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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

76名無しリゾナント:2011/04/16(土) 21:49:50
http://hato.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1301481279/

サーバーが変わったらしいね

77名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:30:52
二人の預言者が彼女を例えた
一人は「希望」と、一人は「絶望」と

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「はい、オッケーです!!」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
豪華なセットの前でブラウン管の中の人物達がテレビ局のスタッフに挨拶をする

その中に月島きらり、いや、久住小春の姿があった
「ありがとうございました!」
久住は深々とお辞儀をして、スタジオを後にし、用意された楽屋に戻ってきた
「マネージャーさん、どうでした?今日の小春は?」
「う〜ん、まあまあだね。もう少し頑張れるとおもったな、僕は」
「そうですか?小春は結構手ごたえありましたけど〜あ、着替えるので後ろ向いてください」
マネージャーとの反省会をしながら久住は身支度を整える
「はい、こっち向いてもいいですよ。え〜と、今日はこれでおしまいですよね?」
「いや、チーフから事務所に来るようにと言伝を受け取っております」
「え〜せっかく早く終わったから映画観ようと思っていたのに〜」
唇を尖がらせて久住は抵抗を示すが、それが無駄だということは分かっていた

「じゃあ、急いで駅まで行きましょうか?」
「え〜タクシーじゃないんですか〜?」
マネージャーは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた
「ダメみたいです、アハハ…」
「最近さあ、タクシー移動減ってるよね?もしかして、エコに会社も賛同したのカナ?」
「え、そ、そうかもしれませんね、ハハハ・・・さて、きらりちゃん行きましょうか!」
「は〜い」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

78名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:31:26
「エリ〜まだ帰らないの〜寒いよ、暗いよ、お腹すいたよ〜」
「さゆ、もう少しだけ付き合ってよ。今、秘密特訓中なんだから」
「さゆみがいるだけでもうすでに『秘密特訓』じゃないと思うの」
さゆみは自販で買ったホットココアを一口飲み、満足そうに白い息を吐きだした

亀井は公園のベンチの上に並べられた空き缶に意識を集中した
体全体で空気の流れを感じ、微かな気流を読み取る
そこから気流の渦を掴み、その気流の端を手にするイメージを浮かべる
気流の端をムチのように、もしくは気流をそのまま弾丸のように弾き飛ばすように手を大きく振るう

シュッ  カーン

並べた10個の空き缶が見事に宙に舞った

「お見事、もう完璧だね♪」
道重がカマイタチで弾かれた缶の軌道を目で追いながらパチパチと拍手する
「・・・いや、まだだよ、今はしっかりと風の流れを掴め切れなかったもん
 ただ風をぶつけただけで、切れ味がまったくない。重いだけのカマイタチじゃダメなんだよぅ」
亀井は飛ばされた缶をもう一度並べ直しながら、首をかしげた
「どうすればいいんだろう?もっとしっかり風を読める方法ないのかな・・・」
「エリはほんとうにがんばるね〜さゆみはもう眠くて眠くて仕方がないよ」
しかしそうやって文句を言いながらも道重は亀井の特訓に付き合ってきていた

「よし、もう一回!」
亀井は集中するために大きく深呼吸を繰り返し、目を閉じた
両手を広げて全身の感覚を過ぎ富ませ、風を感じる
(よし、今は風は静かに流れてるね。よし、これなら、風を掴みやすい)
亀井は静かに呼吸を整え、きっかけをつかもうとタイミングを伺い始めた

79名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:32:32
(うん、いい風だな・・・ん?あれ?)

突然腕を下ろし、辺りをきょろきょろと見渡し始めた亀井の様子を見て道重もベンチから立ち上がる
「どうしたの、えり?」
「サユ、なんか風がおかしい。何か起こりそうな気がする」
「それってダークネス」
「いや、違う、そんな悪い空気じゃないの。これまで感じたことのない感覚」

亀井は空気が渦巻きのように一点に集中しているように感じた
その一点の空気の密度が重くて奇妙な感覚
まるでその一点に空気が流れこんでいて、窓があるかの外へと抜けていく感覚

「サユ、ちょっと見に行こう。何か気になるの」
強引に道重の手を引っ張って亀井は走り出した
「あっちだ!サユ、あそこを見て」
亀井がさした先はこの公園のシンボルにもなっている大きな木の頂上近く
「え?何あれ?」
空間に渦巻きができていて、頂上付近の葉が渦の中に吸い込まれて少しずつ消えていった

「ちょっとサユ、下がっていて。そーれ」
亀井は特訓に使っていた空き缶を頂上近くに飛ばした
放物線を描いて頂上付近まで飛んで行った空き缶は―そのまま地面に落ちることなく消えた
「消えた?」「というより吸い込まれているって感じだね」

(これは愛ちゃんに報告したほうがいい)
そう亀井が思った時、新たな、今とは違う風を感じた
今度は先ほどとは逆に『外に向かう』風だった

(―何かが来る)
それを感じさせたのは亀井の本能だったのかもしれない。何も言わずに亀井は道重の手を取って駆けだした

80名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:33:10
二人が振り返ると渦巻きのあった木の頂上の辺りの空間に卵を割るときのようなヒビが入っていた
そこから何本もの細い光が差し込み、深夜だというのに奇妙な明るさが生まれていた
「何が起きているの」
立ち止まろうとする道重の手を引っ張って足を止めないようにしつつも、亀井の目はそこに向いてしまう

ヒビ割れた空間には葉っぱなり砂が吸い込まれたり、吐きだされたりと忙しい
そうしているうちにひびが細かくなり、卵のように空間が『砕けた』
亀井、道重はもちろんのこと、辺り一帯が眩しい光で包まれた
「まぶしい」「何も見えない」
思わず道重は亀井の手を強く握った。ぎゅうっと強く、逃がさないようにと

光が消え、目を開けて視界が回復するのも時間にしてみればわずか数秒
「さゆ、大丈夫?」
「うん、まだ少し頭がボゥっとしているけど、怪我はしていないよ。エリは?」
「エリも大丈夫・・・だけどなんだったんだろう?風は元に戻ったから大丈夫だと思うんだけど」
「爆発・・・じゃないよね?怪我もしてないし、何も倒れていないし」
そう言って道重は先程奇妙な渦が浮かんでいた辺りを眺めた

「!!ねえ、えり、あそこ、木の根元を見て!誰か倒れている」
「本当だ!さゆ、急いで!!」
慌てて二人は駈け寄った

倒れていたのは一人の女性であった。近くには彼女のモノと思われるカバンが落ちていた
道重は肩をたたいて意識があることを確認する
「もしもし、大丈夫ですか?私の声が聴こえますか?」
「う、うん・・・」
かすかではあったが女性は反応を示した
「よかった、意識はあるみたい。それに怪我もしていないみたい」
亀井と道重はほっと安堵のため息をついた

81名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:33:42
すると倒れていた女性が尋ねてきた
「あ、あの、今は何年何月ですか?」
「へ!?20XX年3月だよ」
「そう・・・よかった・・・着いたんだ・・・」
そう言って女性は意識を失った

「ちょっと、もしもし、もしもし!起きてよ!」
突然意識を失った女性を腕に抱えて何度も道重はヒーリングを試みる。が、一向に起きようとはしない
「息はしているんだけど、どうしよう?このままほっておくわけにはいかないし」
「・・・さっきの風の変化とこの人が関係あるかもしれないし、一旦リゾナントで預かってもらおうよ
 今、愛ちゃんにお願いするから」
亀井は携帯をカバンから取り出した

亀井が高橋に電話する間、道重は何者なのかを調べようと落ちていたカバンを探りだした
カバンの中身は主に衣服だったが、驚いたことに底の方に数百万ほどの現金が詰まっていた
「な、なに、この人何?なんで現金が入っているの?」
カバンの内ポケットには名前を示す書類が入っていた
「『ふくむらみずきさん』・・・14歳・・・え?14歳?この人、14歳なの!?」

そこに高橋が“跳んで”現れた
「連絡貰って急いできたよ〜話は聞いたからリゾナントに連れていくよ!絵里とさゆ荷物はお願い!」
そう言い高橋は「ふくむら」を背負い、リゾナントへと跳んだ
道重は開けていたカバンを閉じ、他にも落ちていた「ふくむら」の持ち物と思われる荷物を亀井に渡した
しかし、しっかりとカバンが閉じていなかったのだろう、何かがカバンから地面へと落ちた
「さゆ、しっかりしてよ。何か落ちたじゃない。もう〜」
亀井がしゃがみ込んでその“何か”を拾った
「なにこれ?お守り?」
月明かりに照らされたそれには黄色の糸で「A」、緑の糸で「R」とアルファベットが縫われていた

82名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:34:53
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

カタンと光井の手から離れたその刀を小春は拾い上げた
鞘から抜き出しその刃が研がれているのを確認して、へえと小さく声を上げた
「なんだ、みっつぃ、やっぱりこの子をしっかり使ってくれてるじゃない。
全然錆びていないし、きっとたくさん血を吸ってきたのカナ?」
久住は刀の峰をぺろりと舐め、嬉しそうに微笑んだ

「うぅ・・・さ、触るんな・・・」
「あ、やっぱ電圧抑えてたから死ねなかったのカナ?みっつぃ、具合はどう?」
「・・・気易く愛佳の名前を呼ぶなや、この裏切りモンが!」
「その台詞、しっかり立って言えたらきっと凄身がでるのにね〜関西弁ってやっぱ苦手かも〜」
久住は地面で倒れたまで動けない光井を見て、髪の毛を左手でいじりながらあっけらかんとした口調で言った
「無駄だって、しばらくはみっつぃは動けないから。
『いい感じ』に運動神経だけ麻痺させたから見えたり、話せたりするけど動けないから」
そう言われても光井はどうにかして動かそうと手足に力を入れたが、やはりぴくりとも反応しない

久住はしゃがみ込み、動けない光井に顔を寄せた
「くやしいでしょ、みっつぃ。何もできないって。ただ見るだけ、話すだけってツライよね〜
ねえ、みっつぃ、その格好地べたにはいつくばっているようだよ!まるで蟻みたいカナ☆
それに比べて小春は蝶!自由に何にも囚われず空を飛びまわる綺麗な蝶☆バサバサ〜」
そう言って久住は腹を抱えて笑いだし、光井は唇を強く噛み締めた

その表情に気がついたのだろう、久住は明らかに不機嫌そうな顔で光井を睨みつけた
「あ?何、その表情?蟻の分際で蝶に楯突くつもり?」
「・・・あんたはほんまの久住さんやない・・・」
「何言ってんの?私は小春、あなたのかつての仲間であって、今はダークネスの久住小春」
「愛佳のしっとる久住さんはあんたみたいな心が凍った人間やない。
あんたは名前と顔は久住小春やけどあんたは仲間だった『久住さん』なんかとちゃうわ!」
久住は自分を見つめる愛佳の目に憎しみの炎が燃えたぎっているのを感じていた
「・・・光井愛佳、小春は変わったんだよ。あの頃みたいな甘い考えは捨てた
 やりたいようにやって、生きたいように生きる、それが今の小春のポリシー!今が楽しければそれでいい!」

