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( ^ω^)ヴィップワースのようです
102
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 22:58:30 ID:QBm8LrjU0
敵の攻撃がより苛烈になっていると感じるのは、気のせいではなかった。
これだけ打ち破られて敗走を続けているというのに、一向に向こうの攻め手が休まる事はない。
領主一人の力だけなら、ろくな補充も行ってくれないランクリフ同様、とうに向こうも力尽きているはずだ。
あるいは何者かが、手を貸しているのか。
だが、そんな”上”での事は、自分には関係がない。
自分たちがやるべきは、ただ、剣を手に戦い続けることと、生き延び続けること。
それ以外に、どうでもいい奴らの事など考える意味もないのだと言い聞かせた。
「ぎゃぁッ!」
(;´・_ゝ・`)「……ギャレンッ!?」
敵を3人殺しては、仲間が1人死んだ。
103
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:01:30 ID:QBm8LrjU0
(;´・_ゝ・`)「ネピア! スコッティィッ!」
敵を1人殺し損ねては、仲間は3人死んだ。
「だっ、だんちょ―――」
(;´・_ゝ・`)(……力が……クソったれ)
手が震えにつかれるのは、ここ2、3日は森で捕まえた蛇や鳥が、わずかずつしか行き渡らなかったからだ。
頭の奥に痺れが走るのも、度重なる夜襲によって、団員のほとんどがまともな睡眠を取る事ができていないからだ。
―――やがてヴァイセン剣兵団は、戦力のおよそ半数、三十余名の命を一度に落とす惨敗を喫した。
慰霊の丘に敷いていた防衛戦を、ランクリフの屋敷からやや南下した森にまで引き下げるしかなかった。
この頃には、もうデミタス自身もそれを痛感していた。
限界に来ている、と。
・
・
・
104
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:05:14 ID:QBm8LrjU0
疲れ果てたヴァイセンにも、つかの間の休息が訪れていた。
ここ3日ばかり、夜襲どころか、敵の斥候の姿も見えなかったからだ。
それでも心だけは休まる事のなかった彼らに、やがて嬉しい報せが届く。
「デミタス団長……これを」
(´・_ゝ・`)「………」
「では……これで」
早朝にデミタスの宿営地を訪れたのは、ランクリフの使者だった。
彼が寄越した、革紐一枚にくくられた羊皮紙には、こう書いてあった。
<ギレオル陣営との和睦が間もなく成立する。
明朝、慰霊の丘にてギレオルの兵30名に面会し、互いの休戦意思を明らかにせよ>
105
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:06:55 ID:QBm8LrjU0
紛うことなく、ランクリフ本人による署名が刻まれた書面。
読み終えたデミタスは、それを手の平の中で潰してから、使者を呼び止めた。
(´・_ゝ・`)「待て」
「はい……?」
(´・_ゝ・`)「ランクリフに会ったらこう伝えておいてくれ。
命令は命令として実行する。
しかし遅すぎる決断でしたと、な」
「……確かに、承りました」
主の屋敷へ向けて、早駆けで去っていく使者の馬を目で見送った後に、
安堵か、喪失感かもわからぬ重い溜息をひとつ、デミタスは深く静かに吐いた。
106
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:08:31 ID:QBm8LrjU0
自分に問い詰めるようにして群がる部下たちにとっては、喜ばしい事なのだろうか。
だが今では、このまま果てるまで戦っていた方が良かったような気さえした。
和睦を持ちかけたのは、ランクリフの方だろう。
本人自身もこの所はろくな生活を送っていなかったであろうとは、質の悪い羊皮紙の手触りから邪推したことだ。
こうなる結果に終わるならば、死んでいった部下たちは、一体何のために命を賭けて戦っていたのか。
それを考えると、伝えるのが心苦しい命令でもあった。
(´・_ゝ・`)「……慰霊の丘に、発つ」
「どういう事です?」
(´・_ゝ・`)「終わったんだとよ。
居もしない神様だとかの事でいがみ合う、口喧嘩は」
「………」
107
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:10:15 ID:QBm8LrjU0
団員たちもまた、デミタス同様に様々な表情を浮かべていた。
去来する感情は、多くの仲間を失った事実や、また安穏と暮らせる事への喜びが入り混じった、複雑なものだ。
もう戦わなくて済むんだ、いまさら何だってんだくそったれ。
彼らの間で飛び交う言葉のどれもが、今のデミタスの心情をも表していた。
誰かが言った言葉も、そうだった。
「俺たちゃ……その日暮らしで生きてたあの頃の方が、良かったんじゃねぇかな」
それは何よりも、団長である彼の胸に、張り裂かんばかりの痛みを与える刃だった。
(´-_ゝ-`)「………」
「誰かに仕えるなんてさ、きっと、間違ってたんじゃねぇかな……なぁ、みんな」
108
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:10:39 ID:71tutLqgO
焙煎コーヒー飲みたくなった
支援
109
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:11:41 ID:QBm8LrjU0
・
・
・
――南部 【慰霊の丘】――
「馬鹿にしてやがんのか!? 連中は、俺達をよ!」
辿り着いた時、開口一番鬱憤の溜まっていたグレガシンがそう怒鳴った。
だがその声は、晴れ晴れと光の差し込む丘陵に、微かに木霊するだけだ。
向こうも手ひどくやられ続けた。
自分たちとの休戦を、ギレオルの私兵達もまた望んでいるはずだと考えていた。
しかし、待ち合わせのはずの時間帯に、連中の姿は影も形も見えない。
(´・_ゝ・`)「………」
110
:
俺はアロマブラック
:2013/11/01(金) 23:13:34 ID:QBm8LrjU0
自分たちを残して人っ子一人いない場所に立った時、デミタスは、様々な方面に考えを巡らせていた。
あの従者自体が、偽りの書簡を届けたギレオルの手の者ではなかったのかと。
いや、しかし確かにあれは一度屋敷で見た男の顔だった。
だが、ギレオルとは物狂いのような男だ。
そちらの側が、一方的に休戦を反故として、だまし討ちを仕掛けてくる可能性もある。
(´・_ゝ・`)「警戒しろ!」
すぐにそこへと行き着いていたデミタスが警戒を促した時、既に全員にも緊張が張り詰めていた。
「……へいッ!」
「そうか、あいつら……もしかして俺たちを騙そうと!」
111
:
俺はアロマブラック
:2013/11/01(金) 23:14:57 ID:QBm8LrjU0
団長の表情から、部下たちもすぐに事態を察していたようだ。
耳を澄ませば、木々に紛れて聞こえてくる微かな物音から、やがて確信に至る。
ぴしゅんっ。
「ぐあッ!?」
どこかから飛んできた矢が、一人の眼窩を穿った。
既に向こうは布陣を敷いて、こちらを待ち構えていたのだ。
団員たちと共に、デミタスは叫ぶ。
「―――くそ! 罠だぜッ、こりゃあ!」
(´・_ゝ・`)「ちぃッ……密集陣形をとれ!」
やはり、ギレオルによるだまし討ちだ。
ここに来て、戦力にものを言わせた一辺倒の戦い方から、卑劣さに磨きをかけたようだ。
112
:
俺はアロマブラック
:2013/11/01(金) 23:17:08 ID:QBm8LrjU0
ただ、デミタスの頭の中からはある一つの可能性だけが抜け落ちていた。
それをあり得ない事だと捨て去っていたのは、なまじ、今は自分が誰かに仕える身であるからか。
「やりあうんですかい!?」
(´・_ゝ・`)「いいや、森まで後退だ! どれだけの敵が潜んでるかわからん!」
「くっ、邪魔くせぇ!」
彼らヴァイセンには、迅速な撤退が求められていた。
だが周囲を森に囲まれ、その中央で丘の上に立つ今の彼らは、弓兵の的。
そして、丘に突き立てられた幾つもの碑が、なおさらのこと彼らの回避行動を阻害していた。
ぴしゅんっ。
「あぎゃっ!」
113
:
キリンのボトルコーヒーもいいよ
:2013/11/01(金) 23:17:54 ID:yG0imH/IC
支援
114
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:19:03 ID:QBm8LrjU0
ぴしゅんっ。ぴしゅんっ。
「うわッ」「あ、足が……!」
(´・_ゝ・`)「くっ、盾で防ぎながら下がれ! 下が――――」
叫びながら、デミタスは周囲からのそのそと姿を現した敵兵が、既に退路を塞ぎつつある光景を目撃した。
焦燥が彼の心に火を放ち、次に命ずるべき言葉を選ぶための、その判断力を失わせる。
突破するしかない。
だが、この場に押し込めようと退路を塞ぐその数だけでも、こちらの3倍と目測した。
普段ならば十分に対等な戦いが出来る数だが、しかし敵はそれだけではないのだ。
(|-+-|)「今だ! 狩り尽くせぃッ!」
115
:
ジョージア最強
:2013/11/01(金) 23:21:36 ID:QBm8LrjU0
「――――うおおおおぉぉぉぉッ……――――」
茂みに隠れて放たれる矢が、次々と部下たちに手傷を及ぼし、わらわらと丘を駆け上ってくる兵たちは、
全て合わせれば、手負いのヴァイセン剣兵団の10倍の数は用意されていた。
無傷どころか、多くの数が生き残ることすら困難な状況と認識したのち、戦慄した。
(;´・_ゝ・`)「………クソッ!」
迫る敵から逃れつつ、背後の布陣を打ち崩して、その先に逃れるしかない。
しかし、すでに全員が丘の中心に繋ぎ止められ、周囲全てを蟻の大群のように敵の群れが覆い尽くす。
(;´・_ゝ・`)「―――おおおぉぉぉッ!」
116
:
ジョージア最強
:2013/11/01(金) 23:22:59 ID:QBm8LrjU0
一振りで二人を倒して、次に四人を葬っては、吠えた。
しかし猪突猛進に斬り倒し突き進むデミタスの勢いでさえ、その包囲の前には押しとどめられた。
背には二人の優秀な部下たちが着いて来てくれているが、彼らの視線の先でも次々と仲間が討ち取られている。
もはや隊列は完全に分断されており、自分の元について来れなかった仲間たちは、
もみくちゃにされるようにして、攻撃の嵐の前に倒れていくだろうと、考えたくもない考えがよぎた。
( |-+-| )「はっはっは! これが噂に名高いヴァイセンの傭兵どもだと?
