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Desperado Chariots

553 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:09:42 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると


('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」


徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した


('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」

(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」

('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」

(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」


文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ


('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」

(´・_・`)「偶然偶然」

554 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:10:18 ID:xsbgfEYE0
通話が終わると


('A`)「小練さん。文彦が張り切ってんすけど、何かあったんすか?」


徳雄が厨房へと足を踏み入れる。本来、ねぐらの利用客は立ち入り厳禁だが、小練本人が指導をしている『生徒』である故に、多少の粗相は見逃している
小練は、最速でアップされたネットニュースを見つけると、ホログラムウィンドウに映し出す。それを見た徳雄は、「ああ」と納得した


('A`)「『皆鳴ミセリ、今年度ジャパンカップ実況に抜擢。サマーフェス最終日に電撃発表』……なるほど。オッサンの差し金か」

(´・_・`)「いいや、こういうのは昨日今日で決まるもんじゃねえ。前はどうだか知らんが、オメーらのボスは関与してねえよ」

('A`)「運が味方したってワケですか。アレの日頃の行いが良いとはとても思えませんがね」

(´・_・`)「言ったろ?きっかけさえあれば再燃するって」


文彦が会場でこの情報を知ったのなら、興奮と『後悔』を覚えた筈だ
サマーフェス以上の体験。『ジャパンカップという大舞台で推しに認知してもらえる』という特大のチャンス
それを掴む為の合宿の期間を、サマーフェスの為に自ら縮めてしまったという『後悔』は、本人にとって良い影響を与えるとは思えない
反面、ねぐらで報せを聞けば、興奮を原動力にすぐさま鍛錬に移行できる。サマーフェスに行けなかった『落胆』も反動として作用し、文彦はこれまでに無いほどのやる気を漲らせたのだ


('A`)「全部アンタらの掌の上すか。恐れ入りますよ」

(´・_・`)「偶然偶然」

555 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:11:13 ID:xsbgfEYE0
小練は「さて」とウィンドウ表示を切り替え、徳雄に先程受け取った本八の構築を見せる


(´・_・`)「不服ってツラで入って来たな。喜べ。ここからが地獄の本番だぜルーキー」

('A`)「……お見通しっすか。これは?」

(´・_・`)「お前らのボスから受け取った、チャリオッツ車両の構築データ。明日からこいつを組み込んで訓練してもらう。それと、文彦にも参加させる」

('A`)「けど小練さん。俺はまだ今の条件で一位を獲れていない」

(´・_・`)「一朝一夕で獲れるわけねーだろ。AIでもレジェンド級のプロチーム達だ。今のチャンピオンチームのジョッキーだって苦戦するだろうぜ」

('A`)「あの条件下で勝つのが目標じゃないんすか?」

(´・_・`)「それに越したこたぁねえが、まず最初に『困難』を教えたかった」


「その上で」と前置きし、小練は言葉を続ける


(´・_・`)「『ガンナー』を乗せて走った時、そいつがジョッキーにとってどれだけありがたい存在かを、頭と身体に叩き込め。文彦は性格こそ終わってるが、ガンナーとしては一線級だ。太っているのを除けばな」

('A`)「わかってますよ」

(´・_・`)「いいや、理解が足りてない。だからお前は今まで文彦に『相談』すらしていない。チャリオッツは三位一体となって行うゲームだ。テメーにばかり向き合ってねえで、そろそろ仲間を知るこったな」

('A`)「……」

556 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:11:50 ID:xsbgfEYE0
思えば、文彦と出会ってからの数ヶ月、合同でチャリオッツの練習した覚えがない
なんでだろうと振り返ってみると、ほとんどの日数を文彦のダイエットに費やしていたからだった


('A`)「多分それ俺の……」

(´・_・`)「え?」

('A`)「いや……なんでもないっす」


既に過ぎた事なので、徳雄は早々に切り替えた


('A`)「間に合いますかね」

(´・_・`)「不安か?」

('A`)「そりゃあね。全員揃って練習出来んのも三ヶ月ちょいしかねえんだ。焦りもしますよ」

(´・_・`)「そうか。なら、明日にでも確かめてみるか?」

('A`)「確かめる?」


小練はニヤリと笑った。奇しくも、先程向けられた儀杜からの笑みと良く似ていた


(´・_・`)「まさか、ウチにある設備があんなチャチなもんだけたぁ思ってねえだろうな?」

557 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:12:35 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



翌日


(;'A`)「ええ……」

(´・_・`)「おったまげるだろ?」


ねぐらから十分ほど歩いた場所にある比較的新しい体育館。その中には、四メートルを超す『球体』が収まっていた
言わずもがな、チャリオッツの『業務用筐体』である。室内は排熱を促す為に温度管理もされており、山奥とは思えないほど設備が整っていた
合宿後半から始まる特訓に興味を惹かれ着いて来た木本と高梨も、徳雄と同じくポカンと筐体を見上げていた


⌒*リ;´・-・リ 「これ……幾らします?」

(´・_・`)「え?知らん」

⌒*リ;´・-・リ 「ええー……」


唯一、昨日から人が変わり、やる気に満ち溢れた文彦だけは、落ち着いた様子で筐体に乗り込む。それを見た徳雄も後に続いた


( ^ω^)「……」

('A`)「ゲーセンにあるのと……全く変わんねえな」

( ^ω^)「型はちょっと古いけど、バージョンは最新。オンラインプレイも可能だお」

('A`)「ってこたぁつまり……」

( ^ω^)「この場で『対人戦』が出来るお」

558 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:20:49 ID:xsbgfEYE0
『対人戦』。その言葉に、徳雄の心は踊った。彼もまた文彦と同じく、チャリオッツで勝つ快感を味わった者
CPUとの対戦では得られない、『生のプレイヤー』を下した時の優越感。ゲームを趣味とする者ならば、誰もが渇望する瞬間である


('A`)「そいつぁ……」

( ^ω^)「なんかおかしくないかお?」


一人盛り上がる徳雄を他所に、文彦は冷たく言い放った


('A`)「何が?」

( ^ω^)「スポーツ目的の利用者が多い宿泊施設とは言え、『こんなもの』まで常備してる所、他に無いお」

('A`)「そりゃ……」


言われてみれば異質である。業務用筐体を使ってガッツリとチャリオッツが出来るとあれば、『ウリ』として宣伝されて然るべきだ
しかしこの場所は、母屋から見えづらい位置にあるばかりか、看板の一つも立っていなかった。初日に確認した設備案内図にも、筐体がある事など一つも書いていない
つまりここは、『一般の利用客には解放されていない設備』なのだ。文彦は楽観的甘ったれクソオタクデブの分際で一丁前に訝しんだ


( ^ω^)「となると、本来ここは『誰か専用』の設備である可能性があるお」

('A`)「誰かって……」

( ^ω^)「最もあり得るのが、どこかのプロチーム。それも、太いスポンサーが付いてる所だお」

('A`)「その……つまりー……どこかのプロチームの『秘密の特訓場』を使わせて貰ってるってことか?」

( ^ω^)「僕はそう思うお」

559 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:22:03 ID:xsbgfEYE0
徳雄は暫し、『ううむ』と腕を組んで唸り


('A`)「別に不都合は無くね?向こうが良いっつってんならありがたく使わせて貰おうや」


特に気にすることはないと結論を出した


(#^ω^)「そういう問題じゃないんだお!!」

(;'A`)そ「うおっ」


文彦にしては珍しいシリアスな雰囲気に、百戦錬磨の鬼も怯む。昨日、小練が言ったようにチャリオッツに関しては文彦に一日の長がある
素人に毛が生えた程度の自分には到底想像の及ばない問題があるのではないか?徳雄は思わず縮こまり、声を顰めた


(;'A`)「じゃ、じゃあ……何がマズいんだ?」

(#^ω^)「決まってるお……」


(#^ω^)「どこの馬の骨ともしらないイキリプレイヤーがしずくちゃんと銀さんをてごm('A`)「小練さーん。早速始めてーんすけどー」


聞くだけ損した

560 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:22:56 ID:xsbgfEYE0
準備運動の為に二人は一度降りた後、小練は筐体のオートメンテナンスモードを実行する
古い型は専用のエンジニアを招集しなければならないが、ねぐらにある第四世代からは日々のメンテナンスは自動で行われるようになった
見上げるほどの球体は前後左右とその場で回転する。整備の行き届いていない物は異音が発生しやすいが、よく手入れしてあるのか、静かなものだった
やがて、ピタリと動作を止めると、異常無しを伝える緑のランプが点灯する。それを見た小練はうんと頷いた


(´・_・`)「さて、早速だがオンラインプレイに挑戦してもらう」

( ^ω^)「ランクとルールは?」

(´・_・`)「マスターで4ステージレース」

( ^ω^)「把握したお」

('A`)「木本、解説頼む」

(;@з@)「オンラインプレイのあるゲームは、公平性を保つ為に腕前ごとにランクがあるのでござるよ。マスターは最上位ランクで、言わばアマチュアの頂点と言ったところですかな」

('A`)「そいつぁご機嫌だな」

(´・_・`)「お前らが目指すジャパンカップはプロアマ混合の国内最大グランプリだ。マスターランクのアマチュアからも出場チームは多い」

561 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:24:45 ID:xsbgfEYE0
準備運動の為に二人は一度降りた後、小練は筐体のオートメンテナンスモードを実行する
古い型は専用のエンジニアを招集しなければならないが、ねぐらにある第四世代からは日々のメンテナンスは自動で行われるようになった
見上げるほどの球体は前後左右とその場で回転する。整備の行き届いていない物は異音が発生しやすいが、よく手入れしてあるのか、静かなものだった
やがて、ピタリと動作を止めると、異常無しを伝える緑のランプが点灯する。それを見た小練はうんと頷いた


(´・_・`)「さて、早速だがオンラインプレイに挑戦してもらう」

( ^ω^)「ランクとルールは?」

(´・_・`)「マスターで4ステージレース」

( ^ω^)「把握したお」

('A`)「木本、解説頼む」

(;@з@)「オンラインプレイのあるゲームは、公平性を保つ為に腕前ごとにランクがあるのでござるよ。マスターは最上位ランクで、言わばアマチュアの頂点と言ったところですかな」

('A`)「そいつぁご機嫌だな」

(´・_・`)「お前らが目指すジャパンカップはプロアマ混合の国内最大グランプリだ。マスターランクのアマチュアからも出場チームは多い」

562 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:26:46 ID:xsbgfEYE0
小練は説明をしながらも、淡々と筐体にプレイ設定を組み込んでいく


(´・_・`)「言わば、今から行うゲームは『試金石』だ。アマチュアトップレベルを難なくクリアして、初めて頂点へのスタートラインに立てる」


言い換えるなら、『これをクリア出来ない程度では、ジャパンカップなど夢にまた夢』ということ
言わずもがな、キャプテン不在の『一枚抜き』である。これは『アビリティ』『アイテム』『トレジャー』の使用不可に加えて、何より重要な『広い視野』の制限を課せられる縛りプレイだ


(´・_・`)「アシストは必要か?」


チャリオッツのオンラインプレイでは、プレイ人数が揃わなくてもゲームが楽しめるようにAIプレイヤーの搭乗も可能である
人間ほど的確な判断を下せるわけではないが、上記のアシストがあるだけでも快適度は天地の差だ。となれば当然


('A`)「いらねえっす」

(´・_・`)「だよなぁ」


頷くはずがなかった


(´・_・`)「文彦はどうだ?」

( ^ω^)「え?とっくんはともかく僕にキャプテンが必要に見えますかお?マスター帯wwwwwwwww如きでwwwwwwwww」

(´・_・`)「よし、でけぇ口に見合った成績を期待するぞ」

( ^ω^)「見といてくださいよwwwwwwwwwなんなら、オーディエンス増やしても構いませんお?しずくちゃんとか銀さんとか」

(´・_・`)「あの二人クソほどお前に興味ねえから来ねえよ」

( ^ω^)「え……?」

⌒*リ;´・-・リ 「言い方!!」

563 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:27:10 ID:xsbgfEYE0



( ^ω^)「……」



( ^ω^)「じゃあ、僕の華々しい活躍を見せれば一気に意中のお相手になっちゃうってコト……?」



(´・_・`)「すげーな無敵かオメー」

('A`)「一々相手しないでいいっすから」

564 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:29:09 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「ッシャア!!足引っ張るんじゃねえおとっくん!!」


文彦は数回の屈伸をして、指先をほぐし意気揚々と筐体に乗り込む
数ヶ月前とは心構えが違うからか、その姿が徳雄の目にはやけに軽快に見えた


('A`)「何かアドバイスは?」

(´・_・`)「楽しめ」

('A`)「了解」


徳雄もまた、足取り軽く乗り込むと、筐体の扉がゆっくりと閉まる
残された三人の視線は、プレイ内容を表示するディスプレイへと向けられた


(´・_・`)「うん……じゃあ俺仕事に戻るから」

⌒*リ;´・-・リ そ「え!?見ていかれないのですか?」

(´・_・`)「この後団体の受け入れがあんだわ。それに、見なくても結果は知れてる」

⌒*リ;´・-・リ 「え……それってどういう……」

(´・_・`)「教え甲斐のねえ生徒だってこった。終わったらまた呼んでくれや」


小練は大きな欠伸を一つ吐き出し、ゆったりとした足取りで母屋へと戻っていく
含みのある物言いに、残された二人は不安気に顔を見合わせる。そうとも知らず、モニターの中では勢いよくゲートが開き、球体は激しく回転し始めた―――――

565 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:30:09 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



⌒*リ;´・-・リ 「……」

(;@з@)「……」


『教え甲斐がない』とはどういう意味か?人によっては幾つかの解釈に分けられるだろう
馬に念仏を聴かせるように、教えても学ぼうとしない不真面目さ。はたまた、1を教えれば10を理解する賢明さ
それとも、逆に先人へ教えを説こうとするような見当違いの図々しさか


(;'A`)「ハァ……ハァ……」

( ^ω^)「とっくん……」


(´・_・`)「な?面白くねえ」


スクリーンに映る準備は、堂々の『1st』
教え甲斐のない生徒が、ズル無し真剣一発勝負で掴んだ、初めての一着であった


⌒*リ;´・-・リ 「いやエグ……って、教え甲斐が無いってのは!?」

(´・_・`)「あー?徳雄は来た時から既に身体は仕上がってたし、文彦もチャリオッツに関しちゃ言うことねーだろ。俺ぁ内心ガッカリしてたんだぜ?いじめ甲斐のねえ連中が来ちまったって」

⌒*リ;´・-・リそ 「高評価故の失望!?」

(´・_・`)「ほらよく言うじゃん?出来ない子ほど可愛いって。だからしずくは可愛い」

⌒*リ;´・-・リ 「それ絶対しずくちゃんの前で言わないでくださいね!?」

566 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:31:20 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「それで……」


高梨から連絡を受けてダラダラと戻ってきた小練の前では、息を切らして正座する徳雄と、それを仁王立ちで見下す文彦の姿
ゲームが終わって間もないのは見て取れるが、今の位置関係は普段の二人を知ってる者からすれば奇妙極まりない


(´・_・`)「早速ダメ出しか?」


小練はこの構図も、ある程度は予想していた


( ^ω^)「あの、さぁ」

(;'A`)「はい…………」


(#^ω^)「もう一回言うけどスタートダッシュから走り過ぎどう考えてもとっくんの脚質はラビット向きじゃないお今までの特訓でその自覚もないのかお?まぁそれはいいお問題はその後だお遠ぉーくの相手にまで過敏に反応してちょこちょこちょこちょこハンドル動かしやがってよ幾ら戦車だからといっても有効射程ってもんがあんだお撃たれたところで当たりゃしねえんだよ小心者のザコがよ!!確かに蛇行運転ってのは回避の基本テクだけど意味ない所でジグザグやっても体力の無駄そう無駄!!そんで遮蔽物を積極的に使うのはいいおでも車体が全然隠れない壁選んでも意味ねえだろブス!!遮蔽ってのは防弾だけじゃなくて車体を隠して見失わせる事にも意味はあるんだおその場にある一番使える壁を即座に見抜くのもジョッキーには必要不可欠なスキルだおわかってんのかアメイジングブス!!それとこれレースルールって理解してるかお?なんかチャンスあったらバカスカ当たりに行ってるけどへばった相手にまで喧嘩売る必要は全っっっっっっっっっっっっっっっっっっっったくこれっっっっっっっっっっっぽっっっっっっっっちもねーーーーーーーーーーーーんだおアレか?蟒蛇の時の成功体験が忘れらんなくて死体蹴りに興じてるんですか?っかーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!顔もブサけりゃ性格も腐ったドブみたいだお臭っっっっっっ!!!!!!!!そういう無駄に積み重ねで体力使って終盤のスパートが伸びなかったんだおとっくんはクソ呑気にやったー初勝利だーとか思ってんだろうけどハナ差の勝利なんて勝った内に入んねーんだおましてやプロ不在の素人に毛が生えた程度のマスター帯で辛勝とか僕のキャリアにクソみたいな戦績が付いてしまったおあのさぁとっくんいや時間をドブに捨てた顔面ドブスくんはさぁ本当にジャパンカップ勝つ気ありますか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????????」


(;'A`)「はい…………」


(;@з@)「文彦氏!!手心!!」

(;´・_・`)「……」


高梨がエグいとドン引きした理由がそこにあった

567 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:32:05 ID:xsbgfEYE0
⌒*リ;´・-・リ 「小練さん、早く助けてあげてくださいよ。宇都宮先輩があれだけ萎縮するの相当ですよ。普段は社長に平然と手を上げるような方なんですから」

(;´・_・`)「そ……それはそれで大問題じゃねえの?」


しかし、このほぼ罵倒目的のダメ出しも、小練の狙いであった


(´・_・`)「はいはいそこまで!!振り返りだ!!」

(#^ω^)「あ??????」

(;´・_・`)「殺気立ち過ぎだろ……」

(;@з@)「申し訳ござらん。昨日から文彦氏の情熱はフルスロットルで留まるところを知らぬのでござる」


情熱も結構だが脂肪を燃やして欲しいものである


(´・_・`)「どーれ……」


小練はリプレイデータを五倍速で見返しながら、気になったシーンをキャプチャーしていく
その間、高梨と木本の応援組は落ち込む徳雄を励まし、怒り立つ文彦を宥めたりと八面六臂の大活躍を見せた


(;´・_・`)「……」


なんかこっ酷く負けた後みたいな光景だった

568 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:34:20 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「先ずは初勝利おめでとう。文彦は不満げだが、一枚落ちというデカいハンデを背負ってこの結果は上々だ」

( ^ω^)「……ま、それは評価してやるお。仕方なく」

(;'A`)「アリガトウゴザイマス…………」

⌒*リ;´・-・リ 「声ちっさ!!」

(;@з@)「胸張っていいんでござるよ宇都宮氏!!」


励ましを他所に、小練は「残念ながら」と続ける。徳雄の肩がビクリと跳ねた


(´・_・`)「癪に触るが、文彦の指摘は概ね当て嵌まってる。大雑把に言えば『無駄』が多い。今回はアマチュア戦だったが、プロは一瞬の隙を余裕でぶち抜いてくる連中だ。このままだと、予選は抜けられても本戦は1ステージも突破出来んだろう」

( ^ω^)「ハァーーーーーーーーーー……甘く見てんすよねぇ、チャリオッツを。これだから甘い見積もりでジャパンカップ優勝とか目標立てた素人はさぁ」

⌒*リ;´・-・リ 「……」


高梨は、儀杜らがどうしてあそこまで文彦を毛嫌いするのかを、なんとなく察せた


(´・_・`)「素人ね。本当にそうか?」

( ^ω^)「お……?」


(´・_・`)「身体が仕上がっていたとは言え、チャリオッツを初めて数ヶ月。合宿に到ってはたったの二週間足らずだ。その僅かな期間だけで、徳雄は『マスター帯』で通用するレベルにまで成長している」

(´・_・`)「これは既に、素人から脱していると捉えて良いんじゃないか?」


徳雄の成長にはからくりがあった。合宿中は二枚落ちの状態で、最高クラスのCPUやプロチームのゴーストと渡り合ってきた
そんな過酷な環境下から、マスターランク帯の対人戦へに挑戦。一見、難易度に差は無いように見えるが
最高ランクとは言え、プレイチームは玉石混交である。AIとは言え国内最高峰プロチームと比べれば、文彦の言う通り『素人に毛が生えた程度』と呼んで差し支えない
プロに匹敵するレベルのアマチュアも当然存在するが、それもマスター帯の上澄みであり、おいそれとマッチングするようなものでもない
結果、今回のオンラインプレイは、徳雄にとっては比較的難易度が低いものだったのだ

569 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:36:35 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「時間をドブに捨てたと言ったがな、徳雄の大まかな課題はなんだった?」

( ^ω^)「チャリオッツに慣れる、だお」

(´・_・`)「で、お前から見て今のプレイはどうだった?」


文彦は不満気に唇を尖らせながらも、先ほどより怒気を潜めて答えた


( ^ω^)「チッ……『ダメ出し出来るレベル』にまでは、成長してると認めてやってもいいお……クソが……」

(;'A`)「文彦……」

(#^ω^)「あ???????」


すぐさま元の剣幕に戻り、徳雄は小さく縮こまった


(´・_・`)「そうだ。つまり、チャリオッツの『いろは』はクリアしたと見ていい。ここからは磨き上げる期間だ。その為に文彦、お前の力がいる」

( ^ω^)=3「フゥー、やれやれ。その理由をこの凡骨に教えてやってくださいよ」


クソほど調子に乗ってた。キモ豚もおだてりゃ木に登るとは正にこの事である


(´・_・`)「元プロ選手の観点を活かす。今のダメ出しを食らったら嫌でもわかるだろうが、文彦は改善点の抽出に優れてる。オメーが見る影もなくボロクソにされて何も言い返せないのがその証拠だ」

(;'A`)「その通りっす…………」


もう半泣きだった

570 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:37:36 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「裏を返せば、文彦が文句の一つすら言わなくなれば、ジョッキーとしての腕前は『プロ級』だ。そうだよな?文彦」

( ^ω^)「ま、とっくん、いや、マスター帯程度で手こずる程度のクソザコブサイクにそれを成し遂げられたらの話、で・す・け・ど・ねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜っと」


調子と脂が乗り過ぎてクソデブを高く買ってる小練と木本も流石に顔を顰めた


(´・_・`)「それとだな、お前らの大将は文彦を攻撃の要として運用するそうだ。昨日受け取った車両構築を送る。確認しろ」


小練は二人それぞれに本八の『仮組み』データを転送する。それを見た文彦はブヒと鼻を鳴らした


( ^ω^)「『スピンミキサー』かお。クズにしちゃ思い切ったチョイスじゃねーか」

⌒*リ´・-・リ 「ねぇ人のこと見下すのカッコ悪いからやめな?」

(;^ω^)「あっ、すっ、すみません……」

⌒*リ´・-・リ 「謝るの私じゃないよね?」

(;^ω^)「ご、ごめんだおとっくん……」

(;'A`)「い、いいよ……」


大人の女性のマジトーンに、野郎四人の肝がガチガチに冷えたのであった

571 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:39:28 ID:xsbgfEYE0
⌒*リ´・-・リ 「失礼しました。続きをどうぞ」

(;´・_・`)「お、おう……み、見ての通り、スピンミキサーは車両を高速回転させるアビリティだ。ぶっちゃけ、ジョッキーにとってメリットはほぼ無い。砲塔の無い固定砲で素早く照準を合わせる為に使用する代物だな」

(;@з@)「となれば、宇都宮氏と大潮氏は、ガンナーである文彦氏と息を合わせる必要が出てきますな」

(´・_・`)「そうだ。6shooterの特性上、ガンナーは独立して砲撃は出来ない。ジョッキーの操縦技術で補う場面もあれば、スピンミキサー込みでエイムを合わせる場面も出てくる」

(;'A`)「するってーと、『チャリオッツ慣れ』を、ガンナーである文彦込みで次の段階へと進めるって事っすね」

(´・_・`)「その通りだ。ところで徳雄、ガンナーを乗せて試合した感想はどうだ?」

('A`)「……」


徳雄はリザルトとリプレイを映すモニターに目をやる。初めての対人戦レースで掴んだ『1st』は、今までのやり方で手に入る物ではなかった


('A`)「……文彦と出会う前、オッサンが言ってたんすよ。『脚』と『オツム』しか揃ってねえ現状じゃ、実戦訓練も儘ならねえって」

(;^ω^)「お……」

('A`)「実際、そん時の戦績は散々だった。でも、さっきの試合は『オツム』が無くても成り立ってた。照準だってまともに合わせてねえのに」

(´・_・`)「そりゃ、どうしてだろうな?」

('A`)「簡単な話だった。主砲は単に攻撃手段ってだけじゃなく、『牽制』の役割も担っている。だからこのレースの最後、俺は先頭を維持してハナ差で勝てた」


銃を突きつけられた時、人は思わず両手を上げて無抵抗になるが、それに『弾が込められていない』と知られれば、脅しの効力を失う
文彦はこの試合、何度か発砲した。命中せずとも、発砲することで相手に『脅威』を認識させられる
破壊されない為に慎重に動くようになり、備えるようになる。言い換えれば、『引け腰』になるということ
妨害の無いレースであるならば、スパートを邪魔される事はない。だがチャリオッツは違う。砲撃という脅威への『警戒』は、大いに脚を引っ張るのだ


('A`)「小練さんの言ってた事、よく理解出来ましたよ」

(´・_・`)「フン、首尾は上々だな」

572 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:40:27 ID:xsbgfEYE0
面白く無さげに鼻を鳴らした小練は、場を切り替えるように手を叩いた


(´・_・`)「合宿後半戦は、これまでの練習メニュー+業務用筐体での実戦を行う!!ハードになるが気合い入れろよガキ共!!」

('A`)「臨むところっすよ」


小練の激励に徳雄は勿論


(#^ω^)「やってやるお!!ミセリに認知されてオフコラボする為に!!そしてついでにジャパンカップ優勝の為に!!」


目的が明後日の方向へ大きくズレを起こした文彦も、豚鼻息荒く応えたのであった

573 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:44:10 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・ω・`)「……」

(´・_ゝ・`)「……」


徳雄が勤務している参羽鴉グループ飲食店『OHANAMI』の休憩室にて、二人の視線はホログラムディスプレイに釘付けだった
それは緊急で行われた記者会見であり、長机には徳雄、文彦とそれぞれ関わり深い人物が着席していた


『この度、ハヤテのチャリオッツジャパンカップ参加にあたり、年内の芸能活動縮小のご報告をさせて頂きます』


スーツに身を包んだ猫山 義古が、決意を漲らせた面持ちで立ち上がり発表すると、記者のどよめきとフラッシュの羽ばたきが辺りに満ちた
猫田は暫く、会場が落ち着くのを待ってから、予めまとめてきた原稿に目を落とす
両隣には、メンバーの高岡波音。そして、徳雄の親友にして『標的』である獏良 良樹の姿があった


(´・ω・`)「奴らもとうとう宣戦布告か。引く手数多の大人気アイドル様が、良くスケジュールを合わせたもんだ」

(´・_ゝ・`)「それが、我々と会う以前から計画的に進められていたようです。ここ半年ほどのライブ活動や俳優業は極端に少ない。あまり時間を食わない収録やミニイベントで回してたみたいです」

(´・ω・`)「勝良祭もその一環か。規模は大きめとはいえ、ローカルな祭だからな。ちょうど良かったのかもしれねえ」

574 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:45:43 ID:xsbgfEYE0
『ジャパンカップの目標は?』

『無論、優勝のみです』


若い記者の質問に、猫山は毅然と返答する。画面越しでもわかるくらい、会場の熱気が伝わってくる
今や日本を代表するイケメンアイドルグループの、『最も過酷なeスポーツ』グランプリ参戦
日本中の興味を表すように、ネットニュースの記事数は瞬く間に膨れ上がっていく


『それはつまり、『クワイエット』の三連覇を阻むという事ですが、自信の程は?』

『小心者の僕以外は、勝つ気満々です』


ドッと笑い声が上がった

575 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:46:35 ID:xsbgfEYE0
『冗談はさておき、クワイエットの連覇阻止は、今年出場する全てのチームの悲願でしょう。僭越ながら、彼らを代表してクワイエットに宣言致します』

『首を洗って待っていろ、と』


笑いは瞬く間に感嘆へと変わる。最年長リーダーなだけあって、話術の緩急の付け方が絶妙だった
性格、人柄、ルックス共に厄介オタクデブと血が繋がっているとは思えない。アレは一族の負の遺伝子を一身に引き受けて誕生した哀れな醜い豚なんじゃないかと本八は訝しんだ


(´・_ゝ・`)「大きく出ましたね」

(´・ω・`)「上の指示なんじゃねえの?猫山は謙虚な野郎だった。本心じゃ胸を借りるつもりで挑むってとこだろ」

(´・_ゝ・`)「しかし、他二人はそうでもなさそうですね」


『ガンナーの高岡さん。ジャパンカップへの想いをお聞かせ願えますか?』

『えー?オレは正直、二人ほど経験も熱意もあるわけじゃないんだけどさぁ〜』


猫山は渋い顔を、獏良は呆れたように苦笑いを浮かべた


『でもよ、やるからには全力を尽くすぜ!!オレァ負けんのが大っ嫌いだからな!!クワイエットだかクインテットだか知らねえけど、全員ぶっ潰してやらぁ!!』


(´・ω・`)「アツいねぇ。女にモテんのも頷けるぜ」

(´・_ゝ・`)「それに、ガンナーとしての腕も確かのようですね。愛砲は『2hand』。二箇所の同時攻撃が可能の変則主砲です」

(´・ω・`)「上下に重なった二つの砲を、それぞれ別の方向へと向けて発射出来る代物か。あの嬢ちゃん、単純そうに見えて器用なモン使うじゃねーか」

576 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:49:32 ID:xsbgfEYE0
『ジョッキーの獏良さんに質問です。ズバリ、ジャパンカップ参戦候補の中で最も注目しているチームは?』

『……』

『……あの、獏良さん?』


獏良はすぐには答えず、カメラの向こう側を見透かすようにジッと見つめる
それはまるで、『今、自分を見ているであろう誰か』に向けて挑発をしているかのようであった


『ふふ、ごめんなさい。本番までのお楽しみってことで』


獏良は口元に人差し指を立て、質問した記者にウインクを放つ
『魔性』という言葉が似合うイケメン仕草である。とてもゲロ以下顔面の腐れ暴力ブサイクの親友とは思えなかった


(´^ω^`)「煽るねぇ〜。ブサイクの野郎、これを見たらきっと燃え上がるぜ」

(´・_ゝ・`)「思いがけない燃料投下ですね」


(´・ω・`)「ま、ブスに限った話じゃなさそうだがな」


チャリオッツのプレイ人口が多いとはいえ、ジャパンカップ参戦の報告を大々的にするチームは滅多にいない
時折、ハヤテのような芸能人が番組の一環として発表することもあるが、その殆どが予選の高い壁を越えられずに消えていく
だが、ハヤテには『実績』があった。昨年十月に行われた配信者最強決定戦『ライバーズ・ライバルズ』にて、ジャパンカップ常連のプロチーム『NOOD(ノード)』を下し、優勝を果たしている
その勝利は素人目から見ても偶然の賜物では決して無く、確固たる実力を万人へと示したのだ
勢いづいたハヤテはその後も大小問わずチャリオッツの大会へと参戦し、全て勝利を飾っている。デビュー以来無敗という称号を抱えたまま、ジャパンカップへと挑むのだ


(´・ω・`)「これで、今年のジャパンカップは二つの伝説が鬩ぎ合う形になった」


最強王者、『クワイエット』のジャパンカップ三連覇か
新進気鋭、『ハヤテ』の無敗優勝か


(´^ω^`)「ぶっ壊し甲斐のある舞台じゃねえか!!ガハハ!!」

(´・_ゝ・`)「ええ、そのようで」


この二つの偉業を阻むのも、また『偉業』である
二人は、彼らと同じく挑もうとせん年末の大舞台に、これまでにない大きな嵐を予感した

577 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:50:19 ID:xsbgfEYE0
斯くして、ハヤテの参戦発表は



( ,,^Д^)「……」

(-_-)「どうしたの?」

( ,,^Д^)「こいつが……」



日本中に犇めく数多の強豪たちの


  _
(  ∀ )「おいおい、これって完全に俺のこと言ってやがんな」



胸中に抑え込んでいた野望の炎を



ζ( ー *ζ「お姉ちゃん。図らずも、アイドル頂上決戦になりそうだね」



『大炎』へと昇華させたのであった



(  _ゝ )「は?ミセ×トソこそ正義だが?」

( <_  )「トソ×ミセだろ殺すぞカス」

578 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:50:43 ID:xsbgfEYE0
だが、残念なことに



(;'A`)「ハァッ、ハァッ!!」

(# ゚ω゚ )「スピンにハンドル持っていかれてんじゃねえお!!回転が止まったらキチッと固定して真っすぐ走るんだお!!ちょっとブレただけで後隙狩られるお!!」

(;'A`)「はい!!スワセン!!」




『ハヤテ』が送った果たし状は、山奥で更に過酷な修練に励む二人には届かなかった

579 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:53:43 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



