[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
901-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5
1
:
しらにゅい
:2012/02/29(水) 14:02:36
ここはキャラ企画つれっどにて投稿されたキャラクターを小説化しよう!というスレです
本編とはかかわりがなく、あくまでもアナザーストーリーという扱いです
時系列は本編(2002年のGW4月28日〜)よりも前の話が主になります
本編キャラの名前が名字無しカタカナの為、小説ではそれに合わせた呼び方が多いです
人様のキャラクターを借りる時は、設定を良く見て矛盾が無いように敬意を持って扱いましょう
詳しい説明などは下のURLをご覧ください
ナイアナ企画@wiki―「はじめに:企画キャラとは」
http://www22.atwiki.jp/naianakikaku/pages/1057.html
過去スレ
企画されたキャラを小説化してみませんか?
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1208562457/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1301901588/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1317809300/
2
:
しらにゅい
:2012/02/29(水) 14:04:30
関連スレ
(ハタラキ掲示板より:
http://jbbs.livedoor.jp/sports/28084/
)
キャラ企画つれっど
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1190700851/
企画キャラのイラスト化計画
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1295199336/
企画キャラのイラスト化フラ化投票
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1212971648/
キャラ企画雑用スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1305718739/
ナイアナ企画掲示板雑用スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14155/1322029138/
企画キャラへのお題、質問スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1306397167/
企画キャラ版ボイスドラマ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1305973862/
3
:
しらにゅい
:2012/02/29(水) 14:06:04
〜スレ立てここまで〜
本掲示板のレス数がまだ残ってますので一応、仮として3.5とさせて頂きました。
wikiのURLも徐々に変えていきますので、ひとまずはこちらにお願い致します。
4
:
スゴロク
:2012/02/29(水) 16:29:28
混乱して来たので美琴に関する一件を整理してみました。
「星の魔術師に忍び寄る影((六x・)さん)」
↓
「演出家の『仕込み』(スゴロク)」
↓
「天真爛漫→疑心暗鬼((六x・)さん)」=「仕立屋、動く(えて子さん)」→「それぞれの行動(えて子さん」
↓
「包囲網と隠避者(スゴロク)」
↓
「無縁者、出動(クラベスさん)」
↓
←「動き出す三人(十字メシアさん)」
↓
「捜査開始((六x・)さん)」
↓
「ファースト・エンカウンター(スゴロク)」
↓
←(「夜明け(スゴロク)」→「夜明け前の刻(しらにゅいさん)」→「再会、そして運び屋(スゴロク)」→「白梟の大脱走(スゴロク)」&「薔薇の涙と茨の好奇心(びすたさん)」→「ミリタリーオタクと動物と(紅麗さん)」)
↓
「怪盗と刑事と探偵と(クラベスさん)」
↓
「東、対応に苦慮する(スゴロク)」
↓
「神の手違いと安息失す日(クラベスさん)」
↓
「闇に堕ちた星屑、悲哀の炎((六x・)さん)」
↓
「過去、そして現在より(スゴロク)」
↓
「セカンド・エンカウンター(スゴロク)」←「それぞれの行動(えて子さん)」
ですね、今の所。
こうしてみると半分以上私の作品ですね……(汗
5
:
(六x・)
:2012/02/29(水) 18:34:08
>スゴロクさん
整理ありがとうございます!
とりあえず、今の美琴に説得はまず通用しません。出来たとしても戦闘です。
強い術師のおじいちゃんの血を引いてるので美琴もそれなりに強いです。・・・司は攻撃できなさそうだなぁ
6
:
えて子
:2012/03/03(土) 23:39:04
この掲示板には初投稿。「道化者、乱入する」の続きです。
スゴロクさんより「赤銅 理人」さんをお借りしました。
投げる形になります、すみません。
走って、走って、どのくらい経っただろうか。
先ほどよりもだいぶ離れた場所に、佑と謎の人物は隠れていた。
「…あーららー。大丈夫かーいー?」
「…げほっ、げほっ……も、もう…走れな、い……」
ビル陰に座り込むと、呼吸を整えようとしてひどく咳き込む。
もともと佑は運動が苦手なわけではないが、体力は平均よりは劣る。
こんなに全力で、こんなに長い間走ったのは、初めてだった。
「……あ、りがと…ございました……」
助けてもらった礼をしようにも、喉がカラカラで掠れた声しか出ない。
今にも足の筋肉と肺から悲鳴が聞こえてきそうだ。
「………これから、どうするんですか…?」
少し落ち着いてきたところで、佑は自分を引っ張ってきた相手に尋ねた。
わざわざ出口と真逆の、奥の方へ向かったのだから、何かあるのだろう。
そう、考えていたのだが。
「……どーうしようかねーえ」
「……………」
急にどっと疲れが湧いた気がした。
本格的に足が棒になり、立ちあがることもままならない。
「………はあ……」
崩れかかった壁に体を預けると、まだ素早くは回らない頭で考える。
あの機械兵は何なのか。何故自分を狙うのか。
目の前にいる人物は何者で、何故自分を助けてくれたのか。
それと……
「…おーい。俺ーの話ー、聞いてたーかー?」
「……あ。…ごめんなさい、聞いてなかった……」
目の前の人物は何か話していたらしい。
何か考え始めるとそれにだけ集中してしまうのは、自分の悪い癖だと反省する。
佑が頭を下げると、相手は「仕方ない」という風に軽く肩を竦めて見せた。
「………」
ふと、手元の懐中電灯に意識が向いた。
…そういえば、さっきあの機械兵は、この懐中電灯を向けた途端動きが遅くなりはしなかったか。
(これの光を当てたせい?そんな馬鹿な…)
ただの懐中電灯にそんな効果があるなんて聞いたことがない。
でも、この目で見たものが幻覚や錯覚だったとは到底思えない。
「…………」
「?」
視線を上げて、名も知らない相手を見上げる。
この懐中電灯は、この人物が渡してきたものだ。
ならば、この人に聞くのが一番いいのかもしれない。
しばし迷ってから、佑は相手に尋ねることを決めた。
「……あの……」
「んー?」
「……これ…何なんですか?」
謎すぎるものたち
(そう言って彼女は)
(一見何の変哲もない懐中電灯を差し出した)
7
:
スゴロク
:2012/03/04(日) 00:10:06
>えて子さん
では、拾わせていただきます。「我孫子 佑」をお借りしました。
最後、佑の能力関連でフラグがあります。
「こいつー?」
少女に懐中電灯について聞かれた理人は、何のことはない、とあっさりその秘密を明かした。
「こいつはねー、俺の力ーで特殊能力を付加してあーるんだよ。照らしたものの動きが遅くなるーというね」
「………」
「……なーんともまたー、微妙なかーおを。ちなみに俺ーは、『赤銅 理人』と言うので、そこはヨロシーク」
「は、はあ……」
反応に困る、とでも言いたげな少女に、理人は言う。
「こーの喋り方はー、スルーしてくーれると助かる。ガーキの時からの習慣ーってやつでーね、普通ーに話すと疲れーるのよ、かなり」
「はぁ……」
「……話ーを戻すーと、俺のー力は『性質付加(アドクオリティ)』っつう、別の物体に特殊能ー力を付加すーる力。で、この懐中電ー灯には」
「照らした物質を遅くする力……ですか」
「そーう、そう」
まだうまく呑み込めない、といった感じだったが、事態の深刻さは理解しているのかそれ以上の問いかけはなかった。
とりあえずの答えが出たところで、今度は少女が言う。
「あの……私は『我孫子 佑』って言うんですけど……なんで、私を助けてくれたんですか?」
「たーまたま見かけたーから。以上」
あっさり切り返す。良くも悪くもそれだけだ。それよーりも、と理人は話題を戻す。
「入口ーから戻るのーは……今ん所難ーしいか。増えてるし」
「え!?」
瓦礫の陰から佑が顔をのぞかせると、あの機械兵が3体に増えているのが見えた。
「な、なんで……」
「あれーはもともと、量産型だーからなぁ……数で押すのがやーり方。んで、一つ聞くけども」
振り返った理人は、真剣そのものの目で言う。これは確認せねばならない。
「あいつらは、弱い『能力者』を優先的に狙ってくる。なんの力もない、普通の人間は無視するように組まれてんだよ」
間延びした喋り方を強引に通常に戻し、佑に問いかける。
「その上で君が狙われた。ということは、君は特殊能力者って話になる」
「ぇ――――」
「まあ、その辺はあとだ。その様子だと、ほとんど何も知らないみたいだし」
言って目線だけで向こうを見る。機械兵――パニッシャーの1体が、こちらに近づいてきているのが見えた。
「やーばいな、一体こーっちに来てる」
「!」
佑が腰を浮かすが、ここまで走り続けた状態では逃げられない。
しかし、理人には逃げるという選択はなかった。数が増えたのは想定内、ここはやるしかない。
「とーりあえず、向こうにいーる二体も含めて倒、す。手持ちは……」
ナップサックを持ってきていたのが幸いした。それに、瓦礫や石ころが山ほどある。大きさはさほどでもないため、付加できる力は単純なものに限られるが、奴ら相手ならば多少は無理が効くだろう。
「道はひーらくから、隠れてな」
言うと、佑の返事を待たずに理人は飛び出した。
――結論から言うと、パニッシャー3体は4分ほどで沈黙した。
「誘導弾」の性質を付加された石や瓦礫の集中砲火を受け続け、手近の1体が沈黙。音を拾って攻撃してきた2体は、「電磁波発生」能力を持ったオルゴールで混乱して同士討ち、と相成ったのである。
「やーれやれ、片付ーいたか」
ふう、と息をつく理人の声に、瓦礫の陰から佑が出てくる。
「……助かったん、ですか?」
「今のとーころは。距離ーを取るたーめとはいえ、ずーいぶんと離れたからなぁ……」
入口の方を見る理人。佑も横に寄って見ると、今の時点では何もいないように思える。
「とーりあえず、こーこからはスピード重ー視ってことーで。一気に走」
言葉が、途切れた。一拍遅れて数発の銃声が立て続けに響く。
「ぐっ!?」
肩から左腕にかけて、後ろから機能を辛うじて回復した1体が放った銃弾が、理人を撃ち抜いていた。
ズタズタにされた左腕から赤いしぶきが、勢いのまま宙に舞う。
目の前で起きた事態がとっさに理解できず、銃弾は一発が佑の頬をかすめ、飛び散った血がその顔を汚した。
「ちぃっ、油断したかー……」
理人の方は腕よりも、仕留め損ねた方を気にしていた。傷の修復なら、自身に付加してある高速治癒で何とでもなる。発動が極端に遅いのが難点だが、今はそれより奴から逃げることだ。
――高速で思考を巡らせる理人は、後ろの佑に何が起きているのか、知らない。
転回、そして展開
(単なる偶然)
(それが呼んだものは……)
8
:
えて子
:2012/03/04(日) 12:02:50
>スゴロク
フラグを拾うに当たって少し質問が。
赤銅さんの「性質付加」は、付加できる特殊能力に制限ってあるのでしょうか?
(性能に見合った能力しかつけられない、強い能力を付加するには強くイメージしなければならないなど)
あと、次の話で佑の能力を発動させようかと思いますが、そこで「性質付加」の使用許可をいただけたらと。
9
:
スゴロク
:2012/03/04(日) 12:55:30
>えて子さん
「性質付加」は基本自在ですが、次の制限があります。
1.目標の物質に手を触れる必要があり、一度の動作で付加できる能力は両手分の二つ
2.元の形状・機能から大きく逸脱するような能力は付加できない。生命体への付加は使用者自身に限定される
3.付加するときに能力を指定しないと、2から外れない範囲でランダムに付与される
4.指定する場合、付加する能力を詳しく思い描けないと不発(曖昧なイメージではダメ)
5.付加された能力は半永続。解除する場合はその意思を持ってもう一度触れればいい。ただしシドウの「スキルシール」を受けると付加自体が強制的に解除される
となります。使用許可はOKです、まったく問題ありません。
10
:
えて子
:2012/03/05(月) 23:08:05
>スゴロクさん
ありがとうございます。
いろいろ迷った結果こんな感じになりました。
ほんの一瞬の出来事だった。
ずたずたになった相手の左腕、飛び散る赤い液体。
飛んできたそれが佑の顔を染めた瞬間、
――――世界が、色を変えた。
「――――――!!」
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
意識には靄がかかったようだが、やけにクリアに感じる。
佑は、この感覚を前にも味わったことがあった。
調理実習で、怪我をしたコトムの手を取ったときにだ。
自分が自分ではなくなっていくような、そんな感覚。
その感覚が何なのか、佑には分からない。
しかし、戸惑っている暇はなかった。
「………っ!!」
何かに突き動かされるように、足元の小さな瓦礫を拾い上げる。
そして、理人の背後から思い切り投げつけた。
「………なっ!?」
石は機械兵に直撃して弾けた。
欠片が関節部に入ったのか、機械兵の動きがさらに鈍くなる。
理人が驚いたのも、見えた。
目の前の出来事に一瞬呆気に取られたが、色の変わった世界が体に馴染むにつれて、佑の心の奥底にある本能は唐突に理解した。
これが、理人が説明してくれた“性質付加”という特殊能力なのだろうと。
何故彼の力を自分が使えるのかは分からないが、そんなことを考えている暇はない。
まだ機械兵は動いている。倒さなければ。
何か奴を倒すために使えるものはないかと辺りを見回し、
「………これだ!!」
突然大声で叫ぶと、佑はいきなり持っていた鞄をひっくり返して、中身をぶちまけ始めた。
教科書やノート、筆箱、裁縫道具などがばらばらと地面に散らばる。
「………?」
まったく何の脈絡もない行為に理人は驚いたように佑を見ているが、佑はそんなことお構いなしだ。
11
:
えて子
:2012/03/05(月) 23:08:51
「………これでいい」
中身をぶちまけ、空になった鞄を手に構える。
先程の理人の攻撃で、機械兵はかなりのダメージを負っているようだ。
佑でも動きが読め、先回りできる。
ゆっくりと息を吸い、吐く。
強く、強く、頭にイメージを描き出す。
「………っ……」
じりじりと少しずつ間合いを詰めていき、
「……わああああああああっ!!!!!」
自らを奮い立たせるように大声を上げ、走り出す。
動きの鈍った機械兵の背後へと回ると、その頭から思い切り鞄をかぶせた。
すると、明らかに入るはずのない鞄の中に、機械兵が吸い込まれるように消えていく。
完全に入りきったところで、すかさず鞄を閉めた。
鞄から音沙汰は、ない。
「はぁ……はぁ…」
助かった。
その安堵の思いが心を満たし、深く息を吐いた。
その思いに応えるかのように世界の色が元へと戻り、
「………う、っ!!」
―――同時に、 酷い頭痛に襲われた。
激しい頭の痛みに、思わず呻き声を上げて膝をつく。
ガンガンと脳を揺さぶられているような、金槌で何度も叩かれているような、そんな衝撃。
「……いた、い……あたま、が…割れる……!」
あの時は気持ち悪さもあったが、今回はそれがない。
その代わりに、頭の痛みがひどかった。
歯を食い縛って耐えなければ、すぐにでも意識を持っていかれそうだ。
正直、耐えるのも辛い。痛みで涙が出そうになる。
「……はやく……逃げ、ないと……」
そうだ。あの機械兵は量産型だと言っていた。もしかしたらまだいるのかもしれない。
何故そんな大事なことを忘れていたのか。こんな所で倒れたら、それこそ格好の的だ。
早く、この場から離れなければ。
しかし、佑の体は、限界だった。
「――!―――!!」
「…………」
理人の声も、遠くに聞こえる。
佑はぐったりと倒れこむと、そのまま意識を手放した。
覚醒
(知ってしまった、出会ってしまった)
(もはや夢では済まされない)
12
:
えて子
:2012/03/05(月) 23:09:53
>>10-11
スゴロクさんから「赤銅 理人」さん、鶯色さんから名前のみ「コトム」さんをお借りしました。
ちなみに佑が鞄につけた能力は「無生物を大きさに関係なく吸い込んで仕舞い込む」です。
パニッシャーをしまうためだけにつけられました。
13
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:09:29
※名前のみですが、サトさんより「ファスネイ・アイズ」をお借りしました。
天使降臨
放課後のいかせのごれ高等学校。その屋上に、二つの人影があった。
「久しぶりだね、ミツ。元気そうで何よりだ」
「ゼロ……」
目の前にいる少年の姿を見て、ミツは眉をひそめる。
ショートカットにされた銀髪、淡く輝く蒼瞳。中性的なその外見は、ミツのそれとよく似通っていた。
「貴方が――いえ、貴方『達』と言った方が適切なのでしょうか」
「ええ――そうね」
目の前の少年――ゼロの口調が変わったかと思えば、その外見まで変化していた。ショートカットだった髪の毛は腰元まで届く程の長さにまで伸び、性別も「少年」から「少女」へと変わる。中性的な「少年」は、気が付くと中性的な「少女」になっていた。
「……アイン」
「はぁい、ミツ? 相変わらず、男なのか女なのか分からない見た目をしているのね」
「……ミツには、生まれた時から性別なんてありません」
「そうかしら――最近、ファスネイが学校に来なくて寂しい?」
「!?」
ファスネイ。その単語に反応し、ミツが身構えた。その表情は強張っており、緊張感が滲み出ている。
「貴方達、まさか――」
「そう。治療中の我等が主、ベガ様に代わってファスネイの抹殺に来たの――ベガ様もお人が悪い。車椅子で生活しているような相手を殺せと仰るのだから」
再び存在が入れ替わり、今度はゼロが表に出てくる。やれやれ、と彼は肩を竦める。
「止めたいかい、ミツ? ファスネイが――スイネさんが殺されるのを?」
「…………」
「……怖いなぁ。君にもそんな表情が出来たんだ」
ミツはゼロを睨み付けていた。なまじ、顔立ちが整っているのでその表情には普通の人以上の凄みがある。
「抜刀したまえよ……僕はベガ様の使徒、そして君はジングウの人形(オモチャ)だ……僕らが取るコミュニケーションとして、これ程相応しいものはないだろう?」
「…………」
ゼロの両腕に、腕を挟み込むような形で鋏型の赤いエネルギーブレードが出現する。ゼロの能力、「零の騎士(ゼロ・リッター)」だ。それに対し、ミツは自分の右腕に青白いエネルギーブレード「スキル:ソード」を出現させる。
その次の瞬間――二体の人形は、文字通り「激突」していた。
「「――ッッッッッッッ!!!!!」」
赤と青、二つのエネルギーブレードがぶつかり合い、互いを干渉させあう事によって火花を散らす。両者細身でありながら有り得ない程の膂力を発揮しており、そのせいで彼らの両足はコンクリートを抉り、めり込んでしまっている。
「やるね……ハード(身体)を新しいものに変えたのか!」
「不本意ながら……どっかの誰かさんのせいで――!」
不本意と言いつつも、心のどこかでミツは自分を改良したジングウに感謝していた。以前、まだミツが放浪中だった頃にこの「二人」と戦った時は、こんな風に力を拮抗させる事など出来なかった。何故なら、この「二人」はミツと同じBDシリーズでは最新型の性能を誇り、旧式であるミツとは圧倒的なまでの開きが存在していたのだ。
しかし、今は――
「ッ!」
刃が弾け、両者の身体が離れる。ミツが反動を利用し、その勢いのまま刃を叩きつけるように回転切りを仕掛ける。咄嗟にゼロがエネルギーブレードでそれを受け止めるものの、ミツの攻撃はそれだけに留まらない。
「ふっ――ッ!」
矢継ぎ早、ミツの右腕が「スキル:ソード」を振るう。その連撃を前に、両刀である筈のゼロは反撃出来ずに防戦一方だ。
「……なるほど。僕の二刀を封じたまま、押し切ってしまおうという魂胆かい?」
「そちらは二刀流……生憎と、ミツは一本しか剣を持ち合わせておりませんので」
「なるほどなるほど……だったら、最初の一撃で僕を壊せなかった君の負けだ」
「!」
バチ、と言う光子剣がぶつかり合う際に生じる独特の音。ミツの目がそれを見て、大きく見開かれた。自らの刃が、相手の左腕の刃によって捻り上げられるようにして掴まれてしまっていた。
「はい、チェックメイト」
ゼロは自由な方の腕、右腕の刃を、ストレートを叩き込むようにして突き出してきた。ミツの胴体はがら空きであり、鋏状の刃は何者にも遮られる事無くそのまま――
14
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:10:01
「む、そう来たか!」
バチ、と音がして再びエネルギーブレード同士が激突する。ミツの「左腕」から出現した「スキル:ブレード」が、ゼロの「ゼロ・リッター」を受け止めていた。
「右腕の刃を消し、即座に左腕へ「持ち替えた」か!」
「戦闘中にお喋りですね……舌、噛んでも知りませんよ」
ゼロが再び左腕の「ゼロ・リッター」を振るうより先に、ミツの右拳が相手の頬を捉える方が速かった。ゼロの身体は真っ直ぐ真後ろへと吹っ飛び、その身体は屋上のフェンスへと激突する。ガシャン、と凄まじい音が鳴り響き、鉄線で出来たフェンスが大きく撓んだ。
「痛ぅ……口の中切っちゃった」
フェンスから身を起こしながら、ペッとゼロは唾を吐き出す。言葉通り、その唾には彼の血が混じっている。
「やるね。前は逃げる事すら適わない状況だって言うのに、君は旧式の身体で見事に逃げおおせて見せた。そして今君は、僕達と対等の身体を得て、そして僕に一撃入れてみせた……本当に大した奴だ」
「……本当にお喋りが好きですね、貴方」
状況は優勢――しかし、ミツの表情に余裕は無い。なぜなら「彼」は、まだこの「二人」が本気になっていない事を理解しているからだ。
「さて、と――今度は私の番よ」
「!」
ゼロから、アインへのシフト。その直後、彼女の右腕に光で構成された弓が出現する。ゼロが「剣兵」とするならば、アインは「弓兵」。
「さぁ、踊ってくださる?」
アインの言葉の直後、ミツに向かって光の雨が降り注いだ。「アインリッター」は、光の矢を操る能力。光子エネルギーを操作し、矢玉の雨を降らせる事も、収束して攻城槍を生み出す事も出来る。
光の雨に対し、ミツは「スキル:ミラー」で対抗する。「龍儀鏡」と同じ性質を持つこのバリアは、エネルギーで出来た飛び道具ならばすべてを反射し、無効化する。
ゼロ/アインは一度、ミツと交戦しその能力を知っている。「スキル:ミラー」によって、「アイン・リッター」が無力化される事位、彼らも承知のはずだ。
その承知の上で、「アイン・リッター」による攻撃に及んだ理由は――
「――はっ!!」
突然ミツが「ミラー」を解除し、そのまま「ソード」を抜いて身体を回転させる。振り向きざまに「ソード」を振ると、その背後にいたゼロの「ゼロ・リッター」とぶつかり、火花が散った。
「やはり、この手で来ましたか……!」
「アインの能力じゃ、君にダメージは与えられないからね。目くらましに使わせて貰ったよ!」
先程はミツが自分から攻撃する事で、ゼロの動きを抑え込んでいた。しかし、今度は逆だ。ゼロの二刀流による猛攻を前に、ミツの方が防戦一方となっている。
「そらそら! さっきまでの勢いはどうした!?」
「く――」
攻撃の「凌ぎ零し」により、ミツの身体に少しずつ傷が付いていく。掠った頬から血が噴出し、制服が切り刻まれていく。
だが、突然その猛攻が止んだ。ゼロが突然後ろに跳び、ミツとの距離を開けたのだ。
「っ――!?」
その行動の意図を読んだミツは、相手の動きに先んじて「ミラー」を展開する。距離を開けたのは力を溜める時間を確保する為で、次の攻撃がアインによるものだと考えたのだ。
だが、
「――残念」
すぐ傍に、目と鼻の先に、ゼロの顔があった。ミツがハッとした時には、もう遅い。
ブツン、と言う肉が破断する音。数秒遅れて地面に落ちて来たのは、切断されたミツの左腕だった。
「く……」
「同じ手が何度も通用するか、って言葉があるけど、あれって実際のところ、雑魚が同じパターンの攻撃を繰り返すからバレちゃうだけなんだよね」
ゼロが両手を重ね、すり合わせ、二つのエネルギーブレードが火花を上げる。ミツは苦悶の表情を浮かべており、切断面から体液が零れ落ちると共に、その部位から火花を散らしていた。
「さぁ、ミツ。君の実力はこんなものじゃないだろう? ――もっと見せてよ、貴方の本気」
「彼」とよく似た中性的な、しかし確かな性別を持った顔で、ゼロと、そしてアインは、妖しく笑みを浮かべた。
15
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:10:31
ミツとゼロ/アインの戦いを見つめる、一羽の黒い鳥の姿がある。他のバードウォッチャーとは違うその機種は、ジングウが独自に改良して作り出した物だ。通常のバードウォッチャーが完全な鳥へと擬態しているのに対し、そのバードウォッチャーは全身が機械剥き出しの状態になっている。
「ジングウさん、ミツさんが……!」
バードウォッチャー越しに見えるミツの危機に、サヨリが思わず不安げな声を漏らす。しかしジングウは目の前の光景を、何時も通り冷静な、むしろそれ以上に冷めた表情で見ていた。
「落ち着いてください、サヨリさん」
「だ、だってミツさんが……」
「以前のミツならまだしも、今の「彼」は私の手で最新型に改良されています。同じ最新型のゼロ/アインと性能は互角の筈ですよ」
「でも! あんなに押されてますよ!?」
「それは「彼」が、自分の性能を完全に引き出せていないだけです――ここで破壊されるようなら、それまでって事ですよ」
「そんな……!」
冷たく言い放つジングウに、サヨリは今にも泣き出しそうな顔をしている。
(ウスワイヤ襲撃の時も、結構痩せ我慢して悪人ぶってましたからねぇ……本当にこの娘、何でホウオウグループにいるんだか)
心の中で嘆息してから、ジングウは画面の向こうで戦闘を繰り広げる「三人」を注視する。片腕を失ったせいか、戦局は徐々にゼロ/アインがミツを圧倒し始めていた。
(……さぁ、見せてみろ、ミツ。お前の中に眠る本当の力を)
絶望的に見える状況下、ジングウだけが、ミツの勝利を信じて疑っていなかった。
16
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:11:03
「ハァ……ハァ……」
戦闘開始からもはや数十分が経過しようとしていた。
ミツはもう限界だった。全身は自己修復機能が追いつかない程のダメージで埋め尽くされており、何より片腕を失った事が大きく不利に動いていた。五体満足でようやくゼロと互角であったのが、右腕一本では対応し切れていない。
「……がっかりだよ、ミツ。君はその程度の力なんだな」
ボロボロのミツに対して、ゼロに傷は全くと言っていいほど無い。手傷を負わせるには負わせているが、それらはほとんど自己修復機能で復元されてしまっている。余力は残っていないミツに対して、ゼロ/アインはまだ全然戦える状態だ。
「ハードを新調したから、もっと楽しませてくれるものだと思ったのに――がっかりだわ」
「…………」
「期待するだけで期待させて、熱くするだけ熱くさせて……そんな事では、貴方の大好きなファスネイに嫌われるわよ」
「――アイン。この子にそんな事言っても意味無いよ。「彼」には性別なんかないんだから」
「――それもそうだったわね」
そう言ってから、アインの手に光の弓が出現する。戦闘の最中でありながら、彼女の動作は悠然としている。緩慢にすら見える動きで矢を番えるのは、もはやミツに反撃されても恐ろしく無いからだ。
「ハァ……ハァ……」
ミツは「スキル:ミラー」を展開しようと思えば出来たが、それはやらなかった。「ミラー」を展開したところで、「彼」の死因が光の矢から光の剣に変わるだけだからだ。
(……く)
残る右腕に展開するのは「ミラー」ではなく「ソード」。この期に及んでも、ミツはまだ勝利を諦めていなかった。
しかし状況は悪い。全身の損傷が激しく、パフォーマンスの低下が著しい。体が鉛のように重く、右腕一本構えるだけで全身に激痛が走る。体中から流れ出る血液が、それと共にミツの生命力まで奪っていくかのような、そんな感じさえ覚える。
だが、
(ミツは……諦めない……)
ここで負けたら、自分よりもゼロ達の方が優れている事になってしまう。ミツを作った開発チームよりも、ゼロ/アインを生み出したベガの方が優秀と言う事になってしまう。それを思うと、ミツはここであっさり自分の命をくれてやる気にはなれなかった。
「ミツは……ミツは死にたくない……!」
自分が廃棄物だと言う認識に苦しんでいた時、「それは違う」と言ってくれた人がいた。
自分を仲間だと認めて、暖かく迎え入れてくれた人がいた。
そして――
(…………)
なぜだか分からない。けれども、スイネの事が頭に浮かんだ。彼女の事を考えると、どうにも落ち着かなくなる。さっきだって、ゼロにスイネを殺すと言われた時は、危うく冷静さを失うところだった。
「気がある」。かつてトキコに言われた言葉が、ミツの頭の中に浮かんだ。これが「気がある」と言う――所謂、「恋心」という奴なのだろうか。
「…………ははっ」
乾いた笑い声が、思わず出た。我ながら馬鹿馬鹿しい。恋愛とは異性間で成立するものだ。たまに同性間でも結びつく事があるらしいが――それは別として、そもそも性別を持たない自分が「恋心」を語るなどおかしい。
されど――
(ミツは――スイネさんが好きだ)
気のせいだったとしても、勘違いだったとしても、それでもミツは良いと思う。これが、今自分の心の中にある「これ」が、自分にとっての「恋心」なのだと「彼」ははっきりと言い切る。
(死なせない……スイネさんを殺させるなんてそんな真似、絶対にさせない!)
