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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです

1名も無きAAのようです:2015/10/10(土) 05:03:05 ID:cQB6.m2k0
      ,、,,..._
     ノ ・ ヽ
    / :::::   i
   / :::::   ゙、
   ,i ::::::     `ー-、
   | ::::          i
   ! :::::..        ノ
   `ー――――― '"

704名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 21:55:43 ID:vEgpbyFs0


( ´_ゝ`)「……こいつら、本当に何も考えてないな」

(´<_` )「いつも通りさ。俺達だって所詮はあれの同類だ」


爪'ー`)「ふふ、そう言うな」

 人混みから出てきたフォックスがそう言いながら近付いてきた。
 彼は持ってきた新しい激化薬を一つずつ、流石兄弟に手渡した。

爪'ー`)「王座の九人でそれぞれ一錠だ。
     余った一錠は、今ここで志願者が飲むらしいぞ」

( ´_ゝ`)「パフォーマンス」

(´<_` )「人柱」

爪'ー`)「ま、これも彼らにとっては必要な儀式なんだよ。あれはただの宗教だから」

( ´_ゝ`)「……なんか死んでも歓声が上がりそうだな」

(´<_` )「上がるだろうな。全肯定は基本だ」

.

705名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 21:56:30 ID:vEgpbyFs0




「――――俺だ! 俺が飲む!」

 やがて人混みの中から一際大きな声が張り上げられた。
 フォックス達は呆れ気味に頭を振り、彼らの儀式を傍観する。

 声の後、湧き上がったのは盛大なる拍手。
 それに後押しされた志願者の青年は、カプセルの上によじ登って新薬を頭上に掲げた。
 老若男女、勇者というレッテルに陶酔した人間達の好奇の視線が、青年に集中する。


「俺が、俺が次の勇者になる!」

 青年にとって、あの薬は現代における選定の剣。
 RPGによくある石に刺さった剣を引き抜くような、命を懸けたごっこ遊び。

 青年はただのドーピングサプリを血眼になって見上げる。
 そんなものを伝説の剣、自分自身を選ばれし勇者と信じたまま、躊躇いなく口に運んでいく。


「……俺が……!」

 青年が激化薬を口に含むと同時、空気は静寂した。

 ごくん、と薬が喉を通る。
 青年はぎゅっと目を閉じ、身構えたまま微動だにしない。
 誰も喋らない。ゴウン、ゴウンというそれっぽい音だけが、地鳴りのようにラボに響いていた。

.

706名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:00:51 ID:vEgpbyFs0



「…………お?」


 最初、体の変化に気付いたのは青年本人であった。
 体内から湧き上がる透き通ったパワーが、はち切れんばかりに全身に広がっていく。
 やがて、青年の体表には真紅のオーラが漂い始めた。

 青年の様子から新薬完成を察したのか、周囲の人間達からも感嘆の声が次々と上がり始める。

「す、すげえ! これならもう何も怖くねえ!」

 青年もこんな気持ちは初めてだった。
 新しい激化薬のパワーは安定したまま漲るばかりで、衰える気配は一切ない。


( ´_ゝ`)「どーやら普通に完成っぽいぞ。アサピー褒めないとな」


爪'ー`)

(´<_` )「……いや、これは」

 フォックスと弟者は先んじて気付いていた。
 二人の素振りを不思議に思い、兄者も青年を凝視してやっと気付く。

 青年の首には、うっすらと赤いマフラーが具現していた。
 あれは魔王城ツンが巻いていた赤マフラーと同じものだ。
 実物を見ている分、流石弟者は尚更それを直感し確信していた。


(´<_` ;)「魔王城ツンがまだ生きている。息の根を止めてくる」

 そう言って一歩踏み出したと同時、弟者の肩をフォックスが引き止める。

爪'ー`)「もう間に合わない」

.

707名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:03:26 ID:vEgpbyFs0


「俺が、俺が――――ッ」

 青年の言葉を遮るように、バチュ、という水々しい炸裂音が鳴った。
 カプセルの上で高らかに歓喜していた青年は、その音と共に呆気なく姿形を喪失していた。

 近くで彼を見ていた者達にも、何が起こったのか咄嗟には理解できなかった。
 水風船に針を刺すように一瞬で弾け、黒く変質した“中身”を周囲に撒き散らした一人の青年。
 その末路の意味を理解しようと、ラボの空気は再び静寂する。

 だが、今度の静寂は明らかに異質だった。

 元は青年だった黒い泥のような物を浴びたギャラリー達は、目を丸くしてただ呆然としていた。
 それは思考停止からくる静寂ではなく、機能が停止したが故の静寂。
 泥が一滴付着しただけでも、その人は人間としての機能を完全に失っていた。


爪'ー`)「……この区画を一時、結界内に隔離する」

爪'ー`)「君達は外に出ていなさい。やる事は分かるね?」

 フォックスは旧・激化薬を躊躇いなく五錠飲み下した。
 前進しつつ腰の鞘から長剣を抜き取る。空中で試しに一振り、フォックスは手応えを確かめる。


(´<_` ;)「――なっ!?」

 その一振りは流石弟者の胴を斬り払った。フォックスが、流石弟者を斬ったのだ。
 回避は寸前で間に合ったが、弟者は突然の事に目を見開き、フォックスを睨んだ。

.

708名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:04:25 ID:vEgpbyFs0


(´<_` ;)「フォックスさん、何のつもりだ!?」

爪;'ー`)「……なに?」

 この一瞬の出来事に驚いたのはフォックスも同じだった。
 フォックスは確かに前進し、流石兄弟を背後にして長剣を軽く振ったのである。
 当然そこは剣が当たるような間合いではないし、フォックスはそんなマヌケをする男ではない。


(; ´_ゝ`)「危ねえな! 気をつけ、」

 途端、駆け寄ってきた兄者の胴体に真一文字の赤い線が浮かび上がった。
 流石兄者はその線を境にして、

(´<_` ;)彡 「――兄者ッ!?」 バッ!


爪;'ー`)「――――おのれ!!」

 フォックスの視線がカプセル内の魔王城ツンを捉える。

爪;'ー`)(あれの能力が何かをしている! 今すぐ止めなければ!)

 長剣を構え直して床を蹴り上げ、フォックスは超高速でカプセルに長剣を振り下ろした。
 直後、分厚い強化ガラスが粉々に砕け散り、カプセル内の溶液が洪水のように溢れ出す。


ξ ⊿ )ξ

 水浸しの床に全裸の魔王城ツンが横たわる。
 フォックスは足早に彼女に近付き、その首に長剣を突き立て、完全に捩じ切った。

 分断された頭と体。
 これで魔王城ツンは完全に絶命――する筈だった。

.

709名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:05:24 ID:vEgpbyFs0


(; ´_ゝ`)「フォックスさん、今のは何だったんだ!?」

(´<_` ;)「何がどうなってる!?」


爪;'ー`)

 無傷の流石兄者を見て、フォックスは言葉を失う。

爪;'ー`)(……何が、起こっている……?)







「――俺が、次の勇者に選ばれた!」

 カプセルの上で青年が叫び、観客達の大喝采が鳴り響いた。
 流石兄弟はその様子を見て、壁際で嘲笑を浮かべていた。


爪;'ー`)「…………なにを」


( ´_ゝ`)「やる価値ねーだろ、こんな見世物」

(´<_` )「うちの組織はそんなもんだよ」



爪;'ー`)「――私達に何をした! 魔王城ツ」


.

710名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:06:14 ID:vEgpbyFs0


( ´_ゝ`)「こいつら、本当に何も考えてないな」

(´<_` )「いつも通りさ。俺達も、所詮はあれの同類だ」


爪'ー`)「ふふ、そう言うな」

 人混みから出てきたフォックスがそう言いながら近付いてきた。
 彼は持ってきた新しい激化薬を一つずつ、流石兄弟に手渡した。

爪'ー`)「王座の九人でそれぞれ一錠だ。
     余った一錠は、今ここで私が飲んでみよう」

(; ´_ゝ`)「……マジすか」

(´<_` ;)「いや、止めた方が……」

爪'ー`)「大丈夫。アサピーは優秀だよ」

 フォックスはパクッと新薬を飲み込んだ。

 それと同時。


ξ゚⊿ )ξ

 カプセルの中で、彼女は静かに目を覚ましていた。

.

711名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:06:55 ID:vEgpbyFs0














.

712名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:14:13 ID:vEgpbyFs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




( ^ω^)「……おっ?」

 ブーンが邪龍化したドクオと共に島へ突撃している最中。
 島を包囲しようと次々噴出していた水柱が、突然一斉に姿を消したのだ。

(; ^ω^)ノシ「ドクオ、ドクオッ! 今だお!!」

 ブーンは邪龍を急かして背中を叩く。
 しかし、邪龍はそれを無視して翼を広げて急停止、すぐさま旋回して島に背を向けた。


(^ω^ ;)「ドクオ待つお! なんで戻るんだお!?」

 訓練をしていない人間が魔力を感じ取ることは難しい。
 ゆえに、今のブーンにはあの島から放たれた魔力の波動を感知する事が出来ていなかった。


('A`;)(…………)

 先程までのブーンへの怒りも冷め切っていた。
 我に返ったというか、そんな場合ではないと彼は即断したのだ。

.

713名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:15:36 ID:vEgpbyFs0



(; ^ω^)「ドクオ!」

('A`;)(……)

 感じ取った魔力の感覚には覚えがあった。
 魔界の合成生物キマイラ。他の魔物を食らい、その魔力を取り込んで命を繋ぐ古代の魔物。
 さっきの魔力の波動はそのキマイラのものと酷似していた。ドクオが撤退を選んだ一番の理由が、これである。
 万が一にも敵がキマイラを人造したとなれば、あの島はもうキマイラの餌場でしかない。
 事実、もう既に人間の気配は次々と魔力に変換されており、それら魔力は一点に回収され始めていた。

 第二に、島の地下に現れた不自然な空白。
 人間の気配と魔力に満ちたあの島の地下に、なにも感じ取れない球状の空白が出現した。
 そこは魔力の回収地点として機能しており、上記のとおり変換された魔力はここに集まっている。

 そしてなにより、この空白の空間には数分前までツンの魔力があったのだ。
 彼女の魔力が消え、正体不明の空白が生まれ、唐突に現れた異形の気配。
 何が起こったかは定かではないが、少なくとも、ドクオには魔王城ツンが無事であると思えなかった。


( A ;)(…………)

 確かめに行こうなどと、ドクオは微塵にも思わなかった。
 ここまで明らかな“手遅れ”を、ブーンとドクオの二人でどうにか出来る訳がないのだ。
 味方が、あまりにも少なすぎる。

.

714名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:16:30 ID:vEgpbyFs0



(; ^ω^)「――ドクオ!! 前だお!!」


 ドクオはブーンの叫びで前方を見遣った。
 空中に異様な人影。
 光沢のある青いアーマーに全身を覆われたそれは、四肢のスラスターを用いて空中に浮遊していた。

 ドクオは半身を持ち上げて勢いを殺し、一度大きく羽ばたいてその場に留まった。
 すると、青いアーマーは頭部装甲を取り外し、その顔を露にした。



(-@∀@)「……なぜ逃げる。この状況、お前達にとってはチャンスだろ」


(; ^ω^)「あいつアサピーだお、王座の九人の」ボソッ

 ドクオに耳打ち、ブーンはアサピーの表情を窺った。

 表情は涼しげであったが、彼の雰囲気には余裕がなかった。
 それを起点に勘繰ればブーンにもすぐ察しがついた。
 島で何かが起こっている。ドクオとアサピーは、それに気付いているのだ。


(; ^ω^)「……どういう意味だお」

(-@∀@)「…………」

 小脇に抱えていた頭部装甲を手に持ち直し、アサピーは内側のパネルを操作した。
 途端、激しいノイズが頭部装甲の通信機から迸った。
 ブーン達にも聞こえるくらいの大音量で流れ始めたノイズは、数秒経ってようやく静かになった。


(-@∀@)「謀反だ。王座の九人が、三人も」

 コツン、と靴底が鳴った。通信機からの音だった。
 次に聞こえてきたのは短い悲鳴。その後には床に何かが落ちる音と、粘り気のある水音が続いた。


.

