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賢者「勇者様の遺志を継ぎ、私が魔王を倒します」
1
:
◆49HRmRlKYE
:2017/04/14(金) 06:17:21 ID:PCLf6UWk
平原――
賢者「(私は賢者、魔道のエキスパート)」ハッ ハッ
賢者「(勇者様の旅立ちを知り、仲間になるべく旅に出ました」ハァッ ハヘッ
賢者「(ですが、そこには大きな問題があったのです)」グヘッ
賢者「(私の家から勇者様の旅立ちの地は遠く、私は体力がない……)」ウエエ
賢者「ああーん、もう歩けませんよっ!」ペタン
賢者「どーして勇者様の仲間になるために旅をしなきゃならないんですかー!」
賢者「私の噂を聞き付け、勇者様の方からやってくると思ったのにィー」ジタバタ
454
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:47:14 ID:hLKs.Q/6
村 砂浜――
魔法使い「(あー、ばかばかばか。私のばか。どうしてあんなこと言っちゃったんだろう)」
魔法使い「(言えばどうなるかなんてわかっていたのに……)」
男の子「うおお! これで最後だ、魔王。超必殺奥義、バーニングブレードォ!!」ブンッ
男の子の弟(以下、弟)「ぐわあああ、やーらーれーたー!?」バタン
男の子「ワッハハッ!! 参ったかー!!」
魔法使い「(村の子供? はぁ、のんきなものね……)」
男の子「じゃあ、もっかい最初からいくぞー!」
弟「えーっ! また僕が魔王役なのー!? かわってよ、兄ちゃん!」
男の子「これが終わったらな!」
弟「そう言ってもう三回連続でやってるじゃん!!」
男の子「まだそんなにやってないだろ!!」
魔法使い「(喧嘩になりそうな雰囲気。止めなきゃ駄目なのかな。大人として)」ヤダナァ
455
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:49:19 ID:hLKs.Q/6
魔法使い「ねえ、かわってあげたら。私が言うのもあれだけど、お兄ちゃんなんでしょ?」
男の子「だ、誰? 旅の人?」
魔法使い「まあ、そんなところ。――で、どうなの? 勇者役かわってあげるの? あげないの?」
男の子「ゆうしゃー? 違うよ。これはね、紅蓮の剣士だよ!」
魔法使い「剣士って、あれアイツの真似だったんだ。似てなさ過ぎじゃない……?」
弟「え!? お姉さん、本物知ってるの?」
魔法使い「知ってるっていうか、んまぁ……」
弟「あー、わかった。剣士の仲間なんでしょ!」
男の子「嘘言うなよ。剣士に仲間なんかいなかっただろ!」
弟「嘘じゃないし。海賊姉ちゃんが昨日言ってたもん。剣士とその仲間を連れてきたって!」
男の子&弟「「どうなの!?」」ジッ
456
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:51:13 ID:hLKs.Q/6
魔法使い「どうって…… 仲間、だったのかな?」
弟「ほらー!」
男の子「えーっ!? じゃあさ、どうだった俺の剣士? 仲間から見てどうだった?!」
魔法使い「だから似てないって言ったでしょ。アイツ魔法剣なんて使えないもの」
男の子「えーっ!? ならマジの必殺技教えてよ。カッコイイのあんでしょー!?」
魔法使い「さっきのバーニングーみたいな? ないわよ」
男の子「えーっ!? 嘘だぁー!!」
魔法使い「ほんとだって。嘘言ってどうするのよ」
男の子「そんなのやだー。剣士になれないじゃーん!!」
魔法使い「なれないって――ああ、ごっこ遊びが出来ないって事ね……」
457
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:53:37 ID:hLKs.Q/6
男の子「必殺技ないんじゃつまんないよ。たあ!とりゃあ! で、魔王倒してもなー」
魔法使い「じゃ普通に勇者ごっこやりなさいよ。魔法とか神雷剣とか派手なのあるわよ」
男の子「勇者やだよ。魔王にやられた敗北者じゃん。ダサいよ!」
魔法使い「ダサいって……」
弟「うん、ダサい。今のトレンドは剣士だよ。勇者と違って強くてカッコイイもん!」
魔法使い「見た事ない癖に。本人にあったら幻滅するわ、絶対」
男の子「嘘だ。絶対にカッコイイよっ!!」
魔法使い「カッコ悪いわよ。頑固で負けず嫌いだし。それに馬鹿なのよ。賢そうに見えるけど、とんでもない馬鹿!」
男の子「え、えぇー……」
魔法使い「ほんとなんだから。そう、ほんと嫌になっちゃう……」
458
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:57:28 ID:hLKs.Q/6
男の子の姉(以下、姉)「あー、アンタ達こんなところで油売ってー!?」グワッ
弟「お、姉ちゃんだ!」コソッ
男の子「やっべ忘れてた!?」コソッ
魔法使い「え!? ちょっと私の後ろに隠れないでくれる!?」アセッ
姉「もー、人様に迷惑かけてんじゃないの。ていうか、山菜はどうしたのよ。その様子じゃまだなんでしょ!」
魔法使い「貴方達、お使い頼まれてたの?」
男の子「そ、そうだったかも……」
姉「本当にすみません。弟達がご迷惑を」ペコペコ
魔法使い「それより大丈夫なの? この子達だけに行かせるなんて」
姉「え?」
魔法使い「危なくない? 魔物とか……」
姉「ええ、全然。あの森には魔物がいないんで」
魔法使い「そう。珍しいわね、魔物がいない森なんて……」
459
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 21:00:35 ID:hLKs.Q/6
男の子「あーあ、もうちょっと遊んでたかったなぁー」
弟「また剣士やれなかったじゃん。酷いよ、兄ちゃん!」
姉「無駄口叩いてないで行くよ。ほら、かご持って!」
男の子「姉ちゃんもついてくるのーっ!?」
姉「当然でしょう。遅れた分を取り戻さないと!」
弟「兄ちゃんのせいだかんね!」
男の子「お前だって忘れてた癖にー!!」
姉「――それじゃ、私達行きますね。弟達の面倒を見て下さってありがとうございます!」
魔法使い「ま、待って。私もついて行っていいかしら?」
姉「え? 構いませんけど……」
魔法使い「あ、えと、実は私も山菜欲しくって」
姉「そうだったんですか。わかりました。では案内しますね。ついてきてください!」
460
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 21:03:47 ID:hLKs.Q/6
短いですが今日はここまで。次はもっと早くあげられると思います。
待ってくれた方がいただなんて、嬉しいですね。ありがとうございます
461
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/31(木) 22:14:13 ID:elQ1uY.s
乙
462
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:29:51 ID:x8iBVuc.
海辺の森――
魔法使い「(ここが魔物のいない森か。確かにとても澄んでいる。まるで私が住んでいた森のよう……)」
魔法使い「(あ、もしかしてここがそうなのかしら? 以前お婆様が住んでいたっていう)」
魔法使い「(心配で付いてきちゃったけど、これならその必要もなかったな)」
姉「綺麗なところでしょう?」
魔法使い「ええ。本当に魔物もいないみたいだし、よかったわ」
姉「さあ、どんどん採っちゃいましょう。日が暮れたら流石に危ないですからね!」
男の子「トカゲだ、待てー!」ダダッ
姉「もー、また遊んで。何しに来たかわかってる!?」
男の子「少しくらいいいじゃん。ケチー!」チェッ
魔法使い「ふふっ、お姉さんというよりお母さんね」
姉「あはは、そうかも知れませんね。祖父も祖母もあの子達に甘くって」
463
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:30:48 ID:x8iBVuc.
魔法使い「ご両親は?」
姉「父と母は私が幼いころ事故で亡くなってしまって」
魔法使い「そうだったの。ごめんなさい」
姉「大丈夫です。気にしないで下さい。今は祖父母がいるこの村で楽しくやってます」
姉「村の人達も海賊さん達も暖かくって寂しさなんて感じた事がありません!」ニコッ
魔法使い「そう。ならよかったわ」
男の子「みてみてー、キノコ見つけた。これ食えるかなー?」タタッ
姉「え? んー、どうなんだろう? お婆ちゃんに聞いてみないと……」
魔法使い「あ、それ食べられるわよ。確か汁物に合うんじゃなかったかしら?」
姉「おおーっ!! 詳しいんですね!」
魔法使い「ま、まあね。一応、森育ちだし////」テレッ
464
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:31:41 ID:x8iBVuc.
男の子「じゃ、もっと採ってくる。あっちにいっぱいあった」タッ
弟「待ってよ。僕もいくー!」タッ
姉「あー、もう! あんまり遠くまで行かないでよ!!」
男の子「わかってるよー!」
姉「ハァ、もうちょっとしっかりしてくれたらなぁ……」
魔法使い「あれくらいの男の子はあんなものじゃない? もう少ししたら落ち着くわよ」
姉「だといいんですけど……」アハハ
魔法使い「(この子、とってもお姉ちゃんしてるな。それに比べて私は……)」
魔法使い「(あの子に姉らしいことしてあげたこと一度でもあったかな?)」
465
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:32:45 ID:x8iBVuc.
数時間後――
姉「チビども遅いな。ほんと、どこまで行っちゃったんだろう?」キョロキョロ
魔法使い「探してくるわ。行き違いなっても困るし、貴女はここで待っていて」
姉「それなら私が……」
魔法使い「こう見えて人探しは得意なの。任せて大丈夫よ」
姉「本当にいいんですか?」
魔法使い「ええ、もちろん」
姉「それじゃお言葉に甘えて。よろしくお願いします」ペコッ
魔法使い「すぐ戻るわ」タッ
姉「本当に身軽。冒険者ってみんなああなのかな?」
466
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:34:02 ID:x8iBVuc.
海崖――
男の子「うおお、すげぇー! お前もこっち来て見てみろよ」
弟「そんなとこに立って危ないよ。落ちたらどうするのさ!」
男の子「ヘーキだって。兄ちゃんが掴んでてやるから」
弟「ほんと? じゃ、じゃあ……」トコトコ
男の子「どうだ、凄いだろ。これ、波で削れて崖になったんだってさ」
弟「へ、へぇー」ビクビク
男の子「……わっ!!」トンッ
弟「うわあああ!!??」ビクンッ
男の子「アハハ、玉がヒュンってなったろー!」ゲラゲラ
弟「兄ちゃんの馬鹿ー!!」
男の子「怒んなよ。ちゃんと掴んでてやったじゃん」
467
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:35:49 ID:x8iBVuc.
魔法使い「やっと見つけた。こんな遠くまで。駄目って言われてたのに――って!?」
魔法使い「なにしてるの。落ちないでよ!?」
男の子「大丈夫、ヘーキヘーキ!」
魔法使い「ほんとに?」
弟「ねえ、そろそろもう戻ろうよ。怒られちゃうよ」ガクガクッ
男の子「んもー、しょうがないな」
弟「うん。そうしよ――って、うあ!?」ツルッ
男の子「おい、馬鹿!!」ガシッ
弟「あ、あぁ……!」ブラーン
男の子「手、絶対に離すんじゃないぞ!」ガッ
魔法使い「だから言ったのに…… お願い間に合って!」タンッ
男の子「うぐっ……」ズルズル
468
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:36:47 ID:x8iBVuc.
