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The Demon Village.
29
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:36:52 ID:bDiJ5Dlc0
⌒*リ;´=-=リ「昨晩は大変失礼を致しました……」
日を跨いで猛威を振るうアルコールの毒に苛まれながら、寝ゲロを流して現れた高梨さんは深々と頭を下げた
カフェテリアの時計は八時を回っていた。既に朝食を済ませたしずくは自室のベッドでアホ面晒しながら眠りこけている頃だろう
(´・_・`)「そう気になさらんな。あのクソガキも腹満たして一眠りしたら忘れてるだろうよ。飯は食えるか?」
⌒*リ;´=-=リ「お水だけ頂けますか……」
(´・_・`)「あいよ」
どうして酒飲みは翌日に響くとわかっててがぶ飲みなんてするかね?
(´・_・`)「よく眠れたか?」
⌒*リ;´=-=リ「ええ……いえ……実は、ここ数か月はずっとお酒に頼ってて……」
(´・_・`)「薬は?」
⌒*リ;´=-=リ「あまり効かない体質でして……」
(´・_・`)「併用するよかマシか……お銀からの説明は覚えてるか?」
⌒*リ;´=-=リ「あ、はい……冊子も頂いたんで大丈夫です……お銀さんは?」
(´・_・`)「朝に弱くてね。起きてくるのは大体十時頃だ」
早朝の仕事は大体片付いた為、コーヒーと水を持って向かいの席へ腰を下ろす。お冷を差し出すと、彼女は尻つぼみな礼を言って口に含んだ
一応、見回り時に部屋の前を確認したが、招待状は建物内までは侵入していなかった。結界はちゃんと働いているようだが、数日の内に突破されるだろう
それまで、高梨さんには『英気』を養って貰わねばならない。昔の人は言った。『腹が減っては戦が出来ぬ』。それはただ腹を満たすだけではなく、気力も含まれているのだ
30
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:37:41 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「晩酌は引き続き続けて貰って構わない。なんなら美味い肴も用意しよう。昨日は安いもんで済ませたみたいだしな」
食い散らかしたスナック菓子のゴミが翌朝までそのままにされてるのを見た時は、普段温厚な俺も流石にキレそうになった。食ったら片づけろ
⌒*リ;´・-・リ「あの、昨日もお話されたのですが、私がやる事って本当にアレで良いんですか?」
(´・_・`)「ああ、『食って、寝て、遊ぶ』。小洒落た言い方をすりゃあ『デトックス』だな。疲れとストレスを思う存分発散すんのがアンタの仕事だ」
⌒*リ;´・-・リ「それだけで良いんですか?」
(´・_・`)「それが裏に対する最大限の予防策だからな」
日本人の年間自殺者数並びに行方不明者数は年々減少傾向にあるものの、一定のラインを割る事が出来ないのは、そこに到るプロセスに『裏』が介入しているのが一つの理由として挙げられる
本来ならば自殺という最後の逃避手段を選ぶほどでもないストレスを察知して、高梨さんの『招待状』のように、怪異を用いた嫌がらせを用いて増長。結果として最悪の事態へと発展する
逆に言えば、毎日が充実して生命力に溢れる人物ほど、怪異に遭う確率が低い。銀が説明したように、弱った人物は『狩りやすい獲物』として認識されてしまうのだ
(´・_・`)「ま、それが出来ねえって人も多いよ。ストレスも悩みも、産まれてから死ぬまで付き纏うもんだ。強い弱いも人それぞれだが、何があろうと『生きる』という気持ちだけは忘れちゃなんねえ」
⌒*リ´・-・リ「……」
(´・_・`)「その気持ちを取り戻す為に最も気軽で日常的なのが『休む』って行為だ。痛飲するもよし、たらふく食らうもよし、趣味に没頭するもよし、風にあたってぼんやりと過ごすもよし、適度な運動で汗を流すもよし」
セクハラに該当するワードは避けた
(´・_・`)「とにかく、疲れを癒せば癒すだけ成功率……いやこれは元から百パーだけど、俺らの仕事がやり易くなる。気合入れろとは勿論言わんが……まぁ、その辺を意識してくれたら助かるよ」
⌒*リ´・ー・リ「……フフ、お休みに意識だなんて」
ここに来て、初めて彼女が『笑い』を溢した
⌒*リ´・ー・リ「『頑張って休む』ってのも、なんだが矛盾している気がしますね」
(´・_・`)「余計なこと言っちまったかな?」
⌒*リ´・ー・リ「とんでもありません。気持ちが楽になりました」
(´・_・`)「そりゃあ良かった」
嘘や偽りの無い彼女の言葉を受け、『先行きは明るそうだな』と感じたのであった
31
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:44:28 ID:bDiJ5Dlc0
―――――
―――
―
⌒*リ;´・-・リそ「ええ!?お銀さんって人間じゃないんですか!?」
イ从゚ -゚ノi、「ちょっと動かないで」
⌒*リ;´・-・リ「あっ、ごめんなさい……」
昼食も終えた午後一時過ぎ。カフェテリアでは銀が高梨さんの手を取って『爪』に色を入れていた
『ネイルアート』。これも休暇の一環としてのサービスだが、防護妖術も兼ねている
今となってはお洒落や美の増幅として施される『化粧』。古来では魔除けの意味を込めて使われていたそうだ
イ从゚ -゚ノi、「雪女と妖狐のハーフよ……言っても信じる人は少ないけど」
⌒*リ;´・-・リ「ひえー……美の二大巨塔みたいな妖怪じゃないですか……」※ぬ〜べ〜とかその傾向あった
あのツラを前にしたら少なからず『そうかも?』と思う奴はいるだろうが、野郎なら大抵下半身に意識がいってサラッと受け流す。おちんちん野郎共がよ
高梨さんは実際に怪異の被害に遭っている分、受け入れも早い。銀に関しては見た目も普通の人間と変わりないので、恐怖心を煽られることもない
俺は初めて会った時『属性盛り過ぎwwwwwwwwwwwwwwオタクアニメのヒロインかよwwwwwwwww』と笑ったが、返って来たのは濁った色した瞳だけだった
⌒*リ;´・-・リ「じゃあ、小練さんもしずくちゃんも妖怪なんですか?」
イ从゚ -゚ノi、「そうよ。あれはゴリラと人間のハーフで、しずくは猿と人間のハーフ」
⌒*リ;´・-・リ「へ、へぇ……」
(´・_・`)「へぇじゃないが」
適当なこと言うなゴリラと猿に妖怪のよの字もねーだろ
32
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:45:39 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「どっちも人間だよ。残念ながらな」
二人分の冷たい飲み物をテーブルに置き、銀の『仕事』を覗き見る。艶が出るまで磨かれた爪に、ツンとシンナーが香る赤色のマニキュアが塗られていく
『赤』は最もポピュラーな魔除け色で、日本のみならず海外でも頻繁に使用されていた。何故赤なのかは今だ解明されてないが、まぁ多分ノリで決めたんだと思う
(´・_・`)「相変わらず綺麗な仕上がりだな」
イ从゚ -゚ノi、「アンタもやって欲しいのかしら?」
(´・_・`)「後で頼むわ」
イ从゚ -゚ノi、「気持ち悪」
なんやこいつ
⌒*リ´・-・リ「そういえば気になっていたんですけど、表の怪異って裏とはまた別物なんですか?」
(´・_・`)「目の前にいるだろ」
⌒*リ;´・-・リ「ちゃんと教えてくれたっていいじゃないですか……」
昨日と比べて口数も増えていることだし、少しでもクソ招待状の存在を忘れられるなら教えても良いが……
(´・_・`)「つっても、ググったら出てくるのばっかしだし……出自に関してもあまり良くわかってない部分も多いからな……」
⌒*リ´・-・リ「と言うと?」
(´・_・`)「雪女や妖狐が『どういうモノか』ってのは、各地の逸話や伝承のままだが、どういうプロセスでそれが産み出されたかまでは判明してねえんだ」
⌒*リ;´・-・リ「え?そんなの、妖怪さんに訊けばいいのでは?」
イ从゚ -゚ノi、「アンタ、人間がどういう経緯で誕生して、どんな歴史を辿ったかを詳しく解説できる?」
⌒*リ;´・-・リ「……すみません」
長い歴史を積み重ねる中で、記憶や記録が薄れていくのは人も妖怪も変わりない。彼らについて記されている書も多く遺されてはいるが、それの正誤を判断する者もいない
33
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:46:44 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「いくつか説はあるんだ。『人の想像力で生み出された存在』だとか、『進化ツリーの中で異能方面へ舵を切った者』だとか、『表の環境に馴染んだ裏の姿』だとか言われてるが、実証までは到ってない」
(´・_・`)「で、数多くいる妖怪や魑魅魍魎は、主に三つに分類される。一つ目はお銀のように人との共存、共闘を選んだ『友好派』」
イ从゚ -゚ノi、「一緒にしないで」
(´・_・`)「ごめ。二つ目が、人とも裏とも関わらないようにひっそりと暮らす『隠居派』。そして最後に、裏と同じように人、または他の怪異を悪戯に食い散らかす意地の汚いクソッタレのカス畜生共『外敵派』」
⌒*リ;´・-・リそ「外敵派にだけ当たりがキツイ!!」
(´・_・`)「で、『裏』との違いが初っ端から速攻で襲い掛かる存在が多いってとこだ。やけに事故の多い交差点とか、峠の山道とか、立ち入りが禁じられてる海辺とかな」
イ从゚ -゚ノi、「馬鹿やる人間が主な食糧よ……アンタも、動画の再生数目当てで深夜の心霊スポットに足を踏み入れるなんてしないことね……」
⌒*リ;´・-・リ「や、やりませんよ……わざわざ恐いとこに足なんて踏み入れませんし……もしかして、ストレスや疲弊とか関係なく襲って来たりするんですか?」
(´・_・`)「そうだ。ただ、裏と違って『境界』を駆使出来る奴は限られてる。殆どが各自の縄張りに踏み込んだアホを襲うだけの連中だ。そういった意味では、まだ優しい方かもしれねえな」
イ从゚ -゚ノi、「度が過ぎる外敵派を駆除しに行くのも私たちの仕事よ……はい、出来上がり。乾くまで服とか顔に触れないこと」
コンマ一ミリのはみ出しもムラもなく、艶のある赤が塗りこまれた爪を見て高梨さんは『ほう』と感嘆を漏らす
あまり化粧に関心の無い俺でも、プロ顔負けの仕事であると見て取れた。しずくはこういうのマジダメ。もう指先ベッタベタ
⌒*リ*´・-・リ「素敵……ありがとうございます」
イ从゚ -゚ノi、「ん」
道具を手早く片付けながら素っ気ない返事をしたが、礼を言われて悪い気分になる奴はいない。表情もいつもより柔らかく見えた。いつもこうならいいのに
34
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:48:05 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「あれ?俺は?」
_,
イ从゚ -゚ノi、「……」
(´・_・`)「冗談だよマジで嫌そうな顔すんな」
今にも飲み物ぶっかけられそうな目で見られた。そんなにはしゃいだオッサンがキモいかよ……キモいか……テンション上がったオッサンってキツイもんな……
<せんせー
(´・_・`)「んお?」
おl
壁l,~-~)「ちょっと来てー」
だl ⊂ノ
廊下から寝ぼけ眼のしずくが顔を覗かせている。わざわざ呼ぶってことは、『依頼人』には聞かせられない話かもしれない
銀に後を任せ、彼女の元へ向かう。着崩れた寝間着と半開きの瞼が、『まだ寝たりない!!』とアピールしているようでちょっと笑った
(,,~-~)「あの……えっとね……グウ……」
(;´・_・`)「寝んな寝んな立ったまま寝んな。せめて用件を伝えてから寝ろ」
(,,~-~)「リゾット……?」
(;´・_・`)「ネエロじゃなくてな?」
35
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:49:21 ID:bDiJ5Dlc0
(,,~-~)「なんかぁ……ボクの部屋の前に山盛りハガキが届いててぇ……」
(;´・_・`)「ッ!?」
肝が冷えると同時に、昨晩切り裂かれた掌が痛んだ。思わずしずくの肩を掴み、傷や出血が無いか確かめる
(;´・_・`)「怪我無いか!?」
(,#~-~)「フサフサじゃい……」
(;´・_・`)「髪の話なんかしてねえんだよ!!!!!!!!!!!」
落ち着け。怪我してんならもっと大慌てで駆け込んでくる。この暢気なアホ面が無事の証明だろ
今は状況の確認に徹するべきだ。今朝の見回りでは結界は突破されてなかった。どこか見落としたか、それとも短期間で力を強めたか
(;´・_・`)「……わかった。確かめよう」
(,,~-~)「んー」
両手を広げて『運べ』とせがんだので、片手で抱き上げてしずくの部屋へと向かう。お前もう14……大きくなって……やだ、涙が出ちゃう……
子どもの成長に喜んでる場合じゃない。涙はこいつの結婚式まで取っておくべきd結婚!!!!!!!???????耐えらんねえ!!!!!!!!旦那ぶっ殺しちゃうかもしれない!!!!!!!!!!!!!
