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SSスレ

87F猿:2004/06/27(日) 15:42 ID:qUq6iUEM
自分に向けられる理不尽な期待、誰も助けてくれようとはしない。
あの人たちなら助けてくれる?自衛隊なら・・・。
淡い期待もあった。


どこの組織も変わらないのだろうか?
俺を将来の幕僚として期待しているのか、俺はどこへいってもお客様扱い。
直属の部下という建前まで使って護衛がそばについている。

88F猿:2004/06/27(日) 15:43 ID:qUq6iUEM
そして俺は今、紅い月を眺めている。
ここがどこなのか誰にもわからない。
ただ分かることがある。
ここなら俺は、俺でいられる。
生きるか死ぬか、その境界線でなら。

俺の名は青島、青島秀司。
俺は64式7.62mm自動小銃を敵へと向けた。

89F猿:2004/06/27(日) 15:45 ID:qUq6iUEM
途中で書き込めなくなったんで、間が開いちゃいました。

これは今書いてる奴の一番最初に書いた奴なんで、
今の話とちょっと矛盾してるところもあるんですが投下強行。

90名無し三等兵@F世界:2004/06/27(日) 21:11 ID:qUq6iUEM
防衛大学に入ったのは学費を払う余裕が無いからでもあった。
準国家公務員として給料が貰えるここしか選択肢が無かったのだ。

85と86の間にこれ入れといてください。

91S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/06/27(日) 21:31 ID:LgjpIS.M
初期設定からすると、青島は「やばいことを考えつく嫌参謀」系の
キャラですかね?政治的に配慮され、それでいて一発逆転な案が
出てきそうな危なさ。

92F猿:2004/06/28(月) 19:03 ID:qUq6iUEM
青島は初期設定よりかなり明るく前向きになってます。
最初は善悪を考えなければ最良の手段をためらい無く実行していくキャラのつもりだったんですが。

さすがにそれが主人公はまずいだろう、と。

93F猿:2004/06/30(水) 19:55 ID:qUq6iUEM
レッツ投下。

94F猿:2004/06/30(水) 19:55 ID:qUq6iUEM
「木造船・・・?」
「はい、おそらく木造船団と思われます。技術レベルは13〜15世紀、形状、大きさから排水量は50トン前後かと。」
観測員の言葉に狩野は又起き始めた頭痛に頭を抑えながら、いい加減これは現実なんだと自分に言い聞かせた。
「何隻だ?」
「・・・4隻、ですねまあ標準な数でしょうか。この距離からでは分かりませんが、武装もしているのではないでしょうか。」
狩野はいたって冷静な観測員をすこし奇異の目で見た。もしかしたらとっくのとうに慣れきっているのかもしれないが。
「宮野副長、どう思う?」
「は。なんにせよ、接触をとってみるべきだと思われますが。」
まあ、やれることはそれしかないのだ。情報収集も任務の一つとなっているし、あの少女と関係のある船かもしれない。
「向こうが敵意を示さないことを祈るばかりだな・・・。」

95F猿:2004/06/30(水) 19:56 ID:qUq6iUEM
「司令、漂流者の女性を連れてきました。」
「ああ、ご苦労。」
「・・・ほぅ。」
誰とも無く簡単のため息が漏れる。それだけこの少女は美しかった。
特に女性を見ること自体ほとんど無いこの状況では。数人女性自衛官がいないことも無いのだが、
それは少々女性としては・・・、いや、止めておこう。

狩野は目の前に立つ少女を眺めた。
流れる水のような金の髪に白い肌、碧の瞳、顔の作りはまるで神が全力で作り上げた石造のように端整だった。
どちらかと言うと顔のつくりは色素に反してモンゴロイド系のようだ。
そして嫌でも目に付くその長い耳がその少女が自分達とは違う存在であることをはっきりと示していた。
見た目では18かそこら。
病人服では少々分かりにくかったが胸の辺りの膨らみははっきりと女性のものであった。

外見としてはこのくらいだろうか。

96F猿:2004/06/30(水) 19:56 ID:qUq6iUEM
医務室から連れていかれた所は「カンキョウ」というところだった。
船長室の様な物だろうか。しかしそれにしてもここは広い、彼らは船だというが絶対に嘘だろう。
そこに居たのはオークのような男、そしてそれの隣に座っている大人しそうな小柄な老人だった。
オークのような男がきっと艦長で、老人のほうは執事だろうか。
しかし、艦長にしてはずいぶんと普通の服を着ている。
様子からして彼らは軍人らしいがそれにしては誇りを示す勲章も、序列を表すマントも付けては居ない。

「どうも、私がこの船の艦長、そしてこの艦隊の司令官の狩野海将補です。」
最初に口を開いたのは老人のほうであった。・・・って艦長!?
「は、はぁ・・・。」
この上なく間抜けな声が出てしまう。本当にこのひ弱そうな男が?さすがに疑ってしまう。
「・・・どうしました?」
「い、いえ!私はアジェント王国魔術仕官、セフェティナ・バロウです。お目にかかれて光栄です、狩野閣下。」
とりあえず知っている限りの礼を尽くして対応する。
こんなことなら士官学校でもっと礼儀の授業を聞いておくべきだったと深く後悔するがそんなことを言ってもしょうがない。
「どうも救助いただき有難うございました。」
「いえ、それが自衛隊の任務ですから。」
ジエイタイとはなんなのか、気になるが聞くのも無礼かもしれず、うかつな事はしゃべれなかった。

97F猿:2004/06/30(水) 19:56 ID:qUq6iUEM
しかし、この船は一体何なのか?
今まで召還されて来た島々はほとんど文明といった文明も持っておらずせいぜい弓矢で襲い掛かってくる程度。
しかし今自分の目の前に居る彼らは違う。アジェントの船の何倍もの大きさの船を持ち、トイレ、ベッドなど高度な文明が発達している。
特にベッドに掛けられていた布は今までに無い手触りと美しい光沢を持っていた。
もしこれが国内に流入したら信じられないほどの高値で売れるだろう。
特に驚いたのは鉄をふんだんに使用していること。
鉄はマナを遮る性質を持つのでアジェントではあまり使われていないのだが、この船は良く見ると鉄そのもので出来ているではないか。
魔法も使わず何故沈まないのか、なぜ魔法も無いのにこれほどの文明を持つのか。

なによりもアジェントはこんな船を大量に持つ国にもうすぐ攻め込むのだ。

いくら魔法があるとはいえ、魔法はそこまで万能ではない、魔法に精通するものほどそのことを良く知っている、
逆に知らないものほど魔法の力を過信しているのだ、あのジファンのように。
もし攻め込もうものなら勝敗は目に見えている。
背筋に冷たいものが走った。脂汗が流れるのが自分でも分かった。

98F猿:2004/06/30(水) 19:57 ID:qUq6iUEM
相手はひどく緊張している様子だった。
無理も無い、まったく知らない軍人達に囲まれているのだ。しかしそうしてばかりいる訳にもいかない。
「それで、まず聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」
「は、はい!」
飛び上がるような声を出す少女。
なぜか出会ったばかりの時の妻を思い出してしまった。
こんな風に可愛らしく初々しかったのは始めの一週間だけ、すぐに自分を尻に敷いてしまった人だったが、元気だろうか?

「まず、我々は日本国、という国に属しています。日本国をご存知ですか?」
「ニホンコク・・・?すみませんが知りません。」
少女は首をかしげる。一筋の期待はあったのだが、予想通りの答えであった。
本当はこれから日本の状況を事細かに説明したいところだが、この少女の国が敵に回る可能性もある為、そううかつな行動は出来ない。
さらにもう三十分もしないうちに未確認木造船団とぶつかるだろう。あまり時間も無い。

「詳しい説明は後でしますが、今この船の進路上に船団があるのです。心当たりはありませんか?」
少女はしばらく考え込んだ後、少し目を背けて言った。
「・・・あります。」

99F猿:2004/06/30(水) 19:57 ID:qUq6iUEM
少女からあの船団に関する全ての事情――自分がつき落とされた可能性がある――も含めて、を聞いた時には、
未確認船団はあと、10分という距離に迫っていた。

100F猿:2004/06/30(水) 19:58 ID:qUq6iUEM
投下終了!
ご意見ご感想お待ちしております。

101名無し三等兵@F世界:2004/06/30(水) 20:21 ID:Gu0Gep4w
Good Job
ワクワク

102名無し三等兵@F世界:2004/06/30(水) 21:47 ID:6DkgH/I6
日本人がアジェントの奴隷制度を見て自分達も下手をすればその中に入るかもしれなかったと知ればバルト帝国を同盟を結ぶかもしれない・・・。
規模は違えど同じ機械を使っている国家だし、ともかく続編の投下を期待しています。

103S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/06/30(水) 22:51 ID:LgjpIS.M
鉄が魔法遮断物質と言うことは、少なくとも高機動車に籠もっていれば
幻惑や精神介入なんかは喰らわない、ということですか。
魔法の巻き起こす物理現象までは止まらないでしょうけど。

そうなってくると、幌トラックや随伴歩兵が一番危険か・・・

アジェンド艦隊は、風を無視して突っ走る船をどう叩くのか?
風の精霊で帆船コントロール?海戦に期待しつつ待っております。

104名無し三等兵@F世界:2004/07/01(木) 23:04 ID:.DRH/B7E
しかしこんごうの搭載兵器では何使っても相手が沈みそうですな
自衛隊の駆け引きに期待

105F猿:2004/07/03(土) 20:18 ID:qUq6iUEM
投下、行きまーす!

106F猿:2004/07/03(土) 20:19 ID:qUq6iUEM
「怪我人だ!早く医務室へ!」
何でこんなことになってしまったのか。
俺の手は血で真っ赤に染まっていた。目の前の部下の身体を今さっきまで流れていた血で。
かすかに震えているこの手。
なぜ、あんなことをしたのか。
目の前の船から真っ赤な炎の玉がこちらに飛び込んでくる。

「魔法」
イッタイナンナンダコレハ。

俺は慌てて身を伏せ、甲板で激しい火柱が巻き起こった。

107F猿:2004/07/03(土) 20:19 ID:qUq6iUEM
「つまり、あの船はアジェント王国所有の・・・」
「はい、奴隷商船です。といっても実際はラーヴィナ候が管理されてますが。」
思わず宮野と顔を見合わせる、まさか奴隷を国家が売買しているとは。
確かに木造船などの文明レベルを見れば理性では分からなくも無いのだが。
「どうしました?別に何の変哲も無い奴隷商船です。多少、いや、かなりの武装が施されていますが。」
「いや、そうではなくてね・・・。」

「私達の国では奴隷は認められていないのですよ。」

「え?」
狩野の言葉にセフェティナは目を丸くする。
「じゃあどうやって国家が成り立っているのですか?」
「私達を含め全ての国民が平等に人権を持ち、平等に勤労の義務を負っています。
そして彼らの納める税によって国が運営されているのです。」

108F猿:2004/07/03(土) 20:20 ID:qUq6iUEM
「・・・よく分からないのですが、国民全てが平等なんて・・・きっと素晴らしい王によって治められているのでしょうね。」

「いやいや、我が国の王・・・天皇と言いますが、は政治に関わる事を禁止されているのですよ。」
「は?」
間の抜けた声を出すセフェティナを狩野は娘を見るような目で見つめた。
彼女は元気だろうか、大学生活を謳歌していて最近会う暇も無かったが、もし帰ったらこの話をたっぷりと聞かせてやろう。
そう思う。

「さ、この話は又今度にしましょう。そろそろこちらも交渉の準備に入らなければなりません。
あなたも漂流している時に来ていた服を乾かしておいたので着替えて下さい。」
「あ、はい。わかりました。」
隊員に誘導されていくセフェティナの背中を見ながら狩野は基地と通信をつなげた。

109F猿:2004/07/03(土) 20:24 ID:qUq6iUEM
「・・・今、なんとおっしゃいました?」
「交渉の正使として福地殿を任命する、と言ったのだ。…気持ちは分かる。奴の傲慢さは有名だからな。だが、我慢してくれ。」
狩野は先ほどの暖かい空気から突然氷の張った湖に叩き落された気分であった。
「…はい、それがご命令ならば従います。」
「すまないな、軍人が政治的交渉をするわけにはいかないのだよ、この国ではな・・・。」

狩野が振り返るとやっと健康状態も回復しかと思われる福地が立っていた。
通信を福地に渡す。
「・・・ウム、どうした?・・・ああ、そうか。ああ、任せておけ。」
そう短く済ますと福地は通信を切った。

「狩野君はもう聞いているようだな、まあ、そういうことだ。補佐を頼むよ、…まぁ、いらないとは思うがね。」

いつもの人を見下した、嫌味ったらしい顔でこちらを見る。
もし自衛隊員ならば宮野から鉄拳が飛んでいるところなのだが、そういうわけには行かない。相手は文民様である。
「どうした、不満そうな顔をしているが?・・・軍人などに外交を任せられるわけが無いだろう、少なくとも君よりはこの仕事に精通しているつもりだが?」
「はい。」
狩野は答え、不満を顔にあらわにしていた隊員をチラリと見た。隊員はあわてて顔を取り繕う。狩野は申し訳なさそうに笑った。

「それで、遭遇は何分後だ?」
「はい、早くて5分前後と思われます。」
「そうか、では早めに段取りを決めておくとするかな。」

仮にも補佐役である自分に相談もせずにさっさと行ってしまう福地を狩野は不安な面持ちで見つめていた。

110F猿:2004/07/03(土) 20:25 ID:qUq6iUEM
投下終了です。間があいた上短くてすみません。
次回は来週の土曜以降かも・・・。その代わり戦闘一気に終わらせます。

ご意見、ご感想お待ちしています。

111_:2004/07/03(土) 21:43 ID:oX1OywGc
期待して待ってます。

112F猿:2004/07/09(金) 17:54 ID:qUq6iUEM
あああああ!
時間が無い!
レポートにテスト多すぎる!
福地がうまく動かせない!青島ただの嫌キャラ化してる!佐藤影薄い!種2って何だ!
魔法の設定がうまく生かせない!

っと、取り乱してすみません。
てなわけで明日の夜投下したいと思います。

113名無し三等兵@F世界:2004/07/09(金) 22:03 ID:XFwU2gsc
お待ちしております
でも、無理は禁物ですぞ

114F猿:2004/07/11(日) 14:30 ID:qUq6iUEM
遅れてすみません、投下します。

115F猿:2004/07/11(日) 14:30 ID:qUq6iUEM
初対面の時、何故こんな任務を自分が受けたのか分からなかった。
部下兼護衛。
「青島海尉の身に危険が迫った時は、左官よりも優先してその安全を確保しろ」
噂には聞いたことがある。
「世界各国の首脳、官僚と渡り合えるだけの幹部を養成する計画。」
青島は本人には秘密で行われるらしいこの計画の被験者らしかった。

将来の幹部。どんな若者か楽しみにしていたが、
目の前に居たのはふざけた軟派な男、佐藤―――実際はそうでもなかったが、と
それに舐められた口を聞かれてもへらへらと笑っているどこか陰のある男、青島だった。
「こんな人間のために命を賭けろと?」
俺はそう思った。
しかし俺は自衛官、下された命令はなんであろうが必ず遂行する。

116F猿:2004/07/11(日) 14:31 ID:qUq6iUEM
「我々に交戦の意思はなーーーい!」
「漂流者を一人保護しているぞーーーお!!」
すさまじい音量で放送が流されていた。
「な、なんだこれは?」
天野は耳を押さえながらうめいた。
ビリビリとあたりが音によって震える。
「な、なんでも――――これから接触する船に――呼びかけているらしいです―――」
佐藤の声も半分近くかき消されてしまう。
「なら――無線を使えばいいんじゃ――ないのか―――」
「それが――通じないら――しいんです――」

「こーしょーをもちたーい!」
放送も半ばやけくそに近くなっているようだった。

「それにしてもうちの隊長上によばれてったけどどうしたんだろうなぁ?」
隊員の一人がこれ又耳を塞ぎながら呟いた。

117F猿:2004/07/11(日) 14:32 ID:qUq6iUEM
「あの・・・」
セフェティナがおずおずと狩野に話しかける。
この放送が始まった時はずいぶんと、まるで子供の様に驚いていたがだいぶ落ち着いたようだ。
「なんですかセフェティナさん、すいません。少し騒がしくて。」
「いえ、けれどこれは向こうの船に呼びかけるためにしているのですよね。」
「はい。」
「なら、私に通信手段があるのですが・・・。」
艦橋に死にすらも似た沈黙が流れた。
放送がとめられたのはそれから30秒と経たなかった。

118F猿:2004/07/11(日) 14:32 ID:qUq6iUEM
ジファンは一人でほくそ笑んでいた。
うるさかったエルフの女も始末した。
後は奴隷達を収穫して持っていくのみ。多少の横領も許されている。
「クク・・・。」
ニヤニヤしながらジファンは自分の右手に付けられた篭手を見た。
制御石が組み込まれた篭手。魔法国家アジェント隆盛の象徴。
「そういえばこれを作ったのがセフェティナだったな。戻ったら新しいのを作らせるか。」
ジファンの足元にはセフェティナが安否を気にしていた女性奴隷の冷たくなった身体が倒れていた。
それを無造作に蹴飛ばしジファンはすくりと立ち上がった時、一人の船員が部屋に慌てて飛び込んできた。
「た、大変です!ジファン様!」
「どうした?」
「そ、それが・・・、前方に鳴き声を上げる船のようなものが。」
「鳴き声・・・?鳴き声をあげる船があるわけないだろう。」

・・・
あった。
甲板に出て、望遠鏡で見ると、紛れも無く船の形をしたものが、ここからでは聞き取りにくいが鳴き声をあげていた。しかし、マストも無い、あんなにも巨大。船とは言いがたい。
「な、なんだ。あれは・・・?海竜の一種か?とりあえず総員戦闘配置。特に魔術師隊は巨大生物相手の海戦の用意をしろ。」
ジファンはそれから呆然と目の前のモノを見た。

119F猿:2004/07/11(日) 14:34 ID:qUq6iUEM
セフェティナは右手を自分の顔の前に持ってきて、篭手を見た。
「(あの篭手・・・、救助隊員からどんなことをしても外れなかった、と聞くが。)セフェティナさん、我々はこの国のことには疎いのですがその篭手が何か通信に関係が?」
「あ、・・・はい。」
そうだ、そういえばこの人たちは魔法のことを知らないのだった。
ジファンの持っている篭手は自分が作ったもの。篭手の制御石の波長、というか特徴を知っておけば、普通は微弱なマナの振動を強めて意思を伝えることが可能なのだ。
魔術師はこれを共振通信と読んでいる。
といってもごくごく近い距離でしか出来ないが、相手の船が視認可能なこの距離なら十分だろう。
・・・アルヴァール魔術大臣だけは圧倒的な魔力でマナを振動させ、城から国中の魔術師に命令を伝えることが出来る。と聞いたことがあるが、どうせ眉唾物の話だろう。
だいたいいつも彼はエスフィリーナ様に仕事を押し付けてあっちへふらふらこっちへふらふら・・・。
「どうしました?」
「あ、すみません!・・・は、はい。詳細は省きますがこの篭手でわずかですが意思の疎通が出来るのです。」


キィン!!
「!?」
ジファンは突然頭の中が震えるような感覚に陥って、慌てて辺りを見回した。
誰も居ない。
・・・キコエ……マス・・・カ・・・
「声?・・・共振かっ!?馬鹿なっ!」
もう、自分に共振通信を繋げられる人物はこの周辺には居ない。
奴はもう今頃海の藻屑のはず。
・・・オウトウ・・・オネガ・・・イシマス

といってもここで通信をしないわけにはいかない、奴を生かしてアジェントに返せば、
良くて追放刑、最悪「破門」奴が生きている可能性がある以上、必ず見つけ出して消さねばならない。

120F猿:2004/07/11(日) 14:34 ID:qUq6iUEM
―――聞こえている、無事だったようだなセフェティナ。お前が海から落ちたと聞いて、エスフィリーナ様になんと報告すればいいか、不幸な事故だったな。―――
―――事故っ!?―――
向こうの気持ちが手に取るように分かる。共振通信は精神に依存する魔力でマナを動かす物だから具体的な言葉よりも相手の精神状態のほうがよりクリアーに伝わるのだ。
―――それより・・・今、船が見えますか?―――
―――船のようなものなら見えないことも無いが・・・。―――
―――私は今、その船に保護されているんです。―――
―――本当にそれは船なのか?―――
―――はい、現在私が乗っていることが何よりの証拠です。―――
どこの船かは知らないが余計なことをしてくれる。
そう、アレが船なら相手は何者なのか。あんな船アジェントには存在しない。
―――相手は何者だ?もし、帝国ならば今頃お前は八つ裂きにされているはずだが―――
―――はい、それが良く分からないのですが・・・、おそらく召還された人々かと―――
―――なに?―――
・・・そういえば、今日は召喚の儀式の次の日だったか?
しかし奴隷を召喚するとは王家やアシェナの連中もえぐい事を考える。
特にアシェナの連中は「アシェナの神の庇護を受けられない哀れな異世界人達を救い出す」
などという綺麗ごとを言って自己正当化しているが、自分達の奴隷欲しさというのは火を見るより明らかだ。

121F猿:2004/07/11(日) 14:35 ID:qUq6iUEM
―――しかし、そのドブネズミ共があんな船を持っているのか?―――
―――ドブネズミ、なんて・・・。―――
―――そうだろう、奴隷になるしか道の無い奴ら―――
―――彼らの持っている力は侮れないものがあります。くれぐれも刺激するようなことは―――
―――魔法も無い奴らが我々に傷を付けると?それで、身柄を引き取ってやる、どうせ交渉しろというのだろう?大体の異世界人はそうだ。井の中の蛙だからか?―――
―――有難うございます。交渉場所は―――
―――こちらの船でだ。それ以外は認めん。―――
―――はい。―――・・・ブツッ。
通信は切られたようだった。
ジファンは篭手をはめなおした。
「もう一度、これにお世話になる必要があるようだな?セフェティナ。」

122F猿:2004/07/11(日) 14:36 ID:qUq6iUEM
とりあえず投下終了。
レポートやテストがあるし、大体続きも書き上がってるんで、次は早いと思います。

123名無し三等兵@F世界:2004/07/11(日) 19:49 ID:Gu0Gep4w


124_:2004/07/11(日) 20:15 ID:oX1OywGc
奇態age

125S・F </b><font color=#FF0000>(g/XuFmDQ)</font><b>:2004/07/11(日) 22:28 ID:LgjpIS.M
>>122乙です。しっかし籠手でのやりとりで心が見えるとは、ジファンが知らない
のかセフェティナがお目付役だからか・・・どっちもですか。

精神の伝達レベルは、両者の魔法力の差に依存するのですかねえ?
この辺の状況によっては、通信の序列やらいろいろ有りそうですね。

126F猿:2004/07/11(日) 23:20 ID:qUq6iUEM
いえ、あそこで気持ちが分かる、と言ったのはジファンがセフェティナの気持ちを読み取ったんです。
それで「ははん、動揺してやがるなこの小娘が。」といった感じです。
魔力に差があったとしてもセフェティナの精神的均衡が崩れればジファンにも読み取れてしまうわけで。
考えていることが見える、と言うより喜怒哀楽が分かるという程度です。
あと、―――←って言うのは通信会話用のカギ括弧です。
分かりにくくてすみません。

あと、一人重要人物が名前だけですけど登場しているので覚えていてくれるとずっと後に楽しめるかも。

127S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/07/12(月) 09:25 ID:LgjpIS.M
遅レスですが、ジファンの方が読んでましたか。いや、セフェティナの台詞
直後だったものでつい・・・カギカッコはちゃんと分かりました。

喜怒哀楽って事は、電話で言う声音とかそういう感じですか?まあ精神に直通
している以上、いわゆる「声の調子」なんてのは無いですしね。

重要人物が一人って事は、幾つか出てきた他の名は?って
それも後の楽しみですね。

128F猿:2004/07/12(月) 22:12 ID:qUq6iUEM
ただいまから投下します。
3・・・2・・・1・・・

129名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:13 ID:qUq6iUEM
「ええっ!?じ、自分が、ですか?」
青島は狩野、福地、宮野という艦隊首脳のまえに呼び出されていた。
「ああ、君の隊に私と福地さんの二人を護衛してもらうこととなった。本当は我々の船で交渉を行いたかったんだが先方が絶対に自分達の船で、と言い張るらしい。」
「狩野君!」
青島が何かを言うより早く福地が怒鳴った。
「何を考えているか分からん未知の連中との交渉に行くのに何故こんな若造を!」
「彼は優秀な指揮官ですそれは保障いたします。それに・・・。」
上からの「青島に少しでも多くの現場を経験させろ」などという命令が無ければ私も彼を選んだりはしない。そう狩野は言いかけてやめた。
「それに?」
「いえ、なんでもありません。」
未だ不満そうな福地から狩野に向き直る。
「ということだ、青島君。君には期待している。大丈夫、そんな危険な任務ではない。」
「・・・はっ!了解いたしました。」
青島はどこかやるせない気持ちを抱きながらも敬礼をした。

130名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:14 ID:qUq6iUEM
「ということになった。」
こんごう甲板の空いたスペースに40名近くの小隊員が並んでいる。
「『ということになった』じゃわかりませんよ隊長。」
「読者の方々は分かってくれているだろうからいいんだ。」
「誰ですか読者って・・・。」
緊張した空気が一瞬や和らぐ、しかし青島が真剣な顔に戻るとまたすぐに空気は張り詰めた。
「我々の小隊で司令一行の護衛をすることになった。といっても先方の船の大きさから考えると行けるのは我々の中から行けるのはせいぜいヘリ一台分だがな。よし、今から行くものを読み上げる。天野!」
「は!」
まず名前を呼ばれた天野が一歩前へ出る。続けて呼ばれた者もそれに従った。
「・・・佐藤!」
「はっ!」
最後を佐藤で締めくくると青島は目の前に並ぶ5人の部下を見据えた。
青島自身を含め皆、緊張した面持ちで立っている。
「これは我々の艦隊だけではない、今後の日本の将来すら占う重要な交渉だ、それだけに護衛も重要な任務である。各自、最善の行動を期待する!」

131名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:14 ID:qUq6iUEM

「はっ!」
青島の顔はしっかりと指揮官のそれになっていた。
「(この男・・・、思ったよりも見込みがあるようだな。)」
天野は守るべき対象が二つあるこの任務に対し、微かな喜びを抱き始めていた。

132名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:15 ID:qUq6iUEM
「うひゃあああっ!」
セフェティナが突然尻餅をつく。
「どうしました?」
「・・・・なに、何あの化け物?」
セフェティナが指をさす先には風を巻き起こしながらたたずむヘリコプター(SH-60J哨戒ヘリ)があった。
「ああ、あれはヘリコプターと言って、あれで空を飛んで先方の船に行くんですよ。」
佐藤がここぞとばかりに紳士を装ってセフェティナに話しかける。
「空を・・・?信じられない・・・。」
「(こっちからしたら篭手で通信が出来るほうがよっぽど信じられないんだが)」
セフェティナは未だに立ち上がれないままヘリをぼんやりと眺めていた。

133名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:16 ID:qUq6iUEM
「福地さん、すみませんね。本当ならAS332Lでお連れしたいのですが。」
「フン、軍人にそんな気の効いたものは期待していない。」
ズンズンと効果音を立てそうな調子でヘリに乗り込んでいく福地、
「宮野君、後は頼むよ。」
「は。」
そして狩野は福地に続いて乗り込んでいった。
「さあ、セフェティナさんも早く。」
未だ躊躇するセフェティナに対し佐藤は手を握って誘導しようとした、が。
「ひゃあああっ!」
セフェティナは慌てて手を振り払い飛びのく。

そんなこと佐藤は知る由も無かったが、元来エルフと言うものは男性も非常に女性的な、というより両性外見が変わらないのだ。そのために森で純粋培養されてきた彼女にとって人間の男と言うものは彼女を非常に戸惑わせるものであった。
(佐藤はおしおきとして天野にプロレス技を食らったらしい。)
その後なんとかしてなだめてセフェティナをヘリに乗り込ませ、狩野一行はジファンの船へと飛び立っていった。

134名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:16 ID:qUq6iUEM
「うおおっ!なんだあれは!?」
「か、神の使いか!?悪魔の使いか!?」
「落ち着け!ジファン様によるとアレが交渉相手らしい!」

バリバリバリバリバリバリ!
激しい音を立てて二台のヘリが甲板へと舞い降りる。
ヘリから降りた狩野一行はジファンと向かい合った。
一応胸に手を当てている(こちらの世界の敬礼の様な物らしい。)とは言え、
周りからは奇異、好奇、恐怖、様々な感情の視線がこちらに向けられている。
しかしその中に「侮蔑」の感情が含まれているのは何故だろうか?
艦長レベルの人間と交渉する相手はたとえ敵であっても尊敬してしかるべきなのだが。

135名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:17 ID:qUq6iUEM
「やあ、良くぞいらっしゃいました。この船の船長を勤めさせていただいておりますラーヴィナ候ランヴァーナ家の執事、ジファンと申します。
このたびはセフェティナ=バロウの救助をしてくださって、心から御礼申し上げます。」
「こちらこそ、私は経済産業省エネルギー庁福地と申します。」
福地が狩野たちに対する態度とはうって変わって満面の笑顔で握手を求める、そしてジファンもそれに答えた。
「私は日本国海上自衛隊護衛艦隊司令、狩野と申します。」
「さあ、このようなところで立ち話もなんですから、船長室へどうぞ。」
日本人達の聞きなれぬ肩書きに戸惑うことも無くジファンはニコリと笑うと狩野たちを手招きした。
しかし狩野はその顔に一瞬浮んで消えた軽蔑の表情を見逃しはしなかった。
「(この男、見かけほど好人物でもお人よしでもなさそうだな。)」
狩野は自らの腰にささっているSIG9mm拳銃を確認した。
「よし、それじゃあ佐藤と沢松、村田の三人はここでヘリの警備をしていてくれ。」
「はっ!」
「(・・・隊長)」
「(ああわかっている、あの男だけじゃない、この船全体、臭いな。)」
狩野だけではなく、青島と天野もまた、この不自然さを感じ取っていた。

136名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 22:18 ID:qUq6iUEM
展開が遅くなってますが投下終了です。
ご意見、ご感想、心からお待ちしております。

137名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 23:25 ID:MTBbKnPA
イイヨイイヨ〜
づづきを楽しみに待ってますよ。

138名無し三等兵@F世界:2004/07/12(月) 23:42 ID:MgC.CLEA
続きマダー?(チンチン)
って早すぎですか
期待age

139S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/07/13(火) 00:24 ID:LgjpIS.M
は、早い!うーむ。
しかし帆を畳んでいるとはいえ、帆船の甲板にヘリってのはいい絵ですなw
しかも二台・・・上から見ると、変なブレードが生えた船に。天界船?

期待しつつ、佐藤はなにを喰らったのか考えてみます。
卍固めとかコブラツイストだろーか。

140名無し三等兵@F世界:2004/07/13(火) 15:06 ID:z6YPz/so
続きが楽しみです。
福地はここで現実を理解できずに殺されそうな予感・・・。
それとバルト帝国はいつごろ出てくるのでしょうか?

141F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:09 ID:qUq6iUEM
皆様ご意見、ご感想ありがとうございます。やる気の源です。

>140さん、バルト帝国ですか、もちろん出しますが、
時期を言うだけでもかなりのネタバレになっちゃうので勘弁してください。

それでは投下行きます。

142F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:10 ID:qUq6iUEM
天使を信じていた。いや、今も信じている。
アシェナの神は言った。「世が乱れ、罪無き者が死に、罪深き者が生きる世となった時、私は我が僕を遣わし、罪深きものを滅し罪無き者を救うだろう。」と。
今がその時ではないのか、罪の無い異世界人が無理やり呼び出され、虐待される。
アシェナの神に仕えるはずの我々はそうして暴利をむさぼる。
私は天使が来る、来てくれると信じていた。

143F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:10 ID:qUq6iUEM
「どうぞ、こちらへ。」
幾つもの脇道を持つ少々長い廊下を通り、通された先は船長室であった。
日本側全員は息を飲んだ、床一面に張られた金で縁取りされた紅い絨毯、壁に張られている白く美しい模様を持つ壁紙、棚にはおそらく酒と思われるボトルが所狭しと置かれていて、その棚の上には美しい女神像がおかれていた。まるで王侯貴族の部屋である。
「見事な絵だ・・・。」
そして狩野の目を一番引いたのは美しく巨大な油絵だった。この世界の宗教画だろうか、神聖な雰囲気の漂う男性(神だろうか?)が幾人もの光を放つ槍を持った騎士達(天使?)を従えていた。しかし、これだけの部屋をなぜ一船の船長程度が持てるのだろうか。なにか財源があるのだろうか?
「どうしました?お座り下さい。」
「あ、ああ。」
ジファン殿と机をはさんで福地と共に豪華な細工のされた椅子に座る。
座り心地はあまり良くは無かった。
まあ、中世レベルの技術をこちらの技術と比べても仕方ないが。

144F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:10 ID:qUq6iUEM
「どうぞ。」
「あ、結構です。」
「うむ、頂こうか。」
美しい女性が先ほどの棚から酒のボトルを取り出し、こちらに酒を勧める。
福地は受けたようだが、こちらは万一に備えて断った。
しかしこの女性、確かに美しいことは美しいのだが、どこか悲しげで、・・・体中に痛々しい赤い傷跡がある。これはなにかで叩かれた跡・・・。鞭、だろうか。
「どうしました、その女が気に入りましたかな?よろしかったら差し上げてもかまいませんが。」
「いえいえ、まさか。」
「ほう、随分と太っ腹な船長様のようだ。」
福地の言葉でハッハッハとジファンと彼が笑い出す。しかし、ジファンは目が笑ってはいかった。

145F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:11 ID:qUq6iUEM
まず行われた事は情報交換であった。
当然である。日本側の至上命題は情報収集なのだから。
ジファンは少々焦っていた。
まず一つにセフェティナが生き延びたこと。これで奴は相当警戒するようになるだろう。
元々この船で一番の魔法の使い手なのだからあまり暴れさせることは出来ない。
そしてさらに大きな理由として、目の前の異世界人共の予想以上の文明レベルの高さであった、どうやっているのかは知らないが、やたらパリッとしている、黒い服(背広)
物腰の丁寧さ、キチンとした上下関係から言って教育も相当行き届いている。
そして何よりもあの魔法を使っているとしか思えない空を飛ぶ鉄の箱と巨大な船、いくらなんでも魔法を使って沈められないことは無いだろうが―――後に彼はこれが大きな誤算だったことを思い知る―――船員達が皆萎縮してしまっている。

146F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:13 ID:qUq6iUEM
「(私の使命は3つある、セフェティナの抹殺と、こやつらの言う「ニホン」の情報の収集及び奴らの船の奪取、そしてこの人間達の抹殺。そのためにはまずは快く迎えるフリをしなくてはならない。まあ所詮は魔法も使えぬ野蛮人、騙す事くらいわけも無いが)
それではお聞きしたいのだが、ニホン、と言う国は何処にあるのですかな?」
「はい、ユーラシア大陸の東の島国です。」
「ユーラシア大陸?どこでしょうか、そこは」
「・・・やはりお知りになりませんか。」
福地はため息をついた。
「実は我々はこの世界のものではないようなのです。」
「・・・やはり、そうですか。」
ジファンの「やはり」と言う言葉に福地は意外そうな顔をした。
「何か知っておられるので?」
「ええ、我が国、アジェント王国、と言いますが、は年に一度昼に出た月が黄金に輝く時に召還の儀式を行います。そして異世界の島々を呼び出すのです。」
「では!あなた達が我々を呼び出した!そういうことですか!」
福地が顔を真っ赤にしてガタンと立ち上がった。グラスが倒れ酒がこぼれる。
「はい、・・・遺憾ながらそういうことになりますな。」
「いったいなぜ・・・!そしてどうやって・・・!っ・・・ゴホゴホ!」
目の前の男達が魔法について知らないことを確認できた、ジファンはほくそえんだ。
「それではお話しましょう。」

147F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:13 ID:qUq6iUEM
ジファンはそれから一呼吸した。
「その前に一つ質問させてください。あなた達の乗る巨大な船と空を飛ぶ箱、あれらはどうやって動いているのですか?」
「あれは機械で動いているのですよ。」
咳き込む福地の変わりに狩野が答える。
「!」
「!」
ジファンの顔色が変わり青島と天野は64式自動小銃に手をやった。と同時にセフェティナも息を呑む、アシェナ教が禁止する機械に今まで乗っていたのだ。
「機械・・・ですか。つまりあなた方は帝国の仲間、ということですか?」
「帝国、とは?」
唇をふるわせながらジファンは首を横に振った。
「ご存知ありませんか、バルト帝国。機械文明を推進し、今我が国と対立している国です。
そして我が国アジェントの国教、アシェナ聖教は機械を禁止しているのですよ。」
「・・・そうですか。」
福地と狩野は思わず顔を見合わせた、国と深く結びついている宗教が機械を禁じていると言うことは完全な機械文明である日本とはあまり親密な関係は結べないと言うことなのだ。

148F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:13 ID:qUq6iUEM
「・・・おっと、といっても我々はあなた達と敵対するつもりはありませんよ。」
ジファンはニコリと笑い立ち上がって右手を差し出し握手を求めた。
福地と狩野も笑ってそれに答えようとする。
「司令、福地さん!危ない!」
猛烈に嫌な予感がしてセフェティナが叫んだ時、彼女の目の前を何かが通り過ぎた。
次の瞬間、船長室に血飛沫が舞った。

149F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/13(火) 23:14 ID:qUq6iUEM
いやな所で以下次回。すんません。
ご意見、ご感想お待ちしています。

150名無し三等兵@F世界:2004/07/14(水) 01:07 ID:Ew6Q62u2
次回戦闘の予感・・・
楽しみにしてます

151S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/07/14(水) 01:33 ID:LgjpIS.M
取り敢えずこれで、バルトとニホンがアジェンドと対立する構図が
できたわけですな。

さて次回は、血飛沫の舞う戦闘が!

152名無し三等兵@F世界:2004/07/14(水) 14:15 ID:NpTRDIPM
やはり日本は帝国側と組むんでしょうか

153F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/14(水) 22:04 ID:qUq6iUEM
すんません。魔法の設定に矛盾が生じたことを今更発見。
現在大幅書き直し中の為毎日更新は無理でした。

国家レベルの話はこの章が終わったら入ります。
どこがどう動くかは、プロットを一応組んであるので
期待・・・しないでお待ち下さい。

154名無し三等兵@F世界:2004/07/14(水) 22:15 ID:0F/hz0KI
明日には投下できますか?

155F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/14(水) 22:45 ID:qUq6iUEM
イエッサー、努力します。

156名無し三等兵@F世界:2004/07/15(木) 00:09 ID:0F/hz0KI
楽しみにしているので頑張ってください。
ただし矛盾しているようですがあまり無茶はしないようにお願いします。

157F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/15(木) 23:01 ID:qUq6iUEM
すいません。
リアルが忙しくて、ちょっと今日は無理・・・というか明日も無理かも・・・。

158名無し三等兵@F世界:2004/07/18(日) 22:02 ID:o69u.trA
矛盾点とは何だったんだろう?

159名無し三等兵@F世界:2004/07/19(月) 09:28 ID:LgjpIS.M
>>158魔法が通らない「鉄」製のはずの艦内で魔法の通信が出来たところですかね?
ガラスが透過できるなら、そこを通ったのかもしれませんが。

160F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:55 ID:qUq6iUEM
どうも、お久しぶりです。というかすみませんでした。
矛盾点、と言うのは今書いていたので出来てしまった物です。
どんなものかは恥ずかしいんで秘密。
ってな訳で投下、行きます!

161F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:56 ID:qUq6iUEM
青島は夢中になってジファンと狩野達の間へと飛び出していた。
自動小銃では間に合わない、と判断してのことである。
見えたのだ、ジファンの左手の中に幾つもの黒い釘のような物が浮いているのを。
「司令っ!」
ジファンが黒い釘のようなものを浮ばせる左手を下手投げの要領で振り上げようとした時には、青島はジファンと机越し、狩野の目の前へと移動していた。
「(間に合った!)」
そして青島はすぐ自分に降りかかるであろう激しい痛みを覚悟した。
そして青島の身体は真っ赤な血で染められた。
青島自身の血ではなく、天野の血によって。

162F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:56 ID:qUq6iUEM
くそっ、この坊やが!
天野は自分よりも早く飛び出していく青島を見てそう叫びたい気持ちでいっぱいになった。
確かにベテランである自分を上回る反応速度と上官のために命を捨てるその覚悟は素晴らしいものだ。
しかし、自分の体がどれだけ大切なものであるかを知らない以上、ヒヨッコなのだ。
このような仕事は自分や佐藤、そう下の仕事なのだ、青島のような将来の高級幹部の仕事ではない。
机を踏み台替わりにしてジファンに飛びつく、机の上のワイングラスが踏みつけられ粉々に砕け散る。
そして天野は腹部を何かがすり抜けたように感じた。
そして、激痛。
天野は自らの防弾チョッキ――チタン製防弾プレートで貫通力重視のライフルでもない限り防げると言う触れ込みのはずだったが。――
に三つ銃の跡のような丸い穴が開いているのを見て、倒れた。

163F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:57 ID:qUq6iUEM
天野を貫通し、背中から生えてくる「黒い釘」は青島の防弾チョッキの表面に当たって弾けて消えた。
「ばっ、バカな・・・。」
この呪文はあらゆるものを貫く、庇ったからと言って防げるものではない、のにもかかわらず傷を負ったのは飛び出てきた男一人。
「ええい、もう一度撃てば済むこと!」
ジファンが叫び指を鳴らす、すると後ろに侍っていた三人の男が青島たちの方を向き、ぶつぶつと何かを言いながら右手を前に出す、その手の中でまた「黒い釘」が形成されていく。
倒れ行く天野の後ろで呆然となった日本側一行、その中で唯一動いた人間が居た。
青島であった。

164F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:57 ID:qUq6iUEM
彼は本来ならば一番動揺していてもおかしくない位置であった。
しかも体中あちらこちらが血で染まっている。
しかしこれをキレた状態と呼ぶのだろうか、青島は恐るべき冷静さ、恐るべき速度で護身用の9mm拳銃を引き抜き、安全装置を外す、そして倒れる天野を支え、その身体を盾のようにして男の一人の肩に拳銃を向け、引き金を引いた。
ガンパウダーに火がつき、炸裂し、弾が、あらゆるものの命を問答無用で奪い取る死神が打ち出された。

165F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:58 ID:qUq6iUEM
男の一人、魔術師は篭手を構えた。
幸い敵は呆然としている、自らの精神力を媒体としてマナを手中にかき集め、圧縮する。
そしてそれは自分の魔法詠唱によって比類なき貫通力、殺傷力を持つ。
それを目の前に居る人間達、いや、エルフも一人居るが、の司令官らしき人間の心臓に狙いを定めて放つ。
今までそれで何人もの人間を殺してきたか、ジファンがこの地位に上り詰めるために、同じラーヴィナ候の部下を撃ち殺してきたこともあったが、皆例外なく倒れ伏した。
しかし、何かが破裂するような音がした、そう思った時には魔術師は肩に強烈な痛みを感じていた。
「がっ!…なんだ・・・熱・・・い・・・?」
と呟いた時には視界には天井しか映ってはいなかった。

166F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:58 ID:qUq6iUEM
ジファンの横を風が通り過ぎた。
「がっ!」
悲鳴と共に部下の一人が仰向けに床に倒れる。
振り向くまもなく又一人が足を何かで撃ちぬかれ倒れる。
目の前のひ弱そうな男が握る黒い鉄の塊から煙が出ているのが見える。
「新型の弓矢か!?」
そう叫ぶと同時に自らの命の危険を感じ取りジファンは横に跳び、非常で入り口に向かって走りだした。
「逃がすか。」
青島はいったんジファンに狙いを定めるが、すぐに我に帰って最後の魔術師へと銃を向けた。
魔術師の黒い釘がこちらに向けて放たれようとしている――反応が遅れた――青島は身を強張らせた。

167F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:59 ID:qUq6iUEM
ダァンッ!
手がはじけ飛ぶ、魔術師の腕が。肩から千切れた腕が地面に転がる。
青島が後ろを見ると部下の一人、出雲が64式自動小銃を構え、呆然とした顔で自らの煙を吹く銃を眺めていた。
「お、俺・・・は?」
「よくやった、出雲。天野の応急処置をしてやってくれ。」
呆然とする出雲の肩を青島はポンポンと叩いて、狩野たちのほうを向いた。



「ご無事でしたか?狩野司令、福地さん、セフェティナさん。」
「ああ、大丈夫だ・・・。ありがとう。」
狩野が未だにショック症状の福地の代わりに答える。
「今ならまだ、敵指揮官を潰せると思いますが。」
「いや、良い。怪我人の処置が先だ、船に戻る。それに我々は自衛隊、自分から攻めてはいけない。」
「は。」
青島は敬礼をすると天野の怪我の処置をおどおどとする出雲に代わりてきぱきとやっていく。

168F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 14:59 ID:qUq6iUEM
「天野・・・、大丈夫か?」
「隊長、心配・・・なさら・・・ないで下・・・さい。」
「何が・・・何が大丈夫なものか!」
突然叫びだす人間が居た、福地である。
「おい!ああいう人間を片っ端から殺すのがお前達の仕事だろう!なんだこのザマは!」
狩野に掴み掛からんばかりの勢いで攻め立てる。
狩野はその福地の襟をぐいと掴んだ・
「な、何をする・・・?」
「ここはもう戦場です、生き残りたければ軍人の指示に従ってください。」
「き、貴様らにそんな指揮権は・・・。」
「それに、まだ正体も知れぬ相手の握手にニコニコと無用心に応じたのはだれでしょうか?」
「ぐっ・・・。」
狩野は襟を放した時、青島に通信が入った。

169F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 15:00 ID:qUq6iUEM
ヘリ防衛部隊からであった。
「どうした佐藤?」
「た、大変です!船員達が突然矢や剣で我々に攻撃を!威嚇射撃だけでは防ぎきれません。正当防衛射撃の許可を!」
「代わりたまえ。」
狩野は青島の通信機を持つと叫んだ。
「我々も攻撃を受けた、敵船団には明確に我々に対する攻撃の意思があると見られる、正当防衛射撃を許可する。撃て!これは戦争だ!」
「・・・了解。」

異世界に転移してから約2日後、日本は戦後初めての戦争の口火が切られようとしていた。
日本では後に異界戦争、異世界側からは第一次アジェンド大戦と呼ばれる戦いの始まりであった。

170F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/19(月) 15:01 ID:qUq6iUEM
投下終了しました。
次回はいつかは未定です。けど今週中には必ず・・・。

ご意見、ご感想待ってます。

171名無し三等兵:2004/07/19(月) 16:23 ID:oX1OywGc
乙カレー

172名無し三等兵@F世界:2004/07/19(月) 21:38 ID:d58Vxv6s
GJ!

173名無し三等兵:2004/07/22(木) 18:16 ID:oX1OywGc
ところで今週中って日曜の12時までっことか?

174F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:39 ID:qUq6iUEM
僕のSSを待ってくれている人が居る、こんなにうれしい事は無い。
とまあ某ネタを使って今の気持ちを表現したところで、

投下いきます。

175F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:39 ID:qUq6iUEM
「具合はどうなんだ?」
「はい、出血等から見るに幸い臓器の損傷は無いみたいです。」
天野の応急処置を終え青島は答えた。
そして倒れている魔術師達のほうをチラと見る。
「あの・・・殺さないんですか?」
セフェティナがおずおずと青島に尋ねる。彼女の世界、いや青島たちの居た世界にとって敵は必ず殺すべき存在である、常識である。尋ねるまでも無い事なのだが、しかし、彼ら自衛隊はその点世界の非常識であった。
証拠に彼は明らかに殺さないように魔術師達を攻撃した。それもセフェティナの常識を揺るがすものであった。それに元々同じ国の民である、傷つくのは見ていて気分の良いものではない。
セフェティナの言葉に答える代わりに青島は叫んだ。
「出雲!止血と消毒だけでもしてやれ。」
「!」
セフェティナは息を呑み、その表情が少し明るくなる。
青島はその顔を見て少し口元を緩めるとまた真剣な表情になり狩野に向き直った。

176F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:39 ID:qUq6iUEM
「ヘリコプターは自動小銃があれば確保できるとは思いますが、天野二曹の怪我もあります。あまり時間はありません、甲板に急ぎましょう。」
「ああ。そうだな、大丈夫ですか福地さん。」
「・・・ああ。少なくとも船に戻るまでは君たちに従うとしようか。・・・船に戻るまでだがな。」
「十分です。」
笑って言う狩野に福地は渋い顔をした。

177F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:40 ID:qUq6iUEM
長い廊下を歩いていく、異様なまでに静かなその一本道。
「いったい、あの攻撃はなんだったんだ?あの黒い釘のような・・・。」
沈黙を紛らわすかのように青島がセフェティナに尋ねる。
「はい、ネイルと言います、呪文詠唱がほとんど必要ない上、マナの干渉波もほとんど無いから良く暗殺用に使われる魔法です。」
「へえ・・・。え?」
少しだけ感心して、止まる。聞きなれない言葉、いや子供のころには何度も聞いたが―――が当然のように出てきた。
「・・・今何て言ったの?」
「え、・・・ネイルと言って」
「いやそっちじゃなくて、魔法?」
「はい、魔法です。別におかしくともなんとも・・・あ。」
彼らの居た世界にはマナが無い、それに今更セフェティナは気づいた。
「話すと長くなるので、後でお話します。」
「ああ・・・頼むよ。」
魔法。魔法、子供のころ猿のようにハマったRPGに良く出てきていた。
まさかこの世界には月が紅いだけじゃ飽きたらず魔法まであると言うのか。
舐めていた、この世界を。
青島は自分が置かれた状況を改めて思い知らされた。

178F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:41 ID:qUq6iUEM
「・・・おかしいな。なぜこうも攻撃が無い?」
狩野は一人つぶやいた。
当然の疑問と言えば疑問である。ここで後ろからの追撃も無い、前からの攻撃も無いとなればいつわれわれに攻撃を仕掛けてくるのか。甲板で一網打尽にする気なのか。
「ジファンは・・・ここでみすみす私達を逃すような人間ではありません。」
ダダアンッ!!セフェティナが呟くのが早いか、何かが弾けるような音がして、だいぶ離れたところにおいてあった樽が木っ端微塵に弾ける。
「げうっ!」
と、同時に鈍い悲鳴が上がり、陰に隠れていたのか、バンダナに剣と言う海賊スタイルの男が血を流して倒れた。

179F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:46 ID:qUq6iUEM
「くそおっ!」
倒れた男の影から、もう一人、右手に篭手を付けている――魔術師である証拠――がヤケクソ気味に青島たちに手を向ける。
ダアンッ!
「があっ!」
しかしそれもまた足を撃ちぬかれ、地面に倒れる。
音のしたほうをセフェティナが恐る恐る見ると、青島の持っている自動小銃が煙をまるでタバコのようにふかしていた。
「天使・・・様?」
その悪――セフェティナの価値観で、だが――を容易くなぎ倒すにもかかわらず、不殺を貫く彼を、セフェティナはある種の憧れの視線で見つめていた。

「良い判断だ、青島二尉。」
「いえ、もし自分が敵ならここに間違いなく伏兵を配置する、そう思っただけです。」
「ほう・・・。」
狩野はなぜこの一見軟弱に見える男が何故将来の高級幹部に選ばれたか、それが分かった様に思えた。
一方青島は、セフェティナの自分に対する視線が変質してきているのに気づいていなかった

180F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/24(土) 22:46 ID:qUq6iUEM
投下終了!
ご意見、ご感想、お待ちしております。

181名無し三等兵@F世界:2004/07/24(土) 23:05 ID:hz/whlgs
キタキタキタキター!

182名無し三等兵@F世界:2004/07/24(土) 23:05 ID:hz/whlgs
キタキタキタキタキタキター!

183名無し三等兵@F世界:2004/07/24(土) 23:13 ID:BTjRvT6Y
この調子で続編を期待しています。

184F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:29 ID:qUq6iUEM
投下、いきまーす!

185F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:30 ID:qUq6iUEM
一方佐藤は血溜りの中に居た。自分を襲おうとしていた人間は大半がその血溜りでピクリとも動かない。鉄の殺人兵器「64式自動小銃」人を殺す、そのことだけを追い求めた人類技術の結晶はその威力を佐藤の眼前でまざまざと証明した。
「し、死んでる・・・人が・・・?」
「落ち着け、佐藤。止血するぞ。」
肩から流れる血に気がつきもせずに呆然とする佐藤の頭を鉄兜越しではあるが村田三曹がポンと叩いた。
しかし治療をしている村田もまた足に浅くない傷を負っていた。

186F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:31 ID:qUq6iUEM
「明らかに火炎瓶や銃と思われる攻撃があった・・・。しかし何故だ?この船の文明レベルを見るにそんなものはあったとしても火縄銃ぐらいだが・・・。ええい、沢村!ヘリに故障は無いか!?」
考えるのをそこで打ち切ってヘリの点検をしている沢村に声をかける。
「はい!表面が少し火にあぶられた程度です!飛行に支障はまったくありません!」
「そうか。」
明るい沢村の声に少し安心、少し苦笑して通信機を取り出し狩野へと連絡を取る。と言っても向こうには青島と天野が居る、滅多な事はあるまい。
「司令、ヘリの確保に成功しました。こちら側は軽傷、自分を含む二名、重傷、死亡者はなし。敵方は死亡者8人軽傷者6名です。・・・司令、我々は人を殺してしまいました・・・。」

187F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:31 ID:qUq6iUEM
「・・・。」
通信機を通しても狩野が奥歯を噛みしめたのが分かった。それだけの意味があるのだ、この自衛隊が始めて人を殺した、と言うことは。
「・・・よくやった。その場でヘリの確保、敵軽傷者の治療を行ってくれ。」
「了解しました。」
通信機を切って村田は自分の手を見た。血で汚れた、人を殺めた手。
「もうこの手じゃお前は抱けないな、真由美?」
村田は一人苦笑して、未だ呆然とした敵の応急処置に向かった。

佐藤には彼が泣いているように見えた。佐藤も沢村も実は銃を撃っていない。
二人が呆然としている間に村田が一人でこの血溜りを作ったのだった。
まだ若い二人に人殺しを経験させたくない、という村田の配慮だったのだろう。
佐藤は漠然とそう思っていた。

188F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:33 ID:qUq6iUEM
「たいしたものだな・・・。」
狩野は目の前に倒れ、呻いている男達の姿を見ていった。
これらは皆青島の先読みによって奇襲することすら許されなかった人間達であった。
「いえ・・・、無駄弾もいくらか使いましたし。それより早く行かないと、天野が危ない。」
「ああ。」
甲板への扉を抜けるとそこには血溜りが広がっていた。
「うっ・・・。」
セフェティナと福地が同時に呻く。二人とも戦いには慣れていないのだ。

「ご無事で何よりです、狩野司令、福地様。」
「ああ、ありがとう。ヘリの用意は出来ているか?重傷者が一名居る。」
「重傷者・・・『天野さん!?』」
村田の言葉を遮り佐藤が飛び出る。
「なぜ?天野さんが!?」
「やめろ佐藤。」
村田が佐藤をぐいと引き戻す。
「とにかくすぐこんごうに戻りましょう。ここは危険です。」
「ああ。・・・このままだと海戦になるか?」
「おそらく。ただ海戦になればこちらが圧倒的有利です。」
「わかった。」
ヘリコプターが浮き上がる。
「おお・・・、鉄が、飛ぶ・・・。」
甲板の怪我をした敵兵は呆然とその様子を見つめていた。

「くそっ!くそっ!」
何故こうも思い通りに行かない。
「・・・待てよ?もともとは野蛮人どもの恫喝用に持ってきたが・・・あれなら・・・。」
ジファンは隠し扉から甲板のすぐ下にある大きな隠し部屋に入った。
そしてそこに存在するのは赤い瞳、大きな翼、鋭い牙、真っ赤な鱗。
この世界最強の生物、ドラゴンであった。

189F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:34 ID:qUq6iUEM
ドラゴンと一口に言っても様々な種類が存在する。
地方伝承では神などと言われている程の力を持ち、その長い寿命で人間の歴史の傍観者となってきた「竜」。

基本的に山高くに少数で住みある程度の知能を有するため人間と対立したり手を組んだりしてきたブラックドラゴン、ゴールドドラゴンなどの正統ドラゴン族。

その他様々な種類があるのだが、ジファンが目の前にしているのは知能は高くないが集団で群れる性質があり、それを利用して人間に軍事目的で飼育されている、高い飛行能力を持つ種族。ワイバーンであった。
ドラゴンの中では低級と言われるがその力は人間に対して圧倒的なものがあり、このワイバーンによる竜騎士団はアジェントの軍部の一角を担っていた。

「ええい、アジェント王国の力を、元・王下竜騎士であった私の力を見せてくれる!」
自分の周りにマナの壁を張り巡らし風除けをする、といってもジファンの、と言うより普通の人間の魔力では多少の風は来るのだが。しかしそのマナの壁ゆえに竜騎士は高速移動による一撃離脱の戦法を可能としていた。

ワイバーンのブレスにより甲板をぶち抜きワイバーンは空高く飛び上がった。
目の前に自分に背を(といってもどちらが前か良く分からないが)向けて自らの船へと逃げていく巨大な空を飛ぶ鉄の塊が見えた。
ジファンはニヤリ、と笑みを浮かべた。

190F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 08:37 ID:qUq6iUEM
投下終了しました!
次々回あたりで決着かな。
ご意見、ご感想待ってます。

191S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/07/29(木) 10:00 ID:LgjpIS.M
乙です。ワイバーンvsヘリコキター!
ドラゴンフライとドラゴンもどき、という対比は面白いですね。
ワイバーンの特性から行くと、能力はレシプロ可変翼機って所でしょうか。

自衛隊の初めての戦闘、というのは歴史ですねえ・・・

192名無し三等兵@F世界:2004/07/29(木) 10:55 ID:43sYsfPc
GJ!
ヘリはSH-60ということは
やっぱり母艦からの攻撃となるのかな?

続きお待ちしております

193F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 21:29 ID:qUq6iUEM
間がほとんど空いてないけど進行が遅いもんだから投下します。

194F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 21:30 ID:qUq6iUEM
敵はこちらには気づいていないようだ。
先程は舐めたまねをしてくれたが、所詮野蛮人が我々に敵う訳は無いのだ。
目の前に居る鉄の竜モドキに篭手をはめた腕を向ける。
たとえ鉄製でマナが通らないと言っても、鉄自体にダメージを与えることは出来る。
空気中に存在しているマナを自分の手から竜モドキの尾へと凝縮し紐のようにつなげる、それと同時にワイバーンにファイアブレスの指示を出す。
「終わりだ!」
俺の詠唱によりマナは俺の手元のほうから強い熱を帯び炎のような赤い光を放つ。
最後の一瞬竜モドキがわずかに動いたように見えたが、遅い。
赤い光とファイアブレスは竜モドキを確実に捉えていた。

195F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 21:31 ID:qUq6iUEM
「マナの干渉波!?」
セフェティナは悪寒を感じ叫んだ。これは見紛うことも無い、誰かが魔法を発動したしかもすぐ近く。
「司令!後方に未確認飛行物体!…なんなんだ、これは!?」
セフェティナは自分の嫌な予感が当たってしまったことを確信した。
船の中で一度だけ見た、一船を一騎で潰すと言われる王下竜騎士、その竜を。その赤い翼を。
「まさか・・・いや、間違いない、ワイバーン! 沢村さん!攻撃が来ます、避けて!」
「攻撃!?了解、旋廻する!」
必死に操縦桿を倒す。
しかし沢村の努力むなしくなにかが尾の部分に当たり、さらにヘリ全体をファイアブレスが包み込む。海にヘリの欠片が降り注ぎ大きな水しぶきを立てた。
激震と共に一気に灼熱化する機体内。
「ううっ!」
その場に居る全員が呻いた。

196F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 21:31 ID:qUq6iUEM
「こんごうへ、こちら沢村、未確認飛行物体の攻撃を受けた!敵への攻撃を求む!」
「いや、今撃てばそちらにも当たる、なんとか敵から離れてくれ。」
「そんなこと・・・できるわけが・・・!。」
沢村は操縦桿を握りなおす、尾の部分は完全にイカレている上、炎の熱でブレードがゆがんでいる。
「機体のバランスが・・・保てないっ!司令、こんごうに不時着します、対ショック防御を!」

キインッ
―――どうだ?セフェティナ、今船と持っている武器全てを明け渡せば命は助けてやる。そうあちらの司令官、カリノだったか?に言え。―――
突然セフェティナの頭に響く共振通信、そのジファンの声は完全に勝ち誇っていた。
それを伝えたセフェティナに狩野はボソリと呟いた。
セフェティナは目を丸くし、そして狩野にに確認を取る狩野は首を縦に振った。
―――か、狩野司令官の言葉をそのままそちらに申し上げます。『我々はいつでもあなた達の降伏を受け入れる用意が出来ている。』との事です―――

ジファンの精神状態が大きく揺れ動いたのを感じセフェティナはおもわず身震いした。
底知れない怒り、共振通信が途切れる。
「なぜ?この状況であんな言葉が・・・?」
セフェティナは唖然として狩野を見た

197F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 21:31 ID:qUq6iUEM
「死んでもらうとしよう。」
ジファンはワイバーンの手綱を持ち、ヘリに一気に接近する。
竜モドキはもはや死に体でふらふらと母艦への進路をとっていた。
近くで見れば見るほどどうやってこんなモノが空を飛ぶのか不思議になるが、今はそんなことを考えている場合ではない。
ワイバーンの炎が再びヘリを包み込む。
しかしさすが鉄、といったところか、致命的な損害を与えている様子は無い。
だが、これには耐えられまい。
再びマナを凝縮し竜モドキへとマナの糸を繋ぐ、今度はガラスを通して直接内部へと。
ここは海面からはるか上空、脱出のすべは無い。間違いなく蒸し焼きになって死ぬだろう。
「これで、さよならだな?」

198F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/29(木) 21:37 ID:qUq6iUEM
今日中にここまで書いときたかった・・・。
てなわけで投下終了。
感想(ガソリン)の補給待ってます。

199名無し三等兵@F世界:2004/07/29(木) 22:09 ID:z9hr/42c
「こんごう」の活躍に大期待です!
ところで、余計な事かもしれませんが、
状況描写がもう少しある方が良いのじゃないかと思いました。

200S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/07/29(木) 22:19 ID:LgjpIS.M
乙です。しかしジファン強っ!前の甲板をぶち抜くシーンも合わせると、
今のところジファンは「ダークヒーロー」って感じですな。

しかし自分の前レス、ちょいと書き方がまずかったかな・・・(汗
実はドラゴンもどき=ワイバーンと言う意味で書いていたのです。

まあ異人の目からすると、ジェットやレシプロは尾がぶっとすぎて
鳥に見えるだろうし、竜もどきと言える飛行機械はヘリだけでしょうな。

201名無し三等兵@F世界:2004/07/30(金) 01:07 ID:sgzlJ/cE
気になって眠れませんw

202F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:54 ID:qUq6iUEM
うお!ご感想、ご意見有難うございます。
状況描写・・・戦闘描写が苦手なもので、逃げてました、すんません。
竜モドキは・・・このままでいっちまいます(汗

ではなぜか書くスピードがやたら早いですが、投下いきまーす!

203F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:54 ID:qUq6iUEM
激震の続く機体、ほとんどの人がしがみつくだけで精一杯であった。
窓の外は真っ赤な炎に覆われ敵の攻撃の激しさが伺われる。
そして温度は上昇し続ける。チリチリと頬を焼く空気、青島たちの頬をダラダラと汗が流れた。
「こんな振動・・・天野さんが・・・天野さんが!」
佐藤が奥歯をギリッ、と噛みしめる。汗の中には涙が混じっているようにも見受けられた。
自衛隊内で彼の自衛隊員としての全てを叩き込んできた男、それが今、命の危機に瀕しているのだ。
「こ、これは・・・ど、どうなって・・・ガッ!」
叫ぼうとした福地が舌を噛む、しかし今はそんなことにかまう余裕のある人間は居ない。

204F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:55 ID:qUq6iUEM
セフェティナは生き延びる方法を必死で考えていた。
ジファンは今すぐにでも魔法の追撃を仕掛けてくるだろう。この鉄の箱がいくら頑丈だとはいってもそう何発も持つまい。ジファンは自分に魔力で劣るとは言え、熱・炎系統の魔法を得意としている、その威力ならもってあと二発だろう。
そして魔法の対処法を知っているのは自分だけ、つまり今の状況を変えられるのも自分だけなのだ。
ピクン・・・。マナの干渉波が窓の外側から感じられた。
そしてマナの糸(爆弾で言えば導火線の役割を果たす。)がガラス(と言ってもこんな純度の高いものは見たことが無いが)を通ってこちらに入ってきて、青島の目の前で止まる。
「な、なんだ・・・光る、糸・・・?」
青島は触ろうとするがそれはかなわず手はすり抜けてしまう。

205F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:55 ID:qUq6iUEM
「いけない・・・。」
目の前で光る糸はもう間も無く灼熱を発し、この機体内のあらゆる物を焼き尽くすだろう。
しかし、ジファンには誤算があった。それはヘリの中には自分以上の魔法の使い手が居ることを忘れていたことである。
セフェティナは魔法の篭手をはめなおした。
そして窓を通るマナの糸に自らの魔法の被害を機体内に及ぼさないように窓に手を押し付けるようにして触れる。
そしてジファンがこれから魔力を通すであろうマナの糸に魔力干渉をし、詠唱を始める。
ジファンの熱と炎の呪文と反対である冷却と氷の呪文の詠唱を。

206F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:56 ID:qUq6iUEM
図解
ジファン:炎魔法→――――――――マナの糸――――――――←氷魔法:セフェティナ

207F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:56 ID:qUq6iUEM
青島は呆然としてセフェティナを眺めていた。
突然もうかなりの熱を持っているだろうガラスに手を押し付けた彼女が何かを囁くように唱えるのを。唱えると同時に彼女から何か威圧感のような物が発される。
彼女の篭手に埋め込まれた大きな宝石が光り、それに呼応するようにマナの糸が輝きを増す。
「セ、セフェティナ・・・さん?」
「大丈夫です。」
ただ聞くだけの青島にセフェティナは手を焼かれながら少し苦痛に歪んだ笑顔で答えた。

208F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:56 ID:qUq6iUEM
一方ジファンもマナの干渉波を感じていた。
紛れもなく自分が攻撃しているあの竜モドキの中から、である。
しかし惜しむべきは彼にセフェティナほどの魔法知識がなかったこと。
自分の作り出したマナの糸が利用されているなど夢にも思わなかった彼は、セフェティナの作り出した糸が自分のほうに来ていないことで安心しきっていた。
「とどめとなるな?これは。」
詠唱が完成し、魔法を放つ。
再び手元から赤い火線が竜モドキへと空中をすべるように接近する。
そしてそれと、同時に見える。
竜モドキ付近のマナの糸が霜を纏い、その部分がどんどんこちら側へと近づいてくるのが。
「な、なんだ!?あれは。」

209F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:57 ID:qUq6iUEM
赤い光と霜を纏う光はぶつかり、打ち消しあい消滅する。
それどころか霜の光は竜モドキを覆う炎までかき消してしまった。
「ぐぐっ・・・冷気系かっ!」
確実に勝利したと思い込んでいただけにショックも大きい、ジファンは歯軋りし、それと同時に相手にセフェティナが居ることを思い出した。
奴は小賢しい事に自分よりも断然魔法発動が早い。
「あまり近くに居ては追撃を食らうか。」
ジファンはワイバーンをヘリから放し、新たな魔法を唱え始めた。
しかし、ジファンにはここにも誤算があった。
異世界の戦力―――日本の兵器を舐めすぎていたことである。

210F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:57 ID:qUq6iUEM
ガガガァンッ!
「!?」
激しい音がし、何かが来る、そうジファンが気づいた時には54口径127ミリ単装速射砲が彼とそのワイバーンの身体をもはや原形も残さぬほど木っ端微塵に砕いていた。
「あ・・・あ・・・。」
―――こちらこんごう、敵アンノウンの撃墜に成功。―――
呆然と海に落ちていくジファンの肉塊を見つめるセフェティナの耳にただ無機質な通信手の声が響いていた。

211F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/07/30(金) 23:58 ID:qUq6iUEM
任務完了!
前々回の終わりには次々回で決着とか言ってたくせに大嘘こいてる・・・。
まぁそれはそれとして・・・。

ご意見、ご感想 お待ちしております。

212名無し三等兵@F世界:2004/07/31(土) 01:23 ID:.inmUfB6
乙ー。
でも対空なら近接信管だから、木っ端微塵にはならないはず。
安全率見込んだバースト射撃でも原型は残るでしょう。
つうか、敵と認識したらアンノウンではないのでは。

213名無し三等兵@F世界:2004/07/31(土) 07:52 ID:LgjpIS.M
>>212「敵対行動を取る」未確認飛行物体を撃墜、って意味なのかも。
「敵竜撃墜!」とかいきなり言われても、それはそれでどうかと思うし。

214名無し三等兵@F世界:2004/07/31(土) 11:14 ID:defVbuY6
更新早くてうれしいです。

>>212
127ミリ砲よりは20ミリ機関砲のほうが良かったかもしれませんね
地味なので私はこちらの方が良いですが

215F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/01(日) 10:49 ID:qUq6iUEM
や、やっちまった・・・orz
アンノウンというのは>213さんの解釈のつもりで書いたんですけど、
そうか・・・木っ端微塵にはならないんですね・・・。

ぐあ、もっと資料を調べておくべきだったか。
精進します。

216名無し三等兵@F世界:2004/08/01(日) 11:21 ID:v5xyI0sA
直撃した場合は近接信管が作動せずに命中時に炸裂すると思うけど。

217F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:35 ID:qUq6iUEM
では懲りずに投下。

218F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:36 ID:qUq6iUEM
アルクアイはこれを千載一遇の機会と捉えていた。
あの目の上のたんこぶだったジファンが死に、今船団の指揮権は自分にある。
さらに自分の居る船は異世界人の船から一番離れた位置にあるのだ。
今ここでラーヴィナに帰ればジファンの地位がそのまま自分の地位となるだろう。
そもそもあの異世界人たちに勝負を挑むのが間違いだった。
あれほど大きな船、たとえどんな魔法があるからと言ってその戦力差がひっくり返せるわけは無い。王下正規軍ならともかく我々の様な奴隷収穫用の船団では勝てる訳が無い。
アルクアイはジファンほど魔法を過信しているわけではなく、更に状況を把握能力、たぐいまれな指揮能力に恵まれていた。
「今私がすべきことはなるべくこちらの損害を少なくして、本国に帰ることだ。」
右腕の篭手で各船にもぐらせている部下と共振通信を繋ぐ、自分と通信手段を持っている人間を全ての船に配置しておく、この点だけでもアルクアイはジファンよりも上回っていると言えるだろう。
「今からこの船団の指揮は私が取る!」
完全なパニックに陥っていた船員達にとってこの言葉はまさに地獄に仏、だっただろう。
船員達はすぐにアルクアイの言葉に従いその混乱は収束して行った。

219F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:36 ID:qUq6iUEM
一方青島たちは何とかこんごうの甲板にたどり着いていた。
「無事ですか、皆さん・・・。」
「ああ、すまない。」
狩野、福地と降りて行き、最後にセフェティナが青島の手を借りてヘリから降りた。
そして村田と佐藤が怪我をした天野を背負って降りる。
そこにすぐさま担架を持った担任たちが駆け寄った。
「怪我人がいるそうですね、早く担架に!」
その時、青島は自分の上を光る糸が通っているのに気がついた。
「危ない、伏せろ!」
青島はセフェティナと福地を抱えるようにして倒れこんだ。

220F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:37 ID:qUq6iUEM
倒れこむ青島のそのすぐ上を赤い光が肌をチリチリと焼くような灼熱の炎を撒き散らしながら通って行き、甲板で激しい火柱を作る。火柱、と言っても厳密には火ではないのだが。
「な、なんですか・・・今のは。」
事情を知らない隊員が担架を持ったまま口をパクパクさせる、
「ここまで届くのか・・・、なんて射程だ。・・・後で説明する!今は天野を!」
青島はセフェティナと福地を下敷きにうつ伏せにはいつくばったまま叫んだ。
「は、・・・はい!」
その勢いに飲まれその隊員は担架を持って甲板から消えていった。

221F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:38 ID:qUq6iUEM
「すいません、大丈夫でしたか二人とも・・・。」
「ああ・・・、次助ける時はもう少し丁寧にしてもらいたい物だがな。」
「・・・あ、はい。」
人間の男、佐藤に触られるだけでもショックを受けていた彼女だ、
押し倒されるなんてよほどの衝撃だろう、顔を真っ赤にしている。
しかし今はそんなことに構っている場合は無い。
「司令、敵の頭は潰しましたが、今なお敵からの組織的、かつ激しい攻撃が続いています。
おそらく敵No2が指揮を執っているものと思われますが。」
「No2か、セフェティナさん、心当たりはありますか?」
セフェティナは顔を真っ赤にしたままコクリとうなずいた。
そして「No2」の人物に考えを巡らし、その顔は急に凍りついた。
「はい、名前を・・・。」
そこで言葉に詰まる。
「どうしました?」
「あ、はい。名前を・・・アルクアイ、といいます。」
アルクアイ、人間にもかかわらずセフェティナ以上の魔力を持つ魔術師で、そのジファンとは質の違う氷のような非常さにセフェティナは恐れを抱いていた。
「その人物と前のジファンとのように通信を持てますか?」
「いえ、彼の篭手の波長は知らないので・・・。」
「そうですか、・・・もう正当防衛射撃の条件は整っているな、ならば威嚇射撃の後に正当防衛射撃を実行せよ。」
「了解しました。」

222F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:38 ID:qUq6iUEM
狩野が無線で宮野に通達を送る。一方青島は妙な違和感を覚えていた。
「なぜだ・・・?トップをやられて混乱した部隊を立て直せるほどの人間ならば勝ち目が無いことくらい分かるはず。しかし、玉砕覚悟の攻撃にしては飛んでくる弾数が少ない。
というよりもジファンが乗っていた船以外からの攻撃が無い・・・?」
その青島のすぐ横を赤い光が通り抜けた。的になっているらしい。
「隊長!何をやっているんですか、早く中に!」
「あ、ああ。」
青島は慌てて中に入った。

「威嚇射撃実行します。」
その言葉と共に54口径127ミリ速射砲がジファンの船の鼻先に黒い雨を降らせる。
と、同時にミサイル艇から通信が入る。
「敵船全船、捕捉しています。いつでも撃てます。」
「いや、いい。なるべく沈めずに情報源となる捕虜が欲しい。」
「了解。」
敵船を前にして狩野は思った。
これが「血が騒ぐ」と言う物か、と。

223F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:39 ID:qUq6iUEM
「我々は威嚇射撃を実行しました、これ以上攻撃を続けるようなら正当防衛射撃を実行します!」
ジファンの居た船を囮とし、敵がもたもたしている内にようやく旋回を終えた自船の後方から巨大な声が聞こえてくる、内容は良く分からないがおそらく降伏しろ、と言ったたぐいの物だろう。
「接触する前のあの鳴き声の正体、これだったか。」
アルクアイはクックッ、と笑った。
しかし降伏を求めるとは笑わせる、捕虜にされたら何をされるかたまったものではない。
拷問地獄の挙句に処刑がせいぜいだろう。
―――ゼナ!―――
元・ジファンの船の指揮を執っている部下に共振通信を繋ぐ。
―――は。―――
―――攻撃をやめ降伏しろ。―――
―――降伏するふり・・・ですか?―――
我が部下ながらよくわかっている。
―――それで奴らの船に近づいたら、自爆しろ。―――
―――はい、了解しました。―――
いともあっさりと答え通信が切られる。
良く出来た部下だったが、仕方が無い。
「おい!奴隷達にもっと急いで漕ぐように言え。」
「はっ!」

224F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:40 ID:qUq6iUEM
アルクアイは部下に諸々の指示をした後に甲板に出た。
大分遠くにある元・ジファンの船は青い布――こちらの世界における白旗――をはためかせている。
アルクアイは篭手を付けなおし、目の前に巨大なマナの壁を作り出す。
誤解しないで欲しいのだが、これほど大規模な魔法が使えるのは彼を入れてごく一部だけである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い詠唱の後にアルクアイは目を見開き魔法を開放する。
使った魔法は実体の無い幻を作り出すだけの初級の幻覚魔法。
しかしアルクアイはそれでジファン以外の三船の幻を作りだした。
これで自分達がこの海域から離れてもそうばれることも無いだろう。
「うっ・・・。」
精神力の使い過ぎで軽い脱力感と目眩を覚える。
「ここで気を失うわけにはいかないな。」
アルクアイは椅子に座り全船に全速前進を指示した。

225F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/02(月) 19:42 ID:qUq6iUEM
投下終了。
新キャラ登場。
こいつは結構重要な役だったりそうでなかったり。
魔法はこの戦いが終わったらまとめて分かりにくい説明をしますorz。
ツッコミ、感想待ってます。

226名無し三等兵@F世界:2004/08/02(月) 21:00 ID:2rJNboew
こんごうが沈まないことを祈る。

227名無し三等兵@F世界:2004/08/02(月) 22:14 ID:3p4Yp2bI
自爆ボートで大破したアーレイバーク級のコールとほぼ同スペックのこんごう。
どんなダメコンの差を見せてくれるのでしょうか。
魔法の方も気になりますね。
エルフよりも強力な人間がいるということは、能力の差は遺伝子に由来しないということでしょうか。
多少わかりにくくても理解できるよう頑張ります。定量定性的に考証できる設定だといいなあ。

>誤解しないで欲しいのだが、これほど大規模な魔法が使えるのは彼を入れてごく一部だけである。
本文中で作者自身の言い訳はちょっとアレっす。

228S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/02(月) 22:32 ID:LgjpIS.M
乙です。しかしガレー船の自爆とは、随分凄い絵を考えましたねえ。
自爆した瞬間、寿司詰めの奴隷たちは何も分からずに肉片になったり溺れたり、
折り重なって木片に突き刺されたり・・・ヒィィ。

まあ爆発は上層か中層からでしょうから、こんごうに死体が乗ったりは
しにくそうですが。むしろ木片の方が怖いかな?

229名無し三等兵@F世界:2004/08/03(火) 12:10 ID:tmm8Qyr.
喫水線ギリギリで爆発されたら・・・ガクブル

230名無し三等兵@F世界:2004/08/07(土) 22:23 ID:L2wgNX9E
禁断症状が・・・
続きマダー(チンチン)

231F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/08(日) 21:34 ID:qUq6iUEM
すいません。
ここんとこずっと出かけてたもので、書き込みが遅れました。
と言ってもまだ更新は遅れそうです・・・。

なるべく早くなるよう頑張ります。

232名無し三等兵@F世界:2004/08/08(日) 22:47 ID:LgjpIS.M
この時期ということは、お盆の帰省ですかね?何にせよお帰りなさい。
続きを待っております。

233名無し三等兵:2004/08/09(月) 20:39 ID:HvNrwCMo
コミケっ...ゲフン、ゲフン

いや、なんでもない
話を続けてくれ

234F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/09(月) 20:44 ID:qUq6iUEM
ゲフンゲフン・・・。
いえ、自分にはその趣味はありません!

・・・・・たぶん・・・。

というわけで(どういうわけだろうか)投下。

235F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/09(月) 20:45 ID:qUq6iUEM
「えーと、ここはデルタでよかったんだよな?」
「あん?適当でいいだろ。俺達新米に多少のミスで大惨事が起こるような仕事はまわってこねぇよ。」
「ハハ、それもそうだな。」
「それにしても変な指令だよな、マナ集積の魔方陣を描いてそこでひたすらマナを集めろなんて、降伏したばっかなのになんかでっかい魔法でもぶっ放すつもりかねぇ。」
「んー、ま、俺達が気にすることじゃねぇだろ。」
「それもそうだな。」
「ハハハハハ。」
去年魔術学校を卒業した新米魔法使い達は談笑しながら赤黒い液体で魔方陣を描いていた。
その近くにはその赤黒い液体の供給源だったモノ、奴隷が転がっている。
「しっかし、驚いたなー。ジファン様が死んじまうなんて。今この船はゼナ様が指揮取ってんだろ?」
「あー、まぁあんな脂ぎったオヤジよりああいう美人の方が指揮官としては良いよな。」
「ああ、これが成功したら追加給金を出してくれるって言ってたし。」
給金と言って魔法使いの一人が顔をしかめたフリをした。
「金なんて信用のならないもんいくらあっても意味無いわ!・・・なーんてね。」
「ハハハ、お前何年前の人間だよ。」
彼らはをまったく知らなかった。自分の今していることの意味を。
そして自分の命がもう間も無く炎に消えることも。

236F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/09(月) 20:45 ID:qUq6iUEM
「フフ・・・。」
ゼナは紅く光る魔方陣の中心に立って怪しく、かつ妖艶に微笑を浮かべていた。
控えの魔術師はその姿に見惚れて呆然と立っていた。
その浅黒い肌は彼女の精神力に反応したマナの光によって照らされ、その桃色の髪もまた
美しく艶やかに光っていた。
彼女は馬鹿ではない、アルクアイが自分に下した命令がどういうものかは分かっている。
しかし死への恐怖を上回る大きな歓喜が彼女を支配していた。
間も無く自分は死ぬ、しかしそれがアルクアイの危機を救うのだ。これ以上の喜びは彼女にはなかった。

彼女のこれから使う魔法は自爆の魔法、それは大体においては戦に破れた王家などが使っていた、これまでの歴史でも数える程しか使われていない魔法。
それが体験できる、という知識的欲望も彼女の歓喜の原因の一つではあったが。
幾人もの魔法使いがマナを術者の周りに集め、そのマナを熱系呪文の要領で術者の精神力全てを使い灼熱化させる。
マナへの干渉は自分の身体に近いところであればあるほど強く、そして早く行える。
だからこそ自爆と言う手段は高い破壊力と高い奇襲性を兼ね備えていた。

237F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/09(月) 20:46 ID:qUq6iUEM
「敵の砲撃が止みました。」
観測員が言った。
確かに言葉通りさきほどまでひっきりなしに飛んできた炎はまったくこちらに来なくなっていた。
「むう、こちらの警告を聞いた、ということか?」
「おそらく。映像によれば後ろの三隻も動きを止め、沈黙しています。」
あまりにも不自然な攻撃中止には鋭い狩野や青島でなくとも首をかしげた。
「降伏の合図がなくてはな・・・。」
狩野は射撃中止を指示しここ数日で少し後退した気がする前髪をかきあげた。
「すいません、あの人たちの船は青い布をはためかせていませんか?」
セフェティナが狩野に話しかける。
「・・・青い布か・・・確認できるか?」
「はい、あります。先程まではなかったものですが・・・。」
セフェティナはそれを聞いて安堵の表情を浮かべた。
「それは降伏の合図なのです。」
一部を除く全員がその表情を明るくした。自衛隊は守る軍隊なのだ。
無意味な戦闘は無いに限る。

238F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/09(月) 20:47 ID:qUq6iUEM
しかしその雰囲気をぶち壊した人物が居た。
それは先程表情を明るくしなかった一部の人物、レーダー観測員だった。
「おい!なにが後ろの三隻も動きを止めただ!加速してこの海域から離れようとしているぞ!」
「な?何かの間違いではないのか?現に映像では未だに停止しているように見えるぞ!」
「間違いなわけないだろ!でなきゃレーダーが故障しているってことだ。」
狩野はここでセフェティナに聞いた。
そしてそこで決定的な間違いを犯してしまった。
「セフェティナさん、こちらのレーダー・・・まあ緻密なからくりと考えてもらって結構ですが、を狂わせるような魔法・・・はありますか?」
「・・・え、わ、わかりません。けどもしかしたら今までに放たれた魔法にそう言う作用があったのかもしれません。」
ここで「幻を見せる魔法はあるのですか?」と聞いておけば狩野はアルクアイの計略を見破れていた。
しかし、その問いをしなかった今、狩野はこの現象はレーダーの故障だと判断してしまった。
「とりあえず、先程乗り込んだ船に横付けして制圧しよう。もちろん、この降伏が見せ掛けだった時のために全員武装してだ。」
何倍も大きさの違う船、圧倒的な人員の差。圧倒的な兵器。
そこに狩野に油断があったのかもしれない。
彼はそれらの兵力の差がまったく通用しない戦い方を忘れていた。

 2000年10月12日、世界最強の防御力を誇ると思われていたイージス艦「コール」も沈んだ戦法。

自爆を。

239F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/09(月) 20:51 ID:qUq6iUEM
投下終了!
いつも貧弱な文章力の文章に感想やご指摘ありがとうございます。
感想、指摘待ってます。

240名無し三等兵@F世界:2004/08/09(月) 22:05 ID:rFFFd4mI
お疲れ様、イージス艦がせめて小破ですむことを祈ります。
ここで沈んでしまったら小説のパワーバランスが滅茶苦茶になるかと・・・?
セフェティナが寸前にこのことに気付き危機一髪で助かることを期待しています。
それにしても王国側は外道ですね〜バルト帝国のほうが余程ましに見える。

241S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/09(月) 22:34 ID:LgjpIS.M
新米共の態度からすると、魔法学校は私機関っぽいですね。
戦闘直後の態度とはとても思えないし。この制度がのちのち
戦術レベルの問題を引き起こしそうな感じ。

イージスよりも制圧要員の方が心配だ・・・船内だとまず助かりそうもないし。
指揮官以下、貴重な兵力が失われて戦意喪失→撤退とかなりそうですね。

242死神:2004/08/09(月) 22:59 ID:powjwma.
まってましたー!
しかしこの先のストーリがすごく不安です。

243名無し三等兵@F世界:2004/08/10(火) 00:55 ID:powjwma.
誰かキャラのイメージイラストなんて描きませんかね?
画像投稿版、萌えなどの規制が厳しくなってからすっかり書き込まれることがなくなってしまったので。

244名無し三等兵@F世界:2004/08/10(火) 09:47 ID:xZx8t5J6
アレ? 大破じゃなくてコールって撃沈されましたっけ?

245名無し三等兵@F世界:2004/08/10(火) 11:04 ID:n7OBVZ72
世界最強の防御力は我らが大和だいっ!
コールなんてしょせんはペラペラ装甲の駆逐艦じゃないか!
とか言って見る。

246名無し三等兵@F世界:2004/08/10(火) 13:15 ID:z9hr/42c
>>244
確か大破だったかと。

247F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/10(火) 14:20 ID:imAIk9NE
あ゙・・・。
資料まで調べたのに何やってんだ一体。

スイマセン訂正させてください「沈んだ」→「大破した」

ご迷惑おかけしました

248名無し三等兵@F世界:2004/08/10(火) 15:32 ID:pO1Do796
王国側にとって、船はそれほど貴重ではない模様。
それともわけのわからないものを見たせいでパニックなのか?

249名無し三等兵@F世界:2004/08/10(火) 16:36 ID:KEoqBolU
キャライラストとかよりも、地図とか艦船の相対位置図とか人間関係相関図とかつくってくれたほうがうれしいかも。

250F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 19:22 ID:imAIk9NE
>249さん
地図や相関図ですか?
もし希望者が多いのなら、ガンガリマス・・・。

251F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 21:58 ID:imAIk9NE
投下開始。

252F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 21:59 ID:imAIk9NE
「マナの集まり具合が悪い・・・。まぁ、これだけあれば幾ら鉄でもあの船を沈めることくらいは出来るかしら。」
ゼナは篭手をしっかりとはめ直し、はめていないほうの手で魔道書の写しを見る。
「自爆魔法・・・基本は熱系魔法と同じ・・・か。」
あらかた暗記するとゼナは魔道書を取り出し。船長室からとってきた一番高級な酒を飲み干した、どうせすぐにこの世から消滅する、飲んでいけないことはないだろう。
僅かだけ酔いが身体を襲い、それと同時にほんの少しの不安が湧いた。
「アルクアイ様・・・あなたは私を忘れないで居てくれますね?」
ゼナはボソリと呟くと控えの魔術師に背中に付けていたマントを投げ捨てた。
「セグル・・・ごめんなさいね、私の勝手にあなたまで巻き込んで。」
「・・・いえ、死ぬまであなたにお供する、と決めましたから・・・。」
セグル、と呼ばれた控えの魔術師は跪いたままそう恐縮した。
「むこうのスピードならこちらまであと5分、といったところかしら。」
ゼナは目を瞑り魔法の詠唱を始めた。彼女の人生最後の魔法の詠唱を。

253F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 21:59 ID:imAIk9NE
ゾク・・・。
ゼナの乗る船に近づいていく過程、セフェティナは背筋が凍るような悪寒を感じた。
「これは・・・マナの干渉波・・・?」
何故今まで気付かなかったのか、先程の戦闘のせいで集中力が乱れていたのだろうか。
巨大なマナの干渉波が二つ。
両方ともあちらの船の方向から発されている。
しかしこちら側のマナが不自然な動きをしていない、どころか濃度が薄まっているこの状況、魔法をこちらにかけようというわけでもないようだ。
「一体・・・何を・・・?」
「どうしました?セフェティナさん。」
不安そうな顔をするセフェティナに青島が声をかけた。
セフェティナの暗い顔は青島を見て少し明るくなった。
「あ、青島さん・・・。実は、向こうの船が何か魔法を使っている様子なのです。」
「なんだって!?」
「しかもかなり巨大なものを、二つ。と言ってもこちら側を攻撃する、と言ったものではないのですが。」
「むぅ・・・。」
青島は考え込んでしまった。
魔法の仕組みが良く分からない以上あまり推測が立てられないが。
何かをたくらんでいる可能性が高い。
しかし「良く分からない術を使っていて、何かをたくらんでいる可能性がありました。」では攻撃は仕掛けられない。
「とりあえず、狩野さんに報告しよう。ありがとう、セフェティナさん。」
「あ・・・はい!」
走り去っていく青島にセフェティナは頬を赤くし答えた。

254F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 21:59 ID:imAIk9NE
「そうか。」
青島の報告に狩野は意外にもあっさりとした返答をした。
おそらく敵が何かをたくらんでいることくらい予想の範疇だったのだろう。
「といっても、我々自衛隊では『何かをたくらんでいる可能性がありました。』では攻撃することは出来ないな・・・。」
先程の青島の考えとまるっきり同じ事を狩野が口走る。
「こちらへ直接攻撃を加えるわけではないのだろう?ならば横付けした後武力制圧してしまえばいいではないか!」
考え込む狩野と青島に聞こえていたのか福地が叫ぶ。
先程騙されたのが余程腹が立ったらしい、皆殺しにしろと言わんばかりだった。

「そうは言いましても・・・。」
「どちらにせよこのままでは埒があくまい。」
福地は畳み掛ける。
狩野は閉口し、宮野に目で合図する。
すると、ひょいとその後ろ襟を宮野が掴みどこかへと連れ去っていってしまった。
航海士に一時停船を指示した。
「どうするのですか、司令。」
「・・・。」
狩野は考えていた、何をするかわからない敵。
しかも我々が自衛隊であるがゆえに攻撃することも出来ない。
と言ってもあまり時間を与えすぎてもむこうに何かをたくらむ時間を与えてしまう。
せめてむこうに連絡をとる手段があればよいのだがそれも無い。
八方塞がりではないか。
「どうしたものかな・・・。」
―――敵船全船、捕捉しています。いつでも撃てます―――
狩野はミサイル艇に連絡を繋いだ。

255F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 22:00 ID:imAIk9NE
おかしい・・・。ゼナは魔法の詠唱を終えふと顔を上げた。
もう魔法の準備は出来ている、あとは魔法を放つだけである。
魔力、精神力の集中のため髪からは汗が滴り落ちていた。
なぜ敵船が止まったのか。
「まさか・・・気付かれた・・・?」
いや、それならばすぐに攻撃が始まるはず。
それが無いということは・・・、何を考えているのか。
しかし、そもそも時間稼ぎの任務、敵が時間を与えてくれるならこれ程好都合なことは無い。
ゼナは自らの篭手の宝石を見た、それはもはや直視できないほどに赤く輝いている。
「敵船、動き出しました。」
セグルはの声がやけに遠く聞こえる。
「いよいよ・・・かしら。」
ゼナは微笑み、甲板へと歩いていった。

256F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/11(水) 22:02 ID:imAIk9NE
投下終了!
短い・・・、許せ。orz

御意見、御感想、お待ちしております。

257名無し三等兵@F世界:2004/08/11(水) 23:23 ID:XW8iWbNA
興味深い事実が出てきましたね。
F世界人も酒(アルコール)で酔うが、魔術の妨げにはならない。
マナは使うと周囲から減る。もともとマナが存在していなかった日本本土ではどうなっているんだろう。
F世界人の時間単位は分も使う。

自衛隊の戦術については次回期待ですね。

258S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/12(木) 01:20 ID:MSZ8PKC.
更新乙です。セフェティナー!きさま国に帰る気はあるのか!まあ帰っても
裏切り者扱いだろうから亡命しか無さそうですが。

>日本本土のマナ
マナ値の高いところから低いところへ、物質的に流れるのでは無いでしょうか?
でないと召還地に進んだ奴隷船は、陸の上の魚になってしまいますし。

敵船全捕捉ということは、遁走中の本物を捉えているのでしょうか。間違いだと
思った観測員が目視データに直しているのかもしれませんが・・・

259F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/12(木) 21:41 ID:imAIk9NE
F世界が「分」をつかっているのは都合上です。
本当は違う単位を使っているのだけれど翻訳コンニャク食ってると思ってください。orz
体調と魔法の関係、セフェティナの進退、日本本土のマナに関しては本編で説明予定です。
ただ日本本土のマナに関してはS・Fさんの解釈で正解です。
わかりにくくてすんません。

260名無し三等兵@F世界:2004/08/12(木) 22:26 ID:CSK4BhXU
ミサイル艇はどうなるのか?
イージス艦の身代わりとなるのか?
あるいは・・・!?

261F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/14(土) 22:51 ID:imAIk9NE
投下開始します。

262F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/14(土) 22:52 ID:imAIk9NE
「敵が怪しい行動を見せたら即座に撃沈せよ。」
ミサイル艇船長・辻島は苦悩していた。
敵が降伏している以上先制攻撃は出来ない。
しかし何かをたくらんでいる可能性が高いという。
こんごうと敵船が密着すればミサイルは撃てない。
なによりも何か企んでいる証拠がない以上、何か企んでいる場合先制攻撃を受けることが確定しているのだ。
戦闘において先制攻撃を受けることの危険性は言うまでも無いが非常に高い。
場合によっては狩野司令の死傷、最悪こんごうの撃沈などもありえるだろう。
そうなればどうなるか、想像したくも無い。

263F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/14(土) 22:52 ID:imAIk9NE
辻島には選択肢が二つあった。

一つは狩野の指示に従い様子を見ること。これが軍人として義務の行動である。
しかし、それはあまりにも危険が大きすぎる。

もう一つは命令を無視し、こんごうと敵船が接触する前に敵船を撃沈すること。
絶対に軍人には許されない命令違反、しかし辻島には狩野を救う方法はこれしかないように思えた。

264F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/14(土) 22:52 ID:imAIk9NE
さて、一方覚悟を決めて行動を始めたこんごうでも、必死に考えを巡らしていた。
降伏をしている相手では攻撃することは出来ない。
何かをたくらんでいると言ってもマホウなどという訳の分からないモノの反応があった、では攻撃する理由になりはしない。
「・・・どうすれば・・・?」
狩野はもはや苦悩、と言っていいレベルで考え込んでいた。
敵が攻撃を仕掛けてくるとして、先制攻撃は禁止、敵に接触しなければならない。
こんな状況でどうして部隊を無傷で済ませられるのか。
最大の目的は自分達を無傷で済ませることだ。
「狩野司令、あまり思いつめないで下さい。敵が攻撃を仕掛けてくるとは限らないのですから。」
宮野が言う。しかし狩野はほとんどその言葉を聴いていないようだった。
「だが・・・。」
狩野は首を横に振って、そして思いついたように青島のほうを向いた。
「青島君、何か考えは無いか?」
君が将来の高級幹部となるのならば、その力を見せて欲しい。
狩野は藁にもすがる思いで言った。
青島はそれにこれが許されるのかは分からないが、と言って答えた。

265F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/14(土) 22:53 ID:imAIk9NE
前編投下終了
短すぎるのは仕様です。orz
明日には続きを投下します。

266名無し三等兵:2004/08/15(日) 21:57 ID:qnQGM9pw
また同じ時間帯に書き込まれるんだろうか?

267名無し三等兵@F世界:2004/08/15(日) 22:18 ID:SDNE6sNU
青島の策とは?

268名無し三等兵:2004/08/16(月) 04:00 ID:qnQGM9pw
寝ないで待ってたがもう限界
明日は7時に家を出ないといけないので、2時間仮眠してそのまま仕事いってくる

269F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/16(月) 11:34 ID:imAIk9NE
辻島は腹を決めた。
敵船を沈めると決めたのだ。
これをすれば自分は良くて懲戒免職、下手をすれば死刑が待っている可能性もある。
だが、不自然な降伏、敵は明らかに何かを企んでいる。
迷っている暇はなかった。
「砲雷長、ミサイル発射用意。」
「!?良いのですか、辻島さん・・・。」
「ああ、かまわん。」
辻島は極力平静を装って言った。そうだ、これで良いんだ。自分に言い聞かせる。
「先程こんごうからも報告があったようにレーダーと視認データで敵船の位置に差異が見られるのですが、どちらを。」
「どちらも目標にしておけ、万が一何かの幻という可能性も考えてな。」
「了解。」
対艦ミサイルSSM、人類の持つ兵器の中でも強い部類に属し、鉄でできた船を破壊するために作られたこれは目の前に浮ぶ木造船など粉微塵にするだろう。
当然、その中に居る人間全てを巻き込んで。
「そうだ、これで良いのだ。」
再び自分に言い聞かせるように呟く。
そして一度頷き、発射と叫ぼうとしたその時、観測員が間抜けな声を出した。
「狩野さん・・・?」
「どうした、間抜けな声を出して。・・・っ。」
間が悪くなって辻島はその観測員を睨み、そして観測員の見ているほうを見る。
そして目の前に広がる光景に辻島もまた声を失った。

270F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/16(月) 11:35 ID:imAIk9NE
開いた口がふさがらない、と言うのはこのことなのだろうか。
わざわざこちらは自爆の魔法の詠唱をし終えて待っていたのだ。
文字通り決死の覚悟というものだ。
「ど、どうなっているのかしら・・・。あっ。」
あまりのショックに集中力が途切れ、完成していた魔法が崩れかかりあわてて再び精神を集中する。
辻島やゼナが驚くのも無理は無い。
目の前の鉄の船の甲板に降伏を意味する真っ青な旗がはためいていたのだから。

271F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/16(月) 11:36 ID:imAIk9NE
「なるほど・・・な。」
――我々にそちらを攻撃する気はない!だからそちらも我々を攻撃するな!―――
響く放送に顔をしかめながら狩野はまいった、と言うように首を横に振った。
確かにこうすれば向こうもこちらを攻撃することはあるまい。
いかに、無傷で相手を拘束するかにとらわれていてこれは完全に盲点だった。
「けれど・・・こんなことが許されるのですか?」
青島が心配そうに狩野のほうを見る。
敵を逃がす、紛れもなく軍隊失格の行為である。
「なぁに、相手の船の国のこともわからずに沈めてしまうほうが良くない。最善は敵の捕縛だが、こちらが無傷、ということで十分だ。甘いと言われるかもしれないが」
それが自衛隊という組織だ。
そう付け加え狩野は笑った。
青島も釣られてそれに笑顔で応じる。
―――こちらには明らかな接近の姿勢を見せたら攻撃をする準備がある!―――−
これで攻撃姿勢を見せればたちどころにミサイル艇の攻撃が奴らを粉砕するだろう。
「さて、これで相手がどう応じるかだが・・・?」

272F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/16(月) 11:38 ID:imAIk9NE
ゼナは迷っていた、いや呆然としていたと言うほうが正しいのかもしれない。
こんなこと常識では考えられないことだ。
いや、気が狂ったところでこんなことはすまい。
そもそもこちらの企みを察知したのならば早々に自分達を撃沈すればいい話なのだ。
あの空を飛ぶ竜モドキや巨大な鉄の船を作る技術があるのならばたやすいことだろう。
それなのにあちらはこちらに攻撃をしない。と言う。
「何を考えているのかしら・・・。」
さっぱりわからない。
いい加減頭が煮詰まって来て、ふとセグルのほうを見た。
幼い彼もまた自分と同じように困惑の表情を見せている、しかし自分と決定的に違うものは、安堵。彼の表情にははっきりと安堵が浮んでいた。
その顔を見てゼナはふっと微笑んだ。
「お言葉に・・・甘えようかしら・・・ね。」
ゼナの篭手から魔法を帯びている証拠である光が、消えた。

273F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/16(月) 11:39 ID:imAIk9NE
「終わった、か。」
旋回をしてこちらに背を向け去っていく船を見ながら狩野は呟いた。
これから報告書を作るのが相当大変になったが、まあしかたがない。
いや、もしかしたら自分は免職になるかもしれない。
しかし今彼にはそんなことはどうでも良いことであった。
戦闘行為をしながら重傷者一名で済んだのだ。それが狩野には何物にも変えがたい喜びであった。


日本召還から約2日、自衛隊最初の戦闘はこうして死者ゼロと言う形で幕を閉じた。

274F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/16(月) 11:41 ID:imAIk9NE
投下終了、すいません昼寝のつもりが朝まで寝てしまいましたorz
というわけでとりあえず第一章、と言えばいいのかな?が終了しました。
こっからは続けるかどうかは決めてませんがとりあえず反応を見て決めたいと思います。
続けるとしたら外交編かな次は・・・。

と言うわけでとりあえずここまでのご愛読有難うございました。
ご意見、ご感想お待ちしております。

275名無し三等兵@F世界:2004/08/16(月) 19:12 ID:Wn9DtOTI
第一章終了おめでとうございます。
いや〜面白かったです。
これから日本がどのような行動を行いこの世界にどんな変化を与えていくのか楽しみです。
資源問題などはどうなるのでしょうか?
バルト帝国と条約を結べば解決するかと思われますが。
それと国や地域によって服装などに変化をあたえるといいかもしれません。
王国では気候の関係上肌の露出が少なく、逆に帝国では肌の露出が多かったり(例としてビキニアーマーなんて)
本スレだと小官のせいで萌えは規制されてますからね。
個人的にこういう遊び要素みたいなのも増えていってほしいところです。
とにかく第二章を楽しみにしています。

276S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/16(月) 21:50 ID:MSZ8PKC.
第一章乙でした。あくまで結果論とはいえ、最終的にこれが一番良かったのかも
しれませんね。この状況下での自爆は、世論にしろ戦争経済にしろ、日本だけが
不利を被る訳ですし。まあミサイル艇の保険が前提の手でしたが・・・

セフェティナにバレないように、こんごうの武装もロック!ってのはまず過ぎ
ますか。まあそれくらい狡猾なら、最初から別の手を使いますかね?

277名無し三等兵@F世界:2004/08/18(水) 20:45 ID:iL8zVq0Q
セフェティナはどうなるの?

278名無し三等兵@F世界:2004/08/18(水) 22:30 ID:7oJpPj1Q
出来るなら・・・続きキボンヌ

279名無し三等兵@F世界:2004/08/20(金) 01:04 ID:t/FiF926
出来なくても・・・続きキボンス

280F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/20(金) 14:15 ID:imAIk9NE
了解しました。
ご声援有難うございます。
現在続きのプロット書いているので期待しないで待っていてください。
時期は未定だけどできれば来週には!

281名無し三等兵@F世界:2004/08/21(土) 13:35 ID:fJH5UT0g
期待はしますが、せかすわけではないっす^^。
無理せずがんがってくだせぇ(爆)。

282S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/21(土) 19:29 ID:MSZ8PKC.
焦った時の方がいいのができる場合もあるでしょう。しかし焦りすぎると
全部が崩壊する場合もあります。・・・まあ要するに、コントロールできる
範囲で尻に火を付けるといいのかもしれません。

前の感想はあんなでしたが、第二章にも期待しております。

283F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:27 ID:imAIk9NE
投下します。

284F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:27 ID:imAIk9NE
アジェントのある大陸。多少差異があるがユーラシア大陸とほぼ同じ物であると考えて欲しい。
そしてその大陸の東部、現実世界における中国東部、満州を広げた程度の地域を支配し、東南部には多くの小国や自治都市を従えているのがこの大陸で最大の力を誇るアジェント。
そしてロシア西部あたりから発し、その魔道と機械(と言ってもまだ下等なものだが)を合成させた魔道兵器の力を背景に中央アジアへと侵攻を続けるのがバルト帝国。
そしてその二大強国にはさまれるように中国北西部に存在するのがオズイン王国であった。
このオズイン王国、そもそもあまり土地として恵まれてはいない。
降水量も多くは無いし、土地も決して肥えてはいない。
しかし、過酷な状況において人々は助け合い、そして精強な兵を持つに至った。
戦国時代の三河と言えば分かる人も多いかもしれないが、バルト帝国がオズイン王国を前にしてその猛スピード侵攻を止めたのも、オズインの人々の強い結束を目の前にしたからだったのだろう。

285F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:28 ID:imAIk9NE
「信じがたいことばかりだな、なによりも戦闘をおこなったとは・・・。」
報告書を持ち袴はそう言った。
袴、現在の日本の総理大臣職につく男。
官僚憎しの感情が高まった世論をかわす為に選ばれた首相のため、硬いイメージから外れた、政治家には珍しい柔軟性を持つ人物であった。
そう言う意味ではこの状況には適した人物と言えるかもしれない。
しかしそんな人物でも当然疲れはたまる。これからの方針を決めた連日の会議で彼はすでにやつれ果てていた。そこにこの報告書、である。

「しかし、死人が出なかった、と言うのは唯一の救いだな。」
そしてマスコミ、野党対策などこれからが大変だな、と連日の仕事で疲れ果てた閣僚のほうを見る。彼らもまた自嘲気味の笑いを返した。
「それにしても・・・報告書を見る限り日本は現地人の国と随分近い位置のようだな。尖閣諸島が向こうの領海内の可能性が高い。さて・・・どうしたものか。」
尖閣諸島の石油は窮地の日本の生命線である。絶対に奪われるわけには行かない。
しかしすでに現地人の船と戦闘をやってしまった、というのは大きい。
最終的には和解したらしいがこれはこれからの外交に大きなダメージになるだろう。

286F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:28 ID:imAIk9NE
とりあえず・・・今必要なことは情報を集めること。
幸い現地人らしい協力者を得ることができた、とこの報告書には書いてある。
言葉が通じる、というのが不可解だがこの世界についてかなりの部分が分かるだろう。
「とりあえず協力者の話が聞けたらすぐに報告書にして持ってくるように。」
「了解しました。ただ今担当自衛官が対応しています。」
そうか、と袴はうなずき、そしてまた振り返った。
「?なぜ自衛官が?外務省の仕事ではないのか?」
「いえ、どうもその協力者がある自衛官から離れないらしいのです。だから特例として。」

ああもうわけがわからん。
そう叫びたいのを堪えて袴は窓から空を仰いだ。
ぬけるような青い空は故郷のものとなんら変わりはなかった。

287F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:28 ID:imAIk9NE
同時刻、佐世保。
袴と同じようにに報告書に目を通す人物が居た。
名は赤羽。佐世保地方隊司令である男である。
卓抜した任務遂行能力、指揮能力を持って海外派遣で数々の成果を挙げ、40代という若さでここまでの地位に上り詰めたまさに「異常」とも言える人物であった。
そして海上幕僚監部への道があるにもかかわらず傍流とも言える地方隊司令となった、そう言う意味でも異常といえた。

そして彼の前には青島が立っていた。
「つまり、敵が何かの攻撃姿勢をとっている気配があったために戦闘を避けた、そう言うことか?」
「はい。」
「ずいぶんと甘い判断をしたものだな、マスコミなどどうとでもなる、撃沈してよかったのだが。」
「すいません。しかし・・・降伏している相手に攻撃する、と言うのは。」
「攻撃姿勢をとっている気配があったのだろう、ならば攻撃も止むなし、だ。」
赤羽はここまで言って目を瞑り首を横に振った。
「まあいい、協力者も得られたようだし、こちらに死者を出さなかったのは大きい。」
「はい。」
「とにかく、だ。君の隊はこれから敵の未知の兵器対策及び重要外交においての護衛にあたってもらうことになる。君を見込んで本国に呼び戻した。期待している。」
「はい。」
赤羽がその鋭い瞳を一段と細めた。

288F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:29 ID:imAIk9NE
「これからの外交では味方作り、及び農地の確保が主題となる。すなわち・・・侵略だ。」
そこで赤羽は言葉を切った。
「侵略・・・。」
青島は戸惑った。そんな言葉を出されるとは思っても見なかったからだ。
「侵略、重い言葉だ。だが日本という国が生き残るためには絶対に必要なことだ。」
「はい、わかっています。」
科白とは対照的に青島の声は震えていた。
「とにかく何においても情報が必要不可欠となる。初めの任務としては協力者との信頼関係を崩さないように。」
「了解しました。」
青島と対照的な淡々とした赤羽の言葉が終わると青島は敬礼をした。

289F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/27(金) 20:32 ID:imAIk9NE
投下終了しました。
次回はセフェティナへの質問コーナーです。

このわかりにくいF世界設定へのみんなの質問をセフェティナちゃんが
なんでもやさしく答えてくれますっ☆

コホン。・・・というわけでF世界設定に関する質問を募集します。
とりあえず確定しているものは
・魔法
・セフェティナの進退
のふたつです。
それではご意見、ご感想お待ちしております。

290戦史編纂室:2004/08/27(金) 21:48 ID:wGzdE5Jk
はーい、質問!

魔法は日本人でも習得できますか?
例えば『見えないモノが見えちゃう人』とかイタコさんとか。

291名無し三等兵@F世界:2004/08/27(金) 22:58 ID:JknViaMg
無線機などの機械を通した音声も自動翻訳されるんですか? それとも人が発声した時点で翻訳済み?

魔道兵器は魔法が機械を強化するの? それとも機械で魔法を発動させるの?

魔法は武器としてしか使われていないの? 冷蔵庫やインターネットもどきがすぐにでも作れそうだけど生活レベルはどれくらい?
船の動力としては応用してませんでしたね。魔法は産業革命を起こしえなかったの?

日本政府はF世界側に領海という概念があるとどうやって確認したの? F世界人は日本人と同じ政治背景を持つと勝手に思い込んでいるだけ?

尖閣諸島周辺は日本と同時に召喚された、石油の存在が確定されている地盤なの? それともあるていど開発済み?

292名無し三等兵@F世界:2004/08/28(土) 00:27 ID:xB..GIUE


魔道戦車とか魔道突撃砲とかそういった装甲戦闘車両は存在しますか?
魔法、或いは魔道器を習熟した「兵士」や、その運用とかは存在しますか?

293名無し三等兵@F世界:2004/08/28(土) 04:57 ID:s6XD0Yc.
バルト帝国、アジェント王国、オズイン王国はどんなイメージ?
例えばバルトはドイツ第三帝国、アジェントはイタリアのヴァチカンのような風景が浮かんでくるんだけど…。

294名無し三等兵@F世界:2004/08/28(土) 08:40 ID:cvWOYkCg
セフェティナちゃんは青島に惚れているのですか?

295名無し三等兵@F世界:2004/08/28(土) 19:54 ID:Vmu4u79Q
魔法を使える人と使えない人との比率は大体どれくらい?

296名無し三等兵@F世界:2004/08/28(土) 23:04 ID:xB..GIUE
潜在的に魔法を使う素養のある人と実際に魔法を使えるようになった人の比率は大体どれくらい?

297S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/28(土) 23:18 ID:MSZ8PKC.
乙です。しかし「現実世界」ちゅう識別は何となくアレですな。F世界というのは
物質的に存在する『見知らぬどっか』ではないのでしょうか?
まあセフィーロを極端化したような世界の場合「仮想世界」と名乗る方が
正しいのでしょうがw

魔法系統に熱系と有りましたが、他にはどんな感じの分類が有るんでしょう?
あとマナの収束・拡散にはどういうルールがあるんでしょう?術式を解いたら
そのまま周囲に高濃度で流出したりするんでしょうか?