♪Gonna Fly Now
 https://www.youtube.com/watch?v=LOyHMftfbGA


木本と高梨が帰宅し、合宿も残すところ一週間となった。追い込みの時期である



(;'A`)「有効射程!!遮蔽意識!!」



午前中は、それぞれ合宿前半と同じトレーニングメニューをこなす。徳雄は、文彦のアドバイス(ほぼ罵倒)を意識してプロチームのゴーストデータとの対戦である
文彦の無遠慮な改善点の指摘は、徳雄が会得しようとしている『守りの走り』への明確な指針となり、今となっては漠然とした焦りも消え失せた
未だゴール出来た試しは無いが、日に日に到達地点は伸びていく。その度に徳雄は、かつて学生時代に味わった成長の悦びを噛み締めていた



(;^ω^)「フーッ、フーッ!!」



文彦の水中ウォーキングも、上下共に着衣した状態で行われた。五十分のウォーキングを、十五分ずつ休憩を挟んで3セット
始まった当初は毎日のように文句を溢していた文彦も、推しに認知されるという大いなる目標を得たことで、歯を食いしばって励むようになった


(´・_・`)「トラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーインハーーーーーーーーーーーードナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


その間、小練は指導しつつすっごく歌った

580 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:55:13 ID:xsbgfEYE0
午後からは実機を使った訓練である。これは主に、徳雄の操縦技術のチェックと、スピンミキサーへの慣れが目的だ


(#^ω^)「正面から左右45°まではジョッキーの操縦で照準を合わすんだお!!ピッタリ止めなくてもいいけど、絶対に砲口が相手を捉えるようにするんだお!!」

(;'A`)「はい!!!!!!!!!!!!!!!」


徳雄は真面目な男である。暴力に躊躇いこそないが、自分に非がある分には、豚の言う事すらも素直に聞く
固定砲の不便さに文句を溢さず、頭上から怒鳴りつけるチームメイトに逆らわず、指摘されればすぐさま修正を行う
文彦と反りが合わなかった蟒蛇のメンバーとの違いは、『己は取るに足らない素人である』という謙虚な姿勢。その姿勢こそが、徳雄の目覚ましい成長の後押しとなっていた


(#^ω^)「オッケエナイスゥ!!!!!!!!!今の感覚忘れんじゃねーお!!!!!!!!!」

(;'A`)「はい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


文彦もまた、徳雄の成長に伴い、態度を変えていく。最初こそダメ出し(罵倒)が殆どを占めていたが、思い通りの動きをすればすかさず褒めた
これはかつてチャリオッツを始めたての頃、キャプテンの位置から教示してくれた従兄の名残であった。最も、彼は罵倒など一度もしなかったが
悪しきは叱咤し、良ければ褒める。このメリハリを、性格ゴミクソッタレデブが弁えていたのは、小練にとっても嬉しい誤算だった


(´・_・`)「イッツソォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーード!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


そら歌も指導もめっちゃ盛り上がった

581 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:56:02 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「トライーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーードナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(#^ω^)「気が散るお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(;´・_・`)「アッハイ」


豚が初めて正論をかました記念すべき瞬間であった

582 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:57:14 ID:xsbgfEYE0
休養日も、車両構築やアビリティについて話し合った


( ^ω^)「アビリティは1〜3までのコストがあって、最大で『5コスト』まで積み込めるお。コストが低ければ短いCTで使いまわせるけど効果は小さく、逆に高ければ絶大な効果の代償に多くのCTを要するお」

('A`)「スピンミキサーのコストが『1』ってことは、残り全部を1コスで埋めたりも出来んのか」

( ^ω^)「そういうチームも無くはないけど、ゴッチャになるから推奨されてないお。大抵はバランスの良い『122編成』か『113編成』に分けられるお」

('A`)「違いは?」

( ^ω^)「122編成は生存重視型だお。ミドルコストのアビリティで道中のステージギミック攻略に重きを置いてるお。初心者から上級者まで、万人に好まれる編成だお」

( ^ω^)「113編成はスパート重視型。終盤に高コストアビリティで勝負を決めるガチガチの上級者編成だお。道中の障害を低コスアビリティだけで突破する実力あっての編成とも言えるお」

('A`)「なるほどなぁ」

( ^ω^)「どのチームも一つは『固定アビリティ』があるけど、残りは自由枠として大会ごとに組み替えたりするお。そうしないと、毎回手の内を明かしながらプレイすることになるから不利なんだお」

('A`)「ってなると、ここでも初参加の俺達が有利な条件になるのか」

( ^ω^)「そうだお。固定枠も自由枠も明かされてないチームは、有名な強豪と比べて底が知れないダークホースになり得るんだお」


スピンミキサーを軸にして、他アビリティと組み合わせたシナジー考察
文彦にとってはやり慣れた作戦会議だったが、チャリオッツを始めて間もない徳雄にとっては


('A`)「おもしれえな……」


プレイする以外でのゲームの面白さに触れる新鮮な体験となった

583 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:58:10 ID:xsbgfEYE0
そうして、あっという間に時は過ぎ、迎えた八月三十日―――――


(´・_・`)「……」


翌日には帰宅する為、今日が実質の合宿最終日である。小練はいつも通りの四時に起床し、手早く身支度を整えた
繁忙期ピークの八月であるが、盆を過ぎれば客足は徐々に落ち着きを見せる。終盤には学校の新学期再開間近ということもあり、賑やかだった宿舎がシーズンオフの静けさを取り戻すのも珍しくはない
来月の半ばには例年通り『得意先』が利用しに来るが、今月最後の客は徳雄と文彦を残すのみとなった

水とシリアルバーだけの簡単な朝食を済ませると、登山口に続く玄関へと足早に向かう。そこには既に


('A`)「おはようございます」

( ^ω^)「おっせーお」


小練よりも早く集合した二人が、準備運動に勤しんでいた


(´・_・`)「やる気は十分のようだな」


合宿の総決算が、人知れず始まった

584 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 17:59:12 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「文彦。初日の苦痛、忘れてねえよな?」

( ^ω^)「ハッハッハッ、先生。僕を見くびって貰っちゃ困るお」


文彦はその場で軽く足踏みをする。自前のジャージの腹回りには幾分か余裕が出来ており、文彦は生まれて初めて『紐』を結んでいた


( ^ω^)「鍛えに鍛え抜いた僕の足腰、見せてやりますお」

(´・_・`)「期待してるぞ。徳雄、先に行け」

('A`)「了解っす。文彦、後でな」


徳雄にとっては、山登りは二日置きのルーティンワークだった。最後の一回を噛み締めるように、ゆったりと駆け出す


(´・_・`)「速度は気にするな。肝心なのはやり遂げることだ。出来るな?」

( ^ω^)「はいですお!!」

(´・_・`)「良い返事だ。そんじゃあ、出発するぞ」


歩み始めた文彦のペースに合わせて、小練は後ろをついていく。標高およそ700メートル。登り降り合わせて往復で8キロ前後の道のりだ
小練や徳雄にとっては、身体を温める程度のアップに過ぎないが、運動慣れしていない者なら翌日の筋肉痛は免れない


(;^ω^)「フッ、フッ……」


早くも汗ばみ始めているが、呼吸は一定で刻まれ、足取りもしっかりしている。水中ウォーキングの成果は、文彦が言った通り『足腰』に表れていた

585 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:00:13 ID:xsbgfEYE0
格闘技にせよ球技にせよ、スポーツの要は下半身にある。ダイエットに効果的な『有酸素運動』にも、足腰は重要な役割を持つ
ダイエット初心者が陥りがちなのが、『三日坊主』だ。それは運動の辛さも勿論関わってくるが、急な運動によって関節を痛めるのも原因の一つである
回復をを待っている間に運動が億劫になり、ダイエットが続かないという悪循環へと陥ってしまうのだ


(´・_・`)「……」


文彦は、グダグダ言いつつもサボる事なく最終日を迎えた。しかし、ダイエットが今日で終わるワケではない。本番の大晦日まで継続しなければならないのだ
水中ウォーキングの目的は、『劇的なダイエット』ではなく、『土台』作り。しっかりした足腰で、挫けることなく運動を楽しめるように
口だけではなく、自らの足で理想を追い求められるように。いつか望みを叶えられるように。小練なりの後押しを込めた鍛錬だった


(;^ω^)「フッ、フッ……先生……」

(´・_・`)「あんだ?」

(;^ω^)「打ち上げは、盛大に頼みますお」


一皮剥けて逞しくなった生徒の姿を真っ先に拝められるのは、指導者としての喜びの一つである


(´・_・`)「抜かせクソガキ。精々ぶっ倒れるんじゃねえぞ」

(;^ω^)「なんのこれしきですお!!」


初日の山頂で泣き言を溢していた文彦は、誰の手も借りず自分の力で八キロの山道を踏破したのであった―――――

586 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:00:58 ID:xsbgfEYE0
山頂にて



(#^ω^)「ドラゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」



(´・_・`)「お前ロッキー4観た????????」

587 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:03:02 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・_・`)「総仕上げだ。お前ら二人でプロチームのゴーストデータと対戦して、ベストスコアを叩き出せ」


チャリオッツ実機を使った最終試験。総勢17チームのプロとの模擬戦である


('A`)「マスター帯じゃないんすか?」

(´・_・`)「オメーどっちがしんどいよ?」

('A`)「全然ゴーストデータっすね。狩られる速度がダンチっすよ」

(´・_・`)「そういうこった。これまでと違うのは、俺がキャプテンとして乗り込む。指示はしねえが、任意のタイミングでスピンミキサーは使ってやる」

( ^ω^)「本番環境に近い状況でやれるってことかお。とっくんこれワンチャンあるで」

('A`)「ワンチャンじゃ困んだよ」


指の骨をパキと鳴らすと、徳雄は真っ先に筐体へと乗り込んだ


('A`)「圧勝で締めようぜ」

( ^ω^)「抜かせ素人。精々ぶっ倒れるんじゃねえお」

(´・_・`)「オイ」


予想外のタイミングで辱められた

588 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:03:48 ID:xsbgfEYE0
ゲーム設定は本番と同じ4ステージ。小練の重量分の装甲は軽減された為、練習時より耐久値は下がる


('A`)「フゥー……」

( ^ω^)「とっくん」


ハンドルを握り、緊張を深い息と共に吐きだした徳雄へ、銃座から声が掛けられる


( ^ω^)「今日はミスろうがポカろうが気に食わなかろうが何も言わないお。好きにブチかませばいいお」

('A`)「いいのか?」

( ^ω^)「そろそろ僕も、『勝ち馬』が恋しくなってきたんだお」


徳雄は合宿の大半を、『守りの走り』の習得に努めた。しかし、本来得意とするのは『攻めの走り』である
ねぐらでプレイする最後のゲームを、小練は『総仕上げ』と呼んだ。ジョッキーたる徳雄に求められるのは生来の凶暴性と、ここで培ったチャリオッツの技術
その二つをブレンドして初めて、ジョッキーの『持ち味』が生まれる。徳雄は背後に控える『二人の師匠』に、親指を立てた


('A`)「舌噛むんじゃねえぞ」


スタートシグナルが鳴る。ゲート解放と共に、徳雄はペダルに力を込めた

589 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:05:05 ID:xsbgfEYE0
(;´・_・`)そ「うおっほ!!」


小練が徳雄の走りを体感するのは今日が初めてである。鍛え上げられた体幹と、フルハーネスによる補助があるとはいえ、荒っぽいスタートダッシュに思わず腰を落とした
抑え込んでいた攻めっ気の解放。少々先走り過ぎかと思いきや、速度自体は抑え目だった。攻撃方法は『チャージ』だけではないのを、キチンと理解している証明だ


(#^ω[◎]「敵位置10、2!!射程圏内!!先生!!10撃破後にスピン!!」

(´・_・`)「はいよ!!」


徳雄は取舵を切り、左斜め前方の車体へと砲口を向ける


(#^ω[◎]「今!!」


文彦は『発射前』に合図を出した。小練が合図を聞いてアビリティの実行に移るまでの一秒にも満たない時の中で、『四連射』を放つ


(;´・_・`)「マジかッ……!!」


アビリティ、『スピンミキサー』の発動。車体は右回転を行う。120°でピタリと止められるような器用なアビリティではない
視界がぐるりと回って、2時方向に位置する敵車体も、残像を伴って通過しようとする。文彦にとっては、『止まって見えた』


(#^ω[◎]「っし!!」


残り二連射を叩きこみ、車体は360°回って12時の方向へと向き直る
6shooterに撃ち抜かれ、宙を舞った二つの車体は、ほぼ同時に地へと落ちた
完全な破壊こそ出来なかったが、足を止めるには十二分の半壊状態である。もし本番であるならば、勝利は奇跡が起きない限り絶望的な状態と言えた


(;'A`)「ッ、ラァ!!」


慣性に引っ張られないようハンドルを引き戻し、ひっくり返る二車両の間を走り抜けた


(;´・_・`)「たまげたな……」


僅か1ステージ目で2ヒットである。精密な早撃ちもそうだが、驚くべきは『弾の配分』である
左の車両は右と比べて、厚く装甲を載せていたのだ。文彦は有効打に必要なダメージ量を瞬時に見抜き、実践した
今の一瞬だけで、文彦がどれだけ6shooterと向き合って来たのかがよくわかる。この才能をみすみす逃したプロ団体がいるなど、信じられない程だった

590 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:06:49 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「だが……」


これがマスター帯なら難なく走り抜けていただろう。相手は『プロ』である
重装甲の車体からは黒く濃い『靄』が立ち上り、もう一方の車両からは激しい火花が飛び散り始めた


(´・_・`)「カウンターアビリティ『呪怨』に、耐久値が半分以下になると一定時間バフが乗る『フラッシュポイント』。薮を突いて蛇を起こしちまったな」


チャリオッツの『悪霊』と、導火線に火についた『爆弾』が、徳雄達の背中を同時に追い駆ける
本来、小練のいるキャプテンが他のポジションに警告せねばならない立場だが、今はあくまでスピンミキサーを使うだけの助っ人である


(´・_・`)「呪怨の『悪霊』に捕まりゃ車両重量を一定時間三割り増し。フラッシュポイントはそれこそ絡みつくネズミ花火みてーに食いついてくる。さぁ、どうする?」


(;'A`)「フッ、フッ……」


文彦のアドバイスの一つに、『サイドミラーの常時確認』がある。自動車の運転にも言えるが、後方にも気を配らねばならない
ミラーには、猛追する黒い影と尻に火がついたような車両の姿が写っている。このまま体力を温存して走っていては直に追い付かれるのは目に見えていた


(;'A`)「文彦!!」

(;^ω^)「残り15秒!!」


6shooterの弱点は固定砲だけではない。六発分の再装填に、30秒もの時間を要する。早撃ち、配分共に申し分無かったが、『反撃』を考慮せず撃ち尽くしたのは迂闊であった
比較対象として、単発の高火力主砲の装填速度が平均10秒前後。軽火力なら3秒を下回る。この余りにも長すぎるリロードタイムは、ガンナー界隈から6shooterという選択肢を除外するのには十分な理由となった

591 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:09:27 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「く……!!」


牽制砲撃で放たれた砲弾が側面装甲を掠め、再びミラーに目を向ける。靄よりも車両の方が速度は早く、次第に近づいてくる
全力で逃げ切ってもいいが、猛追がどれほどの時間続くかわからぬ以上、鬼ごっこに余計な体力を使えない


(;'A`)「だったら……!!」


車両の位置を敵車両正面へと移動させ、ブレーキを握る。急停車した車体の尻に、『爆弾』は容赦なく噛み付いた


(;'A`)「スピン全開!!」

(´・_・`)「正解っ……!!」


スピンミキサーのCTは6shooterのリロードタイムを大きく下回る。問題なく使用可能だった
車両はすぐさま回転し、衝突により半壊した後部装甲ごと接触した敵車両を弾き飛ばす。飛ばした先には、遅れて追いついた『怨霊』の姿


(´・_・`)「フゥー!!お見事!!」


怨霊は突如飛んできた見当違いの『憑き先』へと吸い込まれる。アビリティによって勢い付いていた車両も、三割増の重量は無視出来ない
徳雄は回転の終了を待たずにペダルを踏み込み、機を逃すことなく距離を離す。ミラー越しに、小さくなっていく敵車両。火花は既に消えていた

592 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:10:15 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「ナイスプレイだお!!」

(;'∀`)「お粗末さん!!」


視界のブレを気合いで抑え込む。平然としている文彦は最初からスピンミキサーへの『耐性』があった
三半規管は訓練によって鍛えられる箇所である。目が回る原因は、身体の回転に対して視界のブレを無くそうとする『眼振』という作用によるものである
ぐるぐると回った後にピタリと止まっても、しばらく視界が動き続けているのは、視界は静止したという脳の処理と眼球の動きにラグが発生する為に起こる現象だ
つまりこのラグさえ無くせば、眼振の発生は抑えられ、方向感覚に影響することなくプレイを続行出来る。フィギュアスケーターが激しいスピンを繰り出した後に平然と競技を続けられるのも、日常的な訓練の賜物である
文彦は訓練をしたわけではないが、チャリオッツプレイヤーとして激しくブレる視界の中で正確な早撃ちを行ってきた
『見て』から『撃つ』までの脳の処理速度は群を抜いており、これは眼振の抑え込みにも絶大な効力を発揮した。ここでも、文彦の天性の才が光ったのである


(;'∀`)「理屈はわかるけどよっ……」


徳雄には築き上げた強靭なフィジカルがあったが、特別な才を持たぬ男だった
こればかりは回数をこなさねば身につかない。幾つか目が回らない『コツ』も教わったが、それでも多少マシ程度だ
今のは後隙も狩られずに済んだが、本番ではどう転ぶかわからない。合宿期間中に解決できなかった大きな課題が残った


(´・_・`)「……」


小練は徳雄のフォローを大きく評価した。合宿前半では、力任せに突っ込んで体力と耐久値を大きく削る荒々しさが目立っていたが
追走する車両の装填の隙を突いた接近と、アビリティのパワーを使った撃退。この一月で、徳雄は着実にジョッキーのテクニックを身につけている
文彦に関しても、まだ改善の余地があるのを知れたのも良かった。自身の才能と6shooterの性能に、若干だが信を置きすぎている
今のようにジョッキーとキャプテンのフォローで立て直せなくもないが、自分の尻は自分で拭けるに越したことは無い


(´・_・`)「……」


まだまだ面倒を見てやりたいが、彼らには彼らの、ねぐらにはねぐらの日常があり、残念ながら交わることは無い


(´・_・`)「さぁさぁもっと気合入れて行け!!最後に俺を仰天させてみろや!!」


悪路でがたつく車上で、小練は一足早く訪れた寂しさを鼓舞でかき消した

593 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:11:07 ID:xsbgfEYE0
続く第二、第三ステージも、ステージギミックに救われつつ辛くも突破。車両耐久値は残り三割程度で、最終ステージへと突入した
二チームの先行を許しているが、リードはさほど取られてはいない。残った脚次第だが、勝ちの目は残っている。しかし――――


(;'A゚)「ハァッ!!ハァッ!!」


肝心の『脚』は、誰の目に見ても限界を迎えていた


(;^ω^)「射程圏……いや」


砲撃による妨害も可能だが、今の徳雄は砲撃により生じる衝撃でバランスを崩しかねない。終盤で一度崩れたジョッキーが立ち直るのは困難であると、経験者たる文彦は理解していた
チャリオッツが世界一過酷なeスポーツたる由縁がここにある。『プロ』とも呼ばれる実力者同士の対戦は、より高い次元の技術と、限界以上の体力を要する
ましてや、今の相手は人ではなく『AI』である。判断力や戦術の応用こそ人より一歩劣るが、『疲れ』を知らない。即ち、体力切れによる『諦め』も無い


(;'A゚)「ハァッ!!ハァッ!!」


『気力』が尽きれば、勝敗は決する。チャリオッツこそ初めて間もないが、かつて身を置いていた勝負の世界と共通する事実
徐々に距離を離される先行車両の姿は、気力だけで前に進む徳雄の心に容赦なく斧を入れていった


(´・_・`)「……徳雄ォ!!」

(;'A゚)そ「ッ!!」


小練が筐体に乗り込んだのは、合宿の成果を確かめる他にもう一つ理由があった。ジョッキーの『必殺技』。その伝授の為に、キャプテンの座に座らねばならなかった
特別な技能も、専用のアビリティも、アイテムもトレジャーも用いない。必要なのは強靭な心と身体だけ。幸いにも、徳雄には二つとも備わっていた

594 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:13:44 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「弾も万策も尽きようが、お前さえ諦めなけりゃ勝負はわからねえ!!最後にチームの希望となるのは、チャリオッツの『原動力』たるジョッキーの、最も重要な役割だ!!」

(;'A゚)「ハァッ、お、応ッ!!」


キャプテンの『操作盤』には、アビリティ、アイテム、トレジャーの使用パネルの他に、各装甲及び主砲のパージパネルがある
必要に応じて装甲を外し、車両の軽量化や後続の妨害として使用する。小練は、無事な装甲をギリギリまで残していた
通常、スパート時にはこれらを全て排除する。最終ステージともなれば、砲撃によるダメージケアよりもゴールによる勝利が優先される為だ
足枷を外すことで、変速ギアの無いチャリオッツで唯一の『ギアチェンジ』が可能となる。キャプテン不在の練習を続けた徳雄にとって、初めて体験する『基礎テクニック』だった



(´・_・`)「お前の野望に役立てやがれ!!これが最後に贈る……」


(#´・_・`)「俺からの餞別だァ!!!!!!!」



全装甲と主砲の一斉パージ。重量から解き放たれた足裏のペダルが、嘘のように軽くなる



('A゚)「」



この瞬間、重さに耐え忍んできた肉体は『錯覚』を起こす。疲労で限界を迎えようとしていた筈が、負荷が軽くなったことで『まだいける』と認識するのだ
同時に、苦痛から解き放たれた頭からも脳内麻薬が弾け出る。この二つの作用が、徳雄の身体の『ギア』をトップへと切り替えた

595 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:14:59 ID:xsbgfEYE0




(#'A゚)「ガァアアアアアアアアアアアアア ア ア ア ア ア ア ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !」




(;^ω^)そ「う、おっ!?」


仰け反るほどの急加速。前方車両との距離はみるみるうちに縮まっていく
徳雄に満ちる『解放感』は、内に抑えていた暴力性を曝け出す。これが最後、ここが勝負所。残った全てを脚に込めて加速する


(;´・_・`)「ハハ!!すげえなオイ!!」


小練には、徳雄は必ずこの必殺技を一発でモノにするだろうという期待があった。そして彼は今、『期待以上』の暴力的スパートを見せた
それはまさに、万人が今年のジャパンカップに望む『三連覇の偉業』を、『無敗優勝の夢』を、無慈悲に叩き潰す『鬼の走り』だった


(;^ω^)「残り、一つ!!」


猛烈な勢いで追い上げ、二番手に躍り出る。ゴールラインは目視圏内。先頭車両との距離も瞬く間に縮まっていく


(#'A゚)「アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


トップスピードは維持したまま、先頭車両の背を追い抜こうとしたその時―――――

596 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:16:34 ID:xsbgfEYE0
(;^ω゚ )そ「しまっ……!!」


文彦だけが、瞬時に先頭車両の違和感に気付いた。『装甲を全て残していた』のである
スパートの際、装甲は足枷となる。後続が主砲を棄てて追い上げてきたのなら、猶更残しておく必要は無くなる
『終盤で勝負を決める、装甲を利用したアビリティ』。今となっては遺物にも等しいが、かつて『禁忌』とされるほどの高威力を誇った切り札がある


(;^ω゚ )「『ショットパーj


先頭に最も接近した瞬間、装甲が一斉に『手榴弾』のように弾ける。鋼鉄の礫は身軽になった自車両を容赦なく食い破り、操縦席は横転する


(;'A゚)そ「ぐっ……!!」

(;^ω^)そ「ッ……」


残った耐久値は蝋燭の灯火を吹き消すかのように呆気なく尽き、ディスプレイ上に『BREAK』と映し出される
呆然とする二人に見向きもせず、『アンラ・マンユ』のゴーストは、悠々とゴールラインを切った


(;'A゚)「……」

(;^ω^)「……」


暫し、起こった現実を受け入れられずにいたが


(;'A゚)・'.。゜「ガホッ!!ゲホッ!!ゼハァーッ、ゼハァーッ!!」


魔法が切れた徳雄の息が再び荒れだしたところで、ようやく『負けた』という実感に襲われたのであった

597 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:17:27 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・_・`)「文彦、先に降りろ。運び出す」

(;^ω^)「お……お願いしますお」


小練は慰めも励ましもせず、淡々とやるべきことをこなす。徳雄は自分の足で筐体を出るどころか、ハーネスを外すことも出来ないほど消耗していた
そんな相方を不安気に振り返りつつ、文彦は一足先に筐体を降りる。すると、ゆっくりとしたわざとらしい拍手が彼を出迎えた



_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> (´^ω^`)「負け犬ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄



ドクズである


( ^ω^)「……」

(´^ω^`)そ「あれ!!!!!!!!!!?????????思ってた反応と違う!!!!!!!!!!」

(;´・_ゝ・`)「でしょうよ……」


その隣には、腹心であるハゲの姿もある。今の文彦には、オッサン共との再会に嫌悪を示す気力も無かった

598 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:18:16 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)「迎えに来たのかお……今更」

(´・ω・`)「いんや?短い夏休みってやつさ。働きづめだったからよ」


クズにしては珍しく、飲み物とタオルを自ら手渡す。拒否する意味もないと、文彦は素直に受け取った
本八は、文彦がミセリフェスの約束を反故にされて見苦しく喚くと予想していたが、今の敗北は推しに会えなかった事すら凌駕するほど堪えたらしい
やがて、筐体から小練に支えられて徳雄も出てくる。彼もまた、ねぐらに来訪した二人の姿に大したリアクションもせず、息を切らすだけだった


(´・_・`)「酸素だ。吸え」

(;'A`)「ハァー、ハァー……」


手渡された携帯酸素を吸うが、染み入る感覚は皆無だった。最後の最後で、師に報いる機会を逃してしまったのだ。不甲斐なさが胸を締め付けた


( ^ω^)「……ごめん。もっと早く気付くべきだったお」

(;'A`)「ングッ、ハァー、ハァー……」


文彦の謝罪に言葉では返せず、徳雄はただ首を振るだけだった。落ち込む二人の姿を、クズはなんと―――――



(´^ω^`)「めっちゃ落ち込んでてウケる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」



指さして笑った

599 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:19:18 ID:xsbgfEYE0
(#^ω^)「何が可笑しいんだお!!」

(´・ω・`)「可笑しいだろ。これ練習だぜ?負けも失敗もして当たり前だろうが。お前ら毎度毎度落ち込む気か?感受性が豊かで羨ましいな。クソみてえな恋愛リアリティ番組でも泣けるんじゃねえの?」


文彦は激昂したが、本八の煽りに何も言い返せなかった。『ぐうの音も出ないほどの正論』だったからだ


(´・ω・`)「途中からだが、合宿の成果はしかと見せて貰った。お前らを喜ばすようなことなんざ口が裂けても言いたかねえが、正直たまげたぜ」

(;'A`)「ハァー、ハァー……」

(´^ω^`)「まぁ最後に残った相手がアンラ・マンユだったら仕方ねえよ!!アレね、俺の推しなんすよwwwwwwwww」


およそ一ヶ月ぶりに湧き出すクズへの殺意に、徳雄は不覚にも懐かしさを感じてしまった


(´・ω・`)「失敗や敗北にしょげるなたぁ言わねえよ。ただ、成し遂げた事にも目を向けろ。そら見ろよ、今の試合」


本八は観客用ディスプレイを指す。二人が到達した地点が、赤い点滅として示されている
二人は負けた。それは覆しようのない事実だ。だが―――――


(´・ω・`)「お前らは、強豪の亡霊相手にここまで立ち回ったんじゃねえか」


プロチームを相手にゴール寸前まで到達したのも、紛れもなく二人が『成し遂げた事実』であった

600 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:20:40 ID:xsbgfEYE0
(;'A`)「フゥー…………慰めのつもりか?」

( ^ω^)「アンタに言われなくてもわかってるお」


いつもの調子を取り戻した二人に向かって、本八は鼻を鳴らす


(´・ω・`)「当然!!本番でこんなポカやらかしやがったらタダじゃおかねえ!!だが今日は、合宿をやり遂げた事に免じて目を瞑ってやらぁ!!」


本八は最後に「薄汚ねえガキ共が」と余計な一言を付け足し、その場を後にする
二人は珍しく励ましてくれたのかなと懐柔されかけたが、その一言で吹き飛んだ。そして後で埋めると決めた


(´・_ゝ・`)「ああ見えて、相当嬉しいんだよ。許してやってくれとは言わないが、半殺し程度に収めてやってくれ」


ハゲも励ませや


('A`)「ハン……あのクズの援助あっての合宿でしたからね。今回だけは見逃してやりますよ」

(;´・_・`)「上司だよな?」


高梨の再就職は本当に上手くいったのか不安になった


(´・_ゝ・`)「さて、今日は我々の休みでもあるんだけど、二人を労いに来たんだ。小練さんにも協力してもらってね」

( ^ω^)「え!!!!!??????お触りOKのコンパニオンのおねーちゃんが!!!!!!?????」

(´・_ゝ・`)「そんなわけねーだろバブル期のオッサンかテメーは」


そんなわけなかった

601 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:21:32 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「どぉぞぉ〜」

( *^ω^)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


コンパニオンこそ呼ばれなかったが、本八の差し入れであるアンドロイドケータリングサービスと、性癖を犠牲にとんでもない料理の腕を持つ調理師による盛大な打ち上げが開催された


(;'A`)「つか……やり過ぎじゃねっすか……?」

(´・_・`)「俺もこの規模の差し入れは初めてだよ……」


ねぐらの食堂ではマグロ解体ショーに握りたての寿司、揚げたて天ぷらに焼きたてステーキと、ホテルビュッフェさながらのご馳走が立ち並ぶ
クズハゲブスデブの四人とねぐら従業員四人、それとここ最近頻繁に見る高身長和装美女ともう一人足して計十人だけのささやかな……結構おるやんけ。とは言え、個人で行う規模のパーティーでは無かった


/ ゚、。 /「今日何のお祭り?」

イ从゚ -゚ノi、「何のお祭りなんでしょうね……」

602 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:22:21 ID:xsbgfEYE0
(´・ω・`)「あれーーーーーーーーーー????????大桜堂の??????????」

/ ゚、。 /「あら社長さん!!奇遇やわぁ!!」

イ从゚ -゚ノi、「知り合い?」

/ ゚、。 /「ほら、例のチャリオッツ筐体。アレ買うてくれたお客なんよぉ」

(´^ω^`)「ここで会ったのも何かの縁だし後日しっぽり食事d / ゚、。 /「いやや」うほー京都人らしからぬ直球拒否効く〜」

イ从;゚ -゚ノi、「詩音!!鈴アレ売っちゃったって!!」

(;´・_・`)そ「ハァ!?捨てろっつったろ!!中に何詰まってたのか忘れたのか!?」

(´・ω・`)「『詰まってた』???????????????????」

/ ゚、。 /「綺麗にしたし憑きもんも落ちたんやから勿体無いやないの」

(´・ω・`)「え……恐……」


めちゃくちゃ裏がありそうだが、もう一カ月近く乗り回してるので既に手遅れだった

603 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:24:22 ID:xsbgfEYE0
( ^ω^)<ドリュリュリュリュリュリュズゴオオオオオオオオオオオオシュボボボボボ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「ほらもっと食べて食べて♪」

( ^ω^)<カーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ジュッポジュッポジュッポォォォォォォジュルルルルルルルルルルジュッジュジュウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!レロレロレロレロ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


今日ばかりは無礼講と、小練と本八から許可が出たので、文彦はここぞとばかりに飯を食いまくった。豚のカービィである
徳雄はと言うと、体力を使い切ったことであまり食が進まず、一人離れた場所で飲み物を傾けながらしみじみとねぐらでの生活を振り返っていた


('A`)「……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「名残惜しいですか?」

('A`)「そりゃあ、まぁ……だけど、ずっと居るわけにもいかねえし」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「『素晴らしい時はやがて去り行き、今は別れを惜しみながら』ですねぇ」

('A`)「ハハ、そんな大層なもんでも……」



(;'A`)そ「アンタ誰!!!!!!!!!!!!!????????????」



ここでようやく徳雄は尻を浮き上がらせた


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「いやぁ、久しぶりにご飯食べに来たらめっちゃ豪勢で驚いちゃいましたよぉ。寿司アンドロイドマジ???????どうなってんですこれ???????」


脂滴るようなトロマグロ・スシ。神出鬼没のチャンネーは一度に二つ食べた


i!iiリ゚ 〜゚ノル「ふぉふぉふぉんふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ?んほほふぉふぉ?」