(;´・_・`)そ「うわっ……」
『いや待てよそいつ誰だ』な将来の旦那予想図は、扉の内へと雪崩れ込んだ招待状の山を見て吹き飛んだ
室内のドアは内開きだ。恐らく開けるまではもたれ掛かるように積み上がっていたのだろう
(,,~-~)「ボクの部屋の結界はねーぇ……ちゃんと作動してたっぽいから……どっかから入り込んだんじゃない……?」
しずくのいう通り、扉という『境界』を通されていた場合、刃物と化した招待状が衣服や肌を切り裂いていただろう。もしもこの量に襲い掛かられれば、ひとたまりもない
解せないのは、『何故こいつの部屋に招待状が届いていた』かだ。その謎は、紙面を確認してすぐに判明した
36
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:51:30 ID:bDiJ5Dlc0
『儀社 しずく 様』
『小練 詩音 様』
『供身 235号 様』
宛先に、それぞれの名が記載されている。裏面には、高梨さんの物と同じように『御出席』『御欠席』の文字が並んでいた
(#´・_・`)「……クソ野郎」
新たな挑発か、それとも俺らにも狙いを定めたのか。そんなことはどうでも良くなるほど
(#´・_・`)「余程殺されたいらしいな……」
かつて銀が、『あの場所』にいた頃の番号を『名』として使用したことに、腸が煮えくり返った
(,,゚-~)「……先生?」
(;´・_・`)「っと……悪い。ていうか起きたんなら降りろや」
(,,゚-゚)「重いの?」
(´・_・`)「は?軽いですけど?お前が後九十九人乗っても大丈夫ですけど?」
(,,゚-゚)「いつからイナバ物置になったの?」
俺の巨腕から猫のようにスルリと抜け出したしずくは、完全に目を覚ましたのか、落ち葉でも扱うかのように招待状を蹴り上げた
37
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:52:30 ID:bDiJ5Dlc0
(,,゚-゚)「この案件、早く終わらせられるかもね」
(´・_・`)「そうだと良……いや、そうだな……」
一週間、早くても五日だと予想していたが、それを上回るペースで成長している。この分だと、明日か明後日には本腰入れて襲ってくるかもしれねえ
戦闘に関してはいつでもかかってこいやヒナ屈辱だが、問題は明日明後日の内に高梨さんが抵抗を行えるほど回復するかだ
プレッシャーになり得る指示は出来る限り避けたい。緊張や重圧はストレスと直結する。自然体のままに休む方が気力が取り戻せるのだ
だからと言って油断をさせ過ぎるのも反って危ない。裏との戦いは、被害者の精神バランスを鑑みて挑まねばならないのだ
(´・_・`)「いつでも対処できるように得物は持ち歩いとけ」
(,,゚-゚)「言われるまでも無いよ」
しずくは腕を振るうと、袖に仕込んでいた装置が作動。バネ仕掛けによって飛び出した『クナイ』が掌に収まった
(,,゚-゚)「最強美少女しずくちゃんをコケにした罪は、きっちり贖って貰うからさ」
(´・_・`)「そうだね」
(,,#゚-゚)「心を込めて同意して!!」
(´・_・`)「そうだね」
(,,#゚-゚)「もういいよ!!!!!!!お昼ご飯なに!!!!!!!??????」
(´・_・`)「タコ焼き」
(,,#゚□゚)「たーこたこたーこたーこたこたーこたーこたこたこやきマントマン!!!!!!!!!!!!」
だから伝わんねえって今の時代にその年代のネタ
招待状が何の目的でしずくを狙ったかは知らんが、疲弊が目的ならお門違いもいいとこだ。そこらの一般人とウチの子を一緒にさせて貰っちゃ困る
空腹を抱えてのしのしと勇み足で廊下を歩くしずくに続き、俺もカフェテリアへと戻っ……ハガキ処分しとくか……めんどくせえ……やっぱ今回早い方がいいわ……
38
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:53:49 ID:bDiJ5Dlc0
―――――
―――
―
イ从゚ -゚ノi、「焦ってるわね」
高梨さんとしずくが寝静まった夜更け、昨晩と同じく俺の自室で二人きりの作戦会議を行っていた
(´・_・`)「その心は?」
イ从゚ -゚ノi、「高梨さんの回復も、思ってた以上に早いからよ」
銀が自家製の梅酒が入ったグラスを傾けると、丸く大きな氷がカランと音を鳴らした。今夜の酒はご機嫌とは言えない
確かに、過去の依頼人と比べれば比較的……というより、異例のスピードで元気を取り戻している
第一印象こそ気弱だと感じたが、本来は芯の強い女性のようだ。半年もの間、招待状の猛威に耐え切った精神力にも頷ける
元より、男より女の方が回復が早い。男ならグズグズと引き摺るようなことでも、女性ならスパッと切り換えられるからだ
また、胎内で十月十日子を育み、激痛を伴う出産に耐え切れる『雌』本来の強さも要因とする。でもちゃんと旦那は支えてやらなアカンのやで……それが『雄』の強さや……
イ从゚ -゚ノi、「半年掛けてようやく陥落しそうだった高梨さんが、一日二日で元の木阿弥に戻られたら堪ったもんじゃないとでも考えてるんじゃないかしら?それが、今回の成長スピードに繋がった」
(´・_・`)「ふむ……俺ら宛の招待状も、『ガワ』だけで効力は無かったからな」
試しに俺宛の招待状の御出席に丸を付けて見たが、何も起こらなかった。つまり、昨晩と同じく脅し目的で送られてきたものだ
高梨さんに関わる者を、あのような手段で遠ざけてきたのだろう。事実、彼女はこの半年間で恋人と職を失っているらしい
イ从゚ -゚ノi、「とすると、問題はやっぱり……」
(´・_・`)「本腰入れてきたタイミングだな」
『裏』は獲物を捕らえる時、最大限の『恐怖』を伴って発現する。ホラー映画で言う所の、『ジャンプスケア』に近い行動だ
『ワッ』と脅され、恐怖の感情が露わになると、人の警戒心や抵抗力が一気に霧散してしまう。落ち着きを取り戻すにも、安全安心を確保しなければならない
その瞬間こそ、裏にとって絶好の『狩り時』だ。最悪の場合、俺らの力が及ばない速度で連れ去られてしまうかもしれない
39
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:54:11 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「……難しいな」
イ从゚ -゚ノi、「ええ」
だからこそ、予め奴がどういう手で攻めてくるかの予想を立てなければならない。しかし今回は『ハガキ』が相手だ
これがもっと具体的な『恐怖のイメージ』をもつ像であるなら、もう少しやりやすいのだが……ハガキ……ハガキかぁ……
(´・_・`)「とにかく、『招待状』と『ハガキ』の両面からザッと候補を挙げていくか」
頭を捻るだけでなく、手と口も合わせて動かした方が考えも浮かびやすい。ペンを手に、その二つが持つ性質を書き並べ始めた
長い夜は、まだ始まったばかりであった―――――
40
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:55:07 ID:bDiJ5Dlc0
朝!!!!!!!!!!!小鳥さんチュンチュンチュンチュンピーチクピーチクボボボボボ!!!!!!!!!!
.
41
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:55:45 ID:bDiJ5Dlc0
(;´ _ `)「……」
(,,゚-゚)「おは……ええ……何してたの……?」
カフェテリアに現れたしずくは、俺の顔を見るやいなやドンの引きだった
そらそうだよ寝てねえもんでも仕事は待ってくれないしハガキは今日もえれえ量届いてるしよクソが
銀は三時頃には休ませた。いざって時にあいつがグロッキーだとちょっと困る。俺は休まなくても最強のままなので大丈夫だった
(;´ _ `)「楽しいお喋りと飾り付けだよ……クリスマスが近いからな……」
(,,゚-゚)「半年以上先じゃん……」
(;´ _ `)「毎日がクリスマスだったら良いなって思え」
(,,゚-゚)「ご飯まだ?」
温め直した昨日の残りのビーフシチューとトースト、サラダにオレンジジュースのセットを雑に置いてやる
跳ね溢れたシチューを指で拭ったしずくは、あからさまに不機嫌な表情を見せた
(,,゚-゚)「丁寧に運んでよね……スチュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするようにさ」
(;´ _ `)「黙れクソガキ……高梨さんは……?」
(,,゚-゚)「お手洗いだよすぐ来るんじゃない?ん、うま」
_人人人人人人人人人人人人人_
> (´^_^`)「せやろがい」 < ゴキゲン!!!!!!!!!!!!
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
(,,゚-゚)「チョロ」
42
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:57:20 ID:bDiJ5Dlc0
結界も強化し直したので、建物内にいるなら一人でも安全だろう。そう思った矢先――――
(´・_・`)「ん?」
窓から、一瞬だけ『影』が差した。鳥でも横切ったか程度の違和感だったが、影は二つ、三つとその数を増やす
(;´・_・`)「……!!」
鳥なんかじゃない、『ハガキ』だ!!俺が弱っ……てねえけど寝てないタイミングを見計らったか!!
(;´・_・`)「しずく!!銀を叩き起こして俺の得物持って来い!!俺は高梨さんを!!」
(,;゚-゚)「わかった!!」
ガチャンと食器を鳴らしながら立ち上がったしずくは、すぐさま銀の部屋へと走った
室内にチラチラと差しこむ影は、もはや『大群』と読んで差し支えない量となっている。窓にも光を遮るようにペタ、ペタと張り付き始めた
幸いにも、カフェテリアからお手洗いまではそう遠くない。俺も急いで高梨さんの元へ向かおうと、しずくとは別方向の出口から飛び出す
43
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:57:53 ID:bDiJ5Dlc0
(;´・_・`)そ「うおっ!?」
その瞬間、飛び立った鳥の群れに襲われるかのように、正面から一斉にハガキの大群が身体に衝突する
雪の結晶ですら集まれば『雪崩』や『吹雪』と化す。横幅十センチ、縦幅十五センチ、厚さ0.22ミリ、重さ約2〜6グラムの紙も例外ではない
交差した両腕のガードを、遠慮なくズバズバと切り裂いてくる。動力源は勿論『風』なんかではない
例えるなら、無色透明かつ質量のない、ハガキを纏った『粘液』が、廊下という水道を通して押し流してくるようだ
:(;´ _ `):「ぐっ……」
細かな切り傷が身体中に刻まれていく不愉快な痛みに犯されながら、俺は心底安心した。『こっち側に出たのか、俺で良かった』と
:(;´ _ `):「くく……」
『徹夜をして良かった』と、『俺が弱ったと勘違いしてくれて良かった』と、『俺を侮ってくれて良かった』と
44
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:58:29 ID:bDiJ5Dlc0
:(#´ _ `):「ハハハハハハハァ!!!!!!!!!!!!」
『真っ先にこいつと遊べるのが、俺で良かった』と―――――
45
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 22:59:17 ID:bDiJ5Dlc0
『裏』や『怪異』が何故、超常たる異能の力を持ちながら、今日この時まで人間を支配下に置かなかったのか?
それは、人のみならず生きとし生けるモノ全てに、悪しき異能を跳ね除ける『生命力』が備わっているからだ
裏、そして一部の害意を持つ怪異は、俺達『表』の生き物とは『命』の仕組みが異なっている
奴らにとって命とは燃え盛る炎。触れれば火傷を負い、身を包めばそのまま焼け死ぬような、膨大なエネルギーなのだ
だからこそ奴らはその炎を多種多様な方法で弱まらせ、消える寸前になった所を襲って連れ去る
その後は丁度いい塩梅に燻らせながら、俺らが火で暖をとり、調理に使うように、奴らも人を利用するのだ。炎が『死』というエンプティを迎えるまで、生かさず殺さずに
つまり、『生きている』だけで、怪異に対してある程度の免疫は備わっている
では、『それ以上』を求めるには、どのような手段を取れば良いのか?
先人は憂いた。『生命力をただの免疫だけで終わらせてよいものか』と
先人は悔いた。『生命力を武器に奴らを撃破できたなら』と
先人は憤った。『生命力を理の外の連中に食われるままでいいのか』と
そして先人は考えた。『それならば、生命力を自在に操る方法を』と
46
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:00:05 ID:bDiJ5Dlc0
(#´ _ `)「《握》(にぎり)ッ!!」
下腹部、『丹田』から血流に乗せるイメージで生命力を『拳』へと集める。そして、交差した腕を一息に広げると
(#´ _ `)「ッ……フゥー……」
見えない粘液の圧から解き放たれ、飛翔するハガキの群れは力なく廊下へと墜ちる
《握》。生命力を拳や足などの末端に送り込み、身体の内側から『表面』へと出す、対怪異技術の基礎
端的に言ってしまえば、《握》を使えば連中に痛手を与えられる。異能という理不尽に対して、真正面から暴力の報復を行えるのだ
(#´・_・`)「……」
ただし、生命力自体に『破壊力』は無い。怪異に触れたとしても、奴らの表面が焦げるだけだ
攻撃に関しては使用者本人の『膂力』に依存する。聡明な皆様ならもうお分かりだろう。そう、筋肉である。皆さまって誰だ。お前は誰だ俺の中の俺
先ほどのアクションにもさして力は込めていない。『裏』が退いたのも、ダメージからではなく『反射反応』によるものだろう
(#´・_・`)
(´・_・`#) チラリン……
そんな事より前も後ろもゴミまみれなのキレそう
(#´゚_゚`)「誰が片づけると思ってんだクソがァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大桜堂がこの件を俺らに回した理由が分かった。後片付けが面倒だからだわ
俺はキレつつお手洗いへ走りながら、この件終わったらじっくりと『お話(店を物理的に畳むの意)』しようと固く決意した
47
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:01:18 ID:bDiJ5Dlc0
異常はすぐに目に入った。女子トイレの扉の前では、磁力に引き寄せられるように『招待状』が群れを成している
その中からは高梨さんのくぐもった悲鳴が聞こえ、既に内部にまで侵入している事実を伝えた
(#´・_・`)「高梨さんッ!!」
彼女の名を呼ぶと、『邪魔をするな』とでも言いたげにハガキの刃が発射される。だが、切れ味があろうと紙は紙でしかない
薄皮程度が切れた所で、その下に潜む鋼の肉体までは破壊出来まい。多分今日風呂入る時が一番ダメージあると思う
それでもまぁまぁ血だらけになりながら、ハガキの嵐を抜けて女子トイレの扉を蹴破る。非常事態故致し方なし。下心は無い
「っ……小練さん!!小練さぁん!!!!!」
それは、まるで『繭』だった。洗面台の前で、楕円状に彼女を取り囲む招待状の檻。蚯蚓のように文字が蠢いているのは、締め付けを行いながら包囲網を狭めているからだろう
昨日、銀が施した『魔除け』が効いている証拠だ。今のように不意に襲われたとしても、一定の距離を保って奴らを寄せ付けない効果がある。それを、力業で破ろうとしている
(#´・_・`)「気を保て!!今すぐ助けっ……!?」
繭から放たれた『角柱』を、咄嗟に両手で受け止める。だが、勢いは止まらず、195センチを誇る俺の巨体が浮き上がり
(;´゚_゚`)・'.。゜「ゲハッ!?」
廊下の窓に後頭部と背中を、そして窓枠に腰を打ち付け、後転しながら外へと放り出される
この土壇場に来て奴らは攻撃を『分散』から『集中』へと変化させた。一枚一枚は軽い紙でも、束にすれば厚みと重さ、そして硬さを生み出す。漫画雑誌など良い例だ
奴が『塊』をぶつけてくることは、昨晩の会議で想定済みだったが、実際に喰らうとなると実感する。『オイこれまぁまぁ効くじゃん』と
48
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:01:59 ID:bDiJ5Dlc0
:(;´゚_゚`);「っ……てぇ、な……!!」
身体は植垣へと沈み込む。背中と頸をガラスで切ったのか、焼け付くように熱く痛い
そして尚、攻撃の手を緩めずに次々と圧し掛かってくる『招待状』の束、束、束。骨身が軋み、呼吸もままならない
ハガキに押しつぶされて死ぬなんて冗談じゃねえ。末代まで笑いものにされる。まだ圧の少ない脚に《握》を行い
(#´・_・`)「オラァッ!!!!!!!」
爪先で紙柱の『腹』を蹴りつける。『裏』の粘液が爆ぜる感触が広がり、身体の圧が幾分か和らいだ
ドバドバと降り注ぐハガキの滝を払い除け、紙の水面から顔を出すと―――――
(;メ)_ `)・'.。゜「カッ……!!」
『待ってました』と言わんばかりに、新たな紙柱で顔面を殴りつけられる。紙束の角が、頬の肉を深く抉った
俺のダウンに合わせて、すぐさま再開されるハガキによるプレス。視界はおろか、鼓膜に届くのも紙がこすれ合う『ガサガサ』とした音だけだ
