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賢者「勇者様の遺志を継ぎ、私が魔王を倒します」
272
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/04(日) 20:11:50 ID:7y9IuZdg
賢者「はぅー、あたたかい……」ゴシゴシッ
剣士「対応に困るんだが?」
賢者「じゃ教えてあげます。腰に腕を回すんですよ」
剣士「……こ、こうか?」ギュッ
賢者「そうです、そうです!」エヘヘ
剣士「慣れないな。照れくさいというか……」ポンポン
賢者「あ、嫌でしたか……?」チラッ
剣士「いや、そんな事はないよ。こうしていると凄く安心する」ニコッ
賢者「わ、私もでしゅ……////」カーッ
剣士「(俺の選択は間違いじゃなかった。そう信じていいんだよな? だったら俺は……!)」
273
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/04(日) 20:34:12 ID:/ISanyzw
おつ
274
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/06(火) 14:41:26 ID:n1CuaZjA
ちゅーだろちゅー
275
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 17:51:44 ID:Gv2LcCes
門――
ガヤガヤ
武闘家「見事だったぜ、剣士殿!」
剣士「見ていたのか?」
武闘家「見るなって言う方が無理だぜ。大半の人は見守っていただろうよ」
剣士「そ、そうか……」
武闘家「お、そうだった。伝言を預かっているんだ」
剣士「伝言?」
武闘家「市長が街を救ってくれた剣士殿にお礼がしたいからお屋敷まで来てくれってよ」
剣士「断れそうにないな」
武闘家「なんで断るんだよ!?」
剣士「苦手なんだよな。そういうの……」
賢者「好意を無碍にはできませんよ。行きましょう!」
276
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 17:52:45 ID:Gv2LcCes
屋敷――
使用人「お越しくださりありがとうございます。市長をお呼びしますので少々お待ちを」
武闘家「ほへー、おっきな屋敷。あるところにはあるんだな」
賢者「え? なんで武闘家くんもお屋敷の中にいるんですか?」
武闘家「決めたからな。俺も剣士殿の仲間になるって」
賢者「え゙……?」
武闘家「露骨に嫌そうな顔すんなよ!!」
魔法使い「ねえ、剣士。まだ時間かかりそうだから少し話さない、二人で」
剣士「わかった……」
魔法使い「ちょっと席を外すわね」ガタッ
賢者「え、あ、はい……」
剣士「すぐ戻るよ」スクッ
277
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 17:53:34 ID:Gv2LcCes
魔法使い「今回の事どうして話さなかったの? なんで何も相談しないのよ!」ガッ
剣士「言えば止められると思った」
魔法使い「当り前でしょッ!?」
剣士「だから俺は……」
魔法使い「私達仲間じゃなかったの?」
剣士「それは、すまなかった……」
魔法使い「貴方の悪い癖だわ。全部自分で抱え込んで、自分だけで解決しようとして――」
魔法使い「仲間だなんて言うのも、貴方にとってその方が都合いいからでしょ?」
剣士「違う!」
魔法使い「だったらなんで……?」
剣士「知りたかった。勇者に代わる力が俺にあるのかどうかを……」
魔法使い「答えになってないわ!!」
278
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 17:55:04 ID:Gv2LcCes
剣士「女神の塔は知っているか?」
魔法使い「聖域だったかしら、勇者の武具が祭られている……?」
剣士「その塔には女神の守りなるものがあり、その力によって魔王すら踏み入る事ができないとか……」
魔法使い「それがなに?」
剣士「魔王を弱らせ、その塔にブチ込む」
魔法使い「ふ、封印しようと言うの!?」
剣士「そうだ。殺せなくても魔王としての機能を停止させれば勝てる!」
魔法使い「無理よ。だって……」
剣士「ああ。無理だと言われ続け、そう思い込んでいた。だが――!」
魔法使い「命がいくつあっても足りないわ!」
剣士「だな。女神の加護が欲しくなる」
279
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 17:56:47 ID:Gv2LcCes
魔法使い「そうよ。貴方がやろうしている事はただの……」
剣士「だったら勇者になればいい」
魔法使い「驕らないで。今回も運がよかっただけ、相手が退かなければ貴方は今頃……」
剣士「生き残ったさ。俺にはまだ余力があった。そして後ろには君が控えていた」
魔法使い「?!」
剣士「できる。俺達なら!」
魔法使い「ば、馬鹿じゃないの……?」
剣士「馬鹿でもいいじゃないか。全てを諦め、文句を言いながら死を待つより…… だろ?」
魔法使い「変ったわね、貴方……」
剣士「賢者が俺を変えてくれた。……いや、違うな。もらったんだ、勇気を」
魔法使い「――ッ!?」
280
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 18:00:15 ID:Gv2LcCes
賢者「お二人ともどこにいるんですか? そろそろお見えになるそうですよー!」
剣士「ああ、今行くよ。――魔法使い、また話そう。もう隠し事はしない」
魔法使い「え、ええ……」
魔法使い「(貴方はこの戦いで力を示し、答えを出した。もう止まる事はない――)」
魔法使い「(離れていく、私を置いて……)」
賢者「なにかご褒美とか貰えちゃうんですかね」ワクワク
武闘家「そりゃ謝辞を述べて終わりって事はねーだろ」
賢者「わーお!」
剣士「――気になっていたんだが、エルフの里はいいのか?」
武闘家「うん。俺も剣士殿のように誰かの助けになりたいんだ。駄目かな?」
剣士「想いが同じでは断れないか……」
281
:
◆49HRmRlKYE
:2017/06/11(日) 18:03:27 ID:Gv2LcCes
武闘家「じゃ、じゃあ!!」
剣士「ああ、よろしく」
賢者「え゙ええええーー!!」
武闘家「剣士殿がいいって言ったんだ。文句ねーだろ!!」
賢者「武闘家くんなんかに剣士さんは渡しませんよ!」
武闘家「そうはいくか! これから剣士殿に色々とご指導願うんだい!」
剣士「(仲間、か……)」
剣士「(魔法使いの言う通り、俺は自分の都合で使い分けているのかもしれない)」
剣士「(わかっている。このままじゃ駄目だと言う事は。だが――)」チラッ
賢者「?」ニコッ
剣士「(俺は怖い。彼女を失う事が何よりも……)」
魔法使い「……」ジー
282
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/06/11(日) 18:33:13 ID:gZX3ewsI
乙
283
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/23(日) 01:06:18 ID:M8eLG1Jc
madacana?
284
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:52:01 ID:Q9mEL5AM
gomen!ukabanakute!!
285
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:52:55 ID:Q9mEL5AM
数日後 平原――
武闘家「あの市長も太っ腹だよな。馬車を褒美でくれるなんて」
剣士「荷台には貴重な薬品類まで入っていた。なんだか申し訳ないな……」
魔法使い「活躍に見合った報酬だと思うけれど?」
賢者「そうですよ、好意は素直に受け取りましょう。大助かりですし!」ノリッ
魔法使い「あ、また馬車の中に!」
剣士「いいじゃないか。今のところ危険はなさそうだし、俺も休もうかな」
魔法使い「ちょ、ちょっと!!」アセッ
剣士「何かあったら声をかけてくれ」ノリッ
武闘家「オッケー!」
魔法使い「じゃ私も中で休むわね」
武闘家「え!? うっそ、俺一人ですかい!?」
魔法使い「新入りなんだから頑張って!」ノリッ
286
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:54:08 ID:Q9mEL5AM
馬車――
賢者「あ、剣士さん!」
剣士「隣いいか?」
賢者「ど、どうぞ///」モソッ
剣士「そういえばまだ謝っていなかったな」
賢者「?」
剣士「一騎打ちの事話し合うべきだった、すまない……」
賢者「あれは仕方ないですよ、話し合う時間なかったですし」
剣士「実を言うとそうじゃないんだ。その前の晩、ホモと名乗る詩人が四天王の襲来を俺に告げてくれていたんだ」
賢者「え、それって……」
魔法使い「グリフォンの時と似ているわね」
287
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:55:52 ID:Q9mEL5AM
剣士「魔法使い!? じゃあ今、武闘家一人か?」
魔法使い「そんな事より、その話は本当なの?」
剣士「あ、ああ……」
魔法使い「ふざけた話、偶然とはとても思えない……」
賢者「同一人物だというのなら正体は――」
剣士「だとして、エルフが人間の味方をする理由はなんだ?」
魔法使い「人間の味方、そう決めつけていいの?」
剣士「どういう意味だ?」
魔法使い「本当に人間の味方をする気があるなら貴方だけに話す?」
魔法使い「少なくとも市長には事を話し街の協力を得るべきだった」
288
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:56:41 ID:Q9mEL5AM
剣士「そう簡単に信じてもらえる話でもないだろう」
魔法使い「信じてもらえる人間に変化できるのに?」
剣士「あ……」
魔法使い「でもそうしなかった。あえて貴方だけに教えた。その意味は? 目的は何?」
剣士「それは……」
魔法使い「いずれにしても警戒するべきだと思うわ」
剣士「鵜呑みにするのは危険? いや、だが……」
魔法使い「で、それだけ?」
剣士「だけ?」
魔法使い「隠し事よ。この際だから全部ゲロったら?」
剣士「他にはとくに……」
魔法使い「ふーん、そう」
289
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:58:28 ID:Q9mEL5AM
剣士「じゃあ俺は戻るよ。武闘家一人に任せるのも悪いしな」スクッ
賢者「あ、はい!」
魔法使い「……」
賢者「(す、凄く気まずい……)」
魔法使い「――私は絶対に無理だと思うわ。魔王討伐なんて」
魔法使い「あれを目の当たりにした今でもその考えは変わらない」
賢者「まだ信じられないんですか?」
魔法使い「貴女は気楽でいいわね。信じていれば剣士が叶えてくれると思っているんだから」
賢者「え?」
魔法使い「確かに剣士は強くなった。勇者を越えたと断言してもいいくらいに……」
魔法使い「四天王を一人で打ち破るなんて歴代の勇者ですら成し得なかった事だもの」
290
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/23(日) 23:59:47 ID:Q9mEL5AM
賢者「あ、あぁ……!?」
魔法使い「私の言いたい事がわかったみたいね。――そう、一人の力には限界がある」
魔法使い「だから勇者は仲間を集い、力を分け与える事で魔王に対抗したのよ」
賢者「勇者との契約……」
魔法使い「ねえ、貴女にはその力がある。剣士を支え導くだけの力が?」
賢者「そ、それは……」
魔法使い「ハッキリ言って今の私にはないわ」
魔法使い「けど、それを理由にアイツが旅をやめるとは思えない。わかるこの意味?」
賢者「う……」
魔法使い「ふざけた話よね。本当にふざけてる……」ギリッ
賢者「(お姉様の言う通りだ。私はなにもわかっていなかった、何も変わっては……)」
291
:
◆49HRmRlKYE
:2017/07/24(月) 00:00:35 ID:0mmwdqtM
街 夜――
武闘家「着いたぜ、二人ともー!」
賢者「随分とまた大きな街ですね」
魔法使い「首都だからね」
賢者「え!? あー、この国の……」
魔法使い「しっかりしなさい」
賢者「そ、それにしても海に面した王国なんて素敵ですねーっ!!」
剣士「船を手に入れられればいいんだが……」
魔法使い「地道に当たっていくしかないんじゃない?」
武闘家「とりあえず飯にしようぜ。腹減っちまったよ」
292
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/25(火) 21:18:54 ID:LFgFFn/Y
剣士がホモに気に入られてるだけ説
293
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/07(月) 18:32:09 ID:dzI6FFfA
ホモは優しいからな
おつおつ
294
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:12:33 ID:uLcfPVGE
酒場――
ガヤガヤ ワーワー
剣士「酒場か……」
魔法使い「他になかったのだから仕方ないでしょ。それに色んな情報聞けるかもよ」
剣士「あとでマスターと話してみよう。――しかしまあ騒がしい場所だ」
魔法使い「時間も時間だし、静かだったら逆に困るわ」
剣士「活気があるのはいい事か」
武闘家「うお、飯キター! このパテうめえええ!!」ガツガツ
魔法使い「ちょっとマナーってものがなってないわ!」
武闘家「ここのマナーはただ一つ、楽しく飲み食いする事だろ。なあ剣士殿!」
剣士「楽しく食べるのは賛成だが、汚く食べていいという理由にはならないんじゃないか?」
武闘家「あー、それもそうだよな。はは、悪い」
295
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:13:43 ID:uLcfPVGE
ガシャーン
荒くれ者「ちょっとくらいいいじゃないかよー!」ガシッ
店員「そんな事を言われても困ります!?」
荒くれ者「サービスが悪すぎるんじゃないかー?」
店員「そう言われても……」
荒くれ者「酒くらいついでくれたっていいじゃねーか。金は払うからさぉ」グイ
店員「あ、ちょっ……」
荒くれ者「ほら、ここお座り。んほー、いい体してるじゃない!」サワサワ
店員「ヒィ!」
荒くれ者「げへへ」
296
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:14:34 ID:uLcfPVGE
武闘家「なんて野郎だ。あいつこそマナーがなってないぜ!」
魔法使い「いかにもって感じではあるけどね」
賢者「だからって許せるものでもありませんよ。助けに行きましょう、剣士さん」ガタッ
剣士「え?」ビクッ
賢者「え……!?」
武闘家「剣士殿が行ってくれるのか。じゃ俺はここで。全員で殴り込みに行くのもな!」
剣士「そ、そうだな」スクッ
魔法使い「嫌なら断ればいいのに……」
賢者「あ、あぅ……」シュン
魔法使い「で、貴女はなに?」
賢者「また剣士さんに頼ってしまった、無意識に……」グス
魔法使い「はあー??」
297
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:15:47 ID:uLcfPVGE
荒くれ者「ねえ、このあと暇? だったらさ、俺の部屋に……」グイ
店員「や、やめてって……」
荒くれ者「ああん? なんだってぇー!?」ゲヘヘ
剣士「ゴホン。そこのアンt……」
偽剣士「もうやめたらどうだい。レディが困っているじゃないか」バーン!!
荒くれ者「なんだテメー!」
偽剣士「私をご存じない? やれやれ、とんだ田舎に来てしまったのかな」
店員「そ、その紅い髪。腰に携えた片刃の刀剣は……!」
偽剣士「フッ……」ニカッ
荒くれ者「まさか、あの紅蓮の剣士だと!」ガタン
ガヤガヤガヤ ナニィー アレガ ウワサノ…
剣士「えぇ……」ポツン
298
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:16:53 ID:uLcfPVGE
賢者「剣士さんの偽者、ですか!?」
魔法使い「いずれ現れると思ったけど、これはちょっと……」
武闘家「いずれってどういう?」
魔法使い「勇者の偽者もよく現れたそうよ」
賢者「つまり、それは――」
賢者「人々の間でも剣士さんは勇者様に代わる存在だと思われはじめているという事ですか?」
魔法使い「随分と派手な事をやった後だし、あり得るんじゃない?」
賢者「……」
武闘家「けど運がなかったな。まさかご本人が近くにいるなんて」
魔法使い「んー、その本人がどうでるか……」
299
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:18:23 ID:uLcfPVGE
荒くれ者「ぐ、紅蓮だからなんだ。これは俺と姉ちゃんの問題だぜ、部外者が口を出すんじゃねーよ」
偽剣士「じゃ聞こうか。君はこの豚野郎と一緒にいたい?」
荒くれ者「ぶ、豚だと!」
偽剣士「そうだろう? 鼻息を荒くして、下品極まりない」
荒くれ者「こ、この!!」グッ
偽剣士「おっと。暴力はやめた方が身のためだ。君が魔王より強いなら話は別だけど」
荒くれ者「ぐぬぬ…… お、覚えていやがれー!!」ダッ
偽剣士「レディ、もう大丈夫ですよ」スッ
店員「あ、ありがとうございます。紅蓮の剣士様……///」
偽剣士「当然の事をしただけさ」ニコッ
オーオー ヒューヒュー カッコイイゾー
剣士「仕方ない、ひとまず戻るか……」クルッ
300
:
◆49HRmRlKYE
:2017/08/10(木) 01:19:47 ID:uLcfPVGE
剣士「ただいま」スワリ
武闘家「ただいまって…… なんで帰ってきちゃうの!?」
剣士「あの空気では無理だろう」
武闘家「それはそうかもしれねーけど……」
魔法使い「このまま放っておくのもありじゃない?」
剣士「あー、それもありか」
武闘家「変な噂がたったらどうすんだよ、あの偽者のせいでさ!」
剣士「大げさな。酒場での些細な出来事だぞ」
魔法使い「ええ、こんなの一晩たったら忘れるでしょ。お酒入ってるんだし」
武闘家「けどよ、おさまりが悪いっつーか……」モゴモゴ
魔法使い「見下せばいいんじゃない? 哀れだなーって」
武闘家「それもそれでなんかなあ」
301
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/10(木) 19:49:17 ID:5YeI/fKU
前作ってどれ?
302
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/18(月) 01:54:15 ID:CXR88s3g
まだかー
303
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/27(金) 23:53:06 ID:G3ZFyWkY
誠に申し訳無く候。ukabanaino-
304
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/27(金) 23:55:18 ID:G3ZFyWkY
>>301
あ、これが一応過去作です。貼っておきやす!
魔王「もう無理だ。勇者に勝てるわけないよ……」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1491946724/l50
読まなくてもなんの問題もないです。正当な続編というわけではないので
305
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/27(金) 23:58:11 ID:G3ZFyWkY
剣士「にしても俺の偽者か……」
魔法使い「よかったわね。勇者に代わる存在として認められつつあるって事じゃない」
剣士「べつに世間に認めてもらいたいわけじゃない」
魔法使い「ふーん」
剣士「まあ、悪い事ではないんだろうが……」
剣士「さて、そろそろ宿に戻ろうか。腹も膨れたことだし」
魔法使い「じゃ先に戻ってて。マスターと話してくるわ」
306
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/27(金) 23:59:05 ID:G3ZFyWkY
剣士「なら俺が……」
魔法使い「まだここに貴方の偽者がいるのよ?」
魔法使い「せっかくだし今日くらいゆっくり休んだらいいじゃない」
剣士「気持ちは嬉しいが、あいつがくるかもしれない」
魔法使い「あいつって例の……?」
剣士「ああ、だから俺が残るよ」
魔法使い「そう、わかった。じゃ貴方に任せるわ」
剣士「すまない。何かあれば必ず話すよ」
307
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:00:16 ID:tC4D9c5.
宿屋 ロビー――
賢者「よかったんですか?」
魔法使い「例のエルフは剣士が一人の時にしか現れないのかもしれない……」
賢者「そういう事ですか。やっぱり私達って……」
魔法使い「そう思うならやめたら?」
賢者「そ、それは……」
魔法使い「考えておくことね」
武闘家「何を考えておくんだ?」ヒョコッ
魔法使い「貴方には関係ない事。気にしないで」
武闘家「えー、仲間外れにしなくたっていいじゃん。いじけちゃう」シュン
魔法使い「楽しそうでなによりだわ」ハア
308
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:01:08 ID:tC4D9c5.
武闘家「それより聞きたい事あんだけど。ここって魔王に一番近い人間の国なんだよな」
武闘家「なのになんでこんなに平和なんだろ。真っ先に狙わる場所じゃないのか?」
賢者「魔王軍の侵略ルートについては色々な仮説がたっていますね。えっと確か……」
賢者「転移魔法を使って攻めてきているのではないか、というのが有力だったかな?」
武闘家「それって勇者が使うワープの事だよな。んじゃ同じ力を持つ魔王が侵攻部隊を送ってるってわけか」
魔法使い「ちょっと違うけど、だいたいそんなところじゃない?」
武闘家「なるほどなー。だから奴らはどこにでも沸いて出てくるのか。……んん??」
武闘家「けど、それが本当ならもっとヤバイ事になってね?」
魔法使い「転移魔法は扱いの難しい魔法よ。厳しい制約が課せられているんだと思うわ」
魔法使い「だからこの程度で済んでいるのかもね」
309
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:02:19 ID:tC4D9c5.
武闘家「あー、そういう事ね。勇者のワープも万能じゃないって話聞いた事あるな」
魔法使い「ま、あくまで憶測。実際はどうか……」
武闘家「いや、あってると思うぜ。輸送船を作るための資源とかも、あの大陸じゃ確保し辛いだろうし――」
武闘家「そういった特殊な手段でしか攻め入れないんだな。ほぇー、スッキリした」
武闘家「しかし転移か。盲点だったぜ」
賢者「一般的な魔法ではありませんからね」
武闘家「勇者と魔王だけの特権魔法じゃ、俺達には馴染みねーわな」
魔法使い「(そうとは限らない。もしあの城のような転移施設が存在してるのなら可能――)」
魔法使い「(だけれど、それを見つけたところで意味はない。やはり、ここは剣士を説得して……)」
魔法使い「(くっ、ダメ。そうしたらきっと、もう二度と彼の傍にいられなくなる)」
賢者「……」
310
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:09:30 ID:tC4D9c5.
酒場 カウンター――
マスター「」スッ
剣士「え? まだ何も……」
マスター「これは俺からのおごりだ。うちのスタッフを助けようとしてくれたろう」
剣士「ええ。ですが実際に助けたのは――」
マスター「偽者様の方だったな」ハハッ
剣士「!?」
マスター「長年こういう商売やってるとわかるんだよ。――それで何を探している? 本題に入ろうか」
剣士「船を探しています。魔王のいる大陸に渡る為の……」
マスター「驚いたな。本気で言ってるのかい?」
剣士「やはり船は出ていませんか。でしたら何か他に渡る為の方法を知っていませんか?」
311
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:10:47 ID:tC4D9c5.
マスター「あーいやね。剣士殿は本気で魔王を倒す気でいるんだなと。そっちに驚いたのさ」
剣士「?」
マスター「俺だったら――いや大抵の奴なら四天王を倒して、それで満足しそうなもんだ」
マスター「見てみなよ、あの偽者を。お前さんもあれと同じように面白おかしく生きていけるんだぜ?」
剣士「……」チラッ
マスター「勇者の使命を背負ってるわけじゃない。これ以上の危険を冒す必要はないと思うんだがね」
剣士「それで他には?」
マスター「ん?」
剣士「ですから、船の他に何か知らないでしょうか?」
マスター「アッハハハッ!」
312
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:19:29 ID:tC4D9c5.
マスター「これはとんだ失礼を。もう一杯おごらせてくれ」スッ
剣士「いえ、貴方の言いたい事はわかります。だが、それはしたくない」
マスター「その志の高さは尊敬に値するが、わかってるのかい?」
剣士「所詮は伝承。勇者だけが、などという馬鹿な事はないはず……」
マスター「やはりわかってなかったか。いや、馬鹿にしているわけじゃないぜ」
マスター「今や人々にとって紅蓮の剣士は光の勇者に代わる存在――、滅亡の危機を救ってくれるかもしれない新たな希望ってわけだ」
マスター「知ってるかい? お前さんが活躍しだしてから人々に活気が戻ったんだ。もしその身に何かあれば再び……」
剣士「俺の、いや勇者の遺志を継いだ者が現れる。違いますか?」
マスター「魔族、それも四天王ほどの敵と相対できる人間がどれだけいると思ってるんだ?」
剣士「俺は希望を与えるだけの存在になりたくない。そんなものどこかの王がやればいい」
剣士「そうではなく紅蓮の名が、というのであれば好きなだけ名乗れ。くれてやるよ」
マスター「アッハハアッ! そりゃあそうだ。名前で何かが守れるわけじゃない」
313
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:24:03 ID:tC4D9c5.
マスター「本当にすまない。けど、紅蓮の剣士がどういう男なのか知りたいっていう一般人の気持ちもわかってほしいね」
剣士「満足、ですか?」
マスター「大いに満足。気に入ったよ。俺に出来る事なら何でも協力するぜ」
剣士「というと?」
マスター「こんなご時世にもかかわらず海に出ている馬鹿どもを知っている。紹介できるかもしれん」
剣士「もしかしてその船というのは……」
マスター「安心していい。それについては俺が保証しよう」
剣士「はあ……」
マスター「話は俺の方からしておく。ニ、三日したらまたこの酒場に来てくれ」
剣士「では、よろしくお願いします」
マスター「期待に添える事ができればいいんだがね」
剣士「それじゃ俺はここで。また来ます」
マスター「ああ、またのお越しを!」
314
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:25:53 ID:tC4D9c5.
宿屋――
剣士「ただいま」ガチャ
武闘家「おかえりんりん!」
剣士「え……?」バタン
賢者「それで、どうでしたか?」
剣士「あ、ああ。一応、紹介してもらえる事になったんだが……」
魔法使い「何か問題でも?」
剣士「その船というのが、おそらく……」
魔法使い「海賊船?」
剣士「まだわからないが、察するにそうかもって」
315
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:27:43 ID:tC4D9c5.
賢者「断った方がよいのでは?」
剣士「あってから考えるよ。まだそうと決まったわけじゃない。それに海賊といっても様々だろう」
魔法使い「例のエルフは?」
剣士「会えなかった。という事はこの辺りはまだ安全なのかもな」
魔法使い「信用しすぎるのは――って言いたいけどそれに関してはどうしようもないのよね」
武闘家「どこにでも現れる可能性があるんじゃあな」
剣士「魔王軍出現の話か?」
賢者「ですです!」
剣士「予兆のようなものがあるんだろうが……」
賢者「あったとしても私達に感じ取れるものじゃないですよ、きっと」
剣士「そうだな」
316
:
◆49HRmRlKYE
:2017/10/28(土) 00:30:20 ID:tC4D9c5.
魔法使い「んー。じゃ、しばらくはこの街に留まる感じ?」
剣士「まあ、そうなるな」
賢者「あの、それっていつもよりゆっくりしていられるって事ですよね?」
剣士「え、ああ」
賢者「でしたら剣士さんのお時間を私にくれませんか、ほんの少しで構いませんから」
剣士「気を使わなくても。どうしたんだ?」
賢者「それは、その…… その時にお話しします!」
剣士「わ、わかった……」
武闘家「こ、これはアレじゃな!!」
魔法使い「へぇー」
317
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/05(日) 19:01:42 ID:YHMxetVw
デートか
318
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/15(水) 17:44:41 ID:gPmRwDbc
それぞれを何歳でイメージすればいいんだろ?
319
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:45:17 ID:1sKoMfF6
>>318
年齢は前に軽く触れただけでしたね。主要人物のだいたい年齢はこんな感じです。
剣士20歳。魔法使い19歳。武闘家17歳。賢者・勇者・魔王16歳。
あと剣士が敬語で話す相手はだいたい年上です。
320
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:46:48 ID:1sKoMfF6
翌日――
剣士「」ソワソワ
武闘家「どうしたんだよ、剣士殿。便所か――って、あーっ!」
剣士「ああ。賢者を待っていて」
武闘家「なるほどなー」
剣士「これから出かけるんだが、馬鹿をした。昨日マスターに船の事だけじゃなく、この街についても少し聞いておけばよかった」
武闘家「そんな気使う事でもないと思うぜ」ハハッ
剣士「まあな。だが、こういう機会は滅多にないだろうから……」
武闘家「剣士殿は賢者を大事にしているんだな」
剣士「大事に、か。難しいな。こうして戦いを続けていけば危険は増していくばかりだ。いつどこで命を落とすか……」
武闘家「そりゃそうだけど、それを承知で俺達は集ったんだぜ。想いが同じだからな」
剣士「想い?」
武闘家「なーに言ってんだよ、剣士殿が言ったんだぜ?」
321
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:49:22 ID:1sKoMfF6
武闘家「ま、確かに剣士殿からみれば俺達はまだ弱くて危なっかしいかもしれねぇけど――」
武闘家「そこはもうちょっと待っててくれ。必ず剣士殿に追いついてみせるからよ!」
剣士「だが無理は…… いや、これは違うな」
武闘家「おうよ! 共に戦っていこうぜ。人々を救う為に!」グッ
剣士「ああ!」
賢者「すみませーん。待たせしてしまって」バタバタ
剣士「ゆっくりでよかったのに」
武闘家「んじゃ俺もどっか、ぶーらぶらーっとしてくるよ」
剣士「ありがとう。話せてよかった」
武闘家「ん? ……おお!?? 気にすんなって!!」
剣士「俺達も行こうか」
賢者「はい!」
322
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:51:41 ID:1sKoMfF6
街――
剣士「(外へ出たはいいが、どうしたものか。賢者は何か話があると言っていたが……)」
賢者「あの、ちょっと歩きながらお話しませんか?」
剣士「え、ああ。構わないよ」
剣士「(しかし、なんて美しい街並みだ。流石は断崖の上に築かれた王国といったところか。うちとは大違いだな)」ホケー
賢者「よく晴れてよかったですね。空も海も透き通るような真っ青で、全てがキラキラと輝いて見えますよ」
剣士「ああ、ここが水の都と言われている所以がわかったよ」
賢者「ええ。正直このような場所に自分がいるのが信じられません。よくここまで、と」
剣士「なにを。感傷に浸るにはまだ早いじゃないか?」
賢者「……」グッ
賢者「ねえ、剣士さん。この海を越えた先に魔王がいるんですよね?」バッ
剣士「あ、ああ。それが?」
323
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:53:15 ID:1sKoMfF6
賢者「私、思うんです。ちょっと急ぎすぎているんじゃないかなって。紹介してもらえる船というのもわけがありそうな感じですし――」
賢者「それに仲間も随分と増えましたよね。最初は二人だけだったのに今では多くの人達に支持されるようにもなって……」
剣士「怖く、なったのか?」
賢者「……」コクン
剣士「まあ気持ちはわかるよ。なんだか凄く期待されているみたいだし重いよな」ハハッ
剣士「でもこれはいい事だよ。人の期待を背負うという事は、その人の為に戦えているという事。このプレッシャーを力に変えていこう」ポン
賢者「そうじゃなくて。いえ、それもあるんですけど……」
賢者「わからなくなっちゃったんです。本当にこのままで、勇者と同じやり方で魔王を倒せるのかなって」
324
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:55:20 ID:1sKoMfF6
賢者「お姉様が言っていました。一人の力には限界がある。あの勇者ですら仲間を集め、力を分け与える事で魔王に対抗したと」
賢者「それだけじゃありません。勇者には女神の祝福を受けた上質な武具の数々があって。で、でも貴方には何も……」
賢者「だからこのままじゃきっと――ううん違う。私は、私の弱さがいつか貴方を……」
剣士「俺は死なないよ。約束できる事ではないが、それでも約束する」
賢者「――っ!?」
剣士「確かに伝承を信じるのであれば魔王は俺達人間には到底敵わない存在――」
剣士「だが、それは魔王に限った話でもなかっただろう? 何もかもが等しく強大だった」
剣士「それでも俺達はここまで辿り着いた。そう、辿り着けたんだ。あとはただ、己を信じて突き進むだけ。違うか?」
賢者「本当にそう信じて?」
剣士「ああ。俺はそう信じる」
325
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 04:58:18 ID:1sKoMfF6
賢者「貴方は、強くなりましたね。あの頃とは比べ物にならないほど」
剣士「でなければ困るだろう?」ニコッ
賢者「そりゃそうでしたね」フフッ
賢者「(私は卑怯だ。泣きついて許されようとしていた。無力である事を)」
賢者「(でも違う。そうじゃない。私も彼と同じよう足掻き続けなきゃいけなかったんだ。最初にそれを約束したのは私だったのに……!)」
剣士「さて、いい時間だな。昼食にしようか」
賢者「あ、なにか作ってくればよかったですね」
剣士「それはまた今度にしよう」
賢者「今度ありますかね?」
剣士「あるさ。なんなら明日でもいい」
賢者「ほ、本当に!? わーい、やったー!」
326
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 05:01:48 ID:1sKoMfF6
宿屋 昼――
魔法使い「はあ……」パタン
魔法使い「朝まるまるつぶしちゃったわ、魔導書を読むだけで」コロン バタッ
魔法使い「本当なにしてるんだろう、私……」グスン
魔法使い「……」グーー
魔法使い「お腹すいた。何か食べてこよう」ムクッ
魔法使い「あーでもお店行くのはめんど。馬車にあるもの適当に食べて済ませよ」
外――
魔法使い「賢者が作った保存食がいくつかあったはず……」ゴソゴソ
執事「失礼。貴女がその馬車の持ち主でしょうか?」
魔法使い「ほえ?」キョトン
327
:
◆49HRmRlKYE
:2017/12/09(土) 05:04:02 ID:1sKoMfF6
魔法使い「ええ、そうよ。べつに盗みを働いてるわけじゃないわ」
執事「いえ、そういうつもりでは……」オドッ
魔法使い「で、貴方は? ルームサービスを頼んだ覚えはないんだけれど」
執事「見ての通り王宮に使えるものです。わけあって紅蓮の剣士を探しております。ご存じありませんか?」
魔法使い「ごめんなさい。知らないわ」
執事「では、この荷台に積まれている高価な薬品の数々は一体どこで? そう簡単に入手できるものではないと思うのですが……」
魔法使い「中身を見たの?」
執事「密輸の取り締まりも一応やっておりましてね」
魔法使い「ふーん、そういうこと」
執事「もう一度伺います。紅蓮の剣士をご存じありませんか?」
魔法使い「ふぅ、知ってるわ。それであいつになんの用? ま、察しはつくけど」ハァ
328
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/10(日) 10:59:55 ID:v4kH9Tio
おつ
329
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 05:55:03 ID:cIw/hk2s
tesu
330
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 05:55:51 ID:cIw/hk2s
夕方――
賢者「たっだいまー!!」
魔法使い「おかえりなさい。剣士は?」
剣士「俺がどうした?」
魔法使い「昼に王宮の使者と名乗る男が訪ねてきたわ。貴方に頼みたい事があるってね」
剣士「頼み?」
魔法使い「詳しい事は聞いてないわ。直接本人に話したいって何も話してくれなかったのよ」
魔法使い「どーせ、魔族の事なんでしょうけど」
賢者「そりゃそうですよね。わざわざ剣士さんを頼ってくるくらいですし」
剣士「どうだろう。そうなら例のエルフが先に何か言ってきそうなものだが……」
魔法使い「それは事の大きさにもよるんじゃない?」
魔法使い「流石にそのエルフも魔王軍全ての動きを把握してるとも思えないし」
剣士「それもそうか」
331
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 05:57:28 ID:cIw/hk2s
武闘家「ただいまー! お、皆さんお早いお帰りで――って何かあった感じ?」
賢者「はい。剣士さんに王宮からの依頼が来たとかで」
武闘家「んでまた? あー、昨日の騒ぎで剣士殿がここにいるって知られちゃったからか?」
賢者「あれ? それだったら偽者さんの方に依頼がいってそうですけど……」
剣士「酒場からの紹介で来たんじゃないのか?」
魔法使い「違うと思うわ。馬車の荷から貴方を探したみたいだから……」
剣士「荷から? わざわざ調べ回ったのか。酒場に行けばすぐ済むものを」
魔法使い「事情があるのかも。表には出せないような」
武闘家「金でも握らせておけば黙っていてくれそうなもんだけどな」
剣士「そうでなくともあのマスターなら守ってくれそうだが……」
魔法使い「酒場に訪れた痕跡さえも残したくなかったとか、理由なんて腐るほど出来てくるわ。考えるだけ時間の無駄よ」
剣士「だな。――で、どうしたらいい?」
332
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 05:58:36 ID:cIw/hk2s
魔法使い「明日また出直すって言ってたから……」
剣士「ここにいればいいのか。出向く必要はないんだな?」
魔法使い「で、いいと思う」
武闘家「どんな依頼にせよ。こういうのって話聞いちゃうと断りにくいんだよなー」
剣士「そんな事もないだろう」
魔法使い「ほんとに? 貴方ってすぐ見栄を張るから……」
剣士「耳が痛いな」
魔法使い「とにかく慎重にね。いいように使われるのはごめんよ」
剣士「わかってる。気を付けるさ」
剣士「(確かに勇者に代わるなどと言われるようにもなれば、俺達を利用しようと考える輩も現れるか)」
333
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:00:54 ID:cIw/hk2s
剣士「(そう言えば勇者の力は、その強大さゆえに法王庁が管理していたな)」
剣士「(勇者の力を行使するには法王庁の許可が必要で、魔王討伐の旅の間も何かある事に教会に報告するよう義務付けられていたっけか)」
剣士「(まあ、今は昔ほど厳密に守る必要はないと勇者は語ってはいたが……)」
賢者「また眉間にしわがよっていますよ」ツン
剣士「あ、いや」
賢者「気になるのはわかりますけど、明日になればわかる事なんですし――」
剣士「考えても仕方ない、だろ? わかってるよ」
賢者「はあい!」ニコッ
剣士「(力には相応の責任が伴うという事なんだろうが、面倒くさい話だな)」
魔法使い「……」ムッ
武闘家「(魔法使いさん、なんか不機嫌だな。てか、剣士殿と賢者が話してるといつも――)」
武闘家「(あっ、そういう事か!?)」テコリン!