715名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:17:23 ID:vEgpbyFs0


(-@∀@)「手を組んでいたのか? 俺以外の王座の九人と」

 足音は水溜りを歩いていた。
 時折人の声が弾けては、その言葉は途中でプツンと断ち切られる。
 やがて 『フォックス』 という名前が叫ばれた。直後、弾けるような金属音が空に響く。


(-@∀@)「答えろよ。……そっちの方がマシなんだ、裏切りの方が」


(; ^ω^)「……罠だお」

 ブーンは邪龍の目を見て小さく呟いた。
 事ここに至って敵を信用する道理もない。ブーンの判断は正しかった。
 正しかったが、ドクオの判断は違った。ドクオは、アサピーの話には聞く価値があると思った。

 ドクオは邪龍化を少しずつ解除していった。邪龍の巨躯は次第に小さくなっていき、人間の形に変化していく。
 全身を鱗に覆われ、背中に両翼を広げたままの半人半龍の状態で、ドクオはアサピーの目を見た。
 ブーンはドクオの両足に捕まって宙ぶらりんになっていた。


(;'A`)「……ツンに何をした」

(-@∀@)「……新しい激化薬の材料になってもらった。
       今は、生命維持装置を兼ねたカプセルの中に入っている」

 アサピーは研究内容をいとも容易く口走った。
 それほどまでに現状は火急。アサピーは、ハイリスクな情報交換をせざるをえなかった。


(; A )「……ストッパーを外したのか」

(; ^ω^)「……ストッパー?」

(-@∀@)「今度はそっちの番だ。知ってる事、教えてくれ」

 しかし、どうやらドクオはリスクに見合うだけの情報を持っているようだった。
 アサピーは通信機を切り、続くドクオの言葉を待った。

.

716名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:19:06 ID:vEgpbyFs0


(;'A`)「……魔王城ツンは強すぎるんだ。
    魔力の生産量、貯蔵量、その両方がズバ抜けてる」

(;'A`)「だけど消費量がつり合っていなかった。
    それでも魔界じゃ上位だったが、本人の生産量を考えればゼロに等しい程度だった」


(;'A`)「百万の生産量に、十億の貯蔵量。でも消費量だけは頑張っても一日十万前後。
    ロマネスクさん達もなんとか出力を上げようと教育を施したが、限界は早かった」

(;'A`)「暴走は二度起きた。……それからしばらくして、ツンが三歳の時、封印が決まった。
    各方の魔術師が集まって実行されたのは時間の経過を止める大界封印。
    世界に対して脅威となる伝説級の魔物を空間ごと隔離して放逐する、最大規模の封印術だ」


(-@∀@)「……その封印を俺の装置が解いたのか? 嬉しいねえ」

 アサピーは自嘲の笑みを浮かべたが、ドクオは頭を振ってそれを否定した。

(;'A`)「いや、ツンは大界封印から三日で出てきた。自力でだ。
    封印の中で何が起こったかは分からないが、封印から出てきた時、ツンには明らかな変化があった」

(;'A`)「魔力の生産・貯蔵量がもっと増強されていて、しかも、彼女の中に複数の別人格が生まれていた」

(;'A`)「さらにツンはその人格達に姿形を与える事が出来るようになっていた。
    その能力をツンは“ゼノグラシア”と名付けて常時発動。魔力を使い続ける事で、問題はある程度解決した」

.

717名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:20:12 ID:vEgpbyFs0


(-@∀@)「……てことは、だ」

(-@∀@)「そもそも魔王城ツンを倒そうとした事自体が、間違いだったと」

(-@∀@)「魔王城ツンを仮死状態にして出力を停止。
       結果として魔力貯蔵はあっという間に限界に至り、この有様か……」

(;'A`)「あいつがお前達に捕まってからまだ一晩だ。
    今のツンなら一週間は能力無しでも生活出来るはずなんだが、心当たりはないのか?」


(-@∀@)「……先代勇者と生まれついての超能力者、この二人と回路を合わせた。
       まさか、二人分のエネルギーを魔王城ツンが吸収していたとでも言うのか?」

(;'A`)「……こうなったら人も魔物も関係無いぞ。
    悪い事は言わねえから、お前も逃げた方がいい……」


(-@∀@)

(-@∀@)「……そうだな。俺に出来る事は何も無い」

 アサピーは頭部装甲を装着し、ドクオ達に背を向けて飛び去っていった。
 それを追うように島から九つのポッドが発射され、アサピーと共に姿を消した。

.

718名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:21:19 ID:vEgpbyFs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

☆ボスキャラ一覧☆

≪爪'ー`) / ??? ≫

【本体名】 フォックス

【傾向と対策】
『Aルート・王座の九人編』のラスボス。ブーンが自滅覚悟でようやく互角に戦える相手。
序盤に出てくるため、本気ブーン以外にはまったく対処できない。
今のままだと毎回確実にブーンが死ぬので何とかしよう。ロマネスクをぶつけると死ぬ。


≪??? / ??? ≫

【本体名】 ???

【傾向と対策】
未登場。しかしフォックスを無事倒したところで登場はしない。
ツンちゃん達がフォックスを連れて魔界に帰ると 『Bルート・未完の勇者編』 に突入し、このボスが登場する。
その際には素直四天王が輝く。ボス初登場までにブーンを強くしておくと、とてもよい。


≪ξ ⊿ )ξ / シン・ゼノグラシア・ガルシオンレクイエム ≫

【本体名】 魔王城ツン

【傾向と対策】
未登場その2。『ツンちゃん夜を往く』における最大のラスボスであり、倒すと完結。
『未完の勇者編』の山場でツンちゃんが間違いを犯すと、『Cルート・夜明けの鎮魂歌(レクイエム)編』に突入する。
突入までに王座の九人を一人でも殺しているとバッドエンドが確定する。

膨大な魔力によって生み出された魔王城ツンの別人格。
人格と言うよりは、もはや魔力という概念と一体化した“意思を持った原理”であり、現象と呼ぶべき存在。
名前がカッコイイ

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719名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:22:11 ID:vEgpbyFs0



(  ω )「…………」

('A`)「……今言った通りだ。今のツンを止める手段は俺達には無い」

 宙ぶらりんのまま、ブーンは俯いて黙りこくっていた。
 ツンを助けられないのか、という自問に答える気力すら湧いてこない。
 葛藤の余地も無かった。ドクオの言ってる事は正しい。生き残る為の結論はもう出ている。

('A`)「……まあ、ツンは友達居ねえんだよ。生まれがアレで、生い立ちもアレだからよ。
   俺も正直あいつが怖いよ。手違い一つで今みたいになるんじゃねえかって毎日思ってたし……」

('A`)「……だからまあ、こっちであいつに友達ができて良かったよ。
    その事だけは礼を言わせてくれ」


(  ω )「……」

 “それでも”という言葉が頭から離れない。
 勇者の血筋かブーンの性格か、道理を放棄した考えだけが、ブーンの中で急速に大きくなっていく。


(  ω )「……このままだと何が起こるお?」

('A`)「……今回は純粋な魔力だけで起こってる現象じゃないから、俺にも分からない……」

 ドクオは曖昧に答えてから、その後に付け足すように呟いた。

('A`)「……時間が経つだけ、多くの人が死ぬと思う」


.

720名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:23:01 ID:vEgpbyFs0



(  ω )「……」


( ^ω^)「……なら、止めに行くしかないお」

('A`)「……手段は無いって言ったばっかりだぞ」

( ^ω^)「むかし言われた事があるお。
      勇者の仕事は、難しい話を簡単にまとめる事だって」

('A`)

( ^ω^)「……これは簡単な足し算引き算だお。
      僕はどうしたって人間の側。“あれ”が人を殺すなら、僕の答えは一つだお」


(;'A`)「おい待て! それじゃあまるでツンを殺すみたいな……!」

( ^ω^)「そう言ってるんだお」

(;'A`)


(;'A`)「……なんでそんなに結論を急ぐ?」

(;'A`)「貞子さん達と合流して、対応を考えてから動くこともできる。
    数時間ならあの島だけで収まってるはずだ。とりあえず落ち着けよ……」

( ^ω^)


(; ^ω^)「……あ、そうだお」

(; ^ω^)「なんか、ちょっと焦ってたお……」

(;'A`)「お前、島に近付くにつれて変になってきてないか……?」

(; -ω-)「……うん。自分でも少し嫌な感じが……」


.

721名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:23:45 ID:vEgpbyFs0


 ――直後、二人が異様な気配に気付いたのは同時だった。


(; ^ω^)「ッ!?」

(;'A`)「!?」

 身を捩って振り返ると、勇者軍がアジトとしていた島全体が赤い霧に覆われていた。
 霧の向こうに隠れた島のシルエットは暗く不気味に蠢いている。まるで、島そのものが何かに変化しているかのように。
 先に合点したのはドクオ。あの島の変容を見て、彼には一つ思い当たるものがあった。


(;'A`)「――ブーン! あれだけはマジで駄目だ!
    急いで離脱すんぞ! もうワガママ言わねえよな!?」

(; ^ω^)「お、おうだお!」

 ドクオはブーンを空に放り投げ、その間に邪龍化してブーンを背中で受け止めた。
 目先はもう迷わない。ドクオは島に背を向け、両翼を羽ばたかせた。


(;'A`)


(  ω゚)「――――」

 己が首に振り下ろされる、その刃にも目を向けず。


【Bad end:out】

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722名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:24:40 ID:vEgpbyFs0














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723名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:25:58 ID:vEgpbyFs0


【リザルト:二周目】


≪ ξ゚⊿゚)ξ ツンちゃん ≫

王座の九人・ギコに勝利する。(戦闘経験↑)
しかし、油断からか流石兄弟の闇討ちに合ってしまう。(警戒心↑アホ↓)
勇者軍に捕縛・実験材料にされる。勇者と英雄の回路を侵食し、“現象”と化す。(戦闘能力LvMAX 協調性↓↓)

【次周特典】
・「激化薬」への接触を回避する選択肢が常に出現する。(“現象化”の予防措置)
・ツンちゃんが自分の過去と危険性を自覚している。(性格がシリアス寄りに)
・次周のみ、戦闘能力が最初から極限状態。(敵の攻撃が慎重になり、平和な日常が長くなる)



≪ ( ^ω^) ブーン ≫

平和ボケしすぎてツンちゃんを見失う。(警戒心↑)
人の言う事を全然聞かない。反省もしてない。(独善↑↑)
島で発生した“現象”にあてられ、ドクオを殺害する。(罪悪感↑協調性↓)

【次周特典】
・ツン&ドクオとの関係が希薄になる。(物の考え方が冷たくなるが生存率↑)
・「内藤ホライゾンの過去」に関する情報開示。
・魔力耐性



≪ ('A`) ドクオ ≫

自主性がなく、ツンの護衛を怠る。(忠誠心↑協調性↓)
ブーンの危うさを認識する。また、彼に殺害された事でバッドエンド補正。(ブーンとの友好関係が白紙になる)
全体的に自主性がない。(自主性↑孤立↑)

【次週特典】
・ドクオが魔王軍の一人としてツンの護衛を遂行する。(ツンとの主従関係↑)
・人間への不信感が最大の状態で始まる。(人間に対して冷酷になる)
・龍種としての成熟度が上昇する。また、ツンとの契約により魔力量が上昇。(戦闘能力↑↑↑)


※大体の感じでなんとなくのリザルトなので曖昧に反映します

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724名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:27:20 ID:vEgpbyFs0


