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明日へ繋ぐ想いのようです
1
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 14:34:27 ID:29OTBHmg0
神曰く、「双子の鍵が生まれた」。
やがて滅びゆくこの世界の遥か未来を開く鍵を守り通すこと。
それがお主らの使命だ。
.
42
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 14:58:51 ID:29OTBHmg0
「させない……」という小さな声がワカッテマスの耳に届いた次の瞬間、
ワカッテマスは自分の状況をやっと理解することになる。
(;゚д゚ )「ワカッテマス!」
叫ぶのはミルナ。
慌てて体を起こしてみると、自分が生きていることに気付く。
体は無事だった。
ただ、背中が異常に熱い。
そっと右手を回してみると、そこは赤い液体でべっとりと濡れていた。
( ><)「我が身に宿りし魔力よ、かの者の生命力を高めよ」
ビロードが呪文を紡ぐと、仄かな光がワカッテマスの全身を包んだ。
( ><)「……ごめんなさいなんです」
ワカッテマスの周囲に、先程まで迫っていた魔物はもういなかった。
その代わり、振り向いた背後の地面には大きな影が横たわっていて、
その体は元の形がわからない程に切り刻まれていた。
( ><)「ワカッテマスくん、まだ来るんです」
(;<●><●>)「え、ああ……」
43
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 14:59:15 ID:29OTBHmg0
( ><)「風よ、全てを飲み込め!!」
(;<●><●>)「ビロード!?」
ワカッテマスに新たな魔物達が迫る中、体を持ち上げそうなほどの暴風が巻き起こった。
(#><)「逃げるんです!!」
ビロードに手を引かれてワカッテマスは走る。
(;゚д゚ )「怪我はないか!?」
(;<●><●>)「ええ、傷は塞がっています。ビロードは?」
( ><)「ワカッテマスくんのおかげで大丈夫なんです。
……それから、ええと……ごめんなさいなんです」
ビロードが深く頭を下げた。
( ><)「僕の我儘だったんです……。僕はただ元の毎日に戻りたかった。
それはみんな同じで……でも簡単に出来ることではなくって……」
集まった四人の背後から大きな音が響く。
木の枝が折れた音だった。
魔物の軍勢が雪崩れ込んでくる。
( ><)「風よ、全てを切り裂け!!」
44
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 14:59:38 ID:29OTBHmg0
ビロードの声が森にこだまする。
魔物達を囲むように巻き起こった無数の風の刃が魔物達を切り刻んだ。
魔物達の悲鳴を耳に入れながら四人は体勢を整える。
( ><)「ここが片付いたら、もっとちゃんとお話しするんです。だから今は……」
( <●><●>)「ええ、僕達ならこの程度何でもありません」
(*‘ω‘ *)「まったく……次に我儘言ったら許さないっぽ!」
三人の顔に笑顔が戻っている。
それを確認したミルナの口元にも自然と笑みが浮かんだ。
( ゚д゚ )「頼もしい子供たちだ。行くぞ!」
徐々に日の沈む森の中、見渡す限りの黒い影に囲まれて、それでもそれぞれに得物を構えて駆け出した。
.
45
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:02:37 ID:29OTBHmg0
走った。ひたすら走った。
後ろを振り返ることはなかった。
後ろを振り返る暇があるのなら少しでも一歩でも前に進まなければならなかった。
川 ゚ -゚)「ドクオ……少しいいか?」
いよいよ塔まであと少しというところでクーが小さな声で言った。
('A`)「何だ?」
川 ゚ -゚)「あの塔の立地……見えるか?」
クーは右腕を上げて前方を指差す。
天を貫くほどの高い高い塔。
その周りには日射しを反射して青く煌めく湖、そして人が渡るための心細い橋が一つ。
川 ゚ -゚)「まだ誰にも言ってない。言ったらきっと反対される……特に、ブーンには」
クーはちらりと前方のブーンを見た。
クーとドクオは現在、殿を務めている。
時折背後から現れる魔物を散らしていくのが役目だ。
川 ゚ -゚)「ドクオならきっと反対しないと考えて最初に話すんだ。
……私は、ここにいる全員が塔に入った段階で、周囲から塔を切り離すのがいいと思っている」
46
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:03:15 ID:29OTBHmg0
('A`)「……それは、援軍を待たないということか」
川 ゚ -゚)「はっきり言おう。現在も魔物の数は増え続けている。助けは来ない」
('A`)「それは……そうだな……」
川 ゚ -゚)「ここにいる面子だけで塔を上りきるしかない。
それなら少しでも外の魔物を減らして塔内部に入れないことが重要だ」
クーの放つ矢が鳥の魔物を一体貫いた。
川 ゚ -゚)「塔の内部を少数で進む不安も最もだが、私はそれよりも敵側の数の暴力を恐れている」
クーの言葉に、ドクオがすぐに首を縦に振ることはなかった。
川 ゚ -゚)「だが一点、一番の大きな問題があってな。……それは、誰がやるかなんだが」
('A`)「デレさんしかいないだろ。大地の魔法を使えるのはこの中ではデレさんだけだ」
川 ゚ -゚)「だから危惧している。デレさんを残すとなるとコンビを組むのはロマネスクさんが適任だ。
塔を進む戦力が私達の方では力不足だろう」
('A`)「デレさんが切り離してから全員で進めば……」
川 ゚ -゚)「それは私も考えた。……だが、この一刻を争う時に?」
(;'A`)「……」
47
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:03:58 ID:29OTBHmg0
川 ゚ -゚)「ドクオ、ツンを除いたら一番魔力のあるのは君だ。
君が出来ると言ってくれるなら、私はこの作戦を実行したいと思っている」
ドクオの放った氷の刃が左手から飛来した魔物を撃ち落とす。
('A`)「……わかった。クーが助けてくれるなら、俺はツンとブーンと鍵を守り抜く」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
クーが僅かに口角を上げた。
それは本当に僅かなもので、ずっと隣にいたドクオにしかわからないようなものだった。
それから少しして、特に大きな問題もなく橋に差し掛かった。
徐々に視界の悪くなる中、慎重に橋を渡り切った。
見上げると首の痛くなるような、天辺も見えない程の高い塔。
ブーンがその冷たく閉ざされた巨大な扉に手を当てた。
白い扉の金色の美しい装飾はいつか本で見た古代文字のような曲線を描いていた。
(;^ω^)「鍵の魔法が掛かってるお。押しても引いても全然開かないお……」
( ФωФ)「奴らはまだここに来ていないのか? ……いや、それはないか。
裏切者たちが吾輩らの目的地を教えないはずはないからな……」
48
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:05:17 ID:29OTBHmg0
ζ(゚ー゚*ζ「そうだね。……クー、私が鍵を開けたら、後は頼むからね」
川 ゚ -゚)「ああ、任せてくれ。ツンもブーンもドクオも、鍵の二人も。みんな私が守るよ」
ζ(゚ー゚*ζ「絶対だよ」
デレが小声で開錠の魔法を唱えると、固く閉ざされていたはずの扉はあっけなく開いた。
( ФωФ)「吾輩らの未来を頼んだぞ!」
( ^ω^)「わかってるお!」
.
