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異界大戦記のようです
773
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:03:44 ID:wVsEMc.M0
(;・∀ ・)「......総員、直ぐに甲板の清掃を行い、帰還するぞ!!急げ!」
だが気付くのが遅すぎた。
既に魔法は発動完了してしまい、破滅を運ぶ鳥は既に空に消えた。
そしてその破滅はこの艦にも降り注いでおり、下手をすればもう手遅れかもしれないのだ。
ー否、もう手遅れであった。
ボォオン!!
(;・∀ ・)「......は?」
凄まじい轟音と共に、艦が爆発する。
それも一度だけではない。
次々とその爆発は連鎖するように続いていく。
(;・∀ ・)「まさかっ!こんなところにまで敵が......!」
こんなときに敵襲かと、脳裏によぎるがそれは間違いであることに直ぐに気がついた。
774
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:04:27 ID:wVsEMc.M0
その理由は単純であった。
目の前で、魔方陣が爆発を起こしたのだから。
(; ∀ )「がぁあああっ!!」
身体を吹き飛ばされ、壁に打ち付けられながらも何とか意識を保つ。
そうして思考する。
なぜ、魔方陣が爆発したのか。
まず考えられるのは、魔法の暴走。
魔法は便利だが上手くコントロールできなければその魔力のエネルギーはそのまま暴走し、爆発へと変換されるのだ。
ゆえにこの爆発も魔法の暴走かと考えたが、魔法の暴走とはすなわち魔力を目的への魔法へと変換できない、魔力のコントロールが出来ないから発生するのだ。
だが今回は召喚には成功した以上、魔力を魔法へと変換できていることからその可能性は低いであろう。
そもそも召喚を完了してからかなりの間が空いている。
魔法自体が完了している、つまり魔法への変換は完了しているのに、そこから暴走を起こすことなどあり得ないことである。
誰かが魔力をコントロールせずに垂れ流していれば起こりうるが、そんなことをすれば自分もろとも吹き飛ばされることは子供でも知っていることである。
そんな自殺行為を行うような者はまずいる筈ない。
775
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:05:11 ID:wVsEMc.M0
ではなぜ、こんなことが起こっているのか。
マンタキの脳裏に一つの可能性が頭に浮かぶ。
ーこの爆発自体が、魔法として組み込まれていたのではないか、と。
(;#・∀ ・)「プ、プギャー......貴様!!」
『非常に残念だ。君達のような勇敢な戦士が自らを犠牲にし、敵を滅ぼすために魔法を完遂するとは。ただ、命令もしていないのに勝手にそのような魔法を使うとはいただけないがな』
(;#・∀ ・)「なっ!?」
すなわち、人為的な工作。
これはマタンキ等を確実に殺すための魔法なのだ。
なぜそんなことをするかなど考えるまでもない。
世界を破滅させるような魔法を使った責任をマタンキ達に擦り付け、口封じをする共に、感染源になりうる自分達を抹殺しようとしているのだ。
776
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:05:36 ID:wVsEMc.M0
(;・∀ ・)「ふ、ふざけー」
『ただ、約束通り報奨は与えよう。君の望んでいた昇進だ。自らの死を持って敵を滅ぼそうという君の姿勢に免じて、二階級特進を適用しよう』
(;・∀ ・)「くそっ、くそっ、糞がぁああ!!!」
始めからこの悪魔はこうするつもりであったのだ。
沸き上がる怒りのまま、叫ぶがそれがもう届くことはない。
再度の、爆発。
灼熱の炎が全てを包み込み、海上から万物を消し去る。
その炎に包まれる直前、マタンキは笑い声を聞いた。
それは、間違いなく世界を滅ぼす悪魔の声であった。
777
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:05:59 ID:wVsEMc.M0
続く
778
:
名無しさん
:2023/10/21(土) 21:47:22 ID:kxZhN/eo0
おつ!
気づいたらプギャーがラスボス級のことしてた
流石の人間も病気には勝てんかな…昨今の情勢的に
779
:
名無しさん
:2023/10/22(日) 03:58:20 ID:4XFVPjAQ0
乙
780
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:39:22 ID:SslklFAQ0
アリベシ法書国 牢獄
1463年4月15日
肉の潰れる音がなり響く。
その音に遅れてくぐもった叫びが狭い牢獄の中に木霊する。
その音の中心には鎖で繋がれ、血塗れになった一人のエルフがいた。
そのエルフはつい先日までこのアリベシにて法書と呼ばれる物を管理し、またその法書に記された神からの神託を民へ伝えるというこの国で最も重要な役割を担う、高貴な立場にいたはずであった。
だがそれが今ではカビ臭いこの狭い牢獄に繋がれ、拷問が繰り返し行われている。
どうしてこんなことにと涙を流すが、理由が分からないわけではない。
(# ・∀・)「さぁ吐け!!神に仇なす悪魔の仲間が何処にいるかをっ!!」
工作員であるそのエルフは、この国を実質的に支配できるようにと指令を受け、神の絶対の言葉とされる法書の内容をねじ曲げて伝え、国を操作していたのだ。
国が窮地へと追い詰めた原因の張本人であると同時に彼等の信じる神を汚してしまったのだ。
許されるはずが、ない。
781
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:40:04 ID:SslklFAQ0
凄惨なる拷問はもう、どれほど続いただろうか。
狭い牢獄が赤く染まり、様々な部位が欠損してもなお、止まることはない。
そしてそのまま、まだ死ねれば救いがあると言えたかもしれない。
(# ・∀・)「......おい、そろそろ治療してやれ」
一度きり落とされた部位も、魔法により再生されていく。
身体の再生など、とてつもない技術と魔石が必要な魔法であるというのにそれを拷問に彼等はつぎ込んでいる。
それほどまでに彼等の怒りは強いのだ。
そしてその怒りは燃え尽きることがないであろう。
つまりこの地獄が永遠に続くということである。
絶望以外の何物でもない。
782
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:41:14 ID:SslklFAQ0
( ・∀・)「よし、では続きを......ん?」
そのエルフにもプライドがあった。
このアリベシに潜入し、国を操るというとてつもないことを成し遂げたのだから、当然ともいえる。
そしてそれは全て祖国であるルナイファの為であった。
だからこそ、ルナイファに仇なすことなど出来るはずがない、はずであった。
しかしこの地獄を乗り越えるためには、それだけでは足りなかった。
否、足りるはずがないと言った方がいいかもしれない。
それほどまでにこの空間には狂気が満ちていた。
(; ・∀・)「......なんだと?ルナイファが!?」
そしてその狂気は、新たな矛先を見つけるのであった。
783
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:41:55 ID:SslklFAQ0
ムー国 捕虜収容所
(゚、゚トソン「そ、そのお話は本当なのですか!?」
( ´_ゝ`)「あぁ、陛下は講和に動くらしい」
その言葉に捕虜たちは一斉にざわつき始める。
そのざわめきは喜びと困惑、そして悲しみが入り乱れたものであった。
もうあんな凶悪な敵と戦う必要も、そして国に残された家族たちも危険にさらす必要がなくなるという喜び。
これまでの政策から陛下が本当に講和を選ぶとは信じられないという困惑。
そして世界最強と信じてきた祖国が、本当に負けたのだという悲しみ。
本当に様々な感情が沸き上がり、心がぐちゃぐちゃにかき乱される。
だが皆どこかでこの結末を望んでいたのだろうか。
ざわめきは段々と歓喜へと変わりつつあった。
784
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:42:36 ID:SslklFAQ0
( ´_ゝ`)「......ふむ」
その様子を眺めつつ、アニジャは若干の安堵を覚えていた。
降伏を受け入れられないもの、それこそ徹底抗戦を唱えるようなものが出てくれば混乱は免れない。
それどころか下手に暴れでもすれば危険と見なされ、容赦なく殺されてもおかしくない立場なのだ。
だがここにいる兵たちは降伏を受け入れ、そしてそれを素直に歓喜出来るものばかりである。
ルナイファの現状を考えれば非常に幸運であると言えるであろう。
そしてそれはアニジャも理解しており、負けたことを喜ぶ者が多くて良かったと感じるという、何ともおかしな自身の状況に苦笑していた
785
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:43:34 ID:SslklFAQ0
(゚、゚トソン「それでその、アニジャ様。我々についてはどうなるのでしょうか?」
( ´_ゝ`)「その件か。それは今後の交渉次第とのことだ」
(゚、゚トソン「交渉......」
その言葉に、トソンの顔が一気に引き締まる。
交渉と言えば聞こえは良いが、要は人質と言うことであろうと考えたからであった。
いくら負けたからとはいえ、自身の命により国が不利になるというのは一兵士として耐え難いことである。
( ´_ゝ`)「ん?......あぁ、何か勘違いしているな」
(゚、゚トソン「は、勘違い、ですか?」
( ´_ゝ`)「別に俺達を使って脅しをしようってわけではないようだ。そもそもそんな価値は俺達になかろう」
(゚、゚;トソン「......」
その言葉に誰も何も言わないが心は一つであった。
ーアニジャにはその価値が十分すぎるほどにあるのではないか、と。
786
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:44:46 ID:SslklFAQ0
そしてそれは、アニジャ自身も分かっていた。
アニジャを交渉材料にすれば、かなりの効力があるであろう。
さらにそれは、人間達も分かっていることも知っていた。
だがそれでも、彼は自身がそのような状況に陥ることはないと、特に心配はしていなかった。
( ´_ゝ`)(未だに人間に対する不安は消えず、か。今後ためにも、皆の人間に対する考えを改めなくてはならないな......)
ここで暮らし、そしてクーを通じて得た情報からおおよそではあるが召喚地の人間達が何を望み、どのように考え、行動しているかに察しがついていたのだ。
そしてその彼らの考え方、つまり倫理観を知り、その倫理の上に高度な文化を築いてきたことを知ったのだ。
国と共に、民も成長する。
言われてみれば当たり前のように感じられることではある。
だがルナイファは確かに大国ではあるが、その国の成長と共に倫理観が成長してきたかと問われれば、アニジャは首を捻るであろう。
そんな当たり前のことすら出来ていなかったのだ。
この戦争が仮に無かったとしてもいずれ、国としてまとまらなくなり、崩壊の時は訪れていたであろう。
787
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:45:45 ID:SslklFAQ0
( ´_ゝ`)「国のため......彼らに学ばなくてはならないな」
(゚、゚トソン「は?アニジャ様、どうかされましたか?」
( ´_ゝ`)「あぁ、いや。一人言だよ」
そして歪に成長を続けてきた母国は今、土台から崩れ落ちようとしている。
それは確かに悲しむことではあるが、今までが異常であったのだと、アニジャは考えていた。
この戦争の敗北により、全ては一度、リセットされる。
それにより新たな国を作り上げる際には、もう二度と間違いを起こさぬよう、これまでに学んだことを注ぎ込むことができるだろう。
そうしていつかは、より良い国を作っていけるはずなのだ。
そう、これはそのための一歩なのである。
より良い国へ近づくための、非常に遠回りであったが、必要な一歩なのだ。
ーそう考えなくては、この戦争により散っていた命に顔向けが出来ない。
( ´_ゝ`)「......いや、流石にこれは言い訳だな」
そう呟き、アニジャは苦笑する。
多くのものを失った戦争であったが、今この手には未来がまだ残されている。
そう確信しアニジャはその希望を胸に、未来を思い描くのであった。
788
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:46:19 ID:SslklFAQ0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
(# ^Д^)「奴らが怯んだ今!!我々は攻めに転ずるべきなのだっ!!」
多くのものが集まった議事堂に、プギャーの声が響きわたる。
勇ましく叫ぶその言葉に何人ものエルフが賛同の声を挙げ、敵を倒せと叫び、熱量が上がっていく。
しかし一方で、声を挙げなかったエルフ達は絶対零度にまで冷えきっているのではないかというほど、冷たい視線を彼らに送っていた。
その視線には未だに現実を理解していないのかという呆れと侮蔑の感情が含まれていたが、それに気付く様子もなく、加熱された輩達は意気揚々と自らの主張を吠え続けていた。
789
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:47:14 ID:SslklFAQ0
/ ,' 3「我から話がある......皆、静まれ」
しかし、そのアラマキの声は全ての雑音をかき消し、空間に静寂を取り戻す。
頭に血が昇っていた者達も、一応の冷静さを取り戻し、アラマキに対して頭を垂れる。
そうしてようやく話が出来る空気になったのを確認して、彼は一つ小さく頷き、話を始めた。
/ ,' 3「今日、ここに皆に集まって貰ったのはこの国の今後を決めるためである。皆が知っての通り、我が国は今、窮地に陥っていると言っても良いであろう」
ざわっと、静まり返っていた空間に音が産まれる。
アラマキの言葉は自国の劣勢を認めるどころか、追い詰められていると認めているのだ。
ここにいる多くのものも、それは理解していたが改めてそれを陛下が認め、そして口にするなどと考えていなかったのである。
790
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:48:42 ID:SslklFAQ0
圧倒的な強者としてこれまで振る舞ってきた王が、自ら弱さを認める。
それは強さを武器とし、他国を支配してきたこの国にとってあり得ない姿であり、そんな姿を見せなくてはならないほどになっているということを示していることに他ならないのだ。
/ ,' 3「では、これから我等はどうするべきか。オトジャよ、貴様から提案があると聞いた。ここで述べよ」
(´<_` )「御意」
そうして静まり返り、異様な空気が漂う中、その中心にオトジャが歩み出す。
心音がこの静かな空間に聞こえるのではないかというほど凄まじい鼓動を感じながらも、それをどうにか表に出さぬよう堂々とした姿をなんとか作り出す。
これから発する言葉、一つ一つが国を動かしかねないのだ。
下手に弱い姿を見せ、ここで主張を通せなければ国が滅ぶ事に等しいであろう。
何せこの空間には先ほどまで妄想を語り、それを絶賛していたものがいるのだから。
弱みは見せられないと一度、強く目をつぶり、覚悟する。
ーアニジャ、俺に力を貸してくれ。
口の回る兄の姿を思い浮かべ、そう祈り目を開く。
その目は、覚悟を決めた男の目であった。
791
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:50:02 ID:SslklFAQ0
(´<_` )「では私から提案を述べさせていただく前に、一度、現状を皆に共有させていただきたい。陛下、よろしいか」
/ ,' 3「うむ、許可しよう」
(´<_` )「感謝致します。さて、これまでこと、つまり我々が呼び出した人間のと戦いについてですが、まず最初に接触したは召喚地に送り込んだ先遣隊です」
/ ,' 3「昨年の、召喚直後のことであるな」
(´<_` )「その通りでございます。そして彼らの証言によれば、謎の飛行物体と接触し、攻撃に成功するも撃墜に至らず、その後に謎の攻撃により逆に部隊が壊滅。作戦は失敗し、撤退いたしました」
/ ,' 3「......」
(´<_` )「そしてその後、召喚地は我々の攻撃、及び強制的に召喚したこと、また外交官を処刑したことに対する報復として、ムーを強襲。結果は防衛に失敗し、わずか一日で陥落いたしました」
淡々と語られる敗北の歴史。
皆すでに知っていることとはいえ、最強と吟われた国の民なのだ。
その話を改めて聞いて決していい気分になるものなどいるはずがなく、皆が顔をしかめる。
792
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:51:08 ID:SslklFAQ0
オトジャもそれは同じだが、それでも話を止めることはない。
ただ、淡々と話を続けていく。
(´<_` )「これを受け、我が国は召喚地との戦争を本格的に開始することを決断。また軍務省の判断により宣戦布告がされました」
( ^Д^)「......ふんっ」
(´<_` )「そしてムー奪還に向け、主力とも言える軍を多数派遣、また属国からも兵を集め、歴史上類を見ないほどの大戦力にて戦いを挑みました。我が国が全力で戦いを挑んだと言ってもいいでしょう」
( ФωФ)「......」
(´<_` )「ですが、結果は皆も知っての通り、敗北いたしました。言い訳のしようがないほどの、大敗北です」
話が続くごとに、多くの者の顔がより暗いものへと変わっていく。
改めて言葉で聞き、そうして正しく現実を見つめ直すことにより、現実がどれほど追い詰められているのかを嫌でも認識させられるのだから。
793
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:52:38 ID:SslklFAQ0
(´<_` )「この敗北により敵の圧倒的な強さが共通の認識となった、そうここにいる皆様も間違いなく、ご理解いただけていると考えております。また多数の艦を一気に喪失したことにより、ムー奪還は実質不可能となりましたため、我が国は防衛に全力を尽くすこととなりました」
( ^Д^)「......」
オトジャが共通の認識と述べた際、わざと強調して話をする。
その言葉に継戦派のものたちは苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべるが、唸るのみで反論はなかった。
否、反論できなかったという方が正しい。
何故なら敗北は事実なのだから。
だが唯一、プギャーのみ涼しい顔のままその言葉を聞き流していた。
その様子に若干の不気味さを感じつつも、話を続けていく。
(´<_` )「ですがこの防衛も失敗に終わり、敵の上陸を許しました。もう海では打つ手がないと言える状態となったため、陸戦でどうにか巻き返しをと考えておりましたが......そこでニータから宣戦布告をされました」
/ ,' 3「......ふむ」
(´<_` )「兵が足りない北方は勿論ニータに対し劣勢であり、圧倒的な力を持つ人間達を相手に南方もまた敗北を重ねました。最早どの戦線においても我々は苦境に立たされているといえます」
( ^Д^)「......だが、勝ったではないか!!我々は、人間にっ!!」
(´<_` )「っ」
794
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:55:18 ID:SslklFAQ0
まるで待っていたかのように言葉を放つプギャーにオトジャは内心舌打ちをする。
ただただ黙っていることはないとは考えていたものの、それでも最後まで黙って聞けないのかー
勿論内心でそう思うだけであり、言葉にはしない。
ただし視線ではそう伝えようと睨み付けるものの伝わる様子もなく、黙るどころかさらに畳み掛けようとしていた。
( ^Д^)「どうやらどうしても我が国が負けるといいたいらしいな、この敗北主義者が」
(´<_` )「......初めに述べた通り、事実を羅列しているだけです。それともなにか、異なるところがありましたか?」
( ^Д^)「まぁ、これまでは苦戦をしていたことは認めよう。だがしかしだ、こと南方の戦線について今語るべきは苦境などではなく我々が勝ち得た、勝利についてであろう!!」
(´<_` )「それについては、これから話をしようと......」
( ^Д^)「なぜあとにする必要があるというのだ!!現状を共有するというならば、南方は我々が勝利したという事実を伝えるだけで十分ではないか!!貴様はこの勝利の事実を無視し、我が国をあろうことか敗戦へと導こうとしているのかっ!!」
(´<_` #)(こいつ......!!)
沸き上がる怒りに歯が砕けんばかりに食いしばる。
よくもまあこのような場でいけしゃあしゃあとそこまで馬鹿げた妄言を披露し、そして相手を侮辱できるものだと逆に感心してしまうほどである。
795
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:55:59 ID:SslklFAQ0
さらに付け加えるならば、彼の取り巻きもそうであろう。
先ほどで御通夜のように沈んでいた彼等が、まるで水を得た魚のように息を吹き返し騒ぎ始めているのだ。
つい先ほどまで少しでも現状を理解できていた頭は一体どこに消えたというのか。
(´<_` ;)(相手にしてられんぞ、こんな奴ら......)
ただでさえ国が追い詰められているというのに、なぜこんなもの達のために時間を割かねばならないのか。
その思いはこの場にいる多くの者が持つ思いであったのだろう。
オトジャに向けられる視線の多くは同情の視線であった。
(´<_` )「......プギャー様」
( ^Д^)「なんだね?ようやく、自分の過ちにでも気が付いたか?」
(´<_` )「ここでの共有する事実についてですが、南方は潜地艦により勝利を納めた......こちらで問題はありませんね?」
( ^Д^)「......」
796
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:57:20 ID:SslklFAQ0
プギャーの言葉など、無意味だと切り捨て強い口調で言葉を叩きつける。
流石のプギャーもその姿に面食らったのか、騒ぎ続けていた口も言葉に詰まっていた。
(´<_` )「問題ないようですので続けて質問致します。この勝利が、何だというのですか?」
( ^Д^)「......どういう意味だ?」
(´<_` )「確かに我々は南方の一部にて勝利を納めました。間違いなく、勝利です」
( ^Д^)「そうだ、だからこそ今度は我々から攻めて奴らを」
(´<_` )「どうやって勝つと言うのですか?潜地艦では、この戦いに勝てませんが」
( ^Д^)「......は?」
余程その言葉が意外であったのだろう。
先ほどまでの勢いはどこへ消えたのか、オトジャのその発言にプギャーはぽかんとした表情を浮かべていた。
797
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 18:58:35 ID:SslklFAQ0
そんな様子のプギャーに攻め時と言わんばかりに言葉を畳み掛ける。
(´<_` )「まず大前提として陸で敵に勝つためには土地を奪還するだけでなく、確保できる力が必要となります」
( ^Д^)「それが何だと」
(´<_` )「ですが潜地艦は敵への奇襲は可能ですが、これのみで戦況を決めることなど出来ません。一時的な奪還は可能かもしれませんが、先ほど述べた通り、確保するためには他の戦力が必要となります。そのための戦力比がどれほどなのかはこれまでの説明でご理解いただけていると思います」
( ^Д^)「......む」
(´<_` )「それに先の戦いは敵が潜地艦を知らないがゆえに我々が勝利を納めましたが、もう二度も同じ手は通用しないでしょう」
(# ^Д^)「通用しないだと?それは貴様の想像に過ぎんだろう!奴らに潜地艦を対処する方法など、ありはしない!!」
(´<_` )「......確かに直接対処する方法は持っていないかもしれませんが、そんなことをする必要もないでしょう」
/ ,' 3「それは、どういうことか?」
(´<_` )「単純な話です。潜地艦は確かに地に潜っている間は無敵かもしれません。先の戦いを見るに、こちらを探知することが出来ていない可能性もあり、地中に潜む間は敵も対処できないかもしれません。しかし常に地の中に潜ることは不可能。艦も、また乗員も補給が必要ですから」
/ ,' 3「......あぁ、なるほどな」
798
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:01:13 ID:SslklFAQ0
その言葉だけでアラマキは理解したのであろう、納得したと深く頷く。
だが周りは、特にプギャー達については理解も納得もしていないのか、未だ怒りを込めた視線をオトジャに送っていた。
(´<_` )「敵は『ひこうき』なる高速で空を飛び、また凄まじい攻撃が可能な兵器を持っております。これまで手に入った情報から行動半径も恐ろしく広いと考えられ」
(# ^Д^)「それがなんだというんだ?」
(´<_` )「......えー、つまりですね。潜地艦が行動できる範囲は敵が攻撃可能な範囲であると言えます。こうなると敵は空から基地をあらかじめ潰しておけば潜地艦は補給も整備もできなくなります。これを防ぐ手段を我々は持っていませんので。その後に陸上を侵攻するのみで潜地艦の対処が事実上可能となる、というわけです」
( ^Д^)「なっ......」
(´<_` )「そもそも敵の機動力を考えれば、潜地艦は地中を進む関係上、凄まじく速度が遅いために敵の攻撃を防ぎきることは困難でしょう。地上戦力では足止めも出来ないようですので部隊の展開が間に合いません。しかし奇襲をしようと、各地に潜伏させようにも潜地艦の数、また乗員となれる魔法使いの数からして、この広大な土地の全てを守りきれるほどありません」
( ^Д^)「......」
(´<_` )「確かに我々は敵に一撃を与える手段を持っています。ですが、あくまでも一撃なのです。この戦況を覆せるものではないことを、皆に理解していただきたい」
799
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:02:44 ID:SslklFAQ0
オトジャの発言に、ようやく継戦派達も理解したのか、先ほどまで自信満々という表情であった顔がみるみる青くなっていく。
その様子に、オトジャもようやく一息つくことが出来た。
(´<_` )「......さて、では本題に入ります。私から一つ、提案をさせていただきます」
だがまだ気を抜くわけにはいかない。
ここからが、本番なのだ。
(´<_` )「提案は単純な話です。先日私のもとへ召喚地より講和に向けた話し合いの申し入れがありました」
(; ^Д^)「なっ!?」
(´<_` )「私はこの提案を受け入れ、講和......和平の道を探るべきと考えます」
大きなざわめきと共に議会が揺れる。
この場にいる多くの者が考えつつも言葉にすることができなかった降伏を提案したのだから当然であろう。
800
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:03:42 ID:SslklFAQ0
(; ^Д^)(まさか別ルートで降伏勧告をしていたというのかっ!?クソッ、面倒なことをしおって......)
