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異界大戦記のようです
1
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。
魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。
きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。
ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。
127
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:58:02 ID:Z3EUAgNQ0
从 ゚∀从「それに閣下もお聞きかと思いますがムーでの出来事が気になります。このまま進めば我々も相応の被害を受ける可能性が」
『それがどうした?』
从 ゚∀从「は?」
『それがどうしたというんだ!!勝てば良いだろう!!それがお前らの仕事だろうが!!最新鋭の艦まで渡したんだ!!どうにかしろ!!』
从 ゚∀从「......微力ながら尽力いたします」
『そんな言葉はどうでもいい。結果を出せ!いいなっ!?』
こちらの返事を待たず、魔信が切られる。
それと同時に大きなため息が出る。
なんでプギャーのような男が自分たちのトップなのか。
( ´ー`)「改めて、やべぇな」
从 ゚∀从「あぁ......」
ただでさえ、未知の敵という不安な要素があるというのにそれ以上の不安が身内にあるのだ。
そんな状況に、二人の顔がしばらく晴れることはなかった。
128
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 10:58:25 ID:Z3EUAgNQ0
続く
129
:
修正
:2023/04/29(土) 11:00:11 ID:Z3EUAgNQ0
>>124
从 ゚∀从「とりあえず、だ」
( ´ー`)「うん?」
从 ゚∀从「本国に連絡しよう。召喚地への旅行は一旦保留ってな」
( ´ー`)「正気か?」
从 ゚∀从「勿論。むしろこの状況で進軍するとか正気の沙汰じゃねーぞ」
( ´ー`)「その正気じゃないやつが、俺たちのトップなんだぞ?」
もしこの発言が他人に聞かれていたら即刻、処罰されるであろう発言である。
だがこれもまた、事実なのだ。
その事を思い出したからか、ハインは再び眉間に皺を寄せる。
( ´ー`)「先遣隊が消滅、そしてムーすら攻撃を受けたとの報告。だというのにさっさとしろとの命令が届いてるぞ」
从; ゚∀从「マジかよ......俺たち揚陸艦がメインだぞ?もともと海岸沿いと制海権を抑えていることを前提とした作戦だったし。なのに艦隊を消滅させたやつがいるかもしれねぇ海域に向かうって......どうしろってんだ?」
( ´ー`)「艦種なんて知らねーんだろ。艦数が多いから何とかなると思ったんじゃねーの?」
从; -∀从Гねぇよ......と言いきれねぇな」
( ´ー`)「まぁ揚陸艦なら魔壁を強めに張れるし......切り込みとかで何とかするしかねーな」
从; ゚∀从「おいおい」
130
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 11:20:28 ID:KmHknZic0
乙
131
:
名無しさん
:2023/04/29(土) 12:58:45 ID:gMdTjAqc0
乙
現場を理解しようとしない無能が上に立つと苦労するよね…
132
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:31:43 ID:lPdbZp660
ムー国 基地跡
1463年7月13日
凄まじい爆発の跡。
元々基地があった場所にはもはや、瓦礫以外なにも残っていないと言ってもいい状態であった。
ムーを支配し、また守るために作られた大規模基地。
この国の守る全ての力を集結した、力の結晶であったはずであった。
だが、それはすべて破壊された。
一日前まで多くの人が働いていたとは到底思えない、まさに地獄である。
そんな瓦礫の中、ガラリと何かが動く影が一つ。
(; ゚д゚ )「ぐ......ぅ」
傷だらけになった一人の男、監視塔にいたミルナであった。
133
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:32:36 ID:lPdbZp660
出血によりふらつく頭を抑えながら辺りを見渡し、改めて状況を把握する。
(; ゚д゚ )「酷すぎる......」
敵の攻撃を事前に察知できていたはずであった。
なのにこの被害。
もはやなにも抵抗できずに一方的にやられたといって間違いないだろう。
なぜ、これほどまでにやられたのか。
攻撃の詳細を思い出そうにもなにも思い出せない。
最初の爆発で頭を打ち、気絶していたようである。
なにも思い出せず、また理解できない現実にただ呆然としていると、彼の耳がある音を捉えた。
バタバタという、不思議な音。
その音はどんどんと近付いてきており、気がつけば不快なまでに大きな音となる。
134
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:33:20 ID:lPdbZp660
(; ゚д゚ )「なに......が......ぁ?」
その音の正体。
確かに見た。
だがそれが、なんなのか、分からない。
それは、空飛ぶ箱であった。
箱の上には何かが高速で回っているのだろう、残像で円形に見える何かが付いている。
そんな、謎の物体がふわりと、基地の上空を監視するように飛び交っていた。
(; ゚д゚ )「......敵、なのか?」
ワイバーンより少し遅い程度で飛ぶそれ。
やつが、こんな惨状を産み出したのか?
なにも思い出せない彼にはそんな恐怖と共にただそれを眺める。
そう、ただなにも出来ずにぼんやりと眺めていると地上に動く影が見えた。
(; ゚д゚ )「っ!!」
―生き残り!
思わず声を出し、呼び掛けようとしたそのとき。
その影は基地に残されていたのであろう魔道具を用いて、光る電撃の槍を空に放つ。
135
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:34:17 ID:lPdbZp660
だが、たった一人で放つそれは弱々しく、また速度のある飛行物体には当たらない。
そして。
ババババッ!!
お返しとばかりに、轟音と共にそれは降り注ぐ。
光の雨のようだと、ミルナは感じた。
そしてそれは、地上に降り注ぐと大地を削り、肉を細切れにする。
(; ゚д゚ )「......」
見たことのない魔法であった。
一体、どれほど高名な魔術師であればあれほどの魔法を放てるのだろうか。
少なくともミルナと、あれを比べるとするならばドラゴンに蟻が挑むようなものだ。
とても、勝てる相手ではない。
気がつくと股の部分が温かいもので湿っていることに気がつく。
だが、そんなものを気にする余裕はない。
恐怖のあまり、ただ空中に浮かぶ死神を眺めることしか出来ない。
136
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:35:14 ID:lPdbZp660
遠くでまた、爆発音や光の雨が降り注ぐ音がする。
その音に生き残りがまた一人、また一人と消えていくのだ。
もう逃げるしかない。
(; ゚д゚ )「っ!?......ぁ?」
そう、思ったときに初めて気がつく。
足が瓦礫に埋もれ、動くことが出来ない。
抵抗にしようにも魔法陣も魔石もないこの状況では、文字通り手も足も出ない。
つまり、このままだと、次は―――
(; д )「......嫌だ!イヤだぁ!!」
口から泡を吹き、狂ったように叫ぶ。
耳にはバタバタと、うるさい死神の羽音が鳴り響く。
塞いでも、聞こえてくる。
まるで付きまとう死神の足音のように。
どんどんと、どんどんと近づいてくるかのようだ。
(; д )「あぁぁあああああ!!」
その声は、爆音に掻き消され。
誰の耳にも届くことはなかった。
―そして、この爆音と共に。
ムー国統治軍はたったの一日で壊滅したのだった。
137
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:36:02 ID:lPdbZp660
ルナイファ帝国 南方港
1463年7月19日
(;´・ω・`)「ふぅ......」
ルナイファの南に位置するこの港では、多くのエルフや奴隷である人間が働いていた。
通常であればムーなどから入る物資を運ぶところであるが今は多くの軍艦が並び、そこに物資を運び、整備が進められていた。
学徒動員で連れてこられたショボンも魔石などの物資を運んだり、魔法の補助をしたりと夏真っ盛りの中、多く走り回り汗だくになっていた。
辺りを見渡すと屈強な軍人たちも多くの汗を流し、そして奴隷たちの多くは顔色が悪く、さらに何人もが倒れている。
(;´・ω・`)「うーん......」
今回初めての学徒動員であるショボンにはこれが普通の光景なのか、判断ができなかった。
だがもしこれが普通であり、今後も続くのだとすれば自分の選択したことに後悔しそうになる。
138
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:36:35 ID:lPdbZp660
(;´・ω・`)「......はぁ」
そして、同じく学徒動員に申し込んだツンを思い浮かべる。
彼女は一足先に、艦でこの国を離れていた。
なんでも、治癒魔法が使えることからその補佐役として向かうらしい。
初めは戦地近くまで向かうなんてついてないと考えていたが、今なら変わってほしいとすら思ってしまう。
それほどまでに、目を回しそうになるほど忙しい。
(;´・ω・`)「......ん?」
そうしてどうにか一段落、というか勝手に区切りをつけて休んでいると、港の端で軍人と、黒いローブのようなものを身につけた男がこそこそと話し合っているに気がつく。
どこかで見たことがある気もするその姿、だが誰なのか思い出せない。
はて、何をしているかと改めて見るとそこには海が広がって―――
「おい、そこ!休むな!」
(;´・ω・`)「ひぇぅ!は、はい!すみません!!」
急に遠くから、怒声が投げ掛けられ、思考が遮断される。
(;´・ω・`)(......うーん?)
