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【ファンキル】SSスレPart3

1ゆるりと管理人:2020/06/02(火) 19:59:19
前スレはこちら
Part1
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/netgame/15938/1563639218/
Part2
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/netgame/15938/1568155889/

ファンキルの二次創作SSを投稿するスレです。

・18禁の内容はNGです
・原作のキャラクター性を著しく損ねる内容はご遠慮下さい、
また損ねている可能性がある場合は注意書き等でご配慮下さい
・複数レスに跨る場合は投稿者名(いわゆるコテハン)を利用しましょう
・投稿に対する暴言は規制対象になります
・ダモクレスばかり登場させるのは控えましょう

856キル姫アルマスは改造人間である:2021/11/21(日) 00:40:50
「これは?」
「D. plugね。パラケルススが使ってたやつ」

 拾い上げたメモリをしげしげ眺めるマスターの疑問にアルマスが答えた。

「それを返してくれないかな?」

 校庭にうつ伏せに倒れたままでパラケルススが言った。制服の上から白衣を羽織ったいつも通りの姿に戻っている。

「ダメよ。こんな力ろくなもんじゃないんだから」
「私には必要なんだ。メモリ、それが私の求めていた力!」

 伏したまま力強くパラケルススは言う。

「この私じゃダメなんだ。どうしても人体で実験しなければ効果が立証できないというのに副作用が出てしまうかもと思うと恐ろしくてできない。だけどそのメモリを使っていた時だけは、相手の健康に一切配慮せず冷静に実験ができたんだ。それができないとダメなんだ」
「何言って……」
「陸上部の大会用のドリンク。それが作りたかったんでしょ」

 パラケルススの発言の意図が読めず困惑するアルマスの代わりにマスターが答えた。その言葉にパラケルススは頷く。

「ソロモン辺りが言ったのか?」
「まあそんなところ」
「……そうだよ。私が手慰みに調合したドリンクをトリシューラに飲ませてみたらタイムが縮んだとかで喜んでもらってね。大会用のものも依頼されたんだ。頼まれたからには完璧なものを作りたくてね」

 人体を活性化させる薬剤を色々混ぜてみたがどうも効能が不安だった。論理上は人間を遥かに超える能力が発揮できるはずだが実際に使えばデメリットがあるかもしれない。
 そのために実験が必要だった。

「でもできなかったんだ。もしかしたらのことを考えると」

 もし薬剤が原因で病気になったら。
 もし使用者に何らかのアレルギー反応がでたら。
 もし使ったがために死亡するようなことがあったら。
 そのために生体実験が必要だった。しかし、パラケルススにはできなかった。実験用のモルモットでさえもしものことを考えると可哀想で使えなかった。

「だから私はメモリが欲しい! どこまでも冷酷に、冷静にただ成果のみを追求できる力! それが手に入るなら悪魔の因子だろうがなんだろうが構わない! 悪魔と相乗りだってしてやるとも!」

 嗚咽交じりにパラケルススは叫んだ。その事情はおよそ常人には理解不能な境地であったかもしれないが彼女の本気は十分に伝わった。
 マスターがその手に握るD. plugメモリに改めて視線を向ける。

「わかったよ。君のしたいこと」
「なら……!」
「でも」

一瞬、笑顔を取り戻しかけたパラケルススに対するマスターの否定の言葉は深い悲しみを孕んでいた。

「たしかにみんながやりたいことをやってそれで笑顔でいられるならそれが一番いいよ。でも君の『やりたいこと』。それが誰かを傷つけることなら僕は全力で止める」

 マスターは紫のメモリを地面に落とし、力一杯踏みつけた。
 靴の下でパキンというメモリがブレイクされた音がした。

「それが罪なら、僕が背負うよ。いくらでも恨んでくれていい」

 パラケルススが「ああ」と息を吐き目を伏せ、マスターの背後でアルマスが複雑な顔をする。そしてマスターは、

「もうすぐ陸上部の人たちが戻ってくるね」

 校庭の時計を見てそう呟くと、パラケルススを抱き起すのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「わざわざ壊さなくてもよかったのに。今更遅いけど」

 消沈した様子のパラケルススを送り届けた直後、廊下でアルマスとマスターを待ち構えていたのはガ・ジャルグだった。
 相変わらずどこか上から目線な態度は変わっていないが髪に付いた木の枝がすべてを台無しにしている。
 吹き飛ばされてから急いで戻って来たのだろうか。

「何しに来たのよ」
「別に、もう何もしないわよ。ただ帰る前に挨拶しておこうかと思っただけ」

 メモリを取り出して臨戦態勢に入ったアルマスを軽く流してガ・ジャルグはばさりと翼を広げる。そのまま窓を開けると外に身を乗り出して、

「ああ、最後に一つ」

 こちらの方を向いて、

「勘違いしないでよね! わたしは負けてないわ! あの時はたまたま風が吹いただけよ!」
「いや、あの時たしかに」
「答えは聞いてない!」

 そう叩きつけるように叫んで窓から飛び去って行ってしまった。

857キル姫アルマスは改造人間である:2021/11/21(日) 00:42:15
 後日。

「で、どうしてそんなことになってるわけ!?」
「さあ……私も気が付いたらこんな状態だったもので……」

 マスターの目の前で妖精が二人並んでいる。
 片方は相も変わらぬデュリン理事長。
 そしてもう片方はグレーの長髪の先を所在なさげに弄る保険医のティターニア先生だった。変わったことといえば掌サイズに縮み背中からは可愛らしい羽が生えて飛んでいるくらい。
 有体に言えばデュリン理事長と極めて酷似した姿になっていた。

「大変でしたね」

 大騒ぎをしているデュリン理事長とティターニア先生から離れた場所でティルフィングがマスターに耳打ちしてきた。マスターは「ちょっとね」と曖昧に頷いておく。
 結局今回のことはアルマス自身の頼みで細かい事情はぼかしてデュリン理事長に報告することにした。
 理事長らは多少納得いかないような様子だったが黒い霧が何かしたのだと強引に押し通すことで何とか納得させた。
 そしてアルマスは――――――、


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アルマスは宣言通り学園を去るという。
 とある曇り空の休日、マスターとティターニア先生、パラケルススの関係者一同はアルマスの見送りに集まった。

「これ、もらっていいの?」
「はい。私よりアルマスが持っていた方が役に立つと思いますから」

 バイクに跨ったアルマスが青いメモリを取り出す。
 ティターニア先生から生まれた全く新しいメモリ。このメモリに存在力の大部分を持っていかれたせいでティターニア先生は妖精並みのサイズに縮んでしまったのではないかとパラケルススは推察していたが実際のところはまるでわからない。

「ごめん。わたしのせいでそんな姿に……」
「謝らないでください。私は何も気にしていませんから。それにこの姿も中々悪くないですよ。それでもアナタが気にするなら……そうですね。私のことをあの呼び方で呼んでください。それでいいです」
「……わかったわ。ティニ」

 慣れないあだ名を口にして、アルマスは少しくすぐったそうな顔をする。その様子を見てティターニア先生は微笑ましそうに頬を緩めた。

「アルマスは可愛いですね」
「どこがよ」
「たまに素直になるところがです。あの時の告白。私聞いてましたよ」
「げっ!」

 ティターニア先生のメモリを使った時のことを言われて顔を真っ赤にするアルマス。慌てて誤魔化そうと口をぱくぱく動かしていたが何も言えずに咳払いをして無理やり話題の矛先を変えるようにパラケルススの方を向いた。

「あなたも変なのに関わるのはやめなさいよ」
「この間の実験のことを言っているなら心配は無用だ。トリシューラに怒られたよ。私の作った飲料はドーピングに引っかかるらしい。薬物使用者は俗語で言うならドーパントか? まあとにかくおかげで研究は中止だ」

 あまり悪びれもせずさらりと言い放つあたりはパラケルススらしい。

「私にとってもあの日は激動の一日だったが。思い返してみると君やガ・ジャルグは一体何者だ?」
「まあ……ただの通りすがりよ」
「ふうん。教える気はない、もしくは言えないことか」

パラケルススはそれ以上追及せず白衣の襟を整えると曇り空を見上げて言う。

「旅立つにはあまり相応しくない天候だな」
「見える天気が雨でも曇りでもその雲の向こうには青空があるのよ。行動するのに天気なんて関係ないわ」
「同感だな。では、よき週末を」
「ええ!」

 力強く頷いてバイクにエンジンがかかる。最後にアルマスはマスターの方を見て、

「色々あったけど、とにかくありがとう! 助かったわ!」
「こちらこそ。疲れたらいつでも戻ってきていいからね」
「考えておくわ。さ、振り切るわよ!」

 後ろ髪惹かれる思いを振り切るように気合を込めてアクセルを回した。最初からマックススピードで疾駆したアルマスのバイクはその姿をみるみる内に小さくしていった。
 アルマスにはこの先色々なことがあるだろう。今回よりもずっと恐ろしい敵と出会い、膝をつくこともあるかもしれない。だが彼女はきっと諦めはしないだろう。
 何せ彼女は守りたい者のために強くなれる優しく強い人なのだから。
 きっとまた会える日が来る。その時はまた協力するかもしれないし、こちらの問題を彼女が助けてくれるかもしれない。
 そんな日が来ることを夢想しながら、マスターは走り去っていくアルマスの後ろ姿に手を振り続けていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 心を込めてもう一度。

キル姫アルマスは改造人間である!
 彼女を改造した裁定社は世界征服を企む悪の秘密結社である!
 アルマスは人々の自由のために裁定社と戦うのだ!


『おわり』

858名無しさん:2021/11/21(日) 00:49:09
お言葉に甘えて投稿させていただきました。ほんとはもっと笑える感じのやつにするにつもりでしたがなんか長くてシリアスなやつになってましたね…。
楽しんでもらえたら嬉しいです。

859名無しさん:2021/11/21(日) 09:45:08
面白かった、文章がうまい
これっめ何かのパロディ?

860名無しさん:2021/11/21(日) 15:06:32
仮面ライダー

861名無しさん:2021/11/22(月) 21:50:19
知らない人でも楽しめるように話を考えてそれはそれでわかる人にはわかるネタを大量に混ぜました

862名無しさん:2021/11/23(火) 18:12:34
久々に面白かったわw

863<削除>:<削除>
<削除>

864名無しさん:2021/11/27(土) 05:46:27
管理人このSSスレほぼ見捨てとるやろ。まとめ記事にしないのは管理人の何かしらの基準があるからどうこう言うつもりはないけど俺が書いてる直前にあるNFTのやつを削除せずにほったらかしにしてるのはいささかどうかと思う。スレを立てて管理人をしてる以上は最低限のことはしてほしい。

865名無しさん:2021/11/30(火) 22:52:45
まとめられてたな

866名無しさん:2021/12/02(木) 11:15:57
次はダモが主役のSSを書いてほしいダモ
仮面ライダーダモウとかどうダモ?

867名無しさん:2021/12/04(土) 19:59:48


アルマス達とロスラグコマンド達がスプラトゥーンをするお話です。語尾力が無いため読みづらいSSだと思いますけど良かったら読んでください。







https://syosetu.org/novel/234368/149.html

868名無しさん:2021/12/04(土) 22:08:14
登場人物が珍しいななんかw

869名無しさん:2021/12/08(水) 22:32:08
懐かしいメンバーだよね

870やす、:2021/12/28(火) 21:00:42
上でキル姫×スプラトゥーンを上げた者です!


今回はキル姫達が料理対決するお話です。見づらい文ですが良かったら読んでください。


https://syosetu.org/novel/234368/146.html

871名無しさん:2022/01/01(土) 11:31:24
独特な書き方だなあ

872名無しさん:2022/01/03(月) 14:28:18
雰囲気は好き

873兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:16:32
※ロスラグ時空です。
※オリキャラがいます。



 ハルモニア兵の一団が砂と岩しかない荒野で一人の斬ル姫を包囲していた。
 それぞれ手に武具を構えじりじりと間合いを狭めていく。
 数十人規模で取り囲んでいる。もはや逃げ場はない。相手の反撃も想定して斬ル姫の方が少しでも動けば総攻撃をしかける準備もあった。
 だというのに、追い込まれているはずの斬ル姫に動揺や焦りの色はない。

「…………」

 直立不動。
 鎖付きの鉄球を片手にぶら下げた状態で一切動かない。赤褐色の髪だけが風に揺れている。
まるで彫像かなにかを相手にしているような錯覚をハルモニア兵たちが覚え始めたころ。斬ル姫が動いた。
 ぐりり、とまるで回るネジのような機械的仕草で首を回しハルモニア兵たちを睥睨して一言。

「貴方たちは何をしにここへ」
「何を……我々は探索で……」

 ようやく見せた生物らしい反応に新入りが思わず返事をしてしまう。
 それがいけなかった。

「アイムール・D. plug・モート。捕食対象を確認。これより戦闘を開始します」

 一切感情のこもらない声色で告げた次の瞬間。
 その陶器の人形のように整った顔がゆらりと揺らいだ。

「な、熱っ!?」

 地面に陽炎が立っていた。
 軍靴が融けていく異臭と共に、猛烈な熱気がハルモニア兵たちを襲う。

「制限を解除。稼働率を60%まで引き上げます」

 アイムールと名乗った斬ル姫は微塵も動かず、直立した姿勢を崩してさえない。ましてや手に持った鉄球を使いもしない。
 周囲の温度はさらに上昇していく。

「こ、こんな攻撃……」

 にじみ出る汗が煮えるような温度を持ち始めたあたりでようやく状況を理解したハルモニア兵たちが慌てて撤退していく。
 見れば荒野の地面でさえも溶岩のように橙色に赤熱し始めていた。
 痛い。
 熱いという段階を超えて、痛覚がもろに刺激される。
 持っていた武具でさえも赤熱し持っていられなくなり捨てた。地面に落ちた途端に武具は熱した飴のようにひしゃげ地面に溶けていく。

