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( ^ν^)ふわふわぬいぐるみわんだーらんどのようです
102
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:41:42 ID:NcnpzX5c0
( ><)(あんまり、おいしくないんです)
やけどをするとめんどくさいから、おふろ以外のおゆは使っちゃだめなんです。
あらいものをするのもたいへんだから、しょっきは使っちゃだめなんです。
おかねは、おかあさんがくれた分で足りるようにおかいものしなきゃだめなんです。
シャワーのおゆを入れてぐにゃぐにゃになったカップラーメンをたべながら、ぼくはがっこうであったことをおもいだしていました。
103
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:43:00 ID:NcnpzX5c0
( ><)「あっ」
えんぴつをおとしておってしまったんです。
一ねんせいのときから使っているえんぴつは、もうたったの2ほんしかのこっていないんです。
もう1ぽんのえんぴつはちいさくて、ゆっくりしかもじがかけないからノートをとるのがむずかしいんです。
そのとき、うしろからせなかをたたかれたんです。
(*^ν^)「つかう?」
ともだちのニュッくんが、ながくてきれいなえんぴつをかしてくれました。
(*><)「ありがとなんです」
ちいさいこえでおれいを言って、あわててノートのつづきをかいたんです。
みどりいろのきれいなえんぴつはかきやすくて、いつもはまにあわないノートのかきとりもじょうずにできたんです。
104
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:43:25 ID:NcnpzX5c0
(*><)「ニュッくん、えんぴつありがとなんです」
じゅぎょうがおわって、かえりの会のおはなしをれんらくちょうにかいたら、うしろのせきのニュッくんにえんぴつをかえしたんです。そしたら、ニュッくんは「あげるよ」って言って、うけとってくれませんでした。
(*^ν^)「ビロード、えんぴつ小っちゃくなったのしか持ってないじゃん」
( ><)「えっ? で、でもだめなんです。ニュッくんのだいじなえんぴつなんです、もらったらおこられちゃうんです」
(*^ν^)「えー、わかったー」
それに、あんまりきれいなものをもってると、おかあさんがドロボウしたっておこるんです。まえに、がっこうでかりたえんぴつをそのままもってかえったらおかあさんにものすごくおこられたんです。
ばつとして、あさ一ばんにえんぴつをがっこうにかえせっていわれて、その日ぼくはあさになってがっこうがあくのをおうちの外でまっていました。
わるいことをしたのはおまえなんだから、ぜったいにだまっていなさいっていわれました。だから、このはなしはないしょなんです。
105
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:47:49 ID:NcnpzX5c0
がっこうがおわっても、よるになるまでおうちにかえれません。おかあさんはちゃんと外でくらくなるまであそんでからにしなさいっていうんです。
だから、おかあさんのおしごとがはじまるじかんになるまであそびます。
でも、こうえんであそぶのはだめです。こうえんは、たくさんおとなが見ていてあぶないから、人のいないところであそびなさいって。だから、ぼくはがっこうのうらの「ごみすてどおり」にひみつきちをつくりました。
(*><)「それじゃ、いつものばしょで、まってるんです!」
(*^ν^)「ダッシュでランドセルおいてくる!」
さいしょはひとりであそんでたけど、ニュッくんとなかよくなってからはニュッくんもいっしょにあそんでくます。
ニュッくんはすぐにかえっちゃうけど、それでもずっと一人でいるよりはたのしいんです!
はしっていくニュッくんに手をふって、ぼくはこっそりひみつきちにむかいます。
106
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:48:20 ID:NcnpzX5c0
三⊂二( *><)二⊃「うーっ、ぶーーん!」
じてんしゃ、いす、ぼろぼろになったいろんなものがあつまる中、ちょっとまえまでくるまがおいてあったところがぼくのひみつきちです。
ぼくはニュッくんがもってるぬいぐるみのブーンのまねをして、ニュッくんがくるのをまっていました。こうしていると、じかんがすぎるのが早くかんじるからです。
ブーンごっこをしていたらランドセルがじゃまになったので、どこかにおこうとおもってぼくはとまりました。
( ゜д゜)「……いいね、それ。もっとやってよ」
(*><)「えっ……?」
いつのまにか、ひみつきちの向こうがわ、ゴミがいっぱいすててあるあたりにおじさんが立っていました。
107
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:49:21 ID:NcnpzX5c0
こえをかけてきたおじさんは、ぼくがランドセルをおろそうとすると、おろさないで、そのままつづけて。といいました。
三⊂二( ><)二⊃「……ぶーん、ぶーーん!」
ぼくはひみつきちのなかでぐるぐるまわります。うでをひろげて、ランドセルのおもさでどんどんまわっていきます。
ぐるぐる、ぐるぐる。ぶーん、ぶーん。つかれたのですわろうとしたら、もうできない? ときかれたんです。ぼくはくたくたなのでうん、とうなづいたら、おじさんはとなりにすわってきました。
( ゜д゜)「かわいいね、靴下」
( ><)「えっ? ふつうなんです、ぼろぼろだし……」
( ゜д゜)「ううん、かわいいよ。いくつ?」
( ><)「えっと、10さいなんです」
( ゜д゜)「お名前は?」
( ><)「ビロード、です」
( ゜д゜)「そっか。……ビロードくん、ブーン好きなんだ」
おじさんがぼくのひざをさわります。なまあたたかい半ズボンとくつしたのあいだを行ったりきたりする手がくすぐったくて、ちょっと足をうごかしました。
108
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:49:56 ID:NcnpzX5c0
( ゜д゜)「これ、あげようか」
おじさんはポケットの中からマスコットをとりだして、ぼくに見せました。
(*><)「わぁ……!」
おじさんの手にぶらさがっていたのは、ちいさなブーンのぬいぐるみでした。
( ><)「……で、でも、ひとのものをもらうと、おかあさんにどろぼうって……」
( ゜д゜)「大丈夫だよ。小さいから学校に行くとき以外は外してポケットに隠しておけるし……ね」
そう言っておじさんはぼくのランドセルにブーンのマスコットを付けて、そのまま「ごみすてどおり」の向こうにあるいていってしまいました。
( ><)「……うーん」
(*><)「……えへへ!」
109
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:50:21 ID:NcnpzX5c0
( ゜д゜)「これ、あげようか」
おじさんはポケットの中からマスコットをとりだして、ぼくに見せました。
(*><)「わぁ……!」
おじさんの手にぶらさがっていたのは、ちいさなブーンのぬいぐるみでした。
( ><)「……で、でも、ひとのものをもらうと、おかあさんにどろぼうって……」
( ゜д゜)「大丈夫だよ。小さいから学校に行くとき以外は外してポケットに隠しておけるし……ね」
そう言っておじさんはぼくのランドセルにブーンのマスコットを付けて、そのまま「ごみすてどおり」の向こうにあるいていってしまいました。
( ><)「……うーん」
(*><)「……えへへ!」
110
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:50:57 ID:NcnpzX5c0
おじさんがいなくなってほんのちょっとすると、ぱたぱたと走るおとがきこえてきました。
(*^ν^)「ビロード、おまたせー!」
かたにかばんを下げて、手をふりながらニュッくんがやってきたんです。
(*><)「あ、ニュッくん! みてみて、すごいんです!」
ぼくはランドセルをしょって、もらったばっかりのブーンのマスコットをニュッくんに見せました。
(*^ν^)「それ、ブーンじゃん!」
(*><)「えへへ、ニュッくんとおそろいなんです!」
またおかあさんにみつかってすてられるかもしれないけど、ぼくはだいすきなニュッくんとおそろいのブーンをもらえてうれしかったんです!
⊂二(><*)二⊃三 「ぶーん、ぶーーん!」
三⊂二(*^ν^)二⊃ 「あはは、ぶーーん!」
111
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:51:19 ID:NcnpzX5c0
でも、たのしいとじかんはあっというまなんです。
(*^ν^)ノシ「じゃーな、またあした!」
(*><)ノシ「ばいばいなんです!」
きーんこーん。がっこうの方からきこえるチャイムがなると、ニュッくんはおうちにかえっちゃいます。そのせなかをみおくると、ぼくはまた一人になってしまいました。
でも、「またあした」ならまたあそべるんです!
だから、ぜんぜんさみしくないんです。
(*><)「えへへ」
ランドセルにぶら下がったブーンはつっつくとゆらゆらゆれる。ブーンがいるなら、ぼくはひとりぼっちじゃないんです!