49
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:05:45 ID:29OTBHmg0
塔の扉が再び閉ざされたのを確認し、ロマネスクは剣を携え橋に戻る。
( ФωФ)「風よ、かのものの足を止めよ!」
ロマネスクの放った風が橋を大きく揺らす。
橋を渡っていた魔物達が動きを止め、必死に橋を構成する板切れにしがみついていた。
( ФωФ)「これで第一段階か」
ロマネスクの剣が橋を支える綱を切り裂いた。
瞬く間に橋は機能を失い、ただの木の板の集合となって底の見えない湖に落ちて消えた。
夜の闇を帯びた黒い飛沫を確認したデレは新たな魔法の詠唱を開始する。
ζ(゚ー゚*ζ「大地よ、我の望みに応じて姿を変えよ」
すっかり魔物達を飲み込んだ湖が轟音を立てた。
空から降りてきた魔物達がロマネスクとデレを囲みながら様子を窺っている。
体は小さいが、濃い瘴気を纏った魔物達ばかりだった。
( ФωФ)「貴様らに邪魔はさせないである!」
ロマネスクが素早く切り込んだ。
しかし、それは容易く回避される。
鳥の魔物は一度空へ飛びあがり、今度はデレを狙って急降下してきた。
(♯ФωФ)「風よ、邪悪を切り裂け!」
50
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:06:11 ID:29OTBHmg0
風の刃が鳥の魔物を切り裂く。
その欠片を浴びてもデレの集中が途切れることはなく、湖は変わらずに大きな音を立てている。
他の魔物達も一斉に二人に襲い掛かった。
しかし、その全てをロマネスクは一人で相手取った。
巧みな剣術と風の魔法、たった一人でも劣勢ではなかった。
( ФωФ)「しかし……少し強くなっているとはいえ、
ここに来ても吾輩一人で相手に出来る魔物ばかりとは……」
先程足止めの為に残ったハインやミルナ達の元にいた魔物とそう変わらない強さの魔物ばかり。
ロマネスク始め全員の一致した見解として、塔に近付く程魔物は強くなると考えていたのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、何があってもあの子達なら」
デレは笑っている。
いつもは安心感を与えるような穏やかな笑顔、それが今は不敵に見えた。
そして不敵な笑みが、今のロマネスクの気持ちを落ち着けるには丁度良かった。
( ФωФ)「……あぁ」
まだ二人にはやるべきことがある。
それはこの塔を完全に外界から隔離すること。
その為に今、デレは魔力の全てを注いで大地の形を変える魔法を発動している。
湖の底をさらに低くし水面を下げ、塔のある小島の下の地面を持ち上げる。
51
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:06:41 ID:29OTBHmg0
言葉にすれば単純なものである。
しかし地形を変えるほどの広範囲に効果を及ぼす魔法には膨大な魔力を必要とする。
これはデレにしか出来ないことだ。
村の若者達の中でも特に多くの魔力を持ち、その性質を把握し、
望んだものを正確に発現するだけの能力を持つ選ばれし存在なのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネスク、しっかり私の体を支えててね」
ロマネスクがデレの体を抱き締めた瞬間、地面が震える。
ロマネスクに迫っていた四足の魔物はバランスを崩し、
直後にロマネスクの魔法で原型を留めないほどにバラバラになっていた。
地面が空に近付く。
今は無き橋の向こう側が遠くなる。
湖の水位が少しずつ下がっているのが肉眼でも確認できる。
立つことも出来ない振動の中、デレが目を閉じてロマネスクにしがみつく。
もはや地上の魔物達も動けなくて、攻撃は完全に止んでいた。
空を飛ぶ魔物達も様子を窺っているようで攻撃は緩く、ロマネスクが完全に防ぎきれる程度のものだった。
ζ(゚ー゚*ζ「うん……これでどうかな」
突如止んだ振動。
目を開けたデレは真っ先に立ち上がり、周囲を見渡した。
52
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:07:19 ID:29OTBHmg0
( ФωФ)「これなら、地上の魔物を恐れる必要はないであるな」
ロマネスクはデレの隣で遥かなる大地を見下ろした。
巨大な魔物が助走をつけて跳ね上がったとしても届かないほどの高さに、今二人は立っている。
ここまで来られるのは空を飛ぶことの出来る魔物だけ、
その空を飛ぶ魔物もロマネスクの風の魔法の恰好の餌食だ。
ζ(゚ー゚*ζ「さあロマネスク、後はこの地面に残ってる奴らと空のお掃除だね」
( ФωФ)「ああ、塔の中には何人たりとも立ち入らせないのである」
二人は背中合わせになって魔物と対峙する。
咆哮を上げた獣と鳥の合わさったような姿の魔物が突進してくるが、そんなものは二人の敵ではなかった。
.
