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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5

1しらにゅい:2012/02/29(水) 14:02:36
ここはキャラ企画つれっどにて投稿されたキャラクターを小説化しよう!というスレです
本編とはかかわりがなく、あくまでもアナザーストーリーという扱いです
時系列は本編(2002年のGW4月28日〜)よりも前の話が主になります
本編キャラの名前が名字無しカタカナの為、小説ではそれに合わせた呼び方が多いです
人様のキャラクターを借りる時は、設定を良く見て矛盾が無いように敬意を持って扱いましょう
詳しい説明などは下のURLをご覧ください
ナイアナ企画@wiki―「はじめに:企画キャラとは」
http://www22.atwiki.jp/naianakikaku/pages/1057.html


過去スレ
企画されたキャラを小説化してみませんか?
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1208562457/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1301901588/
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/28084/1317809300/

950akiyakan:2013/09/06(金) 18:44:07
 時間を遡る事、数十分前――

「――何時まで、そうしているつもりですか」

 部屋の入り口に立ち、その中に向かってジングウは言った。

 部屋の中にあるのは、ハンガーに固定されたバイオレンスドラゴンだ。明かりの無い薄闇の中で、それは物言わず彫像の様に、そこに立っている。

「…………」
「戦況は分かっている筈です。聞いて、理解している筈です」

 部屋の隅にはスピーカーがあり、そこから音が聞こえて来る。彼らがいる場所から少し離れた場所で行われている、ムカイと千年王国との戦いの音だ。

「貴方が戦わなければ、皆が死んでしまいます。貴方は、それでもいいのですか?」
「……何で、僕なんですか」

 薄闇の中から返事がした。バイオレンスドラゴンの足元で、何かが動いた様な気がした。

「ジングウさんが行けばいいじゃないですか……ジングウさんの方が、僕の何倍も強いじゃないですか……」
「ええ、そうですね。私は確かに、貴方より強い」
「だったら――」
「でも、バイオレンスドラゴンを動かせるのは貴方だけだ」
「…………っ」
「魔蟲は強い。私の能力では、おそらく倒す事は出来ないでしょう。仮に魔蟲を倒せたとしても、後にはまだムカイのバイオアーマーが控えています。彼らを破れるのはバイオレンスドラゴンだけであり、それを動かせる貴方だけなんです」
「……僕じゃ、無理ですよ……」

 涙声だった。ぐすっ、と鼻をすする音も聞こえる。

「一人で戦う事も出来ない。バイオレンスドラゴンをうまく操る事も出来ない。僕じゃ、戦っても勝てませんよ……」
「いいえ。この戦いに勝てるのは貴方だけです」
「何でなんですか……何でジングウさんは、僕に戦う事を強要するんですか……」

 しばらくの間、すすり泣く声が室内に響く。

「僕みたいな弱い人間に戦わせて、貴方は何がしたいんですか……」
「……私にはこの世で一番許せない事が、一つだけあります」
「…………?」
「それは、優れた才能を持っているにも関わらず、それを腐らせて終わる人間です」

 静かな、それでいてはっきりとした口調で、ジングウは言い放った。

「戦う才能を持つにも関わらず、戦おうとしない者。学ぶ才能を持つにも関わらず、学ぼうとしない者。他者を助ける才能を持つにも関わらず、その様に生きない者……そう言った「怠け者」が、私は一番大嫌いだ。輝く宝石をその身に宿らせていながら、その価値に気付く事も無く死んでいく愚か者共が、私は一番許せない」
「……ジングウさんは、僕に戦う才能があるって言うんですか……? だから僕に、戦えって言うんですか……?」
「いいえ。残念ながら、貴方には戦う才能は無い――ですが、それとは別の才能があります」
「別の……才能……?」

 薄闇の中で、バイオレンスドラゴンの足元にいる者が、顔を上げたような気がした。

「思い出しなさい、花丸さん。貴方の才能を。貴方の異能を。貴方が生まれ持った、貴方だけの、誰にも負けないたった一つのチカラを」



 ≪キミだけの力≫



「僕だけの……チカラ……」

(薄闇の中で、花丸は自分の手を見る)

(脳裏に浮かぶのは、ミツが言い掛けていたあの言葉)

(それはまだ分からないが、)

(しかし、自分が戦えばみんなが助かるのなら)

(だったらもう一度、勇気を振り絞ってみようと思った)

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ジングウ」です。

951akiyakan:2013/09/06(金) 18:44:37
「う――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
『W――Ooooooooooooooooo!!!!!!!!』

 バイオレンスドラゴンが、花丸が雄叫びを上げる。掴まれた魔蟲の両腕部が、ミチミチと音を立てながら引き千切られていく。

「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 魔蟲が奇声を上げる。それは悲鳴にも似た声だった。そうはさせまいとするように、魔蟲は胴体から伸びた大クワガタの顎で、ドラゴンの身体を押さえ付ける。

「く――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 しかし、それも抵抗らしい抵抗にならずに終わる。ドラゴンが魔蟲の両腕から手を離し、大あごを掴んで力を込める。バキリ、と言う骨の折れた様な音が聞こえた。まるで割り箸でもへし折るような容易さだった。

「GyAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 魔蟲の両腕に備わった刃が、バイオレンスドラゴンへと襲い掛かる――かわせない! 二つの刃はバイオレンスドラゴンの両肩を切り裂き、食い込んだ。

「Gi――!?」

 しかし、そこまでだった。食い込んだ刃が動かない。魔蟲が引き抜こうと力を込めても、それは微動だ一つしない。盛り上がったドラゴンの筋肉が、刃を絡め取って押さえ込んでいる。

「――捕まえた」

 魔蟲の目の前で、ギラリとバイオレンスドラゴンの眼が輝く。その瞬間、本来は感情を持たない筈の魔蟲が、まるで恐怖に驚くようにのけ反った。

 右アッパー。魔蟲の頭部を捉え、下から粉々に打ち砕いた。

 続けてボディーブロー。魔蟲の身体の中でもっとも柔らかい腹部を打ち据え、炸裂した威力が内臓を破裂させる。

 力にだけ頼る者は、より強大な力によって滅ぼされる。

 まさしく、その通りと言うべきか。

 千年王国が束になって勝てなかった魔蟲が、更に強大な力を持つバイオレンスドラゴンによって成す術も無く蹂躙されていく。その光景を、周りの者はただ茫然と見つめていた。 

「はぁ……はぁ……」

 コクピットの中から、花丸は魔蟲を見下ろしていた。

 見るも無残な有り様だった。ほとんど無抵抗に殴られ続け、その全身はぐちゃぐちゃに潰れている。装甲こそ形を留めているが、外部から受けた威力を軽減しきれず、内蔵は完全に潰れてしまっている。

「う――うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 堪えきれず、花丸は嘔吐していた。バイオレンスドラゴンの体液に満たされたコクピット内に、黄色い吐瀉物が漂う。

「ぜぇ……ぜぇ……」

952akiyakan:2013/09/06(金) 18:45:10
 酷い。非道い。ヒドイ。

 ここが戦場。これが、戦うと言う事。

 お互いの生死を賭けて戦う、惨たらしく、不条理で、無慈悲な世界。

 ああ、確かに、花丸は戦う事には向いていない。

 なぜなら、彼は他の命を奪う覚悟が無い。魔蟲を殺したのだって、不本意に違いないだろう。それを止める方法が殺す以外に無かっただけであり、もし殺さずに動きを止められたのであれば、そちらを選んでいたであろう。確かに彼には、ジングウの言う通り、戦う才能は無かった。

「――アバベルゼ、ファイナルモード」
「!?」

 ドラゴンの聴覚が、その声を捉えた。瞬間、ドラゴンの足元に倒れている魔蟲の死骸が起き上がった。花丸が驚くのにも構わず、それはドラゴンの身体に絡み付く。

「魔蟲の体内熱量が増大している――!?」

 ドラゴンの全身に絡み付いた魔蟲の身体が、赤く発熱し、煙を上げ始めた。それがただならぬ事であるのだと、誰が見ても気付けただろう。もっと詳しい者が見ていれば、それがいわゆる「自爆モード」であった事も。

 魔蟲の身体は、ドラゴンの関節部分を狙って絡み付いている。力づくで振り解こうとするが、間に合わない。

「せめて、みんなを巻き込まないようにしないと……」

 無理矢理翼を展開し、ドラゴンの身体を空へと運ぶ。だが、絡み付いた魔蟲のせいで、うまくバランスを取る事が出来ない。五十メートル程飛行したところでコントロールを失い、墜落するように森の中へと落ちる。巨体が地面の上を滑り、木々を薙ぎ倒しながら停止した。

 その、次の瞬間、

 爆発と閃光が、バイオレンスドラゴンを包み込んだ。

 ――・――・――

『……ほう。あの爆発に耐え切れたのか』

 クレーター状に抉れた爆心地に降り立つと、その中心に彫像の様に立つバイオレンスドラゴンを見てムカイは少し驚く様に呟いた。

『溶鉱炉を生み出す位の熱量は与えていた筈なんだが……』

 ムカイの言葉を裏付けるように、クレーター内はそこに存在していたすべてのモノが焼き尽くされていた。木は炭と化し、土は融解して赤くなっている。大気は高温と化し、ゆうに百度は超えていた。まさしく、魔蟲の最後の咆哮が生み出した、死の世界だった。

『だが、如何に外側が頑丈とは言っても、中身までは果たして無事でいられるかな?』

 バイオアーマーを纏ったムカイが、灼熱の中を歩いて行く。それに対して、ドラゴンは立ち尽くしたまま動かない。

『……ふん、死んだか』

 マスクの下で、ムカイは嘲笑を浮かべた。

 だが、

『う……』

 微かであるが、声が聞こえた。若い、少年の声が。強化装甲服特有の、くぐもった声だ。

953akiyakan:2013/09/06(金) 18:45:40
『ほう、まだ息があったか』
『ム……カイ……コクジュ……』
『あの時の少年が、まさかこんな物を纏って現れるとはな。それ程、私に敗れたのが悔しかったか?』
『…………』
『それとも、DSX‐001の仇でも取るつもりか』

 バイオレンスドラゴンを前にして、ムカイには余裕があった。魔蟲を苦も無く屠る姿を彼も見ていた筈であろうが、しかし今のドラゴンから先程までの覇気を感じない。彼の言うように、外装は無事でも、パイロットである花丸が受けた衝撃はとてつもなかった筈だ。これならば自分のバイオアーマーでも倒せる。こう確信しての事だ。

『な……で……』
『ん?』
『何で……こんな、事を……』
『…………?』

 花丸の言葉の意味が分からず、ムカイは首を傾げる。マスクの下にある表情は、「こいつは一体何を言っているんだ?」と小馬鹿にしてすらいた。

『貴方には、聞こえないんですか……この子達の声が……痛い、痛いって、言ってるのに……みんな、熱い熱いって言いながら死んでいったのに……それなのに……』
『……聞こえませんね、そんな声』
『…………!』
『この蟲達は皆、私の作品です。私が生み出した。言うなれば私は、彼らの創造主です。創造物が創造主に従うのは、当然の事でしょう』
『……貴方には聞こえないのか……この子達の声が。蟲達の声が、叫びが、嘆きが、苦悶が! 貴方は誰よりも、この子達の傍にいるのにっ!!』
『生物兵器は生き物ではなく道具です。貴方だって「使っている側」の人間でしょう? 何をそんな、偽善者の様に……』
『……違う』

 花丸の胸に、燃えるモノがあった。自分にもまだ、こんなモノがあったんだと驚く程の熱さ。今、花丸にもはっきりと認識出来た。

 目の前の男は敵である。そして、自分にとって見紛う事の無い『悪』なのだと。

『違う、それは違う! 生物兵器だって生き物だ! 兵器として生まれただけで、生き物に違いは無い!』
『だからどうした。結局のところ、命を玩んでいる事に変わりはないではないか』
『違う! 貴方と僕らは全然違う。だって――貴方は命に、これっぽっちも敬意を払っていないじゃないか!』

 花丸は知っている。

 確かにジングウは、命を自由に生み出して作り変えてしまう。そうやって彼は今まで、いくつもの生物兵器を生み出してきた。色んな命を、玩んできた。

 だが彼は、何時だってそうやって生まれてきた命を一つだって軽んじる事は無かった。生きている命を、「生きている」と言う事実を、彼は大切にしていた。

 花丸だってそうだ。

 彼は生物兵器に限らず、どんな生き物とも友達でありたいと接していた。目の前の生き物が、ただの道具などと一度だって思った事が無かった。

 そうじゃなければ、デルヴァイ・ツァロストが破壊された時だって、フェンリルが傷付いた時だって――コハナがいなくなった時だって、悲しんだりなどしない。涙を流したりなどしない。

『敬意……敬意、だと? くく、くはははははははは!!! そんなものを、一体どうして払うと言うのだ! たかが道具に、たかが手足に!』

 花丸の言葉を、ムカイは鼻で嗤った。

 彼にしてみれば当然だ。昆虫型生物兵器の最大の特徴は、その量産性の高さである。「その気になればいくらでも生み出せる命」に、一体どうして敬意を払えると言うのだろう。

『大量に生み出し、大量に消費する! 使い捨ての道具にいちいち敬意など払えるか!』
『…………――ッ!!!!』

 許せない。許してはいけない。

 この男の思想を。この男の所業(おこない)を。この男の在り方を。自分は絶対に許容出来ない。

 この男はここで、絶対に倒す。

『貴方は――僕が倒す!』

 バイオレンスドラゴンの眼に光が宿る。赤い輝きはまるで、花丸の激情を映すかのようだ。

『勝負だ、ムカイ・コクジュッ!!』
『良いだろう! 私の最高傑作で相手をしてやる! 君も出来そこないの人形と同じ運命を辿るが良い!』



 ≪D×D≫



(対峙する一対の、)

(装甲と装甲)

(意思と意志)

(人造魔と人造竜)

(勝つのは、虐げられた者の野望か、)

(それとも、すべてを奪われた者の願いか)

 ――to be Conthinued

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ムカイ・コクジュ」です。

954akiyakan:2013/09/16(月) 18:47:25
『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 バイオレンスドラゴンが右の拳を振り上げ、目の前のムカイ目掛けて拳を叩き付ける。向かって来る拳を前に、ムカイは両手を組んだまま動かない。

 拳は、ムカイのいた所に命中した。だが、手ごたえは全く無い。

『なるほど、パワーはなかなかですが……遅いですね』

 声は、すぐ横から聞こえてきた。ムカイはまるで、公園のベンチに腰掛けるような気楽さで、ドラゴンの左肩に乗っていた。

『く――っ』
『遅い』

 花丸が振り返る時には、もうムカイの姿はそこに無い。彼の姿は、花丸から十メートル程離れた場所にあった。

(速い……全然見えない……!)