「え……」

 口を開いた途端、中の水分が一気に煮えた。
 だがそれ以上にハルモニア兵たちはあんぐりと口を開けるしかなかったのだ。
 彼らの目の前に、逃げ道を塞ぐように炎でできた門が現出したのだから。
 文字通り冥界へ繋がる門。

 転倒し、灼熱の大地に顔を焼かれる。
 ハルモニア兵たちが『門』に呑まれる前に見たものは、赤く沸き立つ大地と。
 炭になって途中から折れた自分の足だった。

「空腹、です……」

874兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:18:14
 お腹が空いた。
 そんなことを思いながらアイムールは目覚める。

「…………」

 見知らぬ天井。
 機械仕掛けの人形のように身を起こす。

「現在の状態に対する認識に齟齬あり。記憶を反復します」

 記憶を振り返る。
 自分はさっきまでハルモニア兵の一団と戦闘をしたはずだ。
 だが今はどこかの室内で横になっている。

「記憶の欠落を確認。それらのデータを踏まえ次の行動について優先度を決定。…………記憶の補填より現状把握を優先するべきと判断。探索を開始します」

 アイムールは立ち上がり部屋をぐるりと見渡した。
 天井や壁は皮布でできていた。おそらくここはテントの中だ。
 ぼろ布を継ぎはぎしてできたテントはまともな軍が使う設備ではない気がした。持ち主はよほど物資が不足しているのか。
 まずは外に出よう。
 力任せで破って突破することも可能だろうが普通に出口があったのでそちらを利用することにした。

「おや?」

 足が動かない。
 無理に動かそうとするとむしろ力が抜けて前のめりに転んでしまう。

「……なるほど」

 体が動かない。
 アイムールは記憶がない原因を理解した。
シンプルにお腹が減りすぎて行き倒れたのだろう。

「……お腹が空きました」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「にゃ。もう起きたのかにゃ」

 ぴょこり。とテントの入り口から小さな顔が飛び出した。

「いや、音がしたから来てみたけど普通にぶっ倒れてるにゃ。まだお休み中かにゃ」
「起きています」
「ん。そうなのかにゃ」

 顔は引っ込みかけたがアイムールが起きているとわかりこちらにやって来た。
 現れたのはエキゾチックな衣装を着た小柄な少女だった。頭に着いた猫耳のような装飾具がやけに目立つ。
 アイムールは少女を一目見て斬ル姫だと気づいた。

「ボクはシストルム。識別系統C・一〇。シストルム・獣刻・バステト」

 アイムールが尋ねる前に向こうの方から名乗ってきた。
 獣刻……ということはトレイセーマ共和国に所属する斬ル姫だ。
 アイムールの所属するケイオスリオン帝国とは敵対関係になる。

「で?」

 と眉を上げてシストルムは言った。アイムールは倒れた姿勢のままシストルムを見上げる。

「で? とは?」
「こっちが名乗ったんだからキミの名前も教えて欲しいにゃ。それともキミの地元だと寝転がって黙ってるのが礼儀なのかにゃ?」

 ああなるほど。とアイムールは納得した。たしかに名乗り返すのが礼儀なのかもしれない。

「アイムール・D. plug・モートです」
「D. plug……ケイオスリオンの所属にゃね。……あそこの連中はトップと領主の意思がバラバラだから拷問しても大して情報は出そうにないにゃあ」
「拷問?」
「間違えた。質問にゃ」

独り言を呟き続けるシストルム。やがて、

「そうだ。お腹空いてるかにゃ?」
「はい」

 くきゅるるる――――。
 腹が鳴った。

875兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:18:52
 お腹が減って動けない。とアイムールが言うとシストルムは「呆れた」を連発しながらテントの外に引きずり出してくれた。
 ここは幾つかのテントが寄り集まってできた小さな集落だった。そこの広場にアイムールは連れていかれる。広場では大きな鍋が火にかけてあった。
 鍋窯の中には水炊きが入っていた。何かの腸詰めがごろごろ煮られていてそれらの隙間に少しだけ細かく刻んだ薬草が散らしてある。

「大したもんじゃないにゃ。みんなの食べ残しだし、勝手に食うといいにゃ」
「腕が上がりません」
「あーもー! キミは赤ちゃんかにゃんかかにゃ!?」

 簡易式の椅子に座らせてもらいスプーンで口に運んでもらうところまで介護してもらう。
 幸い二、三口食べたあたりから手足に血が巡り自分で食べられるようになった。自分の手が動くようになってからはスプーンなど放り捨てて熱い鍋の中に直接手を突っ込んで貪るようにがつがつと食らっていた。
 その食べっぷりを見てシストルムは顔を綻ばせて、

「調味料もないし本当にただバイコーンのソーセージ茹でただけなんにゃけどそこまで元気よく食べてくれると嬉しいにゃ。美味しい?」
「さあ? わかりかねます」
「もうぶっ飛ばしていいかにゃコイツ」

 気づけば鍋の中身は空になっていた。中のお湯まで飲み干してアイムールは一息つく。

「熱量補給完了。緊急シグナル停止します。それで……」
「……にゃ?」

 爪を研いでいるシストルムの方へ顔を向ける。

「国的には敵対していますが、どういたしましょう? 戦いますか?」
「今日は非番にゃ。キミが暴れない限りボクから手を出しはしないにゃ」
「では質問を。あなたはなぜこの地帯に?」

 アイムールに与えられた使命としてはこれは絶対に聞かなければならない質問だった。

「ボクは子供たちを安全な土地に送り届ける旅の途中にゃ。これで満足かにゃ」
「はい。あなたは私の敵ではないようです」

 子供たち。という言葉が気になった。
 たしかにこのテント群からは複数個体の熱源反応を確認している。それがそうなのだろうか。
 そう問うと、

「そうにゃ。みんな故郷を追われたりしたイミテーションの子供たちにゃ。今はキミを怖がって隠れてるけど」
「私を? なぜ?」
「弾圧されたんだよ。ってことは当然実行したのは斬ル姫に決まってるじゃないか。子供たちにとってはキミもボクもトラウマの根源にゃ。ボクなんかはそれなりに受け入れてもらってるけど。よそ者のキミは彼らにとっては何をしでかすかわからないモンスターにゃ」
「私に暴れる意思はありませんが」
「キミの気持ちはあんまり関係ないにゃ。心の問題だからにゃ。だから。助けておいて悪いけどあんまりここに長居はしないで欲しいのにゃ」
「わかりました」

 早く出ていけと言われてもアイムールはさほど気にならなかった。そんなものかと思っただけだった。

「ところでキミの目的って……」

 シストルムが聞きかけた時、

「識別系統C・一〇! どこにいる!」

 乱暴な声が外から響いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ぴくんとシストルムの背筋が伸びる。

「マズいにゃ……。見つかるとややこしくなるからキミはどっか隠れてろにゃ」

 そのまま急いで集落の入り口の方へ駆け出していく。アイムールは隠れろと言われても咄嗟には思いつかず目覚めた時にいたテントへ移動した。

「バレていないとでも思っていたのか! ほんの少しなら軍の備品を盗んでもわからないだろうとでも!」
「申し訳ございませんにゃ。これで最後だから……」
「斬ル姫の分際で意見するか! おいテントん中探せ! 持ち出された資材があるはずだ!」

 外では怒鳴り声が響いている。それに混じってシストルムの涙声。先ほどまでの雰囲気とは全然違う。
 それと同時にどたどたと幾つもの軍靴の音と近くのテントが勢いよく開かれる音。何かが蹴飛ばされる音に、

「うわっ! イミテーションのガキだ! たくさんいるぞ!」

汚いものを見たかのような声に、続いて子供のモノと思われる金切り声。
テントが暴かれていく音は徐々に近づいてきて、ついにアイムールのいるテントの入り口も乱暴に開かれた。
 まず目に入るのは茶色い戦闘服に猪のような特徴的なガスマスク。
トレイセーマ兵。
目が合った。

「他国の、斬ル姫?」
「はい」
「……………………」
「……………………」

 お互い数秒の沈黙の後、ようやくトレイセーマ兵がはっと我に返って、

「えっと…………そうだ! 動くな! 両手を上げて頭の後ろに回せ!」
「はい」

876兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:19:29
 先ほど大鍋のあった広場に子供たちは並べられていた。
 男女入り混じった幼い子供たちが十二人。怯えているようで誰も一言も言葉を発さない。騒げば問答無用で殺されることを察しているのだろう。
 そして子供たちを取り囲むトレイセーマ兵が三人。

「よく集めたもんだ。こいつらを養うために盗んだのか。我々の食料を」

 指揮官らしきトレイセーマ兵がシストルムを責めたてた。

「イミテーションなんて揃えて飼い馴らしてどうするつもりだったんだ? こんな集落まで作って。おい、何とか言ってみろ。納得いく説明をするんだ」
「……みんな行き場がなくて可哀そうだったから」
「お前なぁ……」
「勝手に食料を持ち出したことは謝るにゃ。ボクはどうなっても構わないから子供たちだけは許して欲しいにゃ」
「腐ろうが軍規違反をしようが斬ル姫は兵器だからどうなっても構わないなんて啖呵切られてもお前をどうこうすることはできねえよ。任務以外のことはさせねえし。下手に何かして任務に支障が出たら俺が困る」

 乾いた地面に両手をついて懇願するシストルムにトレイセーマ兵は困ったようにガスマスクをばりばりと引っ掻いて、

「わかった。許そう」
「……本当に?」
「ああ、今回のことは不問とする。その代わり――――」

 トレイセーマ兵が一列に並べられた子供たちを指さした。

「C・一〇。ガキどもを全員殺せ」
「えっ、なんで……」
「なんでも何もねえだろう。軍規違反に対するケジメだよ」
「できないにゃ!」
「五月蠅い!」

 トレイセーマ兵の足先がシストルムの腹へ食い込んだ。

「お前がこんなゴミ共にかまけているからだろうが! 雑念の元を断つんだ! お前の手で! それともなんだ? 今からでもエドゥーに行くか!?」
「うう……」

 俯いた姿勢のまま呻くシストルム。
蹴られた痛みではない。それは怪我をしない程度に手加減されていた。そうではなくトレイセーマの斬ル姫にとって絶対的強制力を持つトレイセーマ兵の命令に対する心の痛みだ。
 シストルムは自分の手を見た。刃のような鋭い爪が並ぶガントレットが装着されている。本気で殺人に使おうとすれば怯える子供の十二人程度、数秒で肩が付く。
 子供たちの方を見る。
 絶望と怯えの表情。故郷を追われ、三国兵たちに迫害されてきた記憶が蘇っているのだろう。
 恐怖の対象はトレイセーマ兵か、それとも自分か。

「どうした! 早くやれ!」

 傍らではトレイセーマ兵が怒鳴り声を上げていた。

「お前の任務はガキを飼うことじゃねえだろう! 思い出せ、お前の仕事は哨戒と偵察……」
「—―――偵察?」

 広場の外れからやけに淡白な声がした。

「あ?」

 指揮官らしいトレイセーマ兵がそちらに顔を向けると別行動をしていたトレイセーマ兵に連行されて、見覚えのない斬ル姫がこちらを見ていた。
 赤褐色の髪に陶器のように人工物めいて整った顔。

「アイムール・D. plug・モート。捕食対象を確認。これより戦闘を開始します」

 アイムールは無造作に近場にいたトレイセーマ兵の胸倉を片手で掴み上げる。

「え?」

 そして、ぶん、と腕を振るとそのトレイセーマ兵の体が宙を舞っていた。

「制限を解除。稼働率を40パーセントまで引き上げます」

 ぞぞぞ、とアイムールの胸を包み込むように肋骨のようなデザインの紋様が皮膚に浮かび上がる。さらに右足を上げた。足の先では炎のマナがバチバチと火花を散らしている。
 そのスパークは激しさを徐々に増していき、ついに右足をまとわりつくように包み込んだ。そして杭を打ち込むように勢いよく地面に叩きつける。

 ――――――ドッ!