53
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:07:53 ID:29OTBHmg0
ξ;゚⊿゚)ξ「きゃっ!」
(;^ω^)「気をつけるお、ツン」
地面が激しく揺れ、ツンは思わず隣を歩くブーンにしがみついていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「う……ごめん……」
背中の赤子の様子を確認し、前を歩くクーとドクオに駆け寄る。
川 ゚ -゚)「デレさんがうまくやってるみたいだな」
( ^ω^)「外はいったいどうなってるんだお?」
川 ゚ -゚)「ああ、この塔を外界から隔離しているだけだよ」
(;^ω^)「あの……そんなことしたら僕らの帰り道どうなるんだお……」
川 ゚ -゚)「ドクオとデレさんがいれば道なんていくらでも作れる、心配するな」
(;^ω^)「それはそうだけど……」
ブーンはドクオとデレの魔法を知っている。
ドクオの扱う氷の魔法か、あるいはデレの大地を操る魔法により道を作ればいいとクーは言っているのだ。
しかし、人が通れるような道を作るとなると魔力の消耗は激しい。
果たして、帰る頃にそれだけの魔力が二人に残っているかは疑問だった。
54
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:08:25 ID:29OTBHmg0
川 ゚ -゚)「ブーン、今は帰りのことを考えている場合じゃない。向くべきは前だけだ」
クーの言葉にブーンが前を向くと、分かれ道をどちらに進むか話し合うドクオとツンの姿があった。
( ^ω^)「ありがとう、クー」
川 ゚ -゚)「何を言っている。私は何もしていない」
クーはそう言って自身も話し合いに混ざっていった。
ξ゚⊿゚)ξ「どうするの? 時間のことを考えたら別れて進んだ方がいいと思うけど……」
('A`)「いや、それは悪手だ。ツンの進む道がはずれだった場合のリスクが大きすぎる」
ξ゚⊿゚)ξ「それはわかってるけど……」
川 ゚ -゚)「ツン、焦るのは良くない。こういう時こそいつもの君らしさが欲しいな」
ξ゚⊿゚)ξ「……クー、お願い、力を貸して。魔力探知するわ」
川 ゚ -゚)「わかった」
クーが懐から出した小さな鏡を受け取り、ツンが両目を閉じて瞑想を始めた。
( ^ω^)「そういえばこの辺り、やけに静かだおね」
川 ゚ -゚)「警戒は怠るなよ」
55
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:08:56 ID:29OTBHmg0
( ^ω^)「もちろん」
ブーンは背中の鞘から身の丈程の大剣を抜いた。
青みを帯びた銀の剣は、篝火のように設置された塔の内部を照らす魔法の炎によってきらきらと輝いている。
それを体の前に構え、ぐるりと周囲を見渡すが、今のところ異常は何も感じられなかった。
クーとドクオもそれぞれに得物を構え、ツンを中心にして陣形を組んだ。
三角形の中心にいるツンはぶつぶつと呪文を唱える。
ξ゚⊿゚)ξ「見えた! 右よ!」
鏡から放たれる薄い光の筋が右の階段を示している。
ξ゚⊿゚)ξ「左は行き止まり。何か生き物の魔力を感じるわ。
おそらく、敵の魔物がもうここに入り込んでいるのね」
( ^ω^)「そのわりに、入ってすぐの敵襲がなかったのが気になるお。それに鍵も掛かってたし……」
('A`)「……鍵は考えたくないが、開錠の魔法を使える奴が敵方にいて開けたんだろう。
閉めると鍵の掛かる扉なら俺達が来た時に閉じられていたのもおかしなことじゃない。
敵襲に関しては出来るだけ狭いところで戦いたいのかもな。
狭い階段で瘴気をばら撒かれなんかしたら太刀打ち出来ないぞ」
川 ゚ -゚)「そうだな。……気休め程度だが、聖水飲んどくか?」
クーが腰に下げた荷物袋から小さな小瓶を四つ取り出して、皆に配った。
56
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:09:32 ID:29OTBHmg0
( ^ω^)「この子達はどうするお?」
自分とツンの背中でおとなしく眠り続ける子供達を指し示す。
川 ゚ -゚)「それなら瘴気程度大丈夫なはずだ。アラマキ先生が加護の魔法を掛けていたからな」
四人は小瓶の中身を飲みながら、そしてもちろん周囲の警戒は緩めず先に進み始める。
( ^ω^)「そんな便利な魔法、僕らにも掛けてくれたらよかったのに」
('A`)「自然に干渉する魔法に比べて、そういう人間の性質そのものに関わる魔法は消耗が激しいんだよ。
ブーンもさっき馬に治癒の魔法を使ってただろ」
(;^ω^)「おー……たしかにあれは疲れるお……」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね……もともと使える人も少ないし、仕方ないわよね」
川 ゚ -゚)「私が村に残る立場なら君達にも掛けただろうが……言っても仕方ない話か」
クーは空になった小瓶を三人から回収し、再び元の袋に収めた。
そして前を向いたとき、広い階段の上から何かが落ちてきた。
川 ゚ -゚)「ツン、下がれ!」
一瞬の動作で弓を構えて矢を放った。
それは何かに深く突き刺さり、動きを止めさせた。
('A`)「魔物だ!」
57
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:10:15 ID:29OTBHmg0
ドクオが次々と現れる魔物から距離を取る。
( ^ω^)「ツン、少し頼むお」
背中の子供をツンに託し、ブーンは前へ躍り出た。
大剣を慣性に従って右から左に振るうと、激しい風の刃が魔物の軍勢を襲った。
先頭にいた盾を持った魔物達を瞬時に切り刻み、それに後ろの魔物がひるんだ隙をドクオは見逃さなかった。
('A`)「氷柱よ、我らが道を塞ぐもの達を貫け!」
ドクオの構えた杖の先端に光が集まったかと思うと、それはすぐに氷柱へと変化し魔物に向かった。
川 ゚ -゚)「走るぞ!」
氷柱は敵を貫き、さらに触れたものを凍らせてゆく。
思わぬ反撃だったのだろう、魔物達の動きは瞬く間に鈍り、そこにブーンとクーの攻撃が畳み掛ける。
