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美
1
:
◆f9klpsMBjM
:2021/03/23(火) 13:24:05 ID:JC05D13o0
美!!!
353
:
名無しさん
:2021/07/23(金) 12:33:36 ID:3wtcBWBI0
待ってるぞ
354
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 17:28:21 ID:qGGwqWoI0
長い間お待たせして申し訳ないです!近々最新話を投下したいと思います
ここからは第二部になります
355
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 17:49:23 ID:ERjMelD.0
!!!
356
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:49:49 ID:qGGwqWoI0
休日ですし今から投下します!
357
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:53:02 ID:qGGwqWoI0
「脾都」
「いま世界がどうなってるか、知ってるかい」
「いいや、知らなくてもいい。ただ…想像したことはある?」
「…それは違うよ。世界は法則に過ぎない。空間に無限の広がりがあるとはいえ、みんな法則に従っている」
「それに、世界の全ては生活の中にある」
「だから…君は想像したことがあるかい?」
.
358
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:53:32 ID:qGGwqWoI0
知らない男の声が聞こえる。
はじめたのは13の時から。
昼過ぎに一回、寝る前に一回
その日は寝付きが悪かった。そんなこと、今までに無かったのに。
診競の青白い手を握っていたが、
気付けば独り、見慣れない闇の中に居た。
光はなく、何も見えないが、大勢があたしを囲んでいる。
彼らは何も言わない。男の声も消えてしまった。
あたしの答えを待ってるの?
.
359
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:54:03 ID:qGGwqWoI0
「…そもそも、あなたは誰?」
訊いても、答えることはない。それは期待されていなかった。
彼らに触れようと数歩歩き出す。
しかし幾度歩いても、彼らの元に辿り着くことはできなかった。奇妙にも気配だけが近く感じられた。
あたしが男の質問に答えるまで、何も起きないのだ。
…世界なんて、
360
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:54:26 ID:qGGwqWoI0
世界なんて、あたしには心底どうでもいい。
診競の他に何も要らない。
あたしは腕組みをして、彼らがどう答えるか待つことにした。
——そのまま、数分が過ぎたように感じられる。
徐に男の声がこう続けた。
「…ああ、そういうことか。君には何も無い」
「君は生活すら持ってないんだったね」
「焦らなくていいよ。僕らはいつも君と一緒にいるし、ひらかれるべき窓もそこにある」
ノパ⊿゚)
「また来なよ」
ノパ⊿゚) あたしがここに来たの?
ノパ⊿゚) 自分の意思で?
361
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:54:56 ID:qGGwqWoI0
目覚め、夢と気付く。
診競が居ない。
あたしは飛び起き、辺りを見渡す。
集会所には人もまばらで、もう朝遅い時間だ。
彼女の姿はない。
ノハ; ⊿ ) ッ….
あたしも、彼女が本当に何を考えているか分かっているわけじゃないのだ。
彼女は繊細で、触れれば消えてしまいそうな、そしてあたしという汚点を照らし出してしまうような光を持った存在だった。
それでも、あたし以外に彼女を救い出すことなんてできない。
見つけ出さねばならない!
362
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:55:25 ID:qGGwqWoI0
ノハ ⊿ ) 亜丹
(; ´_ゝ`)脾都
ノハ ⊿ ) 診競は
(; ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)…そこにいる。危なかったぞ
ノハ ⊿ ) …どういうこと
( ´_ゝ`)俺が外に出てたら、道をふらふら歩いてる彼女を見つけて
( ´_ゝ`)車に轢かれそうだったんで慌てて連れ戻した。今は休ませてるけど、そのなんというか….
ノハ ⊿ )
ノパ⊿゚) …よかった。会わせてほしい
(; ´_ゝ`)もちろん。けど、ダウン中?って感じだが
(; ´_ゝ`)にしても急すぎて…何があったんだ?普段はもっと元気だったよな?
ノパ⊿゚) …そう、ね
363
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:56:01 ID:qGGwqWoI0
ミセ ー )リ
ノパ⊿゚) みっちゃん
ミセ ー )リ …誰?
ノパ⊿゚) しっかりして、あたしだよ
ミセ ー )リ ひーと
ノパ⊿゚) うん
ミセ ー )リ …ごめん。私、何がなんだか
ノパ⊿゚) 言わなくていいよ、大丈夫
ミセ ー )リ …もう、自分でコントロールできないの
ミセ ー )リ …私に、何が起こってるの?
364
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:56:30 ID:qGGwqWoI0
ミセ ー )リ どうして、私の「美」は壊れていくの?
ノパ⊿゚) …大丈夫
ギュッ
ノハ ⊿ ) 大丈夫だよ。あたしがいるから
ノハ ⊿ ) 今日、奏柵を出たら。VIPに帰ったら…みっちゃんの美も戻るかもしれない
ミセ ー )リ 本当に?
ミセ ー )リ 本当に、私は大丈夫なの?
ノハ ⊿ )
ノハ ⊿ ) …うん。本当だよ
365
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:57:11 ID:qGGwqWoI0
———まずひとつ言えるとすれば、世界には渇いた人間と狡猾な人間しかいないということだ。
渇いた人間は狡猾な者を見下す。だから彼は嫉妬される。
両者共に「美」を解そうとしない。だけど本当のところ、彼らの魂は常にそれを求めているのさ。
僕には「美」は水のように思える。
降り、潤し、溜まり、流れていく。
どの土地にも残りはしないけれど、絶望してはいけない。
そこに川があるならば、その先には海があるのだから。
.