83名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:35:35
小さく光井は悲しげに息を吐いた
「かつて視た未来の予知では久住さんと愛佳が高橋さんが残してくれたものを守るハズだったのに
いつから愛佳達の道は分かれてしもうたんや・・・」

光井の呟いた言葉が久住の脳裏に邪悪な心を呼び起こした
「『いつ』から?そうね、明確な時は小春も分からないや・・・そうだ、面白いこと考えた♪
 ねえ、みっつぃ、いつから小春が変わったのかその正確な日時を教えてあげるよ」
わざと声色を優しくして久住は光井に話しかけ始めた
「何をする気や!やめるんや!」
光井は大声をあげて、久住を引き留めようとした。そう、これから彼女がしそうなことを予測できたので―
ただ動こうとしてもやはり力が入らず、どうしようもない

「無駄だって、動けないよ。そこで大人しく見てなよ。
でも、仲間だったことがあるから小春のしそうなことは予想できるって?すごいよ、やっぱみっつぃは凄いよ
今度はさ、みっつぃも私と一緒にこちら側に来てくれることを期待しているから」
(動け、愛佳の体、少しでも動け!)
「みっつぃのしたことは小春、知ってるよ。過去に戦士を送って今を変えようとしてるんでしょ〜
そして、これがその過去へとつながり入口ってことも☆」
そう言い久住は―光井の開いた時空の扉へと飛び込んだ
「面白そうじゃん、時間旅行なんて☆」と言葉を残して

「フクちゃん・・・すまん、とんでもない人をそちらに送ってしもうた
気を付けてくれや・・・ああ、高橋さん、ふくちゃんを、久住さんをしっかりみていてください」
そして、動けない光井の目の前で時空の扉は完全に閉じ切った

84名無しリゾナント:2011/04/18(月) 22:40:00
以上『止み、病み、闇』です。
『聖なるもの』書いた作者が考えていた『聖なるもの』シリーズの続きです。
なんていうか設定だけを走らせてますが、一応の俺なりの答えです

投下できないので代理の方お願いします。

85名無しリゾナント:2011/04/19(火) 05:40:51
いって来ましたぜ
この小春は憎たらしいけど魅力的だな
…ところでもう一つ続き物書いてませんでしたっけ

86名無しリゾナント:2011/04/19(火) 20:33:52
>>85
代理ありがとうございました(^o^)
闇小春は矢口っぽい小春をイメージして書きましたw
それから『能力』については他の皆さんにお任せしたいです
全ての設定を決めるのはスレとして良くないことだと思うので

え〜と、もう一つのほうはもがき苦しんで書いてます(汗
オチは決めてるけど、最初の部分がしっくりこないんです(+_+)

87名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:26:43
――――――――

こんばんは

しばらく作品を投下せずにいる間に狼の事情がだいぶ変わっているみたいで
「忍法帳」という壁に投下を阻まれてしまいました。

どなたか【代理投稿】を願います。

――――――――

88名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:27:19
 ■ スクールエントランス −鈴木香音− ■

「やだやだやだやだー!やなの!やなの!やなの!!!」
道重さんがじたばたしながら必死に異議申し立てしている。
「もーさゆー。あんたも一回納得したでしょーが?」
「でもっでもっ」
「でもじゃなーい。あんまりわがまま言うと入学式連れて行かないよっ。」
「うーっ…」
「鞘ちゃあああああああん!」
「うわっ。道重さん。」
「鞘ちゃんだってやでしょ?寮なんかよりさゆんちの方がいいよね?ね?」

あーあー…、大変だなぁコリャw
ずっき…鈴木香音はニコニコと二人の珍コントを見物していた。

この春、鈴木と鞘師はそろって私立凰卵女学院中等部へ入学した。
この冬はとても勉強どころでは無かったし(鈴木「てっかもともとアタシばかだけどwww」)
学校どころではないって思っていたのに。
ある日、高橋さんが願書を持ってきてくれた。
「受けてみ?『きっと受かるから』」

「大丈夫ですよ。ずっきもいっしょだし…それに。女子寮、リゾナントへは道重さんちより近いです。」
「でもっでもっ!さゆいなかったら鞘ちゃんのシャンプーとかご飯あーんしてあげる係とかっそれからそれからっ…」
「大丈夫です…自分で出来ます…。」
「てゆうかアンタいままで鞘師にそんなことやってたんかい」
新垣さんのツッコミ。
「ひゃひゃひゃさゆは鞘師がホント好きなんやねー」
「笑い事じゃないよ愛ちゃん!ほんとにもー」
「それよっか皆さん。はよせんと時間時間!」
「うわっ!ちょっいつの間にこんな時間!鈴木っ鞘師っ!もーいくよ!」

89名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:28:20
勢いよく開いたドアから駆け出す。
春の風が頬をなでる。

わー幸せだなぁアタシ…

香音は空を見上げる。

お父さんっ、アタシねっ!今日から中学生になったよっ!

90名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:30:12
転載しました

91名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:30:54
 ■ ミッションエントランス −鞘師里保− ■

「おうらん…女学院ですか?」
「そうやよ。そこへ潜入してもらいたいんやよ。」

走りながら鞘師は高橋さんの言葉を思い出していた。

「今回の任務…教師や職員という立場ではなく、学生という立場でなければならんの。」

「形の上では入試を受けてもらうことになるが…」

無邪気に前を走る鈴木に目を向ける。

「わかってんのかなぁ…もう」

高橋さんが掴んだ情報。

凰卵学園で能力者による事件が起こる。
確実に。
そしてその犠牲者もまた ―能力者―

92名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:31:59
>>88-89

 ■ スクールエントランス −鈴木香音− ■ でした。

>>91

 ■ スクールエントランス −鞘師里保− ■ でした。


>>91
ありがとうございます

93名無しリゾナント:2011/05/10(火) 19:33:48
>>91も転載しました
こちらこそ作品投稿ありがとうございました

94名無しリゾナント:2011/05/10(火) 20:01:03
転載乙です
締めレスも転載してあげてくださいね
やっときますゞ

95名無しリゾナント:2011/05/10(火) 20:04:31
すいません
忘れておりました

96名無しリゾナント:2011/05/10(火) 20:14:29
鞘師視点の方は作品の巻頭の「■ ミッションエントランス −鞘師里保− ■」として保管庫に収録させていただきました

97名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:00:22
>>93-96
昨日はお世話になりました。
実はまたお願いが…

98名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:01:15
 ■ スキームエンスキーム −矢口真里・市井紗耶香− ■

日暮れが、近付いて来ている。

「eg-0xx…13歳、能力は【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】ねぇ…」
矢口は改めてターゲットのデータを確認した。
「今はふくむら…みずき…譜久村聖…14歳…か。こんなガキ拉致んの楽勝すぎんだろ」
矢口の独り言は続く。
「残ってる情報見る限りじゃその的中率も、とても実用には程遠いし、典型的なクズ能力者じゃん。
測定から一年経ってるったって現在の能力もたかが知れてるにきまってる」
そう、心配無いはずだ…、よぎる不安を無理矢理に打ち消す。
「そんなクズを捕獲するのにイチイを呼んだわけ?」
「うるせーな。なんも聞かねーで協力するって約束したろ!」
「まあ、いいけどね」
こいつ…なんかやつれたな…矢口は久しぶりに会った戦友にふとそう思った。
市井はだいぶ以前から前線に出ることはなくなっていた。
最強とまでは言えないものの、組織内でも上位の能力者であった市井がなぜ突然出世コースをも外れ、裏方に回ったのか。
矢口は矢口なりにその理由を理解していたが、あえてその真相を深く知ろうとはしてこなかった。
そんなことは、どうでもいいことだった。

99名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:02:14

組織内に裏切り者がいる。市井に話したのはおおむねその一点のみだった。
裏切り者はリフューズナンバーを使い、「なにかを画策している」。
自分のセリフとも思えない支離滅裂とした話の内容ではあったが、市井はなにも聞かず協力することを承諾してくれた。

エッグの育成は組織でもかなり上位の人間たちが運営してきたプロジェクトだ。
そのプロジェクトの「廃棄物」をほとんど痕跡も残さず外部へ持ち出し、あまつさえ「あんな化物に改造する技術力をもつ相手」…
どう考えてもそんなことが出来るのは「組織」それ意外にありえない。
であればうかつに幹部連中に情報を漏らすわけにはいかない。
可能な限り自分一人で調べる必要があった。
その過程で下部構成員クラスの内通者を大量にいぶり出すことには成功した。
ときには泳がせ、ときには拷問し、少しづつ疑問の解明につながる情報を集めていく。
そして、矢口は、ある疑念に辿りついていた。
矢口にとって考えたくない結論、あってはならない真実。
そして、その疑念が「間違いであることを証明するには」もはや直接廃棄物を捕獲し情報を得るしかないと決断したのだ。
調査の過程で「まず確実に裏切り者ではない」幹部も何人かは判明していた。
だが、どこから情報が漏れるかわからない。矢口は他の幹部を引きこむのはまだ危険だと判断した。
それよりも先に知っておくべきことがあった。
結局下手な小細工をしなくてもいい方法…記録を消す必要がない―組織が関心を持っていない相手。
となれば閑職の市井ぐらいしか選択の余地はなかった。

100名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:04:50
それにしても…矢口は思う。
譜久村聖を拉致するだけならコイツの能力で充分だろう。
仮に「能力の増幅」が行われていても、どのみち非戦闘系の能力者だ。何とでもなる。
「あの化け物」のようなけた外れの改造はそうそう成功しない。
それが、矢口なりに調べた結果得た確証だった。
そう、不完全とはいえ、すでに矢口は「廃棄物」達と…、何より「和田彩花」に行われた「おぞましい事」の概要を掴んでいた。
そして同時に「和田彩花」攻略の手掛かりも。
ただ、オイラとコイツだけでそれが可能なのか…それが不安だった。
だがそれもまた先の話だ。
自分の身辺を監視し、やつらに情報をリークしていたスパイはすでにこちらで掌握し、偽の情報を流してある。
今日のところはやつらと遭遇する可能性はまずない。

ピー。インカムにセンサーからの警告音。

「よし、予定通りターゲットを乗せた車両がポイントAを通過した。市井、アレ準備してくれ。」

「もう…始めてる。」

超…、超キメぇ…。
矢口は心の中で毒づく。
コイツの能力…オイラ、マジで嫌いなんだよな…。

日は沈み…、全てを暗闇が包んでいく中、不気味な音が地を満たしていく。

キチキチ…キチキチキチ…

101名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:07:27

>>98-100

 ■ スキームエンスキーム −矢口真里・市井紗耶香− ■ でした。

以上、本スレへの代理投稿をお願いできませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。

102名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:33:30
じゃ、行ってきますかね

103名無しリゾナント:2011/05/11(水) 19:39:17
完了
今度は矢口さんのターンですか(違
どんどん世界が広がってくなあ

104名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:04:29
>>102
代理投稿いただきありがとうございました
ご迷惑をおかけして申し訳ありません
本当に毎度毎度恐縮なのですが…またお願いに上がりました…