何かが引っ掛かる。
だがそれがなにか。
ショボンにそれを考える余裕はなく。
この日はただひたすらに働き続けた。
139
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:38:07 ID:lPdbZp660
そんなショボンのすぐそばの物陰に、二人の人影があった。
( ФωФ)「案内を頼んで済まなかったであるな......それで、準備のほどは?」
黒いローブに身を包む男、ロマネスクは軍人たちを連れて港を見て回っていた。
この国、いやもしかすれば世界の中でもトップかもしれない魔術師。
そんな男の前に、本来ならば話す機会もなかったであろう兵士が緊張に上ずりながらも報告をする。
爪;'ー`)「は、はいぃ!!準備は順調でありまぁす!!」
(; ФωФ)「そ、そうであるか。まあそれならばいいのだが......そんなに緊張する必要はないぞ?」
爪;'ー`)「は、ハ、は......はぃぃいい!!」
ビシィッ、と効果音がしそうな敬礼を繰り返す彼に、思わず苦笑いを浮かべながらも改めて周囲を見る。
140
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:38:49 ID:lPdbZp660
急ピッチで進めた準備のおかげか、確かに報告通り順調なようであった。
辺りにはその準備のための人で溢れており、ものすごい活気である。
( ФωФ)「ふむ、まあこの程度の人数なら何とかなるか」
そんな人々を見てそうポツリと呟き、改めてフォックスへと向き直る。
( ФωФ)「フォックス君、よいかね?」
爪;'ー`)「な、なな、な......何なりとおぉォおお!!」
( ФωФ)「うむ、これから少し作業を行うのでな。一人にしてくれないかね?良いかな?」
爪;'ー`)「......は、はぁ......えっと、な、なぜ......」
( ФωФ)「詳しくは聞かん方が良い。まぁ......聞いてもよいが」
爪;'ー`)「よ、よいが......?」
( ФωФ)「記憶は消させてもらうことになるね。慣れんからどこまで消えるかは君次第だ」
爪;'ー`)「な、なにも聞きませぇん!!すぐに失礼いたしますぅ!!」
( ФωФ)「そうか、頼んだ」
141
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:41:11 ID:lPdbZp660
フォックスは慌てた様子ですぐさま踵を返し、走り去る。
そんな様子を眺めながら改めてやれやれとロマネスクは首をふり、息を吐く。
( ФωФ)「難儀なものだ。我が儘は通るがここまで萎縮されるとな......まあいいが」
辺りに誰もいないことを確認して、港の倉庫に仕舞われていた大がかりな魔方陣を起動し、山のように積み上げられた魔法石が空気に溶け、消えていく。
すると、光の線が宙を舞い、そして模様を描き出す。
複雑で細かに刻まれたそれは、強い光を産み出し、巨大な複数の艦が海に現れるたかと思うとすぐさま溶け消え、その先には『何もない海のみ』が見える。
だがその景色に誰も違和感を抱くことはない。
複雑に辺り一面に敷き詰められた魔方陣が、その違和感を覚えることすら許さない。
142
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:42:06 ID:lPdbZp660
(; ФωФ)「......ふぅ、さすがにこの量の艦隊を召喚し、隠すのは堪えるな。全く陛下も無茶なことを要求するである」
(; ФωФ)(しかし......陛下直轄の特殊艦隊を動かすことになるとは)
彼がここに来たのは皇帝からの極秘命令のためであった。
謎の勢力からの侵攻、それによる甚大な被害が発生したとの報告。
具体的な被害はまだ判明していないものの、これまで侵略する側であった彼らにとってそれはあまりに予想外な出来事であった。
多少の反抗ならまだしも、ここまでの大規模な攻撃を受けることを想定すらしたことがなかったのだ。
そこで急遽、対策として考えられたのが国で最強の艦隊である特殊艦隊を、最悪の場合に備えて国の南に配置することであった。
これまでの被害は油断していたこと、また最新鋭艦がいるものの蛮地制圧のための練度の低い艦隊や弱小の防衛力しかない属国かつ守りが甘いところへの不意打ちのようなものであった。
たまたま、こちらの弱点を突くような形になったというのが敗因である、そう結論付けられていたのだ。
143
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:43:17 ID:lPdbZp660
しかし、これ以上の被害は到底容認できるものではない。
油断で許される段階を越えていたのだ。
そのためあり得ないことではあるが、万が一のために本土への侵攻を何が起こったとしても防げるよう、過剰とも言える今回の策が実行されたのである。
今回ここに配置された特殊艦隊、これはこの国でも機密とされている。
今後戦うことになるであろうソーサク。
情報収集を得意とする相手に、手の内を全て把握された状態で戦うことは避けたい。
そんな考えから存在自体が知られないよう、停泊中は姿が見えないよう偽装魔法を使い、配置転換については移動してる最中に見つからないよう召喚魔法が使われいる。
最も、何処かの馬鹿がその考えを理解せずに行動をしたせいで最新鋭艦を他国に見せつけ、かつ沈めるという失態を犯してしまったわけだが。
余談はさておき、今回も例に漏れず、ロマネスクがその任務を任されていたのだ。
( ФωФ)「何事もなければよいが」
次に戦いに出るのは、この国の主力。
それも、動員される数からこの世界で防ぐことの出来る国など存在しないはずである。
つまり普通に考えれば、すぐにも敵を葬りされる。
144
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:44:28 ID:lPdbZp660
だが、思い出されるムーの様子を写した念写が警告を鳴らす。
あの破壊の痕跡、まるで自分のような魔術師が数えきれないほど襲いかかってきたのではないかとすら思える被害であった。
さらには、自分の後を継ぐはずであった優秀な魔術師であるギコも、この戦いにより消息を絶っている。
明らかに異様なこの状況、なのにこれを理解しているのは自分の他にどれだけこの国にいるのか。
( ФωФ)「陛下は動いてくださったが......末端は現状すら知らんのだろうな」
今回の被害については、全て現場の練度不足と油断として片付けられている。
また士気に関わるとしてこの情報自体が規制され、国のトップ以外は誰も知らないのである。
それが何を引き起こすか、それはまだ分からない。
だが、なんとも言えない不安が心の奥底に生まれ、かき消すことができない。
( ФωФ)「杞憂......であればいいんだが」
そう小さく呟き、仕事を終えた男もまた、魔法に包まれ、姿を消す。
そこに残されたのはいつもの港の風景のみであった。
145
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:45:29 ID:lPdbZp660
ムー国 牢獄
1463年7月21日
一体、どこで何を間違えたのか。
もし悪夢ならばすぐに覚めてほしい。
あの日、爆音と共に目を覚ましたあの日から悪夢が終わらない。
あの悪魔どもは最初、空からやって来た。
黒い雨を国に降らし、爆発と破壊の限りを尽くした。
そしてそれが終われば次は海からであった。
見たことがないほどの巨大な艦が近づいてきたかと思えば、その艦についた奇妙な筒のようなものが、猛烈な爆音を国中に鳴り響かせ、その数だけ破滅をもたらしたのだ。
いつしか抵抗できる力も、気力も尽きたそのとき、やつらはこの国へと足を踏み入れた。
薄汚れたような可笑しな服を着たそいつらが、初めはなんなのかは分からなかった。
どこの列強のものか、または夢物語に聞く悪魔や怪物か。
146
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:46:23 ID:lPdbZp660
分からないまま、ただ捕まっては殺されると逃げ回っていた。
だが、いつしか空を轟音と共に飛ぶ奇妙な箱に見つかり、そこから降りてきた者たちに捉えられた。
そこで、初めて知ったのだ。
その奇妙な箱についた紋様。
そして、奇妙な服を纏うその兵士たち。
それが人間であり、それも我らが呼び出した者たちだということを。
( "ゞ)「......」
そして気がつけば、デルタは牢獄に放り込まれていた。
ここは反抗的な人間を叩き込む場所であったはず。
それがエルフであるはずの自分が人間により放り込まれるなど何という皮肉か。
それも、自分たちが奴隷にするために呼び出した存在に、だ。
147
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:46:58 ID:lPdbZp660
( "ゞ)「......はは」
気が狂い始めたのか、現実を受け入れられないせいかは分からないが、デルタは笑った。
何もかもが、可笑しすぎる。
何をどうすればこんな未来を予測できうるか。
どれだけ考えても浮かぶことはないだろう。
今ですら信じられないものをどう予測しろというのか。
いや、そもそも。
神はなぜ、このような事を許すのか。
我々は、神にこの地を統べよと託されたはずではないのか。
( "ゞ)「......ははは」
また、可笑しくなり、笑う。
自分が狂っているのではない。
世界が狂っているのだ。
それを笑わずして、何を笑うのか。
148
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:48:36 ID:lPdbZp660
そして、何よりおかしいのは人間たちであった。
彼らは翻訳魔法がないために言葉は通じないものの、拷問をしないどころか食事などを提供してくるのだ。
敵を捕らえ、なにもせず放置するならまだしもここまで手厚くするのは一体なぜなのか。
それも国の重要人物である人間だけでなく、降伏した一般の兵士たちも同様であった。
今さらエルフに歯向かう愚かさに気がついたのかとも思ったがそれならばなぜ捕らえられたままなのか。
( "ゞ)「......」
ひたすらに、不気味である。
別の生き物であることは理解していたつもりであった。
それでも、考えが分からないというのはここまで恐怖を産み出すのか。
それも、自分の命を握っているとなるとなおさらである。
鉄格子の外、そこにいる異界の者たち。
薄暗い牢獄では彼らの顔を見ることは叶わない。
それがさらに薄気味悪さを増幅させる。
果たして自分は生きてここから出ることができるのだろうか?
