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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
521
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:16:21 ID:osgyY/P20
( ゚∀゚)「……」
そのうえで、考えを巡らせる。
ブーンが何をしているのか。
自分が何をしなければならないか。
それが、月の下で起きていたもう一つの物語だった。
522
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:17:32 ID:osgyY/P20
―― 第四話 おわり ――
―― 第五話へ続く ――
.
523
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:19:20 ID:osgyY/P20
―― コラム④ 主な登場人物、及び勢力紹介 ――
〜レジスタンス(勇者)〜
・( ・∀・) モララー(死去)…………勇者
・ノパ⊿゚) ヒート…………盗賊
・('A`) ドクオ…………戦士
・( ゚∀゚) ジョルジュ…………遊び人
・lw´‐ _‐ノv シュール…………料理人+発明家
・? 現在他国に赴いている
524
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:21:20 ID:osgyY/P20
〜ラスティア城(魔王)〜
・ζ(゚ー゚*ζ デレ…………王女
・(´・ω・`) ショボン…………国王
・( ´W`) シラヒーゲ…………政務官
・ミセ*゚ー゚)リ ミセリ…………M
・(゚、゚トソン トソン…………S
・( ФωФ) ロマネスク…………衛兵隊長
・|゚ノ ^∀^) レモナ…………貴族
・(-_-) ヒッキー…………レモナの息子+引きこもり
・? 他、衛兵全員
525
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 00:23:04 ID:amoF4Y2.0
ツン…
526
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 00:24:49 ID:osgyY/P20
〜魔人(モンスター)〜
・ξ゚⊿゚)ξ ツン…………旅人の娘+従者見習い
・从´ヮ`从ト ???…………迷子+詩人
・? 森とか山とかにたくさんいる
〜その他〜
・(;^ω^) ブーン…………衛兵見習い
全てのグループに縁がある
しかも優柔不断なくせに人を助けたがる
その結果、どんどん泥沼へとはまっていく
新しい登場人物はそのうち追加されるでしょう。
もちろん別の勢力へ移動することもあり得ます。
物語を三幕に分けるならば、今は第一幕、状況説明が終わった段階です。
次はもう少し書きためてから臨むので、時間をかけます。
それでは。
527
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 00:28:22 ID:LztZNF4EO
自分の仕える国が人間なのに魔王側ってのは不思議だな、とにかく続き気になる
528
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 03:23:39 ID:Exbs.TpMO
ω)おつん
529
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 05:35:49 ID:P0ZKPQhcO
そうか、('A`)はξ゚⊿゚)ξを見た時に感づいてたんだな
これで序章が終わっていよいよ本編か第二幕からに期待
/ヽ、 /ヽ
(/ξ゚ ゚)ヽ) これなら訴訟されることは無いな
530
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 11:04:25 ID:cbxAt3dU0
耳ありツンが可愛い
乙
531
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 16:40:47 ID:NCaUm5oM0
ξ゚撿゚)ξの口をξ゚&.#8895;゚)ξ(&と#の間の.を抜いて)にしてくれるとありがたいです。。。
おつです
532
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/02(月) 19:15:30 ID:osgyY/P20
>>531
そう見えてしまっているのでしょうか?
自分のパソコンからだと問題ない状態で見えるので、どうしたらいいかわからないんですが……
533
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 19:28:26 ID:aHChWRgQ0
2chmateでは
ξ゚撿゚)ξ←口が化ける
ξ゚⊿゚)ξ ( ξ゚&.#8895;゚)ξ から.を取った)←読める
534
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 19:39:27 ID:QtwptCaI0
投下しにくいだろうし気にしなくて良いよ
535
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 23:05:25 ID:N0S1unGI0
文字化けしたツンに慣れちゃって通常のツンに違和感があるw
乙
536
:
名も無きAAのようです
:2013/09/02(月) 23:53:30 ID:j4s2L9jI0
ここまで一気に読んだ
設定がすごい深いし面白い
続き楽しみにしてるが、ブーンの性格が悪い方向に動きそうだな・・・
537
:
名も無きAAのようです
:2013/09/04(水) 09:07:51 ID:79RJ37O20
iPadのSafariでツンやヒートの口が文字化けしてたがSafariだけじゃなかったのか
>>535
みたいに文字化けしたツンとヒートに慣れたから正常なのみると違和感w
538
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:47:21 ID:K5seVBKE0
―― 予告 ――
.