298F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 02:13 ID:imAIk9NE
おお!たくさんの質問有難うございます!
セフェティナに答えられない部分はここで答えてしまいます。

>291さん
>日本政府はF世界側に領海という概念があるとどうやって確認したの? F世界人は日本人と同じ政治背景を持つと勝手に思い込んでいるだけ?
この場合領海、というよりもF世界国の船が動き回る地域、つまり進入すると武力衝突が起こる可能性のある領域、と言う意味で使っています。

>尖閣諸島周辺は日本と同時に召喚された、石油の存在が確定されている地盤なの? それともあるていど開発済み?
地盤ごと召還された、と言う設定です。F世界で日本がある位置に元々あった地盤はどっか行っちゃいました。


>293さん
そこは各人のイメージにお任せしたいのです。
許してください。


では引き続き質問募集しています。

299F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:50 ID:imAIk9NE
投下します。
質問コーナー前編です。

300F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:51 ID:imAIk9NE
質問のために用意された部屋は思いのほか居心地が良かった。
こざっぱりとした部屋に木製の家具が置かれている。
なんでも向こうの世界の人、要はセフェティナなのだが、をリラックスさせるための配慮らしい。

そして彼女には青島以外の男を怖がるきらいがあるため監視の自衛官も女性であった。
お役所の仕事としては驚くほど気が利いているといえるだろう。
そんなリラックスした雰囲気で質問は始まった。

「私の分かる範囲で説明しますけど・・・、完璧ではないので許してくださいね。
まず、魔法と言うものは術者の精神力をマナにかよわせ、様々な現象を起こす、と言うものです。
といってもこのことをきっちりと理解して魔法を使っているのは王都魔術院卒業生かエルフだけなんですけどね。」
そして早速良く分からない単語が次々と現れ青島は面食らった。

301F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:51 ID:imAIk9NE
「精神力でマナを・・・?そもそもマナ、とはいったいなんなんだ?」
「マナですか・・・?えっと、身近すぎて逆に説明しにくいんですけど・・・。」
まぁ自分もいきなり酸素について詳しく説明しろ、と言われたら少し戸惑う。

「マナというのは空気中に漂う目に見えない粒、と言われています。
マナは精神力がかようと薄く光って見えるんです。
マナは空気中だけじゃなくて鉄以外のものは何でも通り抜けてしまって、
銀や金、白金、それらは逆にマナをその物質中に保っておく性質があるんです。」
「へぇ、けどそれって何の役に立つんだい?」
「何言っているんですか、銀で作った剣にアルジェクトを埋め込んで・・・」
「アルジェクト?」
また知らない単語が出てきて青島は思わず呟いた。

「あ、知りませんか。この私の篭手についている宝石です。こういう一部の宝石はマナを引き付ける力があるんです。
しかも特にこのアルジェクトは精神力のマナへの伝達を補助する力もあってとても重宝します。」
・・・わからなくなってきたかも・・・。青島は苦笑した。

「それで銀などマナ保持率の高い金属で作った剣にアルジェクトを埋め込んで刀身に特定の呪文・・・後で説明します。を書けば精神力を送り込むだけで熱を帯びたり切れ味が鋭くなったりする魔法剣が作れるんですよ。
これらは実際に身体に身に付けるものだから多少魔法が苦手な人でも扱えるんです。高価なんですけどね。」

302F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:52 ID:imAIk9NE
「魔法が苦手・・・?じゃあ人の魔法の得手不得手ってどうやって決まるんだ?」
「それは精神力の最大量と魔力で決まるんです。」
さあ、また分からない単語が出てきた。青島はメモの用意をした。
「魔力・・・精神力と何か違いが?」
「はい、精神力が送る力そのものとすれば魔力は精神力を送り出す力です。」

「うーん・・・つまり精神力がバケツの水で魔力がポンプの力、精神力最大量はバケツの容積ってところかな・・・?」
「なんですか・・・ポンプって?」
今度は逆にセフェティナが青島に聞き返した。
「後で説明するよ。けれど精神力って具体的になんだい?根性がある人が強いってこと?」
「違いますよ。だったら魔術師はみんな熱血漢じゃないですか。」
セフェティナが笑って答える。青島もつられて笑った。

303F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:53 ID:imAIk9NE
「今のところ見た魔術師は君とジファンと一部の船員達・・・確かに熱血漢からは程遠いな。」
「でしょ?精神力というのは紛らわしいんですけど別に心の強さみたいなものじゃありません。
魔法を使うための人間やエルフに備わっている、体力と同じ鍛錬することで強くなる力です。」

「鍛錬?どうやってするんだい?」
たしかに走り込みを毎日やっていれば人間の体力はどんどん伸びていく。
しかし精神力の鍛錬とはちょっと想像がつかない。
「えっと、普通は魔法学校や魔術院でやるんですけど・・・体の回りにマナを集めて長時間耐えるとか・・・。」

「(よくわからない・・・。)けど魔法学校や魔術院・・・魔法を教える機関のことかい?」
「はい。富裕な一般庶民が通う事ができるのが魔法学校、貴族や才能ある魔法学校生が行くのが魔術院です。」
「へぇ・・・じゃあ僕も魔法学校に行けば魔法を使えるようになるのかな?」
日本人が魔法を使えるようになれば産業革命どころの話ではないだろう。
「いや、それは無理です。」
「あ、そうなの、なんだ・・・。けどなんで?」

「マナを動かすには幼い頃からのマナを動かす練習が不可欠なんですよ、だから今赤ちゃんのニホンに居る人ならあるいは。」
「そうなんだ・・・。」
これは重要な事項である。もしかしたら日本に魔法を導入することになるかもしれないのだ。

304F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:53 ID:imAIk9NE
「それでさっきの呪文っていったい?」
「はい、呪文と言うのは術者の精神力がかよったマナに様々な現象を起こさせるものです。
だから術者というのはどんなに精神力を使っても呪文がなければマナを動かしたり集めたりすることしかできないんですよ。
呪文は普通口でぼそぼそ言うんですけど魔法剣などは銀などに特殊な液体で掘り込みますし、大規模な魔法の場合は魔方陣で補助することが多いです。」

セフェティナはポンッと手を叩いた。
「つまり魔法の手順を簡単に説明すると、

精神力をマナに通わせ自分の近くに集める→マナを自分の望む魔法が撃てる形に動かす→
呪文を詠唱して自分の精神力を変質させる→マナが様々な現象を起こす。

これが魔法なんです。そして大規模な魔法ほど多くの精神力を必要として、多くの精神力を使うには強い魔力が必要なんですよ。」

305F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:53 ID:imAIk9NE
「・・・。」
中世レベルの世界なのに随分良く研究されて体系化されている、こちらの世界の科学と比べてもあまり遜色が無いほどだ。青島は感心した。
「どうしました?」
「いや、なんでもない。魔法を使う際に自分の近くにマナを集める・・・ということは魔法を使った直後は術者の周りや魔法を使った対象の近くはマナの濃度が高くなっている、ということ?」

「はい、マナはかなり速いスピードで濃度の高いところから低いところへ移動するんですけれど、
それでも頻繁に魔法が使われる戦場などではマナの濃度は高くなります。だから被害も大きくなってしまうんです・・・。
だけど例外もあってエルフの森などの一部の場所では不思議と常にマナの濃度が高いんです。」
セフェティナが悲しげな顔をした。
「戦場・・・マナに治療魔法なんてないのかい?」

「そんな、傷や病気を治療するなんて神のなせる業ですよ。魔法なんかでできるわけがありません。」
「そ、そうなのか・・・。」
回復魔法が無いというのは少し意外だった。
ゲームで一番使うのが回復魔法だったのだが、この世界にはそんなものは無いらしい。
「そうですよ、そんなことができたらどんなに便利か、と思いますけどね。
魔法で人間の身体を強くしたりすることはできないんです。
硬化したマナを集めて圧縮して盾代わりにする。とかならできますけど精神力が幾らあっても足りませんよ。」
そういった後セフェティナは一部例外も居ますけど、と小さく呟いた。

306F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:54 ID:imAIk9NE
「・・・そういえば今まで見た魔法で炎を出したり釘みたいのを飛ばしたり、氷を出す物があったけど、他にどんなものがあるんだ?」
少し話しが湿っぽくなってしまったので青島は話題を切り替えた。
「あ、魔法の種類ですか?魔法は結構系統だっているんですよ。
例えばマナの温度を上げる熱系、下げる冷却系、硬度を上げたり切れ味を出したりする物質系、他にもあるんですけれどそれはまた・・・。
それで術者は系統に好き嫌いがあったりするんです、ちなみに私が得意なのは・・・分かりますか?今の三つの中にあるんですけど。」
セフェティナがいたずらっぽい目で青島を見る。突然のことに青島も驚いてしまった。
「え?・・・そうだな・・・冷却系?」
と完全に勘で答える。
「すごい青島さん!当たりです!」
しかしそれが正解だったらしくセフェティナは手を叩いて笑った。

「おお、勘だったのに。・・・う。」
凄まじい殺気を感じて振り返る。するとそこには監視員が仁王立ちしていた。
『何をいちゃついているんだこいつらは。』監視の隊員の目はそう語っていた。

「コホン。・・・つまり僕達日本が召還されてさらに言葉まで通じるのはそういう呪文があるからなのか?」
「えっと・・・たぶん・・・そうだと思います。」
「たぶん?」
青島は自信なさげな答えに眉を寄せた。

「はい・・・あの召還魔法は特別なんです。」

「特別?」
青島はオウム返しに聞き返した。

307F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/08/29(日) 19:55 ID:imAIk9NE
投下終了です。
長い・・・!
読み飛ばしてもらっても結構です。
では質問、ご意見、ご感想お待ちしております。

308名無し三等兵@F世界:2004/08/29(日) 21:30 ID:GbrAaGvs
この世界のマナが無限なら日本のエネルギー問題は解決ですね。
熱源があれば蒸気タービンを作動させて発電できます。

呪文は精神を集中するための手段であり、発音にはあまり意味はないようですね。
魔術士オーフェン方式でしょうか。

309S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/08/29(日) 22:21 ID:MSZ8PKC.
なんか今、思わず「鷹の目と長い腕」ってフレーズが浮かびますた。
魔力の集積点が見えるって事は、魔法使いを「目」自衛隊の狙撃手を「腕」として
発動前破壊工作とかも出来たりしてw

・・・ところで、魔法陣なんかを途中でぶちこわしたらどうなるんでしょう?

310名無し三等兵@F世界:2004/09/01(水) 01:01 ID:kBCweWIM
しかし中国大陸沿岸がアジェントの勢力圏となると、今度は日本はどういう行動をとるのだろうか?
バルトと協力すれば機械の問題なども改善されるのではないか?

311名無し三等兵@F世界:2004/09/02(木) 20:01 ID:M0xVvSKo
召喚された人々の島は東南アジアを指しているのか?

312名無し三等兵@F世界:2004/09/02(木) 21:39 ID:M0xVvSKo
彼女は自国以外の国際情勢をどれくらい知っているの?

313名無し三等陸士@F世界:2004/09/02(木) 21:50 ID:5gTyQo9g
新生児をひとり用意して、ファンタジー世界人と日本人が交互に発音と文法を教えたら、その子は何語を覚えるのかな?
た抜き言葉「たなかただし」=「なかだし」はファンタジー世界人に通用するかな?
翻訳魔法はどこまで融通が効くんだろう。

314名無し三等陸士@F世界:2004/09/03(金) 07:36 ID:XszmsgnI
日本人とアメリカ人の国際結婚で両親が双方の母国語で会話するのを聞いた子供は両方の言葉を覚えます。
何故かは解りりませんが文法などは混ざりません。
小さい頃から外国暮らしが長く、幼少期を数カ国で過ごした子供が6ヶ国語を話せるようになったというのもよくある話です。

315F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 16:49 ID:imAIk9NE
「なかだし」て・・・。
っと更新遅れてすみません。
たぶん今日か明日にはいきます。
召還された島々は韓国や台湾あたりです。

316名無し三等兵@F世界:2004/09/04(土) 20:33 ID:mFs2.6Hg
エルフやドワーフの他にどんな種族がいるの?
たとえばバードマンとかワーキャットとか。

317F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:17 ID:imAIk9NE
人外種族は随時出していくつもりです。
彼らがいなければファンタジーは始まりませんから。
翻訳魔法については本編で説明予定です。

と言いつつ説明を後回しにしている本編投下。

318F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:18 ID:imAIk9NE
ラーヴィナ候ウェルズ邸。
「あっ、アルクアイ様、お帰りなさいませ。」
「お帰りなさいませ、お早いお着きで。」
「ああ。」
出迎えをする使用人達への返礼もそこそこにアルクアイは乱暴に扉を開けた。
そしてそのまま奥のウェルズの寝室に直行する。
大きな音を立て扉が開かれた。
「ウェルズ様!」
「あっ、アルクアイ様・・・戻られたのですか?」
「具合はどうだ?」
「はい、アルクアイ様が出られてから快方に向かっていて・・・まだ安心できる状況ではありませんが。」
「そうか・・・ご苦労だったな。」
ベッドの傍に控える医者がアルクアイのほうを振り返る。
その頬は大分青くなっていて徹夜の看病が続いたことを示していた。
といってもこの文明の医療、浣腸と瀉血以外治療らしい治療もできなかったのだが。
アルクアイがベッドの傍まで行くとそこには骨と皮だけのようになった萎れた老人が横たわっていた。
それ人物こそがウェルズ侯本人であった。
「ウェルズ様・・・アルクアイです。」
ウェルズの傍で侍りそっと話しかける。
その姿はまるで子供が親を心配する姿のように医者には見えた。
いや、このウェルズに長い間仕えていた医者はアルクアイが父親のようにウェルズのことを慕っていたことを知っていた。

319F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:19 ID:imAIk9NE
「おお・・・アルクアイか。」
「はい、ウェルズ様。ただ今帰還いたしました。そしてその件で報告したいことが二つ。」
そう聞いてウェルズは身体を起こした、あわてて使用人が身体を支える。
アルクアイはその姿を悲しげに見ている、そのように医者には見えた。
「なんだ・・・?」
「はい、一つは途中で新たに召還された国の軍隊と衝突し、奴隷の収穫に失敗しました。申し訳ありません、ただ船に被害はほとんどありませんでした。」
そう、ゼナの乗っていた自爆するよう指示を出した船でさえもだ。
これにはアルクアイでも驚愕した。
セフェティナが向こうに行ったままなのが気にかかるが彼女はウェルズ侯ではなく王の部下のために手を出すことはできない。
「そうかそうか・・・それで十分だ。」
ウェルズは優しげに微笑む。若いころは富国強兵に燃えたこの男もこの年齢になり、
身体も弱まるともはや欲も無くなる様だった。

320F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:20 ID:imAIk9NE
「もう一つは?」
「はい。ウェルズ様のお身体のことです。」
「む?」
ウェルズは意外そうな顔をした、しばらく航海に出ていたこの男が何故自分の体のことを言うのか。
「最近快方に向かっておられると聞きましたが。」
「ああ。」
「実はそれには訳があるのです。」
「訳・・・とは?」
ウェルズが促すとアルクアイは扉に控えている使用人に目で合図をした。
扉が開かれ、一人の男が入ってくる。
ジファンの部下だった男であった。
「説明を。」
「はい。」
アルクアイに促されると男はおずおずと話し出した。

321F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:21 ID:imAIk9NE
しばらく黙っていたウェルズの頬に涙が流れ落ちた。
彼は震える手でアルクアイに触れた。
「おお・・・顔を上げてくれ、私のもう一人の息子よ・・・。」
「ウェルズ・・・様・・・。」
もう一人の息子、とはウェルズには一人息子がいた。
しかし勤勉な父とは違い女と詩に溺れ、絵に描いたような愚息であり、皆の不安も大きかった。
それだけにこの「もう一人の息子」と言う言葉は大きな重みを持った。
「お前の行動は忠誠から出たもの・・・誰が攻められようか・・・。」
「ウェルズ様・・・っ!」
アルクアイはそんな政治的な考えなどかき消すようにウェルズのひざに突っ伏した。
その目からは涙が止めどなく流れている。周りの人間もまた皆涙を流していた。
誰が気付くだろうか、この男の涙も言う言葉も全てが偽りであることを。
アルクアイの言葉が嘘だという事を知っている告発した男でさえもそのことを忘れ涙を流していた。

322F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:22 ID:imAIk9NE
しばらくして皆が落ち着いた後ウェルズは言った。
その声は子供をあやすように優しかった。
「アルクアイよ・・・、私はもうこの身体では政治はほとんど執れない。
しかし息子ウェルンはあの調子だ・・・。だから我々二代に渡ってお前に補佐を任せたい。
頼めるか、我が息子よ・・・?」
「はい。義父上・・・。」
アルクアイは涙を流しながら平伏した。
誰もが見ても美しい主従関係の瞬間だっただろう。
その部屋に居る者全ての表情が明るくなった。
しかしそれはアルクアイがアジェントの中でも随一と言ってもいいほどの富強を誇るラーヴィナ領における実質的な支配権を持った瞬間でもあった。

323F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:24 ID:imAIk9NE
投下終了。
世界観説明ゼロ。いやほんとすんませんでした。
説明もかねた続きがもう用意してあるので明日か明後日にでも投下します。
ご意見、ご感想お待ちしております。

324F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:27 ID:imAIk9NE
すいません!重要な部分抜かしちまったんで投稿しなおします。
スレの無駄遣いなんですけど・・・もう一度投下しなおし・・・。

325F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:27 ID:imAIk9NE
ラーヴィナ候ウェルズ邸。
「あっ、アルクアイ様、お帰りなさいませ。」
「お帰りなさいませ、お早いお着きで。」
「ああ。」
出迎えをする使用人達への返礼もそこそこにアルクアイは乱暴に扉を開けた。
そしてそのまま奥のウェルズの寝室に直行する。
大きな音を立て扉が開かれた。
「ウェルズ様!」
「あっ、アルクアイ様・・・戻られたのですか?」
「具合はどうだ?」
「はい、アルクアイ様が出られてから快方に向かっていて・・・まだ安心できる状況ではありませんが。」
「そうか・・・ご苦労だったな。」
ベッドの傍に控える医者がアルクアイのほうを振り返る。
その頬は大分青くなっていて徹夜の看病が続いたことを示していた。
といってもこの文明の医療、浣腸と瀉血以外治療らしい治療もできなかったのだが。
アルクアイがベッドの傍まで行くとそこには骨と皮だけのようになった萎れた老人が横たわっていた。
それ人物こそがウェルズ侯本人であった。
「ウェルズ様・・・アルクアイです。」
ウェルズの傍で侍りそっと話しかける。
その姿はまるで子供が親を心配する姿のように医者には見えた。
いや、このウェルズに長い間仕えていた医者はアルクアイが父親のようにウェルズのことを慕っていたことを知っていた。

326F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:28 ID:imAIk9NE
「おお・・・アルクアイ…か。」
「はい、ウェルズ様。ただ今帰還いたしました。そしてその件で報告したいことが二つ。」
そう聞いてウェルズは身体を起こした、あわてて使用人が身体を支える。
アルクアイはその姿を悲しげに見ている、そのように医者には見えた。
「なんだ・・・?」
「はい、一つは途中で新たに召還された国の軍隊と衝突し、奴隷の収穫に失敗しました。申し訳ありません、ただ船に被害はほとんどありませんでした。」
そう、ゼナの乗っていた自爆するよう指示を出した船でさえもだ。
これにはアルクアイでも驚愕した。
セフェティナが向こうに行ったままなのが気にかかるが彼女はウェルズ侯ではなく王の部下のために手を出すことはできない。
「そうかそうか・・・それで十分だ。」
ウェルズは優しげに微笑む。若いころは富国強兵に燃えたこの男もこの年齢になり、
身体も弱まるともはや欲も無くなる様だった。

327F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:28 ID:imAIk9NE
「もう一つは?」
「はい。ウェルズ様のお身体のことです。」
「む?」
ウェルズは意外そうな顔をした、しばらく航海に出ていたこの男が何故自分の体のことを言うのか。
「最近快方に向かっておられると聞きましたが。」
「ああ。」
「実はそれには訳があるのです。」
「訳・・・とは?」
ウェルズが促すとアルクアイは扉に控えている使用人に目で合図をした。
扉が開かれ、一人の男が入ってくる。
ジファンの部下だった男であった。
「説明を。」
「はい。」
アルクアイに促されると男はおずおずと話し出した。

328F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:29 ID:imAIk9NE
男が話し始めると部屋は水をうったように静寂に満ちた。
男の話した内容は平たく言うとジファンの告発であり。
「ジファンが食事のたびにウェルズの食事に毒を混ぜていた、」と言うものだった。
男が話し終えるとウェルズは呆然として目も虚ろになってしまった。
そしてその彼を現実に引き戻したのはアルクアイの声であった。
彼の声は悲しみに震えているような声だった。目には涙が溢れ声も切れ切れになっていた。
「そして私は航海中にこのことを聞き、ジファンが許せなくなり、彼を切り捨てました。
しかしどんな理由があるともこれは身分が上の者への裏切り。・・・申し訳・・・ありませんでした。」
突然の告白に誰もが唖然とする。この領の実質上のナンバー2をこの男は殺したと言うのだ。
そしてそれは更に続いた。
「これは許されることではありません、どうか私を処刑してください!」
そう言ってアルクアイは地面に頭をこすりつけた。

329F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:29 ID:imAIk9NE
しばらく黙っていたウェルズの頬に涙が流れ落ちた。
彼は震える手でアルクアイに触れた。
「おお・・・顔を上げてくれ、私のもう一人の息子よ・・・。」
「ウェルズ・・・様・・・。」
もう一人の息子、とはウェルズには一人息子がいた。
しかし勤勉な父とは違い女と詩に溺れ、絵に描いたような愚息であり、皆の不安も大きかった。
それだけにこの「もう一人の息子」と言う言葉は大きな重みを持った。
「お前の行動は忠誠から出たもの・・・誰が攻められようか・・・。」
「ウェルズ様・・・っ!」
アルクアイはそんな政治的な考えなどかき消すようにウェルズのひざに突っ伏した。
その目からは涙が止めどなく流れている。周りの人間もまた皆涙を流していた。
誰が気付くだろうか、この男の涙も言う言葉も全てが偽りであることを。
アルクアイの言葉が嘘だという事を知っている告発した男でさえもそのことを忘れ涙を流していた。

330F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:30 ID:imAIk9NE
しばらくして皆が落ち着いた後ウェルズは言った。
その声は子供をあやすように優しかった。
「アルクアイよ・・・、私はもうこの身体では政治はほとんど執れない。
しかし息子ウェルンはあの調子だ・・・。だから我々二代に渡ってお前に補佐を任せたい。
頼めるか、我が息子よ・・・?」
「はい。義父上・・・。」
アルクアイは平伏した。
誰もが見ても美しい主従関係の瞬間だっただろう。
その部屋に居る者全ての表情が明るくなった。
しかしそれはアルクアイがアジェントの中でも随一と言ってもいいほどの富強を誇るラーヴィナ領における実質的な支配権を持った瞬間でもあった。

331F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/04(土) 23:31 ID:imAIk9NE
投下終了。
本当に申し訳ありません、としか言いようが無い。
orz
ご意見、ご感想待っております。

332S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/05(日) 16:59 ID:MSZ8PKC.
おお、悪い人キター。しかしアルクアイは結構な策謀家ですな。何よりも
イレギュラーで死んだはずのジファンを利用する辺りが・・・
ってまあ、どうせ帰りの船中か奴隷収穫時にでも殺すつもりだったのでしょうが。

とりあえずこれで、馬鹿息子は暗殺確定でしょうな。もちろんウェルズが
死んだ後でじっくりざっくり腹上死w

333F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 16:59 ID:imAIk9NE
前回は申し訳ありませんでした。
懲りずに投下開始。

334F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:01 ID:imAIk9NE
アジェントにおける「権力」は大まかに分けて三つある。
まず王、教会、そして諸侯である。
そして王は諸侯にその土地の所有を認め、その代わりに諸侯は一定額の納税と軍役の義務を負う。
しかし王、と言っても王家は国土の15%程度を支配するに過ぎずなかった。
それならばなぜ王としての絶対権力を維持できるか、と言うと
一つは教会が「神に次ぐ者」としての王を任命しその権力を裏づけしている。
そしてもう一つは魔術院を掌握していることを背景とした圧倒的な強さを誇る王下軍であった。
そして王は教会を見返りとして保護し、各諸侯領に教会領を置くことを認めていた。

335F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:03 ID:imAIk9NE
しかし近年農業技術の向上が進み収穫量が増えるにつれ諸侯の富強化が進み、
王家はその絶対権力を維持することが難しくなっていた。
そしてそこで王家の財源として発案されたのが「召還」であった。
まだ原理も解かれていない魔法技術ではあるが王の直轄領とされた島々は昔日の勢力を取り戻させるには十分なほどの財を王家にもたらした。
この奴隷貿易に目を付けたのが島々へ行くための港を提供するラーヴィナ候であった。
彼はこの奴隷収穫を請負い、その一部を横領して元々富強であった領をさらに豊かにした。

そしてセフェティナは最初黙認していたその横領が最近許容範囲を超えたがために送られた監視役であった。

336F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:05 ID:imAIk9NE
アルクアイはアジェント北西部山岳地帯、イルマヤ候領に貧しい農家の子として生まれた。
イルマヤ候領。ここはワイバーンの産地として有名なところであり、イルマヤ候もそれなりの富を得ていた。
逆に言えば利益を得ているのはイルマヤ候など貴族であり、下層農民は危険な労働を強いられる上、
南西部と比べると遥かに痩せている土地で、生産物で税を納めるために常に飢えていた。

そんな中、わずか8歳の時アルクアイはその美しい容貌を買われ、教会に売られることとなる。
だが不思議と彼には両親への怒りは無く、むしろ食物の心配をせずに読み書きなども習える教会に行ける事が嬉しくもあった。
しかしそんな彼を待っていたのは司祭たちからの問答無用の暴行であった。

337F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:05 ID:imAIk9NE
アルクアイにとって唯一幸運だったのはそこが魔法学校も兼ねていた事だろう。
教会に来る旅人達からの話で国内情勢や魔法の重要性を知っていた彼は、
男女問わず司祭達の伽の相手をしながら魔法の鍛錬に没頭した。
血の滲む様な努力に元来の才能も手伝い、彼は神童と言われるほどの魔術の使い手となり、
15になるころにはその名も高い魔術院からの招集を受ける。

そして王都についた彼の見たのはこの世の富であった。
それは、ここは神の国か、と教会不信を極限まで募らせた彼でさえそう思わずにはいられなかったほどであった。
そしてそれは野望と言うものが彼の頭の中に芽生えた時でもあった。
いつかこの町並みを自分の手に。
貧しい農家の息子の余りにも馬鹿げた野望であった。

338F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:06 ID:imAIk9NE
魔術院に入ってからの彼の生活はまさに地獄から天国への脱出であった。
アジェントを支える能力主義の中枢である魔術院では高級貴族の息子達は例外であったが、
出自などは関係なく実力で扱われた。
そしてアルクアイの能力は天才の名を冠するにふさわしいものであり、
18になった時には魔道士の中でも最も実力のあるものが選ばれる王下竜騎士への招集を受けた。
しかしアルクアイにとって、それは不満な地位であった。
魔術院のほかの人間とは違い世の中の情勢を知っている彼は、王下竜騎士はただ華々しいだけで将軍に成るのは高級貴族。権力の道へ繋がる物ではないと知っていた。
更にまだ召還が行われる前の時代。弱まる王家に強まる諸侯の時代。
遅かれ早かれこの王権は覆されるだろうと見ていた。
「その場に王権を覆す側として立ち会えれば、まだ可能性はある。」
そう考えた彼は諸侯の中でも最も野心的な人物を探し、接触を取った。
それがラーヴィナ候ウェルズであった。

339F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:09 ID:imAIk9NE
それから十年の間に
アルクアイは忠臣を装い民衆の人気を得て、
ウェルズの息子ウェルンを女によって堕落させ、
権益の保護によってラーヴィナの財源である商人達の人心を掌握し、
ウェルズ本人の毒殺を企み(ジファンに罪をかぶせたが)
ナンバー2だったジファンを見殺しにした。
そしていとも容易くラーヴィナはアルクアイの手に転がり込んだ。
しかし彼にはまだ懸念があった、それが近年の召還による王家の隆盛である。
「このままでは王家に従うしかない・・・王家が弱体化する何かが必要だ。」
そんな彼にとって謎の島(ニホン国と向こうは言っていたらしい。)の召還は最高の幸運であった。
あの巨大な鉄の船、空を飛ぶ鉄の箱。
強大な軍事力を持っていることは間違いない。
危険な賭けではあるが利用すれば王権を覆すこともできるだろう。
「危険な賭け・・・?いつもやってきたことだったな?」
彼は筆を取り、手紙を書き始めた。
―――ニホン国国王様―――
彼の腹のうちとは裏腹に非常に美しい文字であった。

340F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/05(日) 17:14 ID:imAIk9NE
投下終了です、
>S・Fさん
さすが鋭いです、本来はジファンは自衛隊との戦いじゃなくて
アルクアイに殺される予定でしたから。
ちなみにアルクアイのモデルは二名の日本史中の人物です。

これでやっとF世界と「日本政府」のつながりができたかな・・・?

341名無し三等兵@F世界:2004/09/05(日) 22:32 ID:XNHXhO8U
今後を期待させる展開ですな。ウマイナァ(´・∀・`)
ここらで>249が欲しくなってきた鴨。アルクアイは単純な
悪い人では無かったんですね。

342名無し三等陸士@F世界:2004/09/05(日) 22:34 ID:YE2KNGbA
協会はホモの巣窟…そういえば日本にも稚児ってのがいたなぁ。

343名無し三等兵@F世界:2004/09/05(日) 22:49 ID:AuYiVrCE
う〜ん
できればこの件はなんらかの理由で決裂しバルト帝国かオズイン王国と手を結んで
ほしいな・・・。
ダークエルフのお姉さんに早く会いたいのが本音です。

344S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/05(日) 23:10 ID:MSZ8PKC.
>>342稚児は武家の場合出世コースの一つ、でも寺院だと「女人禁制」で
溜まりに溜まった性欲のはけ口、でしたっけか?

手紙はあて名が「国王様」なので宛先不明でつっかえされるor皇族の方の手にw
流石にないか。でも首相に直談判しても意味ねー。所詮官僚集団の中のトップに
過ぎないオサーンだし。

さて、日本政府と防衛庁は、この手紙をどう見るのか?

345名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 00:11 ID:QIpRudvA
大体バルトはどうして、何が目的でオズインに戦争を仕掛けたんだろうか?
土地としては恵まれていないというし。
リクスあるとは到底考えられない。
他に彼らの勢力圏はシベリアまであるのか?
そうだとなんらかの形で日本との交渉ルートを作ることもできる。
自分の考えとしてはこの戦争が鍵を握っているかと。

346名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 00:37 ID:QIpRudvA
一気に読ませてもらいましたがこれからどんな展開になるのかが楽しみ。
元の世界には無い島なんかがあってそこで海洋貿易により生計を立てる国も出してほしいところ。
後、帝国=侵略及び悪というのは、もうどの話でも使い回されてるから(輸送戦記や日本異邦戦記で)別の構図で書いて言ってくれるといいなと思う今日この頃。

最後にできれば色気や萌えを(話の息抜き的に)そろそろ出してほしい。

347名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 01:55 ID:QIpRudvA
そういや一時期褌エルフなんてのが流行ったよな。アレにはワラタよ。
ビキニエルフは四角の会社から出たSAGA2秘宝伝説のエスパーガールが
頭に浮かぶ。
>>343、これを読んだとき頭の中で青島をセフィティナと帝国からの使
者としてやってきたダークエルフの姉ちゃんが奪い合うというのが浮か
んだ…しかも他の隊員に嫉妬の視線で睨まれる青島もオマケとして。

348名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 02:19 ID:QIpRudvA
日本のほうはセフィティナから召喚の事実を知ったら世論がだまっちゃいないだろう。
奴隷にされるなんて誰だってまっぴらだし。
しかし王権もアルクアイも奴隷を開放しようなんて考えは持ってなさそう・・・。
せっかくの富をみすみす手放すバカじゃないし。
青島とセフィティナの話の続きも気になる。
F猿さん、続編を期待してるので。

349名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 06:43 ID:B.aJQSlw
地図を作るのだったらこれを参考にしてみそ

借力[CHAKURIKI]〜全世界参加型「バカ世界地図」プロジェクト〜
ttp://www.chakuriki.net/index.html

350名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 17:38 ID:2aCdNJ8k
ここで質問。
アルクアイという人物はこれまでの言動から察するにレイシズム(差別主義者)なのか?

351F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/07(火) 19:12 ID:imAIk9NE
おお!御感想、御意見ありがとうございます。
反響が大きくて嬉しいです。
>345さん
バルト帝国の地域は地球に置き換えればカザフスタン周辺〜ロシア連邦西部です。
バルトが何故オズインを攻めたか、については本編で明らかにします。

>346さん
色気、萌えっすか・・・。
たぶん外交編初期が終わったらしばらく息抜き編(別名:伏線貼り編)
に突入すると思います。
息抜き話は大好きなんで絶対入れまっせ。

>349参考になるサイトかと思ったら・・・爆笑。

>350さん
アルクアイは差別主義者というより功利主義者です。
利用できるもの(奴隷)は利用する。
だから逆に言えば利用できれば奴隷でもエルフでも重用しますし、
使えなければ人間でも切り捨てます。

次回は明日か明後日になると思います。

352名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 20:50 ID:uTCaLTh6
ファンタジーというとちょっと違うかもしれませんがこんなゲームが発売されていたよう。

PS2 THE お姉チャンバラ 2000円

買って今プレイしているのだがシステムがしっかり作りこまれていてもの凄く面白い。
いつか萌え及び色気を出すのならこんなキャラを登場させてくれることを願います。
身軽な体を生かして主人公の女剣士がゾンビを次々と斬っていくのはヴァリスを彷彿とさせます。
F猿さんも暇があったらやってみることを是非ともお勧めします。
それが何かの参考にならんことを。

353名無し三等兵@F世界:2004/09/07(火) 21:17 ID:uTCaLTh6
>>351
次回の話が今からでも楽しみ。

>>352
これなら雑誌で知ってる。アテナがぴったり来るんじゃないか?

354名無し三等陸士@F世界:2004/09/07(火) 21:33 ID:sK5bERZY
萌えを書くのならひとつアドバイス。
対象のキャラが誰かに好かれようととる行動は「萌え」じゃなくて「媚び」。
例えば、作ってくれたお弁当に描かれたハートマークは「媚び」、絆創膏を貼った指先が「萌え」。
そして、ハートマークは嫌がられ指の絆創膏にも気づいてもらえないのは「萌え萌え」だ!!
薄幸度は高いほどよい。いぢめていぢめていぢめ抜け。

355名無し三等兵@F世界:2004/09/08(水) 01:47 ID:izapzyUE
352を書いた者ですが、なにか余計な騒ぎを起こしちゃったようですね。
以後自重します。
失礼しました。

356名無し三等兵@F世界:2004/09/08(水) 23:07 ID:2aCdNJ8k
まあそんなにかしこまらなくてもいいんでないの?
それより続編が投下されるのは今日あたり、楽しみだ

357名無し三等兵@F世界:2004/09/09(木) 23:45 ID:h8aL5QAg
そもそもアジェントはどういった理由でなぜ機械を禁止するようになったのだろうか?

358F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:01 ID:imAIk9NE
遅くなりました!
ちなみにアジェントが機械を禁止する理由は宗教(アシェナ聖教)上の理由です。

というわけで投下開始します。

359F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:02 ID:imAIk9NE
「奴隷を得るために召還・・・。」
赤羽は資料を見ながら呟いた。
「更には原理が良く分からない力だから元の世界に戻す方法もわからないとは。」
しかし言葉とは対照的に赤羽の顔はニヤリ、と笑っていた。
「まぁ、戦争をする理由を考えなくて済んだのだから、良しとしよう。」
彼は早くもバルト、オズイン、アジェント、小国群などがのった地図を手に入れていた。

赤羽佐世保地方隊司令
時代の変わり目には強力な指導者が現れると言うが彼はまさにそんな人物だろう。
彼は現在青島やその他有望若手が受けている高級幹部養成の発案者でもあった。
彼が陸、海、空問わず大量の若手自衛官の中から有望な人材を選び、特別な教育を施し、
特別に多くの任務につかせる。
しかしそれは海軍の他の幹部や陸軍、空軍から見れば赤羽が若手に閥を作っているようで余りよい気分はしなかった。
それはともかくとしてその有望な若手の中でも特に赤羽が期待しているのが青島であった。
その能力のみならず親が居ない、と言う境遇が彼に自分に近い物を感じさせたのもその原因だったかもしれない。
時は少し前に戻り、青島たちの話に戻る。

360F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:04 ID:imAIk9NE
「つまり・・・僕達は元の世界に戻れない、ということ?」
「はい・・・申し訳ないのですが。」
青島は唖然として言った。
自分達が奴隷のために召還された、ということだけではなく、
召還のために使われた魔法はまだ原理を解明していない物だから戻す方法も分からない、というのだ。
「あの魔法は古代文明の唯一の遺跡に残っていた物なのです。
だからどうして言葉が通じるかすら、分かっていないんですよ。」
「古代文明?」
セフェティナの言葉に聞きなれない言葉を聴いて
「えっ?ああ、はい、古代文明です。
はるか昔に滅亡した、と言われている文明で、なんでも民衆一人一人が政治に参加できる、なんていう国がたくさんあったらしいです、勿論資料が嘘を書いているんでしょうけど。
笑っちゃいますよね、そんなことできるわけが無いのに。」
青島は思わず苦笑した。

361F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:06 ID:imAIk9NE
「そしてその文明はそれから起こった大戦争で土を殺す光を出す魔法を使うようになって、
まるごと消え去ってしまったらしいです。」
青島の顔から苦笑が消えた。
「民主主義に・・・核兵器・・・。」
土を殺す光と言うのは間違いなく放射能のことだろう。
この世界のはるか昔にそれだけの文化、文明を持った国が幾つも存在していたと言うのだ。

「あ、青島さん?勿論こんな話ただの言い伝えですよ?」
「いや。」
「え?」
青島はセフェティナの言葉をはっきりと否定した。
「僕達の世界、日本でも民衆、いや国民一人ひとりが政治に参加する権利を持っているんだ。」
「ええ!?」
セフェティナが間抜けな声を出す。
「そ、そこまで驚かなくても・・・。」
「けど、けど、それでどうやって国が成り立っているんですか?」
「それは・・・。」
いつのまにか質問する側とされる側が変わってしまった。
青島はそう思いつつ必死に説明した、あまり納得してくれたようには見えなかったが、
文化背景が違いすぎるためしょうがないだろう。

362F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:06 ID:imAIk9NE
「オッホン!」
「ひゃあ!」
「わあ!」
本題から話がそれ始めるとまた監視の女性自衛官が咳払いをした。
思わず彼女のほうを向く、・・・思ったより若い、陸自の・・・三尉?
「どうしたんですか?」
セフェティナが青島の顔を覗き込む。
「あ、いや。」

それからしばらく順調にアジェントの国情などを聞いていく内に
一つの疑問に青島はぶち当たった。
「そうだ・・・。」
「え?」
「セフェティナさんはこんなに向こう、アジェントのことを話してくれるけれど、裏切り行為にはならないの?」
「え?」
なるべく刺激しないように言った青島の言葉にセフェティナは逆に問い返した。
「なんでそれが裏切り行為になるんですか?」
「いや・・・けれど「こんごう」の時も向こうの攻撃を防いでくれたりしたし・・・。」

青島の言葉にセフェティナは笑って答えた。
「ああ、あれはラーヴィナ候の臣下のジファン相手だから良いんですよ。
私はアジェント国王の臣下ですから。裏切り行為にはなりません。」
「そういうもんなの?」
「はい、そういうもんなんです。」
「じゃあ、アジェントに帰ることになるのか?」
「え・・・?」
セフェティナは固まった。

363F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:07 ID:imAIk9NE
そのままセフェティナは顔を赤らめていった。
「え、えと・・・あの・・・居て、欲しいですか?」
「えっ?」
ただ「帰っちゃうの?」程度の意味で言った青島は思いもよらぬ反応に彼もまた顔を赤くした。
「ウオッホン!」
「わっ!」
しかしその妙な雰囲気もすぐに後ろの自衛官によって崩されてしまった。
しかし二つ分かったことが彼にはあった。
一つは情報という物が余り重要視されていない世界であること。
もう一つは候達がかなり独立しているということであった。

話がバルト帝国の話に入るとセフェティナは更に興奮し始めた。
余程恨みでもあるのか思想上の違いでもあるのか(たぶん後者だろう)
いつもの態度に似合わず悪辣な言葉をならびたてていた。
「彼らの目的は絶対に世界征服です!」
「そ・・・そうなんだ。」
彼女の勢いに押されていたが青島の頭は冷静に物を考えていた。
バルト帝国の目的が本当に世界征服にあるとしたら、日本とは同盟関係になることはできないからだった。

364F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/10(金) 19:16 ID:imAIk9NE
投下終了です!
ご意見ご感想お待ちしております!

365名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 19:38 ID:ZfVCAZuU
ご苦労様でした!!!
しかしセフェティナのバルトに対するこの態度・・・。
なんかますますダークエルフの登場によって青島争奪戦が起こることを願いたい。

366名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 20:26 ID:ZfVCAZuU
またまたしつもーん。
>>358で宗教上の理由により機械を禁止ということは、FF10のエボンの教えを彷彿とさせるのだが。

「機械に頼りすぎた人間を罰するために"シン"は生まれた。ゆえに、みだりに機械を使ってはならない。人間が罪を部手償えば、"シン"は消え去る。」
という教えのもと、機械を使うことタブーとしている。
かといって、自然との共存を説いているのかどうかは不明。
かつて機械文明のザナルカンドと狂信的宗教信者のエボンに別れて抗争していたが、歴史上の多数の実例と同じように、狂信者が勝つ。
エボンの教えというものをでっちあげて、自分の支配に都合のよい戒律を押しつけるのはキリスト教の戒律と同じ。
エボンの教えとブリッツボールの娯楽で愚民を指導するのはローマの「パンとサーカス」と同じ。

これ見るとアジェントに共通してる部分が多い。
アシェナ聖教も自然との共存を説いているのかは不明。(ただエルフと人が共に普通に生活しているからその可能性は高い。ドワーフが迫害されるのは機械を作ったりしたから?ダークエルフは不明)
まずなにより機械文明のバルト帝国とアシェナ聖教の信者によって構成されるアジェント王国の対立。
アシェナの教えにより魔法使いという存在が特権を持っているように考えられる。(魔法原理主義?よって機械は魔法を原理としてきた彼らの特権を奪いかねない?)
アシェナの教えによる『アシェナの神の庇護を受けられない哀れな異世界人達を救い出す』という宣伝で民衆をコントロールし奴隷商売を正当化、ここもローマの奴隷制度と同じ。
これまでの話を読んだ上でこの様にに考えてみたが、いかがなものか?

367名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 20:37 ID:ZfVCAZuU
古代文明があると書いてありましたよね。
もしかしてバルトの機械兵器というのはその文明の遺跡から発掘したものが原型になっているのではないんですか?
他に機械が認識されているということは誰かがそれを作ったことがあるということですよね?

368名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 20:51 ID:ZfVCAZuU
乙カレー
うう〜〜〜んセフェティナが天然っ娘だぁ〜〜。
青島ともいい感じ〜♪♪♪
それはさてより次回を期待してます。

369名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 21:00 ID:ZfVCAZuU
バルト帝国ってなんかセガのゲーム、パンツァードラグーンシリーズの帝國に似てる。
この國も旧世紀の遺跡から兵器を発掘、人類を脅かす多数の巨大生物を撃退し瞬く間に一大国家となった。

370名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 21:19 ID:ZfVCAZuU
自衛隊=正義物でいくのですよね
腹黒そうな赤羽がこれからどのように動くのかが気になります
下手すると最悪の事態になりかねないし

371名無し三等陸士@F世界:2004/09/10(金) 21:20 ID:8Cz/jxg2
翻訳魔法も万能じゃないみたいだな。
”土を殺す光”=”放射能”が直訳されていないし
青島の「じゃあ、アジェントに帰ることになるのか?」という言葉のニュアンスが誤って伝わっている。
言葉上の誤解は生まれないと思っていたけど、日本も注意深く交渉する必要がありそうだ。

372S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/10(金) 21:23 ID:MSZ8PKC.
更新乙です!現状では古代文明遺跡にいかに潜り込むかが帰還の焦点ですな。
奴隷が奴隷を呼び出すシステムを解析したりしようとすれば、当然拒絶どころじゃ
済まないだろうし。

こう考えると、奴隷に頼る王と臣下セフェティナは外交ラインとしてちときついか。
打てる手としてはアルクアイと結んで内部介入するか、セフェティナ個人を
たぶらかして遺跡潜入・解析に勤しむか、バルトと結んで外交圧力をかけ、
どうにかしてしまうか。

現状のまま行くと、「セフェティナとラブコメでウハウハ!」が政治的に利用
できそうで嫌な感じだwバレたら電流で黒こげ・・・トラジマビキニー!

373名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 21:32 ID:ZfVCAZuU
翻訳魔法はその本人が認識及び理解していない概念の場合は他の表現で補われるのでは。
だってヘリやこんごうだってそうだったし、放射能なんて彼女が知るはずもない。

374名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 22:35 ID:ZfVCAZuU
体の回りにマナを集めて長時間耐える修行があるが露出度の高い衣装を身にまとっていたりして。
ラグナロクオンラインのマジシャンやセージやダンサーのごとく。
魔法使いの女、特に若い娘は肌を多く晒すことで多くのマナの恩恵をえられるというのを何かのファンタジーの解説本で読んだことがある。

375名無し三等兵@F世界:2004/09/10(金) 22:44 ID:ZfVCAZuU
グッジョブ!!!
相変わらずいい仕事をしていますな
ところで万が一上陸作戦をやるとしたら航空戦力が足りないんじゃと思ってみる

376S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/11(土) 01:04 ID:MSZ8PKC.
>>373土を殺す光=放射線って、青島の勘違いなのでは?概念の補完って
青島も勝手にやっている事だし(魔法=バケツのイメージって正しいのか)
ホントは紫外線殺菌装置かなんかの進化兵器だったりして。

古代文明では農業力を強化した細菌の力に頼っていたが、それを倒す殺菌光線を
相手が発動したため、農業生産が壊滅・滅亡したとか。別にこれでもアリだと
思うんだけどなあ・・・中性子弾でも土殺しがメインじゃないだろうし。

377名無し三等兵@F世界:2004/09/11(土) 07:27 ID:Etr0stzs
おはようございます。
朝からなんですけど一番ここが本家と分家の中でも活気があるような感じがしますね。
それはともかくご苦労様でした。
なおもしよければこれが航空戦力の参考になることを。
ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/
といっても本家のほうで何度か紹介されてるものですが。
登場させるとしたらある程度無理の無い設定でなら大丈夫なのでは?
あくまで“正規空母”がNGなのであるからして。

378名無し三等陸士@F世界:2004/09/11(土) 16:50 ID:NJ2htG1Q
>>376
> >>373土を殺す光=放射線って、青島の勘違いなのでは?

放射能汚染が「土を殺す」という概念で理解されているのでは?

379F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:49 ID:imAIk9NE
どうも、随分早く出来上がっちゃました。
FF10はやったことないんで良く分からないんですが、
確かにアシェナ聖教はキリスト教を参考にしているところが多いので
似ているところがかなりあると思います。

翻訳魔法については373さんの解釈で正しいです。
すんません、分かりにくくて・・・。

「土を殺す光」については本編で明らかにしていくつもりです。
では投下。

380F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:50 ID:imAIk9NE
バルトの目的は世界征服などではなかった。
そもそもバルト帝国は約百数十年前、痩せきった土地で暮らしていくことのできない民衆が
武装して遺跡荒らしや付近の村落からの略奪を始めたことが始まりであった。
その頃は遺跡から得た物と言ってもその技術レベルの違いからそれを実用化する手段は彼らには無く、
アジェントやオズインの貴族達に珍品として売りつけるのがせいぜいであった。

そしてその後その盗賊団が手先の器用なドワーフ達と接触したのが歯車が回りだした時だったのだろう。
もともと「からくり」に興味を持っていたドワーフ達はこの客達の持ってきた「珍品」に異常な興味を示した。
そしてドワーフ達がその魔道機械の劣化版(それこそ性能は月とスッポンだが)
を作ろうとし始めるのにたいした時間はかからなかった。
しかし、ある困った事態が起こった。
魔道機械を作るには魔法技術が必要であり、ドワーフ達にも盗賊団達にもそれはなかったのである。

381F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:51 ID:imAIk9NE
ちょうどその頃、その地方ではアジェント地方からダークエルフが逃亡してきていた。
黒い肌を持ち、森を伐採することに拒否反応を持たない彼らは、
黒い肌を嫌うアシェナ聖教と森を神聖視するエルフ達によってアジェントで迫害の憂き目に遭っていた。
しかしその保護をするにはドワーフ達では力が足りなかったのである。
そこで白羽の矢が立ったのが強い武力を持つ盗賊団であった。

こうして政治的、軍事的な保護者を求めていたダークエルフ、
魔法技術を求めるドワーフ、盗賊団。両方の利害が一致し、彼らの間には協力関係が結ばれた。
こうして開発された魔道機械は特に武器面においてその能力を発揮し、
付近の村落、自治都市を纏め上げ、大盗賊団を巨大な帝国にまで発展させたのだった。
そう言う経緯があるからこそ、バルト帝国は首脳が三種族で構成されているという珍しい国家なのだった。

382F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:52 ID:imAIk9NE
バルト帝国の目的について話を戻す。
前述の通りバルト帝国は痩せた土地に位置していた。
逆を言えばそれを補うために魔道機械が注目され、発達したのである。
そして強大な軍事力を得た彼らが求めた物は当然豊かな土地であった。
そして、この大陸において豊かな土地と言えばアジェントの存在する地域のことであり、
バルトが侵攻進路を一路アジェント方向、つまり東へと向けたのも当たり前のことであった。

その当時の皇帝はエグベルト7世、神帝とまで謳われた戦略家、戦術家であり、
さらにその脇をダークエルフの長アークス、ドワーフの長バグマンら優秀な人材が固めていた。
そしてその手腕によってバルト東部の小国群は彼らの盟主であるオズインに助けを求める暇も無く、
大波に小波が飲まれるかのごとく制圧されたのだった。
帝国軍の士気は上がり、その時の彼らの目的は紛れも無くアジェント征服であっただろう。
彼らにとってオズイン王国は栄光への道に転がる石ころに過ぎなかった。
そしてアジェント征服とは彼らにとってまさに世界征服を意味していた。

383F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:53 ID:imAIk9NE
しかし彼らにとって思わぬ、しかし当たり前の事態が起こった。
それは魔道兵器の不足であった。
当然である。まだマニュファクチュアの確立していない時代。
侵略した土地から幾らでも徴収できる兵士と違い魔道兵器はドワーフやダークエルフの職人の手作りの物であった。
この激しい連戦の中で消耗した魔道兵器の補充は不可能であった。
更にオズインとの闘いの中で病による神帝エグベルト7世の急死は計り知れないダメージを帝国に与えた。
彼の残した兵法書はあるものの、優秀ではあるが天才ではなかったエグベルト8世には
神帝の作り出した大量用兵の機動戦、日本史で言う信長の多段撃ち、騎乗射撃部隊などを使いこなすことは不可能であった。

8世の脇を固めるアークスとバグマンはこの状態ではオズインを倒すことはできても
アジェントに侵攻することは不可能と判断し、なにか別の道を探していた。
そして彼らが生命線として目を付けたのは
アジェント南西部のさらに南に広がる誰も手を付けていない肥沃な空白地であった。

384F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:53 ID:imAIk9NE
地球で言うミャンマー、バングラディッシュに位置するこの空白地、
そもそも何故誰も手を付けていないかと言うと理由があった。
昔からアジェント、地球で言うベトナム、タイ、ラオス、辺りに位置する小国群。
この二つの勢力が食指を動かしていたこの地域であったが、
アジェントにとってはこの地域へと繋がるアジェント南西部に位置する巨大な森が
森を神聖視するエルフと蜜月関係にある彼らにとってこの地域に侵攻するには大きな妨げになっていた。
しかしこの地域を諦め切れないアジェントはこの地域を開拓することを軍事力を背景に小国群に禁止し、
さらに小国群を経由しての、この地域への侵入を彼らに要請した。

しかし、この地域への侵入を禁止された小国群はこの盟主の横暴に怒り、
自分達の領土を経由しての空白地への侵攻をはっきりと拒否したのであった。
(これによってアジェントと小国群との関係は冷え込んでいくことになる。)

385F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/11(土) 18:54 ID:imAIk9NE
このためにこの空白地は空白地のまま、小国群の農民達が僅かにこの地域を
「天からの贈り物」「愚か者の落とした宝」などと呼び、開拓するだけになっていた。
そしてこれに目をつけた者が二人居た。
その内一人がバルト帝国であり、
もう一人がアルクアイであった。
この状況下でアルクアイはバルト帝国とは全く違う視点でこの地域に目をつけていた。


投下終了、謀略編がちょっと続きます。
ご意見、ご感想お待ちしております。

386名無し三等兵@F世界:2004/09/11(土) 19:14 ID:if9p7Frs
こんなに早く、…お疲れ様でした。
まあ褌エルフのカレーを食べてください。
元気を取り戻したら、またの続きをお待ちしています。

387名無し三等兵@F世界:2004/09/11(土) 20:01 ID:if9p7Frs
これまでの帝国の設定とは一味違いますな。
これまで本家に投下された話に出てくる帝国は資源なども有り余っているのに己の
支配欲を満たすために他国に戦争を仕掛けたり、占領国に圧政を敷いたり、ほんと
にこいつら世界を支配する気があるのか、と思いましたよ・・・。
あんな搾取なんてしたら民の反感を招いて秦などのように数十年で滅びること間違いなしですからね。
帝国には帝国の理由がありただの征服欲ではなく政治的延長によって戦争をしていますね。
しかし盗賊から生まれた国家ですか・・・。
でもそれじゃあ民を引き寄せるというのは中々難しいと思うのですが。
何せ元は盗賊だし。
ここでふと考えたのですが盗賊団とは言いますがその本質は発掘部族に近いのではないのでしょうかね?
国家建国を行うとしても、魔道機械が重要な役割を担っているのは確かです。
話からするとドワーフの作っているのは遺跡から発掘した物の劣化コピーみたいで
すし、サンプルは多いほうがいいという理由で盛んに発掘が行われたのでは?
そしてそれが武器以外に別の面で民に役に事があったりすることにより彼らへの好
意的な感情が生まれていったのではないかと。
またこの世界にはジファンが乗っていたワイバーンのようなモンスターがいますし、
人に危害を加えるのがいてもおかしくないと考えられます。
結果として禁じられているという機械を使いこなし、自分達を脅かすモンスターを
倒すその姿は、考え方を変えれば神様みたいに見えたはずです。
それにドワーフやダークエルフなどの多種族をまとめ上げるというのは充分な求心力になるでしょうし。
と自分なりに説を考えてみたのですがいかがでしょうか?

388名無し三等兵@F世界:2004/09/11(土) 20:25 ID:if9p7Frs
毎度毎度の早い更新には脱帽の一言っス。
バルトの皇帝に関してだけどある程度ダークエルフの血などが混ざってるのかなと思った。
多種族の国家をまとめるには一種族だけが強い権力を持つのが問題になる。
理由は王政国家は民主国家と違い最高権力者は親から子の代へと継承される。
つまりもし多種族国家でドワーフが王様だった場合その跡取りもドワーフ、
といった具合に続いてゆくとドワーフだけが国内で優遇されたり他の種族は冷遇さ
れるといった事が起こりえる。
現実世界の例としてはちょっと違うかもしれないが、
南アフリカで昔行われたアパルトヘイトや白人と黒人の差別問題を見れば少しは言
いたい事がわかるはず。
そういう一種族の優遇化を防ぐため皇帝の家系は別の種族との婚姻を行っているのではないか?

389名無し三等兵@F世界:2004/09/11(土) 20:36 ID:if9p7Frs
肝心の魔道兵器だが、どういうものか想像がつかない・・・
私的にはソニーのワイルドアームズシリーズに登場するARM(アーム)という銃器が思い浮かんだ。
これはARMと精神を感応させることにより威力を引き上げるといった仕組み。

390名無し三等兵@F世界:2004/09/11(土) 20:54 ID:if9p7Frs
続編キターーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

ここでエグベルト8世がハーフダークエルフ(女)であることを希望する!
理由はそういう女皇帝なんて珍しいから、アジェント王はジジィだろうし。
神帝エグベルト7世の死後、18歳の若さで帝位に就くも先にあるのは険しい苦難の道だった。
先帝の跡を継ぐため、国のため、必死に頑張る彼女だが激務が彼女に圧し掛かる・・・・。
という風だったらもう最・・ナ、ナンデスカ?チョット!ドコヘ、タスケテーー!・・ドカーン

391名無し三等陸士@F世界:2004/09/11(土) 22:05 ID:O23M57aQ
>>387
支那では常識かと>盗賊が建国

392戦史編纂室:2004/09/11(土) 22:44 ID:hmauEGh2
>>391に追加

アラブの英雄王には奴隷出身者もいる。

393名無し三等兵@F世界:2004/09/12(日) 00:59 ID:8dn3jZFk
アジェントのワイバーンによる航空戦力に対抗できる戦力はあるのか?
例えば飛行艇といったのとか。

394名無し三等兵@F世界:2004/09/12(日) 02:30 ID:8dn3jZFk
GJ!
また腹黒男が何か企んでるな。
もしかしてこいつは自分自身の手によって新たな国家を作ろうとしてるんじゃ!?
一体アルクアイは空白地をどのように利用しようとするのか。
どう考えてもヤーナ予感しかしない。
そう戦争がからむ・・・・・・。

395S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/12(日) 09:38 ID:MSZ8PKC.
>>378どうも失礼しました。こちらも思いこみが激しかったようで・・・
>>391もう一個追加しちゃうと、貧農からの成り上がりも。中国史のみならず、
日本史的にも豊臣なんかは実例ですね。

更新乙です!早いですねえ。劣化マジックアイテム、製法が気になる所ですね。
形状(も怪しいけど)と機構だけを別部品で再現したものっぽいですが、ドワーフ
は自己理論に従って設計変更したりしてるんでしょうか。

しかし三種族は寿命が(特にダークエルフは決定的に)違う以上、任命期間等の
設定があったりするんでしょうかね?一人だけあらゆる秘密と権限をもったダーク
エルフの政治家なんて、洒落ですむ物じゃないし・・・

396F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/12(日) 11:32 ID:imAIk9NE
どうも!反応多くて嬉しいです。
答えられなかった御質問に答えていこうかと。
>>291さん
尖閣諸島の石油はある程度開発済みで後一年程度で本格供給可能という設定です。

>>292さん
魔法、或いは魔道器を習熟した「兵士」や、その運用はその程度は低いですが存在します。
一般兵士と別に常備軍もあるってことです。
ちなみに装甲車両は「まだ」存在しません。

>>295さん>>296さん
貧農は使えませんが、一定以上の豊かさを持てばだいたい必須技術として
程度の差はあれ習得します。というより魔法は富裕階層であることの証明です。
ちなみに素質の差はあるけれど修練すれば魔法は誰にでも使えます。

>>370さん
自衛隊という組織にも色々人間が居ますから、・・・そういうことです。

>>387さん
魔道機械の一般利用などはあります。それを民衆が使えるかどうかは別ですけど。

>>388さん、S・Fさん
名(帝位)を人間がとり、実(長寿による権力掌握)をドワーフやダークエルフが取るという感じです。
エグベルト7世の時は別だったという設定ですが。
といってもドワーフやダークエルフの寿命もせいぜい人間の二倍なのです。エルフも同じくです。

>>393さん
ワイバーンは帝国にもあります。
その物量の差は大いにありますが。

>>390さん
そ、そうきましたか・・・。
でもとりあえずいろんな意味で予想と期待を裏切っていくつもりです。

ああ、設定ばっかり作っていても意味が無い、
本編を面白くしなければ・・・といっても暇も無いorz
ってな訳で本編投下は少し先になりそうです。長くても一週間以内には!

397名無し三等兵@F世界:2004/09/12(日) 16:30 ID:chquf5JU
もちろんいい意味で予想と期待を裏切っていくことを期待する。

ドワーフやダークエルフ、エルフの寿命に関してだが何もしないで長寿というのは面白みに欠ける。
なにか定期的な処置を体に施すことによってそれだけ生きていられるというふうにしたらどうだ?
もちろんそれはその種族の中でもある程度の地位についてるものにだけ限られており一般民の寿命は人と変わりなし。
例えば霊脈(レイライン)にある森や洞窟でマナを体内に取り込む特殊な処置を定期的に行うことで老化を防ぐ(限界あり)

以上、貴君の健闘を祈るオーバー。

398名無し三等兵@F世界:2004/09/12(日) 16:46 ID:chquf5JU
この世界にはモンスターもいるんだよね?
これがなければファンタジーの魅力は半減

399S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/12(日) 20:30 ID:MSZ8PKC.
寿命は倍ドン程度ですか。ちょっとホッとしました。1000年単位の化け物が
はびこるようだと、政治どころか神話の中身みたいのまで出てくるだろうし。

しかしドワーフも寿命長いんですね。自分は「毛むくじゃらで頑丈、けどそんなに
長生きでもない」的な生き物だと思っていたのですが。

400名無し三等兵@F世界:2004/09/12(日) 22:10 ID:ObcjcGaU
在日米軍はどういう状況になっているんだ?
下手をすると中に敵をかかえるという状況になる恐れも。

401名無し三等兵@F世界:2004/09/12(日) 23:58 ID:ObcjcGaU
セフェティナと青島の場合だと
青島=おじいちゃん
セフェティナ=まだピッチピチ
なんかいやだな・・萎える

402名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 01:03 ID:ObcjcGaU
よく考えるとそうなんだよな〜これは作者様の手腕でどうにかしてほしい。

403名無し三等陸士@F世界:2004/09/13(月) 01:26 ID:NJ2htG1Q
>>399
> しかしドワーフも寿命長いんですね。
エルフは樹木の、ドワーフは岩石のアナロジーであるからして寿命は長いんです。
そのほかにも地形のように永続的なもの、四大元素のように普遍的なものの妖精は長寿、
草花や雪のように短命だったりすぐ壊れるものの妖精はやはり短命か定命(人間並みってことね)なことが多いようです。

ちなみに’80年代までは一般的にエルフは貧乳でした。RPGの勃興による世界的ファンタジーブームとファンタジーイラストの興隆につれてエルフ女性は全世界的にグラマーになっていくのでした。

404S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/13(月) 01:34 ID:MSZ8PKC.
おお、ご教授ありがとうございます。ドワーフって岩石だったんですか・・・
こわれ物の妖精は儚い、つうとドラの精霊呼び出し腕輪が(ry
では最近のファンタジーに多い岩石人間ってのは、一体なんなのでしょう?

セフェティナは80年代以前か以後か!って魔導系だから露出も含めてセックス
アピールは薄いか。貧乳貧乳。長谷川裕也せんせーが喜びそうだ。

405名無し三等陸士@F世界:2004/09/13(月) 02:26 ID:NJ2htG1Q
ドワーフは岩石といってもでっかい岩じゃなくて鉱石のほうですね。
いわゆる奇岩、巨岩の妖精はトロルと言われてる連中のが近いです。
(実はトロルももともとは「妖精一般」を指す名詞なんですが)

ちなみにファンタジー小説と神話、伝説の常識は違うので、
たとえば伝承では地霊であり長命なコボルドがたいていの小説では犬人間で短命で高繁殖率に化けたりしていますが。
うじゃうじゃはびこるタイプの種族は短命タイプが多いみたいですね。
社会性高い種族だと長命でも割とうじゃうじゃ固まってますが。
(絶対数は少ないけど狭い場所に固まって生活するので数が多く見える)

作者の人に確固たるイメージがあるなら無理に修正する必要はないです。

406名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 05:40 ID:ObcjcGaU
その種族だけで隠れて住む。一見なんてことのないように思えるが現実はそうではない。
ありがちな表現を借りれば、所詮人は一人では生きていけないのだ。それは特定種族だけでも同じ。
種族だけで隠れて生きていくということは、遠からず子供の問題にぶつかる。
種族の血を持った子供が生まれ、その子供が孫を作る。そうすればどんどん血は濃くなる。
それはいわゆる近親婚となり、高い確率で障害をもった子供を生み出す結果となってしまう。
そんな子供は容認せざる存在のハズ。
長寿で補っているとしても最終的、結果的には出生率の低下を引き起こし、一族は滅びてしまう。

407名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 06:49 ID:UpMxMKJ.
>>
>

408名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 06:55 ID:UpMxMKJ.
>>404
> 魔導系だから露出も含めてセックスアピールは薄いか。
そうとは言えませんよS・Fさん。露出の高い魔導士だっていますよ。
ラグナロクオンラインをやってみなさい。マジ子さんにセージたん、
といった具合にセックスアピールの濃いキャラがいます。決めつけない事です。
なお407は間違って書き込んでしまいあんなになっちゃいました。
ごめんなさい。

409名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 07:14 ID:K1U79z9M
長寿には長寿のリスクまたは欠点があるということかぁ、勉強になるな。
続きの話は誰の視点になるんだろう・・それだけが心残り。

410名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 07:50 ID:K1U79z9M
80年代に関して一言いいですか?
1980年代後半には、レダだのヴァリスだのロマンシア(円英智のコミック版)だの、見渡す限りの女子キャラがビキニアーマーを着ていたものなのですが。

411名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 17:30 ID:r1Ln/YW2
在日米軍はどれくらいの戦力をこの時点で保有しているんだろうか?
核ミサイルはあるのだろうか?
無視するほうで行くなら無視するにこしたことはないけどね。
もっと話がややこしくなる恐れがあるし。

412S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/13(月) 17:46 ID:MSZ8PKC.
>>408了解。しかし、魔導士がエロであることに意味はあるんでしょうか。魔女は
黒ミサで悪魔と結ばれたるものだから、ホントはこっちのがエロでも良いはず
なんですが・・・不思議。
それとも能力の管轄神がゼウスばりの連中だとか?ラグナロクという位だし
(関係ないか)神への供物としてのボディ。巫女風味。

413名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 18:46 ID:r1Ln/YW2
う〜ん、色々と考えさせられるものですな。
もしかしたら魔法には女にしか使えないものと男にしか使えないものがあるのでは?
魔法による肉体の強化は不可能だが、女の場合は無意識に女だけ発動する魔法によって、
反射神経や新陳代謝の向上が起こりその特性を活かすためにビキニアーマーのようなものができたと。
しかし奥が深い・・。

414名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 21:01 ID:vSOJMwyM
魔法で疑問に思うことがある。
回復魔法は使えないとセフェティナは言うがようは工夫次第じゃないか?
日本という国を丸ごと召喚できる召喚魔法が存在しているのだからそれを使わない
手は無い。
召喚魔法で精霊クラス召喚獣を呼び出し彼らの魔法によって傷を治してもらう。
相手は森の精霊、人一人の傷を防ぐことぐらいできるはず。
ちなみにこれの原案はサモンナイトの回復召喚魔法から考え出してみた。

415名無し三等陸士@F世界:2004/09/13(月) 21:30 ID:NJ2htG1Q
>>414
回復魔法に限らずどういう魔法を使えて何が使えないというのはあくまで設定であって、作者の人の都合で決まることだから、
我々読者が『回復魔法使えないなんておかしいぞゴルァ』といってみたところで詮無いこと。
要は作品内で整合性とれてればよいのです。
まあ矛盾があってもうまい作者の人はそれを伏線として活用しますが。

それでも『原則として回復魔法がつかえない世界で例外的に魔法による治療、回復が出来る存在』っていうのはつかいでがあるしずいぶんかっこいいギミックになるから
『あの設定でこうすれば治療魔法が使えるようになるぞ』つうのは否定はせんが。

それよか、もうそろそろ話題を整理して、考察スレに移植しませんか?皆の衆

416名無し三等兵@F世界:2004/09/13(月) 21:43 ID:vSOJMwyM
じゃあ議論、考察は一時休憩ということで、話の投下までしばらく待つか30章で書き込みをやってましょう。

417F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:20 ID:imAIk9NE
魔法に関しては厚着でも薄着でもどちらでも良い、と言うシステムですから・・・。
まあ、本編でいずれ出しますとも出しますとも。しかし資料が無いな、探さないと・・・。
回復魔法に関しては存在しません。

「たとえ精霊を呼び出したとしても、彼らの使う魔法も「マナ」と言う物によって起こる以上、
回復魔法は存在し得ないんですよ。
ちなみに国を呼び出す召還魔法なんて普通は使えません、古代の遺跡の魔術を
アルヴァール魔法大臣が全身全霊を懸けて使うだけです。
妖魔程度なら高位の魔術師なら使えるんですけどね。」
「誰に話しているんだ、セフェティナ・・・。」
「ヒミツです。」

では投下します。

418F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:20 ID:imAIk9NE
「味方が欲しい。」
これが今の日本政府の切実な願いであった。
セフェティナ一人の情報ではアジェントのこと以外はろくな情報は得られない上、
食料、工業の原料の確保においても通商関係を結ぶ必要性があったからだった。
そして今、その事について、何度目かも分からぬ閣議が開かれていた。
そしてその閣議にはセフェティナを管理する人間として、赤羽も招集を受けていた。
「どうも、赤羽海将。わざわざ遠いところ御足労ありがとうございました。」
「いえ、お呼びに預かり恐縮です。袴総理大臣。」
「(これが・・・歴戦の軍人と言う物か・・・。)」
お互いに儀礼的な挨拶を交わす内に、袴は赤羽になにか威圧感のような物を感じていた。
しかしそれは赤羽の柔らかい物腰とあいまってあまり気分の悪い物ではなかった。
むしろ安心感すら覚える物であった。

419F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:21 ID:imAIk9NE
転移から一週間以上が経って、日本国内は予想に反して落ち着いていた。
武士道、と言うべきか、本当に窮地に追い込まれると逆に冷静になっていくお国柄である。
阪神大震災の時火事場泥棒が一人も出なかったように、この時もパニックになることなく、
むしろ皆が外出を控えたために交通事故などは減ったほどであった。
といっても、限度はある。
現に食料品については米以外のものはかなりの物が品薄となるし、
工業については資源が無く殆んどが日干しとなっていた。
だからこそ、通商関係を結ぶ味方を作るということは急務であった。
しかしセフェティナの言葉はその希望を断つものばかりであった。

420F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:22 ID:imAIk9NE
「まさか奴隷のための召還とは・・・。」
前に赤羽が言った言葉と同じ言葉を袴は言った。
そして外務大臣のほうに目を向ける。
「これまでの世界史と協力者の言葉を鑑みるに相手・・・アジェント王国、というらしいな、
は最初からこちらを見下してくる、最悪派兵をしてくる可能性が高いということか。」

「はい、残念ながら。しかし協力者・・・セフェティナ嬢の話によるとこの大陸・・・
ユーラシア大陸のような物らしいですが、便宜上新大陸と呼びましょう。
この新大陸に存在する通商関係を結べるだけの力を持つ勢力は4つ。
一つはアジェント、一つはバルト帝国、一つはオズイン王国、最後に小国の集合体が存在します。
小国と言っても・・・自治都市に近いようですが。」
「そうか。ならアジェント以外の勢力との交渉は可能か?」
外務大臣は一度目を瞑り答えた。
「いえ、バルト帝国、オズイン王国に関しては内陸部にあり、交渉ルートすら存在しません。
小国群もアジェントに従属しているため、アジェントと同様の対応をしてくると思われます。」
「そうか・・・。」

421F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:22 ID:imAIk9NE
二進も三進も行かないではないか。
そう叫びたくなる袴ではあったがそれをぐっと堪えて、誰かこの局面を開く人間は居ないかと辺りを見回した。
そして誰もが俯いてしまう中、赤羽一人だけが立ち上がった。
「発言をお許しいただけますか、袴総理大臣。」
「ああ。」
朗々とした口調に思わず袴は返事をしてしまった。
そしてそれから赤羽の演説が始まった。おそらくこれは歴史に残る演説となっただろう。
なぜならこの演説が後の日本の運命を大きく揺るがす出来事の布石となったのだから。
内容は要約するとこのような物になる。

「アジェントの国土は中国の80%ほどもあり、国力も豊かだ。当然兵も強いだろう。
さらにこの国は我々を奴隷にしようとして呼び出した。攻め込んでくるのも時間の問題だ。
そして通商では食料、資源の問題を先送りするばかり。
ならば今こそ自衛隊に軍としての権限を与え、アジェントへの侵略を許可して欲しい。
現地住民、敵兵をなるべく傷つけずに日本国民を養えるだけの農地と資源を確保してみせよう。
もし逆に今自衛隊をこのままの制度で縛り付けるのならば日本国民一億5千万人強は全員が奴隷となることだろう。」

422F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:23 ID:imAIk9NE
赤羽の口調はまさに威風堂々、自信に満ちた言葉であり、思わず袴も頷きかけるほどであった。
そして赤羽の自信には裏付けもあった。
彼は独自にこの世界の情報を集めるルートを作り始めていて、
おそらく後一ヶ月もしないうちに正確な地図も手に入る手はずになっていた。
そしてアジェントがこちらを舐めきっている内に勝負をつけようと考えていたのだ。
しかし、この問題は重要な問題であり、そうやすやすと決めるわけには行かない。
袴たちの答えは「自衛隊の束縛はなるべく無くしていく方向で検討する。」
という消極的なものだった。
これに不服ではあったが赤羽は無理強いは危険だと判断し、それ以上の発言はしなかった。
そして誰も喋る事が無くなり、一時の静寂が流れた時、
その静寂を破るように一つの情報が会議室へと飛び込んできた。
アジェントの一諸侯から手紙が来たと言うのである。

423F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:26 ID:imAIk9NE
投下終了です。

「ところで青島さん、ザイニチベイグンって何ですか?」
「え?えーっと、日本に居て日本を守ってくれるアメリカっていう国の軍隊のことだよ。」
「えっ、けど青島さん達自衛隊も十分強いじゃないですか。」
「僕達の世界ではあれくらいじゃ、守りきれないんだよ。それに複雑な理由もある。」
「・・・難しいんですね。」
「そう、難しい。」

だから出すのも難しいです・・・けど時が来たら頑張るかもしれません。
ではご感想、ご考察、お待ちしております。

424名無し三等陸士@F世界:2004/09/13(月) 22:49 ID:0wvC9A8w
>阪神大震災の時火事場泥棒が一人も出なかった
なんかの冗談か?

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&amp;ie=UTF-8&amp;q=��ɾ��紊ч����純����˩����贋灰罍�&lr=

425F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/13(月) 22:52 ID:imAIk9NE
ぐお!
書き違えた!
ttp://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&q=��ɾ��紊ч����純����˩����贋灰罍�
というか勘違いでした。スンマセン。

426_:2004/09/14(火) 15:49 ID:OiuVqWhk
>425
何が言いたいのかは分かるが、リンクが意味不明

>阪神大震災の時火事場泥棒が一人も出なかった
これは間違い。
書店が結構あらされてて、漫画の棚がほぼ空で
ハードカバーは全然減ってないって本屋を見た事があった。
正しくは流言飛語やパニックがほとんど起こらなかった。

427F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/14(火) 16:43 ID:imAIk9NE
すんません、現地の人でしたか・・・。
orzリンク先は阪神大震災、火事場泥棒でgoogleで調べた物です。

少し旅に出てきます。

428名無し三等兵@F世界:2004/09/14(火) 17:54 ID:2aCdNJ8k
F猿さん、間違いは誰にでもあります。
要はそれを反省し次に活かしていけばよいのです。
これにくじけないで頑張ってください。
次回の話も期待して待ってますので。

429名無し三等兵@F世界:2004/09/14(火) 19:51 ID:Cux13G3w
どうもご苦労様。ミスの点については気にしないで。
424の人も悪気があって言ったわけじゃないんだし。
それにこんなに速いペースで次々と話を書けるのがすごい。
この調子でがんばることを願う。

430名無し三等兵@F世界:2004/09/15(水) 01:57 ID:kNl7oH4g
疑問に思ったことを挙げさせてもらう。
F世界には女性の水着はあるのだろうか?
こっちの世界では100年程前から女性の水着はあるが今の形とはかけ離れている。
今着ている水着らしいものができたのは半世紀ほど前と新しい。
森の種族であるエルフのセフェティナには馴染みがないかあるいはあっても薄いもの。
服を取り扱っている店を青島に案内してもらっている時に水着を見つける彼女。
そして起こる一悶着、そんな光景が頭に浮かぶ。
それとは別に話の投下、お疲れさん、そう落ちこまいで次の話で挽回してやればいい。

431名無し三等兵@F世界:2004/09/16(木) 21:54 ID:KpMs54VQ
調べた

ビキニ(bikini)
胸と腰だけを覆う型の肌露出度の高い婦人用水着の総称。1946年、パリのエンジニア、
ルイ・リード(Louis R&eacute;ard)が考案した水着を、ビキニ環礁での原爆実験にあやかって
自ら“ビキニ”と命名したことにはじまる。しかし、あまりの大胆さからほとんど着用
されることはなく、米国でも1960年代初頭まで一般のビーチでは着用禁止とされていた。
日本でも1950年に入ってきたが、一般に着られるようになるのは1970年代になって
からである。バブル期にいったんは「ワンピース」に押されたものの、1990年代中ごろ
から若い女性を中心に一大ブームとなっている。

詳しくは以下のやつに
ttp://kononatu.hp.infoseek.co.jp/CHOSA/index.html

432F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/16(木) 23:41 ID:imAIk9NE
心配かけました、すみません。
次回は明後日か3日後になると思います。

433F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:04 ID:imAIk9NE
最近書くのが早くなってきたような。
投下一回分なら一時間もかからなくなって嬉しかったり。
プロ野球はストか回避か・・・。

それでは、投下開始します。

434F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:04 ID:imAIk9NE
時間は少し前に戻る
「よしっ、こんなものかな。」
もう傾き始めている日を眺めながら青島は言った。
朝からこの情報交換をしているのだからおよそ8時間喋り続けていた事になる。
いくら鍛えこんでいる彼でも喋る訓練はなされていない。さすがにもう疲れてしまった。
「ねぇ、セフェティナさん。」
「・・・・。」
セフェティナの返事が無い、青島がパソコンから顔を挙げた。首を垂れ、全く動かない。
「セフェティナさん?」
青島が顔を覗き込む。
「すー・・・すー・・・。」
セフェティナは寝息を立てていた、それと同時に肩が僅かに上下する。
「眠っちゃったか・・・そりゃ疲れるよな。・・・そうだ。」
監視役の女性の方を見る。彼女など昼食時以外はずっと立ちっぱなしなのだ、
疲れでは自分など問題ではないだろう。
「何?」
しかし彼女の言葉はつっけんどんであった。

435F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:05 ID:imAIk9NE
「あ・・・おつかれさまでした。」
とりあえずねぎらいの言葉をかける
「いえ、これくらいたいしたこと無いわ。」
「え、ああ・・・。」
完全にペースを乱され、青島は少し動揺した。
「あの人のお気に入りだからもっと逞しいのかと思ったけど・・・。」
「あの人?」
「そんなことはどうでも良いの。」
すさまじい科白に青島はあっけに取られ、ふと彼女の顔を見た。
はっきり言って・・・可愛い。歳は自分と同じか少し下ぐらいか。青島はそう思った。
小柄なせいで気の強そうな目が強がっているようにしか見えないところがまた可愛らしかった。
「なに笑っているの?」
「あ、いや。」
青島が首を振ると彼女は少し不審そうな目をした後、軽く首を回し再び青島を見据えた。
「青島二尉・・・よね。」
「ああ。君は・・・。」
「加藤結衣三尉よ。結衣でいいわ。それで青島二尉、あなたに上からの辞令が来てるわ。」

436F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:07 ID:imAIk9NE
「辞令?」
青島が聞き返すと一枚の紙が目の前に差し出された。受け取りそれをしげしげと眺める。
「赤羽海将からよ。あと、これ。」
紙の内容を見る暇も無く小さな金属片のような物を手渡される。
「赤い・・・バッチ?」
青島が手渡されたそれはバッチであった。赤い四角いバッチに金で翼をあしらってあった。
そして気が付かなかったが結衣も同じバッチを襟元につけている。
「これは・・・?」
尋ねる青島の言葉をまるっきり無視して結衣は青島を見上げ、睨みつけた。
「悪いけどいくら赤羽海将のお気に入りだからといってあなたを認めているわけじゃない、
特別なのはあなただけじゃないということを覚えておきなさい。」
そう言うと結衣は呆気にとられた青島を尻目に部屋から出て行ってしまった。
「わけがわからない・・・。・・・ん?」
その後姿を見送った青島は床に茶色い何かが落ちているのを見つけた。
拾い上げるとそれは名刺入れであった。結衣のイメージに合わずかわいらしいデザインであった。
「名刺入れ・・・結衣さんの私物かな?あれ?」
青島はその名刺入れに写真が入っているのを見つけた。
そしてその写真に写っていたのは赤羽佐世保地方隊司令であった。
「わけがわからない・・・。」
青島は先程と同じ科白を繰り返した。

437F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:09 ID:imAIk9NE
辞令の内容はさして驚く物でもなかった。
むしろ青島も薄々感づいていた物であった。
「特殊高級幹部候補ニ任命スル。」
という簡単な内容だったが、青島がいまままでの不可解な点を解消するのには十分だった。
なぜ数多くの任務に優先的に就けられたのか、
なぜ天野という貴重な人材が自分一人のためのボディーガードとして付いているのか。
そしてこの赤いバッジはその幹部候補の証、らしい。
「つけたくはないな・・・。」
それが率直な感想だった。これ以上の特別扱いは御免である。
「ん・・・。」
突然人の声が聞こえて、後ろを振り返る、するとセフェティナが目を覚ましていた。
「あ、起きたのかい?」
「ええ・・・すいません、眠っちゃって。」
「いやいや」
「・・・今の女の方・・・お友達ですか?仲が良さそうでしたけど。」
青島は苦笑いをした。今の何を見たら仲がよさそうに見えると言うのか。
「ううん、初対面だよ。少し仕事の話をしていたんだ。さ、そろそろ部屋に戻ろう。」
「はい。」

438F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:09 ID:imAIk9NE
アルクアイ(建前はウェルズ侯)の使者、アルマンは戸惑っていた。
ニホンとやらまでたどり着いたのはいいのだ。
そして自分は王下部隊ではないものの竜騎士である。随分とたくさん修羅場を潜り抜け、
また秘境や珍しい物も見てきた。異世界から呼ばれた島にも何度も言ったことがある。
しかしこの光景だけは信じ難かった。
上空遠くから見ても分かる。あんな高い建物見たことが無い。鉄の船など見たことが無い。
あんなガラスを大量に使った建物を見たことが無い、空を飛ぶ鉄の鳥などなおさらだ。
これが魔法を持たない人間達が築いた物だと言うのか。
「アルマン様〜!これ・・・でっかい鉄の鳥が飛んでいます〜!」
「ええい、取り乱すな!私達はラーヴィナ候の使いであることを忘れたか!」
「は、はい〜。」
そんな彼らが空港ではなく佐世保の自衛隊基地に降りた事は幸運としか言いようが無かっただろう。
そんな訳で、今手紙のファックスが袴の手元にあるのであった。

439F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:10 ID:imAIk9NE
手紙の中身は袴たちの予想と大きく異なっていた。
どうせ自分達に降伏しろ、とかそういう内容だと思っていた袴達は
アルクアイのよこした手紙が非常に友好的なのにひどく驚いた。
手紙の内容は要約するとこのようなものであった。

「一戦交えてしまったことは申し訳なかった、しかしそれで貴国の富強さがよくわかった。
アジェント王家の勝手な都合により突然呼び出されてしまった貴国に王家に代わり深く謝罪したい。
 私ラーヴィナ候ウェルズはニホン国とその国王に尊敬と親愛の念を持っている。
 しかしアジェントという国としてはそう言うわけではない、むしろ逆である。
だが我々ラーヴィナは貴国と友好関係を結びたいと思っている。
ついてはまだニホン国がこの世界でうまくやっていくための手伝いをさせて欲しい。
もし信じられないのならば言って欲しい。すぐにでも人質を送る。
また近い内に使者を送りたい。               ラーヴィナ候ウェルズ=ラーバス」

袴達政府関係者は喜んだ。まさに地獄に仏である。
しかもさらに嬉しいことにこの手紙にはおそらく非常に正確だと思われる、
各国の領土区分まで載っている地図が添えられていたのだった。
これを閣議の面々は信頼できる証拠と考えていた。
赤羽以外は、だったが。

440F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/17(金) 19:12 ID:imAIk9NE
投下終了いたしました。
>424さんに改めて謝罪申し上げます。

息抜き編が遠いなぁ・・・。

ご意見、ご感想お待ちしております。

441名無し三等兵@F世界:2004/09/17(金) 22:55 ID:mPYtmSt2
新キャラである監視役の加藤結衣三尉、彼女はまさか赤羽海将の娘か?
姓が違うのは離婚したとかの理由で、何気に青島をライバル視してるよ。

442名無し三等兵@F世界:2004/09/18(土) 00:41 ID:mPYtmSt2
投下、早いですね。土曜日か日曜日に投下されると思ってました。
でも早く読めるにこした事はありませんのでこの調子で頑張ってください。

443S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/09/18(土) 01:15 ID:MSZ8PKC.
しかし書くの早いですねー。凄い。
加藤vs青島、何となくうしおととらの伝承者を彷彿とさせるですよ。
あと4人くらい同じようなのが出てきて、完璧超人な一人が裏切ったりとかw
特幹候補が二人いるってことは、もっといる可能性もありますしね。

赤羽やっぱ信用しないなー。しかしアルクアイは大丈夫なんだろうか?いくら
領主様は死にかけているとはいえ、確実に公文書偽造・・・
下手打ったときに王国に送りつけられそう。

444名無し三等陸士@F世界:2004/09/19(日) 06:54 ID:AtwIuwfQ
 F猿さん投下ごくろうさまです。
 しかし、袴達政府関係者はアルクアイの目論見どおりに踊らされそうな予感。
 ここは赤羽や青島に頑張って貰ってアルクアイの裏をかいて欲しいものです。

445名無し三等兵@F世界:2004/09/19(日) 07:53 ID:extfCsuU
踊らされたことによりバルトと同盟できる可能性あり

446名無し三等陸士@F世界:2004/09/21(火) 01:09 ID:imAIk9NE
現実日本は簡単に踊らされるほど馬鹿じゃないし、この物語でもそれは一緒です・・・たぶん。
>S・Fさん
アルクアイは領主の代行として政治をとってますから。
公文書偽造にはあたらないっす、候の息子がいきなり王家に通報したらやばいですけど。

とりあえず今は明日のために話を深めるべし!

というわけで投下。

447名無し三等陸士@F世界:2004/09/21(火) 01:10 ID:imAIk9NE
現実日本は簡単に踊らされるほど馬鹿じゃないし、この物語でもそれは一緒です・・・たぶん。
>S・Fさん
アルクアイは領主の代行として政治をとってますから。
公文書偽造にはあたらないっす、候の息子がいきなり王家に通報したらやばいですけど。

とりあえず今は明日のために話を深めるべし!

というわけで投下。

448F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/21(火) 01:10 ID:imAIk9NE
赤羽はこの手紙を出した人間こそ、この世界における最も厄介な物になり得ると考えていた。
たった一度の戦いで今まで召還された島々への偏見を無くし、こちらの力を見極める。
更には国家としてではなく国家から独立してこちらと友好関係を結ぼうと強いているのにもかかわらず、
候と名乗り、自らを王家の臣下としている。
そして特筆すべきはこの手紙には一言もアジェント国家全体と日本との友好などは書かれていない。
つまりこの手紙の主はおそらく日本と王家を戦わせようとしているのだ。
恐らくは自らの野望のために。
「危険だな・・・。」
赤羽は手紙を見ながら満面の笑みを浮かべている袴を見て呟いた。

449F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/21(火) 01:10 ID:imAIk9NE
「アルクアイーっ!」
ラーヴィナ、ウェルズ邸中庭。
アルクアイが自らのワイバーンに乗ろうとしている時、彼に少女の声が掛けられた。
13、4と言ったころの少女であった。それを見るとアルクアイはすぐさま臣下の礼をとった。
「これは・・・ファンナ様。」
「もうっ、ファンナって呼んでって何度も言ってるじゃない。」
ファンナ=ラーヴァス。ウェルン=ラーヴァスの娘であった。
またそれはウェルズの孫娘、と言うことでもある。
そして3、4歳の時に彼女の父ウェルンが淫欲に溺れたがために(アルクアイのせいなのだが)、
アルクアイにその養育が任されていたのであった。しかしこの二人の関係はどちらかと言うと兄妹に近かった。
「それで、航海から帰ったのなら言ってくれれば良かったのに。」
ファンナが頬をプッと膨らます。その態度にアルクアイは軽く笑って答えた。
「すみません、帰還後の処理に追われていたもので・・・。」
「けど、またしばらく一緒なんでしょ?」
ファンナがアルクアイの腕を抱き、上目使いで彼を見る。
13、14と言うのはこの世界でしかも女子ならば結婚してもなんらおかしくない年齢であった。
そしてこの少女はその結婚相手を自分の父代わりで兄代わりでもあるアルクアイと心に決めていた。
そしてまたアルクアイも自分のせいで親に愛してもらえなくなった彼女へのわずかな罪の意識もあり、
彼女を粗末に扱うようなことは決してなかった。

450F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/21(火) 01:11 ID:imAIk9NE
しかしこのときばかりはアルクアイは心底申し訳なさそうに答えた。
「すみません、これからすぐに王侯会議に出るためにまた行かねばならないのです。」
王と各大臣そして全ての諸侯が集まるこの会議、これこそアルクアイの計画の要であった。
「えっ、なんで?前回まではおじい様が行ってたじゃない。」
「ええ、ですがウェルズ様は今はご病気です。だから私が代理として行くのです。」
そしてアルクアイは少し声色を変え、ファンナの頭に手をポンと置き、言った。
「すまないな。」
「・・・。」
ファンナが俯いて何も言わないのを確認するとアルクアイはワイバーンの背に跨った。
ワイバーンは軽くキュルルンと鳴き、それを歓迎した。
そしてその時アルクアイは自分の服の袖を掴まれていることに気が付いた。そして後ろを振り返る。
「ファンナ様・・・。」
「わたしも一緒に行く。」
そう宣言してファンナもまたアルクアイの後ろに跨った。ワイバーンは特に嫌がるそぶりも見せず、キュウと鳴いた。
「ファンナ、しっかり掴まっていろよ?」
「うんっ!」
自分達の周りにマナの壁を作りそしてワイバーンを飛び立たせる。向かう先は王都。
こんなにも自分を慕う少女を背中に感じ、アルクアイはまた、この少女を不幸にしたのは自分であることを思い、僅かな後ろめたさを感じていた。

451F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/21(火) 01:11 ID:imAIk9NE
佐世保基地、寝所。
青島はベッドに横たわったまま加藤の落とした物と思われる名刺入れを眺めていた。
赤羽海将の写真が入った物だったが、いったい何故だろうか。
「ま、考えていても仕様が無いか・・・。」
「なにがしょうがないんすか隊長。」
ボソッと言った呟きを聞き取り佐藤がいきなり青島に声をかけた。
「わっ、佐藤・・・どうしたいきなり。」
「あ、いや、天野さんがほぼ前回の見通しが立ったらしいんで。伝えようかと。」
「そうか、有難う。」
話によると内臓や骨、筋肉などに当たらずに貫いたのが良かったらしい。
もしあれが銃などだったら回転で内蔵をズタズタにされていただろう。
「それにしても隊長随分可愛い名刺入れ持ってますね〜。女物じゃないですかそれ?」
「あ、いや。」
慌てて青島はポケットにしまいこんだが、もう遅かった。
「どうしたんすかそれ〜。」
佐藤は面白がって更に突っ込んでくる。
「いや、俺の物じゃないんだよこれは、・・・加藤陸三尉が落とした物だ。」
その答えに佐藤は目を丸くした。
「え?あの名物三尉?」
予想外の答えに青島も目を丸くした。
「有名なのか?」
「有名も何も知らないんっすか?」
それから佐藤が話した物は話半分の噂の集まりだった。
しかしとにかくそれらに共通している物は男勝りの性格と、高い能力。
そして赤羽海将となんらかの関係がある、ということであった。

452F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/21(火) 01:12 ID:imAIk9NE
「隠し子説とか愛人説とか色々あるっすよ。それにどっちにしろ可愛いから有名にはなるっすよね。」
佐藤は散々しゃべり倒してその言葉で話を切った。
「あ〜、よく分からんがすごい人なんだな?」
「まあ、そういうことです・・・しかも派手な赤いバッジをいつも付けてて・・・って、え!?」
佐藤はそう言いながら青島を見て妙な顔をした。目線ははっきりと青島のつけている赤いバッジに向いている。
「どうしたんすかソレ!?」
「ん・・・、説明すると長くなるからやめとく。」
「ならいいっす。」
佐藤はしげしげと赤いバッジを見ていたが、あっさりと身を引いた。
「直接返したほうが早いよな・・・。」
再び出した名刺入れを見ながら青島はぼうっと呟いた。

453名無し三等陸士@F世界:2004/09/21(火) 01:17 ID:imAIk9NE
投下終了です。

全然話が進んでない・・・。orz小休止と思ってください。
ではご意見、ご感想、お待ちしております。

454名無し三等陸士@F世界:2004/09/21(火) 02:02 ID:HiGBWxPw
乙です
仮に踊らされてもそれで日本の国益になるならいいような
とっかかり無い状況だったので友好的な外交はうれしいだろな

455名無し三等兵@F世界:2004/09/21(火) 08:13 ID:Q/M7PaiY
ますますセフェティナの運命が気になる

456名無し三等兵@F世界:2004/09/21(火) 17:19 ID:/JxOKHjA
投下された話、読みました。
アルクアイの意外な一面、ほんとに意外です。

457名無し三等兵@F世界:2004/09/21(火) 21:54 ID:oq8PESgU
もし出兵が決定し一個師団を送る事になったらどれぐらいの艦艇が必要になるのだ?

458F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:18 ID:imAIk9NE
まだ題名を決めていなかったことに今更気付く。
まあいいかとも思いつつ投下します。

459F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:19 ID:imAIk9NE
次の日からはセフェティナからの情報収集はだいぶ少なくなっていた。
おそらく異世界からの使者が来たせいだろう。
情報収集はそちらで十分行えるということだった。
しかしその分使者達の真意を探るためにセフェティナにも
政治的にエグイ質問をしなくてはならなくなり青島は気を使わなければならなかったが。
そしてその日の情報収集を終え、青島は相変わらず監視役をやっている結衣に話しかけた。

「何か用?」
 相も変わらずつっけんどんな応答に少し苦笑して青島は名刺入れを差し出した。
それを見た瞬間に結衣の表情が一変した。
「あっ、・・・それっ!」
「落ちていたんだ。たぶん結衣三尉のだろう?」
「・・・。」
結衣はそれをひったくるように青島の手から奪った、その顔は真っ赤となっている。
おそらく可愛らしいデザインの名刺入れを見られたことが恥ずかしいのだろう。
「・・・見たの、写真?」
しかし予想に反して真っ赤になりながら搾り出すような声で結衣は言った。

460F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:19 ID:imAIk9NE
「え、・・・何のこと?」
とりあえず中身を見た事をごまかそうと青島はとぼけた。しかしそれを結衣は冷たく返した。
「とぼける必要は無いわ。見たのね・・・。」
「・・・ごめん。」
素直に謝ったのが意外だったのか結衣は目を丸くした。
「えっ?いや、別にいいんだけど・・・。」
「けれど何で彼の写真なんか持っているんだ?」
その様子を見て今がチャンスとばかりに青島は聞いた。
これも不意打ちだったらしく結衣は顔を赤くした。
「それは・・・別にいいでしょそんなこと。そっ、それよりも良いの?彼女をほっといて。」
「えっ?」
結衣の目で指す場所を見ようと振り返る。そこには心配そうな顔をしたセフェティナが立っていた。
「あっ、ご、ごめんセフェティナ・・・。じゃあそろそろ行こうか。」
「あっ、はい。」
結衣に会釈をして部屋を出て行こうとする青島にすれ違いざまに結衣は小声で言った。
「赤羽海将の写真の理由・・・気が向いたら教えてあげる。」
どういう心変わりかと青島は結衣の方を見たが、その顔は後ろを見ているために見る事は叶わなかった。

461F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:20 ID:imAIk9NE
アジェント北、国境付近。といっても国境など確かに定まってもいないが。
目の前に居る一万はいようかと言う遊牧民の騎馬軍団を前にたった一人で立つ男が居た。
名はアルヴァール。
魔術大臣であり、現国王の孫娘アシェリーナ姫の養育係でもある男だった。
今行うべき任務は略奪行為を行う遊牧民の撃退。
勢力も弱いアジェント北のサフラーヌ侯が撃退しきれずに王家に助けを求めて来た為であった。
しかしアルヴァールは焦っていた。
理由はたった一つ、今王都で開かれようとしている王侯会議であった。
この会議、内容は二つであった。一つは毎年定例のように行われる新しく召還した島への侵攻の相談。
そしてもう一つは今病にふせっているアルジェン13世の後継者問題であった。
そもそも長子相続のこの国にこのような問題が起きているのは、
アジェントではアルジェン13世の長男であり、
アシェリーナの父にあたるアジェルが死んでいるためであった。

462F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:21 ID:imAIk9NE
この問題、そもそも本来ならば正統継承者であるアシェリーナが継いで終わりなのだろう。
しかしアジェントが興った当時からの名門イルマヤ候、レコスナ候など力の強い諸侯が
アジェルの弟達を推したためにこの問題はこじれていた。
アルヴァールは当然長い間養育してきたアシェリーナを推して来たのだが、
会議直前になってこの任務である。
恐らく自分を邪魔に思ったイルマヤ候辺りの差し金だろうと彼は感じていた。
しかし何があってもこの会議には出席しなくてはならない。
そしてその為にはこの騎馬軍団を一、二日で片付け無くてはならない。
しかし本軍が来るのはこれから三日後となるだろう。それでは間に合わない。
アルヴァールは載ってきていたワイバーンから降り、マントを外した。
そして騎馬軍団達の見えるところまで歩いて行く。
それを見た騎馬軍団の一人が弓矢を彼に向かい放つ。
これを合図として一対一万という戦いが始まった。

463F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:22 ID:imAIk9NE
戦争においては数が大きなウエイトを握る。
例えどんなに強い剣豪が居ようとも一人では千の雑兵には勝てない。
例えどんなに強い戦闘機があろうとも一機では百の敵機に墜とされるだろう。
そしてソレはこの世界でも同様。いくら魔法があろうとも一人は千人には勝てなかった。
しかしアルヴァールは気が狂ったわけではない。
上に書いたことにはこの世界では一人だけ例外が居た。
それがこの男だったのである。
「ウオオオオオオーーーーッ!」
地鳴りのするような騎馬軍団の雄たけびと同時に空を埋め尽くすような矢が放たれる。
しかしそれらはアルヴァールの寸前で圧縮された間なの壁に当たり、落ちた。
そしてアルヴァールが呪文を唱え始める。
その間に第二射として騎馬軍団が魔法を唱えようとする。
しかし、魔術師達は一様にマナを集めることすらできずに青ざめた。
そして気付く。この辺りのマナは全て目の前の男に集められていることに。
そして気付いた。目の前に立っている男が二百年以上も前から自分の民族に伝わる
絶対に手を出してはいけない男であるということに。
しかしソレは遅かった。男の放った魔法は騎馬軍団の中心部に巨大なクレーターを作り、
千以上の兵をその骨すらほとんど残さずに焼き尽くした。
そしてそれに使われた魔法はジファンが自衛隊のヘリに向かい使ったものと同じ物であった。

464F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/22(水) 11:26 ID:imAIk9NE
退却する遊牧民達を見届けるとアルヴァールは即座にワイバーンに飛び乗った。
「王都まで大至急で頼む。」
いつも自分を乗せて飛ぶこの相棒に向かって声をかける。
この調子なら会議には間に合うだろう。
自分達の行動が徒労であることも知らずに戦場に向かおうとする本軍を見下ろし、
アルヴァールは満足であった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
投下終了です。
>>2のガイドライン4に引っかかりそうですがちゃんと決着はつける予定っす。
次回投下ではだいぶ話が動くかな・・・?

465名無し三等陸士@F世界:2004/09/22(水) 13:00 ID:qIHVbGb2
骨すらほとんど残さずに焼き尽くされた兵の外側にはほどよく焼けた死体に重症軽傷の動けない負傷者が大量にいるだろう。
熱風は眼球を焼いて視覚は奪われ、爆風は鼓膜を破り内耳を破壊して平衡感覚は失われ、歩くことすらままならない。
クレーターの内部にあった土石が戦友の死体とともにばらまかれて兵達を打ち、大勢を殺し傷つけるだろう。
爆音や閃光に驚いた馬は散り散りになり、遊牧民も撤退どころではないと思うが。
ちょいと想像力が足りなくないか?

つうか、200年前から生きているらしいドラゴンボール級のこいつが、大臣ごときで終わるタマとも思えない。
魔王、魔法王級の人材でねえ?

466名無し三等陸士@F世界:2004/09/22(水) 17:17 ID:8I76YJ1E
命名・・・ミスターMOAB

467名無し三等陸士@F世界:2004/09/22(水) 17:38 ID:cwRYDP5.
まとめて完全に吹き飛ばしたとしても、
本人にもガレキその他が飛んできそうな予感。
まあ、こいつは平気かもしれないが…って、全滅させたわけじゃないのね。
それなら焼肉がイパーイだろう。

468名無し三等兵@F世界:2004/09/22(水) 18:21 ID:/lKl2BXs
この男を倒すにはどれくらいのレベルの兵器が必要なのだろう?

469名無し三等兵@F世界:2004/09/22(水) 18:35 ID:/lKl2BXs
もう毎度の事かと思いますが『御疲れ様』の言葉を送ります。
200年ですか・・・どうすればそこまで生きれるのでしょうか?
まあファンタジーですからなにか秘密があるのでしょうね。
今度の投下はいつになりますか?
色々と考えながらお待ちしてますので。

470名無し三等兵@F世界:2004/09/22(水) 19:44 ID:6U3hjIZc
王国側はどんな決断を取るのか?
アルクアイが正直な報告をするとは考えられない。
わざと日本に攻め込ませて無駄な血を流させる可能性は高い。

471名無し三等兵@F世界:2004/09/23(木) 06:33 ID:PhEUovs.
前作が投下された次の日にすぐ続編投下ですか、どれくらいのスピードで書いてるんですかと疑問が・・・
それとは別にご苦労様です
疑問としてセフェティナが佐世保に上陸した時、彼女は街や基地、港といった建造物に驚く事はなかったのでしょうか?

472名無し三等兵@F世界:2004/09/24(金) 08:11 ID:SbfA5Jyo
今更ながら乙カレー(辛ーい!!>_<)
おふざけはこれぐらいにして質問を
騎馬軍団・・・FFやラグナロクみたいに鳥型、あるいは小型の恐竜みたいな乗用獣もいるのかな?

473F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/24(金) 19:25 ID:imAIk9NE
元1だおーさん復活キターーーーーーっ!

>465さん
確かに撤退よりも逃げ散るの方が正しかったかもしれません。
ちなみにアルヴァールが何故魔術大臣に甘んじ権力を狙わず、王家に忠誠を誓うのか、
なぜ何百年も生きていられるのか、は本編で明らかにするつもりです。

>471さん
セフェティナ「十分驚きましたよ〜。けど猿が省略しちゃったみたいです。」

>472さん
セフェティナ「騎馬軍団には居ませんが鳥型の乗り物は少しいるんですけど・・・、
       ただやっぱり馬とかの方が乗り心地が良いし、訓練しやすいので
       乗られるのはお祭りの時とかが主ですよ。」

474名無し三等兵@F世界:2004/09/24(金) 21:20 ID:uhishPg.
乗用恐竜はいないんですか・・・がっくし
やっぱり王国では魔法使いの方が出世しやすく純粋な戦士系は出世しにくいのでしょうか?

475名無し三等兵@F世界:2004/09/24(金) 21:51 ID:uhishPg.
お返事キターvってことはそろそろ続編投下っすか?

476名無し三等陸士@F世界:2004/09/24(金) 22:53 ID:rkSqG11w
>>474
日本でもパソコン使えないような純肉体労働者は出世しないしね。
魔法に対抗するためにも魔法技術は必須でしょう。
ネイル(なぜか英語に翻訳されている)とか、鎧の強度では対抗しようがないし。

477F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:11 ID:imAIk9NE
12時までに投下開始します。
今回は難産だ・・・。

478F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:26 ID:imAIk9NE
アジェント王都、その栄えた町並みの中をアルクアイとファンナは歩いていた。
ワイバーンで直接王城に行くこともできたのだがそれをしなかったのは
自分がやっていた行動の成果を確かめるためであり、そして結果は上々であった。
日本との接触後、アルクアイは王国全土に「日本脅威」という噂を多数の工作員を使って流し続けていた。
それが実を結んだのだろう。民衆の噂話はこの新たに召還された島のことで持ちきりであった。
試しに仕事の休憩中なのだろう、道端に座り込んでいる男に声をかける。
「おい、知っているか?」
「ん、何をだ?」
男はアルクアイのほうには目も向けずに返事をする。
だがそれは丁度良かった、アルクアイの服装を見ればこの男はすぐに平伏し、会話もできなかっただろう。
「新しく召還された島のことだ。」
「ああ、聞いてるぜ、なんでも人の生き血をすする化け物どもの島だったらしいな。
よく分からない機械なんてアシェナの神に背くもん使って、一つの船の船員皆殺しにしてその血黙りの中で高笑いしてたらしいじゃねえか。
ああ、怖い怖い。王国もとんでもないもん呼び出してくれたもんだぜ。」
「そうか。ありがとう。」
「あん、礼されるほどのことじゃねえよ。」
結果は、上々のようだった。

479F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:27 ID:imAIk9NE
王城、広間。
まだ会議の三日前だが、ここにはすでに多くの諸侯達が集まり、
お互いの普段の労をねぎらいながら、会食を開いていた。
場の中心となっているのはイルマヤ候であった。
イルマヤ候、彼の支配する土地は貧しいものの王国当初からの名門で、更に名産のワイバーンを使ったワイバーン軍団は王下部隊に匹敵すると言われる程の精強さを誇っていた。
そしてこの会議においてはアジェルの弟ジョナスを推すことによって、
王家の元で権力を得ようとする保守派の男であった。
しかし、この会議においては、唯一の敵に思えたアルヴァールの追い出し工作をしただけで、
後は自らの権勢に甘えて、何の多数派工作もしていなかった。
いや、それは工作をする必要も無いほどの権力を持っていたともいえるのだが。

そして会食の賑やかさがピークにさしかかろうとした時、扉が開き、
参加者達が一斉にそちらのほうを見た。
「ラーヴィナ候の代理、ファンナ様、アルクアイ様がいらっしゃいました。」
メイドが淡々と言い、広間の中はシンとし、すぐにヒソヒソ声が聞こえてきた。
「どうも、ウェルズ様の代理として参りました、アルクアイでございます。」
「ファ、ファンナですっ。」
アルクアイが慇懃に礼をするのを見て、ファンナもそれに続く。
他の諸侯達の目は、好奇に満ちていた。

480F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:28 ID:imAIk9NE
「アルクアイ・・・、聞いたことありまして?」
「いいや、ないなぁ。どこの家の出なのだろうか。」
「いやいや、所詮歴史の浅いラーヴィナの貴族でしょう、たいしたことありませんよ。」
「それにしても可愛らしいお孫さんだ。しかしこんな少女が出てくるとは。候本人の病気は大変な物になっているらしいな。」
名門諸侯、貴族は口々に勝手な憶測を口にする。
それに対し、中小諸侯達は皆、親しみ深い目を二人に向けていた。
それを見てアルクアイは自分のもう一つの策略がうまくいったことを確認した。

彼はイルマヤ候とは対照的に、領地の富裕さを背景に中小諸侯に対する金のバラ撒きを行っていた。
この会議で王位継承者を自らの推した者に決めた者が、これからの国政の主導権を握る。
アルクアイはそう睨んでいた。

そしてアルクアイの推す予定の人物はアシェリーナ姫、本来の王位の正統継承者である。
そこには正統継承者を推す事で、自らの正当性も示そうという彼の魂胆があった。
だからこそ、これから必要となる金を大量に使ってまでも多数派工作を行ったのである。
そしてその多数派工作と、アルヴァール魔術大臣の押しがあればイルマヤ候が反対しても、
アシェリーナ姫を王位継承者に容易く推したてることができると彼は考えていた。

しかしここに来て見たらどうか!?アルヴァールの姿が見えないではないか。
この状況でアルクアイがこの会議の主導権を握るには彼は一芝居打つしかなかった。

481F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:29 ID:imAIk9NE
私は弱小諸侯サフラーヌ候の部下のしがない貴族である。
そんな私にとってこの王侯会議に来れたのは最高の幸運であった。
この体験は恐らく一生の宝となるだろう。
緊張する我が身を押さえ、主の命令どおりイルマヤ候へと挨拶に行く。
遊牧民族に襲われた我が領に、アルヴァール様が来て下さったのはイルマヤ候のとりなしがあったからなのだ。
その意味で彼は我等の恩人といえるお方であった。
そしてもう一人、イルマヤ候へと挨拶に行く男性が居た。
彼は確かラーヴィナ候の代理のアルクアイ殿。
容姿端麗で男の私も惚れ惚れするような人物であった。連れている少女も可愛らしい。
そしてラーヴィナ候もまた、我等中小諸侯に援助をしてくださった恩人であった。
彼ら二人の会話が終わったらその事をお礼申し上げようと決めた時であった。
その事件が起こったのは。

482F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:30 ID:imAIk9NE
「どうも、ラーヴィナ候代理、アルクアイでございます。」
幸い近くにいた私には彼らの言葉は全てクリアーに聞き取れた。
「おお、ウェルズ殿の・・・。そうだ、一杯どうかね。」
「はい。ありがたく頂きます。」
イルマヤ候はアルクアイ殿のグラスに酒を注ぎながらその顔にグッと近づいた。
「おや、君はどこかで見たことが・・・なかったかね?」
「(ああ、修道院の寝所でな。)いえ・・・覚えがありません。」
「ああ、そうかそれなら良いんだ。それよりも君は王位の継承者は誰が良いと思うかね?」

意地の悪いことを聞くものだ。
これは自分の味方かどうか聞いているのと同じである。
イルマヤ候はああやって他の諸侯に圧力をかけているのであった。
軍事力だけなら王家にも匹敵するといわれる彼を敵に回そうとするような馬鹿は居ない。
皆必然的にイルマヤ候の推すジョナス様と答えるしかない。
我々のような中小諸侯は特にである。これにはさすがに反感を持つ者も多かった、私のように。

しかしそれに対する、アルクアイ殿の答えは意外な物であった。
やわらかい笑顔を浮べ、こう答えたのだ。
「(こちらがしようと思った質問をしてくれるとは・・・、都合が良い)私はアシェリーナ姫様が良いと思います、アルジェン様亡き今、彼女が本来の王位継承者ですから。」
その言葉を聞きイルマヤ候のこめかみにさっと青筋が浮んだ。

483F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:30 ID:imAIk9NE
広間は奇妙に静まり、全ての人の視線が二人に注がれていた。
なんてことを言うのだ。それが私の率直な感想であった。
あんなことを言えばイルマヤ候を敵に回すことになるのだ。
ファンナ様はイルマヤ候の迫力にすっかり怯え、アルクアイ殿の服の裾を掴んでいた。
しかし自分が権力を握るために王位継承を捻じ曲げる彼に陰ながら批判があったのは確かであった。
実際、我々中小諸侯にはアルクアイ殿が魔王に立ち向かう英雄のように見えた。
「・・・それは、ウェルズ殿の御意見かな?」
「ウェルズ様のご意見は私の意見で、ウェルズ様のお考えは私の考えです。」
「フン、名も知られぬ下級貴族が生意気に。」
「っ!」
ファンナ様が息を呑む。
「(あれは言い過ぎじゃありませんこと?)」
「(全くだ、名門だからと偉そうに・・・!)」
冷たい空気が広間に流れた。
明らかに悪いのはイルマヤ候だ。しかし二人の力関係も身分の関係も歴然としている。
そしてこの国では身分が全て、高い身分の者が行ったことが正しいのだ。
アルクアイ殿も唇をかんで、黙っている。

484F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:31 ID:imAIk9NE
イルマヤ候のネチネチとした攻撃はなおも続いた。
「そもそもラーヴィナ候自体数十年程度前から商人が成り上がったものだ。まともな回答を期待することが馬鹿であったか。」
ファンナ様が今にも泣きそうな顔になった。
と同時に広間の全員が息を飲んだ。ラーヴィナは幾ら歴史が浅いといっても、
アジェントの中でも一、二を争うほど富裕な諸侯なのだ。
そして、その言葉を聞いた瞬間、アルクアイ殿は何故か一瞬笑ったような表情を見せた。
「私への侮辱は許そう。だが、ウェルズ侯への侮辱は一言たりとも許しはしない。」

銀の光が閃いた。

アルクアイ殿がイルマヤ候に剣を突きつけたのである。
その瞳には激しい憤怒が宿っていた。先程の笑みは私の見間違いだろう。
私はあれ程の憤怒の顔を見たことが無かった。
これには全ての参加者が驚愕し、広間は緊張に静まり返った。
しかし、イルマヤ候も歴戦の武人であり、アジェント全土に名を轟かす剣豪である。
その切っ先を手が切れないように掴み、凄まじい気迫で睨みつけた。
「これは・・・決闘の申し込みと受け取ってよろしいか?」
「そう取ってもらって構わない。」

先に剣を抜いたのはアルクアイ殿である、しかし私を含めこの広間に居る人間のほとんどが、
心の底では主君への忠誠の為には何をすることも厭わない彼を応援していた。

485F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/09/25(土) 23:32 ID:imAIk9NE
投下終了〜。
日本が一個も出てこなかった・・・。
ま、息抜き編ではずっと青島が出張るから・・・良いかな?

ではご意見、ご感想お待ちしております。

486名無し三等陸士@F世界:2004/09/25(土) 23:38 ID:0U77BVi2
おつかれさまでーす。
毎回楽しく読ませてもらってます。
日本と王国の行方がどうなっていくのか楽しみでなりません。
もちろん、セフィティナも。
次回も楽しみにしてます。

487名無し三等兵@F世界:2004/09/25(土) 23:39 ID:zL1.DJJ6
キターーーー・・・と王国側ですが正にアルクアイの独壇場。
しかも情報工作まで、後は傀儡政権を使い裏から操る目論見なのは予測可能。
でも世の中そう簡単に・・・上手くいっちゃうのかな?

488名無し三等兵@F世界:2004/09/26(日) 00:11 ID:zL1.DJJ6
この男、ホントに自分自身を演じるのがうまいな…。
役者になったらよかったと思ってみる。

489名無し三等兵@F世界:2004/09/26(日) 11:51 ID:8GmW1ulI
ご苦労様、もしこの会議で日本侵攻が決まったら王国軍はどこから侵攻するのかな?

490名無し三等陸士@F世界:2004/09/26(日) 17:48 ID:cwRYDP5.
(・∀・)ジサクジエンが得意だこと。
伊達にゲイのお相手してたわけじゃないね。

>>489
離島。

491名無し三等兵@F世界:2004/09/26(日) 19:40 ID:GfxXPZ0o
もしそうなったら護衛艦でアジェント艦隊を壊滅可能かと思ってみる

492名無し三等陸士@F世界:2004/09/26(日) 21:39 ID:cS4/ghOA
護衛艦なんて勿体無くて出せない様な希ガス

出せてもあさぎりとか・・・

493名無し三等陸士@F世界:2004/09/26(日) 22:16 ID:0U77BVi2
俺が思うに、王国の船が日本海域に侵入→哨戒機や海上保安庁の警備艇が警告k
→王国船側は魔法で打ち落とそうとする→哨戒機などは撤退、自衛隊の護衛艦から魚雷+ミサイル攻撃→
王国船は見えない敵に打ち落とされ全滅

494名無し三等陸士@F世界:2004/09/26(日) 22:16 ID:0U77BVi2
俺が思うに、王国の船が日本海域に侵入→哨戒機や海上保安庁の警備艇が警告k
→王国船側は魔法で打ち落とそうとする→哨戒機などは撤退、自衛隊の護衛艦から魚雷+ミサイル攻撃→
王国船は見えない敵に打ち落とされ全滅

495名無し三等陸士@F世界:2004/09/26(日) 22:16 ID:0U77BVi2
俺が思うに、王国の船が日本海域に侵入→哨戒機や海上保安庁の警備艇が警告k
→王国船側は魔法で打ち落とそうとする→哨戒機などは撤退、自衛隊の護衛艦から魚雷+ミサイル攻撃→
王国船は見えない敵に打ち落とされ全滅

496名無し三等陸士@F世界:2004/09/26(日) 22:16 ID:0U77BVi2
俺が思うに、王国の船が日本海域に侵入→哨戒機や海上保安庁の警備艇が警告k
→王国船側は魔法で打ち落とそうとする→哨戒機などは撤退、自衛隊の護衛艦から魚雷+ミサイル攻撃→
王国船は見えない敵に打ち落とされ全滅

497名無し三等陸士@F世界:2004/09/27(月) 00:03 ID:WfFphLFg
砲撃で十分

498名無し三等兵@F世界:2004/09/27(月) 00:06 ID:Qom7DVvM
魔法って移動目標に簡単に当てられるのかね。
マナのなんとか線を使ってレーザー誘導爆弾みたいな命中精度を出してるっぽい描写はあったけど。
素手の人間がまんま誘導兵器キャリアだとしたら自衛隊マジやばい。まず勝てん。

499名無し三等陸士@F世界:2004/09/27(月) 00:45 ID:HiGBWxPw
誘導できる距離や魔術師が認知できる範囲が重要だ
対艦戦闘なら魔術師の目視外からのミサイルなり、砲撃なり、

木造船なら一撃で粉砕だろ
スピードをいかした戦術でガンガレ自衛隊

500名無し三等兵@F世界:2004/09/27(月) 00:50 ID:tllKSiuw
500ゲット〜

話題を変えてアルクアイは相手を挑発して邪魔者を決闘で排除する事になったが
頭の中では確実な勝利へのシナリオが渦巻いてるんだろうねえ
勝算のない戦いは絶対にしなさそうだし

501名無し三等陸士@F世界:2004/09/27(月) 02:10 ID:NJ2htG1Q
>>500
貴族の決闘だと代理闘士(チャンピオン)立てる場合があるから排除にはならないと思われ。

この場合だとアルクアイのほうが代理立てることは許されないパターンだから、
実際に切り結ぶ以外の方法で勝算立てていないとリアリティの面でいまいち。

502名無し三等兵@F世界:2004/09/28(火) 20:58 ID:f2m6AJ4M
そろそろ続編の投下かな?