(;'A`)「飲み込んでから喋……いや、アンタ前にどこかで……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「ングッ、その節はどーも。いい試合、見させて頂きましたぁ」

604 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:26:09 ID:xsbgfEYE0
およそ二か月前。ゲームセンターで騒ぎになった時、助け舟を寄越した女性だった
あの日と同じく、親しい間柄の友人のような馴れ馴れしさで近づき、ヌルリと会話を滑り込ませてきた
何より恐ろしいのは、『この場にいる全員が、女の存在に対して何の反応も示していない』。得体の知れない不気味さに、徳雄は思わず生唾を飲み込んだ


(;'A`)「幽霊か妖怪の類か?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノルそ「わぁ、鋭い!!実はぬらりひょんの孫なんですよ!!」

(;'A`)「何かのタイトルっぽい出生だな。俺に用か?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「用があるのはもう少し先かもしれませんねぇ。ワタクシ、こういうモノです」


差し出された名刺には、『フリージャーナリスト 青葉 青花』と、職業と名前らしき文字列が記されていた


(;'A`)「あおば……あおばな?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「読みにくいですよねぇ。読み方は『あおば せいか』と申します」

(;'A`)「ああ……そんで、ジャーナリストってこたぁ……」


マスコミに良い思い出があると答える者は少ない。彼らは多くの場合、『不幸』や『訃報』、または『不祥事』などを好む
徳雄も過去に獏良絡みのコメントを頂戴しようと目論むジャーナリストに自宅周辺をうろつかれたことがある。悪評こそ広められなかったが、あの粘り腰にはうんざりしたものだ


(;'A`)「オッサンのスキャンダルでも訊きに来たのか?言っとくが、記事にしようがどうせ金の力でねじ伏せられるぞ?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「承知してますよぉ。大潮一族がどれだけ同僚を泣かせたかご存じですか?」

(;'A`)「いやそんなあるの?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「親の代から数えたら広辞苑が出来ますよ」

(;'A`)「うわ……クソの一族……」


でもこういうのが政治とか牛耳るんだろうなと思った

605 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:28:48 ID:xsbgfEYE0
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「まぁ今日はご挨拶だけで。いずれお話を伺うこともあるでしょう」

(;'A`)「はぁ……」


青葉は空になった皿を手に立ち上がり、軽く会釈をした


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「ジャパンカップ、期待してますよぉ。『流星』と『鬼追』の直接対決を」

(;'A`)「は……?ちょっと待て!!」


意味深に言い残して去ろうとした彼女を止めようと立ち上がるが、瞬きの間に霞のように消えていた
見回して探したが、その姿はどこにもない。狐につままれたような気分で、徳雄は力なく席に戻った


(;'A`)「どこ行きやがった……」


残された名刺だけが、彼女が確かにここに居たという証明だった


(,,゚-゚)「探しても無駄だよ」

(;'A`)そ「うおっ!?」


またもや音もなく近づいていた少女に、再び尻を浮かす。鳴らないんですかって?尻が勝手に鳴るわけねえだろ頭可笑しいんじゃねえのお前


(;'A`)「お前、知ってんのか?」


脂が滴るようなトロマグロ・スシ。儀杜は、一度に一つ食べた


(,,゚〜゚)「ふぉんふぉふぉんふぉんふぉふぉおふぉふぉ。ふぉうふぉうふぉ」

(;'A`)「食ってから喋れ」

606 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:29:58 ID:xsbgfEYE0
(,,゚-゚)「ングッ、図々しく人の家に上がってはプライバシーを根掘り葉掘り聞いてくるクソ女」

(;'A`)「怖っ……めちゃくちゃ言うじゃん……」

(,,゚-゚)「人の触れられたくない所を無遠慮に抉ってくる奴なんて好きになれるわけなくない?先生は甘いから好き勝手させてるけどさぁ」

(;'A`)「ああ……まぁ……」


『今お前そういう奴が出した金で飯食ってるけど』とは言わなかった


(,,゚-゚)「アレの正体が知りたかったら、チャリオッツ関係の記事を読めばわかるよ。興味あればだけどね」

('A`)「……」


まさかと思い、小っ恥ずかしくてロクに読んでないゲーセン時の記事を検索する
確認すべきは中身ではなく、記事を書いた『記者』の名前。予想通り、文末に『青葉 青花』と名前が記されていた


('A`)「なるほどね……」

(,,゚-゚)「気をつけた方がいいよ。良いも悪いも全部記事にされるから。特に『お友達』は口が軽そうだし」

(;'A`)「肝に銘じておくよ……」

607 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:30:44 ID:xsbgfEYE0
('A`)「それよりお前、どうして気にかけてくれたんだ?」

(,,゚-゚)「んー?」

('A`)「ここに来た当初は歓迎されてねえようだったからよ」

(,,゚-゚)「野暮だね」

('A`)「理由のない善意は信用しないタチでね」

(,,゚-゚)「ふぅん。まぁ、強いて言うなら、友達がお世話になってるお礼ってとこかな」

('A`)「高梨さんか」


高梨は以前ねぐらに助けられたと言っていたが、具体的な話までは聞かなかった
彼女が何に巻き込まれて、どう救われたのかは、特異な能などもたない徳雄には想像もつかないが
少なくとも、徳雄が知る今の彼女とねぐらとの良好な関係を見るに、ハッピーエンドを迎えられたのだけは察せられる


('A`)「前言撤回するわ」

(,,゚-゚)「何が?」

('A`)「俺と違って、良い人間だよオメーは」


友を想い、他者を思いやる人間の性格が『終わっている』筈がない。徳雄は珍しく素直な気持ちを吐露したが


(,,;゚-゚)「え……気持ち悪……」

('∀`)「ハハ、このクソガキが」


『思っていたほど上等な人間では無かった』儀杜には届かなかった

608 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:31:19 ID:xsbgfEYE0
宴会は夜を通して行われ、ねぐらの灯は夜明けまで尽きることは無かった


(´;ω;`)「ダッwwwwwwwwwwwwwwwwハッハッハッハwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwチンポwwwwwwwwwwwwwww」

i!iiリ; ヮ;ノル「ヒッwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwチンwwwwwwwwwwwwチンポwwwwwwwwwwwwwwww」

(´;_ゝ;`)「アアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!アアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

イ从゚∀゚ノi、「アッwwwwwwwwwwwwwwハッハッハwwwwwwwwwwwww見て詩音wwwwwwwwでっかいバーコードwwwwwwwwwww」

/ ;、. /「なんぼなんwwwwwwwwwwwwwwwオッサンなんぼなんwwwwwwwwwwwwwww」

(  ゚ω゚ )<ウオ……シュ……ゴポォ……マウスウォッシング……

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「まだいける♪まだいける♪」


そう、地獄絵図であった


(,,;゚-゚)「どうすんのこれ」

(;´・_・`)「どうすんだろうな……」

(;'A`)「……」


後に、ねぐら史上最も混沌とした宴会として長らく語り継がれる一夜であった

609 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:36:58 ID:xsbgfEYE0
―――――
―――



(´・ω・`)「いやぁ、お騒がせして申し訳ない」

(;´・_・`)「ええ……まぁ……そうですね……」


たった数時間眠っただけですっかり素面に戻った本八が深々と頭を下げる。酒に溺れてチンポチンポと騒いでいたオッサンと同一人物とは思えなかった


(´・_ゝ・`)「ケータリングの撤収、終わりました。いつでも出れますよ」

(;´・_・`)「ああ……はい……」


同じく盛岡も、シャキッとした顔つきで手早く片付けを済ませていた。ケータリングサービスは、校庭を傍若無人に占拠する参羽鴉所有のオート操縦ヘリに納まっている
始めて目の当たりにする規模の移動手段に、小練は『金ってのは誰を好むのかわからん』と困惑を隠しきれなかった


(  ゚ω゚ )「ウプ……リバウンド王桜木……」

(;'A`)「意味ちげえだろ」


はちきれんばかりに飯を食わされた文彦と、その豚の荷物も肩代わりして連れ添う徳雄も宿舎から現れる
徳雄は一度、名残惜しそうに宿舎を振り返り、礼をするように会釈をした


(´・_・`)「忘れもんねえか?」

(  ゚ω゚ )「オヨメサン……」

(´・_・`)「寝ぼけてんのか???????」


豚は寝言を鳴いた

610 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:38:06 ID:xsbgfEYE0
('A`)「小練さん」

(´・_・`)「おう、他の連中が見送りに来なくてすまねえな」


正午を回っても夢から醒めない女性陣に、小練は小さく溜息を吐く。徳雄は気にせず「よろしくお伝えください」と返したが、豚は露骨に残念がった


(  ゚ω゚ )「ジャパンカップ……ミ……ウッ……」

(;´・_・`)「お前この後ヘリ乗って帰るんだけどいけそう???????」


約束されたオチはすぐそこまで迫っていた


(´・_・`)「文彦、帰った後も運動続けろよ。たまにはサボってもいいが、理想の実現は継続した先にしか待ってない。しっかりやれ」

(  ゚ω゚ )「フゥ……ブィ、ブヒッ……ブヒッ!!」

(´・_・`)「よし」


良くなかった。この時、文彦はゲロを抑えるので精いっぱいで話を湾曲していた


【(´・_・`)「ジャパンカップを優勝したら、三人を嫁にくれてやる。しっかりやれ」】


(  ゚ω゚ )そ「!!!!!!!!!!!!!!」


耳腐ってんのか?

611 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:39:47 ID:xsbgfEYE0
(´・_・`)「徳雄」

('A`)「はい」


二人は暫く見つめ合った後、固く握手を交わした
無言の中に込められた感謝と期待は、言葉にするまでもなく互いに伝わっていた


(´・_・`)「元気でな」

('A`)「小練さんも」


短く別れを告げ、四人はヘリへと乗り込む。ローターが回り、小練は巻き上がる砂埃に目を細めた


(´・_ゝ・`)「飛ぶよ」


操縦席に座る盛岡の合図と共に、機体はゆっくりと浮かび上がる。徳雄と文彦は、窓越しから徐々に遠ざかる『ねぐら』を眺めていた


('A`)「……おい、文彦」

(  ゚ω゚ )「ブヒ?」


徳雄が宿舎の職員居住区の方向を指す。そこには



(,,~-~)ノシ

イ从~ -~ノi、 zzz……

ヽiリ,,~ヮ~ノiノシ



窓辺からねぐらの三人娘が、半分眠ったままの見送りをしていた


('∀`)「ハハ……大方、ヘリの音がうるさくて起きちまったってとこか」

(  ゚ω゚ )「お……」

('∀`)「文彦?」

612 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:40:45 ID:xsbgfEYE0
<オロロロロロロロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!!!!!!!!!!!!

<うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおやりやがったこいつ!!!!!!!!!!!

<くっっっっっっっっっっせえええええええええええええええええ!!!!!!!!!おいもう捨てようぜ!!!!!!!!

<アンドロイドだけは死守しろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!



(;´・_・`)「あーあー……」



約束されたオチが炸裂するヘリを眩しそうに見上げながら、小練もまた名残惜しそうに手を振った
暑さがしぶとく残る八月三十一日。徳雄と文彦の、少し奇怪な夏合宿は終わりを迎えたのであった―――――

613 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:42:06 ID:xsbgfEYE0
次回予告



(´^ω^`)「普通に最悪の締めだったな。一カ月振りにぶっ殺そうかと思ったぜ」

(;´・_ゝ・`)「本人だけの非ではないと思いますけどね……」

(´・ω・`)「それはそうと、いよいよ予選が目前に迫ったな。決めなきゃいけねえことが山積みだ」

(´・_ゝ・`)「エントリーにはチーム名が必要ですからね。候補はあるんですか?」

(´^ω^`)「そらぁもうおめえセンス爆発のチーム名が頭ん中にあるぜ!!『ゴロゴロ』だ!!」

(´・_ゝ・`)「は?」

(´^ω^`)「暗雲の到来を告げる音をそのままチーム名にしたのさ!!悪党にはピッタリの名前だろ!!」

(´・_ゝ・`)「終わってる」

(´^ω^`)「終わってないよ」

(´・_ゝ・`)「黙れクズが!!頭腐ってんのかチンカス野郎!!チーム名は二人の意見も聞いた上で決定しましょう」

(´・ω・`)「あいつらにまともなネーミングセンスがあると思うか?」

(´・_ゝ・`)「お前よりマシだろ。次回、『Desperado Chariots』第九話。『予選へ向けて』」

(´・ω・`)「俺……あいつらより酷いの……?」

(´・_ゝ・`)「ああいえ、それは蓋を開けてみない事にはどうにも言えませんが」

(´;ω;`)「オロロロローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!プライドが著しく傷ついたよーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「泣くなよ……気持ち悪ぃ……」

614 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:42:29 ID:xsbgfEYE0






























.

615 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:43:54 ID:xsbgfEYE0
九月中旬、ねぐらにて


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「こんちわー」

イ从゚ -゚ノi、「あら珍しい。正面玄関から来るなんてね」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「オフィシャルの仕事ですからねぇ。今回はコソコソする必要はありませんから」

イ从゚ -゚ノi、「いつもその調子なら、しずくも少しは警戒を解くんじゃない?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「なーんであんな嫌われてるんですかねえ?」

イ从゚ -゚ノi、「自分の胸に訊いてみたら……」


青葉は首に掛けた一眼レフを下ろし、事務室備え付けのコーヒーメーカーにポーションを差し込む
勝手知ったる振舞いに、銀は手元の小説から目を離さずに「私のも」と催促した


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「しっかし、どういう風の吹き回しだったんですかぁ?」

イ从゚ -゚ノi、「何がよ?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「あの『二人」ですよぉ。ねぐらは既に専属契約してらっしゃるじゃないですか」


銀の机にアイスコーヒーと、ガムシロップが五つ置かれる。彼女はそれを残らずグラスに注ぎ込み、ストローでかき混ぜた


イ从゚ -゚ノi、「場所の提供だけで、指導までは含まれてはいないからね。あいつが誰の面倒見ようと勝手でしょう?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「にしたって、『我々』と無関係の人間を指導するとは思ってませんでしたよ。見込みがあったってことですかぁ?」

616 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:45:15 ID:xsbgfEYE0
イ从゚ -゚ノi、「あのね」


青葉はマグカップに口を付け、思わず目を剥いた。『唇が貼り付くほど』、キンキンに冷えていたからだ


イ从゚ -゚ノi、「アンタは自分の仕事だけやってりゃいいの。私らの腹を探ろうってんなら、力づくでも追い出すわよ」


銀の指先が、マグカップから青葉へと向いた。表情こそ本から離れていなかったが、凍てつくような視線だけは青葉を射抜いていた


i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「あはは〜、失敬失敬。職業病ですかねぇ」

イ从゚ -゚ノi、「馬鹿を治す病院でも探したらどう?」

i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「そ、そうします。おっと!!」


外から微かなエンジン音が耳に届き、青葉はマグカップを置いてカメラを手に取る


i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「お仕事の時間です!!それじゃ、失礼しましたぁ!!」


そして、ふざけた敬礼を残してそそくさと事務室を後にするのであった


イ从゚ -゚ノi、「ハァ……アレより、ボウヤの方がマシだったかしら……」


残暑を感じさせない程に肌寒くなった事務所の中、ボソリと独り言ちて甘ったるいアイスコーヒーを啜ったのであった

617 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:47:29 ID:xsbgfEYE0
ねぐらでは数年前から『固定客』が付いている。チャリオッツ関連の設備は比較的最近設置された物で、本来なら一般に開放はされない
使用するにはまず、ねぐら管理人である小練ではなく、持ち主である『固定客』へ許可を貰わねばならないのだ
しかし今日まで、外部客から設備の使用許可の申請は一度もない。そもそも、ねぐらにチャリオッツ設備が置いてあることは秘匿とされているのだ
では何故、徳雄と文彦は使用できたのか。それは真っ先に本八が『固定客』へと掛け合った為である。そして、豊富な資金源と諜報力を持つ本八自身すら


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「来た来た♪」


『固定客』へ掛け合うまで、『ねぐらを利用するプロチーム』の存在を知らなかったのである


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「こんちわ!!」

(,,゚-゚)「うわ……」


校庭に停まったバスから、真っ先に降りた儀杜に愛想を振りまくが、返って来たのは露骨に嫌そうな表情
小さな前座を大して気にせず、続き降り立って来る利用者へ挨拶と共にシャッターを切る
晴天のように明るく振舞う青葉とは裏腹に、出てくる者は皆、まるでこれから戦地にでも赴くかのように固く緊張した面持ちであった


最後に、運転手である小練を残して降りてきた『三名』を除いて、だが


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「どもども恐縮ですぅ!!今回の密着取材を担当します青葉 青花です!!早速一言お願いします!!」


三名は、答えることなく無言で宿舎へと向かう。ほぼ専属と言っていいほど取材をしてきた青葉であるが、彼らはどの記者に対しても一貫してこの態度であった

618 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:49:46 ID:xsbgfEYE0
i!iiリ゚ ヮ゚ノル「いやぁ、相変わらずかっこいいですねぇ」


青葉は一つも堪えた様子もなく、後ろ姿へシャッターを切る。そこに、バスのエンジンを切った小練も降り立った


(´・_・`)「見習いてえよ。お前のその無神経さ」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「宜しければ爪の垢でも差し上げましょうか?」

(´・_・`)「今は結構」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「いやぁしかし、小練先生も人が悪い」

(´・_・`)「あ?」


青葉はカメラを降ろすと、グリンと首を捻って小練の顔を覗き込んだ



i!iiリ゚ ヮ゚ノル「『トップ・ギア専属合宿場』の主でありながら、余所のチームの指導もするなんて、浮気性も良い所ですよ」



腹の奥底を見透かさんと、クレバスの底のように黒く沈んだ眼に深く覗かれるが、小練はなんてことない様にフンと鼻を鳴らした


(´・_・`)「知るかよ。こっちは商売でやってんだ。浮気もクソもあるか」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「おやおや、薄情なことで」


いつもと同じく揺さぶりが通用しないと確認すると、青葉は肩をすかせて踵を返した

619 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:50:18 ID:xsbgfEYE0





i!iiリ゚ ヮ゚ノル「それじゃあ、間近でたっ〜ぷり堪能させて貰いましょうかね。トップ・ギア歴代最強チーム、『クワイエット』を」





.

620 ◆L6OaR8HKlk:2025/01/05(日) 18:53:13 ID:xsbgfEYE0
終わりです。お疲れ様でした

豚が変な所に拉致されたせいで一年半も更新が空きました

621名無しさん:2025/01/05(日) 21:43:17 ID:c9wCR5.U0
ずっと待ってた乙!めちゃ面白かった!

622名無しさん:2025/01/06(月) 08:33:53 ID:iI9Lsz4E0
あんたの新作をずっと待ってたんだよ!!!

623名無しさん:2025/01/06(月) 20:29:23 ID:zmyWV4ZA0
おつ!待ってた!
正直あっちの話はよくわからなかったからこっちの更新お願いします!!

624名無しさん:2025/01/08(水) 00:08:36 ID:760aWHQU0
乙!ハイカロリーなストーリー!最高やで!!第9話も待ち遠しいで!!

625名無しさん:2025/02/03(月) 00:10:34 ID:VsPa/Dk20
やっと続きが読めたぜ!!!!
裏の話もこっちの話も面白かった!!!!
9話も楽しみに待ってる!!!!!

626 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:25:44 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「いい天気だな」

(´・_ゝ・`)「……」


車のフロントガラスから覗く空は、陽の光を遮る分厚く黒い雲に覆われており
雨こそ降ってはいないが、時折遠くから『ゴロゴロ』と雷の唸り声が聞こえてくる
世界の終わりを感じさせるような天候を、本八は昔から『良い天気』と呼んだ


(´・_ゝ・`)「そうですね」


雷雨降り注ぐ悪天候ではなく、あくまでも『曇天』が、彼好みの空模様
盛岡は出会って間もない学生時代、本八にそのワケを訊いた事があった



(´ ω `)「『デカくて、黒くて、恐ぇからだ』」



目にしたものが畏怖し、嫌悪し、身構える。最も身近で、分かりやすい『予兆のシンボル』
彼が好んだのは、災い『そのもの』ではなく、災いから連想する『不吉なイメージ』の方だった
『一目置く』という慣用句があるが、何も優秀な者だけに対して使われるわけではない
身震いするような『恐ろしい存在』もまた、人智を超える強大な力を秘めているのだから

出会ってから二十年以上経った今でも、本八は『黒い雲』に心を奪われたままなのだ


(´・_ゝ・`)「……」


だからと言って、『ゴロゴロ』とかいうクソダサいチーム名を容認するわけにはいかなかった

627 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:26:15 ID:iz.ZN/1Y0
第八話



『予選へ向けて』



.

628 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:27:30 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「ひでえ空模様っすね」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「こりゃ今日は閑古鳥が鳴くな」


徳雄が勤務する参羽鴉グループの茶房『OHANAMI』店舗では、顔面崩壊組の二人が取り留めのない会話をしながら開店準備を進めていた
デジタル化社会と言えども、御足労頂く必要がある飲食サービス業は、大なり小なり天候で売上が左右される
嵐がそこまで迫っていて、お友達とお茶をしようとする命知らずはごく少数だろう
徳雄が勤務するOHANAMIも、今日ばかりはバイトを休ませ、店長である榊原と2オペで回す運びとなった。接客業にあるまじき顔面土砂崩れコンビである。この店潰れるんとちゃうんか?


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「暇な内に出来ることやっとくかぁ〜……」


とは言え、雇われの身には気楽な一日となるのは目に見えていた。客が来ようと来なかろうと給与は支給されるのだ
根が真面目で真摯に仕事へ向き合う徳雄も、緊張感のある空模様とは裏腹に、少しだけ気を抜かして業務に取り組んでいた


('A`)「お……?」


それ故に、営業開始前に鳴ったドアベルの音色に面食らってしまう
この悪天候である。開店前と言えども店先で待たしては何が起こるかわからない。足早く対応に向かうとそこには


(´^ω^`)「精を出せ!!!!!!!!!!!!」


雷に打たれて死んでも一向に構わないゴミカスのツラがあった


('A`)「塩持ってくるわ」

(´^ω^`)「雇い主追い払おうとすんな」

629 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:29:14 ID:iz.ZN/1Y0
黒雲はついに豪雨と雷を、存分に下界へと吐き散らかし始める
厳かな店内BGMも、時折けたたましく鳴り響く雷鳴によって遮られた。そんな中


('A`)「そんで……」


小上がりの長机に六つの湯呑を並べた徳雄は、テーブル席の椅子を引き寄せて着席する。揃いたるは


(´・ω・`)

(´・_ゝ・`)


本八、盛岡のオッサン組


⌒*リ;´・-・リ

(;@з@)


高梨、木本の合宿応援組


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ


顔面パズル


(; ω )





といった、いつもの面子であった

630 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:31:24 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「今日は何の集まりだ?」

(´・ω・`)「仕事の話でこのウルトラ役立たずのクソオタクデブを同席させると思うのか?ちょっとは頭使えよ」

('A`)「俺らは勤務時間中だっつの」

(´・_ゝ・`)「すまないね。全員揃って集まれる機会も中々無いもんで」


確かに、合宿を終えて一週間ほど経ったが、いまだに合同練習を行えていない
贅沢に時間を使えた夏の期間とは違い、秋が訪れればそれぞれの仕事や学業が待っている。本八はそのスケジュール調整に少しの時間を要求した


(´・ω・`)「この天気だ。客も来ねえだろうよ。榊原、今日は貸切ってことにしちまえ。利用料は払う」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「わ、わかりました。暖簾下ろしてきます」

('A`)「木本と高梨さんはどうして?」

⌒*リ;´=-=リ 「社長さん達が急に迎えに来て説明も無いままここに……時間外手当出すって事しか聞かされて無いです」

(;@з@)「拙者も同じく。そもそも、社員ではござらぬぞ」

(´^ω^`)「俺らチームじゃん!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)「あのなぁ……」


従業員とオタクである。職権濫用も甚だしかった

631 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:34:48 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「あながち無関係でもないよ。これから練習の関係上、徳雄くんのシフトは不規則になるからね。大会まで、榊原くんと高梨さんにはサポートを頼みたいんだ」

(´・ω・`)「バイトもこの一夏で精鋭になるまで育成したからな。仕事に関しちゃ何の憂いもねえよ」

('A`)「手厚いこって……」


合宿で不在だった一カ月、なんと社長直々にヘルプに入っていたと聞いている。暇なん?
職場復帰時の店長の顔面ときたら、安堵と解放感で逆に整っていたのだ。どのような『育成』をしていたのか、想像に難く無い


('A`)「すみません高梨さん。面倒をかけます」

⌒*リ;´・-・リ 「いえいえ!!乗り掛かった船ですし、私も出来る限り応援しますよ!!」

(´^ω^`)「時間外手当!!!!!!!!!!!!!!」

⌒*リ;´・-・リ 「社長さんもこう仰ってますんで」


深々と頭を下げた徳雄に、高梨は慌てた様子で両手を振った
徳雄は彼女や木本のような善い人間が本八のようなクズに良いように扱われる世の中は間違っていると、危うく義憤に駆られてぶっ殺しそうになった


(´・ω・`)「王太郎にはデ・ブ・の・面・倒!!!!!!!!!!と、車体構築や有力候補チームの情報収集に力を貸して貰いたい。豚のお世話に一番慣れてるからな」

(;@з@)「はぁ……微力ではありますが、お力添えになれるなら幸いにござる」

(´^ω^`)「ぬぅん!!!!!!!時間外手当ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(;@з@)「金で何でも解決出来ると思ったら大間違いですぞ!!!!!!!!」


オタク・正論パンチが出た

632 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:35:34 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「文彦は……」


(; ω )「」


静かで大変結構だが、不気味なほどにグロッキーだった。しかし、顔色が悪いわけではなく、単純な疲労の蓄積に見えた


('A`)「夜ふかしでもしたのか?」

(; ω )「お姉ちゃんが……」

('A`)「は?」

(;@з@)「ダイエットは順調のようでござるな」

(´^ω^`)「小練の先生様様だぜ」

('A`)「は???????」


全くもって意味不明だった

633 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:37:19 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「まぁそれは後で説明……豚なんてどうでもいいか。とにかく、残り二ヶ月は計画的に行くぞ。合同練習日及びミーティングのスケジュールだ。全員目を通しておけ」


それぞれのi-ringに転送されたスケジュール表を確認する。合同練習は火、木と土日祝
平日は19時から21時まで。土日は9時から12時。二時間の昼休憩を挟んで14時から17時
これは学生である文彦の生活スケジュールに合わせてあった。不登校とは言え、授業はリモートで受けている為だ
『まるで部活動だな』と、徳雄は高校時代、親友と過ごした二年と半年を懐かしんだ


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お待たせいたしました……」


榊原はおずおずと、団子が乗った大皿を手に戻ってくる


(´^ω^`)「気が利くじゃねえか榊原ァーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつそ「ヒエッ!?恐れ入ります!!」

('A`)「なんで叫ぶ」

(´・_ゝ・`)「榊原くんも確認してくれ。前々から相談していた通り、徳雄くんは年始まで土日祝はシフトに入れない」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「あっはい、問題ないです」

('A`)「こういうのってまず本人に話通すと思うんすけど」


これまでの強引なやり方よりだいぶマシで麻痺していたが、承諾無しに勝手に話を進めるのも社会人的に相当アレであった

634 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:38:40 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「肉体トレーニングに関しては、お前は自分の裁量で取り組め。小練先生の下で学んだ事を無碍にするような真似すんじゃねえぞ」

('A`)「言われるまでもねえよ」

(´・ω・`)「夏前は言ってもわかんなかったから小練先生に預けたんだが????????????????????」


ブスは黙った


(´・ω・`)「ゴミ人間が!!あと日曜午後はジムトレーナーとの面談とマッサージを受けてもらう。連絡先も送っとくから身体に異変があるようならすぐに相談しろ」


チャリオッツに置ける『アスリート』の部分を担う徳雄が本番までに最も忌避しなければならないのが『怪我』である
ゲーム理解、技術の取得、スタミナの強化を差し置いても、まずは身体のケアを最優先に置く。これは小練からの師事でもあり、本八が前々から危惧していたリスクでもあった


('A`)「はぁ……了解……」


その自覚が無く、これまで向こう見ずに無茶なトレーニングをした過去
ポーカーブサフェイスに努めてはいるが、自覚後は恥ずかしくて堪らなかった


(´・ω・`)「担当は九十九トレーナーだ。トレーニングメニューは俺と彼に共有するように。何を主体に鍛えるつもりだ?」

('A`)「水泳による全身運動。筋トレは現状維持程度に留める」

(´・ω・`)「少しはマシなオツムになったようで安心したよ」

('A`)「お陰さんでな。クソ野郎」


とてもじゃないが、チームメイトとは思えない殺伐としたやり取りに、盛岡を除くサポーター達は喉を鳴らした

635 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:40:30 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「それでは、ジャパンカップについての説明に移ろうか。デミー頼む」

(´・_ゝ・`)「はい」


張り詰めた緊張感など物ともせず、加齢臭共は粛々と会議を進行する
盛岡はi-ringのOfficeアプリを立ち上げ、壁へと投影。本日からジャパンカップまでのスケジュール表が映し出さた


(´・_ゝ・`)「予選は11月から、各土日祝を使って開催される。参加チームは6ブロックに分けられ、それぞれ3チームが決勝に進出できる」

(´・_ゝ・`)「去年の参加数を例にすれば、1ブロックあたり凡そ5000チーム。それを18チーム毎に分けて勝ち抜き戦を行なっていく」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「こうして見るとめちゃくちゃ多いよな……」

⌒*リ´・-・リ 「これって一斉に行われるワケじゃないんですよね?」

(´・_ゝ・`)「当然、各ブロック毎に週替わりで開催されるよ。それに、全国のチャリオッツ施設を全て予選の為に回すから、最寄りから参加出来るんだ」

('A`)「オンラインって事っすか?」

(´・_ゝ・`)「その通り。予選は通常のプレイと同じような感覚で行えるはずだよ」

636 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:42:04 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「ブロックに地区は関係あるんすか?」

(´・ω・`)「オンラインっつったろ。全国どこでもリアルタイムで対戦が行えるってのに、わざわざ地方で分ける必要があるか?」

('A`)「それも……そうか」

(´・_ゝ・`)「話を戻すよ。予選は最大で三回戦まで行われる。一、二回戦は上位2チームまでが通過し、三回戦では上位3チームが決勝に進出する」

('A`)「えーと、つまり……」

(;@з@)「5000を18で割るとおよそ277試合。勝ち抜け出来るのは二位まででござるから、ここで556チームまで絞られるであります」

('A`)「おお、結構ガッツリいくな……て事は、二回戦終了時で大体60チームが残るのか」

(;@з@)「三回戦は残った全チームによるレース、あるいはバトロワで、上位3チームを決めるのでござる」

(;'A`)「そんな規模のゲームもあるんだな……」

(´・ω・`)「大会限定だがな。通常プレイなら最大で36チームだ」

637 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:45:05 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「それで、予選のルールは?」

(´・_ゝ・`)「数が数だからね。チャリオッツ黎明期は4、5ステージのレースもやってたみたいだけど、一回戦はショートコースで手早く振いにかけてるよ」

('A`)「それだと、ラビット有利になるんじゃねっすか?」

(´・ω・`)「レースかバトロワかは開始直前になるまでわかんねえ。この辺りは運も絡むだろうな」

(´・_ゝ・`)「バトロワルールだと、ステージが狭くなるんだ。本来、時間経過と共に行動可能範囲を狭めていくものだけど、これも回転数を意識して短時間で終わるようにしている。二回戦からステージのボリュームは増えるよ」


軽装甲で先行策に特化したラビットタイプは、走行距離が短くなればなるほど有利となる
しかしその反面、勝利条件が『ラスト・ワン』に限られるバトロワルールの場合、その軽装甲が仇となる
ラビットと対極に位置する『タートル』ならば、これと真反対の相性となる
ジャパンカップは長距離レースのグランプリだ。『蠱毒』のようなバトロワルール大会とは違い、走行と攻撃の『総合力』が求められる
上記二つの要素に加え、望むルールを掴む『ツキ』を持つ強豪だけが、本戦へと駒を進められるのだ

638 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:47:30 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「となると、本戦は必然的にオーソドックス寄りの『ホース』『バッファロー』が多くなるのか」

(´・ω・`)「狩りする『兎』もいりゃ、走れる『亀』もいる。その考えはチャリオッツを甘く見過ぎだルーキー」


ジャパンカップはプロアマ混合の大会であるが、やはりプロチームの決勝進出率は段違いに高い
とりわけ、プロ団体の中でもジャパンカップ常連ともなれば、看板を背負っているにも等しい
高いプライドと、それに比例する高い実力は、ルール不利程度の小石に躓くようなものでは無かった


(´・_ゝ・`)「三回戦は木本くんも言った通り、残ったチームで大規模なゲームを行い、上位3チームが決勝進出を獲得する。レースにせよバトロワにせよ、最大規模のステージで行われる。長丁場は必至だね」

