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SCHOOL GIRL ESCAPE
1
:
名無しさん
:2019/11/10(日) 21:12:03 ID:80T8fLcg0
https://i.imgur.com/L8Hfzcg.jpg
103
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:27:59 ID:nnv1Gcy20
しびれを切らして、大澄を直接迎えに行くことにした。
大澄を囲む女子たちは、わざわざ呼びに来た俺の様子を見て、にわかに沸き立つ。
俺たちは付き合っている、ともっぱらの噂になっているのは承知の上だった。
「せりちゃん、彼氏迎えに来たよー」
(;"ゞ)「だから違うって何度言えば……」
秘密の特訓を始めた当初と比べて、このころになるとさすがに騒がれすぎていろいろと面倒だったので、せめて俺だけはいたずらにごまかすのはやめるようにしていた。
しかし、大澄の方は相変わらずだったし、それにどうやらとっくに手遅れだったらしく、いまとなってはいくら否定してもこの有様だった。
ミセ*>д<)リ「ああん、三角くんひどいー!」
(;"ゞ)「お前がいつまで経ってもそんなんだから騒がれるんだろ!」
大澄は部活終わりのせいか、俺との練習が楽しみなのか、どちらかは分からないけど、とにかくテンションが高かった。
俺の腕に抱きついてこようとするので、頭を押さえて引きはがすと、制汗剤の匂いが鼻先をくすぐった。
104
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:29:37 ID:nnv1Gcy20
「三角くんさ、このイチャつきっぷりで付き合ってないはナシだよ」
「だよねー、これで付き合ってないならなんなの? って感じ」
(;"ゞ)「えー……なんだ、って言われても」
女子たちが群れになって俺に詰め寄ってくる。数の暴力に気圧されて、後退しようとする俺の両足。
大澄はどうしているかといえば、何か期待に満ちたまなざしで俺が困り果てている様子を見ている。
あとで覚えておけよ、と心の底から思った。
(;"ゞ)「……なんだ、その」
大澄との関係を説明するのは意外と難しかった。
とりあえず恋人ではない。友達ではある、と俺は思っている。
そして、コーチと教え子の間柄でもある。
うまくひと言で言い表せる言葉が見つからない。
見つからないけど、はっきりとしているのは、大澄が俺の心の中で占めている割合はかなり高いということ。
(;"ゞ)「えー、と」
だったら、結局、俺たちはいったい何なのだろう。これから先、どうなっていくのだろう。
105
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:31:02 ID:nnv1Gcy20
ミセ*゚ー゚)リ「はいはいはい、時間切れですよー」
答えあぐねていると、見かねたのか大澄が強引に間に割って入ってきた。
あれだけ強固だった女子の群れの結束から、いとも簡単にぷつりと切り離される。
「えー、つまんなーい」
「そういう反応するってことはやっぱり付き合ってるんでしょ?」
ミセ*゚ー゚)リ「三角くんがヘタレなのでいまのところはトップシークレットでーす。それじゃまたねー」
(;"ゞ)「おい待てなんだその言い草は! 大澄! おいこら!」
何か期待されていると感じたから、真剣に答えようとしたのにひどい扱いだ。
これじゃまるで俺ひとりが馬鹿みたいじゃないか。
ミセ*^ー^)リ「ありがとね、真剣に考えてくれて」
そうやって愚痴のいくつかでも飛ばしてやろうと思っていたのだけど、大澄がなぜか満足げにそう言って笑うものだから、俺はすっかり毒気を抜かれてしまった。
結局、このなあなあな流れのまま俺たちはいつもの運動公園へと向かうことになったのだった。
106
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:32:26 ID:nnv1Gcy20
練習を始めてみたはいいけど、どうにも身が入らないまま、俺は大澄にいいようにやられていた。
ミセ*゚ー゚)リ「今日の三角くん、なんかちょろいね?」
(;"ゞ)「もう少し言い方ってもんがあるだろ」
ミセ*゚ー゚)リ「心ここにあらずっていう感じ。簡単なフェイントに引っかかりまくるし」
( "ゞ)「大澄、そんな言葉知ってたんだな」
ミセ*゚ぺ)リ「むむっ、失礼な」
お互いいまいち全力になれないせいか、まだ軽口を叩き合う元気が残っている。
そして、そうしている時間は無性に楽しくて仕方なかった。
一対一に勝てない悔しさは、いまはなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「どうかした? さっきのこと気にしてる?」
そう言われれば、気にしていないこともない。
それにしたって、どうして俺はさっきのことを気にしているのだろう。
練習の手を止め、考えてみる。
( "ゞ)「……あ」
ミセ*゚ー゚)リ「どしたの?」
107
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:33:55 ID:nnv1Gcy20