(;メ)_ `)「っ……っ……!!」
助けを求める為の声も出せない、腕も伸ばせない。呼吸も行えず、身体は刻一刻と死へと歩み始める
痛みと苦しみしかない、狭い世界の中。ふと光が差し込んだ。俺の目に飛び込んできたのは、後光携え現れた―――――
49
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:02:41 ID:bDiJ5Dlc0
『御出席』『御欠席』
(何方かに丸をお書きください)
とだけ書かれた、招待状だった
50
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:03:31 ID:bDiJ5Dlc0
地獄に垂れ落ちた蜘蛛の糸、あるいは舞い降りた天使か
救いの手でも差し伸べるかのように、今の状況を作り出した『元凶』が、俺の目の前に現れた
:(;メ)_ `):「……」
魔除けに守られている高梨さんよりも、物理攻撃で虫の息の俺に標準を合わせたのだろう
ましてや、怪異退治で食ってる野郎だ。その価値は、一般人を連れ去るよりも遥かに大きい
右腕の圧が軽くなった。持ち上げると、指先までべっとりと自分の血で濡れているのがわかった
『これで意志を示せ』と指示しているのだろう。自らの『血印』で、御出席に丸を付けろと
:(;メ)_ `):「……」
右腕を、人差し指を、他でもない俺に充てられた招待状へと伸ばす。今なお続く地獄から解放される為に―――――
( メ)_ `)「」
ただし、屈する気は毛頭なかった
51
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:04:48 ID:bDiJ5Dlc0
( メ)_ `)「馬鹿がよ」
作戦通りだ。やはりこいつらには学が無い。『御馳走』が弱れば、すぐさま目移りする頭の悪い獣だ
俺達は常に高梨さんの護衛をしてやれるワケではない。眠りもすれば便所にも行く。四六時中ってのは到底無理だ
( メ)_ `)「獲物が元気になってきて、焦っちゃったか?ええ?」
だからあえて、奴にとって優位な状況を作り出す事にした。俺らが疲労した中で、高梨さんが『一人』というシチュエーションを用意する
彼女の回復速度に焦っていた奴は、この機を逃さんと食いつくだろう。そこに邪魔者が現れる。裏を殺す術を持つ『俺』が
( メ)_ `)「俺らの掌の上で踊るのは楽しかったか?」
当然、抵抗を行うだろう。するとどうだ?奴は拍子抜けした筈だ。「案外大したことは無いではないか」と。当たり前だ。手を抜いて相手しているのだから
この好機を、当然見逃しはしない。拘束したも同然の高梨さんなど、俺を狩った後で良い。優先順位がここで入れ替わる
満を持して登場したのは、ハリボテの神々しさを纏った招待状の『本体』だ。紙切れの分際で勝ち誇った気になっていやがる
『追い込まれたのは一体どっちか?』 それをハッキリと思い知らせてやる
( メ)_ `)「《握》」
眼前まで現れた『核』を、生命力を込めて握りしめる。ハガキの周囲には、硬いゴムのような感触を持つ不可視の障壁が築かれていた
紙の束に比べれば、余りにも薄いバリアだ。指は徐々に、そして確実に、内部へとめり込んでいく。だが、奴もこのまま黙って殺られる気は無いようだ
目先の餌より自身の安全を優先したのか、今度は俺の命を押し潰そうと圧迫を強めていく。我慢比べか、面白い
(#メ)_ `)「おおおおおおおおお……ッ!!」
気を抜けばパンと破裂してしまいそうな、これまで味わった事の無い過重力。それは向こうも同じだろう
指先がハガキの縁に触れた。もう一押しだ。そろそろキメちまわねえと、流石の俺も全治二、三日の軽傷を負わされてしまう
52
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:05:30 ID:bDiJ5Dlc0
(#メ)_ `)「く、た……ば」
勢いをつけて、一息に握り潰そうとした瞬間―――――
(;メ)_゚`)そ「うおっ!?」
圧は上からではなく『横』へとベクトルを変え、俺の身体は紙の濁流に押し流される。数秒もしない内に排出され、地面を転がった
(;メ)_゚`)「ブハァーッ!!」
外の明るさや、新鮮な空気。暗闇と圧力の地獄から抜け出せたことに喜びは感じない。むしろ、危機感と悔しさが湧くばかりだ
仕留め損ねた。折角あそこまで追い込んだのに、奴の核を手放しちまった。チキンレースこそ勝利したが、それじゃ意味がない
立て直す間も無く、ハガキの山から紙束の柱が射出される。それも四方向から複数同時に。少しは学んだか。良いだろう、何度でも相手してやる
(#メ)_゚`)「来いやオr「だから先生はさぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
気合の雄叫びの上へ被せるような、俺を非難する叫びが耳に届くと同時に、側面から四本のクナイが紙の柱を穿ち貫く
(,#゚-゚)「ちょっとは退くってことを知らないのかなぁ!!」
小さな『相棒』が間に割って入り、ホルスターから新たなクナイを引き抜いた
(,#゚-゚)「大怪我すんのは勝手だけど、その間誰がご飯作ったり洗濯したりすんのさ!!」
母親のツラを生まれてこの方見た事が無いが、多分こうやって病んでいくんだろうなって思った。ママは大事にしろ
53
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:07:40 ID:bDiJ5Dlc0
(,#゚-゚)「それとお前!!!!!!出てくるんなら朝ご飯食べてからにしてよ!!!!!!裏って本当に空気読めないよね!!!!!」
裏もお前にだけは言われたくないだろうよ
(メ)_・`)「銀は?」
(,,゚-゚)「『手筈通りに』だって」
聞こえてるか聞こえてないかは知らんが、小声で手短に伝達を済ます。起きてくれてほんと良かった
両手にこびりついた自分の血を、揉み手してしっかりと擦り付ける。即席の『滑り止め』でベタついた所で―――――
(メ)_・`)「そんじゃ、プランBに移るか」
しずくの腰に差し込まれている一振りの『小刀』を引き抜いた。刀身は凡そ三十センチ。反りは深く、突くよりも『薙で斬る』を想定された造り
傍目に見ればちょっとヤバめのナイフ。マチェットにも満たない長さのそれに、一つのアクションを送り込めば
(メ)_・`)「《流》」
『生命力』に反応して、おちんちんに血を……
54
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:08:55 ID:bDiJ5Dlc0
(メ)_・`)「」
(,,゚-゚)「?」
(#メ)_゚`)「うおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(,;゚□゚)そ「どしたの!?」
……送り込むかのように刀身が肥大化し、柄は伸びる。もうやだまだおちんちん癖が抜けない
現れたるは、俺の背丈ほどの長さに成長した『矛』。肉体と拳に次いで信を置ける、俺の『得物』だ
(,;゚-゚)「びっくりしたよもう……莉花さんはあそこ?」
(メ)_・`)「みたいだな」
しずくがクナイで指す先には、ハガキの山の天辺へと送られていく『繭』。俺を押し潰さんと積み上げられ続けていた紙束は、宿泊施設の二階部分にまで到達するほどの高さに成長している
銀が施した魔除けは、早々解かれるものではない。だが、その周りを密封されることで、『光』や『酸素』は遮断される。あの中にいるって事はオリバにパックマンされるようなもんだ。その方がキツいか
高々と掲げやがったのは、俺らをハガキの山へと誘い込むための罠だろう。一度足を踏み入れれば、蟻地獄が如く吸い込まれていくのは目に見えている
かと言ってこのまま指を咥えて見ているわけにもいかない。魔除けの耐久度にも限界があるし、回復した高梨さんが『狩りやすい獲物』に戻ってしまう
55
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:10:12 ID:bDiJ5Dlc0
(メ)_・`)「しずく、ぼ……」
(メ)_・`)「防御たのむ……」
(,,゚-゚)「防御!?」
マジでこの時代にいねえぞこのネタ通じる14歳。矛を肩に、悠々と山へと歩んでいく。再び柱の触手が襲い来るが―――――
(,#゚-゚)「《流》ッ!!」
『投擲の天才』が、生命力を込めたクナイで迎撃する。刃先が紙面へと深く突き刺さると、沸騰した裏の『粘液』がブグリと膨張し、爆発
千切れ跳んだ紙吹雪が舞う中、俺は深く深く息を吸い込んだ。『語り掛け』、『合図』を送るために
(#メ)_・`)「聞けェッ!!高梨さん!!俺の言葉を思い出せッ!!」
点の攻撃は通じないと分かると、お次はハガキの『大波』がブワリと浮き上がり、頭上から襲い来る
(#メ)_・`)「『何があろうと生きるという気持ちを忘れるな』!!アンタはここから逆転できる!!招待状に、怪異に打ち勝てる力を持っている!!」
矛を振りかぶり、波のどてっ腹を斜めに斬り裂く。形を保てなくなったハガキの『死骸』が、落下と同時に辺り一面に散らばった
(#メ)_・`)「連中が人間を怯えさせるのは、俺達が持つ『命』に恐れ慄いているからだ!!アンタを囲っているのは、真正面から喧嘩を売る度胸もない臆病者だ!!」
それならばと、裏は攻撃方法を再び分散へと戻す。バルカン砲が如く射出されるハガキの刃。しずくにはかすり傷すら負わせまいと、身体を張って壁となる
『小さなことからコツコツと』。当たり前で偉大な言葉が、今は悪意を孕んで直接身体に刻み込まれているようだ。それでも、顔をは下げず声を張り上げる
(#メ)_・`)「だってそうだろ!?俺らに対してここまで暴れまわれるくせに、一般人のアンタにはネチネチと半年間も『嫌がらせ』しか出来なかった存在だ!!ビビるこたぁねえんだよ!!」
(,,゚-゚)「そうだそうだ!!」
(#メ)_・`)「裏など、怪異など、恐るるに足りない!!!!!絶望するほどの価値も無い!!!!!『生きてる奴の方が何倍も強い』!!!!!!」
仕掛け所だ。行くぞ!!
56
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:10:40 ID:bDiJ5Dlc0
(#メ)_゚`)「溜まった鬱憤をぶつけてやれッ!!高梨 莉花ァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」
.
57
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:11:25 ID:bDiJ5Dlc0
「……」
俺の言葉は彼女に届いたか?その答えは、繭の胎動が明らかにしてくれた
ハガキの刃は、目に見えて切れ味を落としていた。さながら、風に吹かれる新聞紙と言った所か。身体に張り付いてうぜえ
「……ン」
彼女が内から声を上げる度に、招待状の包囲網は内から強く殴りつけられたかのように膨張する。その度に、一枚二枚と『花弁』を散らした
《握》や《流》が使えなくとも、誰にだって『生命力』はある。ここまでくっきりと実体化した裏は狂暴、凶悪な反面、受ける影響も強くなる
だからこそ獲物を怖がらせ、怯えさせ、弱らせる。虚勢に虚勢を重ねてようやく表舞台に姿を見せるのだ。『手痛い反撃を受けないように』
「オ……ン!!」
三度目の胎動で、遂に包囲網は決壊を始める。顔を見せた高梨さんは、息も絶え絶えだったが、そこから抜け出そうと必死に藻掻く
招待状はせめて彼女だけは逃がさないと、分蜂のようにハガキを蠢かせ決壊部の修復を図る。最早、俺が手を出すまでも無い
⌒*リ;´ - リ「ッッッ〜〜〜〜〜〜〜……!!」
再び閉ざされようとする『繭』に向かって
58
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:12:38 ID:bDiJ5Dlc0
⌒*リ#´ Д リ「お ち ん ち ん ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !」
彼女は『生命力』を込mええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!??????????
ロマンス&バカンス‐おちんちんYEAH
https://www.youtube.com/watch?v=3N3FhNFHaZA
(メ)_・`)「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」
(,,゚-゚)「先生の所為だよ。アレ」
(メ)_・`)「俺ェ……?」
でもまぁ確かに余裕無かったら人間ああなるのかもしれない
なんかちょっと冷静になっちゃったけど傍観してる場合では無い。渾身の生命力を込めた拒絶は絶大な効力を発揮し、ハガキの繭は一斉に解けた
59
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:13:51 ID:bDiJ5Dlc0
⌒*リ;´・-・リ そ「わわっ!?」
足下の支えが無くなり、彼女の身体はハガキの山頂に沈み込もうとする。繭こそ壊れたが、山はまだ健在と見ていい。このまま飲み込まれてしまったら元の木阿弥だ
まぁ、そうさせない為に、もう一人の『相棒』を待機させていたのだが
∧ ∧
イ从゚ -゚ノi、「掴まりなさいッ!!」
二階の窓から得物の『銀製の棍』を右手に山の上へと飛び出した銀が、もう片方の手を伸ばす。それを反射的に掴んだ高梨さんをハガキの蟻地獄から引き抜くと
∧ ∧
イ从゚ -゚ノi、「足下注意、滑るわよ」
⌒*リ;´・-・リ 「え、ええ!?」
高梨さんの驚愕は、言葉ではなく銀の頭上にヒョコリと生えた『獣耳』に対して向けられていた
『雪女』の異能に『妖狐』の膨大な妖力量を併せ持つ銀の本領が発揮される時に訪れる変化だ
∧ ∧
イ从゚ -゚ノi、「《放》(はなち)!!」
銀の足が山に接触した瞬間、ハガキの群纏わり付く裏の『粘液』は凍りつき、その上に僅かな雪が積もる
高梨さんを片手で抱え、棍の先端で山の表皮を削りながらバランスを取り、即席のゲレンデを滑降する。フゥー!!涼しげぇ!!
60
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:14:35 ID:bDiJ5Dlc0
∧ ∧
イ从゚ -゚ノi、「っとと……」
⌒*リ;´・-・リ そ「おわー!!」
麓まで滑り切った二人は、慣性をステップで殺しながら俺たちの元へと到達する。鮮やかな奪還劇だ。お捻りを投げたい。財布持ってくりゃ良かった
(,,゚-゚)「ボクもそれしたい」
∧ ∧
イ从;゚ -゚ノi、「馬鹿言わないで。どんだけ疲れっ……!!」
⌒*リ;´・-・リそ 「銀sおわー!!」
高梨さんを手放し、ガクリと膝から崩れ落ちそうになった銀の身体を咄嗟に抱き留める。妖力を使った反動が、身体にクッキリと現れていた
首をグルリと締め付ける、赤黒く光る『鎖』の紋様。ともすれば街一つを凍り付かせる程の力を抑え込む、銀を生み出したクソ共による枷だ
(メ)_・`)「お疲れさん。後は俺たちが」
イ从;゚ -゚ノi、「言われるまでも無いわ……ただでさえ寝不足だってのに……あとアンタ鉄臭い……」
(メ)_・`)「俺だって好きでズタズタにされたワケじゃないが????????」
⌒*リ#´・-・リ 「イチャつく暇があるなら私も労って貰っていいですかね!!!!!!?????」
『二仕事』終えた銀を、地面に投げ出され、腰が抜けたまま立てない高梨さんの隣へと座らせる。一体何を見てイチャついてると思ったのだろうか?さっきもなんかおちんちんって言ってたしアホなんだろうか?
(メ)_・`)「さて……」
本体を表舞台に引きずり出し、依頼人の救出も済んだ。残る仕事は単純明快摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用―――――
(メ)_・`)「四対一だ。尻尾巻いて逃げるか?」
紙クズの大掃除と洒落込むか
61
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:16:28 ID:bDiJ5Dlc0
俺の言葉に呼応してか。それとも、分が悪いと察知したか。招待状の山は一斉に飛び立ち、上空で『帯』となって身をくねらせる
『頭』はその行き先を、この場で最も身近で大きな『境界』である窓へと定めて、勢いよく飛び込んだ
⌒*リ;´・-・リ「に、逃げられちゃいますよ!!」
イ从;゚ -゚ノi、「それはどうかしら?」
シンバルを思い切り叩き鳴らしたかのような、けたたましい高音が山々へと響き渡る。境界どころか『窓ガラス』すら通り抜けられなかったハガキ軍は、建物に当たってはボトボトと落ちていく
銀に任せたもう一つの仕事、『妖力による境界の封鎖』だ。窓だけに留まらず、建物内のありとあらゆる境界を凍り付かせて蓋をしている。普段の結界よりも強力だが、枷の関係上長時間は持たない
使用するタイミングのシビアさと、持続力の短さがネックだが、一度接触してしまえば対象は暫くの間寒さに襲われ、行動を著しく制限される。鬼ヶ島が誇るとっておきの『罠』だ
(,,゚ワ゚)「だっさ!!バーカバーカ!!ザァコ!!よわよわ裏怪異!!」
(;メ)_・`)「お前それ……やめとけ……」
(,,゚ワ゚)「なんで?」
(;メ)_・`)「なんっ……なんでってお前……いいや……説明するのもなんか……恥ずかしいわ……」
(,,゚ワ゚) ?