334
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:02:16 ID:cIw/hk2s
翌日 昼すぎ――
武闘家「まだかな?」チラッ
魔法使い「んー、来るならそろそろじゃない。昨日もこのくらいだったし」
剣士「なあ、全員で話を聞くのか? 俺と魔法使いに投げて遊びに行ったって……」
賢者「もしかして邪魔でした?」
剣士「いや、つまらないかなーって。話を聞くだけだしな」
賢者「こ、子供じゃないんですから!」
剣士「俺は苦手だからさ」
武闘家「そう言えば市長の時も嫌がってたな」
コンコン
魔法使い「あ、来たみたい。私が通すわ。待ってて」
剣士「あ、ああ」
335
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:03:57 ID:cIw/hk2s
魔法使い「どうぞ。中央に座っているのが剣士よ」スッ
執事「おお。これは紅蓮の剣士殿。貴方のような英傑にお会いでき光栄であります」ペコッ
剣士「話は聞いています。貴方が昨日、私を訪ねてきた王宮の方ですね。早速ですが何を私に……」
姫騎士「それについては私が話そう」バサッ
剣士「貴女は?」
姫騎士「失礼した。私はこの国の第一王女。皆からは姫騎士と呼ばれている。ソナタ達を是非そう呼んでくれ」ニカッ
剣士「聞いてないぞ?」ボソッ
魔法使い「私だってそうよ!」コソッ
姫騎士「玄関では誰かに見られる危険性があってな、正体を明かせなかった。せめて事前に私の事を伝えてくれればよかったのだが……」
執事「自重なさって下さい。今日だって私一人でここを訪れる予定でしたのに」
姫騎士「わかっている。だが、事が事だ。私が直接説明した方が事の重大さが伝わるだろう」
執事「ですが姫様が仰っていた通りの事が王宮で起こっているのなら怪しまれる事があってもならないはず。これ以上はお控え頂かないと……」
剣士「すみません。私達にもわかるように話してくれませんか?」
336
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:05:25 ID:cIw/hk2s
姫騎士「あ、ああ。すまん。見苦しい所を見せた」
姫騎士「今の会話で察したかもしれんが、個人的な頼みでな。王宮の総意ではないのだ」
剣士「姫様個人が私になにを?」
姫騎士「それなんだが、とあるエルフの秘宝を取ってきてもらいたい」
剣士「エルフの?」
姫騎士「真実の水晶という魔道具の一種なのだが、聞いた事はないだろうか?」
姫騎士「なんでも、その水晶越しに覗けば、見たものの真実の姿を映し出すのだという」
剣士「つまり変化の魔法を見破るような道具だと?」
姫騎士「ほう、変化の魔法を知っているのか。なら話が早い」
剣士「しかし、それはエルフにしか扱えないとされる古の魔法。もしや、変化の力を秘めた魔道具も存在しているのですか?」
姫騎士「察しがいいな」
337
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:08:07 ID:cIw/hk2s
姫騎士「今話した真実の水晶と変化の指輪は古来よりこの国に伝わる秘宝でな」
姫騎士「それらは北と南にある二つの祠にそれぞれ隠されていると言われてたのだが――」
剣士「何者かに変化の指輪が盗まれてしまった。その犯人を捜す為に水晶が欲しいと?」
姫騎士「そういう事だ」
剣士「盗まれたという証拠はあるのですか?」
姫騎士「もちろんある。先日、執事に二つの祠を調べさせた。そのところ……」
執事「はい。変化の指輪の祠には何者かが立ち入った痕跡が見つかりました」
執事「その見つかった痕跡というのはここ最近のもので偽者を疑うようになったのもここ最近の事なのです」
姫騎士「というわけだ。――で、私はその何者かは人間ではなく、魔族だと睨んでいる」
剣士「魔族が?」
姫騎士「というのも、その祠には侵入者を撃退する仕掛けがいくつもあり、並みの冒険者では秘宝まで辿り着けないようになっているんだ」
姫騎士「大昔の勇者が秘宝の悪用を恐れ、そのような場所に隠したとか……」
338
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:11:19 ID:cIw/hk2s
剣士「勇者でなければ盗み出せない。従って魔族が、と考えたわけですか」
姫騎士「おかしい事ではないだろう。このような時代だ」
賢者「そうだとして、どれくらいの魔族が入れ替わっていると見ているんですか?」
姫騎士「正確な数まではわからん。だが確実に一人、それも王宮で最も力を持ったものに化けているのはわかっている」
賢者「そ、それって……!」アセッ
姫騎士「私の父、この国の王だ。今は大人しくしているようだが、いずれその立場を使いこの国を滅ぼそうとするはず―――」
姫騎士「そうなる前に真実を暴き出し、魔族の野望を阻止しなければならないのだ!」
剣士「……」
姫騎士「ん? どうした? 何かあるのなら言ってくれ」
剣士「あ、いえ。魔族がわざわざ指輪を盗み出し、王宮を乗っ取ろうなど考えるだろうかと」
剣士「それ以前に盗まれているかどうかも怪しい。調べたと言っても秘宝そのものを確認したわけではないのでしょう?」
執事「え、ええ。それはそうなのですが……」
339
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:13:43 ID:cIw/hk2s
姫騎士「ではこれをどう説明するというのだ?」
剣士「勘違いという事も……」
姫騎士「あれは私が知る父ではない。間違いなく何者かが化けている!」
剣士「そう疑ってしまうのは単に変化の指輪の存在を知ってしまったからではなくて?」
執事「かもしれませんね。ですが、それも水晶があれば明らかになる事なのです」
魔法使い「かもしれない。その程度の理屈に命を賭けろっていうの?」
執事「幾度となく魔族を打ち破った剣士殿なら水晶を持ち去るくらい……」
魔法使い「噂でしか知らない癖によくそんな事が言えるわね」
姫騎士「もういい。私がとってくる。やはりこのような者に頼る事自体間違いだったのだ!」
執事「お、お待ちください! 姫様の身に何かあれば……」
姫騎士「私を誰だか忘れたか。私だって勇者に匹敵する力があると自負しているつもりだ!」
武闘家「ちょ、ちょっと待ってくれよ。何もやらないとは言ってないよな、剣士殿?」アセッ
剣士「え、ああ!」
340
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:15:49 ID:cIw/hk2s
姫騎士「そうなのか?」
剣士「すみません。細かい事が気になってしまう性分ゆえ……」
姫騎士「あ、いや、こちらこそすまん。このような事態は初めてでな」
剣士「でしょうね」
姫騎士「ではやってくれるのだな?」
剣士「……ええ」
姫騎士「ふぅ、最初から素直にそう言ってくれればよいものを……」
剣士「連絡はどう取れば?」
姫騎士「直接城に来てくれて構わない。門番に取り次ぐよう頼んでおく」
剣士「わかりました」
姫騎士「それでは頼んだぞ。吉報を期待している」
341
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:17:18 ID:cIw/hk2s
バタン
剣士「帰ったか……」
魔法使い「なんであんな事言ったのよ?」
武闘家「だって、そう言わなきゃあの姫さんあのまま突っ走っちゃいそうだったし――」
武闘家「断る理由も特にないような気がしてさ」
魔法使い「あるでしょ。姫様の早とちりだったらどうするのよ?」
武闘家「やっぱ二人は勘違いだって思うわけ?」
剣士「そう断定できないから困ってる。ただ、魔族のやり口にしては回りくどいとは思う」
武闘家「それこそ姫様の思い込みで、盗んだのは人間かもしれないぜ?」
剣士「――とりあえず、俺達の方でもこの偽者騒動を調べてみないか?」
武闘家「えー!? 取りに行っちゃえば早いじゃん!」
剣士「まあな。だが、取りに行かず真相がわかればそれに越した事はないだろう」
武闘家「まー、そうだけど……」
342
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:20:33 ID:cIw/hk2s
賢者「武闘家くんの言いたい事もわかりますけどね」
武闘家「だろ!? それにさ、変に嗅ぎまわって怪しまれでもしたら困るじゃん?」
剣士「確かにその危険性はあるが……」
魔法使い「そこまで言うなら貴方一人で取りに行ったら?」
武闘家「えっ、それは……」
賢者「なに意地悪言っているんです。危険な場所にあるって話じゃないですか!」
魔法使い「そうよ。だから行かなくて済むよう考えてるんじゃない」
剣士「あ、いや。俺は少しでも姫様の主張が理解できたらと、それだけだよ」
剣士「納得できれば取りにも行く。真実の水晶そのものに興味もあるしな」
武闘家「わ、わかったよ」
剣士「すまない。俺に時間をくれ」
343
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:22:19 ID:cIw/hk2s
剣士「じゃあ、酒場で話を聞いてくるよ。船の事もわかったかもしれない」スクッ
武闘家「俺も外の空気吸いに行ってこようかな」ガタッ
魔法使い「あ、さっきの話なら気にしないで。冗談だから」
武闘家「大丈夫、わかってるよ」
魔法使い「そう。ならよかった」ホッ
バタン
賢者「……」ジー
魔法使い「なに?」
賢者「冗談なら最初から言わなきゃいいのになって」
魔法使い「うるさいわね! 貴女はどっか行かないの?」
賢者「洗濯物を取り込まないといけないので。あと夕飯の支度もありますし」
魔法使い「夕飯? なんで?」
賢者「剣士さんが外で食べるより、私の作ったご飯の方がおいしいって!」エヘッ
魔法使い「あっそ!!」
344
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:23:51 ID:cIw/hk2s
賢者「剣士さんと言えば…… 船、手に入るんですかね?」
魔法使い「さあ?」
賢者「あ! 姫騎士さんから貰えれば……」
魔法使い「怪しいと思うけど?」
賢者「えー、うーん…… 鳥のように飛べたらなぁ――って、あるかもしれませんよ!」
魔法使い「なにが?」
賢者「風の国にあった転送施設ですよ。隠し通路に使われていた。秘密の!」
賢者「あれと同じような、こちらの大陸と魔王の大陸を繋ぐ転送施設があれば……」
魔法使い「そんな都合のいいものがあると思う? あったとしてどうやって探すのよ?」
賢者「例のエルフさんなら知ってるかもしれません。あの施設を教えてくれたのも彼でした」
魔法使い「で?」
賢者「でって…… 解決じゃありません?」
魔法使い「私はこれを理由にこの旅をやめるべきだって言ってるの。手段がなければ諦めるしかないでしょ、アイツだって」
345
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:26:48 ID:cIw/hk2s
賢者「ただ、生きていればそれでお姉様は満足なんですか?」
魔法使い「私は自分の至らなさでアイツを殺すのが嫌なのよ」
賢者「だったら強くなればいいじゃないですか」
魔法使い「無茶言わないで。そもそもそこまでして魔王に挑む必要ってある?」
賢者「ないと思います」
魔法使い「そう。ないのよ――って、えぇ!?」ビクッ
賢者「勝てるかどうかわからない魔王に挑むより、勝てる事がわかった侵攻部隊を迎撃していた方がいいって言うんでしょ?」
賢者「でもそれじゃ駄目なんです。この戦いは終わらない。長引けばもっと多くの人が……」
魔法使い「夢見る少女の戯言よ。理想でしかないわ」
賢者「だから現実にしたいんじゃないですか。――それに、もう夢物語なんかじゃない」
賢者「お姉様は言いましたよね。剣士さんは勇者を越えたって。それって私達次第で魔王に勝てるって事じゃないですか!?」
魔法使い「それは力あるものだけが言えるセリフよ。出来る事を言いなさいよ!」
賢者「私は振り向かないと決めたんです。ブーブー言うだけのお姉様に、あーだこーだ言われる筋合いはありませんよ!!」
346
:
◆49HRmRlKYE
:2018/06/29(金) 06:31:59 ID:cIw/hk2s
魔法使い「そこまで言う!?」
賢者「た、確かに言い過ぎました。すみません。でも私は……」
魔法使い「もういいわ」
賢者「……」
魔法使い「そろそろ夕飯の支度をしなきゃいけないんじゃない?」
賢者「あ、洗濯物も取り込まないと……」
魔法使い「それは私がやっておくから」
賢者「じゃあ、お願いしますね」タッ
魔法使い「……」
魔法使い「貴女に言われなくたってわかってる。私だって力になりたい。でも……」クッ
347
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/30(土) 20:04:07 ID:gukQqP4Y
続いた━━━━(゚∀゚)━━━━!!
待ってたよ!
348
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:34:04 ID:vm1yjPNU
待っていてくれたなんて、こんなに嬉しい事はないです!
遅くなって申し訳ない!
349
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:35:10 ID:vm1yjPNU
酒場――
カランカラン
マスター「おお。いらっしゃい」
マスター「すまんな。アイツ等からまだ連絡来てないんだ。伝わってるとは思うんだが……」
剣士「わかりました。それよりも聞きたい事が……」
マスター「なんだい?」
剣士「ここ最近で王宮に何か変わった事はありませんでしたか?」
マスター「王宮で? いや、聞かないな。姫様のおてんばは相変わらずらしいし――」
マスター「んー、しいて言えば騎士団がよく働くようになったくらいかね?」ハハッ
剣士「ここ最近で?」
マスター「ああ。なんでも周辺警護の強化とかで頻繁に出撃しているよ。ちょっと前までは余程の事がない限り動いちゃくれなかったんだがね」
剣士「どうして急に?」
マスター「さあ? 剣士殿のご活躍に感化されたから、とかじゃないのかい?」
350
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:36:40 ID:vm1yjPNU
剣士「納得できるものなんですか、それで?」
マスター「納得も何も、悪い事じゃないからね。お陰で街の不安は払拭されているし――」
マスター「騎士達も納得して任務にあたっている様子だったよ」
剣士「そうですか……」
マスター「そんな事を気にするなんて、何かあったのかい?」
剣士「あ、いえ、俺が訪れるところはどこも魔族の被害を受けていたので……」
マスター「アハハッ! それじゃ近いうち何か起こるかもしれんな」
剣士「(これだけを聞くと魔族が国王に代わっているとは思えないな。例のエルフも依然として姿を現さない――)」
剣士「(いや、もうエルフと決めつける事も出来ないのか。本当に変化の魔道具が存在しているのだとしたら……)」
マスター「すまん、すまん。冗談だよ。そんな怖い顔しなさんなって」
剣士「あ、すみません。――それじゃ、俺はそろそろ行きます。ありがとうございました」
マスター「ああ、またのお越しを――って、何か飲んでいけばいいのに」ハハッ
351
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:39:16 ID:vm1yjPNU
部屋 夜――
剣士「という話をマスターから聞いたんだが、どう思う?」
賢者「うーん、そう言われましても……」
武闘家「騎士団がよくなったのは国王が何者かに代わったからなのか?」
賢者「王としての自覚が芽生えたとも言えるんじゃないですか?」
魔法使い「魔族に結び付けるなら、計画を実行するにあたり信頼を得る必要があったとか?」
剣士「やはりこれだけじゃ何とも言えないよな。もう少し探ってみるか……」
武闘家「んな悠長に構えてて大丈夫なのかよ?」
剣士「どうだろう」
武闘家「やっぱ取りに行っちゃう方が早いんじゃない?」
剣士「それもなぁ……」
352
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:40:19 ID:vm1yjPNU
賢者「剣士さんにしては珍しいですね」
剣士「慎重になりすぎているのはわかってる。わかっているんだが……」
剣士「(納得できない事に賢者達を付き合わせたくないんだよな。かといって俺一人で盗み出せる代物でもないだろうし――)」
剣士「(そうでなくても、また単独行動するわけには……)」チラッ
魔法使い「ん? 慎重なのはいい事だと思うわよ」
剣士「そうだよな」
魔法使い「うん。何時何時までとは言われてないし」
賢者「催促はされそうですけどね」
魔法使い「それまで気楽にやっていけばいいじゃない?」
賢者「うーん、それでいいんでしょうか……」
剣士「すまない。もう少しだけ時間をくれ」
武闘家「んー……」
353
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:41:55 ID:vm1yjPNU
翌日 朝――
剣士「よし、今日は騎士団の後をつけてみようと思う!」グワッ
魔法使い「なによ、いきなり!?」ビクッ
剣士「彼等の行動を探れば何かわかるかもしれない。王宮の様子も聞けたら聞いてみる」
魔法使い「流石に騎士達に接触するのは不味いんじゃない?」
剣士「そうか。……じゃあ遠くから騎士団の様子をうかがうだけにするよ」
魔法使い「うん。とりあえず今日はそうしたら?」
剣士「――ところで武闘家は?」
賢者「修行するぞーって朝早く出かけていきましたよ」
魔法使い「ほんとに修行?」
賢者「気にしすぎですよ。昨日だってちゃんと帰ってきたじゃないですか」
魔法使い「わかってるんだけど……」
354
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:43:31 ID:vm1yjPNU
剣士「勇者が隠し場所に選んだ祠だ。おそらく魔法の罠をはじめとした難解な罠が仕掛けてある可能性が高い」
剣士「そんな場所に一人で行こうとは思わないだろう。大丈夫だよ」
魔法使い「待って。そこまで考えてるかしら?」
剣士「考えないかな?」
魔法使い「わからない。まだ付き合い短いし……」
剣士「あー、見に行ってこようか?」
魔法使い「貴方は他にやる事があるでしょ?」
剣士「しかし……」
賢者「待ってみませんか。疑うのは失礼ですよ」
魔法使い「そうよね。考えすぎよね……」
剣士「じゃあ俺はさっき話した通り騎士団を追ってみるよ」
魔法使い「え、ええ」
355
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:45:16 ID:vm1yjPNU
夕方――
魔法使い「ねえ、どこで修行してるとかは聞いてないのよね?」
賢者「え!? ええ、聞いてないですけど……」
魔法使い「修行にしては帰り遅くない?」
賢者「大丈夫ですよ。行ってないですって!」
魔法使い「なくはないでしょ? もしこれで死んじゃったら……」
賢者「縁起でもない。やめてくださいよ――って、あー!!」
魔法使い「なに!?」
賢者「あ、いえ、食材の買い忘れがありまして……」
魔法使い「なんだ、そんな事か……」
賢者「一大事ですよ。買いに行ってきます!!」ガタッ
魔法使い「こっちは気が気じゃないのに、もー!!」
356
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:47:12 ID:vm1yjPNU
街――
賢者「まだ市場やってるかな。急がないと。もう陽が沈みそう――って、ああー!」ビシッ
武闘家「おおぅ!?」バッタリ
賢者「こんなところで何してるんですか。お姉様が心配していましたよ。一人で祠に行ったんじゃないかって!」
武闘家「あー、それなんだけどさ……」
賢者「どうしたんですか?」
武闘家「ジャジャジャジャーン!!」ドーンッ
賢者「え……?」
武闘家「アハッ、アハハハッ!!!」アセッ
賢者「手に持っているのって、まさか……っ!?」
武闘家「そう、そのまさか――、真実の水晶さー!!」
賢者「ええーっ!?」
357
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:49:09 ID:vm1yjPNU
武闘家「すげーだろ。どやー!」
賢者「本物なんですよね?」
武闘家「多分な。確かめようにも偽ってる人間がいなきゃ確かめようがないし――」
武闘家「あっ、賢者ならわかるんじゃないか。見てみてくれよ」スッ
賢者「うーん、とてつもない魔力が秘められている事はわかりますけど」ジーッ
武闘家「マジかよ! んじゃ、やっぱこれって……」
賢者「ええ、どちらかと言えば本物っぽいですかね」
武闘家「やったぜ!」
賢者「……」
武闘家「やっぱ不味かったかな?」
賢者「そうですね。せめて何か一声欲しかったです」
武闘家「けど言い出せる雰囲気じゃなかったし、俺が引き受けちまったようなものだったからさ」
358
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:50:26 ID:vm1yjPNU
賢者「気にしすぎですよ」
武闘家「ごめん。居ても立っても居られなくて……」
賢者「それにしてもよく盗み出せましたね。大昔の勇者が隠したなんて言われていたのに!」
武闘家「ほ、褒めんなよ。照れちゃうじゃん////」
賢者「魔法の罠とかなかったんですか?」
武闘家「なんだよ、それ? 確かに罠はいくつも仕掛けられてあったけど――」
武闘家「落とし穴とか、鉄球が転がってくるとか、そんな古典的な罠しかなかったぜ」
賢者「あれ? じゃあ剣士さんの杞憂だったって事ですか……」フム
武闘家「考えすぎなんだよ、剣士殿は!」アハハッ
賢者「否定はしませんけども……」
359
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:52:52 ID:vm1yjPNU
武闘家「んじゃ、これ姫様に渡してくるな」
賢者「待ってくださいよ。二人には話さないんですか!?」
武闘家「だって気まずいじゃんか。それに、どうせ姫様の勘違いだよ」
武闘家「魔族だったとしても正体を確かめるだけで戦いはしないだろ? 大丈夫だって!」
賢者「そうでしょうか……」
武闘家「頼む。事件を解決した後の方が気持ち楽なんだよ。今謝るのも後で謝るのも変わんないって!」
賢者「万が一って事もありますし、やっぱり話した方が……」
武闘家「魔族の犯行だって思うわけ? そもそも国王が本当に入れ替わってるとも限らないって言ってたじゃーん!!」
賢者「そりゃ、まぁ……」
武闘家「お願いだ。俺にカッコつけさせてくれー!!」ドゲザッ
360
:
◆49HRmRlKYE
:2018/07/18(水) 20:54:54 ID:vm1yjPNU
賢者「カ、カッコつけるって??」
武闘家「この王宮お騒がせ偽者騒動は俺が解決したぜ――って告白する方がカッコイイじゃーん!!」
賢者「そういう事ですか。――わかりましたよ。でも一つ、条件があります」
武闘家「なんだ! 馬のフンでもにぎりゃあいいのか?」
賢者「気持ち悪い事を言わないでください。そうじゃなくて、私も一緒にいきます」
武闘家「へ? それが条件なの?」
賢者「この事を二人に黙っているなんて私には出来ませんからね……」
武闘家「すまねえ。恩に着るぜ」
賢者「じゃあ行きましょう」
武闘家「おう! サクッと依頼達成して帰ろうぜ。あと後で一緒に謝ってくれい」
賢者「それは嫌です……」
361
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/08/10(金) 22:32:29 ID:gSDabTo2
追い付いた
362
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:25:48 ID:ASSFgiHY
城門 夜――
賢者「あのー……」コソッ
門番「ああ、君達あれだろう。話は聞いているよ。姫様が頼んでた骨董品を届けにきた冒険者だよね?」
賢者「え、ええ」
門番「こんな夜遅くまでとは可哀想に。どれだけ急かしてるんだか、あの馬鹿姫は」ボソッ
賢者「え……?」
門番「あー、申し訳ない。急ぎだというのに。ささ、中へどうぞ」アセッ
門番「入ったら係りの者が案内しますので指示に従ってください。くれぐれも無礼のないように」
賢者「あ、はい」
武闘家「そういう話で通してたのか。本当の事は言えないもんな」
賢者「(もしかして姫様は城の者に好かれていない?)」
363
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:26:45 ID:ASSFgiHY
城 客室――
姫騎士「おお。待ちかねたぞ」
武闘家「これがそうです」スッ
姫騎士「ほう、これが……!」パシッ
姫騎士「しかし、見た目だけではわからんな。ただの丸玉の水晶にしか見えんぞ?」
執事「学者に調べさせますか?」
姫騎士「馬鹿を言え。どう説明するつもりだ。彼等を信用していないわけでも――」
姫騎士「ん? そう言えば剣士の姿が見えんがどうかしたのか?」キョロキョロ
武闘家「あー、それはその…… そうだ。あの後すぐ高熱出しちゃって!」アセッ
賢者「え゙?!」
姫騎士「私が帰った後に風邪を? では誰がこの水晶を?」
武闘家「俺です。俺が剣士殿の代わりに取ってきました!」
姫騎士「疑うわけではないが、本当なのか?」
武闘家「剣士殿の辱めるような事をするわけないじゃないですか。信じてください!」
364
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:30:07 ID:ASSFgiHY
賢者「なに嘘ついているんですか」ボソッ
武闘家「俺が取ってきたのは事実だろ?」
姫騎士「よし、確かめてみるか!」グッ
賢者「い、今からですかっ!?」
姫騎士「ああ。この時間なら王はもう寝室に戻っているはず。都合がいい。ソナタ達も一緒に来てくれるな?」
武闘家「はい。もちろんです!」ガタッ
賢者「だ、大丈夫なんでしょうか?」
武闘家「心配性だなあ。寝込みを襲うんだぜ。大丈夫だろ?」
武闘家「それによ、変化を使って王宮を陥れようとするような奴が強いとは思えないぜ」
賢者「まぁ、確かに……」
姫騎士「何してる。行くぞ」
武闘家「今行きます! ――大丈夫だって。行こうぜ!」
賢者「え、ええ」
365
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:32:42 ID:ASSFgiHY
寝室 前――
武闘家「見張りが二人いますぜ。――って、国王の寝室にいなかったら逆におかしいか」
姫騎士「水晶が反応しない。ではあれが真実の姿か。魔族であれば切り捨てるのだが……」
執事「本物の近習相手にそれは出来ませんね。ここは訳を話して通してもらいましょう」
姫騎士「信じると思うか? 私は思わんな。ここは少し荒っぽいが……」チャキッ
執事「暴力はいけませんよ。それに上手くいくかどうか……」
武闘家「俺と姫様が同時に飛び掛かれば、と思ったけど。確かに絶対じゃないか(姫様の実力知らねえしな)」
賢者「なら私に任せてもらえませんか?」
執事「何か策があるのですか?」
賢者「策と呼べるほどのものじゃないんですけど、魔法で眠らせてみます」
姫騎士「催眠術が使えるのか?!」
賢者「た、たぶんですよ。成功するかちょっと自信ないんですけど……」
姫騎士「まあいい。物は試しだ。執事もいいだろう、眠らせるだけなら?」
執事「そうですね。それなら、まあ……」
366
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:36:01 ID:ASSFgiHY
賢者「では唱えますよ! でやあ!!」パァ
ナンダ マブタガ キュウニ オモク… バタッ
賢者「ふぅー、よかったぁ。ちゃんと眠ってくれました」ホッ
姫騎士「見事なものだな。あの二人を眠らせるとは、大した魔導師じゃないか!」
賢者「お姉様に負けていられませんからね」フフン
姫騎士「部屋の鍵は近習が持っているはず…… よし、あった」ゴソゴソ
武闘家「なあ、ここまでして姫様の勘違いだったら困っちゃうな」ボソッ
賢者「こんな時に何言ってるんですか!?」
武闘家「いやだってその可能性もないわけじゃないだろ。むしろその方が高いっつーか……」
賢者「それならそれでいいじゃないですか。何もなかった事がわかるだけでも」
武闘家「あー、だよな。ごめん、なんか落ち着かなくって。緊張してんのかも」ハハッ
姫騎士「おい、静かにしろ。突入するぞ」
武闘家「あ、すみません!」アセッ
ガチャ キィ
367
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:37:22 ID:ASSFgiHY
寝室――
姫騎士「暗くてよく見んが、ベッドはあそこだな……」ジリッ
パッ!