105名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:05:10
 ■ ヒデュオスレギオン −譜久村聖X市井紗耶香− ■  

今が夜であったことは、幸いであったのかもしれない。

キチキチ…キチキチキチ…

地面すれすれをさざ波のように音が這い進んでいく。
不気味なさざ波の音をかき消すようにクラクションの音が絶叫し続けている。
ひしゃげたバンパー、傾いたフェンス…。
そしてアスファルトを埋め尽くす…

 ―蟲だ。

ゴキブリ、ムカデ、アリ…、その他名状しがたい大小さまざまな蟲たちが、その黒いセダンを覆い尽くさんと這いまわる。

【蟲使い(バグテイマー;bug tamer)】。
蟲を呼び寄せ自在に操る…、それが市井紗耶香の能力だった。

ブチッ ブチッ ブチッ

地を覆い尽くす黒い絨毯を踏みつぶしながら、市井はセダンへと歩を進めていく。

ブブ…、ブブブブブ…

すでに羽虫やゴキブリによって窓という窓は覆い尽くされ、中の様子は伺えない。

車の機密性などたかが知れている。
今頃車内にも蟲が侵入し始めている頃だろう。
すぐにパニックになって飛び出してくるはずだ。

「簡単な仕事だったわね」

106名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:06:51

そうひとりごちる。

ガチャ…
後部座席のドアが少しだけ開く。
開いたドアの隙間から蟲たちが侵入する。
市井は体中を蟲に這いまわられ、悲鳴を上げて飛び出してくる少女を想像し、サディスティックな笑みを浮かべた。

が…。

ズバウン!

「!?」

ゴォッ!

「な?なにコレ…。聞いてねえぞ矢口…」

輝く翠玉…いや…これは炎だ。エメラルドグリーンに輝く、緑の焔。

すらりとした…それでいて肉感的な脚が地面に降り立つ。
瞬間、地を這う蟲は炎に巻かれ、タンパク質の燃える嫌な臭いを撒き散らす。

すらりとした…それでいて肉感的な手がドアに触れる。
ドアを這いのぼる蟲が、飛び回る羽虫が、根こそぎ焼き尽くされる。

「とうとう…見つかってしまったんですね…私…」

物憂げな瞳、抜けるように白い肌、艶やかな黒髪。そして…、

…匂い立つ色気…。

107名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:07:56

大量の蟲が焼け焦げる異臭の中にあって尚、彼女の周囲だけには蜜のような甘い香りが満ちているかのようだった。

―譜久村聖―

―少女と呼ぶにはあまりに早熟な肢体の―少女がそこにいた。

108名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:09:04
>>105-107
 ■ ヒデュオスレギオン −譜久村聖X市井紗耶香− ■  でした。

以上、本スレへの代理投稿をお願いできませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。

109名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:24:27
行ってきますかね

110名無しリゾナント:2011/05/12(木) 19:32:56
完了
市井さんの能力超キメぇ
譜久村さんの能力は緑つながりで発炎ってわけでもないですか

111名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:32:00
>>110
ありがとうございました。
>譜久村さんの能力
能力についてですが実は発炎ではないんです。
でも緑つながりはあるにはあります。

112名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:32:50
 ■ エンチャンター −譜久村聖− ■

薄闇に翠玉色の炎が舞い上がる。

大量の蟲が焼け焦げる悪臭の中にあって尚、彼女の周囲だけには蜜のような甘い香りが満ちているかのようだった。

―譜久村聖―

―少女と呼ぶにはあまりに早熟な肢体の―少女がそこにいた。


「おどろいた…。あなたの能力って【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】じゃなかったの御嬢ちゃん?」
譜久村は答えない。
かわりに車内へ目を向け、手をかざす。

ゴォッ!
車内が一瞬で緑の炎に包まれる。
市井など意に介さずが如く運転席側へまわる。
不思議なことに緑炎は運転手の服も身体も、車内内装も焼くことなく、蟲だけを焼き殺していた。
よかった、まだ息はある。
それだけ確認すると、あらためて市井へ向き直った。

市井は落ち着きを取り戻していた。
現役だった頃から彼女は慎重な戦い方をしてきた。決して無理をしない。
たしかに、蟲使いである自分にとって、火炎能力者は最悪の相手だった。
単独での戦闘ならばとっくに市井は撤収している。
だが、後方に矢口が控えている限り、「どんな能力者であれ」無力化出来る。
そう、市井は目の前の能力者を単なる【二重能力者(デュアルアビリティ)】と思っていた。
すぐに矢口が無力化する。それからゆっくり料理してやればいい。

113名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:33:54

「矢口、たのんだ。」
沈黙、いや、かすかな息遣いは聞こえる。矢口に似合わない、逡巡、躊躇。

そう、市井は知らない。
「和田彩花」の存在を。矢口の能力の及ばぬ能力者の存在を。
目の前の相手もまた同様の存在ではないとはいえない。その可能性を。

「どうした矢口、やれよ。」

矢口は我にかえる。
大丈夫だ。あのガキは「あの化け物」じゃない。
「あの化け物だけ」が特別なんだ。
だが、どういうことだ?あれは「能力の増強」なのか?まるで別の能力じゃねえか。
いや、なんであれ無効化できるはずだ。
それに「あの化け物」に効かなかったカラクリだってもうわかってる…わかっているはずだ。
あのガキは「あの化け物」じゃない。大丈夫だ。やれる。

矢口は【能力阻害(インぺディメント;impediment)】を発動した。

114名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:34:59
突然、譜久村のまとっていた緑炎が消えた。
瞬間、世界に闇が戻る。

市井はニヤリと笑みを浮かべる。
炎におびえるかのごとく距離をおいていた蟲達が再び勢いを取り戻す。

「さぁて、どうする御嬢ちゃん?」
譜久村は動かない。
市井はわざとゆっくりと蟲達の包囲陣をせばめていった。

「安心なさい。おとなしくしていれば殺したりしないわ。そこでじっとしてなさいね。」

睡眠薬入りの注射器を取り出しながら優しく声をかける。
譜久村は答えない。おびえきっているのか?
まあいい。もともとこのコを殺すわけではない。
恐怖を与えおとなしくさせればそれでいい。
事実目の前の少女はおとなしかった。
いや…、おとなしすぎた…。
少女は空を見上げる。静かに、ただ静かに。
その顔に恐怖はない。不安も決意も諦めもない…。

「?…」

空を見上げたまま、譜久村はポケットから何かを取り出した。
その小さな何かを片手で器用にめくる。
四角く白く小さな何か。
文房具?…
かわいらしいキャラクターの表紙の付いた、どこにでもあるようなそれは…単語帳だ。

115名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:35:47
市井は異変に気づいた。
この御嬢ちゃん…、「まだ何かする気」だ。
何かはわからない。だが、あの手に持つ単語帳…あれが鍵だ。あれは危険だ。
市井の直感がそう告げる。
いますぐ取り上げなければ!
急いで蟲達に念を送る。
一気に輪が縮まる。少女が黒い濁流に飲み込まれる。


そのとき、
世界に再び、緑の光が満ちた。

ゴォッ!

地を這う蟲が焼き尽くされる、空を舞う羽虫が消し炭となってパラパラと落ちる。
翠玉のごとき煌めき。エメラルドグリーンに輝く、緑の焔。

「ザーッ…なんだ…ザーッ…!くそっ!ザーッ…なのか!?」
インカムから矢口の罵声が聞こえる。
だめだ。矢口らしくもない。完全に取り乱してる。
市井は作戦の失敗を悟った。
市井は現場であれこれ考えるタイプではない。失敗の原因など後で調べればよい。
失敗したなら即座に撤収する。それだけだ。
「矢口、あたし逃げるわ。あとで合流な」
矢口の答えを待たず市井は遁走した。
蟲達が瞬時に市井を覆い尽くし…。
再び散り散りに蟲が四散したとき、すでにそこに市井の姿はなかった。

116名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:37:57

先ほどまで世界に満ちていた翠玉色の炎はすでに消えさっていた。

だが、月明かりと、ぽつぽつと付き始めた街灯が、都会から暗闇を消しさっていく。

すでに敵の気配はない。

譜久村聖は単語帳、その中の一枚のカードに目を落とす。
カードには大きく手書きでなにかが書かれている。「…in …in 」誰かの名前だろうか?
そっと文字をなぞる。
ほとんど自動的に【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】が発動する。
だが、そこからは何も読み取れない、なにも浮かんでこない…
特に気にする様子もなく、少女は胸ポケットからペンを取りだす。
そのカードに小さく×をつけた。
そして、ページをめくり何枚かのカードに×を書き加えていく。

「このカードは、あと、二枚か…」

そう…これが彼女の能力。

もともと、彼女の能力は人や物に触れることでその残留思念を読み取る力だった。
だがその能力は「処置」によって拡大され、残留思念を物体から物体へコピーする力へ…、
そして、いまや能力者の能力を物体にコピーする力へと進化していた。

【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】の拡大された真の姿。
言うなれば、これは【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】だった。

117名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:39:35

だが、どういうわけか譜久村にはこの単語帳に関する記憶が無い。
単語帳に能力を封入したのはまさに譜久村の能力、それはわかっている。
その使い方も戦い方もすべて完ぺきに理解している。
しかし譜久村にはその記憶がない、この単語帳を作る以前の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
当然、封入された能力の持ち主も知っていたはずだ。が、その記憶もない。
自らの思念感知を用いてもなぜかこの単語帳からは何も読み取れない。

単語帳や能力のことだけではない。
彼女の記憶は不自然な記憶の抜け落ちだらけだった。
組織のことも、エッグのことも、自らの生い立ちも…。
普通ならばこのような状態で平気でいられるはずがない。
自分はいったい何者なのか?今の自分はなんなのか?
疑念と不安に押し潰され、精神を病んでもおかしくはない。
しかし、彼女は信じられないほど楽観的だった。
なぜか、まったくそこに疑問を感じることが出来ないのだ。
虫食いだらけの記憶のまま、そのままで彼女はこの一年を過ごしてきた。

だが、それでも、それでも心の奥底で、彼女にはわかっていたのだろう。
今の偽りの生活が長くは続かないことを…、必ず訪れる平和な日々の終わりを。
そして、もしかしたら、平和な日々の終わりが、
失われた記憶を取り戻す可能性への扉が開くきっかけになるのかもしれないことを。

