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賢者「勇者様の遺志を継ぎ、私が魔王を倒します」
553
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:58:36 ID:Prhtzo/w
剣士「待てよ。諦めるって、こんな馬鹿みたいな理由で旅を諦めるって言うのか!?」
剣士「俺達は君がいなければ立ち行かない。治癒魔法、いや食事一つとってもそうだ」
剣士「君がいるから俺達はこうして無事に旅を続けられている。少しは自分のこと誇れよ!」
賢者「あっまーいッ! お砂糖よりも甘いですよ、スウィートちゃんです!!」クワッ
剣士「どこが? 事実じゃないか!?」
賢者「確かに今まではそれでよかったかもしれません。けど、これからは攻め入る側になるんですよ?」
賢者「私のような足手まといを傍に置いておく余裕なんて今以上にあるわけないんです!」
剣士「何を自棄になってる。足手まといだなんて、いつ誰が言った!?」
賢者「剣士さんこそ、どうしちゃったんです? 昔はあんなに厳しかったのに!」
賢者「まさか、この連戦連勝で調子に乗っちゃっているんですかッ!?」
剣士「なっ!?」タジッ
賢者「否定してくださいよ!」
剣士「くっ……」ギリッ
554
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:00:19 ID:5Dt9ncyE
賢者「剣士さんっ!!」クワッ
剣士「わかったよ。やれば、やればいいんだろ?」
賢者「本当ですね?」
剣士「まあ、約束だしな」
賢者「よおし、では早速やりましょう。えーっと、どれくらい離れればいいんだろ?」タタッ
剣士「(調子に乗っているか。痛い所を突く。確かに今の俺は誰が見たって――)」ジーッ
剣士「ちょっと待った。どこまで行く気だよ?」
賢者「え!?」ピタッ クルリ
剣士「五歩分もあれば――あいや、賢者は魔導師だから離れていた方がいいのか?」
賢者「ん? どうします??」
剣士「あー、もう十歩分先に行っていいよ。てか、賢者がやりやすい位置でいいや」
賢者「わかりました」タタッ
555
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:02:04 ID:5Dt9ncyE
賢者「ここで十歩目。こんなとこでいいのかな?」チラッ
剣士「よければ賢者の好きなタイミングで始めてくれ。誰に見せるものでもないしな」
賢者「はい。わかりました!」チャッ
剣士「(俺が賢者と戦うか。やりたくないな。模擬戦とはいえ賢者に剣を向けるなんて……)」
賢者「手加減はいりませんよ。全力で行きますから、剣士さんも全力でお願いします!」
剣士「ああ、わかってる。真面目にやるさ」
賢者「それを聞いて安心しました。では――」スッ キラリ
剣士「(初手が爆発魔法ってやたら多いな。敵を捉えやすいからか?)」ヒョイ
ズドカーン!
剣士「な、何ッ!?」ズササ
賢者「何を驚いているんですか? 全力で行くと言いましたよ!」
剣士「待て! だからって今の火力はおかしい!?」
賢者「ん? 余裕で躱せていたじゃないですか?」
剣士「そう言う話じゃない!!」
556
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:04:07 ID:5Dt9ncyE
賢者「私ごときが剣士さんに敵うはずありません。実力差を考えればこれくらいどうってことないはず……」
剣士「買いかぶりすぎた。仮にそうだとしても、万が一ってこともある」
賢者「ふふっ、安心してください。その時は手厚く私が介抱します!」
剣士「う、嘘だろ……」
賢者「このまま続けますよ。構えてください!」
剣士「このままって、次もこの火力で放つ気か!?」バッ
賢者「(剣士さん、すみません。でも本気の私を見てくれなきゃ意味がないから!)」スッ
バシュン
剣士「(真空魔法、使えるようになったのか。それに、これは――ッ!?)」ヒラリッ
賢者「まだまだ行きますよー!」スッ バシュ バシュ
剣士「氷槍――、それも二連撃!?」ヒラリ ガキンッ
賢者「いとも簡単に防いじゃう!? わかっていたけれど、やっぱり剣士さんは凄い!!」
剣士「(なるほど。やっとわかったよ。魔法使い、君が言っていた意味が……)」ヨロッ
剣士「(彼女の才能は異常だ。もしかしたら俺ここで死ぬかもな)」
557
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:07:40 ID:5Dt9ncyE
宿屋――
魔法使い「ふわぁー、よく寝た……」タンタン
