんでも長すぎる。ならば、いったい何を?

480みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:11:26 ID:z4n2vN.U
 そんなことを考えていて、
「トーマ! 見つけました!!」
 ユーリがトーマの元へと駆け寄ってきた。
 その手にな手のひらに載るほどの包み。ユーリも自分に作ってくれたんだとちょっとだけトーマは嬉しくなった。
「はい、チョコレートです!」
 頬を赤く染めながらユーリはチョコレートを差し出す。
「ありがとうユーリ」
 受け取ると、じっとユーリはトーマのことを期待するように見つめる。
 これは、もしかしてすぐに食べて感想を言ってほしいってことなのかな? とトーマは考えてラッピングを剥がしてチョコレートを取り出す。
 出てきたのは可愛らしいハートのチョコレート。『I LOVE YOU』とデコレーションされている。
 なんだかユーリらしい可愛らしさにあふれているなあとトーマは思った。
「ディアーチェに教えてもらいました!」
「そうなんだ。じゃあ、さっそく」
 トーマはユーリのチョコを味わう。
 優しい味わいが口の中に広がる。ビター過ぎず、甘すぎず、絶妙な味わい。だが、そこの中になんかチョコとは違う味が微かにした。なんなのかはわからない。ただ、ちょっと鉄っぽい。
「うん、おいしいよ」
「そうですか、よかった。実は少しだけ失敗しちゃったんで不安だったんです」
 失敗という言葉にトーマは首を傾げる。特に味がおかしかったとは思わなかったんだけど……
 が、すぐにわかった。ユーリの指にはあちこちに絆創膏が張られている。
「もしかして、指を切ったの?」
「は、はい。包丁はじめて使ったので……実はチョコの中に私の血が混じっているかもしれないんです」
 溶かす前段階でチョコを刻む時に、慣れてないユーリは指を切ってしまったのだ。
 それにトーマは納得する。チョコから微かに感じた鉄臭さはユーリの血の味だったのだ。
「うん、全然そんなことないよ。すごくおいしかった」
 トーマの一言にユーリはほっと息を吐く。

481みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:12:02 ID:z4n2vN.U
「あ、トーマここにいたんだ。ユーリも一緒?」
 と、今度はヴィヴィオがトーマに声をかけてきた。
「ヴィヴィオ、もしかして」
「そうだよトーマ、これが私からのチョコレート!!」
 と、ヴィヴィオがトーマにチョコレートを渡してくる。こっちは、マーブル模様で、若干形が歪ではあるものの、むしろ頑張って作った手作りという印象を受けるものだった。
「桃子おばあちゃんに教わりながら作ったんだ」
「ありがとうヴィヴィオ。じゃあさっそく」
 口に入れて歯を立てると、いろいろな味が口の中に広がる。チョコ以外にも甘酸っぱくて、フルーティーな味がする。
「これ、中にドライフルーツが入ってるのかな?」
 見ればチョコの茶色、ホワイトチョコの白に紫、赤、オレンジとカラフルな断面が広がっている。ちょっとクセはあるものの、なかなかうまいし、普通のチョコとは違う新鮮味があった。
「そうだよ。みんな普通のチョコを作ると思ったから、おばあちゃんにちょっと変わったチョコの作り方を教えてもらったんだ」
 と、どうやらみんなが正統派チョコを作ることを見越して、ヴィヴィオは変化球気味のチョコでトーマを飽きさせないようにしようと考えてくれたみたいであった。
 ヴィヴィオの考えになるほどとユーリも感心する。
「御馳走様おいしかったよ二人とも」
 トーマの答えに二人は幸せそうに笑った。

 そして、ユーリとヴィヴィオと別れてから、トーマは微妙に暇になってしまった。
 ならば部屋に帰ればいいのだが、うろついていればチョコレートをもらえるのではないかという男の性によって、無意識のうちに戻ろうという考えが浮かんでこなかった。
 ただチョコが欲しいからと言ってシャマルにあうのは断固辞退するが。
 そして、
「あ、いたいたトーマ!」
「スゥちゃん?」
 続いてきたのはスバルだった。遅れてティアナも。
「はい、トーマにチョコレート」
「私からもよ」
「ありがとうスゥちゃん、ティア姉」
 トーマはスバルとティアナからチョコレートを受け取る。
「ねえねえ、さっそく食べてくれる? ティアも感想聞きたいだろうし」
「なに適当なこと言ってるのよバカスバル!」
 スバルの発言にティアナが締めようとして、きゃあきゃあと逃げ回る。
 それに苦笑しながらも、トーマは受け取ったチョコレートを見る。スバルはいくつもの一口大の星型。ティアナはただ丸いチョコ。これは義理かなと思いながらもトーマはまずはスバルのを食べる。
 スバルのチョコは程よい甘みに優しい口当たり。その味わいはなんだか胸が暖かくなって、まるで故郷に帰ってきたような感じがする。
 そう、例えてみればおふくろの味と言うべきか。トーマにとってのスバルの存在をまさにあらわしたような味だった。
 続いてティアナのチョコを食べる。
 こっちは砂糖控えめ、カカオの風味と苦みが口中に広がり溶けていく。こっちは大人の味とでもいうべきチョコらしいチョコという印象だった。
 なんだかティアナにぴったりの味だ。
「スゥちゃん、ティア姉、ごちそうさま、どっちも美味しかったな」
 その一言にぴくっとティアナは反応する。
「どっちもおいしかった、ね? じゃあ、どっちが一番おいしかった?」
 ゆっくりとティアナがトーマの方に振り返る。
 その眼にトーマはびくっと震える。なぜかわからないが、ティアナが怖い。スバルもいつの間にか逃げ出していた。
 えっととトーマはちょっとだけ視線を逸らしてから、脱兎のごとくその場から離脱した。

482みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:17:32 ID:z4n2vN.U
「ふう、ここまで来れば安心か」
 トーマは額の汗を拭う。全力で逃げたのだから追いつけないだろう。
 とりあえず、チョコをもらえるからとか言っていられない。ティアナと会わないように部屋に戻ろうとトーマは決めて、
『あっ』
 部屋の前で待っていたユーリと鉢合わせた。
 リリィの手には可愛らしくリボンでラッピングされたチョコ。
「御帰りトーマ、その、チョコレート持ってきたんだ」
 ホッとするような笑みを浮かべてリリィはトーマにチョコを差し出す。
「あ、ありがとうリリィ……」
 初々しい雰囲気を漂わせながらトーマはリリィからチョコを受け取る。
 やっぱりすぐに食べた方がいいのかなとトーマは考えて、期待するように自分を見つめるリリィによしと決める。
 するっとラッピングを解いて中身を取り出す。ハート型のチョコがいくつも入っている。それをトーマは頬張る。
 チョコの味は……おいしい、そんな感想しか浮かばない。陳腐な表現であるが、それがすべての味だった。他にこの味は表現のしようがない。
「おいしいよ。リリィ」
「よかったあ。上手くできて」
 ほっとリリィは笑う。
「えっとね、なのはさんにコツを教わったんだけど、それの隠し味何かわかるかな?」
「えっと…………ごめんわかんない」
 リリィの問いかけにトーマは考えるけど、わからなかった。ただ美味いとしか思えないそれにいったいどんな隠し味が?
「えっとね、隠し味は、愛情だよ」
 可愛らしく答えを告げるリリィにトーマは衝撃を受ける。なんだろうこの可愛い生き物は。
 そして、同時にリリィの答えにトーマは納得する。愛情こそ至高の調味料、古くから料理人に伝わる格言である。
「そっか、すごいねリリィは」
 えへへとリリィは笑ってから、そばに置いてあった袋をどっこいしょと持ち上げる。
 それにトーマの目は点になる。なにせ、その袋はどう見てもリリィよりも大きい。
「リリィ、それは?」
「みんなに配るチョコレートだよ。ずっとこれ用意していたの」
 と、事も無げにリリィは答える。それにまさかとトーマはそれに思い至る。
 この数日間ずっと部屋に籠っていたのは……
「ずっとそれを作ってたの?」
「うん、今日は好きな人にチョコレート配るんだよね? 何度か失敗しちゃったけど、がんばってみんなの分を作ったの。アイシスにユーリ、スゥちゃんにティアさん、エリオくんとキャロちゃんにリイン師匠、ヴィータ隊長になのはさんにフェイトさん、はやてさんにシグナムさん、ヴィヴィオにアインハルトにザフィーラにシャマルさんにそれから、ギンガさん、チンクさん、ディエチさん、ウェンディさん、ノーヴェさん、ゲンヤさん、それにヴェイロンにカレンに……」
 と、どんどんとリリィは配る相手の名前を上げる。何気なくフッケバインのメンバーも紛れていた。
 それにトーマは引きつった笑みを浮かべるしかない。袋の中身が今自分の持っているのと同じなら袋のサイズも納得する。
 まさか、フッケバインにまで準備するとは……天然だよなあと別の意味でトーマは感心する。
「じゃあ、みんなに配ってくるねトーマ」
「あ、俺も手伝うよリリィ」
「え? ありがとうトーマ」
 と、トーマは申し出にリリィはほんのりと頬を赤くして微笑む。
 そして、トーマはリリィの袋を受け取る。
「でもね……トーマだけは特別なチョコだったんだよ」
 トーマのだけはみんな用のチョコとは別に作ったのだから。
「え? なに?」
「ううん、なんでもない。行こうトーマ」
 ちょっとだけ引っ掛かりながらもトーマは歩き出した。

483みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:19:14 ID:z4n2vN.U
「……ですかね」
「それは、すごいね」
 リリィの変な方向への活動力にユーノは苦笑する。
「はい。配るの大変でした。リリィは今までに知り合ったほとんどの相手に渡すつもりだったみたいで、隊舎以外の場所にも行かなくちゃいけませんでしたし、
 フッケバインに渡すのは苦労しました」
 最後のはユーノは聞かなかったことにした。犯罪者集団である彼らへの贈り物なんてはやてたちにばれたらどうなるのかわからない。
 まあ、どうやって彼らにコンタクトを取って渡したのかとも気にはなるが。
「そういえばエリオくんは?」
「あ、まだキャロちゃんとルーテシアちゃんに捕まっているかもしれませんね」
 あーっとユーノは納得した。

「ヴォルテール!」
「白天王!!」
 フリードとガリューがダブルノックアウトした瞬間に二人は互いの切り札であるヴォルテールと白天王を召喚していた。
 二体はこんなことに召喚されてしまったことにはあっとため息を吐くように項垂れる。
 認めた少女に力を貸すのは吝かではないものの、流石に痴話喧嘩にまで力を貸すつもりは欠片もない。お互いに目でお前も大変だなとやり取りを交わす。
 そして、お互いに拳を振りかぶって、数発拳を交わして、最後にクロスカウンターでお互いの顔面に拳を埋め、示し合わせたように倒れ込んだ。
 二人とも不本意な形の再戦にヤル気の欠片もなく、適当に少女二人に合わせて倒れたのだった。
「くう、こうなったら!」
「肉弾戦しかないわね!」
 同時に二人は飛び出し、拳を交わす。
 それをエリオは見守る。なんでか、チョコを交換する順番を争って、朝からずっと続くその戦いを。
「大変ねエリオくんも」
 と、ルーテシアの母であるメガーヌがぽんっと肩を叩く。
「い、いえ」
「まあこれ食べて元気出してね」
 そう言ってエリオに一つの箱を渡す。
「ありがとうございます」
 メガーヌの心遣いを嬉しく思いながら蓋を開けるとそこに一つのチョコレート。『I love you』と書かれている。
 えっ? とエリオが振り向けばおほほほほーと笑いながらどこかに飛んで行ってしまうメガーヌ。
「エリオ?」
「エリオくん?」
 そして、かけられた声にびくんと肩を震わせる。
 恐る恐る振り向けば、笑顔のキャロとルーテシア。
「えっと、キャロ、ルー……」
 だが、エリオはわかっている。それは笑みではない。なぜなら目が欠片も笑っていないのだから。
「エリオ君ひどいねルーちゃん」
「そうだねキャロ、私たちが命がけで順番決めているのに、何もしてないお母さんから受け取るなんて」
 どうやら、二人にとってお仕置きの対象はエリオにチョコを贈ったメガーヌではなく、なんとなく受け取ってしまったエリオらしい。
「お母さんには後で文句言うとして」
「まずはエリオくんだね」
 瞬間、エリオは逃げ出した。

「エリオの冥福を祈ろう」
「ですね」
 今頃どうなっているのか知らない一人の友を思って二人は乾杯したのだった。

484みんなのバレンタイン:2013/02/14(木) 00:23:36 ID:z4n2vN.U
以上です。
駄文失礼しました。
そして、ここにもう一つ新たなカップリングを提示させていただきました。
トーマ×ユーリもいいんじゃないでしょうか? ちょっとトーマも彼女の状況にシンパシーらしきものを感じてましたし。

あと、リリィは天然で額面通り言葉を受けちゃう子になってます。
機械のラプターたちにもああいう風にできる子だし。Force版タチ〇マになるのかな?

485名無しさん@魔法少女:2013/02/14(木) 10:51:03 ID:RHFny6X2
GJです!
さて、今年は何人(何頭?)のザフィーラが天に召されるのか(死なすな)

あとティアナさんはトーマ狙いでマジになっているのか、他に本命(≒ヴァイスorスバル)がいてトーマを味見役にしているのか
そう言えばトマティアってあんまり見た覚えないなぁと思いながらぐるぐる考えてしまったり

486名無しさん@魔法少女:2013/02/14(木) 11:22:25 ID:ESm/8nH6
GJ!
いやぁ純粋無垢なリリィは可愛いなぁw
トーマもリリィの愛にちゃんと応えてやるんだぞう

487ザ・シガー ◆PyXaJaL4hQ:2013/02/14(木) 19:14:36 ID:1aE4Iz0o
自分も投下するわ。

バレンタインもの、エロ、ヴァイシグ、タイトル『2/14/ヴァイ/シグ』

4882/14/ヴァイ/シグ:2013/02/14(木) 19:15:11 ID:1aE4Iz0o
2/14/ヴァイ/シグ


「うへへへへへ」

 それは果てしなくだらしない笑いだった。
 薄暗い部屋の中、艶の失せたぼさぼさの髪の女は、名をカザミと言う。
 彼女は一人、明かりの消された自室の中で怪しげな作業に没頭していた。
 カザミは時空管理局所属の局員であり、同時に管理局SFクラブの一員であった。
 SFクラブというのはサイエンスフィクションの略ではない。
 シグナム・ファン・クラブの略称であった。
 八神はやてに仕える騎士、機動六課ライトニング分隊副体長、凛々しく美しい烈火の将。
 男性はもちろんの事、その強さと美貌に魅せられた乙女もまた多い。
 正にカザミはそんな一人であった。

「シグナムさんもこれを食べれば……むふふ」

 そう呟き、カザミは怪しげな鍋の中に怪しげなものを投入しながら怪しげな笑みを浮かべる。
 明日は二月の十四日、果たしてその日付が意味するものは何なのか、言うまでもなく。
 湯銭で暖められた鍋の中に満ちる暗茶褐色の液体は甘い香りを放つ。



 機動六課のデスク、自身の机の上に積み上げられたその凄まじい景観に、シグナムは諦観とも取れるため息を吐いた。

「やれやれ、どうしたものかな」

 そこにあったのは、大量の紙包みの類が数え切れぬほど重ねられて形成された山だった。
 漂う独特の甘い香り。
 そして二月十四日という日付。
 紙包みの中身は言わずもがな、チョコレートである。
 もともとは地球の日本の風習というか文化といえるものが、一体どのような経緯と理由を以ってか、ミッドチルダでも恒例と化していた。
 シグナムはその被害者とも言えた。
 類まれなる美貌と女性らしからぬ凛々しさを持つ彼女は、本人の意思とはまったく預かり知らぬところで大量の女性ファンを作っていた。
 結果として、このような催しものとなると、贈り物の量は実に壮観の極みを呈する。
 無下に捨てるわけにも行かず、毎回辟易しながら家に持ち帰るのが通例であった。
 
「しかし、これはとても一度に持って帰れんな」

 とりあえず入れられるだけ鞄に詰めてみたが、それでも半分も入らなかった。
 シグナムは呆れながら、残りの物はロッカーにでも入れておくか、などと思案する。
 時間がもう少し早ければ八神家の皆に手伝ってもらえただろうが、生憎と今は定時を遥かに過ぎた夜半だった。
 一人残って訓練室で日課の自主鍛錬をしていた自分を呪いたくなる。
 と、そんな時だった。

「あれ、シグナム姐さんじゃないっすか。どうしたんすかそんなところで」

「ああ、ヴァイスか」

 振り返れば、そこには見知った顔が居た。
 ヴァイス・グランセニック。
 かれこれ七年以上は付き合いのある馴染みの部下だ。
 長身に見合ったがっしりとした体を改めて観察し、シグナムは満足そうに頷く。

「ふむ。お前なら全部持って行けそうだな」

「え? 何がっすか?」

「ああ、ちょっと荷物を持って帰るのを手伝え」

 そう言って、シグナムは自分の机の上に山を作る紙包みの山を指す。
 彼女の欲するところを把握して、ヴァイスの顔に苦笑いが浮かんだ。

「ちょ、俺にこんな量のものを持たせようってんすか?」

「私一人じゃ持ちきれん。良いから手伝え、ただとは言わん」

 ひょいと手ごろな位置にあった紙包みを手に取ると、シグナムはそれをヴァイスに放って渡した。
 器用に片手で受け取ると、ヴァイスはその包みを軽く解く。
 中からチョコの表面が、蛍光灯の光を鈍く照り返す。