 〜ツンちゃん道場のコーナー〜



デデン!(太鼓の音)


ヽ(^ω^)ゝ「ツンちゃん道場だーーー!!」パチパチパチパチ

ξ゚⊿゚)ξ「メスだけど押忍! 作中では主人公、ここでは一番弟子のツンちゃんです!」

(^ω^)「師範代のブーンだお! ここはバッドエンドの尻拭い最前線!
     fateにおけるタイガー道場と全く同じ役割をもった第四の壁の向こう側だお!」


ξ;゚⊿゚)ξ「師匠! ドクオが呆気なく死にました! あと私はどうなったんですか!」

(^ω^)「ツンちゃんはなんか色々設定が増えていたNE!
     封印が解けたり人格いっぱいだったり、でも実際何が起こったかは分からないNE!」

ξ;゚⊿゚)ξ「説明不足であります、押忍!」

(^ω^)「バッドエンドだから問題ないお」

ξ゚⊿゚)ξ


ξ゚⊿゚)ξ「今まで空白にしてた設定が色々固まってきて書けなくなってしまったんですね!」

(^ω^)「その通り! 鳩サブレが出てきた時点で危険信号だったNE!」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど! サブレ登場はマスターブレインがデンジャーシグナルですか!」

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725名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:28:03 ID:vEgpbyFs0


(^ω^)「今回、勇者の他に英雄っていう単位が出てきたNE!」

ξ゚⊿゚)ξ「ですね! ジョルジュ長岡さんですか? 王座の九人、最後の一人らしいです!」

(^ω^)「あの人の混合と分解の超能力が激化薬に関わってるのも明らかになったお!
     勇者( ・□・)のレプリカを、この超能力で色んな薬品と混ぜて作ったのが激化薬なんだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「れ、例のソイレントシステムですね……これをパクパク食べてる人の気が知れないです……」

(^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ




(^ω^)「ま! 二周目まではチュートリアルだお!
     一周目で周回系作品と提示、二周目でバッドエンド前提仕様と提示したから、いよいよ次から本番だお!」

ξ゚⊿゚)ξ「明日から頑張るってヤツですね! 具体的にどうなるんですか師匠!」

(^ω^)「リザルトを加味して普通に三周目を始めるお!
     ツンちゃんが最強状態で始まるから、今度は日常パートが長くなると思うお!」

ξ゚⊿゚)ξ「おお!」

(^ω^)「設定が固まってきて書きづらくなってきたが故の対処でもあるお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ? 書き始めた時点でここまで設定してたんじゃないんですか!?」

(^ω^)

ξ;゚⊿゚)ξ「……一応聞きますけど、完結させる気あるんですか?」

(^ω^)


(^ω^)「叶わない夢にこそ、ロマンは宿る」

ξ;゚⊿゚)ξ「そんな夏コミ落とした人みたいなことを……」

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726名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:29:05 ID:vEgpbyFs0


(^ω^)「ともかく三周目だお! 諦めて次に行くお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ですね! このバッドエンドも一種の逃亡みたいなものですし!」

(^ω^)「逃亡してるのに逃亡してないって無間地獄みたいだNE!」

ξ゚⊿゚)ξ「頑張りましょう! 要は私の真の力を倒せば終わりなんですから!」

(^ω^)「そうだお! その時はバッサリ斬り殺すお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ですね! いい勝負をしましょう!」

ξ#゚⊿゚)ξ「うおお! 明日に向かってランニングだーーー!!」 ダッ!

(^ω^)「次周もいっぱい頑張るぞい!」
 ∩∩

 〜ツンちゃん道場 おわり〜

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727名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:29:45 ID:vEgpbyFs0














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728名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:31:39 ID:vEgpbyFs0

【prologue:三周目・やや平穏、やや不穏】




 すっかり日も落ちた寒空の下を歩く。
 私は肉まん最後の一口を平らげ、隣を歩くドクオと渡辺ちゃんを一瞥した。

('A`)「――――」

从'ー'从「――――」


 曲折を省いて言うとドクオと渡辺ちゃんは交際していた。

 魔族の上下関係もあって、私とドクオは日常的に距離が近かった。
 そのせいか学校では自殺教唆にも等しい噂が流れていたのだが、二人の交際が始まった事でそれも終息してくれた。

 希少な私の友人が寝取られた辺りに不快とも愉快とも取れる混濁した感情が湧き上がっていたのも今は昔。
 今の私は彼らの交際を静かに見守り、応援している。
 果たして渡辺ちゃんはいつまでドクオの堅物っぷりについていけるだろうか……。


ξ゚⊿゚)ξ「……」

 ふと、この構図を省みて“売れ残り”という言葉が脳裏に浮かんだ
 魔王なんだから単為生殖くらい出来ていいと思うが、魔界の変なモンスターと結婚させられないために私も良い男を探さねばならない。
 人間界に来た目的の一部がそれだったりもする。ともあれ、私は人間らしく振る舞いながら高校生活を楽しんでいるのだった。

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729名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:32:49 ID:vEgpbyFs0


从;'ー'从「ツンちゃあ〜〜〜」 トテトテ

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの」

 渡辺ちゃんがドクオから離れて私にしがみつく。
 去年の春に私達が人間界に来て、今は冬。
 まだ一年にも満たないその間、渡辺ちゃんは幾度となく私にしがみついてきた。

 そういう時の原因は大体ドクオである。
 正直意味が分からないのだが、私の護衛役であるドクオという龍族、


从;'ー'从「ドクオ君がまた告白されてるよ〜ぶぇぇ〜」

( 'A`)「断ったって言ってるだろ」

 やたら人間にモテる。


ξ;゚⊿゚)ξ「……もう、また死にかけのブブゼラみたいな声出して。
       半泣きだし。このやりとり何度目なのよ……」

从;'ー'从「だってえ〜」


ξ゚⊿゚)ξ「……で、今度はどこの女なの」

('A`)「はあ、なんとか刺客ノ高校の、素直なんとかですけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「……もう少し人間に関心を持ちなさい。相手に失礼よ」 ボソッ

( 'A`)「……分かりました」

 ドクオはやれやれと呟いて頭をかいた。
 この野郎、なまじ実力があるだけにちょっぴり生意気だ。
 逆にそういう所が人間ウケに繋がっているのだろうか? 人の心は難しい……。

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730名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:34:38 ID:vEgpbyFs0


从;'ー'从「嫌だよ〜寝取られ趣味はないよ〜」オロオロ

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫だよ〜ドクオは甲斐性無しだから〜」オロオロ

从;'ー'从「嘘だよ〜ふええ〜」オロオロ

ξ;゚⊿゚)ξ「ホントだよ〜ふえ〜」オロオロ



('A`)「……渡辺、先に行くからな」

ξ;゚⊿゚)ξ「あっコラ! そういう対応をするなと何度も言ってるでしょ!」

从;'ー'从「ふえ、待ってよ〜」 トテトテトテトテトテ

 先んじて帰路を行くドクオを追って渡辺ちゃんが走り出す。
 私はしばし立ち止まり、彼女達の背中をじっと見つめる。

ξ゚⊿゚)ξ(……おおむね、平和ね)

 貧乳キャラに “概ね” と言わせて笑いを取りに行くのはやめろ。
 私は振り返り、今度は電柱の影に視線を集中した。


ζ(゚ー゚*|電柱|


ξ゚⊿゚)ξ

 平和だ、と言い切れない理由がこのストーカー女・デレである。
 彼女は勇者軍残党で私の情報収集を頑張っているのだが、もうバレバレすぎて追い返す事すら可哀想になってきた人なのだ。

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731名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:35:52 ID:vEgpbyFs0


ξ゚⊿゚)ξ「……あの、バレてるので……」


ζ(゚ー゚*|電柱|

 これでも一応、激化薬も使って気配を殺してはいる。
 何度か戦った事もあるから、彼女が勇者軍屈指の戦力という事も分かる。

 分かるのだが、私が相手となると彼女の実力では話にならないのだ。
 実力差は歴然。それでも私の見張りをさせられている辺り、やはり勇者軍は人手不足らしい。


ζ(゚ー゚*ζ「今日は……どの辺でバレましたか……」

ξ゚⊿゚)ξ「……下校中ずっと居るなぁ、とは……」

ζ(゚ー゚*ζ「……あ、そうですか……」


ξ゚⊿゚)ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……じゃあ、失礼します……」

ξ゚⊿゚)ξ「お疲れさまでした……」

 デレは一礼して帰っていった。
 彼女自身とっくに私に対する戦意を喪失しているので、暗黙の内に “見つかったら帰る” という謎ルールが私達の間には生まれていた。

 しかしここまで物哀しい隠れんぼがあっていいのだろうか。
 敵ながら、この凄まじい末端社畜っぷりには落涙を禁じ得ない。

 余談だが、彼女は夕方まで私に見つからなかったらスーパーで半額コロッケを買って晩酌するらしい。
 ここ最近は昼には追い返していたが、今日はコロッケを食べてくれるだろうか。
 私にできる事は何もないが明日も頑張って欲しいぞい。私は彼女に対して切実にそう思った。

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732名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:36:37 ID:vEgpbyFs0


从'ー'从「ツンちゃあ〜早く〜〜」


ξ゚⊿゚)ξ チラ


 ……北西2000km先に殺意。
 私を牽制するように点在するその殺意は、私に気取られた直後に消滅した。

 勇者軍の連中も少しずつ距離を詰めてきている。
 何が目的かは知らないが、連中には私の存在が必要らしい。
 協力者に聞いた話だと、激化薬の製造過程に私を組み込むとか何とか……。


ξ゚⊿゚)ξ(……ま、出てこられたら対処するしかないのよね)

 私は携帯電話を取り出し、すぐさま協力者に電話をかけた。



ξ゚⊿゚)ξ「……もしもし。今の奴、居場所は分かる?」

 『……分かるお』

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあよろしく。生け捕りに出来たら学校の貞子さん達に預けておいて」

 返事を聞く前に通話を切る。
 私は渡辺ちゃんに手を振って見せてから、ドクオと渡辺ちゃんを追いかけて走りだした。


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733名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:37:44 ID:vEgpbyFs0


 ――さて、と安易に区切って日常に戻る。
 ただいま魔王軍は人間界を絶賛謳歌中(ついでに勇者軍残党もボコボコにしている)。
 私も社会経験の一環として高校生活を楽しんでいる。

 とかく、世界はおおむね平和である。
 大小なり事件はあるが、とにかく世界は平和である。

 「……魔王城ツン、だな」


ξ゚⊿゚)ξ

 ……いや、きっと私の平和はもう過去形だ。
 背後から私を呼び止めたこの声が平和の終止符、になるかもしれない。
 どう転ぶんだか分からないが、とりあえず私は安易に振り返り、声の主をはっきり目で捉える。


(´・_ゝ・`)「個人的に話がある。勇者軍の裏事情、知りたくないか」

.r=====b
[]υ_σ[]

 特徴の無いおじさんと、人間ではない人型のなにか。
 魔族にも人間にも属さない彼ら第三勢力を前に、私はしばし、答えを熟考した――


【prologue:out】

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734名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:38:36 ID:vEgpbyFs0
次回は平成の内に・・・('A`)

735名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 22:59:41 ID:BUPk8feI0
乙おつんつん
アホのツンちゃんなんていなかったんや
毎度毎度本当面白い

736名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 23:04:31 ID:xpqHZXdw0


737名も無きAAのようです:2016/08/11(木) 23:17:30 ID:obw8YSaM0
乙乙
初期のデレさんの強キャラ感は微塵もなくなってしまった
ブーンとドクオも素っ気ないが3周目も楽しみだ

738名も無きAAのようです:2016/08/12(金) 08:48:49 ID:pAcmRPs20
そしたらデレさんといい戦闘を繰り広げたおじいちゃんも空気ってことになっちゃう