 超音速。あのミツですらその動きを捉えられず、成す術も無く倒された技を前に、花丸は冷や汗を浮かべた。バイオレンスドラゴンを装着しても、その動きの端すら感じ取る事もままならない。

 生身の花丸だったら、何が起きたのか分からず死んでいただろう。バイオレンスドラゴンの装甲なら、いくらムカイのバイオアーマーとは言え――

『おっと? 痛覚の反応まで鈍いのか?』
『え?』

 一体何の事か、花丸には分からなかった。だが次の瞬間、嫌でも理解させられた。

『あ――がっ!?!?!?!?!?!?』

 左肩に激痛が走る。何本もの血管がナタで一振りにブツ切りされたような痛みが、一気に花丸を襲ってきた。それと共に、ドラゴンの左腕が肩から丸ごと地面に落ちる。機体と一体化する構造であるが故に、機体が負った痛みがそのまま搭乗者にもフィードバックされる。

955akiyakan:2013/09/16(月) 18:47:55
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』
『ド、ドラゴンの装甲を、こうも容易く……!?』

 魔蟲の大鎌ですらまともなダメージにならなかったと言うのに、切られた瞬間を知覚すらさせない鋭さと、龍の装甲を切り裂く切れ味に戦慄する。魔蟲よりもずっと小さい筈なのに、花丸が抱いた恐怖感はそれ以上だった。

『超振動と言うやつだ。チェーンソーの強化版とでも言えば、君にも分かりやすいかな?』

 そう言いながら、ムカイは自分の右腕を掲げる。よく見なければ分からない程であるが、細かく、そして高速で振動しているのが分かる。原理としては、ロイドの大爪の機械腕と同じだ。だが、破壊力がそれとはケタ違い過ぎる。

(接近されたら勝ち目が無い……!)

 距離を置いての遠距離戦闘。それが得策と感じた花丸は、素早く使用する武装を選択した。

『くらえ!』

 ドラゴンの口から、帯状の火炎が吐き出される。圧縮された熱量の塊であるそれは、もはや光線と言っても差し支えないだろう。大気を焼きながら、ムカイ目掛けて炎が迫る。

『……ふん』

 だが、ムカイは背中から生えた羽を少し羽ばたかせるだけで、一瞬の内にその場から移動する。やはり花丸は、それを目で追う事は出来ない。

『まだまだ!』

 それでも花丸は、ムカイを追いかけるように火炎を放ち続ける。ムカイが逃げても逃げても、彼は諦める事無くそれを追い続けた。

『しつこいですよ』
『うぐっ!?』

 何かが通り抜けて行った直後、右肩に鋭い痛みが走った。おそらくは、ムカイが切りつけていったのだろう。それでも花丸は、止まらない。ただがむしゃらに、周囲に火炎を撒き散らす。

 そうやっている内に、炎は周囲に燃え広がり、辺りを包み込む火の海と化した。

『はぁ……はぁ……』
『これでもう終わりですか?』

 ムカイの声が聞こえる。だが、辺り一面が炎に包まれている為に、その姿はどこにあるのか分からない。右から聞こえて来るようでもあるし、すぐ後ろから聞こえて来るようでもある。

『まさか、周囲を炎で包み込めば、私を焼き殺せるとでも思っているのですか?』
『はぁ……はぁ……』
『残念ですが、私のバイオアーマーに隙はありません。この程度の炎なら十分に耐えられる』
『はぁっ………………』
『出し物は終わりですか? それなら、この一撃で仕留めてあげましょう!!』

 ムカイが動いた。発生した衝撃波が炎の壁を吹き飛ばし、弾丸の様なスピードで向かって来る。

 右手は手刀の形を造っている。それは真実、刃と化し、バイオレンスドラゴンの身体ごと花丸の身体を貫く――

 ――筈、であった。

『……何?』

 突き出された手刀。しかしそれは空を切り、虚空に向かって伸ばされるのみ。すぐ傍にドラゴンの身体があるが、後数センチ、紙一重の差で命中していない。

『外した……だと?』

 再び炎の中に身を飛び込ませながら、ムカイは首を傾げる。狙いが甘かったのだろうか。

『……ふむ。ですが、次は当てます』

 揺らめく炎のせいで視界は悪いが、しかしムカイの目、と言うより、バイオアーマーに備わった複眼が対象を捉える。無数の眼を用いた多重照準。加えて、バイオレンスドラゴンの巨体は、この炎の中でも見落としようがない。

 再び全身を鋭利な弾丸と化し、ムカイは炎の中から飛び出す。そして照準を定めた事もあり、今度は外す事無くその右腕は確かに貫いた。

956akiyakan:2013/09/16(月) 18:48:28
 バイオレンスドラゴンの、「右の掌を」、だ。

『な――!?』

 驚愕に、ムカイは目を見開いた。

 有り得ない。こんな事が起きる事など、有り得ない。

 狙いは正確であり、自分の攻撃は超音速。向こうはこちらの姿が見えておらず、仮に居場所がバレていたとしても、マッハで向かって来る攻撃に対応出来る筈が無い。

 なのに――

『捕まえ――たッ!!』

 右手に突き刺さった腕ごと、花丸はムカイの身体を鷲掴みにした。ムカイは逃げようともがくが、いかんせん膂力が違う。速度で勝っていても、パワーにおいてはバイオレンスドラゴンの方が上である。

 花丸が一体何のために周囲を火の海にしたのか。それは、高速で動くムカイを捉える為だ。

 助走無しからのトップギア。音さえ置き去りにする超音速。確かにムカイのバイオアーマーの能力は脅威だ。しかし、どれだけ高速で移動出来たとしても、その身体が物質で構成されている以上――地球上の物理法則からは逃れられない。

 音速を突破する時に発生する、空気の壁を破る事で生じるソニックブーム。それはどうしたって発生する。花丸が作りだした炎のフィールドは、ムカイを焼く事が目的なのではない。ムカイが彼の命を狙って向かって来る、その瞬間に発生する空気や炎の揺らぎ。それによってムカイの行動を感知する為の網であり、レーダーだったのだ。

 だがこれは、理論上可能なだけであり、実際に行うのは不可能だ。相手の予備動作が見えるとはいえ、それでも向かって来る攻撃は超音速。死ぬ確率が100%から95%程度にまで減っただけに過ぎない。

 それでも花丸は、生き残る5%をもぎ取った。まぐれでは決してない。ある意味でそれは、確率こそ5%でしかないが、当然の結果であると言えた。バイオドレスを扱う為に鍛えて来た花丸だからこそ、これまで懸命に積み重ねて来た彼だからこそ、僅かな勝機を手にする事に成功したのだ!

『GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

 ドラゴンが雄叫びを上げながら、ムカイの身体を地面に叩き付けた。地面が砕けて隆起し、拳が地面にめり込む。

『が――はっ!?』
『まだまだッ!!』

 何度も何度も、花丸はムカイの身体を地面に叩き付けた。衝撃でドラゴンの腕の骨や軋み、皮や肉が抉れるのも構わない。痛みで拳が焼け付くが、それも気にしない。ただひたすらに、彼はムカイを地面に打ち付ける。

『図に乗るなよ……!』
『ぐっ!?』

 掌に激痛が走り、花丸は思わずドラゴンの手を放してしまう。右手で掴んでいたムカイの姿はそこには無く、それを握り締めていた指はバラバラに切り落とされていた。

『ぜぇ……ぜぇ……』

 クレーターの外側に立っている、まだ無事な木の上にムカイは姿を現した。花丸の攻撃は確実に効いており、装甲の所々がえぐれて黄色い体液を滴らせている。

 魔蟲とは違う。当たれば倒す事が出来る。花丸の攻撃が効いているのが、その証明だ。

 だが一歩。後一歩足りない。

『残念だったな』

 苦しげな、しかし余裕のあるムカイの声。口端を歪めて笑っている姿すら思い浮かびそうだ。バイオレンスドラゴンの圧倒的な暴力を受けても、彼は無事だった。

『く……』
『君は頑張った。実に頑張ったよ……だが届かない。届かなかった。それが何故か分かるか?』
『…………』
『実にシンプルな答えだよ、花丸……君よりも! 君達よりも! 私の方が優れているからだ!』

 ムカイが両腕を広げる。その直後に、彼が纏うバイオアーマーの前面装甲が開いていく。無数の光球がその下から覗き、次々に青白い光を放ちだす。

 忘れもしない。ミツごと花丸を消し去ろうとした、エネルギー砲だ。

『消え去るが良い! これが私の力だ――!!!!』

 バイオアーマーから放たれた、強烈な熱線。

 土を蒸発させ、鉄すら融解し、その熱源たる炎さえその形を維持できず、プラズマへと変貌してしまう超高熱。

 その時、周囲は真昼の様な明るさに包まれた。

 例え人工とは言え、ツヨヨミの闇では、アマテラスの輝きには勝てない。

 あらゆる生命体の存在を否定する光が、

 バイオレンスドラゴンを、

 花丸を、

 呑み込んだ――



 ≪Dead End≫



※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ムカイ・コクジュ」です。

957akiyakan:2013/09/16(月) 18:49:06
「う……こ、ここは……」

 気が付くと、花丸は「真っ白な」場所にいた。

 本当に、真っ白だ。まず地面が白い。地平線まで続く、平坦で変わり映えの無い無機質な白。建物も、木も、凹凸すらも無い徹底的な平坦さが、そこには存在していた。

 もちろん、空も白い。見上げるとそこには、果てしなく続く「白」が存在していた。その無機質さ故に、ここが白い天井を持つドームに包まれているのだと錯覚してしまう。

「……ああ、そうだ。僕は死んだんだ」

 自分の両手を見つめ、花丸はポツリと、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

 最後の瞬間を、彼は思い出す。ムカイの放った光線が視界を埋め尽くした、その瞬間を。

 あれだけの熱量だ。きっと自分は、熱いと思う暇も与えられず、物質としては骨すら残らずこの世から消え去った。

「……ついに僕は、自分の肉体すら奪われたのか」

 そう言って、自嘲気味に、自虐的に彼は笑った。

 ああ、そうだ。これが持たざる者の末路。届かぬ光に胸を躍らせ、身に余る願いを抱いた事の結果。

 やはり自分では、届かないのだ――届かなかったのだ。

「はは……はははははは……」

 怒りも無い。悲しみも無い。憎しみも、涙も。ただ胸に空いた空しさだけが、彼に残された唯一のものだった。

 ――だって死んでしまったら、何も意味は無い。

「――?」

 その時彼は、何かが自分の背後に現れたのを感じた。振り返ると、巨大な異様が自分を見下ろしていた。

「……ああ、そうだね。僕が死んだんだから、お前もここにいて当然か」

 赤色の装甲。空を覆い隠すかのような一対の翼。大蛇よりも太い尾。地を踏みしめる強靭な足と、敵を薙ぎ倒す強大な腕。

 幻想のドラゴンか、或いは恐竜の末裔を模したかのような怪物――バイオレンス・ドラゴン。

 それは花丸を静かに見つめていた。

「君の事は、最後まで好きになれなかったよ。この前よりはマシだったけど、全然言う事聞いてくれないし」
『…………』
「まぁ、仮にレスポンスが万全でも……僕は彼に勝てなかったんだろうな……」

 ムカイの生み出したバイオアーマー。その性能を、その力を、まざまざと見せつけられた。圧倒的とは、ああ言うモノを言うのだろう。「もしも機体の自由が利いていたら」。そんなIFを考えさせる気も起こさない程の力量差だった。

 花丸は善戦した。自由の利かない機体と言う枷を引き摺りながら、それでも彼は懸命に戦った。戦い抜いた。その結果、誰も傷すら入れられなかったムカイ・コクジュに手傷を負わせる事が出来た。

 だけど、その結果が一体何になる。一体何になると言う。

 花丸は敗れ、死んだ。死んでしまったら、何も残らない。

 誰も傷付けられないムカイに傷を負わせた。確かに花丸にはそれが出来た。だが、そこまでだった。それでも彼は、結局ムカイに敗れたのだ。

 ムカイが生きて勝ち、花丸は死んで敗れた。

 彼は、届かなかったのだ。

「…………ははは、無様だね……」

 いまさら悔しさから涙が出て来た。もう死んでしまって、この感情にも何の意味は無い筈なのに。自己満足にすらならないのに。それでも熱い感情が、自分の中から込み上げてくる。後から後から出てきて、止まらない。

「嫌だよ……このまま死ぬなんて……嫌だよぅ……悔しいよぅ……」

958akiyakan:2013/09/16(月) 18:49:43
 悔しくて悔しくて、仕方が無い。こんなにも自分に勝利を渇望する気持ちがあるなんて、と花丸自身が驚いている。否、それは正確ではない。

 自分は、あの男には、ムカイ・コクジュにだけは、「負けたくない」のだ。

 彼の行いを、思想を、在り方を。許せないのだ、認められないのだ、否定してやりたいのだ。

「うぅ……ひっぐ……えぐっ……?」

 気が付くと、ドラゴンの頭が低い位置にあった。花丸が手を伸ばせば届く高さだ。その眼差しは、一つの意思を持って訴えてくる。

 ――力が欲しいか、と。

「……ははは、」

 こいつは凄いな、と花丸は心から思った。

 もう死んでしまったのだ。もうここで終わりなのだ。それなのに目の前の獣は、まだ諦めていない。

 獣だから終わりが分からないのだろうか。否、それは逆だ。終わりを「認められない」のは何時だって人間だ。本能で生きているからこそ、余計な雑念を持たないからこそ、獣は純粋だ。己が終わりを理解すれば大人しく果て、まだ生きられるならば最後の瞬間まで生きる。

 花丸は諦めた――勝てないから。

 だがドラゴンは諦めていない――まだ戦えるから。

「何でこんなにも――僕の周りにいる人達は眩しいんだろう……」

 周りはこんなにも強くて、

 周りはこんなにも輝いていて、

 そして自分はこんなにも弱い。

 ああ、いや。

 自分はこんなにも弱くて、

 自分はこんなにも濁(くす)んでいるから、

 だからこそ、力が欲しくて、光が欲しくて、憧れたのだ。

「……いいよ、持って行け」

 そう言って、花丸は両手を広げた。死んで、敗北者となった自分に残された最後の魂(モノ)を、彼は曝け出した。

959akiyakan:2013/09/16(月) 18:50:14
「お前なら勝てるよ、きっと。だから、僕のすべてをくれてやる。こんなモノで良ければ、いくらでも」

 だから勝て、僕の代わりに。

 自分では勝利者にはなれない。しかし、他の誰かの為の礎にならばなれる。

 ああ、そうか。きっとミツも、死に際はこんな気持ちだったのだろう。

 自分の死の後を、残された花丸(もの)に託して――

 花丸の言葉に応えるように、バイオレンスドラゴンは大きく口を空けた。大人でも丸呑みに出来そうな位に大きく、小柄な花丸など造作も無いだろう。

(さようなら)

 心の中で、別れの言葉を贈る。

 敬愛する、仲間達へ。親愛なる、友人達へ。

 そして、花丸と言う存在は完全に消滅した――


















「え……」

 ――筈、だった。

 信じられない事が、彼の目の前で起きていた。

 バイオレンスドラゴンは、花丸を呑み込もうとした。それは間違いない。だが花丸が呑み込まれようとしたその瞬間に、ドラゴンの動きを阻んだものがあった。

 それは白い大蛇だった。バイオレンスドラゴンにも負けない位巨大な大蛇が、その巨体に巻き付いて動きを封じている。ドラゴンは花丸に向かって口を開けているが、それ以上身体が動いていない。

