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( ^ν^)ふわふわぬいぐるみわんだーらんどのようです

48名無しさん:2023/05/12(金) 21:53:03 ID:nVgq7yj60
2話:おさそいとこんにちは
おしまい。

49名無しさん:2023/05/13(土) 03:47:28 ID:zcpiEHEQ0
乙です

50名無しさん:2023/05/13(土) 21:30:00 ID:AvdmjeDY0
乙乙
読んでて苦しくなるよお

51名無しさん:2023/05/14(日) 00:20:57 ID:3iWC2WI20
おつおつ

52名無しさん:2023/05/15(月) 22:50:24 ID:qwaduFqo0
3話:こんにちはとさようなら。

53名無しさん:2023/05/15(月) 22:50:45 ID:qwaduFqo0
( ;ν;)
 
 毛布の中の暗闇で頭を抱える。心臓がばくばくして痛いのに、背中が寒くて頭の中がじりじりする。喉の奥がけいれんして何度も吐きそうになって、でも立ち上がれなかった。泣き止みたいのにしゃくりあげるのが止まらなくて、息が全然上手にできない。
 
爪 - )y-
 
 フォックスはなにも言わない。静かになった外がものすごくこわい。
 泣いて泣いて泣いて、頭の中の水分が全部目から出ちゃって頭がずきずきしてくる。喉もひりひり痛くなって、しゃくりあげるたびに奥から何かを吐き出すみたいに動き出す。

54名無しさん:2023/05/15(月) 22:51:09 ID:qwaduFqo0
( ;ν;)「うう、う、うえっ」
 
 何も食べてない空っぽのお腹がそれでも気持ち悪くて吐こうとする。繰り返して止まらない空えづきに横になってることも出来なくて、体を起こすとみんなが心配そうにこっちを見ていた。
 
(:^ω^)「ニュッくん! 大丈夫かお、どうしたんだお!」
 
ξ;゜⊿゜)ξ「ねえフォックス、何があったの、ニュッくんどうしちゃったの」
 
爪 - )y-
 
 ドアにぺったり背中を付けたまま動かないフォックスと、おろおろ、あわあわ周りを行ったり来たりするみんな。その中で、ドクオの足の上に座ったビロードだけがじっと俺を見ていた。

55名無しさん:2023/05/15(月) 22:51:37 ID:qwaduFqo0
( ><)「ニュッくん」
 
( ∩ν;)「う゛、うっ」
 
 ビロードは細い手足をかたかた動かして毛布の中に入ってくる。手で押さえても止まらない涙を時々髪に受けながら足をよじ登り、涙か鼻水かもわからないものでぐちゃぐちゃになった俺のシャツを掴んで訴えかけた。
 
( ><)「ニュッくんのママさん、もういなくなっちゃったんですか?」
 
(。つν⊂)「……わがっ、わかんない、けど、もう、あえっ、ないって、っ」
 
ξ;゜⊿゜)ξ「どうして……ねえっ、今からでも追いかけなきゃ!」
 
爪 - )y-「……さっき、家を出てく音がした。車も一緒だったよ」
 
(;^ω^)「フォックス、おねがいだお、さっきママさんが言ってたこと教えてほしいお」
 
 
爪 - )y-
 
 
爪;-;)y-「――ニュッくんのママさんは……病気で、もう病院から帰ってこれない。つまり、もう会えないんだ。永遠に」

56名無しさん:2023/05/15(月) 22:52:00 ID:qwaduFqo0

 きつねのぬいぐるみの一言に、泣き声ばかりだった部屋にざわめきが広がりました。
( ;ω;)
 
ξ;⊿;)ξ
 
 泣き出すぬいぐるみもいれば、
 
爪 - )y-
 
( A )
 
 ただ、静かに事の成り行きを聞いていたぬいぐるみもありました。
 そこで、たった一人。小さな手足で少年を抱きしめたこどもがいました。
 
( ><)「ニュッくんは、こわくなっちゃったんですね」
 
( ;ν∩)「…………」
 
( ><)「ぼくが、ニュッくんをおいていなくなっちゃったこと、おもいだしちゃったんですね」

57名無しさん:2023/05/15(月) 22:52:20 ID:qwaduFqo0
こどもは自分の背丈より大きなひっく、ひっくとしゃくりあげる背中をゆっくりとさすり、しずかで、だけどきれいな透きとおった声で続けます。
 
( ><)「でも、ニュッくんはぼくのこと、わすれなかったんです。だから、ママさんのこともわすれないでいれば、いっしょにいられるんです」
 
 長い髪のあいだからこぼれた大粒の涙が、こどもの細い手足にぼたぼたと落ちてきます。その子が話している間、少年はそれでも泣き続けるものですから、銀色のきらきらした髪はあっというまにずぶ濡れになってしまいました。
 
( つν;)「ほん、と?」
 
( ´ω`)「おー……たしかにそうだお……?」
 
ξ゜⊿゜)ξ「……でも、ママさんがいなくなったら、ニュッくんは――」

58名無しさん:2023/05/15(月) 22:52:43 ID:qwaduFqo0
爪 - )y-「――待て、何か聞こえる。静かにしろ」
 
 きつねのぬいぐるみの一声で他のぬいぐるみもこどももみんながしんと息をひそめます。そうして耳を澄ませると、確かに遠くから車の音が聞こえます。
 その車の音はだんだんと大きくなり――やがて、この家の前で止まりました。
 
(*^ω^)「……くるま、くるまの音だお! ニュッくん、ママさんが帰ってきたお!」
 
( ;ν;)「まま……? ほんとに、まま?」
 
爪'ー`)y-「おい、待――」
 
 きつねのぬいぐるみが手を伸ばしても、ちいさな手はふわふわと宙をさまようだけ。その向こう、毛布を払いのけた少年がドアノブに手をかけ、音のもとに飛び出していきました。

59名無しさん:2023/05/15(月) 22:53:08 ID:qwaduFqo0
( つν;)「ま、ま、っ……!」
 
 目がぺちゃんこにつぶれてしまうくらいに泣いた少年の目は光でずきずき痛みましたが、それでもだいすきなお母さんにもう一度会いたくて飛び出した足はドアを開けて階段を一段とばしでかけ下ります。
 どうかいなくならないで、もうどこにもいかないで。これ以上何も失いたくない。涙でめちゃくちゃの顔のまま心の中で祈る少年は、玄関を開けたシルエットに呆然と立ち尽くします。
 
( <●><●>)
 
( ;ν;)
 
 そこにいたのは、真っ黒な服を着た、どこかで見かけたような男の人でした。

60名無しさん:2023/05/15(月) 22:53:31 ID:qwaduFqo0

 一日に食事は二回。日に一度なら手を付けてなくても心配いらないが、二度とも手を付けてなければ部屋から声が聞こえるか確かめる。もし聞こえなければノックをして、声を聞かせてもらう。
 向こうが開けない限り絶対に無理にドアを開けないことと、最初は話しかけずに食事のトレイに手紙を添えて挨拶をする。それ以上の接触は不要。
 彼女に口酸っぱく言いつけられた条件を頭の中で反芻すると、まるで見ない間に息子は毒虫にでも変わってしまったのかと勘ぐってしまう。まだ癒えずにいる心の傷を抱えたままの子供に、私はどう接すればいいのだろうか。
 
( <●><●>)「……買い物ぐらい、していきますか」
 
 ふと目に入った懐かしいスーパーの看板に車を止める。殆ど急に入院したようなものだが、彼女のことだから買い置きをしているか、あるいはすべてを食べきった状態かのどちらかだろう。
 車のキーを抜いて数年ぶりに立ち入るスーパーは、あの時から生鮮の陳列ひとつ変わっていなかった。

61名無しさん:2023/05/15(月) 22:54:08 ID:qwaduFqo0

 缶詰、パスタ、その場凌ぎのインスタント米。在庫が残っていた場合を考えて生鮮食品をなるべく避け、とりあえず日持ちのしそうなものを数点かごに入れて会計を済ませる。
 
( <●><●>)「……」
 
 レジの列に並ぶ中、ふと目に着いたのは特売品の棚に並んだパイナップルの缶詰。そういえば彼女の好物だったと思い手を伸ばしかけたがやめた。何度も言うが、私が彼女に出来る事はもう何一つないのだ。
 かつてはこの重たい缶を私が開けて、彼女が中身を食べ、中に残ったシロップに炭酸水を注いだものを息子が飲んでいた。缶切りが壊れた時にスプーンで無理やりこじ開けた時に気まぐれでもらった黄色いひと切れは歯がしびれるほど甘くて、私はその感覚が苦手でパイナップルが好きじゃなかった。
 
( <-><->)
 
 レジスターのモニターに増えていく数字。未だにカードと現金だけの取扱のレジになけなしの現金を出し、普段の生活で買うよりは少し重たいレジ袋を腕に下げた。

62名無しさん:2023/05/15(月) 22:54:33 ID:qwaduFqo0

 緩やかな坂を下り、多少建物は変わったものの大規模な開発の手が入る様子は全く見えない閑静な住宅地。そこに昔の棲家はあった。
 
( <●><●>)「何も、変わっていないんですね」
 
 彼女から預かった鍵をすこし古風な擦りガラスの戸に差し込み、木製のサッシに手をかけて深呼吸をする。
 私は今日からもう一度、この家で暮らす。それだけなのに、と、と、と、と心臓の音が耳にも聞こえるほど緊張していた。
 
 私の息子は怪物か否か。
 意を決して開いた戸の向こうにいたのは――
 
( ∩ν⊂)"
 
顔を覆って立ち尽くす、一人の小さな子供でした。

63名無しさん:2023/05/15(月) 22:54:56 ID:qwaduFqo0

 誰。誰。誰。誰。誰だよあんた。何しに来たんだよ。おまえ、なんか――
 
( ;ν;)「――出ていけッ!!」
 
 玄関に転がっていたスニーカーを思いっきりぶん投げると、ビニール袋片手にキャリーケースを引いた男の頭にぱこんと当たる。
 
( ;ν;)「誰だよ、でていけ、ママ以外、入るな……!」
 
 男は真っ黒い目でこっちを見ている。男の腰の高さまである大きなキャリーケースは、ママがすっぽり入るぐらいに大きい。
 だったら、こいつがママを——!