魔法使い「意外と遠い!? というより足場が悪いのか、走りにくい……」ダッ
バッサバッサ!
魔法使い「(後方から羽音!? 音からしてかなりの大きさ。それも聞き覚えのある……)」
鳥の魔物「ピーッ!」バサッ
魔法使い「あれは魔物!? どうしてここに。それもこのタイミングで!?」
魔法使い「(くっ、速い。あっという間に追い越された。このままじゃあの子達が……!)」
男の子「だ、駄目だぁ……」パッ
魔法使い「もう離しちゃったの、嘘でしょ!?」
弟「うわああああ!!??」ヒューッ
鳥の魔物「ピーッ!!」パクッ
弟「え?!」
魔法使い「なっ!? 落ちた子供を助けたっていうの、魔物が!?」
469
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:38:32 ID:x8iBVuc.
弟「と、飛んでる!?」
男の子「え? えっ!? なんで厳つい鳥に食われてんの?」
魔法使い「(降りてくる気配はない。助けたわけじゃなく、単に襲っただけ?)」
弟「お、おろしてぇー!!」
魔法使い「考えるのはあと。こっちにきた。なら撃ち落としても!」キラン バシュッ
鳥の魔物「ピギャー!!」ズシュー
弟「うああああ?!」ヒュー
魔法使い「捕まえた!」ガシッ
弟「た、助かったの?」
魔法使い「ええ。怪我はない?」ニコッ
弟「うわあああん」
470
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:40:13 ID:x8iBVuc.
男の子「ありがとー、弟を助けてくれて!」タッタッ
魔法使い「どういたしまして。どこも怪我していないみたいだし、本当によかったわ」
男の子「ねえ、さっきのなに? バシューって!」
魔法使い「なにって風の魔法で魔物の翼を切り裂いただけよ」
魔法使い「それより気をつけなさいよ。今回は運よく助かったからいいものの」
男の子「あ、ごめんなさい。もう近寄らないよ……」
魔法使い「べつに二度と近寄るなとは言ってないわ。ただ、今度見に行くときは――」
魔法使い「そうね。弟君をしっかり支えられるくらい強くなったときにしなさいってだけ」
男の子「え!? 強くなったらいいの?」
魔法使い「強い人は落ちないし、落ちそうな人を助かれるからね。それまで我慢しなさいよ。約束できる?」
男の子「うん、わかった。約束する!」
魔法使い「じゃこれからはお姉さんの言う事もよく聞くのよ。強い子は他人に迷惑をかけないもの」
男「えー!? うー、わかった。約束だもんね」
魔法使い「戻りましょうか。お姉さんが首を長くして待っているわ」
471
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:41:27 ID:x8iBVuc.
夕方 海辺の森――
姉「おっそーい! どこまで行ってたの!?」オコッ
男の子「ご、ごめんなさい」ペコッ
姉「あれ? やけに素直。何かあったの?」
魔法使い「ちょっと怖い思いをしただけよ。ちゃんと反省してるし、今日のところは許してあげて」
姉「え? わかりました。そういう事でしたら、まぁ……」
男の子「あのこと姉ちゃんに言わないの?」コソッ
魔法使い「言ったところで余計心配させるだけだもの。それに強くなるまで近寄らないって約束もしたんだし必要ないでしょ?」
魔法使い「それともお姉ちゃんに怒られたかった?」フフッ
男の子「そ、そんな事ないし!」ブンブン
472
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:42:43 ID:x8iBVuc.
漁村――
姉「今日は本当にありがとうございました」
魔法使い「こちらこそ。こんなに山の幸もらっちゃって、本当にいいの?」
姉「是非もらっちゃってください。弟達の面倒を見てくれたお礼です!」
魔法使い「そう、ありがとう」ニコッ
弟「魔法使いのお姉さん、今日は本当にありがとう!」
男の子「俺、絶対約束守るよ!」
魔法使い「うん。じゃ、またね。楽しかったわ」ノシ
バイバーイ
魔法使い「……」
473
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:44:50 ID:x8iBVuc.
魔法使い「(これは一体どういう事?)」
魔法使い「(偶然あの森に迷い込んだ魔物が、何かの気まぐれで遠くて狙いにくい落下寸前の子供を襲ったと?)」
魔法使い「(まさか、あり得えない。どこか故意的なものを感じる)」
魔法使い「(あの魔物が人間の子供を助ける為に動いていたのは明らか。けど、それは魔物の意志では絶対にあり得ない事――)」
魔法使い「(そうなると何者かの指示でそう動いていたと考えるのが自然。では誰が?)」
魔法使い「(私が知る限り魔物を意のままに操る事が出来るのは魔族だけ――)」
魔法使い「(魔族が人間を助けたっていうの? それはそれで不自然よ。助ける理由がない)」
魔法使い「(……考えても無駄ね)」
魔法使い「(今あの森に異変が起こっている。それがわかっただけでも十分――)」
魔法使い「(本当に魔族がいるのだとしたら、そいつを捕まえて吐かせればいいだけの話)」
魔法使い「(とりあえず、この事を剣士に知らせ……)」
魔法使い「!?」
474
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:46:37 ID:x8iBVuc.
甲板 夜――
ガヤガヤ ワイワイ
武闘家「おう、やってる?」
剣士「まあ、それなりに」
武闘家「それなりって。もっと楽しもうぜ。俺達の歓迎会なんだしよ」
剣士「わかってはいるんだが、どうもな」
武闘家「なんかあったんか?」
剣士「あ、いや、口下手なものでね。苦手なだけだ」
武闘家「そんな事ないだろ」ハハッ
剣士「どうだろう?」
武闘家「あ、そうだ。一つ聞いてもいいかな? 気になってた事があってさ」
剣士「?」
475
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:48:54 ID:x8iBVuc.
武闘家「剣士殿って勇者と契約してるのか?」
剣士「え? どうしてそう思う?」
武闘家「だって超強いじゃんか。他種族の血が流れてるってわけでもないんだろう?」
剣士「ああ。勇者との契約だって――」
武闘家「してんのか、やっぱ?」
剣士「いや、しなかったよ。そんな話もあったにはあったんだが……」
武闘家「してないのかよッ!?」
剣士「してたとしても勇者が死んだら契約も何もないだろう?」
武闘家「あー、そっか! ――ん? さっき契約の話があったって言ったよな」
武闘家「なんでしなかったんだ。もしかして勇者に負けた事が関係すんのか?」
剣士「どうしてそれを? って、魔法使いしかいないか……」
476
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:50:58 ID:x8iBVuc.
武闘家「山賊と間違われて襲われたんだろ、勇者に」
剣士「懐かしいな。あれからもう三年も経つのか……」
武闘家「ていうと、いくつよ?」
剣士「俺が十七で、勇者が十三歳だったかな」
剣士「そう、俺はまだ勇者として目覚めていない覚醒前の彼女に負けたんだ。凄く悔しかったよ」
剣士「これが選ばれた者と選ばれなかった者の差なんだって思い知らされた」
武闘家「だったら尚更なんで。契約すりゃそんな勇者と同じ力を得られたわけだろ?」
武闘家「確かに女神には選ばれなかったかもしれない。けど、勇者には選ばれたわけで……」
剣士「だな。今はとても後悔しているよ。契約しなかった事を」
剣士「変な意地など張らずに仲間になっていたら、勇者を守れたのかもしれない。そう思うと、どうしてもな」
武闘家「あ……っ!」
剣士「こんなのはただの言い訳に過ぎないが、あの頃は思いもしなかったんだ。あの勇者が負けるなんて、夢にも」
477
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:59:57 ID:x8iBVuc.