海賊「あっ、おはよー!」
魔法使い「……お、おはよう、ございます」ビク
海賊「そろそろ起きてくるんじゃないかなーって待ってたんだ、貴女のこと」
魔法使い「待ってた? 私を?」
海賊「いやー、お礼をね。話は聞かせてもらったよ、この村を救ってくれたんだって?」
魔法使い「あー……」
海賊「ありがとね。村を代表してお礼を言うわ。なんて、村長でも何でもないんだけどねぇ」フフッ
魔法使い「彼等は私達が招いたようなものです。礼を言う必要ないと思いますけど?」
海賊「何言ってるの。貴女達を船に乗せると決め、ここに連れてきたのは私よ?」
魔法使い「じゃあ、どういたしまして。これでいいですか?」
海賊「んふふっ、見た目通りクールだねぇ」ニヤニヤ
魔法使い「(面倒なのに絡まれたな……)」ハァ
558
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:12:56 ID:5Dt9ncyE
海賊「んー」ジーッ
魔法使い「な、なに?」サッ
海賊「いやー、全体的に細いよね。よくこんな身体で倒せたものだなーっと」
魔法使い「どんな敵だったかも知らないでしょうに……」
海賊「確かに戦ってたところは見てないよ。けど戦いの形跡を見ればある程度予想つくわ。どんな規模のものだったのか、素人の私でもね」
魔法使い「見に行ったんですか?」
海賊「一応、船長さんだからね。朝一番に見に行ったよ」
魔法使い「まあ、それはそうか」
海賊「剣士の言う通り、貴女は本当に強かったんだね。べつに疑ってたわけじゃないけど!」
魔法使い「アイツが?」
海賊「うん。魔法使いさんは強いって。もしかしたら自分よりもって言ってもんだから」
魔法使い「流石にそれはないかなぁ……」
海賊「そうなの? 剣士が言うには貴女に勝てたことないって話だったけど」
559
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:16:37 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「それは私に有利すぎる特殊なルールでの模擬戦だったからで、実際は――」
海賊「有利?」
魔法使い「ハンデをもらっていたと言えばいいのかしら?」
魔法使い「アイツとの模擬戦はいつも私が得意な間合いからやらせてもらっていて――」
魔法使い「もし普通に一足一刀の間合いから始めていたら私は一度もアイツに勝てなかったと思う」
海賊「そうなんだ。今も変わらずそんな感じなの?」
魔法使い「今? 今はどうだろう? ハンデありなら、戦えないこともないかな。たぶん」
海賊「やってみたら?」
魔法使い「やめておくわ。それよりも面倒見なきゃいけない子がいるから、そんな暇は……」
海賊「やればいいのにー。今、賢者ちゃんとやってるみたいだしさ。その後にでも!」
魔法使い「ハァッ!?」
560
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:20:47 ID:5Dt9ncyE
海岸――
賢者「(近づいてこない。どうしてだろう? 一瞬で決着がついちゃうから?)」
剣士「……!」ジリッ
賢者「(そうですよね。お爺さんの詠唱速度すら凌駕した剣士さんが、私なんかに苦戦するはずがない)」
賢者「(――って事は剣士さん、ああ言っていたけど私の事ちゃんと見てくれているんだ)」
賢者「(じゃあ、心置きなく……!)」エイ!
ボシュ
剣士「くっ!?」キンッ
賢者「小さい火球は速度があるけど、簡単に弾かれちゃうか。むぅー……」フムッ
剣士「(近づけない――ッ!)」ギリッ
剣士「(こうも砂に足を取られては躱すのですらキツイ。加えて緩急のついた波状攻撃だ。甘えた読みは死に直結する)」
剣士「(状況は最悪だな。身を隠す遮蔽物もないときた。となると残す手は――)」チャッ
剣士「(いや、駄目だ。投げナイフは使えない。彼女を傷つける。じゃあ、どうする?)」
賢者「どうしたんです? もう仕掛けてきてもいいですよ!」
剣士「(言ってくれるな。こんな事になるならニ十歩分もやるんじゃなかった)」イラッ
561
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:24:32 ID:5Dt9ncyE
剣士「(隙の大きい魔法に狙いを絞って近づくしかない。切り払えるものなら払いつつ距離を詰め、好機を広げる)」ジリ
賢者「まだまだ見極め足りないんですね。それなら、とっておきで――」キラッ
剣士「(氷の槍がくる。これは剣で切り払って……)」バッ
賢者「えいや!」バシュ バリバリ
剣士「氷槍じゃない!? 地を這う氷の衝撃波だと!?」ダン ヒラリ!