('A`)「俺が殿を務める、ツンは前へ!」
ξ゚⊿゚)ξ「わかったわ!」
前の敵を風が切り刻み、矢が貫く。
後ろの敵を氷が貫き、そして動きを封じる。
四人は魔物の大軍の中を駆け抜けた。
時折掠める剣や弓矢による攻撃、そして炎や氷のブレスを避けて、避けられぬものは防いだ。
それでも無傷ではいられなかったが、動くのに不都合な傷だけはなんとか追わずにすんでいた。
58
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:10:50 ID:29OTBHmg0
(;^ω^)「クー! 前に何か見えるお!」
川;゚ -゚)「あれは……この塔の仕掛けか?」
先頭で道を切り開く二人はいち早く怪しげなものを見付けた。
それは石の台座に乗った丸い宝石のようなものだった。
そこを一体の蛇の魔物が守っている。
(;'A`)「後ろはだいぶ動きを止めたが……」
ツンとドクオも合流し、目の前の宝石を見つめる。
ξ゚⊿゚)ξ「魔力で起動する仕掛け……あんなものを本で見たことがあるわ」
( ^ω^)「この剣でやってみるお」
ブーンは一振り、宝石と蛇の魔物を目掛けて剣を振るった。
大勢の魔物を切り裂いた風の刃だが、
それは蛇の魔物の尾から放たれたかまいたちによって相殺されてしまった。
(;^ω^)「ちょ……この剣の魔法を防ぐ魔物なんて初めて見たお……」
ブーンが一歩後退る。
蛇の魔物は金色の瞳をブーンに向けていて、それはまるでブーンの力を推し量っているようにも見えた。
川 ゚ -゚)「ブーン、ここから先の道筋はわかるか?」
59
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:11:33 ID:29OTBHmg0
(;^ω^)「え?」
川 ゚ -゚)「私が相手をしている間にツンとドクオと先に進め。私なら勝てる。
それに後ろから来る魔物もほとんどいないからすぐに追いつける」
(;^ω^)「で、でも……」
川 ゚ -゚)「行け。この塔で必要なのはツンの力だ。
そしてそれを最後まで守れるのは君だと、私は信じている」
ツンが弓を背中に負い、その代わりに腰の剣を抜いた。
細身だが黒の刃に細かな装飾が施された、魔力の込められた剣だ。
川 ゚ -゚)「ドクオ、頼んだぞ!」
振り向いたクーに、ドクオはただ無言で頷いた。
すぐにブーンの腕を掴み、魔物の先に進んでゆく。
魔物はもうクー以外には興味がないようで、何もせずに三人を通してくれた。
川 ゚ -゚)「お前の相手は私だ」
言うと同時、クーが踏み出す。
魔物はすぐに迎撃すべく尾を構えた。
('A`)「氷よ、我らに道を示せ!」
クーの攻撃が魔物に届くのとほぼ同じタイミングでドクオの声が響いた。
魔物が尾で剣戟を防ぎながらも振り返るが、もうクーとドクオの目的は達せられていた。
60
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:12:14 ID:29OTBHmg0
小さく鋭い氷の刃は魔物の後ろにあった宝石に突き刺さっていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱり……」
ツンの呟きを隠すほどの轟音と共に、三人の行く手の扉がゆっくりと開いていた。
(;^ω^)「絶対、絶対僕らに追いついてくるお!」
川 ゚ー゚)「もちろんだ」
クーがにやりと笑って返すと、三人は頷いて走り去っていった。
川 ゚ -゚)「さあ、続きと行こうか。あの子らを追わせはしないぞ」
蛇の魔物が威嚇するような声と共に突進してきた。
大きな体とは思えないほどの速度だったが、クーにとっては避けられないほどのものではなかった。
川 ゚ -゚)「我に宿りし眠れる力よ、今ひと時、全てを葬る力を我に与えよ」
小さな声で詠唱すると、クーの体が白く輝いた。
魔物は様子を窺っていて、何もしてこない。
それはつまり隙だらけということで、クーにはまたとない好機であった。
全身に漲る力は魔法によるものだ。
クーの魔力量はけして多い方ではない。
だから剣や弓の腕を鍛えた。
しかし、一つだけ、他の魔法の使い手たちにもなかなか扱えない魔法を扱えるという点があった。
61
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:12:45 ID:29OTBHmg0
人の潜在能力を引き出し、肉体を強化する魔法。
クーの魔力では使いどころが難しいが、一人で目の前の魔物を打ち倒すには必要なはずだ。
川 ゚ -゚)「ドクオには、もう少しだけブーンを支えてやってほしいしな……」
右手の剣を強く握りしめる。
魔物が威嚇しようと口を開くより速く、そして鋭く、クーは切り込んだ。
首をとるべく振るわれた剣だが、それには少し足りなかった。
首元から瘴気を垂れ流しながら魔物が悲鳴のような叫び声を上げてのたうつ。
大振りの尾による一撃がクーの腕を掠ったが、動きを止めるには至らない。
クーはそれに動じることもなく、再び魔物を切りつけた。
その剣は美しい弧を描き、今度は魔物の尾を全長から三分の一程のところで切り離した。
川 ゚ -゚)「こうも呆気ないとは……」
魔物は闇雲に暴れるばかりだった。
もはやクーに避けられない攻撃をしてくる様子もない。
それでも溢れ出る瘴気に注意しながら、クーは魔物にとどめの一撃を放った。
その瞬間、魔物の目が見開かれた。
川;゚ -゚)「……なんだ?」
体が動かない。
まるで自分の全身が石になってしまったような感覚だった。
川;゚ -゚)「まさか……」
62
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:13:17 ID:29OTBHmg0
蛇の魔物の最後の抵抗だったのだろう。
それきり魔物は完全に動かなくなり、周囲に他の魔物もいない辺りは静寂に包まれた。
川;゚ -゚)「こんなところで……」
必死に体を動かそうと力を入れる。
魔法により自身の身体能力を強化していても、それは儚い抵抗にしかならなかった。
こんなところでもたもたしていれば、じきに氷の魔法の解けた魔物達に追いつかれる。
早く魔法を破らなければ命はない、約束を果たせない。
身を捩る。
手足を動かす。