だが一人の男だけは別の理由で動揺をしていた。
自らが握り潰すことで、どうにか降伏の道から遠ざけたかったというのに、これではその努力も無駄になってしまうのだ。
(´<_` )「現状、潜地艦による勝利のおかげで、敵もこれ以上の侵攻は避けられるならば避けたいと考えているでしょう。交渉次第では譲歩を狙えます......今以上に好機はない、と考えます」
(# ^Д^)「ふざけるなっ!!降伏など、認められるわけなかろうっ!!」
(´<_` )「ふざけてなどいません。むしろ、このまま戦い続ける方がふざけた考えだと思いますが」
(# ^Д^)「なっ、き、貴様っ!」
(´<_` )「では、お聞きしますが敵に勝つ算段があるというのですか?海と空は既に敵の手に落ち、陸上も守ることすらままならない我々が、どうやって敵に勝てというのですか。奪われた領土を取り返す方法など、有りはしないでしょう?」
801
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:04:16 ID:SslklFAQ0
そのオトジャの言葉に皆がなにも言うことが出来なかった。
これまでの戦いで戦力比は明らかであり、まともに戦って勝てる未来を想像すらできないのだ。
敵に唯一抵抗できる手段は潜地艦のみ。
だがそれだけでこの戦争が勝てることなどあり得ない。
それならば潜地艦を脅威だと敵が認識しているうちに交渉を行い、少しでも良い条件を引き出す。
現状で最も良い選択肢であると理解したのだろう、継戦を叫んでいたもの達も悔しそうな顔を浮かべながらも何事も反論できずにうつむいていた。
そうして静まり返り、全てはここに決着した。
(# ^Д^)「手ならば、ある!!」
ーはずだった。
802
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:04:57 ID:SslklFAQ0
(´<_` )「......なんですと?」
( ^Д^)「手ならばある、そう言ったのだ」
/ ,' 3「な......」
プギャーの発言に、空間にざわめきが蘇る。
そして継戦派も再度顔を上げ、期待に満ちた視線をプギャーに送っていた。
確かに先ほどまでの話で全てが決着がつくはずであった。
だがプギャーのその一言によって全て変わってしまったのだ。
/ ,' 3「プギャーよ。今の発言、この国の未来を左右するものとなることが分かっての発言か?確かに、存在すると?」
( ^Д^)「えぇ、存在します。我々は、奴らを滅ぼすことができるのです!!」
(´<_` )「......そんな手があるわけが」
/ ,' 3「よい、オトジャよ。プギャー、ではその貴様の考えを話してみよ」
( ^Д^)「はっ!」
多くの視線がプギャーに送られる。
一体この状況で何を言うつもりなのか、そしてこんな現状を覆しうるものなど本当にあるというのかー
皆が同じ思いを持ち、言葉を待つ。
803
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:05:42 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「手は、数だ。数の力で、奴らを潰す」
(´<_` )「......はぁ」
そうして出てきた回答は、何とも呆れさせるものであった。
数で敵を圧死させる狙いなどこの戦いが始まって何度も行っている。
さらにその全てで負けているのだ。
今更そんな手で国の方針が変えられるはずもない。
(´<_` )「確かに敵兵は我々よりも少ない......いえ、少なかったというべきでしょう。敵の総数は少ないものの、既に我々は兵を削られ過ぎました。数では勝てません」
( ^Д^)「何のために徴兵をしていると思っているのだ?志願兵も数多くいる。まだ、我々の方が優位だろう」
(´<_` )「一般人など、魔法の才が乏しいものがほとんどで、さらに訓練も積んでいないのです。正規兵が束になっても叶わない相手に、どう戦おうと言うのです?」
( ^Д^)「戦う必要などない。ただ突撃すればよい。それで奴らは終わりだ」
(´<_` )「何を言ってるのですか?そんなことをしても、ただ無駄死にをー」
( ^Д^)「死の呪い」
(´<_` ;)「......なに?」
804
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:06:52 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「知らんわけではないだろう?殺したものに、死を与える魔法があるではないか」
(´<_` ;)「なっ!?」
瞬時、皆が絶句する。
敵を殺すために、国を守るために国民を特攻させる。
そんな、倫理観の欠片もないような作戦をこの男は堂々と言い放ったのだ。
確かに確実に敵を減らすことはできるであろう。
だが降伏派は勿論のこと、継戦派も非人道的過ぎるその考えには動揺を隠せなかった。
(´<_` ;)「そ、そんなことが許されるはずがないだろう!!」
( ^Д^)「許されるか許されないかという話ならば、人間に下ることの方が許されざることだ」
(´<_` ;)「......貴様とは、一生考えが合わんようだな」
( ^Д^)「ふん......貴様が理解する必要などない。全ては陛下が認めてくだされば、丸く収まるのだからな」
そんなこと認めるわけないだろうー
アラマキとオトジャを初めとして多くの者の思いが一致する。
805
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:07:33 ID:SslklFAQ0
こんな提案がもし仮に実現し、敵を殲滅出来たとしてもその後に残るのは焦土のみ。
プライドを保つために民も富も全てを費やすことなど、馬鹿げているとしか言い様ない。
そんな状態で国として保てるはずがないのだ。
(´<_` )「......まあいいでしょう。もし、もし仮にですが認められたとして、その作戦ではこの国から敵を撤退させるに留まるでしょう。それだけでは勝ったとは言えませんが、どうするおつもりか?」
( ^Д^)「その件に関しても問題ない。どうやら私の部下が『勝手に』行動していたようでな。おかげで奴らが滅びるのも時間の問題だ」
(´<_` )「......なんですかそれは」
既に、嫌な予感がしていた。
先ほどの提案ですら最悪だというのに、まだなにかあるというのだ。
自信満々に語るその姿に比例するかのように、不安は増していく。
806
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:09:32 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「なに、新魔法を使っただけだ」
/ ,' 3「......新魔法?確か......遠距離攻撃魔法と聞いたがそれでどうにかできる相手ではなかろう」
( ^Д^)「いえ、陛下。その魔法ではありません。別の、新魔法です」
/ ,' 3「別?別とは......」
(; ФωФ)「なんだとっ!?まさか、き、貴様!!あれを使ったというのかっ!!」
( ^Д^)「使った?話はちゃんと、聞いてほしいものですなぁ。先ほど言った通り、部下が『勝手に』使ってしまったのですよ」
(# ФωФ)「ふざけるなっ!!あれは極秘事項だっ!!そんなこと......あるわけがっ」
( ^Д^)「いえいえ、あるんですよ。どうやらデミタスから情報が漏れてしまったようでしてね」
(; ФωФ)「っ!やつが、そんなバカな......いや、そうだ、デミタス!!召喚艦を動かせば、あの男が気付かないはずがない!!そもそも奴から漏れるはずが......っ!貴様、デミタスをどうした!!」
( ^Д^)「ですからちゃんと、話は聞いてほしいですな。奴なら、新魔法の情報を流出させた上に止められなかった責任から『自殺』しましたよ。遺書も残ってましてね」
(; ФωФ)「なっ!?」
807
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:10:17 ID:SslklFAQ0
その言葉、そして薄ら笑いを浮かべるその男にロマネスクは確信する。
デミタスがこの男に消され、そしてあの魔法を使用させたのだと。
この国を、そしてこの世界を崩壊に導くといってもよい、最悪な事態である。
だがその事に今、気づいているものは少ない。
ほとんどの者が新魔法のことを知らず、話についていけていないのである。
/ ,' 3「ロマネスク、新魔法とはなんだ!?詳しく説明せよっ!!」
(; ФωФ)「......はっ。新魔法は以前お伝えしていた遠距離攻撃、長距離制圧魔法とほぼ同時に開発されたものになります」
/ ,' 3「......なに?そんなものがあるなど、聞いておらんぞっ!なぜ報告をしなかった!!」
(; ФωФ)「申し訳ございません。この魔法は、一度発動すれば世界を滅ぼしかねない魔法ゆえ......誰にも知られることなく、葬るつもりだったのです。ですが、隠していたのは事実。どのような罰も、受ける所存です」
808
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:11:37 ID:SslklFAQ0
/ ,' 3「......待て、世界を滅ぼしかねないとは、一体どういうことだ?どんな魔法なのだ、それはっ!」
(; ФωФ)「......簡単に言えば、疫病を運ぶ海鳥を召喚し、敵地へ差し向ける魔法です。この疫病は古の大国を滅ぼしたと言われるもので、その致死率は一説では九割近くにも及びます。治療魔法も難易度が高いゆえ、現在の我が国で使えるものは......ほとんどおらぬでしょう」
/ ,' 3「な......なんだ、それは......」
(´<_` ;)「ろ、ロマネスク殿。海鳥が疫病を運ぶ、そうおっしゃいましたか?」
(; ФωФ)「うむ、そうだ。察しの通りであろう。召喚直後はある程度、進行方向は操れるため、敵国へ差し向けることが可能。だがその後は......」
(´<_` ;)「操作などできるはずもなく鳥たちは海を渡り、病は世界中に広まる......鳥の侵入を防ぐことなど、実質的に不可能だっ!」
皆が瞬時に顔を青ざめる。
今、この世界にとんでもないものが解き放たれてしまったのだ。
世界中を飛び回る、疫病。
もうこの世界に安息の地などなくなったと言えるかもしれない。
戦争と異なり、自分のいる場所、そして役職に関わらず皆に平等に死が降り注ぐ。
これまで安全な場所から命令するだけで良かったここにいる者たちも、いつ死んでもおかしくない世界へと変貌してしまったのだ。
809
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:14:05 ID:SslklFAQ0
( ^Д^)「これでわかったでしょうか?奴らは既に戦争どころではない。これでこの大陸から奴らを消せば、それだけで我々の勝利となるのです。そして奴らをこの大陸から消すために、ここに国家総動員法を提案するっ!敵は少数!確実に勝利ができるのだっ!!」
(´<_` #)「貴様は馬鹿かっ!!我々にも、戦争などしている余裕なぞ、あるわけないだろう!対策にリソースを回さねば、将来どうなるかくらいわかるだろう!!それも、国家総動員法だと!?そんなことをすればたとえ敵を滅ぼしたところで、我々も滅びるのみだっ!!」
( ^Д^)「馬鹿は貴様だ。国家総動員法は、むしろ好都合なのだよ。考えてもみろ、病を治療できるものは少数なのだ。数が多くては感染源を増やすのみであろう?だがただ死ねと言うわけではない。エルフの、そして我が国ルナイファを守るという名誉ある死だ。そうして残された者たちにより、ルナイファは未来永劫、続いていくのだ。滅びることはない」
(´<_` #)「ふざけるなっ!!そんなことが、許されるはずがないだろうっ!」
(# ^Д^)「許されないだと?許されないのは貴様の言うようにエルフの誇りを捨て、人間の奴隷になることだろうがっ!我々はこの世界を神から与えられた、誇り高きエルフなのだっ!そんなことが許されるはずがないだろうっ!!奴らを滅ぼせるのは今しかないのだっ!まず必要なのは奴らを滅ぼすこと、ただそれのみ!その結果、どんな姿になろうともこの世界を守る、それが神から与えられた我々の使命であり、誇り高き我が国の正しい姿なのだっ!!」
(´<_` #)「っ!狂人がっ!!」
/# ,' 3「もうよいっ!!」
二人の会話に割ってはいる怒声。
その声に誰もが黙り込み、そして息を飲む。
この国の行く末を決めるのは、陛下なのだ。
もし仮に陛下が誤った道を進むというならば、それに従うしかないのだ。
それが例え、狂人が決めた道であり滅びに繋がる道だとしても。
810
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:16:19 ID:SslklFAQ0
そう、陛下の一声で全てが決まってしまうのだ。
だから誰も声には出さないが、思いは一つであった。
ーどうか、正しい道を選んでくれ。
/ ,' 3「......オトジャよ」
(´<_` )「はっ」
/ ,' 3「人間達への連絡を頼む。我が国は、講和を望む......いや、降伏するとな」
( ^Д^)「っ!」
その言葉に、皆が安堵のため息をついた。
少なくとも、現時点で選べる最善の選択がなされたのだと。
問題は山積みであり、決して将来が明るいとは言えないが、少なくとも今の時点では、全てが終わったのだ。
そう考えていたのだ。
ーただ、一人を除いて。
( ^Д^)「......陛下、それが貴方の選択ですか」
/ ,' 3「そうだ」
( ^Д^)「そうですか、非常に残念です。陛下だけは、私の考えを分かってくれると信じていたのですがね」
811
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:17:00 ID:SslklFAQ0
(# ФωФ)「陛下っ、この男はすぐに拘束すべきです!!命令をっ!」
( ^Д^)「一体なんの罪で拘束しようというのかね?先ほどから述べている通り、私はなにもしていないのだ。証拠だってないのだろう?」
(# ФωФ)「......」
( ^Д^)「まぁ、よい。なんにせよ、拘束などできるはずがない」
/ ,' 3「......どういう意味だ?」
( ^Д^)「簡単な理由ですよ」
そう言い、プギャーは右手を挙げる。
そしてそれを合図にし、議事堂の扉が強く開け放たれ、何十人もの兵士が雪崩れ込んでくる。
(; ФωФ)「なっ!?」
( ^Д^)「拘束されるのは、貴様らだからだ......全員、動かないでもらおうか。動けば、命はないと思え」
終わりの、始まりである。
812
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 19:17:22 ID:SslklFAQ0
続く
813
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 20:03:04 ID:i0291jOg0
乙!!
814
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 21:41:07 ID:xBK4yX9c0
乙!プギャーお前はマジでどうしようもないな……。
815
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 22:09:53 ID:Y2NgILtc0
王様迂闊すぎるぅ
816
:
名無しさん
:2023/10/28(土) 22:15:07 ID:95rpDSU60
おつ!
プギャーがここまで追い詰めてくるとは思わなかった…
817
:
名無しさん
:2023/10/29(日) 08:50:38 ID:rvaNCerQ0
乙です
818
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:07:49 ID:e9mBbMOc0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
/ ,' 3「これは、一体どういうつもりだ?」
多数の兵に取り囲まれつつも、アラマキは取り乱すことなく、静かにそう問う。
そう静かに、まるで氷のように冷たい声が響く。
通常であれば、彼のそのような声を聞いたこの国の者は誰しもが震え上がり、許しを乞うであろう。
だがプギャーを初めとして兵も誰一人として態度すら変えず、それどころか睨み返していた。
その目は明らかに正気のものとはいえず、狂気に染まっていた。
/ ,' 3「......狂ったか、貴様ら」
( ^Д^)「狂っているのは貴様らの方だ。あろうことかエルフの誇りを捨て、自ら召喚した奴隷に許しを乞うなど......それも、奴らを滅ぼす力がありながら」
/ ,' 3「その結果、何が得られるというのだ。何も、残らぬではないか」
( ^Д^)「何も残らない?それどころか、我々の輝かしい勝利が得られるではないか。むしろ、何も得られぬのはそちらの方だ。奴らに何もかも、奪い取られる......そんなことが、許されるはずがない」
/ ,' 3「......例え、死んだとしてもか」
819
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:09:26 ID:e9mBbMOc0
言葉は同じであるはず。
だがまるで話が通じていない。
まるで異なる言葉を話しているのではないかとすら感じてしまう。
これならば、異界の人間の方が話が通じるであろう。
今目の前にいる男は同じ国の民であり、同じ種族であるはずだというのに。
そして、そんなものに権力を与えてしまっていたのだ。
/ ,' 3「つくづく、我は王として失格だな......」
( ^Д^)「今更、何を後悔しているか知らんが......あんたにはまだ、利用価値がある。おい、捕らえろ」
その合図に、複数の兵がアラマキを捕らえようと踏み出す。
そして、それと同時にその兵達を包むように光が現れた。
820
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:10:28 ID:e9mBbMOc0
一瞬何事かと、皆が呆気にとられた、その刹那。
光は爆発し、兵達のみを吹き飛ばす。
まるでアラマキを守るかのように、その他一切に影響を与えず、である。
( ^Д^)「......ロマネスクか」
(# ФωФ)「貴様ら、陛下に手を挙げて無事で済むと思うなよ......」
( ^Д^)「ふん、流石だな。神業とも言えるような魔法だ。どうだ?今からでも遅くない、こちらにつく気はないかな?」
(# ФωФ)「あるわけがなかろう!」
( ^Д^)「それは残念だな。貴様ほどの魔法使いがいれば、多くの民を救うことが出来たろうに」
(# ФωФ)「っ!!」
民が死ぬ原因を作り出そうとしているは目の前にいるこの男のはずである。
そんな男の口から民を救うなどという言葉が出てきたことにロマネスクは思わず絶句する。
思考のさらに底、何かが根本的に異なっているのだ。
見た目は確かにエルフであるはず。
だがそこにいるのは、間違いなく道を外れた化け物である。
821
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:12:21 ID:e9mBbMOc0
( ^Д^)「まあいい。それならば予定通りに進めるのみだ。しかしロマネスクよ。貴様がいくら凄腕だろうがこの数に勝てると思っているのか?魔石も多くは持ってないのだろう?」
(# ФωФ)「......」
( ^Д^)「ふん......やれ」
返答がないことに、心底つまらなさそうな顔をしつつ、簡潔に指示を出す。
複数のエルフが色とりどりの魔法を練り上げられる。
陛下を守れるものは、この場にはロマネスクとあとはオトジャくらいであろう。
他にいる者たちは皆、魔法こそ使えど戦闘用の訓練など受けているはずもなく、兵士相手に戦えるようなものなどいるはずがない。
対して相手は数十という軍人。
圧倒的な戦力比であり、またそれを狙ってプギャーはこの場を襲ったのだ。
仮にも軍のトップに立つ男である。
その才をこのような場で遺憾無く発揮し、全てがこの一瞬で片が付くー
822
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:13:28 ID:e9mBbMOc0
(´<_` #)「全部隊、反撃しろぉっ!!」
はずであった。
オトジャのその掛け声と共に、議事堂に潜んでいた彼の部下が一斉に飛び出していく。
それは完全なる不意討ちとなった。
攻撃をしようとしていた者たちは攻撃を放つことも、そして自分等に襲い来る敵に対処することも出来ず、ただ固まってしまっていた。
そんな隙を許すはずもなく一気に雪崩れ込む。
(; ^Д^)「なっ!?こ、これは......ど、どういうことだっ!」
多少の抵抗こそあれどこちらは正規の兵であり、まともに対処できる相手などいないと想定してプギャーらは今回の作戦を練っていた。
しかし一体どういうわけなのか、明らかに敵の護衛に飛び出してきた者たちもまた正規の兵であり、なおかつ練度も高い。
軍の動きをある程度、把握しているはずの自分がなぜこれほどの兵たちの動きを察知できなかったのか。
プギャーには理解できなかった。
823
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:14:55 ID:e9mBbMOc0
(;# ^Д^)「クソッ!一体どこから湧きやがった!!」
(´<_` ;)(まさか、本当に必要になるとはな......)
プギャーが動揺する一方で、オトジャも動揺を隠すことができなかった。
アニジャからの命で、もしものことがあればクーデターを起こしてでも国を動かせるようにと部下の兵は集めていた。
だが陛下であるアラマキの方針からその必要はなくなり、全ては丸く収まるであろうとどこか考えていた。
ただ何人かの反発をする恐れがあったため、その制圧のために兵はある程度の数を備えていたが、まさか逆にクーデターを起こされ、それを制圧することになるなど、全く想定していなかった。
しかしその準備が出来ていなかったことが逆に功を奏していた。
兵の規模が極端に小さいため、動きがバレにくくなっていたのだ。
そしてなによりオトジャを含む部下は全員、陛下直轄の特殊艦隊の兵士である。
国内でも秘匿とされる部隊に所属しているために、いくらプギャーであったとしてもその動きを見つけ出すことも困難となっていたのだ。
824
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:15:56 ID:e9mBbMOc0
(# ^Д^)「くそっ、何をしている!!数はこちらの方が多いのだぞっ!!」
そしてなにより、彼らは選ばれしエリートの集まりなのだ。
少数精鋭という言葉を体現するかのごとく、圧倒的な数の差を才能の差により埋めていく。
さらにそこに世界でも有数の魔法使いであるロマネスクも加わり、戦況は一気に均衡していく。
(´<_` ;)「ぐ......」
ーそう、均衡しているのだ。
敵の不意をついた形となり、明らかに敵は動揺し多大なダメージを与えたはずであった。
しかし、それでも最悪の状況は脱すれど敵を押しきれるほどの力は無かったのだ。
いくら優れたものが揃っているとはいえ多勢に無勢。
さらにオトジャを初めとして集まっている兵は本来、特殊艦隊の配属、つまり海兵なのだ。
本来とは違う戦いにすぐに適用できるかと言われれば、そう簡単にいくはずもない。
825
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:17:17 ID:e9mBbMOc0
またロマネスクも魔法の腕はこの場でもっとも優れているとはいえ、兵としての訓練など受けたことがない。
研究などが本分であるために、慣れない戦いでその力を存分に発揮できているかと言えば怪しいものがあるのだ。
(; ФωФ)(くそ、ここまで敵味方が入り乱れては思うように魔法が使えんっ!!)
