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【ファンキル】SSスレPart3

856キル姫アルマスは改造人間である:2021/11/21(日) 00:40:50
「これは?」
「D. plugね。パラケルススが使ってたやつ」

 拾い上げたメモリをしげしげ眺めるマスターの疑問にアルマスが答えた。

「それを返してくれないかな?」

 校庭にうつ伏せに倒れたままでパラケルススが言った。制服の上から白衣を羽織ったいつも通りの姿に戻っている。

「ダメよ。こんな力ろくなもんじゃないんだから」
「私には必要なんだ。メモリ、それが私の求めていた力!」

 伏したまま力強くパラケルススは言う。

「この私じゃダメなんだ。どうしても人体で実験しなければ効果が立証できないというのに副作用が出てしまうかもと思うと恐ろしくてできない。だけどそのメモリを使っていた時だけは、相手の健康に一切配慮せず冷静に実験ができたんだ。それができないとダメなんだ」
「何言って……」
「陸上部の大会用のドリンク。それが作りたかったんでしょ」

 パラケルススの発言の意図が読めず困惑するアルマスの代わりにマスターが答えた。その言葉にパラケルススは頷く。

「ソロモン辺りが言ったのか?」
「まあそんなところ」
「……そうだよ。私が手慰みに調合したドリンクをトリシューラに飲ませてみたらタイムが縮んだとかで喜んでもらってね。大会用のものも依頼されたんだ。頼まれたからには完璧なものを作りたくてね」

 人体を活性化させる薬剤を色々混ぜてみたがどうも効能が不安だった。論理上は人間を遥かに超える能力が発揮できるはずだが実際に使えばデメリットがあるかもしれない。
 そのために実験が必要だった。

「でもできなかったんだ。もしかしたらのことを考えると」

 もし薬剤が原因で病気になったら。
 もし使用者に何らかのアレルギー反応がでたら。
 もし使ったがために死亡するようなことがあったら。
 そのために生体実験が必要だった。しかし、パラケルススにはできなかった。実験用のモルモットでさえもしものことを考えると可哀想で使えなかった。

「だから私はメモリが欲しい! どこまでも冷酷に、冷静にただ成果のみを追求できる力! それが手に入るなら悪魔の因子だろうがなんだろうが構わない! 悪魔と相乗りだってしてやるとも!」

 嗚咽交じりにパラケルススは叫んだ。その事情はおよそ常人には理解不能な境地であったかもしれないが彼女の本気は十分に伝わった。
 マスターがその手に握るD. plugメモリに改めて視線を向ける。

「わかったよ。君のしたいこと」
「なら……!」
「でも」

一瞬、笑顔を取り戻しかけたパラケルススに対するマスターの否定の言葉は深い悲しみを孕んでいた。

「たしかにみんながやりたいことをやってそれで笑顔でいられるならそれが一番いいよ。でも君の『やりたいこと』。それが誰かを傷つけることなら僕は全力で止める」

 マスターは紫のメモリを地面に落とし、力一杯踏みつけた。
 靴の下でパキンというメモリがブレイクされた音がした。

「それが罪なら、僕が背負うよ。いくらでも恨んでくれていい」

 パラケルススが「ああ」と息を吐き目を伏せ、マスターの背後でアルマスが複雑な顔をする。そしてマスターは、

「もうすぐ陸上部の人たちが戻ってくるね」

 校庭の時計を見てそう呟くと、パラケルススを抱き起すのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「わざわざ壊さなくてもよかったのに。今更遅いけど」

 消沈した様子のパラケルススを送り届けた直後、廊下でアルマスとマスターを待ち構えていたのはガ・ジャルグだった。
 相変わらずどこか上から目線な態度は変わっていないが髪に付いた木の枝がすべてを台無しにしている。
 吹き飛ばされてから急いで戻って来たのだろうか。

「何しに来たのよ」
「別に、もう何もしないわよ。ただ帰る前に挨拶しておこうかと思っただけ」

 メモリを取り出して臨戦態勢に入ったアルマスを軽く流してガ・ジャルグはばさりと翼を広げる。そのまま窓を開けると外に身を乗り出して、

「ああ、最後に一つ」

 こちらの方を向いて、

「勘違いしないでよね! わたしは負けてないわ! あの時はたまたま風が吹いただけよ!」
「いや、あの時たしかに」
「答えは聞いてない!」

 そう叩きつけるように叫んで窓から飛び去って行ってしまった。


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