64名無しさん:2023/05/15(月) 22:55:20 ID:qwaduFqo0
 
( <●><●>)「……」
 
( <●><●>)「卵、買ってなくてよかった」
 
 あの細い手足からは想像もできないほどの力で思い切り突き飛ばされ、受け身も取れずに倒れる。確かに見知った表札の家のドアを確かな鍵で開けて、ドアの向こうの少年から靴を投げつけられ挙句キャリーケースを奪われる。あまりに突然の出来事が続くと、人間の脳というのは貧弱にもただしたたかに打ち付けた買い物袋の心配程度しかできなくなるものなのだ。

*

 私のキャリーケースを豪快に階段へ打ち付けながら二階に走っていったのが私の息子だというなら、彼女が私と彼の接触に消極的だったことにも筋が通る。
 スーツの裾を払い、手に下げた袋を持って改めて家に上がる。
 
( <●><●>)「……すみません、入速さん」
 
 投げつけられたスニーカーと脱いだ靴を玄関に並べ、二階に上がり固く閉ざされたドアに軽くノックをする。推定実の息子を名字呼び、なんという情けないことか。自分の苗字で他人を呼ぶと頭がぐるぐるします。

65名無しさん:2023/05/15(月) 22:55:42 ID:qwaduFqo0
『……』
 
 人の気配はする。現に、散々地面を転がしてきたキャリーケースの車輪の痕跡が続いているのがこの部屋な以上、彼はここに居るのだろう。
 強奪されたキャリーケースの中身は着替えや本程度で壊れるようなものは入っていないし、奪われても替えは効くが「あれ」ばかりはどうしようもなかった。
 さて、折角彼女から何度も教わった手順を踏まずに彼と遭遇してしまったリカバリーをこれから私はどう行うべきか。
 
( <●><●>)「……」
 
 ドアに耳を近づけて中の物音を伺う。衣擦れのような音は恐らくキャリーケースの中の衣服を取り出している音だろう。それからぼそぼそと辛うじて聞き取れないくらいの声量で何かを呟く様子が伺えた。
 問題は彼が「あれ」を見つけるかどうかだ。

66名無しさん:2023/05/15(月) 22:56:07 ID:qwaduFqo0
 「それ」は、彼女から託された花柄のメモ帳だった。いつも彼女が彼とコミュニケーションをとるために使っているメモ帳。中には何回も書いては消したような跡があるものや、書き損じたイラストの傍に「お誕生日おめでとう」とメッセージが添えられたものも残っている。
 いわば、これは私にとっての彼との唯一の意志疎通手段であり、同時にやがて彼女の遺品ともなるものだった。
 
( <●><●>)(どうせなら、何か書いておくべきでしたね)

67名無しさん:2023/05/15(月) 22:56:30 ID:qwaduFqo0
 廊下に腰を下ろしてもう一度だけ耳を澄ます。やがて部屋の奥の物音は静かになり、何かを話すような声は徐々にすすり泣く様な声に変わった。

68名無しさん:2023/05/15(月) 22:56:50 ID:qwaduFqo0

爪;'ー`)y‐「大丈夫かニュッ……何だその鞄!」

('A`)「うぉっあぶn(#)×ω×)「ほぶぎゃ!」

 ドアを開けてどたどた、裸足でドアを蹴っ飛ばして出て行った少年が今度はおおきな旅行かばんごと部屋に飛び込んできました。ごろごろとタイヤの転がる大きな音に床に寝ころぶぬいぐるみたちはびっくり起き上がり、そのままうっかりひかれたぬいぐるみもいました。

ξ゚⊿゚)ξ「ニュッくん!」

(#)^ω^)「だいじょうぶかお!」

爪'ー`)y‐「……さて、どうしたもんか」

 少年は、ドアの向こうからぬいぐるみの顔を通って連れてきたタイヤの跡と一緒にどっかりとお布団の上に座ります。

69名無しさん:2023/05/15(月) 22:57:12 ID:qwaduFqo0
( ^ν^)「……ママが、この中に入ってるよ」

 その言葉にぬいぐるみたちはボタンや刺繍の目をまあるくしました。言われてみれば、毛布の上の大きなかばんは人一人ぐらいならすっぽりと入ってしまいそうなほど大きかったのです。

( ^ω^)「おっ! やっぱりママさん、帰ってきたんだお。くるまに乗ってきたんだお!」

 サメとタコのぬいぐるみにぽふぽふ、まっしろな頭についた跡をはたいてもらったぬいぐるみはうきうきと少年のひざに乗ってかばんをのぞきます。

70名無しさん:2023/05/15(月) 22:57:45 ID:qwaduFqo0
( ^ν^)「うん、だから今からおれが、助ける」

 かちん、かちん。少年は大きなかばんの留め具を一つずつ外していきます。ぬいぐるみたちは綿でできた心臓をどきどきさせながら見守っています。

( ^ν^)「……ま、ま……?」

 けれど、中に入っていたのは白と黒ばかりの少年が着るには少し大きい服と分厚い本が数冊。彼が探していた人の姿はどこにもありませんでした。

( ^ν^)「ママ、どこ? どこにいるの……」

爪'ー`)y‐「……ニュッくん、もうよせって。ただの荷物じゃないか」

 きつねのぬいぐるみはあいかわらず壁にくたりと寄りかかったまま言いました。
 ぬいぐるみと毛布、少しのゲーム機の置かれた部屋には、空っぽのキャリーケースと見知らぬ荷物が散らかるばかりでした。

71名無しさん:2023/05/15(月) 22:58:48 ID:qwaduFqo0
(;^ω^)「うんしょ、うんしょだお」

ξ゚⊿゚)ξ「これって、おとなの人のお洋服じゃない」

 床にちらかった本やシャツをえいえい、ぬいぐるみたちが拾いあつめます。
 くしゃくしゃになったシャツをうんしょ、うんしょと折り畳むのは長い手足のたこのぬいぐるみ。転がったペンや手帳を拾い集めてくるのは白くてまあるい頭のぬいぐるみ。時々本のページをめくっては、むつかしい文字にあたまをひねっています。

72名無しさん:2023/05/15(月) 22:59:17 ID:qwaduFqo0
('A`)「ん?」

 ふと、ズボンをたたんでいたたこのぬいぐるみが首をかしげます。お洋服の間に、小さな四角いものが見つかったのです。

ξ゚⊿゚)ξ「これ……ママさんのメモ帳?」

 お宝にめざといサメのぬいぐるみがヒレをぱたぱた、覗きにきます。
 四角くのり付けされた残りももう少ない花柄のメモ帳は、たしかに朝食のトレイに残された書き置きに使われていたものと同じでした。

( ^ν^)「……ほんとだ」

 ぱらぱら、指先でページをめくると時々書き損じたイラストやペンの試し書きが残っています。
 それはくしゃくしゃに握りつぶした今朝のものと見比べるまでもなく、まぎれもないママの字でした。

73名無しさん:2023/05/15(月) 23:00:03 ID:qwaduFqo0
 ぬいぐるみ達はキャリーケースの中身を元どおりにする手を止め、少年がメモ帳をめくる手元を覗き込もうと大きな頭をぐいぐい寄せ合います。

 すると、ドアの向こうの床板がきし、と小さく音を立てます。足音らしい足音はありませんでした。

 少年はメモ帳を置き、ぬいぐるみ達を黙って抱きかかえます。ぬいぐるみたちも、息をひそめて身を寄せ合いました。

74名無しさん:2023/05/15(月) 23:00:33 ID:qwaduFqo0
 控えめなノックの音は、どこかぎこちなく。

「————」

 落ち着いた声が響きます。

(  ν )

 声が響いてから数秒後。少年は大きく息をのんでメモ帳を握りしめ、もう一度ぽろぽろと涙をこぼします。
 ドアの向こうは一つ、声を放ったきり静かなまま。

( ∩∩)

 部屋の奥ではもう一人、プラスチックの関節をかたかた震わせた小さなこどもが顔を覆って静かにうずくまっています。

75名無しさん:2023/05/15(月) 23:02:39 ID:qwaduFqo0

『——少し見てもらうだけでいいんだ。ずっと見なくて大丈夫だから……この上半分だけを見て、それが君のお友達かだけ教えてほしいんだ』

『……そうか、間違いないんだね。ありがとう、すこし休んでいてくれ』

 けいじさんが手でかくしたしゃしん。写っているにはゴミ捨て場に捨てられた大きな青色のキャリーケース。
 まんなかには、こっちを見ているけがをしたビロードのかお。

 だけどぼくは、けいじさんの手がしゃしんの下からはなれた時に見たんだ。
 
 それは、ビロードのからだがばらばらになってキャリーケースの中に入っているしゃしんだった。

76名無しさん:2023/05/15(月) 23:03:04 ID:qwaduFqo0
:記憶がアンロックされました。閲覧しますか?:
:閲覧パスワード-memory-:

※閲覧注意※

https://dotup.org/uploda/dotup.org2987405.png.html

77名無しさん:2023/05/15(月) 23:03:41 ID:qwaduFqo0
3話:こんにちはとさようなら。
おしまい。

78名無しさん:2023/05/16(火) 10:05:30 ID:4l2BRqTA0


79名無しさん:2023/05/16(火) 20:50:13 ID:qQB9xLIY0
おつおつ

80名無しさん:2023/05/19(金) 18:09:27 ID:9JWPYBdI0
めちゃくちゃつらいけど続きが気になる
乙乙!