随分と小粒なものだが……うはは、さらに粗挽きに噛み砕いてやれ!」
117
:
ジョージア最強
:2013/11/01(金) 23:24:49 ID:QBm8LrjU0
だが、まだ死力を振り絞って声を荒らげては、戦っているものもいた。
誰より負けん気が強くて、デミタスにも剣の勝負を挑んできた若武者のグレガシン。
「うるああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「団長ォッ! 逃げて下さい!」
そして、生来の気の弱さを口にしながらも、土壇場で仲間の為に命を張る根性を見せると、
傭兵時代からのデミタスの部下にも褒められ頭をくしゃくしゃに触られていた、お坊ちゃんのビーンストロイト。
(;´・_ゝ・`)「ついてこい! ついてくるんだ!」
助けてはやれない、だけど弱音は吐いてくれるな。
目の前の剣を叩き折っては、ただ一歩、二歩ずつぐらいに丘を降りて行くのが精一杯だ。
だが、必ず突破してみせるから、着いて来てくれ。
言葉少なでは、彼らにそう伝えようと叫んだ言葉も、励ましにはならなかっただろう。
間もなく、ギレオル兵達の声や剣戟の波に飲まれて、二人の声は聞こえなくなった。
118
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:26:28 ID:QBm8LrjU0
そして、これまで背を守ってくれていたはずの気配も、離れていく。
「……言うとおりだ! 逃げてくれよ団長! あんたならっ―――」
「ここで、俺たちがこの雑魚どもを引きつけます!」
(;´・_ゝ・`)「馬鹿野郎がッ! ふざけんなッ!」
その場で足を止めてしんがりを引き受けたピルロとグライフも、すでに覚悟を決めていたようだった。
自分たちではこの包囲を抜ける事は出来ない、だが、デミタスだけならば―――と。
「がきんちょと女には、あんたから伝えといて下さい!」
「来やがれ! どうしたホラ、抜けるもんなら抜いてみやがれ!」
119
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:28:20 ID:QBm8LrjU0
肩越しに見た彼らは、背中しか見せてくれはしなかった。
激しく剣を打ち合うあの二人は、信頼の置ける優秀な戦士だ。
もしかしなくても、20人や30人は倒してのけるだろう。
きっと、死の間際まで戦い抜いて。
「―――達者で! 団長ッ!」
(;´・_ゝ・`)「……う」
彼らの想いに報いて、そこに何が残るというのか。
自分一人が生き残った所で、どんな顔をして生きていけばいいのだ。
それならば、自分もいっそここで―――
そう考えかけたデミタスには、自分の為に命を張ってくれる部下たちの背中があまりに眩しかった。
そして、彼らの想いを無駄にする事こそが、最もしてはならない事ではないかと理解していた。
それを考えたくもなかった彼は、一度叫ぶと、これまでにも増して剣の圧力を強め、敵陣を押し破っていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ………!」
120
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:29:53 ID:QBm8LrjU0
・
・
・
しとしとと、雨が降る帰り道。
返り血にぬらぬらと輝くデミタスの剣から放たれる業の禍々しさや、
今の獣のような彼の眼光にあてられた兵たちは、立ちふさがっても、すぐに道を明け渡すことだろう。
追いかけてきた連中をまくために森に姿を隠したり、汚泥の中に顔を突っ込んでは息を殺して、
その後もしばらく走り続けたが、今は追っ手はない。
自分があの場をどうやって切り抜け、生き残ったのかさえ曖昧だった。
仲間たちはやはり、振り返っても誰一人として着いて来ているものはいない。
121
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:32:38 ID:QBm8LrjU0
どうして、こうなってしまった。
一人つぶやく彼の声はあまりにもか細く、静かな雨の音にすら、たやすくかき消される。
間違えてしまったからなのだと気付いた時には、大切なものを全て失ってしまっていた。
自分たちは食う所と寝る所さえあれば、あとは剣を振るってたまに酒盛りをしていればよかった。
誰かのために剣を振るうなどと―――それが、いけなかった。
こうなってしまったのは、自分たちの罪なのか。
主に面会した時なんと言葉をひねり出そうか、考えもまとまらないまま雨に降られ歩き続ける。
ランクリフの屋敷に辿り着いた時には、もう、身体を染めた紅も雨でいくぶん洗い落とされていた。
門の前で茫然自失のデミタスを出迎えたのは、数人の従者たちだ。
暗がりの中でランタンを掲げた一人がデミタスの姿を認めると、驚いたように声を発する。
「な、あ、あんた何故……生きて!?」
122
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:34:09 ID:QBm8LrjU0
(メ´・_ゝ・`;)「………」
使用人の一人が言ったその言葉の意味が、デミタスには理解出来なかった。
顔を上げてその表情を覗きこむと、目は驚愕や、恐怖といった感情に泳いでいる。
確かこいつは、慰霊の丘へ行く前に、自分のもとにランクリフの手紙を届けた従者だと気付く。
なぜ、とはこちらの台詞だった。
なぜ、命令どおりに慰霊の丘に行って、10倍もの敵兵に囲まれねばならないのか。
なぜ、手紙を届けたこの従者が、俺以外がそこで死んでいった事実を知っているのか。
「クソッ……まぁいいさ、屋敷に残ってる奴らを集めろ、こいつ以外にはいないだろう。
化けもんみてぇに強い奴だが、見ろ―――この傷なら俺達でも……」
123
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:35:24 ID:QBm8LrjU0
(メ´・_ゝ・`;)「………何を……言っているんだ……?」
本当に、何を言っているのかわからない。
忠実な番犬として、ただただ命令をこなして、命を賭けて戦ってきた。
自分一人が帰ってくる事ができた代わりに、これまで付き添った仲間たちは、みな死んだ。
その自分が、自分たちが。
なぜ今になって、仕える主の側から剣を向けられなければならないのか。
(メ´・_ゝ・`;)「教えてくれ……一体、どうして……?」
ただただ、それがわからない。
戦って剣で斬り伏せようなどという気力も、全く湧き上がらない。
ふらふらと彼らの元に歩み寄っては、懇願するように問いかけた。
「――――哀れだよ、あんたは」
124
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:37:06 ID:QBm8LrjU0
やがて、一人が剣を下ろして力なく口にした。
「屈したそうだ……ランクリフの旦那は」
(メ´・_ゝ・`;)「………」
「ギレオルの言うとおりにするしかなかった―――」
言葉を聞いても、聞いた端から抜け殻のようになった頭から、すり抜けていく。
そんな事実を聞かされたのに、なぜだか、怒りも憎しみも湧き上がらない。
魂を抜き取られるような喪失感が、全身を脱力させていくだけだった。
(メ´・_ゝ・`;)「………売られた、のか」
あぁ、あいつらはランクリフの命令のもと、敵に命を差し出したのだな、と理解する。
125
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:38:53 ID:QBm8LrjU0
そうだ、部下たちは、命令通り忠実に死んでいった。
飼い主に捨てられたという事実など、知らぬまま。
一人あいつらの命に生かされて、後になって事実を聞かされる自分よりは、だがよほどましだと思えた。
雇い主に裏切られ、切り捨てられることなど、傭兵をやっていた時にはよくある事ではなかったか。
そんな嗅覚すらも忘れてしまうような、部屋で飼われる駄犬に成り下がっていたのだ、自分は。
首輪付きとなった時から、俺たち全員は気まぐれな飼い主に捨てられて、野に屍を晒す運命を歩んでいた。
そしてそれを選んだのは、そんな道を彼らに選ばせたのは、紛れも無く―――この、愚かな自分。
「あんたらに大勢打ち破られて……きっと腹の虫が収まらなかったんだ。
それで……一族郎党……皆殺しにするっ……て……」
これも、よくある話だ。
126
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:40:57 ID:QBm8LrjU0
後願の憂いを残さぬために、災いの種を摘み取る。
連中のような臆病者たちならば、当たり前のようにやっていることだと知っていた。
たった一人生き延びた赤子が、憎悪を糧に成長し、いつか殺しにくる日を恐れての事だ。
きっと、ランクリフはギレオルに命ぜられるまま、この地に居る部下たちの妻や子供を殺すだろう。
傭兵時代からの奴らは幸いか―――ほとんどが身寄りもなく、女や子供がいる奴はよそへと置いてきた。
このまま屋敷へと踏み込んでランクリフを殺したところで、それは止められないだろうが。
(メ´・_ゝ・`;)「は……はは、は」
もっとも、そうしようという考えもすぐに霧消しては、気の触れたように、デミタスはただ笑う。
いまさら飼い主を殺した所で、もはや自分には何も残されてはいないのだから。
仮にそうしてみたところで、何が、どう変わるというのか。
また傭兵として生きて、一つ一つ積み重ね、やり直せというのか。
栄光を誓ったあの日々全てを、なかったことのように忘れて生きろというのか。
それならば、いっそここで彼らに殺されてみるのもいい。
127
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:42:22 ID:QBm8LrjU0
「おい! こいつを殺さないと―――」
一人がそう言って、剣を手に少しずつ間合いを詰める。
だがまだ幼さの残る顔立ちをした使用人の一人は、気色ばむ他の連中を手で制す。
その瞳にありありと浮かぶのは憐憫、哀れな捨て犬へと向けられるその眼差しだ。
「……見なかったことに。
俺たちは、ここで誰とも会っていない」
少年のような男は、そう言った。
心底、哀れな男だと感じられたのだろう、ふとそう思った。
隣の男の言葉に慌てふためいているのは、昨晩自分のもとに書簡を届けに来た従者。
「それじゃ俺達がッ……お、おい待て!」
128
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:43:28 ID:QBm8LrjU0
ランクリフの耳にそんな事が入れば、彼らも部下たちと同じ目に遭うのだろうとは分かっていた。
だが、憐れみをかけられるぐらいならば、自ら死を選ぶ。
そう思って背を向け歩き出したデミタスだったが、それに迫ってくる気配は、いつまで経っても感じられなかった。
(メ´-_ゝ-`;)「……」
足は自然と、丘の方へと引き返していた。
・
・
・
129
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:44:51 ID:QBm8LrjU0
―― 夜分【慰霊の丘】――
不思議と、もう疲れも何も感じない身体だった。
いつの間にか死んでしまったのだろうかと思うほど、限界を超えたはずの身は、自由に動く。
無数の碑が立つ丘の上に辿り着いて、周囲全てを見渡してみる。
装備を剥ぎ取られて裸にさせられていたり、あちこちに多方向から剣傷を受けた部下たちの姿があった。
流された多くの血は、もうずいぶんと雨が降っているというのに、濃い赤色がまだ洗い落とされていない。
自分のために踏みとどまって戦ってくれた二人がいた場所には、折り重なるほどの死体。
仲間の死体は連れ帰らぬくせに、敵全員の首から上を、ギレオルの兵たちは持ち去ったようだ。
部下たちの頭部を眺めるのか、はたしてそれを甚振るのか。
狂信者ならば、それくらいしてもおかしくはないだろう。
130
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:46:23 ID:QBm8LrjU0
(メ´・_ゝ・`;)「……聞いていたか? お前たち……」
聞こえていなかったのならば幸いだが、きっとあの世では、それを知る事も出来るのだろう。
自分たちの命は、保身の為に使い捨てられたこと。
交渉の道具として、いつの間にやら戦っているはずの相手に譲渡されていたこと。
知ればきっと、あいつらは罵詈雑言の限りを吐き捨てるだろう―――だが、そうされるべきは自分か。
ざく。
(メ´・_ゝ・`;)「……馬鹿だったな。
きっと、甘い餌に浮ついて……変化を求めていたのは……」
ざく。
(メ´・_ゝ・`;)「……一番に、俺自身なんだろう……」
そこらにある剣を拾っては、仲間たちの亡骸の近くに突き刺していく。
131
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:47:43 ID:QBm8LrjU0
闇に雨降る慰霊の丘に、デミタスは一本一本、新たな碑を加えていった。
黙々と、一心不乱に、まるで取り憑かれたかのように。
やがて、36本の剣をそこに新たな碑として加えた。
この場所で犬死にさせてしまった仲間の分と、あとの一本は、自分のものだ。
輝かしい日々を誓った栄光の丘は、今では思い出の残骸だけが眠る場所。
自分の最期にも、やはりここが相応しい。
許してくれよ。
一度呟いて、デミタスは足元に落ちていた短剣を拾った。
(メ´・_ゝ・`;)「……待ってろ」
ぎゅう。
132
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:48:51 ID:QBm8LrjU0
握りしめた短剣の刃先を、腹部の鎧の隙間へと差し入れた。
ぷつ、と肌が破れると、筋を切り裂きながら、ずぶずぶと刃が押し入る。
自らの血の生ぬるさが、今では手の甲を覆っている。
前かがみになりながらその場で両膝を地べたに突くと、けだもののように、唸った。
「ぐっ……ううぅッ!!」
あと少し―――一気に両腕に力を込めれば、自分も死ねる。
あいつらの元に、逝く事ができる。
さぁ、あとちょっとだ。
(メ#´゚_ゝ゚`;)「ぐうッ、ぅ―――うおおおおぉォォォーーーッ!!」
・
・
・
133
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:50:40 ID:QBm8LrjU0
黒の僧衣をまとう男の視線は、自ら命を捨てようとするデミタスへと注がれていた。
「………」
雨の音に紛れ、彼はいつの間にかその場所に立っていたのだ。
デミタス自身はその男の存在に気づきながらも、どうでもよかった。
決死の形相で自分の腹を切り裂こうとするデミタスの表情。
僧衣の男の目には、彼が強い悔恨を抱いていると、所作からだけでもそう感じられた事だろう。
痛みによるものではない苦悶と、目から伝い落ちるのは大きな雨粒。
だが、そこで踏みとどまらせているものがあるのだなと、汲み取ったようだ。
134
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:52:37 ID:QBm8LrjU0
(メ´;_ゝ;`)「―――ぐっ、うぅッ……はァッ―――」
―――死ねなかった。
仲間の命に救われて、敵に情けをかけられて。
自ら果てようと刃を握っても、それでもこうして―――生きてしまっている。
これまで自分の元に集って、命を張ってくれた仲間たちの顔がよぎってしまった。
彼らの誇りを、矜持を、栄光を、希望を、命を、全てを失わせた。
その最も愚かな選択をさせてしまったというのが、自分なのに。
それでも死の間際になって、どうしても彼らの背中が浮かんでしまうのだ。
(メ´;_ゝ;`)「………」
デミタスの手から、短刀を握る力が失われた時、背に声がかけられた。
135
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:54:13 ID:QBm8LrjU0
「君も、被害者だ」
見たことの無い男―――僧服、こいつも、神とやらを有り難がる連中か。
元々の引き金こそ宗教観の軋轢が一因であるというのに、今は心底どうでもよく思えた。
(メ´;_ゝ;`)「失せろ」
枯れた喉奥から、辛うじて声を絞り出す。
それでも、男はこの場から立ち去ろうとする様子を見せなかった。
むしろ、何かを言い含むような表情で、ただ静かにデミタスを見下ろしている。
デミタスにとっては、それがどうしようもなく邪魔なだけだ。
死ぬことも出来ず、戦う力も失って、その理由さえもはや見いだせない。
ずっとこの場所で、鎮魂の雨に打たれながら、ひざまづいていたい気分だった。
「忌まわしき、かな」
136
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:55:35 ID:QBm8LrjU0
(メ´;_ゝ;`)「二度は……言わんぞ」
「……仲間を失った、部下を失った。
ほとんど、すべてのものが失われた」
その黒衣の男の言葉に、自分が馬鹿にされていると感じるよりも、
部下が辱められる事への屈辱を感じて、立ち上がったデミタスは向き直った。
僧衣の胸ぐらを掴んで引き寄せると、その男はまるで枯れ木のように軽く、
片腕でどこまでも投げ飛ばせそうなほどの小柄だった。
「多くの人が尊い、愛する人を、失った。
違わんだろう……?