そんな思いと共に、デルタは目を閉じ、眠りについた。
149
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 11:48:59 ID:lPdbZp660
続く
150
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 15:29:05 ID:QUAohh2Q0
めちゃくちゃすげー!しえん
151
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 16:33:21 ID:YX4Th3nk0
オツ
152
:
名無しさん
:2023/05/06(土) 23:47:19 ID:1RK2HBIU0
ギコ生㌔
153
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:26:37 ID:aqAXcc1k0
トウキュ王国
1463年7月24日
从 ゚∀从「うーむ......」
( ´ー`)「どうした?」
从 ゚∀从「いや、本当に出撃がなくなるとはな。予想外だ」
つい一週間ほど前、あれだけ出撃させようとしていたのに、それが一転、待機するよう命令が出されたのだ。
突然の方向転換、猪突猛進のあのトップがこのような判断をするとは普通では考えられないことである。
( ´ー`)「まぁ......それほどムーでのことがヤバかったということだろ?」
从 ゚∀从「......やっぱりそういうことだよな?」
( ´ー`)「それしかないだろ。戦況に関する情報も回ってこなくなったとなると......まぁやべぇことが起こって隠蔽ってところかね。噂では本国が大慌てみたいだしな」
154
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:29:49 ID:aqAXcc1k0
从 ゚∀从「そうか。そうなると......ここも危ないかもな」
( ´ー`)「かも、というより確実にやべぇだろ。本国に攻め込むなら距離と物資的にもここを潰さない理由がない」
从 ゚∀从「あぁ、物資......確かにそうか」
ルナイファ帝国は大国。
それは支配する面積的にもそうであるし、そこに住む数も他国を圧倒している。
つまり、それだけの物資が必要なのだ。
他国から様々な物資を運ぶ船、その中継地点であるこの場所が取られれば、安全な航路が確保できず、実質南方の交易がなくなることに等しい。
ただでさえムーという農産物と鉱物の生産拠点が潰されているのだ。
それに加えて他国からの物資も減ってしまえばどのような恐ろしいことになるか。
考えるまでもなく、その未来は暗いものであろう。
155
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:30:59 ID:aqAXcc1k0
从 ゚∀从「とはいえ......ここにいるトウキュの軍で足りると思うか?質が悪いとはいえムーが連絡できなくなるほど被害を受けたんだろ?援軍が来るまで耐えられるのか?」
( ´ー`)「俺たちがいるだろ」
从 ゚∀从「なんだ?すでに陸にいる揚陸部隊がどうしろって?切り込みでもやれってか?」
( ´ー`)「分かってるじゃねーか」
よほどその冗談が気に入っていたのか、いつしかと同じようなことをいい、シラネーヨはクツクツと笑う。
そんな様子に呆れつつも、ハインは今後のことを考え、話を続ける。
从 ゚∀从「こうなると、無理にでも出港した方が良かったかもしれないな。召喚地にたどり着いてりゃ安全だったわけだし......このままだと周辺が戦闘海域になって身動きが取れなくなって巻き込まれるぞ」
( ´ー`)「......いやもう手遅れじゃねーか?南はもちろん敵だし、北にいるお偉いさんはある意味、より厄介な敵だぞ?」
从; -∀从「おまっ、いつかしょっぴかれても知らんぞ」
156
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:32:02 ID:aqAXcc1k0
( ´ー`)「どうせ誰も聞いてねーし、事実だろ。なにもせず帰ってみろ。それこそ比喩じゃなく首が飛びかねない」
从; ゚∀从「......」
( ´ー`)「ま、そういうわけだ。少なくとも戦況が変わらない限りは俺たちは動けんよこれ。幸い、無茶な出兵はしなくてよくなったんだ。言葉に甘えてここに留まるしかないだろ」
从 ゚∀从「はぁ......だな」
未だに先が見えない。
そして身動きを取ろうにも取れないこのもどかしさ。
从 ゚∀从「一体どうなることやら」
( ´ー`)「さぁな......とりあえず、あれだ」
从 ゚∀从「ん?」
( ´ー`)「ヤバいと言うことくらいしか分からん」
从 ゚∀从「だよな......はぁ」
彼らのため息が尽きることは、暫く無さそうである。
157
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:32:31 ID:aqAXcc1k0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年7月25日
(;'A`)「......」
数日前にムーの念写を行うよう上申してから約二週間。
無事に念写は実行され、ムーの様子を押さえることに成功した。
ここまでは良かった。
だが。
(; ´∀`)「いくらなんでも酷すぎるぞこれは」
思わずモナーの口から言葉に、ドクオも同じ思いを抱かずにはいられなかった。
基地のあったはずの座標を写した念写には、もはやそこに何があったか分からないほどの残骸と破壊痕しか残されていない。
攻撃を受けていたと予測はしていたがこれほどまでとは誰もが予想し得なかった。
というよりも自分たちの知る戦争からかけ離れた被害であった。
これがごく短時間で起こったとはどうにも信じがたい。
158
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:33:16 ID:aqAXcc1k0
(; ´∀`)「......海上なら艦で大規模な魔方陣や魔道具を移動させることも可能だろうがこれほどとなると難しいはず。さらに陸上でこれほどの威力を出すためには......一体なにをすれば」
('A`)「大量の魔術師による連続的な攻撃か......もしくは歴史に名を残すほどの魔術師であればある程度の魔方陣でも可能、でしょうか?」
(; ´∀`)「うむぅ、微妙だな......あとは艦から異様に射程が長ければといったところか?だがそんな魔法......」
('A`)「......モナーさんでも、これほどは不可能ですか?」
( ´∀`)「......不可能、とは言わんがやるには相当な下準備が必要だな。あと一人では不可能だ。少なくとも数人は必要だろう」
('A`)「......」
この国でもトップクラスの魔術師ですら困難と言うほどの被害。
そんな中、死ぬかもしれないと伝えてきた彼女は、無事なのか。
頭に次々と嫌な想像が浮かんで来て、ドクオは思わず顔が暗くなる。
159
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:33:54 ID:aqAXcc1k0
('A`)「......ムーへ、行くことは出来ないのでしょうか」
( ´∀`)「行って、どうする気だ?はっきり言わせてもらうが今、君一人行ったところで、なにもできることはない」
('A`)「......分かってます、けど」
(; ´∀`)「気持ちは分かるがね......そもそも、転移魔法を使おうにもあちら側の魔方陣が壊れてしまった以上、行けるとしたら海路だ。どうやったって一月近くかかるぞ」
('A`)「つまり......なにもできることはない、ということですか?」
( ´∀`)「そうは言っていない。君はこの情報室の職員だ。とにかく、調べたまえ。そうすればおのずと、やるべきことが分かるはずだ」
('A`)「......」
160
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:35:42 ID:aqAXcc1k0
結局、どうすることもできないということではないか―
そんな思いが沸き上がるのと同時に、一つの音が室内に響く。
『......えるか?』
('A`)「え?」
二人しかいないはずの室内。
そこに、いるはずのない人物の声が聞こえた。
それは、女性の声。
そして、聞き覚えのある声である。
『聞こ......か?』
(; ´∀`)「......く、クー君か!?」
モナーもその声に気がつき、またその声の主に驚愕する。
魔法の調子が悪いのか、ノイズが混じり声が非常に聞き取りにくいが、間違えるはずがない。
その声はまさに今、話をしていた女性、クーのものであったのだ。
161
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:36:42 ID:aqAXcc1k0
(;'A`)「も、モナーさん!こ、これ......どうにかもう少し聞きやすくは」
(; ´∀`)「向こうの環境の問題だから難しいが......どうにかして、魔法陣を安定化させてみよう」
魔石を片手で覆い、モナーが魔力を籠める。
そして空いたもう片方の手で、空中を指でなぞるように模様を描き、魔法陣を作り出す。
即席で作られたそれは、何もなかった空中に、淡い光を作り出し、通信魔石と光の線を繋げる。
『この声......ドクオ?それに、モナーさん、か?』
(;'A`)「クー!やっぱり、クーなんだな!?」
(; ´∀`)「よ、よし......何とか安定したか」
『あぁ......良かった。有り合わせのものでの通信で繋がるか心配だったが、モナーさんがいてくれて良かった。これでようやく話せます』
その線が繋がると同時に、魔信から聞こえる声がはっきりと聞こえるようになる。
急にこんな芸当が出来る者は、この世界広しといえどもそうそういない。
そんな幸運に恵まれた魔信の先の声の主、クーの安堵したような声が伝わってくる。
162
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:37:25 ID:aqAXcc1k0
(; ´∀`)「そういってもらえるとありがたいが長くは持たんぞ。かなり無理やり繋いでいる状態だからな」
『なるほど、分かりました。では手短に』
('A`)「それでクー!今お前はどうしてるんだ!?」
『それは......ムーで、保護されているよ』
( ´∀`)「保護?それは、ルナイファにということか?」
『いえ。ムーに攻め込んできた軍勢に、です』
(;'A`)「それは......だ、大丈夫なのか?」
『あぁ。怪我をしていたが治療......もしてくれている。今のところ、問題はなさそうだ』
('A`)「そうか......」
とりあえずは一安心だと、ほっと息をつく。
だが、これで全て解決したわけではない。
むしろ、新たな疑問が生まれていた。
( ´∀`)「ふむ、保護......ということはその勢力と接触しているわけだな?」
『はい、実際に会話もしています』
( ´∀`)「なるほど。では、教えてくれ。そいつらは、一体何者なんだ?」
『......』
163
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:38:21 ID:aqAXcc1k0
ごく短期間に国を攻め滅ぼすほどの力を持つ勢力。
だというのに、その動きも正体も悟らせない謎に満ちた存在。
それは、一体何なのか。
緊張の面持ちで、モナーは魔信に問いかける。
( ´∀`)「何処の国の者なんだ?ニータか?ヴィップか?はたまたルナイファの内乱なのか?」
『いえ、そのどの国でもありません』
( ´∀`)「なに?では一体どこが?」
『......そもそも、エルフではありません』
('A`)「ん?どういうことだ?」
『そのままの意味、だ。エルフじゃないんだ、彼らは』
('A`)「......はぁ?じゃあなんだ?悪魔か、はたまた神様の仕業だとでも言うのか?」
確かに悪魔か神様かの所業に感じるほどの被害ではあったがまさかそんなことはないだろう。
よく分からない回答にドクオは思わず首をかしげる。
164
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:38:47 ID:aqAXcc1k0
だがクーから得られた回答に、さらにドクオたちは困惑することとなった。
『人間、です』
( ´∀`)「......は?」
『ですから、人間なんです。彼らは』
(;'A`)「人間、て、はぁ?」
『ムーを滅ぼしたのも、私を保護しているのも、人間です』
(; ´∀`)「え、と、これは、何の冗談だ?」
『冗談ではありません。本当のことなんです』
『彼らは、ルナイファが新たに召喚した、人間たちなんです』
(;'A`)「......はぁぁあ??」
脳が、理解を拒んだ。
165
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:40:27 ID:aqAXcc1k0
ムー国 仮設治療施設
信じられない事態が続いていた。
通信を終えた魔信を傍らに置き、自身に起きたことを思い返す。
あの攻撃を生き延びた後。
彼女、クーは攻め込んできた勢力に保護されたらしい。
らしい、というのは逃げ回っている内に気絶をしていたようで、気がついたときにはここ、仮設された治療施設にて治療を受けていた。
人間による治療、ということで魔法による治療はなく、よく分からない針やらを打ち込まれ、傷を縫うという非常に野蛮なものであった。
だがそれでも体の調子が回復していることから、それなりに効果のあるもの、なのだろう。
というよりもそうであると思い込もうとしていた。
そうでなくては、もう慣れてしまった今では問題ないが、少し前までならただでさえ人間に体を自由に弄られているという摩訶不思議な現実に耐えられそうになかった。
166
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:42:48 ID:aqAXcc1k0
川 ゚ -゚)「......」
ただ、目が覚めてから数日。
人間たちを見ていて気づいたことがある。
それは少なくともクーの知る、いや世界の常識たる人間のイメージと、ここにいる人間はかけ離れた存在であるということであった。
人間とは粗雑で常識がなく、野蛮。
魔法が使えず、そもそも魔法というものを理解すらできない愚か者。
それが、人間であるはずだった。
だがここにいる人間たちはどうか。
クーを初めとして複数のエルフに―信じられない方法ではあるものの―治療を行い、また暴力やレイプといった戦地で当たり前にあるものが、彼女が認識できる範囲では明らかに少なく、さらには拷問をするわけでもなく、敵を保護する。
野蛮とはまるで異なるように感じられる。
その姿勢はこの世界の常識に当てはめるならば緩いといわざる負えない。
その事を人間達に聞き、要約すれば『恨みはあるができる限り早く、戦いを辞めたいため。また虐殺等はなるべくしたくない』とのことであった。
167
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:44:11 ID:aqAXcc1k0
よくは分からないがつまりは人質を取り、有利に話を進める為の材料にしよう、と言うことであろうとクーは納得した。
上手く行くかは別として、この話を聞いたときはなるほど、そういう考え方もあるのかと感心したものである。
召喚という前代未聞の災害にあっておきながらこのようなある意味、敵側を気に掛けるような作戦に出るとは何とも不思議な国である、がその一方でなるべく被害を少なくしようという、野蛮とは真逆のなんとも理性的だという事実に驚愕に近い感情が生まれていた。
( °д゚ )「あぅぅ......ぁ......」
彼らが野蛮ではない証拠に、兵士の生き残りであろう、どこか目の焦点の合わない、虚ろな目をした男が保護されている。
明らかにおかしいその兵士すら、彼らはしっかりと保護しているのだ。
話を聞くと、『しぇるしょっく』というもので、人間達が持つ武器で引き起こされたらしい。
川 ゚ -゚)(よく分からないが恐らくは洗脳魔法に近いものだろう。しかし、強力な威力の武器だけでなく、あのような精神汚染を起こせるとは。精神防護魔法でどうにかなるのだろうか......)