「良いんすか? これバレンタインのチョコっしょ?」

「なんだ、お前も知っていたか」

「まあ、聞きかじったくらいっすけどね」

「気持ちは嬉しいが。こんなにあっては一人で食べきれんからな。どうせ家に帰ってもヴィータあたりに手伝ってもらうし構わんだろう」

「姐さんがそう言うなら、別に良いっすけど」

 不承不承と言った風に呟き、ヴァイスは手にしたチョコを口に放り込んだ。
 例え別人が作った物とはいえ、内心ではシグナムからチョコをもらって少し嬉しいのだが。
 チョコはさして大きくはなかった。
 ぼりぼりと数回噛み砕けばもう胃に落ちる。

4892/14/ヴァイ/シグ:2013/02/14(木) 19:15:42 ID:1aE4Iz0o
 何の変哲とてないチョコレートの風味と甘味。
 しかし、ヴァイスは知る由もなかった。
 そのチョコの中にカザミなる女性がシグナムを篭絡しようと混ぜた媚薬や惚れ薬といったヤバイ系統のスパイスの事など。
 
「うぉ……」

 呻きに似た呟きと共に、ヴァイスがぐらりと傾ぐ。
 体の芯に形容し難い熱が生まれた。
 目に映る像が霞む。
 血が熱い。
 いつの間にか手と膝を床に突いていた。

「ど、どうした?! 気分でも悪いのか?」

 慌ててシグナムが駆け寄る。
 戦慄くヴァイスの肩を掴み、彼の体を起こした。
 震える体は、服越しにさえ熱い。
 顔を上げ、荒くなり始めた息遣いと共に、炯々と輝く眼差しがシグナムを見た。

「お、おい……ヴァイス? ……ひぁ!?」

 常に毅然として凛々しいシグナムの声が、一瞬で愛らしささえ感じるものになった。
 ヴァイスの逞しい手が彼女の豊満な乳房を服の上から掴み、力を込めて揉みしだいたのだ。
 突然の荒々しい愛撫、体を走る痛みと快感にシグナムの顔が歪む。
 
「ヴァイス、お前……何をする! この……離せ、こら……おい……ん!!」

 太い腕を振り払おうとしたシグナムだが、しかしその彼女を、更なる衝撃が襲った。
 唇が塞がれた。
 ぬるりと口の中に入り込む舌の感触を覚えた時、ようやく自分がキスされたと自覚した。
 驚きと快感。
 本能に従って成されるヴァイスの愛撫は極めて乱暴だが、同時にその荒さが強い快楽を生む。
 口内を舌で、豊かな胸を五指で蹂躙され、その悦に神経を甘く刺激されるシグナムに、上手く抵抗の為の力を出す事はできなかった。
 気付けば、いつの間にか彼女の体は床の上に押し倒されていた。
 
「ん……んんぅ〜! ん!!」

 必死に身をよじるが、上に覆いかぶさるヴァイスの体を押しのける事はできない。
 胸だけでなく、いつの間にか彼の手はくびれた腰や、安産型の尻まで丹念に撫で回してた。
 さらには舌と舌を絡められる心地よさが、脳髄を恍惚で満たす。
 如何にシグナムが烈火の将の名を持つ歴戦の騎士とて、その身はどこまでも女だった。
 苦痛や疲労ならば屈しはしないが、性感ばかりはそうもいかない。
 上着とブラウス、さらに下着まで脱がされ、うっすらと汗ばむ柔肌まで触れられてはなおさらだ。
 完全に服を脱がす間も惜しいのか、半分着たままの制服の間から手を突っ込んだヴァイスは、豊満に肉付いたシグナムの体をこれでもかとまさぐる。
 柔らかいくせに張りに満ちた乳房を捏ね回し、そのてっぺんの薄紅色の肉豆をきゅっと摘む。

「ふひゃぁ!」

 よほど乳首が敏感だったのか、それだけでシグナムの抵抗する力はさらに半分以下まで落ちた。
 今やもう、震えるように喘ぐだけになった肢体。
 ヴァイスは迷うこともなくスカートのホックとファスナーを、すらりと伸びる脚の付け根にある下着を脱がしていく。
 ニーストッキングの太股を慈しむように撫でながら、床に接地する尻の重みを何とか持ち上げてショーツを下ろす。
 ヴァイスの指先が、女性の秘すべき場所へと這い進んだ。

「ふぁ……ッ!」

 甘い喘ぎ。
 くちゅ、と、湿った音が響いた。

4902/14/ヴァイ/シグ:2013/02/14(木) 19:16:17 ID:1aE4Iz0o
 既にそこは分泌された蜜でしっとりと濡れている。
 男を受け入れる為の準備だ。
 ヴァイスは半身を起こすと、ボタンが引き千切れるほどの力で自分の纏っていた服を脱ぐ。
 見上げるシグナムの瞳は、茫洋と快楽に蕩けて霞んでいる。
 それでもなんとか事を収めようと、隠しきれないボリュームの乳房を手で隠し、端から唾液を垂らす口で理性を叫ぶ。

「ま、待て……や……だ、だめだ……こんな、こと……お願いだから……ヴァイス、やめ……んぅぅ〜ッ!!」

 その言葉の、なんと虚しい事か。
 発した理性の言葉は、膣口の一撫でで霧散した。
 軽く指先で入り口を慣らす程度の、児戯に等しい行為。
 たったそれだけで言葉を重ねられなくなるほど、シグナムの体は出来上がっていた。
 ならば、もう止まる手立てなどない。
 ヴァイスはしなやかに伸びる艶美な二本の脚の間に、自身の体を割り込ませると、シグナムの細い腰を掴んだ。
 彼自身が、美女の入り口へと近づき――触れる。
 お互いに火傷してしまいそうなほどに熱い。
 ほんの少し触れ合っただけでそれを感じる。

「ぁぁ……」

 シグナムの口から思わず漏れる、恍惚と期待の吐息。
 知らずのうちに自分の中に湧き上がる淫らな心に、シグナム自身たじろいだ。
 違う、こんなものは、拒まなければ……
 必死に理性を呼び起こし、自分を保とうとする。
 しかしそれも無意味だった。
 ズンッ、と、衝撃が体の芯を穿った。
 熱く硬い逞しいものが、奥の奥まで挿入された。
 
「あぁ……ああぁぁぁああああ!!!」

 滾るほど熱いヴァイスの肉棒で犯され、媚肉を掻き分けられ、子宮口を小突かれる。
 眩暈さえ覚えるほどのその快感に、シグナムの脳髄は神経の一本一本に至るまで焼き尽くされる。
 
「ヴァ、イスぅ……はぁぁ」

 甘く蕩けきった声で彼の名を囁き、しなやかな繊手がその体を抱き寄せた。
 もはやシグナムの意中に、抵抗、の二文字など欠片もない。
 肉棒の力強い一突きが、決定的な破綻のスイッチを押してしまった。
 あとはもう、堕ちるだけ。

「く! ふう……ううう!」

 獣染みた声と共にヴァイスが体を動かす。
 前後に、左右に、シグナムの内側を抉るように肉竿で責め立てた。

「ん!! ヴァイス……はげしぃ……ふぁぁあ!」

 蜜をたっぷり分泌した粘膜を擦りあげられ、シグナムは甘い悲鳴を幾度も上げた。
 身も心も染め上げる快楽の暴虐、犯される雌の悦び。
 艶かしい脚線美が、逃すまいとヴァイスの腰を絡める。
 それに応じるかのように、彼の腰はより激しく沈んでシグナムと結合する。
 上げられる喘ぎ声に倍するほどの、濡れた肉と肉の打ち付け合う音、愛液のあわ立つ音。
 幾度となく成熟した体をぶつけ合う二人の動きは、徐々に早く、規則的になっていく。
 限界は近かった。

「あぁぁ……ヴァイス……だめだ、もう……私、イきそうで……たのむ、一緒に……一緒にイきたい!」

 涙を零す潤んだ瞳で彼を見上げながら、切ない吐息でそう訴えかける。
 ゴリゴリと子宮口を小突き上げられる度に、精神を破壊してしまいそうな快楽が頭の芯まで貫かれる。
 必死に、イってしまうのを耐えるシグナム。
 一人だけで達してしまうのはどこか寂しく、怖かった。
 だが限界を迎えようとしていたのは彼女だけではない。
 一度腰が引いたかと思えば、次の瞬間……彼は力の限りに体を沈めた。
 ズンッ! と、子宮口を亀頭が抉る。
 そして、凄まじい勢いで熱いナニかが注がれた。

「はぁぁ……きてる、熱いの……すごい……あぁぁ……ああああ」

 ぶるぶると体を戦慄かせ、骨の髄まで溶け尽くした甘い声でシグナムが喘ぐ。
 絶頂の恍惚が神経の端々まで駆け抜けていく。

4912/14/ヴァイ/シグ:2013/02/14(木) 19:16:54 ID:1aE4Iz0o
 ヴァイスもまた、極上の雌を犯し、その中に欲望をぶち撒ける恍惚に震えて、幾度も幾度も注ぎ込む。
 あまりに快感が強かったのか、彼は体を支える力さえ失って、ぐらりと倒れこんだ。



