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( ^ν^)ふわふわぬいぐるみわんだーらんどのようです
1
:
名無しさん
:2023/05/08(月) 21:40:15 ID:EEhMu.9.0
( ^ν⊂)”「んあ」
頭の中がふわふわする。頭の外、手足、指先、顔のあたりがふわふわする。それは眠気を誘う安堵の香り。暖かな眠りの香り。
( ^ω^)「おはようお、ニュッくん」
( ^ν^)「おあよ」
目やにを払ってこじ開けた視界に現れる少しくたびれた白。鼻先をくすぐる慣れ親しんだ匂いと肌ざわり。柔らかな体を抱きしめて毛布の中に潜り込むと中から聞こえる話し声。
( ^ω^)「あったかいお、ツンもおはようお」
ξ゜⊿゜)ξ「なまたかーい」
( ^ω^)「ブーンもニュッくんにだっこしてもらいたいお!」
( ^ν^)「ブーンはちいせえから枕」
( ´ω`)「おーん……」
――ここは、ぬいぐるみと言葉を交わす少年の部屋。
( ^ν^)ふわふわぬいぐるみわんだーらんどのようです
242
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:45:18 ID:Zc9hmM.E0
つなぎつながれ白、茶、紫。ぽふりと到着、机の上。
えんぴつ、消しゴム、ライトに本。たくさん散らかる小舞台。今まで過ごした床の上、毛布の上まで見渡せる。
爪'ー`)y「……ふう、なんとか!」
('A`)「多分、窓のとこかな」
ξ゚⊿゚)ξ「わたし、ここにいるからね!」
ホコリにちょっぴり足取られ、そーっと進むよ木目の道。落ちたらも一度上り直し。朝日があの子を起こすまで、時間はそろそろ迫ってる。
243
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:45:39 ID:Zc9hmM.E0
爪'ー`)y「……ビロード」
そこには、くたり、小さな子。首から上を失って、まだ暗い窓辺に倒れ伏す。
なんだかすごくさみしくて、とってもとっても悲しい姿。
爪'ー`)y「よいしょ」
小さな手足を抱き上げて、そうっと汚れた部分に触れる。お気に入りだった襟付きシャツも、ちょっぴりホコリをかぶってて、とっても悲しい、おもちゃの末路。
爪'ー`)y「……ツン! しっかりキャッチしろよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「まかせなさい!」
ヒレをふりふり、合図を送るやさしいサメの女の子。大丈夫、きっとうまくいく。
見下ろすほどに遠い床、おおきなヒレを目じるしに――おおきく、おおきく飛び下りた!
244
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:46:02 ID:Zc9hmM.E0
どしん、ぽふ。
(#)×ω×)「ぶ、ぶ……」
('A`)「ブーン、ナイスリカバー」
爪'ー`)y「すまん、ビロードを守るので精一杯だった」
キツネのしっぽは白の子に、けれど守った体はヒレの中。
(#)^ω^)「……おっ!ビロードがだいじょぶならだいじょぶだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「いそいで治してあげなくちゃ」
ぽふぽふ、ぽん。
( ^ω^)+
ちょっぴりつぶれたほっぺたも、綿をほぐせば元通り。
だけどこの子はどうしよう。
お顔はどろどろ、ちょっとべたべた。お首はぐらぐら、げんきがない。
245
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:46:25 ID:Zc9hmM.E0
どたどた、ぱたぱた、さわがしく。ぬいぐるみたちは考えました。
けれど、答えは見つからない。だいじなともだち、どうしよう!
( つν-)「ん……」
もぞり、毛布が動きだす。隠す? ごまかす? うそをつく?