「うわっ!?」

 やがて、バイオレンスドラゴンの巨体が倒れた。ドラゴンは動かない。代わりに、その身体の上を滑りながら、花丸に向かって大蛇が近付いて来た。

 顔が近付いてくる。花丸は、大蛇の眼に映る自分の姿が見えた。ドラゴンに食われるのではなく、この蛇に食われる。そう、本気で思った。

 大蛇は花丸のすぐ傍まで顔を近付け――ちろり、と花丸の頬を舐めた。

「……え?」

 思わず、きょとんと花丸は大蛇を見上げた。大蛇の様子に、敵意も害意も感じられない。ただじっと、花丸を見つめている。

「……お前、まさか……」

 白い、蛇。花丸の脳裏に、一匹の蛇の姿が浮かんだ。いつでも一緒だった、しかし離れ離れになってしまった、大切な家族を。

「コ……ハナ?」

 半分の期待と、半分の不安。二つの感情が混じった様子で、恐る恐る呼びかける。すると大蛇は、その名を呼んでくれた事が嬉しかったかのように、花丸の身体に頭をこすりつけてきた。

「コハナ……コハナぁッ!!」

 力いっぱい、花丸は大蛇の頭に、コハナに抱き着いた。

「やっと会えた……会いたかった、会いたかったよぅ……」

 瞳から涙が溢れてくる。悲しみでも悔しさでもない、嬉し泣きの涙が、後から後から流れてくる。

「……だけど、何でそんな姿に……?」

 花丸が首を傾げる。するとコハナは首を持ち上げ、彼の後方へと視線を向けた。まるで、そこに立っている何者かを見るように。その視線に気付き、花丸が振り返ると、

「……え、」

 再び、コハナ同様に、会える筈の無い人物がそこにいた。

960akiyakan:2013/09/16(月) 18:50:47
「ミツ……さん?」

 肩口で切り揃えられた髪型。見る者の主観によって変化する、男とも女ともつかない中性的な顔立ち。もうこの世にはいない筈の「彼」は、微笑を浮かべながらそこに立っていた。

「……あ、そっか。僕らはもう死んでいるから、ミツさんがここにいてもおかしくないのか……」
「いいえ、花丸。ここは死後の世界ではありません」
「え。だって、僕はムカイに負けて、死んじゃったんじゃ……それに、ミツさんがここにいるじゃないですか」
「このミツは、ミツであってミツではありません。この世に残った、ミツとかつて呼ばれたモノの残響です」
「残……響……?」
「これはミツの未練です。貴方に伝えようとして伝えられなかった言葉を伝える為に、ミツの脳に残っていた残念であり、残響。時間が経てば消えていくだけの影です」

 ミツの言葉に、花丸の表情が見るからに曇った。

「……あの、こんな事を言うのもおかしいんですが、その……僕のせいで、すみませんでした……」
「気にしないでください。あの時は、あれが一番最良だったんです」
「だけどっ……! 僕にも戦う力があれば、もしかしたらミツさんは死なずに済んだかもしれない……それなのに……!」
「……花丸、貴方には戦う才能なんてありませんよ」
「!」

 ミツの言葉に、花丸はハッとなった。ジングウも言っていて、そしてミツも同じ事を言った。

 君には、戦う才能「は」無い。

「思い出してください。貴方の、本当の才能を」
「…………」

 自分の才能。自分だけの力。自分だけの異能。

 その言葉の意味を、しっかりと噛み締める。

 踵を返した花丸は、倒れているドラゴンの下へと歩み寄った。片膝をついてしゃがみ込み、ドラゴンの頭に手を当てる。

「バイオレンスドラゴン、お願いだ。僕の言う事を聞いて」
「君を操ろうだとか、使いこなそうだとか……それはただの傲慢だったよね。ごめん」
「僕に力を貸して」
「僕に力を分けて」
「僕に協力して欲しい」
「一人で戦うだとか、もうそんな事は言わない」
「僕はそうだ――何時だって誰かの力を借りて戦ってきたんだ」



 ≪RAINCARNATION・Ⅱ≫



(そして再び、花丸の視界を溢れるばかりの光が埋め尽くした)

(残響となったミツは、その光景を見届けると、満足そうに微笑んだ)

(役目を終えた残響は、光の奔流に呑まれて消え去った)

(時の流れが、過去の遺物を押し流すかのように)

(人造天使の残り香は、完全にこの世から消え去った)

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ミツ」です。

961えて子:2013/09/19(木) 20:35:57
久しぶりの白い二人シリーズ。
ヒトリメさんから「コオリ」、サイコロさんから「桐山貴子」をお借りしました。


今日は「じゅうごや」なの。
でも、「ちゅうしゅうのめいげつ」でもあるんだって。
お月様がまん丸になる日なの。
とってもきれいなんだって。

コオリと読んだ本に、じゅうごやはおだんごを食べるって書いてあったの。
だから、おだんご作ることにしたの。

「でも、コオリ、おだんごのつくりかたしらないの」
「アオ、知ってるの」
「ほんと?」
「うん。白玉のおだんごなの」
「しらたまなの?」
「しらたまなの」

二人で白玉のおだんごを作ることにしたの
『しらたまだんごのこな』も手に入れたの。準備は大丈夫。

「どうやってつくるの?」
「こなとお水をまぜるのよ」
「まぜるの?」
「まぜるの」

おだんごのこなをボウルに入れて、お水を入れるの。
タカコにチョコレートの時「きちんとはかりなさい」って言われたけど、お水ってどのくらい入れるんだろう。

「ちょっとずついれればいいのよ」
「そうね」

コオリ、頭いい。
ちょっとずつお水を入れて、混ぜるの。
これで、どのくらいお水を入れるのか分からなくても、大丈夫。

「おみずとまざって、かたくなってきたの」
「そうしたら、こねるの」

耳たぶくらいのかたさがいいんだって。
アオもコオリも、耳たぶふにふにしてみた。

「このぐらいかなあ」
「このぐらいかなあ」

こねこねしおわったら、ぶちってちぎって丸めるの。

「丸くしたらちょっとだけ真ん中をおすのよ」
「おしちゃうの?どうして?」
「わかんない」

そういえば、せっかく丸めたのにどうしてつぶしちゃうのかしら。
ご本を読んだら、書いていないかな。

「たくさんできたね」
「うん、たくさんできた」

たくさんたくさんお団子できたの。
アオとコオリの作ったの、ちょっとずつ形が違うね。

「つぎはどうするの?」
「次はお湯でゆでるの」
「ゆでるの?でも、コオリたち、ひがつかえないわよ」
「使えないね」

お湯が使えないと、おだんごゆでられないの。
どうしよう。

962えて子:2013/09/19(木) 20:36:55

「あら、二人とも何してるの?」
「あ、タカコ」
「ようむいんのおねえさん」
「そうだ、タカコにお願いしよう」
「そうしよう」

タカコ、おとなのひとだもんね。
火も使えるの。

「?どうしたの?」
「あのね、おだんごゆでてほしいの」
「コオリたち、ひがつかえないの」
「お団子?ああ、今日十五夜だものね…いいわよ、どれかしら」
「これなの」
「あ、これね……………多っ!!!」

タカコ、固まっちゃった。
どうしたんだろう。

「……アオギリちゃん、コオリちゃん。もしかして、この粉全部使ったの…?」
「うん」
「うん」
「…………………」

タカコ、ボーっとしてる。
どうしちゃったんだろう。

「タカコ、どうしたの?」
「……え?あ、い、いや、何でもないわ。早くゆでちゃいましょうね」
「やったあ」
「おねえさん、ありがとう」
「ううん。……ただ、今度からは粉は必要な分だけ使うようにしてね」
「?どうして?」
「他の人が使うときに、なかったら困っちゃうからよ」
「「はあい」」

タカコがゆでると、たくさんのおだんごができたの。
お皿に入れて、あんこをのっけると、出来上がりなの。
タカコ、すごいなあ。

「はい、どうぞ」
「ありがとう、タカコ」
「ありがとうなの」

おだんごを持って、お外に行くの。
お空にまん丸のお月様。

「きれいだね」
「きれいだね」

じゅうごやは今日だけだけど、おだんごはたくさんあるの。
あとで、みんなにも食べてもらおうっと。


白い二人とおつきさま〜おだんご作るの巻〜


「うーさぎ、うさぎー」
「なにみてはねるー」
「「じゅうごやおーつきさーまー、みてはーーねーるー」」

963スゴロク:2013/09/24(火) 00:00:27
リアル事情がひとまず落ち着きました。1か月くらい覚悟してましたが、思ったよりスムーズに運んだのでよかったです。

というわけで、リハビリを兼ねて一本。



「もう、行くんですか?」
「ええ。お世話になりました」

ブラウ=デュンケルはその日、瀕死の自分を解放してくれた「守人」の家を辞していた。
乃木鳩 蛍、ハルキと名乗ったその二人は、ヴァイスの仕掛けに引っかかって死にかけていた自分を救ってくれたのだ。
恐らく奴はこのことを知らないだろうが、いつまでもここに留まっていては迷惑がかかる。何かの弾みで奴に捕捉されないとも限らないのだ。
帽子を被り直し、女性に一礼する。

「ついついご厚意に甘えて、長居をしてしまいましたが……やはり、俺がここに留まっていては、ご迷惑になるかと」
「迷惑だなんて……むしろ、こちらこそ大したことも出来ませんで」

女性はそういうが、ブラウにとってはなかなか得がたい時間だった。
かつてヴァイスに奪われ、二度と帰らない穏やかな時間。

(だが、だからこそ、俺がここにいてはならない)

妻も子供も失ったあの日、自分は全てを捨てて「ブラウ=デュンケル」になったのだ。
あの白き闇を追う、藍色の復讐者にて。

「蛍くんとハルキくんには、よろしくお伝えください」
「はい……どうか、お気をつけて」
「すみません。では、失礼します」

帽子をちょっとあげて挨拶し、ブラウはその家を後にした。





「こんにちは、アーサーちゃん、ロッギー君」
「その後、いかがですか?」

情報屋「ヴァーミリオン」を京とアンが訪れたのは、長久が退院して戻って来た、ちょうどその日だった。

「長久君、退院おめでとう」
「はは……どうも。おかげさまで、何とか生きてますよ」
『ベニー姉さんはまだ予断を許さないけど……でもちょっとずつ、良くなって来てるって』

アーサー、いやロッギーも、少しだけ安心を込めてそう言った。そうであって欲しい、という願いも多分に含まれていたが、京もアンもあえてそれを指摘するほど良心を捨てていない。

「そう、それはよかったわ。早く良くなるといいわね、紅さん」
「全くです。早く、あの方の元気な姿がみたいものです」

代わりに、今と、これからのことを少しだけ触れる。

「……と、何を調べてるの?」

京が目を留めたのは、ソファに腰を下ろす長久の持つ、書類の束。見ると、顔写真や記録写真が印刷されているのが見えた。

「ああ、これは……」
「……UHラボ、ね」

長久が応えるかどうか一瞬迷った間に、京がその答えを口にしていた。

「……わかりますか」
「わかるわ。……私も、こいつらとは無関係じゃないから」

見て、と言いつつ、京はズボンの右脚を一気にまくり上げる。
長久は一瞬動揺したが、その下から現れたものを見て目を見開いた。
ズボンの下にあったのは、本来あるべき白い肌ではなく、冷たい質感を持つ黒い金属。

「私は元々、アースセイバーの所属。これは知ってるわよね」
「……一応は」
「アースセイバーとしての最後の任務になったのが、とある能力者の監視。どこからか逃げ出して来たらしくて、いかせのごれに住みついてたそいつを見張っていた。でも、ある時そいつが能力を暴走させて、騒ぎになったの。そして……」



『!? 何、あんた達! その人をどうする気なの!?』
『チッ、気づかれたか……』
『殺せ。目撃者を出してはならない。それがUHラボのルールだ』
『UHラボ!? あんた達、一体……』
『隠、下がれッ!!』
『え、ッ!!……があぁぁあぁ……ッ!!!』



「……怪我は程なく治ったんだけど、半分千切れてた右脚はどうしようもなくてね。義足に取り換えて歩けるようにはなったわ」
「しかし、京様はそれ以来、現役時のようなキレのある動きが出来なくなり、事実上の引退を迫られたのです」

ちなみに、旅行先でアンと出会ったのはその最後の任務である監視を通達されてから数か月後、交代で時間が空いた時である。
ズボンを戻し、京は息をつく。

「そういうワケで、私も連中には因縁があるのよ。全く、壊滅しても諦めが悪いんだから」
「全くです。連中、頭にウジでも沸いているのでしょう」

真顔でさらりと毒を吐くアンである。

「そうね。きっとその通りだわ」

さらに否定しない京。

964スゴロク:2013/09/24(火) 00:01:17
『ふ、二人ともキツいね……』
「当然よ、ロッギー君。私はね、アースセイバーだったからって、アキヒロ隊長の理論に一から十まで賛成してるワケじゃない。でも、誰かを守るって言う信念だけは理解できる。だから、色んな人を今なお傷つけるUHラボが許せない」
「私も同様です。奴らは今の『怪盗一家』と同じ、唾棄すべき集団です。排除されなければなりません」

珍しくギリ、と歯ぎしりをするアン。古巣である怪盗一家が、ホウオウグループに引き込まれて殺人者の集団と成り果ててしまったことが心底気に食わないらしい。

「キングの意志を無視するなど……」
「アン、落ち着きなさい。二人が驚いてるわよ」

見ると、長久とアーサーが呆気にとられたように、あるいはどこか警戒するようにアンを見ていた。
それでようやく我に返ったアンは、意味もなくフォーマルウェアの襟を直しつつ言う。

「……失礼しました」
「まあ、そういうコトよ。私はもう戦えないけれど、出来ることはあるわ。私の力が必要だったら言ってちょうだい、手を貸すわ」
「京様がそうおっしゃられるのなら、私も御助力致します。個人的な感情の面からも、そうしたいと思っておりますので」

二人がそう述べたところで、情報屋にさらなる客が現れる。

「こーんにーちはー」
『ん? この声は……』

ロッギーとアーサーが一緒になってドアの方を向く。
ドアを開いて入って来たのは、髪を突っ立てた変わった風貌の少年。

「理人君、だったかしら?」
「そーうそう、赤銅 理人ですー。こんにちーはー」

変な所でためて変な所で伸ばす、その奇妙な喋り方は一度聞いたら忘れようがない。
「ハーメルン」のコードをつけられている要注意人物だが、少なくとも敵ではないのは確かだった。
その彼が、何をしにここまで来たのか?