ようやく思い当たる節があったが、これは果たして大澄本人に伝えていいものなのだろうか。
少々悩んでみて、これ以上言えないことを抱え込むのもどうかという結論に達した。
( "ゞ)「大澄」
ミセ*゚ー゚)リ「なーに?」
暇そうにボールをハンドリングしている大澄は呑気そうに聞き返してくる。
これからその表情がどんなふうに変化するのか。
考えてみたけど、あまり想像がつかない。
とりあえず、過去に大澄が俺に言ったことだし、そんなに慌てたりするとは思えなかった。
( "ゞ)「俺たぶん……お前のこと好きなんだわ」
ミセ*゚ー゚)リ「……ふぇ?」
( "ゞ)「いや、だから、自分で思ってたより大澄のことが好きなんだと……」
ミセ;゚д゚)リ「えぇー!」
108
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:35:35 ID:nnv1Gcy20
驚きの声とともに、大澄の持っていたボールが手から抜け落ちてどこかへ転がっていく。
その場に残された大澄は両手で顔を覆って立ち尽くしている。
嫌でも察する。こいつ誤解しているな、と。
(;"ゞ)「ちょっと大澄、この場合の好きっていうのはな……」
ミセ;>д<)リ「わー! わー! 待ってストップこっちこないで!」
誤解を解こうとするけども、この反応だ。
自分だって同じことを俺にやったくせにひどすぎる。
だけど、やる側になってみると分かることもあった。
好きという言葉に道理が通っている側と通ってない側では、好きの捉え方が違う。
だから反応だって違う。当然のことだった。
(;"ゞ)「お前が俺に言った好きと同じ意味だって!」
ミセ;>д<)リ「だから待ってってばー! 心の準備が……ん?」
( "ゞ)「俺、バスケのこと大好きなんだって気付いた。俺と大澄を繋げてくれたバスケが」
ミセ*゚-゚)リ「……うん」
( "ゞ)「だからなんだ、そんなバスケが好きな大澄のことが好きというか……仲間? 同志?」
109
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:37:08 ID:nnv1Gcy20
ミセ*゚-゚)リ「友達とか彼女とかじゃないんだ」
( "ゞ)「ああ、だからあのときうまく答えられなかった。そういうありきたりな関係じゃないって気付けなかったから」
ミセ;゚-゚)リ「そっかそっか……そういうことか……これ言われる側って焦るね」
大澄はようやく落ち着いて、それからかつての自分の軽率さを振り返っていた。
俺としてはもう少し早く、具体的には俺に言う前に気付いてほしかった。
ミセ*゚-゚)リ「そっかー……なるほどなー……はあー……」
まだ落ち着き続けている大澄を尻目に、俺は考えていた。
いまこそ、俺は大澄に退部することを伝えるべきなんじゃないか、と。
大澄への好意を自覚したいま、彼女に重大な隠し事をしている負い目はさらに強いものになっていた。
もはや自分ひとりで抱え込める気がしなかった。
楽になってしまいたい。もしかしたら何てこともなく受け入れてくれるかもしれない。そんな希望的観測が心を支配していくのを感じた。
( "ゞ)「なあ……大澄」
ミセ*゚ー゚)リ「ん? なに?」
110
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:38:31 ID:nnv1Gcy20
もう全部吐き出してしまおう。気の迷いでも何でも、いまを逃せば俺はきっと二度と大澄に伝えることはできない。
中途半端な真剣さを心に抱いて、俺は大澄に声をかけた。
( "ゞ)「俺……バスケやめるわ」
ミセ*゚-゚)リ「……え」
藪から棒に突きつけた事実は、大澄の朗らかな表情を一瞬で曇らせた。
( "ゞ)「今学期限りでやめる。それで受験に専念する」
ミセ;゚-゚)リ「や……え、え?」
( "ゞ)「家族がこの成績じゃ部活は引退まで続けさせられないって」
ミセ;゚-゚)リ「ま、待って」
( "ゞ)「ずっと練習に付き合ってくれた大澄には悪いけど……夏の大会」
ミセ# д )リ「待ってって言ってるじゃん!」
111
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:39:57 ID:nnv1Gcy20
大澄の張り裂けそうな声が夜のバスケットコートに響く。
辺りに人がいれば誰もが思わず振り返るような、悲痛に満ちた声だった。
俺はこのときになってようやく気付いた。
自分があまりに軽率に話を切り出してしまった、と。
だけど、吐いた言葉は飲み込めない。もう聞かなかったことにはさせてくれないだろう。
ミセ;゚-゚)リ「なに言ってるの……ねえ……」
(;"ゞ)「部活を……今学期でやめる……」
ミセ;゚-゚)リ「嘘だよ……だってあんなに頑張ってきたのに」
(;"ゞ)「本当なんだ。全部言った通りだ……」
ミセ; - )リ「だったら……わけわかんない。あたしにはわかんないよ」
一言一句、すべての質量がさっきまでとは桁違いに重い。
内臓が下に引っ張られるような感覚が、いっそ気持ちいいくらいに気持ち悪い。
112
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:41:06 ID:nnv1Gcy20