だめだめ、あの子とみんなにヒミツは無し。
爪;'ー`)y
ξ;゚⊿゚)ξ
(;'A`)
(;^ω^)
( ^ν^)「……どしたの、みんな固まって」
246
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:46:45 ID:Zc9hmM.E0
爪;'ー`)y「じ、実は……」
みんな、こわごわ場所開けて。後ろに隠した”それ”を出す。
( --)
ひくり。喉奥息呑む声に、どきり、毛玉の心臓脈打つ。
( ν )
ほろほろ流れていく涙。あの子は気づいてしまったよ。
永遠なんてないんだって。物は壊れて、人は死ぬ。
( ;ω;)
爪'ー`)y
だけど、「ぼくら」は知っている。あの子が何を選ぶのか。あの子が何を望むのか。
動かなくなった「ともだち」を、どうしてしまうか知っている。
247
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:47:07 ID:Zc9hmM.E0
( ^ν^)「……ちょっと、出てくる」
前髪くしゃり整えて、涙目拭って起き上がる。着たきりパジャマを脱ぎ捨てて、少し小さくなったシャツを着て。ずいぶん昔に見たような、あの子の姿になっていく。
まっすぐ朝日をねめつけて、それでも少し、震えてる。大事な「ともだち」腕に抱き、こわごわ、ドアを開けてった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ねえ、ビロード……ニュッくんも、だいじょうぶかな」
爪'ー`)y「……大丈夫、だと信じたいね」
ふうと一息、そわそわと。すっかり朝日のカーテンに照らされぼくら、おるすばん。
かわいいあの子はどうなるの、大事なあの子はどうなるの? どきどき、はらはら、気が気じゃない。
248
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:47:46 ID:Zc9hmM.E0
( ´ω`)「おーん。ニュッくん、かなしそうだったお」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、あの子はだーいじな子だよ。きっときれいにするんだよ」
('A`)「でも、最近あんまり遊んでなかったよな」
爪'ー`)y「……ニュッくん、でっかくなったよなあ」
しょんぼり、ぽふぽふ、おまんじゅう。ヒレ、足、しっぽにたたかれて、なぐさめられても心配顔。
だってぼくらはぬいぐるみ。みんなそれぞれ動けても、みんなでお外は出られない。ひとりの背中を見送って、帰ってくるのを待っている。
それが、ぼくたちぬいぐるみ。大事な家族を待っている、おうちで待つのがぼくらの役目。
249
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:49:17 ID:Zc9hmM.E0
遊ばれなくなったおもちゃ。ほつれて壊れたぬいぐるみ。それらが辿る道筋が人間の末路より簡単なものなのは分かっていた。
細かく数えるのをやめて、随分経った。けど、数年ぶりに降りてきたリビングは、やけに寒々しくて、明るかった。
('、`*川「あら……?」
記憶の中の姿よりずいぶん縮んだ姿の母親。まだ夜が明けたばかりなのに、寝間着姿のままテレビもつけないリビングで何か黒っぽい手元の布切れをいじっていた。
( ^ν^)「……あ、お……」
おはよう、の当たり前の言葉すら出なかった。自分の声も忘れるぐらい、『人』と話すことが無くなっていたから。
('、`*川「……」
('ー`*川「おはよう、ニュッくん」
ママは、何も言わずに俺を抱きしめてくれた。俺より高かったはずの頭の位置は少し低い場所にあったけど、体温は変わらず温かかった。
250
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:49:37 ID:Zc9hmM.E0
( ^ν^)「……これ」
テーブルに座って、麦茶を飲むと乾いた喉が幾分マシになった。手の中でずっと握りしめていたものを机に置いた。
頭と胴が離れた人形。いつの間にか持っていた、何よりも大切だったはずのもの。
('、`*川「これ……ずっと持ってたの?」
( ^ν^)「うん」
目を見開くままの肩越しに見るカレンダーは、西暦の横の言葉がすっかり変わっていた。俺はアリスのような気分を覚えつつ、それでも滑らかに舌に乗る言葉としてビロード、とつぶやいた。