譜久村聖は夜空を見上げる。

夜空には、月が輝き、星は、やさしくまたたいていた。

118名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:47:37
>>112-117

 ■ エンチャンター −譜久村聖− ■ でした。

以上代理投稿をお願いできませんでしょうか?
お手数おかけしますがどうぞよろしくお願いいたします。

>>110
サイコメトラー設定からどこをどうしたわけかマジックアイテム作成能力者に設定が暴走してしまいました。
彼女の【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】に関しては
制限やらなんやら設定を色々考えてあって付録で載せるかとも思ったのですが50行近くあるし
なにより「後で細かい設定を変えたくなった時」こまるかも?などと考えやっぱりやめます;

119名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:51:52
じゃ行ってきます

120名無しリゾナント:2011/05/13(金) 19:54:52
>>117に余計な文章が混じっていました。

以下>>117を修正させてください


当然、封入された能力の持ち主も知っていたはずだ。が、その記憶もない。
自らの思念感知を用いてもなぜかこの単語帳からは何も読み取れない。

単語帳や能力のことだけではない。
彼女の記憶は不自然な記憶の抜け落ちだらけだった。
普通ならばこのような状態で平気でいられるはずがない。
自分はいったい何者なのか?今の自分はなんなのか?
疑念と不安に押し潰され、精神を病んでもおかしくはない。
しかし、彼女は信じられないほど楽観的だった。
なぜか、まったくそこに疑問を感じることが出来ないのだ。
虫食いだらけの記憶のまま、そのままで彼女はこの一年を過ごしてきた。

だが、それでも、それでも心の奥底で、彼女にはわかっていたのだろう。
今の偽りの生活が長くは続かないことを…、必ず訪れる平和な日々の終わりを。
そして、もしかしたら、平和な日々の終わりが、
失われた記憶を取り戻す可能性への扉が開くきっかけになるのかもしれないことを。

譜久村聖は夜空を見上げる。

夜空には、月が輝き、星は、やさしくまたたいていた。

121名無しリゾナント:2011/05/13(金) 20:07:02
完了
何か錯綜してしまった
もうちょっと様子を見てから投下したら良かった

122名無しリゾナント:2011/05/14(土) 12:41:51
>>121
いえ、こちらこそ御手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。

実は100%私のミスなのですが>>120の修正版、一日たって読み返して見ると
前半の数行をコピペミスによって落としてしまっていました。

本当は>>117の10行目あたり
>組織のことも、エッグのことも、自らの生い立ちも…。
この一行だけを削りたかったのですが、削りたくない前半の数行まで落としてしまいました。
遅ればせながら次のレスにてもう一度投下させてください。

123名無しリゾナント:2011/05/14(土) 12:43:04
だが、どういうことか譜久村にはこの単語帳に関する記憶が無い。
単語帳に能力を封入したのはまさに譜久村の能力、それはわかっている。
その使い方も戦い方もすべて完ぺきに理解している。
しかし譜久村にはその記憶がない、この単語帳を作る以前の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
当然、封入された能力の持ち主も知っていたはずだ。が、その記憶もない。
自らの思念感知を用いてもなぜかこの単語帳からは何も読み取れない。

単語帳や能力のことだけではない。
彼女の記憶は不自然な記憶の抜け落ちだらけだった。
普通ならばこのような状態で平気でいられるはずがない。
自分はいったい何者なのか?今の自分はなんなのか?
疑念と不安に押し潰され、精神を病んでもおかしくはない。
しかし、彼女は信じられないほど楽観的だった。
なぜか、まったくそこに疑問を感じることが出来ないのだ。
虫食いだらけの記憶のまま、そのままで彼女はこの一年を過ごしてきた。

だが、それでも、それでも心の奥底で、彼女にはわかっていたのだろう。
今の偽りの生活が長くは続かないことを…、必ず訪れる平和な日々の終わりを。
そして、もしかしたら、平和な日々の終わりが、
失われた記憶を取り戻す可能性への扉が開くきっかけになるのかもしれないことを。

譜久村聖は夜空を見上げる。

夜空には、月が輝き、星は、やさしくまたたいていた。

124名無し募集中。。。:2011/05/14(土) 15:26:32
まあいつの間にかやってくれてるでしょうよ

125名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:37:10
「「ありがとうございました〜」」
最後のお客様を笑顔で見送り二人はそれぞれ閉店の作業へと入る
高橋は食器洗い、れいなは店内の掃除
お店のために、お客様のために、そして自分自身のために手を動かす

れいなが雑誌の番号を綺麗に並び終えて仕事を終えた時、高橋は翌日の料理の仕込みの最中であった
「愛ちゃん、れーな終わったから先に上にあがってお風呂入るよ!」
閉店後の作業は高橋が残ることが多くて、れいなは先にお風呂に入るのが常だった

しかし、この日は違った
階段を上ろうとするれいなに高橋が「ちょっと、れいな待って」と声をかけたのだ
汗を流しさっぱりする気でいたれいなは当然「なんね、愛ちゃん」とぶーたれる
そんなれいなに高橋は笑顔でキッチンへと手招く

「愛ちゃん、れーなさっぱりしたかったとよ、何ね?れいな、何もしていないとよ」
「いやいや、怒ることなんてないよ、れいなはしっかりお店のことを思ってくれているから
でもさ、ちょっと、ちょっとだけでいいから、明日の仕込み手伝ってくれないかな?」
そんなお願いをするのは初めてだった
料理と作るのは高橋、それを給仕するのがれいな
それが二人の間で自然と生まれたルールだった
もちろんコーヒーくらいはれいなも自分で飲むから美味しい入れ方を教わった
でも名物のガレットやパスタはすべて高橋が1から10まで作っていた
「ちょっと疲れちゃってさ」なんていいながら高橋は頭を掻く
照れくさそうに笑う高橋を見てれいなは「仕方ないっちゃね」といって手洗い場へと脚を進めた

エプロンをキッと結び直して、れいなはお世辞にも広いとは言えないリゾナントの厨房へと身を滑りこませた

126名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:38:06
「それで何をすればいいと?」
「うーんと・・・じゃがいもを切ってちょうだい」
そういって高橋は手ごろな大きさのジャガイモと包丁をれいなに手渡した
「・・・愛ちゃん、れーな、包丁怖いからピーラーとか使いたいっちゃけど」
高橋は申し訳なさそうに「ごめん、壊しちゃったからないんだ」と言った

「えー、れーな包丁あんまり使ったことないとよ。怪我するかもしれんし」
「ゆっくりやれば大丈夫だって。私も最初はおっかなびっくりだったんだから
 それにいざとなればサユを呼びに行くから大丈夫だって」
不安そうなれいなに高橋は笑顔を向けた
「まずジャガイモの芽を包丁のアゴで取って、短冊切りにして塩水につけておいてね」
「顎ってなんね?」
「包丁の根元の部分。ほら、ここ」
「ふ〜ん、で、どうやって根を取ると?」

「一回だけやるからしっかり見ててね。それから根じゃなくて芽だからね
まず、包丁をしっかり握る。そしてアゴをジャガイモの芽にあてて、こうやって取るの」
「れーなピーラーでしかやったことないけん、手を間違えて切りそうで怖いちゃけど」
そう言っているうちに高橋はジャガイモ一つの全ての芽を取り除いてしまっていた
「はい、じゃあれいな、そこに置いてあるジャガイモ全てお願いね」
おっかなびっくりれいなは不器用な手つきながらジャガイモの芽を取る作業に入った

自分も他の料理の仕込みをしながら高橋はれいなに優しく声をかける
「れいな、スジいいよ!できるならもう少し芽を大きめに取った方がいいかな?」
「・・・うん」
集中しているのか返事が幾分遅れて返ってくる
「そうそう、それくらいでいいよ」
高橋が両手に力をこめて生地を練りながら、視線はれいなの手元に向けている
「切り終わったらこのボウルに入れてね」
れいなの前に塩水を入れたボウルを置いた

127名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:39:09
「・・・ふぅ、終わったと」
切り終えたジャガイモがボウルにポチャンと音を立てて入った
「ありがとう、れいな。でも、ごめんもう少しだけお願いしていい?ニンジンの皮もむいて」
「え〜愛ちゃんすればいいっちゃん」
「そんなこといわんで〜」
そう言いながら高橋はれいなの腕を掴んだ
「仕方ないっちゃね」

そうやってれいなは結局その後もカレーの味見なりサラダのドレッシングなど手伝わされた
終わったのはいつもよりも一時間も遅い時間
「ありがとうれいな。おかげでいつもより早く仕込み終えられたよ
 何か飲もっか?あったかいホットミルクとかレモンティーとか」
「ううん、れいな、早くお風呂入りたいから後でいいと
 あとでレモンティー用意してくれたら嬉しい」
「わかった。特製レモンティー入れておくから、温まってね」
言い終えるとれいなは階段へと脚を進めていった

高橋はそんなれいなのために戸棚からカップを取り出そうとした
「これでいいかな?」
そう呟いて高橋は二つのティーカップに手を伸ばした
右手で掴んだのは水色、れいな専用と決めたもの
水色のコップを取り出してカウンターテーブルの上に置いた
続けて黄色、自分のティーカップを取ろうと手を伸ばす

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

れいなは自身の部屋、れいな城でパジャマを手に取り少し休んでいた
「はぁ〜今日も良く働いたとね〜」
大きく欠伸をしてう〜んと背を伸ばす
肩がこったのか腕をグルングルンと回してみたりもした

128名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:40:26
「でも愛ちゃんはれいなよりもずっと遅くまで頑張っているとね
 初めて料理の手伝い頼まれたけん驚いたけど、ちょっと楽しかったかも」
れいなは先程まで握っていた包丁の感覚を思い出そうとした
「刃物相手には戦ったことあるけど、自分ではないけん、少し怖いとね」
そういって誰にも見られていないのは分かっていたが恥ずかしそうに歯をみせてニヤリとした
「・・・今度はれーなから『手伝おうか?』って言ってみようかな?」

そんなことを思っていると下の方からガチャンと食器の割れる音がした
「なんね?愛ちゃん、大丈夫と?」
れいなは大声を出して確認した
「れいな、ごめん。なんでもない〜ちょっとお皿割っちゃっただけやよ〜」
高橋がれいなに負けじと大声で返してきた
「愛ちゃん、気をつけるとよ〜小さい破片とかあるかもしれんけん」
「はいよ〜気をつけるから〜ゆっくり休みぃ」

能天気な高橋の声に安心したれいなはパジャマを持ってお風呂場へ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「あっちゃ〜やっちゃった」
高橋は掃除機のコードをコンセントに刺しながら自分のドジに嘆いていた
「せっかくのお皿だったのにな、あ〜あ」
掃除機のスイッチを入れ、店内は掃除機の低い音が鳴り響く
「これでいいかな?」と高橋は掃除機を止め、コンセントを引き抜こうとする