大澄の顔を見るのが怖かった。
バスケットコートを照らす明かりは爛々と輝いていて、夜でも昼間と変わらないように俺たちの姿を見させてくれている。
ミセ;゚-゚)リ「そんなに難しいところ受験するの……?」
(;"ゞ)「……ああ」
ミセ;゚-゚)リ「バスケやめてまで行きたい大学なの……?」
(;"ゞ)「……」
ミセ;゚-゚)リ「……答えてよ」
(;"ゞ)「……分からない。家族が俺をそこに行かせたいだけだから」
ミセ;゚-゚)リ「わからないもののためにバスケやめるの?」
113
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:42:04 ID:nnv1Gcy20
大澄の言いたいことなら分かっていた。
分からないもののために、好きなものを捨てるなんて馬鹿げている。
バスケが好きだと自覚したいまなら分かる。
大澄から見た俺は、そんな馬鹿げたことに何も文句を言わずに従っているように見えるに違いない。
いや、反対したけど結局言いくるめられたのだから、結果だけ見れば何も変わらない。
ミセ#;д;)リ「いま……好きだって言ってたのに! バスケが好きだから、あたしのこと好きって言ってたのに!」
怒りのこもった濡れた声に思わず顔を上げた。
大澄は顔を真っ赤にして、大きな目に涙をいっぱいに浮かべて、俺を睨みつけていた。
ミセ#;д;)リ「三角くん、あんなに頑張ってきたのに……あたしももっと頑張ろうって思ってたのに!」
(;"ゞ)「大澄……」
ミセ#;д;)リ「こっち来ないでよ! やめるくせに!」
114
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:42:33 ID:nnv1Gcy20
https://i.imgur.com/F4tVDzv.jpg
115
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:44:24 ID:nnv1Gcy20
(;"ゞ)「……っ」
明確な拒絶の言葉が、俺の心に氷柱のように冷たく、深く突き刺さる。
大澄の涙を止める術があるとすれば、それはきっと退部の撤回だけだ。
でも、俺にはそれを選ぶことができない。
泣き叫びながら後ずさった大澄と俺との間にできた距離を、物理的にも精神的にも、もう埋める術はない。
何を言うでもなく、大澄はしばらく泣き続けた。
俺はそれをただ黙って見ていることしかできなかった。
泣きたくなって仕方なかったけど、そんな資格はないのだとひたすらに拳を強く握ってこらえていた。
ミセ* - )リ「……帰る」
泣き止んだ大澄はそれだけ告げると、踵を返して自分の鞄を取りに行った。
追いかけることは許されないのだろう、と俺はその背中を見送るだけだった。
116
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:46:04 ID:nnv1Gcy20
ミセ* - )リ「追いかけてこないでね」
(;"ゞ)「……ああ」
ミセ* - )リ「……嬉しかったのに」
(;"ゞ)「……ごめん」
ミセ* - )リ「……好きって、言ってくれて嬉しかったのに」
小さく呟いて、大澄はひとりコートをあとにした。
遠ざかっていく最中、袖で手荒く目元を拭っているのが見えて、それがまた一本、俺の心に氷柱を突き刺した。
こうして俺と大澄の、最後の練習が終わった。
次の日、大澄は部活に姿を見せなかった。俺だけでなく誰もが戸惑いを隠せなかった。
俺は逃げるように、学期末を待たずにこの日限りで退部することにした。
何から逃げたかったのか、はたして逃げ切れたのか。
その想いも結果も、勉強漬けの日々に埋もれて、いつしか分からなくなってしまった。
117
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:47:45 ID:nnv1Gcy20
〜〜〜〜〜〜
俺たちはまた、海岸線を歩いていた。
数時間前、真上から俺たちを照り付けていた太陽は、海の向こうへと沈もうとしていた。
その役目を終えようとしているいま、淡い橙色の光で俺たちを包んでいる。
しかし、日差しは和らいでも気温は高いままだ。
相変わらず歩いているだけで汗はどんどん噴き出してくる。
元々白いシャツはともかく、ズボンはところどころ塩を吹いている始末だ。
(;"ゞ)「やっぱり……結構距離あるな」
ミセ*゚ー゚)リ「いいって言ったのは三角くんなんだから、約束は守ってよね」
(;"ゞ)「約束破ろうにも、もうだいぶ歩いたから守ろうが破ろうが変わらないんだよな……」
ミセ*゚ヮ゚)リ「変わらないなら守った方があたしの好感度が上がる分お得だよ? 頑張って!」
118
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:48:42 ID:nnv1Gcy20
ことの始まりは、個人商店を出て町に着いたときだった。
町中に見られる張り紙で、俺たちは今日が町のお祭りの日だと知った。
それで一気にテンションが上がったのは大澄だった。
規模が小さいこともあって、全店まわりそうな勢いで祭りの会場を歩き回った。
それに振り回され、ときには割り勘にされ、俺としては祭りを心の底から楽しむ暇もなかった。