かたん。思い切り引かれた椅子が後ろのキッチンにぶつかった。立ち上がったママは、どこかに遊びに行くときみたいな表情で机をポンと叩いて言った。
('、`*川「ニュッくん、ママとお出かけしよっか!」
251
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:49:57 ID:Zc9hmM.E0
久方ぶりに乗った電車は座席が妙に真新しくなって、ご丁寧にヘッドレストまでついていた。妙な居心地の悪さを感じながらに揺られ、促されるままに降りた街はまだ朝方だというのに観光客らしき人影がやけに目立っていた。
('、`*川「むかーし……ママがまだ学生だった頃にね、ここで素敵なお人形を見たの」
ぽつぽつと語りながら歩くママについて歩く。
昔は歩幅を合わせられる側だった自分が歩幅を合わせる必要もなくなったこと、大股で飛び越していた白線が自然と歩幅の間隔になっていたこと。
かつてねだったゲームの広告は絵が随分変わっていて、外を見れば見るほど奇妙な感じだった。
('、`*川「何か飲む?」
( ^ν^)「……ううん」
今じゃ背伸びをしないと届かなかった自動販売機の一番上も、軽く手をあげるだけで届いてしまうほどに。
252
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:50:24 ID:Zc9hmM.E0
('、`*川「学校の帰り道だったから、今でも覚えてるんだけど……うぅん」
奇妙な絵を並べるギャラリーや妙に高いアイスクリームを売る屋台。車一台通るのがやっとの路地を縫うように歩く、歩く。
それから何本かの坂を上って、降りて、上って。桁を一つ間違えた千円カットの店、バターの香りを漂わせるパンケーキ屋を通り過ぎる。
('ー`*川「そう、そう! こっちだよ、ニュッくん!」
ふと街路樹の隙間に日が差し、教会のような建物が頭を覗かせる。途端、ママは俺の手をにぎって駆けだした。
石階段を下り、ガラス造りの建物を通り過ぎて、走ったその先。
253
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:50:45 ID:Zc9hmM.E0
そこに煌びやかなショーウインドウはなく、何かの建物を元に作ったらしい真新しい結婚式会場。入口にはチェーンがかかり、今日にも式を挙げるであろう二人の名前が書かれたボードが立てられているばかり。
('、`*川「……」
聞こえないくらい小さなため息。辺りを見渡しても、コーヒーチェーンの看板やまだ開店していない喫茶店ばかりが軒を連ねているだけ。
( ^ν^)「無くなった」
('、`*川「そう……みたいねぇ」
明らかに俺よりも肩を落としているママを覗き込む。すると、その奥にも細い路地が続いているようだった。
小さく指をさしてみれば、首をかしげてこんな道あったかな、なんて漏らして好奇心のまま歩みゆく。
254
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:56:20 ID:Zc9hmM.E0
コンクリートで埋められた壁と追いやられた民家の狭間、ふと小さな灯りを漏らす雑貨屋が目に入る。真鍮製のドアノブに手を伸ばしたのは、同時。
( ´_ゝ`)「いらっしゃい」
エプロン姿の店員は小型の望遠鏡みたいなものを片手に何かの螺旋を回している。わあ、なんて声を漏らして瓦斯灯の下をふらふら歩きまわるママは所狭しと並んだ西洋雑貨に夢中だった。
木製のくるみ割り人形によくわからない織物。日差しを避けるような立地のせいで、店内は明かりが灯っていても薄暗かった。
小さなテーブルに並ぶ木彫りの像やガラス細工。何段にも重なった棚の上にはペンが並んでいる真横に剥き身のナイフが置かれていたり、陳列しているというよりはただ雑然と放っているだけにも見えた。
255
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:56:53 ID:Zc9hmM.E0
ママはあっちこっちの棚に手を伸ばしてはうんうん唸り、そのたびに首をかしげるシルエットが壁に映る。
俺達はどうしてかこの店から離れる気にはならなくて、ただ一心不乱に壁に飾られた古びた湖の写真やブックカバーだけの本棚、針金細工の並んだ棚を眺めていた。