右手をのばし―そこでいったん手をひっこめ、左手でコンセントからコードを引き抜いた
掃除機のコードを巻くボタンを左手で押した
しかし、全てのコードが収まることなく、少しだけはみ出てしまっている

高橋はしゃがみこんで左手でコードをひっぱり、右手で掃除機本体を押さえた
右手の中指で掃除機のボタンを押すと今度はすべてのコードが収まった
「よし」と呟いて掃除機を片隅に片づけた

129名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:41:22
片付け終えた高橋は一人カウンターに座り軽く咳き込んだ
「れいな、少しは料理に興味持ってくれたかな?楽しさが分かってくれるといいんだけど」
そう言って自分の右手をゆっくりと目の前に持ち上げる

目の前にかざした右手は雪のように白くて華奢で小さい
何年も培ってきた料理スキルに高橋は自信を持っていた
実際にお客様にもメンバーにも好評で「おいしい」って言われることが至福の時だった

今、目の前にあるこの手、そんな手に「光」の力が宿っているなんて信じられないくらいだ

「このお店は私の幸せを生んだ場所。みんなの幸せを生む場所。いつまでも守らなきゃいけない」
掌を自身に向けて高橋は小さくため息をつく
「…何焦っているんだろう、私」
また小さく咳き込む

目の前に広げた掌はいつもよりも白く―透明になっているように感じられた
消えてしまいそうなくらいに白く、薄くなっていると感じるほどに

そしてまた咳き込む

そこにれいなからのメールが届いた
メールの内容はシンプルに「お風呂上がりは紅茶がいいと」とのこと
高橋は笑顔でゲンコツの絵文字をうって、キッチンに入っていった
ケトルに二人分の水を入れて、ガスを点けた

鳴り響くのは換気扇の音だけ
高橋は何も言わずに天を仰いだ

130名無しリゾナント:2011/05/22(日) 14:47:34
『Another Part Of Me』です
>>502で料理モノのリクエストあったから書いてみた
決して終わらせるつもりはないが、なんかこういうの浮かんだんですよね
どうしても卒業を意識して書いてしまいました
タイトルはマイケル曲から頂きました(^^♪

代理よろしくお願いします<(_ _)>

131名無しリゾナント:2011/05/22(日) 16:19:00
行ってみるよし

132名無しリゾナント:2011/05/22(日) 16:28:58
行ってきたよし
保護者目線のリーダーが良かったですな
ほのぼの一辺倒で終わらせなかったのは好みが分かれるところでしょうが個人的には好きですた

133名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:48:01
 ■ タイムオブヘル −矢口真里− ■

「おいおいなんだありゃあ…!くそっ!『コイツも』なのか!?」
全体を見渡せる離れたビルの屋上に移動していた矢口は砕かんばかりに歯を食いしばる。

矢口は混乱していた。
【能力阻害(インぺディメント;impediment)】が効かないだとぉ?
またかよ!またなのかよ!ふざけんじゃねえぞ。

矢口はライフルのスコープを譜久村の顔にあわせる。
同性ですら思わず引き込まれそうになる。
端正でふくよかな頬、ひかえめで奥ゆかしい口元。14歳の瑞々しい肌艶。

「ちっブサイクがっ!能面みたいなツラしやがってっ!」

嫉妬。
能力者である以前に、雌として、生物として自分の方が劣っている。
そう直感する。だが、認めない。矢口という女が認めるわけがない。
怒りの矛先が容姿に対する嫉妬へと向くにつれて、
不思議と冷静さが戻ってくる。

ちょっと待てよ…、『同じ』じゃねえぞこれは。

『同じ』じゃねえ。

矢口は忌まわしいあの敗北の夜を思い出す。

134名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:49:14

―もし矢口の能力が、物理的、視覚的にもっとわかりやすい能力だったなら、こんな誤解はしていなかったかもしれない。

あのときのオイラは能力を使う以前に封じられていた。
そうだ、最初から『発動していなかった』んだ。
それが「あの化け物」の力…。

だが、今のはちがう。
今、あのガキにオイラの【能力阻害】は確かに効いたんだ。
今度こそ勘違いじゃない。確実に効いた。
再び発火能力が復活したカラクリはわからない。
だが、一度でも効いたのなら、かければまた効くはずだ。
何度能力が復活しようがそのたびに何度でもかけ直せばいい。
矢口に自信が戻ってくる。

135名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:50:12

「みてろよ…、すぐに化けの皮を剥がしてやるっ!」

矢口は再び【能力阻害(インぺディメント;impediment)】を発動するため意識を集中する。

そのときだった。

「どういうことなのか聞かせてくれない?矢口。」

ふいに背後から浴びせられた言葉に、矢口は硬直した。


世界が、静止していた。


この能力は…、この能力者は…。

「け、圭ちゃん?…」

世界が静止した中で、その女性―保田圭―は、もう一度訪ねた。

「だから、これはどういうことなのって聞いてるの。」

地…地獄だ…。

矢口は力なくライフルを取り落とした。

136名無しリゾナント:2011/05/22(日) 17:52:21
>>133-135

 ■ タイムオブヘル −矢口真里− ■ でした

以上代理投稿をお願いいたします。

137136:2011/05/22(日) 17:54:43
>>130
高橋さんは死期が近付いてる
そう言う設定なのでしょうか?
何か悲しい結末を予感させるいい話ですね

138名無しリゾナント:2011/05/22(日) 19:45:48
行ってきま〜す

139名無しリゾナント:2011/05/22(日) 19:59:28
行ってきますた
矢口さんの婚約会見という良き日に相応しい作品でしたね

140名無しリゾナント:2011/05/22(日) 21:17:10
>>130です。代理ありがとうございました★
ほのぼのよりも裏のある話の方が書きやすいんですよ
死期が近いかどうかは読者次第だと思います

141名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:42:35
高橋からの短いメール「サユは××におる!」
道重の携帯にも届いたそのメールはすぐに消去された

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

道重の声が聴こえた―それは4日ぶりのこと
(サユが呼んでる)
一刻も早く道重のもとへと行かなくては、そんな思いが高橋の脚をもつれさせた
・・・勢いよく階段で転んだのだ
「愛ちゃん、大丈夫?れいな先行くけん」
転んだ高橋の上を跳んで一階へと華麗に着地を決めた

一階に降りたったれいなの前に影。それはすでにコートを羽織って待ち構えていた雅であった
「さあ行きましょう!高橋さん、大丈夫ですか?時間無いですよ」
雅は私も行くことがさも当然といった表情で力強く言う
「ミヤ、何してると?行く気かいな?遊びじゃないとよ」
「わかってますよ!でも私にも行く権利はあると思います。だってあの子がいるかもしれないから」
光井の手を頼りにして立ちあがった高橋が階段の上から雅の曇りない瞳をみて確信込めて言った
「れいな止めても無駄だと思う。連れていこう
ただこれだけは言っておくから、雅ちゃん、安全は保証しない。自分の身は自分で守るんだよ」
雅はコクンと頷き唾を呑み込んだ

「そんじゃみんな裏の駐車場に行って」
「ま、まさか、愛ちゃんリゾナントカー使う」
「ちょうど五人だからいいじゃん」
高橋はキッチンにおかれた鍵を手に取ったのを見て、三人は慌てて後ろに乗りこんだ
否応なしに雅は助手席に乗り込むことになる。何も言わずに後ろの三人はしっかりシートベルトを装着
「行くよ!」
ドォルゥゥゥゥゥ・・・ドヒュン
「た、高橋さん、速すぎますよ」
「アヒャヒャヒャ、この風、この景色最高!アヒャヒャヒャ!」

142名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:43:40
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「そんじゃ行くぞ。マルシェもたまには付いてこいよ。あんな暗いとこばかりいると体が錆びるぞ」
ダークネス本部におかれた物質転送装置(専ら移動に使われている)が置かれた部屋へと向かいながら吉澤が声をかける
「部署が部署だがな、体動かさないといざというときに動けないぞ。走っているのか?元ランナーのマルシェ?」
「・・・それなりにはしていますよ。それにいざというときの方法も考えていますから」
「ってまた例の『エネルギー産生』か?俺には難しくてわかんねえ能力だよな、お前の『原子合成』ってのは」
吉澤はあいまいに笑う

吉澤が警備している下級構成員にふざけて敬礼をして、入室パスワードを入力する
マルシェは吉澤に敬礼をされて慌てて敬礼を返す構成員の姿を見てクスッと笑っている
「何笑ってるんだよ。コミュニケーションだよ」なんて言いながら二人は部屋に入っていった
「それでは吉澤さん、いってらっしゃいませ」
「あ?お前も行くんだよ。気分転換だ。」
そう言って吉澤はマルシェの白衣の袖を掴み無理やり装置の中へと引っ張る
「ちょっと引っ張らないでくださ」
マルシェが言い終わる前に二人は異空間へと移動していた

「ちょっと危ないですよ、吉澤さん」
マルシェが珍しく本気で怒っている
「私まだしっかりと領域の中に入っていなかったんですから!知っているでしょ、この機械が危険だって!」
「いや、てっきりもういいだろと思っちまったからさ。悪い悪い、いいじゃねえか五体満足なんだからよ」
マルシェの言う危険―それは転送装置の狭間では空間が『切断』されてしまうこと
かつて転送装置にしっかり入らないことで右半身だけが転送されてしまうという事故が起きたことがあった
「あくまでもクールに冷静に、それがオマエらしいんじゃねえのかよ?」

143名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:45:07
吉澤にそう言われてマルシェは少し冷静さを取り戻した
「ふぅ・・・書類溜まっているんですよ・・・ボスに怒られる・・・それで、どこいくんですか?」
「あれ?言っていなかったか?あいつのところだよ、ほら出口だ、いくぞ」
二人の目の前にスリットができ、吉澤はその中へと飛び込んだ
「ちょっ、まだ答え聞いていませんよ。待ってくださいよ」
マルシェもスリットの中に飛び込んだ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「さあ、みんな着いたよ。降りた、降りた」
比較的乗り物酔いに強い光井、そして強がっているれいながゆっくりと車から降りた
それに対して雅は差し出してもらったビニール袋とお友達になっている

「ここ?」と本当なら酔いやすい亀はその城を見上げている
近くの駅まで新垣を迎えに行った高橋を除いた亀井達が着いたのは森の中の古城
蔦が生い茂り、石垣が積まれた城壁、さながら中世にでも来てしまったように錯覚してしまう
「ここっちゃろ、れーな、サユがいるのをビンビン感じると」
無意識ながられいなが拳を血管が浮き出るほど握りしめる
「しかし、雅ちゃん、本当に弱いんや。大丈夫?」
光井が心配そうに声をかけている横で亀井は「サユ〜サユ〜」と大切な親友の名前を呟いている
「キツいです。なんかいつもよりずっとキツい・・・ウッ・・・」
「…もしかして亀井さん?雅ちゃんに移したりしてへんですよね?」
「サュ…(ピタッと一瞬止まり)サユ〜サユ〜」
「…あれは黒っちゃね」