539
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:48:12 ID:K5seVBKE0
10月25日
午後6時
ラスティア城下町中央広場
秋の日は短い。
先程まで赤みがかっていたと思ったら、今ではもう深い紫色。
やがてそれも黒く染められていく。星と月の灯りだけをまばらに残しながら。
中央広場に人々は集まっていた。
高台が設置されている。
昼間の内に、お城の従者と衛兵が協力して立てた豪勢なものだ。
そこに座っているのは貴族たちと来賓の方々であった。
(´・ω・`)「拡声器ちょうだい」
中央の一際大きな椅子に座っていたショボンが、従者に手を差し出していた。
その手のひらに、錘状の筒が渡される。
ただの筒に、魔人の不思議な力が施されたもの。
ショボンはその筒の細い方を口元に寄せ、話し始めた。
(´・ω・`)「新嘗祭を始めるよーーーー!!」
540
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:49:01 ID:K5seVBKE0
声が大きくなり、広場中に広がっていく。
群衆は一同に声を張り上げる。
歓声がその場に響き渡る。拡声器よりもはるかに大きな声で。
ショボンはその様子を満足げに見降ろしていた。
ショボンにとって、この瞬間はとても楽しいものだった。
拡声器を外して、従者に返す。
それから客人の方を向いた。
(´・ω・`)「いよいよですな、国王様方」
主要な参加国は二つ。
マルティア国王、テーベ国王、及びその従者であった。
541
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/04(水) 23:51:41 ID:K5seVBKE0
―― 新嘗祭とラスティア城 ――
明日木曜日の午後9時から前半
明後日金曜日の午後9時から後半を投下します。
口とかいろいろ不都合あるかもしれませんが
このまま投下を続けることにします。ご理解ください。
それでは。
542
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 00:24:58 ID:RXmSuLvgO
おいっ、今までと同じ製作ペースじゃねぇか
今回はペース落ちると思ってたのに、まあ続き早いのは歓迎するんだが
543
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 02:40:43 ID:rbGkzx5IO
>>542
なんなんだお前は
544
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 13:03:26 ID:/fCDTzio0
ひとまず1話だけ見たけど、ひらがなと漢字の分量が丁度良くて読みやすいね
見習いたいもんだ
545
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 20:10:12 ID:es9erg9o0
ちょっと用事入ったので、30分から1時間程度遅れます。
546
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:21:21 ID:es9erg9o0
9時半から投下します。
547
:
名も無きAAのようです
:2013/09/05(木) 21:25:55 ID:1/FI.9xg0
よしこい
548
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:30:12 ID:es9erg9o0
10月25日
午後6時
ラスティア城下町中央広場
秋の日は短い。
先程まで赤みがかっていたと思ったら、今ではもう深い紫色。
やがてそれも黒く染められていく。星と月の灯りだけをまばらに残しながら。
中央広場に人々は集まっていた。
高台が設置されている。
昼間の内に、お城の従者と衛兵が協力して立てた豪勢なものだ。
そこに座っているのは貴族たちと来賓の方々であった。
(´・ω・`)「拡声器ちょうだい」
中央の一際大きな椅子に座っていたショボンが、従者に手を差し出していた。
その手のひらに、錘状の筒が渡される。
ただの筒に、魔人の不思議な力が施されたもの。
ショボンはその筒の細い方を口元に寄せ、話し始めた。
(´・ω・`)「新嘗祭を始めるよーーーー!!」
549
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:32:03 ID:es9erg9o0
声が大きくなり、広場中に広がっていく。
群衆は一同に声を張り上げる。
歓声がその場に響き渡る。拡声器よりもはるかに大きな声で。
ショボンはその様子を満足げに見降ろしていた。
ショボンにとって、この瞬間はとても楽しいものだった。
拡声器を外して、従者に返す。
それから客人の方を向いた。
(´・ω・`)「いよいよですな、国王様方」
主要な参加国は二つ。
マルティア国王、テーベ国王、及びその従者であった。
☆ ☆ ☆
550
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:34:03 ID:es9erg9o0
―― 新嘗祭とラスティア城 ――
.
551
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:36:03 ID:es9erg9o0
1時間以上後
ラスティア城8階
王女の間の前
( ^ω^)「…………本当に僕一人で守っているお」
彼以外の警備はいない。
魔人や、彼らの仕掛けた罠によって、お城の上階は守られている。
ブーンが眺めているのは赤い絨毯の敷かれた廊下。
脇には数本のろうそくしかなく、等間隔ではあるものの、薄暗い。
その光景はブーンの寂寥感を増幅させていった。
王女はこんな寂しいところにいるのかと思い、身震いする。
確か以前よりも彼女は人々と触れ合うようになったと聞いていた。
でも、今現在も彼女はあまりイベントに参加しない。
町が賑やかな時、彼女はこの薄暗いお城の中。
どうしてこんなところに籠るのだろう。
もっと町の人と触れ合いたいとは思いたくないのか。
( ^ω^)「……あ、時間」
ブーンは廊下にかけられた時計を確認する。
約束の時刻まで、あと30分弱。
それまでに、彼は一旦お城を出て、北西の門に外側から向かわなければならないことになっていた。
552
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:38:03 ID:es9erg9o0
それが、お城にレジスタンスを迎え入れるための作戦の開始。
上手くいかなければ、その時点で終わってしまう。