姫騎士「ま、まぶしっ!? 燭台に火が、どうして急に……」ビクッ
国王「夜遅く、それもノックもせずとは一体何事だ。訳を話しなさい、我が娘よ」
賢者「(見つかった!? というより来る事が最初からわかっていたような……)」ゾッ
姫騎士「娘だと!? どの口がほざく。貴様の正体はわかっているんだぞ!」
国王「何を寝ぼけておる?」ハハッ
姫騎士「笑っていられるのも今のだけだ。これを見ろ!!」バン
国王「ほう、それは真実の水晶。手に入れたのか……」ジッ
賢者「不味いっ!?」
姫騎士「水晶よ、真実の姿を映したまえ!!」ピカー
368
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:39:16 ID:ASSFgiHY
呪術師「やれやれ。思ったより早かったの。さて、どうしたものか……」フゥ
武闘家「老けやがった!? おっさんが爺になるとは、水晶は玉手箱だったーっ!?」
賢者「何言っているんですか。よく見てください」
賢者「あの頭に生えた角に、エルフほどじゃありませんが縦に伸びた耳。あれは――」
武闘家「人魔の魔族だよな。やっぱ見間違いじゃなかったか。こいつはたまげたぜ」
賢者「ええ。最悪の事態です……」
武闘家「いや、そうとも限らないぜ。人魔ならまだ何とかなる。人魔は戦闘に不向きな魔族。見た目通り、実力も人間と大差ないぜ」
賢者「確かに一般的にはそう言われています。ですが、あのお爺ちゃんは違う――」
賢者「一瞬で、それも正確にこの部屋にあるすべての燭台に魔法で火を灯しました」
武闘家「そんなに凄い事なのか? 一見、戦いにはなんの関係もなさそうだけど」
賢者「あれが警告だとしたら? 感じるんです。計り知れない異様な魔力を……」
呪術師「ほう。儂の魔力をそのように感じ取る者がいるとは……」
369
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:40:41 ID:ASSFgiHY
姫騎士「気圧されるな。しっかりしろ」
武闘家「そうだ。数じゃこっちが勝ってる。それにどんな魔力秘めてようが所詮は人魔だぜ」
賢者「や、やらないとは言っていませんよ!」
賢者「(わかってる。ここで怖気づくようじゃ剣士さんの力になんて一生なれっこない。だけど、この不安感は……)」
呪術師「見事な覚悟じゃが、儂が三魔将の一人、灰の呪術師だと知ってもまだそう申すか?」
武闘家「は? なんだ、それ?」
呪術師「やはり知らんか。この時代から生まれた新たな地位じゃし、驚きはせんが……」
賢者「名を冠した将軍? 四天王のような実力者だと言いたいんですか?」
呪術師「わかってもらえたようじゃな。その通り、実力も四天王に優るとも劣らないと言われておる」
姫騎士「なるほど。虚勢を張ってこの場から逃げようという魂胆か。如何にも人を欺いてきた奴が言いそうなセリフだ!」
呪術師「勘違いしておるようじゃが、儂はこの国を滅ぼそうとは思っておらん。少し利用させてもらっただけじゃ」
370
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:43:31 ID:ASSFgiHY
姫騎士「黙れ。どう言い逃れしようと貴様は我が国を愚弄した。その事実は変わらん!」
呪術師「やはり戦いは避けられぬか。なれば致し方なし――」
呪術師「場所を移すとしよう。ここは戦いづらいのでな。よいか?」
姫騎士「仲間と合流する気か!」
呪術師「はて? 水晶を使い確認したのではないのか? 魔族はこの王宮に儂一人じゃよ」
武闘家「たった一人で乗り込んできたってのか!?」
呪術師「言ったはずじゃ、四天王にも劣らぬと。その気になれば儂一人でこの王宮など落とせる」
姫騎士「減らず口を! どこでも変わらん。この場で叩き斬ってやる!」ダンッ
呪術師「戯けが!!」ボシュッ
姫騎士「ぐわあああ」ドシャアア
呪術師「やれやれ。お主のせいで豪奢な寝室が台無しになってしまったではないか」
賢者「なんて早い火球!? そうか。炎系魔法を極めた魔導師、だから灰の……」
呪術師「これでわかってもらえたかの。なぜ儂が三魔将と呼ばれ恐れられておるのか」
371
:
◆49HRmRlKYE
:2018/08/20(月) 23:49:51 ID:ASSFgiHY
姫騎士「なんだ、あれは。一瞬チカっと光ったと思ったら火の玉が目の前に……」ヨロッ
呪術師「ほう。加減したとはいえ自力で立ち上がれるとは……」
姫騎士「当たり前だ。鍛え方が違う!」
呪術師「まったくじゃよ。流石は王宮に伝わる秘宝の鎧と盾じゃ。魔法を軽減する効果が付与されておったとは恐れ入ったわ」
呪術師「それを快く与えてくださった優しきお父様に感謝する事じゃ、姫騎士よ」
姫騎士「き、貴様ァ!!」バッ
呪術師「待て待て、今度はボヤではすまなくなるぞ」
姫騎士「くっ!?」ピタッ
呪術師「ついてまいれ。そちらもそれでよいな?」
武闘家「ああ、いいぜ」
賢者「執事さん、戦いの間他の人が近づかないようにしてもらえますか?」
執事「ええ、そうするつもりです。――ですから姫様の事を頼みます。どうか」ペコッ
賢者「……はい」
372
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:16:14 ID:lS6htfpE
玉座の間――
武闘家「ここは玉座の間か?」
呪術師「城内で戦うのであればここしかあるまい。偽の国王との決着をつけるわけじゃしな」
姫騎士「またも愚弄して……!」ギリッ
呪術師「半分は冗談じゃよ。儂等の戦いに他の者を巻き込みたくなくてな。ここならその心配もない。何より戦いやすかろう」
呪術師「まあ城外で戦えるのが一番じゃが、それは儂を逃がすのと同義。困るのじゃろ?」
武闘家「凄い自信だな、爺さんよ」
呪術師「自信がなければここにはおらんよ。――そうじゃ儂は半端な覚悟で来たのではない」
呪術師「お主等には悪いが、ここで終わるわけにはいかんのじゃ」
賢者「それは私達も同じです。引けない理由がある」
呪術師「この国にそこまで肩入れする事もなかろうに。――まあよい。そろそろ始めよう。夜が明けては騒ぎになる」
賢者「(ついに始める。剣士さん不在の魔族戦。出来る限りを全力でやれば、きっと!)」
373
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:17:45 ID:lS6htfpE
賢者「(だけど、どう戦う? 魔法から身を守るには魔法と言うけど、力の差は歴然――)」
賢者「(こちらの魔法で相手の魔法を相殺できるとは思えない。いや、完全に防げなくたっていい。少しでも軽くなれば、それで)」
賢者「(そうだ。私には治癒魔法だってある。守りに徹しよう。そうと決まればつかず離れず一定の距離で二人の援護を……)」チラッ
武闘家「先手必勝、いくぜ!」ダンッ
賢者「ちょっ!?」
武闘家「(悪いな、賢者。こうなっちまったのは俺のせいだ。見栄を張ったばっかりによ)」
呪術師「勇ましいの。策があっての特攻か、それとも……」フム
武闘家「(大丈夫。あれくらいの火球、俺なら躱せる。食らったって一二撃なら……)」
武闘家「自分のケツは自分で拭く。懐に飛び込んじまえば魔導師なんてー!!」ダッ
呪術師「ではいくぞ」スッ
武闘家「構えたな。杖の向きからして射線は……」バッ
呪術師「ほあ!!」キラン ドカーン
武闘家「か、火球じゃない!? こ、これは…… ぐおおああああ」ズシャアア
姫騎士「なんだ、火の塊が現れたと思ったら爆発したぞ!?」
賢者「広範囲の爆発魔法です、それも最上級の。それをあれほど短い詠唱時間で唱えてしまうなんて、そんな……っ!?」
374
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:19:06 ID:lS6htfpE
武闘家「くそ、なんなんだよ、あれは……」ヨロリッ
賢者「動かないでください。今、治癒しますから……」タッ
呪術師「一か所に固まらず、ばらけた方がいいと思うがの」スッ
武闘家「くんな。巻き込まれちまうぞ!」
賢者「で、でも……!」
呪術師「ほあ!」キラン ドカーン
姫騎士「二人とも下がれ!」ドン!
賢者「ぎゃあ!」コケッ
姫騎士「くっ……」ズサッ
武闘家「おい、大丈夫か!?」アセッ
姫騎士「心配には及ばん。聞いていただろう。この鎧と盾には魔法を軽減する効果がある。これくらいなんともない……」フラッ
375
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:21:36 ID:lS6htfpE
姫騎士「二人は?」
賢者「大丈夫です。お陰で助かりました。ありがとうございます」
武闘家「ご、ごめん。俺、何とかしなきゃって思って、その……」
姫騎士「いや謝るのは私の方だ。自分の力を過信したばかりに、こんな事になってしまった」
武闘家「謝る事じゃねぇよ。俺だってそうさ。相手を甘く見てた」
姫騎士「力を合わせよう。悔しいが私の力だけでは奴には敵わん。だが三人なら!!」
武闘家「そうだな。俺ももう自分だけで何とかしようとは思わない。協力するぜ」
賢者「その前にこれを」パァ
武闘家「傷が、治っていく……」
姫騎士「驚いた。治癒魔法も使えるのか?」
賢者「ええ。こう見えても私は魔導のエキスパート。攻撃魔法はもちろん、治癒魔法や補助魔法だって使えます」
姫騎士「本当に頼もしいな。――よし、これなら勝てる。絶対に!」
376
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:23:25 ID:lS6htfpE
呪術師「(頼もしいか。確かに。正直ここまでやれる人間がおるとは思わなかった)」
呪術師「(儂が見るに二人は勇者に近い力を持っておる。ただの人間がこれほどの力を持つなど本来あり得ん)」
呪術師「(契約せずして何故? まさか、儂等と同じように秘術の力で――いや、それこそあり得ん話か)」
姫騎士「反撃開始だ。いくぞ!」
呪術師「(いかん。覚悟を語っておきながら態勢を整える時間を与えてしまうとは……)」
武闘家「だけど本当にいいのか?」
姫騎士「私の事は気にするな。賢者のサポートもある。とにかく今は勝つ事だけに集中しろ」
武闘家「わ、わかった。無理はすんなよ」バッ
呪術師「(姫騎士を先頭に縦一列に並んだ? なるほど。防御力の高い姫騎士を盾にし、儂の懐に飛び込もうという作戦か)」
姫騎士「奴の魔法はすべて私が!」
賢者「防具に付与された軽減効果に加え、私の魔法でさらに守りを固めれば……」
武闘家「あとの事は任せろ。近づけりゃ魔導師なんて敵じゃない!」
呪術師「やれやれ。困ったものじゃな。どこまで火力を上げてよいものか……」
377
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:25:47 ID:lS6htfpE
姫騎士「突撃ィー!!」タンッ
呪術師「ほああ!」キラン ドカーン
姫騎士「ぐぅっ、流石は賢者だ。先ほどよりダメージが少ない。これなら……」タッ
賢者「(二段構えなのに完全には防げなかった。詠唱速度が違いすぎる。時間があればもっと強力な結界が唱えられるのに……)」
呪術師「無茶な事をする」ドカーン
姫騎士「ぐっ!? まだだ、まだ私は……」グッ
武闘家「耐えてくれ、姫様。あと少し、あと少しで!」ジリッ
呪術師「(むっ、これ以上は姫の体が持たんな。ここまでか……)」ドカーン
姫騎士「ぐわああっ!」ガクッ
賢者「ひ、姫騎士さんっ!!?」アセッ
姫騎士「い、いけッ! 武闘家ァー!!」
武闘家「この距離、もらったァ!!!」ダンッ
378
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:26:33 ID:lS6htfpE
呪術師「本当によくやりおる。じゃがの――ッ!」
ヒラリッ
武闘家「躱された!? でも、まだだ。取りついちまえば!」ブオンッ
呪術師「なんて鋭い殴打じゃ。やはり普通ではないの……」ヒラリッ
武闘家「くそっ、どれも紙一重で躱される。なんなんだよ、この爺さんは!?」ブオッ ブンッ
呪術師「むッ、壁か……!」ピタッ
武闘家「追い詰めた。これでぇ!!」グアッ
呪術師「甘いぞ!」フワッ
武闘家「飛んだ!? 嘘だろ……」スカッ
呪術師「残念じゃったな。風の魔法を纏えばこのような動きも出来る」スタッ
賢者「風の魔法まで自在に使いこなすなんて。それもグリフォンの翼のように……」
武闘家「くそ、くそォッ!!」
呪術師「もうよいじゃろ。その真実の水晶を渡してくれればお主等の事は見逃す、じゃから――」
姫騎士「そんな事、誰がするものか……っ!」ヨロッ
379
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:28:09 ID:lS6htfpE
姫騎士「あと少しだったじゃないか。もう一度だ。もう一度、同じ方法で……」
呪術師「治癒魔法とて限度がある。あれは人の治癒能力を高めているだけに過ぎん。負った傷に応じ体力を消耗する。もう同じようには動けんじゃろ」
姫騎士「そ、そんな事は……」フラフラッ
呪術師「それに武闘家の攻撃ではな。惜しい所まで来ておるんじゃが、儂を仕留めるにはあと一歩足りん」
武闘家「くっ……!」
呪術師「命を奪うつもりはない。素直に負けを認めてくれんか?」
武闘家「そいつは素晴らしい申し出だけどよ。断るぜ、爺さん」
呪術師「無駄に体力を消耗するだけじゃぞ?」
武闘家「そんな事もねぇよ。爺さんが言ったんだぜ。俺の攻撃はあと一歩足りないって。つまりそれってあと少し強くなりゃ通じるって事だよな?」
呪術師「先ほどの攻撃は全力ではなかったと?」
武闘家「いや全力だったさ。だから限界を越える!」
呪術師「越える? ま、まさか……」
武闘家「賢者、俺に身体能力強化の魔法をかけてくれ!!」
380
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:30:36 ID:lS6htfpE
賢者「え……っ!?」
武闘家「補助魔法も使えるって言ったよな?」
賢者「言いましたけど、あれは……」
呪術師「その子の言う通りやめるべきじゃ。あれは肉体にかかる負担が大きすぎる」
呪術師「勇者達が強化負荷に耐えられるのは、再生の力を持つ女神の加護のお陰なのじゃぞ!?」
呪術師「強化魔法の強さにもよるが、常人が使えばどうなるか……」
武闘家「悪いな、爺さん。俺の体はそんなやわに出来ちゃいないぜ」
呪術師「待て。儂はお主等を殺す気はない。水晶を渡し、儂を見逃してくれさえすれば……」
武闘家「そういうわけにもいかねぇんだよ。――さあ、やってくれ。覚悟は出来てる!」
賢者「や、やれと言われましても……」
381
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:32:35 ID:lS6htfpE
賢者「(確かに強化魔法を唱えればこの状況を打破できるかもしれない。けど武闘家くんの体が魔法に耐えられる保証はどこにも……)」
賢者「(それに使えると言っても人に使った事はない。昔、練習で虫にかけただけ――)」
賢者「(力の加減を間違えばあの時のバッタのように、今度は武闘家くんの体が……)」
武闘家「構う事ないぜ。どの道これしか手は残ってねぇんだ!」
賢者「む、無理です。出来ませんよ。私にはとても……」
武闘家「頼むよ。俺も誰かの期待に応えたいんだ。ここで終わったっていい。だから!」
賢者「うっ……」
呪術師「自信がないのなら尚更やめるべきじゃ。自身の手で仲間を壊したくないじゃろ!?」
賢者「どうしたらいいの? 私はどうしたら……」
武闘家「ぶっ壊れたっていい。やってくれ、賢者!!」
賢者「剣士さん、私は……」ギュッ
382
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:34:51 ID:lS6htfpE
剣士「――呼んだか?」ザカッ
賢者「あ、ああ、あぁ……」ペタン
武闘家「嘘だろ。本当に、本当に剣士殿なのか……?」
剣士「待たせたな。あとは俺に任せろ」
武闘家「気を付けてくれ。相手は三魔将とかいうとんでもねぇ手練れだっ!!」
剣士「名を冠した魔族の将だって……?」ジッ
呪術師「ほう、あれが噂に聞く。この国にいるというのは本当じゃったか……」
剣士「(魔族なのか? そうか、あれが人魔族か。聞いてはいたが本当によく似ている)」
剣士「(細かな差異はあるが骨格は同じだ。ここまでくると似ているというより――)」
剣士「(いや、考えるのは後だ。こいつは賢者をいじめた。その報いは誰であろうと受けてもらう)」チャキッ
魔法使い「作戦はどうする? 私は貴方のサポートに徹した方がいいわよね?」
剣士「それより賢者達の手当てを頼むよ」
剣士「それと流れ弾が飛んでくるかもしれない。君の魔法で守ってあげてくれないか?」
383
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:36:56 ID:lS6htfpE
魔法使い「ちょっと待って。一人で戦うつもりなの?」
剣士「ああ。相手は魔導師なんだよな? なら試してみたい事がある」
魔法使い「試すってあれの事? 冗談でしょ!?」
剣士「本気だよ。実戦でなければ意味がない。――下がっていてくれ」
呪術師「(仲間を後退させた。何を考えておる? まさか、決闘のつもりか……?)」
呪術師「(随分と慢心しておるな。四天王を打ち破った自信からじゃろうが――)」
呪術師「(装備は貧弱、鎧はおろか盾すら持たずどう魔法に対抗するつもりじゃ。剣のみで勝てるほど魔族の魔導師は甘くないぞ)」
剣士「……」ジリッ
呪術師「(間合いを測っておるな。残念じゃが、そこはもう儂の距離じゃよ)」スッ
呪術師「ほああ!!」キラン バーン
剣士「――!」ヒラリ
呪術師「な、なんじゃと!?」
剣士「確かに恐ろしいな。あの詠唱時間で、これほど強大な魔法を撃てるのか」
384
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:39:12 ID:lS6htfpE
呪術師「(広範囲の爆発魔法を見てから躱すなど勇者とて不可能――)」
呪術師「(じゃが奴はいとも簡単に、態勢を崩す事もなく躱しおった?!)」
剣士「(試しに撃たせてみたが危なかったな。狭い場所であれを撃たれたら躱しようがない)」
剣士「(やはり定石通り詠唱を潰すしかないか。問題は潰せるのかどうか、か)」ジリッ
呪術師「偶然か、それとも……」スッ
剣士「(いけるか?)」タンッ
呪術師「早い!?」ビクッ
剣士「――ッ!」ザン
呪術師「ぐっ、かすめた……」ブシュ
剣士「やるな。爺の身のこなしじゃない!」バッ
呪術師「風の魔法を纏い、距離を置いて態勢を……」フワッ
剣士「離脱? ――させるかッ!」タンッ
385
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:40:42 ID:lS6htfpE
呪術師「なんと!?」ビクッ
剣士「悪手だったな。その足運びでは躱せまい!」ザンッ
呪術師「魔法での移動に追いつくじゃと…… ぐ、ぐおぁ!?」ドシャー
剣士「終わりだ!」バッ
呪術師「なんて力じゃ。同等などではない。剣士は既に勇者など遥かに越えて……」
呪術師「じゃが、じゃがのーッ!!」ボシュ
剣士「く――ッ!」キン
呪術師「き、切り払い――、弾いたじゃと!?」
剣士「詠唱が異様に早いとは言え、瞬時に撃てる魔法はこの程度が限界か」
呪術師「儂の火球を、この程度とあしらうか!?」
剣士「勝負あったな」チャキッ
呪術師「甘く見ておったのは儂の方か。紅蓮の剣士、これほどとは……ッ!!」
386
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:42:40 ID:lS6htfpE
武闘家「化け物かよ……」
魔法使い「ほんとにね。だけどそれは今更なんだって気づいたわ。既に剣士は三度も魔族を撃退している」
武闘家「だからってここまでか? 次元そのものが違うじゃねぇか!?」
賢者「そう感じるのは相手が魔導師だったからかもしれません」
武闘家「え?」
賢者「剣士さんは詠唱段階で魔法の種類がわかるんですよ。ですから――」
武闘家「先読みって事か? けど、そんな事出来んのかよ?」
魔法使い「無理よ。どんなに優れた魔導師でも完全に読み切る事は出来ない」
賢者「お姉様にも、ですか?」
魔法使い「私どころか御婆様――いえ、あの勇者ですら不可能でしょうね」
賢者「え゙っ!?」
387
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/06(木) 21:46:30 ID:lS6htfpE
賢者「勇者様でさえ出来ない事を、どうして剣士さんが……?」
魔法使い「あれが勇者を倒す為に身に着けたものだから、としか言えないわ」
賢者「勇者様を倒す??」
魔法使い「べつに勇者が憎くて殺したかったわけじゃないわ。ただ純粋に勇者に勝ちたかったのよ、アイツは」
賢者「剣士さんは勇者様と戦った事があるんですか?」
魔法使い「勇者のちょっとした勘違いでね。なんでも、剣士を山賊と間違えたとか」
賢者「二人は婚約していたんじゃ……」
魔法使い「あの頃はまだ話だけで、勇者は剣士の顔を知らなかったのよ」
魔法使い「で、結局その誤解は解けず戦う事になって。剣士は負けた。勇者の使う神の魔法に手も足も出ずに」
武闘家「だから相手の魔法を丸裸にする技術を身に着けたってのか!?」
魔法使い「ええ、そうよ」
武闘家「ぶっ飛んでやがる……」
魔法使い「(確かに今ならそう言わざるを得ない。あの頃は感知できたところで身体がついていかず躱す事は出来なかった)」
『ただ生きていればそれでお姉様は満足なんですか?』
魔法使い「(それだけじゃないわ。私はアイツに必要とされたい、求められたい。だけど、こんなひどい差を見せつけられてどうしろと言うのよ……)」
388
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/07(金) 19:39:44 ID:QqNxW/y6
乙
389
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/09/15(土) 15:35:45 ID:qzu5qn1A
乙
390
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:06:37 ID:8EiFUDXQ
呪術師「何故殺さん。決着はついたはずじゃ」
剣士「聞きたい事がある。アンタの目的はなんだ。どうして国王なんかに……?」
呪術師「何かと思えばそんな事か……」
呪術師「戦略的な意味はない。人手が欲しかっただけじゃ。儂一人では探しきれなくてな」
剣士「探していた? 一体何を?」
呪術師「初恋の女性と言ったら信じてもらえるかの?」
剣士「は?」
呪術師「知っておるか? 勇者に敗れた魔族の末路を……」
剣士「あ、いや」
呪術師「じゃろうな。知る由もない」
剣士「どうしてそんな話を急に……」
呪術師「儂はな、前大戦の生き残りなのじゃよ」
391
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:07:35 ID:8EiFUDXQ
剣士「生き残り? 魔族は魔王と共に滅ぶんじゃないのか?」
呪術師「お主がよく知る魔族――、邪神の加護なしには身体を維持できん種はそうじゃな」
呪術師「じゃが、儂等のような加護を必要とせずとも生きられるものはそうではない」
剣士「人魔がそうだと? その違いはなんだ?」
呪術師「さあ、そこまではわかっておらん。単に人魔が人間に近い形だからなのか、それともその役目からそう作られておるのか――」
呪術師「理由はどうあれ人魔は魔族の中では異端。ゆえに虐げられていた時代もあったが――おっと、関係のない話じゃったな」
剣士「その姿では、やはり……」
呪術師「とにかく儂等は魔王亡き後も生きなければならなかったのじゃ。次代の魔王を迎える為にも死ぬ事は許されなかった」
剣士「迎える?」
呪術師「おかしいとは思わなかったのか? 魔王が復活したからと組織がいきなり機能するわけがない」
392
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:09:43 ID:8EiFUDXQ
剣士「人魔は次代の魔王が復活するまでの間ずっと陰で生きていたっていうのか?」
呪術師「そうじゃよ。それがどんなに過酷な事か、お主にはわからんじゃろうな……」
呪術師「加護なくして資源の乏しいあの荒れ果てた大陸では、生き残ったもの全てを養う事は出来ず――」
剣士「(邪神の加護には生理的欲求を補う力もあるのか。いや、死してなお蘇る勇者の再生力も突き詰めれば同じようなものか)」
呪術師「儂等に残された選択は一つだけじゃった」
剣士「人口の抑制、切り捨てか……」
呪術師「儂もその切り捨てられた一人でな。じゃが、運よくこの大陸に流れ着き、あるものに救われた」
剣士「あるもの?」
呪術師「エルフじゃよ。儂はとあるエルフに救われたのじゃ」
剣士「つまり爺さんは前の戦いで助けてもらったエルフの女性を探していただけだと?」
呪術師「ああ、そうじゃ」
393
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:11:30 ID:8EiFUDXQ
剣士「わからないな。仲間の力を借りればよかっただろう。変化の魔道具を盗み出してまで、人間に探させる必要はなかったはずだ」
呪術師「こんな色惚けた爺の酔狂に仲間を巻き込む事など出来んよ。それにそのエルフは人間と結ばれておってな……」
剣士「人間と結ばれていた? そのエルフというのは――」
呪術師「俗に言うはぐれエルフじゃ。里を離れ人界近くに住むな」
呪術師「だから今度は儂が助けよう、そう決めておった。今回ばかりは人間が敗れると確信しておったからの」
剣士「――で、見つかったのか?」
呪術師「いいや。あれから百年ちょっと。エルフの寿命であれば生きておると思うが……」
賢者「もしかしてそのはぐれエルフさんってお婆様の事でしょうか?」
魔法使い「そういえば昔はこの辺に住んでたって言ってたわね」
魔法使い「里を離れた、それも人間と結ばれていたエルフなんてそういないでしょうし」
394
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:12:43 ID:8EiFUDXQ
呪術師「ん? 言われて見れば面影があるような……」ジッ
賢者「本当ですか!?」
呪術師「二人の婆さんは本当にエルフなのか?」
賢者「ええ、そうですよ」
呪術師「どうりで強いわけじゃ……」
呪術師「それで今は、今はどこに? 元気にしておられるのか?」
賢者「始まりの国の国境近くの森の外れに住んでいます。おそらく今も元気に魔法の研究に勤しんでいると思いますよ」
呪術師「そうか。変わらず元気で、よかった……」
呪術師「しかし何という因果じゃ。その孫が剣士と共に魔王討伐とはな」
395
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:14:32 ID:8EiFUDXQ
呪術師「思い残す事はない。剣士よ、妬くなり煮るなり好きにするがよい」
剣士「なら早くここから立ち去るんだな」パチン
呪術師「鞘に納めると? 見逃すと言うのか!?」
剣士「ああ」
呪術師「何故じゃ。儂は三魔将という地位を与えられた立派な敵じゃぞ!」
剣士「その立場を利用し、愛に生きた貴方を俺は殺せそうにない。それに貴方の事だ。本物の国王は殺していないんだろう?」
呪術師「確かに本物の国王は鳥に変えただけで命までは奪っておらん。しかし、だからと言って納得できるものではないじゃろう!?」
剣士「どうだろう。エルフのお婆さんを探す為だったとはいえ、貴方はこの国の騎士を改心させた。お陰で以前より住みやすくなったと……」
呪術師「甘いぞ、剣士。そうであったとしても儂が人間の敵である事に違いない!」
剣士「本当にそうか?」
呪術師「お主が魔王に逆らう限り儂等は敵じゃよ。またあのような悲劇が繰り返されるというのなら儂は、儂は……」
剣士「(爺さんはエルフを通じて人間の優しさを知ったんだろうな。だから苦しんでいる。魔王の意志に従いきれずに……)」
396
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:18:26 ID:8EiFUDXQ
剣士「(それは俺も同じか)」
呪術師「どうした、剣士。怖気づいたわけではあるまい!」
剣士「なあ、爺さん。一つ提案なんだが……」
呪術師「提案?」
剣士「もし俺が魔王に敗れたら爺さんの出来る限りでいい。人間達を助けてくれないか?」
剣士「逆に俺が魔王に勝ったら出来る限りの魔族を助けると約束するよ。だから――」
呪術師「本気で言っておるのか?!」
剣士「ああ。これで済む話じゃないのはわかってる。だが、もし爺さんに人間を想う心があるのなら……」
呪術師「お主はどうなのじゃ。魔族を恨んではおらんのか!?」
剣士「恨むも何も、俺は魔族をよく知らない。大切な人を守る為に戦っているだけで――」
剣士「そうだ。爺さんが敵であろうと殺す理由にはならない。少なくとも今は……」
呪術師「剣士、お主は女神ではなく、人間の為に戦っているというのか……」
397
:
◆49HRmRlKYE
:2018/09/24(月) 19:22:48 ID:8EiFUDXQ
呪術師「――わかった。儂は去るとしよう」
剣士「ありがとう」
姫騎士「行かせるものか。剣士が刺せないと言うのなら私が!」ダッ
剣士「よせ!」ガシッ
姫騎士「止めるな。こいつはお父様を、我が国を愚弄した!!」
剣士「気持ちはわかる。だがここはこらえてくれ」
姫騎士「ふざけるな!」
剣士「殺して何になる?」
姫騎士「誇りを奪われた。取り戻さなければ生きてはいけない!」
剣士「それで戻るものでもないだろう!」
姫騎士「血迷ったか。アイツは魔族だ。我等人間の敵ゾ!」
剣士「爺さんは俺達を本気で殺そうとしていなかった。それに俺との約束だって……」
姫騎士「うるさい! お前に私の何がわかる!」
398
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:20:43 ID:GOsYA0yo
武闘家「剣士殿、流石に信用しすぎじゃねぇか?」
姫騎士「ほら見ろ。武闘家もお前の愚行に呆れているぞ!」
武闘家「そ、そこまで言うつもりねぇけどよ。資源不足を解決する為にそういう事が過去にあったのは本当だろうし――」
武闘家「ただ、なんでそれを爺さんが身をもって知ってるんだよ? 人魔族の寿命も人間と変わらないはずだぜ」
剣士「人魔は長寿じゃないのか?」
武闘家「ああ。そうだよな、爺さん?」
呪術師「詳しいな。人魔族の寿命は人間とそう変わらん。じゃから儂は秘術を使い寿命を永らえさせた」
剣士「秘術?」
呪術師「進化の秘術、聞いた事はないか?」
剣士「いや、初めて聞いた。魔法使いはどうだ?」
魔法使い「私も聞いた事ないわ」
呪術師「そうか、やはり……」
399
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:22:46 ID:GOsYA0yo
剣士「どういうものなんだ?」
呪術師「そうじゃな。平たく言えば生物の能力を著しく成長させる術といったところかの」
剣士「成長? 強化魔法とは違うのか?」
呪術師「似て非なるものじゃろうな。強化魔法は肉体の限界を引き出す術じゃが、進化の秘術は言葉通り使用者を進化させる。成長の過程を無視してな」
剣士「どういう事だ? 特別な力を授ける術という事か?」
呪術師「間違ってはおらんよ。事実、儂は秘術の力でエルフ並みの寿命を得た」
剣士「だけか? 何か他に得た力は?」
呪術師「お主が考えている事はわかる。しかし残念ながら、勇者を越えるほどの力を得た者はいなかった。儂を含め誰一人も……」
呪術師「いや、ある意味では越えたのかもしれんな。この時代まで生きながらえたのだから」
剣士「前大戦で得た知識か。確かに脅威ではあるが……」
呪術師「フッ、少しおしゃべりが過ぎたかの」
剣士「最後にもう一つだけ教えてくれ。その秘術は魔族に伝わるものなのか?」
400
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:25:06 ID:GOsYA0yo
呪術師「答えてやりたいが、儂はそれを知らん。じゃが、その術を知る者――側近はこう言っておったよ。勇者を討つ為に蘇らせたと」
剣士「蘇らせた? その側近というのは何者なんだ?」
呪術師「哀れな復讐者じゃよ。奴の憎悪怨恨の念は計り知れん。勇者を、いや人間を滅ぼす為ならどんな手段をも厭わない」
呪術師「儂が滅ぶ確信を得たのも奴を知ったからじゃ。あの男なら必ずや成し遂げるだろうと。現に側近は勇者を倒してしまった」
剣士「そいつが?」
呪術師「もちろん止めを刺したのは魔王じゃよ。じゃが、前代の勇者から魔剣を取り戻し、この時代の勇者を早期に突き止めたのは奴」
剣士「秘術で得た力を存分に使い、勇者を追い詰めたって事か……」
呪術師「――さて、知る限りの事は話したつもりじゃ。信じてもらえるかの?」
剣士「俺は信じるが、どうだろう?」
武闘家「ああ、俺も信じるよ。嘘をついてるようには思えねぇや」
呪術師「よかった。これで駄目ならエルフのお婆さんに会わせてもらう以外にないからの」
401
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:26:09 ID:GOsYA0yo
姫騎士「私は、私は……!!」
武闘家「悔しいのはわかるよ。だけど爺さんに戦う意思はなかったんだ。ここは剣士殿に従おうぜ」
姫騎士「私の国だぞ。いいように弄ばれたんだぞ」
武闘家「なら剣士殿をブッ倒してやるんだな。そうすりゃ誰も文句言わねぇよ」
姫騎士「な!? くぅ……!」ギリッ
武闘家「――爺さん、話は終わったぜ。早く行きな」
呪術師「すまん。国王は寝室の鳥かごの中じゃ、真実の水晶を使えば元の姿に戻ろう」
剣士「わかったが、傷は大丈夫なのか?」
呪術師「心配無用じゃ。そこまでの傷は負っておらんよ。――ではさらばじゃ!」バッ