それは一体―――誰のせいだと思うかね」
(メ#´ _ゝ `)「……貴様ッ!」
137
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:56:41 ID:QBm8LrjU0
このまま宙吊りに釣り上げて、この男を殴ってやろう。
そう思いつつも、腕からはすぐに力が抜けていってしまった。
無駄なことなのだ、どうしようと―――今となっては。
「君たちの命を差し出すよう持ちかけたのは、ランクリフ=アズクバル」
(メ´ _ゝ `)「………」
いまさら、それほど驚きはしない。
多分そうなのだろうと思う自分も、どこかにいたからだ。
だがそれを知っているこの男は、何を言いたいのか――。
「そんな彼が信じた聖ラウンジは、より多くの人に救済を―――だったか。
はてさて、信じるものは救われる……だったか?」
138
:
名も無きAAのようです
:2013/11/01(金) 23:58:19 ID:QBm8LrjU0
「神という偶像を崇拝し、祈りという行いを強いては、人の心を手繰り弄ぶ。
彼らこそが虚飾で満ちた存在であり……そしてそれが、強い力をもっているからこそ、たちが悪い」
そこだけ同意見だったが、決して口にはしなかった。
神などという不確かな存在のために頭がおかしくなり、無為に命を散らせるやつら。
そんな馬鹿どものために命を張って戦った挙句、仲間たちは死んでいった――――死なせてしまった。
「ランクリフの屋敷には今、私の同志たちが向かっている。
君たちという盾を失ったのだ―――半刻も持ちこたえられはしないだろう」
領主殺しは死に値する重罪だ。
畏れることなくやってのけることもそうだが、そんな戦力を持つこの男は、何者か。
考えるよりも早く、その情報を自分に打ち明けた事に対して、またも怒りを感じた。
139
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:01:05 ID:IlHjHw3s0
(メ´ _ゝ `)「何のつもりで……貴様も、俺に情けを……!」
「それは違う」
若いような、年老いたような、不思議な男だった。
だがその瞳に、強い力だけは宿っているようにも感じる。
無表情ながら、どこか不敵に微笑んでいるようにも。
身に纏う雰囲気は、およそ僧衣に似つかわしくない、胡散臭さを感じた。
「グラシークの北に、本当の神が眠っている。
エルシャダイ―――そこが、私達の聖地だ」
(メ´ _ゝ `)「貴様の妄言に付き合うつもりなど、ない」
140
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:02:33 ID:IlHjHw3s0
「いいや、妄言などではないよ。
実存する神だ……聖ラウンジのように、人々の偽りが創り上げたものではない。
いたずらに人を惑わせる禍々しき教典を広めた聖ラウンジも、彼らが各地に巻いた闘争の種火も。
何もかもが―――それによって終わるのだ」
妄言ではないのならば、本気で言っているということか。
思わず釣り上がった口元を見て、黒衣の男もそう言いたげな様子に気付いたろう。
こいつもまた、狂っていやがる。
しかし、でまかせばかりを並べ立てているようにも見えない。
まるで事実として見てきたかのように、言い知れない強さが語調には篭められていた。
「もうじき、君の仲間たちを亡き者とした神を笠に着た争いも、永劫に消え去る」
(メ´ _ゝ `)「………」
141
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:03:54 ID:IlHjHw3s0
この男の話している言葉の意味を理解しようという気持ちなど、さらさらなかった。
だがなんとなく、話の流れから自分にかけようとしている言葉は、ある程度予期できた。
煽っているのだ、自分を。
「私と共に、来る気はないかね」
( ´∀`)
一瞬、雨空を駆けた稲光の下に照らされるこの男の表情が、どうしようもなく醜悪なものに見えた。
きっとそれは気のせいではないだろう、だがそいつが、この自分に向かって手を差し伸べている。
お前に戦う意味を与えてやる、そうとでも言いたげに。
142
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:05:33 ID:IlHjHw3s0
( ´∀`)「虚飾の神を祀り、力や富を貪っては……争いの火種を生み出す。
かような汚らわしきあの黒の羊どもを、私たちが焼き払う。
その盾として、矛として、今一度剣を取ってほしい」
再び剣を振るう為の力を。
戦う為の舞台を、整えてくれるというなら。
輝かしく、今では思い出と残るだけの日々。
取り戻すことは出来ないと知りながら――――だからこそ戦おうと思った。
当たり散らすようにして、その狂者どもの戦列に加わる。
何を信じて、何を得るため、何をして生きていけばいいのか。
それすらをも見失った自分には、力を与えてくれる狂人の元で、混沌の渦に身を堕とすのも一興に思えたからだ。
143
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:07:04 ID:IlHjHw3s0
復讐の、再起。
そんな上品な理想は持たない、なぜなら空っぽの抜け殻なのだ。
戦うことに、理由を求めていたのだろう。
胸に開けられた巨大な風穴を塞ぐのではなく。
開いている事に気づかぬように、疎ましき己を忘れ去るためにと。
( ´∀`)「その志を、共にするならばこの手を取りなさい」
(メ´ _ゝ `)「………」
デミタスがその手を取ったのは、決して志からではなかった。
あるいは利用されるのを知りつつも、彼はそうするだろうと考えていたのかも知れない。
だがデミタスにとっては彼、旧ラウンジ聖教の主教、”モナー=アークテリクス”が、
これから何をしようとも、いかなる黒い思想を抱こうとも―――その時は、どうでも良かった。
( ´∀`)「そうか……我らが神の名を、君にも――――」
144
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:08:34 ID:IlHjHw3s0
*
その後、大陸北西部を治めるギレオル=クライセン。
そしてランクリフ=アズクバルの両名が、遺書を残して服毒自殺を図ったという。
御堂聖騎士団が結成されると、急速に軍備を拡大させていく旧ラウンジ聖教の勢いを危惧して、
時の聖ラウンジ司教アルト=デ=レインは、北西一帯に居を構えるモナー=アークテリクスの元に
双方の不可侵条約を提案する書面を送った事がある。
しかし結局は、締結の合致には至らなかったそうだ。
それからしばらくの後、義理の娘一人を残して、アルト司教は病に倒れた。
*
145
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:10:23 ID:IlHjHw3s0
― エルシャダイ 【本殿】―
巨大なカーテンの前に立ったその場所で、何気なしに言葉をかけた。
向こう側に眠っているのは、多くの者達が目覚めの刻を待ち望むもの。
確かに、この場所は神々しいようにも感じられた。
だが決して、”これ”が救いをもたらすような存在ではないとも、知っている。
お前なら、どう思う。
死に場所を探している訳でも、戦うことに理由を持つ訳でもない。
意味もなく、忘我して、ただ喪失感という隙間を片時埋めたいがために。
信頼してくれる部下たちに接する時にも、へどが吐きそうな任務の時にも。
冷えきった自分の心だけが、勝手に否定してくれた。
あの時と今のお前は違うのだと、陰惨な仕事に手を染める自分に、仮面を被せてくれる。
どこかで俺を見ている奴らに対して、顔向けも出来ないこちらとしては大助かりだ。
(´・_ゝ・`)「どうしようもなく、下らない」
146
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:11:02 ID:mXehpqso0
支援
147
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:11:39 ID:IlHjHw3s0
周囲に立ち込める空気が膨らんでは、まるで押しつぶされるような。
異形の強圧、その威圧感に飲み込まれる事なく、心の中で投げかけた。
お前は、何の為に生きる。
きっと俺たち人間のように、全てにおいて理由など求めることはないのだろう。
瑣末な事でくよくよと頭を悩ませる、ちっぽけな生き物だとせせら笑うのだろう。
(´・_ゝ・`)「ファフニール。
お前なら、きっとそう言うんだろうな」
出来る事なら、一度会話を交わしてみたいものだと思った。
148
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:12:29 ID:IlHjHw3s0
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「栄光の丘」
-了-
.
149
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:26:09 ID:pC6LCt2.0
乙
150
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:29:45 ID:4N7J/rLk0
乙乙
151
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 00:56:22 ID:M4SWQjs6O
ω;`)デミタス…
152
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 01:08:52 ID:IlHjHw3s0
_ゝ;`)うっ
153
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 03:47:30 ID:zossKlsA0
・゚・(つД`)・゚・
154
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 13:22:12 ID:IlHjHw3s0
酒を飲みながら無職を謳歌するのが忙しく、そういう実生活の都合で
次回の投下は年内投下は危ういかも知れないです……
書きながらなぜか俺が嗚咽した総合短編のすあまも見てやってねw
155
:
名も無きAAのようです
:2013/11/02(土) 14:56:50 ID:M4SWQjs6O
作者どんどんうまくなっていっとるww
156
:
名も無きAAのようです
:2013/11/03(日) 02:16:29 ID:5nAz8BwA0
おつ
色んな人の人生が重いな
157
:
名も無きAAのようです
:2013/11/03(日) 08:25:48 ID:hGnYcb6g0
すあま良かった。
淡々と話が進むけど、ちゃんと脳内に情景も浮かぶ。
君の文体凄く好き。
こっちも好きだけど、ビップワースが完結したら、すあまみたいなのも書いて欲しい。是非読みたい。
158
:
名も無きAAのようです
:2013/11/03(日) 14:21:46 ID:Xppk02nM0
多謝……多謝……
朋友……朋友……!
まずは終わらせられるように頑張りたいと思います
そして群像劇ものは次は絶対かかないぞ
159
:
名も無きAAのようです
:2013/11/03(日) 17:37:22 ID:bCr1w4RcC
('A`)と川 ゚ -゚)のやつも忘れないでね
160
:
名も無きAAのようです
:2013/11/03(日) 23:58:09 ID:5u5hixAIO
ω・`)まだまだ描かれてないの多いね。
ω・)ヒロユキの真相・龍族の生態・ロマの消息・モララーの目的・聖ヤルオ神の善悪・シオンの怨・エクスト絡み・アラマキの意向・別大陸・ショボンの家族…
161
:
名も無きAAのようです
:2013/11/04(月) 01:16:15 ID:lxjDAdms0
/)
///)
/,.=゙''"/
/ i f ,.r='"-‐'つ____ こまけぇこたぁいいんだよ!!
/ / _,.-‐'~/⌒ ⌒\
/ ,i ,二ニ⊃( ●). (●)\
/ ノ il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
,イ「ト、 ,!,!| |r┬-| |
/ iトヾヽ_/ィ"\ `ー'´ /
>>160
なんて言えません、停滞していてグサリとくるものがいくつか…
とりあえず致命的なミスを犯してなければ、今後繋がって、消化していけるかなと
ほぼ登場人物はできったので、ちゃんと動かしてやらないといけませんね
162
:
名も無きAAのようです
:2013/11/05(火) 18:43:27 ID:9RVRQTcgO
ω`)すみません、最初からのファンなもので…
163
:
名も無きAAのようです
:2013/11/05(火) 22:24:33 ID:C/E3khyQ0
>>162
ずーっと、壁から覗いてらっしゃいましたよねw
自分ではさほど気にしてなかった部分も、他の人から見たら違うんだなと
( ゚д゚ )ハッとさせられる思いですので、こういうご指摘非常にありがたいです!