結局、そこまで上手い方法が見つかったわけでもなかった。
ちょっとでも疑われたら終わってしまうかもしれない作戦。
だからなおのこと、細かいところで失敗してはならない。
ブーンは緊張を感じていた。
でも、その緊張を心地よいと感じていたのも事実だ。
彼は変わり始めていた。
引っ込み思案な性格だったのに、レジスタンスに入ってからはやたらと提案をしている。
その心境の変化の裏側には、どうにかしてモララーの無念を晴らしたいという思いがあった。
だけど、そのためには魔人と対立しなければならない。
そして魔人と対立できない理由が自分にはできてしまった。
正体を明かしたツンの姿が瞼の裏に浮かぶ。
長いこと友達として一緒に過ごしていた。それなのに全く気付いていなかった。
だからこそ、ショックは大きかった。
553
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:40:03 ID:es9erg9o0
ツンの意見は限界まで聞きいれる。
一方で自分はレジスタンス。
板挟みの中、彼はこの活動に参加するかどうか迷っていた。
でもここまで計画を練っていた以上、せめてこの潜入計画だけは成功させたい。
そこから先は考えていない。ひょっとしたらやめるかもしれない。
とりあえず今はこっち、という妥協。
いつまでも妥協が上手くいくとは限らないが、とにかく今は迷いを胸に潜めた。
だいたい、潜入作戦は魔人とは関係ない、モララーの遺品のためだ。
それは自分のためでもある。ツンを傷つけることにはならない。
だから、これくらい許してくれ。
ブーンは内心でそう訴えかけていた。誰に聞かれるわけでもない訴え。
人間一つか二つ隠し事はあるんだ。
全部を誰かに告白しなきゃならないってわけじゃない。
取捨選択して体面を繕っていく、それくらいいいはずさ。
その結論は開き直りとも言えたかもしれないが、、ブーンはそれ以上悩みたくなかった。
むしろ今この場で企んでいることがツンにばれないかという方を心配するべきと思おうとした。
554
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:42:03 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「……はあ」
ひどく草臥れた溜息を一つ。
まるで老人になったみたいだと、心の隅で自分を評価する。
それから時間が過ぎた。
7時20分になる。
目を閉じて、軽く伸びをするブーン。
そろそろ動かなくては。
そう思い、王女の部屋の扉を振り向く。
( ^ω^)「王女様、相談したいことが」
ζ(゚ー゚*ζ「なあに?」
すぐに返答がくる。
それは確かにデレの声だった。
555
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:44:05 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「少し階下に忘れ物をしてきたんですお。
取りに行ってもいいですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「あら! そうなの?
……どれくらいで戻って来れる?」
( ^ω^)「えっと、お城も広いし、罠も避けて歩かなきゃなんで
20分以上かかってしまうかもしれないお」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなに……まあ、でもしかたないわね。
構いませんよ。たぶんこのお城も無事でしょうし」
ブーンはほっと息をついた。
デレの顔色はわからないが、少なくとも許しはもらえた。
これから急いでレジスタンスのみんなの元へ向かおう。
( ^ω^)「……はいですお。
ありがとうございますお」
556
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:46:03 ID:es9erg9o0
見えもしないのに、頭を下げる。
足早に立ち去っていった。
罠の位置は事前に聞いていたので、注意をしながら進んでいかなければならない。
この情報も早いところ彼らに伝えなきゃならないと感じていた。
もう、廊下には誰もいない。
少なくとも人間は。
彼がいなくなった扉の内側には、しっかりとデレがいた。
彼女はそのとき、真剣な顔つきでいた。
ζ(゚ー゚*ζ「……行ったわね」
扉に寄せていた耳を離す。
その鋭い眼光は、まっすぐに窓を捉えていた。
557
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:48:01 ID:es9erg9o0
☆ ☆ ☆
7時半
ラスティア城北西門
この場所は通常、あまり使われない。
南側の坂の下にある城下町からは遠かったからだ。
門の回り自体も木々が生茂っており、見た目からして鬱屈としている。
そのためこの門は衛兵が非常時に使う門となっていた。
簡単に言ってしまえば、防衛は一番薄い。
新嘗祭の日に使うなんて思ってもいなかったから。
それこそが狙い目であった。
(√・A・)「ああ……なんで新嘗祭なのにこんなとこの門番やってなくちゃならなんだろう。
籤運が悪かったなあ、俺も花火見たかったなあ、ちくしょう」
ボヤいている警備の衛兵。
つまらなそうに石ころを蹴っている。
意識が低いのは明らかだ。
(√・A・)「……ん?」
その彼の目に、三人の人影が見えた。
558
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:50:00 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「こんばんはですお」
集団のうち、先頭を歩いていたブーンが言う。
(√・A・)「やあ、こんな夜中に何の用だい?
見たところ君らは衛兵のようだけど……」
衛兵は三人の姿を眺める。
三人とも、衛兵の基本装備を纏っていた。
ブーンの後ろの二人は大きな筒を持っている。
( ^ω^)「実は国王の頼まれごとで、こっそりお城にはいらなきゃならないんですお」
(√・A・)「頼まれごとだって? なんだろう、それにどうしてこの門から?」
若干訝しみながら、衛兵が連続して質問する。
ブーンは大きく頷く。
( ^ω^)「見た方が早いですお」
そう言って、ブーンは後ろの二人に合図を出した。
二人は門の横に移動する。
そして筒に手をかけ、両脇に引いた。
それは筒ではなかった。
広げてみれば、それは巨大な平たい物体となる。
559
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:51:59 ID:es9erg9o0
それは門の外から内側へと広がった。
(*^ω^)「今日の記念の旗ですお!