 いきなり目の前の地面が噴火でもしたかの如く吹き飛んだ。
 その下に現れたのは赤い裂け目。
 炎で象られた門。
 音もなく炎門が開く。門の中は溶岩のようなドス黒い赤色をした火炎が渦巻いている。
 どこに続くかもわからぬ絶対的な無の空間。

「あ」

 先ほど放り投げられたトレイセーマ兵が真っすぐ門に落下していき飲み込まれて―――――二度と浮かんでこなかった。

「一体、標的を撃破。冥界に力を還元しました」

 次はお前だ。と言わんばかりにアイムールは次の敵へ無感情な瞳を向けた。
 残るは三人。

「退却!」

 トレイセーマ指揮官の判断は迅速だった。
 そもそも一般兵が3人程度では斬ル姫にかなうはずもない。
 トレイセーマ兵たちは四輪の車輪で駆動する機械に飛び乗りすさまじいスピードで土煙をあげながら逃げていく。
 アイムールは、

「標的が逃走。追跡を開始します」

877兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:21:32
 トレイセーマ兵たちが乗った車両を追いかけて走り去ったアイムールを見送ったシストルムはその後を慌てて追いかける。
 トレイセーマ兵たちが逃げていった方向にはトレイセーマの本隊が陣を敷いている。
 そのことをアイムールに伝えなければ。これは陽動だと。
 この場では勝てないから人数と装備を整えた本隊まで誘導して始末する気だと伝えなければ。
 そう思っていた。


 だが、ようやく追いついたシストルムが見たものは、
 一方的に蹂躙されるトレイセーマ軍だった。


 トレイセーマ軍が陣を敷いていたオアシスに突入したアイムールに対してトレイセーマ軍は魔銃兵、投槍兵、弓兵による集中砲火を敢行。
 しかしアイムールは進撃速度を緩めない。そのまま白兵戦へ。
 木の葉のようにトレイセーマ兵たちは散っていくが隙をついて爆薬で地面を爆破しオアシスの湖にアイムールを落とした。その隙に回復要因の杖兵まで動員して再び遠距離からの総攻撃を行うが効果なし。
 ここでトレイセーマ軍は最後の作戦を行う。
 湖を泳ぎながら向かってくるアイムールを大量のフック付きアンカーで縛り上げ動きを封じた。
 そしてトレイセーマ軍全員が手に手に武具を持ち、百人規模対一人の集団リンチでケリをつける。そのはずだったが、

 数秒後、トレイセーマ軍と湖が丸ごと消えた。

 シストルムは偵察兵としての能力で映像をその場で解析。今目の前で起こったのは水蒸気爆発だとわかった。
 周辺の大地が急激に温度をあげた影響で、湖の水分が一度に気化。その膨大なエネルギーがすべてを吹き飛ばしたのだ。
 ただ一人、その爆発の中心にたたずむアイムール以外を。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 赤熱するアイムール。大地から冥界の炎が噴き出し地面を溶岩溜りに変えながら荒野を歩いている。
 もうもうと白い蒸気が立ち上っているがその噴出量がしだいに収まっていき、

「戦闘終了。全ての敵を駆逐完了」

 近寄るだけで焼けそうな温度が急激に沈静化していった。

「ふぅ……勿体ないことをしました」

 せっかくあの数の人間を捕食できたというのに、取り入れたカロリーを全部消費してしまった。正直わりと追い詰められていてそうでもしないとアンカーによる拘束から脱せなかったというのも事実なのだが、

「ああ……お腹が、お腹が空きました」

 次の獲物を探さなければ。
 アイムールは決意を新たにして、愛用している武具、モーニングスターの鎖を引こうとして、

「あれ……?」

 鎖がない。
 そもそも武器を持っていない。素手である。

「そういえば――――」

 シストルムの集落で目覚めた時点で何も持っていなかった。
 そんなことにようやく気が付いた。

878兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:22:11
 再びシストルムの集落にやってきたアイムール。

「あ! アイムールだ!」
「戻って来た!」

 一歩踏み込んだわーっ、と子供たちが群がってきて身動きできなくなってしまった。

「申し訳ございません。私は武具を探しに来ていて」
「あれもう一回やって! ぐわーって燃えるやつ!」「ねーちゃん足速いのな! 今度俺と勝負しようぜ!」「今は冷えてるんだー」
「あの、私の鉄球……」
「シストルムは好き。でもトレイセーマ兵嫌いだったの! やっつけてくれてありがとう!」「うわっ、膝のプロテクターすごい尖ってる」「髪飾り触っていい?」
「……鉄球を」

 口々に好きなことを話す子供たちでアイムールの言葉が遮られていた時、パンパンと手を叩く音が響いた。

「はいはい。騒がない。みんなまず離れるにゃ。このお姉さんはボクと大事な話があるからにゃー」

 どこからか現れたシストルムが子供たちをせっついて散らしていく。子供たちは来た時と同じようにわーっ、と騒がしくいなくなっていた。

「……?」

 そんな中に一人。みんなの輪から離れていた少女がいた。
 テントの隙間から子供たちに群がられるアイムールを見ている。見えたのは一瞬だったが確かにいた。

「それじゃちょっとこっちに来て欲しいにゃ」

 少女について深く考える間もなくシストルムに手を引かれ手近なテントの中に引きずり込まれて、

「なんで戻ってきたにゃ」

 入った途端、シストルムの声が低くなった。
 子供たちの相手をしている時の明るい調子とはまるで違う。例えるなら捕虜を尋問する兵士のように。

「私の武器を返していただくために参りました。トゲがたくさん生えた鉄球なのですが……あ、長い鎖もついています」

 殺気を向けられても敵意一つ出さないアイムールに呆れたのか、どこか抜けた返事に毒気を抜かれたのかシストルムは「ふー」と長い溜息をつくと、

「それならここにはないにゃ。キミが行き倒れてた時、確かに傍にあったけど重かったからほっぽってきたにゃ」
「なんと」

 僅かだがアイムールが目を剥いた。

「それは随分と長い間放置していた計算になります。すぐに取りに行かなければ。なくなっていたらどうしましょう。ああ、ちゃんと名前を書いておくんでした」
「あんなもん盗む物好きはいないにゃ」

 辛辣な突っ込みをいれるとシストルムは真面目なそうな顔をして「それはともかく」と話題を変えた。

「ボクらはすぐにトレイセーマに帰らなきゃならなくなったにゃ」
「なぜです?」
「キミが本隊全滅させたからに決まっとるがにゃー!」

 怒りあまり突っ込みがどこかの方言みたいになってしまった。
 どこのだろう。

「ああ、あのトレイセーマ兵たちはあなたの上司でしたか」
「そーにゃ! キミのおかげで任務は失敗! 報酬もなし! 査定にも響くにゃ! 子供たちはこれで雑草生活決定だにゃ!」
「このあたりのエリアは草一本生えぬ不毛の大地では?」
「だからお金がないと困るんだにゃ……それにしても、キミが戦う基準ってなんだにゃ? 同じトレイセーマでもボクらは襲わないであの人たちを襲う理由ってなんにゃ?」
「基準……命令のことですか」

 アイムールの頬に添えられたプロテクターからバチッと火花が散る。

「情報開示のレベルを再確認。承認。発言の許可が下りました」

 アイムールはくぃと首の角度を上へ持ち上げた。
 彼女なりに昔を懐かしむポーズをとろうとしたのかもしれない。

「私はラグナロク王国を探す者たちの敵です」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 八十年と四十七日八時間三分四十一秒前。主からアイムールに短い命令が出された。

『ティルヘルムのどこかにあるというラグナロク王国に近づくものを排除せよ』

 なぜそのような命令を主が出したのかはわからないし知る必要もない。
 自分は兵器なのだから。与えられたオーダーを最も最適な形で実行するのが仕事だ。
 そうアイムールは思う。
 だが命令自体は単純ながら難易度が高かった。
 ケイオスリオン、トレイセーマ、ハルモニア。日々しのぎを削り合う三国とは別にラグナロク王国は影が薄いのだ。
 妖精の国ティルヘルムの庇護下にあるらしいが、そもそもティルヘルム自体が妖精王が張った結界により巧妙に隠されており所在地が不明なのだ。
 だいたいこの辺りだろう。
 その程度にしかわからない。
 だからアイムールは二分間の熟考の後に作業を開始した。

 ――――ティルヘルム周辺で偵察をする者を探して駆逐・殲滅する。

 色々と考えた結果、この方法が最も確実に命令を遂行できると判断したアイムールはこの活動を八十年と四十七日八時間一分四十一秒続けている。

879兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:23:32
「—―—―……つまり、ボクが非番じゃなかったら。もしも子供たちを匿っていなかったら。偵察任務中だったりしたら……?」
「駆逐または捕食します」
「マジトーンにゃ……。こいつ、やると言ったらやるスゴ味があるにゃ……。正直下手な敵より怖いにゃ……」

 シストルムの頬を冷たい汗が流れた。
 危なかったー。声には出さずに口だけを動かす。

「だけどボクらは敵判定から外れたんだよね。それなら……」
「なにか言いましたか?」
「ん? ううん、なんでも」
「それでは、私は鉄球を回収せねばならないので。失礼いたします」
「ちょっと待つにゃ」

 シストルムは立ち上がりかけたアイムールを手で制した。
 そしてにこりと笑みを作って、

「キミ、しばらくボクと行動しないかにゃ?」

 そう提案した。
 アイムールは無言になってシストルムの顔を覗き込む。その無機質な目は相手の真意を測ろうとしているようにも何も考えていないようにも見えた。一切ブレない瞳孔はまるで精巧な彫刻のようである。
 対してシストルムは笑顔で答えを待っている。この笑顔はシストルムにとって武器の一つで何かを提案するときはいつもこの表情を作っていた。細めた目がアーチのような曲線を作ってどこか和む人好きのする印象を相手に与えることを知っていたからだ。
 にこにこ。
 お互いにらめっこのような雰囲気になって数秒が過ぎ、最初に口を開いたのはアイムールの方だった。

「食事はありますか?」
「あるにゃ!」

 シストルムは力強く頷いた。

「では同行の申し入れを受諾します」
「じゃ、よろしくにゃ」
「……なぜ右手を伸ばしているのです?」
「握手にゃ握手」

 枝のように真っすぐ伸びてきたアイムールの手を握って軽く上下に振るシストルム。
手が離れた後もその手を不思議そうに観察しているアイムールにこれからの予定を話していく。

「キミと鉄球が転がってた場所とトレイセーマへの道のりは被ってるにゃ。そこまでの道を一緒に過ごすことになるにゃ。子供たちの護衛はキミに任せることになるよ」
「了解いたしました」
「いい返事にゃ。幸いボクをイジメてた上司をぶっ飛ばしたのもあってキミに対する子供たちの好感度も高いからたぶん普通に過ごしても大丈夫にゃ」
「群れるのは好みません。用がない時は誰もいない場所で過ごさせていただきます」
「ま、そこは勝手にしろにゃ。とりあえず子供たちに顔見世程度の自己紹介を……あにゃ?」

 そこまで話したところでシストルムはアイムールの背後に立つ少女の影に気が付いた。いつの間にかアイムールとシストルムのいるテントに入って来ていたらしい。
 土色の布地で織られた貫頭衣のような簡素な衣装を着た少女だった。幼い顔立ちに似合わない落ち着いた顔をしている。
 おかっぱに揃えられた髪の下で丸い瞳がアイムールを観察するように見つめていた。

「マライカ、ちょうどいいにゃ。今さっきこのお姉さんがボクらの仲間になってくれるって……」

 シストルムは少女に向かってフレンドリーに話しかける。彼女が世話をしている子供の一人で名前はマライカというらしい。
 先ほど群がってきた子供の中にはいなかったな。アイムールが静かに記憶を振り返っていると、少女はとてとてと可愛らしくアイムールへ走り寄ってきて―――――――――――――――、

「死んじゃえ」

 隠し持っていた包丁をアイムールの腹へ突き刺した。

880兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:24:05
 マライカが持つ一番古い記憶は『赤』だった。
 燃えている。
 瞳が赤く染まる。
 ああ。
 燃えている。
 夜だったが空は明るかった。紅蓮の炎が燃え盛っているからである。
 火炎は煙を立ち登らせ天を燻す。

『お父さん! お母さん!』

 叫んだように思う。舌足らずなマライカが当時どの程度言葉を話せていたのかわからないがそのような意味のことを叫んでいた。
 家が燃え堕ちる。
見張り台が倒れていく。
 人々が火炎に巻き取られ炭化していく。
 寝物語に聞いた地獄のような光景だった。
 その地獄の中心で女が直立していた。
 赤褐色の髪が熱風になびいている。背筋はぴんと伸びていて背中から一本の棒が通っているようだった。その手からは鎖が一本垂れていてその先は巨大な棘付きの鉄球へと続いている。
 女がこちらに振り向いた。
 豊満な胸を赤熱する肋骨のような棒が締め付けている。その顏は整いすぎていて人工物のようだった。熱く揺らめく溶岩のような色をした瞳はその色に反してあまりに冷たく、無機質で、やはり作り物のような印象を受けたのを覚えている。
 それを、何というのか今のマライカならわかる。
 それが、『斬ル姫』でそれは『兵器』なのだ。
 そして、当時のマライカでもわかったこと。

 村を全焼させた犯人は彼女だ。

 忘れない。許さない。絶対に忘れない。と当時のマライカは一心に念じ続けた。何があっても彼女の顔を忘れないようにしなければ。例え何年かかっても、出会ったその瞬間に気が付くほどに。
 彼女の姿を炎の熱で文字通り瞳に焼き付けるようにして、マライカはその斬ル姫を見つめ続けていた。

 焼き尽くされた村の中で倒れていたマライカを通りがかったシストルムが助けたのはその数日後のことである。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「本当に覚えてないのかにゃ?」

 シストルムの呆れ声にアイムールは申し訳なさそうに頷いた。

「今まで攻撃したイミテーションの村と言われましても一つ一つの記憶はさほど正確ではありません。そして少女も見覚えがあるかといえばあるかもしれませんが、確証には至りません」
「最悪にゃ。最低にゃ。奪った命に責任持てにゃ」
「駆逐した対象に執着する必要が?」
「デリカシーにゃ!」

ぺしりとアイムールの脳天を叩くシストルム。
 そこまで話してこの場はお開きになった。アイムールはすぐに立ち上がりテントを出ていく。恐らくあてがったテントに向かうのだろう。
 後にはシストルムだけが残された。彼女は「うにゃー」と大きく伸びをして寝転がり天幕をぼんやり見上げた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 自室として頂いたテントに戻ろうかと考えていたアイムールであったがはたと思い至る。

「返さなくては」

 そう言って腹に刺さっていた包丁を引き抜いた。血がたらりと垂れるが出血がその一筋だけで、すぐに傷口も塞がっていく。斬ル姫にとってこの程度の傷は障害にもなりはしない。
 確か、自分を刺したマライカという少女は、シストルムに怒られてお仕置き部屋なるテントに入れられていたはず。アイムールは他の子どもに寄り付かれながらも一つ一つテントを確認していき、見つけた。
 外部からのみ開け閉めが可能なテントなので見ればわかる。