81名無しさん:2023/05/24(水) 21:20:59 ID:NcnpzX5c0
第4話:さようならと、またあした。

82名無しさん:2023/05/24(水) 21:21:21 ID:NcnpzX5c0

『——ニュッくん、おはようなんです!』
 
 おれにはじめてできた友だち。
 
『——えへへ、ぼくもニュッくんがはじめてのおともだちなんです!』
 
 かえり道も、20分やすみも、ほうかごもずっといっしょ。
 
『——それじゃ、またあしたなんです!』
 
 大人になるまで、ずっとともだち。
 
『——————』
 
 やくそく、だったのに。

83名無しさん:2023/05/24(水) 21:21:41 ID:NcnpzX5c0
 
(*><)「それじゃ、いつもの場所で待ってるんです!」
 
 小学校のうらがわの、今はだれも使ってないガレージ。そこが、おれたちのひみつきちだった。
 ビロードは学校がおわってもいつも帰らないで、ランドセルのままでそこにいる。
 
(*^ν^)「ダッシュでランドセルおいてくる!」
 
 おれはランドセルのまま遊びに行くとパパとママがおこるからちゃんと家に帰らなきゃいけなくて、いつもはしって帰ってた。ビロードはおこられなくていいな、って思ってた。
 
(*^ν^)「ただいま! 今からあそびにいっていい?」
 
 いそいでくつをぬいで、ママにただいまを言う。ベッドの下にランドセルをおしこんで、おきにいりのぬいぐるみをいっこだけ持っていく。

84名無しさん:2023/05/24(水) 21:22:05 ID:NcnpzX5c0

('ー`*川「おかえりニュッくん。またお友達と秘密基地?」
 
(*^ν^)「うん!」
 
('ー`*川「ふふ、ビロードくんと仲良くなってからすっかり楽しそうね。おやつ持って、いってらっしゃい!」
 
(*^ν^)ノシ「はーい!」
 
('ー`*川「ちゃんと4時には帰ってくるのよー!」
 
 ママがくれたクッキーとぬいぐるみをバッグに入れて、いろんな工じょうのある通りに向かう。ひみつきちのばしょはママにもないしょ。きいろいテープを目じるしにすすんでいくと、大人やせんせいが「いっちゃいけません」っていうばしょにつく。そのさきが、おれたちのひみつきちだった。

85名無しさん:2023/05/24(水) 21:22:30 ID:NcnpzX5c0
 ビロードが言うには、ここにはあんまり人が来ないし天井があるからひみつきちにぴったりだって。きいろのテープのおかげで人が来ないから、何してあそんでもおこられないんだ。
 
(*^ν^)「ビロード、おまたせー!」
 
(*><)「あ、ニュッくん! みてみて、すごいんです!」
 
 黄色いテープの向こう、いつもランドセルのうえにすわってるビロードがランドセルをしょったまま立っていた。ちょっとつぶれたおさがりらしい青いランドセルのよこについてるフックには、白くてちっちゃなキーホルダーがついてた。
 
(*^ν^)「それ、ブーンじゃん!」
 
(*><)「えへへ、ニュッくんとおそろいなんです!」
 
 ビロードのキーホルダーのブーンはおれがバッグから出したぬいぐるみより小さいけど、おれよりせが低いビロードにはぴったりだと思った。
 おそろいがうれしくて、おれとビロードはブーンみたいなポーズでぐるぐる走りまわる。
 
(*><)「あははは! ブーン!」
 
(*^ν^)「ブーーーン!」

86名無しさん:2023/05/24(水) 21:23:52 ID:NcnpzX5c0
 
 それから、ママがくれたおやつのクッキーを食べながらきのう見たアニメのはなしをする。ビロードのおうちにはテレビがないから、にちようびのテレビもかわりにおれが見ることにしてる。だから、げつようびはビロードとはなすことがいっぱいあってたのしかった。
 
 こーん、こーん。
 遠くのスピーカーから聞こえる4時のチャイム。まだまだ遊びたりないのに、これが聞こえたらもう帰らなくちゃ。
 
( ><)「あ……ニュッくん、もうかえるじかんですか?」

( ^ν^)「うん、帰んなきゃ……でもまた明日あそぼーぜ!」

(*><)「はいなんです! また、がっこうでもあそぶんです!」

87名無しさん:2023/05/24(水) 21:24:14 ID:NcnpzX5c0

 ぶんぶんと手をふるビロードにばいばいをしながらいそいで家に走る。ほんとはチャイムがなる前には家についてなくちゃいけないんだけど、ひみつきちには時計がないからいつもあわてて帰ることにしてる。

('ー`*川「おかえりなさーい、今日も楽しかった?」
 
(*^ν^)「うん!」
 
  でもちょっとぐらいおそくなってもママは気にしてない。ママが言うには「もう少し日が長くなったら門限も伸ばしてあげるから」っていうことらしい。
 早く日がながくなって、ビロードともっと遊べたらいいのに。

88名無しさん:2023/05/24(水) 21:28:06 ID:NcnpzX5c0

 ランドセルから今日のしゅくだいのプリントをひっぱりだして、ママがごはんを作るのを見ながら算数のドリルをすすめる。今日はかんたんだったからあしたの分の少し先もやって、ママにできたって見せる。

(*^ν^)「ちょっとさきもやった!」

('ー`*川「おーっ、えらいじゃん! ママなんか昔は宿題全然しなかったのに……パパに似たのかな?」

(*^ν^)「おれ、あたまいい? パパぐらい?」

('ー`*川「そのうちパパより頭良くなっちゃうかもよ〜」

 ママはおなべを混ぜてた手を止めておれのあたまをなでてくる。ちょっとはずかしいけどうれしくて、甘えんぼって言われるかもしれないけどぎゅーってした。
 カレーのいい匂いと、ママの匂いがした。

89名無しさん:2023/05/24(水) 21:28:28 ID:NcnpzX5c0

 しゅくだいを片付けてテレビを見てると、まどの向こうから雨の音がした。ママはげんかんにあるパパの黒くて大きいカサを見るとあちゃー、と言って洗面所からタオルを持ってきた。
 ちょうどそのタイミングでがちゃり、パパが帰ってくる。毎日いいにおいのスプレーをつけてるかみのけがびしょびしょになってた。

( <●><●>)「ああ、まったく……急に降られました、夏が近いんですね」

('、`*川「あらら、結構降られちゃったね。はいタオル……先、シャワーにする?」

( <●><●>)「いえ、少し遅くなったので先に夕飯にしましょう……カレーですか?」

('、`*川「ぴんぽーん。……あ、もしかしてお昼カレーだった?」

( <●><●>)「いえ、カレーにするか迷って選びませんでした。正解でしたね」

90名無しさん:2023/05/24(水) 21:29:26 ID:NcnpzX5c0

 おおきなジャケットをぬいでカバンを下ろしたパパの頭をママが背伸びして必死にふいてる。おれはいちまい余ったタオルでパパのおもたいかばんをふきふき。

(*^ν^)「パパ、おかえりー」

( <●><●>)「はい、ただいま……ニュッくんは降られませんでしたか? 雨」

(*^ν^)「ちゃんともんげんどおりに帰ってきたからへーき!」

( <●><●>)「よかったよかった。パパはびしょびしょです」

('、`;川「あー、ワカさん頭上げないでっ!」

(;<●><●>)「あ、すみません……えっと、自分で拭きますから……」

('、`*川「いーのいーの。ニュッくん、お風呂のボタン押してくれるー?」

(*^ν^)「はーい」

 おふろのボタンを押して、テーブルにすわる。テレビを付けて、ごはんのじゅんび!