 何度か明滅した精神が、ようやくまともに活動を再開した。
 まずヴァイスが感じたのは下半身からゾクゾクと走り抜ける心地よい余韻と、顔の触れる柔らかい何かだった。

「ん……これは……んんん!?!?」

 半身を跳ね起こす。
 そして知った。
 今まで顔に触れていたのは、シグナムの胸だった。
 しかもむき出しになった、白い艶かしい柔肌の。
 汗に濡れた乳房、露になった桃色の乳頭が目に焼きつく。
 いや、それだけではない。
 胸どころか、自分は半裸になってシグナムを押し倒し――結合していた。

「う、うわ……俺、一体何を……」

 一瞬、自分自身でも何をしたのか分からなかった。
 だが次第次第に、覚醒した意識が記憶を取り戻していく。
 自分は、確かチョコを食べた。
 そして次の瞬間、体が熱くなり、シグナムの体が欲しくなり、そして……
 その後の記憶は鮮烈だった。
 素晴らしい肉付きの、女性として完璧に近いほど完成されたシグナムの体を力のままに、欲するままに貪る。
 まるで極楽のような時間。
 しかしそれは同時に途轍もない悪しき行為だった。
 このまま怒り狂ったシグナムに殺されたとて文句は言えまい。

「す、すんませんシグナム姐さん! お、俺……」

 慌てふためき、ヴァイスは体をどかそうとする。
 だが、その時だ。
 腰に絡められた脚に力がこもり、ヴァイスをぐっと引き寄せた。
 ぐじゅ、と泡だった結合部から快楽が走り、呻きが漏れる。
 
「ね、姐さん……?」

 見つめたシグナムの瞳。
 彼女の双眸は、しっとりと潤み、こちらに熱いまなざしを送っていた。

「バカ者。少しは、雰囲気を読め」

「え、ちょ……姐さん。ん!」

 ぐっと彼女の体が近づいたかと思えば、抱きついてキスされた。
 豊満な胸が体に押し付けられ、心地よい口付けの感触が唇を刺激する。
 顔を離すと、互いの間の唾液がつぅと橋を架けた。
 
「姐さん、怒ってんじゃ」

「嫌な相手に私が体を許すと思うか?」

「……」

 シグナムの言葉に、思わず言葉に詰まる。
 彼女の体も心も、既に完全に女としてのスイッチが入ってしまっているらしい。
 熱く甘い恍惚の吐息を零しながら、艶かしい体はヴァイスにその脚や腕を絡みつかせる。

「お前のせいで体がすっかり火照ってしまった」

「そ、そうすか……いや、でもさすがにここじゃ」

「うるさい。押し倒したお前が言うな」

「すんません……」

「もう少しで、良い。もう少しで良いから――ここで抱いてくれ」

「……はい」

 言われるまま、請われるまま、ヴァイスは頷き、再び体を寄せた。
 そして、二人は一緒に堕ちて行った。
 深く熱い、快楽という釜の底へ。


終幕

492ザ・シガー ◆PyXaJaL4hQ:2013/02/14(木) 19:18:44 ID:1aE4Iz0o
投下終了。

一日で書き上げたのでなんかおかしいかもしれんけど気にしてはいけない。

ヴァイシグ おっぱい エロ ちゅっちゅ 超正義

493匿名A:2013/02/14(木) 21:40:26 ID:84RxMqgs
>>470,シガー氏お疲れ様です。チョコ食べたくなるんよ。
ユーノ祭の残滓いきます。

494THEEgg.:2013/02/14(木) 21:44:10 ID:84RxMqgs
 無限書庫での仕事が終わると1日の疲労感を引きずりながら帰宅する。本局の転送室からミッドに降りて一般的な住宅街を歩く。
夜空は雲ひとつ無い夜空を見上げれば、星空が瞬いている。煩いのないオフの時間は心地よかった。口許からは白い靄が逃げる。
少し寒いが、それも心地よい。気持ちは弾んでいた。あと少し、あと少しと歩けば我が家が見えてきた。

 玄関先の外灯に癒される。砂利を踏み、ポストの中を確認してから玄関の鍵を開ける。

「ただいまー」

 お帰りなさいの言葉が聞こえるよりも先に、騒々しい子供の足音が聞こえた。

「ユーノくんお帰りなさい!」

 賑やかな足音を引き連れて、パジャマ姿のヴィヴィオが姿を見せる。

「ただいまヴィヴィオ。まだ起きてたんだ」

「もう寝るよ。でも、ユーノくん待ってたの」

「うん?」

「これ!」

 隠していた何かを、ユーノの前にヴィヴィオは突き出した。絵や工作の類ではない。作文用紙で文字が沢山並んでいる。
題名は「私の家族」と書かれている。作文のようだ。

「道徳の授業で書いたんだ」

「それは力作だね。是非読まないと」

 読んで欲しいと目を輝かせるが。

「玄関は冷えるしユーノくんも疲れてるから駄目だよヴィヴィオ」

 なのはが姿を見せた。手は大きくしたお腹に当てられている。
そんな妻の姿を見るとユーノは顔を綻ばせた。疲れなど何処吹く風か。

「ただいまなのは」

「おかえりなさい」

 夫婦で通じ合うものがあるのか、ヴィヴィオが不満気な顔をしている。
苦笑したユーノが、頭をなでてやりながら靴を脱いであがる。

「食事は?」

「勿論食べるよ。――ヴィヴィオはまだ寝ないの?」

「もう少し起きてるよ」

「なら、食事をしながら読ませてもらおうかな」

 なのはの笑顔が少し硬くなった。これは、『行儀が悪いから食事をしながら読んだりするな』という笑顔だ。
でも愛娘にも勝てないユーノだった。あわてて修正する。

「しょ、食事の前に読んじゃおうかな」

「うん」

 風呂に入るのも後回しにして、リビングに赴くと上着を脱いで椅子に座ると改めて作文と向き合う。
子供が書いたものだ。斜め読みでペースをあげて文章を追っていく。なのはの仕度が終わる前に読み終えたかった。
おおよそ5分で読み終わるとヴィヴィオに作文用紙を返して感想をあげていく。

 家族について。
優しい父として描かいてくれた事。母を誇りに思っている事。今度生まれてくる妹を楽しみにしている事。
とても幸せな事。

「誤字脱字もないしよくできてる。うん。100点」

 褒め倒しながら頭を撫でてやると目を細めて喜んでくれた。

「さあヴィヴィオ。ユーノくんに作文読んでもらったら寝るって約束だったよね?」

「はーい」

「じゃあおやすみ」

「おやすみなさーい」

 満足したのか。ヴィヴィオは自分の部屋へと戻っていく。スリッパの特有の足音を残しながら、ユーノもなのはも一息ついた。

「ご苦労様。ごめんね、帰ってきたのに」

「いや、嬉しかったよ」

 家族としての構成。妻とも、娘とも血は繋がっていない。大丈夫と解っていても小さな不安は胸の奥から剥がれてくれなかった。
「血のつながりだけが家族の証明じゃないよユーノくん」

「そうだね」

495THEEgg.:2013/02/14(木) 21:45:15 ID:84RxMqgs
 新しい命にも怒られてしまう。
気持ちを切り替えながら席を立つと夕飯の支度を進めてくれているなのはを後ろから抱いた。

「もう、仕度できないよ」

「後はやるからいいよ。なのはは休んで」

「もう安定期だし平気」

「解っててもね」

 うなじと首筋に口付けてから膨らんでいるお腹に手を添える。
少しずつ少しずつ大きくなって、もう直ぐ生まれてくる。

「早く生まれてきて欲しいな」

「うん。みんな待ってる」

 なのは手が止まり、ユーノの手に重ねると指と絡める。
相手の体温に呼応するように互いに体を寄せて、窮屈な姿勢で口付けを交わす。
速さはない。舌が這い絡み合う。互いの唾液が混ざり合いそれぞれの喉に落ちる。

 喉仏が緩やかに動いた。
唇を這った残滓を舌先で絡め取る。

「する?」

 返事にしなければわからないものがある。少し強めに手を握ってから小さく肯定した。

「うん」

 交尾はコミュニケーションだった。事が終わって終わりでなくて、何処が良かった。悪かったをあげて次に繋げる。
マンネリを嫌い3人目の相談も始まっていた。射精後の虚脱感とまどろみと傍らで眠るなのはの香りに満たされ瞼を落とす。

「ちょい」

「ちょいと兄さん」

「起きてーな」

「眠ったらあかんて」

 誰かに話しかけられて瞼をあげる。ユーノはなのはに顔を向けると熟睡している。
枕元の眼鏡に手を伸ばしてかける。周囲を見ても誰もいなかった。ヴィヴィオでもない。

「ここやがな。ここ」

 声の主は直ぐ傍だった。

「僕ここやねん」

 なのはから聞こえる。
正確にはなのはのお腹からだった。流石のユーノも混乱と寝起きの頭では判断し切れずに言葉もなかった。
黙ったままでいると、なのはのお腹は笑った。