112
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:52:18 ID:NcnpzX5c0
|゜д゜)
113
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:53:54 ID:NcnpzX5c0
つぎのひも、ぼくはひみつきちでニュッくんをまっていました。ランドセルのブーンといっしょにぐるぐるまわっていると、ニュッくんがいつもよりうれしそうなかおではしってきました。
(*^ν^)「なーなービロード、こんどおれんちであそぼうよ! ママがあそんでいいって!」
(*><)「えっ? おうちであそんでもいいんですか?」
(*^ν^)「うん! いっしょにテレビ見て、アニメ見よ! ゲームもあるし!」
ぼくのいえではテレビもゲームも、おかあさんがきらいなものはどんどんすてられちゃいます。
(*^ν^)「じゃああした! あしたあそぼうぜ、おれんち!」
(*><)「はいなんです!」
114
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:56:27 ID:NcnpzX5c0
その日は、ニュッくんにおうちであそぼうっていわれて、それであたまがいっぱいだったんです。
o川# ー )o「ねえ、何これ。どこで盗んできたの」
(;><)「えっと、これは……」
だから、ついうっかりしてランドセルにつけたブーンのマスコットをはずしわすれてかえったら、そのランドセルがおかあさんに見つかってしまったんです。
o川#゜Д゜)o「どうせまた盗んできたんだろ! この泥棒!」
ぱちん。
おかあさんにたたかれると、いつもちからが入らなくなっちゃうんです。あたまのおくが冷たくなって、そのままげんかんまでおいつめられます。
ごめんなさい。ごめんなさい。あやまっても、おかあさんはとめてくれません。
o川*゜-゜)o「ママ、泥棒きらい。おうちのもの盗まれたくないよ。はやく出てって」
( ;;)「ごべっ、ごべんなざいです、どろぼう、っじで、ごべんなざいぃ」
o川*゜-゜)o「出て行け、泥棒。返してくるまで家に入れない」
なげつけられたランドセルをもって、ぼくはおうちをとびだしました。
そとはまっくらで、さむかったです。
115
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:57:26 ID:NcnpzX5c0
( ;;)
おうちをでて、おとなの人に見つからないようにひみつきちへと向かいます。
どうすれば、おかあさんはゆるしてくれるでしょうか。あのおじさんに、ブーンをかえしたらゆるしてくれるんでしょうか。ぼくには、わかんなかったです。
116
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:57:54 ID:NcnpzX5c0
きいろいテープをくぐった先の「ごみすてどおり」に、ぼくはぽつんとすてられたようなきもちでした。
ぽつぽつ、付いたりきえたりするじどうはんばいきのあかりに、たくさんの虫があつまっています。
きばらしにぐるぐる走ってみようかともおもったけど、そんなげんきも出ませんでした。ぼくは、かたくて冷たいじめんにすわります。
(。><)「……わかんないんです、わかんないんです」
どうすればゆるしてもらえるか、わかんないんです。どうすればいいのかも、わかんないんです。空っぽをとおりこしてくるしいおなかをどうすればいいのかも、わかんないんです。
こんなじかんだと、もうコンビニにも行けません。おとなの人にみつかると、「ほどう」されて、またおかあさんはめんどくさいことをするなっておこるんです。
だから、ぼくはたすけてほしい気もちで「ごみすてどおり」の先に行きました。
117
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:58:29 ID:NcnpzX5c0
しらないばしょにいかなければよかった。
しらないひとからぶーんをもらわなければよかった。
ひみつきちなんてつくらなければよかった。
たすけて。たすけて。たすけて。
(* д )「ハァ、ハァッ……!」
つかまれたうでがいたい。じめんにぶつけたせなかがいたい。おなかのおくがあつくていたい。いたい。いたい。
( ;;)「ッ、う、ッ————!」
ぼくは、ブーンをくれたおじさんにらんぼうされました。
118
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:59:01 ID:NcnpzX5c0
かみをつかまれたり、おなかをなぐられたり。でも、ぼくをたたくときのかおはおかあさんとちがってうれしそうでした。
ぼくの上にのしかかったおじさんはぼくの服をびりびりにやぶって、ちぎれたシャツでぼくの口をふさぎました。
おじさんはぼくの体をつかみながらうれしそうでした。ぼくはいたかったです。おなかのなかがちぎれそうで、足のあいだがぐちゃぐちゃになっているようでした。
おじさんは何どもぼくのかおをなめました。おじさんは何どもぼくのおなかをなめました。おじさんは何どもぼくのおまたをさわりました。
ぼくはいたくて、こわくて、でもこのおじさんにブーンをかえしたらおかあさんはゆるしてくれるような気がして、少しだけあんしんしていました。
おじさんがゆるしてくれたら、ぼくはおじさんにブーンをかえそうとおもいました。
(*゜д゜)「ハァ、ハァ……ビロード、こっちに来なさい」
( ;;)「…………」
おじさんはどろどろしたおしっこをぼくにかけたあと、とおりのおくに止まっていたくるまの中にぼくをのせました。
119
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:59:31 ID:NcnpzX5c0
それからおぼえているのは、
(゜д゜)
いたくて、
:(*゜д゜):
いたくて、いたくて、いたくて、
(* д )
いたくて、いたくて、いたくて、いたくて、
ただ、くるしくてせまいなかで、さいごまでかんたんにしねなかったことだけです。
120
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 21:59:51 ID:NcnpzX5c0
第4話:さようならと、またあした。
おしまい。
121
:
名無しさん
:2023/05/24(水) 23:22:22 ID:gTPCMhes0
乙、
122
:
名無しさん
:2023/05/25(木) 19:43:42 ID:XHJp51K60
乙乙
怖すぎる
123
:
名無しさん
:2023/05/26(金) 02:01:03 ID:1ZxgQ0os0
乙
内容は辛いけど、語り口調が話し手をどんどん好きになれる感じでとてもいい
124
:
名無しさん
:2023/05/29(月) 19:23:33 ID:zcT.DVOU0
乙、辛すぎる……
しんどいけどこの作品すごく好き
続き待ってます!
125
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:40:31 ID:/34tHg4Q0
第5話:またあした、からへんじがない。
126
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:41:03 ID:/34tHg4Q0
( ^ν^)「……」
昨日ビロードとあそべなかったのがくやしくて、ママが用意したおやつも食べずに布団に入った。ばんごはんを食べなかったからおなかがすいて、あさごはんを食べにリビングに行くと、いつもならとっくに出かけているパパがスーツのままテーブルにすわってた。いつも持ってる大きなかばんは、どこにもない。
( <●><●>)「ニュッ、今日は学校はお休みです」
( ^ν^)「え?」
('、`*川「ニュッくん、まずご飯にしよっか」
( ^ν^)「ん……」
ママは何も言わずにトーストを用意してくれた。今日はビロードくるのかな。そしたら今日遊べばいっか。
さくさくしたトーストの耳を飲み込んで指についたマヨネーズをなめると、ママがとなりにすわった。
('、`*川「……ニュッくん、よく聞いてね」
('、`*川「きのう、ビロードくんがおうちに来なかったでしょ? ビロード君、一昨日の夜からおうちに帰ってなかったんだって。ニュッくんは、何か知ってる?」
( ^ν^)「……おとといは、いっしょにあそんで……明日はいっしょにうちであそぼうってやくそくした」
('、`*川「遊んでた場所は、どこ?」
( ^ν^)「……ひみつきち」
127
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:41:28 ID:/34tHg4Q0
パパは何も言わないで時々おれの言ったことをメモして、ときどきケータイにかかってきた電話とむずかしい話をして、それからまたおれの言ったことを手帳にかく。ママはコップにはいったお茶をのみながらうーんとか、むーとかって言いながらときどきパパを見てる。
('、`*川「……秘密基地の場所、ママに教えてほしいな」
( ν )「——やだ」
だってあそこは、ビロードのだいじな場所だから。おれとビロードのだいじな場所。おれが首をふると、ママはこまった顔でこっちを見る。
こと、とペンを置く音とパパのため息。なんだか、おれが悪いことをしたみたいでいやだった。
( <●><●>)「学校裏の工場跡。そこが"秘密基地"なのは分かってます」
('、`;川「わ、ワカさん——」
(; ν )「っ……」
( <●><●>)「ニュッ、正直に答えて下さい。お友達に何かあってからでは遅いんですよ」
('、`;川「……今ね、ビロード君のおうちにも連絡がつかないの。学校先生たちも心配してるし、何より……ニュッくんが一番ビロード君が心配でしょう?」
( ^ν^)「そう、だけど」
二人がじっとおれを見る。しかられてる時みたいに。
ずっと黙ってると、パパは手帳をズボンのポケットにしまって立ち上がる。お仕事に行くわけじゃなさそうだった。
( <●><●>)「少し出てきます。ニュッ、それからペニサスも念のため着替えておいてくださいね」
('、`*川「あなた……」
パパは手帳とケータイだけを持って玄関をでていく。ママがしんぱいそうに見てたけど、おこられるのが終わったみたいでおれはちょっとだけ安心した。
128
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:42:12 ID:/34tHg4Q0
それからしばらくして、パパが帰ってきた。言われたとおりにきがえて待っていると、家の前にパトカーが止まってた。
ほんもののパトカーの中からはテレビからそのまま出てきたようなケーサツの人が出てきて、パパと少し話してからママとおれをパトカーに乗せた。
( ^ν^)「おれが、わるいの?」
( <●><●>)「……いいえ、ニュッは何も悪くありませんよ」
となりに座ったパパが、さっきみたいなむずかしい顔じゃなくてすこし悲しそうな顔をしておれの頭をなでた。
( <●><●>)「でも、すこし辛い思いをするかもしれません」
('、`*川「……」
ママが横から手をにぎってくる。運転席にすわったケーサツの人が機械を通して少し話すと、パトカーはゆっくり動き出した。
(,,゚Д゚)「……キミがニュッ君、でいいんだね」
( ^ν^)「……はい」
(,,゚Д゚)「あー……お父さんの言う通り、君は何も悪くないよ。ただ、少しだけ確認してほしいことがあるだけだ」
('、`*川「あ、あのっ、もしかして」
はっとして身を乗り出したママに、助手席のケーサツの人はむずかしい顔をした。ふと、赤信号をじっと見つめていた運転席のケーサツの人とミラーごしに目が合って、ドキリとする。
129
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:42:35 ID:/34tHg4Q0
( ・∀・)「……はは、普通これぐらいの子ってパトカーに乗ったら笑ってくれるモンなんだけどなあ」
(,,゚Д゚)「まあ無理もねえっすよ。だって——」
( ・∀・)「ギコ」
(,,゚Д゚)「……ッス」
パトカーをのハンドルを持ったケーサツの人が言うと、助手席のケーサツの人はそれきり手元のプリントを見るばっかりで何も言わなくなった。窓のむこうの景色はどんどん知らないほうへ向かっていく。
( ・∀・)「大丈夫、僕達はニュッ君を叱りに来たわけじゃないんだ。ちょっと聞きたいことがあるだけで、終わったすぐにお母さんたちと帰っていいからね」
パトカーが止まる。
ママに手を引かれて「けーさつしょ」に入る。
それから
それから
それからのことは————
130
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:42:58 ID:/34tHg4Q0
( ν )「あ、あ、あ————」
131
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:43:32 ID:/34tHg4Q0
こんこん。ドアをノックするおとがする。
たぶん、パパ。
なんだろう。
( < >< >)「 」
え?