366
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:57:47 ID:qGGwqWoI0
Inspired by “The Ape Of Naples” by Coil
https://youtu.be/INMo0sj9AMw
.
367
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:58:11 ID:qGGwqWoI0
美
.
368
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:58:50 ID:qGGwqWoI0
奏柵 第一区 行政庁舎 麻薬取締課
(´・_ゝ・`) よし
(´・_ゝ・`) …礼状が間に合ってよかったよ
(´・_ゝ・`) 諸君。久々に今日はデカく動くぞ
(´・_ゝ・`) もう警官隊は控えてる。僕らは後方から差し押さえるという形だ。各自装備を整えてくれ
(´-_ゝ-`) …辺尼の一件と、彼らがVIP市へ逃れるという情報が入ったのが一昨日の夜だ…色々なことがあった
(´・_ゝ・`) だが、ゆくゆくは組織全体を潰す。このチャンスを逃してはならないぞ
(´・_ゝ・`) 総員取り掛かれ!独生の拠点に急行するぞ!
369
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:59:14 ID:qGGwqWoI0
( `ー´)先輩
(´・_ゝ・`) ん?
( `ー´)辺尼を、このまま放っておいていいんでしょうか
(´・_ゝ・`) …というと
( `ー´)彼女は彼らに接触してる。今日の情報を流さないとはいえないのでは
(´・_ゝ・`) …彼女が独生らに加担してたとすれば、もう手遅れだよ
(; `ー´)…ええ。そうではありますが
(´・_ゝ・`) 彼女が辞めた後どうなったか、君は知ってるかい?
( `ー´)? いいえ
(´・_ゝ・`) …壊れてしまったようだ
( `ー´)
(´-_ゝ-`) 聞いた話だがね。だから、そんな状態の彼女が彼らと協力なんてできる可能性をまず信じてないし、
(´・_ゝ・`) 僕は、一人の人間として彼女を許したいんだ
( `ー´)そうですか
370
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 22:59:43 ID:qGGwqWoI0
警察車両内
ゴォォォォォ….
(´・_ゝ・`)
( `ー´)
( `ー´)辺尼は、奴らの何を知ったんでしょうかね?
(´・_ゝ・`) …僕にはわからない
( `ー´)「美」でしょうね?
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`) …率直に言えば、それについてはもう考えたくない気持ちになってきたよ
( `ー´)…そうですか
371
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:00:18 ID:qGGwqWoI0
(´・_ゝ・`) 君は、「美」を何だと思う?
( `ー´)彼らの行動基準であることは確かですよね?
(´・_ゝ・`) 鋭いな。そうだ、何らかの行動基準ではある
( `ー´)しかしそれは結局、何かの快楽体験とは違うんでしょうか
(´・_ゝ・`) …そうとも取れるが
(´・_ゝ・`) …何か、違うようにも思えるね
(´-_ゝ-`) 個人的に、その話題は僕の過去にダブってくる気がしてならないんだ
( `ー´)先輩の過去ですか?何かあったのですか
(´・_ゝ・`) …あるさ
(´・_ゝ・`) 君は、「美」について客観的な感想以上に何か感じないのか
372
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:01:07 ID:qGGwqWoI0
( `ー´)
(´・_ゝ・`)
( `ー´)いやぁ、全くですね
(´・_ゝ・`) そうか
(´・_ゝ・`) もうこの話はやめにしよう。これ以上は仕事に支障をきたしそうに思える
373
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:01:45 ID:qGGwqWoI0
ファン….
ファン…. ファン….
ファン….
ファン….
ファン….
ファン…. ファン….
ファン….
ファン….
.
374
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:02:06 ID:qGGwqWoI0
(´・_ゝ・`) まず先発隊が突入する。中にいる人間を押さえたら、僕らが行くよ
( `ー´)はい
(´・_ゝ・`)
( `ー´)
(´・_ゝ・`)
( `ー´)
(´・_ゝ・`)
( `ー´)
<突入成功。独生含む男3人を確保。一人は逃亡中です。顔は確認できていません!>
(´・_ゝ・`) よし。行くぞ
( `ー´)コクッ
375
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:02:38 ID:qGGwqWoI0
カッカッカッカッ
(´・_ゝ・`) 出視だ。三人の柄は?
< ゚ _・゚> こちらです!案内します
/
あと一人いる!探し出せ!絶対に逃すな!
\
< ゚ _・゚> 逃亡中の男は捻余だと思われます
(´・_ゝ・`) そうか。絶対に逃すわけにはいかない
< ゚ _・゚> この部屋です
(´・_ゝ・`)
ガチャッ
.
376
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:03:00 ID:qGGwqWoI0
(´・_ゝ・`) はじめまして、独生君、臥名君
(;'A`) ちくしょう…チクショウ!
(; ‘∀‘)何でこのタイミングで….ッ!
(; ´_ゝ`)
(´・_ゝ・`) (あと一人居る奴は…見たことないな)
( `ー´)俺は捻余の確保に向かいます
(´・_ゝ・`) 頼む
(´-_ゝ・`) さて….
377
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:03:28 ID:qGGwqWoI0
(; ‘∀‘)て、
(; ‘∀‘)てめえが出視か….
(´・_ゝ・`) ああ。うちの者がお世話になったな
(;'A`)
(;'A`) まさか…辺尼の密告か!?