「なんや兄さん。娘が話しかけてるのにダンマリかいな。酷いパパさんやな」

 はやてのように。何故か関西弁だった。頭はついていかないが気持ちを切り替えた。
魔法の世界にありえはないはありえない。

「君はなのはのお腹の中の赤ちゃん?」

「せやでー今、なのちゃんから養分貰いながらすくすく育ってる最中よ。
っていうか兄さんチンコでズコズコ突きすぎや! 生まれてまうかと思ったわ!」

「ご、ごめんね……」

「兄さん腹ボテセックス好きなん? いい趣味してる変態まっしぐらやで」

「いや別に好きってわけじゃ」

「あらーなのちゃんにちくるで。兄さんは仕方なくセックスしてるって」

「それも違うんだけどいいや。それで、君はどうしたの?」

「僕がいるのに中だししなかったのは褒めたったるわ。んん、本題はなーお父さんとしての自覚ってあるん?って
聞こうと思ったんよ。あ、関西弁なのははやてっての人の物まねな! ほら、のりよくてええやろー」

「(まさか生まれてからも関西弁って訳ないよね……)」

「自覚あるん?」

 お腹の中の赤子に尋ねられ、ユーノの顔は引き締まった。

「あるよ」

「そか。そか。なら、ちょっと聞いて欲しいんよお兄さん」

「何を?」

「まず始めに、僕君の子供と違うんよ」

 胸の中で何かが疼いた。
意味が解らない。ような、わからない。
ゆっくりと顔を顰める。

「何?」

「答えは僕にも解らんのよ。でも、お兄さんの種じゃないって事だけは確かに解るんよ」

「どうして?」

496THEEgg.:2013/02/14(木) 21:46:10 ID:84RxMqgs

「なのちゃんはお母さんって解る。でも君から感じるのは"他人"の感覚や」

 気持ち的には唾液を飲み込みたかったが多量の唾液が出てくる気配もなく気持ちは気持ちのまま終わる。
だから強がった。

「感覚で解るんだ」

「せやで。凄いやろ。だから、パパ候補も何人かは解る」

「……1人じゃないんだ?」

「うん」

 胸の苦しみが増した。
逃げたい気持ちに圧されながらも、喋るなのはのお腹から逃げられなかった。
体は石のように重く動かない。

「ちなみに今は起動六課の終了から大体1年ってとこやなー。教えはったるよ。
君の奥さんなぁ、睡眠薬使われて男性隊員達にがっつり犯されてたんよ」

 嘘だ、という言葉は喉許までせり上がってきた。
震える手を握り締めて押えつける。

「続けて」

「だから、誰がパパか解らない。六課にいた誰かがパパって可能性もある」

「含みのある言い方だね」

「せやな。流石兄さん頭ええで。もしかしたらフェイトちゃんかもしれんなぁ、私の半身は」

 またも奇怪な答え。

「どういう意味で?」

「今は男なんて生き物がなくても女性同士でも子供ってできるんよ。知らない?
あの97管理外世界ですら雌x雌マウスで作り出してるんよ生き物を。技術がダンチな管理内世界ならなぁ。
言うまでもないやろ」

「言ってる意味が解らない」

「兄さん女は怖いでぇ。般若の面がよう似合うんや。なんであの2人同室だったん?
少しは頭働かしといて」

「それは勘ぐりすぎだ。それに、君の言ってる事は不透明すぎる」

「それも正解。でも、なのちゃんが処女だったから僕が始めてだったなんて思わん方がええよぅ。
あんなんいつでも再生できるし。女は怖いなぁ。外様から見たらエースオブエースの相方はフェイトちゃんやで。
君やない。ヴィヴィオのママも2人でOK。パパになる奴はフェイトママのホームランや」

「人を馬鹿にするのが上手いね」

「なら君は、今の話をなのちゃんに聞けるか? んん? 聞く勇気はあるんか?」

 目線がお腹からなのはへと向けられる。
よく寝ている。

「ないやろ。まー聞いてもユーノくんの頭おかしなったーって思うだけやろなガハハハ。
僕が生まれたら是非本当の娘かチェックしたらええ。それが一番や。まぁ、魔法にそんなん関係ないけどな」

「君は僕をどうしたい?」

「ん?」

「怒らせたいのか、悲しませたいのか」

「どっちやろなぁ」

「…………」

「それじゃあ、眠くなってきたし寝るでほんまに。お休みやユーノくん」

 お腹が盛り上がる。寝返りを打つように。

「また話そうやないかい」

 そこで言葉は途切れた。ユーノもしばらくそのままだったが急激な眠気に襲われ意識を保てなくなった。
体を倒すと直ぐに眠りに入る。翌朝、ユーノは目覚めた。

「ユーノくん、平気?」

「?」

 先に起きていたなのはに話しかけられるが、意味が解らなかった。

「泣いてるよ?」

 頬に手を当てると濡れていた。今も絶えず涙が落ちている。
忘れていたように鼻をならした。ティッシュをとって鼻をかむ。

「どうしたの? 悲しいこと夢でも見ちゃった?」

 言われて思い出した。全く楽しい夢ではなかった。
目を逸らしめもとをぬぐう。

「大丈夫」

「全然平気そうな顔してないって」

 なのははユーノの頭を胸に抱くと頭を優しくなでつけた。
長い髪を指がすく。居心地の良さに満たされながら瞼を落とす。
まだ涙は流れていた。

「平気だよ」

 たとえ、どんな真実だったとしても見通していれば絶望も何もない。
大丈夫と自分に言い聞かせる。悪い夢を見た。でも、今は幸福だった。

" 君ぃ。人の事を夢の中だけと思ったら大間違いやでぇ "

497匿名A:2013/02/14(木) 21:46:58 ID:84RxMqgs
終了でーす

498名無しさん@魔法少女:2013/02/14(木) 22:45:37 ID:aYw0xO5s
>>497
乙だが、投下前には注意書きを書けとあれほど…

499名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 02:28:01 ID:aE2A3kN2
注意書きが必要な作品なほど、書かれていないことが多いよねえ。
特に鬱系は気をつけないと。書いた本人にとってはジョークでも、読み手にとっては
立派な鬱になるし、余計なトラブルの元になりかねないから。
ちゃんと約束事は守ろうねということです。
鬱話としては面白かったんで、その点では投下乙ということで。

500黒天:2013/02/15(金) 10:09:42 ID:/x6EBKpc
もし仮にフェイトが相手だったら・・・どっちにしろ欝ですね。
では私も夜刀浦奇譚を投下します。4レス程です。
捏造設定ありです。

501夜刀浦奇譚01:2013/02/15(金) 10:12:20 ID:/x6EBKpc
タイトルの後に番号割り振っていきます。
これで幾らかは読みやすく・・・あと捏造設定ありです。
それから冒頭で犯されてる少女達に他意はありません。


「グホォォ・・・・!!」
「い、いや、いやぁぁ・・・・・」
静寂に満ちた夜の闇を、おぞましい獣の唸りと女性の悲鳴が引き裂く。
夜刀浦の南部、元は公民館だった廃墟の中で、黒服の男が、獣の様な雄叫びをあげ、衝動の赴くまま、女達を犯し、獣欲を満たしていた。
只管に力任せに、女の穴に自らの一物を突きいれ、穢れた白濁液を吐き出すだけの行為。しかし、何度犯そうと、男は満足を得られない。
「痛い、どうして、こんな・・・」
「グル、グルル・・・・!!」
激しく肉棒を突きこみ、キリスト系の学校の制服に身を包んだ少女の淫筒を微塵の容赦もなく容赦なく掘削する。自らの快楽しか考えていない突き上げ。
男を知らなかった秘所を抉られ、少女は悲鳴ともつかぬ苦悶の声を漏らす。
「きょ、今日は・・・巴と映画を見に行く筈だったのに・・・」
少女が苦悶の声をあげて見た先には、既に犯され、身体の内外を白濁液で徹底的に汚されつくした、妹分の後輩の無惨な姿が転がっている。
彼女は目の前で後輩が犯される様子を一部始終見ていた。
腰が抜け、逃げる事も出来ずに見ていた。
そして自分が犯されているのは、妹分を助けられない自分への罰だと思っていた。
「・・・神様、お願い、助けて」
力なく手の中のロザリオを握り締め、神に救いを請う少女。
だが、救いの手は差し伸べられない。
粘膜の擦れる感触と、少女の悲鳴こそが最高の悦楽と言わんばかりに、男は夢中で
少女の身体を弄び、何の前触れもなく、男は少女の体内に白濁を注ぎ込んだ。
「あぁ、い、いやあぁ・・・・・」
白濁液を注ぎ込まれ、少女は底知れぬ嫌悪感に悲鳴を上げる。
妹分と同じ様に、身体を震わせ、抵抗も出来ずに注がれる。
「ごめんね、巴・・・・・・」
親友を虚ろな瞳で見つめ、意識を失う少女。
男はそんな少女に興味を失ったのか、無造作に肉棒を引き抜き、周囲を見渡す。
彼の視界に入るのは、縄や鎖で手足の自由を奪われた少女達。
全員、恐怖で顔が引き攣っている。
その中の1人を次の獲物に定め、男は鼻息も荒く歩み寄った。
「いや、こ、来ないで・・・こうちゃん、助けてぇーーー!!」