境界を無理やりこじ開ける元気も、既に無いだろう。表裏に関わらず、『無限のエネルギー』など存在しない
高梨さんの拘束、魔除けの破壊工作、そして俺達への大がかりな攻撃。相当な消耗をした事だろう。その証拠に、ハガキの物量は目に見えて減っている
銀の罠の効果も合わさって、遠くへ飛んで逃げるのも叶わない。とすると、奴が取れる行動は二つしかない。俺らに白旗を振って降伏するか、あるいは――――
(メ)_・`)「そうこなくっちゃあな……」
死に物狂いで抵抗を行うかだ。これは経験談だが、前者の行動に出た裏はこれまで一つも見た事がない
鎌首をもたげて此方を見据えた紙の大蛇。深い傷から血が流れ出るように、身を構成するハガキはボタボタと剥がれ落ちていく
62
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:18:22 ID:bDiJ5Dlc0
(メ)_・`)「逃げやしねえし、逃がしもしねえよ!!ぶっ殺される覚悟は出来たか!?」
声を持たない奴は、返事の代わりに『鱗』を逆立たせる。手負いの相手が手強いのは、裏も表も同じことだ
(メ)_・`)「華々しく散らせてやるよ!!クソッタレの害虫には勿体ねえほど盛大になァ!!」
(,,゚-゚)「おーよ!!」
しずくと共に、一歩前へ踏み出す。俺は矛を、しずくはクナイをそれぞれ構えた
(メ)_・`)「ここは害成す怪異の『終着点』!!」
(,,゚ワ゚)「地獄行きへの『始発点』!!」
(メ)_・`)「お相手致すは小練 詩音とォ!!」
(,,゚ワ゚)「とっても可愛い儀社しずくちゃん!!」
いつになったら口上を覚えるんだこいつ
(メ)_・`)「恨むなら、迂闊に踏み込んだテメーを恨め!!」
(,,゚ワ゚)「身の程知らずの自分を恥じろ!!」
(メ)_・`)「『命ある者』を敵に回した、その恐ろしさ思い知れ!!」
63
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:19:00 ID:bDiJ5Dlc0
(#メ)_・`)(,,>ワ<)「「『鬼ヶ村』へようこそ!!!!!!!!!!!!!!!」」
(#メ)_・`)「かかって来い」
.
64
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:20:47 ID:bDiJ5Dlc0
⌒*リ;´・-・リ「……」
イ从;= -=ノi、「……」
⌒*リ;´・-・リ「練習……してらっしゃいます?」
イ从;= -=ノi、「聞かないで、恥ずかしいから」
なんでや、かっこええやろ
(,#゚-゚)「来るよ先生ッ!!」
刃は決定打に欠け、柱は迎撃されると判断してか、蛇行で迫るハガキの大蛇。あの中に潜む『一枚』を、これからあぶり出さねばならない
(#メ)_・`)「俺が削る!!トドメはお前が刺せ!!」
(,#゚-゚)「印でもあんの!?」
(#メ)_・`)「これも修行だ観察しろ!!!!!」
(,#゚-゚)「不親切だなぁもう!!」
柄を両手に先陣を切り、上半身を大きく捻る。蛇は顎を外し、俺を頭から飲み込まんと大口を広げた
(#メ)_・`)「ッッッッラァッ!!!!!!!!!!!」
脚、腰、そして肩から腕へ。捻りから繰り出される遠心力を矛先に乗せ、奴の左頬にあたる部分をぶっ叩く
刃の接触部から『頭』がごっそりと捥ぎ取れ、鮮血が噴き出すかのように『中身』が上へと飛び散った
(#メ)_・`)「ッ!!」
生物であるならこれで終いだが、大蛇は蜷局を巻いて『蛇腹』で体当たりをかましてくる。腕と柄でガードしたが、その巨大さ故に俺の身体は若干の後退を余儀なくされた
体勢が崩れたこの隙に、ハガキは上空へと舞い上がる。少しの滞空の後、接触面積を広くして頭上から一気に降り注いだ
65
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:22:35 ID:bDiJ5Dlc0
(#メ)_・`)「オラよッ!!」
的がデカくなったのは此方にとっても好都合だ。《流》で生命力を滞留させた矛を、『滝』目掛けて放り投げた
回転しながら衝突し、ハガキの群は真っ二つに割れる。幾らか量は減ったが、それでも構わず落ちてくる
結構、接触までの時間を少しは稼げた。本命はこっちじゃない
(#メ)_・`)「俺の全力をぶつけてやるよォ!!!!!!!《握》ッ!!!!!!!!」
両拳を叩き合わせ、腰の位置まで下ろす。前後に脚を開き踏ん張りが効くようにして、足首から膝を柔らかく折り、『発射体勢』を整えた
(#メ)_・`)「く、た、ば……」
『御出席』の文字がハッキリと見える所まで迫った大蛇へと向けて―――――
(#メ)_゚`)「れええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
渾身の両アッパーを放った
66
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:24:48 ID:bDiJ5Dlc0
(#メ)_゚`)「ええええええええええええええええええええええええええええええああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
今ならGiven Upの17秒シャウト出せるんじゃないかってくらいの気合と声を乗せて生命力を拳から叩き込む
大蛇は身体のあちこちから『裏』が突沸。爆発と共に焦げたハガキが噴き出し、身は細く痩せ細っていった
(#メ)_゚`)「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
実はもう17秒経ってるんじゃない?????俺って実はチェスターの生まれ変わりだった?????そんなことはどうでもいい。『まだ見つからないのか!?』
奴にとっても大ダメージの双撃だが、俺の負担も相当だ。生命力の使用はまず『体力』を、それが尽きれば『寿命』を削る諸刃の剣
二時間くらいこのままでも百二十歳まで生きる自信はあったが、朝飯を食ってない身には少々堪える。印は付けてあるんだ。あいつなら、しずくなら見つけるのは容易い
(#メ)_゚`)そ「ああああああああああああああああああああッ!?おわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!???????」
すると、両拳から身体に圧し掛かる負荷が急に軽くなり、勢い余って腕から全身をピンと伸ばした状態でうつ伏せに倒れ込んでしまう
(,#゚ワ゚)「獲ったぁ!!!!!!!!!」
ガッツポーズを取ったしずくが俺の視線に気づくと、興奮気味に空を指さす。只の紙切れと化した招待状が舞い落ちる中に、ハッキリとした存在感を持つ『一枚』
(メ)_・`)「やれやれ……」
縁に僅かな血が染み込んだ本体が、土手っ腹を貫かれてフワリと舞っている。最初に奴と接触した時に、プランBを見越して付けていたのだ
招待状は身に空いた大穴から黒く焼け焦げていき、地面に到達する頃には灰となって消え失せる。後に遺されたのは、裏の支配から解放され、自由気ままに地と空を泳ぐ紙切れだけだった
67
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:26:33 ID:bDiJ5Dlc0
(;メ)_・`)「終わった……」
想定より奮闘され、俺の身体はズタボロボンボンだ。寝返りを打って仰向けになった身体には、もはや破壊力のはの字もないハガキが降り積もる。これはこれでうぜえな……
⌒*リ;´・-・リ 「大丈夫ですか!?」
(;メ)_・`)「見りゃわかるだろ余裕じゃい。絶好調で天丼百杯食えるわ派手にな」
⌒*リ´・-・リ 「とてもそんな風には見えませんけど!?血みどろじゃないですか!!」
抜けた腰が入ったのか、それとも呪縛から逃れて気を取り戻したのか。駆け寄ってきた高梨さんが心配そうに俺を覗き込む
確かに全身切り傷だらけだし、顔もなんか痛い。それに加えて、生命力の使い過ぎで足腰に力が入らない
物理で攻めてくるタイプはこれだから厄介だ。領域展開型や異能射出型ならもうちょい生傷も減るのだが
(;メ)_・`)「あー」
やっぱダメだ。失血と疲労で瞼が降り始めてきた。まぁ後は二人に任せて休んでもいいか……
イ从゚ -゚ノi、「ちょっと」
(;メ)_・`)「っ……痛ぇな……」
頭を小突……今こいつ蹴ったよな?まぁええわ。眠りを妨げた銀が不満げに俺を見下す。性癖は拗れてないんで興奮はしなかった
(;メ)_・`)「何だよ……」
イ从゚ -゚ノi、「私の朝餉、用意してから寝てくれない?」
鬼かよこいつ
(,;゚□゚)「……」
しずくですら絶句してんじゃねえか
68
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:27:41 ID:bDiJ5Dlc0
(;メ)_・`)「昨日のビーフシチュー……保温してあるし……副菜も取り分けてある……」
(;メ)_・`)「あと……パンくらい……自分で焼……」
(;メ)_ `)「け……」死!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「小練さん!?小練さーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」
「あらら、死んじゃった」
「しょうがないわね、全く……」
姦しい声が遠くなり、俺の意識はしばしの休憩に入ったのであった
69
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:28:51 ID:bDiJ5Dlc0
―――――
―――
―
目が覚めたのはとっぷりと日が暮れた頃。施設内のハガキは『とりあえず脇にどかしときましたっス!!ピィーッス!!』程度には片づけられていた
作り置きした覚えのない夕飯の匂いに誘われてカフェテリアへ足を運ぶと、なんと作っていたのは客である高梨さんだった。従業員二人は好き勝手してた
⌒*リ;´^-^リ「お世話になったんですし、これくらいさせてください。だから土下座やめてマジで。こっちが悪い事した気になっちゃうじゃないですか」
と仰ったので、申し訳ないがお言葉に甘えることにした
(,,゚-゚)「仕事放棄してずっと寝てた先生が悪いよね?」
イ从゚ -゚ノi、「そうね。ここまで軟弱とは思ってなかったわ」
こん時はゲロ吐くまで蹴り飛ばそうと思ったが
⌒*リ;´・-・リ「怒らないであげてください。お二人とも、小練さんの介抱で手一杯だったんです」
と、こっそり教えてくれたので、今日の所は勘弁してやることにした。ツンデレ共がよ……
70
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:31:08 ID:bDiJ5Dlc0
さて、招待状の件は解決したが、高梨さんには予定していた期間中はこの場所で滞在して貰う運びとなった
事後処理も残っていたし、何より彼女が感謝を形として返したいと申し出たからだ。俺達はありがたく厚意を受け取る事にした
(;´・_・`)「めんどくせえ……」
仕事は文字通り『山』ほどあった。裏の残骸であるハガキの処理だ
既に印字されてるもんだから売って金にも出来ねえし、こんな山奥まで廃品回収車はやってこない。そもそも大分昔にその文化無くなってたわ
なので、地道に集めて燃やすしかなかった。遠くに飛んで行ったのは知らん。勝手に長い年月欠けて土になれや死ねカス
(,,゚ワ゚)「芋持ってきたよ!!」
(´^_^`)「いいねえ!!」
⌒*リ;´・-・リ「えっ……これで焼いた物食べて大丈夫なんですか……?」
イ从゚ -゚ノi、「食べられる怪異もあるし、大丈夫なんじゃない?くねくねとか」
⌒*リ;´・-・リ「ええ……古い怪談ですよねそれ……美味しいんですか?」
イ从゚ -゚ノi、「味のしないはんぺん」
大桜堂を始めとしたその他支部、そして本部へ宛てる報告書の作成
(´・_・`)「死ねカス、と……送信!!」
イ从゚ -゚ノi、「ガキか」
まぁこれはそんな大変でも無かったな。翌日ものすげえ量の抗議メッセージが届いたが。役立たずの分際で口だけは達者だな死ねカス
おっと、そうそう。クソザコ霊媒師に支払った金を取り戻すのも忘れちゃなんねえ
(#´゚_゚`)「大した仕事も出来ねえ分際で一丁前にカタギから搾り取ってんじゃねえぞダボがァ!!!!!!高梨の嬢から奪った金、とっとと耳揃えて返さんかいゴラァ!!!!!!!」
:⌒*リ;´・-・リ:「ひえ……筋モノか大阪府警……」
イ从゚ -゚ノi、「それ、対極に位置する存在じゃない?」
(,,゚-゚)「どっちでもいけるよあの迫力」
話せばわかってくれる連中ばかりで助かった
71
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:33:02 ID:bDiJ5Dlc0
一週間は、あっという間に過ぎていった。最終日の朝、帰り支度を終えた高梨さんは、留守番二人に別れを告げる
⌒*リ´^-^リ「お世話になりました」
イ从゚ ー゚ノi、「此方こそ。気を付けて帰りなさい」
(,,゚ワ゚)「また遊びに来てね!!」
⌒*リ´^-^リ「勿論。ありがとね、しずくちゃん」
銀とは握手を、しずくとはハイタッチを交わし、荷物を手に颯爽とオンボロバスに乗り込んだ。珍しく機嫌が良く、ドアはすんなりと閉まる
(´・_・`)「そんじゃ、発車しますっと」
⌒*リ´・-・リ「はい」
バックミラーに映る彼女には、一週間前の憔悴など欠片も残っていない。『招待状』が生き残っていたら、きっと歯ぎしりをして悔しがっただろう
半年も掛けて追い込んだ獲物が、たった七日で元気な姿を取り戻したのだから
<またねー!!
⌒*リ´^-^リノシ「ばいばーい!!」
開けた窓から身を乗り出し、二人の姿が見えなくなるまで手を振る彼女。少しばかりスピードを緩め、悪路に入るまでの猶予を作ってやった
72
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:34:06 ID:bDiJ5Dlc0
その後、酷道を抜けて最寄りのバス停へと到着。前日に連絡は入れておいたので、乗り換えのバスは既に待機していた
⌒*リ;´ - リ「……」
唯一の乗客は見事に酔ってた。行きはヨイヨイ帰りは恐いってこれかぁ!!!!!!!
(;´・_・`)「ゲロ袋いる?」
⌒*リ;´ - リ「はい……ウッ」
アレする描写は、彼女の名誉の為省略させていただく。悪しからず。代わりに昔流行ったなんちゃらアート載せたれ
,, -―-、
/ ヽ
/ ̄ ̄/ /i⌒ヽ、| おぇーー!!!!
/ (゜)/ / /
/ ト、.,../ ,ー-、
=彳 \\‘゚。、` ヽ。、o
/ \\゚。、。、o
/ /⌒ ヽ ヽU o
/ │ `ヽU ∴l
│ │ U :l
|:!
U
汚っ。昔の人は何考えてこんなもん作ったんだ?