刺し違えてでも、ゼロとアインを止めてみせる。不退転の、背水の覚悟でミツは飛び出した――
――・――・――・――
――プログラム起動
――コード『龍ノαGITΩ」ヲ発動シマス
――・――・――・――
17
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:11:34
「…………」
「アイン・リッター」の直撃地点が煙を上げている。エネルギーを圧縮して構成した光の矢がその場所を打ち抜き、コンクリートを融解させた結果だ。そこには今までミツの姿があった筈だが――「彼」の姿は、屋上のどこを見渡しても見当たらない。
「死んだようね」
そう自らに事実確認をするアインは――どことなくつまらなそうだった。
「――結局、僕らにとって取るに足らない相手だったね」
「――所詮、人間の作った人形よ。神がその手で直々に生み出した私達……使徒に敵う筈無いじゃない」
「――それでも、前の「彼」は、今よりずっと弱かったけど、僕らから逃げ切る事は出来た」
「――……ゼロ、貴方。「彼」を褒めたいの、貶したいの、どっちなの?」
「――僕は君だよ、アイン……僕だって、失望しているのさ」
もはやここに用は無いとばかりに、ゼロ/アインはくるりと背を向けた。
――その時だった。
「「――ッッッッ!!??!?!?」」
ゼロ/アインは、全身を何十もの刃によって貫かれた。
否、実際のところ、彼らの白い肌には一切傷など存在しない。ミツに付けられた傷は、とっくに自己治癒によって塞がっている。しかしその時彼らは、「本当に貫かれた」と思った。
バッと、勢いよく振り返る。反射的に、アインはゼロへと交代し、その両腕には「ゼロ・リッター」の刃が顕現していた。
冷や汗に塗れた顔。言い知れぬ何かに緊張している。
その視線の先に、それはいた。
「ミ……ツ……」
「アイン・リッター」の光の矢に打ち抜かれ、もうもうと煙を上げていたその場所に、ミツの姿はあった。
ただし、先程までと様子が違う。大きな変化は、その背中に出現した「翼」だ。左右にそれぞれ、青白い五本の光の剣が浮かんでおり、それらが組み合わさってまるで翼のような形を構成している。頭の上には所々角の出た光の輪が浮いている。
天使。変貌したミツの姿を見てゼロが、そしてアインがまず抱いた感想はそれだった。
剣の翼に、輪刃(チャクラム)の天使輪。神の使いと呼ぶにはあまりにも攻撃的な姿であるが――しかし、その一方で神秘的であり、神々しくもあり、美しいと思える。
ミツが無言のまま、右腕をゼロ達に向けた。すると、ミツの背後に浮かぶ十本の剣が一斉に、彼ら目掛けて飛んだ。
「なっ!?」
慌ててゼロはその場から離れ、その攻撃をかわす。光の剣はまるで屋上の床をバターの様に易々と切り裂いていった。
(あの剣一本一本が、「彼」が普段使っている剣と同じ威力を持っているのか……!?)
ゼロの二刀流どころの話ではない。十本+一の十一刀流。ゼロは両手の刃を駆使して向かってくる剣を弾き落としていくが、舞い踊る剣達は、まるでそれぞれが意思を持っているかのような動きで彼を翻弄する。
「ぐ――ッ!?」
ついにゼロは、攻撃を裁ききれず、その体に刃を受けた。四肢に剣が突き刺さり、地面に彼の体を縫い止める。
「…………」
言葉を発する事無く、ミツの身体が宙に浮かんだ。右腕をゼロに向けると、彼の頭の上に浮かんだ天使輪がその前に移動する。ゼロの体を縫いとめている以外の刃が、ミツの周りに集い、天使輪と噛み合って何かを形作る。
「あれは……!?」
天使輪と六本の剣。それによって構成されたのは砲だった。発射口になっているのは天使輪であり、ミツの意思に呼応してそこにはエネルギーが収束を始めている。
「まずい!?」
ゼロは何とか拘束を解除しようとするが、食い込んだ刃は彼の体を地面にしっかりと縫い止めてしまっている。もがくと刃が傷口を抉り、激痛が全身を駆け巡った。
「ぐ――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げ、拘束を外そうとするゼロ。
そうしている間に、ミツの方は攻撃の準備が完了した。右手を振り上げ、撃鉄を倒すかのように振り下ろす。
『スキル:バスター』
青白い光の奔流が、ゼロの網膜を焼き、視界を埋め尽くした。
18
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:12:06
「…………」
「アイン・リッター」の直撃地点が煙を上げている。エネルギーを圧縮して構成した光の矢がその場所を打ち抜き、コンクリートを融解させた結果だ。そこには今までミツの姿があった筈だが――「彼」の姿は、屋上のどこを見渡しても見当たらない。
「死んだようね」
そう自らに事実確認をするアインは――どことなくつまらなそうだった。
「――結局、僕らにとって取るに足らない相手だったね」
「――所詮、人間の作った人形よ。神がその手で直々に生み出した私達……使徒に敵う筈無いじゃない」
「――それでも、前の「彼」は、今よりずっと弱かったけど、僕らから逃げ切る事は出来た」
「――……ゼロ、貴方。「彼」を褒めたいの、貶したいの、どっちなの?」
「――僕は君だよ、アイン……僕だって、失望しているのさ」
もはやここに用は無いとばかりに、ゼロ/アインはくるりと背を向けた。
――その時だった。
「「――ッッッッ!!??!?!?」」
ゼロ/アインは、全身を何十もの刃によって貫かれた。
否、実際のところ、彼らの白い肌には一切傷など存在しない。ミツに付けられた傷は、とっくに自己治癒によって塞がっている。しかしその時彼らは、「本当に貫かれた」と思った。
バッと、勢いよく振り返る。反射的に、アインはゼロへと交代し、その両腕には「ゼロ・リッター」の刃が顕現していた。
冷や汗に塗れた顔。言い知れぬ何かに緊張している。
その視線の先に、それはいた。
「ミ……ツ……」
「アイン・リッター」の光の矢に打ち抜かれ、もうもうと煙を上げていたその場所に、ミツの姿はあった。
ただし、先程までと様子が違う。大きな変化は、その背中に出現した「翼」だ。左右にそれぞれ、青白い五本の光の剣が浮かんでおり、それらが組み合わさってまるで翼のような形を構成している。頭の上には所々角の出た光の輪が浮いている。
天使。変貌したミツの姿を見てゼロが、そしてアインがまず抱いた感想はそれだった。
剣の翼に、輪刃(チャクラム)の天使輪。神の使いと呼ぶにはあまりにも攻撃的な姿であるが――しかし、その一方で神秘的であり、神々しくもあり、美しいと思える。
ミツが無言のまま、右腕をゼロ達に向けた。すると、ミツの背後に浮かぶ十本の剣が一斉に、彼ら目掛けて飛んだ。
「なっ!?」
慌ててゼロはその場から離れ、その攻撃をかわす。光の剣はまるで屋上の床をバターの様に易々と切り裂いていった。
(あの剣一本一本が、「彼」が普段使っている剣と同じ威力を持っているのか……!?)
ゼロの二刀流どころの話ではない。十本+一の十一刀流。ゼロは両手の刃を駆使して向かってくる剣を弾き落としていくが、舞い踊る剣達は、まるでそれぞれが意思を持っているかのような動きで彼を翻弄する。
「ぐ――ッ!?」
ついにゼロは、攻撃を裁ききれず、その体に刃を受けた。四肢に剣が突き刺さり、地面に彼の体を縫い止める。
「…………」
言葉を発する事無く、ミツの身体が宙に浮かんだ。右腕をゼロに向けると、彼の頭の上に浮かんだ天使輪がその前に移動する。ゼロの体を縫いとめている以外の刃が、ミツの周りに集い、天使輪と噛み合って何かを形作る。
「あれは……!?」
天使輪と六本の剣。それによって構成されたのは砲だった。発射口になっているのは天使輪であり、ミツの意思に呼応してそこにはエネルギーが収束を始めている。
「まずい!?」
ゼロは何とか拘束を解除しようとするが、食い込んだ刃は彼の体を地面にしっかりと縫い止めてしまっている。もがくと刃が傷口を抉り、激痛が全身を駆け巡った。
「ぐ――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げ、拘束を外そうとするゼロ。
そうしている間に、ミツの方は攻撃の準備が完了した。右手を振り上げ、撃鉄を倒すかのように振り下ろす。
『スキル:バスター』
青白い光の奔流が、ゼロの網膜を焼き、視界を埋め尽くした。
19
:
akiyakan
:2012/03/07(水) 18:12:37
「――コード・オフ。『龍ノαGITΩ』ヲ解除シマス」
自らが発した、聞き慣れない単語を耳にして、ミツは我に返った。
「ぜぁ……ハァ……ハァ……!?」
突然の、急激な疲労が全身に圧し掛かってくる。思わずミツは、その場に崩れ落ちた。
「今のは、一体……」
「――龍ノαGITΩ……なるほど。それが君のアゾットか」
「!?」
頭上から聞こえた声に、ミツは顔を上げた。
「…………!!」
崩れかけたフェンスの上。そこに、ゼロの姿があった。拘束を無理矢理解いた為、両腕は完全に欠損し、両足もほとんど千切れかけている。
ほとんど死に体。しかし見る限り、ゼロにはまだ余裕があるように見えた。
「ゼロ……!」
「恐るべき力だ――少々、貴方の事を甘く見ていたようね」
「あ!」
ふわり、とゼロ/アインがフェンスから身を躍らせる。重力に従って落下していく彼らを追おうとするが、限界に達した身体はミツの言う事を聞かない。
「――面白いものを見せてくれたお礼に、取り合えず今回はファスネイを見逃そう」
「――次は、私達のアゾットで相手をしてあげるわ」
「「――だからそれまで、せいぜい壊れないよう頑張るんだね」」
ゼロ/アインの言葉が、風に乗って周囲に残響する。
「ア……ゾット……?」
そこで、ミツの意識は途切れた。
※『アゾット』。一部のバイオドロイド達に搭載されている特殊な機構。発動すると、その姿は天使を模した形態へと変化する。ミツに内臓されているのは「龍のαGITΩ(アギト)」と呼ばれるもので、「アゾット」発動中は全能力値が大幅に向上し、「ドラゴンズスキル」もそれに対応して変化する。
20
:
スゴロク
:2012/03/07(水) 19:19:55
>akiyakanさん
おおっ、お久しぶりです!!
久々の新作は……相変わらず凄いですね。描写が細かくて、引き込まれます。
ミツの隠し玉というか、本領発揮は驚きました。果たしてこれがどのように影響するのか……楽しみです。
私は現状絶不調もいいところですが、何とかついていきます。
それでは、また。
21
:
スゴロク
:2012/03/07(水) 20:10:44
「覚醒」の続きです。短いですが。えて子さんより「我孫子 佑」をお借りしました。
それと、最後にフラグがあります。誰かは決めていないので、拾えそうならご自由にどうぞ。誰も拾わなければ自分で続きます。
「……やーれやれ、どーしたもんかな?」
珍しく間延びの少ない口調で、理人は倒れた佑を見ながら頭をかいた。
周りを見渡すと、パニッシャーは既に機能停止した2体が転がるのみで、動くものの気配はない。念のため、索敵能力つきの眼鏡をかけて見回すが、特に反応はない。
となれば、残る問題は一つ。意識を失った佑をどこに運ぶか、だ。
「……まーさか、ここに置ーいとくってわけにーは……いーかないよなぁ、やっぱ」
さすがに人としてそれはどうかと思う。他人なら放っておくが、ここまで関わって放り出せるほど人間をやめてはいない。
とにもかくにも、まずはストラウル跡地を出ねばなるまい。
そう決めた理人は、鞄を片手で持ち、中身を回収すると、佑を背負ってひょいひょいと来た方向へ走り出した。
行く道で理人が考えていたのは、佑が起こした現象について。
鞄の中身を放り出したと思うと、パニッシャーをその中に「仕舞い込んだ」。
あれは通常の出来事ではない。
(どう考えても、特殊能力だよなぁ……)
しかも、直前の状況その他からすると「性質付加」。つまり、他ならぬ理人自身の力だ。なぜそれを佑が使えるのか?
(同じ能力の持ち主……珍しいけど、皆無じゃないしな)
最近お邪魔した火波姉妹がそうだったりする。
ともあれ、今は跡地から出るのが先だ。ここだと何が起きてもおかしくない、危険が去った以上は一刻も早く逃げるべきだ。
走りに走り、ほどなくして入口が見えてきた。
だが油断は出来ない、小説とかだとこういうときに限って――――
「ほーら来たぁっ!?」
後ろからの気配を察し、回避が出来たのはまさに奇跡だったといえよう。別のパニッシャーがこちらを察知して襲ってきたのである。
しかも数が半端ではない。1、2、3、4、5……10から先はもう数えられない。
(ま、待ち伏せ……そうだ、そうだよ、本体はそのくらいならできるんだよ……)
正直、絶体絶命だった。佑を背負ったままこの数は捌ききれない。ましてや逃げ切るのは不可能だ。
(最悪、この子だけなら何とでもなるか……?)
ナップサックに付加してあるのは、「別空間への収納」だ。佑を放り込めば当座の危機は回避できる。が、自分がただでは済まない。それに、放り込んだ佑をどうやって外に出すかという問題も残る。
(さすがにそれは―――)
考えている時間が一瞬の隙となった。パニッシャーの銃口が一斉に理人を捉える。
「!! しまっ……」
回避する機は逸していた。銃口が火を噴き、銃弾が風を切り――――
「!?」
―――しかし、それらは役目を果たさなかった。とっさに後ずさった理人の前、そこにいたのは――――。
思わぬ助っ人……?
(それは……)
22
:
十字メシア
:2012/03/08(木) 00:31:14
>スゴロクさん
海猫の事もあったので、フラグ拾わせて頂いてもよろしいですか?
23
:
スゴロク
:2012/03/08(木) 00:36:41
>十字メシアさん
どうぞどうぞ、拾ってやってください。
24
:
サイコロ
:2012/03/09(金) 12:56:05
おとなしいリュウザのとある一日。使わせていただいたのは十字メシアさん宅の アスミ、アキト、ライフォン、サエコ、あと出雲寺組員数名でした。
『闇に堕ちた星屑、悲哀の炎』の話に若干関わっております。
「リュウザのとある日。」
出雲寺組に居候するようになったが、昨日の今日で襲撃してくる不遜な輩も居らずにリュウザとコトハは暇を持て余していた。
あてがわれたのは六畳部屋。
リュウザは2段ベッドに横になりながら思い返す。
『では、コトハさんとリュウザさんには客間を・・・』
『おっと組長さん、その必要はねぇよ。』
『え?』
『物置きかなんかで良い、所詮こいつらは居候だ。寝る場所さえありゃ良い。』
ショウゴの言葉にムッとするアスミ。
『いいえ、そういう訳にはいきません。そんな事をすれば末代までの名折れです。』
『いやいや、ついこの間まで抗争していた相手なんだ、そのくらいでいいさ。なあ、お前ら。』
ショウゴは一部の視線に気づかないふりをしたまま、リュウザとコトハに話を振ってきた。
『私は構わないわ。荷物なんてそんなに多くないし。』
『寝れればなんでも。』
『と、言うわけだ。』
しかし、ここで待ったをかけたのはライフォンだった。
『ちょっと待つアル、オトコノコとオンナノコが同じ部屋は危ないネ!』
『いーじゃねーかライフォン、なにが危ないってん・・・』
アキトが言いかけた所に、サエコが脛蹴りを喰らわす。
『アキト五月蠅い、そんな事も分からないからアンタはいつまでも煮え切らないのよこのニブチン!』
『な、なんだとぉ!?』
言い争いになりかけた所を、ショウゴが遮る。
『鬼英会の部屋割でもこいつら同じ部屋だったから大丈夫なんだ、なぁリュウザ?』
『ええ。それに・・・』
コトハを一瞥するとリュウザは言い切った。
『いくら外見が美人でも、悪魔と交尾する気にはならないよ。後が怖いからね。』
(皆ドン引きだったなぁ…)
なお悪かったのは、コトハがその言葉を聞いて取った行動だ。
引っ叩くわけでも泣き真似をするわけでも無し、含みを持たせた笑みを浮かべたのである。
そうして6畳間に2人は越してきた訳だった。
2段ベッドの上がコトハ、下がリュウザ。ふと気付くと、ベッドの淵に足を引っ掛け、逆さ釣りになったコトハがリュウザを見ていた。
Tシャツがめくりあがっている。
腕組みをしてるから別にエロイベントな訳じゃない。
むしろこれは・・・
「リュウザ、アイスが食べたいわ。」
「・・・。」
「聞こえないの?アイスが」
「自分で買いに行けば?」
「嫌。」
「なんで?」
「これから皆と『お遊び』しようと思ってるから。」
「・・・。」
ジト目でコトハを見る。
「何よ。」
「何人分?」
「そうね、私含めて6人分かしら。」
「・・・程々にしときなよ・・・?」
リュウザはベッドから降りると、勝手口にいたサエコに一声をかけて出て行った。
(そういやこのへんあんまし探索してなかったなー…。)
アイスを買うのを後回しにして散歩するリュウザ。
アイスが必要になるのは夕方だ。それまでは時間を潰しておいた方が良い。
何の気なしに歩いていたら、高校に辿りついた。
「ここ、確かショウゴさんの高校なんだよね・・・。」
ふと、潜り込んでみようか、という衝動に駆られる。
リュウザは学校という所と縁が無かった為、いざ目の当たりにすると興味が湧いてくる。
しかし、今日は都合が悪かった。なぜか校門の辺りが騒がしいし、学校全体が騒がしくて侵入するにはちょっと目立ちそうだったからである。
のんびり歩いて外周を一周すると、リュウザは再び歩いて行った。
途中で警官の姿が見え、リュウザは何か言われるかなぁと内心で思った。
学校に行っていないとは言え、格好が格好である。2、3小言等を言われる事も覚悟したのだが、ついに全く何も言われること無く通り過ぎて行った。
(・・・いかせのごれに常識は通用しない、の範疇なのかな・・・?)
そんな事を思いながらまだ歩く。
角を曲がった所で、リュウザは奇妙な光景を見る事となった。
「・・・ロボット?」
既に動かなくなったロボットのようなモノ。なぜか、所々に星の形をした何かが刺さっていた。
「コレも常識で考えちゃいけないいかせのごれの特性なのかな・・・。」
星形をしたモノの色は、どこまでも黒く暗かった。
不意に、角を曲がった所で女の子とぶつかりかけた。
「おっと、ごめんなさい」
対して少女は何も言わず歩いていく。
(目が死んでるなぁ…。)
リュウザの抱いた印象はそれだった。
25
:
サイコロ
:2012/03/09(金) 12:56:35
夕方、コンビニで買ったアイスを持って帰って来ると、案の定中庭で出雲寺組員とコトハが息を切らしていた。
「お、ようやく帰ってきたわね駄犬が」
「五月蠅いよ。ホラ」
「サンキュ。」
受け取ると、手や足、首筋などに順番に当てて行く。
実践格闘のスキルを上げるには、実の削るような闘いを常に行なう必要があり、
そのためコトハはわざわざ挑発して組員数名と喧嘩したのである。
因みに色香を使うと相手の攻撃が鈍る為、やらないのだが…。
出雲寺組員にもアイスを配る。
「くっそ―…こんだけ人数いたら勝てるだろ普通は…」
「あのサエコとやりあって互角って事忘れてたぜ…」
口々に文句を言いながらアイスを痛めた部位に充てる。
そこに、ショウゴとアスミ、アキトが帰ってきた。
「…?」
首をかしげるアスミ。
「なんだ、お前ら喧嘩でもしてたのか?」
ショウゴは顔をしかめる。
「いいえ、違うわショウゴさん。してたのは実践形式の戦闘訓練。」
飄々とコトハが応えると、アキトが噛み付いた。
「お前ら何勝手にウチの組員を!」
リュウザがそれを停めた。
「大丈夫。誰も大きなケガはしてないし死んでないよ。」
「そういう問題じゃ」
「また襲撃があった時に、同じようにボコられるつもり?少しでも切磋琢磨しといて損は無いはずだよ。」
「宜しい。ならば、私達も訓練に混ぜて貰いましょう。」
「アスミッ!?」
「組長さん!?」
「私に何も相談せずにこんなことした罰です。全力でやらせていただきますよ。」
コトハの顔がごく僅かだが引きつった。リュウザは諦め顔で首を振る。
結局リュウザは氷嚢を借りる事になった。コトハは先に寝てしまったようだ。ショウゴが座椅子にもたれかかっている。
「ボコボコだったな。」
「空気は読みました。」
「練習にならんぞ。」
「雰囲気が悪くなるよりマシでしょ?」
「ったく。せめて俺にくらい言っとけっつの。」
「だってショウゴさんバラしちゃうでしょ?」
「まぁな。」
ショウゴも眠いようだ。モデルガンを腰から外して脇に置いている。
「引き続きやってくれ。んじゃ、寝る。」
座椅子を倒すと、ショウゴは横になった。
リュウザは電気を消すと、深い眠りに落ちていった。
26
:
十字メシア
:2012/03/09(金) 15:08:10
スゴロクさんの続き、ナイスなタイミングでフラグ回収。
スゴロクさんから「赤銅 理人」、えて子さんから「我孫子 佑」をお借りしました。
理人さんの喋り方にガクブル…
「…誰、だい?」
瞠目する理人。
目の前にいる人物を改めて見る。
短いツインテールにした緑色の髪、今背負っている少女…佑と同じ服、片手に握ったクナイ、そして―――車椅子に座ったその姿。
「全く…どんだけいるんだか…」
「……」
「おいアンタ」
「ッ! な、なーにかな?」
「アンタはそいつの味方? …敵?」
「……」
理人はちらりと背負っている佑を見、視線を戻して言った。
「味方さー」
「…そ。あたしは海猫、アンタは?」
「あ…赤銅 理人」
「よし理人、そいつをちゃんと守ってろよ」
「へっ?」
「こいつらならあたしが冥土逝きにするから…全員」
「え…えっ!?」
理人は驚愕した。
車椅子を使う、それも女の子がこんな大量の兵器を一網打尽に出来るわけが無い、と。
しかし。
「あたしの親友に手ェ出した罪は重いからな…覚悟しろ」
「!?」
海猫が『車椅子から』立ち上がった。
だが驚くのはそれに留まらない。
海猫が瞬時に消えた。
「あ、あれ!?」
と、理人は上に気配を感じて見上げる。
海猫は消えたのではなく、跳躍していたのだ。
それもビル5階建てぶん。
「だりゃぁああああーーーーーーッッ!!!!!」
ドゴァァアアアッ!!!
