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松田亜利沙(29)「あっ、陸くん。久しぶり」
168
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:12:44 ID:Wc3Xg1nw
「私たちももうアイドル業は殆ど卒業してるけど、それでもフライデーには気をつけなきゃ駄目だよ」
「はぁい」
彼女の忠告はいつも耳に痛い。けれど、長年それを聞き入れてきたこの耳にはその痛みが心地よい。自他共にストイックな彼女の心意気はいつまでも魅力的だ。
「そういえば桃子ちゃん先輩、昔先輩がしてくれた桜の話覚えてますか?」
「んー?…あぁあれね。綺麗に見える理由はーってやつ」
「そうそうそれです」
先程陸くんに教えた話は何を隠そう桃子ちゃん先輩からの受売りだ。
その時私は、まるでアイドルちゃんみたいですね、と言ったのを覚えている。見る人に向かって顔を向ける姿は、観客に笑顔を振りまく舞台の上のアイドルに似ていると。
「まぁあれ、子役時代の舞台台本からの受け売りなんだけどね」
「えっ、そうなんですか」
確かその時、彼女は『じゃあ桜がアイドルなら、女優さんは一輪の花だね』と言った。
決して観客に顔を向ける訳ではなく、凛と立つ姿でもって見る人の心を奪うのが俳優の仕事だと。
「そうだったんですか。私陸くんに思いっきりドヤ顔で語ってしまいました…」
「いいんじゃない? ふふ、亜利沙さんらしいね」
ようやく見せた桃子ちゃん先輩の笑顔は、なんだか優しかった。
169
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:13:37 ID:Wc3Xg1nw
私が出るカットの撮影は一度リテイクがあったものの早々に終わり、場面は次の桃子ちゃん先輩演じる女主人公の長丁場。カメラさんや照明、音声さん、その他スタッフに囲まれながら、長台詞の独白のシーン。
先程の会話を想起する。アイドルが桜の花ならば、女優は一輪の花。成る程今の彼女はまさしく立てば芍薬と言わんばかりの佇まい、憂いを纏う百合の花だ。低めの身長が牡丹にも見える。
結局、私は早上がりせずに桃子ちゃん先輩の撮影が終わるまで居残った。
写真を撮ることもなく、ただただ見惚れてしまったからだ。
「お疲れ様でした、先輩」
「ありがと」
現場撤収のあと、プロデューサーの迎えの車の中で桃子ちゃん先輩を出迎えた。後部座席に並んで座り、飲み物を手渡す。
先輩に感想をひとしきり伝えてプロデューサーにも現場の雰囲気を教え、一息ついたところで桃子ちゃん先輩が口を開く。
「亜利沙さんも、結構よかったよ」
「っ!本当ですか?」
「うん。よかったらまたやってみない?」
まさかの提案。先輩からお褒め頂けるとは思ってなかったし、一度きりのゲスト出演だと考えていた。
しかしプロデューサーも「助演だけど一つ枠持ってるぞ」なんて言ってくる。
「んー…考えておきます」
「そう?まぁ無理にとは言わないよ」
この時は、一旦保留にした。
何故だか、私は芍薬や牡丹にはならない気がしたのだ。
* * * * *
170
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:14:25 ID:Wc3Xg1nw
* * * * *
後日、事務所のライブ後パーティー。
この日は二期生達の初単独ライブ成功のお祝いで、私たち一期生は会場の隅で各々お喋りをしていた。
メインの二期生が真ん中でスタッフや親御さん達と交流している中、私たちは今日集まれた人達で料理やお酒に手を伸ばしつつ、彼女らを見守っている形だ。
しかしせっかくのシャッターチャンスを無下にはできない。二期生アイドルちゃん一人一人が壇上で挨拶する姿をカメラに収めながらニヤニヤ笑いそうになるのを堪える。
一通り撮影に満足し元のテーブルに戻ると、次は桃子ちゃん先輩と志保ちゃんがやってきた。
「久しぶりね、亜利沙さん」
「志保さん!お久しぶりですね!」
桃子ちゃん先輩とは先日の撮影で一緒になったが、志保ちゃんとはご無沙汰だ。
「ちょうどよかった亜利沙さん。この前の映画のお仕事だけど」
「あっ、はい」
「さっきプロデューサーと話して志保さんがやることになったんだけど、亜利沙さんがやりたいなら譲るって」
「えっ」
そう聞いて少し面食らう。志保ちゃんが人に役を譲るなんて、普通じゃ考えられない。
「元々ウチの事務所で持ってる枠みたいですし…亜利沙さんがやりたいなら是非やって欲しいんです」
「そんな…何で」
「この前のドラマ、見ました。桃子の言う通り、亜利沙さんの演技も多少不足はありますけど結構いい感じだったと思います。なので、もしこちらの方の仕事を考えているなら是非に…と」
「え、ええっと…」
役を譲るだけでなく、志保ちゃんにお褒めの言葉まで頂いて思わず言葉が詰まる。
あんなに役者を熱望し、かつその夢を掴んだ彼女にそう褒められると悪い気はしないというのが人情だ。
…しかし、
「…いえ、やっぱりやめときます」
「そう、ですか…」
「はい。せっかく譲って頂いたのに、すみません」
「いえ。それでは予定通り私が入ります…けど、その…理由を聞いても?」
「えっと…」
171
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:15:19 ID:Wc3Xg1nw
確かに女優という道も悪くはない。今の私は、どちらかというと元アイドルのタレントという立場で、主にアイドルの裏話に詳しいキャラとしてバラエティに出るのがほとんどだ。女優も出来るとなれば、仕事の幅は広がるだろう。
でも、私が憧れたのは、芍薬でも牡丹でもなく桜の花だったのだ。こちらに向けて満面の笑顔を振りまく彼女達に惚れて、手を伸ばして、届かなくて、それならいっそと私自身が桜になったんだ。