そこに近くの駅まで新垣達を迎えに行ったリゾナントカーが到着
「ガキさん送迎代はピンチャンポー宛でええよね?」
「ちょっと勝手に人のお店の名前宛で領収書切らない!そもそもタクシーじゃないんだから」
「…ガキさん、元気っちゃね。あれに乗ってきたのに」
ぐったりしているリンリン、久住、ジュンジュンの姿をみながられいなが力無く言う

144名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:46:38
「よし、みんな、揃ったね。サユの声、もちろん聴こえたよね?」
7人は頷き返し、なんとなく雅も頷く
「・・・え〜と、ここから先は何が起こるか分からん。だから・・・9人固まって行動する
お互い背後には十分注意し、何が起こっても決して慌てないこと!」
こうして9人は高橋とれいなを先頭として建物へと突入した

中は外見ほど荒れておらず、かつては富豪の財産だったのかシャンデリアや彫刻が置かれている
名前は知らないがどこかで見たことのあるような名画のレプリカも壁に掛けられている
壁のスイッチを押すと電気が点いたことから建物自体は大して古くないようだ
高橋とれいなが先頭、新垣がしんがりを務めながら一つ一つのドアを開けて、慎重に進んでいく
高そうな家具が放置された部屋、豪華な浴槽場、大きな広間・・・しかしそのどれにも人の気配はない

そうやって幾つもの扉を開けては中を捜索するという単調ながら気の抜けない作業を続けていった。
そしてついに、「!! ちょっと待ってください!」光井が次のドアを開けようとした高橋を制したのだ
「…開けたら何か黒い大きいものが飛びかかってきます・・・鋭い爪と大きな口・・・隆々とした腕・・・獣?」
高橋はリンリンに指示を出した
「リンリン、ドアを燃やして」
「了解了」
ポケットから飴を取り出し、リンリンは扉目掛けて投げつけた
緑色の炎に包まれ焼け落ちたドアの向こうには広がっていたのは、見た感じは普通の部屋
テーブルの上には皿がいくつか、その皿の上にはサラダが残っていて、カップも2つ置かれている
テーブルの傍には椅子が置かれ、その後ろのベッドの上には・・・黒髪を垂らして寝ている女の姿

「!! サユゥ!」
その姿を見た亀井が思わず飛び出した−光井の忠告を無視して
「あかん、亀井さん、行ってはあきません!!」

145名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:47:40
それを待ってたのだろう、部屋に飛び込んだ亀井に何かが飛びかかってきた
そいつは光井の視た通りの姿をしていた…
丸太ほどの太さの腕を持ち、全身は黒い毛皮に覆われ、口からは何でも噛み砕くであろう牙が生えていた
身長は決して小さくはない亀井よりも一回りも二回りも大きい熊だった

その大きな腕で亀井の頭を抑えつけ熊は地を震わすような叫びを放つ
「な、なにや、この熊、冬眠から覚めるにはまだ早いと!」
れいなはその熊の大きさと威圧感に圧倒され思わず後退りしてしまう

熊は8人を威嚇するようにもう一度吠え、その鋭い爪を持った右腕を亀井に振り下ろした
「エリ!」「カメ!」「亀井サン!」
誰より先に動いたのは白と黒の獣だった
ジュンジュンは自身より大きな熊目がけて体当たりをかました
突然だったのだろう、熊はパンダの体当たりをまともにくらい倒れ込んだ
その隙に高橋は亀井のもとに近寄り助け起こした

「早く起きてカメ、まだあの熊は起き上がってくるんだから!」
新垣が言う通り熊はゆっくりと起き上がった
ぶるぶると頭を揺らしている熊に対してジュンジュンが熊から仲間を守ろうと向き合い低い声で威嚇している
「なんや?あの熊?なんでここにおるんや?」
パンダと熊のまるでアニメのようなにらみ合いが光井の目の前で繰り広げられている

睨みあいから先に動いたのは熊の方であった。低い大声をあげて四本足で向かってくる
さすがの迫力にジュンジュン以外の8人は距離を取る。一方のジュンジュンは組み合おうと構えている
しかし熊は待ち構えるジュンジュンではなく逃げ惑うメンバーの方へと向かって行った
そんな熊の進路の先にいたのは―光井と雅だった。
熊は光井と雅を突き飛ばし、倒れ込んだ雅のコートを口にくわえ−そのまま逃げだした
「ミヤ!!」「逃がすカ」「リンリンも行きます」
れいな、ジュンジュン、リンリンが熊を追うため飛び出した
「こら、勝手な行動はしないっ…愛ちゃん、サユをよろしく。私も行くからあの三人じゃ不安なのよ」
そう言い新垣も後を追って駆けだした

146名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:49:16
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

器用に雅を背中に乗せ熊は四足歩行で古城内を走り回る
熊は壁をものともせず突き破っていくので追いつくのがいっぱいいっぱいだ
「リンリン、あの熊に向かって炎撃つと!」
「無理デス!リンリンの炎、ここでは危険デス!それにスピード速くて当たらナイ」
階段を昇りながら新垣は走りながら仕込みロープの安全装置を外しながら考える
―ピアノ線は向かってくる相手には非常に有効だけど、こういった場面じゃ捕まえられない
 だからってれいなやジュンジュンのスピードじゃ追いつけないし、リンリンは危険だ
―それなら
「みんな二手に分かれて!私とリンリンで追い込むから田中っちとジュンジュンは先に回って挟み打ちよ
 この階の東の角部屋に追い込むからそこで張っていて!」
「わかった」「ガキさん、わかりました!」

リンリンの炎で進路を巧みに誘導された熊はれいなとジュンジュンが待ち構えている部屋へと追い込まれた
「はあはあ、さあ、大人しく、しな、さい」
走り疲れた新垣が肩で息をしながら熊へと近づいていく
その返事はNoだということは明白だった
なぜならば、新垣に向かって熊が飛びかかってきたのだから
「ウオッ」
本人自身は叫び声をあげながらも、ピアノ線が熊を捕捉した
ピアノ線が絡まった熊はタイル敷きの床に強く叩きつけられるようにして落ちた
「ガキさん、ナイスっちゃ!・・・あれ?ミヤはどこ行ったと?」
「本当デスネ、夏焼サンがいないデス」
キョロキョロとしながら飴を口に含もうとしたリンリンの目の前では熊はピアノ線を破頭ともがいている
「うっ、なんてバカ力なの!ヤバい、ピアノ線の限界!」
新垣の言う通りピアノ線は見事に引き裂かれた

そこに間髪いれずジュンジュンがっぷりよつに組み合った
「コイツ、強イ。なんてバカ力ダ」
しかし力では負けていられないとばかりに、ジュンジュンは熊を投げ飛ばす

147名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:50:21
壁に強く叩きつけられた熊だったが、それでもまだ立ち上がろうとする
「本当にタフっちゃね…野生の動物ってこんなに生命力強いとね…」
ゆっくりと立ち上がった熊は4人に向かって再び吠え、器用に後ろ脚だけで立ちあがった
「うわあ、大きい」
元々動物好きな新垣はその大きさに感動してしまった
「新垣サン、危ないデス!ファイヤー」
リンリンが飴を投げつけ熊を一瞬ひるませた
「ガキさん、今のうちに縛ってクダサイ!」
「あ、サンキュ、リンリン!」
新垣の袖からロープが熊へと向かって行く

熊は自分の身が危ないことを察知したのか逃げようと違う方向へと顔を向け、駆けだした

と、そこに

「おいおい、逃げんなよ、熊ちゃん」

新垣達の後ろから聴きおぼえのある低い声が聴こえ…次の瞬間、熊の胴体に光弾が直撃した

「このエネルギー弾って、確か」
「この光、見覚えあると!!吉澤ぁ」
れいな達が振り返ると吉澤が手を挙げて「よう、久しぶりだな」と声をかけてきた

「いったい何しに来たと!あれもお前らのもんか?マルシェの実験体の一つとか」
れいながもろに光弾をくらい倒れ込んだままの熊を指差しながら声を荒げた
れいなの後ろではリンリン、ジュンジュンがいつでも戦えるように戦闘配置についている
「まあ、あせんなって。今日はお前らと戦いに来たわけじゃねえんだから」
「そんな言葉信じラレルカ!」

148名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:51:31
「疑う気持ちはわかるんだけど、本当だよ」
吉澤の後ろから白衣姿のマルシェが出てきた
「マルシェ!」
「やあ、マメ、久しぶりだね。相変わらずリアクション大きいね」
新垣にマルシェは何となく微笑みを浮かべた
「それから、後ろの二人、そうやって緊張しなくてもいいよ、今日は本当にただ観察に来ただけ」
よく見ればマルシェの履いているのはただのサンダルだった

「でも、吉澤さん。やりすぎですよ」
「は?そうか?俺的には結構手加減したんだぜ、殺すわけにはいかねえんだろ?」
「当たり前です!!」
リゾナンター達を前にして吉澤、マルシェの二人は言い争いを始めた
「せっかくのレアものなんですから、もっと大切にしてくださいよ!」
「悪かったっていってるだろ」
「その言い方、反省していないのばれてますからね!」

「あ、あの〜」
新垣が言い争いが止みそうにないので無理やり割って入った
「私達に興味ないのでしたら何しに来たんでしょうか?」
相手が実力者ということもあり新垣は腰を低くして尋ねた
「ガキさん、そんな聴き方することないっちゃ!お前ら何しに来たと!」

「うるせえ、れいな!」
吉澤がれいな向けて光弾を放った
「な、何すると!さては、油断させておいて」
「いや、今のは田中ッチが悪いと思う」
「なんでっちゃ!」と思わずれいなは新垣を睨みつけたが、新垣は意図的に聴こえないふりをした
「・・・れいな、何回も言うけどさ、人の話を聞く耳持とうね」
マルシェがれいなに優しく諭した

149名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:52:47
「それで、いったい何の目的ダ!」
リンリンが吉澤に勇敢にも問いかけた
「ああ、あいつだよ、あいつ」
吉澤が指差したその先には倒れている熊の姿
「あれはオマエラの仲間なのか?」
「いや、違うよ。でも、興味あるから見に来たの」
マルシェが喜びを抑えきれないと言った表情で答える

「あの熊に?おまえら、一体何考えていると!」
「熊じゃない・・・」
「え?誰?」
新垣が突然飛び込んできた第三者の声に反応する
「わ、私です、雅です、あれは熊なんかじゃない・・・私の友達です」
声の主は隣の部屋からボロボロになったコートを羽織ってゆっくりと姿を現した雅であった

そう言っているうちに熊の体に変化が現れた
何でも砕くであろう太い腕は華奢な腕へと変化し、鋭い牙はチャーミングな犬歯へと姿を変えた
体を覆っていた黒い体毛は白い地肌によって取って代わられていく
鋭く輝いている目は相変わらずそのままだが、口や鼻はその『人物』のものへと戻っていく