それとジェットの活躍はあるかな?
空中給油機か空母せめて軽空母でもないとかなり望みは薄そう・・・ハア・・・。

503名無し三等兵@F世界:2004/09/28(火) 23:55 ID:f2m6AJ4M
本土防空戦では出番があるかも そのほかはちょっと・・・・。

504名無し三等兵@F世界:2004/10/01(金) 20:06 ID:Lyo7g26Q
あれから全然連絡がありませんが
F猿さん大丈夫ですか?
何か起こったのではないかと心配で

505名無し三等陸士@F世界:2004/10/01(金) 23:59 ID:0U77BVi2
続編まだでしょうか?期待してます。

506F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 12:50 ID:imAIk9NE
ご心配かけました。
色々あってネットにわずかしか繋げない環境だった物で・・・。
それでは続編投下開始します。

507F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 12:54 ID:imAIk9NE
アジェント、いやこの世界には狂犬と呼ばれる存在がいる。
魔法というものは多少の金がある、もしくは才能があれば簡単に学べる物である。
それは簡単に個人がこちらの世界における銃や手榴弾程の暴力を手に出来るということでもある。
そして力を持てば人間はその力に酔う、試したくなる。
教育が十分には成されないこの世界では余計であった。
そして魔術で強盗や大量殺人に走る、そういった人物が狂犬と呼ばれていた。
しかし今となっては一時期横行した狂犬も厳しい取締りによりその多くが捕まっていた。
しかし狂犬の数は全く減ってはいなかった。何故か。
それは新たな種類の狂犬が現れた為であった。
新たな種類の狂犬、それは文字通りの貴族、金持ちの犬であった。
ただの無差別殺人に見せかけて、邪魔な人物を暗殺する。
そして捕まってもただの無差別殺人として処刑され、
たとえ自分の名を言ったとしても狂言として済まされる狂犬は貴族達には非常に都合の良い存在であった。

508F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 12:57 ID:imAIk9NE
この決闘、アルクアイは数号打ち合ったら他の貴族達の制止に応じてすぐに止める気であった。
そもそも音に聞こえた剣豪であるイルマヤ候に魔術に没頭してきた彼が勝てるわけが無い。
しかし、彼がこの後の会議を有利に進めるためには他の貴族達に
この決闘は「主君を侮辱され怒りに燃える忠実な好青年」
と「権威を傘に着た傲慢な貴族」の戦いである。
というイメージを植えつける必要があった。
そのために彼は危険を冒してでも積極的に攻める必要があった。

口火を切ったのはアルクアイ殿の一撃だった。
横一文字の鋭い一撃をイルマヤ候は容易く受け止める。
「筋はいいようだが、甘いな小僧。」
そしてその剣を弾くとイルマヤ候は思い切り立て一文字に切りかかる。
一撃必殺を狙った剛剣である。
アルクアイはそれを剣の腹で辛うじて受け止め、その代償に剣に小さなヒビが入る
彼は剣の勢いに数歩後ろに下がると慌ててイルマヤ候と距離をとった。
「(予想以上だったか・・・?)」
アルクアイの頬に一筋の冷や汗が流れた。

509F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 12:57 ID:imAIk9NE
距離をとったアルクアイに勝算があるやり方とすれば一つであった。
それは魔法戦に持ち込むこと、しかしこれはできることではない。
この戦いは良いイメージを勝ち取るための勝負。
卑怯などというイメージを持たれるのは言語道断であった。
ならば守りの剣でしばらく耐え忍ぶしかない。
アルクアイはイルマヤ候を見た。何をしているのか、左手から小石のような物を上に投げている。
しかし、これはチャンスである。アルクアイは再びイルマヤ候に向かい走った。
そして観客達も息を呑む。
そしてその一人が何者かに突き飛ばされた。
「な、なんだ・・・?」
座り込んだ彼が見たのは観客の間をすり抜け、決闘する二人に向かう一つの影であった。
そして一瞬の間、彼は事が起こった瞬間を見ることが出来なかった。
「があああっ!」
「狂犬だっ!」「狂犬だ!」
そしてそれから間も無くその耳に届いたのは叫び声と観客の叫び声。
飛び起きた彼が見たのは肩を撃ち抜かれ、膝をつくアルクアイであった。

510F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 12:59 ID:imAIk9NE
同時刻、バルト、オズイン国境。

ここでもまた鮮血が舞っていた。
三国に名高いオズイン重装歩兵が長槍を突き、
手にリボルバーのような形をした魔道兵器を持つバルト騎鉄団が駆ける。
そしてその騎鉄団の先頭に立って長い黒髪を揺らし駆ける一人の少女がいた。
手に持つ特別なフォルムの銃を持ち、華やかな鎧に身を包んだ彼女は
その銃口から放たれる黒い閃光が次々と兵を打ち倒していった。

彼女の名はエグベルト8世
神帝を親に持つバルト帝国の皇帝であった。
そして魔道兵器の不足によって下がった士気を引き上げるため、
女神とまで呼ばれ兵達の人気も非常に高い彼女が最前線へと出てきているのであった。

511F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 12:59 ID:imAIk9NE
士気の上昇に、兵器の相性もあり、戦局は圧倒的にバルトの有利であった。
「帝、あまり前に出過ぎないで下さい。」
しかし、その中で余りに前進しすぎるエグベルトを見かねた将の一人が声をかける。
「ええ、有難う。だけど父と違って私にはこれくらいしかできないから・・・。あっ、そこっ!」
他の兵器と違い、機械が魔法をサポートするタイプの彼女の銃が将の後ろに立つ兵を撃ち抜いた。
「あ、ありがとうございます。けれど私が今言ったことを覚えておいてください。」
「ええ、もちろん。有難う。」

「くれぐれもご無理をなさらぬように・・・。」
駆けていく彼女の後姿を見て、将は言い知れぬ不安を覚え、呟いた。

512F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 13:01 ID:imAIk9NE
「キヒヒ・・・。」
狂犬は比較的綺麗な身なりをしていた、その狂気を映した顔をのぞけば貴族と言っても通用するだろう。
そしてその服装こそがこの狂犬を何者かがこの城に招きいれたことを示していた。
「狂犬とは運が悪い・・・、番兵はどうしたのですかな?」
狂犬とお互い剣も魔法も届く場所に立っているにも関わらず、
ユラユラと揺れながら立っている狂犬を見ながらイルマヤ候はしらじらしく呟いた。
「狂犬・・・だと?ふざけるな・・・!」
アルクアイは肩を押さえイルマヤ候を睨んだ。
その言葉に他の貴族達もようやく狂犬とイルマヤ候の関係に気がつく。
そしてまたこの目の前の男は、自分と反対意見を出す者を始末するつもりであったことに気が付き、戦慄した。
「イルマヤ候、どういうことです!?」
貴族の一人が叫ぶ、するとイルマヤ候は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「どういうこと、とはどういうことです?まさかこの狂犬を私が雇ったとでも言うのですか?」
「っ!?」
貴族は慌てて狂犬のほうを見た、しかしもはやその姿はない。
狂犬を捕まえれば証拠も出る可能性がある。だが、もはや証拠の出る可能性は無い。
「決闘、続行ですかな。」
イルマヤ候はアルクアイの鼻先に剣を突きつけた。

513F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/02(土) 13:02 ID:imAIk9NE
投下終了です。
勘が鈍ったか、少し難産でした・・・。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

514名無し三等兵@F世界:2004/10/02(土) 19:43 ID:aMHq3U2M
返事が来なかったので心配しました。
エグベルト8世がいよいよ登場しましたね。
同時にアルクアイピンチ、意外な展開に・・・。
これからの健闘を祈ります。

515名無し三等兵@F世界:2004/10/02(土) 20:55 ID:mF0ALRws
乙カレーとふっカツ丼はおめで鯛

どうすかこのシャレ?
つまらなかったらスルーして
アルクアイ、世の中はそお自分の思い通りうまくは行かないもんだよ
皇帝の予想外れた・・・・○l ̄l_
絶対銀髪っ子かそうじゃなけりゃハーフだと思ったのに・・・・

516名無し三等兵@F世界:2004/10/02(土) 23:34 ID:h3ppq.Tc
魔道兵器は単発式じゃないんですね。
以外や以外。
さて新キャラ登場、この女帝が日本とどう関わっていくかが見物です。

それはそれとて約一週間ぶりの投下に感謝を

517S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/10/03(日) 11:40 ID:MSZ8PKC.
狂犬キター!山の老人のノリですねえ。狂気の原因は何か分からないけれど、
やはり薬漬けか快楽漬けが基本なんでしょうか?コントローラーは白い粉!

アルクアイも酷いことに。剣の腕+魔法無し+ケガとは、どうにも悲惨な
ハンディですな。まあ生き残れば少しは目があるでしょうが・・・

黒髪女帝ー。リボルバー型で連射可能=魔力が分割注入可能ということでしょうか。
そのうち魔法爆弾とかでそうな予感。

518名無し三等兵@F世界:2004/10/03(日) 15:28 ID:YXHS46nY
個人的にはその世界にしかない軽量合金を使ったツェッペリン飛行船みたいな兵器
の登場を希望。
それと山の老人って某ゲームに出てきたハサン・サッバーハっすか?

519名無し三等兵@F世界:2004/10/03(日) 18:57 ID:YXHS46nY
この話はほんとに先の展開が気になる書き方です。
次はいつになるんでしょうね?
もう待ちどうしくてたまりませんよ!

飛行船は設定の工夫次第で何とかなるかもしれませんが現時点では一寸無理があるかと。

520S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/10/03(日) 21:47 ID:MSZ8PKC.
山の老人=8世紀くらいのイスラーム世界にあった(らしい?)暗殺組織の
ことです。基本的に麻薬や快楽で若者を捜査し、「クスリが欲しければ・・・」
てな感じで殺人を行わせるそうな。

で、クスリやなんかで脳はアレになってて、しかも誘拐して快楽漬けにした
奴だから証拠のたぐりようも無いという訳です。

ハサンは名前がアラビア系っぽいから、違っていても知っていて使った
可能性はあるかと。

>軽量合金飛行船 魔法とコンボでこれが出ると、宇宙英雄物(ry

521F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 21:58 ID:imAIk9NE
飛行船・・・( ゚Д゚)
出すかもしれませんぜ、旦那。
といっても技術レベル的には出せませんが・・・。

さて、勘慣らしのためにも頻繁更新を心がけよう。

522F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 22:01 ID:imAIk9NE
甘かった。
計算も、先読みも、全てにおいて。
アルヴァールをあてにしていれば、奴は計略により不在。
流れを持ってこようと芝居をしようとすればそれの一枚上を行く罠、
そして悪評を逆手に取った問答無用の脅し。
あれを受けてはもはやこの会議で奴に歯向かう物はいまい。
よしんばここで俺が生き残ったとしてももう、意味が無い。
肩の痛みは常に俺の意識を脅かしている。
そして今、俺の前に突きつけられている鋭い剣。
油を垂らしそうな程光沢のあるその刃は間も無く俺の身体を裂くだろう。
イルマヤ候が俺にしか聞こえないような小声で呟いた。
「頭は回るようだが、場数が足りん・・・。覚えておけ、人は恐怖で動くものだ。」
「その言葉は嘘だな、私は今お前に何を命令されても拒否させてもらう。」
俺がそう言うと奴はニヤリと笑い剣を振り上げた。

523F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 22:01 ID:imAIk9NE
剣には魔力が宿り俺の命を奪おうと赤く不気味に光っていた。
これを受ければ俺の身体は原形をとどめまい。
もはや制止しようとする貴族の声も無い。
「アルクアイーっ!」
ファンナの泣き叫ぶ様な声もやたらと遠く感じる。
彼女には罪滅ぼしをしてやる事も出来なかった。
いや、そんなこと俺には元々する気などなかったのだろう。

そして・・・気付いた。
今まで積み上げてきた全てを崩すことになる最終手段に。
気付けば何故今まで気が付かなかったのかと可笑しくもある。
俺は自らの懐に手をやった。一本の金属の筒の存在を確かめる。
バルトから仕入れた魔道兵器。これならば一瞬で目の前の男を殺せる。
しかしこれを使えば俺は間違いなく破門になるだろう、そしてそれは全てを失うことを意味する。

だが、死ぬよりはましだった。
全てを失ってもまた今までのようにすれば良いだけなのだから。
十分にマナの補充はしてある、弾も装填している。俺は撃鉄をあげた。

524F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 22:02 ID:imAIk9NE
「つまり・・・アジェント国王家は我々とよしみを通じる気はない、そういうことですか。」
「はい、そう言うこととなります。」
九州、佐世保基地。
ここではすでにアルクアイの使い、アルマンと日本の外交官の間での情報交換が行われていた。
といっても積極的には情報交換はしていない、相手の要求と弱点を探る、いわゆる腹の探りあいであった。
特にアルマンはアルクアイに日本の弱点を探れ、との強い命令を受けているため、その傾向は強かった。
「しかし、王家と違い我が候は貴国と友好関係を気付きたいと申しています。
そしてそのためにも何か我々にできることは無いでしょうか。」
日本側も馬鹿ではない。
自分達が欲しい物、つまりは弱点を相手にさらすこと程危険なことは無い、と言うことを十分認識していた。
しかし、絶対しなければならないことは食料と資源の調達。
この命題は日本にだらだらと外交をさせている暇は与えなかった。
「我々は貴殿らと通商関係を結びたいと考えています。」
慎重かつ大胆にという無茶をしなければならない彼らの責務は重かった。

525F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 22:02 ID:imAIk9NE

服の下からイルマヤ候を狙う。
暴発が非常に多い代物だが、まさか始めての使用でなるものでもあるまい。

このままほんの少しの魔力を手に宿らせながら引き金を引けば
魔力誘導物質であるアルジェクトで作られたハンマーノーズが俺の魔力を誘導しながら
紋章の刻まれた銀のプライマーを叩き俺の魔力を通じさせる。
そして紋章は俺の魔力を受けてその力を発揮し、小規模な爆発をシリンダー内で起こす。
その衝撃は先のとがった鉛の弾丸を押し出し、敵の命を奪う死神を生み出す。
そしてその死神は目の前の男の命を奪う。

つくづく感心する物だ、これならばどんな魔法下手でも十分に使いこなせる。
そしてそれはバルトの力を証明する物でもあるのだが、しかし今はそんなことを考える暇は無かった。

俺は引き金を引いた。

526F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 22:03 ID:imAIk9NE

カキン・・・。

弾は先程の手順を踏んで、目の前の男を貫くはずだった。
しかし、手の中の死神は冷たい金属音を発しただけであった。

慌ててイルマヤ候を見る、すると彼もまた赤い光を失った剣を見て、呆然としているようだった。
マナが・・・無い。
こんな状況マナが存在しない場合しかありえない。
そしてその状況を作り出せる人物を、俺は一人しか知らなかった。
そして、静まり返った部屋に扉の開かれる音が響いた。
皆の注目を一身に浴び、立っている男。

アルヴァール魔術大臣その人であった。

527F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/03(日) 22:08 ID:imAIk9NE
投下終了です。
座談会
セフェ「あ・・・アルクアイ・・・何故ここに。」
アルク「どうもこうもない、時間がもったいない。話すことは無いのか。」
青島 「あ・・・じゃあ、その魔道兵器ってどういう仕組みになっているんですか?」
アルク「そうだな、どうも銃の火薬を魔法で代用しているようだな。
    火薬が必要ない分仕組みは単純なようだがな。」
青島 「そうなんですか・・・ってなんで銃のこと知ってるんですか。」
アルク「なんとなくだ。」
セフェ(本編と性格違わない・・・?)

ご意見、ご感想、お待ちしております。

528名無し三等兵@F世界:2004/10/04(月) 01:07 ID:7SUYI4yQ
>>518の軽量合金飛行船・・・あなたヘルシングの影響受けてるでしょ?
この漫画に登場するナチスの残党『ミレニアム』がツェッペリン型飛行船(オリジナルよりも巨大な)を使用してました。
ここで知らない人に、2004年10月号のアワーズのヘルシングで飛行船の外装が軽量合金でできていると書かれてありました。

529名無し三等兵@F世界:2004/10/04(月) 01:24 ID:7SUYI4yQ
今度は早い更新で何よりです。
飛行船…出すかもしれないんですね。
もし飛行船が実戦に投入されるのなら運用方法としてはドラゴンの運用プラット
ホームが適切かと考えました。
ようするに空中空母の発想です。

(これには元ネタがあるんです。
パンツァードラグーンオルタのオープニングで帝國の空中空母の下腹部からドラ
ゴンメアが飛び立っていくのが該当します)

530名無し三等兵@F世界:2004/10/04(月) 02:52 ID:7SUYI4yQ
キタよ・・・・・・こんなに早く・・・・・・
大感激・・・・・・何度読んでも面白いです・・・・・・ハイ

531名無し三等兵@F世界:2004/10/04(月) 19:14 ID:46uE5CJc
こちらの世界には存在しないヘリウムや水素よりも
軽くて燃えにくい気体がF世界にあるならば
巨大飛行船も実現するかもしれない。

532名無し三等陸士@F世界:2004/10/04(月) 19:23 ID:MSZ8PKC.
>>528-529セガの「スカイターゲット」でも同じネタがありましたねえ。ドイツ
空中艦隊の発想で、無音航行する飛行船に目を付けた兵器産業が、ジャングルで
空中空母として巨大飛行船を使ってましたわ。

ちなみに劇中設定では、軽量高硬度の合金を開発した企業が、その特性を生かして
防御がネックになる飛行船や巨大兵器を大量生産しはじめた、となっておりました。

533名無し三等陸士@F世界:2004/10/04(月) 21:18 ID:04jpwOFM
そこで「ふわふわ」ですよ

534名無し三等兵@F世界:2004/10/04(月) 23:19 ID:pMCyk2H.
その飛行船の正式名称は『フランベルジュ』
私もプレイした事があるがデカイの一言

535_:2004/10/05(火) 00:06 ID:FXrRds82
>533
何の実績も無いベンチャー企業の発明品など
採用するはずも無いと思われ

536名無し三等兵@F世界:2004/10/05(火) 01:35 ID:pMCyk2H.
個人的に、飛行船は日本と接触する時に登場する確立が一番高いと考えてみたがどうだろうか?

537名無し三等兵@F世界:2004/10/05(火) 17:55 ID:2aCdNJ8k
有翼人がいるなら飛行船から降下奇襲できそう・・・。

538名無し三等兵@F世界:2004/10/05(火) 21:13 ID:C/tiiDCE
本家の16章、122〜133に帝国の空中艦隊と空自の大決戦の話が投下されてる、
何かの参考になることを

539F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:38 ID:imAIk9NE
Call50さんすげえ・・・。
あの連続更新に圧倒されつつ投下します。
どちらにせよ飛行船はかなり後になりそう・・・。

540F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:41 ID:imAIk9NE
「ま、まさか・・・。」
この男の登場に一番のショックを受けたのはイルマヤ候だっただろう。
様々な策略の上、大金をかけた策が全く無意味だったのだから。
「・・・僅かにマナの干渉波がすると思ったら・・・一体、どうしたのだ?
できれば、マナを引き付ける状態を維持するのは疲れるので早く止めて貰いたいのだが。」
イルマヤ候はまだ震える声で叫んだ。
「これは、決闘だ!騎士の誇りにかけて邪魔しないでもらいたい!」
しかし、イルマヤ候が言う言葉を聞いていたのか、居ないのか、ファンナがアルクアイに駆け寄った。
「アルクアイーっ!良かった、良かったよー。ふえぇぇ・・・。」
そしてファンナはそのままアルクアイにしがみつき、泣き出した。
アルクアイは魔道兵器をそっと懐にしまい、ファンナを抱きしめた。
しかし、その目は非常に穏やかに 見えた。
「この様子を見る限り、双方が望んだ決闘には見えないが・・・。」
「なっ・・・無礼な!」
「何が無礼か!!」
イルマヤ候が言いかけた言葉をアルヴァールは広間を揺らすほどの声でかき消した。
「そもそもここは神聖なる王城!血で濡れることなどあってはならない!候は忘れたか!」
「ぐっ・・・っ!」
イルマヤ候は剣を降ろし、アルヴァールを睨んだ。
確かに戦争をやってきたのだろう、あちこちが砂や泥で汚れている、
しかし奇妙な点が一つあった、それは手袋についたまだ黒ずんでもいない真新しい血だった。

541F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:42 ID:imAIk9NE
イルマヤ候は最後の悪あがきをした。
「魔術大臣、この王城を血で濡らしてはいけないと言うのならばその手は何なのか!明らかにここ僅かの間に人を殺めた証拠ではないのか!?」
ここでアルクアイを殺しておかねばこの会議では全てが終わる。彼はそうわかっていた。
しかしその悪あがきは更なる絶望を持って返された。
アルヴァールが何かボソボソと呟き何かの印を描くと、2つの黒い塊が扉から広間の真ん中へと飛び込んできたのである。
「な、なんだこれは!?」
「よく見てもらいたい。」
アルヴァールの言葉に従い、その場に居る全員がその塊を見た。そして、声が上がった。
「ひっ、死体だ!」
「いや、こいつは見覚えがある!」
「王城に殺気を漲らせた者が二名ほどいたのでね・・・処理をしておいた。」
二つの塊の内一つは身体が半分に千切れかかってはいるものの、紛れも無く狂犬の一人だった。
一瞬で風穴を空けられたのだろう、驚きに目を見開いたまま、死んでいた。
恐らくもう一人も狂犬には変わりは無いだろう。
しかし驚くべきは投げ出された二人の死体からは血が一滴も出ていないことであった。
「これ以上ここを血で汚そうというのなら、私がお相手させてもらうが。」
イルマヤ候の頬が引きつった。

542F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:43 ID:imAIk9NE
それから二日後。
その後の後継者決めは淡々と進められた。
狂犬を使った脅しが破られた以上、もうイルマヤ候に味方しようと言う者は僅かしか居なかった。
そしてアルヴァールの推しによって正統継承者であるアシェリーナ姫が
次代の王と決定したのであった。
そしてアルヴァールに次ぎアシェリーナを推したアルクアイ(正確にはウェルズ)がその補佐に選ばれるだろう、
というのが大方の意見であった。
ここまでは完全に、アルクアイの思い通りであった。
そう、ここまでは。

543F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:44 ID:imAIk9NE
「我々は貴殿らと通商関係を結びたいと考えています。」
日本側のこの一言は相手の興味を引き出すのに十分であった。
貿易で欲しい物資、それがそのままこのニホンの弱点なのだから。
「ほう・・・では、何がお望みですか?」
「食料です。」
米は足りている、ならばニホンが必要なのは主食以外の食料品であった。
主食ではないからと言って侮ってはならない、これを欠けば国民の不満は溜り、
国民の不満は国家を揺るがすに至るのだから。
「食料・・・そちらの国では飢餓が発生しているのですか?」
アルマンは悩んだ、飢餓が発生しているような国ならば、食料を求めて攻め入ってくる可能性が高い、
強い軍事力を持っているのならば尚更それは恐怖であった。
しかし日本側の次の一言は彼を安心させ、そして驚愕させた。
「いえ、それはありません。我々の主食・・・米というのですが、は十分に足りています。
国民が一日三食食べるだけの量は確保してありますよ。」
米はアジェントにもある、しかしこの手のかかる生産物をアジェントは主食と言い切れなかった。
たしかに貴族レベルになれば一日三回米を食べることができる。
だが、貧農では一日二回、麦で作ったパンなどがせいぜいなのだ。
しかし、このニホンとやらは国民一人ひとりが一日三回米を食べている。
つまり国民全てがこちらの貴族並の生活を送っているともいえるのだ。
そしてそれだけの輸出食料をラーヴィナ領だけでまかなえるかどうかは疑問だった。
ニホンの外交官は言葉を続けた。

544F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:45 ID:imAIk9NE
「そして、次に我々が欲しいのは、鉄・・・及び銅などの資源です。」
燃料・・・石油のような即戦争に繋がることを聞くのは相手を刺激しかねない、
次に日本側が聞いたのは現在日照りにあっている工業を復活させるための資源確保であった。
そしてアルマンは遂にこの質問が来た、と思った。
アルクアイはアルマンに言っていた、
「相手が鉄のことを口に出したときが本当の外交の始まりだ。」と、
そしてアルマンはアルクアイの言葉通りの言葉を言った。
「鉄ならば、貴国の前に召還された島の一つに大規模な鉄山が存在します。しかし、これは王家領ですが。」
「つまり・・・輸入できない、ということですか?」
「はい、“輸入”はできません。ですがここの鉄を手に入れることは出来ます。」
日本側の外交官は眉をひそめた、何を言いたいのかが薄々分かってしまったのが恐ろしい。

「今こそ言います。我らの主、ラーヴィナ候は召還された島々の人々が奴隷として
虐待を受けるのに、常々、気の毒だと心を痛めていらっしゃいました。
だからこそ、貴国にはこれらの島々をアジェント王家の奴隷支配から開放して欲しいのです。」

545F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:46 ID:imAIk9NE
会議では王位継承者が滞りなく決まり、後はその補佐役を決めるのみとなった。
そして、アルヴァールは大臣であるために、補佐役にラーヴィナ候ウェルズが任命される。
誰もがそう思っていた。
しかし、アルヴァールはここで誰もが耳を疑うような一言を発した。
「では、アシェリーナ様の補佐役は由緒正しい家柄であり、その権威も高いイルマヤ候にやって頂きたいのですが、よろしいですね。」
「なっ!」
アルクアイを含め誰もがそう言った、イルマヤ候本人ですらだった。
アシェリーナ姫が王位継承者となるのに一番反対していたのが彼だったのだから。
「それがアシェリーナ様の所存ですが、お受け頂けないか?」
「なっ、い、いや、願っても無い。微力を尽くす所存でございます。」
イルマヤ候は誰も座っていない王の椅子に向かい、平伏した。
だが、彼はアシェリーナの元ではアルヴァールが居る限りその権力はほとんど無に等しいことは、
誰の目にも明白であった。
そして自然に目が向くのはアルクアイであった。
見た目には微笑を保っているものの、その精神が動揺しているのはまた、誰の目にも明白だった。
そしてその彼に共振通信が繋がれた。
今、ここで彼に共振を繋げる人間は二人しか居ない。
すぐ隣に居るファンナと、全ての魔術師に共振を繋げるアルヴァールだけであった。
そして彼に今共振を繋いでいるのは、彼が今最も憎々しく思っている男であった。
―――アルクアイ・・・全てが自分の思い通りになると思うな―――
そして共振は切られた。
負けた。アルクアイは生涯で初めてそう思った。

546F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/05(火) 21:48 ID:imAIk9NE
投下終了

青島「俺って・・・主人公だよね・・・。」
佐藤「いや、アルクアイが主人公なんじゃないですか?」
加藤「ええ、間違いなく今主人公はアルクアイよね。」
青島→orz

ご意見、ご感想、お待ちしております。

547名無し三等兵@F世界:2004/10/05(火) 22:07 ID:C/tiiDCE
いつもの投稿ペースに戻りましたね
二日に一回の割合ですから次の投下は木曜ですか?

飛行船についてですがこれは砲艦外交にも使えるんじゃないかと
ようするに自分にはこれだけの戦力があるんだぞと相手に誇示するのです
ちなみにこの手に似た外交を行ったのはセオドア=ローズヴェルト(1858〜1919、第26代、任1901〜1909)です
彼の行為は棍棒外交とも言われてます

548名無し三等陸士@F世界:2004/10/05(火) 22:14 ID:mmGt1OeI
アルヴァールって誰かに似ているなと思ったらジャンプの封神演義に出てきた
ブンチュウだな。
アルヴァールはああやって国を裏で守っているんだな。
そしてアルクアイの狡猾さが見える外交シーン堪能させていただきました。
しかしそのアルクアイも狡猾さではアルヴァールに負ける模様。
何はともあれF猿さん乙

549名無し三等兵@F世界:2004/10/05(火) 23:25 ID:jakRMOSY
ご苦労様でした、さて感想にいかせてもらいます。
島に上陸する事となると海兵隊の揚陸艦の支援がほしいですね。
やっぱりワイバーンは侮れませんし、ヘリだけじゃ不安かと。
または>>377で紹介されてるサイトのような軽空母を登場させたり。
13500t型DDHを軽空母に密かに改造していたとか。
どうですかね?海自軽空母、一度考案してみても無駄じゃないかと思いますが。
アルヴァール、この男こそ王国を操るフィクサーであり日本をこの世界に呼び出した諸悪の元凶ですね。
この男の心に、今回の召喚における予想もしない出来事はどのように感じられたのかが気になります。

550名無し三等兵@F世界:2004/10/06(水) 00:25 ID:jakRMOSY
正規空母ならともかく軽空母なら1隻ぐらいなんとかなるんじゃない?
うまくごまかしや設定を工夫しても2隻が限界で。
それ以上はパワーバランスが崩れると独自に結論。
肝心の艦載機は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これが一番の問題。
どこかの米軍基地に先行量産機が配備されてたと無理矢理こじつければ大丈夫?
後はF猿さんの腕の見せ所かな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

551名無し三等兵@F世界:2004/10/06(水) 00:36 ID:jakRMOSY
先行量産機=F-35?

552名無し三等兵@F世界:2004/10/06(水) 15:40 ID:KnWQit6g
gj!
陸自はアパッチを現時点で60機ほど導入予定で年に数機ずつ配備しているとか。
これをアメリカの海兵隊使用のコブラみたいに改造して運用すればいいんじゃない?

553名無し三等陸士@F世界:2004/10/06(水) 20:30 ID:Ksk.yJ.Y
>>546
日本の実情を知ったアルヴァールの内心とかは是非知りたいっす。

とりあえずキャラ分析
アルクアイ編
功利主義者で実利主義者
非情
陰謀家で演技派
でも詰めが甘い
お稚児さんが務まるくらい美形
普通のエルフをしのぐ魔法の才能
死を厭わない中世を誓った部下がいる
野心は山盛り

美形悪役として申し分のない嫌味な美点を備えた男ですが、
若さゆえの詰めの甘さがそれを台無しにしてます。
シャアとガルマを足して2で割った感じ?
特にファンナに対する態度は悪役にあるまじきもの。
すでに指摘されている通り青島をしのぐ主人公体質になっちゃったのはそのせい。

554名無し三等陸士@F世界:2004/10/06(水) 20:32 ID:Ksk.yJ.Y
>>553続き
ラーヴィナ候の居城でのシーンや王宮でのある下級貴族の述懐シーンからして、
王国人の民族性はすっげぇ感激屋な気がする。
何でもノリでやっちゃいそう。
アルクアイ分析続き

危うく自爆するところだったゼナやラーヴィナ候毒殺未遂のときの医師など、
”絶対”の忠誠を誓う部下がいるようなのは強み。
手駒の数という点のみならすその忠誠にふさわしいカリスマがあるということだし。
(でも医師は後で始末するつもりかもしれないし、ゼナは単にアルクアイに懸想してるだけかも)

くどいようだがファンナへの態度で悪役度が大幅ダウンしている。
もしかしたら少しロリかもしれない……だとしたら、ゼナとの三角関係で刺されたりして。
アルヴァールとの対立が陰謀劇の中核となるかも。あと赤羽との絡みも期待。
色事師の才能を持つ悪役と幼い女王陛下という組み合わせもおもしろいが……
……おーい、青島、完全に食われてるぞ〜

余談だがファンナたんは本家のクラウスたんと並ぶ個人的萌えつぼである。
彼女には幸せになってほしいものだ。

555名無し三等陸士@F世界:2004/10/06(水) 20:45 ID:0U77BVi2
555げっとー
アルクアイの行動はアルヴァールにバレテタンデスネ。
一まず、アルクアイの一人勝ちじゃなくてよかったぜ

556名無し三等陸士@F世界:2004/10/06(水) 20:45 ID:0U77BVi2
wwお

557F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:23 ID:kHqoVL5Q
>>553・554さん
なんか感激。続編期待してます。
・・・よし頑張ってみるか!
ってことで連続投下!

558F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:24 ID:kHqoVL5Q
アルヴァール魔術大臣。
城下一番の老人が生まれた時からこの魔術大臣を勤め、
更にその祖父が生まれた時にも魔術大臣を勤めている男。
王家に絶対の忠誠を誓い、代々王位継承者の養育係を勤めてきた。
彼の長寿、魔力の秘密は王位継承のときに引き継がれる物の一つであり、
この人物に関する逸話は事欠かなかった。
「アジェント建国に関わった」「十万の軍隊を殲滅した」「実はアシェナの天使である」
そしてそれのどれもが真実味を帯びるような風格を彼は持っていた。

「全ては王家のため。」
彼の目的はただひとつ王権の維持。
そのためには気が進まぬ召還などという行為も行った。
そんな彼に傀儡政権を企もうとしていただろうイルマヤ候やアルクアイは許せる物ではなかった。
そして今彼の懸念は西のバルト、そして東に現れた謎の国であった。
召還された東の国。もはや国中でその噂が流れていた。
生き血をすする悪魔の国、見たことも無いような魔法(ありえないが)を使う国、
バルトの魔道兵器が玩具に見えるような機械を使い、町一つを容易く滅ぼす国。
どれも信憑性の無いものだが、火の無いところに煙は立たない。厄介であることは間違いなかった。

559F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:25 ID:kHqoVL5Q
その夜。
アシェリーナ姫の元へアルヴァールは急いだ。
当然急使で知っているだろうが、娘同然のこの姫の喜ぶ顔を見たいという感情もあった。
「あ・・・アルっ!帰ってきたのね!」
そして扉を開けた途端、このもう二十歳になろうかという少女に彼は飛びつかれ、よろめいた。
とりあえず、一度引き離して礼をする。
「どうも、ただ今帰還致しました。」
「もお、そんな堅苦しいことを言わないで、アル。」
「一応規則だからなアシェル。」
そうアルヴァールが言うと二人は同時に吹きだし、部屋は笑いに満ちた。
そのまだ美しいと言うより可愛らしい笑顔を見てアルヴァールは思った。
何をしてもこの笑顔に傷はつけさせない、と。

そのためには彼はどんな姑息な手でも使うつもりであった。

560F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:27 ID:kHqoVL5Q
次の日の会議は病を押したアルジェン13世、さらにアシェナ教皇までが参加した大会議となった。
論題は一つ。これからの対外政策であった。
西のバルト、そして東の謎の国、これら両方を相手にする力はアジェントには無かった。
さらには最近反発的な小国群が南には存在する。
アジェントが避けねばならないのは西と東を同時に相手取ることであった。
これだけは何とか避けねばならない。
ならばそれ避けるのためにはどうしなければならないか、外交である。
会議が熾烈を極めるのは明白であった。
「それでは私の方に、東の国との接触経験がございますので、報告いたします。」
その会議の口火を切ったのはアルクアイであった。
昨日の主役とも言える彼、昨日の出来事は誰もが知っている。自然と注目が集まった。

「我々はしばらく前、東の国・・・ニホン、というらしいですが、の船団と接触しました。
彼らは魔法が使えないことは皆さんご承知でしょう。
しかし、彼らは巨大な鉄の船に乗り、魔法でしか出来ないような攻撃を繰り出しました。
ちなみにこれにより元竜騎士団でその時の船団の司令であるジファンが死亡、
魔術仕官のセフェティナ殿が行方不明になっています。」
元々報告が行っている王家の官僚以外の貴族、特に教会関係者は息を呑んだ。
魔法でもないのに鉄が浮ぶ、魔法のような攻撃を繰り出す。
これは機械を使っているに他ならないからである。
アシェナ聖教に反する機械を。

561F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:27 ID:kHqoVL5Q
「これは私の私見ですが。」
アルクアイは続けた。
「彼らはおそらくバルト以上の戦力を持っていると思われます。」
これには王家の面々も含め、誰もが絶句した。
バルトは急激にその勢力範囲を広げてきた帝国であり、誰もがその軍事力はしるところである。
しかしアルクアイが続けていったことはその既成概念を破壊しようとする言葉であった。
「逆にバルトの勢力は、神帝エグベルト七世の死などの理由により弱まっていると思われます。
東、東へと強硬に取っていた進路が急にオズイン手前で我が国の国境を通るような南への進路へと変わったことからもこのことが見て取れます。」
アルクアイが呪文を詠唱すると、その場の参加者全員の前に地図の幻影が映し出される。
マナで光の屈折を操る蜃気楼のような物だが、アルクアイの説明を理解させるには十分な物であった。
「しかし、」
貴族の一人が声を上げた。
「しかし、バルトが南に進路を変えたことは事実だ、だが何故そんなことを?」
「恐らく、オズイン、我が国と連戦することを避けたかったのでしょう。
彼らの狙いは恐らく、例の空白地だと思われます。」

562F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:28 ID:kHqoVL5Q
「なんと!」
イルマヤ候領の南に位置し、イルマヤ候とも仲の良い、ハルバ候が声を上げた。
彼の領の南にはエルフの大森林を隔て空白地があった。
だからこそ空白地に一番執着を持っていたのも彼であった。
そして空白地に攻め入ってくるともなればまず戦わなければならないのは自分だろう。
そういう考えも入った、半ば恐怖の叫びだった。
「なんということをおっしゃる・・・。」
ハルバ候はイルマヤ候を見た。何とかならないのか、と言った目つきである。
元々ハルバ候、彼は臆病な男であり、イルマヤ候と仲が良いと言っても、
それは親分と舎弟のような関係であった。
しかし、頼れる親分のはずのイルマヤ候もさすがに無茶を言うなという目で見返した。
「逆に。」
アルクアイは続けた。
「東の国は今すぐにでも攻め入ってくる可能性があると思われます。
彼らの軍事力は船から見ても高く、噂程度ですが非常に好戦的である、という噂も流れています。」
アルクアイの言葉に貴族達は一斉に頷いた。
彼らの領土でも王都でもニホンの恐ろしい噂は鳴り響いている。
といってもその噂は目の前で演説している男の流した物なのだが、そんなことは知る由も無い。

563F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:30 ID:kHqoVL5Q
「もし。」
先程まで王となにやらボソボソと話しをしていたアルヴァールが声を出した。
「なんでしょうか。」
アルクアイは答えた。
この二人の因縁は誰もが知るところなっている。その場に居る全員が固唾を呑んで二人を見た。
「もし、その通りだとするのなら、我々はどうすれば良いと思う?
残念だが我々にはその二国を同時に相手する力は無い。」
アルヴァールはアルクアイに問うた。
その目ははっきりと貴様の知恵を利用してやると言っている。
アルクアイは自分の腸が煮えくり返るのを感じた。
自分の野望を完膚なきまでに叩き潰したこの男は自分の言うことを大体見抜いた上で、
その危険な意見を強制的に言わせようとしているのだ。
しかし、これはアルクアイにとって意見を押し通す絶好のチャンスでもあった。
アルクアイは賭けに出た。
「はい、そのことについては私に一つ、考えがあります。」
「何かね。」
アルクアイは参加者全員を見回した。
貴族達はしんと静まりかえり自分を見つめている。しかしその中に見慣れた少女の顔は無い。
ファンナは王家への人質として部屋においてきてしまっていたのである。
半泣きになりながら一緒に行くとダダをこねた彼女の顔が思い出され、アルクアイは一瞬後悔した。
自分がこの場でこの意見を言ったら、彼女にまで危害が及ぶかもしれない。
しかし、ここでこの意見を通さねば自分は凡夫として一生を終えることになるだろう。
それだけは命を賭しても避けなければならないことであった。
そしてアルクアイは意を決し、言った。

「我が国は、バルト帝国と同盟を結ぶべきだと考えています。」

564F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/06(水) 21:32 ID:kHqoVL5Q
投下終了しました。
ゴゴゴゴゴゴゴ
アルヴァール「・・・・・・。」
アルクアイ「・・・・・・。」
アルヴァール「何か言ったらどうだ。」
アルクアイ「そちらこそ。」
ゴゴゴゴゴゴゴ

青島&セフェティナ(怖いよ〜。)

565名無し三等陸士@F世界:2004/10/06(水) 21:41 ID:fUJSgrs.
乙なれど二十歳で少女は無理だと思います

566553:2004/10/06(水) 22:06 ID:Ksk.yJ.Y
乙かれ〜
すでにこれも指摘されていることですが、やはりアルヴァールは聞沖だったんですね。
アジェントとバルト、両国の頭首がおにゃのこですが、そうなるとオズインもやっぱり?

アルクアイのマッチポンプぶりが目立ちまくりですが、こうなってくると赤羽の重要度がさらに上がってきますね。
日本とオズイン、バルトとの接触時期が気になるです。
キャラクターのみならずストーリー、世界観に関して第三者視点での本格的分析もやってみたいですが
(他のキャラはアルクアイほど分析材料は出きってないし)
考察スレか感想スレでやったほうがいいのかなぁ?

ファンナたんってΖのミネバ様っぽいイメージが出てきました。
傀儡としてではなく、普通に育てられていたらファンナたんみたいになってたんだろうなぁ

567名無し三等陸士@F世界:2004/10/06(水) 22:35 ID:NXgGnmrg
アジェントがバルトと手を組むとはね・・・
まるでニューディサイズ(ティターンズと連邦教導団の残党軍)が
アクシズと組んだみたいだ。でも今の状態が続いたらアジェントは最悪の場合は
ZZのアクシズみたく内乱で疲弊しそうだな。

568名無し三等兵@F世界:2004/10/06(水) 23:50 ID:39Ka5kjg
国を救うために行なった事が、逆に国を滅ぼしてしまったり。
そんな展開が・・・待ってる感じです。
王家のためならば、この程度の犠牲は許容範囲だと異世界の怒りを買おうとしてるね。
まさに本末転倒とはこの事。

569名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 00:16 ID:39Ka5kjg
ご苦労様です、いきなりだけどバルトとの同盟は反対!
大体良く考えればエルフが黙っていないし、バルトも用心するはず。
それからバルトのほうも敵の敵は味方という事から独自に日本と接触を試みようとする筈。
アルクアイがどういう裏工作をするかが大きなポイントかと。

んにしてもこいつは王家のためといってどれだけ多くの人が苦しんでるのか本当に理解してるのか!?
後に王国王家の歴史に重度の汚点を残すのは目に見えてるはずだ。
今回ばかりはアルクアイがアルヴァールの手駒になったふりして目にもの見せてやる事を祈る!

570名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 00:35 ID:39Ka5kjg
そこで日本に行くために飛行船の登場ですね!!

…ホントにバルト×アジェント同盟が成立するしたら日本の戦力もうちっと底上げ
したほうがいいですよ

やっぱ軽空母をひとつぐらい持つべきです

571名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 01:03 ID:rffyU71E
 F猿さん投下乙です。
 
 アジェントとバルトとの連合で、ますます孤立無援のわが日本ですが、
 在日米軍の存在がますます重要になると思います。
 第七艦隊や原潜が佐世保や横須賀にいればかなり有望な戦力になると思う。
 在日米軍も食料や生活物資を日本で賄っている以上、こんな事態になれば
 文句を言っている訳にはいかないでしょう。

572名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 01:31 ID:m83KYLXs
帝国と王国の同盟は条約締結直前に破綻するのをキボン
第七艦隊や原潜・・・ガイドラインが心配ヤパーリ軽空母がギリギリライン?

573名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 01:52 ID:Ksk.yJ.Y
自動車輸送船改造のヘリ空母!
相手をアウトレンジすることを前提で有りもんの改造でガイドラインもクリア!
北海道のコブラを海上仕様に改修して搭載。

574名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 02:41 ID:m83KYLXs
アジェントは同盟する考えだが相手がそれに応じるとはわからない
バルト帝国とは空白地帯を共有すれば日本と同盟できる可能性あり
軽空母は赤羽が16DDHをベースに軽空母の建造に着手した…という設定でいけば
>>377の世界の妄想艦船での海上自衛隊 軽空母(DDH147)が最適
外観図 ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/DDH_CVL_3.html
格納庫検討 ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/DDH_CVL_32.html
発艦検討 ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/DDH_CVL_33.html
着艦検討 ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/DDH_CVL_34.html
塩害対策検討 ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/DDH_CVL_2EL.html
ステルス効果の検討 ttp://members.at.infoseek.co.jp/n_hikkii/DDH_CVL_2EL2.html
これ見てちょっと待てまだオスプレイもF-35も配備されてないし、
ましては16DDHはまだじゃねーかと言う人
そこは時代設定を今より少しだけ近未来にしてつじつまを合わせてしまえばOK・・・・かな

575名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 03:09 ID:m83KYLXs
アルヴァールって王家が残っていれば国民なんていくら死んでもかまわないって考えを根底に持ってるでしょ?

576名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 03:36 ID:Ksk.yJ.Y
みんな、そうアルヴァールを叩くなよ
絶対王政の末期では確かに国王と国民の対立構造が出てくるけど、
アジェントのような封建体制化では王家と諸侯の対立構造の文脈で見なけりゃならんのだ。
(さらに宗教的権威もあるし。国民不在の政争であることは否めんが)
アルヴァールの優先順位は王家、国民、諸侯の順だと思うぞ。
奴隷召喚という非道に手を貸すのも、バルト以下の外圧に対するだけじゃなく、
有力諸侯に対する優位性を確保するためのものだと思うし、
でなけりゃラーヴァナ侯のような商人上がりの新興貴族に奴隷の管理を一任したりしないぞ。

それよりセフェティナがアルヴァールとの直接交信手段を持っているのが気になる。
セフェちんから連絡をつけるのは面倒そうだが、アルヴァールから交信してきたら多分一発だし、
何よりアルヴァールはセフェちんの直接の上司だ。

こうしてみると綱渡りしてんなぁアルクアイ。ファンナたんの為にもがんばってほしいもんだが。

577名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 08:05 ID:NXgGnmrg
某スレで見つけた台詞

1「だまれ 生命をまっとうできるのを喜べとは何事か! 自分は死など恐れない!
最後の一兵まで戦い歴史の栄光に満ちた帝国貴族の滅びの美学を完成させるのみだ!!」

2「滅びの美学ですと? そういう寝言を言うようだから戦いに負けるのです
要するに自分の無能を美化して自己陶酔に浸っているだけではありませんか」
元ネタ(銀河英雄伝説)

アルヴァールが1のような暴言吐かなけりゃいいのですが。

578名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 08:31 ID:8hGQZL2g
飛行船が出るならツェッペリンクラスをさらに巨大化したものを頼みたい

579名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 19:13 ID:N6Hlvkpc
空母はだす必要あるのかな?
無理にださなくていいような

580F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:24 ID:kHqoVL5Q
軽空母・・・どうしましょう?←オイ。
と、まあ色々考えてあったり無かったりなので・・・、その時が来たら頑張ります。

さあ、ほぼ日刊?F猿投下いきまーす!

581F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:26 ID:kHqoVL5Q
アルヴァールはアルクアイと同意見だった。
元々アジェントにはバルトとニホンを同時に相手取る力は無い。
ならばどちらかと同盟するしかない。
ちなみにオズインと組むと言う手は問題外である。
滅び行く国と組んでは国力を浪費するだけで終わることになるのだから。
だがバルトと組むのには障害が多かった。
理由は二つ。教会と、エルフであった。
教会にことごとく反する国、バルト。これは言うまでも無い。
そしてダークエルフが首脳に居る以上エルフ達の反発も避けられないだろう。
ならばニホンと組む、これはバルト以上に障害が多かった。
召還した島々、そこに住む人々は奴隷として呼び出したものである。
そう言う見方がアジェントでは主流であった。
奴隷達と組むということがどれだけ国家や国民のプライドを傷つけるかは想像に難くない。
さらにニホンも機械を使うと言う。これにも教会は反発するだろう。
そしてよしんば同盟したとしても自分達をアジェントが召還したと知れば、恐らく東の国は敵に回るだろう。

つまり同盟する相手はバルトしかないのだ。
しかしここで自分がその意見を言っては、王家と教会との仲が険悪になる恐れがあった。
だからこそ彼はアルクアイを利用したのだ。
しかしアルクアイがこのことを言うからには、この同盟にアルクアイにとってなんらかの利益があるということである。
そしてアルヴァールはそれを黙って見過ごすわけにも行かなかった。

582F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:26 ID:kHqoVL5Q
アルクアイの一言は場が凍らせた。
その硬直は何秒か続いた後、破裂した。
「何を考えているのだ貴様ぁ!」
その口火を切ったのは神官の一人であった。
「今の、お前の、一言は、この偉大なるアシェナ教会、いや、数百年にわたる王国の栄光を否定する言葉だ!」
「バルトと組むだと!恥を知れ、売国奴!」
「あのような神に反する者と組めるか!」
様々な罵詈雑言がアルクアイを襲った。
それだけアジェント国内でのバルトへの反発は強かった。
その中でイルマヤ候が叫んだ。
「バルトなど恐れぬに足りぬ、そのような者などオズインと手を組み叩き潰してやろうではないか!」
「そのとおりだ!」
その勇猛な言葉にハルバ候を初めとして何人かの中小諸侯が賛意の声を上げた。
「ならば!」
その言葉にアルクアイは猛然と叫んだ。

583F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:27 ID:kHqoVL5Q
「ならば攻め入るバルトに対し、貴候らが敗れた時はどうなさるのか!」
アルクアイの叫びに対し、イルマヤ候はそれを上回る声で叫び返した。
「何を言うか、我を侮辱するのか!我々に死を恐れる兵など一人も居ない!
美しい滅びと言う物を見せつけてやろうではないか!」
「そうではない!」
アルクアイは叫んだ。
「極論すれば貴候らが滅ぶことなどどうでもよい!
貴候らが敗れると言うことはバルトの軍勢がこの王都にまで及ぶということ、
そのことに対して貴候らは責任を負えるのか!」
その剣幕にイルマヤ候はたじろいだ。
「だ、だが。東の奴隷島の彼奴らの軍勢を防ぐのは東岸の貴様らの役目であろう!
貴様は彼奴らの軍勢を防げるのか!?」
「策が無くては提案しない!」

「ほう、ならば言ってもらおうか。」
アルヴァールはあくまでも傍観者の立場で先を促した。
アルクアイも当然アルヴァールの意図には気が付いていた。

584F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:29 ID:kHqoVL5Q
「そもそもどうやってバルトと手を組むのか。そこに全ては終始します。」
アルクアイはまた世界地図の幻を参加者達の目の前に出し、話を始めた。
「彼らと我々は遠く離れていますが、思想が大きく違い、対立してきました。
しかし多彩な思想と違い彼らの目的は一つ、肥沃な土地の確保です。
これを与えてやると言えばすぐに彼らはこの同盟に飛びつくでしょう。」
「与える土地、というのは?まさか我が領を与えるわけには行くまい。」
アルヴァールは無表情で聞いた。
すでに答えは分かりきっているだろうに、アルクアイはその余りな態度に苦笑した。
「それでは地図を見ていただきたい。
ハルバ候領の南、大森林を越えたところに肥沃、かつ広大な土地が存在します。
ここは南東の小国のために我が領土にすることが出来ない土地。ならば外交に利用するのが一番かと。」
「バカな!」
ハルバ候は叫んだ、すぐ近くにバルトが存在することになる、それだけでも怖くてたまらないのに、
今度は長年の悲願だった空白地を敵にくれてやれ、というのだ。
臆病なハルバ候でもここでは叫んだ。
「そんなもの敵を強くするのと同じことではないか!」

585F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:30 ID:kHqoVL5Q
「話しは最後まで聞いていただきたい。」
アルクアイはそれを静かに制した。
「バルトと同盟する、その理由は別に攻められないためではありません。
敵同士を戦わせる。つまりバルトとニホンを戦わせるためです。」
「何をバカな。」
それをすぐに否定する人間がいた。
神官達に、イルマヤ候であった。
「空白地をバルトにくれてやったとしても、奴隷島は島だ。
空白地が東岸に接しない以上この二つを戦わせることは出来ないだろう。」
アルクアイはそれを黙って聞き、一言呪文を唱えた。
すると地図の一部が光りだした。
空白地の東、東岸にも接する小国群であった。
「彼らは最近我々に対する反発を増しています。もはや属国としておくメリットはありません。
ならば、この小国群の地域をバルト、もしくはニホンがとれば、この二国は国境を接します。」
ほお・・・。貴族達の間でため息がつかれた。
その雰囲気を感じ取って神官の一人が発言した。
「ニホンが小国群ではなくその北の我々の領土に攻め込んだ場合はどうするつもりだ?」
「外交によって誘導します。それに向こうも馬鹿ではない。
守りを固めた我々と、自分の国を防衛することも出来ず、我々に頼る小国群、攻め込むならどちらなら選ぶでしょう。
それに我が領とて多少の防備の備えはある、その間にバルトと共同戦線を結べばよい。」
アルクアイは答え、続けた。
「そしてバルトとニホンがぶつかった時に、我々はバルトと共にニホンを撃破し、
その後連戦に次ぐ連戦で疲弊したバルトをたいらげれば良いでしょう。
そうすればこの地域は全てがアジェントのものになります。
目障りな小国群が消え、バルト、オズイン地域が全て手に入る。どうでしょうか!」
参加者の一部が立ち上がり、拍手をした。その拍手は広がり、参加者の半分以上が拍手をし、
広間は拍手に包まれた。
その中でアルクアイはアルヴァールをはっきり見据えた。
彼を、議論の場に引きずり出そうとしたのだった。
参加者達はそれに気付き拍手を止め、皆アルクアイを見つめた。
立場を曖昧にしておきたい彼も、自身がアルクアイに意見を求めた以上、
その意見に対し答えざるを得なかった。

586F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:30 ID:kHqoVL5Q
「・・・私は・・・。」
皆が固唾を呑んで見守る。
彼の言葉は王家の言葉。王家の言葉はアジェントの方針なのだ。
特に教会の人間の目線は刺すようだった。
「私はアルクアイ殿の方針・・・やむを得ないと思っている。」
会議場に激震が走った、そして事前に話を聞いていたアルジェン13世はギリ、と奥歯を噛みしめた。
教会の神官、教皇は目を剥き、上唇はめくれ上がり、怒りをあらわにしていた。
「このアジェントは強い!東西の二国を相手にしてもアシェナの加護を受けている我々なら勝てる!
そうではないのか、諸君!」
教皇は叫び、参加者達を見回した。
しかし参加者、特に中小諸侯達は彼と目が合うと慌てて目をそらした。
いくら国教にアシェナ聖教がされているとしても彼らは狂信者ではない。
自らの領土に戦乱が及ばないことが最優先なのである。
教皇は怒りに肩を震わせた。
しかし会議はそのまま終わりを迎えようとしていた。

587F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/07(木) 20:35 ID:kHqoVL5Q
投下終了です。
青島「うお、長いなこりゃ。」
佐藤「隊長、なんかもうすでに座談会限定キャラになってません?」
(PAN!)
天野「佐藤!?佐藤ーーー!?」
青島「しかしそれにしてもむさい・・・。ああ、可愛い女の子達が溢れる息抜き編はまだかー!」
セフェティナ「なんか青島さんキャラ変わってるし・・・。」
天野「そもそも息抜き編と言っても女性が出てくるとは限らんしな。」
佐藤「そうそう、見た目女のエルフ男に囲まれたホモ天国とか!」
(PAN!)
天野「佐藤ーーー!?」

588名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 20:41 ID:0U77BVi2
更新乙
これかも日刊でよろ!!

589名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 21:18 ID:IQ6e.MSs
おつかれー。こういう策謀場面はわくわくします♪

590名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 21:18 ID:Ksk.yJ.Y
アルクアイ1ポイントゲット!
しかもアルヴァールにも貸しを作ってます。
なによりこれで日本との交渉を自分の下に一元化できるのが大きい。
アルヴァールに気取られずに陰謀を進められるようになってます。
帝国に日本をけしかけるフリをして、こっそり両者の仲介とかやらかしそう。
最終的には日本の手を借りて、教会の腐敗と君側の奸を討つという名目で王権を狙うんでしょうか?
王女殿下の女婿を狙えば玉座も夢じゃない!でもそうなるとファンナたんが……

これから気になるのが第三の権力、宗教勢力の動きですね。
教会の権威、魔法を握るエルフ、いずれも日本とは対立しそうな要素ですがさて……

ところでアルヴァール、読者諸兄には絶大な不人気振りですね。
もしかして、オイラと皆さんではまったく別の小説を読んでるのか?
ヴァール卿はまだ人物の裏が見えてこないからいまいち分析するには不安だなぁ
(こう略称をつければアルクアイをアル君と愛称で呼べるな、うん)

591名無し三等陸士@F世界:2004/10/07(木) 21:33 ID:6SyshVH.
連日の投下GJ!

しかしとことん「自衛隊がファンタジー世界に召還されますた」
で良かったなぁ
米だとこの設定でも勝つのが見えてる

592名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 22:40 ID:dUQoWPWk
ご苦労様、
ここで作者様がいずれ出すと約束してくれたもの一覧

ビキニ鎧といったセックスアピールの高い女性衣装
バルト帝国の硬式飛行船、通称ツェッペリン型飛行船
空母は・・・現在考えてます

(私的に国産空母を我は希望)

593名無し三等兵@F世界:2004/10/07(木) 23:00 ID:dUQoWPWk
日本に不利な要素が多すぎる。
仮に大陸に上陸したとしても現地の協力者がいなしF世界に関する知識もあまりに不足してる。
よって最悪の場合旧軍が中国に敗れたように敗退する恐れが高い。
他に疑問としてバルトの最西端の国境はウラル山脈までかとふと思った。

594S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/10/07(木) 23:32 ID:MSZ8PKC.
早くて面白いなあ。ちっくしょう。こうなってくるとオズインが哀れですね・・・
しかし逆に言えば、他の連中と違って弱いながらもフリーとも考えられます。

バルトは潰す気満々、しかし王国には無視される状況で予測される行動としては
1南方国家群と手を組み、さらに日本を軍事主力として同盟に誘う。
2食料や鉱物資源と引き替えに日本勢力を国内に呼び込む。

オズインは前門の狼・後門の虎状態ですから、壁横の勝手口から「暴れ者」を
誘って、猛獣どもの気を引くくらいは絶対にやるでしょう。ただタイム
リミットの問題がありますから、国主が無能ならダメでしょうけどね。

日本がどう取るかは兎も角、オズインがこの状況に絡むのは確実でしょうね。
更に混戦が加速していきますねえ・・・

595名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 00:09 ID:K1U79z9M
バルトの目的は別に世界征服じゃないから妥協のする割合はアジェントより高いかと。
他にはそろそろ萌え話も読みたいなと思う今日この頃。

596名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 00:54 ID:xmrrYnYY
妥協って・・・・・・・・日本と同盟を組んだときの事を指してるのか?

597名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 02:23 ID:xmrrYnYY
現状だと日本の置かれてる立場はあまりにも過酷過ぎる。
もし人魚族(陸に上がるときは下半身を人間にするタイプ)などが近海にいて味方
してくれるならまだましかもしれないが・・・・登場する気配はなし。
日本はやっぱりバルト帝国と同盟してほしい。
アジェント王国との同盟は交渉決裂で。
F猿様、どうかお願いいたします。

598名無し三等陸士@F世界:2004/10/08(金) 02:29 ID:Io.4x1c6
孤立したら孤立した戦いかたがあるだろ
たしかに状況は厳しいが
こういうのはピンチになればなるほど燃えていい
だから今の状況はおいしい
んで最後挽回して爽快感をだすと
まぁF猿氏に任せようではないか

599名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 02:57 ID:xmrrYnYY
孤立した戦いにも限度があると思いますが・・・。
教皇がバルトとの同盟の際に妨害工作を仕掛けそうな感じ。
それに典型的な妥協を許さない狂信者みたいである意味アルヴァールよりたちが悪そうですね。
前途多難ですな・・・。

600名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 07:28 ID:EbT4fLtg
オズインを助けるというのも本家の政府広報課とかこれまでの話で似たようなのばかり読んだ。
だからワンパターンっぽくって読み飽きてしまった。
一味違う展開を求む。

601名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 08:04 ID:EbT4fLtg
敵国の侵略を受けてる国を日本が助けるという奴ね
それじゃ日本がバルトとオズインの和平の仲介国になるというのはどうかな

602名無し三等兵@F世界:2004/10/08(金) 15:38 ID:5cR4Mi3U
嘉手納基地にB-52が20機ぐらいほしい・・・長距離攻撃手段として
だんだんと事態が収集できない方向に進んでいるような気がする
もう少し絞って書かないと作者自身書ききれなくなるんじゃないか?

603名無し三等陸士@F世界:2004/10/08(金) 15:59 ID:Ksk.yJ.Y
あっさりバルトと日本講和したりして。でもって対アシェナ大同盟できたりして。でもってそのお膳立てをしたのがアル君だったりして。
日本のほうも赤羽がクーデター起こすとか、軍−政間癒着構造を作るとかしたりして。

アル君は日本に王国が勝ってると思ってないし、王国の政情が安定してもらっても困るわけだから、
どうしても謀反(革命という概念があるのかは謎)が起きて当然みたいに国内情勢を持っていきたいはずで、
それくらいのことはやりかねない。

ここは読者の大勢の期待を裏切って、ヴァール先生が本当に救国の英雄として
民衆に支持されるようになるとか言うパターン期待。

604名無し三等陸士@F世界:2004/10/08(金) 16:36 ID:0U77BVi2
ていうか、この時点でアルクアイは日本の国力を完全に見極めていないから、
少し、戦略を修正するかもよ。

605名無し三等陸士@F世界:2004/10/08(金) 20:04 ID:jDoErIYI
アジェントに召還されて、奴隷にされてる島の人々を開放するという名目で戦争するのは?
まぁ、解放というか鞍替えさせて税として食料や資源を徴収するとか。
島を制圧したら守りに入ってアジェントの国力を削る。
相手は木造の帆船だし、索敵能力も自衛隊の方が優れてるだろうから制海権取るのは分けないだろう。
後は沿岸に偽装させた兵を配置させて上陸を防ぐというのはどうだろう。

606F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/08(金) 22:10 ID:kHqoVL5Q
すんません今日の投下は無理でした・・・orz
待っててくれる人が居ると悪いので言っておきます。

607名無し三等陸士@F世界:2004/10/08(金) 22:17 ID:0U77BVi2
GANBATTE

608名無し三等陸士@F世界:2004/10/08(金) 22:32 ID:MSZ8PKC.
締め切りは自分で決めれば良いのですから、無理せずに創作してください。
自分も心待ちにしておりますよ。

>>600ならばオズインがバルト−アジェンド同盟を切る伏兵になるとか。
バルトとしても思想対立があるし、ダークエルフ勢力等が秘密裡に妨害工作を
行う可能性は高いでしょうから。

オズインの攻撃と言うことにして、何らかの妨害をアジェンドに仕掛けさせる。
そしてアジェンドがオズインに手を出したら、名目を付けてバルトが保護に回る
などすれば、同盟もおシャカになるかも知れません。

609名無し三等陸士@F世界:2004/10/09(土) 01:15 ID:Ksk.yJ.Y
> F猿さま
それこそ戦争じゃないのだから、拙速よりも巧遅、です。
のんびり待ちます。
書かにゃならない局面も多いことですし、無理に急がず。

ここんところオズインが大人気なのは、まだ見ぬ国王陛下に期待してのことかな?
ここで一発、マッチョな体育会系の暑苦しいアニキが国王となったら読者みんな大落胆?

610名無し三等兵@F世界:2004/10/09(土) 01:22 ID:IjMEIWlQ
オズインの王は亜人を希望。
国ごとになんらかの特色を出したほうが印象に残るから。

611F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:25 ID:kHqoVL5Q
大まかなプロットは最後まで作ってある分、
一番苦労してるのは投下前のコメントだったりして・・・。
しかもそれもあながち嘘じゃなかったり・・・。

それでは投下

612F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:25 ID:kHqoVL5Q
「私達の言いたいことが分かっていただけましたか?」
「はい、ですが唯一つ聞きたい、何故あなた達は奴隷島群を私達にあけ渡そうとするのです?
それは利敵行為に値するのではありませんか?そこまでするのにはなにか理由が?」
「・・・我々は貴国に最大限協力します。
ですからアジェントと貴国が戦争になった場合、我が領への攻撃は止めていただきたい。
それが我が主の言葉です。それでは。」

アルマンたちが帰った後
日本では喧々諤々の論争が起こっていた。
アルマンたちが言った、奴隷島の解放をやるべきか否か。
やるとしたらそれは侵攻か否か。と言う問題であった。
そして政府は赤羽の強い薦めもあり奴隷島の解放論に傾いていたのだが、
ここで一つ問題が起こった。
世論と野党である。
今までこの状況を乗り切るために、挙国一致、
として袴率いる自由民権党に比較的賛意を示してきた最大野党民社党が、
この問題についてどこで聞いたのか、反対姿勢を鮮明にしたのである。
そして侵攻、という話が出れば当然出てくる人間達がいる。
自称、平和主義団体である。
閣議から一週間もたたないうちに一部マスコミもこれをあたかも侵攻のように書き始め、
世論を二分する問題となってしまったのであった。

613F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:25 ID:kHqoVL5Q
そして、国会での審議中にある事件が起こった。
袴が機密事項を失言してしまったのである。
いきさつはこうであった。
奴隷島の解放について、袴以下自民党がその正当性を演説するのに対し、
民社党達野党はけんもほろろの態度を示し、それを拒絶した。
「いくら生き残るためとはいえ、罪も無い人々を踏みにじることが正義なのか!」
こう言う野党議員に対し、袴は言ってしまったのである。
「我々と同じように召還され他人々が、奴隷として扱われるのを黙ってみているのが何故正義なのか!」
袴が言いたいことは後半部であった、しかし前半部、つまり日本が召還された、
この事実は未だ内閣と一部官僚以外のトップシークレットだったのである。
世論は揺れた。
極端から極端に走りやすいのがマスコミである、とよく言われる。
マスコミはこの時も例に漏れなかった。
政府からでた僅かな資料でアジェントの暴虐を想像した記事を書き立てる者。
日本が召還されていたという事実を隠していた政府を徹底攻撃する者。
様々であったが、これによって議会は混乱状態となり、
まともな議論をすることが難しくなってしまったことは確かであった。

614F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:26 ID:kHqoVL5Q
「事は急を要する。なんとかして周辺諸島を開放するための法律を通さねばならない。
 なによりもこれが出来れば大陸への足がかりとなると同時に、
万が一アジェントとの戦闘となった場合の防波堤となるのだからな。」
何度目か分からぬ閣議において袴達は当面の計画を立て始めていた。
少なくともせねばならないことは周辺の奴隷島の征圧。
ラーヴィナとの貿易ラインの確立。
そして自衛隊の組織の再編であった。
その為、この閣議には赤羽を含む自衛隊幕僚長なども参加していたのである。
「はい、それに相手外交官の言葉・・・セフェティナ嬢によって裏付けもとりましたが、
 で、周辺諸島には鉄、銅などの鉱物資源が認められています。
 確保しなければならない資源の種類には程遠いですが、
工業業界にとっては救いの手となりますし、資源の乏しい今、日本の生命線ともなりえます。」

そして、今議論されようとしていることは更に先の話。
周辺諸島の征圧、及び貿易ラインの確保が終わった後の話であった。

615F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:27 ID:kHqoVL5Q
閣議参加者の面々の前にはそれぞれこの世界の地図が配られていた。
それぞれがそれをしげしげと眺める、全員もはやこの地図は丸暗記してしまうほど眼にしていたが。
「相手外交官によると、アジェントが攻めてくる可能性は非常に高い。
 早急な防備、情報収集及び味方作りが肝要かと思われます。」
外務省長官が発言した。
「そして、それについて今二つの案がある。」
袴は議長として言った。
「一つは・・・赤羽君。」
赤羽が声を受けて立ち上がる。
「はい。皆様、先程配った紙をご覧下さい。」
全員が紙を見る、そこには大量の文字と共に、船の設計図が記載されていた。
「これは・・・?」
軍事には疎い参加者の一人が赤羽を見た。
「はい。海上自衛隊が上陸戦力の不足を補うため設計中だった次期ヘリ搭載護衛艦、通称16DDH、
  これを軽空母として設計しなおした物です。」

616F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:28 ID:kHqoVL5Q
会議が終わりを告げた夜。
アルヴァールは他の参加者より一足先に自室に戻っていた。
本来ならばアシェリーナ姫の元へいくところだが、そうはできなかった。
いくら養育係とはいえ、年頃の姫の部屋に夜、男が入ることはさすがに許されなかったのである。
しかし、警備上の心配は全く無かった。
彼の強力な魔力探知能力は城内程度の広さならば僅かなマナ干渉波すら感知することが出来た。
そして、夜には自室でこの彼流の警備をするのが彼の日課であった。
そして今、彼はある場所から普段はない干渉波を感知した。
「これは・・・?」
私にはその場所にもこの干渉波にも覚えがあった。
場所はアルクアイとファンナ嬢に与えられた部屋、
そして感知された干渉波は紛れも無い・・・教会の兵の象徴的武器・・・光の槍。
それが三つ・・・部屋に入っていき、弱い魔法を使った。
「この魔法は・・・睡眠魔法?」
それにより、弱々しい魔力を発する人間・・・一人、ファンナ嬢だろう、が眠らされたようだ。
そして進入した三人の内一人が、この眠った人間を連れて他の二人と別行動をとり始めた。
「そうか・・・そうきたか・・・。」
私は苦笑した。
おそらく教会はアルクアイを始末しようとしているのだろう。
そしてアルクアイが王家を揺るがす何かを企んでいる以上、
それは私にも都合が良かった。

617F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:29 ID:kHqoVL5Q
アルクアイは、アルヴァールより遅れること約十分、自室に戻ってきた。
さすがの彼でもあれだけの大立ち回りをすれば疲労する。
ファンナには悪いがすぐに寝てしまうつもりだった。
しかし、彼は部屋の扉を開いた途端、その部屋のマナの濃さに顔をゆがめた。
マナが不自然に濃い、これは直前に魔法が使われたことを意味する。
「ファンナ?ファンナ!」
アルクアイは叫び、少女を探した。しかし、いない。
そして彼がふと机に目をやるとそこには一枚の紙切れが落ちていた。
「!」
アルクアイはそれを目にし、絶句した。

「娘は預かった。一時間以内に城の裏庭に来るように。」

なんの捻りも無い文句であったが、それだけに言いたいことは嫌と言うほどに伝わる。
大体犯人も想像がつく。
彼は又、一度脱ぎかけたマントを羽織りなおした。

廊下はひどく冷たかった、不思議とアルクアイは疲労を感じなかった。

618F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/09(土) 23:35 ID:kHqoVL5Q
投下終了しました。
青島「作者都合のため座談会なしだって。」
加藤「どっちにしろ新しく呼ぶような新キャラはいないからいいんじゃないかしら。」
青島「それにしてもって・・・え?」
ファンナ「えっと、はっ、はじめまして、ファンナですっ!」
青島「ああ、はじめまして。えっと、ファンナちゃんだったかな?」
加藤「(そもそも今誘拐されてなかったかしら。)」
ファンナ「はい!・・・それで、アルクアイはどこですか・・・?」
加藤「ああ、それならまだあっちでアルヴァールと睨みあってるわよ。」
ファンナ「あ、ありがとうございます!」
青島「あ、待って、ファンナちゃん、行かないほうがいい・・・って、あー。」
・・・
ファンナ「えぐえぐ・・・うー・・・怖いよー。」
青島「だから言ったのに・・・。」

ご意見、ご感想お待ちしております。

619名無し三等陸士@F世界:2004/10/09(土) 23:38 ID:0U77BVi2
よっ、待ってました。日本もとうとう空母を持つんですね。
これでますます想像が膨らみますな

620名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 00:27 ID:em.07ftg
乙カレー。
艦載機はF-35?
>>550>>574の後半のコメントのようにすれば登場可能なはずだよ。
海上自衛隊に新型SVTOLが配備される事を願う

621名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 00:50 ID:em.07ftg
VTOLとS/VTOLの違いについて調べてみました。
まずはVTOLです。

用語:VTOL(Vertical Take Off and Landing plane)
和訳:ブイトール、垂直離着陸機
--------------------------------------------------------------------------------
【説明】
滑走路を滑走せず垂直に離着陸可能な能力を備えた固定翼航空機。飛行場破壊等の際にこの能力
は威力を発揮する。また、それ以外でも通常の固定翼機の場合、海上での運用は大型空母の配備
が前提となるがVTOLであれば固定翼機用の発着装置を持たない小型空母やヘリ空母及び大型駆逐
艦でも運用できるメリットがある。現在、実用機として活用されている(いた?)のは英国のハ
リアー、米国のAV-8B、ロシアのフォージャー及びフリースタイルの4機種のみである。ただし
フォージャーはすでに退役しつつあり、フリースタイルに切り替わってきている。もっともフリ
ースタイルでさえ実際には運用されるかどうか怪しいものである。
VTOL機は垂直に離着陸出来る航空機である。当然、機体重量とペイロードを足した重さを揚力に
頼ることなく離陸させるために、同じ能力の他の航空機よりはペイロードが少なくなる。また、
それ以外にもデメリットは多々あろう。では、なんのために、このような機体が生まれたのであ
ろうか?
1950年代半ばにNATO軍ではワルシャワ条約機構軍に対しての防衛上、飛行場を必要としない航空
機が必要という検討がなされた。当時のワルシャワ条約機構軍は強大であり、いざ戦争ともなれ
ば、雲霞のごとく爆撃機は飛来するであろうし、蟻のごとく戦車は攻めてくる。当然、NATO軍の
前線基地はひとたまりもないであろう。無論、全ての軍事基地や空港その他に長SAMランチャーを
多数配置し、MBT数100両を置き、並の国家の全軍事力に匹敵する戦力を配すれば問題は無い。し
かしながら、それは現実には不可能な絵空事である。結局、考えられた戦術構想としては「前線
には大規模固定基地を設けない」というものであった。だが、無防備というわけにはいかない。
多数の隠蔽された小基地にMBTや航空機を配備すれば、特に防衛処置を施す必要はないし、そこへ
敵が攻めてきたならば撤退し、他の方面へ攻撃がなされた場合はその基地から出撃するというも
のであった。
そして、1969年に世界初の実用VTOLである「ハリアー」が生まれ、上記の構想通りに運用されるよ
うになった。また、その後、西側にある兵器と同じ種類を全て揃えたがるソ連もフォージャーなる
紛い物を作ったが、成功はしていないようである。
ちなみにVTOL機といえど運用上はS/VTOLである。それはVTOLよりも運用上のメリットが大きいから
である。そして、フォージャーも真似てS/VTOLにしようとしたが、リフトエンジン方式のためにか
なり苦労していた。結局S/VTOLが出来たらしいが出来た頃にはすでに退役まじかであった。

622名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 00:53 ID:em.07ftg
次はS/VTOLです。

用語:S/VTOL(Short and/or Vertical Take Off and Landing plane)
和訳:短距離離陸垂直着陸機
--------------------------------------------------------------------------------
【説明】
短距離滑走で離陸でき着陸時には軽くなったために垂直で降りられる能力を備えた固定翼航空機。
V/STOLとも呼ぶ。飛行場破壊等の際にこの能力は威力を発揮する。また、それ以外でも通常の固
定翼機の場合、海上での運用は大型空母の配備が前提となるがS/VTOLであれば固定翼機用の発着
装置を持たない小型空母やヘリ空母及び大型駆逐艦でも運用できるメリットがある。現在、実用
機として活用されているのは英国のハリアー2、米国のAV-8Bのみである。かつてはロシアのフォ
ージャーやフリースタイルもこの能力があった(欲しかった?)らしいが真の実用化には至ってな
かった。

VTOL機は垂直に離着陸出来る航空機である。当然、機体重量とペイロードを足した重さを揚力に
頼ることなく離陸させるために、同じ能力の他の航空機よりはペイロードが少なくなる。また、
それ以外にもデメリットは多々ある。詳細はVTOLの項を参照。

で、デメリットであるペイロードの少なさを少しでも解消しようとして生まれたのがS/VTOLで
ある。少しの滑走距離でもある程度の揚力は期待できるため理論上はかなりペイロードは伸び
る。また、実戦では必ずしも垂直離陸性能が欲しいわけではない。無論、あったほうが便利で
はあるがそれよりも1トンでも多くの爆弾を積めるほうが重要である。

ということで開発段階ではVTOLの概念はあったもののハリアーが実戦配備された時点ではすで
に世の中の趨勢はS/VTOLであった。

623名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 01:00 ID:em.07ftg
そして今実用化され、量産配備されようとしているのがF-35なのです。
詳しい事は下のを見てください。
http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams06/jsf.html

624名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 01:21 ID:em.07ftg
今更だがバルト騎鉄団ってアメリカ騎兵隊にそっくり

625名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 01:40 ID:em.07ftg
キターーーーーー!!!(・∀・)
いよいよ開戦まで大詰めですな!
本格的な戦争が始まる前に許可もらった青島がセフェティナに街を案内する・・・は無理だわな。
話のまとめ方がうまい!とにかく続きを期待。

626名無し三等陸士@F世界:2004/10/10(日) 01:55 ID:tGktNScU
16DDHの艦名が気になるところですな
進水式が楽しみです

627名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 02:27 ID:em.07ftg
>>622
622ですが今更になって間違いがあったのに気付きました。
改訂しておいたのを投下しておきます。すいませんでした。

次はS/VTOLです。

用語:S/VTOL(Short and/or Vertical Take Off and Landing plane)
和訳:短距離離陸垂直着陸機
--------------------------------------------------------------------------------
【説明】
短距離滑走で離陸でき着陸時には軽くなったために垂直で降りられる能力を備えた固定翼航空機。
V/STOLとも呼ぶ。飛行場破壊等の際にこの能力は威力を発揮する。また、それ以外でも通常の固
定翼機の場合、海上での運用は大型空母の配備が前提となるがS/VTOLであれば固定翼機用の発着
装置を持たない小型空母やヘリ空母及び大型駆逐艦でも運用できるメリットがある。現在、実用
機として活用されているのは英国のハリアー2、米国のAV-8Bのみである。かつてはロシアのフォ
ージャーやフリースタイルもこの能力があった(欲しかった?)らしいが真の実用化には至ってな
かった。
VTOL機は垂直に離着陸出来る航空機である。当然、機体重量とペイロードを足した重さを揚力に
頼ることなく離陸させるために、同じ能力の他の航空機よりはペイロードが少なくなる。また、
それ以外にもデメリットは多々ある。詳細はVTOLの項を参照。
で、デメリットであるペイロードの少なさを少しでも解消しようとして生まれたのがS/VTOLで
ある。少しの滑走距離でもある程度の揚力は期待できるため理論上はかなりペイロードは伸び
る。また、実戦では必ずしも垂直離陸性能が欲しいわけではない。無論、あったほうが便利で
はあるがそれよりも1トンでも多くの爆弾を積めるほうが重要である。
ということで開発段階ではVTOLの概念はあったもののハリアーが実戦配備された時点ではすで
に世の中の趨勢はS/VTOLであった。

628名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 03:40 ID:em.07ftg
オスプレイも出すのなら軽空母の早期警戒機に最適。
翼の両端に付けたエンジン部自体を90度上向きにして垂直上昇し、上空でエンジ
ン部を徐々に前向きに戻して水平飛行で前進する、というもの。
プロペラを前に向ければ通常の航空機だから、ヘリよりも速度・航続距離・載貨重
量・防御、運動性、その他性能が上。
折り畳み格納も可能で最高速度は約510kmほど。
航続距離は1000キロメートルで空中給油による延長すら可能。
ヘリの三倍の積載量乗員以外に24名の完全武装兵員を搭乗させた陸上強襲任務もできる。
沖縄の嘉手納基地あたりに既に配備されているらしい。
このスペックを見てもドラゴンに襲われた時を考慮しても充分に逃げ切れる。
何故ならドラゴンに乗って旋回する場合などは200Km/h4G旋回すなわちジェットコ
ースター程度が限界だと本家12章で解説されてた。
そもそもあんな姿勢で乗っていたら体がもたないという意見。

629名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 05:57 ID:JkVTwjH.
世界の妄想艦船のモデルになってる絵からだと露天駐機も含め艦上戦闘機26機を搭載可能となってますな。
しかしよく書き込まれていますね。発艦や着艦だけでなく塩害対策までちゃんと考えて書いてる。
艦命は『しょうかく』というのはどうでしょうかね。

630名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 06:02 ID:JkVTwjH.
ヘリ空母なら設計し直す必要は・・・ないよな

631名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 14:47 ID:GTic17cA
本家は現在荒れてるからここが唯一の希望ですわ。
今日と明日は休みだから執筆も進みますかね?
これまでの話をもう一度読み直しながら待たせていただきます。

632名無し三等陸士@F世界:2004/10/10(日) 15:41 ID:Jil70bVg
進水から就航までどれくらいかかるかな
突貫工事すれば半年くらいでいけるかな?

633F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:48 ID:kHqoVL5Q
うあ、ちょっと悪いことしちゃったかもな・・・。
とにかく投下。

634F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:49 ID:kHqoVL5Q
王都の冬はひどく冷える。
雪を踏みながらアルクアイは裏庭へと急いだ。
奇襲を警戒し辺りを見回す、が誰も居ない。何の気配もしない。
そして裏庭へとついた時、そこに居たのは二人の仮面をつけた男であった。
その手に持つ槍は「光の槍」、魔法の道具の一種で巨大な槍でありながら棒切れを振り回すような
攻撃が可能であり、任意に一瞬で気絶するほどの雷を帯びるというシロモノであった。
そしてこれを持つという事は教会の特別兵、合法的に殺人をする権利を教会から下された人間達であった。
「来たか・・・。」
仮面の一人、こちらが上司なのだが、が言う。
「こちらの要求は唯一つ、貴様の死だ。」
「ファンナ様はどこだ。」
「貴様はこれから我々の攻撃を避ける権利は無い、我々に敵意を向ける権利も無い、
これらをした場合はその瞬間に仲間に娘を殺させる。
そして一時間以内に我々が戻らない場合も殺すように言ってある。」
アルクアイの言葉を無視し仮面は淡々と続けた。
もう一人の仮面が槍を構え、嘲笑うような調子で言った。
「忠実なアルクアイ殿なら死んでくれるだろう?」
アルクアイはニヤリ、と笑った。

635F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:49 ID:kHqoVL5Q
「神の為なら人質をとって邪魔者を暗殺せよ、そんなことが経典に書いてあった覚えは無いが。」
「なにっ!?」
槍を構えた仮面が怒った様な声を出した。
それをもう一人が黙って手で制す。
「悪いが魔術院を主席で出たような人間を暗殺する自身は無いのでな、
念には念をと言う奴だ。さて、もうおしゃべりは終わりだな、やれ。」
「はっ!」
槍を構えた仮面が嬉しそうに返事をし、槍を振りかざした。
「!?」
その瞬間、殺意を感じ冷静なほうの仮面はいきなり後ろを振り返った。
ギョポッ。ゴトッ。
何か液体が溢れるような音と重い物が落ちるような音がした。
血が雪の上に舞い散り、その白い絨毯を赤く染めた。
「は・・・。」
後ろを振り返った仮面は共振通信を繋ごうとした、
しかし彼の首はもうすでに大きな口を開け血を吐き出し続けていた。

636F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:50 ID:kHqoVL5Q
仮面は確実に殺したと思っていた、
相手は避けることが出来ない。
この美しい銀色の槍が相手の心臓を一突きにし、自分は暖かい鮮血に濡れる、
そして自分は教会で神の栄誉と大量の富を受ける。
そのはずだった。
しかし何かがおかしい。
自分はただ、アルクアイに軽く体当たりするだけに終わっていたのだ。
それどころか、槍を持っている感触が無い。
慌てて手を見て、仮面は叫んだ。
「ああああああああああっ!?腕がっ、腕がないいいいいっ!?」
共振通信を繋ごうとする、が、それをする篭手はもうすでに自分の腕と同じく地に横たわっていた。

「痛みは無いだろう、そのようにやらせたのだから。
それともなんだ、まさか暗殺者が待つ場所に一人で来るとでも思ったのか?」

アルクアイは薄い笑みを浮べ、地面でもがき苦しむ仮面を見、そして視線を上げた。
「ご苦労だったな、ゼナ、ロア。」
アルクアイの視線の先には美しい女性、そして白髪の痩せた男が立っていた。

637F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:51 ID:kHqoVL5Q
「お怪我はありませんか?」
「いや、服が汚れただけだ、だが殺すなと言ったはずだが、ゼナ。」
「一人はこちらに寸前で気が付いたようだったので・・・申し訳ありません。」
「まあ、良い。だが死体の処分をしておけ。・・・ロア。」
「はっ。」
白髪の男がアルクアイを見る。
この男、元々はアルクアイの命を狙った狂犬であった。
しかしこの男の腕に目をつけたアルクアイはこの男を殺さず、薬抜きをして自らの部下としたのである。
その為、ロアのアルクアイへの感謝は大きく、同じ命を顧みない者でも、
表向きの部下も勤めるゼナとは違い完全な闇の仕事を行う男であった。
「この男からファンナの居場所を聞きだせ。」
「手段は?」
「選ぶな。」
「了解しました。」
ロアが地面でのた打ち回る仮面を軽く持ち上げた。仮面が小さくうめき声を上げる。
ちなみにこの仮面、この「手段」によって、次の日の朝には人かどうかも判別できぬ
肉の塊になり王都の教会の前に転がることとなる。
「アルクアイ様はどうなさるので?」
ゼナがアルクアイに聞いた。
「先にファンナを探す。・・・三十分以内にこちらにファンナの居場所を連絡しろ。」
「・・・。」
ゼナは黙り込んだ。普段の返事が無いのをアルクアイは不審に思った。
「どうした?」
「・・・この際、ラーヴィナ候の血筋は全て絶っておいたほうが良いのでは?」
ゼナからはアルクアイの表情は暗くて見ることは出来なかった。

638F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:53 ID:kHqoVL5Q
赤羽の説はこうであった。
軽空母を用意し上陸戦力、迎撃戦力を整える。
アジェントに近い奴隷島に基地を作り、そこに戦力を結集。
敵の先行部隊を発見し次第殲滅し、同時に軽空母を中心とした上陸戦力をもって、
ラーヴィナの北、前の世界で言う満州地域に侵攻。
そこを足がかりとして、敵が日本の近代兵器に対する対策を編み出さない、
そして防衛準備を固めない内に王都まで一気に攻め込み、制圧。
これが彼の考えた計画であった。

「ちょっと待ってくれたまえ。」
赤羽のを説を聞き終わり、酒井外務大臣が発言した。
「こんなこと、世論が許すはずは無いだろう。
それにこの資源の乏しい状況下で空母を運用する力がどこにある?」
この発言は面々の中でも特に穏健派たちの心を捉えた。
どれだけ良い戦略であっても長い平和の中に居た戦争を知らない人間にとっては
戦争に日本が突入する、それだけでも恐怖なのだ。
この発言を皮切りに次々と穏健派たちから反対意見が上がった。
「ちょっと待ってください。」
それを袴は制し、外務大臣の方へ目を向けた。
「それでは二つ目の案を。」
「はい。」
酒井外務大臣が立ち上がった。

639F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:53 ID:kHqoVL5Q
「皆様、地図をご覧下さい。」
酒井は皆の見える位置にある巨大な世界地図の前に立ち、小国群地域を指差した。
「ここが小国群地域となっていることはご存知でしょうか。」
面々はうなずく。
酒井は指をつつと地図上で西に動かし、空白地へと持ってきた。
「では、ここが誰も支配していない空白地域になっている、ということもご存知でしょうか。」
面々は再びうなずいた。
「セフェティナ嬢、相手外交官によるとここは肥沃な土地だそうです。
ならば何故ここがだれにも支配されなかったか。その原因が、この小国群とアジェントにあります。
皆様、お手元の資料をご覧下さい。」
面々がその資料に目を通したことを確認すると、酒井は続けた。
「この資料に記載したとおり、アジェント王国とこの小国群、これらは盟主と属国の関係にあります。
しかし、この二つの間の関係は宗教問題、この空白地の問題などにより険悪となっており、
我々はここを切り崩すことが可能と見ています。」
アジェントと小国間は今、アシェナ聖教を国教化するのを強制したり、
空白地の問題で小競り合いが起こるほど険悪になってきている。
だからこそ、日本が狙うのはこの小国群の日本の属国化、
つまりはアジェントから日本へと盟主を鞍替えさせることを狙うべきである。
こうすることによって戦争を起こさずに大陸に足がかりが出来、
そして小国群に何らかの見返りを与えることでその西にある空白地を手に入れることが出来る、
そして更にその後のアジェントとの戦闘では大陸での戦闘となり、本土への被害もほとんど無くて済む。
というのがこの説であった。

640F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:55 ID:kHqoVL5Q
この説には自衛隊を除く閣議のほぼ全員が賛意を示した。
「少々待っていただきたい。」
その劣勢の雰囲気に赤羽は言った。
「もし、空白地や小国群で戦闘が起こった場合、
先程の案では海上支援が受けられない状態で戦うことになる。
あなた方は我々に部下を殺せとおっしゃっているのですか?」
赤羽の言葉に酒井は少々ムッとして言った。
「何をおっしゃる、そちらの説のほうがより好戦的ではないのか。」
「いや、我々の説は最終的な戦闘量は少なくて済む。
それに空白地の位置からして、森の為北からの攻撃は無いとしてももし西からの攻撃を受ければ、
北東からのアジェントと挟み撃ちにあう可能性があるではないか。」
「それはありえないだろう。」
酒井は笑った。
「もし、空白地の西から攻撃してくるようなことがあったらそれはバルト帝国だ。
バルトとアジェントが同盟するなどありえないということはセフェティナ嬢の態度を見てもよくわかるだろう?」
赤羽は言葉に詰まった。
もはや二つの説のうちどちらが選ばれるかは明白な状況であった。

「な、ならばせめて空母の運営が可能になるまで待って欲しい。
海上からの威圧が無い状態で、内陸に孤立した拠点を作るのは危険すぎる。」
赤羽の孤軍奮闘を助けようと海上幕僚長は言った。
「空母が運用可能となるまでどんなに早くてもおよそ半年、そんなに待っていては機を逃しかねない。」
しかしその言葉もいとも容易く撥ね付けられ、赤羽は奥歯をギリと噛みしめた。
そして軽空母案は宙ぶらりんとなったままその会議は終わりを迎えた。

641F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 15:58 ID:kHqoVL5Q
投下終了です。
青島「あんだけ期待させるような書き方しくさって・・・。」
加藤「ほんとに・・・。軽空母に乗れると思ってすこし期待してたのに・・・。」
青島「あんた陸自じゃなかったっけ・・・。」
加藤「良いのよそんな細かいことは。」
青島「細かくも無いと思う。」
投下終了しました。
 (;´Д`)  スミマセンスミマセン
 (  八)
   〉 〉

 (´Д`;)、  コノトオリデス
   ノノZ乙

642名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 18:30 ID:tT.JKFdY
今まで一番早い投下ですが。
しかし・・・け、軽空母出さないんですかーーーー!!!!
ショックです。帰って寝るぽ・・・・・・・_| ̄|○

643名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 19:15 ID:GTic17cA
なんじゃこりゃー!(太陽に吠えろ風に)
赤羽が以外にも敗北したのは新鮮な感じで良かったがここまで期待させておいてそりゃないでしょー!
せめて裏で密かに強硬派議員や在日米軍と結託して建造しててくれ・・頼む

644F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/10(日) 19:33 ID:kHqoVL5Q
IDが表示されるんじゃ書きにくくなるな・・・。

アルヴァール「いや、空母は出すつもりだが、時は「今」じゃないということだな。」
赤羽「お前に何が分かるっ!」

645名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 20:13 ID:Ha0ckGKo
アルクアイパートは意外にあっさりと終わりましたな。
もっと長くなるのかと思ってましたが。
なお空母は時間がかかりますから早く造ってしまうべきです。
許可をもらってからと時間をかけてるとズルズルズルと登場の先延ばしになってしまいますよ。
あらかじめ完成させといて登場時期を見極めさせるべきじゃないですかね。

F猿さん、他に小説ですが別の場所に移す事も考えてはどうでしょうか。
あるいは管理人さんにID非表示に戻してもらうようにメールを送ってみましょう。
私もこれからメールを送ってみる予定なので。

646名無し三等陸士@F世界:2004/10/10(日) 20:23 ID:1oM80kCU
F猿さん乙です。
日本は空白地狙いできましたか。
しかし、西の方にあるというし補給が追いつかなくなり陸の孤島になりそうな気も。

647名無し三等兵@F世界:2004/10/10(日) 22:12 ID:FLSsRkXQ
その海路を守るために軽空母が必要になったりして

648名無し三等陸士@F世界:2004/10/10(日) 22:33 ID:Gqg9QasQ
設定しだいじゃキTか23ッツなら問題なく出せる。
ちなみにこれは中身つきの揚陸艦や原潜にも言えることだったりする。
何か問題は?

649S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/10/11(月) 00:10 ID:MSZ8PKC.
幻の軽空母計画乙です(笑 まー出られないもんは仕方がないですね。あとあと
出すキーワードになるのは、「突貫工事」「真田さん」でしょうか?

そういえば>>565氏が「20で少女は無理では・・・」と書いていましたが、
精神面の事だと自分は解釈しました。14で結婚すら珍しくない中世風世界で
(F猿氏の世界観だと分かりませんが)20なのにアルクアイへのあの態度。

恐らく乳母日傘、蝶よ花よで生きてきて男性経験もないのでしょう。だから
20歳の少女という表現は、そういう意味では通るかと。

さて、アルクアイの思う壺に日本は動いている訳ですが、どこかで転換点は
有るのでしょうか?

650名無し三等兵@F世界:2004/10/11(月) 02:06 ID:.IJJ0kGY
世間知らず箱入り娘ということか・・・彼女はわかってんのカナ?
自分のためにアルヴァールが策謀を行いまた異世界の人間を奴隷にして苦しめているという事を。

651名無し三等陸士@F世界:2004/10/11(月) 05:52 ID:1oM80kCU
奴隷がF世界で一般的なら特に気にもしないと思うが。
アジェントじゃ異世界人なんて物同然でしょ。
言い方が悪いが、一年毎に新しい奴隷を供給できるんだから。

アルヴァールが居なけりゃ王家は成り立たないし、日本を召還するまでは王家にとっちゃ正に神だよなぁ。

652名無し三等兵@F世界:2004/10/11(月) 07:06 ID:u.TsPqcs
アシェナ聖教の中枢があるアジェント王国だが他の国と比べても一番悪役っぽい印象だね。
エルフ達はこれに疑惑を抱く事はないのだろうかね?
それとも心の中では侮蔑している人間達の事なんて関係ないと思ってるのか?
でも話の最初で市場でエルフが普通に人と交流してるんだよね。
なお大森林ってエルフ達の領土・・・別の言い方をすれば自治区みたいになってるのと疑問。

653名無し三等兵@F世界:2004/10/11(月) 10:46 ID:K1U79z9M
奴隷制度が行われている頃の、南北戦争前のアメリカみたいなものだな・・・
違う点といえば王国にはリンカーンのような人間がいないということだ

654F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:49 ID:kHqoVL5Q
さてさて、投下開始いたします。

655F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:49 ID:kHqoVL5Q
「ゼナ。」
しばらく黙りこくった後、アルクアイはゼナの方を見ることもせず言った。
「はっ。」
「あれはな、私がまともな人間である唯一の証拠なんだ。」
「え・・・?」
それ以上言葉を口にせず、アルクアイは歩き出した。
ゼナはアルクアイの言った言葉の意味が分からず、ただ立ち尽くすだけであった。

ざくっ、ザクッ。
俺は当ても無く歩いていた、まだファンナの居場所については報告が無い。
あの仮面の男もなかなか根性のある男だったようだ、
どちらにせよ、まずは城内に戻ることが先決だった。
まさか人一人を抱えた人間が番兵の見張っている門から出るわけがあるまい。
ザクッ。
自分の前方から同じように足音がするのを感じ、アルクアイは足を止めた。
それと同時にアルクアイは強烈なマナの干渉波を感じ横に飛びのいた。
と、同時に火球が今まで彼の居た場所を貫くようにして、飛んでいった。
火球は壁に当たることも無く、どこまでも飛んでいった。
「よく、かわしたな。」
アルクアイは声のするほうを見据えた。
そこに居たのは、ファンナを抱えたアルヴァールであった。

656F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:50 ID:kHqoVL5Q
「何故だ?」
ファンナを受け取り、木の根元に寝かせながらアルクアイは言った。
「それはこの娘を助けたことか、今の攻撃か、どちらの行動に対してだ?」
「両方だ。」
ファンナの身体に積もり始めた雪を払い、そしてアルヴァールを見る。
「この城の中ではあらゆる罪を見逃すわけにいかん。そして今、王家のためにお前を殺す。」
アルヴァールの足元の雪が弾け、舞い上がる。
「!」
アルクアイは慌てて数歩下がった。
が、もうすでに彼の頭には勝算が存在しなかった。
腕に自身はある。だがゼナとロアがこの場に居たとしても
一人で十万の兵に値すると言われる目の前、男が本気で自分を殺そうとしている以上、
生き延びられる望みは薄かった。
「ファンナの件、とりあえず・・・礼を言っておこうか。」
「死に行くものに礼をされる筋合いは無い。が、この娘の命は保障しよう。」
フ・・・。
お互いの口許が微笑で歪んだ。
「止めだ。」
アルヴァールは構えを解き、言った。
「な・・・何?」
アルクアイは拍子抜けし、アルヴァールを見た。この男は一体何を考えているのか。
アルヴァールは自分のマントを翻した、そこには竜と剣をかたどった王家の紋章が鮮やかに染め抜かれていた。
「私は王家のためならば姑息な手も使おう、だが、王家の名にかけて外道に落ちる気はない。
それに、今お前を殺せばこの娘は自分がさらわれたせいだと思うだろうからな・・・。」
「随分と甘いことを言う。」
アルクアイが憎まれ口を叩くとアルヴァールは笑った。
「とりあえず、今日の会議の件、礼を言っておく。が、いつまでも自分の思い通りになると思うな、小僧。」
踵を返し、歩いていくアルヴァールの背中を見て、アルクアイはただ立ち竦んだままであった。
キン・・・キン
共振通信が繋がる。今更になって仮面は情報を吐いたようだった。

657F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:51 ID:kHqoVL5Q
それから約三ヶ月。
日本は周辺の奴隷島の解放をほぼ終えていた。
アジェントはこれらの島々にほとんど兵を置いておらず、
はっきりいってしまって、この作業はあっけなかった。
支援物資と武器を携え、緊張してやってきた自衛隊員を、島民達は呆然とした眼で見つめていた。
もはや新たな外敵に抵抗する気力すら無かったのである。
「これは・・・ひどい・・・。」
そこで隊員たちが見たものは、略奪されつくし、破壊されつくした村々であった。
「アメリカ大陸発見後のネイティブアメリカンの村の様な物だ、
話には聞いていたが、実際に見るとひどい物だな。」
しかし、最初は警戒していた島民たちも、自衛隊員たちの持ってきた支援物資の山を見ると、
すぐさま警戒を解いた。
それどころか、すぐに歓待の宴を開き、日本の自分達への処遇を聞くと
嬉し涙を流しながら恭順を示したのである。
余程アジェントの略奪はひどい物だったのだろう、これらの反応は何処の島でもそう変わりは無かった。
そして自衛隊は早速これらの島々のいくつかに基地の建設を開始したのである。
更にこれにはもう一つメリットがあった。
これらの島々の凄惨な状況やその写真が、世論を積極派に大きく動かしたことである。
そしてこれらの状況を救った政府に対する支持率も上がりつつあった。

658F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:52 ID:kHqoVL5Q
もう一方、ラーヴィナとの貿易も順調に始まっていた。
日本側の主な輸出物は鉄、セメント、そして酒であった。
向こうの品物に比べてはるかに質の高い鉄は軍事利用が危惧されたが
輸出物の不足のためにやむなく輸出され、
セメントは硬く、利用も応用が利く建築物質として好まれた。
しかし一番意外かつ、重宝なのは酒であった。
酒があらゆる儀式で使われ、国民も皆酒好きのこの国において、
蒸留酒で強い日本の酒は貴族垂涎の代物で、非常な高値で取引されたのであった。
それに対し、ラーヴィナからは様々な資源、食料が輸出され、
日本の産業もようやく息を吹き返し始めていた。
そしてこの貿易で最も利益を得ていたのはラーヴィナであった。
彼らは日本の品物を輸入し、アジェント全土に売り、
アジェント全土から輸入した品物を日本へと輸出する中継貿易を行っていたのである。
そしてこれによる差額でラーヴィナは莫大な利益を得ていた。
そしてこの貿易はある重大な状況を引き起こし始めていた。
この貿易で、アルクアイは市場よりも高い値段で輸出のための食糧を買い集めた、
そのために諸侯達は争って税を厳しくした上、食糧を買い集めたのである。
貨幣は食べることができない。これは農民達に深刻な食糧不足を引き起こし始めていた。
そうして貿易で得た利益によって税を軽くしていたラーヴィナ以外では、
アジェント国民達の不満が徐々に高まり始めていたのであった。

659F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:52 ID:kHqoVL5Q
一方、バルトにはアジェントからの使者が何度も使わされていた。
まだ若いエグベルト8世は重要な判断をすることになったのだ。
「アークス、バグマン、どう思う?」
「はい、私達ダークエルフ、ドワーフの種族としては反対です。
ですが、バルト帝国大臣としては、これは願っても無い申し入れだと思います。」
バルト帝国とオズインとの戦争は膠着状態に陥っていた、
しかしそれは消耗戦になっているというわけではない、
これからの戦争においての兵力の不足を危惧したバルトが兵をひいたからであった。
そしてバルトは一種の妥協策を考えていた。
それはオズインとの講和であった。
別にバルトはオズインの土地が欲しいわけではない、
アジェント南の空白地とオズイン西のバルト領を結ぶ通り道と言うだけなのだ、
そして今考えられているのはオズインの西部割譲であった。
バルト帝国は占領地を直接統治することはしない、
割譲されたオズイン西部もオズインに今まで通り、統治を任せる予定であった。
「この同盟が結ばれればオズインは危機に陥ります、
となれば今論議中の講和にもすぐに乗ってくるでしょう。」
「ええ・・・なによりもう戦争をしなくて済むかもしれない。」
エグベルト8世は呟いた
アークスはその様子に彼女が僅か16の少女であることを思い出し、同情した。
そしてまた若くして逝ったエグベルト7世をつくづく惜しく思うのであった。

660F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:53 ID:kHqoVL5Q
日本と小国との秘密裏の交渉も順調に進んでいた。
最初は所詮召還された奴隷島と日本を見ていた小国群も、
日本の持つ自衛隊の艦を見るとその考えを改め、この客を迎え入れた。
小国群にとってもアジェントが信用できなくなっている今、
このまま我慢して従うか、それとも団結してアジェントに立ち向かうかを決めかねている時であり、
この自らを盟主にしないかという強力な軍事力を持つ国の登場は棚から牡丹餅であった。
しかし得体の知れぬ国家をいきなり盟主と仰ぐわけにもいかない、
そのため今は小国群地域への自衛隊基地と飛行場の建設にとどまり、
(といってもこれも日本の観点からすると許可されたのが意外だったのだが)
今は友好を深めると同時に小国がアジェントからの保護を願う、と言う状況であった。
そして多くの自衛隊機地建設と同時に、自衛隊組織の再編も行われた。
そして海自では異界方面隊という方面隊が新設され、
赤羽が若さ故のタフさとその優れた手腕を買われ司令に任命され、軽空母の建設を開始した。
そして青島もまた、この異界方面隊に編入されたのであった。
「ここが・・・異世界・・・。」
青島はそして、初めて異世界の土を踏んだ。
風は故郷と変わらず優しく自分に吹きつけていた。

二章 糸冬

661F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/11(月) 14:54 ID:kHqoVL5Q
投下終了しました。
二章にお付き合いいただき有難うございました。

これからはやっと三章息抜き編なのでしばらく青島主人公の気の抜けた話が続くかと。
ではご意見、ご感想お待ちしております。

662名無し三等兵@F世界:2004/10/11(月) 17:13 ID:2aCdNJ8k
え!?駐留軍みたいなのはないのですか?
だって島にある鉱山の採掘場にはせめて警備隊ぐらいはないと安全に採掘できないんじゃ…
なんだか拍子抜けしてしまいましたよ。
外伝のほうで島への上陸の話を書くのでしょうか?
とにかく投下乙カレー様です ハイ。

663名無し三等兵@F世界:2004/10/11(月) 23:05 ID:ImCIXXt.
読みましたがバルトの政治的事情がうまくまとめられてますね。
貿易の影響で食糧不足ですか、王家の方がこれに何も言ってこないのはちょっとおかしな気が。
次の戦争が起こる時はアジェントから仕掛けてきそうです。

664名無し三等兵@F世界:2004/10/11(月) 23:23 ID:zMNA8ktE
種族の私情にこだわらず、国益のため政治的に冷静沈着な対応をとるダークエルフにドワーフ
これに比べてアシェナ信者やエルフは逆にモロに感情的な反応になりそう

665名無し三等兵@F世界:2004/10/12(火) 00:13 ID:oZDPQJUY
第二章も終わりご苦労様です。
戦闘ものじゃなく政治の話を主点にしてましたね。
三章が息抜き編だから四章で本格的に開戦となりますか

666名無し三等陸士@F世界:2004/10/12(火) 15:36 ID:0U77BVi2
何か薩摩の密貿易みたいですね〜
王家に訴えられないように工夫してるんだろうな〜

三章も期待!!

667名無し三等陸士@F世界:2004/10/12(火) 15:37 ID:0U77BVi2
セフィティナにも期待!!

668名無し三等陸士@F世界:2004/10/12(火) 15:41 ID:0U77BVi2
セフィティナ萌え〜でおね

669名無し三等陸士@F世界:2004/10/12(火) 15:41 ID:0U77BVi2
www

670名無し三等兵@F世界:2004/10/12(火) 17:28 ID:2aCdNJ8k
はいはいそれぐらいにしておいて漏れとしては戦闘の描写がわずかにさえないのが不満だった。
息抜き変が終わった後に期待しよう。

671名無し三等陸士@F世界:2004/10/12(火) 17:53 ID:fXA4FeQ2
異界方面隊の詳しい編成がみたい

672F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

673名無し三等兵@F世界:2004/10/12(火) 22:34 ID:q9eQ3R6k
上の672はバグですか?

674名無し三等兵@F世界:2004/10/13(水) 14:45 ID:m8ZMV2Dg
      ☆ チン     マチクタビレタ〜
                        マチクタビレタ〜
       ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        ヽ ___\(\・∀・) < 3章まだ〜?
            \_/⊂ ⊂_ )   \_____________
          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /|
       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |
       |  愛媛みかん  |/

675名無し三等兵@F世界:2004/10/14(木) 08:20 ID:g4e/B2gE
書き込みが止まった・・・

676名無し三等兵@F世界:2004/10/14(木) 21:28 ID:neKkOqdo
しばらく気長に待とう
F猿殿にも休みが必要だし

677名無し三等兵@F世界:2004/10/14(木) 21:55 ID:K1U79z9M
早く続編が読みたい、ぼのぼの期なんてすっとばしていいから。

678名無し三等兵@F世界:2004/10/15(金) 01:26 ID:neKkOqdo
だからしばらく待てというに

679F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/16(土) 16:53 ID:kHqoVL5Q
F猿@多忙中

投下なくてスンマセン・・・。
次の投下は来週の金曜あたりに、2.5章、上陸編を書く予定です。

680名無し三等兵@F世界:2004/10/16(土) 19:37 ID:3jMWmVLI
心配せずに目の前の問題を片付けてからゆっくりと執筆してくだされ。
セフェティナが高露出度の衣装着てくれるといいですな。

681F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

682F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

683名無し三等陸士@F世界:2004/10/22(金) 11:32 ID:0U77BVi2
いよいよ今日更新ですか?

684F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:18 ID:kHqoVL5Q
お久しぶりです。
しばらく間が空いたせいか時間かかりまくり、違和感ありまくりになっちまいましたが、
とりあえず2.5章行きます!

685F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:19 ID:kHqoVL5Q
「…アジェントにアシェナの神の栄光がありますように。」

セフェティナの一日は祈りから始まる。
魔術士官となってからは毎日のように礼拝堂でこの祈りを行ってきた。
アシェナの神は、いつでも自分達を見守っていてくれている、彼女はそう思っていた。
本当に…?
帰るべきか、帰らざるべきか。
セフェティナは迷っていた。
政府はもうすでに周辺奴隷島への侵攻を決めていた。
そしてそれはアジェントと日本の対立を意味する。つまり日本が母国と対立するのだ。
帰るかどうか決めねばならないリミットは刻一刻と迫っていた。
「私はどうすればいいのですか…?アシェナ様………青島さん…。」

「おはよ、セフェティナちゃん。」
ぼうっと廊下を歩いているセフェティナに声をかけたのは佐藤であった。
基地に来た当初はお客様扱いであったセフェティナも時が経つにつれて隊員の面々と打ち解け始めていた、
今はそれが逆に彼女を苦しめる結果となっているのだが。
「あ、佐藤さん…。どうしたんですか?」
「あ、いや、なんか元気なかったからさ。」
「そんなことないですよ、あっ、もう朝御飯の時間ですよね、楽しみだなーっ!」
そう言ってセフェティナはニッ、と笑顔を作り、佐藤に背を向け歩いていった。
「女の子の涙の痕を見て黙っていられる程、俺は無神経な男でもないんだよな…。」
佐藤はもう小さくなった彼女の後姿を見ながらボソリと呟いた。

686F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:20 ID:kHqoVL5Q
「青い空。輝く海。」
青島は周りを見渡した、彼の言葉通り、澄み渡った空は転移前より美しく感じられ、
青い海も妙な化け物が出てくること以外はその汚染から解放されたようだった。
といっても日本が丸ごと召還されたのだから空気はそんなには変わらないはずなのだが、
とにかく青島はそう感じたのだ。
「これで仕事が無かったらな…。」
セフェティナに町でも案内してやろうと思っていたのに、と彼は心の中で続けた。
しかし、周辺諸島への侵攻が決まった以上、その準備で彼らは目のまわるような忙しさの中に居た。
特に青島の場合、特別幹部候補になっているため余計であった。
あの赤いバッジを加藤結衣三尉に渡されて、それがどういう意味であるかを知ってからというもの、
ほぼ毎日のように研修会が開かれていたのだった。
当然その面子の中に結衣も居たのだが青島は一度以外彼女とほとんど会話することが出来なかった。
しかもとどめにはこの侵攻における青島の配属先は、
「なんか俺の行くところ激戦区ばっかだなあ…。」
三介島―――日本が仮につけた名だが―――への侵攻軍であったのだ。

687F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:20 ID:kHqoVL5Q
三介島、青島がその名を知ったのは研修中、加藤との一度きりの会話の中でであった。
「青島二尉、今度の任務について話があるの。」
「ん、なんだ?」
研修が終わり、他の特幹候補が宿舎に戻ろうと言う時、青島は加藤に呼び止められた。
彼女の向かいの椅子に座ると彼女は一枚の地図を出した。
世界地図。もちろんこの世界の物だ。
「それで、まず質問。」
加藤は机越しにズイッと青島に顔を近づけた。
「召還された島、全部名前言える?」
「ん、ああ。一燐島、二弦島、三介島、四黒島、五系島、六案島だろ?」
幾ら応急とはいえ随分と簡単な名前をつける、日本の間ではなかなか笑いの種となっていた。
「…。」
「どうした?」
「いや、正解。全部あっさりと答えるとは思ってなかったから。」
加藤は軽く笑うと三介島を指差した。
「それで今回の話はここについて。」
青島は加藤の顔を見た、一度目にあったときのあの棘々した態度はだいぶ和らいでいるようだった。
といっても何故か敵意、というよりライバル心はまだ青島に向けられているようだったが。
「ちょっと、聞いてる?」
「ああ、それで?」
慌てて青島が先を促すと加藤は続けた。
「この三介島はね…。」

688F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:22 ID:kHqoVL5Q
「この三介島は他の島と違ってラーヴィナ候が代理管理していない。
そしてここを管理しているのは誰かと言うと、王家最大の忠臣で戦上手と言われる鉄騎士カリヴァン候。
その上ここにはかなり大規模な鉱山がある。」
「ラーヴィナ候の代理管理していた島なら兵をひいてくれるが、
三介島はそうはいかない、その上大規模な戦いになる可能性があるということか。」
「そ。けどもう一つこれには意味があるわ。」
そこで言葉を切って加藤は青島を見た。
明らかに目は「分かる?」と聞いている。
さすがにここで答えを聞くのもなんである、青島は地図を見て、その意味に気が付いた。
「カリヴァン候の領地は小国群とラーヴィナに挟まれているのか・・・。」
「そう、小国群を私達の支配下に入れたとして、アジェントとの戦争でこの領地は重大な意味を持つ。」
「だからここでこちらの力を見せ付けておく必要があるわけだ。
場合によっては戦わずして降伏させることも出来るかもしれない。いわゆる前哨戦だな。」
「そういうこと。なかなかやるじゃない。」
加藤は笑いながら頷いた、青島もそれに釣られて笑みを浮かべた。
「けどつまりこの話を俺にするということは…。」
「そう、私達二人はこの三介島への派遣部隊の一員になったわ。
特にあなたの隊は対魔法戦闘を経験した貴重な小隊なんだから、赤羽海将の期待を裏切らないように。」
「はは…了解。」
青島はどっと身に疲れと、それ以外の何かがのしかかるのを感じた。

689F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:23 ID:kHqoVL5Q
その日の仕事が終わり、夕食を食べに青島は食堂に向かった。
「よう、隊長。」
「ああ、村田さん、怪我の具合はもう良いみたいですね。」
「ああ、天野と違ってかすり傷だからな、奴は現場復帰にはもう少し時間がかかるようだが。」

「隣良いか?」
「いいっすよ。」
青島が村田の向かい、沢村の隣に座ろうとした時、村田は思い出したように言った。
「ああ、そういえば佐藤がお前のことを探していたぞ、今食堂に居るだろうから、探しにってやったらどうだ?」

食事を済ませ、青島が辺りを見回すと佐藤は簡単に見つかった。
同期、つまり新米の面々と一緒に居る、つまり一番うるさいテーブルにいたのだから当たり前だが。
「佐藤。」
「あ、隊長!」
佐藤が言うと彼の同期の面々が一斉に青島を見た、
正確には彼の襟元の赤いバッジと彼の顔で半分づつ視線が集まった。
「あ、この人が例のティナちゃんの…ウラヤマシイ。」
「本当に赤いバッジ…。」
「ねえ、ティナちゃんとは何処まで行ったんですか?」
彼らの中ではセフェティナはティナと略されているようだった。
中学生のような最後の質問をした男に軽い蹴りを加え、青島は佐藤の方を向いた。
「俺を探してたようだが…、何か用か?」
「いや、用なのは俺じゃなくってティナちゃんなんですけど…。」
「セフェティナが?」

690F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:23 ID:kHqoVL5Q
「涙の痕…?」
青島は佐藤に聞き返した。
「はい。心当たりありませんか?」
十分にある。青島は今のセフェティナの状況を思って目を瞑った。
「探してくる。」
そして青島は佐藤の言葉には返事をせずに身を翻し、食堂から出て行った。
「…。」
ある種取り残されたような感覚に陥り、佐藤たちの間に沈黙が流れた。
「全くお熱いこって…。」
状況を良く分かってない佐藤の同期の一人が言い、また馬鹿話は再開されたのであった。

一方青島はセフェティナを探し回っていた。
探し回るといっても彼女の行動範囲は狭い、自分の部屋に、他数箇所、しかし見つからない。
「どこに行ったんだ…?」
どこにもいないとなれば、最悪の事態も考えられる。
少なくとも自分はいきなり見知らぬ外国に暮らすことになった上、
その国と日本が戦争をすることになったら相当苦しむだろう。
しかし、涙を流すまで苦しんでいるのを気付いてやれなった。
そんな素振りを彼女は少しも見せなかったのだ。

探し疲れ、青島が自分の部屋に戻ると、そこには人の気配があった。
青島は扉を開けた。そこに居るのは今までさんざん捜し求めていた少女だった。
「やっと、見つけた…。」
この言葉を言ったのは青島ではなかった。
そして次の瞬間には青島はセフェティナに抱きしめられていた。

691F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/22(金) 21:25 ID:kHqoVL5Q
投下終了!
2.5章は結構一気に終わらせるつもりですのでお付き合い下さい。



(萌えとかコテハンとか色々内紛が起こってるけど、無関係顔で良いんだろうか…。)

692名無し三等兵@F世界:2004/10/22(金) 22:00 ID:U0k.YMxw
久し振りの話、お疲れ様〜
とりあえず話に出すと約束したものは登場させたほうが良いかと

693名無し三等兵@F世界:2004/10/23(土) 00:13 ID:pFO2S2BI
やっと来ますた♪
前みたいに連日投下に戻るかな?
青島とセフェティナの関係も気になる、ジャンジャン投下してださいな♪

694名無し三等兵@F世界:2004/10/23(土) 01:06 ID:lfXn85LI
再開おめでとー。
同時にいいニュースも見つけたよ。
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20041019i304.htm
この記事が言うにはF-35も導入の選択肢の内に入ってるって。

695名無し三等兵@F世界:2004/10/23(土) 09:09 ID:IxopmTvg
キターーー!
これからの遅れを取り戻す感じで頑張ってください。

696F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:20 ID:kHqoVL5Q
さて、勘を取り戻すためにも頑張らなければ。
さあ行こう。いざ投下。

697F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:22 ID:kHqoVL5Q
柔らかい、そして暖かい。
俺が最初に感じたことはそれだった。飛びかける理性を懸命に引き戻し、彼女を引き離す。
彼女の肩を掴んで顔を見るとその顔は涙でグシャグシャになっていた。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
それにしてもおかしい、彼女は確かに感情家だが、こんなことをいきなりするような女性ではない。
「セフェ―――。」
「青島…さん、私…ニホンとアジェントが戦うことになるなんて思ってもいなかった。」
「…。」
彼女にしてみれば、そうだったのかもしれない。
しかし、それは世間知らずの少女の余りにも浅い先見だったと言わざるを得なかった。
背中をポンポンと叩いてやって俺はしばらく落ち着くのを待った。

698F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:23 ID:kHqoVL5Q
「今…アルヴァール様から通信があったの…。」
「…?」
しばらくして落ち着いたセフェティナがポツリと言った。
アルヴァール、何度か聞いたことのある名。確か魔術大臣を勤める男だったか。
「私の魔力じゃ本国にまで通信なんてとても届かないから向こうが意志を伝えるだけの一方的なものだったんだけど、けど、彼が言ってた、『アジェント王家はニホンを敵とみなす』って。」
そう、そうなることはわかっていた、アジェント王家がこちらに敵意を示しているからこそ、
こちらニホンも彼らと戦うことになるのだから。
「それで…、バルト帝国、アジェントがバルト帝国と手を結ぶって言うの…。なんで…?」
「…?」
「なんで…、彼らこそアシェナの敵じゃないの…?私の信じていた神様の敵じゃ…?」
セフェティナのエメラルドグリーンの瞳にまた涙が溢れた。
俺には彼女を慰めることが出来なかった、
日本人が世界における宗教戦争を理解することが難しいように、
一つの宗教を信じる物にとって、それに反する物がどれだけ憎いかなど俺には分かりえないのだ。

699F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:24 ID:kHqoVL5Q
そして俺は背筋に冷たい物が走るのを感じた。バルト帝国、大陸西方に勢力基盤を持つ一大軍事国家、
これが大陸最大の国家であるアジェントと手を結び、自分達日本と戦おうと言うのだ。
「セフェティナ…それは本当なのか、何かの冗談じゃなくて?」
「…うん。青島さん、どうにかして戦うのを避ける事は出来ないの?
アルヴァール様なんかと戦ったら…、青島さん…だけじゃない、
佐藤さんも、村田さんも、沢村さんも、加藤さんも皆死んじゃう…。」
「…セフェ―――。」
何かに耐え切れなくなって俺は手をセフェティナの背中へと回した。
「あ…。」

セフェティナもまた、それを拒む様子は見せなかった。

700F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:27 ID:kHqoVL5Q
「たいちょー!」
ビクッ!
青島の腕がセフェティナを抱きしめようとしたその時、
突然入り口から佐藤の能天気な声が響き、二人は慌てて離れた。
そして佐藤が見たものはいわずもがな、
明らかに泣いていたばかりのセフェティナとそれから30cmも離れていない青島であった。
「ティナちゃん見つかりまし――――あ…し、失礼しましたー。」
「ま、待ってくれ、誤解だ佐藤ーっ!」
悲痛な青島の言葉も届かず、佐藤はそそくさと立ち去ってしまった。
「こ、こりゃ明日は大変だな…。」
「アハハ…。」
セフェティナの笑いを見るとそうぼやきながら青島はすっくと立ち上がった、そしてセフェティナを見る。
「大丈夫、セフェティナ。俺は死なない。佐藤たちも死なせるつもりは無い。」
「……はい!」
この結論が何の解決にもなっていないことは二人には分かっていたが、
今二人で笑っていられるだけでも青島にとっては十分であった。

701F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:27 ID:kHqoVL5Q
次の日、散々な冷やかしを受けた青島とは別に、大変なことになっている場所があった。
どこか、それは政府上層部であった。
当然である、敵国がアジェント一国だけではないことが分かったのだから。
「えー、皆さんようやく方針が決まったと思っていた所大変申し訳ないが…、
昨日、協力者のところにアジェントからの通信があり、ごらんの事実が明らかになりました。」
ほぼ昨日から眠っていないのだろう、目を真っ赤に腫らした袴が言った。
他の閣議参加者も大体同様である。
「……通信、とは?まさか通信をする程の技術が向こうにあるわけでもないだろうに。」
「あー…、それについては赤羽君。」
「はい。」
恐らく参加者の中でも最も疲労困憊なのがこの赤羽であった。
連日の侵攻準備の総指揮をとりつつ、協力者(セフェティナ)からの情報を閣議に報告するのも彼の役目だったのだから。
しかし彼はそんな疲労を全く表には出さなかった。
「皆様お手元の資料をご覧下さい。通信魔法の説明と相手からの通信の全文です。
これらからアジェント、そして西方のバルト、この大陸における二大強国が手を組んだ物と考えられます。
おそらくは…いや、間違いなく我が日本と対抗するために。」
「待て。待ってくれ、アジェントとバルトは絶対に手を結ばないのではないのか、
それにアジェントは我々を舐めきっているのではないのか?」
「それに対しては返答しかねます。」
元々危機的な状況が更に悪化したのだ。
重苦しい沈黙が会議室に流れた。

702F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:28 ID:kHqoVL5Q
そんな中、出席者の一人が声を上げた
「そうだ、その協力者を通じて友好を申し入れられないのか?」
「かの国がこれ程我々に対する敵対姿勢を見せている以上それは不可能かと。
それに通信は一方通行な物しか不可能と言う報告です。」
「はっ!それが本当かどうかも怪しい物だ。その協力者と言うのは向こうのスパイなのではないかね!」
「口が過ぎませんか、彼女の協力で我々がどれ程助けられたか忘れたのですか?」
袴に言われ、男はばつが悪そうに椅子に座りなおした。
「だが…、スパイと言う可能性があるのも事実だ。」
その男の援護をするわけではなかろうが酒井が言った。
「そもそも彼女はどちらの国の味方なんだね、それをはっきりしてもらわねば困る。」
「はい。それは確かめるつもりです。
近日中に行われる予定の三介島開放作戦。これに彼女の協力を求めます。」
赤羽が事務的な口調で答える。そもそもその仕事はセフェティナを管理下におく赤羽の仕事である。
つまり酒井の言った言葉は赤羽への当てこすりなのだ。
「待て、待ってくれ、本当にこのままの方針でいくのか?」
「そうしかないだろうな…バルトは大陸内陸部に存在する国家だ。即座に我々と衝突する訳ではない。
それよりも先日赤羽君の提案してくれた軽空母開発計画。これを実行するべきだと思うのだが。」
袴の言葉に赤羽は慌てて彼の顔を見た。
彼は赤羽の視線に気付くと黙って頷き、参加者の面々を見た。
この状況においては彼らもまた、反対する気はないようだった。
「確かに…こうなってしまった今いち早い戦力の拡充が必要…。
多少の資金はかかりますが軽空母の導入は必要でしょう…。」
普段は赤羽の言葉をことごとく否定する酒井も袴の言葉に同意した。彼は言葉を続けた。
「ただし、投資にはちゃんと投資分の成果を期待する。」
「それは約束しよう。」
赤羽は自信に満ちた笑みを見せた。

703F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/24(日) 23:30 ID:kHqoVL5Q
投下終了です。
戦争編はそろそろかな…。
ついでに700ゲトー。

ご意見ご感想お待ちしております。

704S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/10/25(月) 02:53 ID:MSZ8PKC.
軽空母計画再始動キター!そしてキリ番アンド佐藤えらい!
恋愛劇はクライマックスの直前直後が一番。つまり今はまだ動く時ではない。
と言うわけで、ナイスストッパー佐藤。

フィリッピンが本来あるべき辺りに、日本とも「世界」とも全く異質な文明の
島が並んでいる・・・いいなあ。でもその辺の地図はどうなってるんでしょ?