('、`*川「……お人形だけど、こういうのじゃないんだよね」
俺とは反対側の店内を見回っていたママが、レースの敷かれた棚から取り上げた毛糸の髪の人形をそっと戻す。ママの発した人形、という言葉に部屋の奥の店主がぴくりと肩を震わせた。
それから店主は黙ったまま螺旋巻きをカウンターの上に置き、その横に立てかけられた小さなベルをチリ、と鳴らした。
鈍く錆びた音の中に高音が響く不思議な音。その残響が消える頃、ほんの少しの足音が響いた。
256
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:57:15 ID:Zc9hmM.E0
(´<_` )「お客か」
( ´_ゝ`)「ああ、多分」
店の奥から出てきたのは、店主と瓜二つの顔をした男だった。そいつは店主と比べると少しだけ緑がかった目をしばたかせ、ママと俺を交互に見やると、ふと俺を指差してに、と笑った。
(´<_` )「一歩進んで右を向いて、それから三番目の棚を開けてごらん」
へっへ、と息だけで笑う声を残し、それきりうり二つの男はカウンターの奥へ消えていった。すっかり、気配すらも消え失せていた。
( ´_ゝ`)「だそうだ。君の一歩は、君にしかわからないよ」
しばらく固まっていた俺を促したのは店主の声だった。見れば、また拡大鏡を目に何かの螺旋をキリキリと巻いていた。
257
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:57:43 ID:Zc9hmM.E0
俺は息を呑み、足を自然に一歩、踏み出す。
それから右を向くき、たくさんの硝子戸のケースが並んでいる中から、いち、に、さんと数え、確かに三つ目だろう物の戸に触れる。
埃で汚れた硝子戸は中を薄く覆い隠している。。
俺は、舞い上がる埃に備えて目をつむり、硝子戸の古びた取っ手を引いた。
258
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:58:14 ID:Zc9hmM.E0
( ><)
( ν )「あ、あ……」
そこにいたのはビロードだった。違う。ただの人形だった。
でも、それはビロードだった。間違いなく、俺の思い出の中にいるビロードの姿をした人形だった。
硝子戸の中、クッションを内側に敷いた木製のケースの中で小さなブリキの玩具に囲まれ座る姿。
もはやすべてがガラクタにしか思えない店の中、丁寧に刺繍を施されたシャツを身にまとう人形ばかりが目に入る。
薄く伏せられた目。やわらかな頬。流れるような銀の髪。俺は思わずその手に触れそうになり、あわてて店主に向き直った。
( ´_ゝ`)
店主は螺旋を回す手を止め、静かにこちらを見ていた。
259
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:58:38 ID:Zc9hmM.E0
( ´_ゝ`)「それは、君が選んだ。そうだろう」
( ^ν^)「あ……」
( ´_ゝ`)「言葉もお代も要らないよ。さ、連れて帰っておやり。誰かがキミらを待ちわびてるようだ」
('、`*川「あの、本当にいいんですか。こんなに綺麗なのに……」
( ´_ゝ`)「その子は売りものじゃない。他の誰かが欲しいといっても売る気はない。ただ、彼が来たから譲っただけ。しかるべき主人を選んで生まれてくるものもある、そういう事だ。だからお代は頂けないよ」
そういうと主人は口をつぐみ、また螺旋回しを手にキリキリと小さな音を刻む。二人してあっけに取られていると、にわかに眉をひそめてしっし、と手を払った。
( ^ν^)「……いこう」
俺は、確かにビロードを抱きかかえ、店を出た。
今すぐ家に帰らないといけない気がした。
260
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:59:01 ID:Zc9hmM.E0
家に帰り、つっかけただけのサンダルを脱ぎ捨てて階段を駆け上がる。ママが呼び止める声も無視して部屋に飛び込むと、腕の中がもぞりと動く。
ああ、本物だ。本物だ!
これは本物のビロードだ。あの夢で手に入れたおもちゃなんかじゃない、本物だ。
だって今、こうしている間にも温かさが伝わってくる。小さな息遣いが、鼓動が、小さな指がシャツを掴む感触が伝わってくる!