情報を集めれば集めるほど、人間達のことが分からなくなってくる。
知っていた人間と、違いすぎるのだ。
168
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:45:33 ID:aqAXcc1k0
そしてなにより。
川 ゚ -゚)「......あれが、『くるま』」
施設の外に見える、動く箱。
多くの物や人を載せて、ゴーレムとは比較にならないほど高速で動くことのできるという、化け物である。
これを初めて見たときは我々が発見したことのない遺物を彼らが見つけ、それにより身を過ぎる力を人間が手にしたのかと考えた。
しかし翻訳魔法を使い話を聞いてみるとこれらは人間が作った、魔法を使っていない道具だという。
ではこれは、どんな無茶をして作り出した物なのかと思えば彼らの国では誰でも持てるような物だという―
川 ゚ -゚)「......あれが、『ひこうき』」
そして、その『くるま』なる動く箱よりも速く飛ぶ、『ひこうき』なる乗り物。
これもまた、人間達の手で作り出された道具だという。
この世ならざる速度で飛び回るそれは、この世界に捉えられるものはいないのではないか。
169
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:46:36 ID:aqAXcc1k0
ガラガラという音をたて、常識が崩壊していく。
だが、あまりに現実離れしたそれに逆に頭は冷静になっている。
川 ゚ -゚)「なんて......素晴らしい力なんだ」
そうして、彼女は魅了された。
その力。
何度も何度も、忘れようとしても脳内にこびりついたかのように思い返されるそれに、気がつけば完全に心が奪われていた。
目をつぶれば思い出す、あの圧倒的な破壊。
それをもたらすものに。
何としてでも、どんな手を使ってでも手に入れたいと。
だからこそ、伝えなくてはと彼女は慌てて本国へ連絡をしたのだが。
川 ゚ -゚)「やはり、伝わらなかったか」
魔信の向こうから伝わってくるのは困惑。
そして、気遣われるような声から恐らく気が狂ったとでも思われたのだろう。
あまりに予想通り過ぎる反応に思わずクーは笑ってしまう。
だが、笑って終わらせることもできない。
現実はここにあるのだ。
理解しなくては、この現実にいつ犯されてもおかしくはないのだ。
170
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:47:33 ID:aqAXcc1k0
川 ゚ -゚)「......まあ、そのうち分かるか」
この戦いが続けば嫌でも分かるだろう。
世界の常識が、世界の縮図が変わるということを。
恐らくは、ルナイファの敗北で―
川 ゚ -゚)「あぁ......そういえば」
そこでふと、彼女は思い出す。
翻訳魔法を使えるからと人間たちから頼まれた仕事があったのだ。
だからこそ、ここまで待遇も良かった、という面もあるのかもしれない。
川 ゚ -゚)「......うまくいくとは思えんけどな」
そう思いつつも保護をされ、さらには魔信が使えるよう配慮もしてもらっているのだ。
もう、侮りはないもののやはり心のどこかで人間に借りを作るのは癪であると感じてしまう。
だからこそ、借りを返すためにも頼まれた仕事はやろうと、彼女は再び魔信に向き合った。
171
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 12:47:56 ID:aqAXcc1k0
続く
172
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 17:09:55 ID:5.4Vo2eM0
乙
何だかんだ言って人間を御せると思ってるあたりクーはまだ人間を舐めてると思う
173
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 17:51:25 ID:H23.OGfE0
乙です
174
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 17:53:49 ID:YtdzC0fQ0
おつ!
175
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:44:31 ID:iPNrCCQg0
ルナイファ帝国 軍務省
1463年7月24日
(# ^Д^)「一体どういうことだこれはぁ!!」
ガンッ、と机の叩く音が響きわたる。
最近ではこの音が鳴り響くのはもはや日常茶飯事になりつつある。
彼が怒り狂うだけの理由は勿論ある。
始まりは先遣隊の全滅。
それだけですらとんでもない事態である。
だが本隊を召喚地へ送り込み、遅れを取り戻し全て丸く収まるはずであった。
そしてもう、そのようなことは起こらないはずであった。
だが、本隊が出撃する前にムーへの攻撃の報告が入る。
再びの謎の攻撃報告。
さらには敵を追い返すどころか、かなりの被害が出ているとの報告であった。
そしてそれを最後に、連絡は途切れる。
もはや失態どころの騒ぎではない。
ムーを守るどころか、状況すらまともに把握できなくなってしまったのだ。
176
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:45:21 ID:iPNrCCQg0
それと同時に彼の怒りはピークに達し、部屋中ありとあらゆるものに当たり続けた。
そんな彼を見つめる職員たちはどうにかこの嵐が過ぎ去るよう、祈ることしか出来なかった。
そんな日々が数日過ぎた今日。
ようやく待ちに待ったムーからの連絡が入る。
やっと敵を追い返し、連絡できるようになったのかと話をしてみるとその相手は自国の者ではなかった。
(# ^Д^)「......それで?やつらは、なんと?」
(;*゚ー゚)「は、はい......わ、我々に対して講和を求めると......またその条件として召喚したことに対する謝罪と賠償。また外交官を処刑したことに対する賠償と責任者、及び実行者の引き渡しを要求......」
(# ^Д^)「っざけるなぁ!!」
(;* ー )「ひっ!!」
177
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:46:06 ID:iPNrCCQg0
再び、木の机に拳が振り下ろされる。
怒号と共に凄まじい音が鳴り響き、周りの者たちを萎縮させる。
(# ^Д^)「なんだそれは!召喚された奴隷どもが我らに要求だと!?いや、そもそも、そもそもだ!!」
(# ^Д^)「なぜ、なぜ人間ごときに我々が敗れた!!」
(;*゚ー゚)「そ、それは......現在調査中、です」
(# ^Д^)「このっ、無能どもが!!何度俺を怒らせれば気が済むんだ!!くそっ!くそっ!」
(;*゚ー゚)「申し訳ありません......」
(# ^Д^)「それで?」
(;*゚ー゚)「は、はい?」
(# ^Д^)「他には何かあるのか?奴らからの要求とやらは」
(;*゚ー゚)「あ、そちらについては、その、どうやら話し合いの用意があるため、その、会談の機会を設けたいと」
(# ^Д^)「なめくさりやがって......人間ごときが我々と話し合いたいだと!?知能もないくせに我々の真似事のつもりか?くそっ!!」
178
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:48:51 ID:iPNrCCQg0
(;*゚ー゚)「それで今後のことですが......ていあ」
(# ^Д^)「聞くまでもないだろう!即刻拒否だ!!」
報告が途中で、ついに彼の我慢が限界を迎えたのだろう。
怒りのままにプギャーは吐き捨てる。
(;*゚ー゚)「え、あ、あの」
(# ^Д^)「聞こえなかったか!!ここまでこけにされた以上、生かしておけん!!奴らを殲滅する!!すぐに軍を動かせ!」
(;*゚ー゚)「お、お待ちください!!」
(# ^Д^)「......なんだ?」
(*゚ー゚)「提案があるのです。ここは、一旦返事を遅らせてはどうでしょうか」
( ^Д^)「なに?」
その言葉に、プギャーは片眉を上げる。
彼が不機嫌な時の癖の一つである。
だがそんな様子に気づかないのか、シィはそのまま話を続けた。
179
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:49:39 ID:iPNrCCQg0
(*゚ー゚)「現在、南方に艦隊を集めておりますがまだ準備が完了していません。わざわざ相手が待つと言っているのです。これを利用しない手はないでしょう」
(# ^Д^)「人間ごときにそこまでする必要があると?このルナイファが!?」
(;*゚ー゚)「いえ、人間だけであれば問題ないと思います......が」
( ^Д^)「が、なんだ?」
(*゚ー゚)「問題は今回送られてきた魔信の送り主です。使われている魔法の形式から恐らくはソーサク製のものが使われていました」
( ^Д^)「なんだと?」
(*゚ー゚)「そもそも、人間には使えないはずの魔信での連絡です。無理やり従わされている可能性がないわけではありませんが、少なくとも敵側にエルフがいるのは間違いありません」
( ^Д^)「っ!」
ソーサクが関与するかもしれないという話に、怒り狂っていたプギャーも思わず正気に戻る。
確かに可能性としては考えられたことではあったがそのような兆候はなく、杞憂であろうと考えていたからである。
180
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:50:56 ID:iPNrCCQg0
だが、その証拠となり得るものが見つかったとなれば、話は別である。
流石に無能と呼ばれる彼でもこの事の重大さは理解しており、話を続けるように促す。
(*゚ー゚)「また今回の被害なども考えると......やはりソーサクが裏にいると見るべきではないでしょうか?それならば色々と説明がつきます」
( ^Д^)「......確かにその可能性はあるとは考えられていたが、断定は出来ないだろう?」
(*゚ー゚)「はい。先ほどお話しした通り、被害の原因についてはまだ調査中のため確定ではありません。が、可能性がある以上、それを想定するべきかと」
( ^Д^)「ふん、それで?ソーサクが裏にいると仮定するとして、今後はどのように動く?」
(*゚ー゚)「はい、出来る限り返事を送らせるべきです。時間さえあればトウキュへの艦隊の派遣も行えます。これが完了すれば召喚地へ向かわせる予定であった揚陸部隊もありますため、ソーサク相手でもムー奪還をスムーズに行えるかと」
( ^Д^)「......」
いつも本能のままに意見する彼が珍しく口を手で覆い、静かに考える。
その結果、艦隊の派遣、物資の輸送などを考えるとこの手を使わない理由が見つからなかったのだろう、大袈裟に頷き、提案を受け入れる。
( ^Д^)「......ふん、まぁいいだろう。俺から陛下に話を通しておこう」