賢者「どうですか? お姉様の魔法を私なりにアレンジしてみました!」ドヤッ
剣士「(そうくるか……)」ヨロッ
剣士「(応用技は読めないな。だが、所詮はアレンジ。こちらも応用で対応できるはずだ)」
賢者「よし、次はこれです!」スッ
剣士「(火球? いや、爆発魔法にも近い。つまり複合技ってことかッ!)」ダン
ボシュ ドーン
剣士「(やはり着弾と同時に爆発する火球だった。こちらの切り払いを潰すつもりだったんだろうが!)」ヒラリッ
賢者「おおーっ!?」
剣士「(くっ、足場さえしっかりしていればな。だが、もうそれも関係ない。ここまで近づければ――!)」グッ
562
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:29:17 ID:5Dt9ncyE
剣士「(しかし、どうやって黙らせる? 鞘で頭をはたくわけにもいかない――)」ジリッ
剣士「(あ、そうか。押し倒せばいいのか。下は砂場だし、そこまで痛くないだろう)」
賢者「んー、次は……」スッ
剣士「――ッ!」ダンッ
ドンッ!
賢者「ぎゃ!?」バタッ
剣士「捕まえた。まったく何やってんだよ、本当にッ!!」
賢者「はぅー////」カァー
剣士「ど、どうした? どこか痛めたか??」オロオロ
賢者「いやぁ、近いなって……////」ポッ
剣士「あっ!」
賢者「いい、ですよ? べつに……////」テレッ
剣士「な、何が?」アセッ
賢者「か、勘違いしないで下さい! あ、いやぁ、勘違いでもいいですけども……////」
剣士「そんなつもりで押し倒したわけじゃ……」アセッ
563
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:31:30 ID:5Dt9ncyE
ゲシッ!!
剣士「イタ!」グシャァ
魔法使い「なに盛ってるの?」ジーッ
賢者「お、お姉様!?」ビクゥ!
剣士「脇が、脇腹がっ!!」モダモダ
魔法使い「特訓してるって聞いてきてみれば浜辺でキャッキャウフフとは。聞いて呆れるわ」
剣士「待て。不可抗力だ!」ヨロリッ
魔法使い「ふーん」
剣士「怪我させるわけにもいかないだろ!」
魔法使い「殺されかけてたっていうのに、随分とお優しいことね」
賢者「え? コロ……?」
魔法使い「気づいてなかったの? まあ、気づいてたらできないか」
剣士「(なんだよ、見てたんじゃないか。だったら止めろよな)」イラッ
564
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:37:27 ID:5Dt9ncyE
賢者「それ、本当なんですか?!」ガタッ
剣士「大げさだな。確かに追い詰められていたのは事実だが殺されはしなかったよ」
賢者「で、でも……」
剣士「だが、これでわかったろう。君は強い。足手まといなんかじゃ――」
魔法使い「ハァ!?」
剣士「え゙?!」
魔法使い「どこが? すべての状況がこの子に有利に働いていただけでしょ?」
賢者「そう、なんですか?」
魔法使い「ほら! この子はそれすら理解できていないのよ!?」
剣士「いや、だが……」
魔法使い「甘やかしてどうするの? 貴方はこの子を強くする為に戦ってたんじゃないの?」
魔法使い「ハッキリ言わなきゃこの子は一生強くなれない。それどころか命を落とすことにだって――」
剣士「わかってるよ! だが、君だって見てたんだろ!?」
魔法使い「ええ、途中から見させてもらったわ。じっくりと。だけど、それが何だって言うの!?」
565
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:41:48 ID:5Dt9ncyE
剣士「凄まじいものじゃないか、賢者の魔法は!?」
魔法使い「それは認めるわ。私以上に魔法を扱えていたことも含めて」
魔法使い「だけど、それだけで――才能だけで戦える相手でもない。違う?」
剣士「それはそうだが…… 何もそこまで強く言わなくてもいいじゃないか?」ボソッ
魔法使い「ハァ!?」
剣士「だって、そうだろ? 賢者は出会った頃のよりも強くなっていた。俺達の知らない間に、こんなにも強くだ」
剣士「少しは認めてあげたっていいじゃないか?」
魔法使い「だから認めてるって言ってるじゃない。私は甘やかすのが駄目って言ってるの!」
魔法使い「この子はすぐ付けあがる。キツイくらいが丁度いいのよ」ビシッ
賢者「あぅ……」シュン
魔法使い「何があぅーよ。間抜けな声出さないで!」
賢者「だ、だってぇ!」
魔法使い「言い訳なんて聞きたくないわ。ていうか、今後一切聞かないから」
魔法使い「明日から覚悟なさいよ。剣士に代わって私がビシバシ鍛えてあげる!」
剣士&賢者「「え゙!?」」
566