そこまでは大澄も楽しんでいるし、俺もその慌ただしさは嫌ではなかったからよかったといえばよかった。
問題は、楽しみすぎて財布の中身に気が回っていなかったことだ。
お祭り価格の食べ物でお腹がいっぱいになったころ、俺たちは自分の財布の紐が緩みに緩んでいたことにようやく気付いた。
慌てて計算してみたところ、一駅分は歩かないと帰りの電車賃が足りないという始末だった。
ミセ;゚ー゚)リ「……ま、まーいいじゃん! 一駅くらいならなんとかなるって!」
というのが大澄の弁だった。
119
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:49:42 ID:nnv1Gcy20
都会の一駅ならともかく、こんな田舎の一駅がどれだけ遠いかくらい俺にも分かる。
だけど、歩く以外の手段がない以上、首を縦に振らざるを得ない。
そんな事情があって俺たちはいま、こうして道沿いに歩き続けるだけの時間を過ごしているのだった。
( "ゞ)「なあ大澄、駅っぽいの見えるか?」
ミセ;゚ー゚)リ「えー……うーん、何にも見えない!」
俺のだいぶ先で堤防の上を歩く大澄に尋ねてみるけど、事態は好転しないままだ。
時刻表で調べた電車の時間まではまだかなりの余裕があるけど、たどり着くその前に心が折れるかもしれない。
そんな気がし始めた、そのときだった。
ミセ*゚ー゚)リ「あ」
( "ゞ)「ん? どうした大澄」
ミセ*゚д゚)リ「ああー!」
何か見つけたらしい大澄が、遥か遠くを指差しながら叫ぶ。
俺はその先を見てみるけど、見えるのは山肌だけだ。
120
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:51:36 ID:nnv1Gcy20
ミセ*゚д゚)リ「見て!」
(;"ゞ)「ちょっと待て、いま上がるから」
大澄に言われるがままに堤防に上がり、隣までやってくる。
( "ゞ)「……おお」
大澄が指差す先には、山肌を覆う一面の向日葵畑があった。
そういえば、ここに来る途中でトンネルを抜けた先に見かけたことを思い出す。
やっとここまで歩いてきたというか、もうここまで歩いてきたというか。
とにかく時間の感覚がなんだか曖昧になっている感じがした。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと寄ってこうよ!」
( "ゞ)「……んー」
時間を確認してみるとやっぱりまだ余裕はある。
だけど、次の駅まであとどれだけあるかは分からない。
時間をつぶしている暇はないかもしれない。
121
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:52:42 ID:nnv1Gcy20
( "ゞ)「……そうだな、行ってみるか」
それでも、あそこに行ってみたいと思った。
学校をサボり、金を使いすぎ、今日は羽目を外してばかりの一日だった。
だったら、最後の最後までそうあるべきなんじゃないかと思えた。
電車を逃したって、帰りが何時間か遅れて親にこっぴどく叱られるだけだ。
ミセ*゚ヮ゚)リ「やったー! 早く行こ、ほら!」
(;"ゞ)「おわっ!」
大澄は返事を聞くなり目を輝かせて、俺の手を取って走り出す。
幅の狭い堤防の上だっていうのになんて怖いもの知らずなんだろうと思う。
ミセ*^ヮ^)リ「もっと急いでー!」
(;"ゞ)「無茶言うな馬鹿!」
大澄は本当に楽しそうに、俺の手を引いていた。
引かれている俺の胸の鼓動がみるみる加速していったのは、単に走っているからだけじゃないと、心のどこかでは分かっていた。
122
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:53:36 ID:nnv1Gcy20
ミセ*゚ヮ゚)リ「うわあー! すごいきれーい!」
( "ゞ)「近くで見ると圧巻だな……」
向日葵畑の入り口にたどり着いた俺たちは、そのあまりの迫力にしばらく立ち尽くしていた。
自分の身の丈ほどまで伸びた向日葵が一面に咲いている風景なんて、フィクションの中でしか見たことがなかった。
それがいま、眼前にどこまでも広がっている。
ミセ*゚ー゚)リ「すごいね、三角くん……感動するね……」
感慨深そうに呟いた大澄は、俺の返事も待たずに向日葵畑の中へと歩を進めていく。
首を左右にひっきりなしに振り、そのたびに感嘆のため息を漏らしている。
俺はその後ろ姿をゆっくりと歩きながら追いかけた。
大澄の背中は本人と同じく雄弁で、感情のかすかな変化も読み取れる。
例えばいまは少し小さい向日葵に被せられた誰かの麦わら帽子を見つけて、可愛いと思っているに違いない。
( "ゞ)「ん……?」
123
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:54:48 ID:nnv1Gcy20
ズボンのポケットの中で、スマホが震えたのを感じた。
この震え方は電話だ。嫌な予感がして取り出してみると、画面には母さん、と表示されていた。
そういえば今日は塾もあったし、塾がもう始まっているころだということを思い出したところで、電話は切れた。
おそらく、塾から家に俺が来ていないと連絡があったんだろう。