739名も無きAAのようです:2016/08/14(日) 02:13:31 ID:.kMks2J20
乙! 3周目楽しみ。

740名も無きAAのようです:2016/08/14(日) 08:58:59 ID:O9hfMZH60

ツンちゃんがラスボスとは。。

741名も無きAAのようです:2016/08/14(日) 12:28:43 ID:54T8etRE0
おつおつ
みんな協調性下がってるのが不安

742 ◆gFPbblEHlQ:2016/09/06(火) 10:31:52 ID:i/qYRSnA0


 前回のラストにて謎のおじさんに呼び掛けられた私、魔王城ツン。
 本来ならば即時警察に通報すべきこの事案に対し、しかし私は冷静に対処してみせた。
 果たしてどうなる魔王城ツン。気になる続きは三行後に始まるのであった。今日も一話分頑張るぞい。


(´・_ゝ・`)「ナンパするのは初めてだったんだが、成功してよかった。
      俺の名は盛岡、これは自販機のココアだ」

(´・_ゝ・`)「君の名は。」

ξ゚⊿゚)ξ「最初に名前確認してたじゃない。覚えてないの?」

(´・_ゝ・`)「ぜんぜん」

ξ-⊿-)ξ「……魔王城ツンよ」

 私は盛岡が差し出したココアを受け取ってタブを持ち上げた。
 しかし冬場の夕暮れという状況に際し、渡されたのは冷たいココア。
 対し盛岡は当然のようにホットコーヒーを飲んでいる事から、彼は性格に難があるようだった。

 ここは帰路を外れた小さな公園。遊具が二つにベンチが一つ。
 私達は公園唯一のベンチを占領し、いざ尋常に話し始める。


(´・_ゝ・`)「勇者軍の話か俺の話。どっちから聞きたい」

ξ゚⊿゚)ξ「後者にまるっきり興味が無いから前者で」

(´・_ゝ・`)「興味関心は人間関係の始点だぞ。まずは俺の事を知ってもらう」

ξ゚⊿゚)ξ「力技かよ」

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743名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:32:40 ID:i/qYRSnA0


(´・_ゝ・`)「俺の名前は盛岡デミタス。
      ま、気安く呼びたい時はタッちゃんとでも呼んでくれ」

(´・_ゝ・`)「ただじゃ済まさねぇけど」

ξ゚⊿゚)ξ

 一人で喋らせてた方が面白い事に気付き、私は何も言わない事にした。


(´・_ゝ・`)「で、なんというか立ち位置をハッキリさせる為に分かりやすく俺の所属を言うとだな」

(´・_ゝ・`)「超能力者だ。魔王、勇者ときて超能力者。ま、今日日あり得ない話じゃないだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ コクン

(´・_ゝ・`)「しかしまぁ超能力者は一線から消えた。
      その昔、魔王と勇者がどうこうで流行が変わっちまったんだな。
      ヒーローとかな、昔は居たんだけどな」


(´・_ゝ・`)「そんな超能力者の俺、盛岡デミタス。
      俺の能力は説明が面倒だから教えないが、まぁアンタらに比べれば大したもんじゃない」

(´・_ゝ・`)「で、さらに。今時の超能力者は各地で小さなグループを作っててな。
      仕事は主に各地域の活性化、街の安全などなど。
      秘密だけど一応国から月給も出てるんだ。超能力者の公務員って訳だ」

ξ゚⊿゚)ξ「すごい」

(´・_ゝ・`)「だが俺は違う。俺達は違う。もう少し踏み入った活動をしているんだ」

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744名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:33:20 ID:i/qYRSnA0


(´・_ゝ・`)「俺が所属するグループに名前は無い。
      便宜上通り名が必要な時に限って、俺達は自身を“始末屋”と名乗る」

ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「始末、文字通りの意味だ。事を終わらせる、話を畳む、句点を打つ」

(´・_ゝ・`)「これまでウチは何百年間とメンツと名前を変えながらこの仕事をしてきたらしい。
      吸血鬼狩り、幽霊退治、未解決事件の始末やらなんやら。古代遺跡の破壊とかもあったな」

ξ゚⊿゚)ξ「すごい」

(´・_ゝ・`)「ま、要はお前ら魔王勇者の連中がドンパチやってるあいだ、
      世界中の細かい事件を解決してる連中が居ると思ってくれればいい」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど」

(´・_ゝ・`)「分かった?」

ξ゚⊿゚)ξ「よく分かった」

(´・_ゝ・`)「さすがは魔王直系……。理解力もずば抜けているな」

ξ゚⊿゚)ξ「いやあまあ」

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745名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:34:42 ID:i/qYRSnA0



(´・_ゝ・`)「ここまでの話で俺がどういう奴かは分かってもらえたと思う。
      それじゃあ次は勇者軍と、今回なぜ俺達が出しゃばってきたかの話だ」

ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「まず勇者軍なんだが、ほっとけ」

ξ゚⊿゚)ξ !

(´・_ゝ・`)「ほっとけば連中は勝手に自滅する。
      連中は魔王城ツンの魔力回路を欲しているが、現状それを手に入れる手段が無い。
      お前が強すぎるせいでな。つまりもう、現時点で兵糧攻めの図が完成してるのよ」

ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「そんで近々お前のもとに王座の九人が来るだろう。
      そいつを上手く匿ってやれ。上手くやれば、王座の九人は味方にできるから」

ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)「王座の九人を味方にできたら次は勇者軍の深部が出てくる。
      王座の九人はまだ王道。次の敵は新興宗教だから、それを倒せ」

(´・_ゝ・`)「倒したら次はフォックスを連れて魔界に戻るといい。
      ああ、内藤ホライゾンとハインリッヒの動向には注意しておけよ」

(´・_ゝ・`)「まぁそれが済んだら大体終わりだ。お前が暴走しない限り、この世はハッピーエンドだ」


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746名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:35:24 ID:i/qYRSnA0


ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)


(´・_ゝ・`)「……分かった?」

ξ゚⊿゚)ξ「……今のは、アドバイス? それとも予言?」

 盛岡の口振りは断定的で、さも根拠ありと言わんばかりだった。
 言葉の内容より先に、私はこの男の本性を知るべきだと考えた。


ξ゚⊿゚)ξ「未来予知の超能力者でも居るのかしら」

(´・_ゝ・`)「居るし、俺達は一巡前の世界についても知っている」
  _,
ξ゚⊿゚)ξ「……一巡?」

(´・_ゝ・`)「ありゃあ失言。ま、お前が俺達に対して疑念を持つのは当然だと思うわ、うん」

 その時、盛岡の懐でケータイが鳴った。
 彼は缶コーヒーを置いてケータイに出ると、電話の相手と少し喋ってから私にケータイを差し出した。


(´・_ゝ・`)「うちのリーダー、みたいな人からだ。更に不信感が増すだろうが、頑張ってくれ」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かったわよ」

 私はケータイを受け取り、もしもしと無難に声をかけた。

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747名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:36:39 ID:i/qYRSnA0


 『――やあ、こんばんは』

 聞こえてきたのは中性的だが艶めかしい声。
 妖艶というか、人を小馬鹿にしているというか、なんというか……。

 『私の一言をそんなに考察しないでください。衣服を剥かれるようで恥ずかしいです』

ξ;゚⊿゚)ξ「ご、ごめんなさい」


 『改めてこんばんは、魔王城ツンさん。突然のことにも関わらず姿を見せず申し訳ありません。
  訳あって海外からお電話していますが、貴方の感知から外れる為とはいえやり過ぎましたか?』

ξ;゚⊿゚)ξ「……姿を見られて不都合があるなら、正解だと思うわ」

 『ですか! いやあ魔王のお墨付きとは嬉しい限り。
  後生語り継いで津々浦々に伝聞して回りたいところです。嬉しいなあ』

ξ゚⊿゚)ξ「……はっきり言うからはっきり答えて。回りくどいのは嫌いなの」

 『自分で面倒臭くしているのに?』

ξ#゚⊿゚)ξ「ンだコラテメッッオ゙ァ゙ア゙ン゙!?」

 『おっと失礼。ご質問をどうぞ、丁重に返答させて頂きます』

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748名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:38:03 ID:i/qYRSnA0


ξ゚⊿゚)ξ「……貴方達がただの人間なのは分かる。
      これまで魔王軍が関知しなかったのも、貴方達が一般人の枠に収まる存在だからだと思う」

 『ですね。その通り』

ξ゚⊿゚)ξ「それが今になってわざわざ出てきた理由は何?
       無関係で居た方がお互い都合が良かったと思うのだけれど」

 『それは単純な理由ですよ。関わらざるを得なくなったんです』

 『無関係を維持するには貴方は意味を持ちすぎた。
  それを正常に戻すのが我々のお仕事。言わば調停員みたいなものでしょうか』


ξ゚⊿゚)ξ「……意味を、持ちすぎた」


 『……そう、魔王勇者の物語は我々が介入するしかない状態に陥ってしまったんです。
  しかもここ最近で超急速に。速やかに手を打たなければ、色々と困ってしまうほどに』

 『ぶっちゃけ私達は“反則そのもの”でして、根本的にそちらとは世界観が違うのです』

 『なので基本的に不可侵。お互い見ず知らずのまま、地球のどこかで各々何かと戦っている、というのが理想形だったんですよね……』


 相手は口早に語ると、最後にやれやれと呟いた。

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749名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:39:09 ID:i/qYRSnA0


 ――パン、と電話越しに手を叩かれた。
 私は喉を鳴らして沈黙を誤魔化し、ふたたび口を開いた。


ξ゚⊿゚)ξ「それで、何を根拠に貴方達を信用すればいい?
       一応そっちは人間なんだから、勇者軍の味方なんでしょう?」

 『そうですね。そうですが、我々は勇者軍の味方である前に正義の味方であり、根本的には人類の味方です。
  ですから勇者軍への不信感がそのまま我々に向くのは半ば自然ですね』

 『なのでこの際、信用信頼といった類は省きましょう。時間の無駄です。
  あくまで互いの実益と平和の為の関係。その関係を構築する為にこちらが提供するものは、ずばり』


ξ゚⊿゚)ξ「……情報」

 『……そう、情報。ご名答』

 長文を省いて結論だけを反芻させるように、彼は同じ言葉を繰り返した。


 『こちらが最初に提示する情報はさっき盛岡くんが語ったとおりです。
  この世界における第三勢力の存在と直近の未来予測。
  情報について捕捉が必要であれば後で彼に聞いてください。しばらくその街に滞在してもらうので』

 『で、これに対して我々が貴方に要求するものは現状維持。それだけです』


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750名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:40:06 ID:i/qYRSnA0



ξ-⊿-)ξ「……まあ、なんとなく分かったわ」

ξ゚⊿゚)ξ「つまり人間界のいざこざに首を突っ込むなって話でしょ?
       勇者軍はこっちで始末をつけるから余計な手出しをするな、っていう」

 私がそう言うと、電話の彼は三秒沈黙した。

 『いやあ、あまり察しが良いと困りますね。これじゃあ余計な事まで気付かれちゃうかも』

 『長々と喋りましたが、我々の思惑はさっき仰った通りなんですよね。
  勇者軍に関しては時間経過による衰弱・自然消滅を目論んでいますので』

ξ-⊿-)ξ「変なことして刺激するな」

 『……あっぱれ次期魔王、話が早い』


 さて、と言って言葉を区切り、彼は話を括りに入る。

 『とにかく平和に平凡に人間界を楽しんで下さい。結果的にはそれが一番ハッピーエンドです。
  性に乱れた高校生活。がっぷり四つならぬしっぽり四つん這い、花びらを散らすなり大回転させるなり楽しんで下さい』

ξ;゚⊿゚)ξ「……貴方って男、女? 通報してもいい?」

 『おっと失礼。いや、年頃のレディに向けて言う事ではありませんでした。ご容赦を、なにとぞ』

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751名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:40:56 ID:i/qYRSnA0