首を捻る。
音は聞こえる。
声は出せる。
目は見えている。
しかし、それ以外が動かせない。
自然を操る魔法を使える身ならば、これでも何とかなったかもしれない。
だが、クーはそういう類いの魔法が苦手だ。
川;゚ -゚)「考えろ……系統は麻痺か……この魔法はどうすれば破れる……」
不気味なほどの静寂が耳に痛い。
逸らすことの出来ない視界には蛇の魔物の死体。
63
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:13:48 ID:29OTBHmg0
川;゚ -゚)「己の力を過信していた……これが私の敗因か……」
最後に見た三人の仲間達の後ろ姿が脳裏を過る。
大切な仲間だ。
友人で、家族のようにさえ思っていた存在達だ。
その彼らが、今、最終局面に向かっている。
それを助けられないのが歯痒い。
虫唾が走る程にもどかしい。
背後から足音が聞こえる。
魔物達のものだろう。
このまま、動けないまま、抗えないまま、自分は魔物達に殺される。
川;゚ -゚)「くそ……どうにかして……どうにか……」
ぶつぶつと呟きながら頭を働かせる。
その時、ふいに閃いた。
川;゚ -゚)「我に宿る力よ、魔による呪いを跳ね除けよ」
クーは笑った。
こんな簡単なことも思いつかなかったのかと自嘲した。
クーが使ったのは、自身の体の中の魔力耐性を増幅させる魔法だった。
普段使うのは自身の攻撃面を強化する魔法ばかりだったから、完全に頭から抜け落ちていたのだ。
川 ゚ -゚)「一番焦って馬鹿をやってたのは私か」
64
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:14:19 ID:29OTBHmg0
徐々に動きを取り戻す体。
すぐ後ろまで邪悪な気配が満ちているのを感じる。
クーの口角は自然と上がってしまう。
まだやれる、まだ戦える。
右手の剣をぎゅっと握りなおすと、体に力が満ち溢れてきた。
川 ゚ -゚)「まだまだ骨が折れそうだ」
後ろからは魔物の群れが現れていた。
とても一人では相手出来ない数のはずだが、今のクーにとってはそうではない。
川 ゚ -゚)「しかしこうも多いと追いつけるか……」
自身に向かってくる魔物を切り払いながらクーは思案する。
川 ゚ -゚)「いや、信じている。私がいなくとも、必ず未来は開かれる」
クーが走り出す。
魔物の群れに、それはまるで我武者羅に何も考えずに突っ込んでいるようにも見えた。
しかしクーの剣は的確に正確に、、確実に、すれ違うすべての魔物達を切り伏せてゆく。
もはや魔物達にクーを止めることは出来なかった。
全ての魔物を殲滅するか己の魔力が尽きるまで、クーは止まらない。
.
65
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:14:50 ID:29OTBHmg0
クーと別れた三人は走っていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと待って……私、前と後ろに赤ちゃん抱えてるんだけど……!」
(;'A`)「悪いが我慢してくれ。前線に出る俺とブーンの背中じゃその子らも危険だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「それはわかってるけど……!」
悪態を吐きながらもツンだって馬鹿じゃない、自分の今の役目は理解していた。
それでも慣れない状態でひたすら階段を上るのに弱音を吐かないほど強くはなかった。
前方からは絶え間なく魔物達が襲ってくる。
ブーンとドクオはそれらに適切に対処していく。
だからツンに危険が及ぶことはなかったのだが、それが一層ツンに己の無力さを突きつけているようだった。
(;^ω^)「いったいどのくらい上ったんだお?」
('A`)「だいぶ上ったが……外が見えないのが辛いな……」
地上から見た塔の高さを思い出し、三人は溜息を吐いた。
随分長い間進み続けているが、白亜の階段はいまだ終わりを見せない。
時間の感覚もとうに消え失せ、今が夜なのか昼なのかもわからなくなってきていた。
それでも魔物達を退けながら進み、やがて、階段の終わりの先に大きな白い扉が待ち受けていた。
真っ先にドクオが近づき、扉に身体を当てて中の様子を窺う。
66
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:15:16 ID:29OTBHmg0
('A`)「やけに静かだな……」
ξ゚⊿゚)ξ「嫌な予感がする……」
( ^ω^)「僕もだお……」
三人は小声で言いながら顔を見合わせた。
( ^ω^)「ここは僕が開けるお。たぶん、それが一番被害が少ないお」
('A`)「だが、お前にはツンの護衛という役目があるだろ。何かあったら、接近戦の出来ない俺では力不足だ」
( ^ω^)「大丈夫だお。だって僕はとっても運がいいから」
('A`)「それだけじゃない。……ブーン、まさか裏切者のことを忘れたわけじゃないだろう?」
(;^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、魔物側からしても彼らは裏切者よ。
一度人間を裏切った奴らが自分達を裏切らないなんて信用して、
こんな重要な場所を守らせるかしら?」
('A`)「それは一理ある。しかしいくつか気になることがあるんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「気になること?」
ドクオは扉を指差す。
67
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:15:50 ID:29OTBHmg0
('A`)「俺達は全員、賢者の血を引いているから真実を知りようはないが。
俺達の祖が、こんな重要な拠点に魔物が入れないような仕掛けを施さないと考えられるか?」
( ^ω^)「それは……裏切者達が、魔物をこの塔へ入れたということかお?」
('A`)「ああ。さっきブーンに言われた時は流したが……やっぱりあの程度の鍵の魔法じゃ不用心過ぎる。
裏切者達がどういう手段を使ったのかは知らないが……