きっとまたかかってくるに違いない。そうなる前に俺は電源を落とした。
(;"ゞ)「……はあ」
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの三角くん? 浮かない顔して」
(;"ゞ)「ちょっと現実を思い出しただけだよ」
ミセ;゚ー゚)リ「そうなんだ……あー、いまのでそろそろ帰らなきゃって思い出しちゃった」
いつの間にか、置き去りにされた麦わら帽子を私物化して被っていた大澄が、名残惜しそうに嘆いた。
空も青より橙の方が占める割合が増えてきている。下校の時間を嫌でも思い出させる。
もうすぐ現実が俺たちを迎えに来る。それを避ける術はどこにもない。一度逃げ出した俺たちは、どんな顔をして現実と向き合えばいいのだろう。
124
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:55:36 ID:nnv1Gcy20
ミセ;゚ー゚)リ「帰りたくなーい……」
(;"ゞ)「……俺も、そうかも」
ミセ;゚-゚)リ「だって三角くんとまたこうして楽しく過ごしてるのにさ……」
折れてしまった向日葵を拾い上げ、憂いを含んだ眼差しで見つめる大澄。
帰りたくない理由に自分を持ち出されるのは、正直どんな反応をすればいいのか分からなくて少し困る。
ミセ*゚-゚)リ「あの日のあたしに教えてあげたいな。時間はかかるけど、三角くんと仲直りできるよ、って」
( "ゞ)「大澄……」
言われて、ふと思う。俺たちは本当に仲直りしたのか、と。
あの冬の日、仲違いした俺たちは、昨日の電車で声をかけられるまで疎遠なままだった。
そして、大澄に誘われるがままになんとなくここまで一緒に過ごしてきたわけだけど。
( "ゞ)「……なあ、俺……まだ大澄に言えてないことがあったわ」
ミセ*゚ー゚)リ「……三角くん?」
125
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:56:34 ID:nnv1Gcy20
( "ゞ)「……ごめん。あの日、大澄のこと泣かせて。本当にごめん」
俺はまだ、あの日のことを大澄に謝れていないじゃないか。
( "ゞ)「……」
「……」
頭を下げて、大澄からの言葉をただひたすらに待った。
視界に映る大澄の影が動く気配はない。風がさざめいて、髪や制服のシルエットが揺れるだけだ。
「三角くん……とりあえず頭上げてよ」
( "ゞ)「……嫌だ」
「上げてくれたらちゃんと話すから……」
(;"ゞ)「大澄がちゃんと話してくれるまでは……上げられない」
いまになって謝るから許してくれ、なんて身勝手な話だと分かっている。
それでも俺は、できるなら大澄に許してほしかった。
126
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:57:53 ID:nnv1Gcy20
それで過去が変わるわけじゃない。
願った理想はとっくの昔に掴み損ねて、地面に落ちて砕け散った。
その破片を拾い集めようとしても、伸ばした指先を傷つけるだけだ。
だったらせめて、俺は未来が欲しかった。
砕け散った過去はすべて綺麗に清算して、いちいち振り返らなくてもいいようになりたい。
前だけを見て歩いていけるようになりたかった。
「いいから上げてよー」
(;"ゞ)「それじゃ駄目なんだ。そんな簡単には上げられないんだ」
「なにそれ? 変なところで男の子のプライド発揮しないで」
(;"ゞ)「そんなことしてない」
「してるよ! ほら、顔上げて!」
(;"ゞ)「ぐっ! やめ、この」
押し問答が続いた果てに、大澄はついに力技に出て、無理矢理に俺の顔を掴んで上げさせようとしてくる。
抵抗しても大澄の腕力は想像以上で、ついに顔を上げさせられてしまう。
ミセ* д )リ「三角くん!」
127
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:58:47 ID:nnv1Gcy20
俺を睨みつけながら名前を呼びつけてくる大澄。
怒っているのだろうか。許してくれないのだろうか。様々な不安が脳裏をよぎる。
吐息のかかる距離で、ふたりきりの向日葵畑のど真ん中で、見つめ合うだけの時間が過ぎていく。
(;"ゞ)大澄……」
不安で胸がいっぱいになって、それを少しでも吐き出したくて、俺は思わず大澄の名前を呼んでいた。
ミセ*^ー^)リ「……もう、しょうがないなあ」
それを聞いたからなのか、大澄の表情が崩れた。
屈託のない笑みを浮かべて、相変わらず俺をまっすぐに見つめている。
ミセ*゚ー゚)リ「全然怒ってないよ。三角くんのこと、もうとっくに許してるよ」
( "ゞ)「え……」
ミセ*゚ー゚)リ「あたしもね、ずっと後悔してた。あの日……なんであんなに突き放しちゃったんだろうって」
(;"ゞ)「それは、俺が自分勝手にひどいこと言ったから」
ミセ*゚-゚)リ「あたしこそごめんね。すごい大人げなかった」
128
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 20:59:58 ID:nnv1Gcy20
>>127
訂正
俺を睨みつけながら名前を呼びつけてくる大澄。