武闘家「窓から文字通り飛びやがった。相変わらず身軽な爺さんだぜ」
姫騎士「なんなんだよ。剣士、お前はどうして……」
剣士「……俺はもう行くよ」
姫騎士「ああ。早くどっか行ってしまえ!!」
402
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:27:35 ID:GOsYA0yo
執事「お待ちください。この度の礼を……」
剣士「必要ない。俺は姫様の要望に応えられなかった」
剣士「それより姫様と国王の事を頼むよ。あの様子じゃ心配だ。ついてあげて欲しい」
執事「言われるまでもなくそうするともりです。ですが……」
剣士「?」
執事「剣士、貴方は勇者の遺志を継いだのではなかったのですか?」
剣士「そのつもりだったんだがな」
執事「失望しましたよ、紅蓮の剣士。貴方は姫様とは違う。覚悟がある人だと……!」
剣士「すまない」ペコッ
執事「私が言えるような立場ではないのは重々承知。ですがあえて言わせてもらいます」
執事「貴方は甘い。半端な覚悟では自身も仲間も殺す事になるでしょう。それ程の力があったとしても!」
剣士「肝に銘じておくよ」
403
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:29:34 ID:GOsYA0yo
城 門近く 帰り道――
剣士「(本当に無様だな。仲間を危険にさらせまいと動いたつもりが、逆に危険にさらす事になるとは)」
剣士「(武闘家の言う通り、考え過ぎず素直に取りに行った方がよかったんだろうな)」
剣士「(それだけじゃない。爺さんの事もそうだ。どう言いつくろったところで俺が殺す事を恐れたのは事実。罪悪感から逃れようとしただけ……)」
賢者「剣士さん、あの……」
剣士「あ、大丈夫だったか? 怪我とかは、魔法使いに治してもらったんだよな?」
賢者「それは大丈夫というか、そもそも私は何一つ傷を負っていませんから……」シュン
剣士「本当に?」
賢者「はい……」コクン
剣士「よかった」ソッ ギュッ
賢者「え、あ////!?」カーッ
404
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:31:38 ID:GOsYA0yo
賢者「すみません、ご心配をおかけして。でも、あの、これは……////」
剣士「痛かったか? 強く抱きしめたつもりは……」
賢者「大丈夫です。びっくりしちゃっただけで」
剣士「そうか」ニコッ
賢者「うん」ギュッ
武闘家「あれ、毎回やってんの? 見てるこっちが恥ずかしくなるんだけど」
魔法使い「なんで私に聞くの? 知るわけないでしょ!」ブチッ
武闘家「ヒェ!?」
魔法使い「(どうして、あの子にはああいう態度なのよ。あの子だって私と同じで何もしてないのに!)」
魔法使い「(一体私と何が違うの? どうしてあの子ばかり求められてるのよ!)」ギリッ
405
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:35:11 ID:GOsYA0yo
武闘家「剣士殿、ごめん。いい感じ所ちょっといいかな?」アセッ
剣士「あ、いや、これは別に……////」
賢者「どうしたんですか?」
武闘家「ほら、内緒で水晶を取りに行っちゃっただろう? だから謝りたくて……」
剣士「それについては慎重になりすぎていた俺も悪い。謝る必要ないよ」
武闘家「そんな事はねぇよ。結果的にそうだっただけで」
剣士「どうだろう? 俺が……」
魔法使い「もうみんな悪かった、それでいいんじゃない。煽った私が一番悪いと思うし」
武闘家「行っちゃった俺が一番でしょ、そこは。取りに行ったならまだしも、それを城に持っていっちゃったんだぜ?」
賢者「うふふっ」クスクス
魔法使い「何笑ってるのよ。貴女だって悪いのよ!」
賢者「わかっていますよ。でも謝りあっているのがおかしくて」フフッ
剣士「そうだな。みんな悪かったって事でこの件については終わりにしよう」
賢者「そうですね」ニコッ
魔法使い「だから最初からそう言ってるじゃない」ムッ
406
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:38:59 ID:GOsYA0yo
剣士「そうだ。武闘家、俺も君に話があるんだ」
武闘家「なんだよ、改まって……」
剣士「爺さんが教えてくれた進化の秘術。あれは君達が探していた力なんじゃないか?」
武闘家「でもあれって勇者を越える力は得られなかったって話だろう?」
剣士「だとしても力を得られる事に違いはない」
武闘家「んー、じゃ逆に聞くけどさ。剣士殿はそれを手に入れようとは思わないのか?」
剣士「手掛かりがあれだけだからな。それに人間に効果があるかどうかも怪しい……」
武闘家「それを言っちゃ俺だってそうよ!」
剣士「だが狩人は知りたいんじゃないか?」
武闘家「アイツはアイツで探し出すんじゃねぇかな?」
剣士「そうか……」
武闘家「俺はこのまま剣士殿と一緒に戦いてぇよ。駄目かな?」
剣士「本当にいいのか? 俺は魔族を見逃すような男だぞ?」
407
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/03(水) 22:41:59 ID:GOsYA0yo
武闘家「だからだよ。俺はその優しさに惚れ直したんだ」
剣士「優しさ? 甘さの間違いじゃないか?」
武闘家「それの何が悪いんだ?」
剣士「死ぬ事になるかもしれない」
武闘家「いいよ。俺達の為に甘さを捨てるくらいならそれがいい」
剣士「馬鹿な事を言うなよ」
武闘家「本当だな」ハハッ
剣士「――じゃ、帰ろうか。流石に俺も眠い」
武闘家「ありがとうな。助けに来てくれて――って、そういやどうして城にいるってわかったんだ?」
剣士「武道着の怪しい男が祠から出てきたと騎士達が騒いでいたから、もしかしたらと思って。間に合ってよかったよ」
武闘家「そっか。じゃ今度は俺が――あいや、なんでもねぇや」
剣士「?」
武闘家「(今度は俺が助けるぜ、なんて言えるほどの力はまだない。そう言えるように強くならなきゃな)」
408
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/04(木) 22:31:40 ID:j2dw1Skw
乙
409
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:48:40 ID:fAB8ljNI
翌日 宿屋 昼過ぎ――
武闘家「ふわぁーっ、よく寝た。――って、寝すぎたな。もう日が沈みそうじゃんか」
魔法使い「おはよう。昨日の疲れは取れた?」
武闘家「んー、まだ節々が痛いかなー」イテテ
魔法使い「しばらくは養生につとめる事ね」
武闘家「そういうわけにもいかねぇよ。もっともっと修行して強くならねぇと!」
魔法使い「その事だけど、ほんとによかったの?」
武闘家「え?」
魔法使い「進化の秘術だっけ? それを探す旅に戻った方がよかったんじゃない?」
武闘家「魔法使いさんも知らなかったんだろ、秘術の事は?」
魔法使い「お婆様が知らなかっただけで他のエルフは知ってるかもしれないわ」
武闘家「そうかもしれねぇけど。やっぱ俺はこのまま剣士殿と一緒に……」
魔法使い「それがわからないのよ」
410
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:50:10 ID:fAB8ljNI
魔法使い「剣士は人魔の呪術師に情けをかけた。魔族を恨んでいるだろう貴方がどうしてそれを許せたの?」
武闘家「そ、それは……」
魔法使い「何かあるの?」
武闘家「わかった。ちゃんと話すよ。いつかは話さなきゃいけないって思ってたし」
武闘家「俺は、人間と魔族の混血児なんだ……」
魔法使い「嘘でしょ!?」
武闘家「呪術師の爺さんの話を聞いたろう? いたんだよ。切り捨てられた魔族の中には人間に助けられたものが」
魔法使い「じゃあ魔族に滅ぼされた貴方の里っていうのは……」
武闘家「ああ。魔族と人間が暮らす小さな里だった」
魔法使い「……貴方も邪神の加護を受けているの?」
武闘家「でなきゃここまで戦えてねぇよ。薄まってる分、純血には劣ってると思うけど」
411
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:52:08 ID:fAB8ljNI
武闘家「だから滅ぼされた――いや、違うな。単純に存在そのものが邪魔だったんだろうな」
武闘家「人間の情けで生きながらえた惨めな魔族を魔王が許すわけがない。ましてや人間と魔族の間に子が生まれるなんてなりゃ……」
魔法使い「もういいわ。話してくれて、ありがとう」
武闘家「しっかし、ふざけた話だよな。魔王に逆らう気なんてありゃしない。ただ静かに暮らしていたかっただけなのに……」
魔法使い「そうね……」
武闘家「だから嬉しかった。剣士殿が生き残った魔族を助けてくれるって言ってくれたのが。あの人には人間も魔族も関係ないんだなって」
魔法使い「ええ。アイツは生まれを気にするような人じゃないわ。もちろん私も」
武闘家「俺と同じ混血だからか?」
魔法使い「まあ、そういう事になるのかしらね」
武闘家「剣士殿も?」
魔法使い「アイツは普通の人間よ。混ざりっ気のない」
武闘家「そうなんだ。――って、んん?」
412
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:53:49 ID:fAB8ljNI
酒場 同時刻――
カランカラン
マスター「やあ、剣士殿。待ってたよ。ささ、こっちこっち」
剣士「ああ、どうも。待っていたという事は……」
海賊「はあーい。貴方が噂の剣士さん?」
剣士「(三角帽子にジュストコート、それに眼帯。古典的というか、あからさまな……)」
海賊「なあに? あまりの美貌に見惚れちゃったぁ? ――って、そんな顔じゃないね」
海賊「ふふん。何を隠そう、私は海賊。と言っても商船や沿岸なんかは狙わない、お宝探し専門の海賊だけど」
剣士「海賊と呼べるんですか、それで?」
海賊「海の無法者はみーんな海賊よ。それに商船を襲わないだけで同業者からは遠慮なく頂戴するし。お姉さん、こう見えて怖いんだから!」ムフッ
剣士「戦わないわけじゃないんですね」
海賊「そりゃ海賊だもん。――で、話を戻すけど貴方が私達を必要としているっていう剣士さんよね?」
剣士「ええ。私達は向こうの大陸へ渡る船を探しています。無理な願いとは存じますが、乗せて行ってはもらえないでしょうか?」
413
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:56:00 ID:fAB8ljNI
海賊「それなんだけど、どうしよっかなぁー?」ウフフッ
剣士「え?」
海賊「まず貴方が本物の剣士だっていう証拠を私に示して欲しいんだけどいい?」
剣士「証拠と言われても……」
海賊「難しく考えなくたって大丈夫。とーっても簡単な事よ」
マスター「おい。まさか、何かやらかすつもりじゃ……」
海賊「飲んだくれのごく潰し共、耳の穴かっぽじってよく聞きなッ!!」
ガヤガヤ ナンダナンダ
海賊「見えるかい? このパンパンに詰まった金袋が!」ドンッ
海賊「何も見せびらかす為に声を荒げたんじゃないわ。今からお前らにこれを手にする機会をくれてやろうって言ってんだ」
海賊「安心しな。難しい条件を突きつけるつもりはない――」
海賊「あたしの隣に座っている優男がいるだろ。この優男を地面に叩き伏せるだけでいい。つまりコイツと喧嘩やって勝つ。単純だろ?」
414
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/12(金) 23:58:36 ID:fAB8ljNI
海賊「昼間っからこんな所で安い酒をチビチビ飲むしかないお前らには勿体ないくらいの話だろう。やらない手はないよなァ!」
ガヤガヤ マジカヨ イカレテンナ
剣士「有無を言わさない、これが海賊流か?」
海賊「うふふっ、手っ取り早いでしょう?」
剣士「気に入らないな」
海賊「あっちにとってもそう悪い話じゃないと思うけど? 私だってリスク背負ってるし」
マスター「おいおい、勘弁してくれ。うちはそういうのお断りなんだよっ!?」
海賊「そう言われても、もう言っちゃった後だしなぁー」エヘッ
マスター「備品もただじゃないんだぜ!?」
海賊「でも、すっごい盛り上がると思うよ?」
マスター「嬉しくないって。あー、頼む。なるべく俺の店は壊さないでやってくれー!」
415
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:00:37 ID:0U.8JA.Y
客A「なかなか面白い事言うねぇ、海賊風の姉ちゃんよ」
客B「ああ。んな条件じゃただでくれてやるって言ってるのと同じだぜ?」
客C「なんたってこっちにゃ紅蓮の剣士様がいらっしゃるからなー!」ドヤッ
海賊「え? どういう事? だって剣士様は――」チラッ
剣士「偽者、まだいたのか……」ハァ
偽剣士「待ってくれよ。こんなくだらない事に私が付き合うわけがないだろう」
客A「いいじゃねぇですかい。どうせ、あの金は善良な我々民から奪い取ったもんですよ」
客B「違ない。そうだ。此処は一つ剣士様のお力で取り戻しちゃもらえませんかね?」
偽剣士「そう言うけどね……」
店員「あたしも見てみたいな。剣士様のカッコイイところ。いいでしょう?」
偽剣士「ふぅ、皆がそこまでいうのなら仕方がない。少し懲らしめてやるか……」スクッ
オーオー イイゾ ヤレヤレー ワーワー
偽剣士「(まあ、偽者を名乗るだけの力はあるつもりだ。こんな酒場にくる賊もどきに負ける事もないだろう)」
416
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:02:28 ID:0U.8JA.Y
偽剣士「さあ、かかってきたまえ!」バッ
剣士「(中途半端な事では認めてはくれないんだろうな。気が進まないが、やるか……)」
客A「なあ、お前どっちに賭ける?」
客B「馬鹿言ってんなよ。賭けが成立するとでも思ってん……」
ガシャーン!
偽剣士「ガハッ!!??」ドテンッ
客一同「「へ?」」
剣士「叩き伏せたぞ。これで満足か?」
海賊「え、あ…… うん」ポカーン
剣士「すまないが、彼の介抱を頼むよ」
店員「えっ?」
剣士「目覚めたら伝えておいてくれ。こんな事に巻き込んですまなかった、と」
店員「は、はい……」コクン
417
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:03:48 ID:0U.8JA.Y
マスター「こいつはすげえ。瞬きする間もなく終わらせちまいやがった……」
海賊「ごめん。盛り上がるどころか凍り付いちゃったね」
マスター「あ、いや、俺としちゃ店がブッ壊れずに済んでよかったよ」
海賊「そう? ならいいんだけど……」
剣士「不味かったか?」
海賊「ううん。問題ないって」
剣士「そうか。――で、どうだった?」
海賊「もちろん。信じるわ」
剣士「じゃあ、連れて行ってくれるんだな?」
海賊「んー、それはまたべつのお話かなー……」
剣士「はあ!?」
418
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:06:40 ID:0U.8JA.Y
海賊「私の一存で決められる事じゃないし、うん……」
剣士「アンタが船長なんじゃないのか?」
海賊「そうなんだけど、船長の独断で決めちゃうわけにもいかないのよ。こればっかりは」
剣士「まあ、仲間の同意は必要か……」
海賊「剣士を信用してない仲間もいて。少し説得に時間がかかるかも――って、そうだ!」
海賊「ねえ、私と一緒に説得してくれない。そうすれば仲間もすぐわかってくれると思うんだけど、どお?」
剣士「俺が海賊の仲間をか?」
海賊「うんうん!」
剣士「アンタ自身はどうなんだ? いいのか?」
海賊「もっちろん。今から楽しみにしてるくらいだもん。貴方との船旅!」ウフフッ
419
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:09:34 ID:0U.8JA.Y
剣士「わかった」
海賊「ありがと。じゃ申し訳ないんだけど私達のアジトまで来てもらっていい?」
剣士「ここを拠点にしているわけじゃないのか?」
海賊「ここはちょっとね。色々と監視が厳しくって海賊船なんてあった日には……」
剣士「なるほど。――で、そのアジトここから遠いのか?」
海賊「そこそこってところかなー」
剣士「じゃあ、仲間にも伝えないと」
海賊「え、仲間?」
剣士「ここを離れる事になるんだろう?」
海賊「う、うん。そうだけど……」
剣士「伝えてくるよ。待っていてくれ」ガタッ
海賊「剣士に仲間なんていたんだ……」
420
:
◆49HRmRlKYE
:2018/10/13(土) 00:12:01 ID:0U.8JA.Y
マスター「仲間は三人だ。魔導師が二人に、武闘家っぽいのが一人」
海賊「知らなかった」
マスター「だろうな」
海賊「噂ほど当てにならないものもないね。紅蓮の剣士は孤高でもなければ、熊みたいな大男でもなかったし」
マスター「アハハアッ! 今はそんな事になってるのか。凄い尾ひれがついたもんだ」
海賊「今後はもっと凄い尾ひれがつくんじゃない?」チラッ
客A「出てったぞ、さっきの男」
客B「一体何もんだったんだ。剣士様をブッ飛ばしちまうなんて……」
客C「髪をみなかったのか? あっちが本物だったんだよ。きっと偽者が気に食わないもんだからやっちまったんだろ」
客B「にしたって、やばかったな。人間の動きしてなかったろう?」
客C「ああ、ありゃバケモンだ。魔族を食っちまうのも納得だ……」
マスター「ひでぇ言われようだな」
海賊「だけど実際その通りなわけで。化け物でなければ本物の化け物は倒せないんだろうね……」
421
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/10/13(土) 22:29:49 ID:2ohDdzRs
乙
422
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:09:16 ID:AbFZhZkU
漁村――
武闘家「ここが海賊のアジトなのか? どう見たって――」
魔法使い「ただの漁村じゃない。それも寂れた」
海賊「ひっどぉーい!? とってもいい村よ、ここ!」
魔法使い「海賊をかくまう村をいい村とは言わないんじゃない?」
海賊「べつにかくまってもらってるわけじゃないもん。お世話になってるだけだもーんっ!」
賢者「私は好きですよ。都会よりこっちの方が!」
海賊「ありがと。賢者ちゃんはいい子ねぇー」ヨシヨシ
賢者「わーい」エヘヘ
魔法使い「そんな事よりどうするの? 日も暮れちゃったし、宿とかあるわけ?」
海賊「あるよ。とびっきりの宿がね。案内するからついてきてちょーだい!」
魔法使い「ハァ……」
剣士「(ため息ばかりついているな。まあ、当然と言えば当然か。この旅自体まだ納得できていないんだろうし……)」
423
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:10:26 ID:AbFZhZkU
魔法使い「何?」チラッ
剣士「苦手か、あの手のタイプは?」
魔法使い「貴方は?」
剣士「俺か? どうだろう。嫌いじゃないが……」
魔法使い「ふーん」
剣士「――なあ、宿についたら二人で話さないか?」
魔法使い「やだ」プイッ
剣士「え?」
賢者「何しているんですか。置いていっちゃいますよー!」
魔法使い「行きましょうか」タッ
剣士「(冗談、だよな……?)」
424
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:11:59 ID:AbFZhZkU
宿――
海賊「こんばんはー。おばさん、客連れてきてやったわよー!」バーン
宿屋「誰かと思えば海賊ちゃんじゃないの。お客さんって――ああ、いらっしゃいな」ニコッ
剣士「どうも。こんばんは」
海賊「部屋、借りられるよね?」
宿屋「わかりきった事を聞くんじゃないよ。好きな部屋を好きなだけ使うといいわ」
武闘家「へー、好きなだけか。んじゃ、せっかくだし二部屋借りちゃう?」
剣士「そうしようか」
海賊「男同士、同室、夜間。何も起きないわけもなくぅー……」
武闘家「起きるわけないんだよなあッ!」
賢者「……本当ですか?」
武闘家「疑ってんじゃねぇよ!!」
425
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:14:27 ID:AbFZhZkU
海賊「二部屋なんてケチ臭い事言わず一人一部屋借りちゃえばいいじゃない」
宿屋「うちは問題ないわよ。むしろそうしてくれる方がありがたいくらい。なーんて」フフッ
魔法使い「じゃ、それで。貴方もそれでいいでしょ?」
剣士「あ、ああ」
ガチャ ドアバーン
操舵手「姉御、やっぱもうこっちに戻ってきてたんですね!」
海賊「な、なんで操舵手がここに……」ビクッ
操舵手「うちの占い師が当てたんですよ、珍しく」
占い師「残念、村の入り口で船長を見かけたって話を聞いただけなのでした」ウププ
操舵手「はあ、そうじゃないかと思ってたけど。いつになったら当たるんだよ……」ヤレヤレ
剣士「この人達は?」
占い師「ふっふっふっ! よくぞ聞いてくれた。僕達は泣く子も笑ちゃう――」バッ
操舵手「愛と正義の女海賊団よッ!」キメッ
426
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:15:56 ID:AbFZhZkU
剣士「え、ああ。これは、ご丁寧にどうも……」
占い師「ノリ悪ぅーい。ポーズまで決めたっていうのにねー」ムッ
操舵手「当然の反応だよ、これが。やっぱこの名乗り方は引かれるって……」
海賊「うん、そだね」ハハ
操舵手「ほら姉御も引いてるじゃないか!」
占い師「えー!?」
海賊「あーでも面白かったよ? 採用は絶対しないけど……」
占い師「一生懸命考えたのになぁ。不採用かぁー」
魔法使い「この海賊団大丈夫なの? 不安になってきたんだけど……」
剣士「結束力があっていいんじゃないか? たぶん……」
海賊「誤解しないで。腕はいいのよ、こんなんだけど!」アセッ
427
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:17:07 ID:AbFZhZkU
占い師「じゃ次はそっちが名乗る番。誰さん達なの?」
武闘家「やべぇ、ポーズなんか思いつかねぇよ……」
賢者「私はもう自分のポーズ決まりましたよ」キリッ
剣士「なんで対抗心を燃やしてるんだよ。普通でよくないか、普通で」
海賊「ああ、待って。私が紹介するわ。――彼等は紅蓮の剣士とその仲間」
海賊「前に紅蓮の剣士が船を探してるって話がうちにきたでしょ? 覚えてる?」
操舵手「そいつがそうなんですか!?」
占い師「く、熊じゃない……」ジッ
剣士「熊?」
操舵手「よ、弱そ。まだ村にいる男どもの方が……」
海賊「もう! 失礼にも程があるでしょー!」
428
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:18:44 ID:AbFZhZkU
剣士「なんだ? また力を示せばいいのか?」
操舵手「おっ、言ったな。そうこなくっちゃ!」
海賊「煽らないでよ!」
占い師「でも道理じゃない? 力を示し権利を奪い取る。海賊らしいじゃん!」
海賊「じゃ聞くけど誰が剣士の相手するの? ルールに従うってそういう事でしょ!」
操舵手「そりゃうちらの頭である姉御が……」
海賊「私は剣士の力を認めたからここに連れてきたの。それに見なさいよ、剣士の面を!」
海賊「どう見たって世界を救おうと決意した男の面でしょ。力になってあげたいじゃない!」
操舵手「そこまで言うならやっぱり姉御が戦ってみんなに示すべきじゃありません?」
占い師「そーだ、そーだ!」
操舵手「姉御を打ち負かすような男なら、あたし等だって納得しますよ」
海賊「ちょっと待ってよぉー!!?」
429
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:20:49 ID:AbFZhZkU
剣士「つまり貴女達の前で船長と戦い勝てば乗せてくれるって事か?」
操舵手「あたしはそれでいいよ。きっと他の連中も同じ事を言うだろうさ」
占い師「魔族を何とかしたいって思ってるのは同じだしねー」
剣士「どう戦えばいい? 酒場の時と同じでいいのか?」
操舵手「酒場の喧嘩なんかと一緒にしないでくれる。全力でやってもらわなきゃ」
剣士「真剣での斬り合うって事か、危なくないか?」
海賊「命のやり取りまではしないよ。そう、しないの。しないで下さい……」
占い師「がんばれー!」
海賊「何が頑張れよ。うちで一番強いのはアンタでしょうに。私の代わりに戦ってよ!」
占い師「やってもいいけど…… 剣士、燃えちゃうよ?」
武闘家「ぷっ、あはは。燃えるわけねぇんだよな」
占い師「……もしかして馬鹿にされてる?」ムッ
430
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:22:54 ID:AbFZhZkU
武闘家「されるも何も、少しは考えろって。剣士殿は魔族の将を倒してるんだぜ?」
武闘家「それも一度や二度じゃない。レベルが違いすぎて戦いにもなりゃねぇよ」
武闘家「船長さんはそれを理解してるからやめようって言ってんだ。わかってやれよ」
占い師「こいつぅー!」イラッ
操舵手「待ちなって。あたしは違うよ。それを見越して姉御に頼んだんだ!」ドヤッ
海賊「こやつぅー!」イラッ
剣士「――で、俺はどっちと戦えばいいんだ?」
占い師「じゃ、三人で!」
剣士「三人? この三人を同時に?」
操舵手「巻き込んだなあッ!!」
海賊「よし、それでいこう。この三人を倒したとなりゃ全員否応なしに納得するでしょ!」
操舵手「姉御ォオオ!!!」イラッ
431
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:25:02 ID:AbFZhZkU
賢者「私達は戦わなくていいんですか?」
剣士「この戦いは俺が本物かどうかを確かめるものだし、必要ないんじゃないか?」
海賊「うん。そもそも戦い自体必要ないっていう……」
剣士「こういう説得は楽でいいけどな」
海賊「そお? ならよかった。私がもっと仲間に信用されていれば済んだ話だからさ……」シュン
剣士「それを言うなら俺だってそうだよ。熊みたいに強そうな見た目だったらな」
海賊「ふふっ、そだね。ありがと。――じゃ、また明日。迎えに行くからここにいてよ!」
剣士「いつ頃?」
海賊「んー、昼までにはかなぁ? 他の子達にも説明しないとだし」
剣士「わかった」
占い師「といわけだから明日覚悟しなよ!」ビシッ
武闘家「そっちこそ!」ビシッ
432
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:27:34 ID:AbFZhZkU
剣士「ようやく落ち着いたか。――って、魔法使いは?」キョロキョロ
宿屋「とんがり帽子のお嬢ちゃんなら部屋に行ったよ」
剣士「え?」
宿屋「はい、どうぞ。これが貴方の鍵ね。支払いは後でいいから」スッ
剣士「ありがとうございます。お世話になります」
宿屋「ゆっくりしていってちょうだいね」
剣士「(それにしたって魔法使いの奴。あれ、本気だったのか? いや、まさか……)」
武闘家「なんか用あったのか? あるなら訪ねたらどうよ」
剣士「あーいや、疲れていたのだとしたら悪いし明日にするよ」
賢者「お姉様、ですか……」
剣士「何か知っているのか?」
賢者「う、うーん。すみません、なんと言ったらいいのか……」
剣士「(二人の間に何かあったのか? そう言えば最近は特にぎこちないような。それも明日聞いてみるか……)」
433
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:29:40 ID:AbFZhZkU
翌日
海賊船 甲板――
ガヤガヤ ワイワイ
剣士「(くそっ、魔法使いと話せないまま対決の時がきてしまった。やはり昨日、部屋を訪ねておくべきだったか……)」
武闘家「んー、やっぱ変な感じだな。牧歌的な漁村に海賊船が浮かんでるってのは」
賢者「村の人達は気にしていないようでしたね」
武闘家「馴染んじまったんだろうな。良好な関係を築けてる証拠でもあるんだろうけどよ」
武闘家「それはそうとこの海賊団、女の人多くねぇか? 男を見ないっていうか」キョロキョロ
賢者「女海賊団って言っていましたよ」
武闘家「うっそ!?」
賢者「全船員が集まっているわけじゃないでしょうけど、見た限り嘘ではなさそうですね」
賢者「嬉しくないんですか?」
武闘家「なくはないけど、男同士の方が楽だからなぁ。気使わないし」
賢者「ほほー、男の方が嬉しいと」
武闘家「そうは言ってねぇだろ!!」
434
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:32:52 ID:AbFZhZkU
海賊「ようこそ、紅蓮の剣士。この海賊団を頼ってきてくれた事を嬉しく思う」
海賊「改めて自己紹介する必要もないだろうが、あたしがこの海賊団の頭をやらせてもらってる二代目女海賊船長だ」
海賊「それでアンタの魔王討伐の為に船を出して欲しいという頼みなんだが、昨晩仲間達と話し合って決めさてもらったよ」
海賊「魔王を倒せる力――、すなわち勇者に代わる力があるというなら船を出してやってもいい。というのがあたし等の答えだ」
海賊「そういうわけだから証明してもらうよ。あたし等三人を相手に、その力をね。アンタが噂通りの剣士だっていうなら簡単なはずだろ?」
剣士「決着はどうつける?」
海賊「相手に負けを認めさせればいい。もちろん命のやり取りはなしだ」
剣士「了解した」
武闘家「どうしたんだ、海賊の姉ちゃん? 昨日とは様子が違うけど……」
賢者「あれが船長としての姿なんじゃないですか?」
武闘家「確かにあの方が海賊らしいか。賊が舐められたら終わりだもんなー」
435
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:35:36 ID:AbFZhZkU
剣士「(海賊と操舵手の武器はサーベルか。如何にもではあるが、確かにあれなら小回りが利く分、船上でも扱いやすい)」
剣士「(占い師の武器はなんだ、あれは水晶? 水晶なんかで詠唱できるのか?)」
賢者「珍しいですよね。補助具が水晶って」
剣士「補助具?」
賢者「魔導師が持っている杖等は武器じゃないんですよ。これ等は集中力を高める為の補助具であって、極端な話なくても魔法は唱えられるんです」
剣士「へー」
賢者「それともう気づいていると思いますけど、占い師ちゃん詠唱を始めちゃってます。開始と同時に高威力の魔法を撃つ気なのかもしれません」
剣士「やはりか。撃たせないで終わらせるつもりだったんだがな」
賢者「あの時のように痺れ毒の投げナイフを使えば……」
剣士「怪我をさせたくない。君がいるとはいえな」
賢者「あっ、そうですよね。ふふっ、すみません」
魔法使い「……」ムスッ
武闘家「(あ、拗ねてる。解説役を賢者にとられたのが悔しいんかな、やっぱ)」
436
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:38:39 ID:AbFZhZkU
海賊「そろそろ始めようか。準備の方は?」バッ
剣士「いつでも」シャキッ
占い師「それじゃ先手必勝! 魔法をくらえー、ちょわーっ!!」キラッ
ドカーン
海賊「何やってんのさ!? 少しは船の事を考えてーっ!」アセッ
占い師「だって操舵手が全力でやっていいって!」
操舵手「言ってなーいッ!!」
海賊「で、剣士はどこに……」キョロキョロ
操舵手「姉御、上ーっ!!」
剣士「――ッ!」ガキン
クルクル カランカラン
海賊「きゃう!?」ペタン
操舵手「ジャンプで躱したっての、占い師の爆発魔法を!?」
剣士「(あれだけ時間をかけてこの威力か。呪術師の半分にも満たない。弱いな……)」タンッ
437
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:40:50 ID:AbFZhZkU
操舵手「こっちくんな!」ブンブンッ
剣士「(武器を取り上げてしまえば傷つけず勝てる、が……)」サッ
占い師「射線入ってる。邪魔、撃てないっ!」
操舵手「んな事言ったって…… ぎゃわああーっ!」ガキン
カランカラン
剣士「(残すはアイツだけ。流石に水晶は飛ばしたら割れるか。面倒だな……)」ジリッ
占い師「やっと撃てる!」パァ
剣士「(くるのは火球か。躱し喉元に剣を突きつけ――いや、躱すまでもない)」タッ
占い師「はや、どこへ……」
剣士「ここだ」スッ ピタッ
占い師「っ!?」
剣士「俺の勝ちだな」パチン
438
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:43:17 ID:AbFZhZkU
操舵手「本当にやりやがった。あたし等三人を相手に、たった一人で……」ゾッ
海賊「それだけじゃない。剣士は最初の一撃を除き一度も魔法を使わせなかった。武闘家の条件さえもクリアしてみせたんだよ。私達に怪我を負わせずにね」
操舵手「弾かれた手、痛いんですけど……」イテテ
海賊「んもー、そんなの怪我のうちに入んないでしょー!」
剣士「まだやるか? 次は海賊団全員が相手だって構わない」
操舵手「ば、馬鹿言ってんじゃない!!」
剣士「じゃあ認めてくれるんだな?」
海賊「ああ、もう十分だ。そうだろう、みんなァ!?」
ウンウン ナットク シタヨー
海賊「だってさ」
剣士「しばらく世話になるな。よろしく」
海賊「こちらこそ」ニコッ
439
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:45:51 ID:AbFZhZkU
操舵手「よぉし、今夜はパーティーだ。歓迎会やらなくっちゃな!」
海賊「だねー!」
操舵手「姉御の許可が出たぞ、みんな。今日はとことんやるからなー!」
ワーワー ヤッタァー!