「おわ…ッ!」
海猫は地にいるパニッシャー目掛け、強烈なかかと落としを放った。
5階ぶんの高さからとはいえ、地割れが出来るほどの威力に、理人は違和感を感じるも、それはすぐに消え失せた。
(…なーるほど、能力か)
あらゆる性質を持つ特殊能力だが、中には『身体強化系』なる特殊能力がある。
恐らく海猫はそれを持っているのだろう、と理人は納得した。
(しかしまー)
そして理人はその凄まじい蹴りにこうとも思っていた。
(なんてーかー…まーるで”鬼神”みたいだなー)
27
:
十字メシア
:2012/03/09(金) 15:09:47
その解釈は正しかった。
現にウスワイヤや守人の仲間からはこう言われている。
”冥土の格闘家”或いは”鬼神”と。
「まだまだこれからだ…!」
すると片手にクナイと、何故かもう片手には針と糸を持つ。
だがこれらはただの針と糸では無いのだ。
「ハッ!」
まず片手のクナイを1本ずつ、パニッシャーの接合部に命中させる。
そして今度はダガーナイフを持つと、追い撃ちをかけるように斬り捨てていった。
すると別のパニッシャー達が後ろから海猫に襲いかかった。
だが海猫は臆するどころか、ニヤリと笑う。
「甘ぇんだよ」
と、パニッシャー達に向き返り何かを吐き出す。
―――針だ。
「喰らいなあたしのオリジナル!!」
と、地面を踏み込み、両手をしきりに動かしながら駆けていく。
そして停止すると何かをぐっと逆手に握り締めた。
細く銀色に光るそれは、先程まで手にしていた糸。
しかしそれはただの糸では無い。
その証拠に海猫が引っ張ると―――。
バシュバシュバシュッ!
パニッシャー達がバラバラに切り刻まれた。
それを見た理人は再び驚いた。
しかし説明させる暇を与える訳がない。
「30…いや、20以下hitコンボでいけるか」
「え?」
再び海猫の姿が消えた。
すると次に現した瞬間、何体かのパニッシャーが破損されていた。
だが彼女の猛攻は止まらない。
上から襲いかかって来た2体のパニッシャーの弾丸を避け、跳躍と同時にラリアットをかます。
そしてそのまま3回転した後、地に向かって勢いよく投げ飛ばした。
次に着地と同時に再び一瞬、姿を消す。
また現れた時にパニッシャーを上に蹴り上げたかと思えば、体勢を整えてつつ向きを変え、後ろにいた1体を踏み台に、その横にいた2体の頭部の接合部をつかんで上に高く放り投げたと同時に跳躍した。
「ここからが真骨頂だ」
その時、海猫の体から黄色いオーラの様な物が滲み出る。
オーラを右手拳に集め、3体のパニッシャーまとめて殴った。
パニッシャーの所々に傷や痛みがつく。
だがこれが最後ではない。
今度は海猫の右足にオーラが集まる。
海猫はその右足でパニッシャー達を地面に蹴り飛ばした。
と、同時にオーラが足から抜け、追撃の如く踏み台にされた機体含めてパニッシャー達に激突する。
辺りに激しい破壊音が響いた。
「ひゃー…本当に全部倒しちゃったーかー」
「………」
海猫が服についた汚れを叩きながら、フラフラと理人の所に戻ってきた。
「あ…大丈夫かい?」
「へーきへーき。…っと」
車椅子に座る海猫。
試しに足を動かすと、今度は全く動かなかった。
「あれ…?」
「本当は普通に歩けるけどね、能力使ったら疲労でこうなるのよ。ま、もう一個の能力無かったら足だけに留まらないんだけど」
「へーえ…あ、ところでさっきの…」
「ああ、糸? アレ鋼鉄製なんだよ。キツく縛って引っ張れば、あっという間にバラバラよ」
ペロッと舌を出す海猫。
ようやくこの二人にも安堵の時が訪れたのだった。
鬼神、参上。
「…で、何で佑がアンタと?」
「んー…追われてーたから、助けようとしてーね」
「佑が…?」
「そうだーよ」
(まさか…そんな、佑が…あたしと”同じ”…?)
28
:
akiyakan
:2012/03/10(土) 06:11:47
「やぁ、鈴子ちゃん」
「…………」
にこやかに自分に向かって話しかけてきた少年――アッシュを一瞥だけすると、モブ子は視線を自分の前に戻した。
「ここ、座ってもいい?」
「…………」
「そ。ありがと――」
「いや」「お前」「座っていいなんて」「一言も」「言ってねーだろ」
若干頬を引きつらせながら、しかし何時も通りの笑顔を浮かべながらモブ子が言う。だが、そんなモブ子の態度にどこ吹く風で、アッシュは彼女の対面の席に腰掛けた。
「いやぁ、前から鈴子ちゃんと喋ってみたいと思ってたんだよねー。何でか僕、いっつも君に会いに行こうとすると会えないから」
「んな事」「モブ子ちゃんが」「てめぇの事」「避けてるからに」「決まってんだろ」「キメーんだよ」「この○○○○が」
寄るな、触るな、妊娠する。
普段から「エリート気取り」に対するモブ子の暴言はよくあるが、この時のそれはいつもとは少し違うように見えた。普段表情を全く変えないモブ子が――些細な変化ではあるが、しかし、苛立っているように見えたのだ。
その変化を、対峙するアッシュは見逃していなかった。口端ににやぁっ、と嗜虐的な笑みが浮かぶ。
「鈴子ちゃんってさ」
「…………」
「僕と似てるよね」
「――――ッ!」
ガタン、と椅子が勢い良く倒れる――机の上に身を乗り出し、モブ子はアッシュの胸元を掴み、捻り上げていた。
「いやね、本当に前から思ってたんだよね。例えるならそう。毎朝洗面所で歯を磨く時にいつも会っているような、そんな既視観みたいなの」
「適当な事」「言ってんじゃねーぞ」「てめー」「このモブ子ちゃんに」「似てる奴なんて」「いる訳」「ねーし」「テメーに」「似てる奴だって」「いる訳」「ねーだろ」
身体能力に関しては凡百と変わらない筈のモブ子であるが、その時の彼女は片腕だけでアッシュの首を締め上げてしまいそうだった。ギチギチと、アッシュの服が悲鳴を上げている。
しかしそんな状況であるが、アッシュの表情に張り付いた笑みは、同じくモブ子が浮かべている笑みと同じく変わらない。
「ねぇ、鈴子ちゃん」
「?」
「君は何で自分の事、モブ子って呼んでるの?」
「それは――」
「君の名前がモブミリンコだから? それとも、自分の事がいてもいなくても関係無いモブキャラだと思っているから?」
「…………」
「弱者を気取るのも悪くないけどね――主人公になりたいと思わないの、君?」
主人公。それは、一度は誰もが憧れる存在。物語の中心であり、そして、世界の中心とも言える存在。
だけど、それは――
「ばっかじゃねーの」
アッシュの言葉を、モブ子は一蹴した。
「主人公に」「なれるのは」「強者」「だけ」「人類弱者代表の」「モブ子ちゃんが」「主人公に」「なれる訳」「ねーだろ」
「いいや、違うね。弱者だって主人公になれる」
虚勢的なものではなく、はっきりと――そう。それが真実であると信じて疑わないような、断定的な言葉で、アッシュは言い切った。
「大体おかしいんだよね、主役になれない人間がいるって言う現実。嫌われ者の主役がいてもいい、憎まれっ子の主役がいてもいい、やられ役の主役がいてもいい。僕はそう思うなぁ」
「……そんなもの」「お前の」「身勝手な」「理想論に」「過ぎねー」「だろ」
「理想論がどうした。その身勝手な理想論を掲げ続けてきたのが君じゃないか」
29
:
akiyakan
:2012/03/10(土) 06:12:20
「…………」
「大体、間違いなんだよ」
能力があるから友達が出来る。
能力があるから努力が出来る。
能力があるから勝利が出来る。
それが、神がこの世に敷いた理。絶対的な現実。
しかしそんな現実を、目の前の男は鼻で笑う。
「能力が無いから主役になれない――そんな現実クソ食らえだ。だってそうだろ? 一人の人間につき、『人生』ってストーリーは一つしかない。そのストーリーの主人公はその人自身でなければならないのに――なぜ、脇役に甘んじなければならない?」
「…………」
「格好良くないから主役になれない? 強くないから主役になれない? 美しくないから主役になれない? 可愛げが無いから主役になれない? 綺麗じゃないから主役になれない? 才能に恵まれて無いから主役になれない? 頭が悪いから主役になれない? 性格が悪いから主役になれない? 落ちこぼれだから主役になれない? はぐれ者だから主役になれない? 出来損ないだから主役になれない――負け組だから主役になれない?」
クソッ、食らえだッ! そう、アッシュは嘲笑う。
「んな訳ないだろう? よく言うよね、『この世は万物平等に出来てる』って……だけどさ、主役になれない人達がいる時点でもう、そんなの嘘でしょ? 不平等でしょ? これはあれだよ、神様(さくしゃ)の技量ミスとしか言いようが無いよ。書けるキャラしか書いてないんだから」
主役になれない奴がいるのは、この世が弱肉強食なのは、そう言うルールを敷いた奴だと、そんな風にしか世界を描けない奴が悪いと、アッシュは、その生みの親にも似た笑みを浮かべて嘲笑う。
「…………」
その姿を、モブ子は醜悪だと、邪悪だと、おぞましいと思ったが――同時に、ひどく尊いものにも見えた。
気が付くと、モブ子はアッシュの胸倉から手を離していた。すると代わりに、今度はアッシュがモブ子に向かって手を差し出す。
「鈴子ちゃん、一緒に神を嘲笑ってみないか? ヤツの作ったくそったれなシナリオを踏みつけて、『お前は下手糞なんだよ、何にも面白くねぇよ、神様失格だ』って、言ってみたくないか?」
強者が、勝ち組がのさばるこの世界を、一緒に嘲笑ってやろうぜ――
『それは双角獣の甘言か、はたまた――』
※気付いた方は気付かれたかと思いますが、劇中の台詞のいくつかは、ジャンプコミックス『めだかボックス』十巻「第88箱 初めまして」から引用させて頂いております。
30
:
akiyakan
:2012/03/10(土) 12:02:33
※樹アキさんから「緑音ののか」、しらにゅいさんから「張間みく」、鶯色さんより「ハヤト」、(六x・)さんより「冬也」、ネモさんより「七篠 獏也」、「三葉 莉絵」をお借りしました。
「あ、あれっ?」
昼休み、自分の弁当箱を開いたみくは、思わず目を丸くしてしまった。
「どうしたの、みくちゃん?」
「え、えっとね……お弁当の中身、なんか変わってるの……」
「え?」
また新手のイジメか。そう思ってののかが覗き込んでみると――
「え?」
違った。ぐちゃぐちゃにされている訳でも、ひっくり返された訳でも、ましてや、食べ物ですらないものを詰め込まれている訳ではない。そこにはごく普通の、色んなおかずに彩られた鮮やかな弁当があった。
「あ、おいしそう……」
「う、うん。だけど……」
言って、みくは何が何だか分からないと言う風に、首を捻る。
「これ作ったの、ボクじゃないよ」
「え?」
「だって、中身が違うもん」
みく曰く、朝自分が作ったものと、全く内容が変わっているらしい。
「気のせい、とか?」
「そんな事無いよ。だって、ボクが自分で作ったんだよ? 自分で作ったものを見間違えたりしないよ」
「それもそうか」
不思議に思いつつも、包みや弁当箱は間違いなく自分の物だ。そして、みくの昼食は今目の前にあるものしかない。恐る恐る、弁当箱に入っていた唐揚げを箸で掴み、口に運ぶ。
「! おいしい……」
冷凍のものではない。自分で揚げたものである事がすぐに分かった。しかも、火加減を調節して冷めても風味や食感が失われないように工夫している。
ますます、自分のものではないとみくは思った。
「どうしよう……」
「え?」
「私、もしかして別の人のお弁当持ってきちゃったんじゃ……」
「でもそれ、みくちゃんの鞄から出したんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、みくちゃんのお弁当でしょ?」
「だけど……違うよ、やっぱり。これの中身」
「――別にいいんじゃねぇ?」
不意に聞こえてきた声に、びくりと二人は驚いた。顔を上げると、そこには中性的な顔立ちの少年が立っていた。
「は、ハヤト先輩……」
「うっす。悪いけど、立ち聞きさせてもらったわ……まぁ、別にいいんじゃね?」
「で、でも……」
「もしかしたら、みくちゃんが間違えたんじゃなくて、元々の持ち主が間違えたかもしれねーじゃん? だったら、そいつの自業自得だし。それに、今更元の持ち主探す訳にもいかないっしょ?」
「う……」
「まぁ、それでも気が済まないようならさ、感謝でもしとけばいいんじゃね? そのお弁当を作った人にさ」
そう言うと、ハヤトはその場から立ち去っていった。ぽかんとした表情で、みくとののかはその後姿を見送る。
「い、一体何がしたかったんだろ、あの人……」
「さ、さぁ……?」
―・―・―・―・―
31
:
akiyakan
:2012/03/10(土) 12:03:03
「シスイ、食うか?」
机に突っ伏していた友人に、ハヤトは購買で買ってきたパンを差し出した。
「……サンキュ」
「一応、怪しまれねぇように根回ししといてやったぜ」
「そんな事してくれなくてもよかったのに……」
「いやいや、おかしーでしょ? 朝自分で作った弁当が、お昼蓋を開けたら中身変わってたとかさ! どんな魔法だっつーの」
「…………」
「……大丈夫か、お前?」
「……ああ、大丈夫だ」
言って、シスイはパンの包みを開き、それを齧る。それはまるで食い千切るかのような、彼らしくない荒っぽい姿だった。
「……自分の能天気さ加減に反吐が出る」
「しかたねぇだろ、お前知らなかったんだから」
「だけどっ――俺の身近でこんな事が起きていたなんて、それに気付きもしなかったなんて……ッ!」
心底悔やむように、シスイは言う。
「あーもう……だから言いたくなかったんだよ、お前には……」
先程のシスイの姿を思い出し、ハヤトは嘆息をする。
みくの弁当の中身を入れ替えた犯人、それはシスイだ。
偶然一年生のクラス前を通りがかった時、彼はそれを見てしまった。クラスメイトの弁当箱を――楽しげに床に落とす、数人の女子生徒の姿を。
『お前ら、何やってんだ!?』
気が付くと、そんな声を上げていた。自分でも驚いてしまう位な声であり、女子生徒達は一斉にシスイの方を向くと、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
捕まえて説教を――よりも先に、シスイの身体は教室内へと飛び込んでいた。
「――――」
言葉が、見つからなかった。
床の上にひっくり返された弁当箱。持ち主に食べられる事を待ち望んでいた筈のそれは、無残なものへと変わり果てていた。
「…………」
無言のままシスイはしゃがみ込むと、彼は床に散らばったおかずやご飯を両手で掻き集め――一つ一つ口に運んだ。
そこで、だった。ハヤトに見つかったのは。
(あの後こいつ、何をするかと思えば弁当箱洗って、その後自分の弁当の中身を詰め替えるんだからな……)
危行じみているが、しかしシスイなりに考えた行動だったのだろう。実際張間みく本人は、自分がクラスメイトにそんな事をされたなどと気付いている様子ではなかった。
「……なぁ、ハヤト」
「ん?」
「虐めってさ、どうして無くならないんだろうな……」
「それは――」
――人間が、弱い生き物だから、だよ。
その言葉が、何故かハヤトは口から出せなかった。
特殊能力者の隔離政策。自分達が加担しているそれも、ある意味で「虐め」の延長線上にある事に気付いてしまったからだ。
「〝弱い者程徒党を組み、身代わりの羊を探す〟、か」
以前カラオケで聞いた曲の歌詞が、自然と口から零れた。
―・―・―・―・―
32
:
akiyakan
:2012/03/10(土) 12:03:52
「今日のシスイ、ヤバかったっす」
アースセイバー施設内で、ハヤトは獏也にそう漏らした。
「ヤバかったって?」
「ヤバいも何も、滅茶苦茶ですよ。あの昼行灯の温厚者が殴り合いやったんですから」
「殴り合いって……まさか、一般人と?」
近くにいた莉絵が信じられないものでも見るような表情で聞く。するとハヤトは、頷いてそれを肯定した。
「シスイは……どんな状況でも、話し合いで解決する奴だと思ったが……」
「そーですね。いつものシスイなら、そうやって解決していたでしょうね」
「……? 何、ハヤト。そのもったいぶったような言い方は?」
「……いやね、ウチの学校今イジメがあるんですけど」
「…………」
「シスイがね、そのイジメてる奴らに喧嘩売ったんですよ」
『みみっちぃ事やってんじゃねぇよ、自分が恥ずかしくないのか』
それが、戦端だったと言う。冬也のノートに悪戯書きをしている生徒達を見つけて、後ろからそう言ったらしい。
相手は言い訳した――もちろん、現行犯で見つかったのだ、見苦しいものだった。故に、シスイに簡単に看破される。それでも、見苦しい言い訳は続く。自分は、自分達は悪くないのだと、この期に及んで、保身に走る。しかしシスイはそれを逃さず、追及の手を一切緩めない。
『埒があかねぇな。おい、お前ら、ちょっと職員室まで面貸せよ』
シスイらしくない、乱暴な物言い。その言葉が、相手をキレさせた。
『調子に乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ! 何様のつもりだ!』
廊下にまで聞こえる大声と共に一発、シスイの顔面に入った。けれども、シスイはその一撃を、能力も何も無しに、身体一つで受け止めた。
『軽いな……思ったとおりだ』
中身が入ってないんだよ、お前らは。空っからなんだよ。
「そこからはまぁ、ご想像に任せる、と言う事で……」
ハヤトが両手を挙げ、「やれやれ」と言った風に肩をすくめる。
「ちなみに、これだけじゃねーっすよ」
放課後、今度はみくにリンチ紛いの事をしていた女子生徒にもけしかけて行ったらしい。体育館裏から怒号が聞こえ、逃げ出す生徒達の姿をハヤトは目撃していた。
「生意気なのはどっちだよ、とか、一生懸命生きてる奴の邪魔してんじゃねぇよ、とか。挙句の果てには、同じ目に合わないと分からないようなら、やってやろうか、とか」
「……本当にそれ、シスイが言ったの?」
普段のシスイとはあまりにも結び付かない言動の数々。思わず莉絵は懐疑的な眼差しを向けるが、一方で獏也はむしろ納得しているようだった。
「ハヤト」
「あい?」
「シスイは、泣いていたんじゃないか?」
「……よく、分かりましたね」
「あいつは、そう言う奴だからな」
温厚であれ、都シスイとて人間だ。怒る事だってある。しかし彼の場合、怒りよりも悲しみの方が強く先行する。
どうして――どうしてお前らは、そんな事をしなければ、自分の優位を感じる事が出来ないんだ。
どうしてお前らは、そんな方法でなければ、自分と言うものを強く持てないんだ。
怒りよりも嘆き。相手の不遇を悲しみ、声を上げる。
それが、都シスイだ。
「麒麟の徳性とでも言うのかな。優し過ぎんだよ、あいつは」
「それが良さであり、短所でもある……か」
『リーグ・オブ・ジャスティス』
(でも)
(だからこそ)
(都シスイは『正義の味方』なんだ)
これが今回のラスト投稿になります。またいなくなりますので、よろしくお願いします。
33
:
スゴロク
:2012/03/10(土) 14:28:31
>akiyakanさん
ありゃ、またしばらくお別れですか……。
次に会う時を楽しみにしております、どうかご健勝で。
34
:
(六x・)
:2012/03/10(土) 14:31:24
「……」
どれくらい歩いたかな。さっきぶつかりそうになった人、誰だったんだろう。「すいません」って言うべきなんだろうけど、言えなかった。
歩いてる人の中で私のことを知ってる人が一体何割いるの。全然知らない、単なる通行人Aとくらいしか認識してない人もいるんだろうな。別に知ってほしいわけじゃないから、それはそれでいいんだけど。
とにかく、今は誰にも会いたくない。…たまに友達が話してるストラウル跡地ってとこに行けば、誰にも会わないで済むかも。
「ここ、だよね。」
ここでお化け見た人がいるみたいだけど、これは出るって言われてもおかしくないかも。
1日くらいは一人きりで過ごせるかな?
「崎原くんだ。」
「!?」
宮藤先輩、あまり授業出てないってほんとだったんだ。
こんなボロボロで危なそうなとこ、誰も来ないと思ったのに。来たってことはそういうことなんだよね。
「ああ、先輩もミコトをいじめに来たんですね?」
「いやいやまったくの偶然だよ。崎原くんをいじめる?僕がそんなことするわけないじゃないか。」
「嘘つかないでください。いつもの変な発明品使ってつけてきたんですよね?ろくなもん作ってないだろうとは思ってたけど、こんなことに使うなんて最低ですよ。」
「僕が変態行為目的で発明してるみたいに言わないでよ。さすがに傷つくよ。」
「ミコトにもっと深い傷つけといて何が傷つくですか?先輩いつもそうですよね。研究第一で他の人のことなんか二の次ですよね。部活だって、ミコトが入らなかったらつぶれてたんですよね?恩人をないがしろですか、そうですか。」
「どうしちゃったの崎原くん、君そんなこと言う子じゃないのに。なんか変だよ。悩みとかあったら聞くけど?」
「…いです」
「え?」
「みんな、ミコトはどこも悪くないのに変なんて言って!!そんなにミコトをいじめたいの!?傷つけて楽しいの!?先輩なんか嫌い!!大嫌い!!あのロボットと同じように倒れちゃえ!!」
相手は、お世話になってる部活の先輩。攻撃するなんて普通はやらないけど
ミコトを苦しめる存在なら、つぶしちゃってもいいよね?
「…戦うしかないのかな。傷つけないようにするから、ごめんね。崎原くん。」
壊れた魔術師
35
:
(六x・)
:2012/03/10(土) 14:34:36
美琴がついに崩壊しました。そしてフラグ投げっぱなし 先輩についてはのちにキャラスレに投下します。
36
:
スゴロク
:2012/03/10(土) 15:16:10
「鴉と梧桐、それぞれの思惑」がどうしても引っかかったので。「セカンド・エンカウンター」の少しあと、「壊れた魔術師」の直前です。
(しかし……)
廊下を歩くクロウは、ポケットに突っ込んでいた手をだし、掴んでいたものを見た。そこにあったのは、皺だらけになった一枚の紙。アッシュことAS2への監視命令だ。
それだけなら納得はできるのだが、続く一文。「最悪の場合生死は問わない」。
これが問題だった。
(……警戒するのは当然だが、拙速にすぎないか?)
今の所、彼の行動はグループに対しての利益となっている。造り主であるジングウに関してもサヨリという監視がついてはいるが、特段敵対行為を取っているわけではない。
だからこそ、なぜアッシュを、彼だけをこうまで警戒するのかがクロウには理解できなかった。それならばむしろ、ジングウ自身をこのレベルで警戒すべきだろう。
歯車を自認するこの男はしかし、
(総帥の命令ならば、裏に何らかの意図があってのことなのだろうか……?)