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:43:48 ID:5Dt9ncyE
剣士「い、今なんて……」
魔法使い「こいつを一から鍛えるって言ったの。貴方が鍛えるよりずっといいでしょ?」
剣士「そりゃまあ、同じ魔導師なわけだからな。だが――」
魔法使い「だが何? 何が不満なわけ?」
剣士「いや、不満はないよ。ないんだが――」
賢者「いいんですか!?」
魔法使い「嫌なの?」ギロッ
賢者「と、とんでもない!」ブンブン
魔法使い「じゃあ、決まりね」
賢者「よ、よろしくお願いします」ペコッ
魔法使い「でも明日からよ。まだ昨日の疲れぬけてないから」
賢者「あ、はいっ!!」
567
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:49:53 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「じゃあ、そういうことだからダッシュ。ご飯の支度にゴーゴー!!」
賢者「え!?」
魔法使い「昨日から何も食べてないの。作って」
賢者「えっ、あー、わかりました。作ってきます!!」シュバ!
タタタタ!
魔法使い「よし、これで邪魔者は消えた」
剣士「邪魔者って……」
魔法使い「それよりどういう風の吹き回し? 貴方があの子を鍛えようなんて」
剣士「それはこっちのセリフだよ」
魔法使い「べつに。あの子の才能を腐らせたままにしておくのは惜しいと思っただけよ」
魔法使い「これから戦いは厳しさを増す一方なんだし、役に立って貰わないと困るじゃない」
剣士「勝つ為に、か……」
剣士「(それが言えるって事は、本当に強くなったんだな。賢者の才能と向き合えるまでに)」
568
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:51:32 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「貴方こそどうして?」
剣士「どうしてって強くなりたいと言っていたから、それで――」
魔法使い「断れなかった?」
剣士「あ、ああ」
魔法使い「まあ、そんなところだと思った」
剣士「そんなにおかしいか?」
魔法使い「だって貴方はあの子に戦って欲しくないと思ってる。なのに、どうして自信をつけさせるようなことするのよ。変じゃない?」
剣士「あ……」
魔法使い「やっぱり否定しないんだ、そこは」
剣士「そうだな。俺は賢者に戦って欲しくないと。いや、彼女を守りながら戦えると心のどこかで思ってた……」
魔法使い「それは押し付けよ。あの子もそんな関係望んじゃいないわ」
剣士「わかってる。わかってるつもりだったんだが……」
魔法使い「いい顔したかった?」
569
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:54:13 ID:5Dt9ncyE
剣士「ち、違う!」
魔法使い「まあ、気持ちはわからなくもないけどね。好きな子になんでもしてあげたいっていう気持ちは」
剣士「だから違うって言ってるだろ!」バッ
魔法使い「じゃあ、何?」ジッ
剣士「何って、それは……」タジッ
魔法使い「貴方はあの子のヒーローであろうとし過ぎる。それが悪いとは言わないけど、少なくとも仲間に対する態度じゃないよね?」
剣士「うっ!?」
剣士「(だが、もっともだ。賢者の身を一番に案じていながら、仲間と言い張るのは無理がある)」
魔法使い「まあ、いいけど」
剣士「よくは、ないだろう?」
魔法使い「私が気を付ければいいことだし。それに――」
剣士「それに?」
魔法使い「ううん、やっぱ何でもない」
魔法使い「(想いは力に変わる。剣士は賢者と出会って強くなった。賢者の想いに応える為に。悔しいけど、それは認めなければならない)」
570
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/02/21(金) 15:45:21 ID:imhqHob6
乙
571
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:14:48 ID:.oerQfSI
魔法使い「――そんなことよりよ。アイツと何か話した?」
剣士「アイツ? ああ、エルフの詩人か。話したよ、少しだけ」
魔法使い「なんだって?」
剣士「何って、なんだろう。なんて言えばいいんだ?」
魔法使い「?」
剣士「なあ、俺が――ただの人が、魔王を倒したら世界はどうなると思う?」
魔法使い「どうしたの、急に?」
剣士「アイツが俺達に協力する理由はそこにあるらしいんだ」
魔法使い「へぇー」
剣士「本当にへぇーだよな。わけがわからない。それが一体何だって言うんだ?」