さらにそんな状況でアラマキを守らなくてはならないというのだ。
むやみやたらに高威力の魔法を使えば巻き添えになりかねない。
それこそロマネスクが先ほどやったように魔法を巧みに操り、攻撃の衝撃を敵のみに与えることができれば全て解決する。
だがそんなことを皆が皆、出来るはずもなければ、繊細なコントロールの必要な魔法をこんな混戦の中、さらに入念な戦闘準備もしていないこの状況で行えるはずがない。
さらに魔法のコントロールを誤れば、魔法が暴走する恐れもある。
その被害が自身だけならばまだしも、この場には陛下もおり、巻き込みかねないということが、心理的に足枷となっていた。
ゆえに強力な魔法が使えずに敵を一気に制圧することが困難になっていた。
826
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:19:04 ID:e9mBbMOc0
一方でプギャー側はといえば確かにアラマキは生きていれば利用価値があるものの、それは絶対条件ではない。
つまり攻撃を行い、生きていれば御の字といった風に何も気にすることないということである。
さらに彼らは狂気に陥っているのだ。
死すら恐れないその狂気に、オトジャ達は圧倒されていく。
(´<_` ;)「......不味いぞ、ロマネスク殿。このままでは押しきられるっ!兵の体力も、魔石ももうもたんぞ!」
(; ФωФ)「っ!ぐ、む、ぅ......」
ゆえに一旦均衡を保ったとはいえ、それは瞬時に破られる。
オトジャの部下達も、今のところは何とか持ちこたえているものの、形勢は悪化する一方である。
さらにそこに追い討ちをかけるように魔法の元ともいえる魔石が枯渇しかけていた。
魔石がなければどんな凄腕な魔法つかいも、魔法を使えず人間と何も変わらない。
むしろ魔法に依存していた分、それにすら劣るかもしれないのだ。
そのため魔石がなくなればどうなるかなど考える必要もないだろう。
さらに多くの兵が、その魔法を使うための体力も尽きかけていた。
最早精密なコントロールどころか、通常の魔法すら操れるか怪しいところまで到達しつつある。
827
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:19:43 ID:e9mBbMOc0
元々反対派の者達を拘束する程度を考えており、大規模な戦闘など考慮していなかった。
そのため準備不足であったことは仕方のないことではあるが自分の命、そして国の運命がかかっているこの状況でそれを仕方ないと割りきれるはずもない。
だがどうすることもできないという絶望感に、ロマネスクもオトジャは顔を歪ませる。
(; ФωФ)(オトジャ殿の言う通り、こちらの兵力で敵を倒しきるのは無理だ。このままでは、陛下を守りきれん。そうなれば、この国は......)
(´<_` ;)「くそっ!!せめて、陛下だけでも逃げる隙だけでも作れれば......」
(; ФωФ)「......っ!!」
その言葉に、かつて自身が受け持った任務が脳裏をよぎる。
そして一つの可能性が、生まれた。
かなりの無茶をすることになるが、現状よりも遥かにマシであろう、その可能性。
それに全てをかける覚悟を、ロマネスクは固める。
ー少なくともそれならば、陛下のみは助けられるのだ。
828
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:24:32 ID:e9mBbMOc0
(; ФωФ)「そうか、倒さずともそれならばっ......オトジャ殿っ!」
(´<_` ;)「っ!なにかっ!」
(; ФωФ)「すまぬ、説明している時間はない!皆が敵を押さえている今しか、魔法を構築する時間がないのだっ!早く陛下の側へっ!それと、持てるだけ魔石をっ!」
(´<_` ;)「何を......」
(; ФωФ)「オトジャ殿、後は任せましたぞ!」
一体何をするつもりなのかと、オトジャが口を開き尋ねようとしたのを遮るように、ロマネスクは自らのローブを脱ぎ、それをオトジャに渡した。
幾重にも魔方陣が書き込まれたそのローブに時間をかけ、魔力が込められていく。
暫くすると淡い輝きを放ち、魔法を使える者であればそこに注ぎ込まれた力のすさまじさを感じることであろう。
現に受け取ったオトジャもその肌から伝わるこれまで感じたことのないような凄まじい魔力に思わず身震いをしそうになるほどである。
829
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:28:29 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「これは......一体、どういう」
(; ФωФ)「っ!準備が出来たっ!!陛下、あとはこのオトジャに全てを託します。彼と共に、離脱をっ!」
困惑する二人を他所に、ロマネスクは魔法を完成させる。
ローブの淡い光は集まり、強い光となる。
その光もまた、集まり、束なりそして、光の柱となる。
(; ^Д^)「転移魔法っ!?」
それは、対象を任意の座標へ送る転移。
ようやく時間をかけ、何をやっているか気づいたもの達が妨害しようとするものの、その努力も空しくオトジャの部下達に押さえ込まれていた。
そして邪魔をすることすらできぬまま、オトジャとアラマキの二人を光が包みこみ、そして消える。
光も、二人の姿もである。
たった、一瞬の出来事であった。
その場にいた者のほとんどがただ呆然とその様子を眺めていることしかできなかった。
そもそも転移魔法など、いくら小規模でも超高等魔法なのだ。
通常であれば、大規模な魔方陣や複数の優秀な魔法使いがいてようやく使えるかどうかというレベルのもの。
それをたった一人の男がこの混沌とした戦いの中で発動させたというのだ。
830
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:29:41 ID:e9mBbMOc0
( ^Д^)「全く、本当に信じられんな。流石は世界一の魔法使いというべきか。まさか逃げられるとは想定外だ......それも、二人もとは」
(; ФωФ)「はぁ......はぁ......」
( ^Д^)「大分無茶をしたようだな。しかしなぜだ?なぜお前ではなく、オトジャなどを生き残らせた?」
(; ФωФ)「......ふん、簡単な話だ。魔力がほとんど切れた我輩が陛下の側にいても守ることはできない。陛下を救うためには最善手が、これだ」
( ^Д^)「はん、なるほどな。しかし、これがあのロマネスクの最期とはな。魔力が尽き、魔法使いでありながら魔法も使えずに惨めに死ぬことになるとは何とも情けない最期だ。まあ安心しろ。すぐに殺しはせん。死の呪いを使われてはたまらんからな」
(; ФωФ)「ふ......」
( ^Д^)「......なにがおかしい?魔法もまともに制御出来ない状態のくせに」
(; ФωФ)「いや、貴様の言う通り、確かに我輩にはまともな魔法を使う力など残されておらん。転移魔法で限界が来ておる......まともな魔法は、確かに使えぬ。だが、知っているか?もう、巻き込む心配などしなくて良くなったのだ......もはや制御など、要らぬよ」
( ^Д^)「あ?」
831
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:30:32 ID:e9mBbMOc0
(; ФωФ)「制御など、要らぬのだっ!!貴様を殺すだけならば、魔法を暴走させるだけで、事足りる!!」
( ^Д^)「なにをー」
(; ФωФ)「全員、覚悟は出来ておるなっ!!息のあるものよ、我輩に続けっ!!敵を、道連れにするのだっ!!制御など不要っ、ただ残った魔力を垂れ流すだけでよいっ!命を削り、ありったけの魔力を込めろっ!!こいつらをここで止めねば国が、いや、世界が滅ぶっ!」
(; ^Д^)「っ、ま、まさかっ!貴様っ!」
プギャーがハッと周りを見渡せば、先ほどまで追い詰めていたはずのオトジャの部下達の目が明らかに変わっている。
それは、覚悟を決めたものの目であった。
命懸けで、こちらを殺すという、絶対的な覚悟ー
832
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:31:10 ID:e9mBbMOc0
(; ^Д^)「やめろっ!ふざけるなっ!!そんなことをして何になる!!やめっー」
(; ФωФ)「さらばだっ!!」
ロマネスクを先頭に複数の影が、プギャー達へと最後の力を振り絞り、飛び込んでいく。
そしてその瞬間、カッ、という目映い光が放たれた。
制御など考えない魔力の奔流。
通常ではあり得ない、制御を失った魔法の力の渦が産み出される。
(; ФωФ)(デミタス......これで少しは貴様に顔向け出来るであろうか)
死の寸前、その時思い浮かんだのは、友の顔であった。
まさしくこの国を支えてきたといえるであろう偉大な友の顔。
対して自分はといえば世界一の魔法使いと言えば聞こえは良いが、結局何を残せたというのか。
少なくとも今回の戦いにおいてはまるでなにも出来ることはなく、むしろ自身が関わった魔法の開発により、世界が危機に陥ろうとしている。
さらに今ですらその力を満足に発揮できずに命を散らそうと言うのだ。
833
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:31:44 ID:e9mBbMOc0
無念としか言いようがない。
だがそれでもアラマキを守りきり、そしてこの場から離脱させることに成功し、またこの国の暴走の根元を道連れにする。
( ФωФ)(貴様ならもっと上手くやれたのかもしれんが、我輩にはこれが限界である)
だが、自分にしては上手くやった方であろうー
そんな妙な満足感を得たのと同時に。
激しい爆発が、ロマネスクを包み込んだ。
834
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:32:09 ID:e9mBbMOc0
ルナイファ帝国 帝都近郊
(´<_` ;)「へ、陛下っ!ご無事ですかっ!!」
/ ,' 3「ああ、平気だ......だが、ここは?」
(´<_` ;)「どうやら、帝都の外れに転移されたようですね」
/ ,' 3「......我らのみ、か」
(´<_` )「......えぇ、そのようです」
/ ,' 3「......」
それが意味することは理解できる。
ただ、理解したくなどないのだ。
自分達の命を救うために、多くの命を犠牲にしたなど。
835
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:32:56 ID:e9mBbMOc0
(´<_` )「陛下、行きましょう。ここはまだ、帝都に近い。下手をすれば奴らの追手にやられるかもしれません。一刻も早く、移動すべきです」
しかしそれを嘆いたところでどうにもならない。
この状況を打破することができなければそれこそ命が無駄となってしまう。
アラマキもそれが分かっているのだろう、オトジャの言葉に頷き、同意を示す。
/ ,' 3「......うむ、そうだな。しかし、宛はあるのか?」
(´<_` )「テタレスに参りましょう。距離を考えると、そこしかありませぬ」
/ ,' 3「そうか。しかし、テタレスとなると前線が近い。敵からの攻撃があるのではないか?」
(´<_` )「予め講和に向けて、秘密裏にですが交渉を進めており、テタレスへの侵攻は行わない旨を確認しております。そこは問題ありません。むしろ問題なのは」
/ ,' 3「講和することを前提に交渉をしていたのにも関わらず、国がこのような状況になってしまったこと、か」
(´<_` )「......はい」
836
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:33:57 ID:e9mBbMOc0
相手からすれば堪ったものではないだろう。
降伏するために内政をまとめる時間が欲しいと要求を受け、それを容認し遂に終戦かと思えばクーデターにより国家が混乱状態になったと言うのだから。
(´<_` )「こちらがもう交渉できないものと判断され......殲滅されてもおかしくないでしょう」
/ ,' 3「......うむ」
ルナイファは最早国家ではなく、制御不能の武装集団と見られてもおかしくない。
ただ怒りやプライド、自身の思想のためだけに他国を脅かすその危険性、またルナイファの他国からの印象から考えれば、殲滅も国際的に容認はされないかもしれないが、批判もされないだろう。
さらに追い討ちとして、使用した新魔法を考えれば、ルナイファは世界の敵になりうる立ち位置にいる。
状況は、限りなく最悪に近い。
(´<_` )「これから、一体どうすれば良いのやら......」
/ ,' 3「......いや、案外、どうにかなるやもしれぬ」
(´<_` )「え?」
837
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:34:47 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「確かにルナイファは愚かな輩により、政権が奪われた。戦いを望む愚か者にな。だが、民はどうか?」
(´<_` )「それは......北方はともかく、南方であれば降伏を望む声が大きいですが」
/ ,' 3「そうだ。つまり、我が声を挙げれば少なくとも南方は帝王である我に続くであろう。いや、恐らくは国の半分は我に続くはず。それをまとめ上げればそれを武器に十分に講和に向けて話はできる」
(´<_` )「......確かに降伏派のものをまとめ上げることは可能と思いますが、それだけの材料で交渉が上手く行くとはー」
/ ,' 3「上手くいくであろうよ」
そう、アラマキが断言する。
あまりにきっぱりと断言するその姿にオトジャは驚きを隠せなかった。
(´<_` ;)「そ、それは一体どういうことでしょう?」
/ ,' 3「まず前提として、人間達はこちらとの講和を望んでいる。これは分かるな?」
(´<_` )「えぇ。あちらからの働きかけがありますから、そこは間違いないかと」
838
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:35:35 ID:e9mBbMOc0
/ ,' 3「そうだ。しかし、講和するにも相手が必要だろう。ゆえに国を纏められる力のあるもの、それも降伏に前向きともなればはあちらからすれば非常に重要。むしろ状況的には我の価値が上がったと見るべきかもしれんな」
(´<_` )「......確かに混乱した国を、それも我が国の広大な土地全てを殲滅し、統治して混乱を治めることは困難。それならば一部でも国を纏められる者を立てた方がコストも少なく済みますし、なによりスムーズに進む、というわけですか」
/ ,' 3「そうだ、あちらからしてもメリットが大きい。確かに我々の罪は相手からすれば非常に大きいだろうが、下手に断罪などすれば、それこそ国はさらに荒れ、制御出来なくなる。ゆえに、大きくは手を出せんはずだ」
(´<_` ;)「理屈は分かりましたが......相手の感情の問題もあります。上手くいくでしょうか?」
/ ,' 3「確かに全ての罪が許されることはないだろうが、多くは問題なかろう。なにせ、分かりやすい敵が出てきてくれたからな」
(´<_` ;)「っ!ぷ、プギャーに全ての罪を被せるおつもりですか?」
/ ,' 3「そうだ。この戦争の全てを、奴に被せる。奴が望んだ戦争なのだ、本望だろう」
839
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:37:24 ID:e9mBbMOc0
(´<_` )「確かにそれができれば、なんとかなるやもしれませんが流石に、無茶があるのでは......」
/ ,' 3「そこは交渉次第であろうが、現実として奴らに政権を奪われているのだ。決してあり得ないことではない。それに、そういうことにした方が人間達も都合が良いだろう」
(´<_` )「......なるほど」
/ ,' 3「勿論、それで全て無罪放免となるとは考えていない。果たすべき責務は全て果たすつもりだ......それに、だ。これが帝王としての、最後の勤めだ。必ずや国民をまとめ上げ、話し合いを成功させると約束しよう。国を、民を守るためにな」
(´<_` ;)「!へ、陛下」
/ ,' 3「ゆくぞ、オトジャよ」
(´<_` )「......はっ!」
こうしてアラマキ達は歩き出す。
全てを、終わらせるために。
840
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 15:37:47 ID:e9mBbMOc0
続く
841
:
名無しさん
:2023/11/04(土) 18:12:49 ID:0pcX8xDU0
乙・・・・・・!
842
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:15:16 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 帝国議事堂
1463年4月18日
室内に砂煙が舞う。
凄まじい爆発の跡が、そこには残されていた。
その爆風に巻き込まれたのであろう、赤黒いものが辺りに散乱する。
世界最強の国家、その国の中枢であったとは思えないほどに、凄惨な光景がそこに広がっていた。
そしてその光景を眺めるもの達、この国の貴族や議員、そして生き残ったプギャーの兵士達は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
突如プギャーを初めとした徹底抗戦を叫ぶ者達にこの場を制圧されたかと思えば、オトジャとロマネスクが率いる兵により戦場と化すという異常事態。
理解が追い付くはずもなく、またどうすることも出来ずにその様子を眺めていれば、ロマネスクが陛下を逃がし、そして最後の力を振り絞り、自爆した。
843
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:15:51 ID:ziesvxk.0
到底短時間で起こった出来事とは思えず、全てが終わった今ですら理解が追い付かないほどに衝撃的な出来事の連続であった。
自国の事実上の敗北、それを認められない者達の暴走、世界に迫る病の恐怖、そして偉大な魔法使いの死。
どれをとってもとてつもないニュースなのだ。
それも受け入れがたいものばかりである。
だがそれでもまだ救いはある。
暴走の根元たるプギャーもあの爆発に巻き込まれたのだ。
失ったものは大きすぎるものの、それでもまだ、何とかなるかもしれない。
問題は山積みではあるものの、問題の発生源は潰せたのだからー
爆風により、巻き上げられた砂埃。
それもいつしか収まり、ようやく室内の全貌が明らかになっていく。
844
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:16:29 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)「......は、はっ、はっ!」
ーそうして現れた光景に、誰もが声を失った。
砂埃から現れたのは、傷つきながらも確かに息をし、立ち上がる一人の男。
今、この眼前に広がる光景の原因たるその男である。
ーなぜ、生きている!?
混乱する頭の中で、皆の考えが一致する。
あってはならない光景のはずである。
あのロマネスクが命を懸け、最期に道連れにしたはずではなかったのか、と。
だがいくら目を擦ろうが、頬をつねろうが見えるものに変化はない。
確かな絶望が、広がっていた。
845
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:17:08 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)「くそっ、バカがっ!!くそっ、くそぉっ!!この俺を、殺そうとしやがって!くそがぁっ!!」
そんな周りを無視し、プギャーは荒れ狂う。
自分の足元に広がる、無惨な死体。
自身を殺そうとした、その亡骸を足で踏み荒していく。
怒りのままにぐちゃり、ぐちゃりと冒涜する。
(; ^Д^)「はぁ、はぁ......はっ!見たかっ!ただの無駄死にだっ!愚か者の末路に、相応しい結末だなっ!!」
そのおぞましい光景を、誰も信じられなかった。
だが一つ、確実なことを皆が理解し始めていた。
この悪夢はまだ終わることなく、この男により続くのだと。
846
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:18:03 ID:ziesvxk.0
(; ^Д^)(......こいつが役に立つとはな)
プギャーの命を救ったもの、それは彼が着込んでいた最高級品の鎧。
その役目を十二分に果たして魔壁により完全に爆風を防ぎきり、本来戦場で兵士の命を守るはずであったそれは、プギャーの命を救った。
流石のプギャーも臆病過ぎるのではないかと、自身に怒りを感じたこともあったが、その臆病さに感謝することになったのだ。
( ^Д^)「く、ははっ!」
そしてそれは、まさに天啓と言えるであろう。
天が自身を生き残らせようとしており、そして使命を成し遂げろと言っているのだと確信する。
そしてもう、彼を止める存在はここにはいない。
(# ^Д^)「聞け!!皆の者!!今、この時を持って悪しき王は、そしてエルフのプライドを捨てた愚か者達はこの国から消えたっ!!ここに残るは真のエルフのみであり、我々は真のルナイファ帝国を勝ち得たのだっ!!」
ゆえに、もう止まるはずがない。
847
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:19:10 ID:ziesvxk.0
(# ^Д^)「では我らは何を成し遂げねばならないかっ、それは皆も分かるであろう!!そう、我々は戦い、勝たねばならないのだっ!!誇り高き、エルフとしてっ!!」
そのプギャーの演説に、議会を制圧した兵士達が歓声を挙げる。
この国は、これから彼の望む道を進むことになる。
彼らは信じている。
その道がきっと正しい道であり、その道の先に、未来に栄光が待っているのだと。
ー未来どころか、現在すらまともに見ないままに決めた道だというのに。
この後もプギャーの演説は続いていた。
後の歴史書において、『悪魔の演説』と呼ばれるそれは世界にも魔信により流され、各国に衝撃を与えるのであった。
848
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:19:52 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
1463年4月19日
魔信から流れるその演説は、まるで皆を洗脳するかのようにひたすらに繰り返し流されていた。
その放送にこの都市の多くの者が困惑し、そして強い怒りを感じていた。
まさか自国の崇めるべき陛下から政権を奪い取ったどころか、未だに敗けを認めず、さらには国家総動員で敵を滅ぼすと言い出したのだ。
今この放送を聞いている自分たちも戦地に送られかねないという事実に、それもあんな恐ろしい敵を相手に戦うなど最早処刑宣告に等しいとすら感じられる。
爪;'ー`)(おいおいおいおいっ!!どうなってんだこれっ!!)