その命令によって、彼に注目させようとしている。そう読んだ。絶対者たるホウオウの真意など、自分には関係がない。そうしろというなら、そうするだけのことだ。
それでも、理解できないものについて考えを巡らせることはある。
命令の意図は何か、あのアッシュという男に注目すべき何かがあるのか。
つらつら考えつつ、廊下を歩いていく。
と、
「ん?」
窓から覗いた学校前の通りを、見覚えのある顔が通り過ぎて行ったのが見えた。
(白波 アカネ……だったか)
今となっては何の意味もないことだが、UHラボの調査中に資料で顔を見たことがある。それとは別の機会にちらりと見たこともあるが、もはや関係はない。
(まあ、いい)
アッシュに対する不可解な命令。そこに何らかの意図があるのならば、いずれわかるだろう。そう考え、クロウは非常勤教師としての顔に戻りつつ、廊下を歩く。
家路についていたアカネは、先ほどまで話していた人物……笠村 夕陽と名乗った人物のことを思い出していた。
年に見合わぬ老成した喋り方と、性格。わざわざ話しかけたのは、ヴァイスを追い続けるシドウが何の目的で接触したのか、が知りたかったためだ。
しかし実際に話してみると、どうも夕陽の方から接触して来たらしいことがわかった。名前は言われなかったが、彼女(だと思う)の友人がヴァイスらしき男に拐かされたらしく、それについての話が聞きたかったのだとか。
(無茶はしないって言ってたから、大丈夫だとは思うけど)
中途半端にあの男に関われば、待っているのは死、あるいは破滅。どちらにせよ、終わりだ。
夕陽に関してはその心配はなくなった……とみていいだろう、恐らく。
「あら?」
ふと視線を投じた先に、アカネは見た。何やら、血相を変えて走っていくゲンブの姿を。
(最近見なかったけど……どこにいくのかしら)
彼女は知らないことだが、この時彼の前を「アルマ」こと一条寺 正人が疾走しており、こう言っていた。
「97.823%の確率で、ストラウル跡地で何かが起きています。しかも二つ」
関わらぬ者、急ぐ者
(急がせる原因)
(片方は既に解決した)
(片方は今まさに、始まっていた)
akiyakanさんより名前のみ「ジングウ」「アッシュ」「サヨリ」、えて子さんより名前のみ「笠村 夕陽」をお借りしました。時系列を見る限りでは「佑の日常系列」と美琴の一件が同時進行していると見えましたので。
37
:
十字メシア
:2012/03/10(土) 18:40:16
Akiyakanさんの『それは双角獣の甘言か、はたまた――』の続き。
Akiyakanさんから「AS2」お借りしました。
「………」
モブ子ちゃんはアイツから差し出された手を、見つめている。
「…」「それは」「千年王国に」「入れって意味?」
「さあ? 僕はただ、一緒にこの世界を嘲笑おうって言ってるだけだよ」
「……」
確かにそれも面白いかなー。
強者をまたいっぱい殺せるんだし☆
だーけーど。
「お前なんかと」「つるむ気は」「さらさらねーよ」「…あの害虫に」「よく似た笑顔を浮かべる」「お前なんかとな」
つかお前どっちかつーと強者だろ。
尚更嫌だね。
「…そうかな」
「あ?」
一瞬だけ無に近いような表情を浮かべたアイツ。
…何だ?
ま、モブ子ちゃんには関係ねーしー。
「とにかく」「弱者としての」「プライドもあるから」「お前とは」「つるまない」「それに」「モブ子ちゃんには」「友達も」「仲間も」「出来ねーよ」
「あれ? じゃあトキコちゃんとかは?」
「ケッ」「天の邪鬼が」「…守るべきものだよ」「そいつらは」
「ふーん…ん?」
あ?
何だよ?
と、突然アイツがモブ子ちゃんの左耳近くの髪を掴み上げた。
「ッ!」「何すんだテメェ―――」
「これ、何かな?」
「は―――」
そこでモブ子ちゃんは思い出した。
確か、左耳には…。
「随分と可愛いイヤリングつけてるね。確かコレ、ト音記号だっけ?」
「………」
「もしかして、過去に関係あったりする?」
「…は?」「知るかよ」「モブ子ちゃん」「昔の記憶」「消したし」
「消した?」
「何かさ」「嫌な事」「あったみたいで」「だから」「無かった事にした」
当然覚えてないからそこら辺が少し曖昧だけど。
「外さないの? それ」
「外す理由」「無いから」「つーか」「早く離せ」「スタンガン使うぞ」
「はいはい」
アイツの手が髪から離れた。
後で洗わないと。
多分あの害虫野郎の雑菌もついてるだろうし…。
「フラレちゃった事だし、そろそろ行くね」
「もう二度と来んな」「クソヤロー」「ウスワイヤの麒麟に」「倒されろ」「マジ死ね」
「……」
あ、怒ってる?
ははっ、ざまあみやがれ(笑)
「…じゃあまたね。自称弱者ちゃん」
「ハッ」「さっさと死ね☆(笑)」
あーウザかった。
後でトキコちゃんとこ行って、たくさんお喋りして、この記憶を忘れないと。
…あ、昔の記憶消した時と同じ事すればいいかな。
でも何か無限ループしそうだから自然忘却に任せよー。
弱者、甘言をはね除ける
―――外さないの? それ。
(そういや)(別につける理由も)(無いな)(…そもそも)
(何で)(いつから)(つけてんだろ?)
38
:
<削除>
:<削除>
<削除>
39
:
十字メシア
:2012/03/11(日) 01:34:57
>38
うお;
スレ違いすいません…
40
:
しらにゅい
:2012/03/11(日) 15:51:02
都シスイは激昂した、それは悲しみ故の怒りであっただろう。
彼が放課後にたまたまその光景を目にしてしまったのが、いけなかった。
体育館裏での、女子生徒による女子生徒への暴行。
その被害者は、あの張間みくであったのだ。
「―――――!!!!」
弾かれたようにシスイは走り出すと、一人の女子生徒の手を掴んで叫んだ。
生意気なのはどっちだよ、
一生懸命生きてる奴の邪魔してんじゃねぇよ、
同じ目に合わないと分からないようなら、やってやろうか!!
彼の知り合いであれば、普段温厚なシスイからは連想出来ぬ言葉であった。
加害者側の彼女達はシスイの剣幕に押されてか、短く悲鳴を上げると逃げ去っていった。
後に残されたのはシスイと、暴行を受けた後のみずぼらしい姿をしたみく。
そんな彼女の姿を見て、はっ、としたシスイは、声をかけようとしゃがんだ。
「おい、大丈夫…」
「ひっ!!」
みくはシスイを見るなり、そう悲鳴を上げると怯えるように後ずさんだ。
その時、シスイの胸がずきん、と痛んだ。
少し冷静になっていれば、あのような態度を取らなくても穏便に解決出来たかもしれない。
それなのに感情に動かされるまま言葉を発した時、自分はどんな表情をしていたのだろうか。
その答えが、今まさに彼女が取っている態度ではないだろうか。
「…ぁ、」
気が付けばシスイの目からは涙が零れ落ち、それは止まろうとせずどんどん溢れてきた。
泣きたいのは自分じゃない、目の前の彼女だろう、それなのに。
「くそ、っくそ…!」
締め付けられる胸の痛み、泣くことによる呼吸困難、そして、悔しさ。
それらに苦しめられたシスイは両手を地に付け俯き、泣いてしまったのであった。
「…」
そんな彼の様子を見て、張間みくは戸惑っていた。
自責の念が先行するよりも、先程恐ろしい様子で彼女らを責めていた彼が、
苦しんで泣いていることに戸惑っていたのだ。
それと同時に、彼を『可哀想』だと思ってしまったのであった。
見ず知らずの人に対し『可哀想』だと思うのは間違っているかもしれない、けれども、
なんとなくこの人は優しい人なんだろう、とみくには分かった。
そんな優しい人が、こんなことで心を痛めてしまっただなんて。
「………」
みくは意を決してシスイに近付くと、その背中を優しく摩った。
不思議と温かくて、いつものあのネガティブな気持ちはどこかへといってしまっていた。
「せんぱい…」
「…」
みくが名も知らぬ先輩の前に来てそう呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。
嬉しいのか、それとも申し訳ない気持ちが蘇ってきたのか、みくの視界も段々と歪んでいく。
喉にも涙が溜まっているようで、上手く声を発せられない。
駄目だ、ここで泣いては先輩をもっと悲しませてしまう。
先輩が欲しいのはきっと、ごめんなさい、でも、泣くことではない。
感謝を伝えなきゃ、救われてるってことを、ちゃんと伝えなきゃ。
そう思ってみくは涙を拭うと、精一杯の笑顔を浮かべて、シスイにこう言ったのであった。
「…ありがとう。」
臆病と麒麟
(その後、せきを切ったかのようにみくも泣き出した)
(シスイもまた、泣いた)
(数分後、ハヤトがその場に来るまで二人はただ、泣いていた)
(…だいじょうぶだよ、)
(あなたのおもいに、わたしはすくわれたから)
41
:
しらにゅい
:2012/03/11(日) 15:53:07
>>40
お借りしたのは都シスイ(akiyakanさん)、名前のみハヤト(鶯色さん)でした。
こちらからは張間みくです。
「リーグ・オブ・ジャスティス」の1シーンをみく視点で書かせて頂きました。
誰も恨めない優しい心持ちなシスイくんが、これで少しでも救われたら幸いです。
42
:
紅麗
:2012/03/11(日) 19:12:59
しらにゅいさんの「『力』無い者の話」に続きます。
スゴロクさんより「火波スザク」「火波アオイ」ヒトリメさんより「木上一炉」
名前のみakiyakanさんより「都シスイ」しらにゅいさんより「張間みく」「サヤカ」をお借りしました。
自宅からは「榛名 有依」「高嶺 利央兎」「榛名 譲」です。
――『夢』を奪われた、か。
そういえば俺の夢ってなんだろう、とユズリは考える。
友人と一緒に有名なサッカー選手になること?違う。
彼女を作ること?違ぇ、女を作ることなんかに興味ない。
(あれ…俺の夢って、なんだ………?)
こうやって、いざ真面目に考えるとなるとなかなか出てこないものである。
いじめの主犯、サヤカの両腕に巻かれた白い包帯を思い出した。
今こうして生徒たちは当たり前のように授業を受けているが
サヤカは、どうなのだろう。
今の自分のように自由にペンを持てて―――――
(ってなんで俺はあいつのことなんて考えてんだよ!)
そんな自分自身に苛立ち、
持っていたペンでノートにガリガリと意味もない曲線を描き八つ当たりする。
手に怪我をしたせいでピアノが弾けなくなってしまった、と彼女は語っていた。
ということは彼女の夢はピアニストになることだったのだろうか。
ピアニストにとって、手は命みたいなものだ。それぐらいはわかる。
だが―――『夢』を奪われた気持ち。夢をしっかりと持てていない彼にそれはわからない。
「ハルナー、この問題の答えはー?」
「0.50mol/L」
「はい正解っと」
力とはどういうことだろう。この教師や政治家なんかが持っている権力のことだろうか?
今授業をしている化学教師「木上一炉」は権力なんて気にしてなさそうだが。
それとも、ユズリが持っている「あの能力」のことなのか。それとも似たような何かか。それとも。
(あぁもうワケわかんねェ!!)
ぐしゃりとノートの端を握り潰した。
「石橋を叩いている暇がさっさと渡れ」な性格のユズリ。勿論、悩むことが大嫌いだ。
こうやってノートを強く握れるのも、自分が―――。
そもそも、これは自分が考えるようなことではないだろう。
あの時、張間みくをいじめていた奴らにつっかかったのだって、自分の為だ。
自分の為にやったんだ。目障りだったんだ。
あいつの為とか、そんなの気持ち悪くて。
なのに、なのに、どうしてこんな。
「………くそ…」
頭がこんがらがって、いつも以上に授業を受ける気になれなかったユズリは
そのまま机へと突っ伏してしまった。
43
:
紅麗
:2012/03/11(日) 19:17:27
同日、昼休み。
「姉貴」
「ん?何さ」
「いや…姉貴達は、いじめとかどう思う?」
「え……」
その日の昼休み。ユズリは姉、ユウイの元に訪れていた。
あまりべたべたと姉に引っ付かないユズリのことだ、姉と一緒に昼食をとるなんて今までなかった。
だからユズリが突然自分のところに来た時、ユウイは心底驚いた。一緒にいたリオトやアオイ、スザクも同じだった。
中でもアオイとスザクは最初、ユズリの姿を見て目を丸くしていた。後輩とは思えない背の高さ。目つき。
しかもそれが目の前にいる『榛名 有依』の『弟』ときたもんだから、驚かざるを得ない。
そして彼は誰のものかもわからない椅子に腰かけ。現在の会話に至るのだった。
「それは…してはいけないものだろう?醜いものだと僕は思うよ」
「私もですわ」
「いじめ、ねぇ…もしかしてあんたのクラスで起こってるのか?」
「あー、まぁ、ね。あんまり関わりたくないんだけどさ」
「……それってもしかして…「張間」とかいう?」
「なんだ、リオ兄知ってんの?」
「この前シスイの奴が色々起こしたって話を聞いた。…もしかしてそれと関係あるんじゃないかと思って」
「……シスイ?だれソレ」
「リオトやアオイやスザクのクラスメートだよ」
「ふーん…興味ねーや」
「「(じゃあ聞くなよ……)」」
ユズリの様子に、全員がため息をついた。
そこで姉、ユウイは自分の過去を思い出した。
確か、小学生の時だっただろうか。いじめとは言い難いが、嫌がらせを受けていたときがあった。
「足が遅い」だの「勉強できない」だの。一度だけだけど、上履きがなくなったこともあった。
たくさん泣いた。でも。それでも。
「…そうだよ」
「は?」
「ユズリ、その子の味方なんでしょ?」
「は、はぁああ―――――!!?」
「えっ、違うの?」
「ちっげーよ!!俺があいつの味方なわけねーじゃんか!!」
「でも、その子のことを気にしてるって時点で味方というか…心配してる証拠だろ」
「そそ、滅多に此処に来ないあんたが此処に来たぐらいなんだから、相当でしょ?」
「えぇー…え……そんな…そんなぁ…リオ兄まで…」
「おねーちゃん、ゆーちゃんがそういうこと考えられる子になったんだって安心したよー」
「ゆーちゃん言うな!!それと俺は味方とか…!!」
「あーもう、わかった、わかったよ。でも、ユズリ。その子のこと見捨てないであげてよ。
無理して話かけてやれなんて言わない。助けてやれなんて言わないからさ。そんなのただの同情だろ?
ただその子を心のどこかに置いておくだけでいいから。…それだけで、結構違うモンよ?」
それだけ言うと、ユウイはリオトを見てにこりと笑った。
突然笑みを向けられたリオトは顔を赤くし、持っていたパックのジュースを強く握ってしまい、机が悲惨なことになった。
ジュースが服にかかりそうになったスザクとアオイは同時に悲鳴を上げた。
一方、姉の話を聞いたユズリは。
「…姉貴、何言ってんのかサッパリわかんねぇ」
「あーそーですかすみませんねー」
ユウイは弟にそう言われてどこか恥ずかしそうな、それでいて怒ったようななんとも言い難い表情をして
自分の弁当の卵焼きを頬張る。「お、いただき」とユズリが姉の弁当箱からウインナーを奪った。
リオトはと言えば、机に零した飲み物を拭きながらユズリに向かって怒りのオーラを放っている。
そこで、「あ」とユズリが思い出したかのように声を上げた。
「な、姉貴。ついでだからリオ兄、スザク、アオイにも聞くけど…」
「(先輩呼び捨てかよ…)」
「みんな…『夢』ってあるか?」
『いじめ』と『夢』の話。
(有名なサッカー選手になること?)
(違う)
(彼女を作ること?)
(それも違う)
(…俺の夢って、一体何なんだろう)
44
:
柴犬
:2012/03/15(木) 10:39:18
今回はクレアサイドから…
<紫紺妖々、怨霊ノ穢>
「‥これは?」
蒼い瞳を持つ少女クレアは昼前の街を歩いていた。
先ほど、レナの家を後にしたばかりで、今日は特に活動を行わず、帰る予定だった。
しかし、その道のひしゃげた車、引きちぎられたガードレール、陥没したアスファルトを見ては、それを無視して通り過ぎる事は出来ない。
現場の様子から、この惨事を引き起こした者の力の凄まじさを感じ取る事が出来る。おそらくは超能力者の、それも並のレベルではない強力な超能力者の仕業だろう。
「赤城‥明夢か?」
クレアには一人だけ、この惨状を引き起こすに足る力を持つ超能力者に心当たりがある。
『衝撃の悪夢』を操る赤城明夢。
衝撃を反射し威力を増大させる彼女の拳は成人女性の約200倍の威力を持ち、あらゆる衝撃の向きを操る彼女なら、これ位の惨事を引き起こすのは容易いことだ。
「(何が、何が起ころうとしている‥?)」
赤城明夢はこのような事をするような人間では無いはずだ。と、クレアの中の記憶が告げる。
大が付くほどの善人で、優しいという印象しかない。
ーチリン
鈴の音が鳴った。
「誰?」
クレアが振り返るとそこには‥
「赤城明夢‥いや違う。誰‥?」
一瞬明夢に間違えそうな位明夢によく似た少女が闇から湧いて出たように立っていた。
明夢が少し幼くなったような顔つきと、純白の髪、黒い巫女装束。
と、よく見ると明夢とはやはり違う所がたくさんある。
だが、目の前の少女と明夢では、外見だけでない、もっと本質的な何かに大きな差違がある。
45
:
柴犬
:2012/03/15(木) 10:41:04
「‥お姉ちゃんは、元気?」
「!?」
少女らしい高く可愛らしいくも抑揚のない平坦な声で少女が言う。
「私は、赤城夜夢。お姉ちゃん以外の、赤城家での最後の生き残り。」
答えかねるクレアに、少女夜夢は更に告げる。
「君は‥明夢が話していた、行方不明になった妹か?」
「うん、そう。」
「私に聞くより、明夢に直接会えば良いのではないか?その方が、明夢も喜ぶはずだ。」
「‥ダメなの。」
クレアの意見に、夜夢は首を横に振る。
「私は、もう普通の人間じゃないから。」
彼女の背中からおもむろに深い藍色の花びらのような翼が6枚生える。
翼とは言うものの、滑らかな表面は莫大な情報データを持つクレアでもそれが何の物質でできているか、判別できない。
「一つはこれ。一度私は死んだの。これは『ナイトメアアナボリズム』って超能力。私の『物質の悪夢』は存在しないはずの性質を持つ物質を生み出して操る事。だから、あなたの情報データでは検出することは出来ないはず。もう一つは‥」
夜夢は巫女装束を少しはだけさせる。
その胸元に刻まれた刻印。
それは‥クレアにも刻まれている刻印だった。
「私はホウオウグループの一員だから、もうお姉ちゃんには会えない。お姉ちゃんは私を止めようとするから。でも、お姉ちゃんの事、少しだけ気になるから、あなたに聞いたの。」
「‥明夢は元気だ。気苦労は耐えないらしいが。」
「そう‥良かった。ならいいの。お話したい事は、それだけ。」
いつの間にか翼をしまった夜夢はクレアに背を向け、もと来た道を帰り始める。
「ああ、そうだ。クレアお姉ちゃん。」
途中でふと何かを思い出したかのように夜夢は立ち止まり、振り返る。
「何?」
「あなたは、元々ホウオウグループに創られた存在だから。」
46
:
柴犬
:2012/03/15(木) 10:44:00
>>44
今回はキャラ登場回です。
クレアサイドと神社サイドのお話に重なりを持たせようとしての1本です。
47
:
(六x・)
:2012/03/16(金) 01:45:25
「壊れた魔術師」の直後のお話です。
ストラウル跡地、黒いゴスロリ服の少女と白衣の少年が戦っていた。
「…、………!」
何かわけのわからない呪文のようなものを呟きながら、美琴は黒い星を撃ち続ける。
「崎原くんが戦うなんて、誤算どころか超想定外だよ。女の子だし傷つけたらまずいよね、あー厄介だなぁ。」
白衣から銃を取り出し、青いパーツを付ける。5属性の中では一番安全だと思われる水弾を撃ったが、すべて黒い星に弾き返された。
「水はダメか。火ならどうかな?」
パーツを赤に換えて炎の弾を撃つも、星が集まって美琴の盾になり防がれてしまった。
「火でもないのか…」
緑と茶のパーツも試したが、どちらも星弾に防がれてしまった。残るは黄色のパーツのみ。―一哉の使用する弾の中で最高の威力を誇り、標的に当たるまで消滅しない最高傑作『ホーミングボルト』
「4つも封じられたのは初めてだよ、でもこれはどうかな!?」
電気の弾が飛んでいく。だが、美琴はどこまでも冷静だった。
「ホーミングですか、それならミコトだって負けないです。」
走りながらタクトを振って星弾幕を展開する。電撃弾は星弾に当たって威力を削がれ、美琴に当たる前にすべて消滅した。
「そんな、僕の発明が…ぐあっっ!!!」
5属性すべてを封じられて絶望する一哉に大量の星弾が直撃し、そのまま壁に叩きつけられた。
「く…っ」
「先輩、もう終わりですか?」
美琴が笑いながら近づき、一哉の額にタクトの先端を当て言った。
「このまま最大出力で飛ばしたら、先輩の頭どうなっちゃうんでしょうね?ぱーんってなっちゃうですか?うふふっ。」
「さ、崎原くん…」
「簡単に壊れちゃったらつまんないですよ?ねえ、せんぱい?」
「……っ」
ブラックスター×ファイブエレメント
48
:
(六x・)
:2012/03/16(金) 01:51:49
美琴VS一哉。相変わらずバトル書くの苦手杉わろえない・・・
あ、一哉は死んでないです。
スゴロクさんの「関わらぬ者、急ぐ者」につながってます。フラグパス回し
49
:
スゴロク
:2012/03/16(金) 12:47:40
>(六x・)さん
では、拾わせていただきます。
「ぉおおっ!」
「っ!」
上から聞こえてきた声に、咄嗟、バックステップで後退する美琴。数瞬の後、さっきまで立っていた場所に人が降ってきた。片膝を立てて衝撃を殺し、ゆっくりと立ち上がったそれは、ニット帽にサングラスという怪しい風体の男。
アースセイバー特別調査員。IUCチーム監督官補佐。
コードネーム「アルマ」こと、一条寺 正人。
無論、美琴はそんなことは知らない。
「……誰、ですか」
「………」
無言。しばしの後、アルマ……正人は、美琴に向けて静かにこう言った。
「何をしている?」
「………」
突然の質問に、一瞬思考が停止する。だがそれも束の間、
「宮藤先輩が、ミコトをいじめに来たから。潰しちゃっても、構わないよね?」
「看過できん。止めさせてもらう」
返答は即座に、そして無機質に。美琴の表情が一瞬、呆けたようになり、そしてふっ、とそこに笑みが浮かぶ。
明らかな、狂気に類する笑みが。
「………そっ、か。誰だか知らないですけど、あなたもミコトが邪魔なんですね」
「何を言っている……?」
前後が繋がらない言葉に、正人は無機質を装った表情の裏で当惑する。しかし、事態はそれに集中することを許さない。
「ミコトをいじめる……苦しめる……みんな……みんな、消えちゃえっ!!」
瞬間、無数の黒い星型が虚空に現れ、正人目がけて降り注ぐ。回避行動をとろうとした正人は、星がわずかに動くのを見て直感した。
(誘導!!)
こちらを追尾してくるタイプだ。回避は不可能。
半秒かからずに結論した正人は、自ら前に飛び出す。一歩、二歩。そこで不意に地を蹴り、左へと横っ飛ぶ。そこにあった一発が左肩を直撃する。
「く!」
だが、それで詰むほど柔ではない。追尾して来たもののうち、一発を強引に蹴り返す。機動を狂わされたその一発が廻りの星弾を巻き込み、誘爆して消えた。
「!」
「……思ったよりやるようだな」
アースセイバーの協力者として名前は聞いていたが、この攻撃密度はさすがの一言だ。
とりあえず、まともに当たるのは無理だ。説得は……この状態ではそもそも不可能だろう。
予想以上の長丁場になることを、正人は予感していた。
「アルマを苦戦させるか……全く、子供というのは本当に手に負えんな」
後方にいたゲンブは、宮藤というらしいその少年に肩を貸し、アルマが美琴を
引き付ける間に離脱を試みていた。
「立てるか? とりあえず、ここから逃げるぞ」
「! ま、待って……まだ……」
「……一応言っておくが、説得は無理だ。崎原を変えた元凶を突き止め、それをどうにかした上でなければ事態は進まん」
冷徹にも聞こえる口調でゲンブは言い切り、ちらりと戦いを一瞥すると、少なくともここから離れなければならん、と一哉に言い聞かせながら少しずつ距離を取り始めた。
50
:
スゴロク
:2012/03/16(金) 12:48:13
美琴を相手取る正人は、彼女の予想以上の対応力に内心舌を巻いていた。
能力そのものは、タクトを振って星弾を撃ち出すというだけの単純なものだが、その特性をフル活用してスキを補っている。単射、連射、弾幕、誘導……主にはその四つだが、それらを複雑に組み合わせてこちらを近づけさせない。
(くそっ、思った以上どころか、これは……)
想定外、だった。不信と敵意に染められた心。そこから放たれる攻撃は、記録にある彼女本来のものとは異なり、攻撃力・硬度ともに一線級に達していた。
武器を持たず、接近戦特化の正人には、相性が悪すぎた。回避に徹し―――徹せざるを得ない―――、ダメージを抑えてはいるが、たまに混じる誘導弾が少しずつ削ってくる。
このままでは美琴を止めるどころか、こちらがやられてしまう。
(……仕方がない)
思い、何度目かの弾幕から逃れた正人は、背筋を伸ばして切り札を切る。
それは、彼の能力の応用……「コントロールソート」。
自らの神経系統をハッキングし、思考を直接行動に反映する。準備が整ったのと、次の一撃が来たのはほぼ同時だった。
(今だッ!)