次は間隔開くと思いますので、また忘れた頃に見てやって頂ければ・・・
164
:
名も無きAAのようです
:2013/11/10(日) 03:46:43 ID:LlwKK6iU0
時々別府の方も覗いてるんだぜ
がんばってくれよ
165
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 02:54:18 ID:On.hHc8M0
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「夜(1)」
.
166
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 02:57:04 ID:On.hHc8M0
自身でも気づかぬ内に、時折その場に足を止めては、考えに耽(ふけ)った。
こうして、昔のように思念に囚われる機会が増えたのはつい最近になってからの話だ。
今でも思い出す。
何を成すために生まれてきたのか。
そうやって、自らの存在意義に疑問を投げかけ続けていたあの頃を。
不死者は、夜を往く。
(きらびやかな街も……少し離れた場所では、こんなもんかねぇ)
視線を脇目に振ると、朽ちかけた亡骸が視界の端に引っかかった。
167
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 02:58:47 ID:On.hHc8M0
首を矢で射られた老馬の死骸に倒れこむ亡骸は、腹を貫かれて最期を迎えたようだ。
死が訪れる間際の恐怖か、あるいは痛みか。
眼は大きく開け広げられ、口元は苦悶に歪み固められていた。
だが、気に留めることはなく、歩みを止めることもない。
捕食者にとっては、人間の命への価値観などその程度。
路傍の石ころも同じ光景だ。
多くの眷属たちによる祝福の中で、夜の闇に生まれ落ちた。
その瞬間からすでに超越者としての定めにあった、この自分にとっては。
人間など及ぶべくもない、それほどに、個として圧倒的過ぎた。
168
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:00:05 ID:On.hHc8M0
だからこそ、かつての自分は嘆いたのだろう。
自身を脅かすものなど無く、まして、力を育む必要すらない。
玉座にありつづけるだけの怠惰な日々の、なんと退屈なことか、と。
その時から、無味乾燥した日常を離れる決意は膨れ上がった。
すぐに行動へ移すと、気まぐれに人の世へと紛れて、身を隠した。
そこには―――発見があった。
自らが飽き果てるほども食らってきた、人間という生き物。
下等な存在と見下し続けてきたはずのそいつらが、実に面白い種であるということを。
(ホントに弱い……弱い、生き物)
通り過ぎる間際で、路傍の石に一瞥した。
169
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:01:30 ID:On.hHc8M0
くだらない。
虫や、鳥獣などと変わりない。
並以上の力を持った妖魔であれば、人間に対してはおしなべてその程度の認識か。
ならば自分はかつて、尚更のことそう思っていたのだろう。
(……だが)
そんな認識も、今や捨て去らねばならない過去のものだった。
か弱い分際にありながら、時として、人とは種の限界をも越えた力を揮(ふる)う。
170
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:03:09 ID:On.hHc8M0
未知なる力を、人は秘めている。
その扉から、連中の力を引き出す鍵。
形状はどのようなものであり、どこにあるのか。
多くの期待をはらんだ疑問は、尽きることがない。
そう、あの男との戦いを経てから、人間にはますます興味が湧いていた。
容易く吹き消える命であるからこそ、人は、人ならではの強さを持っているのではないか。
侮りがたく、ともすれば好敵手にも相応しい存在ではないのか―――と。
そうと気づいてからは、いつしか、浮かぶ疑問はすり替わっていた。
自分が生きている事への意味から、人間たちが持つ強さの理由のほうに。
なぜだか、長年のもやもやの答えも、そこから生まれそうな気がした。
171
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:07:22 ID:On.hHc8M0
人の世に、仇なし続けること。
(それが……いいんじゃねぇか―――)
人を食い散らかすばかりが、自らが在るべき理由ではないはずだ。
そこで、彼らと戦い続けることではないのか。
それにこそ、自分の求めてきた答えは埋もれているのかも知れない。
―――不意に、きぃきぃと蝙蝠たちの鳴き声が聞こえた。
それらは、一羽たりとて夜空に羽ばたいていく事はない。
枝にぶら下がる彼らが煌々とした瞳を向ける先には、王の姿があるからだ。
遍く夜の支配者に拝謁賜った彼らは、微動だにせずその闊歩を送り出してくれた。
从 ゚∀从「そう思うだろ、お前たちも」
172
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:09:12 ID:On.hHc8M0
ヴィップを発った後、気まぐれに訪れた農村をぶらりとうろついてみた。
何一つも刺激がなく、得るものもなかった事から、すぐに村は後にした。
そして今は、ひたすらに西を目指している。
気まぐれに当て所のない旅をする事は、これまでにもままあったことだ。
ただ今回は直感に身を任せて、それに従うようにして歩き続けた。
この先で何やらきな臭く面白い事が起こりそうだと、勘が囁いたからだ。
少しだけ、胸は期待に膨らんでいた。
あの男、あの連中のように、自分を楽しませてくれる人間が現れるのではないかと。
猛々しく名乗りを上げながら、最後にはたった一人、実力で自分を倒してのけた。
今にして思えば、かつて自分を破った男ほどには、練達した剣の使い手ではなかったはずだ。
それでも決着の直前、あの時にも似た興奮が確かに去来したのだ。
173
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:10:23 ID:On.hHc8M0
ある日の、どこかの戦場での出来事だったか。
幾多の人間を血で染め上げて、また自らも無数の剣に貫かれながら、感じていた。
胸の奥から突如噴き出した高揚が、朱と紅に染まる頬の上から、熱い風を撫で付ける感覚を。
死を覚悟して撃ちこんでくる者たちの戦列を打ち崩しながら、湧き上がったのは征服感。
目の前で幾つもの命を散らしながらも、だが同時に訪れたのは、知った事のない感情だった。
もしかすると、死ぬのではないか。
次の瞬間には、二度と目覚めが訪れることのない一撃が来るのではないか。
だが臆しているわけではなく―――むしろ、それに満たされていた。
さほど執着もなかったはずの生と死が入り乱れさなかでは、初めての恐怖と喜びとがせめぎ合って。
互いの全存在を賭けて戦う事への喜びに目覚めた時、確かに自分は吠えていた。
それこそ自身にとって、この世に生まれ落ちて二度目に上げた産声なのだ。
174
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:11:57 ID:On.hHc8M0
破滅する事への願望があるわけではない。
ただ、散りゆくその瞬間にこそ、命は一際の光彩を放つ。
その時人間は、自身の想像を遥かに凌駕した力を見せてくれる。
そんな戦いの中でこそ、自分は生きていると思える。
生と死の狭間で無為に永らえ続けるだけの命に、価値を見出す事が出来る。
人が死を免れようと抗うさまに、愉悦を感じているのだろうかと考えた事もあった。
だがあの連中との戦いを経て、やはりそうではないのだと結論付けることにした。
極限の緊張感の中、生涯最後となろう一撃を放つ瞬間、人は全てを賭けてくる。
そこから生を拾うため、どうでもいいほどに短い余生を繋ぎ止めるため。
もしかすると、もっと下らないもののためかも知れないが。
それらの強い命を吹き消す度に、充足を得る。
自分もまた、高みへと昇っていけるような気がした。
175
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:13:00 ID:On.hHc8M0
互いの生死を分かつ刹那を迎える瞬間。
その時の自分の表情には、きっと自然に笑みがこぼれているのだろう。
恐怖や、絶望。
あるいは―――死。
そんな、自分にはないものを与えてくれるのではないかと、期待を寄せてしまう。
从 ゚∀从(そういや……あいつは、まだ生きてやがんのかな)
初めて人間に倒された時は驚愕のあまり、ただ忘我したものだった。
176
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:14:04 ID:On.hHc8M0
衝動に駆られて夜道で襲った、たった一人の人間に返り討ちにあうなどと。
面と出くわした吸血鬼始祖を、仕事帰りついでで斬れるような男など、一体何人いることか。
だが二度目の敗北では、屈辱や、怒りなどといった感情をも超えていた。
人という種に、その戦いに、賛辞すら送りたいと。
何が、お前たちを強くさせるのか。
戦いのさなか、思惑の中ではとうにあの男は這いつくばっていたはずだ。
そうして、他の弱い人間同様に命乞いをするだろうとばかり思っていた。
だが、一度は死に瀕する程の痛みと恐怖を与えても、なお立ち向かってきた。
たじろぐこともなく、ひるむこともなく。
やはり、昏き生涯に唯一熱を与えてくれる存在。
だからこそ、その人間達を間近で観察する事が趣味となってしまったのか。
気づけば、頭上の月は満ちていた。
177
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:16:03 ID:On.hHc8M0
从 ゚∀从「仲間……ねぇ」
弱く、もろい肉体。
儚く、あっけない命。
それでも、自分と互角に渡り合えるものは、確かに居た。
その力の源流が、どこから湧き出ていたのか。
そしてそれは、あのブーンたちと同じものなのだろうか。
知るすべは、やはり自らを戦いに投じ続ける道しかないのだろう。
そうして、薄っすらと月明かりが差すあぜ道のでこぼこを、ゆっくりと踏みしめた。
ただ生き続けるだけの日々、安々と吹き消えはしない命としての軽さ。
そんな自分のような種に、生の実感を与えてくれる人間と、出会いに行くために。
彼らの曖昧な力は、自らを昂ぶらせて止まないのだ。
178
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:16:51 ID:On.hHc8M0
从 ゚∀从「………」
ふと、鋭敏な感覚が一人の男の気配を捉える。
双眸に宿す昏く沈んだ光が、まっすぐにその方向へと向けられた。
一人の男が、歩いてくるのが解った。
( )
不意に、欲求が湧き上がる。
定宿を持たない自分には、久方ぶりの旅はある種の開放感をもたらしめたようだった。
血への渇望だ。
179
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:19:13 ID:On.hHc8M0
从 ゚∀从(そういえば……マドマギアじゃあ人間の食い物を口にしてばかりだったっけな)
人の社会に溶け込む術は身につけている。
空腹感を満たすのには、彼らの食事でもって補うこともできた。
だがそれだけでは、渇く。
疼きを止めるには、至らないのだ。
ざっ、と一歩を踏み出すと、視線の先に立つ男を正面から睨めつける。
( )(………)
180
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:20:32 ID:On.hHc8M0
男の姿は、半分だけ月明かりに照らされている。
遠目からでは目を凝らしても、その表情までは浮かび上がらなかった。
从 ゚∀从(どれ……久しぶりに)
”食事”を思い立った自分がその場で足を止めたのを、向こうから来る男も気付いたようだった。
咄嗟に、良からぬ気配だと感じ取れたか。
そして、その勘は正しい。
数ある人にとっての天敵の中で、最も悪い部類に属するものと鉢合わせたのだ。
それこそが、男の不運。
181
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:21:38 ID:On.hHc8M0
踵を返して逃げようとも、あるいは素知らぬ振りをして通りすぎようとも。
瞳に真紅を宿したヴァンパイア・ロードからは、死を免れる術などない。
从 ゚∀从「………?」
だが、様子がおかしい。
( )
男の元へと押し寄せる、殺気の奔流。
たとえ種は違えど、それに気づかぬはずはない。
182
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:22:20 ID:On.hHc8M0
今も、男はその場に立ち尽くしていた。
こちらの様子を伺うかのように、動きを見せる気配もなく。
あるいは呆れるほどに感覚の鈍い男か。
だが、そうでないとしたらどうだ。
閃きにも似た考えが浮かんだ時、男はそっと歩み出る。
やがて月明かりのもとで、その疵面が露わになった。
( ゚д メ )
183
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:23:48 ID:On.hHc8M0
黒ずんだ麻袋を背負い、袖の破れた武道着に身を包むのは、傷が片目を覆う男。
一目に頑強そうなその男は、恐らく剛胆であり、限りなく自信に満ちあふれていた。
夜に閉ざされた街道を一人歩く黒衣の女の姿を、訝しむでもなく。
自然体と言ってもいいだろう。
表情が強張るでもなく、警戒に身構えるでもなく。
ましてや心にさざ波一つ立てるでもなく、ただこちらを見下ろしていた。
落ち着き払った立ち居振る舞い。
まるで、うつろう大気のようにも空虚な男だ。
だが瞳の光には、猛禽以上の鋭さを宿している。
敗北の代償に、己の命を差し出すような鉄火場にも慣れている男だと解った。
184
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:25:26 ID:On.hHc8M0
この疼きが、物語る。
目の前の男の強さは、きっとこの200年を見渡しても存在しなかったと。
人の身でありながら―――人ならざる力を感じるほどにも。
その面構えをしっかりと確認すると、顎を引きながら口元に笑みを浮かばせた。
从 ゚∀从「………よう!」
鋼のような密度に固められた、上腕。
野生動物のそれに劣らぬであろう、健脚。
生命力と強さに満ち溢れたその男の肉体を目の当たりにした時、溢れだした。
吸血鬼の本能を抑えつけるほどの、際限なき闘争への欲求が。
もはやそれを留める事は出来そうにない。
185
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:27:16 ID:On.hHc8M0
( ゚дメ )「……人、ではないな」
从 ゚∀从「あ・た・り♪」
( ゚дメ )「道を譲るつもりもないんだろう?」
从 ゚∀从「それも当たりさぁ。
あっ、そうそう、俺はハインリッヒってんだ」
( -дメ )「知らん名だな」
その場にどさりと麻袋を放り捨て、男は深くに腰を落とした。
こちらの殺気を掻き消すほどの闘気が途端に流れ込むと、蝙蝠たちはざわめき始める。
186
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:28:21 ID:On.hHc8M0
男の手の中には武器などなかった。
ただ空を手に、徒手で吸血鬼始祖と渡りあうつもりなのだ。
だが、それがいい。
それでもきっと、渡り合うだろうと思えた。
从 ゚∀从「かっかっか。
さて―――」
片足を踏み込むと、10歩の距離を一度に詰めるほどの勢いで飛び出す。
背を包む外套の端が、瞬時に急激な風を受けてはためく。
何一つ脇目をふる事なく、地に沿うようにただその男の元へと疾駆した。
187
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:30:32 ID:On.hHc8M0
( ゚дメ )「ミルナだ。
――――来い」
出会いは、いつも唐突に訪れる。
今日という日は、きっと最高のものになりそうだ。
さぁ、お前の戦いを見せてくれ。
从*゚∀从「ちょっぴり……味見させてもらおっかなぁぁぁッ!!」
夜空に舞い踊る黒い翼は、自身の歓喜で翻っていた。
188
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:31:56 ID:On.hHc8M0
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「夜(1)」
-続-
.