その放送を聞いていたフォックスもまた、困惑していた。
当然であろう、まさか自分の信じてきた国がとんでもない暴走を起こし、崩壊が始まったとも言える状況なのだ。
849
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:23:13 ID:ziesvxk.0
だがそんな状況であるにもかかわらず同時に若干の安堵もあった。
それはこのテタレスにまだ自身がいたことである。
避難のために帝都に向かおうと考えていたものの、準備が一向に進まず、テタレスで足止めを食らっていたところでこの放送である。
もし準備が間に合って帝都にたどり着いてしまっていたらどうなっていたか。
(;´・ω・`)「ぼ、僕達......どうなるんですか?」
爪'ー`)「......大丈夫だ、安心しろ。とりあえず今は休んどけ」
(;´・ω・`)「......はい」
爪'ー`)(俺だけじゃなくて......こいつらも、下手したら戦地に狩り出されたかもしれん)
国家総動員とは、そういうことなのだ。
子供であろうと関係ない。
むしろ怪我や病気もなく動ける子供こそ、必要とされるであろう。
安全な場所に向かうはずがむしろ、死地に向かわせることになったかもしれないのだ。
その点、ここテタレスは敵こそ近いが、それゆえにこの都市の民衆の多くが徴兵に対して、というよりも戦闘を継続することに強く反発している。
これを押さえ込まねば徴兵などろくに出来ない状態となっているため、少なくとも現時点では、すぐに戦地に向かわされることはないはずである。
850
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:23:46 ID:ziesvxk.0
ただの偶然とはいえ、自身の判断をこれほど良かったと思えるのもそうないであろう。
爪'ー`)「でも、どうなるんだ......これから」
だがあくまでも現時点での話である。
この都市の多くの者が反対しているとはいえ、ここもルナイファなのだ。
本格的に国が動くことになれば、この場所も狂気ともいえるその流れに飲み込まれるかもしれない。
いや、その前に眼前まで迫っているであろう敵にここが潰されるのが先かー
多くの不安を抱えながらも、彼は生き残るため、そして子供達を守るために動き続ける。
851
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:24:37 ID:ziesvxk.0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
(;`・ω・´)「......なんだ、これは」
テタレスの民たちが放送に困惑する中、その南方の平野で陣を構えるシャキン達もまた困惑していた。
降伏のために国が動いていると聞いていたはずなのに、陛下が帝都から追い出され、プギャーを始めとする暴走したもの達が国の主権を乗っ取り、そして人間達との無謀ともいえる戦いを続けると言い出したのだから。
理解できないし、したくもない。
あまりに酷すぎる現実に誰もが口を閉ざす。
奇跡ともいえる勝利を得て、死を乗り越え全てが終わったはずであった。
それがまた、あの死地に向かえと言われたのだ。
二度も奇跡が起こるほど、戦場は甘くはない。
つまり十中八九、死ぬ。
その事実に皆、一様にうつむき恐怖に身体を震わせていた。
852
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:25:28 ID:ziesvxk.0
(; ,,^Д^)「シャキン様、軍務省より命令が届いております」
(;`・ω・´)「......読んでくれ」
(; ,,^Д^)「はっ。『テタレスの全戦力を持って敵を撃滅せよ。ルナイファ帝国民は皆、誇り高きエルフであると同時に、敵に屈することない神の尖兵である。ゆえにテタレスにある全てのエルフは最後の一兵までルナイファ帝国の、そして神の誇り高き軍人として戦い抜くことを願う。貴君等の活躍はエルフの繁栄と安寧により報いられ、未来永劫、英霊として栄誉ある歴史として語られるであろう』」
(;`・ω・´)「......我らに、死ねと言うのか」
(; ,,^Д^)「シャキン様......」
(;`・ω・´)「しかも民にも死ねと言うのか!?こんな、こんなふざけたものを命令と言うつもりなのか、奴らはっ!!」
どんなに言葉を取り繕っても、そこに書かれたものは今、ここにいるもの全てに死ねと言っていることに変わりない。
それも本来守るべき民すらも死地に追いやり、命を散らせと言うのだ。
そんなものに、従えるはずがない。
853
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:27:46 ID:ziesvxk.0
(; ,,^Д^)「ですが、命令に逆らえばどうなるか」
(;`・ω・´)「......今の国ならば首が飛ぶ、か。だが......」
( ^ν^)「......なら命令に従えばいいじゃねーか。命令通り、敵を倒しましょうや」
(;`・ω・´)「なっ!?」
それまで言葉を発してこなかったニュッから信じられない言葉が飛び出す。
誰もが信じられないと言った視線を向け、驚愕の表情を浮かべ、視線を送る。
こんな命令に従おうというものがいるということ、そしてまさかニュッがその様な事を言い出すなど予測し得なかったのだ。
(;`・ω・´)「ニュッ、貴様っ!!何を言っているのか分かっているのか!?」
( ^ν^)「分かってますよ。うつむいててもどうにもならないし、命令されちまったもんは仕方ないでしょ。大人しく、敵を殲滅しましょう」
(; ,,^Д^)「そんなこと、出来るわけー」
( ^ν^)「南のは無理だが、北のは出来るかもしれねーぞ」
(; ,,^Д^)「......北の、敵?」
(;`・ω・´)「っ!」
854
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:29:01 ID:ziesvxk.0
その言葉にまた、場がざわつく。
これまで敵は南方にしかいなかったはず。
否、正確には遠い北の果て、ニータとの国境近くには敵はいるがいくらなんでも遠すぎるため戦うことすらできないであろう。
一体何の事を言っているのか分からず皆が困惑する中、シャキンだけがその言葉の真意に気がつく。
北にあるのはこの国の中枢、帝都。
国に仇なす者達、すなわち敵と呼べる者達によって占拠された帝都が。
(;`・ω・´)「......国と、戦うつもりか?」
(# ^ν^)「むしろ戦わないつもりなのか!?奴らは陛下を、俺達の国をめちゃくちゃにしているんだぞっ!!俺達はなんだ!?国を守る軍人じゃねぇのか!?今、戦わずして何と戦うってんだっ!!」
(`・ω・´)「......」
(; ,,^Д^)「......ま、待ってください。く、国と戦うってまさか......プギャー様達と」
(# ^ν^)「おい、あいつは敵だぞ。様なんてつけんじゃねぇ」
(; ,,^Д^)「本気ですかっ!?そんなことすれば、国家反逆罪ー」
(# ^ν^)「んなもん、奴らが先だろうが!!」
(; ,,^Д^)「それは、そうですが......」
(`・ω・´)「......」
855
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:31:34 ID:ziesvxk.0
ようやく、皆がニュッの真意に気がつく。
そして言われてようやく、気が付いたのだ。
敵は、確かに北にいる。
自分たちが愛し、そして守ると忠誠を誓った国を害する者達が。
(# ^ν^)「お前らは、許せるのかよ。俺達の守るべき国が、あんな奴らに乗っ取られてよ。こんな命令を送ってくるやつらにだぞっ!!許せるのかよ!?」
(; ,,^Д^)「......それは」
(# ^ν^)「俺は戦うぞ。糞ったれな野郎どもをぶっ潰さなきゃ気が済まねーからな。命令通り、敵をぶっ潰す」
(`・ω・´)「待て、ニュッ」
( ^ν^)「......なんすか」
(`・ω・´)「いくら貴様でも勝手な行動は許さん。命令だ」
(# ^ν^)「っ!じゃあ黙ってろって言うのかっ!?」
(`・ω・´)「落ち着け。もはや貴様一人でどうこうなる問題ではない。それに我々は貴様の言う通り、軍人なのだ。その責務は、一人にかかるものではないということくらい、分かるだろう」
856
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:33:29 ID:ziesvxk.0
怒りの抑えられないニュッから送られる視線を無視するかのように、シャキンは静かに語る。
そう、現実問題として軍は組織であり、たった一人の問題行動であったとしても集団として罰を受けることになるだろう。
それが軽い罪ならばまだしも、国家に立ち向かうとなるならばそれはもうたった一人の問題に収まるはずがないのだ。
( ^ν^)「......なら、ここで軍を辞めてやりますよ。それなら文句はないだろ」
(`・ω・´)「ふむ、それも一つの手だが......その前にやることがあるだろう。折角の名案なんだ。上官を置いて勝手に暴走するには勿体無かろう」
( ^ν^)「え?」
(`・ω・´)「今この場にいるもの、全員に聞く。この阿呆共からの命令に逆らい、反逆者としてでも国を救う覚悟が出来ている者はいるか?無い者は無理に従えとは言わん。むしろその方が賢い選択だろう。だが、格好つけたい馬鹿は私とニュッに続いてくれ」
( ^ν^)「っ!」
(; ,,^Д^)「っ!」
だからこそ、シャキンは皆で立ち向かうことを選択する。
彼もまた、国を守る軍人として最後まで戦うことを決意したのだ。
857
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:35:38 ID:ziesvxk.0
そして、その決意は伝播する。
一人、また一人と決意の炎を燃やし、戦うことを覚悟する。
( ^ν^)「......タカラ、てめーはどうするんだ?」
(; ,,^Д^)「え?自分は......」
(`・ω・´)「何度も言うがこれは命令ではない。選択は自分自身で決めろ」
(; ,,^Д^)「......あぁもう!何かこれで戦うと言ってもまるで強制されたみたいじゃないですかっ!!」
(;`・ω・´)「いや、そんなつもりは無いのだが......」
(; ,,^Д^)「勿論戦いますっ!自分も、ルナイファを愛する、軍人ですからっ!!」
そうして皆の心は一つとなる。
ここにいる全員が、戦う道を選んだのだ。
(`・ω・´)「......ではニュッ。最初の任務だ」
( ^ν^)「はい?なんすか?」
(`・ω・´)「頭のおかしい命令を送ってきた阿呆共に返信してやれ。とびっきりのメッセージを頼む」
( ^ν^)「......任せてくれ。得意分野だ。ちゃんと馬鹿にも分かるようにしておくよ」
そう互いにニヤリと笑いあう。
そうして送られたメッセージは、シンプルに一言であった。
『くたばれ糞野郎』
858
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 19:36:21 ID:ziesvxk.0
続く
859
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 20:28:18 ID:E1p4bfdQ0
おつ!
やべぇニュッとシャキン最高にかっこいい
最高級鎧の性能えぐいな
860
:
名無しさん
:2023/11/11(土) 21:46:36 ID:7g/RYAbw0
乙です
861
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 15:01:27 ID:.5pChRN20
乙!シャキンとニュッかっこいいわ!
862
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 18:06:00 ID:Zgc9d90A0
乙!
しかし陛下の人望が凄いな
余程の名君なのかそういう風習なのかが気になる
863
:
名無しさん
:2023/11/12(日) 21:51:19 ID:DT8J7Hpo0
ニュッ株ストップ高
864
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:35:09 ID:2EGBW4kM0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年4月20日
要塞は異様な空気に包まれていた。
つい先日起きた軍によるクーデター。
それによりこの国の王が失脚したという大事件は、ルナイファに留まらず世界中を驚愕させた。
ルナイファの民達も勿論動揺したがそれも束の間、政権を握った軍による放送は彼らを更なる戦いへと駆り立てた。
軍から流される情報の多くは、いかに敵が愚かであり、卑劣であるかということ。
そしてそんな敵に対し、誇りを捨て頭を垂れ、服従を選んだという帝王がいかに愚かであったかということ。
ルナイファのエルフがどれだけ優秀であり、そして世界で選ばれた民であるということである。
繰り返し流されるそれは、何も知らない民達のプライドを刺激する。
そうして生まれるのは更なる戦いを求める民の声であった。
865
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:36:08 ID:2EGBW4kM0
勿論、この放送に違和感を覚える者や真実を知り、戦いに反対するものもいた。
だがそれらは兵により弾圧され、強制的にその声は無くなっていた。
完全なる軍による、力による統治。
既にブレーキは壊れ、もう止まることはない。
行くところまで行き、崩壊するまで止まれない暴走状態であった。
『我々は、ルナイファの民!真に神より選ばれた民である!!皆で戦うのだ!あの、卑劣なる悪魔の手先の人間を、滅ぼすのだっ!!』
(# ^ω^)「そうだおっ!奴らを滅ぼすんだおっ!!」
『そして、神は我らに味方している!奴ら、不浄の民である人間共は今、病に苦しめられている!!そう、これは天が我らを助けるため、奴らに与えた神罰なのだっ!!天は今こそ、奴らを滅ぼせと言っておられる!!さあ立ち上がるのだっ!誇り高きルナイファの戦士たちよっ!!』
(# ^ω^)「おおぉおおぉおおおお!!!」
866
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:36:45 ID:2EGBW4kM0
そしてその異様な空気に当てられた者達は、自らが暴走していることにも気づかないまま雄叫びを挙げる。
なぜ戦うのか、どうしてこんなことになっているのか、国や世界の動きがどうなっているのか。
それらのことなど何も知らないし、知ったことではない。
ただ皆が怒り、そして自身に沸き上がるその感情のままに声を挙げ、闘争を求める。
子供も、老人も関係ない。
そこに高度な文明を営む生物はおらず、いるのは理性をなくした獣のみ。
獣は吠える。
吠え続ける。
手足を失い、満身創痍ということにも気づかないまま。
867
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:38:06 ID:2EGBW4kM0
だがまだ、牙は折られていない。
数だけで言えばこの要塞の戦力は凄まじく、普通に攻め落とすのには多くのものと時間が必要となるであろう。
確かな力が、ここにあるのだ。
ーその事実が、そしてそこからくる自信がさらに彼ら自身を狂わせているのだが。
とはいえ、強力な戦力があるのは事実なのだ。
(# ^ω^)「滅ぼせっ!滅ぼせっ!滅ぼせっ!」
暴走する獣達。
そんな彼らこそ、この戦いを左右すると言っても過言ではないルナイファに残された最後であり、最大の力であった。
868
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:38:51 ID:2EGBW4kM0
ムー国 捕虜収容所
1463年4月23日
( ´_ゝ`)「一体何なんだ......」
その日はいつもと同じように始まったはずであった。
特に暴れたりも、危険な行動などもしていない。
極めて模範的な捕虜として皆が行動していたはずであった。
事実、アニジャからの呼び掛けにより祖国であるルナイファが降伏に向けて動くはずという言葉を聞き、ようやくこの無謀な戦争が終わるのかと皆が歓喜し、少しでも相手に悪印象を与えないように行動しようという話になっていたはずである。
それが急に今日、人間達の行動が慌ただしくなったかと思えば一人ずつ別室に連れていかれては、何かをされているようなのだ。
今までにないその行動に、終戦前にこれまでの恨みを晴らすため、遂に自分達の処刑が始まったのではないかと一部では混乱が起こるほどであった。
それほどまでに、人間達の行動は急であったのだ。
869
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:39:24 ID:2EGBW4kM0
極めつけはその格好である。
今までは軍服のような格好か、全身黒くきっちりとした服装に身を包んだ者がほとんどであったのに、今日現れたのは白い服に全身を覆われた、それも顔まで覆われているという異様な、見たことのない格好の者だったのだ。
(; ´_ゝ`)「......」
恐らくはその格好と今回の出来事に何かしらの関連があるのだろうと、アニジャは推測する。
だが流石に人間の、それも異界の民の風習など知るわけがない。
ただ彼らが行動しなくてはならない『なにか』があったのだろうということだけははっきりしていた。
そしてその『なにか』、その中で一番最悪な事に思い当たり、アニジャは顔を青くする。
(; ´_ゝ`)(......まさか、降伏させることに失敗したのかっ!?)
人間達の慌てたような行動から、ただならぬことであることは確かである。
とするならば、その可能性が全くあり得ない話ではないことなのもまた、確かであった。
870
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:42:59 ID:2EGBW4kM0
(゚、゚;トソン「一体......何事なんでしょうか」
(; ´_ゝ`)「......」
とはいえ、そんなことを周りに言えるはずがない。
そんなことを言えば、更なる混乱を招くだけだからである。
またあくまでも可能性の話なのだ。
普通に考えれば降伏以外の選択肢など、ルナイファに残されていないはずなのだ。
(; ´_ゝ`)「......」
戦おうにも、敵に対して有効な手段などあるはずがない。
あのプギャーでも勝てないことくらいは把握しているはずである。
またもしそれを理解しながら降伏が出来ない阿呆であったとしても、オトジャという保険があるのだ。
だからこそこの話はそこで終わるはず、なのだが。
(; ´_ゝ`)(本当に、大丈夫なのだろうか)
思わずそう考えてしまう。
人間達の行動にアニジャもまた、どこか怯えに近い感情を抱え、それゆえに考えが負の方向へと向かっていた。
871
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:43:25 ID:2EGBW4kM0
(゚、゚トソン「......アニジャ様?大丈夫ですか?」
( ´_ゝ`)「あ、あぁ。平気だ」
そんな様子を心配してか、トソンからそう声をかけられる。
その声にアニジャは考えを止め、返事をした。
もう、考えても仕方ないのだと。
考えようにも、ピースが足りないのだ。
そんな状態で真実になどたどり着けるはずもなく、得られるのは不安のみなのだと。
そう、自身に言い聞かせ浮かぶ悪い想像を振り払う。
( ´_ゝ`)「そう、大丈夫......な、はずなんだ」
(゚、゚トソン「......?」
そう自分に言い聞かせるように、アニジャは呟いたのだった。
872
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:44:16 ID:2EGBW4kM0
ルナイファ帝国 軍務省
(;*゚ー゚)(どうしてこんなことに......)
国が軍に奪われて数日。
シィは変わらずここ、軍務省にて仕事をしていた。
だが望んでその仕事をしているわけではなかった。
それも当然であろう。
自国の国を混乱に貶めている張本人に手を貸すことになるのだから。
自身はこれまで国のためにとあの愚か者の下でどんな叱責を受けようとも我慢し、どうにか支えてきた。
そう、自国のために仕事をしてきたのだ。
それが気付けば国は軍に支配され、とんでもないことになってしまった。
逃げようにも、戦争に反対しようにも非国民と弾圧される恐ろしい国に、既に変わってしまっていたのだ。
873
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:45:04 ID:2EGBW4kM0
それゆえシィは逃げ出すことも出来なければ、国を混乱に陥れている国賊達の下で働かなくてはならない状況となってしまったのだ。
現に反発した同僚は何処かへ連れていかれ、帰らぬ者となっている。
相手は軍なのだ。
反乱しようにも力で勝てるはずもなく、また何も知らない民は怒りを煽られ、戦争に肯定的なのだ。
こんな状態で一体何が出来るというのか。
(;*゚ー゚)「それでも......こんな仕事」
だからといって、そんな国に害をなす者達に従って仕事をする自分に、何とも言えない感情が沸き上がる。
怒りや悲しみ、そして悔しさ。
それらがぐちゃぐちゃになりながらも、どこかもうどうすることも出来ないのだという諦めに近い感情があった。
874
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:46:04 ID:2EGBW4kM0
(*゚ー゚)「......失礼します」
そんな考えに頭を悩ませているうちに、気付けば彼女はプギャーのいる執務室の目の前まで来ていた。
国賊の主犯とも言える相手に、怒りが沸くもののどうにかそれを抑え、部屋に入る。
ここで下手なことをすれば自分がどうなるかは、彼女は嫌と言うほど分かっており、そんなことをできる勇気など持ち合わせていなかったのだ。
( ^Д^)「おお、来たか。何があった?」
(*゚ー゚)「......はい。まず帝都の民ですが、混乱の鎮圧に成功しました。反発していたもの達もいましたが、それらは全て捕縛された模様です」
( ^Д^)「そうか。ふん、バカな奴らだ」
(*゚ー゚)「っ」
( ^Д^)「......なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
(*゚ー゚)「......いえ」
875
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:47:58 ID:2EGBW4kM0
本音で言えば、今すぐにでもバカはお前だと言いたい気持ちを必死に抑える。
そうしなくては、死んでしまうのだから。
(*゚ー゚)「......報告を続けます。現時点でこの帝都周辺、および北方は命令に従う姿勢をみせています。しかしテタレスを始めとして南方では反発をするものが多く見られます」
( ^Д^)「ちっ、面倒な」
(*゚ー゚)「やはり、テタレスにいた部隊が離反したことが周辺をざわつかせているようで......あのメッセージも影響が大きいようです」
(# ^Д^)「......」
その言葉にプギャーは青筋を立てる。
ニュッから送られたメッセージである『くたばれ糞野郎』。
その言葉はプギャーを苛つかせると同時に、テタレス周辺の者達を勇気づけていた。
多くの者がプギャーの恐怖政治に屈するなか、皆が思っていたことを堂々と言い放った姿は力強く映り、それに続こうと言うもの達が現れた。
自分達も戦おうと、自分達も奴らに『くたばれ糞野郎』と言ってやろうじゃないかと、瞬く間にその言葉はスローガンのように広まっていったのだ。
876
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:50:03 ID:2EGBW4kM0
その事実にもさらにプギャーは苛立ちを隠せない。
子供の悪口のような言葉に、ここまで自分をこけにされ、さらにはそれにより反発する勢力が勢いを増しているという情けない現実が、彼に確実にダメージを与えていた。
(# ^Д^)「くそっ!あの、ニュッとか言ったか!!奴は確実に殺してやるっ!!それもただでは殺さんっ!この俺をバカにした事を後悔させてやるっ!」
(;*゚ー゚)「......」
(# ^Д^)「......まぁ、いい。その事は後だ。それで?これ以上、拡がらんように対策はとっているんだろうな?」
(;*゚ー゚)「え?あ、は、はいっ!既に情報統制により、管理下にある地域では情報が入らないよう遮断されています」
(# ^Д^)「ふん、まぁそれならばいい。とはいえ、厄介だな......奴らを鎮圧出来るか?」
(*゚ー゚)「難しいかと......治安維持、及び防衛で手一杯になっていますから」
(# ^Д^)「くそっ!人間共を後回しに出来ない以上、仕方ないとはいえ......腹立たしい。せめてこれ以上、勢力が大きくならないようにはしなくては。おい、アラマキの行方はどうなっている?」
(*゚ー゚)「は、はい。転移魔法の痕跡から南方に向かったと思われますが......現時点では見つかっておりません」
(# ^Д^)「あの無能共が。おい、なんとしてでも見つけ出せ。南方の馬鹿共と接触でもすれば、奴らがさらに勢い付くことになるからな。捕らえることが出来なければ、うーむ、そうだな。最前線の部隊の隊長に昇進させてやるとでも伝えておけ」
(;*゚ー゚)「は、はい......」
877
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:51:27 ID:2EGBW4kM0
( ^Д^)「まあ奴らもいずれ、戦いが終わる頃には誰が正しかったか分かるだろう。全く、手間をかけさせやがって......」
(*゚ー゚)「......」
本当にこの男が何を言っているのか、シィは理解に苦しむ。
本気で目の前の男は国の、そして世界のために行動しているつもりなのだ。
自身の行動は全て正しく、そして報われるのだと。
なぜこうも世界が歪み、異なるように見えてしまうのか。
少し見渡せば如何に愚かな選択をしているか分かりそうなものだが、彼はその光景を見てもなお、何も変わらないのだ。
( ^Д^)「それにこの戦いももうすぐ終わる。人間共は既に病で阿鼻叫喚だろうからな。今更、神に自分達の過ちを許してもらえるよう祈ってるかもしれんが......無駄だ。この俺が、神に代わり奴らを裁くのだからな」
狂気と恐怖が支配するこの国で、プギャーは笑う。
彼は心から、本気で喜んでいるのだ。
神の敵である人間達を、自身の手で葬ることを。
それがどんな犠牲を払うことになろうともである。
878
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:52:18 ID:2EGBW4kM0
( ^Д^)「ではシィよ。作戦の準備を進めろ。まずは死の呪いを使い、奴らを、人間どもをこの大陸から追い出すのだ......あぁ病の対策として、我々の北方への移動の準備も忘れずにな」
(;*゚ー゚)(......狂ってる)
プギャーも、そして彼が導くこの国も正気で生きていける場所ではなくなってしまった。
そんな場所に取り残されたという絶望に、心が壊れそうになる。
ーいや、いっそのこと壊れてしまった方が楽なのかもしれない。
そうすれば、この狂気に身を任せるだけで生きていけるのだから。
879
:
名無しさん
:2023/11/18(土) 20:52:47 ID:2EGBW4kM0
続く
880
:
名無しさん
:2023/11/19(日) 09:52:10 ID:YNF3P0f20
乙
881
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:53:51 ID:37zc6a1M0
ニータ王国 王城
1463年4月24日
(; ´W`)「まさか、こんなことになるとは......」
そうポツリと呟き、シラヒーゲは頭を抱えていた。
全ては順調に進んでいるはずであった。
人間達と手を組み、ルナイファに宣戦布告をし、領地を奪い取ることで圧力をかけ、無理矢理にでも交渉の席に座らせる。
そうなるはずであった。
だが、現実はどうか。
領地は確かに奪えたものの、ルナイファは怯むどころか制御不能なまでに暴走を始めたのだ。
(; ´W`)「......うーむ」
それにより当初想定していたよりも長く、ルナイファとの戦いが続くことになってしまっていた。
882
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:55:11 ID:37zc6a1M0
敵に圧力をかけるためには、兵を退かせるわけにはいかない。
だがニータの力を考えればいくらルナイファが弱体化しているとはいえ、格上相手との戦いを続ければ相当な被害が出てしまう。
人間達のように圧倒的に勝てるのならば問題はないが、残念ながらこの国にそんな力はない。
勝利のためには少なくない犠牲を出さなければならないのが現実なのだ。
( ´W`)「......」
終わりの見えないこの戦い。
それこそ本当に行くところまで行かなければ最早、ルナイファは止まらないのではないかと感じてしまう。
そんな総力戦に付き合っていられるほど、ニータに余裕はない。
だが今更人間達との同盟を切ることもあり得ないだろう。
いくら相手が人間の国とはいえ、国同士の約束事をこんなにも早く簡単に反故にすれば、ニータの信頼は一気に失われるだろう。
883
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:55:53 ID:37zc6a1M0
そもそも報復に何をされるか分かったものではない。
ルナイファ以上に人間の国と敵対などしたくはないし、もしそんなことになればルナイファのように粘ることも出来ずに滅びるのみだろう。
( ´W`)「選択は、間違えていないはずだ。となれば後は......進むしかあるまい」
つまり選択肢は既に選んだ後であり、もう引き返せる場所ではないのだ。
だからこそ、シラヒーゲは何度も不安を吐露しながらも自分達は正しい選択をしているのだと言い聞かせるように繰り返す。
世界中が混乱する今、誰一人正解など分かるはずがない。
それでもどうにか自分を安心させようと理由を作っては、自身に言い聞かせ、歩みを止めないように奮い立たせているのだ。
一度は見えたはずの明るい未来。
それを探し求め、ニータは動き続ける。
884
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:56:52 ID:37zc6a1M0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日
『いたぞっ、追えっ!!』
(´<_` ;)「ぐっ、ここまで来て......陛下っ、こちらへっ!!」
テタレスから少し北へ向かった場所にに広がる、小さな森林。
普段であれば誰も寄り付かず、静かなそこに怒号が飛び交っていた。
そして、その怒号から逃げる二人の影。
帝都より逃げる、アラマキとオトジャの二人である。
どうにか自身達の味方になってくれる可能性のあるテタレスに逃げようと、回り道をしつつ、近くの森林までたどり着けたものの、遂に追っ手に見つかってしまったのだ。
森林の中ということもあり、具体的な位置までは特定されていないのか、未だに捕まることはないがそれでも周囲を包囲するように兵が走り回り、捕まるのは最早、時間の問題と言える状況である。
885
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 13:58:34 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「オトジャよ......どうにかできるか?」
(´<_` ;)「......この命に変えても、どうにかしましょう」
アラマキのその問に、オトジャはそう答えることしかできなかった。
本音を言えば、もう詰んでいるのではないかという気持ちで一杯である。
何せずっと逃亡生活を続けてきたのだ。
体力も限界であるし、魔法を使おうにもこの状態ではろくなものは使えない。
また敵の数はどう見積もっても10は軽く超えるのに対し、こちらで戦えるのはオトジャ1人のみである。
いくら彼が優秀な兵であったとしても、ここから挽回できる道はないであろう。
(´<_` ;)(......ここまでか)
陛下の手前、弱音など吐くことが出来るはずもないが、大見得を切ったはいいもののそれでどうにかなるはずがない。
むしろもうどうにもならないのだと、諦めに近い感情がオトジャの心を支配していた。
どんな運命になるにせよ、自分はここで死ぬのだと。
886
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:00:45 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)(それならばいっそのこと死の呪いで......)