魔法使い「うーん、それはちょっと想像力足らなすぎじゃない?」
剣士「そうか? 担ぎあげられる神輿が代わるだけの話だろ?」
魔法使い「だから、それが問題なんでしょ!?」
572
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:16:36 ID:.oerQfSI
魔法使い「つまりそれって人々が勇者を必要としなくなるってことよ?」
剣士「なるか?」
魔法使い「なるわよ!」
剣士「この程度で失われるような権威でもあるまい」
魔法使い「だからってまったく影響されないってこともないわ」
剣士「それはそうだろうが……」
魔法使い「これを機に女神信仰から人々が離れることだって十分にあり得る」
剣士「流石に飛躍しすぎだろう?」
魔法使い「本当に、そう思う?」
剣士「確かに女神は勇者を地上に遣わし、人々を魔王の恐怖から救うと言われている――が、それだけで人々が離れるか?」
魔法使い「貴方は勇者の影響力を甘く見過ぎている。女神信仰がここまで爆発的に広まり浸透したのは勇者の存在があったからこそ――」
魔法使い「それに貴方は、神の言葉を越えようとしている。だけってことはないんじゃない」
剣士「神の言葉?」
魔法使い「信仰と教え、勇者にまつわる伝説の数々、それらをひっくるめたものかな?」
573
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:18:30 ID:.oerQfSI
魔法使い「その言葉が正しいと信じられてきたから、人々は神を絶対視してきた。だけど、もしそれが間違いであったとしたら?」
剣士「間違いとは少し違うんじゃないか?」
魔法使い「そう? 思い出してみて。嫌って言うほど見てこなかった?」
魔法使い「女神に選ばれた勇者だけが世界を救える。そんな伝説と、それを信じる人たち」
剣士「だからって……」
魔法使い「言葉を守っていた人は善であり、外れた人は悪であるとされてきた」
魔法使い「勇者にまつわる伝説だって例外じゃない。これも信じられてきた教えの一つよ」
剣士「つまり君は女神信仰を支えていた根底がひっくり返る、そう言いたいわけか?」
魔法使い「それに知ってる? 今、勇者がなんて言われてるか?」
剣士「なんて?」
魔法使い「敗北者、負け犬よ」
剣士「う、嘘だろ?!」
魔法使い「嘘じゃないわ。ここの子供たちが言っていた」
574
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:21:07 ID:.oerQfSI
剣士「それだけで、それが勇者の世評だと決めつけるのは……」
魔法使い「そうね。今はまだ子供の戯言に過ぎないわ。けど、貴方が魔王を倒せば誰も勇者を必要としなくなる」
魔法使い「そうなれば、そんな俗称で呼ばれる日がくるかもしれない。何せ、この時代の勇者は何もできずに、何の伝説も残せずに死んだのよ?」
剣士「それは、そうなのかもしれない。だが、だからって……」
魔法使い「勇者の名誉を守る為にも否定したい気持ちはわかるわ。だけど――」
魔法使い「貴方だってもう気づいていたはず、自分の戦いがどういう結果をもたらすのか」
剣士「!?」
魔法使い「貴方の戦いは勇者とは違う。そう言ったのは誰?」
剣士「そうだな。確かに俺は望んでいる。勇者が見せる未来とは違う未来を。だが、それが彼女を裏切り、貶めることになるなんて……」
魔法使い「同情するわ。勇者の為に始めた戦いが、今や勇者を否定することになるなんて」
剣士「いや、俺は始めから自分の為に戦っていた。勇者はただの言い訳に過ぎなかったよ」
魔法使い「そっか」
剣士「最低だな、俺は」
魔法使い「今更でしょ。開き直っちゃえば?」
剣士「そうだな。今更、なんだよな……」
575
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:23:17 ID:.oerQfSI
剣士「――ってことはアイツもそんな世界を望んで? だから俺に賭けた?」
魔法使い「んー、どうだろう?」
剣士「そうだよな。そんなことをしてアイツに何の得がある?」
魔法使い「それもどうだろう。アイツが勇者の存在を恨んでいるのだとしたら――」
剣士「恨む?」
魔法使い「そんな感じしなかった?」
剣士「言われてみれば……」
魔法使い「それにアイツも三魔将の一人だったのよね?」
剣士「ああ、言ってたなそんなことも」
魔法使い「じゃあ知ってたのよね。当然、勇者暗殺のことも最初から全部」
剣士「どうだろう?」
魔法使い「仮に知らされていなくても、アイツの立場なら調べられたんじゃない?」
剣士「いやアイツが三魔将になったのは最近かもしれない。勇者が死んだ後ってことも……」