おかえり。おかえり。おかえり、ビロード。
俺の友達、永遠の、友達。
( ^ν^)『……ただいま』
261
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 21:59:40 ID:Zc9hmM.E0
ぐらり、ぐらり。
どろり、何かに沈むような夢のあと。目が覚めると、ぼくはもういちどニュッくんの目の前にいました。
( ^ν^)「どう、動ける?」
( ><)「はいなんです!」
手足がうんと伸びる体。曖昧な一つの個体だった手が、手のひらと指の6つに分かれて感じられた。
腰をひねったり、前にかがんだり。まばたきをするたびに、自分の頬にまつ毛が当たる感触もある。
( ^ν^)「……ビロードは、俺のために生まれてきたの?」
( ><)「?……よくわかんないけど、きっとそうなんです!」
あんなに遠かったニュッくんが少し近付いて、ぬいぐるみのみんなが少し小さく見えました。
262
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:00:05 ID:Zc9hmM.E0
爪'ー`)y-「おー、見違えたね。でっかくなった」
ξ゚⊿゚)ξ「すごーい、髪もサラサラ!」
( ^ω^)「おーっきいお、ビロード!」
('A`)「……よかった」
裸足だった足にソックスが、きゅうくつでもう着れなくなった小さな洋服の代わりには青い襟のセーラー服。ツンちゃんが持ってきてくれた鏡には、きょろきょろするぼくの頭にちょこんと乗った青いリボンのマリンベレーが写っていた。
( ^ν^)「結構頑張った。どう」
(*><)「……えへへ。すっごく、すっごくうれしいんです!」
263
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:00:33 ID:Zc9hmM.E0
体の中に通った新しい「芯」をうんと伸ばし、ぴょん、と跳ねる。きりきりとしか手足の動かなかった頃の感覚を忘れるぐらい、今の身体は自由だった。
( ^ν^)「……ビロード、改めて、お誕生日おめでとう」
( ><)「ニュッくん、おぼえててくれたんですか?」
( ^ν^)「うん。カレンダーに書いてある」
ニュッくんが指差した先には古ぼけたカレンダー。一つのマスに何度もバツが書き加えられたそれはもう何年も前のものだけど、確かに僕の誕生日の日付には赤いペンで丸印がつけられていた。
( ^ν^)「ごめんな、あんまり遊べなくって」
ぼくはニュッくんのひざの上に乗る。見上げれば、ちょっぴり大人になったニュッくんの顔がすぐそこにあった。
264
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:01:15 ID:Zc9hmM.E0
( ><)「……ずっと、いっしょですか?」
( ^ν^)「うん。ずっと、いつまでもいっしょ。約束したから」
( ^ν^)「ビロードは生まれ変わったんだよ。永遠に、俺の友達」
『お誕生日おめでとう』
ドアの隙間から差し込まれた花柄のメッセージカードは、だれのもの?
265
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:01:43 ID:Zc9hmM.E0
(´<_` )「これだ」
( ´_ゝ`)「うん? ああ、こりゃ随分と」
古びた木製のドアが漏らす隙間風を受け、揃いの黒髪が揺れる。
薄暗いランプの灯りで照らされたのは、ぼろぼろの布人形とひどく傷んだ着せ替え人形。
かたや、毛羽だった布地に継ぎ接ぎの体。かたや、白い肌に黄色い油、汚れたシャツにほつれたソックス。今朝の来客に伽藍を残した棚を見やれば、にやつく男がこう漏らす。
(´<_` )「俺が思うに、これは随分だ。誰のものでもない。ただ、断ち切るだけだ」
( ´_ゝ`)「断ち切る、か。そうか」
(´<_` )「この手足が正しい以上、繋がっていたんだ。でも溶け落ちた、それも首ごと!」
( ´_ゝ`)「もし俺が、これを直したら?」
(´<_` )「ああ、ああ。それは繋がるさ。でもどうだ、も一度すっかり溶けて、おしまいだろう」
( ´_ゝ`)「折れた蝋燭も少し炙って蝋を溶かしてやればくっつくさ。多少歪でも、そうだろ?」
266
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:02:07 ID:Zc9hmM.E0
緑眼の男はへっへと笑い、店主の背中を叩いて消える。
「どうせ繋げてやるなら、紐でも通してやったらいい」
( ´_ゝ`)「そうだな」
指際で梳いてやればずるずると抜け落ちる銀の髪。嵌め込んでも劣化した樹脂同士がぬめりあってぐらつく首に、塗装も溶け落ちた顔。解れた糸の隙間から漏れ出る綿。
なるほど、これは随分だ。螺旋巻きと拡大鏡を机に置くと、ぬらぬらと立ち上る油と埃の、それこそ言葉として浮き上がるような強い匂い。
( ´_ゝ`)「繋げるか否か、決めるのは紐だ。頭と胴じゃない」
薬液を染み込ませた布で着せ替え人形を巻き、その横で薄汚れた布人形に手を伸ばす。店主のシルエットを浮かばせる瓦斯灯の光は、夜の街に窓の影すら浮かさないままだった。
267
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:02:48 ID:Zc9hmM.E0
第8話:はじまりは、こうしてうまれた
おしまい。
268
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 22:04:06 ID:Zc9hmM.E0
>>222
wow 全然スレ見てないうちにすごい支援絵!うれしい 感謝です
おまいらも見た!?