(´・_ゝ・`) いや
(;'A`)
(´・_ゝ・`) はっきりさせとこう…僕は嘘はつかない
(;'A`) じゃあなんで、
(´・_ゝ・`) まあ焦るなよ。後でじっくりお話しようじゃないか、独生君
.
378
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:03:48 ID:qGGwqWoI0
( `ー´)捻余はどこに!?
[ Д`]この窓から飛び降り逃走中です!
( `ー´)それは何時頃だ?見つかってないのか
[ Д`]3分ほど前です!
( `ー´)…一緒に来てくれ!恐らくあそこから地下通路へ逃げたな
[ Д`]はっ!
379
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:04:18 ID:qGGwqWoI0
奏柵 第一区 地下水道路
( `ー´)灯りはあるか?
[ Д`]はっ!
(; `ー´)気をつけろよ。俺が先に行く、何かあれば俺が撃つ
ザッ…ザッ...
380
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:04:41 ID:qGGwqWoI0
キュッ!!
(; `ー´)ッ!!
y== スチャッ
[ Д`]動くな!警察だ!
(::::::::::) ダダッ
.
381
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:05:04 ID:qGGwqWoI0
(; `ー´)クソ、追いかけるぞ!
パンッ! パンッ!!
(; `ー´)ッ!!
(; `ー´)(銃まで持っていやがるのか!?)
(; `ー´)応援を呼べ———
(::::::(; `ー´)———なんだ?灯りが
ドッ…..
(; `ー´)
ドサッ
382
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:05:39 ID:qGGwqWoI0
( ´ー`)
(; `ー´)捻余….か! おまえッ…!
( ´ー`) 死にたくなかったら黙ってることだよ
( ´ー`) 俺は捕まるわけにはいかない。そこの警官と一緒に暫く眠ってもらう
ギッ….
(; `ー´)ぐぅっ….
(; `ー´)(こいつ、首を絞め….ッ! だめだ、ていこうできな…)
ギリリリリ…..
(; ー )
( ー )
( ´ー`)
( ´ー`) じゃあ、またな
383
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:06:06 ID:qGGwqWoI0
ファン….
ファン…. ファン….
ファン….
ファン….
ファン….
ファン…. ファン….
ファン….
ファン….
.
384
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:06:34 ID:qGGwqWoI0
ミセ*゚ー゚)リ ピタッ
ノパ⊿゚) どうしたの?
ミセ*゚ー゚)リ …嫌な予感がする
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚) 独生の所へ急ごう
ミセ*゚ー゚)リ …うん
385
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:07:41 ID:qGGwqWoI0
嫌な予感。それはあたしも感じていた。
今朝の夢からずっとだ。とにかく、独生の場所へ急がなければ。その一心だった。
だけど、独生らの住処が近づくにつれて、足がすくんだ。冷や汗が流れる。
空気だ。
嫌な空気が、流れてくる。
独生らの区画へ入るや否やというところで、私は何者かに肩を掴まれた。
ノハ; ⊿ ) ッ!
386
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:08:04 ID:qGGwqWoI0
('、`;川 はぁっ、はぁっ、
ノパ⊿゚) 辺尼…?
ミセ*゚ー゚)リ どうして
('、`;川 今は話してる場合じゃないわ、ついてきて!
387
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:09:22 ID:qGGwqWoI0
('、`;川 私がここに来たのは、あなたたちを助けるためなの
ミセ*゚ー゚)リ それって
ミセ*゚ー゚)リ 独生たちに、何か
('、`;川 ええ。みんな、手視に捕まったわ
ミセ*゚ー゚)リ そんな!?
('、`;川 捻余から公衆電話で連絡があって。彼だけ逃げ切ることができたみたいなの、それであなたたちを匿ってくれって…
ノパ⊿゚) どうして!辺尼が巻き込まれることないよ
('、`;川 あなたたちの携帯が盗聴されてる可能性があるからよ。それに、私も借りがあるし…
ノパ⊿゚) …それじゃあ、これからどうすれば
388
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:09:44 ID:qGGwqWoI0
( 、 *川 私があなたたちを捻余が指定した場所へ連れて行く
('、`*川 第二区に行くわ
ミセ*゚ー゚)リ 危険だよ、第二区なんて!
('、`*川 大丈夫。私は第二区の出身だから土地勘はある
ノパ⊿゚) …っていうことは、このまま捻余の知り合いに匿ってもらうってこと?
('、`*川 そうなるわね…申し訳ないけれど、私はそこまで
ノパ⊿゚) ありがとう
389
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:10:05 ID:qGGwqWoI0
あたしたち三人は、人目を避けるようにして、夜の公園を進んだ。
公園を出た後は、大通りからすぐに路地裏へ入り、表と裏を縫うように、入り組んだ道を第二区へと進んでいく。
黒く聳え立ったビルとビルの隙間から、大きな月が見えていた。
診競の手は今までになく冷たく、震えていた。
あたしは絶望を感じた。
.