なに?
( < >< >)「 」
わかんないよ。
( 、 *川「 」
きこえないよ。
( < >< >)「 」
どうすればいいの。
( ν )
( ^ω^)
ブーン?
( ^ω^)「————」
かわりにはなしてくれるの。
(*^ω^)「——!」
……じゃあ、おれはちょっと、ねむいから——
( ^ω^)「 」
うん、おやすみ。
( -ν-)
132
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:44:39 ID:/34tHg4Q0
('、`;川「ニュッくん……ニュッくん、お願い、起きて……」
初めにベッドの上でぐったりと倒れている息子を見て真っ先に青ざめたのは他でもないペニサスだった。慌てて駆け寄って体を起こすと、うっすらと上下する胸を前にああ、と小さく息を安堵した声がする。
光のない目をうっすらと開いたまま脱力する姿には否が応でもあの「写真」を思い出させられる。
警察の緘口令も虚しく、”小学生男児トランク詰殺人事件”としてやけにセンセーショナルに語られたその事件がマスコミの手に渡って以来、我が家の戸口に昼夜を問わず現れる報道陣の群れ。おかげで仕事に行くどころか落ち着いて食事もできない中の出来事だった。
( -ν(つ^ω^)『……おっ、ニュッくんはすっごくねむたいみたいだお。おはなしがあったらまたあとにしてほしいお』
視線の合わない虚ろな目。やや上ずった調子の声色で手にしていたのは被害少年の遺品と共通のキャラクターぬいぐるみ。散らかったままのぬいぐるみ、パジャマ、ゲーム。あの日から、息子はいくつかの気に入りのぬいぐるみを抱えたまま碌に食事もとらずにベッドに横たわっていた。
そう。受け止めきれない現実から逃げ出すことを選んだ息子は、全てをぬいぐるみに託すように眠り、口を閉ざすようになったのです。
133
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:45:01 ID:/34tHg4Q0
( <●><●>)「……どうですか」
('、`*川「だめ……だめだよ、このままじゃニュッくんが、死んじゃう……」
目を腫らし、かぶりを振った妻は抱きしめるやいなや肩を震わせる。食事を運んでも口を付ける様子はなく、このままでは栄養失調危険すらある。だというのに家の前は常に報道陣が「何か」を求めてひしめき合う。もはや、どこへ行こうと安寧の地などないように思えた。
( <●><●>)「貴方、またろくに眠っていないでしょう」
(;、;*川「だってニュッくんが、ニュッくんが死んじゃうかもしれないのに……!」
( <●><●>)「しっかりしてください……大丈夫です、私が見ていますから少し休んでください」
(;、;*川「……嫌、いやだよ」
134
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:45:32 ID:/34tHg4Q0
あの子は死んでいるわけでも、眠っているわけでもない。ただ、現実から自分を遠ざけているだけなのだ。ぬいぐるみという薄い布と綿の壁で自分の心を守ろうとしている、それだけなのだろう。
それなのに。
( -ν(つ^ω^)『ママさん、おやすみだお。ニュッくんといっしょにおやすみするお!』
布団の中から囁くようなくぐもった声。青白い指の添えられたにやけた顔のぬいぐるみがこちらを見ている。
(;、;*川「ねえあなた、ニュッくんはおかしくなっちゃったの、ねえ」
( <●><●>)「大丈夫です、少し休む時間が必要なんですよ。だから——」
( 、 !i!川
(;<●><●>)「ペニサス……ペニサス! しっかりしなさい、ペニサス!」
肩に縋っていた腕の力が抜け、ずるりと華奢な体が腕の中へと頽れた。
青白い頬に伝う涙と悲しげな目に深く刻まれた隈。廊下に横たえた体は、間違いなく心身の限界を訴えていた。
( -ν(つ^ω^)『おやすみだお、おやすみだお、おやすみだお』
ベッドの上から狂おしい調子で繰り返される声。虚ろな目。白いぬいぐるみ。頭が割れそうだ。にやけ面。冷たい指先。浅い呼吸。黙れ。
おやすみ。おやすみ。おやすみ。おやすみ。
(#<●><●>)「こ、のっ……」
135
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:45:55 ID:/34tHg4Q0
( ^ω^)『おやすみなさい、だお』
136
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:46:22 ID:/34tHg4Q0
ばちり。
静電気のような衝撃が全身を伝った。
体を起こすと、そこは子供部屋だった。
(*^ν^)
ベッドの内外を問わず散乱するぬいぐるみ。ベッドの下に深く押し込められたランドセル。サンドノイズを映し続けるテレビ。あたまと胴だけの人形を手に毛布の中にうずくまる息子。その中に、見知らぬものが紛れ込んでいた。
( ><)
それはプラスチック製の人形の手足だった。色も太さもめちゃくちゃな手足のパーツがぬいぐるみやゲーム、漫画に混ざってそこら中に散乱している。指先が欠けたもの、塗装の剥がれたもの、血のような、あるいは精液のような汚れが付いたもの。中には焼けただれたように赤黒いものや、巨大なカマキリの腕を持つものも中には混ざっていた。
(*^ν^)「ねえパパ、直すの手伝ってよ」
( <●><●>)「……ニュッ、ですね」
(*^ν^)「ねえ、パパ。手伝ってよ。壊れちゃったんだ」
( <●><●>)「……はは、そうですか」
正気じゃないのは、狂っているのは——
私の方だとでも、言いたいのか。
137
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:46:52 ID:/34tHg4Q0
( ^ν^)「パパ、ビロードをなおしてよ。いっしょにあそびたいんだ」
子供部屋の壁にもたれて明後日の方向を見つめて乾いた唇が紡ぐ言葉はどんな傷よりも痛々しく、歪だった。
閉め切ったカーテンを背に毛布の中に閉じこもるニュッ。その膝の上、伏せられた目の奥にガラス玉のように澄んだ空色の瞳を持つ人形は白銀の髪を揺らしながら無くした手足を求めている。
( ><)
表情と声こそこちらに向けている一方で私を通り過ぎてその果てを見つめるような息子とは対照的に、人形の目は確かに私を見つめていた。私はその奇妙な視線にせかされるように床に転がる色も形も様々な人形のパーツを手繰り寄せ、どれが正しいパーツかを確かめ続ける。
138
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:47:15 ID:/34tHg4Q0
その人形の顔は青白いが、僅かに頬に朱が差している。長い睫毛に白い髪、華奢な胴体。私は山のように堆積した四肢の山を前に、その身に合う手足を選り分けていた。傷ついたもの、歪んだもの、腐ったもの、汚れたもの。間違ったパーツは山からよけて、残ったものの小さな関節をはめ込みながらパズルのように手足を組み立てる。
( <●><●>)「……ビロードくんとは、何をして遊びたいですか?」
( ^ν^)「……ゲームして、テレビ見て、大人になってもずっといっしょにあそぶ」
( <●><●>)「ずっと?」
( ν )「やくそくしたから」
約束。そう一言だけ呟いた息子は再び毛布に顔を埋め、そのまま糸が切れたようにベッドへ倒れこむ。
ことん。
ベッドの上から小さな音を立てて滑り落ちた人形の胴体に、手元で組み合わせた手足はぴったりとはまり込んだ。
139
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:47:35 ID:/34tHg4Q0
「ね——、あ——、——た!」
ブラックアウトした視界に響く声。涙で震えた、愛しい声。
妙に重い体を起こすと、崩れるように倒れていたはずのペニサスがまるで時間を巻き戻したようにまた私に縋りついていた。
('、`;川「あなた、ねえ、あなた!」
(;<-><->)「っ……ぺに、さす……?」
(;、;*川「ワカさんのばかばか、ばか! せっかくニュッくんが目覚めたのに、ワカさんまで倒れちゃったら私、わたし……!」
( <●><●>)「目覚めた……起きたんですか?」
(*^ν^)「うん、おはよー」
声のする方を向けば、確かにそこに息子は立っていた——先程まで見ていた姿が幻覚かのように、今度は「いつものように」顔色のいい笑顔をたたえて。
(;、;*川「あーん……! よかった、よかったぁ……!」
( <●><●>)「……そうだ、ニュッ……大丈夫、ですか」
(*^ν^)「なにがー?」
(;ー;*川「ねっ、もういいもんね。パパもニュッくんも元気なら、ママはいいの!」
(*^ν^)「ママ、おなかすいた!」
(;ー;*川「うん、うん! ごはんにしよう!」
140
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:48:01 ID:/34tHg4Q0
涙を流しながら息子を抱きしめる妻。彼女の救われたような表情と裏腹に、奇妙な感覚が頭の中に残り続けていた。
そうだ。人形だ。
人形の夢を見たんだ。夢? いいや、違う。
( ><)
妻と共に階段を下りていく息子。その手に握られていたのはあの人形だった。
( <●><●>)「……っ」
ポケットの中の携帯に手を伸ばす。1メモリだけ残ったバッテリーの中で無意識にコールした番号は、何度も打ち込んだ会社の番号よりもはるか昔に指が覚えた番号だった。
141
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:48:26 ID:/34tHg4Q0
Pi Pi Pi......