「んんー、かーんたんに言えば、協力ー締結ってやーつですーよ」
「協力? 俺達にか?」
「んーむ。僕もねー、UHラボにはちょーっとした因縁があるーのーですよ」

言いつつ、理人は左の袖をずらして上腕を見せる。
そこには、大分薄くなってきているものの、焼き付けられたような何かの文字があった。
曰く、「PT−0707」。

「それは?」
「…………」

問われて、なぜか理人は黙った。ややあって、彼はがらりと口調を変えて言った。

「……識別番号だよ。実験体のね」
「何……」
「そうさ」

ニヤリと、理人はどこか恐ろしい、顔だけの笑みを浮かべて。


「僕は、UHラボの実験体だったんだよ。それも、『成功体』のね」


「! 成功体……ですって?」

京の呟きに、理人は「そうです」と至って普通に返した。

「奴らの目的は、つまるところ最強の生体兵器の開発。そのために、能力者になり得る人物を各地から攫って来ていた」

ゲンブやスザクもまた、彼らの被害者の一人だ。特にスザクは精神的に何度も改造を受けたため、最近になるまで精神状態が著しく不安定だったのは記憶に新しい。

「僕もその一人だったけど、幸いと言うか僕の能力は精神に直結する特殊なタイプでね。洗脳や強化で異常を来たしたら話にならない、と最低限の思考誘導だけを受けたんだよ」

その「最低限」ですら人道を大きく踏み外しているのは、長久の前の資料が物語っている。

「僕は早くからそれに気づいていたから、従ったふりをしていた。奴らは僕を成功体だと喜んだ。試作被検体0707、『特異点励起』。それが僕の力だよ」

何にでも存在する特異点。それに干渉し、励起して表に出すことで、神の手違いたる「特殊能力」を引きずり出す。それが、理人の力。

「ラボが壊滅する少し前に、僕はいかせのごれに逃げ出した。そこから先の事は、君達の方が詳しいと思うけどね」

とにかく、

「僕はね、連中が許せないんだよ。理由とかそういうことじゃなくて、その存在自体が。連中は滅ぶべきだ。そうは思わないかい?」

と、

「……滅ぶ、って、あの……」

入口の方から少女の声。理人が振り向くと、そこにいたのは、果物を入れたバスケットを抱え、赤い髪を背中まで伸ばしたどこかボーイッシュな少女。

「こ、こんにちは。お見舞いに来たんだけど……な、なんか、凄い怖い話してなかったか……?」

少女―――火波 スザクは、らしくもなくおずおずとそう口にした。




状況変転


(それぞれの動き、それぞれの思惑)
(如何様に交差し、影響するか)
(今は、まだわからない)


えて子さんから「久我 長久」「アーサー・S・ロージングレイヴ」をお借りしました。

965akiyakan:2013/09/27(金) 20:21:28
 ――何故だ。

 ムカイ・コクジュの脳裏を過ったのは、その一言だった。

 作戦は完璧だった。餌の情報を使って千年王国を引きつけ、自分に有利な陣形でこれを殲滅する。実際、残す敵は指揮官であるジングウと生物兵器の幼体、それに戦闘能力を持たない擬人兵のみだ。バイオアーマーのスペックを持ってすれば、倒せない敵ではない。言わば、詰みの形。贔屓目に見ても王手だ。飛車を叩き潰した今、王を守るモノは何も無い。

『……何故、だ』

 相手側にも強力なバイオアーマーが存在していたのは予定外だったが、それも許容範囲だ。多少手こずらされたが、これも倒した。摂氏三千度のプラズマ砲を食らって無事でいられるものなど存在しない。こちらのバイオアーマーも破損したが、それもすぐに修復が完了する。それが終われば、今度はジングウの首を取りに行く。

 すべては順調に、ムカイの掌の上で事は進んでいた。

 ――その、筈だった。

『何故だ……ッ!!』

 倒した。倒した筈だ。繰り返すようだが、カーボンナノチューブですら750度の高温に耐えるのがやっとなのだ。摂氏三千度のプラズマを受けて耐えられる有機生命体などこの世には存在しない。存在しないのだ。

 だが、ムカイの目の前には存在する。超高温で焼かれて尚も、形を維持し、命を持って存在するモノが。

『何故貴様は、存在しているッ!!』

 ――・――・――

 プラズマ砲の直撃によって発生した煙の中で、それはゆっくりと起き上がった。

 身体は小さい。バイオレンスドラゴンとは比べるまでもなく、その身体はとても小柄だ。人間の子供――それこそ、その装着者である花丸とほとんど変わらない位の大きさしかない。シルエットはドラゴンよりも人間に近い。両頬から伸びる突起や、背中を走る背びれなどが、竜の面影を残している。

 身体本体に対して、それに備わっているパーツは有り余る程に大きい。背中に備わった翼は、変化前のバイオレンスドラゴンのモノと同じ位の大きさである。腰から伸びる尾も同様であり、身体の部分だけが小さい為に、非常にアンバランスに見える。

 かと言って、それらのパーツに比重を取られているとは言え、その重みに負けているようには見えない。しっかりと両足で地面に立ち、前かがみになる様子も、後ろに引っ張られているようでもない。それは小柄でありながら、巨大な翼と尾を支えていた。

 外見の変化も激しいが、一番目を惹くのはその体色の変化だろう。バイオレンスドラゴンは赤であったが、今の姿は真っ白だ。白く滑らかな装甲が、全身を包んでいる。それ故にドラゴンと言うよりも、天使の方が思い浮かべやすかった。

 変貌したドラゴン――花丸は、自分の両手を見つめている。状況を確認する様に、己の身に起きた変化を感じる様に、その手を開いたり閉じたりしている。

『――……!!』

 両手をぐっと握り締め、顔を上げる。樹上から見下ろす、自分が倒さなければならない相手を、彼は見据えた。

『ええい、何であろうと構わん……』

 ムカイもまた、花丸を見返していた。傷口から煙が上がったかと思うと、バイオアーマーの表面に出来た傷が塞がっていく。

『私の邪魔をするなら、死んでもらうだけだ!』

 背中に閉じていた、六枚の翼が開いた。透明でトンボの羽を思わせるそれは、高速で羽ばたくと瞬時に強風を発生させる。それは周囲の木々を吹き飛ばし、地面の破片を宙へと舞い上がらせた。

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 雄叫びを上げながら、ムカイが突進してくる。それに対して、花丸は真正面からそれを受け止めた。お互いの手と手を組み合い、二人は四つ腕の状態になる。

 最初は拮抗しているようであったが、徐々に花丸が押され始め、地面を削りながら後ろへと後退していく。懸命に踏みとどまろうとするも、力で負けてしまっている。ついには、その先にあった木に背中を押さえ付けられる状態になってしまった。

966akiyakan:2013/09/27(金) 20:22:00
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 花丸の首を掴み、空いた右腕をムカイは掲げた。腕が小刻みにブレ、小虫の羽音にも似た音を響かせる。バイオレンスドラゴンの腕すら切り落とす、超振動の爪だ。

『アームド・ウィングッッッ!!!』

 その時、花丸の背部、まるでマントの様に広がっている翼が形を変えた。しなやかな流線型を描くフォルムが盛り上がり、やがて花丸の身体程もある巨大な腕へと変貌したのだ。

『何!?』

 翼が変形したのを見るや、ムカイは花丸を離してその場から離れる――直後、彼がそれまでいた場所を巨大な腕が左右から挟むように押し潰した。

『まだまだッ!!』

 再び翼が形を変える。今度はまるで、二門の砲身の様だ。砲口の奥が青白く光り、そこにエネルギーが収束していく。

『ッ――!?!?』

 羽を広げ、ムカイは空中へと逃げる。彼を追う様に放たれた高熱のエネルギー砲は、青白い光の帯となって虚空に軌跡を残した。

『多段変形だと!?』

 目の前で見せられた現象に、ムカイは絶句する。

 別段、メタモルフォーゼと呼ばれる現象そのものは珍しいものではない。生物兵器にも取り入られる機構の一つであるし、あたかも人間に擬態するかのように、二つの形態を自由に変身出来る超能力者もいる。

 しかし、それらは一形態から別の一形態への変身の一パターンが基本ある。生物としての限界、物質としての限界がある以上、複雑な形態変化を数パターン持つ事は極めて難しい。

 故に、ムカイの目には異質に映った。翼と言う形態から腕、更には砲と言う様々なパターンへと変形する。まるで粘土でも捏ねて形を変えるような手軽さで姿を変える。それがどれだけ困難な事なのかを知ればこそ、彼は言葉を失ったのだ。

『だが、速さならば――!!』
『っ!!』

 ムカイの攻撃が、花丸を捉えた。何とか本体への直撃を免れるも、左の翼が切り裂かれた。小柄になったとは言え、付属品である翼や尾と言ったパーツにウェイトを取られ過ぎている。辛うじて花丸自身への攻撃を避けられても、それらのパーツが犠牲になってしまう。

『そらそら、どうした!』
『は、速い、速過ぎるっ!!』

 ムカイのスピードは、花丸にはもう捉えられないレベルに達していた。攻撃をかわしきれなくなり、徐々に本体へと届き始めている。白い装甲に、無数の切り傷が刻まれた。

『くぅ……!』

 花丸は翼を広げ、自分を包み込む様に閉じた。その直後、翼の表面が変化し始めた。まるで鉱石の様に硬化し、彼を包み込むシェルターとなっていく。

『チィッ! そんな事まで出来るのか!』

 シェルターを踏みつけ、ムカイは幾度と無く斬撃を振り下ろす。シェルターとバイオアーマーの爪がぶつかり合って火花が散り、両者の力が鬩ぎ合う。

『ぐうぅっ! うぅっ!』
『おのれ、何て固い装甲なのだ!』

 ムカイの攻撃はシェルターに傷をつけるが、あくまで表面だけだ。硬化した翼は、高速振動によって切れ味を増している筈のバイオアーマーの斬撃でも破壊できない程、強力な結合力を持っている。

『ならば……』

 埒が明かないと感じたムカイは、シェルターから飛び降りた。前面装甲を展開し、プラズマ砲のチャージを始めた。無数に並ぶ光球が、青白い光を放ちだす。

『くらえ!』

 三千度の超高温が、花丸目掛けて襲い掛かる。ムカイが持ちうる最強の切り札であり、その灼熱に耐えられる物質などこの世には存在しない。仮に、装甲化した翼がそれに耐えられたとしても、中身はただの人間だ。完全に熱を遮断でも出来ない限り、耐えても蒸し焼きになる。まさにそれは、必殺の攻撃だった。

967akiyakan:2013/09/27(金) 20:22:43
 だが、プラズマが放たれた、その瞬間に、シェルターが開いた。

『な――』

 一体何をするつもりなのか、とムカイが思った瞬間、花丸の腰から伸びる尾が動いた。彼の目の前でそれは円を形作り、その円の中に光の壁の様なものが出現する。

 それが何であるか、ムカイは気付いたがもう遅かった。既に発射体勢に入ったプラズマ砲は止められない。光球から放たれたプラズマは、狙い過たずに花丸目掛けて伸び――光の壁に当たって「180度」に反射した。

『ぐ――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 自らの放ったプラズマに焼かれながら、断末魔にも似た悲鳴をムカイは上げる。彼の自慢のバイオアーマーも、そして彼自身も、諸共に焼き尽くしていった。

 ――・――・――

「ぜぇ……ぜぇ……」

 自分の左肩を押さえながら、ムカイは荒く息をついていた。彼が押さえている手は、そこから先がごっそり無くなっていた。全身を覆っていたバイオアーマーのほとんども炭化しており、その役目を果たしていない。顔も剥き出しになっている。全身が焼けただれていた。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 もはや死に体だ。しかし、その眼光だけは生気を全く失っていない。ギラギラと輝き、その眼光は自らを倒した存在を睨み返していた。

「貴様……!」

 白い装甲のバイオドレスが、白銀の竜が近付いてくる。翼をマントの様にはためかせ、その姿は中世の騎士にも似ている。

「まさか……ジングウがこれ程のものを造り上げているとはな……」

 それは即ち、自分の作ったバイオアーマーよりジングウの創造物の方が優れていた、と言う事だ。その事実に、ムカイは歯噛みをする。

『それは違いますよ』
「……何?」

 不意に聞こえてきた声に、ムカイは顔を上げた。同じ様に、花丸もそちらに視線を向ける。そこには、ジングウが改造して使っている、一台のバードウォッチャーがいた。

『ムカイ・コクジュ。貴方は私に敗れたのではない。そこにいる、たった一人の少年に敗れたのだ』
「私が、この少年に負けただと? この期に及んで貴様はまだ私を愚弄するのか!?」

 ジングウの言葉に、ムカイは激昂する。興奮のあまり傷口から血が滲みだすのも、彼は構う様子は無い。

「こんな! こんな戦う才能も無く、生物兵器を従わせるだけしか能が無い、ホウオウグループの末端でしかない小僧に! 私が負けただと!? この小僧がした事は、貴様が造ったバイオアーマーを着て戦っただけだろう!? 私が負けたのはこいつにではない! 貴様に負けたのだ!」

 そうでなければ、惨めでしかたがなかった。同じ科学者として、圧倒的な技術差を見せつけられて、それでも負けたのが組織末端の構成員であるなど、彼のプライドが許せなかった。ジングウに負けたのならまだしも、自分に劣る者に敗れたのだと、耐えられなかった。

968akiyakan:2013/09/27(金) 20:23:21
『……貴様もそうだが、かつての私も、「絆」と呼ばれる力をいささか軽んじていた――単純な話だ、ムカイ。お前は一人で戦っていた。だが、彼には何人もの仲間がいた。そもそも数で劣る貴様が、勝てる通りなどあるまいて』

 そうだ。その戦いは、花丸一人で戦っていたものではない。

 彼を包み込んで守り、戦う力を貸していたバイオレンスドラゴン。

 ドラゴンの手綱を握り、彼が戦いやすいように努めたコハナ。

 そして、そのコハナを補助する為に、バックアップにはミツの脳髄が使われている。

 少なく見ても三つ。それだけの数が、花丸に加勢していた。素人が見ても、四対一の戦いではどちらが有利かなど、誰が見ても分かると言うものだ。

『ムカイ。王って奴にはな、一人ではなる事は出来ない。ましてや、王の素質が支配する能力であると勘違いしている者になどなれやしない……本当の王様って言うのは、他者から借りた、協力してもらった力を束ねる才能を持っているヤツの事を言うんだ』
「…………」

 ジングウの言葉を聞いて、ムカイは顔を伏せる。それから彼は、くっくっくと笑い声を零した。

「……なるほど。仲間の不在が私の敗因か。認めよう、ジングウ。今回は私の負けだ」

 ムカイがそう言った瞬間――何かが森から飛び出してきた。

『え――』

 花丸が驚いている間に、森から飛び出した来たモノ――巨大なトンボ型の生物兵器は、ムカイを抱えて飛び去っていく。速い。音速機並かそれ以上のスピードだ。

「だが、次は勝つぞ。今度は私も駒を揃えて迎え撃とう! さらばだジングウ、ホウオウグループ!」

 ムカイと、それを運ぶ生物兵器の姿が遠ざかっていく。誰も、それに追いつけるものはいない。

『逃がした、か』
『すみません、ジングウさん。僕が気を付けていたら……』
『良いですよ……むしろ、都合が良い』
『え?』

 自分の聞き間違えだろうか。そう思って花丸は顔を上げる。バードウォッチャー越しではジングウの表情は分からない。しかし花丸には何故か、薄ら笑いを浮かべる彼の姿が思い浮かんだ。