剣士「俺が勇者を殺したなんて自惚れを言うつもりはないが、勇者になにもしてあげられなかった事に違いはなくて……」
武闘家「そんなことはねぇだろ。今はこうして立派に勇者の遺志を継いでるわけだしよ!」
剣士「それも怪しいもんさ。俺は呪術師の爺さんを殺せなかった。それどころか人魔の運命に同情すらしていた」
剣士「勇者なら迷うことなく爺さんを殺しただろう。人魔だって次代の為にと殲滅も誓ったはずだ」
武闘家「!?」
剣士「だが、俺には出来なかった。それが最良の選択だっただろうに……」
武闘家「爺さんを見逃しちまった事、後悔してんのか?」
剣士「いや。だが、これは俺の独善だ」
武闘家「そんな事ねぇだろ。どちらかが滅ばなければ終われないなんて悲しすぎるぜ……」
剣士「君も随分な理想家だな」
武闘家「いけないのか?」
剣士「さあ、どうなんだろうな?」
478
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/10(日) 00:55:20 ID:HqYvz/bw
乙
今後に期待
479
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:09:24 ID:MjQ0gRsI
海賊「なあに、どーしたの? 男二人で湿っぽいじゃない」
武闘家「いやいや、楽しくやってるよ。なあ剣士殿」
剣士「まあ、それなりに」
武闘家「それなりかよ!?」
海賊「ふふっ、今度はお姉さんと飲まない? サービスしちゃうよ」ムフフッ
剣士「え? ああ、それは構わないが……」
海賊「やった!」
武闘家「それじゃ俺はこの辺で失礼しようかな。お邪魔だろうしさ。まったなー!」タッ
剣士「おい?!」
海賊「気を使わせちゃったかな?」ウフフッ
剣士「……どうだろう?」
480
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:10:32 ID:MjQ0gRsI
海賊「ねぇ、何話してたの。武闘家君と?」
剣士「べつに。大したこと話してないよ」
海賊「むぅー、教えてくれてもいいのに。ちょっと冷たいんじゃなあい?」ムスッ
剣士「そんなつもりじゃ……」
海賊「あ、男子会って奴だ。ごめん、お姉さん気づかなくって。スケベトークは知られたくないよねぇ」ムフッ
剣士「ハァ……」
海賊「もう冗談だってば。怒らないでよ?」
剣士「いや、べつに。むしろそういう話をすべきだったんだなって勉強になったよ」
海賊「なるほど。そうきますか。んじゃ、お姉さんとスケベトークしちゃう?」
剣士「それはどうなんだ?」
海賊「んー、どうなんでしょ」ウフフッ
剣士「ハァ……」
481
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:12:22 ID:MjQ0gRsI
海賊「――にしても驚いたな。貴方に仲間がいたなんてさ。最近できたの?」
剣士「いや、随分長いよ。二人目の四天王を倒した頃にはもうみんなとは出会っていたし、魔法使いは旅を始める前からの付き合いだしな」
海賊「へー、そんなに。他のみんなも貴方と同じくらい強いの?」
剣士「どうだろう?」
海賊「まー、そうだよね。貴方と同じなんてそうそういないよね」ハハッ
剣士「あ、いや、魔法使いは凄く強いよ。今でこそ彼女と互角以上に戦えるようになったと思うが、出会った頃はまるで歯が立たなかった」
海賊「え!? 嘘だー!?」
剣士「本当だよ。彼女の扱う魔術は多彩でどれも強力で、それでいて身のこなしがとても軽やかなんだ」
剣士「初めて戦ったときこんな魔導師いるのかよって涙目になったっけな」
海賊「貴方が?」
剣士「ああ。笑っちゃうだろう?」
海賊「でもなんか安心しちゃった。貴方にも頼れる仲間がいたんだなーって」
剣士「頼れる仲間、か……」
482
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:16:03 ID:MjQ0gRsI
海賊「仲間の噂聞いた事なかったからさ。それにね、昼間に貴方と戦って感じたの」
海賊「この人は単独での戦いに慣れ過ぎている。もしかして仲間を頼ってないのかなって」
剣士「よく見ているな。いや、船長やってるんだから当然か……」
海賊「え?」
剣士「実際その通りなんだろうな。俺は仲間を頼ってない」
海賊「でも魔法使いさんは強いって……」
剣士「ああ、強いよ。でも俺は頼らなかった」
海賊「どうして?」
剣士「どうしてだろうな? 状況がそれを許さなかったのか、それとも無意識のうちに庇っていたのか……」
海賊「庇っていた?」
剣士「俺のエゴさ。仲間を危険な目にあわせたくないという……」
海賊「それで、か」
剣士「最低だよな、本当に。何が仲間だよ。魔法使いが怒るのも無理ないな……」
483
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:18:42 ID:MjQ0gRsI
海賊「まあまあ。わかったんだからいいじゃない。これからでしょ? ね?」
剣士「……」
海賊「よし、そういう事ならお姉さんが慰めてあげる」オイデー
剣士「俺は子供じゃない。――それよりそっちはどうなんだ?」
海賊「ん? 私達は大丈夫よ。ちょっと船長さんが舐められすぎてるくらいなもんで」ハハッ
剣士「あれは単に君に甘えているだけだと思うが?」
海賊「そお?」
剣士「もう少し厳しく接してもいいかもしれないな」
海賊「んー、厳しくか。してるつもりなんだけどねぇー」
剣士「あれで?」
海賊「あうっ、人に強く言えない性格なもので……」タハハッ
484
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:21:13 ID:MjQ0gRsI
剣士「なるほど。その隙を付け込まれているというわけか。船長に向いているんだか、向いていないんだか」
海賊「お耳が痛い話だぁー……」
剣士「すまない。まあ、俺も人の事を言える立場じゃないんだけどな」
海賊「ふふっ、お互い頑張ろうか。継ぐもの同士さ」
剣士「ああ、そう言えば二代目なんだっけ?」
海賊「そおだよ。この団は無責任な姉から引き継いだの」
剣士「無責任?」
海賊「うん。うまいことやって海賊団を立ち上げたのはいいものの。姉は理想と現実の違いに凹んじゃって逃げちゃったのよ。私達を置いてね」
剣士「それに責任を感じて、貴女が船長に?」
海賊「それもあるけど、私は好きだったから。海賊団のみんなが。解散するのが寂しかったんだと思う」
海賊「ねえ、貴方はどうして勇者の遺志を継ごうと思ったの?」
剣士「それは……」
485
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:25:25 ID:MjQ0gRsI
翌日 宿屋前――
武闘家「もっと腰に力を入れるんだよ、腰に!」
占い師「いや、無理だって!!」
魔法使い「何してるの、こんな早朝から」
武闘家「見ての通り修行だよ!!」
魔法使い「丸太を引っ張る事が??」
占い師「貴女からもこいつに言ってよ。魔導師がこんなことやっても意味ないって!」
武闘家「何言ってんだ。基礎体力つくりは魔導師だろうとやらなきゃ駄目だろ!」
占い師「最初から飛ばしすぎなんだよ!!」
武闘家「んな事わかってるよ。でも宿屋の薪が足りないって話聞いたからついでにいいかなーって」
魔法使い「森からここまで運んできたの!?」
占い師「そうだよ。もー、最悪ぅー!」
486
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:28:16 ID:MjQ0gRsI
宿屋「あらー、本当に持ってきてくれたの? 言ってみるものだねぇ。ありがと」フフッ
武闘家「いえいえ。これも修行ですから!」
占い師「もう無理。ちょっと休ませて……」バタッ
武闘家「おう。ここまでよく頑張ったな。俺が薪割りしてる間休んでていいぜ」
魔法使い「貴方達、あの森に行ったのよね?」
武闘家「そうだけど?」
魔法使い「どうだった?」
武闘家「どうって言われても――どうだった?」チラッ
占い師「え?! とくに変わったところはなかったと思うけどぉ?」
魔法使い「そう……」
武闘家「何かあったのか?」
魔法使い「昨日、魔物が現れたのよ。あの森に一羽だけね」
487
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:30:45 ID:MjQ0gRsI
占い師「あー、たまにいるよ。迷い込んでくるのが」
占い師「でも魔物たちにとってあの森は居心地悪いみたいで住みつかないんだよね。だからすぐ出ていくと思うよ」
魔法使い「らしいわね。昨日、操舵手さんにも同じことを言われたわ」
武闘家「て、事はまだ何かあるって魔法使いさんは思ってんのか?」
魔法使い「警戒するに越した事はなくない?」
武闘家「だな。昨日って事は俺達がここに訪れてからっぽいし、あるかもしれねぇな」
魔法使い「だからこれから調査に行こうと思ってるんだけど……」
武闘家「なら俺達も一緒に行くぜ」
魔法使い「あ、待って。こういうのは一人で動いた方が目立たなくていいと思うの。任せてもらってもいい?」
武闘家「危ないだろ、流石に一人は。――あ、そうだ。剣士殿と一緒に行ったらどうよ?」
占い師「うん。それがいいよ。あの人強いし、こいつと違って目立つような馬鹿な真似しないだろうし」
武闘家「ひでぇ。否定はしねぇけど」
魔法使い「そ、そうね。誘ってみるわ」
武闘家「じゃ頼んだぜ。俺達はここで修行してるからよ。何かあったら呼んでくれ!」
488
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:50:25 ID:WyefLReY
宿屋 部屋前――
魔法使い「(あの森に魔物が迷い込むのはよくある事か。やはり魔物が現れた程度じゃここの人達は驚かないようね)」
魔法使い「(でもそれでよかったのかもしれない。私の推理が正しければ、この不可解な事件に魔族が関わっている)」
魔法使い「(そうであるならこの事件に関わる人間は少ない方がいい。相手に敵意があるにしろないにしろ、面倒になるのは目に見えている)」
魔法使い「(ここの人達が魔族に寛容になれるはずもなければ、魔族と戦える力を持っているはずもない)」
魔法使い「(いや、力がないのは私も同じか。剣士のように魔族と戦えるわけじゃない)」
魔法使い「(四天王クラスともなれば確実に命を落とす……)」
魔法使い「くっ!」ギリッ
魔法使い「(わかってる。個人的な感情を挟んでいいときじゃない。武闘家の言う通り、アイツを頼るべき)」
魔法使い「(そうよ。それに昨日の事を謝るいい機会じゃない)」
489
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:51:55 ID:WyefLReY
魔法使い「ふぅー…… よし!」
コンコンッ
魔法使い「私よ。話があるんだけどいい?」
シーン
魔法使い「いないの?」
ガチャ
魔法使い「鍵あいてる。入っていいのかな。んー、いいや入っちゃえ!」タッ
剣士「」zzz
魔法使い「寝てるの?」
剣士「すーすー」zzz
魔法使い「みたいね。――にしてもだらしない。もしかして昨日の宴会で酔いつぶれた?」
魔法使い「部屋の鍵をかけ忘れてた事といい間違いなさそうね」ハァ
490
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:53:52 ID:WyefLReY
魔法使い「真面目なこいつがこんなになるまで飲むなんて一体何があったのかしら?」
魔法使い「もしかして私のこと少しは気にしてくれたのかな?」
魔法使い「でもそれはそれで酷い話よ。お酒に逃げるなんて。……突っついちゃえ」エイッ
剣士「う、うーん……」ゴロンッ
魔法使い「久しぶりに貴方の間抜け面を見た気がする。最近ずっと険しい顔ばかりで……」
魔法使い「そりゃそうか。ずっと一人で戦ってきたんだもの。気が休まる時なんかなかったよね」ソッ
剣士「すーすー」zzz