海賊「その前に、どっかの馬鹿が甲板に穴空けやがったからその修理!」
剣士「手伝おうか?」
海賊「あ、大丈夫よ。人手は足りてるから!」
剣士「そうか。まあ、素人だしな。船に関しては……」
操舵手「そそ、船はあたし等に任せりゃいいの」
海賊「よーし、そうと決まれば早いとこ終わらせちゃおう。宴の支度だってしなきゃだし」
賢者「それって食べる物とか用意しますよね。手伝わせて下さい。お料理得意なんです!」
海賊「ほんと? うち料理できる子少ないから助かるわ。船の厨房にあるものならなんでも使って!」
賢者「お借りしますね!」
440
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:48:07 ID:AbFZhZkU
占い師「はあ……」シュン
武闘家「反省はしてんだ、一応。偉いじゃん」
占い師「あ……」
武闘家「俺の言った通りだっただろ? 剣士殿には通用しないって」
占い師「だけど、ここまでとは思わなかったなぁ。魔法の腕だけは自信あったのに……」
武闘家「そっちで凹んでんのかよ!?」
占い師「穴空くとかいつもの事だし、べつにぃ……」
武闘家「反省しとけよ、そこは。――てか、そんなに悔しかったのか?」
占い師「僕、戦う以外みんなの役に立てる事ないから。占いまったく当たんないし……」
武闘家「んじゃ、修行するしかないな」
占い師「め、面倒くさぁ……」
武闘家「なら俺と一緒に修行するか? 二人なら飽きる事もねぇだろ」
占い師「え、えぇー?!」
441
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:49:47 ID:AbFZhZkU
剣士「さて、時間もできた事だしいい加減魔法使いと話さないとな。――って、どこ行った?」キョロキョロ
操舵手「何かお探し?」
剣士「魔法使いを――あー、とんがり帽子をかぶった俺の仲間を見なかった?」
操舵手「船内に入っていったのを見たよ。だけど船内は散らかってるからあんまり……」
剣士「船の中か。ありがとう」タッ
操舵手「話聞けや!!」
海賊「どしたの?」
操舵手「剣士とその仲間が船内に入っちゃって!」
海賊「いいじゃない。盗られて不味いものもないし、そもそも盗んだりしないでしょ」
操舵手「恥ずかしいじゃないですか。散らかってるの男性に見られんのは////」
海賊「意外、乙女な部分まだ残ってたんだー……」
操舵手「姉御、あたしを何だと思ってるんですかァ!!」
442
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:51:41 ID:AbFZhZkU
船内 倉庫――
剣士「ここにいたのか。探したよ」
魔法使い「わざわざ私を?」
剣士「話したいって言っただろう?」
魔法使い「やだ」
剣士「なんでだよ!」
魔法使い「冗談よ。で、なあに? 他に人もいないし聞いてあげる」
剣士「賢者の事なんだが……」
魔法使い「やっぱりやだ。あの子の話はしたくない」プイッ
剣士「どうしてそこまで嫌う。最近は輪をかけてないか?」
魔法使い「べつに。昔からよ。最近ってわけでもないわ」
剣士「昔から?」
443
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:52:58 ID:AbFZhZkU
魔法使い「……ねえ、才能の話を覚えてる?」
剣士「魔法の?」
魔法使い「あの子、私より優れてるでしょ。だから嫌いなの。生まれた時から……」
剣士「そんな事はないんじゃないか?」
魔法使い「少し考えればわかるわ。あの子は私と違って癒しの魔法も使える」
剣士「それが全てじゃないだろう?」
魔法使い「全てでしょ? 私はどんなに努力しても攻撃魔法だけしか会得できなかった。それだって、いずれ私を追い抜いて……」
剣士「考えすぎだよ。それに戦いにおいて最も大事なのは立ち回りと技術だ。才能が努力を上回る事はない」
魔法使い「じゃあ、どうしてお婆様は私を見限ったのよ!?」
剣士「お婆さん、エルフの?」
444
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:54:19 ID:AbFZhZkU
魔法使い「お婆様はあの子の才能を見抜いてからは私に構わなくなったわ」
魔法使い「それに気づいたお母様は今まで以上に私に優しく接してくれた。でもそれが堪らなく嫌だった」
魔法使い「だって、それはお母様もあの子より私が劣ってるって認めたって事でしょ?」
魔法使い「だから十五の時に家を出たの。世間じゃ十五歳で成人だって聞いたから……」
剣士「いや、正しくは十六歳からだ」
魔法使い「どーでもいいでしょ。一、二歳なんて!!」
剣士「あ、ああ。すまない。――それで?」
魔法使い「それからは知っているはずよ」
魔法使い「あの森で貴方に出会って、何も聞かずに私を城に雇ってくれた……」
剣士「あれはそういう事だったのか……」
445
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:57:35 ID:AbFZhZkU
魔法使い「あの頃は本当に幸せだったわ」
魔法使い「よくわからない修行に付き合ったり、時には城を抜け出して冒険者の代わりに賊や魔物を討伐したり――」
魔法使い「自分の居場所が確かに感じられた。この人には私が必要なんだって……」
剣士「それは今も変わらない」
魔法使い「嘘よ」
剣士「嘘じゃない。君に黙って旅立ったのは俺に覚悟が足らなかっただけで、本当は一緒に……」
魔法使い「そんな昔の事を言ってるんじゃないの。私が言いたいのは、またあの子が私の居場所を奪おうとしてるって事」
剣士「また、奪う?」
魔法使い「ここまで言ってもわからない?」
魔法使い「貴方、あの子に出会ってからずーっとずーっとあの子に夢中じゃない!」
剣士「夢中、俺がッ?!」
446
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/06(火) 23:59:03 ID:AbFZhZkU
魔法使い「知ってるんだから。貴方が私よりもあの子の事が好きだって!!」
剣士「妬いているのか……?」
魔法使い「笑いたければ笑えば。私は妹に嫉妬し続けているの。滑稽でしょ?」
剣士「思っちゃいない!」
魔法使い「じゃ哀れんでる? それで勇者の時のように今度は私を選ぶ?」
魔法使い「私は嫌よ。もう大好きな人にそんな風に見られたくない!」
剣士「落ち着け。それに俺は哀れんで婚約を受け入れたわけじゃない」
魔法使い「本気で愛してたって言うの!?」
剣士「魔王討伐の旅を終えて、それでも勇者が変わらず俺の事を好きでいてくれたなら受け入れられる。そう思えたから……」
魔法使い「もっともらしい事言って。でもあの子は違うでしょ?」
魔法使い「惰性から生まれる愛情なんかじゃない。心から惹かれるような深い愛情――」
魔法使い「わかるのよ、貴方が好きだから……」
447
:
◆49HRmRlKYE
:2018/11/07(水) 00:00:51 ID:Zwnb7mWE
剣士「確かに俺は彼女に惹かれている。だが、それが愛かどうかは――」
魔法使い「まだわからないって?」
剣士「あ、いや、考えた事がなかった。考える必要もなかったからな……」
魔法使い「へぇー、それで? だから何?」
剣士「だ、だから……」
魔法使い「ちゃんと答えてよ。どうして貴方はいつも、いつも……」グスン
剣士「す、すまない」
魔法使い「何に謝ってるの?」
剣士「それは、俺が君の気持ちを考えもせずに、その……」
ガチャ!
賢者「あー、ここにいたんですね。探しちゃいましたよー!」
剣士「け、賢者!?」ビクッ
賢者「焼き菓子を作ったんですけど食べませんか?」ニコッ
448
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/11/07(水) 21:26:34 ID:mMYihzfs
乙
449
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/25(金) 19:01:23 ID:UNRWHERw
続きを!
450
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:37:21 ID:hLKs.Q/6
賢者「二人して難しい顔していますね。今後の予定でも話していたんですか?」
剣士「あ、いや……」
賢者「甘いものは脳にいいですよ。どーぞ」スッ
魔法使い「いらない」
賢者「そんなこと言わずに。バターたっぷりで美味しいですよ。お姉様、好きでしたよね?」
魔法使い「じゃ、一つだけ。後は二人で仲良く食べたら」タッ ガチャ バタン
賢者「え!? 何も出ていかなくても……」
剣士「……」
賢者「すみません。私のせい、ですよね……?」
剣士「いや、君のせいじゃないよ。俺が悪いんだ」
賢者「何かあったんですか?」
剣士「まあ、色々と」
451
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:41:21 ID:hLKs.Q/6
賢者「えっと、あの…… そうだ。よかったら剣士さんもどうですか?」スッ
剣士「あ、ああ」ヒョイッ
賢者「甘いもの嫌いでした?」
剣士「好きだよ。食べすぎて怒られた事もある」
賢者「よかった」ホッ
剣士「おいしい。思わず頬が緩むな」モグモグ
賢者「でしょう。だからどうしても最初に食べてもらいたかったんです、剣士さんに」
剣士「それでわざわざ届けに?」
賢者「はい」ニコッ
剣士「あ……////」
賢者「顔赤いですよ? も、もしかして……!?」
452
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:43:13 ID:hLKs.Q/6
剣士「いや、違う。これは……」バッ
賢者「じっとしててください。あとちょっとしゃがんでもらっていいですか?」
剣士「え? こ、こう?」
賢者「うーん、とどくかな……」コツン
剣士「おい!?」ピタッ
賢者「熱測ろうかなーって」エヘヘ
剣士「手で測った方がわかるだろう、おでこより」
賢者「嫌でした?」
剣士「その聞き方は卑怯だな」
賢者「うふふ」
453
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:45:14 ID:hLKs.Q/6
賢者「でー、熱はないんですよね?」
剣士「測れてないじゃないか!」
賢者「もう一回やります?」フフッ
剣士「ないよ、熱は」
賢者「んー、光の加減でそう見えたのかな?」
剣士「(魔法使いに愛だの何だのと言われて動揺しているのか、俺は……?)」
賢者「それじゃ、そろそろ戻りますね。作りたいものまだまだあって」
剣士「それは楽しみだな」
賢者「期待していてください。また後で!」タタッ
剣士「……」
454
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:47:14 ID:hLKs.Q/6
村 砂浜――
魔法使い「(あー、ばかばかばか。私のばか。どうしてあんなこと言っちゃったんだろう)」
魔法使い「(言えばどうなるかなんてわかっていたのに……)」
男の子「うおお! これで最後だ、魔王。超必殺奥義、バーニングブレードォ!!」ブンッ
男の子の弟(以下、弟)「ぐわあああ、やーらーれーたー!?」バタン
男の子「ワッハハッ!! 参ったかー!!」
魔法使い「(村の子供? はぁ、のんきなものね……)」
男の子「じゃあ、もっかい最初からいくぞー!」
弟「えーっ! また僕が魔王役なのー!? かわってよ、兄ちゃん!」
男の子「これが終わったらな!」
弟「そう言ってもう三回連続でやってるじゃん!!」
男の子「まだそんなにやってないだろ!!」
魔法使い「(喧嘩になりそうな雰囲気。止めなきゃ駄目なのかな。大人として)」ヤダナァ
455
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:49:19 ID:hLKs.Q/6
魔法使い「ねえ、かわってあげたら。私が言うのもあれだけど、お兄ちゃんなんでしょ?」
男の子「だ、誰? 旅の人?」
魔法使い「まあ、そんなところ。――で、どうなの? 勇者役かわってあげるの? あげないの?」
男の子「ゆうしゃー? 違うよ。これはね、紅蓮の剣士だよ!」
魔法使い「剣士って、あれアイツの真似だったんだ。似てなさ過ぎじゃない……?」
弟「え!? お姉さん、本物知ってるの?」
魔法使い「知ってるっていうか、んまぁ……」
弟「あー、わかった。剣士の仲間なんでしょ!」
男の子「嘘言うなよ。剣士に仲間なんかいなかっただろ!」
弟「嘘じゃないし。海賊姉ちゃんが昨日言ってたもん。剣士とその仲間を連れてきたって!」
男の子&弟「「どうなの!?」」ジッ
456
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:51:13 ID:hLKs.Q/6
魔法使い「どうって…… 仲間、だったのかな?」
弟「ほらー!」
男の子「えーっ!? じゃあさ、どうだった俺の剣士? 仲間から見てどうだった?!」
魔法使い「だから似てないって言ったでしょ。アイツ魔法剣なんて使えないもの」
男の子「えーっ!? ならマジの必殺技教えてよ。カッコイイのあんでしょー!?」
魔法使い「さっきのバーニングーみたいな? ないわよ」
男の子「えーっ!? 嘘だぁー!!」
魔法使い「ほんとだって。嘘言ってどうするのよ」
男の子「そんなのやだー。剣士になれないじゃーん!!」
魔法使い「なれないって――ああ、ごっこ遊びが出来ないって事ね……」
457
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:53:37 ID:hLKs.Q/6
男の子「必殺技ないんじゃつまんないよ。たあ!とりゃあ! で、魔王倒してもなー」
魔法使い「じゃ普通に勇者ごっこやりなさいよ。魔法とか神雷剣とか派手なのあるわよ」
男の子「勇者やだよ。魔王にやられた敗北者じゃん。ダサいよ!」
魔法使い「ダサいって……」
弟「うん、ダサい。今のトレンドは剣士だよ。勇者と違って強くてカッコイイもん!」
魔法使い「見た事ない癖に。本人にあったら幻滅するわ、絶対」
男の子「嘘だ。絶対にカッコイイよっ!!」
魔法使い「カッコ悪いわよ。頑固で負けず嫌いだし。それに馬鹿なのよ。賢そうに見えるけど、とんでもない馬鹿!」
男の子「え、えぇー……」
魔法使い「ほんとなんだから。そう、ほんと嫌になっちゃう……」
458
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 20:57:28 ID:hLKs.Q/6
男の子の姉(以下、姉)「あー、アンタ達こんなところで油売ってー!?」グワッ
弟「お、姉ちゃんだ!」コソッ
男の子「やっべ忘れてた!?」コソッ
魔法使い「え!? ちょっと私の後ろに隠れないでくれる!?」アセッ
姉「もー、人様に迷惑かけてんじゃないの。ていうか、山菜はどうしたのよ。その様子じゃまだなんでしょ!」
魔法使い「貴方達、お使い頼まれてたの?」
男の子「そ、そうだったかも……」
姉「本当にすみません。弟達がご迷惑を」ペコペコ
魔法使い「それより大丈夫なの? この子達だけに行かせるなんて」
姉「え?」
魔法使い「危なくない? 魔物とか……」
姉「ええ、全然。あの森には魔物がいないんで」
魔法使い「そう。珍しいわね、魔物がいない森なんて……」
459
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 21:00:35 ID:hLKs.Q/6
男の子「あーあ、もうちょっと遊んでたかったなぁー」
弟「また剣士やれなかったじゃん。酷いよ、兄ちゃん!」
姉「無駄口叩いてないで行くよ。ほら、かご持って!」
男の子「姉ちゃんもついてくるのーっ!?」
姉「当然でしょう。遅れた分を取り戻さないと!」
弟「兄ちゃんのせいだかんね!」
男の子「お前だって忘れてた癖にー!!」
姉「――それじゃ、私達行きますね。弟達の面倒を見て下さってありがとうございます!」
魔法使い「ま、待って。私もついて行っていいかしら?」
姉「え? 構いませんけど……」
魔法使い「あ、えと、実は私も山菜欲しくって」
姉「そうだったんですか。わかりました。では案内しますね。ついてきてください!」
460
:
◆49HRmRlKYE
:2019/01/31(木) 21:03:47 ID:hLKs.Q/6
短いですが今日はここまで。次はもっと早くあげられると思います。
待ってくれた方がいただなんて、嬉しいですね。ありがとうございます
461
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/01/31(木) 22:14:13 ID:elQ1uY.s
乙
462
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:29:51 ID:x8iBVuc.
海辺の森――
魔法使い「(ここが魔物のいない森か。確かにとても澄んでいる。まるで私が住んでいた森のよう……)」
魔法使い「(あ、もしかしてここがそうなのかしら? 以前お婆様が住んでいたっていう)」
魔法使い「(心配で付いてきちゃったけど、これならその必要もなかったな)」
姉「綺麗なところでしょう?」
魔法使い「ええ。本当に魔物もいないみたいだし、よかったわ」
姉「さあ、どんどん採っちゃいましょう。日が暮れたら流石に危ないですからね!」
男の子「トカゲだ、待てー!」ダダッ
姉「もー、また遊んで。何しに来たかわかってる!?」
男の子「少しくらいいいじゃん。ケチー!」チェッ
魔法使い「ふふっ、お姉さんというよりお母さんね」
姉「あはは、そうかも知れませんね。祖父も祖母もあの子達に甘くって」
463
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:30:48 ID:x8iBVuc.
魔法使い「ご両親は?」
姉「父と母は私が幼いころ事故で亡くなってしまって」
魔法使い「そうだったの。ごめんなさい」
姉「大丈夫です。気にしないで下さい。今は祖父母がいるこの村で楽しくやってます」
姉「村の人達も海賊さん達も暖かくって寂しさなんて感じた事がありません!」ニコッ
魔法使い「そう。ならよかったわ」
男の子「みてみてー、キノコ見つけた。これ食えるかなー?」タタッ
姉「え? んー、どうなんだろう? お婆ちゃんに聞いてみないと……」
魔法使い「あ、それ食べられるわよ。確か汁物に合うんじゃなかったかしら?」
姉「おおーっ!! 詳しいんですね!」
魔法使い「ま、まあね。一応、森育ちだし////」テレッ
464
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:31:41 ID:x8iBVuc.
男の子「じゃ、もっと採ってくる。あっちにいっぱいあった」タッ
弟「待ってよ。僕もいくー!」タッ
姉「あー、もう! あんまり遠くまで行かないでよ!!」
男の子「わかってるよー!」
姉「ハァ、もうちょっとしっかりしてくれたらなぁ……」
魔法使い「あれくらいの男の子はあんなものじゃない? もう少ししたら落ち着くわよ」
姉「だといいんですけど……」アハハ
魔法使い「(この子、とってもお姉ちゃんしてるな。それに比べて私は……)」
魔法使い「(あの子に姉らしいことしてあげたこと一度でもあったかな?)」
465
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:32:45 ID:x8iBVuc.
数時間後――
姉「チビども遅いな。ほんと、どこまで行っちゃったんだろう?」キョロキョロ
魔法使い「探してくるわ。行き違いなっても困るし、貴女はここで待っていて」
姉「それなら私が……」
魔法使い「こう見えて人探しは得意なの。任せて大丈夫よ」
姉「本当にいいんですか?」
魔法使い「ええ、もちろん」
姉「それじゃお言葉に甘えて。よろしくお願いします」ペコッ
魔法使い「すぐ戻るわ」タッ
姉「本当に身軽。冒険者ってみんなああなのかな?」
466
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:34:02 ID:x8iBVuc.
海崖――
男の子「うおお、すげぇー! お前もこっち来て見てみろよ」
弟「そんなとこに立って危ないよ。落ちたらどうするのさ!」
男の子「ヘーキだって。兄ちゃんが掴んでてやるから」
弟「ほんと? じゃ、じゃあ……」トコトコ
男の子「どうだ、凄いだろ。これ、波で削れて崖になったんだってさ」
弟「へ、へぇー」ビクビク
男の子「……わっ!!」トンッ
弟「うわあああ!!??」ビクンッ
男の子「アハハ、玉がヒュンってなったろー!」ゲラゲラ
弟「兄ちゃんの馬鹿ー!!」
男の子「怒んなよ。ちゃんと掴んでてやったじゃん」
467
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:35:49 ID:x8iBVuc.
魔法使い「やっと見つけた。こんな遠くまで。駄目って言われてたのに――って!?」
魔法使い「なにしてるの。落ちないでよ!?」
男の子「大丈夫、ヘーキヘーキ!」
魔法使い「ほんとに?」
弟「ねえ、そろそろもう戻ろうよ。怒られちゃうよ」ガクガクッ
男の子「んもー、しょうがないな」
弟「うん。そうしよ――って、うあ!?」ツルッ
男の子「おい、馬鹿!!」ガシッ
弟「あ、あぁ……!」ブラーン
男の子「手、絶対に離すんじゃないぞ!」ガッ
魔法使い「だから言ったのに…… お願い間に合って!」タンッ
男の子「うぐっ……」ズルズル
468
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:36:47 ID:x8iBVuc.
魔法使い「意外と遠い!? というより足場が悪いのか、走りにくい……」ダッ
バッサバッサ!
魔法使い「(後方から羽音!? 音からしてかなりの大きさ。それも聞き覚えのある……)」
鳥の魔物「ピーッ!」バサッ
魔法使い「あれは魔物!? どうしてここに。それもこのタイミングで!?」
魔法使い「(くっ、速い。あっという間に追い越された。このままじゃあの子達が……!)」
男の子「だ、駄目だぁ……」パッ
魔法使い「もう離しちゃったの、嘘でしょ!?」
弟「うわああああ!!??」ヒューッ
鳥の魔物「ピーッ!!」パクッ
弟「え?!」
魔法使い「なっ!? 落ちた子供を助けたっていうの、魔物が!?」
469
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:38:32 ID:x8iBVuc.
弟「と、飛んでる!?」
男の子「え? えっ!? なんで厳つい鳥に食われてんの?」
魔法使い「(降りてくる気配はない。助けたわけじゃなく、単に襲っただけ?)」
弟「お、おろしてぇー!!」
魔法使い「考えるのはあと。こっちにきた。なら撃ち落としても!」キラン バシュッ
鳥の魔物「ピギャー!!」ズシュー
弟「うああああ?!」ヒュー
魔法使い「捕まえた!」ガシッ
弟「た、助かったの?」
魔法使い「ええ。怪我はない?」ニコッ
弟「うわあああん」
470
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:40:13 ID:x8iBVuc.
男の子「ありがとー、弟を助けてくれて!」タッタッ
魔法使い「どういたしまして。どこも怪我していないみたいだし、本当によかったわ」
男の子「ねえ、さっきのなに? バシューって!」
魔法使い「なにって風の魔法で魔物の翼を切り裂いただけよ」
魔法使い「それより気をつけなさいよ。今回は運よく助かったからいいものの」
男の子「あ、ごめんなさい。もう近寄らないよ……」
魔法使い「べつに二度と近寄るなとは言ってないわ。ただ、今度見に行くときは――」
魔法使い「そうね。弟君をしっかり支えられるくらい強くなったときにしなさいってだけ」
男の子「え!? 強くなったらいいの?」
魔法使い「強い人は落ちないし、落ちそうな人を助かれるからね。それまで我慢しなさいよ。約束できる?」
男の子「うん、わかった。約束する!」
魔法使い「じゃこれからはお姉さんの言う事もよく聞くのよ。強い子は他人に迷惑をかけないもの」
男「えー!? うー、わかった。約束だもんね」
魔法使い「戻りましょうか。お姉さんが首を長くして待っているわ」
471
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:41:27 ID:x8iBVuc.
夕方 海辺の森――
姉「おっそーい! どこまで行ってたの!?」オコッ
男の子「ご、ごめんなさい」ペコッ
姉「あれ? やけに素直。何かあったの?」
魔法使い「ちょっと怖い思いをしただけよ。ちゃんと反省してるし、今日のところは許してあげて」
姉「え? わかりました。そういう事でしたら、まぁ……」
男の子「あのこと姉ちゃんに言わないの?」コソッ
魔法使い「言ったところで余計心配させるだけだもの。それに強くなるまで近寄らないって約束もしたんだし必要ないでしょ?」
魔法使い「それともお姉ちゃんに怒られたかった?」フフッ
男の子「そ、そんな事ないし!」ブンブン
472
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:42:43 ID:x8iBVuc.
漁村――
姉「今日は本当にありがとうございました」
魔法使い「こちらこそ。こんなに山の幸もらっちゃって、本当にいいの?」
姉「是非もらっちゃってください。弟達の面倒を見てくれたお礼です!」
魔法使い「そう、ありがとう」ニコッ
弟「魔法使いのお姉さん、今日は本当にありがとう!」
男の子「俺、絶対約束守るよ!」
魔法使い「うん。じゃ、またね。楽しかったわ」ノシ
バイバーイ
魔法使い「……」
473
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:44:50 ID:x8iBVuc.
魔法使い「(これは一体どういう事?)」
魔法使い「(偶然あの森に迷い込んだ魔物が、何かの気まぐれで遠くて狙いにくい落下寸前の子供を襲ったと?)」
魔法使い「(まさか、あり得えない。どこか故意的なものを感じる)」
魔法使い「(あの魔物が人間の子供を助ける為に動いていたのは明らか。けど、それは魔物の意志では絶対にあり得ない事――)」
魔法使い「(そうなると何者かの指示でそう動いていたと考えるのが自然。では誰が?)」
魔法使い「(私が知る限り魔物を意のままに操る事が出来るのは魔族だけ――)」
魔法使い「(魔族が人間を助けたっていうの? それはそれで不自然よ。助ける理由がない)」
魔法使い「(……考えても無駄ね)」
魔法使い「(今あの森に異変が起こっている。それがわかっただけでも十分――)」
魔法使い「(本当に魔族がいるのだとしたら、そいつを捕まえて吐かせればいいだけの話)」
魔法使い「(とりあえず、この事を剣士に知らせ……)」
魔法使い「!?」
474
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:46:37 ID:x8iBVuc.
甲板 夜――
ガヤガヤ ワイワイ
武闘家「おう、やってる?」
剣士「まあ、それなりに」
武闘家「それなりって。もっと楽しもうぜ。俺達の歓迎会なんだしよ」
剣士「わかってはいるんだが、どうもな」
武闘家「なんかあったんか?」
剣士「あ、いや、口下手なものでね。苦手なだけだ」
武闘家「そんな事ないだろ」ハハッ
剣士「どうだろう?」
武闘家「あ、そうだ。一つ聞いてもいいかな? 気になってた事があってさ」
剣士「?」
475
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:48:54 ID:x8iBVuc.
武闘家「剣士殿って勇者と契約してるのか?」
剣士「え? どうしてそう思う?」
武闘家「だって超強いじゃんか。他種族の血が流れてるってわけでもないんだろう?」
剣士「ああ。勇者との契約だって――」
武闘家「してんのか、やっぱ?」
剣士「いや、しなかったよ。そんな話もあったにはあったんだが……」
武闘家「してないのかよッ!?」
剣士「してたとしても勇者が死んだら契約も何もないだろう?」
武闘家「あー、そっか! ――ん? さっき契約の話があったって言ったよな」
武闘家「なんでしなかったんだ。もしかして勇者に負けた事が関係すんのか?」
剣士「どうしてそれを? って、魔法使いしかいないか……」
476
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:50:58 ID:x8iBVuc.
武闘家「山賊と間違われて襲われたんだろ、勇者に」
剣士「懐かしいな。あれからもう三年も経つのか……」
武闘家「ていうと、いくつよ?」
剣士「俺が十七で、勇者が十三歳だったかな」
剣士「そう、俺はまだ勇者として目覚めていない覚醒前の彼女に負けたんだ。凄く悔しかったよ」
剣士「これが選ばれた者と選ばれなかった者の差なんだって思い知らされた」
武闘家「だったら尚更なんで。契約すりゃそんな勇者と同じ力を得られたわけだろ?」
武闘家「確かに女神には選ばれなかったかもしれない。けど、勇者には選ばれたわけで……」
剣士「だな。今はとても後悔しているよ。契約しなかった事を」
剣士「変な意地など張らずに仲間になっていたら、勇者を守れたのかもしれない。そう思うと、どうしてもな」
武闘家「あ……っ!」
剣士「こんなのはただの言い訳に過ぎないが、あの頃は思いもしなかったんだ。あの勇者が負けるなんて、夢にも」
477
:
◆49HRmRlKYE
:2019/02/08(金) 20:59:57 ID:x8iBVuc.