(-@∀@)『——はいはい、旭川ですけど』
数コールの呼び出し音ののち、ざわついた外の音に混ざる声。少し懐かしくもある声はまぎれもない、旭川アサピーのものだった。
142
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:48:50 ID:/34tHg4Q0
( <●><●>)『……アサピー、お久しぶりですね』
(-@∀@)『うわあ、本当に入速くんかあ。何、もしかして去年の同窓会に今更来たいとか? 終わったものはしょうがないからまた来年……なんてね。……ああ、何となく分かったよ、あれか。その件は随分災難だったね。どうせキミんちもマスコミに追われっぱなしでしょ?』
( <●><●>)『ようやく収まってきてはいますけどね。おかげで家内はぐったりで』
アサピーは高校時代からの知人で、医学部を卒業後は地元の総合病院で精神科医をやっていた。この男は1を話せば10を読み取り、ついでに追加の10を持ち前の早口で根掘り葉掘りと聞いてこようとする生粋の詮索魔、そして数少ない知人きっての癖ある知恵者。年に一度、お互いに行きもしない同窓会についての連絡を取るか取らないか程度の付き合いだが、今はこの男だけが頼りだった。
143
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:49:32 ID:/34tHg4Q0
(-@∀@)『基本この手の事件って報道規制がかかってもおかしくないんだけどね、実際。やっぱ田舎じゃそうもいかんわけだ……』
(-@∀@)『で、わざわざ僕に電話してきたってことは相談事だ。おそらくは、息子くんの事で』
( <-><->)=3『……御明察、さすがは天下の詮索屋』
(-@∀@)『なるほど、それなら一肌脱ごうじゃないか、丁度昼休みだしね。流石に僕も人だから今回の件で根掘り葉掘り聞こうってつもりはないからね、キミを怒らせて碌なことはないって分かってるもんで。んで、どういう感じなのさ』
( <●><●>)『その、息子が妙に塞ぎこみました……今はけろっとしているんですが、今度はまるで友達が死んだことを忘れているようにも見えて』
(-@∀@)『ふんふん……児童心理学はそこまで専門じゃないんだけど確か小学4年生だったよね? その辺で死が理解できないとちょっと知的に問題があるかも……って、その線は薄そうだよね。僕の見解としては単なる急性ショックの可能性だってあるよ、子供ってある日突然受け入れたりするもんだからね。詳しい事聞かなきゃわかんないけどさ』
144
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:49:57 ID:/34tHg4Q0
( <●><●>)『はあ、流石は大病院の精神科医。あとはもう少しその捲し立てる癖さえ無くせばよろしかろうに』
(-@∀@)『診察時間なんかどこに行ったって少ないんだから早く話せれば話せるだけ得じゃないか? 思春期の子供の心理的ショックが今後の精神発育にどう影響するかっていうのが分野の中でも一番わかりにくいまであるからね、特に僕って子供に詳しくないからさ。もう少し状況を詳しく教えてくれたらもっと話せるけど、君はきっとそうしない。どうかな』
電話越しでも容易に思い浮かべることのできる分厚い眼鏡越しの自信に満ちた目に私は白旗をあげるばかりだ。その通り、と返せば乾いた高笑いが電話口から響き渡る。
とにかく今まで通りの生活に少しずつ戻ることが必要で、親であるこちらが動揺している限りそれは子にも伝わるというのが一通りの結論のようだった。
145
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:50:18 ID:/34tHg4Q0
(-@∀@)『あとね……これは専門家、ってよりはキミの友人としてのアドバイスなんだけど、息子くん、転校させた方がいいよ。ちょっと遠くでこの話題がないところでしばらく休ませた方がいい。仕事がある以上君は難しいかもしれないけど、奥さんも辛そうなら実家とかに——』
( <●><●>)『……そうですね、少し検討してみます。流石は専門家です』
(-@∀@)『総合病院の下っ端でも役に立てて何よりだよ。じゃ、キミもうっかり狂わないように……』
(-@∀@)『……腐れ縁ついでに初診の予定ぐらいなら早めてやるからさ。診断書だって多少は——』
ぶつん。途中でバッテリーが切れてしまった。
( <●><●>)「……間の悪い」
うっかり狂わないように、だと。
もしかしたらとっくに狂っていたのは私の方で、この話ですら全てが私の夢かもしれないのに。最後まで話せていたら、アサピーだったら分かったかもしれないというのが、私の愚かしい願いだったというのに!
146
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:51:15 ID:/34tHg4Q0
(-@∀@)「うまいこと……あ、あれっ? もしもーし!」
液晶に移る通話終了の文字。強引に断ち切られた通話、歯切れの悪い答え。何かが引っ掛かった。
しかし本当に間の悪い男だ。貴重な昼休みにこんな奇妙な電話をされちゃ、気に合って眠れやしない。
せめて仕事には集中しようと軽食の一つでも取ろうと思ったが、売店に向かおうにも騒がしい看護師達の声に希望は潰える。
(*゚ー゚)「——先生、旭先生! そろそろ次の患者さんです」
(-@∀@)「ああ、申し訳ないね」
(-@∀@)(それにしても……アイツにしては要領を得ない電話だったな。妙だ)
(*゚ー゚)「……先生?」
(-@∀@)「何でもないよーん。椎名さんカルテいい?」
ちくしょう、意地でも病院に来させるべきだったか。あの馬鹿、頭はいいのに真面目過ぎて融通が効かないからなあ。もっと僕みたいにうまくやれよ。そうすれば——
(-@∀@)(まあ……僕に相談しただけ懸命だったと思うべきなのかもなあ)
友人がどうしても気になりかけるのを上っ面の理性で隠し、カルテを読む。
さあ、僕の仕事はこれからだ。
147
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 22:51:54 ID:/34tHg4Q0
第5話:またあした、からへんじがない。
おしまい
148
:
名無しさん
:2023/06/04(日) 14:01:47 ID:ewkVoD920
乙
149
:
名無しさん
:2023/06/04(日) 14:22:33 ID:wvS7MSTQ0
乙乙
アサピーまともでホっとする
150
:
名無しさん
:2023/06/05(月) 23:48:02 ID:CS5U1vTk0
乙
精神疾患の類なのか、それとも人知の及ばない何かが起きているのか、気を揉んでしまうな
気のいい家族のようだから、ありふれた生活を取り戻して欲しいものだけど……
151
:
名無しさん
:2023/06/06(火) 14:49:32 ID:MldrAF220
途中の画像見れた人いますん?
152
:
名無しさん
:2023/06/07(水) 07:38:21 ID:iLdtSg0k0
>>151
見た
瞬閉じ案件よ
153
:
名無しさん
:2023/06/11(日) 15:44:40 ID:MtlEcosw0
今見つけて一気読みした
こえぇ
>>152
どうやって見た?