魔法使い「それはないわよ。新参が付けるような地位とはとても思えないわ」
576
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:25:49 ID:.oerQfSI
魔法使い「他の三魔将を覚えてる?」
剣士「爺さんに、変なオカマだろ? 確か二人は、人魔族で進化の秘術を――ああ!?」
魔法使い「そう、二人とも秘術によってこの時代まで生きながらえた古参の魔族だった」
剣士「でも待てよ。三魔将は四天王と同等の力を持つと恐れられ、魔族の中でも一目置かれている存在なんだよな?」
剣士「だとしたら古参とか新参とか、そんなの関係なしに実力だけで選ばれている気がしないでもない。むしろ、その方が魔族らしい」
魔法使い「おそらく三魔将は人魔族の為に作られた地位よ。元々ドレイだった人魔族が他の魔族と変わらない、同等に見せる為の」
剣士「政治的な意味合いで?」
魔法使い「でもなきゃ四天王っていう同じような地位が既に存在してるのに新しく作る?」
剣士「まあ、確かに。だとしても古参を優遇する理由にはならないんじゃないか?」
魔法使い「秘術がなければ人魔族は弱いとされてきたのよ。その秘術を知っているものは誰だった?」
剣士「あ!?」
魔法使い「秘術を知る者がそいつだけなら、三魔将を選んだ者そいつだけということになる」
剣士「つまりアイツは側近の信頼を得るだけの時間を奴らと一緒に過ごしていた?」
魔法使い「そう考えるのが普通じゃない?」
577
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:31:25 ID:.oerQfSI
剣士「しかし、わからないな。勇者を恨んでいたとして。なら何故、人は恨まない?」
剣士「例の男――、側近と同じように人間もろとも滅ぼせばよかっただろうに」
魔法使い「滅ぼす気がないわけでもないんじゃない?」
魔法使い「貴方が魔王を倒せる保証なんて今もないし、それに貴方が現れないことだって十分に考えられた。あのまま勇者と共に滅ぶ未来だってあったってことよ?」
剣士「じゃあ、なんだ?」
剣士「アイツからしてみたら、女神を信仰し続ける人間なんてものは死にも等しいと?」
魔法使い「さあ? でも、いいところついたんじゃない?」
剣士「わからないな」
魔法使い「そうね。もっと単純だと思ってたわ。魔王を倒して、それで終わると」
剣士「少し立ち止まって考えてみるか?」
魔法使い「随分と弱気じゃない? どうしたの?」クスッ
剣士「どうってべつに」
魔法使い「逆に私はもっと先に進んでみたくなったわ。先に進めば答えが見つかる気がして」
剣士「立ち止まっていても答えは出ないか。実際、その通りなんだろうが……」
578
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:33:45 ID:.oerQfSI
魔法使い「怖くなった? それとも勇者を殺したと思われる奴とは一緒にいられない?」
剣士「まだ俺達の中での話だろ。決めつけるなよ」
魔法使い「じゃ聞いてみる?」
剣士「聞いてもいいが、それで警戒されてもな。どうせ、はぐらかされる」
魔法使い「まだまだ利用価値あるものね。――じゃ、なあに? やっぱり怖いの?」
剣士「怖い? そうだな。たぶん、そうなんだと思う」
剣士「事態は思った以上に複雑で、どんどん変化していっている。頭が追いついていないのにこのまま進んで大丈夫なんだろうかと」
魔法使い「戦いの中で見定めればいいじゃない?」
剣士「無茶言うなよ」
魔法使い「無駄に考えすぎなのよ。それに貴方の場合、考えて動くよりも直感で動いた方がいい方に転がること多いし」
剣士「そうかな?」
魔法使い「そうだったでしょ?」
剣士「……」
579
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:36:30 ID:.oerQfSI
剣士「君は変に思い切りがいいよな、昔から」
魔法使い「決断するまでが長いけどね。貴方と違って」
剣士「どっちがいいんだろう?」
魔法使い「私じゃない?」
剣士「ははっ、そうだな。決まった後にぐだぐだと考える方が質悪いか」
魔法使い「――じゃ、そろそろ帰ろうよ。潮風が冷たくなってきたし」
剣士「あ、そうだ!」
魔法使い「どうしたの?」
剣士「色々とありがとう。話せてよかった」
魔法使い「改まって言うこと?」
剣士「え? ああ、そうか。そうだよな……」
魔法使い「うん」ニコッ
剣士「(あー、そうか。わかってしまったな。俺はどっちも大切なんだ。同じくらい……)」
580
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:32:56 ID:E1OrZHt.