⌒*リ;´・-・リ「お、お目汚し失礼しました……」
(;´・_・`)「お気にならさんな。気分が優れたのならそれでい……いや置いとけってこっちで処理するから」
73
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:35:59 ID:bDiJ5Dlc0
荷物を肩代わりし、先にバスを降りて手を差し伸べる。やや遠慮気味に握り返した彼女は、これまた珍しく機嫌の良く開いたドアを抜けて道路へ降り立った
⌒*リ´・-・リ「何から何まで、本当にありがとうございました。お金まで取り戻して頂いて……」
(´・_・`)「構わねえよ。こっちも商売でやってっからな」
霊媒師共からはほぼ全額が返って来たと言っており、その内の二割を今回の成功報酬兼滞在費として頂戴した
高梨さんが『八割払います!!』って息巻いたときは銀ですら『多すぎ』とツッコミを入れていた。二割でも多い方なんだがな
⌒*リ´・-・リ「では……」
(´・_・`)「ああ」
反対車線のバス停まで、一分も掛かりはしない。荷物をお返しすると、おじいちゃん運転手がバスの扉を静かに開けた
⌒*リ´・-・リ「……」
(´・_・`)「?」
何故か彼女は乗り込もうとしなかった。まだ酔いが残っているのだろうか。一歩先が踏み出せず、躊躇っている感じがした
⌒*リ;´・-・リ「あの!!」
(´・_・`)そ「あっ、はい」
⌒*リ;´・-・リ「また……また、助けてくれますか!?私が『裏』に襲われて、心も身体も疲弊した時、温かく迎え入れてくれますか!?」
何かと、思えば
(´^_^`)・'.。゜「ブブホゥwwwwwwwwwwwww」
⌒*リ;´・-・リそ「笑った!?」
『元居た場所』に帰るのが、恐いだけかよ
74
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:38:30 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「ああ、いや失礼。不意打ちだったもんで」
運ちゃんは空気読んでドア閉めてくれた。長生きしろおじいちゃん
(´・_・`)「昔のアンタとこれからのアンタは、全くの別モンだよ。裏にせよ怪異にせよ、襲われることなんてほぼねえよ」
⌒*リ;´・-・リ「でも……」
第一印象の気弱さがぶり返してきたか。しょうがねえなこの姉ちゃんは。ちょっとエールでも送るか
(´・_・`)「アンタは招待状の猛威に半年も耐えたに留まらず、『自分の力』で奴らの包囲網を破ったんだ。生命力の持つ生き物なら誰にだって出来ることだが、容易くはない」
(´・_・`)「自信を持つんだな、高梨 莉花さんよ。これから先のクソ長ぇ人生、その場に蹲りたくなるような艱難辛苦に襲われるだろう。それでも、アンタは前を見据えて歩き出せる強さを持ってる」
(´・_・`)「『何があろうと生きるという気持ちを忘れるな』、だ。この気持ちさえ持っていれば、例え再び招待状が届こうが、俺らの手なんか借りずとも自分で乗り越えられるさ。だってよ……」
高梨さんの表情は、まだ不安の色が残っていた。だけど、少し背中を押してやるだけで
⌒*リ´^-^リ「『生きてる奴の方が、何倍も強い』。ですよね」
(´・_・`)「……その通りだ」
案外恐怖という感情は、薄まっていくものだ
75
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:40:40 ID:bDiJ5Dlc0
(´・_・`)「今度は、療養じゃなくてバカンスで来な。何もねえクソ田舎だが、美味いメシと空気だけは腹いっぱい食らわせてやるよ」
⌒*リ´・-・リ「はい!!」
元気よく返事をした彼女と、別れの握手を交わす。運ちゃんは空気読んでドア開けてくれた。気配り上手だな。ええ?
⌒*リ´・-・リ「銀さんとしずくちゃんに、よろしく伝えてください。小練さんも、お身体を大切に」
(´・_・`)「そっちもな。これからの人生に、幸多からんことを」
最後に眩しい笑顔を返すと、彼女を元の世界に送り出すバスへと、力強く一歩を踏み出した。最後部座席に腰を降ろし、振り返って手を振ってくる。俺もまた、小さく手を振り返した
バスは静かにタイヤを回し、ある程度舗装された道路を進み始める。彼女に習い、その姿が見えなくなるまでその場で手を振り続けた
(´・_・`)「……」
裏の魔の手から逃れた者が、再び狙われるという事例は少なくない。その多くが、他人より優しいが故に割を食う『善き人』だからだ
きっと高梨さんも、これから先の人生で何度も躓き、挫け、転ぶのだろう。その度に、奴らの食指に狙われるのだろう
それでも、俺達は彼女が、ひいては『善き人達』が、奴らを跳ね除ける力を持っていると知っている。信じている
(´・_・`)「頑張れよ」
自然と零れ出た、たった五文字のエールは、山風に吹かれて遠くへと消えていった
76
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:41:09 ID:bDiJ5Dlc0
もしも貴方が
77
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:42:43 ID:bDiJ5Dlc0
(#´・_・`)「ハァ!?今回の報酬の半額が仲介料!?ふざけんじゃねえ店を物理的に畳むぞクソアマ!!!!!」
« 厭やわぁ、イライラして。お金の切れ目が縁の切れ目やて言うやないの。ウチのお陰でたんまり稼げたんやから、折半は当然とちゃいますのん? »
霊的で不可解な現象にお困りだったら
(,,゚-゚)「今度は鈴ねぇに言いくるめられずに済むと思う?」
イ从゚ -゚ノi、「出来ないにエビフライ一本賭けるわ」
(,,゚□゚)そ「ズルいよ銀ねぇ!!ボクもそっちがいい!!」
胡散臭い霊媒師に連絡する前に、此方へご相談を
« あらあら、ご家族にも信用のぉて肩身が狭いなぁ。パパさん? »
(#´・_・`)「だぁってろクソ京都人!!おめえら聞こえてんだぞ!!」
生意気で可愛いクソガキと
(,,゚ワ゚)「乙女のお喋りに聞き耳立ててたって……コト!?」
性悪で優しい妖怪と
イ从゚ -゚ノi、「ほんと、紳士気取りの癖にスケベよねぇ」
そしてこの俺が
(#´゚_゚`)「メシ抜きにされてぇのかァ!!!!!!!!!!!!!!!」
誠心誠意、真心込めて『駆除』します
78
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:45:40 ID:bDiJ5Dlc0
御用の方は是非、『鬼ヶ村トレーニングセンター ねぐら』へご連絡を
お相手は、小練 詩音でした。それでは―――――
.
79
:
◆M0yfIGPt92
:2021/10/23(土) 23:46:15 ID:bDiJ5Dlc0
『The Demon Village.』
.
80
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 00:13:56 ID:e2x6Yf4s0
otu
81
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 11:29:23 ID:ns8tn0YY0
おちんちん!!
82
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 21:37:46 ID:nvDbhxEY0
おもろかった 乙
83
:
名無しさん
:2021/10/24(日) 23:07:10 ID:kyVrvfC20
うむうむ、麿はこういうの大好き貴族でおじゃる
84
:
名無しさん
:2021/10/25(月) 20:00:11 ID:4K0S9Ctk0
おつ!
これはいい活劇、やっぱ筋肉は正義だな
85
:
名無しさん
:2021/10/30(土) 19:14:31 ID:HRFodnqU0
乙!
面白かった!!
86
:
名無しさん
:2021/10/30(土) 20:43:58 ID:XxtNIEaM0
乙
まとめサイトで読んだから曲が自動再生されたわ
職場で
87
:
名無しさん
:2021/10/30(土) 21:41:45 ID:qyUF/BDU0
わかる
88
:
名無しさん
:2021/11/06(土) 12:37:30 ID:cnJQyY8M0
少年誌の読み切りだこれ!
89
:
名無しさん
:2021/11/09(火) 19:20:48 ID:3da7n5Sk0
おつ
次の話も読みたくなる作品
90
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:46:47 ID:ZLjr42H60
.
91
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:48:10 ID:ZLjr42H60
(´・_・`)「よっこらせ」
よう、俺だ。もうすぐサマーシーズン到来なんで『ねぐら』も副業が本格的に始まる。そして仗助が露伴とチンチロチンをする。今はその下準備中だ
既に幾つかの団体から宿泊予約が入っている。ありがたいね。副業はアガリを送らなくていいから助かる。なんで命懸けで稼いだ金を上にやらなくちゃならないんだろうか。早いところ物理的に潰したい
(,,゚-゚)「せんせー」
(´・_・`)「なんじゃー」
(,,゚-゚)「明後日にはグリコねぇ来るって」
(´・_・`)「はいよー」
一粒300メートルじゃない。毎年夏になると来てくれる住み込みアルバイトだ。普段は三人しかいないこの場所も、繁忙期には数十人分の食事を用意しなければならない
彼女の作る飯はバカクソ美味いので、メシ目当てのリピーターも多いのだ。何てったって彼女の先祖は小便で味噌汁を作ってたのを旦那に見つかって追い出された妖怪なのだから
妖怪って下ネタで美味いもん寄越して来るやつ結構多い。特に植物系はその傾向ある。オッサンの姿をした柿の妖怪がケツの穴ほじって舐めろとか言ってくるんだぜ?ぶっ殺そうかと思ったね
(,,~□~)=3「今年も汗臭い季節が来ると思うと辟易するよ。一人で十分だってのに」
(´・_・`)「お前それ他所のオッサンに絶対言うなよ?」
(,,゚-゚)「なんで?悦ぶから?」
(´・_・`)「傷つくからじゃい」
オッサンがみんな変態だと思うなよ
(,,゚-゚)「ボク、美少女だよ?」
(´・_・`)「だから何だよ……」
可愛いは正義じゃねえんだよ
92
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:50:01 ID:ZLjr42H60
(´・_・`)「ハァー……いい時間だし、ちょっと休憩にするか」
(,,゚ワ゚)「おやつ!!」
(´・_・`)「はいはい。お銀呼んで来い」
(,,゚□゚)「銀ねぇおやつーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
幾らなんでも聞こえねえだろどんだけセミ鳴いてると思ってんだ皆鳴ミセリかよ
このアホに任せるのは諦めて迎えに行こうとした瞬間、蒸し暑さも消し飛ぶような涼し気な表情をした銀が、廊下からひょっこり顔を覗かせた
イ从゚ -゚ノi、「あら、ちょうど良かったわ」
(´・_・`)「来るじゃん……」
(,,゚ー゚) フフン
腹立つ
イ从゚ -゚ノi、「何?来ちゃ悪かったかしら?」
(´・_・`)「お迎えに上がる手間が省けて大変助かったよ。何か用があったのか?」
イ从゚ -゚ノi、「アンタ、デバイス置きっぱなしだったでしょ。メッセ来てるわよ」
投げ渡されたのは腕輪型の携帯デバイス『i-ring』だ。本業は何かと荒事が多いのと、霊障による電波ジャック等の不具合も多発する為、普段からあまり身につけていない
ホログラムで映し出されたされた通知タブには、幾つかの連絡履歴が表示されている。その内の一つは、最近まで面倒を見ていた客の一人だった
(´・_・`)「高梨さんからの近況報告だな」
(,,゚-゚)「いやらしい自撮り?」
(´・_・`)「近況報告。どれどれ……」
あれから二か月弱経ったが、招待状の類はあの日以来一枚も届いていない。毎晩枕を高くして眠っているらしい
再就職も無事に終わり、今は大手喫茶チェーンの店員として充実した毎日を送っている。街を訪れる機会があるなら、是非立ち寄って欲しいと締めくくられていた
一先ず、彼女は平穏な人生を順調に歩んでいるようで安心した。これなら、『裏』から再び狙われるなんてことも無さそうだ
93
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:51:29 ID:ZLjr42H60
イ从゚ -゚ノi、「活きが良さそうね」
(,,゚-゚)「ピッチピチだね」
(´・_・`)「『元気そう』でいいだろ何で海産物みたいな扱いになってんだ」
言葉選びが雑過ぎる
(´・_・`)「後は……あれ?」
この時期には珍しい、『副業』の客からの連絡が入っていた
イ从゚ -゚ノi、「問題?」
(´・_・`)「いや、三浦さんからだ」
イ从゚ -゚ノi、「あの人から?少し早くないかしら?」
(´・_・`)「そうだな……ちょっと、掛けなおしてくるわ」
(,,゚-゚)「おやつは?」
(´・_・`)「仕事が先」
(,,゚3゚)「なんだよぉ〜。早く済ませてよね」
唇を尖らせたしずくの頭を雑に撫でまわし、少々席を外す。i-ringを腕に嵌め、メニュー画面から受話器のアイコンを押してリダイアルする
少しの間待つと、「はい、三浦です」と落ち着いた低い声色の男性が応答した。こんな所で長い事お嬢さん二人の面倒見ながら生活していると俺以外の男の声が逆に新鮮
(´・_・`)「ご無沙汰しております。小練です。お待たせして申し訳ございません」
«いえ。此方こそ、お忙しい所お手数を取らせてしまって»
(´・_・`)「お気になさらず。今日はどういったご用件でしょうか?」
«その……大変、申し上げにくいのですが……個人的な依頼でして……»
随分と歯切れが悪いな。もしかしたら『本業』の可能性もある
94
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:52:28 ID:ZLjr42H60
(´・_・`)「荒事でしょうか?」
«荒……ああ、すみません。誤解させてしまって申し訳ない。そうですね、率直に申し上げましょう»
最初からそうせんかいハッキリせんオッサンやな
«若者を二名、其方で鍛え上げて欲しいのです»
(´・_・`)「若者」
«データを送ります。ご確認を」
ポップアップされた送付ファイルを開く。だいぶ個性的な顔面をしたガキ二人の、簡単なプロフィールだ
『('A`) 宇都宮 徳雄』
『( ^ω^) 内藤 文彦』
一方は二十代前半のブサイクな男。もう一方は高校生のデブと来たか。ブサイクはパッと見でもそこそこな『やり手』だが、デブは普通のデブだな
ちぐはぐな年代と体形。この二人を結びつける『スポーツ』の類は、一つしか思い浮かばない。依頼主もかつては『そいつ』で天辺を獲った猛者だ
(´・_・`)「『新入り』ですか?」
«いえ、チームとは無関係です。私も『依頼』された立場なのですが、私の指導の下で鍛えるよりもいっそ『地獄』を見せた方が伸びると判断しました»
(´・_・`)「……」
あまり好まない方法だ。獅子は我が子を千尋の谷に落とすと言うが、本当に『舞台』で活躍させたいのであれば、心と身体を潰してしまうような指導、教育などあってはならない
しかし過酷な環境を経て、爆発的に成長する者がいるのもまた事実だ。現に、その『成功例』が、今もこの場所で生き残っているのだから
(´・_・`)「……それは『彼ら』も知っての上でしょうか?」
«勿論です。なんせ、掲げる目標が『ジャパンカップ初出場にして制覇』ですから»
おいこいつら相当なバカじゃねーか。気に入った
95
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:54:34 ID:ZLjr42H60
(´・_・`)「並大抵の地獄じゃ済みませんが、構いませんね?」
«ええ、シゴキにシゴいてやってください»
こいつは久々に腕が鳴る仕事だ。快く受けさせて頂こう
(´・_・`)「わかりました。代表は三浦さんで宜しいですか?」
«いえ、私はただの仲介役ですので……此方です」
追加で送られてきたデータを確認すると、今度は腹の立つ笑顔を浮かべるオッサンの姿
『(´^ω^`) 大潮 本八』
奇遇なことに、高梨さんが就職したというチェーン店の『元締め』だ
«期間は八月から一ケ月を希望しています。急な依頼なので、指導料については言い値で構わないそうです»
(´・_・`)「そりゃ気前が良い」
«詳細につきましては、ご都合の付く日に連絡を差し上げたいと申しておりました。いつ頃が宜しいですか?»