189
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:35:01 ID:On.hHc8M0
本編から逃れてちびちび書いてたら形になってしまったので、年内最後の投下でした。
Nexus7を購入予定なので、しばらくは読者として快適なブーン系ライフを送れそうです。
よいお年を!
190
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 03:36:25 ID:a412PFGs0
相変わらず夜中に
この二人の対戦はヤバすぎるな
おつ! よいお年をー
191
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 08:58:17 ID:HrAoYGJM0
乙
192
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 13:29:38 ID:nzlpC4B.O
乙!
193
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 17:16:03 ID:YoRuDodsO
ω・;)乙。どっちが強いのだろうとは思っていたが…。ハインガンバレ。
194
:
名も無きAAのようです
:2013/12/29(日) 21:57:59 ID:G21/Ij6w0
夢の対決だ
195
:
名も無きAAのようです
:2013/12/30(月) 14:27:47 ID:RkBLmpQw0
おつ
196
:
名も無きAAのようです
:2014/01/08(水) 19:57:58 ID:npfp8pSY0
ふとした閃きでようやく完結までの納得いく構想が湧いたったw
本当は20話記念で投下した回以降の話が核になるかと
色々話を繋げなきゃないんだけど、長編書く時間が取れないので2024年度中には……
197
:
名も無きAAのようです
:2014/01/08(水) 20:26:07 ID:RosdeIGMC
あと10年もかかるのかよ、間違いなく最長連載記録になるな
198
:
名も無きAAのようです
:2014/01/08(水) 20:44:54 ID:L3TbxrVc0
10年くらい短いもんよ
199
:
名も無きAAのようです
:2014/01/09(木) 01:19:18 ID:Jgwi3bJ.O
ω・)てか構想できてなかったのかwww
200
:
名も無きAAのようです
:2014/01/18(土) 21:48:59 ID:Jtx7saTgC
55%分なら今日、明日にでも投下可能ときいて
投下前の支援
201
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 01:01:15 ID:DpHggIRM0
あと25%っすわぁ
コーヒー買ってくる
202
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:17:59 ID:DpHggIRM0
比類なき速度。
筋肉、目線の動きに注視する。
――見てからでは、間に合わないと悟った。
从*゚∀从「ひゃあぁぁッ!!」
ひん、と耳元を風が抜けていく。
頬の肉すらこそぎ落とされるような錯覚に、事実、それだけの威力を持つと確信した。
刃と違わぬ威力を、この細身から容易く生み出しているのだ。
力を組み上げる動力が、そしてその容量自体が、人のそれとは比較にならない。
瞬時に必殺の一撃を繰り出せるだけの肉体の芯の強さだけではない。
的確に急所を捉える目の良さも、動物並の反射神経も、身体の柔軟性も常軌を逸している。
203
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:22:57 ID:DpHggIRM0
もしも人が人としてここまでの高みに立てるのならば、男闘虎塾など、とうに看板を降ろさなねばならないところだ。
だがこいつはただの化物。
常識など通用しない、人という枠組みの埒外に存在している。
かような女の見た目に惑わされるようなことなど、決してあってはならない相手だった。
拳、手刀、肘鉄。
叩き落とし、払いのけ、身をかわした。
( ゚д メ )「……ッ!」
204
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:24:38 ID:DpHggIRM0
そこでだらりと両腕を下げた化物が、下から舐めるように顔を覗きこんでいた。
一息に三発の致命打を繰り出した今のですら、ほんの小手調べといったところか。
そして、どうやら俺は奴のお眼鏡にかなったとみえる。
从* ゚∀从「へぇッ?」
だが、連撃はまだ終わっていない。
油断を誘って貫手が眼窩を狙いすましてきた一瞬、身を捻りながら拳を合わせる。
頭蓋の一部を破砕した感触。
それはひどく鈍い、不気味な音。
一切の加減を省いた”鉄撃”は、相手が人であるならば命にまで届く。
そんな会心の一打に手応えを得ながらも、微塵も気は抜けなかった。
从 ∀从「――かっ、かかっ」
205
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:26:45 ID:DpHggIRM0
頭蓋を砕く音を鳴り響かせてさえ、この化物は平然としていた。
衝撃に一度顔を背けた後に向き直り、それでも、笑みを浮かべて。
この不死身は――――厄介だった。
从 -∀从「んっ……いやぁ、スゲェ偶然なんだけどな」
从 ゚∀从「お前みたいな奴とヤリあってみてさぁ。
俺の意外な弱点が判明しちまった事に、今は驚いてる」
( ゚д メ )「………」
首を鳴らしておどけるような仕草を見せながら、今も纏う、つかみ所のない殺気。
206
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:28:07 ID:DpHggIRM0
中身は化物であるというのに、一見すれば外っつらは人間臭い。
それが人間の言葉を理解しているのだから、面倒な奴だった。
いつか、座学の師に聞いた事がある。
知能の高い化物は巧みに人を欺き、自らを擬態させるための皮を被る。
そこから、移ろいやすく崩れやすい人の心をも壊しにくるのだと。
恐らくこの見た目にほだされ、油断して殺された人間は数え切れないほどに登るのだろう。
ためらう感情も持たず、残虐に、それを嗤いながら実行できる相手だと思えた。
从 -∀从「斬られりゃすぐくっつくけどよぉ、殴られんのって……案外痛ぇのな」
207
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:29:23 ID:DpHggIRM0
痛みや怒りに任せて攻撃を仕掛けてくれればまだ楽なほうだ。
だが、全てはこいつ自身の単なる気まぐれなのだろう。
言動と行動の不一致、それこそが恐ろしい。
化物なりの感情というものを、人が想い描くものに当てはめてはならないのだ。
それを覗きこんでいる時、きっと向こうからもこちらを伺っている。
从 ゚∀从「ったく……治りも遅ぇし、こりゃあちっとばかし相性悪ぃや」
( ゚дメ )「ほぉ」
だからこそ、耳を貸すつもりは毛頭ない。
間合いなど関係なく、どこからでも死に至る打撃を仕掛けてくるのだろう、今にも。
つぶさに動きを観察しては、その瞬間を待ち伏せる。
208
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:30:40 ID:DpHggIRM0
手元に引き寄せられて掴まれれば、そこで勝負は終わる。
難なく首をへし折られて、俺は死ぬだろう。
全面に出て肉弾戦に応じる風を装いながら、その実、奴の攻撃を誘って迎え撃ち続けるしかない。
从 ゚∀从「けどよぉ――もっとだ。
もっと、見せろよ」
身体能力においては、この自分をして互角といえるかどうかも疑わしいが。
それでも、血反吐を吐きながら叩き上げ、精神をすり減らすと共に磨きぬいてきたこの肉体。
その場所に宿る武だけは、決して裏切らない。
从 *゚∀从「お前も結構――イイ線いってッからよぉッ!」
209
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:31:46 ID:DpHggIRM0
( ゚дメ )(そら来た)
切れ味は刀、重さは鉄槌。
飛び上がると同時、そんな右の足刀が空を切り裂く。
微かでも初動を見切るのが遅れていれば、首から上はそこらの茂みへと転がされていただろう。
それを下がるのではなく、逆に高めから放たれた軌道を読み切っては、潜り抜けた。
すかさずに地を踏みしめ叩き込んだ”裡門(りもん)”は、奴の痩身を吹き飛ばすのに余りある威力だったようだ。
从 * ∀从「ごッ―――オボォッ!!」
転がりながら吹き飛んでいく奴の表情には、未だ貼り付いた笑みが離れない。
それはきっと、余裕とは違う。
むしろ自分自身が痛めつけられる、その過程すらをも楽しんでいるのだ。
210
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:33:00 ID:DpHggIRM0
( ゚дメ )(戦闘、狂か)
自分の口からそれが出そうになって、思わず舌打ちした。
同族嫌悪というやつか。
俺もまた、拳を交える事を楽しんでいたような男だった。
今でこそ、遠い昔のことのように思えるものの。
だがそんな日々を過ごす内、武はこの身に宿っていった。
いつしか、日常生活の何気ない仕草よりも馴染んでしまっていた。
そしてそれが今、奴によって放たれる致命打の数々を確実に打開してくれている。
この瞬間を生き続けるための術を、呼吸を、間合いの取り方を。
死なないための戦い――細胞の一つ一つが、俺にそれを教えてくれている。
211
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:36:45 ID:DpHggIRM0
( ゚дメ )「同撃で叩きこんだはずだがな。
俺の裡門をして、数秒とは恐れ入る」
从 * ∀从「……くく。
あ、あはっ」
力、速度こそ冷や汗ものだが、女の化物はまるで素人同然の動きだった。
裏を返せば、つけ込むべき隙はそこにしかないという事だ。
打撃だけでは討ち果たせない、この不死身の肉体。
命を持たぬ存在――不死の妖魔。
だからこそ、やりようはある。
”螺旋の力”が持つ強い生命力は、それに対して絶大な威力をもたらしめるからだ。
いやいやに座学で学んできた知識が、ここに来て役立ってくれた。
そんなものは必要ないと喚き散らしていたあの頃の自分を恥じては、拳をより固く結んだ。
212
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:38:59 ID:DpHggIRM0
( -дメ )「大した化物だ」
(−――それでも、俺以上と言えるのかな―――)
浮かんだ雑念を構えと共に振り払って、上体を深くへと落とす。
偉大な師や、共に励まし合い支えあった門弟たち。
極限を追い求めて苛め抜き、それに応えてくれた自らの肉体に、今は感謝だけを贈ろう。
ひとたび外してしまえば以降は警戒される。
ゆえに、一撃必殺をもってこいつを葬る以外にない。
言うは容易い。
行うは、獣道。
213
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:40:11 ID:DpHggIRM0
从 *゚∀从「あはは、クソがッ……これ、いってぇなァッ!」
( ゚дメ )(通ずる……か?)