('A`)「少なくとも、本戦出場18チーム中、2チームとはここで顔見知りになるってワケだ」

(´・ω・`)「この予選三回戦で気をつけなきゃならねえことがある」

('A`)「なんだ?特殊ルールでもあんのか?」

(´・ω・`)「『チーミング』だよ」


ソロプレイ前提の対戦ゲームで、複数人が結託してゲームを有利に運ぶ行為を『チーミング』と呼ぶ
デジタルゲームに限らず、麻雀やカードなどのアナログボードゲームでも『イカサマ』に該当する行為だが、チャリオッツに置いては線引きが曖昧である
例えば、利害一致による『一時的な共闘』は黙認されているが、特定のチームを最後まで援護し、勝利に貢献する所謂『キャリー行為』については禁止とされている
しかし、どこまでが共闘でどこからがキャリーであるかは、AIと公認レフェリーによるジャッジに委ねられており、反則スレスレのグレーなチーミングは後を絶たない

639 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:49:29 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「勝ち上がっていく度に、同じプロ団体のチームがマッチングする確率も上がるからな。有力候補をそれとなく援護して名を挙げようと目論む中堅プロ団体は少なくねえよ」

(;@з@)「過去には、あの最古にして最強のプロ団体『トップ・ギア』のチームも、チーミングギリギリのプレイをしていた例もありますぞ」

('A`)「プライドがお高いこって」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「それって失格になったりしないんですか?流石に露骨過ぎるんじゃ……」

(´・ω・`)「別につきっきりで介護する必要はねえんだよ。ある程度目星をつけたチームを徹底的にマークするだけでも、どえれえ援護になるんだからな。それに、必ずしも同じプロ団体だけがチーミングに加担するワケじゃねえ」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ど、どういう事ですか?」

(´・ω・`)「そもそも、十数年前から対策の一環として『同団体から出場できるのは3チームのみ』という大会ルールが課せられたんだ。表面上はチーミングが減ったかに見えたが……」

('A`)「擬態する連中が増えた、か?」

(´・ω・`)「その通りだ。名が知られてない下部団体や、プロ候補生で構成されたチームを送り込む所は少なくねえ。兇弾しようにも、上手いこと隠蔽されててな。ネットじゃ荒れる話題一位の問題だよ」

⌒*リ;´・-・リ 「それなら、尚更問題解決の手立てを講じるべきなんじゃ……」

(´・ω・`)「それはそうなんだがな。さっき榊原が言ったように、露骨であればあるほど、そのプロ団体は立場を失うってこったよ」

640 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:52:19 ID:iz.ZN/1Y0
個人で行うゲームならいざ知らず、ジャパンカップほどの大規模な大会になると、予選であれ多くの大衆の目が向けられる
高い実力を認められた『プロ』には面目があり、それをプレイで丸潰しするわけにはいかない
ましてや『チーミング』などと言った卑怯極まりない行為など以ての外である


(´・ω・`)「プロってのはスポンサーがいてナンボだからな。衆目環視の中でズルがバレた日にゃ、干されるのは目に見えてる」

('A`)「裏を返せば、『観客にすら気づかせないほど、イカサマに長けてる連中』がいるかもしれねえってことか?」

(´・ω・`)「その通りだ。王太郎、対策はあるか?」

(;@з@)そ「えっ!?あ、ええと……そうですな。そもそも、大潮氏のチームは無名でござる故、プロ団体にマークされる可能性は低いと思いますぞ」

(´・ω・`)「そうだな」

(;@з@)「その上で対策を講じるのであれば……ううむ、やはり目立たないのが一番手っ取り早いと思いますぞ。レースにせよバトロワにせよ、『キル数』は勝利条件ではござらん故」


レースなら先着、バトロワなら『生存』が勝利条件となる。チャリオッツにおける攻撃はあくまでも障害の排除及び撃退の手段であり、必ず達成しなければならない要素ではない
目立つ行為は控え、接敵を避け、隠密を基本としたゲーム運びを行う。考えうる中で、真っ先に行き着く作戦である


(´・ω・`)「徳雄、どうだ?」

('A`)「同意しかねる」


しかし、徳雄は別の観点から対策を考えていた

641 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:53:43 ID:iz.ZN/1Y0
(;@з@)「何故ですかな?」

('A`)「もっと手っ取り早い方法があるからだ。皆殺しにすればいい」

⌒*リ;´・-・リ 「それだと更にマークが強くなるんじゃ……」

('A`)「半端にやればそうでしょうね。ですが、徹底的に叩けば『避けるようになる』んすよ」


本八は喉奥で面白げにクツクツと笑って団子に手を伸ばした


(´^ω^`)「やっぱ喧嘩慣れしてる奴ァ、理解が早ぇな」


『クワイエット』や『バジリスク』といった、ジャパンカップ常連が難なく決勝進出が出来るのは、多少の妨害など物ともしない高い実力があるからだ
そもそも、衆目環視の前で出来る妨害には限度があり、そもそもの頭数も三回戦まで残っているか怪しい
決勝進出は上位三組以内に入れば良い。限られたリソースを使うなら、より『蹴落としやすい所』に注ぎ込むべきなのだ

642 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 22:56:31 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「文彦の射撃スキルと『スピンミキサー』の組み合わせは、一対多でこそ最大の効力を発揮する。もしバトロワルールで三回戦を迎えたのなら、出し惜しみせず殺し尽くすべきってのが俺の見解かな」

(;@з@)「うむむ……一理ありますが、ジョッキーたる徳雄氏のスタミナも考慮すべきではござらんか?」

('A`)「ま、それは今、考えることじゃねえ。とにかく、『そういうこともある』ってのは頭に入れたよ」


徳雄は話を切り上げつつも、予選三回戦の懸念は『避けては通れないもの』であると認識していた
本八はクズであるが、先見の明がある男だ。無視できるような些細な脅威であるなら、わざわざ口に出しはしない
そもそも、此方は『元プロ』だった文彦を、ひいては『6shooter』という象徴的なリボルバー砲を抱えているのだ。プロチームには及ばないものの、アマチュアの中では悪目立ちする部類に入るだろう


('A`)(つまり、暗に『備えろ』と伝えたかったワケか)


夏合宿を終え、チャリオッツ選手としての実力は目に見えて上がった。しかしそれを周りに公言した所で、プロの威光を得られるはずも無い
決勝までに相見える対戦チームは、プロアマ問わず日本一の栄冠を狙う強豪達だ。これからどう足掻こうとも、ぽっと出のチームなど見くびられるのは目に見えている
徳雄のやり方は口で言うのは簡単ではあるが、たったの『一試合』で並み居る相手チームを理解らせねばならないのだ


('∀`)(愉しみだ)


そしてそれは、徳雄が最も得意とする事であった

643 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:00:41 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「それでは、予選突破後のスケジュールに移るよ」


決勝戦は12月31日の大晦日だが、開催までの期間中に関連イベントに参加しなければならない
11月末から広報の為の撮影に参加。メディアの注目度によっては、雑誌やテレビ、ネット配信の取材にも応じる必要がある
決勝戦の一週間前には大会に関する説明会と記者会見に参加。その後は運営主催の立食パーティーにて対戦チームとの顔合わせがある
前日の30日には会場近くのホテルへと赴き、21時から翌朝まで指定された客室にて待機を命じられる

ここまで説明を受けた徳雄の表情は、先ほどとは打って変わって


(;'A`)「だっっっっっっっっっっっっる……」


死ぬほどめんどくさそうだった

644 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:04:22 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「ボスが悪い意味、いや最悪な意味で知名度が高いから、取材機会は結構多いと思うよ。ただ、全て受ける必要は無いから断ってくれて構わない。どうせ全部コレが引き受ける」

(´^ω^`)「おお!!!!!!!!クソほど荒らしたらぁ!!!!!!!!!」

(;'A`)「よくそれで経営が務まるな……まぁ、そうしてくれると助かるが……」

⌒*リ´・-・リ 「クワイエットみたく顔を隠してみるのはどうですか?」

(´・ω・`)「蟒蛇との一件でツラが割れてっからな。下手に隠しても面倒事が増えるだけだ」

('A`)「想像はつくな……」

(;@з@)「文彦氏は?」

(´・_ゝ・`)「ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいに受けさせねえよ?」

(´・ω・`)「こういうガキが一番メディアに出しちゃいけねえだろ」


木本は親友への信頼の無さに何か言い返そうとしたものの、反論の余地が全く無かった


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「従業員が出場するとなると、この店にも注目が集まるのでは?その場合の対応はどうすればいいのでしょうか?」

(´・_ゝ・`)「うーん、徳雄くんには出来る限り裏方に回って貰おう。よしんばパパラッチや迷惑系配信者のような連中が出てきたんなら、金と権力の出番だ」

(´^ω^`)「一族揃って路頭に迷わすぞーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

⌒*リ;´・-・リ 「そんな邪悪の宣言あります??????」

('A`)「ああ……そうか、そう来る可能性も……」

⌒*リ´・-・リ 「え?何か気になることでも?」

('A`)「いえ、個人的な都合なんで」


徳雄の『個人的な都合』により、OHANAMIは一時的な危機を迎えるのだが、それはまた別の話であった

645 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:09:57 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「ま、軽く説明はしたけど、結局は予選突破しないと発生しない面倒だから、みんな心構えだけしておいてほしい。此方も営業に差し障るような問題は、優先して解決するようにするよ」

(´・ω・`)「予選突破は確定だが????????」

(´・_ゝ・`)「そうですか。では、続いて本戦について説明するよ」


ジャパンカップ本戦は4〜5ステージを走り抜くサバイバルレース戦であり、走行距離は120〜160kmである
一般のアーケードプレイの平均距離が20kmほど。長距離のレースを行う際は、筐体の貸切予約をしなければならない
実在のレースと比較対象に挙げると、世界最高峰のロードレース『ツール・ド・フランス』の一日の走行距離は200km。これを四時間程度で走り抜く
一見、短い距離のように思えるが、チャリオッツにおいては路面状況の極端な変化と、相手チームやNPCの妨害がある為、長丁場になるケースが多い
車速は一般的なロードバイクよりも速めに設定されているが、これらは現実のロードレースを遥かに凌ぐ過酷さの要因となっている


('A`)「ステージ数によって距離が異なるんすか?」

(´・_ゝ・`)「ステージ数よりコース距離が影響してくるかな。ショート、ミドル、ロングコースがどれくらい割合で配置されているかによるね」

(´^ω^`)「5ステージ全部ロングコースだった時は傑作だったな!!決着と初日の出が同時だったんだぜ!!」

(;'A`)「何時間走らせんだよ……」

(;@з@)「『サンライトの夜明け』でござるな。チャリオッツ史に語り継がれる伝説の一つでござる」


ドーハの悲劇とかそんな感じのやつがチャリオッツにもあった

646 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:10:59 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「そこまで極端なのは流石に無いと思うけど、ここ数年は4ステが続いていたから、そろそろ5ステージになるかもね」

('A`)「それっていつ頃わかるんすか?」

(´・_ゝ・`)「一週間前に公式発表される。記者会見と同じタイミングだね」

('A`)「それだと体力方面は打つ手がなさそうっすね……」

⌒*リ´・-・リ 「どっちが好都合なんですか?」

(´・ω・`)「作戦によるな。ステージが一つ増えるってことは、『ショップ』の使用機会と『トレジャー』の獲得チャンスが一つ増えるってこった」

(;@з@)「チャリオッツの基本戦術四種の他に、アイテムで立ち回る『ドラキャット』がいるでござる。そういうチームにとっては少々有利でありますな」

⌒*リ´・-・リ 「ドラ猫?」

(;@з@)「国民的アニメから着想を得ておりますぞ」

⌒*リ;´・-・リ 「ああ、猫型ロボットからなんだ……」

647 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:14:31 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「だがまぁ、キャットに限らず、アイテムはどのチームも使うからな。観客ウケも考慮すりゃ5ステージの方が盛り上がるだろうよ」

('A`)「逆に4ステだと、フィジカルがある方が有利なのか?」

(´・ω・`)「距離による。逃げに振り切ったゴリゴリのラビットなら、誰にも捕まらず一位って例もなくは無い」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「NOOD(ノード)が一度それで優勝しましたよね?」

(´・ω・`)「ありゃマッチング運も絡んだがな。今の有力チームが台頭する前だったし」

('A`)「ノード?」

(´・ω・`)「日本で一番有名なラビットチームだよ。正式名称は『ネイキッド・オッキイ・オッパイ・ダイスキー』だ」

('A`)「は?」

(´・ω・`)「そういう名前のチームがマジで居るんだよ拳を握んな」

(´・_ゝ・`)「メディアだと略されてNOODと表記されるんだ」

('A`)「なんでその名前が通ったんだよ……」

(´^ω^`)「マn(´・_ゝ・`)「殺すぞ」なんでもない」


安定のチンポクズであった

648 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:16:32 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「っつっても、逃げ切り勝ちはめちゃくちゃに運が絡む。コース距離や路面状況、NPCとの遭遇率が噛み合いに噛み合って初めて達成される勝利だ。放っといても自滅する方が多い」

(;@з@)「所謂、『ロマン勝ち』ですな。しかし目を惹く分、大逃げのチームには固定ファンも多いでござる」

('A`)「博打戦法か。好かねえな」

(´・ω・`)「まとめると、ステージ数による有利不利は、よほど極端じゃ無い限り影響を及ぼさねえってこった」

(´・_ゝ・`)「車体構築や戦術についても、尖らせるより『丸く』した方が無難かな。最も、文彦くんがいるだけで、尖らせる他ないんだけどね」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「このデブ、そんなに扱いづらいのか?」

('A`)「どうっすかね。俺は文彦としか組んでねえから、比べられねっす」

(´・ω・`)「それで良い。初心者ってのは刷り込みがし易いのが一番の利点だ。下手に齧ってっと制約が多すぎて不満が募る。才能だけはあったデブが蟒蛇でやってけなかった一因だろうな」


旋回性能を持つ主砲に慣れ親しんだ者にとって、『固定砲』の運用はこれまでの定石をひっくり返すほどの操縦技術を要求される
蟒蛇にも腕利のジョッキーは数多く在籍していたが、その殆どが固定砲の扱いに精通していなかった
対し、徳雄はロードバイクの経験こそあれど、チャリオッツに関しては全くの未経験者である
言わば、何物にも染まっていない『下地』の状態であり、『文彦専属機』として作り上げるにはうってつけの人材であった


(´・ω・`)「まぁ……素行と性格が原因の大半を占めてんだろうが……」


とは言え、文彦自身が謙虚で協力的で好印象で肥っておらず社交的でかつ臭いオタクでなければ、古巣で幾らでも日の目を浴びる機会はあった筈である


(; ω )「うーんうーん……」


性格がゴミカスが故に招いた事態である。悔い改めろや

649 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:22:06 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「予選突破から本番までに必要な準備と対策は、ステージよりも参戦チームの情報収集が要になるだろうな。王太郎、お前ならどう進める?」

(;@з@)「ふむ……拙者ならまず参戦チームの実績をザッと洗いますな。獲得タイトルだけでも、そのチームが何を得意としているかが見えてくるでござる」

(;@з@)「極端な例だと、蟒蛇はバトロワルールが得意。先ほど挙げられたNOODなら、短距離のスプリント戦の勝率が抜群に高い。これだけでも、取れる対策はいくつか考えつきますぞ」

('A`)「個々に対策を講じるってことか?本戦は17チームが相手なんだろ?間に合わねえんじゃねえの?」

(;@з@)「別に全てにおいてガッチガチの対策を取る必要はござらん。例えばNOODであれば、スピード重視故に、装甲と火力を限界まで削っておられる。つまり、撃破される心配はほぼ無いに等しいでありますぞ」

⌒*リ´・-・リ 「でも、火力は無いと言ってもアイテムとかで対抗されるんじゃないの?」

(;@з@)「それは先ほど大潮氏が仰ったように、どのチームにも言えることで対策の重要度を左右する要素ではござらん。そこで次に調べるべき点は、『生存率』でござる。宇都宮氏、何故だかわかりますかな?」

('A`)「えーと……終盤になるにつれ、生き残ってるチームとかち合う可能性が高くなるから、か?」

(;@з@)「ご名答でござる。チャリオッツのコースは、ステージが進むにつれて竜頭蛇尾となっていくでござる。レースを進めるにつれ、おのずとマッチする相手というのは絞られるでござる」

(´・ω・`)「『クワイエット』『バジリスク』は、ほぼ確実として……『SASUGA×FAMILY』『パーダラ・ブギ』『A to Z』あたりは固いだろうな」

(;@з@)「ここで実績の話に戻るでござる。終盤まで生き残る地力があるチームは、フィニッシャーに繋がる行動が読みやすいのでござる。大会によって変えてくることも多いでござるが、過去のデータからある程度の傾向は見て取れますぞ」

('A`)「なるほどな……傾向が見て取れりゃ、対策もしやすいと」


合宿の総まとめとして挑んだラストゲーム。記憶に新しい敗北を思い返す
限界超えのラストスパート。最後の一車両に王手をかけた瞬間、『ショット・パージ』というアビリティによって惜敗を喫した
『既知』と『無知』では、埋め難い大きな溝がある。これは徳雄が夏に得た収穫の一つであった

650 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:23:06 ID:iz.ZN/1Y0
(;@з@)「こんなところでいかがでござるか大潮氏?」

(´・ω・`)「上等だよ。早速で悪いが、有力候補チームの調査を頼めるか?十月後半までには用意して欲しい」

(;@з@)「お安い御用でござる」


ホンマに優秀なオタクだった


(´・ω・`)「再三言うが、車体構築やアビリティについては今後の練習で煮詰めていく。意見や要望は思いつく限り全て共有しろ」

('A`)「わかった」

(´・_ゝ・`)「お店の営業に関する事は僕の方に連絡してくれ。本戦後の事も備えとく必要がありそうだしね」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「は、はい。了解です」

(´・_ゝ・`)「さて、今日の本題はここからなんだが……」

⌒*リ;´・-・リ そ「むぐ!?」


話が終わったと油断していた高梨は、口に含んだ団子を思わず喉に詰まらせそうになった


(;´・_ゝ・`)「ああ、すまない。楽にしてくれていいよ。此方の我儘に付き合わせているんだからね」

⌒*リ;´・-・リ 「でも時間外手当貰ってるんで……」

(;´・_ゝ・`)「クズが勝手にやってる事なんだから、もっと要求してもいいんだよ」

('A`)「こんなん利用するだけしてから見捨てればいいんすから」

(´^ω^`)「もしかして俺のこと何言っても傷つかない唐変木だと思ってる???????」

('A`)「できる限り苦しみ抜いて死ねばいいのにと思ってる」

(´^ω^`)「お前その覚悟あんだな??????????お??????????」

651 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:23:52 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「実は早急に決めなければならない事があってね。今から皆でチーム名を考えてもらう」

('A`)「チーム名だぁ?何でそんなもん今日中に?」

(´・ω・`)「ジャパンカップのエントリーに必要なんだよ。締切が迫ってんだ」

('A`)「んなもんそっちで適当に決めとけや……」


本八以外のメンバーが、徳雄へ信じられないものを見る目を向けた。アメイジング・ブスだからかな?


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お前マジで言ってる?」

⌒*リ;´・-・リ 「関わっとかないと後で絶対後悔しますって!!」

(;@з@)「左様ですぞ宇都宮氏。チーム名は最も重要な象徴でござる。決して軽んじてはいけませぬぞ」

(;'A`)「お、おう……」


非難轟々だった


(´^ω^`)「ブスもこう言ってる事だしさぁ!!俺の考えたチーム名でいいだろ!!」

(´・_ゝ・`)「良いわけねーだろ殺すぞドブクズ」

(;'A`)「そんな酷ぇの?」

(;@з@)「さ、さしあたり、大潮氏のチーム名を聞かせて頂いてよろしいか?」

(´^ω^`)「おお!!よく聞きやがれ俺が長年温めてきた乾坤一擲のチーム名!!」

652 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:25:44 ID:iz.ZN/1Y0



_人人人人人人人人_
> 【ゴロゴロ】 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄



ホログラムと共に発表された乾坤一擲のチーム名に


('A`)「何これ」


ブスは理解が追いつかず


(´・_ゝ・`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


ハゲはクソデカ溜息を吐き


(;@з@)「……」

⌒*リ;´・-・リ 「……」


木本と高梨は絶句し


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「えーっと……」


榊原は何とかフォローを絞り出そうと頭をフル回転させ


( ^ω^)「ダッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッサ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!やっぱ人間性がゴミのガキジジイはネーミングセンスも終わってんすねぇwwwwwwwwwよくこのクソダサゴミチーム名をドヤ顔発表できたもんだおwwwwwwwwww僕なら恥ずかしくて死んじゃうおーーーーーーーーーーーーんwwwwwwwwww」


豚性がゴミのデブはここぞとばかりに鳴き叫いた

653 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:26:25 ID:iz.ZN/1Y0



三日);^ω゚ )<ギャャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!????????



(;@з@)そ「文彦氏ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


全力で投げつけられた湯呑により、再び豚は沈黙した


(´・ω・`)「殺すわ……」

(´・_ゝ・`)「気持ちは痛いほどわかりますが、来年まで堪えていただけませんか?」

(;'A`)「……」


あの物腰柔らかで聡明かつ良心的な従兄と、お人好しかつ社交的な親友がいて何故、こんな残念で醜悪な臭い豚が出来上がったのか。徳雄は常々疑問に感じていた

654 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:27:00 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「とまぁ、ご覧の有り様さ。これでもクズに一任できるかい徳雄くん?」

('A`)「俺が間違ってました」

(´・ω・`)「なんだァ……てめぇ……」 ☆クズ、キレた!!

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「そ、その、モチーフとかって、お聞かせ願えますか?」

(´^ω^`)「よぉ聞いた榊原!!!!!!!!!!こらぁアレよ!!!!!!!!雷雲が鳴らす稲妻の音をそのまま名前にしたんだ!!!!!!!!不穏だろ!!!!!!!!」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつそ「は、はい!!仰る通りでございます!!」

⌒*リ;´・-・リ 「店長」

('A`)「もっと他にあんだろ……」

655 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:28:32 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「そういう事で、皆の知恵を拝借したいのさ。少なくとも、これ以上酷い名前にはならないだろうし、気軽に考えてくれよ」

⌒*リ;´・-・リ 「うーん、そう言われてもなぁ……」

(;@з@)「責任重大でござるな……」

(´・_ゝ・`)「難しく考えなくていいよ。社長のモチーフをもっと別の言い回しにするとか、三人のイメージをそのまま言語化するとか。直感で発表してくれて構わない。挙げられた中で一番いいものを多数決で決めようか」

(;'A`)「あー、マジか……名前、名前ね……」


盛岡はホワイトボードアプリに切り替え、『思いついた人は挙手を』と発言を促す。すぐさま二人が勢いよく手を挙げた


(´^ω^`)ノ「はいはいはいはいはい!!!!!!!!!!!!!!!!」

( ^ω^)ノ「はいはいはいはいはい!!!!!!!!!!!!!!!!」


クズと豚である


(#´・_ゝ・`)「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


地球が割れるほどクッッッッッッッッッッッソデッッッッッッッッッッッッカ溜息が出た

656 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:30:51 ID:iz.ZN/1Y0
( ^ω^)「お望み通りすぐに挙手してやったのにその態度はなんだお?黙ってチームのエースたる僕の案を採用すりゃいいんだお」

(´・ω・`)「『ゴロゴロ』を採用してりゃこんな気苦労背負わんでも良かったんだよ。テメーで撒いた種だろ?キレんのはお門違いじゃないですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????????」

(#´ ゚_ゝ゚ `)「このクソカス共がぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

(;@з@)「盛岡氏!!店内でござる!!店内でござる!!」

(;'A`)「デミさん落ち着けって!!後で半殺しにしとくから!!」

(;@з@)「宇都宮氏?????????????」


暴力に一切の躊躇いが無い徳雄が羽交い絞めにして止めるほどのマジギレである。エコーズACT3の妨害でスイッチ押せなかった吉良吉影くらい叫んでた


(#´ ゚_ゝ゚ `)「早く言えやゴミ共……どうせ採用されねえカスネームをよ……」

( ^ω^)「そんなんわからんくない????????多数決って言ったのもう忘れたのかお?????記憶容量がダチョウクラスじゃねーかおwwwwwwwww早いのは生え際の後退だけでいいっつーのwwwwwwwwwwwwwwwww」

(´・ω・`)「あのさぁ、仕事に私情持ち込むのやめてくんねえかなぁ。キミ社会人何年目?いつまで経っても成長できねんならそう言ってくれや。優しくしてやるからよ」

('A`)「もうやっちゃっていいすわ」

(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!!!!!???????」


徳雄は怒れるハゲを解き放った

657 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:31:23 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「さて、仕切りなおそうか」

(´メ)ω(メ`)「はい」

( メ)ω(メ)「はいですお」


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「……」


榊原は真に従うべき相手は誰かを今になってようやく理解したのだった

658 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:32:32 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「ゴミカス共以外に案がある者は?」

⌒*リ´・-・リ 「それなんですけど盛岡さん。参考にしたいですし、一度お二人の案も聞いてみたいんですが」

(;@з@)「そうでござるな。それに一方的に爪はじきにすれば、後々軋轢が生じるもの。満場一致で納得できるチーム名を、皆で考えましょうぞ」

(;´・_ゝ・`)「うむむ……」


年下の方が大人の対応をしているではないか。盛岡はクズと豚のダブルカスにつられて頭に血が昇った自分を大いに恥じた


(;´・_ゝ・`)「わかったよ……二人に免じて、聞くだけ聞いてやるよ」

(´メ)ω(メ`)「年下に諭されんのダッッッッッッッッッッッサ。面目丸潰れじゃねーか。スルースキル無い奴はこれだから困るわ」

( メ)ω(メ)「上から目線なのが気に食わないお。何を譲歩してやってる感出してんだお?身の程を弁えたらどうなんすかwwwwwwwwww」

(´・_ゝ・`)「榊原くん、悪いけど台所から一番デカい刃物持って来てくれるかい?」

(´メ)ω(メ`)「まぁ幾つになっても恥を知って成長するのは立派だよな。俺も学ばせて貰ったわ」

( メ)ω(メ)「許し合うってのは人間という知的生命体にだけが出来る崇高な行為と思うんですお。ここは一つ、水に流しませんか?きっと更により良い関係を築けますから」

(;'A`)「……」


救えねえなって思った

659 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:35:09 ID:iz.ZN/1Y0
(´^ω^`) チーム名フルコースメニュー

・前菜(オードブル)  大鳴
・スープ 団子三男子(だんごさんだんご)
・魚料理 仏千切(ぶっちぎり)
・肉料理 暗黒喰(あんこくう)
・主菜(メイン) ゴロゴロ
・サラダ ネオトマト
・デザート 蝗害
・ドリンク 大潮光輪隊


( ^ω^) チーム名フルコースメニュー

・前菜(オードブル) ミセリ爆走夢歌
・スープ ミンミンドライブ
・魚料理 エターナル・ミセリ・ラヴァーズ
・肉料理 BOON
・主菜(メイン) Revolver SIX
・サラダ ネオトマト
・デザート 文彦の6shooter ch
・ドリンク Magnum Knight


('A`)「じゃあネオトマトで決定ってことで」

(´・ω・`)「いやいやいやいや」

( ^ω^)「いやいやいやいや」

('A`)「だったらふざけてんじゃねえよ殺すぞ」

660 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:36:54 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「よくもまぁ……こんなに思いつくもんだ。参考になるかい?」

⌒*リ´・-・リ 「いやぁ…………」


いやぁだった


('A`)「いんじゃねっすか?」 ※どうでも

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「おいおい投げやりになるなよ」

(´・_ゝ・`)「パッと見ただけでも、それぞれに良い点と悪い点があるのがわかるよね。木本くん、答えてみるかい?」

('A`)「めっちゃ木本に振るじゃん」

(;@з@)「ええと、そうですな……大潮氏はモチーフがわかりやすく、洒落が利いておられますな。特に和菓子モチーフの名は面白い試みでござる」

(´^ω^`)「だっるぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


クズは調子に乗った


(;@з@)「しかし、ワードセンスが前時代的でござる。洒落は利いておられるが、ウケは悪いでしょうぞ」

(´・ω・`) スン……

( ^ω^)「ブフォwwwwwwwwwwwwwwwwwwww化石みてーなネーミングセンスだってことだおwwwwwwwwww名前の節々から加齢臭がするおwwwwwwwwww臭っ!!!!!!!目に沁みるおーーーーーーーーんwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


クズは静かになって豚が嗤った

661 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:37:47 ID:iz.ZN/1Y0
(;@з@)「文彦氏は英語を使ったスタイリッシュな名前が目を惹きますぞ。洋楽のタイトルのようでカッコいいでござるな」

( ^ω^)「っかーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!僕のオシャレセンスが出ちゃったおーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


豚が煽られて木に登った


(;@з@)「ですが、余りにも『我』が前に出過ぎでござる……日本は出る杭を打つ国民性。一人だけをフューチャーした名前は、アンチの温床になりかねませんぞ」

( ^ω^) スン……

(´^ω^`)「モテねえ理由が詰まってんなぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!あ、どうせ家畜だから早々に去勢されるか!!!!!!!!!どっちにせよモテる意味もなかったな!!!!!!!!!!!!良かったなぁデブ!!!!!!!!!モテなくて!!!!!!!!!!!!」


豚が静かになってクズが騒いだ

662 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:38:47 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「うん、概ね僕と同意見だね。以上を踏まえて、考えてみてくれ」

('A`)「あー、その、無難なので良いって事すか?」

(´・_ゝ・`)「それが一番丸いだろうね」

('A`)「だったら参羽鴉で良いと思うんすけど。ちょうど三人だし」

(´・_ゝ・`)「宣伝になっちゃうからね……参羽鴉グループがスポンサーのプロ団体ならまだしも、今回は完全に社長の個人チームだから……」

(´^ω^`)「だから燃えるんだルォォ?????????」

('A`)「ドクセッ」

(´^ω^`)「お前めんどくせえっつったか???????」

⌒*リ´・-・リ 「英語の方がカッコいいかな?」

(;@з@)「うーん……ですが、漢字のカッコよさも捨てがたいでござるな……」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「雷……雲……うーん」

663 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:39:59 ID:iz.ZN/1Y0
各々、頭を捻らせること数十分。ホワイトボードアプリには、チーム名候補がズラリとならんだ


・MAD RAVEN
・ドゥルガー
・ファイヤーワークス
・御華見衆
・ALL HOPE IS GONE
・KILL them ALL
・Believer
・アウトサイダー
・Mess
・ワードレス
・Black Sheep
・3 dot
・モースト・デンジャラス・トリオ
・ザ・マシンガンズ
・ジョン・ドゥズ
・ゴッドセレクテッド
・ヘル・ミッショネルズ
・超人血盟軍


('A`)「思いつくもんだな……」

( ^ω^)「キン肉マンのコンビ名挙げ始めた段階で止めとくべきだったのでは?」

(;@з@)「楽しくなって来ちゃった故、致し方なかったでござる」


22世紀でもキン肉マンは大人気であった


(´・ω・`)「しかし、なんで一番最初に思いついたのがモースト・デンジャラス・コンビだったんだ?」

⌒*リ´・-・リ 「へへ、推しなもんで……」


火付け役は高梨であった。彼女はウルフマン推しである。四十年近くフェイバリットが合掌ひねりだった超人である
そしてジェロニモも推しであった。四十年近くフェイバリットが雄叫びだった超人である
彼女の友人であり、徳雄と文彦の指導者でもある敏感乳首こと小練 詩音は、そんな彼女のオタク趣味についてこう語っている


「めっちゃ早口やったわ」と

664 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:41:30 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「店長も結構挙げましたよね」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「つっても、洋楽のタイトルをパクっただけなんだけどな」

( ^ω^)「スタンドですかお?」

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「スタンドだったら『THEMATTEKUDASAI』って言うっつーの」

(´・ω・`)「もっとあるだろ他に」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「え……チョコレイト・ディスコですか?」

(´・ω・`)「もっとあるだろ他に」


22世紀でもジョジョは大人気だった。もっとあるだろ他に


(´・_ゝ・`)「では、一度振いにかけようか」

⌒*リ´・-・リ そ「第21回超人オリンピック ザ・ビックファイト予選一回戦超人ふるい落とし……!?」

(;´・_ゝ・`)「オタクが増えた……」


オタクは何にでも関連付けるのであった

665 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:42:20 ID:iz.ZN/1Y0
('A`)「何か方法あんすか?」