『何はともあれ、作戦終了です。皆さんを集めて戻りましょう』



 ≪決着≫



(失われた工房と千年王国の戦い)

(大きな犠牲を払いながらも、ここに一つの終着がついた)

(しかし、王国に所属する誰もが、この戦いはまだ終わっていないのだと感じていた)

(エンドレス・ファイア、消えない炎)

(だが今だけ)

(今だけは戦士達に休息あらん事を)

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラは「ムカイ・コクジュ」、「ジングウ」です。

969えて子:2013/09/27(金) 21:51:12
スゴロクさんから「火波 スザク」「隠 京」「赤銅 理人」、名前のみクラベスさんから「アン・ロッカー」をお借りしました。


「はあ、お見舞いにねぇ…。わざわざ悪いな、気遣ってもらって」
「い、いや…取り込み中なら、後で、」
「あーあー、気にするな。取り込み中って程取り込んでもねぇよ」
「そう…それなら、いいんだけど」

スザクの言葉を遮って、長久が手を振りつつ笑う。
それにスザクは少しホッとしたように笑った。

「あ、これ…よかったら、どうぞ」
「あ、こりゃどうも」
『わー、おいしそう!!ねえねえ長久、ちょうだいちょうだい!!』
「がっつくなっ」

ごつん、と軽く拳骨を落とされ、アーサーがひぃん、と悲鳴をあげる。

「…まあ、せっかくだ。みんなで頂いちまってもいいか?」
「勿論。じゃあ、僕はこれで…」
「ん?何だよ、もう帰るのか。せっかくあんたが持ってきたんだし、一緒に食ってけ」
「え?いや、でも…」
「遠慮するなって。…それに、今の話はあんたにも関係なくはないかもしれないしな」
「………?」

すれ違いざまに肩を叩かれ告げられた言葉に、スザクは軽く首を傾げた。



「ほれ。ハヅルほど綺麗じゃないけど、まあいいだろ」
『長久ぶきっちょー。りんごでっこぼこだよー』
「やかましい!!その胴体限界まで引き伸ばしたろかコノヤロウ!!!」

パペットを握って縦に力いっぱい引っ張られ『ぬわあー!人形いじめはんたーい!!』と叫ぶロッギーを見て、スザクは呆然とし、京とアンは小さく苦笑する。

「長久くん。ロッギーくんが可哀想だから、そろそろやめてあげましょう?」
「……………ちっ」

小さく舌打ちをして長久が手を放すと、アーサーは慌ててロッギーを抱きかかえ、労わるように頭を撫でる。
その様子を、皮をむかれて切られた少し歪なリンゴを一足先に口にしながら、理人が笑って見ていた。

「いーやー、仲がいいーっていーいねー」
「………。んで、さっきの話なんだけど」

ソファに座りなおすと、皿に乗ったリンゴを爪楊枝で勢い良く突き刺し、やや強引に話を戻す。

「協力の件は、ハヅルの意見も聞かないと何ともいえないけど、有事の際には何かしら手助けを頼むことがあるかもしれない。…それは、その時によろしく頼むとして…理人、だっけか。あんたが言ってた「連中は滅ぶべきだろう」って問いかけ。ハヅルやオーナー、それと他の奴らはどうか知らないが、俺たちはYesともNoとも言えない」
「…どうしてだい?」
「…知らないからさ。何も」

長久の答えを、アーサーが引き継ぐ。

『僕らも、長久も、普通に生きてきたんだ。普通にお父さんとお母さんの間に生まれて、普通に育って、勉強して、友達と遊んで…』
「だから正直言うと、UHラボの所業や邪悪を聞いても、いまいち自分の身として考えられないんだ。もちろん、資料を見れば連中のやってきたことはひどいもんだぜ。文字で見ているだけでも嫌な気分になるし、吐き気もする。…ただ、あんた達の憎しみや怒りや考えってのは、完全に理解することは出来ない。ぶっちゃけてしまえば連中が滅びよう生き延びようが、俺は知ったこっちゃない」

けどな、とリンゴの欠片を口に放り込み、長久は続ける。

「…あの男は…オーナー達の幸せに、蒼介の心と人生をぶっ壊した。それは、許されることじゃねぇし、許す気もさらさらねぇ。UHラボとか関係なく、アイツには自分のしたことの落とし前をつけてもらう。…それだけだ。ただ、それだけなんだ」

一言一言区切るように、自身に言い聞かせるように、拳を握り締めて長久は言う。
その声は暗く、重く、そして固い決意に覆われていた。


ただ、それだけ


「ソウスケ…?」
「17年間行方不明だった、オーナーの甥っ子だよ。カチナ…って名前の方が、あんたは馴染みがあるかもしれないな」

970思兼:2013/09/29(日) 00:33:17
お久しぶりです。連投失礼します。




【悪戯ナイトゲーム】


―第12話、性質の悪い話―


橋元 亮はつかみどころの無い少年である。

同時に余りにも不可解で謎の多い少年である


静葉の親友であり『シリウス』の最初期メンバーでもあり、古参メンバーでもある。

また、他人と積極的に接点を持とうとする(そして時には悪戯を)ような好印象の遊び好きの少年であることは間違いない。




だが『それ以上のこと』が全くの不明なのだ。


まず静葉でさえ亮の住んでいる場所は知らず(成見の家の近くとは言っているが)、学校に行っている様子もなく朝早くから集会場(要は巴邸)に来ては遅くまでだらだらと居座っている。

集会場には部屋がたくさんあるので泊まっていくことさえ、珍しくない。

と、思えば突然ふらりと居なくなっては数日間集会場に来なくなり、それどころか全く姿を見なくなったと思えばいつの間にか戻って来ている。

本人に聞いてもニヤニヤするか嘘くさい話ではぐらかすかのどちらかで、まともに話を聞けたことは静葉ですら無かった

以前ダニエルや静葉、影士がこっそり尾行しようとしたこともあるが『かくれんぼ』で姿をくらまし、撒かれたこともある。

優人やアリスが学校で姿を探したり、先生や生徒に尋ねたりしているがいずれもそれらしい人物には行きつかなかった。


故に、亮の私生活を知る人間は誰一人としていないのだ。


**********************************************



「まぁ、詮索されるのは好きじゃないし♪」

携帯電話を閉じ、寝転がっていた亮は立ち上がり埃をはたく。

時刻は23:00、少年が出歩く時間帯では無い。

亮が寝転がっていたのは廃ビルの屋上で、おそらく『かくれんぼ』で忍び込んだのであろう。

971思兼:2013/09/29(日) 00:35:24


「さて、今日は楽しい事があるかな?」

そんな言葉と共に、亮は廃ビルを出る。



『かくれんぼ』を発動して姿を消しながら亮が練り歩くのはアーケード街で、まだ人通りは多く周囲はライトアップで明るい。


「いいね♪この空元気みたいな電飾がおかしくてたまらないねぇ〜
…っと、あれあれ?」

ニヤニヤ笑いながら歩いていた亮の目に入ったのは、明らかに不良っぽい少年数人に囲まれた気の弱そうな青年だった。

金がどうのこうのというセリフげ聞こえてくるあたり、カツアゲだろう。

聞こえているはずにもかかわらず、周囲の人々は我関せずといった態度で無視している。


「ん〜面白そうなオモチャ発見。」

ニヤニヤ笑いながら亮はリーダーらしき金髪の少年につかつかと歩み寄ると、

「そおぃ!」

その股間を思いっきり蹴とばした。

ぐえっ、という情けない悲鳴を上げながら少年はうずくまる。


「な…だれだ!どこにいやがる!?」

「はいは〜い!みなさんこんにちは〜
あれ?もう今はこんばんは、だったっけ?まあいいけど。」

怒鳴り散らす少年たちの目の前に『かくれんぼ』を解除した亮が姿を現す。

「イケないですねぇ〜君たちみたいなゴミクズは狩る側じゃなくて狩られる側でしょ?
ちゃんと身の程はわきまえて欲しいんだけど?」


「ってめえ!!」

「ほいっと。」

少年たちは激昂しながら殴り掛かってきたが、亮は姿を消すとその拳を避け、先頭の少年の鳩尾に拳を入れる。

そのまま集団の背後に移動すると再び『かくれんぼ』を解除した。

「ひ…おまえ、どこから湧きやがった!?」

「さぁね〜オバケかもよ?」

ニヤリと笑いながら殺し文句のように言うと、少年たちは悲鳴を上げながら逃げて行った。

周囲の人々は『?』な顔でそれを見ていたのだが、その理由は亮が少年たちだけに対して『かくれんぼ』を解除していたからに過ぎない。

972思兼:2013/09/29(日) 00:40:23


「さて、ねぇねぇ〜そこのお兄さん。」

「は、はいっ!?」

「もし僕の事、誰かに言ったらきっと不幸になるよ?」

ずいっ、青年に顔を近づけ囁くように言うと『かくれんぼ』を発動しながら、その場を離れる。


後にはポカンとした表情の青年だけが残された。




「あ〜あ、なんかあっさり終わってつまんなかったなぁ〜
仕方ないけど、明日静葉が早く来いっていってたし、もう帰ろ。」


勝手なことを呟きながら、亮は欠伸を一つすると、裏路地へと消えて行った。



*************************************************

―数日後―


「なぁ亮よ?」

「何、静葉?」

「この新聞記事の『怪異!消える少年の亡霊!』って…お前か?」

「ん〜?まっさかぁ〜僕は亡霊じゃないよ〜」

「…そうか、余計なことをしてたらしばき倒してやろうかと思ったのだが、それならいいんだ」

「ん〜?そう?あ、ちょっとコンビニに行くね。」

「ん?ああ、わかった。」





「…もしもし、しゃべるなって言ったでしょ〜?
ああ、あの不良君たちにキミの住所教えといたから…あれ?もう来ちゃったんだ?」




<To be continued>
.

973思兼:2013/09/29(日) 00:42:02
今回は後二つあげます


【匿名テロリズム】


―第13話、名無しの話―


>>2 名無しさん
はよ画像出せよ>>1

>>12 名無しさん
マダー?

>>154 名無しさん
釣りかよ…氏ねよ>>1

>>444 ダニエル
ああ、この板踏んだ奴にはもれなくトロイプレゼントしといたから。
あと、スパイウェア使ってエロ画像ばっかのフォルダは削除してあげたよ♪
そろそろ現実に戻りなよ×××野郎君♪


*************************************


「ふう、とりあえずバックドアとエクスプロイドは散布できたっと。
そろそろあの病院のセキュリティ中枢への侵入経路を確保しないと、ニコ君がもたないや。
それにしても、エッチな画像ごときで騒ぎすぎでしょ?
それに、トロイ仕掛けてたら駆除ソフトが反応するのにね。」

ピザを一切れかじりながら、ダニエルは薄暗い部屋で呟く。

彼の周囲にはおよそ4台のパソコンが光を放っており、ダニエルはその全てを一人で操作していた。


ダニエル・マーティンは天才ハッカーである。

元々の腕もそうだが、彼の『眼』はあらゆるセキュリティシステムを全て突破する力がある。

超能力者+ハッカー=電子戦最強、と言うのがダニエルの意見である。


と言っても今回はかなり難航していた。


ヴァンパイアの少年ニコの為に今まで影士や亮がその超能力を使って病院から盗んでいたのだが、最近になってセキュリティが大幅強化され盗めなくなったのだ。

そこでダニエルに出番が回ってきたのだが、そうそう一筋縄では行かなかった。

セキュリティなら『眼』で突破できるのだが、そもそも『入り口』が見つからないのである。

『入り口』とは要するに病院のセキュリティシステムへのアクセス経路だが、それが見つからないのだ。

おそらく経路が巧妙に隠蔽され隠し通路扱いになっているのだろうが、その隠し通路の痕跡を見つけなければ『眼』でそれを暴くこともできない。

だから、今ダニエルはスパイウェアなどを動員してその痕跡を集めようとしている。

974思兼:2013/09/29(日) 00:44:21



「ダニエル、どうだ?」

「あ、静葉。う〜ん、今のところはまだ進展無しかなぁ?
ニコ君はどう?大丈夫だった?」

そんな部屋にコーラのボトルとコップを持った静葉が入ってくる。

ダニエルは静葉と住んでいる為、この部屋は当然巴邸の一室だ。


「ああ、今は寝ている…が、やはり衰弱は隠せんな。日に日に寝ている時間が長くなっている。」

静葉はダニエルにコーラを渡しながら、どこか心配そうにそういった。

「サンキュ。困ったね、このままじゃニコ君がもたないや。」

「うむ…どうしたものか…」


「仕方ない!ねぇ静葉、明日アイを呼んでくれるかな?
確証は無いしリスクも不明だけど、アイに手伝ってもらえば何とかなるかも。」

「本当か?わかった、明日呼ぶ。だが、今日じゃなくていいのか?」

「うん、ボクは今からその準備をするから。」


********************************************


name 名無し さん
pass dm616

>コードが解禁されました。ようこそ『名無しさん』
>以降の通信は『名無しさん』のサーバーから行います。
>通信会社からの監視を遮断、記録の偽装を完了しました。
>現在×××××××人の『名無しさん』がネットワーク上に存在します。
>そのうち起点指定された14662人の『名無しさん』に仕掛けた『Infiltrator205』を起動します。
>ネットワークを構築…監視システムをオンにしました。
>ここまでの起動ログを削除しました。
>プログラム『アイ』のバックアップシステムをセッティング開始
>セッティング中です…


「まぁ、こんなものかな?
あとはアイと僕が頑張るしかないよね。」



<To be continued>

975思兼:2013/09/29(日) 00:45:45
文中にリンクが出来ていますが、どうか無視してください。
最後です。


【感情融解≒再燃】

―第×話、生み出された話―


私は誰?

もう何度目にもなる問いかけ

私が知りたいこと

答えは返ってこない、返ってくるわけがない

私は『違う』から

私は『何も』出来ないから


歌えない…声が出ない

触れられない…すぐそこにあるのに

聞こえない…0と1の文字の羅列になってしまう


どうして…?どうして…?


そもそも…どうやって声を上げるんだっけ?

どうやって歌うんだっけ?

触れてどうするの?

そもそも『聞く』って何?


ああ…私から何か大事なもの、大事な記憶がどんどん抜け落ちてしまうような気がする。

でも、それが何だったかすらも忘れて思い出せなくなってしまっている。

あれ…?忘れるって一体何のことだったっけ?

違う!そうじゃなくて!それが嫌なんだ!

このままじゃ、私は私でなくなる!!

嫌だ!そんなのは嫌だ!怖い…よぉ…!


私は見たい!話したい!聞きたい!触れあいたい!歌いたい!