数刻は意識が混濁するような一撃をものともせず、翼のような外套をはためかせ、再び襲い来る。
見れば、先ほど砕いたはずの頭蓋も元通りの形を保っていた。
今この時すら、身に受けた傷を修復させているというのか。
( ゚дメ )(……いいや、押し通す)
化物との立ち会いは、この夜が初めてではない。
今ほどに危うい状況をも、生き抜いてきたと自負があった。
忌々しくも、感慨深いあの夜がよぎる。
214
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:42:17 ID:DpHggIRM0
自らの命を省みぬ明日なき戦いの末に、俺を呪って死んでいった。
傲然と月に吠える奴の姿は気高さを伴って――未だ、俺の脳裏を過ぎて離れない。
奴は不死身ではなかったが、その牙も爪も、ひたすらに恐ろしかった。
だがあの時も、今も。
俺に言わせれば、どれも同じ夜。
从 *゚∀从「そろそろ俺にも殴らせろよ」
215
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:43:58 ID:DpHggIRM0
月の見える夜は、何故だかあいつの事ばかりを思い浮かべる。
あいつはずるく、臆病で、今の俺のように狡猾な戦い方を嫌っていたのではないか。
あの魔狼ならば、俺のようにちまちまと死なないような戦いをするのではなく、
きっと胴体を刺し貫かれてでも、奴の首元をごっそりと噛み千切っていただろう。
奴には、守るべきものがあったのだろうか。
なかったからこそ、俺のような人間に討ち取られたのかも知れない。
あるいは、俺はあいつに―――
216
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:45:37 ID:DpHggIRM0
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「夜(2)」
.
217
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:46:39 ID:DpHggIRM0
从*゚∀从「よけんなよ?」
再度、雑念を遮断する。
右の瞳から伝達された情報が直接体に叩きこまれると、奴の拳を自然にいなしていた。
( ゚дメ )「その馬鹿力じゃあ、お断りだな」
幾万もの反復の末に染み付いた動作が、身体を支配する。
その場で打ち下ろした両足が、地を沈み込ませる。
凶悪なまでの破壊力を持つ力場を生み出すと、組み上げた力を、あとはそのままぶつけてやるだけだ。
体を開いてその先に伸ばした右腕の指先から、そっと押し出した。
218
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:47:49 ID:DpHggIRM0
从 ゚∀从「……あン?」
ぴとり、身に寄せられた掌。
それが何の苦痛ももたらさない事に、化物は一寸顔をしかめた。
だが、すぐに理解る。
これはほんの僅かな初動に過ぎないという事を。
( -дメ )(――――”崩撃”)
どんっ。
从)))゚゚∀゚゚)))从「カ―――」
219
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:48:56 ID:DpHggIRM0
腹部に撃ち込まれた勁は、すぐに全身にまで衝撃を伝播させ、浸透させていく。
岩間から染み出す清水のようなちっぽけな力の流れは、やがて堰を切った濁流へと姿を変えゆく。
一拍の間を置いて、爆発的な力の流れに抗えぬまま、化物の身は弾き出された。
普通ならばこの時点で吐瀉物をまき散らしてぶっ倒れているはずだけに、やはりあらゆる攻撃が効果薄か。
夜天に吸い込まれていく化物の顔は、まだ嗤っていた。
从; ∀从「―――ァッ……ハッ!」
だが、こいつにとっての苦痛は更に続くのだ。
途切れさせる事無く、力の流れを繋ぎ止める。
220
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:49:57 ID:DpHggIRM0
流るる水のような一連の動作。
その全ては、一つの技を作り上げるためにのみ集約されている。
次いで、浮雲の如く―――。
( ゚дメ )「……ふッ!」
広く、深く踏み出した一歩。
化物が吹き飛んでいく勢いよりも疾く、その脇を抜けた。
地面に倒れこむ事などさせはしない。
从; ∀从「な、ん……ッ!」
221
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:50:58 ID:DpHggIRM0
(#゚дメ )(――――”雲身”)
すでに必殺の下準備は終えられた。
不動たる山々。
その頂きに架かる浮雲を掴んで集めるほどにも困難であったこの技―――
今では、こんな化物相手にも通用するレベルにまで練り上げるに至った。
それを考えると、鍛錬に打ち込む日々の中で身体に刻んだ、古傷の一つでさえも愛おしい。
大地に根付いた下半身。
突き出した俺の肩と背には、骨の軋むほどの衝撃が重くのしかかる。
そこへ、奴の背骨がめきめきとへし折れる音が、感触と共に伝わった。
222
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:51:55 ID:DpHggIRM0
从; ∀从「―――――ッ!?」
(# ゚дメ )(技なき力は無力なり)
絶息して詰まらせた声なきうめきが耳元に響く。
行き着く先を見失った力の流れは、今、奴の体内でうねりを作り出していた。
終着点は、外だ。
荒れ狂う力の全てを、体外へと押し出してやる。
(#゚дメ )(力なき技も、また無力)
背骨を反り返らせる奴の全身を、土をえぐりながら、まだ中空へと押し留める。
223
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:53:24 ID:DpHggIRM0
己の肉体に言い聞かせた。
今の自分は、天体儀のようにまるい、まるい球であるのだと。
淀みなく、滑らかな円の動きを、頭の中で掴みとる。
力強く、揺るぎない真円を肉体で描いた先、奴と再び目が合った。
驚くべき耐久力。
そして、この状況からでも反撃を仕掛けてこようとする精神性。
こいつの異常なまでの闘争への意欲は――化物にしておくのは惜しい。
しかしこちらは既に、最速に届いた。
从#゚∀从「―――のッ……やッ……!」
224
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:55:37 ID:DpHggIRM0
夜天に溶け込む奴の黒い外套が、翼を広げた生き物のように視界を覆い尽くす。
背骨をへし折ったばかりだというのに、瞳を赤く輝かせながら、口元には変わらず笑みを零して。
それでも、円の動きで最速を掴んだ俺の動きに、奴の振りかぶった拳は追いつけない。
とんっ。
(#゚дメ )(即ち――――技は、力の中に在り)
真正面を捉えた。
土手っ腹にあてがわれたこの両の掌には、猛(たけ)き虎。
―――否。
(#-дメ )「”白虎”」
225
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:57:22 ID:DpHggIRM0
その毛並みが月にはよく映える、白き魔狼の牙が宿っている。
(#゚дメ )「”双掌”ッ!!」
从; ∀从「…………!?」
指先に模られた三角形。
足元から全身へと伝播する莫大な筋肉負荷を、弛緩させ、受け流した。
その全てを、再び体内へと打ち込む巨大な勁力へと換えて、解き放つ。
崩拳(ぽんけん)、穿林(せんりん)、白虎(びゃっこ)。
それら極限まで磨きぬいた三つの技からなる、肉体に致命的内傷を及ぼす技だ。
226
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 14:59:02 ID:DpHggIRM0
奴の体内に浸透している力のうねりは勁力に感応し、胸から背中にかけて指向性を持ち、抜けていく。
その入滅の余波が引き連れるものは、全身の血液が沸騰し、逆流し、肉体が四散するかのような感覚。
恐らくは、死ぬほうがマシだと思えるほどの痛み。
そしてあいにくと、こいつは死ねない身体なのだ。
从;゚∀从「………ッ」
ぱくぱくと、何事かを口にしようとしていた。
さしもの化物と言えど、呼吸のままならないほどの苦痛は初めての事か。
化物も息をするかどうかなど知りはしないが。
だがその瞳には、驚嘆の色がありありと浮かんで見えた。
227
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:00:22 ID:DpHggIRM0
直後、ひどく弾力のあるボールのように弾かれた奴の身を、すぐに目で追う。
地面で一度背中を打って跳ね返ると、放物線を描きながら再び宙空へと投げ出されていた。
(#゚дメ )(―――勝機ッ!)
渾身の連撃を命中させるのですら、綱渡りの賭けだった。
そうして手繰り寄せたこの一瞬に、全ての気を練り込む。
奥義を尽くさねば、恐らくは刈り取れない。
だからこそ孔術の師・メッシュによって学んだ技の全てを、叩き込んでやる。
体力、精神、気力の全てを使い尽くして、討ち果たす。
228
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:01:59 ID:DpHggIRM0
(# дメ )「……螺旋孔(らせんこう)……」
全身を流れる気脈。
その中には、人体の極限を超えた力を引き出す点が無数に存在する。
その一つ一つを開放してやる事で、人は種としての限界を超えた力を宿す。
無論、鍛えぬかれた肉体でなければ、その反動には耐えられまいが。
全盛期のメッシュ師範代は、その一から五までを開けたという。
そして、今の俺ならば――――それら七つの全てを開門できる。
瞬きするほどの一瞬の内に、自らで的確に点いた七つのツボ。
途端、この身から迸る生命力が、次第に目にも見える黄金の光として顕在する。
229
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:18:31 ID:DpHggIRM0
気配で、感じ取ることができた。
喚び起こされた力と共に現れたのは、俺の内に眠っていた螺旋の蛇。
そいつは今も、駈け出して行くこの背中を静かに見送っているだけだ。
挑み、挑まれた闘いの全て。
昔から今にかけてを、きっとお前は見届けてきたのだろう。
振り返る事はない。
人として生き、そして死んでいく。
隣の狼と共に、それを眺めていろ。
こんな俺だけは、何一つも変わらない。
(#゚дメ )「奥義ッ……螺光砲(らこうほう)!!」
生命力の塊を手元に束ね、踏み込むと共にそいつを突き出した。
230
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:22:48 ID:41MxuMZ.O
やっぱミルナ強いなー
231
:
名も無きAAのようです
:2014/01/19(日) 15:30:11 ID:DpHggIRM0
とりあえず中二バトルにしとくかということで
またぶった切ってしまいますが、ここで一旦中断で・・・
続き出来てから締めますね。出来るだけ早いうちにまた
232
:
名も無きAAのようです
:2014/01/20(月) 00:39:37 ID:NQsbAhjAC
ここまでで75%か、乙
233
:
名も無きAAのようです
:2014/01/20(月) 00:59:32 ID:Azd4ezYw0
乙
234
:
名も無きAAのようです
:2014/01/21(火) 20:07:15 ID:wD1k6qv2O
晶使いだったのかな支援
235
:
名も無きAAのようです
:2014/01/21(火) 23:58:31 ID:7fulnjncO
ω・)乙。ハインガンバレ!
236
:
名も無きAAのようです
:2014/01/22(水) 00:21:53 ID:LN1IjOUs0
>>234
VF2ではアキラ初段(笑)の腕前
お仕事中に車にはねられたダメージに加えて風邪による体調不良でして
今はいまいち気が乗らないのですが、上げて頂きましたし気乗りした時を見計らって一気に……
237
:
名も無きAAのようです
:2014/01/22(水) 02:03:44 ID:gNKQJWZU0
やっぱおもろいわ
続き待ってる
238
:
名も無きAAのようです
:2014/01/22(水) 14:37:33 ID:LzGQNC.gO
ω・;)車にはねられた?!