91名無しさん:2023/05/24(水) 21:30:13 ID:NcnpzX5c0

 常夜灯だけに絞ったリビングの中、からんとグラスの氷が細い音を立てた。
 特売のおかきをぽりぽりつまみながら文庫本片手に夜更かしの晩酌をするワカさんは、かっこいいとおじさんっぽーいの半分くらい。せめてパジャマじゃなくてスーツだったらかっこいいのに。
 小皿に乗ったおかきをこっそり横取りしながら彼の横顔を見ていると、一瞬だけ目が合った。
 
( <●><●>)「……そういえば、そろそろニュッの誕生日ですね」
 
('、`*川「おっ、流石ワカさん。愛息子のお誕生日をお忘れではないと」
 
(;<-><->)「当たり前でしょうが……」
 
 ため息と一緒に挟みこまれた栞。むーんと顎に手を当てながら考えるポーズはいいけど、指先にお塩がついてますよっと。

92名無しさん:2023/05/24(水) 21:31:08 ID:NcnpzX5c0
 <●><●>)「プレゼント、何にしましょうか」
 
('、`*川「そうねぇ……。去年もその前と同じでぬいぐるみだったけど、いい加減
ゲームとか買ってあげた方がいいのかしら」
 
( <●><●>)「さほどあの子はゲームに興味は持っていないようですが」
 
('、`*川「うちにあるのがドリキャスとPCエンジンだけだからゲームに興味を持ってないだけかも。新しいの、どーんと買っちゃう?」
 
( <●><●>)「……ジェットセットラジオ、面白いと思うんですけどね」
 
('、`*川「Dの食卓や邪聖剣ネクロマンサーとかを抜いたらそれしか残らないっていうのもどうかなーって思うな」
 
(;<●><●>)「う……」

93名無しさん:2023/05/24(水) 21:31:43 ID:NcnpzX5c0
 <●><●>)「プレゼント、何にしましょうか」
 
('、`*川「そうねぇ……。去年もその前と同じでぬいぐるみだったけど、いい加減
ゲームとか買ってあげた方がいいのかしら」
 
( <●><●>)「さほどあの子はゲームに興味は持っていないようですが」
 
('、`*川「うちにあるのがドリキャスとPCエンジンだけだからゲームに興味を持ってないだけかも。新しいの、どーんと買っちゃう?」
 
( <●><●>)「……ジェットセットラジオ、面白いと思うんですけどね」
 
('、`*川「Dの食卓や邪聖剣ネクロマンサーとかを抜いたらそれしか残らないっていうのもどうかなーって思うな」
 
(;<●><●>)「う……」

94名無しさん:2023/05/24(水) 21:32:37 ID:NcnpzX5c0

 ゲーム、ゲーム。私の小さいときはファミコンを近所の男の子が持ってたっけ。今の子がやるゲームがすごいらしい、っていうのはテレビで見ると何となく感じるけど、ニュッくんはあんまり反応しないんだ。
 だから、今も家にあるのはワカさんが学生の頃に買ったちょっと変なゲーム。何本かあったソフトの中からちょっと早そうなのだけを抜いてニュッくんのお部屋に置いたけど、やっぱり古くて面白くなかったのか、最初に何度か遊んだっきりやってる様子はなかった。
 そこでふと、ニュッくんの話を思い出した。
 
('、`*川「あ、そういえばね……最近ニュッくんに仲のいいお友達が出来たんだって。ビロードくんっていうらしいの」
 
('、`*川「どんな子か知りたいし、一回お家に呼んで聞いてみよっかな。最近の子はどんなゲームするのー? って」
 
( <●><●>)「ほう、名案ですね」
 
('、`*川「いつまでも昔のゲーム機でばっかり遊んでるより、ちょっとぐらい新しいテレビゲームで遊んでる方が私はいいと思いまーす」
 
( <●><●>)「……それも、そうですかね」
 
('ー`*川「ふふ」

95名無しさん:2023/05/24(水) 21:32:58 ID:NcnpzX5c0

 次の日も、がっこうがおわったらすぐにランドセルをおきに帰った。いそいでひみつきちに行こうとしたら、ママがねえねえ、ってきいてきた。
 
 
('、`*川「ねね、ニュッくん。今度ビロードくんをお家に呼んでもいい?」
 
(*^ν^)「いいの!? やったー!」
 
('ー`*川「いつもニュッくんと遊んでくれてありがとう、ってママもビロードくんにご挨拶したいんだ。もし向こうのおうちがいいよって言ってくれたらの話だけど……」
 
(*^ν^)「うん、あとできいてみる!」
 
 さっそく、おれはおやつのクッキーとビロードとおそろいのブーンのぬいぐるみをもってひみつきちに走った。
 もしもビロードとうちであそべたら、いっしょにぬいぐるみであそんだり、アニメを見たりできる。このあいだ見ておもしろかったテレビのろくがもいっしょに見れる。おれはうれしくて、いつもよりたくさん走ってひみつきちに向かった。

96名無しさん:2023/05/24(水) 21:37:26 ID:NcnpzX5c0
(*><)「え? ニュッくんのおうち、上がっていいんですか?」
 
(*^ν^)「うん、ママがビロードにありがとうって言いたいって。ちゃんとおうちのひとがいいって言ったら……って」
 
( ><)、「……あ、それはだいじょうぶなんです。うちのおや、出かけてるならなにもいわないんです」
 
(*^ν^)「じゃああした! あしたあそぼうぜ、おれんち!」
 
(*><)「はいなんです!」
 
 その日は、おれんちにあるゲームとか、ぬいぐるみとかのはなしをした。ビロードはぜんぜんゲームのこと知らなかったけど、いっしょにやるのがすごく楽しみだった!
 
(*^ν^)「じゃ、明日はがっこうおわったらいっしょにいえまでかえろーぜ! ビロードんち、ランドセルそのままでもいいんだろー」
 
(*><)「えへへ、そうするんです!」

97名無しさん:2023/05/24(水) 21:37:50 ID:NcnpzX5c0


なのに。

98名無しさん:2023/05/24(水) 21:38:41 ID:NcnpzX5c0

( ^ν^)「あれ、ビロード?」
 
 がっこうについたのに、いつもおれより早くクラスについてるはずのビロードがいなかった。せっかく今日のことはなしたかったのに。
 
 先生が出せきをとる時間になっても、ビロードはこない。
 
(゜、゜トソン「稚菜ビロードさん……あれ、誰かビロードさんの連絡帳預かってませんか?」
 
( ^ν^)「……ビロード、きてない?」
 
(,,゜Д゜)「せんせー! ビロードなんでいないんですかー!」
 
(゜、゜トソン「ふむ……あとでお家の方に連絡してみますね」
 
 20分やすみがおわっても、給食のじかんになっても、5時間目のじゅぎょうがおわっても、ビロードはがっこうにこなかった。
 先生にきいても、わからないって。
 
(゜、゜トソン「……ビロードくんの方に電話しても繋がりませんでした。後で先生がお話ししに行きますから、入速くんはお家に帰りましょうか」

99名無しさん:2023/05/24(水) 21:39:44 ID:NcnpzX5c0

( ^ν^)「……いっしょにあそぶって、やくそくしたじゃん」
 
 ママがおうちに呼んでいいって、いっしょにあそべるって言われて、うれしかったのに。またあしたって、言ったのに。
 
 ( ;ν;)
 
 一人でかえりたくなくて、でも先生がいくって言ってたビロードのいえもわかんない。下を向いて、泣きそうになるのをこらえながら歩いてたら、いつもの所にきてた。
 黄色いテープでくくられたここは、おれとビロードのひみつきち。ひとりで来ると、なんだか暗くていやな所だった。
 それでも前にすすむ。でも、どこを見てもビロードはいなかった。
 
 いつも座ってたずっとここにあるじてんしゃ。そのままかごにランドセルをのっけて、ペダルをうしろにこぐ。
 きりきりきりきり。きりきりきりきりきり。だれもいない。

100名無しさん:2023/05/24(水) 21:40:58 ID:NcnpzX5c0

 せもたれのこわれたイスや、ハンドルのないじてんしゃ。かたっぽだけのよごれたサンダル。目をこらしてもずっとずっと向こうまでつづく灰色のみち。
 その向こうには、おっきくて青いキャリーケースが捨ててあった。

101名無しさん:2023/05/24(水) 21:41:21 ID:NcnpzX5c0


 またあした。それだけが、きぼうだったんです。

102名無しさん:2023/05/24(水) 21:41:42 ID:NcnpzX5c0


( ><)(あんまり、おいしくないんです)
 
 やけどをするとめんどくさいから、おふろ以外のおゆは使っちゃだめなんです。
 あらいものをするのもたいへんだから、しょっきは使っちゃだめなんです。
 おかねは、おかあさんがくれた分で足りるようにおかいものしなきゃだめなんです。
 
 シャワーのおゆを入れてぐにゃぐにゃになったカップラーメンをたべながら、ぼくはがっこうであったことをおもいだしていました。

103名無しさん:2023/05/24(水) 21:43:00 ID:NcnpzX5c0

( ><)「あっ」
 
 えんぴつをおとしておってしまったんです。
 一ねんせいのときから使っているえんぴつは、もうたったの2ほんしかのこっていないんです。
 もう1ぽんのえんぴつはちいさくて、ゆっくりしかもじがかけないからノートをとるのがむずかしいんです。
 そのとき、うしろからせなかをたたかれたんです。
 