これをお城に運ばなきゃならないんですお。
秘密のことなので、みんなには内緒、だから正門を通るわけにいかなかったんですお」
楽しそうに、ブーンが説明する。
衛兵はやや慌てていた。
(√;・A・)「お、おいおいこんなところで広げるなよ」
(;^ω^)「え? あ、すいませんでしたお!」
(√;・A・)「謝らなくてもいいけど、ほら入っていいから畳んで」
(;^ω^)「わかりましたお。おーい、もういいお」
二人の男が、少しずつ旗を丸め始める。
ややぎこちない動き。
はた目から見れば、大きな旗を扱うのに苦労しているだけのように見える。
衛兵は気付いていなかった。
その旗の後ろ側で、二人の女性がこそこそと門を通過していたことを。
その女性たちは内側にある物陰にさっさと隠れた。
衛兵はブーンと話しているため、気付かないまま。
560
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:54:17 ID:es9erg9o0
(√・A・)「はい、それじゃあね」
( ^ω^)「まかせましたお。
そういえばさっき道でちょっと不審な人を見かけましたお」
(√・A・)「なに、本当か!?」
( ^ω^)「ええ、なんだか挙動不審で。
少し歩いて見てきた方がいいかもしれませんお」
(√・A・)「そうか……ありがとう。
お祭り成功させてくれよな」
衛兵はそう言って、素直に道を進んでいった。
もちろん遠くまでいくわけでもなく、少し見回ったら帰ってくるのだろう。
でも、わずかな時間で十分だった。
( ^ω^)「よし、入るお」
そう、二人の男に言う。
( ゚∀゚)「旗はどうするんよ」
('A`)「隠しとけ」
旗を抱えていたのは、ドクオとジョルジュ。
561
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:56:02 ID:es9erg9o0
彼らはやがて、女性が潜んだ物陰へと歩いて行った。
ノパ⊿゚)「お見事」
lw´‐ _‐ノv「上手く言ったな」
物陰から、ヒートとシュール。
(;^ω^)「いい衛兵で助かりましたお」
軽く頭をかく。
( ^ω^)「さて、今のうちに入りましょうお。
そろそろ僕は持ち場に戻らなければなりませんお」
門まで走って向かい、その錠を開ける。
重たい鉄の扉が動き、中へと繋がる道が見えてくる。
最初の作戦が上手く運んだことを、ブーンは心の中で喜んでいた。
幸先は良い。
迷ったりすることもあった。でも今は、自分に運が向いている。
今はひとまずこの作戦のことを考えよう。
レジスタンスの仲間たちを、国王の部屋へ連れて行くんだ。
( ^ω^)「こっちですお。僕が誘導しますお」
ブーンが大きい手振りで招き入れる。
こうして潜入が始まった。
562
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 21:58:04 ID:es9erg9o0
('A`)「……ううむ」
入ってすぐに、ドクオが呻いた。
鼻を抓って見るからに嫌そうな顔をする。
(;^ω^)「どうしたんですかお?」
('A`)「いやな。大したことじゃないんだ。
前々から思っていたことなんだけど……」
ドクオの目線がお城中に向けられていく。
城の内壁、燭台、蝋燭、絨毯、飾りの鎧に部屋への扉
('A`)「このお城、なんだかすごく鼻にくるんだ。
それも年々強くなっていってる」
ノパ⊿゚)「魔人かい?