国と戦争の板挟み、初期の頃曖昧に付いていったのが、こんな結果を生むとは。
セフェティナはまあ前線には出ないだろうけど、魔法戦担当なんだろうか?

705名無し三等兵@F世界:2004/10/25(月) 03:05 ID:EXfmuxps
話の流れを読んでいないが人魚なんて出てこないかな?

706名無し三等兵@F世界:2004/10/25(月) 07:14 ID:K1U79z9M
彼女の役割は対魔法アドバイザーなんでないの?

707名無し三等兵@F世界:2004/10/25(月) 09:39 ID:K1U79z9M
長い休みから復活していつもの投稿ペースに戻ってきましたね。
何はともあれおめでとーございます。

708卓ゲ板から(略 </b><font color=#FF0000>(j0AhRKAw)</font><b>:2004/10/25(月) 18:56 ID:q1rA4c46
自衛隊とはあまり関係無いので、少々場所をお借りします。

こんな現象、あったら嫌だ

「雨、か。珍しいな」
 テントを叩く軽い音を聞きつけ、三浦は装備の手入れをする手を止めた
開け放したテントの入口から、たっぷりと水気を含んだ風が吹き込んできた。
津波の傷跡がまだ生々しい森の、それでも徐々に回復してきた緑が雨粒を受け止め、集めて地面に落とす。
 まだほんの2ヶ月ほどしか経っていないと言うのに、森林の回復力はめざましい。
日本の植生では考えられないほどの速度で、生長を続けている。
植物のサンプルを持って帰った学者達が、その耐久力に目を見張ったほどだ。
 ・・・・さすがに、『強酸にも殆ど侵されない強靭な物質に覆われている』とか、
『若葉の表皮細胞に大量の強アルカリを含む』というのは何かの間違いだろうが。

 野営地となった広場には、しとしとと銀の軌跡を描いて、空から水滴が落ちてくる。
世界が変わっても、そう言った自然現象は変わらないらしい。
・・・・向こうに比べれば、大幅に頻度が落ちている。
こちらの世界に呼び込まれてから、数回しか雨天を経験していない。

709卓ゲ板から(略 </b><font color=#FF0000>(j0AhRKAw)</font><b>:2004/10/25(月) 18:58 ID:q1rA4c46
「客人、何か手伝える事は無いか?」
 ぬっ、と藁の塊のような物が三浦の目の前に突き出された。
思わず仰け反ってしまったが、よくよく見ればこの世界の原住民の一人だ。
好奇心が強いのか、毎日の様に野営地を訪れる。
『何か手伝える事は無いか』と訊き回って断られ、尻尾を垂らして帰っていく姿を良く見かける。
・・・・その外見と行動とがあいまって、まるで犬のようだと隊員達に噂されているようだ。
 立派な毛皮を持つせいか、あまり衣服という物を身に着けない彼らでも、雨に濡れるのは嬉しくないらしい。
今日は、蓑のような作りの雨具を身に着けていた。頭には、しっかりと笠に良く似た物を被っている。
 一見藁を大雑把に束ねただけに見えるが・・・・、実際もその通りだったりする。
元々の植物が油分を多く含む為、防水性は中々に高い。
もっとも、含まれる油分のせいで大変燃えやすいのだが。
それに、がさがさと騒がしい事この上ない。

「特には、無いな」
 三浦のにべも無い返答に、原住民はあっさりと踵を返した。
断られるのはもう既に慣れっこになっているようだ。
野営地に出入りしている間に覚えたのか、日本語でのコミュニケーションにも怪しい所は無い。
 ふと、原住民が足を止めた。額の、複眼のような器官が雨雲を通した弱い日光を反射する。
「(言語形態が異なる為、表記不可)ん、伝える」
 ・・・・この世界の原住民は、なにやらデンパを受信できるらしい。
「もう既に知っているかもしれないが。これからの季節、たまに『痛い雨』が降る。
出来る限り、森の中、大きな木の下に居た方が良い」
 一気にまくし立てると、原住民は再び歩き出した。
森の中に入ると、あっという間にその姿は見えなくなる。
「痛い雨? 一体何の事だ?」
 三浦の疑問が解消されたのは、早くもその翌々日の事である。

710卓ゲ板から(略 </b><font color=#FF0000>(j0AhRKAw)</font><b>:2004/10/25(月) 19:01 ID:q1rA4c46
 原住民の勧めどおりに野営地を移したのは、翌日の午前中。
野営地としていた広場のすぐ脇、森の中の下生えを刈り取って、無理矢理場所を作っての事。
まるで日本人が神でもある様に崇拝して来る原住民が、わざわざ忠告してきたのだ。
何か、もっともな理由があるのだろう。・・・・理由の説明は、まったく無かったが。
 当然ながら、森の中には車両まで置くような場所の余裕が無い。
木を切り倒してしまえば駐車スペースも出来るだろうが、それでは森の中に入る意味が無くなってしまう。
今まで通り、昨日までの野営地に止めておく事になった。
 そして、夜半。再びの降雨があったらしい。当直の者達が、交代の時にそう伝えてきた。
もっとも、森の中の野営地から出る事も無く、密生した木の葉に当たる雨音を聞いただけのようだが。
朝には、からりと晴れ上がっていた。
「森の中なら、雨具は必要無いかも知れないな」
 そんな声を聞きながら、車を止めてあったはずの広場に向かう。
この森には、大きな生き物も居らず危険は少ない、はずであった。

 広場にあったのは、車両の残骸、としか呼べないものだった。
まるで、何年間も放置されていたかのように、ぼろぼろにサビを浮かせている。
 広場のあちこちには、異臭を放つ緑色の水溜りが出来ていた。
手入れの悪い水槽のように気味の悪い暗い緑に濁った水が、赤茶けた粘土質の土の上に溜まっている。
車両の方から流れてきたらしいサビ混じりの水と混ざり、名状しにくい色になっている物も多い。
「何だ、こりゃ?」
 水に触れないよう注意しながら、得体の知れない水溜りを覗き込む。
つん、と鼻を突いた臭いは、何処と無く酢に似ていた。
合成酢をうっかり口に含んでしまった時よりも強い刺激が、舐めた訳でも無いのに口と鼻を直撃する。
「検査キット持って来ました!」
 ガサガサと音を立てて、水質検査キットを開封する。
その水が、飲料水に適しているかどうかを調べる為の物だ。
・・・・どう見ても、体に良く無さそうなこれに使うのは気が引けるが、
他に水質検査に使える物が無いのだから仕方が無い。

711卓ゲ板から(略 </b><font color=#FF0000>(j0AhRKAw)</font><b>:2004/10/25(月) 19:02 ID:q1rA4c46
 検査結果は、『強酸』。流石に、キットを用いた簡易検査ではその種類までは判らないが。
 奇妙な事に、うっかり触れれば火傷してしまうような酸の中に、
藻のような苔のような黴のような、青緑の綿状の物が浮いている。
やはり植物の類らしく、サンプルを採取している間にも、急速にその体積を増やしていた。
 水を吸って膨れている訳ではない。
棒状の物で引っ掛け、出来るだけ水気を切ってから入れたはずのスクリュー瓶の中でも、
いまだに生長を続けているのだから。

「今日はまた、随分と降ったなぁ」
 場違いに暢気な声がした。がさがさと、原住民の雨具が擦れる音と共に。
 わらわらと、森の中から沸くように現れた原住民の集団が、
手にした長い木の枝を箸のように使って黴の様な物を採取する。
「これは、一体?」
 今の事態に対してなのか、この正体不明の『黴の様な物』に対してなのか。
自衛官達の中から質問が飛んだ。
「えーっと。『薬のコケ』で、意味あってるかな?」
 彼らにとっての、薬草の一種であるらしい。
季節風に乗って飛んだ胞子が、雨雲の中で水分を得て増殖し、
地上に落ちてくるのだと説明した。
「何日か川で晒して、酒につけておくんだ。そのまま触ると、痛いけど」
 ・・・・どうやら、酸性雨の原因はこれのようだ。

712卓ゲ板から(略 </b><font color=#FF0000>(j0AhRKAw)</font><b>:2004/10/25(月) 19:06 ID:q1rA4c46
 と、言う訳で。
『F世界に酸性雨が降るとしたら、その原因は何か?』を考えてみました。
降るんだったら、それに適応した植物があっても面白いかな、と。

 森の中で酸性雨による被害が出なかったのは、樹冠部分のアルカリ性の葉っぱのおかげ、と。

713F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:06 ID:kHqoVL5Q
どうも卓ゲ氏、いらっしゃいませ。
それにしても車も溶ける雨…ガクガクブルブル


さて、投下でもしましょうかね…。

714F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:07 ID:kHqoVL5Q
「やれやれ、とんでもねえ作戦だなこりゃ…。」
これから作戦に赴く集団を見て(と言っても彼もその一員なのだが)沢村は言った。
しかしそれも無理も無い。
赤羽佐世保地方隊司令が陸自、空自も含め直接指揮を執るこの作戦は、
これから編成される異界方面隊司令が彼で適正であるかどうか見るテストでもあった。
気合いが入るのも当然である。
陸自は一個師団をほぼまるごとつぎ込み、そしてイージス艦を含むそれに見合うだけの艦隊が用意されていた。
そして空自においても制空権確保のためのF-15J部隊が用意されていた。

つまり、名目上は「解放」であるこれも、実質は「侵攻」なのである。特にこの三介島上陸作戦は。

そして青島たちの小隊は魔法戦を経験した物として、
セフェティナの護衛をしながら陸自と行動を共にする特別部隊とされていた。
「沢村さん、どうですか調子は?」
「ああ、佐藤か、いやいや、二回目ともなるとさすがに慣れてくるもんかな。
周りの奴を見てみろよ。」
言われて佐藤が周りを見渡す、すると周りの隊員のほとんどが緊張にガチガチになっていた。
「といっても俺達はティナちゃんの護衛ですから、そんなしんどい仕事にはなりませんよ。」
「まあ、な。」
沢村は曖昧な返事をした。

715F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:07 ID:kHqoVL5Q
一方、この作戦の司令官達、及び特別幹部候補である青島、加藤は赤羽に作戦の説明を受けていた。
だが、最低でも左官レベルの司令官達の視線は冷たかった。
「(ひえ〜、睨んでる睨んでる。)」
「…。」
その視線に少し圧される青島に対して加藤は全く気にする素振りは見せなかった。
しかし赤羽が壁に張ってある地図を用いて説明を始めると、その視線も立ち消えた。
「これは三介島の地図だ、人工衛星があれば完璧な物が撮れるのだが、無いものねだりをしてもしょうがない。とにかく我々はこの台湾の半分ほどの島への上陸作戦を行う。」
赤羽は島の中心部を指した、そこには真っ赤な三角印とバツ印が寄り添うようにあった。
「この三角がこの島を重要なものと成し得ている鉱山だ。そしてこのバツ印が敵拠点。
元々鉱山管理として作られた物のためにこれら二つの距離は非常に近い。
この二つが我々の制圧目標となる。
しかしこの拠点、魔法という強力な遠距離攻撃手段が存在しているせいか、非常に防御力が高い。
そのため、鉱山はともかくとしてこの拠点で攻城戦を行うことは絶対に避けたい。」
赤羽は手元のプリントも見ずに続けた。

「そして偵察によると敵の兵力はおよそ2000。これは予想よりずっと少ない数字だ。」
部屋の面々の間に安堵のため息が漏れた。
「ただし、これは敵の訓練された兵士、常備軍の数だ。ちなみにその内200は竜騎士部隊。敵は現地人を徴用して兵士として使ってくる可能性が非常に高い。
それもたぶん男なら誰でもという勢いで、だろうな。
そしてこの場合、相手兵力はおよそ4万。まあ単純計算でこちらの2倍以上だ。」
ビキッ。部屋の空気が一気に凍りついた。
冷静な顔をしているのは三人。赤羽と加藤、そして意外にも青島であった。

716F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:08 ID:kHqoVL5Q
「ちょっと待ってください。」
士官の一人がたまらず発言した。
「海将は我々に死ねとおっしゃるのですか?数で圧倒的差をつけられているのに侵攻などと…。
兵法の条理にも反しています。」
この言葉を皮切りにかなりの批判意見が噴出した。
しかしそれを赤羽は黙って聞いていた。
そしてひとしきり批判が出終わると彼は青島のほうを向いた。
「お前はこの作戦が無茶だとは思っていないようだな。」
「えっ…?あ、はい。」
再び冷たい視線が皆から突き刺さる。
赤羽が青島を構うことからのジェラシーだろうか、その視線の中には加藤も含まれていた。
「…何故かを少し言ってみてもらえないか。」
「あ、…はい。まずはネックとなっている4万と言う数字、しかしこれはほとんど戦闘訓練も受けていない素人たちです。当然魔法の脅威も存在しません。
そして更にそれを指揮するには2000人では到底足りません。
まず間違いなく指揮系統は混乱すると思われます。
そしてさらにもう一つこの4万人は皆、アジェントの常備軍に対して憎しみを持っています。
士気も0に等しいでしょうし、さらに場合によっては戦闘すら起こりえないと思われます。」

717F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:09 ID:kHqoVL5Q
青島が言葉を切ると赤羽は満足そうに笑った。
「その通りだ。はっきり言ってしまえばこの現地徴用の敵は相手にはならない。
むしろ注意すべきはこの現地人達を傷付けないようにすることだ。我々は解放軍なのだからな。
現地人たちは敵ではない、むしろ味方だ。」
赤羽はそう言うと再び自分でしゃべり始めた。
「そこで、だ。
前提として、上陸地点付近の敵竜騎士部隊を殲滅、制空権を確保する。
そして我々はまず、敵船部隊、これは相手にもならないだろうが、を殲滅後、海上に艦船を展開する。
その後、敵が海辺に展開するかどうかで戦闘パターンが決まる。
海辺に兵を展開する場合は厄介なことになる。本来ならば砲撃で焼き払いたいところだが、
そうもいかん。この場合、敵現地兵を説得、失敗の場合は威嚇砲撃を行う。
それでもだめならば仕方があるまい、兵法の基本どおり、焼き払う。
そうして突破後はもうなんら厄介なところは無いだろう。
むしろこうなってくれたほうが我々側の犠牲は少なくて済む。」
赤羽は薄く笑った。
その表情は笑みであるにもかかわらず、多くの士官達を畏怖させた。

718F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:11 ID:kHqoVL5Q
「もう一つは敵が篭城、もしくは拠点周辺に兵を展開する場合だ。
この場合は艦船の援護射撃がほとんど得られない可能性が高い。
この場合は鉱山を攻める。鉱山は敵が絶対に守らねばならない施設だ。
そうである以上ここを攻めれば敵は守らざるを得ない。拠点より遥かに守りにくいこの鉱山をだ。
つまりは亀の甲羅からお出まし願うわけだ。」
「赤羽海将。」
赤羽の言葉を遮るように士官の一人が言葉を発した。
「なんだ?」
「鉱山を攻めるとしたら、現地人の犠牲は免れないのでは?」
「いや、そこで現地抵抗勢力と手を結ぶ。彼らを先方とすれば現地人との衝突は避けられるだろう。
現地レジスタンスたちの言葉も聞かないようであれば、それは解放される意思のないただの敵だ。
ちなみに…現地レジスタンス達とはもう連絡を取ってある。」
そして最後に赤羽はニヤリと笑って言った。
「そしてもし鉱山を攻撃されても拠点から出てこない臆病者ならば、
我々はこの島への「援助」を続けながらゆっくりと兵糧攻めをさせてもらうとしよう。以上だ。
これらの作戦は最後のケース以外は敵常備軍を以下に早く殲滅できるかにかかっている。諸君の健闘に期待する。」
「はっ!」
参加者達が一斉に十度の敬礼をする。
これが、戦後日本の始めての侵攻。「三介島解放作戦」のはじまりであった。

719F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/26(火) 01:12 ID:kHqoVL5Q
どうも投下終了っす。
いや、戦術面にはかなり穴があると思います、
お見苦しいでしょうが、お許し下さい。
意見も待ってます。
それではご意見、ご感想、よろしくお願いします。

720名無し三等兵@F世界:2004/10/26(火) 02:49 ID:8sJRFPj2
いよいよ本格的な戦闘でつか・・・期待しとります。

721名無し三等兵@F世界:2004/10/26(火) 17:57 ID:/JxOKHjA
上陸といったらおおすみのホバーの出番ですね!!

722名無し三等兵@F世界:2004/10/26(火) 23:48 ID:reUgUsAo
竜騎士の奴らを倒すのにミサイルは牛刀で鳥をさばくようなもの。
護衛艦の搭載砲とファンクラスで充分かな?
イージス艦は100もの対象をロックオンできるというし。

723名無し三等陸士@F世界:2004/10/27(水) 03:09 ID:QW0PcCKs
OTOメララ大活躍ですな
個艦防御で各艦対応できるだろ

724名無し三等兵@F世界:2004/10/28(木) 08:42 ID:K1U79z9M
ヘリによるエアカバーも必要じゃないかと付け加えてみる。

725F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/29(金) 18:13 ID:kHqoVL5Q
ああ、演出を求めるか整合性を追及するか…。
残念ながら私には両立する腕が無い…。

投下は少し遅れます。

726名無し三等陸士@F世界:2004/10/29(金) 22:29 ID:uvNIFZYQ
上陸前にクラスターを撒くのを忘れずに。

727F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:48 ID:kHqoVL5Q
投下?
投下。

728F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:48 ID:kHqoVL5Q
「それは、本当ですか?」
「ああ、ほぼ間違いない。」
三介島鉱山山麓、カリヴァン候運営の拠点。
そこの長を務める男、アーガスはうなずいた。
純白の鎧を身に着けるカリヴァン騎士の多いなか、彼は何故か好んで灰色などの暗い色の鎧を付けていた。
曰く、「奴隷の管理などと言う仕事において清廉を保つことは不可能。」
その一見白が基調のカリヴァン候への反抗にも見える鎧また、彼なりの忠誠心の現れであった。

アーガスは有能な男であった。そして更に「妥協」と言う言葉を知っている男であった。
それ故に彼は清廉潔白を旨とするカリヴァン騎士団からこんな僻地へととばされたのだが、
しかし、彼はいじけることなくその能力を発揮していた。
「レジスタンスグループの一人を捕らえた。どうも彼らは新たに召還された島と手を組んだらしい。」
「新しく召還?そんな魔法技術も無い島国…たいしたことは…。」
「本国がそんなたいしたことの無い島のために帝国と手を組むと思うか?」
「い、いえ、失礼しました。」
まだ若い騎士が慌てて頭を下げた。
「いや…、ともかく、それほど強大な勢力だと言うことだ。それが今まで召還されてきた奴隷島へ向かってくる…。」
「勝算は…ありますかな?」
彼の傍に控えていた魔道士が言った。

729F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:48 ID:kHqoVL5Q
彼の名はロン。
彼もまた騎士団からつまはじきにされ、冷や飯を食わされている男であった。
「いや…ないな。」
アーガスの言葉に若い騎士がハッと顔を上げる。その様子も気にせず魔道士は微笑んだ。
「ま、そうでしょう。…そういえばその捕らえたレジスタンスというのは何処にいますか?」
「ああ、客室にいる。…人間と言うのは醜いな。軽い拷問の後地位を保証すると言ったらすぐに飛びついた。
いや、そういう方法をとった我々のほうが余程醜いか…。それに…我々には保障する地位も無い。」
自嘲的に笑うアーガスに対しロンはニヤリと笑った。
「だから我々はこの島にいるのでしょう。」
「ハハ、それもそうか。」
アーガスもまたロンに答えにやりと笑った。
「で、どうなさるのです?今ならこの島を放棄して逃げることも出来ますが。」
「いや、迎撃する。勝てないのならば後の候達が少しでも有利に戦えるようにするべきだからな。
すこしでも戦力を削り、情報を得ておく必要があるだろう?」
「ご立派。」
「ついてきてくれるか?」
「愚問を。」
「すまないな。」
「いえいえ。」
二人は軽く笑った。
ひざまずく若い騎士は自分の未来を考えただ呆然としていた。

730F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:49 ID:kHqoVL5Q
日本。佐世保基地。
セフェティナは数日前に返って来た魔法用の篭手をはめなおしていた。
研究用に政府側に一時的に渡していたものだったが、
アルヴァールからの通信が入る前にセフェティナに帰ってきたのは幸運であった。
ちなみにこの篭手を研究して分かったことは魔導の石アルジェクトがある程度ケイ素を含む、それだけであったらしい。
セフェティナは緊張していた。人生二度目の戦場。
しかも混乱していて何がなんだか分からなかった前回に対し、
今回はきちんと準備もなされたものだけに、プレッシャーも大きい。
ガチガチに固まっている彼女を見かね、佐藤は声をかけた。
「あ、ティナちゃん。どうしたの強張った顔しちゃって、それじゃ現場に着く前に疲れちゃうよ。」
「…。」
「てぃなちゃん?」
「あっ、青島さん!?…あ、佐藤さんですか。どうしたんですか?」
「うーん。ちょっとショックかも。」
「す、すみません…。」
「いやいや。あんまり緊張しすぎは良くないよ?ティナちゃんの安全を守るために俺達がいるんだから。」
佐藤はそう言ってニカリと笑った。
「は、はい。ありがとうございます。」
セフェティナがつられて笑うと佐藤は再び満足そうに笑った。

731F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:49 ID:kHqoVL5Q
一方青島は村田達と一緒に居た。
青島の小隊にとってこの作戦は天野がいない初めての任務であった。
小隊の実質的な中心であった天野の穴を埋められるのはベテランの村田だけだったのである。
「おう、どうした色男。」
村田は青島が視界に入ると同時にニヤリと笑った。
「…村田さん、その呼び方は止めてください…。」
「ははは、もうこの基地中の噂になっているぞ?」
「勘弁してくださいよ…それで話があるんですが…。」
「ああ、大丈夫だ聞かなくても分かる、まかせておけ。」
青島が話をしにきた時点で彼はすでにそれを了解しているようであった。
青島はそんな彼を頼もしく思った。
「この噂をもっと広めてくれって言うんだろ?」
しかしそれは彼の気のせいのようであった。

732F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:50 ID:kHqoVL5Q
一方
「青島二尉。」
青島が話を終え一人で歩いていると声をかけてくる人物が居た。
青島が振り向くとそこにいたのは見慣れた顔であった。
「…結衣三尉?」
「……。」
しかし加藤は青島が話しかけても一向に喋ろうとせず、俯いていた。
「…どうしたんだ?」
「あ、あの噂っ、……いや…なんでもないわ…。」
「え?え?」
「なんでもないって言ってるでしょ!」
加藤はそう言うと顔を真っ赤にして青島に背を向け早足で歩いていってしまった。
「???」
青島は何故怒鳴られたのかも分からずただ頭に?マークを浮かべていた。

733F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:50 ID:kHqoVL5Q
その次の日、佐世保基地は作戦に参加する隊員で一杯となった。
そしてその前に赤羽は作戦司令として立った。
「…この作戦は、非道極まる奴隷支配を受ける人々を解放するための作戦である。」

一方、三介島でもアーガスによる演説が行われようとしていた。
形式にこだわるアジェントでは異例中の異例である一兵士まで集めた、合計2014人に及ぶ大集会であった。
「まずは、集まってくれた皆に感謝の意を表したい。」
アーガスがそう切り出すと場は静寂に包まれた。
「知っての事とは思うが、この島に東の島の国、ニホン国が攻め込んでくる。
そして我々にはこれに抗するための戦力が無い。
よってこれから行う作戦は、我々の死を前提とした物となっている。」
この言葉に場は動揺が走った。急に騒がしくなった。
しかしアーガスは何も言わずに場が静まるまで待った。
「そこで、だ。」
また再び話し出すアーガスの言葉に兵士達はゴクリと唾を飲んだ。
「30分待つ。私とともに死んでくれる者だけここに残ってもらいたい。
当然出て行くものには船などを用意する。
ただし出て行ったものに関して言及することも詮索することも禁ずる。
ここで出て行ったとしてもアシェナの神の祝福を受けられることは私が保証しよう。」
再び場に動揺が走った。兵士達は皆まじまじとアーガスの顔を見る。
しかし彼はそれ以上何も言わずに部屋から出て行った。

そして30分後彼が部屋に戻った時、そこにいた兵は1420人であった。
「有難う。そしてすまない。」
相手は皆自分よりも遥かに身分の低い相手である、だがアーガスは深々と頭を下げた。

734F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/10/31(日) 17:51 ID:kHqoVL5Q
投下終?
投下完了。

ご意見、ご感想お待ちしております。

735名無し三等兵@F世界:2004/10/31(日) 22:30 ID:O2ey0WLg
最初の戦いから激戦になりそうですな。

736名無し三等陸士@F世界:2004/10/31(日) 23:02 ID:ueWREwdY
>>ちなみにこの篭手を研究して分かったことは魔導の石アルジェクトがある程度ケイ素を含む、それだけであったらしい。
この地上にある程度ケイ素を含まない石などあるのだろうか。たぶん伏線のつもりなんだろうけど意味のない描写な気がする。

737名無し三等陸士@F世界:2004/11/01(月) 03:01 ID:L6DX1V7c
> この地上にある程度ケイ素を含まない石などあるのだろうか
黄鉄鉱とか方鉛鉱とかマンガン団塊とか石炭とか石灰岩とか……
などと揚げ足とってしまったがたしかにケイ素を含まない石が多数派でないと不自然な書き方だな。

そう言えばキャプテンフューチャーで、
「カルシュウムを産出しないので現住生物の骨がケイ素化合物で出来てる星」つうのがあったな。

738</b><font color=#FF0000>(zbg2XOTI)</font><b>:2004/11/01(月) 19:54 ID:ByKSrRMw
>意味のない描写な気がする。
珪素を含むほかは未知の物質でできているって解釈でも良いかと。
また、ある程度珪素を含むってことはこの世界でも珪素を含む組成の石が大多数って事で、
物質の組成はこちらの世界とほぼ同じ、+その世界特有の物質が存在する、と推定することもできるかも。

739名無し三等兵@F世界:2004/11/01(月) 20:56 ID:WGHSizEU
アーガス、敵でありながらなかなかの好漢ですな。
彼のこの後の運命は戦死か?はたまた・・・?

740名無し三等陸士@F世界:2004/11/01(月) 21:20 ID:L6DX1V7c
こういう人にはぜひ生き残ってほしいが、トミノ作品だと真っ先に死ぬんだよなぁ>アーガス

741名無し三等兵@F世界:2004/11/01(月) 21:54 ID:WGHSizEU
あの人はこう言いたいのかと『戦争ではいい奴から真っ先に死ぬ』

742名無し三等陸士@F世界:2004/11/01(月) 22:42 ID:N2nov956
珪素と言っても半導体じゃ無いだろうな。
そうだったらイージス艦の強力なレーダー波を照射されたらぶっこわれて
ジファンは魔法を使えなくなっていただろうし。

743名無し三等陸士@F世界:2004/11/03(水) 00:23 ID:zEAn4rm2
半導体といってもなぁ。電子部品が入っている訳じゃ
無いでしょう。単なる半導体なら大丈夫でしょうね。

744名無し三等兵@F世界:2004/11/04(木) 06:51 ID:OuDDfgtY
本家も香田さんの殺される画像が公開されてからほとんど動きがなくなってしまいました。
ここだけが頼りです、続編の投下を待ってます。

745F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 18:46 ID:kHqoVL5Q
あれを見たものとしては戦争物を書いていいのかどうか…と考えていたもので。
少し恐ろしくなってしまいました。

746S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/11/04(木) 19:34 ID:MSZ8PKC.
戦争物と戦争に関連性は・・・あるとしたら書き手がそう考えた時だけです。
結局批判性の無いものなら無関係ですからね。あてこすりで書かなければ
問題はないと思いますよ。

ようはテーマの問題ですよ。やろうと思えば児童向け作品でも社会批判やら
物事についての意見は述べられるし、逆にいくら虐殺描写をしても全部が
ストレス解消に繋がるような作品もあります。

とまあ、基本的な事を偉そうに述べすぎてもアレなので、続編を期待します。

747F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:23 ID:kHqoVL5Q
香田さんのご冥福を祈りつつ、

それでは、投下を開始します。

748F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:24 ID:kHqoVL5Q
「こちらアルファ中隊、敵飛行兵器確認できず。」
「こちら哨戒任務中、敵船、敵飛行兵器確認できません、制空権及び制海権はこちらが完全に確保した物と思われます、以上。」
三介島から約60キロ沖、そこには今回の作戦参加艦艇が結集していた。
結集、と言っても島の南と東の二つに艦隊は分かれてはいたが。
島中央部にある敵拠点を中心として一つは比較的平野が広がっている南から本隊が、
そしてこの縦に細長い島の東から最短距離で拠点制圧を狙う部隊であった。
もはやこの位置まで来ればイージス艦であれば島中心部の拠点も把握できる。
「不自然だな…。」
輸送艦「おおすみ」艦長、伊藤は呟いた。
本来ならばこの状況にまで持ってくるまでに制海権奪取、制空権奪取が必要なのだが、
不自然なことに島周辺には一つの船も、一匹の竜すら存在しないのである。
「伊藤君、そろそろ揚陸の用意をさせてくれ。」
「了解しました。」
今、そんなことを考える必要は無い、必要なのはただ与えられた命令を遂行することのみ。
軍人となった時から上官の命令に対しては自分の頭は帽子掛けなのだから。
赤羽からの通信が入り伊藤は頭の中のモヤモヤを振り払った。

749F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:26 ID:kHqoVL5Q
イージス艦「ちょうかい」
「こんごう」が尖閣諸島地域へと出払っている今、
赤羽はイージス艦を呉からわざわざ持って来なければならなかった。
そしてこのイージス艦の最新鋭のレーダーは、海にも空にも敵機が存在していないことを示していた。
もちろん赤羽「元」佐世保司令もこの不審さに気付かないわけはなかった。
というよりも彼は伊藤よりも遥かに早くこの事態に気付いていた。
それ故に航空部隊の護衛をつけて哨戒任務を行わせているのだ。
その報告を待っている時、艦橋に入ってくる人間があった。
「赤羽司令長官。」
「加藤か。」
「はい。」
普段艦橋にはありえない陸上自衛隊の制服。赤羽以外の人間は少し眉をひそめた。
しかしそれも気にせず加藤はツカツカと赤羽の傍へ近づいた。
「私に上から任務が下りました。」
「…。」
緊張した面持ちで赤羽を見る加藤に対し、赤羽は何も答えなかった。
「海自と陸自の『連絡役』とのことです。」
「私の監視か?」
「…。」
赤羽の言葉に加藤は黙った。

750F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:27 ID:kHqoVL5Q
赤羽は薄く笑った。
「ふむ、向こうも私のような青二才は信用できないと見える。」
「っ、そんなこと―――」
加藤はそれ以上言う事はできなかった、実際若い赤羽への自衛隊内での反発は(特に陸自では)大きい、
しかし加藤は赤羽を青二才などと言うことは例え自虐の言葉でも我慢がならなかった。
「声が大きい。お前が思うかどうかではない、向こうがこちらをどう思っているかどうかの話だ。」
「…。」
加藤は再び口を閉ざした。赤羽はそれを見ると何事もなかったかのように言った。
「それでは任務に全力を尽くすように。」
「…了解しました。」
半ば、突き放すような形で会話を終えた赤羽に対し、加藤は何か言いたそうな眼差しをしたが、結局何も言わずに敬礼を返した。

「哨戒の結果、敵は島中心部の拠点と上陸地点のほぼ中間の平野に集結していることが分かりました。
上陸予定地点には敵の存在は確認できませんでした。それどころか敵拠点にも存在が確認できません。
兵力はおよそ4万。敵竜騎士も一部がそこに存在、残り大半は森などに隠れているようです。以上。」
そして哨戒機からの連絡が入り、艦橋はにわかに活気付いた。

751F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:28 ID:kHqoVL5Q
「上陸際を叩かないのは余り海の戦闘を経験していないからですかな?」
「美学を求めた玉砕体制か?それとも…。」
しかし隊員の一人の呟いた気楽な一言とは逆に赤羽の表情は険しかった。
「上陸地点および敵拠点の爆撃を指示する。同時に東部艦隊は上陸用意、爆撃後拠点制圧に向かえ。」
そして意を決し彼は言った。
艦橋の人間誰もが赤羽を振り返る。
今の彼の言葉は警察予備隊時代から約50年にわたる自衛隊の歴史の中、
初めて、自ら積極的に相手を攻撃することを命令する物であったのだ。
しかし、艦橋の人間に対し、現場、空自の返答は落ち着き払った物だった。
「集合した敵歩兵にも爆撃を仕掛けられますが。」
至極当然のように返された言葉に赤羽は満足そうに口の端に笑みを浮かべた。
「いや、それは禁止する。敵兵の大半は地元民だ、なるべく殺傷は避けるように。
爆撃終了後は森林部に隠れている敵竜騎士をあぶり出して貰うが、その時はおって指示する。」
そう、これはあくまでも解放のための行動であって、戦争ではない。
解放する対象の現地民を傷つけるのならそれは戦争になってしまう――――
赤羽はその歯がゆさに頭の中で一人ぼやいた。
「了解。爆撃、三十分後に開始します。」
そして空自の隊員の明瞭な返答に赤羽は現実へと引き戻れた。

752F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:28 ID:kHqoVL5Q
「―――島内協力者オザル氏から無線です。」
「よし。」
――赤羽殿ですか!?――
「はい。そちらの状況を教えてくださいませんか?」
――はい、今、我々は島内の森に潜伏しています。
けれども今日は毎日あるはずのレジスタンス討伐も無い上、敵全軍が島南の平野部に集結しとります。――
そんなことは知っている、これでは無線機を貸した意味が無い。
「敵はこちらの行動を事前に察知していたようですが、心当たりはありませんか?」
――いえ、ありません。――
「そちらのグループ内での裏切りの可能性は?」
――そんな訳ありません!我々はこの島の人間のために命をかけているのです!――
「…それは失礼。それでは我々は約2時間後に上陸を開始します。
上陸地点に展開が終了したら現地徴収兵と接触を取ってください。
約四万の大群ですから、紛れるのは簡単でしょう。」
「当然です、今の拠点は敵にばれておりませんし、敵集合地点にも近いですから。」
「期待しています。」
それに万一説得に失敗したとしても、敵が密集しているのならばこちらの兵器を持ってすれば殲滅することは容易い。
当然、最後の、そして禁断の手段ではあるが。

753F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:30 ID:kHqoVL5Q
輸送艦「おおすみ」内。
青島達は南部からの上陸部隊としてそこに居た。
「俺達の任務は、セフェティナさんの護衛だ。
彼女の任務は魔法の感知、つまりかなり前線まで出ることになる。
多少危険ではある、だが、この任務を失敗することは許されない。」
青島は小隊の面々を前にして言った。
その表情にはいつもの大人しい、気弱そうな色は全くなく、
軍人として、指揮官としての厳しい顔がそこにあった。
部隊の面々もまた天野の居ない初めての任務に多少なりとも不安そうな表情を隠せないで居た。
「これに失敗するということはセフェティナさんを、日本の大切な協力者を失うと言うことだ。」
その他人行儀な彼の言葉にセフェティナは一瞬悲しそうな顔を見せる、
そのことに気付いたのか佐藤は青島に対し、不満そうな目を向けた。
そして青島はそれに全く気付いては居なかったが、その厳しい表情を和らげ、言った。
「そしてなにより、セフェティナは俺達の大切な仲間だ。
仲間は絶対に守る、それが俺達自衛隊の鉄則だ。各自の健闘に期待する!」
「おお!」
彼の言葉に面々も緊張が解けたのか、大きな叫び声を出した。
それを嬉しそうに見つめると青島はセフェティナに向かって笑いかけた。
「仲…間。」
セフェティナは呟くと青島の笑みに気付き、目一杯の笑顔を彼に向けた。
佐藤はそれを見て満足そうに笑った。

754F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:32 ID:kHqoVL5Q
投下終了しました。
うーん、当初のプロットに無い章のせいか、少し読みにくい文章になっているかも。
要精進。


それではご意見、ご感想、お待ちしております。

755F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/04(木) 22:34 ID:kHqoVL5Q
追伸:S・Fさん、アドバイス有難うございました。

756名無し三等兵@F世界:2004/11/05(金) 02:36 ID:xZKpuiVw
ご苦労様でした。
さてさて敵がどんな策を考えてるのかが気になりますな。

757名無し三等兵@F世界:2004/11/05(金) 08:56 ID:xoXBFajg
敵の目的はゲリラ戦に持ち込むことか?

758名無し三等兵@F世界:2004/11/06(土) 00:36 ID:cA9rfCDo
F猿さんの心情読みました・・・・辛かったですね。
挫折しないで自分の信じた道を進んでください。
応援していますので。

759F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/06(土) 21:11 ID:kHqoVL5Q
つたない図解を。
_______________________
|           | ◎…赤羽艦「ちょうかい」
|      木木木木 |     ○…自衛隊部隊
|           |     ●…敵軍
|      ▲    |     ■…敵拠点
|      ▲▲    | ←○  ▲…山 東北部にある三つ重なっているのは鉱山
| 木▲  ■      | ←○  □…レジスタンス拠点
| 木木    木木木 | 木…森林部
|    ●●● 木□木 |
|       木木木 |
|     平  木木木 |
| 木木  野   木木 |
| 木木    木木木 |
|___________|


     ↑↑↑
      ○  
○◎○

760F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/06(土) 21:26 ID:kHqoVL5Q
失敗、自分でこんな簡単な物を作ってみて、初めて普段目にしているAAの奥深さを知る…。

つたない図解を。
――――――――――――
|...........|・・  ◎…赤羽艦「ちょうかい」
|......木木木木.|・・  ○…自衛隊部隊
|...........|・・  ●…敵軍
|......▲....|・・  ■…敵拠点
|.....▲▲....|・←○ ▲…山 東北部にある三つ重なっているのは鉱山
|.木▲.■......|・←○ □…レジスタンス拠点
|.木木....木木木.|・・
|...●●●.木□木.|・・
|.......木木木.|・・
|....平..木木木.|・・
|.木木.野..木木..|・・
|.木木....木木木.|・・
|...........|・・
――――――――――――・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・↑↑↑・・・・・・
・・・・・・○・・・・・・・  
・・・・・○◎○・・・・・・

761F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/06(土) 21:27 ID:kHqoVL5Q
・・・すいません、自分にはAAは無理だった様です。

762F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/06(土) 21:36 ID:kHqoVL5Q
最後の挑戦。これでダメなら二度と図には手を出しません

――――――――――――
|......................|・・    ◎…赤羽艦「ちょうかい」
|............木木木木.|・・    ○…自衛隊部隊
|......................|・・    ●…敵軍
|............▲.......|・・    ■…敵拠点
|............▲▲......|・←○   ▲…山 東北部にある三つ重なっているのは鉱山
|.木▲.....■..........|・←○   □…レジスタンス拠点
|...木木........木木木.|・・
|........●●●.木□木.|・・
|...............木木木.|・・
|..........平...木木木.|・・
|...木木...野....木木..|・・
|...木木........木木木.|・・
|......................|・・
―――――――――――― ・・

↑↑
○ 
○◎○

763F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/06(土) 21:36 ID:kHqoVL5Q
orz

764名無し三等陸士@F世界:2004/11/06(土) 22:29 ID:KrRd5jb.
偵察機ではない哨戒機がどうやって地上の人数を調べたのだろう。
森林部に隠れている敵竜騎士はどうやって発見したのだろうか。
写真撮影したとして、台湾の半分に相当する膨大な面積を短時間で分析出来るものだろうか。
日本軍がジャングルに潜んで戦った南方で、米軍は、水汲み場、炊事・炊飯場、そしてトイレと思しき物を
空中写真で探して残存兵力の推定をしたそうだが、自衛隊にそんなノウハウはあるのだろうか。

765名無し三等陸士@F世界:2004/11/07(日) 00:52 ID:BAvC//hM
ではないですけど…適当にズレをなくしてみました。

┌―――――――――――┐
│........................|・・  ◎…赤羽艦「ちょうかい」
│......木木木木..........|・・  ○…自衛隊部隊
│........................|・・  ●…敵軍
│......▲..........|・・  ■…敵拠点
│.....▲▲...................|・←○ ▲…山 東北部にある三つ重なっているのは鉱山
│.木▲....■...........|・←○ □…レジスタンス拠点
│.木木....木木木...........|・・
│.........●●●.木□木......|・・
│..........木木木......|・・
│.......平..木木木.......|・・
│.木木.野..木木............|・・
│.木木.......木木木........|・・
│........................|・・
└―――――――――――┘・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・↑↑↑・・・・・・
・・・・・・○・・・・・・・  
・・・・・○◎○・・・・・・

766F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:01 ID:kHqoVL5Q
>764さん
哨戒機じゃなくて偵察機と訂正します・・・。

>765さん
おお!有難うございます!
はい、敵拠点と鉱山がもう少し右にずれますが大体こんな感じです。


それでは遅れましてスミマセン。投下を開始します

767F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:01 ID:kHqoVL5Q
「聞いてくれーっ!」
カリヴァン軍陣地、多くの奴隷兵が宿営しているこの地を一人馬に乗って駆ける男がいた。
ほぼ強制的に徴用された奴隷兵の多くはこの戦争に勝てば待遇を良くすると言う言葉のみを信じてこの場所にいた。
彼らにはもはや解放と言う言葉はほとんど消えてなくなっていたのだった。
そんなもはや火の消えた炭のようになった彼らの間を男は走りながら叫んだ。
ある程度の人数がこちらに興味を示したことと、警備の目がこちらに来ていないことを確認する素振りを見せてから男は再び叫びだした。
「聞いてくれっ!俺達はもうすぐ解放されるぞ!自由になれるんだ!」
男はただ叫んだ。
聞いていた人間達の内一部が目を剥いた。その他は何を馬鹿な、という目で男を見ていたが。
「何を言っているんだ、そんなことを言っていたら捕まるぞ。」
兵の一人の忠告など何処吹く風、男はまだ叫び続けた。
「日本という島が俺達と同じように召還されたんだ!
その日本という国がアジェントと同じくらい強いらしくて、俺達を助けてくれるって言うんだ!」
「お前・・・レジスタンスか!それは本当なのか!?」
目を剥いたうち一人が身を乗り出して言う、最初は関心を示さなかった兵達も皆関心を示し始めていた。
「こんな嘘をつくわけ無いだろ!俺達は助かるんだ!」
どうやら嘘ではないらしい、そう判断したその場の兵達は歓声を上げた。
「おーっ!ならこれを他の奴らにも知らせてやらなきゃな!」
「ああ、そうしてくれ・・・。」
男はゼイゼイと息をつきながら答えた。
悲報にしろ朗報にしろ驚異的な報せと言う物はすぐに広まる、
この時も例外ではなくこの報せは兵達に瞬く間に広まった。奴隷兵達は浮付きだした。
カリヴァンの兵達に従うものか、という空気が流れ出したのである。

768F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:01 ID:kHqoVL5Q
オザルは心が躍っていた。
昔、自分達は鉄を掘り出し、都に送り、鉄を掘り出し、都に船を出す。
そんな気楽な生活を送っていた。
しかし、そんな日々は4年前のあの日、一瞬にして破壊されたのだった。
急に水平線にぼんやりと見えていた本土は消え去り、代わりに巨大な船がやってきた。
船の主達は巨大な炎や氷、空を飛ぶ巨大なトカゲを使い、自分達を容易く支配した。
村の人間…子どもは奴隷として連れて行かれ、男は鉄山での厳しい強制労働をさせられたのである。
唯一幸いなのは向こうが騎士道などと言って女達に手を出さないことであったが、
しかしその女達も貧しさで幸せとはとても言えなかった。
その後自分は何人もの仲間を集め、支配に反抗する組織を作った。
しかし、それでは奴らを島から追い出すには力が全く足りなかったのだ。
そして毎日のようにあるレジスタンス掃討によって仲間は段々と減っていった。
もはやこれまで、そう思った時であった。
追い詰められて海に飛びこんだはずの仲間を連れ、空を飛ぶ鉄の箱に乗った救世主が現れたのは。

769F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:02 ID:kHqoVL5Q
「我々は耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで来た。だが、それももう終わりだ。
さあ、後は無理やり兵士にさせられている同胞を説得しに行くだけだ!」
「おーっ!」
オザルが手を振り上げるとレジスタンスのメンバー達が一斉に腕を振り上げ、歓声を上げた。
メンバーには年老いた老人も、うら若い女性も、まだ若すぎる子供も多く混じっていた。
彼らに平和を味わってもらうためだからこそ、今日まで私は耐えてこれたのだろう。
「解放はもう、すぐそこだ!」
「おーっ!」
逸る心を抑え、私は剣を手にとった。
他のレジスタンスのメンバー達もそれに習う。後は一路西に向かい、向こうの士官の目を盗み、
同胞達に蜂起するよう説得するだけである。
元々圧倒的な人数差がある、それでも逆らえなかったのは相手アジェント本国の恐怖があったからだ、
しかし、今はアジェントの脅威から守ってくれる力がある。日本が居る。
「リーダー、早く行きましょう!」
「ああ!」
爛々と目を輝かせる仲間達を見て、私はもう一度剣を掲げた。
「さあ、いく――――――」
何故か、声が、出ない。眼前に居る仲間達が呆然とした目で私を見ていた。
手は剣を握っていられなくなり、剣はカランと乾いた音を立て床に落ちる。
そしてその剣が、私から噴き出す赤い液体で濡れていくのを見て、私はようやく状況を理 解―――。

770F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:03 ID:kHqoVL5Q
「う、うわああああああ!」
私が次に見たのは今までの自分達のリーダーの血を浴びて、我先にと逃げていくレジスタンス達の姿であった。
醜い。いや、人間である以上、命の危険を感じれば逃げるのが普通なのかもしれない。
しかし、私の手はその背中を見せて懸命に走る人間達の生命を奪うことを全く躊躇しなかった。
篭手を纏った右掌の上に黒い石ころのような物体を大量に作り出す。
そして、それは私の意志一つでレジスタンスに飛んで行き、その身体を砕いた。
魔法で作られた黒い石ころはカリヴァンの騎士道を嘲笑う様に男も、女も、老人も、子供も、
分け隔てることなく平等にその頭を砕き、足を吹き飛ばし、胸をえぐり、その命を奪い取っていった。
「すまない…。」
そう呟き次の魔法を唱え始める。人を殺すことに何の躊躇いを抱かないわけではない。
ただ私にはそれ以上に優先すべきことがあった。
「まさか、お前達の拠点を我々が掴んでいないとでも思ったか?」
傍らでは返り血を浴びながらロンがそう冷たい声で言い放っていた。
魔法の腕ならば私を遥かに上回るこの男、この男に殺されたほうが私に殺されるより余程楽であろう。
この地獄絵図は、レジスタンスを皆殺しにするまで、数分ほど続いた。

771F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:03 ID:kHqoVL5Q
「あ…あ…。」
ことが片付き、後ろにいる「裏切り者」に目をやる。
目先の欲につられ、レジスタンスを裏切った男、この男は今、目の前の光景が自分のせいで作られたことに、そのしたことの重大さに今ようやく気が付いているのだろう。
ただ、口を開け、ボロボロと涙を流しながら虚ろな目で震えるばかりであった。
「死にたいか?」
「・・・?」
私が言うと、男は虚ろな目でこちらを見た。そしてしばらく何かを言いたそうに口を動かす。
そしてそれも終えると、男はコクリと頷いた。
私はそれを見届けると剣を振り上げた。
私の鎧についた返り血のシミは、また一段と増えていた。
レジスタンス。彼らもまた、自分の守りたかった物を必死に守ろうとした人間だったのだろう。
そして私はそれを奇襲し、女子供問わず皆殺しにした。
「だが…これも私の騎士道だ。」
誰に聞かせるわけでもなく呟いて、私は鎧を外した。

772F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:04 ID:kHqoVL5Q
先程まで散々叫んでいた男は、今、カリヴァンの兵たちに囲まれていた。
しかし、その待遇は反乱者としてではなく、
「おつかれだったな。」
「ああ・・・。」
彼らの同胞として、男は迎え入れられていた。
「だが・・・、あんな事を広めてよかったのか?今奴等は俺達に氾濫を起こさんばかりの状況だが…。」
「ああ。それがアーガス様の命令だからな。あの方の計画にミスは無いさ。さあ飲め、最期の酒だ。」
「ああ、有難うよ。」
レジスタンスの格好をした男と兵はお互いグラスを掲げた。
グラスからこぼれた濁った酒が兵舎の床の土を濡らした。

773F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:08 ID:kHqoVL5Q
投下終っす。
座談会
青島「なんで最近この会が開かれてなかったんだ?」
加藤「どうもこの会、あなたが出ているかどうかで決められているみたいね、
   あなたが余りにも存在感が無いと忘れられないために出される、と。」
青島「・・・ひどくないか、それ。主人公なんだからもっと本編で目立たせようとかさ・・・。」
加藤「私としてはもっと赤羽司令を目立たせて・・・。」
青島「あの人はもう十分目立ってるじゃないか・・・。」
アルクアイ「それで、私がここに出ることとなったわけだ。」
ファンナ「私はアルクアイと一緒にいられるなら何処でも良いもん。」
アルクアイ「・・・。」

774F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/09(火) 21:24 ID:kHqoVL5Q
本スレで世界設定用テンプレの話題が出たので、それを流用させて貰って作ってみました。

魔法はどのようなものか?
 呪文を唱えれば誰でも使える。知力ベース。
 身体的(遺伝的)素質による。ESPなど。精神力ベース。

魔法を使える人口は?
 要求される知識により、多い/少ないが決定する。

魔法の仕組み
 魔法を使えるための物理体系が存在する。魔法⊂物理

体系化可能か?
 数学、論理学などを道具として体系化可能。

宗教の形態 (というより宗教はヨーロッパ中世〜のキリスト教と思ってくれて良いです)
 唯一神教(他の神々の存在を認めない。イスラム、ユダヤ、キリスト教など)

宗教の性質
 神の教えが絶対。それ以外の考えは間違い。(これで疑いを持つことも禁止されたらカルト宗教)

宗教VS科学
 科学異端説(神の教えに背く説は異端審問にかけて排除)

宗教VS魔法
 魔法と宗教は関係ない

宗教形態の移り変わり
 拝一神教→他の神々の信者を駆逐→唯一神教

775F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 20:58 ID:kHqoVL5Q
大分盛り上がってきて、嬉しいばかりです。
それでは勢いに乗って投下。

776F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 20:59 ID:kHqoVL5Q
三介島、カリヴァン軍拠点上空。
そこには人類の知恵と技術の結晶である鉄の塊が風を砕き戦慄いていた。
自衛隊最強たる戦闘機、F−15。エンジン出力10万馬力、これは自衛隊の艦船でもそうは無い程の出力である。
これだけでも、戦闘機という物がどれほどの物であるかが分かるであろう。
「まさか実戦を経験することになるとはなぁっ!」
そのパイロットの一人春間は興奮を抑えきれないでいた。
風が、スピードが、全てが彼を酔わせていた。
アドレナリンが分泌されている、と言うのはこういう状態を言うのだろうか、
春間は段々と五感が覚醒していく感覚に陶酔し始めていた。
「落ち着け春間ぁっ!俺達の任務はF−1、F−2達の護衛だろうがっ!」
「分かってるよ隊長!」
二機編隊ではあるが隊長の梶野に春野は叫んだ。
「後三分で目標上空に着く!我々の任務は敵竜騎士の撃破だ!」
「ははは竜騎士っすか!前は味元の持ってるゲームを『こんなもん』で済ませてたくせに!」
「はん!実物が目の前にいる以上は仕方が無いだろう!」
春間は梶野に軽口を叩くとレーダーを見た。反応は、無い。
「・・・確か偵察では拠点に竜騎士はいなかったんだよな?ちっ・・・臆病もん共が。」
春野はまだ見ぬ敵を思って舌なめずりをした。

777F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 20:59 ID:kHqoVL5Q
「爆撃、開始します。」
F−2の操縦士の無機質な言葉の後、バラバラと爆弾が地上に向かってばら撒かれる。
そしてそれらは地上に落ちるか落ちないか、炎の花を咲かせた。
偵察の報告ではここに兵力はいない、つまりこれはただ後の拠点制圧を楽にするためだけの任務である。
「つまんねえっ!」
春間は無線を塞いで言った。こんなことを梶野に聞かれれば八つ裂きでは済まない。
するとその春間の悪態を聞いたかのように下方レーダーが反応を示した。
「さすがF−15、下方レーダーには自信ありってか?思ったより役に立つじゃねえか。」
どんどん高度を上げている以上、相手は竜騎士である。
「春間ぁ!あんな垂直上昇が出来るのは竜騎士しかいない、気をつけろっ!」
「わかってらぁ!けっ、偵察の野郎共、いい加減な報告しやがって、だが…そう来なくっちゃなぁ!」
春間は身震いした。
相手竜騎士は5騎。たった五機で何をしようというのか、だが春間にとってそんなことは関係なかった。
「俺の機が一番近い・・・!よぉし、世界で一番最初に竜騎士と戦った男はこの俺だっ!」
「春間っ!」
春間は一気に高度を落とした、梶野も慌ててそれに合わせる。
その他の機も、竜騎士を確認し、急速に迎撃に向かった。

778F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 20:59 ID:kHqoVL5Q
「くっ!異邦人共め!好き放題やってくれおって。」
この五機の竜騎士、元より勝てる見込みで隠れるのを止め離陸したのではない。
病人、怪我人、何も知らされていない、拠点で使用している奴隷など、
拠点に残らざるを得なかった人間達へのカリヴァン騎士としてのせめてもの誠意であった。
つまり、無駄死にを最初から予定された男達であった。
「一機でも多く、道連れにしてやろう!」
竜騎士は竜を飛び立たせた。
上空の鉄の鳥を見る。何故鉄が飛ぶのかは分からない。だが、彼に分かるのはそれが敵だと言うことだけであった。
そして彼は春間の乗る鉄の鳥に向け炎を吐かせ、自分もまた呪文を唱え始めた。

「ハハハハハハァっ!」
こんなもの相手にミサイルなど必要ない。俺は竜騎士に突進するかのように機体を動かした。
視認距離に入ると同時に竜から炎が放たれる、それを見て俺は何故か口許が歪んだ。
向こうはこちらよりも目が良い。炎もこちらの20mmバルカン砲よりは射程があるらしい、だが。
「そんなんマッハの速度相手に効くかよぉっ!」
バルカン砲の雨を浴びせかけながら急速に機体を曲げた。
竜も距離が遠かったせいか弾の雨をかわす。スピードはこちらの方が遥かに速い。
しかしどうやら小回りならばこちらと互角かそれ以上のものは持っているらしい。
と同時に「レーダーに映らない何か」がこちらに向かってきているのを感じ、俺は慌てて機体を傾けた。
黒い塊。機体を破壊する威力があるかどうかは分からないが受けないに越したことは無い。
避けきった直後別の竜がこちらに炎を浴びせかけてくる。

779F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 21:00 ID:kHqoVL5Q
「どうせくるんなら同時に撃ちなっ!後ろを見てみろ!」
俺がそう言うと同時に竜は梶野のバルカンを真後ろから受け、吹き飛んだ。
レーダーが無いって言うのは不便なことだな、と同情する。
「春間ぁっ!油断せんことだな!」
「隊長!今のは計算済みの行動だっつの!」
今のを含めればもうすでに三機、こちらが向こうを屠っている。だが、まだ俺は撃墜ゼロ。
俺は迷わず先程の竜に狙いを定めた。向こうは小回りを生かしグニャグニャと飛行しながら炎と魔法を浴びせかけてくる。
「教導隊の鬼どもに比べればてめえらなんて屁でもねえんだよ!」
俺はそれを紙一重で避け、20ミリバルカン砲を叩き込んだ。
弾はワイバーンの頭と騎士を砕き、俺に勝利を確信させた。
「スプラアァッシュ!一機撃墜!」
春間は同時に次の獲物を求めレーダーを見た、しかしそれはもう敵機は存在しないことを示していた。

780F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 21:00 ID:kHqoVL5Q
東部隊が上陸して送れること数時間、俺達南部上陸隊も上陸した。
なんでも空自を使った支援爆撃が行われたらしいが、詳しい状況は分からなかった。
まあ、こちら側に怪我人は出ていない、というのだから良いのだろう。
そして現在俺達は平野部の南部に陣を設営している。
なんと言ったら良いのか、近くの村の人々は俺達を出迎えるでもなく、敵意を見せるでもなく淡々としていたのだ。
もはや外から蹂躙されるのに慣れてしまったのかもしれない。
ともかく、村の人々の中に魔道士がいないかどうか(篭手を装備していないかどうか)を調べ、
その後すぐに陣地設営の片手間に食料の配給、怪我人の治療が始まった。
そもそも俺達自衛隊はそちらのほうが得意なのである。随分変わった軍隊だと我ながら思うが。
「村田さん。」
「どうした、隊長。」
それらを指揮していると、まだ若いうちの隊長がこちらに声をかけた。
「少し、会議があるようなので、こちらの指揮をお願いします。」
「ああ、わかった。」
我が隊長、青島二尉。若い、と言ったが彼はなかなかの男である。
最初はなよなよしているかとも思ったが、こちらの世界に来てからというもの、随分と風格が出てきたようにさえ見える。
クイ、クイ。
そんなことを考えていると誰かが服のすそを引っ張っていた。
見下ろすと、そこにはまだ6,7歳くらいの少女が居た。ボロボロの服を着ている、現地の子供だろう。
「ありがとお。」
たどたどしい言葉で彼女は礼を言い、頭をペコリと下げた。
どうやら召還された者同士でも言葉は通じるらしい。
「どういたしまして。」
俺はしゃがみ少女と目線を合わせると言って、飴玉を一個彼女にやった。
本当ならば頭の一つでも撫でてやりたい所であったが、どんな宗教があるか分からない、それは自粛した。
なんでも子供の頭の上には神が宿るとか考えている宗教もあるらしい、要人に越したことは無い。
彼女は最初は何か判らないようではあったが、飴玉を舐めるとニコリと笑い、再びペコリと頭を下げ、走っていった。
「…血に汚れちまったこの手でも、人を喜ばせることは出来るのかもナァ?真由美?」
俺はふと郷愁に駆られ、恋人の名を口にした。

781F猿 </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/10(水) 21:02 ID:kHqoVL5Q
連投スンマセン。投下終了!
777ゲトー!

多分こんな喧しい空自隊員は居ません。



それではご意見、ご感想、お待ちしております。

782名無し三等兵@F世界:2004/11/11(木) 05:10 ID:NpreS41c
もの凄くパイロットに違和感がありますが。
上官に暴言使ってるし・・・。
書き直したほうがいいんじゃないかと思ったりして。

783名無し三等兵@F世界:2004/11/11(木) 13:15 ID:iL.pSpSw
現実にはいないな。いたらすんごく嫌。いてもあんな言葉だったら修正されそうに一票

784名無し三等陸士@F世界:2004/11/12(金) 20:10 ID:hGR56Y6g
悪いけどこれを連想した。

693&nbsp;名前:&nbsp;名無し三等兵&nbsp;[sage]&nbsp;投稿日:&nbsp;04/11/08&nbsp;11:16:22&nbsp;ID:???
米田といえば、立ち読みで「ほうしょう」をぱらぱらを眺めてたとき、中国軍機vs空自機の&nbsp;
空戦があまりにすごかった。無言で本を棚に戻したよ。&nbsp;
頭文字Dでの勝負での独白を、さらに恥ずかしい説明調として、しかもそれを台詞として&nbsp;
喚きながら数ページにわたりドグファイトをする、という感じだ。&nbsp;
あれを読んでから、彼に何かを期待するのは、止めた。&nbsp;

694&nbsp;名前:&nbsp;名無し三等兵&nbsp;[sage]&nbsp;投稿日:&nbsp;04/11/08&nbsp;11:29:09&nbsp;ID:???
>>693&nbsp;
まさか、アニメみたいに戦闘しながらしゃべりまくるのですか?&nbsp;

695&nbsp;名前:&nbsp;名無し三等兵&nbsp;[sage]&nbsp;投稿日:&nbsp;04/11/08&nbsp;12:42:03&nbsp;ID:???
>>694&nbsp;
そのまさかだ。自衛隊側には台詞がなかったと思う。&nbsp;
つまり中国人が一人でコクピットのなかで叫びながら(ry&nbsp;
うろ覚えのキーワードでぐぐったらヲチスレしかヒットしなかったが、こんなんだ。&nbsp;
>「見えた!」&nbsp;
>「フランカーのすごさだけじゃなく、俺のすごさ&nbsp;
>を見せてやるぜ」&nbsp;
>「<パワーフランカー>の名『海鷹−12』の鷹は&nbsp;
>空を支配する絶対不敗の鷹だ!」&nbsp;
>「サトゥルンエンジンの咆哮を聞け!世界最強&nbsp;
>の戦闘機エンジンはダテじゃねーんだよ!TV&nbsp;
>ノズルで姿勢制限もないぜ!」&nbsp;
>「それで勝てたと思うなよ!クルビットまでで&nbsp;
>きるスホーイ設計局のフライバイワイヤコントロ&nbsp;
>ールコードは最強だ!」&nbsp;
>「後ろに回ったところで負けはしない!<パワー&nbsp;
>フランカー>は後方にミサイルを発射できるん&nbsp;
>だ!後方警戒レーダーでどの方向にも攻撃でき&nbsp;
>る!」&nbsp;

785名無し三等兵@F世界:2004/11/13(土) 03:33 ID:Zkp4sR.w
本家でB-52の話が投下されたがこの世界にもあるのかと言ってみる

786F猿(バカ) </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/13(土) 18:21 ID:kHqoVL5Q
・・・書くのが楽なアニメ、マンガ調でやってみたんですが、どうもダメみたいですね。
というよりもそれじゃラノベ以下か。
それ以前に戦争モードになってからどんどんつまらなくなっているし、
戦記に手を出したのは軽はずみでした、スンマセン。
近代戦闘描写は難しい。初心者では
リアル思考でいけば淡々としてしまう、演出重視でいけば今のような惨状。

・・・回線切って吊って来ます。

787名無し三等陸士@F世界:2004/11/13(土) 20:17 ID:hf0oTb5s
>>786
最初から上手い人など居ないので、
そう気を落とさずに。

788名無し三等兵@F世界:2004/11/13(土) 20:24 ID:/EGi1rQM
今回の事を教訓にして頑張って

789名無し三等陸士@F世界:2004/11/14(日) 23:57 ID:hh.KWidg
リアルではそっけないセリフしか吐かなくても『心の声』ではDQNなセリフ飛ばしまくり、
というのは大いにありえるでは?
それとか春間一人だけやばくて、ほかはみんなまともで、当然ヤシが被撃墜第1号候補とか、
そういうのは常道だと思うが。

悪目立ちする奴が率先して墜ちるのはトミノ作品では常識だし(w

790名無し三等陸士@F世界:2004/11/15(月) 00:34 ID:Wx09nn3A
その前にリアリティの欠片も無い描写を改善しないとな。
>俺はそれを紙一重で避け、20ミリバルカン砲を叩き込んだ。
>弾はワイバーンの頭と騎士を砕き、俺に勝利を確信させた。
音速の戦闘機が回避運動の直後に索敵照準発射命中確認するなんてありえんて。
散布界の広いバルカンの弾がワイバーンの頭と騎士に直撃なんて嘘臭いにも程がある。
なんにもわかっていない素人の脳内妄想の垂れ流しにしか見えん。
みんな気を遣って指摘していないけどな。だから感想のレスがつかない。

791名無し三等陸士@F世界:2004/11/15(月) 22:52 ID:vy075B3U
なかなか辛辣な意見がでましたな。確かにリアリティな描写というのも必要でしょう。
もっともそれと物語とを両立させるとなると、ううむ。難しいですね。
F猿さん、めげずに頑張ってください。

792F猿(バカ) </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/17(水) 01:08 ID:kHqoVL5Q
>>790さん的確な意見有難うございます。
>なんにもわかっていない素人の脳内妄想の垂れ流しにしか見えん。
はい、その通りです。
私は何にも分かっていない素人というより、軍事の知識はゼロ。軍板住人ですらありませんから。
その状態で戦記というジャンルに手を出したのでこの有様になってしまったので・・・。

そして知識がほとんど無い以上、今後も最低限の戦闘描写すら恐らく自分には無理です。
さらに残念ながら軍事について一から学ぶほどの時間がありません。
そうなるとこれからの物は
・戦闘描写をなるべく避ける。(実際の戦闘は大幅カット。)
・F世界側からの描写のみにして、具体的な描写を避ける。
・一兵士のみにスポットを当て、感情描写を主にする。(大局的な戦闘は描かない。)
のどれかを選ばなければなりませんが、軍板スレの分家であるここにそんな物を書き込むのは失礼に当たるので・・・。

難しい。何にしろ物語を書くときに一番必要なのは教養であるという言葉が身に染みました。

793名無し三等陸士@F世界:2004/11/17(水) 21:38 ID:RhjmNNZ.
ttp://www.warbirds.jp/ansqn/
ここなど参考資料になるとおもいます

794名無し三等陸士@F世界:2004/11/17(水) 23:05 ID:QpUWFDMM
しかし、本職と違って学業や仕事の合間を縫って書いてるのだから知識が正確でなくても
しかたないと言えばしかたない。書きたい気持ちがあるうちに書くほうがよし。

795いつかの228:2004/11/17(水) 23:17 ID:YTXs2fwM
>>792
めげずにがんがりましょう。自分もWW2の電撃戦の観念論をかじった程度で、あとは独学です。
自分で書いていて思うんですが、1人称で書くとある程度世界が限定されるのでごまかしはきき易い感じがします。
まあ、小松左京先生の作品のように異常に知識あふれる1人称もいますがねw

796F猿(バカ) </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/17(水) 23:37 ID:kHqoVL5Q
とりあえず2.5章打ち切って萌えSSスレで息抜き編の三章でも書こうかな・・・。
いや、萌えを表現できるのかと言われればそちら方面には疎いんですけれども。

797S・F </b><font color=#FF0000>(7jLusqrY)</font><b>:2004/11/17(水) 23:45 ID:MSZ8PKC.
>>792F猿氏も大変ですね。自分も恐ろしいまでに知識がなくて、もう書いていて
どうしようかと考えては、検索したり質問サイトに行ってみたりもしています。

少し思う事としては、戦術や戦略に付いて学ぶのがいいかもしれません。兵器の
名前やスペックは、あとから付いてくるのが大原則ですから。(当たり前か)

ああ、時間がどろどろ溶けていく・・・もっと時間が欲しい!勉強がー勉強がー
学業がおろそかになっても意味がないので、勉強が最優先でしかるべきですよね
(と自分に言い聞かせてみます)

798いつかの228:2004/11/18(木) 00:49 ID:YTXs2fwM
同感!時間が欲しい!
外回りの仕事で顧客との約束の時間まで暇があれば営業車で文庫を読んだりしてます。
でも時間がないから集中できないんですよねw
学生の頃はそんな時間をアフォの様にファミコンしていたのがもったいないと感じるようになったです
まあ、そうめげないでお互いがんばりましょう

799F猿(バカ) </b><font color=#FF0000>(BfxcIQ32)</font><b>:2004/11/18(木) 23:29 ID:kHqoVL5Q
皆さん多謝です。
勉強最優先にすると何処までも時間が足りなくなって・・・。
と、愚痴を言うのもここまでにします、お騒がせしてスミマセンでした。

とりあえず、読者の方々が良いというのなら息抜き編の三章を書いてみたいのですが、
恐らく戦争の描写はほとんど無いラノベノリの物になると思いますが、それでも良いでしょうか。

800名無し三等兵@F世界:2004/11/19(金) 00:12 ID:hCNTOmLY
どうぞどうぞ、是非とも書いてください。
ビキニ鎧といったセックスアピールの高い女性衣装を着るセフェティナたんも見てみたいし。
停戦期の間のバルトの日本に対する動向、軽空母の艦載機の訓練風景などいろいろなシーンを期待してますので☆

801名無し三等陸士@F世界:2004/11/20(土) 08:40 ID:vy075B3U
本編では省略されていましたけど、セフェティナ嬢が日本にやって来た時の
カルチャーショックの数々を(この際コメディータッチで)見てみたいような。

802名無し三等陸士@F世界:2004/11/21(日) 22:35 ID:H/vI5FgI
アシェナ聖教が禁止している機械はどんな物を言うんだろうね。粉挽き水車とかも含むんだろうか。
アシェナ聖教の禁忌を犯してしまったセフェティナは神の庇護も失って、生きる道標を失ったわけだよ。
そこで「ああ、神の名を呼ぶことすら許されない私はこれからどう生きればいいのでしょう。」
あるいは「神の教えに背くことは出来ません!」
とかって、汎用性の高いラノベ級魔法を駆使してなんでも自分でやってしまうんだろうか。
ぬくぬくと機械の恩恵を受けて女神への信仰を維持できるほど図太い神経ではなさそうだし。
これも一種のカルチャーショックだよね。
神罰代行機関として教会の特別兵がいたけど、アシェナ聖教の禁忌を犯してしまったセフェティナを殺しに来ることはないのだろうか。

803名無し三等陸士@F世界:2005/05/30(月) 21:45:05 ID:dT.GhyLM
鬱蒼と茂る森、俺はその大木の又にしゃがみ、茶のカモフラージュを付けた対人狙撃銃を構えた。
標的はたった一人の人間、それも馬に乗っているだけの。護衛も少数…こう言えば楽な仕事に見えるかもしれない。
だが、この仕事を困難なものにならしめているたった一つの問題、それは標的本人なのである。
トリド王国将軍マルサス=ヴァレンスタン、将軍にして魔道士。
別に珍しいことでもないが、この魔道士と呼ばれる人種、上級になるとそもそもの性能がこちらと根本的に違う。
「まぁ、どんなに弱音を吐いたところでやるしかないんだがな…。」
双眼鏡を使いもう一度獲物の場所を確認すると俺はスコープを覗いた。
「…標的900メートル、いや905メートル…。」
慎重に、しかし確実に「奴」のこめかみに狙いをつける。
俺がそのまま引き金を引こうとしたその時、男がピクリ、と体を振るわせた。
グルリ、スコープ越しに覗いていた「奴」がその眼球のみをこちらに向ける。
「…気づかれたっ!?」
小声でそう呟いた瞬間、幾筋もの緑黄色の光線が俺の居る場所を貫いた。
メキッ…、光線の一つが足場にしていた木の根元に当たったらしい、鈍い音がし、幹が揺れる。
「うっ…。」
慌てて隣の木の枝を掴み、そのままウンテイの要領でその木の裏側に周り「奴」の視界から逃れる。
「!」
赤い閃光が今度は俺の真上を貫く、首を動かさずに見ると、閃光は硬い大木の幹を半分近く抉り取っていた。
再び閃光が地面を焼く、その収束された「破壊」は今度は足元の草をきっちり一直線に焼き払っていた。
口から心臓が飛び出そうになるような緊張が体を走る。
「奴」の探知能力を考えれば物音一つ立てることは許されない。
「……。」

804名無し三等陸士@F世界:2005/05/30(月) 21:45:37 ID:dT.GhyLM
コウッ!
今度は隣の木の幹が吹き飛ぶ。
約一分間、悪夢のように長いその一分間で閃光の雨は止んだ。
もちろん、どこかに行ったわけではない。こちらの存在を探しているのだ。1キロ先から。
「一応カモフラージュはしてあるんだがな…。」
その距離故全く感じられないその存在感が逆に恐ろしい。一キロ程度「奴」にとってはなんでも無い距離なのだ。
「木の上では気づかれたか。索的距離を見誤ったな…。」
いい加減痺れてきた手を考え地面に下り、カモフラージュを付け替える。
ピリッ…。その途中に再び現れる強烈な存在感。
「…っ…まさか聞こえた…?」
必要最低限の音しかさせていないはずが、その音すら随分とお気に触るらしい、再び閃光が一本の木を貫いた。
メキメキっ…悲鳴を上げ、倒れたその木から何羽もの小鳥が飛び立つ、そして再び放たれた閃光はその小鳥のことごとくを貫いた
「…!」
俺は息を呑んだ。場合によっては俺は十秒後にでもああなっているのだ。
ボトッ…ボトボトッ…。鈍い、死骸が地面に落ちる音。
それに耳を傾けないようにして俺は地面に伏した。当然、踵まで地面につける、たとえ隊の中には居なかったとしても、基本は守る。
完全な狙撃姿勢になり、再び俺は奴の方へと銃を向けた。
先程の様な木の上と異なり、木、枝、葉、そのことごとくが弾の通路の邪魔をする。
気づいた時には上空では飛竜が飛び回っていた、モチロン探しているのだ、地上の俺を。
「木の上で意地でも勝負をつけておくべきだったか…。だがな」
索的能力、連射性、破壊力、弾数、機動性、あらゆる面で「奴」は近代兵士を上回る、持久戦になれば不利は明らかだった。
しかし。近代兵士の方が得意なものが一つある。
それは「精密性」
「とったぜ、ジェネラル。」
完全な優位というものはどんな相手にも慢心を与える。
たった一キロ程度の距離、奴の頭が見えるだけで十分だった。
一瞬の油断、奴はその姿を部下の影から覗かせた。

ダアンッ…。

俺の銃が一発の、乾いた銃声を響かせる。
それと同時に、「奴」はスコープ越しに砕けた頭を覗かせた。

805名無し三等陸士@F世界:2005/05/30(月) 21:46:11 ID:dT.GhyLM
リド国、ヴァナン国の国境の自治都市ミンノ
仕事が終わり、俺は何時も通りその酒場に居た。
「よぅ、リョー。仕事はどうだったんだい?」
「失敗してたらここにはいない。」
「ハッハッハ、そりゃそうだ!」
店主は笑いながら安酒を…それでもこの店では一番上等な物だが、をジョッキに注ぎ、俺の前にやった。
「ありがとよ。」
「ハアッハッハ!いやいや、お前とお前のお客の「口止め料」のおかげで随分と助かってんだ。」
「まあ、少なくとも儲かっている様には見えんな。」
俺はグルリと店内を見回す、普通の店なら追い出されているようなごろつき、酔っ払い、浮浪者までがたむろしている。
召喚されてから3ヶ月。俺がここの店主とした契約は「仲介業務をする代わりに報酬の10%を支払う。」というものだったのだが…
こいつらがこの店に支払う金を合計して十倍したところで俺のこの店にもたらしてきた額を超えるとは思えない。
まぁ、そういう人間しかいないからこそ、俺としても仕事に使えるのだが。

カランカラン…。
酒に口をつけようとした時、扉が開く、眼をやるとそこにはこんな酒場には明らかに場違いな格好の男が立っていた。
「ここにクマガヤリョウ殿はおられるか?」
少し緊張した面持ち、口を開くとまた場違いな訛りの無い言葉が出てくる。
羽飾りのついた帽子の生地から見ても、貴族か何かだろう。それもトリド王国の。
「リョー、お前のお客さんみたいだな。」
「…やれやれ、昨日仕事をしたばかりなんだがな。」

十分後、俺は一枚の肖像画をペラペラと目の前に揺らしていた。
今度の標的はヴァナン王国魔術師副長シムン。
どうせ今回の件の報復ということだろう。
そんなことで殺されることとなるこの男に少しばかり同情しつつ、俺は安酒を飲み干した。

806名無し三等陸士@F世界:2005/05/30(月) 23:23:13 ID:dT.GhyLM
思いついたネタをちょっと投下してみました。

807228 ◆st/L1FdKUk:2005/05/30(月) 23:49:18 ID:N8d3nhVU
乙です
空いてますんでお気に召すまま投下されてはどうでしょう
管理人氏もその辺は寛容みたいなんで

808名無し三等陸士@F世界:2005/06/02(木) 00:17:55 ID:dT.GhyLM
そうですね、気が向いたらまた投下させて頂きます。

809名無し三等陸士@F世界:2006/10/01(日) 16:41:59 ID:/eB3HxgQ
うーむ・・・。
過疎ってますね。ならばっ!
あげ。

810名無し三等陸士@F世界:2006/10/01(日) 17:51:11 ID:rCa4llHc
もう死んだスレだろここ

811名無し三等陸士@F世界:2006/10/02(月) 00:59:41 ID:ltqrOq2I
気が向いたらもなにもこれ以前どこかで投下されたssだろ。
本人?それとも・・・

812名無し三等陸士@F世界:2006/10/03(火) 02:42:41 ID:dT.GhyLM
一応私本人が書いた物なのだが・・・、マモレンジャーの前に護国ライダーって案があってその原型w

813名無し三等陸士@F世界:2006/10/03(火) 14:18:51 ID:ltqrOq2I
本人ならばばしばし続きを書いちゃってください

814F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

815F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

816F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

817F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

818F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

819名無し三等陸士@F世界:2010/03/28(日) 01:47:44 ID:BZqMD1oU
過疎ってるな
F世界猿さん戻ってこないかなあ・・・

>>790みたいな奴いなければいいのに

820F世界逝き:F世界逝き
F世界逝き

821名無し三等陸士@F世界:2010/06/08(火) 22:33:27 ID:gJ0s3Na6
>>819
>>790は行間に「再捕捉」の文字を見つけられなかったんだよ。

822名無し三等陸士@F世界:2017/02/19(日) 19:10:09 ID:XiyVDv5E0
35:54

10:40
ttps://www.youtube.com/watch?v=WTdY7h129Mk

ttps://www.youtube.com/watch?v=8R0luOy8ce8

823始末記:2017/07/09(日) 23:01:05 ID:7.L4Yce.O
では、投下やってみます

824始末記:2017/07/09(日) 23:01:59 ID:7.L4Yce.O
サミットより一ヶ月後
大陸北部天領ラゼント
トレス砦

帝国残党軍は、この放棄された砦を根拠地の一つとして抵抗活動を続けていた。
大森林に囲まれたトレス砦は、地球系多国籍軍との戦いからも破壊を免れた場所だった。
だが主力の兵員は近隣で大量発生したモンスターの退治に出撃しており、最低限の人員しか残っていなかった。

「ふわ〜・・・、暑さもだいぶおさまったな。」

見張りの兵士が欠伸をしつつ警戒に当たっているが、首に矢を射られて倒れふした。
静粛性に優れたクロスボウによる狙撃だ。
同僚が倒れたのに驚いたもう一人も複数の矢に射ぬかれて息絶える。
矢の飛んで来た方角の森林から60名ほどの軽装だか仕立てのよい甲冑を来た騎士達が姿を現す。

「目標を探せ!!
抵抗する者は斬って棄てろ!!」

砦に突入した騎士達は抵抗する兵士達と斬り結び、実力を持って命を断っていく。
砦の中には兵士達の他に近隣の村から集められた職人や工員が無抵抗で床に伏せられている。
残党軍の兵士二人を斬り捨てたレディンは、砦の中を進んでいた。

「隊長、こちらです。」

部下達に案内され、隊長であるレディンは工場で生産された品が保管された倉庫に入る。

「ふむ、これがピョートル砲か。」
「はい、油断していたいえ、日本の護衛艦に一撃与えた砲であります。
ここが帝国残党軍の武器の密造工場であることは間違いなさそうです。」

帝国軍残党が造り上げた施条後装砲ピョートル砲。
射程が3キロにも及ぶ、大陸人が使える最新鋭の大砲である。

「まあ、成果は小さな穴を僅かに開けた程度らしいが。」

射程がバレたのならさらに安全距離を広めればいいだけなので、今となっては対して意味は無い。
ただ現状の王国軍のどの砲よりも高性能なのは間違いない。
王国はここにピョートル砲の現物と生産設備とそれを造る職人や工員を手に入れたのだ。

「本隊に連絡して、ここに駐留させる部隊を入城させろ。」

レディンは王都への連絡、接収した物資、人員の目録作り、近隣に配備した部隊による帝国残党への制圧作戦を指示して回る。
近衛騎士団第10大隊隊長のレディン自らが精鋭を率いての制圧任務だ。
約千名の第10大隊の隊員から選ばれた精鋭60名は、見事に犠牲者を出さずに任務を達成して満足感を得られていた。
だが部下に呼び止められて足を止める。

「隊長、よろしいでしょうか?
設計の為と思われる部屋を発見しました。
図面とおぼしき書類を多数発見しましたが、大陸の言語では無いらしく読むことが出来ません。」

そのうちの何枚かを渡されて目を通してみる。
紙は大陸で流通している羊皮紙でなく、各領土で雇われた日本人の内政顧問が生産を奨励している植物紙だ。
冬の間や手の空いた時間に小銭を稼げる手仕事として、農民の間で流行している。
また、安価な紙の普及により読み書きや数の数え方などの教育も行われているらしい。
他ならぬレディンの実家の領内でも行われており、ついつい手触りを実家の領内で造られている物と比べてしまう。
そして、実家のより手触りがよい植物紙に書かれた文字に目をやり眉を潜める。

「日本語では無いな、確か英語とかいう言語だ。
残念ながら私にも読めぬ。」

新京の大学で留学中に勉強したレディンだが、その際に見た書物に書かれていた文字に間違いなかった。

「何者かが残党軍に技術を流出させていたのか?
ふむ、結果として我々が知ってしまったの仕方がないよな、不可抗力である。」

だが技術流出の上前を跳ねるのは、王国にとっても都合がよかった。
文字は理解できないが図面だけでもわかることがある。
生き残った者達から尋問をして、技術流出者の情報も得ないといけない。
櫓まで移動して、駐留の為の兵士達が入城してくるのを視察する。
だが轟音とともに城壁が崩れて、隠し通路と思われる内部から肌の色が黒い大男が現れる。
迷彩柄の服装は大陸の者とは違う出で立ちた。
皮膚が黒い男は体が腐っているのか悪臭がひどい。
顔も腐り崩れていて判別しずらい。
兵士達に取り囲まれるが怯む様子は見えない。

「ガ・・・ガア・・・」

声にならない声をあげた男は、体にM134 ミニガンの給弾ベルトを巻いていた。
M134 ミニガンの銃弾から毎秒百発の銃弾が発砲されて、たちまち砦に入城してきた数十人の近衛騎士や近衛兵を射ち抜いていく。
通常の騎士達や兵士達よりは固い甲冑や盾を装備した彼等だが、自慢の甲冑や盾を切り裂かれ、凪ぎ払われていく。
壁や通路に逃げ惑う近衛兵達だが、石で造られた壁ごと粉砕されて血の海を造る。

「貴様!!」

近衛騎士の一人が斬りつけて、給弾ベルトを断ち切る。
そのまま残った弾丸で蜂の巣にされるが、M134 ミニガンの弾丸が無くなり空しく回るだけになった。

825始末記:2017/07/09(日) 23:07:20 ID:7.L4Yce.O
続いて何人もの近衛騎士や近衛兵士が斬りつけ、刺し貫く。

「突き立てい!!」

とどめとばかりに槍を持った近衛兵五人が黒い大男の腹や胸に突き刺す。

「ガハッ・・・!!」

全身から腐った血を噴き出しながらもM134 ミニガンの銃身で近衛兵達を殴り倒す。

「砦の守護者か?
迂闊に近づくな、槍で突いて距離を取れ!!
銃士隊と弓矢隊が狙い射て!!」

だが駐留部隊の後列にいた銃士隊や弓隊は未だに大半が砦の外だ。
近衛騎士が装備している短銃を撃つが、アンデットナイトには効果が薄く怯む様子も見せない。

「レディン隊長、あれはアンデットナイトです!!」

櫓を移動しながら現場に向かうレディンに、従軍司祭である緑の司祭な服を纏った森と狩猟の司祭アルテナが進言してくる。

「そいつは普通のグールとどう違う!!」
「戦う『任務』を与えられ、武装しています!!」
「それは別にナイトと呼ばなくてもいいんじゃないか?
浄化しろ・・・」

アルテナが祈りの言葉を唱えるなると、緑の光が宿った矢を階段から放つ。
M134 ミニガンの銃身は、近衛騎士の固い鎧に何度も打ち据えられて、破損して役にたっていない。
アンデットナイトは倒した兵士の剣を奪って暴れまわるが、右手に矢が刺さり、傷口から緑の発光体が右腕を包む。
浄化の光で力が弱まったのか、右手は腐り落ちて剣を落としていた。

「やったか?」
「思ったより浄化の光が消えるのが早いです。
術者はかなりの遣い手です。
ですが、もう浄化の矢を3本ばかり当てれば・・・」
「待ってられんな。
撃ち方やめ、突っ込む!!」

レディンは動きが鈍くなったアンデットナイトを階段から飛び降り、盾で殴り飛ばす。
そのまま盾を放り投げ、両手で剣を持って、アンデットナイト首を跳ねた。
ようやく動きを止めたアンデットナイトを部下達に処理を任せ、被害を確認する。

「たった一体相手に24名死亡、69名負傷とはな。」

遺体も浄化せねばアンデット化してしまう。
負傷者には従軍司祭達が治癒魔法を掛けている。
だが重傷者が多く魔力が足りなくなりそうなので、優先順位に従い身分の高い者から治癒魔法が掛けられていく。

「肌が黒かったがダークエルフの一種か?」
「小型のオーガじゃないのか?」
「地球人じゃないか?
確か、様々な肌の色を持った人種が存在するというじゃないか。
それにあの銃の威力はまさにそれだろう。」

部下達が口々に敵の正体について話し合っている。

「レディン隊長、これを・・・」
アンデットナイトの首からぶら下げられた金属製のプレートのペンダントをアルテナが持ってくる。
何やら文字が刻印されているが、英語なのでさっぱり読めない。

「機会があれば日本人に見せてみよう。
何かわかるかも知れない。
だがあのアンデットナイトに『任務』を与えた術者がいるかと思うと、迂闊にここを離れられんな。」

さらに貴族の子弟で構成される近衛騎士団の近衛騎士に戦死者を出してしまったことで、責任を追及されるかもしれなかった。
戦死者を多数出せば、団員募集の集まりも少なくなる。
今は部隊の立て直しと、減った人員での王都へのピョートル砲の移送だけで頭が痛かった。


王都ソフィア

「と、言うわけで何て書いてるか、教えて欲しいのだが?」

レディンの邸宅に呼び出された石和黒駒一家の荒木は、豪華なテーブルで居心地が悪そうに座っていた。
レディンはバルディス子爵家の三男であり、本来は部屋住みの身であるが近衛騎士として立身出世したので王都のバルディス家屋敷を任せられていた。
広い邸宅をもて余していたが、来客を密かに呼ぶには便利だと思っていた。
レディンはトレス砦で見つけた金属板を日本人に検証させたかったが、いきなり公的機関に持ち込んでは問題が大きくなる可能性が高い。
まずは脛に傷持つ身の荒木に金属板を見せて、検証と反応を伺うことにしたのだ。
荒木は農民に紙を作る道具と初期費用の貸出しを行う仕事でレディンに知己を得ていた。

「これは認識票ですね。
将兵の遺体が原形を留めてなくてもこれがあれば認識を可能にします。
或いは遺体を持ち帰れない場合はこの認識票だけを持ち帰るとか聞いたことがあります。
私も軍属とかじゃないので詳しいことは知りませんよ。」
「それは興味深い。
だが書いてある文字は判るのだろう?」

荒木はメモ帳に書きながらブツブツと呟き始める。

「ジェイコブ・M・ノートン、B型。
『US MARINE』ということは米海兵隊か。
『USMC』は何だろうな?
数字は認識番号かな?
レディン殿、この認識票はどうしたのですか。
まさか、殺ったんじゃないですよね?
米軍は自衛隊ほど、甘い連中じゃないですよ。」

826始末記:2017/07/09(日) 23:13:14 ID:7.L4Yce.O
「ああ、それは問題無い。
持ち主はすでに死んでいた。
そこは嘘じゃない。
北部の演習中に見つけて遺体は荼毘に伏した。」

近衛騎士団第10大隊が多大な損害を出したのは荒木も聞いている。
詳細は知りたくもなかった。

「むしろ、大陸にはいないはずの米軍が王国領内で何をしていたのか説明が欲しいくらいだ。
下手人も上手く捕まってくれればいいのだが。」

日本側に話しても問題はなさそうだと判断し、レディンは少し気が楽になった。

トレス砦近辺

元アメリカ空軍中佐チャールズ・L ・ホワイトはトレス砦の近辺の森林に潜み、双眼鏡で様子を伺っていた。
海兵隊の脱走兵ノートン軍曹のアンデットを武装させ、砦に仕込んでいたのだが、その反応が途切れたので戻ってきたのだ。

「なかなか上手くいかないものだな。」

砦は無人に思えた。
すでに王国軍が奇襲を掛けて、制圧したことはわかっている。
技術を提供して強化した帝国残党と自衛隊を戦わせて消耗を狙ったのに、王国軍と戦ったのでは本末転倒だった。
警戒をしつつ、黒いローブと黒い司祭服で砦に近付く。
帝国残党軍どころか、行員、職人の誰もいない。
生産していたピョートル砲や研究段階の図面も全て持ち去られていた。

「そして、残っていたのは刺客だけか。」

猟師の格好に扮した十数人の小銃や弓矢、剣で武装した男達が砦の通路で囲むように現れた。

「小官を殺すには少々人数が足りないのではないか?」

祈りの言葉を唱えると、皆殺しにされて砦の外にまとめて埋められていた帝国残党軍将兵の遺体がグールとして土の中から現れていた。
アルテナ達、従軍司祭によって清められた筈の遺体があっさりとアンデット化して、砦の中に入っていく。


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[2]
11/05 00:39
チャールズはM67破片手榴弾を放り投げて、外側に通じる通路の刺客を爆発で吹き飛ばして突破すると、招き入れたグール達に刺客達の始末を命じてそのまま逃走した。
刺客達が命じられていたのは、チャールズの暗殺ではなく捕縛だった為に誰も発砲や矢を射るという行動を躊躇った隙を突かれたのだ。
チャールズにとってもせっかく稼働させた武器の密造工場と研究室を失うのは手痛い損失だった。

「まあ、工場はここだけじゃないからな。」

すでに大陸各地で密造工場が完成している。
問題は工員の確保だがそれも目処が立ったところだった。
ひとまずは商人が運営する自由都市シュコルダ、通称『奴隷特区』に向かうことにした。

827始末記:2017/07/09(日) 23:18:30 ID:7.L4Yce.O
大陸西部
新香港領内大森林地帯

夜が明ける頃、近隣の住民を襲撃していた吸血大蝙蝠の巣穴にである洞窟を、新香港武装警察隊の湯正宇大尉が率いる部隊が包囲する。
周辺の獲物を狩っていた吸血大蝙蝠の全長は一メートルを越える大きさだ。
確認出来ただけで約90匹相当。
先日も一家11人の家族と30匹の家畜の豚が血を全て吸い付くされて発見された。
村の自警団が銃を撃って退治しようとするが、超音波で自警団の位置を把握したのか早々に逃げられてしまっていた。
それは駐在所の武装警察の隊員達と対しても同様であり、被害が拡大していた。
連絡を受けて、新香港武装警察隊でも半魚人の軍団やシーサペントと戦った実績を持つ湯大尉の部隊が派遣されてきたのだ。

「報告書は呼んだ。
こんな化け物とまともに戦ってられるか!!
巣穴を特定して爆破しろ。」

被害の範囲と吸血大蝙蝠の巨体を収容出来る洞窟などそう多くは無く、捜索初日で発見された。
軍用に改造した観光バスやトラックに隊員の身を隠して、群れが夜明けと共に洞窟に入っていくのを確認してからの包囲だった。
すでに巣穴にはセムテックス、プラスチック爆弾を多数設置している。

「爆破!!」

一斉に爆破したが、なおも生き残った吸血大蝙蝠達は火だるまに成りつつも洞窟から脱出しようとしていた。
飛んでくる吸血大蝙蝠に隊員達は日本製カラシニコフの5.45mm弾の裁きを浴びせ続ける。
ようやくヤクザからの押収品でない制式な装備を支給されて、湯大尉も上機嫌だった。

「日本製なのが皮肉だかな・・・」

北サハリンが発注した兵器のおこぼれだから仕方がない。
だがこの調子なら昼には本部に掃討の報告が出来そうだった。




新香港

新香港の軍港に北サハリン海軍のオホーツク型航洋曳船『アレクサンデル・ピスクノフ』が朝早く入港してくる。
桟橋には応急的な修理が施されただけの094型原子力潜水艦『長征7号』が停泊している。『アレクサンデル・ピスクノフ』は曳航作業の為に航海してきたのだ。
港では視察に来た新香港主席の林修光が『長征7号』の乗員が整列する壮行会会場である広場に到着していた。
艦長代理である呉定発大尉が乗員に号令を掛けて敬礼をする。

「御苦労だった呉艦長代理。
その後、体の調子は如何かな?」
「はい、おかげさまを持ちまして万全の体調を取り戻すことが出来ました。」

『長征7号』は日本を含む地球系連合との合流や連絡を取れないままにこの世界に転移してしまった。
艱難辛苦の異世界サバイバルのあげくに乗員達は次々と死亡し、最後の生き残りだった呉大尉が新香港に逃げ込むことに成功した。
当局に保護された時には精根尽き果てて憔悴しきっており、入院による静養を余儀なくされた。
その後は『長征7号』奪還作戦に参加し、新香港武装警察海警局に編入された。
そして、現役で唯一の潜水艦乗員の士官として『長征7号』の艦長代理に任じられた。
その後は潜水艦乗務経験者や志願者を集めて乗員としての訓練を施す毎日だった。

「ようやく34名か・・・
十分な人数を集めることが出来ず申し訳無く思っている。」
「時間がありませんでした致し方ありません。
ようやく艦体の修理の目処がたったのです。
これからであります。」

本来なら094型原子力潜水艦の乗員は140名である。
せめて半分でも集めないとまともに航行も出来ない。
今は新香港近海を申し訳程度に洋上航行が可能なだけだ。
「人員の都合がつき次第、そちらに送り込むから鍛えてやってくれ。」
「はい、おまかせ下さい主席閣下!!」

訓練に関しては日本と北サハリンから協力をして貰えることになっている。
また、今回の修理先が日本と北サハリンの共用の施設ではあるが、日本領になるので海上自衛隊の護衛艦『いそゆき』がエスコート艦として同行する。
その為に『いそゆき』艦長の石塚二佐も壮行会に参列していた。

「大湊で我々の分も含めたの防寒具を補給することになっています。
あの島は冬には海も氷で覆われる場所ですからな。
覚悟はしといて下さい。
しかし、異世界に来たと言うのに気候は地球と変わらないというのは不思議なものですな。」

ずっと南方大陸に住んでいた為に新香港武装警察隊は適切な防寒具を保有していない。
石塚に脅かされて呉大尉は少し憂鬱になるが、今さら計画に変更はない。
今はまだ秋だが修理期間中には冬がやってくる。
よくもあんな流氷に覆われる地にソ連は潜水艦の基地を築いたものである。
壮行会を終えた呉艦長と乗員達は、『長征7号』を『アレクサンデル・ピスクノフ』に曳航する作業に戻っていった。
それを見送る林主席は昨晩遅くまで新任のガンダーラ大使との会談を行っており、寝過ごして朝食を食べ損ねていたのだ。

828始末記:2017/07/09(日) 23:23:35 ID:7.L4Yce.O
新興の都市であるガンダーラの建設の利権にはなんとしても食い込む必要があったからだ。
壮行会会場には立食形式での食事も用意されていたが、次から次へと挨拶にやってくる客人の為に食べ物を口に含む暇が与えてもらえなかった。
昼過ぎに壮行会会場を後にした林主席だが、官邸であるノディオン城にはまだ帰る事が出来ない。
その足で新香港港湾局のビルに入っていく。
お腹が空いたのだが秘書官達は林主席が朝食は城内で取っており、壮行会会場でもそれなりに食していただろうと思い込み誰も気にしていなかった。
仮にも新香港主席がお腹が空いたなどとは、言い出しずらかった林主席にも問題がある。
応接室には既に日本の相合元徳大使が案内されており、軽く挨拶をかわして着席する。

「今回はお互いに災難でしたな。」
「いや、まったくで・・・、本国のお偉方も頭を抱えていますよ。」

同意する相合大使に親近感を覚えつつ港湾局局長に見せられた資料に目を通し、港湾局局長の説明に聞き入る。
話が長くなりそうで林主席は早くも憂鬱な気分に陥っていた。
先月のサミットでの米国からの援軍の要請に王国が名乗りを上げたことがこの問題の発端であった。
王国が動員すると豪語した兵員の数は十万人に及ぶ。
問題はそれだけの兵員と物資をどう輸送するかなのだが、肝心の船団が新香港とルソンに存在したので押し付けられる羽目になったのだ。

「我が新香港が動員できるクルーズ船は約40隻になります。
乗船する兵員は約四万五千人を想定しています。
また、車両の格納庫に馬や竜の為の厩舎を仮設します。
他にも食料や水も現地で確保出来るまでは、こちらから持ち出さないといけません。
船上ではともかく、上陸後も約1ヶ月は活動できる分の糧食や水も同船団で運びます。
しかし、一番の問題点は作業の開始をいつから始めればいいかです。」
「えぇ、困ったものです。
いつになったら集まるのですかね、援軍とやらは・・・」

港湾局長の言葉に相合大使も困った顔で相槌を打つ。
計画だけは立てたのだか、船団をいつ召集すべきか目処が立っていないのだ。
どの船も現在はそれぞれの仕事を抱えていて、大半は新香港にいない。
米軍の要請に対し、王国側はようやく志願者を募集する立札を半月ほど掛けて各領地に設置したと誇らしく連絡してきたばかりなのだ。
この迅速な立札の設置は王国の統治機構が意外に優れていたことを示していた。
しかし、米軍の考えるスピーディーな展開を期待していたラプス米国大使は、タイムスパンのギャップを聞かされてショックで寝込んでしまったらしい。

「普段からアミティ島に閉じ籠ってコミュニケーションを取らないから、いざというとき文化の違いに困惑させられるのだ。」
「全くです。
普段、我々がどれだけ王国や貴族達との折衝に苦労してると思ってるのか。」

林主席と相合大使は米軍の悪口で意気投合し、後日この日の打ち合わせは『日本と新香港の認識は一致している』 と公式には発表されている。
議事録を修正する秘書官達の苦労が偲ばれる。
さて、この打ち合わせに何故日本側が参加したのかだが、現在のクルーズ船団の雇い主が日本国政府だからだ。

「クルーズ船には我が国が王国からの賠償として納められている食料を日本列島に輸送する仕事を割り振っています。
新香港船団とルソン船団、他の船団合わせて70隻が往復の航海で半年も抜けるのは問題があります。
食料輸送が滞って損害を蒙る我が国としても遺憾を表面したいくらいですよ。」

転移前の日本は中国人の爆買いツアーの大ブームの真っ最中であった。
彼らが利用したのがクルーズ客船という旅客船である。
飛行機に比べて船による運送可能な荷物の量は大幅に増え、宿泊施設としても利用できるクルーズ船は人気の的であった。
2015年に日本に寄港したクルーズ船は千隻に迫る勢いだった。
転移後に大量に巻き込まれた中国人観光客の住居としても利用された。
外国人観光客最大勢力である中国人に船舶だが、住居を与えることは治安面から大きいメリットとなった。
想定された外国人観光客によるデモや暴動も小規模となり、警察による対処の範囲で収まっている。
また、大半の船舶は税制等の処置で、パナマやリベリアといった小国の船籍で登録されていた。
しかし、船舶を所有する船会社は転移に伴い簡易的な事務所か、支社しか日本には設置しておらず給与も出ないことから真っ先に日本人社員は離脱して会社としての機能を消失させた。
船員達もほとんどが外国人であり船籍と船員の国籍もバラバラで混乱を招いた。
国土交通省と外務省が音頭を取り、各船ごとの船員の国籍を統一させ国籍に船籍を合わせる調整が行われて現在に至る。
現在のクルーズ船の業務の半分が、大陸からの日本に向けての食料輸送だ。

829始末記:2017/07/09(日) 23:28:59 ID:7.L4Yce.O
1億を越える国民を食わせる食料は莫大だ。
とても輸送船だけで賄える量ではなくクルーズ船も動員されているのだ。

「本国でもの輸送船の建造は進んでますが、高麗に依頼していた巨済島の造船所の襲撃は打撃でした。
まあ、間に合ってても穴埋めには全然足りないのですがね。
護衛の艦隊は米国が空母を出すと言ってるから問題は無いでしょう。」

イカ人の襲撃から守りきった玉浦造船所だが、工員や運送業者に少なからず死傷者が出てた為に建造に遅延が出ていた。
何より転移してきた船はどれも建造後、最低でも12年は経過している船が多い。
一般的な旅客船の耐用年数は11〜15年と見られている。
老朽化が著しい反面、ドック入り等のメンテは遅々として進んでいない。
事故やモンスターの襲撃で沈んだ船も1隻や2隻ではない。
船の数が減れば、日本に輸送出来る食料や資源も減るのだ。
日本本土でも未だに食料不足による餓死や栄養失調による衰弱死、医薬品の欠如による死亡は年々高まりを見せている。
物資輸送の遅延は文字通りに致命的な事態を招くのだ。
高齢者を中心とする死亡者数は、転移後のベビーブームで産まれてきた『地球を知らない世代』を上回る速度で増加しており、大陸への移民の増加に合わせて日本本土人口の減少に歯止めが効かない状態になっている。
今回の事態はそれに加速を掛ける恐れが高い。
色々激論やら米国への悪口で盛り上った打ち合わせであったが、林主席も昼食を食べ損ねて半死人の気分でノディオン城に帰宅することなった。
ようやくノディオン城に帰ってきた林主席であるが、かつての地球時代の共産党幹部の贅を凝らした生活とのギャップにため息が出る。
ようやく夕食が取れると、城内に入る。
執務室のバルコニーに夕食を運ぶよう城付きの職員に命じようとすると、制服を着た武装警察の将官に声を掛けられる。

「お待ちしておりました主席閣下。」

新香港武装警察隊総監常峰輝武警少将が、城のロビーで待ち構えていたのだ。
思わず身構えた林主席は咳払いで誤魔化す。

「まだ、何かあったかな?」
「はい、領内におけるスタンピート現象のより発生した吸血大蝙蝠討伐結果と、周辺地域被害の定期報告です。
少し早いのですが、幾つか問題点が発覚しましたので至急お耳に入れようかと馳せ参じた次第にございます。」
「ああそうだな。
まだ、それがあったか・・・
ふう、たまには問題は何も無い、と言う言葉が聞きたいな。
・・・始めてくれ。」

空腹はもう少し我慢する必要がありそうだった。

830始末記:2017/07/09(日) 23:32:10 ID:7.L4Yce.O
日本本土から西へ15,000キロ
米国海上要塞『エンタープライズ』

米国海上要塞『エンタープライズ』は、高麗国で建造されていた半潜水式プラットフォームを流用して造られている。
全体としては海に浮いている構造であり、脚部は海中にある。
構造物を浮かばす浮力を保ち錨を入れて固定するが、場所を移動させることが可能で浮力タンクに水を入れることで上下させることも可能である。
もともとは石油や天然ガスを採掘する為のプラットホームであり、大型タンカーの寄港も可能である。
問題としてはいまだに完成に至っていない点である。
現在も高麗国巨済島の玉浦造船所で残りのブロックが建設中なのである。
イカの軍勢の襲撃中に建造していたのはブロックBにあたる。
現在の大きさはサッカー場の面積よりやや広い8,000平方メートル程度である。
その『エンタープライズ』に3隻の艦が寄港していた。
海上自衛隊の砕氷艦『しらせ』、護衛艦『あさひ』、潜水艦救難艦『ちよだ』である。
『あさひ』も『ちよだ』も転移前に起工が始まっており、転移後もそのまま建造が進められて就役した艦だ。

「あれでまだ4分の1なのか?」
『エンタープライズ』の巨大さに艦長の野宮敬紀一等海佐は感嘆の声をあげている。
『しらせ』は南極観測船としての任務は無くなったが、調査や輸送の任務に使用されている。
任務の為に立入検査隊が一個分隊が乗り込んでおり、艦内に常駐するようになっている。
この11年の歳月の間に改修も受け、JM61-RFS 20mm機銃が2基設置されている。
北サハリンのアクラ型原子力潜水艦K-391『ブラーツク』への食料補給の任務を終えた『しらせ』は、給油の為に『エンタープライズ』に立ち寄ったのだ。
長距離の航海が可能な『しらせ』は給油の必要はないが、『あさひ』や『ちよだ』はそうもいかない。
両艦の航続距離では、『しらせ』の半分も着いていけないからだ。
途中の綏靖島まででも燃料の九割近くを消費してしまう。
これは燃費向上を目指したあさひ型護衛艦や他艦に給油能力を有するちよだ型潜水艦救難艦も例外ではない。
綏靖島で給油が出来てもほぼ同距離にある西方大陸アガリアレプトの米国の拠点、アーカム州アダムズ・シティに到着する頃には、再び燃料のほとんど消費してしまう。
これではいざというときに迅速な作戦展開には支障を来す恐れがあった。

「米軍が中継地点として、『エンタープライズ』を欲しがったのは理解できるな。
作戦範囲が広がって、我々には迷惑な話なんだけどな。」

野宮艦長の言葉にブリッジは笑いに包まれる。
実際に呼び出されて長い航海を強いられる海上自衛隊からは

「ミサイルぶちこんでいいかな?」

が、流行りのジョークになっている。
今回は僚艦の給油に付き合っての寄港だか、念のために『しらせ』も『エンタープライズ』から食料や水の補給を受けることにした。
暇そうな乗員達に仕事を与えて、気を引き締める必要もある為だ。

「しかし、『ブラーツク』の連中・・・、食料の備蓄の少なさを理由に追跡を断念する口実が無くなったと嘆いていたな。」
「あての無い航海ですからね。
3ヶ月も追跡を続けて疲労も溜まっているのでしょう。」
「水産庁の追跡もまだ続いているんだろ?
あっちも大丈夫なのかな?」

砕氷艦である『しらせ』が補給任務を命じられたのは約1,100トンに及ぶ物資輸送の能力と長距離の航海が可能な航行能力があった為だ。
主に補給されたのは新鮮な野菜や肉に缶詰といった食糧とウォッカだ。
飲料水は原潜ならなんとか自給出来るが、ウォッカはそうはいかない。
差し入れというレベルの量ではなかった。
補給に大量の酒とは、自衛隊からみれば度が過ぎている気がするが、北サハリンの大使にほっとくと反乱か、原潜内で密造をしかねないと訴えられての処置だった。

北サハリン新興の酒造メ―カー『ヴェルフネウディンスク』のウォッカは、大陸から徴収した年貢の小麦をふんだんに使い、安価なウォッカの製造に成功している。
補給を受け取った『ブラーツク』の乗員は歓喜の声をあげていた。
また、艦内には複数の医師が乗艦しているので、『ブラーツク』の乗員の健康診断が行われた。
航海長の能登孝光三等海佐は健康診断に立ち会い、深刻な顔をしていた『ブラーツク』乗員の顔を思い浮かべて答える。
単なる哨戒任務とは訳が違い、敵に付かず離れず気取られず。
神経を磨り減らす任務なのは想像に難くない。
だがウォッカを受け取った後の彼等の顔色の変化は見ものだった。

「青くなったり、赤くなったり忙しい連中だったな。」

野宮一佐も苦笑するしかなかった。
補給の間も対象の追跡は続行されていた。

831始末記:2017/07/09(日) 23:37:53 ID:7.L4Yce.O
『しらせ』に搭載された掃海・輸送ヘリコプターMCH-101と、対潜能力に優れた護衛艦『あさひ』や潜水艦救難艦『ちよだ』の深海救難艇(DSRV)を使用して行われのだ。
幸いなことに追跡対象は低速で海中を移動していた。
そのおかげで『しらせ』は『ブラーツク』と合流でき、補給を行うことが可能だったのだ。
束の間の休息だが、『ブラーツク』乗員に他艦との交流が精神の安定に役立てればよいなと能登三佐は考えていた。
アルコールはほどほどにした方が良いとも思えた。

当直と交代した野宮と能登の二人は、暫くは仕事が無いので食堂に入った。
食事中の乗員達は野宮に敬礼し、食堂に備え付けられたテレビに釘付けになる。
この海域は『エンタープライズ』の電波搭が、日本のテレビ放送の受信を可能にしていた。
誰もが日本のニュースに飢えていたのだ。
ニュースの内容は政局の話題だった。

「与党が補欠選挙で負けたのか。
これで過半数を割り込んだとは大事だな。」

野宮はトレイにカレーを載せて、席に着席しながらニュースの感想を述べる。
元々、与党と野党第一党が鍔競り合いを続けてきた国会であるが、第二の野党である日本国民戦線が、大陸に対する強行な路線を主張して議席を伸ばしていた。
無策な最大野党と温和路線をとる与党の議席を食いまくった結果である。
その声望は与党も無視できず、主張の被ることが多い与党に対して、連立を組むことを打診している。
能登も同席して食事を始めながらぼやくように呟く。

「国民戦線は自衛隊に好意的ですからね。
我々としては都合がいいのですが、主張が過激過ぎて自衛隊をより危険な任務に投入しかねないところが怖いですね。」
「何事もバランスは大事だよな。」

日本国民戦線が要求した閣僚の座席は次期大陸総督の椅子である。
与党も副総理と同格に位置ずけられている大陸総督の座を簡単に明け渡すわけにいかず、両党の間では折衝が続けられている。
次のニュースは人口が110万人に減少し、8月に東京市となった首都のものだった。
ニュース自体は他愛の無いもので、皇居外苑の北の丸公園の封鎖と城塞としての工事が開始されたとの報道だった。
予定では北の丸公園内に10式戦車の車体を拡大した新造車体の20式自走高射機関砲が設置されることが決まっている。
つまり小規模だが皇居に自衛隊が駐屯するのだ。
旧近衛師団司令部庁舎だった東京国立近代美術館が、隊庁舎として割り当てられている。