一輪の花も美しいけど、そこに私の求めるものは無い気がした。
それに、百合の花では許されない、今の元アイドルの私だからこそ触れ合える『繋がり』がある。
『そこ』に関しては言わないように、2人に理由を伝える。
「そっか。亜利沙さんは本当にアイドルオタクだね」
「むぐっ!」
「まぁまぁ桃子、そう言わないの。分かったわ。本当は亜利沙さんに一つ恩でも売っておこうとおもったんですけどね」
「お、恩?」
「これから長い付き合いになりそうだと思ったので」
志保ちゃんが意地悪な笑顔を向ける。
「な、なんのことでしょうか」
「またデートしたらしいですね」
「うぐっ」
桃子ちゃん先輩も何か察したようで、信用できない大人を見るような目でこちらを見てくる。うぅ、肩身が狭い。どうしよう。
そんな折、私の携帯がビビッと震える。これ幸いとばかりに取り出した。
「失礼します!」
2人にジロジロと見つめられるのを肌で感じながら画面を開く。通知はなんと当の彼から。
『北沢 陸 が画像を送信しました』
『今朝撮れたものです。採点よろしく』
(…なんだろ)
一応の為、前の2人に見えない様に画像を開く。そこにはなんと…
172
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:16:17 ID:Wc3Xg1nw
(ぎょえっ!)
声を上げなかった自分を褒めたい。そこに映るのはソファで横になる志保ちゃんの姿だった。ご丁寧にデジカメで撮ったらしく、この前教えたテクニックも使って背景の小物のピントをズラしており、より志保ちゃんの寝る姿が映えている。
『何撮ってるんですか💢!』
『あれ、こういうのじゃダメでしたか?』
ダメではない、むしろ眼福だ。けど…
『タイミングが悪いんですよ!今目の前にお姉さんいるんですけど!』
『マジっすか。しまったな笑』
『笑じゃないです!』
まるで他人事のような返信に思わずため息がでる。
しかし改めて考えると、こういうことができるのも、彼らが姉弟であり、私が『元』アイドルだからだ。
こうしてこまめに連絡やバカ話をしたり、たまにお忍びデートにいけるのも私が芸能活動を昔より減らしているから。もし本気で女優業を始めるというなら、彼との付き合いをできるだけ控えなくてはならない。バレてからではマズイのだ。
ならば、ちょっとだけなんて端役にお邪魔するよりは、他の本気でやってる人達にやってもらう方が余程有意義だ。
私はもう、こっちの方が心地よくなってしまった。アイドルちゃん失格、と言われても仕方ない。
手の届かない高嶺の花になるより、彼の手の届く高さに咲く花びらとしてありたい。
弟でもない限り、女優さんに触れ合える人など居ないのだから。
173
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:17:33 ID:Wc3Xg1nw
再度、着信音。
『で、何点ですか?』
『んん…100点です』
『やりぃ!』
取り敢えず写真の完成度は高く希望通りの納品だったことは伝えて、携帯を閉じた…
…が。
「亜利沙さん。誰からだったんですか」
…目の前の2人のことを失念していた。
「まぁ、聞かなくても分かってるよ」
「ま、またまた桃子パイセンったら〜。またカマかけようったってそうは…」
苦笑いでやり過ごそうとしたところ、志保さんが席を立つ。
「貸して下さい」
「ああっ!ありさの携帯!」
手に持っていたそれを掠め取られ、私の手が宙を切る。
「ロックは確か…こうかな?」
「な、何故知って…」
「私、記憶力はいいんですよ」
無慈悲にも私の携帯ちゃんは、数秒後にその中身を開け広げた。
その後は、お決まりのお説教。何故か桃子ちゃん先輩にも怒られた。お説教自体は会場の控え室に移動してからだったものの、一瞬会場で見せた志保ちゃんのあまりの形相は、二期生の間でも噂になったとか。
終わり
174
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 15:23:41 ID:Wc3Xg1nw
桜の季節なので(地の文有は)初投稿です。そして最終回です。
もう東京は散ってるんですかね?(北国並感)
175
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 16:50:56 ID:xYSFUOhM
やりますめぇ!
176
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 19:46:21 ID:teInzWNA
はぁぁぁあああっ…!(畏怖)
177
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/28(水) 21:03:01 ID:tFp/LHsI
(地の文が心に)食い込んで気持ちいい!!
178
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名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/29(木) 00:17:03 ID:ZVT8buFc
なんだこの長文!?
179
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2018/03/29(木) 06:41:16 ID:zN93T5xE
クッソ爽やかな最終回書いちゃって誇らしくないのかよ?
180
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2022/07/28(木) 18:32:21 ID:5W4qwcOY
https://i.imgur.com/7z6lUXP.jpg
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