でも実際お城の中で働いている奴もいるんだし
多少は仕方ないんじゃない?」
('A`)「…………だといいんだけど」
そう言って、ドクオは首を振る。
気合を入れなおしたのだ。
563
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:00:00 ID:es9erg9o0
('A`)「ぐだぐだ言ってしまってすまない」
( ^ω^)「いや、仕方ないですお。
きっとそんな鼻があった方が役立ちますお。
罠とかを仕掛けるのも魔人ですし」
('A`)「そうか。ありがたい話だ。
先へと進もうか」
ドクオを先頭にして一行は進んでいく。
ラスティア城。
衛兵見習い程度では下の階しか行ったことこの無いお城。
貴族以外の誰も、その全景を見たものはないという。
☆ ☆ ☆
564
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:02:01 ID:es9erg9o0
潜入してからも、暫く大事は起きなかった。
魔人の罠といえども、場所がわかっていれば怖くはない。
( ^ω^)「あ、そこ」
例えば、とある廊下。
( ^ω^)「そのあたりの床板踏むと槍が落ちてきますお」
( ゚∀゚)「え、どこどこ?」
(;^ω^)「あ、歩くなって!」
足をちょいちょいと地面に触れていくジョルジュを、ブーンが取り押さえる。
つまらなそうにむくれるジョルジュを無視して、脇道を指した。
( ^ω^)「そっちが正しい道ですお」
こんな風にして、大抵の罠は回避することができた。
そうして、5階まで彼らは進んでいった。
565
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:04:00 ID:es9erg9o0
ラスティア城5階
この階の構造は特殊であった。
( ^ω^)「ここはちょっと説明しなきゃなりませんお。
僕も今日初めて知らされたんですけど、ここには5つの大部屋があるんですお。
それが階の四隅と中央にある部屋なんですお」
( ^ω^)「四隅の部屋には階段があって、それを登れば貴族の部屋に続くんですお。
そして中央にある一際大きな部屋が、お城の中心にある塔へと伸びる扉ですお。
国王の部屋と王女の部屋はその中央の塔の中にあるんですお」
('A`)「じゃあ、俺たちはその中央の塔を登る必要があるんだな。
ブーンも王女の部屋の警備に戻らなきゃいけないんだし、一緒にいけるんだろ?」
( ^ω^)「それが……ちょっと中が複雑でして
6階に辿りつくと分岐があるんですお。
王女の部屋へ行くなら左、国王の部屋へ行くなら右、だから6階より先にはお別れですお」
ノパ⊿゚)「じゃあ、そこから先の罠の場所はわからないよってことか」
(;^ω^)「そうなんですお。僕は王女の部屋へ行く罠しか聞かされていないんですお。
だからこれ以上は、ちょっと役には立てないかなと……」
( ゚∀゚)「いや、俺は一向に構わないぜ」
566
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:06:01 ID:es9erg9o0
ジョルジュが一層にやりと笑った。
( ゚∀゚)「避けてばっかりでつまんなかったからな。
やっぱり潜入するからには楽しくやらなきゃだからよ」
lw´‐ _‐ノv「ああ……不安だ」
シュールの呟きもまったく聞えていないようであった。
(;^ω^)「ま、まあみなさんなら無事だと信じていますお」
('A`)「俺の鼻もあるんだ。協力すればなんとかなるだろう」
ノパ⊿゚)「ブーンは早く王女のところへ行ってなよ、怪しまれたらいけないし」
( ^ω^)「それなら……みなさん頑張ってくださいお!」
一行は中央の部屋に向かい、扉を開いた。
部屋の中には、幅の広い螺旋階段の登り口が一つだけある。
人ならば軽く5、6人並ぶことができる広さだ。
赤い絨毯が敷かれており、奥の方は道の蛇行のために見ることはできない。
567
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:08:00 ID:es9erg9o0
螺旋階段の壁には蝋燭が飾られていた。
金属質の燭台の上で、炎が等間隔で揺らめいている。
雰囲気は暗い。
煌びやかな雰囲気のあった5階から下とは違う、薄暗い道。
( ゚∀゚)「なんでこんなに暗くするんだろーな」
( ^ω^)「お城は暮らすための場所ってわけじゃないからだお。
ずっと昔は、お城は戦争の拠点として使われていたんだお。生活よりも、攻め込まれないことの方が大事。
今は趣があるからってそのお城を再活用しているだけで、貴族や王族の部屋以外はそこまで気を使っていないんだお」
('A`)「戦争していた時代か……今じゃ想像もできないな」
ドクオが呟く。
おそらく彼は単純に考えたことを述べただろう。
常に今の自分たち人間の立場を考えている彼の発想。
その言葉を聞いて、ブーンはふと思いついたことがあった。
聞いてみたいことが生まれた。
568
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:10:01 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「ドクオさんは……戦争についてはどう考えているんですかお?」
魔人が来て、世界が変わった。
一番変わったのは、大掛かりな戦争が無くなったことだ。
不思議な力を使えば、契約をした個人個人が戦争の大局を変更できる。
だから魔人を活用した戦争はできなくなり、人間同士の戦争も簡単に治めることができた。
それが魔人の功績だと称える人も多い。
安心して平和を享受する理由でもある。
その一方で、魔人に反対する人たちはその功績をどうとらえているのか。
魔人の有用性を無視するわけにはいかないんじゃないか。
質問の裏にあるのは、その疑問だ。
(;'A`)「…………」
返事がすぐにはこない。
いつもなら歯切れよく、一般論まで交えて演説してくれるのに、どうしたのだろう。
ブーンは小首を傾げる。
569
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:12:00 ID:es9erg9o0
それから考え直した。
ここはもっと率直に質問した方がいいんじゃないかと。
戦争が無くなったという、魔人の功罪についてどう考えているのかと。
口を開く。
( ^ω^)「それじゃ、戦争が無k――」
けれど、途中で切れてしまう。
返事があったのではない。
背筋に悪寒が走ったからだ。
誰かに強烈に睨まれたような感じ。
(;^ω^)「!?」
首を振り、あたりを見回す。
誰かに見つかったか? いや、そんなものはないはず。
この螺旋階段に、そんな隙間はないはず。
じゃあ、誰が自分を睨んだんだ。
570