154
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:53:03 ID:BBn7uM5w0
第6話:へんじはあるよ、「おはよう」と。
155
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:53:27 ID:BBn7uM5w0
あれから数日。
いい加減小学校からの登校催促も激しくなった頃、身勝手にも私が自分の仕事が気がかりで仕方なくなってしまった。
テレビの特集はようやく警察が報道規制をかけたのか、あの事件のニュースの話題はぱったり途絶え、また代わり映えのない芸能ニュースと他愛無いバラエティによる平穏を取り戻しつつある。
全てが、何もかもが元通りになりつつあるのだ。
('、`*川「あなた、おはよう」
( <●><●>)「おはようございます」
(*^ν^)「パパおはよー」
妻も、息子も、まるで何もなかったかのように笑っていた。
パジャマ姿で朝食をとるのにも慣れてしまった今日この頃、ふと友人の言葉が頭をよぎった。
156
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:53:47 ID:BBn7uM5w0
(-@∀@)『――とにかく、徐々に今まで通りの生活に戻ることが必要だからね。息子さんの為にも、何より君の為にも』
そうか。
戻らなくてはいけない。
私の現実、それぞれの現実に。
踏み出さなくてはいけないのでしょう。
157
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:54:16 ID:BBn7uM5w0
( <●><●>)「……今日から仕事に戻りますが、問題ありませんか」
('、`*川「そうかぁ、そうなっちゃうよね。なーんかさみしい」
( <●><●>)「事情聴収やら何やらあったとはいえ、関係者の親というだけで流石に一週間も休めませんからね」
ポットの湯をコーヒーメーカーに注ぎ、休んでいた期間のことを考えながらたらたらと流れる液体を眺める。コーヒーを飲んでから家を出るのは決まって仕事の日。ポットを出した時から感づいていたのか、妻は特段諌めることもしなかった。
('、`*川「ニュッくん、パパは今日からお仕事だって。さみし―ね」
( ^ν^)「ん……いっへらっふぁい」
寝ぼけ眼でホットサンドをかじる息子に手を振り返しながら家を出る。時計を見ると、急げば何とか既定の出勤時間には間に合いそうだった。
158
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:54:47 ID:BBn7uM5w0
普段ならとっくに会社に着いているはずの時間。普段より少しだけ空いている電車の中で、24時間営業のスーパーで買った菓子折りを抱えて流れる景色を眺めていた。
職場からはほんの数日、ほんの数日離れていただけ。一週間の出張や、下手したら数か月単位の単身赴任だって経験してきた。
それなのに、今はまるで着慣れないスーツに身を包んだ入社初日のような気持ちだった。
事務所のドアを開けば、既に殆どの職員が自分の席についている時間だった。
159
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:55:09 ID:BBn7uM5w0
( <●><●>)「……おはようございます。課長、この度は」
( ´∀`)「おっ、入速くん。大丈夫モナか、テレビに追い回されて大変だったモナね」
デスクの上のマグカップを両手に握り、笑い皴のある目を細めて手を挙げたのは入社当初からお世話になっている菜々藻課長。毎朝の日課として目を向けていた新聞を丸めて脇に挟むのは、かつて記者だったころの名残の癖らしい。
( <●><●>)「はぁ、それよりも……」
とにかくお詫びの一つでも入れなくては。タイル張りの床に鞄を下ろし、代わりに持った紙袋の中の包みを差し出そうと膝を折る。
その背中に、ぐぐ、と重力以上の重みが加わった。
(,,゚Д゚)「ゴルァ、入速!!」
( <●><●>)「……古木」
私の背中に手を付きながら濁った声を上げ、やんちゃそうに笑うのは私の同期の古木だった。
160
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:55:37 ID:BBn7uM5w0
古木は課長に書類を手渡しながらギコハハハ、と癖のある笑いを上げる。
(,,゚Д゚)「お前、やっと今年の有給ノルマ達成じゃねーか。超勤面談は免除だとよゴルァ」
( ´∀`)「そういうことモナ。最近は入速くんがあんまり頑張るおかげであやうくモナ達労基さんに怒られるところだったモナ」
( <●><●>)「はあ、それはなんというか……申し訳ないというか」
結婚を機に本部勤めから離れた今でも、半ば残業をしてから帰るのは癖のようなものだった。決して多くはない事務所の人員を顧みて、せめて明日の仕事の中で今日出来るものがあるなら今日のうちにやる。そんなことを繰り返しながら働いていれば、自然と月の残業時間というものは意識しないうちに積み重なっていく。仕事が苦でない以上、それはなおさらだった。
( ´∀`)「モナモナ。入速くんがいない間はみんなでのんびりしながらやってたから、入速くんもゆっくり体慣らしていくモナ。モナからは以上モナよ」
( <●><●>)「……ありがとう、ございます」
私はもう課長に一度頭を下げて、席に着いた。
机の上には様々な地名の書かれたパッケージの包装紙の菓子類が散らかっている中、ほんのわずかな量の期限的余裕のある書類だけがバインダーの中に残っていた。
161
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:56:06 ID:BBn7uM5w0
(,,゚Д゚)「……入速ー」
( <●><●>)「はい」
(,,゚Д゚)「ねぎらえよー」
( <●><●>)「はい、本当に……面倒を掛けましたね。別に、自分の子供が死んだわけでもないのに」
(,,゚Д゚)「バカ、俺ねぎらってどうすんの。お前の代わりに班の子に仕事教えたのは渡辺さんだし、なにより頑張ったのはお前の班のやつらだろうが」
ずる、とバインダーを片手にコーヒーをすする古木が向かいの席を顎でしゃくった。そこにはなんだか前に会った時よりものんびりとした表情の女性、渡辺女史が座っていた。
从'ー'从「あれれ〜? でも古木さん、入速さんがいない間は一番遅くまで残ってたのに〜」
(,,゚Д゚)「だっ……それはお前が早上がりしてただけだゴルァ!」
从'ー'从「えへへ〜」
162
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:56:53 ID:BBn7uM5w0
渡辺女史は一年前の秋口に営業部から転がり込んできたやり手と名高い元本部職員だった。部署も違い、ただでさえ慌ただしい場所だったから当時は気にも留めなかった彼女が、まさか当時の鬼のような眼を丸めて今の職場にやってきたときには部内が騒然とした。
( <●><●>)「渡辺さんが残業どころか早上がりなんて。私と同類だと思っていたのですがね」
从'ー'从「も〜、こっちに来てからやっと素直に定時で上がれると思ったのに入速さんが全然帰らないんだもん〜」
( <●><●>)「……はは、二時間程度じゃ残業ですらなかった頃が懐かしいですよ。今じゃ、ここでひとりになってようやく人恋しくて帰るようになったんですから」
163
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:57:52 ID:BBn7uM5w0
(´・_ゝ・`)「まあまあ、これからは入速代理がたまにはお休みできるぐらいに僕たちも頑張りますから」
(,,゚Д゚)「しっかし盛岡、しばらく秘湯巡りで忙しいとか言ってたくせにちゃっかり今日戻ってきやがったな」
(´・_ゝ・`)「僕は必要な時を理解している人間なんですよ。ね、代理」
( <●><●>)「まったく、調子だけは一人前になりましたね」
盛岡は2年前に入社した、新入社員の少ない職場では一番の若手だった。真っ先についたあだ名が「饅頭王」になるほどの饅頭、そして甘味に目ざとい男だ。
もちろん、今の彼の穏やかな目はじっくりと私の手元の包みに注がれている。
从'ー'从「あ〜、おいしそうなお菓子見えちゃった〜。お茶、入れてきますね〜」
( <-><->)「……まったく。盛岡さんも渡辺さんも目ざといんですから」
( ´∀`)「モナにもいっこくれモナ」
遠くから響く課長の声。私は包みの中から自分のデスク周囲に配る分だけを取り、残りを朝会で配るように箱ごと課長に押し付けた。
( ´∀`)「二個食べちゃっていいモナ? これ余るモナよ」
( <●><●>)「お好きに」
164
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:58:35 ID:BBn7uM5w0
その日は、定時のチャイムと共に何かを期待されるような目線に押しやられてニコニコ顔の部下たちと共に社員証を打刻機にかざした。
从'ー'从「お疲れ様〜」
(´・_ゝ・`)「お疲れ様です、お菓子ご馳走様でした」
( <●><●>)「ああ……はい、お疲れ様でした」
(,,゚Д゚)「お疲れ様ー。ほれ、家庭持ちはとっとと帰りやがれ」
今日は仕事らしい仕事をした感じもないまま、ただ自分の部下や同僚の休暇の話を聞いていた気がする。私が不在にしていた間、何故か夏休みでもないのに数日のまとまった休みを取って国内旅行にいそしむ職員が大勢いたせいで、机の上にたまっていた土産物の菓子類が息子へのずいぶんと良いお土産になった。