(*^ν^)「つかう?」
 
 ともだちのニュッくんが、ながくてきれいなえんぴつをかしてくれました。
 
(*><)「ありがとなんです」
 
 ちいさいこえでおれいを言って、あわててノートのつづきをかいたんです。
 みどりいろのきれいなえんぴつはかきやすくて、いつもはまにあわないノートのかきとりもじょうずにできたんです。

104名無しさん:2023/05/24(水) 21:43:25 ID:NcnpzX5c0

(*><)「ニュッくん、えんぴつありがとなんです」
 
 じゅぎょうがおわって、かえりの会のおはなしをれんらくちょうにかいたら、うしろのせきのニュッくんにえんぴつをかえしたんです。そしたら、ニュッくんは「あげるよ」って言って、うけとってくれませんでした。
 
(*^ν^)「ビロード、えんぴつ小っちゃくなったのしか持ってないじゃん」
 
( ><)「えっ? で、でもだめなんです。ニュッくんのだいじなえんぴつなんです、もらったらおこられちゃうんです」
 
(*^ν^)「えー、わかったー」
 
 それに、あんまりきれいなものをもってると、おかあさんがドロボウしたっておこるんです。まえに、がっこうでかりたえんぴつをそのままもってかえったらおかあさんにものすごくおこられたんです。
 ばつとして、あさ一ばんにえんぴつをがっこうにかえせっていわれて、その日ぼくはあさになってがっこうがあくのをおうちの外でまっていました。
 わるいことをしたのはおまえなんだから、ぜったいにだまっていなさいっていわれました。だから、このはなしはないしょなんです。

105名無しさん:2023/05/24(水) 21:47:49 ID:NcnpzX5c0

 がっこうがおわっても、よるになるまでおうちにかえれません。おかあさんはちゃんと外でくらくなるまであそんでからにしなさいっていうんです。
 だから、おかあさんのおしごとがはじまるじかんになるまであそびます。
 でも、こうえんであそぶのはだめです。こうえんは、たくさんおとなが見ていてあぶないから、人のいないところであそびなさいって。だから、ぼくはがっこうのうらの「ごみすてどおり」にひみつきちをつくりました。
 
(*><)「それじゃ、いつものばしょで、まってるんです!」
 
(*^ν^)「ダッシュでランドセルおいてくる!」
 
 さいしょはひとりであそんでたけど、ニュッくんとなかよくなってからはニュッくんもいっしょにあそんでくます。
 ニュッくんはすぐにかえっちゃうけど、それでもずっと一人でいるよりはたのしいんです!
 
 はしっていくニュッくんに手をふって、ぼくはこっそりひみつきちにむかいます。

106名無しさん:2023/05/24(水) 21:48:20 ID:NcnpzX5c0
 
三⊂二( *><)二⊃「うーっ、ぶーーん!」
 
 じてんしゃ、いす、ぼろぼろになったいろんなものがあつまる中、ちょっとまえまでくるまがおいてあったところがぼくのひみつきちです。
 ぼくはニュッくんがもってるぬいぐるみのブーンのまねをして、ニュッくんがくるのをまっていました。こうしていると、じかんがすぎるのが早くかんじるからです。
 
 ブーンごっこをしていたらランドセルがじゃまになったので、どこかにおこうとおもってぼくはとまりました。
 
( ゜д゜)「……いいね、それ。もっとやってよ」
 
(*><)「えっ……?」
 
 いつのまにか、ひみつきちの向こうがわ、ゴミがいっぱいすててあるあたりにおじさんが立っていました。

107名無しさん:2023/05/24(水) 21:49:21 ID:NcnpzX5c0
 
 こえをかけてきたおじさんは、ぼくがランドセルをおろそうとすると、おろさないで、そのままつづけて。といいました。
 
三⊂二( ><)二⊃「……ぶーん、ぶーーん!」
 
 ぼくはひみつきちのなかでぐるぐるまわります。うでをひろげて、ランドセルのおもさでどんどんまわっていきます。
 ぐるぐる、ぐるぐる。ぶーん、ぶーん。つかれたのですわろうとしたら、もうできない? ときかれたんです。ぼくはくたくたなのでうん、とうなづいたら、おじさんはとなりにすわってきました。
 
( ゜д゜)「かわいいね、靴下」
 
( ><)「えっ? ふつうなんです、ぼろぼろだし……」
 
( ゜д゜)「ううん、かわいいよ。いくつ?」
 
( ><)「えっと、10さいなんです」
 
( ゜д゜)「お名前は?」
 
( ><)「ビロード、です」
 
( ゜д゜)「そっか。……ビロードくん、ブーン好きなんだ」
 
 
 おじさんがぼくのひざをさわります。なまあたたかい半ズボンとくつしたのあいだを行ったりきたりする手がくすぐったくて、ちょっと足をうごかしました。

108名無しさん:2023/05/24(水) 21:49:56 ID:NcnpzX5c0

( ゜д゜)「これ、あげようか」
 
 おじさんはポケットの中からマスコットをとりだして、ぼくに見せました。
 
(*><)「わぁ……!」
 
 おじさんの手にぶらさがっていたのは、ちいさなブーンのぬいぐるみでした。
 
( ><)「……で、でも、ひとのものをもらうと、おかあさんにどろぼうって……」
 
( ゜д゜)「大丈夫だよ。小さいから学校に行くとき以外は外してポケットに隠しておけるし……ね」
 
 そう言っておじさんはぼくのランドセルにブーンのマスコットを付けて、そのまま「ごみすてどおり」の向こうにあるいていってしまいました。
 
( ><)「……うーん」
 
(*><)「……えへへ!」

109名無しさん:2023/05/24(水) 21:50:21 ID:NcnpzX5c0

( ゜д゜)「これ、あげようか」
 
 おじさんはポケットの中からマスコットをとりだして、ぼくに見せました。
 
(*><)「わぁ……!」
 
 おじさんの手にぶらさがっていたのは、ちいさなブーンのぬいぐるみでした。
 
( ><)「……で、でも、ひとのものをもらうと、おかあさんにどろぼうって……」
 
( ゜д゜)「大丈夫だよ。小さいから学校に行くとき以外は外してポケットに隠しておけるし……ね」
 
 そう言っておじさんはぼくのランドセルにブーンのマスコットを付けて、そのまま「ごみすてどおり」の向こうにあるいていってしまいました。
 
( ><)「……うーん」
 
(*><)「……えへへ!」

110名無しさん:2023/05/24(水) 21:50:57 ID:NcnpzX5c0

 おじさんがいなくなってほんのちょっとすると、ぱたぱたと走るおとがきこえてきました。
 
(*^ν^)「ビロード、おまたせー!」
 
 かたにかばんを下げて、手をふりながらニュッくんがやってきたんです。
 
(*><)「あ、ニュッくん! みてみて、すごいんです!」
 
 ぼくはランドセルをしょって、もらったばっかりのブーンのマスコットをニュッくんに見せました。
 
(*^ν^)「それ、ブーンじゃん!」
 
(*><)「えへへ、ニュッくんとおそろいなんです!」
 
 またおかあさんにみつかってすてられるかもしれないけど、ぼくはだいすきなニュッくんとおそろいのブーンをもらえてうれしかったんです!
 
 
⊂二(><*)二⊃三  「ぶーん、ぶーーん!」
 
 
三⊂二(*^ν^)二⊃  「あはは、ぶーーん!」

111名無しさん:2023/05/24(水) 21:51:19 ID:NcnpzX5c0

 でも、たのしいとじかんはあっというまなんです。
 
(*^ν^)ノシ「じゃーな、またあした!」
 
(*><)ノシ「ばいばいなんです!」
 
 きーんこーん。がっこうの方からきこえるチャイムがなると、ニュッくんはおうちにかえっちゃいます。そのせなかをみおくると、ぼくはまた一人になってしまいました。
 
 でも、「またあした」ならまたあそべるんです!
 だから、ぜんぜんさみしくないんです。
 
(*><)「えへへ」
 
 ランドセルにぶら下がったブーンはつっつくとゆらゆらゆれる。ブーンがいるなら、ぼくはひとりぼっちじゃないんです!