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:14:08 ID:es9erg9o0
('A`)「? どうした」
ようやくドクオが言葉を返してくれた。
ただ、もうブーンにはそれに答える意識は無かった。
(;^ω^)「い、いえ……」
曖昧に答える。
確証があるわけじゃない。
睨まれたのが事実かどうかもブーンにはわかっていない。
視線を感じたというただの思い込みかもしれない。
気になるが、それにとらわれすぎても良くないだろうと考えた。
下手に場を擾乱させるべきじゃない。
ここまで上手くいっているんだから。
(;^ω^)「何でもないですお」
不思議そうに覗きこむドクオの顔に向けて、ブーンは小さく首を横に振った。
( ゚∀゚)「さ、6階についたぞ」
ブーンの後ろにいたジョルジュが言う。
571
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:16:00 ID:es9erg9o0
( ^ω^)「お、本当だお。良かったお」
ほっとする。
緊張から解放された気がした。
ノパ⊿゚)「先に上歩いてるんだから気付けよなー」
わずかばかりの笑い。
その隅で、ジョルジュが笑っていなかったことに、誰も気づいていなかった。
☆ ☆ ☆
572
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:17:58 ID:es9erg9o0
中央広場
開始からすでに時間は経過している。
噴水の周りで光が爆ぜる。
町の技術者たちによる盛大な出し物が行われようとしていた。
ショボンは台座から降りている。
歩み寄っていく先は来賓の席。
(´・ω・`)「楽しんでいただけていますかな」
来賓の席は二つあったはずだが、一人はいなくなっていた。
仕方なくもう一人の方へ話しかける。
その来賓の老体は、しょぼくれた口を釣り上げて笑い返した。
やけに綺麗な歯並びが覗かせる。
/ ,' 3「ああ、見ていて愉快ですぞ。ショボンくん」
ラスティア国王を君付けで呼べる人。
そんな人はこの世に一人しかいなかった。
ショボンもまた、微笑み返す。
(´・ω・`)「それは良かった。マルティア国王様」
573
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:20:02 ID:es9erg9o0
最後の言葉を聞きうけて、老体は「いやいや」と首を左右に振る。
/ ,' 3「この国いるときは、国王なんて称号はいらんぞ。
せめて名前で呼んでくれないかの。スカルチノフと」
ショボンは若干気まずそうな顔をして、それから言い直す。
(´・ω・`)「これは、失礼しました。スカルチノフ様」
/ ,' 3「様か……まあよい」
スカルチノフはショボンから目を離し、手元の果実に手を出した。
そのひとつを取り、口に運んで一気に齧る。普通の老人にはできない芸当だ。
飛沫が飛んでも、スカルチノフは一向に気にしない。
その歯が全て不思議な力による強化仕様だということは、ショボンももちろん知っていた。
たかが歯を強くするためにも力を使ってしまう。
魔人使役についての先進国、マルティアの国王そのものだった。
/ ,' 3「話は聞きいれてくれたかな」
果実を見たまま、スカルチノフは言う。
もちろんその言葉はショボンに向けられた言葉だ。
574
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:22:18 ID:es9erg9o0
(;´・ω・`)「…………さすがにそのような一大事、簡単に聞きいれるわけにはいきません」
ショボンは努めて慎重に言った。
スカルチノフは残念そうな顔をする。
/ ,' 3「君なら早々に決断してくれると思ったんじゃがの」
(´・ω・`)「すいません。こちらとしても、マルティア国に対する恩は深いのですが
なにせ自国の政治に関わることですから」
/ ,' 3「……人による政治がそんなに必要かの?」
(´・ω・`)「え?」
ショボンの疑問の声に答える前に、スカルチノフは溜息をついて、椅子の握りに肘をかける。
両の手を交差して、その上に顎を乗せた。口がぽかんと開く。
/ ,' 3「人は争うぞ」
短いフレーズ。
/ ,' 3「魔人が来る前、人は戦ってばっかりだった。
いや、むしろちょうど人々が国家レベルで結集しようとしていた頃に魔人が来た。
だから世界は踏みとどまることができたんじゃ」
575
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:24:06 ID:es9erg9o0
/ ,' 3「もしあのまま時が進んでいたら、世界は火の海になったじゃろうな」
さらりと恐ろしいことをいう。
ショボンはそのような世界を一瞬想像して、すぐにかき消した。
渋い顔をする。
(´・ω・`)「見てきたように言うんですね」
/ ,' 3「見ていた人たちの頃から受け継がれてきていた物語じゃからのう。
むしろ君たちの国にはこんな話はないのかな」
(´・ω・`)「あいにくできてまだ日が浅い国でして」
「ふん」とスカルチノフは鼻を鳴らす。
侮辱の色はあったが、ショボンは動揺することなく話を聞いていた。
見た目では、だが。
/ ,' 3「まあよい。
本当はわかっておるんじゃないかな、わしが何を言いたいか」
品定めするような目が、ショボンに向けられた。
ショボンは微かに目を泳がせる。
(´・ω・`)「……この国は僕の国ですよ」
/ ,' 3「本当かの?」
(´・ω・`)「もちろんですよ。何を言っているんですか」
576
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:26:02 ID:es9erg9o0
ショボンは目を閉じてせせら笑った。
スカルチノフからの視線は遮られる。
ショボンはすぐに身体を噴水の方へ向けた。
目が開き、出し物を見る。
街道の方から技術者たちのパレードが現れようとしていた。
(´・ω・`)「今はお祭りです。
町の誰も不安を感じていない。
それを破ろうものなら、それこそ争いなのではないですか?」
ショボンの腕が、城下町をなぞっていく。
なだらかな動き。
/ ,' 3「お前らしい考えよのう」
頬杖を突きながら、スカルチノフが評した。
ショボンは何かを言い返そうとするも、目の端に人影を捉えたために中断する。
577
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:28:01 ID:es9erg9o0
(´・ω・`)「レモナか」
|゚ノ ^∀^)「そうだよー、ショボンちゃん。
スカルチノフさんもこんばんはー」
軽々しい声。
ただ、今この場のショボンにとってはありがたいものであった。
重苦しかった空気が瓦解する。
(´・ω・`)「庶民とは会ってきたのかい?