 『……私の性別なんですが、どちらでもありません。私には性の概念がありません。
  残念ながら私はただの機械なんです。むかし流行った機械仕掛けのなんとやらでして』

ξ゚⊿゚)ξ「……?」

 『オレンジですよ。知りませんか?』

(´・_ゝ・`)「……いや、それは時計じかけだ」

 『……あらら。いやあ小っ恥ずかしい、半端に物を語るのはよくないですね。
  皆さんが究極の疑問を自覚してくださるなら、私も桶屋を大富豪にはさせないのですが……』

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 『ツンちゃんさん知ってます? 究極の疑問』

 しばし私の返答を待ってから、彼はそれを口にした。
 彼が知るところの、究極の疑問とやらを。

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752名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:42:14 ID:i/qYRSnA0


 『究極の疑問。それは、風が吹くことです』

 『ではまた次のお話で。今度はちゃんと会いに行きますね』

 そこで通話終了。
 かくして私は翻弄されるだけ翻弄され、一方的に会話を打ち切られてしまった。


ξ゚⊿゚)ξ

(´・_ゝ・`)


(´・_ゝ・`)「言ったろ? 更に不信感が増すって」

 黙って盛岡にケータイを返し、私はひえひえのココアをぐびっといった。


ξ゚⊿゚)ξ


ξ゚⊿゚)ξ「うまい」


(´・_ゝ・`)「よし」

 一体何が「よし」なのか分からなかったが、長い話を聞いて疲れたのでココアがうまい。
 私はココアをぐびぐび飲み干してやった。うまみは過去形になった。過去形のうまみが喉を通っていく。
 語彙力が怪しくなってきた。私は魔王なんだぞ、と形から入る。

ξ゚⊿゚)ξ


ξ゚⊿゚)ξ「よし」

(´・_ゝ・`)「何が?」

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753名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:43:40 ID:i/qYRSnA0


(´・_ゝ・`)「んじゃあ俺も帰るわ。今日の仕事はこれで終わりだし」

ξ;゚⊿゚)ξ「……待って待って。私なんにも分かってない」

 さっさと立ち去ろうとした盛岡を咄嗟に呼び止める。
 頑張ってそれらしい応答をしたはいいが、実際のところ私は何一つとして事を理解していなかった。

(´・_ゝ・`)「いやいや簡単な話だったろ。話し方は面倒臭かったけど」

ξ;゚⊿゚)ξ「……現状維持? いや、それが分からないの。
       なんで私が現状維持をする必要があるのか……」

(´・_ゝ・`)「……例えばどっかの国の大統領がいきなり大爆発して死んだら大変だろ?
      国も政治も機能しないわで、色々と色んな人がすごい迷惑だろ?」

ξ゚⊿゚)ξ「わかる」

(´・_ゝ・`)「で、お前は正真正銘魔王の血筋。
      世が世ならラノベのタイトルを張ってる重要人物なワケよ」

(´・_ゝ・`)「重要人物だからこそ、お前のトコには展開を加速させようとわんさか人が集まってフラグ立てようとしてくんの。
      もしこれが物語の世界なら良い事なんだろうが、そうやって無闇に世の中動かされると色んな人が困るのさ」

 盛岡は話しながらカンロ飴を口に入れた。

(´・_ゝ・`)「食べる?」

ξ゚⊿゚)ξ「食べる」

 私もカンロ飴を貰った。

.

754名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:44:41 ID:i/qYRSnA0


(´・_ゝ・`)「まーーーーーーーなんだ。アレよアレ」


(´・_ゝ・`)「お前が思ってる以上にこの世はオープンワールドなのよ。
      勇者も魔王も超能力者も幽霊も巨大怪獣もなんでもあり得るんだ」

(´・_ゝ・`)「でもそいつらが互いに干渉し合ってたら世の中回らないだろ?
      アベンジャーズ見た事あるか? あれが世界中で連発されたら地球滅亡するっての」

(´・_ゝ・`)「要は俺らはそういう色んな世界観を別々に動かす為の仕切りみたいなもんなの。
      もちろん勇者魔王を抜きにしたって、その他ジャンル住民は世界人口の1%にも満たない」

(´・_ゝ・`)「たださ、やっぱ面倒臭いんだわ。ジャンルが混ざったりするのって」

ξ゚⊿゚)ξ アメガウマイ

(´・_ゝ・`)「ほらもう面倒臭そうな顔してる。
      そりゃ俺らだって各方への干渉は超自粛してんだよ、超面倒だから」

(´・_ゝ・`)「でもお前達は目立ち過ぎた、やり過ぎた。
      こっちにまで迷惑が掛かるレベルまで煮詰まっちまった」

(´・_ゝ・`)「俺らが求めるものは 『何百話進もうと大した進展もない日常系ほのぼのストーリー』 なんだ。
      物語をつまらない方向に転がして世界平和を実現する、それが俺らの大体の目的だよ」

.

755名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:45:25 ID:i/qYRSnA0



ξ゚⊿゚)ξ


ξ゚⊿゚)ξ「……つまり……」


(´・_ゝ・`)


ξ゚⊿゚)ξ



ξ゚⊿゚)ξ「……そのままの、君でいて……」

(´・_ゝ・`)


(´・_ゝ・`)「よし頑張った! 今日はもう帰ろう!」 ワシャワシャワシャ

 私は盛岡に髪の毛をもみくちゃにされた。

(´・_ゝ・`)「んじゃっ、なんかあったらまた来るから。
      あとこれは別件だけど探偵とか必要なら言ってくれ。副業でやってるからさ」 サクッ

 盛岡は自身の名刺を私のツインドリルに突き刺し、そそくさと帰っていった。
 もう夕飯の時間だ。私も家に帰る事にした。今日はなんだか疲れた、そう思った。


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756名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:46:03 ID:HAoCOyR20
盛岡良いキャラ

757名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:46:33 ID:i/qYRSnA0



      〜寝〜

       ○丶、
       ノ:;_;;.ヽ
   | ̄ ̄ξ゚⊿゚)ξ ̄|
   |\⌒⌒⌒⌒⌒⌒\
   | \            \
   \  |⌒⌒⌒⌒⌒⌒.|
     \ |_______|


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758名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:47:13 ID:i/qYRSnA0


 〜翌日 学校〜


 優雅な朝食を経て清々しく遅刻した私はホームルームの真っ最中に教室に入った。


ξ゚⊿゚)ξ「おはようございます」

( ´∀`)「はいおはよう。罪悪感を一切感じさせない素晴らしい挨拶モナ」

ξ゚⊿゚)ξ「お褒めに預かり光栄です」

( ´∀`)「でも時には 『うわーやっちったなー』 っていう顔をしてもいいんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「時は金なり。私は今朝の朝食と遅刻を天秤に掛け、より価値のある方を選んだまでです」

( ´∀`)「塵が積もると何になるか知ってるモナ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ゴミです。ところでこれは賄賂です」

 私は三重の赤福を差し出した。

( ´∀`)「はいホームルームを続けます」


.

759名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:48:04 ID:i/qYRSnA0


('A`)「……遅かったですね」

ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり気付いてなかったか。
      昨日、不審者に絡まれて色々聞かされたのよ」

 私は席についてドクオと言葉を交わした。
 それから昨日の出来事をふんわり適当に伝えると、彼は眉間をすぼめて俯いた。

ξ゚⊿゚)ξ「なんか知らない? あの連中、始末屋のこと」

('A`)「……知らないっすね。あとでミセリさんに聞いておきます」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあよろしくね。私が喋ったあの二人、強くはないけど手強そうだったから」

('A`)「……はあ、なんか複雑な評価ですね」

ξ゚⊿゚)ξ「面倒臭い相手ってコト。向こうの平和主義もちょっと疑わしいかな」



('A`)「……人が集まってくる、か」

 ふとドクオが呟いた。私は横目にドクオを一瞥し、言葉の意図を尋ねた。


ξ゚⊿゚)ξ「なによ」

('A`)「いや、そういや今日は転校生が来るとか聞いてたんで、もしかして来るんじゃないかと思って……」

ξ゚⊿゚)ξ「……来るって、転校生が来るんでしょ?」

( 'A`)「……展開を加速させるような、世界観の違う奴らですよ」


.

760名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:50:25 ID:i/qYRSnA0


( ´∀`)「それじゃあ次は転校生を紹介するモナ〜」


ξ;゚⊿゚)ξ !

 言われてみれば確かにありえる話だった。

 彼らの言い分が正しいのであれば、新たな敵はきっとタイミングを選ばず私の前に現れる。
 いわく、この世界は何でもありのオープンワールド。
 ここで更に第四勢力が現れたとしても、なんら不思議はないのだ――




川 ゚ -゚)「第一刺客ノ高校から来ました。素直クールです」

ノパ⊿゚)「第二刺客ノ高校から来ました。素直ヒートです」

lw´‐ _‐ノv「第三刺客ノ高校から来ました。素直シュールです」

o川*゚ー゚)o「第四刺客ノ高校から来ました。素直キュートです」



ξ゚⊿゚)ξ

('A`)

 彼女達は一体何者なんだ……。

.

761名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 10:53:07 ID:i/qYRSnA0

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



(; ^ω^)(……何なんだお、アイツら……)



 ――素直姉妹登場と時を同じくして、隣のクラスでも転校生の紹介がされていた。
 しかしこのクラスに在籍するツンの協力者・ブーンから見て、新しくやってきた転校生はまったく未知の存在であった。

 魔族ではなく、しかし人間とも言い切れない。
 そんな存在を前にして、ブーンは動揺をひた隠そうと息を潜める。


ミセ*゚ー゚)リ「それでは二人とも、自己紹介をお願いします」

 担任のミセリに促された転校生の二人は、教室を一望しながら言った。


 「……軽延高校、我道アグリ」

 「同じく! 軽延から来ました網目間宮ユミです! よろしこ!」


(; ^ω^)(……この二人……)

(; ^ω^)(明らかに……世界観とか文化圏とかが違うお……)



 ――次回に続く

  _n
 ( l    _、_
  \ \ ( <_,` ) <がんばるびぃ
   ヽ___ ̄ ̄  )   
     /    /

762名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 11:12:05 ID:HAoCOyR20

久々の刺客ノ高校からの転校生嬉しい
新しい立ち位置の登場人物がドッと増えたなあ
続きも楽しみにしてる

763名も無きAAのようです:2016/09/06(火) 13:40:18 ID:BkCJydMU0
さりげなくタイムリーネタを入れていく

764名も無きAAのようです:2016/09/07(水) 00:24:50 ID:n/Sao36o0
すげーよい 乙

765名も無きAAのようです:2016/09/07(水) 19:40:07 ID:eSTSl8h.0
このオープンワールドや反則そのものの設定オリジナルならマジで凄いと思う

766名も無きAAのようです:2016/09/07(水) 20:31:37 ID:GEm7ILi20
後悔の公開
ルック・バック・ディメンション

767名も無きAAのようです:2016/09/14(水) 01:29:16 ID:VCv9L9GI0
盛岡良いキャラしてんなあホンットに

768 ◆gFPbblEHlQ:2016/09/29(木) 09:47:03 ID:vYPVAwrg0


 〜昼休み 図書館〜


 閑散とした一室。
 エロ漫画の舞台になりかねないほど過疎ってるこの図書館、現在の利用者は十人前後。
 私達は本棚の前に立ち、目当ての本を探しながら小声で会話していた。


ξ゚⊿゚)ξ「……そっちあった?」

('A`)「……ないっすね」

 昨日の連中、始末屋と名乗った彼らの言葉が、私は今でもちょっと気になっていた。
 特に最後の“究極の疑問”。あれを言われた時、なんだか自分の無知を笑われたようでムカついた。
 なのでこうして昼休みを利用し、疑問とその答えを知るべく図書館に来たのであった。

('A`)「……この時間、多分無駄ですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……まあ、それでも別にいいんじゃない」

 都合よく渡辺ちゃんが図書委員だった事もあり、ここに来て数分でパズルのピースは見つけられた。
 時計仕掛けのオレンジ、機械仕掛けの神、バタフライ効果。
 そして今探している銀河ヒッチハイク・ガイドという小説。
 これらを面倒臭く絡めた結果が昨日の会話らしいのだが、正直今でも意味はよく分かっていない。

 ただ、リーダー格の彼が言った 『疑問を自覚しろ』 という言葉だけは妙に納得できてしまった。
 謎、疑問、分からないもの。
 そういう漠然とした捉え方のまま、己に問いも答えもせず誤魔化してきた事柄が、私の人生には幾つもある。

.