魔法使い「馬鹿だな、私。自分の事ばかりで、貴方の事を何一つ考えてなかった。貴方が不器用な人だって誰よりも知っていたのにね」
魔法使い「ごめんなさい。調査には私一人で行ってくるわ」
魔法使い「いいよね? 貴方だって前にそうしたんだもの。今度は私に確かめさせてよ」
魔法使い「貴方の傍にいられるだけの力が私にあるかどうかを……」
魔法使い「じゃ行ってくるね。心配だろうけど信じて待ってて」
魔法使い「必ず帰ってくるから。その時、また話しましょう」
バタンッ
491
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:55:03 ID:WyefLReY
昼 宿屋付近――
占い師「うわーん、疲れたよぉー!」バタンッ
武闘家「んじゃ、そろそろ飯にすっか。きっと賢者がなんか作ってくれてるはずだぜ」
宿屋「あら残念。賢者ちゃんならまだ帰ってきてないわよ。海賊さん達のところにお料理教えに行ったきりね」
武闘家「マジかよ!?」
宿屋「おばちゃんが作ったご飯ならあるんだけど、よかったら食べない?」
武闘家「え!? いいんですか?」
宿屋「もちろん。賢者ちゃんに比べたら味は落ちるかもしれないけどね」フフッ
武闘家「やったぜ。ありがとうございます」
占い師「え゙!?」
宿屋「占い師ちゃんも食べてくでしょう?」ニコッ
占い師「あ、はい……」
武闘家「ん??」
492
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:56:43 ID:WyefLReY
宿屋――
武闘家「(んだこれ、クッソ不味いな。どれも味付けが甘ったるいっていうか……)」ベチャ
占い師「だから嫌だったんだよ。知らないだろうけど、ここじゃ有名なんだ。おばちゃんのメシマズは!」ボソッ
武闘家「そういう事はもっと早く言えよっ!」コソッ
占い師「言えっこないじゃん。本人は自分が料理上手だと思ってるんだから!」ボソッ
武闘家「ババアあるあるじゃねぇーか!」コソッ
宿屋「料理はたくさんあるから遠慮しなくって大丈夫よー」ニコッ
武闘家「うわっ、うわーいッ!!」アハッ
占い師「言ったんだからちゃんと食べてよ。僕の分も」スッ
武闘家「おい。ババアに隠れてこっちの皿に入れてんじゃねぇーよ!」
宿屋「ん? どうしたの?」クルッ
武闘家「なんでもないですよ。んー、食べ応えあるぅー」モグモグッ
宿屋「若い子はよく食べるわねぇ」フフッ
武闘家「お、おぉ……」プルプル
493
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:59:16 ID:WyefLReY
占い師「てかさ、これで本当に強くなれるの? なれる気がしないんだけどぉー」ブーブー
武闘家「やらないよりいいだろ。つーか食えよ……」
占い師「だけどさぁー」
武闘家「諦めんなよ。てか、まだ一日もやってねぇじゃん」
占い師「何日やってもおんなじ気がする。才能ないんだよ、僕」
武闘家「才能ねぇー」ハンッ
占い師「事実そうでしょ。剣士も勇者も天賦の才があるから……」
武闘家「どうだろ。剣士殿はちょっと違うんじゃねぇかな?」
占い師「どう違うのさ?」
武闘家「確かに才能もあるんだろうぜ。だけどそれだけで戦えるほどやわな相手でもねぇよ、魔族もおそらく勇者も……」
占い師「え?」
武闘家「俺が思うに、剣士殿の強さの真髄は強靭な精神力だ。あの人はどんな絶望的な状況だろうと決して諦めない――」
武闘家「生きている限り挑み続ける。そんな狂気とも呼べる覚悟を持ってるから強いんだ」
494
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:02:53 ID:p1JNQnJg
占い師「なにそれ、怖い……」
武闘家「えっ?!」
占い師「要するに死ぬまで戦い続けるって事でしょ。そんなの狂ってるよ」
占い師「それに精神論なんか持ち出されてもなぁ。信じられないっていうか……」
武闘家「魔法を使う奴の言うセリフかよっ!?」
占い師「僕はもっと簡単で楽に強くなりたいよ!」
武闘家「んな気持ちでいるから駄目なんだって。どうして頑張れない。頑張ろうとしないのよ!?」
宿屋「まあまあ、そこまでにしてあげて。捻くれたこと言ってるけど、貴方の言いたい事はちゃんとわかってるわ」
武闘家「ほんとかー?」
宿屋「ただ愚痴りたかっただけなのよね。ほんと素直じゃないんだから」
占い師「べつにぃー」
武闘家「んだよ、そういう事ならそう言えよ。ウンコ真面目に答えちまったじゃねぇか」
495
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:08:14 ID:p1JNQnJg
宿屋「あ、そうだ。二人はこんな話を聞いた事ない?」
宿屋「人の魂は、人の呼びかけによって覚醒する――っていうお話なんだけど」
占い師「唐突にどうしたの?」
宿屋「武闘家くんの話を聞いて思い出したのよ。昔、似たような詩を謳っていた旅人がいたなーって」
武闘家「どういう意味なんです?」
宿屋「意味? んー、そうね。人の想いが、人に力を与えるって事じゃないかしら?」
武闘家「そういう意味なの? 俺は覚醒だから、人の中に秘められた力が、人の祈りによって開花するとかかなーって思ったんだけど……」
宿屋「んじゃ、そっちかも」フフッ
占い師「いい加減だなぁー」
宿屋「どっちでもいいじゃない。どちらにしろ精神の話なんだし」
武闘家「まあ、そうっすね」
496
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:09:27 ID:p1JNQnJg
剣士「おはよう。てか、もう昼か……」タッ
武闘家「お、珍しいな。今起きたのか?」
剣士「ああ。どうやら昨日、飲み過ぎたみたいで……」フラッ
武闘家「ん? あれ? 剣士殿がここにいるって事は魔法使いさん一人か?」
剣士「一人? なんの話だ?」
占い師「森の調査だよ」
剣士「調査?」
武闘家「近隣の森に魔物が現れたらしくて魔法使いさんがその調査に。俺は剣士殿も一緒に行ったもんだと……」
剣士「出かけたのはいつだ」
武闘家「えっと俺が朝、薪割りをしてた時だから……」
剣士「朝? もう昼だろ。気になるな。――行ってくる」タッ
武闘家「ちょっと待った!」ガシッ
497
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:13:16 ID:p1JNQnJg
剣士「なんだよ!」イラッ
武闘家「まだ行ってないかも。出かけたのを見たいわけじゃないし、それに軽率な行動を取るような人じゃないだろ。一人で行くかな?」
剣士「行けばわかる」
武闘家「そりゃそうだけど……」
剣士「俺だって彼女を信じてる。だが、今の彼女は……」
宿屋「そうね。心配なら行ってあげるべきよ。何かあってからじゃ遅いんだし」
武闘家「あ、そうだよな。ごめんなさい、俺達行きます。飯の途中だけど……」
宿屋「そんなの気にしなくていいから。早く行ってあげな」
武闘家「はい。――って、剣士殿は!?」キョロキョロ
占い師「もう行っちゃったよ!」
武闘家「はやッ!?」
占い師「もたもたしてるから!」
武闘家「嘘だろ。待ってくれー」ガタッ
498
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/05/24(金) 21:48:30 ID:.RbfreIo
乙
499
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:19:19 ID:.p.l7n2A
海辺の森 崖――
魔法使い「(勇んで出てきたはいいけど、戦いになるような事はなさそうなのよね)」
魔法使い「(相手はおそらく呪術師のような何か複雑な事情を抱えた魔族だろうし)」
魔法使い「(けど、だからと言って野放しにしておけるものでもない。厄介なものね)」
魔法使い「(いや、厄介なのは私のこの面倒な性格の方か……)」フフッ
魔法使い「あ、やっとついた。ここだったかな、魔物と遭遇した場所は」
魔法使い「うん、あってる。で、海からではなく森の方から魔物が飛んできて――」
魔法使い「という事はこの先か……」ジッ
500
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:20:39 ID:.p.l7n2A
森の奥地――
魔法使い「随分ひらけた場所に出たけど、ここも反応なしか」キョロキョロ
魔法使い「そろそろ何かあってもいいと思うんだけど――」
魔法使い「ん? なに、この地面に描かれた模様は――って、これは魔法陣?」
魔法使い「ここで何かの儀式が行われていたってこと?」
魔法使い「にしてもかなり複雑。これだけの魔法陣を扱える相手となると、やはり……」
ガサガサ
魔法使い「!?」バッ
召喚士「あーあ、やっぱり来ちゃったかー。ガックシよ」
魔法使い「頭に角、そしてエルフのように長い耳。やはり潜んでいた……」ジッ
召喚士「ハロー、また会ったわね。魔導師のお嬢ちゃん」
魔法使い「という事は、やはり貴方が子供達を?」
召喚士「ええ、そうよ。アタシが魔物ちゃんに命じて子供を助けさせたの」
魔法使い「どうして魔族である貴方が?」
召喚士「不思議? まあ、不思議よね。理解できないのもわかるわ」ウンウン
501
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:22:42 ID:.p.l7n2A
召喚士「ねえ、人の悲鳴って興奮しない? それが自分で与えたものならより一層と」
魔法使い「何を、言っているの?」
召喚士「とくに子供の悲鳴なんて最高。ゾクゾクしちゃう」
魔法使い「まさか、貴方……」
召喚士「そうよ、だから助けたの。アタシ自身の手で再び殺す為に……」
召喚士「わかる? ここにいる人間どもの絶望は全部アタシものなの」
召喚士「困るのよね、勝手に死なれたりしたら。最高の死をプレゼントできなくなるじゃない!」
魔法使い「とんだ精神異常者ね」
魔法使い「もしかしたら呪術師のお爺さんみたいに…… なんて期待した私が馬鹿だった」
召喚士「え? 貴女、今なんて……?」
魔法使い「べつに。貴方には関係ないことよ」チャッ
召喚士「まあ、そうね。アタシは魔族で貴女は人間――敵同士だもんね!
502
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:23:39 ID:.p.l7n2A
召喚士「でもそれはお勧めしないわ。貴女じゃ絶対に勝てっこないし」
魔法使い「じゃ、やはり貴方も名を冠した特別な……」
召喚士「貴女、アタシが三魔将の一人、黒の召喚士だってわかってて……」
魔法使い「召喚士? なるほど。どうして澄んだ森に魔物がって不思議だったけど、そういう……」
召喚士「ええ、そういうこと。魔法陣を使ってこっちに呼び出してたってわけ」
魔法使い「――!」スッ
召喚士「無駄無駄。陣を乱そうったって遅いわ。もう呼んじゃってるから――」
召喚士「さあ出ておいで、アタシの最高の召喚獣ヒュドラーちゃん!!」
ヒュドラ「シャーッ!!」ズーン
魔法使い「九つの頭を持つ大蛇……!?」ジリッ
召喚士「この子はね、四天王にも勝るとも劣らない力を持ってるのよ。凄いでしょ?」
503
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:25:59 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(ふざけた見た目と言動の癖に情け容赦ないわね)」
魔法使い「(あれだけの魔物を召喚しただけでも恐るべき事実だというのに、それを自在に操る事も出来るのか……)」
召喚士「ンフッ、どうやら言わなくても伝わっていたみたいね。――で、どうする?」
魔法使い「どうって…… まあ、こうするよね!」タッ
召喚士「向かってくる、アタシにーっ!?」ビクッ
魔法使い「術者を直接叩く――貫け、氷槍ッ!!」バシュ
召喚士「ヒ、ヒュドラちゃん守って!!」
ヒュドラ「ウシャー!」シュババッ
魔法使い「くっ、防がれたか……」