239
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 00:33:38 ID:4FCnu8As0
無事でいてくれて本当に良かった
体をいたわって続きはのんびり書いてください
240
:
>>239 ありがたまきん
:2014/01/23(木) 19:28:48 ID:vIC6Jd6E0
魔法。
この化物には、そのように見えたろう。
己の身を覆い尽くさんばかりの、金色の波動が。
駆け抜ける極大の閃光が、夜を眩く閉ざしていく。
宙に浮かされた状態では、ろくに回避動作もままならず――
元から死せる肉体にとって、この莫大な生命力は毒以外の何者でもない。
不死者を一撃の元に葬り去る、切り札だった。
(#゚дメ )(掻き消え、失せろ)
241
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:29:34 ID:vIC6Jd6E0
無手で渡り合ってきたはずの男が、突然に放った東洋の魔法。
これがどのような効果を及ぼすか、理解も出来ぬまま奴は死ぬ。
从 ゚∀从
目を丸くした女の化物の口元は、今度は嗤っていなかった。
・
・
・
242
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:30:52 ID:vIC6Jd6E0
後に残るものは、何もない。
砂塵を巻き込んで迸った、放たれた奥義の痕跡だけ。
半ば閉じた目で、一人虚空を見据えていた。
( -дメ )「……」
誇っても良い勝利の一つのはずだった。
それへの実感が薄いのは、手応えを感じていないからか。
自分の拳が、相手の命を絶ち切るという、その感触を。
元より、幽鬼の類は孔術を用いずして倒せる敵ではない。
243
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:31:48 ID:vIC6Jd6E0
柄にも無く堂々と名乗りを上げた、あの不死者。
手応えも何も無いが、死んだのだろう。
あれほど流暢に人の言葉を話す奴とは、初めてお目にかかったものだ。
さぞ、名のある化物だったのだろうな、と。
息を整えてから踵を返して、気付く。
気付くまでに、時間を要した。
薄氷が心臓に張り付いているかのような違和感。
びりびりと肌を突き通してくる感覚が、まだ消えていない。
それは、二つの奥義による反動で、大きく消耗していたせいか。
あるいは、己の技の威力を過信しすぎるあまり、瞳が曇っていたのか。
敵の力量を見誤る事こそ、命取りとなる要素の最たるものであるというのに。
――――まだ、決着していない。
244
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:32:46 ID:vIC6Jd6E0
( ゚дメ )「……ちぃッ!!」
ぬかったか。
姿は見えない。
だが、どす黒いような殺気は再び満たされていく。
刹那、弾かれたようにその場を飛び退いた。
降り注ぐ気配に夜の空を見上げると、逆さまにこちらを見ている、いくつかの瞳と目があった。
ざわつく蝙蝠たちの鳴き声が、響き渡る。
(……どこ行く……)
245
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:34:17 ID:vIC6Jd6E0
幻聴のような、夜風に入り交じった囁き。
耳に聞こえたものだとは思えないほど、それが頭の中で涼やかに響いた。
もちろん、聞き覚えのある化物の声だ。
( ゚дメ )(外した――いや……避けたというのか)
つぶさに周囲を警戒する。
姿を見せない声の主を捜しながら、気づいた事があった。
木々の枝に留まっていた蝙蝠たちの眼光が、いつしか一斉に、こちらを向いていた
(……そっちじゃないよ……)
246
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:35:46 ID:vIC6Jd6E0
人の目を欺き、他の生き物に姿を代えられる化物。
そんなことができるとすれば、それは、恐ろしく力ある化物だ。
拳に再び力を込める。
あとどのくらい、自分の身に力が残っているのか確かめてみた。
奥義の二つまでを使って、斃すことが出来なかった。
受けた傷を再生し続ける敵と戦う上で、その消耗は大きく響く。
やがて、飛び立った蝙蝠の群れの一つが、蚊柱のように寄り集まっていった。
声は、次第にはっきりとそこから聞こえるようだった。。
.从; 从:.,「……こっちだよ」
姿なき声が、次第に肉の身体を得ていく。
これより待ち受けるは、窮地。
その場所を死地とするかは、己のみぞ知るところだ。
247
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:38:21 ID:vIC6Jd6E0
まだあと一発だけ、奥義を放つだけの力が残されていると感じた。
それを外してしまえば、あとはただ殴りあうことしか出来ないだろう。
( ゚дメ )(それも、いいさ)
いつだってそうだった。
自分には、殴るだけしか能がない。
闘いの中で、倒し、時に倒されて。
振り返ってみれば、拳を交える中で得てきたものの方がずっと多いのだ。
奥義を尽くしてさえ倒す事が出来ないのなら、瑣末な技術はもはや必要ない。
拳に入れる力を強める。
ただレベルを上げて、物理で殴ればいいだけだ。
より一層の力を籠めて。
より一層の気合を乗せて。
248
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:39:16 ID:vIC6Jd6E0
,;从 ゚∀从「ばぁっ」
肩越しに見据える背で、蝙蝠たちの親玉は完全に元の姿を取り戻す。
ゆっくりと振り返った先、先ほどまでと変わらぬ笑みを浮かべて。
从 ゚∀从「……今の、魔法かぁ?
初めて見たぜ。
正直、食らったらヤバかったぜ」
( -д メ )「――そんなところだ。
あれから、よく逃げおおせたもんだな」
从 ゚∀从「いやいや、俺もさ、ちょ〜っぴりだけ焦ったんだぜ?
途中で、あ、これヤベェとか思って、ソッコーで蝙蝠分身の術でドロンよ。
はは、ビビったろ?」
249
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:44:37 ID:vIC6Jd6E0
( ゚дメ )「……」
从 -∀从「ハッ。武道家も魔法が使えるなんて初めて知ったぜ。
これだから、人間ってやつぁ……」
お喋りな蝙蝠の化物の姿は、隙だらけのようにも見える。
だが、会話に乗った振りをして虚を衝こうとも、通じないだろう。
どこまでも余裕に満ちていた。
自分が負ける事はないと、傲慢なまでに確信している。
並大抵ではひっくり返すことのできない、隔絶的な戦力差があるのだと。
揺るぎない強者としての佇まいが、そう告げていた。
从 ゚∀从「こいつぁ、ちょっとの味見ぐらいじゃあ済まないかもなぁ」
心の芯から冷え込ませるような、紅の眼光が鋭さを増す。
250
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:46:19 ID:vIC6Jd6E0
力を貯めるだけの時間が必要だった。
だが、隙を伺うまでもなく、奴はそれを阻止しようともしない。
この身に残された生命力の残滓が、拳に黄金の光彩を施していく。
その光景をただ、嗤いながら見つめながら。
( ゚д メ )「殺せるか、俺が」
从 -∀从「うーん……どうかねぇ。
てかお前さ、なんだかさっきから……」
いつ如何なる瞬間であろうとも、放つ一撃に、死をも厭わない。
あの狼ならば、一もニも無く、こんな状況へと応じていただろう。
251
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:48:41 ID:vIC6Jd6E0
理由ならば単純だ。
血肉を得るため、生き抜くため。
きっと明快な、ただそれだけ。
俺自身もまた、そう在りたいと思うのは――――
気高く、強く。
何者にも屈せず、囚われない。
軛を引き千切る、力を意味するものではない強さへの、憧れ。
自らが理想としたはずの姿を、やはり、あの狼に見ていたのか。
だとすれば。
252
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 19:50:24 ID:vIC6Jd6E0
从 ゚∀从「……”コッチ側”、って感じがするんだよなぁ」
だとすれば、大切だと思うものを守ることも、あるいは作ることさえ。
それができるようなゆとりなど、俺の心には入り込む隙間もない訳だ。
(#゚дメ )(”独歩”)
――――小首を傾げる化物の言葉に、俺は聞こえない振りをした。
天に風穴を穿たんばかりの力みで放った膝。
絡めとるかのような動きでしならせた身ごなしの前に、それは不発に終わる。
从 ゚∀从「……とぉっ!」
黒く塗られた手の爪の先が、鈍色(にびいろ)に輝いて、伸びた。
253
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 20:02:13 ID:vIC6Jd6E0
このくどくてうざったいミルナ視点がもうちょっとだけ続くんですが、
明日ナオンがエサもって来てくれるそうなので、また小出しですいません
事故の件ではご心配おかけしまして
でもフロントは頭で叩き割ってやりましたので大丈夫です
254
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 20:21:11 ID:xsMrFIXgO
乙
なんだナオンって、ワイハ的なあれか?ミルナスペシャル食らわすぞ
255
:
名も無きAAのようです
:2014/01/23(木) 20:55:12 ID:T1twi0pIC
乙だけどナオンってなに、それ美味しいの
それとも気むずかしくてお金がかかるものなの?
256
:
名も無きAAのようです
:2014/01/24(金) 00:46:56 ID:O3T2.j9oO
ω・)乙。石頭(笑)
257
:
名も無きAAのようです
:2014/01/24(金) 08:53:10 ID:cu2OdPs.O
独歩は入力が激ムズだった記憶支援
258
:
名も無きAAのようです
:2014/01/24(金) 17:44:23 ID:TaIYUeUQ0
1フレでGボタン離すとかマジ鬼畜なのよね
259
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:44:17 ID:i/8EQN6I0
暇だから書くわ
260
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:45:35 ID:i/8EQN6I0
首を貫く威力であろうそれを、薄皮一枚で見切る。
右腕の中に高められていく力は、もはや十分。
しかし、まだだ。
奥義を放つのは、まだ引きつけてから。
次に来る打撃を捌いて、体勢を崩してから――――
从 ゚∀从「……なぁ」
だが突如、息が触れ合うまでの間近に身ごと顔を寄せてきた動作に、その意図を察しかねた。
狙いが読めず、それを一瞬見送ってしまっていたのだ。
ゆっくりと開かれた口内から覗く牙を目にして、次の瞬間、怖気が来る。
261
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:46:25 ID:i/8EQN6I0
( ゚дメ )「……ッ!!」
甘ったるくすらあその囁きは、辛うじて聞き取れる程度のもの。
だが同時に、纏わりつくような不快感をも耳に残して。
下僕にしてやるよ。
奴はそう囁いた。
理由も分からず飛び退いたのは、腹の底を引き掴まれるような感覚に戦(おのの)いたからだ。
極めて原始的な直感に従うまま、素早く距離を取る。
いや、取ったはずだった。
262
:
平沢進いいわぁ
:2014/01/30(木) 01:47:13 ID:i/8EQN6I0
ぐん、と引っ張られた腕だけが、情けなくも、女の細腕に締め上げられてその場に残される。
突き放す、そう思って蹴りを見舞おうとしたところで、奴の狙いに気づく。
かぁ、と口を開けた奴の牙は、ほのかに青白い。
どこかで見たか。
いや、そうではない。
けれど、これの存在は知っている。
長い牙―――血を吸う――――”吸血鬼”
从 ゚∀从「優秀なツレになるぜ、お前な」
263
:
平沢進いいわぁ
:2014/01/30(木) 01:47:58 ID:i/8EQN6I0
月明かりの下にさらされた泡立つ肌には奴の爪が食い込み、ぷつ、と破れた。
そこから流れる赤の色を見て、恍惚の表情をして、そこに顔を寄せていく。
動けなかったのは、人間としての本能か。
だが、原始の恐怖を、爆発するような怒りに換えて。
ただ、吠えて、拳を振るった。
(#゚дメ )「――――オオオォォォッ!」
黄金の尾を引いて、俺の拳は奴の顎先を撃ちぬく。
掴んだ左腕にこめた力を緩めなければ、今度は直撃は免れない。
――――ミタジマ流奥義。
264
:
救済の技法いいわぁ
:2014/01/30(木) 01:49:09 ID:i/8EQN6I0
从* ゚∀从「ハハハハハ!
おいおい、それ、ヤベェな!」
戦闘狂の吸血鬼の化物は、その光を見て、嗤った。
お前にとっては、何も面白いことはない。
ただ、消え去れ。
(#゚дメ )「――――”旋光撃”ッ!!」
”ゴキンッ”
265
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:50:34 ID:i/8EQN6I0
大気にすらも風穴を開ける。
それほどの速度と、強度をもって放った。
ミタジマ流の奥義を尽くして。
極限まで引き出した螺旋の力を使い果たして。
そうまでした放った奥義・旋光撃を――――外したのか。
(;゚дメ )「ばか……なッ!」
音はした。
いやにカン高いようでいて、同時に気色の悪い太い音が。
しかし俺の右拳は、奴の鼻先を掠めて、何もない空間へと突き出されていた。
从∀ ゚ 从「……お次は?」
266
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:51:15 ID:i/8EQN6I0
(;゚дメ )「……なっ……」
見れば、奴の首の骨は完全に折れている。
夜空を見上げられるほどの角度に、真後ろへと、直角に。
化物なりの回避動作は、あまりにも人体の構造というのを無視したものだった。
そんな事まで出来るとは思わなかった。
見越しておくべきだったのに、侮った。
俺の左腕へと食い込む奴の指に、さらに力が込められていくのを感じた。
从∀ ゚ 从「なるほど」
(;-дメ )「う……っく……!」
267
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:52:18 ID:i/8EQN6I0
軽く引き寄せられると、足がもつれそうになった。
右目に映る視界は霞み、これまで動かしてきた手足の言うことが、効かなくなっているのが理解る。
螺旋孔を開門して、螺光砲を放って、旋光撃までも外した。
螺旋の力とは、人体における生命力と等しい。
その絶対量は肉体を鍛えあげることによって限界を底上げする事はできる。
だが、決して無限の力にはなり得ないのだ。
急激に力を使い尽くしたツケは、すぐにやってくる。
”ごき、ごきっ。”
从 ゚∀从「……打ち止めかい」
268
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:54:28 ID:i/8EQN6I0
気を抜けば崩れ落ちそうになる俺の膝を見て、奴はすぐに悟ったようだ。
三重にも四重にも見える奴の姿は、ふらつく俺を冷ややかに見下ろしていた。
もはや殴るどころか、まともに奴を視界に捉えられるような力も残っていない。
万策、尽きた。
从 ゚∀从「なら、終わりにしようか」
こちらの余力を見抜いたように、化物はそう言って俺の身を引き寄せる。
”ゴッ”
(; д メ )「―――かッ………ハッ―――」
269
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:55:26 ID:i/8EQN6I0
華奢な奴の細腕が振り上げられると、それより頭一つ分は大きい俺の体躯は、いとも容易く宙を舞う。
どうやら、勝てない。
俺は、死ぬのだろう。
こんな唐突に、訪れるとは思わなかったが。
けれど、俺はそれをこそ願うべきなのだ。
・
・
・
『 マダダ 』
願うべき、なのに。
270
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:56:52 ID:i/8EQN6I0
从 ゚∀从「……?」
(; дメ )「よ、せ……ッ
く、る、な」
『 マダ、シヌナ 』
今の俺の身体からは、螺旋の力が失われてしまっている。
だくだくと脂汗を流しながら、その場に姿を表そうとする、あいつを振り払う。
吸血鬼はそんな俺の姿を、不思議そうに眺めていた。
271
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:58:36 ID:i/8EQN6I0
『 チカラガ、イルノカ 』
要らん!