鞄の中に土産品を入れていると、事務所の人がひとり、またひとりと帰っていく。奥からぽつ、ぽつんとカウントダウンのように電気を消しているのはモナー課長だった。
165
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:58:58 ID:BBn7uM5w0
( ´∀`)「入速くーん」
( <●><●>)「……課長、あの」
初夏の陽気のおかげで電気を消されてもシャッターの隙間から入る夕日が幸いする。だが、すでに荷物をまとめて最終施錠用のセキュリティキーを指先でくるくると弄ぶ課長は有無を言わさない様子だ。
せめてあの机の上のファイルぐらいは片付けたかった。だが、それも所詮は「明日できる仕事」なのだろう。
( ´∀`)「早く帰らないとモナが戸締りできないモナ。明日できることは明日やるモナ」
( <●><●>)「……そうですね。では、お先に失礼いたします」
( ´∀`)「おつかれさまモナー」
こんなに明るいうちに帰るなんて随分久しぶりだ。まだ息子が小さい頃に妻が体調を崩し、古木や当時の上司に随分頭を下げてなんとか早退した時以来かもしれない。
こんなに早く帰ったらかえって妻が困惑するだろうか。少し考えてケータイに手を伸ばし、多少文面に悩みつつペニサスへメールを入れる。
『今から帰ります。少し早いですが』
( <●><●>)「……わざわざ言う必要もなかったでしょうか」
駅までの道のりを歩きながらそんなことをひとりごち、差し込む西日に目を細める。
すると、メールから間もなくポケットからペニサスからの着信音――彼女とおそろいの着メロ、「エリーゼのために」が流れ出た。
166
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:59:25 ID:BBn7uM5w0
ニュッくんはまだ学校に行く元気がないみたい。お父さんに買ってもらったのか、ちょっと見慣れないタイプのお人形を片手に今日も一日ぼんやりしてる。
いろいろある前にニュッくんのお誕生日の話はしたけれど、いつの間に買ったのかな。ぬいぐるみの毛糸とは違う、着せ替え人形のような細くてつやつやのまっしろな髪。まるで人間の子みたいに滑らかに動く手足。なんだっけ、アルカイックスマイルって言うのかな。
白い肌に伏し目がちなほほえみを浮かべた不思議なお人形は、今日もニュッくんとなかよしみたい。
('、`*川「ニュッくん、その子と仲良しだねえ」
( ^ν^)「うん!」
167
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 21:59:52 ID:BBn7uM5w0
ニュッくんはお人形をティッシュ箱に座らせて一緒にテレビを見たり、とにかくご執心。
また学校に戻れたらその間にこっそり体を測って、ないしょでお洋服でも作っちゃおうかしら。そんなことを考えちゃうぐらい可愛らしいお人形。
麦茶のお供のお煎餅をつまみながらテレビを横目にそんなことをなんて考えていると、エプロンのポケットがぷるぷる震える。
('、`*川「あら、あらら」
メールの文面と時計を見比べて、三回ぐらい。CMのタイミングで振り返ったニュッくんがどうしたの? って。
('ー`*川「ねえ、ニュッくんもうパパ帰ってくるって!」
何だか私が一番嬉しいみたい。はーい、なんて呑気に答えるニュッくんのそばであわててお米を洗い、晩御飯の支度をする。
ご飯の時間には少し早いけど、その分誰かさんのお気に入りのおかずに手をかけたっていいんだから!
168
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:00:14 ID:BBn7uM5w0
いってきます、ただいま帰りました。朝夕の挨拶を繰り返すうちに少しずつではあるものの、かつての当たり前の日々が取り戻されてきた気がした。
課長の目付きは変わらず柔和ながらも鋭く、明日、という一言とともにわざとらしい腕組みで私のルーチンだった残業を牽制し、オフィスの戸締りを穏やかな笑みで済ませて路線を別つ。
朝はコーヒー、昼は弁当、夕食は妻の料理。土日は身体を休め、気の向く時にはグラスを傾ける。これが私の日常だったのか、と取り戻すて仕舞えば随分と大したことはない日常だった。
169
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:00:54 ID:BBn7uM5w0
そうしているうちに、息子の誕生日の日がやってきた。
相変わらず混み合う電車の中で帰りにケーキを買って帰らなくては、と意識を切り替える。13歳の誕生日祝いは息子の好きなフルーツタルトのケーキ、それと妻が贔屓にしている店のカスタードシュー。
帰りの電車は定期外でも、とにかく急いで帰らなくては。そうだ、今日こそ言われる前に帰ってしまおう。そう考えながら、私は朝一番の会議の資料をまとめて渡り廊下を足早に進む。
その時、耳に響いたのはMIDIキーボードの奏でるAmコード。
小さなLEDで表示された着信窓には、妻の名前があった。
170
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:01:36 ID:BBn7uM5w0
(,,゚Д゚)「おーい入速、ケータイ鳴ってんぞ。この着メロ奥さんだろ?」
( ´∀`)「モナ、先に済ませとくモナよー」
咄嗟に携帯を取り上げるが、同時に目に入るデジタル時計が示すのは会議の予定時間のおよそ2分前。
あいにく、この短期間で上司の前で電話を取る勇気が生まれるほど出来た人間ではない私は、無意識に通話終了ボタンに指を伸ばしていた。
( <●><●>)「……後で掛けなおします」
(#´∀`)「ったく——いいから、ちゃんと出るモナ!」
私がボタンに力を込める寸前に声を張り上げたモナー課長。柔和な表情に珍しく皺を寄せた課長は、私と同様に一瞬固まった古木と共に私の手から資料を奪うようにひったくり古木の腕を引き早足でエレベーターホールに向かって行ってしまった。
171
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:01:56 ID:BBn7uM5w0
ぽつり、取り残された私と着信音。
しばらく周囲を見渡すが、他の職員の姿は見受けられず、ゆったりとした音楽だけが流れ続ける。
私は右に寄せた指をずらし、着信を取った。
( <●><●>)「……もしもし、ペニサス?」
('、`*川「もしもし、あなた? ごめんなさい、お仕事中なのに……」
( <●><●>)「いえ……。それより、どうしました?」
小さな静寂。それから、静まった廊下で耳を澄ませなくては聞き逃してしまいそうなほどか細い泣き声。
('、`*川「——あのっ、あのね……」
( 、 *川「……ニュッくんがね……ニュッくんがまた、おかしくなっちゃったかもしれないの」
堰を切ったような妻の声が、小さなスピーカーから溢れ出した。
172
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:02:19 ID:BBn7uM5w0
くすくす。くすくす。
おかしいね。
くすくす。くすくす。
おかしいよ。
ぬいぐるみたちと、はなしてる。
ぬいぐるみたちが、はなしてる。
ξ゜⊿゜)ξ『ニュッくん、あーそびーましょ!』
爪'ー`)y-『ニュッくん、遊ぼうぜ』
( ^ω^)『おっお、ニュッくーん、あそぶおー!』
('A`)『あそべーあそべー』
173
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:02:44 ID:BBn7uM5w0
ひそひそ、かたかた。ゆかのうえ。
こそこそ、もぞもぞ。もうふのなか。
ぐらぐら、ゆらゆら。いまなんじ?
きりきり、じりり。いまはだれ?
( ><)『ニュッくん、おはようなんです』
きい、きい、きしむ、ほんとのゆめは。
( -ν⊂)”「んあ……」
すっかりきみと、ぬいぐるみだけのせかい。
( ^ν^)「……おはよ、みんな」
174
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:03:09 ID:BBn7uM5w0
(*><)『えへへ、ニュッくんねぼすけなんです』
( ^ν^)「んー……」
( )^ω^)『おっお、むぎゅっとくるしいおー』
ぬいぐるみたちは、お部屋の中でわいわいがやがや。だいすきな男の子が起きてきて、みんな遊んでほしくてたまらないみたい。
ξ゜⊿゜)ξ『ニュッくん、おふとんおりてきて、いっしょにあそぼー』
爪'ー`)y-『あそべー、んでもってめしくえー』
('A`)『めしめしー』
ざわざわと騒ぎ出すぬいぐるみたちの中、小さな人形のこどもが一歩、ぴたりと手を上げ前に出ます。
( ><)『みんな、今日がなんの日かわかりますか?』
175
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:09:31 ID:BBn7uM5w0
小さな指先が指し示したのは、枕元に飾られたのキャラクターもののカレンダー。毎年新しくなるたびに、真っ先に丸印を書かれるのが今日この日。梅雨のじめじめが消えて、すっきりと暑いこの夏の日は、ここにいるぬいぐるみたちにたくさんの思い出が生まれた日でした。
ξ*゜⊿゚)ξ『わあ、もうなのね!』
(*^ω^)『……お、ほんとだお!』
爪*'ー`)y-『はは、あっというまだな』
ぬいぐるみたちはそれぞれに思い返します。自分がここにやってきた日。綺麗な包みの中から出て、笑顔の男の子に思いっきり抱きしめられたあの日を!