390
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:10:28 ID:qGGwqWoI0
数十年前、第一区の一部が現在の官庁街/経済街として再開発された。
その時に大量に動員された労働力は、実際のところその多くが違法在留者や戸籍のない者が闇斡旋を通じて補充されていたという。
そうして開発が済んだあと彼らは暗黙のうちに、大きな運河を挟んだ反対側にある第二区に安値で居住することを許された。そこには元々開発従事者のためのアパートメントが大量に建設されていた。
時を待たずして、区画自体が巨大なスラムとして形成されるようになった。
元の第一区の権利者達は政府から多額の賄賂を受け取り、その活動範囲を第二区へ動かした。表層部こそ商業施設などが立ち並び、比較的安全に思われるが、その深層はあらゆる重犯罪の温床で、一般人が立ち寄ることを許されない。
…これがあたしがかつて捻余や独生から聞いた話だ。
つまり、そこは身を隠すには最適の場所であると同時に、最も危険な場所。
391
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:11:02 ID:qGGwqWoI0
最終的に、危険な空気の漂う、寂れた路上の一角に辿り着いた。
秋の夜は冷え込み、殺気をまとった風が吹いている。
風は塵を巻き上げ、通りを東から西へ駆け抜けていく。
通りは辺一面真っ暗で、ただ一つ、ガラスの割れた公衆電話ボックスだけが黄色い光を放っていた。
そこでは捻余が、見たこともないような気配を発しながらあたしたちを待っていた。
闇を生きる男の殺気だった。
「美」を宿していた普段の彼の姿は、今やどこにもなかった。
392
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:11:24 ID:qGGwqWoI0
( ´ー`) 感謝するよ
('、`*川 二人を、頼むわね
( ´ー`) …すまねえが、帰りは送りかねるよ
ノパ⊿゚) そんな、こんなところに一人残していくなんて!
( ´ー`) 無理だよ。俺らはすぐに隠れないといけない
ミセ*゚ー゚)リ 辺尼はリスクを負ってるんだよ、利用するだけ利用するなんて、間違ってる
('、`*川 いいの。私はそこらの男だったら倒せるわ
ミセ*゚ー゚)リ そんな、
( ´ー`) あんたが捜査官だってことを見込んで頼んだ。覚悟はできてるだろうよ
('、`*川 ええ
393
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:11:55 ID:qGGwqWoI0
ノパ⊿゚)
ノパ⊿゚) 気を付けてね。辺尼
('、`*川 大丈夫よ。そちらこそ、無事でいてね
('、`*川 捻余。部外者を第二区に匿うなんて、普通だったらありえないわ
( ´ー`) …百も承知だよ
('、`*川
('、`*川 それじゃあ、ね。行くわ
彼女は懐から銃を取り出すと、それを分厚いコートのうちに隠すようにして、素早く闇の中へ消えていった。
394
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:12:19 ID:qGGwqWoI0
( ´ー`) いいか、これは非常にマズい状況だ
( ´ー`) けどこれしか方法がなかった。俺が第二区に住んでたころの知り合いに廿って男がいる
( ´ー`) 多分、今頃最悪の男になってると思うが、なんとか頼んでみるつもりだ
ノパ⊿゚) …分かった
ミセ ー )リ
( ´ー`) …だから最初に言っておくが、ここの人間は「美」なんて知らねえ
( ´ー`) 甘い考えは捨てろ
ミセ ー )リ ッ….
( ´ー`) …診競には酷だろうが、耐えるしかねえよ。とにかく、絶対に隙を見せるな
395
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:12:40 ID:qGGwqWoI0
ノパ⊿゚) 独生たちは、助かるの
( ´ー`) 俺が動く。予め打ち合わせたことがあるんでな
( ´ー`) 少しでもこんなクソみたいな場所に居ないで済むよう、全力を尽くすよ
ノパ⊿゚) …ありがとう
( ´ー`) …よし。行こうか
396
:
名無しさん
:2021/10/17(日) 23:13:03 ID:qGGwqWoI0
十,了
397
:
名無しさん
:2021/10/18(月) 13:53:55 ID:JCfwsNfU0
乙です
398
:
名無しさん
:2021/10/21(木) 00:19:52 ID:LJ.x8yv20
乙!ずっと待ってた!続きが気になる
399
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 11:31:20 ID:byzemKpw0
今日か明日にでも十一を投下しようと思います
400
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 12:02:36 ID:eVLykt6Q0
やったー待ってる!
401
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:13:06 ID:byzemKpw0
通りを離れ、建物の裏手へと回る。
そこには人一人が通れる程の隙間があり、そこからぞっとするような漆黒が覗いていた。
奥からは、何者かが、あたしたちを見ているように感じられた。
捻余は迷わずその中へ入っていった。
あたしたちも同じ闇の中へ身を投げた。
(:::::::::::) …..。
月明かりでにぶく照らされる彼の後ろ姿。
右手は常に壁を撫でていた。
暫く進んだところで、彼は動きを止めた。
(:::::::::::) …ここだ
見てみると、彼の右手は、壁の表面に唐突に現れた郵便受けのようなものに触れていた。
彼はそれを指で軽く小突く。小さく、しかしはっきりとした音が静寂に鳴り響いた。
402
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:13:35 ID:byzemKpw0
息をつくまもなく、郵便受けの蓋が内側から開かれ、両目がその中から覗いた。
「…誰だ?」
(:::::::::::) 捻余だよ。廿と話したい
「とっとと失せろ」
(:::::::::::) イキんじゃねーよガキが
(:::::::::::) いいか?もう一度言うぞ
(:::::::::::) 廿に話を通せよ
「….。」
「…わかった。そこで待ってろ」
403
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:14:19 ID:byzemKpw0
数分して、左側の壁の扉が開かれた。
右側の建物と、左の建物はどこかで連絡しているらしい。
青白い光が漏れ出し、扉には人影。
ゆっくりとした足取りで少年が姿を表した。
(#゚;;-゚) ….廿の部屋まで案内する。入れよ
ノパ⊿゚) (…..!!!)
泥!