魔物のお偉方の信用を得て、俺達を確実に殺しに来たんだろう」
(;^ω^)「でも……まさか……ショボンに限って……」
('A`)「ああ、誰もこんな事態予測しなかった。
俺達と歳が変わらないのに、ショボンは次期首長とさえ目されていた男だからな」
ξ゚⊿゚)ξ「……なんで、止められなかったのかな」
ツンの呟きが静かな周囲に響いた。
('A`)「今更考えたって仕方ないだろ。
だが……ショボンがこの先にいるという最悪の事態は想定しないとならない。
そしてこの中でショボンとやり合えるのは俺だけだろ」
( ^ω^)「……ドクオ」
ブーンはそれだけ呟いて言葉を詰まらせる。
何か言わないといけないと思ったのだが、ドクオを引かせる言葉を思いつけなかった。
('A`)「少しくらい、いいかっこさせてくれよ。お前達よりは年上なんだからさ」
68
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:16:41 ID:29OTBHmg0
そう言ってドクオは扉を押し開けた。
重そうな見た目にもかかわらず、随分あっさりと開いた扉の向こうには
全てを飲み込まんとする深淵なる暗闇が広がっていた。
杖を構えたドクオが先陣を切る。
('A`)「……」
無言のドクオ。
内部の様子が見えないブーンとツンは周囲を警戒しながら彼に続いた。
(;^ω^)「……!」
ξ;゚⊿゚)ξ「なん、で……」
暗闇の中に入って、二人にもドクオが黙り込んだまま動けない理由が分かった。
仄かに魔法の灯火によって照らされた部屋の奥、そこに一人の男が立っていた。
暗闇に映える純白のローブに身を包んだ男は動けない三人にゆっくりと近付いてくる。
(;'A`)「……氷よ、魔を貫く剣となれ……!」
男の立てる靴音に我を取り戻したドクオがやっと動き出す。
放った氷の剣が男目掛けて突き刺さる、はずだった。
(´・ω・`)「炎よ、剣を溶かせ」
男の手から放たれた炎の渦が氷を飲み込み、瞬く間に水へと変えてしまった。
69
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:17:23 ID:29OTBHmg0
(;'A`)「ショボン……」
(´・ω・`)「会いたかったよ、ドクオ。それにブーンとツンも、よくここまで来たね」
(;^ω^)「なんで……なんで……ここに……」
(´・ω・`)「君達を確実に仕留めるために、魔王様直々の指示さ」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうして私達を裏切ったのよ!?
魔王がこの世界を支配したら……
瘴気に満ちた世界では、私達人間は生きていけないのよ!?」
(´・ω・`)「僕はもうただの人間じゃない。魔王様の加護を受けた『新世界の民』の一人だ」
(;'A`)「馬鹿げたことを……!」
ドクオがショボンに向けて再び杖を構える。
('A`)「吹雪よ、邪悪なるものどもを氷の世界に閉じ込めよ!」
(´・ω・`)「気付いてたか」
ショボンは軽い足取りで一歩下がると、大きく手を上げた。
ドクオの唱えた吹雪の魔法はショボンとその遥か後方を巻き込むが、
その後方からは大量の黒い影が溢れ出していた。
(;^ω^)「やらせないお!!」
70
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:18:04 ID:29OTBHmg0
ブーンが大剣を振る。
巻き起こる風がドクオを襲う魔物達を切り裂いた。
(´・ω・`)「炎よ、我の敵を焼き払え」
ショボンの手から赤い光がほとばしる。
(;'A`)「氷よ、我らを守りたまえ!」
灼熱の炎がドクオ達を襲う直前、分厚い氷の壁が現れて盾となった。
(;'A`)「ブーン……お前は隙を見て、あそこに見えてる奥の階段を上れ。
いいな、何があってもツンのことを守るんだぞ」
(;^ω^)「でもドクオは……! ショボンに一人で勝つなんて……それにたくさんの魔物も」
ξ゚⊿゚)ξ「わかったわ、ドクオ。私達は先に行く。だからちゃんと道を作ってよね」
(;^ω^)「ツン!」
('A`)「……ああ、任せろ」
ツンが強引にブーンの腕を掴む。
そこまでされればブーンも振りほどけず、おとなしくツンに従うことを決めざるを得なかった。
(´・ω・`)「そうはさせないよ。……ドクオ、君の甘いところ、僕は好きだけどね」
ショボンの背後に控えていた魔物達がブーンとツンに迫る。
71
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:18:42 ID:29OTBHmg0
(´・ω・`)「炎よ、我に盾突く愚か者を焼き尽くせ」
('A`)「氷よ、我を守りし堅牢なる盾となれ!」
炎と氷がぶつかる。
白い水蒸気により視界が塞がれた。
('A`)「行け!!」
ドクオの叫び声が部屋に響いた。
魔物達にも聞こえていたが、視界の悪い中ではブーンとツンをうまく止めることは出来なかった。
('A`)「吹雪よ、邪悪なるものの視界を白に染めあげよ!」
今度のドクオの魔法は直接的な攻撃ではなかった。
徐々に晴れる水蒸気、しかし今度は部屋内を真っ白な吹雪が満たしてしまった。
ドクオ自身も目を開けられないほどの全力の魔法、魔物達の動きも止まっているはずだ。
(´・ω・`)「ドクオ、君ならこうすると思った」
息さえ苦しくなるような勢いの吹雪の中で平時のような穏やかな声を発したショボンに
視線を向けようとするが、声の方向さえ正確には掴めない。
(´・ω・`)「これは僕からのサービスさ」
その言葉に不穏を感じ取ったドクオが慌ててショボンに杖を向けようとするが、ショボンの詠唱は早かった。
(´・ω・`)「炎よ、我らの希望の道を照らせ」
72
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:19:18 ID:29OTBHmg0
(;'A`)「え!?」
炎は静かにショボンの指先に揺らめき、一瞬の間に消えた。
('A`)「お前……!」
(´・ω・`)「ドクオ、『僕らの希望』は無事に階段に辿り着けたよ」
ショボンがにやりと、悪戯っ子のように笑う。
ドクオの知っている、見慣れた表情だった。
('A`)「俺もダメ押しだ!」