112名無しさん:2023/05/24(水) 21:52:18 ID:NcnpzX5c0

 
|゜д゜)

113名無しさん:2023/05/24(水) 21:53:54 ID:NcnpzX5c0

 つぎのひも、ぼくはひみつきちでニュッくんをまっていました。ランドセルのブーンといっしょにぐるぐるまわっていると、ニュッくんがいつもよりうれしそうなかおではしってきました。
 
(*^ν^)「なーなービロード、こんどおれんちであそぼうよ! ママがあそんでいいって!」
 
(*><)「えっ? おうちであそんでもいいんですか?」
 
(*^ν^)「うん! いっしょにテレビ見て、アニメ見よ! ゲームもあるし!」
 
 ぼくのいえではテレビもゲームも、おかあさんがきらいなものはどんどんすてられちゃいます。
 
(*^ν^)「じゃああした! あしたあそぼうぜ、おれんち!」
 
(*><)「はいなんです!」

114名無しさん:2023/05/24(水) 21:56:27 ID:NcnpzX5c0

 その日は、ニュッくんにおうちであそぼうっていわれて、それであたまがいっぱいだったんです。
 
o川# ー )o「ねえ、何これ。どこで盗んできたの」
 
(;><)「えっと、これは……」
 
 だから、ついうっかりしてランドセルにつけたブーンのマスコットをはずしわすれてかえったら、そのランドセルがおかあさんに見つかってしまったんです。
 
o川#゜Д゜)o「どうせまた盗んできたんだろ! この泥棒!」
 
 ぱちん。
 おかあさんにたたかれると、いつもちからが入らなくなっちゃうんです。あたまのおくが冷たくなって、そのままげんかんまでおいつめられます。
 ごめんなさい。ごめんなさい。あやまっても、おかあさんはとめてくれません。
 
o川*゜-゜)o「ママ、泥棒きらい。おうちのもの盗まれたくないよ。はやく出てって」
 
( ;;)「ごべっ、ごべんなざいです、どろぼう、っじで、ごべんなざいぃ」
 
o川*゜-゜)o「出て行け、泥棒。返してくるまで家に入れない」
 
 なげつけられたランドセルをもって、ぼくはおうちをとびだしました。
 そとはまっくらで、さむかったです。

115名無しさん:2023/05/24(水) 21:57:26 ID:NcnpzX5c0
( ;;)
 
 おうちをでて、おとなの人に見つからないようにひみつきちへと向かいます。
 どうすれば、おかあさんはゆるしてくれるでしょうか。あのおじさんに、ブーンをかえしたらゆるしてくれるんでしょうか。ぼくには、わかんなかったです。

116名無しさん:2023/05/24(水) 21:57:54 ID:NcnpzX5c0
 きいろいテープをくぐった先の「ごみすてどおり」に、ぼくはぽつんとすてられたようなきもちでした。
 ぽつぽつ、付いたりきえたりするじどうはんばいきのあかりに、たくさんの虫があつまっています。
 きばらしにぐるぐる走ってみようかともおもったけど、そんなげんきも出ませんでした。ぼくは、かたくて冷たいじめんにすわります。
 
(。><)「……わかんないんです、わかんないんです」
 
 どうすればゆるしてもらえるか、わかんないんです。どうすればいいのかも、わかんないんです。空っぽをとおりこしてくるしいおなかをどうすればいいのかも、わかんないんです。
 こんなじかんだと、もうコンビニにも行けません。おとなの人にみつかると、「ほどう」されて、またおかあさんはめんどくさいことをするなっておこるんです。
 
 だから、ぼくはたすけてほしい気もちで「ごみすてどおり」の先に行きました。

117名無しさん:2023/05/24(水) 21:58:29 ID:NcnpzX5c0
 
 しらないばしょにいかなければよかった。
 
 しらないひとからぶーんをもらわなければよかった。
 
 ひみつきちなんてつくらなければよかった。
 
 たすけて。たすけて。たすけて。
 
(* д )「ハァ、ハァッ……!」
 
 つかまれたうでがいたい。じめんにぶつけたせなかがいたい。おなかのおくがあつくていたい。いたい。いたい。
 
( ;;)「ッ、う、ッ————!」
 
 ぼくは、ブーンをくれたおじさんにらんぼうされました。

118名無しさん:2023/05/24(水) 21:59:01 ID:NcnpzX5c0
 
 かみをつかまれたり、おなかをなぐられたり。でも、ぼくをたたくときのかおはおかあさんとちがってうれしそうでした。
 ぼくの上にのしかかったおじさんはぼくの服をびりびりにやぶって、ちぎれたシャツでぼくの口をふさぎました。
 おじさんはぼくの体をつかみながらうれしそうでした。ぼくはいたかったです。おなかのなかがちぎれそうで、足のあいだがぐちゃぐちゃになっているようでした。
 
 おじさんは何どもぼくのかおをなめました。おじさんは何どもぼくのおなかをなめました。おじさんは何どもぼくのおまたをさわりました。
 ぼくはいたくて、こわくて、でもこのおじさんにブーンをかえしたらおかあさんはゆるしてくれるような気がして、少しだけあんしんしていました。
 
 おじさんがゆるしてくれたら、ぼくはおじさんにブーンをかえそうとおもいました。
 
(*゜д゜)「ハァ、ハァ……ビロード、こっちに来なさい」
 
( ;;)「…………」
 
 おじさんはどろどろしたおしっこをぼくにかけたあと、とおりのおくに止まっていたくるまの中にぼくをのせました。

119名無しさん:2023/05/24(水) 21:59:31 ID:NcnpzX5c0

 それからおぼえているのは、
 
(゜д゜)
 
 いたくて、
 
 
:(*゜д゜):
 
 いたくて、いたくて、いたくて、
 
(* д )
 
 いたくて、いたくて、いたくて、いたくて、
 
 
 ただ、くるしくてせまいなかで、さいごまでかんたんにしねなかったことだけです。

120名無しさん:2023/05/24(水) 21:59:51 ID:NcnpzX5c0
第4話:さようならと、またあした。
おしまい。

121名無しさん:2023/05/24(水) 23:22:22 ID:gTPCMhes0
乙、

122名無しさん:2023/05/25(木) 19:43:42 ID:XHJp51K60
乙乙
怖すぎる

123名無しさん:2023/05/26(金) 02:01:03 ID:1ZxgQ0os0

内容は辛いけど、語り口調が話し手をどんどん好きになれる感じでとてもいい

124名無しさん:2023/05/29(月) 19:23:33 ID:zcT.DVOU0
乙、辛すぎる……
しんどいけどこの作品すごく好き
続き待ってます!

125名無しさん:2023/06/03(土) 22:40:31 ID:/34tHg4Q0
 
 第5話:またあした、からへんじがない。

126名無しさん:2023/06/03(土) 22:41:03 ID:/34tHg4Q0
( ^ν^)「……」
 
 
 昨日ビロードとあそべなかったのがくやしくて、ママが用意したおやつも食べずに布団に入った。ばんごはんを食べなかったからおなかがすいて、あさごはんを食べにリビングに行くと、いつもならとっくに出かけているパパがスーツのままテーブルにすわってた。いつも持ってる大きなかばんは、どこにもない。
 
( <●><●>)「ニュッ、今日は学校はお休みです」
 
( ^ν^)「え?」
 
('、`*川「ニュッくん、まずご飯にしよっか」
 
( ^ν^)「ん……」 
 
 ママは何も言わずにトーストを用意してくれた。今日はビロードくるのかな。そしたら今日遊べばいっか。
 さくさくしたトーストの耳を飲み込んで指についたマヨネーズをなめると、ママがとなりにすわった。 
 
('、`*川「……ニュッくん、よく聞いてね」
 
('、`*川「きのう、ビロードくんがおうちに来なかったでしょ? ビロード君、一昨日の夜からおうちに帰ってなかったんだって。ニュッくんは、何か知ってる?」
 
( ^ν^)「……おとといは、いっしょにあそんで……明日はいっしょにうちであそぼうってやくそくした」
 
('、`*川「遊んでた場所は、どこ?」
 
( ^ν^)「……ひみつきち」

127名無しさん:2023/06/03(土) 22:41:28 ID:/34tHg4Q0

 パパは何も言わないで時々おれの言ったことをメモして、ときどきケータイにかかってきた電話とむずかしい話をして、それからまたおれの言ったことを手帳にかく。ママはコップにはいったお茶をのみながらうーんとか、むーとかって言いながらときどきパパを見てる。
 
('、`*川「……秘密基地の場所、ママに教えてほしいな」
 
(  ν )「——やだ」
 
 だってあそこは、ビロードのだいじな場所だから。おれとビロードのだいじな場所。おれが首をふると、ママはこまった顔でこっちを見る。
 こと、とペンを置く音とパパのため息。なんだか、おれが悪いことをしたみたいでいやだった。
 
( <●><●>)「学校裏の工場跡。そこが"秘密基地"なのは分かってます」
 
('、`;川「わ、ワカさん——」
 
(; ν )「っ……」
 
( <●><●>)「ニュッ、正直に答えて下さい。お友達に何かあってからでは遅いんですよ」
 
('、`;川「……今ね、ビロード君のおうちにも連絡がつかないの。学校先生たちも心配してるし、何より……ニュッくんが一番ビロード君が心配でしょう?」
 
( ^ν^)「そう、だけど」
 
 二人がじっとおれを見る。しかられてる時みたいに。
 ずっと黙ってると、パパは手帳をズボンのポケットにしまって立ち上がる。お仕事に行くわけじゃなさそうだった。
 
( <●><●>)「少し出てきます。ニュッ、それからペニサスも念のため着替えておいてくださいね」
 
('、`*川「あなた……」
 
 パパは手帳とケータイだけを持って玄関をでていく。ママがしんぱいそうに見てたけど、おこられるのが終わったみたいでおれはちょっとだけ安心した。

128名無しさん:2023/06/03(土) 22:42:12 ID:/34tHg4Q0
 
 それからしばらくして、パパが帰ってきた。言われたとおりにきがえて待っていると、家の前にパトカーが止まってた。
 ほんもののパトカーの中からはテレビからそのまま出てきたようなケーサツの人が出てきて、パパと少し話してからママとおれをパトカーに乗せた。
 