「……」

 なんと呼びかければいいのか考えて、結局思いつかずに普通に入り口を開けた。

881兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:24:42
「あたしは悪くないもん」

 テントの隅の闇でうずくまるマライカが不貞腐れた声を出す。中に入ってきたのがアイムールだとわかると頬にかっと赤みがさして近くにあった物を手当たり次第に投げつけてきた。

「なんでアンタが来るのよ!」
「あなたの武器を返すために」

 カランと、マライカの足元に包丁を放る。マライカは「ひっ」と背筋を縮み上がらせて、恐る恐る包丁を拾い上げる。まだ血のついている刃をじっと見ていると手が震えてきたらしい。
 そんな少女の様子など知ったことではないアイムールは自室に帰ろうと背を向けた。その背に少女は「待ちなさいよ!」と大声で呼びかける。
 強がっているようにも聞こえた。

「なんであたしにこれを返すの! あたしはこれでアンタを……!」

 刺した。の一言がどうしても言えなかったらしく歯切れの悪い言葉だったがアイムールはその言葉の意図を理解した。どうやら気持ちを聞いているらしい。

「持ち物は持ち主が持つべきでしょう」

 思った通りのことを説明する。

「私も武具をなくしました。できれば早く取り戻したい。あなたも同じ気持ちだと思ったのです」

 アイムールは自分で言って少し驚いた。自分は思ったよりもあの鉄球に愛着があるらしい。ただマライカはその回答では不満だったようで、

「あたしを馬鹿にしてるの! あたしはアンタの敵よ!」
「違いますよ?」
「あたしはアンタを倒すわよ! 絶対に!」

 そこまで言われるとアイムールもこの少女に何か言ってやらなくてはならない気分になった。なので、

「それなら気を抜かない方がよろしい。あの時、包丁を差し込んだ瞬間なぜかあなたの手の力が緩みました。よって刺さりが甘く臓器に刃が達せずに刺突の効果を最大限発揮できなかった」

 こう。とアイムールは身振り手振りを交えて実演する。

「刺した後も油断せず最後まで刃を押し込むべきです。そもそもあなたの力で刃物による刺突での殺害は難易度が高いと思われます。別の方法を検討してみては?」

 それなりに気持ちのこもったアドバンスだったが少女は、

「な、な、な……馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって……!」

 顔を怒りで真っ赤にして大きく息を吸い込むと、

「出てけ――――――ッ!」

 力の限り叫んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 夜、アイムールは眠れなかった。
 もう気が遠くなるほど前から飢えと渇きに苛まれ満足に眠れたことなどない。
 そうして今夜も寝床を出て、広場で一人佇んでいた。
 なんとなくあの少女の事を考える。
 あの少女はアイムールのことを恨んでいるらしい。数年前に孤児になった日からずっと復讐のことだけを考えてきたという。
 それは一体どれほどの飢えだったことだろう。
 何をしても満たされぬ苦しみ。その気持ちはアイムールにもわかる。

(私は、敵を捕食することで束の間の安らぎを得ます。あの少女も私を殺害すれば安らげるのでしょうか)

 たぶんそうなのだろうが殺されてやるつもりは毛頭なかった。

「んにゃ? 何してるにゃこんな時間に?」

 広場にシストルムがやって来た。猫のように足音がしないので接近に全く気がつかなかった。

「空腹です」
「ここに食い物なんかないにゃ」
「話が違います」
「本来ならまだちょっと備蓄があったんだがにゃあ」

 トレイセーマ兵たちの陣からちょろまかして日々食いつないでいたが頼みの綱のトレイセーマ軍が壊滅したので仕入れ先がなくなったらしい。

「だから明日の飯を今獲ってくるにゃ」

 ジャキン、と獣の爪のような刃の装備されたガントレットを見せるシストルム。

「キミも暇なら手伝うにゃ」
「了解しました」
「あ、キミだけ食べるのはなしだからにゃ」
「善処します」

882兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:25:20
 二人が戻ったのは朝方になってからだった。

「うぉー! すっげー! でっけー!」「臭い」「これ食べても大丈夫なやつ?」「夜いなかったから心配したんだよ」「腹減ったんだけど」

 子供たちの歓声を浴びながらシストルムは小さな胸を誇らしげに張っていた。
 手に入った獲物は中型のイビルドレイクが一匹。これを全員で食べて二日は持つらしい。
 本当は大穴の近くにいたこともあってもっと多くの魔獣に襲われたのだが食用に使えるのはこの爬虫類しかいなかったのだ。ちなみにスケルトンなど食用に向かないものは全てアイムールが炎の門で捕食した。
 集落に着いてすぐシストルムによるイビルドレイクの解体が始まる。日々刃物じみたガントレットを持っているだけあって慣れた手際だった。
 腿肉や肩肉、尾など主要な部位はその場で焼いて朝食にし、残った肉やそれ以外の内臓や骨は加工するという。
本当に使えない部位はアイムールの炎の門で捕食も兼ねた廃棄処分にした。

「シストルム」
「なんにゃ」
「私が冥府の門を出すと子供たちが大声を出します。なぜです」
「派手でキャッチ―だからにゃ。あとそれは歓声と言うにゃ」
「なるほど」


 尾や手足などの筋肉のみで構成された部位は殺した直後なら生で食べられるらしい。独特の臭みがあるが誰も気にする者はいなかった。

「はいはい。食べたらすぐに出発にゃ」

 シストルムが手を叩いて子供たちを急かす。あれだけあったテントや荷物がすぐに畳まれ大きな荷車に積まれていく。慣れた手際だった。
 支度が終わりわらわらと荷車の周りに集まった子供たちにシストルムが出発前のミーティングを始める。

「今回の旅の目的はキミたちを僕の本国、トレイセーマの擬人区まで連れていくことにゃ。あそこなら難民を無下にはしないだろうからにゃあ。ちなみに二日間の超特急コースで行くにゃ。質問ある人―?」
「はい!」
「言ってみるにゃ」
「初めはここで数ヵ月過ごすって言ってたのになんで突然急ぐの?」
「元々ボクの任務が終わってから出発する予定だったからにゃ。だけどここのアイムールがボクのクソ上司連中をぶっ飛ばしてくれたからにゃ。留まる理由が消えたというのがあるにゃ。はい、拍手」
「「「おおー!」」」

 ぱちぱちと子供たちの拍手がアイムールに向けられる。拍手が止むとシストルムは続けて、

「そして理由二つ目、水がないからにゃ」
「「「え?」」」

 全員目を丸くする。

「正しくは水の補給ができないにゃ。なぜならここのアイムールがボクのクソ上司ごとオアシスの湖をぶっ飛ばしてくれたからにゃ」
「「「………………」」」

 全員の冷たい目線がアイムールに注がれた。
 難民にとって水の有無は死活問題なのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ま、斬ル姫が二人いれば多少強引なルートをとっても突破できるだろうからにゃ。さほど心配することじゃないにゃ」
「そうですか」

 人力の荷車が荒野を移動していく。引いているのはアイムールだ。周りに数人子供たちが徒歩で歩き、疲れた者は荷車に乗っている。シストルムは周囲を哨戒しながら付かず離れずの距離を保っていた。

「……………」

 不機嫌そうな顔でマライカがアイムールの傍を歩いている。最初のうちは不意打ちを狙っているのかと思っていたがただ歩いているだけのようだ。

「長時間の歩行が続いています。荷台で休まれては?」
「乗りたくない」

 さすがに子供の体力では続かないだろうと思い声をかけてみるがこの調子だ。息が上がっているので疲れてはいるのだろうが。
理解を放棄して進行方向へ目線を向けると、ツンとした目が覚めるような香りが鼻腔をくすぐった。

「これは……」

 石と砂だらけの乾燥した大地にほんの一部だけ草花が生えていた。人の身長ほどもある巨石の影に隠れるようにしてひっそりと小さな庭園ができている。
 薄赤色の花弁たちが風に揺れていた。

883兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:27:04
「ちょうどいいにゃ。ここで休憩―」

 シストルムの一声でこの場で小休止となる。子供たちは思い思いのやり方でくつろいだり遊んだりし始めた。マライカは群生する花の傍で膝をついて花を摘み始めた。

「あの花の茎は食用にゃ。煮たり漬けたり少し面倒だけど」

 シストルムが解説してくれる。

「昔はよくお父さんと一緒に集めたわ。今では雑草だって見つけるのは難しいけどお爺さんの時代にはこの辺りは一面花畑だったって聞くわ」

 ぽつぽつと、顔は手元に向けたままでマライカがシストルムに続けた。思い出を振り返り懐かしむ顔は普段の仏頂面とは違う柔らかいものだった。

「家に帰ってお母さんに渡すと明日の朝には食卓に並んだわ。この花を食べると幸せになれるなんて話も聞いたりして……」

 そこまで話してマライカは立ち上がると荷車に向かい積んであった瓶に採った分の茎を入れた。

「それで終わりですか? まだ花はありますが?」

 マライカが摘んだ花は全体の一割もなく花畑では未だ多くの花が開いていた。
 採り忘れかと思いしゃがみ千切りかけたアイムールに少女の軽蔑の声がかけられる。

「アンタ全部採るつもりなの?」
「我々の空腹を満たすには全部摘んでも足りないくらいでは?」
「信じらんない。きっとアンタには人の心がないんだわ」

 それだけ言ってマライカは他の子供たちの方へ走り去っていった。
 アイムールは普段通りの無表情のまま首を傾けシストルムの方を向く。言っている意味がわからないので教えて欲しいというサインだ。

「全部採ったら来年にまた生えてこないにゃ。花ってのはタネをつけるために咲くんだにゃ」
「なるほど。一年先を見据えてあえて採らないで置くということですね。賢い」
「みんながキミみたいに目先の腹の心配だけしてたらこの世に食べ物は消えてるってことにゃ」
「あの少女はそれを私に諭したかったのですね」
「……そういうことでもないと思うけどにゃあ」

 シストルムはやれやれと肩をすくめた。

「ほら、この花畑を見て何か思わないかにゃ?」
「?」

 アイムールはまじまじと薄赤色の花たちを見つめる。
 数秒考えて結論を出した。

「赤色です。全て同じ種の花です。全て食べられるでしょう」
「綺麗とか、いい香りとかは?」
「キレイ?」
「こんなに綺麗に咲いて香りもいいのに根こそぎむしり取るなんて無粋と思わんかにゃ?」

 気取った調子で語るシストルムにいまいち同意できないアイムール。
 確かに鼻に染みるような香りはわかるし、赤色が重なるようにして密集していることもわかる。
 しかし『綺麗』というのは理解できなかった。
 自分だけがわからないのだろうか。

「…………………お腹が空きました」

 そんなことを考えていたら、胸がきゅっと縮まるような感覚がした。胸の真ん中にぽっかりと穴が開いていて自分ごと吸い込まれているような虚無感。うまく表現できなくて、『空腹』という感情でしか代用できなかった。

「—―――来るにゃっ! 全員荷車に集合! アイムールは迎撃!」

 突然シストルムの猫耳がピンと突き立った。
 その数秒後、地平線から湧いてくるようにして魔獣の群れが現れる。

「いい時に現れましたね。ちょうど空腹でした」

 アイムールは屈んでいた体をゆらりと起こす。
 頬や手足に装着されたプロテクターの熱が上昇し赤熱していく。

「アイムール・D. plug・モート。捕食対象を確認。これより戦闘を開始します」

 呼吸の度に蒸気が漏れる。あまりに急激に上昇した熱量に気流が発生し髪がばさばさと乱れる。

「制限を解除。稼働率を40%まで引き上げます」

 ズン! と一歩大きく踏み込んだ。
 地面は踏み込みの衝撃で大きくひび割れ、その発生した地割れが魔獣たちまでまっすぐ伸びていき、

「ぐォルォ――――ギャぴっ!」

 飲み込んで葬り去った。
 地割れの亀裂からは炎がくすぶるように漏れ出しており空気のかき混ぜられるごお、ごお、という音が唸り声のように響いている。

884兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:27:35
「二秒後九時の方角から五匹! 十秒後に六時の方角から大型が一体にゃ!」
「了解しました」

 敵は全方位から押し寄せてきていた。アイムールの視界の外はシストルムが索敵し、時に魔弾で応戦してフォローする。

(鉄球が欲しい)

 徒手空拳の戦いでは群れ相手には非効率的だ。鉄球があれば薙ぎ払うようにして一掃できたのに。

「ガアアアアア!」

 子供たちが集まっている荷車に雄たけびを上げてオーガスケルトンの巨体が迫る。

「ガ、……ア?」

 その進撃がズボっという音で停止する。
 アイムールの鉄のように黒いプロテクターに覆われた腕がオーガスケルトンの胸を貫通していた。腕は自分で開けた穴の縁をがしっと掴み、そのまま力任せにオーガスケルトンを地面に叩きつける。
 衝撃で局所的な地鳴りが起き、荷車が大きく揺れた。

「あ……」

 勢いで荷物が飛び出し、それを追って身を乗り出してしまったマライカの体が宙を舞った。
 頭から地面に衝突しかけた時、その首根っこがぐいと持ち上げられる。

「アンタ……」
「舌を噛まぬよう口を閉じてください。投げます」

 ぶん、と下投げでマライカはボールのように放物線を描いて飛んだ。

「取ったにゃ!」

 そのパスをシストルムが空中で受け取り荷車の中にマライカを退避させる。

「ちょ、ちょっと!」

 荷車の奥からマライカがアイムールに向けて何か叫んだが、アイムールの方は反応せず魔獣の群れに再び飛び込んでいった。


 アイムールの戦い方は乱暴で力任せだった。
 蹴り上げ、殴打。時には敵をそのまま武器のように振り回したりもしていた。そのダイナミックな戦い方がむしろ子供にウケたらしく紙吹雪のように魔獣が吹き飛ぶたび荷車の中から歓声が上がる。
 だが暴れぶりに反して過度な攻撃はせず障害物を処理していくような機械的な調子で戦い続けるのでかなり早い段階で魔獣の群れは全滅していた。