(´・_・`)「それでは……」
打ち合わせの段取りを簡単に済ませ、軽い挨拶を交わして通話を終えた。三浦さんも面白い依頼をしてくれたもんだ
(´・_・`)「ハハ……」
俺が鍛えたガキ共が、『チャリオッツ』最高峰の大会で優勝する。そんな光景を目の当たりにするチャンスを与えてくれたのだから
96
:
◆M0yfIGPt92
:2021/11/14(日) 01:55:03 ID:ZLjr42H60
<せんせー!!まだー!?
(´・_・`)「やれやれ……」
妹分に急かされ、お嬢様方のお茶の用意をしに戻る。窓の外では、相変わらずセミ共がミンミンと喧しかったが
俺の中で膨れ上がる期待感を体言しているようで、いつもより少しばかり耳触りは良かった
今年もまた『熱い夏』が、始まったのだった―――――
.
97
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/11/14(日) 01:56:19 ID:ZLjr42H60
Desperado Chariots × The Demon Village.
2022年 公開予定
98
:
名無しさん
:2021/11/14(日) 02:07:49 ID:3zzIDFCk0
きたわね
99
:
◆L6OaR8HKlk
:2021/11/14(日) 02:19:03 ID:ZLjr42H60
お疲れさまでした。ハロウィンライスちゃんに幾ら使いましたか?僕は十連でクリークと一緒に来てくれました
鬱も猟奇も書けないし音楽モチーフの話が思い浮かばなかったんでやりたいことを優先した結果がご覧の有様だよビックリだわ
元々現行の第二部で登場させようと思ってたキャラクター達で、宿泊施設管理の裏でこういうことやってますよってのを祭の場を借りて紹介出来たのは良かったです
2121年の話なのにしずくのネタが妙に古いのもちゃんと理由があるんでそこまでは頑張って書こうと思います。それから先は知らん。勝手にして
100
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 16:44:25 ID:/SoSN3TA0
面白くなってきたじゃねーの
101
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 20:19:22 ID:pMe9y2yA0
無限にワクワクさせやがって
102
:
名無しさん
:2021/11/17(水) 22:03:42 ID:XzAZnxZE0
やったぜ楽しみ
103
:
名無しさん
:2022/01/28(金) 12:28:18 ID:XdRgOtbI0
今日これ見つけて読んだけどめちゃくちゃ面白いな!
104
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 00:17:37 ID:HcLXXAEI0
https://www.youtube.com/watch?v=H4dGpz6cnHo
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105
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 09:47:23 ID:HcLXXAEI0
ご覧の映像をご存知だろうか。百年ほど前に流行したクリーピー・パスタ、『バックルーム』だ。え?ナートゥかと思った?頭インドか?
当時若干十七歳だった『Kane Pixel』というクリエイターが制作した動画は、瞬く間にインターネット・ミームとして流行し、有志によって世界観は拡張していった
クソ人間共の夏至祭を描いたホラー映画『ミッドサマー』を手掛けたスタジオによって、Kane氏を監督に据えた映画まで公開された
まぁ流行ってもんは廃り行くもんだ。百年も経過すりゃあ、膨大なインターネットの世界の片隅で忘れ去られているファウンド・フッテージの一つに成り下がっちまうのも頷けるだろうよ
だが俺らの界隈では、この『バックルーム』はある危険地帯と酷似していることで知られていた。その名も、『狭間』という
さて、ここで前回のおさらいと行こうか。『裏』の話をしたのを覚えてるか?疲弊した人間を怪奇現象で更に弱らせ、『命』を喰らう為に自らの世界へ引きずり込む恥知らずのクソ共だ
俺らがいる世界を『表』として、向こうの世界は『裏』。その二つの世界の中間を、『狭間』と呼ぶ。イメージとしてはトンネルが近いだろうか
『裏』が俺らのいる側に現れる際、必ず『境界』を通って現れる。メジャーな出入り口はドアや窓、鑑に水面。ちょっと大きいもんで『階段』も該当するな
俺ら人間が境界を通じて『裏側の世界』に侵入する方法は二つある。一つは、『裏』に連れ去られてしまった時。こうなったら後は向こうで食われて終いだから、侵入とは言い難いかな?
もう一つが、境界から『狭間』を経由し、そこから更に裏への入り口を探る方法だ
106
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 09:59:36 ID:HcLXXAEI0
そもそも、狭間ってのは何か
端的に言い表すなら『表の要素を取り入れた裏の性質を持つ世界』だろうか。最も色濃く影響を受けているのは建造物だ
狭間に侵入した奴を最初に迎え入れるのは、先ほどの映像のように広大に広がる室内だ。但し、映像のように黄色いカーペットや壁紙の無機質な世界が広がってるとは限らない
例えば、キミがショッピングモールから狭間に侵入したとしよう。エレベーターのドアが開いた瞬間に、突き当りが見えないほどの広い広い専門店街がお出迎えだ
利用客も店員も、人っ子一人いない空間。穏やかだが延々とループする店内BGM、一昔前の精度の低いAIが生成したような支離滅裂な言語の店名に、袖口が『二つ以上』ある前衛的な衣服を展示する膨大な数のマネキン
このように、元居た場所と類似する『階層』に飛ばされるというワケだ
ああ、心配すんな。こんなの街中で頻繁に起こって堪るかよ。そりゃ、一部の層は喜ぶかもしれねえが、大体の被害者は発狂間違いなしだ
強いて起こりやすい場所と言えば……いや、やめとこう。好奇心旺盛なバカの面倒なんざ見たくねえからな
あえて一つ挙げるとすれば、皆さんのご想像通り、『ウチ』がそうだ。怪異が発生しやすい環境下では、狭間との繋がりが発生しやすい
『ねぐら』の宿泊部屋に置いてある注意事項に目を通したか?目敏い奴なら、『三階への立ち入り禁止』に首を傾げた事だろう
1シーズンに1、2回、狭間への入り口が『階段』として現れる。殆どがほんの数秒、そして目撃者がいないタイミングで発生する
『入り口』自体に、人間を惑わす異能はない。ただ現れ、時間が経てば消えるだけの『蜃気楼』のようなものだ
ただ人には、高い知能と強い好奇心を持つ『ヒト』という種には、恐怖やスリルを求める欲がある
入り口に異能は無い。『必要が無い』。本来存在し得ない物が『そこにあること』こそ、獲物を誘う最大の『餌』として機能するからだ
誘い込んだ者を、腹の中にある広大な迷宮で彷徨わせる為に
好奇心を刺激するだけの異能なら、そこまで迷惑なもんでも無かったのだが
107
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:01:02 ID:HcLXXAEI0
狭間は常に表と裏の情報を取り込み、アップデートして広がっていく世界だ。それは一重に建造物のみならず、ヒトの習慣や趣向なども取り込んでいく
生きる為ではなく、舌を楽しませる為だけに食べるお菓子
子孫を残す為ではなく、ただ快楽を得たいが為に行うセックス
賃金にならないと知っても、ゲームや読書や映像視聴に費やす膨大な時間
健康リスクを承知の上で嗜む酒やタバコ。体温の保持、引いては生命維持には全く役に立たない装飾品
ヒトは他のどの生命体にも追随を許さぬ程に『無駄』を楽しむことに長けている
ではこの『無駄』を、ヒトの手に余る超常の存在に真似されたらどうなるか。想像に難くない筈だ
食べもしないのに羽虫の手足を千切るかの如く
ペットの命の責任を最期まで全うせず捨て去るかの如く
加工され尽くした果てに、期限が切れたという理由で廃棄される家畜の肉の如く
『楽しい』『美味しい』『可愛い』『面白い』『気持ち良い』
無駄を楽しむ為に、『入り口』は本来必要のない『異能』を用いて、積極的に獲物を攫うのだ
さて、貴方が万が一、この悪意無き害意の標的となり、まんまと『入り口』を潜ってしまったら?
途方も無い広大な迷宮に、着の身着のまま足を踏み入れてしまったら?
そこは霧中よりも濃く、暗闇よりも先が見えないリミナルスペース
奇妙奇天烈、鬼ヶ村の七不思議が一つ、『立ち入り禁止の三階』
これは、狭間と『狭間に関わる人間』が引き起こした、実に傍迷惑な話―――――
108
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:01:27 ID:HcLXXAEI0
『狭間 “In The Backrooms.”』
.
109
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:02:16 ID:HcLXXAEI0
『神隠し』。某アニメ映画でその言葉は爆発的に知れ渡った
不運な災害、事故。悪意ある第三者による犯罪。あるいは神秘、怪異による超常現象。そのいずれかに該当する失踪を指す
表に出ている神隠しの多くは、残念ながら未解決として処理されている。その殆どが、超常の関わらない人為的な失踪や誘拐、拉致事件だ
何故そんな事がわかるのかって?そりゃあお前、神や物の怪が関わってんのなら、『俺ら』の仕事の範疇だからさ
(´・_・`)「っつーワケで頼むわ」
《アンタなぁ……ウチかて暇や無いんやで?》
『人探し』の達人は、渋い声で返答した。平日真っ昼間に他所のヘルプを頼まれて、良い顔する奴なんていないのは承知だが、こっちも同じく無駄な時間を使えないのだ
銀が『狭間』の発生を探知して一分も経たないうちに、速攻で利用客が四人も飲み込まれている。ねぐらから通じる狭間の階層は危険度こそ低いが、一度迷い込んでしまうと、俺みたいな異能無しが捜索するには骨が折れる
《センセがこの時期忙しいのも知っとるけど、ウチの店かて営業時間中なんやで?そんな中で助っ人頼みたいって、なんぼ何でも道理が通らんとちゃいますん?》
口では嫌がっていても、内心ウキウキで算盤を弾いているのが透けて見えている。手痛い出費だが、幾らか小遣いは渡さねばならない
110
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:02:54 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「3」
《8》
(´・_・`)「吹っかけすぎだ。3.1」
《そういうアンタは刻み過ぎや》
(´・_・`)「じゃあ昼飯付きで4」
《6。それとタマ代もそっち持ち》
(´・_・`)「デザートも付けて5」
《次回の委託料も半額。それで手打ちや》
(´・_・`)「他の奴に頼むわ」
《わかったわかった。それで堪忍したる》
オマケ付けて実質10の取引は幾ら何でも割に合わない。元々5が手打ちラインだろう。欲張ると何も手に入らないのは二羽の兎を追っかけた名も知らぬバカが証明している
《たまには気前ええとこ見せて欲しいもんやわぁ》
(´・_・`)「生憎、遠慮を知らねえ奴に開く財布は持ち合わせてねえんでな。カフェオレには此方から話を通しておく。後でな」
《ちゃあんとおべんと持ってきてや》
通話を終え、時間を確認する。13時を半分回ったほど。狭間の出現から十五分が経過している
遭難の救出は早ければ早いほど良いに決まっているが、何事も下準備は必要だ
先方には銀が既に連絡を取っている。差し入れ兼報酬の一部である弁当も、先立ってグリコとしずくに急ピッチで作らせている
こっちは昼メシ食い損ねたってのに、どうして他人のメシの面倒見なきゃいけねえんだろうか?
(´・_・`)「ハァー……」
愚痴と溜息が問題を解決してくれるなら、楽に終わってくれるんだがな
111
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:04:19 ID:HcLXXAEI0
手早く準備を整えた後、件の現場である宿舎の二階階段前へと足を運ぶと、しずく以外の従業員は既に集まっていた
銀は俺の姿を確認すると、通話中のi-ringに到着報告を行い、通話を切る
イ从゚ -゚ノi、「すぐに開けてくれるそうよ」
(´・_・`)「あいよ」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「はぁい、これお弁当」
風呂敷に包まれた、ざっと三十人前の即席弁当。仕込み途中だった夕飯のメニューから幾らか拝借したにせよ、十五分そこらで作り上げるのは中々至難の業だ
夏季限定の住み込みバイトである妖怪『蛤女房』の『浜崎ぐりこ』。性癖を犠牲に抜群の料理の腕を得た変態には、毎年不本意ながら助けられている
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「食べてる所を動画で撮っといてくださいねぇ」
(´・_・`)「そんな暇ねえよ。しずくどうした?」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「疲れたから昼寝するってぇ」
いつもなら『連れてけ連れてけ』と喧しいあいつにしては珍しく、今回の騒動には関心が薄い
まぁ恐らく、向こうに消えた連中がどうなろうと知ったこっちゃ無いんだろう。行方不明の責任誰が被ると思ってんだ
イ从゚ -゚ノi、「鈴は?」
(´・_・`)「来てくれるってよ。タマ別5だ」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「言い方ぁ〜……」
イ从゚ -゚ノi、「随分手加減してくれたのね」
(´・_・`)「高梨さんの件もあるしな……開いたか」
目を離した隙に、音もなく現れる踊り場と昇り階段。異界の扉なんてもんは仰々しく開いたりなどしない
あたかも、『最初からそこに在った』かのように、しれっと登場するもんだ
(´・_・`)「じゃ、行ってきます」
イ从゚ -゚ノi、「あの子に宜しく」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「行ってらっしゃ〜い」
112
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:07:13 ID:HcLXXAEI0
僅かな軋み音を立てる階段を、ちょうど13段。踊り場を挟んでもう13段
何の変哲も無い計26段を昇り切れば、既にそこは勝手知ったる我が家では無い
(´・_・`)「さて……」
古来より『異世界』への入口は多岐に渡って知られている
兎を追っ掛けて穴に落ち、不思議の国へと迷い込む少女もいれば
助けた亀に連れられて、海深くの竜宮城へと招待される心優しき若者もいる
交通事故がトリガーとなる異世界転生モノなんざ掃いて捨てるほどある
『此方』から『彼方』へと通行する感覚、実感が、物語の主人公達にあったかは知らないが少なくとも
(;´・_・`)「だっりぃ〜……」
先が見えないほど長ぁい廊下に、等間隔で並ぶ引き戸と教室。羽音にも似た蛍光灯の音を前に、辟易する事ぁ無かっただろう
今しがた俺が踏み入れたこの場所こそ、ねぐらの立ち入り禁止区域。『狭間』の第三階層だ
あんまりにもダルすぎて自室でカバの赤ちゃんの歯生えてない口の中ナデナデする動画見たくなってきた
(´・_・`)「えーと……」
狭間は梅田地下街ほど親切じゃ無い。道案内アプリもなけりゃ、アンドロイドコンシェルジュもいない
今や時代遅れも遅れのタッチパネル式フロアマップすら置いちゃくれてねえ
適当に走り回っちまえば、あっという間に迷子一直線だ。そうなりゃ悲惨な最期は免れない。餓死で済めば御の字だ
そうならない為に、先駆者は狭間に『印』をつけている。チェスや将棋の盤面の如く、『A15』といった具合にな
(´・_・`)「ここだな」
印から現在地を割り出してしまえば、第三階層の調査本部までの道順も自ずと掴める
侵入してから三つ目の教室。この場所から十分ほど歩けば到着する筈だ。確か。そうだった筈だ
(´・_・`)「どうにでもなぁれ」
まぁ迷った時はそん時よと引き戸に手をかける
113
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:08:23 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「……」
戸をガラリと開けた瞬間、全身に突き刺さる数多の視線。ここが『普通の学校』であるなら、別に変わった事じゃあない
ご存知の通り『視線』ってのは目から放たれる。『目』で『見る』だけで送り込める。『目』だけあれば完結する行為なのだ
(´・_・`)「わぁ」
壁、床、天井。黒板や椅子や机に至るまで。教室一面に張り巡らされた数多くの、少しヤな言い方をすりゃあ夥しい目の集合体。蓮コラかな?