769名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:47:51 ID:vYPVAwrg0


 ……彼が言った究極の疑問は、風が吹くことだった。
 分かりやすく形を変えれば、『なぜ風は吹くのか?』 となる。

 彼は私にこの疑問を自覚しろと言った。
 ならばまず、私にはこの疑問を理解する必要がある。
 その為に集めた情報は先程の通りだが、まだ一つ一つの繋がりは分かっていない。

 四の五のと面倒臭いが、これらを理解する時間は十分にある。
 彼らが私に要求した現状維持にも通じる、いい暇潰しになってくれるだろう……。


从'ー'从「ツンちゃんあった〜?」

ξ゚⊿゚)ξ「……探したけどなかった」

从;'ー'从「……あれれ? 貸し出してないからある筈なんだけどな……」

 図書委員の仕事を抜けてきた渡辺ちゃんが本棚をキョロキョロと見回した。

ξ;゚⊿゚)ξ「ああいいわよ、別にそんな気になってる訳じゃないし」

从;'ー'从「ダメだよ〜。ツンちゃんはアホなんだから、貴重な読書欲を無駄にさせたくないよ〜」

ξ゚⊿゚)ξ「……私だって本くらい読むわよ……」

('A`)「例えば」

ξ;゚⊿゚)ξ「……え、エルマーとりゅう」

从'ー'从「うふふ、児童文学だね〜」


.

770名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:48:34 ID:vYPVAwrg0



「――先輩方、ちょっとよろしいですか?」

 ふと、後ろから声をかけられた。
 それはつい最近聞いたばかりの、薄ら笑いがよく似合う声色だった。


('A`)「……なんの用だ」

「読み終えた本を戻そうかと。で、もしやこれをお探しではと声をかけた次第です」


ξ゚⊿゚)ξ「……タイトルは?」

 私は本棚に向かったまま、振り返らずに聞いた。

「銀河ヒッチハイク・ガイド。どうです?」

('A`)「……おお」

从'ー'从「それだ〜!」

.

771名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:49:47 ID:vYPVAwrg0


ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとう。それだわ」

 振り返り、差し出されていた一冊を受け取る。
 声の主は薄っすらと微笑んだまま、私の目を見つめてきた。

「これを選ぶとは中々渋い女子高生ですね。
 知識として蓄えてはいても、実際手に取る人は少ないでしょうに」

 セーターの校章を見るに、彼女は一年生の女子生徒だった。
 膝丈スカートに黒タイツという格好は、我が校の流行的にはかなり硬派な服装である。
 すっと佇む肢体にはまだ大きな起伏は見当たらないが、彼女の少女らしからぬ雰囲気があればそこらの男を誑かすのも容易だろう。
 髪は明るい茶色のサイドテール。メガネ有り。顔付きは意外と幼い。萌え袖完備。
 服装自体が合法とはいえ、彼女の見た目は他人の下心を煽る要素でしっかり武装されていた。


「ははは、そんな長ったらしく見ないで下さい。貴重な語彙力を割くほどの見た目はしていませんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……ああ、ごめんなさい。なんというか、目立つから」

「それもよく言われます。すみません、寒いのが苦手でして」

 彼女は自分の見た目を見直しながら謙遜する。


ξ゚⊿゚)ξ「渡辺ちゃん、これ借りてくね」

从'ー'从「うん! 手続きしとくね〜」 スタコラ

('A`)

ξ゚⊿゚)ξ「……ドクオも行って」

('A`)「……分かりました」

 ドクオは未練たらしく私を睨んだが、言う事を聞いて渋々渡辺ちゃんについていった。
 既に魔族特有の脳内会話で彼女が始末屋の人間だとは伝えてあるので、とりあえず問題はないだろう。

.

772名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:51:29 ID:vYPVAwrg0



ξ゚⊿゚)ξ「……場所は変える?」


「……定番の屋上に移動してもいいですが、別にここでオッケーでしょう。
 もう少し奥に行けば読書スペースに声は届きませんし」

 彼女は先んじて図書館の奥へと歩いて行く。
 一緒に行って十秒足らず、彼女は片隅のケータイ小説コーナーで足を止めた。


「ツンちゃん先輩、恋空は読んだことあります?」

ξ゚⊿゚)ξ「……ないわね」

「私もです。ケータイ小説についてもブームを過ぎたものという認識しかありません」

 彼女は棚の本をいじりながら語った。
 棚はホコリまみれで、随分長いあいだ誰にも触られてない事が容易に分かった。

「まぁいわゆるオワコンですね。しかし今でも細々と続いているとかなんとか。
 どうです、ちょっと興味湧いたりしませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 興味は、微塵も湧かなかった。

.

773名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:52:31 ID:vYPVAwrg0


ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、こんな話がしたくて姿を見せたの?」

 彼女の動きが、ピタリと止まった。

「へえ。こんな話、ですか」

 彼女は口に手を当てて笑みを隠す。
 今のところ笑顔以外の表情を見ていないので、別に今更隠すまでもないだろうに。

「これは見事に一蹴されましたね。私は貴方の事を意識して喋っていたのに」


ξ゚⊿゚)ξ


ξ;゚⊿゚)ξ「……私が、オワコン……!?」

「……微妙に逸れてますが、まあオッケーとしましょう」

 彼女の笑みが苦笑いに変わる。
 彼女は眉をすぼめ、この答えで妥協してくれた。

「先日お願いした現状維持、あれはつまり“ツンちゃんオワコンになってくれ”という話でした。
 そして貴方は今まさにありふれた高校生活を謳歌している訳で、この状況は実に望ましい」

「わざわざ小難しい話をすることにより、見事ツンちゃん先輩を図書館にも誘導出来ました。
 正直あんな、小学生がwikipedia見ながら考えたような言葉をここまで真に受けてくれて安心してますよ」


ξ;゚⊿゚)ξ(か、下級生に煽られている……)

.

774名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:53:47 ID:vYPVAwrg0


「あれの答えは要りますか? 答えというか、私の意図した所というか」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、そんなのあるの……?」

「一応は。あーでも面倒なので次行きますね」

 彼女がさら〜っと流そうとしたので、私は反射的に「いやいや」と言って会話を停滞させた。

ξ゚ー゚)ξ「ないんでしょ、考えなしで言ったんでしょ……」

 やれやれようやく彼女のポーカーフェイスを暴けそうだ。
 私はもうテンションが上がってきた。ぐだぐだと小難しい話をしおって、さっさと恥辱に頬を染めるがいい。


「……ツンちゃん先輩、私これでもかなり分かりやすく話をしているんです。
 いいんですよ? 地の文たっぷり手加減ナシで説明し尽くしたって」

ξ゚⊿゚)ξ「次の話題にいきましょうか」

 彼女は「それもそうですね」と淡白に切り返し、本題に入った。

.

775名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:54:57 ID:vYPVAwrg0



「まぁいきなりやられましたね。新勢力の登場です。それをお伝えしに参りました」

「ツンちゃん先輩の隣のクラスに転校生が来ました。彼らはずばり、やべー奴です」

ξ゚⊿゚)ξ「……転校生ならうちのクラスにも来たわよ。しかも四人」

「素直姉妹はこちら寄りの存在なのでノーカンです。
 彼女達については監督役のモナーさんに聞くといいでしょう」

ξ゚⊿゚)ξ「……てことは、モナー先生は貴方を知っているの?」

「ええ。かつて彼とハインリッヒが勇者軍を抜ける際、少しばかり手を貸しました。
 とはいっても当時は別名義でしたし、私が出向いた訳でもありませんが」

「言っておくと素直姉妹はヴァンパイアハンターの末裔です。分類はまぁ超能力者って事で」

ξ;゚⊿゚)ξ「……それが本当なら魔族の天敵なんだけど」

 そう言うと、彼女はきょとんとした顔で私を見た。

「そういえば吸血鬼も元は魔界暮らしでしたっけ。
 その昔、魔界から人間界に移住したはいいが、血を好む習性ゆえに程なくして種族間戦争が開始。
 結果多くが人間界で死滅してしまい、今じゃ吸血鬼は絶滅寸前だとか」

「聞けば吸血鬼にとって人間の血は麻薬みたいな依存性があったらしいですね。
 まぁあの頃はアヘンがどうこうとか色々ありましたし、タイミングが悪かったかと」

ξ゚⊿゚)ξ「……話が逸れてない?」

「逸れましたね。戻しましょう」

 彼女はくすっと笑い、肩を竦めた。

776名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:55:50 ID:vYPVAwrg0


「やってきたのは我道アグリ、網目間宮ユミの二人」

「まったくやれやれ完全に不意をつかれました。
 我々が巨大生物の襲来を阻止している間に、小さい虫を通してしまいました」

 巨大生物に関してとても興味があったが、それを聞く間もなく彼女は続けた。


「とにかく関わらないように。まずそれだけ徹底してください」

ξ゚⊿゚)ξ「ふーん」

「彼らは捕食者です。食べちゃうんです。色々と。物でも人間でも」

 彼女は手をパクパクさせ、ものを食べるジェスチャーをして見せた。

ξ゚⊿゚)ξ「敵なの?」

「そうですね、敵にはなりやすいです。
 なんせ彼らは攻撃的だ。魔族の存在を知ったら好奇心で襲ってくるかも」

「ただまぁ彼らとて別に快楽殺人者ではないですからね。
 食欲とか好奇心とか、そういうのを満たす何かをあげれば友好関係は築けると思います」

ξ;゚⊿゚)ξ「……なんにせよ、関わらない方が無難なのね」

「ですからこちらで一手打っておきました。
 彼らには近日中にあっさり退場して頂きます、そこらのモブキャラのように」

 嫌味な笑顔。彼らの登場も、彼女にとっては計略の一部のようだった。

.

777名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:57:30 ID:vYPVAwrg0


 彼女が私に一歩詰め寄る。
 私は顎を引いて彼女を見下ろし、思わず一歩引き下がった。

「――さておきツンちゃん先輩。私と仲良しになってくれませんか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……な、なかよし?」

「ほのぼの平和な学園生活。それを私と過ごしましょうと言ってるんです。
 他の方々が一緒だと否応なしに事件が起こってしまいますからね」

「これでも色々遊びは知ってるんですよ。良い遊びも、悪い遊びも」

ξ;゚⊿゚)ξ(どちらにせよ意味深だ!)

「どうです? もうすぐクリスマス、関係を進展させるには良い頃合いかと」

 黙って後退。しかし、たったの数歩で私の退路は本棚によって断絶された。
 彼女は私の首筋にぐっと顔を寄せ、ふう、と吐息を漏らした。

ξ;゚⊿゚)ξ(ホ、ホゲーーーー!!)

「……くす、メガネが曇ってしまいました」

 彼女が私を見上げ、イタズラに微笑む。
 曇ったメガネの向こうには、私の動揺を楽しむ悪魔の瞳があった。

.