(*゚ー゚)「は、はい。ありがとうございます」
こうして突如始まった人間との戦争は一月も経たずに一時的に休戦となる。
だがそれは平和に繋がるものではなく。
再び地獄が訪れるまでの、短い休息であった。
181
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:52:27 ID:iPNrCCQg0
ルナイファ帝国 帝城
プギャーからの報告を受け、帝城ではアラマキとロマネスク、そしてこの国の海軍将であるデミタスが会話をしていた。
この世界の国々であるならば、彼らが望むだけで滅ぼすことが可能であるといっても過言ではない面子である。
そんな三人が、当面の敵になるであろう、召喚地に関してどうするべきかを決めていた。
/ ,' 3「ふむ、返事を引き延ばして準備をする、か」
( ФωФ)「あの男の提案にしてはまともなものかと」
(´・_ゝ・`)「大方、部下の提案だと思うがな」
( ФωФ)「あぁ......なるほど」
/ ,' 3「だがこれは良い案であるな。至急お前達も対応をしてくれ」
( ФωФ)「はっ、承知いたしました」
(´・_ゝ・`)「私もムー奪還に向けて艦隊の準備を進めております。どんな国が出てこようとも押し潰せることでしょう」
182
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:53:39 ID:iPNrCCQg0
/ ,' 3「ふむ、攻めるのはそれで良いとして防衛はどうだ?特殊艦隊は動かしたが......他は必要と思うか?」
( ФωФ)「それは......なんともですな。このあと、奴らがどう動くか」
/ ,' 3「ふむ。ソーサクも裏にいるかもしれないとの話もあるが?」
( ФωФ)「確かにそうですが、ソーサクからの諜報員からなにも情報が入ってこないのです」
(´・_ゝ・`)「......不気味だな」
今回の被害はあまりに大きすぎるため、軍だけでなくアラマキ自らロマネスク等に命じ、独自に調査を進めていた。
先のムーから寄せられた情報と状況から真っ先にソーサクが関与しているのではないかと現地の諜報員に探りを入れさせていたのだ。
183
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:54:51 ID:iPNrCCQg0
/ ,' 3「つまり、全く動きがないと?」
( ФωФ)「いえ、こちらを探るような動きは見られますが軍が動く気配はなかったと......彼の国からムーまでの距離を考えるとかなりの物資が必要なため動きが見られるはずだと考えますが」
/ ,' 3「それがないと言うわけだな。つまりソーサクは関与していないと?」
(´・_ゝ・`)「そうとは言い切れないかと、陛下。元々閉鎖的な国ですので完全には潜り込めない以上、どうしても見落とすこともあるでしょう」
( ФωФ)「そうであるな。さらに我々が関知できていない基地などから支援をしている可能性もあります。現時点で言えるのは少なくとも大規模な支援はない、ということかと」
/ ,' 3「ふむ。しかしソーサクとの戦争、まだ先になると予測していたがこんなにも早く現実になるとはな」
(´・_ゝ・`)「えぇ。まだ可能性の段階ですが判明してからでは遅すぎます。今から準備を進めるべきかと」
/ ,' 3「分かった。では各ギルドへの戦争物資増産に関する勅命を出そう。減った艦も作らせるとしよう」
( ФωФ)「しかし......ムーを盗られたのが痛いですな。資源について何とか北部から南部に運ばせていますがやはり限界があるかと」
184
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:55:51 ID:iPNrCCQg0
現在、ルナイファではムーから搾取していた物資が完全にストップし、また他国の貿易船も近くで戦闘があったからと数を減らしていた。
この影響で国内の物流が混乱しており、無理やり北部からのルートで物資を南部へ送ってはいるものの、広大すぎる支配地域が悪影響し、完全にカバーすることが出来ていない。
(´・_ゝ・`)「どうにか今回の敗戦は隠せていますが、そのせいでこれ以上物資の輸送が滞ると国民に不安が出てしまうかもしれませんな」
/ ,' 3「あぁ、それならばもう手をうってある」
( ФωФ)「そうなのですか?」
/ ,' 3「アリベシへの物資を減らし、こちらに回す。これで物資も輸送する手段も足りるだろう」
(´・_ゝ・`)「なるほど......アリベシからの反応はどうでしょうか?」
/ ,' 3「奴らが我々に意見する力など既にない。法書とやらも抑えておるからな」
その言葉にデミタスは目を見開く。
それが本当ならこの世界の大国の一つを、事実上支配しているといっても過言ではないのだ。
185
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:57:48 ID:iPNrCCQg0
(;´・_ゝ・`)「なんと......そうだったのですか」
( ФωФ)「では......当面は召喚地との戦いに専念できる、というわけですか」
/ ,' 3「そうなる......が」
( ФωФ)「?」
アラマキは話を一旦止め、空を仰ぐ。
そしてポツリと、呟くように思いを吐露する。
/ ,' 3「資源を増やし、より確実に他国を潰せるだけの力を手にいれるはずが、こんなことになるとはな......」
(´・_ゝ・`)「......」
( ФωФ)「......」
沈黙。
だが、皆が同じ思いであった。
すぐにでも、片手間で終わるはずであった戦いが気がつけば国を挙げての戦時体制への移行を余儀なくされている。
世界を征服するべく進んで行けば、いずれはその時が来るだろうと覚悟はしていたが、まさかこんなに早く来るとは誰もが考えていなかった。
/ ,' 3「......だが、たかが人間ごときにここまでやられて引き下がる訳にはいかん。調子に乗った奴らに現実というものを教えてやれ。徹底的にだ。いいな?」
(´・_ゝ・`)「はっ」
( ФωФ)「了解いたしました、陛下」
思い描いていた輝かしい未来はとうに消え、先の見えない未来へ彼らは歩みを進める。
その先に待ち受けるものが何なのかはまだ誰も分からなかった。
186
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 10:58:37 ID:iPNrCCQg0
トウキュ王国
1463年8月18日
从 ゚∀从「ふむ......」
この日、ハインはルナイファから魔信により送られてきた指令書を眺めていた。
そこに書かれていたのは援軍が送られてくるということ。
そして。
从 ゚∀从「援軍と共にムーの奪還、か......本当にムーが奪われていたとはな」
予測はしていたものの、やはり衝撃はある。
敵がいないと思っていた南方で、ここまで短期間に攻め落とされると誰が予測できるか。
从 ゚∀从「しっかし、事態が事態とはいえ......もっと早く伝えてほしいものだなこりゃ」
( ´ー`)「まぁ、まともな情報と指令が来ただけ、良しとしよう。これなら切り込みでの無駄死にをしなくて良さそうだ」
从 ゚∀从「まぁな。それに見ろよこの編成情報。送られてくる戦闘艦だけで400を超えるぞ」
( ´ー`)「さらに属国軍まで出てくるのか。俺たちも加わること考えるととんでもない規模だなこりゃ。しかしトウキュの物資、足りるのか?」
从 ゚∀从「何とかってところだな。余裕があるわけでもない」
( ´ー`)「うーむ、心もとないな。攻めきれないと物資が尽きてどうしようもないわけか」
187
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:00:35 ID:iPNrCCQg0
从 ゚∀从「学徒動員で来てる奴らもいるから人員は余裕があるんだがな。むしろ......そのせいで食料がってのもある」
ようやく本国が敵に対し、対策を進め始めていたが、現場ではなかなか問題が尽きない。
この小さな島国トウキュは資源供給元を絶たれた影響で多くの兵士を支える物資が問題となっていた。
どうにか備蓄の徴発により支えられてはいるがこのままでは民からの不満が爆発しかねない。
しかし本国にいくら物資があろうとも、輸送には時間とコストがかかる。
すぐに解決することは難しいだろう。
从 ゚∀从「まぁ......出来ることはないか?」
( ´ー`)「いや、あるぞ」
从 ゚∀从「あん?」
( ´ー`)「ほれ、これを持て」
从 ゚∀从「......なんだこれ、棒?ってこれ」
188
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:01:30 ID:iPNrCCQg0
( ´ー`)「食料を取りに海行くぞ、海」
从; ゚∀从「......あ?まさか魚取りに行くのか?」
( ´ー`)「人員と時間は大量にあるんだ。有効活用しないとな」
从; -∀从「あー、そうだな。ったく」
他にやることもない。
だが待つだけでも腹は減るのだ。
从 ゚∀从「何が釣れるかねぇ......」
なぜ戦いに来たはずが、釣りをすることになったのやら。
ここに来てから何度目か分からないため息をつきつつ、ハインはシラネーヨの後ろを歩き、海へ向かっていった。
そんなハイン達の後ろ姿を一人の少女が眺めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あら?あれって......兵隊さん?」
海へ向かう兵の姿をよく見ると、どうやら魚を取りに行くようである。
なにやら出撃が取り止めになったという話を聞いていたが、海に遊びに行くほど暇なのだろうか。
189
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:02:04 ID:iPNrCCQg0
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ、いいわね。こっちはまだ仕事あるのに」
なんて能天気なのだろうか。
いくら相手が弱小の蛮族だからといってここまで緩いのか。
あまりに想像していた戦争と異なる現実に軽い衝撃を受ける。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、いいんだけど」
だが、それだけ平和ということであり、それだけ安全なんだと自分を納得させ、仕事に戻る。
同じく学徒動員で集められた生徒達は皆、元気に明るく働いている。
改めて、戦地とは思えない光景である。
ξ゚⊿゚)ξ「こんなものなのね。そりゃ、親も反対しないわね」
そんな様子に苦笑いしつつ、一人の友人を思い出す。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンも参加できれば良かったのに」
仕事は大変だが、それだけである。
決して無茶なことはやらされない。