火傷を負った無表情。
辺尼と一緒にいった時に見たものと同じ。
間違いなく、同一人物だった。
(#゚;;-゚)
彼はあたしの目線に気付き、目を合わせた。
彼の目は、歳の割には信じられないほど据わっていた。瞳はどこまでも真っ黒で、あたしを睨むようにして決して目を逸らさない。
( ´ー`) 行くぞ
ノパ⊿゚) う、うん….
あたしから目を逸らさずにはいられなかった。
診競があたしの左手を強く握るのを感じた。
404
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:14:43 ID:byzemKpw0
通路は薄暗く、異常に細長かった。
その上、いくつも道が分岐していた。
床には注射針や薬剤の殻が散乱し、青白い照明の光を受けて鈍く輝いている。
恐らく、「すぐに殺せる」ようにこのような構造になっているんだろう。どの曲がり角にも人の気配と、殺気を感じた。
ノパ⊿゚)(監視されてる…)
( ´ー`) 何も見るなよ
ノパ⊿゚) …うん
通り過ぎた部屋のドアが開いていて、夥しい量の血が一面に飛び散っているのを視界の端に捉えた。青白い肌の男が、血の海でしゃがみ込み、いやな水音がしていた。
ミセ; ー )リ
照明のせいではないだろう。診競の顔色はどんどん悪くなっていった。
彼女の脈が遅くなっていくのを、掌で感じた。
先導する少年の後ろ姿は、どこにも隙がなかった。だけれど、どこか今にも潰れてしまいそうにも思えた。
405
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:15:47 ID:byzemKpw0
あたしたちは一言も漏らさず、いくつか角を曲がり、2階へと続く階段に辿り着いた。踊り場には鏡が置いてあり、この場に相応しくないほど綺麗に磨き上げられていた。階段を上り切ると、また細い通路が真っ直ぐあった。
右の壁際には古ぼけた革ソファが置いてあり、そこに痩せこけた女がぐったりとしていた。まるで骸骨が寄りかかっているようだった。
彼女の目は開いてる。けど天井の一点を凝視したまま、あたしたちに気付いていない。彼女の纏っているボロ布の隙間から、彼女の胸から腹にかけて、巨大な刺青があるのを見た。それはゆっくりと動いているように見えた。
少年は彼女に一瞥もくれず、ただ通り過ぎた。
.
406
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:17:20 ID:byzemKpw0
このようにして、何回か階層を上がり曲がりくねった通路を行ったところで、
少年は一つの扉の前に立ち止まった。
扉を叩く。初めに2回。遅れて3回。
少しして扉の鍵が開いた。
(#゚;;-゚) 入れ
( ´ー`) ああ
ノパ⊿゚)セ*゚ー゚)リ ….っ
407
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:17:52 ID:byzemKpw0
ガチャ…
(#゚;;-゚)
( ´ー`) 廿
(; ゜三゜) んんーーーーーーッ!? んんーーーーーーーっ!?
( ^ν^)うるせえな。ぎゃあぎゃあわめくんじゃねえよ
.
408
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:18:52 ID:byzemKpw0
( ^ν^)
つ====> スー
ジューーーーーーーーー….
(; ゜三゜) んんんんんーーーーーーーーッ!!!?!?!?
( ^ν^)あーーうっせ。だめだ耳いてえ
「( ^ν^) ポリポリ
( ^ν^)ねえ仕亡さん。こいつに半田で拷問する必要性あるとおもいますー?
( `ハ´)….。
( ^ν^)
( ^ν^)ないよな。え?
バリバリッ
409
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:20:04 ID:byzemKpw0
(; ゜W゜) ブハッ!!ハァッ!ハァッ!ハァッ!
( ^ν^)なんか言うきになった?
(; ゜W゜) ヒィィィィィ! ほんとに!勘弁して下さい!
( ^ν^)
ゴッ
( ^ν^)ふざけてんのか?口開けろ
つ====>
(; ゜□゜) あ、アァァァァァァァァァァァ!!!!!
ジューーーーーーーーーーーーーーーーー
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアジェネおsめkdっmdcrjfんっtんtnっtkっよごgんsグッ!
ア゛ッ…… ァ゛…ッ! カハッ……
(; 。皿。) ヒューーーーー…..ヒューーーーーーー
( ^ν^)仕亡さーん、あとお願いしていいっすかぁ。頭痛いすわ
410
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:20:32 ID:byzemKpw0
( `ハ´)殺すのか
( ^ν^)はいー。パパっとお願いします
(#゚;;-゚) 終わった?
( ^ν^)あ?
(#゚;;-゚) 案内したけど
( ^ν^)….あー
411
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:21:13 ID:byzemKpw0
( ´ー`) ノパ⊿゚)セ ー )リ ガタガタ…..
( ´ー`) …久しぶりだな。廿
( ^ν^)
.
412
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:21:47 ID:byzemKpw0
美
.
413
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:22:29 ID:byzemKpw0
これはダメだ。
これから待ち受ける生活に、診競はもう耐えられない。
考えるまでもなかった。
あたしに今できることは、彼女を強く抱きしめることだけだった。
捻余にも、余裕なんてないんだろう。
( ^ν^)今更なんのつもりだ?
( ´ー`) 友人として、お願いがあるんだよ
( ^ν^)は
( ´ー`)
( ^ν^)そういうのどうでもいいんだよ。ここで育った人間にはさー
( ^ν^)くだらねえ話するんだったらさっさと失せやがれ
414
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:23:15 ID:byzemKpw0
( ´ー`) …それもそうだよ
( ´ー`) 俺の仲間が今夜捕まった。暫く身内を匿ってほしい。見返りに捜査の情報をお前に教える
( ^ν^)なるほどね
( ´ー`) お前は知ってるだろ?