778名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 09:59:23 ID:vYPVAwrg0


ξ;゚⊿゚)ξ

「……ま、この情事は後に取っとくとして」

 途端、彼女はパッと離れて私に背を向けた。
 後ろから僅かに窺えた彼女の表情は、ここにきてようやく真剣なものに変わっていた。

ξ゚⊿゚)ξ

 それは同時に、私が完全に弄ばれていた事の証明でもあった。
 女なのに童貞扱いされたような、そんな気分になった。


「聞かせて下さいツンちゃん先輩。貴方の過去を、成り立ちを」

ξ゚⊿゚)ξ「……過去? って、貴方なら知ってそうだけど……」

 彼女達は、魔王と勇者がどうこうしていた頃からこちらの存在を知っていた。
 だったら私の過去くらい、筒抜けだろうとおかしくないのだ。


「ええ勿論存じていますよ。これはただの取っ掛かりです」

ξ;゚⊿゚)ξ「……回りくどいなあ……」

「性分です。大した文量でもないんですから脳ミソ使って下さいよ」

Σξ;゚⊿゚)ξ(また煽られた!) ガビーン!

.

779名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:00:32 ID:vYPVAwrg0


「ツンちゃん先輩の過去は大体こんな感じですよね?
 魔界にスーパーベイビー爆誕、すごく成長、制御できなくて大変、そして今に至る」

 他人の人生をここまで乱暴に要約できる人間はそうそう居ないと思う。

「いやあ大変でしたよね。なんでしたっけ、なんとか封印? されたんですよね」

ξ;-⊿-)ξ「……そうよ、大界封印」


     ('A`)☆大界封印ってなあに?☆('A`)
('A`)伝説級の魔物を空間ごと隔離して放逐するよ('A`)
('A`)みんなでがんばってつくるすごいふういんだよ('A`)


 という感じで私は分かりやすく大界封印について喋ったが、彼女はさらっと聞き流してまた話し始めた。


「で、それを超短期間で破ってツンちゃん大脱出と。いやーまったくもって凄い本当に。
 大界封印って確かオイスターみたいな名前の名状し難いものでも閉じ込めるって噂ですよね?」

ξ;゚⊿゚)ξ「らしいけど……なんで魔界の噂まで知ってるのよ」

「風の噂です」

ξ;゚⊿゚)ξ「魔界の風が人間界まで届く訳ないでしょ」

「……ツンちゃん先輩が自身の能力を形容できたのは大界封印脱出の折でしたね。
 ゼノグラシア、真性異言。意味分かんねーけど心で理解出来たぜ系の言葉、ピッタリだと思います」

ξ;-⊿-)ξ「知らないわよ、名付けは私じゃないし……」


「……へえ。それは、初耳……」

 彼女は会話を区切るように、ゆっくり、はっきりとそう言った。

.

780名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:01:57 ID:vYPVAwrg0



「というか、聞いてもいいですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「もうかなりグイグイ聞き込みしてるけど」


「ツンちゃん先輩、その大界結界を破る時にはちゃんと意識があったんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……覚えてない。小さかったし、結界に入る前に眠らされたから」


「なら、出てきた時はどなたがツンちゃん先輩を出迎えたんですか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……聞いてないわよ。目が覚めたら魔王城の寝室だったわ」


「……少し整理します。大界封印を例えるなら、一個人めがけて核ミサイルを発射するようなものでしょう。
 つまり魔界の理は貴方を超危険物として処理した訳です。それを安々と元の状態に戻せますかね」

ξ゚⊿゚)ξ「……知らないわよ」

 その疑問は、いつも心の隅にあった。
 ゼノグラシアという制御装置が出来たとはいえ、私は一度完全に捨てられた身なのだ。
 なのになんで、こんな、当然のように――――

.

781名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:03:25 ID:vYPVAwrg0



「普通……というかまず、二度と出て来れないよう閉じ込めたものが即日出てきたら大概みんな焦ると思います。
 しかも大界封印を自力で脱出するほどの“何か”が無意識状態で出現したとなれば――」


「意識が無い内に再度封印するか、それに近しい処置があって当然でしょう」



〜〜〜〜〜〜〜

ξ゚⊿゚)ξ「うひーなんか出れた」

( ФωФ)「じゃあ帰ろっか」

              イェーイ
ξ゚⊿゚)ξ人(ФωФ )

〜〜〜〜〜〜〜


「という展開は、さすがに平和ボケし過ぎてると思いますし……」

 彼女は冗談半分に言って苦笑う。
 私は今まで抱えていた矛盾を浮き彫りにされ、言い返す言葉を失っていた。

「そんでまた質問なんですけど、暴走状態のツンちゃん先輩ってどのぐらい強いんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……その時は意識が無いから分からない。けど、周りの人はいつも無事だったわよ」

「……へえ。なるほどなるほど……」

 彼女は独りごちて頷く。

「ありがとうございます、お聞きしたい事はもうありません。
 私自身、かねてより疑問に思っていた事を軒並み解決できました」

.

782名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:06:29 ID:vYPVAwrg0

 十秒の沈黙。
 彼女はその後、口火を切った。

「……ええと、これは仮定に仮定を積み上げたに過ぎない仮定なんですけど」

ξ-⊿-)ξ「……なぁに。聞くわよ、もう」


「――ツンちゃん先輩はもしかして、今まさに大界封印を脱出中なのではありませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ

 は?


ξ;゚⊿゚)ξ「……えっと、どういう意味?」

 会話の点と点が繋がらず、私は言葉の意味を上手く理解できなかった。


「いやほら、例え話ですよ」

「実はこの世界はまだ大界封印の中で、私達“始末屋”はそのメンテ係みたいなもの。
 そしてツンちゃん先輩は莫大な魔力をもってこの封印を侵食。
 私達メンテ係が総動員される状況になるまで、順調にこの世界を攻略中とか……」


ξ;´⊿`)ξ「……いや、それは流石に……」


「……ま、これはただの妄想ですよ! しかし私は私の理念に確信を持ちました。
 やはりツンちゃん先輩には普通の学生生活を送ってもらいます、否が応にでも」

.

783名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:08:32 ID:vYPVAwrg0



「――それでは今日のおさらいを」


「ツンちゃん先輩は転校生に関わらないこと。そして今話した他愛無い仮定の話も忘れること」

ξ;゚⊿゚)ξ「……分かった。分かったって」

「……本当ですか? 見張りも一応つけてるんですからね。
 ま、こちらに実力行使が出来ない以上、ツンちゃん先輩にはひたすらお願いするしかありませんが」


ξ゚⊿゚)ξ「……そういえば、聞いてなかったけど」

ξ゚⊿゚)ξ「貴方、名前は?」

 問いかけると、彼女の表情から一瞬生気が消え失せた。
 彼女は平静を取り繕い、答える。

 「……くす。さあなんでしょう。私、どうにも名状しにくいようで」

 彼女はそう答え、今日一番の不穏な笑顔を見せた。
 途端、予鈴が鳴り響く。
 私達は天井のスピーカーを一瞥し、ここが区切りであると察した。

.

784名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:10:59 ID:vYPVAwrg0



「――最後に未来予測。ツンちゃん先輩、昨日話したとおり王座の九人が来ます。
 内藤ホライゾンに話を聞いて下さい。危ない橋ではありますが、頑張って敵を籠絡してください」

ξ;-⊿-)ξ「……了解。もう、なんか凄い疲れたんだけど……」

「……では癒やしてさしあげます。合法的に――」

 彼女がすとんと私に寄り掛かり、背伸びして私の耳元に口を添える。
 そして次の瞬間、


ξ;'゚⊿゚')ξ「――ッッ!??!?!??」

「〜〜〜表現規制の波〜〜〜」

 彼女は今まで聞いた事がないようなエッチな声で、私の耳にしこたま淫語を浴びせてきた。
 しこたま淫語という言葉の並びすら最早卑猥。行為は実に30秒も継続された。

ξ゚⊿゚)ξ

「……それじゃあツンちゃん先輩、また次回という事で」

 彼女の指先が私の頬を伝って胸へと落ちていく。落ちていく程度の胸はある。
 彼女は私の胸に手を当てて、ぐっと力を込めて言った。

「忘れて欲しいですけど忘れちゃダメですよ、私とのありふれた会話劇。
 貴方が現状を維持しなければ全て崩壊します。知らなくていい事が、この世界は多すぎる」

ξ゚⊿゚)ξ「ウィッス」

 インターネットスケベコンテンツめいた事案に対し、私はすっかり思考停止。
 結局私はこの昼休み中、彼女の思うがままにされてしまったのだ……。

.

785名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:11:40 ID:vYPVAwrg0




     ☆三輪車☆



      ( ^ω^)
      ( O┬O  ('A`) しぬ
   ≡◎-ヽJ┴◎ ノ( ヘヘ



.

786名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:12:23 ID:vYPVAwrg0




 昼休みも終わっていざ午後の授業だ――と意気込んで教室に向かう。
 ところがどっこい、それを足止める不届き者が居た。


( ^ω^)「魔王城、少しいいかお」

 私を苗字で呼んだ彼は内藤ホライゾン。
 私達魔物が人間界で生活するにあたり、色々と手を貸してくれている協力者の一人だ。


ξ゚⊿゚)ξ「……あ、」

 そういえば昨日の事をすっかり忘れていた。
 昨日私に殺意を放った不届き者の顛末を、私はまだ聞いていなかったのだ。


ξ゚⊿゚)ξ「聞きそびれてたわね。どうなった?」

( ^ω^)「……ああ、昨日のなら取り逃がしたお。今はハインリッヒが追いかけてるお」

ξ゚⊿゚)ξ「……逃がしたって、その割に堂々としてるのね」

( ^ω^)「王座の九人だったお」


ξ゚⊿゚)ξ

ξ-⊿-)ξ「……そう。まあ、引き続きこの件は預けるわ」

( ^ω^)「……お前も不思議と驚かないお。
      王座の九人が来たって事は、いよいよ向こうも最後の賭けに出るって事だお」

 それは分かっている、分かっていたのだ。
 そんな事より気掛かりのは、盛岡が言った予知がこれで一つ的中してしまった事だ。
 ちくしょう嫌な感じだ。他に色々思う事はあるものの、私はまず第一にそう思った。

.

787名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:13:04 ID:vYPVAwrg0


( ^ω^)「……声をかけたのは別件だお。
      お前、転校生に屋上に呼び出されるお」

ξ゚⊿゚)ξ「……そんな愉快な役回りが出来る人柄だったっけ、貴方」

( ^ω^)「転校生に頼まれたから伝えただけだお」

ξ゚⊿゚)ξ「機械的ね。ま、素直姉妹とは話したかったから好都合か……」

( ^ω^)


( ^ω^)「……素直姉妹は知らんけど、こっちのクラスの転校生だお」

ξ;゚⊿゚)ξ「……え゙っ?」


ξ;゚⊿゚)ξ(マジかよ……)

 始末屋から忠告を受けた矢先、このイベントは相当ヤバい予感がする。
 絶対に行くべきではないのだが、この先何をしでかすか分からない連中に釘を刺すのも有意義だろう。
 何より私は最強だ。私自身の安全は、私自身の力が保証してくれる。
 心の準備はしていなかったが、ここで決断を下すとしよう――。

.

788名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:13:44 ID:vYPVAwrg0


ξ;゚⊿゚)ξ(……どうしようかな)


  1.屋上に行く。


  2.行かない。


.

789名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:14:24 ID:vYPVAwrg0




.

790名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:15:04 ID:vYPVAwrg0




ξ゚⊿゚)ξ(……流石に備えも無しに行くのは愚行か。
       いかに私が最強とはいえ、無敵じゃあないんだし……)

 私はそう結論付け、頭を振ってブーンに言った。


ξ゚⊿゚)ξ「ごめんそれパス。学生なんだし授業優先でしょ」

( ^ω^)「……分かった」

 これにて一件落着! 私の平和なスクールライフに波乱など不要なのである。
 向こうが人間に手を出さない内は見逃しててもいいだろう。
 そして何より 『関わるな』 と言われた相手だ。まず様子見でも悪い事は起こらないだろう。


( ^ω^)「なら伝えてくるお」 スタスタ

ξ゚⊿゚)ξ「あーよろしく。それじゃ」 クルッ

 私は残り一分と経たず始まる授業に向けて歩き出す。
 正直もう遅刻確定なので走る気にもならなかった。
 こういう時こそ優雅に入室し、格の違いをもって教師を黙らせるのが吉なのだ。


ξ゚⊿゚)ξ(ていうか教科書持ってきてないな) ピタッ

ξ゚⊿゚)ξ(ブーンに借りるか)

.