「そう、『熊』じゃないよ、あれは」
マルシェはますます嬉しそうな表情で熊を眺めている
「あれは能力者だ、能力は『獣化』・・・だよな?マルシェ?」
「そうですよ〜私の大好きな『獣化』能力者なんですよ〜」
嬉しすぎてマルシェの表情は筆舌できないほど崩れている

そして完全に人の姿に戻った彼女に雅はいつものように慣れ親しんだ呼び名で彼女の名前を呼んだ

「熊井ちゃん!」と。  (続く)

150名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:53:54
>>「Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜」(7)でした
書き始めたのは去年の秋なので舞台設定は「冬」なのをご理解くださいw
さて、やっと隠していた「『り』ちゃん」が誰か明かせたけど…分かりにくかったかもしれないな…
予想を裏切るのが好きダカラ!ちなみによく知っている人にはわかるネタ織り込んでいますw
あと『Vanish!』ですでにこのキャラは登場していますから、「新キャラ」ではないです
設定は『i 901』として出ていたものを一部再利用させていただきました
http://www39.atwiki.jp/resonant/pages/175.html参照です

151名無しリゾナント:2011/06/17(金) 23:54:47
というわけですみませんが代理投下の方よろしくお願いしますm(_ _)m
長くてスミマセン

152名無しリゾナント:2011/06/18(土) 05:31:05
行ってくる

153名無しリゾナント:2011/06/18(土) 05:43:48
行ってきた

154名無しリゾナント:2011/06/18(土) 11:00:00
ありがとうございました(^^♪
レベルがたりないのでこちらのお世話になります
よろしくお願いします♪

155名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:09:08
スマイレージ増員の騒動のせいで
お蔵入りにしようかとも思ったサイドストーリー…

156名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:09:54
 ■ ウィッチィズティータイム −スマイレージ− ■

「ふーん…それが保田圭の【時間停止】なんだ?なぁんかタネがわかっちゃうとダサダサな能力ね」
福田花音は―報告もそこそこに、お菓子にパクついている和田彩花を恨めしそうに横目で見ながら―そうつぶやく。

季節はずれなビーチパラソル、テーブルいっぱいにぶちまけられたお菓子、電気ポット、熱い紅茶…。

「花音ちゃんが言ってもギャグにしかならないっと…あっ!『幽霊も〜よく見てみればゆうれーる柳』…なんつて」
「ぎゃはは☆憂佳ちゃんのつまんないダジャレおもしろーい☆」
「ふぉれ…ふぉっちなんだかふぁかんないから(それ…どっちなんだかわかんないから)。」
前田憂佳が口から烏賊ゲソをプラプラさせたまま、別のお菓子に手を伸ばす。

「でも、彩花じゃなかったら…。
そっちにいってたのがうちらだったら能力を使われたことすら、
それどころか保田さんがそこに来たことすらわかんなかった…
そうゆうことでしょ?やっぱすごいよ。」
と小川紗季。

「能力は脇へ置いておくとしてもさ、保田さん、やっぱり侮れないね。して、なんでばれたんだろ?」

「所詮は矢口さんだもん。いずれは誰かにばれたでしょ。
あのひと仕事が雑すぎるのよ。
それより…

157名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:15:00
その先を言い淀む。

危なかった。

フクちゃんのことじゃない。
もし、保田さんがフクちゃん拉致に手を貸していたら…
まちがいなくあやちょは『目』を使っていただろう。
あたしたちの制止の効かないところで、
当然のように、何の迷いもなく、無制限に。

危ないところだった…。本当に、ギリギリのところだったんだ。

千路に乱れる思考を必死にまとめあげる。

やっぱり、単独でフクちゃんの監視をさせるのは控えるべきだった?
ううん、今回は『バイト』をこなすには憂佳も紗季も必要だった。
予想よりリゾネイターの動きが鈍い以上、ベターな選択ではあったはず…

158名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:15:54

花音はぷかぷか空中に浮かびながら、塩辛を乾燥させたおつまみを嬉しそうに口に運ぶ天使を目で追う。

あたしたち四人だけでやる。

そう決めた、あの日を思い出す…
そして、同時に…

『それ』は避けては通れない事だった。
だが、『それ』は彼女にとって…『それ』は彼女にとって絶対に…

…んね…ごめんね…ちゃん…

「花音ちゃん?」

和田彩花が空中に寝そべりながら花音をのぞきこむ。

「なんでもないよ。さっ、バイトは終了っ!。みんなお菓子片づけてっ。撤収するよ。」

季節はずれなビーチパラソル、テーブルいっぱいにぶちまけられたお菓子、電気ポット、熱い紅茶…。

熱い紅茶…

熱い?…

熱気…、艦橋…、黒煙…、重油臭……、火災…。


東シナ海々上、国籍不明のフリゲート艦が、力なく漂う。


ある少女の一言をきっかけに、
罵り合い、憎しみ合い、殺し合った、哀れな兵士達の亡骸を乗せて…。

159名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:18:14
>>156-158

■ ウィッチィズティータイム −スマイレージ− ■
でした

160名無しリゾナント:2011/06/23(木) 19:19:46
以上
投稿代理どうぞよろしくお願いいたします

161名無しリゾナント:2011/06/23(木) 20:28:19
メインのプロバイダが規制に遭ってるんだがな
トライしてみる

162名無しリゾナント:2011/06/23(木) 20:34:50
何とかいけた

163159:2011/06/25(土) 01:59:32
>>162
大変な状態の中
代理を引き受けてくださり
ありがとうございました

164名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:50:17
(1)
「熊井ちゃんっ!熊井ちゃんっ!」
吉澤の光弾を正面から受けた熊井は必死に揺さぶられても倒れ込んだまま全く動かない
「熊井ちゃんっ、熊井ちゃんっ」
「大丈夫やミヤ、息しとると。少し気を失っているだけっちゃ、落ち着くとよ」
れいなが冷静に熊井の口元に手をかざして呼吸を確かめる

「そりゃそうだろ、こちらの方に『生け捕りにしろ』って言われたんだから」
吉澤が親指をマルシェに向けながらあっけらかんとした表情で言い放つ
「…もうすこし丁寧に扱って欲しかったです」なんてマルシェの小さい不平は聴こえていないようだ

そうやって冷静なマルシェと吉澤から目を固定したまま新垣は記憶を辿った
「愛佳から聴いたことがある…同じ学校にスタイル抜群の後輩がいるって…熊井友理奈」
リンリンが隣の部屋から持ってきた毛布を生まれたままの姿になった熊井に被せる
「雅ちゃんからその名前が出た時は驚いたけど、まさか能力者だったなんて・・・
 というか、雅ちゃん、どこにいたのよ?さっきまで熊の背中にいたのに」
熊井の肩を軽く叩きながら雅は顔だけを新垣に向けて答えた
「隣の部屋のふわふわしたベッドの上に投げ飛ばされたんですよ!
ちょうど田中さんとジュンジュンは見ていましたけど新垣さんは向こうから来ていたので」
「そ、そうなの。怪我は?」
「私はほら、ちょっとコートを破られたくらいで、そうこのコートを、コート…」
コートを破られたことがそうとう悲しいのだろうか雅は繰り返し「コート」と言い続ける
どうやら怪我はしていないようなので新垣は安堵のため息をついた

しかしここで新垣の脳裏に当然のごとく疑問が浮かんだ
(なんで熊井ちゃんは雅ちゃんを連れていったの?それにさゆみんも熊井ちゃんが?)

その疑問が顔に現れたのだろうマルシェが新垣に声をかけてきた
「うん、マメ、私も熊井ちゃんが全ての犯人だと思うよ。あの現場の壁に残されていた爪痕は彼女の爪のようだしね」
新垣は現場の壁に残された荒々しい傷跡を思い出した

165名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:50:56
「それにどうして彼女が犯人達を襲ったのかも簡単に説明できるし」
「どういうことや!」
れいなが立ちあがりマルシェを睨みつける
「簡単だよ、自分を連れ去った相手だよ。それで自分が熊になって人間の理性を失ったとしよう
 まず第一に考えるのは、そこから逃げること。そのためには邪魔なものは排除する必要がある
 そして目の前には自分を連れ去った男達、恨んで当然。遠慮なんていらない、倒していけばいいじゃない
 もちろんいきなり獣化なんて力に目覚めたわけだから手加減なんてできるわけないしね」
人間としての理性を保つ訓練をする前のジュンジュンの姿を知っていた者はその説明をすんなり受け入れることが出来た

「シカシ、それならどうしてあの現場にはほとんどの人がいなかったんデスカ?
熊井ちゃんの力はただの獣化なんデスヨ!」
リンリンの質問にマルシェはにやりと笑みを浮かべながら答える
「それはね、ジュンジュンならわかるんじゃない?いつも獣化しているからね」
ジュンジュンはマルシェに指名されたが何も言おうとしない
「どうしたと?ジュン、何か思い当たる節あれば言ってみるとよ」
「・・・ジュンジュン、いつも持ち歩いているものアリマス」
「バナナやろ?それがどうかしたと?」
「・・・獣化した時、ものすごくエネルギー使いマス。長ければ長いほどエネルギー使ウ
 ・・・だからジュンジュンいつもバナナ食べてエネルギー消費を防いでマス」
ここまでいって新垣と吉澤は言おうとしていることがなんとなくわかったようだ
しかしれいなは「それがどうしたと?」と鈍いようだ

「ジュンジュンが言いにくいなら私がいってあげるよ、れいな
獣化っていうのはね、ちょっと特殊な能力でね、自分自身の形を変えるんだよ。
 大きな燃料というかエネルギーが必要になる能力なの。それでジュンジュンはバナナで栄養補給をしている」
「だからなに言うとると?」
「はぁ、れいなはまだ頭の回転が少し遅いのかな?だからあの子もエネルギーを取ったんでしょ」
「そんな栄養になるもん、あの部屋になかったと!食事でもしてたと!?」

166名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:51:42
「食事ねえ・・・まあ、半分正解かな?しっかりその子もエネルギーを取ったんだよ

『人間を喰う』ことでね」

マルシェの答えに一瞬場の空気は凍りつく
「た、食べたと?人を?人間が?」
「まあ、獣化しているんだから内なる獣が出てきて人くらい食べるでしょ
ニュースでもあるじゃない、熊が人を襲ったって。それに現場に落ちてたでしょ、人の手首が」
マルシェの指摘通り新垣達は現場で人の手首が落ちているのを確認していた
「人を食って辺りが血まみれ。喰われた人は腹の中へと消える。
これで犯人消失の方法が判明したってわけだな」
吉澤がマルシェの説明に飽きながらあくびを噛み殺してまとめる