剣士「(二人と向き合おうとした途端これか。気づかされる。二人がいるから今の自分があり、戦えているという事実に)」
剣士「(依存しているんだろうな。俺の脆い信念は賢者を支えられ、魔法使いの助けを借りることで現実のものにしようとしている)」
魔法使い「そんなとこで立ち止まって、まだ帰りたくないとか?」フフッ
剣士「あ、いや……」
魔法使い「まだ考えてたの? いくら考えたって無駄よ。答えを出すには判断材料が少なすぎるわ」
剣士「それは、そうだが……」
魔法使い「さっきも言ったけど貴方は無駄に考えすぎ」
剣士「そう言われてもこればかりは難しいよ」
魔法使い「終わった後のことよ? 終わった後ゆっくり考えればいいじゃない?」フフッ
剣士「君に対する想いも、それでいいのか? いいわけないよな」ボソッ
魔法使い「何か言った?」
剣士「いや、なんでもないよ」
581
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:34:18 ID:E1OrZHt.
夕方 宿屋近く――
詩人「よかったね。簡単に許してもらえてさ」
武闘家「ああ。海賊姉さんがあんなこと言うから色々覚悟しちまったぜ」ハァ
詩人「僕的にはつまらなかったけどねぇ。ほとんど質問攻め。襲撃してきた魔族のことばかりで凄く退屈だったよ」
武闘家「そりゃないだろ。この村が狙われてたわけだぜ?」
詩人「気持ちはわかるけど、もっと君をいじり倒して欲しかったなーって」
武闘家「ひでぇ」
詩人「ふふっ、ごめんよ」
武闘家「なんか、お前ってどっか変だよな。エルフだからってわけじゃなさそうだし――」
武闘家「てか、ほんとにエルフ??」
詩人「しつこいな君も。このキュートな長いお耳が見えないのかい?」
武闘家「魔法で姿形変えられるんだろ。聞いたぜ、剣士殿から」
詩人「今の姿が本当の僕だよ」
武闘家「怪しんもんだぜ。真実の水晶がありゃな。姫様からもらっときゃよかった」
582
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:35:39 ID:E1OrZHt.
詩人「そんなぁ。信じてよぉー」
武闘家「胡散臭いんだよな、何もかも。剣士殿も味方かどうかわからないって言うしよ」
詩人「僕は君達の味方だよ。これだけは本当に本当。賭けてもいい」
武闘家「ふぅーん」ハナホジ
詩人「あ、そうだ! 君、強くなりたいんだよね? だったら僕が君を強くしてあげるよ」
武闘家「は?」
詩人「強くなりたいんだろう、今よりも?」
武闘家「何言ってんだよ。稽古でもつけようってか。エルフのアンタが、俺にぃ??」
詩人「進化の秘術って聞いたことない?」
武闘家「え……?」
詩人「ごめん。聞いたことないよね。なんて言えばいいんだろう。簡単に言うと――」
武闘家「おい! なんでアンタがそれを知ってるんだよ!?」ガタッ
詩人「ほう、この反応は意外だな。知っているのか。いや、それはそうか」
詩人「君達は三魔将の強さに疑問を持っていなかった。それは既に強さの秘密を知っていたからで……」フム
583
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:37:26 ID:E1OrZHt.