( ><)『今日は、ニュッくんのおたんじょうびなんです!』
176
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:09:59 ID:BBn7uM5w0
ぬいぐるみの集団の中、くるり回ってベッドを見上げるこども。その目に映るのは、自分の持ち主。だいすきな、だいすきな大親友の男の子。
毎年、ちいさい頃から男の子の誕生日プレゼントにえらばれてきたぬいぐるみにとっては、自分の生まれた日に等しい日。だって、その子が生まれなければ、みんなはだれにも愛されなかったのかもしれないのですから!
( ><)『ニュッくん……』
( ><)『おたんじょうび、おめでとうなんです!』
爪*'ー`)y『……おめでとう!』
(*^ω^)『おめでとうだお!』
ξ*゜⊿゚)ξ『おめでとー!』
(*'A`)『おめっとー』
( ^ν^)「……ん!」
177
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:10:41 ID:BBn7uM5w0
ベッドの上でてれくさそうに頭をかく男の子は、床に集まったぬいぐるみたちを順番にぎゅうっと抱きしめました。
( ^ν^)「ん」
爪'ー`)y-『……やー、いい加減照れるって』
くたびれたきつねのぬいぐるみは、男の子がはじめて行った動物園で出会いました。
( ^ν^)「んーっ」
ξ*>⊿<)ξ『きゃー!』
おおきなサメのぬいぐるみは、男の子がはじめて行った水族館で出会いました。
( ^ν^)「んー」
(*'A`)『……ん!』
くったりしたたこのぬいぐるみは、おさかなのずかんと一緒に出会いました。
( ^ν^)「ん!」
(*^ω^)『ぎゅ、だお!』
まっしろなおまんじゅうのようなぬいぐるみは、おもちゃ屋さんで出会いました。
178
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:11:24 ID:BBn7uM5w0
そして。
( ><)『えへへ……』
( ^ν^)「……おいで」
ずっとずっと、男の子となかよしだったこどもの出会いがいつなのか。
どこで出会ったのかさえも、ぬいぐるみたちは誰も知りませんでした。
( ><)『これで、ずっと、いっしょなんです!』
( ^ν^)「……ん」
男の子のひざの上に座ったちいさなこどもは、まるでどこにも逃さぬようにと独り占めをするよう広がった手の中で、ずっとずっと大切そうに抱きしめられていました。
179
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:11:47 ID:BBn7uM5w0
(*^ω^)
ξ*゜⊿゚)ξ
(*^ν^)
ぬいぐるみたちのおしゃべりはいつまでもつづきます。
爪*'ー`)y
(*'A`)
(*><)
しあわせな思い出がこれからもたくさん生まれますように。
それから、今までのたのしい思い出を、男の子がずっと大切にしてくれますように。
180
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:12:15 ID:BBn7uM5w0
男の子と、ぬいぐるみたちの誕生日パーティーは続きます。
( 、 *川
(;、;*川
ただずっと遠く、ドアの向こうの大人ひとりを置き去りにして。
181
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:12:38 ID:BBn7uM5w0
第6話:へんじはあるよ、「おはよう」と。
おしまい。
182
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 22:13:18 ID:BBn7uM5w0
今気づいたけど小学生と警察さんと古木のAA全部ギコで被っててサーセンwwwサーセン……
小学生はまたんき、警察のギコは適当にフサギコだと思って
183
:
名無しさん
:2023/06/15(木) 23:46:59 ID:kRRCKGMs0
乙です
184
:
名無しさん
:2023/06/17(土) 00:43:10 ID:WnMYsQjA0
乙乙
185
:
名無しさん
:2023/06/20(火) 01:49:29 ID:v9qZER1.0
世界には酷似した人間が三人はいるという専らの噂
186
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:19:37 ID:0vH0sg520
第7話:おはよう、さあ始めよう!
187
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:20:00 ID:0vH0sg520
ばしん、と白い診察室に響いた平手打ちの音。残響が、白いリノリウムにこびりつく。
目を丸くした看護師の手からボールペンが落ちる音を皮切りに、白衣の男は声を上げる。
(#-@∀@)「君がしたことがどんなに残酷で身勝手で、愚かで、愛がなくて、最低な事か、分かってるかい!」
ぼんやりとした頭に徐々に痺れるような痛みが生まれる。
この医者、患者を殴るのか。いや、私は患者ではないから殴られたのかもしれない。いや、私だから殴られたのかもしれない。アサピーは、私がワカッテマスだから殴ったのだろうか。
(#-@∀@)「頭のいいキミのことだから奥さんの病気に自分の行動が関係ないのは分かってると思うよ。ああ、言ってみろよいつもみたいに何でもかんでも『分かってます』ってさあ!」
また始まった。アサピーの早口はまるで講義の録音を早回しにしたようで、時折甲高いイントネーションが混ざる。スツールに座った私を見下ろしながら手ぶりを加える彼は、さながら檄文を読む政治家のようにも見えて。
(#-@∀@)「でもねえ、間違いないよ。息子くんがそうなったのは君が原因だ。君のせいだよ! ただでさえあの中で奥さんが正気で居られたのは単なる奇跡なんだよ、普通の人間だったら追い詰められて、壊れて、それで――」
( <●><●>)「とっくのとうに死んでいた、とでも」
眼鏡の奥の目つきから怒りが消える。代わりに浮かんだのは、そうだ、軽蔑だ。
軽蔑をたたえるアサピーの目。その瞳の奥に映る私の目。
私の目は、いったい何を映しているのだろう。
188
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:20:30 ID:0vH0sg520
('、`*川「ニュッくん、おねがい、ママとお話ししよう……」
あれから毎日のように部屋から聞こえるのは、楽し気な息子と「何か」が話す声ばかり。扉はこちらの声など聞こえないように固く閉ざされ、なんとか鍵をこじ開けたとしても息子の目は声はこちらを認めることはなかった。
(;、;*川「ニュッくんおねがい、ママの方を向いて……」
爪'ー`)('A`)( -ν(つ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ
目線はまどろむように伏せられ、視線はボタン、あるいは刺繍に吸い込まれるように虚ろに輝く。毛布の中で色とりどりのぬいぐるみに囲まれる姿。細い指は私達の手を握り返すことなく、くたびれた布地に絡みつき続ける。
( <●><●>)「……ニュッ、聞こえていますか」
( -ν(つ^ω^)『おっ、パパとママだお。こんにちはだお』
( <●><●>)「あなたはニュッですか、それとも」
( -ν(つ^ω^)『ぶっぶー、ちがうお。ブーンはブーンだお! よろしくですお』
間の抜けた声色に合わせてぷらぷらと上下するのはぬいぐるみの手足。毛布に隠れた息子の表情を伺うことは出来ないが、何にせよこれ以上は何をしても無駄なのでは、という一種の諦観が私の中に生まれ始めた。
189
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:20:56 ID:0vH0sg520
( <●><●>)「……ペニサス、もう戻りましょう」
(;、;*川「……ニュッくん、いつでもいいから、ママとお話しして……ね?」
はらはらと涙をこぼす妻の背を支え、薄暗い部屋の戸を閉じようとしたほんの一瞬。
( ><)
たった一つ、毛布の中でなくベッドの縁に座っていた人形と目が合った様な気がした。
190
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:21:39 ID:0vH0sg520
朝、二人きりの食卓。ニュースを読み上げるキャスターの声が響くダイニングに息子の姿はない。
息子が部屋に閉じこもり始めて最初のうちはこのまま衰弱死でもしてしまうのではないかと危惧していたが、試しに部屋の前に食事を置いたまま夜を明かしたところ、朝にはすっかり平らげた後の皿が廊下に置かれていた。
私たちは毎朝のパンと毎晩の夕食を息子の部屋の前に置き、時々聞こえる楽し気な話し声をあえて聞こえないようにしていた。
( <●><●>)「……ごちそうさまでした」
食後の皿を台所に下げると、妻が焼きたてのトーストに添えたシロップポットに蜂蜜を流していた。これは今からラップをかけられ、やがて無機物との喧騒を織り成す息子の口に入るか――あるいは、無残にも三角コーナーの肥やしになるのだろう。
('ー`*川「ん……いってらっしゃい、ワカさん」
( <●><●>)「行ってきます」
静かになった生活の中、玄関に向かう私を見送る妻の表情がどこか淋し気なことが気がかりだった。
191
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:22:11 ID:0vH0sg520
仕事が終わり、家に着く頃には既に時計は夜間のバラエティの毛色を変える時間帯を示していた。リビングを覗けば、既に食事を終えたはずのペニサスがスナック用の小皿に手を伸ばしたままうつらうつらとテレビの前に座っている。