いつもの君なら遊びまわっている頃だと思ったのだけど」
|゚ノ ^∀^)「うん、もう結構遊んだよ。
ただこうしてお客様ともちゃんとお話しないと!」
そう言って、レモナの目がスカルチノフに向く。
|゚ノ ^∀^)「そうでしょう?」
視線が交わされる。
ショボンからは、レモナの顔を窺い知ることは出来なかった。
578
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:30:05 ID:es9erg9o0
だから
|゚ノ ^∀゚)
/ ,゚ 3
彼女たちがただならぬ目でアイコンタクトを取っていたことも
当然今のショボンは知る由もなかった。
579
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:32:00 ID:es9erg9o0
|゚ノ ^∀^)「さてと、ショボンちゃん」
レモナはすぐに顔を上げた。
|゚ノ ^∀^)「テーベ国の女王様はどちら?」
(´・ω・`)「ああ、空いてるよね。どこいったんだろう」
/ ,' 3「あの若いのならきっと下に降りて遊んでおるよ」
スカルチノフはそう言って、あきれたような顔をする。
/ ,' 3「まったく、前々からそういうふらつきが好きなやつじゃな」
(´・ω・`)「ははは、そこが国民に好かれたところなのでしょう」
話が変わったため、ショボンは余裕を取り戻せた。
頬に残っていた冷や汗をこっそりと拭いながら、その場を後にする。
580
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:34:02 ID:es9erg9o0
広場から伸びる街道の上。
何故か黒い服の人だかりができていた。
それらは町の住民じゃない。
たった一人を護衛するために付けられたSPたちだ。
「おいおい、こんなに纏わりつかれたら見えねえだろ」
人だかりの中心で人が叫ぶ。
「ですが国王、あなたを守らなくては」
「平気だっつの! 俺が下手な野郎になんか負けるか!」
中心の人はそういって、腕を振るった。
「なんならお前ら全員のしてやってもいいんだぞ?
俺様のパレード観覧を邪魔した罪でなー、はっはっは」
物騒な物言いとは裏腹に、最後には陽気な笑い声が続いた。
581
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:36:01 ID:es9erg9o0
町の人たちもその異様さに戦いている。
避けられているので、黒服の集団の周りだけぽかりと浮いてしまっていた。
パレードの音が近づく。
作り物の人形の集団が、光を纏いながら街道を進んできていた。
どちらにしろ、このままでは黒服は邪魔だ。
「おら、早くどけよ迷惑だろ!」
中心の人が再び怒鳴る。
数人の溜息。
黒服の男たちが観念して、散り散りとなっていく。
まだらになった黒服の間で、ようやくその人物が明らかになった。
その人もまた、ちゃんとパレードが見えるようになったことで非常に喜んでいるようだ。
嬌声が響く。その声で、ようやくその人物が女性であると気付いた町民も多かった。
582
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:38:02 ID:es9erg9o0
「ははー、こりゃすげーわ!!