そんなただのお手伝いのような感覚で参加するだけで将来が有利になるのだ。
これに参加しない理由などないだろう。
ただ一つ、問題があるとすれば。
ξ゚⊿゚)ξ「一体いつになったら終わるのかしら」
この戦争が終わるのがいつになるのか、誰も分からないということだろう。
190
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 11:02:27 ID:iPNrCCQg0
続く
191
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 15:04:04 ID:gdNx0GnM0
乙
192
:
名無しさん
:2023/05/20(土) 16:55:30 ID:BMhBh5DQ0
乙
まだ余裕で人間を叩きのめせるって考えてるのは現実を見ていないのか、ただの楽観主義か
193
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 12:58:39 ID:VpsdaqYg0
ニータ王国 王城
1463年8月24 日
( ´W`)「ルナイファで妙な動き?」
(‘_L’)「はい、そのようです」
この日、ニータ王城ではルナイファに潜入している諜報員からの報告が届けられていた。
ニータ王国にとってルナイファの動きはこの国の未来に直結していると言ってもいいだろう。
( ´W`)「それで?その動きというのは?」
(‘_L’)「は、どうやら彼の国の艦隊が大規模な軍事行動を取っているようです」
( ´W`)「ふむ?それは......召喚地制圧のためか?」
(‘_L’)「恐らくは。ただ問題なのがその規模です」
( ´W`)「ほう?」
(‘_L’)「報告によると、所有する艦数の約3分の1が使用されるのではないかとのことです」
( ´W`)「なに?それは......いくらなんでも過剰ではないか?」
(‘_L’)「はい、その通りなのです。国防には十分な艦数が残っているとはいえ、召喚地を相手にするには多すぎると思われます」
194
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 12:59:26 ID:VpsdaqYg0
( ´W`)「理由については......分かっていないのか?」
(‘_L’)「残念ながら......」
しかし力を入れて情報収集を行ってはいるのだが、その成果はあまり芳しくないものであった。
特に魔法により防護されている機密情報などは、技術力に差があるため全くといっていいほど手に入れられない。
手に入るのは目で直接見える範囲だけであり、これでようやくつかめたのが様々な基地から艦が動き、大規模な艦隊が動くであろうと言うことだけであった。
( ´W`)「うーむ......そうか」
(‘_L’)「現在、可能性として高いのがルナイファの予想していた規模より大きな召喚地であったということではないか、との報告です」
( ´W`)「なるほど。確かにそれならば筋は通る、のか?」
(‘_L’)「微妙なところかと思われます。規模としてはソーサクを侵略出来るほどと思われますから......」
(; ´W`)「......過剰過ぎる、というよりも本気過ぎないか?」
(‘_L’)「えぇ、そうなのです。ですので精査は必要かと。ただ仮定が事実な場合、ルナイファはとんでもなく大きく成長することとなってしまいます」
195
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:00:43 ID:VpsdaqYg0
( ´W`)「うーむ......とはいえ、それだけ広大な土地を制圧するためには多くの兵が必要だろう?どうにかその隙は突けないのか?」
(‘_L’)「不可能です。仮に彼の国の兵が半分以下になったとしても我が国単体では技術力の差で押しきれません」
(; ´W`)「そ、そこまでなのか......」
自国がルナイファと比べ劣っていることは分かっていた。
しかしここまではっきり言われ、改めて差を実感する。
そして、そのどうしようもない国力の差に頭痛が増してくる。
(; ´W`)「はぁ......どうにか寿命は伸びているが、もうどうしようもないなこれは」
(;‘_L’)「へ、陛下。そのようなことを仰らないでください」
(; ´W`)「ではなんだ?この現状を覆す妙案があるか?」
(;‘_L’)「一応、各ギルドでの物資の増産や技術開発に資金を回しております。これで今まで以上に差を縮めることが」
(; ´W`)「それは知っておる。それで、なんとかなると?」
(;‘_L’)「......」
( ´W`)「はぁ......やはり、そうか」
196
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:01:26 ID:VpsdaqYg0
さらに頭痛が増してきたのか、シラヒーゲは頭を抱える。
このままいけば、自国の民を不幸にする。
それこそ、戦えるものを全て戦地に送らねばならない事態になりかねない。
そのような総力戦、もし侵攻を耐えきったとしても国はボロボロになり、立ち行かなくなる。
もはや、詰んでいるのではないかとすら思えるほど、未来は暗い。
( ´W`)「奴らを倒せるなら悪魔にだって頼りたいところだ......いっそのこと、こちらから下るべきなのかもしれんな」
(;‘_L’)「へ、陛下それは!!」
( ´W`)「この首一つで民を守れるならば、だがな......」
自分の首にそこまでの価値があるのだろうか。
そもそも、ルナイファはお世辞にも外交が上手い国ではない。
ただひたすらに脅迫し、その力で押し潰すことが常である。
まともに交渉になるとは思えない。
そんな不安に遂には心身ともに限界を迎え、シラヒーゲは数日間、部屋に籠ることとなるのであった。
197
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:02:26 ID:VpsdaqYg0
ムー国 市街地
1463年8月24 日
圧倒的な力により、一日にして敗れたムー。
だが、攻撃がよほど正確だったのであろう市街地の建物はあのような地獄があったとは信じられないほどに無事であった。
そんな街を眺めながらクーは歩いていた。
といっても堂々と歩いているわけではなく、変装魔法を駆使し、人間に化けて周りに溶け込むようにである。
川 ゚ -゚)「......ふーむ」
街の中は数は少ないが何人かの人間が歩いていた。
ムーの人間たちもいるが目立つのはやはり、妙な斑模様の服を着た奇妙な集団であろう。
川 ゚ -゚)「召喚地の兵士、か。見れば見るほど我々の兵士と違うな」
それは召喚地から来た人間の兵士であった。
魔術的な要素は微塵も見られないその格好。
まさに異界の兵士と呼ぶにふさわしい、彼女の常識からしたら異常としか言い様のない格好である。
198
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:03:39 ID:VpsdaqYg0
だが。
川 ゚ -゚)「『じゅう』......あれがあれば我々も」
その力が本物であり、そして圧倒的であることを知っている。
力の根元は集団が持つ、黒いなにか。
杖とも違う、異界の武器。
それが使われた瞬間を見たときは、『くるま』や『ひこうき』程ではないが驚愕した。
なにせ、たった一人の兵から光弾が連続で放たれるのである。
威力は彼らが持つ力の中では程ほどではあるが、貫通力が高く、また全ての兵が同じものを持っているのを見ると、どの兵でも同じようなことができるのだろう。
才能が大きく関わる魔法との、大きな違いである。
199
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:04:13 ID:VpsdaqYg0
川 ゚ -゚)「......とはいえ、無敵ではない」
だが、それと同時に兵士毎に大きく力の差がないと言うことである。
魔法であれば、才能あるものならばあの攻撃より、強い魔法を放つことが可能である。
精鋭部隊であれば相手ができ、勝てるかも知れない。
そしてなによりの弱点。
『〜〜!!??』
なにやら騒がしい声が聞こえたかと思うと、唐突に兵士の集団めがけて、建物から火の玉が襲いかかる。
直撃した兵士は一瞬で燃え上がり、地に伏せる。
『〜〜!!』
その炎の出所に向かって兵士達が『じゅう』を向け、叫ぶ。
翻訳魔法を使っていないため、何を言っているかは分からないが恐らくは攻撃のための合図かなにかなのであろう。
200
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:04:40 ID:VpsdaqYg0
ババババッ!!
リズミカルな音と共に、光の弾が建物へと吸い込まれていく。
(;-@∀@)「はぁ......はぁ......くそっ!!ガッ!!」
そこには統治軍の生き残りかその関係者だろう男がいた。
必死に魔壁を貼るが、貫通力のある複数の光弾を防ぎきることは出来ず、幾つかが貫通し、体を赤く染める。
何度見ても恐ろしい攻撃である。
さて、唐突に始まったこの戦闘であるが、最早この国において追われる立場となったルナイファの生き残りは、今のように建物に籠り、不意討ちを行うことが続いており、今回も恐らくはそれであろう。
そして、人間の兵士達はこれを潰すために周回をしているようである。
201
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:05:31 ID:VpsdaqYg0
そんな様子を数日前から彼女、クーは見ていたのだが、そこから魔術師の兵と決定的に違う点が見つかった。
それは、魔壁の存在。
言ってしまえば人間達の兵は防御力が極端に低いのである。
あれほどの火力を誇る彼らなのに、なぜこのような武力の進化を遂げたかは分からない。
だがもし、実現してほしくはないが今後、敵対することがあれば役に立つ情報であろう。
もしくは。
川 ゚ -゚)「我々があの力を身に付けることが出来れば......」
出来るかどうかは不明であるがもしあの武器を自分達の力にすることが出来れば。
守りは魔壁、そして攻撃はあの武器を使う。
攻守において、完璧と言えるであろう。
ソーサクは間違いなく、成長できる。
それも、この世界の強者として。
202
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:06:01 ID:VpsdaqYg0
(;-@∀@)「ご......ばっ」
気付けば魔法を放っていた男は、体に複数の穴を開け、血を吐き地に伏せていた。
あの様子を見るに、もう手遅れであろう。
川 ゚ -゚)「......ん?」
そこでようやく、クーはどこかで見たような顔だと気がついた。
遠くであったため、よく分からなかったがあの特徴的な眼鏡。
それが目に入り、思い出す。
川 ゚ -゚)(あぁ、統治局の......)