少女の悲鳴が虚しく響いた。



「グキ・・・クケケっ!!」
「あぐっ・・・痛い、もう、もう許して・・・」
夜刀浦の南部の別の場所、廃工場の中では、同様に、少女達が犯されていた。
上品な生地で仕立てられた制服は無惨に引き裂かれ、秘所に固く反り返った肉棒を突き込まれている。破瓜の痛みに泣き叫ぶ少女の事など気にせず、男は自分の快楽だけを求めて少女を犯している。
「う、はあぁ・・ひぅ・・」
犯され続けた少女は、意識が定まっていないのか、突かれる度に声を漏らすだけで反応が薄い。そして男は反応の薄い少女の胎内に思う存分、精を吐き出した。

502夜刀浦奇譚02:2013/02/15(金) 10:13:14 ID:/x6EBKpc
「あ、わ、私の中に注ぎ込まれてる・・・」
自らの内部を満たす精の感触に、少女は我に返り、視線を彷徨わせる。
その視線の先には、意識すら朦朧とした状態の無愛想な恋敵の姿があった。
「く、紅瀬さん・・・私よりも先に犯されてたんだ・・・あ、あはは・・・・」
想いを寄せる少年の誕生日プレゼントを買いに恋敵と一緒に出かけたら、こんな得体の知れない連中に拉致されて、この有様だ。
もう笑うしかない。
虚ろに笑う少女の内部に再び突きこまれる肉棒。
「はぐっ・・・ま、また中にぃ・・・」
自らの内部を蹂躙する異物のおぞましさに少女は身悶えた。



生臭い夜風が吹きすさぶ夜刀浦の南部の空の上に中国風の衣装に身を包み、仮面を顔につけた男が悠然と‘立って’いた。
「ふむ・・・贄共の熟成は順調の様だな」
夜刀浦の南部に広がる廃墟の彼方此方で繰り広げられる惨劇を、意識と精神を呪縛した部下の男達の感覚を通して‘観察’し、その順調な推移に満足する。

「・・・我が“神”の完全なる復活の為、最後の生贄はやはり、極上の女でなくてはな」
確実に最後の生贄を捉える為、仇敵たる一族の少年に宣戦布告する意味も兼ねて、男は念には念を入れるつもりだった。
今見た二箇所の他にも、四箇所でも同様の陵辱劇が起きており、それらの場所を線で結んでいくと、出来上がるのは、流血と怨嗟、絶望、恐怖で満たされ、夜刀浦南部全体を範囲とする六芒星のーー『深淵より、海の魔物を召喚する』ーー魔法陣。


「・・・では始めようか」
静かに呟き、男は懐から一冊の分厚い本を取り出した。
人の皮で覆われた、それは魔導書であり、名を『瑠璃城経典』という。
「くくく・・・‘この身体の持ち主’が率いていた組織の力も侮れんな・・・壊滅状態だったにも関わらず、これ程に質のいい‘書’を見つけてくるとは・・・」
仮面の下で顔を歪ませ、男は『瑠璃城経典』を開き、異界の言葉を紡ぐ。
その詠唱に呼応して、魔導書が震え、瘴気を吐き出し、猛り狂う魔力の波動が周囲の空間を歪ませ、部下達の身体に植え付けた“種”の活動を活発化させた。

「さあ、偉大なる≪海魔の王≫の僕よ。深淵より来り給え。脆弱なる人類の世を終焉に導く為に!! 凶暴なる海魔よ、我が呼びかけに答え給え!!」
この世界の海底の都に眠る、大いなる“神”への賛歌を謳う。
やがて、高らかに狂笑する男の眼下――夜刀浦南部を、邪悪な気配に満ちた六芒星の魔法陣から放たれる、黒い霧――瘴気が覆い尽くした。


「グ、ゴゴ・・・ゴブ、ゴハァ・・・・ぺ、ぺド・・・レオ、ン・・・」
魔法陣から吹き出す異界の瘴気の影響を受け、六芒星の頂点にあたる場所で、陵辱行為に勤しんでいた男の一人の様子が明らかに変わった。
鼓動が増し、視界が滲む。小刻みに身体が痙攣し、その下腹から夥しい数の触手が突き出し、無気味にビクビクと波打った。

503夜刀浦奇譚03:2013/02/15(金) 10:14:09 ID:/x6EBKpc
「ォ、オレのカラダがぁ・・・のっとられるぅ・・・うぼぁ・・・ク、クトゥ・・・ル、ルルイエ・・・」
異変はそれだけでは収まらなかった。まるで蝉が脱皮する様に、男の背中からも触手が何本も溢れ出てくる。それなのに血は一滴も出ていない。男の身体の中身が別の‘何か’に取って代わられたかの様だった。
「・・・グボボ、フシュル・・・・サ、ヤ、フミ・・・・ノリ、ノリ・・・・」
“肉のスーツ”――人間の肉体を脱ぎ捨て、汚らわしい体液に塗れた海魔が、ゆっくりと身の丈三mにも及ぶ巨体を蠕動させる。顔も最早、人の物ではなく、鮫の様に鋭利な牙を備えた、環状の口腔があり、物欲しそうに開閉している。


――そう、空腹で仕方が無い。海の底から“食事”に招待されたのだ。
欲求を満たすべく、海魔は触手を伸ばし、眼前の‘ご馳走’を絡め取る。
何やら、喚いているが、別に気にならない。
‘ご馳走’を食べやすくしようと、触手に力を込める。
ベキベキという音と共に、団子状になった‘ご馳走’から赤い汁が零れる。
‘ご馳走’を口に運び、ボリボリと咀嚼する。
瞬く間に‘ご馳走’を平らげると、数mに成長した海魔はまだまだ物足りないとばかりに、次の‘ご馳走’に触手を伸ばした。


――――‘ご馳走’を平らげる毎に、海魔の身体は巨大化していった。






「フハハ、いいぞ、いいぞ、実に頼もしい異形の軍勢だ!!」
上空に佇み、仮面の男は心から愉快そうに笑った。
夜闇を背景に浮かび上がる、身の丈、20mに迫ろうかという異形。その数、四体。
生贄として捧げられた少女達だけでなく、本来は‘同胞’ともいえる夜刀浦南部の住人すらも、手当たり次第に捕食し、急成長したのだ。
「む、四体だと・・・本来では六体召喚される筈・・・」
部下の身体を苗床に、生贄の少女達を餌にして六芒星の頂点毎に、一体ずつ海魔は召喚される筈だが、二体足りないのだ。
怪訝に思って、視線を巡らせると、その理由に思い当たった。
「ち、退魔機関の連中か・・・」
元公民館、廃工場――この二箇所の海魔は退魔機関の者達の猛攻に晒されている。如何に強大な海魔といえど、召喚直後、かつ、凄腕の退魔師ならば、撃退する事も可能だろう。更によく見てみれば、その二箇所では、救出された少女達を守護する様に、一般人らしき少年達がそれぞれ霊剣や霊槍を手に奮戦している。
あの二箇所に赴いた、退魔師はかなりの凄腕らしく、海魔は調伏される寸前だ。
残りの四箇所には、手が回らなかった様だが。


「まあ・・・四体でも充分だがな。この辺り一帯を滅ぼすのには」
仮面の男は手の中の『瑠璃城経典』に刻まれた術式を起動させ、4体の海魔を支配下に置く。元公民館及び廃工場の海魔――この2体は退魔機関の連中を足止めする囮と考える事も出来る。2体の戦力減は痛いが、致命的という程でも無い。

というより海魔ですら仮面の男にとっては、ある意味では‘捨て駒’に過ぎない。


「さあ、進め、海魔達よ・・・くだらん日常を貪る有象無象共に思い知らせてやれ」
号令に従い、4体の海魔達は、巨躯をうねらせ、従順に進撃を開始した。
夜刀浦北部に異形の群れが迫る。
傲慢なる人間の領土を侵し、脆弱なる人類を海の深淵に引きずりこむ為に。



夜刀浦北部を取り囲む様に配置されていた、五芒星を刻んだ石碑群――超古代から海よりの異形の侵略を阻止してきた結界――が迫り来る海魔四体の圧力によって、粉々に砕け、無意味な破片となって散らばった。

504黒天:2013/02/15(金) 10:16:47 ID:/x6EBKpc
ここで一旦切ります。以降の投下も夜刀浦奇譚○○といった具合に番号をつけて投稿します。
汁元帥の海魔の親戚×4、これって鬼械神が必要なレベルかもしれない。

505名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:29:51 ID:zTH1BJ/s
黒天氏、大作お疲れ様です。クトゥルフパねぇ…
少し場をお借りして拙作を投下させていただきます。
本来はバレンタインssだったのに、一日遅れに…
ほんのりミウラ×ザフィーラです

506名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:33:09 ID:zTH1BJ/s
 簡単に言えば、ミウラ・リナルディは困っていた。