「そういえば練馬の駐屯地の拡張工事も終わったそうですよ。
あそこも手狭になってましたからね。」
「本当に東京から人がいなくなったんだな。
嘘みたいだな・・・」

第一普通科連隊の増強とともに手狭になっていた練馬駐屯地は、住民がいなくなった旧練馬区北町全域を整地してほぼ駐屯地として工事をした。
例外は氷川神社と第一普連が協力して拡張した畑を持つ農家くらいである。
この畑には第一普連の隊員や家族も開墾や収穫に参加する共同農場も含まれる。
敷地の確保は予想以上にスムーズだった。
食糧を確保する為に大半の住民は地方に脱出するか、大陸に移民するか、死ぬかの三択を迫られた後だったからだ。
食糧自給率が1%の東京に留まるなど自殺行為でしかない。
大半の住民は転移により仕事が無くなったこともあって、地方への移住を選択した。
これは他の大都市圏でも同様の動きをみせていた。
転移による混乱の状況が少し落ち着くと、政府は食糧の自給を国策として奨励することになった。
公務員の副業としても法改正で、第一次産業には許可されるようにる。
第一普連は隊員達の出資と労働力の提供で、放棄された土地を買い叩き、駐屯地近辺の住宅地等を整地をして農地に変えていった。
食糧の配給を優先される自衛隊隊員を頼って集まった親族も参加し、地元に残った農家の指導のもとに共同農場を造り上げたのだ。
この第一普通科連隊練馬共同農場をモデルケースとして、各地の自衛隊や警察も倣い始めた。
かくも日本本国の食糧事情は厳しい証明ともいえた。

「効率的な大根の生産に対しての研究会に横須賀も参加しないかと、練馬からオファーが来ているらしい。」
「それは是非、参加するべきですね。」

『しらせ』の乗員や家族も母港としている横須賀に大根やカボチャの共同農場や漁船を運営している。
横須賀では隊員の家族も大根飯で、1日の糧を賄っている。
カレーという贅沢をしているのが後ろめたくはあるが、航海の士気を保つ為にも必要だった。

「しかし、横須賀でカレーが食えないなんて、嫌な時代になったものだ。」

野宮は転移の前年に、護衛艦カレーを食う為に万の単位の行列が基地に並んだ光景を思い出していた。

832始末記:2017/07/09(日) 23:41:40 ID:7.L4Yce.O
補給を終えた『しらせ』と僚艦2隻は、翌日の朝には『エンタープライズ』の東方約5,000キロの距離にある日本領綏靖島に向かう為に出港する。
一週間ほどの航海で綏靖島の港に入港する。
綏靖島は日本やアメリカを含むいまだに独立都市建設に至っていない訪日外国人の居住区や多国籍軍の拠点が置かれている。
一応は日本の領土扱いだが、日本政府は統治にあまり積極的ではない。
申し訳程度に役場と警察署と自衛隊の駐屯地、空港と港が置かれている。
民間人も名物である果実農園の一家が数件居住している程度だ。
この島の海上の防衛を請け負うフランス海軍のフロレアル級フリゲート『ヴァンデミエール』の姿が港に見受けられる。

「多国籍軍160ヶ国の国民に残された最後の軍艦になるな。」

上陸して桟橋を歩く野宮一佐の言葉に能登三佐は首をかしげる。

「最後なんですか?
確か、マレーシアの哨戒艦があったはずですが?」
「先日、東南アジア六か国による独立都市の建設が合意に至ったそうだ。
その中にマレーシアが加わっているからな。」

サミット中も行われていた運動が行われていた、マレーシア、インドネシア、バングラデシュ、ブルネイ、モルディブ、パキスタンのイスラム諸国による独立都市であった。
約7万人の人口の街となる予定だ。
この世界では初のイスラム系自治体の誕生となる。

「次期独立都市の選定の筆頭がフランスだからな。
フランスが抜けたら多国籍軍は海上戦力が無くなるな。
どうするつもりなんだろうな?」
だがどうやら他国のことを論じている場合では無かったことを彼等は知ることになる。
島内で購入した新聞の見出しに、政府与党が野党日本国民戦線が連立を組むことが書かれていたのだ。
日本国民戦線は大臣の席一つと引き換えに、次期大陸総督の要求を緩和したのだ。



南方大陸アウストラリス
新京特別行政区
大陸総督府

総督執務室で、秋月総督と秋山補佐官は渇いた笑顔で来客に応対していた。
「はっはは、この度アウストラリス大陸総督府、副総督を拝命した北村大地です。
やっとこの大陸の仕組みを理解しだした若輩者だが、慣れるまで色々なご迷惑をおかけると思いが、ご指導とご鞭撻の程よろしく頼みますよ。」

実に尊大な着任の挨拶に秋月は眉をしかめる。
秋山補佐官も眉をしかめているが、対象は北村副総督に対してではない。
その後ろにいる胡散臭い笑顔の男に対してだ。

「お久しぶりです。
この度、北村副総督の補佐官に命じられた青塚栄司と申します。
一日も早くこの地に慣れ、皆様の仲間入りをさせて頂きたいと思いますので、ご指導とご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。」


シュヴァルノヴナ海

水産庁の漁業調査船『開洋丸』は、高麗を襲撃した海棲亜人の本拠地を探る為に、高麗国から逃走したイカ人の軍勢の追跡を続けていた。
途中、何度も足止めの為に少数のイカ人の部隊が攻撃を仕掛けてきた。
だがその度に護衛艦『あさぎり』のインターセプトを食らった。

「左舷9度、敵対海棲生物群認む、砲雷撃戦用意!!」
「『開洋丸』からのデータ入力・・・、完了!!」

開洋丸の魚群探知機はこういった場合には大変有効であった。
人間大の生き物が、数十、数百と向こうから探知の範囲に入ってきてくれるのだ。
接近するイカ人の軍勢に向けて、『あさぎり』の主砲、62口径76mm単装速射砲が火を吹き、指定された海面を正確に激しく叩く。
衝撃で多数のイカ人の将兵が、死んだり、気を失い水面に浮き上がってくる。
衝撃波から逃れた比較的外側にいた集団にも『あさぎり』の68式3連装短魚雷発射管HOS-301から発射された12式短魚雷2本が、イカ人の群れの真ん中で爆発して同様の運命を辿らせた。
生き残ったイカ人達は、散り散りになりつつも果敢に『あさぎり』に向かってくるが、艦艇用銃架に設置された12.7ミリ機関銃の銃弾で海面近くまで浮上したイカ人を貫き海域を血で染めていく。
単身、『あさぎり』まで辿り着いたイカ人の兵士も、海面から『あさぎり』の甲板まで登ることが出来ずに、立ち入り検査隊の隊員に射殺されていく。
一部のイカ人達は、『あさぎり』を無視して『開洋丸』に向かい、甲板によじ登ろうと触手を伸ばす。
最初は船底を銛で突いていたのだが、木造船と違って穴を開けることが出来ないので、戦法を変えてきたのだ。

「とにかく船に乗り込め!!
我らの勝機はそこにしかない!!」

イカ人の指揮官が叫ぶが、船上の人間達にはもちろん理解できていない。
しかし、相手のしようとしていることは理解できる。
同船に乗り込んだ漁業監督官達が拳銃や猟銃で、吸盤で船縁に張り付いたイカ人達を容赦なく射殺していく。
漁業監督官達は、転移前は銃火器による武装は認められていなかった。

833始末記:2017/07/09(日) 23:45:02 ID:7.L4Yce.O
だが転移後の海洋モンスターや海賊による襲撃で、漁船に少なからずの被害が発生するとそうも言ってられなくなってきた。
法改正により、銃火器の所有並びに使用が認められると、水産庁は漁業監督官の大幅な増員を実施した。
大量採用された彼等は、海上自衛隊特別警備隊から訓練を施されて、漁場の安全を守るために活躍し今に至っている。
新たな装備品は、同様に武装化を進めていた法務省矯正局の刑務隊や国土交通省の国境保安局国境保安隊等と一緒に調達された。

「しかし、我々はともかく、水産庁の連中が調査任務で発砲は法的にどうなんだろうな?」

やたらと派手に射ちまくっている『開洋丸』の漁業監督官達の様子に、『あさぎり』の乗員達は疑問を抱く。

「海洋モンスター襲撃による正統防衛が適用されるのだろう。
あとは、危険生物の駆除とかかな?」
「まあ、法的解釈は水産庁が考えることだよな。
だが、これで五度目の襲撃か・・・、いい加減うんざりしてくるな。」

部下たちの声を聞きながら、護衛艦『あさぎり』の艦長白戸輝明二佐も娘の結婚式までにこの任務を終わらせたいと、うんざりしていた。
乗員達はそんな上官に迂闊に目を合わせないように距離をとっていが、報告の義務のある乗員が貧乏クジをひいていた。

「艦長、『開洋丸』が追跡中の敵本隊をロストした模様です。
ですが、ロストした地点で海中に不審な反応を得たと、調査を申し出ています。」

「あの敵の本隊を追跡していたら、敵の拠点を発見出来るんじゃなかったのか?
まったく・・・、シエラ1も見失ったのか?」
「はい、戦闘に参加させた隙を突かれました。」

シエラ1は、護衛艦『あさぎり』搭載の対潜哨戒ヘリコプターSH-60Jのことだ。
爆発の衝撃波で気を失って浮上したイカ人の掃討を命令していたことが裏目に出てしまった。
追跡の失敗を本国に報告すれば、帰還できるが、任務の失敗を許容出来るほど白戸二佐は若くはなかった。
実際、三度も追跡を振りきられていたが、その度に敵の本隊の再発見を成功させている。

「調査は許可するが、敵の本隊の探知を最優先させることを徹底しろと伝えろ。」


シュヴァルノヴナ海
海都ゲルトルーダ
海底宮殿

日本に派遣した軍勢三万は壊滅し、生き残ったのは700に満たない。
海底宮殿に集ったイカ人の重鎮達は対策を協議していた。
洋上に人間達の船が浮かんでいるのは、イカ人達も把握している。
しかし、地上に住む人間達は海中には手出しが出来ないと、高を括っていたので放置することになっていた。

「些か目障りだがやむおえん。
決して、兵士達に手を出させるな。
尊い犠牲を払って追跡を振り切ったのだ。
このゲルトルーダの存在を知られるわけにはいかない。
どうせ人間達には深海を探るすべは無いのだから、上手くやりすごすのだ。」

軍の重鎮であるウキドブレ提督の言葉に逆らう者はいない。
提督にはこの海で使用出来る最後一匹の巨大赤エイに座乗する立場にあるからでもある。

「聞けばあの船は2ヶ月も追跡を続けていたという。
食料も多くは残っておるまい。
あと少し、ゲルトルーダを知られなければ退くことだろう。」

彼等は冷蔵庫や缶詰めの存在を知らない。
さらに『開洋丸』には漁船としての機能も備わっている。
多少の長期航海など、苦にも思っていない。

「で、フセヴォロドヴナ海の動きはどうか?」

フセヴォロドヴナ海の海蛇人にも日本の北方を攻めさせたが、全滅の憂き目に合わされた。
そちらの外交を任せていたイカ人が答える。

「はい、フセヴォロドヴナ海は保有する戦力のほとんどを日本侵攻に割り振っていました。
まさかの一兵も帰らぬ事態に内紛が始まったとのことです。」

ウキドブレ提督はこの作戦に参加を要請したことに、些かの責任は感じたが今は自分たちの足元まで火の粉が来ている為に静観を決め込む。

「そして未確認情報ですが、どうやらアガフィア海の海亀人達も日本に仕掛けて戦力の大半を失ったとのことです。」
「なんと、あの海亀共もか!?」

海の民最大戦力を保有する海亀人が破れたのはウキドブレ提督をはじめとする重鎮達にも衝撃を与えていた。

「うむ、しかし、この事態。
殿下には『島』に行っててもらってよかった。」
「さよう、殿下はこのシュヴァルノヴナ海で唯一の海皇の継承候補者、我等の希望だ。
何かあっては事だからな。
伝令を出して『島』に留まるようご注進申し上げろ。」

言葉が出ないウキドブレ提督にかわり、重鎮達が対策の指示を出していく。
このシュヴァルノヴナ海の長たる『深海の魔物』の異名をもつハーヴグーヴァなら、日本の軍艦に対抗出来るかもしれない。
だが現状、その身に危険が及ぶ行為は避けてもらうしかない。

834始末記:2017/07/09(日) 23:49:46 ID:7.L4Yce.O
現在は海中では生産できない品を生産する『島』に滞在していた。
その『島』では、西方大陸アガリアレプトから購入した人間の奴隷を使って、鉱物資源の採掘や必要な道具を生産させている。
しかし、近年西方大陸アガリアレプトの奴隷商人が次々と命を断たれて調達が難しくなっていた。
アメリカと日本の仕業であるが、イカ人達は日本の単独と考えいた。
故に日本を襲撃させた理由の1つではある。
レムリア連合皇国の主導権争いも大事だが、奴隷の不足による経済的停滞も深刻になってきたからだ。
だが、自分達の選択肢はドラゴンの尾を踏んだとウキドブレ提督も重鎮達も自覚せざるを得なかった。




水産庁所属調査船
『開洋丸』

許可を得た『開洋丸』は、これっぽっちも自重しなかった。
学者が多数同行してたのもよくなかったのかもしれない。
様々な観測機器を動員して、周辺海域の探査を開始する。
多要素観測装置(CTD用オクトパス)。
航走中の船舶から海中にプローブを投下して探知するXCTD。
通常の魚群探知機に、魚探反応を定量化された数値に変換して出力する機能を計量魚探。
超音波のドップラー効果を利用した多層流向流速計。
数々の観測機器が僅かな時間であったが、海底の状況が明らかしていく。

「当たりだな、これは・・・」

観測結果が入力されて、コンピューターが海底に都市の姿を3Dモデルを作り出していく。
海底に岩盤をくり貫いて造られたと思われる建造物や加工した建築資材を積み上げて造られたと思われる家屋の姿が確認できる。
そして、それらに蠢く人間大の大きさの複数の生物の反応。
何より追跡対象だった巨大赤エイが海底の巣と思われる場所で、停泊している姿が海中に投下した水中カメラで撮られている

「水深は100メートル程度。
太陽の光は届いてないか?」
「範囲がどんどん拡がっていくぞ・・・」
「この1隻だけで、やってたら何年掛かるか・・・、本国打電!!
『もっと船寄越せ!!』」




千島列島新知島

千島列島中千島にある新知島は、徳之島よりやや大きい程度の島で、複数の火山で構成された火山島である。
日本と北サハリンの共同統治地域であり、民間人はほとんどいない。
北東部には2.5kmの幅の半分海没したカルデラ湖・武魯頓湾があり、天然の良港となっていた。
新香港を出港した094型原子力潜水艦『長征07号』は、北サハリン海軍のオホーツク型航洋曳船『アレクサンデル・ピスクノフ』に曳航され、潜水艦用ドックに入港した。
この島は冷戦時代にはソ連海軍の潜水艦艦隊の秘密基地が存在していた。
ソ連崩壊後の1994年に放棄されたが、転移後の千島列島返還後に日本・北サハリンの共同基地として再建された。
まだ秋とはいえ、さすがに千島列島は肌寒い。
温暖な気候に慣れていた『長征07号』御一行は、大湊で補給品として自衛隊より提供された防寒具に身をやつしていた。
日本の主に郊外を中心に多数の店舗を持つ衣料品チェーンストアで購入した品物である。

「日本としても国内では反発の強い原子力関連の開発や研究を、住民がいないこの島でやろうと思い立ったのですよ。
返還時にこの島に上陸した第五旅団の隊員もこの島の施設に驚いてましたがね。」

新知基地内を島内に駐屯する第509沿岸監視隊の石本一等空尉が、『長征07号』御一行を引率しながら案内する。
千島列島防衛は陸上自衛隊第五師団の管轄である。
千島列島返還時に第五旅団は増強して師団に格上げになったが、得撫島、択捉島、国後島以外に主力部隊を置く余裕が今のところなかった。
北千島や中千島の島には沿岸監視部隊か、分屯地をおく程度となっていた。

「それはいいが、今回の改修に日本が加わるとは聞いていない。」

『長征07号』艦長代理である呉定発武警大尉が苦情を伸べるが、石本一尉は意に介していない。

「命令書は今日中に駐日新香港大使館を通じて届きますよ。
大使自らこちらに来てくれるそうですからご安心を。
実際、修理の為の部品は日本製で代用するしかないですからね。
我々の協力無しには無理ですよ。
工員や技術者も沢山連れてきましたから安心して下さい。
急ぐ必要も出てきましたしね。」

日本としてはこの整備に人員を派遣することにより、ロシア系原子力潜水艦の技術の一端に触れる好機であった。

「急ぐ必要?」

呉武警大尉の疑問に、石本一尉は湾内を指差す。
湾内の桟橋やドックには、北サハリンが保有するオスカー級原子力潜水艦4隻が停泊している。
また、アウストラリス大陸の北サハリン領ヴェルフネウディンスク市に配備されているはずのキロ型潜水艦3隻が寄港している。

835始末記:2017/07/09(日) 23:52:21 ID:7.L4Yce.O
「アガリアレプト大陸のアクラ級五隻もじきに合流します。
1隻は現在も追跡任務中で現地から離れられませんが・・・
別の場所では、デルタ型原子力潜水艦も集まってます。
『長征07号』には修理が完了次第、多国籍潜水艦隊に参加してもらいますよ。
新香港政府も了承しています。」
「だから命令書を先に・・・、防衛機密とかに絡んで話せないのは理解するが、今からそんな話をされても困る。」

何が起こっているのか事態が見えてこない。
ようするに大規模な潜水艦を使用する国際的な作戦が発動された、ということしかわからなかった。

「まあ、一言言えるのは・・・敵の根拠地が2つ見つかったということですよ。」



新京特別行政区
海上自衛隊新京基地
新京地方隊庁舎

大陸東部を管轄とする新京地方隊に所属する護衛艦や補助艦の艦長達が会議室に集まっていた。
おやしお型潜水艦『みちしお』艦長佐々木二佐は、地方隊総監猪狩聡史海将が両手を口の前で組まれながら命令を下されていた。
部屋の中でもサングラスを外さない偉そうな態度の猪狩海将は、大陸における海上自衛隊の実働部隊の長である。

「本国に戻ってドック入りしろと?
来年の話では無かったのですか?」
「サミットの件で魚雷の予備も少なくてな。
本国での整備、補給後は多国籍潜水艦隊の指揮下に入ってもらう。」
「多国籍潜水艦隊?
自衛艦隊司令部では無くてですか?」

佐々木二佐は記憶を辿るが、そんな艦隊がいつ新設されたのか記憶に無い。

「海上自衛隊の潜水艦は、全艦を稼働可能な状態に仕上げて作戦行動に入る。
その為に潜水隊群を三個潜水艦隊として実働部隊として編成する。
『みちしお』はこちらの大陸にいる関係上、ただ1隻あぶれることになる。
よって、多国籍潜水艦隊に合流させることになった。
本国でのドック入りはその為の準備だと思え。」

海上自衛隊潜水艦隊28隻が動員される作戦に佐々木は身震いを覚えた。
だが1隻だけ別行動なのは釈然としない。

「取り敢えず来週には、新香港とルソンから西方大陸アガリアレプトに向かう王国が集めた援軍の船団の第一陣が出る。
『みちしお』は護衛として船団に付き添い本国に向え。
その際に高麗国の潜水艦『鄭地』と行動をともにせよ。」

なかなか気の重い任務になりそうだった。

836始末記:2017/07/09(日) 23:53:00 ID:7.L4Yce.O
今日はここまで、投下終了します

837始末記:2017/07/11(火) 00:47:17 ID:7.L4Yce.O
では、本日の投下開始します

838始末記:2017/07/11(火) 00:50:09 ID:7.L4Yce.O
王都ソフィア

夜更け過ぎ、人通りの少ない通りを、品の良い紫のローブとフードを被った女性が歩いていた。
人目を憚るよう周囲を警戒しながら一軒の家に入ると、フードを脱いで顔を露にする。
まだ、三十路には届かない美女だが既に未亡人の身の上である。

「いらっしゃいませ、マルロー奥様。」
「手に入りましたわ、ネッセル司祭様!!」

挨拶もそこそこにローブの中から包みを取り出す。
紫の司祭服を着たネッセル司祭が包みを受け取り中身を確認する。

「これが・・・」
「縁戚の娘が王都にある日系のホテルにメイドとして勤めているのですが、秋月総督が宿泊した際に部屋の掃除を任せられたそうです。
これは、その時にベッドや浴室に落ちていた毛髪だそうです。
これだけあれば・・・」

毛髪の数は19本ばかり。
二十日にも満たない程度の儀式では、秋月総督に致命的な呪いは掛けられそうになかった。
それでも信徒が懸命に集めてくれた供物だ。
マルローは多額の寄進も行ってくれた貴族の後援者でもある。
ネッセル司祭は落胆した顔を隠して笑顔でマルローを労う。

「はい、あいにく今日は偶然にも別の大物を呪う儀式があるので、後日になってしまいますが・・・数日のうちに準備を整えます。
今日はマルロー様も儀式に参加して頂けませんか?」
「喜んで司祭様・・・」

巧妙に隠された地下の祭壇では、複数の男女が全裸で体に奇妙な紋様を施し、呪いの言葉を祭壇の人形に唱えている。
マルローもローブを脱ぎ、一糸纏わぬ肢体に信徒達が紋様を描かいてく。

「おおっ、我らが尊き嵐と復讐の神よ。
憎むべき……アオキカズヤ、思い知るがいい。
痛みは消えず永遠に苦しみとともに生きるがいい。
私の苦しみはそのまま……アオキカズヤに帰るのみ。
アオキカズヤ……に」

ネッセル司祭は『力ある言葉』を三回繰り返し、信徒達は唱和する。
唱和しながらところ構わずの淫靡な宴を始める。
信徒達から発生した狂気の魔力がネッセル司祭の体内に流れ込む。
アオキカズヤの人形に入れられた本人の髪の毛を通じて、遠く彼方で執務するアオキカズヤの元に意識が導かれていく。
ネッセル司祭が瞼を開くと、目の前にはアオキカズヤ本人がそこにいた。



同時刻
新京特別行政区域
陸上自衛隊
新京駐屯地
第16師団司令部庁舎

陸上自衛隊第16師団師団長青木和也陸将は、この大陸最強の兵団を率いる指揮官である。
この夜は書類仕事に追われながら電話を掛けていた。

「ああ、新たに接収する管理区域に人員を派遣する。
現地の調査は君達で進めてくれ。
ふん、私はお前と違って簡単に出歩くわけにはいかないのだ。
今も散々に振り回してくれる奴等の後始末の最中だからな。」

机の上に転がっている眠気を吹き飛ばしてくれるカフェイン飲料の空瓶の数が、青木の激務の証である。
そして、副官室から吉田香織一尉が書類の山を運んできて青木の机を狭くする。
ため息を吐く状況だが、突然電話が雑音で聞こえなくなり困惑する。

『死ネ・・・』

青木の片手の自由が利かなくなり、勝手に机の引き出しを開けて拳銃を取り出す。
安全装置を外し、こめかみに当てて引き金を曳こうとする。

「陸将!?」

咄嗟に吉田一尉が青木の拳銃を前に引っ張り、発砲された銃弾が青木の頭部に当たるのを防ぐ。
拳銃はそのまま床に落ちた。
銃声に庁舎内にいた隊員達が集まってくる。

「何があった!!」
「り、陸将が突然、銃を!!」

隊員達が青木陸将を取り抑えようとして、足を止めて驚愕する。
青木陸将の手首が見えない何かに掴まれてるような跡がくっきり見えるのだ。

「離れて!!」

吉田一尉が転がっていた拳銃で、『何か』がいると思われる空間に向けて発砲するが、空を貫き壁に穴を開けただけだった。
隊員の一人が無謀にも『何かに』体当たりしようと突っ込んでいくが、見えない壁に弾き飛ばされたように吹っ飛ばされて昏倒する。
だが見えない『何か』は急に苦しむような悲鳴を上げて、掴んでいた青木陸将の腕を離して消え去っていた。
警戒する隊員の横では、吉田一尉の衛生科を呼ぶ叫び声が木霊していた。

839始末記:2017/07/11(火) 00:52:37 ID:7.L4Yce.O
同時刻
王都ソフィア
地下祭壇

「ぐがぁぁぁ!!」

絶叫とともにネッセル司祭が床に倒れこんだ。

「司祭様!?」
「ネッセル様が、いったい・・・」

儀式に参加していたマルローをはじめとする信徒達が、これまでに観たことが無い事態に困惑し、恐れおののいている。
幾人もの信徒達が駆け寄って、ネッセルを取り囲んで来る。
薄れゆく意識の中で、ネッセルも困惑していた。
確かにネッセルは、嵐と復讐の神の力を借りて意識体を敵将アオキカズヤのもとに放っていた。
出来ることはたかが知れていた。
例えるなら針で一刺程度の痛みを与えれらるのが関の山だ。
これを毎日続ければ次第に対象は衰弱して死んでいく。
死ぬまで続ける。
これが大きな神々の御加護があるはずの一国の高官であるアオキカズヤに出来る細やかな呪いの筈だった。
しかし、結果は予想以上のものだった。
対象に声を聞かせ腕を掴んだ。
ネッセルの意識体の腕は、アオキカズヤの腕に溶け込み自由に動かした。
アオキカズヤの体を抑え込もうとした護衛を弾き飛ばし、精神を侵食した。
これほどの行為が可能だとはネッセルにも予想外だった。
あれではまるで、一般庶民の幼児並みの抵抗力だった。
急に意識を肉体に戻されたのは、ネッセル自身の魔力が尽きたからだ。
本来は30を数える間に戻るつもりが、対象の抵抗力の無さから意識体が暴走して長く留まってしまったのが原因だ。

「だ、誰かに伝えねば・・・」


混濁したネッセルはまわりの信徒の存在を認識出来ていない。

「な、何をですか?
誰にですか司祭様?」

マルローが声を掛けるが、ネッセルには聞こえていない。

「ロムロ司祭長様に・・・地球の民は・・・魔法に・・・」

聞き取りづらい口調で、王都に居住する嵐と復讐の教団の上司の名と地球人についての何かを口にし、ネッセル司祭は気を失い、三日三晩意識を取り戻さなかった。



新京特別行政区

早朝、大陸総督府会議室では昨晩の事件の報告が行われていた。
会議室には自衛隊、警察、公安、海保といった治安関係の幹部が参集していた。

「青木陸将の容体は?」
「外傷はさほどでもありません。
ただ、妙に身心に衰弱の傾向が見受けられて入院となりました。
また、警固の隊員も一名が軽度の打ち身を負いましたが、こちらも体重が10キロも減るという衰弱状態で入院しました。
頭痛と吐き気に襲われていますが、命に別状は無いとのことです。」

秋山補佐官からの報告に秋月総督は眉をしかめる。

「それで、相手はいったい何だったんだ?
監視カメラにも警備システムにも引っ掛からない等と、幽霊でも相手にしたのか!!」

最初に考えられたのは、青木陸将の執務室で何らかの不祥事が発生したことによる隠蔽だった。
その疑いは事件当時青木陸将が通話していた相手が、異常を察知したことにより、通話をレコーダーモードにして、一部始終を記録していたことにより解消された。
秋山補佐官は事態の深刻さを伝える。

「警察や自衛隊には、基本的には幽霊と対処する能力はありません。
これまで相手取ったアンデットは実体のある存在でしたが、今回は違います。」
「幽霊なら、青木陸将個人に対する怨みの線じゃないのかな?
大陸で血を流しすぎたからな、実戦部隊の長は色々怨まれているだろう。
しかし、これは仮にも国の機関が話し合う内容なのか?」
「まあ、現行法でも存在や対処が認められた存在ですし。」

転移前の彼等がこんな事を公的な会議で真面目に話し合っていたら、マスコミに非難のネタを提供していただろう。
転移後の現在は幽霊は公式にモンスターの一種として認められた存在となった。
ワイトが本国内で大量発生した青木ヶ原の事件では、幾体かの幽霊が確認されて映像にまで記録されている。
余談ながら転移前に死亡した人物の幽霊は確認されていない。
また、確認された幽霊はすべからく悪霊の類いであった。
秋月総督も頭では理解しているが、実物を見たことがあるわけでは無いので話についていけない。

「青木ヶ原の事件ではどう対処したんだ?」

秋月総督の問いに、事件を担当した第34普通科連隊連隊長神崎雅樹一等陸佐が、天を仰いで額に皺を寄せて答える。
神崎一佐は当時、第34普通科連隊の大隊長の一人として事件に関わっていた。

「尻尾を巻いて逃げ出しましたね。
その後は発生場所を隔離し、遠巻きに牽制して、政府が組織した国内の宗教家や霊能者で編成された部隊を投入しました。」

秋月は当時から大陸で活動しており、詳細までは知らなかった。


「結果は?」
「役立たずは半月で全員失業しました。」

当初はワイト等の実体のあるアンデットを相手にするだけの筈だった。
だが場所柄なのか、十数体の霊体系のアンデットと遭遇する事態となった。

840始末記:2017/07/11(火) 00:55:44 ID:7.L4Yce.O
政府は宗教を問わずに高名な聖職者やテレビで名声を得ていた霊能者を無理矢理徴用し、青木ヶ原に放り込んだ。
投入された彼等の『術』や『祈り』、『徐霊』は、青木ヶ原の幽霊達が相手に足止めにもならなかった。
例外は協力者だった大月市にある円法寺の住職で、仏との扉を開いたとされる円楽氏のお経くらいだった。
他の者達は自衛隊隊員の援護のもとに幽霊と対時したが、恐怖で逃げ出したり、取り憑かれたりで散々な有り様だった。
名声を失った彼等は『業界』に復帰することはなかった。
彼等を推薦した宗教会の権威は地に落ちていった。

「まあ、成果が全く無かったわけではありません。
お経や浄められた水や塩、そしてショットガンが、足止めや牽制で使えることがわかりましたから。
当時の経験のある隊員達を交代で駐屯地と陸将の病室に派遣しましょう。」

神崎一佐の提案の他に新京や竜別宮に居住する神殿の司祭達や冒険者に相談することも実施されることとなった。

この時の彼等は根本的に自分達の相手の正体を理解しておらず、検討外れの会議のもと対策が立てられていった。
門外漢しかいなかったから仕方が無い話ではあった。
会議室を出た神崎一佐は、34普連の前任の連隊長だった市川一佐の言葉を思い出す。

「この世界で発生する現象は日本も例外じゃない、か・・・」

神崎一佐が派遣した隊員達は、10日ほどは何事も無く過ごすことなった。



新京特別区
自衛隊病院

草木も眠る丑三つ時。
陸上自衛隊第16師団団長の青木陸将が入院している病室には、静かな時間は流れていた。
些か過剰に盛られた盛り塩や注連縄が、病室の空間を狭苦しくしていた。
青木陸将や医者の抗議を無視して飾り立てれた病室の隣室では、イズマッシュ・サイガ12Kを用意した第34普通科連隊から派遣された今俊博二等陸尉率いる隊員五名が待機していた。

「しかし、用意したのはいいが効くのかこれ?」

今一尉が机に並べたのは岩塩で造った弾丸だ。
ベテランの阿部一等陸曹は青木ヶ原事件にも参加した経験を持つ。

「一応神社でお清めもして貰ってますからな。
青木ヶ原では効果がありましたよ?」

青木ヶ原の浮遊霊などには清めた岩塩の散弾で、霊体を散らしたり追い払うことには成功している。
他にも漫画をヒントに円楽和尚に書いてもらった梵字が刻まれた弾丸も使用したが、今は手持ちが無い。


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[2]
11/28 21:04
隊員達は雑談に興じつつも青木陸将が嫌がるのを無視して設置した監視カメラが映し出す映像をモニターを眺めている。

「お客さんが来たみたいです。
見舞い客には見えません。」

モニターを監視していた山本一等陸士が、今一尉と阿部一曹に伝えてくる。
実際に見舞い客には見えなかった。
姿が見えないからだ。
それでもモニターには、床に撒かれた塩が踏み締められて、足跡が付いていくのが映し出されている。
注連縄にも見えない何かが触れたのか揺れ動いていた。
隊員達は直ぐに散弾銃を構えて、隣室に突入する。

「動くなあ!!」

今一尉が誰何するが、相手が見えないから動いて無いのかは確認できない。
阿部一曹は足跡が改めて付いたのを確認し発疱する。
殺傷能力の無い岩塩弾の為、他の隊員も遠慮無く室内で発砲している。
岩塩弾は発砲と同時に砕け散り、見えない何かに岩塩が浴びせられる。
岩塩が人の形状に宙に浮いているので、人型の何かがそこにいるのが判明したが、用意した装備が何一つ退治に役立っていないことも理解できた。

「うわっ、放せ!?」

隊員の一人が腕を掴まれると、絶叫を上げながら気を失い倒れる。
二人目の隊員も弾かれたように壁に叩き付けられる。
病室の中は飛び散った塩が舞い上がり、見えない何かの動き認識できる。
掴み掛かった三人目の隊員はそのまま白眼を剥いて倒れ込む。
ベッドの上で塩まみれにされた青木陸将が騒ぎに起き上がり、枕元の拳銃を塩まみれになった何かに発砲するが、銃弾が何かの体を突き抜けて当てることが出来ない。
神具の類いも何一つ効果を及ばさないことで、確実な事実が想定された。

「こいつ、アンデットじゃない?」

青木陸将のベッドに飛びかかって来たところで、見えない何かは姿を消した。

841始末記:2017/07/11(火) 01:03:50 ID:7.L4Yce.O
同時刻
王都ソフィア
嵐と復讐の教団
地下神殿

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」

意識を肉体に取り戻したネッセル司祭は全身を汗だくにして倒れ込んだ。
憔悴仕切っているが今度は気を失っていない。
同教団の司祭長ロムロが自らの魔力をネッセル司祭に送り込んでいたからだ。

「も、申し訳ありません。
せっかくのご助力がありながら・・・」
「良い。
お主の戦いぶりは意識を繋げていた私にも見えていた。
今回は敵が待ち受けていたにも関わらずに無敵の自衛隊を三人も退けた。
これは快挙である。」

信徒達も我が事の様に喜びあっている。

「やはりお主の掴んだ通り、地球人は魔力に対する耐性が全く無いようだな。
倒した自衛隊の兵士達もあの年代なら十や二十の教団の加護があってもおかしくない。
だが、彼らには精々2つか3つ程度の加護しかなかった。
自衛隊には従軍司祭とかはいないのか?」

精神体こと、『御遣い』は対象と接触すると相手の精力を吸収して糧とすることが出来る。
むしろ今回は過剰摂取で気持ち悪くなったことで肉体に引き戻されたくらいだ。
大陸の人間と比べ、地球の民からの吸収量は20倍程はあったとネッセルに思われた。

「彼らは心の中に神殿を造っていない。
信仰心とは無縁に生きてるらしいな。
しかし、塩とは考えたな。
『御遣い』は魔の物で無いから効かぬが、存在を示す道具にはなるか。
次は警戒がさらに強化され、今日のようにはいくまい。」
「はい。
ここで一度標的を変えようかと、更なる大物を狙います。」

ネッセルの横にはマロリーがアオキカズヤとは別の人形を持ってくる。

「次の狙いは大陸総督アキヅキハルタネ。
狙われてるのがアオキカズヤだけと考えててくれれば、あるいは・・・」
「いけるかも知れないな。」

信徒達の怨嗟にも似た神を讃える歌が、地下祭壇に響き渡っていた。



日本国
東京都府中市
府中刑務所

日本でも有数に知名度の高い府中刑務所には、囚人は一人もいなかった。
それでも武装した刑務官や公安調査庁の実働部隊が警備に当たっている。
物騒な雰囲気とは裏腹に場違いな子供達の声が響き渡っている。

「金剛!!」

僧侶姿の子供が岩を素手で砕き、巫女姿をした少女が鈴を鳴らして透明な壁を発生させて破片が飛び散るのを防いでいる。
刑務所の壁には『ベッセン先生の魔法教室』と書かれていた。

「なんだこれは!!
誰が許可したんだ?」

大陸総督府東京事務所所長の小野孝之は、刑務所内の光景に絶句している。
僧侶の格好をした少年少女が11人。
神主や巫女の格好をした少年少女が6人。
大陸風にローブを纏い、杖を持った少年少女が二人。
彼らは一様に魔法の練習に耽っていた。
全員が日本人だ。

「もちろん政府ですよ。
そうで無ければ壁の中とはいえ、ここまでのことが政府施設内で行えるわけがありません。」

答えたのは公安調査庁のベンゼンの担当福沢敦上級調査官だ。
小野所長の訪問の目的は、大陸で起きてる事件の助言を求めることだった。

「政府は日本人による魔法研究は諦めたんじゃなかったのか?」
「使える人間がいませんでしたからね。
でも見つけることが出来たので再開したのですよ。
この世界に転移して来た日本人には魔法を使う能力は皆無でした。
しかし、この世界で産まれた日本人はその限りではないのは盲点でした。」

転移から11年。
日本人に魔法が使えるかの検証計画時には、乳幼児や産まれてもない子供達は、検証の対象から外されていた。

「最年長の神職の少年でもまだ小学生高学年。
彼等は転移以降に産まれた子供達です。
僧侶の子供は6才以上は見つかってません。
青木ヶ原事件以降産まれた子供達です。
何れも市内の寺社のご子息、ご息女です。
檀家や氏子から才能が発掘された養子、養女を含んでますが。
幼い頃から宗教的教育を受けていたエリートと言ってよいでしょう。
魔法は子爵が日本風に開発、アレンジしたものです。」

転移により権威を喪失した宗教団体の希望の星と言える。

「あの大陸風の格好をした子達は?」
「それが今回の問題点です。」

渋い顔を見せた福沢は小野を少年少女達を指導するマディノ子爵ベッセンの魂が宿った水晶球の元に案内する。

842始末記:2017/07/11(火) 01:06:33 ID:7.L4Yce.O
『おや福沢調査官、お客さんですか?』

魂を他の物体に付与する魔法。
総督府が注目したのはこの魔法だった。
だが公安調査庁はもう一つの魔法に注目するよう見解を出した。

「この子爵様は魂だけを市内に徘徊させて、宗教団体とは関係無い魔法の才能のある子供達を見付けて来たんですよ。
来年は八王子にも足を伸ばすとか言ってますし、幽閉されてる意味が無くなるでしょう?
お偉方は怒ってましたが、成果を見せられて黙りました。」
「ほう、魂の徘徊ですか・・・、それは興味深い。」

福沢はベッセンに大陸の事情を話すと、小野に質問で返してきた。

「何故私に?
大陸にもまだこの程度は理解できる魔術師はいるはずだが?」
「当然問い合わせた。
しかし、日本の勢力範囲の東部地域や中央部は魔術師が少ない上に協力を軒並み断られた。」
「ああそうか。
君達は魔術師達に恨まれてるからね。
無理も無いか。」

小野は本国にいるので、そのへんの事情がわからない。

「恨まれてるのか?」
「当然だろ?
魔術師は一門や師弟関係などといった横の繋がりが強いんだ。
そんな彼等を君らは一網打尽に殲滅したじゃないか。」

小野は聞き覚えが無いといった反応を示すので、1から説明してやることにした。

「魔術師になる上で、才能以外の障害ってなんだと思う?」
「金・・・、ですか?」
「正解。
魔術師になるには金が掛かる。
高位次元との契約の為の儀式費用。
魔術学院への入学金に授業料。
自らの魔力を底上げする為の魔導具の購入費用。
門外不出の魔術書を閲覧させて頂く為の料金。
こういった諸費用を工面する為に一族単位や師弟で結社を組織したりする。
帝国は結社が魔術の世界を閉鎖的にするのを恐れた。
また、埋もれた才能を発掘して、お抱えにしたいという願望のもとに奨学金制度が造られ、各結社もそれに協賛した。
魔術師養成が結社の負担になっていたのは間違いないからね。」

魔術師の世界もせちがないと、小野はちょっとガッカリした。

「奨学金の返済は、帝国への奉仕活動でも可能だ。
大半は魔物討伐への従軍だったり、公共工事への協力がそれにあたる。
社会的な地位の向上や魔術師に経験を積ませたい結社も諸手を挙げて賛成した。」
「この世界の魔術師は引き篭りが許されないのですな。」

福沢の感想にベッセンは呆れ顔で答える。

「地球人のイメージでは魔術師は引き籠るものなのか?
まあ、いい。
そんな中、君達が転移してきた。
帝国は君達に対抗する為に常備の宮廷魔術師団の他に五つの魔術師連隊を編成し、優秀な若き魔術師達を召集した。
そして、各騎士団、神官戦士団、貴族の私兵団、傭兵隊と共に皇帝陛下の御観閲のパレードが帝都にて実施された。
一族や門弟の晴れ舞台を一目見ようと、約二万五千人に及ぶ魔術師団・連隊と、その関係者も一同に帝都に集合した。
彼等は庶民や他の関係者とともに、帝城まで続く中央の大通りから街道までを埋め尽くす大観衆の一人となった。
そこに・・・B-52が飛来して、阿鼻叫喚の地獄を作り出してしまった。」

各一門や結社の党首や重鎮、後継者、家族が軒並み失われ、多数の貴重な口伝も喪失した。

「留守居を預かっていた魔術師の実力はお世辞にも高いとは言い難い。
もしくは老齢で帝都に行けない者ばかりになってしまった。
帝国も崩壊し、後を引き継いだ王国は、日本への多額の賠償を支払う為に財政的に苦しくなった。
結果として、奨学金制度も停止となった。
その為に魔術師の実力は落ちる一方だ。
恨み骨髄の日本を避ける為に、その勢力範囲からは姿を消してしまった。
今、東部や中央にいる魔術師は、貴族が出資したお抱え魔術師か、冒険者、もしくは体制に反発的だった私塾の出身者ばかりさ。」

理由はわかったが、幽閉されて日本から出ていないベッセンがそこまで大陸事情に明るいのは気になるところだった。

「話が脱線したね。
神殿の方は問い合わせたかい?
彼等も魔術師と同様の目に合っているが、血縁とかの関わりは薄いからまだ話は聞いて貰えると思うけどね。
私見だけど、司祭達が使う『御使い』の奇跡だな。
神の眷属に成りきるわけだから、君達が施したアンデット対策は聖属性の『御使い』には意味がないよ?」
「術者の特定は可能か?」

小野は肝心な話を切り出した。

「術者は相当な高位の能力を持った司祭なのは間違い無いと思う。
私が使ってた術ならアンデットと同じ扱いで対処できた筈だからね。
術に必要な神具や人員などから、27ある神殿都市か、王都のどれかで間違いない。
神具の類いが他の都市に持ち出されるのはまずあり得ないからね。
術の使用中に探知の魔法を掛けた魔道具を司祭か魔術師に持たせておけば範囲が絞り込めると思うよ。」

843始末記:2017/07/11(火) 01:09:27 ID:7.L4Yce.O
範囲が広すぎて途方にくれそうだった。
ベッセンの忠告に従い、術の行使が可能な司祭のリストアップと、探知に協力してくれる魔術師の確保が最優先と大陸総督府への報告が行われた。



新京特別行政区
大泉寺
大泉寺は新京に造られた大陸最大の寺院である。
円楽は何故か宗派も違うこの寺に呼び出されていた。
本堂にはやはり宗派関係無く、大陸にいる各宗派の代表的僧侶が集まっていた。
居心地が悪そうにしていると、この寺の住職である宗人和尚が会話を進めてくる。

「我々の調べによると、この大陸には27の神殿都市と呼ばれる各教団の総本山がある都市がある。
まあ、都市と言っても人口が1万から30万とその勢力の規模によって様々なんだが・・・
我々も日本の仏教会の総意として、我々も28番目の神殿都市を創ろうという計画があるんだ。
十数年後の話になると思うけど、君の息子の剛君を開祖にどうかなと?」

突然の申し出に円楽は困惑する。
「ま、まだ先の話ですからね。
うちの剛はまだ小学生ですし」
「そうだね。
だが我々がこのような計画をしていることは覚えておいてくれ。
とりあえず、各神殿都市の視察なんてどうだい?
予算は我々が出すからさ。」

その予算の出所が気になるところである。

「総督府は今回の件ご承知なんですか?」
「ああ、協力体制の見返りにね。」
「協力体制?」

嫌な予感がするが聞かざるを得ない。

「自衛隊の方で妙な事件が起きてるらしい。
大陸の魔術師や司祭にも声を掛けてるそうだが、日本人からも術師の動員を要請されている。
そこで君達親子を総督府に派遣したいのだよ。
いいよね?」

宗人和尚の背後に座る各宗派の代表達が無言の圧力を掛けてくる。

「はい・・・お引き受けします・・・」

坊主の世界も上には逆らえない縦社会なんだと改めて思い知らされていた。




公安調査庁
新京公安本部

大陸における日本の諜報機関の本部に総督府各部門の担当者が集まっていた。

「府中の子爵様のアドバイスにより術の使用できる司祭をリストアップしていますが、全教団の司祭が使用出来るわけでは無いようなのでだいぶ搾れてきました。
我々が最も注目しているのは、ここ数年最も信者を増やしてきた教団、嵐と復讐の神の教団です。」

竜別宮捕虜収容所襲撃事件でも活躍した平沼調査官が、説明しながら出席者に資料を配っている。
資料を流し読みした秋山補佐官が眉を潜めながら尋ねてくる。

「この団体を調査対象とした理由は?
それと信者の増加は、教団教義が彼等の琴線に触れる何かがあったのかな?」
「その2つの答えは同じです。
復讐の対象が日本だからです。
資金も先の戦争で死亡した遺族からの献金が莫大なものになっていました。」

出席者達は遺族の文句や苦情は、アメリカにお願いしたい気分だった。
戦端を開き、無差別攻撃を行って起きながら肝心の米国はこちらの大陸に関心が無い。
乗り込んで来ないので遺族達の怒りと悲しみの矛先が日本に集中している。
日本も戦争に参加したのは間違いないが、無差別攻撃を行う余裕は無かったのだ。

「また、帝国残党軍の捕虜にも多数の信者がおり、公安では内偵を行っていました。
現在、王都の教団幹部には監視を付けています。
司祭長ロムロの身辺を盗聴した結果、クロだと断定しました。
儀式が行われている場所の特定を進めています。」

提示される証拠から、秋山補佐官も納得し、自衛隊側に向き直る。

「神殿都市の方は、我々第34普通科連隊が引き受けましょう。
とりあえず包囲だけでよろしいですか?」

連隊長の神崎一佐は心中の不安を隠しきれてない。
それは秋山にしても同感だった。

「はい、現時点では一連の『御使い』によるテロが、教団の総意なのか、王都の幹部による独断なのか断定は出来ていません。
教団本部への圧力は必要でしょう。
ですが、直接の戦闘は避けたいところです。
宗教団体の本部の攻撃など、精神衛生上もよろしくない。」

多数の民間人のいる都市への攻撃。
ましてや凄惨になるであろう熱狂的信者によるゲリラ戦。
まさしく悪夢の光景なである。
そして、それを当たり前に出来る様になる日本。
そんな姿は見たくなかった。

「わかりました。
神殿領のダーナの街道を封鎖し、流通を停止させることに専念します。」

844始末記:2017/07/11(火) 01:12:52 ID:7.L4Yce.O
自衛隊病院襲撃から7日後

大陸北部
神殿領ダーナ

近年著しい信者とお布施の増大により、嵐と復讐の教団本部があるこの町は建設ラッシュの好景気に揺れていた。
ダーナは日本の県ほどの広さだが、信者が些か特殊な事情を抱えた人物が多く、領都であるダーナ以外に集落と呼べるものはなかった。
同じ様に傷を舐めあって生きている住民が多く、不思議な団結力を持っている。
しかし、、前述の通りに近年の人口増加で、隣の領地との街道は意外にも商人達の荷馬車で賑わっていた。
隣領の街道の入り口には関所が設けられている。
唯一の他領への公式的な街道である。
住民の事情から命を狙われている者も多く、教団の神官戦士達が荷を改めたり、訪問の理由を問い合わせている日常だった。

「今日はいつもより荷馬車が少ないな?」
「旅人もだ。
何かあったのだろうか?」

関所の門を護る神官戦士達が首を傾げている。
普段なら建築資材や食料品を積んだ馬車や竜車が列を作って、神官戦士達の検閲を受けている筈だが、朝から一台も訪れない。
徒歩の旅人も昨夜は野宿をした者は到着しているが、隣領の宿に宿泊した者はほとんどいない。
と、そこに土煙を上げながら、陸上自衛隊第34普通科連隊の小隊を乗せた装甲兵員輸送車BTR-80一両と73式大型トラック一両が門の前に乗り付ける。
さらには後続として、馬や竜に乗った複数の近隣領地の旗を持った騎士達が後に続いている。

「な、何だ貴様らは!?」
「よせ、日本軍だ!!」

完全武装の隊員達が降車して、門を護る神官戦士達に銃を突き付ける。
数名の隊員を残し、残る隊員達も関所内を制圧に掛かっていく。
如何に田舎といえども、神官戦士達も銃の恐ろしさは理解出来ている。
それが日本軍のならば尚更だ。
武器を構えようとする神官戦士が同僚に止められて、武器を降ろしている。
関守の神官が小神殿から出てくると、自衛隊側の小隊長細川直樹二等陸尉が通告を行う。

「現時点を持って当関所は、日本国大陸総督府の名をもって陸上自衛隊の管理下に入る。
関所関係者は、当部隊の指示に従うことを命令する。」
「馬鹿な!!
大神殿からは何も聞いていない。
こちらから大神殿に問い合わせるから暫くまって欲しい。」
「構わないが諸君らに仕事は無いぞ?
この街道そのものが封鎖されるのだからな。」

街道の方では大音量スピーカーを搭載したパジェロベースの73式小型トラックが、道行く人々に街道の無期限封鎖を告げる放送を流しながら下っていく。
関所にいた旅人や商人達は、そそくさと隣領方面に小走りで逃げていく。

「い、いったい我々が何をしたというんだ!!」

関守の責任者であるガロン司祭が細川二尉に詰め寄っていく。

「知らん。
大神殿とやらの答え次第じゃないのか?」

本当は任務の内容は理解しているが、返答は面倒なので誤魔化しただけだった。
関守の責任者は自衛隊の後に付いてきた騎士達に助けを求める視線を向けるが、一様に目を反らされる。
それでも最年長の騎士マーブルが竜の歩を進めて、事情を語ってくれる。

「ガロン司祭、今回の件は国王陛下も承認した上意である。
諦められよ・・・」
「そういうわけで、周辺の間道や獣道といったルートの場所を教えてくれないかな?」



既に近隣領地に通じる間道や他の関所にも、それそれの隣領の私兵達が固めて、第34普通科連隊の隊員が各々一個分隊が監視、制圧に当たっている。
この関所の制圧も含めて、二個中隊が動員されているのだ。
細川二尉がガロン司祭を問い詰めてると、建物のドアが弾けるように吹き飛び、隊員の一人も吹き飛びながら出てきた。

「我らに罪を犯す者に報いを与えることを赦したまえ。」

重装甲のプレートメイルに大盾を着た騎士が三人建物の中から現れる。
蠍をイメージしたらしい甲冑に隊員達はうんざりした顔をしている。
吹き飛ばされた隊員は昏倒しているだけで、生きてはいるようだ。

「神殿騎士です。」

と、マーブルは告げて下がろとする。

「マーブル卿、神官戦士との違いは?」
「神聖魔法を使ってきます。」
「使えないのか、神官戦士達・・・」

神官戦士達は戦う能力があれば就ける職業らしい。
司祭と神官の違いも同様らしい。
「聖地で血を流すなと命令されてるからな、制圧しろ。」

自衛隊側のAK-74に装填されているのは、訓練で用のゴム弾だ。
それでも当たれば皮膚が抉れて出血する威力はある。
だが、鎧甲冑に大盾を持った相手には遠慮する必要はない。
出血はするが、死ななければよいていどの話だ。
何より隊員に死者を出す気は毛頭なかった。
一個分隊の隊員が銃撃を開始する。
鎧や大盾はへこんだり、穴を開けながらも神殿騎士達は動きを止めて堪えながら祈りを捧げる。

845始末記:2017/07/11(火) 01:16:55 ID:7.L4Yce.O
弾着の衝撃も半端では無いはずだが、立っていられるだけ凄いと細川二尉も感嘆する。

「『護り』を!!」

薄い光の膜が彼等の身体を包み、その身を護り始める。
ゆっくりとだが前進出来る程度には耐えれるらしい。
自衛隊側に焦りは無い。
いざとなれば実弾や手榴弾、車両に搭載した重火器を使えばよいだけだからだ。
そして、防御系の魔法の弱点も把握済みだった。
威力も大事だが連続で攻撃し続けると魔力の消耗も早くなるのだ。
単発の銃弾、矢や魔法、刀剣による斬撃ならはさほど問題では無かった。
自衛隊の攻撃のように常に弾丸を受け続ける立場になっては、魔力が早く尽きる。
徐々に光の膜は輝きを失い消滅すると神殿騎士達は昏倒していった。

「よし、拘束しろ。」
「彼等は下級の神殿騎士だから魔力が低いおかげでもあるのですがね。」

マーブルは見も蓋もないことを言うが、わざと弱い武器で相手の消耗を引き出すのは使えると実証された。
関所が完全に制圧すると、軽装甲機動車4両、73式大型トラック2両、装甲兵員輸送車BTR-802両といった車両が関所を通過していく。
その中に見馴れない車両が混じっている。

「またゴツいのを持ち出してきたな。」

細川二尉も見るのは初めてである。
耐地雷装甲車ブッシュマスターである。
平成25年に4輌の耐地雷装甲車ブッシュマスターが陸自に配備された。
オーストラリア陸軍向けに開発された大型の4輪装甲車であり、戦闘重量14トン、耐地雷構造で路上最大速度は時速100キロである。
車内温度の低減の為に耐熱素材が貼られており、クーラーも完備している。
また飲料水タンクも搭載し、常に冷たい水が飲める。
本来は海外に取り残された邦人救出の為に購入されたのだが、現在は大陸で政府要人を輸送するのに使われている。
現在の乗客は大陸総督府外務局杉村局長と一等書記官1名と警備対策官3名である。

「シルベールの時のような失態は犯せない。
気を引き締めて掛かるぞ。」

ケンタウルスとの交渉は杉村局長には失態だったと考えられている。
気を引き締めて掛からねばならなかった。
護衛の陸上自衛隊2個小隊とブッシュマスターの五名が大神殿までの道を切り開いていく。
警備対策官達は元は在外公館の担当だった者達だ。
転移時も地球の他国に赴任中だった筈の者が、全員では無いが他職員や観光客同様にこの世界に転移してきていた。
在外公館警備対策官の多くは自衛官・警察官・海上保安官・入国警備官または公安調査官からの出向者で、在外公館の消失と同時に元の部署に戻っていった。
残った民間警備会社からの出向者達が、機能を停止していた会社に戻れず行き場を無くしていた。
外務省は彼等を専門の警備対策官として雇い入れて組織したのだ。
以上の陣容で、ダーナの町の中心にある大神殿の正門に車両で乗り付ける。
降車した一行に多数の神官戦士や神殿騎士が道を塞ぐように立ち塞がった。
睨み合いが続く中、教団側から初老のいかにも高位な格好の老司祭が出てきた。
杉村局長、予め用意した写真で確認してから話し掛ける。

「カバナス大司教殿とお見受けしますが?」
「如何にも、愚かな日本人達よ・・・
命が惜しくばこの地より去るがよい。」

ガバナス大司教が片手を振ると、嵐と復讐の教団の戦士達が使節団を囲むように動きだし・・・彼等を守り始めた。


教団領テーベ

37名の神殿騎士と200名程の神官戦士達が、自衛隊を含む使節一行を取り囲むように動き始める。
圧倒的火力を有する自衛官達は、車両を盾にしながらAK-74の銃口を教団軍に向けた。
だが教団軍より先に杉村局長をナイフで襲った者がいた。
自衛官達もその存在を認識しながら、発砲を躊躇ったのは相手が十代前半とおぼしき少女だったからだ。

「悪魔め、死ねぇ!!」

その刃は教団軍の壁をすり抜け、自衛官達の発砲を躊躇わせて杉村局長の腹部を刺す寸前だった。
咄嗟に護衛の警備担当官が少女の手首を掴み、地面に捻り伏せさせたことで事無きをえた。
警備担当官は転移前の仕事として、海外で現地採用の警備員を指導する役割を持っている。
その為に柔道や空手の有段者が多い。
杉村外務局長は胸を撫で下ろすが、周辺の家屋から農具や武器を持った住民が次々と姿を現す。

「ここは我らの聖地だ・・・」
「ここを追い出されたら行くところなんかないぞ。」
「奴等を追い出せ!!」

住民から発せられる空気が使節団を、自衛官達を圧倒する。
図らずも教団軍が使節団の盾になる形になっている。
神殿からガバナス大司教が走ってこちらに向かっている。

「だから言ったろ!!
命が惜しくばこの地より去るがよいと!!
うちは教団より、信者の方がおっかないのだ。」

846始末記:2017/07/11(火) 01:26:43 ID:7.L4Yce.O
嵐と復讐の教団は復讐を肯定する。
その為の協力もするし、心の傷を癒すケアも施す。
しかし、復讐は復讐者の身の破滅させてまで遂行させるものとは教えにはない。
また、復讐の対象者以外が迷惑を被る行為は認めていないのだ。
心理的に追い詰められ、破滅に走りやすい信者達を隔離し管理する。
帝国が教団領を認めた理由の一つである。
逆に言えばこの地に住む民衆は故郷を追われ、他に行き場の無い者達が多数居住しているのだ。
自衛隊による進軍がこの地の住民の不安を煽った形になってしまった。
暴徒となった民衆を教団軍が抑えに掛かっている。
民衆の投石を神官戦士達が盾で防ぎ、神殿騎士達が心を平静化させる神聖魔法を掛けまくっている。

「早く退いてくれ。
今宵、関所で対話の場をもつ、急いでくれ・・・」

カバナス大司教の訴えにより、杉村外務局長は事態の成り行きに頷き自衛隊の指揮官に撤収の許可を出した。
警備担当官は少女を解放して、近くにいた神殿騎士に託す。
隊員達は用意してあった手榴弾、催涙球2型を投擲する。
非致死性の催涙ガスを散乱させ、迫り来る信者達を無力化して車両に乗り込み撤退した。



夜半過ぎ
関所

カバナス大司教は僅かな護衛と共に夜遅くに関所を訪れた。
出迎えた杉村外務局長と細川二尉と挨拶をかわす。

「討議は中で・・・」
「残念だが長居する余裕は無い。
信者達は一時的に抑えたが、いつ暴発するかはわからない。
今回の件でそなたらを庇ったことで、我等に対する不満を訴える者も少数ではない。」

確かに教団のNo.2にしてはみすぼらしい格好での来訪だった。
信徒達の暴走を懸念している為だ。

「ですが我々と本気で敵対するなら・・・
総督府は泥を被る決意があることをこちらも表明しておきましょう。」

横で杉村の言葉を聞いていた細川がギョッとする。
その泥を被る実行は自分達自衛隊にやらされるのではないかという懸念の為だ。

「状況は認識している。
なにしろ王都から報告書という形の檄文が届いたからな。
我等にも蜂起せよとな。」

カバナス大司教はかつての弟子がどれほど危険な尻尾を踏んだのかに気がつき、テーベの信徒達と秤に掛ける決断に迫られたのだ。

「勘違いしないでもらいたいが、教団主流派は日本と敵対する気はない。
たが王都にいる連中は別だ。
彼等の支持基盤は日本やアメリカとの戦争で家族を失った貴族や騎士階級の者達なのだ。
なれどテーベにいる信徒の大半が平民。
王都に居を構えて、教団に寄進出来る余裕のある信徒達とは根本的に異なる点だ。
テーベの民にとってのここは最後に残された安息の地なのだ。
ゆえに我等に総督府が発行しているテーベの本領安堵の朱印状を下賜されたい。
それでこのテーベの教団、信徒は抑えて見せる。」

日本としても住民の弾圧や虐殺など望むことではない。
だがタダではダメなのだ。

「働きが無ければ無理ですな。
朱印状は安くはありませんよ?」
「王都の主だった拠点と教団幹部の情報提供。
並びに主教猊下による日本への復讐の停止命令の聖意宣言でどうかな?」
「停止?
中止では無く?」
「それ以上は教義に反する。
我々は宗教団体だからな。
信徒達には『今はまだその時では無い』と通達する。
後は時間による解決を待ってくれ。」

妥協の限界のようだった。

「わかりました。
その線で手を打ちましょう。
関所は事態解決の確認後に返還します。
ところで、聖意に従わない者はどうする気ですか?」
「好きに扱ってくれ。
彼等も自らの教義を実践できて本望なことだろう。」

大神殿ではすでに聖意の書かれた書状が用意されている。
早くて来月には王都の神殿に聖意が伝わるはずだ。
しかし、杉村の背後にいた外務局書記官が書類を渡してくる。
一読した後にカバナス大司教に書類を渡す。

「総督府から発行された朱印状の写しです。
正式な物は明後日には届くでしょう。
契約の早期履行をお願いします。」

ファックスで送信された朱印状にカバナス大司教は仰天する。

「は、早すぎるだろう!!
関所に総督閣下でもいらっしゃるのか?」
「いえ、会談の最中に送って貰いました。
聖意とやらはいつまでに用意できますか?
準備ができ次第、王都に然るべき人間に送ってもらいます。」

カバナス大司教は密談を終えると早々に帰還した。
明日の朝には王都に迎える人間を用意すると言わされていた。

847始末記:2017/07/11(火) 01:31:28 ID:7.L4Yce.O
「自衛隊並びに近隣の騎士団にテーベの封鎖を解除するよう伝えて下さい。
それと、ヘリの準備をよろしくお願いいたします。」

杉村外務局長の指示に細川二尉は部下達に命令を下す。

「仮設のヘリポートを造る。
今晩は眠れると思うな!!」



テーベ大神殿

早朝早く、旅支度を整えて呼び出された神殿騎士団団長のジモンはカバナス大司教のに膝まづいた。

「お召しにより参上つか奉りました。」
「御苦労だった。
これより王都に赴き、主教猊下の聖意を信徒達に伝える任に就いてもらう。」
「畏まりました。
しかし、騎竜はおろか、馬も用意しなくよいとは?」
「日本が乗り物を用意してくれるようだ。
荷物も最低限でよいと」

ちょうどそこに大神殿の上空から轟音が聞こえてきた。
神官戦士達により封鎖された大神殿の中庭に陸上自衛隊のUH-60JA 多用途ヘリコプターが着陸してくる。
あまりの風圧に神官達が顔を手で多い、巫女達がローブや髪を抑えている。
ヘリの横扉が開き、同行を命じられた細川二尉が降りてくる。

「準備はいいですか?
これからイッキに王都まで飛びます。
トイレに行くなら今のうちに!!」

ローターの回転音があまりに轟音な為に細川二尉は大声を張り上げている。
陸上自衛隊は大陸で任務遂行に脆弱な街道は任務の妨げになると判断していた。
その為に鉄道を整備していたのだが小回りが利かないのが問題がある。
そこで転移により仕事を無くした民間人への公共事業を兼ねて、愛知県小牧市の工場を大幅に拡充した。
海自は全艦艇に哨戒ヘリコプターの搭載を目標とし、陸自も大陸の駐留部隊への充足を行っている。
機体だけあってもパイロットがいなくては話にならない。
国際線が来なくなった中部国際空港が、パイロット養成学校になっていた。

大神殿中庭のあまりの光景にジモン団長はちょっとビビっていた。
躊躇う足取りに背中から神官戦士達に背中を押されて、UH-60JAに乗せられる。
ジモン団長は不安そうな顔で座席に座らされシートベルトを細川二尉に装着してもらう。

「あの・・・これ乗らないと駄目なのかな?」

ジモンも飛行機械の存在は知っていたが、自分が乗る羽目になるとは考えてもみなかった。

「明日の朝には王都に到着するにはこれしか無いので我慢して下さい。
いいぞ、やってくれ。」

無慈悲な細川二尉の合図で、UH-60JAのローターは回り出す。
体が浮き上がる感覚にジモン団長の悲鳴を上げるが、ローターの回転音に掻き消された。


正午
大陸東部
マディノ
陸上自衛隊第9分屯地

分屯地司令の浅井治久一等陸尉は連絡のあった時間に分屯地に併設された空港のプレハブで造られたロビーにいた。
窓際では事態を見届けるべく新京から派遣された吉田香織一等陸尉がヘリの到着を待っている。

「来ました。」

双眼鏡から観ていた吉田一尉の言葉に浅井はロビーから外に出る。
この官民共用の空港は、プロペラ機用滑走路一本と二つのヘリパッドがあるだけの小規模な施設だ。
だが、航空機による機動力の充実や補給の充実化などの大きな役割を担っていた。

「来たか。」

テーベから飛来したUH-60JAがヘリパッドに着陸する。
ヘリから降りた細川二尉が、ふらつくジモン団長を引きずり降ろす。

「お世話になります。
34普連の細川二尉です!!」
「分屯地司令の浅井一尉だ。
連絡は受けている、あれに乗ってくれ。」

滑走路ではセスナ 208 キャラバン、単発ターボプロップ汎用輸送機がいつでも発進出来るように待機している。
元々は民間の所有機だったが、転移の混乱で維持できなくなったところを国で買い上げたのだ。
陸自用に改修され、胴体下に1箇所、主翼下6箇所のハードポイントが設置された。
ヘルファイア対戦車ミサイルの運用を可能としている。

「その前にトイレに・・・大丈夫ですか、ジモン団長・・・」

顔面蒼白で足元をふらつかせていたジモンは口元を手で抑えながら涙目で、細川二尉にトイレに連れて行ってもらう。
15分ほど掛かってトイレから出てきたジモンは、今度はセスナに乗せられると聞かされて卒倒仕掛けている。

「同行する第16師団司令部の吉田一尉です。
よろしくお願いします。」

卒倒仕掛けていたが、女性が同行すると聞いて気を持ち直す。
そして、膝まづいて祈りの言葉を唱え始めた。

「『神聖なる嵐と復讐の神よ。
我が願いを叶える為に平静な心を我に与えん。』」

突然の神聖魔法にジモンの体が紫に発光する。
心に平穏を与える魔法だが、ヘリコプター酔いには十数回使用された。
光が消えると、元気な顔をしたジモンが出てきた。

848始末記:2017/07/11(火) 01:40:25 ID:7.L4Yce.O
「いや、心配掛けた。
さあ、次はあの飛行機かね?
参ろうじゃないか」

浅井は魔法便利だなと思った。
細川はこの場に置いていきたい気分に駆られた。
吉田はエスコートすると差し出された腕の扱いに困っていた。

「いいから早く乗って下さいよ。
スケジュールが推してるんですから!!」

パイロットの奥村一曹の抗議の声に全員、慌てて動き始めた。
滑走路から飛び立ったセスナは一路、王都ソフィアに向けて飛び立った。



王都ソフィア
ソフィア駐屯地

テーベから送られた情報を元に駐屯地から第17普通科連隊の車両が次々と出ていく光景が見られた。

「和解だと?
やられっ放しでいられるか。
使者が聖意を持ってくるまではこちらのターンだ。」

第17普通科連隊隊長碓井一等陸佐は憤りを隠せない。
自分のお膝元で好き勝手にやられていたと思うと腹立たしくて仕方がなかった。
王国における自衛隊の顔である自分達の顔に泥を塗られた形だ。
幸いなことに第17普通科連隊は、傀儡国の首都に駐屯しているだけあって、かなりの武断的処理を行う権限を有している。
この機会に王都の反日勢力に対する見せしめを行うことにしたのだ。
総督府からは教団への包囲のみを命じられていたが、偶発的な戦闘に関しては問題はなかった。

「最前線の俺達は舐められたら終わりなんだ。
誰も彼も穏便に終わらそうなんて考えてると思ったら大間違いだと教えてやろう。」

そう呟く碓井一大佐の視線の先には、北サハリンから購入したMi-24、ハインドのローターが回り始めていた。



王都ソフィア

とある王国騎士の邸宅

王国騎士シエリは、ケイオン男爵家の次男として産まれた。
本来なら嫡男の控えとして、部屋住みの身分に甘んじ、飼い殺しの一生を送る筈だった。
転機は七年前の帝都大空襲。
皇帝陛下の御親征ともあり、父である当主や嫡男たる長兄が一族をあげてケイオン家の兵団を組織して参陣することとなった。
農家や町民も三男以降が褒美や出世を夢見て兵団の募集に応じている。
その結果、たかが一騎士家としてあり得ない四百にもおけるケイオン兵団が誕生した。
だが肝心の自分は留守居として、小規模な町がある領地の城に留め置かれた。
ケイオン兵団は勇壮に帝都に参陣し、誰も帰ってこなかった。
帝国が解体され、王国が誕生し、ケイオン男爵家の王国騎士家の降格が申し渡された。
シエリは一族男子の筆頭として、家督の継承と王国騎士としての出仕を命じられた。
それからは順風満帆な6年だった。
王国は騎士団の再編成を行ったが、経験ある先輩や上司は軒並み戦死しており、若輩者な自分が騎士隊長に任じられる始末である。
部屋住み時代から当主や嫡男に代わって、ケイオン家の威光を示す為にモンスターや盗賊に討伐に散々駆り出されていた経験があったからだ。
また、部屋住み時代からは考えられないくらいに女性にモテるようになった。
同世代で同じくらいの身分に男子が激減したのも大きかったのだろう。
その中でも一段出世したシエリがモテない筈がなかった。
これまでの鬱憤を晴らすがごとく、一年ほど遊び尽くした結果、上司の娘を孕ませて結婚したのが四年前。
娘二人と息子一人と子宝にも恵まれて、この日も屋敷で領地の財政に関する書類を読んでいた。
部屋住みで暇だろうと、手紙の執筆から会計に駆り出されていた経験が生きている。

「今思うと、父上も兄上も俺を使い潰す気だったな?
まあ、次男とはそういうものだったかもな。」

父の弟だった叔父も自分が産まれたと同時に、部屋住みの役目が終わったと兵隊長にされていた。
兄に次男が産まれてれば自分も同じ運命だったろう。
感慨に耽っていると、下男のハンスがノックもせずに部屋に駆け込んでくる。
無礼を咎めようと思ったが、ハンスのただならない様子に壁に掛けてあった剣を腰に装着しながら問い質す。

「何があった?」
「お、御屋形様・・・屋敷の外に自衛隊の兵士達が!!」

急いで門の外に駆け出すと、屋敷に詰めている兵士が10名が大盾を構えて備えている。
妻や母も窓から様子を伺っている。
屋敷外では自衛隊の迷彩服を着た兵士達が、軽装甲機動車と呼ばれる車両から降車しているところだった。
降車した兵士は三名。
車両内の運転席に一名。
屋根を開き、銃座に座った一名がこちらに銃口を向けている。

「こんな夜分に何の用か?
御用向きを伺いたい。」

努めて冷静に問い質す。
降車していた兵士の一人、おそらく指揮官が返答してくる。

「ケイオン家には嵐と復讐の教団と結託したテロ容疑が掛かっている。
我々の調べが終わるまで、屋敷にて蟄居を命じる!!」

その言葉に首を傾げる。
心当たりが無いのだ。

「ああ・・・!!」

849始末記:2017/07/11(火) 01:43:10 ID:7.L4Yce.O
叫び声を母が上げて泣き崩れている。
どうやら容疑は本当だったらしい。
父上と兄や弟達が揃って死んだ事を恨み、憎んでいた。
妙に納得してしまった。
王国軍も自衛隊の兵器の情報は集めている。
抵抗は無意味で勝ち目はない。

「わかった従おう・・・」

秘かに母を逃がすしかない。
次男の自分を軽んじていた母だが母は母だ。
どうこの場を切り抜けるか、それが問題だった。

とある上級貴族の邸宅

王国貴族ラキスター伯爵邸にも自衛隊の部隊が姿を見せていた。
さすがに伯爵邸ともなると、城館といってよく、敷地内に堀まで存在する。

「閣下・・・」
「おのれ無礼な!!」

不安がる家臣達の前で精一杯の虚勢をラキスター伯爵は張っていた。
自衛隊側はBTR-80装甲兵員輸送車と軽装甲機動車2両が門の前に陣取っている。
降車してきた11名の隊員が銃口を向けている。
それぞれの車両には運転手と銃座に座っている。
さずがにこの人員では、城館の監視にも穴が多い。
一方のラキスター伯爵邸にも兵士が80名とお抱えの魔法使いが三名ほどしかいない。
ケイオン家同様に自衛隊の口上が伝えられる。
こちらは伯爵自身が教団の支援者だった。
一族朗党、領地から徴募した兵士達をまとめて爆撃された上に、伯爵家に降格された恨みは忘れてはいない。
あの空爆でラキスター侯爵軍は1500の人員を失って全滅したのだ。
死亡者にはラキスター伯爵の息子や娘婿や兄弟の名前が連ねている。
遺族達からの非難や補償の問題に悩む七年だった。
その上で城館にまで自衛隊がやってくるという挑発行為にラキスター伯爵は耐えられなかった。

「積年の恨み、ここで果たしてくれる!!
おい、あいつらに向けて、ありったけの銃や弓、魔法をぶっ放してやれ!!」

ラキスター伯爵は兵士や魔法使い達に命令するが、彼等は攻撃を躊躇い中々動こうとしない。
戦えば皆殺しにされるのは目に見えてるからだ。
激昂したラキスター伯爵は自ら壁に飾ってある短筒を取って、自衛隊に発砲しようとしたが嫡男のジェフリーに立ち塞がれる。

「どけジェフリー!!
せめて奴等に一矢報いねば気が収まらぬ!!」
「父上、お止め下さい。
このままでは当家は断絶。
屋敷の者は皆殺しにされます。」「この臆病者め、命が惜しいか!!
ラキスター家の面汚しが!!」

激昂するラキスター伯爵に処置無しと判断したジェフリーは決意する。

「ラキスター家、次期当主と命令する。
父上は心労でご病気になられた。
自室での安静が必要である。
なお、病状からその身が暴れだすことがあるが、治療の為に取り抑える必要を認める。」
「よせ、この無礼者、私を誰だと・・・」

ジェフリーの意を組んだ家臣達が、暴れるラキスター伯爵を拘束して猿轡を噛ます。
床に落とされた短筒を壁に掛け直しながらジェフリーは溜め息を吐く。
「落ち着いたら父上は隠居の身とし、私が家督を相続する手続きを取る。
宰相府に借りを作ることになるがやむを得ない。
問題は日本の兵士達に踏み込まれた時だな・・・
その時は、父上に自裁を行ってもらう。
準備だけはしておけ・・・」

出来れば穏便に済ませたい。
このまま自衛隊が動かないことを祈るしかなかった。




王都下町
とある高級娼館

日本との戦争により、御家断絶や降格により帝国騎士から平民に降格され領地を没収された帝国騎士上は相当数に登った。
領地を没収されて生活に困窮した彼等は妻や娘を売る借金のカタに売るはめになっていた。
元貴族の私邸を改修し、そんな彼女等を娼婦として働かせる娼館の一つに、自衛隊の73式中型トラックが停車して隊員達20名が降車していく。
監視の対象は娼婦達30名全員である。
夫や父を失い娼婦に身を堕とされた彼女達は教団に身銭を献金し、儀式の為に身を捧げるなどの活動を行っていた。
焦ったのは娼館の館長や従業員達である。
自衛隊に逆らうといい選択肢は彼等には無い。
しかし、娼婦などの身柄を自衛隊に引き渡せば親組織から殺されてしまう。
ただでさえ最近は石和黒駒一家という新興組織に推されて売り上げが落ちてるのだ。
上納金の支払いもギリギリの状態で娼婦達を酷使している有り様なのだ。

「自衛隊に渡す賄賂も捻出できん。
女を抱かそうにも全員が容疑者なのに応じるわけが無い・・・」

館長が頭を抱えている。

「親方!!」
「馬鹿野郎、館長と呼べ!!
で、どうした?」
「お、女達が!!」

娼館の内部では、娼婦達がナイフや奪った剣を振り回して従業員達を血祭りにあげている。
娼婦達も元は騎士階級の妻子だった者がほとんどで、人並み以上に武芸の嗜みがある者達がいてチンピラもどきの従業員では相手になら無い。

850始末記:2017/07/11(火) 01:54:10 ID:7.L4Yce.O
娼館の外の自衛官達にも内部の喧騒が伝わっている。

「おい、もう誰か仕掛けたのか?」
「挑発はともかく、こちらからは手を出すなと言われてたじゃないですか?」
「じゃあ中の騒ぎはなんなんだ?」

娼館の中から娼婦が出てくる。
状況からして、自衛隊に保護を求めに来たのかと隊員が二人駆け寄る。

「死ねぇ!!」

娼婦の振るう剣をAK-74で受け止めた隊員が転がる。
娼館から次々と出てくる娼婦達が剣や棒切れを構えて自衛隊部隊に駆け出してくる。
ここまで直接的に仕掛けて来るとは思ってなかった自衛隊部隊は動揺する。

「い、威嚇射撃、開始!!」

娼婦達の足元に隊員達の銃撃が炸裂し、怯んだ娼婦達は娼館に戻っていく。
斬り付けられた隊員も走って戻ってくる。

「わ、我々は日本軍には屈しない!!」

娼婦達に宣言された自衛隊側は対応に困ってしまった。
抵抗したら強制的に排除してよいと、司令部から言われているが相手が相手だけにやりにくい。

「とりあえず近寄ったら牽制の銃弾だけ撃て。
あとは・・・状況が動くまで静観する。」

問題の先送りは日本人の得意技だ。



とある商人の屋敷

自衛隊の一個分隊が軽装甲機動車二両で、教団に多額の寄進を行っている商人の屋敷に乗り付ける。

「ああ・・・
来ちゃいました?」

商人ワークスが揉み手をしながら隊員達にすり寄ってくる。
隊員達からの口上もうんうん頷きながら聞いている。

「まあ、ここはこれでお許しを・・・」

金貨の詰まった袋を分隊長に渡そうとしてくる。

「いや、我々はそういうの困るから!!」

分隊長はすぐに受け取りを拒否するが、ワークスは違う解釈をした。

「『我々は』?
なるほど、これは気がつきませんで・ ・・
おい、番頭さん。
自衛隊の隊員さんの数だけの金貨の入った袋を用意してくれ。」

このままでは賄賂を受け取らされてしまう空気だ。

「後退!!
屋敷から距離を取るんだ!!」
「お待ちください、なんでしたら袋はお一人につき二つを用意しますので!!」

ワークスの遠ざかる声から逃げるように自衛隊は戦線を後退させた。



王都某所
嵐と復讐の教団地下祭壇

突然の自衛隊の動きに嵐と復讐の教団の司祭ネッセルは自分達の行動が日本に露見したことを悟った。
次々と逃げ込んで来る信徒達の話からも明らかだった。
この場所も露見している可能性が高い。

「どうやら急がねばなりません。」
「司祭様・・・、空に自衛隊の飛行機械が・・・」

弱々しく信者達が伝えてくる。
地下祭壇から1階に戻り窓から身を潜めながら空を見ると、昆虫のような胴体を持った機体が地下祭壇の上空を浮遊している。
信者達はドアや窓にバリケードを作り始めているが、時間稼ぎにもならないだろう。
再び地下に戻ると、『力ある言葉』を唱え始める。

「おおっ、我らが尊き嵐と復讐の神よ。
憎むべき……アキヅキハルタネ、思い知るがいい。
痛みは消えず永遠に苦しみとともに生きるがいい。
私の苦しみはそのまま……アキヅキハルタネに帰るのみ。
アキヅキハルタネ……に」

3回繰り返し、信徒達は唱和する。
唱和しながら始まった淫靡な宴による狂気の魔力がネッセル司祭の体内に流れ込む。
この魔力の増幅があって、『御遣い』の奇跡を行えるのだ。
アキヅキハルタネの人形に入れられた本人の髪の毛を通じ、遠く彼方で寝ているアキヅキハルタネの元に意識が導かれてた。
ネッセル司祭が瞼を開くと、目の前にはアキヅキハルタネがベッドの上でイビキをかいて寝ていた。



同時刻
新京特別行政区
陸上自衛隊新京駐屯地内
自衛隊病院

こんな時間まで起こされていた剛少年は眠気を圧し殺して、初老の男性の体に経文を書いていた。

851始末記:2017/07/11(火) 01:57:20 ID:7.L4Yce.O
自衛隊の青木一也陸将は自衛隊や事務方、数人の僧侶が見守る中、全裸に経文を書かれているという屈辱を圧し殺していた。
だが剛少年はバツの悪そうな顔で筆を止める。

「どうした剛?」

父親の円楽が筆を止めた理由を問う。

「こっちじゃないや・・・、変な気配はお城に現れたよ、父さん。」

剛少年が指差す窓の向こうには、日本国アウストラリス大陸総督府が見えていた。




大陸総督府官邸

大陸総督府は日本風の城の形で建築されている。
日本本国から遠く離れ、大陸に移民した日本人達の情緒や精神安定を図るのが目的と計画書には書かれている。
本当は計画担当者の趣味だったのは最高機密に指定されている。
総督府は通称新京城と呼ばれ、天守閣を中心に北、東、西の小天守閣を連結させた5層5階地下1階の本丸天守閣は、外観に反して鉄筋コンクリート製の総督府のオフィスビルという残念な仕様である。
天守閣から見て南側に本丸御殿が造られていて、総督官邸として使用されている。
匠の力で木造平屋建ての書院造りの表書院は総督一家の居住区となっており、内装は総督夫人の趣味により洋風になっている。
この日の総督夫人は新浜市に市役所ビル落成のパーティーに出席の為に留守であり、秋月総督は一人で大きめなダブルベッドで大の字になってイビキをかいて寝ていた。
秋月総督の体毛を仕込んだ人形に導かれ、ネッセル司祭は本丸御殿に『御遣い』として顕現して秋月総督の寝室に現れた。

「御覚悟を・・・、総督閣下・・・」

秋月総督の精気を奪うべく手を伸ばすが、御殿内に響き渡る警報が鳴り響いた。
機械による警報では無い。
魔力を検知する魔導器がベッドの脇の机に置かれていた。
さすがに青木陸将が最初に襲われて二十日は経っている。
総督府要人や自衛隊幹部も各々で身を守る対策を講じる時間は十分にあった。
日本の宗教勢力との協力に加えて、王国貴族から献上或いは没収された魔導器を研究所や倉庫から引っ張り出されて分配された。
その中の一つが魔力を検知して警報を鳴らす魔導器である。
警報で起き上がった秋月総督はベッドの下に転がり落ちて、ネッセル司祭の手を逃れる。

「よ、夜這いか!!」

今までにも総督と懇意になろうと王国貴族から差し向けられた令嬢や高級娼婦、或いは貴族夫人本人という前例が脳裏を掠める。
だが目の前にいるのは大柄な男だ。
夜這いと勘違いされたネッセル司祭は不本意そうな顔をしている。
ネッセル司祭の何かを言いたそうな顔に、秋月総督はここ何週間か新京を騒がせていた事件を思い至る。

「曲者か、であえ〜であえ〜!!」

襖が開いて黒服のSP達が何人も出てくる。
全員が拳銃や警棒を構えるが、相手の正体を悟り近寄るのを止める。
優先は秋月総督の保護で、ネッセル司祭との間に数人が立ちはだかる。
完全武装の自衛官すら退けたネッセル司祭はSPなどものの数では無いと最初の一人に掴みかかり、精気を奪って倒すが、二人目に斬りつけられた。
ネッセル司祭は精神体の自分が斬り付けられた事に驚いていた。
SPが持っていた得物はやはり献上品の魔力が付与された剣だった。

「小癪な・・・」

所詮は魔力の付与されただけの武器で、所持しているのは一人だけだ。
斬られた感触ではたいしたダメージは食らっていない。
あれでは百太刀斬られても問題は無さそうだった。
だが新たに入ってきた白い頭巾で顔を隠し、黒い着物を纏った男達が入室して来てネッセル司祭を囲んだ。
「何者だ貴様ら・・・?」

それには答えず、ネッセル司祭に各々が持っ武器を振るってくる。

「六根清浄!!」
「悪霊退散!!」

日本仏教会から派遣された寺を実家に育ち、寺を継げない次男以降で武道の心得を持つもので組織された僧兵達だった。
彼等を率いるのは円楽で薙刀を構えていた。
他の僧兵達の鉄の熊手、大槌、大鋸、刺又、突棒、袖搦にも魔力が籠められていた。
円楽と僧兵達の武器には円楽の長男剛が『加持』を施している。
『加持』とは、仏の作用や功徳などの力を付与する法力である。

「やれやれ間に合ったか・・・、さあて、退いてはくれないのだろうな。」

薙刀を構える円楽はネッセル司祭と対時する。
さすがにこれだけの数を相手にしては苦戦は免れない。
しかし、ネッセル司祭に戦闘どころでは無い事態が襲いかかる。

「ぐっ!?」

ネッセル司祭は突然に苦悶の声をあげて、床に膝をつく。
その『御遣い』の精神体に次々と穴が開き、欠損していくのだ。

「おのれ本体を狙ったな?」



同時刻
王都ソフィア上空

セスナ 208 キャラバン、単発ターボプロップ汎用輸送機を陸自が改修したAC-208J コンバットキャラバンが王都ソフィアに到達していた。

「吉田一尉、細川二尉、あれを見てください!!」

852始末記:2017/07/11(火) 02:01:09 ID:7.L4Yce.O
パイロットの奥村一曹が指差す方角に二人は目をやる。
王都とはいえ、ソフィアの町は繁華街や貴族街を除けばろくに灯りも無い街並みである。
油が高価な為に太陽が落ちれば庶民は寝てしまう為だ。
しかし、二人が観た光景は下町の民家が攻撃ヘリの攻撃を受けて爆発炎上しているというものだった。
暗い街並みに爆発炎上する民家は大変目立っていた。

「あれは・・・地下祭壇のある場所だ・・・」

同乗していたジダン団長の言葉に二人は絶句する。

「あれはハインドの陸自仕様です。」

奥村一曹が機体の所属を特定するが、こちらはソフィア駐屯地に向かうしかない。

「おい、あの飛行機械が進路を変えたぞ!!
王都の大神殿の方角だ!!」

ジダン団長の悲鳴に似た訴えにより、吉田一尉は命令する。

「奥村一曹、あの機体を追って!!」
「り、了解!!
しかし、追ってどうするんです?」
「まずは交信で呼び掛けるわ。
それでも駄目なら奥村一曹・・・
あの機体が射程距離に入ったら・・・ロックオンしなさい。」



ソフィア上空
攻撃ヘリMi-24機内

機長の桜井一尉はご機嫌だった。
自衛隊に恥をかかせた邪教徒のアジトを12.7mm 4銃身ガトリング機銃で蜂の巣にしてやった上に、粉々になったバリケードや床板に向けて、ロケットランチャーを連射出来たのだ。
あれで生き残っている者など、いるはずがない。
地下祭壇の掃討は地上の普通科部隊に任せることになっていたが、老若男女関係無く肉塊に変わっており後始末以外にすることはないだろう。
続いて受けた命令が御機嫌だった。
邪教徒の本拠地である王都大神殿に残った火力を全て叩き付けろというものだった。

「うちの連隊長はわかってるよな。
王都の連中や残党軍の連中に見せつけるように派手にやらないとな。」

東部の第16師団は地元と融和政策を行っているが、この中央部や南部では残党軍によるテロや王国貴族との小競り合いなど日常である。
再び日本の力を王国に見せ付ける必要があるとの主張が、最前線にいる第17普通科連隊では高まっていた。
新参の第34普通科連隊はまだまだ脇が甘い。
第17普通科連隊は王都に花火を打ち上げる機会を伺っていたのだ。

「機長、通信が。
後方を飛んでるAC-208Jからです。」

副操縦士の阿部三尉が悦に入っいた桜井に伝えてくる。

「何て言ってる?」
「攻撃を中止せよと、第16師団の師団長付き副官吉田香織一尉からです。」

桜井はマイクを握って、AC-208Jに返信する。

「管轄違いだ、引っ込んでろ。」

返信と同時にロックオンの警報が機内に鳴り響く。
AC-208JにはAGM-114 ヘルファイアIIが搭載されている。
ミリ波レーダーによるアクティブレーダー誘導がハインドのレーダー警戒装置が反応したのだ。
もちろん実際には発射されていないし、空対空ミサイルでも無いからそうそうあたるものでもない。
それでもベテランの桜井は的確に回避行動を取ってしまった。

「あのアマ、やる気か!!」

ほとんど無意識な回避行動たが、減速した瞬間にAC-208Jがハインドを追い抜いていく。
もともとスピードはAC-208Jの方が速い。
そして、着陸には300メートルほどの着陸距離があればいい。
大神殿の正面は大勢の民衆に説教をする為に石畳の広大な広場になっている。
多少の悪路もセスナなら問題はない。
前方を取られたと桜井一尉は悪態を付くが、さすがに友軍機は攻撃出来ない。

「司令部に指示を仰ぐ。
まったく面倒なことを!!」




大神殿正面広場

昼間は大勢の参拝客が賑わうこの場所も深夜になると閉鎖されて無人になる。
その広場にAC-208Jが着陸して走行する。
さすがに警備にあたっていた神官戦士達は接近してくるAC-208Jの勢いに散開して逃げ出して距離を取る。
AC-208Jの動きが止まると再び包囲するように集まってくるが、中からジモン団長が出てくると、膝をついて礼をつくす。

「あとは任せたまえ。
大主教猊下の聖意は信徒ならば絶対だ。
これで手打ちだよ。」
「私も行きます。
総督府による本領安堵の朱印状を公式に伝えないと。」

吉田一尉はジモン団長にエスコートされて、大神殿に入っていく。

「終わったな。」

細川は二人を見送り、事態を関係者に伝えるべくAC-208Jの機内に戻る。
隣にハインドも着陸して来て、桜井達が降りてくる。

853始末記:2017/07/11(火) 02:04:30 ID:7.L4Yce.O
「今度は総督府から正式な命令が届いた。
攻撃は中止する。
だがよくもロックオンなんかしやがったな?
てめえかパイロットは?
さっきのアマはどこに行きやがった?」

外でタバコを吸っていた奥村一曹が首根っ子を掴まれて揺らされている。
阿倍三尉が必死で止めているが、細川二尉は暫く機内に隠れてることにした。



同時刻
新京特別区
総督府官邸

ネッセル司祭の精神体はすでに『御遣い』の力を無くしていた。
本体の欠損に合わせて、精神体も欠損している。
たがまだ死んでいない。
肉体は死んでいるが、精神体としてネッセル司祭はまだ意識を保っていた。
その哀れな姿に円楽は手を合わせて念仏を唱えてから薙刀で斬りつける。

「もはやただの悪霊の類いですな。」

隙あらば魔力や法力を付与された武器を持つSPや僧兵達が斬り付け、叩き付けて精神体を削ぎ落としていく。
聖なる守護は無くなり、駆けつけてきた自衛官達のショットガンによる塩弾の攻撃も効果が出ている。
肉体が無いので、細切れにされてもまだ生きている。
足を切り落とされて這ってでも秋月総督に向かってくる。
腕が落とされて、胴が砕かれ、首だけが転がりながら向かってくる。
携帯で通話していた秋月総督は首だけの精神体に語りかける。

「嵐と復讐の教団、総大主教からの言葉を伝える。
『今はまだその時ではない。』だ、そうだ。」

その言葉が本当に総大主教から発せられたかはネッセル司祭に確かめるすべはない。
それでも何か納得したような顔を浮かべ四散して消えていった。


翌朝の総督府はようやく警戒令の解除が発布された。

「テーベの町には公安と自衛隊による監視を兼ねた連絡所を開設します。
信徒達の代替わりまでは警戒にあたります。
表向きは周辺の資源調査の事務所ということになります。」

朝になってから出勤してきた秋山補佐官が寝不足の秋月総督に事後処理の草案を説明している。

「ソフィアの町の信徒達はどうするのかな?
宰相府からも抗議が来るんだろうな。」

考えただけで憂鬱になる。

「抗議に付いては山のように来ています。
後でお目を通してといて下さい。
今回の事件に関与した信徒達は、王国軍が拘束する模様です。
おそらく大半が大陸を追放になるだろうと。
その家族についてはお咎め無しの王命が下されました。」

王国の対応が早かったのは教団を支援していた最大の貴族ラキスター伯爵家公子が、伯爵の急病により事態の推移を宰相府に説明していたおかげらしい。
さすがに王都で暴れまわったのは陳謝が必要であろうことは、秋月総督も考えていた。

「問題は身内だな。
第17普通科連隊の動きには行き過ぎの傾向が見られたとか。」
「裁量権の範囲でもあります。
そういう性格の部隊として育てたのも事実ですが、今後もう少し首に鈴をつける必要があると思います。」

年明けには岩国で編成中の第51普通科連隊が大陸に到着する。
彼等を中央部に配備して、第17普通科連隊の管轄区域を狭めるのが当面の対策だった。

「僧兵達の件はどうする?
協力に報いないと祟られそうだな。」
「フィノーラに寺院を建てたいと要望が出ています。
このあたりが妥協線かと。」

フィノーラはリチウムやカリウムの鉱山がある東部の街で、現在は第16普通科連隊から派遣された第二分遣隊が管理している。
日本人による技術指導で鉱山は運営されており、将来的に日本が割譲を計画している地でもある。

「しかし、寺院の武装化か。
大陸限定であるが、他の団体も真似しないといいが・・・」

大陸では民間人の武装も許可されている。
僧兵達の装備も冒険者レベルだから認めないわけにはいかなかった。
秋月総督は書類を見ながら欠伸をする。
昨日の今日では具体的なことは決めることは出来ない。
今後の課題は幾つも残された感じだ。
おまけに荒らされた寝室の後片付けで、寝不足気味だ。
荒らしていった自衛官、僧兵、SP達は、誰も片付けを手伝ってくれなかった。



事件の後遺症も意外な形で残っていた。
夜に寝室から出てきた秋月総督は廊下で警戒にあたっていたSPに懇願する。

「なあ、一人で寝るの怖いから寝付けるまで部屋の中で見守っててくれないかな?」

854始末記:2017/07/11(火) 02:05:07 ID:7.L4Yce.O
では今日はここまで

855始末記:2017/07/12(水) 07:40:54 ID:7.L4Yce.O
朝になってしまった
今日の投下開始

856始末記:2017/07/12(水) 07:42:29 ID:7.L4Yce.O
フセヴォロドヴナ海
海都ドミトリエヴナ

冬のフセヴォロドヴナ海。
海蛇人の都ドミトリエヴナは現在内戦の憂き目にあっていた。
長年支配下に置いていた鮫の魚人の一派シュモク族が反旗を翻したのだ。
数多の海蛇の脱け殻を乾燥させ、長い年月を掛けて重ね合わせたドーム上の都市であるドミトリエヴナの各所では、銛を持ったシュモク族と海蛇人とが切り結んでいた。
鮫系の魚人族は海皇都が健在時には最大最強の兵団を駐屯させていた。
海皇都の転移と同時にこの兵団を失い、鮫系の漁人族は各海で他種族に支配される側に転落していった。
だが日本をはじめとする地球系国家に各種族が敗北し、戦力の大半を失ったことにより反抗に転じたのだ。

「海蛇人の大半を南側に追い込んだな?
よし、外の人間共に合図を出せ。」

大半の海蛇人は冬眠しており、抵抗している海蛇人も動きが鈍いのは幸いだった。
シュモク族の将軍ザズュー・ジグはすでにアメリカとの同盟関係を結んでいた。
人間の最大の勢力日本はこの話を聞かされておらず憤慨している。
最大勢力日本がアメリカに遠慮している関係は奇妙な関係とザジュー将軍は思っていた。
しかし、この好機を逃すわけにはいなかった。
海蛇人は戦力の大半を北サハリンで失っている。
シュモク族は三千の兵をもって、海蛇人60万の民の半数が居住するドミトリエヴナを襲撃したのだ。
シュモク族はドミトリエヴナ北部を制圧し、避難民をドミトリエヴナ南部に追い立てている。
海蛇人の残った戦力はドミトリエヴナを二分する中央皮壁に集まり抵抗を続けている。
戦力の再編が終われば寡兵のシュモク族など一蹴出来ると、海蛇側は時間を稼ぐ為の防戦に努めていた。
それはシュモク族も認識しており、戦いを次の段階に進めることで打開を図った。

多国籍軍潜水艦隊
アメリカ海軍
第15潜水隊
ロサンゼルス級原子力潜水艦『シカゴ』

この場にアメリカの潜水艦が展開しているのは、半年前に起こった百済サミット並びに高麗本国襲撃事件の報復の為である。
十分な準備期間を持って、全面攻撃に行うはずだった。
高麗議会や報復を叫ぶ世論に推されて、攻撃を早めることとなったのだ。
アメリカ海軍の原子力潜水艦『シカゴ』は、僚艦のロサンゼルス級原子力潜水艦『キー・ウェスト』、『オクラホマシティ』ともに通常の航行では有り得ない密集隊形を取っていた。
海中を自在に泳ぎ回る巨大海洋生物に魚雷で弾幕を張るための陣形だ。
せっかくの陣形だが巨大海洋生物が出てくる気配は無い。

「各艦の距離は500を保て!!」
艦長のパーソン大佐の注意に乗員達は緊張した面持ちで応えていた。
艦隊は逆デルタの形でドミトリエヴナから南方約20キロの位置に展開している。

「『そうりゅう』が沈降して来ます。」
「こちらの位置を知らせろ。」

海上に浮上していた海上自衛隊の潜水艦『そうりゅう』は、逆デルタの陣形を菱形に代える位置で停止する。
海上と連絡を取るための通信ブイはそのまま伸ばしている。
アメリカ海軍潜水艦隊のお目付け役である『そうりゅう』が定位置に着いたことは、現在のドミトリエヴナで戦っている同盟種族からの攻撃の合図を受け取ったことを示していた。

「野郎ども攻撃開始だ、魚雷発射管を全門開け!!」

『シカゴ』の4門のMk 67 533mm水圧式魚雷発射管が開く。
同様に『キー・ウェスト』、『オクラホマシティ』も魚雷発射管を開いた。
『そうりゅう』もこれらに同調し、HU-606 533mm魚雷発射管6門を開く。

「全門発射!!」
「自衛隊の第一潜水艦隊からも魚雷の発射を確認。」

各艦からMk 48 魚雷が12発、89式魚雷6発がドミトリエヴナを目指す。
また、ドミトリエヴナからみて南東の方向に展開する海上自衛隊第一潜水艦隊の8隻からも48発の89式魚雷が発射される。
ドーム都市であるドミトリエヴナの各所で爆発が起こり、大量の海水が流入する。
流入した海水は、瀑布となって海蛇人の民に叩きつけられた。
破壊された建物や流れ出した漂流物が民や兵士を押し潰していく。
冬眠の為に家屋で寝ていた海蛇人達は逃げることも出来ずに死んでいく。
都市が拡充する度に社会問題となって放置されていた内部の旧外壁が海水を受け止めるが、ドミトリエヴナの1割が水没した。

857始末記:2017/07/12(水) 07:45:01 ID:7.L4Yce.O
海上自衛隊
潜水艦『そうりゅう』

転移後に建造されたそうりゅう型潜水艦『せいりゅう』を旗艦とする新造艦で固められた第一潜水艦隊。
そこからただ1隻、そうりゅう型最古参の『そうりゅう』は米第15潜水隊のお目付け役として派遣されていた。
艦長の内海二等海佐は今回の作戦に些か消極的に参加していた。
まさか海上自衛隊の潜水艦で都市攻撃の任務に携わるとは思っても見なかった。

「都市から複数の中型海洋生物が出現!!
こちらに向かっています。」

想定された事態だ。
シュモク族からの情報提供により、海蛇人が保有するシーサペントは七匹。
出現したのは五匹。
進路上には幾つもの定置網と接続した機雷が敷設してある。
定置網には幾つもの肉片がぶら下げられており、その臭いに釣られて食い付いたシーサペントの二匹が機雷の爆発に巻き込まれてバラバラに粉砕される。

「『シカゴ』が・・・
そのデコイ・・・
いえ、ゴミを放出しました・・・」

ソナーからの報告を副長の酒井三佐が内海艦長に伝えると、眉を潜められた。
『シカゴ』が放出したのは、艦内の生ゴミや排泄物を詰めたタンクだ。
この臭いにも惹かれたのか、自由な動きでこちらに向かっていたシーサペントが真っ直ぐ向かってきてくれる。
潜水艦の観測機器では高速で泳ぐ海洋生物を捉えにくい。
ならば餌を撒いて向かうからこちらの攻撃範囲に入ってもらったのだ。

「海洋汚染だよなあ・・・
まあ、文句を言うエコロジストなんかいないしな。」

サミットから半年。
日米を含む多国籍軍は海棲亜人の都市攻撃の準備を整えた。
海上プラットフォームを移動させて中継基地を造り上げた。
都市周辺に定置網を設置して封鎖の実施。
周辺海域の調査や同盟を持ち掛けてきた種族との交渉や魚雷の増産など多岐にわたる。

「魚雷、全門発射!!」

各艦から発射された18発の魚雷が殺到したシーサペントに次々と炸裂してその巨体を引き裂く。
また、それとは関係無く第一潜水艦隊から発射された48発の魚雷がドミトリエヴナに直撃する。

「一匹突破!!」

酒井三佐が叫びながら報告する。
シーサペントが魚雷の撃てない潜水艦の側面に回り込んだ。

「背後に回り込まれました。」
「構うな。
全門魚雷装填、第3射用意。」
「艦長?」

シーサペントが『オクラハマ・シティ』に巻き付いて締め上げるがまるで効果がない。
『オクラハマ・シティ』はシーサペントの攻撃など気にする様子もみせず、魚雷発射管を開ける。

「魚雷第3派、発射!!」

魚雷第3派合計66発はドミトリエヴナのさらに奥で爆発した。
都市南部の三割がさらに水没し、多くの命が失われた。
シーサペントの牙や締め上げてくる攻撃が潜水艦に効果が無いことはわかっていた。
二年前の『長征07号事件』で、大陸に現れたシーサペントは中華人民共和国の原子力潜水艦『長征07』号を破壊することが出来なかった。
そして、遺されたシーサペントの死体の破片を解剖した結果、その筋力の度合いも分析されていた。
潜水艦にとってシーサペント恐るに足らず、それが多国籍軍司令部が出した結論だった。
潜水艦隊はわざと魚雷発射に時間を置いていた。
都市内部のシュモク族が制圧するのを待っているのだ。

「魚雷装填、第4派用意。」

これが『そうりゅう』を含む第一潜水艦隊にとって最後の攻撃だ。
ロサンゼルス級の3隻は後二回攻撃が可能だ。
内海艦長としては、魚雷を使いきる前に事を終わらせて欲しかった。
艦内の受話器を握っていた酒井三佐が報告する。

「艦長、海上の『ジョージ・ワシントン』から連絡。
海中都市ドミトリエヴナの要所の制圧を完了したとのことです。」
「そうか、攻撃を中止。
ドミトリエヴナに接近する。」

情報によればシーサペントの生け簀からドミトリエヴナ内部に停泊出来そうだった。

「艦長、『オクラハマ・シティ』がまだ・・・」
「海上の部隊が始末してくれるさ。
まだ、気を抜くなよ、まだ最初の一つなんだからな。」

都市内部の残党がまだ残っているので、掃討は続いている。
攻略すべき都市も後二ヶ所残っている。
そちらは他艦隊がうまくやることを祈るだけだった。
なお『オクラハマ・シティ』のシーサペントは、『オクラハマ・シティ』が浮上した際にアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『カーティス・ウィルバー』に乗艦していた海兵隊に始末された。
残りの二匹は捕獲され、小樽水族館と新浜水族館の水槽で元気に泳ぐことになる。

858始末記:2017/07/12(水) 07:48:55 ID:7.L4Yce.O
大陸東部
大陸総督府

大陸総督府のある新京城西の丸は中央指揮所になっている。
秋月総督は自衛隊幹部から『オペレーション・ポセイドンアドベンチャー』の攻撃の結果を聞いていた。

「海中都市ドミトリエヴナの海蛇人の生存者は約10万。
現在はシュモク族の管理下にあります。
依然として周辺には30万に及ぶ海蛇人が生息していると推測されています。
残党の掃討はシュモク族に任せることになります。」

自衛隊の作戦に関することなので説明は方面総監部幕僚副長小野寺陸将補が行っている。

「今後はシュモク族の扱いはどうするのですか?
同盟の話も先ほど聞かされたばかりで驚いていたところです。」

秋月総督は唐突な出来事で驚かされてばかりだ。

「王国の慣習を参考に倣うことになりました。」
「と、言うと?」
「皇居でシュモク族の長に臣下の礼を取ってもらいます。
その上でドミトリエヴナと周辺海域の領主と封じます。」
「皇居で?」
「はい。」
「いいのか?」

室内が誰も答えられない疑問に沈黙に包まれる。
誰もが微妙に考え込む顔をしている。

「まあ、本国のことは本国の連中が考えるでしょう。
で、次はイカか、亀か?」

副総督の北村大地の言葉に皆が安堵する。
あまり真剣に考えたくないことだったからだ。
北村副総督は就任以来大人しく大陸の勉強を続けている。
まずは教育の分野の執務を秋月から引き継ぐべく行動をしている。

「次は海亀人達の都市を攻撃します。
現在、アガフィア海において北サハリンの第1潜水艦隊が敵艦隊と対時。
別ルートから海上自衛隊第二潜水艦隊並びに連合潜水艦隊が都市に向かっています。」

北サハリンの第1潜水艦隊は、オスカー級原子力潜水艦艦4隻、アクラ級原子力潜水艦6隻で編成されている。
海自の第二潜水艦隊は、そうりゅう型潜水艦7隻、おやしお型潜水艦2隻で編成されている。
連合潜水艦隊は、高麗の孫元一級潜水艦3隻、北サハリンのキロ級潜水艦3隻、新香港の『長征07』、東南アジア系旧イスラム諸国六か国で作られた新都市アル・キヤーマ海軍のナガパサ級潜水艦2隻で編成されている。

「結構ですな。
次の作戦は明日でしたな。
では来客があるので失礼します。」

西の丸から退出した北村は青塚補佐官と来客が待つ二ノ丸に向かう。

「何か本国で動きはあったか?」
「特になにも。
ああ、本国で人口に関するニュースがありましたよ。
本国の人口が11600万を割りそうだとか。」

大陸には360万人が移民している。
人口の低下は予てより頻繁にニュースで流れており、目新しいニュースでは無い。

「転移後に産まれた日本人がついに人口の1割を越えたようです。
年々出生数は増えてるのに総人口は減っている。
我々はあと何年生きてられるんですかね?
本国では不安が高まっているようですよ。」

転移以来、様々な理由により死者が出ていた。
だが大陸から収奪した食糧や資源が、本国を潤すようになると問題は改善しつつあった。
それでも死者は減らない。
高齢者の老衰や衰弱死が増加しているのだ。
大陸に渡った日本人にはその傾向は見られない。
北村の目的は大陸そのものの内地化だった。



アガフィア海上空

アメリカ海兵隊に所属する第102戦闘攻撃飛行隊 (VFA-102) 「ダイアモンドバックス」 F/A-18F Block2戦闘攻撃機12機が、海上に浮かぶ都市エフドキヤに爆弾の照準を合わせた。

「本当に浮かんでいるんだな、あの都市・・・」 

ビル・クロスビー大尉が洋上に浮かぶエフドキヤに感嘆する。
海亀人達の都市は幾つもの巨大亀の遺骸から甲羅を加工して地面を造り上げている。
そういった甲羅の大地を連結させて巨大な都市としている。
甲羅の上に建築物を造り、内部にも住民達が居住する区画が存在する。
都市の直線距離は最大で四キロに及び、確認できる大型甲羅区画は20に及び、中小の甲羅区画は百に及ぶ。
住民は五十万に達する。

「大尉、『ロナルド・レーガン』から連絡。
攻撃へのGOサインです。」

複座に座るジャック・ベーコン少尉が伝えてくる。

「了解、全機投下用意・・・」

第102戦闘攻撃飛行隊の後方には2個の海兵戦闘攻撃飛行隊、第27戦闘攻撃飛行隊 (VFA-27) 「ロイヤル・メイセス」、第115戦闘攻撃飛行隊が後「イーグルス」に続いている。
F/A‐18が合計で36機。
原子力空母『ロナルド・レーガン』が発艦した飛行隊は、海亀人達の都市エフドキヤへのウェポンポッドから切り離されたMk 82 500lb爆弾6発、合計216発が投下される。

859始末記:2017/07/12(水) 07:53:13 ID:7.L4Yce.O
大型甲羅区画一つに付き12発以上の爆弾が炸裂し、そびえ立つ塔や建物を吹き飛ばす爆発を起こす。
海亀人達は建物の破片の落下に押し潰されていく。
甲羅に頭や手足を入れて、対応する者もいるが、甲羅ごと粉砕される。
或いは生き埋めになって、身動きが取れなくなる。
爆弾の投下された8区画は、浸水を起こし沈んでいく。



イージス巡洋艦『カウペンス』

「航空部隊の空爆、効果大!!」

航空隊の攻撃を確認していた『カウペンス』では、甲羅都市の被害を記録する為にドローンからの映像も受信していた。

「都市北部の甲羅から頭部とヒレが出ていきました。」
「都市、微速ながら移動を開始。」
「動くのかアレ?」

艦長のポール・ヒューリー大佐が呆れている。
映像では超大型海亀と数匹の大型海亀が牽引している様だ。
超大型海亀の300m級は百済でも確認しているが、200m級の大型海亀は初めて確認されたタイプだ。
半年も都市を観察して、地図まで造り上げたのが台無しになりそうだ。

「航空隊は全部投下した後か・・・
逃がす訳にはいかない、こちらも仕掛けるぞ。
トマホーク用意!!」

ヒューリー艦長の号令のもと、CICではトマホーク発射の準備が整えられる。

「トマホーク射程内に入ります。」
「超大型をエコー1に指定。
大型をエコー2からエコー9に指定完了。」
「VLS1番から10番を開放。
トマホーク攻撃はじめ!!」

艦が続けざまに発射されるトマホークの振動で揺れる。
同様にイージス駆逐艦『マッキャンベル』、『マスティン』からもトマホークが発射される。
これで都市の足が止めれればよかった。

「そろそろ海中も始まる頃だな。」



海上自衛隊
そうりゅう型潜水艦『うんりゅう』
海上での一方的な戦いが続いている頃、海中でもアガフィア亀甲艦隊と北サハリン第1潜水艦隊との戦いも始まろうとしていた。
海上自衛隊の潜水艦『うんりゅう』は、北サハリン第1潜水艦隊のお目付け役として、同艦隊に同行していた。
オスカー型原子力潜水艦『K-132イルクーツク』、『K-150トムスク』、『K-173クラスノヤルスク』、『K‐186オムスク』
アクラ型原子力潜水艦『K-263バルナウール』、『K-295サマーラ』、『K-322カシャロート』、『K-331マガダン』、『K-391ブラーツク』が深度400で扇状に展開している。

『うんりゅう』は、艦隊旗艦『イルクーツク』の後方300、深度500の位置で停止していた。
『うんりゅう』から距離1500の地点にはアガフィア亀甲艦隊が展開している。
向こうはこちらの位置が把握出来てないのか動きがバラバラだ。
この数ヵ月は接近と離脱を繰り返し、敵の戦力の把握と主力を徐々にエフドキヤから引き離すことに成功していた。
海上の戦いが始まったようたが、敵の戦力をここに釘付けにするのが北サハリン第1潜水艦隊の任務だ。

「敵艦隊に動き、浮上を開始しています。」
「艦長、『イルクーツク』から10キロヘルツ超音波、水中電話の更新。
全艦隊に向けての通信です。」
「増幅しろ。」

艦長の小川二等海佐の命令で、超音波による『イルクーツク』からの命令が全艦に発令される。

『全艦攻撃を開始せよ。』

「海上から連絡が届いたか
タンクブロー、浮上並びに機関全速進路0―0ー0、深度400。
一番から六番、魚雷発射用ー意。」

旗艦である『イルクーツク』の動きに合わせて、北サハリン艦と『うんりゅう』が一斉に動き出す。
一種の示威行動だ。
このままアガフィア亀甲艦隊がこちらに反応しなければ、北サハリン第1潜水艦隊の魚雷がエフドキヤを突く形になるのだ。
そして、その動きは海中各所で遊泳する重甲羅海兵の偵察隊に発見されてアガフィア亀甲艦隊の浮上が止まる。

「思ったより早かったな。
『イルク―ツク』の魚雷発射に合わせる。音響深度300にセット。」
「一番から六番、魚雷発射用意よし。」

やがて最初の魚雷発射音をソナーが捉える。

「一番、二番発射!!」

『うんりゅう』から533mm89式長魚雷が二本発射される。
北サハリン各艦からも533mm魚雷が2発ずつ発射される。
このうち、オスカー型原子力潜水艦と『ブラーツク』、『カッシャロート』、『マガダン』等のアクラ1型は650mm魚雷を発射することが出来る。
この7隻からも650mm魚雷が一発ずつ発射される。
北サハリンの虎の子の大型魚雷だ。
百済沖の戦いでは通常魚雷一発では倒しきれないと報告が上がっている。
13発の魚雷が12の目標を追跡するが、進路上に立ち塞がった重甲羅海兵が甲羅を連ねて壁になって魚雷の2発の進路を塞いで爆発させる。

860始末記:2017/07/12(水) 07:59:56 ID:7.L4Yce.O
また、十数匹の重甲羅海兵が決死の覚悟でハンマーや岩弾で殴り付けて魚雷4発を爆発させる。
何れも重甲羅海兵達を爆発に巻き込み多大な損害を出したが、貴重な大型魚雷を迎撃されたことに北サハリン第1潜水艦隊を驚愕させた。
重甲羅海兵達は待ち伏せる以外には、魚雷のスピードに着いていけず何も出来ない。
7発の魚雷が重甲羅海兵の防衛線を突破する。
アガフィア亀甲艦隊の中型海亀達は海底に着底して回避行動を取りながら接近してくる。
魚雷が追跡するが巻き上げられた泥に撹乱されて5発が海底や岩盤に当たって爆発する。
650mm魚雷で中型海亀が一匹絶命し、『うんりゅう』の89式魚雷で1匹が負傷して群れからはぐれていく。

「なおも10匹が無傷で前進!!」
「これは驚いた・・・、敵も我々を研究してたのだろうな。」

エフドキヤには百済で対潜水艦戦を経験した中型海亀が帰還している。
その経験がこの抵抗の強さだった。

「トリム下げ、タンク注水。
3番、4番発射!!」

『うんりゅう』の次弾発射に続いて、他の北サハリン艦も同様に魚雷を発射する。
すでに重甲羅海兵の防衛線は崩壊している。
海底の中型海亀の群れに13本の魚雷の雨が降り注ぐ。
再び回避行動で6本が外れ、2匹が絶命し、4匹が負傷して群れからはぐれる。

「4匹が突破!!」
「そちらは北サハリンに任せる。
後続の負傷した中型海亀を狙え。
五番、六番発射!!」

オスカー型の4隻が無傷の中型海亀を狙い撃ちにしている間に、『うんりゅう』が残りの中型亀を掃討していく。
無傷だった中型海亀達も北サハリン第一潜水艦隊の魚雷攻撃を防ぐ手段はもう無い。
後続に続いていた負傷した中型海亀も『うんりゅう』が掃討し、アガフィア亀甲艦隊は全滅の憂き目にあった。
だが戦闘態勢は解かれていない。
エフドキヤから4つの甲羅区画が潜行してきて、ヒレと頭を出してきたからだ。

「来ました。
大型海亀・・・200m級4匹!!」

百済で確認された超大型海亀ほどでは無いが、タイフーン型原子力潜水艦より巨大な潜水生物に全艦が、各々の位置から魚雷の発射用意を行う。
魚雷が発射されるが大型海亀達は、一匹を盾にするように一直線に並んでこちらに向かってくる。
先頭の一匹に魚雷が集中して命中し、肉片も無くすほどの爆発を海中に起こさせる。
その爆発の中を後続の大型海亀達が突破する。
さすが2匹目の大型海亀にも魚雷が命中しており、爆発の衝撃波を連続で浴びて海底に沈んでいく。
だが3匹目、4匹目の口から口から高圧水流を吐き出した。
木造船を一撃で粉砕する高圧水流が『トムスク』、『サマーラ』に直撃する。
9,100tのアクラ級、19,400tの巨体のオスカー級が押し寄せる海流に押し流されたのが、『うんりゅう』からも観測された。

「艦長、両艦から浸水音。」
「まさか!!」
「いや、大丈夫のようです。
両艦とも健在。
されど『イルクーツク』から浮上命令が出てます。」
『トムスク』は就役から31年、『サマーラ』は33年も経っている老朽艦だ。
半年も航行し続けて、不具合が出てもおかしくはなかった。
北サハリンにはたとえ老朽艦だろうと、再生産が不可能な虎の子を失うわけにはいかない。
無理させずに浮上させたのはその為だ。
また、両艦では強引に流された際に、艦内で負傷者が発生していた。
まだ戦力は十分にあるので、無理をさせる必要はまったくなかった。