( ^ν^)「おれが、わるいの?」
 
( <●><●>)「……いいえ、ニュッは何も悪くありませんよ」
 
 となりに座ったパパが、さっきみたいなむずかしい顔じゃなくてすこし悲しそうな顔をしておれの頭をなでた。
 
( <●><●>)「でも、すこし辛い思いをするかもしれません」
 
('、`*川「……」
 
 ママが横から手をにぎってくる。運転席にすわったケーサツの人が機械を通して少し話すと、パトカーはゆっくり動き出した。
 
(,,゚Д゚)「……キミがニュッ君、でいいんだね」
 
( ^ν^)「……はい」
 
(,,゚Д゚)「あー……お父さんの言う通り、君は何も悪くないよ。ただ、少しだけ確認してほしいことがあるだけだ」
 
('、`*川「あ、あのっ、もしかして」
 
 はっとして身を乗り出したママに、助手席のケーサツの人はむずかしい顔をした。ふと、赤信号をじっと見つめていた運転席のケーサツの人とミラーごしに目が合って、ドキリとする。

129名無しさん:2023/06/03(土) 22:42:35 ID:/34tHg4Q0
( ・∀・)「……はは、普通これぐらいの子ってパトカーに乗ったら笑ってくれるモンなんだけどなあ」
 
(,,゚Д゚)「まあ無理もねえっすよ。だって——」
 
( ・∀・)「ギコ」
 
(,,゚Д゚)「……ッス」
 
 パトカーをのハンドルを持ったケーサツの人が言うと、助手席のケーサツの人はそれきり手元のプリントを見るばっかりで何も言わなくなった。窓のむこうの景色はどんどん知らないほうへ向かっていく。
 
( ・∀・)「大丈夫、僕達はニュッ君を叱りに来たわけじゃないんだ。ちょっと聞きたいことがあるだけで、終わったすぐにお母さんたちと帰っていいからね」
 
 パトカーが止まる。
 ママに手を引かれて「けーさつしょ」に入る。
 それから
 それから
 
 
 それからのことは————

130名無しさん:2023/06/03(土) 22:42:58 ID:/34tHg4Q0

 
(  ν )「あ、あ、あ————」

131名無しさん:2023/06/03(土) 22:43:32 ID:/34tHg4Q0
 
 こんこん。ドアをノックするおとがする。
 たぶん、パパ。
 なんだろう。
 
( < >< >)「           」
 
 え?
 なに?
 
( < >< >)「             」
 
 わかんないよ。
 
( 、 *川「              」
 
 きこえないよ。
 
( < >< >)「                      」
 
 どうすればいいの。
 
(  ν )
 
( ^ω^)
 
 ブーン?
 
( ^ω^)「————」
 
 かわりにはなしてくれるの。
 
(*^ω^)「——!」
 
 ……じゃあ、おれはちょっと、ねむいから——
 
( ^ω^)「           」
 
 うん、おやすみ。
 
( -ν-)

132名無しさん:2023/06/03(土) 22:44:39 ID:/34tHg4Q0
('、`;川「ニュッくん……ニュッくん、お願い、起きて……」
 
 初めにベッドの上でぐったりと倒れている息子を見て真っ先に青ざめたのは他でもないペニサスだった。慌てて駆け寄って体を起こすと、うっすらと上下する胸を前にああ、と小さく息を安堵した声がする。
 
 光のない目をうっすらと開いたまま脱力する姿には否が応でもあの「写真」を思い出させられる。
 警察の緘口令も虚しく、”小学生男児トランク詰殺人事件”としてやけにセンセーショナルに語られたその事件がマスコミの手に渡って以来、我が家の戸口に昼夜を問わず現れる報道陣の群れ。おかげで仕事に行くどころか落ち着いて食事もできない中の出来事だった。
 
( -ν(つ^ω^)『……おっ、ニュッくんはすっごくねむたいみたいだお。おはなしがあったらまたあとにしてほしいお』
 
 視線の合わない虚ろな目。やや上ずった調子の声色で手にしていたのは被害少年の遺品と共通のキャラクターぬいぐるみ。散らかったままのぬいぐるみ、パジャマ、ゲーム。あの日から、息子はいくつかの気に入りのぬいぐるみを抱えたまま碌に食事もとらずにベッドに横たわっていた。
 そう。受け止めきれない現実から逃げ出すことを選んだ息子は、全てをぬいぐるみに託すように眠り、口を閉ざすようになったのです。

133名無しさん:2023/06/03(土) 22:45:01 ID:/34tHg4Q0
( <●><●>)「……どうですか」
 
('、`*川「だめ……だめだよ、このままじゃニュッくんが、死んじゃう……」
 
 目を腫らし、かぶりを振った妻は抱きしめるやいなや肩を震わせる。食事を運んでも口を付ける様子はなく、このままでは栄養失調危険すらある。だというのに家の前は常に報道陣が「何か」を求めてひしめき合う。もはや、どこへ行こうと安寧の地などないように思えた。
 
( <●><●>)「貴方、またろくに眠っていないでしょう」
 
(;、;*川「だってニュッくんが、ニュッくんが死んじゃうかもしれないのに……!」
 
( <●><●>)「しっかりしてください……大丈夫です、私が見ていますから少し休んでください」
 
(;、;*川「……嫌、いやだよ」

134名無しさん:2023/06/03(土) 22:45:32 ID:/34tHg4Q0
あの子は死んでいるわけでも、眠っているわけでもない。ただ、現実から自分を遠ざけているだけなのだ。ぬいぐるみという薄い布と綿の壁で自分の心を守ろうとしている、それだけなのだろう。
 それなのに。
 
( -ν(つ^ω^)『ママさん、おやすみだお。ニュッくんといっしょにおやすみするお!』
 
 布団の中から囁くようなくぐもった声。青白い指の添えられたにやけた顔のぬいぐるみがこちらを見ている。
 
(;、;*川「ねえあなた、ニュッくんはおかしくなっちゃったの、ねえ」
 
( <●><●>)「大丈夫です、少し休む時間が必要なんですよ。だから——」
 
( 、 !i!川
 
(;<●><●>)「ペニサス……ペニサス! しっかりしなさい、ペニサス!」
 
 肩に縋っていた腕の力が抜け、ずるりと華奢な体が腕の中へと頽れた。
 青白い頬に伝う涙と悲しげな目に深く刻まれた隈。廊下に横たえた体は、間違いなく心身の限界を訴えていた。
 
( -ν(つ^ω^)『おやすみだお、おやすみだお、おやすみだお』
 
 ベッドの上から狂おしい調子で繰り返される声。虚ろな目。白いぬいぐるみ。頭が割れそうだ。にやけ面。冷たい指先。浅い呼吸。黙れ。
 おやすみ。おやすみ。おやすみ。おやすみ。
 
(#<●><●>)「こ、のっ……」

135名無しさん:2023/06/03(土) 22:45:55 ID:/34tHg4Q0
( ^ω^)『おやすみなさい、だお』

136名無しさん:2023/06/03(土) 22:46:22 ID:/34tHg4Q0

 ばちり。
 静電気のような衝撃が全身を伝った。
 体を起こすと、そこは子供部屋だった。
 
(*^ν^)
 
 ベッドの内外を問わず散乱するぬいぐるみ。ベッドの下に深く押し込められたランドセル。サンドノイズを映し続けるテレビ。あたまと胴だけの人形を手に毛布の中にうずくまる息子。その中に、見知らぬものが紛れ込んでいた。
 
( ><)
 
 それはプラスチック製の人形の手足だった。色も太さもめちゃくちゃな手足のパーツがぬいぐるみやゲーム、漫画に混ざってそこら中に散乱している。指先が欠けたもの、塗装の剥がれたもの、血のような、あるいは精液のような汚れが付いたもの。中には焼けただれたように赤黒いものや、巨大なカマキリの腕を持つものも中には混ざっていた。
 
(*^ν^)「ねえパパ、直すの手伝ってよ」
 
( <●><●>)「……ニュッ、ですね」
 
(*^ν^)「ねえ、パパ。手伝ってよ。壊れちゃったんだ」
 
( <●><●>)「……はは、そうですか」
 
 正気じゃないのは、狂っているのは——
 私の方だとでも、言いたいのか。

137名無しさん:2023/06/03(土) 22:46:52 ID:/34tHg4Q0

( ^ν^)「パパ、ビロードをなおしてよ。いっしょにあそびたいんだ」
 
 子供部屋の壁にもたれて明後日の方向を見つめて乾いた唇が紡ぐ言葉はどんな傷よりも痛々しく、歪だった。
 閉め切ったカーテンを背に毛布の中に閉じこもるニュッ。その膝の上、伏せられた目の奥にガラス玉のように澄んだ空色の瞳を持つ人形は白銀の髪を揺らしながら無くした手足を求めている。
 
( ><)
 
 
 表情と声こそこちらに向けている一方で私を通り過ぎてその果てを見つめるような息子とは対照的に、人形の目は確かに私を見つめていた。私はその奇妙な視線にせかされるように床に転がる色も形も様々な人形のパーツを手繰り寄せ、どれが正しいパーツかを確かめ続ける。