( ´ー`) 俺は第二区を出た後もお前らを庇い続けてきたよ。うちのシマで捜査を撹乱して
( ^ν^)そうだね
( ´ー`) お前らだって、組織との折り合い付けなきゃ死ぬだけだよ
( ^ν^)…んー
( ^ν^)じゃあ、いいよ。匿ってやる
415
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:23:44 ID:byzemKpw0
( ^ν^)連れはそこのメス二匹か?
( ´ー`) いや。播院と文ってやつもいる
( ^ν^)多いなー
( ^ν^)そしたら、やっぱ条件が釣り合わないんじゃねえか?
( ^ν^)よこせよ。その二人
( ´ー`) それはダメだ
( ^ν^)
( ´ー`)
( `ハ´)….。
.
416
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:24:27 ID:byzemKpw0
( ´ー`) そこにいる奴、組織の人間だな
( ^ν^)仕亡さんね
( ´ー`) …あんま話が面倒臭くなると殺されそうな気がしてきたよ
( ^ν^)
( ´ー`) …いいよ。必要なら俺を警察に売って構わない
( ´ー`) その代わり、連れには手を出すな
「( ^ν^) ポリポリ
( ^ν^)…交渉成立かな。どうすかねー。仕亡さん
( `ハ´)ああ
( ^ν^)…じゃ、よろしくー
417
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:25:06 ID:byzemKpw0
一連の駆け引きは一瞬だった。
だけど、30分以上も長いように思えた。
場全体を、恐ろしい緊張感が包みこんでいて、あの男達の意向や気分を害せばすぐに皆殺しになる。そういう感じだった。
あたしでさえそうなのだから、捻余の緊張は尋常ではなかっただろう。そして、診競は….
( ^ν^)泥。こいつらを3階の部屋に案内してやれ
(#゚;;-゚) わかった
418
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:25:37 ID:byzemKpw0
( ´ー`) なあ
( ^ν^)あ?
( ´ー`) あいつらはどこ行ったんだよ?お前の取り巻きとか、第二区の連中は
( ^ν^)
419
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:26:18 ID:byzemKpw0
( ^ν^)おまえ、ほんとどうでもいいこと聞くのな
( ^ν^)腰抜けのてめーと臥名とは違って、おれらは第二区で生きてきたー
( ^ν^)お互い大人になると、利害関係ってのがはっきりしてくる。生き残るには、成功じゃなくて、誰かの失敗がより重要だ
( ´ー`) つまり?
( ^ν^)殺したよ。俺が全員
.
420
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:26:42 ID:byzemKpw0
( ´ー`)
( ^ν^)なんすかー
( ^ν^)ここに住んでりゃ皆誰かを殺すんだよ
( ´ー`)
( ´ー`) …分かったよ
( ^ν^)うぃーす。じゃあまたな
421
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:27:24 ID:byzemKpw0
三階へ向かう途中、さっきの部屋から銃声が聞こえた。
あたし達は、二段ベッドが二つ並んだ簡素な部屋に通された。
長いこと使われていなかったのか、その部屋は埃臭く、電球は明滅していた。
(#゚;;-゚) 三人はこの部屋ね。残りの二人は隣
( ´ー`) …ああ
(#゚;;-゚) 言っておくけど、食うものも金も、自分で見つけることだね
(#゚;;-゚) 俺たちに面倒みる義理はないから
( ´ー`) わかってるよ
(#゚;;-゚) じゃ
ガチャ….
( ´ー`) …クソが
422
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:27:53 ID:byzemKpw0
ノパ⊿゚) ねえ、もうみっちゃんが限界なの
ミセ ー )リ ガタガタガタガタ….
( ´ー`) …ああ。休ませてやろう
あたしと捻余で、顔面蒼白になり震えの止まらない診競をベッドまで運んだ。
最悪な寝心地だった。捻余が彼の布団を下に敷いてくれた。
ノパ⊿゚) 大丈夫…大丈夫だよ…
( ´ー`) 診競に何が起こってるんだよ
ノハ ⊿ ) …わからない。彼女の美が壊れていくのに合わせて、何かが狂ってしまった
423
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:28:44 ID:byzemKpw0
( ´ー`) …本当に、彼女には辛いと思う。独生たちが解放されるまで耐えてくれ
ノハ ⊿ ) うん
ノハ ⊿ ) 捻余…さっき、自分を売っても構わないって言ってたけど
( ´ー`) ああ。その時は何とかしてお前らを別の場所に匿う
( ´ー`) 俺が罪を全部被るのが誰に取っても一番いい
ノパ⊿゚) …そうならないでね
( ´ー`) …正直、時間の問題だよ。三人を先に解放できるよう頑張るしかない
ノパ⊿゚) …わかった
424
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:29:10 ID:byzemKpw0
ノパ⊿゚) あたしはここに残るよ。みっちゃんを見てなきゃ
( ´ー`) …ああ。何か買ってくる。診競に薬でも
ノパ⊿゚) ありがとう
ノパ⊿゚) あと
( ´ー`) …インジェクターか。分かった
ノパ⊿゚) ごめんね
.
425
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:29:49 ID:byzemKpw0
ガチャ…
バタンッ
ギュッ
.
426
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:30:29 ID:byzemKpw0
.