 理由は他でもない、バレンタインデーについてである。

 ミウラがその存在を知ったのは、つい先日のことだった。
 いつものように道場から家路につこうとしたミウラは、八神家道場のトップとも言える八神はやてに、個人的に話があると呼び出しを受けたのである。
 その時に教えてもらったことが「バレンタインデー」というはやての故郷の風習であった。
 ミウラの記憶する限り、はやてはこのように言ったのだ

「バレンタインデーゆってな、その日はお世話になってる人にチョコあげるんよ」

 お世話になっている人ということで、ミウラがまず頭に思い描いた人物は、自分の師であるザフィーラだった。
 もちろん、八神家の全員にお世話になっていると言えるが、今までお菓子作りなど経験のない自分は、一人に対象を絞ってしまったほうが良い。ミウラはそのように考え、バレンタインデーにチョコレートをあげる人物はザフィーラだけにし、それを分け合ってもらえばもらう方向で進めることにした。
 もっとも、市販の物を買えばそれで済む話ではあるのだが、生真面目なミウラの頭に市販製品という考えは浮かばなかった。
 何はともあれ、ミウラは生涯初のバレンタインデーに決意を固めたのであった。

 しかし、しかしである。
 先ほど元となるチョコレートを買いに行った時にヴィヴィオと出会ったことが、現在ミウラの悩みの種となっているのだ。
 チョコレートを手に持ったミウラに、ヴィヴィオはこのように言ったのである。

「ミウラさん、好きな人がいるんですか?」

 詳しく話を聞いてみると、バレンタインデーという日は、女性が好きな人にチョコレートをあげる日であると言うのだ。
 その話を教えたのは、はやてと同郷の高町なのはである。そこでミウラは、はたと悩まなければならない事態に直面してしまったのだ。
 一体どちらの言っていることが本当であるのか、という点が問題となる。
 ヴィヴィオの話はあくまでまた聞きである。より情報として確実性が高いとすれば、直接自分の耳で聞いたはやての話だ。しかし、それほど付き合いの長くないミウラでも、はやてが、いたずら好きということには気づいている。胸を揉まれているシグナムやシャマルを見たことも、一度や二度ではない。ならば、これははやてによるセクハラであるという考え方もできるのだ。
 そう、もしそれと知らずにザフィーラにチョコレートを渡したのなら……

(……って何を考えてるんですか、ボクは!)

 一瞬、満面の笑みでチョコレートを渡す自分と、わずかに困った顔をしながらそれを受け取るザフィーラを想像し、真っ赤になってしまう。
 バレンタインデーの意味がどちらのものにせよ、自分の師匠は知っているに違いない。
 ミウラは究極の選択を迫られていることに気がついた。要するに、チョコレートを渡さずに、師匠に礼を欠いてしまう可能性を良しとするか、それとも、渡して勘違いを誘発させてしまう可能性を良しとするか、である。

(そもそも、ボクは師匠をどう思ってるんでしょう……)

 ミウラもそろそろ思春期になろうかという女の子であり、恋愛に興味がないわけではない。むしろ、他人の恋バナには興味深々な12才である。しかし、こと自分のことになってみると、そんな自分が想像できないほど混乱してしまっていた。
 ザフィーラのことは決して憎からず思ってはいない。むしろ、慕っているという自覚もある。しかし、それは果たして恋情なのか否か、今のミウラには判断することができなかった。その上、相手は自分の通う道場の師匠である。万が一変な空気とかになってしまったら、二度と八神家の面々と顔を合わせられる気がしない。

 作るべきか
 作らざるべきか
 ミウラは今、人生の岐路に立たされていた。

507名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:35:02 ID:zTH1BJ/s



(……まあ師匠ならどうにかしてくれるでしょう)

 最終的に判断の決め手となったものは、ザフィーラの性格だった。ザフィーラであれば、向けられている気持ちが憧憬であれ、恋情であれうまく流してくれるだろうと、そう判断した結果である。
 そこまで考えたミウラはようやく、チョコレート作りに取り掛かったのであった。



 バレンタインデー当日、わずかに高鳴る胸とともに道場へ向かったミウラであったが、その手前ではやてから呼び出しをくらっていると、リインフォースから伝えられた。若干の嫌な予感とともにはやての元にやってきたミウラだったが、案の定目の前で正座させられたのだった。

「ミ〜ウ〜ラ、これはどういうことやの」

「あの……何のことでしょうか?」

 どうやら怒っているというよりも、呆れているといった感であるが、一体どうしてこんなことになっているのか、ミウラには皆目見当がつかない。頭から大量の疑問符を出したまま、不安そうな顔で質問してくるミウラを見て、はやては大きくため息をついた。

「ラッピングや、ラッピング、もっと女の子らしいのにせな」

 言われてみればその通りである。さすがに包装をしていないわけはないが、プレゼントと呼べるような様相はしていない。

「やっぱり足りませんか?」

「そりゃ、乙女のプレゼントやで〜」

 あくまで軽い口調で言い放つはやてに向かって、ミウラはジト目になって疑問をぶつける。

「……感謝の印じゃなかったんですか」

 ミウラのツッコミに、一瞬イタズラがバレてしまった子供のような顔をするが、すぐに気を取り直して、やけに目を輝かせて顔を寄せてきた。

「まあ両方あるんよ、義理と本命ゆーてな。ミウラちゃん的にはどっちなん?」

 言葉からするに、義理がお世話になったお礼、本命が好きな人に贈るプレゼントということだろう。それ自体はわかるが、ミウラは未だに自分の思いを決めかねていた。

「その、どうなのか、自分でもよくわからないんです…。師匠をかっこいいとは思いますし、尊敬する人でもありますが…」

 はやてに相談するべきか、それとも黙っておくべきか、それすらも判断することができないまま、自分の正直な思いを口にしてしまう。その言葉を聞くと、はやては少し遠い目をして、ミウラにとある話を聞かせてくれた。

 ザフィーラがかつて情を交わした女性がいたこと、その人が自ら命を絶ってしまったこと、未だにその人を想い続けていること…

「ザフィーラはあんな性格やろ?生涯で愛する人は一人って決めてるんと思うんよ。でも周りで見てるとやっぱりきつくてな…」

 その女性ははやてとも親しい人であったのだろう。その目ににじませる淡い悲しみは、はやて自身もその傷が癒えていないであろうことを示していた。

「ミウラならなんとかできるんやないかなって思ったんや、なんとなくやけどな」

「……何でボクなんですか?」

 もっとふさわしい人はいるだろうと、ミウラは思う。あくまで自分は門下生の一人に過ぎない。それよりも、ザフィーラともっと長い時間を過ごしてきた人の方が、その役には適しているはずだ。
 しかし、はやてはなんてことないように問題発言をぶちかました。

「だって、ミウラはザフィーラのこと好きなんやないかって思ってな」

「え!?」

「道場来た時に、ザフィーラのことずっと目で追ってたのに気がついて、もしかしたらと思ってたんやけど…ちゃう?」

 毎日来ているわけでもない人が気づいてしまうほど、わかりやすく追っていたのだろうか。そもそも、門下生が師匠の姿を求めるのは当たり前な気もするが、それとは違う意図を読み取ったということなのだろうか。
 はやてに言われているうちに、本当にザフィーラに恋心を抱いているのではないかと思い始める。もとより不満があるわけでもない、むしろ貰ってくれるのならそれは光栄なことではないだろうか。体幹の訓練などでついつい過剰反応してしまうのは、やはりそういう気持ちがあるからではないか。
 次第にミウラの頭が、恋愛色に染められてゆく。それに比例して顔も赤く染まってゆく。

 そんな思春期真っ盛りの反応を見ると、はやては自分の用意した包装紙とリボンを取り出す。

「これなんて、ミウラに似合うかと思って用意しておいたんやけど…」

 なぜ前もって用意してあったのか、今のミウラにはそんな疑問が浮かぶ余地など存在せず、はやての言われるままにラッピングを行っていた。

508名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:36:20 ID:zTH1BJ/s



 その後、どのように道場までたどり着いたのか、一体どんな練習をしたのか、記憶には一切残っていない。ようやくものを考えられるようになったのは、人のいなくなった道場でザフィーラの前に立っていることに気がついた時だった。

「どうした、ミウラ?今日は少々様子がおかしかったが、そのことで相談でもあるのか?」

 この期に及んで告白ということに考えがいかない朴念仁に、多少恨めしい思いを抱えながら、今朝自分の包んだチョコレートを差し出した。告白の言葉は出てこない。頭が真っ白になって、再び自分がいる場所すらあやふやになってしまう。

「これは…チョコレートか」

 対するザフィーラはあくまで冷静であった。そう言えば今日はバレンタインデーなる日であったなどと考えながら、律儀な弟子にお礼を返す。

「感謝する、菓子作りなど大変だっただろう。このチョコレートは皆でありがたくいただくとしよう」

 ザフィーラの中では、当然のように義理チョコであって、自分個人ではなく、八神家全体へ向けられたものであるのだと了解していた。だからこそ、皆で食べるという発送にたどり着いたわけだが、ミウラにとってその言葉は、死刑宣告に近いものであった。
 届かない想いであると分かってはいても、涙は止まらなかった。せめて自分の気持ちに気がついて欲しいと、目の前でいきなり泣き出した弟子に困惑するザフィーラにむかって、必死で声を張り上げる。

