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【ファンキル】SSスレPart3

884兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:27:35
「二秒後九時の方角から五匹! 十秒後に六時の方角から大型が一体にゃ!」
「了解しました」

 敵は全方位から押し寄せてきていた。アイムールの視界の外はシストルムが索敵し、時に魔弾で応戦してフォローする。

(鉄球が欲しい)

 徒手空拳の戦いでは群れ相手には非効率的だ。鉄球があれば薙ぎ払うようにして一掃できたのに。

「ガアアアアア!」

 子供たちが集まっている荷車に雄たけびを上げてオーガスケルトンの巨体が迫る。

「ガ、……ア?」

 その進撃がズボっという音で停止する。
 アイムールの鉄のように黒いプロテクターに覆われた腕がオーガスケルトンの胸を貫通していた。腕は自分で開けた穴の縁をがしっと掴み、そのまま力任せにオーガスケルトンを地面に叩きつける。
 衝撃で局所的な地鳴りが起き、荷車が大きく揺れた。

「あ……」

 勢いで荷物が飛び出し、それを追って身を乗り出してしまったマライカの体が宙を舞った。
 頭から地面に衝突しかけた時、その首根っこがぐいと持ち上げられる。

「アンタ……」
「舌を噛まぬよう口を閉じてください。投げます」

 ぶん、と下投げでマライカはボールのように放物線を描いて飛んだ。

「取ったにゃ!」

 そのパスをシストルムが空中で受け取り荷車の中にマライカを退避させる。

「ちょ、ちょっと!」

 荷車の奥からマライカがアイムールに向けて何か叫んだが、アイムールの方は反応せず魔獣の群れに再び飛び込んでいった。


 アイムールの戦い方は乱暴で力任せだった。
 蹴り上げ、殴打。時には敵をそのまま武器のように振り回したりもしていた。そのダイナミックな戦い方がむしろ子供にウケたらしく紙吹雪のように魔獣が吹き飛ぶたび荷車の中から歓声が上がる。
 だが暴れぶりに反して過度な攻撃はせず障害物を処理していくような機械的な調子で戦い続けるのでかなり早い段階で魔獣の群れは全滅していた。

「戦闘終了。残骸を力に還元します」

 辺りに散らばった魔獣たちの死体や肉片を炎が舐めとって、飲み込んでいく。
 炎は海のように一面に広がっていったが、とある大岩の影、この大乱戦の中奇跡的に一切の被害を受けなかった赤い花畑に差し掛かると、

「…………」

 炎はまるで躊躇うように震え、花畑を綺麗に避けて魔獣たちの消化作業に戻っていった。
 魔獣たちの死体が消えるごとにアイムールについた傷がどんどん治っていく。

「でも花は食べないことにしたのかにゃ?」

 シストルムが声をかけてきた。

「平気です。損傷の回復に必要なぶんは賄えました」
「キミも心ってやつがわかったってことかにゃあ」

 面白がるようなニヤニヤ笑いでシストルムが見つめてくるがアイムールの方もそこまで自分で自分の行動がはっきりわかっているわけではない。

「キレイはわかりかねますが。気が進みませんでした」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その夜、アイムールとシストルム一行は約束の場所近くまで到達しつつあった。
 先日アイムールが行き倒れ、武具を失ったという場所である。
 ここまで来ると魔獣の生息源からも離れているので襲撃もあまりなく、トレイセーマの国境にも近いのでアイムールが離脱してもシストルムの力だけで問題ないだろうとのことである。
 子供たちが簡易テントで寝ている間もアイムールは屋外で周囲を警戒していた。


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