このまま消えたくない!私は『生きていたい』んだ!


『お前は死んだ、だが今は確かに生きている。そこから出たければ、イメージしろ。
今のお前はまだ生まれてすらいない。さぁ目を覚ませ、お前の居場所がそこにある。』


え…?


*****************************************

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「な…なんだ!?
いきなり画面から青いのが飛び出してきたぞ!?」

「あ…あれ?私は…?」

「お前…一体なんだよ!?」

「あ…私は『アイ』です、初めまして。何者かと言われましても…名前以外何も分からなくて…」


こうして、孤独な少年は独りぼっちから二人になった。


<To be continued>

976えて子:2013/10/03(木) 09:28:04
白い二人シリーズ。思兼さんの「【悪戯ナイトゲーム】」後半の新聞記事を少々お借りしました。
ヒトリメさんから「コオリ」、紅麗さんから「アザミ(リンドウ)」、名前のみ十字メシアさんから「エレクタ」をお借りしました。こちらからは「アオギリ」です。


「リンドウ、何読んでるの?」
「みどりのおじさん、なにしてるの?」
「あ?新聞だよ、見りゃ分かんだろ」

コオリといっしょにおさんぽしてたら、リンドウが何か読んでたの。

新聞。アオ、知ってるよ。
いろんなこと、書いてあるの。
学校でも見たことあるけど、それとは違う新聞なんだって。
同じ新聞なのに、不思議。

「見せて見せて」
「みせてー」
「ちょ、てめえら俺はまだいいって言ってな……ああもう!」

コオリと一緒に、リンドウの新聞を見るの。
いろんなことが書いてあって、毎日違うことが書いてあるんだって。
「こうつうじこ」のこととか「いべんと」のこととか、たくさん書いてあるの。
アオやコオリには難しい言葉もあるから、リンドウに教えてもらうの。

「みどりのおじさん、これはなんてよむの?」
「おじさんって言うな。……亡霊。『ぼうれい』って読むんだよ」
「ぼうれい?」
「ぼうれいってなあに?」
「あぁ?お化けだよお化け」
「おばけさん?」
「おばけさんなの?」
「そうそう、おばけおばけ」

おばけさん。
お話ではよく聞くの。
いかせのごれには、たくさんいるのかしら。

「おばけさんって、どんなのかしら」
「アオ、知ってるよ。おばけさん、アオやコオリみたいに、さわれないの」
「さわれないの?」
「うん」
「でんきのおにいちゃんみたいに?」
「エレクタとは、ちょっと違うんだって。エレクタが言ってたの」
「そうなの?」
「そうなの」
「なにがちがうのかしら」
「わかんない」

エレクタも、おばけさんも、さわれないの。
でも、エレクタはおばけさんじゃないんだって。
なんでだろうね。

977えて子:2013/10/03(木) 09:28:49

「きっと、エレクタは見えるからおばけさんじゃないんだ」
「おばけさんはみえないの?」
「うん、見えないって聞いたことあるの」
「でも、しんぶんにはおばけさんがみえているわよ」

新聞には、おばけさんのことがきちんと書かれている。
新聞の人は、おばけさんが見えていたみたい。

「きっと、不思議な力で見えたのよ」
「ふしぎなちからなの?」
「うん、前にお勉強したの。“れいかん”がある人は、おばけさんが見えるんだって」
「しんぶんのひとも“れいかん”があったのかしら」
「きっとそうなのよ」
「コオリたちには?」
「?」
「コオリたちには“れいかん”あるのかしら」
「わかんない。おばけさんを見たら、きっとわかるよ」
「おばけさんをみれたら、コオリたちも“れいかん”があるのね」
「うん」

「えぇい、うぜぇんだよさっきから人の耳元でぺちゃくちゃぺちゃくちゃと!!!新聞なら後でいくらでも読ませてやるからどっか行け!!!」

「はぁい」「はぁーい」

リンドウに怒られちゃった。

「どうしよう」
「なにしよう」

今日のお勉強は全部終わっちゃったの。
だからやることがないの。
こういうの、「たいくつ」っていうんだよね。

「こんぺいとうのおねえちゃん。おばけさん、さがしにいこう?」
「おばけさん探すの?」
「うん。コオリたちにも“れいかん”あるのか、たしかめるのよ」
「いいね。探しにいこう」

今日の「よてい」ができたの。
やったね。


白い二人のおべんきょう〜おばけさん探すの巻〜


「リンドウ。アオたちおばけさん探しに行ってくるの」
「“れいかん”あるかたしかめてくるのよ」
「あっそ。暗くならないうちに帰って来いよ(探すの面倒だから)」
「はーい。いってきまーす」「いってきまーす」
「はいはい、いってらっしゃいいってらっしゃい。………」


「…………待て。今あいつらなんつった?」

978サイコロ:2013/10/21(月) 22:10:43

次日。道場にて。
ショウゴは再び相対する。

1戦目、アンジェラ&ヒロヤ兄妹。

ショウゴはニヤリと笑いながら挑発する。
「昨日までの俺とは違う、二人一緒にかかってきな。
…言っておくが銃はそっちのアドバンテージにならねぇぜ?」

「言うじゃない、この前の時はあんなにコテンパンだったのに。
私はこんな足手纏いと組む必要はないわ。」

「いい加減にしろよアンジェラ。気を抜いてやられかけただろ、この前は。」

「ああん?果てろクソゴミ男」
「んだと爆ぜろスカタン妹!」

勝手にヒートアップするこの二人に挑発はいらなかったかもしれない。
既に道場には障害物の段ボールや板などが設置されていた。

「おい、アホ兄妹。そろそろ始めるぞ。」

「「誰がアホ兄妹だ!」」「果てろ!」「爆ぜろ!」

仲のいい兄弟だ、と思いながら腰だめに銃を抜いた。即座に二人は別方向へと駆け出す。
罵りながらも息の合った動きに感心しつつ、ショウゴも障害物へと隠れた。

979サイコロ:2013/10/21(月) 22:11:26

ウミネコはショウゴの言動を注意深く観察していた。
そんなウミネコにシスイが話しかける。
「ショウゴさん、憑き物が落ちたというかなんというか…」

「…。」

「少し変わりましたよね。吹っ切れたというか。」

海猫は観察しながらも何かを考え込んでいるようで、シスイの話も半分くらいしか聞いて無いようだった。

「ああ。」

「何か心配でも?」

「いや、ちょっとな…。」


「なんで?なんで当たらないんだ!?」

アンジェラの悲鳴がヒロヤに届く。
相変わらず前衛を彼女に任せ、後衛をヒロヤが担当していたのだが、
障害物にうまく隠れるショウゴを捉えられずにいた。
ショウゴが障害物から銃を向ける瞬間を狙って狙撃も試したが、当たらない。
いや、当たった感触はあるのだが、降参しないのだ。銃弾のあたり判定は申告制で、
ルールに対してきちんと守るのが前提である。
ましてや頭に血が上ったアンジェラならともかく、ショウゴがルールを破るとは思えない。

「何か仕掛けがあるのか…?」

「いやいや、大した仕掛けじゃないよ。」

「なっ!?」
いつの間にかショウゴが後ろに立っていた。
隠れたと思っていたが、回り込まれていたことには気づいていなかった。
障害物をうまく使ったらしい。
咄嗟に持っていたアサルトライフルをショウゴへ向けて放りつつ障害物を乗り越え、距離をとろうと遠ざかった。
もちろん短機関銃を抜いておくことも忘れず、その場へ弾をばら撒いた。
一般人や訓練の積んでいないテロリストであれば、この動きに対応できる人間はほぼいないだろう。
熟練の兵士でさえ怪しいものだ。
しかしショウゴは動じない。
迷わずライフルを掴むと横に跳びながら発砲してきた。
そこにアンジェラが割り込んでくる。
格闘になり、アサルトライフルを器用に振りながらアンジェラのガンカタをいなして崩して邪魔をする。


「くっそコノヤロさっさと果てろ!」

なかなか当たらない事にイラついてきた時だ。

「!?」

いきなりショウゴの姿が消えた。

(いや、これは!?)
「下だアンジェラ!」

ショウゴが寝そべりこちらへ銃口を向けていた。次の瞬間。
銃声と共に、バサッ、という羽音が轟いた。

「危ない危ない、しかしこの姿になったからにゃもうあんたに勝ち目はないよ」

先ほどまでとは一人分上の位置にアンジェラは浮いていた。
いや、正確には背中から生えた黒いガラスのような翼で羽ばたき、飛んでいた。
「この姿でならアンタも楽に倒せるよ。
ホントは使いたくなかったんだけど、やっぱ手抜くのはダメよね。」

冷や汗も乾かないうちにニヤリと笑うアンジェラ。

「ついてこれるかしら!?」

着地すると再び銃を構える。
ショウゴは俯くとクックックと肩を揺らした。

「面白れぇ、『ついてこれるか』ね、こりゃ良い前哨戦になりそうだ。」

ショウゴがふらりと体をひねったところを、ヒロヤの支援弾幕が横切る。
同時に先刻よりも速いスピードでアンジェラが突っ込んでいた。
接近戦闘になる前にショウゴは拡散弾を撃つ。
拡散する前に上へ回避し、スピードを落とすこと無く突っ込んでくるアンジェラ。
ショウゴは排莢し銃に弾を一発詰める。アンジェラの「飛び」蹴りをかわし、追撃に銃を構えようとして、


すっぽ抜けた。


その決定的なミスを勿論アンジェラは見逃さない。

「いただきよ!」

ショウゴの銃を咄嗟に奪うと、トリガーを引き絞る。

980サイコロ:2013/10/21(月) 22:12:01


轟音とともに、皆の目が驚きに満ちた。

まごう事無き実弾の音に。

その弾丸がショウゴの銃から放たれた事に。

銃弾を掴むように伸ばしたショウゴの腕が、吹っ飛んだと思ったら瞬時に元に戻ったことに。

アンジェラは呆然と立ち尽くす。

ヒロヤは構えを崩した。

シスイは飛び出しかけ、

ウミネコはシスイの裾を掴んで引き戻す。

「…どうした?効かないと言っただろ、銃弾は。
俺はなぁ、一度死んでるんだよ。ナイトメアアナボリズムっつーのを持っている。これはその証明だ。
もう一度言うぞ、『銃は効かねぇ』。分かったらホレ、かかってこい。」



突然の事に動揺したのもあるだろう。
急に戦法を変えることも少なくない戦場で戦ってきたアンジェラだが、銃が効かないというのは厄介だった。
勿論ヒロヤにも言える事で、苦戦を強いられる事になる。


アンジェラは戦法を切り替え、ガラスのような黒い羽による攻撃と、ヒットアンドアウエイを高速移動しながら行い、
ヒロヤはショック弾で気絶させる戦法に出た。

だが。

やがてアンジェラが降参を叫び、粘ったヒロヤもギブアップを宣言した。

981サイコロ:2013/10/21(月) 22:12:34




2戦目。シスイ対ショウゴ。

「シスイ、本気で戦ってくれ。」

突然の申し出に、シスイは困惑する。

「本気って…手を抜いてはいないですよ?」

ショウゴは首を振りながら答える。

「天子麒麟じゃねぇ、天士麒麟だ。天装を見せてくれ。」

「そんな…あれは、そうそう簡単に使うものじゃ」

「シスイ。…これが見えるか。これは実弾だ。お前との模擬戦にこれを使う。意味は分かるな?」

「!?」

「俺はお前を殺す気でやる。お前も本気で来い、シスイ。」

言い終わるか終らないか。そのタイミングで、ショウゴが発砲する。
シスイの後ろに置いてあった鉄の的に、ヒビすら入らない穴が開く。

「っ!」

シスイは遮蔽物を移動しながら、考える。

(今日の先輩…明らかに何かが変だ!早めに止めなくちゃ、危なくないか…!?)

チラリとウミネコを見たら、ウミネコもこちらを見ていた。

(構わん、やれ)

ウミネコの目はそう伝えてきた。
ええい、考えても仕方ない、先輩を止めよう、とシスイは若干自棄になりつつも詠唱を始める。

 「――其は、四天の中心に座したる天帝の証」

障害物を乗り越え、更にショウゴを中心として円を描くように、銃弾の雨を回避していく。

 「目覚めよ、黄道の獣。汝が往くは、王の道」

肩を銃弾が掠め、風切り音が耳を打つ。そして…

 「我、護国の剣と成りて――魑魅魍魎を打ち破らんッ!!」

最後の一言と共に、シスイの動きが変わった。

982サイコロ:2013/10/21(月) 22:13:06


十数分後。



「…満足ですか、先輩。」

大の字に寝転ぶ二人の姿がそこにはあった。
障害物はほぼ全てが吹き飛び四散し粉々になっていた。
シスイは大汗をかきながら、ショウゴの方を見る。

「…まさか、先輩が『デッドエボリュート』を使えるようになっているとは。」

シスイよりもボロボロになりながらも、ショウゴはニヤリと笑った。

「おう、満足だ。予想通りでもあった。ありがとよ、お前のおかげで俺は『弾を込められた』。」



「装備」は整った。「覚悟」も整った。残すのは「時」と「場」、そして。



「敵」。

983サイコロ:2013/10/21(月) 22:13:33


akiyakanさん宅から都シスイ、十字メシアさん宅から角牧 海猫、ヒロヤ、アンジェラをお借りしました。

長いこと連載を開けて申し訳ありません。
関係者各位にお詫び申し上げます。


まだかかるよ;

984スゴロク:2013/12/02(月) 15:16:51
「ただ、それだけ」に続きます。ちょっと短いです。



長久の口にしたその名前に、スザクは一瞬固まっていた。
カチナ。その名は、忘れようもない。
かつてと言うほどでもない以前、他でもない自分を死の淵に追いやった少年。

「あいつが……!?」
「ああ。本当の名前は蒼介。オーナーの、実の弟だ」
「弟……」

その時の彼女の心境を現すならば、複雑、という形容がぴったりくるだろう。
カチナはスザクにとっては、倒すべき敵。しかし、情報屋の彼らにとっては、守るべき存在なのだ。
そして恐らくは、UHラボの被害者の1人。

「……あんたにとっては、許せない相手だろうな。だが、俺達、特にオーナーにとっては、何にも代えがたい存在なんだよ」
『なんだよね。……許せとは言えないケド、せめて危害は加えないでやってくれないかな』
「…………」

少しの沈黙を置き、スザクは口を開いた。

「……カチナ……蒼介? そいつが、僕達に手を出さない限りは、僕も何もしないよ。少なくとも、今はね」
『そう言ってくれると助かるよ。……けど、なあ』
「奴を何とかしないと、話が始まらん」
「奴っていーうのは?」

奇妙に間延びした口調で、理人が割り込んで来た。

「もーしかして、僕がロッギー君から聞ーいた、あのセラとかゆー男かね?」
『! その通りだよ。知ってたのか』
「いーま言っただろう? ロッギー君から聞いたのサ」

本気か冗談かわからない、さっきまでの怒りの様相を微塵も感じさせない道化の笑みを浮かべて、理人はしゃくっ、と歪に切られたリンゴを食みつつ、足を組み替えた。
冷静に考えれば訪ねてきた側としてかなり失礼なのだが、今それを気に掛ける者はいない。