「え!?」
不意に、正人の姿が消えた。一瞬前までいた場所に、連射された星弾がさく裂する。今までとは比べ物にならない速度、そして反応。突然の事態に、美琴も一瞬手が止まる。そして、今の正人はそれを見逃さない。
(とった!)
一撃で意識を刈り取り、然るべき場所で事情を聴く。それが狙いだった。
が、
「なっ!?」
繰り出した手刀は、不意に現れた黒い星弾が盾となって阻んでいた。
――コントロールソートの長所は、思考が即座に行動に反映されることだが、逆もまた然り。
不意を打たれて狼狽した正人の体は、思考の空白と混乱をそのまま反映して固まってしまっていた。
―――そして、こんな至近距離で隙を見せれば、美琴もそれを逃さない。
「うおおおおおおッ!!!!?」
ほとんどゼロ距離から放たれた星弾の弾幕……それを全弾まともに喰らい、強風にあおられた傘のように吹き飛ぶ。瓦礫の山に激突した正人は、崩れてきたそれらの下敷きになってしまった。
「アルマッ!!」
ゲンブが叫ぶ。が、それが命取り。振り向いた美琴の、感情を映さない瞳がそちらを捉え、タクトを振り向ける。黒い星弾の雨が降り注ぎ、襲い掛かる。ゲンブに出来たのは、とっさに抱えていた一哉を瓦礫の影、美琴から見て全くの死角である場所に放り出すことだけだった。
(……何やら、マズイ状況になって来ましたねぇ……)
同時刻。警官に扮していたヴァイスは、先ほどからこちらを見つめている四つの視線を気にかけていた。明らかに、こちらに対して敵意を持っていることがわかる。
マスクをつけた者、蛇のような仮面をつけた者を含む3人と、離れたところからこちらを伺っている一人。
(さて、どうしたものですかね)
下手に動けば騒ぎになる。それは別にどうでもいいのだが、野次馬が集まると逃げにくくなる。この力は一度に一人にしかかけられない上、乱発が出来ないという弱点を抱えている。
どうしたものかとヴァイスが悩んでいると、
「おーい、そろそろ交代の時間だぞ」
後ろから別の警官が声をかけてきた。
「! そんな時間か……」
「ああ、お前はパトロールだな。そこの方達は俺が話聞いとくから、行って来いよ」
「……では、そうさせてもらおう」
言うと、ヴァイスは速足でその場を去った。3人組もその後を、少し離れて追う。
(さて……)
「ん? ありゃ……」
その頃、こちらは流也達。マナの案内に従い、交番を目指していた一同は、その交番を離れていく3人組の後ろ姿を捉えていた。
「マナ、その変な人達って、あいつらか?」
「そうよ。……多分、あの男を追っていったんだと思う」
星の問いにそう答えたマナは、ちらりと後ろを振り返る。ミナミ、海念、冬也、司……表情はいろいろだが、共通しているのは焦りにも似た感情。
(急がないと……)
美琴という人が、完全に壊れてしまう前に。
敵意は星の瞬きと
(次なる、交錯)
(そこが、ターニング・ポイント)
(六x・)さんより「崎原 美琴」「宮藤 一哉」名前のみ「ミナミ」「海念」「空橋 冬也」「不動 司」、クラベスさんより「天河 星」名前も出てませんが「日出 太陽」、十字メシアさんより名前も出てませんが「帯人 コハク」「尓胡」「シザキ」をお借りしました。
51
:
十字メシア
:2012/03/17(土) 18:54:25
>スゴロクさん
ツバメ叔母さんは絵本作家という事ですが、文だけ書いてるんですか? それとも絵も?
52
:
スゴロク
:2012/03/17(土) 19:04:51
>十字メシアさん
はい、絵も描いています。
53
:
十字メシア
:2012/03/17(土) 20:27:17
お待たせしました;
スゴロクさんの続きで、海猫達の視点ありです。
スゴロクさんから「ヴァイス」「赤銅 理人」、えて子さんから「我孫子 佑」をお借りしました。
−ストラウル跡地−
「…?」
パニッシャーを全て破壊し、理人と少し会話をしていた海猫は、どこからか何かが崩れた音が響いたのを耳にした。
「どーしたの?」
「あ、いや…」
頬をかく海猫。
(また誰かが襲われてんのかな…)
もしそうだとしたら、守人として放っておく訳にはいかない。
そう思った海猫は車椅子の方向を変える。
「海猫?」
「悪いけど、しばらくどっかで待ってて。必ず戻るから」
「え、ちょ―――」
「佑をよろしくね!」
理人の言葉を待たず、海猫は車椅子を走らせどこかへ去っていった。
(困ったなー…)
しかしどうする事も出来ないので、とりあえず一角のビルの中で海猫を待つ事にした。
−いかせのごれ某所−
(くっ…)
先程の三人組から逃げるべく、交番から離れたヴァイス。
しかしそう簡単に見逃す訳もなく、三人組は彼の後を追いかける。
路地裏に逃げ込む、と。
「―――!」
三人組の内、面をつけた少女―――今は狼を模した面をつけている―――が壁をハイスピードで掛け、ヴァイスの前に回り込んだ。
よく見ると所々に茶色の毛が生え、耳が犬のそれに変化している。
後ろにいる、マスクをつけた少年が言った。
「お前がヴァイスだな?」
「…もしそうだとしたら、どうするんです?」
「お前を『始末』するのサ!」
少女が駆け出した。
鋭く伸びた爪をヴァイスに向ける。
だがヴァイスはそれを容易く避けた。
「おやおや、物騒な」
「お前が言うかねえ」
「!」
見上げると、この二人といた水色の髪の青年が宙に浮く銀の鉄柱の上に乗り、それより短い数本の鉄柱をヴァイスに向かって落としてきた。
「…ッ!」
避けるヴァイスだが、最後の一本が彼の頬を掠った。
すると今度は白い布の様なものが飛び交う。
「これは…包帯!?」
「ただの包帯ではないぞ」
それらを操ってるらしいマスクの少年が言った。
彼の言葉通り、包帯が当たった所には傷が出来たり切断されたりしている。
(包帯が刃物の様になってるのか…)
初対面である事もあり、苦戦を強いられつつあるヴァイス。
だが一つだけ策がある。
(この三人組がチームを組んでるのは間違いない)
ならば当然、そこには『繋がり』がある筈。
ニヤリと笑うと、ヴァイスは懐からナイフを取り出し、少年に向かって放った。
少年はそれを避け、包帯を手放すとそれに乗り、滑走するかの如くヴァイスの方へ駆けていく。
跳躍し、蹴りを入れようとしたその時。
ガシッ!
「! しまっ……ぐおっ!!」
足を掴まれ、壁に強く叩き付けられた。
その衝撃で体を起こすのに手間取る少年。
ヴァイスは彼の服の襟を掴み、マニピュレイトを発動する。
その途端、少年が脱力した様な態を見せた。
「お前! コハクに何をしたのサ!?」
「…その目で確かめてみては?」
と、襟から手を離す。
すると。
54
:
十字メシア
:2012/03/17(土) 20:35:05
シュバァアッ!
『!?』
コハク、と呼ばれた彼の包帯が仲間の二人に牙を向けた。
突然の事に驚きながらも二人は何とかそれを避ける。
「コハク!? どうしたのサ!?」
「まさか…マニピュレイトを!?」
「ご名答。さあ、どう戦うのでしょうかねえ」
「卑怯者!!!」
「何とでも言いなさい。それよりホラ、後ろに」
「!」
少女が振り返った先には、無機質な目で包帯を振るうコハクの姿が。
「コハク…わっ!」
「何ボケッとしてるんだ尓胡!」
「ご、ごめん…」
仲間の青年に助けられた少女、尓胡は涙を目に溜めている。
「シザキ、どうしよう…」
「泣いたって何の解決にもならないだろう!」
「じゃあどうしろって言うのサ!?」
「お喋りしてる暇はありませんよ」
『ッ!』
再び襲ってきた包帯を避ける二人。
そこでシザキと呼ばれた青年が、ヴァイスに向かって鉄柱を飛ばした。
が。
「な…ッ!」
鉄柱がヴァイスを貫く前に、包帯がそれを切り刻んだ。
「くそ、こいつを狙っても駄目か…ッ!」
「コハク…」
未だ涙を目に溜めている尓胡はコハクの顔を見つめる。
と。
「…?」
「…尓胡? どうしたんだい?」
「………何だ、そういう事か」
「え?」
「ごめんコハク…早く気付くべきだったサ!」
包帯に飛び乗り、コハクの元へ走り出す尓胡。
攻撃を避け、彼の元に辿り着くと―――。
ザシュッ!
「!?」
「な…?」
尓胡の爪がコハクの喉元を切り裂いた。
だが次の瞬間。
コハクの姿が人の形をした包帯へと変わった。
55
:
十字メシア
:2012/03/17(土) 20:39:05
「み…身代わり!? いつの間に―――」
「全く…いつまで待たす気なんだと思ったぞ」
「!」
ナイフを手にし振り返るヴァイス。
だが反応が遅かったか、包帯の攻撃を喰らってしまった。
「ぐ…ッ!」
「さて、殺すべきだろうが…白波からの依頼の事もある。捕縛に留めておこう」
「白波…白波 シドウの事ですか?」
「ああ、そうだ…ん?」
「…花弁、サ?」
視界に入ってきたのは、水色の花弁だった。
と。
「…何か、ねむ、くなって…き……た…サ…」
「尓…胡、何寝ちゃっ…てる…んだ……い…」
「まさ、か…仲間、が…………」
その場に眠り込む三人。
それを見たヴァイスは安堵の息をついた。
「助けを求めた覚えはありませんが…まあ感謝します」
「………」
物影から喪服を着た少女が現れる。
「確か名前は…澪でしたっけ。あのフード男のパートナーを務めている…」
「……うん」
「……何故怯えるんです?」
5mは離れた物影で微かに震えている澪に呆れるヴァイス。
「ごめんなさい………大人とか、背の高い人…苦手だから……ごめんなさい」
「…まあいいです。とりあえずこの場から去りましょうか」
依頼失敗
−いかせのごれ郊外−
「ひーまひーまー…仕事来ないかな」
プルルルル…
「んあ、電話だ。…はーいもしもし」
『どうも、周です』
「あーどうも周さん。仕事?」
『はい。本の挿し絵を描いて欲しいと』
「あーはいはい。て事は文はあるの?」
『出来てなかったら電話してません』
「あははーそりゃそーだ。じゃあファックス宜しくねー」
『分かりました、ナナさん』
「ちょっと、その名前は捨てたんだってば」
『あ、すいません…』
「…過去のウチなんて、恥でしかないんだから」
『………』
「とにかく、今のウチは―――
”J.J(ジェーン=ジェナ)”なの。分かった?」
56
:
YAMA
:2012/03/18(日) 21:38:32
どうもYAMAです。「以来失敗」から続かせていただきます。
お借りしたのはスゴロクさんからヴァイス君、十字メシアさんから澪ちゃんです。
これといった動きがないのでたぶん今回つまらないです
おまけで澪ちゃんにいやされてください
〜いかせごれ・森奧の一軒家〜
真昼でも日の光が差さない森の中
そこに場違いなようにその家は建っていた
森を横切りその家に向かっているのは
喪服の少女とコートの男
喪服の少女、澪がその家の扉を開いた
「ただいま、ジェスター。」
澪が呼んだこの家の主は奧に腰掛けていた
「あぁ、・・・おかえり・・澪。それと・・・」
暖かい家の中だというのに黄色いローブを着込んだ
この家の主、ジェスターは澪の奥の方に目をやった
「いらっしゃい・・・で・・いいのかな・・・ヴァイス・シュヴァルツ」
「あぁ、ところでこの森、えらく重々しい空気ですね。」
「死をため込んでいますからね。」
「なるほど、ところでこの子にボクを助けさせたのは君かい?」
「違う・・・よ・・おいで・・澪」
ジェスターのとなりへすり寄る澪
そんな澪の頭をなでながらジェスターは続けた
「この子は・・・未だ『人間であること』を・・・捨てていない
まぁ・・・君を助けたって言うことは・・・きみを仲間だと認めてるんじゃ・・・ないかな」
「それはどうも」
「あぁ・・・そうだ・・・ピエロからきみに・・・プレゼントだそうだ」
ジェスターは持っていた『カード』をヴァイスに投げた
漆黒の染まったカードにはNo6と透かしが入っていた
「なんです、これは?」
「『ヤミマガイの種』・・・それを破ることで君は・・・ヤミマガイの
・・・特殊能力を手に入れることができる・・・ヤミマガイの特殊能力は
・・・『集会所のカギ』にもなっているから」
「ふむ、受け取るだけ受け取っておきます。」
「もう・・・お帰りなさい・・・此の森は・・・長くとどまる場所じゃぁない」
「そうさせていただくよ。・・・色々とお世話になりましたね、お嬢さん。礼を言いますよ。」
「・・・・・・」
「では」
最後にそう告げ、ヴァイスは家をあとにした
57
:
名無しさん
:2012/03/18(日) 21:39:26
おまけ
「お疲れさま・・・澪」
傍らの少女に向けてジェスターは語りかけた
「・・・うん」
「疲れただろう・・・今日は早めに・・・休みなさい」
「うん」
(きゅううぅぅ)
少女のお腹からかわいい音が鳴った
「//////」
ジェスターはもう一度傍らの少女をなで
「そういえば・・・今夜の夕食の・・・買い物を頼んだんだったね
こんやは・・・野菜のスープでも作ろうか」
そう言ってジェスターは台所に向かっていったのだった
58
:
YAMA
:2012/03/18(日) 21:45:44
タイトル忘れてました「白き闇と死を背負うモノ」
59
:
えて子
:2012/03/19(月) 22:28:52
「依頼失敗」から続きます。ちょっと短いですが。
スゴロクさんより「赤銅 理人」さん、名前のみ十字メシアさんより「角枚 海猫」さんをお借りしました。
海猫が去って少しした後のこと。
「………ん……」
頭に残る鈍い痛みで、佑は目を覚ました。
寝かされていたらしい。冷たいコンクリートで背中が痛かった。
「おー、気ーがついたーみたいだねーえ」
「理人…さん。……ここは?」
「跡地ーのビルん中ーだーよ」
「はあ…」
ぼんやりと返しながら、上体を起こす。
そのまま辺りを見回してみると、確かに何処かのビルの一室のようだ。
「理人さん、あの……あいつらは?」
「あいつら?」
「あの、機械兵です。何かたくさん出てきた…」
「……あー、あいーつらかー」
理人は考えるように軽く頭をかき、それから答えた。
「あんーたの友達ーが、ぜーんぶやっつけたーよー」
「……友達?」
怪訝そうな顔をしたが、ずきずきと痛む頭に表情が強張る。
無意識のうちに頭を抱えると、理人の心配そうな声が聞こえてきた。
「……大丈ー夫かーい?」
「は、はい……。何とか…」
「どーせあのー子に、待ってろーって言われたーんだ。少ーし休ーんでなー」
「………はい…」
近くの崩れかけた壁に寄りかかると、深く息を吐く。
理人の言う「友達」が誰なのかは分からないが、そのうち戻ってくるのだろう。
今は休むことに決め、佑は再び目を閉じた。
休息
「……寝れない…」
「…あーんがい図太ーいんだねー」
60
:
クラベス
:2012/03/22(木) 16:22:50
ここには初投稿になります。「依頼失敗」を拾ってますが、時系列大丈夫ですよね?;
スゴロクさんより「水波 ゲンブ」「アルマ」「ヴァイス」「霧波 流也」「夜波 マナ」、(六x・)さんより「ミナミ」「不動 司」「海念」「崎原 美琴」、名前は出てませんが十字メシアさんより「帯人 コハク」「尓胡」「シザキ」をお借りしました。
「…やっぱだめだ。つながんねぇ…。」
闊歩の後ろで携帯を耳にあてていた由衣は、舌打ちをひとつしながらそれを閉じた。
つい今しがたから闊歩の報告を兼ねてゲンブに電話をかけているのだが、一向に出る気配がない。かれこれ数十分がたっている。ウスワイヤにもいなかった。
何かの用事で出ているのならいいのだが、由衣は妙な胸騒ぎを抑えられずにいたのだ。
動かないよりは捜しに出よう。そう闊歩に提案した。
今現在、闊歩の運転するスクーターに由衣が乗って走っている。
「アルマさんは諸事情を明かすわけにはいかないって、連絡先も何も教えてくれなかったからね。」
「時折電波が途切れるみたいだ。この近くでそんなに繋がりの悪いところあったか?」
「今時、地下にも繋がるんだしそんな…あ。」
少し首をひねっていた闊歩が、不意に思いついた。
「スト跡地は?あそこ殆どぼろぼろで、電柱に電線が通ってなかった。」
「可能性はあるかもしれねぇな…。飛ばすぞ、闊歩!ただし制限速度は守れよ!」
「了解。」
加速するスクーターは、退廃した跡地へと向かっていった。
「…おい、ヴァイスの奴、どこにいったんだ…?」
同刻、ヴァイスを追っていた一行はストラウル跡地にたどり着いて、件の男を見失っていた。
「ここにきて見逃したようですね…。」
「なんだよ、こっちはもたもたしてられないのに!」
「ん?ねぇ、星。」
遠くで何かを発見したミナミは、星の肩をつつく。
「あそこ…、誰か倒れてない?」
そこを見た星は、絶句した。
「おい、あれ、ヴァイスを追ってた3人組じゃねぇの!?」
その声にはじかれるように、全員の視線が集中した。
確かにそこにいたのは、先程まで自分たちの前でヴァイスを追っていた3人。
変わった風貌なのだ。間違うはずがない。
「おい、大丈夫か!」
真っ先に駆け寄った星は、3人をゆする。
目覚める気配はないが、息はある。命に別条はなさそうだった。
「完全に見失ったようね。」
静かにマナは言う。司は唇を噛み締めた。
流也は首を横に振る。
「見失っちまったらまた捜すのは大変だ。どうする、姐さん?」
「…ターゲットを変更しよう。ヴァイスを追うのも大概だが、今は先に探さなきゃいけない奴がいる。」
「美琴のことか?」
司の言葉に、星は頷いた。
「随分と時間をくっちまった。先に美琴の安全を確保し、話を聞くべきだと私は思う。」
「しかし、状態がわからない以上…。」
海念が続けようとしたその時。
そう遠くない位置から聞こえた爆発音。続く、瓦礫の落ちる音。
全員が一様に目を合わせ、ひとつ頷いた。
気絶してる3人を抱え、彼らはその音が響いた場所にむかった。
ダブル・ニア・エンカウント
一行は諸事情を知らず
一行は諸事情に焦る。
61
:
スゴロク
:2012/03/22(木) 22:34:47
クラベスさんの「ダブル・ニア・エンカウント」と十字メシアさんの「依頼失敗」に続きます。少々短めです。
―――少々、時間をさかのぼる。美琴が去ってから、程なくのことだ。
何たることだ。それが、ゲンブの偽りない本音だった。
アルマの予測に従って訪れたストラウル跡地で、協力者である崎原 美琴が暴走していた。アルマが確保にかかったものの、予想を上回る対応力でノックアウトされ、自身も追撃で少なからぬ負傷を負った。命にかかわるほどではないが、戦うのは難しかった。向こうでは瓦礫の中から這い出したアルマが、立ち上がって頭を振っている。こちらもそこかしこに負傷が見られ、やはり本格的に動くのは難しいと見えた。
だが、問題はそこではない。
「なぜ、こんなところにお前がいる……!?」
「なぜも何も、グーゼンだよ、グーゼン。たまにゃ仕事しねぇと、鴉がカーカーうるせぇんでね」
3対6本、そのすべてに、エンブレムを刻んだ剣を装備した腕。赤い傷跡を無数に走らせた顔。ゆるりと歩むその異形、対照的に悠然とした佇まいは戦の神の似姿か。
スキュアロウ・バルカンチ。ホウオウグループの中でも、単純な戦闘力なら最強と言われる危険人物が、そこにいた。本来の得手は水中戦らしいが、陸であってもその力は衰えない。それは、以前のブラストルの一件で、シスイとスザクを圧倒した事実から鑑みても間違いない。
「つっても何すりゃいいのか見当もつかなかったんだが……コイツぁチャンスって奴だな。キヒヒ……」
傷だらけの顔で、異形の男は嗤う。
「普通にてめぇとぶつかりゃ、俺でもさすがに手こずったが……そんだけボロボロなら楽なもんだ」
(まずい……)
まずいどころではなかった。スキュアロウの戦闘力は尋常ではない。戦闘に秀でた聖や光一であっても、単独では絶対に勝てない。勝てるとすれば、ゲンブが思い当たるのは二人。一人は他ならぬホウオウその人。そしてもう一人は、かつて模擬戦で完敗を喫した時の相手。
「頭を潰しゃそれで終わりだ、痛みを感じるヒマもねぇ。安心して地獄に逝きなっ!!」
(ちぃっ!!)
獣の如き瞬発力で、スキュアロウはゲンブに襲い掛かる。六つの刀身が閃き、命を刈る牙となって迫る。
だが、それらの一本として、ゲンブを貫くことはなかった。なぜなら、
「!? ごはぁぁっ!」
突如として起こった連続爆発が、スキュアロウを明後日の方向に吹っ飛ばしたからだ。
(!?)