剣士「俺が勇者を殺したなんて自惚れを言うつもりはないが、勇者になにもしてあげられなかった事に違いはなくて……」
武闘家「そんなことはねぇだろ。今はこうして立派に勇者の遺志を継いでるわけだしよ!」
剣士「それも怪しいもんさ。俺は呪術師の爺さんを殺せなかった。それどころか人魔の運命に同情すらしていた」
剣士「勇者なら迷うことなく爺さんを殺しただろう。人魔だって次代の為にと殲滅も誓ったはずだ」
武闘家「!?」
剣士「だが、俺には出来なかった。それが最良の選択だっただろうに……」
武闘家「爺さんを見逃しちまった事、後悔してんのか?」
剣士「いや。だが、これは俺の独善だ」
武闘家「そんな事ねぇだろ。どちらかが滅ばなければ終われないなんて悲しすぎるぜ……」
剣士「君も随分な理想家だな」
武闘家「いけないのか?」
剣士「さあ、どうなんだろうな?」
478
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/02/10(日) 00:55:20 ID:HqYvz/bw
乙
今後に期待
479
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:09:24 ID:MjQ0gRsI
海賊「なあに、どーしたの? 男二人で湿っぽいじゃない」
武闘家「いやいや、楽しくやってるよ。なあ剣士殿」
剣士「まあ、それなりに」
武闘家「それなりかよ!?」
海賊「ふふっ、今度はお姉さんと飲まない? サービスしちゃうよ」ムフフッ
剣士「え? ああ、それは構わないが……」
海賊「やった!」
武闘家「それじゃ俺はこの辺で失礼しようかな。お邪魔だろうしさ。まったなー!」タッ
剣士「おい?!」
海賊「気を使わせちゃったかな?」ウフフッ
剣士「……どうだろう?」
480
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:10:32 ID:MjQ0gRsI
海賊「ねぇ、何話してたの。武闘家君と?」
剣士「べつに。大したこと話してないよ」
海賊「むぅー、教えてくれてもいいのに。ちょっと冷たいんじゃなあい?」ムスッ
剣士「そんなつもりじゃ……」
海賊「あ、男子会って奴だ。ごめん、お姉さん気づかなくって。スケベトークは知られたくないよねぇ」ムフッ
剣士「ハァ……」
海賊「もう冗談だってば。怒らないでよ?」
剣士「いや、べつに。むしろそういう話をすべきだったんだなって勉強になったよ」
海賊「なるほど。そうきますか。んじゃ、お姉さんとスケベトークしちゃう?」
剣士「それはどうなんだ?」
海賊「んー、どうなんでしょ」ウフフッ
剣士「ハァ……」
481
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:12:22 ID:MjQ0gRsI
海賊「――にしても驚いたな。貴方に仲間がいたなんてさ。最近できたの?」
剣士「いや、随分長いよ。二人目の四天王を倒した頃にはもうみんなとは出会っていたし、魔法使いは旅を始める前からの付き合いだしな」
海賊「へー、そんなに。他のみんなも貴方と同じくらい強いの?」
剣士「どうだろう?」
海賊「まー、そうだよね。貴方と同じなんてそうそういないよね」ハハッ
剣士「あ、いや、魔法使いは凄く強いよ。今でこそ彼女と互角以上に戦えるようになったと思うが、出会った頃はまるで歯が立たなかった」
海賊「え!? 嘘だー!?」
剣士「本当だよ。彼女の扱う魔術は多彩でどれも強力で、それでいて身のこなしがとても軽やかなんだ」
剣士「初めて戦ったときこんな魔導師いるのかよって涙目になったっけな」
海賊「貴方が?」
剣士「ああ。笑っちゃうだろう?」
海賊「でもなんか安心しちゃった。貴方にも頼れる仲間がいたんだなーって」
剣士「頼れる仲間、か……」
482
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:16:03 ID:MjQ0gRsI
海賊「仲間の噂聞いた事なかったからさ。それにね、昼間に貴方と戦って感じたの」
海賊「この人は単独での戦いに慣れ過ぎている。もしかして仲間を頼ってないのかなって」
剣士「よく見ているな。いや、船長やってるんだから当然か……」
海賊「え?」
剣士「実際その通りなんだろうな。俺は仲間を頼ってない」
海賊「でも魔法使いさんは強いって……」
剣士「ああ、強いよ。でも俺は頼らなかった」
海賊「どうして?」
剣士「どうしてだろうな? 状況がそれを許さなかったのか、それとも無意識のうちに庇っていたのか……」
海賊「庇っていた?」
剣士「俺のエゴさ。仲間を危険な目にあわせたくないという……」
海賊「それで、か」
剣士「最低だよな、本当に。何が仲間だよ。魔法使いが怒るのも無理ないな……」
483
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:18:42 ID:MjQ0gRsI
海賊「まあまあ。わかったんだからいいじゃない。これからでしょ? ね?」
剣士「……」
海賊「よし、そういう事ならお姉さんが慰めてあげる」オイデー
剣士「俺は子供じゃない。――それよりそっちはどうなんだ?」
海賊「ん? 私達は大丈夫よ。ちょっと船長さんが舐められすぎてるくらいなもんで」ハハッ
剣士「あれは単に君に甘えているだけだと思うが?」
海賊「そお?」
剣士「もう少し厳しく接してもいいかもしれないな」
海賊「んー、厳しくか。してるつもりなんだけどねぇー」
剣士「あれで?」
海賊「あうっ、人に強く言えない性格なもので……」タハハッ
484
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:21:13 ID:MjQ0gRsI
剣士「なるほど。その隙を付け込まれているというわけか。船長に向いているんだか、向いていないんだか」
海賊「お耳が痛い話だぁー……」
剣士「すまない。まあ、俺も人の事を言える立場じゃないんだけどな」
海賊「ふふっ、お互い頑張ろうか。継ぐもの同士さ」
剣士「ああ、そう言えば二代目なんだっけ?」
海賊「そおだよ。この団は無責任な姉から引き継いだの」
剣士「無責任?」
海賊「うん。うまいことやって海賊団を立ち上げたのはいいものの。姉は理想と現実の違いに凹んじゃって逃げちゃったのよ。私達を置いてね」
剣士「それに責任を感じて、貴女が船長に?」
海賊「それもあるけど、私は好きだったから。海賊団のみんなが。解散するのが寂しかったんだと思う」
海賊「ねえ、貴方はどうして勇者の遺志を継ごうと思ったの?」
剣士「それは……」
485
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:25:25 ID:MjQ0gRsI
翌日 宿屋前――
武闘家「もっと腰に力を入れるんだよ、腰に!」
占い師「いや、無理だって!!」
魔法使い「何してるの、こんな早朝から」
武闘家「見ての通り修行だよ!!」
魔法使い「丸太を引っ張る事が??」
占い師「貴女からもこいつに言ってよ。魔導師がこんなことやっても意味ないって!」
武闘家「何言ってんだ。基礎体力つくりは魔導師だろうとやらなきゃ駄目だろ!」
占い師「最初から飛ばしすぎなんだよ!!」
武闘家「んな事わかってるよ。でも宿屋の薪が足りないって話聞いたからついでにいいかなーって」
魔法使い「森からここまで運んできたの!?」
占い師「そうだよ。もー、最悪ぅー!」
486
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:28:16 ID:MjQ0gRsI
宿屋「あらー、本当に持ってきてくれたの? 言ってみるものだねぇ。ありがと」フフッ
武闘家「いえいえ。これも修行ですから!」
占い師「もう無理。ちょっと休ませて……」バタッ
武闘家「おう。ここまでよく頑張ったな。俺が薪割りしてる間休んでていいぜ」
魔法使い「貴方達、あの森に行ったのよね?」
武闘家「そうだけど?」
魔法使い「どうだった?」
武闘家「どうって言われても――どうだった?」チラッ
占い師「え?! とくに変わったところはなかったと思うけどぉ?」
魔法使い「そう……」
武闘家「何かあったのか?」
魔法使い「昨日、魔物が現れたのよ。あの森に一羽だけね」
487
:
◆49HRmRlKYE
:2019/04/02(火) 01:30:45 ID:MjQ0gRsI
占い師「あー、たまにいるよ。迷い込んでくるのが」
占い師「でも魔物たちにとってあの森は居心地悪いみたいで住みつかないんだよね。だからすぐ出ていくと思うよ」
魔法使い「らしいわね。昨日、操舵手さんにも同じことを言われたわ」
武闘家「て、事はまだ何かあるって魔法使いさんは思ってんのか?」
魔法使い「警戒するに越した事はなくない?」
武闘家「だな。昨日って事は俺達がここに訪れてからっぽいし、あるかもしれねぇな」
魔法使い「だからこれから調査に行こうと思ってるんだけど……」
武闘家「なら俺達も一緒に行くぜ」
魔法使い「あ、待って。こういうのは一人で動いた方が目立たなくていいと思うの。任せてもらってもいい?」
武闘家「危ないだろ、流石に一人は。――あ、そうだ。剣士殿と一緒に行ったらどうよ?」
占い師「うん。それがいいよ。あの人強いし、こいつと違って目立つような馬鹿な真似しないだろうし」
武闘家「ひでぇ。否定はしねぇけど」
魔法使い「そ、そうね。誘ってみるわ」
武闘家「じゃ頼んだぜ。俺達はここで修行してるからよ。何かあったら呼んでくれ!」
488
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:50:25 ID:WyefLReY
宿屋 部屋前――
魔法使い「(あの森に魔物が迷い込むのはよくある事か。やはり魔物が現れた程度じゃここの人達は驚かないようね)」
魔法使い「(でもそれでよかったのかもしれない。私の推理が正しければ、この不可解な事件に魔族が関わっている)」
魔法使い「(そうであるならこの事件に関わる人間は少ない方がいい。相手に敵意があるにしろないにしろ、面倒になるのは目に見えている)」
魔法使い「(ここの人達が魔族に寛容になれるはずもなければ、魔族と戦える力を持っているはずもない)」
魔法使い「(いや、力がないのは私も同じか。剣士のように魔族と戦えるわけじゃない)」
魔法使い「(四天王クラスともなれば確実に命を落とす……)」
魔法使い「くっ!」ギリッ
魔法使い「(わかってる。個人的な感情を挟んでいいときじゃない。武闘家の言う通り、アイツを頼るべき)」
魔法使い「(そうよ。それに昨日の事を謝るいい機会じゃない)」
489
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:51:55 ID:WyefLReY
魔法使い「ふぅー…… よし!」
コンコンッ
魔法使い「私よ。話があるんだけどいい?」
シーン
魔法使い「いないの?」
ガチャ
魔法使い「鍵あいてる。入っていいのかな。んー、いいや入っちゃえ!」タッ
剣士「」zzz
魔法使い「寝てるの?」
剣士「すーすー」zzz
魔法使い「みたいね。――にしてもだらしない。もしかして昨日の宴会で酔いつぶれた?」
魔法使い「部屋の鍵をかけ忘れてた事といい間違いなさそうね」ハァ
490
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:53:52 ID:WyefLReY
魔法使い「真面目なこいつがこんなになるまで飲むなんて一体何があったのかしら?」
魔法使い「もしかして私のこと少しは気にしてくれたのかな?」
魔法使い「でもそれはそれで酷い話よ。お酒に逃げるなんて。……突っついちゃえ」エイッ
剣士「う、うーん……」ゴロンッ
魔法使い「久しぶりに貴方の間抜け面を見た気がする。最近ずっと険しい顔ばかりで……」
魔法使い「そりゃそうか。ずっと一人で戦ってきたんだもの。気が休まる時なんかなかったよね」ソッ
剣士「すーすー」zzz
魔法使い「馬鹿だな、私。自分の事ばかりで、貴方の事を何一つ考えてなかった。貴方が不器用な人だって誰よりも知っていたのにね」
魔法使い「ごめんなさい。調査には私一人で行ってくるわ」
魔法使い「いいよね? 貴方だって前にそうしたんだもの。今度は私に確かめさせてよ」
魔法使い「貴方の傍にいられるだけの力が私にあるかどうかを……」
魔法使い「じゃ行ってくるね。心配だろうけど信じて待ってて」
魔法使い「必ず帰ってくるから。その時、また話しましょう」
バタンッ
491
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:55:03 ID:WyefLReY
昼 宿屋付近――
占い師「うわーん、疲れたよぉー!」バタンッ
武闘家「んじゃ、そろそろ飯にすっか。きっと賢者がなんか作ってくれてるはずだぜ」
宿屋「あら残念。賢者ちゃんならまだ帰ってきてないわよ。海賊さん達のところにお料理教えに行ったきりね」
武闘家「マジかよ!?」
宿屋「おばちゃんが作ったご飯ならあるんだけど、よかったら食べない?」
武闘家「え!? いいんですか?」
宿屋「もちろん。賢者ちゃんに比べたら味は落ちるかもしれないけどね」フフッ
武闘家「やったぜ。ありがとうございます」
占い師「え゙!?」
宿屋「占い師ちゃんも食べてくでしょう?」ニコッ
占い師「あ、はい……」
武闘家「ん??」
492
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:56:43 ID:WyefLReY
宿屋――
武闘家「(んだこれ、クッソ不味いな。どれも味付けが甘ったるいっていうか……)」ベチャ
占い師「だから嫌だったんだよ。知らないだろうけど、ここじゃ有名なんだ。おばちゃんのメシマズは!」ボソッ
武闘家「そういう事はもっと早く言えよっ!」コソッ
占い師「言えっこないじゃん。本人は自分が料理上手だと思ってるんだから!」ボソッ
武闘家「ババアあるあるじゃねぇーか!」コソッ
宿屋「料理はたくさんあるから遠慮しなくって大丈夫よー」ニコッ
武闘家「うわっ、うわーいッ!!」アハッ
占い師「言ったんだからちゃんと食べてよ。僕の分も」スッ
武闘家「おい。ババアに隠れてこっちの皿に入れてんじゃねぇーよ!」
宿屋「ん? どうしたの?」クルッ
武闘家「なんでもないですよ。んー、食べ応えあるぅー」モグモグッ
宿屋「若い子はよく食べるわねぇ」フフッ
武闘家「お、おぉ……」プルプル
493
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/23(木) 23:59:16 ID:WyefLReY
占い師「てかさ、これで本当に強くなれるの? なれる気がしないんだけどぉー」ブーブー
武闘家「やらないよりいいだろ。つーか食えよ……」
占い師「だけどさぁー」
武闘家「諦めんなよ。てか、まだ一日もやってねぇじゃん」
占い師「何日やってもおんなじ気がする。才能ないんだよ、僕」
武闘家「才能ねぇー」ハンッ
占い師「事実そうでしょ。剣士も勇者も天賦の才があるから……」
武闘家「どうだろ。剣士殿はちょっと違うんじゃねぇかな?」
占い師「どう違うのさ?」
武闘家「確かに才能もあるんだろうぜ。だけどそれだけで戦えるほどやわな相手でもねぇよ、魔族もおそらく勇者も……」
占い師「え?」
武闘家「俺が思うに、剣士殿の強さの真髄は強靭な精神力だ。あの人はどんな絶望的な状況だろうと決して諦めない――」
武闘家「生きている限り挑み続ける。そんな狂気とも呼べる覚悟を持ってるから強いんだ」
494
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:02:53 ID:p1JNQnJg
占い師「なにそれ、怖い……」
武闘家「えっ?!」
占い師「要するに死ぬまで戦い続けるって事でしょ。そんなの狂ってるよ」
占い師「それに精神論なんか持ち出されてもなぁ。信じられないっていうか……」
武闘家「魔法を使う奴の言うセリフかよっ!?」
占い師「僕はもっと簡単で楽に強くなりたいよ!」
武闘家「んな気持ちでいるから駄目なんだって。どうして頑張れない。頑張ろうとしないのよ!?」
宿屋「まあまあ、そこまでにしてあげて。捻くれたこと言ってるけど、貴方の言いたい事はちゃんとわかってるわ」
武闘家「ほんとかー?」
宿屋「ただ愚痴りたかっただけなのよね。ほんと素直じゃないんだから」
占い師「べつにぃー」
武闘家「んだよ、そういう事ならそう言えよ。ウンコ真面目に答えちまったじゃねぇか」
495
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:08:14 ID:p1JNQnJg
宿屋「あ、そうだ。二人はこんな話を聞いた事ない?」
宿屋「人の魂は、人の呼びかけによって覚醒する――っていうお話なんだけど」
占い師「唐突にどうしたの?」
宿屋「武闘家くんの話を聞いて思い出したのよ。昔、似たような詩を謳っていた旅人がいたなーって」
武闘家「どういう意味なんです?」
宿屋「意味? んー、そうね。人の想いが、人に力を与えるって事じゃないかしら?」
武闘家「そういう意味なの? 俺は覚醒だから、人の中に秘められた力が、人の祈りによって開花するとかかなーって思ったんだけど……」
宿屋「んじゃ、そっちかも」フフッ
占い師「いい加減だなぁー」
宿屋「どっちでもいいじゃない。どちらにしろ精神の話なんだし」
武闘家「まあ、そうっすね」
496
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:09:27 ID:p1JNQnJg
剣士「おはよう。てか、もう昼か……」タッ
武闘家「お、珍しいな。今起きたのか?」
剣士「ああ。どうやら昨日、飲み過ぎたみたいで……」フラッ
武闘家「ん? あれ? 剣士殿がここにいるって事は魔法使いさん一人か?」
剣士「一人? なんの話だ?」
占い師「森の調査だよ」
剣士「調査?」
武闘家「近隣の森に魔物が現れたらしくて魔法使いさんがその調査に。俺は剣士殿も一緒に行ったもんだと……」
剣士「出かけたのはいつだ」
武闘家「えっと俺が朝、薪割りをしてた時だから……」
剣士「朝? もう昼だろ。気になるな。――行ってくる」タッ
武闘家「ちょっと待った!」ガシッ
497
:
◆49HRmRlKYE
:2019/05/24(金) 00:13:16 ID:p1JNQnJg
剣士「なんだよ!」イラッ
武闘家「まだ行ってないかも。出かけたのを見たいわけじゃないし、それに軽率な行動を取るような人じゃないだろ。一人で行くかな?」
剣士「行けばわかる」
武闘家「そりゃそうだけど……」
剣士「俺だって彼女を信じてる。だが、今の彼女は……」
宿屋「そうね。心配なら行ってあげるべきよ。何かあってからじゃ遅いんだし」
武闘家「あ、そうだよな。ごめんなさい、俺達行きます。飯の途中だけど……」
宿屋「そんなの気にしなくていいから。早く行ってあげな」
武闘家「はい。――って、剣士殿は!?」キョロキョロ
占い師「もう行っちゃったよ!」
武闘家「はやッ!?」
占い師「もたもたしてるから!」
武闘家「嘘だろ。待ってくれー」ガタッ
498
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/05/24(金) 21:48:30 ID:.RbfreIo
乙
499
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:19:19 ID:.p.l7n2A
海辺の森 崖――
魔法使い「(勇んで出てきたはいいけど、戦いになるような事はなさそうなのよね)」
魔法使い「(相手はおそらく呪術師のような何か複雑な事情を抱えた魔族だろうし)」
魔法使い「(けど、だからと言って野放しにしておけるものでもない。厄介なものね)」
魔法使い「(いや、厄介なのは私のこの面倒な性格の方か……)」フフッ
魔法使い「あ、やっとついた。ここだったかな、魔物と遭遇した場所は」
魔法使い「うん、あってる。で、海からではなく森の方から魔物が飛んできて――」
魔法使い「という事はこの先か……」ジッ
500
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:20:39 ID:.p.l7n2A
森の奥地――
魔法使い「随分ひらけた場所に出たけど、ここも反応なしか」キョロキョロ
魔法使い「そろそろ何かあってもいいと思うんだけど――」
魔法使い「ん? なに、この地面に描かれた模様は――って、これは魔法陣?」
魔法使い「ここで何かの儀式が行われていたってこと?」
魔法使い「にしてもかなり複雑。これだけの魔法陣を扱える相手となると、やはり……」
ガサガサ
魔法使い「!?」バッ
召喚士「あーあ、やっぱり来ちゃったかー。ガックシよ」
魔法使い「頭に角、そしてエルフのように長い耳。やはり潜んでいた……」ジッ
召喚士「ハロー、また会ったわね。魔導師のお嬢ちゃん」
魔法使い「という事は、やはり貴方が子供達を?」
召喚士「ええ、そうよ。アタシが魔物ちゃんに命じて子供を助けさせたの」
魔法使い「どうして魔族である貴方が?」
召喚士「不思議? まあ、不思議よね。理解できないのもわかるわ」ウンウン
501
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:22:42 ID:.p.l7n2A
召喚士「ねえ、人の悲鳴って興奮しない? それが自分で与えたものならより一層と」
魔法使い「何を、言っているの?」
召喚士「とくに子供の悲鳴なんて最高。ゾクゾクしちゃう」
魔法使い「まさか、貴方……」
召喚士「そうよ、だから助けたの。アタシ自身の手で再び殺す為に……」
召喚士「わかる? ここにいる人間どもの絶望は全部アタシものなの」
召喚士「困るのよね、勝手に死なれたりしたら。最高の死をプレゼントできなくなるじゃない!」
魔法使い「とんだ精神異常者ね」
魔法使い「もしかしたら呪術師のお爺さんみたいに…… なんて期待した私が馬鹿だった」
召喚士「え? 貴女、今なんて……?」
魔法使い「べつに。貴方には関係ないことよ」チャッ
召喚士「まあ、そうね。アタシは魔族で貴女は人間――敵同士だもんね!
502
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:23:39 ID:.p.l7n2A
召喚士「でもそれはお勧めしないわ。貴女じゃ絶対に勝てっこないし」
魔法使い「じゃ、やはり貴方も名を冠した特別な……」
召喚士「貴女、アタシが三魔将の一人、黒の召喚士だってわかってて……」
魔法使い「召喚士? なるほど。どうして澄んだ森に魔物がって不思議だったけど、そういう……」
召喚士「ええ、そういうこと。魔法陣を使ってこっちに呼び出してたってわけ」
魔法使い「――!」スッ
召喚士「無駄無駄。陣を乱そうったって遅いわ。もう呼んじゃってるから――」
召喚士「さあ出ておいで、アタシの最高の召喚獣ヒュドラーちゃん!!」
ヒュドラ「シャーッ!!」ズーン
魔法使い「九つの頭を持つ大蛇……!?」ジリッ
召喚士「この子はね、四天王にも勝るとも劣らない力を持ってるのよ。凄いでしょ?」
503
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:25:59 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(ふざけた見た目と言動の癖に情け容赦ないわね)」
魔法使い「(あれだけの魔物を召喚しただけでも恐るべき事実だというのに、それを自在に操る事も出来るのか……)」
召喚士「ンフッ、どうやら言わなくても伝わっていたみたいね。――で、どうする?」
魔法使い「どうって…… まあ、こうするよね!」タッ
召喚士「向かってくる、アタシにーっ!?」ビクッ
魔法使い「術者を直接叩く――貫け、氷槍ッ!!」バシュ
召喚士「ヒ、ヒュドラちゃん守って!!」
ヒュドラ「ウシャー!」シュババッ
魔法使い「くっ、防がれたか……」
召喚士「いい子ね、偉いわー!」ヨシヨシ
魔法使い「(やはり大蛇を支配下に置いていた。しかも意思伝達は素早く隙がない……)」
召喚士「よっと、これで護身完成。ヒュドラちゃんの背に乗ればもう安心ね!」スタッ
魔法使い「知性を備えた魔物か、どうする……?」ジリッ
504
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:27:21 ID:.p.l7n2A
召喚士「さてさて、どうしたものかしら?」チラッ
魔法使い「(背に乗られてはもう直接叩けない。長い九つの頭が邪魔すぎる。人の指先のように器用に動くし。あれでは例え背後に回れたとしても……)」ジッ
召喚士「おかしな子、戦う気満々なのね。どうして逃げないの?」
魔法使い「逃げる?」
召喚士「あの村には勇者気取りの剣士様がいるんでしょ。てか、そもそもどうして貴女一人でここに来ちゃったわけ?」
魔法使い「べつに……」
召喚士「可愛くないの。もっと自分の命は大切に扱った方がいいわよ?」
魔法使い「フッ、馬鹿ね。自分の命より大切なものがあるから人は戦うのよ」
召喚士「――っ!?」
魔法使い「私は逃げないわ。ここで貴方を倒し証明して見せる。アイツの仲間だって事を!」
召喚士「あらやだ、カッコイイじゃない……」
召喚士「じゃ、こっちももう遠慮なんかしないわ。覚悟なさい!!」
505
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:29:18 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(頭の数が減れば直接術者を叩ける、のなら――)」スッ
魔法使い「これでッ!!」バシュッ
ヒュドラ「グ、グシャーッ!!!??」スパーンッ
召喚士「あーん、ヒュドラちゃんの頭がーっ!?」
魔法使い「(よし、風の刃で首を刎ね飛ばせた。これを繰り返していけば、いずれ……)」
召喚士「流石ね。アタシの大鳥ちゃんを切り裂いただけのことはあるわ。でも――!」
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「頭が、再生した!?」
召喚士「あら知らなかった? ヒュドラちゃんは脅威の生命力を持つ魔物なのよ。頭を落とされたってすぐ再生しちゃうんだからん!」
魔法使い「伝説は本当だったってわけ。なら傷口を焼けばいい……」バッ
召喚士「そう簡単にいくかしら? 今度はこっちの番よ。毒の息吹を食らいなさーい!」ビシッ
ヒュドラ「シャウア!」ブワーッ
魔法使い「そんなもの!!」ボウッ
召喚士「嘘!? 炎で蒸発させた、毒の息吹を……っ!?」
506
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:30:44 ID:.p.l7n2A
魔法使い「(火力は足りた。ならあれは怖くない。問題なのは……)」バッ
召喚士「だったら数で勝負。一斉に頭突きを浴びせちゃいなさいな!」ビシッ
魔法使い「(リーチを生かした四方からの連続攻撃か。上手く掻い潜れば術者に接近できるけど――)」チラッ
魔法使い「(やはり数本は自身の防衛用に残すか。今はまだ無理かな?)」タンッ
ヒュドラ「シャー!」ドドドドッ
魔法使い「(同士討ちを避けるように、こちらを狙ってくるのだから……!)」ヒラリッ
召喚士「躱してる、あれだけの攻撃を……? なんて身軽な。貴女、魔導師じゃないの!?」
魔法使い「王宮にいた頃は、ほぼ毎日馬鹿王子の無茶に付き合ってたからね。これくらい動けないと務まらないのよ。それに――」
魔法使い「攻撃を命じているのは知性を持つ人魔の貴方。本能で敵を察知し攻撃を仕掛ける魔物より遥かに躱しやすい」
召喚士「なっ!?」
魔法使い「それはいいんだけど、問題は――」バシュッ
ヒュドラ「グ、グシャーっ!?」スパーンッ
魔法使い「やった。でも、すぐに焼かないと……!」スッ
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「くっ、やはり間に合わない。再生速度がこちらの詠唱速度を上回ってる……」
507
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:32:31 ID:.p.l7n2A
魔法使い「ならば最初から炎で――ッ!」ボウッ
ヒュドラ「シャー!」キーン
魔法使い「まあ、そうよね。あの鱗に炎が通じるわけないか。やはり傷口でないと……」
召喚士「ヒュドラちゃん、なにしてるの。休まず攻撃して!」
ヒュドラ「ウシャー」ドドドドッ
魔法使い「くっ、なんとかしないといつかは……!」ヒラリッ
召喚士「(なんて恐ろしい子。側近様の秘術でヒュドラちゃんの再生能力を強化してなかったら確実に倒されてた……)」ゾッ
魔法使い「それ以外は通用するのに!」バシュ
ヒュドラ「グ、グシャーっ!?」スパーンッ
魔法使い「間に合えッ!」ボウッ
ヒュドラ「シャー!」ニョキーン
魔法使い「これじゃ本当にいつかはやられる……!?」
508
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:34:20 ID:.p.l7n2A
召喚士「無駄よ。もう諦めなさい。わかったでしょ?」
召喚士「見ての通りヒュドラちゃんの頭は一瞬で元に戻るわ。焼き殺すには、それこそ斬撃と同時に燃やさないと駄目――」
召喚士「この意味がわかる? 貴女一人じゃ絶対にヒュドラは倒せないって事よ!」
魔法使い「……!」ギリッ
召喚士「悔しそうね。でもこれがアタシと貴女の差。もう諦めて降参なさい」
魔法使い「(わかってた、そんなの最初から。魔術は才能がすべて。これが私の限界……)」
魔法使い「(どう足掻いても私じゃ大蛇の再生速度は上回れない。炎を唱える前に再生されてしまう)」
魔法使い「(だけど、それがなんだっていうのよ!)」
魔法使い「(アイツはいつだってこんな絶望的な状況でも勝ちを拾ってきた。誰かを守りたいという想いだけを武器に……)」
魔法使い「(負けたくない。アイツにも、自分自身にもッ!)」
魔法使い「くっ!!」
509
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:36:56 ID:.p.l7n2A
召喚士「動きが止まった? やっと悟ったようね」
魔法使い「ええ、本当にね」ポイ カランカラン
召喚士「そう、それでいいのよ。抵抗するだけ無駄無駄。勝てっこないんだから」
魔法使い「何を勘違いしているの? 杖を捨てたのは貴方に勝つ為よ」
召喚士「はあ?」
魔法使い「教えてあげる。杖は二重詠唱に向かないの。性質上、杖先一点にしか魔力が集中しないから」
召喚士「二重って、貴女まさか……っ!?」
魔法使い「簡単な事だった。詠唱が間に合わないなら、同時に唱えればいいだけ――ッ!」
召喚士「左手に風、右手に炎ですってぇーッ!?」
魔法使い「(魔力が乱れる。でも出来ないわけじゃない。今までずっとやってきた基本を左右同時にやるだけ……)」
魔法使い「(集中しろ。詠唱速度は落ちたっていい。同時に放つことさえ出来れば――)」
魔法使い「勝てるのだからッ!!」シュバ ボウッ
ヒュドラ「グ、グシャーッ!?」ズバーン!
510
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:39:13 ID:.p.l7n2A
召喚士「頭が再生しない。燃やされた。嘘でしょ……っ!?」
魔法使い「ありがとう。貴方の言葉がヒントになった」
召喚士「こ、この子……」
魔法使い「あと八つ、それで貴方に辿り着ける……!」ジッ
召喚士「まだよ。行きなさい。二重詠唱しながらじゃ流石に回避は無理でしょー!?」
魔法使い「舐めないで!」ヒラリッ バシュ ボウ
ヒュドラ「グシャー!??」ズバーン
召喚士「回避と同時に頭を……!?」
魔法使い「向かってくるならむしろ好都合。このまま残り全部潰してあげる」バッ
召喚士「なんなの? 貴女、一体なんなのよっ!?」オドッ
魔法使い「はああ!!」タッ ズバーン
召喚士「燃やされていく、アタシのヒュドラちゃんが……っ!?」
魔法使い「これで頭はあと六つ――、勝てるッ!」バッ
511
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:40:56 ID:.p.l7n2A
召喚士「(駄目、勝てない。こちらの動きは完全に読まれているし、どうすれば……)」
魔法使い「ぐぅっ!!」ハァハァ
召喚士「?!」
召喚士「(そりゃ疲れるわよ。動きまりながら正確に魔法を撃ち込んでいくんだもの。それも慣れていないであろう二重詠唱を使って……)」
召喚士「(この勝負、やっぱりアタシの勝ちね。最後まで持つわけがない。持ってもヒュドラを倒すまでが限界――)」
召喚士「(そしてその瞬間こそがアタシにとって最大のチャンスとなる……!)」
魔法使い「あと一つ!!」バッ
召喚士「(ヒュドラちゃん今までありがとう……っ!)」
ヒュドラ「グシュアアア!!」ズバーン ズゥゥン!