138名無しさん:2023/06/03(土) 22:47:15 ID:/34tHg4Q0

 その人形の顔は青白いが、僅かに頬に朱が差している。長い睫毛に白い髪、華奢な胴体。私は山のように堆積した四肢の山を前に、その身に合う手足を選り分けていた。傷ついたもの、歪んだもの、腐ったもの、汚れたもの。間違ったパーツは山からよけて、残ったものの小さな関節をはめ込みながらパズルのように手足を組み立てる。
 
( <●><●>)「……ビロードくんとは、何をして遊びたいですか?」
 
( ^ν^)「……ゲームして、テレビ見て、大人になってもずっといっしょにあそぶ」
 
( <●><●>)「ずっと?」
 
(  ν )「やくそくしたから」
 
 約束。そう一言だけ呟いた息子は再び毛布に顔を埋め、そのまま糸が切れたようにベッドへ倒れこむ。
 ことん。
 ベッドの上から小さな音を立てて滑り落ちた人形の胴体に、手元で組み合わせた手足はぴったりとはまり込んだ。

139名無しさん:2023/06/03(土) 22:47:35 ID:/34tHg4Q0

「ね——、あ——、——た!」
 
 ブラックアウトした視界に響く声。涙で震えた、愛しい声。
 妙に重い体を起こすと、崩れるように倒れていたはずのペニサスがまるで時間を巻き戻したようにまた私に縋りついていた。
 
('、`;川「あなた、ねえ、あなた!」
 
(;<-><->)「っ……ぺに、さす……?」
 
(;、;*川「ワカさんのばかばか、ばか! せっかくニュッくんが目覚めたのに、ワカさんまで倒れちゃったら私、わたし……!」
 
( <●><●>)「目覚めた……起きたんですか?」
 
(*^ν^)「うん、おはよー」
 
 声のする方を向けば、確かにそこに息子は立っていた——先程まで見ていた姿が幻覚かのように、今度は「いつものように」顔色のいい笑顔をたたえて。
 
(;、;*川「あーん……! よかった、よかったぁ……!」
 
( <●><●>)「……そうだ、ニュッ……大丈夫、ですか」
 
(*^ν^)「なにがー?」
 
(;ー;*川「ねっ、もういいもんね。パパもニュッくんも元気なら、ママはいいの!」
 
(*^ν^)「ママ、おなかすいた!」
 
(;ー;*川「うん、うん! ごはんにしよう!」

140名無しさん:2023/06/03(土) 22:48:01 ID:/34tHg4Q0

 涙を流しながら息子を抱きしめる妻。彼女の救われたような表情と裏腹に、奇妙な感覚が頭の中に残り続けていた。
 そうだ。人形だ。
 人形の夢を見たんだ。夢? いいや、違う。
 
( ><)
 
 妻と共に階段を下りていく息子。その手に握られていたのはあの人形だった。
 
( <●><●>)「……っ」
 
 ポケットの中の携帯に手を伸ばす。1メモリだけ残ったバッテリーの中で無意識にコールした番号は、何度も打ち込んだ会社の番号よりもはるか昔に指が覚えた番号だった。

141名無しさん:2023/06/03(土) 22:48:26 ID:/34tHg4Q0
Pi Pi Pi......
 
(-@∀@)『——はいはい、旭川ですけど』
 
 数コールの呼び出し音ののち、ざわついた外の音に混ざる声。少し懐かしくもある声はまぎれもない、旭川アサピーのものだった。

142名無しさん:2023/06/03(土) 22:48:50 ID:/34tHg4Q0
( <●><●>)『……アサピー、お久しぶりですね』
 
(-@∀@)『うわあ、本当に入速くんかあ。何、もしかして去年の同窓会に今更来たいとか? 終わったものはしょうがないからまた来年……なんてね。……ああ、何となく分かったよ、あれか。その件は随分災難だったね。どうせキミんちもマスコミに追われっぱなしでしょ?』
 
( <●><●>)『ようやく収まってきてはいますけどね。おかげで家内はぐったりで』
 
 アサピーは高校時代からの知人で、医学部を卒業後は地元の総合病院で精神科医をやっていた。この男は1を話せば10を読み取り、ついでに追加の10を持ち前の早口で根掘り葉掘りと聞いてこようとする生粋の詮索魔、そして数少ない知人きっての癖ある知恵者。年に一度、お互いに行きもしない同窓会についての連絡を取るか取らないか程度の付き合いだが、今はこの男だけが頼りだった。

143名無しさん:2023/06/03(土) 22:49:32 ID:/34tHg4Q0
(-@∀@)『基本この手の事件って報道規制がかかってもおかしくないんだけどね、実際。やっぱ田舎じゃそうもいかんわけだ……』
 
(-@∀@)『で、わざわざ僕に電話してきたってことは相談事だ。おそらくは、息子くんの事で』
 
( <-><->)=3『……御明察、さすがは天下の詮索屋』
 
(-@∀@)『なるほど、それなら一肌脱ごうじゃないか、丁度昼休みだしね。流石に僕も人だから今回の件で根掘り葉掘り聞こうってつもりはないからね、キミを怒らせて碌なことはないって分かってるもんで。んで、どういう感じなのさ』
 
( <●><●>)『その、息子が妙に塞ぎこみました……今はけろっとしているんですが、今度はまるで友達が死んだことを忘れているようにも見えて』
 
(-@∀@)『ふんふん……児童心理学はそこまで専門じゃないんだけど確か小学4年生だったよね? その辺で死が理解できないとちょっと知的に問題があるかも……って、その線は薄そうだよね。僕の見解としては単なる急性ショックの可能性だってあるよ、子供ってある日突然受け入れたりするもんだからね。詳しい事聞かなきゃわかんないけどさ』

144名無しさん:2023/06/03(土) 22:49:57 ID:/34tHg4Q0
( <●><●>)『はあ、流石は大病院の精神科医。あとはもう少しその捲し立てる癖さえ無くせばよろしかろうに』
 
(-@∀@)『診察時間なんかどこに行ったって少ないんだから早く話せれば話せるだけ得じゃないか? 思春期の子供の心理的ショックが今後の精神発育にどう影響するかっていうのが分野の中でも一番わかりにくいまであるからね、特に僕って子供に詳しくないからさ。もう少し状況を詳しく教えてくれたらもっと話せるけど、君はきっとそうしない。どうかな』
 
 電話越しでも容易に思い浮かべることのできる分厚い眼鏡越しの自信に満ちた目に私は白旗をあげるばかりだ。その通り、と返せば乾いた高笑いが電話口から響き渡る。
 とにかく今まで通りの生活に少しずつ戻ることが必要で、親であるこちらが動揺している限りそれは子にも伝わるというのが一通りの結論のようだった。

145名無しさん:2023/06/03(土) 22:50:18 ID:/34tHg4Q0
(-@∀@)『あとね……これは専門家、ってよりはキミの友人としてのアドバイスなんだけど、息子くん、転校させた方がいいよ。ちょっと遠くでこの話題がないところでしばらく休ませた方がいい。仕事がある以上君は難しいかもしれないけど、奥さんも辛そうなら実家とかに——』
 
( <●><●>)『……そうですね、少し検討してみます。流石は専門家です』
 
(-@∀@)『総合病院の下っ端でも役に立てて何よりだよ。じゃ、キミもうっかり狂わないように……』
 
(-@∀@)『……腐れ縁ついでに初診の予定ぐらいなら早めてやるからさ。診断書だって多少は——』
 
 ぶつん。途中でバッテリーが切れてしまった。
 
( <●><●>)「……間の悪い」
 
 うっかり狂わないように、だと。
 もしかしたらとっくに狂っていたのは私の方で、この話ですら全てが私の夢かもしれないのに。最後まで話せていたら、アサピーだったら分かったかもしれないというのが、私の愚かしい願いだったというのに!

146名無しさん:2023/06/03(土) 22:51:15 ID:/34tHg4Q0
(-@∀@)「うまいこと……あ、あれっ? もしもーし!」
 
 液晶に移る通話終了の文字。強引に断ち切られた通話、歯切れの悪い答え。何かが引っ掛かった。
 しかし本当に間の悪い男だ。貴重な昼休みにこんな奇妙な電話をされちゃ、気に合って眠れやしない。
 せめて仕事には集中しようと軽食の一つでも取ろうと思ったが、売店に向かおうにも騒がしい看護師達の声に希望は潰える。
 
(*゚ー゚)「——先生、旭先生! そろそろ次の患者さんです」
 
(-@∀@)「ああ、申し訳ないね」
 
(-@∀@)(それにしても……アイツにしては要領を得ない電話だったな。妙だ)
 
(*゚ー゚)「……先生?」
 
(-@∀@)「何でもないよーん。椎名さんカルテいい?」
 
 ちくしょう、意地でも病院に来させるべきだったか。あの馬鹿、頭はいいのに真面目過ぎて融通が効かないからなあ。もっと僕みたいにうまくやれよ。そうすれば——
 
(-@∀@)(まあ……僕に相談しただけ懸命だったと思うべきなのかもなあ)
 
 友人がどうしても気になりかけるのを上っ面の理性で隠し、カルテを読む。
 さあ、僕の仕事はこれからだ。

147名無しさん:2023/06/03(土) 22:51:54 ID:/34tHg4Q0
第5話:またあした、からへんじがない。
おしまい


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