正直、まだ生きていたのかという感想と、よくもまあ軍人でもないのに襲いかかったものだと感心半分、あきれ半分といったところである。
だが、思い返してみればアサピーの性格からして人間に支配されるなど耐えきれなかったのだろう。
それゆえにあのような無謀な行動に出たのだと。
勝てるはずもないのに馬鹿なことだと彼女は笑う。
203
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:06:42 ID:VpsdaqYg0
川 ゚ -゚)「まあ、どっちにしろ変わらないか」
だが思い返せばあの男が命じて人間の国の使者を殺したとのことであったはず。
かなり温情な対応をする人間達とはいえ、あの男が許される未来はなかったであろう。
そう考えれば一人を道連れにして、死んだあの男はある意味正しかったのではないかとすら思えた。
川 ゚ -゚)「......馬鹿馬鹿しいな」
そんな馬鹿げた考えに自分で笑い、クーは来た道を引き返す。
彼女は自分のできることをやろうと、集めた情報を送るため、そしてどうすれば信じてもらえるかを考えながら彼女は誰にも気付かれないよう人の中に紛れ、街に消えた。
204
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:07:24 ID:VpsdaqYg0
ソーサク連邦 情報戦略室
1463年8月29日
クーからの驚くべき、いや気が狂ったとしか思えない情報が届いてから約一ヶ月。
あれからもクーからは似たような情報が次々と届けられていた。
誰もがもう、彼女は狂ってしまったのだと信じていなかったが新たに撮られた念写と、他の諜報員からも似た情報が届けられたことにより、事態は急変した。
未だに多くの者があり得ないと信じてはいないが、ドクオは違った。
次々と入る情報を整理し、ついに現実を見ることとなったのだ。
('A`)「......ということで、どうやらルナイファは召喚地の外交官を一方的に処刑したことで相当の怨みを買い、今回の事態となったようです」
(; ´∀`)「なんだそれは。本当にあの国は外交が下手すぎるな。やつら圧力と暴力しか知らないんじゃないか?」
('A`)「とはいえ、相手は人間、それも自分たちが呼び出した奴隷、という認識だったからと思われますから」
( ´∀`)「まあ確かにな。だがあの国は小国相手なら同じことをしてるし、下手なのは事実......っと、これは関係無いな。すまない、続きを頼む」
205
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:08:32 ID:VpsdaqYg0
('A`)「あ、はい。えー、今回の被害は完全にルナイファ側の不手際としか言いようがありませんね。どうやら会談の際に脅しのためにいろいろと情報を出したようで......折角の情報アドバンテージをわざわざ相手に伝えたせいで、派遣した部隊を潰され、そして逆に攻撃を受けた、という流れのようです」
( ´∀`)「ふむ......」
クーなどから届けられた情報を聞き、モナーは深く考える。
とはいえ、ドクオとは違い完全に信じているわけではなく、人間への偏見はそのままに、である。
人間達が強力である可能性については、以前の念写により把握している。
だがどうしても先入観が優り、信じきれない。
さらに優秀な魔術師であるというプライドもあり、人一倍魔法に対してプライドが高いのだ。
そんな彼が、魔法よりも優れたものがあるかもしれず、それを人間が生み出し所有するなどということは簡単に受け入れられることではない。
206
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:09:12 ID:VpsdaqYg0
だが、伝えられた情報を無闇に否定せずに考える。
彼もこの仕事を続けてきて情報の重要性は分かっているからである。
ただし、信じがたいことについてはあくまで可能性の一つとして考える程度、という注釈が付くのだが。
そうしてしばらく考えていたかと思うと、彼は何かに納得したのか小さく頷いた。
( ´∀`)「なるほど、人間どもが妙に対応が早かった理由はそれか。召喚という大災害と言ってもいい事態にこれほどまで早く対応できることになにかおかしいとは思っていたが......ルナイファの自爆だったと」
('A`)「そのようです」
( ´∀`)「ふーむ、そして外交官を殺されて報復にムー強襲......流れとしては自然だな。とはいえ、それがルナイファ相手に成功するとは信じられんが、余程慢心してたのか......それで?これからの動きについてはなにか分かっているのか?」
('A`)「はい。人間側ですが、早期の講和を望んでいるようです。なおルナイファは全く応じる様子はなく、むしろ再攻撃に向けて準備が進められていると、ルナイファに潜伏中のイヨウさんからの報告があります」
( ´∀`)「ほぅ?それはまた......あれほど一方的であったのだからこのまま攻め込むものだと思ったが......そんな理性があるとはな」
('A`)「恐らくですが召喚の影響で国内が混乱しているのでしょう。ですので他国のことより自国に専念したい......この様なところではないかと」
( ´∀`)「まぁ......当然と言えば当然か。しかし、片や外交下手、もう片方は人間では、互いにまともな交渉など出来るとは思えんな」
207
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:10:01 ID:VpsdaqYg0
召喚などされれば、他国との繋がりが絶たれるのだ。
国際的に完全に孤立した国家でなければ、どんな国でも他国との繋がりはあるものだ。
物資はもちろんのこと、技術などに関しても他国を頼ることは珍しいことではない。
そんな繋がりがいきなり、無くなる。
それにより生まれる混乱がどれだけ大きいかは想像を絶するだろう。
そんな国が内部の事を放置して、様々なものを消耗する戦争を行うことに本来無理があるのだ。
恐らくはそのような理由で彼らは戦争を辞めたいのだろうとドクオは予測する。
('A`)「また召喚地の動きとして、ムーに関しては完全に自国に引き入れる動きが見られます」
( ´∀`)「食料と資源が狙いか?」
('A`)「ええ、間違いなくそうでしょう。が、ここで気になることがありまして......」
( ´∀`)「ん?なんだ?」
208
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:12:27 ID:VpsdaqYg0
('A`)「運び出されている物資に、黒い燃える水があるとのことです」
( ´∀`)「なに?それは......」
('A`)「はい、我が国でも見られるあれです」
( ´∀`)「そんなものを一体なにに?あんなものがあっても害しかないだろう?」
('A`)「不明ですが......その、クーからの情報では人間達にとって最も重要なものだとかで」
( ´∀`)「あんなものが?おかしなやつらだな......しかし魔法を使えんとそんなものに頼らなくてはならないとは、多少力はあるようだが哀れなものだ」
(;'A`)「......えっと、その」
( ´∀`)「ん?なにかあったのか?」
(;'A`)「......いえ、何でもありません」
( ´∀`)「......まぁ、いいが」
急にドクオの報告が口ごもる。
先ほどまではあれほどまでにスムーズだったのに、この変わり様である。
明らかに何かを隠しているかの反応である。
だが、モナーはあえて追求はしなかった。
( ´∀`)「ただ、今後に必要なことなら、時期を見て話してくれ。そうでないならいい。それでいいかな?」
('A`)「......はい」
209
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:12:54 ID:VpsdaqYg0
ドクオは信頼する部下である。
言えないのも、何かしらの理由があり、必要になれば言ってくれるだろう。
そんな信頼のもと、彼らの会話は終わった。
('A`)「......はぁ」
そして、一人部屋に残されたドクオは深くため息をついて、纏められた報告書を手に取る。
理由は先ほど、言えなかった報告に関係している。
(;'A`)「やっぱり、無理だよクー......あんな提案」
その報告書には、クーからの報告を纏めたものであった。
人間達の兵器の恐ろしさや事の経緯などの情報の数々。
そんな報告書には、彼女からの提案が書かれていた。
『召喚地との同盟』
初め見たときはやはり頭がおかしくなったのかと思った。
だが、そのあとに続く内容を読み、理解する。
これは、彼女が本気で考えたことなのだ、と。
210
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:14:19 ID:VpsdaqYg0
報告書の内容はこのように続いていた。
『彼の国の資源となるのは燃える水である。我が国で湧き出るものと同一のものと思われる。つまり、もし我が国が同技術を手に入れることが出来ればこれまで資源がなく苦しんできたのが一変し、資源産出国となることができる。』
『彼の国は魔法を知らない。そして魔法を使う相手と戦争をしている今、魔法の情報を最も欲している状態である。さらに彼の国は仲間がいないため、仲間も必要としているはずである。だからこそ技術情報を交渉材料に彼の国との同盟に関して交渉を行えば、大きなアドバンテージを得られる。交渉にて彼らを御することも可能かもしれない。』
『彼の国と敵対するべきではない。こと戦争においては勝ち目はほぼなく、敵対すれば無駄に命を散らすだけである。また仮に敵の多さに彼の国が対応しきれなくなった場合、ルナイファに彼の国の兵器が鹵獲され、技術を手にしてしまえばそれこそ手に負えなくなる。これだけは防がなくてはならない』
『彼の国の技術は才能に頼ることがない。この違いは国力の違いに直結するであろう。そして、これからの世界を変えることになる。従って我々も魔法のみの依存をやめ、彼の国の技術との共存を目指すべきである。』
そう、結論付けられ報告書は終わっていた。
211
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:16:03 ID:VpsdaqYg0
('A`)「......」
話は理解できる。
だが、だからといっておいそれと受け入れられるものではない。
彼ら、ドクオ達の価値観は魔法が主軸であり、それが当たり前のことなのだ。
つまりは才能による格差が当たり前である。
魔法を使えるからこそエルフは神に選ばれた存在であり、その他の存在を支配し管理するに至ったと信じている。
魔法こそが、彼らエルフの存在を支える精神の柱なのだ。
だが、これは。
魔法を才能に依らない技術は。
それを根底から覆す。
これまで自分たちがトップであった、決して崩れることのない足場の上で安心をしていたのに、それが格下と思っていた存在に崩される。
そんなことを、当たり前のように、簡単に受け入れられるわけがない。
212
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:17:21 ID:VpsdaqYg0
(;'A`)「......」
しかし、この報告書は理解できる。
数多くの情報を処理し、現実を受け止めようとしてきた彼には理解できるのだ。
だからこそ、彼の心の中は決して受け入れることのできない考えと彼の中の常識がぶつかり合い、脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
認めてしまえば彼のアイデンティティーを否定し、世界の中で至高の存在であったはずのエルフを否定することになる。
だが、いくら目をつむっていても現実は変わることはない。
むしろ、これから人間達によってエルフの聖域が壊されていくのだろう。
そのときになっても、目を瞑っていることはできるのだろうか。
この戦争は世界を狂わせる。
世界が彼の国の狂気、異界の常識に染まるのは、恐らくは遠くない。
いつまで自分は正気でいられるか、いや、そもそも正気でいるべきなのか。
こうして彼は眠れない夜を過ごすこととなるのであった。
213
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 13:17:56 ID:VpsdaqYg0
続く
214
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 18:11:44 ID:DvMnVAgU0
乙!石油か!そして銃は強いね!