(´・_ゝ・`)「特別な事はしないよ。チャリオッツのチーム登録フォームに全部ぶち込むだけさ。重複があれば弾かれる」

('A`)「ほーん」


盛岡はチャリオッツオフィシャルサイトを立ち上げると、挙げられた候補をまとめてフォームへと入力する
するとすぐさま、登録可能な名前が反映された


・Black Sheep


('A`)「……これだけすか?」

(´・_ゝ・`)「みたいだね」

⌒*リ´・-・リ 「これって確か……」


その場の視線が、名前の発案者へと一斉に注がれる


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ウッソだろオイ」


当の本人は、信じられないと言った面持ちで口角を痙攣させた

666 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:43:24 ID:iz.ZN/1Y0
(´・ω・`)「榊原ァ……」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「もも、申し訳ございません!!お気に召さないのであれば……」

(´・ω・`)「名前の由来を聞かせろや」


榊原は息を飲んだ。口調こそぶっきらぼうだが声色は穏やか。しかし眼光は、研いだばかりの刃物のように鋭い
おふざけ無しで真剣に本質を見極めようとする姿勢。榊原だけでなく、この場にいる者の背筋は自然と正された


('A`)「お茶うま……」

( ^ω^)「団子うま……」


正せや

667 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:47:28 ID:iz.ZN/1Y0
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ええと、その…………」


店の外では、雷雨が勢いを増し、耳を塞ぎたくなるようなけたたましい雷鳴と閃光を振り撒いている
榊原は暫く口籠もっていたが、観念して言葉を紡ぎ始めた


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ふ……古い洋楽のタイトルから拝借したもんですが、この名前だけには幾つか意味があります」

(´・ω・`)「ほう」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「か、海外では『黒い羊』は厄介者や異端者のスラングとして使われています。羊ってのは白毛が基本で、その群れに一つ黒いのが混じってれば、わ、悪目立ちするからです」

(´・ω・`)「……それで?」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「で、ですが見方を変えれば、黒い羊ってのは、集団に染まらない、特出した存在とも言えます。言わば、『只者じゃない』って事です」

('A`)(めっちゃ考えとる)

( ^ω^)(めっちゃ考えとる)

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「社長の、も、求めているヒールイメージに近いと考えました……それと」

(´・ω・`)「それと?」

668 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:48:13 ID:iz.ZN/1Y0
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「見た目が『雷雲』に、一番近い動物なんじゃないか、と……」

(´-ω-`)「榊原ァ…………」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつそ「ヒィッ!?も、申し訳ございません!!浅はかでした!!すいません!!」



(´-ω-`)「『気に入った』」



|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「へ……?」

(´・ω・`)「デミ―」

(´・_ゝ・`)「承知しました」


全員の了承を得ないまま、盛岡はチーム名『Black Sheep』を登録した
しかしそこに異議を唱える者は、一人だけであった


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「待ってください!!そんな簡単に……」

(´・ω・`)「いや、これがいい。『しっくりくる』。お前らはどうだ?」

('A`)「落とし所としては申し分ねえんじゃねえの。オッサンの要望にも応えて、尚且つ字面が良い」

( ^ω^)「ま、僕の次の次くらいにセンスがあると認めてやってもいいお」


なんだこの豚

669 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:49:11 ID:iz.ZN/1Y0
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「い……良いんですか?俺なんかが思いついた名前で……」

(´・ω・`)「重要なのはフィーリングだ。それに、言った筈だぜ?『俺らはチーム』だってな」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ッ……!!」

(´^ω^`)「誇れや榊原ァ!!!!!!!お前が名付けたチームは、チャリオッツ界の伝説になるんだからなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「は、はいッ!!」

('A`)「……」


このクズがどうして経営者として成り立っているのか。邪悪なやり口の一端を垣間見た気がしたが
『まぁ本人が喜んでるならどうでも良いか……』と、徳雄は胸の内に仕舞うことにした


(;^ω^)「カルトってこういう手口……」

('A`)「口に出すなや」


あの文彦ですら引いてた

670 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:50:39 ID:iz.ZN/1Y0
(´・_ゝ・`)「エントリー完了です。これで後には引けませんよ」

(´^ω^`)「ガハハハハハ!!!!!!聞いたかガキ共!!!!!!!恥を晒すような真似は出来なくなったってこった!!!!!!!」

('A`)「だとよ文彦……」

( ^ω^)「僕の足を引っ張んじゃねーおオッサン」

('A`)「俺の足も引っ張んじゃねーぞ」

(´^ω^`)「何このガキ共?」


友情も絆もない三人組の、今は誰も知らない『悪名』の誕生を呪うかのように、雷鳴が鳴り響く
本八の耳にはそれが、祝福のラッパの音に聴こえたのであった

671 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:56:32 ID:iz.ZN/1Y0
―――――
―――



Dorothy - Black Sheep
https://www.youtube.com/watch?v=5zBUlhcRyWw


(´・ω・`)「始めるぞ」


合同練習では、主に本八が所有する中古のチャリオッツ筐体にて構築探求の為の反復プレイを行なった。実戦は週に二日、みっちりと行う
秋になってようやく合流したキャプテンの本八は、操縦と砲撃に関して言及することはせず、夏の間に培った二人のプレイに自身が合わせる方法を選択
アビリティも、キャプテンが主体となる強力なフェイバリットでは無く、二人の動きのサポートとなる物を探す事にした
文彦の射撃力に徳雄の凶暴性は、手を加えるまでもなく強力な武器である。一発逆転の切り札を使うよりも、少しでも長く双方の実力が発揮できる方が強いと考えたのだ


(´・ω・`)「クイックリロードは重いか?」

( ^ω^)「3コスは重いお。リロ速を一時的に上げるならアイテムでも互換できるから、車体の軌道補助に振った方がいいお」


あの犬猿ならぬ豚猿(とんえん)の仲である本八と文彦が、チャリオッツに関しては建設的に会話していた


(´・ω・`)「悪路の時はブレーキ気ぃ使え!!ひっくり返んぞ!!」

(;'A`)「わり」


舵を握る徳雄には、夏合宿の走行データを参考に、苦手な路面を繰り返し走行させた。ジョッキーの能力は、車体構築に大いに関係する
得意を伸ばす尖ったカスタムか、苦手を補う丸いカスタムか。どちらが活きるかは、乗り手によって違ってくる
徳雄がこれまで操縦した車体は、あくまでトレーニングの為に負荷を増したものである。つまり、ここからはジョッキーとしての適性を見極め、最適解を見つけ出す時間であった

672 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/01(木) 23:59:44 ID:iz.ZN/1Y0
また、各々の体力強化及びダイエットも継続


<がんばれ♡がんばれ♡


(;*^ω^)「ハァハァ!!!!!!!ブヒッ!!ブフヒッ!!」

(;ФωФ)「My Son……」


文彦は、自宅で行えるエクササイズプログラムを、朝と夜に一時間ずつ行なった。気持ち悪っ
美少女トレーナーと一緒に楽しく運動が出来る『あねトレ 〜おうちであまあまエクササイズ〜』である。オタクは二次元のエロを絡ませないと運動ができない可哀想な生き物なのだ
これは文彦の運動へのモチベーション維持の為、敏感乳首こと小練 詩音が本八へと提案したゲームアプリである。むせ返るほどのオタク臭いタイトルとは裏腹に、非常に優れたトレーニングメニューが組まれている
これがV豚非モテキモオタの文彦の下半身に大ヒットし、消費カロリーごとに解放されるスケベなご褒美要素も相まって、合宿時とは比べ物にならないほど運動にやる気を漲らせていた。股間も漲らせていた
因みに、初回のチームミーティング時にグロッキーだったのは、夜通しでこれをプレイした後、何がとは言わんが五回も慰めていたからである。ガンナーとしての才能は、ひょっとしたら神様がこの気持ち悪い豚へ与えた哀れみなのかもしれなかった


(;ФωФ)「Jesus……」


この見苦しい息子の姿に、父の内藤 六馬は孫の顔を拝むのを早々に諦めたという。賢明な判断である
少子化は刻一刻と国力を蝕んでいくのであった

673 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:01:29 ID:LC2pQRFM0
(;'A`)「ハァッ!!ハァッ!!」


徳雄はメイントレーニングに水泳をチョイスした。全身運動によるスタミナ強化と、本番までの怪我リスク軽減の為である
加えて、合宿中に文彦が行っていた着衣水泳によって水の抵抗力を高め、より効率的に身体を苛め抜いた


( ゚∋゚)「あと二往復!!ペース落とすんじゃあないぞ!!」

(;'A`)「はい!!」


もう一つの狙いは、心肺機能の強化である。ラストスパート時に限らず、全力疾走を求められる場面はレース中に多々発生する
妨害やコースによって、ペースに急激な緩急をつけねばならないのだ。これはロードレースには無かった要素である
体力はどれほどあっても余りはしない。最後の最後に脚が止まるなんて事態は避けねばならぬのだ


(;´゚ω゚`)「セックスも全身運動!!!!!セックスも全身運動!!!!!!」

(#゚∋゚)「誰がチンポ動かせと言ったァ!?黙って脚だけ動かせチンポクズがァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


ついでに、豚ほどでは無いが、少しでもジョッキーへの負担を減らす為に本八も初夏からダイエットを続けている
本人は泳げない為、ビート板を使ったバタ足である。股間に団子をあしらった水着がとても見苦しかった。どうして団子に血管を走らせているのだろうか?沖縄の国際通りの土産屋で買ったのだろうか?


(;´゚ω゚`)「スケベで痩せさせてぇな!!スケベで痩せさせてぇな!!」

(;'A`)「ハァーーーーー………」


非常に気が散ったので次から時間をズラそうと思った

674 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:02:52 ID:LC2pQRFM0
(;@з@)「速報にござる!!バジリスクの新ジョッキーが決まったでござるよ!!」

(´・_ゝ・`)「この一週間のチャリオッツ関連の記事まとめです。ご査収ください」

(´^ω^`)「そこら置いとけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


情報収集は、盛岡と木本が担当。秘書の手腕が存分に発揮された
木本もまた、学生インターンという名目で参羽鴉の社長オフィスに常駐。近頃は何でか知らんが業務にも参加するようになった


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「オメー、単位大丈夫かよ」

(;@з@)「オフィスからリモートで授業を受けさせられていますからな……」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ほぼ囲い込みじゃねーか……」


一ヶ月後、何でか知らんけど木本の企画が採用され、後に莫大なヒットとなるのだが、それはまた別の話である


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「お前もっと才能を活かせる所に行った方がいいって」

(;@з@)「す、好きでやってることでござるから……」


文彦とかいうゴミカスの豚とは比べ物にならない程のハイスペ男子であった

675 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:04:01 ID:LC2pQRFM0
徳雄の業務に関しては


「オーダーは俺が取りに行ってきます!!」

「海外のお客様は私に任せてくださいデース!!」

「お手洗い、ピッカピカにしときましたよ!!」


(;'A`)「お、おう」


夏の間に本八が直々に仕込んだ精鋭バイト達により、大幅な負担軽減となった。金剛ちゃんおる?


(;'A`)「あの……夏の間、何をされたんすか?」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「聞くな。思い出したくない」

⌒*リ;´・-・リ 「アハハ……大変でしたねえ……」


徳雄は上司と同僚の反応である程度察したのであった

676 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:04:43 ID:LC2pQRFM0



こうして、あっという間に


二ヶ月の準備期間は過ぎていき―――――




677 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:07:02 ID:LC2pQRFM0
―――――
―――



11月某日、とある放送局にて


(,;゚Д゚)「フゥー……」


ラジオの収録を終えた猫山 義古(よしふる)は、休憩所のベンチでコーヒーを手に、落ち着きなく膝を揺すった
『ハヤテ』が早々にジャパンカップ本戦出場を決めてからというもの、メディアでは三連覇が掛かった王者『クワイエット』以上に注目を集めている
トップアイドルである猫山は、芸能人らしい自信に満ち溢れた振る舞いはするが、内面は繊細な男である。年末の大舞台を前に、プレッシャーで押しつぶされそうな毎日を過ごしていた
それに加えて、この日は彼を浮足立たせるもう一つのイベントが開催されていた。アイドルとしての仕事ではなく、『彼の身内』に関する出来事であった


(,;゚Д゚)「そろそろだよな……」


チラリと時計を確認し、この日何度目かわからない嫌な緊張が胸から湧き上がる。啜ったコーヒーも、今日ばかりは味がしなかった


从 ゚∀从「ギコにぃ〜」

(,;゚Д゚)そ「あひっ!?」


背後から覆いかぶさるように抱き着いてきた妹分に、情けない悲鳴を上げる始末だ
ハヤテの紅一点であり、チャリオッツではガンナーを担当する高岡 波音(なみね)は、彼の肩に顎を乗せてケタケタと笑った

678 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:09:42 ID:LC2pQRFM0
(,;゚Д゚)「波音か。驚かすなよ……」

从 ゚∀从「へへ、なーにソワソワしてんだよ」

(,;゚Д゚)「今日はEブロック予選だからな……結果待ちだよ」

从 ゚∀从「あー、ブンちんの」


あだ名呼びは、彼女なりの友好の印である。猫山の従弟である臭い豚に嫌悪感を示さない、かなり珍しい、母親を除いて唯一の、今世紀最大の謎と奇跡と言っても過言ではないタイプの女性であった。狂っているのは彼女であって、世の女性は間違いなく正常である


从 ゚∀从「モラっちも気が気じゃなさそうだったよなー」

(,,゚Д゚)「そうだな……」


身内である文彦の実力こそ熟知しているが、あの滅茶苦茶な社長がジョッキーとして起用した徳雄の実力は未知数だ
獏良がライバルとして認める唯一の男であり、初対面時から只者ではない風格を醸し出していた人物だが、チャリオッツに関しては素人と聞いている
半年足らずで、取るに足る実力まで成長したのか?そもそも、あの人格破綻者が率いるチームが成り立つのか?
余りにも多い不安要素にハヤテの男衆は、自分たちが挑んだ予選以上の緊張を強いられていた


(,;゚Д゚)「これでコケてしまえば、文彦は更なる自信喪失に陥るだろうからな……なんとか勝って欲しいよ」

从 ゚∀从「まー、いざとなったらシャッチョさんが袖の下で何とかするんじゃねーの?」

(,;゚Д゚)「そこまで酷くは……」


正直、やりかねないと思ってしまい否定出来なかった。日頃の行いや。悔い改めろドクズ

679 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:14:52 ID:LC2pQRFM0
从 ゚∀从「んー」


高岡は猫山の首に腕を回し、i-ringでジャパンカップ予選の検索を掛けた


从 ゚∀从「なんてチーム名だっけ?」

(,;゚Д゚)「待て、心の準備をさせてくれ」

从 ゚∀从「そんなんいつまで経ってもできねえくせに。思い出した。Black Sheepだったっけ。なんで羊?」


続けてチーム名で検索を掛け、結果を猫山の眼前へと投影させる
お目当てのBlack Sheepの名前が映し出され、その隣には『2nd Round』と記されている事から、二回戦の真っ最中であるとわかった


从 ゚∀从「あら、もう二回戦まで進んでんじゃん。順番最初の方だったっぽい」

(,;゚Д゚)「ほ、本当か!?」


今回のジャパンカップ参加数は過去最高の36216チーム。それを六分割しても1ブロックあたり6036チームと膨大である
それ故に、1回戦はとにかく回転数を稼ぐ為に短時間で決着がつくルールが設定されている。凡そのプレイ時間は長くても10分程度である
早々に一回戦を突破したチームは、数時間の待機の後、その日の内に二回戦へと突入する


从 ゚∀从「まー、ジャパンカップは間口が広過ぎて冷やかしで参戦するチームも多いからなー。一回戦くれー余裕で突破してもらわねーと」

680 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:16:09 ID:LC2pQRFM0
ジャパンカップの参加条件は、公式大会の中でも緩い部類に入る
『プロアマ問わず、日本国民であるならば誰にでも栄光を手にするチャンスを与える』という理念の下に開催されているのが大きな理由だからだ
従って、エントリー締め切り前日に結成した急造チームであろうと、参加費用を支払った日本国民であるならば予選に参加できる
この懐の深さが、三万超えの参加数に起因するのだが、その大多数は所謂『カジュアル勢』で占められている
本気で日本一を狙うチームにとっては、よほどマッチ運が悪く無い限り、一回戦は通過出来て当たり前の薄い壁なのだ


(,,゚Д゚)「確かにな……二回戦から一気にレベルが上がる。プロとマッチするのも珍しくはないが……」


アマチュアの鬼門は二回戦である。玉石混合の一回戦を突破したチームが待ち受けているのは、実力が拮抗した日本上位ランカーと、『職業としてゲーマーを名乗るプロチーム』である
チャリオッツは、メジャーな他スポーツと違い、プロアマ混合の大会が幾つか存在するが、基本的にアマチュアとマッチすることは稀である
ここで初めてプロと対峙するアマチュアは、『チャリオッツで飯を食っている者』との格差を初めて痛感する
マスター帯上位勢が手も足も出せずに敗退し、日本一の夢を諦める者も数多い
『誰でも挑戦が出来る』大会が、『誰にでも甘いワケではない』と思い知るのが、この二回戦なのだ


从 ゚∀从「まず間違いなくクジ運は悪ぃーな。今年のEブロックは魔境過ぎる」

(,;゚Д゚)「あああああ…………」

从 ゚∀从「あ、ごめ。忘れてた?」


各ブロックへの組み分けは公正に抽選で決められるが、結果は必ずしも『公平』にはならない
今年の予選最終Eブロックには、多くの有力候補チームが揃っていた
筆頭として挙がるのが、最強王者『クワイエット』と、ラスト・ワンの申し子『バジリスク』
続けて、『Anker Take』『青春真っ只中!!』『VIP Library』『DDDD』『北猛那』といった錚々たる出場常連チームが軒を連ねる
まさに魔境と呼ぶに相応しい大激戦区。ジャパンカップ初挑戦である文彦達のチームにとっては、過剰なまでの洗礼である

681 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:17:22 ID:LC2pQRFM0
(,;゚Д゚)「時期尚早だったかもしれない……というか、そもそも人のことを拉致するような狂人に文彦を預けたのが間違いだったんだ……」

从 ゚∀从「そう悲観すんなってまだわかん……終わった?」

(,;゚Д゚)そ「終わったハァ――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!???????????????」

从;゚∀从そ「ちょっ、声でかいって!!!!!!!!」


高岡は反射的に裏声で悲鳴を上げた猫山の頸動脈をキュッと絞め、事なきを得た


(,, Д )「」


事なきを得た


从;゚∀从「やっべ……落ちちゃった……」


高岡は白目を剥いたザコの猫山をそっとベンチへと寝かせ、改めて予選の情報へと向き直る
Black Sheepの隣に表示されていた『2nd Round』の表記は、『待機中』へと切り替わっている
結果の反映に少々時間が必要らしい。この短く長い時間にヤキモキせずにすんだギコにぃは幸運だと、高岡は自身の過失をプラスに捉えることにした


「ヨシさん!!波音!!」


慌ただしく駆け寄る足音に、波音は映像から顔を上げる。見慣れた国宝級の美男子が、息を切らせて現れた

682 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:20:29 ID:LC2pQRFM0
(;・∀・)「ハァッ、ハァ……」

从 ゚∀从「モラっちどした?トイレ長かったけど、もしかして漏らっちしちゃった?」

(;・∀・)「それやめてって言ったよね……まぁいいや……実は、コッソリ予選の配信を見てたんだけど……」

从 ゚∀从「仕事は?」

(;・∀・)「ディレクターさんにお願いしたら長めの休憩くれたよ」

从 ゚∀从「顔面の悪用やめろってギコにぃに言われてるだろ。そんで、なーにをそんなに慌ててんの?」


獏良は勿体つけるように、息を整えながら汗が滲んだ額を拭う。しかし悪い知らせでは無いのは、目の輝きと上がった口角が物語っている
隠し事が出来ない不器用さもまた、ルックスから齎される絶大な人気に更に拍車をかけている。つくづく愛される為に産まれた野郎だなと呆れながら視線を画面へと戻すと


从 ゚∀从「……ってんな」


Black Sheepの二回戦突破を報せる『3nd Round』の表示へと切り替わっていた。猫山と同じく、文彦のチームを気に掛けていた獏良も報告に来たのだろう
初出場で二回戦突破は、アマチュアなら快挙である。とは言っても、『二回戦』だ。通過点を勝った程度にしては、ギコにぃじゃあるまいし少々オーバーな喜びように見えた

683 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:21:20 ID:LC2pQRFM0
(* ・∀・)「凄いんだよ!!徳雄のチーム!!」

从 ゚∀从「何がよ?」

(* ・∀・)「これ!!」


鼻息荒く、高岡の端末画面を横から割り込むように操作する


从;゚∀从そ「怖い怖い近い近い!!バズるかあるいは炎上する!!!!!!!!」

(’e’)「え?炎上?」

从;゚∀从そ「うわバケモノ!!!!!!!?????なんだマネージャーか」


炎上と聞いて馳せ参じたハヤテのマネージャー上手 聖夜は今日も心に深い傷を負った。今夜は新進気鋭の若手女優と四十代ベテラン子持ち俳優の二股不倫スキャンダルでメシを掻っ込むことに決めた

684 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:22:03 ID:LC2pQRFM0
(* ・∀・)「見てこれ!!上手さんも!!何でヨシさん寝てんの?仕事は?」

从 ゚∀从「オメーが言えた…………」


高岡と、覗き込んだ上手が絶句する。獏良が表示したのは、『二回戦のリザルト』である
今回はレースルールだったようで、堂々の二位に『Black Sheep』の名が誇らしげに鎮座している
当然、突破したのだから一位か二位にいて然るべきである。彼女達が言葉を失ったのは、順位ではなく


从;゚∀从「キル数8……?」


屠った首級の数と


(;’e’)「『DDDD』、『北猛那』、『青春真っ只中!!』……『厄姫連合』に『Good Bad Normal』……ほとんどプロじゃねーか!!」


その『質』である

685 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:24:25 ID:LC2pQRFM0
(;’e’)「待てよオイ!!確かにクワイエットやらバジリスクやらオメーらと比べりゃ取るに足らねぇ連中だとしても、チャリオッツプレイヤーなら一度は名前を聞いたことのあるチームばかりじゃねえか!!」

从;゚∀从「……」


無敗のハヤテですら、予選ではプロチームとの接触を極力避けた
幸いにも、全てのゲームが獏良の脚が活きるレースルールだった事もあり、特に大きな衝突も無く予選を通過した
だがBlack Sheepは『この逆をいった』。レースルールでこれ程のキル数を稼げるチームは、バジリスクの他には数えるほどしか居ない
1つや2つなら、偶然の産物であると信じ込ませる事も出来ただろう。しかし、誤魔化すには余りにも強大な戦果だった


(* ・∀・)「間に合ったんだ!!彼らは半年足らずで、『刺客』になるまで仕上げたんだ!!」


冷たい汗が頬を伝う二人を差し置いて、獏良は今にも飛び上がりそうな程に弾んだ声を上げた


(* ・∀・)「『僕ら』と大舞台で戦うに相応しい、最強の『ライバル』に!!」


从;゚∀从「ハ、ハハ……」


高岡の口からは、無意識のうちに渇いた笑いが漏れ出した
それは『ライバル』の大戦果への感心でも、ましてやマネージャーの呆けた顔面が滑稽だからでもなく



(* ・∀・)



子どものようにはしゃぐ仲間の目が、まるで断頭の刃を振り下ろす直前かのように据わっていたからであった

686 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:25:43 ID:LC2pQRFM0
次回予告



(´^ω^`)「ぶち殺しまくって三回戦突入だ!!暴力は気分がいい!!!!!!最高や!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「しかし、次戦は彼らとの対決を避けられませんよ。クワイエットにバジリスク。他にも日本屈指の強豪チームがわんさか」

(´^ω^`)「なぁに!!上位3チームに入りゃいいんだから余裕よ余裕!!」

(´・_ゝ・`)「クワイエットとバジリスクがその内の2席を確実に獲ると見越して、残る1席の争奪戦になるでしょうね。つまり、誰が集中して狙われるか。下半身にあるオツムでもご理解できますか?」

(´^ω^`)「わからーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



(´^ω^`)



(´^ω^`)「俺らやん」

(´・_ゝ・`)「そうだぞ」

(´^ω^`)「次回、『Desperado Chariots』第十話。『Kill Them All』」

(´・_ゝ・`)「どうすんだこれ」

(´^ω^`)「どうすんだろうね……」

687 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:56:48 ID:LC2pQRFM0


オマケ


名前候補内訳


(;@з@)

・MAD RAVEN→狂ったカラス
・ドゥルガー→ヒンドゥー教の女神。『近づきがたい者』を意味する
・ファイヤーワークス→花火


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ

・ALL HOPE IS GONE→Slipknotから
・KILL them ALL→皆殺し
・Believer→Imagine Dragonsから
・Black Sheep→Dorothyから


('A`)

・アウトサイダー→はみ出し者
・Mess→混乱


⌒*リ´・-・リ

・ワードレス→今NIKKEでイベントやってるから
・3 dot→https://boonnovel2020.fc2.net/blog-entry-59.html
・御華見衆→闇を切り裂き いざ咲き誇らんから
・モースト・デンジャラス・トリオ
 夢の超人タッグ編においてブロッケンJr.とウルフマンによって結成されたタッグ
 当初はバッファローマンとモンゴルマンの2000万パワーズとの対戦を控えていたが、乱入してきた完璧超人のタッグ殺人遊戯コンビのツープラトン地獄のネジ回しによって退場を余儀なくされる

688 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:58:26 ID:LC2pQRFM0
オタクたちの悪ふざけ

・ザ・マシンガンズ
 言わずと知れたキン肉マンとテリーマンによる超人タッグトーナメント優勝タッグ
 初出はアメリカ遠征編での宇宙一凶悪コンビとの対戦であり、義足となったテリーの初試合でもあった
 フェイバリットは言わずと知れたツープラトン最強技マッスルドッキングである

・ジョン・ドウズ
 完璧超人始祖編にて、バッファローマンとスプリングマンのタッグ『ディアボロズ』と対戦したグリムリパーとターボメンの即席タッグ
 今冬にアニメ放送をしていたので記憶に新しいキン肉マンファンも多いと思う。余談であるがグリムリパーの作画気合入りすぎててビビった
 
・ゴッドセレクテッド
 推し

・ヘル・ミッショネルズ
 超人タッグ編にてネプチューンマンとビッグ・ザ・武道の完璧超人コンビ
 マスク狩超人でもあり、マグネットパワーを使用したクロスボンバーやマスク・ジ・エンドといった強力なフェイバリットを駆使する
 でもスグルが強いのとテリーマンが生きてる甲斐がねえんだよって言ったんで負けた
 
・超人血盟軍
 キン肉星王位争奪編にて、キン肉マンソルジャーが率いるブロッケンJr.、バッファローマン、アシュラマン、ザ・ニンジャで構成された超人チーム
 『なんという冷静で的確な判断力なんだ!!』や『超人血盟軍Lの陣形!!』はあまりにも有名。クズとブスとデブが名乗っていいもんじゃない。身の程を弁えろや

689 ◆L6OaR8HKlk:2025/05/02(金) 00:59:50 ID:LC2pQRFM0
終わりですお疲れさまでした

タブレットのでっけえ画面でNIKKEやるといいですよ

690名無しさん:2025/05/07(水) 11:00:27 ID:KzR2bVqI0
はい

691名無しさん:2025/05/09(金) 15:19:15 ID:Nl3wrRh20
更新乙

692名無しさん:2025/05/11(日) 16:16:49 ID:aZxJcZbs0
今回も面白かったです!

693名無しさん:2025/05/13(火) 16:26:47 ID:ZRljv24Q0
最高!

694名無しさん:2025/05/21(水) 20:13:55 ID:8rC7EXiM0
乙乙
この令和の時代に未だに更新してくれる貴方に感謝だよ
チーム名カッコ良くて好き
後、個人的に>>229の文彦の膝「ダーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!!!!!!!!こいつぁ傑作だァ!!!!!!!!!!!!」
が死ぬほど笑って大変だった

695名無しさん:2025/06/10(火) 21:41:54 ID:UORnHA7.0
おつ
予選試合がダイジェストで飛ばされちまった…試合描写を楽しみにしてたもんだから焦らされる
何気に木本の働きが縁の下の力持ちじゃない?情報収集は重要そうだし

696名無しさん:2025/06/22(日) 01:04:30 ID:kIuf.8260
乙!

>从;゚∀从そ「うわバケモノ!!!!!!!?????なんだマネージャーか」

ここひどすぎて笑った
ブーンの修行のキモさが吹っ飛んだ

697 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:08:41 ID:pdeLbfIc0
Black Sheepが予選二回戦を圧勝するに到るまでの最大の課題は、『戦術』であった

装甲と主砲を最低限に抑え序盤から圧倒的なリードを稼ぐ韋駄天『ラビット』
加重と引き換えに重装甲高火力を誇る不沈艦『タートル』
猛烈なチャージングと砲撃で一切合切を薙ぎ倒す攻撃主体の『バッファロー』
生存重視で攻守共にバランスが取れたオーソドックスな『ホース』

どの戦術を取るかは、走行の要であるジョッキーの脚質に合わせられる場合が多い

大潮 本八、小練 詩音、そして三浦 紘一
三人の識者による宇都宮 徳雄への評価は、『バッファロータイプ』であると一致していた
小柄な体格から繰り出されるとは思えない強烈な突進は、二軍であれどプロ選手が『チート』の使用を疑う程であり
一度スイッチが入れば、目に付くもの全てを破壊する生来の凶暴性を持ち合わせている
合宿で徳雄のプレイを目の当たりにした小練は、その最大の武器を『抑え込む』よう指導した
どれほど凄いプロ選手であろうと、体力は有限である。徳雄の爆発力は継続させるものではなく、オンオフのコントロールをするべきであると
徳雄はそれに倣い、合宿期間中は得意とする『攻めの走り』よりも、走行距離を伸ばす為の『守りの走り』の会得を目標に訓練を行った

しかし、合宿後にキャプテンの視点から彼の走りを体感した本八は、小練の師事に疑問を抱く
彼の指導は間違ってはいない。だが、『特別危機感を覚えるほどではない』と感じたからである
特に指示せず自由に破壊させても、ゲーム終了後に疲弊した様子も無く、連戦してもパフォーマンスに大きな影響は出ていない
体力の向上もあるだろうが、一、二ヶ月程度で劇的に上昇するわけではない。小練と本八の間で、認識の齟齬が生じていた


( ゚д゚ )「恐らく、ガンナーの有無によるものだろうな」


齟齬は、かつて日本一を獲ったトッププレイヤーがアッサリと解消した

698 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:11:54 ID:pdeLbfIc0
徳雄はゲーム理解の為、合宿前半はジョッキーのみのソロプレイに徹した。小練が彼の叩き出したキルスコアを目の当たりにしたのは、そのタイミングである
つまり、車体による『チャージング』だけで敵車両を破壊していた。CPU相手とは言え、フルパーティーである相手に単騎で挑むのは狂気の沙汰ではあったが、徳雄はそれを成し遂げてしまった
特殊条件下での成功体験は、真っ当なジョッキーとしての成長の妨げになる。そう危惧した小練は、その場では苦言を呈した

何故ならチャリオッツは、本来『三人一組』で行う競技だからである


( ゚д゚ )「言うまでもないが、チャージングによる撃破と、砲撃、アビリティも組み合わせた撃破ではジョッキーの負担に天と地ほどの差がある。稀にチャージングのみ使用するチームもいるが、相応のカスタマイズは施されているものだ」

(´・ω・`)「つまり小練先生の懸念は、徳雄単体でしか見てねえから起こった『杞憂』だったってのか?」

( ゚д゚ )「実際にプレイを目の当たりにしたわけではないから何とも言えんが、彼が徳雄くんに危うさを感じたのは確かだろう。お前さんも少なからず、思う所はあったのだろう?」

(´・ω・`)「まぁな。だからこそ拍子抜けしてんだ。『ここまで上手くいく』とはな」


本八の頭を悩ましているのは、徳雄と文彦の組み合わせが『完成している』点にあった
固定砲の弱点を、車体を高速回転させるアビリティ『スピンミキサー』で補うだけで、舌を巻くほどのシナジーを発揮したのは嬉しい誤算だったが、その完成度が他のアビリティを『蛇足』にしてしまう
残り4コストを使わないという選択肢はありえない。しかし、『あれば便利』程度のアビリティで妥協したくない
予選まで残り二週間に迫った所で、本八はいても立ってもいられず、『伝説』へと助言を求めに、彼が経営する寿司屋へと出向いたのだった


( ゚д゚ )「贅沢な悩みだな。多くのチームは不足を補う為に工夫をするが、お前さんは才能を潰さない為に工夫をせねばならないとは」

(´・ω・`)「だから難しい。単に弱点を補うだけなら、スピンミキサーのように明確な答えは出やすい。だが、元々の強みを更に発揮させるとなると、沢の多さに迷っちまう」

( ゚д゚ )「まさか弱音とはな。初めてこの店に足を踏み入れた日からは考えられん」

(´・ω・`)「何か誤解されているようだが、俺だって人の子だよ。弱りもすりゃ愚痴も吐く。金と暴力で解決出来ねえ問題が苦手でな」

(; ゚д゚ )「少しは真っ当な人間味があると思えば……」


クズは弱っててもクズだった

699 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:13:08 ID:pdeLbfIc0
( ゚д゚ )「キャプテン主体のアビリティを使う気は無いのか?」

(´・ω・`)「ねえな。これでもチャリオッツファンの端くれだが、プレイ歴は浅い。今さら手に馴染むフェイバリットアビリティなんざ見つけてる余裕はねえ」

( ゚д゚ )「謙虚な男だな……トップを狙うチームは、どのポジションも少なからずエゴが強いものだが」

(´・ω・`)「俺は主役になりたいんじゃねえ。最高の特等席で最高の景色が見てえだけの観客だ。そういうのは若い二人に譲ってやるよ。デブなんか我欲の塊だしな」

( ゚д゚ )「……」


三浦は内心で前言を撤回した。チャリオッツプレイヤーなら誰もが望む日本一の頂
その座に興味はなく、ただ『景色が見たい』というだけでジャパンカップに挑むのだ。これ以上の贅沢があろうか、と


( ゚д゚ )「私はとんでもない化け物を生み出してしまったようだ」

(´・ω・`)「娘さんそんな風に言うの良くなくない???????そこに愛はあるんか??????」

( ゚д゚ )「オメーだよボケナス」

700 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:14:27 ID:pdeLbfIc0
(´・ω・`)「大将、どうにか出来ねえか?」

( ゚д゚ )「そうだな……」


チームの強みを損わず、コスト分に見合った働きをするアビリティ
言われてみれば、両の手では収まらないほどの候補がある。6shooterの弱みは固定砲だけではない。6発分の装填にかかる時間や短い射程もネックとなる
だがこれを解決する気であるなら、選択肢は明確で、本八もわざわざ相談に訪れたりもしないだろう。これらの弱点は、技量で補えるレベルにまで到達していると見ていい
それでもネックであることには変わりない。相手は日本屈指の強豪たち。実力が拮抗しているのならば、勝負の別れ目は些細なきっかけだ
装填速度がほんの少し遅かった。有効射程まで僅かに届かなかった。チャリオッツに限らず全ての競技において、敗者を敗者たらしめた残酷な誤差がある
残念ながら、どれほどの強豪でも全ての懸念を解消するのは不可能であり、都合の良いアビリティも存在しない


( ゚д゚ )「これは真に受けずに聞いて貰いたいのだが」

(´・ω・`)「お?」


だがあえて、あえて万能のアビリティを挙げるとするならば
『対価と引き換えにあらゆる局面に応えてくれるアビリティ』があるとするならば―――――

701 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:16:01 ID:pdeLbfIc0





( ゚д゚ )「『闇市』を積むのも、一つの手かもしれないな」





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702 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:16:58 ID:pdeLbfIc0



第十話



『Kill Them All』



.