「が、誰、だ!?」
痛む体を押してゲンブが、立ち上がりながらスキュアロウが目を向けた先に立っていたのは、浴衣姿の女性。腰まで届く美しい黒髪を靡かせた彼女は、問いには答えずスキュアロウに手をかざす。
瞬間、またしても連続爆発が起こり、立ち上がったばかりのスキュアロウを地に這わせていた。
「全くの偶然でしたけど、目にした以上放っても置けませんわ」
「てめぇ……」
62
:
スゴロク
:2012/03/22(木) 22:35:20
女性にターゲットを変更したのか、スキュアロウの目がぎらりと光る。が、地を蹴ろうと一歩を踏み出した瞬間だ。
「!?」
危機感に駆られ、その足で後方に飛び退る。直後、今踏んでいた地面が切り裂かれた。もしあのまま飛びかかっていたら、頭と足がさようならをするところだった。
「っ、今度はなんだ!?」
思うように進まない事態にイラつくスキュアロウが見たのは、瓦礫の上に佇む少年。背丈も顔立ちも極々平凡なその少年だったが、彼があの斬撃を何らかの方法で放ったのは疑いない。
「チッ、どいつもこいつも邪魔ぁしゃあがってよ……」
明らかに苛立つスキュアロウから、明確な殺気が発せられる。女性も少年も少なからず怯んだようだったが、そちらをじろりと一瞥し、異形の男は言う。
「……向こうからも来てやがるな。しゃあねえ、ここは退いてやるぜ。命拾いしたな、ガメラさんよ」
言い捨て、スキュアロウは跡地を横断してその場を去った。
残された4人のうち、ゲンブがぼそりという。
「……誰がガメラだ」
それから最初に言葉を発したのは、何とか調子を回復したアルマだった。
「とりあえず、礼を言う。名前を聞いてもいいだろうか?」
まずそれに応じたのは、浴衣姿の女性。
「ええ。わたくしは『シスイ』と申します」
「シスイ?」
「あら、ご存じですの?」
「や……知り合いに、同じ名前の者がいるので」
そう言われ、シスイと名乗った女性は「そういえば」と何事か思い出すように首をかしげた。黒髪が、さらりと揺れる。
「以前、ルナと旅行に行った時にもそんなお話を聞きましたわね」
「旅行……」
もしや、俺の株が大暴落したあの時か? などと思いつつ、何とか立ち上がれるまでに回復したゲンブが、未だ瓦礫の上の少年に目を向ける。
「それで、お前は? 学生か?」
「はあ。『ザルク・ゼドーク』と言います。いかせのごれ高の学生です」
「ふむ……わかった。ともあれ助かった、礼を言おう」
「いや、俺は……うぉおおっ!?」
それは突然のことだった。ザルクの立っていた瓦礫の山……その下の方がぐらついていたのだが、それが遂に限界を迎え、爆発のような派手な音を立てて弾けた。
3人が思わず身を庇った直後、瓦礫の山はザルクを乗せたまま、轟音を立てて崩壊した。
「うおっ!?」
「ザ、ザルクさん? ご無事ですか?」
「げほっ、何とか……いてて」
シスイの呼びかけに返事。濛々と立ち上る土煙の中から、手で口と鼻を覆いつつザルクが出てくる。
「良かった、無事だったか」
「最近なんかついてないなぁ……この間も財布落としたし……」
ぶつぶつと呟くザルク。どうやら怪我はないようだ。
「やれやれ、ヒヤリとさせてくれる。……ともあれアルマ。美琴の件だが……」
「解析は出来ましたが……結果は芳しくありません。少なくとも、説得は現状不可能ですね。もう少し手を考えなければ……」
若干焦るゲンブだったが、アルマは冷静に応じる。
「そうか……」
「ともかく、この場では何も進展しません。元凶は大方見当がつきましたが、そちらについても詳しく説明をする必要があります」
「わかった。……お前達二人は家に帰るといい。ここを出るまで送ろう」
「はい……わかりました。それでは、お願いしますわ」
「ありが……」
シスイに続いてザルクが礼を言おうとした時だった。入口に近い方から車いすの少女が猛スピードで突っ込んで来たのと、別の方向から何やら大人数がやって来たのと、バイクの音が聞こえてきたのは。
トリプル・エンカウンター
「……おーい、佑ー、起きろー」
「……ふぁ、はいっ?」
「何かさーわがしいからさー、とーりあえず跡地を出ーるぞー」
「は、はい」
「さーっきの人には……俺ーの携帯貸すかーら、後で連絡しーときなー」
(そして、同じころ)
(道化師と少女が、跡地を去って行った)
アルファルグ・フォーデスさんより「スキュアロウ・バルカンチ」、白銀天使さんより「シスイ」、445さんより「ザルク・ゼドーク」、十字メシアさんより「我孫子 佑」、名前が出てませんが「角枚 海猫」、名前のみ想像者さんから「闇野 光一」「ルナ・ブルーフィールド」、akiyakanさんから「都シスイ」、兵器を名前のみ「ブラストル」をお借りしました。
63
:
えて子
:2012/03/30(金) 22:04:37
「トリプル・エンカウンター」の続きです。最後、ちょっと投げました。
スゴロクさんから「赤銅 理人」さん、十字メシアさんより「角枚 海猫」さん、クラベスさんより名前のみ「日出 太陽」さんをお借りしました。
跡地を出た佑と理人は、近くの公園にいた。
ベンチに腰掛けて、ほっと一息をつく。
「…体調ーはどーうだいー?」
「まだ少し頭は痛いけど…さっきよりは、だいぶいいです」
理人の問いに答えると、俯いていた顔を上げた。
日も落ちかけて、空が綺麗なコントラストになっている。
「ほーれ」
「?」
不意に携帯を投げられ、驚いたように目を丸くする。
「さーっき携帯貸すーって言ーったろー。それーでお友ー達にー連絡しなー」
「あ…はい。どうもありがとうございます…」
納得したように頷くと、番号を入力しようとしてふと気がついた。
佑は理人から「自分の友人が機械兵を倒した」ということは聞いたが、その友人が「誰か」までは聞いていない。
「………理人さん」
「んー?」
「その、さっき言ってた私の友達って…名前、言いましたか?」
「あ?あー…たーしかー海猫ーって言っーてたっけーなー」
「海猫…」
理人から告げられた親友の名を驚いたように繰り返す。
確か海猫は足が不自由で、常に車椅子で移動していたはず。
そんな彼女があの機械兵を倒すことなんて、できるのだろうか。
にわかには信じがたかった。
(……考えても、仕方ないか…)
今はそれよりも連絡をするほうが重要だと思い直し、海猫の携帯番号をプッシュした。
ややあって、コール音が切れる。
『………はい』
「あ、海猫?私、佑だけど…」
『…佑?誰かと思ったら…あんた携帯はどうしたのよ?』
「あの、それが……なくしちゃって…」
電話の向こうから小さなため息が聞こえてきたような気がする。
「だ、だから今携帯借りてるんだ。長話できないし、用件だけ伝えるよ」
『…そうね。こっちもちょっと立て込んでるし』
海猫の返事を聞くと佑は、海猫に助けてもらったらしいと理人に聞いたこと、このまま跡地に留まっているのは危険と判断して先程二人で跡地を出たこと、今は近くの公園にいることを手短に伝えた。
『……そう』
「こっちとしても話したいことや聞きたいことがあるんだけど…それは今度、改めて話すよ」
『…うん、分かった』
「ん、ありがとう。……それじゃ」
『うん、それじゃあね』
通話終了ボタンを押すと、ピッと無機質な音が鳴る。
「もーういいーのかーい?」
「はい……あっ、すみません。もう一ヶ所だけいいですか?」
「んー?まーぁ別ーにいーいけどねーぇ」
「すみません…」
謝りながら、今度は同居者で保護者代わりでもある太陽の携帯へと電話をかける。
しかし、10コールしても出ない。
「あれ、おかしいな…。マナーモードにでもしてるのかな…?」
やがて留守番電話になったので、遅くなるという旨だけを手早く言うと通話を切る。
「ありがとうございました」
「いいーってこーとよー」
携帯電話を返すと、ベンチに寄りかかって空を見上げる。
たった数時間。それだけなのに、何日も経ったかのように疲れていた。
頭の中に渦巻くのは、短時間での理解が追いつかないほどの出来事。
「………理人さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
「んー?」
宵の口、霞む記憶
「……私はあの時…何をしたんですか?」
64
:
スゴロク
:2012/03/30(金) 23:11:17
えて子さんの「宵の口、霞む記憶」の続きです。「我孫子 佑」をお借りしました。
話していいものかどうか、少々悩んだ。
特殊能力。常人の持たざる、このいかせのごれにおいてはごく普通の「異常」の証明。いずれ下される、世界からの三行半。それを受け取ることが定められた者の証。
佑がそれを持っていることはもはや疑いようがなかったが、どんな能力か詳しくはわからない。
ただ、大体こういうものらしい、ということは何とか予想がついていた。
「…………」
しばしの沈黙を置き、理人は先ほどまでの奇妙に間延びした喋り方から一転、表情を消して言った。
「……最初に言っておく。これを聞いたら、後戻りはできなくなる。今までのようには、生きていけなくなる。それでも良ければ、話してあげよう。あの時、何が起きたのかを」
「………!」
理人の様子から、自分が知りたいと願うことが、本来踏み入ってはならない領域であったことを遅まきながらに佑は悟る。だが、ここまで来て聞かずに終わるわけにはいかない。あの機械兵に襲われたことは、紛れもない事実。そしてそこには、恐らく自分の知らない何かが介在している。
それを知らずして、この一件から去るわけにはいかなかった。
不退転の意思で見つめ返すと、理人は根負けしたように息をついた。
「……仕方がないな」
「……すみません」
「最初に言っとくけど、何が起こったのか詳しくはわからない。ただ、事実として言えるのは、君に特殊な力があるということだ」
特殊な力。それを聞いた佑には思うところがあった。
たまに小耳に挟む「能力者」の噂。いたらすごい、とは思っていた。けど、それは今まで単なる噂、都市伝説の住人に過ぎなかった。だが、こうして目の前に理人という実例がいる。そして、恐らくは自分も。
「無論、俺にもある。これはもうわかっているはず」
「……はい。聞かせてもらいました」
「ああ。俺の力はさっきも説明したように、無機物に能力を付加する力だ。そしてパニッシャー……あの機械兵を倒した時に君が使ったのもそれだ。ただ、同じ能力が同時に存在するのはかなり珍しい。そうはいない」
人工的に付与されたか、クローンでもない限り、同じ能力の持ち主が同時に現れることはそうそうない。火波姉妹がその「そうそうない」の実例だが、それはまあ今は関係ない。
65
:
スゴロク
:2012/03/30(金) 23:12:01
「ならば君の力は何か? あの時俺が見た状況から判断するに、恐らくは『他人の能力を一時的にコピーする能力』だ」
「コピー……」
「コピーの条件なんだが……それはわからない。俺が予想するに、能力者の血、じゃないかと思うんだけどね」
この理人の推測は、図らずも真実を言い当てていた。
「無断拝借(エゴイストレンタル)」。それが、我孫子 佑の持つ特殊能力だ。この時点では誰一人知る由がないが、その力は能力者の血液を媒介に、能力をコピーして使用するという転写系統のものだ。これを使う場合、佑の体は能力に合わせてアジャストされる。その反動が解除後に来るため、気を失ったり頭痛に見舞われたりするのだ。
「じゃ、あの時は……」
「俺がヘマやったからなぁ。あれだな、多分。あれで俺の力をコピーして、鞄に能力を付加して、倒したんだな」
パニッシャーによってハチの巣になった理人の左腕。今は治癒しているが、その時に散った血が佑にかかったらしく、どうやらそれでコピーが発動したようだ。
「事実としてはそんなとこなんだが、注意してほしいことがある」
「注意?」
そうだ、と前置きし、理人は語る。
「ウスワイヤ、という組織がある。これは、特殊能力者を収容・管理するための施設だ。なぜそんなことをするのか……」
「……普通の人と違うから、ですか」
「ちょっと違うが概ねその通り。特殊能力者の持つ力は、普通の人間を超えたもの。それは、今ある社会秩序を崩壊させかねない。それを防ぐための施設だ。……だから、気を付けろ。もし、その力を持っていることが発覚したら、収容される。日常が崩壊する」
「ぇ――――」
佑の動揺が覚めるのを待たず、理人は続ける。
「もう一つ。ホウオウグループという組織がある。こいつらの目的は『世界の合理化』。それが何を意味するかはわからないが、奴らは目的のための犠牲を躊躇わない。関わるな、逃げろ。これが最善だ」
まるで、畳み掛けるように。
「ではこれからどうするべきか? 簡単だ。誰か、本当に信頼が置ける人にだけ明かし、後はその力を隠して普通に生きていればいい。幸いなことに君の力は、能力者に近づかなければ発動しないらしいから、今までどおりに生活していればいい。それでも困ったら、そうさな。火波って子に聞いてみるといいさー」
最後の最後で口調が戻る。それにも気づかず、佑は「火波?」と首をかしげた。
「火波って……2年の? 火波 スザク?」
「そーう、そう。決して悪ーいようにはなーらないから、ホントーに困ったーら聞いて見るといい」
「はあ……」
ひとしきり話が終わったところで、さて、と理人がその場を立ち上がる。
「なーがながと話こーんだけれども……さーすがに帰らーないとマズいか。送ってくよー」
道化者、語る
「……で、家はどーっちかな?」
「………こっちです」
66
:
クラベス
:2012/04/02(月) 16:07:01
「道化者、語る」とほぼ同時になります。短編投下のためのフラグを立たせていますが、時期はずれるかもしれません。
名前のみスゴロクさんより「ヴァイス」、えて子さんより「我孫子 佑」をお借りしました。
「ぅあー!また取り逃がしたー!;」
ストラウルへの道中、太陽は星たちと同じく、ヴァイスを見失ってしまっていた。
折角手柄をとるためのチャンスだったためになお愕然とし、かつ疲労していた。
「最悪っ…もうなんでこんなことばっかり続くかね…ん?」
ぶつぶつといいながら携帯をひらくと、留守電に一件。
登録されてない数字だったが、スピーカーからは佑の声が聞こえてきた。
遅くなる、という旨だったがどうも声がかすれて聞き取りづらい。
自分以上に疲労しているようにも感じられた。
「…。」
どうする。一度太陽は自問した。
知らない番号から佑の声。一瞬誘拐も考えたが、それは頭から振り落とした。
佑の家には佑と太陽しか今はいない。誘拐してもメリットがないのだから。
となると、残る行動は一つしかあるまい。
「…帰るか、家に。」
自分もいつもよりかなり遅くなってしまった。
佑を待たせるわけにはいかない。そう考え直し、彼は歩き出した。
――ぽつっ。
「つめてっ!」
不意に顔を襲ったものに太陽は思わず顔をしかめる。
空を見上げれば、曇天。時期が早いが、夕立か何かだろうか。
しまった、今日は傘を持ち合わせてない。
彼は走り出した。濡れて風邪でも引いたら元も子もあるまい。
それに、何かを感じてしまったのだ。
今しがた振りだした、雨に。
なんだか、触れるのでさえも気持ち悪い雨だ。
某時刻、見逃した刑事より
日が完全に沈んだ頃。雨は滝のごとく降り注いでいた。
67
:
クラベス
:2012/04/09(月) 19:14:09
停滞気味になってきてるようなので超短編を始動させます。
主役がかわりますがイマニオリタエンマ系列の派生ですので一緒にしてくださってかまいません。
時系列は「某時刻、見逃した刑事より」の後半と被ります。
自宅オンリー(ゴクオー、クランケ)です。出だしから衝撃を狙ってます…。
夜のように真っ暗になった空。
その真下にあるそこは、いかせのごれ高校。
屋上に寝ころぶ彼は、嘗て「閻魔」と呼ばれた男。
普段はぼんやりと空を仰ぎ見る彼だが、その日は違った。
手に握られていたのは、数枚の紙。
彼は寝転がったままその紙を透かすように持ち上げ、眺めていた。
「…これも神の思し召し、かの。」
ふと、彼の口はそう動いた。
そして彼はゆっくりと体を起こすと、紙の一枚を抜き取り、引き裂いた。
小さくなった紙は風に巻き込まれて舞い上がる。
「誰がどこにおろうと、神には逆らえん。」
嘗て、神を見下したことさえある男は言う。
「たとえそれが、己の破滅でも。」
余韻を残したままあげられた右腕が、風に吹かれる。
「いつもならわしも関わろうとするじゃろう。」
ぽつり、と小さな音がした。
「じゃが、今回はわしは人間にかけてみることにしようか。」
黒いしみが、少しずつコンクリートに広がっていく。
「すべては神の、思し召すままに。」
彼方へと消えた紙は、どこかで雨に溶けだしたろう。
彼は滝のように打ちつける雨をも気にせずに、ただただ空ばかりを見上げていた。
どうしてこんなことになったんだ。
何で僕は動けなかったんだ。
今になってそんな言葉ばかりが自分の頭を駆け巡る。
灰色の建物が並ぶ跡地。
足元に散らばる幾本ものメス。
その上から、滝のような雨は容赦なく襲いかかる。
否、仮面の下の彼の頬を濡らすのは雨だけではなかった。
白銀の髪が輝きを失っても、彼はその場から動けなかった。
その眼は虚ろに、しかしはっきりと一点を見ていた。
その視線の先には。
一本の、錆びた裁縫鋏があった。
終末の序章
――今、僕の目の前で――
――キリ君が、死んだ――
68
:
えて子
:2012/04/09(月) 22:15:56
「某時刻、見逃した刑事より」に続きます。
スゴロクさんより「赤銅 理人」さん、クラベスさんより「日出 太陽」さん、名前のみ十字メシアさんより「角枚 海猫」さんをお借りしました。
…そういえば、天気予報で夜から雨と言っていたな。
ぼんやりと霞みがかった頭で、佑はそう考えていた。
理人に連れられて帰り道を急いでいると、ぽつぽつと雫が落ちてくる。
家につく頃には、すっかり本降りになっていた。
濡れずに済んだのは、理人がナップザックから折り畳み傘を出してくれたおかげだろう。
「……わざわざ送ってくれて、ありがとうございました」
「気ーにすんーなー」
玄関前で理人に向かってお辞儀をする。
理人はひらりと手を振ると、傘を軽く回し、踵を返してどこかへ行ってしまった。
「………」
雨の中消えていく理人の後姿をぼんやりと見つめる。
普段ならもう少し気の利いたこともできそうだが、今はとてもじゃないがそんな気力は残っていなかった。
家の明かりはついている。太陽が帰ってきているのだろう。
鍵が開いていることを確認して、扉を開けた。
「……ただいま、タイヨーさん」
「おかえり。…遅かったな」
「……ごめんなさい。ちょっと色々あって……」
何かを隠すように言葉を濁す様子に、太陽は怪訝そうな表情を見せる。
が、それ以上の詮索はしてこない。それが今の佑にはありがたかった。
「今、ご飯作りますから…」
「いや、いい。食べてきた」
台所へ向かおうとすると、呼び止めるように太陽の声が聞こえ、立ち止まる。
振り返ると、咄嗟に口から出たのだろう、少し驚いたような表情の太陽が目に映った。
「……タイヨーさん?」
「俺は…外で済ませてきたから。だから、いいよ」
「……そうですか?じゃあ…今日はご飯、作らなくていいですね…」
軽く頷くと、ふらふらと進路を変えて階段を上っていく。
「佑?お前、飯は…」
「私、いらないです……。今日、疲れたので…もう寝ます……」
疲れたように返すと、太陽の方も見ずに自室へ向かっていった。
部屋に入ると、鞄を机の上に置き、ベッドに体を投げ出す。
スプリングが軋み、柔らかな毛布に身体が沈むのが心地いい。
(……今日は、とても疲れた……)
頭も体も限界を訴えている。
理解を超える出来事が、多すぎた。
(…海猫、無事かな…)
公園にいると連絡してからそのまま帰ってきてしまった。
何処かへ行ったらしいと聞いたきりだが、どこへ行ったのかも何をしているのかも知らない。
明日学校で会えたら、きちんと質問しようと考えながら、目を閉じる。
窓の外の降りしきる雨音を子守唄に、いつしか佑は眠りについていた。
揺らぐ視界、揺れる心
(そして翌日)
(前日の反動か、夕方になっても佑が目覚めることは無かった)
69
:
えて子
:2012/04/10(火) 19:18:15
>>68
すみません。「道化者、語る」にも続いていました。
70
:
しらにゅい
:2012/04/14(土) 22:54:34
結論から言えば、八十神千鶴は気味の悪い子供であった。
普通の人には見えないものが見える、たったそれだけの理由で気持ちが悪いと、周囲から忌み嫌われていた。
しかし、千鶴が生まれた時代は現代であったから、特別、住処を追われたり、燃やされたりなど、そういうことはされなかった。
『集団から除外される』
ただそれだけで済んだのだから自分は恵まれている。
そう、千鶴はいつも考えて気にかけてはいなかった。
彼女は学校が終わると、いつも自宅から近くにある小さな神社に行き、独りで遊んでいた。
忌み嫌われている存在であれば、当然の事であろう。
ここの神社は秋になると紅葉や銀杏がとても綺麗で、地面に敷き詰められる紅と黄色の絨毯が千鶴は好きだった。
散り落ちてくる紅葉に乗って、ヒラヒラと空中を舞い遊ぶ小さな妖精たちを見るのも好きだった。
また、哀しい気持ちになった時にここへ来ると、不思議なことにその傷が癒されたのだ。
だから、千鶴はこの場所がとても好きだった。
とても、とても好きだった。
ある日、千鶴がいつものように独りで神社で遊んでいた時の事であった。
その日は快晴にも関わらず、何故風がよく吹く日であった。
千鶴が地面に落ちている銀杏を掌いっぱいに拾い上げていると、突然、
一際大きな風が吹き、父親から借りたハンチング帽が飛ばされてしまった。
彼女は慌ててそれを追いかけた。
父がいつも仕事の時につけている大切な物だ、なくしてしまえば父に怒られるし、嫌われる。
だから、彼女は必死になって追いかけた。しかし、いくら小さな手を伸ばしても、
その帽子は空中で踊り続け、落ちてこようとしない。
届かなかったハンチング帽はしばらく空中遊泳を楽しんだ後、誰かの手に捕まった。
千鶴は立ち止まった。
大切な帽子は、千鶴の前に立っていた袴を着た男の手の中に納まっていたのであった。
千鶴は、男に話しかけた。
71
:
しらにゅい
:2012/04/14(土) 23:00:07
「・・・それ、ちづるのぱぱのなの。かえして。」
男は笑ったが、千鶴の願いとは反対に帽子を被った。
千鶴は、ぷく、と頬を膨らませて怒り、男に駆け寄って、足を蹴った。
足を蹴られた男は、あだ、と声を零し、苦笑しながら帽子を外す。
「ごめんごめん、これはお前さんに返すよ。」
男は千鶴の小さな頭にハンチング帽を乗せてあげたのであった。
彼は腕を振り裾の中に仕舞うと、しゃがんで千鶴と視線を合わせた。
普通の人とは違う、と千鶴はすぐに気付いた。
男は不思議な瞳をしていた。黒の中にオレンジの線が見えたかと思えば、
それが生き物のようにグルグルと回り、別の線とぶつかり合って、火花を散らす。
とても不思議な眼で、紅葉と銀杏が混ざったような色でとても綺麗だ、と千鶴は思った。
しばらくじーっと見つめていた千鶴に、男はまた苦笑した。
「よしたまえお嬢さん、そんなに見つめられると照れるじゃないか。」
「おじちゃん、ひとじゃないの?」
「おじちゃんじゃなくて、おにいさんって呼んで欲しいんだけどなぁ・・・いやしかし、よく分かったね。」
「だっておじちゃん、『ひと』じゃないきがするもん。」
幼い千鶴に『ヒト』と『そうでないもの』の境界線は分からなかったが、それでも千鶴にはこの男が『ヒト』ではないと分かった。
彼女は、男に問い掛けた。
「おじちゃんは、じんじゃのひと?」
「そう、神様だ。」
「かみさま?」
「そう、ヤエコトシロヌシっていうんだ。知ってる?」
「しらなぁい。」
千鶴の素直な問いに、自称ヤエコトシロヌシは残念そうにうなだれた。
しかし再び顔を上げると、今度はにこやかな顔をしながら千鶴に話しかけてきた。
「ところで、お嬢ちゃんの名前は?」
「ちづる、やそがみちづるっていうの。」
「八十神・・・あぁ、なるほどね。」
「?」
「いや、こっちの話。それにしても良い名前だね、千の鶴・・・なかなか縁起の良い名じゃないか。」
「どうしてわかったの?」
「人の子の考えてることなんて、お見通しさ。」
男は胸を張ってどや顔で言ったが、千鶴にはいまいちピンと来なかった。
じゃあ、と男は再び話題を切り出した。
「お嬢ちゃんの事をチヅルちゃんと呼ぶことにして、チヅルちゃんはいつもここで遊んでいるのかい?」
「うん。」
「そうかそうか、いつもありがとうね。
私の式達もチヅルちゃんが来てくれて毎日楽しい、っていつも私に喋っているんだよ。
私は嬉しい、しかし、キミみたいな人の子は普通、他の子供と一緒に遊ぶべきなんじゃないのかい?」
「ちづるに、ともだちはいないよ。」
「人の子に人の子の友達はいないのかい?どうして?」
「・・・みんな、ちづるがきもちわるいって、いうから。」
「・・・・・・・・・」
72
:
しらにゅい
:2012/04/14(土) 23:03:37
千鶴には、『きもちわるい』という感情が理解出来なかった。
むしろ、自分に見える世界はこんなにも素晴らしいのに他の人には見えないのがとても不思議で、
それと同時に残念だと思えて仕方が無かった。
なんとかしてこの世界を皆に伝えられないかと絵に描いてみたのだが、
先生には「つるちゃんの絵は独創的で素敵ね。」と言われただけで終わってしまった。
クラスメイトには変な絵といわれる始末だ。
男は千鶴の頭を優しく撫でると、悲しそうな表情を浮かべながら呟いた。
「・・・可哀想に。こんな純粋な少女を、何故人の子は畏怖するのだ?自分達が一番汚れていることも知らずに。」
「・・・よごれてるの?みんな。」
「ああ、そうさ。神に対する信仰心を失い、欲望の赴くままに動き、破壊し、奪い尽くしている。・・・そうだね、
チヅルちゃんに分かりやすく説明するなら、皆の眼が曇っているのさ。」
「くもってるの?」
「そう、だから私達の姿が見えないんだ。けどチヅルちゃんは違う。
チヅルちゃんには純粋な信仰と対象を疑わず受け入れるその心があるから、私達が見えるんだ。キミは、特別な存在だ。」
「とくべつ・・・」
千鶴は男の言葉をすべて理解したわけではなかった。
しかし、男から『特別』と言われて、頬が熱くなるのを感じた。
男は千鶴を真剣な眼で見ていたが、ふと立ち上がり、何かを紡いだ。
すると、千鶴の周りに柔らかな風が吹き、ぐるぐると風と共に紅葉が舞い上がる。
風が止み、周りで紅葉がヒラヒラと落ちると思えば、いつの間にか彼女の周りには六人の小さな妖精が浮かんでいた。
「わぁ・・・!」
千鶴は目を輝かせた。
小さな妖精達が、まるで絵本の中に出てきた小人達とそっくりだったのだ。
妖精達は千鶴の周りをぐるぐる回っていると、男に呼ばれて一塊に集まった。
「この子達は『タカミムスビ神衛隊』・・・この子達を、キミに授けよう。」
「えっ?」
「タカミムスビ神衛隊よ、この娘は私の特別な存在となる娘だ。来る日までしっかり護るように、いいな?」
タカミムスビ神衛隊の六人は男の言葉に答えるように、りん、と鈴を同時に鳴らした。
千鶴は首を傾げて男に問い掛けた。
「また『とくべつ』?」
「ん?ああ、そうだった・・・チヅルちゃん、この子達を預かる代わりに1つ、私と約束を守ってくれないかい?」
「やくそく?なあに?」
「チヅルちゃんが29になったら、私と結婚すること。」
「けっこん?」
「そう、・・・29になったら私が迎えに行くから、チヅルちゃんは私と結婚して、神の一人になるんだよ。」
「かみになるの?それって、いいことなの?」
「ああ、とても良いことさ。」
「ふーん・・・」
この時の千鶴に『結婚』も『神になる』という意味もよく理解していなかった。
その上、人を疑うということをしないどこまでも純粋な少女であった為、
良い人である男に良いことだと言われ、こう答えることしか出来なかった。
「じゃあ、ちづる、ヤエおじちゃんと『けっこん』する!」
八十神千鶴の懐古たる記憶
「…ん、…なんだろ、懐かしい夢を見たなぁ…」
(マンションの一室で起床した千鶴の顔は、とても嬉しそうだった)
73
:
しらにゅい
:2012/04/14(土) 23:05:15
>>70-72
生存報告がてらに千鶴の過去話を投稿させて頂きました。
いかせのごれに来る前になります。
74
:
紅麗
:2012/04/15(日) 15:49:16
「ストラウル跡地上空、…異常無し。」
白髪、ぴょこんとウサギの耳のように飛び出た赤髪。
その頭にはヘッドセット、そして白の海軍服を身に纏った女性―――霧谷 操、いや、アルニカは「ラー」よりも一回り小さい、
一人用の飛行兵器で上空からいかせのごれをパトロールしていた。
特に目に付くような異常もなく、さて帰ろうとしていたところ。
突如として激しい爆発音が轟いた。そしてそれを皮切りに、何か大きなものが崩れ落ちる音。
『な、なんだ?今とんでもない音が…。』
「……不発弾でも爆発したのかもしれない、人がいないか確認しに行く。」
『わかった、気を付けて!』
「了解。」
会話を終わらせ、ぴ、と通信を切る。
(…まぁこのゴーストタウンに足を踏み入れる人間なんてそうそういないだろうけど…。)
―――――そう思っていたところで、これだ。
「な、なんなんだ、これは…!?」
爆発音がした場所へと駆けつけたアルニカ、そこにはあまりに非現実的な出来事が。
星のステッキを振り回しながら、我を忘れるかのように男と戦う黒いゴスロリの少女、辺りには黒い星が飛び散っている。
そして、ニット帽とサングラスを身に付けゴスロリの少女と交戦する男。
少女の方は―――学生、だろうか?中、高校生ぐらいに見えた。
その少女の顔には、怒りとも悲しみとも取れるような色が浮かんでいる。
男の方はといえば。殆どが隠されてしまっている上に素早く動き回っているため、いくら目が良いといえど素顔を見ることはできなかった。
ただ一つだけわかるのは、どちらも人並み外れた「能力者」に匹敵するの力を持っているということ。と……、なれば…。
「保護…す――――ッ!?」
意気込み、ぐっ、とレバーを前に倒した時だった。
一際大きな爆発音が響き渡り、爆風が起こった。
兵器の窓はカタカタと小さな悲鳴を漏らす。叫ぶ程のものでもないが、先程見た少年少女の繰り出したものだとはとても思えない。
あの二人を、このまま放っておいてはマズい。爆風と同時にそう直感した。
砂煙が消えてから状況を確認する。見えるのは黒いゴスロリ服、そしてさっきまでは無かった瓦礫の山。
おそらく、少年は至近距離から少女の攻撃をくらってしまったのだろう。
(はやく助けなければ…!!)