消えろ!
必要ない!
このまま、人として――――
从 ゚∀从「あ? お前、まさか……」
見上げた月は、煌々と妖しい光を放っていた。
満ちた、青白い月。
人と、して―――――
272
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 01:59:23 ID:i/8EQN6I0
(; дメ )「……しな……せ、ろ……ッ」
狂おしいまでの衝動が湧き上がり、俺は身悶えした。
立ち上がる事もままならなかったはずの俺の全身を、支配しようと。
人の血ではなく、化物の血へと、入れ替えられていく。
やけに喉が渇く。
それに、ものすごく腹が減った。
自分の叫びが、次第に頭の後ろで聞こえるような感覚がした。
273
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:01:02 ID:i/8EQN6I0
『 コイツヲ、コロセバイイノカ 』
( ゚ ゚ )
そうだな。
そうだった、気がする。
今夜は、月も綺麗なことだ。
274
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:04:44 ID:i/8EQN6I0
『 ナラ、コロセ 』
やっぱり、分かりやすくていい。
お前という奴の、単純な生き方は。
月に吠えるお前に、俺は自分の在るべき姿を見たのかな。
似ていたのかも知れない。
だからこそ、俺は自分でも気づかないうちに、望んでしまった。
こんな力を。
”ゴギンッ”
275
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:10:02 ID:i/8EQN6I0
生きるために、戦ってきたはずなのに。
いつの間にか、戦うために生きていた。
だが、それこそが本当の俺なのだろうか。
この呪いを受け入れたのは、本当は自分自身なのではないのか。
そう悩んでいたはずの自分が馬鹿らしくなるぐらいに、今は気分がいい。
壊したい衝動ばかりが、熱く、内側から染み出してくる。
実に久々だった。
あの剣士との戦い以来、10日ぶりだろうか。
もう戻る事はないだろうと思っていた本来の姿を、取り戻してしまった。
絡んできたのはこの化物。
お前のせいで、人間としての俺だけは、最悪の気分だった。
从∀ ゚ 从「……おろ?」
276
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:11:18 ID:i/8EQN6I0
クーにだけは、見られたくなかった。
それだけはきっと、彼女が与えてくれた人間らしさを持つ、人としての俺の本心だ。
もう、あいつには会えない。
俺は、こいつを飼いならし、共に生きていくしかない。
『 ソレデイイ 』
それなのに、えも言われぬ解放感を感じる自分に、戦慄していた。
ミ#゚ メ#彡「……本気で行くぞ」
277
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:12:03 ID:i/8EQN6I0
・
・
・
ミ#゚дメ#彡「――――がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
猛獣の連撃が放つ、徹底的な破壊。
ハインリッヒは、それを醒めた表情で見送っていた。
へし折られた首を修復する間もなく、矢継ぎ早に鋭爪や、剛脚が襲い来る。
从∀ ゚ 从「……」
278
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:13:04 ID:X6StF6j.O
ω・)ガンバレハイン!
279
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:13:25 ID:i/8EQN6I0
ミ#゚дメ#彡「フシィィッ!」
ほとんど真後ろへと向けられた首が、巻き込むように襲った蹴りで反対方向へと引き戻された。
从 ゚∀从「……チッ」
苛立ちが、徐々に募っていた。
やはり人間とは、恐るべき強さを秘めている。
武器も持たず、何も使わずして。
2000人もの血を吸ってきた自分と、素手でいい戦いを見せてくれた。
从 ゚∀从「オイ」
なのにこれは、今目の前にあるのは、何だ?
280
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:14:06 ID:i/8EQN6I0
ミ#゚дメ#彡「まだ口を動かす余裕があるか」
从 ゚∀从「あぁ? どういういう事だよ、こりゃあ」
ミ#゚дメ#彡「どうでもいい。
このまま、俺に八つ裂かれる中で考えていろ」
从#゚∀从「……てめぇなぁ……」
こちらを殺す事に必死な化物が、ただ一匹。
281
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:16:57 ID:i/8EQN6I0
別に特別な事はないのだ。
ただ少しばかり強い部類かも知れないが、そいつが自分以上かどうかなどどうでもいい。
面白い人間と戦っていたはずなのに、それが今や化物にすり替わっている。
何の興味もない対象が、この自分の身を傷つけているという事実に、今は怒りを覚えた。
从# ゚∀从「……殺すぞ……」
憤りを静かに抑えこむように、だが、声は上ずり震えていた。
あまりの怒りに、もはや、感情を押さえつける事は困難だった。
ミ#゚дメ#彡「……手加減する余裕も、もうないんだろうがな」
从# ゚∀从「あぁぁ〜そうですかぁ〜!」
282
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:32:07 ID:i/8EQN6I0
从#゚∀从「ならこっちも、手加減はいらねぇってこったぁなァァァッ!!」
夜の色に溶け込む外套が翻ると、ハインリッヒはそこから消えた。
少なくとも、そこへ鋭い爪を叩き込んだはずのミルナに手応えはなく、その視界からも。
ミ#゚дメ#彡「……ぬうぅぅぅッ!」
後ろに立っている。
それに気づかせたのは獣の直感だった。
「俺を失望させやがった罪はよ」
風圧が砂埃を巻き上げるほどの威を伴って、その空間へと巨大な拳を叩きつける。
恐ろしく高い密度の筋肉から、化け物じみた速度と、破壊的な質量をもって。
それをハインリッヒは、先ほどまでの余裕を取り戻したかのように片腕で一本で止めていた。
从#゚∀从「重いんだぜぇ?」
283
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:42:10 ID:i/8EQN6I0
ミルナは確信していた。
やはりこいつは、とんでもない化物だと。
だが動揺はなく、油断もない。
ただ荒ぶる感情に身を任せ、無心で獲物を仕留めるだけだ。
爪を振るって五体を刻み、牙をその首筋にねじ込んで。
この巨躯からでは到底不可能と思わせるほどの速度で、素早く身を反転させ、逆の腕で殴りつける。
ミ#゚дメ#彡「……!」
从#゚∀从「手加減は、いらねぇんだけどよ?」
それをも、止めた。
同じように片腕で、手首に細い白魚のような指を突き刺しながら巻きつけて。
284
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 02:51:59 ID:i/8EQN6I0
今日はこのへんにしといてやる。
こっからはそんなに続きません。
あともうちょいでシオン編を書きはじめられるよ……
また来ます〜^
285
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 05:26:17 ID:R4d6WohsO
おぉきてた。乙
286
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 08:11:19 ID:i/8EQN6I0
来週から職場復帰するから書く時間でーんでんなくなるかと思います
コレ一切進まねぇなぁとか思ったら、シルクロードの傭兵というやつの方を書いてるかも知れません
287
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 08:12:41 ID:lGdtnyfU0
乙
288
:
名も無きAAのようです
:2014/01/30(木) 21:39:55 ID:JDtLW3OgC
突然の更新来てた、傭兵のほうも読むよ
289
:
名も無きAAのようです
:2014/01/31(金) 13:16:59 ID:zc25EHbU0
おつ
傭兵は小説家になろうので合ってる?
290
:
名も無きAAのようです
:2014/01/31(金) 15:30:07 ID:izXUEZRU0
b 迷走中なのでそっ閉じしてもらえれば…
291
:
名も無きAAのようです
:2014/01/31(金) 17:41:43 ID:Kkl61jYsO
乙
こういう圧倒的な強者同士の戦闘は燃えるな
292
:
名も無きAAのようです
:2014/02/07(金) 13:59:36 ID:oDvBqj.kO
支援
293
:
名も無きAAのようです
:2014/02/09(日) 11:57:23 ID:d912bTt.0
キン㌦でロードス島伝説に手を出したところ簡単にハマってしまいました
しばらく全巻読みふけってファンタジーのおべんきょをしたいと思います
今後に向けてモチベーションは高いものの今は書く時間がないのでまた暇をみて
294
:
名も無きAAのようです
:2014/02/17(月) 20:04:23 ID:jYKeMjso0
続き気になるけど気長に待つよー
295
:
名も無きAAのようです
:2014/04/06(日) 13:53:35 ID:de3/CFxA0
元気?
そろそろお願いしますよ
296
:
名も無きAAのようです
:2014/04/06(日) 23:27:37 ID:O2IJWpM20
しばらく初スマホにうつつを抜かしたりしておりましたがそろそろ飽きてきました
最近PCを10年前のオンボロFMVからエイリアンウェアに新調してウキウキですので、
休日はまたぼちぼち引きこもって書いていきたいと思います……今しばしお待ちを
297
:
名も無きAAのようです
:2014/04/07(月) 02:20:22 ID:tTF4gBlA0
FMV!?まだ生きていたのか・・・
期待して待ってる
298
:
名も無きAAのようです
:2014/04/07(月) 21:56:33 ID:eam9COnk0
まだー?
299
:
名も無きAAのようです
:2014/04/07(月) 22:16:24 ID:kfJSPq9.0
期待がんばれ
300
:
名も無きAAのようです
:2014/04/08(火) 02:36:24 ID:TGScZ78kO
ω・)マダカナー
301
:
名も無きAAのようです
:2014/04/08(火) 08:02:59 ID:W0LndRgU0
>>295
お前うるさいよ黙れ
302
:
名も無きAAのようです
:2014/04/09(水) 06:44:55 ID:VlBwyAVg0
たのしみたのしみ
303
:
名も無きAAのようです
:2014/06/18(水) 03:41:37 ID:BWEleMSY0
まだかなー(゜ロ゜)
304
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 07:52:58 ID:eiFAfrqk0
待ってるぜー
305
:
名も無きAAのようです
:2014/10/05(日) 11:19:26 ID:KsmjVxBM0
ω・)マダカナー
306
:
名も無きAAのようです
:2014/11/23(日) 04:04:53 ID:v8W5WdkE0
元気かーい
307
:
名も無きAAのようです
:2015/01/08(木) 22:01:57 ID:ZjyyUQREO
もうすぐ1年か…
308
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 00:26:51 ID:xf13qXY.0
作者さん、頑張ってください!
もうずっと次の話待ってます。
というか、せめてハインとミルナどっちが勝つか投下してから休載して!
309
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 20:10:52 ID:53O9cEQU0
俺も待ってます!
310
:
名も無きAAのようです
:2015/08/14(金) 08:09:23 ID:mqg4iSCw0
まだかい
311
:
名も無きAAのようです
:2015/09/17(木) 16:58:39 ID:kM1j7cj20
流石にこの作品は完結望めないかな
残念
312
:
名も無きAAのようです
:2015/09/20(日) 22:06:58 ID:rpVLkbLsO
たったの1年半で何を仰る
313
:
名も無きAAのようです
:2015/09/27(日) 09:07:12 ID:Vvtr0cm.0
もーいーかい
314
:
名も無きAAのようです
:2015/09/28(月) 22:21:43 ID:HO8L5XTE0
だめだよ?
315
:
名も無きAAのようです
:2015/09/29(火) 21:58:03 ID:QOHr0quQ0
えぇっ
316
:
名も無きAAのようです
:2015/09/29(火) 22:19:27 ID:QOHr0quQ0
あげますね
317
:
名も無きAAのようです
:2015/11/12(木) 16:38:44 ID:21bw/oHU0
諦めよう
そもそも現行作品に完結を期待するのが間違いなんだ
318
:
名も無きAAのようです
:2015/11/16(月) 05:18:00 ID:r5itCX7k0
>>317
弱気になんなよ
319
:
名も無きAAのようです
:2016/08/11(木) 03:10:30 ID:Vp0jvDEY0
ハインもミルナもファフニールもモララーも皆クーゲルシュライバーの錆になったことで、脳内完結させました。
320
:
名も無きAAのようです
:2019/01/12(土) 16:37:33 ID:Qabir.yo0
まだまだこれからよ
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