「じゃあ、なんでサユはここにいると?れいな達みたとよ、まだ無事なところを」
その答えにもマルシェはすでに答えを用意していた
「それはあとで食べるため。常に獣化しているわけだから食事は動物の『肉』だけになる
 正直、まだサユが生きていてラッキーって思った方がいいよ、よかったね、マメ」
マルシェの推理には不合理な点がないため悔しいながらも受け止めざるを得ない

「違う、熊井ちゃんじゃない!」
必死に否定する雅に対してもマルシェは冷静に「状況証拠は十分なんです」といって聴く耳を持たない
「ん?ちょっと待つと、ミヤは熊井ちゃんが能力者ってことを知らんちゃろ?
それなのに熊がその子やと気付いたと?」
れいなの鋭い指摘にリンリンもその通りだと言った表情で雅に顔を向けた
友達が人間を喰ったかもしれないということを伝えられ若干顔色は悪いが答えた
「ああ、それはですね・・・私が放り出されたところに熊井ちゃんの置手紙があったんですよ
 メッセージの下には下に『友理奈』って名前も書いてあったん」
そこまで雅が言った時に建物全体がぐらりと大きく揺れた

167名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:52:22
「な、なに?地震?」
新垣達に問われる前に吉澤が「俺ら、何もしてねえからな」と釘を刺しておいた
「新垣サン、脚元ガ!」
リンリンが新垣に声をかけた瞬間、床が崩れおち、雅と友里奈を除いた6人が一階へと落下した
思わずれいなはキャーキャー声をあげてしまい、思いっきり背中をうってしまった
「イタタ・・・もう、なにが起きたと?」
「吉澤さん、何が起きたんでしょうね?地震ではないですよ、だって緊急地震速報がなかっ」
「おい、マルシェ、地味に現実的なことを言うなよ。しかし、何だ?」
吉澤は他の5人が背中から落ちたのに対してしっかりと両足で華麗に着地を決めた
「若干時事ネタ絡めても時が経ったらわからなくなるぞ」

「しかしどうしたンデスカネ?電気もつかないようデスネ」
リンリンがそこら辺に落ちていた瓦礫を拾い上げた。
手にした椅子の脚に緑炎がともされ周囲は少し明るくなった
マルシェも白衣の内ポケットから懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた

「な、なんよ!これは!!」
れいなが驚きの声をあげたので二階から雅が「何があったんですか?」と問いかけてきた
「ミヤ、こっちに来るんじゃなかと!」
れいなが声を荒げて一階に下りてこないように警告したので雅は驚く
「なにか、おかしいと!一階がさっきと違ってぼろぼろになっていると!」

そう「ぼろぼろ」という表現は少々滑稽かもしれないが、ある意味適切だった
壁という壁には穴が開き、部屋と部屋という境界線は失われていた
新垣達がいたあの部屋のようにあちらこちらの天井が抜けおち、あちらこちらには瓦礫が積まれている
さきほどあれほど綺麗であった建物内と同じ建物だとは思えないくらいに荒れているのだ

168名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:53:09
「なにかまだいるね。れいな、リンリン、ジュンジュン、離れないで。愛ちゃん達と合流しよう」
三人が頷くのを見て、吉澤は「仲良しだね〜」と呑気に感想を述べた
「ま、こういうときはなるべく大勢で居るのがいいからな」
「・・・オマエラはドウスルダ」
ジュンジュンが威嚇の目つきで睨みつけると「おっかねえ〜」と吉澤はおちゃらける

「ま、とりあえず、熊井ちゃんをいただいて帰るとするかな」
「!! そんなことさせん!」
れいなが吉澤に向かって飛び出した

そこにれいな達のよく知っている声が飛び込んできた
「田中さん!伏せて!!」
(愛佳!?)
咄嗟に言われたがそれは光井の忠告、れいなは飛びかかるのを止め、その場に伏せた
光井の声が聴こえない吉澤は「おいおい、れいな転ぶなよ」と呆れかえる

その数秒後、伏せたれいなの上を何かが通り抜け・・・吉澤の寄り掛かっている壁に大きな穴が空いた
「な、なんだ?何が起きた?」
さすがの吉澤も突然のことに戸惑いを隠せず辺りを見渡す
れいなと同じく光井の声が新垣達にも聴こえたので光井の姿を見つけようと辺りを見渡す
「光井サン?どこですカ?」
「こ、こっちや…リンリンη×▽◎!!」
声のする方向を見れば脇腹を押さえて光井がこちらに向かって駆けてきた
「あ〜光井サン〜無事でヨカッタデス〜」
笑いかけながら光井を迎えるリンリンに光井は強い口調で言い放つ
「アホ!!リンリン、炎早く消すんや!!狙われるやろ!!」
慌ててリンリンは炎を消した

「落ち着くと、愛佳、一体何があったと?」
れいなが光井に問いかけ、光井はゆっくりと語り始めた

169名無しリゾナント:2011/07/22(金) 00:58:03
以上『VanishⅡ〜Ⅱ〜independent Girl〜(8)』の最終章スタートです
出来れば前回までを読んでいただくと面白いと自負しております(汗)
さて、今日から前回同様毎日投下していきます。したらば使いますが…
だいたい5〜9レスくらい使って少しずつ投下していくのでよろしくお願いします
前回よりも多い一週間超えますが、そこだけはこだわらせてください
皆様の期待に添えるか自信はありませんが(汗)

170名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:38:16
イーモバが規制中なんだけどなw
まあ行ってみますか

171名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:46:53
>>170さん
ありがとうございました
自分の努力不足で迷惑かけてしまいました
少しでも興味のわくお話しを書けるように努力します

172名無しリゾナント:2011/07/22(金) 01:47:16
行ってきますた
1回線契約残しておいてよかった

173名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:21:22
(2)
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

―熊に連れ去られた雅を救いに4人が熊を追い掛けるまで時間は戻る

「高橋さん、愛佳も一緒に行った方がよかったんでしょうか?愛佳ならどこに逃げるか視えたでしょうし…」
「そうかもしれないね、でも、まあガキさんもおるし、れいなもいるし大丈夫やろ」
「そんなことよりもまずは道重さんですよ!あ、亀井さん!」
気付けばゆっくりと亀井がベッドの上で寝かされている道重に近づいていた
亀井は嬉しそうな表情で目にはうっすらと涙を浮かべていた
「さゆぅ、良かった・・・無事だったんだね」

「エリ、待って!まだ安全ってわけじゃないんだから!!」
高橋は先程の熊がいるようにまだ何かが起こるのではないかと気が気でなかった
部屋の中には特に変わったものは置いていない
道重の寝かされたベッドの横には食事の残りなのだろうか?トマトが残っている
良く見ればトマトにはなぜか桃のキャラのシールが貼られており一瞬疑問が浮かんで消えた
天井を見上げたところで何もトラップがあることもなく、床も落とし穴…なんてあるはずもない

「久住さん、あの熊が道重さんをさらった犯人と関係あるんでしょうか?
あの『黒い女が襲ってきた』『闇』というワード…やはりダークネスの!?」
「どうだろうね…道重さんが起きてくれれば何かわかるんだろうけど簡単に起きないよね?」
しかしそんな久住の予想とはうらはらに亀井に何度か肩をゆすられただけで道重は目を覚ましそうであった

「ん〜ふわぁ・・・もう少しだけ・・・」
道重の二度寝を欲するような甘い声を聴いただけで亀井は唇を噛みしめて泣くのをこらえようと必死になる
「さゆ、起きてよ!帰るよ!みんなで!」
より強く肩をゆすったので道重は両目をこすりベッドからゆっくりと起き上がった
「ふわぁ〜」と小さくあくびをして道重は周りの状況をぼんやりと眺める

174名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:21:59
「サユ!」「さゆぅ!」「亀井さん」
亀井が思わず道重に熱い抱擁を交わす
その嬉しそうな亀井の表情を見て思わず久住の目にも涙が浮かんでくる

ただ―光井は小さい違和感を感じていた
「どうした愛佳?嬉しくないんか?」
「…愛佳の視た未来の像と違うんです。何かが微妙に」
光井の言う視た姿は道重が連れ去られたあの日にリゾナントで視た『抱擁する道重、亀井の姿』である
しかし実際に目の前の抱き合っている二人の姿は何かが『違って』感じられた

暫くして何も言わずにゆっくりと道重が優しく亀井を離して高橋を見た
道重から離れた亀井は何も言わずにゆっくりと高橋の傍へと戻る

「サユ、無事でよかったやよ!!帰ろう、リゾナントへ」
高橋はそう言って道重に手を差し出した

その手を見て道重は手を握ろうともせず首を振った
ゆっくりとベッドに腰掛け直して艶のあるその黒髪を上から下までさっと手串をかけた

道重は亀井、久住、光井の位置を確認して最後にその大きな瞳で高橋を捉え、にやりと笑った

「帰りませんよ。それに、申し訳ありませんけど、私、


 さゆみではありませんから」


「え?さ、さえみさん?」
「そうですよ、高橋さん、私、さえみですよ」

175名無しリゾナント:2011/07/22(金) 22:23:14
道重『さえみ』はそう言ってベッドから立ち上がり、小さく背伸びをした
「う〜ん、少し寝すぎましたかね?あちらこちら少し痛いですね」
「そ、そんなことよりさえみさん『帰らない』ってどういうことなんですか!?」
高橋の後ろから久住が甲高い声で尋ねた

「あら、小春ちゃん、何言っているの?そのままの意味よ」
丁寧な言葉使いがますますさえみを不気味に感じさせる
「もう、私はさゆみをあなた達と一緒の場所に帰す気はありませんので」

「それはあかんと思いますよ!愛佳達が良くても道重さゆみさんの家族とかは」
「私はさゆみの姉ですから、大丈夫です、それに私がいればさゆみは寂しくないんですよ
 ね、そうよね、さゆみ」
さえみは微笑んだ

「・・・さえみさん、落ちついて話を聴いてくれます?なんでですか?」
高橋が少しずつさえみに近づきながら問いかける
「そうですね、以前、私が皆さんに頼んだこと覚えていますか?」
「それは『私のさゆみを危険な目にあわせないようにしっかりと見ていてください』のことかな?」
高橋がまた一歩さえみに近づいた
「その通りです。さえみはそこにいる子達ほどではないかもしれませんがか弱いんです
 運動も苦手ですし、体力もあるほうではありません
 にもかかわらずあなた方ときたら・・・」
さえみの肩が少し震えている
「新垣さんを救いに孤島へ行き、ダークネスと何度も戦って、戦って…何度も私を呼びだして
 今回だって高橋さん、あなたに頼んだ翌日にさゆみは拉致された!!」
さえみの口調が少しずつ荒荒しくなってきた

「私はね・・・皆さんとさゆみが出会うまではずっと長い間眠っていた存在です
 それが出てきたということは、どういうことを意味するか?
 さゆみが危ない目に会うことが増えた、実際に命の危険にさらされた、そういうことです。
 ああ、可愛そうなさゆみ、お姉ちゃんしかあなたを守れないのね、結局は」


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