そこでまた、爆発した。
またか!と心中でツッコみを入れつつ、戦いを鎮めるべくマイクに手をかけた、その時。
瓦礫の影に隠れるように人型の何かが飛んできた。というか、人だった。
着ている白衣はボロボロで薄汚れており、意識があるのかどうかもわからない。ただ瓦礫の影に隠れ、ぐったりとしている青年。
こちらに投げられたということは先程の少年か、はたまた他の関係者かがあの青年の身を案じて…?
「……こちらが先、か…!」
青髪の少女に見つからない場所へ兵器ごと降り立つ。兵器が地面に着地すると同時にアルニカは兵器から飛び降り、駆け出した。
瓦礫を跳んで避けながら、倒れている青年の所まで全速力。
段々と少女の足音が遠ざかっていく。
良かった、気付かれてはいないようだ。どうやらここは彼女の死角らしい。
青年の頭を持ち上げると、彼はぴくりと体を動かした。
そしてうっすらと瞼を上げ、アルニカと目を合わせる。
「あ、あなた、は……?」
「そんなことは後だ!それよりも、一旦此処から離れるよ。歩けるかい!?」
本当はあの女の子にやられてしまった少年も助けたかった。でも、自分が兵器も無しにあの少女の前に飛び込んでいったってどうにもならない。
生身の戦闘力は人並み、アルニカはそれを自分で理解している。だから判断も早かった。
「人並み」が「能力者」に敵うはずがない。同じようにぼこぼこにされるのがオチだ。
それならば、「確実に」成功する方を、確実に。
「いち、にの、さん。で走るよ、いいね!?」
「は、はい…!」
「いち、にの!」
75
:
紅麗
:2012/04/15(日) 15:52:04
「はぁ、はぁ…だ、大丈夫だったかい?」
「な、なんとか…あの、あなたは一体…?」
無事に兵器に乗り込むことに成功した二人。アルニカは兵器を運転し廃ビルの屋上を目指した。
だが、この兵器は元々一人用であるためか、飛び方がふらふらと心なしか頼りない。
運転を続けながら、アルニカは横目で窮屈そうにしている青年――「宮藤 一哉」をちらりと見た。
「――ボクの名前は「霧谷 操」霧の谷に操ると書いて霧谷操だ。でもアルニカって呼んでくれると嬉しいな。」
「霧谷さん…あ、いや、アルニカさん、ですか…。僕は「宮藤 一哉」です。」
「…言いにくかったら「霧谷さん」でも構わないが。」
「えっ。」
「なんか、「霧谷三佐」みたいで気持ちいい。」
「は、はぁ……。」
さて、冗談はさて置いて、だ。ちょうどビルの上へ到着した。
このままでは体が固まってしまうだろうと思い、アルニカは扉を開け、一哉を外へと出す。
その後に自分も外の世界へと。両腕を前へと伸ばすと体中がぎしぎしと音をたてる。
少し中の設計をミスったのかもしれない。また作り直さなければ。
「君はあそこで何をしていた?」
「何、って…」
「すまない、これがボクの仕事だ。話してもらえるかい?」
暫くだんまりだった一哉だが、アルニカは自分から視線を外そうとはしない。
何が何でも聞き出すつもりだ。
このまま黙っていても埒が開かない。
そう思ったのであろう、ゆっくり、ゆっくりと口を開いた。
「……僕の部活の後輩が、突然僕に襲い掛かってきたんです。」
「部活の、後輩?――あの女の子かい?」
「はい、「崎原 美琴」というのですが…彼女、様子がおかしかったんです。」
「おかしかった…?」
一哉の話によると、この跡地を散歩していたところにあの青髪の――「サキハラ ミコト」が現れたらしい。
そしてそのまま、襲い掛かってきた。
自分はどこも悪くないのに、変なんて、そんなに自分ををいじめたいのか、傷つけて楽しいのか。
……そんな、身に覚えの無い言葉を吐きながら。
部の先輩としてはそんな言葉をぶつけられたらショックどころじゃないだろう。
それは彼の表情を見てもひしひしと伝わってくる。
それにしても、普段天真爛漫な少女が見る影もなく豹変…。変。いじめ。傷。
もしかしなくても、あの少女は学校かどこかでいじめを受けていた?
そして、結局は誰も信じることが出来なくなり、あのような行動に出てしまった?
「―――説得…!…は、無理だった、みたいだね。その様子じゃ。」
「………はい。」
ふ、とビルから下の「戦場」を見下ろした。美琴はどさりと地面に座り込んでいる。
凄まじい攻撃であったが、その分反動も大きかったようだ。
(今なら…いけるか?)
一人、いや二人か。あの場には美琴と交戦した少年がいる。
このまま放って帰るわけにもいかない。
彼女を止めなければ、最悪死人が出るかもしれない。
「―――!?」
軍刀を握り締め、覚悟を決めようとしたその瞬間。
瓦礫の山からぐらりと起き上がった男がいた。
「…あれは…」
退けない理由は
「――おぉ、おかえり。」
「お前を通して見てたぜ。」
「『サキハラ ミコト』…まったく、面倒なことになってんな。」
「あのガキ共も勝手に学校飛び出していきやがったし…。」
「あぁ、もうお前は帰っていいぞ。お疲れさん、お前は他の蝙蝠とは違って使えそうだな。」
「―――アザミ先生?」
「…あっ、はい。何かな、ワカバ先生?」
「いや、今度のテスト作成に関して質問したいことがあってさ、一人で何をしていたんだい?」
「そうだったのか、すまないね。ちょっと問題児のことを考えてて。」
「問題児って…あぁ、学校抜け出した奴らのことかい?」
「そうそう、本当参っちゃうよ。」
「日常茶飯事だから、先生達も殆ど諦めちまってるけどね…大丈夫かなぁ、あいつら。」
「大丈夫。」
「ん?」
「…大丈夫だよ、あの子達なら何が起こってもきっと無事。
……この常に暴走しているような学校で生きていられるんだからさ!」
「はは、それもそうだね。」
76
:
紅麗
:2012/04/15(日) 15:53:46
星の魔術師系列に絡ませてみました。
スゴロクさんの「敵意は星の瞬きと」に続く形となっております。
お借りしたのは(六x・)さんより「崎原 美琴」「宮藤 一哉」えて子さんの「十川若葉」、
名前は出ていませんがスゴロクさんより「一条寺 正人(アルマ)」「水波 ゲンブ」をお借りしました。
自宅からは「アルニカ」「アザミ」です。
また、アルニカはアルマくんを知らない(見たことがない)という設定になっております。
77
:
紅麗
:2012/04/15(日) 16:05:43
わああごめんなさい!私とんでもないミスを犯していました…!
「任務失敗」が星の魔術師系列の最終更新だと勘違いしており、そこから繋げてしまいました。
「トリプル・エンカウンター」があったのですね…!ぐぬぬ、何故投稿前に気づかなかった、あたし!
無理矢理かもしれませんが、アルニカが一哉君を救出→スキュアロウとの戦いは廃ビルで見ていた
ということにしてもらっても大丈夫でしょうか?
時系列的には「敵意は星の瞬きと」と「トリプル・エンカウンター」の間に入るような感じで…。
78
:
(六x・)
:2012/04/15(日) 16:39:18
>>紅麗さん
大丈夫ですよー。
助かってよかったね一哉!そしてアルニカたんかわいいお・・・
ありがとうございました!
79
:
スゴロク
:2012/04/15(日) 18:04:43
>紅麗さん
混乱を防ぐため、とりあえず時系列を整理します。
「敵意は星の瞬きと」
↓
←「退けない理由」
↓
「トリプル・エンカウンター」
↓
「宵の口、霞む記憶」以後
となりますね。行動としては
一哉、美琴と交戦
↓
ゲンブとアルマ、介入
↓
アルマ撃破。ゲンブは一哉を放り投げた後撃破
↓
アルニカが一哉を救出、廃ビルの屋上へ
↓
アルマが意識を回復。スキュアロウが現れるも、シスイとザルクが撃退
↓
ザルクの立っていた瓦礫の山が崩壊。海猫がUターンで帰還。闊歩達と星達が跡地へ次々とやって来る。この時点ではアルニカと一哉はまだ廃ビルの上
でしょうかね?
80
:
紅麗
:2012/04/15(日) 23:56:26
>(六x・)さん
ありがとうございます…!すみませんでした!か、かわいいだなんてそんな!
>スゴロクさん
すみません、助かりました。わざわざありがとうございました!
おわわわ、結構見落としがあったのですね、私…。ご迷惑をおかけしました。
そうですね、それでOKだと思います。
81
:
十字メシア
:2012/04/25(水) 22:05:08
澪の過去。
時系列は白き闇と死を背負うモノの後です。
YAMAくんから「ジェスター」お借りしました。
「澪ー!」
「お姉ちゃん?」
「はい、お花の冠!」
「わあ…! ありがとう!」
風が吹きわたる野原で遊んでいるのは、双子の姉妹。
どちらも黒い髪と黒い目を持っていたが、着ている服や表情の雰囲気などは違っていた。
「おーい」
「あ、ジンギ!」
「ジンギお兄ちゃん」
遊ぶ姉妹の元に来たのは、二人の幼馴染みの少年。
「ここにいたんだ。探したよ」
「あははーごめん」
「ジンギお兄ちゃんも遊ぼうよ」
「あー…僕、もうすぐ帰るから」
「えー!? 何でよ!」
「二人を探してたら帰る時間になっちゃったんだよ、仕方ないじゃないか」
「遊ぼうよー! あたしが何とかするからさー!!」
「無理な物は無理だよ。また明日遊ぼうな」
「ちぇっ。約束ね!」
「分かってるよ、じゃ!」
その場を去る幼馴染み。
妹は彼の背中を眺める姉を見て密かに微笑む。
「お姉ちゃん、冠の作り方教えて」
「いいわよー」
仲睦まじく遊ぶ二人。
と。
「枝音(しおん)、澪…」
「ここにいたのね」
「お父さん?」
「お母様」
親を見上げる二人。
その時、妹は言い知れない不安を感じた。
すると。
「この子ですか」
「ええ」
「しかし…まだ幼いではありませんか。もう少し待っても―――」
「いいえ、その必要はありません」
「…………分かり、ました」
と、悲しげな顔をした男が姉の方に歩み寄る。
そして―――。
82
:
十字メシア
:2012/04/25(水) 22:05:48
ガシッ
「!?」
「行こうか」
「え…え!?」
突然の事に驚く姉。
妹も目を見開き放心するも、すぐ我に帰り慌て駆け出した。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんを返して!!」
「…すまないね」
男は目を伏せ、その場から離れ出した。
抱き抱えられた姉は、泣きじゃくりながら妹に向かって懸命に手を伸ばす。
「澪…澪! 降ろしてよ! 降ろして!!」
妹も走り出す。
が、母親に取り押さえられてしまう。
「お母様!?」
「あの子はもうこの家の子でも、あなたの姉でもないのよ。もう忘れなさい」
「嫌だ!!! もっとお姉ちゃんと遊んでいたい! もっと一緒にいたい! それに―――」
―――お姉ちゃんはまだジンギお兄ちゃんに好きだって言ってない。
そう言いたかったが、涙声で上手く言葉にならない。
「澪ーーーーッ!!!!!」
「おね…えちゃ…ん…」
「お姉ちゃーーーーんッ!!!!!」
「………う…」
とある森に佇む一軒家。
澪は過去の夢で目を覚ました。
「………」
夢のせいか、目尻に涙が溜まっている。
と、誰かの手が頭に乗せられた。
「ジェスター…」
「大丈夫…かい?」
「…もう、平気」
「あまり、無理しちゃあ…駄目だよ」
「うん、ありがとう」
姉さん、今どこにいるの―――。
一つの未来→裂く→二つの未来
83
:
柴犬
:2012/04/28(土) 23:45:44
神社組、嵐の前の静けさ
〈少女達の憂鬱〉
カタカタカタカタカタカタ‥
「(うわぁ‥物凄く機嫌悪いなぁ‥)」
少し離れた場所に座っている明夢を見ながらクロコは思う。
一生懸命、表には出すまいとしているのが伝わってはいるが、いつも柔らかな雰囲気がある明夢がピリピリしているのは簡単にわかってしまう。
おまけに貧乏ゆすりで湯呑みがカタカタ音を立てているのだから、これで機嫌が悪いのかわからないのはよっぽど鈍感な奴くらいだ。
ここ数日、明夢は非常に機嫌が悪い。
クロコには原因はわからないし、聞いてもいない。
明夢の性格上、何かあったら必ず自分に相談するし、それでも何も言わないのは知られたくない事なのだろう、とクロコは推測している。
何となくだが、何が原因かはクロコには想像がついている。
おそらく、また超能力関係の事でいざこざがあったのだろう。
それなら明夢のあの態度にも納得がいく。
明夢自身、最近は色々な事がありすぎて、イライラが溜まっているのも仕方がない。
それでも明夢は今までそういった感情を表には出して来なかったのだ。
まだほんの19歳なのに、余りに色々な事があり過ぎたにしては今までずっと明夢はいつも大人だった。
それだけに、今の明夢の状態はクロコを余計に心配させている。
「随分機嫌が悪いのね。明夢ちゃん。」
ふと、境内から声がした。
「あ‥カルラさん。」
明夢が声の主の名前を呼ぶ。
カルラ・リード。
先日神社に訪れた『竜』の彼女が境内を日傘をさしながら、優雅に歩いて来ている。今日は従者である憑月雪の姿は見えない。
彼女は明夢の座っている縁側まで来ると、明夢の横に座る。
「何があったのか話して‥くれないかしら?」
「‥‥‥」
「ボクも聞きたいな。明夢、一人で何でも抱え込む事は無いんだよ?」
クロコも明夢に近寄って言う。
「実は‥」
84
:
柴犬
:2012/04/28(土) 23:46:48
ーーーーーーーーー
「なるほど、それであんな風に‥」
明夢は夜買い物に行った時、襲撃された事をクロコに話した。
少し頭に来て、ついやり過ぎてしまった事も。
どうやら明夢は襲撃された事より、力を制御しきれなかった自分に腹が立っていて、イライラしていたらしい。
「あんなんじゃ、超能力者が危険だって言ってるようなものだよ。超能力者は普通の人々と共存出来るって証明したいのに‥あれじゃダメだ。」
明夢は自分を叱咤しているようだった。
「(明夢ばっかり‥なんで背負い込まなきゃならない。明夢だってまだ子供なのに‥)」
それはクロコの率直な感想だった。
明夢はしっかり者で、面倒見も良い為、皆がつい頼ってしまうが、彼女はまだ19歳で、まだ成人すらしていない少女なのだ。
それなのに、明夢は危険な超能力を制御する為に精神を削り、超能力者のあり方を巡っては苦悩する。
本来そういった事は『大人』の役目ではないのだろうか。
今まで、弱音一つ吐かなかっただけに、今の明夢の姿はクロコの心に深く突き刺さる。
何より、苦悩する親友に大した手助けが出来ないのが歯痒かった。
「それにしても私の超能力‥一体どこまで強くなるんだろ。なんだか不安になってきた。」
「え‥?」
「クロコ、私の超能力‥今ではそよ風に吹かれたり、葉っぱが当たっただけで反応するようになったんだ。」
「なっ!?」
明夢の『衝撃の悪夢』はその名の通り、衝撃を伴うものを反射したり操作したり、威力を変更したりできる。
明夢の操る『衝撃』は、ある一定方向に移動し、ある程度の運動エネルギーを持っているものに定義される。注射針を刺された程度で反応するが、今まではそれが最小値だったはすだ。
しかし、今の明夢はそよ風レベルの風圧で、葉っぱがぶつかる程度の威力で能力を発動できてしまうらしい。
「どんどん衝撃に敏感になって来ているわね。もしかしたらその力、一生成長を続けるかも。」
「え‥?」
「いえ、どんどん制限が無くなると言うべきかしら。あなたは無意識下で力を抑制していたみたいだし。」
そう、元々明夢は衝撃の反射及び操作しか出来なかった。
神父ミハエルと対峙した時、怒りから衝撃の大きさをある程度変える事が出来るようになった。
最初はそれを使用すると、脳に強い負担をかけ、昏倒していたが、今ではそんな事も無くなっている。
「‥大丈夫かな、私。こんなんでホントに証明出来るかな‥」
らしくない、何時になく弱気な明夢。
その時、一瞬だったが風が渦を巻いた。
「‥っと、ダメだね。不安なんて感じてたら力が上手く制御できなくなっちゃう。」
「明夢‥まさか。」
渦はもう無い。
ただ、それは紛れもなく明夢の力により動かされたもの。
『衝撃の悪夢』は明夢の精神と強く結びついている。
明夢が怒りに我を忘れたりすれば、能力も暴走し、取り返しのつかない事になる。
今のように不安になって恐怖に駆られでもって同じ事だ。
「やっぱり‥なんで相談しなかった!?」
「‥相談して何か、かわるのかい?」
「明夢‥どうした?何を言ってるんだい?」
いきなり、明夢の口調から抑揚が消える。
クロコは驚いて明夢の顔を見つめるが、彼女はどこか荒んだ表情を露わにしている。明夢と親しいクロコだが、こんな顔をする明夢は初めてだ。
「‥もう私は逃げられないって事さ。つらい事が有ったら考えずに捨ててしまえばいい。私がその良い例だよ。」
「何を言ってる!?明夢は何があっても乗り越えて来たじゃないか!?」
「‥苦しみも、悲しみも悩みも何もかも乗り越えて来たと思ってた?クロコが思っているほど、私は強くない。」
85
:
柴犬
:2012/04/28(土) 23:48:02
ーーーーーーーーーー
超能力を持ってから私は色んなことを知った。
超能力者や妖怪の存在、それらを利用する組織、保護しようとする人々や組織。
私は家族がみんな居なくなってしまった私は誰かの不幸に、まだ敏感だった。
超能力者が、笑って生きられるような街にする為に、この力を使うって私は誓った。
誰も手助けしてくれなくても、いつかは皆わかってくれる、私の試みが上手く行けば、待っているのは明るい未来だって信じていた。
けれど、待っていたのは余りにも非道い現実だった。
組織から私を捕まえに来た人がいた。
それから私は狙われ続けている。
そんな事には使いたくないのに、自分を守るために、能力を使って、人を傷つけてしまう。
それでも‥それでもきっと誰かわかってくれるって思ってた。
でも、そんな事は無かった。
その内私は、考えることを止めた。
生まれ続ける悩みを捨て続ける事にも慣れ、夢から目を背け、思考を止め、悩みを忘れる。
ーーーーーーーーーー
「クロコは何時までも私なんかに付き合っていられる?」
「‥なんで?」
長い独白の後、明夢は唐突に聞く。
「‥私はもう、まともには生きられない。」
「!!」
「これだけは確かな事。この先も超能力が強くなれば、私はそれを制御し続けなきゃいけない。敵も増える、能力がいつ暴走するかもわからない、危険ばかりなんだ。」
明夢は色の無い声と表情で告げる。
もう一緒には居られないと、暗に言っているようなものだ。
それでも、クロコは首を横に振る。
「明夢、聞いて。そんな事でキミを見捨てるくらいなら、最初からボクはキミと付き合ってはいないさ。」
「‥‥‥」
「明夢ちゃん、独りで出来る事なんてたかが知れてるわ。貴方の味方は貴方が思っているよりはずっと多いのよ。」
「クロコ‥カルラさん。うん、ありがと。大分気が楽になったよ。」
明夢は微笑んだ。
いつものように、優しい微笑みだった。
明夢にとって一時期の気の迷いだったのかもしれない。
だが、既に賽は投げられていた。
動き出した運命は、終局に向かい進み始めている。
最期は‥
喜劇か、悲劇か。
86
:
柴犬
:2012/04/28(土) 23:50:24
>>83
久しぶりの神社組のお話になります。
後大体6〜8話程度で完結予定です。
87
:
十字メシア
:2012/04/29(日) 21:00:43
リハビリ(?)がてら廻小話。
言葉遣いの参考にw
お借りしたキャラは、大黒屋さんから「ゴクオー」「ノラ」です。
秋山家の寺院。
この寺のある一室で、一人の少女が陰陽師修行に励んでいた。
「………」
手拭いで目隠しをしている少女の手には、何枚かの護符。
少女は平静さを保ちつつ、迫り来る標的の気配を感じ取ろうと集中する。
「……!」
―――来る!