怒っているのだろうか。許してくれないのだろうか。様々な不安が脳裏をよぎる。
吐息のかかる距離で、ふたりきりの向日葵畑のど真ん中で、見つめ合うだけの時間が過ぎていく。
(;"ゞ)「大澄……」
不安で胸がいっぱいになって、それを少しでも吐き出したくて、俺は思わず大澄の名前を呼んでいた。
ミセ*^ー^)リ「……もう、しょうがないなあ」
それを聞いたからなのか、大澄の表情が崩れた。
屈託のない笑みを浮かべて、相変わらず俺をまっすぐに見つめている。
ミセ*゚ー゚)リ「全然怒ってないよ。三角くんのこと、もうとっくに許してるよ」
( "ゞ)「え……」
ミセ*゚ー゚)リ「あたしもね、ずっと後悔してた。あの日……なんであんなに突き放しちゃったんだろうって」
(;"ゞ)「それは、俺が自分勝手にひどいこと言ったから」
ミセ*゚-゚)リ「あたしこそごめんね。すごい大人げなかった」
129
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:00:53 ID:nnv1Gcy20
謝るというのは、とてもずるいことだと思った。
だって、許したい気持ちがあるなら、謝られたらもう何も言えなくなってしまう。
俺はなんてずるいやつなのだろう。そして、大澄も。
ミセ*゚ー゚)リ「よーし、あの日のことはこれで全部おしまいね!」
(;"ゞ)「いや、ちょっと待ってくれ。もっとちゃんと」
ミセ#゚д゚)リ「三角くんがそうやってしつこいに決まってるから、これでおしまいにするの! わかった?」
(;"ゞ)「……分かった」
ミセ*^ー^)リ「それならよし!」
満足げに浮かべた大澄の笑みは、例えるなら向日葵が咲いたような満面の笑みだった。
いつもこうやって笑いかけてもらえる太陽に嫉妬するほどに、その笑顔は輝いて見えた。
( "ゞ)「……俺も、教えてやりたい」
ミセ*゚ー゚)リ「なにを?」
( "ゞ)「大澄と仲直りできるって、また楽しく過ごせるって、あの日の自分に」
130
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:02:12 ID:nnv1Gcy20
ミセ*^ー^)リ「……タイムマシンができたら、ふたりで乗って伝えに行こっか」
(*"ゞ)「いいな、それ」
顔を見合わせたまま、俺たちはせきを切ったように大きな声で笑い合った。
俺の顔を支える大澄の手に、もう力は込められていなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「ねえ、三角くん」
大澄は俺を呼ぶと、顔から手を離して太陽へと向かって小走りで駆けていく。
ミセ*゚ー゚)リ「意味のない日がなんなのかなんて、そんな日があるのかなんて、わからないけどさ」
そして、ちょうど太陽を背負うような形になるあたりで振り向いた。
今度は俺の方が向日葵みたいだ、なんて思った。
131
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:02:39 ID:nnv1Gcy20
https://i.imgur.com/e83vFXu.jpg
132
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:03:04 ID:nnv1Gcy20
俺は何も言わなかった。
ただ、大澄のその言葉に大きく頷いて答えただけだった。
133
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:05:25 ID:nnv1Gcy20
30分ほど休憩挟みます。いったん失礼します。
134
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:21:06 ID:nnv1Gcy20
少し早いですが再開します。
135
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:21:51 ID:nnv1Gcy20
俺たちが帰ってきたころには、夜の帳はもうすっかりと下ろされていた。
駅前のきらびやかな明かりを見て、俺も大澄もなんだか眩しく感じるなんて話をしていた。
大澄とは最寄り駅でそのまま別れて、いまは家のすぐ近くまでやってきている。
送ろうか、なんて珍しく気を効かせてみたけど、俺まで親に怒られるからいいと言われてしまった。
俺をひとりで帰らせるのが心残りだったのか、大澄は俺の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
ほんの少しのありがたさと、大きな恥ずかしさを抱えて、俺はそそくさと駅前をあとにしたのだった。
(;"ゞ)「はあ……」
恥ずかしさから解放された安堵の気持ちと、家が遠くに見えた落胆の気持ちが、俺に大きくため息をつかせた。
136
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:22:22 ID:E6wUPGe60
支援
137
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:23:02 ID:nnv1Gcy20
塾に行かなかったことはすでに知られている。
