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善子「猫の恩返し」
1
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:41:33 ID:VmS9V0jI
私は生まれながらの不幸──そう、美貌に嫉妬した神様が天界からこの世へ堕天させたから。
外に行けば雨に降られ、遠足に行けば大雨、大事なテストの日はインフルエンザ──極めつけは何も無いところで躓いて海に堕ちるなんてことも。
そう、どうしようもない程不幸なの。
私は堕天使ヨハネだから。
でもね、人を呪いたくない。
私の不幸は誰かのせいじゃない──私のものだから。
「うぅ。せっかく買った傘なのに.......」
2
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:42:29 ID:VmS9V0jI
放課後の練習が終わりあとは帰宅するだけでも強風と大雨に煽られ、頼みの綱である傘もあと数分で骨が折れそうだった。
「ルビィ達はちゃんと帰れてるかしら」
バスだから大丈夫よね、と安堵した矢先空に広がるどす黒い雲の雨足は傘を鼓膜が破れそうなほど激しく唸り、靴と鞄はあっという間に侵食され、夏風さえも身体の芯が冷え切るかのよう。
「も、もうなんなのよ!」
街並みに人の気配は少なく、まばらに道路を水飛沫を撒き散らしながら走行する車も何処か血の気を感じない。善子は暗い世界から一刻も早く脱出するため急いで駅の南口へ足を進めるものの、傘で塞がれた視界は嫌でも足元を見るしかないけれど、そう思う余裕さえも抱く暇なくずぶ濡れとなる制服を引きずる。
3
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:43:24 ID:VmS9V0jI
しかし、
やっとの思いで駅南口前へ辿り着き、急いでコンビニへ避難しよう──そう肩で息をしながら灰色の世界から彩り鮮やかな世界を隔てる自動扉を抜けようとすれば足元を駆け抜ける1匹の黒い影。
「ちょ、ちょっと!」
激しく打ち付ける雨は消えてないのに──衝動的に動いた身体はその影を追いかける。何ができるか分からないのに。
駅前の歩道を走り、北口より交通量が増えてる車に時折そのずぶ濡れな羽毛を照らし、まるで向かう場所があるかのよう小さな四肢を暴れさせていた。
見失ってはいけない──あの子猫まで不幸になる必要は無いのだから。
だからお願い信号、無機質に点滅する明かりを緑から変えないで──このままだと待機する車達が一斉に動き出してしまう。
横断歩道、緑の明かりは不気味に揺れ、一直線で突き進む子猫をまるで死神のように手招きし、最後の足掻きに伸ばした腕も「ダメ!!!」と叫んだ声さえも飲み込み雨はかき消し、私を嘲笑うように信号機の表示は真っ赤な「止まれ」を表した──車への「進め」と知っているのに。
「──────────!!!」
4
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:44:24 ID:VmS9V0jI
「──────────!!!」
軽い肉塊が鉄の塊とぶつかり、鳴り響かないクラクション、止まらない車の波の中、善子の眼前でたった今命が失われてしまった。まるで初めから存在しないように。
手を傘がすり抜け、歩道に飛ばされ臓物をはみ出させ足は複雑に折れ、それでも最期に垂れ下がる眼球に悶え苦しみながら救いを求める死骸同然の子猫に善子は唇を強く噛み締め両手で顔を覆ってしまう。
ごめんなさい、と。
私が助けてあげられたら、自分の不幸に巻き込まなかったら、もっと早く出会っていれば──。
「ごめ、んなさ、い.......ごめん、なさい!」
血の気が引いた身に突き刺さる雨は贖罪のように貫きたがるけれど、痛みを手のひらに流れる熱い涙を感じる心の隙間も空いてはなかった。
助けたい──その気持ちだけだったから。
5
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:45:15 ID:VmS9V0jI
「え、ちょっと!猫轢かれてる!」
「うわ〜グッロ.......飛び出してんじゃん」
「かわいそ〜子猫なのに」
雨音に混じり聞こえてくるのはシャッター音。
たった今潰れた生き物をまるで「見世物」のように撮影する人だかり。