召喚士「いい子ね、偉いわー!」ヨシヨシ
魔法使い「(やはり大蛇を支配下に置いていた。しかも意思伝達は素早く隙がない……)」
召喚士「よっと、これで護身完成。ヒュドラちゃんの背に乗ればもう安心ね!」スタッ
魔法使い「知性を備えた魔物か、どうする……?」ジリッ
504
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:27:21 ID:.p.l7n2A
召喚士「さてさて、どうしたものかしら?」チラッ
魔法使い「(背に乗られてはもう直接叩けない。長い九つの頭が邪魔すぎる。人の指先のように器用に動くし。あれでは例え背後に回れたとしても……)」ジッ
召喚士「おかしな子、戦う気満々なのね。どうして逃げないの?」
魔法使い「逃げる?」
召喚士「あの村には勇者気取りの剣士様がいるんでしょ。てか、そもそもどうして貴女一人でここに来ちゃったわけ?」
魔法使い「べつに……」
召喚士「可愛くないの。もっと自分の命は大切に扱った方がいいわよ?」
魔法使い「フッ、馬鹿ね。自分の命より大切なものがあるから人は戦うのよ」
召喚士「――っ!?」
魔法使い「私は逃げないわ。ここで貴方を倒し証明して見せる。アイツの仲間だって事を!」
召喚士「あらやだ、カッコイイじゃない……」
召喚士「じゃ、こっちももう遠慮なんかしないわ。覚悟なさい!!」
505
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:29:18 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(頭の数が減れば直接術者を叩ける、のなら――)」スッ
魔法使い「これでッ!!」バシュッ
ヒュドラ「グ、グシャーッ!!!??」スパーンッ
召喚士「あーん、ヒュドラちゃんの頭がーっ!?」
魔法使い「(よし、風の刃で首を刎ね飛ばせた。これを繰り返していけば、いずれ……)」
召喚士「流石ね。アタシの大鳥ちゃんを切り裂いただけのことはあるわ。でも――!」
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「頭が、再生した!?」
召喚士「あら知らなかった? ヒュドラちゃんは脅威の生命力を持つ魔物なのよ。頭を落とされたってすぐ再生しちゃうんだからん!」
魔法使い「伝説は本当だったってわけ。なら傷口を焼けばいい……」バッ
召喚士「そう簡単にいくかしら? 今度はこっちの番よ。毒の息吹を食らいなさーい!」ビシッ
ヒュドラ「シャウア!」ブワーッ
魔法使い「そんなもの!!」ボウッ
召喚士「嘘!? 炎で蒸発させた、毒の息吹を……っ!?」
506
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:30:44 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(火力は足りた。ならあれは怖くない。問題なのは……)」バッ
召喚士「だったら数で勝負。一斉に頭突きを浴びせちゃいなさいな!」ビシッ
魔法使い「(リーチを生かした四方からの連続攻撃か。上手く掻い潜れば術者に接近できるけど――)」チラッ
魔法使い「(やはり数本は自身の防衛用に残すか。今はまだ無理かな?)」タンッ
ヒュドラ「シャー!」ドドドドッ
魔法使い「(同士討ちを避けるように、こちらを狙ってくるのだから……!)」ヒラリッ
召喚士「躱してる、あれだけの攻撃を……? なんて身軽な。貴女、魔導師じゃないの!?」
魔法使い「王宮にいた頃は、ほぼ毎日馬鹿王子の無茶に付き合ってたからね。これくらい動けないと務まらないのよ。それに――」
魔法使い「攻撃を命じているのは知性を持つ人魔の貴方。本能で敵を察知し攻撃を仕掛ける魔物より遥かに躱しやすい」
召喚士「なっ!?」
魔法使い「それはいいんだけど、問題は――」バシュッ
ヒュドラ「グ、グシャーっ!?」スパーンッ
魔法使い「やった。でも、すぐに焼かないと……!」スッ
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「くっ、やはり間に合わない。再生速度がこちらの詠唱速度を上回ってる……」
507
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:32:31 ID:.p.l7n2A
魔法使い「ならば最初から炎で――ッ!」ボウッ
ヒュドラ「シャー!」キーン
魔法使い「まあ、そうよね。あの鱗に炎が通じるわけないか。やはり傷口でないと……」
召喚士「ヒュドラちゃん、なにしてるの。休まず攻撃して!」
ヒュドラ「ウシャー」ドドドドッ
魔法使い「くっ、なんとかしないといつかは……!」ヒラリッ
召喚士「(なんて恐ろしい子。側近様の秘術でヒュドラちゃんの再生能力を強化してなかったら確実に倒されてた……)」ゾッ
魔法使い「それ以外は通用するのに!」バシュ
ヒュドラ「グ、グシャーっ!?」スパーンッ
魔法使い「間に合えッ!」ボウッ
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「これじゃ本当にいつかはやられる……!?」
508
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:34:20 ID:.p.l7n2A
召喚士「無駄よ。もう諦めなさい。わかったでしょ?」
召喚士「見ての通りヒュドラちゃんの頭は一瞬で元に戻るわ。焼き殺すには、それこそ斬撃と同時に燃やさないと駄目――」
召喚士「この意味がわかる? 貴女一人じゃ絶対にヒュドラは倒せないって事よ!」
魔法使い「……!」ギリッ
召喚士「悔しそうね。でもこれがアタシと貴女の差。もう諦めて降参なさい」
魔法使い「(わかってた、そんなの最初から。魔術は才能がすべて。これが私の限界……)」
魔法使い「(どう足掻いても私じゃ大蛇の再生速度は上回れない。炎を唱える前に再生されてしまう)」
魔法使い「(だけど、それがなんだっていうのよ!)」
魔法使い「(アイツはいつだってこんな絶望的な状況でも勝ちを拾ってきた。誰かを守りたいという想いだけを武器に……)」
魔法使い「(負けたくない。アイツにも、自分自身にもッ!)」
魔法使い「くっ!!」
509
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:36:56 ID:.p.l7n2A
召喚士「動きが止まった? やっと悟ったようね」
魔法使い「ええ、本当にね」ポイ カランカラン
召喚士「そう、それでいいのよ。抵抗するだけ無駄無駄。勝てっこないんだから」
魔法使い「何を勘違いしているの? 杖を捨てたのは貴方に勝つ為よ」
召喚士「はあ?」
魔法使い「教えてあげる。杖は二重詠唱に向かないの。性質上、杖先一点にしか魔力が集中しないから」
召喚士「二重って、貴女まさか……っ!?」
魔法使い「簡単な事だった。詠唱が間に合わないなら、同時に唱えればいいだけ――ッ!」
召喚士「左手に風、右手に炎ですってぇーッ!?」
魔法使い「(魔力が乱れる。でも出来ないわけじゃない。今までずっとやってきた基本を左右同時にやるだけ……)」
魔法使い「(集中しろ。詠唱速度は落ちたっていい。同時に放つことさえ出来れば――)」
魔法使い「勝てるのだからッ!!」シュバ ボウッ
ヒュドラ「グ、グシャーッ!?」ズバーン!
510
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:39:13 ID:.p.l7n2A
召喚士「頭が再生しない。燃やされた。嘘でしょ……っ!?」
魔法使い「ありがとう。貴方の言葉がヒントになった」
召喚士「こ、この子……」
魔法使い「あと八つ、それで貴方に辿り着ける……!」ジッ
召喚士「まだよ。行きなさい。二重詠唱しながらじゃ流石に回避は無理でしょー!?」
魔法使い「舐めないで!」ヒラリッ バシュ ボウ
ヒュドラ「グシャー!??」ズバーン
召喚士「回避と同時に頭を……!?」
魔法使い「向かってくるならむしろ好都合。このまま残り全部潰してあげる」バッ
召喚士「なんなの? 貴女、一体なんなのよっ!?」オドッ
魔法使い「はああ!!」タッ ズバーン
召喚士「燃やされていく、アタシのヒュドラちゃんが……っ!?」
魔法使い「これで頭はあと六つ――、勝てるッ!」バッ
511
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:40:56 ID:.p.l7n2A
召喚士「(駄目、勝てない。こちらの動きは完全に読まれているし、どうすれば……)」
魔法使い「ぐぅっ!!」ハァハァ
召喚士「?!」
召喚士「(そりゃ疲れるわよ。動きまりながら正確に魔法を撃ち込んでいくんだもの。それも慣れていないであろう二重詠唱を使って……)」
召喚士「(この勝負、やっぱりアタシの勝ちね。最後まで持つわけがない。持ってもヒュドラを倒すまでが限界――)」
召喚士「(そしてその瞬間こそがアタシにとって最大のチャンスとなる……!)」
魔法使い「あと一つ!!」バッ
召喚士「(ヒュドラちゃん今までありがとう……っ!)」
ヒュドラ「グシュアアア!!」ズバーン ズゥゥン!
魔法使い「よし……!」フラッ
召喚士「今なら隙だらけ、ここでアタシ自ら勝負に出れば――!!」ダンッ
魔法使い「しまった……?!」ビクッ
召喚士「無駄よ、無駄ッ! 貴女の詠唱速度はもう十二分に理解した。間に合わないわ!」
512
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:42:48 ID:.p.l7n2A
魔法使い「なーんちゃって」ニヤッ
召喚士「えっ、嘘? 足先に魔力が集まってる――、三重詠唱だったっていうのッ!?」
魔法使い「ぶっ飛んじゃえーっ!!」バシーン
召喚士「ぐああああーっ!!」ズテーン
魔法使い「もう駄目。流石に身体が……」ガクッ
召喚士「ぐはっ、ほんと可愛くない。今の真空魔法は効いたわ。けど、それが最後みたいね」
魔法使い「くぅ、あれでは足りなかったか……!」ギリッ
召喚士「アタシも随分痛めつけられちゃったけど、今の貴女に止めを刺すくらいはできるわ。やっぱりこの勝負アタシの――」
魔法使い「ふふっ、そろそろ口を閉じたら。恥かくわよ?」
召喚士「強がり言っちゃって。どう見たってもう……」
魔法使い「来るならもっと早く来なさいよ。バァーカっ!!」
召喚士「誰に言って……」クル
剣士「――!」ザカッ
召喚士「紅い髪は、紅蓮の……っ!!??」ビクンッ
剣士「ただで済むと思うなよ」チャキッ
513
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/02(火) 09:54:24 ID:kihaXQ.s
乙
514
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:03:49 ID:SGyVAJO6
召喚士「こ、殺されるっ!?」ガタガタ
魔法使い「待って。このオカマに聞きたい事があるの!」
剣士「大丈夫なのか?」
魔法使い「うん、なんとか……」ヨロリ
召喚士「なによ、アタシに聞きたい事って?」ジリッ
魔法使い「どうして人間の子供を助けたの?」
召喚士「はあ!? 答えたでしょ、それは……」
魔法使い「それはおかしいのよ。自身の手で殺したいだけならあの場で殺してもよかったはず――」
魔法使い「仮にそのヒュドラで村共々滅ぼしたかったって言うなら、それもおかしい」
魔法使い「私がここを見つけた時にはもう既にヒュドラは召喚されていた。それはつまり村を襲う準備は出来ていたという事」
魔法使い「機会を待っていたっていうのもなしよ。襲うなら宴会を開いていた昨晩が絶好のチャンスだった」
515
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:05:33 ID:SGyVAJO6
召喚士「勘違いしないでくれるかしら。ヒュドラはね、今朝ようやく召喚できたの。間に合わなかっただけよ」
詩人「見苦しいな。いい加減認めたらどう?」フフッ