それだけでも怒られるだろうし、汗が乾いて塩を吹いた制服を見れば、学校に行かなかったことも察せられるだろう。
怒られることも憂鬱だけど、それ以上にまた現実に戻らなければならないことの方が辛かった。
怒られる覚悟ならとっくに決めている。でも、もう大澄とふたりでラムネは飲めない。
堤防の上は歩けない。向日葵畑の中に消えることもできない。
( "ゞ)「……」
俺の足はとうとう、玄関の前まで体を運んでしまう。扉を開けば雷が落ちてくる。日常が待っている。
それでも、そこが俺のいるべき場所なんだから、俺を待っている人がいるのだから、帰るしかない。
意を決して、鍵を取り出して扉を開いた。
(;"ゞ)「ただいま……」
138
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:24:00 ID:nnv1Gcy20
おそるおそる扉を開いてみたけど、意外なことに誰もいなかった。
てっきり母さんが待ち構えていて、怒鳴りつけてくるものだと思っていたのだけど。
少しして、居間からぱたぱたとスリッパの鳴る音がこちらに近づいてくる。
父さんはスリッパを履かないから、これは母さんの足音だ。肩をこわばらせて、お叱りの声に身構える。
「おかえりなさ……あら、なにその制服! こんなにしちゃってもう……」
(;"ゞ)「……?」
「夕飯は用意してあるから、とりあえず着替えてきなさい!」
(;"ゞ)「……は、はーい」
予想と違う母さんの態度に、思わず面食らってしまう。
怒ってはいたけど、それは制服に対するものだ。
俺が塾に行かなかったり、帰りが遅くなったことに対する怒りじゃない。
ひとまず言われた通りに着替えようと廊下を歩いていく途中、居間の様子をちらりと覗き込んでみた。
母さんはレンジで夕飯を温めなおしていて、父さんはいつも通りソファに座って新聞を読んでいる。
不気味なくらいに、普段の光景のままだった。
139
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:25:04 ID:nnv1Gcy20
( "ゞ)「……」
着替えて夕飯を食べ始めたのだけど、我が家の様子はいたって普通だった。
母さんは俺の分の夕飯を温め終わると、台所で洗い物をし始めた。
父さんは新聞とニュースを交互に見ながら黙ったままだ。
それが明らかにおかしいことくらい、俺だって分かる。
塾に行っていないことも、制服の様子からして学校に行っていないことも、全部筒抜けのはずなのに。
これから何が起こるのだろう。気が気でならなくて、夕飯も喉をただ通っているだけで味や温かさが感じられない。
「……なあ、大吾。お前、今日塾に行かなかったらしいな」
何の脈絡もなく父さんがそう切り出すものだから、俺は飲み込みかけていたご飯を危うく吐き出しそうになった。
ついにきたか。咳き込みながらも覚悟を決めて、父さんの方へと振り向く。
しかし、父さんは相変わらず新聞を見ているばかりで、こちらを向こうともしていない。
(;"ゞ)「……うん」
「学校は?」
140
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:25:56 ID:nnv1Gcy20
(;"ゞ)「……学校も、サボった」
「……そうか」
それっきり父さんは押し黙ってしまう。
元々口数が多いわけではないけど、このタイミングで黙られるといつか何かが爆発しそうで怖いのが本音だ。
爆発する前に俺がひと言謝ればいいのだろうけど、そうしたくないという気持ちが大きな岩のように、俺の心の中に横たわっていた。
「……電話くらいは出ろ。あんまり、母さんに心配かけるなよ」
(;"ゞ)「え、あ……うん」
俺を見てそれだけ伝えると、父さんはまた新聞に目を落とした。
そして、それっきり何も言わなくなってしまった。
成績のことになるといつも厳しい父さんがこれだけで引き下がるなんて、明らかにおかしい。
「父さんね」
( "ゞ)「うん?」
夕飯を食べる手が止まったままの俺に、台所から戻ってきた母さんがそっと耳打ちしてきた。
「昨日自分が怒ったせいだ、ってすごく心配してたの」
141
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:26:42 ID:nnv1Gcy20
(;"ゞ)「え、そうなの?」
「だからあまり怒ってやるな、ってずっと言ってたんだから」
( "ゞ)「そっか……」
新聞を折りたたんで、いまはニュースを見ている父さんの背中を見つめる。
険悪になってもやっぱり親子なのだろうか。父さんなりの愛情を感じ取るのと同時に、心配をかけて申し訳ないとも思う。
( "ゞ)「父さん」
「……なんだ?」
( "ゞ)「心配かけて、ごめんなさい」
「……母さんにも言いなさい」
( "ゞ)「うん。母さん、心配かけてごめん」
「ほんとよ、もう」
( "ゞ)「それで、父さんに相談があるんだけど」
142
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:27:28 ID:nnv1Gcy20
なんとなく、家に着くまでの間に現実に向き合って、ぼんやりと考えていたことがあった。
怒られるのもほどほどに済んだいまなら、それをぶつけてみてもいいかもしれない。