703 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:19:05 ID:pdeLbfIc0
スーパー銭湯ごっつ熱い湯 食事処『稲葉郷』にて


( ,,^Д^)「古い手を使うね」

(-_-)「わかったの?」

( ,,^Д^)「わかったと言うより、それしか考えられないってとこかな」


Eブロック二回戦を終え一汗流した『バジリスク』の宝木 蕗也は、同ブロックで破格の戦果を挙げたBlack Sheepのリプレイアーカイブを二回ほど見直し、一つの結論に到った
決め手は、『アイテム使用率の高さ』である。Black Sheepは1ステージにつき、およそ3〜4回アイテムを使用していたのだ


( ,,^Д^)「『ブラックマーケット』を搭載してるね。じゃないと説明がつかない」

(-_-)「闇市?あれを実戦で使う人いたんだ……」


『ブラックマーケット』。アイテム購入が出来る『ショップ』機能を、随時利用出来る3コストアビリティである
ゲーム内通貨である『G(ゴールド)』は、スタート時に一律で500G配布され、ステージクリア時、もしくはNPC、敵チーム撃破時に付与される
ショップではGを消費し、装甲の修繕や補強、強力な特殊砲弾、使い切りアイテムの購入の他、不要なアイテム、トレジャーを売却し、Gの入手と荷重の軽減を行える

ショップが利用出来る機会は四つ。一つはゲーム開始直前の『スタンバイショップ』
二つ目は、順位に関わらずステージクリアのタイミングで利用出来る『ピットインショップ』
ここまでは、全チームが利用出来る常設ショップである

三つ目は、コース内稀に出現する『隠しショップ』。これはトレジャーの一種であり、運良く見つけたチームは強力なアイテムを格安で手に入れられる
そして最後の四つ目が、件の『ブラックマーケット』である。『闇市』とも称されるこのアビリティは、好きなタイミングでアイテムを購入出来る利便性があるが、通常のショップと比べて5割増しという暴利な値段設定がなされている

704 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:20:51 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「Black Sheepは1ステージ目で既に四回もアイテムを使用している。スタンバイショップで四つ買い揃えるには、最初に配られる500Gじゃ少し足りないかな」

(-_-)「足りない分は敵チームの撃破ボーナスで稼いで、ブラックマーケットで買ったってこと?」

( ,,^Д^)「恐らくね。倒した相手のボックスから奪った線も考えられるが、敗退の危機に面してる中でアイテムを温存するようなボンクラは二回戦にはいないだろう」

(-_-)「でも、割りのいいショップじゃないんでしょ?ナーフ食らってから全く使われなくなったんじゃないの?」

( ,,^Д^)「調整前の割増は2.5割。これでも割高だったが、2コスアビリティの『荒稼ぎ』との組み合わせによる戦術が流行した」


『荒稼ぎ』は、付与されたGに10%のボーナスを加算するパッシブアビリティである
ブラックマーケットで購入したアイテムでNPCを狩り、得たGでまたアイテムを購入するというサイクルシステムが流行した時期があった
この戦術の大きな利点は、ブラックマーケットでの出費より、NPC狩りによる収入が僅かに上回っていた事である
そもそも、車輌には主砲という攻撃手段が備わっている為、必ずしもアイテムを使わなければならないわけではない
稼ぎの大きなボス級NPCに、潤沢なアイテムを使用して比較的容易に倒し、更にブラックマーケットでアイテムを買い込むというサイクルが、あろうことかプロを始めとした最高ランク帯で流行したのだ


( ,,^Д^)「どうしてだと思う?」

(-_-)「先立つものが必要だからでしょ。自力でNPCを倒せる能力がなければ、Gを効率よく稼げないんだし」


NPCの撃破は勝利の必須条件ではない。それがどれだけ弱かろうと、リスクであり障害である。難なく乗り越えられる自信が無ければ、避けて通るのが無難だ
安定してNPCを養分として取り込める実力があって初めて、カラス戦術のサイクルは機能する
運営も、チャリオッツのバトル要素を盛り上げようと鳴き物入りで実装したアビリティだったが―――――


( ,,^Д^)「その年のジャパンカップ、総勢18チーム中、実に15チームが同じアビリティとカスタムだったのさ」

(-_-)「対戦ゲーの常だね……」


『荒稼ぎ』と『ブラックマーケット』。そしてNPCを狩るのに最適化された車輌カスタム。違うのは車輌のカラーリングのみ
相手チームそっちのけでNPCを狩り、どれだけアイテムを溜め込めるかの競技と化したのだ
案の定、チャリオッツ界隈は荒れに荒れ、危惧した運営は年明け早々にナーフを発表
荒稼ぎはボーナスを5%に減らされ、ブラックマーケットは5割の値上げが課された

705 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:23:19 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「収支のバランスが見直され、NPCを狩るだけでは赤字に。ようやく闇市ブームは終焉を迎えた。この戦術は、卑しくNPCを漁る姿から、皮肉を込めて『カラス』と呼ばれたのさ」

(-_-)「カス……」

( ,,^Д^)「え?」

(-_-)「え?」


シンプル悪口が出た


(-_-)「でもカス」

( ,,^Д^)「おおっと、もう取り繕うのもやめたのかい?」

(-_-)「Black Sheepは1コストのスピンミキサーを積んでるよね?荒稼ぎ無しでブラックマーケットが運用できるの?」

( ,,^Д^)「相当カツカツだと思うよ。これだけ相手チームを屠ってもトントンなんじゃないかな」

(-_-)「そこまでして使う意味ある?」

( ,,^Д^)「あるとも。ブラックマーケットが何故流行ったと思う?」

(-_-)「え……ショップを介さずアイテムが買えたのと、荒稼ぎとのシナジーがあったのと……」

( ,,^Д^)「視点を変えて考えてごらん?」

(-_-)「……」


『バジリスク』のガンナーである柊木 守は、勿体振るキャプテンに苛立ちながらも思考を巡らせてみる
カラス戦術は、走行補助や強力なフェイバリットアビリティを犠牲にしてアイテム購入だけに特化している
今も使い手が一定数いる『ドラキャット』も同じくアイテム特化型だが、此方は入手したアイテムを強く使うことに重きを置いている為、アビリティ編成は異なるものとなる

では何故、カラス戦術はブラックマーケットだけに重点を置いたのか?

706 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:24:37 ID:pdeLbfIc0
(-_-)「……あ」


柊木は凝り固まった頭が、一気に解ける気持ちがした。カスは『視点を変えて』と言ったのだ着目すべきは『便利な携帯型ショップ』ではなく、『アビリティ』しての側面である
アイテムは入手するだけではなく、使用して初めて真価を発揮する。『アイテム使用までをブラックマーケットの効果として捉えるのならば』


(-_-)「『Gさえ支払えるなら、抜群の汎用性を持つアビリティとして機能する』から……?」

( ,,^Д^)「正解」

707 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:26:01 ID:pdeLbfIc0
チャリオッツは、各々が考える最強のアビリティ編成を『5コスト』の制限内で組み合わさねばならないが
ブラックマーケットは、『アイテム』によってコスト制限の枠を越えた活躍が出来るのだ。この唯一無二の汎用性こそ、カラス戦術が流行した一番の理由である
しかし、これはあくまで『理論値』である。結局のところ、継続的にGを稼がないことにはブラックマーケットは機能せず、3コストを無駄に潰すだけの置き物と化すのだ
だからこそ、『荒稼ぎ』と組み合わせて資金の枯渇を防ぐ必要があるのだが、Black Sheepは既に1コストアビリティ『スピンミキサー』を積んでいる。これが意味するのは―――――


(-_-)「Black Sheepは、必要最低限しかブラックマーケットを使っていない……ってこと?」

( ,,^Д^)「そうなるね」


カラス戦術が流行した理由の一つに、対抗手段が『ミラー戦術』しか無かったのが挙げられる
千差万別の手を使うカラス戦術に対して優位に立てる『メタ構築』が見つからなかったのである
言わば、アイテムの爆買いはミラー環境ならではの現象であると言える。では、カラス戦術がナーフによって制限された現環境ならどうなるか


( ,,^Д^)「相手がアイテムの物量を押し付けて来ないなら、闇市で一つか二つアイテムを買えればこと足りる。バカの一つ覚えみたくGを稼ぐ必要もない。実力が拮抗してるなら、ほんの少しの後押しさえあれば優位に立てるんだからね」

(-_-)「でも、わざわざ『ショップを介さないと意味を成さない』ブラックマーケットを使う理由にはならないんじゃない?他にも強力なアビリティは山ほどあるのに」


ブラックマーケットは抜群の汎用性を誇るが、効果の発動に到るまでには
ショップを開き、アイテムを選択し、支払いを済ませ、到着を待つ。以上の手順を踏まねばならない
接敵する前に予め購入を済ませておく手もあるが、即時発動のアビリティとは違い、手間であることには変わりない
これらのテンポロスは、トップランク帯でのゲームにおいては致命的な欠点となる。プロチーム相手なら猶更だ。宝木は至極真っ当な柊木の疑問に、心底嬉しそうに破顔した


( ,,^Д^)「全く、キミとの会話は楽しくて仕方ないよ」

(-_-)「キモ」


ノータイム悪口が出た

708 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:27:43 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「守の言う通り、他のアビリティの方が何倍も使い勝手がいい。ブラックマーケットが廃れたのは、発動までのテンポの悪さも原因なんだ。カラス戦術はそれを補うための買い占めでもあった」

( ,,^Д^)「ここでおさらいだ。カラス戦術はどの層で流行した?」

(-_-)「爆買いする為に安定してGを稼げるトップランク帯……」

( ,,^Д^)「つまり?」


柊木は苦々しい表情を浮かべた


(-_-)「『強力なアビリティに頼る必要のない、プレイヤースキルの高い層』」

( ,,^Д^)「その通り!!」


興奮した宝木は手を叩いて喜び、銭湯の利用客の迷惑そうな視線が二人が座るテーブルに突き刺さる
柊木は眉間を寄せて無言の批難を向けるが、宝木は周囲の目を気にすることなく捲し立てる


( ,,^Д^)「アビリティという魔法に頼らず、『腕』と『脚』に絶対の自信を持つチームだからこそ、致命的な欠点を持つブラックマーケットの恩恵に預かれるのさ」

(-_-)「……それは、鼻につくね」

( ,,^Д^)「だろう?文彦の新しいキャプテンは、よほどの『食わせ者』だ」


Black Sheepの分析を行い、宝木の結論と一致したプロチームは、揃って同じ感想を抱く事となる
『舐められている』。ジャパンカップという大舞台で、今や誰も見向きしないアビリティを抱えて挑まれている
競合相手の実力を安く見積らねば出来ない決断は、そのまま『挑発』として捉えられる。例えそれが意図したモノでは無いにしても、『生意気でデカい口を叩くポッと出の新人』というイメージは避けられない

709 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:29:33 ID:pdeLbfIc0
( ,,^Д^)「この一戦は彼らからジャパンカップに対する『宣戦布告』さ。僕らバジリスクや『クワイエット』がいるブロックで、チャリオッツに精通した強豪にしか伝わらない方法を取るとは恐れ入るじゃないか」

(-_-)「応えるの?」


蟒蛇はラスト・ワン主義の超攻撃型プロ集団。売られた喧嘩は常に買う。明日行われる大規模な予選三回戦で、やろうと思えば早々に決着をつけられる
徳雄に執着する気持ち悪いキャプテンと、『憎悪を隠そうともしない新しいジョッキー』とは違い、フラットな柊木は『その方が都合が良い』と考えた
Black Sheepの宣戦布告が、彼らの思惑以上に広まっているならば、明日は本戦以上の激戦を強いられる筈である。その機に乗ずれば、ライバル候補を楽に蹴落とせるのだ


( ,,^Д^)「どうしようか」


それがわからぬ蟒蛇のトップでは無いが、宝木は戯けた様子で含み笑うだけだった


(-_-)「ハァ……好きにすれば?」


早々に説得を諦めた柊木は、ソフトクリームが溶けた甘いソーダを啜った

710 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:45:43 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



翌日、ジャパンカップEブロック三回戦。勝ち残った75チームの中から3チームが選出される
注目はやはり、三連覇という前人未踏の偉業に挑む絶対王者『クワイエット』と
昨年、惜しくもクワイエットの逃げ切りを許し、二位の座に沈んだ『バジリスク』である。そしてもう1チーム―――――


「先日の二回戦、2位通過でありながら驚くべき撃破数を挙げた『Black Sheep』。こちらなんと、あの参羽鴉グループの代表取締役である『大塩 本八』氏がキャプテンを務めております。西田さん、和菓子業界の大御所の参戦、どう思われますか?」

「いやぁ〜、ね。恐らく、今後公にされるであろう不祥事のね、目眩しなんじゃないかと勘繰っちゃいますよね。彼ね、私生活ではしょうもないこといっぱいやらかしてますからね。でも美味しいですよね参羽鴉のお団子ね。うん。あそこ、食品に関してはどこよりも信頼できますからね」


テーブルの中央で浮かぶホログラムビジョン。その片隅で実況のアナウンサーと解説の年配男性が、肩を並べて三回戦に挑む有力チームの簡単な紹介をしていた
今回が初のジャパンカップである無名のBlack Sheepだが、二回戦の活躍に加えて、悪名高き著名人がキャプテンともなると、否が応でも注目度は高まる
実際、SNSの急上昇トレンドにはBlack Sleepの名前が記されている。内訳の半分は活躍への驚きであり、もう半分は根拠のない八百長疑惑と誹謗中傷だった


(^e^)「ギャハハハハハハ!!人柄がクソだとネットも荒れるなぁ〜!!!!!!!!」

从 ゚∀从「今度鏡買ってやるよマネージャー」


ハヤテのメンバーは、Eブロックの行末を見届ける為に事務所の一室を貸し切って観戦の場を設けた
当初は芸能活動縮小に否定的だった上層部も、ジャパンカップ出場が決定した今では全面協力の構えを見せている
芸能人のジャパンカップ優勝は、事務所に『メジャーリーガー』が所属するも同義なのだ

711 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:49:38 ID:pdeLbfIc0
(,,;゚Д゚)「目立ちすぎだ……どうするんだ今日マジでよ……」

( ・∀・)「文彦くんはなんて?」

(,,;゚Д゚)「『バチクソに喧嘩売ったからえらいこっちゃやでホンマ』と言っていた。大潮さんが採用したアビリティが、『わかる人にはわかる挑発』になっているらしい」

从 ゚∀从「ブンちゃんいつから関西人になったの?」

( ・∀・)「アビリティが挑発に?」

(’e’)「闇市だろ。そりゃ癪に障るわな。古参だと猶更だ」


ハヤテの面々は丸くした目を、この場の顔面偏差値の著しい低下を招いている人物へと向けた


(;・∀・)「わかるんですか?」

(’e’)「なんでわかんねんだよ現役だろオメーら。あからさまにアイテム使用率がバグってんだろが。その場で都度買い足してんだよ」

(,,;゚Д゚)「闇市……あっ、『ブラックマーケット』!!カラス戦術か!!」

从 ゚∀从「何それ?」

(,,;゚Д゚)「大昔に流行ったアイテム戦術さ。チャリオッツ黎明期、腕に覚えのある上位ランカー達の間で流行したんだ。ナーフを受けてからは急速に廃れたそうだが」

(’e’)「『高コストアビリティを使うまでもねえ』っていう意思表示だな。憎たらしいことに、口だけじゃねえってのは撃破数で証明してる。今日は荒れそうだぜ」

从 ゚∀从「へー、詳しいじゃん」

( ・∀・)「上手さん完全にやってたでしょ。なんで教えてくれなかったんですか?」

(’e’)「なんで教えなきゃならないんですか?」

( ・∀・)「意地悪だなぁ」

712 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:51:39 ID:pdeLbfIc0
「さて、運命のEブロック最終戦。モード選択に移ります」


レースかバトロワかの決定は、ゲーム開始直前にクジで決められる。車輛に関しては、予選が終わるまでカスタム不可とされている為、ルールに合わせることはできない
つまりBlack Sheepは、二回戦と同じく『ブラックマーケット』を積んだ状態で三回戦に臨まねばならない


从 ゚∀从「どっちが好都合なんだ?」

(,,゚Д゚)「当然レースだ。勝利条件が上位三位入賞なんだからな。向かう先は敵ではなく、『ゴール』だ。二回戦であれだけキルを稼げたのも、相手の意識がゴールに向いていたから先手を取れたというのもあるだろうしな」

(’e’)「フラグ立ったな」


「決まりました!!『バトル・ロワイヤル』!!最後まで生き残った3チームが、年末の大舞台へと駒を進めます!!」


猫山は顔を両手で覆った


(’e’)「や っ た ぜ」

(,,∩Д∩)「終わった」

(;・∀・)「早いよ」

从 ゚∀从「まだ始まってもねーよ」

713 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:53:02 ID:pdeLbfIc0
「さて、改めてジャパンカップEブロック三回戦の詳細をお伝えします。バトル・ロワイヤルモード、ステージ『円落街』。路面『インターロック』。面積はおよそ32平方キロメートル。NPC出現率は『低設定』。参加総数75チーム。スタンバイタイミングでのカスタマイズは不可となっております」


( ・∀・)「ステージは悪くないね」


チャリオッツのステージには、それぞれバックストーリーが存在する。今回ピックアップされた『円落街』は、天空に浮かぶ滅んだ魔術都市という設定だ
プレイヤー達は、時間経過と共に外周から崩れ落ちていくステージの中で、互いに競い合いながら中央の安全圏を目指して進んでいく
煉瓦造りの廃墟の中には、迎撃用の防衛装置が各所に設置され、かつて街を護っていた『ゴーレム』や『ガーゴイル』が行手を阻む


(’e’)「レンガ路ならまだマシな方だろうな。建物の遮蔽も多いし、ハイドしながらじっくり進行するのが丸い」

从 ゚∀从「こういうのって速攻で真ん中陣取るのもアリだと思うんだけど、どうなん?」

(,,゚Д゚)「18チームだけならそれも手だろうが、これほどの規模だと八方から囲まれて袋叩きがオチだ」


『PUBG』や『Apex Legends』を代表とするバトル・ロワイヤルゲームは、上空から任意のタイミングでステージ入場を行う
チャリオッツも偉大なる先人に倣い、輸送機からパラシュート投下によって降り立つ
この時、最端から縮小に追われつつ接敵を避けて中央の安全圏を目指すか
逆にあえて早々に中央付近に降り立ち、敵チームと有利なポジションを奪い合うかで戦略が分かれる


(,,゚Д゚)「ステージ縮小に合わせてじっくりと中央まで進み、ギリギリまで競合を潰し合わせ、最後に漁夫の利を掻っ攫う……これがバトロワにおける常套手段だ。余程の戦闘狂でなければ、蟒蛇だって初手中央は避ける」

从 ゚∀从「『レッドシューズ』とか『センチピード』とか?」

(,,゚Д゚)「その通りだ。本戦でかち合いたく無いイカれた連中だな」


どちらも蟒蛇に負けじとも劣らない攻撃特化チームである
ラスト・ワンによる『勝利』を目的とする蟒蛇とは違い、彼らは勝敗を問わず『破壊』を楽しむ享楽主義者として恐れられている
タチの悪いチームではあるが実力は本物で、どちらもジャパンカップ本戦出場が決定している


从 ゚∀从「なぁギコにぃ、あのオッサンがそんな大人しくすると思う?」

( ・∀・)「考え難いね」

(’e’)「全部フラグになるからもう喋んなお前」


(,うД゚)「そこまで言うこと無いじゃん……」


繊細な猫山は全否定されなんかもう泣きそうだった

714 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:54:47 ID:pdeLbfIc0
(,,゚Д゚)「いやだが考えてもみろ。ジャパンカップ予選三回戦は、国内最大規模のゲームだ。残り3チームになるまで延々と戦い続けるなんて現実味がなさ過ぎる」

(’e’)「まぁ、言われてみりゃあな。初っ端から全勢力が一塊になるわけでも無し。宇都宮が幾らバケモンでも、息が続かねえだろ」

( ・∀・)「フフフ……果たして本当にそうかな?」

(’e’)「オメーは宇都宮の何なの?」


「さぁEブロック最終戦、全国のチャンピオン候補達が続々と操縦席へと乗り込みます。この75チーム中、たった3チームだけが、栄光への乗車券を手にすることが出来るのです」

「悔いの無いね、試合にしてほしいもんですね。うん」

「ライブ映像は見下ろし型の『フィールドカメラ』と、1プレイヤー集中型の『フォーカスカメラ』の切り替えが可能です。お好み、戦況に合わせてご視聴ください」


『フィールドカメラ』は、マップ全体図を俯瞰で撮影し、ゲームの流れを観戦するモードである
チームはそれぞれ番号を振ってある為、誰が何処で何をしているかも把握し易い
『フォーカスカメラ』は、指定した1チームをTPS形式で集中して撮影するモード
車体の挙動や砲撃、アビリティ使用タイミングなど、プレイスタイルを間近で堪能できる他、推しチームの応援にも用いられる


从 ゚∀从「ブラシ何番?」

( ・∀・)「ブラシて。18番だね」


試合状況を映すメインビジョンの隣には、参戦チーム一覧と生存数を示す『75』の数字が表示されている
撃破された場合、すぐさまチーム名が一覧から削除され、数字が一つ減る。制限時間は設けられていないが、ステージの縮小と残りチーム数が試合経過の目安となる

715 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 11:57:02 ID:pdeLbfIc0
(,,゚Д゚)「クワイエットが21、バジリスクが53……他にめぼしいチームは……」

(’e’)「ブラシと同じ枠組みで一位通過の『Anker Take』が17。他にEブロックで有力候補と言えば……35番『VIP Library』、45番『CHERRY CHASER』、2番『泥男(でぃもん)』、70番『マッハブロー』、55番『天炎BOYZ(あまえんボーイズ)』……三回戦はどこも激戦必至だが、Eブロックはキリがねえな」

(,,゚Д゚)「今年は偏りましたね。お陰で我々は辛うじて一位通過出来ましたが」

从 ゚∀从「運も実力の内ってな」

( ・∀・)「ヨシさん、これってやっぱり……」


猫山は渋い表情を浮かべる。3つしかない出場の座を賭けた75組のバトルロワイヤル
その内2つに、Eブロック二大チームと言っても過言ではない『クワイエット』と『バジリスク』が座るとすれば
残り一つを奪い合う壮絶な死闘となるのは想像に難くない。ましてや死ねば終わりのバトルロワイヤル
『格上とわかっている相手にわざわざ挑むメリットなど一切無い』のだ


(,,゚Д゚)「Black Sheepは二回戦で自分の首を二度も締めている。一つはアビリティによる無言の挑発。もう一つは戦果を『挙げ過ぎた』事だ」

( ・∀・)「無名の新人があれだけ大暴れすれば、自ずと警戒度は上がる。残り一つの席の座も危うくなる、と」

(,,゚Д゚)「危険因子が紛れ込んだとなれば、従来のパワーバランスでゲーム仕切り直す為に、初っ端から結託して襲いかかってくるかもしれない。『出る杭は打て』とな」

(’e’)「奴らの昨日の行動が、他の連中に『チーミング』させる大義名分を作っちまったってこったな。ま、自業自得だ」

( ・∀・)「フフフ……果たしてh(’e’)「うるせえ」


(´・∀・)


从 ゚∀从「けど、あのオッサンが『そこ』まで考えが及ばねえことってあるか?当の本人が一番わかってんじゃねえの?」

(,,;゚Д゚)「それもそうなんだが、自己顕示欲を満たす為というのも否定出来ないんだよな……考えがあっての行動であって欲しいが……」

716 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:02:49 ID:pdeLbfIc0
「今、最後のチームが乗り込みました!!年末の大舞台への切符を手にする運命の第三回戦。抱くのは夢かそれとも野望か。自転戦車を乗せた輸送機が……今飛び立ちました!!」


(,,゚Д゚)「始まったか……」


円落街より更に上空から、巨大な輸送機がフィールドを縦断するルートで飛行する
早い者は開始直後には空挺戦車よろしくパラシュート降下を始めているがーーーーー


「22番『拳応』、63番『コタツとキング』、44番『七大生徒会』、序盤から続々と投下を始めております。続けて……」


(’e’)「少ないな……」


ステージ端から中央へとゆっくり進んでいく安全策は、練度を問わず生存率を高める有効手段だ
バトルロワイヤルの勝敗は撃破数ではなく『生存』である。コソコソと逃げ隠れして卑怯と呼ばれる筋合いは無い
むしろ『正攻法』であるのだが、今回に限ってその作戦に則るチームは少なかった

717 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:03:33 ID:pdeLbfIc0
( ・∀・)「でも有力チームばかりですね。挑発に乗らなかったと見るべきでしょうか?」

(’e’)「だろうな。しかし……」


『Black Sheep』、『クワイエット』、『バジリスク』は未だ輸送機の席に腰を埋めたままである


(,,;゚Д゚)「なっオイ……なん……ええ?マジで言ってる?あっヤバい息ができコヒュー、コヒュー」

从 ゚∀从「早いって」

(’e’)「オメーらの予選三回戦の時より限界じゃねーか」


Black Sheepの挑発に彼らが乗ったとするならば、本戦進出の道を断ち切る『対の鉞』に他ならない
同じEブロックである以上、突如現れた危険因子は彼らの立場を脅かす存在でもある。放っておくメリットは無い


(’e’)「国内2トップに袋叩きに合うんなら光栄だろ。後で慰めてやりゃあいいんだよ」

(,,;゚Д゚)「上手さん……」

(’e’)「俺は……」


(^e^)「クソほどコキ下すがなぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ギャーーーーーーーーーーーーーーーハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」


作中三大ゴミカスの一角を成す男がここにいた

718 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:04:24 ID:pdeLbfIc0
从 ゚∀从「だから気が早いって。袋叩きに遭うと決まったわけじゃ……」

( ・∀・)「降りた!!」


実況のトーンが二つ上がる


「ここで降りた18番『Black Sheep』!!おおっとこれは!?21番『クワイエット』と53番『バジリスク』も続けて降下!!Eブロックのダークホースを早々に潰すつもりかーッ!!」

「残りも次々と降りていってますね。うん。これは短期決戦にね、なりそうですね」


(,,;゚Д゚)そ「アアアアアアアアアアア!!!!!!?????」

(^e^)「逝ったああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


高岡は『この部屋防音で良かった』と思った


从 ゚∀从「中央ルートっぽい?」

( ・∀・)「そう……いや、どうだろ」


半数以上がBlack Sheepに続いて降下を始めたが、クワイエットとバジリスクの存在に気付いたのか、散り散りに落ちていく


从 ゚∀从「意外と……落ち着いた立ち上がりになりそうじゃね?」


結果、中央付近に降り立つチームは、両手で数えられる程度まで減った

719 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 12:05:12 ID:pdeLbfIc0
( ・∀・)「大潮さんが『挑発』したのは、文彦くんの言動から間違い無いとして、彼の思惑通りの展開なのかな?」

(,,゚Д゚)「むぅ……もし彼がカラス戦術をなぞっているなら、まずはGを稼ぐ必要がある。となると、NPCかプレイヤーを撃破しなければならない。アイテムを購入出来ねば、ブラックマーケットはコストを食うだけの邪魔モノだ」

从 ゚∀从「じゃあよ、初動さえ抑えちまえば楽勝ってことか?」

(,,゚Д゚)「研究不足のチームはそう考えるだろうな」


『考えが浅い』と遠回しに指摘された高岡は、あからさまに不貞腐れる
猫山はそんな可愛げのある後輩の頭を、宥めるようにポンポンと撫でた。ファンが見たら発狂の末に尊死する光景である。なんだ尊死って。気持ち悪いな


(,,゚Д゚)「まぁ古い戦術だから知らないのも無理はない。カラス戦術の使い手はどれも地力が高かった。つまり、アビリティに頼らずとも強かったんだ」

从 ゚∀从「てことは、Gを稼ぐ為に挑発したってのか?」


高岡はイケメンの頭ポンポンに一切響いた様子もなく、ウザそうに払い退けた。従弟の豚とは違ってぞんざいに扱われた経験が少ない猫山はちょっとだけ傷ついた


( ・∀・)「カラス戦術だって見抜いたチームがわざわざ餌になろうとするかな?ちょっとわかんなくなってきたぞ」

(’e’)「……なぁ、そんなに大勢『気づいた』と思うか?」


上手の一言に、ハヤテの面々が顔を見合わせる。年長者でありチームのブレインである猫山ですら、指摘されて初めて『ブラックマーケット』を使っていると気づいたのだ


(’e’)「カラス戦術は、お前ら現役が産まれる前に流行したアンティークだ。プロでも知らねえ奴がいても不思議じゃあねえよ。それを、『挑発』に用いたってんならよ」



「Black Sheep、クワイエット、バジリスク、ほぼ同時に着陸!!開始1分弱で互いに射程圏内だ!!」



(’e’)「『チャリオッツに深く精通しているチーム』に向けたもんなんじゃねえのか?」

720 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:24:46 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



『円落街』の中心には、街全体を浮かべる『魔力石』を納める石造りの神殿が聳え立つ。序盤でこの場所に降り立ったチームは、暫くの間は滑落によるゲームオーバーの心配はない
神殿から半径およそ200メートルまでが『安全地帯』であり、足場の崩壊は境界線に達した時点で一旦ストップする
この段階で複数のチームが生き残っていた場合、1秒毎に1メートルずつ安全地帯の足場が崩れていき、最後には車輛一台分の広さの魔力石だけが残る
勝利するにはゲーム終了までに相手チームを全て倒すか、魔力石に陣取って崩壊から身を守るかの二通りに分けられる


(´・_ゝ・`)「乗ってきたか」

(;@з@)「因縁あるバジリスクはともかく、クワイエットまで釣れるとは……拙者、気が気ではござりませんぞ」


Black Sheepの参謀達も、予選三回戦をオフィスから固唾を飲んで見守っていた


「Black Sheep、クワイエット、バジリスク、ほぼ同時に着陸!!開始1分弱で互いに射程圏内だ!!」


実況のアナウンサーの鼻息が早くも荒くなる。彼が一呼吸置く間もなく、三つのチームは砲口を向け合った
スピンミキサーと6Shooterによる反射的な砲撃に長けたBlack Sheepが真っ先に王者へと標準を合わせ
貫通力と精密性に優れ、チーム名の由来でもある無音の弩砲『バリスタ』を使うクワイエットが、バトルロワイアルにおいて最も脅威となる大蛇に鏃を向け
指定した回数分『跳弾』するまで炸裂しない、弾力がある榴弾を扱える主砲『仏の顔』を搭載したバジリスクが、黒き獲物に牙を剥く


「撃ったァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!Eブロック予選最終戦の火蓋は、王者と大蛇と曲者が切って落としたァ!!!!!!!!!」


『ほぼ同時』に放たれたそれぞれの砲弾は、名刺交換のように互いの装甲を殴り付けた


(´・_ゝ・`)「曲者とは、言い得て妙だね」

(;@з@)「とんでもない博打を打っておられますからな……」

721 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:25:27 ID:pdeLbfIc0
予選開始一週間前。各ブロックの振り分けが発表された時、本八と文彦は珍しく意見を一致させた
『バジリスクがいる以上、レース、バトルロワイヤル問わず終盤は絶対にバトルで決着がつく』
レースの勝利条件は本来ならばゴールに一着で到着する事だが、予選三回戦は3組のチームが勝者となる
従って、バジリスクが終盤にバトルを仕掛けた場合、ゴールするよりも先に残り3組になる方が早いと踏んだ


( A )「バジリスクを差し置いて3組先着する可能性は?」

(  ω )「バジリスクのジャパンカップ出場回数を見てから物言えお。そんなヘマを蟒蛇のネームドチームがするわけねーだろ少しは考えてから発言しろよブス。ったくこれだから素人は困るんだお。会話のレベルについて来れないなら静かにしてもらっていいすか?」

( A )「」


<うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!捥げるおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!