「戦闘終了。残骸を力に還元します」

 辺りに散らばった魔獣たちの死体や肉片を炎が舐めとって、飲み込んでいく。
 炎は海のように一面に広がっていったが、とある大岩の影、この大乱戦の中奇跡的に一切の被害を受けなかった赤い花畑に差し掛かると、

「…………」

 炎はまるで躊躇うように震え、花畑を綺麗に避けて魔獣たちの消化作業に戻っていった。
 魔獣たちの死体が消えるごとにアイムールについた傷がどんどん治っていく。

「でも花は食べないことにしたのかにゃ?」

 シストルムが声をかけてきた。

「平気です。損傷の回復に必要なぶんは賄えました」
「キミも心ってやつがわかったってことかにゃあ」

 面白がるようなニヤニヤ笑いでシストルムが見つめてくるがアイムールの方もそこまで自分で自分の行動がはっきりわかっているわけではない。

「キレイはわかりかねますが。気が進みませんでした」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その夜、アイムールとシストルム一行は約束の場所近くまで到達しつつあった。
 先日アイムールが行き倒れ、武具を失ったという場所である。
 ここまで来ると魔獣の生息源からも離れているので襲撃もあまりなく、トレイセーマの国境にも近いのでアイムールが離脱してもシストルムの力だけで問題ないだろうとのことである。
 子供たちが簡易テントで寝ている間もアイムールは屋外で周囲を警戒していた。

885兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:28:26
「ねぇ……」

 背後から話しかけられ首だけ回してそちらを見る。俯きがちで申し訳なさそうにしているマライカの姿があった。

「何か」
「あの……助けてくれたでしょあたしのこと」
「あなたたちを護衛することがシストルムとの契約ですので」

 荷車から落ちた時のことを言っているのだろう。そう返すとマライカは少し不満そうに唇を尖らせた。

「……結局あたしのことも護衛対象としか思っていないんでしょ」
「どういう意味です?」
「なんでもないわよ!」

 ばっ、とマライカが砂を投げつけてきた。さすがに避けられずもろに喰らってしまう。

「今日はこの程度にしておいてあげるわ!」

 捨て台詞を吐いてどこかへ駆けて行った。髪についた砂を払いながらそれを見送っているとどこからともなくシストルムが現れる。

「汚されたにゃあ」
「シストルム。あの少女はこれで私を殺害できると思っているのでしょうか?」
「なわけないにゃ」
「はぁ」

 シストルムは地面にシートを広げそこに横になる。リラックスした風に見えるが見張りをする気があるのだろうか?

「そもそもあの子は人を殺せないにゃ。真っ当に育ってるからにゃ。ご両親がいい人だったんだろうにゃあ」
「真っ当……ですか」
「最初にキミを刺したのだって手違いみたいなもんにゃ。死に際を見ちゃった故郷の村人たちの怨念に引っ張られただけで、人を傷つけられるような子じゃないのにゃ」

 人を殺すのはボクらみたいな人でなしだけにゃ。とシストルムはまとめた。
 そこからしばらくお互い言葉を発さずに夜の地平線を見つめ続ける。

「この地帯に植生が見られないのはおそらく私のせいです」

 唐突に言葉を発したアイムールに眠りかけていたシストルムが、ん? と瞼を開く。

「私は死神。炎は冥界へと繋がっております。その炎で生命を捕食することで私は傷を癒し、力を得てきました。空腹時には森や泉をまるごと取り込んだこともございます」

 アイムールは整列する兵士のように直立の姿勢まま淡々と話していく。

「私がそうして命を根こそぎ奪った積み重ねがこの乾いた大地です。あらゆる命の存在が許されぬこの地帯は私が作ったのです」

 昼間のマライカの昔話で確信を得た。やはり全ての原因は自分にあったのだ。
 昔はこの辺りも緑豊かだったらしい。そして草木が減少していった時期はおそらく自分がこの土地に訪れた時期と一致する。
 アイムール自身の記憶にも訪れた当時はもう少し自然が豊かだった記憶がある。

「多くのイミテーションたちが村を捨てラグナロク王国を目指したのは単純に飢えが原因だったのでしょう。そしてそのイミテーションの多くを私は捕食いたしました」

 おそらく、マライカがいた村もそうだったのだろうと推察する。
 子供たちが寝ているテントの方へ目を向けた。

「私が原因を作る。そして私が命を摘み取る。これでは死神そのものです。いえ、私は斬ル姫。兵器なのですからこのあり方は正しいのでしょうが……」

 アイムールにしては珍しく言葉が整理できていない。結局言いたいことも尻切れトンボで止まってしまった。
 ずっと無言で聞いていたシストルムが起き上がり、どこからか竪琴のような楽器を取り出した。弦は金属でできていて、小銭のようなものが連なっている。
 シストルムがそれを振ると澄んだ音が辺りに響く。
 しゃん、しゃんと一定のリズムで楽器を振りながらシストルムは大きく跳ねた。そのまま踊りだす。
 自分の作るリズムに合わせて跳ね、腕をうねらせるさまは夜の闇も相まって幻想的。やがてとん、とん。と足先でテンポをとりながら揺れる体の勢いを殺しゆっくりと制止する。

886兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:28:56
「と、こんなもんかにゃ。どうだった?」
「なぜ突然跳ね始めたのです?」
「やり甲斐のないやつにゃ。地元ではこれでお金がもらえるのに」

 鳴らしていた竪琴のようなものの縁を指でなぞりながら、

「シストルムっていう楽器にゃ。ボクに獣刻されたバステトが持ってた楽器も……まあボクのキラーズにゃね。それもこんなんだったらしいにゃ」

 ほい。とアイムールへ楽器を手渡す。アイムールは二、三度それを振ってみたがじゃん、じゃん、と騒がしい音が鳴っただけだった。シストルムのようにうまく響かせるには何かコツがあるらしい。

「ボクは兵器だけど楽器にゃ。観察が得意だし人も殺せるし演奏もできるし踊りもできるにゃ」

 バステトは一説には血を好む戦闘神であったという。また『太陽の瞳』とも称され地上の監視のために送り込まれた観察者でもあった。さらに音楽の神でもあり演奏と踊りを好んだと伝説にはある。
 一つの性質では捉えられない。様々な顔の神なのだ。

「キミも兵器だけど心も手足もあるにゃ。ならきっとキミだって奪うだけじゃない。他のことだってできるはずにゃ。まずそれを見つけることから始めればいいんじゃないかにゃあ」
「奪う以外のこと……ですか」

 先ほどの行為の意味はアイムールにはまったくわからないが。何かを諭してくれたのだと気が付いた。何となく応えなければならぬという気持ちになる。
 不思議と、常に感じる乾きが薄れたような気がした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 朝日が昇る。
 瞼を突き刺す光を感じてアイムールは覚醒した。
 立ったまま寝ていた。
 いつものことだ。

「はい、みんな起きるにゃー。点呼開始―」

 子供たちの眠るテントの方でシストルムが声を張り上げている。彼女は思ったより早起きだ。
 イチ、二、参、よん。と口々に寝起きの声が聞こえてきた。毎朝こうしているらしい。

「ん?」

 点呼の途中でシストルムの声が停まる。

「一人足りないにゃ……」

 アイムールは雷速で振り返った。
 その先では子供たちの顔を素早く順繰りに確認していくシストルム。

「マライカにゃ。あの子がいない……」
「いかがいたしましょうか」
「アイムールはボクと捜索! キミたちはこの場で待機、ボクらが戻るまで絶対に移動しちゃダメにゃ!」

 尋ねられた後のシストルムの行動も速かった。弾けるように野営地の外へ飛び出していく。アイムールもその後を追った。

「キミは西へ、ボクは東を探すにゃ! 見つからなければ三十分後にここに戻る! いいにゃ!?」
「了解いたしました」

 叩きつけるように指示を飛ばすと、斬ル姫たちは一気に二手に分かれた。風のような速度で走る二人の距離はみるみるうちに離れていく。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 赤く照らされた大地。
 砂を踏みながら空を見上げると自分を干上がらせんとばかりに照り付ける太陽あった。陽光に照らされた額から汗がだらりと流れ落ちる。
 日陰はない。水場もない。
 乾きと熱が支配するこの土地に生命の気配はしなかった。
 これが煉獄。生命の存在を許さぬ領域。
 これが――――あの斬ル姫が作り出した景色か。

「……なにをやってるんだろうあたし」

 マライカは真夜中に野営地を飛び出して一人あてもなくただ歩いていた。
 あの日、アイムールと話した後、たまたま彼女の独白を聞いてしまったのだ。

(村の人たちが暮らせなくなったのも、殺されたのも、全部あの斬ル姫のせい……!)

 どこまでも続く地平線に向けて足を進めるごとに彼女との思い出が浮かんでくる。

 彼女を刺した時。それから刃物を持つと手が震えるようになった。
 彼女に凶器を返却された時。あの時は本当に彼女の言っている意味が分からなかった。
 彼女に気を使われた時。心底腹が立った。
 彼女に――助けられた時。

 それらはなんだか暑い日に見る蜃気楼のように曖昧で、もしかしたら短い夢か何かだったのではないかと思ってしまう。
 なんだか煮え切らない。
 本来の自分はこんなはずではなかったはずなのに。
故郷の仲間たちの仇を見つけたらすぐに復讐するはずではなかったのか。
おまけにようやく出会えた仇には存在を忘れられていて、しかも護衛対象としか見られていなくて――――。
それになんで今、あたしは彼女から逃げるようにふらふら歩いている?

(あの斬ル姫は、みんなの仇なのに……)

887兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:29:34
 何の悩みもなさそうに転がっている小石に無性に腹が立った。
 苛立ちのままに小石を掴んで投げる。
 落ちた地点まで追いかけて行ってまた拾って投げる。マライカはそれを何度も繰り返し続ける。
 いくらやっても気持ちは晴れず、代わりに薄ら寒い虚しさだけが胸を締め付けた。

「あれ?」

 小石に目を取られて気がつかなかったが、少し先の方に不思議な球体がある。
 近寄ってみると、それは無数のトゲの生えた大きな鉄球だった。長い鎖までついている。振り回して使うのだろうか。

「これって……」

 アイムールが探しているという武具だ。
 長いこと放置していたので砂を被って汚れているがアイムールが言っていた特徴に一致する。間違いはないと思う。
 マライカはそれをしばらく見つめて、

「これを奪えば、あの斬ル姫はあたしのこと敵として見るのかな……」

 独り言だ。本気で思ったわけじゃない。
 試しにチェーンを持ち上げてみたがその部分だけでも子供の手にはずしんと重く引っ張って移動などもできそうになかった。
 その時、辺りがすっと暗くなった。
 雲だろうかと思い空を見上げてみると、真上に翼を広げた鳥のようなものが羽ばたいている。逆光で吸い込まれるような黒一色だった影から――――人が飛び降りた。
 ライトブラウンの髪をたなびかせ華麗に着地したのは長身の女性だった。

「どうしたの? イミテーションの子供が一人で、こんなところで」

 透き通るような青い瞳がこちらを覗き込む。
 体のラインを強調するような白のボディスーツが目立つが、マライカの目に真っ先に飛び込んできたのは女性が持つ巨大なランスだった。
 女性自身の身の丈をも遥かに上回るその鎗を軽々と片手で扱っているその女性は間違いなく――――、

「斬、斬ル姫……!」
「そうよ! 名乗るのが遅れたわね。私はソロモン・聖鎖・アテナ! 上で飛んでいるのはグラウよ!」
「あ、あ……」

 やけにハキハキした声で名乗りを上げたソロモンと名乗る女性は。真面目そうな顔で相手の反応を待っている。
 マライカの方は、既に背筋が寒くなって歯の根が合わなくなっていた。

(ヤバい、……ヤバいよこれ。どうすんのこれ)

 聖鎖、というのはハルモニアで使われるギアハックの名称だった。どうやら自分はハルモニアの斬ル姫と出会ってしまったらしい。シストルムと過ごしていることで慣れてしまっている自分がいたが、基本的に斬ル姫は何をしてくるかわからない恐怖の対象だった。
 嫌だ。逃げたい。怖い。怖い、怖い。

「ねぇ、ちょっとどうしたの?」

 ソロモンがこちらに手を伸ばしてきて、少女の混乱と焦りは臨界点を越えた。

「う、うわああああああああ!」

 腰が抜けた。すとん、と腰が落ちて地面に座り込んでしまう。焦りと混乱で足が震えるばかりで少しも動かない。掌だけが地面を無意味に撫でる。
 目の前ではソロモンが不思議そうに首を傾げていた。その様子を少し落ち着いて見ることができれば敵意など欠片も持っていないことがわかっただろう。だが怯え切った少女にはそれもわからなかった。ただ唇が勝手に動いていた。

「助けて」

 と。
 次の瞬間、

「きゃっ!?」

 ソロモンの胴体に、アイムールの飛び蹴りが叩きこまれていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そのまま走りなさい」

 アイムールはマライカの首根っこを掴み上げやや雑にその体を背後へ移動させた。そして地面に転がしてある鉄球の鎖をおもむろに拾い上げる。

「私の武具を探すために一人抜け出したのですね……!」
「そんなんじゃないから」
「そうなんですか……」

 やや感激気味なアイムールの勘違い発言を即刻訂正する。その後、促されるままにマライカは逃げた。緊張による体の麻痺はアイムールとの抜けたやり取りでいつの間にかほぐれていた。

「誰かな貴方は」

ソロモンはアイムールの体重を乗せた蹴りによって一旦は空中に吹き飛ばされたが空中で器用に一回転して着地していた。
 それなりに力を込めたはずだが無傷らしい。ダメージを一定値耐えるようなスキルを持っているのかもしれない。