「魚雷装填完了!!」
「注水開始!!」

『うんりゅう』は高圧水流を吐き出す頭部が向かない背後に艦を着けていた。

「一番、二番発射!!」

最後尾にいた大型海亀に二発の魚雷を命中させる。
まだ生きている。
背後の『うんりゅう』を狙う為に体を回頭させる動きを見せている。

「3番、4番撃て!!」

『うんりゅう』以外からも魚雷が放たれており、残存の2匹の大型海亀を殲滅した。
だが『クラスノヤルスク』も高圧水流の攻撃を受けて、浸水と負傷者を出して浮上命令が出されていた。
小破3隻、負傷者12名を出して、海中の戦いは終わった。

「残った魚雷をエフドキヤに叩き込むぞ。
艦回頭、180°。」

エフドキヤの動きは止まっていた。

861始末記:2017/07/12(水) 08:04:00 ID:7.L4Yce.O
海上都市エフドキヤ

推進力を失い、多数の甲羅区画が破壊、炎上という状況に晒されていた。
海亀人達は各甲羅内部に海水を注水し、半潜状態にしてミサイルや魚雷攻撃を緩和しつつ、炎上する都市を消火していた。

「まさかここまでやられとはな。
万年の栄光も深海に沈んだか。」

海亀人の長老達は最も大きな甲羅区画に集まっていた。
三代前の海皇アペシュが三千年前に亡くなった時に形見として、返還された甲羅だ。
仮に王亀と呼ばれている。

「ここと『叡智の甲羅』はまだ無傷のようですな。」
「残った戦力は?」
「亀甲艦隊は全滅。
重甲羅海兵隊も残存戦力をエフドキヤに集めてました。
外からの援軍も望めないでしょう。」
「明らかに攻撃は絞られてるな。
連中はここ都市の詳細を知っているということか。
ここが意図的に残されたということは・・・
乗り込んで来るぞ。」



海上自衛隊
輸送艦『くにさき』

護衛艦『しまかぜ』、『あまぎり』に護られて、『くにさき』は他の甲羅区画から切り離された巨大な甲羅区画に向かっていた。

「第二潜水艦隊と連合潜水艦隊はアドフィア海から離脱したよ。
シュヴァルノヴナ海の方が手薄だったからな。」

中川海将補はウェルドックの長沼一佐に話掛けていた。
ウェルドックには四両とAAVC7A1 RAM/RS(指揮車型)の1両、国産水陸両用車試作1号、2号が停泊していた。
それらの水陸両用車に特別警備隊員が乗り込んでいく。

「我々の目標は『叡智の甲羅』だけでいいんですね?」
「『王亀』は『ボノム・リシャール』の海兵隊に任せればいいさ。」

『叡智の甲羅』には海亀人達が1万年収集した研究結果や資料が納められている。
海棲亜人の生息圏や種類などが網羅出来るらしい。
日本が欲しがっている転移の謎も納められているかは神のみぞ知るところだった。




シュヴァルノヴナ海海中

海都ゲルトルーダはゲルトルーダは、イカ人の民の四割である20万程が住んでいる都市だ。
浅瀬に造られていて、その周囲は珊瑚の分厚い壁に囲まれている。
壁の外側は水深100メートルほどであり、太陽の光は届かない。
水産庁の調査船『開洋丸』が発見したのはこの部分であった。
壁の高さは数メートル程度だが、内部は内海になっており、浅瀬に珊瑚や岩を加工して建築物が大半が沈んだまま建設されている。
中央の海底宮殿を中心に円状に街が造られている。
珊瑚の壁はこの世界で、一般的に運用されている木造船や中型生物程度なら、その幾重にも積み重ねられた突起物で退けることが可能な規模であった。
海上自衛隊第3潜水艦隊はその珊瑚の壁に穴を穿つ為の魚雷攻撃を続けていた。
第3潜水艦隊はおやしお型潜水艦9隻で構成されている。

「足りるか?
各艦の魚雷本数を把握しとけ。」

旗艦である『やえしお』艦長の有沢二等海佐は、好転しない戦況に冷汗を垂らしていた。
第一波の魚雷攻撃は各艦が各々が定めた目標に向かけて放ったが、破壊できた範囲が想定より小さく隊員達を落胆させていた。
たかが珊瑚の壁と侮っていたが、地球の珊瑚と違い、海棲亜人達が鉱物の代わりに鎧や武具を造る材料にする程の硬度を持っていた。
第2波の魚雷攻撃は攻撃箇所を限定し、集中攻撃を行ったが小さな回廊が出来た程度だ。

「難しいですね。
壁だけ破壊出来ても内部の都市への攻撃には足りません。
珊瑚ですし、時間掛けたら回復するのでは無いですか?」

副艦長の中井三佐の言う通りで、魚雷を使いすぎれば敵が打って出てきた時に対処も出来なくなる。

「護衛艦隊に来てもらえばよかったのだが・・・」

度重なる海棲亜人の襲撃で、本国政府は護衛艦隊の出撃を許可しなかった。
日本本土が襲われたわけでは無く、消極的と非難されたがその重い腰が動くことはなかった。
僅かばかりの支援艦と数隻の護衛艦で編成された任務部隊が、司令部となっている海上プラットフォーム要塞『エンタープライズⅡ』に留まっている。
米国艦隊が動いたのは、アウストラリス大陸からの援軍の為の航路の安全を保つためである。

「艦長、北サハリンの艦隊からも同様の報告が・・・
艦隊を合流させて、魚雷を半分ずつ使って回廊を広げようと提案されています。」
「向こうも魚雷はギリギリのラインだよな。
・・・それしかないか。」

北サハリンの第2潜水艦隊は、キロ級『B-445シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』、『B-345モゴーチャ』、『B-187コムソモリスク・ナ・アムーレ
』の3隻とデルタ型原子力潜水艦『K-223ポドルィスク』の僅か4隻で構成されている。

862始末記:2017/07/12(水) 08:06:52 ID:7.L4Yce.O
北サハリンの第二潜水艦隊は、海上自衛隊第三潜水艦隊とは反対側の北部から攻撃を行っていた。
他の都市を陥落させた海上自衛隊の第2潜水艦隊と連合潜水艦隊がこちらに向かっているが到着は来週になる。
敵の外郭さえ抜けない状況ではこれ以上の攻撃は無謀である。
敵の兵団や大型海獣はまだゲルトルーダから出てこないのか、確認出来ない。
魚雷を使い果たすことだけは避けなければならない。
両艦隊は合流を果たすが先に司令部からの命令が届く。

「艦長、『エンタープライズⅡ』の総司令部から連絡です。
作戦を中断し、一旦撤退せよと。」

魚雷や燃料の補給の為にも戻る必要はありそうだった。
海上プラットフォームである『エンタープライズⅡ』は完成したばかりの海上要塞だ。
各潜水艦隊の前線基地として、
シュヴァルノヴナ海とアドフィア海の中間に設置され、南方一万五千キロのステパニダ海に海上プラットフォーム要塞『エンタープライズ』が存在する。
そこから東に一万五千キロに日本が存在する。
高麗国巨済島の玉浦造船所では『エンタープライズⅢ』の建造も始まっている。
有沢艦長は撤退を決断はしたが、せめて敵の中枢に一撃を与えることにした。

「このまま大人しく帰るのは癪だな。
ハープンをぶちかましてやる。
各艦にも伝えろ。」
「了解、ハープン用意!!」
「各艦から了解の連絡が来てます。」

おやしお型潜水艦の各艦はRGM-84艦対艦ミサイル、ハープンを耐圧発射機に収納して魚雷発射管から射出する。
北サハリン第2潜水艦隊のキロ級潜水艦には対空ミサイルしか搭載していないので攻撃には参加出来ない。
反転して一足先に『エンタープライズⅡ』に撤退することとなった。
海上自衛隊が使用するハープンは対艦ミサイルだか、異世界転移後は使い道が無いために対地攻撃が出来るように調整されている。
自衛隊が保有しているブロックⅡ型は、在日米軍が保有していたのを再生産したものだ。
元々は転移前に北朝鮮問題で、ブロックⅡのハープンの購入を日本は決めていた。
研究や訓練は行われていたのが幸いし、転移後に短期間でのリバースエンジニアリングを可能としていた。
可能とはなったが、木造船や生物を兵器として使用してくるこの世界では使い道があまり無かった。
少数生産に留まる貴重な兵器となった。
対地攻撃の誘導は半年掛けた偵察機によるチャートの作成によって問題は無い。
ハープンは珊瑚の壁を飛び越え、ゲルトルーダの各所の高い建築物に次々と着弾して爆発した。
珊瑚の壁に阻まれて戦果は確認出来ていない。

「回頭180度。
『エンタープライズⅡ』に帰投するぞ。」




海都ゲルトルーダ
海底宮殿

ゲルトルーダにて防衛の指揮を取っていたウキドブレ提督は、最後に残った巨大赤エイをゲルトルーダの内海に温存し、珊瑚の壁に空いた穴を補強する指示を出していた。
短期間では珊瑚の成長しないので、破壊された珊瑚の残骸を集めて穴を埋めていくしかない。
一方で外壁から偵察隊を出すなどして、日本・北サハリンの潜水艦隊の動向を探らせている。

「どうやら退いてくれたようだな。
しかし、壁に穴をここまで開けるとは・・・」

地球人達の攻撃力を侮るつもりはなかった。
仮にも地上の大陸国家を滅ぼした敵なのだ。
しかし、深海まで移動可能な艦や攻撃出来る能力があるとまでは想定かされていなかった。
海棲亜人最大のアドバンテージである海中からの攻撃を、自分達が受けることになるとは考えてもいなかった。
地上の攻撃に失敗しても、敵は海中にいる自分を攻撃出来ない、甘い考えは魚雷攻撃によって粉砕された。


「あの時にわかっていれば、迂闊に仕掛けるんじゃなかったな。
次はもっと大規模に来るな。
防ぎきれんかもしれん・・・
民の避難を急がせろ。
それと、ハーヴグーヴァ殿下にはこの事態を知らせるな。
ここに来られても困る。」

種族の希望たる次期海皇候補をここで討ち取られるわけにはいかなかった。
『深海の魔物』ハーヴグーヴァは、ゲルトルーダから離れた島の離宮に隠れてもらっていた。

「やはり殿下にも参戦を願っては?」
「殿下ならば日本の船とも変わらない大きさ。
我らが勝利する為には殿下の御力が必要です!!」

軍の幹部達がハーヴグーヴァの参戦を主張するが、ウキドプレ提督が一喝する。

863始末記:2017/07/12(水) 08:24:05 ID:7.L4Yce.O
「いい加減にしろ。
殿下の安全、我等が民の未来を考えればそれこそが最優先だ。
殿下が・・・、万に一つでも殿下が戦死したり、捕虜にでもなろうものなら我らが部族の地位と威信は深海の底に沈む。
例え、ゲルトルーダの民が死に絶えようともハーヴグーヴァ殿下には生き延びてもらうしかないのだ。」

ウキドプレ提督の言葉に幹部達は頭を垂れて従う意を示す。
ウキドブレ提督の指示に従い、兵や文官達が動き出す。
難民となるゲルトルーダの民を周辺の集落に避難させる準備が最優先となった。
そこに血相を変えた兵士が飛び込んでくる。

「提督、空から何かがいく筋も!!」

伝え終わった瞬間に、都市の各所で爆発が起こる。
高くそびえ立つ、海上に先端を露出させた建物に命中して、崩壊させていく。
倒壊した建物が周囲の建物を押し潰し、被害を拡大させていく。
潜水艦隊を追跡させていた偵察部隊からの報告から、撤退した日本の潜水艦隊からの攻撃と判明した。
「あれだけ離れた距離から攻撃出来るのか・・・」
「提督、ここは危険です!?」

ウキドプレ提督の本陣がある海底宮殿もハープンが命中して、上部構造物は倒壊していった。
海中部分は無事だと、非難をせずにいたのだが、下部の妨害もはじまりウキドプレ提督を始めとする多くの軍幹部を飲み込んでいった。
軍の中枢を失ったイカ人達は、残った戦力をかき集めて、巨大赤エイ『黒き闇に咲く聖騎士』号に兵士達を詰め込み、海底を這うように泳ぎ進む。
独特な金属の匂いを追跡すれば、それが敵のいるところだった。

そして、ゲルトルーダから離れた孤島では、巨体を揺らしながらある生物が海中に身を投じていた。
暫くは漂っていたが、周辺にいる武装したイカ人達がその巨体に触手を絡ませると、もの凄いスピードで海中を泳ぎ始めた。
巨大赤エイ『黒き闇に咲く聖騎士』号と、海皇継承者ハーヴグーヴァは、『エンタープライズⅡ』に向かっていった。




ハーヴグーヴァは怒っていた。
側近には止められたが、ここまで海都や民達を損ない、抑えることが出来なかった。
象徴的存在として、俗世に関与することが許されない身であったからこそ、ここまで事態が悪化し、無力感を味わったことを嫌悪していた。
大海に身を委ねて5日目の夜、ようやく海上に拠点を構えた敵の牙城を視界に納めるところまで到達した。

『行け!!』

小判鮫のごとく、ハーヴグーヴァの体に張り付いていた七百を越える兵士が牙城に向かう。
敵もどのような手段かわからぬが、こちらの出現を察知したようだ。
警戒を告げる音が鳴り響き、幾つもの光が海上に向かって伸びてきた。

『やらせん!!』

ハーヴグーヴァは、海上に口を出して粘性の高い黒褐色の液体を敵の牙城、『エンタープライズⅡ』にぶっかけた。




海上プラットフォーム要塞『エンタープライズⅡ』

この日の『エンタープライズⅡ』は、ゲルトルーダを攻撃してきた潜水艦隊の整備に追われていた。
ドックは4つしか無いので、順番に艦齢の古い艦から収用され、整備が行われている。
他の艦も桟橋に停泊して、乗員の休養が行われていた。




『エンタープライズⅡ』CICルーム

「N-35地点で異常発生!!
巨大な何かが接近中!!
金属反応無し!!」

警戒の為に『エンタープライズⅡ』周辺に散布しているソノブイが異常を知らせ来た。

「こんな状況だ。
敵対種族の大型海洋生物かもしれん。
非戦闘員は施設内に退避。
戦闘態勢を取れ。
全砲門を開け。」

米軍司令官スティーヴ・ブローワー准将の命令により、『エンタープライズⅡ』は戦闘態勢に入る。
『エンタープライズⅡ』には、日本製62口径76mm単装速射砲が8門、Mk15ファランクスCIWSを16基を各所に配置している。
各砲座が巨大生物に照準を定めようとした直後、巨大生物から膨大な吐瀉物が噴射されて『エンタープライズⅡ』に降り注ぐ。

「うわっ!?」
「なんだこれは?」
「助けてくれ!!」


『エンタープライズⅡ』のデッキで、小銃を構えて対応しようとしていた海兵隊一個小隊が黒い液体に押し流されていく。
殆どが柵や柱に掴まり難を逃れたが、数人が海に落とされる。
海に落ちた海兵隊隊員は身に付けていた救命具であるフローティングベストの紐を引っ張り浮き輪代わりにするが、そこを海中から迫っていたイカ人の兵士に銛で突かれる、或いは海に引きずり込まれて命を落としていく。

「海兵隊から救援養成、海に落ちた隊員が襲われていると!!」


「司令、内部各カメラが黒い液体を塗られて映像が撮れません!!」
「外部カメラもやられて敵を捉えられません!!
砲撃が出来ず!!」

864始末記:2017/07/12(水) 08:27:21 ID:7.L4Yce.O
粘着質な液体がカメラを汚し、CICからの状況把握を困難にしていった。

「投光器や照明も黒く塗り潰されて光量が低下!!
敵の確認が出来ません・・・」

次々と上がる報告にブローワー少将の苛立った命令が飛び交う。

「消火栓やスプリンクラーを作動させて、洗い流せ!!
動ける艦船に救助並びに敵兵の殲滅を命じろ。」
「七番桟橋から敵兵士上陸!!
海自の潜水艦乗員が発砲、交戦中!!」
「第3ウェルドックから敵兵侵入!!
交戦中です!!」
「海兵隊は何をやっている!!」


第七桟橋

海上自衛隊に割り当てられた第七桟橋では4隻の潜水艦が停泊していた。
『まきしお』、『いそしお』、『なるしお』、『せとしお』の4隻である。
各艦の上部艦橋から、拳銃や小銃を持った乗員が桟橋から上陸したイカ人の兵士達に発砲して逃げ遅れた乗員や『エンタープライズⅡ』の基地要員が退避する時間を稼いでいる。
彼等の制服も吐瀉物を被って、黒く汚れている。
拳銃で応戦しているが、時々銛が飛んで来るので身を隠して避けなければならない。

「くそ、忌々しいな、なんだこの液体は!!」

粘着質な液体の為に動きずらくなっていて苛つかせる。

「航海長これは多分・・・」
「何だ?」
「イカスミです。」




海上プラットフォーム要塞『エンタープライズⅡ』

『エンタープライズⅡ』内部では、侵入してきたイカ人達との戦闘が続いていた。
要塞防衛を担当する海兵隊や退避出来なかったり、持ち場を死守する為に残った要員が応戦を継続している。
そこはアメリカ人だけあって、小銃や拳銃の配備ぶりは充実していて、奇襲による混乱はすでにおさまっている。
そこには要塞内で休息を取っていた海上自衛隊第3潜水艦隊や北サハリン第3潜水艦隊の乗員も含まれる。
桟橋に付けていたり、ドック入りした艦の乗員は要塞内で上陸していたのが仇となった。
ドック内はともかく、桟橋に停泊していた艦は乗員の半分が要塞に上陸したことにより、動かせなくなったからだ。

「近接戦は避けろ。
イカスミは予想以上に厄介だ。」
「手隙の要員を武装させて対応させろ。
第7桟橋に人手が足りない。」
「武器の無い隊員は消火栓を使って、イカスミの洗浄に専念しろ。」

CICルームから矢継ぎ早にオペレーター達が各所に指示を出す。
司令官ブローワー少将はようやく膠着状態に持ち込めたことに安堵する。
内部は落ち着いたが外部はそうはいかない。
外部カメラはほとんどイカスミを塗りたくられて機能していないのだ。
レーダーやブイによる観測情報、外部からの通信による報告を頼りにCIWSや62口径76mm単装速射砲で、敵大型生物に対応しているが命中打を与えられていない。
洗浄されて外部カメラの機能も徐々に回復しているが、すで近距離にまで接近されていると報告に上がっている。

「こ、攻撃を中止して下さい!!」
「今度はなんだ?」
「『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』と、『モゴーチャ』の2隻が敵大型生物の触腕に捕まりました!!
攻撃が両艦に当たります!!」

ドック入りの順番待ちをしていたキロ級潜水艦の2隻だ。
基地の周辺で待機させて並ばせていたのが仇となった。

「続いて、『うずしお』、『やえしお』も触手に捕まりました。」
「砲撃中止、様子をみる。」

4隻もの潜水艦が一匹の巨大生物に引き摺られて操艦を失っている。



おやしお型『やえしお』

二本の触手触腕に巻き付かれた『やえしお』は、機関を全開にして振り切ろうとしたが、正面に『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』がいて身動きが取れない。
『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』の正面にも『エンタープライズⅡ』があって、動きが封じられた。

「くそ、考えてやがる。」
「艦長、さらに後方から別の大型海洋生物が来ます。」

巨大赤エイ『黒き闇に咲く聖騎士』号がその背中に岩で出来た城を乗せて『エンタープライズⅡ』に激突する。
激突の衝撃と大量の海水が『エンタープライズⅡ』を大きく揺らすが、その巨体を支えている海底に直接固定した鋼鉄の脚(レグ)は持ちこたえた。
だが巨大赤エイ『黒き闇に咲く聖騎士』号の背中の城から跳ね橋の橋桁が降ろされて、『エンタープライズⅡ』のデッキにイカ人の兵士達が雪崩れ込んで来る。
このデッキから銃撃を行っていた海兵隊は、先程の衝突の震動で多くが転がったままだ。
対応に遅れ、幾人かの海兵隊隊員は銛で突き殺された。
先程の海水で外部カメラのイカスミの大半が洗い流されており、近距離に設置されていたCIWSの発砲が始まる。

865始末記:2017/07/12(水) 08:29:58 ID:7.L4Yce.O
橋桁を破壊され、城門に向けられた銃撃が、これ以上の侵入を防ぐべく発砲されたが、数十の敵兵の侵入を許してしまった。
器用にも触腕や触手をデッキの手摺に掴まらせて、他のデッキにラペリングの様に侵入してくるイカ人の兵士もいる。



CICルーム

「第3、第4デッキに敵侵入、交戦に入りました。」
「失態だ・・・、中央階段だけは死守しろ。
そこを奪われたら各デッキの将兵が分断されるぞ。」

ブローワー少将は肩を落とすが、『エンタープライズⅡ』に接舷した『黒き闇に咲く聖騎士』号への砲撃を命じた。
8門の62口径76mm単装速射砲が次々と発砲され、城壁を砕き、城を崩壊させ、『黒き闇に咲く聖騎士』号の背中を爆発させて燃やしていく。
城内に残っていた兵士達は海中に飛び込もうとするが、大半がCIWSや各デッキの海兵隊による銃撃の的になって息絶えていく。
なんとか海中に逃れた兵士達は橋頭堡として確保されたウェルドックや第7桟橋の味方と合流する。

「後はウェルドックの化け物だけか。」
「司令・・・『やえしお』の有沢艦長から通信。 」
「繋げ。」

司令席に備え付けられた受話器から『やえしお』艦長有沢二等海佐の声が届けられる。
受話器から伝えられる有沢二佐からの作戦提案にブローワー少将も冷や汗を足らす。

「わかった、存分にやれ。」

受話器を置くと、命令を待っているオペレーター達に指示を出す。
「第9、第10デッキは放棄。
放棄が完了次第、全隔壁を閉鎖。
残っている者達に退避を命令しろ。」



潜水艦を盾にしたハーヴグーヴァは、海中からウェルドックに胴体にあたる外套腔を捩じ込んで砲撃を封じていた。
だがハーヴグーヴァは、この海上の巨大な建物を攻めあぐねていた。
残った触手を何度も壁や柱に叩きつけが、金属で出来ていて容易には破壊できない。
侵入した兵達も人間達の飛び道具に前進を阻まれている。
大量のイカスミで人間達を押し流して地道に攻めるしかない。
ようやく小賢しくも攻撃してくるCIWSを、触手一本犠牲にしてもぎ取ったところで触腕に多少の違和感を感じた。
触手に痛覚は無いが、獲物の動きを感じる感覚は存在する。
触腕は潜水艦『やえしお』に巻き付いていたが、『やえしお』の乗員達が艦内に装備品として置かれていた斧で触手を斬り始めたのだ。
さらに傷口に拳銃や小銃を浴びせて拡大させる。
触腕自体は数メートルの幅が有るので簡単には落ちないが、『やえしお』に掴む触手の圧力は弱まりつつある。
さらに奇妙な物体をその傷口に塗りはじめた。
準備が出来たところで有沢艦長が乗員を呼び戻す。

「艦内に戻れ!!
爆破用意・・・・・・



爆破!!」

触手の傷口に塗り込まれたプラスチック爆弾C4が爆発する。
潜水艦の任務は特殊部隊を送り届けることが多くなった為に用意されていた代物だ。
『やえしお』も艦体に多少の損壊を受けたが、浮上航行には問題は無い。
触手は爆発で消し飛び、艦は微速だが動き出す。
「取り舵45、正面の『シヴァティテル・ニコライ・チュドットヴォーレツ』にぶつけるなよ
微速前進、残った触手は気にするな。
魚雷一番、二番発射用意。」

海上都市での攻撃で最後に残された二本の魚雷を装填した発射管に海水が注水されていく。
浸水する艦内で有沢艦長が命令を下す。

「一番、二番発射!!」

二本の魚雷は『エンタープライズⅡ』に胴体を埋めるハーヴグーヴァへと真っ直ぐ延びていく。
魚雷の威力を側近から聞かされていたハーヴグーヴァは、咄嗟に触手二本を盾の様に立たせて一本目の魚雷を受け止める。
その瞬間に爆発した魚雷は、二本の触手を吹き飛ばした。
その爆発の横をもう一本の魚雷がすり抜けて、ハーヴグーヴァの顔に向けて直撃した。
爆発の炎はハーヴグーヴァを包み、『エンタープライズⅡ』自体にも破損と火災を発生させた。

「やったか・・・?」

『やえしお』の艦橋から先ほどまで斧を振るっていた副艦長の中井三佐が双眼鏡で確認を取ろうとする。
次の瞬間に彼の上半身は無くなっていた。

「副長?」
「か、艦内に戻れ!!」

ハーヴグーヴァは生きていた。
全身が焼けただれていても残った触手を伸ばして、『やえしお』に向けて振るったのだ。
ハーヴグーヴァに触手や触腕を巻き付かれていた他の潜水艦が一斉に動きだし、力が弱まったハーヴグーヴァの巨体を『エンタープライズⅡ』から引き摺り離した。


「全砲門開け、目標、敵大型生物。
撃ち方始め!!」

ブローワー少将の号令で、『エンタープライズ』の攻撃可能な搭載砲や銃座の攻撃がハーヴグーヴァに降り注ぐ。
炎上する巨大な深海の悪魔が、完全に見えなくなるのに数分も掛からなかった。

「要塞内の残敵を掃討しろ。
ようやく終わりだ。」

866始末記:2017/07/12(水) 08:39:45 ID:7.L4Yce.O
第7桟橋
おやしお型潜水艦『せとしお』

第7桟橋に係留されていた『せとしお』では、銃弾が底を尽き艦橋のハッチまで敵兵に押し込まれていた。
ハッチを閉じようとはしたのだが、イカスミが固形化して上手く閉まらなかったのだ。
斧や銃剣で艦内での侵入を防いでいたが、負傷者が続出していた。

「銃声?」

限界を感じていた乗員の耳に銃声が聞こえる。
銃声は味方が近くまで来ている証だ。
気力を取り戻した乗員達の抵抗が激しくなる。
消火器にゴミ箱、分度器に三角定規まで使えるものは何でもつかった。
イカ人の侵入が止まり、艦内にいたイカ人を昏倒させると、ハッチから出て周囲を見渡す。
艦の外では海兵隊によってイカ人の兵士達が撃ち倒されていく光景が目にはいる。

「ああ、終わったんだな・・・」


海都ゲルトルーダ

海上自衛隊第2潜水艦隊と連合潜水艦隊の攻撃がゲルトルーダに行われていた。
先日の戦いで珊瑚の壁に空いていた穴の補修は終わっていない。
18隻の潜水艦による魚雷の集中攻撃が敢行され、都市内部に侵入した魚雷が各地で爆発を起こしていた。
空からもハープーンが飛び、高層の建物を破壊していく。
ゲルトルーダには指導者も兵も残っていない。
一方的に破壊された攻撃に曝されたゲルトルーダは抵抗も降伏もされず廃墟と化していった。



アウストラリス大陸東部
新京特別区大陸総督府

「海都ドミトリエヴナ、エフドキヤ、ゲルトルーダの攻略を持って、多国籍軍司令部は作戦の終了を宣言しました。現状の死傷者ですが、米軍32名が戦死、負傷者102名。
自衛隊は戦死三名、負傷者26名。
北サハリン軍、戦死7名、負傷者37名に及びました。
以後の三海域の平定はシュモク族に一任します。」

秋山補佐官の報告に、秋月総督は首を傾げる。

「予想以上の損害だな。
しかし、シュモク族かい?
彼等に任せて大丈夫なのかね。」
「すでに敵のまともな戦力は全滅しています。
三海域は『エンタープライズⅡ』が修理と平行して監視を行い、
多国籍軍から援軍も出ますので問題は無いでしょう。
すでに降伏してきた集落もあり、そこから兵力を徴発することで、反抗勢力の弱体化を図る計画もあります。」

平定した海域はシュモク族による伯邦国の領海となる。
大陸のケンタウルス自治伯を参考したものだ。
色々議論はあったが、現在の日本ではシュモク族を同じ国民として扱うのは無理があり、独立勢力として扱うことに落着した。
シュモク伯邦国を衛星国とする間接支配の方が都合がよかったのだ。
まだ他の海棲種族も残っているので、シュモク伯邦国が日本の盾として維持できる程度の力さえあれば問題はないのだ。
一応、他の海棲種族には、シュモク族から使者を送り、外交的に対処する予定だ。
何れも日本から戦力を派遣できる位置には無いので、敵対しなければ干渉しない方針だ。
自衛隊にしても相当数の魚雷の消費で、暫くは潜水艦隊を動員出来ないのが現状なのだ。

「まあ、そちらは本国の連中に任せていればいい。
こちらの準備は出来ているのか?」
「はい、新香港と呂栄にクルーズ船50隻と4万人の援軍の集合が完了しました。
予定よりは規模が小さくなりましたが近日中に出港します。」



東京都三田
アウストラリス王国大使館

アウストラリス王国大使館は、ブリタニカとして統一された為に閉鎖された旧オーストラリア大使館を購入して使われている。
大使として赴任しているレーゲン子爵が部下から今朝のニュースを伝えられる。

「新設の大使館?」
「はい、詳細は不明ですが我々と同じように閉鎖されていたブルネイという国が使っていた大使館を使うとか。」

旧ブルネイ大使館はここから3キロ程の距離にある。

「おそらく人種の国では無いのだろうな。
我々以外に人種の国など残ってはなかったのだからな。」

数日後、旧ブルネイ大使館と同じく閉鎖されていたアクアパーク品川という水族館がシュモク大使館としての活動を開始した。

867始末記:2017/07/12(水) 08:40:17 ID:7.L4Yce.O
では今日はここまで

868始末記:2017/07/13(木) 23:36:11 ID:7.L4Yce.O
では今日の投下開始

869始末記:2017/07/13(木) 23:38:41 ID:7.L4Yce.O
岩国市

陸上自衛隊岩国駐屯地

旧在日米軍基地の跡地を利用した岩国駐屯地では、陸自の新設部隊の訓練と創設が行われていた。
今日は第51普通科連隊の出陣式が行われていた。
防衛大臣乃村利正は、スピーチの後に連隊幹部達と昼食会に参加していた。
南樺太を選挙区とする政治家だが、豊原産まれの亡き父に影響されて転移後の南樺太返還交渉で辣腕を奮った。
その功績で政治家としての知名度も上がり、議員三期目にして防衛大臣のポストを手に入れた。
右翼寄りと言われるが、日本国民戦線とは一線を画する立場を取っている。
昼食会のメニューは隊員達が耕した畑の農作物や駐屯地に併設された海自の隊員が漁船を仕立てて漁獲した瀬戸内海の海産物。
駐屯地内の畜舎や牧場で育てた牛や豚などが、机の上に調理されて上がっている。
自衛隊駐屯地・基地の地産地消も十年以上の歳月で拍車が掛かってきたのに乃村は苦笑してしまう。

「普段の私よりもよほど良いものを食ってるよ。」

大臣のコメントに食堂で笑いが起こるが、大袈裟な話では無かった。
この国の大半の国民が、未だに配給制なのだからだ。
最もメニューに気合いが入っているのは、昼食会に参加している乃村の女性秘書達に隊員達が鼻の下を伸ばしているのも無関係ではなさそうだった。
婚活では常勝不敗と言われる自衛隊隊員達でも、駐屯地内で見る一般女性は貴重なのかもしれないと不謹慎な分析を乃村はしていた。
ここで現実に引き戻してみる。


「さて、君達が大陸に渡った後この駐屯地では新設の第17特科連隊が訓練に入る。
ロシア系の82mm迫撃砲2B14、152mmカノン砲2A36「ギアツィント-B」、122mm榴弾砲D-30の再現が完了したからな。
北サハリンの需要分を満たし、余剰分が入手出来たので、ようやく目処がたった。」

乃村は得意そうに語るが、連隊幹部達は微妙な顔をしている。
ロシア系統の兵器を使用しているのは51普連も同様だからであるが、乃村が述べた兵器は何れも一世代前のものだからだ。
最新型のロシア製兵器は北サハリンが温存して入手が出来ていない。
現状のこの世界では在庫としと残っていたロシア系統の兵器でも充分な性能なので、財務省も防衛省も諸手をあげて歓迎している。
だが現場の隊員達は、微妙な気分に支配される。
最新鋭の米軍装備が支給される第16師団との差がひどかった。
連隊長の百田一佐は恐る恐る訪ねてくる。

「大臣、我々はいつになったら国産兵器を・・・」
「あと数年は待ってくれ。
来年の調達予算も第9師団分と決まっているしな。」

アウストラリス帝国崩壊後、賠償金代わりの鉱物資源の接収により、新規の国産兵器が生産されるようになった。
国産兵器の生産は公共事業の一環となり、生産数は大幅に増加させた。
しかしながらアガリアレプト大陸派遣部隊への補給も優先されている事情もあり、国内部隊は未だに更新を完了出来ていない。
それでも第1から第8師団にまでに優先配備、調達された。
各師団で余剰となった兵器は第12から第15師団にまわされている。
第9から第11師団は転移前から使ってきた装備品と調達数でしのいでいるのが現状だ。
耐用年数が限界に達しても、修理不可能、壊れるまで使えという財務省の基本方針に逆らえない。
自衛隊も隊員数が増加している今、装備品の調達が追い付かないのは問題となっていた。
乃村は現実に引き戻しすぎたと少し後悔する。
消沈する隊員を見て話題を変えるべくメモ帳で話せる内容のものをピックアップする。

「数日後に君達の第1陣が呉から旅立つが、残った部隊には少し任務にあたってもらう。」
「国内で任務ですか?」
「ああ、正式な命令書は明後日に届くと思うが、要人の移動に使用される新幹線の警備だ。
私も彼等に同行するが、線路の周辺をパトロールしてくれればいい。」
「新幹線が動くのですか?」
「ああ、一年ぶりだな。
佐世保の遠征艦隊の凱旋式典の後になるな。
当日の線路周辺は見物客が多数現れるだろうからよろしく頼む。」

新幹線が動くことに隊員達が色めきたっている。
転移後、国民の転居に制限を掛ける為、一時的に鉄道を無期限で停止させた。
これは食料を生産出来る地域への移住を防ぐためだ。
各自治体は住民数の定数化に踏み切り、新住民は在地住民の推薦が必要になった。
当然、親族が優先されて不満が高まる。
国民の大多数が勿論これらの法案に反発し、都民が大量に流出した千葉県や埼玉県で在地住民と東京流民が各地で流血を招く争乱にまで発展する。
特に千葉県市原市で起きた『市原暴動』では、自警団、警察、流民に数十人の死者を出すまでに至った。
この時、警官隊は転移後初めて国民に向けて発砲した。
この事件以後、法案の反対運動はなりをひそめることになる。

870名無し三等陸士@F世界:2017/07/13(木) 23:40:54 ID:7.L4Yce.O
銃弾は全ての言論に勝り、事態を終息させた、という批判は今でも聞こえてくる。
しかし、実際のところ配給の都合上、住民の転居が望ましくは無いことも確かだったのだ。
食料を得る賭けに出て転居するか?
少量だか確実に食料を入手出来る現住所に留まるか?
後者のメリットが周知されたことも大きい。
旅行中は配給も受けれないので、長距離の鉄道を仕様する者は激減した。
これらの規制は帝国との戦争に勝利したことにより、食料が賠償金として送られて来ることになり緩和しつつある。
それでも需要を完全に満たしきれず、規制の完全解除についての法案を政府は否決し続けている。
このような現状では、新幹線は余程のことが無い限り動くことが無い。
ただし、いつでも動かせるように整備だけは付近住民の協力のもとに行われていた。

「博多から東京まで現地の各部隊や警察が警備する。
山口県の担当は君達だ。」
「わかりました。
関係各所と話を詰めたいと思います。」

新幹線が動くのを特等席から見られると、隊員達が盛り上がっている。

「他に何か気になることはあるかな?」

百田一佐は少し考えて、後任の特科の砲声が畜産に与える騒音ストレスの影響について語りだして乃村を困らせることになる。



百田一佐の長話から解放された乃村は秘書やSPを引き連れて、駐屯地に併設された航空自衛隊の基地に向かう。
この駐屯地には日本が保有する唯一のF-35戦闘機が保管されている。
日本の小牧市にあるFACO(最終組み立て検査施設)で製造された最初のF-35Aである。
転移の時期については2015年の後半と認識されている。
この機体は2015年12月15日に、中央部胴体を完成させてからFACOに搬入されていた。
幸い2016年1月に在日米軍がF-35に配備する計画があり、事前に持ち込まれていた部品を日本が購入するなどして完成にこぎ着けた。
同機は航空自衛隊向けの5号機(AX-5)であり、転移二年目には航空自衛隊に納入されている。
問題はステルス戦闘機が、この世界で使い道が無かったことである。
レーダーを使ってこない敵しかいないので、その存在意義まで疑問視されていた。
地球系国家ならレーダーも使えるが、同盟国への配慮という外務省と予算をバカ食いする機体への苦慮を主張する財務省のタッグにより、予算は大幅に減額された。
さらには帝国との戦争や生産に必要な資材の確保、ブラックボックス等の解析に時間が掛かったこともあり、6号機(AX-6)の生産は転移六年目までずれ込むはめになった。
その後も技術の維持の為の生産は行われており、11号機(AX-11)までは航空自衛隊に納入されて岩国基地で訓練が行われている。
乃村は米軍すら保有していない唯一のステルス戦闘機として、その機体の優美なラインを自らもカメラで撮影しながら秘書達に語り出す。

「F-15やF-2で十分とかいう意見もある。
最もだと思うけどね。」
「生産の再開は大臣が骨を折られたと伺っていますが、その熱意はどこから来たのですか?」

自らも海上自衛隊の護衛艦『あさぎり』艦長を父にもつ秘書の白戸昭美が疑問を口にしてくる。
乃村は間もなく乃村家に嫁入りするこの秘書を大変気に入っていた。
次男の利伸の同級生だったが、事務能力が抜群だと推薦して来た時は驚いてたものだった。

「決まっているじゃないか、そこにロマンがあるからだよ。」

必要性がまったく無い点については、他人には聞かせられない理由だった。

「えっと・・・、近日中に最もらしい理由を専門家に作ってもらいます。」
「ああ、楽しみにしているよ。」

生真面目な娘だと思いつつ、何故、あの放蕩次男に射止められたのかさっぱり理解できない。
次男の利伸とも最近は会話をしてなかったことを思い出す。

「そういやあいつ、今何をしてるんだ?」

大陸で大学時代の仲間と貿易会社を創って、それなりに財をなしたのは聞いている。
仕事の関係上、日本にもしょっちょう帰国しているが乃村の仕事の関係もあってほとんど顔を合わせていなかった。

「聞いていませんでしたか?
今は別府港に本社船を停泊させて滞在してますよ。
私も明日からの休暇中はそちらに参ります。」

871始末記:2017/07/13(木) 23:44:06 ID:7.L4Yce.O
府中市
府中刑務所

すっかり刑務所とは呼べなくなった府中刑務所ては、マディノ元子爵ベッセンが収穫の少なさに嘆いていた。

「もう少し八王子には期待していたんだがね。
府中の倍以上の人口なんだから、才能ある子がいっぱい発掘出来ると考えていたのだが・・・」

本人は水晶玉に魂を入れて嘆いているので表情がわからない。
こういう時、ベッセン担当の公安調査官の福沢は応対に困ってしまう。
新たに魔術教育を受ける日本人の子供達は僧職の子弟が八人。
大陸系も5人発掘出来たが、神職系は皆無だった。

「政令指定都市の発掘は許されないのかな?
さいたまとか、千葉とか。」

東京と横浜と言い出さないのは両都市とも人口が激減しているからだ。
横浜市も現在は人口が340万人程度にまで減っている。


「許可が出るわけが無いでしょう。
それとこれが外務省からの問い合わせです。」

ベッセンを担当する公安調査官の福沢は、外務省から渡された書類を渡してくる。

「海棲種族の大使館に関する問い合わせなんて専門外なんだけどなあ。」
「地球の海水による毒素からお客さんを守れる結界の構築。
それだけでいいんですよ。」

日本を守る地球の海水は年々範囲が狭まっているのが、海棲種族への尋問により判明した。
高麗本国3島や樺太島西部などは既に効果の範囲外に指定されている。
正確な範囲を絞り混む為にも海棲亜人の協力が必要だった。
その為にも窓口となるシュモク族に品川に大使館を開館させることにしたのだ。
また、国交正常化を果たした螺貝族も大使館を設置することとなった。
こちらは独立国扱いで、ガンダーラから旧ミャンマー大使館を買い取り、しながわ水族館を寮にすることなっている。

「去年捕虜にした女騎士さんに使者になってもらい、交渉が続いていました。
三大部族の崩壊という状況を見て国交の正常化に合意して来ました。
ですが両大使館と寮には大量の海水が必要となりました。
今は範囲外から海水をわざわざ運び込まないといけません。
タンカー1隻を割り当ててますが、正直経済的ではないと財務省がお怒りなのでして、早急にお願いしますね。」

いっそそのタンカーとやらを大使館にすればいいのにとベッセンは思ったが黙っていることにした。
せっかくの研究の機会を逃すような事は出来ないからだ。

「いいさ、予算と時間はちゃんとくれよ?」



大陸東部近海

日本国海上自衛隊
新京地方隊所属はつゆき型護衛艦『いそゆき』

大陸東部近海を航行する護衛艦『いそゆき』は、僚艦の護衛艦『しらね』とともに長期航海に同行する船団を待ち受けていた。

「そろそろの筈だな。」

艦長の石塚二佐は、腕時計を観ながら船団の到着を今や遅しと待ち構えていた。

「レーダーに感有り。
当艦の後方距離12000。
ルソン船団数42隻を確認。
クルーズ船30隻、貨物船10隻、巡視船2隻・・・
約15ノットで、航行中。」
「旗艦『マラブリコ』より通信。
当艦隊の護衛を感謝す、です。」

副艦長の神田三佐が通信を要約して伝えてくる。

「船団の前方を警戒しながら航行する。
針路0ー0ー2、舵固定。
速力14ノット。
合流の時間を向こうに伝えておけ。」

ルソン船団とはまだ距離があるので、速度を落とし前進しながら合流を果たすことにした。

連絡してきたルソン沿岸警備隊の巡視船『マラブリコ』は、日本がルソンに供与した40m型多目的即応巡視船の1隻である。
転移前の日本とフィリピンとの南シナ海への国際貢献として、供与が決まっていた十隻の巡視船の1隻である。
もう1隻の巡視船『トゥバタハ』が一番船、『マラブリコ』が二番船にあたる。
ルソン船団は米国より要請された西方大陸アガリアレプトへの援軍を運ぶために航海をしていた。
アウストラリス王国が用意した大陸東部、南部から集められた5万の兵団がこの船団に乗船している。
ルソン船団は日本、高麗、新香港に次ぐ大規模船団を保有している。
フィリピンの船籍をもつ船と国籍を持つ船員が、転移時に日本近海を多数航行していた為だ。
ルソンは海運としての産業を成り立たせている。

「しかし、えらく時間が掛かったものだな。」

百済サミットから8ヶ月。
いくら中世的なアウストラリス王国とはいえ、時間が掛かりすぎだと石塚艦長は肩を竦める。
兵員の輸送には日本が大陸に敷いた鉄道も使用されているのだからこんなに遅い筈がない。

「王国側の嫌がらせでしょう。
我々が渋っている間に快く快諾したふりをして援軍の出発を遅延させる。
その間は地球系同盟諸国は次の援軍の準備は行っていませんでした。」

その間も米軍の弾薬や燃料は消耗して損害も増える。
米軍の力が衰えれば自衛隊の負担も増えて、地球系同盟国・同盟都市への補給も減る。

872始末記:2017/07/13(木) 23:48:40 ID:7.L4Yce.O
かといって抗議をしようにも王国側は自らの未開を盾にとって、開き直っている。
むしろ努力を評価しろとまで言われて、ロバート・ラプス米国大使が苦虫を噛み潰して胃炎で入院したという。
神田副長の分析に石塚艦長はうんざりした顔を出す。

「気の長い話だな。
一世紀や二世紀後の話か?」

その間には王国の民も地球系諸国から学び尽くして対等以上の関係になっているかもしれない。

「我々が停滞したままならそうなるでしょうけどね。」
「さし当たってこの老朽艦では長期航海はきつくなってきたな。」
「本国で最後に護衛艦が最後に就役してから7年です。
財務省は沈むまで使わせる気らしいですが・・・」

潜水艦だけは毎年就役しているが、護衛艦の就役は予定が明かされていない。
この『いそゆき』や『しらね』も本来なら十年以上前に退役していた筈の艦だ。
この世界の軍やモンスターなら十分以上な戦力として使えるので、残されているにすぎない。
代わりに海上保安庁の巡視船は転移前の二倍の規模にまで増産されている。
この世界の暴力的な脅威にはその程度の戦力で十分だと判断されているのだ。
神田副長は話題を変えるべく最近聞いたニュースを話し出す。

「そういえば聞きましたか艦長?
我々が戦った螺貝族の連中が東京に大使館を開設するそうですよ?
同盟国として、あの巨大ヤドカリと共同作戦をするかも知れないと思うと頭が痛いですね。」
「私が退役してからにしてくれないかな?」

ブリッジの中は笑いに包まれていた。




新香港
小龍港

新香港武装警察沿岸警備隊が母港としている小龍港では、大陸系の兵士達が停泊しているクルーズ船に乗り込んでいた。
そこにまた到着したばかりのマイクロバスから兵士達が降りてくる。
港を警備する武装警察官の湯正宇大尉は、マイクロバスから降りてきた兵士達を誘導する任務に就いていた。

「諸君等が乗船する『中華泰山号(チャイニーズタイシャン)』は、七番桟橋に停泊している。
誘導に従って乗船せよ。」

どの船も客船ばかりなので白一色であり、目が痛くなってくる。
同じ様な船ばかりで困惑する兵士達は、ふらふらと他の船に乗り込もうとして、誘導の武装警察官に注意されている。
兵士達といっても武装している者は一人もいない。
武器も防具も貨物船に積み込まれて、西方大陸アガリアレプトに到着と共に兵士達に供与される。
にも関わらず、その人数は膨大であり、武装警察官達は銃器で武装し、警戒を怠らない。

「まあ無理もないか。
我々は王国軍じゃないからな。」

元帝国宮廷魔導師にして、帝国残党軍として捕虜となったマドィライは、必要以上に自分達を警戒する武装警察官達にうんざりしつつ呟いた。
今のマドィライは丸腰であり、魔法の発動体である杖も指輪も取り上げられている。
勿論、簡単な魔法なら使えるが、こんな場所では意味がない。
ことの起こりはマドゥライが不覚にも捕らえられたリューベック城でのことだった。
囚われの同志を救出するという崇高な作戦は、自らも囚われの見になるという不名誉な結果に終わった。
作戦に参加した同志達のほとんどが戦死するという惨憺たる結果だったが、魔力を出し尽くして気を失ったマドゥライは生き残ってしまったのだ。
小貴族の三男だったマドゥライは、捕虜となるが実家から身代金は支払われなかった。
そんな金は無いからだが、家族からの謝罪文に落胆しつつ、リューベック城の書物の翻訳という仕事を割り当てられて身代金の積立てを行うしかなかった。
幸い同期の首席マディノ元子爵ベッセンほどでは無いが、学科では遜色の無い成績を誇っている。
順調に翻訳を行っていたある日、傀儡の王国政府の使いが城に現れて、志願兵の募集を行った。
恩赦による釈放に釣られて、大半の捕虜が志願した。
マドゥライもその一人だ。
武器にならない手荷物をいれたカバン一つ持たされて、新香港に列車を使って送り出された。
問題はどこに連れていかれるか聞かされていなかったことだ。
新香港に集められた志願兵並びに徴用兵は約四万人。
捕虜達は元騎士や兵士達だったが、別の船に乗船する志願兵の顔ぶれをみるに違和感を感じる。

「ああ、気付いたか?
あんたらは捕虜からの志願兵なんだが、あいつらは大陸北部や東部の牢獄や鉱山から徴用された囚人達だ。
今回の派遣軍の八割くらいはああいった徴用兵だぞ。」

困惑した顔で立ち止まっていたマドゥライに、湯大尉が声を掛けて教えてやった。

「囚人?」
「まあ、当初は冒険者や傭兵を募るつもりだったが、どいつもこいつも既に契約や冒険に出掛けてて捕まらなかったそうだ。」

囚人と一緒にされるのは屈辱だが、弾除けと考えれば気が晴れるものだった。
徴用兵と志願兵は別の船に乗り分けられている。

873始末記:2017/07/13(木) 23:54:31 ID:7.L4Yce.O
「あんたの割り当ては・・・
ああ、『中華泰山号(チャイニーズタイシャン)』か。
昔、何度か乗ったことがあるが、悪い船じゃなかったな。」

乗船前で、たまたま船外にいた船長は、その言葉を聞き付けて抗議の声をあげる。

「湯大尉、あんたらまた、儲からない仕事を私達に押し付けた癖に、そんな上から目線で!!」
「マーマンの財宝を少しは横流ししてやったろ?
結構な儲けだったと聞いてるぞ。」

口論を続ける二人をほっといて、マドゥライは指定された船に乗り込む。
船は白亜の城と同じくらいに巨大な船だった。
実際に『中華泰山号(チャイニーズタイシャン)』は通常は千四百名程を乗船させて運航されていた。
最も今回は豪華客船のクルーズでは無く、兵員の輸送任務なので、食料や水を3ヶ月分と二千人ほどの兵員を乗せて、手狭になっている。
それでも見慣れぬ地球系の客船はマドゥライ達には豪華な仕様に見えた。
マドゥライが指定された客室には、広い部屋に木製ベッドが多数設置されている。
残念ながら個室では無く、急遽仮設されたものだとみてとれる。
本来は豪華な客室だったのだが、今回の航海に合わせて、家具やインテリア、アメニティは全て撤去されている。
壊されたり、盗まれても困るが、兵員を多数詰め込む為だ。

「リューベックとあまり代わらないな、これでは・・・」

船の外には出れないのも共通している。
書物や稼ぎ機会が無い分、環境的に劣悪かもしれない。
また、荒くれ者が多数乗り込むことから女性の船員も全て降ろされている。
代わりに武装警察官が各船に乗り込むことになる。
彼等は援軍では無く、西方大陸アガリアレプトで援軍を降ろしたあとはそのまま新香港に帰ってくる。
マドゥライは鬱陶しそうに彼等を見るが、1ヶ月ほどの航海の付き合いと割りきることにした。
もう一つのルソン船団にも同様にルソン軍警察の隊員が乗り込んでいる。
ルソンにしても新香港にしても多数の人員が割かれるのが痛手となっている。
また、稼ぎ手である船団がこの航海に拘束されるのには閉口していた。
日本を除けば、この規模の船団を用意できる同盟国、同盟都市はこの二都市以外には無い。
日本は膨大な人口の国民を食わすために大陸からの食料輸送を必要としていた。
その輸送に船団を使用しているので、余裕は無いと提供を断っていたのだ。
気落ちするマドゥライだが、暖房などの空調だけはリューベックより恵まれていることに安心していた。

「あんたがお隣さんか、よろしくな。」

隣のベッドを確保した男が話しかけてくる。

「ハイルセッドだ。
帝国軍時代はドーラン砦に赴任していた。
どうやらこの部屋の住民は魔術師ばかりのようだな。」

言われてみれば、着ている服装や感じる魔力が魔術師のものだ。

「マドゥライだ、よろしく頼む。
しかし、確かにこの部屋はご同輩ばかりのようだな。」

部屋で最も年長と思われる男がこちらの話に加わってくる。

「サーフィリスだ。
帝国近衛魔術師隊に所属していた。
私が聞かされた話だと、船ごとに軍団を、部屋ごとに部隊を編成するらしい。
誰が指揮を執る立場になるかは、我々で勝手に決めろとのことだ。」

あまりの放置ぶりに抗議の声を上げそうになる。
幸いなことに航海の間の中華料理だけは美味であった。



新香港船団の護衛には、海監型"3000トン級海警船『海警2307』『海警2308』の2隻が同行する。
また、沖合いで日本の海上自衛隊護衛艦『くらま』、『ふゆつき』と合流することになっていた。




しらね型護衛艦『くらま』

「暫くは護衛艦がこの大陸から離れるが、大丈夫なのか?」

艦長の佐野二佐は危惧するが、『くらま』自体、先年の紛争に参加しており、ドックでの点検を必要としていた。
新京地方隊に所属する護衛艦が3隻とも任地を離れるのだ。
心配にもなるものだ。
今回の任務に同行する『ふゆつき』は、本土から派遣されてきた援軍だ。
しかし、『ふゆつき』以外に派遣され、この大陸を守る護衛艦が派遣される目処はたっていない。

「代わりに『ヴァンデミエール』がこっちに来るみたいですよ。」

副艦長の言葉に佐野は意外そうで、納得した顔をする。

「なんだ、ヨーロッパの連中ついに決めたのか。」

874始末記:2017/07/14(金) 00:01:42 ID:7.L4Yce.O
日本本土
長崎県佐世保市

佐世保湾の海上自衛隊の基地は、旧在日米軍基地の返還ともに基地を繋げて運営されている。
新たに組織された第三潜水隊群の母港がその旧在日米軍基地に造られている。
ステパニダ海の戦いで勝利した第三潜水艦隊が凱旋してきた。
しかし、一連の戦いで海上自衛隊で最も損害を出した艦隊だ。
桟橋に停泊したおやしお型潜水艦『やえしお』、『せとしお』からは、外見からもわかる損傷が見てとれる。
また、『やえしお』副艦長中井三佐をはじめとする戦死者の遺体が棺に入って運ばれてくる。
防衛大臣乃村利正ら随員や乗員達の家族が沈痛な面持ちで黙祷を捧げる。
乗員達も甲板の上に整列して、敬礼を捧げている。
対称的に他の艦からは乗員の家族達による歓迎の声が聞こえてくる。

「横須賀や呉では凱旋のお祭り騒ぎなんだがな。
ここでは葬礼の場になってしまったな。」
「父から転移前ならデモ隊が殺到して大変だったと聞いています。
私は子供の頃には安保や自衛隊に対する風当たりが強かったとは今では信じられませんね。」

大臣秘書の白戸昭美が喪服姿では首を傾げる。

「戦死者が出ても遺族も社会もあたり前のように受け入れて悼んでいる。
時代というか、世界は変わったもんだ。」

一昔前、自衛隊の活動で死者を出そうものなら、基地の周辺をマスコミやデモ隊が取り囲み、鬼の首を取ったように騒ぎ立てたものだ。
今のマスコミや自称平和団体も活動が下火で、地方まで人を送り込む財源も人手も無い。
誰しも自分達が食べる食料の確保に奔走している状態なのだ。
それでも新幹線を動かすというのは、大きなニュースとなった。
仮にも国務大臣たる乃村が移動するだけで新幹線を稼働させるということは、下火になっていた彼等の活動に燃料を投下したの間違いない。
それでもさすがに現地まで来る資金と労力は割けなかったらしい。
おかげで基地の周囲は静かなものだった。

「で、お客さん達はうまく新幹線に乗れたか?」
「はい、福岡県警機動隊の護衛のもと、最後尾車両に乗り込む事に成功したとのことです。
一部マニアがホームに侵入したそうですが、先頭車両に注目が集まっていた為に上手く隠しとおすことに成功しました。」
「新幹線・・・
俺がこっちに来る為に動かしたことになってるんだよな。
おかげで非難の電話が事務所や防衛省に殺到しているらしい。」

乃村が佐世保を訪れることは当初の予定通りだが、自衛隊の連絡機を使う予定だった。
国賓の来日を国民から隠蔽する為の囮になるのは釈然としなかった。
この機会に九州方面への物資輸送も新幹線を利用して行われているが、非難の声が収まる様子はない。

「正式な政府発表の後ならば、これは公務の一環だと理解される筈です。
明日には静かになっていますよ。」
「我々が東京に戻るまで、事務所の連中には耐えてもらうしかないな。」





福岡県福岡市博多区
博多駅
新幹線のぞみ

国賓を乗せた新幹線のぞみは、2日ほどこの駅に停車している。
新幹線が動いたのは一年ぶりのことで、見物に来る住民は後を経たない。
しかし、新幹線に至る道や見物出来るビルなどは、福岡県警が封鎖して、市民の不満を買っていた。
現在の日本の鉄道はその運行を大幅に制限されている。
転移による節電や第一次産業の保護のために国民の転居の自由を制限した為だ。
旅行客も転移から十年くらいは大幅に落ち込んだものだ。
諸般の事情や採算の取れなくなった新幹線も無期限の停止状態となっている。
線路を走っているのは貨物列車ばかりだ。
だが今回は要人の輸送という目的で、東京から博多まで新幹線が運行されることになった。
博多駅の新幹線口は福岡県警第3機動隊が二百名体制で警備して封鎖されている。
福岡県警第3機動隊は転移後に新設された隊であり、福岡県の福岡市、北九州市を除く県内全域を管轄としている。
新幹線新幹線ホームには福岡県警SAT一個小隊が完全武装で展開している。
こちらも転移後に大幅に増員されている。
過剰な警備と疑問を呈されるが、福岡県警も政府も沈黙を守っていた。
これらの厳重な警備を掻い潜って侵入しようとするマニア達とのいざこざは多少はあったが、概ね順調に警備は遂行されていた。
だが守られ方が懐疑深く見ていたことは、彼等も知るよしがなかった。

「人族の兵士に守られてるとは不思議な気分だな。」

海亀人から派遣された領事が、窓から外の様子を眺めてため息を吐く。
座席には海蛇人とイカ人の領事達が同席している。
他にも最後尾車両には、これら三種族から派遣された『職員』達が座っている。
新幹線の臨時運行の理由は表向きは乃村国防大臣の移送だが、本当の目的は彼等海棲亜人により組織された外交官達の輸送だ。

875始末記:2017/07/14(金) 00:06:40 ID:7.L4Yce.O
深夜のうちに護衛艦に誘導されて博多港に到着した彼等は、カーテンを締められたバスに乗せられて博多駅に到着した。
彼等の姿が人目に付かないように、明け方に警察の大型車両を並べて、目隠しをしながら博多駅に入った。
駅内でも機動隊が盾を構えながら整列し、作られた道を足早に新幹線まで誘導されて乗車したのだった。


「我等は高麗という国に攻めこんだ。
この福岡は高麗本国から比較的近いことから、危険を避ける為にとは理解は出来るが・・・」

イカ人の領事も触腕を組んで考え込む。
高麗の民のしつこさは日本人から散々聞かされたが、他国でそのような活動を許す日本国の方針も意味が不明だった。

「シュモク族と螺貝族の連中は車両をそれぞれ一両割り当てられてるぞ。
扱いの格差の方が気が滅入るというものだ。」

海蛇人の領事も気落ちしている。
この三種族はシュモク伯邦国の傘下に収まるので、格が落ちるのは仕方がない。

「螺貝族の連中も日本と武力衝突があったと聞いている。」
「死人を出したか、出さなかったかの違いらしい。」

納得のいかないイカ人領事に海亀人領事が理由を説明する。

「その理由だと、我等は死人を出させて無いのだがな・・・」

シュモク族に制圧されて同じ立場となった海蛇人領事の気分はさらに落ち込んだ。
佐世保にいる防衛大臣が、博多駅のこの新幹線に乗り込めば新幹線は出発する。
あと半日は車両内で待機させられるのは些か辛かった。

「しかし、我々が一番衝撃だったのは、我等が攻めこんだ地は何れも日本では無かったことだな。」
「今となってはそれだけは幸運だったな。」

車両の外側で警備を行っていたSAT隊員達は、思わぬ潮臭さに辟易していたことは、彼等も知るよしもなかった。




アウストラリス大陸南部
アル・キヤーマ市

日本国大陸総督秋月春種は、南部の王国天領を接収して建設されたアル・キヤーマ市を訪れていた。
アル・キヤーマはこの大陸における12番目の地球系の都市だ。
市内は住民のための住居の建設ラッシュで活気にあふれている。
一際目を引くのは、都市中央部に建設されたモスクだ。
この都市は地球系初のイスラム系住民の町なのだ。
インドネシア国籍者約三万二千人、バングラデシュ国籍者約一万二千人、マレーシア国籍者約九千人、ブルネイ国籍者約百名、モルディブ国籍者約50名。
これに彼等を配偶者とした日本人を加えて六万人の人口を誇る。

「アル・キヤーマ、復活を意味する名称を持つこの都市の発展を心よりお祈りしてます。」
「秋月総督、今回の我等の都市の建設にご協力頂き、心より感謝しています。」

日本で貿易商を営んでいたラクサハマ市長は、秋月総督と固く握手をかわす。
会見は天領たるこの地域の政庁たる代官所で行われていた。
補佐としてサミットの時にも付き添った高橋伸彦二等陸将は、渡された資料でアル・キヤーマの戦力を確認している。
アル・キヤーマの地上戦力は、他の都市と同様に軽火器と軽装甲車両を保有している。
これらを運用する中隊規模の軍警察が組織されている。
航空戦力はロクに無い。
民間も保有していないのは将来的に問題になりそうだった。
対照的に海上戦力には期待できそうだった。
すでに沖合いには巡視船『ペカン』と『アラウ』が警備に当たっている。
巡視船『ペカン』はもとは、日本国海上保安庁で活躍していた巡視船『えりも』が老朽化に伴い、退役と共にアル・キヤーマに供与された船だ。
巡視船『アラウ』も同様で、巡視船『おき』だった船だ。
他にもようやく引き取り手が見つかったと、高麗国巨済島玉浦造船所で建造が停止していた哨戒艦の建造が再開した。
潜水艦も2隻保有しており、海棲亜人討伐作戦『ポセイドン・アドベンチャー』に参加していた。
作戦後、潜水艦『ナガパサ』、『トリシューラ』の2隻は生まれ故郷の玉浦造船所で、整備の時を過ごしている。
この2隻は潜水艦の乗員が揃えられず、乗員の半数以上が日本の海上自衛隊から派遣された人員で操艦されている。
他にも日本から巡視船の供与が協議されており、その充実ぶりが期待される。
哨戒艦や潜水艦は転移前にマレーシアやインドネシアが、韓国に発注していた艦だ。
そのほとんどが玉浦造船所で建造されており、そのまま転移してきた未完成艦ばかりだった。
作戦に必要となった潜水艦は先行して建造が再開されたが、哨戒艦はアル・キヤーマが建設されるのを待っていた。
高橋が資料に目を通している間にも秋月総督とラクサハマ市長の階段は続いている。

「暫くは日本からの食料援助に頼ることになりますが、幸いに我々の人材には農業や漁業に従事していた者も多く、すぐに自らの足で立てるよう努力する所存であります。」

876始末記:2017/07/14(金) 00:12:50 ID:7.L4Yce.O
「はっはは、お気になさらず。
取り敢えず援助も五ヵ年計画を建てています。
それは他の都市も同様なので発展ともに援助を卒業出来る時を待っていますよ。」

近郊で見つかったニッケル、コバルトの鉱山には日本企業も注目している。
ニッケルとコバルトの鉱脈の発見は転移後では初めてであり、サンプルを持ち帰った冒険者達のパーティーに、狂喜した総督府の担当者がキスをしようとして殴られる場面はあった。
資源調査隊が鉱脈を有望と判断したことが、アル・キヤーマの建設を後押しした。
問題は西方大陸に援軍を派遣したことにより、各鉱山で鉱夫として働かせていた囚人や帝国捕虜が大幅に不足してしまったことだ。

「そこは大幅に重機を投入してカバーすることになりました。
各都市で住民から職業鉱夫として働ける人材も増えてきました。
貴都市もこれらの課題が今後に辿る道となります。」
「我等は単純労働は慣れてますからな。
その課題は乗り越えれると、私は信じています。
今、人数を集めている欧州の連中には無理かもしれませんがな。」

そこはイスラム系国として対抗意識もあるのだろう。
侮蔑を含む言葉に眉を潜めるが、言いたいことは理解できる。
現在、フランス人が中心となり、欧州のキリスト教国で連合を組もうとしている。
欧州37ヵ国、約六万人に昇る見積もりだ。
参加を渋るのは、ヨーロッパ系イスラム国アルバニア、ボスニア、コソボの3か国。
第一次産業に従事していた人間など皆無に近い。
ブリタニカほどの纏まりも無い。
次点のパキスタンが集めている中東国家の連合の方が運営は上手くいきそうだ。

「決定は夏のルソンサミットで決まります。
ラクサハマ市長もデビューですから、挨拶分や各都市への支援養成をしっかり練って下さい。」

老婆心ながらの忠告にラクサハマ市長は感激しながら、秋月総督の手をいつまでも握りしめていた。



大陸東部
新京特別行政区から北東約50キロの海岸線

何もない土地だが新京特別行政区からヴェルフネウディンスク市への線路と小さな駅舎と幾つかの政府機関の建物だけは完成していた。
線路に沿い電柱も建てられ、電気が通じていることがわかる。
駅前には事前に来ていた陸上自衛隊の軽装甲車や高機動車の姿がみえる。
他にもこの駅を守る鉄道公安隊のパトカーが二両が鉄道公安隊派出所に停車していた。
そして、本日はこの新築の駅舎に初めて停車する蒸気機関車が到着し、最初の乗客達が降りていく。
初乗客達が到着したのにテープカットなどのセレモニーは用意されていない。
到着した蒸気機関車には客車の他に装甲列車が連結されており、道中は車両に固定された2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲が睨みを聞かせていた。
貨物車両に積載されていた装輪装甲車であるBTR-60PBやBTR-70やマイクロバスやバイクが降ろされて視察団や自衛隊隊員達の足になる。

「次の帰りの上り列車は八時間後に到着する予定です。
視察団の皆さんは存分にこの地を御覧下さい。」

視察団を率いる秋山総督補佐官が拡声器を使って呼び掛けている。。
遠ざかる列車に残された者達は不安を覚えるも、いつまでも列車を駅に置いて線路を塞いでおくわけにはいかない。
まだ、小規模な駅舎とホームくらいしかないこの駅の今後の課題と言えた。
この視察地の各所に、本来は中央を管轄していた第34普通科連隊の隊員達が警備の為に徒歩で散り始めている。
彼等にも新たな駐屯地予定地を視察する目的があったりする。
まあ、自分達が駐屯地するわけじゃないのだが任務なので仕方がない。
彼等が時折、発砲する銃声を聞いて、視察団の面々は不安そうな顔をするが、自衛隊の隊員や秋山補佐官は意にも介した様子も見せていない。

「ホテルなどの宿泊施設があるとよかったんだけどね。」

などと呟いてる秋山補佐官に、乗客の一人で日本の本土から来たばかりの商社の部長という男が不安そうに訪ねてくる。

「あの、銃声が時折聞こえるのですが・・・
避難とかの必要は無いのですか?」

確かに列車を降りて既に20分ほど経っている。
秋山の耳にも幾つかの銃声が聞こえてきたが、あまり気にしてはいなかった。

「ああ、自衛隊が付近の危険生物の駆除を行っているのですよ。
開発が正式に開始される6月まで続くのでご安心下さい。
しかし、何度か演習を兼ねた掃討作戦を行ったのですが、根絶は難しいものですね。」

それは付近に危険生物がいることを認める発言だが、気にするなと言われて部長は困惑する。
だが視察団で、自分とは違う反応をしている人間達に気が付く。
補佐官の発言に安心し、視察を始めたのが既にこの大陸に移民してそれなりの年月を過ごした者達だ。
彼等はそれとなく周囲を警戒しながら地図を片手に目的地に向かい始めた。

877始末記:2017/07/14(金) 00:16:18 ID:7.L4Yce.O
数人は護身用の刀や槍、ボウガンを装備している。
警備会社から派遣された警護の者達もいるが、彼等とは毛色の違う背広姿のサラリーマン達も武装していることに驚かされる。

「彼等も民間人ですよね?」
「都市部の外にでますからね。
最低限の武器を用意していたのでしょう。」

そういう秋山補佐官の腰にも拳銃がホルスターに納められているのを見て絶句する。

「さすがに大物は根絶やしにしましたから安心して下さい。
町の建設に先だって、城壁の普請も行います。
より確実な安全が確保されるでしょう。」

一番の大物はグリフォンの群れであり、32体で構成される大規模なものだった。
鉄道公安隊は線路を敷設する際に過去の文献や冒険者ギルドなどで現地情報の収集を行っていた。
この時に現地の集落が全滅したとの記述を発見したのだ。
調査にあたった騎士団や冒険者が住民の遺体の一部や散乱していたグリフォンの大量の羽が発見して撤収した。
それ以後、この近辺は危険地域に指定され封鎖された。
グリフォンの群れを討伐するには、当時の帝国時代の現地戦力では割に合わないと判断されたのだ。
時代が代わり、帝国から王国になり、総督府の傀儡となると事情が変わってくる。
この地域に鉄道の線路を敷設する必要に迫られたのだ。
鉄道公安隊もパジェロを改造したパトカー五両で調査に赴き、グリフォンの襲撃を受ける羽目に陥った。
パジェロのパトカーは、改造され人間が何人も乗り込んだ状態であり、総重量が3トンに達していた。
しかし、その鋭い鈎爪で牛や馬をまとめて数頭掴めるグリフォンにには軽々と空中まで持ち上げられてしまった。
馬や牛と違い、銃を持った鉄道公安官達は発砲して抵抗する。
まだ地面から車体が離れたばかりのパトカーはよかったが、ある程度の高度まで持ち上げられていたパトカーは落下して車体が潰れて死傷者を出してしまった。
一両が巣まで運ばれて、嘴で啄まれて六名の鉄道公安官が食われたことが後日に判明する。。
事態を重く見た総督府は自衛隊に出動を命じた。
派遣されたのは第16普通科連隊第3大隊。
目立つように装甲車両を走らせ、グリフォンを誘き出す作戦が実施された。
誘い出されたグリフォンは装甲車両を鋭い鈎爪で貫こうとしたが、その爪先は14.5mm機銃弾に堪えるストライカー装甲車の装甲を貫けなかった。
さらに持ち上げようにも17トンもの重量を持ち上げることが出来なかった。
さらにストライカー装甲車は、取り付けられたカメラの映像を車内のモニターで見ながら重機関銃や擲弾発射器の操作が可能であり、射手を危険に晒すことなく、機関銃弾をグリフォンに叩き込みながら駆逐していった。
最終的に巣を擲弾で吹き飛ばして事態の終了を宣言した。
討伐にあたった自衛隊は成体は駆除して、幼体は捕獲した。
幼体は動物園や友好的な騎士団への売却が行われた。
王国が再建を進める『鷲獅子騎士団』は、グリフォンを騎乗する騎士で編成されており、幼体から騎士に育てさせて慣れさせることから需要があったのだ。
新京、新浜の両動物園では、『鷲獅子騎士団』との協力のもと、グリフォンの育成や調教等の研究が行われている。
その後も定期的に魔物の討伐は行われ、回を重ねるごとに魔物の体は小さくなっていった。
その様子を秋山に伝えられても安心感を得られなかった。
普段は日本本国に住んでいる者や大陸に移民して日が浅い者達は、足取りが重くなっている。
自衛隊隊員や武装した視察団員の後ろから追い掛けるように着いていく様子が見てとれる。

「貴方も行かなくてよろしいので?」
「そ、そうですな。
お〜い、待ってくれ!!」

駆け出す商社の部長に秋山は苦笑する。
同行するSPも似たような思いをえたようだ。

「大陸に来たばかりの頃を思い出しますね。
あの頃は毎日が怖かった。」
「まあ、私は護衛がたっぷり付いてたから恵まれてる方でしたけどね。
今回も頼りにしてますよ。」

敬礼で答えられ、秋山も総督府の支所予定地に向かう。
しかし、視察といっても風光明媚な海岸線とだだっ広い原野が広がってるだけだ。
道も無いから遠くに行くわけにもいかない。
気をとり直した視察団の参加者達は、未だに挨拶の終わっていない同行者に名刺を配ったりして親交を深めている。
その交換された名刺にはアンフォニー代官の肩書きを持つ斉藤光夫のものも混じっていた。

「これはこれは青塚さんじゃないですか?
副総督の補佐官に就任したとか、おめでとうございます。」
「斉藤さんお久しぶりです。
アンフォニーの発展、噂は聞いてますよ。
今度は病院を建てたとか。」
「炭鉱や鉱山で健康を害する患者を見越した先行投資ですよ。」

近隣の領地から若い女性を集めて、看護婦として教育し、雇い入れている。

878始末記:2017/07/14(金) 00:23:08 ID:7.L4Yce.O
「あなた方のケースを基に、我々も東部に大規模な大陸人の女性向けの学園都市を造ろうかと思いましてね。
民主化問題に熱心な武田葉子教授を口説いて候補地を選定中ですよ。」

武田の名前を聞いて、斉藤は眉を潜める。
新京大学の教授であり、転移前はテレビでコメンテーターを務める論客として有名であった。
転移後もその知名度を生かして、大陸の各地で混乱を引き起こすことで悪名高いNGO団体『大陸民主化促進支援委員会』の主催者でもある。
斉藤も在学時代は彼女の講義を受講したことがあるが、典型的な男女平等を主張するフェミニストの主義者だった人物だ。
根本的に斉藤達『サークル』の活動を軽蔑しており、折り合いが付かなかった。
最近は彼女の愛弟子だった女性がどういう経緯か自衛官と結婚して、エジンバラ自治領領主夫人となってしまい、ヒステリーが激しくなったと噂では聞いていた。

「また面倒な人物を・・・」

斉藤は呆れるが、青塚は首を横にふる。

「面倒な人物だからいいんです。
彼女は女性保護の活動には熱心ですからね。
保護した大陸の女性にも日本人と同様の権利や環境を与えようとするでしょう。」

学園都市にて衛生観念と教育を与えられた大陸の女性達は、小汚ない村や町に戻れるだろうか?
教養も無く、不潔な大陸の男達との婚姻に我慢出来るのだろうか?
すでに新京の教育機関に留学してきた貴族の子女にその傾向が見られる。

「どうです?
うってつけの人物でしょう武田教授は」

青塚のどや顔が微妙に斉藤はムカ付いたが、『サークル』の方針としては都合がいいのも事実だった。

「大陸人の少子化は、政府が百年単位で行うつもりだったんでしょう?」
「我々はそれを早めてやろうというだけですよ。
国家百年の大計も結構ですが、我々、或いは我々の子供達が享受出来ない利益に何の価値があるというのか。」

その為に多少の血生臭いことになろうとも甘受する気だった。
斉藤達の愛しき姫君達には聞かせられない話だった。

「それで、その候補地はここで?」
「いや、さすがに我々日本国民戦線だけでは資金力とか問題でしてね。
些か不本意ながら神殿都市の建設を狙ってる日本仏教連合と協賛になりそうなんですよ。」
「ああ、フィノーラですか。」

フィノーラは新京から中央線で2つ先にある都市だ。
吹能羅という日本名に代えて、巨大な寺院の建設計画が建てられている。
竜別宮とともに大陸人との共存の場ともなっている。
男女平等主義者と宗教勢力が相容れるのかは大変疑問だった。
それでも最大限の利益は勝ち取らないといけない。

「建設が本格化したら、アンフォニーも一枚噛ましてもらいますよ。」
「その前に『ここ』ですか・・・」

総督府が主催した視察団が訪れたこの地は、新京、新浜に続く第三の植民都市の建設予定地だった。
今年の6月末をもって、新浜への植民は停止する。
新しく建設するこの地には自衛隊やインフラ業者とその家族を先遣とした植民が7月から開始される。

「今度は何て名前になるんでしょうかね、この街。」
「横浜市民が移民の主力になる街ですからね。
浜の字はさすがに候補から外されるみたいですよ。
新浜市の時は、旧世田谷区民と横浜市民が移民のメインでしたからね。
総督府で命名を巡り殴りあいも辞さない緊迫した会議が続いたそうですよ。」

呑気な話だったが、新浜市の命名は世田谷派と横浜派の主導権争いでもあったのだ。
その決着も7月に行われる初の市長選挙の結果に反映される。
秋山達、総督府も自分達の息の掛かった候補者を支援している。
青塚達『日本国民戦線』や『大陸民主化促進支援委員会』、『サークル』も独自の候補者を立候補させるべく動いていた。
大陸の民達は日本内部の争いを公開しながら見せられるという珍妙な事態に戸惑いを見せることになる。
その騒音に住民からの苦情が殺到したのは・・・・・・
予想通りだった。




日本国
大阪府大阪市西成区釜ヶ崎

大阪市最大の貧民街と呼ばれる釜ヶ崎にある一件のボロアパートを大阪府警第3機動隊が包囲していた。
すでに住民の避難が実施されたが、数人の住民がこの数日行方不明となっていた。
近所の住民は、またいつもの暴動かと戸締まりや護身用のバットや木刀を持って身構えている。
やがて大阪府警SATと自衛隊地方協力本部の車が到着し、機動隊が封鎖された道を開ける。

車両から降りてきたSATの隊長と自衛隊の三等空佐が本部となっているテントに入る。

「状況は?」

SATの隊長はテントに入るなり、連絡役の所轄の警官に状況を報告させる。

「本日1315、住民の生存確認の巡回を行っていた巡査二名がアパート内で、腐臭を確認。
署に報告の上、各部屋を確認中にアンデットと化した住民を発見。
発砲しつつ部屋を封鎖。
1410、要請を受け現着した機動隊が同アパートを包囲。

879始末記:2017/07/14(金) 00:26:42 ID:7.L4Yce.O
住民の避難と点呼を行ったところ、問題の部屋に住んでいたと思われる男性住民5名の所在が確認出来ませんでした。」

自衛隊の三佐は警官の報告に首を傾げる。

「一室に男性が5名?
ルームシェアというやつですか?
にしてもアンデット化するまで死体を放置など何を考えていたのでしょう。」

この三佐はあくまで警察の手に負えなくなった時の為の連絡役に過ぎない。
また、このあいりん地区の特殊な事情も理解できないだろう。

「ここはスラムみたいなものですから、家賃を安くする為に一室に複数人で住んでたりします。


おそらく死亡した男性を生存していることにして食料の配給を多く着服する目的だったと思います。
最近、多い手口なんですよ。
それで家の中に遺体を隠したりして、それがアンデット化し、同居していた住民を襲ったと署で見ています。
なお、アンデットの分類は専門家の不足により困難。
推定グールとして対処しています。」

現在は活保護や年金、失業保険が打ち切られ配給に一本化されている。
この生命線を繋ぎ止めようと、都会はまだまだ必死な状況なのだ。

「転移前も年金を長くもらおうと親の死亡を偽る事件は何件かありましたが・・・」
「今はアンデット化の危険が伴うようになったと・・・、やれやれですな。
で、我々は必要ですか?」

三佐はSATの隊長に自衛隊の出動が必要かと問いている。

「我々だけで十分です。
今年に入って3件目ですし。」

全国でも大阪が最もこの手の事件多いことは恥ずべきものだった。
テントから出た隊長はSATの隊員10名と機動隊の銃器対策分隊10名を集めてアパートに入っていく。
既に現場の部屋のドアはバリケードで封鎖されて、アンデットと化した住民は出てくることが出来ない。
廊下には更に陣地化させたバリケードが構築されている。
すでにアパートの反対側のマンション屋上から狙撃班も睨みを効かせている。
必要なのは火力による制圧力だけだ。
廊下のバリケード越しにSATの隊員達が、豊和M1500を構えて命令を待つ。
銃器対策分隊も同じライフルを持ち、バックアップの為に後ろに並ぶ。
豊和M1500は転移前から警察が害獣処理用に採用していた大口径ライフルだ。

「もう迷い出てくるなよ・・・


撃て!!」

狙撃班の狙撃で、アパートのドアを封鎖していたバリケードの留め金が破壊されていく。
開放されたドアからアンデットと化した住民が忽ちSATの銃撃で蜂の巣にされていく。
銃声をアパートの外で聞いていた三佐は、『日本も物騒になったな』と肩を竦めていた。




北海道札幌市中央区大通公園


「移民、反対!!」
「反対!!」
「移民政策の見直しを!!」
「北海道の貢献を国は忘れるな!!」


数十万の人々がシュプレヒコールをあげながら道庁に向けて行進している。
正式に届け出が出されたデモであり、整然とした行進が実施されている。
警戒にあたる北海道警は交通誘導に専念するだけで事足りている。

『国の移民政策に反対するデモは、主催者発表により70万人が参加する大規模なものになっています。
この動きには道知事や道警すらも同調する動きを見せており、これまで対岸の火事と見ていた北海道各都市に拡がりつつあります。』

現地レポーターの現場中継が終わり、スタジオでは司会の男性がアシスタントの女子アナに今回の事態が起こった説明を促している。
この時事問題を扱うワイドショー的な番組は、驚くべきことに新京のテレビ局で制作、放送されている。
東京から地方への地縁を持たず、脱出が出来なかった放送業界の関係者は多い。
特に生産性に寄与しない彼等は真っ先に大陸への移民に組み込まれていった。
移民から年月がたち、ある程度生活に余裕が出てくるとかつての華やかだった頃に戻りたい者や忘れかけていた夢を再燃させる者達が現れていた。
そんな彼等が集まり、総督府の肝煎りで開設された新京放送に元業界人が殺到したのは言うまでも無い。
娯楽に飢えていた大陸移民達へのニーズにも合致し、日本本国への放送を逆輸入する盛り上がりを見せていた。
問題はアイドルやモデルに系統する人間が戻って来なかったことだ。
彼等、彼女等のほとんどが恵まれた容姿を生かして、日本本国の地方豪農や地主の一家と婚姻してしまったからだ。
十年近く仕事が無かった状態だから、責めるのはお門違いといえたが、一部のファン達が絶望して様々な事件を起こしたのは想像に難くない。
代わりに大陸で収入を大幅に減らした貴族令嬢のタレント化が最近の流行りとなっていた。
同様にアスリート達も転移とともに生涯を掛けていたスポーツの大会に出る目標と余裕を失わされていた。
日本本国ではプロ野球が復活していたが、東京、横浜の3球団が正式に解散し、1リーグ制に縮小されていた。

880始末記:2017/07/14(金) 00:29:14 ID:7.L4Yce.O
野球はまだ恵まれていた方で、格闘技系統のスポーツイベント以外は実質活動出来なくなった。
東京や横浜から移民したアスリート達は、自らの優秀なフィジカルな肉体を生かして冒険者になる道を選んだ者が多い。
転移前、ホームラン王だったプロ野球選手などは、剣豪として名を売っている有り様だ。
しかし、このスタジオにいる人間達にはそんな能力は無いし、年齢が高くなって無理な者が多かった。


『今回のデモは、国の移民調整庁が各自治体に移民対象者をリストアップする調査を命じていたことにあります。
すでに東京、横浜で実施されていた大陸への移民ですが、この2都市は第一次産業に従事しない人口が全国でも最大規模で、食料配給の割り当てが最も低いこともあり、大陸移民はスムーズに行われてきました。
これは続く大阪、名古屋でもほぼ同じと思われています。』
『では、この政策に札幌市が反旗を翻したのは何故なんですか?』

女子アナに呼吸をさせるべく、空気を読む司会が発言して時間を稼ぐ。
長年同じ番組でコンピを組んでたから出来る絶妙な掛け合いのテクニックだ。
司会がコンビでお笑い芸人をしていた経験から出来る芸当でもあるだろう。
それなりに人気もあったのだが、相方が地方で農家をやっていたこともあって、コンビが自然解散したことは世間でも残念に思われていた。

『札幌市は先の四大都市と違い、第一次産業従事者とその家族が人口の18パーセントに達していました。
このままだと国が定める移民対象人数が第一次産業従事者とその家族にまで及ぶ恐れが出てきました。
当然、第一次産業従事者だけでは市の運営が成り立ちません。
関連の製造、流通業者や文化伝統技能者、インフラや建築業者、自衛隊を含む市を運営する公務員等々、家族を含めれば最大で市の人口の六割は移民させるわけにはいかないと北海道庁並びに札幌市が国に上申したことが発端になっています。』

女子アナの説明が終わると、コメンテーター達が各々の感想や意見を発言しだす。

『国はこのことを考えてなかったのかしら?』
『東京と横浜だけで頭がいっぱいだっだろうな。』
『札幌に例外を認めては、他の自治体に示しがつかないだろう。』
『しかし、現実に札幌をはじめとする北海道は食料生産が他の都府県と比べて自給率の二倍以上と高い。
農家まで移民させては本国の食料生産が低下してしまい、本末転倒な話になります。』
『多少の配慮は必要なのかな?』

それぞれが好き勝手に発言している。
司会が発言を止めさせ、画面には今後の各自治体の移民スケジュールが映し出されている。

『横浜市場は今年の7月11日をもって新浜移民を停止し、翌日7月12日から移民先が現在開発中の第3都市に変更になります。
また、年が明けると同時に神奈川県の県庁所在地川崎市に変更となります。』

川崎市が横浜市の人口の三倍になる見通しなので、県内の反対は少なかった。
むしろ川崎市も移民対象都市として優先度が高いので、最初から相模原市にすべきとの意見も根強い。

『では、札幌で移民が開始されるのはいつ頃になるのかな?』
『早くても三年後になるので無いかとの見通しです。』

テレビを消すと、道知事がソファーに座り込んでため息を吐き出す。

「国も我々の声を聞かずにはいられないだろう。
最低六割の人口維持を守りきるぞ。」

同じく隣のソファーに座っていた札幌市長が同意して頷く。

「日本国民戦線がこの活動を支持してくれるそうです。
ただ、ある程度は覚悟しておくようにと。」

彼等も政治家である。
どちらか一方の主張が一方的に通るのがありえないとは理解している。
市民の六割維持が理想で、四割維持を勝ち取れば上出来と考えていた。

「流血沙汰だけは避けるよう、関係各所には申し送ろう。」
「それがいいでしょう。
流血は武力介入の口実にもなりますからな。」
「北海道は配給制度の指定地域からも外れてるからな。
そこらへんが落としどころになるかもしれん。」

中央政府が地方の行政府に武力行使するという転移前なら考えられなかった選択肢の可能性を彼等は否定しない。
転移後の腹を括った政府ならやりかねないように思えるのだ。
しかし、北海道の繁栄をここで邪魔されるわけにはいかなかった。
食料の一大生産地ということもあって、東京等に出ていった若者達が家族を連れて北海道に帰ってきている。
衰退の一途を辿っていた試される大地は各地で活気に溢れ、かつて無い好景気に沸いているのだ。
ここで移民政策等に水を差されるわけにはいかないのだ。

「今日も横浜や名古屋、大阪では餓死死体が発見されるニュースが報道されていたが、一緒にされては困ることを訴えねばな。」

知事の決意を口にしていると、市長は扱いに困っていた書簡を思い出していた。

881始末記:2017/07/14(金) 00:30:54 ID:7.L4Yce.O
「そういえば知事。
実は新香港から書簡による要請が来てまして・・・」
「外務省を遠さずか?」
「いえ、さすがに外務省も承知している内容ですが、連中我々に在日中国人を引き取りたいと言ってきましたよ。」

もともと新香港は日本の爆買いブームで、過剰に増えていた中国人観光客の受け皿として創られた街だ。
日本に居を構えていた在日中国人達は生活の基盤を整えていたので対象外となっていた。
なにしろ人数が膨大だ。
転移前に日本に居住していた在日中国人は67万人に及ぶ。

「連中は一体何を考えといる?」
「我々と変わりませんよ。
中国人による第二の植民都市の建設です。
新京や新浜に移民させられた在日中国人による入植はすでに始まっているらしいですよ。
すでに名前も決まっているとか、『陽城』だそうです。」
『陽城』、それは中国の史書に記された中国最古の王朝の都の名前だった。

882始末記:2017/07/14(金) 00:31:25 ID:7.L4Yce.O
では今日はここまで

883名無し三等陸士@F世界:2017/07/15(土) 00:37:07 ID:7.L4Yce.O
では今日の投稿

884始末記:2017/07/15(土) 00:39:05 ID:7.L4Yce.O
大陸東部
新浜市

ある元官僚の邸宅の離れにプレハプを改造した畳張りの建物が建っていた。
建物の看板には『佐々木剣道教室』と書かれている。
道場では無く教室なのは、教える人間が拘った結果だ。
今は体育館並みに教室はでかくなったので、このプレハブは応接室として改装することになっている。
この日も子供を教室に預けようとしていた母親に、このカルチャー教室の教師兼オーナーが応対にあたっている。

「この教室はあくまで基礎を学び鍛練する場所だとお考え下さい。
その為、小学校を卒業と同時にこの教室を卒業になります。
中高生からは学校に専門の部活があるからそちらの方が良いでしょう。」

元公安調査官佐々木洋介は、退官後にこの大陸に移り住み、1年と4ヶ月経過しようとしていた。
退職金と年金代わりに広大な土地と家を割り当てて貰ったので、家庭菜園の延長で始めた野菜畑は、佐々木と息子二人の一家11人の食卓を彩るのに十分な規模に拡大した。
家族が一丸となり、頑張った成果だと誇らしくなってくる。
特にカボチャ畑の収穫は売りに出せるレベルと密かな自慢であった。
しかし、素人が始めた家庭菜園の延長線の野菜畑だけでは、些か土地の広さを持て余していた。

「土地はタダみたいなものといっても限度があるよな。」

提供された家は三家族11人が、一人一人個室を貰って尚部屋余らす純和風オール電化なお屋敷だった。
江東区に建てていたマイホームを泣く泣く手離して沈んでいた女房が、手の平を返したごとく元気になったのは救いだった。
問題は四方の隣家まで徒歩十分は掛かることだ。
道路は整備されてるので、自転車があれば特に支障はない。
佐々木も野菜畑の片手間に孫たちに剣道を教えていると、いつの間にか近所の子供達が集まっていた。
5月頃には建築士や大工をしていた御近所に好意で剣道教室が造られてしまった。

「いや、俺三段止まりだよ?
人に教えて商売にしていいのか?」

転移後は公安調査庁に所属していたが、転移前は警視庁公安部の警官だった。
剣道や柔術は人並み以上に経験はある。
実際の犯罪者相手に奮ってたので実践的だとは思う。
しかしながら指導者となると話は違ってくる。

「難しく考えなくていいのよ。
ご近所さんからは保育園とか児童会館の代わりぐらいにしか思われてないし。」

軽く言ってくれる女房には今でも苦言を呈するべきだと考えている。
なかなか実行は出来ないが・・・だが女房の言うことも確かで、どの家も正職の他に与えられた土地で畑を耕す兼業農家となっていた。
中高生も学校から帰宅後は、農作業を手伝うなど微笑ましい光景がみてとれる。
しかし、小学生以下の子供の扱いには困っている。
ここが平和な日本本国なら塾や友達と遊びに行くという選択肢があるが、モンスターが跋扈するこの大陸では親が安全の為に子供の行動範囲を狭めているのだ。

「で、まとめて俺に預けておけと・・・」
「それもあるけど、最近の習い事は武器を使った武道が流行りなの。
モンスターだけじゃなく、盗賊とか帝国残党とかもいるんでしょ?
子供たちにも対処出来るよう育ってほしいのよ。」

学校でも体育の授業に剣道と弓道が加わると聞かされ、佐々木が考えてたよりも新浜は物騒なのかと思い知らされる。
資格の問題も役所は2つ返事だった。
自力で収入を得られる人材はまだまだ少数であり、貴重な人材への優遇は最優先で行われたのだ。
佐々木自身が社会的に保証された立場にあった人物だったことも関係していただろう。
色々と葛藤はあるが、剣道教室の先生を引き受けることにした。
最初は小学生だけのつもりだったが、フィットネス感覚や近所に適当な道場が無いと理由で入門する大人枠の生徒も増えてきた。
中には現役の日本人冒険者も鍛練の場として利用する者もいる。
引き受けてからわかった事だが、同じ様に考えている人間は存外に多く、新浜や新京の町では様々な武道の道場や教室が誕生していた。
それらは佐々木と同じく資金や土地に余裕がある者が運営している。
その反対に心得はあるが、生活に余裕が無い者が職を求めて門を叩くことになる。
それは『佐々木剣術教室』も同様で、いつの間にか野菜畑の農作業を手伝う先生兼小作人が三人、五人と増えていった。
ちなみに事務は長男と次男の嫁二人が担当してくれた。
その為に7月頃に事務所となるプレハプが増設されることになる。

「なあ母さん。
なんだかおかしな方向に向かってないかな?」
「もうお父さんたら考えすぎですって。」

色々と疑問に思いつつ、日々を過ごしてたある8月の中頃、知人から馬がつがいで4頭送り届けられた。

「あの野郎・・・」
「あらやだお父さん、お裾分けですって、どうしましょう。」

885始末記:2017/07/15(土) 00:41:03 ID:7.L4Yce.O
戦犯として処刑されたことになってる元マディノ子爵ベッセンからだった。

「昨年、マディノであった騒動は御存知で?」

馬を送り届けてくれた男は明らかにカタギじゃない。

「ああ、聞いている。」
「その際の戦利品なのですが少々持て余してまして・・・
ほとんど売っぱらたんですが、お世話になってる方からこちらにお届けするようにと連絡がありまして・・・」

男は石和黒駒一家の者で、石田祐司と名乗っていた。
転移当時は刑務所にいたので、日本の統治区域を出入り出来る立場だった。
服役中に第2更正師団に徴用され、西方大陸での戦いに参加。
部隊が爆弾を括りつけた矢の雨に晒されて負傷した。
石田は負傷したために後送され、本土で入院、治療に専念していた。
そんな中、前線にいた第二更正師団が壊滅したとのニュースが本土で駆け巡った。
帰る場所を無くした石田は、従軍と入院中に刑期を終えたことにより、釈放と除隊となった。
昔の知己を頼りに、この大陸に来たらしい。
佐々木はベッセンがどうやって石田と連絡を取ったのか聞いた。
府中刑務所に軟禁されていて、そんな自由は無いはずだ。

「入院してたら深夜に枕元に現れまして・・・
自分、思わず念仏唱えちゃいました。」
「あ〜、それは怖いな。」
「で、大陸に渡ってマディノに行けと。
大陸に渡る資金は後日、現金書留で送られてきました。」

退院し、マディノに到着すると自分に馬を渡して佐々木家に届けるようにと言われた人間が待っていたらしい。

「近くの村の村長さんで、マルローさんとかいう人でした。」

石田は詳しいことは詮索しなかったらしい。
その後、石田は昔の仲間を訪ねてみると馬を置いて汽車に乗って旅立っていった。

佐々木は残された馬の処遇に困ったが、送り主は公式には死亡したことになってるので返品は不可となっていた。

「どうするんだよ、これ?
馬なんて飼ったこと無いぞ?」

途方に暮れる佐々木だが、長男の嫁葉子が意外なことを言い出した。

「あのお義父様、多分私飼えます。」

葉子は外務官僚の娘でお嬢様育ちだった。
子供の頃から乗馬を嗜み、大学時代には乗馬部の厩舎で馬を飼育する作業に携わっていたらしい。
その後は話がトントン拍子に進み、九月には厩舎が完成し、葉子を先生にする乗馬教室が10月に開校した。
さすがに土地が足りないので隣家も持て余していた土地を借り上げている。
そのまま隣家の住民が葉子の抜けた穴の事務員として雇用された。
今の世の中、民間人にはガソリンなど滅多に手に入らない。
舗装された道なら自転車でも問題は無いが、市街に出るのには支障がある。
馬の需要が増えており、駅馬車が運営されている始末だ。
馬が二頭あるならと馬車も造られて買い出しも楽になった。
そうなると近所から注文を取り付け、まとめて購入輸送する事業まで立ち上がっていた。
佐々木は『うちの家族は逞しいな』くらいにしか考えてなかったが、休日の朝に自宅の前の空き地が騒がしいことに気がついた。

「家の前が市場みたいになってるな。」
「うちが収穫物や馬車で仕入れた品を売ってたら、ご近所の人達も収穫物や売りたいものを持ち込んでこうなったのよ。
でもみんな喜んでくれて嬉しいわ。」

ちょっと心配になった佐々木が市場を役所に届け出ると、市場長に任命された。

「ちょっと何が起きたのかわからない。」

次の日朝起きたら、佐々木家前市場とデカイ看板が設置されていた。
佐々木自身は剣道の先生に専念していたら、いつの間にか町の名士になっていたようだ。
年が明けて、住民が増えてくると市内の武道系の道場や教室が加速度的に増えていった。
ある日、お役所に道場主や教室の経営者達が集められて、市内の武道、武術の団体を統括する財団法人の設立を通達された。
その上で佐々木に理事になって欲しいと申し出があった。

「いや、カルチャースクールに毛が生えた程度だよ?
うちより大きいとこいっぱい有るでしょ?」
「いえ、佐々木先生が住んでる地区には無いのですよ。
今、門下の生徒が120名でしょう?
市内でも屈指の規模ですよ。」

知らない間に市内屈指の剣道教室になっていたらしい。

「それに推薦も多くて・・・
ご存知のように武道関係者は元警察官やその関係者も多いのですが、その中でも佐々木先生は総督府にも顔が利くと聞いております。」

マディノ元子爵ベッセン関係で、府中と総督府との連絡役だった関係で、顔が利くというのは本当だった。
周囲の期待に負けて、困惑しつつも承諾して家に帰ると

「まあ、貴方ったら。
天下りは世間で評判良くないんですからほどほどにして下さいね。」
「俺にどうしろというんだ。」

886始末記:2017/07/15(土) 00:44:45 ID:7.L4Yce.O
台所で夕食を造っていた女房の苦言に途方に暮れつつも2月になって、新浜武道連盟の理事に就任した。
そんな愚痴を遊びに来た僧侶円楽に聞いてもらっていた。
急激な環境の変化に付いていくのもやっとなのだ。

「私もフィノーラで寺院を建立することになったのですが、中僧正という僧階を押し付けられましたよ。
本来あれはどれくらい修行したかの自己申告制の筈なんですけどね。 」
「僧階ってなんだい?」
「僧侶の階級ですよ。
まあ、あんまり意味は無いのですが、着られる袈裟の色とか有名な大寺院の住職になるのに必要になります。
ほとんどが世襲で寺を継ぐ僧侶には必要無いですし、今は僧階なんて気にせずに紫の袈裟とか来てますからね。
一番気にしてるのは大卒の僧侶かも知れません。」
「僧侶の世界も学歴なの?」
「仏教の大学卒業と同時にある程度の僧階貰えますからね。
親より息子の僧階が上なんて寺は結構ありますよ。
むしろ転移してから法力が使えるようになった孫世代達が悩みの種になってますよ。
修行の成果が目に見える形になるわけですから、僧階の低さとかに不満を持つかもしれないとね。」

俗世的な悩みで、僧侶の世界も所詮は人間の集まりと佐々木はため息を吐く。
ついでに円楽の息子の剛少年が、佐々木の孫娘の美登理にデレデレしてるのが気になっていた。
二人は一緒のテーブルでカボチャのスイーツを一緒に食べている。

「君の息子は仏教会の星だろ?
世俗的なことに惑わされてていいのかね?」
「本当は息子には宗教に縛られずに自由に生きて欲しいのですよ。
成長すれば立場的には難しくなってきますからね。」

日本仏教連合の大物と語らっているのが、近所でも評判となるのはすぐであった。
そうなると、佐々木を訪ねて来るものが現れだした。

「この度の新浜市の市長選で御協力頂ければ佐々木先生にもそれなりの椅子をご用意させて頂きます。」

連日、このような人物が入れ替わり立ち替わり現れて佐々木の平穏な生活を掻き乱していくことになる。





大陸東部
吹能等町

日本の第二管理区だったフィノーラの町は吹能等と名前を変えて内地化されていた。。
東に約100キロに新京、50キロに竜別宮町、1600キロ西に、王都ソフィアが存在する。
人口は約12万人。
住民の1割が日本仏教連合に所属する僧侶とその関係者、門前町で市を成す日本人である。
最近は、教職にあった日本人の移住が盛んだ。
竜別宮町と同様に大陸人が住民として共存しているが、最近は建築の為に呼び寄せられた人夫が多かった。
それでも人口はそれなりだが、日本人の人口が市の定義である三万人に達していないので町扱いとなっている。

「デカイ寺院が建ったと思ったら今度は大陸人向けの学園か。
なんだかチクバクな印象だな。」

女性向けの学園と聞いて、些か楽しみにしている自分が笑えてくる。
建築現場を自転車で巡回していた警官の若月巡査は、建築ラッシュで騒がしくなっている街並みを見て呟いていた。
若月の自転車は本国や植民都市で使用されている実用車と呼ばれる白い警ら用自転車ではない。
植民都市と違い、ロクに道がアスファルト等で舗装されてない竜別宮や吹能等での使用を想定された警ら用マウンテンバイクだ。
警ら用なので、警ら用実用車同様に合図灯ホルダーや『弁当箱』が備え付けられている。
正直、バランスが悪いと不評である。
城郭都市であったフィノーラは、吹能等町に代わるにあたり、正方形に造られた城郭の外郭北部に寺院を中心とする門前町が造られていった。
他の地球系都市と違い住民を退去させなかったからだ。
各寺院の土壁が繋げられて、新たな半円状の外壁が形成されていった。
寺院が中心となるこの外郭は北郭と呼ばれた。
南側に自衛隊の駐屯地や官公庁と住居が集まられており、やはり外壁が建設されて南郭と呼ばれている。
駅と線路はこの南郭を通過している。
現在は学園を中心とする西郭が建設中だ。
いずれは東側にも何かを造るらしいが、いまだに何を作るか検討の域を出ていない。
若月巡査は西郭の外壁真下に設置された西郭駐在所に到着して自転車を停める。
駐在所の中には同僚の岩下巡査しかいなかった。

「あれ、一人か?
班長達は?」
「上で講習中だ。」

同期の岩下巡査が指を天井に向ける。
城壁の上の道のことだ。
いずれの外郭の城壁にも帝国時代から使われている固定砲が設置されている。
多少は技術供与も行われ、吹能等の町には、アームストロング砲を現地で大陸人も生産できる反射炉などの設備も造られた。
日本製の現代兵器は高価で大量生産に向かない為の処置だ。
自衛官や警察官達も含め、武官達や警備会社や自警団も一通り習熟出来る講習が行われている。
肝心の大砲は大陸人に扱わせるわけにはいかない。

887始末記:2017/07/15(土) 00:47:07 ID:7.L4Yce.O
ホワイトボードに貼られたスケジュール表で自分の講習日を確認する。
砲弾は無駄に重いので憂鬱になる。
そこに本署からの通信がスピーカーで響き渡る。
それは吹能等周辺で活動する日本人冒険者による救助要請に対応せよ、との命令だった。
要請はモンスターとの遭遇による生命の危機に瀕している内容だった。
駐在所に設置されたファックスからは、各局に送られてきた救助地点の地図が吐き出される。

「うちが一番近いな?
班長達を呼ぶ。」

岩下巡査が立ち上がり、携帯電話で事情を話始める。
若月も銃器保管庫から駐在所の警官人数分のライフルや予備の拳銃、弾丸を取り出す。
駐在所に配備されているトヨタ・ハイラックスを改造したパトカー二両の後部座席に自転車と銃器を詰め込んでいく。
城壁から降りてくる班長の河村巡査部長達は

「細かい話は車内で聞く。
装備は?」
「規定通り詰め込みました。」
「じゃあ、現場に向かおう。」

と、納得しパトカーに乗り込んでいく。
さすがに全員が出動するわけにはいかない。
駐在所には現在五人の班員がいるが、講習に来ていた他の警官にも出動を要請し、八名で出動することになった。
問題の救助要請は、大陸の在住する日本人に配布した安否確認サービスのサイトから発信されていた。
南郭の電話局がその信号を受信し、関係機関に通報してきたのだ。
都市の外には危険が溢れている。
都市を出る日本人には数時間ごとに自分達の居場所をホームページの掲示板に明記するよう指示を出している。
しかし、個人情報やプライベートの問題から明記しない者も多かった。
吹能等から出たパトカーは、最後に現在地が明記された場所に向かう。
車内には救助要請を受信できる機械が装備されている。
さすがに冒険者パーティーだけあって、セーブポイントをマメに明記している様だった。
街道はアスファルトで舗装されていないが、ハイラックスなら多少の悪路も問題は無い。
街道の近くには線路も通っている。
岩下巡査は車内で、本署から送られてくる情報を読み上げる。

「ギルドに提出した申請書によると、吹能等から約60キロの地点にある古代遺跡に冒険に出た模様。
日本人二名、藤吉達也、水島祐司、共に35歳。
大陸人の冒険者四名とともにパーティーを組んでいます。」

すでに救助要請から30分が経っている。
回転灯を回し、サイレンを鳴り響かせてスピードをあげる。
残念な話だが、大陸の住民に回転灯の意味が理解されてるとは言い難い。
民間の自動車は40km/h以上の速度を出すことが禁止されている。
緊急車両にはその制限は無い。
それでも奇怪な光と音を鳴り響かせて街道を走るパトカーを見て、数人の農民達が逃げ惑い、旅人が護身用の武器を構えて威嚇してくる光景に気が滅入る思いだ。

「そろそろ慣れてくれないかな・・・」

運転する若月は申し訳無く思ってしまう。
問題の古代遺跡はダンジョンとなっており、モンスターの存在が確認されている。
街道から外れた山中にあり、車では途中までしかいけない。

「パーティーは、ダンジョンの外で、衣類メーカーの依頼で扶桑の葉っぱの分布調査を行ってたそうです。
本署から彼らの携帯に掛けてみたそうですが、反応は無いそうです。」
「町の外は電波が弱いからな。」

扶桑の葉は新香港の学者が発見した大陸固有種で、桐に似て、生え始めはタケノコのようで、食用に適している。
実は梨のようで赤く、その皮を績いで布にして衣類や綿にしたり屋根を葺いたりする。
また、扶桑の皮で紙を生産出来る便利な植物だ。
大陸の学者達は特に命名しておらず、各地で特に名前をつけられてないことから、中国の歴史書にある植物と特徴が似てることから、『扶桑』と名付けられた。
若月は要救助者の名前を見て首を傾げる。

「しかし、要救助対象者の二人・・・
どこかで聞いたことのある名前じゃないですか?」

若月が疑問を呈すると、河村巡査部長が思い出したように語りだす。

「転移前に活躍してたプロ野球選手だな。
若手ホームラン王の藤吉、ノーヒットノーラン達成の水島。
昔はスポーツ紙の一面を飾りまくった二人だよ。
この町にいたとは知らなかったな。」

河村が懐かしそうに転移前の二人の話を語りだす。
転移前は小学生だった若月と岩下はピンと来ないが、一緒に乗車している遠野巡査はウンウンと頷いている。

「しかし、解散した東京、横浜の球団も地方に選手の親族がいれば地元か、近い球団に移籍出来てた筈だ。
今、ここにいるということは・・・
まあ、そういうことなんだろうな。」

通報から約二時間。
現場周辺の街道で冒険者らしき三人が何かと争っている光景が視界に入ってきた。
一人は体に白い何かをまとわりつかされて動きにくそうだ。

「あれは・・・、アラクネ?」

888始末記:2017/07/15(土) 00:51:27 ID:7.L4Yce.O
若月は森から出てきた全長三メートルはある巨大グモを見て叫んでいた。
アラクネ、ギリシャ神話由来の名前を持つ巨大なクモのモンスターだ。
なぜ、異世界でギリシャ神話由来のモンスターの名前があるのかというと、扶桑同様に地球系の学者が勝手に命名して学会で発表してしまったからだ。
大陸の住民はモンスターの名前をいちいち名付けたりしていない。アラクネに関しても単に巨大グモと呼んでただけだ。
さすがに知識人たる貴族や魔術師、神官などはそうでも無いが、知識層の間で、知識の共有化が出来ていなかった。
その為に職業や地域によって呼び方がバラバラな例が散見し、業を煮やした地球側の学者達が地球の神話から似た生物を命名しだしたのだ。
もちろん、大陸人の呼び方もなるべく参考にして尊重はしている。
しかし、大陸の生物は多種多様であり、途中でネタに詰まって、ゲームやマンガに出てくるモンスター名まで使用してしまったのは余談である。
地球側から見ての『新種発見』の報告は1日に数件単位で行われている。
多くの学者達の好奇心と名誉欲を刺激し、冒険者を副業にさせる要因ともなっていた。
さて、アラクネに襲われている冒険者達に当たらないようにサンルーフから身を乗り出した遠野巡査が、豊和M1500ライフルで射撃して牽制する。
怯んだアラクネと冒険者の間にハイラックスのパトカーで割り込み、もう一両から降車してきた岩下巡査や河村巡査部長達が手にしていたミロクMSS20散弾銃で銃撃を行う。
最初のパトカーには遠野巡査の他に、講習に参加していて協力を要請した警官が三名乗っていた。
彼等は拳銃しか持ち合わせていなかったので、降車して冒険者達の保護に当たる。
サンルーフからは遠野巡査も射撃を続ける。
身体中を穴だらけにされて、体液を噴き出すアラクネはあっさりと息絶えていた。

「河村巡査部長、冒険者の中に藤吉、水島両氏がいません!!」
「なんだと?」

若月は救援要請の位置を再確認をするが、彼等からの者に間違いなさそうだった。

「あの・・・
ユージが私達にこれを持っていけと・・・
タツヤがもう一個持っているからと・・・」

魔術師の格好をした女性が携帯を差し出してくる。

「日本語、話せるのか?」
「私だけです。
後ろの二人は無理です。
私とトーマスは、魔力が尽きて、ルーベンは毒にやられて・・・」

女性が魔術師、トーマスは神官、クモの糸に絡め取られているのがレンジャーのルーベンというらしい。
毒に関してはここでは応急処置しか出来ない。
ルーベンはパトカーに乗せて、町まで運ぶことになる。
もう1つの携帯とやらの反応は無い。

「残りの二人は?」
「森の奥からたくさん現れたアラクネを引き付けて、森の奥に・・・
でも一匹だけが私達を追ってきて・・・」
「森の奥か・・・」

これ以上はパトカーでは奥に行けない。
だが救助を諦める訳にはいかない。

「若月巡査、岩下巡査、行けるか!!」
「行けます!!」
「問題ありません!!」

二人は命令に答えながらハイラックスの後部からマウンテンバイクを取り出している。
他の警官が徒歩で行ける範囲で警戒に当たっている。

「遠野巡査、本署に事態の説明と増援の要請。
しかし、モンスターの大量発生・・・、スタンピードか。」

大陸各地でここ一年流行っている問題は、東部ではあまり顕在化していなかった。
そうなると警察の手に負えない可能性がある。
吹能等警察署は総動員でも60名しかいない小規模警察署に過ぎない。
ただし、自衛隊の吹能等駐屯地には陸上自衛隊第16普通科連隊第3大隊が駐屯している。
モンスターの駆除には彼等の力が必要だ。
何にしても、もう少し情報が必要だった。
スリングベルトを目一杯締めて、小銃を背負う。
若月と岩下はマウンテンバイクで森の中を駆け出していった。

「無理はするなよ!!」

河村巡査部長が見回る中、二人の姿は見えなくなっていった。




吹能等駅

吹能等町に駐屯する第16普通科連隊第3大隊に、生物災害に対応する為に出動の命令が下された。
先遣隊が輸送ヘリコプターのUH-60JAを飛ばして現場に向う。
後続隊の第五中隊が本格的な駆除の装備を整え、車両に積み込んでいる。
作業を監督していた中隊長の伊東一尉は、大隊長の草壁三佐に呼び出されて大隊司令部庁舎を訪れていた。

「忙しいところ悪いな。
出動にはどれくらいかかる?」
「あと20分後には出動が可能です。」

伊東一尉の言葉に草壁三佐は申し訳なさそうに語り出す。

「今回の駆除作業だが、師団司令部が新型列車砲を参加させたいと要請してきた。」
「新型ですか?」
「今、本国ではFH70(えふえっちななまる)がお役御免になりつつあるだろ?
余剰となったFH70を組み込んだ新型列車砲だ。」

889始末記:2017/07/15(土) 00:55:15 ID:7.L4Yce.O
草壁が差し出してきた資料は技本からのものだった。
これまでに自衛隊は装甲列車を新京を本部とする三線六本を稼働させている。
新京から王都ソフィアへの東部線。
新京から南部の百済への南東線。
新京からヴェルフネウディンスク市に向けた北東線である。
これらを統括するのが、陸上自衛隊第一鉄道大隊であり、上下線を巡回させることによって、大陸各地の諸勢力に睨みを効かせていた。
装甲列車の最大の武器は列車砲であるが、予備が無いのは問題となっていた。
それも今回の新型列車砲の導入で解決される見込みだ。
また、これまでの列車砲に採用されていた2A65「ムスタ-B」 152mm榴弾砲は射程距離は24,700m程度だった。
今後は155mmりゅう弾砲FH70を搭載となれば射程距離は同程度だが威力はあがる。
すでに本国では第1師団から第8師団では装備が更新されて、使用されていないFH70の在庫が余り出たのは大きい。
転移前なら退役だったろうが、この世界の財務省の方針は『使えなくなるまで使え』である。

「余ったのならうちの16特に回して欲しかったですね。」
「そっちは来年に期待だ。」

大陸最大最強の砲兵部隊第16特科連隊は、在日米軍が沖縄に保管していたM198 155mm榴弾砲を採用している。
だがFH70と比べれば自走能力が皆無で連射速度も低い。
射程距離も大きく劣っており特科の隊員達が不満を漏らしていたのを伊東は覚えている。
何より、この世界では再生産が利かない兵器であり、代替の部品の調達も困難だ。
一部では共食い整備も始まっているという。
来年になれば本国の第8、9師団が使っていた装備が正式に第16師団に配備される。

「まあ、この新型列車砲の実績と運用のデータが欲しいという鉄道大隊と技本からの要請なわけだ。
よろしく頼む。」
「わかりました。
こちらも無駄に損失しないよう面倒を見ましょう。」

吹能等駐屯地と吹能等駅から自衛隊が出発したのはそれから30分後となった。



吹能等より約60キロ地点の街道から外れた大森林奥深く。
二人の日本人が十数匹のアラクネから逃げ回っていた。
人間の足では、森の中を八本もの足を持つ巨大グモから逃げ回るのは容易ではない。
なにしろ巨大グモ達は、樹々に歩脚の爪を刺して、立体的に追ってくるのだ。
それでもその日本人は何時間も巨大グモの群れから逃走を続けていた。
彼等の逃走を支えていたのは、日本でも屈指のアスリートだった肉体だ。
そして、その特徴を生かした武器だった。
東京のプロ野球球団に所属していた藤吉達也は、三年連続でホームランを50本以上叩き出した打者として活躍していた。
大蜘蛛の歩脚の先端には爪がある。
藤吉に追い付いたアラクネは張り付いていた木から飛び掛かり、その爪で補食しようと歩脚を伸ばした。
振り返った藤吉はその両手に持ったハルバートを豪腕で奮う。
一日に何千本も素振りをして鍛え上げたフルスイングだ。
対人戦の訓練では相手の技に翻弄されたが、藤吉のフルスイングを受けた相手は軒並み弾き飛ばされていた。
宙を跳んでいるなら、モンスターとて例外ではない。
アラクネの2本の脚が、ハルバートの刃に切り落とされて頑丈な体にも刺さり、そのまま振り抜かれる。
地面に沈むアラクネの体を乗り越えて、もう一体が藤吉に襲いかかる。
しかし、140キロのスピードで飛んできた投石がその体の皮膚を貫き体液を撒き散らしながら後ろに弾き飛ばされる。
横浜のプロ野球球団で活躍していた水島祐司は、ノーヒットノーランを若くして達成した豪速球投手だ。

「ナイスフォロー!!」
「今ので最後だ、石がもう無い。」

森林の中では攻撃に使える適当な石はなかなかみつからない。
水島は剣を構えるが、こちらは余り得意では無い。
すでに藤吉のハルバートも刃先がボロボロだ。
日本の鍛冶職人に造らせた特注品だが、すでにアラクネを四匹も倒した逸品だった。
救援に必要な藤吉の携帯は、大陸人冒険者仲間のローラに渡した。
うまくいけば救援を呼んでくれてるはずだ。
もう一本の水島の携帯はすでに電池が切れていた。

「化け物の餌だけは勘弁願いたいな。」
「同感だな。
ああ、野球やりたいな。」

人生でやり残したことがあるとすれば、やはり野球のことだろう。
転移からこの12年、公式試合には一度も参加出来ていない。
東京と横浜の3球団は解散したが、本国に残った球団は1リーグに統合してプロ野球は復活した。
二人はその波に乗ることも出来ず、悔しい思いを味わらされた。
東京や横浜から転居することも許されず、大陸に移民として渡らされたのだ。

「ああ、野球がしたいな・!
なあ祐司、お前家族がいるだろう?
先に逃げろ。」

女遊びが派手だった藤吉には、家族なんて親以外は縁がなかった。

890始末記:2017/07/15(土) 00:58:00 ID:7.L4Yce.O
高校で甲子園を共にした水島は、当時のマネージャーと結婚しても特に羨ましいと思なかった。
野球への道が断たれ、新京の酒場で酒浸りだった自分を冒険者として、立ち直らせてくれた水島だけは妻子の元に帰してやりたかった。
藤吉はハルバートを構えて、押し寄せるアラクネを尖端で何度も突き刺す。