「あ!この人Aqoursの津島善子さんじゃない?」
「ほんとだ!猫助けようとしたのかな?可哀想に」
「それよりサイン貰おうよ!」
喜ぶ者達に撮られる。人の温もりを感じられないのは雨のせいだけだろうか。
視界が滲むにつれ口端を噛み締め、どうしようもなく悲しい感情が湧き上がり水溜まり越しにその顔達を見た瞬間──
「────ッ!!!」
信号が緑色の明かりで照らしたのと同時に駆け出した。この場から逃げるように。悔しくて悔しくて悔しくて堪らない叫びを無理矢理にでも押さえ込んで。
6
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:46:03 ID:VmS9V0jI
♢♢♢
「善子ちゃん具合悪いの?今朝から元気ないけど」
「え?あぁ、夜更かしで寝不足なのよ」
本当は学校を休みたかった──でもみんなに心配をかけたくない思いが身体を嫌でも突き動かし、見事休み時間ルビィに心配されるほど隠しきれてはなかった。忘却は出来るはずもなく拳に爪が食い込むけれど、話したくなかった。
「そう、なんだ。辛かったら保健室で休もうね?」
この子は優しい──昨日猫を嘲笑った者達よりよっぽど。善子の痛みを自分のことのように受け取り寄り添ってくれる。それが今の善子にとって眩しすぎて目を背けたくなる。
「ありがとうね、ルビィ。流石リトルデーモン4号ね!」
だから朝に負けない程賑やかな教室の空気に合わせ、善子は精一杯の笑顔を取り繕う。
きっと察してるのだろう。
ルビィの眉毛は困ったように八の字へ曲がってしまった。
「う、うん」
7
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:46:47 ID:VmS9V0jI
言いたいことはあるだろう。
でもルビィはこれ以上詮索はしない。
ほんの少し荒波立つ心が救われた気がしたけれど、始業のチャイムが鳴る直前閉じた瞼に見えたのはやはり猫を救えなかった後悔だった。
私が助けられなくて──ごめんなさい。
猫の鳴き声が聞こえた気がしたけれど、きっと夢のせいだろう。
8
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:47:52 ID:VmS9V0jI
♢♢♢
「で?午前の授業中ほとんど寝ていたと?」
思っていた以上に寝ていたようで、お昼休みにはルビィの姉である黒澤ダイヤに生徒会室へ呼び出されていた。
同じグループのメンバーが授業中ずっと寝ていた──なんて情けない事実許してくれるわけが無い。
「ごめんなさい」
「.......ルビィに聞きましたわよ」
先程まで張り詰めていたダイヤの声音が少し柔らかくなり「頭を上げなさい」と促す。
上げた視線の先、その瞳には怒りより本気で心配する姉の気持ちが宿っており善子は一瞬目頭が熱くなる。
「善子さん。今朝から体調が優れないようですわね」
「.......ルビィったら本当にお喋りね」
「無理はしないで」
たった一言。
胸の奥から込み上げるものを塞き止める壁を崩すには十分で「無理してない」と強がり方を忘れるほど涙が拭っても溢れ「善子さん!?」と側で心配してくれるダイヤから隠すよう必死に目を抑えても零れ落ちる──。
肩が震え、昨日の出来事が鮮明にフラッシュバックし血溜まりの中肉塊となり救えなかった罪悪感と周りの醜さへの悔しさに唇を噛み締めるけれど、
9
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:49:07 ID:VmS9V0jI
ふんわりと身体を包み込む温かくて安心出来るダイヤの抱擁に、善子は縋り付き生まれたての赤子のように心の底で溜まってたものを全て吐き出した。優しく頭と背中を撫でられる手にその身を委ねて。
「そういうことでしたのね」
お昼休みのチャイムはとっくに鳴り終わってるのに、ダイヤは今も善子の側で向き合ってくれている。赤く目を腫らし涙でぐちゃぐちゃな善子が落ち着くまでその手を握り、吐き出した苦しさを受け止めて。
「ごめんダイヤ.......こんな話に付き合わせて」
泣き疲れたのか授業に遅れさせてしまった申し訳さか、声に元気の無い善子は俯いてしまう。
10
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:49:40 ID:VmS9V0jI