791名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:15:59 ID:vYPVAwrg0


ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとブーン、教科書貸してほしいんだけど……」

 私は立ち止まって振り返る。
 しかし、そこにブーンの姿は見えなかった。


ξ゚⊿゚)ξ(は? 教室あっちなのにどこ行ったのよ……)

 そういえばさっき、伝えてくるとか言っていた気がする。
 ならば、ブーンは屋上に向かったのだろうか。
 敵か味方かも分からない二人が待つ、屋上に。

ξ゚⊿゚)ξ

ξ;゚⊿゚)ξ「……いや、まさかね」

 ブーンの身に何かが起こる、なんて想像は無意味だ。
 彼はあれでも一人の戦士だ。たかが二人の不意打ちを食らった所で、死んだりはしないだろう……。

ξ;゚⊿゚)ξ

 だが、私は内心の不安に負けて階段を登り始めていた。


ξ;゚⊿゚)ξ(一応、一応ね?)

 チラ見して帰るだけ。
 私はそう自分に言い聞かせ、そろ〜りと階段を登った。


.

792名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:17:10 ID:vYPVAwrg0


【interlude:qAwsetxdrvfygbunli】




 Error





.

793名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:17:50 ID:vYPVAwrg0


 屋上で魔王城ツンを待つ二人組。男の名は我道アグリ、女の名は網目間宮ユミ。
 彼らは世界のどこかで 『捕食者』 と称される存在であった。


「ねえアグリちゃん、魔王様は本当に来るのかな?」

 ユミは制服のスカートを翻し、じっと佇むアグリを振り返った。

「……こんな怪しい呼び出し、立場のある奴なら絶対に来ないぞ」

 呆れ顔で言い返してアグリはそっぽを向いた。そもそも彼は魔王城ツンとの接触には反対だった。
 捕食者と呼ばれ危険物扱いされてはいるが、その実彼らは平和を好む穏やかな種族。
 人間を食らっていたのは遠い先祖であって、彼ら自身が人肉を食した事は一度もない。


「んーそうだね。でも来てくれると嬉しいなあ……」

「交渉など不可能だ。俺は森に帰りたい……」

「分かってるってば! でもさ、昨日のアイツらを使えば何とかなるよ!
 えっと……勇者軍? のギコとその妹! 半生半死で目の前に転がってきた時はビックリしたけどさー」

「……あれは匿わず見殺しておくべきだったよ。無駄知恵を働かせずに」

「そお? 私が思うに、魔王城さんとは仲良く出来るはずなんけどなー」

「……根拠を示せ、根拠を」

 溜め息混じりにアグリは呟いた。

794名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:19:01 ID:vYPVAwrg0



 ――ふと、屋上の扉が開く。
 肩の力を抜いて会話していた二人も、その瞬間に目を光らせた。



「……あれ」

 ユミは険しい表情でその人を見る。
 屋上にやってきたその人は、魔王城ツンとは別人であった。



「誰かな、あなた。授業始まっちゃうよ?」

「――いや、構えろユミ。こいつは敵だ!」

 アグリが戦闘態勢でユミの前に勇み出る。
 それを見た彼の人は、茶髪のサイドテールを揺らして静かに笑んだ。
 午後のチャイムが鳴り響く。その最中、真昼の青空に鮮血が散った。


【interlude:out】
.

795名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:19:53 ID:vYPVAwrg0



       ☆ネコ☆

               _
             /´  `フ
       , '' ` ` /      ,!  もぐ
      ., '      レ   _,  rミ
      ;          `ミ __,xノ゙、
      i     ミ   ; ,、、、、 ヽ、
    ,.-‐!       ミ  i    `ヽ.._,,))
   //´``、     ミ ヽ     ('A`) しぬ
  .| l    ` ーー -‐''ゝ、,,))   ノ( ヘヘ
   ヽ.ー─'´)          
    `"""´          (^ω^) どうせしぬ
                  ノ( ヘヘ

796名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:21:01 ID:vYPVAwrg0




(; ^ω^)「――――な、」



 絶命した体を掴み上げ、血みどろの中心に立つ少女。
 屋上に出たブーンを迎えたのは、その少女と鮮明な血の臭いであった。


「……ああ来ましたか。まったくやれやれ、こんにちは」

 律儀に二人分の死体を並べて寝かせ、少女は一息。
 眼鏡についた血飛沫をセーターの裾で乱雑に拭ってから、彼女はブーンを見た。


( ^ω^)「……お前、何者だお」


「……いや本当に急でした。私自身、超ビックリって感じで……」

 ブーンの問いに答えず、少女はわざとらしく肩を撫で下ろした。
 死体の傍でなければ可愛らしく見えたであろうに、その仕草はブーンの目に奇怪な演技として映っていた。

「ヤバい事ですよこれ、何しちゃってくれてるんですか……」

.

797名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:22:18 ID:vYPVAwrg0



ξ;゚⊿゚)ξ「――……まさか……ッ!」

 言葉の最中、遅れて姿を現した魔王城ツン。
 この惨事と少女を見て合点したのか、彼女は敵意を剥き出しにして少女を睨んだ。


ξ#゚⊿゚)ξ「……貴方……!」

( ^ω^)「……魔王城、あれは敵か?」

 肩を並べたブーンとツン。
 しかし当の少女は彼らの敵意を意に介さず、一人この状況の意味を考察していた。


「……おかしい。彼ら捕食者がこんなに早く行動に出る動機は無かった。
 寸前とはいえ自演は成功、さっきの介入でこの筋道は閉ざせたはず……」

「おかしい、私達よりメタい存在がこの世に居る訳が――――」


.

798名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:23:24 ID:vYPVAwrg0



「…………ああ、そうか」

 思考の末に少女は答えを得た。
 彼女の双眸はただ冷たく、内藤ホライゾンをじっと見据える。


( ^ω^)


「二番煎じの欠陥品、改悪劣化の権化がゆえに――遂にお前は道を外れたか」

 勝手に一人で何かを得心し、彼女は歪んだ顔で空を仰いだ。


「……内藤ホライゾン、魔王城ツン。私はしばし姿を消します。役目は終えました」

「それに際して一つだけ助言を……いえ、私個人の確信をお伝えします」


( ^ω^)「魔王城」

ξ#゚⊿゚)ξ「……捕まえるわよ。殺す価値より情報源としての価値のが高い」

( ^ω^)「分かったお」

 ブーンの片手に青い蜃気楼が揺らぐ。
 蜃気楼は僅かに雷鳴を走らせた後、実体を得て彼の手中に握られた。
 無から現れたるは、鍔の無い深紅のサーベルであった。

.

799名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:24:50 ID:vYPVAwrg0




「――――何者かが、この世界の筋道を壊そうとしている」



(# ^ω^)「おおッ!!」 ダッ!

 駆け出したブーンのサーベルは無意味に空を裂き、少女には間一髪届かない。
 少女は、一切の痕跡を残さず屋上から姿を消した。



ξ#゚⊿゚)ξ「……逃げられたわね」

( ^ω^)「……気配を感じない。追う手段が無いお」

ξ#-⊿-)ξ「私も駄目、感知もできない」

ξ#゚⊿゚)ξ「……クソッ、なにも殺す事なかったでしょうが……!」


( ^ω^)「……先当たって、貞子さんにこの事を伝えるお」

 ブーンは足元の死体を一瞥してからサーベルを手放した。
 彼の手を離れたサーベルは、再び青の蜃気楼となって空に散った。

.

800名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:25:30 ID:vYPVAwrg0



( ^ω^)「事情は後で聞くお。今聞いても手遅れだから」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね。……私の怠慢だ」

( ^ω^)「自覚があって何より。間が悪ければ僕が殺されてたお」

ξ゚⊿゚)ξ

( ^ω^)

( ^ω^)「なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ

 ツンは口籠り、ややあってから答えた。

ξ゚⊿゚)ξ「……いえ。人間って、人間が死んだら動揺するものだと思ってたわ」

( ^ω^)「……さっきの奴も言ってたお。こんな欠陥品、参考にならないお」

 気まずい空気が流れ込む。
 ツンは踵を返し、ブーンに背を向けた。

ξ゚⊿゚)ξ「見張ってて。私が貞子さんを呼んでくる」

( ^ω^)「分かったお」

 事務的な言葉が間を繋ぐ。
 ツンが貞子を連れて戻ったのは、それから数分後のことだった。

.

801名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:26:12 ID:vYPVAwrg0



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




从;゚∀从「……やあっと見つけた……」 ハァー


 敵の追跡を開始して半日。
 消えかけていた痕跡を懸命に辿り、ハインリッヒ高岡はやっと確信を得られるだけの気配を察知した。

 彼は目前のアパートを見上げた。二階右端の部屋に一人分、激化薬の臭いがする。
 勇者軍が使用する激化薬の正体は、勇者と英雄が保有する異能回路の模造品。
 ゆえに一度でも激化薬を使った者は人体の仕組みそのものが変質し、気配も人ならざるものに近付いてしまう。


从 ゚∀从(……しかし妙だな)

从 ゚∀从(この距離なら向こうも気付いてるだろうに、動きがない)


从 ゚∀从(探りに行くか)

 ハインは腰の鞘から細身の刀を抜き取った。
 白昼堂々、人に見られれば一発アウトの光景である。
 しかしハインはそのまま歩き出し、階段を上って右端の部屋で立ち止まった。

.

802名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:27:00 ID:vYPVAwrg0


从 ゚∀从(……我道、アグリ)

 表札を一瞥。さっぱり知らない名前なので即時忘却。
 ハインは刀を肩に担ぎ、空いた手でドアを開け放った。


从 ゚∀从「……生きてるかい」

(,, Д )

 リビングの片隅に、両手足を縄で縛られた男が転がっていた。
 男は既に瀕死だった。ブーンとの戦闘で負った傷もそのままに、何者かに捕縛されたようだ。
 フローリングにも乾いた血の跡が広がっている。顔は青ざめ、意気も薄弱だった。

(,, Д )「……よお、悪いな。わざわざ……」

从 ゚∀从「王座の九人、ギコだったな。
      生け捕りがご希望だから死ぬんじゃねえぞ」

(,, Д )「……奥に……」

.

803名も無きAAのようです:2016/09/29(木) 10:28:03 ID:vYPVAwrg0


(,, Д )「……奥の部屋に、俺の妹が居る」

从 ゚∀从「……あ?」


(#,, Д゚)「……次に俺が目を覚ました時、妹が死んでたら――……」

从 ゚∀从

(#,, Д )「………………」

从;゚∀从「……ンだよ」

 一瞬の激昂。
 しかしそれも束の間で、ふつ、と細い糸が切れるようにギコは意識を失っていた。


从;゚∀从「死ぬなって言ったばっかりなんだがな……!」

 ハインは土足でリビングに上がり、ギコの容態を確かめた。
 死んではいないが応急処置すらされなかったせいで出血が酷い。
 戦闘で激化薬を使用した分、今は副作用で生命力自体も低下しているだろう。
 最早、ギコは適当な病院に突っ込んで解決するような状態ではなかった。

从;゚∀从「チッ」

 こいつを匿った野郎は手当ての一つもしなかったのか、とハインは内心に吐き捨てた。
 事は一刻を争う。ハインはギコと、そして彼の妹を両肩に担ぎ、大急ぎでその場を後にした――。

.


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