「私はソロモン・聖鎖・アテナよ」
「私はアイムール・D. plug・モートです」

 雰囲気を戦闘に切り替えてソロモンは長いランスを構える。それでもやや当惑があるらしい。

「もしかして貴方は今その子を私から守ろうとしたの? だとしたら私たちには戦う理由はないんじゃない? 私はその子に危害を加えるつもりはないの!」
「そうでしょうか。ではあなたの目的を聞きましょう」

 用心深く腰を沈めながらアイムールは尋ね返す。ソロモンは背筋を正してきっぱり正直に答えた。

888兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:30:04
「私はティルヘルムの監視のためハルモニアから派遣された斬ル姫で……」
「捕食対象を確認。これより戦闘を開始します」
「なんで!?」

 凄まじい速度で横薙ぎに振るわれた鉄球を上半身をスウェーさせることでソロモンは回避、さらにバッグステップで距離を取る。
 鉄球はアイムールが扱うことにより炎のマナを帯びており顔を掠めただけで肌が火傷しそうだった。

「私に下された命令は、ラグナロク王国へ近づく者を殲滅することです」
「っ、戦うしか!」

 ソロモンが意を決した様子で踏み込んでランスを一閃する。それをアイムールはチェーンを巻き付けた腕で受け止めた。

「そこっ!」

 受け止めた途端、ソロモンの回し蹴りが胸元に炸裂。アイムールは瞬間的な酸欠に襲われ後ずさった。
 さらに追撃が来た。

「—――――ッ」

 風のようなランスの連撃突きを後方へ飛びのくことで避ける。だが空振りしたはず突きが無数の魔弾となって飛んできた。
 今度こそ直撃してアイムールは鉄球ごと吹き飛ばされ地面を転げる。

「……光、ですね」

 あのランスに見える武具の本来の用途は『魔銃』なのだろう。
 喰らった感触を解析するに間違いなく光のマナ。

「貴方の武具は」

 いつの間にか肌が触れ合うくらいの距離まで近づいていたソロモンがランスを一回転させて柄で側頭部を殴りつけた。一瞬視界がブラックアウトする。

「まともに受ければ全身どこでも粉砕骨折。直撃することが致命傷を意味する。仮に鉄球より内側に踏み込んでも体のどこかに鎖が絡まれば動きが鈍ってしまうわ」

 さらに態勢が崩れたアイムールの鳩尾をランスの石突で思い切り突き上げる。

「グッ……カッ」

 宙に浮いたアイムールの体へ撃ち込まれる掌底。内臓を直接揺さぶられるような衝撃が通り抜けていく。さらにソロモンは反撃の隙を一切作らせない。

「中距離での戦闘に最大特化。斬ル姫の膂力なら複数の兵士を一息で一掃するような多数対一の戦いも可能でしょう。だけど!」

 ランスの先を肌に押し付けたゼロ距離からの魔弾発射。

「鎖で振り回すという構造上、鎖に力を籠めてから鉄球が動くまでにはどうしてもラグがある! だから、私が選ぶのは超至近距離での絶え間ない波状攻撃! 武具を使う隙を決して与えない!」

 宙を舞いかけたアイムールへランスをまるでハンマーのように叩きつけ、地面にめり込ませた。

「これが! 私の最適解!」

 宣言と同時にソロモンはランスの切っ先を大地にめり込んだままのアイムールへ突き出した。青い光が穂先へチャージされていく。

「制限を解除」

 瞬間だった。
 ドン! という轟音と蒸気を伴った凄まじい熱波がソロモンの体を吹き飛ばしていた。

「熱っ……。何が……」

 全身に感じるヒリヒリとした痛みが熱であることをソロモンは感じ取る。
 その目の前、さっきまでアイムールが倒れていた場所ではもうもうと煙が立ち上っていた。
 大地が鳴動する。
 なにかを叩くような破砕音が連続して――――地面が噴火した。
 溶岩が間欠泉のように噴き上がる。その赤い噴煙や噴き出すマグマの中からぬっと黒いプロテクターに覆われた腕が伸び、煙から這い出すようにしてアイムールが現れた。

「稼働率を100パーセントまで引き上げます」

 体の各所が業火のように赤く染まっていく。しだいにその姿さえも蜃気楼のように揺らぎ始めた。踏んだ地面から炎を噴出させる。アイムールを中心とした上昇気流が発生し、周囲の物は空気の流れに従って引き寄せられた。

889兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:30:40
「グラウ!」
「逃がしません」

 頭上で旋回していたフクロウ型の機械獣がソロモンの呼び声に応えて急降下したところへ地面から火柱が噴き上がった。グラウは飛行方向を強引に屈曲させそれを回避。再び上空へ。

「離脱は無理ね……」
「逃がさないと言ったはず。アイムール。その意味は『撃退』。決して標的を逃がさぬ殲滅の斧」

 アイムールとソロモンの四方を囲むように火柱が浮上した。それらはみるみるうちに変形し、まるで門のような形に変わり、それらが合わさりあうとまるで檻のようにソロモンの退路を塞いだ。

「堕ちろ」

 地獄の底から響くような声と共に鉄球が繰り出される。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 マライカは言われた通り必死に逃げていた。

「はっ、はっ」

後ろからは何かが壊れる爆音が響き、異常な熱気が吹き付けてくる。
破壊音。炎。斬ル姫。
怖いもの全てが背後から迫ってきているような錯覚に陥る。だがそんなはずはないのだ。後ろではアイムールがソロモンと名乗る斬ル姫を押しとどめているはずなのだから。
それでも、後ろを振り向くことができなかった。

「いたっ! 大丈夫にゃ!?」
「きゃっ」

 正面からシストルムが四足走行で走ってきてタックルするように勢いよくマライカを抱きしめた。身長はさほど変わらないのに包み込まれているように安心感を覚える。

「な、なんでここに……」
「すごい音がしたからもしやと思ったんだにゃ。アイムールの方向が正解だったんだね。それでアイムールはどうしてるにゃ?」
「向こうで、ハルモニアの斬ル姫と戦っている」
「えぇっ!?」

 シストルムが驚愕の声を上げる。そしてマライカの後ろを『視て』納得したように頷いた。

「あの雲はそういうわけだったかにゃ」
「雲?」

 初めてマライカは後ろを振り向いた。

 視線の先には―――太陽まで届かんばかりの巨大な雲塊が立ち登っていた。

 その中心部で発生した膨大な熱による大規模な低気圧の影響だった。
 あそこでは、きっとアイムールが戦っている。
 単体であれほどまでの力を持つ相手に、自分は少しでも勝てると思っていたのだろうか。でも、その憎き仇は自分を何度も助けてくれた相手でもあって………………、



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ソロモンは自分の周囲に青いガラスのようなバリアを展開することで凄まじい暑熱に耐えていた。

『アイムールの中心温度1160度を突破。なおも上昇中』

 視界をサーモグラフィに切り替えたグラウから送られる赤外線分布を可視化した通信映像にソロモンは苦い顔をする。

「不味いわね」
『展開したバリア内の気温も40度を超えています。後数分でデッドゾーンに入ると予測』
「グラウに乗って離脱はやはり無理?」
『ソロモンとアイムールを囲む炎の檻へ突入した場合、二秒で外殻が融解、侵入は可能ですがそれ以後の飛行が不可能かと』
「わかったわ。逃げるのはなし。解析を続けて」
『了解です。ソロモン』

 通信している間にもアイムールからの攻撃は続いていた。一直線に飛んでくる鉄球の軌道を先読みし紙一重で躱していく。

「近づこうにもこれ以上近づいたら焼け死ぬわね。かと言って鉄球の届かない遠距離から射撃するとなると炎の壁が邪魔だわ」

 ソロモンがランスを突き付ける。切っ先から波動が発射された。

890兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:31:25
青いレーザー状の光は空間を真っすぐ切り裂いてアイムールへと突き進む。

「うっ!」

 直撃したアイムールの体が揺れた。レーザーに押されるようにザリザリと地面を抉りながら後ずさる。だが意を決したような呼吸の後、その瞳孔が蛇のように収縮した。
 鎖を巻き付けた右腕を前へ、レーザーを押しとどめるように突き出す。

「この身は冥府に繋がる門、飢えと渇きを携えた私は常に果て無き飢餓と共にあります。この程度の熱さ、飲み干せずして何が冥界か」

 より一層蒸気と熱を噴出し、なんとソロモンのレーザーを力任せに掻き分け激流を遡上するように進行を始めた。

「そう来るなら……!」

 ソロモンがレーザーの出力を一層強める。レーザーはさらに太くなり勢いはさらに強まった。だが動きが鈍くなっただけでアイムールは止まらない。近づいてくるごとにその灼熱は一層強まっていく。
 ソロモンの頬を伝う汗が出た傍から蒸発するほどまでに熱い。

「………む。ん」

ガクン、とアイムールの進撃は唐突に停止した。
 その体が電池の切れた機械のように動きを止め、レーザーの勢いを受け止めきれずに呑まれかける。

「……残存エネルギー残り僅か。主要部以外の臓器、および消化器系へのエネルギーの供給を停止。余剰分を運動エネルギーへ変換」

 だが停止したのも僅かな時間。仰け反った体を持ち直し、再び侵攻を開始した。

(もしかして……。限界が近い?)

 レーザーの照射を一切緩めないままにグラウへ通信する。

「今の状態は?」
『熱の上昇が停止。反応速度の低下、全体的なエネルギーの低下が見られます。さらに周囲の炎も若干ですが勢いが弱まっている模様』
「やっぱり……あれだけの熱を常時放出できるなら最初からやっているはずだもの。きっと最後の切り札とか、倒した敵のエネルギーを随時吸収して失ったエネルギーを補っているとか、普段はそうやって運用しているんだわ」

 ランスを持つ手に力が籠る。レーザーを照射している限りはアイムールは受け止めるのに精一杯で進んでくる以上の攻撃はしてこない。

「つまりこの勝負は貴方が私に辿り着くのが先か、貴方のエネルギー切れが先かと言うことね!」

 そんなソロモンの声が聞こえているのかいないのか、呼応するように、吠えるようにアイムールは蒸気を噴出させた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「マズいにゃ。アイムールが押されてる」
「えっ……」
 
 雲塊を見つめるシストルムが苦い顔をした。

「こりゃ負けるにゃ。ハルモニアの斬ル姫が追ってくる前にボクらだけでもここから逃げないと……」
「待ってよ! アイムールを置いていくの!? 助けないの!?」

 マライカを抱き上げて逃げる姿勢に入ったシストルムに思わず叫んでいた。

「だってボクが助けに行ってもやられちゃうかもだし、そもそもキミを一人にするわけには……」
「私も付いて行くよ! だから……」
「ボクだって辛いにゃ! でもキミが生きることが一番大事なのにゃ!」

 珍しく声を荒げたシストルム。本当に悔しそうに見えた。だからこそ、マライカも負けていられない。

「私だって! ずっと死ねばいいのにって思ってたけど! これじゃいけないの! 確かに私の村を焼いて、たくさんの人を殺したりしたのかもしれないけど! 私を助けてくれたアイムールだってアイムールなんだから!」

 アイムールに助けられた時、確かに『ありがとう』と思った。彼女に向ける思いには怨みや憎しみもあるけど、一緒に過ごしているうちにいつの間にか出来ていた『こいつ融通が利かないだけでそんなに悪い奴じゃないんじゃないか』という気持ちだってマライカ自身の気持ちなんだから。

891兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:32:01
「私だって自分がわかんない! 殺したいのか、許したいのか! でもきっとアイムールだって同じなんだよ! この土地を荒れ地にしたのは自分だって言った時、あの人、後悔してたでしょう!?」
「…………聞いてたんだね」

 全ての原因が自分にあるとシストルムに打ち明けた時のアイムールは辛そうだった。使命に準じた結果とそれによって生じた被害の狭間で迷いがあるようだった。

「アイムールだって自分がどうしていいのかわからないのよ! だから答えも出せていないのにこんなところで終わっちゃいけないの! 私も、あの人も、まだたくさん考えなきゃいけないの! だから見捨てないで……助けてよ……」

 気持ちを吐き出し続けて、最後の方は涙が溢れて鼻声になっていた。

「お願いだから……何でもするから、アイムールを置いていかないで……」

 途中から黙って聞いていたシストルムはしばらく「うー」と唸っていたが、

「うにゃ――――ッ!」

 気持ちを振り切るように大声を出すと地面に向けて魔弾を連射した。砂漠化しかけた土は柔らかいらしくすぐに子供が一人入れるくらいの穴が開く。

「ここで大人しく待ってるにゃ。もし二十分ボクが戻らなかったら死んでるからその時は一人でみんなと合流してトレイセーマを目指すにゃ」
「え……いいの……」
「猫は気まぐれだからにゃー。あんまり焦らすと行く気失せちゃうかもにゃ」
「う、うん! ありがとう! シストルム!」

 マライカが焦って穴に飛び込むのを確認すると、シストルムは四足で地面を蹴って猫のように駆けた。
 目指すは雲塊の麓。ハルモニアの斬ル姫とアイムールのいる場所。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「私の粘り勝ちね」

 ソロモンが宣言した直後、エネルギーを使い果たしたアイムールが膝をついた。周囲を焼け野原にしていた炎も消え去り、今は僅かな火種と炭化した地面が残るだけである。
 ギチギチと油を差していない機械のようにぎこちなくアイムールが鎖の巻かれた腕を持ち上げる。

「一本でも、動くならば……」
「させないわ!」

 それより早くソロモンのランスが青色の輝きを放ち魔弾のチャージ動作に入った時、

「うにゃにゃにゃにゃ――――っ!」

 上空から間に割って入ったシストルムの爪撃がソロモンのランスを叩き軌道を逸らしていた。魔弾は見当違いの方向に放たれ岩をこぶし大の破片に粉砕する。

「新手!?」

 ソロモンは間を置かず急降下してきたグラウに飛び乗り上空へ退避。
 その隙にシストルムは緑色をした液体の入った小瓶を動かなくなったアイムールの口に含ませる。ガチン、と彼女の内部で歯車の噛み合ったような音がした。

「全回復とはいかないけどそれで動けるでしょ?」
「……内燃機関、再始動。残存エネルギー確認。冥府の門は使用不可。ですが武具の操作のみならば」

 膝をついていたアイムールが立ち上がり鎖を構えた。そこへ上空を旋回するソロモンから無数の魔弾が雨のように降ってくる。

「それ以上、回復の隙は与えないわ!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ソロモンは考える。
 乱入してきた斬ル姫は初めて見るタイプだが爪状のガントレットを主体とした戦闘を行うらしい。現れた時には驚いたが対空戦力はもたないだろう。
 さらにアイムールの方は多少動けるようになったらしいが未だエネルギーは枯渇寸前。たとえ炎を出せたとしても地面から放出する以上、空を飛行できるグラウには届かない。

892兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:32:38
(こちらが警戒するべきはアイムールが鉄球を投擲してくるという可能性ね……。もちろん予備動作があるはずだから目視からの回避は可能だわ。だから私は彼らの射程距離外である空から魔弾を放ち続けていればいい)

 だがさらに増援が来ないとも限らないし、撃てる魔弾には限りがある。
 つまり選ぶべきは早期決着。

(あえてこちらから鉄球の射程距離へパワーダイブをかけて二人の攻撃を誘発し、それを躱してカウンターを狙う!)