( "ゞ)「父さんの母校、スポーツに関係した学部ってある?」
「まあ、あることにはあるな」
( "ゞ)「俺、そこに行きたい」
今日一日大澄と過ごして、青春を捧げた日々を思い出して、バスケが好きだと改めて思った。
ブランクのある俺が、大学でバスケをすることはないだろう。
それでも勉強の目標として、好きだったものに少しでも近いことを学びたいと思うのは悪いことじゃないはずだ。
「だったら……勉強を疎かにしている場合じゃないぞ」
( "ゞ)「分かってる、また明日から頑張るよ」
「……頑張れよ、大吾」
( "ゞ)「……ありがとう」
143
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:29:05 ID:nnv1Gcy20
〜〜〜〜〜〜
こうして、俺と大澄の逃避行は終わりを告げた。
あとに残ったものはひと夏の思い出と、学校と塾を休んだ分の勉強の遅れと、かなり軽くなった財布だけだった。
俺たちがいなくても一日は俺たちがいないなりに過ぎていったらしく、何事もなかったかのように俺を出迎えてくれた。
そしてまた、一日は始まる。俺を、大澄を再び迎え入れて、どこまでも現実感にあふれた日常を繰り広げる。
(;"ゞ)「あっつ……」
電車を待つ駅のホームで、俺はひとりごちた。
人でごった返すホームと、すでに爛々と輝く朝の日差しの合わせ技で、すでに汗だくになっている。
昨日の俺と大澄以外誰もいない、冷房がよく効いた電車内が懐かしい。
そう思っても、あの日はもう戻ってこない。俺と大澄が再び交わることはない。それが俺の過ごしてきた、そして戻ってきた日常だ。
それでも俺は生きていく。あの夏の日を胸に。
そして俺は忘れない。制服姿の彼女との逃避行を。
144
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:30:23 ID:nnv1Gcy20
「みーすーみー……くんっ!」
145
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:30:46 ID:nnv1Gcy20
https://i.imgur.com/ZfGcFYG.jpg
146
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:31:27 ID:nnv1Gcy20
肩を叩かれた。誰かが俺の名前を呼んだ。
いや、誰が呼んだのかなんて、呼ばれたときから気付いていた。
(;"ゞ)「うっ」
呼ばれるがままに振り向くと、俺の頬に見事に指が突き刺さった。
その指をぐりぐりと押し付けて、声の主はけらけらと笑う。
(;"ゞ)「大澄……」
ミセ*゚ー゚)リ「おはよっ!」
俺の日常に、非日常が太陽のような笑顔を浮かべて笑いかけてきた。
(;"ゞ)「なんでここに……?」
ミセ*゚ー゚)リ「え? だって最寄り駅でしょ?」
(;"ゞ)「いや、そうだけど、それでもどうして俺に話しかけてきたんだよ?」
147
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:32:04 ID:nnv1Gcy20
ミセ;゚ー゚)リ「だめなの? だってあたしたち仲直りしたでしょ?」
(*"ゞ)「……はは、はははっ!」
ミセ;゚ー゚)リ「え、なんで笑うの? 三角くん大丈夫?」
(*"ゞ)「ははははははっ!」
ミセ;゚д゚)リ「ちょっとー! なんなのー?」
俺の戻ってきた日常は、ほんの少しその形を変えていた。
世界中で俺たちにしか気付けないくらいささいな変化で、だけどとても大切な変化。
あの日はもう戻ってこないけど確かにそこにあって、俺たちの未来を紡いでくれている。
そうやって俺たちは生きていく。あの夏の日を胸に。
そして俺たちは忘れない。制服姿で駆け抜けた、あの逃避行を。
148
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:32:58 ID:nnv1Gcy20
SCHOOL GIRL ESCAPE
おわり
149
:
名無しさん
:2019/11/11(月) 21:45:57 ID:nnv1Gcy20
以上で投下終了となります。
お付き合いいただきありがとうございました。
文章:残像(
https://twitter.com/an_afterimage
)(酉なくしました)
イラスト:真白しらいさん(
https://www.pixiv.net/member.php?id=1408540
)
本作は上記の二名の共作でお送りしました。
150
:
名無しさん
:2019/11/12(火) 01:00:15 ID:OhtKKaFw0
乙でした
甘酸っぱくてそれでいて優しい逃避行大好き
風景描写も挿絵もとても引き込まれました
151
:
名無しさん
:2019/11/12(火) 21:47:20 ID:46xBR0j20
ラスト最高じゃ!!!!乙!!!!!
152
:
名無しさん
:2019/12/06(金) 06:24:41 ID:7JpPhFCU0
淡々と普通の話
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