少女は気配を感じた方に向かって護符を飛ばした。
すると何かが爆発した音が耳に入る。
だが別の標的が、少女に休む間を与えず襲ってくる。
しかし少女もまた、それに向けて護符を飛ばす。
再び爆発音が響いた。
そして最後に、少女は上に向かって護符を飛ばす。
上から襲いかかろうとした標的は、護符の爆発で消え去った。
「ふー……」
一息つき、少女は目隠しを外す。
その下から現れた瞳の色は、海を思わせる色をしていた。
「お疲れ様ー!」
「ありんとなあ(ありがとう)、ノラ。修行につきおってもらーて」
「いいよ別に。ちょうど暇だったから」
「で、どげな(どうだった)?」
「え?」
「修行の成果はどうだったって事やなか」
「ああ、ごめんごめん。廻ちゃんの言葉遣い、よく分かんなくて」
「ごますなあ(ごめんなさい)、ちいちゃい時からの癖なもんでなー」
廻、と呼ばれた少女が苦笑する。
「前より反応が早くなってたよ。多分、妖気の感度が鮮明になってきたのかも」
「ほまか(本当か)? よっしゃあ!」
廻が嬉しそうに飛び上がった。
それを見たノラの表情も明るいものだった。
その時、部屋に古傘を担いだ少年―――ゴクオーが入ってきた。
88
:
十字メシア
:2012/04/29(日) 21:01:17
「おお、廻にノラか。何をしてたんじゃ?」
「あ、ゴクオー」
「今ね、廻ちゃんの修行に付き合ってたの」
「そうか。しかし陰陽術は妖怪にとってはかなりの痛手の筈じゃが…」
「ノラの”黒妖犬”を的にしてんな」
「なるほど、そういう事か」
「ところでゴクオーは何してんの?」
「いや、暇潰しに適当にうろついててな、この部屋から話し声が聞こえてきて、入ってみたらお前らがいたという訳じゃ」
「そっか」
「そういや廻、昨日学校で告られたらしいの」
ゴクオーの口から出た爆弾発言に、廻の顔は真っ赤になり、ノラは目を輝かせた。
「おまい…なきにし(何で)それを…」
「昨日、ブレラで空を飛んでたら見た」
「!!?」
「廻ちゃんすごーい! 返事はどうするの!? というかどんな子なの?」
「中々顔立ちのいい奴じゃったな」
「へええー!」
「待たんね!」
突然の事態に狼狽える廻。
「とりえず、そげの話はやむねか(やめて)! はじすね(恥ずかしい)!!」
「いいじゃん! 詳しく聞かせてよ〜」
「ノラ〜!」
「しかしお前みたいな変な喋り方がなあ……」
カチン
「…ゴクオー。そげはどげな(どういう)意味か?」
「どう考えてもモテる訳ないじゃろが。言葉遣いといい、ルックスといい……」
「ゴクオー、それ言い過ぎだよ」
「…ルックスはともかく、言葉遣いはゴクオーもそうやが」
「わしは普通じゃ。お前は変すぎる」
「変!? そげ言うちょうが、おまかて充分変がえ!!」
「いーや、わしより10倍変じゃ」
ブチッ
「このかすっけろ! くさまじ!! ぐさらっこがあ!!! かっぱしたんわーー!!!!(カスったれ クソったれ バカたれ 滅してやる)」
「おーおー、やってみい。…どうせ無理じゃがな」
「ぬげああぁああぁあ!! ぐさらっこ(ばかもん)閻魔なぐせに、はらくそがねぇええ(腹立つ)!」
「お、落ち着いて廻ちゃん! ゴクオーもあんまりそういう事言っちゃ駄目だって!」
「いいじゃろ。面白いし」
「も〜…」
「来い廻。修行がてら相手してやるわ」
「後悔すねんなぐさらっこ閻魔!」
「誰か〜! この2人を止めて〜!」
『秋山家のとある門下生』
ゴクオーが「ぐさらっこ」とか「かっぱしたんわ」の意味理解してますが、よく聞いてるからですww
89
:
(六x・)
:2012/05/01(火) 18:57:04
宮藤先輩も、帽子の人も倒した。
周りが全部ミコトの敵だってわかったら何も怖くなくなった。今なら誰だって倒せる。…そういえば、空橋くんと不動さんが原因なんだよね。この二人も倒さないとね。不動さんはともかく、空橋くんは一発で倒せそう。
「誰か、誰か助けてー!」
そんなことを考えながら歩いていると、叫び声が聞こえた。
あの子は確か…ミコトや張間さんをいじめてた人
後ろにいるのは、さっきのロボットより強そうな機械。
「さ、崎原…?」
「はい。」
「ね、あんた、アースなんとかってのに入ってて強いんでしょ?こいつやっつけてよ」
機械兵器に追われてるなら、普通は助けるけど…
「わかりました…」
星で機械兵器を囲んで、ギリギリ出て来れないくらいの結界を作る。
「よかった、助かっ…」
「助かった?そんなわけないのです。」
「は…?」
「確かに、困ってる人を助けるのはミコトのお仕事です。人として当然のことでもあります。でもあなたは違った。」
「な、何わけわかんないこと」
「張間さんが何度もやめて、助けてって言ったのに、あなたは助けなかった。ミコトを不動さんの目の前でいじめて傷つけた。空橋くんにゴミをかけた。こんなに人を苦しめておいて、助けて下さいなんて虫が良すぎだとは思いませんか?あぁ、そんなこと思う余裕もありませんか。」
「あ…謝るから!謝るから許して!お願いだから助けて!」
「私達が何回謝っても許してくれなかったのは誰ですか?ホントは見捨てるなんて非情な真似はしたくないのですが、残念ながらあなたはそれをされても仕方のないことをしました。」
「あ…ぁ…」
結界を解き、起爆型の星を兵器にたくさん仕掛けてからこの場を後にする。
「もっと早く謝ってれば、助かったかもしれませんね。」
「崎原はもういないか…廃墟をさらにボロボロにするとかあいつ化け物かよ。…空橋、なんか見えたか?」
「崎原さん…ここからそんなに遠くないとこにいる。その近くでパニッシャーがバラバラになってる。」
「…お願いします、俺達に指示を下さい。」
90
:
(六x・)
:2012/05/01(火) 19:05:52
タイトルは「硫星群」 技名ですね
お借りしたキャラは、スゴロクさんより「一条寺 正人」「パニッシャー」名前のみしらにゅいさんより「張間みく」です
やっと続きが書けましたー。例によって最後はパス回しであります・・・。全員で向かうのか、それとも・・・
いじめっこの末路はご想像にお任せします。
91
:
スゴロク
:2012/05/01(火) 21:08:59
(六x・)さんに続きます。
時系列的には「トリプル・エンカウンター」と「硫星群」のの続きです。フラグがいくつかあります。
「……随分と壮観だな。これだけの面子が揃うとは」
跡地に集まった顔ぶれを見て、ゲンブは溜息混じりにそう言った。たった今入口の方から突っ走ってきた車椅子の少女・海猫が応えて、
「まあ、色々と複雑な事情みたいだけど」
「複雑な状況、の間違いだろう、海猫。……そもそも、なぜお前達がここにいるのかもわからんのだが」
言ってゲンブが目を向けたのは、バイクに乗った二人組。数寄屋 闊歩と、夏香 由衣。
「それは……闊歩のことで、ちょっと」
「すまんが、今は聞いている余裕がない。とりあえず、レストランに戻れ。俺もしばらくしたら向かう」
言いつつ、背後に立つシスイとザルクに目を向け、
「すまんな、待たせた。送ろう」
「あー、すいません」
「では、よろしくお願いいたします」
二人が頷くのを確認して、アルマに指示を下す。
「アルマ。俺はこの二人を送った後、その足でレストランに向かい、報告を受ける。お前はここに残り、状況説明を頼む」
「了解」
無機質な返答を受けた後、ゲンブは二人を連れて跡地を去った。闊歩と由衣は半ば肩すかしを喰らったような顔をしていたが、ややあって「……戻るか?」「そうだな」と言い交し、スクーターを吹かして立ち去った。
残った二人の内、海猫がしげしげとアルマを見る。
「……何か」
「いや……あんたが噂のアルマさん、か」
外部協力者の海猫も、アルマのことは聞いていた。素性その他が一切不明な、特別調査員兼連絡員。IUCチーム監督官補佐。
そのアルマが、今こうして目の前にいる。
「……言っておくが、俺について話すことは何もない」
「それは安心していいよ。無理に聞く気はないから」
「そうか」
それだけ話すと、再び場に沈黙が流れる。
「…………」
「…………」
92
:
スゴロク
:2012/05/01(火) 21:09:34
しばらくそんな状態が続いていたが、ややあって海猫が口を開く。
「……ところで、ここで何が? アンタもやたらボロボロだけど」
「外部協力者の暴走だ。我々はその対処のために動いている」
「協力者?」
「崎原 美琴という。何者かによる影響を受けているらしい」
「え!?」
思わぬ名前に海猫が目を剥いた。美琴……学校の後輩が? 確かに何度か肩を並べたことはあるが……。
「暴走って、何でまた」
「それは――――」
「ヴァイス=シュヴァルツ。聞いたことくらいはあるでしょう?」
不明だ、と言おうとしたアルマの機先を制するように、その声が割り込んでいた。
「うお!?」
「おわっ!?」
突然二人の前に現れたその少女……夜波 マナは、ちらりと海猫に視線を向ける。
その海猫は、当惑するより前に聞き捨てならない名前に反応し、身を乗り出す。
「ヴァイスって……あの愉快犯が!? どういうこと!?」
「美琴さんに能力を使って暗示をかけた。周りの人達がみんな、美琴さんを邪魔に思っていると」
つまりはいつもの、人間関係破壊。ただし、今回は些か以上に上手く行っているようだ。
「本人がやったのはただ、それだけ。だけど、それだけのことで、美琴さんは自分で自分を追い詰めつつある。このままだと、止まらなくなる。そうなったら、私たちは……」
その先は言わなかった。だが、言わずとも、二人にはわかった。能力者の暴走を止める最後の手段は、一つ。
「そんなことをさせてなるか……! 何としても助ける!」
「こちらもそのつもりだが、所在はつかめているのか?」
アルマの問いには、マナは首を振る。
「さっき、ヴァイスを追っていた3人組を保護した。やられたみたいで、結局見失ってしまった。今は星さん達が見ている」
「では振りだしか……」
どうしたものか、と腕を組むアルマだったが、何気なく見上げた視界に映ったものがあった。
「ん?」
それは、ビルの屋上。さっき見た少年と、もう一人はアースセイバーの同僚。
「……霧谷三佐?」
93
:
スゴロク
:2012/05/01(火) 21:10:04
「……酷ぇな、こりゃ」
時同じくして、流也達。倒れていた3人は星達に任せ、物音がした方へはマナが向かったため、司と冬也を連れ、先ほどまで美琴がいた場所に向かっていた流也が見たのは、木端微塵になったパニッシャーと、全身ボロボロで虫の息の学生。
「こいつ……崎原や張間たちをいじめてた奴だ」
「ま、まさか、崎原さんが……?」
信じられない、否信じたくないと言った面持ちの冬也だったが、現実がそれを許さない。堅い面持ちで、流也は言う。
「……死にゃしねぇが、ほっとくのもマズいな。サクヤ姐さんに頼むか」
「ハイ、呼んだ?」
突然背後からかけられた声にも、流也は動じない(冬也と司は飛び上がらんばかりに驚いていた)。
「姐さん、聞いてたんなら話は早ぇ。こいつ頼むわ」
「いいわ、任せて。……でも、時間かかるわよ? それに、この子一般人じゃ……」
「わかってるんだが、今のこっちは時間が惜しい。頼む」
難しい面持ちのまま、サクヤはその学生を抱えて姿を消した。
「い、今の人はいったい……」
「俺の古い知り合いだ。後で話してやるよ」
当面の問題が片付いたところで、さて、と流也は気を引き締める。
「ヤツも、崎原って子も見失ったか……」
「どうしますか、流也さん」
司の言葉に、少し考え込む流也。だが、この状況下では下手に動くと事態が悪化する。とはいえ、放っておいても好転しないのは事実。
「……捜索を続行するぞ。このままほっとくわけにゃあいかねぇ。冬也、頼めるか」
「……わかりました。何としても……」
決意を新たにし、「ハイパースキャン」を発動する冬也。最大射程距離、45kmまで一気に視界を広げ、負担をこらえつつ美琴の姿を探す。いかに足が速くとも、この短時間ではハイパースキャンの範囲から出ることは出来ない。
と、
「!!」
やはり、範囲内に美琴の姿を見つけた。ただし、
「これは……」
進路変転
(縺れ合う道が)
(一本ずつ解けていく)
(残ったのは、最初の道)
「あ、そうそう、ゲンブさん」
「?」
「よろしければ、こちらのお宅へご案内いただけませんか?」
(六x・)さんより「不動 司」「空橋 冬也」名前のみ「崎原 美琴」、十字メシアさんより「角枚 海猫」白銀天使さんより「シスイ」445さんより「ザルク・ゼドーク」、紅麗さんより名前のみ「アルニカ」、クラベスさんより「数寄屋 闊歩」「夏香 由衣」名前のみ「天河 星」をお借りしました。
またもパス回し……。ちなみに美琴のフラグはいちおう展開を用意してありますが、拾えるなら拾ってやってください。
94
:
十字メシア
:2012/05/05(土) 13:39:44
「星の魔術師」と同系列。
スゴロクさんから「ゲンブ」お借りしました。
某所。
(アイツ…血相を変えて一体どうしたんだ?)
黒で埋め尽くされ、ただ目の中に白い瞳を持った少女、ヴェンデッタは先程別れた男の様子を思い出していた。
(誰かと話していたみたいだが)
指を顎に当て、唸る様に悩むヴェンデッタ。
「………」
(…ゲンブ)
(何だ?)
(お前には家族はいるか?)
(………)
(………)
(…俺はお前と違って、赤の他人に自分の事を話すつもりなど無い)
(…そうか、すまない)
(アイツも家族を失ったのだろうか)
彼女の脳裏に一つの記憶が浮かんだ。
まだかつて、自らを裏切った主君につく前の記憶。
山奥の動物と遊ぶ妹と、それを微笑ましく見守る自分。
もう、永遠に戻る事の無い記憶。
「白羽…」
今は亡き妹の名前を呟く。
やがて声は風に溶けていった。
「……よし、行くか」
マントを翻し、目指すべき場所へ向かい出す。
目的地は―――”北”のいる場所。
復讐者、北へ向かう
(気紛れなどではない)
(我はただ)
(心配なだけだ)
95
:
クラベス
:2012/05/08(火) 22:08:12
時系列は「終末の序章」の前から被る程度にあたります。
自キャラオンリーです。
彼がその光景を見てしまったのは、本当に偶然だった。
久しぶりの外出に目的はなく、グライダーで一通り飛び回った帰り道。
ストラウル跡地を通った時に、赤黒いものを見つけたのだ。
眼を凝らせばそれは、自らの血の海に溺れるキリだったのだ。
慌ててその場に降り立つと、既に彼は衰弱しきっていた。
体に無数の切り傷、刺し傷。誰の仕業かは容易に想像できた。
声をかけると僅かに目を開いた。
意識はある。助かるかもしれないと彼はキリに手を伸ばした。
「…いい…。」
かすれた声をキリは発した。聞き間違いかと思うほどに、弱い声だった。
「小生の、ことは…いい。貴方は、今一度、身を隠し…。」
「そんなことできるもんか!今、応急処置を…。」
彼は連絡を取ろうと、一度その場を離れようとした。
不意に何かにぶつかったのは、その直後だった。
振り返りざまに何もないところで、額を思い切りうったのだ。
ふらつきながらそこを確認したが、やはり何も見えない。
結界か何かか?だとしたらここから動けないじゃないか。
彼は焦り出す。ここから動けないなら、この場で処置を施すしかない。
彼は服の中にしまいこんだメスを取り出した。
次の瞬間、彼はそのメスに活目せざるを得なかった。
今取りだしたばかりの新品のメスが、その変化がすぐにわかるほどの速さで錆び出したのだ。
突然の出来事に驚いた彼は、しかし急がないとと別のメスを取り出す。
ところがそのメスも空気に触れるなり変色し、もろくなっていった。
彼の思考は既に冷静な判断を欠いていた。
取り出す手術道具は皆たちどころに錆び、脆く崩れていった。
地面には新たに銀と赤銅が入り混じったスペースが出来上がっていた。
とうとう手元の道具は、朽ち果て尽くした。
「どうして…。」
その一言さえも、喉から絞られるようにしてしか出なかった。
今、目の前で一つの命が果てようとしているのに。
結界を張られて身動きが取れず、応急処置もできなくなってしまった。
彼はゆっくりと、細い息を吐く男を見た。
「…もう、いいと、言ったで…ありましょう…。」
細切れの言葉を紡ぎながら、キリは吐き出した。
「小生は、もう、長くない…。貴方に、お願いが、あり、マス…。」
「『主を任せた』なら、お断りだよ!僕にはそんなことできない!」
彼は肩につかみかかりながら叫んだ。
「弱気になるんじゃない!君らしくもないじゃないか!」
せめて、一秒だけでも、意識を保ってくれ。その一秒で、助かるかもしれないんだ。
しかし彼のそんな思いも空しく、空に消えて行くだけだった。
その男は、不意に笑い、もう声にならない声を発した。
最期の言葉と確信したのだ。
姿は虚空に溶けだし、先は長くないことを悟った。
待ってくれ。そう叫ぶ彼に罪悪感を覚えながら。
しかし最早これしかできないと。
頬に、気持ちの悪い雨が落ちた。
次第にそれは、滝のように強くなっていった。
足元の器具に、錆なんてひとつもついてなかった。
目の前の血の海に、最早あの人の姿は、なかった。
「主を…、百物語組の皆を…よろしく、お願いします、「第二の主」…。」
偶然と突然に捧ぐ
やがて彼…千尋は、パートナーであるミサキに発見され、
その血だらけの足で、秋山家へと向かったのだった。
96
:
十字メシア
:2012/05/18(金) 23:39:07
新キャラ登場話。
akiyakanさんから「ジングウ」、スゴロクさんから「クロウ」、紅麗さんから「高嶺 利央兎」お借りしました。
某日、ホウオウグループ。
「鴉さーん」
「ん…? 白奈か、何だ」
「冥土木乃伊さんが呼んでました! 話があるって」
「話…だと?」
片眉上げるクロウ。
「はいっ。その…詳しい事は教えてくれませんでしたが…」
「別に構わん。あいつはお前の事を良く思ってないからな」
「………」
「…そう項垂れるな」
クロウは白奈を宥める。
一見分からないが、ジングウは白奈に対して冷たく、彼女自身も少なからずそれが分かっていた。
周りに流され自我というものを持たない人間を嫌う彼が、「ホウオウグループに造られたからここにいる」という彼女を嫌わない訳が無い。
「…とりあえず、ジングウの所に行ってくる」
「はーい」
「ジングウ」
「おや、来ましたか。…あの雪女はちゃんと伝えたんですね」
「…もう少し柔和に接してやったらどうだ」
しかしジングウはクロウの言葉を無視して本題を切り出した。
「まず『コレ』を見てください」
「『コレ』?」
と、クロウはジングウの指差した方―――ガラス越しに隔てられた部屋の中を見る。
そこではパーカーを着込み、フードを被った一人の少年が積み木で遊んでいた。
…だが。
(…あれは遊んでるのか?)
少年は遊んでいるつもりだろうが、ただ積み上げて自然倒壊させるだけの繰り返しからは、狂気しか感じられない。
よく見ると少年の表情も虚ろなものだった。
「しかし…初めて見るな。…千年王国の新入りか?」
「ええ。まあただの新入りではございませんが」
「何?」
含み笑いをするジングウ。
「…今の彼は狂気そのものでしてね。狂気というものは恐ろしく悍ましい……武器には持ってこいなんですよ」
「…何が言いたい?」
「……彼は『複数の対象』を狂気の迷宮に迷わせる、という能力を持ってます」
「………」
「まさに我が千年王国の兵器に相応しいと思いませんか?」
「……さあな、俺は知らん。もういいか?」
「ええ。コレを見せびらかしたいだけでしたので」
「………」
その場を去りしばらく歩いた後、クロウは壁に拳を叩き付けた。
「あの裏切り者めが……ッ!」
ジングウは直接口にはしなかったが、それでもクロウは嫌に理解していた。
あの男の真意を。
「…反抗の意志を見せれば殺す、か…」
血がでるほど拳を握り締め、ギリギリと歯を食い縛るクロウ。
「……いいだろう。だがそう容易く殺される俺達だと思うな…!!」
狂気の鎖
「…あれっ?」
「どうした? 白奈」
「さっき、黒髪のいかにも気の弱そうな子を見たんだけど…」
「あー新入りらしいぜ、数週間前に来たとか」
「ふーん…でもあんまり見ないね」
「クロウによればいつも弱音吐いてるような弱虫だとさ」
「そ、そうなんだ…」
97
:
しらにゅい
:2012/05/26(土) 19:12:02
思えば、鳥さんと私の関係ってだいぶおかしい気がする。
ウスワイヤとホウオウグループ、その二つがどのような関係にあるかだなんて、私自身よく知ってる。
ウスワイヤにとっては必ず倒さなければいけない相手、だ。必ずは必ず、絶対、100%倒さなきゃ駄目。
対して、ホウオウグループには障害で振り払わなければいけない。彼らと相入れる事は恐らくないだろう。
それを踏まえて鳥さんにホウオウグループに入れだの理解しろだの言っても、きっと無理な話だ。
でも、それは当たり前のこと。
だって、鳥さんの人生を狂わせた上に大事な人達を奪った相手を許せだなんて私にだって出来ない。
父親を許せと言われてるようなものだ、無理無理。
それなのに、二人ともお互いのことが好きだなんておかしいよね。
将来的には、必ずどちらかが消える筈なのに。
「…トキコ?」
「えっ?なに、鳥さん?」
「いや、…なんだかぼーっとしていたから…少し休もうか?」
「そんな!大丈夫っ、それより早く、えらぼ!」
「あ、あぁ。」
どうやら私はブレスレットを手に取ったまま、そのまま考え込んでいたようだ。
いけないいけない、今はデート。もうポリトワルの方は済んだんだし、普通に楽しまないと!
ということで、今私達はスノーエンジェルに訪れているのだ。
ここには北欧雑貨の他にもアクセサリーなどが置いてあり、女の子にも大人気のお店である。
以前、エミちゃんとウミちゃんとスノーエンジェルに来た時、鳥さんに似合うアクセサリーがあったのを思い出し、
早速今日、鳥さんを連れてきたのだ。
…その時は普通にお買い物だったよ、ホントだよ?
「(うーん、どれだったかな…)…あ、これこれ!鳥さんこれどう?」
そう言って私が差し出したのは、赤い石が埋め込まれた銀色のブレスレットだ。
女の子っぽい、というよりもデザインは若干男の子向けだからクールな鳥さんにはぴったり。
しかし、鳥さんは何故か一瞬、動きが止まり、黙ってしまったのであった。
「鳥さん?」
「…シンプル、で良いと思う。けど、…その、」
その表情は明らかにおかしいし、若干暗かった。
こういうのもいいんじゃないかな、とストラップを私に見せてきたけど、その前に少しだけ見せた、
手首を押さえた動作を私は見逃さなかった。
手首に対して何かトラウマでもあったのだろうか。
…そういえば、鳥さん腕時計とか持ってなかったよね。
「………」
「トキコ?」
「…ううん、こっちがいい。駄目?」
「駄目、じゃないけど…」
「付けるのが嫌なら、持ってるだけでいいよ。ね?」
我ながらあざとく、首を傾げて鳥さんにおねだりしてみたら、苦笑しながら頷いて受け取ってくれたのであった。
今はきっと無理かもしれないけど、いつか付けてくれるといいな!
そんな淡い期待を抱きながら、同じデザインの物を購入して、私達はスノーエンジェルを後にした。
98
:
しらにゅい
:2012/05/26(土) 19:13:59
----
「うわー!冷たい!」
「トキコ!そんなに近付くと波が…」
「アーッ!!」
「………」
空はすっかり夕焼け色に染まり、水平線の向こうは太陽の光でキラキラと輝いていた。
デートの最後に来た場所は海岸で、私が無理矢理鳥さんを連れて来たのだ。
ちなみにこの近くに村長さんの家があったらしいけれども、私はまったく知らなかったのは内緒。
鳥さんの警告を聞かずにものの見事に塩水を被ってしまった私は、波打ち際で尻餅を付いていた。
服もずぶ濡れで、肌に張り付いて気持ち悪い。カバンを近くに置いてからでよかった。
「大丈夫?」
「大丈夫っぽく見えるー?」
「…全然。」
律儀に靴を脱いでズボンを捲って海に入ってきた鳥さんは、私に手を差し出してそう言った。
無傷な状態が無性に悔しくて、私は思わずその手を力任せに引っ張って、鳥さんを海へと引きずり落とした。
ざっぱーん、と豪快な音と共に突っ込む鳥さん。
「っトキコーーーー!!!!」
「あはははははは!!!!」
私と同じようにずぶ濡れになってしまった鳥さんは顔を上げると、それを合図に私は逃げ出した。
きっとすぐ捕まるであろう鬼ごっこ、なんだか思ってたより楽しくて、ずっと続けばいいのにだなんて、
つい頭のどこかで考えてしまった。
力強く手首を掴まれ、その勢いで身体が前のめりになったけど、私の足は止まった。
ぜぇぜぇ、と息を吐く鳥さんは、一旦大きく息を吸って、それから吐いた後、
「捕まえた。」
と言って、少しムッとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔を浮かべた。
束の間の逃走劇は、これにておしまい。
私達は手を繋ぎながら、荷物が置いてある場所まで歩いていった。
歩きながら、私は鳥さんに話しかけた。
「あのね、鳥さん。」
「ん?」
「私、海行ったことなかったんだ、今まで。」
「…そうか。」
「うん、だから今日来る事が出来て良かった。」
「また、来ればいいじゃないか。」
「…来れるかな、また。」
「………」
そう言ったら、鳥さんは黙ってしまった。
私も、そのまま黙り込んだ。
…終わりを考えるだなんて、らしくないよね私。
「来れるさ。」
凛とした鳥さんの声。
「今度は、皆で来よう。」
振り向いたら、鳥さんは優しい笑顔を浮かべて私に言った。
それが夕陽よりも眩しくて、温かくて、なんだかとても安心した。
でも、何故か喉がつっかえて上手く声が出せなかったから、私は頷いて返事を返した。
99
:
しらにゅい
:2012/05/26(土) 19:14:37
----
夕暮れはあっという間に暗闇を帯びて、もうすぐ夜がやってくる。
鳥さんが私をうちまで送ってくれるそうなので、その言葉に甘えて、私達はまた歩いていた。
…そういえば、大事な事忘れてた。
「あのね、鳥さん。」
「ん?」
先程と同じように声をかけて、一つ間を置いた後、ちょっとドキドキしながら私は告げた。
「この前の返事なんだけどね?」
「…あ、あぁ…」
「やっぱり、私はホウオウ様が好き。」
「…そう、か…」
やっぱり予想通り、鳥さんの声はどこか落ちていた。若干、繋いでいた手の力も緩んだ気がするし。
でもね、と私が言葉を続けると、少しだけ鳥さんの身体が強ばった。
「鳥さんも、好き。」
「え…」
「だから、優劣とか順位とか、そういうのは付けられない!
私は鳥さんが一番好き、その気持ちには変わらない。」
「…トキコ…」
ホウオウ様も、鳥さんも大切。
だから私は、ありのままの答えを鳥さんに伝えた。
選ぶ必要はない、その影さんの言葉を信じて。
少しだけ反応が怖かったけど、鳥さんは追求も何もしないで、私に一言をくれたのであった。
「…ありがとう。」
朱雀と朱鷺がデートするお話
「答え」
(その答えに彼女の全ての想いが込められていた)
(…と、思う)
100
:
しらにゅい
:2012/05/26(土) 19:16:14
>>97-99
お借りしたのは火波 スザク、名前のみ夜波 マナ(スゴロクさん)でした!
やっとデート話終わったー!お待たせしてごめんなさい!
これで今後、どのように関われるかが分かるようになるかと思いますっ
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板