「善子さんは優しいですわね。貴女は悪くありませんし、許せない気持ちもわかりますわ」
その声は慈愛に満ち溢れ、善子の背負った苦しみを少しでも理解し共感してくれていた。
「だから私に気を使わなくても良いですわよ?むしろ、勇気を振り絞って話してくださってありがとうございます。ずっと苦しかったでしょう?」
頭にそっと重ねられたその手に目頭がまた熱くなり、堕天使で誤魔化そうとすればたちまち溢れそうだった。
「ですから落ち着くまで今日は側にいますわ」
ルビィがどうして姉が大好きなのか、善子はほんの少しだけ分かってしまう。あぁ反則だと。
本当はダイヤもこの後も授業があるのに──と胸が締め付けられそうになるけれど、
「気遣いはぶっぶーですわよ?」
見透かされたように微笑むその瞳に善子は今の間だけ甘えることにした──「このこと誰かに言ったら許さないから」と精一杯の照れ隠しと共に。
しかし、ルビィのように胸元へ顔を委ね安心出来る温もりと香りの中、ふとダイヤの制服に髪が抜け落ちてるのが視界に入ってしまった。
「ダイヤ、髪ついてる」
指で摘み「だらしないわね」と捨てようとすれば、
「あら?私こんなに短くありませんわよ?」
その黒い髪はダイヤの長さと全く合わなかった。
どうしてか気味悪くなり「ゴミがついたのね」と近くのゴミ箱へ捨て去った。
11
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:50:24 ID:VmS9V0jI
♢♢♢
教室へ戻った頃には元気とは言えないけれど、
皆の顔が見たくなるぐらいには落ち着きを取り戻していた。気遣うわけでもなく普段通りに接してくれるクラスメイトに心が温かくなり、生徒会室を出る直前ダイヤから聞かされた「ルビィに感謝しなさい」とかけられた声を、その本人の笑顔で実感した。
今度ケーキ屋でスイートポテトを奢ってあげないとね、と。
「おかえり、善子ちゃん」
ルビィはヨハネのリトルデーモン──なんて思ってたけれどまるで違った。
自分に勿体ない程の天使。
「ただいま。ずらまるも心配かけたわね」
「抜けた分ノート取ったから後で見てね」
手渡されたノートを開けば丁寧にまとめられた授業内容に善子は目頭が熱くなり、堕天使なのに周りの人達に恵まれてる嬉しい矛盾が冷え切った翼を温めてくれる。
「.......ありがとう」
いつもなら茶化すし茶化されるけれど、こういう時は素直な自分を優しい眼差しで受け入れてくれた。
「ほら授業始まるよ」
チャイムをきっかけに喧騒の中各々自分の席へと帰る何気ない当たり前、教師が教室に来るまで続くトーク、ふと見下ろした机上に並べた教科書、筆箱──気はまだ重いけれど「日常」にようやく安堵の息が零れた。
きっと家に1人いてもダメだった。
12
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:51:25 ID:VmS9V0jI
授業が始まってしばらく、穏やかな日差しが差し込む中午後の微睡みは安心感に包まれ、また瞼が重く下がってきてしまう。
いっそのこと寝ようか?
でもこれ以上ダイヤと鞠莉に迷惑をかけるわけには──あ、ルビィに起こしてもらえば。
「..............」
どうやらルビィも駄目なようね。
必死に授業を聞こうと船を漕いでるわ、とルビィを言い訳に仕方ないわねと眠りに従おうとすれば──。
「ひっ!?」
足の上を何かが通り抜ける感覚に意識が無理やり引っ張られ、周りの視線を嫌でも集めてしまった。
「津島さんどうしました?」
また寝てたのね、なんて鋭いトゲを感じてしまい「あ、あのなんでもないです.......」と申し訳ない気持ちのまま平謝りし教師の説明が再開するとゆっくりと机の下を覗き込む。
気のせいではないから。
13
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:52:01 ID:VmS9V0jI
「善子ちゃん大丈夫?」
さっきので起きてしまったのか隣の席のルビィが心配してこちらへ声をかける。
花丸も「大丈夫?」と目で訴えていた。
「大丈夫よ」と善子は小声で返すとゆっくり目線を落とす───。
しかし見慣れた上履きと木製の床だけでそこには何も無く、足に触れた毛のような感覚がより気味悪く蘇り全身に鳥肌が立った。
通り抜けたのだからルビィの座席に?