427
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:30:57 ID:byzemKpw0
翌日。
鈍い朝の光がカーテンを抜け、部屋に差し込む。
嘗て、この部屋には絶望が塗り込められていた。
どれだけ飾り立てても、それを隠すことはできなかった。
今ここは絶望と共にある。
故に、暗黒は失せ、静けさだけが残っていた。
静かに、その暗がりは透き通っている。
('、`*川 パチ
.
428
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:31:42 ID:byzemKpw0
脾都を送り届けた後、彼女は幸運にも無事に帰宅することができた。
彼女の家は第一区と第二区を隔てる運河の近くにあった。
「引越した方がいい」、手視の言葉を思い出す。
しかし彼女はそうしなかった。
この部屋で彼女を組み敷いた男。
「美」を知った日から、彼女は彼を許すことにしたのだ。
次会った時には、違う言葉をかけてやろうと思ったのだ。
辺尼は机とベッドを除いて全てを処分してしまった。
そのために、朝の光は円く均等に部屋に染み渡っている。
彼女はゆっくりと起き上がり、枕元に置いてある水のボトルを開く。
心は穏やかだった。
429
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:32:16 ID:byzemKpw0
嵐を避けることはできない。
それは私の中から生まれてくるものだから。
以前に彼女が取り込んだ、名も知らぬ本の言葉であった。
彼女は嵐となった。
けれどいまとなっては、静かな風が彼女の周りに渦巻くのみだった。
朝食を食べながら、彼女は机上に無造作に置かれたインジェクターに目を落とす。
以前の彼女と、今の彼女を繋ぐ記念脾である。
.
430
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:33:08 ID:byzemKpw0
この平穏な暮らしの中で、唯一気掛かりがあるとすれば、
それはあの時彼女が見た「小舟の少年」であった。
(#゚;;-゚)
泥。
彼が彼女自身といかなる接点を持っていたのか。それをどうしても思い出せなかった。
その時、彼女に自覚はなかったかもしれない。
しかし「美」は綿々と連なり広がっていく性質のものであるから、彼女が彼の無事を気にかけるのは自明のことであった。
彼女の過去の全ては第二区に捨て置いてきた。
故に、彼との繋がりは第二区との繋がりと同義だった。
そういったことが、昨晩の出来事と共に湧き上がってきたのだ。
431
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:33:46 ID:byzemKpw0
('、`*川 (…だけど、私にはどうすることもできない)
('、`*川 (第二区に戻るのは危険すぎる。あらゆる意味で)
('、`*川 (第一、私がインジェクターを持ってること、使ったこと、)
('、`*川 (バレた時には、全てがおしまいだわ)
ピンポーーーン
('、`; 川 ハッ
432
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:34:15 ID:byzemKpw0
ガチャ
( 、 ;川
( `ー´)
.
433
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:34:40 ID:byzemKpw0
( `ー´)よう
( 、 ;川 お久しぶりです….先輩…
( `ー´)顔色悪いんじゃねーの。大丈夫か
( 、 ;川 いえ…大丈夫です。先輩こそ、その怪我は
( `ー´)昨晩ちょっとやられちまってな。まあそれはどうでもいい
434
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:35:19 ID:byzemKpw0
( 、 *川
('、`*川 …分かりました
( `ー´)話が早いな。知ってること、洗いざらい教えてもらおう
( `ー´)言うまでもねえかもしれないが、昨夜独生とその仲間2名を確保した。捻余は逃走中
('、`*川
('、`*川 …いえ。そのことについては存じ上げませんでしたが
( `ー´)知らねーの?じゃあ何のために聴取されると思ってんだ?
('、`*川 私を疑っているんですよね?
( `ー´)ああ
('、`*川 私は何も知りませんよ。非記の件以来、彼らとは何の関わりもない
( `ー´)…そうかい。どのみち、詳しい話は向こうで聞かせてもらう
435
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:35:53 ID:byzemKpw0
はじめに言えば、捻余は手視の意向を無視していた。
手視は彼女が心神喪失状態であることを信じていたし、無闇に彼女を傷付けることを避けた。
しかし彼には彼女に対する何か引っ掛かりのようなもの——理解不能という感情に近いが——を抱いていた。それは彼に、話を明確にしておくべきだという義務感を生じさせた。
最初のやり取りで、彼女の心が壊れていないことは直ぐに分かった。
捻余にはむしろ、以前より威勢がいいという印象さえ受けていた。
手視の読みはハズレだ——彼はそう確信した。
.
436
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:36:39 ID:byzemKpw0
奏柵 第一区 警察署内 取調室E
( `ー´)…俺の聞きたいことは二つ
( `ー´)まず、昨晩、捜査の情報をあいつらに漏らしたか
('、`*川 いいえ。どうして私が捜査の情報を知ってるんです?私は退職した身ですよ
( `ー´)…まあ、そうだよな。もしそうであれば、誰一人捕まらなかったはずだ
437
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:37:15 ID:byzemKpw0
( `ー´)じゃあ、次の質問
( `ー´)昨晩、捻余と連絡を取ったか?
.
438
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:37:56 ID:byzemKpw0
('、`*川 いいえ
( `ー´)
( `ー´)本当に?
('、`*川 どうして私が彼と連絡を取る必要があるんです?