269
:
名無しさん
:2023/11/06(月) 23:41:07 ID:JXdS3g160
更新嬉しい!ぬいぐるみ達可愛いな
今日ってビロードの誕生日か
270
:
名無しさん
:2023/11/07(火) 02:25:19 ID:i8Csntes0
おつです
271
:
名無しさん
:2023/11/07(火) 23:46:05 ID:uDnR6WA20
乙〜〜〜今回も良かった!好きだ
支援絵には結構前から気づいてた。すんばらしい!
272
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:19:47 ID:PdY0r5tI0
第9話 産まれ代われるか分かれるか
273
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:20:24 ID:PdY0r5tI0
いない。いない。いない。
重たいキャリーケースを放り投げ、中を必死に探しても、ママはどこにもいなかった。
( ν )「なんで、なんで、なんで」
投げ出した衣服が、手帳が、本が飛び交う。擦り切れたキャスターのもとに心配そうな顔が集まって、それでも手は止まらなくて。
キャリーの中身が空になっても、必死で底をまさぐって。
古い記憶が蘇り、いろんな形で見せてくる。
大事な誰かの■姿を。
誰かが。
誰かって
誰が?
274
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:20:45 ID:PdY0r5tI0
爪'ー`)y-「ニュッくん、落ち着けって」
しっぽがぽふぽふ、手をたたく。開いた手帳をぼうしにし、こっちを見上げるぬいぐるみ。
よく見渡せば部屋の中、シャツやハンカチ散らかって。みんなそれぞれぼうし屋さん。
(;×ω×)「いててだお」
おやおや、ひとりは本の下。ブックカバーのお布団に、すこしおもたい紙の毛布。
ほかにも靴下うけ止めて、ならべて数えていち、に、さん。
('A`)「もう持ちきれんぜ」
ξ×⊿×)ξ「ああ、前がみえない!」
シャツをかぶってお化けのサメさん、しっぽをぶんぶん振り回す。
しっぽの先は本にむかって、ぱちんと弾いておっこちた。
( ^ω^)「おー、たすかったお。ツン、じっとしてるおー」
275
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:21:36 ID:PdY0r5tI0
真白いあんよでシャツの海、ぽてぽてのんびり歩きます。みじかいヒレではたいへんな、シャツのシーツをはがしましょう。
( ^ω^)「んしょ、んしょ……」
おおきな大人のワイシャツは、ひとりじゃちょっと重たいみたい。
よいしょ、よいしょと引っぱって、ぽてんとしりもちついただけ。
( ´ω`)「おーん……」
( ^ν^)「……悪い、大丈夫か」
ξ゚⊿゚)ξ=3「ぷは。ああもう、びっくりした」
キャリーケースの夢からさめて、少年はあわてて手をのばす。それからぞろぞろ集まった、ケースの中身をたしかめる。
276
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:22:13 ID:PdY0r5tI0
( ^ν^)「……シャツ、5枚。靴下、5個。下着もハンカチもおんなじ数」
( ^ω^)「えーっと、あとご本もあったお!」
('A`)「ペンと手帳と……あとは無いか?」
みんながそれぞれ中身をあつめ、キャリーはほんとのからっぽに。ポッケの中までしんけんに、『きつね』と『たこ』が確かめます。
爪'ー`)y-「こっちはもう何にもないな」
('A`)「……そういやビロード、さっきなんか拾ってなかったか?」
( ><)「!」
はっと顔あげ、後じさる。ちいさなこどもは、壁のほう。
( ^ν^)「ビロード、なんか拾ったの?」
おおきな少年、手をのばし、ちいさなこどもの髪にふれる。さらり、流れる銀色の糸がするり指先、ながれ落ち。
ちいさなこえで、ごめんなさい。後ろにかくした四角いそれを、そっと彼へと手わたした。
277
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:22:39 ID:PdY0r5tI0
それは、ちいさな花柄のメモ。ときどきトレイに添えられて、ママと彼とをつなぐもの。
つづりを間違えたハッピーバースデーのかけら、ちいさな似顔絵、試し書き。どれも見なれたインクの色で、どれも見なれた筆跡で。
( ^ν^)「……これ」
( ><)「さっき、おっこちてきたんです。それで、これってママさんのだなって、おもって」
( ^ν^)「……なんで」
とたんに曇る、その表情。
キャリーケースと交互に見れば、ぶるり、ふるえる指の先。
それから膝を抱えながら、くしゃり。手の中、声上げた。
278
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:23:17 ID:PdY0r5tI0
わあわあ慌てるぬいぐるみ。しくしく泣いてる少年と、それを見守るちいさな子。
お外はすっかり薄暗く、どんより空気がおもたくなる。
( ;ν;)