善子はまだ不安そうなルビィへ向けるものの同じように机の下は何も無く、
「本当にどうしたの?」
今朝のこともあり気にかけてくれてるルビィの眼差しが痛くて、誤魔化そうにも上手い言葉が見つからない。
きっと過剰に思い込みすぎたのね──でもルビィと花丸には刺激が強すぎるからこの場は気のせい、ということで「ごめんなさい」とルビィに口パクで伝え無理矢理にも納得させてしまった。
こうすれば深くは聞いてこないから。
罪悪感は拭えないので放課後にアイスでも奢ろうかしら──そう思ってると、
14
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:53:21 ID:VmS9V0jI
「!」
今度はハッキリと足に走る──冷たくてまるで毛のような生き物の感触。
咄嗟に覗いた机の下は上履きと床だけ、そのはずだったのに。
「────!?」
あの日、車に轢かれた黒猫が鎮座して善子を見上げており──。
「にゃあ」
無表情に
低く鳴いた。
15
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:53:58 ID:VmS9V0jI
「あああああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!?」
衝動的に飛び退き、善子はバランスを崩し床へ倒れ頭の中が爆発したかのようにパニックを引き起こす。じっと善子を見つめる猫は近づくことなく訴えてくる──「どうして見殺しにした」と。
「ごめんなさい.......ごめんなさい.......!!!」
「善子ちゃん!ねぇ善子ちゃん!」
涙でぐしゃぐしゃな顔で謝る善子へルビィは駆け寄り必死に名前を呼び続け揺さぶる。
「善子ちゃん!そこには誰もいないよ!?ねぇ!」
「え.......あ.......」
倒れた椅子、飛ばされた机、散らばった教科書と筆記用具、そこに猫の姿など影すら存在しなかった。異様に怯える善子だけだった。
そこにいたのよ、と口にしたいけれど周囲の視線が突き刺さり善子はただ謝り続ける。
「ごめんなさい」
雨が降り続ける中、肉塊と成り果てた猫を助けられなかった時のように。
16
:
◆XksB4AwhxU
:2019/04/24(水) 12:54:52 ID:VmS9V0jI
♢♢♢
「善子ちゃん、今日も来ないね」
教室での騒動から10日以上が経ち、1年の教室に刻まれた空席は一向に埋まる気配が無い。
いつも通りな教室に刺した暗い影。
「うん.......ルビィちゃんは連絡は取れた?」
「全然」と元気なく首を横に振り、項垂れた赤い髪から覗く瞳から胸に抱えた痛みが零れ落ちそうなほど潤み、スカートに悔しさで皺が握られた拳の形に巻き込まれる。
「家に行っても会えないもんね.......」
親御さんが帰ってくる時間帯なら──と狙ったものの「ごめんなさい」と美人だった顔は見るも無残にやつれた母親に追い返されてしまう。
きっと善子は無事ではない──嫌でも突きつけられた現実に打つ手がない事実にルビィと花丸の心も少しずつ焦燥感に燃やされ、
「ルビィちゃん。ダイヤさんから聞いたけど最近.......ちゃんと笑ってる?」
いつしか笑顔が消えてることに気づけなかった。
携帯の真っ暗な画面に写るのはアイドルに到底相応しくない顔だった。アイドルは見る人を笑顔にさせる仕事なのに。
「.......ごめんね」
「謝らなくてもいいよ。まるもだから」
あの日、善子には何かが見えていた。
自分達には見えない何かが。
彼女を苦しめ、孤独に追い込んだ元凶。
それはルビィや花丸だけではなく周囲の笑顔さえも奪い去ってしまった。
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