「行くわよ! グラウ!」

 ソロモンは最大出力で空へ飛翔した。その体が対流圏界面まで達するとぐりんと勢いよく頭を真下へ向け、加速をつけて落下を開始、あまりの速度に空気が押しつぶされ絶叫じみた爆音を、ソニックブームを発生させる。
 これほどの速度ならば単純なランスの刺突のみでも斬ル姫を倒しえるはず。
 直撃まであと五秒。
 こちらを見上げるアイムールの瞳孔が蛇のように収縮した。

(さあ、投げてきなさい!)

 四秒。じりとアイムールの足が踏み込むように後ろに下がり。

 三秒。—―――勢いよくシストルムを上空へ蹴り上げた。

「…………え?」

 一瞬、思考が停まる。
 正確にはアイムールはシストルムを蹴り上げたのではない。シストルム自身が振りかざされたアイムールの足の甲に器用に飛び乗って、カタパルトのように打ち上げられたのだ。
 こちらに真っすぐ飛んでくるシストルムが勝ち誇ったように、にやりと笑う。

(くっ。予測していなかったわけじゃない……!)

 ただあまりにも低い可能性だったから排除していただけだ。仲間を弾丸にして飛ばしてくるなんて誰が実行すると思うだろう。
 聖鎖される前のソロモンであるならば、可能性の大小に関係なくどちらも同じレベルの警戒をしたかもしれないが。
 決断力を得た代わりにそれらを捨てたソロモンには人間カタパルトに対する備えは思考にはなかった。

「だけど!」

 ぐるり、とドリルのように回転して砲弾と化したシストルムの爪撃を再び躱す。しょせん付け焼刃の奇策。回避できないはずもない。

「……っ!」

 だが、シストルムを突破したその先にはアイムールのモーニングスターが真っすぐ迫っていた。シストルムを打ち上げた直後、しっかり投擲も行っていたのだ。

「打ち上げた相手の体を使って鉄球を隠していたのね!」

 意を決してソロモンは正面からモーニングスターに突撃して、弾いた。
『護神の抵抗』。一定の攻撃を耐えるスキルが発動していた。ソロモンが今回の戦いで実際に喰らった攻撃が蹴り一発だけだったのが功を奏したのだろう。紙一重ではあったのだろうがモーニングスターの直撃を無傷で受けきることができた。
 これで相手の手は尽きた。速度は落ちたが勢いは十分。

「今度こそ終わりよ!」

 気合の声と共に力強くランスを正面に突き出す。

「ソロモン!」

 グラウの声が聞こえた。そう思った次の瞬間、背中へドンッ! という衝撃を受けてソロモンはグラウの背から投げ出されていた。
 宙に投げ出されたソロモンが真上へ顔を向けるとこちらに穂先が二股の杖を向けているシストルムがいた。

(あの斬ル姫、武器は爪じゃなくて杖だったのね)

 やられた。
 人間カタパルトはフェイント。裏の目的はアイムールのモーニングスター。だがその真の目的は背後を取らせた斬ル姫による魔弾だったとは。

(分析不足、ね)

 地面に向けて落下していくソロモンへ、シストルムの魔弾が殺到した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「負けちゃったにゃ」
「ええ」
「でも帰れるんだにゃ。子供たちの所へ」
「ええ」

 力を使い果たしたシストルムとアイムールは互いに背中合わせになって地面に座って休憩していた。
 すでにソロモンの姿はない。もうだいぶ前に去っていってしまった。
 代わりに幼い少女が二人の傍に無言で立っている。
 肩口で刈り揃えられた髪。丸くて大きな瞳。着ている貫頭衣は裾の方が少し焦げていた。残り火で焼いてしまったらしい。
 マライカだった。彼女はアイムールへ本日何度目になるかわからない言葉を繰り返す。

「あたしのおかげで生きているんだから忘れないでよね」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 あの時。シストルムが発射した魔弾がソロモンを仕留めるかに思えた。

「グラウ!?」

 ソロモンの前に割り込むように飛び込んだグラウが代わりに全ての魔弾を受けきった。その背で闇色の小爆発が連続する。
グラウとソロモンは互いに絡み合うようにして地上に落下した。
 ソロモンの腕の中でグラウがみるみる縮小していく。しまいには手で抱え込めるほどのサイズへと変わった。

893兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:33:20
「活動は停止してるけど……内部機構は壊れてない。よかった」

 所々焦げついているがグラウの生存を確認してソロモンはほっと溜息をつく。次の瞬間、今にも追撃をかけんとしているアイムールとシストルムをきっと睨みつけた。その目に浮かぶのは怒り。

「貴方たち……!」

 元より魔弾で仕留めきれなかった時点で負けである。二人がかりとはいえガス欠寸前のアイムールと戦闘要員ではないシストルムでは勝ち目などなかった。
 数分で二人は叩きのめされ眼前でランスの切っ先に青白い光が蓄積されていく。過去最大級の光線で確実に仕留めるつもりだ。

「やめて」

 その時、ソロモンの脇を追い抜いて少女がアイムールとシストルムの前に両手を広げて立ち塞がった。
 肩口で刈り揃えられた髪。砂ぼこりで汚れた粗末な貫頭衣。

「貴方、さっきの」

 その少女の名はマライカといった。
 ソロモンの目が細められ少女を認識した。しかしランスの照準は一切ずらさない。どかないようならば少女ごと打ち抜くという意思表示なのかもしれない。

「やめないわ。私はその人たちが許せないの」

 冷たく言い放つ。口調は静かだが怒りが隠せていなかった。ソロモンにとってグラウの存在は単なるサポーターではなく大切で特別な意味を持つのだろう。
 少女は唇をきっと結んだままその怒りを正面から受け止めて、ただ一言返した。

「仲間なの」

 長い沈黙が流れた。永遠にも感じる時間の中、最初に動いたのはソロモンの方だった。

「そういう言い方はズルいと思うわ」

 根負けしたように力なく肩を落とすとグラウを小脇に抱え、くるりと背を向けると地平線の果てへ向けて去っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 数日後。マライカはトレイセーマ擬人区にいた。
 今は空き家を借りて一緒に荒野で過ごしてきた仲間たちと暮らしている。
 シストルムはいない。到着と同時にトレイセーマの憲兵たちと合流してどこかへ行ってしまった。話によると別の任務へ配属されているらしい。
今でも時々、仕事の隙を見て擬人区にも顔を出しに来ていた。住民たちにお金や物資を届けに来てくれるのだ。
 今日は珍しくシストルムが来た日だった。
 早朝に到着してからずっとソファでだらりと横になっている。他の子供たちにつつかれても「にゃー」と唸るだけで我関せずだ。

「寝てばかりだと体が凝るよー」
「ボクは元々こんなキャラにゃー。戦場だと気を張ってばっかで疲れるにゃー」
「そうだっけ? でもご飯の時くらいソファから降りなよ」
「んにゃ? キミが作ったのこれ?」
「そう。ここで暮らして初めてわかったんだけど。あたししか料理できないの」

 マライカが食卓へ手際よく料理を並べていく。パン、乾燥させた果物、魚の香草焼きなどが土の器に盛られている。そして最後に、いつか見た薄赤色の花の茎の漬物をよそった小鉢が出された。
 シストルムの声色に懐かしそうな色を帯びる。

「アイムールは何してるのかにゃあ」
「さあ? まだあそこで何か燃やしてるんじゃない」
「燃やしてるって……」
「あのねシストルム。まだ持てないのあたし」
「何がにゃ」
「包丁」

 席に着いたマライカが唐突に話題を変えた。ぐーぱーさせた掌を見ながら話す。

「というか刃物なんでも。持つのはなんとかできるんだけどね。刺したり切るってなると駄目。手が震えて気持ち悪くて無理。ただの料理なのにね」

 アイムールを刺した時からマライカは刃物が使えなくなっていた。刃が肉にめり込む感触があの時のままにぞわり、と蘇って持っていられないのだ。

「傷つけるって難しいね」
「無理に慣れなくていいんだ。気づいたら使えるくらいでちょうどいいのにゃ」
「そういうものかしら」

 他人を傷つける、殺める。そういったものに嫌悪感が持てるというのはとても尊いことだとシストルムは語る。この世界ではそんな優しいだけの感性は不要だし無駄だけれど。

「そういう人たちが優しい心のままに生きていくために代わりに戦うのが斬ル姫なのかにゃって」
「本当にそう思ってるの?」
「うーん。ちょっとくらいにゃ」
「ちょっとかー」

 食卓に仲間たちが集まり始めて「いただきます」の声を待たずに誰かが手を出したのをきっかけに騒がしく昼食が始まった。

「あ! 雨!」

 誰かが声を上げる。彼が指をさす方角を全員が向いた。
 ここではない遠くの空で雨雲が発生していた。
 奇しくもそれはあの荒れ地の方角だった。
 なんとなくアイムールのことを考えた。

894兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:34:04

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 砂漠。岩が点々と並ぶばかりで生命の気配はない。
 そんな大地をアイムールは黙々と踏みしめていた。

「……低燃費状態で運転中……はぁ、お腹が空きました」

 何度目かの言葉を呟く。常に空腹は感じていたが数日前まではそれ以外にも考えることが幾つもあって少しは忘れられたのだが一人になってしまうとそれしか考えることがない。

「群れるのは好みません。けれど」

 何となく立ち止まった時。背後に動く物の気配がした。

「にゃあ」
「!?」

 よもやシストルムかと音速で振り返る。しかし背後には誰もいない。首をぐるりと回して、最後に目線を下へ落とすと足元に一匹の赤猫がいた。
 アイムールは(心なしガッカリしたような)無表情で来訪者の名を告げた。

「ヤグルシ、どうしたのですか?」
「わーい、大正解! さすがおねーちゃん!」

 赤猫がくるりと宙返りするとそこには赤髪の斬ル姫がいた。ボンデージを思わせる全体的に際どい衣装。ロングの赤髪の頂点には鉄の王冠のような髪飾りが付いている。
 この斬ル姫がアイムールの妹。ヤグルシ・D. plug・バエル。
 アイムールのキラーズの持ち主であるバアルと同一視される悪魔をD. plugされた斬ル姫だった。

「久しぶりー! ヤグ会いたかったよー!」

 ヤグルシは両手を広げ砲弾のような勢いで抱き着いた。強烈な衝撃がアイムールの腰に飛来するがアイムールは不動。
 慣れているといった風だ。この姉妹の間では日常茶飯事なのかもしれない。

「どうしてここがわかったのですか?」
「だいたいこの辺にいるってのはわかるからね。後は普通に痕跡を辿ればわかるよ。ほら」

 ヤグルシが腰に抱き着いたままアイムールの背後を指さす。振り向くと鉄球が引きずられることでできた跡が道のように刻まれていた。
 なるほど。

「では何をしに来たんですか?」
「おねーちゃんを迎えに来たに決まってるじゃーん!」
「は?」
「あのね! おねーちゃんの主人がいたじゃない。ほらラグナロク王国に近づく者をうんぬんかんぬんみたいな命令をした。あの領主こないだ死んだんだよー。戦死だって」
「……ということは」
「命令は破棄! おねーちゃんは自由!」

 そうか。これで任務も終わりか。
 結局あの命令の真意はわからなかった。そもそも知る必要もあまりない。大方ラグナロク王国に見られたくないモノでもあったのだろう。
 秘密の入り口とか。
 何かのカギとか。
 それは自分が考えても意味のないことだ。
 でね! とヤグルシは興奮気味に続けた。

「せっかくだから私と一緒にこれから暮らそうよ! 今皇帝陛下の指示でお城で潜入工作やってるんだけどね。お城の伯爵さんも面白い人だよー。大丈夫! 痛い思いなんか少しもしないから」
「…………ふむ」

 悪くない。
 無所属になったからには次の仕事先を見つけなければならないのも事実だ。
 ヤグルシの紹介で皇帝陛下のものになるのもありだと思う。
 アイムールは一考して、答えた。