「……!?一体どうし…」

「ちがっ、違う、んです…それは、師匠に、師匠のためだけに、作った、もので…」

 ここに至っては、ザフィーラもミウラの気持ちに気がつかざるを得なかった。ひとまず弟子が落ち着くのを待ってから、勘違いをした謝罪を口にする。

「先程は、申し訳ないことを言ってしまった。許してくれ」

「あ、そんな」

 気持ちが落ち着いてみると、自分がどれほど恥ずかしい真似をしたのかに気づき、ミウラは真っ赤になってしまった。師匠の謝罪にも言葉を返すことなどできず、ただ答えを待つことしかできない。

 そして、ザフィーラの答えは、予想取りのものであった。

「しかし、すまない、お前の気持ちに答えてやることはできない」

 実直なザフィーラらしい真っ直ぐな答えに、やはりと思いながらも、つい質問が口をついて出る。

「……やっぱり、前の人のことが忘れられないですか?」

 はやてに聞いた話を思い出しながら、そしてはやてに言われた言葉を信じながら、今度は自分を師匠の隣に居させて欲しいと言外ににじませたつもりだった。もし、忘れられないのだと言ったのなら、自分もまた、この思いに殉じようと、そのミウラの尊い決意は――



 ザフィーラの次の一言でもろくも崩れ去った。

「前の、とは一体どういう意味だ?」

509名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:39:51 ID:zTH1BJ/s



「へ?」



 ザフィーラが言うには、確かに事情があり自ら姿を消した仲間はいたが、別に恋人であったわけでもなく、ましてや情を交わした覚えは一度たりともないとのことだった。

「あれ?」

 また、女性と付き合うことがない理由は、単純にその気がないからであり、相手からも真剣な想いをぶつけられたことはないからであるらしい。

「え?」

 要するに、はやての話は、大筋では間違っていないものの、そこかしこに嘘が散りばめられていたものであったのだ。
 なぜ、はやてはこのような嘘をついたのか、その理由すら考えられず、ほとんど思考停止に陥っていたミウラの耳をくすぐるものがあった。思考停止し、頭が空っぽであったからこそ聞こえたのであろう。現に、目の前のザフィーラは気がついていないようである。

「……受け取った……やから、……とる……」

「……ないですわ……でも、あれ……ではあり……」

 片方の声に聞き覚えがあったミウラは、ストライクアーツで培った歩法により、話し声の本まで一気に距離を詰める。

「「!!?」」

 まさか気がつかれているとは思わなかったのだろう。二人の女性が自分の目の前で引きつった笑いを浮かべていることが分かった。
 自分もまた、同じような笑みを浮かべていることを自覚しながら、自分の知っている方の女性――八神はやてに、純粋な疑問をぶつける。

「何をしているんですか?」

 ただ質問しただけである。にも関わらず、はやての口元が2割増しで引きつったことを見て取ることができた。
 もう片方の女性――こちらは見知らぬブロンドの女性であった――は、形勢不利と見て、いきなり後ろに逃げ出そうと試みた。
 はやてに気を取られていたミウラは、突然の逃亡にとっさの反応ができず、取り逃がしてしまう……かに思われた。

「きゃっ!」

 いつの間にか、逃げようとした女性の足に何かが絡みつき、宙に釣り上げていた。何者かと伸びてきた方に目を向けてみると、暗がりの中から4人の人が出てきた。

「ヴィータさん、シグナムさん、シャマル先生、リインさん!?」

 4人とは何を隠そう、ヴォルケンリッターの面々であった。皆、呆れたような顔で釣り上げられた女性と、はやての方を見ている。

「こ、こら、女性の足を釣り上げるなんて、礼儀がなっていませんよ」

「礼儀がどうこうを、今のあなたにだけは言われたくありません、騎士カリム…」

 どうやら、宙ぶらりんになっている女性はカリムというらしい。それも騎士というのだから、かなり偉い人であるようだ。

「何をやっているんですか、はやてちゃん?」

 シャマルがいつもと変わらぬ、しかし何かが決定的に違う笑顔で、自分の主人に質問する。

「いや…ちゃうねん、これには…深い訳が…」

 はやては冷や汗を1ガロンほどは流しながら、必死で言い訳を探した。

「賭けをしてたんだよな、騎士カリムと」

 ヴィータがため息をつきながら、あっさりと言ってのける。
 二人の反応は遠目ですらはっきりと見て取ることができるほどであった。

「だ、誰がそんなデタラメを…」

 カリムはそれでもなんとかごまかそうと、悪あがきをする。

「シャッハさんに聞きました、乙女の祭日に何をしてるんですか!」

 普段は明るく笑っているリインもこの日ばかりはお冠である。

 何がなにやらわからないミウラにヴィータが説明してくれたところによると、八神はやてとカリム・グラシアはザフィーラが本命チョコレートを受け取るか否かで賭けをしていたらしい。はやてが、やたらとミウラにモーションをかけていたのは、賭けに勝利する策であったのだ。

510名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:41:26 ID:zTH1BJ/s

「へ〜、そうなんですか〜」

 声が底冷えたものになったことは自分でもよく分かった。ひきつるどころか、満面の笑みをはやてとカリムに向ける。二人の冷や汗は、すでに一つの魔法ではないかと錯覚するほどの量であった。

「いや…ミウラがザフィーラの方を追ってるゆうんは本当だったんやで?だから、ちょっと肩を押してあげようかなって…あわよくば賭けの方も…」

 とにかく被害を少なくしようと、舌を動かし続けるはやてを、シャマル・ヴィータ・リインの三人が、無理やり道場の中に押し込む。

「これはちょっと先生怒っちゃいますよ?」

「まあストライクアーツ式でやるから傷はつかないって」

「乙女の怒りは海より深いんです!」

 抜剣体勢で構えるミウラの前に立たされて、はやてはついに堪忍したのか、ミウラに薄く微笑んで言った。

「赤くなるミウラ、可愛かったで」

「抜剣・星煌刃」

 笑顔のまま吹き飛んでいくはやてを見送りながら、ヴィータが二人目のサンドバックを用意する。

「良かったな、ミウラ。今日は抜剣の練習が存分にできるぞ」

「はい!ありがとうございます、ヴィータさん!」

 師弟関係の見本のような光景を横目に、カリムは最後の抵抗を行っていた。

「せめて!せめて、お礼は吹き飛ばされる方に言ってくれませんー!」



 やはりはやてと同じように吹き飛ばされていくカリムを見て、ようやく愛剣をしまったシグナムは、傍らのザフィーラに問いかけた。

「気持ちには答えてやらないのか」

「ミウラはまだ子供だ。憧れと恋慕を取り違えているだけだろう。時間が経てば、人の心は変わる、良くも悪くもな」

 あくまで堅い盾であり続けようとする同僚の生き方に、シグナムは微笑みながら言葉を重ねる。

「どうかな、少なくとも私の知る限り、全く変わらないやつもいるようだが」

 今度の言葉に答えは返ってこなかった。
 これからは、ザフィーラとミウラの二人の問題であると割り切り、今度は別の話題を振ってみる。

「リインフォースが見ていればと願わずにはいられないな」

 ヴォルケンズの自分たちが教えた、真面目で明るいストライクアーツの選手。殺し合いを続けてきた自分たちであるが、こうして平和な時代に繋げることができたことが、シグナムにはたまらなく嬉しかった。それはザフィーラも同じであろうと確信している。だからこそ、この場にいない、もう一人の存在に心を向けずにはいられなかった。

「見ているだろう、きっと、な」

 二人の古代ベルカの騎士と守護獣は、微笑みながら、自分たちの育てた「未来」をいつまでもいつまでも見守っていた。

511名無しさん@魔法少女:2013/02/15(金) 18:44:40 ID:zTH1BJ/s
以上になります。
投下は実に半年ぶりになりますが、やっぱりバレンタインssは作りやすいですね(カレンダーから目を逸らしつつ)
ようやく一つ完成できて嬉しい限りです。

………タイトルつけ忘れてた…

512名無しさん@魔法少女:2013/02/16(土) 00:39:57 ID:xF/cP1S6
ミウラメインとは珍しい
おっさんとロリって定番だよね、乙

513名無しさん@魔法少女:2013/02/16(土) 20:30:53 ID:AYMzZP.M
そういえば、ユーノ祭で「ユーノ君は俺の嫁」が投下されてませんでしたね。
ちょっと残念です。
また投下される日を待ってます!!

514ザ・シガー ◆PyXaJaL4hQ:2013/02/17(日) 01:40:27 ID:vPo5y.5g
いつユーノ祭が終わったと思っていた?


とりあえず今日中には投下するからまっちれ
今はもう眠いから勘弁な・・・

515名無しさん@魔法少女:2013/02/17(日) 14:23:48 ID:4f6p5hxM
キャーシガーサーン
期待して全裸待機!




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