(´ ω `)「予選のキモはバジリスクとクワイエットが同じブロックに振り分けられたって所だ。両者が三回戦でぶつかるのは、ほぼ確定と見ていい」

(´ ω `)「となると、クワイエットはバジリスクのスタイルに同調した方が手っ取り早いと判断するだろう。ゴールを妨害されて共倒れになるより、その他を一掃した方が楽で確実とな」

( A )「バジリスクを高く見積もり過ぎじゃねーのか?三回戦は75チームも参加するんだぜ?それをたった1チームで制圧出来るってのか?」

(´ ω `)「『あのアビリティ』ならそれが出来ちまうんだよ。豚が6shooterの性能をフルに引き出せるように、その道の『代表格』ってのがゴロゴロいやがんだ。チャリオッツをちょっと齧った程度のニワカが知ったかぶって俺様に意見してんじゃねーぞブス。半年ROMれやカス」

( A )「」


<ぐわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!増えるうううううううううううううう!!!!!!!!!!!!

722 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:26:35 ID:pdeLbfIc0
ライバル関係であるクワイエットとバジリスクだが、本線より一足先に相見える三回戦はあくまで『通過点』であり、真の決着の場ではない
お互いに予選通過を目的とするならば、利害の一致からの共闘もあり得ない話ではない
そしてバジリスクがいる以上、どのようなルールであれ最終的に潰し合いに発展するのは明確だった


(´ ω `)「ここに、『相乗り』させてもらえねえかなって考えたんだよ」


本八の狙いは、三回戦に置ける『クワイエット・バジリスク・Black Sheepによる共闘』であった


その為に必要なパーツが幾つかあった


(´ ω `)「まずは実力を示さねえことには始まらねえ。『振るい』が終わった二回戦で、圧倒的な戦果を挙げる」


両チームに引けを取らない、実力の誇示


(´ ω `)「そして挑発。こいつは三浦の大将の入れ知恵と、チャリオッツの黒歴史を拝借しよう」


『カラス戦術』を用いた無言の挑発


(´ ω `)「最後は運も絡むが……『その他』の下心を擽るとっておきの甘い餌」


『番狂せ』を匂わせる千載一遇のチャンスシーン


(´ ω `)「この三つが上手くかみ合えば、予選への切符は俺らが独占したも同然よ」

723 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:27:49 ID:pdeLbfIc0
(´・_ゝ・`)「傲慢の極みだね……」


本八がしている事は、『ジャパンカップ初参戦のペーペーが、国内最強クラスと同列である』と吹聴しているようなものだ
九月の半ばに木本が言ったように、この国は『出る杭は打つ国民性』。我が強ければそれだけ顰蹙を買う。ましてや、予選ともなれば格好の獲物だ
実力のある新入りが決勝に出場したいのならば、出来る限り目立たず穏便に、収まるべき椅子に静かに着席すればいい。それが正攻法というものだろう

残念ながら、正攻法は『大潮 本八』のやり方とはマッチしなかった


本八は金や権力、時には暴力すら存分に駆使して欲しい物を手にした後は、恥ずかし気も無く公衆に見せびらかす、クソガキがそのまま大人になったような救いようのない下品な人間である
強いて本八とクソガキの差を挙げるとするならば、手にしたモノは本人にとって、そして他人にとって真に価値があるモノという点だ
誰もが一目見て驚嘆し、羨望し、嫉妬する。その価値があって初めて、本八にとっての『自慢』と成り得る
この予選三回戦は、本八なりの宣戦布告であると同時に、『自慢』を披露する場でもあるのだ

そして彼の『自慢』もまた、お行儀良くゲームが出来るような連中では無かった


「Black Sheepがクワイエットに猛然と迫る!!6shooter有効射程……撃たない!!まさか!?肉弾戦か!?」

「クワイエットは至近距離もね、もの凄く強いですからね。策が無ければ自殺ですねこれはね」

「しかしこれを見逃す蟒蛇ではない!!バジリスクの毒牙が羊の腹を目掛けて襲い来るーーーーーーーーーッ!!」


(;@з@)「宇都宮氏、掛かっておられるのではござらぬか!?クワイエットは『至近距離』こそ避けるべき相手とお忘れなのでは!?」

724 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:29:21 ID:pdeLbfIc0
クワイエットの真骨頂は、遠距離から放たれる無音の射撃ではなく、互いのキャプテンの表情が窺えるほどの『至近距離戦闘』であるとされている
そのワケは、側部装甲に配置されている『四本の太いチューブ』にある
左右に二本ずつ、折り畳まれた状態で装着されている直径30センチほどの太さのそれは、展開時には先端に四つの鉤爪が付いた長さ6メートルの『触手』として機能する
クワイエットのキャプテンは、自らの頭部を隠すマスク兼『ヘッドギア』から脳波を読み取らせて操作し
自転戦車でありながら、『殴る』『掴む』『投げる』『剥がす』といった、動物的なアクションを可能とする
側部装甲兼3コストアビリティとして機能する四本の手足は、某有名アメコミヒーローの名物ヴィランから捩って、『D-Oct』と名付けられた


(´・_ゝ・`)「関係ないだろうね」


D-Octは収納時には装甲として、展開時には手足として機能する。しかしその間、車体側部は薄い鉄板に覆われるだけで防御機能は損なわれる
通常、よほど接近されなければ展開する事はなく、装甲としても至って平凡な耐久値しか持たない。肝心の操作難易度も、開発者本人ですら至難と呼ぶ程に高い
砲撃という遠距離攻撃手段が標準装備であるチャリオッツにおいて、高々6メートルしかない腕は取るに足らず、装甲としても秀でてはいない。装着するにしてもアビリティコストまで要求されるのが致命的であった
D-Octもまた、少々物珍しいだけの失敗装備として、ストレージの奥深くでひっそりと眠る運命を辿ろうとしていた

『王者がその手を取るまで』は


「王者クワイエット!!早々に剛腕を広げる!!バジリスクは間に合わないか!?」


クワイエットは車体を鋭く45度切り返し、迫り来るBlack Sheepと真っ向から対面する。D-Octの展開時に防御力が下がると言っても、あくまで側面だけである
しかし前面装甲も、衝突に対して強固とは言えない円錐型の『ペンシルチェスト』。正面からの砲撃を外側へ逸らす事には長けているが、チャージ前提の重厚装甲には弱い
Black Sheep最大の武器は、文彦と6shooterによる精密かつ刹那の連射。そしてそれを支えるジョッキーの強靭な足腰から繰り出される突進
強力なアビリティを積むまでも無いと結論付けるほどに凶悪な、大潮 本八の『自慢』。まともに受ければ王者とて無傷では済まない

725 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:30:19 ID:pdeLbfIc0
「受け……」


爪を広げたD-Octを突き出し、ドッシリと構えるクワイエット。Black Sheepは速度を落とさず突っ込んでいく
四つの触手はBlack Sheepの車体を正方形の四点で受け止め、蛇腹の腕を曲げて衝撃を吸収する。車体は大きく後退したが、装甲に大きなダメージは生じなかった


「止めたァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!柔が剛を制する!!王者クワイエットの技が光るーーーーーーーーー!!!!!!!」

「何度見てもね、惚れ惚れしますね。D-Octの強みとは言え、中々真似できませんね」


D-Octの耐久値は装甲としては平凡だが、『キャプテンが操作できる車輌装備』としてはトップクラスである
また、鋼鉄製でありながらしなやかな蛇腹のアームは、衝撃を受け止めるクッションとしても機能する
人の『腕』から放たれる攻撃が多種多様であるように、D-Octもまた、盾のみならず『刀』にも『槍』にも『薙刀』にも『槌』にも変化する
その特性は『鋼鉄』の硬度を持つ生物の『筋肉』。訓練次第ではヒトかそれ以上の動物的な瞬発力も発揮出来る
柔と剛、矛と盾を併せ持つ変幻自在の鉄腕。これこそ、クワイエットを王者たらしめる最大の武器であった


(;@з@)「何故撃たぬのでござるか文彦氏!!!???」


木本が声を荒げる。Black Sheepが誇る『最大の武器』は、ファーストショット以降放たれてはいない
6shooterは低火力、短射程、キモオタの臭い豚というハンデと引き換えに、青天井な連射力を秘めた主砲である
『連射してナンボ』の武器を、互いのキャプテンの顔が見えるほど近い至近距離で、未だ発砲されない。木本の脳裏に、文彦が蟒蛇を、チャリオッツを辞めるきっかけとなった試合が過ぎる


(´・_ゝ・`)「木本くん」


しかし同じく傍観者である盛岡は、全てお見通しと言わんばかりに落ち着いた様子で話しかけた


(´・_ゝ・`)「推しである皆鳴ミセリを目の前にしたら、キミはどんな反応をする?」

(;@з@)「え?そ、そりゃあ……舞い上がって昇天して……いや、まさか盛岡氏……」

(´・_ゝ・`)「そのまさかさ。現チャリオッツ王者を前にして、『はしゃいでんだよ』。あのクズは」

726 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:31:32 ID:pdeLbfIc0
日本の頂を狙う挑戦者であり、そして互いに競い合うライバルであると同時に、クワイエットはチャリオッツプレイヤーにとっては神にも等しい存在である
その神が、自身の贈った『挑戦状』を受け取っただけでなく、胸まで貸してくれているのだ。ファンにとっては、垂涎モノのご褒美であった


「大潮選手何故かめちゃくちゃ嬉しそうだ!?ファン心理か!?アイドルとの握手会とでも思っているのかーーーーーーー!?」

「僕もね、シュガー&スパイスのね、握手会行った時あんな感じにね、なりますねうん」


(´・_ゝ・`)「娘も好きなんだよねシュガー&スパイス。彼女達もジャパンカップにも出場するし」

(;@з@)そ「言ってる場合ではござらんのでは!?確かに最高のファンサかも知れませぬが、クワイエットの間合いでガッチリロックアップされたも同然なのですぞ!!」


ロックアップとは、両者ががっぷりと組み合う状態を指すプロレス用語であり、猿渡哲也氏のプロレス漫画のタイトルである
通常、チャリオッツにおいて鍔迫り合いの状況など、『よほど頭キマったチーム同士』でしか発生しないものだが、今回は本八による(あるいは文彦も)、一方的なファン交流イベントとして出来上がってしまっている
クワイエットにとっては全人未踏の三連覇が懸かった大事な一戦。厄介ファンに付き合っている暇はない
何より、バトルロワイヤルに限れば王者を凌ぐ蟒蛇の牙が、間近まで迫っている


(;@з@)そ「ヒィ!?」


バジリスクはジョッキーの世代交代に伴い、前面装甲もチャージ重視に置き換えた
両サイドのフロントを根元に、バンパーを防護するように半周。先端は槍のように真っ直ぐ突き出された二本の太い『角』
突き刺し、抉ることを目的とした、残虐かつ悪辣なそれの名は、悪魔を意味する『ディアボロス』である


(;@з@)「バジリスクはBlack Sheepと同様に『撃って殴れる』実力者!!新たなジョッキーは荒削りですが突進力は宇都宮氏をも凌ぎますぞ!!クワイエットに雁字搦めにされてる今、横っ腹に突き刺されば敗北は必至にござる!!」

(´・_ゝ・`)「優秀な解説だなぁ」


国内No.1とNo.2に板挟みにされている絶体絶命の状況に、盛岡は冷めたお茶を淹れなおした
本八は確かに浮かれたミーハーのゴミクズである。しかし、猛者の放つ威光に目を眩ませるほど幼稚ではない


「土手っ腹にバジリスクの毒牙が迫る!!Black Sheepここまでかーーーーーーーーーーッ!!!!!?????」

727 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:33:48 ID:pdeLbfIc0
クワイエットの『矢』がつがれ、鏃がBlack Sheepの眼前へと向けられる。放たれれば一撃貫通は免れない
射線から逃れようにも、D-Octの拘束を振り解かねばならない。これはクワイエットのような『腕』という抵抗手段の無い車体にとっては至難の技である
人同士の取っ組み合いで例えるなら、掴まれた側が身体の押し引きだけで逃れようとするものだ。掴んでいる側は当然、放さないように追随する
離脱の為に必要な動作は、『腕』自体にダメージ与えて彼方から手放すようにするか、あるいは瞬発的な動きで振り払うかである
『自転車』を始め『乗り物全般』において、動物的な瞬発力を発揮するのは至難である。その殆どは、効率的な車輪運動を実現するため段階的に加速する設計がされているからだ
では、Black Sheepは成す術なく額を貫かれ、横っ腹を串刺しにされてしまうのだろうか?
Desperado Chariotsは十話にして、選択肢をミスったギャルゲーのように呆気なく最終回を迎えてしまうのだろうか?否―――――


「前門の王者、側面の蛇!!Black Sheep万事休……いや、アレはーーーーーーーーッ!!!!!!!」


Black Sheepの車体が高速回転。四点を捉えていた爪は、弾けるように振り解かれる
同時に発射された矢は、6shooterの砲身を僅かに削り逸れていく
D-Octからの離脱と射線切りと並行して、側面から迫るバジリスクに標準を合わせ


「Black Sheepここでフルバースト!!しかし!?」


残り五発を全弾発射。元チームメイトだった文彦の才能を知るバジリスクはこれを読んでいたのか、ハンドルを切って回避
Black Sheepは回転が収まるのを待たず、ガムシャラにその場から離れる。戦況はこれでまた平衡に戻った


「バジリスク躱すーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!Black Sheepも絶体絶命の状況から逃れた!!」

「ヒリつく騙し討ちですね。これね、普通の胆力じゃできませんね」


(;@з@)そ「うおーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!惜しいでござる!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「いや、かなり余裕を持って避けてるよ」


盛岡の言う通り、バジリスクは早い段階で首を振っていたが、それでも観る者に『惜しい』と思わせるほどにギリギリの回避であった

728 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:35:38 ID:pdeLbfIc0
(;@з@)「『当たらなければ、どうという事はない』でござるか?」

(´・_ゝ・`)「そうだね……バジリスクは予め文彦くんの実力を把握してる分、警戒の度合いも段違いだ。二回戦までは初見殺しが通用してたけど、これからはそうはいかないだろうね」


砲塔の回転よりも遥かに早く、車体ごと砲口を向けられるのだ。相手からすれば不意打ちに等しい、言わば『未知の挙動』
『予測可能回避不可能』というネットスラングにあるように、スピンミキサーによる高速エイムは予測だけで回避できるような代物ではない
求められるのはジョッキーの直感力。ある種、未来視にも等しい『避け勘』を培わねばならない


(´・_ゝ・`)「流石、国内二位の実力と言ったところかな。それに……」


バジリスクのキャプテンである『宝木 蕗也』は新たなジョッキーに、徳雄の過去に関わりある人物を指名した
プロ選手でありながら、三対一、それも相手はキャプテン落ちという圧倒的な戦力差で臨みながら、公衆の面前で屈辱的な敗北を喫した、ネットニュースにすら上がった半年前の一戦
Black Sheep結成前から『擬似的な6shooter+スピンミキサー』の砲撃を、その身と頭に刻み込まれた唯一の対戦相手


(´・_ゝ・`)「『腐っても鯛』、か」


バジリスクの新ジョッキー『高城 貴虎』。対文彦攻略の要として、これ以上無い人材であった

729 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:37:33 ID:pdeLbfIc0
(;@з@)「半年の間で見違えたのは、宇都宮氏だけでは無いのでござるな……」

(´・_ゝ・`)「ドン底から這い上がった人物は例外なく強くなるものだ。それを見越した采配だとすると、宝木選手はかなりの切れ者だよ」


事実、文彦との対戦前の高城は、蟒蛇所属でありながらパッとした成績を残してはいなかった
アマチュアより才能はあったのだろうが、プロの世界では掃いて捨てるほどでしかなく、そのまま埋もれていくだけの選手だった筈が
『あの日』をきっかけに弾みをつけ、今や突進力と回避力を併せ持つ、蟒蛇筆頭チームの一員である
バジリスクは彼の採用によって、因縁にせよ技術面にせよ、Black Sheepにとって最も手強い相手と成ったのだ


(;@з@)「文字通り、藪を突いて蛇を出してしまったわけですな」

(´・_ゝ・`)「上手いねぇ。座布団一枚」


盛岡は木本という善性とコミュ力に溢れた有能との束の間のストレスフリーな会話に人知れず癒された

730 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:38:35 ID:pdeLbfIc0
「さぁ仕切り直しですEブロック予選最終戦。Black Sheepは距離を取りながらリロードに移っております」

「長いリロードタイムはね、6shooterの弱点でもありますね。うん。しかし……えー……内藤選手、凄まじい早撃ちですね」

「この隙をどう凌ぐかが、チームの力量を……おっと!?」


Black Sheepの進路を妨害するかのように地面が爆ぜる。クワイエットとバジリスクを警戒して少し離れた場所に降り立った他チームが、この機を逃さんと砲撃を開始した


「Black Sheepへ集中砲火!!休む暇は与えられません!!」


(´・_ゝ・`)「どのチームかな?」

(;@з@)「59番『歩苦歩苦』、8番『インビジブル』、31番『三木ONE』にござる!!」


Black Sheepに向かって正面、変形機能を持つ『歩苦歩苦』。右側面に光学迷彩装甲によるステルス戦法を得意とする『インビジブル』
そして左方に車体を黒と赤のカラーリングで二分し、砲塔に二つの円形レーダーを耳のように搭載した、何がとは言わんがミッキーマウスを彷彿とさせる『三木ONE』が待ち構えている
尚、2121年現在、黒赤カラーのミッキーはパブリックドメイン化している為、杞憂は不要である


(;@з@)「クワイエットはっ……!!」


クワイエットは背を見せたBlack Sheepを深く追うことはしなかった
この場に置いて最も警戒しなければならない脅威が、すぐ側で鎌首を擡げているのだ。これを無視して羊を追えるほど、大蛇は優しくはない
それはバジリスクにも言える事であり、この二大チームはBlack Sheepの離脱によって膠着を余儀なくされた


(;@з@)「よし!!」

(´・_ゝ・`)「後門の虎は避けられたか……」


共闘の可能性は万が一であったが、二人はひとまず胸を撫で下ろす。最悪の状況は免れた
1対3の戦況ではあるが、クワイエットかバジリスクのどちらかと対峙するよりは遥かにマシなのだ
Black Sheepは脇目も振らず、正面の歩苦歩苦へと突っ込んで行く。無勢に置いても一切の躊躇いも見せなかった


(´・_ゝ・`)「キマってんね。合宿の成果か」


『歩苦歩苦』は某機動戦士をイメージした白、青、赤のカラーリングが特徴のアマチュアチームである
主砲も長射程高威力を誇る『ビームキャノン』を搭載しており、その弾道はショッキングピンクの閃光を描く
先ほどBlack Sheepを狙った砲撃に、そこまで目を惹くものは無かった

731 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:40:09 ID:pdeLbfIc0
(´・_ゝ・`)「撃ち損ねているね。チャンスだ」

(;@з@)「しかし、食らえば一撃死でござるよ」

(´・_ゝ・`)「さっき言ってたろ?『当たらなければどうと言うことは無い』って」


ビームキャノンは高威力を誇る反面、再装填に時間が掛かる主砲である為、牽制として気安く使うにはリスクがある
このような主砲は、長距離からのスナイプで仕留める『ワンショットワンキル』を主として立ち回らねばならない。相手の砲撃が届く場所にいる時点で、その強みを殺してしまっているのだ

そしてもう一つ、ビームキャノンには致命的な弱点がある。砲弾が光を放つ『光線』であることだ


「歩苦歩苦、向かってくるBlack Sheepへ発射!!しかしこれを難なく避ける!!」


ビームキャノンは発射時、砲身の奥からせり上がるように発光するという特徴がある。マズルフラッシュのような瞬間的なものではなく、『動作の溜め』に近い挙動だ。正面から対峙した場合、発射タイミングが他の主砲よりも掴みやすくなる
原作再現としてのこだわりであったが、こと実用においては『あからさま過ぎる予備動作』として大いに足を引っ張る要素なのだ


(;@з@)「あっ……」


流れ弾は後方のクワイエットとバジリスクの間を通り抜け、更に奥の一際大きな建造物を貫く
瓦礫と共に建物内に眠っていたであろう書物の紙吹雪が舞い上がり、そこに身を潜めていた複数のチームが慌てて飛び出した
睨み合いから解かれた二強は、標的を移し替えてそれぞれ撃破へと向かう―――――


(;@з@)「『違う』!!!!」


否、狙いは『いつでも殺せるような雑兵』ではなく、紙吹雪と共に舞った『一つの書物』


(;@з@)「『トレジャー』でござる!!!!!!!!!!!!」

(;´・_ゝ・`)「オイオイマジか……」

732 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:41:26 ID:pdeLbfIc0
『トレジャー』。ステージ内に点在する超強力なアイテム。ボス級エネミーから確定でドロップする物もあれば、建造物や洞窟、宝箱の中でひっそりと眠っている物もある
入手難易度によってグレードや効力に差はあるが、優位に立つために是が非でも手に入れたい強力な代物である。それが今、クワイエットとバジリスクの手が届きそうな場所で、光輪を纏いはためいている


「早々に現れた円落街のトレジャーの一つ『魔導書アーウィン』!!強力な召喚獣を一定時間使役出来る効果を持っています!!心強い味方!!是非とも手にしたいところ!!」

「下手なボスクラスエネミーより厄介な相手となりますね。何といってもね、倒した所で得るものはありませんからね」

「クワイエットかバジリスク!!どちらかが手にすれば均衡が崩れるのは必須!!しかし届くか間に合うか!?」


(´・_ゝ・`)「いや、こっち見てる場合じゃないよね」


盛岡は少しの狼狽こそ見せたが、国内二強と数多の強豪たちによるトレジャー争奪戦からBlack Sheepへと視点を戻す


(;@з@)「そ、そうでござったな」


木本も『絶対面白い所でござるよ!?』という言葉を辛うじて飲み込んだ

733 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:42:56 ID:pdeLbfIc0
(´・_ゝ・`)「おっと、少し目を離した隙に……」


Black Sheepはワイヤーを使い、歩苦歩苦を引き摺り回している最中であった
固定砲である6shooterの照準を素早く合わせる手段である1コストアビリティ『スピンミキサー』
抜群の汎用性でサポートが可能な3コストアビリティ『ブラックマーケット』
そして残りを、『副砲』兼1コストアビリティ『ハープーン』で埋めた
ワイヤーを結びつけた銛の発射とウィンチによる巻取りが可能で、射程はおよそ10メートルと短いが
取り付け位置を自由に決められるのと、広い視界を持つキャプテンが発射を担うという利点を持ち
尚且つ1コストという手軽さもあって、使い勝手の良い装備として広く重宝されている
これをリアに取り付け、牽引能力を獲得。『押す力』であるチャージの他に『引く力』も扱えるようになった


(´・_ゝ・`)「それにしても……」


牽引に求められるのは足腰の『粘り強さ』。水泳を中心としたスタミナトレーニングに注力した徳雄には、それを引き出すインナーマッスルが十分に備わっていた
そこに着目したBlack Sheepの参謀、木本が提案した『ハープーン』は、ブスの持ち味を存分に活かせる最後の1ピースとして収まったのだ


(´・_ゝ・`)「すごいね」

(;@з@)「はぁ…………」


そう、罪人を市中で見せしめにするべく引き摺り回すかの如く―――――


(;@з@)そ「いやここまでするとは想定してはござらんよ!!!!!!!!???????」

734 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:44:46 ID:pdeLbfIc0
幾ら徳雄がブスの化け物と言っても、フルパーティの車体を縦横無尽に振り回すのは無理がある
木本も、ハープーンはあくまで後続の走行妨害や装甲の一部分を引き剥がすといった補助的な役割担うものとして提案したのだが


(´・_ゝ・`)「いやでも、ハンマーみたく振り回してるけど……」


Black Sheepは孤を描くように走行し、繋がれた歩苦歩苦は廃墟を巻き込みながら振り回されている
その様を、キャプテンの本八はハッチにしがみつきながらゲラゲラ嗤った。人が苦しむ様を娯楽として楽しめるタイプのクズである。こういうクズはインターネットに広く棲息しているので特段珍しくは無かった


(;@з@)「幾らハープーンのワイヤーが強靭といえども、耐荷重というものがあるでござる!!いえ、それより先に装甲が剥がれるのが先……」

(´・_ゝ・`)「ならカラクリがあるね」

(;@з@)「待てよ……歩苦歩苦の主力アビリティは確か……『ムーングラビティ』!!車体に掛かる重力を一時的に6分の1まで軽減する能力!!それを発動しているならあれだけ振り回されるのも説明が付きますぞ!!」

(´・_ゝ・`)「しかし見ての通り、今の状況下での重力軽減は歩苦歩苦にとって悪手でしかない」

(;@з@)「となれば、アイテムによってアビリティを強制的に発動させられたのでござろう。該当するのは恐らく……『暴発剤』にござる」


『暴発剤』。キャプテンがハッチから投擲して使用する手榴弾型アイテムである。これを浴びせられた車体は、最も重たいコストのアビリティを一回限り強制的に発動させられる
妨害系のアイテムとしてシンプルかつ優秀な性能ではあるが、接近しなければ届かない点や、暴発したアビリティに巻き込まれて自滅するリスクがある為、使い所は限られる


(;@з@)「運動補助系アビリティへの効果は的面でござるな」

(´・_ゝ・`)「さぁ、ここからどう返すか……」

735 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:46:05 ID:pdeLbfIc0
歩苦歩苦は遅きに失した。ハープーンに捕えられた時点で、すぐさま装甲を捨てて離脱するべきであった
『振り回される』という未経験の攻撃に、冷静さを欠いた歩苦歩苦のキャプテンはようやく判断の遅れに気づき、反射的にハープーンが突き刺さった装甲部位をパージする


(´・_ゝ・`)「あーあ……」


解放はされたものの、今度は地面を転げ回るハメになる。ムーングラビティの効力も切れ、石畳と装甲の摩擦で火花を散らしながら建造物へと突っ込んだ
瓦礫と土埃に埋もれた車体は横転し、土手っ腹を曝け出している。そこにトドメと言わんばかりに6shooterの砲撃が一発撃ち込まれた


(;@з@)「よし!!ファースト……」


「ファーストキルはなんとVIP Library!!泥男を堕としトレジャー獲得!!二強を出し抜いた!!」


(;@з@)そ「ああ〜!!惜しかった〜!!」

(´・_ゝ・`)「一歩出し抜かれたか。しかし、『競うのは早さじゃあない』」

(;@з@)「そ、その通りでござる!!」


歩苦歩苦の流れ弾が口火を切ったトレジャー争奪戦の盛り上がりと比べ、Black Sheep側の戦況は目立つものでは無かった
ダークホース扱いと言えども、優勝候補の二強と比べれば霞む存在で、実況の目が向いていたのも正直な話『オマケ扱い』に寄る所が大きい


(´・_ゝ・`)「さて、乗ってくれるかな……」


本八の策は、ここからが本番であった

736 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:47:16 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



一方その頃。徳雄、文彦の両名と馴染み深い彼らもまた、Eブロックの行末を観戦していた


「バジリスク、VIP Libraryを撃破ァァァ!!同時に、クワイエットも召喚竜『ジャバウォック』を撃退!!早い、早過ぎる!!これが国内二強の実力かァァァ!!!!!」


(,,゚-゚)「すげー」

(´・_・`)「バジリスクが一枚上手だったな。面倒をクワイエットに押し付けた」


鬼ヶ村スポーツセンターねぐらのオーナーにして、二人の世話を焼いた教官。そして作中一の敏感乳首を持つ薄顔マッチョ『小練 詩音』と、ゲロゲロに甘やかされたが故にデロデロの自己肯定感の塊と化したメスガキ『儀杜 しずく』である
現在、彼らはEブロック最終戦を三画面展開で眺めていた。一つはフィールドカメラで全体の戦況を。残りはそれぞれクワイエットとBlack Sheepのフォーカスカメラである


(´・_・`)「そんでこっちも……」


Black Sheepも実況のマークから外されたものの、歩苦歩苦撃破後に結託した三木ONE、インビジブルも立て続けに撃破。現在、キル数トップである


(´・_・`)「見事なもんだな」

737 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:48:40 ID:pdeLbfIc0
(,,゚-゚)「宇都宮くんのチームは元から攻撃力はあったんでしょ?」

(´・_・`)「それに加え、キャプテンのアシストも光ってる。あのやり方はカラス戦術の『源流』だ」

(,,゚-゚)「源流?」

(´・_・`)「今でこそカラス戦術は蔑称として知られてるが、『Three Robbers』っつーチームが考案した『ワタリガラス戦術』が元となってる。彼らもバトロワで鳴らした猛者でな。NPCには目もくれず、次から次へとプレイヤーを撃破していく様からそう呼ばれるようになった」

(,,゚-゚)「カラス戦術って、アイテムを買い溜めするやり方って言ってたよね?荒稼ぎ無しでどうにかなったの?」

(´・_・`)「言わずもがな、ザコNPCよりプレイヤーを狩る方がGの稼ぎはデカい。1チームにつき1アイテムだけ使用するなら、プレイヤーキルだけでギリギリ賄えんだよ。Three Robbersのキャプテンは、その時々に応じて最適格なアイテムを見極める選択眼に優れてた。荒稼ぎの枠を他のアビリティで埋めることで戦術の幅を広げていたんだ」

(,,゚-゚)「それって有名な話なの?」

(´・_・`)「いいや。当時は『蠱毒』のようなバトロワの大型大会が無かったのもあり、Three Robbersは日の目を見ずにひっそりと引退した。カラス戦術の由来も、環境が荒れたことで歪んだ形で後世に伝わっちまった。俺もこの話は三浦さんから聞いて初めて知ったからな」

(,,゚-゚)「じゃあ三浦のおっちゃんの差金かな」

(´・_・`)「だろうな。普通に考えて辿り着ける答えじゃあねえ。あのオッサン、よっぽど大潮の旦那を気に入ってんだろうよ」

(,,゚-゚)「変わってんね」

(´・_・`)「そうだね」

738 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:49:57 ID:pdeLbfIc0
(´・_・`)「しかしわっかんねえな……」


二回戦の戦果とカラス戦術による挑発を小練も見抜いてはいたが、真意までは未だ計りかねていた
予選の段階でクワイエット、バジリスクを堕とす腹積りであったなら、最序盤の誘い込みとカラス戦術は相性が悪い
ブラックマーケットは資金が尽きない限り汎用性を発揮する息の長いアビリティだが、瞬発火力に置いては劣る。短期決戦を挑む気であるなら、悠長に小銭を稼いでいる暇はない
アイテムの買い込み目的で大勢を誘い出す算段だったのなら、序盤での接触は避けたい二強を呼び出すのは逆効果だ。現に中途半端な数が安全地帯周辺へと散り散りになっている
そもそも、今のBlack Sheepの実力なら、セオリー通り過疎地からじっくりと安全地帯を目指すやり方でも危なげなく予選を突破出来る筈である


(´・_・`)「んー……」


単純に目立ちたいからという理由も、本八の人物像を鑑みればあり得なくはない。一見くだらなく思えるが、実力の誇示は立派な戦術の一つである
クワイエットやバジリスクが真っ先に狙われないのと同じく、周りに脅威であると知らしめることで、競合相手から狙われる確率を減らせるのだ
だがBlack Sheepは実績のないルーキーだ。幾ら実力を見せつけようとも、彼らに並び立てるほどの迫力を放つのは難しい
むしろ危機感を煽り、要注意チームとして早々に処理すべきと判断され、狙われるリスクが増すこともある