剣士「アンタは?!」
詩人「やはり人魔は戦いに向かないな。エルフから教わった秘術の力をもってしても、その軟弱な精神までは克服できなかったか……」
召喚士「何を言ってるの。貴方だってアタシと同じ三魔将でしょうに…… ま、まさか!?」
詩人「そう、僕は彼の味方だ。ああ、裏切ったなどとは思うなよ。もとから僕はこっちだ」
召喚士「この件、魔王様に報告させてもらうわよ!!」
詩人「好意で人間の子供を助けるような君にだけは言われたくないな」
魔法使い「好意で??」
詩人「ああ、彼は子供好きで有名でね。将になる前はよく子供達を喜ばせる為に様々な事を無償でしてあげていたみたいだよ」
詩人「人間の子供を助けたのも、その子供好きが災いしてじゃないかな。おそらく人間の子供に人魔の子供の姿を重ねたんだろうね」
詩人「そしてその精神の脆さこそが人魔がもっとも戦いに向かないと言われている所以だ」
召喚士「あ、貴方ーっ!!」ガタッ
516
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:07:18 ID:SGyVAJO6
詩人「気に障ったのなら謝るよ。でも言い返せないだろう?」
召喚士「馬鹿にしないで。アタシだってやれるわ。同胞や魔王様の為ならアタシだって!!」
詩人「出来なかった癖によく言う」
召喚士「あ、あれは身体が勝手に動いちゃっただけ。今もう覚悟完了したわ!」
詩人「そうかい。だったら急いで本国に帰る事だね。君の大好きな魔王様が今とても危ない」
召喚士「ど、どういう意味!? だって脅威はそこに……」ジッ
詩人「端的に言えば四天王の一人、灼熱のドラゴンが謀反を起こし魔王を裏切った」
召喚士「う、嘘よ!」
詩人「嘘じゃないよ。あの噂くらい君も聞いた事があるだろう」
召喚士「じゃあ、噂は本当だったって事!? なるほど。なら納得せざるを得ない。この子達の強さも……」
詩人「やめてよね。彼をあんなのと一緒にしないでくれるかな。剣士は人間だ」
召喚士「え……!?」
詩人「これでわかっただろう。さあ、主のもとへ帰れ」
517
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:15:22 ID:SGyVAJO6
召喚士「け、けど……」チラッ
詩人「あ、そっか。――どうする?」クルッ
魔法使い「行かせてあげて、お願い」
召喚士「馬鹿な。ア、アタシは――」
魔法使い「貴方は子供を助けてくれた。それが一時の気の迷いだったとしても。だから……」
剣士「ああ、そうだな」
召喚士「剣士、貴方までっ!?」
剣士「受けた恩は返したい。それにもう戦う理由がない」パチン
召喚士「あるでしょ!」
剣士「俺は、俺達は大切な人を守る為に戦っているだけだ。誰かを殺す為じゃない」
召喚士「カッコつけてんじゃないわよ。殺す以外にないでしょ、守るには。それにね、魔王を殺せば魔族はみんな死んじゃうの。わかる?」
剣士「決めつけるな。まだわからない。それ以外の道だってあるはずだ」
召喚士「本気? だとしたら、とんだ甘ちゃん坊やね」ハンッ
剣士「だったら俺の決意を鈍らせるような事をするなよ……」グッ
召喚士「……そうね、ごめんなさい」
518
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:17:43 ID:SGyVAJO6
召喚士「わかった気がするわ。確かに彼は勇者じゃない」
剣士「勇者を、知っているのか?」
召喚士「先代の方だけどね」
剣士「百年前の勇者か。という事は貴方もこの時代まで生きながらえた――」
召喚士「レディの年齢を詮索するんじゃないわよ!」
詩人「男でしょ?」
召喚士「失礼しちゃう。心は女子よ。ぷんぷんっ!」ムスッ
召喚士「――んじゃ、お言葉に甘えて城に変えるわね」スッ
剣士「待て。これを」ポイッ
召喚士「なにこれ?」パシッ
剣士「傷薬だ。不要なら捨ててくれ」
召喚士「ほんといい性格してる。ここまでくるといっそ清々しいわね」
召喚士「それじゃ生きてたらまた会いましょう、またね!」タッ
519
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:20:29 ID:SGyVAJO6
剣士「行ってしまったな。だが、本当に帰れるのか彼――あ、いや彼女は?」
詩人「三魔将には帰還の翼と呼ばれる魔王城直通の転移道具が持たされている。間違いなく帰れるよ」
剣士「そんなものがあるのか!?」
詩人「高級品で数も少なく魔王が認めた相手しか使えないけどね」
剣士「なるほど」
詩人「今乗り込めたら面白いんだけどねー」アハハ
剣士「その事だが――四天王が魔王を裏切ったというのは本当なのか?」
詩人「ああ、本当だよ」
剣士「にわかには信じがたい」
詩人「色々な事が起こったのさ。起こるべくしてね」
520
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:21:58 ID:SGyVAJO6
剣士「起こるべくして?」
詩人「話せば長い。おいおい話すよ」
剣士「おいおい?」
詩人「喜んで。これからは僕も一緒だ」
詩人「ほら、水先案内人は必要でしょ。魔王の大陸に殴り込みに行くのにさ」
魔法使い「ちょっと待って。なに勝手に決めて――うっ!?」ガクッ
剣士「無理するな」ガシッ
詩人「この子を休ませるのが先だね。村に帰ろう」
剣士「ああ、そうだな」
521
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:23:19 ID:SGyVAJO6
武闘家「やっと追いついた。――って、一体なんだ。こいつは蛇の死骸か??」ジッ
武闘家「やっぱすげぇや。こんな魔物をたった二人で倒しちまうなん――いや、違う!?」
武闘家「剣士殿には血しぶき一つ飛んじゃいない。つまりそれって……」ゾクッ
武闘家「う、嘘だろ。こんなの勇者だって一人じゃ無理だぜ」
武闘家「そうだよ。勇者がたった一人で四天王を倒したっていう伝説は聞いた事がない」
武闘家「なのにどうしてだ? 二人のどこにそんな力が!?」
武闘家「進化の秘術だって勇者を越えられなかったっていうじゃねぇか!」
『人の魂は、人の呼びかけによって覚醒する』
武闘家「本当に人の想いが力に? けど、それが本当だとしたら勇者って何なんだ?」
武闘家「神に選ばれた唯一無二の存在だから特別で凄いんだろ。それを選ばれてもいない人間が越えちまったら……」
剣士「あ、来てたのか」
武闘家「え!?」ビクッ
522
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:25:23 ID:SGyVAJO6
剣士「もう終わったよ」
武闘家「そう、見たいだな」
魔法使い「ごめんなさい。貴方にも迷惑かけちゃって」
武闘家「いいんだよ。俺は二人が無事ならそれで……」
詩人「優しいんだね」フフッ
武闘家「だ、誰? あー、あれか。剣士殿が言っていた例のエルフさん??」
詩人「へぇー、エルフと思われてたのかー」
剣士「含んだ言い方だな」
詩人「ただの思わせぶりかもよ。君達の気を引きたいだけの」フフッ
剣士「素性を明かせない理由でもあるのか?」
詩人「困ったな。そう、ストレートに聞かれちゃうと……」
剣士「だったら、そんな言い方するなよ」イラッ
523
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:26:16 ID:SGyVAJO6
詩人「あははっ、それよりもほら早く帰ろうよ。ね!」
剣士「魔法使い、嫌かもしれないが我慢してくれ」ヒョイ
魔法使い「ちょ、ちょっと!?////」ビク
詩人「お姫様だっこか、いいなぁー」
魔法使い「あ、あのー、恥ずかしいのだけれど?////」
剣士「なら目を閉じたらどうだ?」
魔法使い「そういう話じゃないでしょ?」
剣士「そういう話だよ」
魔法使い「も、もう……////」パチ
武闘家「(あ、マジで閉じるんだ)」ジッ
524
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:22:06 ID:xp1vmAwY
魔法使い「――ごめん、このこと黙ってて」
剣士「喋って平気なのか?」
魔法使い「へとへとなだけだから。それより、その……」
剣士「謝るのは俺だ。君にこんな無茶をさせてしまった」
魔法使い「べつに貴方とのことがあったからってわけじゃないわ」
剣士「どうだろう。俺がちゃんと君と向き合っていたら違ったんじゃないか?」
魔法使い「……。そうね。確かに一人であんな化け物とやりあうことなかったかも」
魔法使い「貴方がいてくれたらもっと早くあのオカマの違和感にも気づけただろし――」
魔法使い「けどそれじゃ私は変われなかった。大切なことにも気づけないままだったと思う」
剣士「大切なこと?」
魔法使い「誰かを守りたいという想い、とでも言えばいいのかな?」
魔法使い「貴方と離れてやっと気づけたの。こんな私にもそんな想いがあったということに」
525
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:24:33 ID:xp1vmAwY
魔法使い「私ね、世界なんか――他人なんかどうでもよかったの」
魔法使い「貴方に求められたい、愛されたいと。ただ、それだけの為に戦っていた」
魔法使い「だからこの戦いが死出の旅でも構わなかった。世界なんて救えなくてもいい。貴方が私を求めてくれるなら、それでよかったから」
剣士「……」
魔法使い「けど貴方は違った。世界を救えると信じ、ただ直向きに戦っていた。腐り切っていた私とは真逆で――」
魔法使い「そう、私が違ったの」
剣士「違う?」
魔法使い「いつだったか貴方は言ったね。想いが同じなら仲間だって」
魔法使い「私には世界を救いたいという想いもなければ力もない。あるのは人一倍強い承認欲求だけ――」
魔法使い「だから駄々をこねた。子供のように喚き散らし、自分の我儘を通そうとした」
魔法使い「酷いよね、最低だよね。みんな誰かの為にと自分を捨ててまで戦っていたというのに、私だけが自分の救いを求めて逃げ回ってた」
魔法使い「真の仲間――、想いを同じくする者なら共に戦わなきゃいけなかったのに」
剣士「だから君はこんな無茶を――、俺と同じことをしたんだな?」
魔法使い「……ごめんなさい」
526
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:26:31 ID:xp1vmAwY
剣士「責めちゃいないよ。ただ――」
剣士「君がそこまで思い悩んでいたのに、俺はそのことに気づけなかった。力になれなかった。それが悔しい」
魔法使い「馬鹿ね。これは私の問題。貴方が気にすることじゃないわ。――でも、ありがと」
剣士「いや……」
魔法使い「ねぇ、また前みたいに一緒に戦ってもいい?」
剣士「いいも何も、本当にいいのか?」
魔法使い「その為に無茶したのよ。許してもらえるならそうしたい。やっぱり都合よすぎ? 駄目?」
剣士「あ、いや、そんなことはないよ。ただ――」
魔法使い「ただ?」
剣士「俺は、俺の戦いは勇者のそれとは違う。それでもいいんだな?」
魔法使い「ん? どういうこと?」
剣士「既に気づいていると思うが、俺はこの戦いに美意識を持ち込んでいる。おそらくそれは騎士道精神に近い何かで、だから平気で敵さえも許してしまう」
剣士「そんな美徳や義理ばかり重んじる俺の戦いは受け入れがたいものだ。所詮は理想。命懸けの戦場で謳う馬鹿はいない」
527
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:27:51 ID:xp1vmAwY
魔法使い「だからずっと遠慮してたの。貴方の言う美意識に付き合わせては悪いと思って」
剣士「わからない。それもあったとは思う」
魔法使い「そっか」
剣士「すまない。俺はそれを捨てられないどころか信念にしている。馬鹿だよな」
魔法使い「貴方らしくていいじゃない」
剣士「らしい?」
魔法使い「ていうか美意識なんて大袈裟に言ってるけど――」