「少し、待っていただいてもよろしいでしょうか?」

 ヤグルシは腰にぶら下がった姿勢のまま姉を見上げ不思議そうな顔をする。

「どしたのおねーちゃん? 任務は終わったんだよ」

 じっとアイムールの目を覗く。その何も映っていない瞳から妹なりに何か読み取ったらしくヤグルシの声が真剣味を帯びた。

「何かあったんだね。話してよ。バエルの知恵を貸すよ」

895兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:34:38
 時間は数日前にさかのぼる。
 シストルムと子供たちとの別れの時。

「じゃあねアイムール。自分のHPくらい自分で管理するんにゃよ。次行き倒れても誰も助けてくれにゃいよ」
「善処します」

 契約満了。それなりの満足感がある。
 子供たちとも別れの挨拶を一人一人済ませた。それなりに名残惜しそうな反応をされたのは意外だった。そうして最後の子供との対話になる。
 マライカという少女だった。
 腕を組んでツンとした態度でアイムールに向かう少女にまず頭を下げた。

「ごめんなさい」

 少女が呆気にとられた顔でこちらを見つめる。

「おそらくあなたの村を焼いたのと、この土地もここまで枯らしたのは共に私です」
「知ってる」

 マライカは頷いた。そんなこと気にもしない風に続けた。

「謝らなくていいわ。だって覚えてないんでしょ?」
「はい」
「悪いとも思ってないんでしょ?」
「任務の成り行きですから。悪いことではない、と思います」

 悪い事とは思っていないが罪悪感は感じている。少なくともマライカにはそう見えた。そうであって欲しかった。
 今度はマライカが話す。

「これからは人の気持ちを少し考えて話した方がいいと思うよ。ほら、気持ちってキャッチボールだからさ。愛されたら愛し返して、嫌われたら嫌い返して。そうやってやり取りするもんだと思うの」
「できてませんか?」
「できてないよ。だから相手の気持ちには向き合ってあげて。それが敵同士でもさ。無視されると寂しいから」

例えば、アイムールに初めて会った時のマライカのように。こちらは過去の因縁を全てぶつけるくらいのつもりなのに相手が自分のことをただの子供としか見てくれていなかった時。自分の存在や過去を否定されたようで悔しかった。

「だから。そのことには気を付けてね。命令だから」
「ご命令ですか」

 ふっとアイムールが小さく笑った。ように見えた。
 結局、その場はそれだけでお開きになりアイムールとシストルムたちは互いに別々の方角に向かっていく。片やトレイセーマへ、片やティルヘルム国境付近へ。
 小さくなるアイムールの背にマライカは声を張り上げた。

「言っとくけど私はアンタを許したわけじゃないからね!」

 そして泣いた。どんな意味で泣いたのかは自分にもわからないがこの時、少女の中で一つの決着がついた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「自己修復完了。どうでしょうか?」
「いいわね! 焦げ目も残っていないし録音機能、録画機能、飛行、潜水、熱源解析どれも問題ないわ!」

 簡素な小屋で大声を上げたのはソロモン・聖鎖・アテナだ。
 ソロモンを庇って傷を負ったグラウが回復したので状態を確認していたのだ。
 小型サイズになっているグラウの体をくるくると回しながらあちこち覗くソロモン。

「ちゃんと確認したい機能があと200ほどあるけど。現実的に考えて時間がないわね。ああでも耐久力の向上だけはやっておくべきだわ! 次にあんなことがあっても問題ないように! よーしグラウ! 今日は君をオーバーホールするわよ! これが私の最適解!」
「拒否します」

 ソロモンの手から逃れるようにグラウが飛んだ。小屋の天井付近を旋回してから梁の部分に着地する。

「それにしても。なぜあの斬ル姫二人を見逃したのですか」
「そういえばグラウはあの時気絶してたのよね」

 あの時、ソロモンは問答無用であの斬ル姫二人を始末するつもりでいた。
 だがそれを庇った少女がいて、彼女は斬ル姫たちを『仲間』と称した。
 ソロモンは苦笑する。

「なんか毒気を抜かれたのよ。非論理的だけれど。まるで私が悪役みたいに見えてきてね」

 それに実力差もわきまえずソロモンの前に立ち塞がった少女の瞳が、自分を庇って傷を負った時のグラウの瞳に似ていたのだ。

「この瞳は液晶です。イミテーションの眼球と似ているはずがありません」
「まさか。私にはわかるわよ! グラウ、君の目から感情が読み取れるの!」
「ソロモンの目は機械か何かでしたか?」
「今のは冗談よ!」

 と他愛もないやり取りをしていると。グラウが何かを発見した。

「この小屋に接近する反応を確認。徒歩の速度で向かってきます。数は斬ル姫が三人。それにオートアバターが三体」
「あら、索敵能力が上がったんじゃない?」

 ソロモンはグラウと共にこっそりと裏口から小屋を出た。そのまま物陰に隠れながら謎の一団に近づく。

896兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:35:10
(あれは……カリス?)

 その一団の一人はソロモンがこの任務に着く前にハルモニアで共に過ごしていた斬ル姫だった。スキップ気味に進むカリスの隣には彼女のオートアバターであるキプルの姿もある。
 他のメンバーは一房だけ紫色が混じる浅葱髪の小柄な斬ル姫にそのオートアバターらしき紫の馬。その後ろに薄灰色の長い髪をした赤い目の斬ル姫。見たところ彼女が一番強そうだった。その手にはドラゴンを小さくしたようなオートアバターが物のように乱雑に握られている。

『あ! ティルヘルムとの国境が見えてきたよ!』
『そういや国境じゃなくてティルヘルムの監視をしてるって言ってたな……ソロモンの他にもハルモニア兵がいるんじゃねえか?』

 彼らの目的はどうやら自分らしい。カリスを脅すか何かして案内に使っているに違いない。許せない。
 ソロモンの胸に義憤の炎が燃える。

『……レヴァ、何か気になんのか?』
『……何でもない。それより、あの小屋』
『きっとあそこだよ! ソロモン、元気にしてるかなっ?』

 とうとう自分の拠点まで辿り着いてしまった。

(行くしかない)

 ソロモンはランスを構え、ついに彼らに接触する決意を固める。

「君達、その場で止まって」

 それが、運命が大きく変わる瞬間だとも知らずに。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「いっちばーん!」
「負けました」

 とんでもない量の土煙を上げながら砂漠を爆進する二つの影が同時に停止した。土煙の中から二人の斬ル姫の姿が現れた。
 アイムールと妹のヤグルシである。

「久しぶりにやると楽しいね! 追いかけっこ!」

 満面の笑みではしゃぐヤグルシと対照的にアイムールは周囲を冷静に観察していた。砂で隠れてはいるが地肌が黒い岩のような岩盤で覆われている。地上に露出したマグマが冷えて固まった跡だった。

「私が戦闘を行った爪痕ですね」

 ここはトレイセーマ軍が陣を張っていた場所だった。数日前にアイムールが突撃して壊滅させた。地形ごと爆破してしまったので当時の面影はない。
 あの戦闘がなければシストルムと行動することもなかった。

「おねーちゃんはさ。ようはいいことがしたいんでしょ?」

 思い出を振り返っていたがヤグルシの声で現実に引き戻される。

「いいこと?」
「まあ言い方はなんだっていいや。自分のせいで不幸になった、本来だったらおねーちゃんの敵にならずにすんだイミテーションたちのために何かしたいんでしょ」
「そうかもしれませんね」

 奪いばかりではなく他の事だってできるはず。とシストルムは言っていた。
 自分のせいで飢え、自分によって狩られた多くの村の住民たち。彼らのために自分にまだできることがあるかもしれない。

「うん! だからここに来たんだよ!」
「……ここで何ができるのですか?」
「おねーちゃんの話だと。ここは元々荒野のオアシスでトレイセーマ軍が湖の水を補給するために陣を敷いていたんだよね?」
「シストルムはそう言っていました」
「ならやってみる価値はあるね」

 頷くとヤグルシは戦斧を担ぎあげた。

「……地形解析完了。フィールドを掌握。バエルとのD. plug信号適正値へ移行」

 先ほどまでとは打って変わって冷たい声色で淡々と事実のみを述べていく。ヤグルシの瞳の奥で小さな光点がチカチカと瞬いた。

897兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:36:02
 その頬が、望ましい数値を叩き出せた研究者のように喜びで吊り上がる。
 ヤグルシの体から闇色のマナが噴き出し、それを衣のように纏う。

「自己強化完了、自陣にフィールドを展開。さあおねーちゃん! ヤグが導いてあげる!」

 そして戦斧を思い切り大地に叩きつけた。

 ビキ、ビキビキバキゴリバキ―――――!

 鈍い破砕音が大地の中で連続して、最後にバン! という炸裂音と共に地面からシャワーのように水が噴出した。

「やっぱり出口が塞がっただけで水脈は生きてた! さあ、おねーちゃん! この土地を全力で焼け野原にしちゃってよ! できるだけ広範囲でね!」
「え? はい。制限を解除――――稼働率を100パーセントまで引き上げます」

 その瞬間。
 地上に太陽が顕現したかのような灼熱が一帯を襲った。
 さらに火炎が溢れ濁流が如く地面を飲み込んでいく。
 それは上空から見ると花が咲く様を思わせた。アイムールを中心に炎で形作られた鮮やかな花弁が広がっていく。
 火災旋風を伴いながら空間そのものに拡散していく熱量は水源から噴き上がる大量の水分を水蒸気爆発と共に蒸発させていく。
 さらに地面が溶けるほどの暑熱はアイムールを中心とした低気圧を、強烈な上昇気流を発生させ全てのものを空へ舞い上げた。

「うん。そろそろ全部飛んだかなー。もういいよーやめて」
「わかりました」

 ブツン、とスイッチを切るようにアイムールは熱の放出を止める。しかし空は上昇気流と舞い上げた砂や灰で暗い雲ができていた。

「あの、これで何ができるのですか?」
「まあ見てて」

 すっ、と暗い空へ手をかざすヤグルシ。その手にポツリと水の雫が落ちた。
 雫はさらに勢いを増していく。見ると雲はアイムールが炎を広げた範囲以上に広がっているようでこの土地一帯に達しているかに見えた。

「……雨?」
「そう。言葉にするなら人工降雨とかになるのかなー」

 ヤグルシが解説する。
 広範囲の地面と空気が強く熱せられると上昇気流が発生し、空へ巻き上げられた水分は砂や粉塵と凝結しあい雲ができる。そこに大量の水分が含まれていれば雨となって地上に落ちてくることもあるだろう。

「地下水源の水をチマチマ汲んで撒くのも涙ぐましくて素敵だけど。雨にして一気に降らした方が手っ取り早いし効率的だよね」

 ヤグルシが地下水脈を刺激し地上に噴出させる。そこへアイムールが空気と大地を加熱して人工的に雲を作った。その中に一気に蒸発したオアシスの水分が溶け込んで雨が降ったのだ。

「うふふ。これがバエルの力。知恵の領域」

 ヤグルシが得意げに笑う。

「これを定期的にやれば、きっとここにも緑が戻ってくるよ」
「そう、ですか」

 モートはウガリット神話においてバアルの存在なしに語れない存在だ。
 彼らは常に戦いを続けており、豊穣神であるバアルがモートに敗れると自然世界からは一切の恵みが消え去り、逆にバアルがモートに勝利すると地上には雨が降り作物は実り豊穣が約束されるという。またどちらが死んでも必ず生き返り戦いは続く。
 その戦いは雨季と乾季を象徴しているともいわれている。

「ヤグルシ」
「なあに?」

 アイムールのキラーズの持ち主はバアル。・D. plugされたのはモート。
 命を奪う冥界の力。命を与え育む豊穣の力。
 彼女はどちらの力も持ち合わせ、きっと力の使いようでどちらにでもなれるのだろう。

「私はもうしばらくここにいることにします」
「いいよ。おねーちゃんが望むなら。ヤグは本国でいつまでも待ってるからさ。気が済んだら帰ってきてね」
「感謝します」

 アイムールは濡れた大地に腰を下ろした。湿った砂に体が沈む。

「そういえば……お腹が空きました」

 食べられるという赤い花のことを思い出しながら。雨音に耳を傾けて。
 そっと瞼を閉じた。


『END』

898兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:39:38
SSというにはとてつもなく長いですが楽しんでいただけると嬉しいです。
こちらは何年も前に書いたやつを手直しした長編となります。書いた当時はモラベガが実装された辺りでした。

899名無しさん:2022/05/15(日) 03:49:00
ここ久々に来たけど廃れに廃れてるな〜

900名無しさん:2022/05/15(日) 03:50:14
まあ気に入らないのは排除しようとしてたやつ居るし読む側が偉いとか言う頭ネジぶっとんでる理論がまかり通ってたしまとめ記事でも追い出す流れあったしSSスレの初期から居た人に盛り上げてくれてた人も引/退してるし公式からの供給なんて人気キャラか新キャラぐらいでSSを書く気力とかあっても推しの情報がチョロチョロしかないなら書くにも限界はあるしで廃れるのはほぼほぼ必然だったな

901やす、:2022/07/04(月) 12:33:51
ロスラグアルマス×まどか☆マギカのssです!

良かったら読んでください


https://syosetu.org/novel/234368/183.html

902名無しさん:2022/07/04(月) 21:00:10
なぜさやかちゃんとアルマスを・・

903やす、:2022/07/04(月) 22:29:52
髪色が同じなのでつい、、、

904やす、:2023/01/19(木) 18:11:13
エルキュール×シンフォギアのSSです!至らぬ文ですが良かったら読んで下さい。https://syosetu.org/novel/234368/193.html

905やす、:2023/04/28(金) 20:31:24
キル姫達とマスターとのイチャラブを書いたSSです。

良かったら読んで下さい

https://syosetu.org/novel/312704/


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