「お前ふざけるな。
一緒に帰るんだ・・・」

だが今の水島ではアラクネ相手に牽制に剣を振るだけで精一杯だ。
今は怒りで叩き付けてるので、アラクネも怯んでるが、すぐにもう一匹が放出した糸に巻き付かれて地面に転がった。
アラクネの歩脚に突き刺されそうになるが、藤吉がハルバートを投げてアラクネを刺し殺した。
武器の回収は出来ないので水島の剣を拾う。

「ここまでか・・・」
「すまん・・・」

諦めかけた二人にアラクネが殺到する。
しかし、先頭にいたアラクネが轟音と共に体を四散させた。

「要救助者発見、 救出に向かう!!
繰り返す、要救助者を発見、救出に向かう。」

マウンテンバイクで獣道を走破していた二人の警官が、自転車のサドルやハンドルでミロクMSS20散弾銃を固定して銃撃を続けていた。
岩下巡査はマウンテンバイクに固定した無線機で、現在位置を仲間に知らせる。
水島を引き摺りながら後退する藤島は、警官達の射撃の邪魔にならないように移動する。

「頑張れ、自衛隊もこっちにむかっている。」

若月巡査は藤吉達に呼び掛けながら、弁当箱から信号弾を空に向けて撃ち放つ。
警官達の前にもアラクネ達が殺到するが、たちまち四匹が蜂の巣にされて息絶える。

「やばい・・・数が多い・・・」

岩下巡査は仲間の死体を盾にしながら迫ってくるアラクネに焦りを覚える。
藤吉達は自分達の後ろに下がったので、マウンテンバイクを捨てて後退する。
少しでも開けた場所へ

しかし、人間の足では虫には勝てない。
噴き出される蜘蛛の糸に四人は動きを封じられていく。
それでも四人は絶望しなかった。
先程から聞こえる頼もしいローター音がどんどん大きくなってきているからだ。
UH-60JAが上空から姿を現す。
キャビンドアが開き、12.7mm重機関銃M2の銃弾がアラクネ達に降り注ぐ。
反対側のキャビンドアも開き、ラペリング降下で自衛隊の隊員達が降りてくる。
降下した隊員達もアラクネの姿が見えるなり、M16小銃で蹴散らしていく。
若月巡査達の元に辿り着いた隊員は、ナイフで糸に巻かれた四人を救助する。

「助かったあ!!」

藤吉が叫んだ頃には、周囲のアラクネは駆逐されていた。

「なんだってこんなに化け物グモが発生したんだ?」

スタンピードの一環なのは理解しているが、この地域にはこれまで兆候は見受けられなかった。

「扶桑の茎を抜いた時に、地中の巣穴を刺激したらしい。
地面からわらわらと出てきてびっくりしたよ。」

水島の証言の元に自衛隊が問題の場所を探ると、多数の巣穴が発見された。
藤吉達のパーティーが刺激するまでは、巣は地面に埋没してたらしくこれまでは大人しくしてただけのようだった。
現地に到着した伊東一大尉は、この巣穴が密集した区域に対し、列車砲による砲撃を命じた。

「地面の下ですよ、効果があるんですか?」
「ある程度は抉れるさ。
それに衝撃で地面の下から出てくるかもしれん。
現場を包囲し、可能な限り駆除せよ。」

背後で列車砲が旋回し、仰角を整えている。
砲撃音にやられないように隊員達は耳栓やヘッドフォンを着用する。

「砲撃を開始せよ。」

伊東の命令の元、街道に轟音が鳴り響いた。




新京特別区
大陸総督府総督執務室

「現在も駆除作業は続行されていますが、スタンピードは概ね防げたというのが現場からの報告です。
総督府からも二次調査の為の専門家を派遣する方向で準備を進めています。」

秋山補佐官からの報告に秋月総督が承認の判子を書類に捺印する。

「しかし、藤吉に水島か・・・
随分懐かしい名前だな。」
「自分達が中学生の頃はヒーローでした。
本国からのスポーツニュースでは見られなくなったと認識してましたが、大陸にいたとは驚きです。
・・・ですが、北村副総督が企画した大陸球団設立に役立ちそうです。
さっそくスカウトに現地に向かったそうですよ。」
「これほどのスター選手が確保できればいい宣伝材料になるますからね。」

転移12年の歳月は残酷で、40才以下の元プロ野球選手の確保には苦労していた。
30才以下のプロ野球選手が存在していなかったのも大きい。
現実的に学生野球は健在なので、そこから人材を発掘するしかないようだった。

「それはそうと、いよいよ決まりのようだな第三植民都市名。」
「はい、『六浦市』です。
決まり手は最初の移民者達が、横浜市金沢区の住民になるという点でしょう。」

891始末記:2017/07/15(土) 01:01:50 ID:7.L4Yce.O
六浦は神奈川県横浜市金沢区にある地名である。
また、現在の横浜市内にあった唯一の江戸時代の藩があった場所でもある。
故郷であった横浜に思いを残しつつ、新しい都市を造っていく為にかつての藩の名前を付ける。

「気概があるのか、懐古的なのかわからん名前だな。」

秋月総督は苦笑するが、反対する理由もなかった。
市の名前は幾つかの例外はあるが、基本的に被らないのが条件の一つだ。
由来のある名前ならそれに越したことはなかった。

「新浜市は些か居住を優先し過ぎました。
市を代表するランドマークもありません。」
「それで、六浦球場か。
しかし、相手チームがいなければ盛り上がりに欠けるんじゃないか?」

大陸の他の同盟都市にも打診して合同チームを創ろうとしているが、まだチームを編成出来るほど数が揃わないらしい。

「そうだ、肝心なことを聞いてなかった。
新球団のチーム名は何だ?」
「六浦グリフォンズです。」

六浦市移民開始は7月1日に決まった。

892始末記:2017/07/15(土) 01:05:03 ID:7.L4Yce.O
大陸西部
ホラティウス侯爵領

ホラティウス侯爵領は大陸有数の小麦の生産地であった。
農民達が耕す農地の他に、侯爵家が大規模な資本を投資し、大規模な農園を運営していた。
貴族による豪農や大地主の真似事である。
畑を耕すのは農奴達であり、僅かな食料を供与するだけで、その収益は侯爵家が丸々儲けることになる。
農園で収穫される作物の多くは商品作物であり、侯爵領はこれを出荷することで多大な利益をあげていた。
数年前に設立した奴隷特区が隣接し、農奴の調達が容易だったことも利点として大きかった。
この政策は新京に人質兼留学した侯爵家の次男、次女達が日本人の学友達と練り上げたものだ。
所謂、『サークル』と呼ばれる日本人内政研究会の息が掛かった領地である。
この領地に火の手が上がったのは深夜のことだった。
領地の境を守る関所に黒づくめ集団が現れた。
関所の兵士達は暗闇の中、次々と射殺されていった。

「て、敵し、ぐわ!?」
「城まで増援を、ガハ!?」

敵の姿を見ることなく、関所の兵士達が倒れていく。
それでも二人の兵士が馬に乗って関所を脱出していく。
間一髪、関所の番所が爆発して周辺の建物に炎が燃え移ったのだ。
伝令の兵士の一人は後ろから狙撃されて命を落とすが、もう一人は生き延びて城に事態を伝える。
城からは、城に詰めていた騎竜を駆る騎士を筆頭に、50を越える騎士や200を越える兵士達が後に続く。
即応性は練度の高さ、装備の良さはこの領地の経済力の高さを示している。
夜明け前には関所がある森に到達する。
森を抜ける街道に入ると、プレートアーマーに身を包んだ大男が二人立ちはだかる。
みるからに装甲を追加した鎧で、普通なら歩くどころか立つこともままならない代物と見てとれた。

「隊長!!」

部下がこの隊を率いる指揮官に判断を仰ぐ。
指揮官の騎士は、不審な男達の背後に燃え盛る関所の炎を見て判断下す。

「問答無用、撃て!!」

相手がこちらとやりあう気が満々なのは、疑う余地も無い。
銃士達が命令に従い前装式小銃を発砲する。
その硬い鎧は幾つも弾丸を弾くが、何発かは鎧を貫き肉体に到達した。
しかし、二人の大男達は倒れるどころか痛がる素振りも見せない。
それどころかこちらへの歩みを止めない。

「だ、第2射!!」

銃士達が発砲するより早く、大男達のM60機関銃2丁から毎分550発の弾丸が発射されて薙ぎ倒されていく。
騎士達も盾を貫かれ、鎧を粉砕されて命を落としていく。

「くっ、退け!!
森の外に陣地を造り対抗する、急げ!!」

隊長が命令するが森林に潜んだ伏兵が街道の両端から侯爵軍の兵士や騎士達が射ち殺されていく。
森を抜け、隊長が振り向いた時には続く者は誰もいなかった。
街道からは鎧を着た大男達が、森林からは草木に偽装したギリスーツを着た兵士達が姿を現す。
伏兵達が持っていた銃は、侯爵軍のものと大差が無い王国軍制式小銃だった。

「貴様らは何者だ、地球の軍か?」

隊長が呼び掛けるが誰も答えない。
やがて、街道からフォード・Fシリーズの荷台に機関銃据え付けた、即製戦闘車両のテクニカルが姿を見せる。
その荷台にいた男は、ようやく言葉を口にした。

「我々は『解放軍』。
地球や大陸の垣根を越えた救世の軍である。
今回の我々の目的は一つ、『奴隷解放』である。
不当な搾取で暴利を貪るホラティウス侯爵を討伐する。」
「ふざけたことを、貴様等だけで城は簡単には墜ちないぞ!!」

伏兵として現れた兵士も含めて、『解放軍』とやらは20人足らずしか姿を見せていない。
これで攻城戦など話にならない。

「人手が足りないのは確かだが、そちらに提供して貰って問題は解決した。」

森の中から死んだ筈の侯爵軍の騎士や軍馬、兵士達が現れる。
彼等は一様に黄色い光を放っていた。

「紹介しよう死霊騎士団だ。」
「ワイトだと?
そうか、そいつらはアンデットナイトか・・・」

鎧を着た大男達の正体は理解できた。
アンデットナイトに殺された者はワイトとなる。
知識では知っていたが、隊長も見るのは初めてだ。
彼等を祓う神官の力が必要だった。
ワイト化した騎士や兵士達が、隊長に襲い掛かる。
騎竜の脚力で逃げようとするが、ギリスーツの兵士達の銃撃で地面を転がる羽目になる。
地面に這いつくばる隊長に、ワイト達が襲い掛かり斬り刻んでいった。
ギリスーツに身を包んだ兵士が、テクニカルの荷台に乗った男に話掛ける。

「ホワイト中佐、道が開けました。」

視線の先には隊長の死体が転がってる。
やがてその死体も起き上がり、ワイトの群れに加わっていく。

「では進軍を開始しましよう。
奴隷達が解放を待っている。」

893始末記:2017/07/15(土) 07:24:52 ID:7.L4Yce.O
元アメリカ空軍中佐チャールズ・L ・ホワイトは、トレス砦陥落後に各地で、封建領主達に搾取される農奴達や売られていく少女達の惨状を目に焼き付けていた。
この大陸全土に拡がる恐慌の原因は、王国が地球系多国籍同盟に支払う多額の賠償のせいと確信していた。
さらに邪悪な彼等は、西部に奴隷商人達の特区まで造り大陸人の奴隷化を促進していた。
協力関係にあった帝国残党や志ある者達を集め、米国式に訓練を施しようやく形になったところだ。
現在も北部の廃砦をキャンプ地として練兵を行っている。
2体のアンデットナイト、『ハイデッカー軍曹』と『モーデル少尉』は、アミティ島からの刺客で、いずれも海兵隊の隊員だった男達だ。
原形を留め、モノになったのは、トレス砦で失った脱走兵ノートン軍曹を含めて三体しかいなかった。
大陸人のアンデットナイト化は上手くいかず、ワイトばかり生み出している。
そのワイトは基本的に腐敗しないので、長期行軍も可能だが人目に付きやすい。
今回は同行させていないが、このホラティウス侯爵領で大量に遺体を調達は出来た。
ワイトに旗を持たせて、凱旋を偽装させて城に接近させた。
城には留守を預かる部隊と、討伐隊が出撃したことにより、非番だった兵士や騎士達が召集されて詰めていた。

櫓で警戒に当たっていた兵士が、旗を翻しながら帰還の行軍をしてくる一団を発見した。
その姿を確認した兵士は、城門に詰めている兵士に怒鳴るように呼び掛ける。

「討伐隊が戻ったぞ、城門を開け!!」
「何で全員徒歩なんだ?」

まだ、夜が明けたばかりであり、些か明るくなった影響もあったのだろう。
討伐隊の兵士や騎士だった者達の死者として顔やワイト特有の黄色い光を確認出来なかったのは致命的だった。
城内に雪崩れ込んだ死霊騎士団は、そのまま城内の人々を虐殺しはじめた。
彼等は生前の能力もそのままに武器を使うことが出来た。
騎士も兵士も使用人も侍女も抵抗虚しく殺されていく。
増産される死体は次々と死霊騎士団に加わり、数を増やしていった。
不思議と城外の人間には手を出さない。
ホワイト中佐の命令が城内にいる人間の殲滅だったからだ。
しかし、城外に出た人間は解放軍の兵士に射殺された。
城内ではさすがにホラティウス侯爵やその妻子が籠る城館の守りは固かった。
嫡男がここにいないのはすでに館の外で死霊の列に加わっているからだ。
侯爵家お抱えの魔術師や司祭達もこの館に立て籠り、抵抗を続けていた。。
彼等の魔術や奇跡はワイトにも有効で、死霊騎士団も攻めあぐねていた。
しかし、陥落は時間の問題だった。

「閣下、申し訳ありません。
力及ばず、城館に侵入されるのは時間の問題であります。」

護衛の騎士にそう報告されたホラティウス侯爵は、妻と長女の体を抱き締める。

「馬車で突破するのは?」
「今となっては・・・、援軍も領内の各詰め所にすら伝令を送られていません。」
「町の人間には手出しはしていないのか、意外だな。」

ホラティウス城に早々に侵入されたのが、結果的に功を奏していた。
堀に囲まれていることと堅牢な城壁が、町への死霊共の侵入を阻んでいる。
そこに駆け込んできた兵士が、警告を発する。

「閣下、窓から離れて下さい!!
奴等は大砲を持ち込んできました。」

侯爵達は警告を無視して、窓から外を見渡すと、ワイト達が大砲を引き摺っている光景が見えた。
帝国残党軍が開発し、ホワイト中佐が改良したピョートル砲だ。
ワイト達には装填といった細かい作業は無理だが、予め砲弾を装填しておけば、運び、撃つ事は可能だった。
放たれた砲弾は一発だけだが、封鎖された城館の玄関と、ここを守っていた兵士達を吹き飛ばすのに十分だった。
館内で最後の抵抗が始まる。
ホラティウス侯爵も先祖伝来の魔法の剣でかつては家臣だったワイト達を斬り伏せていく。
味方の護衛の騎士や兵士達、お抱えの魔術師に司祭、神官達が魔剣を振るう度に数を減らしていく。ホラティウス侯爵もその胸を衝撃とともに赤く染まっていった。
拳銃を撃ったホワイト中佐は、ワイトに襲われることなく、館の中を闊歩していた。
倒れ付した侯爵は、尚も中佐に剣を向ける。

「き、貴様らこんなことをしてただで済むと思うな・・・」
「侯爵、私もこんな派手なことはしたくなかったが、他にやり方を思い付かなくてね。
独裁者を倒すためには」
「独裁だと・・・、ふざけるな ・・・」
「独裁だよ、奴隷達を酷使して、不当な利益をあげてたろ?」

侯爵は何を言われているか理解できなかった。
『サークル』の忠告に従い、反乱の防止と長く使用する為に農奴への待遇は好遇していた。

「日本や王国が黙っていないぞ・・・」

894始末記:2017/07/15(土) 07:30:20 ID:7.L4Yce.O
「王国はともかく、日本は西部には無関心ですよ。
それどころか弱体化を狙っている。
当分は手出ししてきませんよ。」
西部を縄張りとする新香港は、大陸の四方を拠点とする地球系独立都市としては最も脆弱だ。
事を秘密裏に処理したい米軍も城の中までは刺客を送り込めない。

「貴方の全てを頂戴させてもらいます。」

二発目の銃弾で侯爵の息の根を止めた。
館の奥では、侯爵の夫人や侍女達がワイトに群がられて死んでいた。
さらに奥の部屋では、唯一の生き残りである侯爵家長女のエルナが怯えて蹲っていた。

「これは姫君。
ご無事で何よりでした。
ワイト達は融通が利かないから貴女まで殺したのではとヒヤヒヤしておりました。」
「わ、私をどうする気なの?」

怯える姫に嗜虐心をそそられるが、今は抑えないといけない。

「エルナ姫には私と結婚して頂きます。」

その言葉にエルナは卒倒して倒れた。



町の者達は城内や関所で何らかの騒動が起きたのは知っていたが、解放軍の兵士が扮する城の兵士達が、帝国軍残党と説明してまわった。
城の人間が丸々入れ代わったことの辻褄合わせには苦労することとなった。
城の中で流行り病が発生し、遺体を焼却して荼毘に付したとの苦肉の発表まで行われた。
それでも納得しない、特に城に勤めていた人間達の家族は密かに口を封じられていった。
農奴達には自分達の耕していた農園や家畜を育てていた牧場が分配された。
身分も侯爵家の私財を投じられて平民になっていた。
全ては病床のホラティウス侯爵に代わり、執務を取り始めた令嬢の婚約者アレプレヒトが政務官として発布した結果だった。
順調にホラティウス侯爵領が変わっていった。

「いや、変わりすぎだろ。」

この領内は『サークル』の息が掛かっていた領地である。
当然、連絡役のメンバーが領内に居住していた。
侯爵家直営で運営されていた里谷実験農場の主里谷孝則は、ホラティウス城に探りを入れるとともに総督府への通報を行った。




ホラティウス侯爵領
里谷実験農場

里谷実験農場の主里谷孝則は、ホラティウス侯爵領をはじめとする近隣の『サークル』の息が掛かった領地な依頼に合わせて、適した農作物の研究並びに改良を行っていた。
里谷自身も侯爵領の顧問として、内政に口出しできる地位を得ていた。
しかし、この数日、ホラティウス城との連絡が断たれている。
城下町の住民の話によると、城内で砲撃や銃声、悲鳴が聞こえたと言う。
城門は固く閉ざされ、内部は伺うことが出来ない。
城壁に姿を見せる兵士達はこちらの問いに答えず、沈黙を守っている。

「里谷殿、お気持ちは嬉しいが・・・
やはりまずいのではなかろうか?」

巡回に出て、城にいなかった騎士の一人、エドガーが不安そうに声を掛けてくる。
彼と数十人の騎士や兵士達は何れも領内の警備やモンスター退治で、城にいなかった者達である。
彼等の問い掛けに数度、城門が開いたが、城内に入った彼等とも瞬く間に連絡が取れなくなった。
裕福なホラティウス侯爵領は約八百人の騎士や兵士を私兵として養っている。
その内の四割近くが既に行方不明、或いは死体で発見されていたのだ。
領の境を守る砦に残存の私兵軍が集結し、エドガー率いる巡回隊は里谷実験農場を頼って身を寄せていたのだ。

「総督府にも通報したが、未だに連絡は無い。
我々が事態の打開をはかる必要がある。」
「いや、余計なことしてゴブリンの巣を突つく行為にならないかな・・・」

日本風に言うと、藪蛇をつつくと言う意味らしい。

「領の境を越えようとした伝令は全て始末されていた。
遠方に連絡を取れる道具を持つそなた達だけが頼りなのだから、何かあったら困るのだ。」

エドガーの任務は里谷を護ることにある。
城内の異常を探る為、怪しまれないよう馬車で接近し、兵士達に虎の子のドローンを運ばせた。
里谷が用意したのは、民間用の空中撮影を可能とするドローンだった。
里谷自身が操縦するドローンは、4つのプロペラを回しながら、城壁を越えて、ホラティウス城に侵入する。
ローター音に気がついた城壁の兵士達がドローンを指差し、騒ぎ始める。
幾人かの兵が、ドローンに向けて銃口を向けて発砲し、ドローンを撃墜した。

「あわわ、やばい、逃げるぞ!!」
「だからマズイと言ったのに!?」

馬車を走らせ、郊外にある里谷実験農場に彼等は逃げ込む。

「お早いお帰りで」

少し嫌みを含んだ挨拶で出迎えたのは、武装警備員の新城だった。
里谷並びに実験農場の警備で、業界二位の警備会社の社員である新城達三名がこのホラティウス侯爵領に派遣されていた。

「城から敵対行動を取られた!!
砦に連絡をしてくれ。」

武装警備員の一人が無線機を持って砦に詰めている。

895始末記:2017/07/15(土) 07:35:28 ID:7.L4Yce.O
新城は直ぐに連絡を取ろうとするが繋がらない。

「花村、応答しろ・・・、花村・・・応答しろ・・・」

無線機は雑音しか出さない。

「新城さん、『括り』が次々と反応を。
囲まれてます。」

もう一人の武装警備員三村の報告に新城は舌打ちする。
実験農場では様々な農作物を育てている。
それを狙い、モンスターから鹿や猿のような動物までが、収穫物を漁りに来る有り様だった。
その為に害獣を狩るトラップにセンサーを付けた物を農場の周囲に多数設置していた。
転移前から日本では、ハンターの高齢化と後継者の不足は深刻な問題となっていた。
狩る者が少なくなり、害獣が田畑を荒らす事件が相次いだ。
減少するハンターに代わり、関東の警備会社は捕獲事業に乗りだした。
警備業務で培った遠隔地からの監視や緊急出動のノウハウを生かして、農作物被害に悩む地方自治体や集落から業務を請け負ったのだ。
そのノウハウは、転移後も植民都市の農場を護るのに生かされている。
先程、三村が口にした『くくり罠』とは、踏み込み部に獲物が脚を踏み入れるとワイヤーが閉まる原理の罠だ。
当然侵入者にも有効で、これにセンサーが反応して、警報が発報したのだ。

「4基が反応してます。
監視カメラにも・・・、連中もう包囲を隠す気は無いみたいです。」

他にも内部に米ぬかを仕込んだ箱罠も多数用意していたが、さすがに人間は掛からなかったようだ。
モニターには迷彩服を着た兵士達が、括り罠に足を取られて、苦闘している姿が映し出されている。

「何だ、こいつら?」

里谷がモニターを眺めている間に、エドガーの巡回隊の兵士達と交戦が始まっていた。
一方的な銃撃でやられていく兵士達を見て、新城が驚愕する。

「地球人?
バカな・・・、大陸の兵士の戦い方じゃないぞ?」

大陸人を訓練して、迷彩ぽい格好なだけたなのだが、新城と三村には区別がつかない。
全員が大陸製の小銃を持っている。
里谷実験農場では、武装警備員の二人が豊和の散弾銃、里谷が拳銃を持っている。
エドガー達も小銃で応戦しているが、まるで戦いになっていない。
幸い、里谷実験農場は高い塀に囲まれているので、櫓台からは武装警備員の二人が牽制の銃弾を発砲する。
しかし、接近する兵士達は地面に伏せたり、木の陰に隠れながら進んでくる。
一発、或いは数発撃ったらすぐに場所を移動する。
まるで地球の軍隊の様な戦いかただが、使っている武器は王国軍の制式小銃の前装式弾込め銃だ。
自衛官でも警察官でも無い武装警備員達は、銃撃戦におけるスキルが不足している。
また、弾薬の量にも差があった。敵の人数も30人以上確認出来る。


「あいつら戦争をしに来やがった・・・」
「ぐあっ!?」
「三村!!」

銃弾が三村の肩に当たったようだが、防弾チョッキを来ていたから出血は見られない。
それでも衝撃で気を失ったのか、ピクリとも動かず、エドガーの兵士達に引きずられて後送されていく。

「新城さん、もちそうですか!?」

里谷がヘルメットを被って匍匐しながら聞いてくる。

「ダメだ、時間の問題だ。」

状況は絶望的かと思われたが、遠方から聞こえてくるローター音に二人は口笛を吹いた。
農場の空を2機のヘリが飛来する。
1機のMi-24Vハインドが、12.7mm4銃身ガトリング機銃を森林に向けるが、ローター音が聞こえたと同時に敵が森の奥に引き下がっていく。

「おいおい、訓練が行き届いてるな・・・」

もう1機のハインドは、農場の敷地に着陸して自衛官達が完全武装で降りてくる。
あまりの引き際のよさに指揮官の水谷一尉は呆れてしまう。

「陸上自衛隊エジンバラ分遣隊の水谷一尉です。
総督府からの命令を伝えます。
里谷実験農場は現時点を持って、放棄、破壊します。
農場の人員はヘリに乗って退避して頂きます。」

エジンバラ自治領は、この西部で唯一日本の拠点がある領地である。
自治領主も日本人が就任しており、自衛隊の分遣隊も派遣されている。
だが里谷は水谷から伝えられた総督府よりの命令に抗議の声を上げる。

「おい、ここは民間施設だぞ、命令とは何だ!!」
「この施設の放置は、技術流出規制法に抵触すると判断されました。
御理解のほどをお願いします。」

絶句する里谷に代わって、新城が疑問を口にする。

「ここを放棄するということは、この侯爵領を見捨てるのか?」
「ここは王国領です。
奪還は当然王国軍が行うべき、というのが総督府並びに本国政府の見解です。」

西部は王国貴族の影響力が強い地域であり、東部の開発に手一杯の日本としては構ってられないのだ。
あわよくば、帝国残党とぶつかりあって弱体化を望んでいた。
この時点で総督府も日本政府もホラティウス侯爵領が攻略された経緯を正しく把握してない。

896始末記:2017/07/15(土) 07:39:56 ID:7.L4Yce.O
元アメリカ空軍中佐チャールズ・L ・ホワイトがこの件に絡んでいたことを掴んでいれば、対応も違ったものになっていただろう。


「部下がまだ砦にいるのだが、救出はどうなっている?」
「残念ですが、我々が到着した頃には砦は焼け落ちていました。
生存者はいない模様です。」
「そんな・・・」

里谷実験農場の各所に隊員達が爆弾を仕掛けてまわっている。
必要な者を持ち出す為に里谷と新城も荷物を積めていた。
エドガー達も人夫代わりにこき使わている。

「エドガー様、我々はどうしたら・・・」

兵士達が不安そうにエドガーを頼ってくる。

「新京屋敷の若様や姫様に事態を報せてお仕えするしかあるまい。
我々も乗せて行ってもらおう。」

領主一族は王都ソフィアや新京に構えている屋敷に留守居として派遣されている。
彼等の判断を仰ぐしかなかった。
やがて必要な物や人員を搭載したヘリが飛び立つ。

「点火。」

水谷一尉がマイクを握って呟くと、里谷実験農場は大爆発と共に炎に包まれた。
念の為にハインドからも対戦車ミサイル9M17P ファラーンガ-Mや57mmS-5ロケット弾用 UB-32A-24も投下される。

「さすがにそこまでする必要も無いと思うけど。」

あまりの爆発ぶりに里谷は呆れる。

「取り敢えず、エジンバラ自治領に向かいます。
そこから各々判断を仰いで下さい。」

水谷の言葉に今後のことを考えて、里谷もエドガーもうんざりしていた。




大陸西部
新香港統治地域
第3植民都市窮石市

中国人第三の植民都市窮石市は、横浜からの同胞移民の受け入れて建設されていた。
既に東京から移民した中国人達は、第二の植民都市陽城市で生活を始めている。
すでに新香港の人口が50万人を越えたことから認められた処置だ。
新たな植民都市は人口を12万人としたことから、早々に窮石市の建設が始まったのだ。
新香港から東に約100キロの位置に存在する。
日本に居住していた中国人達だけあって、飲食関係の仕事に従事していた人間が大多数なのが悩みの種である。
飲食店街が無数に建ち並び、他同盟都市との観光を主産業と考えられている。
町の住民のバランスを調整すべく新香港からも人材を派遣し、約5万人がすでに生活を始めていた。
市建設の陣頭指揮を執っていた林主席は、新京の大陸総督府から押し付けられた難題に頭痛を覚えていた。

「自衛隊の監視部隊の受け入れは許可すると伝えろ。
しかし、我々に討伐の戦力などあるのか?」

新香港、陽城、窮石の防衛に、西方大陸に派遣した部隊と手持ちの戦力に余裕は無い。

「日本も余裕が無いのでしょう。
新浜の市長選挙と開港、六浦の設立、猫の手も借りたいのでしょう。
せめて海上に面していれば、艦隊を送れたのですが・・・」

常峰輝武警少将は申し訳なさそうに答える。
ホラティウス侯爵領は西部の内陸部に存在する。
鉄道の線路も通っておらず、行軍するだけで一苦労するのが目に見えている。

「日本は忙しいというより、関わり合いになりたくないだけじゃないかな?」
「間違いないでしょう。
しかし、我々も傀儡とはいえ、王国内での事件です。
彼等の面子も立てる必要がありますから、王国軍に任せてはいかがでしょう?」

その提案に我が意を得たりと、林主席は指を指す。

「それがスジというものだしな。
まあ、こちらの面子も守る為に最低限の支援部隊を自衛隊の監視部隊に同行させよう。
こっちも忙しいんだから手を煩わせないで欲しいな、まったく・・・」

新香港は第三植民都市の完成とともに『建国』を予定している。
日本、北サハリン、高麗に続く四番目の地球系国家となるのが目標だ。
その為にも日本との関係を拗らせる気は毛頭無かった。

「新国家華西共和国。
早く宣言が出来る日が待ち遠しい。」

897始末記:2017/07/15(土) 08:09:41 ID:7.L4Yce.O
これで日本異世界始末記のまとめ未記載分を張り終えました。
今後もよろしくお願いします

898始末記:2017/07/30(日) 01:04:11 ID:7.L4Yce.O
ではこちらにも投下します

899始末記:2017/07/30(日) 01:07:32 ID:7.L4Yce.O
大陸東部
新浜市

「海だあ!!」

むさ苦しい海パン姿の男達が砂浜に繰り出している。
7月になり、新浜の砂浜でも海開きが行われた。
海開きは月初に就任した初代市長がテープカットに参加する盛大なものだった。
男達はこの地に駐屯する陸上自衛隊第16師団、第33普通科連隊の若き隊員達だ。
この海開きに合わせて休暇を取り、水着美女との心と体の交流を謀るべく、有志による部隊をビーチに展開したところだ。
何故か市や海の家から大量の割引券等が、寄贈されたことも部隊が動員された動機にもなっている。
彼等の誤算は、水着姿の人間はむさ苦しい彼等くらいしかいなかったことだろう。

「な、何故だ・・・」
「俺達はこの日の為に厳しい訓練を・・・」

砂浜には潮干狩りに興じる家族連れしか見当たらない。
あるいは砂浜で釣糸を垂らしている釣り人か。
家族連れの妙齢の女性達もいるにはいるが、誰も海に入らずに波打ち際で遊んでる程度だ。
大陸での早婚率が高いのも一因となっている。
そもそも家族連れなどナンパとしては対象外もいいところだ。
新浜市の人口は今月50万人に達したことが、朝のニュースで報じられていた。

「単純な試算として、人口の半分が女性。
平均寿命が70代として、最低でも三万人のうら若き妙齢の女性が新浜にはいる筈じゃないか・・・」

隊員の一人の屁理屈っぽい愚痴を後ろで聞いていた制服姿の海上保安官の猿渡二等海上保安士が、彼等の希望を打ち砕く言葉を口にした。

「去年は海洋モンスターや海棲亜人の襲撃が各地で続いたからね。
誰も怖がって海に入ろうとしないんだよ。」
「そんな!?
あんなに頑張って、自衛隊や多国籍軍が駆逐したり、降伏させたりしたんじゃないか・・・」
「イメージはなかなか拭えないのですよ。
この海岸だって、我々や海自が定期的に掃討したのだが、この有り様だよ。」

海岸で潮干狩りや釣りに来ている客も単純に遊びに来ているわけではない。
少しでも食卓を豊かにしようと真剣な眼差しで作業に当たっていた。

「遊びに来たのって、あんたらだけじゃないのかな?
まあ、それより海で泳がないのかい?」
「それを聞かされて泳げるか!!」
「やだなあ、割引券とか大量に貰ったり、休暇の調整が妙にやりやすかったろ?
市は君達に期待しているんだよ。
誰も海で泳いでくれなかったら外聞が悪いからね。」
「え?
なぜ、それを知っている・・・」

猿渡の言葉は若き隊員達の心を抉っていた。
悲痛な叫びをあげている隊員達が、笑顔をひきつらせながら海で游ぎ始める。
海で泳ぐ隊員達の姿を見て、波打ち際に留まっていた市民達も少しずつ海水浴を楽しみ始めた。
賑わい始めた砂浜を尻目に、猿渡は冷房の効く海保パトカーに戻っていった。
海保パトカーには同僚の鵜島二等海上保安士がアイスティーを魔法瓶から紙コップに注いで渡してくれる。

「お疲れ〜
どうだったあの連中は?」
「さすがは市民に愛される自衛隊員ですね。
自分達の役割を理解して、率先して海に飛び込んでくれましたよ。
彼等の努力次第で、若いリピドーを発散させる対象が増えてくれることを祈りましょう。」
「わかった、本部には異常無しと報告しておく。
しっかし、どうしてこんなとこで海開きなんかしてるのかな?
湾内なら安全も確保されているのに。
去年までは向こうが海水浴場だったろ?」

新浜市の港は周囲を陸地に囲まれた湾に沿って造られている。
大型船も寄港出来るように桟橋や岸壁が建設された。
防波堤も設置され、移民管理局や海上保安署、税関や検疫所が設けらた。
現在も埋め立てや陸地の掘り込み、浚渫などの拡張工事が行われている。
湾の入り口には堤防が造られ、監視カメラやセンサーがモンスターの侵入を監視し阻んでいる。

「開港して船舶の出入りが激しくなるからだそうですよ。
ほら、今日も来てる。」

猿渡の指差す方向、水平線の向こうから巡視船に護衛された巨大な客船が新浜に向かって航行しているのが視界に入る。
新浜港の開港により、移民管理局新浜市が新設された。
新浜市は一日に250名の移民を受け入れが可能となったことを意味する。
もちろん移民先は、新浜市ではなく、第三植民都市である六浦市だ。
一家総出、家財道具一式を持ち込んで来ている者がほとんどだ。
移民たちの荷物は想定より多くない。
移民対象者は第二・三次産業従事者だった者達が大半だ。
転移後はその大半が無職となった者達だ。
配給だけでは足りない食料を得る為に家財道具を第1次産業従事者に売り付けた為に引っ越し荷物が大幅に減ったのだ。
この後はそのまま列車で六浦市に運ばれていく。
今の新浜市は新生児による住民増加で、定数を満たしている状態だ。
パトカーで港湾に戻ると、客船と巡視船が停泊していた。

900始末記:2017/07/30(日) 01:12:39 ID:7.L4Yce.O
客船から移民達が船体の側面に装備しているスロープから、持ち込んだ車両を降ろしている。
この港では毎日のように見られる光景となったが、隣に停泊している巡視船に猿渡は怪訝な顔をする。

「あれ?
うちの巡視船じゃないのか?」

猿渡が困惑した様に、巡視船の船体は白いが赤いラインが入っている。
ルソン沿岸警備隊の証だ。

「噂に聞く、ルソンに供与される巡視船だな。
完成してたんだな。」

鵜島が端末から情報を引き出していた。
巡視船『マラパスクア』は、日本がルソンに供与した40m型多目的即応巡視船の三番船である。
処女航海ついでに日本からの移民船を護衛してきたのだ。

「海保の巡視船も充足したとはいえ、数が足りないからな。
同盟都市の海洋戦力の充実してきたから駆り出したのだろう。」
「巡視船の供与は転移前からの約束でしたからね。
向こうにも受け入れの余裕が出来たからですが、パラオやジプチの巡視艇は埃を被ったままですよ。」

転移前の対中国、対海賊を見越した海賊を念頭に置いた巡視船供与を東南アジア各国と取り決めていた。
転移後もその取り決め通りに後継組織たる同盟都市に供与された。だがいまだに同盟都市を建設する為の人口に達しておらず、他国との連合が合意に達していないジプチやパラオの巡視艇は横浜のドックで保管されている。

「王国も欲しがってるらしいぞ。」
「まあ、今無償で無ければ支払い能力があるのは王国だけでしょうしね。
売らないでしょうがね。」

巡視船の売却など技術流出防止法に抵触しまくりで話にならない。二人はそのまま移民船から降りてくる日本人達の整理に駆り出されて奔走することになる。



客船から家族と荷物を降ろした新島晴三は移民先の大陸の大地を踏みしめていた。
元々は父親が横浜の商社の重役だったが、海外との取引先が転移により消滅して収入が途絶した。
それまでの蓄えや配給で食い繋ぎ、小学生だった徹也も家庭菜園や近所の畑へのバイトに奔走して、家計を支える毎日だった。
兄の新島晴久が陸上自衛隊に入隊して、大陸の六浦市に赴任することになって、移民の優先権を手に入れたのだ。
幸い、転移前に購入していたワゴン車が残っていたことから、他の移民達よりも大量の家財道具を持ち込むことが出来た。
大陸上陸した初日は移民局が用意した宿泊所に泊まり、簡単な書類の申請や検疫を済ますことになっている。
風土病に対する予防接種も行われる。
主要な健康診断や書類の作成は、航海中に行われているので、上陸後のものは最終確認程度のものだった。

「本国を離れる時もあれだけやったのに・・・」
「まあ、タダで健康診断をやって貰えてると思えばいいじゃないか。」

夕方には大食堂で移民局から無償で提供された。

「親父見たか?
鍋の中身はカレーだぜ・・・」
「ああ、たっぷりと野菜や肉が入っていたな。
あんな豪華なカレーは何年ぶりにみるか・・・」

転移で輸入先が消滅したことにより、牛肉を初めとする肉は全く手に入らないものになってしまっていた。
本国内の畜産農家も生産の拡大に努めてはいたが、飼料の不足から僅かな成果しか上がっていなかった。
近年では大陸から安価な飼料を献上させることで、それなりに効果は出てきたらしいが、それでも国産肉の高騰化に歯止めが掛からない状態であった。

「大陸にくれば餓死の心配は無いって本当なんだな。」

晴三は豊富な具材が入ったカレーを食べながら、横浜で自警団に参加していた時のことを思い出す。
転移前はエリート商社マンだった一家が餓死していた事件だった。
遺体の放置によりグール化する事件が相次いだことから、自警団は各家の住民の安否を確かめる巡回を行っていた。
遺体で発見された一家を空き地に移送し、警察官の立ち合いのもと荼毘に伏したのは苦い思い出であった。
十分な食事と睡眠を取り、翌朝には六浦市に向けての出発の準備に取りかかる。
移民達も車両を持ち込んでいない者は、汽車に乗って現地に向かうことになる。
7両編成の汽車だが客車は二両だけで、二両は貨物車だ。

「機関車と炭水車はわかるけど、最後尾の車両は何だろう。」

晴三の疑問に野戦服を来た自衛官がその言葉を聞いて、答えてくれる。

「あれは装甲列車だよ、俺達自衛官や公安鉄道官が乗り込むんだよ。
ほら、屋根にも銃座とか付けられてるだろ?
まだまだ、帝国残党やモンスター、山賊なんかが出るからな。
だいぶ掃討したんだが、どこから沸いて出てくるやら・・・」

呆れ顔の自衛官がそのまま装甲列車に戻っていった。
晴三も護身道具として持ってきた金属バットだけでは心細く感じている。
叔父もせいぜいスパナ程度らしい。
列車に伴走する民間の警備車両の武装警備員達もライフルを持っていることから、銃器購入の必要性を感じた。

901始末記:2017/07/30(日) 01:14:39 ID:7.L4Yce.O
「なあ親父、俺達民間人もこっちの大陸でも銃とか持てるのかな?」
「新京の方にメーカーが工場造って直販してるらしい。
途中で立ち寄るから買ってみるか?」

六浦でも割り当てられた農地を貰うことになっているので、害獣、害虫対策に必要になることもあるらしい。

「害虫対策って、どんだけデカイ虫が出るんだ?」
「城壁を崩すくらいのが出るらしい。
怪獣だよなそれは・・・」

汽車には300名の乗客が乗れるが、乗用車を持ち込んだ移民達は乗り込む訳にはいかない。
可能な限りの家財を積み込み、警備車両や他の移民の車両と一団を形成し、幹線道路で六浦に向かうことになる。
新浜市から六浦市までは、途中の新京特別行政区を挟み約百キロの幹線道路が通っている。
安全運転で三時間もあれば着くはずだった。

「じゃあ晴三、家族を頼むぞ。」
「ああ、ここから百キロも先だから運転気をつけてくれよ親父。」

父と祖父は一足先にワゴン車で六浦市に向かうことになっていた。
六浦市では、兄の晴久一家が割り当てられた住宅の掃除をしながら待ってくれているらしい。

駅のホームでは新浜市のボランティアによる炊き出しが行われていた。

「現地に着くまでのおにぎりを持って行って下さい。
一人三個までです。」

初老の男性からおにぎりを貰い、晴三は頭を下げる。

「ありがとうございます。」
「我々も新浜を造る時はそれなりに苦労したが何とかなった。
君達にも出来るさ。」

一から全てを造り上げねばならなかった新京の連中から比べれば恵まれていると言えよう。
移民達を乗せて発車する汽車や車両群をボランティア団体を率いていた新浜武道連盟の理事長の佐々木は感慨深く見送っていた。

902始末記:2017/07/30(日) 01:15:04 ID:7.L4Yce.O
では、終了します

903始末記:2017/08/14(月) 10:11:18 ID:7.L4Yce.O
ではこちらでも

904始末記:2017/08/14(月) 10:13:26 ID:7.L4Yce.O
大陸東部
京浜道

新島一家は長男の晴三が汽車に乗り、女子供達と六浦市に向かっていた。
その間に晴三の祖父利光、父晴利、晴光の弟晴史の免許のある男手3人は、大陸に持ち込んだ車で中継地点である新京特別行政区を目指すことになった。
移民達の車両は31両に及び、98名が一団となって京浜道を進む。
制限速度は時速30キロ。
約80分程で、新京特別行政区に入ることが出来る。
新京特別行政区でもこちらに寄港した移民船から降ろされた車両が合流する手筈になっている。
そこからほぼ同じ速度、距離を走行し六浦市街地に入る予定だ。
途中休憩を挟み、約5時間ばかりの行程だ。
また、先導する車両は自衛隊の軽装甲機動車であり、最後尾には高機動車二両と73式中型トラックが張り付いている。
これらの車両は移民達の車両を伴走警備する為のものだ。
動員された自衛隊の規模は普通科1個小隊。
彼等にとっては定期的な日帰りパトロール任務の一環である

「東部地域ではあまり活動が見られませんが、帝国残党軍によるテロを警戒しています。
他にも日本人を狙った山賊や盗賊とか・・・
一度に大量の人間が動くことを嗅ぎ付けたモンスターとか・・・
結構、掃討したのですがたまに現れるんですよ。」
「帝国軍が壊滅して王国軍の規模の演習では駆逐出来ないらしく、各領地で行われていた領主による狩猟も小規模化して、モンスターが増えちゃったんですよね。」

説明してくれる自衛官達は気軽に言ってくれるが、大陸に到着してまだ1日程度の移民達には壮絶な光景が頭に過っている。
実際のところスタンピード現象における各地の被害は軽視できるものでは無い。
王国軍や貴族の私兵、自衛隊をはじめとする地球系同盟都市の各治安部隊まで駆り出されて駆除にあたっている有り様であった。
特に大陸の農村部の民達に被害が出ると、賠償金代わりの年貢に響くのだ。
とにかく自衛隊の護衛は有難いのだが、自衛隊の警備に便乗する形で、都市間市営バスや荷物を積載したトレーラー、新京、新浜市民の乗用車も後に続く。
これらの民間人が72名。
総勢200名からなる一団は、予定から少し遅れて出発する。

「線路と幹線道路が並行になっているのは助かるな。」

運転している晴利が感慨深そうに呟いている。
線路は道路より外側の海に面して張られている。
道路沿いの防音壁は、大森林からの野性動物の侵入を防いでいた。
そのせいなのか、ところどころに破壊されている場所や補修箇所が見受けられる。
幹線道路も安全では無いことを示していた。
新島家の男達にはコンクリートの外壁を破壊できるモンスターとはどんなのなのか想像が出来ない。

「見ろ、交通誘導の警備員だ。」「工事でもしてるのかな?」

サンルーフから周囲を警戒していた晴史が双眼鏡で捉えた方向を指差している。
確かに道路の片側車線を塞ぐように制服を着た警備員が旗を振っている。
先頭を走る自衛隊の軽装甲機動車が停車し、警備員から事情を聞いているようだ。
もう一人の自衛官が拡声器で注意を促している。

『この先で、モンスターによると思われる防音壁の破壊が確認されました。
現在、道路公団による補修工事が行われております。
各車両は誘導に従い徐行で通過をお願いします。』

この間にドライバーの腕や自動車の性能、荷物の過多により伸びていた車列も修正されていく。
交通誘導員の誘導に従い、工事現場が行われている車線の横の反対車線を車列が通過していく。
その後方には道路公団の黄色い車両の姿が見受けられる。
本国にいるノリで交通誘導員を軽視して、悪態を吐く若者もいた。
しかし、交通誘導員達が一様に刀や拳銃で武装していることに驚き、それらを手を掛けながら若者に指示に従う様に詰め寄っている。
激昂した若者が唾を吐くと、一斉に刀や拳銃を突き付けて威嚇する。
よく見てみれば警戒に為に槍まで持たされている交通誘導員までいる。
交通誘導員が武器を持って、民間人に詰め寄っているのに、それを自衛官達は止めようとはしない。

「お、おい、何みてるだけなんだ!!
助けろよ、コラッ!!」

悲鳴を上げた若者に助けを求められ、ようやく一人の自衛官が彼等の間に割って入る。
ほっとした顔の若者の期待を裏切り、自衛官は一言だけ若者に言った。

「後がつかえてます、誘導に従って下さい。」

ここは本土とは違うことを再び実感させられる。

「あれ・・・、大丈夫なのか?」

晴利が付近で交通整理を手伝っていた自衛官に聞いてみる。

「ああ、実際に発砲したり、斬り付けなければ威嚇の範囲で始末書にもならないでしょうね。」
「いや、本国なら鉄砲向けただけでも始末書じゃ済まないでしょう?
威嚇だけでも新聞沙汰だぜ。」

905始末記:2017/08/14(月) 10:18:59 ID:7.L4Yce.O
自衛官は不思議そうに首を傾げ、急に何かを思い出したように柏手を打つ。

「ああ、本国ではそうでしたね。
帰国した際には我々もうっかりやらないように気を付けないと。」

自衛官達もやっているらしい言葉に、晴利はドン引きしつつ誘導に従い車を前進させる。
暫くして京浜道の中間地点に設置している京浜監視所が姿を見せる。
それは一見すると、要塞化されたサービスエリアであった。
普通のサービスエリアと違うのは、強固な外壁とタワー状の監視塔の存在である。
自衛隊の車両や大砲、ヘリコプターが置かれている。
警察や各治安機関の連絡所もあるらしく、広い駐車場には様々なパトカーも駐車している。
道路公団も事務所を置いており、黄色い車両や工事用の重機の姿も見える。

「給油や車両修理の施設もあるらしい。」
「レストランやお土産コーナーまで完備か・・・、足湯にマッサージコーナー?」
「異世界の大陸に来てまで土産物が饅頭に煎餅か・・・、武器屋?」

新島家の男達は案内の看板を見ながら苦笑を禁じ得ない。
まだ、土産を買う余裕や食事をする空腹感は無いが、トイレタイムで予定通りに一行は立ち寄ったのだ。
先を急ぐ便乗組の車両は立ち寄らずに先に進む。
3人はせっかくだからと足湯に浸かっている。
湯に浸かりながら晴史がカタログに目を通している。

「さっき武器屋を覗いてみたんだが、刀剣に槍、弓矢に拳銃、手裏剣とバラエティーに富んでいたよ。
でも気軽に手に入る値段じゃないな。」
「街中ならともかく、こんなところで買いに来る人達がいるのか?」

利光が疑問を口にしていると、駐車場に3台の軽トラックが入ってきた。
移民団とは別口の車両だ。
公団のクレーン車が軽トラの荷台から何かを吊り下げて宙吊りにしている。
利光がその光景に感嘆の声を挙げる。

「でかいイノシシだなあ!!」
「いや、でかすぎだろ・・・」

晴利は呆れた声をあげている。
全長四メートルを越えるイノシシなどは見たこともない。
それが三匹。

「あいつが外壁を破壊した奴らしい。」
「ワイルドボアか、でかいな。
600キロは有りそうだ。」

見学に来た自衛官達の声が聞こえる。
本国でもイノシシの被害は転移前から報告されていたが、大陸のは桁が違うようだ。
ワイルドボアとは日本語だとイノシシのことだが、大陸ではイノシシのモンスターの名前として定着しつつある。
大陸の人々は単に『でっかいイノシシ』としか呼ばない。
ワイルドボアの名称は、日本人学者が勝手に命名したのが登録されたものだった。

「あの怪獣みたいの自衛隊が倒したんですか?」

晴史が彼等に声を掛けている。

「いやあ、あれは俺達じゃなくて・・・」

自衛官達は手首を振って否定して指を指す。
獲物の側で写真撮影をしている一団がいる晴利達の目からはコスプレイヤーの撮影会にしか見えない。

「この付近で活躍している冒険者のパーティーだよ。」
「全員日本人?
いや、大陸の人もいるのか。」

パーティーに白人がいるので、逆に安心した気分になる。

「いや、あれロシア人のアンドレセンさん。
転移前は格闘家で確かに強かったけど・・・
仕留めたのはリーダーのあの弓と薙刀持ったおばさんの市川さん。」

袴姿の恰幅のよい女性がピースでカメラに応えている。

「あのおばさんが・・・」
「日本人冒険者では有数の実力者だ。
新浜の剣豪佐々木会長とどちらが強いか話題になっている。」
「佐々木会長って?」
「出発時に炊き出ししているお爺さんがいたでしょう、あの人。」「あの爺さんそんなに凄い人なんだ!!」

とんだ買い被りである。
盛り上っている中、吊り下げられたワイルドボアの血抜きが行われている。
その濃厚な臭いに、先ほど交通誘導員に悪態を付いていた男が口を抑えてトイレに駆け込んでいく。

「ああ、移民さん達にはキツかったかな?
ごめんね。」

市川女史が困ったように謝罪を振り撒いている。
他にも10人ほど移民達が血や肉の臭いに具合を悪くしたので、暫くこの監視所で休憩することになった。
暫くして移民達が落ち着きを取り戻すと、市川女史のパーティーからお詫びと称してワイルドボアの肉が切り分けられ、移民達に御裾分けが行われていた。
軽トラでも無いと運べない獲物だったので、通常は討伐対象の確認部位や一部の肉を食料、素材に使える部位を切り取るだけで投棄するだけだった。
今回は運良く防音壁工事の軽トラックが空荷で近くを通ったから乗せて運ぶことが出来たらしい
勿論、監視所にいた自衛隊の衛生科の隊員や保健所職員による検査済みの肉だ。
新島家もクーラーボックスにビニール袋に包んだ生肉を入れて保存する。

「母さん達、イノシシの肉なんて調理できるかな?」

906始末記:2017/08/14(月) 10:23:56 ID:7.L4Yce.O
「や、焼けばいいんじゃないかな?
焼肉とかステーキみたいに。」

新島家の兄弟達は額に汗を浮かべる。

「そもそもイノシシの肉と同じ様に考えていいのか?」
「いや、でかいだけでイノシシなんでしょ?」

利光も首を傾げる。
貴重な食料は無駄には出来ない。
携帯電話で先行している列車組に遅延と土産の肉を手に入れたことを連絡して出発する。
京浜監視所から新京までは何事もなく順調に進み、新京港から上陸した移民達の車両が合流してくる。
すでに先発隊は出発しているらしく、合流組は第三陣にあたる。
規模は新浜市上陸組と同規模だが、全体的には四倍の数になる。
新京特別行政区から六浦市への幹線道路は、京六線と命名されている。
移民団はすでに大都会化している新京の光景に驚きを隠せない。
ところどころに大陸風の御屋敷が見受けられる。

「あれが大陸貴族の屋敷らしいな。
ちょっとした観光名所になっているらしい。」

利光が監視所の売店で購入したガイドブックを見ながら解説してくれる。


外壁や路面も工事中の場所も多い。
六浦市の新しい市民達にはこの工事の為の労働力としても求められている。
晴利や晴史もそういった仕事に従事することになっている。
京六線の監視所たる京六監視所と休憩後、六浦市の光が見えてくる。
六浦市も新京や新浜と同様、城塞都市の形が取られている。
重装備の警官が警備するゲートを検問の後に通過し、割り当てられた住居に向かうことになる。

「おっ、いたいた。」

晴史が携帯電話で連絡を取り、ゲートまで迎えに来ていた晴三を車に乗せて案内してもらう。
案内された家は屋敷のようにでかい住宅だった。
自衛官をしている長男一家のお陰で、優遇された結果だった。
最も新島家と長男の細君一家合わせて13人で住めばすぐに手狭になるかもしれない。

「今日は疲れたでしょう。
荷物は明日からでいいから先にお風呂にでも入っちゃいなさいよ。」

妻の明美に言われて、晴利は『大浴場か?』とツッコミたくなる風呂に浸かる。
そのうち、ややクセのある匂い肉を焼いた匂いが漂ってくる。
例のイノシシの肉なのを察して、ため息をはく。
風呂から揚がると明美に御近所迷惑にならないか聞いてみる。

「私も気になったけど、御近所さんの大半が同じメニューみたい。」

と、言われて深く考えることをやめた。

907始末記:2017/08/14(月) 10:34:49 ID:7.L4Yce.O
では終了

908始末記:2017/09/24(日) 20:45:06 ID:7.L4Yce.O
では1日に1話レスずついきます

909始末記:2017/09/24(日) 20:51:11 ID:7.L4Yce.O
大陸南部
呂栄市

人口24万人を誇る旧フィリピン人による地球系都市で開かれた地球系国家首脳会議は無事閉幕した。
ニーナ・タカヤマ市長の肝煎りで、昨年の百済襲撃のような愚を犯さないように徹底した警備が行われていた。
現在も完全武装の軍警察一個連隊が市内や郊外を巡回し、警戒を怠っていない。
港湾から沿岸までは、40m級多目的対応巡視船『トゥバタハ』、『マラブリコ』、『マラパスクア』、『カポネス』、『スルアン』、『シンダンガン』が海上警備を担当し、同盟国・都市の海上部隊と守りを固めていた。

「本国も呂栄沿岸警備隊の充足に力を入れてるなあ。」
「転移前からの約束ですからね。
あと4隻が予定されていますが、供与が早すぎて呂栄側が船員を揃えるのに苦労してるみたいですよ。」
「十年遅れですが・・・」

総督府一行が宿泊する日系ホテルのテラスから港湾を眺め、秋月総督と秋山補佐官はサミットの間に山のように溜まっていた書類を些か現実逃避ぎみに処理していた。
わざわざ呂栄まで持ち込んだ書類だけあって呂栄絡みの物が多い。
呂栄沿岸警備隊の整備事業の書類を見て意見を交わしあっているところだ。

「あ、これがエウローパから提出された旧構成国別のリストです。
分類がなってないな。」

秋山補佐官からの愚痴混じりの言葉を聞き流しながら、リストを受け取る。
エウローパは、ヨーロッパ39ヵ国の国籍保有者と彼等の配偶者となった日本人約6万人で建設された新たな地球系同盟都市である。名称はヨーロッパの語源となった女神のラテン語読みから名前から取られている。
その構成は

フランス13000名、ドイツ6200名、イタリア4000名、ベルギー3600名、ウクライナ3100名、スペイン、ルーマニア各3000名、スウェーデン2700名、ポーランド2000名、スイス1600名、オランダ1300名、ポルトガル1200名、オーストリア1100名、ブルガリア、デンマーク各1000名、フィンランド、ノルウェー、リトアニア各800名、ルクセンブルク750名、エストニア700名、ハンガリー、セルビア、スロバキア各600名、チェコ400名、ギリシャ、クロアチア各300名、ラトビア、モルドバ各200名、スロベニア、アイスランド各100名、グルジア、アルメニア各50名、マルタ20名、リヒテンシュタイン10名
他少数サンマリノ、バチカン、アンドラ、キプロス、モンテネグロ

「細かいな。
しかし、よくまとまったものだな。」
「ヨーロッパ系キリスト教国で固まりました。
ボスニア、アルバニア、コソボといったヨーロッパ系イスラム国家は態度を保留しつつ、外務省の仲介で教徒同士の住民交換も行われました。」

宗教、文化は均一な方が争いは少ないと、外務省が仲介に奮闘した結果である。

「次はどこが有力なんだ?」
「単体の人数ではモンゴルですが、ボリビアが南米、中南米系をまとめ始めました。
年内には決まると思います。」

在日外国人の処遇も大半が片付き、目処が見えてきた感がある。
最終的には全部まとめて押し込む気だ。
地域的に孤立したモンゴルやヨーロッパ系イスラム三か国はその対象となっている。

「そうそう北部デルモンドに派遣している第10分遣隊より、現地の鉱物資源の調査結果が出ています。
ウラン、クロム、鉄鉱石、マンガン、なかなか有望ですな。」

大陸最北端の北サハリン領ヴェルフネウディンスク市と王都ソファアを繋ぐ大陸鉄道北部線。
そのちょうど大陸中央と大陸北部の境界線にあるデルモンドの町の砦を接収して分屯地の建設が行われた。
まずは砦を改修し、駅の建設、インフラの確保が行われ、周辺地域の資源の調査が実施された。
調査の結果は上々で、特にクロムは日本の支配領域では初めての算出だ。
現在はサイゴンからの輸入に頼っているが、この量を減らす事が出来る。

「来年のサイゴンサミットでは議長国を困らせることになるな。」
「供与予定の船舶で我慢してもらいましょう。
すでに漁業取締船6隻や退役した巡視船を2隻供与してるのです。
呂栄に次ぐ優遇ですよ。
他の同盟都市からの需要も伸びてる筈ですから、問題は無いでしょう。」
「他都市からの依存度が減らせるのは優先すべきだな。
ここ数年は騒動続きだったからな。
そろそろ落ち着いて欲しいものだ。」

秋月総督の期待を裏切るように新たな書類が机に積み上げられた。持ってきたのは総督府で軍務を補佐する高橋陸将だ。

「何か問題が起きたか?」
「スコータイのウラン鉱山が襲撃を受けました。
スコータイの連中は秘匿していますが、警備に当たっていた軍警察の一個分隊は全滅。
鉱道が爆破され、鉱夫にも少なからず死傷者が出てるので、現地の大使館が情報を掴みました。
敵の正体は不明です。」

銃器で武装したスコータイの軍警察を全滅に出来るとはただ事では無い。

910始末記:2017/09/25(月) 22:52:49 ID:7.L4Yce.O
スコータイの軍警察は転移後に即席で創られた為に練度に不安があったのは間違いない。
それでも装備も軽歩兵程度の物は揃えてある。
銃火器やテクニカルで武装した分隊がムザムザとやられるだろうか?
サミット開催中であり、現地が手薄だったことも一因ではあるが、全滅の上に敵の正体もわからないとは遅れを取るにも程があった。

「おそらく奇襲だったのでしょう。
通信も出来ないほどに敵の連携も巧みだったことが予想されます。
ウラン鉱山はこの世界の住民では活用出来ないことから、狙われたのは偶然と思われます。」

高橋陸将の分析にも腑に落ちない点は拭えなかった。

「ソムチャイ市長には私が直接話を付ける。
自衛隊は調査部隊を至急派遣する準備をしておいて下さい。」
「アンフォニーの第6分遣隊から小隊を出させます。」

地図で確認すれば一番スコータイに近い部隊だ。

「物が物だけに各同盟都市にも警戒を促すようにしましょう。」




スコータイ市市営病院

同盟都市の中では比較的人口が豊かなスコータイではあるが、転移当時は医療関係者はほとんど存在しなかった。
これは他の同盟都市も同様である。
当初は在日外国人を伴侶にした日本人医療関係者とたまたま観光で来日していた外国人医療関係者を中心として各都市は病院を創設し、運営する状態となっていた。
近年では日本で学んだ外国人の医者や看護師の若者が病院に勤めだして改善の傾向はある。
しかし、その数は少なく少数の病院に集約せざるを得ないのは致しか無かった。
その為に殉職した軍警察の隊員10名達の遺体もこの病院に安置されていた。

「こちらです。」

在スコータイ日本大使館駐在武官重留康之二尉は、日本人医師福永に霊安室に案内された。
線香の匂いの強い霊安室の中には十人分の遺体がベッドに寝かされていた。

「報告書は目を通させて頂きましたが、実際にみるとひどいですなこれは・・・」

いずれの遺体も惨憺たる有り様で、通常の弓矢や銃火器、刀剣で殺されたのとは違う有り様を呈していた。

「見てください、この苦悶の表情・・・
苦しみ抜いて死亡したことが伺えます。」

福永が遺体の顔に掛ける白い布、打ち覆いを外すと夢に観そうな苦悶の顔をした軍警察隊員が現れた。
報告書には死因は溺死と書かれている。

「はい、どうも水筒の水を一気に飲んで溺死のようですが不自然すぎます。
次の遺体は焼死です。
火炎放射器でも浴びせられたのでしょうかね?
熱量は大したことは無さそうですが、全身に火傷を負って死亡しています。
魔法でも火炎球を飛ばすのが有りましたからその類いかと。
次の遺体は・・・」

シーツを剥がされた遺体は全身に湿疹が出ていた。

「これは?」
「協力な花粉症によるアレルギーによるショック死です。」
「か、花粉症・・・」

次の遺体は植物の蔓に首を巻かれた状態発見された。
鋭利な何かで全身を切り刻まれたり、石が多数飛んできて死亡した遺体もある。

「他の遺体は・・・仮眠中に同じ刃物、おそらく同一人物に殺されてます。
誰一人暴れることも起きることも出来ずに。
こんなことが訓練を受けたとはいえ、人間に可能なんですかね?」

現状では魔法による攻撃に間違いない。
それも導士級の魔術士が兵士の訓練を受け複数人。
高名な魔術士は公安調査庁を初めとする各情報機関が不完全ながら監視対象としている。
現状では有り得ないとしか、重留二尉には思えなかった。
現地に調査に向かった部隊からも鉱山の爆破も火薬が使われた形跡が無かったとの報告があった。
警戒を各方面に促す必要があった。


ガンダーラ
ウラン鉱山

ガンダーラ軍警察第一グルカ・ライフル部隊は、周辺領域を圧倒的なスピードで鎮圧したことで、近隣にその名を轟かせていた。
他の同盟都市と同様の銃火器で武装しながら、森林戦では残党軍もモンスターも歯が立たない。
そんな強者揃いの彼等だが、ガンダーラの都市建設が目処が立ち始めると、同胞となるインド、ブータン、ミャンマーの民達を兵士として鍛え上げることを新たな目標に掲げた。

「見込みが甘かったな。
ブータンの連中はともかく、ミャンマー、インドの連中は話にならん。」

そう嘆くグルカ兵の教官パン曹長の評価は些か厳しい部類にはいる。
子供の頃からスカウトされて訓練を受けていた彼には、転移に兵士として徴兵された彼等は頼りなく見えるのだ。
今日もウラン鉱山基地の施設までの山岳訓練を実施していた。
だが少し前から山道を進む自分達が追尾されているのを感じた。
しかし、何度振り返っても相手の姿が確認出来ない。

「全員に安全装置を外させろ。
そのまま音がするまで振り替えるな。」

インド人の分隊長に指示して、藪に身を潜める。
追尾者の気配は感じるが、ひどく薄い。

911名無し三等陸士@F世界:2017/09/26(火) 00:10:19 ID:7.L4Yce.O
姿は相変わらず見えないが、パン曹長は己の勘を信じて、日本の包丁鍛冶に造って貰ったグルカナイフを藪の中から投擲した。

「きゃあ!?」

女の声がしたかと思うと、何も無い空間から血が噴き出し、金髪の小柄な少女が姿を現す。
誰何をしなかったことを責任問題として、追及されるかを考えた直後に植物の蔓がパン曹長に巻き付いた。

「ぐあっ、魔法か!?」

パン曹長の声を聞き付け、行軍を続けていた訓練部隊が少女のいる方に発砲する。
たちまち少女は銃弾の雨に曝されて血飛沫をあげるが、同時に少女の回りで姿を消していた連中にもあたり、金髪の若い男達が地面に倒れ伏す。
パン曹長も蔓に巻き付かれながらもホルスターから拳銃を取り出す。
例え魔法による攻撃でも、こちらを視界に捉えられる範囲に敵はいるはずだった。
少女の周辺、訓練部隊の火線から外れた位置に銃弾を叩き込む。
二人に当たったらしく、金髪の若い男が姿を現すが、魔法を掛けてきた当人では無いらしい。
締め付けてくる蔓に意識が朦朧としてきた頃、火線の範囲を広げた訓練部隊が術者を仕留めたことで命拾いした。

「助かったよ、やるじゃないかお前ら。」

労いの言葉に訓練部隊の兵士達はいい笑顔で応えくる。

「俺達に基地までの道案内をさせる気だったのかな?
どれ何者か顔を拝んでやるか。」

転がっている死体は4つ。
そのうちの血溜まりに伏した少女の頭を掴み、顔を確認する。
白人のようだが北欧のモデルのような美少女だったが、今は物言わぬ死体である。
武器は細剣や弓矢だけ、銃火器や爆弾の類いは持っていなかった。

「帝国の残党か、貴族の私兵か・・・」

パン曹長が思索していると、同じように倒れていた男達を調べていた訓練部隊の隊員の一人が口笛を吹いて、死体をパンの元に引き摺ってくる。

「教官、こいつらはエルフです。
見てください、この長い耳を。」

実物にお目にかかるのはパン曹長も初めてなので判断に迷った。
だが明確な敵対勢力がこの山中にいるのは確かだった。
他にも敵はいないか探るが、足跡や草木が踏まれた痕跡は一切無かった。
唯一の痕跡は数人分の負傷時に流血したと思われる血痕だけだった。

「本部に通信。
我が隊はエルフによる襲撃を受けたがこれを撃退。
なお、掃討の必要ありと認む。」

連絡を受けたガンダーラ軍警察本部は、グルカ兵による中隊をこの山に投入を決定し、エルフとグルカ兵が2日に及ぶ山岳戦に突入することになる。
また、アンフォニーからの調査隊がガンダーラにも派遣されることが決定していた。




大陸南部
アンフォニー男爵領

この地に駐屯する自衛隊第六分屯地司令柴田一尉は、大陸南部の同盟都市ガンダーラがエルフの小部隊と交戦したとの報告を受けていた。
ガンダーラにも自衛隊部隊の調査隊を派遣する命令を受けて苦い顔をする。

「昨日もサイゴンに小隊を派遣したばかりなんだがな・・・
ここが手薄になるぞ、全く・・・」

第六分屯地には204名の陸上自衛隊隊員が、任務に携わっている。
海自や空自の隊員もいるが、連絡官かオブザーバーの役割でしかない。
第六分屯地の任務は主に近隣の鉱山や年貢を納めてくれる農地、農民の保護である。
普通科2個小隊を送り出して、日々の任務にローテーションにも支障が出てしまう。

「司令、領主代行閣下が一連の騒動のことでお話があると・・・」

幕僚の一人が報告してくる。

「どっから掴んで来たんだその情報。
・・・応接室にお通ししろ。」

応接室に移動して待っていると、この地を治めるハイライン侯爵家令嬢兼アンフォニー男爵領主代行ヒルデガルドとアンフォニー男爵領代官斉藤光夫が入室してきた。
軽い挨拶の後に本題に入る。

「正直なところ、日本はエルフについて、どの程度ご存じで?」

ヒルダに言われて柴田一尉は考え込む。
日本はエルフとの交流はほとんど無い。
冒険者の中にはエルフやハーフエルフの存在が確認されている。
資源探索に総督府も依頼したりもするが、エルフ達が帝国に与えられていた本拠地である大陸北部にある大公領とは接触出来ていない。
だが概ね日本人達がイメージするエルフ像と大差が無いことで知られている。

「大公領は北部の大森林奥深くに有りますものね。
陸路では『迷いの結界』も張られてますから、到達はほぼ無理かと。」
「まだ、試しては無いので無理かどうかは判断は付きかねますね。
それに『帝国』はどうやってか連絡は取り合ってたのでしょう?
ジェノア事件の時のケンタウルス自治伯とシルベール子爵のような取次役がいるのかこちらも調べてはいるんですよ。」

エルフ達がケンタウルス達より高い爵位を与えられているのも気になる点だった。

912始末記:2017/09/27(水) 22:18:18 ID:7.L4Yce.O
「取次役はいたんですけど、帝都と一緒にふっ飛んじゃいました。
貴族では無く、皇族でしたから・・・」

公安調査庁の調査では皇族の生き残りはいない。
臣籍降下した者も含めてだ。
また、エルフ大公領が日米との戦争の際に大公領の治安組織である『森林衛士旅団』を参陣させて皇都大空襲で全滅させている。
エルフ達の帝国との連絡所たる大公屋敷も跡形も残っていない。
唯一の例外が、皇弟だった現アウストラリス王国国王モルデール・ソフィア・アウストラリスだけだが、かような些事に関わらせるわけにはいなかった。

「では、エルフとの接触方法は空路で直接乗り込むか、俗世に出ているエルフに伝言を頼むしかなさそうですな。
今回の事態の説明を求める必要が出てきました。
今回出てきた死体は何れもエルフのみ。
総督府並びに同盟都市政府は、今回の事態をエルフによる組織だったテロと見ています。
襲撃を受けた場所も些か問題があります。」

地球人達が規模は小さいがウランという鉱物に神経を尖らせている理由はヒルダも斉藤達に聞いている。
日本くらいしか使い道や活用出来ないが、莫大なエネルギーを産む鉱物とは理解している。

「そういえば、今日こちらに来たのは何か有益な情報を頂けるので?」
「人間に残る最後の取次役が出来そうな人物への紹介状をお売りしようと思いまして・・・」
「つい先ほど取次役は全員死んだとお聞きしましたが?」
「公的にはです。
現在の王家も大公領とは連絡を取り合っていません。
ですが私的には貴族にも連絡手段を持っている人物がいるのです。」

ヒルダは紹介状の代金代わりの利権を記した書類を柴田一尉に渡す。
目録に目を通した柴田一尉は眉を潜めてため息を吐く。

「小官の一存では決められません。
総督府の判断待ちになりますが、よろしいですか?」
「えぇ、互いに喜ばしい判断をお待ちしておりますわ。」



ガンダーラ近郊山中

エルフのクラクフは、額に汗して山中を逃げ惑っていた。
人間達が掘り起こした醜悪な鉱山を襲撃する為に30人からなるエルフが集まり、幾つかの組に別れて目標を進んでいた。
エルフは森林では身が軽く、溶け込みやすい習性を持っている。
人種に気づかれる様な事はこれまでは無かった。
だがどこかの組がヘマをしたのか、地球人の軍と交戦したことから作戦が早められた。
鉱山に砦を築いていた地球人の兵士達は警戒を強めていたが、クラクフ達の弓矢や精霊魔法に次々と倒れていった。
森の中からの攻撃は優位に進んでいたが、砦に空飛ぶ機械が飛来してからは状況が変わった。
自衛隊のセスナ 208 キャラバンの主翼下6箇所のハードポイントから発射されたヘルファイア対戦車ミサイルが、クラクフ達の隠れていた森林を爆発させた。
無差別な爆発は数人のエルフを吹き飛ばした。
たちまち姿を隠してくれていた精霊が逃げてしまった。
もう2機、飛来したUH-60Jと旧インド海軍のウエストランド、シーキング Mk.42B哨戒ヘリコプターが着陸し、2つの軍隊の兵士達が展開した。
ウエストランド、シーキング Mk.42B哨戒ヘリコプターは、インド海軍シヴァリク級フリゲート『サハディ』に搭載されていた機体である。
ガンダーラの虎の子といえた。
鉱山基地の正面に布陣した自衛隊の隊員達は、AK-74小銃とKord重機関銃を森林に向けて無差別に掃射した。
逃げ惑うエルフ達がたちまち血飛沫を上げて薙ぎ倒されていく。

「退けぇ!!
森の奥なら我等が有利だ!!」

クラクフの張り上げた声に生き残っていたエルフ達が森の奥に退き消えていく。
しかし、森の奥にはヘリコプターから降り立ったグルカの兵士達が先回りして待ち構えていた。
森の精霊が危険を伝えてくれるが、その動きや射撃に体が着いていけない。
グルカナイフで切り裂かれ、警告の外から小銃で狙撃される。
エルフに取って有利な筈の森での戦いが一方的な殺戮の舞台と化していく。
クラクフは風の精霊の力を使い、味方と敵の位置を把握している。
しかし、敵の銃撃は把握出来る距離の外側からも行われる。
近くにいたグルカ兵を弓で射るが、肩口に刺さっただけでは怯まずに射撃してくる。
矢や王国の小銃なら反らす事が出来る風の精霊も彼等の銃弾を反らすには不十分だった。
数発の銃弾がクラクフを貫く。
自衛隊の隊員達も森に入ってきて掃討を始めている。

「捕虜になるわけにはいかない。」

クラクフは囲まれる前に自ら首をナイフで掻き切った。

「くそっ、生け捕りは無理か!!」
「スコータイの鉱山基地を襲ったのもこいつらか?」
「襲われたのは一昨日だろ?
距離的に無理だ。
別動隊がいるんだろう。」

薄れゆく意識の中で地球人達の会話から、別動隊のヴァンダ組は上手く逃げ延びたことを悟り、クラクフは息を引き取った。

913始末記:2017/09/28(木) 23:32:50 ID:7.L4Yce.O
アンフォニー男爵領

翌日、総督府からの解答を持って柴田一尉は領館を訪れていた。

「総督府は利権を売ることに同意しましたよ。
詳しいことはこちらの封筒に。
朱印状も入ってるからお確かめ下さい。」
「はい、確かに。
しかし、せっかくの朱印状を下賜されるとしたら堂々とした式典を開いたらよかったですね。」

礼服を着て赤絨毯の上で、ドレス姿のヒルダに朱印状を渡す自分の姿を想像して柴田一尉は頭痛を覚える。

「そ、そういうのはもう少し上の方がいる時にお願いします。
さて、本題の取次役になりうる御仁ですが・・・」
「はい、私の父のノディオン前公爵フィリップです。
若い頃は家を飛び出して冒険者として活躍していました。
そのパーティーにいたエルフの精霊使いが現大公領森林衛士旅団団長ヤドヴィガ殿なのです。」

意外な人選に柴田一尉が感心するが疑問も残る。

「しかし、物理的な接触は不可能な筈ですが。」

ヒルダはこの質問に少し顔を赤らめながら、言いにくそうに答える。

「父はその・・・ヤドヴィガ殿と冒険者時代に肉体関係にあったらしくて・・・
パーティー解散時に個人的に通信用の水晶球を贈られて、逢瀬を重ねてたらしく、私に腹違いのハーフエルフの姉までいるらしいのです。」

ハイライン侯爵家の黒歴史らしいので、対価を得ねば割に合わないのは理解出来た。

「こちらから特使を送る旨をお伝え下さい。
詳しい日時は・・・代官殿に電話で連絡します。」



大陸東部
新京特別区大陸総督府

「そういえば疑問なんだが、ケンタウルス自治伯、エルフ大公領とか何で種族名がそのまま領地名になってるんだ?
大陸の他の地域にはかの種族達は住んでいないのか?」

秋月総督の疑問に秋山補佐官が資料をめくる。

「驚くべきことに帝国初代皇帝陛下は、大陸中の亜人を一地域に移住させて、代表者を貴族として叙勲し、領地を封じたようです。
その為に種族名がそのまま領地名となってるようです。」

なるほどと秋月総督は頷く。

「爵位の格付けは各種族の規模と帝国に対する貢献度が反映されているのか。
しかし、大公という地位はさすがに度が過ぎてないか?」
「初代大公は当初公爵だったようですが、そのまま初代皇帝の第3后妃を兼ねていたようです。
初代皇帝の崩御後に大公として陞爵した模様です。」

二人がこんな会話を続けているのは、特使として派遣される杉村外務局長に聞かせる為だ。
ジェノア事件の失態がある杉村としては、今回の会談が不首尾に終われば進退を伺う状況であった。

「デルモントの街に駐屯する蒲生一等陸尉には、全面的に協力するように言ってある。
必要なら援軍も派遣しよう。」
「はい、必ずやエルフとの会談を設けて見せます。」

杉村の熱意に秋月総督は、困ったような顔をする。

「一連の襲撃でウラン鉱山が立て続けに襲われたが、日本及び各同盟都市はこの大陸に5ヶ所のウラン鉱山を確認している。
スコータイ、サイゴン、新香港・・・・
そして日本が管理する2つのウラン鉱山、そのうちの1つがデルモントだ。
エルフの本拠地たる北部にあることもある。
安全には十分に気を付けて行ってくれ。」

少し顔をひきつらせた杉村に脅かしすぎたかと後悔した。
杉村局長が現地にヘリで向かうと同時に、新香港のウラン鉱山が襲撃を受けたとのニュースが飛び込んできた。
総督府のヘリポートで、見送りに来ていた秋月総督は顔をしかめる。

「大陸南部から西部へとか。
ずいぶん広範囲だな。
被害状況は?」
「武警の隊員が八名、鉱夫が四名死亡。
エルフの死体は13体確認。
鉱山も爆破されて、林主席は怒り心頭で机を蹴飛ばしたそうです。
常峰輝武警少将が陣頭指揮を取って、新香港から特殊警察部隊一個連隊も投入して山狩りの実施中です。」

新香港武装警察は首都の新香港と衛星都市である陽城、窮石防衛の為に、武装警察第一師団を組織した。
そして、将来的な正規軍設立の為に重武装の特殊警察部隊が政府直轄部隊として設立させた。
その新香港の最強戦力を投入していることから、怒りの本気度が理解できる。

「本気なのは新香港だけじゃないのだよな・・・」

秋月総督が頭を抱えるのを秋山補佐官は不審に思う。

「本国が何か言ってきましたか?」
「エルフ共が邪魔するなら、特戦大を派遣するか、巡航ミサイルの使用を許可しようかと乃村大臣が・・・
本国もこの件に大変関心がおありのようだ。
だが我々としては本国の介入は最低限に留めたい。」

転移後に規模を大隊にまで拡大させた特殊作戦群と在日米軍の倉庫から引っ張り出した巡航ミサイルを装備した部隊は防衛大臣の直轄部隊だ。
総督府や大陸方面隊の意向を無視する可能性があった。

「何より、大陸において3番目に人口の多い種族との戦争は避けるべきなんでしょうな。」

914始末記:2017/09/28(木) 23:33:28 ID:7.L4Yce.O
さて、とりあえずここまで

915名無し三等陸士@F世界:2017/09/30(土) 19:06:43 ID:.oaUBxuE0
乙です
でも避難所は過疎ってさみしいですね

そして本家は相変わらずのアラシ状態

916名無し三等陸士@F世界:2017/10/01(日) 17:09:28 ID:aw5hTIw60
投下乙です

流石にエルフを狩るモノたち(巡航ミサイルの雨)は見られそうもないか

917名無し三等陸士@F世界:2017/10/01(日) 17:39:18 ID:R4KaE.iE0

 乙です。
 しかし、エルフは何でウラン鉱山を襲撃したのやら?
 ウランに何かしらの恨みを持っているのかな。

918名無し三等陸士@F世界:2017/10/03(火) 22:36:51 ID:.oaUBxuE0
ウランは売らん





なんつってww

919始末記:2017/11/14(火) 22:23:06 ID:7.L4Yce.O
だいぶ間を開けてしまいました。
投下再開します

920始末記:2017/11/14(火) 22:26:37 ID:7.L4Yce.O
大陸北部
エルフ大公領
タージャスの森外縁

深い霧が常に森全体に立ち込め、侵入者が必ず行方不明なるタージャスの森。
森全域がエルフ大公領であり、その面積は関東平野に匹敵する。
そのエルフ大公領を求めて、侵入する者が稀にだか現れる。
商人、冒険者、密猟者・・・
後日、エルフ達に連行され、戻ってくるが全員ではない。
この霧はエルフ達が張った魔法による結界と言われている。
そんな怪しげな森に陸上自衛隊の大型ヘリコプターが接近していた。

「外務局長、見えました。」

そう声を掛けられた杉村外務局長は、CH-47J大型輸送ヘリコプターの窓から地面を眺める。
即席で造られたヘリポートには、デルモントの第6分屯地から派遣された部隊がテントや陣地を構築して展開している。
降下したCH-47Jから降りた杉村と外務局スタッフを部隊長の佐久間二等陸尉が敬礼で出迎える。

「デルモントより派遣された佐久間二等陸尉以下、隊員21名。
外務局の護衛を勤めさせていただきます。」

一応は外務局からも警備担当官を二名連れて来ているが、重武装の自衛隊の協力は有難い。

「お忙しいところお世話になります。
しかし、デルモントにもウラン鉱山はあるでしょう?
そちらは大丈夫なのですか?」

敵の目標が明確なのだから警備は厳重なのだろうが、人手をこちらに割いてしまったことに負い目を感じていた。

「以前に龍別宮捕虜収容所の襲撃時に透明化した敵を判別したサーモグラフィを投入していますので、これまでとは同じにはいかないと思います。」
「ならよいのですが・・・
こちらも『迎え』が来るまで時間はありますので、考えられる事態を想定しておきたいのですが。」

付近に駐車されている自衛隊の車両に不安を覚えた。
普通科部隊の持ち込んだ73式中型トラックと高機動車は理解できる。
問題は緑色の自衛隊カラーに塗り替えられた赤色灯が付いた車両だ。

「あれ、警察の化学防護車ですよね。」
「正確にはNBC災害対策車ですね。
我々も予算の問題で割りを食ってまして・・・
自衛隊の車両よりは入手しやすいので・・・」

佐久間二尉も苦笑しながら答える。
すでにこのNBC災害対策車で霧の解析は行ったが、何もわからなかった。
後は直接隊員かヘリコプターを突入させるくらいだが、相手が迎えに来てくれるというなら待つしかない。

「ではそろそろ連絡しますか・・・」

杉村は携帯を懐から出して、登録してある番号に掛けてみるのだった。

「杉村です・・・
はい、準備が出来ましたのでよろしくお願いいたします。」




大陸西部
ハイライン侯爵領
侯爵館

新香港や日本との商取引で多大な利益を得たハイライン侯爵は、ようやく城の建設に取り掛かることが出来た。
ハイライン侯爵ボルドーは感慨深く普請を監督していた。
縄張りを父のフィリップがしていたことは不安を覚えるが、アンフォニーから妹のヒルダから日本の技術者を呼び寄せてくれたのは助かった。
現在建築されているハイライン城は、星形城塞となる予定だ。
完成予想図を見せられた時のフィリップのはしゃぎぶりは脳裏に焼き付くほどだ。
その光景を思い浮かべてると、軽快な音楽に思索を中断される。

近くの陣幕からだ。

「父上、何か音楽が・・・」

陣幕を潜ると、フィリップが携帯電話を片手に水晶をいじっていた。
そばにはアンフォニーから派遣された黒川という言葉が右手を奇妙な形に挙げて、こちらの言葉を遮ってくる。

「妖精の森に連絡を取るところだ、邪魔をするな・・・」

仮にも侯爵である随分高圧的な言い種である。
黒川は大陸語は流暢に話せるが、同じ日本人同士で会話すると難解な論調で話すと相手を困惑させる傾向があるらしい。
何故かフィリップはあっさりと理解し、コミュニケーションはスムーズに進んでいる。
ちなみにフィリップが会話している携帯は黒川のものだ。
黒川の目にはフィリップがいじっている水晶の操作が、転移前に流行ったスマートフォンみたいに見えていた。
転移当時のスマートフォンのシェアは20パーセントに届いた程度だった。
しかし、転移後は新機種が出るわけでもない。
海外サーバーから切り離されたことにより大半のインターネットのサイトも消え去り、電池が長持ちしないスマートフォンは一気に無用の長物となり廃れてしまった。
本国では倉庫や廃棄待ちだった公衆電話や固定電話が再び普及し始め、携帯電話も通話とメールが出来ればよいとガラケーに戻っていった。
今でも本国の電力事情は良くない。
現在の電力生産量は転移前の半分程度にしか満たしていない。
転移により、輸入に頼っていた石油やLNGを使用していた火力発電所は軒並み停止してしまっていた。

921名無し三等陸士@F世界:2017/11/14(火) 22:30:06 ID:7.L4Yce.O
石炭系の火力発電所は転移前から三割以上の電力生産を可能としており、大陸から採掘が可能になった現在は本国の電力を支える主力となっている。
水力発電も転移前から1割程度の電力生産を担っていた。
ここに北サハリンや新香港の東シナ海からの石油や天然のガスの輸入により持ち直して来たばかりなのだ。
原子力発電は、転移後に激減した電力生産を支える為に全力稼働の方向となっていた。
しかし、転移から十年以上も経つと、備蓄されていたウランやプルトニウムも枯渇し始め、再び停止する原発も増えていた。
大陸からウランが採掘出来るようになると、柏崎原子力発電所がようやく再稼働が可能になっていた。
本国も省エネやリサイクルが進み、電力消費も下がっている。
このような状況では、携帯電話の充電にも苦労する有り様だ。
根本的な問題として、電池の生産に必要なリチウムをはじめとしたレアメタル等の採掘量が需要に追い付かないのだ。
一番肝心のリチウムにしても、吹能等町近郊にしか鉱山を発見出来ていない。
現在の黒川達が使っているのは、都市鉱山で資源をリサイクルされた携帯電話ばかりだ。
年配の者達が

「時代は30年は後退したな。」

と、ボヤいていたのが印象的だ。

「ギーセラーの奴が出てくれればいいんだが・・・
向こう側の水晶球の側に誰かいてくれないと気がついてもらえないのだ。」

ギーセラーというのが冒険者時代のフィリップが浮き名を流したエルフの女性の名であることに、ボルドーは頭痛を感じていた。
ハーフエルフの姉サルロタまでいるという話も昨夜に聞かされたばかりで、心の整理が追い付いていないのだ。
すでに一昨日に連絡が取れているので、向こうも水晶球の側にいるはずだった。

「おっ、繋がった!?
ギーセラーか、一昨日に話した件だが、日本側の準備が整ったそうだから回廊を開いてくやってくれ。
ああ、何か不自由は無いか?
必要な物があれば送るが・・・
ワシも行きたかったのだが、離れられなくてなあ・・・」

フィリップの喜色を隠そうともしない姿にボルドーも黒川も苦笑する。
ボルドーもまだ会ったことが無い姉とやらに会って見たかった。

「いずれ客人として呼べばいい。
その為にもこの城の完成を急がせねばな。」

珍しく黒川の言うことにボルドーは頷き、その日が来ることを楽しみに思えていた。



エルフ大公領
タージャスの森付近

「霧のトンネル?」

杉村局長の言葉に誰しもが納得していた。
深い霧に包まれたタージャスの森に、ぽっかりと回廊のように霧が晴れていく。

「ここを通れと?
車両では無理ですな・・・」

回廊の広さは車両でも十分に通れる。
問題は獣道に毛が生えた程度の道だ。
普通科部隊なら問題は無いが、杉村達をはじめとする官僚達にはきついだろうと、佐久間二尉達は眉をしかめる。
杉村達もある程度の徒歩は覚悟しており、全員が登山ルックだ。

「佐久間二尉、とにかく行くしかない。
途中のポイントに発信器を置いて、ヘリにフォローしてもらいながらマッピングして行こう。」

霧の回廊に自衛隊の隊員15名と官僚5名が霧の回廊を進む。

「霧を操ることが出来る。
魔法なのか、魔道具なのか・・・
これは脅威ですね。」

杉村はキョロキョロと警戒しながら歩くが、佐久間二尉は前だけを見ていた。

「普通科部隊には脅威ですが、いざとなれば特科で吹き飛ばせば問題はありません。
空爆という手段があります。」

自衛隊だって煙幕くらいは使う。
対抗策は幾らでもある。

「それでも気象兵器なのか、自然現象なのか区別がつかないのかわらかないのは問題ですね。
初動が遅れそうだ・・・」

一見すると真っ直ぐ歩いているようだが、微妙に方向がずらされてるのがわかる。
時間の感覚もわからなくなってきた。
コンパスも狂わされてるのか、回転している。
マッピングしずらくてしょうがない。
森林の木も一本一本の樹齢が想定出来ないくらいの巨木なのも距離感を狂わせる。
それら巨木から伸びた枝葉が日の光を遮り、昼間なのに明け方くらいの暗さになっている。
訓練を積んだ隊員なら惑わされることもないが、同行している官僚達はつらいだろうと佐久間二尉は気になりはじめた。

「二時間で4キロですか、あんまり進めてないですね。」

驚いたことに佐久間二尉に指摘されて柴田は驚く。
よく見てみれば官僚達は平気な顔で隊員達に着いてきており、疲れや焦りの顔も見せていない。

「意外に元気そうなので驚きました。」
「もう慣れましたよ。
交渉の度に大陸各地に派遣されました。
航空機は燃料が高いのと滑走路の問題で余程の有事でなければ使わせてもらえない。
車両だって舗装された道ばかりじゃないですからね。
最近は鉄道である程度は近場まで移動出来るだけ楽になりました。」
「なるほど・・・新人とか来たら大変そうですな。」

922始末記:2017/11/14(火) 22:34:42 ID:7.L4Yce.O
足手まといにはならそうだと安堵していると、霧の彼方から蹄の音が聞こえてくる。

「どうやらお出迎えのようです。」

隊員達が互いの姿を見失わない範囲で散開して警戒にあたる。
官僚達に同行している外務省警備対策官の二人は、ホルスターに手を掛けながら杉村を護るべく前後に立ち塞がる。
現れたのはユニコーンに美形の妖精族だった。

「エルフ大公領森林衛士隊所属のサルロタと申します。
日本の使節団のお出迎えにあがりました。」

責任者とおぼしきハーフエルフの少女に一行は戸惑いを覚えるが、他種族は見た目で年齢を判断してはならないと肝に命じているので顔には出さない。
人数は30人程度。
騎乗しているのは六人。
平兵士と思われるエルフは軽鎧だけを纏い、頭部には縁の周りの広い鍔と円形かつ浅いクラウン部が特徴の地球側がブロディヘルメットと呼ぶ物を被っていた。
武器もレイピアこそ腰に挿しているが、全員が小銃を肩に担いでいる。
明らかに大陸の王国軍が制式採用しているものより先進的だ。

「リー・エンフィールド・・・?」

背後で隊員が呟くのが聞こえたが、杉村も佐久間も今は挨拶と相手の観察に重点をおいていた。
エルフの森林衛士を率いていたサルロタに若い隊員達は笑顔を隠しきれていない。
だが彼女の着ている服装に違和感を覚えて笑顔も消えていく。
全員がズボンを穿いているのは理解できる。
しかし、上着はブルゾンっぽい服でネクタイが首に巻かれている。
また、頭部はベレー帽を被っている。

「礼服なのです。
あまり見たことが無い格好でびっくりしますよね。
私もあまり着ないのですが・・・」

サルロタも照れ臭そうに言ってくれるが、現在のブリタニアの軍服に酷似している為に自衛隊側は困惑を深めるだけだった。


「ようこそエルフ大公領へ。
すでに貴方達は『街』の中に踏み込んでいます。」

よく見てみれば巨大樹の幹や枝に、鳥の巣箱のような家が多数見受けられる。
枝から枝には橋も掛けられている。
身軽なエルフ達には、木の上での生活も苦労はしないようだ。
しかし、もっと森の奥深くに町なり拠点があると思っていた日本人一同は、森の外縁から約二時間程度で目的地についてしまった事に拍子抜けしてしまっていた。。

「遠いと何かと不便じゃないですか。」

エルフ達に対するイメージはあまり変えて欲しくは無かったゆえにサルロタの答えにどこか釈然としないものを感じていた。

923名無し三等陸士@F世界:2017/11/14(火) 22:40:42 ID:7.L4Yce.O
では投稿終了です



>>915
もう本家はわけがわかりませんね
>>916
今は、巡航ミサイルまで出てるんですか?
魂は何を?

エルフはやはり脱がさないとダメですかね?

>>917
まあ、私の作品だから理由はしょうもないことかもしれません


>>918
異世界で買い手はいますかね?

924始末記:2017/11/27(月) 21:34:46 ID:7.L4Yce.O
では投下します

925始末記:2017/11/27(月) 21:38:19 ID:7.L4Yce.O
大陸北部
エルフ大公領
リグザの町

日本の使節一行が案内されたリグザの町は、基本的には鎖国体制を取るエルフ大公領の唯一の開かれた町である。
何百年も霧に包まれた大森林ではあるが、かつての帝国の領邦となってからは、儀礼的に帝国の使者を受け入れる拠点が必要があって作られた。
最も帝国が崩壊し、新たに勃興した王国は一度もこの地に使節を派遣していないし、大公領からも忠誠を誓う為に王都に出向いたりはしていない。
最早、実質的な独立国と言ってよかった。

「王国などと言っても、帝国時代は我らと同じ大公領に過ぎなかったソフィアの軍門に下る必要は感じなかっただけです。
ソフィアにもこちらに討伐軍を派遣する余裕は無かったでしょう。」

そう説明してくれるのは、森林衛士旅団で、小隊を預かるサルロタであった。
彼女はハーフエルフでありながら、エルフの高官の娘という立場から外から来る招かぜらる来客を迎え討つ、もしくは保護する部隊の指揮官となっている。
ユニコーンから降りて、杉村や佐久間達にと共に徒歩で案内してくれている。
人間種だからと高貴なエルフに見下されるのでは無いかと懸念していた杉村達は、内心で反省を試みていた。
町の建物の大半は木の上に小屋が建てられ、大樹と大樹を繋ぐ縄橋が掛けられている。
佐久間達は不安定で脆そうな縄橋に不安を覚えるが、身軽で小柄なエルフ達は問題なく渡っている姿を見て、種族的特性を感じずにはいられなかった。
しかし、それ以上に気になる点があった。

「あのサルロタ殿。
エルフの皆さんはその・・・、随分好奇心が旺盛のようですな。」

杉村が他の官僚や自衛隊隊員の疑問を代表して質問する。
小屋という小屋の窓、縄橋、大樹の陰から無数のエルフがこちらの様子を伺っているのだ。
その問いにサルロタも些か困った顔をする。

「え〜と、皆さんがエルフをどのように考えているかは、理解しているつもりです。
ですが、おそらく彼等彼女等は、あなた方の想像より、好奇心が旺盛で、奔放なのです。」

明らかに言葉を選んでいるサルロタに、杉村も佐久間も先が思いやられる気がした。
エルフ達は何れも妖精的な美しさであり、大森林の外の人間に比べれば小綺麗にしているので、魅力的に見える。

『日本人は女に興味が無いのか?』

と、言われるほどに大陸の日本人は大陸の人間と性的なトラブルは少ない。
それどころか、娼館にも行く者は少ない有り様だ。
それは大変な偏見であるが、日本人から見れば大陸の平民の小汚ない格好や臭いは、マイナスのイメージとなっていることは間違いない。
また、栄養に問題があるのか肉体的魅力にも乏しさを感じている。
未知の風土病や性病の恐れもあり、二の足を踏むのは十分とも言える。
現に日本の統治地域に来た良家の女性はこの問題からは、解放されており、アイドルのように扱われている大陸人女性も多数存在するのだ。
しかし、エルフ達は痩身だが栄養には問題の無い生活を送っているようであり、花の香りがして若たい隊員達を魅了している。
やがて一行の前に地上に建てられた迎賓館が現れた。
帝国の施設一行が宿泊する為に建てられたもので、歴代皇帝も宿泊した由緒正しい建物らしい。
出迎えてくれたのはこれまた20代後半に見える美人な女性エルフだった。

「この町の町長ユシュトーに御座います。
使節御一行の御世話を任されております。
部屋は有り余っていますのでそれぞれ個室を用意しております。
長旅お疲れでしょう。
先にお食事にしますか?
湯編みにしますか?
それとも・・・」

急にユシュトーが流し目で杉村を見つめてきた。
見れば隊員達にもメイド姿のエルフ達が、色目を使っている。

「さ、先に広間をお借りしたい。
こちらも話し合うことがあるので、軽食を用意して頂くとありがたい。
アルコールは無しで・・・」

ユシュトーは残念そうに頷くと、メイド達に目配せして準備をさせる。
長年の外交官人生で遭遇したハニートラップに誘われた状況と同じだった。
あんな失敗は三度で十分である。
広間に集まった日本人一同は、美しいエルフ達に完全に舞い上がっていた。
佐久間二尉を除いて。
杉村が泰然としている佐久間に感心していた。

「さすがですな佐久間二尉。」
「いや、私に色目を使ってきたのが執事のエルフだったので・・・」

ゲンなりした声で言われて杉村も肩を落とす。
サルロタが退室する前に一つ忠告してくれた。

「明日にはこの大公領を取り仕切っている公子殿下が到着します。
正式な会談はその時に・・・
それと、御家庭に不和を招きたくなければ
彼女等の誘いを受けないでください。
大公領のエルフはこの十年男日照りなので・・・」
「じゃあ、あの執事は何なんだ・・・」

926始末記:2017/11/27(月) 21:40:52 ID:7.L4Yce.O
佐久間二尉は自分に熱い視線を送ってくる執事エルフに体を身震いさせている。
いつまでも消沈してもいられないので、状況を整理することにする。

「まずあのエルフ達の格好はなんだ?
昔の英国軍みたいだったぞ。」

窓から外を見ていた上坂三尉がそれに付け足す。

「ここの警備の兵もです。
赤い上着に熊の毛皮の帽子、まるでバッキンガム宮殿の近衛兵です。
メイド達もヴィクトリアンメイドとか言ったかな?」
「ふむ、毛受一曹。
先ほど連中の銃について何か言ってたな。」

毛受一曹は転移前から自衛隊に所属していたベテランだ。
古い銃器についても含蓄がある。

「はい、エルフの兵士達の兵装は第一次世界大戦の時の大英帝国のものに酷似しています。
銃もリー・エンフィールド小銃に似ていますね。
手に持たせて検分させて貰ったわけでは無いので、はっきりとは言えませんがあれがリー・エンフィールド小銃と同じなら、10発入りの着脱式弾倉。
これだけで大陸の王国軍の小銃を遥かに凌駕しています。
独自のボルトアクションによる素早い再装填が可能です。
有効射程も900メートル以上もあります。」

色々と説明されたが、杉村にはエルフ達は王国軍や帝国残党より厄介なことは理解できた。

「ブリタニカの連中が密かに供与したのか・・・
いや、不可能か。」

如何にブリタニカとはいえ、そこまでの生産力は無い。
各同盟都市の兵器の生産は、公安調査庁の監視下にもある。
しかも、森の外のエルフ達からはそのような武器を持っていると報告されたことはない。
今回の一連の事件でも使用されていない。
エルフ達が鍛冶に長けているようにも見えない。。
ここのエルフ達は明らかにおかしい。
それと気がついたが、エルフ達の男女比率も女性に片寄ってる気がする。
公式記録によると、エルフ大公領の人口は55万人。
全部の人口がエルフでは無く、半数以上がハーフエルフとのことです。
まあ、実際にはかなりの領民が領地から出て旅をしたりしてるらしいですが・・・」

それには佐久間二尉が答える。

「杉村局長。
その記録は帝国が十年前に取った戸籍のものです。
皇都大空襲のおりにエルフ大公領は五個の森林衛士旅団を派遣しており、約二万人のエルフが灰となりました。
男女比率の歪さはそこから来てるのでは無いでしょうか。」
「だとすると寿命の長いエルフは遺族として我々を恨んでるかもしれません。
寝首を掻かれないようベッドに彼女等を招き入れることは勘弁して下さいよ。」

杉村の言葉に舞い上がっていた隊員達の顔は引き締まる。
相手は敵かも知れないとわかれば彼等には十分だった。
しかし、情報が不足していた。
もう少しエルフのことを知る必要がありそうだった。



サルロタは仲間達の色情ぶりにうんざりしていた。
長い寿命を持つエルフにとって、退屈は天敵だった。
概ね六百年ほど生きるが、三百年も生きてくると、何事にも無感動になってくるのだ。
そのうち考えるのも面倒になり、瞑想に耽りながら朽ちていく。
初代皇帝の孫娘である現大公もそうであり、この百年は眠ってばかりいる。
退屈をまぎらわす為に執着するものの探求はエルフにとっての課題になっている。
冒険や研究に走る者はよい方で、性的に倒錯に走る者も少なくない。
そのくせ出生率は高くないのだが、長い寿命の中で他種族との子供を宿す者も出てきた。
だが帝国と日本、アメリカとの戦争で年長で能力のある男性エルフは多数戦死する事態に陥った。
エルフは基本的に年功序列であり、年長の者が大公軍に所属していた。
その穴を埋めるべく女性エルフが大公領の要職を占めるようになった。
サルロタも再建された大公軍だからこそ、隊長までに昇進出来たのだ。
そうでなければ大公家に血が連なるとはいえ、年若いハーフエルフの自分は昇進などは無縁だったろう。

「余計なことを言ってくれたわね。
おかげで彼等は私達を警戒して廊下に見張りを着けたわよ。
近よれはしない。」

ユシュトーの抗議にもうんざりしてきた。
彼女達にとっては一連の騒動も刺激的な娯楽に過ぎないのだ。

「少しは自重してください。
日本とのトラブルは起こさないように大公家からも元老院からも指示が来ていたでしょう!!」

927始末記:2017/11/27(月) 21:45:34 ID:7.L4Yce.O
「自由を愛するエルフを縛るには、どっちも物足りないわね。
まあ、いいわ。
機会は今夜だけではないから・・・、それよりどう?
今夜一緒に寝ない?」
「結構です!!」

そのまま自室に戻ることにした。
明日にはアールモシュ公子殿下が母のギーセラーとともにリグザの町にやって来る。
日本の使節達を例の場所に案内する役目があるのだ。
アールモシュはサルロタの従兄にあたる。
今夜はゆっくりと湯船に浸かり眠りたかった。



大陸北部
南北鉄道
よさこい11号

黒煙を上げながら、多数の貨車を牽引して汽車は進んでいた。
線路の脇には、日本管理するデルモントの町を経由し、北サハリン領ヴェルフネウディンスク市に続く街道が存在する。
機関車に乗車していた機関士達が前方の街道に不穏な土煙を発見した。

「あれは自動車が何台も走っている土煙だな。
自衛隊かな?」

北部地域で車両を何台も走らせることが出来るのは、自衛隊か北サハリン軍だけだ。
接近してみればわかるが、日本製の車両ばかりだ。
問題は車両に『新香港武装警察』と書かれていることだろう。
三菱パジェロ4両、トヨタ・コースターGX、三菱キャンターの一団だ。
キャンターが牽引するトレーラーの屋根には銃座が2基設置されている。
パジェロにもサンルーフから銃架が設置されている。
よさこい11号はその一団を追い抜いていくと、30分後に同じ編成の一団と遭遇する。
よさこい11号の車掌と鉄道公安官が対応を話し合っている。

「分屯地に通報は?」
「出来ました。
こちらからは刺激するなと・・・」

新香港武装警察の部隊を追い抜き、距離を取るしか無かった。


デルモントの町
陸上自衛隊第10分屯地

「よさこい11号からの通報により、三個小隊規模を確認!!」
「デルモントの北部の街道、オーロフ男爵領近辺の線路補修中の工員が四個小隊規模の新香港武装警察部隊を確認。」

報告を聞いて分屯地司令の蒲生一尉は困惑を深めている。

「海路でヴェルフネウディンスクから来たな?」

デルモントにいる第10分遣隊も中隊規模の約200名の隊員がいるが、先日1個小隊をタージャスの森に派遣している。
さらにウラン鉱山の警備とパトロールに2個小隊割かれている。
分屯地の防衛を考えれば動かせるのは1個小隊しかなく、南北から接近する新香港武装警察を食い止めるのは論外である。

「だが新香港も我々と事を構えるのは本意では無いだろう。
総督府を通じて止めてもらうしかない。」

政治的圧力で止められなければなす術が無い。
大陸中央からの援軍はまず間に合わない。
だが新香港の目的地はデルモントでは無いだろう。

「第5小隊をタージャスの森に派遣して合流させろ。
対応は追って沙汰する。
ここの警備には海と空の連中にも手伝ってもらう。」

戦力をここに置いて置いても今がない。
連絡官として来ている海自や空自の隊員が少数だがいる。
彼等にも小銃でも持たせておけば飾りにはなる。
事態をややこしくすることは避けて欲しかったな。

928始末記:2017/11/27(月) 21:46:23 ID:7.L4Yce.O
投下完了、ではまたいずれ

929名無し三等陸士@F世界:2017/12/02(土) 19:41:51 ID:ZqrZSx6Q0
もしも検索 ⇒ bit.ly/2kJFRlx

930始末記:2017/12/31(日) 23:05:32 ID:7.L4Yce.O
年内にはこの話は終わらせたかった
では投下

931始末記:2017/12/31(日) 23:13:12 ID:7.L4Yce.O
大陸北部
タージャスの森南側外縁
自衛隊キャンプ

大森林に向かった部隊の留守部隊として、陸上自衛隊の隊員六名が自衛隊キャンプに残っていた。
彼等は留守番の最中も陣地構築を行っていた。
問題は陣地が森側からの攻撃を想定されていて造られていることだ。
これから迎え撃たないといけない相手は街道からやって来るのだから意味が無い。

「新香港の部隊が?」
「やりあわずに足留めってどうしろというんだ。」
「無理に決まってんだろ!!」

連絡と命令を受けた隊員達は頭を抱える他無い。
まともに使える車両はNBC災害対策車と高機動車くらいだ。
銃火器も小銃や拳銃くらいしか残っていない。
こんな装備で二百名近い新香港武装警察とやりあえる筈もない。
ましてや地球人同士の交戦は、神戸条約により禁止されている。
地球人による植民都市が増えた結果に結ばれた条約だ。
逆に言えば彼等自身が人間の盾になれるのだが、そんな立場は御免蒙りたかった。

「森の中の佐久間二尉との通信はまだ取れないか・・・」

どのような作用か、電波による通信は本隊が町に入るとの通信を最後に取れなくなっていた。
増援の第5小隊の到着も3日は掛かる見通しだ。
彼等留守部隊六人がとれる選択肢は少ない。

「森の中に隠れよう、車両もテントも全部だ。
痕跡を残すな。」
「命令は足止めでは?」
「ようするにここを通すなという意味だろ?
見つからなければ時間も稼げる。」

反対する者はいなかった。

「森の奥まで行かなければ迷うことはないはずだ。
後は霧が隠してくれる。」

幸いなのは新香港も森の入り口はわかっていないことだ。
関東平野に匹敵する広さの森の周囲探索に時間が掛かるのを望むしかなかった。

「隠せるかな・・・」

今さら造り続けていた塹壕を埋め戻したり、鉄条網の撤去など6人で出来る時間があるのかは疑問だった。
結局のところ、彼等は盛大に霧の中を迷子となった。
そして、新香港武装警察の部隊は自衛隊が構築していた陣地跡まで来ることは無かった。
森の中に隠れた彼等がエルフ達に発見され、保護されて解放されたのは一ヶ月後の話になる。



大陸西部
新香港
主席官邸『ノディオン城』

日本大使相合元徳と駐在武官である渡辺始一等海佐は、大陸北部に部隊を進めた新香港に事態の説明を求めに訪れていた。
ノディオン城は主席官邸と同時に新香港政府の政府庁舎を兼ねている。


「説明も何も事態は明白でしょう。
我々はウラン鉱山の被害と死者を出しているんですよ。
報復か謝罪を要求するのは当然では無いですか。
そして、我々にはエルフとの外交チャンネルを持っていない。
わかりやすい示威的行動或いは実力行使が今回の動員の理由です。
貴国が対応したケンタウルスの時と何ら変わらない。」

武装警察の常峰輝武警少将が応対に出て会談に応じている。
普段は友好的な対話をしてくる常武警少将の高圧的な態度に、二人は顔には出さないが動揺していた。

「ケンタウルスの時は明確な敵対勢力による攻撃でした。」
「今回は違うと?」

そう言われると些か苦しいが、ここで退く訳にもいかなかった。

「詳しいことはまだ何もわかっていない。
現在、我々がエルフとの外交交渉を行っています。
今少し御待ちいただけませんか?」
「失礼ながら、我々は全て日本に任せている現状を憂いている。
貴国には、同盟都市としてこれまでの援助は感謝している。
それゆえに我々は日本の負担を分かち合う準備がある。」

常武警少将の言葉に二人は身構えて聞く羽目になっていた。

「それはどういう意味で?」
「地球人による五番目の国家の建国ですよ、大使。
これからも友好国としてよろしくお願いします。」

現状は日本、アメリカ、北サハリン、高麗の他は国ではなく、独立都市の扱いだ。
所謂、保護国のような扱いだ。
新香港は人口も北サハリンやアメリカよりも多く、石油の採掘や独自の軍事力、衛星都市の建設など他を凌駕している。
武器も銃火器程度なら生産も可能となった。
そろそろ自分達の国を建設してもいい頃だと常武警少将も信じていた。
これこそが新香港に住む民の総意であると。


大陸北部
エルフ大公領
リグザの町迎賓館

早朝、大公公子アールモシュとその叔母で大公領の軍事を司るサルロタの母のギーセラーが町に到着した。
驚いたことに二人は飛竜に乗って現れたのだ。

932始末記:2017/12/31(日) 23:20:10 ID:7.L4Yce.O
大公領でも八匹しか飼い慣らせていない貴重な生き物だ。
アールモシュは、颯爽と飛竜から飛び降りると、出迎えの為に待機していた杉村達に爽やかに微笑み挨拶をしてきた。

「お待たせしました。
大公領公子アールモシュです。
大公の代理として全権を委任されています。
日本とは実りある交渉を期待しています。」

意外に低い物腰のアールモシュに杉村外交局長達は気圧される。

「こちらこそ、貴方方との交流は我々も夢見ていました。
今後の友好関係の構築に向けて問題点の解決に努力したいと思っています。」

互いに握手を交わす。
第一印象はまずまずだったが、エルフは何の躊躇いもせずに握手を交わしてきた。
これまでの大陸人には無かったことだった。
エルフ達との交流を夢見ていたことも嘘では無い。
地球から転移して、エルフが実在したことに日本人達が如何に歓喜していたことか。
実に妄想を昂らせたりしていたものだった。
だが接触の機会は少なく冒険者として現れるエルフに依頼をする時くらいに限定されていたのだ。
杉村達が軽く興奮していたことも仕方がないことだろう。
さて、軽く互いを紹介し、親好を温めた一行は飛竜が降り立った広場から迎賓館へと移動する。
会談に用意された部屋に入室すると、会談に携わる者達が席に着いた。
会談はアールモシュが口火を切り始まった。

「まず最初に疑問に思われるでしょうが、我が母であり現大公ピロシュカのことです。
彼女は現在長い眠りに付いていて、もう30年ばかり起きてきていません。」
「30年!?」

思わず叫んでしまった。
エルフは長い寿命の中で、やりたいことや考えることが無くなると、眠りに付いたまま起きてこなくなるらしい。
野外で寝ていて何十年も放置され、大樹と一体化してしまう者までいるらしい。

「なんとも凄まじい話ですな。」
「はい、母は初代皇帝の孫にあたります。
その初代皇帝の教えが、貴方方の鉱山が襲撃された原因です。
初代皇帝はあの悪魔の石を病気をもたらす危険な物と考えていました。
学術都市が採掘して研究中に多くの研究者が健康を害し、原因不明のまま死亡したことに端を発しています。
その結果、採掘場所を隠蔽しそれを暴く者を討伐せよ、と。」

悪魔の石とはウランのことだとは理解は出来る。
地球でもウラン鉱山による環境、健康被害は問題となっていた。
ウランを採掘する際に、放射能を含んだ残土がむき出しになっていた。
これが乾いて埃となり、周辺に飛散して大雨が降ると川に流れ込み、放射能による深刻な環境汚染が引き起こされたのだ。
ウランを含む土には他にも放射性物質が含まれ、肺癌や骨肉腫などの原因になっている。
鉱夫のなかにもこれらの埃や水を体内に取り込み、肺癌になった者が多数存在する。

「なるほど悪魔の石ですか・・・、その為に兵を派遣したと?」
「時代は変わるものです。
長い年月を生きてきた我々にはそれが判る。
貴君等があの悪魔の石を利用する術を持っていることも把握している。
だが若者は原則に拘り、教えを守ろうとした。
それが今回の事件の発端です。」

千年も昔の教えに引っ掻きまわされていたとは、襲撃された同盟都市は納得はしないだろう。
だが事態を終息させる必要はある。

「公子閣下から、外界のエルフに襲撃を辞めるよう命令を下して頂けませんでしょうか。」
「宣言は出しましょう。
ですが彼等が言うことを聞くかは別の問題です。
勿論、彼等を諌める使者も出しましょう。
それでも手を引かない者達に付いては・・・、大公領としては追放処分とします。」

煮るなり焼くなり好きにしろということだ。
現状ではこれ以上は大公領からは望めそうも無かった。
大公領は現時点では誠意は見せている。
エルフ個人によるテロならば、責任は問えそうにも無い。

「もう一つ疑問があるのですが、大公領軍の兵装は我々に取って見覚えがあるものなのですが・・・」
「はっきり言って貰って大丈夫ですよ。
我々の兵装は地球の第一次世界大戦時の大英帝国軍のものを模倣しています。」

あまりにあっさりと言われたので、杉村をはじめとした日本側は誰もが言葉を失っていた。

「ち、地球の歴史をご存知で?」
「貴殿方は最初の転移者と言うわけでは無いのです。
まあ、貴殿方ほど大規模な転移は初めてだが、過去にも何度か転移してきた者達がいました。
最初の頃はこちらと技術や文化の差はそこまでなかったのです。
1200年くらい前から産業革命とかいうのを体験してきた転移者から状況が変わってきましてね。」
「1200年前?」

933始末記:2017/12/31(日) 23:26:25 ID:7.L4Yce.O
「そちらとは時間の流れが多少ズレがあるようです。
彼等の知識は当時はほとんどが再現不可能でした。
しかし、時の流れが少しずつ問題を解決し、大陸の発展に寄与してきました。
初代皇帝は我等に彼等の保護と知識の調査を命じました。
我々は長命の種族だから、そういった活動は我々の退屈を解消させる格好の役割となりました。
そして、そちらの暦で1915年に転移してきた者達がこちらの世界で500年ほど前に転移してきましてた。
彼等は大英帝国軍、ノーフォーク連隊と名乗っていました。
彼等の装備や知識を模倣し、エルフ大公領軍は再編されて今に至るわけです。」

突然のことに杉村も佐久間も理解が出来ない。

「一度、総督府に問い合わせる必要がいりそうです。
事実ならノーフォーク連隊とやらの同胞もこの大陸に来ています。
彼等にも話を聞く必要があるでしょう。
森の外に一度、出たいのですが?」

ノーフォーク連隊についてはオカルト関連ではそれなりに知られた話だ。
だがこの場の日本側の人間には、それを知っている人間はいなかった。
問題は外部との連絡が取れなくなっていることだった。

「ご案内しましょう。
私も久しぶりに森の外に出たい気分ですから」

日本とエルフ大公領との最初の接触は、好感触のうちに終わった。


タージャスの森
西側外縁
新香港武装警察部隊

新香港武装警察派遣部隊の指揮官劉文哲武警少佐は、いつまでも続く森の入り口の探索にうんざりしていた。
そして、部隊を牽制するように周辺貴族が私兵を差し向けて来ていた。

「少佐、また貴族共の軍勢が・・・」

周辺貴族が私軍は距離を取りながら、代わる代わる接近と離脱を繰り返してくるのだ。

「うっかり蹴散らす訳にもいかないからな。
うっとおしい・・・」

警戒の為に部隊の一部を割けざるを得ないのも癪に障る。
私兵軍もそうだが、自衛隊とも遭遇しても厄介なのだ。
地球人同士の不戦を誓った神戸条約に抵触して、責任問題となってしまう。
それなりの規模の部隊を用意してもらったのはいいが、食料や燃料、弾薬といった物資も手持ち分だけで補給は要請出来ない。