「……あんた、ロッギーからどれくらい『聞いた』?」
「だーいたい全部かな? その蒼介ってコがこーっちに連ーれて来らーれて、そーれからセラって奴がつーれて行ったトコまでは」

大雑把だがまさしく全てだった。

『……それだけ知ってるなら話が早いね』
「ああ。奴……セラは、蒼介を『命令』で連れ出した。俺達は、その時暴れ出した蒼介にやられたんだ」
『蒼介は、命令でしか動けないみたいだった。あいつが、「邪魔する奴は全員潰せ」って“命令”したから、多分それで……』

アーサーの呟きには、スザクが応じる。

「……確かに、初めて会った時も自分のこと、命令を聞く兵器だってブツブツ言ってたな」
「……連中のやりそうなことね」

はあ、と嘆息したのは京だ。スザクや理人ほどではないにしても、彼女もラボには因縁がある。

『セラについては、アーサーも僕も資料で見たけど……人間のやるコトじゃないよ、あれ』
「連中は自分の研究にしか関心のない、悪い意味でのマッドサイエンティストの集まりだからな。一体何を考えてるんだ……」

スザクの呟きには、誰も答えを持っていない。

「……いずれにせよ。コトはまだ、始まったばかり……あるいは、始まってすらいないのかも知れません」
「なら、始めるだけよ、アン。ラボの残党……『失われし工房』だったかしら? それを追うのが、さし当りの近道だと思うわよ」
「わかりました」

現状、カチナこと蒼介を連れ去ったセラがどこに行ったのか、その背後に何があるのかはつかめていない。
情報屋の面々にしても、今は外しているハヅルを含めて、目下調査の最中だという。

「……それで、理人君だったかしら?」
「んー?」
「あなた達は、協力者として見ていいのかしら?」
「そーれで結構。雨里さーんは?」

言われた京は少し考え、こう言った。

「……あのコはダメよ。単に特殊能力が使えるだけじゃ、いざと言う時に大変だもの」
「確かに。失礼ながら、実戦慣れしているとはお世辞にも見えませんでした」

つまりは参戦却下。雨里本人も理人も、予想済みの結論だけに驚きはしない。

「ま、そーでしょーな。でーは、本人にはそーう伝えときましょー」

985スゴロク:2013/12/02(月) 15:17:32
さて、とリンゴ、最後の一つを嚥下し、理人は立ち上がって長久とアーサーを見る。
不意に、口調を変えて。

「僕はこれから独自に連中を追うよ。何かわかったら連絡する。これがアドレスだ」

半ば一方的に、長久にメモ用紙を押し付ける。

「……わかった」
「慌ただしくて済まないね。何はともあれ、まずはその蒼介君を取っ返すのが先だ。連中を潰すのは、その後でも十分に間に合う」

潰す、という部分にだけ、わずかに憎悪が滲んでいたが、それも一瞬。
すぐにいつもの道化笑いに戻ると、理人は「それじゃー、まーたー」と間延びした口調で言い残して情報屋を出て行ってしまった。

『……騒がしいというか、何というか』
「アーサー、ロッギー、あれは気にしたら負けだと思うぞ」

ともあれ、と長久は気を取り直して続ける。

「ラボの連中も、セラって奴も、見逃すわけにゃいかねえ。自分が何をやったのか、思い知らせてやる」

ぐっ、と痛むほどに拳を握りしめる。
そんな彼に続くように、スザクも口を開く。

「……僕達の気持ちや考えはわからないって、さっき言いましたよね。僕も、あなた達の気持ちは、本当には理解できないと思う」

けれど、

「少なくとも、僕やゲンブ、あの理人みたいな人間にとっては、ラボの残党がいる限り、過去が過去にならない。終わらせないと、僕らは今を歩けない」

だから、

「どれくらいのことが出来るかわからないけど……僕も、力になりたい」

赤い瞳は、決意を宿して燃えていた。






――― 一方、その頃。


「ここか……ここに、いるのか……」

ある家の前に、佇む影一つ。
憎しみに濁ったその目は、中にいるであろう標的の姿を捉えていた。

「マナの姿を奪った、あのまがい物が……」





運命交差点・螺



(その導く先には……?)


「アン・ロッカー」「アーサー・S・ロージングレイヴ」「久我 長久」をお借りしました。

986akiyakan:2014/01/07(火) 21:03:22
※都合により、自キャラのみです

 ――天に向かって、巨大な樹が生えていた。

 それは、遠方からでもよく見る事が出来た。空を突くように聳え立つそれはゆうに300メートルを超えている。その樹には枝は無く、空に向かって一直線に伸びる柱のようにも見える。幹の太さは、ビルほどもあるだろう。 周囲にはそれを超える建物は無く、強いて言うなれば、少し離れた場所に建っているスカイツリー位だろう。ビル街に根を張る姿が尚更その巨大さを見る者に見せつけていた。



   ――・――・――



 一人の人間が、荒れ果てたビル街を歩いていた。
 人の姿はまったく無い。大通りを走る車も無く、街は完全に死んでいる。いや、抜け殻と呼ぶべきなのか。
 都市を機能させていた人間がいなくなり、都市の命であった人間の生活が無くなった。ここにあるのは、かつて都市だったものの入れ物だけだ。

「ちょっと兄さんや、めぐんではくれないかね」

 呼びかける声に足を止め、「彼」はそこに座り込んでいる男性を見下ろした。
 髭や髪が伸び放題の不衛生な姿。典型的なホームレスだ。年齢は六十過ぎ、と言ったところか。男性は人懐っこそうな笑みを浮かべて金属製の箱を差し出してくる。
 「彼」は自分の懐に手を入れて探ると、それを箱の中へと入れた。数枚のお札にいくつかの貨幣が落ちる。
 それを見て、ホームレスの男性は驚いた様に目を瞬かせた。

「兄さん、これはいくら何でも太っ腹過ぎないか? 何も、有り金全部寄越してくれなくても良かったのに」

 そう言いながら、男性は箱の中から一万円札を一枚摘まんで見せた。確かに箱の中にある金額は、見ず知らずのホームレスに恵んだにしてはあまりにも多い額だった。

「いいんですよ。私には、もう必要の無い物ですから」

 そう言って、「彼」は微笑んだ。
 ホームレスの男性には男に見えるから、彼は「兄さん」と呼んでいるに過ぎない。便宜上、「彼」としているが、実際のところ、「彼」の性別を判断するのは難しい。その顔立ちと身体つきは、本当に中性的だ。見る者の主観によって、「彼」は男にも見えるし女にも見えるだろう。見た目、二十代中盤位に見える。

「早まった真似をするんじゃないよ、兄さん。アンタ、まだそんなに若いじゃないか」

 「彼」の様子を見て、ホームレスの男性は顔を顰めた。男性の言葉の意味が分からないのか、「彼」は不思議そうに首を傾げる。

「アンタでもう、今月十人目だよ。兄さんもだろ? この先の『大樹』へ行こうとしているんだろ?」

 そう言って、男性はまだずっと先にある、あの巨大な樹を指差した。

「俺がここに住むようになってからずっと、あの樹を目指して色んな奴らがやってくる。俺より年取った奴もいたし、兄さんより若いまだ子供もいたな。ふらふらっと、まるで花に集まる虫みたいにさ。で、誰一人として帰って来なかった……あの樹はな、人喰いなんだよ」

 男性は傍にあったボトルを開け、喉を鳴らしながら飲んだ。ひとごこち付けるように、ため息を吐き出す。

「来る奴はみんな言う、あの樹は女神なんだと。そんでもって、いつか旅に出るらしい。それに自分達も連れて行って貰いたいそうだ……あんな風にな」

 男性が指し示す方向へ、「彼」は顔を向けた。自分達から少し離れた場所に人影がある。それはふらふらと、まるで夢遊病患者のような足取りで、しかし真っ直ぐに樹を目指して向かっていた。
 それを見つめる男性の目には、諦観の色が浮かんでいた。

987akiyakan:2014/01/07(火) 21:04:06
「兄さんも知ってるだろ? ……知らない訳が無いよなぁ。あれは大事件だった。日本だけじゃなくて、世界で取り上げられた。あれを知らない奴は誰もいない」

 それは、半年前の出来事だった。
 突如、東京タワーを呑み込み、それを侵食する形で巨大な『大樹』が出現した。無骨な赤い鉄骨で出来た日本の首都のシンボルはもはや存在せず、代わりに同じ高さの植物が存在している。
 『大樹』が、ただそこに立っているだけであれば、おそらくは新しい東京の観光地として受け入れられたであろう。だが男性が言うように、『大樹』は人喰いだった。
『大樹』が出現したその日から、日本各地で行方不明になる者が後を絶たなくなった。『大樹』は、一種のテレパシーの様なものを発して人間を呼び寄せ、それを捕食していた。あたかも、食虫植物が獲物をフェロモンによって引き寄せるかのように。
 『大樹』を倒す為、自衛隊は元より、米軍による攻撃も行われたが、すべて失敗に終わった。百を超える戦車の砲撃も、空を埋め尽くす程の爆撃機による攻撃も、すべて『大樹』には通用しなかった。
 世界はこの怪物を排除する事が出来ず、どうする事も出来ず、その半径数キロ圏内を立ち入り禁止にし、誰も近付けないようにする事しか出来ないのだった。結果として、かつての東京都港区周辺は見る影もなく荒れ果て、巨大な廃墟街と化している。

「あの樹を目指してくる奴らはみんな、目が虚ろで様子がおかしいんだが……兄さんはしっかりしてるみたいだな。だったら尚更よしときな。自分からあの樹の栄養になりにいくなんて、馬鹿げてる」

 そう言って、男性は肩を竦めた。
 「彼」は、ずっと前方にある『大樹』の方を見つめる。まだ距離はあるのに、その巨大さがその場所からでもよく分かった。
 彼はしばらくそれを見つめた後――『大樹』に向けて足を踏み出した。

「俺は止めたからな、兄ちゃん」

 背後から、男性の声が聞こえる。それに「ええ」と「彼」は返す。

「忠告は受け取りました。ですが私は、あそこへ行かなければいけません」

 「彼」は振り返って、男性の方を向いた。その眼差しには、確固とした意思がある。

「あそこには、私の兄妹がいるのです」



   ――・――・――



 ――歌が聞こえる。

 透き通った、少女の歌声が、廃墟の町に響き渡る。
 半年間放置された都市はすっかり荒れきっていた。建物や地面は歪み、亀裂が走り、そうして出来た隙間から雑草が茂っている。普通、半年ではこうはならない。『大樹』の伸ばした根がコンクリートの地面を突き破り、ビルを折り曲げ、歪ませてしまった結果だ。

 天を突く神樹。遺跡化した都市。そこに響き渡る少女の歌声。

 まるで北欧神話の一ページのようだと、「彼」は思った。

988akiyakan:2014/01/07(火) 21:04:40
 『大樹』に近付くにつれて、風景はビル街から森のように変化していった。
 放射状に伸びた巨大な根が、まるで積み木を崩すように建物をなぎ倒している。そこから木が生え、『大樹』の周囲を覆っていた。森の中は、綿胞子のようなものが淡い光を放ちながら浮かんでおり、それのおかげで全く暗くない。『大樹』の影響なのだろうか、木々は八メートルを超えるものばかりであり、明らかに異常な成長速度だ。たった半年で、都市が森林地帯へと変貌している。
 不意に開けた場所に出て、そこで「彼」は足を止めた。
 鬱蒼と茂る森の中で、その場所はぽっかりと開けていた。そこには崩れたビルがあり、森の中から突き出た形で存在する。
 そのビル。崩れてビルの角が頂点となった瓦礫の上に、一人の少女が座っていた。
 年の頃、十六歳から十八歳くらいだろうか。薄い緑色の、長い髪の毛を持つ少女だ。どこかの学校のものだろうか、制服を身にまとっている。
 少女は目を瞑り、その透き通った声で歌っていた。決して大きな声と言う訳でもないのに、その歌声は遥か遠くまで流れていく。
 不覚にも、その光景に「彼」は見惚れていた。美しいと、思っていた。
 少女が歌うのを止めた。「彼」の存在に気付き、そこへ視線を向ける。青色の双眸が自分を見つめているのを、「彼」は感じる。

「久し振り、ミツ」

 柔らかな笑みを浮かべながら、少女が言う。かつて見た時はまだ年端もいかない幼子で、その微笑みにはその面影が残っている。あぁ、やはり彼女なんだと「彼」、ミツは思った。

「ええ。お久し振りです。レリック」



 ――・――・――



「ミツは今まで、どこにいたの?」

 瓦礫の上に、二人で並ぶようにして座る。レリックは、興味深そうな眼差しでこちらを見つめてきており、その様子が微笑ましいようにミツは笑った。

「世界を……見ていました」
「世界を?」
「ええ。そうすれば、何か見えると思って……」
「何か……見つけられた?」
「色々……ですね」

 ミツは、目の前に広がる森を見つめた。
 「彼」はこれまで見て来たものを回想する。

 南方の平和な国で、幸福に暮らす人々の姿を見た。
 中東の内戦が絶えない国で、苦しみに喘ぐ人々の姿を見た。
 平和であっても、豊かであっても、その中で熟成される人間の闇を見た。
 荒廃していても、貧しくあっても、その中で輝き続ける人間の光を見た。
 憎しみ合い、傷付け合う人間がいた。
 信頼し合い、助け合う人間がいた。
 醜くも美しい世界を、「彼」は見つめて来たのだった。

「そっか……旅をして、色んなものを見て来たんだね」

989akiyakan:2014/01/07(火) 21:05:13
 そう言うレリックの横顔は、ミツの知る幼い少女のものではなかった。大人びていて、見た目以上に成熟した立派な一人の女性のようだと「彼」は感じた。

「レリックも、旅に出るんですね?」
「うん、そうだよ。ちょっと、ミツより遠くて大変だけど」

 苦笑を浮かべて、彼女は『大樹』を見上げた。
 まだ距離はあるものの、そこからでも十分にその詳細を見る事が出来た。柱のように聳え立っているそれは太く、日本電波塔のシルエットを残しながら存在している。例えるなら、タワーが骨格であり、幹の部分がそれを肉付けするようにある。 よくよく見ると、『大樹』は普通の植物と違っていた。そもそもこんなに巨大になる植物自体無いのであるが、その樹皮は一見するとよくある木の幹のようで、しかし実際は動物の肉に似た構造物で構成されていた。道管や維管束に見えるモノは脈動し、何かしらの体液を全身に送り込んでいる。