(;^ω^)「ニュッくん、だいじょうぶかお」
爪'ー`)y-「ドクオ、ティッシュ」
('A`)「おう……」
ずび、ずび、くしゅん。鼻をかみ、すすり泣く。
かなしいの、いたいの、こわいの、どうしたの。
ぬいぐるみたちはわからない。
( ><)「ニュッくん」
かかえた膝によりそって、替えのティッシュを手わたす子。ブルーの帽子をおさえて見上げ、それでも見えない少年の顔。
( ><)「それって、ママさんからのお手紙ですか?」
ちょっぴり背伸びし手をのばし、握った花柄のぞき込む。涙ぐむ少年の手のなか、花の模様はにじんでる。
279
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:28:46 ID:PdY0r5tI0
( ;ν;)「……でも、なんで、あいつが」
ひくひく、ひっく。髪おさえ、キャリーをどん! とけとばした。みんなはびっくり飛びのいて、それからしん、と静まった。
きつねがぴょん、と飛びだして、背中にするり、よじのぼる。
爪'ー`)y-「ママさんが言ってたろ。信頼できる人が来るんだ、って」
( ;ν;)「でも、っ、俺、しらないよ、あんなの」
しっぽでトントン、背中をたたく。眠れぬ子どもをあやすように。
そのうち呼吸はおちついて、ゆっくり息を吸い込んだ。
( ^ω^)「……そうだお! 怖い人じゃないみたいだお」
ξ゚⊿゚)ξ「ニュッくん、これってその人の荷物なのよね?」
( ;ν;)「うん……」
ξ゚⊿゚)ξ「取り返しに来ないなら、きっと大丈夫よ」
ξ゚⊿゚)ξ「だーれも、ニュッくんのだいじな物、取らないわ」
( ;ν;)「……ほんと、う?」
サメの女の子、すりすりと。柔らかしっぽで寄りそった。ちいさな頭をうんうんと、うなづかせながら微笑んで。
ξ゚⊿゚)ξ「だれにも、奪わせない。これ以上……ニュッくんのことを不安にさせる奴は、私たちが許さない」
280
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:29:06 ID:PdY0r5tI0
('A`)「他のもんはどうでもいいけど、それはニュッくんが持ってた方がいいな」
いつの間にやらおかたづけ、キャリーの中はもとどおり。みんながおはなししてる間に、ふわふわ、みんなががんばった。
爪'ー`)y-「他にめぼしいもんは無かったか」
('A`)「ああ。この本も……まあ、たぶん面白くないぞ」
爪'ー`)y-「んじゃ、後でほっぽっとくか。ビロード、頼めるか?」
( ><)「はいなんです」
じじじ、ぴい。ちいさな体がせいいっぱい、大きなジッパー引っぱって。さらった荷物はもとどおり。
大事なメモ帳にぎりしめ、ドアの向こうへ耳すます。
281
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:29:36 ID:PdY0r5tI0
とんとんばたり……かちゃり。それからしばらく息ひそめ、静まりかえったドアの外。
えいえいおー、とぬいぐるみ、みんなでキャリーを押しだします。
持ち手をひくのはお人形、うしろを押すのはぬいぐるみ。
いちに、いちに、声かけて。ドアの向こうへはこびます。
( ><)「んーしょ、んーしょっ……」
(;^ω^)「うーんお、うーんお……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ああっ、重たい……ねえ、あとどのくらい?」
きつね、サメ、たこ、マスコット。小さなヒレ、足ふんばって。えいえい荷物をはこびます。
(;><)「つ、つかれたんです……おもたいんです、これ」
(;^ω^)「ちょっと、休憩させてほしいお……」
爪'ー`)y-「階段までは……あとツンいっこ分ぐらいだな」
ξ;゚⊿゚)ξ「遠いわよー。ドクオ、前に行って引っぱれないの?」
(;'A`)「無理言うな……」
282
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:32:09 ID:PdY0r5tI0
まっくら廊下のどまんなか、みんなはくたくた、横たわる。
そこにゆるりと伸びたのは、やさしいやさしい少年の手。
( ^ν^)「……あと、俺やるから。みんなありがと」
くたりと転がるぬいぐるみ、ひとつひとつを抱きしめて。お部屋にそっと戻しては、そっとお外をのぞき見る。
( ^ν^)「……大丈夫、誰もいない」
( ><)「ニュッくん、こわくないですか」
( ^ν^)「大丈夫」
転がるキャリーを拾い上げ、からころから、と引きずって。ちょっと迷ったその後に、ぽい、と階段つき落とす。
がたがた、ごとんと音がして、びくり、背筋がこわばった。おおきなおおきなキャリーケースは、下へ下へと転げ落ちた。
283
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:32:32 ID:PdY0r5tI0
( ^ν^)「戻ろ」
( ><)「はいなんです」
ちいさな体を抱きしめて、関節そっと折り曲げて。だいじなだいじな「友達」を、抱えて戻ろう、あの部屋へ。
窓の向こうはもうまっくら。あとは眠って、それから――
それから?