ダイニングに置かれた夕食を口にしながら、ふとニュッが食事を摂ったかどうかが気にかかった。皿の中の残りをかきこみ、階段を上がった先を覗き込む。
食事の乗ったトレイの代わりにそこにあったのは――
( ><)『ニュッくんと、おはなししたいですか?』
わずかな蒸し暑さだけを残し静まり返った廊下に、影も残さず立っていたのはあの人形だった。
銀色の髪。深く伏せられた瞳。繊細に組み合わさった指先。ジョイント式の関節。白い肌に淡く頬色を差した人形は、確かな『人のこどもの声』で私に語り掛けてきた。
( <●><●>)「――これ、は……」
( ><)『ニュッくんのおとうさん……? ですよね、えへへ。ぼくはビロードっていいます!』
シャツの裾を指先で握りしめ、こちらを見上げるしぐさ。小さな唇は微笑みの形から言葉を紡ぎ、また淡い笑みに戻る。
背中を伝う嫌な汗。
ああ、また夢か。それとも、『いよいよ』なのか。
この目の前にあるものが現実なら、とっくに私は私をやめてしまいそうだというのに。
192
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:22:38 ID:0vH0sg520
その瞬間、頭によぎったのは憎悪だった。
この人形が、私の息子を狂わせたのだ。
あの夢の中で組み立てた手足の中の数々の、なんとおぞましいこと。毒々しい色をした怪物の腕、歪んだ腕、虫の腕、獣の腕、翼の腕。そうだ、この人形は怪物なのだ。
人の姿を模倣した怪物。人の声を真似る怪物。そうして、人を狂わせる怪物。この人形こそ、そうに違いないのだ。
だから、私はこの人形を壊さなくてはいけなかった。
193
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:23:04 ID:0vH0sg520
息子の部屋の前に立つ人形に、目線を合わせるようにかがみこんだ。首を傾げ、もしもしと手足を動かす人形に手を伸ばし――思い切り、頭を掴みあげる。
( ><)『っ、い、いたいんです! やめて、っおとうさっ』
( <●><●>)「……誰が、誰がお父さんですか。この、怪物が……!」
指先に絡まる細い繊維質な髪と、生暖かい空気が入り混じる。部屋の大気が体温のようにまとわりつき、まるで生き物のようだと錯覚させる。
私は思い切り力を込めて人形を床に叩き付けた。フローリングとぶつかり合ったプラスチック製の体はそう簡単に壊れることはなく、わずかに首や腕が曲がるだけに過ぎなかった。
私は人形の腕に手を伸ばし、思い切り引いた。片方の膝で人形の胸を床に押し付け、もう一方の手で頭を掴みあげながら。
194
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:23:35 ID:0vH0sg520
人形の表情が歪んだのは、こいつが単なる人形ではないからでしょう。怪物だから、こんなに苦しそうな表情を浮かべるのでしょう。
右手に掴んだ怪物の腕を強く引くと、人間の腱のようなものが伸縮し、小さな服の隙間から関節から生えた金属製の留め具が露出する。
白い腱と銀の金具で繋げられた紛い物の関節。
それを私は、思い切り引きちぎった。
( ><)『……たすけて、ったすけて、ニュッく――』
怪物が私の息子の名を呼ぶのと同時に、引き伸ばされた腱がぶちり、と切れる音がした。
その瞬間。
(;<〇><●>)「ぐ、っ……!?」
195
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:24:00 ID:0vH0sg520
突然右腕の感覚が消え、全身から力が抜ける、廊下に倒れこんで打ち付けたはずの頭に痛みは感じない。
そしてじりじりとせりあがってくるのは、忘れもしない、あの感覚だ。静電気のような、淡い衝撃が何も感じなくなったはずの全身を支配する。
( ><)『おやすみなさい、なんです』
床に倒れ伏していたはずの人形は私を見下ろし、薄い笑みを浮かべて笑っていた。
196
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:24:30 ID:0vH0sg520
少しだけ埃じみた部屋の中、私は目を覚ました。
床は柔らかい毛の絨毯で、天井は起き上がろうとすると、頭をぶつけてしまいそうなほどに低い。
( <●><●>)(……ここは)
伏せたままに周囲を見渡す。三方には闇、そして一方にだけ、柔らかな光があった。耳に聞こえてくるのは、聞き覚えのある子どもの声だった。
( ν )「――――」
その声は上から聞こえてくる。穏やかな息子の声を頼りに、私は光の方へ這いずろうとする、が。
( <●><●>)(……な、ぜ)
身体がうまく動かない。いや、正確に言えば左半身が――左腕の感覚が、左腕の存在ごと失われている。
まるで、むしりとられたように。
私が、あの人形にしたように。
197
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:25:01 ID:0vH0sg520
私は倒れこんだまま光の先を見つめる。初めはぼんやりとしか認識できなかったそれらが明確なシルエットをもって動き出す。
白くて短い足がうろうろと、魚の尾びれのようなものが時折ふらふらと。色とりどりのそれらはまぎれもない、息子が幼いころから大切にしていたぬいぐるみ達だった。
何とか片腕と足だけで這い進めないか試みるが、どうも足のお感覚が妙でうまく進む事が出来なかった。
仕方なく片腕だけで這うように進んでいると、忙しなく動き回るぬいぐるみの集団の中、ぼんやりと寝そべる個体と目が合う。
爪'ー`)y-『……?』
やや色あせた褐色の体。自分のしっぽを背もたれにするように手足をたらんと垂らしているのは、妻がかつてコンちゃんと呼んでいたキツネのぬいぐるみだった。
それは私の方を数秒見た後にすくりと立ち上がり、丸っこい手足で器用にこちらへ歩き出した。
198
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:25:23 ID:0vH0sg520
爪'ー`)y-『――ニュッくん、ベッドの下。なんかいるよ』
( ^ω^)『おっ?……もしかしてニュッくん、またブーンたちにないしょでおともだちふやしたのかお?』
( ^ν^)「んー……なんだろ。虫?」
光のある方から声が聞こえると同時に、それを遮るような影が降りてくる。それは、さかさまにこちらを覗く息子の顔だった。
( v^v)「……あ、ほんとだ」
にゅ、と白い腕が伸び、私の体を掴みあげた。驚くことに私は息子の手の中にすっぽりと収まる大きさになっており、やはりというべきか、左腕がちぎられたように失われていた。
( ;<●><●>)(――ニュッ、助けてください!)
声を出そうにも声が出ない。私がいた暗がりはベッドの下だったのでしょう、息子はするりと腕を伸ばして私を暗がりから引き出すと、体をやや乱暴にパンパンとはたいて埃を落とし、まじまじと見つめてくる。
199
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:25:46 ID:0vH0sg520
( ^ν^)「ん……ドクオ、さいほー箱。ツン、綿持ってきて」
('A`)『まかせろりー』
ξ゚⊿゚)ξ『りょーかいっ!』
私は目を――その時の私の体に果たしてどんな目がついていたかはわかりませんが――ひどく疑いました。息子の声ひとつで、サメやタコの形をしたぬいぐるみ達が、すいすいと体を動かし自在に部屋のものを集めてくるのですから。
その光景に呆然としている間に、授業用の裁縫箱といくらかの綿が詰まった袋が運ばれてきました。指示を受けたぬいぐるみ以外も、こちらを見るや否や何か慌ただしく動き回ってはああでもない、こうでもないと口を揃えて悩みあうのです。
200
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:26:35 ID:0vH0sg520
( ^ν^)「……腕、ない?」
(;^ω^)『おーん、ぜんぜん見つからないお。黒い腕だおね?』
爪'ー`)y-『……ていうか、こんな奴いたっけ。名前は?』
( ^ν^)「おれも……覚えてないや。作ったのかな、ママ」
ξ゚⊿゚)ξ「ねえねえニュッくん。これでその子のおてて、作れないかなあ」
サメのぬいぐるみが短いヒレでかきまわしていたのは、随分昔にサイズが合わなくなった服の山。その中から取り出したシャツを器用に尾びれに乗せ、こちらに放り投げる。
( ^ν^)「ん……いけそう。よし、治しちゃおう」
201
:
名無しさん
:2023/07/05(水) 22:27:00 ID:0vH0sg520
私は息子の膝の上、その手に支えられながら腕に針を通される。傍にあるのは刃先の長い裁ちばさみでざっくりと切られた生地を縫い合わせ、あらかじめ綿を詰められた腕の代替品らしきもの。
( ^ν^)「それにしてもさ」
爪'ー`)y-『ん?』
より細い縫い針に糸を通すのを手伝い、黒い糸の端を引くのはさっきのキツネのぬいぐるみだ。
( ^ν^)「誰がこんなひどいことすんだろ」
(;<●><●>)(っ……!)
赤い飾りのついた待ち針が新しい『腕』と私を繋ぐように突き刺される。すると、採血の時に刺さる針の痛みとは比べ物にならない、まるで腕に釘を打ちつけられたような痛みが体に走った。
息子は目を凝らしながら私の腕に針を打つ。そのたびに激しい痛みが続き、しかも息子の手に握られてからというものの、私は一切の身動きが取れなくなっていた。
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