殺風景さとは程遠い、まるで臓物を派手に撒き散らしたかのような生々しさを感じてしまう。細やかに揺らぐ灰色の瞳と瞬きが、それらが作り物では無いと謳っている
(´・_・`)「……」
大の男ですら腰を抜かすどころかクソ漏らして泡吹いてぶっ倒れるくらいの光景を前に「わぁ」で済ませられたのには勿論ワケがある
教室の中央で、ただ一つだけ人の形をしているモンが、着席して頬杖を着き、不満げな表情で此方を見ている
桜紋様の着物とミドルブーツを合わせた大正ロマンスタイルな和装。髪は後頭部に纏めて飾り玉かんざしで留めてある
学習机からはみ出した脚は、女性にしては高い背丈の証明となった
そして何より彼女の瞳は、室内を覆う目と全く同じ色をしていた
(´・_・`)「残念だが、今日は俺一人だ」
助力を依頼した『同業者』は、つまらなそうに溜息を吐き、左手首の腕時計をトンと指で叩いた
/ ゚、。 /「『時は金なり』。ウチの貴重な時間、随分安く見積られはるんやなぁ。センセ?」
彼女こそ、京都は八坂通に店を構えるアンティークショップ『大桜堂』の若女将。『大桜堂 鈴』である
114
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:09:35 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「イタズラを仕掛ける余裕があるなら、そう高いもんでもなさそうだな。ガッカリしたか?オッサン一人で」
/ ゚、。 /「せっかく人が『格安』で手助けしたるってのに、癒しの一つや二つくらい提供してくれてもバチは当たらんのとちゃいます?」
(´・_・`)「ドッキリに毎度付き合わされるしずくの身にもなれ。悪趣味だぞ」
苦言を呈すと、目の群れは一斉に瞼を閉じ、壁や床と一体化するように消える
なんと言うことでしょう。蓮コラのようだった教室が、元の古臭い木造建築へと生まれ変わったではありませんかって感じ。劇的
/ ゚、。 /「人聞きが悪いなぁ。可愛い子を隅々まで眺めとるだけや」
(´・_・`)「それが悪趣味だっつってんだよ。目目連の名が泣くぞ」
/ ゚、。 /「なぁにをほざいとるんやら。これがウチらの正しい在り方どすえ?」
『壁に耳あり障子に目あり』。誰がどこで何を見聞きしているかわからない。だから発言や行動には気を遣えという古い諺だ
その、『障子に目あり』を体現した妖怪がいる。名を『目目連』という
出自や出典は省くが、障子に無数の目を浮かび上がらせて驚かせるといった、比較的害の無い妖怪だ。せやろか?まぁまぁ怖いんとちゃうやろか?
彼女はその目目連の血を引く半妖であり、今のように自身の『目』を発現し、視界を拡張する異能を持つ
人の知覚は八割を『視覚』が占めているという。彼女が人探しの達人たる所以であった
115
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:11:21 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「で、貴重な時間とやらを無駄にしてまで俺の到着を待ってた理由は?」
/ ゚、。 /「外」
俺が入ってきた戸とは反対方向を顎で差す。磨りガラス窓の向こう側で、明らかに人の姿では無いモノの影がゆっくりと蠢いた
バックルームに『エンティティ』という異形がいるように、狭間にも同じような化け物が存在する。此方では『ワンダー』(Wander)と呼ぶ。意味?インターネットさんに訊け
表世界の怪異と同じように、敵対種、中立種、友好種と分けられるが、その割合は敵対種に大きく傾く。狭間で異形に出会ったならば、ほぼ確定で襲い掛かってくるものと考えた方が良い
(;´・_・`)「アレくらいどうにかせぇよ……」
/ ゚、。 /「誰も彼もセンセみたいに武闘派やないねん。はよどかしてきて」
待ってりゃどっか行きそうなもんだが、その時間すら惜しい
かと言って手前で対処するのは面倒な上に金にならない。そんなとこだろう
(;´・_・`)「ハァー……持ってろ」
/ ゚、。*/「ぐりちゃんのご飯!!」
重箱の包みを手渡すと、花が開くように表情が綻ぶ。現金な奴だ。俺の周りの女こんなんしかいない
さて、時間が惜しいのは此方も同じだ。サッサと『徘徊者』を追い払ってしまおう
(´・_・`)「おーら……」
手近にあった椅子を掴んで振りかぶり
(´・_・`)「よっと」
投げる。薄い窓ガラスを容易く突き破り、廊下の影へと激突する
雑魚なら少し脅せば尻尾巻いて逃げるが―――――
[まぁああああああああああああぁぁぁーーーーーー]
残念。どうやら一度も怖い目に遭ったことがないワンダーのようだ
116
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:12:07 ID:HcLXXAEI0
体高は1.5メートル体高3〜4メートル。形状は上半身を起こしたナメクジのような姿。全身は白で統一され、ボンドのように粘り気のある液体で構成されている
そしてその全身には、美術の時間に使うスケッチ用の石膏像が、苦悶の表情を浮かべて散りばめられていた
(;´・_・`)「うわ『ダビデ』じゃん……」
/ ゚、。 /「ウチには手に余るやろ?」
(;´・_・`)「別にそんなこと無い」
/ ゚、。 /「はよして」
ワンダー『ダビデ』。全身が『ダイラタンシー液』で構成された、ノロマだが危険な異形だ
狭間への遭難者を発見すると、一定のペースで追いかけ続け、困憊状態になった獲物を自身の体内に取り込んで『コレクション』する
全身に浮かび上がる石膏像は、哀れな犠牲者のなれの果てってワケだ。くわばらくわばら
(´・_・`)「あーん……いけっかな……」
ダイラタンシー液はご存知だろうか?子供向けサイエンス番組かなんかでご覧になった方も多いだろう
粒子を含むトロトロした液体に、強い衝撃を加えると一瞬だけ固体化する不思議な物質の事だ
つまりダビデは、液体の柔軟性と固体の硬質を併せ持つ厄介な化け物だ
手を突っ込もうもんなら沼のようにズブズブと引き摺り込まれ、かと言って殴れば拳を痛める始末。鈴がめんどくさがるのも頷ける
[まぁああああああああああああぁぁぁーーーーーー]
ダビデは割れた窓に半液状の身体を乗せ、ゆっくりと教室へと侵入してくる。木造の壁がパキと乾いた音を鳴らし、奴の重みを伝えてきた
通常の対処法は主に三つだ。一つ目は『逃げる』。ただし、第三階層内では距離は離せても完全には撒けない
ダビデは無生物らしき見た目とは裏腹に、嗅覚に頼った探知を行う。特に、狭間の外部から迷い込んだ異臭には『鼻聡く』反応する
相応の準備か、長く狭間で過ごして外部の臭いを消してしまえば盲目も同然だが、ほぼハプニングで迷い込んでしまう素人にはそんな事はわかりはしない
二つ目からは攻撃手段。『燃やす』。説明しなくても理解は出来るだろうが、目の前のサイズレベルとなると、どデカいバーナーが必要になる
三つ目は『砕く』。衝撃に対して効果する特性を利用し、半液状の身体をバラバラにして内部の核を剥き出しにする
これもまた、サイズが大きければ大きいほど、必要な衝撃も増えていく
と、対処法がわかっていても、何の装備も持たない一般人なら、出会った段階でほぼ詰みだ。では、『化け物退治のエキスパート』なら、どういった対応をするか?
117
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:14:01 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「よっ」
ダビデの身体にあえて手を突っ込んで
(´・_・`)「≪流≫(ながし)」
奴らの弱点である『生命力』を注ぎ込む。すると
[まぁああああああああああああぁぁぁーーーーーー………]
内部から沸騰したかのようにボコボコと泡が噴き出し、身悶えた後―――――
[まぁああああああぁぁぁ…………]
気の抜けた断末魔を上げながら、ドロドロに溶けていく。これで、ダビデの処理は完了だ
(;´・_・`)「あー、しんど……」
/ ゚、。 /「相変わらずバケモンやなぁ。ウチの従業員なら今のやり方で二、三日は足腰立たんなるで」
(;´・_・`)「鍛え方が足りねえんじゃねえの?」
因みに、この方法でのダビデ処理は『非推奨』とされている。理由は攻撃による対処法②、③と同じく、サイズと比例して生命力の必要量も増えるからだ
生命力の使用は寿命を著しく減らすものではないが、体力は大いに消耗する。疲れたらぶっ倒れるのは生物の常だ
ダイラタンシー液に腕を突っ込んだ状態でぶっ倒れたらどうなるか。想像に難くない。ぶっちゃけ俺以外にこの方法で倒す奴見たことない。そんなザコの皆に言いたいことがある
(;´・_・`)「鍛え方が足りねえんじゃねえの?」
/ ゚、。 /「はよ行くで」
118
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:14:41 ID:HcLXXAEI0
―――――
―――
―
狭間管理局『カフェオレ』。『表』と『裏』が混ざり合った『狭間』という世界を言い表すには、少々美味しそうな名前だ。お砂糖入れてホットでね。美味しいよね
階層にもよるが、狭間に調査本部を置き、複数人が常駐してフロアマッピングやワンダーの生態調査、遭難者の捜索、保護を行っている
狭間は危険が多いが、利便性もある。特筆すべきは、『表』と狭間を行き来することで生じる『空間の歪み』だ
小難しい話は省くが、俺が鬼ヶ村から、鈴が京都から第三階層へと侵入し、物の数分で合流出来たように、狭間は一種のワームホールとして機能する。ちょっとばかし危険の多いどこでもドアってとこか
カフェオレは狭間の有効活用法を調査し、実践する特殊な研究機関なのだ。となれば当然―――――
( ・`ー・´)「やぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!僕はこの第三階層の王たる調査主任のまさしさ!!!!!!!!!!!」
( ・`ー・´)「平服して僕の素晴らしさを二時間くらい、語彙の限り語り尽くすが良いよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
( ・`ー・´) + キリッ
こういう変なのもいる
(´・_・`)「弁当、差し入れ」
( ・`ー・´)「サンキューマスター小練!!!!!!!!!!!!!!貢物に免じて今のノルマは免除だ!!!!!!!!!!!!!」
/ ゚、。 /「うるさ。お茶淹れて貰える?」
( ・`ー・´)「おっと!!!!!!!!!!!!!!!僕を顎で扱おうなんてとんだお転婆さんだ!!!!!!!!!しかし麗しき鈴嬢の頼み、霊長類の長たる僕には無下に出来ないね!!!!!!!!!!!!!」
( ・`ー・´) + キリッ コポポポポポポ
見ての通り悪い奴じゃない
119
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:16:33 ID:HcLXXAEI0
教室を四つ分、壁を乱暴にぶち抜いて設置された第三階層調査本部では、まさしの部下の面々が、普段以上に目まぐるしく働いている
俺が遭難者の通報を入れて直ぐに捜索は開始されているようだ。彼らの情報に鈴の『目』を加えれば、見つけるのにそう難儀はしないだろう
( ・`ー・´)「では早速ブリーフィングだ!!!!!!!!!!!!!チミ!!!!!!!!!!!ンマァップを頼む!!!!!!!!!!」
職員の一人が運んできたマットタイプの液晶マップをテーブルの上に広げる。鈴は弁当を開けた
( ・`ー・´)「現在地がここだね!!!!!!!!!!!!!そして侵入反応があったのは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????????????????????デケデケデケデケデケ……」
調査本部を表す青丸を中心に、比較的安全な地帯を緑の円が囲み、それよりも二回りほど大きく『まぁまぁ危険』を表す黄色の円
そこから一度スワイプすると、『わ゙ぁー危ない』レベルの赤色の円。そこより外は、マッピングされていない漆黒地帯が包み込む。文彦らが踏み入ったのは―――――
( ・`ー・´)「デン!!!!!!!!!!!!!!!!!ここ!!!!!!!!!!!!!!」
黄色の円の縁ギリッギリの所だった。まぁまぁ詰んだ
(;´・_・`)「まぁまぁ終わった……」
( ・`ー・´)「そう悲観するものでは無いよ!!!!!!!!!!!!!!マスター小練!!!!!!!!!!!!第三階層の危険度は比較的低め!!!!!!!!!!!!逃げ足と体力さえあれば一、二時間程度なら生き残れるさ!!!!!!!!!」
(;´・_・`)「終わった………………」
( ・`ー・´)そ「あれ!!!!!!!!!!!!???????????ねぐらは今のシーズン、スポーツマンばっかじゃないのかい!!!!!!!!!!!???????????」
(;´・_・`)「オタクデブ………………………」
( ・`ー・´)「急いだ方がいいね。めっちゃ急いだ方がいい」
マジトーンになるくらいヤバいってことがおわかりいただけただろうか
120
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:17:18 ID:HcLXXAEI0
( ・`ー・´)「では確認から入ろうか!!!!!!!!!!!!!!!今回も装備は自前かい!!!!!!!!!!!???????????提出をお願いするよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(´・_・`)「ほい」
/ ゚、。 /「フォイ」
俺は捜索用の装備が入ったバッグと、腰のホルスターに差し込んでいた得物を職員へと渡す。鈴は袖から色々出した(飴ちゃんとか)
今回、俺が持ってきた得物は『斧』だ。前回の『矛』のように《流》に反応して伸縮する特殊な代物ではない。拾ったやつだ。血とかついてた気がする
第三階層は学校という特性上、どこまでも『室内』が続いている。長物を扱うには少々窮屈だ
そして鈴が弁当モグモグしながら袖から取り出したのは、『S&W M10』。アンティークショップを営んでるだけあってごっつ古い銃だ。ここは銃社会アメリカじゃなくて日本なんだわ
まさしは斧の柄と拳銃のグリップにリング状の発信機を取り付け、各々へと返した
( ・`ー・´)「外部からの持ち込み品は一つ残らず持ち帰ること!!!!!!!!!!!!!!!!!!タバコのポイ捨てやガムの吐き捨ても認められないよ!!!!!!!!!鈴嬢は必ず薬莢を持ち帰るように!!!!!!!!!狭間探索の基本は『来た時よりも綺麗に』だ!!!!!!!!!!!!」
/ ゚、。 /「フォイ」
鈴は聞いてるのか聞いていないのか、弁当から目を逸らさず生返事で答えた
狭間での持ち物の紛失、特に銃器の類はワンダーに大きな『武器』を与えかねない
狭間は『学習する空間』だ。表から持って来たアイテムなど、連中にとっては教材と代わりない
なので、殺傷力のある武器に関しては、持ち主から一定距離離れるとブザーが鳴る発信機を取り付けるのだ
これは紛失を防ぐのは勿論だが、ワンダーを呼び寄せるリスクを敢えて科す事で、緊張感を高める効果も期待できる
また、万が一紛失した際も、一定の距離ならi-ringのアプリケーションで居場所を特定する事が出来る。俺はこの機能でワイヤレスイヤホンしか探してない
( ・`ー・´)「レンタルは必要かい!!!!!!?????」
(´・_・`)「『ロバ』を二台頼む」