誰か一人を道連れにし、その包囲の隙間を縫って陛下を逃がすのが最善なのではないかー
ただ死ぬのならば、どんなに可能性が低くても救える可能性に賭けるべきなのではと、覚悟を決めようとしていた。
/ ,' 3「......待て、オトジャよ」
(´<_` ;)「陛下?」
/ ,' 3「もう、よい。無駄に貴様の命を捨てるな」
(´<_` ;)「っ、で、ですが!」
/ ,' 3「奴らの狙いは我のみだろう。ならば、死ぬのは一人だけで良かろう」
(´<_` ;)「っ!!」
だがその様子にアラマキもまた、覚悟を決めていたのだ。
こちらが完全に捕捉されていない現状、確かにアラマキが捕まれば、ただの護衛であるオトジャをわざわざ捕らえる理由はないため、逃がすことは可能かもしれない。
敵の目的はあくまでもアラマキのみなのだ。
命が助かる確率だけで言えば、その選択は最善ともいえるだろう。
887
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:01:55 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「そんなこと、出来るわけがありませんっ!私はこの国を、つまりあなたを守るのが任務であり、使命なのですっ!それなのに自分だけ逃げることなど、それも陛下を見捨てて......命令であっても、それだけは聞けませぬ!」
だが懸かっている命の重さに差があるのだ。
一人はただの一兵士に対して、もう一人はこの国をまとめることの出来る力を持つ王である。
命に差がないなどと、綺麗事をいくら並べようともその事実の前には明らかに差がある。
そうである以上、最優先されるべきはアラマキの命であり、そうでなくてはならないとオトジャは考えていた。
(´<_` ;)「ここで陛下を失えば、この国は本当に終わってしまうのですっ!!どうか、再考をっ!!」
/ ,' 3「......貴様のようなものが、この国にはいるのだ。真に国のために考えるもの達が」
(´<_` ;)「なにを......」
/ ,' 3「確かにルナイファという国は終わってしまうかもしれん。いや、もう終わっているのかもしれんな。どちらにせよ、貴様のように国を愛する者達がいるのだ。我がいなくても必ずや国を良い方向へと導いてくれると信じておる。そんな未来を託せる者を、こんな場所で死なせるわけにはいかん」
(´<_` ;)「......」
888
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:03:14 ID:37zc6a1M0
無責任にも聞こえるその言葉。
それは未来を自分達に託し、自らの命を捨てるという宣言に他ならない。
そしてそこに感じる確かな意思に、最早自分の言葉は届かないのだという、陛下が目の前にいるにもかかわらず、守ることすらできないどころか死ぬところを見送らなくてはならないと言う絶望がオトジャの心を蝕む。
気づけば頬には涙が流れ落ちていた。
戦いに負け、アニジャから託された任務もプギャーの反乱により遂行できず、最後には陛下を守りきることが出来なかった。
あまりの自身の不甲斐なさに、そしてどうすることも出来なかった運命にただただオトジャは涙を流す。
(<_ ;)「......申し訳、ございません」
そうして口から出た言葉は、謝罪。
己の無力さを嘆き、どうしようもない自分への謝罪を、口にするのがやっとであった。
889
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:03:50 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「貴様のせいではあるまい。むしろ、貴様はようやってくれた。オトジャよ、これからのルナイファを任せたぞ」
(<_ ;)「っ!!......御意のままにっ」
一体どうすれば良かったと言うのか。
もし運命を変えられるとしたらば、それは一体いつのことだったのか。
オトジャには全く分からない。
ただ目の前の現実が最悪であることだけは間違いない。
だがこんな運命を辿るほどに自分は何かを間違えたと言うのかー
あまりに理不尽で、絶望的な現実に再びオトジャは涙を流していた。
/ ,' 3「......」
そんなオトジャをしり目に、アラマキは踏み出す。
その一歩一歩が自身の死を近づけるものであると分かっていながらも、その足取りは力強い。
/ ,' 3「......我は帝王なり」
そう、彼はこの国の帝王なのだ。
それは死ぬときまで、否、死んでも変わることはない。
ならば今このときも帝王として生きることが自分の宿命なのだと、彼は進む。
890
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:04:23 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3(最期に守れた民は、一人のみか。この戦争で多くの者を死なせた罪滅ぼしには、いささか足りなすぎるな)
走馬灯のように、さまざまな出来事が思い返される。
この国に王として産まれ、そして栄華を極めたと言われたこの国を、さらに絶対的なものにしようと決意したのは一体いつのことだっただろうか。
それがまさか、国を滅ぼし自身を殺すことになるなど一体誰が予測してるだろうか。
/ ,' 3(......地獄へ行くのは、我一人のみで良い)
だがこれは自分が、王に足る器ではなかっただけの話なのだ。
身を過ぎる栄光を求めたがゆえに、下った天罰なのだ。
ーそう考えなくては、この現実を受け入れるにはあまりにも辛すぎた。
891
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:05:12 ID:37zc6a1M0
/ ,' 3「覚悟は、出来ておるっ!我は、ここにいる!!ルナイファ帝国の王、アラマキはここにいるぞっ!!」
そうしてアラマキは吠えた。
最期の王の役目として、堂々たるその声は森に響きわたり、周囲にいるものたちにその存在を知らしめる。
凛とし、威風堂々たるまさに王の風格。
暗い森の中であるにも関わらず、そこにいるものが皆、その存在に目を奪われる。
『っ!!......い、いたぞっ!捉えろっ!!』
ただ言葉を発し、存在を現したのみにも関わらず、追っ手達は一瞬怯んだかのように息をのむ。
それほどまでにその存在感は凄まじいものであり、アラマキ自身は王失格と考えているが、その姿は間違えなくこの国の、世界最強であった国の帝王であった。
/ ,' 3(......さらばだ)
そうして彼は、目を閉じる。
自分に出来ることはもうなにもない。
この世に、そして愛する民たちに別れを告げる。
892
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:06:07 ID:37zc6a1M0
足音は、すぐそこまで迫っていた。
だが目は開かない。
もし開いて見てしまえば、恐怖に負けて王としての最期を迎えられないかもしれない。
せめて最期だけでも立派な王でありたいと言う、アラマキのプライドであった。
ーこれが、こんなものが最期なのか。
そんなことが、アラマキの頭によぎった瞬間であった。
ドオオォォンッ!
ガガガッ!!
猛烈な轟音が、森に響き渡った。
(´<_` ;)「っ!?」
アラマキから離れた場所にいたオトジャはその音に驚愕する。
明らかにアラマキを捉えるのには過剰な攻撃音。
それは、明確な殺意を持った音であったのだ。
893
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:07:59 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「馬鹿な......」
いくら追っ手が狂ったプギャーの手下とはいえ、まさか軍人でもない戦うことのできない者を相手に、そんな攻撃をしてくるというのか。
そもそも奴らからすれば陛下を生かして捉えるだけで得られるメリットは数多くあったはずである。
(´<_` ;)「奴ら、本当に狂ったのか!?」
ゆえに、あんな攻撃を繰り出す必要などあるはずがない。
だがその音が、可能性を否定する。
攻撃は確実に行われたのだと。
あの攻撃では、死体もまともに残ることはないのではないか。
そう思わせるほどの、轟音。
最期まで王であろうとするアラマキに対してそれは、あまりにも酷すぎるのではないかー
894
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:08:47 ID:37zc6a1M0
(<_ ;)「あ、あぁ、あああぁああぁっ!!!」
受け入れ難い現実の連続に、遂にオトジャは耐えきれなかった。
勿論、叫び声など上げれば自分の居場所を追っ手に知らせるようなものであり、そんな行動をするべきでないと言うことはちゃんと理解している。
それでも、その叫びは抑えられなかった。
これまで抑えていたものを全て吐き出すかのように。
その嘆きが続く間も、爆音は続いた。
何度も、何度も。
途切れることなく、続く攻撃の音。
そしてそれによる悲鳴が続いていた。
895
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:09:41 ID:37zc6a1M0
(´<_` ;)「......ひ、めい?」
その声に、オトジャは現実に引き戻される。
悲鳴は一つだけではなく、複数の者から発せられたものであった。
だが、それはおかしい。
追っ手の狙いはアラマキのみのはずであり、その他に攻撃をする対象などいないはずである。
そもそも、現時点でこの森にいるのはオトジャ自身を含め、アラマキとその追っ手くらいのもの。
(´<_` ;)「これは、一体......まさかっ!?」
ハッと、最悪の想像が頭に浮かぶ。
まさかこの森まで人間達が進軍してきたのではないか、と。
一気に血の気が引き、青ざめる。
人間達からすれば自分は勿論のこと、アラマキも追っ手も等しく敵であるのだ。
全てを巻き込み、あの戦場で見た業火をこの森に放ち、全てを葬ってもおかしくない。
896
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:10:21 ID:37zc6a1M0
一応、アラマキが非戦闘員ということを認識されれば攻撃されないかもしれないが、森の中という視界の通りにくい環境なのだ。
複数の非戦闘員がいるならまだしも、アラマキのみであれば気付かないままに、攻撃を受ける可能性の方が高いだろう。
(´<_` ;)「陛下ぁっ!!!」
もし想定が確かならば、オトジャがいたところでなにも変わることはない。
だが飛び出さずにはいられなかったのだ。
アラマキが向かった方面へ、爆音がなり響く方角へと走り出す。
薄暗く足場の悪い森の中、何度も転びそうになりながらも、歯を食い縛り必死に駆ける。
(´<_` ;)「っ!!」
そうして視界が捉えたのは、複数の影に囲まれる、アラマキの姿であった。
アラマキが生きているという喜びと共に、何者かに囲まれている陛下を助けなくてはという考えに頭が埋め尽くされ、オトジャはがむしゃらにその影の目の前へと躍り出る。
作戦などない。
そんなことを考える余裕など、ないのだ。
幸いにも、影達はオトジャに背を向けており、気づかれていないようであった。
そうならばと自身の力を全て込めた魔法を、眼前に写る影にぶつけようとしたとき、そこでオトジャは二つのことに気がつく。
一つはその影達が人間ではなく、エルフであったということ。
897
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:10:47 ID:37zc6a1M0
そしてもう一つは。
(# ^ν^)「陛下を御守りしろぉおお!!」
(#`・ω・´)「全軍、真にルナイファを愛する者達の力を、あの馬鹿どもに見せつけてやれっ!!」
(# ,,^Д^)「敵を逃すなっ!!突撃ぃいいいいい!!!」
それが自分たちを守り、そして救ってくれる強力な味方であるということであった。
898
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 14:11:18 ID:37zc6a1M0
続く
899
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 17:07:14 ID:z6JpC8160
乙
うおおおお!
900
:
名無しさん
:2023/11/25(土) 21:49:56 ID:CFJ6rMiE0
【速報】シャキン部隊好感度ストップ高!!
901
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 02:40:13 ID:s/A3LjaU0
か、かっこいい
902
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 05:56:13 ID:kdB2swzM0
otsu
903
:
名無しさん
:2023/11/26(日) 15:26:29 ID:RdPT/kd60
おつ!
あっついなぁ陛下助けられそうでよかった!
ただ弟者は一度諦めたことで自責の念に駆られそうだな…
904
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:13:47 ID:7NYZFcVI0
ルナイファ帝国 テタレス北方森林
1463年4月25日
森に複数の爆音が響き渡る。
(# ^ν^)「魔方陣構築!属性炎っ!!距離30!!」
『復唱、属性炎、距離30了解っ!!構築開始っ!!』
目の前に広がる光景は間違いなく、戦場であった。
それも複数の魔法使いが隊列を組み、魔法を構築し敵を葬るという、久しく見たことない光景である。
人間による凄まじい攻撃で忘れていたが、本来戦場とはこういうものであったな、などという何とも場違いな感想を頭に浮かべながらオトジャはポカンと呆気に取られたかのようにその光景を眺めていた。
それほどまでに目の前の光景は奇跡ともいえる光景なのだ。
たまたまプギャー達に反感を抱き、反抗に出た者達に救われるという可能性が、一体どれだけあったのだろうか。
オトジャ達が逃げてきたルートは勿論誰にも知られていないはずであるため、この場で合流出来たこともただの偶然である。
905
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:15:27 ID:7NYZFcVI0
そもそもニュッ達はアラマキが生き延び、逃亡生活をしていたことも把握していなかった。
ただこの森に入るアラマキの追っ手達を見つけ、自分達の怒りをプギャーに付き従う者達に教えてやると攻撃を仕掛けようとしていただけなのだ。
あり得ないほどの偶然の積み重ね。
だがそれは目の前で確かに現実となり、そしてオトジャ達を救っていた。
(# ^ν^)「放てぇっ!!!」
そうして一際大きい号令と共に、猛烈な魔法が追っ手達に降り注ぐ。
ガガガガガガガッ!!!
再びの轟音。
だがその後に続く音はもう、ない。
先ほどから打って変わって辺りは静寂に包まれる。
攻撃の跡に残されたのは複数の死体と、森であった物。
確かなシャキン達の怒りが、そこに刻み込まれていた。
906
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:16:26 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「......目標の殲滅を確認。周囲の見回りを開始せよ」
( ,,^Д^)「はっ!」
(´<_` ;)「......」
戦闘が終わり、数名の兵を安全の確保のためであろう、見回りに向かわせた後、ようやくシャキンがアラマキ達に向き直る。
(`・ω・´)「さて......ご無事で何よりです、陛下。オトジャ殿」
/ ,' 3「あ、あぁ......いや、座ったままでは失礼だな......」
(;`・ω・´)「へ、陛下!無理をせず今は休んでください!」
先ほどまで死を覚悟していたところで始まった急な戦闘に頭が追い付かず、アラマキは曖昧な返事しかすることができなかった。
王が戦場に立つ時代ならまだしも、戦場に立つどころかまともに見ることもなかったアラマキにとって、その光景はあまりに刺激的すぎたのだ。
そんな状態であるにも関わらず、立ち上がろうとするアラマキに慌てて腰を下ろさせ、落ち着かせる。
907
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:17:39 ID:7NYZFcVI0
そうして何とか落ち着きを取り戻したところで、ようやくシャキンとオトジャの二人で向き合い、話を始めた。
(´<_` ;)「改めてシャキン殿。感謝する。貴殿のおかげで救われた......感謝してもしきれない」
(`・ω・´)「いえ、陛下に仕える兵士として、当然のことをしたまでです」
(´<_` ;)「そうだとしても、だ。本当に、感謝するっ......!」
(`・ω・´)「......自分には、勿体無いお言葉です」
二人は自然と敬礼を取っていた。
互いに兵士として敬意を払い、言葉は無くとも心は通じあう。
陛下を守り、そして国のために命を懸け、戦う覚悟をしている者として。
( ^ν^)「見回り部隊から連絡だ。この辺りにもう、敵はいないそうだ」
(`・ω・´)「そうか。ならばここは一度、テタレスへ退くことにしよう」
( ^ν^)「いいのか?北方への展開が今回の目的だったんだろ?ある程度の兵を残す手もあるだろ」
908
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:19:03 ID:7NYZFcVI0
(`・ω・´)「最優先すべきは陛下の安全だ。テタレスもプギャーに目をつけられている以上、安全とは言い難いし、人間達の攻撃がくればそれこそ崩壊しかねんのだ。一人でも多く、陛下を守れる者が近くにいる方がいい」
( ^ν^)「なるほど、了解した。全員、撤収だ。陛下を待たせるわけにはいかん、手早くやるぞ」
ニュッからの言葉が効いたのか、部隊の行動は早い。
あれほどの攻撃を展開するためには、かなりの部隊の規模が必要なはずであるがそれでもあっという間という言葉が相応しいほどに、準備が進んでいく。
(´<_` )「よく訓練されている。素晴らしい部隊だな」
(`・ω・´)「いえ、この程度のことくらい出来なければ。それにニュッの言った通り、陛下をお待たせするわけにはいきませんから」
(´<_` )「成る程。それでテタレスへ戻った後なのだが......」
(`・ω・´)「その件であれば、我が部隊が使用している施設でお休みください。物資もまだ十分にあります。まずは帝都からここまでの移動の疲れを癒してください」
(´<_` ;)「何から何まで申し訳ない。助かー」
/ ,' 3「いや、休むのは後で良い。それよりも先にやることがある」
909
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:20:24 ID:7NYZFcVI0
(´<_` ;)「陛下?」
不意に、オトジャの言葉を遮るようにアラマキが声を上げる。
声を遮られたこともそうであるが、オトジャにはアラマキが言う休むことよりも先にすべきことが何なのか、瞬時に理解できずに困惑していた。
そしてそれはシャキンも同様であった。
(;`・ω・´)「へ、陛下。やるべきこととは?あまり無茶をして身体を壊しては、それこそ元も子もありませぬ。まずは身体を休めること。それが何よりも先決かと......」
/ ,' 3「我一人の身体を壊すだけで済むならばそれで良い。だが、我が休めばそれだけ多くの民が傷付くであろう?」
(´<_` ;)「へ、陛下......」
/ ,' 3「シャキンよ。休む場所の用意は要らぬ。テタレスに戻り次第、代わりに魔信を用意せよ」
(`・ω・´)「魔信、ですか?」
/ ,' 3「世界各国に演説を流せる広域通信用のものと、講和に向けて話し合うための人間達に向けた魔信だ」
(;`・ω・´)「っ!!」
910
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:23:29 ID:7NYZFcVI0
/ ,' 3「王としての務めが残っている以上、まだ休むわけにはいかんのだ。よいな?」
(;`・ω・´)「はっ!了解致しました!」
/ ,' 3「......さて、どうなることやら。演説の、いや演技の練習をもっとしておくべきだったかな」
この日、テタレスから世界にアラマキの言葉が届けられた。
その言葉は世界に衝撃を与える。
ルナイファが分裂したこと。
人間達に事実上の降伏をすること。
そしてなにより。
ルナイファの軍の独断と暴走により、使用されたと言う魔法。
世界を滅ぼしかねないその魔法の話に皆が恐怖し、そして怒りを覚えた。
その怒りはつい先日まで人間達に向いていたはずであった。
世界を脅かす敵として。
アラマキが涙ながらに語った『物語』は皆の心を動かす。
あのルナイファの王が自らの無能と無策を悔いて謝罪するその姿に、暴走を止められなかったことに対する怒りを感じるものも多くいたが、それと同時に同情を誘う。
そうして皆の心に作り上げられていくのは、悪魔による暴走の物語。
いつしか怒りの矛先は、一人のエルフに向いていた。
911
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:23:54 ID:7NYZFcVI0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年4月25日
(# ´∀`)「急げっ!!奴らが放ったと言う病についての資料を徹底的に集めろ!!」
アラマキの演説はここ、ソーサクにも届いていた。
その内容に皆が顔を青くし、演説後から休む間もなく走り回っていた。
(; ´∀`)「くそ、ルナイファめ。とんでもない魔法を使いおって!いくら鎖国をしているとはいえ、鳥が運ぶ病までは防ぐことなぞ出来んぞ......」
そうして集められた情報にさらにモナーは頭を抱えてしまう。
大陸間を渡る鳥に病を運ばせる。
なるほど確かにこれならば絶対に防ぐことの出来ない攻撃であることは確かだろう。
だが制御が効かず、世界を揺るがすその攻撃は敵を減らすどころか関係ない国まで巻き込み、敵を増やしてしまう。
そんな簡単なことも分からないのかと嘆きたくなるが、もう事が起きた後にそんなことを言っても仕方ないのだ。
912
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:24:27 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「治療魔法の構築が必要だな。しかし......間に合うのか?」
いくらソーサクが魔法に優れているとはいえ、相手は未知の病。
さらにはかつての大国をも滅ぼしたと言う曰く付きなのだ。
もしそれが本当ならば自国よりも遥かに優れた国ですら対処が出来なかったものを、自国が成し遂げられるとはお世辞にも考えにくい。
(; ´∀`)「こんな......こんなことでっ!!」
考えたくもないが、頭によぎってしまう。
自国が滅びゆく姿が。
何度も、何度もである。
それほどまでにその未来は現実感があるのだ。
それこそ、自国に限らず他の国も同じく、滅びゆく姿が簡単に想像できる。
それほどまでに恐ろしいものがこの世界に今、解き放たれているのだ。
913
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:24:54 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」
だが不思議と一つの国のみ、滅ぶ姿が想像できなかった。
それは、召喚された人間の国。
モナーは認めたくなかったが、それでも彼が知る人間達は最強ともいえる力を誇り、無敵ともいえるほどの話をいくつも聞いて彼らの持つ力は理解してはいるのだ。
それゆえ、考えてしまう。
こんな絶望的な状況であるが、それでもまた何とかしてしまうのではないかー
そんな考えが、人間を敵対視している自分が思い浮かべてしまうことにモナーは嫌気が差す。
だがもし、この考えが本当になるならば。
感染を初期で封じ込める力が人間達にあるならば、もしかすれば自分達も助かるのではないか。
(; ´∀`)「......くそっ!」
そんな考えにまた嫌気が増し、舌打ちをしながらも彼はどこかでそうなることを望んでいた。
彼も理解しているのだ。
もしこの世界でこの混乱を押さえることができるものがいるならば、彼らなのだと。
914
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:25:17 ID:7NYZFcVI0
(; ´∀`)「......」
高い技術がこの国の誇りであった。
そしてその国のなかでもトップクラスの魔法使いであるモナーは、自身に対して高いプライドと、それに見合うほどの力を持っていた。
だがそんな自分が諦めたことを他人に、それもいくら力を認めたとはいえこれまで見下してきた人間に対して期待しているということは何とも耐え難いものであった。
そんな怒りに震えつつも、集まる絶望的な情報になにも出来ない自分にさらに絶望する。
だがそんな中で唯一の希望が残っているという幸運、そしてその幸運を素直に受けとることの出来ない現状、彼はどうすることも出来ない。
ただひたすらに怒りに、恐怖に震え、そしてそれらを振り払うかのように動き続けていた。
915
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:25:52 ID:7NYZFcVI0
ムー国 取調室
(; ´_ゝ`)「すまない......頭がまだ、混乱していて現実を受け止めきれない。少し時間を貰ってもいいか?」
川 ゚ -゚)「構わない。というよりも、私も同じ気持ちだよ」
どうしてこんなことになっているのか。
それが今、この場にいる二人の気持ちであった。
この施設の人間達の行動が慌ただしくなっていたことから何かしら不審なものを感じていたが、現実は予想を遥かに超える事が起きていたのだ。
思い返されるのは数日前の出来事。
白い服を来た人間達に別室へ連れていかれた時のこと。
あのときは急に身体を調べられ、さらには針を刺され、血を抜かれたことからついに拷問が始まったのかと青ざめていた。
最悪の事態が始まったのではないかと感じたものだ。
実際には治療行為、というよりも診察の一環とのことであったのだが。
916
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:26:39 ID:7NYZFcVI0
だが今になってみればあれが拷問であった方が、数倍マシであったかもしれない。
より恐ろしいものが世界に撒き散らされ、さらにはその主犯が自国だというのだ。
最早どう言い訳をしようが、世界の敵は誰かと聞かれれば全員がルナイファであると言うだろう。
ただでさえ世界からの印象がお世辞にも良くなかった国が、最低辺をつき抜ける勢いである。
川 ゚ -゚)「まぁまだ、南方の方は理性が残っていて良かったというべきか」
(; ´_ゝ`)「最早、全てが最悪過ぎて焼け石に水な気もするがな」
川; ゚ -゚)「う、む......だがとりあえず南方は実質的に降伏し、停戦に向かうだろう。その間にこの混乱が収まれば......」
(; ´_ゝ`)「それまであの北方のいかれ野郎共がおとなしくしていると思うか?こんな事態を起こしておいてなにもしないとは思えんぞ」
川; ゚ -゚)「......その件なんだがな」
(; ´_ゝ`)「......何だ?」
川; ゚ -゚)「北方の方も......何とかするらしい」
(; ´_ゝ`)「何とかって、どういうことだ?」
917
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:27:30 ID:7NYZFcVI0
クーのいきなりの言葉に、アニジャは思わず聞き返す。
伝え聞く話だけでも、北方の輩は情報統制などにより未だに継戦を求める声が強く、また国家総動員に近い体勢で兵を集めているというのだ。
兵は訓練を受けてない一般の市民であるため、一人一人は強力ではないものの陸戦において数は単純に驚異であるし、何より帝都の守りとして要塞が残っている。
人間達の持つ力は十分理解しているし、またこの施設で得た知識からより正確な予想が出来るようになってはいるが、どう考えても殲滅するにはかなりの戦力が必要となるはずである。
召喚地とルナイファ、そして帝都までの距離を考えればとてつもない戦力の大移動が必要であり、直ぐに対応することは難しいはずであるとアニジャは予測していた。
(; ´_ゝ`)「いや、何とか出来る力があることは知ってはいる。だが、まともに北方の相手をしている余裕があると?いくらなんでも、それは無茶だろう」
川 ゚ -゚)「......いや、次の攻撃で全てが終わるらしい」
(; ´_ゝ`)「......なに?」
918
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:28:26 ID:7NYZFcVI0
川 ゚ -゚)「人間達が言っていたよ。次の作戦で、敵の主力を殲滅して実質的に戦争を終わらせるとのことだ」
(; ´_ゝ`)「馬鹿なっ!!」
あまりに信じられないその言葉に、アニジャは驚愕する。
自分がどれだけ考えても、大戦力かつ防御力の高い要塞を瞬時に崩壊させることは難しいはずである。
だがそれを人間達はするというのだ。
人間達の過信によるものか、はたまた自分が何か勘違いしているのか。
ーもしくは。
(; ´_ゝ`)「まだ......上があるというのか?あれだけでも恐ろしい力だというのにっ!!」
その可能性はあまりにも恐怖であった。
要塞を瞬時に殲滅できる力。
大戦力を瞬時に殲滅できる力。
もし、本当にそんなものがあるのだとしたら。
(; ´_ゝ`)「......」
ーそれは世界を支配し、それこそ世界を滅ぼしうる力ではないか?