魔法使い「よし……!」フラッ
召喚士「今なら隙だらけ、ここでアタシ自ら勝負に出れば――!!」ダンッ
魔法使い「しまった……?!」ビクッ
召喚士「無駄よ、無駄ッ! 貴女の詠唱速度はもう十二分に理解した。間に合わないわ!」
512
:
◆49HRmRlKYE
:2019/06/26(水) 20:42:48 ID:.p.l7n2A
魔法使い「なーんちゃって」ニヤッ
召喚士「えっ、嘘? 足先に魔力が集まってる――、三重詠唱だったっていうのッ!?」
魔法使い「ぶっ飛んじゃえーっ!!」バシーン
召喚士「ぐああああーっ!!」ズテーン
魔法使い「もう駄目。流石に身体が……」ガクッ
召喚士「ぐはっ、ほんと可愛くない。今の真空魔法は効いたわ。けど、それが最後みたいね」
魔法使い「くぅ、あれでは足りなかったか……!」ギリッ
召喚士「アタシも随分痛めつけられちゃったけど、今の貴女に止めを刺すくらいはできるわ。やっぱりこの勝負アタシの――」
魔法使い「ふふっ、そろそろ口を閉じたら。恥かくわよ?」
召喚士「強がり言っちゃって。どう見たってもう……」
魔法使い「来るならもっと早く来なさいよ。バァーカっ!!」
召喚士「誰に言って……」クル
剣士「――!」ザカッ
召喚士「紅い髪は、紅蓮の……っ!!??」ビクンッ
剣士「ただで済むと思うなよ」チャキッ
513
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/02(火) 09:54:24 ID:kihaXQ.s
乙
514
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:03:49 ID:SGyVAJO6
召喚士「こ、殺されるっ!?」ガタガタ
魔法使い「待って。このオカマに聞きたい事があるの!」
剣士「大丈夫なのか?」
魔法使い「うん、なんとか……」ヨロリ
召喚士「なによ、アタシに聞きたい事って?」ジリッ
魔法使い「どうして人間の子供を助けたの?」
召喚士「はあ!? 答えたでしょ、それは……」
魔法使い「それはおかしいのよ。自身の手で殺したいだけならあの場で殺してもよかったはず――」
魔法使い「仮にそのヒュドラで村共々滅ぼしたかったって言うなら、それもおかしい」
魔法使い「私がここを見つけた時にはもう既にヒュドラは召喚されていた。それはつまり村を襲う準備は出来ていたという事」
魔法使い「機会を待っていたっていうのもなしよ。襲うなら宴会を開いていた昨晩が絶好のチャンスだった」
515
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:05:33 ID:SGyVAJO6
召喚士「勘違いしないでくれるかしら。ヒュドラはね、今朝ようやく召喚できたの。間に合わなかっただけよ」
詩人「見苦しいな。いい加減認めたらどう?」フフッ
剣士「アンタは?!」
詩人「やはり人魔は戦いに向かないな。エルフから教わった秘術の力をもってしても、その軟弱な精神までは克服できなかったか……」
召喚士「何を言ってるの。貴方だってアタシと同じ三魔将でしょうに…… ま、まさか!?」
詩人「そう、僕は彼の味方だ。ああ、裏切ったなどとは思うなよ。もとから僕はこっちだ」
召喚士「この件、魔王様に報告させてもらうわよ!!」
詩人「好意で人間の子供を助けるような君にだけは言われたくないな」
魔法使い「好意で??」
詩人「ああ、彼は子供好きで有名でね。将になる前はよく子供達を喜ばせる為に様々な事を無償でしてあげていたみたいだよ」
詩人「人間の子供を助けたのも、その子供好きが災いしてじゃないかな。おそらく人間の子供に人魔の子供の姿を重ねたんだろうね」
詩人「そしてその精神の脆さこそが人魔がもっとも戦いに向かないと言われている所以だ」
召喚士「あ、貴方ーっ!!」ガタッ
516
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:07:18 ID:SGyVAJO6
詩人「気に障ったのなら謝るよ。でも言い返せないだろう?」
召喚士「馬鹿にしないで。アタシだってやれるわ。同胞や魔王様の為ならアタシだって!!」
詩人「出来なかった癖によく言う」
召喚士「あ、あれは身体が勝手に動いちゃっただけ。今もう覚悟完了したわ!」
詩人「そうかい。だったら急いで本国に帰る事だね。君の大好きな魔王様が今とても危ない」
召喚士「ど、どういう意味!? だって脅威はそこに……」ジッ
詩人「端的に言えば四天王の一人、灼熱のドラゴンが謀反を起こし魔王を裏切った」
召喚士「う、嘘よ!」
詩人「嘘じゃないよ。あの噂くらい君も聞いた事があるだろう」
召喚士「じゃあ、噂は本当だったって事!? なるほど。なら納得せざるを得ない。この子達の強さも……」
詩人「やめてよね。彼をあんなのと一緒にしないでくれるかな。剣士は人間だ」
召喚士「え……!?」
詩人「これでわかっただろう。さあ、主のもとへ帰れ」
517
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:15:22 ID:SGyVAJO6
召喚士「け、けど……」チラッ
詩人「あ、そっか。――どうする?」クルッ
魔法使い「行かせてあげて、お願い」
召喚士「馬鹿な。ア、アタシは――」
魔法使い「貴方は子供を助けてくれた。それが一時の気の迷いだったとしても。だから……」
剣士「ああ、そうだな」
召喚士「剣士、貴方までっ!?」
剣士「受けた恩は返したい。それにもう戦う理由がない」パチン
召喚士「あるでしょ!」
剣士「俺は、俺達は大切な人を守る為に戦っているだけだ。誰かを殺す為じゃない」
召喚士「カッコつけてんじゃないわよ。殺す以外にないでしょ、守るには。それにね、魔王を殺せば魔族はみんな死んじゃうの。わかる?」
剣士「決めつけるな。まだわからない。それ以外の道だってあるはずだ」
召喚士「本気? だとしたら、とんだ甘ちゃん坊やね」ハンッ
剣士「だったら俺の決意を鈍らせるような事をするなよ……」グッ
召喚士「……そうね、ごめんなさい」
518
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:17:43 ID:SGyVAJO6
召喚士「わかった気がするわ。確かに彼は勇者じゃない」
剣士「勇者を、知っているのか?」
召喚士「先代の方だけどね」
剣士「百年前の勇者か。という事は貴方もこの時代まで生きながらえた――」
召喚士「レディの年齢を詮索するんじゃないわよ!」
詩人「男でしょ?」
召喚士「失礼しちゃう。心は女子よ。ぷんぷんっ!」ムスッ
召喚士「――んじゃ、お言葉に甘えて城に変えるわね」スッ
剣士「待て。これを」ポイッ
召喚士「なにこれ?」パシッ
剣士「傷薬だ。不要なら捨ててくれ」
召喚士「ほんといい性格してる。ここまでくるといっそ清々しいわね」
召喚士「それじゃ生きてたらまた会いましょう、またね!」タッ
519
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:20:29 ID:SGyVAJO6
剣士「行ってしまったな。だが、本当に帰れるのか彼――あ、いや彼女は?」
詩人「三魔将には帰還の翼と呼ばれる魔王城直通の転移道具が持たされている。間違いなく帰れるよ」
剣士「そんなものがあるのか!?」
詩人「高級品で数も少なく魔王が認めた相手しか使えないけどね」
剣士「なるほど」
詩人「今乗り込めたら面白いんだけどねー」アハハ
剣士「その事だが――四天王が魔王を裏切ったというのは本当なのか?」
詩人「ああ、本当だよ」
剣士「にわかには信じがたい」
詩人「色々な事が起こったのさ。起こるべくしてね」
520
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:21:58 ID:SGyVAJO6
剣士「起こるべくして?」
詩人「話せば長い。おいおい話すよ」
剣士「おいおい?」
詩人「喜んで。これからは僕も一緒だ」
詩人「ほら、水先案内人は必要でしょ。魔王の大陸に殴り込みに行くのにさ」
魔法使い「ちょっと待って。なに勝手に決めて――うっ!?」ガクッ
剣士「無理するな」ガシッ
詩人「この子を休ませるのが先だね。村に帰ろう」
剣士「ああ、そうだな」
521
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:23:19 ID:SGyVAJO6
武闘家「やっと追いついた。――って、一体なんだ。こいつは蛇の死骸か??」ジッ
武闘家「やっぱすげぇや。こんな魔物をたった二人で倒しちまうなん――いや、違う!?」
武闘家「剣士殿には血しぶき一つ飛んじゃいない。つまりそれって……」ゾクッ
武闘家「う、嘘だろ。こんなの勇者だって一人じゃ無理だぜ」
武闘家「そうだよ。勇者がたった一人で四天王を倒したっていう伝説は聞いた事がない」
武闘家「なのにどうしてだ? 二人のどこにそんな力が!?」
武闘家「進化の秘術だって勇者を越えられなかったっていうじゃねぇか!」
『人の魂は、人の呼びかけによって覚醒する』
武闘家「本当に人の想いが力に? けど、それが本当だとしたら勇者って何なんだ?」
武闘家「神に選ばれた唯一無二の存在だから特別で凄いんだろ。それを選ばれてもいない人間が越えちまったら……」
剣士「あ、来てたのか」
武闘家「え!?」ビクッ
522
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:25:23 ID:SGyVAJO6
剣士「もう終わったよ」
武闘家「そう、見たいだな」
魔法使い「ごめんなさい。貴方にも迷惑かけちゃって」
武闘家「いいんだよ。俺は二人が無事ならそれで……」
詩人「優しいんだね」フフッ
武闘家「だ、誰? あー、あれか。剣士殿が言っていた例のエルフさん??」
詩人「へぇー、エルフと思われてたのかー」
剣士「含んだ言い方だな」
詩人「ただの思わせぶりかもよ。君達の気を引きたいだけの」フフッ
剣士「素性を明かせない理由でもあるのか?」
詩人「困ったな。そう、ストレートに聞かれちゃうと……」
剣士「だったら、そんな言い方するなよ」イラッ
523
:
◆49HRmRlKYE
:2019/07/07(日) 19:26:16 ID:SGyVAJO6
詩人「あははっ、それよりもほら早く帰ろうよ。ね!」
剣士「魔法使い、嫌かもしれないが我慢してくれ」ヒョイ
魔法使い「ちょ、ちょっと!?////」ビク
詩人「お姫様だっこか、いいなぁー」
魔法使い「あ、あのー、恥ずかしいのだけれど?////」
剣士「なら目を閉じたらどうだ?」
魔法使い「そういう話じゃないでしょ?」
剣士「そういう話だよ」
魔法使い「も、もう……////」パチ
武闘家「(あ、マジで閉じるんだ)」ジッ
524
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:22:06 ID:xp1vmAwY
魔法使い「――ごめん、このこと黙ってて」
剣士「喋って平気なのか?」
魔法使い「へとへとなだけだから。それより、その……」
剣士「謝るのは俺だ。君にこんな無茶をさせてしまった」
魔法使い「べつに貴方とのことがあったからってわけじゃないわ」
剣士「どうだろう。俺がちゃんと君と向き合っていたら違ったんじゃないか?」
魔法使い「……。そうね。確かに一人であんな化け物とやりあうことなかったかも」
魔法使い「貴方がいてくれたらもっと早くあのオカマの違和感にも気づけただろし――」
魔法使い「けどそれじゃ私は変われなかった。大切なことにも気づけないままだったと思う」
剣士「大切なこと?」
魔法使い「誰かを守りたいという想い、とでも言えばいいのかな?」
魔法使い「貴方と離れてやっと気づけたの。こんな私にもそんな想いがあったということに」
525
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:24:33 ID:xp1vmAwY
魔法使い「私ね、世界なんか――他人なんかどうでもよかったの」
魔法使い「貴方に求められたい、愛されたいと。ただ、それだけの為に戦っていた」
魔法使い「だからこの戦いが死出の旅でも構わなかった。世界なんて救えなくてもいい。貴方が私を求めてくれるなら、それでよかったから」
剣士「……」
魔法使い「けど貴方は違った。世界を救えると信じ、ただ直向きに戦っていた。腐り切っていた私とは真逆で――」
魔法使い「そう、私が違ったの」
剣士「違う?」
魔法使い「いつだったか貴方は言ったね。想いが同じなら仲間だって」
魔法使い「私には世界を救いたいという想いもなければ力もない。あるのは人一倍強い承認欲求だけ――」
魔法使い「だから駄々をこねた。子供のように喚き散らし、自分の我儘を通そうとした」
魔法使い「酷いよね、最低だよね。みんな誰かの為にと自分を捨ててまで戦っていたというのに、私だけが自分の救いを求めて逃げ回ってた」
魔法使い「真の仲間――、想いを同じくする者なら共に戦わなきゃいけなかったのに」
剣士「だから君はこんな無茶を――、俺と同じことをしたんだな?」
魔法使い「……ごめんなさい」
526
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:26:31 ID:xp1vmAwY
剣士「責めちゃいないよ。ただ――」
剣士「君がそこまで思い悩んでいたのに、俺はそのことに気づけなかった。力になれなかった。それが悔しい」
魔法使い「馬鹿ね。これは私の問題。貴方が気にすることじゃないわ。――でも、ありがと」
剣士「いや……」
魔法使い「ねぇ、また前みたいに一緒に戦ってもいい?」
剣士「いいも何も、本当にいいのか?」
魔法使い「その為に無茶したのよ。許してもらえるならそうしたい。やっぱり都合よすぎ? 駄目?」
剣士「あ、いや、そんなことはないよ。ただ――」
魔法使い「ただ?」
剣士「俺は、俺の戦いは勇者のそれとは違う。それでもいいんだな?」
魔法使い「ん? どういうこと?」
剣士「既に気づいていると思うが、俺はこの戦いに美意識を持ち込んでいる。おそらくそれは騎士道精神に近い何かで、だから平気で敵さえも許してしまう」
剣士「そんな美徳や義理ばかり重んじる俺の戦いは受け入れがたいものだ。所詮は理想。命懸けの戦場で謳う馬鹿はいない」
527
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:27:51 ID:xp1vmAwY
魔法使い「だからずっと遠慮してたの。貴方の言う美意識に付き合わせては悪いと思って」
剣士「わからない。それもあったとは思う」
魔法使い「そっか」
剣士「すまない。俺はそれを捨てられないどころか信念にしている。馬鹿だよな」
魔法使い「貴方らしくていいじゃない」
剣士「らしい?」
魔法使い「ていうか美意識なんて大袈裟に言ってるけど――」
魔法使い「それって、ただ単に命を何よりも大事にしているってだけの話でしょう?」
魔法使い「どの命も等しく尊いものだから、だから貴方は戦う。それらを守る為に」
剣士「……」
魔法使い「私は好きよ、そんな貴方が。みんなだってきっとそう――」
魔法使い「勇者の遺志に惹かれたんじゃない。貴方の意思に惹かれたから仲間になった」
剣士「そうだろうか?」
魔法使い「ええ。だから胸を張りなさい。貴方に惚れた私達の為にも」
528
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:29:32 ID:xp1vmAwY
剣士「みんな馬鹿だな」
魔法使い「気高いだけよ」
剣士「そうとも言えるか」
魔法使い「何事も前向きに捉えましょ?」
剣士「(彼女は変わろうとしている。この戦いで何が吹っ切れたんだろうな)」
魔法使い「どうしたの?」
剣士「いや、べつに」
魔法使い「暗い顔しないでよ。大丈夫、今度はちゃんと貴方の力になるから」
剣士「あ、すまな――いや、違うな。ありがとう、だな」
魔法使い「うん」ニコッ
剣士「(彼女の想いが胸刺さる。いつだって献身的に俺を支えてくれて。なのに、俺は――)」
剣士「(何やってんだろな。もらってばかりで。これじゃ対等関係とは、仲間とは言えない)」
剣士「(俺は彼女に何がしてあげられる? 愛情に対してはどう応えたらいい?)」
剣士「(わからない。どうしたら――いや、本当にわからないのか?)」
剣士「(本当はわかってる。わからないふりをして、俺は逃げているだけだ。そう、二人の想いから……)」
529
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:30:33 ID:xp1vmAwY
武闘家「よかった。二人がまた笑いあえる関係に戻れて……」ホッ
詩人「ねぇ、だっこして」
武闘家「え!?」
詩人「二人を見てたら羨ましくなっちゃった。ねぇ、僕をお姫様にして」
武闘家「な、なんで?」
詩人「あれれー? 無理なお願いしちゃったかなー?」
武闘家「無理っていうか、だって歩けるでしょう?」
詩人「歩けなければしてくれるのかい!? だったらこの足を、この足をだなああ!!」
武闘家「やめ、やめろーッ!!」バッ
詩人「冗談だってば。まさか本気にしたのかい? かあいいなー」ンヒヒ
武闘家「う、うぜぇ……」
詩人「だろうね!」
530
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:31:35 ID:xp1vmAwY
武闘家「あー、あのさ、聞いてもいいかな。やっぱあの大蛇って魔法使いさん一人で?」
詩人「えっ? うん、そうだよ」
武闘家「すげぇな。――でもさっぱわかんねぇよ、どうしてそんな力が二人に?」
詩人「経験を積んだからじゃないの?」
武闘家「それだけじゃねぇーだろ!?」
詩人「え!? 逆にそれ以外になにがある? 戦いって経験がものを言うじゃない?」
武闘家「そりゃそうだろうけど。他になんかあるだろ。例えば、その――」
武闘家「人間には未知の力が秘められているとか、その手の話だよ。知ってそうじゃんか?」
詩人「僕がエルフだからってそういう期待しないでよ。――あー、んー、そうだなぁ」
詩人「生物は環境の影響を受けて能力を開花するなんて話は聞くけど、この手の話は君達の間でも広く語られているんじゃないの?」
武闘家「ん、まあ……」
武闘家「(環境が人を開花させるか。環境って周囲の人も含むよな。じゃあ、やっぱそういうことなのか?)」ウーン
詩人「(気から察するにこの男、角こそ生えてないが魔族なのか。あのエルフの混血姉妹といい歪みの象徴とも呼べる者がこうも集まるものかね)」ジーッ
531
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:33:32 ID:xp1vmAwY
武闘家「え、なに? 俺の顔になんかついてる?」
詩人「どうしてそんなこと気にするのさ?」
武闘家「だって勇者ですら不可能なことを二人はやってのけてんだぜ?」
詩人「だから?」
武闘家「普通、気になるだろ!?」
詩人「へー、やっぱそういうもなんだ。――でもさ、気にしたって仕方なくない?」
武闘家「んなことはわかってるよ。でも、もし秘密があるならって考えちまうんだよ」
武闘家「そしたら俺だって、もっと強く。このままじゃ俺……っ!」
詩人「あー、そういうことか」
武闘家「死を恐れぬ覚悟なら俺だってある。なのになんで、どうしてここまで……!」
武闘家「やっぱアイツの言う通り、俺達にはアレしかねぇのかな」ボソッ
詩人「(かなり焦ってるな。まあ、無理もないか。魔族の血を引くこの男なら力になってあげられないこともないけど、どうするかなー)」
532
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:34:53 ID:xp1vmAwY
翌日 朝――
宿屋 一階、食堂
剣士「……」
詩人「君はいつも眉間にしわを寄せているね」
剣士「驚いた。まだいたのか?」
詩人「酷いな。疑ってたのかい?」
剣士「まあな。俺はアンタの正体も知らなければ目的もわかっていない。姿を見せないと思いきや、急にまた現れたり……」
詩人「それについてはごめん。裏切られたと思ったから」
剣士「裏切った? 俺が?」
詩人「僕の忠告を無視してケンタウロスと戦ったじゃないか、単騎で!」
剣士「?」
詩人「誰が勝つって思うよ!?」
剣士「はあ??」
533
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:36:35 ID:xp1vmAwY
詩人「僕は君が負けると思った。だから決着がつく前に帰ったんだよ、魔王城に」
詩人「つまり、見たくなかったの。君が死ぬところを、僕はねッ!!」
剣士「あー、そういうこと」
詩人「勝てたからいいものの。負けたらどうなっていたことか……!」
剣士「どうもなにも。あの街は助かったよ、おそらく」
剣士「ケンタウロスは俺に敬意を払い見逃したはずだ。その一時だけかもしれないが――」
剣士「少なくとも時間は稼げた。その時間で戦うなり逃げるなり相応の準備をすればいい」
詩人「一応、負けた後のことも考えてたんだ」
剣士「べつに。戦っているときにふと思っただけで、最初から頭にあったわけじゃない」
剣士「アンタこそどうして俺にしか伝えなかった?」
詩人「矛盾してると言われそうだけど、僕は君に戦ってもらいたかったんだ。四天王のケンタウロスとね」
詩人「街を人質に取れば、君は戦うしかない。逃げるという選択肢はなくなり、絶対に勝たなければなくなる」
詩人「その条件であればグリフォンのとき以上に堅実な戦いをしてくれるだろうと期待して……」
534
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:38:27 ID:xp1vmAwY
剣士「やはりあの爺さんはアンタだったのか」
詩人「え、ああ。あれは変化の魔法で姿を変えた僕だ。ごめん、警戒されたくなくて」
剣士「あの姿もどうかと思うぞ」
詩人「それより、どうしてあんな無茶を? やるにしたってもっと力をつけてからだろ!」
剣士「何を怒ってる? アンタの言う通りすればよかったのか?」
詩人「ああ、そうだよ。そうやって順当に経験を積んでいって欲しかった!」
剣士「それを望む意味がわからない。まさか、俺を鍛えることがアンタの目的とでも?」
詩人「今思えば最初からそう伝えればよかったね。そう、僕達の目的は君を魔王と戦えるまで鍛え導くこと――」
詩人「けど上手くはいかないね。グリフォンのときも僕は君の力を過信し、君を殺しかけた」
剣士「で、あの助言か。念を押したわけだ」
詩人「願い虚しく無視されちゃったけどねっ!」
535
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:40:35 ID:xp1vmAwY
剣士「しかし、わからないな」
剣士「アンタほど魔族の内部事情に通じ、人を操る術を持っていながら俺に拘る?」
詩人「なに?」
剣士「至極当然の疑問だよ。アンタがその気になれば魔王に対抗しうる軍隊を立ち上げるくらい容易なはず、なのに何故それをやらない?」
剣士「少なくとも俺個人に全てを託すより賢く現実的な話だ」
詩人「僕にそうしろって言いたいの?」
剣士「違う。アンタの目的が知りたいだけだ」
詩人「じゃ逆に聞くよ。君が――ただの人間が魔王を倒したら、世界はどうなると思う?」
詩人「それも勇者とまったく同じやり方で」
剣士「は?」
536
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:42:16 ID:xp1vmAwY
詩人「あ、ごめん。余計なこと言った。今は目の前のことだけに集中したいだろうに」
剣士「なら誤魔化さずに話せ!」イラッ
詩人「だからごめんって!」
剣士「謝るくらいなら――」
ガチャ
海賊「おっはよう!! お邪魔するねー!」バーン
剣士「!?」
詩人「いいときに。助かっちゃったな」ホッ
海賊「あ、いたいた!」ビシッ
537
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:43:47 ID:xp1vmAwY
剣士「こんな朝から一体どうした。何かあったのか?」
海賊「それはこっち。昨日のこと占い師から聞いたよ、それで――」
剣士「ああ、心配してきてくれたのか。魔法使いなら無事だよ。ただの疲労だそうで、賢者も少し休めば回復すると言っていた」
海賊「そうなんだぁ、よかった。――あ、これ一応お見舞いと感謝のフルーツね」スッ
剣士「ありがとう。伝えておく」
海賊「大丈夫、まだ帰らないから」ンフフ
剣士「……そうか」
海賊「んー、なんか不味い?」
剣士「あ、いや……」
海賊「――ところで、そっちの綺麗なお兄さんは? 初めてみる顔よね?」ジー
詩人「おい雌豚。いやらしい眼で僕を見るな。僕はホモだ」
海賊「え!?」ビクッ
538
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:44:57 ID:xp1vmAwY
詩人「あっ、つい本音が」テヘペロ
海賊「いやや、待って待って。やらしい眼でなんて見てないってば!」アセッ
詩人「ほんとぉ? 僕セクスィーだからなぁー///」クネクネ
海賊「ていうか、その、ホ、ホォって。まさか、二人はそういう関係なのッ!?」
詩人「だったら嬉しかったんだけど。彼はスーパークソノンケ様だからね!」アハハッ
海賊「そっか、そうだよねぇー」ホッ
ドタドタ
武闘家「お、朝から騒がしいと思ったら海賊姉さん来てたのか」
海賊「おはよー!」
武闘家「あ、はい。おはようございます!」
海賊「これからみんなご飯、かな?」
剣士「え、ああ」
海賊「やっぱりそうなんだ。じゃあ、私もここで食べてっちゃおうかなー」
539
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:47:05 ID:xp1vmAwY
武闘家「それ目的か……」
海賊「いや、心配できたのよ。昨日のこと聞いてさ。あと近状報告もしたかったし」
剣士「出航の事とかか?」
海賊「そそ。一応、目途が立ったから。んま、詳しいことは食べながら話すよ」
剣士「んー、じゃあやるか」ガタッ
海賊「あれ? 賢者ちゃんは?」
剣士「いや、まだ起きてないみたいだから……」
武闘家「珍しいな。俺と同じくらい朝強いのに」
剣士「そんな日もあるだろう。――さて、朝食だが俺が作っていいのか?」
武闘家「えっ、作れんのかい?!」
剣士「簡単なものなら出来るだろう。朝なんてパンと目玉焼きあれば十分じゃないか?」
武闘家「スープも欲しいな。あと卵は半熟が好き。ベーコンはカリカリ!」
剣士「よし、わかった」タッ
540
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:48:14 ID:xp1vmAwY
ドタドタ
賢者「すみませーんっ! ちょっと寝坊しちゃって……!!」ガタタッ
海賊「おはよ、お邪魔してますよー!」
賢者「ど、どうも。おはようございます。皆さんお揃いのようで……」アセアセッ
賢者「それで、あのぉ、朝食の方はどうされました?」
賢者「明日は私が作るから大丈夫ですと宿屋のおばさんに断り入れちゃったので、まだ食べてないですよね?」
武闘家「それなら心配しなくていいぜ。今、剣士殿が代わりに用意してくれてる」
賢者「剣士さんが? 大丈夫なのかな。剣士さんに限って駄目ってことなさそうだけど……」
武闘家「自信ありげだったぜ?」
賢者「んー、それでも手伝いに行った方がいいですよね。ちょっと行ってきます!」タッ
海賊「手伝う。あちゃー、そういう展開もあったのか……」ガクッ
武闘家「えぇ……?」
541
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:49:24 ID:xp1vmAwY
厨房――
賢者「(ふふっ、剣士さんの手料理か。ちょっと楽しみだな)」
賢者「おはようございます。あの、手伝おうことありま――ってッ!?」ビクッ
剣士「あ、おはよう。すまない。今、手が離せなく……」フラフラ
賢者「火がッ、火が強いですよ!!」アセッ
剣士「え、これくらいじゃない?」
賢者「あー、卵の黄身潰れてるぅーっ!!」
剣士「えっ!? あー……」ジー
賢者「てか、このパンなんでこんな形に切ったんですか!?」
剣士「あ、それか。それはサンドイッチ作ろうと思っ――」
賢者「中身を挟んでから切ってくださいよっ!!」
剣士「待て。それには理由があるんだ。上手く切れずに崩れたら嫌だなと。ならば最初から全部同じ形に切ってしまおうという逆転の発想で……」アセッ
賢者「よ、余計なことをぉ…… どいてください。あとは私がやります!!」
542
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:50:47 ID:xp1vmAwY
食堂――
剣士「本当にいいのか。俺が作ったんだ。それは俺が食べるべきだろう」
賢者「いいえ、これは私が食べます」モグモグ
剣士「いや、だが……」
賢者「もう口つけちゃいましたから、剣士さんは私が作ったのを食べて下さい」
剣士「あ、はい……」シュン
武闘家「――なんで、作ろうと思った?」
剣士「一度やってみたくて。簡単そうに見えたし……」
武闘家「それで、あれか」ジーッ
剣士「自分の力を過信した。過ぎた野望と過信は身を滅ぼすということだな」フッ
武闘家「カッコつけれてもなぁー……」
海賊「でもほら、率先して作ろうとしたのは偉いよ!」
海賊「それに、あれでもおばちゃんのご飯よりは食べられそうだしさ! ねっ!」
武闘家「そ、そうね。ただの失敗料理だもんな」
543
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:52:33 ID:xp1vmAwY
剣士「そんなに不味かったのか?」
武闘家「大声じゃ言えねぇけどな」ハハッ
剣士「そんなに」
武闘家「昨日はある意味ラッキーだったぜ。魔法使いさんを理由に逃げ出せたからなー」
海賊「ラッキーかどうかはまだわからないよー?」
武闘家「え?」
海賊「残された者がいたことをお忘れ?」フフッ
武闘家「あ、ああーッ!?」
海賊「すっごく怒ってたよ」
武闘家「マジかぁ。でも、だよあな……」
海賊「あとで謝っておきなね!」
武闘家「はーい……」
544
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:54:13 ID:xp1vmAwY
海賊「あ、そういや昨日のその敵ってどんな相手だったの?」
剣士「どんな、か。なんて言えばいいんだ。敵とも言い難い……」
武闘家「四天王じゃなかったのか?」
剣士「あの大蛇は三魔将が召喚した魔物だったそうだ」
海賊「ん? 三魔将ってなあに? 四天王なら聞いたことあるけど」
剣士「四天王と同じ名を冠した魔族の将だよ」
海賊「同じって、ヤバいんじゃ……」
剣士「どうだろう。同じと言ってもやはり四天王の方が比べるまでもなく強いよ」
武闘家「そう、なのか……?」
剣士「俺達と形が同じというだけあって断然戦いやすからな。培った経験が生かせるってのはやはり大きい」
武闘家「へ、へぇー」
剣士「そして何より奴らの戦いに対する姿勢、心構えがな……」
賢者「姿勢、ですか?」
545
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/19(火) 23:57:45 ID:xp1vmAwY
剣士「一つ聞いていいか?」
詩人「えっ、僕!?」ビクッ
剣士「どうして三魔将と呼ばれる彼等は皆ああなんだ?」
詩人「ああって?」
剣士「戦いに積極的じゃないというか。恐る恐る戦っているような、そういう印象を受ける」
詩人「あー、彼等が弱腰なのは仕方ないよ。なんせ元小間使い――いや、この場合包み隠さずドレイとハッキリ言った方がわかりやすいかな」
武闘家「……!?」
詩人「虐げられてきただけの存在が、他の魔族のように戦えと言う方が無理だって」
詩人「人魔族はずっと戦いを避けて生きてきた。それが最も魔族の中で生きるには賢いとされてきたからだ」
剣士「それが理由だと?」
詩人「ないんだよ、非力だった人魔族には。闘争本能なんてものは」
剣士「納得できなくもないが……」
546
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:06:50 ID:gebK0AvA
詩人「加えて言えば、今手にした権利だって先代の魔王の慈悲によって与えられたもの。自らが行動し勝ち取ったものじゃない」
詩人「その程度の連中だよ。力を身に着けたって使いこなせるのはごく一部。その一部だっているかどうか……」
賢者「そんな言い方しなくても……」
詩人「あー、ごめん。気に障ったのなら謝るよ」
海賊「と・に・か・く! 戦いづらい相手なんだねぇ。大変だぁー!!」アハハ!
剣士「あ、ああ。そうだな」
海賊「まっ、船のことは任せてよ。そろそろ出航できるようになるからさ」
剣士「わかった。こっちも準備しておくよ」
詩人「案内は僕に任せて。安全なルートを教えるよ!」
武闘家「信じて平気なのか?」
詩人「酷いな、ほんと」プンプン
剣士「(今まで嘘らしい嘘はついてない。さっきの怒りだって俺を本気で心配してのことだ)」
剣士「(確かに信用できる。ここで裏切るとは思えない、が……)」
剣士「(くそ、面倒くさいな。最近、考えなきゃいけないことが多すぎないか!?)」イラッ
547
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:09:06 ID:gebK0AvA
食後――
武闘家「んじゃま、ぼちぼち謝りに行くかー……」ガタッ
海賊「取り持ってあげよっか」ンフフ
詩人「面白そー、見に行こう!」
武闘家「見せもんじゃねぇよ!!」
賢者「あ、行ってらっしゃーい」
バタバタ
剣士「(逃げられたな。まあ、今聞いてもはぐらかされるだけか)」
賢者「……」ジーッ
剣士「(アイツの言葉が本当なら時間はたっぷりある。焦る必要はない。それよりも――)」チラッ
賢者「……」ジー!
剣士「どうした?」
賢者「あっ、すみません」ペコ
剣士「いや、べつに」
548
:
◆49HRmRlKYE
:2019/11/20(水) 00:12:58 ID:gebK0AvA
賢者「……」チラ チラ
剣士「何か俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
賢者「わかっちゃいました? 実はですね、えっと、そのぉ……」グッ
剣士「?」
賢者「また私に剣士さんの時間をくれませんか!?」
剣士「えっ?!」
賢者「い、忙しいならいいんです。昨日も色々とあったみたいですし、すみません……」
剣士「そんなことはないよ。少し驚いただけで――」
剣士「あ、そうだ。今朝のこともあるし、なんでも言ってくれ。なんでもするよ」
賢者「あれはもう気にしなくも…… でもまぁそう言っていただけるのでしたらお言葉に甘えようかな?」
剣士「ああ、それで?」
賢者「では遠慮なく――」コホン
賢者「私と、模擬戦――それも実戦形式で戦ってくれませんか!!」クワッ
剣士「え゙……?」
549
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/20(水) 08:15:40 ID:7tLGNMjE
乙
550
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/01/07(火) 07:11:46 ID:3zC3wvcI
乙
551
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:55:45 ID:Prhtzo/w
海岸 昼頃――
ザザーン
賢者「ここなら他に何もありませんし、思う存分やれそうですね!」フンス
剣士「本当にやるつもりなのか?」
賢者「……駄目ですか?」
剣士「どうして急に? それも俺と模擬戦だなんて、おかしいっていうより変じゃないか?」
賢者「強くなりたいからじゃ理由になりませんか?」
剣士「なら何も模擬戦に拘らなくてもいいだろう?」
賢者「私は圧倒的に実戦経験が足りません。ですから……」
剣士「俺達の相手は魔族だ。人間相手の経験がどれほど役に立つかわからない。それでも?」
賢者「それはそうかもしれませんけど、人魔族だっていますし……」
剣士「彼等の種族性は聞いたろう?」
賢者「戦いを忌避する文化が根付いてしまっているって話ですよね。確かに、それが本当なら彼等との戦いは回避できるかもしれない。けど――」
賢者「けど、それでお二人は強くなられたじゃないですか!?」
剣士「え?」
552
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:57:09 ID:Prhtzo/w
賢者「剣士さん、言いましたよね。王宮にいた頃はお姉様と毎日特訓していたって」
剣士「あ、ああ。あのときの話か。だが、流石に毎日は……」
賢者「それで剣士さんは剣士でありながら魔法を見切れるようになって、お姉様もお姉様で魔導師でありながら剣士のような鋭い動きを身につけて――」
賢者「なら私もって思っちゃいけませんか!?」
剣士「それで?」
賢者「……はい」コクン
剣士「(もしかして昨日の魔法使いの活躍を聞いて焦燥感に駆られたのか?)」
剣士「(そう言えば前にもあったな。前は大丈夫だ、心配するなと言ったが……)」
賢者「情けないって自分でもわかっています。貴方を支えるとあれだけ豪語しておきながら」
剣士「あ、いや……」
賢者「戦って見込みなしなら今度こそ諦めます。だからお願いします。私と戦って下さい!」
剣士「ハァ!?」
553
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/20(木) 23:58:36 ID:Prhtzo/w
剣士「待てよ。諦めるって、こんな馬鹿みたいな理由で旅を諦めるって言うのか!?」
剣士「俺達は君がいなければ立ち行かない。治癒魔法、いや食事一つとってもそうだ」
剣士「君がいるから俺達はこうして無事に旅を続けられている。少しは自分のこと誇れよ!」
賢者「あっまーいッ! お砂糖よりも甘いですよ、スウィートちゃんです!!」クワッ
剣士「どこが? 事実じゃないか!?」
賢者「確かに今まではそれでよかったかもしれません。けど、これからは攻め入る側になるんですよ?」
賢者「私のような足手まといを傍に置いておく余裕なんて今以上にあるわけないんです!」
剣士「何を自棄になってる。足手まといだなんて、いつ誰が言った!?」
賢者「剣士さんこそ、どうしちゃったんです? 昔はあんなに厳しかったのに!」
賢者「まさか、この連戦連勝で調子に乗っちゃっているんですかッ!?」
剣士「なっ!?」タジッ
賢者「否定してくださいよ!」
剣士「くっ……」ギリッ
554
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:00:19 ID:5Dt9ncyE
賢者「剣士さんっ!!」クワッ
剣士「わかったよ。やれば、やればいいんだろ?」
賢者「本当ですね?」
剣士「まあ、約束だしな」
賢者「よおし、では早速やりましょう。えーっと、どれくらい離れればいいんだろ?」タタッ
剣士「(調子に乗っているか。痛い所を突く。確かに今の俺は誰が見たって――)」ジーッ
剣士「ちょっと待った。どこまで行く気だよ?」
賢者「え!?」ピタッ クルリ
剣士「五歩分もあれば――あいや、賢者は魔導師だから離れていた方がいいのか?」
賢者「ん? どうします??」
剣士「あー、もう十歩分先に行っていいよ。てか、賢者がやりやすい位置でいいや」
賢者「わかりました」タタッ
555
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:02:04 ID:5Dt9ncyE
賢者「ここで十歩目。こんなとこでいいのかな?」チラッ
剣士「よければ賢者の好きなタイミングで始めてくれ。誰に見せるものでもないしな」
賢者「はい。わかりました!」チャッ
剣士「(俺が賢者と戦うか。やりたくないな。模擬戦とはいえ賢者に剣を向けるなんて……)」
賢者「手加減はいりませんよ。全力で行きますから、剣士さんも全力でお願いします!」
剣士「ああ、わかってる。真面目にやるさ」
賢者「それを聞いて安心しました。では――」スッ キラリ
剣士「(初手が爆発魔法ってやたら多いな。敵を捉えやすいからか?)」ヒョイ
ズドカーン!