魔法使い「それって、ただ単に命を何よりも大事にしているってだけの話でしょう?」
魔法使い「どの命も等しく尊いものだから、だから貴方は戦う。それらを守る為に」
剣士「……」
魔法使い「私は好きよ、そんな貴方が。みんなだってきっとそう――」
魔法使い「勇者の遺志に惹かれたんじゃない。貴方の意思に惹かれたから仲間になった」
剣士「そうだろうか?」
魔法使い「ええ。だから胸を張りなさい。貴方に惚れた私達の為にも」
528
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:29:32 ID:xp1vmAwY
剣士「みんな馬鹿だな」
魔法使い「気高いだけよ」
剣士「そうとも言えるか」
魔法使い「何事も前向きに捉えましょ?」
剣士「(彼女は変わろうとしている。この戦いで何が吹っ切れたんだろうな)」
魔法使い「どうしたの?」
剣士「いや、べつに」
魔法使い「暗い顔しないでよ。大丈夫、今度はちゃんと貴方の力になるから」
剣士「あ、すまな――いや、違うな。ありがとう、だな」
魔法使い「うん」ニコッ
剣士「(彼女の想いが胸刺さる。いつだって献身的に俺を支えてくれて。なのに、俺は――)」
剣士「(何やってんだろな。もらってばかりで。これじゃ対等関係とは、仲間とは言えない)」
剣士「(俺は彼女に何がしてあげられる? 愛情に対してはどう応えたらいい?)」
剣士「(わからない。どうしたら――いや、本当にわからないのか?)」
剣士「(本当はわかってる。わからないふりをして、俺は逃げているだけだ。そう、二人の想いから……)」
529
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:30:33 ID:xp1vmAwY
武闘家「よかった。二人がまた笑いあえる関係に戻れて……」ホッ
詩人「ねぇ、だっこして」
武闘家「え!?」
詩人「二人を見てたら羨ましくなっちゃった。ねぇ、僕をお姫様にして」
武闘家「な、なんで?」
詩人「あれれー? 無理なお願いしちゃったかなー?」
武闘家「無理っていうか、だって歩けるでしょう?」
詩人「歩けなければしてくれるのかい!? だったらこの足を、この足をだなああ!!」
武闘家「やめ、やめろーッ!!」バッ
詩人「冗談だってば。まさか本気にしたのかい? かあいいなー」ンヒヒ
武闘家「う、うぜぇ……」
詩人「だろうね!」
530
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:31:35 ID:xp1vmAwY
武闘家「あー、あのさ、聞いてもいいかな。やっぱあの大蛇って魔法使いさん一人で?」
詩人「えっ? うん、そうだよ」
武闘家「すげぇな。――でもさっぱわかんねぇよ、どうしてそんな力が二人に?」
詩人「経験を積んだからじゃないの?」
武闘家「それだけじゃねぇーだろ!?」
詩人「え!? 逆にそれ以外になにがある? 戦いって経験がものを言うじゃない?」
武闘家「そりゃそうだろうけど。他になんかあるだろ。例えば、その――」
武闘家「人間には未知の力が秘められているとか、その手の話だよ。知ってそうじゃんか?」
詩人「僕がエルフだからってそういう期待しないでよ。――あー、んー、そうだなぁ」
詩人「生物は環境の影響を受けて能力を開花するなんて話は聞くけど、この手の話は君達の間でも広く語られているんじゃないの?」
武闘家「ん、まあ……」
武闘家「(環境が人を開花させるか。環境って周囲の人も含むよな。じゃあ、やっぱそういうことなのか?)」ウーン
詩人「(気から察するにこの男、角こそ生えてないが魔族なのか。あのエルフの混血姉妹といい歪みの象徴とも呼べる者がこうも集まるものかね)」ジーッ
531
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:33:32 ID:xp1vmAwY
武闘家「え、なに? 俺の顔になんかついてる?」
詩人「どうしてそんなこと気にするのさ?」
武闘家「だって勇者ですら不可能なことを二人はやってのけてんだぜ?」
詩人「だから?」
武闘家「普通、気になるだろ!?」
詩人「へー、やっぱそういうもなんだ。――でもさ、気にしたって仕方なくない?」
武闘家「んなことはわかってるよ。でも、もし秘密があるならって考えちまうんだよ」
武闘家「そしたら俺だって、もっと強く。このままじゃ俺……っ!」
詩人「あー、そういうことか」
武闘家「死を恐れぬ覚悟なら俺だってある。なのになんで、どうしてここまで……!」
武闘家「やっぱアイツの言う通り、俺達にはアレしかねぇのかな」ボソッ
詩人「(かなり焦ってるな。まあ、無理もないか。魔族の血を引くこの男なら力になってあげられないこともないけど、どうするかなー)」
532
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:34:53 ID:xp1vmAwY
翌日 朝――
宿屋 一階、食堂
剣士「……」
詩人「君はいつも眉間にしわを寄せているね」
剣士「驚いた。まだいたのか?」
詩人「酷いな。疑ってたのかい?」
剣士「まあな。俺はアンタの正体も知らなければ目的もわかっていない。姿を見せないと思いきや、急にまた現れたり……」
詩人「それについてはごめん。裏切られたと思ったから」
剣士「裏切った? 俺が?」
詩人「僕の忠告を無視してケンタウロスと戦ったじゃないか、単騎で!」
剣士「?」
詩人「誰が勝つって思うよ!?」
剣士「はあ??」
533
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:36:35 ID:xp1vmAwY
詩人「僕は君が負けると思った。だから決着がつく前に帰ったんだよ、魔王城に」
詩人「つまり、見たくなかったの。君が死ぬところを、僕はねッ!!」
剣士「あー、そういうこと」
詩人「勝てたからいいものの。負けたらどうなっていたことか……!」
剣士「どうもなにも。あの街は助かったよ、おそらく」
剣士「ケンタウロスは俺に敬意を払い見逃したはずだ。その一時だけかもしれないが――」
剣士「少なくとも時間は稼げた。その時間で戦うなり逃げるなり相応の準備をすればいい」
詩人「一応、負けた後のことも考えてたんだ」
剣士「べつに。戦っているときにふと思っただけで、最初から頭にあったわけじゃない」
剣士「アンタこそどうして俺にしか伝えなかった?」
詩人「矛盾してると言われそうだけど、僕は君に戦ってもらいたかったんだ。四天王のケンタウロスとね」
詩人「街を人質に取れば、君は戦うしかない。逃げるという選択肢はなくなり、絶対に勝たなければなくなる」
詩人「その条件であればグリフォンのとき以上に堅実な戦いをしてくれるだろうと期待して……」
534
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:38:27 ID:xp1vmAwY
剣士「やはりあの爺さんはアンタだったのか」
詩人「え、ああ。あれは変化の魔法で姿を変えた僕だ。ごめん、警戒されたくなくて」
剣士「あの姿もどうかと思うぞ」
詩人「それより、どうしてあんな無茶を? やるにしたってもっと力をつけてからだろ!」
剣士「何を怒ってる? アンタの言う通りすればよかったのか?」
詩人「ああ、そうだよ。そうやって順当に経験を積んでいって欲しかった!」
剣士「それを望む意味がわからない。まさか、俺を鍛えることがアンタの目的とでも?」
詩人「今思えば最初からそう伝えればよかったね。そう、僕達の目的は君を魔王と戦えるまで鍛え導くこと――」
詩人「けど上手くはいかないね。グリフォンのときも僕は君の力を過信し、君を殺しかけた」
剣士「で、あの助言か。念を押したわけだ」
詩人「願い虚しく無視されちゃったけどねっ!」
535
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:40:35 ID:xp1vmAwY
剣士「しかし、わからないな」
剣士「アンタほど魔族の内部事情に通じ、人を操る術を持っていながら俺に拘る?」
詩人「なに?」
剣士「至極当然の疑問だよ。アンタがその気になれば魔王に対抗しうる軍隊を立ち上げるくらい容易なはず、なのに何故それをやらない?」
剣士「少なくとも俺個人に全てを託すより賢く現実的な話だ」
詩人「僕にそうしろって言いたいの?」
剣士「違う。アンタの目的が知りたいだけだ」
詩人「じゃ逆に聞くよ。君が――ただの人間が魔王を倒したら、世界はどうなると思う?」
詩人「それも勇者とまったく同じやり方で」
剣士「は?」
536
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:42:16 ID:xp1vmAwY
詩人「あ、ごめん。余計なこと言った。今は目の前のことだけに集中したいだろうに」
剣士「なら誤魔化さずに話せ!」イラッ
詩人「だからごめんって!」
剣士「謝るくらいなら――」
ガチャ
海賊「おっはよう!! お邪魔するねー!」バーン
剣士「!?」
詩人「いいときに。助かっちゃったな」ホッ
海賊「あ、いたいた!」ビシッ
537
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:43:47 ID:xp1vmAwY
剣士「こんな朝から一体どうした。何かあったのか?」
海賊「それはこっち。昨日のこと占い師から聞いたよ、それで――」
剣士「ああ、心配してきてくれたのか。魔法使いなら無事だよ。ただの疲労だそうで、賢者も少し休めば回復すると言っていた」
海賊「そうなんだぁ、よかった。――あ、これ一応お見舞いと感謝のフルーツね」スッ
剣士「ありがとう。伝えておく」
海賊「大丈夫、まだ帰らないから」ンフフ
剣士「……そうか」
海賊「んー、なんか不味い?」
剣士「あ、いや……」
海賊「――ところで、そっちの綺麗なお兄さんは? 初めてみる顔よね?」ジー
詩人「おい雌豚。いやらしい眼で僕を見るな。僕はホモだ」
海賊「え!?」ビクッ
538
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:44:57 ID:xp1vmAwY
詩人「あっ、つい本音が」テヘペロ
海賊「いやや、待って待って。やらしい眼でなんて見てないってば!」アセッ
詩人「ほんとぉ? 僕セクスィーだからなぁー///」クネクネ
海賊「ていうか、その、ホ、ホォって。まさか、二人はそういう関係なのッ!?」
詩人「だったら嬉しかったんだけど。彼はスーパークソノンケ様だからね!」アハハッ
海賊「そっか、そうだよねぇー」ホッ
ドタドタ
武闘家「お、朝から騒がしいと思ったら海賊姉さん来てたのか」
海賊「おはよー!」
武闘家「あ、はい。おはようございます!」
海賊「これからみんなご飯、かな?」
剣士「え、ああ」
海賊「やっぱりそうなんだ。じゃあ、私もここで食べてっちゃおうかなー」
539
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:47:05 ID:xp1vmAwY
武闘家「それ目的か……」
海賊「いや、心配できたのよ。昨日のこと聞いてさ。あと近状報告もしたかったし」
剣士「出航の事とかか?」
海賊「そそ。一応、目途が立ったから。んま、詳しいことは食べながら話すよ」
剣士「んー、じゃあやるか」ガタッ
海賊「あれ? 賢者ちゃんは?」
剣士「いや、まだ起きてないみたいだから……」
武闘家「珍しいな。俺と同じくらい朝強いのに」
剣士「そんな日もあるだろう。――さて、朝食だが俺が作っていいのか?」
武闘家「えっ、作れんのかい?!」
剣士「簡単なものなら出来るだろう。朝なんてパンと目玉焼きあれば十分じゃないか?」
武闘家「スープも欲しいな。あと卵は半熟が好き。ベーコンはカリカリ!」
剣士「よし、わかった」タッ
540
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:48:14 ID:xp1vmAwY
ドタドタ
賢者「すみませーんっ! ちょっと寝坊しちゃって……!!」ガタタッ