川 ゚ -゚)「作戦は数日後だということだ。どうなったかは、伝えるよ」
それだけを言い残し、クーは立ち去る。
一人残されたアニジャはこれからこの世界に訪れる未来に震えていた。
919
:
名無しさん
:2023/12/02(土) 21:28:54 ID:7NYZFcVI0
続く
920
:
名無しさん
:2023/12/03(日) 11:01:15 ID:p1D4BltU0
乙乙
921
:
名無しさん
:2023/12/03(日) 18:56:31 ID:PCEM1aMY0
おつ!
流れが一気に変わってきたな
このまま突っ走ってほしい
922
:
名無しさん
:2023/12/07(木) 00:07:40 ID:i4QZ33F.0
追いついた!
難しそうと思い込んでいたけど、わかりやすくて一気読みしてしまった。
特定の人物に肩入れしない描写で、対立にも暴走にも納得できたから、勉強になると感じる。面白い。
923
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:21:20 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 北方街道
1463年4月26日
帝都から北に伸びる大きな街道。
本来帝都へ向かうものが数多くいるはずのその道を通るものは少ない。
帝都にいる者達はこれからの戦いに向けて、皆で結束という名の同調圧力により逃げられなくなっていた。
またその逆にわざわざ戦場となるかもしれない帝都に向かうものは皆無である。
すっかり寂しくなってしまったその街道に、久しぶりに移動する集団がいた。
極めて劣悪な戦況により、すっかり貴重となってしまった移動用のゴーレムを使うその集団は、まるで闇夜に紛れ、誰にも気付かれないように進む。
(# ^Д^)「くそっ、アラマキめっ!」
その集団の中にプギャーがいた。
場所が変われどいつもと同じように憤怒する彼だが、その原因はアラマキの演説にある。
924
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:22:27 ID:O1UU.x/.0
アラマキを捕らえる、もしくは暗殺するため追っ手を出すことで南方の反乱はまとめ役のいないまま小規模で抑え、自身は北方に逃れることで比較的安全に事を進める計画であった。
しかし作戦は最初の時点で失敗してしまったのだ。
だがアラマキを逃したのみであればまだ許容できたのだが、問題はその後のアラマキの行動である。
あろうことかこの国の、そしてエルフの誇りを懸けて戦いを挑む自身をあたかも悪魔のように形容したのだ。
さらには演説中にアラマキは謝罪をしていたが、それはあくまでも軍の暴走を止められなかったことに対してであり、全ての諸悪の根元はプギャーにあると婉曲に伝えていた。
そしてそれらはアラマキへの同情と共に受け入れられつつあるというのだ。
ーというよりも、プギャーへの怒りが強すぎてアラマキやその他の事への感心は二の次になっているというのが正しいのだが。
なんにせよ結果としてプギャーが悪であると捉えられ、アラマキの謝罪と彼が語った『真実』が世界で受け入れられつつあるということには変わりない。
925
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:25:24 ID:O1UU.x/.0
(# ^Д^)「くそ、くそっ、糞ぉっ!!おい、シィ!!情報の統制は出来ているんだろうなっ!?」
(;*゚ー゚)「は、はい。現時点で我々が統治できている領地において、例の放送に関する情報は全て遮断されています」
( ^Д^)「......ふん、まあそれならば最低限は問題ないか。だが......この放送を聞いた馬鹿共がうるさくなりそうだな」
怒りに顔を歪ませながらも、プギャーは思考を続ける。
少なくとも現時点で分かっている限りでは南方のほとんどの属領や関係国家がこちらに反発する姿勢をとりつつある。
また人間達への全面的な降伏も先の放送で宣言していたことから、南方の守りはもうないといえるかもしれない。
つまり敵は距離があるとはいえ帝都まで、南方の領土のほとんどを障害なく通過が可能になるということである。
少しでも敵を消耗させたい今、この状況は非常に不味いと言える。
926
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:26:16 ID:O1UU.x/.0
( ^Д^)「......ふん、だがまだ兵も、要塞も残されている」
だがプギャーが独り言のように呟いたその言葉の通り、帝都に辿り着くためには要塞を突破しなくてはならない。
単純に多数の兵と強力な魔方陣をふんだんに使用された要塞は例えどんな敵であっても脅威となるであろう。
なにせ今持っているほぼ全ての力をそこにつぎ込んでいると言っても過言ではないのだ。
簡単に突破することなど、不可能。
そうして敵の動きが停滞すれば、敵本土へ放った病の牙がますます敵を苦しめ、さらには兵達による死の呪いを使用した突撃を行えばさらに効果的であろう。
( ^Д^)「まだ、これからだ」
そう、まだ戦いは続く。
否、戦いを続けさせる。
そうして戦況を泥沼化させ、敵を葬ることを彼は思い描いていた。
927
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:26:40 ID:O1UU.x/.0
ニータ王国 王城
1463年4月28日
世界が混乱する中、ニータもまた大きな混乱が起こっていた。
特にシラヒーゲは取り戻しつつあった精気が再び奪われ、顔を青くし頭を抱えていた。
(; ´W`)「なんという......何ということだ」
ルナイファの隣国ということもあり、彼の国の狂気は理解しているつもりであった。
だがまさかここまで暴走することなど、予想できるはずもない。
この暴走により、短期間で済む筈であった軍事行動によるルナイファへの圧力は長期化する恐れがあり、それだけでも国家の財政を圧迫するため、頭が痛くなる問題である。
だが問題はそれだけに収まらないのだ。
928
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:27:45 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「まさか......負ける、などいうことはないだろうな......」
そう最も恐れる事態、召喚地が戦闘不能となり敗北する未来も可能性として出てきてしまったのだ。
もし使用された病が噂通り、偉大かつ強大であった古の大国をも滅ぼしたというものであるならばいくら強力な国であっても滅ぶ可能性は十分にあると言えるだろう。
そしてその脅威は自国にもいずれ向かってくることになるであろうが、その時に問題なるのはすでにニータは人間達の味方であると国として立場を表明してしまっていることである。
国際的に病が蔓延することを防ぐために各国協力の体制を取ることになるはずであるが、その際に人間達に手を貸した国として支援を受けることが出来ない可能性があるのだ。
人間への偏見、差別意識を考えれば間違えなく起こりうる。
そんなことになれば、いくらこの世界で上から数えた方が早いほどの力を持つ国であるニータであっても、たかが一国で世界的な脅威に立ち向かい、勝てる見込みなどあるはずもない。
あるのはただ、破滅の未来のみ。
929
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:28:13 ID:O1UU.x/.0
(; ´W`)「......信じるしか、ないというのか」
しかし今更出来ることなど何もない。
世界を変えうる力など、シラヒーゲもこの国も持っていないのだ。
変えうる力を持っているとすれば、召喚された人間達である。
彼らがそれこそ、この現状を吹き飛ばすような何かを持っていることを、祈るしかないのだ。
(; ´W`)「この作戦が......成功することを祈ろう」
かつてルナイファが自国に攻めてこないようにとしたように、彼は再び祈る。
全ては召喚された人間達が行うという、最後の作戦に託されたのだった。
930
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:28:47 ID:O1UU.x/.0
ルナイファ帝国 南方要塞
1463年5月1日
( ^ω^)「ふぅ......」
小さく息をつき、汗を拭う。
この南方要塞に来てからもう何度振るったか分からない槍を側に起き、腰かける。
多くの市民や兵が集められたこの要塞。
これから行われるであろう人間達との戦闘に向けて多くの者達が訓練をしている。
志願兵達はこれまで生きてきた中で武器など持ったことのないものが多いが、それでも皆士気は高い。
それも当然だろう。
誇り高き世界最強の、愛する国を守るためなのだから。
それもあろうことか、敵は人間なのだ。
劣等な蛮族にこのルナイファが侵略される、そんなことが許されていいはずがない。
ルナイファが正義であり、神の意思である。
それがこの世の理なのだ。
931
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:31:49 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「......よし」
しばらく休んだ後、再び立ち上がり、訓練の輪に戻っていく。
かなり短い休憩であるが、休んでいる暇なのないのだと武器を振るう。
その考えはこの要塞にいるもののほとんどが同じ考えであった。
許しがたい世界の敵が、すぐそこまで迫っているというのだ。
世界の理を元に戻すため、それらを自らの手で葬り、人間達に分からせなければならない。
如何に愚かで浅慮なことをしでかしたのかと。
ただの市民であった者達が、眼前に迫る敵に対し逃げずに戦おうとするその姿は、一見勇気あるもののように見える。
ーだがそれは決して勇気からくる行動ではなく、恐怖の感情によるものである。
皆が気付かず、そして必死に隠してはいるものの、世界の理であるエルフ主義の考え方が壊され、そして世界最強という看板どころか、自国そのものが壊されてしまうのではないかという恐怖が根底にあるのだ。
932
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:33:37 ID:O1UU.x/.0
世界が変わってしまうことに耐えられるものが果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
それも変わり果てた世界では、もしかすれば自分がこれまで虐げてきた者達と逆転してしまうかもしれないとするならば。
そんなものを望めるものなど、いるはずがない。
だからこそ、彼らは今日も武器を振るっている。
無駄な努力かもしれないということや勝てないかもしれないなどという無駄な可能性は考えない。
世界は変わるはずないのだという、根拠のない考えを自信に変え、自分達は絶対的な存在なのだと信じて、ただひたすらに目の前のことに打ち込むことが彼らに出来る最善であった。
『構えぇぇぇえええ!!突けぇぇぇえええ!!』
(# ^ω^)「やぁああああっ!!!」
ここにいる誰もが必死に、槍を振るう。
それが当たり前であり、同然のことなのだ。
933
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:34:29 ID:O1UU.x/.0
『いいかっ!!誇り高きエルフとして、選ばれしルナイファの民として、身命を賭して祖国を守ることこそ、我らの幸福なのだっ!!!』
その訓練の間、聞こえる言葉はいつも同じである。
何度も、何度も聞いた言葉が繰り返される。
『敵に、人間に背を向けることを恥と知れ!!例え命を賭けてでも敵を道連れにすることが、ルナイファの民としての義務である!!』
洗脳のように繰り返されたその言葉は、本当にこの場の常識となっていた。
ブーンもまた、それが当然であると考えているし、何一つ疑問など持っていない。
正確には疑問を持つ余裕もなく、また考えることを放棄しているというのが正しいのかもしれない。
だがそれでもその言葉に奮い起たされ、死を恐れない戦士、死兵が産み出されているのは確かである。
戦場において死兵ほど厄介なものはない。
降伏という選択肢を捨てて、最初から死ぬことを前提に戦うのだから敵からすれば堪ったものではない。
制圧するには文字通り殲滅しなくてはならなくなるため、あらゆるコストをかけなければならなくなるのだから。
934
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:35:07 ID:O1UU.x/.0
『例え死のうとも、死を恐れるなっ!!死の呪いで敵を葬るのだっ!!その先に我々の勝利が続いているのだっ!その道を司る英雄に、君達は選ばれた神の尖兵なのだっ!!』
そしてなにより、この世界における死兵の最も恐ろしいところがただの突撃でも確実に相手を死に至らしめる呪いを持っているところであろう。
勿論通常であれば自らの命をかけなければならないこの魔法は使われることはない。
だがこのような異常ともいえるこの空気のなかでは、その魔法を使うことこそ正しいことかのように皆がいい、そしてそれを皆が受け入れている。
狂気が、この場を支配しているとしか言いようがない。
(# ^ω^)「僕が、僕が守るんだおおぉぉおおおっ!!!」
敵は人間であり、如何に恐ろしく狡猾で野蛮であるかを聞いた今、それを疑う術のない者達は自らの心から生まれる狂気を抑えられない。
その狂気は正義という名の下に正当化され、疑いの余地など残っていないのだ。
935
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:35:50 ID:O1UU.x/.0
彼らもまた、ある意味で被害者とも言えるかもしれない。
少し前まではなにも知らない一般市民であり、罪という罪もない者が多い。
だがもう、救うことは難しいだろう。
彼らの中にある真実を覆せる言葉は、この世には恐らく存在しない。
彼らの知る真実に対して現実は、受け入れるにはあまりにも悲惨過ぎるのだ。
(; ^ω^)「ぜぇ、ぜぇ......」
そうして何回槍を振るっただろうか。
皆が汗を流し、息を切らしたところで訓練は終わった。
周りに目をやれば同じく訓練を終えた者達が続々と休みをとろうとしていていた。
その姿、その顔は確かに疲れは見えるものの毎日の訓練を乗り越えたからか、軍人に近いものになっていた。
覚悟を決めた顔である。
皆、どこかで感づいているのだ。
戦いが近いということを。
死ぬかもしれないその時が近づいてくるという恐怖を殺し、代わりに敵への怒りの炎を燃えたぎらせる。
そうすることで一刻一刻と近づくその時をあたかも待ち遠しい、待ち望んだ時間かのように錯覚させていた。
936
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:36:22 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「勝てる......勝てるお、絶対」
それゆえ沸き上がるその勇気は、根拠のない蛮勇に等しいといえる。
事実、彼らが戦いに出たところで出来ることなど、殆どないであろう。
だがそれでもブーンは勝利を確信し、呟くほどに信じていた。
これだけの訓練を積み、これだけの国を愛する者が集まり、そしてこれだけ強大な国であるルナイファが全てをかけるのだ。
負けるはずがない。
負ける理由など、ありはしないのだ。
そうしてふと、空を見上げた。
特に理由はなかった。
ただの疲れからか、ぼんやりと空を見上げたのだ。
そこには雲一つない青空が広がっていた。
戦時とは思えないほどの、綺麗で平和な空。
( ^ω^)「......あれ?」
だがふと。
その青空に光るなにかが流れる。
937
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:38:10 ID:O1UU.x/.0
( ^ω^)「流れ星?」
空を流れる光るものといえば、流れ星位しか思い当たるものはない。
だがそれは昼間の、青空を流れるものだったろうか。
( ^ω^)「......え?」
そして流れ星とは、こうも消えないものだったろうか。
消えずに、流れ。
こちらにめがけて、落ちてくるものだったろうか。
( ^ω^)「あ」
何を思ったのか。
何を言おうとしたのか。
それはもう分からない。
それを知るものは一人もいない。
それもそのはずだろう。
彼も、そしてその周りにいた者達も一瞬で蒸発し、消えてしまったのだから。
938
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:39:47 ID:O1UU.x/.0
凄まじい爆音と共に、そこにいる全てが呑み込まれる。
そこにいたエルフも、そこにあった武器などの物資も、果てには要塞すら。
全ては蒸発し、消えた。
そこにはなにも残されていない。
否、残されたものはひとつだけあった。
残されたものそれは。
巨大な、キノコ雲であった。
939
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 19:40:11 ID:O1UU.x/.0
続く
940
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 21:19:32 ID:yG1UvMTg0
うわぁぁついに…
乙です…
941
:
名無しさん
:2023/12/09(土) 23:02:25 ID:XKtd06Bg0
乙
942
:
名無しさん
:2023/12/11(月) 00:13:32 ID:0OVe5E/s0
乙
しぃのように逃げ損ねただけのエルフも大勢いたんだろうな……
この判断を下した人間サイドの人物像もきになる
943
:
名無しさん
:2023/12/11(月) 21:03:20 ID:mRx2ibhc0
おつ
人間の切り札って言ったらこうなるよな…
物語は着実に進んでいるんだけどどう着陸するか全くわからない
凄く面白い
944
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:14:26 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方要塞跡地付近
1463年5月1日
雨が、降っていた。
黒い、見たことのない不吉な雨。
だがそんなものが気にならないほどに目に映るその光景は異常であった。
これほど目の前の現実が夢であってほしいと感じたのは、イヨウにとって生まれて初めてのことであった。
いつもと同じように帝都付近に陣取り、遠くから要塞を眺めていた。
近く何かしらの人間達の作戦が実施されると聞き、一体どのような地獄がこの地にもたらされるのかと若干の興味を惹かれつつ待っていた。
あの要塞を攻め落とすというのだから、あの強力無比な『ひこうき』やら『せんしゃ』やらを多数用意し、圧倒的な火力と数にて行われるものとばかり考えていた。
945
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:15:28 ID:n/YrJHUw0
だが、現実はどうか。
(;=゚ω゚)「......神よ」
そこに広がるのは地獄という表現すら生ぬるいのではないかという破壊の跡。
ただの一撃によるものとは、信じられないし、信じたくもない光景である。
あまりにも無慈悲な一撃。
万物全てを消滅させるその攻撃に、イヨウは天を仰ぐ。
遠く離れた自身ですら身体に火傷をおっており、中心近くにいたものは何も感じず、神に祈る暇すらないまま死に絶えたことだろう。
その事実だけですら恐ろしいが、何よりも恐ろしいのが人間達のこの攻撃が要塞に寸分の狂いもなく直撃したことである。
つまりあの神のごとき力を、人間達は完全にコントロールしており、好きな場所に叩き込むことが出来るということだろう。
(;=゚ω゚)「初めから......どうすることもできなかったということか」
もしそれが本当なのだとすれば、この世界に防げる国などあるはずがなく、どの国であっても一瞬で都市や重要施設を消滅させられる可能性があるということになる。
そんな相手に戦うことなど、無謀どころの話ではない。
それどころか下手に相手を刺激でもしてしまえば、報復としてあの攻撃を頭上に撃ち込んでくる可能性があるのだ。
交渉ですら、完全なイニシアチブを握られているに等しい。
946
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:16:01 ID:n/YrJHUw0
この攻撃がこの世界で行われた時を境に、これまでの世界のバランスは全て破壊されたと言っても過言ではないだろう。
(;=゚ω゚)「知らなくては......」
だが、だからといってただ平伏する訳にはいかない。
少しでも情報を集めて、力の差を埋めなければ自国の未来はないに等しい。
それは人間達と友好的接するか、敵対的に接するか関わらずである。
パワーバランスが崩れた今、この世界を生き残るには新たな力は不可欠になるはずなのだ。
(;=゚ω゚)「ごほっ、ごほっ......糞、身体が重い......早く、知らせなくてはならないのに......」
身体に負った火傷のせいか、身体中が不調の警告を鳴らしている。
だがこの緊急時に休んでいられるはずもない。
身体が渇きを抑えるため、異様なこの雨の雫を舐めてでも行動をしなくてはと、一秒でも早くこの情報を伝えようと魔信を震える手で取りだす。
947
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:17:02 ID:n/YrJHUw0
(;=゚ω゚)「ど、ドクオ......はぁはぁ......聞こえるか?」
そうしてどうにか魔力を込め、通信を開始する。
(;=゚ω゚)「頼む、出てくれよぅ!頼む......!」
『......イヨウさん?』
(;=゚ω゚)「っ!ど、ドクオっ!聞こえるかっ!?ごほっ、ごほっ!!」
『ど、どうしたんですか!?何かあった......』
(;=゚ω゚)「なにか、どころじゃ......ないんだよぅ!!攻撃、攻撃があったんだっ!!」
『っ!遂に人間達が再度行動を開始したんですかっ!?攻撃の規模はっ!?』
(;=゚ω゚)「......いや、もう、終わったんだよぅ」
『は?......え?』
魔信の向こうからでも驚愕が伝わってくる。
今話しているイヨウも、信じられない。
その反応は当然であり、冗談にしか聞こえないだろう。
948
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:17:32 ID:n/YrJHUw0
だがイヨウの焦りと火傷による苦しげな声が、その言葉が紛れもなく本当なのだと訴えてくるのだ。
『一体......なにがあったんですか?』
(;=゚ω゚)「......簡潔に言えば、要塞が消滅した」
『......』
絶句。
これまでも多くの理解不能な現象を引き起こしてきた人間達であったが、これはそれらを遥かに上回るほどの異常。
何も言えるはずがない。
(;=゚ω゚)「俺も、よく分からないんだよぅ。本当に一瞬で全部、吹き飛んだんだ。今、少しずつ近づいていってるけど、本当に全てが壊れてるよぅ......」
重たい身体を引きずり、少しでも情報を得ようと攻撃の中心地へと近づいていく。
そして改めて、その被害は酷いものであった。
建物も植物もエルフも全てが焼き付くされている。
そして極めつけは生き残り達であった。
全身の皮膚がまるで熔けたかのように垂れ下がり、苦しみうめいているのだ。
これならば痛みを感じずに死ねた方がマシだったのではないかとすら思えるほどである。
949
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:18:19 ID:n/YrJHUw0
(;=゚ω゚)「......うぐ」
あまりの酷さに頭痛と吐き気がしてくる。
いくら戦場に慣れているとはいえ、ここまで凄惨で異常な光景は初めてであった。
いやそもそも、この目の前に広がるこの光景は果たして戦場といえるのだろうかー
(;=゚ω゚)「ごほっ......ごぷっ!?......あ?」
止まらない吐き気に咳き込み続けていると、不意に口を押さえた手に生暖かいものを感じた。
何かと手を見てみると、黒い雨とはまた別の赤黒い液体がそこにはべったりとついていた。
(;= ω)「な......ゴボッ!?」
そしての液体は、口から止まることなく溢れ出る。
一体自身に何が起こったのか。
また一体ここでなにがあったのか。
理解出来ないまま、彼は地に伏し。
もう、二度と動くことはなかった。
まだ、黒い雨は降り続いていた。
950
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:19:33 ID:n/YrJHUw0
ソーサク連邦 情報戦略室
沈黙が、部屋を支配していた。
突如来たイヨウからの連絡はドクオの思考を停止させた。
確かにクーから人間達の行動が始まることは聞いていた。
勝敗で言えば間違いなく人間達が勝つだろうと予測はしていた。
特に今回はルナイファの悪魔的とも言える魔法により、流石の人間達も余裕はないだろうと考え、これまで以上に苛烈な攻勢が予測できていたはずであった。
だがしかし、それでも世界最強の国であったルナイファの、最強の護りとも言える要塞が一撃で消滅したなどというのはあまりに現実離れしている。
もし本当にそんな攻撃が実在し、そして自由に扱うことが出来るのならば、少なくともこの世界のどんな国でも滅ぼすことが可能だろう。
護りを固めた要塞に攻撃できるのだから都市を狙うことなど容易いはずである。
そして要塞よりも脆い都市が、同等の攻撃を受ければどうなるかなど、考えるまでもない。
狙われた都市の数だけ、地図から消滅することとなりそれだけで国家の機能は停止することになるだろう。
951
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:20:10 ID:n/YrJHUw0
『ひこうき』や『せんしゃ』といった兵器の数々もこの世界の戦争を変えうる力を持っていた。
だがこれはそれ以上の物であると間違いなく断言できる。
そして初めから使えば簡単にルナイファを滅ぼしうるものを持っていたのにも関わらず、ここまで使わなかった理由。
それはつまりー
('A`)(人間達の、奥の手......なのか?)