( ・`ー・´)「よしきた!!!!!!!!!!!!!キミ!!!!!!!!!用意してやってくれ!!!!!!!!!!」
『ロバ』。主に災害現場で活躍する四脚輸送機の通称だ
卵型の胴体に、奇蹄目の脚が四本備わっているこのロボットは、表世界では残念ながら実用化されなかった悲しき存在だ
車輪式の自動輸送機との差別化を図り、段差や瓦礫を乗り越える為の脚だが、泥濘との相性と乗り心地が最悪であり、要救護者を運ぶには『思いやり』に欠ける代物だった
しかし捨てる神あれば拾う神ありとも言う。カフェオレは頓挫した『ロバ』のライセンスを格安で買い取り、狭間探索のお供として実用化させた
行きは後ろを付いてくる、運ぶ労力がいらない荷物持ちとして。帰りは要救護者を乗せ、帰巣プログラムに則って自動的に本部へと戻る移動担架として
表舞台で陽の目を浴びなかったポンコツは、便利なお助けロボットとして狭間で活躍しているのだ
121
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:19:56 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「最近変わった事はあるか?」
( ・`ー・´)「二キロ痩せたよ!!!!!!!!!!!!」
(´・_・`)「そうか。よく食って寝ろ。狭間については?」
( ・`ー・´)「最近、階層間の境界がユルユルだね!!!!!!!!別階層のワンダーが紛れ込んで来たりもするよ!!!!!!!!」
(´・_・`)「つまりあんまり……」
( ・`ー・´)「いい状況とは言えないね!!!!!!!!!!!!!生態系が狂う可能性もある!!!!!!!!!!!!」
外来種が在来種を食い荒らす例は、御多分に洩れず狭間でも発生する
性質の異なる階層から境界を通って別の階層へと移ったワンダーが繁殖し、新たな棲家を住みやすい環境へと書き換える事だってある
特に植物、菌糸、虫タイプのワンダーの繁殖、環境への干渉能力は凄まじく、侵入を確認した際には入念に駆除を行わねばならない
( ・`ー・´)「今のところ繁殖能力の低い、もしくは皆無のワンダーしか確認されてないが!!!!!!!!!!!もしヤバそうなヤツがいたら出来るだけ多く殺していってくれ!!!!!!!!!!!!第六階層のワンダーは特に念入りに頼むよ!!!!!!!!!!!!!!!」
(´・_・`)「押忍」
第六階層の環境は『密林』だったか。まさにさっき挙げたワンダーの宝庫とも言える
狭間の階層は現実世界の建築物とは異なり『地続き』では無い為、階層間の移動に遠近の概念はない
『学校』の階段を上がれば、『スーパーマーケット』に行き着く事もあれば、下った先に『火山口』が待ち構えている事もある
現状、第六階層に限らず、数多の階層から厄介なワンダーが流れ着く可能性が高いのだ
122
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:20:19 ID:HcLXXAEI0
( ・`ー・´)「現在、カフェオレ側でも捜索兼駆除隊を巡回させている!!!!!!!!!!!!キミらの手に負えないほど広範囲に拡散している外来ワンダーを見かけたら連絡してくれ!!!!!!!!!!」
そう言って投げ渡されたのはチョーカーとブレスレットだ。チョーカーには黒色の、ブレスレットには八色分の小さなプラスチック球が付いており、中には羽虫が入っている
この虫が、『やまびこ』の一種だと言っても信じては貰えないだろう。これは、電波を用いない通信用小型妖虫だ
チョーカーは『のどびこ』と言い、玉を喉に押し当てながら話すと、鈴虫のように翅を擦り合わせ、独自の波長を放つ
それをブレスレットの『ききびこ』が拾い、骨伝導で鼓膜へと伝える。電気や衛星が不要のエコロジーな通信機だ
のどびこ一匹に対し、ききびこを複数匹持ち歩く理由だが、簡単に言ってしまえば『周波数』や『チャンネル』のようなものだ。それぞれが装備した『のどびこ』の波長ごとに、それを受け取る『ききびこ』を持つ必要がある
メリットは、裏や敵対怪異の電波障害の影響を受けない事。衛星や基地局のない狭間などの異空間での通話手段となる事
デメリットは、波長は『音速』より速く飛ばない為、通話に大幅なラグが発生する事。遠距離での通話時は兄弟虫の『つぐびこ』で中継を行わなければならない
それに加え、雑音が大きい場所では波長が掻き消されてしまう。幸いにも第三階層は基本的に静かな環境の為、問題なく使用が出来る
そして何より、妖虫と言えど生命体の為、飼育を行なう必要がある。長時間連れ回していると、ポックリと死んでいただなんて事例も珍しくは無い。だから投げて渡すんじゃねえ生き物入ってんだぞ
(´・_・`)「テストテスト」
試しに、俺の『のどびこ』で鈴へと通話を試みる
/ ゚、。 /「ん」
感度良好らしく、箸を持つ手でオッケーサインを作った
123
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◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:21:42 ID:HcLXXAEI0
( ・`ー・´)「聞くまでも無いと思うがルートは……!!!!!!!!!!!????????」
(´・_・`)「最短で」
( ・`ー・´)「ではE-6経由ルートで行こう!!!!!!!!!途中、『ビッグフェイス』と『バンクシー』の巣を通るが問題は!!!!!!!!??????」
(´・_・`)「無い。後片付けだけ頼む」
( ・`ー・´)「おっほほほぉう!!!!!!!!!!いやはや!!!!!!!!やはりマスター小練は頼りになる!!!!!!!!!!!!暫く探索が捗りそうだ!!!!!!!!!!!!」
これを機に階層内の面倒なワンダーを一掃させようって魂胆を隠そうともしない辺り、狭間の管理者たる所以が伺える
カフェオレの職員のほとんどは訓練を受けども常人だ。銀や鈴のように妖怪の血を引いてる者は数えるほどしかいない。ワンダーなんて遭遇したら逃げるのが定石で、退治など相応の人手と覚悟とコストが必須だ
その厄介モノの駆除を外部の人間に、それも怪異退治のプロフェッショナルに、遭難者の捜索を手伝うだけで気軽に任せられるのだ。濡れ手に粟と言う他無いだろう
「小練さん、お待たせしました」
(´・_・`)「ああ、どうも」
見計らったかのように『ロバ』もちょうど到着した。i-ringの専用アプリと紐付けし、追随するよう設定する
これ以上余計な仕事を増やされる前に出発したいところだが……
(´・_・`)「……」
/ ゚、。 /「んー」
飯食い終わるまでここを動かんという断固たる決意を感じる。ダンコ桜木って感じだった
124
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:24:25 ID:HcLXXAEI0
―――――
―――
―
/ ゚、。 /「随分と生き急いではるんやなぁ。センセ」
(´・_・`)「あのタイミングで飯食い始める方が可笑しい」
折角のランチタイムだったが、強制的に切り上げさせて出発した
まだ半分ほど残っていた弁当がよほど名残惜しいのだろうか。先程からブツクサと文句が止まらない
ゴキゲンなミュージックとは程遠いが、広大かつ複雑怪奇な空間で聞く分には、気晴らし程度には機能した
/ ゚、。 /「そもそも、本部のお膝元である御三家の副長を、体の良いバイト扱いするのもどうかと思いますえ?何度も言うけど、本来ならウチの方が立場としてはエラいんやからな?」
(´・_・`)「初出の情報を出してくるなよ説明が面倒臭えんだよ」
/ ゚、。 /「誰に向けて?」
立場については別に何も関係ないから今回は割愛する
(´・_・`)「あんまり立場を振りかざすな。友達失くすぞ?」
/ ゚、。 /「立場で靡かへんモンに振り翳したところで暖簾に腕押しや。ホンマ可愛くないオトコやなぁ」
(´・_・`)「別にキティちゃんと張り合う気はねぇからな」
無駄口を叩き合うが、鈴の異能はしっかりと機能している。八方に10メートル間隔で目目連の目を展開し、曲がり角や壁裏の死角までカバー済みだ
現実世界でもそうだが、やはり最も頼りになる知覚は『視る』事だ。特に入り組んだ地形では、奇襲や罠に遭遇する確率も上がる
鈴には銀のように異能による強力な攻撃、防衛能力は持たないが、それを補って余りあるほどの『情報取得能力』に優れているのだ
/ ゚、。 /「そんなんやから銀ちゃんに…………」
なんか気になる言葉を遮り、鈴は手を上げて制止のハンドシグナルを出す
彼女の探索網に何かが引っかかったらしい。この手の場合、よからぬモノが大半を占める
125
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:25:18 ID:HcLXXAEI0
/ ゚、。 /「早速お出ましや。『バンクシー』。1時の方角から3体向かって来とる」
(´・_・`)「タイプは?」
/ ゚、。 /「『ガキの落書き』」
(´・_・`)「あれか……」
バンクシー相手なら持って来た得物の出番は無いだろう
俺らの進行方向から真っ直ぐ向かって来るのを見るに、殺る気満々マンと見た
連中の運の無さと度胸に敬意を払い、キッチリと片付けてやるとしよう
/ ゚、。 /「ん?ちょっと待って」
(´・_・`)「え?」
/ ゚、。;/「速すg」
鈴の言葉通り、言葉を終えるよりも速く、左右の壁と天井を伝って三体の黒い『落書き』が颯爽と現れる
ワンダー『バンクシー』。名前の由来は、百年前に実在したアーティストからだ。ただし、連中の姿はアートと呼ぶには稚拙過ぎた
連中の姿の多くは、幼児が黒いマジックペンで壁にグシャグシャと描き殴ったような落書きだ
勿論、ただの動く絵じゃない。その正体は厚さ0.2㎜の薄型生命体だ
(´・_・`)「っとぉ……」
全身真っ黒に塗りつぶされた人型の落書き。ホラー映画でガキが家族の絵の隣に描く正体不明の『何某』に似ている事から、分類名がそのまま『ガキの落書き』となったそいつらは
本来ならば、その姿と薄さを利用した『伏せ狩り』をするワンダーだ。絵を見よう、絵を消そうと近づいた者を掴み、息絶えるまで壁や床や天井に叩きつけ、溢れた『中身』を啜る凶悪な習性を持つ
獲物を捕らえる際に発揮する瞬発力こそあれど、今のように自ら打って出るような行動は極めて稀だ
126
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:27:24 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「おっと」
上と左右の壁を離れて飛び出した、皮膜のようなバンクシーの触手が、俺の両腕と顔の下半分に巻きつく
その薄さからは考えられない力で、四肢を引き裂き、頭を捥がんと引き込まれるが、所詮力技しか能のない雑魚怪異だ
(´・_・`)「モゴモゴ……モゴゴモゴゴ!!!!!!!!」
/ ゚、。 /「何かカッコええこと言っとるんやろうけど全然聞こえてへんで?」
(´・_・`)「モココ」(電気タイプ)
少しばかり引き摺られたものの、腰を落として踏ん張ればピタリと止まった
奴らも相応に力を入れているのか、腕伝いに壁が軋む音を感じる。それと同時に、奴らの身体が少しずつ剥がれていってる事も
(´・_・`)「モココ」
棲家との別れを惜しむ暇すら与えず、一息に壁から引き剥がし、両手を合わせて一つにまとめる。2対合わせてもたった0.4㎜だ。サガミオリジナルの40倍である。あれ?じゃあ案外厚くね?
あるべき場所から引き剥がされた落書き共は、さながら活きのいい海藻のようにビタンビタンと跳ね回る。二次元が三次元に進出した歴史的瞬間に涙を禁じ得ない
(#´・_・`)「モココ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
このまま生命力を流し込んでぶっ殺しても良いが、この後も仕事があるので無駄な体力を使ってられない。暴れる二枚のバンクシーを踏みつけて固定し、力任せに引っ張った
悲鳴こそ上げはしないが、破けていく身体からは黒い染料が噴出し、空気に混じって消えていく。半分ほど引きちぎったところで、ダメージに耐えきれず活動を停止させた
127
:
◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:28:20 ID:HcLXXAEI0
(´・_・`)「モコ」
残すは天井の一体だが、俺が手を下すまでも無く乾いた銃声が終わらせてしまう
(;´・_・`)そ「ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!???????」
弾丸により天井とバンクシーに空いた風穴から黒霧が降り注ぐ
霧散するとは言え、ワンダーの体液を浴びせられて気分良くなる奴なんてごく僅かしかいない
しかし一発撃った程度では決定打に到らず、バンクシーは拘束を解いて逃走を図った
/ ゚、。 /「はい、はい、はいっと」
立て続けに追加の三発。どれも外れることなくバンクシーに命中。黒い霧を噴き出しながら床に落ち、2、3度悶えた後に事切れた
(;´・_・`)「最悪……」
/ ゚、。 /「他に言う事あるんとちゃいます?」
(;´・_・`)「もっと上手く殺れねえの??????」
/ ゚、。 /「ホンマにええ性格してはるなぁ」
128
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◆L6OaR8HKlk
:2024/11/17(日) 10:30:34 ID:HcLXXAEI0
俺が殺った二体とは違い、鈴が撃ったバンクシーの死体は銃痕からグズグズと崩れ始めている。『生命力』による消滅反応だ
生命力の基本操作は四つ。手足に集中させる≪握≫、物体に流し込む≪流≫、弾丸のように発射する≪放≫(はなち)、全身に膜を張る≪纏≫(まとい)
遠距離攻撃手段として最もポピュラーなのは、しずくが得意とする≪流≫による物体の投擲。もしくは弓矢による射撃である
刀や槍のように、常に手に持つ武器であるならば、持ち手から常に生命力が供給されるが、手から離れる投擲物はそうもいかない
平均して3〜5秒が、生命力が滞留するタイムリミットと言われている
では、初速に優れた銃こそが、最も≪流≫を強く使う方法なのか?
答えは、『理論的にはイエス』である。飛距離、連射力、貫通力。弾丸に生命力を込めれば、『裏』や異形にとって脅威となる
しかしこの国はご存知の通り銃社会ではなく、肝心の操作術すら難易度が高すぎる
投擲にせよ弓矢にせよ、一撃につき一回の≪流≫を行う。そのどちらも、供給源である『手』を通じて行われる
対し銃は、複数のパーツが組み合わさった道具である。『銃』そのものを投げつけるならともかく、発射するのはチャンバーにある弾丸だ
グリップ越しから正確に弾丸に≪流≫で生命力を送り込むのは、銃の構造、生命力の流動を理解して、正確に行う必要がある
もし付け焼き刃で行おうものなら、一発撃つだけでも相当の生命力を消費してしまう
その高難易度の銃撃を主な攻撃手段として使用するのが、鈴を初めとする『大桜堂』の連中だ
/ ゚、。 /「センセの殺り方よりよっぽどスマートやろ?」
(´・_・`)「俺から言わせればロマンに欠けるな」
/ ゚、。 /「そのセリフ、日本一知名度のあるリボルバー使いのもんやけど」
(´・_・`)「ダーティー・ハリー?」
/ ゚、。 /「日本言うたやろ」
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