( `ー´)脾都も、診競も、播院も、文も
( `ー´)誰一人あの場に来なかったんだよ
439
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:38:30 ID:byzemKpw0
( `ー´)前情報によればあの晩、全員が集まる手筈だった
('、`*川
( `ー´)俺らの捜査の情報が、俺らが到着する直前に向こうに伝わってて、捻余は逃走
( `ー´)あの場に居なかった4人の携帯は盗聴してたが、その後捻余との通話記録なし
( `ー´)…想定外の第三者が動いたとしか思えねえんだよ
('、`*川 それが私だと?
( `ー´)俺にとっちゃ、想定内だがな
( `ー´)手視はお前を信じてたが…俺は違う
('、`*川
( `ー´)今朝の様子を見て、思ったより元気じゃねーか!と思ったよ。余計疑わしいってわけ
440
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:39:05 ID:byzemKpw0
('、`*川 今は薬を飲んでいますから。一時期は大変でしたよ。一日中、ものすごい恐怖と絶望が襲ってくるんです
( `ー´)
('、`*川 あなたも、手視先輩も、全てが怖かった
( 、 *川 分かりますか?あなたが「性奴2号」と名付けた女性と連絡しながら私に夕食を誘ってきた時の私の気持ちを
441
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:39:40 ID:byzemKpw0
(; `ー´)ッ!?
(; `ー´)お、おい。それは違うぞ!
( 、 *川 何が違うんです?私は3号になる予定だったんですよね?
(; `ー´)ふざけたこと言うんじゃねえ。話を逸らすな
( 、 *川 逸れてなんか….
( 、 *川
('、`*川 わかりました。では、続けて下さい
442
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:40:48 ID:byzemKpw0
( `ー´)とにかく、お前の携帯電話の通話記録は取らせてもらう
('、`*川 どうぞ
長年取締を行ってきてわかることだが、嘘をついている者にはそれと分かる特徴が出るものだ。彼女にはそれが全く感じられなかった。
ここにきて、捻余は自分の読みが外れつつあることを自覚していた。
直前の会話の内容については、捻余は彼女に声をかけた夜、彼女を性奴隷3号にしようという明確な意思はなかった、と考えていた。
しかしそれは「未必の故意」だった。彼が彼女の心を自身に隷属させようと試みたことは紛れもない事実であった。
( `ー´)(なんだ、こいつ。クソ生意気な女になったじゃねーの)
彼についてここで軽く説明するならば、彼には残酷な二面性があった、と言えよう。
443
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:41:51 ID:byzemKpw0
彼を特徴付けるものは、システムへの従順さと、その反動としての強い支配欲求だった。
有能さの陰には、共感能力の欠如と暴力性が隠れているのである。
彼は法と職責には忠実であるが、真に道徳心を持った人物とは言えない。
彼は義務との衝突が生じない限り、最大限の快楽を求める。
それは公的な場において「好奇心」という形で表出される。
その好奇心はある意味彼を捜査官として有能たらしめていた。
彼はここ最近、「美」というものに好奇心を抱いていた。
手視も辺尼も、ただの犯罪者の合言葉に過ぎない「美」にどうしてあそこまで囚われるのか?
その疑問は、彼女を支配することができなかったという憤りによって大きく膨らんでいた。
.
444
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:43:26 ID:byzemKpw0
( `ー´)
('、`*川
('、`*川 どうしたんですか
( `ー´)俺には、お前のことがわからねえ。さっぱり
( `ー´)どうして、「美」に拘るんだ?
('、`*川 …あなたたちは
('、`*川 あなたたちは私のことを理解できない
('、`*川 もう、何もかも昔とは違うのよ
( `ー´)は?
( `ー´)おまえ何様なんだよ
('、`*川 …こっちの台詞よ
445
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:44:03 ID:byzemKpw0
('、`*川 …どこに行っても、枯れた人間しかいないのね
( `ー´)あ?
('、`*川 その渇きに気付くことすらない。あなたたちは力を使ってその機会を目の前から消していくから
( `ー´)何を言ってるんだ?
('、`*川 どうして怒るの?
( `ー´)
('、`*川 私が無礼だったから?
('、`*川 私が「美」にこだわったのは、世界の全てが嘘に見えたからよ
('、`*川 …じゃあ、帰ります。昨晩の件については、私は何も知らない。話すこともない
446
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:44:30 ID:byzemKpw0
同時刻
同警察署内 取調室F前
(´-_ゝ-`)
(´・_ゝ・`)
ガチャッ
.
447
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:44:57 ID:byzemKpw0
(´・_ゝ・`)
('A`)
(´・_ゝ・`) おはよう。独生くん
('A`) ああ
(´・_ゝ・`) 麻薬取締課課長の手視だ。改めてよろしく
('A`) よろしく
448
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:45:22 ID:byzemKpw0
(´・_ゝ・`) …単刀直入に言おう
(´・_ゝ・`) 君たち3人が組織と何の関わりもないことは、知ってる
('A`) へえ
('A`) …それで?
449
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:45:52 ID:byzemKpw0
(´・_ゝ・`) 取引しようじゃないか
(´・_ゝ・`) 捻余の行方を教えれば、君たち全員を釈放させてやる
.
450
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:50:51 ID:byzemKpw0
十一,了
451
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 17:51:15 ID:byzemKpw0
補足
名と読み
脾都 ヒート
診競 ミセリ
非記 ヒキ
独生 ドクオ
四威 シイ
播院 ハイン
文 ブン
捻余 ネヨ
臥名 ガナ
亜丹 アニ
辺尼 ペニ
手視 デミ
捻野 ネノ
廿 ニュウ
仕亡 シナ
泥 デイ
452
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 21:41:46 ID:O/B47W4I0
乙
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