探し求めていたものかとしれないという考えが、脳裏によぎる。
本音を言えば、これ以上の物などあって欲しくないという彼の願望もあったもののその威力と使用された状況から考えても可能性は高いだろう。
自身の望む力による均衡、すなわち抑止力としては申し分ないどころかこれ以上ないものである。
ゆえにその力を欲すると共に、一抹の不安も沸き上がる。
あまりに、その力が強すぎるのだ。
確かに抑止力にはなるだろうが、万が一にその力を使うことになってしまったとすれば。
さらにそれが、互いに持ち合っているような状況だとすれば。
952
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:20:53 ID:n/YrJHUw0
(;'A`)「......」
考えたくもない。
だが考えるまでもなく、その先に待つものは破滅以外にない。
とはいえ現状、話を少し聞いた程度。
より詳しく知らなくてはと、ようやく脳内の混乱が落ち着いたところで違和感を覚える。
('A`)「......イヨウさん?」
先ほど、咳のような音がした後からイヨウの声が聞こえなくなっているのだ。
魔信の故障かと思えば、あちらで降っているのだろう雨の音が聞こえ、道具に異常が無いことを知らせていた。
(;'A`)「イヨウさん?イヨウさんっ!?」
そしてその音はつまり、道具ではなくイヨウの異常を知らせているのに等しいものである。
そのことに気が付き、必死に魔信の向こうに呼び掛ける。
だがその声に答えるものはなく、ただの沈黙のみが返ってくる。
953
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:21:23 ID:n/YrJHUw0
(;'A`)「......なにが」
一体、何があったというのか。
イヨウに、そしてルナイファの要塞に。
何も分からない。
ただ何かがあったことだけは、確かであろう。
ーつまりまだ、自分が理解していない恐ろしい何かが、秘められているということである。
(;'A`)「......」
底知れない人間達の力に、身を震わせながらも彼は決意する。
自身に出来ることはなんなのか。
それは一つしかないだろう。
(;'A`)「知らなくては......」
彼はここ、ソーサク連邦の情報戦略室の職員なのだ。
情報が武器であり、知ることが彼の使命である。
ならば、知らなくてはならない。
そうして彼は動き出す。
世界を変える、力を知るために。
954
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:22:05 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方都市テタレス
/ ,' 3「作戦は、上手くいったようだな」
(;`・ω・´)「はい、全て人間達から事前に告知があった通りです。時間通りに、要塞が消滅しました」
/ ,' 3「......改めて、とんでもない者達を相手にしていたのだな。我々は」
アラマキはその報告を受け、大きくため息をつく。
知らなかったこととはいえ、この一年近くの自身の失態を改めて痛感する。
そしてその失態のツケは自国の多数の民の命により支払うこととなったという事実は、悔やんでも悔やみきれない。
/ ,' 3「それで、これからどうなると考える?」
(`・ω・´)「はっ。少なくとも北方の......北ルナイファと仮称しますが、奴らの戦力の大半が失われました。最早防衛すらままならない戦力しか残されていません。これ以上の継戦は不可能なため、実質的な終戦となるかと」
/ ,' 3「そうか......ではこれからは戦後の事を考えなくてはならないわけか」
955
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:23:24 ID:n/YrJHUw0
(`・ω・´)「そうなります。ですが......」
/ ,' 3「現在の我々では、独力での復興は難しいか」
(`・ω・´)「......はい。我々は多くを失いすぎました」
アラマキの言葉に、シャキンは力なく頷く。
これまでのルナイファの国の基盤は戦力とそれによる属国、植民地からの搾取で成り立っていた。
それが今回の戦争で全て失ったのだ。
今後の物資の不足は目に見えている。
また戦闘による港や街道への被害も激しいため、もし物資が手に入ったとしても国全体に行き渡らせることも難しいだろう。
/ ,' 3「そうなると......賠償の他に、やはり地下資源とやらの採掘権を渡して、復興の支援を頼むしかないか。人間達にとって重要なものと聞いた以上、出来れば価値を理解してから手札として使いたいところであったが......」
(´<_` ;)「仕方ないでしょう。現状を考えると余裕がありませんから。相手から提示された条件で頷くしかありません」
(`・ω・´)「そもそも手持ちの手札がない現状、我々にとって価値のないもので交渉が出来る、と前向きに捉えるべきでしょう」
956
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:24:59 ID:n/YrJHUw0
/ ,' 3「......なるほど、それもそうだな。しかし話し合いで国としての体裁は保たれることとなっているが......最早国と呼べるか怪しいところだな」
それゆえに、国を保つためには他国の力が必要であった。
だが他国との関係がお世辞にも良いとは言えないこの国を支援しようというものなど、ほとんどいない。
そんな中、戦勝国である人間達の国が支援に名乗りを挙げたのだ。
(`・ω・´)「表向きは確かに国として保てますが......本質的には傀儡、ですな。まあ我々が下手に滅びでもすればこの大陸は混乱を極めますから下手な扱いはないと、思いたいですが」
/ ,' 3「うむ。しかしアリベシという見本があって助かった......あの国の暴走ぶりと大陸の混乱がなければこの考えには至らなかったからな。交渉にならなかったかもしれん」
(;`・ω・´)「もしそうなっていたらとは......考えたくもありませんな」
/ ,' 3「あぁ。まあとにかく、北方の奴らに占領でもされれば人間達にとってまた厄介なことになる。我々にある程度の力を持たせて奴らを抑えたいだろう。それに期待するしかあるまい」
(´<_` )「えぇ。他に選択肢がない以上、そうするしかありませんな」
(`・ω・´)「ただ問題は......人間達にこちらを援助する余裕があるか、ということですね」
/ ,' 3「......はぁ」
957
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:25:41 ID:n/YrJHUw0
そう、通常であればここで話は終わっていたのだ。
だが現実はプギャーの放った魔法により世界中に混乱が訪れようとしているのだ。
もし人間達も多大な被害が出てしまえばいくらこちらが望んだところで復興の手助けなどする余裕はないだろう。
/ ,' 3「神頼み......いや、人間頼み、か。本当に我々は国として終わってしまったのだな」
(´<_` )「......ですがまだ、再起のチャンスは残されております」
(`・ω・´)「えぇ、我々も全力を尽くしますゆえ。必ずや我が国を建て直し、次こそは最高の国家としましょう」
/ ,' 3「......あぁ。そうだな。では今出来ることをやるとしようか」
(´<_` )「はっ!」
そうしてアラマキ達は改めて、世界中に向けて放送を行った。
その内容は人間達の行った攻撃の詳細について。
その凄まじいまでの被害を聞いたもの達は世界に訪れた危機で青くしていた顔をさらに青くし、大きく混乱することとなる。
だがそれと同時にルナイファの終焉を皆が悟るのだった。
958
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:26:37 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 北方都市
(; ^Д^)「......馬鹿な」
部下からの報告、そして今も流れる忌々しいアラマキの演説を聞き、プギャーは思わずそう漏らした。
全ては上手く行くはずであった。
それがエルフの宿命であり、運命であるはずだったのだ。
だが複数挙がってくるその報告を前に、自身の描いた未来は完全に否定されてしまった。
全ては崩壊した、と言ってもよい状態であった。
(; ^Д^)「何故だ、どこで間違えたと言うのだ?何故、こんな......」
(;*゚ー゚)「......」
(; ^Д^)「くそっ、くそっ、クソがぁっ!!」
959
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:28:09 ID:n/YrJHUw0
正気を失ったかのように暴れまわり、辺りのものを壊し回る。
そうしてやり場のない怒りと今更ながら痛感した強大な敵への恐怖をぶつけていたのだ。
そんな様子をシィは静かに眺め、本当に全て終わったのだと悟っていた。
(;*゚ー゚)「プギャー様......最早軍は壊滅、自国の領土すらまともに守れる状態ではありません。それも、周囲の国家が相手であってもです。やはり、もうここは停戦を申し入れてー」
(# ^Д^)「......んぞ」
(;*゚ー゚)「え?」
(# ^Д^)「負けることなど、断じて認めんぞっ!!例え、どんな犠牲を払おうとも奴らを滅ぼさなければ!!」
(;*゚ー゚)「......」
(# ^Д^)「確かに今、軍は壊滅状態だ。ならば、軍を再建すればよい!まだ、民は残っているだろう!?他国からの傭兵も引き入れろ。自分で歩ける奴ならばどんなやつでもだっ!!そうすればまだ、戦えるのだっ!」
(;*゚ー゚)「そんな......」
(# ^Д^)「どれだけ時間が掛かろうとも、いつの日か、必ず、必ずや奴らを地獄へ送ってやる......いいなッ!?」
960
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:28:42 ID:n/YrJHUw0
この男はまだ、終わったことに気づけないのかー
そんな思いにシィはただ呆然と立ち尽くす。
確かに引き返せないところまで来ていると言える状況ではある。
もしこれで敵へ降伏することになれば、少なくともプギャーの首は差し出さなくてはならない。
だが、この男が国のために自身を差し出すことはないだろう。
相手が人間であるならば尚更である。
分かりきったことではあったのだがこの国は、別の意味でも終わってしまっていた。
(*゚ー゚)(......いっそのこと)
報告に聞く、人間達の攻撃がここに降り注げば良かったのにと、シィは心の底から思ってしまう。
例え自分が死ぬことになるとしても。
それで、この世界の敵は滅ぼされるのだから。
そんな自己犠牲も厭わない願いは叶うことはなく。
悪魔はまだ、この世界で生きていた。
961
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:29:39 ID:n/YrJHUw0
ルナイファ帝国 南方戦線 野戦病院
遠くに、大きな雲が見えた。
その雲は見たことないものであったが、その前に感じた遠く離れたこの場所まで伝わってきた衝撃に何が起こったのかを察していた。
('、`*川「......あぁ」
そしてそれを裏付けするかのように流れた陛下の演説に、ペニサスは祖国が敗北したのだと理解した。
だが、不思議と悲しさはなかった。
それどころかようやくこの悪夢のような時間を終えることが出来るのかと言う安堵の方が大きかった。
ξ゚⊿゚)ξ「......先生?泣いているの?」
('、`*川「え?」
そう隣にいるツンにそう声をかけられ、ようやく自分の頬が濡れていることに気が付く。
これまで抑えていたものが、戦いが終わったと言う安堵から溢れそうになっていたのだ。
962
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:30:09 ID:n/YrJHUw0
('、`*川「......えぇ、そうね。泣いて、いるわ。もう、我慢しなくて良くなったのよ」
そしてそれはもう、抑える必要がなくなったものであった。
これまでは戦う国の一員として、どれだけ苦しくても弱音を言うことなど、許されることはなかった。
だがそれはもう、終ったのだ。
だからこそ、ペニサスは涙を流し、ツンにそう語りかける。
優しく、ツンを抱き締めながら。
ξ゚⊿゚)ξ「せん、せい?」
('、`*川「終わったの。全部、もう終わったのよ......だから、もういいのよ。頑張らなくて」
ξ゚⊿゚)ξ「っ!」
そう、もう終わったのだ。
あの辛く苦しい、悪夢のような時間は。
だからもう、ただの子供に戻っても良いのだと。
963
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:31:14 ID:n/YrJHUw0
ξ゚⊿゚)ξ「せん、せい......」
('、`*川「いいの、いいのよ」
ξ ⊿)ξ「せ、んせ......ぅ、あ」
これまでどれほど辛い思いをこの子にさせてしまったのだろうか。
感情豊かであるはずの、普通の子供が感情を殺し、命に関わる責務を負わされるなど正気の沙汰ではない。
だが彼女はそれを、こなしていた。
こなせてしまっていたのだ。
それがどれだけ凄いことであり、そしてどれだけ彼女を苦しめたのだろうか。
その痛みと苦しみを全て理解し、癒すことはペニサスには出来ない。
ただの一教師にそんなことが出来るはずがない。
だがその痛みと苦しみを吐き出させ、ただの子供にしてあげることは出来るだろう。
それがペニサスの使命であり、教師であり、大人である自分だからこそ出来ることなのだと。
ξ ⊿)ξ「あああぁぁああああっ!!!」
そうしてその優しさに触れ、ツンは堰を切ったように涙を流した。
止めどなく溢れるその涙の量が、彼女のこれまでの辛さを物語っているかのようである。
その涙にペニサスはより一層、彼女を抱きしめ、決意する。
('、`*川「大丈夫、もう、大丈夫だから。我慢しなくていいからね。なにがあっても先生が、必ず、必ず守るからっ!!」
もう二度と、子供が苦しまないように必ず守ると。
この目で見て、感じてきたこと、戦争の凄惨さを皆に教え、如何に恐ろしいことかを広め、そして。
もう二度と戦いが無い、子供の苦しまない世界を、目指すのだ。
964
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:31:54 ID:n/YrJHUw0
(、*川「ぅ、うぅ......」
あぁ、なんて自分は愚かであったのだろうか。
ペニサスはそんな思いで胸中が一杯であった。
何故こんな簡単ことが戦争の前から分からなかったのか。
その結果が、このような結末を作ってしまったのだ。
とんでもない、過ちを自分達はおこしてしまったのだ。
そうでなければ、こんな目に合うはずがない。
ならば、どうするか。
次は、間違えない。
絶対に、間違えてはいけない。
だからこそ、伝えよう。
この今、見ていもの、聞いているもの、そして感じているもの全てを。
二人の泣き声が響く、この今を決して忘れない。
ー戦いが終わったこの日を、決して忘れてはいけないのだ。
965
:
名無しさん
:2023/12/16(土) 13:32:17 ID:n/YrJHUw0
続く
次回かその次でひとまず完結予定です
966
:
名無しさん
:2023/12/17(日) 18:38:15 ID:MXEU8bDw0
つらいな…乙
967
:
名無しさん
:2023/12/18(月) 23:09:53 ID:t8qYvbak0
乙乙
968
:
名無しさん
:2023/12/19(火) 09:15:44 ID:S8x3EBik0
otsu
969
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:38:49 ID:RitR9poI0
ムー国 大使館
1463年10月3日
実質的な終戦を迎えてから、数ヶ月。
あの日が歴史の転換点であったと言えるほど、世界は変化を見せていた。
まず語るべきは、旧ルナイファ帝国だろう。
この世界において最強であったはずのその国は今では見る影もない。
属国や併合されていた国々は全て独立を宣言し、大きく領土を失うことになっていた。
その独立した国々も長い間の占領により、国境が曖昧になっていたことや王族の断絶などの様々な問題が浮き彫りになっており、安定には程遠い。
加えて敗戦国となればその国民が奴隷になると見てそれを手に入れようとする商人や孤児などを狙った誘拐犯、そして盗人も集まってきており治安も最悪の一言である。
さらには旧ルナイファは北ルナイファ帝国と南ルナイファ共和国の二つに分かれた。
そのうちの北ルナイファ帝国はあれだけの被害を負ったため流石に軍事行動こそないものの、未だに戦意を失ってはいない。
それゆえ周囲の緊張感を高めており大陸は混迷を極めていた。
970
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:39:54 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「人道的支援、か。確かに大陸の安定は国のためになるとはいえ......奴隷制がないことといい、学ぶことが多いな」
だがそこで待ったをかけたのが他でもない戦勝国である召喚された人間達であった。
敵対していた国を、それも敗戦国に対して支援を行う旨を発表した際は世界が驚き、偽の情報ではないかと皆が疑った。
だが実際に南ルナイファ共和国にて人間達の支援部隊や治安維持目的の軍が派遣されてくる姿を見て、それが本当なのだと分かったものの、その行動を理解できるものは少なかった。
なぜこれだけの力を持ちながら滅ぼすこともせず、さらには奴隷にするどころか支援をするのか。
そんな疑問符を頭に浮かべてはやはりまともに物を考えることも出来ない劣等種なのだと結論を出すものが多かった。
だがそんな彼らも人間達の持つ力の前に恐怖し、ここで暴れるのは無理だろうと人間の手が届く範囲に限られるが治安は日を追う毎に回復してきていた。
また中には人間達の行動を理解し、偏見を改めようとするものたちも数は少ないが現れ、国交樹立に向けた動きも見られていた。
971
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:40:35 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「世界は......本当に変わったな」
そう、世界は変化をしている。
ほんの一年前まで、人間達の独立国がこの世界に生まれ、そしてその国と国交を結ぶものたちが現れるなど欠片も考えたことはなかった。
川 ゚ -゚)「それが、最近では慌てたように国交を結ぼうとしているんだからな」
その言葉の通り、国交を結ぼうとしている国もまた少なくない。
理由は勿論色々とあるが一番大きいものはやはり、旧ルナイファ帝国が放った疫病を撒き散らす魔法だろう。
その恐ろしい病は噂通りの力を発揮していた。
凄まじい速度で感染し、かつ治療が困難なその病は、国力がなくまともな魔法使いのいない国にとってはまさに最悪の一言であった。
伝え聞くだけでも小国のいくつもが破綻しかけているという。
だからこそそんな病を、一番に差し向けられた人間達もまた、滅びゆく運命であろうと多くの者が予測していた。
それゆえ旧ルナイファ領へ介入しようとしていた者たちが多かった。
いくら力があろうが、自国のことで手一杯となり、ルナイファの内部にまで手出しは大きくは出来ないだろうと高を括っていたのだ。
川 ゚ -゚)「......国交を結びたい理由は、やはり薬だろうな」
だが現実はといえば、人間達はルナイファまで手を回す余裕があるように見える。
これは一体どういうことだと調べてみれば、皆が恐れる病を薬で簡単に治せるというのだ。
972
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:43:07 ID:RitR9poI0
多大な混乱を与えたものの、クー達エルフからすれば被害ともいえないような数百か数千程度の少数の死者のみであるという。
未だ押さえ込める未来の見えない他国からすればそれは神の所業である。
それゆえ皆がその力に救いを求めた。
そこにプライドなど挟める余裕などなく、病に脅かされている国々が一斉に国交を、そして救いを求め出したのだ。
川 ゚ -゚)「うーむ、とはいえ......」
しかしそれら全てを救えるかというと流石の人間達の国でも厳しいらしい。
救いの力、すなわち彼らの作る薬は確かに大量生産できると言う話だがそれでも限度があり、自国やここムー、トウキュといった戦争で実質的な支配下となっている近隣の国々に回す分を考える必要があるためである。
また物理的に距離が遠ければそれだけ輸送のコストがかかるため、優先度はそれに比例して下がってしまうのだ。
とはいえ多数の国と国交を結べるチャンスであり、かつ薬を大量に売ることが出来ることを考えれば経済の回復に多大な貢献をするだろう。
だが他にも彼らはやることが山積みなのだ。
973
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:44:04 ID:RitR9poI0
川 ゚ -゚)「中々に、難しいところだな......」
圧倒的な力で忘れかけていたが、人間達の国はこの世界に無理やり召喚され、経済面で考えればとてつもない被害を受けている。
そんな状態で約一年も戦争を続けて無事なはずがない。
今すぐにも経済の復興が必要となっているという。
特に軍需も戦争が終わった時点で無くなるため、これまで戦争のための働いていたもの達の新たな就職先を見つけなければ召喚の影響で多数生まれた失業者がさらに増えてしまい、国としての基盤が崩壊する可能性すらあると言う。
一応ルナイファとの交渉で得られた地下資源の採掘に向けて、多くの者達が送られる予定となっているため、失業率は若干の緩和が見込まれており、またそこから得られる資源を扱う仕事により、新たな雇用を生み出すとのことだが未だに予断が許されない状況である。
何とか戦争を乗り越えたものの、まだまだ彼らの国を賄うには必要なものが足りないのだ。
川 ゚ -゚)「......そう考えると、案外ルナイファは惜しかったのかもしれんな」
強大という言葉が相応しい人間達の国を、ここまで追い込んだのだ。
召喚による影響などもあるとはいえ、圧倒的な軍事力の差を埋めたルナイファの馬鹿げた国力は確かに世界最強と呼ぶに相応しい国であった。
ただし、元と付くわけだが。
974
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:45:58 ID:RitR9poI0
現在の世界最強はどこかと聞かれれば、その答えは間違いなく一つしかないだろう。
川* ゚ -゚)「ふふっ。私もその国の一員というのは何とも誇らしいな」
かつての母国を捨て、新たに属することを決めたその国。
その圧倒的な力に魅了され、この国に亡命したことは間違いではなかった。
自身がエルフということもあり、人間達からすればかなり印象は良くないが、それでもこちらの仕事を認め、そして一員と扱ってくれている。
そんなところからもこの世界の国家にはない、国としての余裕が感じられるのだ。
これから先、世界がいかに混乱したとしてもこの国を脅かすことなどあり得ないだろう。
それだけの力を、この国は持っているのだから。
つまり、未来の安泰は保証されているに等しいのだと彼女は確信している。
それゆえ、頭に思い描くものは輝かしい未来ばかり。
もう何も心配事などないのだ。
ただ考えるのは今後の幸せのことのみで、何も問題などないのだ、と。
川 ゚ -゚)「さて、と。そろそろちゃんと仕事をしないとな。えっと、まずは......あぁ、行方不明になった支援団体職員についてか」
そうして彼女は最近ようやく使いなれてきた『ぱそこん』に向き合う。
仕事には四苦八苦するものの、彼女の顔は明るい。
なぜなら彼女の眼前に広がるのは、明るく輝く未来の世界。
不安など、あるはずがない。
愛する新たな自国のために、よりよい国を目指すために、彼女は目の前の仕事と戦い始めたのだった。
975
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:46:54 ID:RitR9poI0
南ルナイファ共和国 南方港(旧軍港跡)
1463年10月4日
激しい攻撃を受け、壊滅していたここ、南方港。
復興に向けた資材等の受け入れに必須ということもあり、この世界では類を見ないほどのスピードで復興が進められていた。
今では軍港としての機能こそ戻ってはいないが、それ以外の通常の港としての能力はかつてのそれを上回るのではないかと言うほどである。
事実、『くれーん』なるものが作られ、これまで魔法で持ち運んでいた荷物の運搬性が格段に上昇していた。
こうして大量に物資を持ち込めるようになったことで、どうにか餓死者を減らせるようになりつつあるがそれでもまだ、国として再起できるラインとは言いがたい。
問題は物資のみだけではないからである。
今回の戦争により、ルナイファは多くの者を、それも魔法の才があり働き盛りな若者を多く戦場に送り、そして亡くした。
さらには国が二分した際、戦争に徴兵された一般市民も多くが北ルナイファ帝国の民になるか、あのキノコ雲の下で蒸発したかのどちらかである。