( ^ν^)「……これから、どうなるんだろ」
( ><)「心配いらないんです」
ふと面を上げる、腕の中。小さな子供は、微笑んで。
( ><)「ぼくが、ニュッくんの怖いもの、全部なくしてあげるんです」
だいすきなきみに、やくそくした。
284
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:36:10 ID:PdY0r5tI0
( <●><●>)「……おや」
車のキーと財布と携帯。買い物袋に収まっていたものでも奇跡的なラインナップの中、なんとか診察の許可をくれた旭には感謝しかない。その代わりに渡されたものには困惑が残るが――とにかく、帰ってくる頃には持ち去られていたキャリーケースは玄関先に半ばころがすように戻されていた。
( <●><●>)「中身は……まあ、いいでしょう」
彼女の残したメモ帳については少し気がかりだったが、とにかく今日は言われたとおりにするしかない。
食事の準備、そして今日の記録。ペニサスと旭に言いつけられた生活の基準。いうなればこれが私の新しい仕事だ。
渡されたノートをテーブルに置き、ふと階段を見上げる。
月の無い空を映す擦りガラスの向こうは暗く、その先に明かりは無い。
二階は入速、かつて――あるいは、今もなお――の私の息子の部屋。
そして、怪物がいる場所。
285
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:36:31 ID:PdY0r5tI0
「こっちなんです」
細い声が聞こえる。かぶりを振って、それが幻だと言い聞かせる。リビングのライトに手をのばした、その瞬間。
( ><)「こっちなんです、おじさん」
左手に伝わる冷たい感触。けして生物のそれではない、固く、体温を吸う樹脂の触感。息を飲んだ瞬間に首へ触れるこそばゆさ。
視界に広がる銀の髪。蒼白い肌。立ち上る血の匂い。ぬめぬめとした液体が、指に、腕に、伝わって――
286
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:37:21 ID:PdY0r5tI0
ぶ ちり。
( ><)
「かえしてね、ぼくのもの」
夢の中のあの痛みだった。
287
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:37:59 ID:PdY0r5tI0
第9話:産まれ代われるか分かれるか
おしまい。
288
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 17:40:47 ID:PdY0r5tI0
>>76
うpろだごと絵が消えてたのに気付いた友人が絵の再現してくれました wow
すごい よく出来て閲覧注意だけどおすそ分けします
(ちょっと臭いました 何の匂い?)
https://imgur.com/a/vfyS3aP
289
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 18:07:47 ID:lh2CnFrE0
乙乙おかえり!!
怖すぎてちびちび追ってるんだけど帰ってきてくれて嬉しいよ!
上の画像イメージピッタリだ。素敵なお友達がいるんだね!
服だけ布製なのかな、凄い。
290
:
名無しさん
:2024/09/27(金) 22:26:20 ID:I/UhLgbA0
やったーーーー!!
おかえり! 嬉しい!
ふわふわたち可愛くて何処か不穏であったかくてとても好き
291
:
名無しさん
:2024/10/03(木) 19:17:49 ID:6Q9vgMGg0
乙
ニュッとビロードいい友達だな
ビロードはママに干渉してたのかな。パパ宛の注意書きが軽く見るべきで無い感じが……?
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