武闘家「んなことはどうでもいい。答えろ。なんでアンタがッ!?」
詩人「なんでって、元々進化の秘術は僕達エルフ一族のものだったからだよ」
武闘家「けど、魔法使いさんのお婆さんは知らなかったって……」
詩人「秘術はエルフの中でもごく僅か一部の者にしか知らない。それこそ王族クラスの者でなければ耳にすらしないだろう」
武闘家「エルフの王族なのか!?」
詩人「僕? いや、違うけど」
武闘家「じゃなんで!?」
詩人「それがそんなに大事? それよりも僕が秘術を使えることのほうが大事じゃない?」
武闘家「使えるって、嘘だろ!?」
詩人「完全に、とは言わないけどね。だけど君を今より強くすることくらいはできるよ」
武闘家「ちょ、ちょっと待てよ。まさか、魔族に秘術を教えたのはアンタじゃないよな!?」
詩人「あ、それは僕じゃない。エルフのお姫様が先代の魔王恋しさに側近に教えたのであって――」
武闘家「エルフのお姫様だァー??」
詩人「今から百年ほど前、先代の話さ。そこから魔族は狂い始めた。――知りたいかい?」
584
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:39:09 ID:E1OrZHt.
武闘家「えーっと、つまりなんだ。アンタの話を要約するに――」
武闘家「里を飛び出したエルフのお姫様は先代の魔王に恋しちゃって、それで勇者から魔王を守る為に進化の秘術を側近に授けたって言うんだな?」
詩人「愛は恐ろしいね。人の倫理観を狂わせ、時として破滅を呼んでしまう」
詩人「かく言うこの僕も愛ゆえに、禁忌を破ろうとしているわけだけど」
武闘家「き、気持ち悪いこと言うなよ」
詩人「――で、どうする?」
武闘家「どうするって言われても……」
詩人「元々君はこの力を求めて旅をしていたんだろう。何を迷うことがある?」
武闘家「だっておかしいじゃねぇか。なんで剣士殿に使わない。人間には効果ないからか?」
詩人「あるよ」
武闘家「じゃなんでだよ。俺より先に使うべき人がいるじゃねぇーか!!」
詩人「そうしないのは僕の目的が、この歪んだ世界を元の正しい世界に戻すことだからさ」
武闘家「歪んだ世界?」
詩人「この世界は進化の秘術のせいで歪んでしまった。その歪みを正すのに、どうして元凶たる秘術の力に頼らなければならない?」
585
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:41:05 ID:E1OrZHt.
武闘家「んなこと言っていられる状況か?!」
詩人「わかってないね。この力で魔王を倒しても世界の歪みは正されない。むしろ事態はさらに悪化するだけだ」
詩人「君がそうだったように、多くの人達も剣士の力の秘密に迫るだろう。そして辿り着く。そうなれば秘術を求め、今度はエルフ族との戦いが始まる」
武闘家「でも敵はいなくなるんだぜ? 追い求めるか、そこまでして力を?」
詩人「追い求めるさ。人とは、そういう生き物だ。だからこそ人は繁栄を極めた」
武闘家「じゃあ、なんで? なんで俺はいいんだよ?」
詩人「それは君が元々歪んだ存在――、人魔族の血が混じっているからだよ」
武闘家「俺が歪んだ存在? 人魔族だから??」
詩人「それに言っただろう。完全には扱えないって。内なる力に身体が耐えきれず、死に至る危険性が極めて高い」
武闘家「なるほど。俺なら失敗してもいいってわけか……」
詩人「最後まで聞いてくれ。君の身体の半分は魔族だ。失敗してもその血が――、邪神の加護が守ってくれる。肉体の崩壊を」
586
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:44:34 ID:E1OrZHt.
詩人「まあ、その場合は人魔族以外の魔族同様に、魔王が死に邪神の加護が失われたとき君も死ぬことになるんだけど――」
詩人「覚悟はできているんだろう?」
武闘家「そう言ったけど。言ったけどさ……」
詩人「覚悟ができていたって、そうすぐに決められるものじゃないか……」
武闘家「……」
詩人「こんなこと言いたくはないけど、君の身体には臆病者の人魔族の血が流れている」
詩人「克服するには秘術の力に頼る他ないと思うよ」
武闘家「っ!?」
詩人「ごめん。でも君の為を想って言ったつまりだ。考えておいて。僕は待ってる」タッ
武闘家「くそ、くそぉおお! どうすりゃいいんだよ……」
詩人「(それにしても意外だったな。彼等が進化の秘術を知っていたなんて。四天王ですら知らない機密だぞ。誰が彼等に教えた?)」
詩人「(姉は絶対にあり得ない。召喚士のオカマがお漏らししたとも思えないし――)」
詩人「(となると残るは呪術師だけ。なるほど、彼が教えたのか。困った爺さんだな)」フフッ
587
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/03/26(木) 17:26:50 ID:xtidNnwA
乙
588
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/06/14(日) 14:01:54 ID:38JAE7Qs
おつ
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