「東京タワーを骨格にするとは考えましたね」
「うん。まぁ、タワーだけじゃ足りないから、余所から鉄骨も拝借したんだけど。軍隊の人達のせいであっちこっち折れたから、治すの大変だったんだよ?」
「まぁ、貴女が人喰いで、しかも大喰らいとくれば、当然の反応だと思いますよ?」
「む? レディに向かって大喰らいなんて失礼ね。ミツったら、旅先でデリカシーを忘れて来たんじゃないの」
「でも実際食べ過ぎですよ。日本全国で千人って言うのは、ちょっとやり過ぎじゃ」
「実際は一万人よ。日本では千人かもしれないけど、世界中に呼びかけたんだもの」

 むぅ、と頬を膨らませる愛らしさに対して、言ってる事は物騒極まりない。一万、と言う数字に、ミツも思わず頬が引き攣るのが分かった。

「何だってそんなにたくさん……」
「だーかーらー、呼んだの。『私と一緒に新しい世界へ行きませんか?』って。どっかの悪質勧誘宇宙人みたいに内容ぼかしたりしないで、ちゃんとどう言う事をするのかご理解と同意をしていただいた上で来てもらってるんだよ? それなのに大喰らいだなんて……」

 頬を膨らませながら、レリックはそっぽを向く。少しからかい過ぎたか、とミツは頭を掻いた。

「……一億人でも、足りないよ」
「え?」
「これから私、誰もいない世界に行くんだよ? 周りに知ってる人、誰もいないんだよ? ……何人集めたって足りないよ」
「……怖いのですか?」
「怖いよ……すっごく」

 自分の身体を抱き締め、レリックは小さく震えていた。

「怖いなら、止めればいいじゃないですか」
「そうだね……実際、そうしようと思った。でもね、ぐーは怒ると思う。多分」

 レリックは苦笑を浮かべた。きっと自分も同じような顔をしていただろうとミツは思った。

「『特異な才能を持つ者は、その者にしか出来ない事がある。凡夫に出来る事は誰にだって出来るのだ。その者にしか出来ない事は、その者がやるべきだ』……博士の口癖でしたね」
「うん……これは私にしか出来ない事だから……やらないとぐーに怒られちゃう」

990akiyakan:2014/01/07(火) 21:05:46

 そう言って笑うレリックの表情は、諦めているようにも見えて、しかし確固とした意志を感じさせた。
 全く、身内にすら容赦が無いヒトだ、とミツは心の中でため息をついた。これから彼女が行おうとしている事は、決して楽な事ではない。誰にでも出来る事ではなく、それこそ彼女にしか出来ない事だ。だが、だからと言って彼女がやらなければいけない道理は無い。
 もっとも、きっと、自分が彼女と同じ立場だったとしても、同じ選択をしただろう。

「……ありがとう、ミツ。話聞いてもらったら、ちょっとだけ怖いの無くなった」
「そうですか。それは良かった」
「うん……ミツはこれから、どうするの?」
「また旅に出ますよ……まだ見てないモノがたくさんありますからね」
「そっか……」
「貴女が迷惑じゃないなら、私も一緒したいんですけど」
「……え?」

 レリックの驚いた顔を見て、ミツは悪戯っぽく微笑を浮かべた。自分の生みの親がこう言う芝居がかった真似を好むのが何故なのか。これ以上無いくらいに分かった。

「え……え??」
「貴女まさか、私がこんな世間話する為だけにわざわざここに来たと思ってたんですか?」
「……ついて来て、くれるの?」
「妹を放っておける訳ないじゃないですか。一応私、貴女の兄妹なんですよ?」

 じわ、と青い瞳が涙で滲んだ。目元を拭いながら、レリックは微笑う。その顔に、曇りはもうなかった。

「バカね、ミツったら。女の子を口説くなんて、まるでアッシュみたいよ?」
「別に口説くつもりは無かったんですけどねぇ……」

 ポリポリと照れ臭そうにミツは頭を掻く。実際、こそばかゆい。だが、決して悪い気分でもなかった。



   ――・――・――



 明け方、それは起きた。
 異変に気付いたのは、『大樹』にもっとも近い場所で暮らしているホームレスだった。
 まるで地震でも起きたかのような大きな揺れに、彼らは自分達が住処にしている廃墟から飛び出した。まだ放置されて半年程度であるが、それでも老朽化は進んでいる。潰されてはたまらないと、断続的に続く揺れの中で彼らは廃墟から次々に這い出てくる。
 丁度夜が明け、太陽が昇ってくるところだった。地平線から上る朝日がそれを照らし、彼らはその光景を目にした。
 『大樹』から、翼が生えていた。
 形が変化していた。一直線に天に向かって聳える柱のようだったそれは、途中から巨大な二対の翼を生やしていた。大きな一対と、その後ろから補助翼の様な一対が生えている。
 『大樹』の頭頂部の形も変わっていた。楕円形に膨れ、まるで目の様にいくつかの青い光球が出現している。
 それはもはや『樹』と言うよりも、羽根を持つ『虫』か、或いは『竜』のような姿だった。



 ――・――・――

991akiyakan:2014/01/07(火) 21:06:26
『ミツ、準備は良い?』
「ええ。私は大丈夫ですよ」

 『大樹』の先端部分に出現した眼の一つに、ミツはいた。身体の半分が『大樹』と同化しており、無数の根が身体に巻き付いている。
 レリックの姿は無い。だが、その声はまるでスピーカーから聞こえて来るかのように、「彼」のいる場所に反響していた。

「なかなか見栄え良く変形しましたが、これ、ちゃんと飛べるんでしょうね?」
『失礼な。この半年間、わざわざマントルまで身体を伸ばして熱エネルギーを集めたんだよ? 飛べる筈だよ……多分』
「多分っていいましたよね、今?」
『あーもう! カウントダウン開始するよー!!』

 了解しました、と返し、堪えきれずにミツは笑みを零した。
 幼い頃のレリックを思い浮かべ、その変化に感慨深さを感じる。

「本当に……立派になりましたね、レリック」
『え? 何か言った?』
「いいえ……しかし、見送りが戦闘機二機だけと言うのは、ちょっと寂しいですね」

 そう呟くミツの視界に、先程から旋回を続ける戦闘機が映った。『大樹』を取り囲むように、ずっとその周囲を飛び続けている。

『……まぁ、ぐーもアッシュも、みんな忙しいだろうし』

 そう言うレリックであるが、その声には少なからず落胆の色が含まれていた。
 これが今生の別れになるかもしれないのだ。付いて来て欲しいとまでは言わない。だがせめて。せめて見送りに位は来て欲しいと思った。

『……行くよ!』

 未練を断ち切るように、レリックの声が力強く響いた。次の瞬間、強烈なGが、ミツに襲い掛かって来る。

「ぐ――ぬ」

 吸い上げた熱エネルギーを根の部分から噴射し、『大樹』の身体を押し上げた。
 ミツとて並の人間ではないが、それでもその加重は強烈だった。実際、全長300メートル以上もある巨大な構造物が、地球の重力に逆らって飛び立とうとしているのだ。その為に必要なエネルギーは尋常ではない。ミツだから耐えられているようなものであり、専用の訓練を受けた宇宙飛行士や高速機のパイロットでも、これでは十秒と持たない。

「ぐぅ……っ!!」

 少しずつ、『大樹』全体が浮かび上がっていくのが分かる。目の前の景色が、少しずつ下にズレていく。
 地球の風景を見るのは、これで最後になるだろう。そう思い、ミツは視線を地上の方へと移した。重力から逃れようと、『大樹』はどんどんそこから離れていく。

「あ――」

 その時、ミツは思わず目を見張った。

992akiyakan:2014/01/07(火) 21:13:13
「レリック、あれを!」
『え……――あっ!』

 常人であれば、それには絶対気付けなかった。しかし彼女達は人間ではない。その視線の先に、「彼ら」はいた。

 学生服姿の青年が、こちらに向かって手を振っていた。
 剣歯虎を模した仮面を装着した男性が、飛び立つ彼女達を見つめていた。

 そして、

 亜麻色の長い髪を持つ女性が、レリック達に笑いかけていた。
 彼女と最も一番近くにいたヒト。機械仕掛けの身体でありながら、人間以上に人間らしく彼女と接し、母親のように振る舞ってくれたヒトが。
 銀色の髪を持つ男性が、その傍らに立っていた。
 いつも薄ら笑いを浮かべ、この世のすべてに対して斜に構えた態度を取っていたその人物は、今は傍らに立つ女性と同じ「親」の顔で彼女達を見送っていた。レリックとミツ。二人をこの世に生み出した、彼女達にとって正真正銘の父親が、そこにいた。

 ある者は小高い丘の上から。
 ある者はビルの屋上から。
 しかし皆一様に、自分達を見送るように顔を上げていた。
 それらが見えたのはほんの一瞬だった。『大樹』を押し上げる力は、あっと言う間に彼らでも視認できない距離まで引き離してしまう。
 それでも、ミツも、レリックも、全員を見逃さなかった。まるで時が止まったかのように、彼らを確認した瞬間だけ、時間の流れが無くなったかのように感じられた。

『みんな……』
「……行きましょう、レリック。私達にしか出来ない事をしに」
『――うんっ!』

 間もなく『大樹』は地球の重力圏を離れ、宇宙へと飛び出して行く。まだ見ぬ宇宙へ、彼らは羽ばたいて行く。

 ――行ってきます

 それに返ってくる言葉はある筈ない。それでも二人は確かに、

 ――行ってらっしゃい

 自分達を見送ってくれた者達の声が、背中を押してくれるのを感じていた。


≪another line≫

993akiyakan:2014/01/07(火) 21:38:40
補足。《another line》そのタイトル通り、本筋とは異なった世界線の話です。

994akiyakan:2014/01/08(水) 13:15:25
《another line》の補足内容です。http://1st.geocities.jp/h_p_l_0209/SSpool/public_htmlsspool/tennimukatte_hosoku.html

995えて子:2014/01/15(水) 10:05:53
おしょうがつが、終わったの。

たくさんかざってたおかざりも、緑色のとげとげも、みんな片付けられちゃった。
「どうしてかたづけるの」って聞いたら、「お仕事が終わったから片付けるの」って言われた。
おかざりも、お仕事してたんだね。

「コオリー、コオリー」
「こんぺいとうのおねえちゃん」
「コオリ、お正月におとしだま、もらった?」
「もらったのよ。おねえちゃんも、もらったの?」

お正月に、大人の人から「おとしだま」もらったの。
大人の人がこどもにあげるんだって。

「あのね。アオ、おとしだまで気になることがあるの」
「おねえちゃんもあるの?コオリもあるのよ」
「いっしょのことかな」
「わからないのよ」

二人で、うーん、ってなっちゃった。

「コオリのおとしだま、見せてほしいのよ」
「うん。おねえちゃんのも、みたいのよ」
「じゃあ、せーの、で見せよう」
「うん」

「「せーの」」

せーので出したおとしだま。
アオのもコオリのも四角だったの。

「…まるくないね」
「まるくないね」
「中に入ってるおかねは、まるいよ」
「うん、まるいのよ」
「でも、たまじゃないの」
「たまじゃないのよ」

四角いふくろにまるいおかねなの。
でも、たまじゃない。
へんなの。

「まあるいおとしだまも、あるのかな」
「きっとあるのよ」
「探してみよう」
「そうしよう」

二人で、まあるいおとしだま、探すの。
見つかるといいな。


白い二人とおとしだま〜まあるいおとしだまを探して〜


「最初はどうしよう」
「だれかにきくといいのよ」
「聞いてみよう」

996思兼:2014/01/27(月) 15:40:04

白い二人のおべんきょう〜おばけさん探すの巻〜より続きです。

【流星ガーディアン】

第14話、心配性な話


サイボーグの少女、アリスは道路を漆黒のバイクで走っていた。

『スキャンパー』というニックネームをつけられたフルカウルの排気量400ccのそれは加速力と旋回性を重点にカスタマイズされており、そのニックネーム(跳ね回る、の意)の通り非常に小回りの利く仕様になっている。

アリスはこれを日常の足として使っている。

フルフェイスヘルメットからは濃蒼の長い髪が靡き、日の光を浴びてキラキラと光っている。

今日は身体のフルメンテナスをする為に朝から団の仲間である『高橋 直子』博士の下に行っており、自宅ではできない部分のメンテナンスを行ってもらっていたのだ。

人間の身体とは根本的に構造が異なる身体になってしまったアリスは、疲れを感じず極限状況でも行動でき人間を遥かに凌駕する身体能力と演算能力を備えるが、その代わりに定期的に消耗パーツの交換や各部位の調整などを必要とする。

現行科学技術から遥かに逸脱したオーバースペックの塊のアリスを何故博士がメンテナンスでき、パーツを(オーダーメイドとはいえ)製作できるのかは不明だが、ともあれアリスはメンテナンスを博士に頼っている。
それが今、ちょうど終わったところだった。



「あれは…?」

遥か遠く、走りながら人を遥かに超えた視力で捉えたのは、コオリとアオギリの二人だった。

小さい子供が二人だけで居るのを訝しんだアリスは、脳内に組み込まれたメモリーチップ

997思兼:2014/01/27(月) 15:40:35
にアクセスし、静葉の言っていた言葉を検索する。

『いいかアリス、子供を見た時近くに保護者が見えなければ、できるだけ家に送り届けてやれ。いかせのごれはそこまで治安の良い街じゃない。どんな組織がどんなふうに暗躍してるかわからんからな。アリスは見た目は少女だから不審者扱いはされないだろう。』

その言葉に従い、アリスは減速し二人の前で停車する。
そこは、場所的にはアリスの自宅からほとんど離れていない場所だった。

「小さい子二人でどうしたの?」
「おねーさんだぁれ?」
「僕の名前はアリス、いかせのごれ高校の2年だ…それで、お母さんやお父さんは?子供が二人だけで出歩くのは危ない。」

アリスはヘルメットを脱ぎスキャンパーから降り、小さな二人の前でしゃがむ。
アリスは女性にしては身長が高い為、威圧感を与えないようにだ。

「おばけさんをさがしにいくのー!」
「おばけさん?」

アオギリが言う。
表情が乏しいアリスがそのまま小首を傾げるのはシュールな光景だが、これは本当に真意を測りかねる。

「しんぶんにのってたの!」
「…そう。」

そこまで聞いて、合点がいく。
新聞の心霊特集か何かを見てこの子供たちは興味を持ってしまったのだろう。
それで、その『おばけ』を探している。

「でも、子供だけじゃ危ない。」
「えー?アオ、おばけさんにあいたい!」
「・・・」

どうしても探したい様子のアオギリとコオリを見て、アリスは表情こそ変化しないが内心

998思兼:2014/01/27(月) 15:42:52
ではかなり困っていた。
こういう事態にアリスは弱いのだ。

「…わかった、僕が一緒に行ってあげる。それで満足したら、家に帰ろう?」
「うん!」

結局、付き合うことにしてしまった。
そのうち飽きるだろうと言う推測もある。


二人に最強の保護者が付いた瞬間である。



<To be continued>

ヒトリメさんから「コオリ」、えて子さんから「アオギリ」をお借りしました。
こちらからは「アリス」です。

999しらにゅい:2014/01/27(月) 22:08:38
次スレを立てますのでこれ以降のレスはお控えくださいー!


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