剣士「な、何ッ!?」ズササ
賢者「何を驚いているんですか? 全力で行くと言いましたよ!」
剣士「待て! だからって今の火力はおかしい!?」
賢者「ん? 余裕で躱せていたじゃないですか?」
剣士「そう言う話じゃない!!」
556
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:04:07 ID:5Dt9ncyE
賢者「私ごときが剣士さんに敵うはずありません。実力差を考えればこれくらいどうってことないはず……」
剣士「買いかぶりすぎた。仮にそうだとしても、万が一ってこともある」
賢者「ふふっ、安心してください。その時は手厚く私が介抱します!」
剣士「う、嘘だろ……」
賢者「このまま続けますよ。構えてください!」
剣士「このままって、次もこの火力で放つ気か!?」バッ
賢者「(剣士さん、すみません。でも本気の私を見てくれなきゃ意味がないから!)」スッ
バシュン
剣士「(真空魔法、使えるようになったのか。それに、これは――ッ!?)」ヒラリッ
賢者「まだまだ行きますよー!」スッ バシュ バシュ
剣士「氷槍――、それも二連撃!?」ヒラリ ガキンッ
賢者「いとも簡単に防いじゃう!? わかっていたけれど、やっぱり剣士さんは凄い!!」
剣士「(なるほど。やっとわかったよ。魔法使い、君が言っていた意味が……)」ヨロッ
剣士「(彼女の才能は異常だ。もしかしたら俺ここで死ぬかもな)」
557
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:07:40 ID:5Dt9ncyE
宿屋――
魔法使い「ふわぁー、よく寝た……」タンタン
海賊「あっ、おはよー!」
魔法使い「……お、おはよう、ございます」ビク
海賊「そろそろ起きてくるんじゃないかなーって待ってたんだ、貴女のこと」
魔法使い「待ってた? 私を?」
海賊「いやー、お礼をね。話は聞かせてもらったよ、この村を救ってくれたんだって?」
魔法使い「あー……」
海賊「ありがとね。村を代表してお礼を言うわ。なんて、村長でも何でもないんだけどねぇ」フフッ
魔法使い「彼等は私達が招いたようなものです。礼を言う必要ないと思いますけど?」
海賊「何言ってるの。貴女達を船に乗せると決め、ここに連れてきたのは私よ?」
魔法使い「じゃあ、どういたしまして。これでいいですか?」
海賊「んふふっ、見た目通りクールだねぇ」ニヤニヤ
魔法使い「(面倒なのに絡まれたな……)」ハァ
558
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:12:56 ID:5Dt9ncyE
海賊「んー」ジーッ
魔法使い「な、なに?」サッ
海賊「いやー、全体的に細いよね。よくこんな身体で倒せたものだなーっと」
魔法使い「どんな敵だったかも知らないでしょうに……」
海賊「確かに戦ってたところは見てないよ。けど戦いの形跡を見ればある程度予想つくわ。どんな規模のものだったのか、素人の私でもね」
魔法使い「見に行ったんですか?」
海賊「一応、船長さんだからね。朝一番に見に行ったよ」
魔法使い「まあ、それはそうか」
海賊「剣士の言う通り、貴女は本当に強かったんだね。べつに疑ってたわけじゃないけど!」
魔法使い「アイツが?」
海賊「うん。魔法使いさんは強いって。もしかしたら自分よりもって言ってもんだから」
魔法使い「流石にそれはないかなぁ……」
海賊「そうなの? 剣士が言うには貴女に勝てたことないって話だったけど」
559
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:16:37 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「それは私に有利すぎる特殊なルールでの模擬戦だったからで、実際は――」
海賊「有利?」
魔法使い「ハンデをもらっていたと言えばいいのかしら?」
魔法使い「アイツとの模擬戦はいつも私が得意な間合いからやらせてもらっていて――」
魔法使い「もし普通に一足一刀の間合いから始めていたら私は一度もアイツに勝てなかったと思う」
海賊「そうなんだ。今も変わらずそんな感じなの?」
魔法使い「今? 今はどうだろう? ハンデありなら、戦えないこともないかな。たぶん」
海賊「やってみたら?」
魔法使い「やめておくわ。それよりも面倒見なきゃいけない子がいるから、そんな暇は……」
海賊「やればいいのにー。今、賢者ちゃんとやってるみたいだしさ。その後にでも!」
魔法使い「ハァッ!?」
560
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:20:47 ID:5Dt9ncyE
海岸――
賢者「(近づいてこない。どうしてだろう? 一瞬で決着がついちゃうから?)」
剣士「……!」ジリッ
賢者「(そうですよね。お爺さんの詠唱速度すら凌駕した剣士さんが、私なんかに苦戦するはずがない)」
賢者「(――って事は剣士さん、ああ言っていたけど私の事ちゃんと見てくれているんだ)」
賢者「(じゃあ、心置きなく……!)」エイ!
ボシュ
剣士「くっ!?」キンッ
賢者「小さい火球は速度があるけど、簡単に弾かれちゃうか。むぅー……」フムッ
剣士「(近づけない――ッ!)」ギリッ
剣士「(こうも砂に足を取られては躱すのですらキツイ。加えて緩急のついた波状攻撃だ。甘えた読みは死に直結する)」
剣士「(状況は最悪だな。身を隠す遮蔽物もないときた。となると残す手は――)」チャッ
剣士「(いや、駄目だ。投げナイフは使えない。彼女を傷つける。じゃあ、どうする?)」
賢者「どうしたんです? もう仕掛けてきてもいいですよ!」
剣士「(言ってくれるな。こんな事になるならニ十歩分もやるんじゃなかった)」イラッ
561
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:24:32 ID:5Dt9ncyE
剣士「(隙の大きい魔法に狙いを絞って近づくしかない。切り払えるものなら払いつつ距離を詰め、好機を広げる)」ジリ
賢者「まだまだ見極め足りないんですね。それなら、とっておきで――」キラッ
剣士「(氷の槍がくる。これは剣で切り払って……)」バッ
賢者「えいや!」バシュ バリバリ
剣士「氷槍じゃない!? 地を這う氷の衝撃波だと!?」ダン ヒラリ!
賢者「どうですか? お姉様の魔法を私なりにアレンジしてみました!」ドヤッ
剣士「(そうくるか……)」ヨロッ
剣士「(応用技は読めないな。だが、所詮はアレンジ。こちらも応用で対応できるはずだ)」
賢者「よし、次はこれです!」スッ
剣士「(火球? いや、爆発魔法にも近い。つまり複合技ってことかッ!)」ダン
ボシュ ドーン
剣士「(やはり着弾と同時に爆発する火球だった。こちらの切り払いを潰すつもりだったんだろうが!)」ヒラリッ
賢者「おおーっ!?」
剣士「(くっ、足場さえしっかりしていればな。だが、もうそれも関係ない。ここまで近づければ――!)」グッ
562
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:29:17 ID:5Dt9ncyE
剣士「(しかし、どうやって黙らせる? 鞘で頭をはたくわけにもいかない――)」ジリッ
剣士「(あ、そうか。押し倒せばいいのか。下は砂場だし、そこまで痛くないだろう)」
賢者「んー、次は……」スッ
剣士「――ッ!」ダンッ
ドンッ!
賢者「ぎゃ!?」バタッ
剣士「捕まえた。まったく何やってんだよ、本当にッ!!」
賢者「はぅー////」カァー
剣士「ど、どうした? どこか痛めたか??」オロオロ
賢者「いやぁ、近いなって……////」ポッ
剣士「あっ!」
賢者「いい、ですよ? べつに……////」テレッ
剣士「な、何が?」アセッ
賢者「か、勘違いしないで下さい! あ、いやぁ、勘違いでもいいですけども……////」
剣士「そんなつもりで押し倒したわけじゃ……」アセッ
563
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:31:30 ID:5Dt9ncyE
ゲシッ!!
剣士「イタ!」グシャァ
魔法使い「なに盛ってるの?」ジーッ
賢者「お、お姉様!?」ビクゥ!
剣士「脇が、脇腹がっ!!」モダモダ
魔法使い「特訓してるって聞いてきてみれば浜辺でキャッキャウフフとは。聞いて呆れるわ」
剣士「待て。不可抗力だ!」ヨロリッ
魔法使い「ふーん」
剣士「怪我させるわけにもいかないだろ!」
魔法使い「殺されかけてたっていうのに、随分とお優しいことね」
賢者「え? コロ……?」
魔法使い「気づいてなかったの? まあ、気づいてたらできないか」
剣士「(なんだよ、見てたんじゃないか。だったら止めろよな)」イラッ
564
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:37:27 ID:5Dt9ncyE
賢者「それ、本当なんですか?!」ガタッ
剣士「大げさだな。確かに追い詰められていたのは事実だが殺されはしなかったよ」
賢者「で、でも……」
剣士「だが、これでわかったろう。君は強い。足手まといなんかじゃ――」
魔法使い「ハァ!?」
剣士「え゙?!」
魔法使い「どこが? すべての状況がこの子に有利に働いていただけでしょ?」
賢者「そう、なんですか?」
魔法使い「ほら! この子はそれすら理解できていないのよ!?」
剣士「いや、だが……」
魔法使い「甘やかしてどうするの? 貴方はこの子を強くする為に戦ってたんじゃないの?」
魔法使い「ハッキリ言わなきゃこの子は一生強くなれない。それどころか命を落とすことにだって――」
剣士「わかってるよ! だが、君だって見てたんだろ!?」
魔法使い「ええ、途中から見させてもらったわ。じっくりと。だけど、それが何だって言うの!?」
565
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:41:48 ID:5Dt9ncyE
剣士「凄まじいものじゃないか、賢者の魔法は!?」
魔法使い「それは認めるわ。私以上に魔法を扱えていたことも含めて」
魔法使い「だけど、それだけで――才能だけで戦える相手でもない。違う?」
剣士「それはそうだが…… 何もそこまで強く言わなくてもいいじゃないか?」ボソッ
魔法使い「ハァ!?」
剣士「だって、そうだろ? 賢者は出会った頃のよりも強くなっていた。俺達の知らない間に、こんなにも強くだ」
剣士「少しは認めてあげたっていいじゃないか?」
魔法使い「だから認めてるって言ってるじゃない。私は甘やかすのが駄目って言ってるの!」
魔法使い「この子はすぐ付けあがる。キツイくらいが丁度いいのよ」ビシッ
賢者「あぅ……」シュン
魔法使い「何があぅーよ。間抜けな声出さないで!」
賢者「だ、だってぇ!」
魔法使い「言い訳なんて聞きたくないわ。ていうか、今後一切聞かないから」
魔法使い「明日から覚悟なさいよ。剣士に代わって私がビシバシ鍛えてあげる!」
剣士&賢者「「え゙!?」」
566
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:43:48 ID:5Dt9ncyE
剣士「い、今なんて……」
魔法使い「こいつを一から鍛えるって言ったの。貴方が鍛えるよりずっといいでしょ?」
剣士「そりゃまあ、同じ魔導師なわけだからな。だが――」
魔法使い「だが何? 何が不満なわけ?」
剣士「いや、不満はないよ。ないんだが――」
賢者「いいんですか!?」
魔法使い「嫌なの?」ギロッ
賢者「と、とんでもない!」ブンブン
魔法使い「じゃあ、決まりね」
賢者「よ、よろしくお願いします」ペコッ
魔法使い「でも明日からよ。まだ昨日の疲れぬけてないから」
賢者「あ、はいっ!!」
567
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:49:53 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「じゃあ、そういうことだからダッシュ。ご飯の支度にゴーゴー!!」
賢者「え!?」
魔法使い「昨日から何も食べてないの。作って」
賢者「えっ、あー、わかりました。作ってきます!!」シュバ!
タタタタ!
魔法使い「よし、これで邪魔者は消えた」
剣士「邪魔者って……」
魔法使い「それよりどういう風の吹き回し? 貴方があの子を鍛えようなんて」
剣士「それはこっちのセリフだよ」
魔法使い「べつに。あの子の才能を腐らせたままにしておくのは惜しいと思っただけよ」
魔法使い「これから戦いは厳しさを増す一方なんだし、役に立って貰わないと困るじゃない」
剣士「勝つ為に、か……」
剣士「(それが言えるって事は、本当に強くなったんだな。賢者の才能と向き合えるまでに)」
568
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:51:32 ID:5Dt9ncyE
魔法使い「貴方こそどうして?」
剣士「どうしてって強くなりたいと言っていたから、それで――」
魔法使い「断れなかった?」
剣士「あ、ああ」
魔法使い「まあ、そんなところだと思った」
剣士「そんなにおかしいか?」
魔法使い「だって貴方はあの子に戦って欲しくないと思ってる。なのに、どうして自信をつけさせるようなことするのよ。変じゃない?」
剣士「あ……」
魔法使い「やっぱり否定しないんだ、そこは」
剣士「そうだな。俺は賢者に戦って欲しくないと。いや、彼女を守りながら戦えると心のどこかで思ってた……」
魔法使い「それは押し付けよ。あの子もそんな関係望んじゃいないわ」
剣士「わかってる。わかってるつもりだったんだが……」
魔法使い「いい顔したかった?」
569
:
◆49HRmRlKYE
:2020/02/21(金) 00:54:13 ID:5Dt9ncyE
剣士「ち、違う!」
魔法使い「まあ、気持ちはわからなくもないけどね。好きな子になんでもしてあげたいっていう気持ちは」
剣士「だから違うって言ってるだろ!」バッ
魔法使い「じゃあ、何?」ジッ
剣士「何って、それは……」タジッ
魔法使い「貴方はあの子のヒーローであろうとし過ぎる。それが悪いとは言わないけど、少なくとも仲間に対する態度じゃないよね?」
剣士「うっ!?」
剣士「(だが、もっともだ。賢者の身を一番に案じていながら、仲間と言い張るのは無理がある)」
魔法使い「まあ、いいけど」
剣士「よくは、ないだろう?」
魔法使い「私が気を付ければいいことだし。それに――」
剣士「それに?」
魔法使い「ううん、やっぱ何でもない」
魔法使い「(想いは力に変わる。剣士は賢者と出会って強くなった。賢者の想いに応える為に。悔しいけど、それは認めなければならない)」
570
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/02/21(金) 15:45:21 ID:imhqHob6
乙
571
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:14:48 ID:.oerQfSI
魔法使い「――そんなことよりよ。アイツと何か話した?」
剣士「アイツ? ああ、エルフの詩人か。話したよ、少しだけ」
魔法使い「なんだって?」
剣士「何って、なんだろう。なんて言えばいいんだ?」
魔法使い「?」
剣士「なあ、俺が――ただの人が、魔王を倒したら世界はどうなると思う?」
魔法使い「どうしたの、急に?」
剣士「アイツが俺達に協力する理由はそこにあるらしいんだ」
魔法使い「へぇー」
剣士「本当にへぇーだよな。わけがわからない。それが一体何だって言うんだ?」
魔法使い「うーん、それはちょっと想像力足らなすぎじゃない?」
剣士「そうか? 担ぎあげられる神輿が代わるだけの話だろ?」
魔法使い「だから、それが問題なんでしょ!?」
572
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:16:36 ID:.oerQfSI
魔法使い「つまりそれって人々が勇者を必要としなくなるってことよ?」
剣士「なるか?」
魔法使い「なるわよ!」
剣士「この程度で失われるような権威でもあるまい」
魔法使い「だからってまったく影響されないってこともないわ」
剣士「それはそうだろうが……」
魔法使い「これを機に女神信仰から人々が離れることだって十分にあり得る」
剣士「流石に飛躍しすぎだろう?」
魔法使い「本当に、そう思う?」
剣士「確かに女神は勇者を地上に遣わし、人々を魔王の恐怖から救うと言われている――が、それだけで人々が離れるか?」
魔法使い「貴方は勇者の影響力を甘く見過ぎている。女神信仰がここまで爆発的に広まり浸透したのは勇者の存在があったからこそ――」
魔法使い「それに貴方は、神の言葉を越えようとしている。だけってことはないんじゃない」
剣士「神の言葉?」
魔法使い「信仰と教え、勇者にまつわる伝説の数々、それらをひっくるめたものかな?」
573
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:18:30 ID:.oerQfSI
魔法使い「その言葉が正しいと信じられてきたから、人々は神を絶対視してきた。だけど、もしそれが間違いであったとしたら?」
剣士「間違いとは少し違うんじゃないか?」
魔法使い「そう? 思い出してみて。嫌って言うほど見てこなかった?」
魔法使い「女神に選ばれた勇者だけが世界を救える。そんな伝説と、それを信じる人たち」
剣士「だからって……」
魔法使い「言葉を守っていた人は善であり、外れた人は悪であるとされてきた」
魔法使い「勇者にまつわる伝説だって例外じゃない。これも信じられてきた教えの一つよ」
剣士「つまり君は女神信仰を支えていた根底がひっくり返る、そう言いたいわけか?」
魔法使い「それに知ってる? 今、勇者がなんて言われてるか?」
剣士「なんて?」
魔法使い「敗北者、負け犬よ」
剣士「う、嘘だろ?!」
魔法使い「嘘じゃないわ。ここの子供たちが言っていた」
574
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:21:07 ID:.oerQfSI
剣士「それだけで、それが勇者の世評だと決めつけるのは……」
魔法使い「そうね。今はまだ子供の戯言に過ぎないわ。けど、貴方が魔王を倒せば誰も勇者を必要としなくなる」
魔法使い「そうなれば、そんな俗称で呼ばれる日がくるかもしれない。何せ、この時代の勇者は何もできずに、何の伝説も残せずに死んだのよ?」
剣士「それは、そうなのかもしれない。だが、だからって……」
魔法使い「勇者の名誉を守る為にも否定したい気持ちはわかるわ。だけど――」
魔法使い「貴方だってもう気づいていたはず、自分の戦いがどういう結果をもたらすのか」
剣士「!?」
魔法使い「貴方の戦いは勇者とは違う。そう言ったのは誰?」
剣士「そうだな。確かに俺は望んでいる。勇者が見せる未来とは違う未来を。だが、それが彼女を裏切り、貶めることになるなんて……」
魔法使い「同情するわ。勇者の為に始めた戦いが、今や勇者を否定することになるなんて」
剣士「いや、俺は始めから自分の為に戦っていた。勇者はただの言い訳に過ぎなかったよ」
魔法使い「そっか」
剣士「最低だな、俺は」
魔法使い「今更でしょ。開き直っちゃえば?」
剣士「そうだな。今更、なんだよな……」
575
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:23:17 ID:.oerQfSI
剣士「――ってことはアイツもそんな世界を望んで? だから俺に賭けた?」
魔法使い「んー、どうだろう?」
剣士「そうだよな。そんなことをしてアイツに何の得がある?」
魔法使い「それもどうだろう。アイツが勇者の存在を恨んでいるのだとしたら――」
剣士「恨む?」
魔法使い「そんな感じしなかった?」
剣士「言われてみれば……」
魔法使い「それにアイツも三魔将の一人だったのよね?」
剣士「ああ、言ってたなそんなことも」
魔法使い「じゃあ知ってたのよね。当然、勇者暗殺のことも最初から全部」
剣士「どうだろう?」
魔法使い「仮に知らされていなくても、アイツの立場なら調べられたんじゃない?」
剣士「いやアイツが三魔将になったのは最近かもしれない。勇者が死んだ後ってことも……」
魔法使い「それはないわよ。新参が付けるような地位とはとても思えないわ」
576
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:25:49 ID:.oerQfSI
魔法使い「他の三魔将を覚えてる?」
剣士「爺さんに、変なオカマだろ? 確か二人は、人魔族で進化の秘術を――ああ!?」
魔法使い「そう、二人とも秘術によってこの時代まで生きながらえた古参の魔族だった」
剣士「でも待てよ。三魔将は四天王と同等の力を持つと恐れられ、魔族の中でも一目置かれている存在なんだよな?」
剣士「だとしたら古参とか新参とか、そんなの関係なしに実力だけで選ばれている気がしないでもない。むしろ、その方が魔族らしい」
魔法使い「おそらく三魔将は人魔族の為に作られた地位よ。元々ドレイだった人魔族が他の魔族と変わらない、同等に見せる為の」
剣士「政治的な意味合いで?」
魔法使い「でもなきゃ四天王っていう同じような地位が既に存在してるのに新しく作る?」
剣士「まあ、確かに。だとしても古参を優遇する理由にはならないんじゃないか?」
魔法使い「秘術がなければ人魔族は弱いとされてきたのよ。その秘術を知っているものは誰だった?」
剣士「あ!?」
魔法使い「秘術を知る者がそいつだけなら、三魔将を選んだ者そいつだけということになる」
剣士「つまりアイツは側近の信頼を得るだけの時間を奴らと一緒に過ごしていた?」
魔法使い「そう考えるのが普通じゃない?」
577
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:31:25 ID:.oerQfSI
剣士「しかし、わからないな。勇者を恨んでいたとして。なら何故、人は恨まない?」
剣士「例の男――、側近と同じように人間もろとも滅ぼせばよかっただろうに」
魔法使い「滅ぼす気がないわけでもないんじゃない?」
魔法使い「貴方が魔王を倒せる保証なんて今もないし、それに貴方が現れないことだって十分に考えられた。あのまま勇者と共に滅ぶ未来だってあったってことよ?」
剣士「じゃあ、なんだ?」
剣士「アイツからしてみたら、女神を信仰し続ける人間なんてものは死にも等しいと?」
魔法使い「さあ? でも、いいところついたんじゃない?」
剣士「わからないな」
魔法使い「そうね。もっと単純だと思ってたわ。魔王を倒して、それで終わると」
剣士「少し立ち止まって考えてみるか?」
魔法使い「随分と弱気じゃない? どうしたの?」クスッ
剣士「どうってべつに」
魔法使い「逆に私はもっと先に進んでみたくなったわ。先に進めば答えが見つかる気がして」
剣士「立ち止まっていても答えは出ないか。実際、その通りなんだろうが……」
578
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:33:45 ID:.oerQfSI
魔法使い「怖くなった? それとも勇者を殺したと思われる奴とは一緒にいられない?」
剣士「まだ俺達の中での話だろ。決めつけるなよ」
魔法使い「じゃ聞いてみる?」
剣士「聞いてもいいが、それで警戒されてもな。どうせ、はぐらかされる」
魔法使い「まだまだ利用価値あるものね。――じゃ、なあに? やっぱり怖いの?」
剣士「怖い? そうだな。たぶん、そうなんだと思う」
剣士「事態は思った以上に複雑で、どんどん変化していっている。頭が追いついていないのにこのまま進んで大丈夫なんだろうかと」
魔法使い「戦いの中で見定めればいいじゃない?」
剣士「無茶言うなよ」
魔法使い「無駄に考えすぎなのよ。それに貴方の場合、考えて動くよりも直感で動いた方がいい方に転がること多いし」
剣士「そうかな?」
魔法使い「そうだったでしょ?」
剣士「……」
579
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/05(木) 21:36:30 ID:.oerQfSI
剣士「君は変に思い切りがいいよな、昔から」
魔法使い「決断するまでが長いけどね。貴方と違って」
剣士「どっちがいいんだろう?」
魔法使い「私じゃない?」
剣士「ははっ、そうだな。決まった後にぐだぐだと考える方が質悪いか」
魔法使い「――じゃ、そろそろ帰ろうよ。潮風が冷たくなってきたし」
剣士「あ、そうだ!」
魔法使い「どうしたの?」
剣士「色々とありがとう。話せてよかった」
魔法使い「改まって言うこと?」
剣士「え? ああ、そうか。そうだよな……」
魔法使い「うん」ニコッ
剣士「(あー、そうか。わかってしまったな。俺はどっちも大切なんだ。同じくらい……)」
580
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:32:56 ID:E1OrZHt.
剣士「(二人と向き合おうとした途端これか。気づかされる。二人がいるから今の自分があり、戦えているという事実に)」
剣士「(依存しているんだろうな。俺の脆い信念は賢者を支えられ、魔法使いの助けを借りることで現実のものにしようとしている)」
魔法使い「そんなとこで立ち止まって、まだ帰りたくないとか?」フフッ
剣士「あ、いや……」
魔法使い「まだ考えてたの? いくら考えたって無駄よ。答えを出すには判断材料が少なすぎるわ」
剣士「それは、そうだが……」
魔法使い「さっきも言ったけど貴方は無駄に考えすぎ」
剣士「そう言われてもこればかりは難しいよ」
魔法使い「終わった後のことよ? 終わった後ゆっくり考えればいいじゃない?」フフッ
剣士「君に対する想いも、それでいいのか? いいわけないよな」ボソッ
魔法使い「何か言った?」
剣士「いや、なんでもないよ」
581
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:34:18 ID:E1OrZHt.
夕方 宿屋近く――
詩人「よかったね。簡単に許してもらえてさ」
武闘家「ああ。海賊姉さんがあんなこと言うから色々覚悟しちまったぜ」ハァ
詩人「僕的にはつまらなかったけどねぇ。ほとんど質問攻め。襲撃してきた魔族のことばかりで凄く退屈だったよ」
武闘家「そりゃないだろ。この村が狙われてたわけだぜ?」
詩人「気持ちはわかるけど、もっと君をいじり倒して欲しかったなーって」
武闘家「ひでぇ」
詩人「ふふっ、ごめんよ」
武闘家「なんか、お前ってどっか変だよな。エルフだからってわけじゃなさそうだし――」
武闘家「てか、ほんとにエルフ??」
詩人「しつこいな君も。このキュートな長いお耳が見えないのかい?」
武闘家「魔法で姿形変えられるんだろ。聞いたぜ、剣士殿から」
詩人「今の姿が本当の僕だよ」
武闘家「怪しんもんだぜ。真実の水晶がありゃな。姫様からもらっときゃよかった」
582
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:35:39 ID:E1OrZHt.
詩人「そんなぁ。信じてよぉー」
武闘家「胡散臭いんだよな、何もかも。剣士殿も味方かどうかわからないって言うしよ」
詩人「僕は君達の味方だよ。これだけは本当に本当。賭けてもいい」
武闘家「ふぅーん」ハナホジ
詩人「あ、そうだ! 君、強くなりたいんだよね? だったら僕が君を強くしてあげるよ」
武闘家「は?」
詩人「強くなりたいんだろう、今よりも?」
武闘家「何言ってんだよ。稽古でもつけようってか。エルフのアンタが、俺にぃ??」
詩人「進化の秘術って聞いたことない?」
武闘家「え……?」
詩人「ごめん。聞いたことないよね。なんて言えばいいんだろう。簡単に言うと――」
武闘家「おい! なんでアンタがそれを知ってるんだよ!?」ガタッ
詩人「ほう、この反応は意外だな。知っているのか。いや、それはそうか」
詩人「君達は三魔将の強さに疑問を持っていなかった。それは既に強さの秘密を知っていたからで……」フム
583
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:37:26 ID:E1OrZHt.
武闘家「んなことはどうでもいい。答えろ。なんでアンタがッ!?」
詩人「なんでって、元々進化の秘術は僕達エルフ一族のものだったからだよ」
武闘家「けど、魔法使いさんのお婆さんは知らなかったって……」
詩人「秘術はエルフの中でもごく僅か一部の者にしか知らない。それこそ王族クラスの者でなければ耳にすらしないだろう」
武闘家「エルフの王族なのか!?」
詩人「僕? いや、違うけど」
武闘家「じゃなんで!?」
詩人「それがそんなに大事? それよりも僕が秘術を使えることのほうが大事じゃない?」
武闘家「使えるって、嘘だろ!?」
詩人「完全に、とは言わないけどね。だけど君を今より強くすることくらいはできるよ」
武闘家「ちょ、ちょっと待てよ。まさか、魔族に秘術を教えたのはアンタじゃないよな!?」
詩人「あ、それは僕じゃない。エルフのお姫様が先代の魔王恋しさに側近に教えたのであって――」
武闘家「エルフのお姫様だァー??」
詩人「今から百年ほど前、先代の話さ。そこから魔族は狂い始めた。――知りたいかい?」
584
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:39:09 ID:E1OrZHt.
武闘家「えーっと、つまりなんだ。アンタの話を要約するに――」
武闘家「里を飛び出したエルフのお姫様は先代の魔王に恋しちゃって、それで勇者から魔王を守る為に進化の秘術を側近に授けたって言うんだな?」
詩人「愛は恐ろしいね。人の倫理観を狂わせ、時として破滅を呼んでしまう」
詩人「かく言うこの僕も愛ゆえに、禁忌を破ろうとしているわけだけど」
武闘家「き、気持ち悪いこと言うなよ」
詩人「――で、どうする?」
武闘家「どうするって言われても……」
詩人「元々君はこの力を求めて旅をしていたんだろう。何を迷うことがある?」
武闘家「だっておかしいじゃねぇか。なんで剣士殿に使わない。人間には効果ないからか?」
詩人「あるよ」
武闘家「じゃなんでだよ。俺より先に使うべき人がいるじゃねぇーか!!」
詩人「そうしないのは僕の目的が、この歪んだ世界を元の正しい世界に戻すことだからさ」
武闘家「歪んだ世界?」
詩人「この世界は進化の秘術のせいで歪んでしまった。その歪みを正すのに、どうして元凶たる秘術の力に頼らなければならない?」
585
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:41:05 ID:E1OrZHt.
武闘家「んなこと言っていられる状況か?!」
詩人「わかってないね。この力で魔王を倒しても世界の歪みは正されない。むしろ事態はさらに悪化するだけだ」
詩人「君がそうだったように、多くの人達も剣士の力の秘密に迫るだろう。そして辿り着く。そうなれば秘術を求め、今度はエルフ族との戦いが始まる」
武闘家「でも敵はいなくなるんだぜ? 追い求めるか、そこまでして力を?」
詩人「追い求めるさ。人とは、そういう生き物だ。だからこそ人は繁栄を極めた」
武闘家「じゃあ、なんで? なんで俺はいいんだよ?」
詩人「それは君が元々歪んだ存在――、人魔族の血が混じっているからだよ」
武闘家「俺が歪んだ存在? 人魔族だから??」
詩人「それに言っただろう。完全には扱えないって。内なる力に身体が耐えきれず、死に至る危険性が極めて高い」
武闘家「なるほど。俺なら失敗してもいいってわけか……」
詩人「最後まで聞いてくれ。君の身体の半分は魔族だ。失敗してもその血が――、邪神の加護が守ってくれる。肉体の崩壊を」
586
:
◆49HRmRlKYE
:2020/03/25(水) 20:44:34 ID:E1OrZHt.
詩人「まあ、その場合は人魔族以外の魔族同様に、魔王が死に邪神の加護が失われたとき君も死ぬことになるんだけど――」
詩人「覚悟はできているんだろう?」
武闘家「そう言ったけど。言ったけどさ……」
詩人「覚悟ができていたって、そうすぐに決められるものじゃないか……」
武闘家「……」
詩人「こんなこと言いたくはないけど、君の身体には臆病者の人魔族の血が流れている」
詩人「克服するには秘術の力に頼る他ないと思うよ」
武闘家「っ!?」
詩人「ごめん。でも君の為を想って言ったつまりだ。考えておいて。僕は待ってる」タッ
武闘家「くそ、くそぉおお! どうすりゃいいんだよ……」
詩人「(それにしても意外だったな。彼等が進化の秘術を知っていたなんて。四天王ですら知らない機密だぞ。誰が彼等に教えた?)」
詩人「(姉は絶対にあり得ない。召喚士のオカマがお漏らししたとも思えないし――)」
詩人「(となると残るは呪術師だけ。なるほど、彼が教えたのか。困った爺さんだな)」フフッ
587
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/03/26(木) 17:26:50 ID:xtidNnwA
乙
588
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2020/06/14(日) 14:01:54 ID:38JAE7Qs
おつ
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