(´・_・`)「いや、そもそも『目立たない』方が無理か……?」

(,,゚-゚)「また一人でブツブツ言ってる……」


6shooterという主砲は、性能を象徴する回転式弾倉を搭載した特徴的なビジュアルである
特徴的であるとは即ち、長所短所が一目でわかるという事。対処照準合わせの難易度はアビリティでカバーしたが、『有効射程』までは補えない
『射程で勝るのならば、手の届かぬ範囲から狙撃すればいい』。6shooterより射程の長い主砲など、数えれば切りがない。ほとんどのチームは、Black Sheepに対して埋め難いアドバンテージを握っているのだ
選手の能力はさて置き、車体の見た目から侮られると最初から理解していたBlack Sheepは、思い切って実力を誇示する方向へと舵を切ったのではないか。ここから導き出される答えは―――――


(;´・_・`)「まさかあいつら、舐められるのが我慢ならねえから見せつけたんじゃねえだろうな……?」

(,,゚-゚)「そんなガキみたいな理由ある?」

(;´・_・`)「少なくとも、あの中の一人はやりかねねえだろ」

(,,゚-゚)「あー……」


ブスのことである。ヤンキーはメンツにこだわるクソしょうもない生き物なのだ

739 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:50:42 ID:pdeLbfIc0
(,,゚-゚)「あ、また狙われだした」

(;´・_・`)「お、おお……」


Black Sheepへの『ヘイト』は鎮まることなく、二強と離れたことで散り散りになっていた他チームがこれ幸いと集い始めていた
ジャパンカップのルールはソロプレイ前提だが、利害一致による一時的な共闘は暗黙の了解とされている。よほど悪質で無い限り、咎められる事はない
既に三チームも下したBlack Sheepは、『私刑』の大義名分として通用するほど充分な脅威なのだ


(,,゚-゚)「ひーふーみー……うわ、完全に囲い込みじゃん」

(´・_・`)「……」


マップ上では、Black Sheepを取り囲むように複数のマーカーが動いている。建物の影や入り組んだ路の中など、すぐさま距離を詰められないような位置に陣取り始めた
姿を見せれば速攻で狩られるのは、先程の『デモンストレーション』で明らかとなっている。ワタリガラスに吹く追い風を阻む包囲網が出来上がりつつあった
と、ここで小練はクワイエットとバジリスク側の戦況にも緩やかだが動きがあるのに気づく。Black Sheepと同じく、彼らにも『囲い』が出来つつあった
この状況を訝しんだ彼は、少しの時間を分析に費やし、そして―――――


(;´・_・`)そ「あいつらマジかよ!!」

(,,゚-゚)そ「え!?何が!?」


Black Sheepの狙いに気付き、思わず大声を張り上げた

740 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:51:42 ID:pdeLbfIc0
歩苦歩苦の流れ弾が引鉄となり起こったトレジャー争奪戦。ジャパンカップ出場経験もある強豪VIP Libraryが、果敢にも二強に挑み返り討ちに遭った
だが、その無念を晴らさんと続々と各チームが集まっている。VIP Libraryの散華は決して無駄ではなく、挑戦者達に火を着けたのだ


「これは……ある意味、想定内の事態ではありますね」

「はい。強豪を蹴落とすならね、大勢が共闘出来る予選が一番成功確率が高いですからね。結果論ですが、密集が予想される地点に降り立ったのは不味かったですね」


実況解説の言う通り、格上に対して最も高い勝算を叩き出すなら予選で袋叩きがベストだろう。この予選三回戦は、一時的共闘という形で集団戦に持ち込める唯一の機会だ
これまで今回の状況が発生しなかったのは、競合チームが二強との接触に強い危機意識を抱いていたのと、密集地帯を避けるというセオリーがあったからである。もしも二強が過疎地帯からスタートしていたなら、まず発生しなかった状況なのだ
トレジャーの出現こそ偶然の産物だろうが、Black Sheepは『二強をまとめて密集地へ誘い込む』事に成功している。この段階で、『多数の囲い込みによる一網打尽』を想定させるシチュエーションを用意出来たのだ
何より、VIP Libraryよりも先んじて挑んだのは彼らである。一連のやり取り自体は、Black Sheepとクワイエットをよく知る小練にとっては『小手調べ』程度にしか見えなかったが
現役のプレイヤー達にとっては、『ポッと出のルーキーが、前年度の覇者と準覇者と対峙して生き残る』という快挙として映っている筈だ


(;´・_・`)「Black Sheepが生き残った時点で、クワイエットとバジリスクのイメージは『格落ち』したんだ。『俺らでもやれるんじゃねえか』と欲が出る程度にまでな」

(,,゚-゚)「でも実際に実力が劣ったわけじゃないよね?」

(;´・_・`)「たりめーだ。あん中にはコテンパンにされた連中もワンサカいるだろうよ。だが現に、戦況は二強とBlack Sheep撃破に動き出している。そういう『流れ』が出来ちまってるんだ」


恐らくは、彼らへの挑戦に内心警鐘を鳴らしているプレイヤーもいる事だろう。しかし、川の流れに逆らうのが困難であるのと同じく、一方向を向いた集団心理に抗うのもまた困難である
しかも、『全くの無謀』でないのも強く作用している。勝敗を左右する最も原始的な要素は、結局の所『数』なのだ。彼らはこの局面で、それを思い出した
その上、二強のどちらかを撃破したなら、本戦出場を逃してもお釣りが出る程の大金星である。知名度の向上に、これほどお誂え向きな獲物はそういない
魔境とも称されるEブロックが、大勢が手を組むことで早い者勝ちのボーナスブロックへと転じたのだ


(;´・_・`)「Black Sheepの狙いは、『1対1対1対その他』の構図に持ち込むことだったんだ」

(,,゚-゚)「待ってよ。それってドチャクソ不利じゃない?」

(;´・_・`)「勿論だ。『単体のまま』ならまず勝ち目はない。幾らクワイエットやバジリスクが化け物でもな。だが、この不利な状況を緩和できる、最も手っ取り早い方法がある」


「これは……嘘でしょう、我々は夢でも見ているのでしょうか!?あのクワイエットとバジリスクが!!宿敵である彼らが!!『背中を預け合っている』ッ!!」


(;´・_・`)「『一時的な共闘』だ」

741 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:53:01 ID:pdeLbfIc0
彼らが取ったのは合理的判断である。観客にしてみても、ライバル同士の共闘はボルテージが跳ね上がる最高のシチュエーションだ。だが当人達にとっては不本意であるに違いない。誘いに乗らなければこのような危機的状況に陥らなかったのだから
しかし、それぞれの聡明なキャプテンがこの展開を予測出来なかったとも考えづらい。こうなると理解した上で誘いに乗ったか。あるいは、日本一の頂を目指すライバル達の、内に燻る熱い野望を見くびったかの二択である
そして恐るべくは、本戦出場安全圏内にいた彼らを一転して窮地にまで追いやった大潮 本八の策と、『トレジャー出現』という火に注ぐ油を見事に掘り当てた強運だ


(,,゚-゚)「結局クワイエットとバジリスクを陥れただけで、Black Sheepに得はないんじゃないの?やる意味あった?」

(;´・_・`)「何言ってんだ。あいつらにだけ特大のメリットがあんだろうが。これで『国内No.1とNo.2から狙われることはなくなった』んだからよ。少なくとも、今はな」


彼らを陥れた張本人であるが、同じく窮地の立場にある。生き残る為に少しでも人手が欲しい状況で、憤りのままに潰しに走るのは合理的とは言えない。断腸の思いで受け入れる他ないのだ


(;´・_・`)「やるとするなら数が減った終盤、梯子外すみたく唐突に襲ってくる筈だ。だが、Black Sheepがそれをしないという保証もねえ。各々が眉間に銃を突きつけながら共闘するようなもんだ。しかも、この場合最も不利になるのは『クワイエット』だ」

(,,゚-゚)「なんで?」

(;´・_・`)「『強化手段が乏しい』。レースモードならステージクリア時のショップで安全に補給したり、NPCや他チームの撃破でアイテムを得られる事もあるが、今回はバトロワ。それも息つく暇もないであろうラッシュが予想される。敵の死体を漁ってる暇なんてねえんだ」


アイテムの入手は主にショップでの購入、NPC撃破時に確率でドロップ、撃破した車体から奪うという三つの方法がある
今回のバトルは参加数が多いことから、NPCの出現率は低く設定されている為、ドロップでの入手は望み薄だ
また、ショップに関してもステージ内の『隠しショップ』を見つけない限り購入は出来ない
プレイヤー撃破時にGこそ自動で支給されるが、アイテムに関しては撃破した車体に近づきBOXウィンドウを開く必要がある。大勢から襲われる中で、悠長に漁る暇など無いのだ


(;´・_・`)「Black Sheepは言わずもがな、ブラックマーケットで状況を選ばずショップを利用出来る。バジリスクもクワイエットと同じくアイテムの補給こそ出来ないが、『あのアビリティ』はキルを取れば取るほど強く使える蓄積型だ。あの三チームの中で、ただ消耗を強いられるのはクワイエットだけなんだ」

(,,゚-゚)「最後の狙い目を『移した』の?」

(;´・_・`)「そうだ。大潮の旦那は、終盤のリスクケアまで勘定に入れてたのさ」


怨みを買う首謀者でありながら、損する役回りは他所へと押し付ける。クズの体現者たる男、大潮 本八らしい悪どい手口である

742 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:55:19 ID:pdeLbfIc0
「Black Sheepに動きがありました!!煙幕です!!逃げの一手を打つ気でしょうか!!」


ブラックマーケットで買い込んだであろうアイテム、『スモークグレネード』の煙幕がBlack Sheepの車体を覆い隠す
包囲網を形成していた競合チームが、牽制の為に砲撃を放つ。側面装甲に被弾したのか、大きな火花が弾けたものの、致命的なダメージには至らなかったようで、フォーカス画面から口汚い罵倒が聞こえた
続け様にもう一つスモークグレネードが炸裂する。安全圏を中心に、色濃い煙が辺りに充満した
クワイエット、バジリスクはすぐさま車体を方向転換させ、煙の中へと飛び込み姿を隠す。彼らの背中を追うように砲弾が撃ち込まれるが、此方は空を切るに終わった
追撃はされず、示し合わせたように包囲網は縮まっていく。一時の静けさが訪れた


「煙が晴れるのを待って、一斉射で仕留める算段でしょうか。一方的な展開になりそうですね」

「そうとも限らないですね。少なくとも、三組にとって最悪の展開にはなってませんね」

「と、仰られますと?」

「一斉に飛び掛かられたらひとたまりもね、ありませんからね」


(,,゚-゚)「そうなの?」

(´・_・`)「ああ。煙に巻いたのが功を奏したな」


ゲームであれ何であれ、複数人から敵意を向けられるのは相当なストレスであり、戦わずして戦意を喪失させるのに最も効率的な手段である
一方で『数の優位』を握る側は、見えている勝ち目に戦意が大幅に上昇し、気も大きくなる。精神的余裕はリラックスに繋がり、パフォーマンスを引き出す助けにもなるだろう
しかし勘違いしてはならないのは、予選三回戦に置いて『集団の強み』が万全に発揮できるわけではないという事である


(´・_・`)「二強とBlack Sheep撃破の流れになった所で、結局個人戦であることにゃ変わりねえ。裏切りの可能性は全チームにある。なんせ、椅子は三つしか用意されてねえんだからな」

(,,゚-゚)「そんな上手くいかないってこと?」

(´・_・`)「集団を『組織』として機能させるには、指揮官の役立が不可欠だ。だが指揮を執り行うには主従関係や明確な役割をハッキリさせないとならない。対等な立場で一時的に手を組んでいる中、一人だけ偉そうに指図する奴が出てきたらどう思う?」

(,,゚-゚)「ぶっ殺す」

(´・_・`)「え、嘘……そんな嫌?ともあれ指示に従ったら自分だけ損をするかもしれない、騙されるかもしれないという疑念は常について回る。競い合う相手である以上、避けては通れないもんだ」

743 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 20:56:16 ID:pdeLbfIc0
全員が蹴落とし合うライバルであることが、集団の強みである『結束』を形成できない原因となっている
この点に関して言えば、逆境の立場にある三組に分がある。現状打破の為に手を組む必要があるのは共通しているからだ
もしも彼らが、終盤まで誰一人裏切ることなく試合を終えたとしても、それぞれが決勝の椅子に収まるだけで損をする者はいない
しかしそれ以外のチームは、三組を排除し終えた後にもゲームは続く。予選三回戦の勝利条件は、撃破した数や質ではなく『生存』だ
結託もあくまで、勝率が極めて高い脅威を排除して、椅子を空ける為の行動に過ぎない。目的は、『その椅子に座ること』なのだから


(´・_・`)「三組にとって最悪の展開は、解説が言ったように全員が後先考えずにガムシャラに突っ込んでくることだった。指揮の必要もなく、シンプルに物量差で押し潰されるほど怖いもんはない。だがこれも煙幕で出鼻を挫かれた。『様子見』という余地を与えられたことで、揃いも揃ってバカになり損ねてやがる」

(,,゚-゚)「これも計算のう……」

(´^_^`)「当たりまえだぜッ!!このJOJOはなにからなにまで計算づくだぜーッ!!」(ほんとはちがうけどカーズがくやしがるならこういってやるぜ。ケッ!!)


二世紀前の漫画の場面が出た


「ですが、突っ込みたくない気持ちもね、わからなくないですね。あの煙の中にいるのは三頭の虎ですからね」

「安全圏から砲撃で仕留めたいという気持ちがあるわけですね」

「はい。そう易々とね、やられるようなチームじゃないですからね」

「さぁ、煙が晴れようとしています。誰が先に……おっと!?」


(,,゚-゚)「出た!!」


膠着を解いたのは、三組からであった。先頭をBlack Sheep、その後をクワイエットとバジリスクが横並びで追走する
三角形のフォーメーションで、より多くの敵が集まっていた『Black Sheep側』の集団へ向かって突撃する


「Black Sheepが先陣を切る!!二強を差し置いて今回初参戦のルーキーが!!『俺が主役だ』と言わんばかりに突っ込んで行くーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」


(´^_^`)「ハハ!!違いねえ!!」

744 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:11:14 ID:pdeLbfIc0
Black Sheepは前面装甲に『ゴートヘッド』を採用した。砲弾を弾き易い頭蓋骨のような丸みと、軽量クラスでありながら高い硬度を誇る攻防一体の鎧である
中、低威力の砲撃なら数発喰らっても影響は少ないが、先のビームキャノンのような大型砲の一撃には心許なく、防ぐにはアイテムやアビリティによる補強が必須となる
長所はあるがなんて事のないありふれた装甲で、これを一撃で貫ける大型主砲もまた、ありふれている
元より足りない物を補い続けるのがワタリガラス戦術。しかしBlack Sheepは直前にスモークグレネードを二つ購入している。闇市場を賑わせる資金は、とっくに底を尽きていた

その代わりを、後ろの二車輌が担った


「クワイエット、バジリスクの同時発砲!!9番男魂魂(だんこんこん)大破!!25番エスパーク撃破!!」


バジリスクの主砲から放たれた砲弾は、二度の跳弾の後に男魂魂の左側面に直撃し、破裂する
辛うじて撃破は免れたものの、装甲とキャタピラに重大なダメージが残り、戦闘継続は困難となった
クワイエットの矢は真っ直ぐ飛翔し、今まさに放たれようとしていたエスパークの砲口へと吸い込まれるように飛び込んでいく
砲身が鏃に沿って花が咲くように裂けていき、矢に先端が砲弾の雷管と接触し内部で暴発。爆発と共に砲塔が吹っ飛び、走行不能となった


「高火力を誇る2チームが瞬殺!!だが弾幕は避けられない!!どうする気だーーーーーーー!!!!!!!!?????」


二強が撃破したのは、その集団の中で最高の火力を持つ2チームである。言わば、『必要最低限の削り』であり、後の対処は各々の手腕に委ねられる
前後方から三組へ向けて疎に砲弾が発射される。共闘する意識こそ同じだが、息を合わせて一斉射とはいかなかった
それでも十分に脅威だが、着弾までそれぞれにラグがある。百戦錬磨の二強にとって、やり過ごすのは容易かった


「クワイエット!!物ともしない!!降り注ぐ砲弾を四つ脚で捌くーーーーーーーーーーーッ!!」


クワイエットは四脚装甲『D-Oct』を展開し、飛来する砲弾をパンチングの要領で弾いていく
耐久値は平凡なD-Octだが、『装甲』である事に代わりない。中でも先端の四つ爪は、握りしめることで強度を増し、中威力程度の砲撃なら受け流せる


(´・_・`)「いつ見ても凄まじいな」


しかし、音速を越える砲弾を『殴り弾く』など、普通に考えれば現実的ではない。闇雲に振り回せば万に一つの確率で弾けるだろうが、クワイエットは飛来する砲弾を一つ一つ確実に防いでいる
チートの使用を疑うほどの神業は、キャプテンの長いプレイ歴によって培われた『当て勘』によるものだ
敵対車輛の位置や砲撃距離から割り出される着弾のタイミングや位置を、大体の感覚で捉えて爪を『置き』に行く。彼女はこれを四脚全て同時に操作して防いでいる
無論、D-Octの耐久値は徐々に削られる上、一撃の威力が大きな砲撃には一溜りもない。バジリスクのような跳弾による変速軌道を描く砲弾や、Black Sheepのような超高速連射は被弾する事もある

それでも、この唯一無二の防御術はクワイエットが絶対王者たる所以であった

745 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:13:20 ID:pdeLbfIc0
「そしてバジリスク!!『ウルトラファントム』を発動!!砲弾は虚しく空を切るーーーーーーーーーーッ!!」


2コストアビリティ『ウルトラファントム』。0.3秒間だけ車体を透過させる回避アビリティ
砲弾は当然のこと、進路場の障害物をすり抜けて通過する事が出来る。言わば、『無敵』の状態になれる
発動タイミングはシビアであり、90秒という長いCTを要する為、使いこなすのは至難だが、ランク上位勢の中では一定数の使い手がいるトップTierアビリティである
バジリスクは回避行動を取ることなく、着弾ギリギリのタイミングでウルトラファントムを発動し、弾幕を無傷で潜り抜けた
発動が早くても遅くても完全な回避は不可能で、これもまた長いプレイ歴によって培われた『見切り』の能力による賜物であった


「そしてBlack Sheepは……こ、これはーーーーーーーーーッ!!!!!!?????」


文彦こそ二強に引けを取らない『射撃』という類希なる能力を有しているが、これまでメンバーに恵まれなかったキャプテンである本八のプレイ歴は浅く、ジョッキーの徳雄に到っては半年程度である
膂力、攻撃性こそ特出しているが、応用的な技術は身に付いておらず、またアビリティも強力とは言いがたい


「躱しながら突っ込んでいく!!多少の被弾を物ともせず、弾幕の嵐の中を突っ切っていくーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」


あるのは基礎的な操縦技術と、『やられたら殺してでもやり返す』という病的なまでの意地である


(;´・_・`)「あいつスイッチ……」


「衝突ーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!55番天炎BOYZ、大きく吹っ飛ばされるーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


(,,゚-゚)「すげー」

(;´・_・`)「うーわやってるわ…………」


集団の懐に入ったのは、六連射が可能な近距離最速の獰猛な獣である。6shooterの射程に入りさえすれば、一方的に殴られるだけだった黒羊は一変して『鬼』と化す
それだけに止まらず、後からはクワイエットとバジリスクが追いついてくるのだ。初撃で仕留め損ねたツケが何倍にもなって跳ね返ってくるに等しい
ゲームを支配する大潮 本八は、被弾して凹みが目立つ装甲の上で、生来の性悪さを感じさせる下劣な笑い声をあげた。そして―――――

746 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:13:53 ID:pdeLbfIc0




(#´^ω^`)「皆 殺 し だ ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !」




これから起こす惨劇を、声高らかに宣言したのだった

747 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:14:40 ID:pdeLbfIc0
―――――
―――



同時刻、鮨屋『くおうち』にて


@#_、_@
 (  ノ`)「終いだね。消しとくれ」

( ゚д゚ )「いいのか?まだわからんぞ」

@#_、_@
 (  ノ`)「時間の無駄さね。既に場が『呑まれちまってる』よ。多少は保つかと思ったが、とんだ期待外れさ」

( ゚д゚ )「相変わらず手厳しいな、千母(ちほ)」


窮屈そうにカウンターに座る、身の丈2メートルを越すパンチパーマ・マダムは、脂の滴るようなトロ・マグロスシを一度に二つ食べた


@#_、_@
 (  ノ`)「アンタのお気に入りのボウヤだけが、大局を見据えたゲームプランを企てていた。クワイエットもバジリスクも、まんまとしてやられたね」

( ゚д゚ )「私はあまり褒められたものじゃないと思うがな。彼らもその気になれば、初対面で狩ることも出来ただろう」

@#_、_@
 (  ノ`)「本当にそう思うのかい?」


三浦が浮かべた苦笑いの返答に、彼女は剛気にガハハと笑った


@#_、_@
 (  ノ`)「相変わらず嘘のつけない野郎だね。仮面を被ってた頃が懐かしいよ。しっかし、アンタがそこまで肩を持つたぁ意外だね」

( ゚д゚ )「『我々』のファンと言われちゃあな……多少の情も湧いてくるもんさ」

@#_、_@
 (  ノ`)「ハハハ!!そりゃ、大衆に嫌われた甲斐があったってもんだよ!!」

748 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:17:10 ID:pdeLbfIc0
三浦が淹れなおした熱い茶を、喉を鳴らして飲み干した千母は、湯呑が叩き割れんほど強く叩きつけた

@#_、_@
 (  ノ`)「嫌になるねえ、新時代!!ロートルは忘れ去られ、新たな勇士が時代を築く!!逃れられない新陳代謝さ!!」

( ゚д゚ )「よく言うよ。四十年近く現役を続けている『生きる伝説』と呼ばれるお前が」


『SASUGA×FAMILY』のジョッキーにして、元『アンラ・マンユ』メンバーである流石 千母は、猛獣が震え上がるほど獰猛な笑みを浮かべた

@#_、_@
 (  ノ`)「私はね、勘違いした若造共に身の程を理解らせるのが生き甲斐なのさ。この身体が朽ち果てるまで、チャリオッツから降りる気は無いよ」

( ゚д゚ )「いい趣味していらっしゃるな……」


かつての戦友の悪癖に溜息が漏れるが、年々落ちていく彼女の戦績を思うと、半ば意地もあるのだろうと察せられた
チームを解散してそれぞれ別の道を歩み、結婚して子どもが産まれ、人生の折り返しを過ぎて尚、千母だけがチャリオッツの第一線へと喰らいついている
稀有な女性ジョッキーでありながら、男性顔負けの体躯を活かした古強者。彼女の挑戦は、誰しも逃れることのできない『老い』への挑戦なのだ

@#_、_@
 (  ノ`)「長居しちまったね。ごっそさん」

( ゚д゚ )「まいど。ご家族にもよろしくな」


電子決済で会計を済ませた彼女は、ビニール風呂敷に包まれた家族への手土産を取って席を立つ。去り際に一度だけ振り返って、こう訊いた

@#_、_@
 (  ノ`)「紘一。『トップ・ギア外部顧問』のアンタから見て、次のジャパンカップはどこが勝つと思う?」

( ゚д゚ )「クワイエットだ。それがどうした?」


淀みのない即答に、今年度ジャパンカップ本戦出場チームのジョッキーはギラリと眼光を光らせた

@#_、_@
 (  ノ`)「楽しみにしてると、伝えとくれ」

( ゚д゚ )「ああ」

749 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:19:01 ID:pdeLbfIc0
三浦は軽く洗い物と、『夜の貸し切り営業』に向けた簡単な仕込みを済ませた後、再びホログラムビジョンを起動させた
千母が去ってから二十分ほど経過しただろうか。映像内では既にゲームは終了し、ハイライトシーンと共にEブロック突破チームの名が映し出されていた


( ゚д゚ )「『期待外れ』ね……」


目の肥えた千母が、早々に見切りをつけた気持ちもわからなくはない。Eブロックの前評判は、そう簡単に覆るものではないのだから
だが三浦は、徳雄、文彦に修行の場を与え、本八に『ワタリガラス』というアンティーク戦術へ繋がる助言をした張本人は、彼女とは真逆の感想を抱いていた


( ゚д゚ )「たった半年でここまでとはな……『期待以上』だ」


クワイエット、バジリスクと並ぶもう一つの名前。彼の胸中には誤魔化しきれない歓心と、少しの後悔が湧き上がった


( ゚д゚ )「Black Sheep……なるほどな」


『暗雲』を形容する名を背負った連中が、かつての自分を深く抉ったあの景色が見たいと宣った不躾な男が、かつての自分と同じ舞台に立つ
紛れもなく自身が導いてしまったダークホースは、大晦日の戦場を荒しまわる『災害』を思わせる程に成長してしまったのだ


( ゚д゚ )「これは、楽しみだな」


クワイエットの偉業を阻む存在を招き入れた後悔以上に、『チャリオッツファン』としての興奮は膨れ上がっていく一方だった
かつてないほどの激戦を目の当たりに出来るだろうという期待に、三浦は思わず顔を綻ばせてしまう


( ゚д゚ )「おっと、まずいまずい」


強敵の出現に喜んでいては、外部顧問として示しがつかない。一先ず気持ちを切り替えて、『クワイエット予選突破祝勝会』に向けた準備に取り掛かるのであった

750 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:19:47 ID:pdeLbfIc0
かくして、魔と称されたEブロック予選は幕を閉じ


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ハーッハ!!お客さん!!あれね、俺が名付けたチームなんすよ!!」

爪*'ー`)「え!!!!!????アレは私の教え子とダチが所属してるチームなのだが!!!!!!????」

⌒*リ*´・-・リ 「もしもし、しずくちゃん?観てた?勝ったよ!!」


たった三席の出場枠は


(,,゚-゚)「観てた観てた。先生もご満悦だよ。事件解決した後のぬ〜べ〜みたいになってる」

(´^_^`)「よーし、ラーメンでも食いに行くかーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


大衆の期待を裏切ることなく、クワイエットとバジリスクが


(;@з@)「フゥー、気が気ではござらんかった……」

(´・_ゝ・`)「ハハ、本戦が思いやられるね」


そしてBlack Sheepという『異物』も同じく、その席に着いた


(* ФωФ)「母さん!!文彦がやったぞーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

川*д川「今夜はあの子の大好物、トンカツのバター漬けよーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

751 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:20:27 ID:pdeLbfIc0
彼らの予選での活躍は、メディアでも大々的に取り上げられ


i!iiリ゚ ヮ゚ノル ♪〜


あのハヤテの話題を一時的に霞ませるほどの騒ぎにまで発展した


(,,;Д;)「うおおおおおおおおおおおん!!!!!!うおおおおおおおおおおおん!!!!!!文彦ぉ!!お前は俺の誇りだァ!!!!!!」

(’e’)「カスカスカスカスカスカスカスカスカスカス」

从;゚∀从「ちょ……落ち着けって……こんな両極端の反応になることある?なぁ、モラっち……」


( ・∀・)「ウフフフフフフフ」


从;゚∀从そ「うおお!!お前が一番キメェーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

752 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:25:33 ID:pdeLbfIc0
数日後、第四十四回ジャパンカップ予選の全日程が終了した


 Aブロック出場チーム

・ネイキッド・オッキイ・オッパイ・ダイスキー
・レッドシューズ
・バーダラ・ブギ

 Bブロック出場チーム

・ハヤテ
・ムシキング
・SUPER VOYAGER

 Cブロック出場チーム

・SASUGA×FAMILY
・朧
・センチピード

 Dブロック出場チーム

・シュガー&スパイス
・トリプルスレット
・禁愚堕霧(キングダム)

 Eブロック

・クワイエット
・バジリスク
・Black Sheep

 Fブロック

・OVER ZENITH
・Thunder Bird Rider
・A to Z


参加総数36216チームから勝ち抜いた、日本のTOP18チームが出揃ったのだ
本八がジャパンカップ制覇を志して三十二年。仲間に恵まれず、指を咥えて眺めるしかなかった夢の舞台まで



残り一か月半にまで迫っていた



.

753 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:27:24 ID:pdeLbfIc0
次回予告


(´・ω・`)「実に、長かった。あまりにも、長すぎた」

(´・_ゝ・`)「黙れゴミカス!!いよいよ本番が近づいて来ましたが、その前に一仕事ですね」

(´^ω^`)「取材に記者会見とやること目白押しだ!!おい!!あの豚は絶対にメディアに露出させるなよ!!炎上待ったなしだ!!」

(´・_ゝ・`)「実は、予選が終わってすぐに配信活動を始めてしまったようです」

(;´^ω^`)「終わった……………………」

(´・_ゝ・`)「登録者数と再生数は、どちらも片手で数えられるほどではありますが」

(´^ω^`)「ギャハハハハハハ!!!!!!!!誰もオタクのキモ豚になんざ興味ないってのが数字で表れてんなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「マジで仲悪いなお前ら」

(´^ω^`)「ジャパンカップの醍醐味はゲームだけじゃねえ!!バチバチのトラッシュトークバトルも見物なんだよなぁ!!」

(´・_ゝ・`)「徳雄くんに到っては獏良くんとの決着、そして高城選手との因縁がありますからね」

(´^ω^`)「くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!血が見てぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

(´・_ゝ・`)「どこで争わせようとしてんだよ」

(´^ω^`)「次回、『Desperado Chariots』第十一話!!『フェイス・オフ』!!」

(´・_ゝ・`)「大晦日まで、何事も無ければいいですね」

(´^ω^`)「無理じゃね?」

754 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:46:22 ID:pdeLbfIc0
オマケ

チーム名由来集

・Anker Take
( ^ω^)はあらゆるチート使いと戦うようです
モララーが嫌

・青春真っ只中!!
('A`)は青春真っ只中です
オタクブスが急に美少女と同棲するのが嫌

・VIP Library
ζ(゚ー゚*ζあな素晴らしや生きた本のようです
ニュッくんの煮え切らない態度が嫌

・DDDD
/*゚、。 /だし!だし!ダイオードだし!のようです
こさえたガキを他人に預けてる分際で殴られたから殴り返したジョルジュとかいうカスが死ぬほど嫌い
こんなクソ野郎口から内臓出るまで蹴り飛ばして然るべきだろ何一発貰っただけでダウンしとんねん刺し違えてもぶっ殺すくらいの気概見せんかい

・北猛那
( ´∀`)ぼくはモナー
女が軒並み嫌だしデブは嫌通り越して最悪

・厄姫連合
lw´‐ _‐ノv厄姫様は別に不幸では無いようです
読んだことない

・Good Bad Normal
よい('A`)わるい( ゚∀゚)ふつうの( ^ω^)のようです
顔は悪いんじゃないですかね?

・歩苦歩苦
会員制おさんぽクラブ「歩苦歩苦(ほくほく)」のようです
レストランが最悪

・インビジブル
( ^ω^)は見えない敵と戦うようです。
"無貌の怪物(インヴィジブル・ステルス)"が嫌

・三木一
( ・∀・) ミッキ一マウスの力を借りて戦うようです
ディズニーネタを使ったら消されるみたいな風潮が嫌
蒸気船ウィリーはパブリックドメイン化したんだから今後はガタガタ抜かすなよ

755 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:50:10 ID:pdeLbfIc0
・CHERRY CHASER
童貞鬼ごっこのようです
原作は追われる側じゃねえかって思ったけどめんどいからこのままいった

・泥男
泥男はいないようです
沼男おるやんけ。タイトル詐欺か?人を舐め腐るのも大概にせえよ

・マッハブロー
音速パンチのようです
ブスとデブに彼女いたり恋の予感がするのが嫌

・天炎BOYZ
(´・ω・`)しょぼんはあまえんぼうのようです
子どもが酷い目に遭うのが嫌

・拳応
( ^ω^)が拳の王となるようです
幼稚園児の割に語彙が達者

・コタツとキング
( ^ω^)(´・ω・`)('A`)こたつ話のようです
ブスがなよなよしてて嫌

・七大生徒会
( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです
デブの分際で十字架の首飾りしてるのが嫌

・Three Robbers
何がとは言わんがそういう話があった

・男魂魂
(*‘ω‘ *) < 男根根
男根は流石にチャリオッツ運営も許さなかった

・エスパーク
川 ゚ -゚)エスパークーのようです
エスパークスってなんだよ結局

756 ◆L6OaR8HKlk:2025/07/17(木) 21:52:25 ID:pdeLbfIc0
終わりですお疲れさまでした
本戦出場チーム名の由来は後日発表します

今日NIKKEのアップデートしたらロビー画面からソラが消えました

757名無しさん:2025/07/19(土) 17:48:38 ID:dHVtCBt20
おつ!

758名無しさん:2025/07/19(土) 21:00:46 ID:yv3TNJwI0
ワクワクしてきた おつ
誤爆といいチーム名由来集といい色んなとこに喧嘩売りまくるのも草


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