ドクオが叫ぶ。
('A`)「氷塊よ、道を遮断する壁となれ!」
ブーンとツンの進んだ道を塞ぐように巨大な氷が立ち塞がる。
もう誰も二人を追うことは叶わないだろう。
吹雪が晴れたその時、もう部屋の中にブーンとツンの姿はなかった。
しかしドクオとショボンは完全に魔物達に取り囲まれていた。
('A`)「おいおい、知性の低い魔物どもにもお前が裏切者だってばれちまってるぞ」
(´・ω・`)「いいよ。僕の一番の役目はここで終わり、後は君が生きて帰れるよう手助けするだけさ」
('A`)「何不穏なこと言ってやがる。お前も帰って皆に『迷惑と心配かけてごめん』って謝るんだよ」
73
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:19:50 ID:29OTBHmg0
(´・ω・`)「あはは……善処するよ」
二人は背中合わせになって魔物達と対峙する。
数では圧倒的に不利だが、不思議とその顔に不安はない。
('A`)「氷柱よ、邪悪なるものを貫け!」
(´・ω・`)「火炎よ、邪悪なるものを焼き尽くせ!」
一斉に襲い掛かってくる魔物の大軍をたった二人で迎え撃つ。
背中に不安はない。
二人は魔法の能力において、常に切磋琢磨していた仲だ。
その力量は互いが一番よく知っている。
('A`)「ショボン、後で必ずブーンに謝れよ。
あいつ、ショボンと特に仲良かったから裏切られたことすげぇ気にしてたんだよ。
もしかしたら自分に愛想をつかしたかも……なんて馬鹿なことまで考えてさ」
(´・ω・`)「……それは、死ねないね」
数の暴力だけでない、この部屋には今までドクオ達を襲ったどんな魔物達より
個で強く連携もとれる魔物が多く存在した。
敵の攻撃を全て防ぐことも出来ず、次第に二人の体に生傷が増えてゆく。
(´・ω・`)「我に宿りし魔力よ、傷を癒す糧となれ」
ショボンの言葉に、淡い光が二人を包む。
目に見える特に大きな傷が塞がっていった。
74
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:20:28 ID:29OTBHmg0
(´・ω・`)「下では僕と一緒に裏切ったミセリ達が戦ってくれてるよ」
(;'A`)「あいつらもお前の味方だったのか!?」
(´・ω・`)「まあね。日頃から村に不満を持ってる子達を何人か説得して味方に引き込んだんだ。
この機会に功を立てれば一族の中での立場も向上するし、何なら僕が面倒を見るって。
とても危険なことだから、無事にここまで来られて良かったよ」
(;'A`)「お前……末恐ろしいよ……」
(´・ω・`)「ありがとう」
敵の数は確実に減っている。
それでも油断はならない。
しかし、今は背中を預けられる仲間がいる。
まだ戦える。
二人の若者と二人の鍵が未来を開くための時間を、まだ稼ぐことが出来る。
.
75
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:21:11 ID:29OTBHmg0
吹雪の中に突如現れた小さな炎に向かってブーンとツンは手を繋いで進んだ。
(;^ω^)「これ……ショボンの魔法だお……」
ξ;゚⊿゚)ξ「あいつ……」
ツンが言葉を止めたが、それでもブーンには何が言いたいのかはしっかりと分かった。
ξ゚⊿゚)ξ「進むわよ。私達がやらなきゃ、もう私達しかいないんだから」
頷くブーンを引っ張るようにツンは進んだ。
魔物の姿がない静かな階段を上る。
ずっと白かったはずの景色は、先程の部屋から黒に変わっていた。
壁の随所に取り付けられた魔法の灯火だけが照らす階段を、二人はそれぞれに子供を背負って上ってゆく。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン」
ふいにツンが呟いた。
それはよく聞いていないと聞き逃してしまいそうな程の小声だった。
ξ゚⊿゚)ξ「私達、生きて帰れるのかな」
( ^ω^)「……大丈夫だお。だって僕はとても『運がいい』から。僕と一緒なら必ず」
ξ゚⊿゚)ξ「でもさ、もし私達は生きていても、皆がいない世界に価値はあるのかな?」
76
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:22:05 ID:29OTBHmg0
( ^ω^)「大丈夫。『未来の勇者』達が必ず……」
ξ゚⊿゚)ξ「それは確かなの? だって、未来の人達は今の私達のことを知らないのよ。
どうして必ず助けに来てくれるって信じられるの?」
(;^ω^)「そ、それは……アラマキのじいちゃんの予言は絶対だから……」
ξ゚⊿゚)ξ「今回の予言が当たるかなんて、私達が死んでしまったら確かめようもないことだわ」
二人の歩みは鈍る。
ξ゚⊿゚)ξ「私も本当は、ビロードのことを笑えないの。
こんな危険な目に何度もあって、途中で嫌になってばかり。
……酷い話よね、一度も戦ってない私がこんな弱音を吐くだなんて」
( ^ω^)「ツンは、悪くないお。僕だって、他の皆だって……本当は怖さを隠してたんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「それでも……」
ツンが俯いた。
白い肌に黒い影が差す。
ξ゚⊿゚)ξ「今、世界中の人達が魔王の軍勢と戦ってる。何人もの勇者達が魔王に挑んでは消息を絶った。
こんな世界を、ただ『古の賢者の子孫』であるだけの私達が、救えるの?」
( ^ω^)「信じれば、道は開けるお」
ξ゚⊿゚)ξ「でも私は……もう信じられない。だって、皆嘘吐きなんだもの。
皆、絶対に私達に追いつくって言って、誰も来てくれないじゃない」
77
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:22:41 ID:29OTBHmg0
( ^ω^)「それは、戦いに時間が掛かってるだけだお」
ξ゚⊿゚)ξ「でも魔物は無限とも言えるくらい大量に湧いてくるのよ。やっぱり……」
(#^ω^)「それ以上言うなお!!」
ブーンが声を荒げる。
突然の出来事にツンの歩みは止まり、一歩後ろのブーンを振り向いた。
(#^ω^)「皆が必死に戦ってるのに! それを信じられなくてどうするんだお!