215
:
名無しさん
:2023/05/27(土) 20:19:41 ID:G99Jd3U60
乙です
216
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:14:49 ID:kXBs2RV20
ヴィップ共和国 最前線
1463年9月1日
おかしい。
そうモララーが感じたのはついこの間のことである。
あれだけ進んでいた前線が気がつけば膠着していた。
いや、それどころか押し返され始めている。
なぜこんなことに、といえばすぐに答えは分かる。
ルナイファからの物資が全くと言っていいほど届かなくなったのだ。
ただその理由は分からない。
だが、それが致命的なことは誰もが分かることであった。
元々、ヴィップと比べれば格下のアリベシ。
それがここまで前線を押し上げることが出来たのはルナイファからの支援があったからである。
217
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:15:15 ID:kXBs2RV20
兵器の供与もそうだが、それを動かすための魔石自体足りず、また補修もできないため次々と瓦礫と化していく。
そして食料もあれだけ美味であったルナイファの保存食はもうなく、ただただしょっぱいだけの自国で作られた干し肉くらいしかない。
それも、満足に食べることができないほど、枯渇している。
(; ・∀・)「......どうなってるんだ」
ただでさえ、勢いに任せて前進してしまい、その結果、突出してしまったため部隊は孤立しつつある。
後方が絶たれれば、このわずかな補給すら絶望的になるであろう。
218
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:15:39 ID:kXBs2RV20
絶対に勝てると確信したはずにのに、いつの間にか死と隣り合わせになっている。
これが、戦場なのかとモララーは身体を震わせる。
怖い。
見知らぬ土地で、もし今攻められればこれまで自分が殺してきた敵兵の如く、自分も死ぬことになるだろう。
一体どうすればよいのか、分からない。
(; ・∀・)「......」
この先になにがあるのか、彼には分からない。
そもそも前に進むべきなのか、戻るべきなのか。
それすらも分からない。
ただただ、国の流れ、命令に乗ることしかできなかった。
219
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:16:19 ID:kXBs2RV20
南方海域 トウキュ沖
1463 年10月28日
トウキュから少し離れた海域。
そこに大艦隊が進んでいた。
それらの艦はルナイファの国旗を意気揚々と掲げ、進んでいく。
彼らはムーに攻め込んできた『侵略者』を叩きのめすため、ムーを目指していた。
从 ゚∀从「っあー......くそ」
( ´ー`)「どうかしたのか?」
そんな艦隊の揚陸部隊として、トウキュに停泊していたハイン達がルナイファから出撃してきた艦隊と合流していた。
そのハインが、浮かない顔をしているのを見て、シラネーヨがそれを気にかけ話しかけてくる。
从 ゚∀从「どうもこうもねぇ、本国から来たやつらにムーの敵について何か知らないか聞かれたんだけどよ」
( ´ー`)「ふむ」
从 ゚∀从「ギコ様から聞いた話を馬鹿正直に全部話したらキチガイ扱いされたわ。マタンキとかいうあの糞野郎、ぜってぇ許さねぇ......プギャーお気に入りのエリートだか知らんがいつか絶対ぶん殴ってやる」
(; ´ー`)「あー、なるほど......まあ、落ち着けや」
从 ゚∀从「まぁ、俺もおかしいとは思うんだけどよ」
220
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:16:42 ID:kXBs2RV20
ギコから聞いた話、見えないほど遠方からの攻撃、そして魔壁でも耐えきれないというもの。
魔法の常識から考えて、あり得ないと言い切れるその報告に、本国の兵士達も全く信じるつもりはないようであった。
从 ゚∀从「でもよ、本当に聞いたことなんだがなぁ。はぁ、嫌になる」
( ´ー`)「仕方ないっちゃないんだが......ん?いや、待てよ?そもそもだ」
从 ゚∀从「うん?」
( ´ー`)「何で本国の連中も敵のことを知らないんだ?」
从 ゚∀从「......あ」
( ´ー`)「こんだけ準備期間があったっていうのに......どういうことだ?」
シラネーヨの疑問は最もなことであった。
これほどの大艦隊を動かしているにもかかわらず、敵のことがまともに伝えられていないのである。
221
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:17:51 ID:kXBs2RV20
从 ゚∀从「一応、ソーサクが関与してるから注意しろとは言われたが......規模なんかの話はなかったな」
(; ´ー`)「いやそれ、もうほとんど情報無いようなもんじゃねーか?せめて敵の規模とか使われてる兵器の情報はないのか?」
从 ゚∀从「......ねぇな」
事実、ルナイファでは情報の規制が行われていた。
まさか、敵が人間だなんて言えるはずがない。
そんなことを伝えれば敵をなめてかかり、ムーの二の舞になる恐れがあったからである。
また人間に負けただなんて伝われば軍全体の士気にも関わる。
そのため、ソーサクが関与している可能性があるということのみを伝え、敵はソーサクであるとしていたのだ。
(; ´ー`)「全く......鬼が出るか蛇が出るか、どうなるかね」
从; ゚∀从「......」
何かがおかしい。
そう分かっていてももう、引き返すこともできない。
そんな権力を彼女等は持ち合わせていないのだ。
222
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:18:23 ID:kXBs2RV20
出来ることは、進み、生き残ること。
从 ゚∀从「......俺達だけでも警戒しておくか」
( ´ー`)「それがいい。まだ死にたくないしな。ソーサク本隊を相手にすることを想定して戦術を練るとしよう」
从 ゚∀从「そう、だな」
( ´ー`)「とはいえ、やはり南方の僻地だ。敵の数は多くないはずだし、この規模の艦隊だ。数の優位は取れている」
从 ゚∀从「だが敵がソーサクとなると、向こうの方が技術力に優れているって話だろ?あまり差はないと聞くが、実際は分からん。下手すると遠隔操作の精度の差と魔壁の差で被害が大きくなりかねないぞ」
( ´ー`)「ふむ、ならば数の利点を生かし、艦同士の距離を大きく開けて複数艦にて敵に接近、だな」
从 ゚∀从「......なるほど。数を生かし、確実に相手に攻撃を与える布陣を組むわけか」
( ´ー`)「あぁ。それで魔壁については......あれだな。魔炎でどうにもならなかったら雷槍を使おう」
从 ゚∀从「雷槍、ねぇ......まぁ、あれなら当たれば絶対沈められるか。当たればだが......」
( ´ー`)「まあこれは敵に攻撃が効かなかった場合の最悪の場合だ。何にせよ、敵に近づくことを想定して魔壁に多く魔力を回すようにしよう」
从 ゚∀从「だな。それで他には......」
二人は出来る限りのことはしようとその会議は夜遅くまで続くこととなる。
戦いの時は、一刻一刻と迫っていた。
223
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:18:56 ID:kXBs2RV20
ルナイファ帝国 軍務省
1463年11月19日
この日、ルナイファの軍務省に一つの通信が入っていた。
(*゚ー゚)「......ということで、引き延ばしも限界と思われます」
( ^Д^)「ふん、そうか」
召喚地からの連絡、講和に向けた話し合いについて、返事を求める連絡であった。
これまでも何度か連絡は入っていたが、今回はその中でも特に相手が強い言葉でこちらに話をしてきており、恐らくは相手も引き延ばしに気がついているのだろう。
( ^Д^)「艦隊はどうなっている?」
(*゚ー゚)「はい、大部分がすでにムーの近くまで到達していますので、すぐにでも行動に移れます。あれほどの艦隊がここまで近づければ、敵がこれから対策をしようとしても、最早手遅れと思われます」
( ^Д^)「ソーサクはどうなっている?以前、関係があるかもしれないと言う話だったが」
(*゚ー゚)「そちらについてはほとんど動きがありませんでした。こちらの艦隊の規模を見て、見捨てたのかもしれません。なんにせよ、チャンスです。これで敵はほぼ人間のみになったと言えるでしょう」
( ^Д^)「よし。ならば、返答してやれ。宣戦布告だ。貴様らを殲滅してやるとな」
224
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:19:35 ID:kXBs2RV20
(;*゚ー゚)「え?わ、わざわざこちらから言う必要は......」
( ^Д^)「くくっ、奴らがどんな風に慌てるか見物だな。ん?おい、どうした?準備をしろ」
(;*゚ー゚)「わ、わかり、ました」
(# ^Д^)「しかし、こちらの作戦とはいえ......奴らのこのような暴言を見過ごさなくてはならないのは非常に腹立たしかったが、ようやく終わるのか」
(;*゚ー゚)「......」
この一月以上、どうにか交渉という名の引き延ばしにより、人間に対して見かけ上だけでも対等な交渉をするという非常に耐え難い心労が貯まっていた。
そもそも話をすることすら本来あり得ない相手に、それも自分たちをまぐれとはいえ負かした相手にである。
感情が入り乱れ、罵声を浴びせ、殺してやりたい気持ちを抑え、どうにか今日までたどり着くことが出来たのだ。
これで、ようやく自分の悩みが解消されるのだと考え、プギャーはフッと息をつく。
225
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:19:57 ID:kXBs2RV20
なお、彼がまるでなにかをやりきったかのように振る舞っているが実際に交渉したのは彼の部下であるし、艦隊の調整も別の部下である。
詰まるところなにもしていない、むしろ入ってくる人間達の情報をあり得ない、もし信じるものがいて本当に講話などすることになったらやり返すことが出来なくなると規制を掛けて握り潰し、周りの判断をおかしくしていた。
そんな勝手な仕事をして、勝手にストレスを溜めていただけなのだが、それに触れる者はここにはいない。
ここでは彼の機嫌を取ることも、仕事の一つなのだ。
( ^Д^)「さて、散々おかしな事を宣った奴らからいつ、許しを乞う連絡がくるか......くく、楽しみだな」
久しぶりに上機嫌な彼を見て、部下達は胸をなで下ろす。
あぁ、ようやく、仕事が一段落するのだと。
そうしてこの日、一本の連絡がムーへと送り返された。
『宣戦布告』
これにより、止まっていた時は再び動きだし、世界はまた変化の時を迎えるのであった。
226
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:20:43 ID:kXBs2RV20
ムー国 召喚地軍基地付近
ムー国の元々基地があった跡地。
多くの瓦礫があったそこには、今では幾つかの簡易的な建物のようなものがあり、人間達が基地として利用していた。
その近くには平らに整備された土地があり、『ひこうき』なるものが見えている。
そんな異界のもの達を一目見ようと、ムーの住人が遠巻きに眺めていた。
それもそうであろう。
自分たちと同じ人間。
それもエルフを一方的に葬る力を持つ、強力な人間である。
彼らにとって、久しく忘れていた希望と言っても過言ではない存在であろう。
そんな人間達に紛れ、今日も今日とて異界の存在の情報を探るべく、クーが人間に変装しながら様子を伺っていた。
この基地らしいものが出来てからは何度もここを見に来ているが、改めて彼らの力強さを認識されられる。
そもそも、魔法を使わずにこれほどまで短期間に土地を整備し、基地として利用できる能力は信じがたいものである。
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