「まだ、我々には遠征は早いんじゃないかな・・・」

だんだんイライラしてきた劉武警少佐は、目の前の大森林を見渡して暗い衝動的な作戦を思い付く。

「よし、燃やそう。」

エルフどもが出てこないなら引きずり出すのに、これほど効果的な手は無いだろう。
焚き火をしている隊員達から燃えた薪木で、大森林の樹木していく。

「今晩は放火に徹するぞ。
薪になる木をたくさん持ってこい。
街道沿いに移動して、火を着けながら拡大していく。」

複数の箇所から引火させた炎は燃え繋がり、森林火災を拡大させていく。
この規模の大火災は日本の消防隊でも鎮火は難しいだろう。

「あとで問題になりませんかねぇ?」

部下に言われて冷や汗を掻き始めるが、今さら退くに退けなかった。

「け、結果さえ出せば問題は無い。」

貧乏クジを引いた気分を劉武警少佐は味わっていた。

934始末記:2017/12/31(日) 23:27:09 ID:7.L4Yce.O
とうかしゅうりょう
ではよいおとしを

935名無し三等陸士@F世界:2018/01/03(水) 17:33:55 ID:ltLdW.lY0
始末記さん乙です
そしてあけおめことよろです

936始末記:2018/01/31(水) 23:26:10 ID:7.L4Yce.O
>>935
おくればせながら、新年あけましておめでとうございます

今年も細々と活動させて頂きます
さっそく投下
あいかわらずのグダグダです

937始末記:2018/01/31(水) 23:28:21 ID:7.L4Yce.O
タージャスの森

リグザの街を出発した日本特使一行と同行するエルフ大公領公子アールモシュの元には、次々と伝令が舞い込んでいた。
おかげで一行の歩みは遅々として進まない。

「申し訳ない。
また、火事のようだ。」

アールモシュが申し訳なさそうに杉村達に陳謝してくる。

「こうも複数の箇所での火災が起きるなど、明らかに人為的なものです。
兵を派遣したりはしないのですか?」
「森を焼いて、我らを誘い出す。
この数千年の間に何度も使われた手ですからね。
姿を消させての偵察は出してますよ。」

どうやら想定内の出来事らしい。
「敵の戦力や位置が把握出来次第、包囲して殲滅するつもりです。
それに森の権益は我々の物だけでは無いですからね。」

タージャスの森周辺の貴族達にはエルフの愛人を代々送り込んである。
いざというとき時に様々な便宜を計らせる為だ。
今回、新香港武装警察部隊を牽制しているのも、そういった貴族達だ。
日本人やその同盟国・同盟都市に送る必要があるなと、アールモシュは考えていた。



タージャスの森外縁

新香港武装警察部隊
派遣部隊本部

「ポイントBに貴族の私兵軍が押し寄せ、書簡と口頭による厳重な抗議を受けているそうです。」
「ポイントDからもです。」

派遣部隊の指揮官劉少佐は、手回しのいい貴族達の行動に頭を悩ませていた。
大森林から漏れでる恵みを受けとる権益を持った彼等と領民からみれば、大森林が焼けて無くなることは死活問題なのだ。
私兵軍だけで無く、武装した民衆が殺到している場所もある。
彼等の抗議は正当なものだけに、その声を無視することも出来ない。
劉少佐に出来ることは、相手をたらい回しにして時間を稼ぐことだけだ。

「抗議は新香港の外務局が取り扱うので、そちらに回してくれと伝えろ。」

それでも対応に人が割かれるのは痛い。
早くエルフに出てきて貰わないと、受け取った書簡だけで司令部に使っている車の車内が埋まりそうだった。

「劉少佐、ポイントCの森から動きが。」
「ようやく出てきたか・・・
2個小隊を増援に・・・」

敵の出現を懇願している自分が笑えてくる。
だが無線から声が悲鳴に変わり、劉少佐の希望を打ち砕く。

『少佐、こいつはエルフじゃありません。
モンスターです!!』




タージャスの森
放火ポイントC

ポイントCで森に火を付けていた新香港武装警察の分隊は、森の奥から出てきた巨大な青黒いビーバーの群れに襲われていた。

「アーヴァンクだ!!
近寄られたらひとたまりも無いぞ!!」
「手榴弾を使え!!」

エルフ達を引きずり出す前にとんでも無いモノを引き当ててしまい、弾薬を消費する羽目になっていた。
それでも分隊だけでは支えきれなくなる寸前、本部から派遣された小隊が戦闘に加わってくれる。
現在の新香港武装警察が使用しているのは、日本が北サハリン向けに製造していたAK-74だ。
小規模だが中国人第二の植民都市陽城市で生産工場の建設も完了している。
車両を盾にして射撃を続けて撃退したが、アーヴァンクの体当たりに些かの損壊が生じていた。
部隊を直接率いてきた劉少佐は疲れた顔でため息を吐く。

「走行には支障は無いと思いますが・・・」
「武警の虎の子だぞ?
始末書は確実だよ、参ったなあ・・・、誰か変わってくれよこの任務・・・」

最悪戦争して来いと言われてるのに、車両の傷やへこみで責められる未来図に劉少佐もへこみそうになる。
大森林の火災は尚も拡大しつつあった。

938始末記:2018/01/31(水) 23:30:17 ID:7.L4Yce.O
そのエルフ達は、初代皇帝の教えを守る皇帝派の面々である。
だがそれ以上に人々や自然に呪いを振り撒く悪魔の石と、それを採掘しようとする者達が許せない正義感に溢れる男女だった。
そんな彼等が、地球人の手によって燃え盛る大森林を見て憤りを感じるのは当然の帰結といえた。

「大公軍は何をしているんだ。
大森林が燃えてるんだぞ!!」
「日本と交渉中だから、放って置けとのお達しが届いてるようだ。」
「あの臆病者共め!!
仲間を集めろ。
あの地球人共を皆殺しにする。」
「もう大森林にはほとんど残っていない。
50人がいいところだ・・・」

大公軍で無い彼等は銃器等は持っていない。
さすがに弓矢と細剣、精霊魔法だけでは勝てないのは理解は出来ている。

「大公軍にも同志はいる。
彼等に武器庫の鍵を一つ閉め忘れて貰えばいい。」
「なるほど、それなら奴等に一矢を報いれるかもしれん。」

大公軍の保有する武器は、かつての帝国軍の武具を遥かに凌駕する性能を持っている。
さすがに地球人達が使う武器程では無いが、最初の一撃くらいは大きなダメージを与えれことが可能な筈だ。

「一撃加えて、大森林に退く。
追ってくればしめたもの。
留まるなら時間を置いて、もう一撃して退く。
あわよくば、仕留めた敵の武器も奪う。
この作戦でいくぞ。」

森の中では風のように動ける彼等は、さらに精霊魔法の風の声で遠距離の仲間と連絡を取り合い準備を進めていく。
その迅速な動きは、無線や携帯電話で連絡を取り合う地球系の武装組織を凌駕していた。
彼等は大公軍の同志が、うっかり閉め忘れた武器庫の前に集まり、小銃や弾薬を持ち出していく。
持ち出される武器は、かつてのこの地に転移してきた英国軍の装備を500年近い歳月を掛けて複製したものだ。
転移してきた英国軍兵士や将校から原理を学び、ドワーフの協力を得てそれなりのものが出来上がり、大公軍だけの制式装備として数も揃えられた。
持ち出された武器は、廃棄された筈の武器とすり替えられて、書類上の帳尻を合わせていく。
複製された銃火器のうち、リー・エンフィールド小銃はほぼ完全な再現を達成した。
ルイス軽機関銃はいまだにエルフが持てる重量に軽量化が果たせず、車輪つきの砲架や三脚に固定せざるを得ないのが現状だ。
No 1手榴弾はオリジナル程の爆発の威力を出せていない。
火薬の精製に難があるようだ。
拳銃のウェブリーMk IVも、構造が簡単なことからドワーフの職人が再現に成功した。
火薬を造る為の硝石も大規模な鉱床でドワーフ達が採掘している。
帝国でも歴代皇帝と一部皇族しかこのことは知らない。
今の王国では知る者はいないだろう。
生産された武器は、タージャスの森の各地に点在する町の武器庫に大公軍の管理のもとに保管されている。
この武器庫のある町は、住民や町長、大公軍には皇帝派の支持者も多い。

「地球から来た軍隊は自らの兵器の質が大陸とは何百年も先をいっていることに驕っている。
その差をせいぜい百年程度に縮めてやるのだ。」
「しかし、勝てるのは最初の一回だけだ。
いま、こんな小競り合いで使うのは正しいのか・・・」

それは今は亡き帝国に固執したエルフ達にもわかっていた。

「今、燃えているのは我らの森なんだぞ!!
今、使わなくていつ使うのだ!!」

激論が彼等の間でもかわされている。
納得できない者は協力はするが、戦いには参加しない。
戦闘に参加する者達の数はみるみる減っていた。
彼等の間に明確な指導者がいない為である。
自由な気風を大事にするエルフならではではある。
最終的に新香港武装警察を相手に集まった皇帝派のエルフ達は街からの志願者も集まり、80人ほどの男女に減っていた。



新香港武装警察の派遣部隊は、小隊規模の部隊を、大森林から時計回り、逆時計回りに移動させて放火作業を行わせていた。
火災がモンスターを発生させたことから、部隊を小隊規模にまで拡大させた。

939始末記:2018/01/31(水) 23:32:01 ID:7.L4Yce.O
同時に五つの分隊に貴族の私兵軍とそれぞれ対陣させている。
本隊も放火を続けつつ、陣地構築を続けていた。
前方には焔が大森林を侵食している。
こちらから敵が来ることは無い。
街道は三菱キャンター2両を使って封鎖した。
キャンターが牽引するトレーラーの屋根に設置された銃座が2基、目を光らせている。
敵が透明化してくる事も予想の範囲内で、各種センサーも張り巡らせている。
例えエルフだろうと、王国の銃火器を使用しても突破出来るものではない。
だがトレーラーに刺さった矢を見て、銃座に座っていた武警の隊員は叫びながらトレーラーから飛び降りた。

「敵襲!!」

隊員が飛び降りた瞬間、トレーラーの屋根で爆発が起こり、もう1基の銃座に座った隊員が爆風と破片に巻き込まれて負傷してトレーラーから転げ落ちる。

劉武警少佐がパジェロから出てきて、地面に転がった隊員に駆け寄る。

「何があった、報告しろ!!」
「矢に手榴弾が・・・」

劉武警少佐の頭が些か混乱する。
矢に手榴弾を括りつけて放つ等可能なのかと。
実際に第一次世界大戦では、クロスボウを使用した実例があるのだが、劉武警少佐にはそこまでの知識は無い。
続けざまにキャンターに、手榴弾が括り付けられた矢が複数命中し、キャンターは大爆発を起こして吹き飛んでいった。
ここまで来ると、武警側も小銃を構えて、塹壕や車の陰に隠れて応射を始める。
街道の誰もいないはずの場所から悲鳴が上がり、蜂の巣にされたエルフが三人、地に伏したまま姿を現す。
その途端、大森林の火災が所々消火される。
エルフ達の水の精霊魔法による消火だ。
消火された焼け跡の向こうから、銃弾の雨が武警隊員達を襲う。
この奇襲に幾人かの武警隊員達が倒れるが、回避した武警隊員達も応戦し、たちまち銃撃戦が巻き起こる。
双方に被弾して倒れる者が続出して、距離がとられはじめて膠着状態となっていく。

「おかしい、大陸の連中の火力じゃない。」

劉武警少佐の疑問は最もで、小銃の練射速度がこれまでと段違いだ。
さらに森の中から機関銃のような銃撃が武警隊員達を襲う。

「いや、これ機関銃だろ!!」

先程の手榴弾らしき爆弾もそうだが、大陸の住民が機関銃を使うのは衝撃的な事実だった。

「こっちも撃ち負けるな。」

反対側の街道を封鎖するキャンターのトレーラーの屋根に設置された重座から機関砲が森の中に隠れたエルフ達を凪ぎ払う。、
武警本隊の半数が既に地面に倒れている。
また複数の手榴弾が投げ込まれて、キャンターのトレーラーが爆発に巻き込まれて銃座も傾いて使えなくなる。

「後退、後退!!
別動隊に本隊に合流するように連絡しろ。」

負傷者をパジェロやトヨタ・コースターGXに乗せて応戦しながら後退する。



大森林とクロチェフ男爵領は街道を挟んで境としている。
近隣の村の住民が集まり、大森林に放火している新香港武装警察の分隊と対時していた。
住民達に取っては、大森林は獣の狩猟や森の恵みをもたらす神聖な場所であった。
また、住民達のまとめ役はエルフ達に肉体的に懐柔されている。
ほとんどは大公家の紐付きだが、例外的に皇帝派のエルフにまとめ役が懐柔されたのがこの男爵領だった。

「お願い、森を守って・・・」

涙目の美しいエルフに懇願されて、まとめ役の男は奮い立ち、周囲にいる民衆を煽動する。

「まかせておけ・・・
おい、みんな!!
余所者に好きにさせていいのか!!
大森林をみんなの手で守るんだ!!」

その言葉に憤りを感じていた民衆が呼応してしまう。

「大森林の火を消すんだ!!」
「神聖なる森に火を着けた連中を許すな!!」

農具や自衛用の武器を持って、武警隊員達に民衆が殺到する。
10人程度の分隊ではもうどうすることも出来ない。
また、この分隊は本隊に一番近い距離に有り、本隊からの増援要請に焦っていたことも災いした。

「蹴散らせ!!」

武警隊員達の小銃が民衆に向けられて発砲し、民衆が凪ぎ払われる最悪の事態に発展した。
領民を守る為にクロチェフ男爵領軍が両者の間に割り込んで終息したが、分隊は暫くこの場に拘束されることとなった。




偵察に出した兵から報告を聞いたアールモシュ公子は、眉をしかめ杉村や佐久間二尉に一つの提案を行った。

「我々は事態の鎮静化の為に、王国傘下からの離脱と日本との同盟を提案させてもらいたい。」




クロチェフ男爵領との境にいた分隊からの通信を受けた劉武警少佐は、一つの決断を下した。

「近くに自衛隊の部隊がいる筈だ。
同盟の規約に則り、我々の撤退支援を要請しろ。」

940始末記:2018/01/31(水) 23:32:44 ID:7.L4Yce.O
では投下完了
また、いずれ

941始末記:2018/03/01(木) 21:50:43 ID:7.L4Yce.O
ではひさびさに

942始末記:2018/03/01(木) 21:53:44 ID:7.L4Yce.O
タージャスの森外縁

ようやく通信が出来る場所に辿り着いた日本の外交官と自衛隊の特使一行は、デルモントの分屯地や新京の総督府への通信を試みていた。
すでに大森林外縁で、民衆や皇帝派エルフは、新香港武装警察と交戦状態に入っている。
アールモシュ公子からの同盟の提案は、ようするに日本の保護下に入ることを意味しているようだった。
一介の外務官僚に判断できる内容では無い。

「まあ、説得出来る材料はあるか・・・」

エルフ達は異世界転移に関する情報を持っていた。
これは地球系国家・独立都市が喉から手が出るほど欲しい情報のはずだった。



佐久間二等陸尉が指揮する自衛隊隊員達は、大森林に出発前に設営した自衛隊野営地に赴いた。
しかし、留守を任せた部隊はおらず、杜撰だが野営地を撤去した跡が残されている。

「よほど慌てて離脱する事態に遭遇したか・・・」

周辺を捜索していた毛受一等陸曹が戻ってくる。

「車両のタイヤの跡が綺麗に残されていました。
跡を辿ると、事前に取り決めていた場所に車両は隠されてました。
ですが、肝心の留守部隊六名がいません。」

毛受一曹からの報告に苦虫を潰したような顔をしてしまう。
だがようやく繋がったデルモントの分屯地との通信から状況は理解できた。
案内として、同行していたサルロタが口を挟んで来た。

「おそらく留守居の方々は、迷いの霧に囚われて大森林をさ迷っているのでしょう。
我々エルフの血をひく者には効果の無い霧なので、捜索は我々が引き受けましょう。」

これ以上の捜索は二次災害を引き起こす可能性があると判断し、佐久間二尉は、彼女達に任せることにした。

「ならば我々は大森林の消火活動に参加しましょう。」

NBC災害対策車や73式中型トラック、高機動車はいずれも問題無く動く。
隊員達が車両に乗り込み、近隣の火災現場に向かった。




野営地に戻った杉村外務局長は、総督府と連絡を取り、エルフ大公領の事情やノーフォーク連隊についてを報告したことをアールモシュ公子に伝えた。

「新香港にはエウロペやアメリカ、ブリタニカが圧力を掛けてくれることが決まりました。
特にブリタニカはあなた方に興味津々のようです。
総督府もテロリストによる事件を地方の自治体に責任を負わせる行為については疑問に思っているようです。
何より我々はエルフ大公領との交流を望んでいます。」

北サハリンもだ。
今回は新香港の顔を立てて協力してきたようだが、日本とエルフが交流を持ちそうだとわかると、手のひらを返してきた。


「それは我々もです。
若者達に外の世界との交流は必要だと思っていました。
しかし、外の世界との交流の再開は、再び王国との軋轢を産み出します。
日本さえよろしければ、我々を日本傘下の公国として認めて頂けませんか?
確か、海棲亜人達にはそれを認めた前例がある筈ですよね。」

どこまでこちらの事情を察しているのか、油断がならないと杉村は思わず舌打ちしそうになる。
確かに日本は海棲亜人達を傘下に治めて東京に大使館まで作らせたが、アールモシュ公子提案は総督府の権限を超えているので即答は出来ない。

「本国に御意向は迅速に伝えさせて頂きます。
それと事態の沈静化の為にソフィアに駐屯していた日本国陸上自衛隊第34普通科連隊1200名がこちらに派遣されています。
三日後には到着する見込みです。」

援軍の到着は嬉しい限りだが、エルフ大公領の同盟締結と新香港からの同盟による支援要請という難題は頭の痛い話だ。
車両を回収して戻ってきた佐久間二尉も同じ様に頭痛を感じた。

「撤退の支援自体は問題ありません。
ですがエルフ大公領と同盟を結ぶか微妙な時期に、テロリストとはいえエルフと交戦してよいのか御墨付きが欲しいです。」

責任問題になることは御免被りたい佐久間二尉だが、一応は出来ることを考えてはいる。
今、出来ることは新香港武装警察の部隊を大森林から引き離すことと火災の消火活動だけだ。

「アールモシュ閣下、出来れば大公領の旗をお借りしたいのですが・・・」

943始末記:2018/03/01(木) 22:02:49 ID:7.L4Yce.O
新香港武装警察本隊

元々、新香港武装警察隊は人数と武器の質で皇帝派エルフに勝っている。
最初の奇襲を凌げれば、徐々に火力で皇帝派エルフを圧倒しつつあった。
機関銃を掃射して来る射手は一人で厄介なことこのうえなかった。
しかしそれもトレーラーに設置した銃座からの機関銃による制圧射撃で圧倒して沈黙させた。
指揮を取る劉武警少佐は、好転する状況に胸を撫で下ろしていた。

「援軍はいらなかったか?
いや・・・」

戦死した隊員が12名、負傷者は20名を越えている。
まともに応戦しているのは二個小隊程度にまで落ち込んでいる。
エルフ達の抵抗は弱まりつつあるが、実数がわからないので判断がつかない。

「少佐、エルフ達が火蜥蜴(サラマンダー)とか、ノームとかいった精霊を使った魔法で抵抗を始めてきました。
射程は短いので、問題はありませんがおそらくは・・・」
「なるほど、連中弾が尽きたか。
これ以上の犠牲は出したくないから、前線には近距離を避けて術者を仕留めるように指示しろ。」


地球のような大規模生産工場の無いこの世界では、大抵の物は職人が生産していた。
それでは大量消費が行われた場合に補充が間に合うものではない。
大自然を武器に変える精霊魔法は確かに厄介だ。
だがその精霊魔法により、発生した風や炎の効果範囲はせいぜい術者を中心に数メートル程度とは研究結果が出ていた。
上位の術者なら数十メートルを効果範囲にすることも可能なようだが、近寄らなければどうということは無い。
一度に複数の精霊魔法は使えないらしく、精霊魔法による攻撃に切り換えて来たということは姿を消す魔法は使えなくなるということだ。
銃弾で実態の無い精霊は倒せないが、突き抜けることは可能だ。
精霊のいる範囲に弾丸をばら蒔けば、高確率で後方にいる術者にも当たる。
また、手榴弾などの爆風で吹き散らすことは可能だ。
再生するまで時間が掛かるので、その間に術者を撃てばいい。
日本の囚人を使った第一更正師団が多大な犠牲を払って得た戦訓の一つだった。

「連中の底が見えたな。
いっそ姿を消されたまま刃物で襲われた方が厄介だったな。
慎重に片付けていけよ。」

一時の混乱から立ち直った武装警察隊は、皇帝派エルフを次々銃弾で容赦無く排除していった。
召喚されたサラマンダーのサイズは二メートル程度。
今回の襲撃に参加した皇帝派エルフ一番の腕利き術者が召喚した者だ。
サラマンダーが吐く炎の吐息は、数メートル先の武警隊員を一撃で消し炭に変えた。
武警隊員達は木々を盾にしながら、サラマンダーや術者を遠巻きに半包囲しながら射撃をしていく。


サラマンダーの熱気と体内の熱が、銃弾が突き抜ける際に、大幅に速度を減速させてしまう。
それでも後方の術者を蜂の巣に変えるには十分な威力だった。





タージャスの森外縁
ビィルクス伯爵領境の街道

タージャスの森とビィルクス伯爵領の境界線もこの大森林を囲む街道となっている。
燃える大森林を背景に、新香港武装警察の小隊と押し掛けてきた民衆が睨み合い、伯爵領軍が間に入って民衆を押し留めていた。

「とにかく、火災を直ちに消させて頂きたい。
これ以上はエルフどころか、我が領の民衆を煽る行為だ!!」

伯爵領軍の使者の剣幕に、武装警察隊の小隊長も困り果てていた。
伯爵領軍は街道を越えての活動は基本的に出来ない。
だが民衆はタージャスの森の恵みを生活の糧にしている。
関所等で遮られていないので、民衆からすれば森の恵みが得られないのは死活問題なので、殺気だっているのだ。
しかし、このまま暴動となれば、民衆は新香港武装警察隊の銃弾の前に屍を晒すことになる。
それだけは絶対に避けねばならないのが伯爵領軍の思いであった。
睨み合いが続くなか、大森林の火災は拡大していく。
焦燥に駆られた一人の木こりが、斧を両手に持った時、水の塊が一本の線になって大森林の消火を始めたことに誰もが驚いていた。
それは街道の先から新香港武装警察隊とは趣きが違う車両から放たれていた。
誰しもがポカーンとするなか、新香港武装警察の隊員達だけがその車両の正体に悔しそうな顔を見せる。
元は日本国警察のNBC災害対策車 の陸自仕様車は、屋根に設置されている放水銃から放たれた水が、大火災の火勢を幾分か和らげていく。

「日本・・・、自衛隊か・・・」
伯爵領軍や民衆も新香港武装警察の援軍かと警戒するが、車両にはためく日の丸とエルフ大公領の旗を見て安堵する。

「道を開けろ!!
あの水を放つ車を通すんだ!!」

伯爵領の騎士達が民衆や車両を誘導する。

「水だあ!!
タンクに水を片っ端から持ってこい!!」

944始末記:2018/03/01(木) 22:05:10 ID:7.L4Yce.O
NBC災害対策車から出てきた上坂三等陸尉の声に、消火をしてくれると希望を持った民衆が家に戻り、井戸や川から桶やバケツに入れた水を持ってくる。
隊員はバケツリレーの要領を民衆に教えながら効率化をはかる。
数人の隊員は、車両から持ち出した消火器を噴霧して消火にあたっている。
正直なところ高圧放水でも無いので、たいした水量を搭載も放つことも出来ない。
巨大な火勢にたいして、焼け石に水もいいところだ。
火勢の反対側でもエルフ大公領軍が、水の精霊を召喚して消火にあたっている。
しかし、各勢力の衝突が避けられたことを伯爵領軍も胸を撫で下ろして消火に参加している。
自衛隊の車両や隊員は、自然と伯爵領軍と民衆を新香港武装警察を引き離す形になっていく。
お互いの問題が物理的に遠ざかっていくはずだったが、新香港武装警察の隊員が上坂三尉に抗議の声をあげる。

「これは対エルフの作戦行動だ!!
作戦の妨害は同盟の規約に対する違反行為だ!!」
「そのことだが・・・
先ほど自衛隊の無線機を通じて、今回のテロ行為に対して大公領は一部暴徒による被害を受けた都市に対しての謝罪が通達された。
事情と事実の確認の為に我々はまだ残るが、事態の沈静化の為に貴官等はお引き取り願いたい。
正式な謝罪が行われるまでは、我々が停戦を監視する。」




新香港武装警察本隊

各都市からの圧力を受けた新香港は停戦に合意した。
派遣部隊を率いていた劉武警少佐は、無線機を叩き付けて撤収を部下に命じる。

「戦死15名、負傷者42名。
車両四両大破。
これだけの損害を出してこのざまか・・・」

攻撃してきた皇帝派エルフは殲滅したが被害も甚大だ。
陸上自衛隊の部隊が停戦の監視のために到着した頃には、本隊を攻撃してきた皇帝派エルフは皆殺しにしたところだった。
このまま部隊を集結させて、エルフ大公領軍も撃破するはずが、中途半端な結果に終わってしまった。
さすがに自衛隊が日本国旗とエルフ大公領旗を掲げて来た時は驚きを隠せなかった。
日本が交渉をまとめて来るとは、夢にも思わなかったからだ。
停戦の為に新香港武装警察の本隊を訪れていた陸自の高機動車を忌々しげに見つめる。
負傷した武装警察隊員は自衛隊の衛生科の隊員に治療を施して貰っている。
だがそれでも悪態をつかずにはいられなかった。

「くそったれ・・・」

大森林の火災は停戦後の10日後まで続いた。



大陸東部
新京特別行政区
大陸総督府

年の暮れにエルフ大公領は、正式にエルフ公国としてアウストラリス王国からの独立を宣言した。
同時にエルフ公国の西側の山脈に領地を持つドワーフも独立を宣言し、日本の傘下に治まることとなった。

「ノーフォーク連隊の武器を模倣、量産する為にドワーフも多大に貢献していたようですね。
エルフ達の皇帝派は今回の件で掃討、或いは捕縛されたようですがドワーフにも皇帝派はいるようです。」

秋山補佐官の説明に秋月総督はうんざりした顔をする。

「初代皇帝は厄介な種を遺してくれたものだ。
千年も前から我々に祟ってくるとわな。」
「幸い、ドワーフはエルフほど行動的では無く、精霊魔法も使えないので脅威とはならないというのが公安調査庁の分析です。」

その分析に安堵しつつ、同席していた北村副総督が語りだした。

「ところで、ノーフォーク連隊とやらはこちらでも調べてみた。
第1次世界大戦のオスマン・トルコとの戦いで行方不明になったとされる270名余りの英国兵のことなんだな。」
「はい、英国軍がその後の調査で実はオスマン帝国の攻撃にあって戦死していたり、捕虜になっていたと報告書を出されてはいます。」

その調査報告が正確なものであったかは今となっては調べようがない。

第一次大戦中の1915年8月28日、オスマン帝国の首都イスタンブールを制圧すべく、ガリポリ半島に連合軍を展開した。
その最中、英国陸軍ノーフォーク連隊三百余名が、通称アンザック軍団の目の前で、奇妙な雲の塊の中に将兵が消えていくのを目撃したのだ。
雲が晴れ、アンザック軍団の前には、無人の丘陵地帯があるだけだった。
戦後、英国はオスマン帝国に将兵の返還を要求するが、そのような部隊との交戦記録は無いと要求を否定した。

これが事件の顛末である。

「他にも都市伝説として語られている失踪事件も見直す必要がありそうだな。
えっと・・・バミューダトライアングルとか・・・」

さすがに北村副総督はそこまでは詳しくないらしい。

「3000人中国兵士集団失踪事件、フライング・タイガー・ライン739便失踪事件などは注目に値しますが、正直なところ資料も現地調査も出来ないのでどうしようも無いというのが本音です。」

都市伝説やオカルトの類いの話を公的に調べないといけないとは冗談が過ぎる話だった。

945始末記:2018/03/01(木) 22:10:00 ID:7.L4Yce.O
秋山補佐官の言葉に秋月総督も北村副総督もお手上げのポーズを取る。

「ドワーフとエルフは例によって東京に大使館を設置してもらうが・・・、エルフの方が揉めてるんだって?」

秋月総督の質問に秋山補佐官も眉を潜める。

「大使に相応しいエルフで、性的に倫理観に問題の無いエルフの選定に手間取っているようです。
エルフの社会問題になっている性の乱れが酷いらしくて・・・
どうも我々が考えていたエルフのイメージとは些か違うようです。」

エルフにあった高慢で閉鎖的なイメージは想定していたが、奔放で淫蕩で存外に交渉がうまいとは想定出来なかった。


「我々の幻想を打ち砕かないで欲しいな・・・」

北村副総督も呆れ顔だ。

「それでドワーフ侯国大使館は、旧カナダ大使館が用意してくれるとして・・・エルフ公国大使館はどうなった?」
「旧シンガポール大使館が売却を予定しています。
宝石や宝物を大量に呈示されて担当者はひっくり返ってましたよ。」
「そして、シンガポールはそのまま新香港に合流か・・・
売却利益はそのままエルフ大公国の賠償金も含まれていると・・・」

在日シンガポール人は七割以上が華人であることから、在日シンガポール人約八千人が新香港に合流することになった。
その際の旧シンガポール大使館の膨大な売却利益が、新香港への賠償金になる。
日本が仲介した新香港とエルフの落とし所である。

「よく王国の連中が黙ってるな。」

北村副総督の指摘通り、エルフとドワーフの独立は宗主国であった帝国の後継を名乗るアウストラリス王国の面子も潰す行為である。
最もエルフもドワーフも王国を帝国の後継国家として認めていない。
王国の宗主国となった日本に遠慮して文句を言ってこないだけである。

「文句を言ってしまうと、統治の為に軍を送らないといけないらな。
連中も余裕が無いのだろう。
渋々認めざるを得ないから無視を決め込んでる。」

北村副総督の言葉に二人は頷く。
そこに青塚副総督補佐官が部屋に飛び込んでくる。

「そろそろお時間です。」

言いながらリモコンを操作すると、画面には新香港主席林修光の顔が映し出される。
林主席は壇上で演説をしている。

『我々は今回の自体に独立都市としての権限の弱さを痛感した。
新香港に移民して丸七年。
植民都市も陽城、窮石と建設は順調で、第四都市の建設も来年には始まる。
シンガポールの民が我々に合流するかはすでに皆も知っていると思うが、このほどモンゴルの民八千人も合流することになったことをここに報告させて頂く。
我々は十分に力を付けた。
日本、米国、北サハリン、高麗に続く第5の国家として、我々はここに華西民国の建国を宣言する!!』


秋月総督も北村副総督も新香港政府からの予め通達を聞いてはいたが、面白くなさそうな顔を浮かべている。
予定通りとも言えるので、総督府に動揺している者はいなかった。
問題が無いわけではない。
残っている在日外国人最大多数のモンゴル人を持っていかれたことで、新独立都市の建設が困難になったのだ。

「独立都市は残った在日外国人をまとめて放り込むべきでしたかな?」
「争いの火種を撒くだけですよ。
他の独立都市に草刈りの規制緩和に動くべきでしょう。」

華西にしても第四植民都市の建設には日本の協力が必要なのは理解しているから、停戦に応じたのだ。
しかし、相当な不満を溜め込んだことは間違い無さそうだった。


その日の夜。
総督府幹部職員や自衛隊の将官の邸宅にエルフの女性たちが全裸で現れて騒動となったことは、厳重に箝口令が敷かれて隠蔽された。

ただある写真週刊誌が『秋月総督は、総督府にエルフのハーレムを作る』との見出しの記事を載せて、総督府が数日昨日停止に陥った。
だが世間の反応は、

「また総督がコレクションを増やしたらしい」

と、薄い反応しか示さなかった。

946始末記:2018/03/01(木) 22:10:46 ID:7.L4Yce.O
ではグダグダ終わります

947始末記:2018/03/22(木) 13:25:01 ID:7.L4Yce.O
では投下

948始末記:2018/03/22(木) 13:28:03 ID:7.L4Yce.O
日本国
府中刑務所

日本が転移して13年目の年が明けていた頃、マディノ元子爵ベッセンは新たに立川市からも魔力と才能のある子供達を招聘し、魔術について教えていた。
立川市から招聘されたのは仏教系一人、神道系が二人、大陸魔術系が1人。
弟子の数は36人となった。
パソコンを打ちながら作製した弟子達への教科書を読み上げながら思いに吹ける。

「日本人もこの世界に馴染んできたかな?」

それが喜ばしいことかベッセンにはわからない。
移民の増加のせいもあるが、日本本国の人口は1億1500万人を割り込んだ。
その反面、転移後に産まれた日本人は1284万人を越える。
日本本国の死者の増大は、大陸に移民した者達には影響は及んでいない。
日本本国を守っている海の結界が、転移してきた日本人達に悪影響を与えているのではとベッセンは考えている。
日本人が転移後の世代に入れ替わる頃には、自分の生徒たちが指導者層になれると確信もあった。
最低でもあと10年、いや20年は必要だった。

「そうなると大陸の日本人達が邪魔だな。
まあ、今は出来ることも無いか。」

日本人達には海の結界の悪影響を秘密にしておきたいが、海棲亜人やエルフやドワーフが旧港区に大使館を構えて居住を始めた。
彼等も魔術に精通した者を連れて来ている筈だから、日本人にバレるのは時間の問題と言えた。
また、日本自体が魔術に関する知識を蓄積すれば、相対的に自分の価値も低下、弟子たちを増やすことも出来ない。

「今は余計な戦力の浪費だけは控えてくれるといいな。」

帝国の残党や日本を面白く思っていない貴族や教団、亜人達が日本の技術を学び、力を付けてくれるのがベストだ。
ベッセン自身は戦犯の汚名を着せられ、主君、地位、爵位、領地、一族、家臣、名誉、財産、自由全てを奪われた。
だが持って産まれた魔力と知識は残っている。
今は大人しく日本に従ってはいるが、何時かは全てを取り戻してみせる。
ベッセンの中の野望と復讐の炎は消えていなかった。
その為には時間が必要だった。
弟子達の教育や必要な栄養等を摂る時間以外はほぼ肉体を凍結させて寿命と若さを稼いでいる。
問題は他にもある。
弟子達の教育に人手が足りないのだ。
年長の弟子達が弟弟子達の教育を幾らか携わってくれるので、今はどうにかなっているが、そろそろ限界だとは感じていた。

「と、言うわけで優秀な魔術師で導士級の者をここに派遣してもらえいかな?」

相談を受けたベッセン担当の公安調査官の福沢は、眉を潜めて聞き返してくる。

「導士級じゃないとダメなのか?」
「もうすぐ二クラス分になりそうだしね。
年齢も修行期間もバラバラだから効率は良くないのは理解できるだろ?
それに私自身が自由に動けない身だから、スカウトに使える人材が欲しい。
導士級が欲しいのは、簡単に言うと魔術を使う為には肉体にある魔力の扉を開く必要があるんだ。
前に私が大月市の僧侶にやったようにね。
まあ、あの時はうっかり仏の力をこの世界に招いてしまったのは誤算だったけど。」

嬉しい誤算であった。
あれでこの日本人にも魔術が使えると、よいデモンストレーションになったし、弟子の増大にも繋がった。

「その扉を開くことが出来るのが、導士というわけさ。
まあ、30年くらいの修行が必要だけど。」

ベッセンは十年くらいだった。
代々宮廷魔術師の家系で貴族だったことが大きい。
一族の理解と蓄積された血統による才能と蓄積された知識による効率的な英才教育。
それらを可能とする資産と地位があったことが大きい。
通常は30年以上の修行をしてからなるものだから、老齢の者が多いのが実情だ。

「魔術師達が我々に非協力的なことは知ってるだろ。
それにそれだけの実力者達なら当然・・・」
「ああ、大半が灰になったろうね。
弟子達も含めて。」

導士やそれになれる実力のある者達は、そのほとんどが帝国の支援を受けていたので有事の際には宮廷魔術師団に召集される。
その閲兵式の最中に空襲を受けたのだ。
生き残っている者などはそれほどいないだろう。
期待できるのは、遠方や任務の為に閲兵式に参加していなかった者や独自の結社にいた者達だがどれほどいるかはさすがに把握出来ていない。

「エルフ達では駄目なのか?
彼等なら高い魔力と長い寿命で期待できるのでは無いか?」
「種族が違うと相性が悪くて危ないんだよね。
それに彼等は産まれながらに扉を開いてるから、その方面の修行はしてなかったりする。
ん〜、そうなると各教団の司祭長級の人間か・・・
まず地元を離れたがらないな。」
「総督府に一応は問い合わせてみる。
期待はしないでくれ。」

やはり10年、20年は待たないとダメだなと、ベッセンは落胆する気持ちを抑えられなかった。

949始末記:2018/03/22(木) 13:38:11 ID:7.L4Yce.O
東京市市ヶ谷
防衛省

旧東京都の住民が移動したあと、防衛省も施設の大拡充をおこなっていた。
寺社と警視庁第四方面本部以外の東京都新宿区市谷本村町全域にまで拡がっている。
その中には防衛大臣官邸も建築され、大臣のオフィスも官邸内に存在する。

「これが元子爵様の御要望かい?」

防衛大臣乃村利正は秘書の白戸昭美から、公安調査庁から届いたベッセンの報告書を読み漁っている。
日本政府はベッセンは有用だが危険人物と見ており、心理学者やプロファイラーなども動員して監視を怠っていない。
まだ、彼の弟子達にも後援者たる寺社を通じて紐付きにする計画も進行している。

「魔術には精通していても、我々のことを甘くみてもらっては困るな。」

監視者達の報告は、ベッセンに反抗の心と能力は決して衰えていないというものだった。
こちらもいつでも府中刑務所ごと破壊できるように戦闘機やミサイルも配備済みなのだ。
刑務所内にも公安調査庁の実働部隊が配備されているし、警視庁も調布や立川の機動隊並びにSATの任務にベッセン排除を加えている。
神奈川県警SAT1個小隊を全滅にしたベッセンの実力は決して低くは見積もっていない。
唯一の問題は、ベッセンが外部と連絡を取ることを防ぐ手段が無いことだった。

「総督府に奴の要望を聞かせよう。
なるべく裏切らない導士や司祭長をな。
単身赴任してくれる家族持ちが最適だ。」

白戸が頷くと、関係各所に送る書類の作成に取りかかる。
その間に乃村は他の報告書にも目を通す。
防衛装備庁からは、転移後の装備の一新が第9師団まで完了の報告書が来ている。
従来の第9師団の装備は老朽化されていない物が厳選されて第11師団に移管された。
今年は第10師団から第12師団に装備が引き渡される予定だ。

「第16師団は・・・、前線は消耗が激しいな。
高価な在日米軍の武器ではもう限界か。」
「現米軍も自衛隊と同じ装備に移管しつつあります。
安価で工場が完成したロシア系とは比べられません。」

大陸における日本の権益を守る主力であった第16師団の活躍の程が知れる話である。

「あと四年持ちこたえてくれれば自衛隊装備を回せるんだが・・・。」

そこに入室を知らせるインターホンが鳴り、白戸が受話器を手に話し出す。

「大臣、第17旅団長久田正志陸将補がおいでになりました。」
「通してくれ。」

久田陸将補は入室とともに敬礼をしつつ、着席を勧められて席に着く。

「久田陸将補、これは内示だが貴官が大陸に帰還後に三等陸将の辞令が総督府から発令される。
現在、訓練中の第17後方支援連隊とともに帰還して貰い、第17師団が正式に発足する。
今後の第17師団の展開予定を聞かせてくれ。」
「はい、現在王都を中心に展開している各普通科連隊を各分屯地の3領に移動、駐屯させます。
まずは南部アンフォニーに第17普通科連隊。
西部エジンバラに第34普通科連隊。
北部デルモントに第51普通科連隊。
各分屯地の分屯隊は各連隊に復帰させます。
また、王都ソフィアの駐屯地には、第17師団本隊並びに第17特科連隊、第17後方支援連隊が駐屯します。」

王国や貴族に対する布陣だが、同時に地球系同盟国や同盟都市に対抗する為のものだ。
特に建国宣言したばかりの華西民国や北サハリン共和国は警戒が必要だった。

「政府もようやく重い腰をあげて、海自の新造艦や空自のF-35の生産の予算が降りたばかりだ。
陸自がその恩恵に預かれるのはまだ数年先だが耐えてくれ。」

政府が重い腰を上げた理由はそれだけではない。
エルフ達からの情報により、今後も地球からの転移が有り得ることが否定できなくなったからだ。
しかもこの世界では一年でも地球では五年経過した対象の転移だ。
個人や小規模な転移ならいいが、国単位で未来技術を持ってくる対象が転移してきたらどうなるか?
答えは日本自身がこの世界に証明してみせてしまった。
多少はその差を補うべく、停滞させていた新兵器の開発に動き出したのだ。
久田陸将補が退出したあと、現在は第一師団の所属となっている第18普通科連隊の連隊長上田翔大一等陸佐が訪ねてきた。

「現在、我が連隊と各陸自部隊からの異動希望ならびに志願者のリストです。」

第18普通科連隊も現在の任地から二年後に大陸に進駐する。
トラブルを少なくする為に隊員の希望を聞いてやる為のリストだった。

「予想通りだな。
年内に大阪市の移民が開始されるから、それを見越した志願者が多いな。
まあ、こちらにも都合がよいから無理の無い範囲で配慮してくれたまえ。」

移民庁からの報告書によると、横浜市民による六浦市民の移民は6月後半に終了する見通しだった。
その後は、大阪市平野区、東淀川区の住民の移民をもって六浦市への移民が完了する。
そして、大阪市民が中心となる第4植民都市の移民が始まることになる。

950始末記:2018/03/22(木) 13:40:50 ID:7.L4Yce.O

「六浦の港も開港すれば、送り出せる移民の数も増える。
現地ではすでにインフラの工事も始まっている。
ゼネコンの連中は仕事が無くならないと左団扇だ。
羨ましい限りだ。」

都市建設や街道の整備、鉄道の敷設。
材木や鉱物による資源の採掘など、日本や地球系同盟国や都市の労働力だけでは人員を賄うことが出来ない。
住民にとって何より大事なことは食料の確保だ。
都市の外での活動にはあまり積極的ではないのが現実だ。
代わりの人材として、各領地から派遣された賦役の領民が動員されている。
王国や貴族に日本に対する敗戦賠償として年貢の半分や採掘された鉱物を差し出す政策が大陸全土で行われている。
最も輸送や保存の問題もあり、辺境の領土では、現金で日本の輸送ルート沿いの領地から作物を買い取り、支払うことも認められている。
問題は現金で支払うことも出来ない貴族達で、彼等は農村や町から余剰の労働力を賦役として差し出してきた。
奴隷扱いは流石に不味いと、最低賃金で雇用したが、大いに活用されることとなった。
労働力の低下は食料の生産やや鉱物の採掘に響くのではと懸念はされた。
しかし、農村や鉱山には日本の指導のもとに知識や技術の提供が施されて、生産量は寧ろ増加の傾向にある。
しかし、日本や華西によるインフラバブルが終われば大量の失業者が大陸に溢れることになる。
もちろん日本の支配領域からは、物理的に叩き出すのは大前提だ。
それ以前に遠方に『最後の餌』が用意されて釣りだす計画となっている。

「閣下、外務省からです。旧南米、中南米諸国18ヵ国が、アルベルト市への合流を決定しました。
日本人等の外国籍配偶者も含めて、約二万人。
スペイン語圏でほとんどがカトリック教徒という共通点を持っています。」

秘書の白戸の報告に乃村は口笛を吹いて答える。

「独立都市の建設はもう無いとみて諦めたか。
ここまで粘ってた連中にもこの風を感じてくれると助かるな。」

昨年の独立都市の建設を決める調整会議の惨憺たる有り様を浮かべて、乃村は肩を竦める。
ペルー人を主体とするアルベルト市の規模ならば二万人程度含めても新たな植民都市が造られる可能性はほぼ無いと言っていい。

「もう13年も立つのに定住先を得られなかった者達への草刈りが始まったな。」

951始末記:2018/03/22(木) 13:42:24 ID:7.L4Yce.O
では今回はここまで

952名無し三等陸士@F世界:2018/03/22(木) 22:54:26 ID:thaQ5bZk0
更新ありがとうございます。
市谷本村町全域に広がる防衛省のくだりに吹きましたw
でもそれくらい必要なんだなーと改めて納得

953名無し三等陸士@F世界:2018/04/15(日) 00:24:41 ID:7.L4Yce.O
>>952
あそこも移動が大変ですからね

桧町の頃より手狭な気がしてたんですよね

では投下

954始末記:2018/04/15(日) 00:26:16 ID:7.L4Yce.O
大陸北部
呂栄市
アキノビーチ

フィリピン系を中心とする呂栄市の郊外にある海岸、通称アキノビーチでは、呂栄軍警察隊と日本国自衛隊による合同演習が行われていた。
敵の対象が大型モンスターであり、呂栄軍警察が重火器をあまり持っていないことを前提とした演習だ。
呂栄軍警察のテクニカルやパトカーといった車両から、拳銃や小銃を発砲しながらモンスターを海岸に誘導する。
海上には沿岸警備隊の日本から供与されたパローラ級巡視船七番船『ケープ サン アグスティン』と八番船『カブラ』が待ち受けていて、JM61-RFS 20mm多銃身機銃の掃射で退治を完了する。
モンスター役は、海上自衛隊特別警備大隊隷下の水陸機動中隊であった。

「なかなか様になって来たじゃないか。
そろそろ人数も増えてきたし、陸自に戻った暁には駐屯地でも欲しいところだな。」

感慨深げに自らの部隊の連度を演習本部から語るのは陸自から海自に出向させられている長沼一等陸佐だった。
ようやく政府から水陸両用車の増産を受けて、原隊に戻れそうだと機嫌も良いのだ。
水陸両用車もAAV-7水陸両用強襲車の人員輸送型4両、指揮通信型1両、水陸両用車回収型1両に増え、国産試作車両と合わせて8両になった。
隊員も225名と大所帯になってきた。
転移前の計画と比べれば一割にも満たない人員だ。
先の海棲亜人との戦いで『叡智の甲羅』なる者を確保する突入作戦で高評価を受けたのも大きい。
長い年月を生きてきた海亀人数万年の歴史と技術の記録の保管庫らしい。
幾つかの者は機密扱いを受けて、在日米軍から返還された旧横須賀海軍施設内に密かに造られた研究所で保管、研究されてるという。
転移の謎についても解明されるか期待されている。

「そういえば連中と海保の共同調査が実行中だったな。
うまくいってるのかな・・・」



対馬海峡

海上保安庁と新たに日本と国交を結び、傘下に入った栄螺伯国は共同で、日本本土周辺海域の海洋結界の範囲調査が行われていた。
派遣された巡視船『やしま』のブリッジで、船長の河野は双眼鏡を片手に目標海域を視界に納めていた。
共同で作業に当たっていた『食材の使者の息子』号が掲げた鋏が摘まんだ旗を確認し、微妙な感覚を覚えつつ船員に指示を出す。

「『食材の使者の息子』号の調査が完了した。
ブイの設置の準備をせよ。」

ここが最後の調査対象だった。
地図にブイの設置場所を書き込み、定規で地球時代の地図と照らし合わせる。

「やはり地球の大陸陸地から26キロ地点までは海洋結界の効果範囲外となってるな。」

対馬はまだ大丈夫だが、高麗主要3島や北サハリン西海岸の旧間宮海峡沿岸の一部はほぼ効果範囲となることになる。
対馬までは約26キロまでは安全圏だがそれも何年保つかは今後の調査次第となるだろう。

「あとは我々の作業になります。
『食材の使者の息子』号には浮上航行の指示を。」

同乗していた大使館付き連絡官である栄螺の女騎士ミドーリ(日本名)が頷く。

「心得た。」

彼女がブリッジから甲板にでて、法螺貝を服出すと、『食材の使者の息子』号が浮上してくる。
ヤドカリ型水陸両用艦と日本では呼称される『食材の使者の息子』号は、先年日本の客船『いしかり』を襲撃した『食材の使者』号の子供であるらしい。
船体というか、身体や宿の栄螺殻も『食材の使者』号より一回り小さい。
栄螺伯国は巨大ヤドカリを艦船として利用しているが、遠洋での活動は向いていない。
『食材の使者の息子』号も大使館付きの艦として、小さいことを生かして途中から日本の艦船に牽引して貰ったくらいだ。
この対馬沖にもその低速ぶりから、海自や海保の艦船に牽引されて来たのだ。
栄螺伯国は、先年の襲撃と百済サミット襲撃事件の顛末を知り、日本とは対立よりも国交を結ぶことが得策とし、巻貝系諸部族を統一して使節団を派遣していた。
日本で捕虜になっていた女騎士ミドーリ(日本名)が両国の橋渡しになり、その地位と所領は安堵されることになった。
『いしかり襲撃事件』で日本側に死者が出なかったことは幸運と言えたろう。
栄螺伯国は旧オランダ大使館に居を構えて、活動を初めてこの共同調査に参加した。

「そういや、あの坊主の親御さんは今はどうしてるので?」

ミドーリ(日本名)はいったい誰のことが理解できなかったが、河野船長が『食材の使者の息子』号を指さす方を見て合点がいった。
『食材の使者の息子』号の親である『食材の使者』号は、護衛艦『いそゆき』の97式短魚雷を三発も食らって宿の貝殻部と鋏を破壊されている。
本体も衝撃で幾分か傷付いていた。
それでも本国まで辿り着いたのはたいしたものだった。

「本体が入れる殻がまだ育ってないので、現在は専用の入江で療養中です。」

955始末記:2018/04/15(日) 00:31:14 ID:7.L4Yce.O
艦船に対しての言葉とは思えないなと、話を振った自分のことを棚に上げて河野船長は考えていた。
設置されたブイは、海上保安署がある港を基準に設置されている。
一年後にもう一度を観測を行い、『海洋結界』の縮小範囲を調べることになっている。

「日本はこの世界に同化しつつあるか・・・
誰が言ったか知らないが、」



千島道
占守島

日本の北東端にあたるこの島でも、『海洋結界』の調査は行われていた。
この島には自衛隊の第308沿岸監視隊と海上保安庁の海上保安署、警察の交番が2ヵ所が置かれている。
民間人は漁師を中心として、500名程度しかいない。
この島の北側海岸に自衛隊と海保の隊員が調査、監視にあたっていたが、上陸してきた海亀人の重甲羅海兵達と目を合わせて困った顔をする。
彼等は等間隔に散らばり、上陸してきたのだ。
その範囲は広く、『海洋結界』がこの島では機能していないことを証明してしまった。

「上陸、出来てしまいましたな・・・」

海上保安署署長の言葉に第308沿岸監視隊隊長の的場三佐は二の句を継げないでいる。
日本本土で唯一の『海洋結界』の穴が見つかったのだから当然だろう。

「防衛省並びに北部方面隊総監部に報告。
択捉の第五師団司令部もだ。
海亀人の皆さんには申し訳ないが、島内の上陸可能範囲の報告を急がせてくれ。」

上陸可能な地域は、占守島の東側の沿岸全域に及んだ。

「範囲の広がりかたから、今年、去年の話じゃないな・・・
サミットの時に君らに見付からなくてよかったよ。」

的場三佐は海亀人の重甲羅亀海兵の隊長ドーロス・スタートにそう声を掛けるが、呆れたような反応をされた。

「こんな戦略的に無意味な島を制圧したって、あんたらの怒りを買うだけじゃないか。
見付けれなくてよかったよ。」

この占守島の片岡村にも700名ばかりの日本人が住んでいる。
安全が確保されていない以上、本土に島民を撤収させるかが問題となった。
夜になって、村長と村議会は避難せずの結論をだした。
今後はどこに逃げても『海洋結界』が狭まるのは明らかだ。
十三年の歳月を掛けて、開拓したこの島を離れる住民は誰もいなかったのだ。

「今後は周辺海域でのモンスターとの遭遇や上陸にも備えないといけない。
壁とまでは無理かも知れないが、金網で村を囲うくらいは検討しなければならないな。」

的場三佐の指摘に村長は溜め息を吐く。

「巣でも造られては堪りませんからな。
村かも監視の為の自警団から人をだしましょう。」

言われて気がついたが、確かに巣でも造られたら一大事だ。
しかも『海洋結界』の恩恵が陸地に及ばなくなって数年たっていると考えられる。
本当に巣は無いのか?
不安に狩られた的場三佐は、択捉島の第五師団司令部に応援を要請し、島中の探索を始めることとなる。



高麗国
珍島市
観梅島近海
国防警備隊太平洋三号型巡視船『太平洋9号』

『海洋結界』の加護が無くなった高麗国の主要三島だが、近隣の諸島ではまだ結界の加護は維持されていた。
そのうちの観梅島も同様で、リゾート地で知られた島も食料確保の為に漁港が拡充されて人口が増えた。
しかし、今年に入ってから若い男性の行方不明者が増えて問題となっていた。

「政府はブリタニカにタイド級給油艦『タイドレース』の納入に合わせてピリピリしている。
その矢先に行方不明者が拐われる瞬間が携帯カメラからだが撮影された。
敵の正体がこれだ。」

ブリーフィングルームで船長がスクリーンに映った存在を指差す。
頭と胸が人間の女性で、それ以外の部分が鳥というモンスターが、足の鉤爪で若い成人男性の胴体を掴み飛び去るところだった。

「ハルピュイア、通称ハーピーだ。
山岳地帯や海岸に住み着き、人を拐うことがあるそうだ。
理由はほとんど雌しか産まれない種族で、牡は稀にしかいない。
つまり生殖に他種族の男性を利用しているそうだ。
『海洋結界』によるモンスターの上陸は警戒していたが、その前にそらから侵入されたことに気がついてなかったわけだ。」

集まられた海兵隊員達は微妙な顔となる。

「女は拐われないので?」
「識者の話によると、雌が圧倒的に多いから間に合ってるそうだ。
ちなみに人間との言語的コミュニケーションは現在のところ不可能。
他の亜人のように王国との交流も無ければ、交渉出来るような文明的組織も見当たらない。
よって地球系同盟国並びに独立都市は、ハーピーを害獣として駆除することに決定した。」

識者ってなんだよ、という呟きは質問では無いので船長は無視する。

956始末記:2018/04/15(日) 00:35:20 ID:7.L4Yce.O
「奴等の巣は鳥島群島の加沙島と推定されている。
住民が800名ほどいて、危険に晒されていると考えられる。
念のために他の有人島も警備隊と自警団が現在も捜索を行っている。
諸君らは加沙島のハーピーの駆逐後、諸鳥島群島の無人島を一つ一つ捜索する為に召集された。
長丁場になるが、諸君等の健闘を期待する。」

鳥島群島が所属する珍島市の無人島は185に及ぶ。
それを海兵一個小隊で捜索しろというのだから、隊員達はうんざりとする顔を隠そうともしない。

「そう腐るな。
有人島の捜索が終わった警備隊もこれに加わるし、自衛隊の西部普通科連隊もこの作業に加わる。
そう長くはかからないさ。」

先程の長丁場発言と矛盾するが、船長としてはこう言うしかない。

「ハーピーどもが大陸から遠いこの地にどうやって渡ってきたのか、日本も興味を示してるからな。
それに現実問題として、国防警備隊はイカ共の攻撃から再建出来たとは言い難い。
背に腹は代えられないってな。」

ハーピーの巣の根絶自体は問題は無い。
加沙島の港から海兵隊が上陸すると、住民の避難活動が始まっていた。
海兵隊達は近隣まではバスで移動し、徒歩で巣になっていると思われる南部の金鉱跡に向かう。
夜目の効かず、眠りに入っているハーピー達にいちいち隠密行動は取らない。
最短距離で巣になっている南部の金鉱跡の洞窟に侵入する。

「臭いな・・・」
「アレの臭いか・・・
ガスマスクでも持って来るんだったな。」

壁にはペリッドで塗り固められた男達が気を失っている。
さらに地面には悪臭が漂うなか憔悴仕切った男達が複数倒れていた。
数人はすでに事切れている。
洞窟の中のハーピーは30匹近くいたが、色々と満足したのか多少の物音でも起きてこない。
藁で造られた鳥の巣のような物には卵が複数入っている。

「この数が繁殖されたら溜まらんな・・・」

遺体の回収は諦め生存者の救出を優先し、洞窟にC4プラスチック爆弾を仕込んで脱出する。
だが救出された男達の悪臭と物音にさすがに気がついたのか、森からも複数のハーピーが飛び上がってきた。
海兵達が小銃による射撃で急降下してくるハーピーを迎撃しながら海岸を目指す。
鳥目の為か狙いが甘く、ハーピー達は蜂の巣になっていく。
しかし、数が多く鉤爪に隊員や生存者が捉えられそうになるが、拳銃でハーピーを射殺して難を逃れる。
隊員達や要救助者がバスに乗り込むと、車体をハーピーの鉤爪が激しく叩いてくる。
バスを走らせ港まで来ると海上の『太平洋9号』による40mm連装機銃やブローニングM2重機関銃による援護射撃も始まり、上空のハーピーを餌食にしていく
乗員や島の警官達も小銃や拳銃で応戦する。

「待て、待て、ちょっと待て!?」

急降下してくるハーピーより、撃墜され墜落してくるハーピーの死体の方が危険となる一幕もあった。
十分な距離が取れたと、隊員の一人が洞窟のC4プラスチック爆弾の起爆用の無線スイッチを押すと洞窟が爆破された。
その爆発に呼応したように森や周辺の小島から無数のハーピーが空を覆った。
ハーピーは単体ではさほど強くはない。
危険を察知したとたんに群れで安全圏まで避難し始めたのだ。

「おいおい、何匹・・・
奴等どこに行く気だ?」

ハーピーの群れは『太平洋9号』からも進路が観測された。
進路は南。
日本しか有り得なかった。
その数は千を越えていた。

957始末記:2018/04/15(日) 00:36:45 ID:7.L4Yce.O
投下完了


>>953で名前書き忘れてた

958始末記:2018/05/03(木) 21:13:19 ID:7.L4Yce.O
では再び投下

959始末記:2018/05/03(木) 21:15:14 ID:7.L4Yce.O
北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ 』は、大陸から高麗に鉱石を運ぶ仕事に携わっていた。
と、言うのは表向きの話で、北サハリン船籍に偽装したチャールズ・L ・ホワイト元米軍中佐が強奪した船だった。
船長のナルコフは元ロシアマフィアで密輸に携わり、主要な船員達も指名手配犯ばかりだ。
その中には訓練を受けた帝国軍残党まで混じっていた。

「高麗に密かに運んでたハーピーの卵の孵化が予想より早かったな。
騒動を起こして、国防警備隊に嗅ぎ付けられた。」
「どうしやす?
この船も臨検を受けたら一発でバレますぜ。
中佐の魔法で眠らせていたハーピーが目を覚まし始めてますし。」

最初のうちは卵を運んで、高麗本国に大量発生させて混乱を狙う気だったが、卵が見つからなくなり、ハーピーそのものを輸送する羽目になっていた。
ナルコフ達船員は、モンスター避けの護符を、チャールズ中佐から貰っているがハーピー達はコンテナに閉じ込めて使わないようにしていた。

「とにかく中佐からの連絡を待て。
幸いハーピーの群れが日本の群れを引き付けてくれるから、まだ時間はあるさ。」




東京
市ヶ谷
防衛省
統合司令部

統合司令部は陸海空3自衛隊の運用を常時、一元的に指揮する目的で創設された。
元々は転移時の混乱を乗り切るための統合任務部隊司令部を常設化したものだ。
この統合司令部による指揮のもと、日本国は帝国との戦争に勝利するになる。
構想自体は転移前からあり、研究もされていたが、転移前との最大の違いは外征部隊や海外領土の派遣部隊の指揮も任されていることになる。
役割の増大から市ヶ谷の防衛省の拡大が求められ、新庁舎に居を構えることになった。
その統合司令部は、高麗国によるハーピーの群れの駆除失敗と、その群れが日本本土に向けて南下しているとの報告に大あらわになっていた。

「陸自、西部方面隊に防衛出動を指示。
第13、14、15師団にも駐屯地に隊員を召集させろ。
海自の報告はどうした!!」

統合司令の哀川一等陸将の怒号に、海自の担当者が資料を手渡してくる。

「駆除任務の増援の為に珍島に向かっていた第4護衛隊が間もなく群れと会敵します。
また、五島列島には佐世保から第12護衛隊。
壱岐島にも佐世保から第4掃海隊が防衛ラインを敷いて、駆除にあたります。
念のために呉からも第二護衛隊を派遣しました。」

人クラスの大きさで、時速80キロでの飛翔が確認されハーピーには、ミサイルの有効性が信用できない。
機銃や艦砲程度なら掃海隊でも務まるとの判断の派遣だった。

「また、第4護衛隊並びに同行の『くにさき』には、西普連が同乗しており、群れを引き付ける任務に任せます。」
「おう、それなら・・・唐津市方向に引き付けてくれ。
陸自の久留米の第4高射連隊と小倉の4普連を展開させる。」
「間に合うでしょうか?」
「間に合わせるんだ。
念願の79式の実戦経験も積ませれるしな。」

79式自走高射機関砲は、日本が帝国との勝利後に完成させた新型対空車両だ。
北サハリンのツングースカを参考に90口径35mm対空機関砲KDAを4門設置されている。
従来の地対空ミサイル中隊とは別に、増員されて創設された第3中隊の配備された。
名称には西暦が意味をなさないこの世界では、皇歴が採用されている。

「追い込んだら壱岐や五島列島の部隊も移動させて包囲し、殲滅させる。
また、包囲を待つまでなく殲滅できるならそれもよしだ。」
「空自の第6飛行隊のF-2六機が、ハーピーの群れの背後に回り込みました。
また観測の結果、ハーピーの数は2400に修正。」
「くそ、思ったより大いな。
高麗の連中はどこに目玉付けてたんだ。
ハーピーどもがどこから日本や高麗に飛来したのか、早急に調べる必要があるな。」

会敵の時刻が迫っていた。

960始末記:2018/05/03(木) 21:17:46 ID:7.L4Yce.O
福岡県福岡市
博多駅

小倉から到着した新幹線から、小倉駐屯地に所属する第4普通科連隊の隊員が降車して駆け出していく。
普通科隊員達を誘導している地元の地方連絡本部の隊員が叫ぶ。

「走れ!!
ハーピーどもは待ってくれないぞ!!」

博多駅の新幹線改札を抜けて、地下鉄のホームに向かっていく。
地下鉄に乗り込み、満員電車もかくやという段階になったら順次発車していく。
緊急の地下鉄は途中で地上に出て、ノンストップで西唐津駅に向かう。
ここからは、民間のバスが徴用されて唐津市沿岸に配備される予定である。
緊急事態であり、唐津市並びに糸島市には戒厳令が施行されている。
住民は沿岸部の住民は避難を、その他の住民は屋内での待機が命じられる。
また、両市内への交通も制限された。
海上でも海上保安庁の巡視船の『まつうら』、『いなさ』が警戒にあたり、神集島や姫島住民の避難に作業に従事している。
第4普通科連隊連隊長の鶴見一佐は、唐津城に司令部をおくことにする。

「あれだよな。
城って階段長いからやだよなあ・・・」

山城の山頂まで伸びる石段にうんざりした声をあげる。
西唐津駅からは部隊の展開を優先させる為に連隊司令部の隊員は徒歩で唐津城に向かう羽目になっていた。

「いえ連隊長、本丸まで行く直通エレベーターがありますのでそれで・・・」

幕僚の一人が気まずそうに指を指している。

「・・・こういうのは風情がどうかと思うよな。
さて、展開をいそがせろ。
間もなく会敵予想時刻だ。」

自衛隊だけでなく、福岡県警第12機動隊は糸島市に、佐賀県警機動隊やパトカーに乗った警官達も唐津市に集結している。

「ここに到着する前に殲滅してくれればなあ・・・」




海上自衛隊
第4護衛隊

ひゅうが型護衛艦『いせ』

飛行甲板に西部普通科連隊の隊員や『いせ』の立入検査隊員達が小銃を構えて待ち構えている。
『くにさき』の甲板でも同様の動きを見せている。

「来るぞ!!」

先行している護衛艦の『あけぼの』、『さざなみ』、『ふゆつき』の艦砲の発射音が響く。
これにCIWSの発射音もだ。
海面にハーピーが次々と落下していく影が見える。
だがハーピーの群れは次々と分離し、護衛艦にまとわりついて接近する。
各艦の立入検査隊や同乗する西普連の小銃や銃架に設置されたM2重機関銃も火を吹いている。
そちらの銃弾は自由自在に飛ぶハーピーに対して、あまり効果は上げられていない。

「殲滅戦とは厄介だな。」

ブリッジから双眼鏡で覗いていた艦長の窪塚一佐はため息を吐く。
人間大のモンスターが自由に飛行し、数百も同時に攻めてくると護衛艦でも対処が困難になってくる。
幸いハーピーの爪では、護衛艦の装甲に傷も付けれない。
ただひたすら鬱陶しいだけだ。

「艦を反転させ、唐津湾に誘導する。
弾薬が尽きるまではハーピーが追い付ける速度に留める。」

ただ『いせ』や『くにさき』の甲板には数百の男性隊員がその姿を見せている。
ハーピー達はその男達の姿や臭いに魅せられて押し寄せてくる。
『いせ』と『くにさき』のCIWSの発砲が始まり、甲板の隊員達もこれに加わる。
『くにさき』の場合、現地で使う予定だった車両を甲板に駐車しており、車内や銃架から発砲している隊員もいる。
こちらの銃弾の密度は、護衛艦の比では無く、ハーピー達が次々と海上に落下していく。
海上に落下したハーピー達は、『海上結界』の餌食となっているのか、息のある者も暴れ狂い浮かんで来なくなる。

「艦長、『あけぼの』から小銃弾が尽きたと連絡が。」

『いせ』や『くにさき』ならともかく、通常の護衛艦に分乗しただけの西普連の隊員は、持ち込み分以上の弾薬は持っていない。
海上で戦うなど想定しないからだ。
それでも現在の海上自衛隊の艦艇は乗員数分の拳銃は支給されている。
それを借り受けて抵抗は続いているが、それも時間の問題だろう。

「『さざなみ』から報告、近接を許したハーピーが歌のようなものを発し、それを聞いた隊員や乗員が放心状態で動かなくなる事態が発生!!」
「歌だと?」

『くにさき』や『いせ』では銃声が鳴りやまずに全く聞こえない。
それでも海面スレスレから急上昇して、接近してきたハーピーの一部が同様に歌を歌い、隊員が戦闘不能になる事態が相次いだ。
戦闘不能になった隊員や乗員は艦内に引きずり込んで保護する。
それでも装甲が薄い区画では、歌が聞こえてしまい艦内で放心状態となる者が続出した。

「全スピーカーで何でもいいから派手な音楽を最大音量で鳴らせ!!」

『いせ』の艦内に『軍艦マーチ』が鳴り響き、『くにさき』ではメタルバンドの派手な曲が流れ始める。
後続の『あけぼの』がアニソン、『ふゆつき』がアイドルソングを流している。

961始末記:2018/05/03(木) 21:22:26 ID:7.L4Yce.O
だが『さざなみ』は何も流さないどころか、速度が低下していた。
その『さざなみ』には無数のハーピーがまとわりつき、大合唱の形をなしている。

「『さざなみ』のブリッジ並びにCIC沈黙・・・
『ふゆつき』が救助に残ると。」
このままでは囮の役が果たせない。
焦燥に刈られるブリッジだが、爆音が彼等の士気を取り戻す。

「空自です!!
空自の第6飛行隊がハーピーに攻撃を開始しました。」

第6飛行隊のFー2戦闘機6機が、『さざなみ』の周囲のハーピーを機銃で掃射していく。

「当艦も速度を落とし、歌の壁を『さざなみ』に張る。

「神集島を通過!!

ハーピー達が離れていきます。」

ハーピー達も羽を休める必要があるのか、艦隊から離れていきます姫島、鳥島、神集島、高島などに集まっていく。
海上保安庁の巡視船『まつうら』か神集島、『いなさ』が姫島近海で警戒にあたっており、両船も無数のハーピーに発砲を開始している。
唐津湾にいた自衛官や警察官も各地で発砲している。

「九州本島に渡ろうとする奴を優先して叩け!!」



唐津市唐津城
第4普通科連隊臨時司令部

「沿岸部で散発的な駆除作業は行われましたが、概ね九州本島へのハーピーの到達は阻止できました。
駆除作業の際に歌を聴かされて行動不能になった隊員が48名。
占拠された鳥島、高島は避難が終了しており、第4並びに第12戦隊が唐津湾を塞ぐ形で展開。
但し、護衛艦『さざなみ』は乗員並びに同乗した西普連の隊員30名が放心状態で戦闘不能と判断されて市内の病院に搬送されました。
残ったハーピーは500足らずと想定されます。」

幕僚の木村三佐の報告に、連隊長の鶴見一佐は渋い顔をする。

「接近戦はやばいか。」
「王国大使館に問い合わせたところ、歌の効果範囲は概ね半径50メートル。
夜は歌わない傾向があるようです。」

鶴見一佐は考え込む顔をして夜襲を検討している。

「西普連に夜襲を要請しよう。
うちの隊員はまだ無理だ。」

新型の装備は与えられたが、現在の普通科隊員の練度では夜襲を任せるには不安があった。
自衛隊は転移後に失業対策と帝国との戦争、占領統治に合わせて増員を掛けていた。
実戦経験のあった隊員は必然的に昇進し、アウストラリス大陸に派遣された第16師団や第17師団や西方大陸アガリアレプト派遣され、旅団化された第1空挺旅団、富士教導旅団、第1特科旅団、第1高射旅団等に配属された。
本国の普通科隊員達の大半がその後に入隊したものだ。

「ここは我々の庭です。
レンジャーの資格保有者を集めて参加させましょう。」

連隊の面子は何者にも代えがたい。

「それにしても歌だと?
資料には無かったな。」

自衛隊は交戦したモンスターをライブラリー化し、日本の保有するファンタジーモンスターの知識を注釈として書き込んでいた。

「どうやらセイレーンの知識と混在化していたようです。
もともとセイレーンも古代ギリシャでは半人半鳥だったのですが、中世ヨーロッパでは、人魚のような半人半魚の怪物として記述されています。」
「ヨーロッパの連中も適当だな。
この世界ではセイレーンとハーピーは同種と考えるべきか。」

放心状態になったことにより転倒し、負傷した乗員も多い。
死者が出なかったのは奇跡だといえる。

「連隊からも夜襲が出来る者を中隊規模で選抜し・・・歌?
しまった!!」

それは鳥島や高島に集まったハーピー達の大合唱だった。
夜になる前にまわりの生物を眠らせて安全を保つためだ。
その歌は風になり、沿岸部で警戒にあたっていた隊員や夜襲の為に待機していた西普連・・・
そして、唐津城で監視に当たっていた隊員と司令部の幕僚達が次々と倒れていく。
鶴見一佐は咄嗟に手のひらで耳を塞ぐが、城内で無事だった隊員はほとんどいない。

「合唱か・・・、くそ、甘く見てた・・・」




東京
市ヶ谷
統合司令部

唐津の惨状の報告に、哀川陸将は頭を抱え込んでいた。

「それで・・・、損害は。」
「第4普通科連隊の隊員450名。
西部普通科連隊900名が戦闘不能に陥り、夜襲は中止になりました。
また、四名ほどの隊員が倒れた際の打ち所が悪かったり、海に転落するなどして殉職しました。
現在も放心状態の隊員の回収作業が行われています。
海保の巡視船も2隻とも行動不能と報告が来ています。」

ハーピーは夜になって動きを止めた。
本来ならここで夜襲を用いて叩いておきたかった。
神集島や姫島は島民こそ避難しているが集落もあり、民間資産の破壊を恐れた政府によって、空爆や艦砲による攻撃を禁じられたのが仇となった。

962始末記:2018/05/03(木) 21:23:53 ID:7.L4Yce.O
「放心状態の隊員の容態は?」
「王国大使館に問い合わせたところ、大陸の冒険者なら強い刺激を与えればすぐに目覚めたそうですが、我々のように半日も状態異常が続くことは無かったそうです。」

最近では当たり前のように受け入れられようになった『地球人は魔法に対する耐性が無い』という説がある。
哀川陸将も半信半疑に聞いていたが認めざるを得なかった。


「規模は小さくなったが、夜襲はまだ有効な手のはずだ。
いや、いまやらねば被害は拡大する。
残存の隊員に回収作業が一段落したら夜襲を強行させろ。」

大分や長崎からも部隊を呼びよせているが、4普連と違い準備万端の車両移動なので間に合いそうにない。
西普連と四普連の800名余りの隊員を両島に上陸させることが決定した。
但し、政府から追加された要望書からは手榴弾や摘弾の使用も制限が書き加えられていた。

963始末記:2018/05/03(木) 21:24:35 ID:7.L4Yce.O
では今回はここまで

964始末記:2018/05/15(火) 22:05:17 ID:7.L4Yce.O
では投稿

965始末記:2018/05/15(火) 22:08:42 ID:7.L4Yce.O
佐賀県
唐津市鳥島

陸上自衛隊第4普通科連隊第3中隊の隊員が、手漕ぎのキス釣りボートを徴用して、この無人島に上陸する。
水谷三曹は三人掛かりで、ボートを海岸に引き上げる作業を行っていた。
徴用した品なので、なるべく無事に返却しなければならない。

「疲れた・・」

佐賀県ヨットハーバーから約一キロ程度の距離だが、4普連の隊員達は二人乗りや三人乗りのボートで海上を走破したのだ。
中には慣れないカヤックで島に渡った猛者もいる。
平時はボートやカヤックで渡る客も普通にいるそうだが、隊員達は寝不足と疲労で困憊していのが災いした。
ただでさえ昨日は、早朝に小倉から唐津に駆けつけ、昼間は唐津湾の避難誘導、警戒と散発的な駆除作業に駆り出された。
ようやく交代して休めると思ったら、ハーピーの歌声で放心状態となった隊員の回収作業にと叩き起こされた。
鍛えぬかれた隊員と装備は本当に重かった。
それも一段落する頃には日付が変わっていた。
そして、そのまま徴用した手漕ぎボートで海上一キロの距離を渡り切れと命令されたのだ。
文句の一つも言いたくなるだろう。
すでに鳥島にはヨットの心得がある隊員によって、操作されたヨットに乗船してきた隊員が警戒にあたっている。
小隊長の加山二尉が、こちらに静かにしろというハンドサインを送ってくることには多少ムカつく。
先行した隊員は80式小銃に着剣した銃剣やナイフ、個人購入した刀剣で、眠りについているハーピを一匹一匹、刺突して始末している。
89式小銃の後継80式小銃は、カービン型ライフルに変更したことにより銃身の短縮並びに軽量化を達成した。
また、想定する敵が人間だけでなく、モンスターが追加されたことによる3点バーストの廃止も盛り込まれている。
個人購入の刀剣は大陸では自由に購入、携帯できる。
しかし、『海洋結界』に囲まれた日本本国では緩和されたとはいえ、まだまだ厳しい条件の元でしか許されていない。
自衛隊や警察などの武官では購入が奨励されるどころか、制式装備として採用しようかとの動きまであるくらいだ。
その任務に刃物は最適な獲物だった。
ハーピーが眠っている間に可能な限り始末する。
大抵のハーピーは樹木に寄り添って寝ていた。
隊員達には疲労と寝不足、そして夜の闇があるのが幸だ。
モンスターとはいえ、人の顔をした生き物を殺すのだ。
そのことに想いを馳せる余裕も無く、躊躇いや罪悪感も見せずに機械的にハーピーを駆除してまわっていた。
もちろんハーピーが飛び立っても、対岸の79式自走高射機関砲が唐津神社、全農唐津石油工場、唐津ヨットハーバーの駐車場に一両ずつ陣取り待ち構えている。
高島にも島を囲うように、東の浜海水浴場、虹の松原に79式自走高射機関砲が置かれている。
鳥島も高島も79式自走高射機関砲の射程距離内だ。
鳥島は無人島なので、ロクに家屋も無く、地面に巣を作ろうとしていたハーピーの駆除は、思いのはか順調に進んでいった。



唐津市
高島

高島は宝くじ関連の島興しに成功した島で、唐津港と陸続きの大島から西に約1.5キロ程度の距離にある。
西部普通科連隊は本来なら夜明け前に各島に上陸して、圧倒的隊員数によって、ハーピーどもを殲滅する筈だった。
その為に海岸で船舶を徴用したり、港や海岸で船舶が着岸するのを待機させていたのが災いした。
ハーピーの歌の効果で半数以上の隊員が放心状態に陥るのは、とんだ失態であった。
唯一無事だった中隊長の窪塚一尉の指揮のもと、FRP製のカッター型短艇で隊員達がオールを使って島に上陸した。
島の北部は山になっており、民家はは南部の海岸沿いに集まっている。
ハーピー達は集落が避難が済んで無人となっていた集落の建物に巣を造りだしていた。
人口400人程度の集落があり、ハーピーはそれらの建物瓦屋根で眠りに付いている。
よって西部普通科連隊の猛者達は、いちいち梯子で屋根に登ってハーピーを仕留めないといけないという難事に遭遇していた。

「参ったな、梯子が足りないぞ。」

ボートに可能な限りの隊員を乗せる為に不必要だと思われた装備はあまり持ち込んでいない。
今なら一網打尽に出来るのだが、重火器の使用は禁じられ、小銃では狙いにくい場所だった。
家屋を破壊するのも避けたい事態だった。
何より銃声で起きられて、空に逃げられるのは避けたいところだ。
どのみち今の隊員には実戦で発砲したことがある者は少ない。
それは精鋭足る西普連ともいえど同様だった。
梯子を使わずに登ろうとして、物音で起きられて逃げられる事態が幾つか発生した。
ようやく梯子がまわってきて、よじ登る隊員は屋根の上でまだ起きていたハーピーと目が合ってしまった。

「 キェェェェェェェェェ〜〜 」

猿叫のような叫び声を上げられて隊員は硬直する。
周辺家屋にいたハーピー達は一斉に目を覚まして、目についた西普連の隊員に襲いかかる。

966始末記:2018/05/15(火) 22:13:51 ID:7.L4Yce.O
梯子を昇る途中だった隊員は、梯子を倒されて地面に落ちていく。
屋根でハーピーを刺突していた隊員も他のハーピーが飛来して体当たりを食らい屋根から叩き落とされる。
窪塚一尉はもはやここまでと発砲を許可した。

「飛び上がったハーピーに発砲を許可する。
負傷者は小学校に運べ!!」

真っ先に発砲を始めたのはやはり大陸帰りの隊員達だった。
許可さえ下りれば彼等に躊躇いは無い。
彼等に触発されて、初めての実戦を経験する隊員も射ち始める。
窪塚一尉も89式小銃を撃ちながら負傷して後送される隊員を援護する。
西部普通科連隊は第4普通科連隊と違って、転移後の新装備はあまり配備されてない。
しかし、使いなれた銃器の方に隊員は信頼を置いていた。
ハーピーの数は決して多くはない。
銃弾が使用できれば、西普連の敵ではなかった。



唐津城
第4普通科連隊臨時司令部

「鳥島の駆除が完了との報告がありました。」
「第4中隊が神集島にて、少数のハーピーを確認、交戦中!!」
「湾岸防衛の第5中隊も三ヶ所でハーピーを確認。
追跡の上、駆除します。」
「79AW、発砲開始!!」

壊滅した第1・2中隊から無事だった者を集めて再編した司令部はどうにか機能を回復した。
湾岸の防衛には久留米から呼び寄せた教育隊まで動員してカバーしている。
連隊長の鶴見一佐は予備の第6中隊も動員するか考えていた。

「高島の西普連はどうか?」
「負傷者を出しつつも順調とのことです。」

島からは銃声も聞こえる。

「刃物だけではやはり片付かんかったか。」

その銃声も少なくなってくる。
唐津における殲滅はうまくいきそうだった。

「姫島の方に福岡県警SAT一個小隊が、警備艇三隻で突入。
あちらはしょっぱなから、銃器を使用している模様です。」
「長年、暴力団相手にしる連中は違うな。
他のSATでもあそこまで思いきりはよくあるまい。」

福岡市や北九州市に配備されていた分隊を集めた部隊だ。
姫島は福岡県に属するのでかき集められた。
他の戦闘となった3島に比べれば姫島は遠隔にあるが、そのぶんハーピーの数も少ない。
県警警備艇『げんかい』、『ほうまん』、『こうとう』の3隻に分乗した。
エンジン音に気がついたハーピー達が殺到するが、船上から発砲しつつ排除しながら桟橋に停泊して上陸した。
各県警警備艇も自衛隊から供与された89式小銃を銃架に設置して発砲している。
その後は隠れ潜むハーピーの掃討にあたっている。

歌による放心や鉤爪による負傷者は増えたが、唐津・糸島におけるハーピーの掃討は概ね夜明けまでには完了した。
鳥目だったハーピーは夜間での行動範囲が狭かったせいもある。


だが夜明けと同時に平戸市から救援要請が届くことになる。




市ヶ谷
防衛省統合司令部

ようやく唐津、糸島のハーピー殲滅に成功したと思ったら今度は平戸からの救援要請である。
徹夜で事務処理や増援の調整を行っていた統合司令の哀川陸将は不機嫌な声を隠そうともせずに問いただす。

「どういうことだ?」
「はっ、平戸市田助町の港に夜明けとともに旧イラン船籍の大型貨物船が田助港の桟橋に激突するよに停船。
船内から大量のハーピーが田助港を襲撃し、多くの住民が被害にあっています。」

旧イラン船籍の船は独立の決まらないイラン人船長が大陸に放置して逃亡したものということが判明した。
何者かがわざわざ日本まで航行してきたようだが、そこは貨物船を制圧して調べてみないとわからない。

「現地の動きですが、鏡川駐在所の警官が発砲するも数匹倒すのが限界と、近くの中学校に住民を避難させながら増援を要請。
平戸警察署は全署員に出動を命じますが、70名程度の署員ではカバーしきれないとの報告が来ています。
また、平戸城並びに城下の高校に住民が避難しています。
平戸港の防衛は平戸海上保安署と巡視艇『かいとう』があたります。」

すでにハーピーの動きは平戸島全域に拡がる下手に避難するより、家屋の中で籠城した方が安全と思われた。

「長崎県警は近隣の警察署にも出動を命じました。
また、県警機動隊とSATも現地に向かっています。」

残念ながら県警主力の車両では三時間以上も掛かると見られ、即戦力としては期待できそうもなかった。
幕僚達の報告に、哀川陸将は自衛隊各部隊に命令を下す。

「佐世保の相浦駐屯地の部隊は動けるか?」
「駄目です。
現在は呂栄との合同演習の為に大陸にいます。」

他の長崎県内の陸自部隊は何れも遠く、疲弊した唐津から送り込んだ方が早いくらいだった。

「それでも事後処理には必要になる。
大村の21普連に向かわせろ。
第4施設大隊もだ。
佐世保の特別警備隊と護衛隊も向かわせろ。」

967始末記:2018/05/15(火) 22:15:14 ID:7.L4Yce.O
佐世保の特別警備隊は、呉にあった特別警備隊を元に転移後に創設された。
同様に横須賀、舞鶴、那覇にも創設され、規模は各々中隊規模の200名となっている。
もともとは転移により創設が見送られた水陸機動団の訓練が施された隊員達が中核になっている。

「佐世保の第4護衛隊は唐津に、第12護衛隊は五島列島にいます。
両護衛隊が平戸に向かってますが、佐世保に残った第8護衛隊は整備中ですのは第4ミサイル艇隊しかいません。
傭船契約を結んだ民間フェリー『かもづる』がいますので、特別警備隊の輸送を委託するのが妥当だと思います。」

『かもづる』は防衛省が傭船契約を結んだ高速民間フェリーである。
民間フェリーとしては破格の30ノットの船足を有し、定員500名、トラック120両、乗用車80両と、おおすみ型輸送艦を上回る車両輸送力がある。

「よし第4ミサイル艇隊に護衛させて、平戸港に向かわせろ。」



平戸市

鏡川駐在所の警察官佐藤巡査部長は、避難をさせていた住民とともに田助港の郵便局に立て籠っていた。
すでに拳銃の弾丸は尽きており、警棒でハーピーを殴り付けて奮戦している。

「お巡りさん、バリケードが限界だ。
他のお巡りさんはまだこれないのか?」

たまたま巡回中に自転車で港をまわっていた為に騒動に巻き込まれた。
突然桟橋に貨物船が激突したかと思うと、中から大量のハーピーが貨物船から現れたのだ。
港の漁船は朝早くから出払っており、男手はほとんどいなかった。
「駐在所の連中は小学校の方に防衛線を張ってるらしい。
署の連中はコンビニの所まで来たらしい。
せめてパトカーで来てればなあ・・・」

パトカーにはショットガンが積んであった。
双方から激しい銃声がしていたが今は途切れている。
平戸警察署には1200発の銃弾が保有している。
田舎の警察署でこれだから、全国の警察署に支給された弾丸の数は計り知れない。
銃器メーカーの高笑いが聞こえるようだった。
無線機ではそこまで話して貰えなかったが、それでもハーピーがここを襲い続けてるということは、それが途切れたということだろう。
郵便局の窓を塞いでた机が弾け飛び、ハーピーが侵入してこようとする。
立て籠っていた女子供が棒切れで殴り付けるが、その後ろにいたハーピーの歌により数人が放心状態となって侵入を許した。



平戸警察署

田助町の救出に向かわせた警官隊からは、銃弾の欠乏が報告されている。
署長の田所はさすがに連絡役として婦警達と署内に残っていた。
男性警官は総出で田助町の救出に向かっている。

「江迎警察署の警官隊が平戸大橋で避難する市民と襲撃してきたハーピーと交戦状態に入って阻まれています。」
「くそ、そっちもか」

平戸港でも海保の署員や巡視艇の発砲が聞こえる。
まだ、数はそんなに多くなく、消防団や青年団も斧や博物館の刀や槍を奮って町の各所で抵抗を続けている。

「まったく、いったい何匹いるんだあの化け物は!!」



北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

ナルコフ船長は船を大陸に向けて、帰還の途に着いていた。
大陸の同志達が航行してきた貨物船は、大陸の海岸に座礁していたものを回収したものだった。
貨物船にもコンテナに大量のハーピーの卵が積載されていた。
『ナジェージダ・アリルーエワ』に積載されていた分も積載し、無人にしてから日本本土に向けて、自動操縦で解き放った。
ラジオからの情報では平戸市の港に激突したらしい。

「無人地帯ならもう少し繁殖の時間が稼げたんだかな。」

唐津市では自衛隊を手こずらせたようだが、対策も研究されただろう。
もともとはスタンピードで全滅した村で、冒険者が発見した大量の卵を奪い取ったのが始まりだった。
地道に高麗まで運ぶと勝手に増殖していた。
今回の2隻で追加した卵は900にも及び、田助港に突入させた時には半数近くが孵化していた。
このまま日本を脅かすよう土着してくれれば幸いと考えられていた。

「まあ、せいぜい日本を引っ掻き回してくれれば十分だよな。」

最後のコンテナにはお土産も置いてある。
そいつの奮戦に期待すこと大であった。

968始末記:2018/05/15(火) 22:15:41 ID:7.L4Yce.O
では終了

969始末記:2018/05/27(日) 12:44:08 ID:7.L4Yce.O
では今週も投稿します

970始末記:2018/05/27(日) 12:44:39 ID:7.L4Yce.O
長崎県
平戸市田助港

轟音をあげながら海上自衛隊のミサイル艇『しらたか』が港内に侵入する。

「目標の貨物船を視認!!」

双眼鏡で確認する艇長の角田一尉は、ハーピーが溢れでてくる貨物船の甲板に積載されたコンテナや船内の扉から出てくるハーピーの姿を捉えていた。

「主砲はコンテナを狙え。
SSMは燃料タンクをだ。
この近距離で外したならおお恥だぞ。」

命令通りに主砲が旋回し、発砲を開始する。
まだ、船内には無数のハーピーが残っていると思われ、その発生源だけでも叩こうという作戦だ。

「SSM発射、準備完了!!」
「一番、二番、撃て!!」

発射された2発の90式艦対艦誘導弾が貨物船の横っ腹に命中する。
すでに『しらたか』の主砲の連射を浴びて、甲板を炎上させていた貨物船は内部からの爆発により三つに割れて沈み始めた。
廃棄直前に見える貨物船にはひとたまりもなかっただろう。
まだ卵だったり、生まれたてで飛ぶのもおぼつかない幼体。
幼体に餌を持ってきていた成体が炎と海水に飲み込まれて息絶えていく。
任務を終えた『しらたか』だが、港の各所を飛ぶ回るハーピーに備え付けの12.7mm単装機銃M2 2基が火を吹いた。

「露払いは済んだと後続船団に連絡!!」



防衛フェリー『かもづる』が、海自のミサイル艇『おおたか』に先導されて、田助港に入港してくる。
どの船舶も『歌』対策にスピーカーから大音量で、景気のよい音楽を流しながらの入港である。
ハーピー達がそれらの艦艇に殺到するが、船内各所から89式小銃を発砲する佐世保基地特別警備隊の隊員に打ち払われる。
『かもづる』の両脇には巡視船『あまみ』、『ちくご』が固め、多銃身機銃を唸らせている。
田助港の桟橋に停船した『かもづる』の船体右舷のサイドランプが展開し、特別警備隊の隊員が小銃を構えながら飛び出していく。
隊員達を目敏く見つけたハーピー達は彼等に襲いかかるが、互いの死角をカバーしあった特別警備隊隊員達に返り討ちにあう。
彼等が目指すのは港からも見える小さな建物。
この漁港で唯一のハーピー達が群がる郵便局だ。
ハーピー達を追い散らし、先頭切って突入した田口一等陸曹が見たのは警察官の制服を着た無惨な遺体であった。
最後まで抵抗したであろう手には警棒が握りしめられたままだった。
鉤爪で切り裂かれ、貪り食われたのが伺い知れる。
他にも数人の局員や老人や女性の遺体が発見された。
殉職した佐藤巡査部長に手を合わせていた田口一曹は、微かな物音や声がしたのを聞き逃さなかった。
郵便局のロッカーや金庫に押し込められていた子供達だ。

「生存者発見!!」

遺体に毛布を被せ、子供達には見せないように外に連れ出していく。

「お爺ちゃんは?
お巡りさんもいないよ・・・」

子供達の疑問を田口一曹は答えることが出来ない。
急かしながら『かもづる』から降ろされた73式中型トラックに乗せていく。
同時にすれ違っていく、73式中型トラックと軽装甲機動車、高機動車が一両ずつ、郵便局から一キロほど離れた小学校に向かう。
小学校には田助町の住民が避難しており、佐藤巡査部長の所属していた駐在所の警官達が自警団と総出で防衛に徹している。
特別警備隊一個小隊もいれば簡単に蹴散らせるはずだ。
郵便局を制圧した第1小隊は、そのまま港周辺で逃げ遅れた住民の救助やハーピーの掃討を命じられた。
その3分後には銃声が聞こえ始め、十分後には散発的にしか聞こえなくなった。

「第二小隊が小学校の救援に成功したそうだが・・・
駐在所の警官達は小学校の正門でバリケードを張って、玉砕したそうだ。
民間人に死者はいない。」

同僚の隊員から聞いた報告に田口一曹は、舌打ちを禁じ得なかった。
民間人は防火扉や頑丈な体育館の用具室等の内部に立て籠って難を逃れたらしかった。


平戸市
国道153号
供養川防衛線

一方、一時は田助町近郊まで進出した平戸警察署の警官隊は、防衛線を供養川バス停まで下げざるを得なかった。
パトカーによる大音量のサイレン音と惜しみ無くバラ蒔かれた銃弾により、殉職者こそいないが負傷者を多数出していた。

971名無し三等陸士@F世界:2018/05/27(日) 12:48:36 ID:7.L4Yce.O
戦えない負傷者はパトカーの後部座席に放り込まれ、後退しながら残った銃弾を叩き込んでいく。
銃弾は少なく、前進することは出来ない。
しかし、警官達の士気は高い。
すでに無線機から田助港に自衛隊が上陸したことは伝わっている。
ここを凌げば攻勢に出れる。
パトカーの周辺では警棒や警戒杖による白兵戦に押し込まれている。
急降下するハーピーに、平戸では盛んな心形刀流の使い手で、剣道4段の生活安全課の警部が横合いから警棒で殴り付ける。
また、別の年配で身体が軽い総務課の警部補が鉤爪に肩を掴まれる。
防刃チョッキにより、鉤爪が肉体に刺さることは避けられた。
しかし、ハーピーは警部補をそのまま空中に連れ去ろうした。
パトカーの屋根からジャンプした防犯課の若い巡査がハーピーに飛び掛かり、諸ともに地面に落ちていく。
負傷者をパトカーに放り込んだ少年課の巡査部長は、低空飛行で突入してきたハーピーをパトカーの後部座席のドアパンチで弾き飛ばした後に、弾の切れた散弾銃で殴り付ける。
負傷して地面に倒れていた交通課の巡査長が助走を付けて飛び立とうとするハーピーの足に手錠を掛けて、転ばして柔道の寝技を掛けていく。
署員達の奮戦ぶりに、指揮を執っていた副署長は頭が下がる思いだった。
副署長も折れた警戒杖を捨てて、警棒に持ち変える。
しかし、空中から様子を伺っていたハーピー達が突然の銃声と共に次々と地面に落ちていった。

「援軍だ!!」

副署長は声を張り上げるが、サイレンの音で署員達には聞こえない。
それでもみるみる減っていくハーピーの様子に歓喜の声を張り上げている。
海上自衛隊佐世保基地特別警備隊第3小隊は、ハーピーを蹴散らしながら警官隊の救助を始めた。

「衛生班をまわしてくれ、負傷者多数!!」




佐世保基地特別警備隊の司令部小隊は、田助港に停泊していた防衛フェリー『かもづる』内部に置かれていた。

「不謹慎な話ですが、ハーピー達が人間に狙いを定めていたおかげで、森の中に隠れたり、その上空を迂回する行動を余り取っていません。
おかげで集中的に掃討が可能となりました。」
「それ公の場では言うなよ?
民間人にも死者が出てるんだから。」

佐世保基地特別警備隊隊長の金杉三佐は部下の発言嗜めながら机の上の地図に目を通す。

「第二小隊は小学校を拠点に大久保町北部の掃討にあたれ。
第3小隊は供養川防衛線を中心に大久保町南部が担当だ。
第4小隊は平戸港に向かわせろ。」

避難民は『かもづる』に運ばれてくる。
負傷者も多く、特別警備隊の衛生科の隊員だけでは足りない。
市内の医療関係者の安全を確保しつつ、動員する必要があった。

「長崎県警からです。
警備艇『ゆみはり』、『はやて』、『むらさめ』の三隻が県警SATを乗せて、間もなく平戸大橋を通過すると・・・」

こちらと足並みを揃えて欲しかったが貴重な戦力には違いない。
海保の巡視船にはハゲ島等の近隣の島の探索にあたってもらっている。

「平戸大橋も交戦中だったな。
そちらを任せよう。」



平戸大橋防衛線

平戸大橋は同市の中心市街地がある平戸島と九州本土を繋ぐ全長 665mの橋である。
この大橋には避難民が放置した車両が大量に駐車されており、援軍に駆けつけた江迎警察署の警官隊の行く手を阻んでいた。
そして、逃げる避難民を追ってハーピーが飛来してくる。

「構え・・・、撃て!!」

放置された車両を盾に、警官達は一斉に拳銃と散弾銃を発砲する。。
弾倉が空になるまで撃つが、数匹のハーピーが落すのみだ。
空を飛ぶ敵に拳銃では効果が薄い。
なお数十匹のハーピーが、橋の上空と下から襲い掛かってくる。
橋の下部からの敵には対処が難しい。
しかし、佐世保から派遣された県警警備艇3隻が平戸大橋の下を通過する。
警備艇に分乗した県警SATが、橋の下を通過しながら一斉に小銃による射撃を敢行する。
県警SATは分隊規模の10人しかいないが、正確な射撃で半数以上のハーピーが海に落ちていく。
たまらず橋の上に逃げて姿を見せたハーピーは江迎署の警官隊の銃弾の餌食になる。

「このまま平戸港に向かう!!」
県警SAT隊長宮迫警部の指示に、『ゆみはり』艇長が聞き返す。

「大橋の化け物はいいのか?」
「後続の機動隊や陸自の部隊も直に来るから問題はない。」

宮迫警部は平戸港の陥落は心配してはいなかった。
平戸港の南部を占める岩の上町は、平戸警察署、平戸海上保安署、平戸消防署、平戸市役所という平戸市の主要機関が置かれている。
それぞれの署は散発的なハーピーの攻撃なら十分に対処出来る。
岩の上町の住民はそれらの署の南に位置する平戸城に避難している。
港の北側にはすでに自衛隊が戦闘を開始している。

972始末記:2018/05/27(日) 12:54:05 ID:7.L4Yce.O
港湾内では、海保の巡視船『かいどう』や平戸警察署の警備艇『ひらど』が睨みを効かせている。
平戸港の南側はちょっとした要塞の体をしていた。
平戸城の避難民を先に保護すべく、港湾入り口にある平戸図書館近郊の岸壁から県警SATが上陸した。
警備艇はそのまま平戸港の警備艇と合流するべく岸壁を離れていく。
県警SATは目に付くハーピーを銃撃し、図書館の裏側にある平戸城が鎮座する亀岡山を駆け上がる。
そこで宮迫警部は驚きのものを目にする。
鎧甲冑を着た30人ほどの男達が刀や槍を持って、ハーピーと戦っているのだ。

「お、兵隊さん・・・、いやお巡りさんか?
やっと来たか!!」

男達の大半は老人であった。

「その格好はどうしたんです?」
「平戸くんち祭りの武者行列のメンバー、平戸藩武将隊だよ。
武器は城内の展示品だが、街を守る為だ。
御先祖様達も誇りに思ってくれるさ。」

頼もしい話だと、宮迫警部は呆れてしまう。
平戸くんち祭りは、平戸城下の秋祭りである。
武者行列もあって、市民が甲冑を来てパレードに参加する。
半分は張りぼてだが、無いよりはマシと持ち出して戦いに参加していた。

「半分は本物なのか?」

銃声まで轟いている。
はじめは地元警察の銃や猟友会の猟銃の類いかと思ったが、よく見てみると火縄銃だった。
城内に展示してあった火縄銃を、使用可能にしてあるのだ。
城壁の鉄砲狭間から本当に発砲している光景は苦笑を禁じ得ない。
勿論、銃規制緩和で使用可能になった銃で法律には違反していない。
城下の高校からも有志の学生が弓矢や木刀を持ち込んで応戦している。
モンスターや海賊がいる世界では、武道系の部活が実戦を意識した傾向に全国的になりつつある。
また、彼等の中には大陸で冒険者に憧れ、夢見ている者も少数ながらいて嬉々として参戦していた。

「やりすぎだろう
いつの時代だよ、まったく・・・」
「地域によっては、大筒まで再現したところもあるそうですよ。」
「マジか?
・・・我々が来た意味無くなりそうだから早く参戦しよう。」

宮迫警部は市民の自警ぶりにドン引きしながらも県警SATを率いて、平戸城に群がるハーピーの駆除に加わった。
すでに掃討は時間の問題だった。


北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

福岡、佐賀、長崎3県で起きた騒動はラジオで逐一、状況が報道されていた。
ナルコフ船長はこのまま日本の領海に留まるのは危険と判断し、船を外洋に向けて航行させていた。
死者は高麗で12名、日本で28名と発表された。
負傷者は両国で3800名を越える。
大半が自衛官や警官というから大変な戦果と言えた。

「まあ、今回は上手くいった方かな?」

今回は実験的な意味が強く、モンスターを使ったテロでは効果的だった。
モンスターを輸送するには、ホワイト中佐による時間凍結の魔法が必要なのは難点だ。
合流した帝国軍残党にも魔術の使い手はいるが、ホワイト中佐の魔法は大陸の魔術とは系統が違うらしい。
ホワイト中佐一人に支えられる現体制は不安定だった。
ナルコフや残党軍の指揮官達はどこかで、落とし所を望んでいるが、ホワイト中佐は違う。
どこかでホワイト中佐を切る必要はあると思うが、ロシアマフィアの幹部だったナルコフも地球側同盟国並びに都市に帰属を望めば投獄は免れない身だ。

「まあ、もう少し付き合ってはやるがな。」

感慨に耽っていると、レーダーにこの船を追跡してくる艦影が映し出されとの報告に眉を潜める。

追跡艦はこちらに停船せよと、無線で警告を送ってきている。

高麗国のフリゲート『大邱』であった。
『大邱』、転移前の巨済の大宇 造船所で起工されていた艦だ。
高麗国独立まで建造が凍結され、最近までは西方大陸派遣艦隊で活躍していた。
しかし、百済サミット並びに高麗・北サハリン襲撃事件を期に、高麗国防衛の穴埋めとして呼び戻されたばかりだった。
速度で老朽貨物船の『ナジェージダ・アリルーエワ』が振り切ることは無理だった。

「『海洋結界』はすでに抜けている。
13番コンテナを海中に投下しろ。」

コンテナは国際規格の三倍の大きさだ。
いざという時の切り札はまだ残してある。

「しっかし、あんなものどっから拾って来たんだ?」



フリゲート『大邱』

『大邱』のブリッジでは緊急接近する物体に、Mk 45 5インチ砲で狙いを付けるべく待ち受けていた。

「敵は海中か?」

艦長は近くまで来ている筈なのに姿を見せない敵に苛立ちを見せている。
小型の水中生物の相手はやりずらい。
その生物に至近距離まで接近され艦の真下を通過された。
水柱が艦の後方に立つと共に後部の飛行甲板に『ソレ』が降り立った。
臨検の乗員が小銃を構えて、『それ』に狙いを定めるが、あまりの悪臭に嘔吐する者が続出した。
全長9メートル程の個体は一見小型の竜に見えた。

973名無し三等陸士@F世界:2018/05/27(日) 12:57:20 ID:7.L4Yce.O
しかし、その肉体は明らかに腐食していた。



田助港

炎上する貨物船の鎮火をすべく、巡視船からの放水が始まっていた。
すでに市内のハーピーは駆逐し、港に到着した消防車も消火に参加している。
貨物船は巨大な船倉に幾つかのコンテナが積載されていたらしく、そこにハーピーや卵が積載されていたと、推定されていた。
だが同時にコンテナでは無く、船倉に直接眠らされていたモノが目を覚ました。
脆くなった甲板をぶち破り、頭部を外に覗かせたそれは、巡視船の姿を見た瞬間、咆哮を放った。
魔力の籠められた咆哮を聞いた人間達は、その場に立ち尽くして気の弱い者は意識を失っていく。

「防衛フェリー『かもづる』通信途絶!!」
「特別警備隊、第1から4小隊も連絡が取れません!!」
「ミサイル艇『しらたか』、『おおたか』、通信途絶!!」

混乱は自衛隊だけではない



平戸警察署

「現場に派遣した警官、誰も連絡が取れません!!」
「無線機、個人携帯、何でもいいから連絡を取ってみろ!!」

署に残った婦警達が、知ってる限りの現場に派遣された警官達の個人携帯に電話を掛けているが誰も出ない。

「署長、海保からも田助港の巡視船『ちくご』が連絡が取れないと。
ハゲ島を探索していた『あまみ』が向かってますが、こっちの警官も向かわせて欲しいと・・・」

それどころでは無いのだが、警察にはまだ手駒があった。

「県警SATと水上警備艇を田助港に向かわせろ。
それと江迎署の警官隊を平戸港まで移動する様に要請しろ。」

ようやく事態が終息したと終わったらまだ一波乱が起きそうな展開に、署長はうんざりとしていた。

「署長、大村の陸上自衛隊の第21普通科連隊。
県警機動隊が平戸大橋を通過しました。」

それだけでは無い。

「目達原の第3対戦車ヘリコプター隊が作戦行動を開始する為に、住民の避難活動を要請して来ました。」

避難活動はとっくに終わっている。
それよりも強力な火力を持った部隊が、続々と到着したことに署員達は色めき立つ。



現地ではかろうじて意識を失っていなかった警官や海上保安官、自衛官達が抵抗を続けていた。
貨物船から出てきたモンスターは、いつの間にか識者がアンデット・ドラゴンと命名されている。

「識者って誰だよ!!」
「知らん!!」

田口一曹は、遺体収容の為に『かもづる』船内の冷凍倉庫にいたのが幸いした。
竜の咆哮は届かず、冷凍倉庫で他の隊員や乗員が倒れていたのに気が付いた。
タラップから船外に出ると、外も同様な状況の様だった。
そして、貨物船の甲板には巨大なモンスターがいる。
桟橋に倒れている隊員達を保護しつつ、同様に無事だった隊員とモンスターに対して発砲する。
他にも無事だった自衛官、警官、海上保安官も港や船から銃火器を発砲してそれに続く。
アンデット・ドラゴンの名称は、ヘッドフォンをしていて無事だった報道関係者から聞いたものだった。
特別警備隊は船内の活動が本来の任務なので、重火器を装備してないのは痛かった。
幸いなことに、アンデット・ドラゴンは手近なハーピーの死体を食い漁っているので、歩みは遅く人間に被害はまだ無い。
肉体が腐っている為か、翼をはばかせて飛ぶことは出来ないようだ。

「ここを通すな!!」

田口一曹は銃を持った者達を桟橋に集めて、前進を阻止すべく攻撃する。
その中には89式小銃を拾ってきた平戸署の副署長も混じっている。
だが頑健な鱗は健在であり、銃弾では貫くことが出来ない。
絶望的な戦いだが彼らの耳にはヘリコプターのローター音が届くと希望が湧いてくる。
戦っている者達だけでは無く、竜の咆哮で恐慌に陥っている者達が再び銃を手に取り始めた。



8機のAH-1 コブラは田助港に向かい、識者に命名されたアンデット・ドラゴンを包囲するように飛行する。
桟橋では車両でバリケードを作り、銃器で抵抗が続けられている。

『騎兵隊の到着だ。
味方に当てるなよ?
全機、攻撃を開始せよ。』

M197旋回式3銃身20mm機関砲から合計6480発が撃ち込まれ、アンデット・ドラゴンは細切れになり、桟橋まで粉砕されていた。

「や、やり過ぎだ・・・」

機関砲による弾雨を背後に、港に走りながら退避していた田口一曹は叫びながらも事件が終わったことに安堵していた。

974始末記:2018/05/27(日) 12:58:06 ID:7.L4Yce.O
では終了

975始末記:2018/06/09(土) 23:57:23 ID:7.L4Yce.O
平戸市田助港

事態が解決した平戸では、援軍の到着した第21普通科連隊や県警機動隊の隊員達が街中で打ち捨てられたハーピーの死体の回収が行われていた。
同時にハーピーの歌やアンデット・ドラゴンの咆哮で、心身喪失した隊員や警官達の回収もだ。
唐津からの報告では、同様の状態に陥った者達が回復しているとの報告もあがっている。
平戸の回収者達も直に回復すると、安堵の空気が漂っていた。
佐世保特別警備隊の田口一曹は。戦い続けたこともあり、休憩を兼ねて桟橋を散策していた。
粉砕されたアンデット・ドラゴン周辺を見て違和感に気がついた。

「ハーピーが喰われてる?」

アンデット・ドラゴンとの戦いの最中にハーピーが食われているのは何度も目撃した。
落ち着いて思い出してみると、アンデット・ドラゴンは海上に漂うハーピーの死体も喰っていたのだ。
海上には『海洋結界』が存在したはずだ。
海上に墜落したハーピーは、『海洋結界』に触れて狂死している。
その死体が喰われているのだ。

「アンデットだからか?
いや、実験は行われたからそんな筈はないはずだ。」

アンデットに『海洋結界』が効果があることを横須賀の研究所が行い、実証された筈だ。
食い散らされたハーピーの数は無数に打ち捨てられている。

「『海洋結界』が効かないモンスターがいる?」

自らが辿り着いた答えに戦慄し、上官の元に具申すべく駆け出していった。




翌日の東京市ヶ谷
防衛省

「最終的な自衛官の殉職者は13名。
警察官、海上保安庁も23名の殉職者を出してしまいました。
また、民間人の死者も28名。
負傷者は官民合わせて五千人を越えます。」

統合司令の哀川陸将が、乃村利正防衛大臣に報告する。
会議室には防衛省、自衛隊、警察、海上保安庁幹部が集まっていた。

「『歌』や『咆哮』で意識を失っていた者達の容態は?」
「一晩寝たら概ね回復の傾向にあります。
最も王国や子爵の話によると、この世界の人間なら30分もあれば回復するものだとか。
やはり我々はこの世界の人間より魔力に対する耐性は無いようです。」

その反面で、民間人の中でもこの世界に来てから生まれた子供達には影響は少なかったことが実証された。

「ハーピー達は『海洋結界』に守られる我が国の海からは餌が調達出来ないことから、避難の完了した地域に展開した警官や自衛官が狙われました。
武器を持った者に優先的に襲いかかったおかげで、被害は最小限に済んだと言えるでしょう。」

哀川陸将軍の言葉に警察幹部が反発を覚える。

「最小限ですと?
うちは平戸署が死傷者多数で、機能停止。
海保も巡視船2隻が港の突っ込んで中破だぞ。
あの帝国との戦争以来最大の被害なんだ。
だいたい自衛隊は高麗にハーピーを討伐に向かったんじゃなかったのか!!
なぜ、日本に奴等が飛来する羽目になったんだ!!
そして、あの貨物船はいったいなんだったんだ!!」

確かにハーピーやアンデット・ドラゴンを積載した貨物船には謎が多かった。
その点に関しては海保の幹部が立ち上がる。

「あの貨物船は海保並びに全国の港湾局に日本に立ちよった記録がありませんでした。
つまり、転移当時日本領海或いは近海の公海を航行中に転移に巻き込まれた1隻と考えられます。」

転移当時、日本政府は日本近海を飛行、或いは航行していた船舶に国籍問わずにあらゆる通信体で、日本に留まるように呼び掛けた。
自衛隊や海保も総動員でエスコートに参加していたので、覚えている者も多い。
このエスコート任務には在日米軍も加わっている。
しかし、人工衛星が全て失われ、通信や捜索可能な範囲に大きく制限が掛かってしまった。
また、異世界転移を戯れ言と日本政府の警告を無視した船舶も多かった。
脛に傷を持つ船などは、むしろ速度を上げて逃げ去っていった。

「そうした船の1隻か・・・
なるほど、『長征7号』の例もある。
我々が把握している以上に多いんだろな、そういった行方不明船は。」

乃村大臣の言葉に海保と警察の両幹部が席に座る。

「貨物船の詳細については、各捜査機関に任せるとしてだ。
最後に出てきたアンデット・ドラゴン、あれはまずい。
ハーピーもだが、船舶にモンスターを積載して日本や大陸領土に突入させてくるテロは絶対に防がないといけない。
それとな、気になる報告だが、こいつは海上に墜ちたハーピーの死骸を食ってたそうだ。」

会議室の面々は驚愕の声をあげる。

「今、子爵殿と王国大使館で検証してもらっているが、どうやら竜種には『海洋結界』が効果が薄いという結果が出そうだ。」
「そんな・・・、だから隅田川に水竜の群れが侵入出来たのか・・・」

警視庁が総力を結集して退治した『隅田川水竜襲撃事件』を思いだし、警察幹部は冷や汗を垂らす。

「『海洋結界』は年々、範囲が狭まっている。

976始末記:2018/06/10(日) 00:00:09 ID:7.L4Yce.O
いずれその効果が消滅することを前提に我々は防衛体制を整えなければならない。
今回の責任問題を我々に追及してくる声もあるが、我々の予算要求に尽く抵抗してくる財務省に今回の件を被ってもらう。
関係各機関はその方向で情報統制を進めてくれ。」

与党右派と野党日本国民戦線の主張通りに軍備増強の口実になるだろう。
会議の結論を述べて、解散となった。
それぞれの担当者には被災地域に対する支援や地元組織の再建など、仕事が山積みなのだ。
大臣秘書の白戸昭美が執務室で資料を渡してきた。
白戸は既に乃村の次男と入籍を済ませているが、夫婦別姓で名字は変えていない。

「高麗側の被害です。
民間人の死者48名、国防警備隊の殉職者19名。
御自慢の新鋭フリゲート『大邱』が中破してドック入りしました。
不審船の『大邱』にも小型のアンデットドラゴンが襲いかかったようです。
どうにか始末出来たようですが、甚大な損害が出ていたそうです。」

冗談抜きで帝国との戦争以来の損害だった。
実際のところ、日本本国ではともかく、高麗国の鳥島諸島において、ハーピーの駆除作戦はいまだに続いている。
幾つかの無人島に巣を作られた形跡があり、住みつかれたようだ。
ハーピーが空を飛んで、無人島から無人島にと、逃げ回っているので、人員の足りない国防警備隊だけでは手に負えないのだ。

「こちらに来るほど数が増えなければいい。
連中にも少しは苦労してもらおう。」
「海棲亜人による襲撃事件も加えると、ろくな目にあってないから少し可哀想な気がしますが・・・」

息子の嫁の言葉に話題を変えることにした。

「府中の子爵様の報告も来てるな。
あのアンデット・ドラゴンの作成には、人間の魂千体以上必要だそうだ。。
いったいどんな奴の仕業だろうな。」
「会議の場では、誰もテロリストの正体に付いて口に出しませんでしたね。」

テロ集団が従来の帝国残党軍と違い、高い技術力を有していることから、地球人の集まりであることは明白だ。
その事の公表は地球系同盟国並びに独立都市の足並みを乱す可能性がある。
薄々は誰もが勘づいており、はみだし者達の行き着く先となっている。

「今はまだ泳がす。
連中も地盤固めの為に王国と度々衝突してるようだからな。
王国を消耗させ、手に負えなくなった時に、一気呵成に叩き潰す。
精々我々にとっての良い当て馬になってくれることを望むよ。」

国民を満足に食べさせられない日本は、その敵意を向けれる外敵を欲している。
西方大陸で活躍する派遣隊が活躍するニュースだけでは足りないのだ。

「それは亡国への道かも知れませんよ?」

白戸の言葉に乃村は肩を竦める。

「ああ、だから我々も第二の日本を造るまでの時間を稼ぐ必要があるのだ。」



大陸西部
ブライバッハ子爵領

現ホラティウス侯爵に成り済ました元アメリカ空軍チャールズ・L ・ホワイト中佐は、解放軍兵士たちともに、ホラティウス侯爵領から幾つもの領地を経由して、ブライバッハ子爵領の海に面した崖道を歩いていた。
ブライバッハ子爵は、帝国残党軍を支援する門閥貴族の一人で、有るものを何年も王国や日本から隠していた。

「この地域は十数年も立入禁止にしている。
領民でもほとんど知られていない。」

案内を自らがするブライバッハ子爵にホワイト元中佐は、興味深く尋ねる。
偽装された崖にある洞窟に入るのだから、警戒も怠っていない。

「乗員が何百人もいた筈だが?」
「500人ほどいたかな?
大多数は歓迎の宴で毒殺したよ。
立て籠った連中も人質をとって、投降したところで始末した。
その後に日本との戦争が始まったので隠蔽して沈黙を守っていたが、帝国が滅んだ以上、あれはとんだ不良物件だ。
持ち去ってくれると助かる。」

やがて、広い空間に入る。

977始末記:2018/06/10(日) 00:01:27 ID:7.L4Yce.O
そこに仮設された桟橋に係留された大型の『艦』をみて、ホワイト中佐は感嘆の声をあげる。

「素晴らしい。
まさかこれほどのモノとは・・・」

ミストラル級強襲揚陸艦『ディズミュド』。
乗員を失ったその艦は静かにその艦体に錆を浮かせて、停泊していた。
乗員の手配、長年放置されていたことからの整備など、数々の問題が浮き上がっているが、ホワイト中佐の中では崩壊する地球系の都市が脳裏を占めていた。

978始末記:2018/06/10(日) 00:02:11 ID:7.L4Yce.O
では19話終了。
またいずれ

979名無し三等陸士@F世界:2018/07/09(月) 19:03:21 ID:dW/xOLCs0
日本(地球)諸国の一方的な蹂躙が観たいんであって異世界側とかは蹂躙され続けていて欲しい。ホワイト中佐とか魅了もないから正直さっさと死んで欲しい

980名無し三等陸士@F世界:2018/08/28(火) 22:48:07 ID:iwmT5/vY0
>>979
すいませんがあなたの想像に他の人を巻き込まないでください、迷惑です。
そういう話が読みたいなら自分で書いてくださいね、
全く金も払わないくせに文句だけはうるさいのがいるな。


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