海賊「おはよ、お邪魔してますよー!」
賢者「ど、どうも。おはようございます。皆さんお揃いのようで……」アセアセッ
賢者「それで、あのぉ、朝食の方はどうされました?」
賢者「明日は私が作るから大丈夫ですと宿屋のおばさんに断り入れちゃったので、まだ食べてないですよね?」
武闘家「それなら心配しなくていいぜ。今、剣士殿が代わりに用意してくれてる」
賢者「剣士さんが? 大丈夫なのかな。剣士さんに限って駄目ってことなさそうだけど……」
武闘家「自信ありげだったぜ?」
賢者「んー、それでも手伝いに行った方がいいですよね。ちょっと行ってきます!」タッ
海賊「手伝う。あちゃー、そういう展開もあったのか……」ガクッ
武闘家「えぇ……?」
541
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:49:24 ID:xp1vmAwY
厨房――
賢者「(ふふっ、剣士さんの手料理か。ちょっと楽しみだな)」
賢者「おはようございます。あの、手伝おうことありま――ってッ!?」ビクッ
剣士「あ、おはよう。すまない。今、手が離せなく……」フラフラ
賢者「火がッ、火が強いですよ!!」アセッ
剣士「え、これくらいじゃない?」
賢者「あー、卵の黄身潰れてるぅーっ!!」
剣士「えっ!? あー……」ジー
賢者「てか、このパンなんでこんな形に切ったんですか!?」
剣士「あ、それか。それはサンドイッチ作ろうと思っ――」
賢者「中身を挟んでから切ってくださいよっ!!」
剣士「待て。それには理由があるんだ。上手く切れずに崩れたら嫌だなと。ならば最初から全部同じ形に切ってしまおうという逆転の発想で……」アセッ
賢者「よ、余計なことをぉ…… どいてください。あとは私がやります!!」
542
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:50:47 ID:xp1vmAwY
食堂――
剣士「本当にいいのか。俺が作ったんだ。それは俺が食べるべきだろう」
賢者「いいえ、これは私が食べます」モグモグ
剣士「いや、だが……」
賢者「もう口つけちゃいましたから、剣士さんは私が作ったのを食べて下さい」
剣士「あ、はい……」シュン
武闘家「――なんで、作ろうと思った?」
剣士「一度やってみたくて。簡単そうに見えたし……」
武闘家「それで、あれか」ジーッ
剣士「自分の力を過信した。過ぎた野望と過信は身を滅ぼすということだな」フッ
武闘家「カッコつけれてもなぁー……」
海賊「でもほら、率先して作ろうとしたのは偉いよ!」
海賊「それに、あれでもおばちゃんのご飯よりは食べられそうだしさ! ねっ!」
武闘家「そ、そうね。ただの失敗料理だもんな」
543
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:52:33 ID:xp1vmAwY
剣士「そんなに不味かったのか?」
武闘家「大声じゃ言えねぇけどな」ハハッ
剣士「そんなに」
武闘家「昨日はある意味ラッキーだったぜ。魔法使いさんを理由に逃げ出せたからなー」
海賊「ラッキーかどうかはまだわからないよー?」
武闘家「え?」
海賊「残された者がいたことをお忘れ?」フフッ
武闘家「あ、ああーッ!?」
海賊「すっごく怒ってたよ」
武闘家「マジかぁ。でも、だよあな……」
海賊「あとで謝っておきなね!」
武闘家「はーい……」
544
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:54:13 ID:xp1vmAwY
海賊「あ、そういや昨日のその敵ってどんな相手だったの?」
剣士「どんな、か。なんて言えばいいんだ。敵とも言い難い……」
武闘家「四天王じゃなかったのか?」
剣士「あの大蛇は三魔将が召喚した魔物だったそうだ」
海賊「ん? 三魔将ってなあに? 四天王なら聞いたことあるけど」
剣士「四天王と同じ名を冠した魔族の将だよ」
海賊「同じって、ヤバいんじゃ……」
剣士「どうだろう。同じと言ってもやはり四天王の方が比べるまでもなく強いよ」
武闘家「そう、なのか……?」
剣士「俺達と形が同じというだけあって断然戦いやすからな。培った経験が生かせるってのはやはり大きい」
武闘家「へ、へぇー」
剣士「そして何より奴らの戦いに対する姿勢、心構えがな……」
賢者「姿勢、ですか?」
545
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:57:45 ID:xp1vmAwY
剣士「一つ聞いていいか?」
詩人「えっ、僕!?」ビクッ
剣士「どうして三魔将と呼ばれる彼等は皆ああなんだ?」
詩人「ああって?」
剣士「戦いに積極的じゃないというか。恐る恐る戦っているような、そういう印象を受ける」
詩人「あー、彼等が弱腰なのは仕方ないよ。なんせ元小間使い――いや、この場合包み隠さずドレイとハッキリ言った方がわかりやすいかな」
武闘家「……!?」
詩人「虐げられてきただけの存在が、他の魔族のように戦えと言う方が無理だって」
詩人「人魔族はずっと戦いを避けて生きてきた。それが最も魔族の中で生きるには賢いとされてきたからだ」
剣士「それが理由だと?」
詩人「ないんだよ、非力だった人魔族には。闘争本能なんてものは」
剣士「納得できなくもないが……」
546
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:06:50 ID:gebK0AvA
詩人「加えて言えば、今手にした権利だって先代の魔王の慈悲によって与えられたもの。自らが行動し勝ち取ったものじゃない」
詩人「その程度の連中だよ。力を身に着けたって使いこなせるのはごく一部。その一部だっているかどうか……」
賢者「そんな言い方しなくても……」
詩人「あー、ごめん。気に障ったのなら謝るよ」
海賊「と・に・か・く! 戦いづらい相手なんだねぇ。大変だぁー!!」アハハ!
剣士「あ、ああ。そうだな」
海賊「まっ、船のことは任せてよ。そろそろ出航できるようになるからさ」
剣士「わかった。こっちも準備しておくよ」
詩人「案内は僕に任せて。安全なルートを教えるよ!」
武闘家「信じて平気なのか?」
詩人「酷いな、ほんと」プンプン
剣士「(今まで嘘らしい嘘はついてない。さっきの怒りだって俺を本気で心配してのことだ)」
剣士「(確かに信用できる。ここで裏切るとは思えない、が……)」
剣士「(くそ、面倒くさいな。最近、考えなきゃいけないことが多すぎないか!?)」イラッ
547
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:09:06 ID:gebK0AvA
食後――
武闘家「んじゃま、ぼちぼち謝りに行くかー……」ガタッ
海賊「取り持ってあげよっか」ンフフ
詩人「面白そー、見に行こう!」
武闘家「見せもんじゃねぇよ!!」
賢者「あ、行ってらっしゃーい」
バタバタ
剣士「(逃げられたな。まあ、今聞いてもはぐらかされるだけか)」
賢者「……」ジーッ
剣士「(アイツの言葉が本当なら時間はたっぷりある。焦る必要はない。それよりも――)」チラッ
賢者「……」ジー!
剣士「どうした?」
賢者「あっ、すみません」ペコ
剣士「いや、べつに」
548
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:12:58 ID:gebK0AvA
賢者「……」チラ チラ
剣士「何か俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
賢者「わかっちゃいました? 実はですね、えっと、そのぉ……」グッ
剣士「?」
賢者「また私に剣士さんの時間をくれませんか!?」
剣士「えっ?!」
賢者「い、忙しいならいいんです。昨日も色々とあったみたいですし、すみません……」
剣士「そんなことはないよ。少し驚いただけで――」
剣士「あ、そうだ。今朝のこともあるし、なんでも言ってくれ。なんでもするよ」
賢者「あれはもう気にしなくも…… でもまぁそう言っていただけるのでしたらお言葉に甘えようかな?」
剣士「ああ、それで?」
賢者「では遠慮なく――」コホン
賢者「私と、模擬戦――それも実戦形式で戦ってくれませんか!!」クワッ
剣士「え゙……?」
549
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/20(水) 08:15:40 ID:7tLGNMjE
乙
550
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/01/07(火) 07:11:46 ID:3zC3wvcI
乙
551
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:55:45 ID:Prhtzo/w
海岸 昼頃――
ザザーン
賢者「ここなら他に何もありませんし、思う存分やれそうですね!」フンス
剣士「本当にやるつもりなのか?」
賢者「……駄目ですか?」
剣士「どうして急に? それも俺と模擬戦だなんて、おかしいっていうより変じゃないか?」
賢者「強くなりたいからじゃ理由になりませんか?」
剣士「なら何も模擬戦に拘らなくてもいいだろう?」
賢者「私は圧倒的に実戦経験が足りません。ですから……」
剣士「俺達の相手は魔族だ。人間相手の経験がどれほど役に立つかわからない。それでも?」
賢者「それはそうかもしれませんけど、人魔族だっていますし……」
剣士「彼等の種族性は聞いたろう?」
賢者「戦いを忌避する文化が根付いてしまっているって話ですよね。確かに、それが本当なら彼等との戦いは回避できるかもしれない。けど――」
賢者「けど、それでお二人は強くなられたじゃないですか!?」
剣士「え?」
552
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:57:09 ID:Prhtzo/w
賢者「剣士さん、言いましたよね。王宮にいた頃はお姉様と毎日特訓していたって」
剣士「あ、ああ。あのときの話か。だが、流石に毎日は……」
賢者「それで剣士さんは剣士でありながら魔法を見切れるようになって、お姉様もお姉様で魔導師でありながら剣士のような鋭い動きを身につけて――」
賢者「なら私もって思っちゃいけませんか!?」
剣士「それで?」
賢者「……はい」コクン
剣士「(もしかして昨日の魔法使いの活躍を聞いて焦燥感に駆られたのか?)」
剣士「(そう言えば前にもあったな。前は大丈夫だ、心配するなと言ったが……)」
賢者「情けないって自分でもわかっています。貴方を支えるとあれだけ豪語しておきながら」
剣士「あ、いや……」
賢者「戦って見込みなしなら今度こそ諦めます。だからお願いします。私と戦って下さい!」
剣士「ハァ!?」
553
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:58:36 ID:Prhtzo/w
剣士「待てよ。諦めるって、こんな馬鹿みたいな理由で旅を諦めるって言うのか!?」
剣士「俺達は君がいなければ立ち行かない。治癒魔法、いや食事一つとってもそうだ」
剣士「君がいるから俺達はこうして無事に旅を続けられている。少しは自分のこと誇れよ!」
賢者「あっまーいッ! お砂糖よりも甘いですよ、スウィートちゃんです!!」クワッ
剣士「どこが? 事実じゃないか!?」
賢者「確かに今まではそれでよかったかもしれません。けど、これからは攻め入る側になるんですよ?」
賢者「私のような足手まといを傍に置いておく余裕なんて今以上にあるわけないんです!」
剣士「何を自棄になってる。足手まといだなんて、いつ誰が言った!?」
賢者「剣士さんこそ、どうしちゃったんです? 昔はあんなに厳しかったのに!」
賢者「まさか、この連戦連勝で調子に乗っちゃっているんですかッ!?」
剣士「なっ!?」タジッ
賢者「否定してくださいよ!」
剣士「くっ……」ギリッ
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