もう僕らは助けに戻れない、なら先に進んで皆の想いを繋ぐしかないんだお!!」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……」
普段は怒ることのない、穏やかな少年らしからぬブーンの剣幕。
ツンは何も返せずに目の前の彼の顔を見つめることしか出来なかった。
( ^ω^)「僕は……僕だって……何度もしたくないことをしてきたお……。
本当は皆と戦う為に残りたいと何度も思った。
僕が強くないのは知ってるけど、僕がいれば皆はきっと死なないから」
ツンの手を優しく握りなおした。
( ;ω;)「でも行かなきゃ……。これは僕らにしか出来ないことなんだお……。
悔しいけど、僕らには力がないから……皆を助けるだけの力はないから。
だから、嫌でも前に進むしかないお。それしか、出来ないから……」
78
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:23:21 ID:29OTBHmg0
泣きじゃくるブーンの頬にツンの手が触れる。
際限なく溢れる雫をそっと拭って、ツンはやっと上を向いた。
ξ゚⊿゚)ξ「……そうね。これは、私達にしか、出来ないこと。
一族で最大の魔力を持つ私と、運命に愛された強運の持ち主であるあなたにしか……」
ξ;⊿;)ξ「やってやる……絶対成功させて、私達の未来を開くのよ……」
ツンもブーンに答えるように手を強く繋ぐ。
背中の二人の鍵はいまだ深い眠りに就いている。
未来を背負って、ブーンとツンはゆっくりと歩みを再開した。
.
79
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:24:01 ID:29OTBHmg0
「神よ、どうか我らの祈りに応えよ。長き時の彼方へ、我らの明日を開く二人の鍵を運びたまえ」
.
80
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:24:42 ID:29OTBHmg0
天を貫く白き塔を上り、四人の若者は暗い部屋の中にいた。
( ´∀`)「いよいよモナ」
(,,゚Д゚)「ここまで長かったな……」
( ・∀・)「本当に、何度死にそうになったことか」
(*゚ー゚)「でも、ここからが本当の戦いよ」
( ´∀`)「遥か過去の世界の魔王がこの世界の災厄の元凶モナ。
かつて最も魔王を追い詰めた千年前に魔王にとどめをさせていたら……。
そして、この塔から過去に渡る力を持つのがギコとしぃ」
(,,゚Д゚)「それにしてもさ、サダコさんもあんな大昔の話、よく知ってたよな。
かつてこの世界に時を渡る程の強大な魔力を持つ一族がいて、未来に生き残りを託しただなんて」
(*゚ー゚)「サダコさんは魔術史の研究者だったから……。
私達を育ててくれたのがサダコさんだったから今があるのよ」
81
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:25:24 ID:29OTBHmg0
( ・∀・)「それにしてもすごいな。『運命に選ばれし勇者モナー』、『古の賢者の子孫ギコとしぃ』、
そしてこの僕、『大魔導士モララー様』が運命に導かれて集まれただなんて」
(*゚ー゚)「あんたはただのモナーの幼馴染で、勝手に旅に着いてきただけでしょ……」
( ・∀・)「ああん? やんのか?」
(*゚ー゚)「受けて立つわよ」
ばちばちと火の粉を飛ばす二人を、ギコとモナーは呆れた様子で見つめる。
いつものことだ、二人は事あるごとに意見を違え、こうして火花を散らしている。
故郷の大人達は微笑ましいと言っていたが、振り回される二人にとっては悩みの種である。
(;´∀`)「まあまあ、落ち着くモナ。これから決戦なんだから、もっと気を引き締めるモナ」
(,,゚Д゚)「そうだぞ。俺らをここに連れてくるために皆苦労したって話が残ってただろ。
だから、俺らは出来る限りの力で、その願いに応えなきゃなんねぇんだ」
(*゚ー゚)「まったく……ギコは正義感が強いなぁ」
( ・∀・)「同じ母親から生まれた双子とは思えない」
(*゚ー゚)「殴るぞ」
(;´∀`)「だから落ち着けって言ってるモナ!」
モナーの必死の努力により、なんとか喧嘩は回避された。
しかしモナーの疲労は凄まじいもので、とてつもない苦労の果てに
ここまで来た感慨なんてとっくに消え失せてしまっていた。
82
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:26:05 ID:29OTBHmg0
( ´∀`)「それではギコ、しぃ。今度こそ、魔法を頼むモナ」
仕切りなおした場には緊張感が漂い始めていた。
無言で頷いた双子は、固く互いの手を握り、息もぴったりに呪文を唱え始める。
それはまるで最初から知っていたかのように、自然と口から紡がれていった。
.
83
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:26:49 ID:29OTBHmg0
「「神よ、どうか我らの祈りに応えよ。長き時の彼方へ、世界の明日を開く鍵たる我らを運びたまえ」」
.
84
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:27:26 ID:29OTBHmg0
そして、繋がれた想いは閉ざされた明日を開いた。
.
85
:
◆ZZAuuuWmmA
:2017/08/20(日) 15:28:57 ID:29OTBHmg0
以上です
ありがとうございました
86
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 15:57:29 ID:UfpurBEM0
乙!
87
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 18:31:59 ID:orQc1dFU0
乙
ギコ達が具体的にどの時間軸に飛んだのかわからないけど、ブーン達も生き残ってるといいな
88
:
◆TflJu3mvXc
:2017/08/27(日) 00:41:45 ID:jt34kzdg0
【業務連絡】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
詳細は、こちら
【
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500044449/257
】
【
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500044449/295
】
89
:
名無しさん
:2017/08/27(日) 02:15:18 ID:BhYvQfWs0
厨二感バリッバリでまさに俺の好きな感じの作品だった
面白かった乙
90
:
名無しさん
:2017/08/29(火) 11:14:18 ID:g.38gLuw0
乙
一本の線が繋がっていく、繋げていくようなファンタジーですげえ面白かった!
91
:
名無しさん
:2017/09/02(土) 21:22:42 ID:L49DeLXs0
乙
ひたすら前に進んでいく姿がかっこよかった
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