これによりまともに働ける人材が少なくなり、この国の人口ピラミッドは見るも無惨な姿となっている。
この事は将来に非常に暗い陰を残すと共に、今現在においても多大な枷となり、南ルナイファを苦しめていた。
976
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:47:29 ID:RitR9poI0
そんな一人でも多くの人材を欲する南ルナイファであるが今日、大きな朗報があった。
それはたった今、港に入港してきた大きな人間達の軍艦も関わっている。
(´<_` ;)「......改めて、こんな艦相手に戦っていたのだな」
爪;'ー`)「......」
(´・ω・`)「......凄い」
そんな艦を眺める者が数多くいるが、その反応は様々であった。
オトジャのようにかつて戦ったものはその恐ろしい記憶に身を震わせ。
フォックスのように戦いこそしなくてもその力を噂で聞いていた者はこんな化け物が本当に実在したのかと口を大きく開き唖然としていた。
その艦は自分達の友人や家族を殺した者達の兵器であり、恨みの籠った視線を送るものが多くいたが、それと同時に皆にあの戦争の悪夢を思い出させる、人間達の力を示す恐怖の象徴となりつつあったのだ。
ーだが中にはショボンのように、戦争と切り離してその艦を眺め、その雄大な姿に子供らしく目を輝かせるようなものも、少数ではあるものの存在していた。
そんな様々な感情を向けられる中、その艦が接岸する。
そして艦からルナイファの地へと降り立つ複数の影が、そこにはあった。
977
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:48:02 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......まさか本当に生きてこの地に立てるとはな。それも、こんなに早くとは」
その影の正体は戦争の生き残り。
捕虜となっていたルナイファの兵達であった。
彼らの表情は皆、明るいものであった。
それも当然であろう。
これまで何度も自分達がいつ殺されてもおかしくない立場に居続けたのだ。
いくら口頭で殺すことはないと聞かされても、それを全て信じきることは難しい。
また捕虜の返還に関しても、国との交渉次第ではどんな扱いになるか分かったものではない。
もし仮に母国に見捨てられでもすれば、敵がわざわざ捕虜を確保しておく必要などないのだ。
ゆえに解放される今日この日まで、どんなに低い確率であったとしても処刑されるかもしれないという恐怖を消すことが出来なかった。
だがそれが今日、解放されたのだ。
それを喜ばないものなど、いない。
皆が歓喜し、そして涙を流し、自身が母国の地に再び自身の足で立つことが出来ていることを感謝していた。
978
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:49:58 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「ほ、本当に、生きて、帰って......」
爪'ー`)「トソンっ!!」
(゚、゚トソン「っ!ふぉ、くす?」
そんなあまりの歓喜に頭が追い付かず、混乱していたトソンに懐かしい声が届く。
ハッと声がする方に向けば、そこには見知った顔があった。
笑いながら近づいてくるその彼を、彼女は知っている。
その笑顔を、知っているのだ。
懐かしい、その笑顔を。
見慣れたはずの、笑顔である。
特別な表情などではない。
だが、いや、だからこそか。
その笑顔は彼女を日常に連れ戻す。
どこかまだ落ち着かなかった心が、平穏を取り戻していくのを感じていた。
そして、その安堵からなのか。
(、 トソン「フォックスっ!!」
爪;'ー`)「うおっ、ちょ、と、トソン!?どうし......」
(、 トソン「う、うぅ......」
爪'ー`)「......おかえり、トソン」
気付けばフォックスに駆け寄り、泣きついていた。
これまで抑えていたものがすべて溢れだし、止めることが出来なかった。
そして、ようやく心の底から理解した。
ーようやく、終わったのだと。
979
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:50:38 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......ふむ」
(´<_` ;)「アニジャっ!良かった......よく、無事に......って、なんだ?なぜ両手を広げている?」
( ´_ゝ`)「なんだ、折角の感動の再会なんだ。俺も抱き締めて帰りを祝福してくれてもいいじゃないか」
(´<_` ;)「......」
( ´_ゝ`)「冗談だからそんな顔をするな。流石に傷付くぞ......っと?」
(´<_` )「......これでいいか?」
( ´_ゝ`)「......悪くないな」
(´<_` )「おかえり、アニジャ」
( ´_ゝ`)「あぁ。色々と、すまなかったな」
(´<_` )「気にするな」
互いに笑い合い、再会を喜び合う。
それは敗戦し、窮地に追い込まれ、どこもかしこも暗い雰囲気が漂っていたこの国に久しぶりに現れた明るい一幕であった。
980
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:51:27 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「それで?国は、どんな状況なんだ?」
(´<_` )「帰ってきてまずそれか。相変わらずだな」
( ´_ゝ`)「むしろ見知った兄が帰ってきたと感じられていいだろう?」
(´<_` )「......はぁ。そういうことにしておこう。それで、そうだな。国か......何から説明すべきか」
そうポツリとこぼし、顎に手を当て少しオトジャは考える。
軽く説明するにしても今回の出来事は何から何まで大きすぎるのだ。
自分自身もまだ、混乱している部分もあるためどう言葉にすべきか分からないという部分もあった。
そんな理由でほんの少しだけ思考に耽っていたのだが、さていざ話そうかと顔を挙げると多くの者がこちらに視線を向けていることに気がつく。
そう、周りの者達も今この国に帰還したものやただの一般市民であり詳しく現状を知れていないものなどがこの場に集まっていたのだ。
それゆえ皆が気になることをこれから話すというのだからその興味が集まるのも仕方のないことだろう。
(´<_` ;)「......マジか」
爪;'ー`)「す、すみません。自分らも気になるもんで.....いい、ですか?.」
( ´_ゝ`)「ふむ......まぁ、いいじゃないか」
(´<_` ;)「そりゃ聞く方は気楽だからいいだろうが......はぁ、まあいいか。言っておくが俺も、全て把握している訳ではないし、伝聞がほとんどだから正確かは知らんぞ」
( ´_ゝ`)「構わんよ。何も知らんよりは、マシだろう」
981
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:52:49 ID:RitR9poI0
(´<_` )「分かった。では、まずそうだな。国の現状についてだが......北と南に分かれたことは?」
( ´_ゝ`)「流石に聞いているよ。まぁ、耳を疑ったがな」
(´<_` )「だろうな」
アニジャの言葉にオトジャも、そして周りで聞いていた者達も同意を示す。
アニジャを初めとして、捕虜となっていた者達は敗戦することはまず間違いないだろうと理解していた。
それゆえに国が他国から支配され、ルナイファという存在が消えてしまうことも覚悟をしていた。
それがどうなればルナイファが消えるどころか二つに分裂するというのか。
(´<_` )「未だに俺も、どうしてこうなったかが理解できてないよ」
( ´_ゝ`)「まぁ、理解できるとすればあの阿呆と同じ考えということになる。理解できん方がいいだろう」
(´<_` )「そうだな......それでだが国が分かれる際に多くの属国や併合していた国家が独立したことは?」
( ´_ゝ`)「聞いてはいなかったが、まぁ予想通りだ。今のこの国に、そして北の奴らにも支配を続ける力など残っとらんだろ」
(´<_` )「あぁ。面倒も見きれんということでこちらから独立を促していた部分もあるそうだ」
( ´_ゝ`)「あるそう、とは?」
(´<_` )「陛下......いや、元陛下よりそう聞いている」
( ´_ゝ`)「成る程な」
(゚、゚トソン「元、陛下......ですか」
982
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:54:08 ID:RitR9poI0
ポツリとトソンが漏らすその呟きに皆が一瞬、顔を曇らせる。
この国の力の象徴とも言える王であり、世界を征する力を持っていたといっても過言ではなかったはずの存在。
それが今では元という肩書きとなり、その力は全て失っている。
爪;'ー`)「あの、陛下はその、元首ではある、んですよね?自分は、よく分からないのですが......」
(´<_` )「ん?あぁ。そのようだ......一応な」
( ´_ゝ`)「......そうか」
その言葉に多くの者がホッと胸を撫で下ろす。
国として多くのものを失ってしまったが、形だけは何とか保つことが出来ているのだ。
力が無くなったとはいえ、自分達が信じ、崇めていた王はまだ、国のトップに立ち、導いてくれる。
その事実にどこか救われたような、ほんのわずかではあるものの心に希望が宿っていた。
皆がそうして小さな希望に顔を明るくする中、アニジャの顔は険しいものであった。
オトジャの『一応』という言葉に込められた意味に考えが至ったのだ。
それは元首という肩書きは本当に形だけのものであり、権力などはなく実質的な支配は他にあるだろうということ。
すなわち傀儡であり、陛下であるアラマキはこの国の民にその支配者達からの言葉を伝えるための道具となったのであろうと、考えたのだ。
983
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:54:44 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「まぁ、聞いた話から粗方予想はしていたが......混乱はないか?」
(´<_` )「あぁ。少なくとも民については反乱を起こそうという気運もない。むしろ皆、あれほどの敗戦とあって戦いに消極的だ。上手く、国はまとまってるよ」
( ´_ゝ`)「そうか。随分上手いこと、やるもんだな」
そうアニジャは呟き、周りを見る。
今の短い兄弟の会話を理解しているものは他にはいないようであり、皆国が独立を保てたこと、そして再び陛下の元で国を建て直すことを夢見ている。
誰も国が実質的に支配されていることに気付いておらず、アニジャの言葉の通り、恐ろしく上手く国が支配されたことをこの場にいる者達が示していた。
そんな様子にアニジャはルナイファの終焉を感じ、若干の寂しさを覚えていた。
だがもうどうすることも出来ないであろうことも分かっていた。
そうして改めて国が負けるとはこう言うことなのかとため息をつく。
( ´_ゝ`)「......本当に上手く、やられたな」
(´<_` )「何でも人間達のいた世界に、似たようなモデルケースがあったらしい」
( ´_ゝ`)「はぁ、成る程な。まあ下手なことをされて、滅ぼされるよりはマシと考えるべきか」
(´<_` )「あぁ、そう思うよ」
( ´_ゝ`)「それで?後は何か変わったことは?」
(´<_` )「そうだな......戦争の発端となった人間の外交官を処刑したこと等の責任については、捕らえられていたムー現地の統治局職員が戦争犯罪者として裁かれることになったようだ」
( ´_ゝ`)「戦争初期に捕らえられていた者達に罪を被せた、というわけか。それで陛下の罪を軽くして、元首としての立場を保たせる、か。本当にうまいことやるな」
(´<_` )「あぁ。後は何があったか......」
984
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:55:12 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「あの、それでしたら......聞きたいことがあるのですが」
(´<_` )「む?なんだろうか?」
(゚、゚トソン「その、人間達の最後に放ったという攻撃について、です」
(´<_` )「......あぁ」
皆が気になることなのだろう。
一層オトジャに視線が集まる。
アニジャもまた、真剣さを増して聞く姿勢を取っていた。
(´<_` )「断っておくが俺も直接見たわけじゃない......そもそも詳しく調べようにも現地の調査は出来んからな」
( ´_ゝ`)「む?直接見るのは無理なのは分かるが......調査が出来ないとはどういうことだ?」
(´<_` )「その言葉の通りだ。今、攻撃の跡地に近づくことは出来ない。近づけば......死ぬことになる」
(; ´_ゝ`)「......何?」
(゚、゚;トソン「一体、どういう......」
オトジャのその言葉に皆がざわついた。
とてつもない攻撃があったことは知っていた。
だが攻撃が終わったはずの今ですら近づくことが出来ず、近づけば死ぬというのは一体どういうことなのか。
言葉は理解できるが意味が全く分からない。
985
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:55:44 ID:RitR9poI0
(´<_` )「これは、人間達から聞いた話だ。あの攻撃......『かく』による攻撃は辺り一帯を汚染するそうだ」
( ´_ゝ`)「......汚染?」
(´<_` )「あぁ。すぐに効果は出なくても長くその場にいると臓器がやられるそうだ」
爪;'ー`)「......それって、もしかして最近流行ってるっていう、流行り病、ですか?」
(´<_` )「恐らくはそうだろう」
(; ´_ゝ`)「なんと......」
副次的な効果ではあるだろうが、その恐ろしさにアニジャは身を震わせる。
攻撃が終わったあとも影響が残り続け、多くの者の命を脅かす。
そこに命の優劣などはなく、ただひたすら存在するものを無差別に殺していくという事実はなんと恐ろしいことか。
戦いが終わったはずのこの国は、まだ戦争の悪夢から抜け出せず、それどころかこれからも殺されていく者がいるというのだから。
(´<_` )「まぁこれでもまだ、良くなった方らしい。攻撃直後に近づいたものは......即死したらしいからな」
(; ´_ゝ`)「......」
(゚、゚;トソン「......」
986
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:56:20 ID:RitR9poI0
(´<_` )「とはいえ、今も汚染されていることには代わりないし、無法地帯になりつつある。誘拐やら強盗やらもあるから近づかん方がいいだろうってことだ。さて、ここまでが今現在の影響の話なわけで、本題はこれからだ」
(; ´_ゝ`)「......攻撃自体の威力、か。その影響は?」
(´<_` )「要塞が消滅した。一撃でな」
(; ´_ゝ`)「......」
(´<_` )「周囲もその余波で焼き尽くされ、そこにいた者達は勿論即死......近くで生き残ったものも、汚染により死んだ」
(゚、゚;トソン「......」
(´<_` )「現時点で分かってるだけでも......10万は軽く超える数が死亡している。まだ増えるだろうし......倍以上になるかもしれん」
言葉が出なかった。
あまりに、被害が桁違いすぎた。
そこにいた全てが焼き尽くされたといってもおかしくない被害。
そんな被害をもたらすものは、神が作り出す災害ですらないのではないかー
自分達が相対してきた者達の底知れない恐ろしさ、ようやく理解できてきたと思っていた敵の力が、まだ全く理解しきれていなかったのだと嫌でも痛感させられる。
(; ´_ゝ`)「とんでもない......被害だな」
(´<_` )「あぁ。特に無理な徴兵のせいで働き盛りな者達が文字通り消し飛んでしまったからな......これからどうなることやら」
( ´_ゝ`)「そうだな......」
ただでさえ国がボロボロだというのにその国を支える者も少ないという事実。
これから先の将来に暗いものを残すことは確実であった。
987
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:57:08 ID:RitR9poI0
(´<_` )「それに......まあこれは『かく』による問題だけではないが、孤児が大量に発生してしまったというのも問題になっている。それを狙った誘拐者も多くてな」
( ´_ゝ`)「孤児......」
その言葉に思わず、近くにいた子供、ショボンに視線が向いてしまう。
急に集まる視線に驚いたのか、ショボンはフォックスの背後に隠れる。
爪;'ー`)「っと、大丈夫か?」
(;´・ω・`)「え、あ、はい......」
( ´_ゝ`)「あぁ、すまない。急で驚かせてしまったな......君が保護を?」
爪'ー`)「あぁ、はい。そうですね。戦時中も自分が子供の避難誘導をしてまして......親が見つからない子達はそのまま、という感じです」
(゚、゚トソン「へぇ」
爪;'ー`)「な、なんだよ」
(゚、゚トソン「いや、立派だと思ってね。やるじゃない」
爪'ー`)「え、あ、お、おう」
(゚、゚トソン「でも、あんた一人でちゃんと子供の世話なんて出来るの?まぁ、あれね。もしあれなら私がてつ」
爪'ー`)「あぁ、それなら......あ、丁度戻ってきた。おーい」
(゚、゚トソン「え?」
トソンがなにかを言おうとしていたが、それを遮るようにフォックスは遠くに向かって手を振る。
その様子に気がついたのか、手を振られた相手らしき者が何人かの子供を引き連れて近づいてきていた。
爪'ー`)「紹介します。えっと、彼女は自分と一緒に子供達の世話をしているペニサスさんです。教師とのことで凄くお世話になっていまして」
('、`*川「ど、どうも、初めまして。ペニサスと申します。教師といっても大したものではありませんが......」
988
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:58:56 ID:RitR9poI0
(゚、゚トソン「......」
爪'ー`)「彼女も子供と共に戦地にいたらしく、その流れで互いに協力して子供達の面倒を見ている感じで」
(゚、゚トソン「ふんっ!」
爪;'ー`)「おぐぅ!?な、何で殴る!?」
(゚、゚トソン「ちょっとムカついたので」
爪;'ー`)「......なんで?」
殴られた脇腹を押さえつつ、何がなんだか分からないという顔を浮かべるフォックスに対して、皆が呆れたような顔を浮かべる。
とはいえそこに何か口を挟むような野暮な事をするものはいなかった。
コホン、とアニジャが咳払いをしどうにか話を戻す。
( ´_ゝ`)「えっと、それでフォックス殿とペニサス殿が子供を世話しているとのことだが......先ほどまでペニサス殿は何かされてたのか?」
('、`*川「あ、は、はい。実は、その、えっと......軍人さん達には、言いづらいことなのですが」
( ´_ゝ`)「......なんだろうか?」
('、`*川「その......もう二度と、戦争をしないようにって、子供達と平和運動に取り組んでいるんです」
ξ゚⊿゚)ξ「......」
( ´_ゝ`)「っ」
その言葉に、そして向けられる子供の真剣な眼差しにアニジャは思わず息を呑む。
軍人であるアニジャ達にとってその言葉は何とも耳が痛いものであった。
確かに多くの者が傷つき、多くの物を失った原因は戦争であり、それゆえ平和を望むことは無理もないだろう。
989
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 20:59:45 ID:RitR9poI0
だがほんの少し前まで、この国を支えてきたものは何かと聞かれれば確実に軍であり、軍人達が国を支えてきたのだ。
それが今はどうか。
平和を望む彼女達にとって自分達は邪魔とまでは言わないものの、いい印象もないはずである。
さらに今回の戦争の大きな原因は軍上層部の暴走であるとアラマキが放送していたことも大きい。
プギャーに罪を被せるためであったとはいえ、その言葉に民は軍に対して強い怒りを抱くことになったのだ。
そうなればこの戦争で平和の有り難さを噛み締めた民がどうなるか。
そもそもやり場のないこの怒りの矛先を何処に向ければいいと言うのか。
その答がアニジャ達の目の前に広がる光景であった。
( ´_ゝ`)(......とはいえ現状、軍を全て無くすことなど出来ない。周りに敵が多すぎる。そんな国の支えが憎悪の対象となる、か)
(´<_` ;)「アニジャ......」
( ´_ゝ`)「仕方のないことだろう。これまで我々がしてきたことの罪滅ぼしだとして、受け入れるしかあるまい」
(´<_` ;)「......」
( ´_ゝ`)「......そして、謝罪すべきだろうな。君達に辛い思いをさせてすまなかった」
そうしてアニジャは子供達に向かって頭を下げる。
謝罪されると思っていなかったのであろう、子供は勿論、大人達もまた困惑したような反応が返ってきていた。
('、`*;川「そ、そんなっ!頭を上げてください。あなたが悪いわけでは......」
ξ゚⊿゚)ξ「なら、約束して」
( ´_ゝ`)「うん?」
だがそんな慌てた反応の中、子供であるはずのツンのみ、冷静にアニジャに声をかける。
睨み付けているわけではないが、力強い、揺るぎない視線がアニジャに向いていた。
その視線に気がつき、アニジャも子供を相手にするような態度から一変する。
990
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 21:00:21 ID:RitR9poI0
( ´_ゝ`)「......なんだろうか」
ξ゚⊿゚)ξ「平和を......戦争のない国を、世界を作るって。もう二度と、あんな......皆が苦しむような世界を作らないって。私の、大切な友達が死なない世界を作るって、約束してっ!!」
( ´_ゝ`)「......っ」
なんと純真で無垢な願いだろうか。
その願いは皆が望むものであるのは、間違いないだろう。
それでもこの世界から戦いが無くならないのだ。
様々な信念や宗教、国の在り方、そしてこれからはエルフと人間という種族という壁がある。
そもそも生きるもの一人一人の知能が異なるため、考え方も世界の見え方も異なるのだ。
全てを受け入れあい、理解しあい、そして手を取り合えることがどれだけ難しいかはこれまでの歴史が物語っている。
991
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 21:01:29 ID:RitR9poI0
ー不可能。
そう、言い換えても言いかもしれない。
だがそうして平和を諦めることは、果たして正しいと言えるのだろうか。
この真剣な眼差しを否定することが、どうして正しいと言えるのだろうか。
( ´_ゝ`)「......約束しよう」
ξ゚⊿゚)ξ「っ」
( ´_ゝ`)「共に、皆で作ろう。平和な国を、争いの......戦争のない国を」
(´<_` )「アニジャ......」
( ´_ゝ`)「俺達の時代は、この戦いで終わったんだ。次の国を作るのは我々ではなく、彼女達......子供達だ。その彼女達が望むならば、俺達も尽力するのが勤めだろう?」
(´<_` )「......あぁ、そうだな」
その道は決して楽なものではない。
むしろ険しく、そして終わりの果てが見えない道である。
だがそれでも彼らはその道を選ぶ。
言葉の通り、子供の理想の国家を作るために。
こうして、かつて武力により力を得たルナイファはその力を捨てた。
そして彼等は平和を求めて、歩き出したのだった。
992
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 21:02:28 ID:RitR9poI0
続く
区切りがいいので次の最終話は次スレ建ててそこに投下します
993
:
名無しさん
:2023/12/23(土) 23:53:48 ID:8zdsyTbs0
乙!
プギャーさんは当然として、
戦争の前後で何も変わっていないクーに対しても、考え直してみて欲しいと思ってしまうな
994
:
名無しさん
:2023/12/24(日) 14:52:54 ID:dJsSyoeI0
乙乙
最終回寂しいけど楽しみ
995
:
名無しさん
:2023/12/25(月) 00:24:01 ID:wfM92j4M0
素晴らしい
過去の国ごと転移作品はここまでが序章であり、そしてゴールを決めていないせいで数多の名作がエターナの闇に散った
円満完結となるとジャンル中見渡しても片手の指で足りてしまうのでは?
996
:
名無しさん
:2023/12/30(土) 03:50:56 ID:Y9E2DG9o0
ワクテカ
997
:
名無しさん
:2023/12/30(土) 11:04:58 ID:APqrRrVI0
次スレ
異界大戦記のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1703901879/
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