俺もほしいなー!!」
その人は街道の中央で諸手を挙げた。
勢いよく伸びた腕の先から、パレードの光にさらされていく。
だんだんと、その光が進む。
ついには顔が露わとなる。
从 ゚∀从「あいつも見てるかなー!!」
彼女の名はハイン。
口調と態度こそ男性そのものであったが
ラスティアの南西にあるテーベ国の、歴史上初めての女帝であった。
☆ ☆ ☆
583
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:40:02 ID:es9erg9o0
ラスティア城7階
国王の部屋へ続く道
ブーンとは6階で別れ、それぞれの道を進んでいた。
('A`)「待った」
先陣を切っていたドクオが、皆を静止させる。
('A`)「匂いがする」
( ゚∀゚)「なんだ、魔人か?」
('A`)「たぶん」
一同は前を向いた。
道が二つに分かれている。
直進すれば幅の広い道を通ることになる。
左に折れれば、やや狭い道。蝋燭の本数も少ない。
584
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:42:02 ID:es9erg9o0
('A`)「……前の道からは強い匂いだ。大きいものがある気がする。
左の道は、なんだか細々といろんな匂いがする」
ノパ⊿゚)「大きいと、細々……
それ以上はわからない?」
('A`)「匂いなんてそんなもんだ。
とにかくどっちにしろ、いいことは起こりそうもないな」
lw´- _-ノv「ましな方を選べってことか」
シュールが発言し、みんなの顔を伺った。
全員がそれぞれ、頭の中で比較をする。
( ゚∀゚)「大きい方だな」
ジョルジュが先に結論を出した。
( ゚∀゚)「道幅も広いし、明るい。
対処しやすいのはこっちだろうよ」
('A`)「うん、同感だ」
585
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:44:02 ID:es9erg9o0
ドクオは頷きつつも、鋭い目線を幅の広い道に向けた。
('A`)「ただ油断はできないぞ」
( ゚∀゚)「大丈夫だって!」
ジョルジュは胸を叩く。
( ゚∀゚)「何か出てきたにしても倒してやるよ!」
(;'A`)「おい、何言ってんだお前」
( ゚∀゚)「いやあ、なんかもううずうずしていたんだよね!」
ジョルジュの足がさっさと前へ進んでしまう。
急にそんな行動に走ったジョルジュの心境を、ドクオははかりかねた。
とにかく止めなきゃ何が起こるかわからない。
(;'A`)「ヒート、止めるぞ!」
ノパ⊿゚)「あいよ」
586
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:46:02 ID:es9erg9o0
ドクオが焦り、ヒートと共に走り出す。
ジョルジュとの距離は近い。すぐに捕まる。
そのはずだった。
カチッ
(;゚∀゚)「え」
ジョルジュはきょとんとして、それから足元を見る。
何の変哲もない絨毯。
それなのに、何か妙にはまった感触があった。
ノパ⊿゚)「どうした?」
止まってしまったジョルジュの袖を、ヒートが掴む。
そのすぐ後ろを走っていたドクオも止まる。
('A`)「何の音……!?」
その場にいた全員が動揺した。
壁も、床も、盛り上がったように見えた。
587
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:48:01 ID:es9erg9o0
でもすぐにそれが誤りだと気付く。
足元にあったものが急速に遠ざかる。
落とし穴だ。
(;゚∀゚)「ぬおお!!」
咄嗟にジョルジュがクロスボウを上に向けて発射する。
特製の、ロープつきの矢。
空中で放射線を描いたそれは、天井に突き刺さる。
周りにいた人同士がつかまりあった。
近くにいた人だけで。
588
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:50:02 ID:es9erg9o0
____________________
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589
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:52:02 ID:es9erg9o0
やや遠いところにいたシュールの声が遠ざかっていく。
(;゚∀゚)「シュール!!」
ジョルジュの叫びは残響となる。
なかなか鳴りやまない。よほど深い穴のように思える。
ロープはそのまま、慣性をもって道の反対側へ向かっていった。
ノパ⊿゚)「そおい!」
勢いのままに、ヒートはドクオを投げつける。
抜け落ちていない道の向こう側へ向けて。
そして自らも壁に向かい跳んでいく。
自分なら自力で向こう側へ渡れるという確証があったからだ。
足が接着すると、バネの装置が作動する。
脚力が増したことで可能となる距離の長い三角飛び。
ノパ⊿゚)「っと!」
着地と同時に足を回す。
衝撃が緩和される。
数メートル走ったところでようやく彼女は止まることができた。
590
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:54:01 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「ドクオ?」
(;'A`)「……ここだ」
床に転がりこみながらも、手を上げる彼の姿があった。
(;'A`)「うう、頭打った」
ノパ⊿゚)「悪かったよ。ジョルジュは?」
言いながら顔を上げる。
ロープは依然として天井に突き刺さったままだ。
だけど、今は誰もそこに垂れさがっていない。
( ゚∀゚)「ここだよー」
声がして、ヒートとジョルジュは穴の反対側を見た。
一同が進んできた方。
そこにジョルジュはいた。
591
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:56:02 ID:es9erg9o0
( ゚∀゚)「悪い、俺ちょっとシュール助けてくる!」
目があうと同時に彼は言う。
( ゚∀゚)「こうなったのも俺のせいだし、急がないと!」
(;'A`)「あ、おいお前待て!」
ドクオの言葉にも、まったく動じずに
ジョルジュはさっさと元来た道を引き返しに行ってしまった。
(;'A`)「なんか、あいつ変じゃなかったか?」
ノパ⊿゚)「変?」
ヒートはドクオの傍に歩み寄りつつも、首を傾げた。
(;'A`)「妙に軽率と言うか……
まるで自分から罠にかかっていったような」
592
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 22:58:01 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「んな、まさか」
ヒートは軽く笑い飛ばす。
ノパ⊿゚)「そんなことして何になるんだよ」
(;'A`)「うーん、そうか……」
疑問として浮かんだものの答えは出てこない。
ぽっかりと空いてしまった穴を見つめる。
('A`)「とりあえずはシュールが無事であることを祈ろう」
違和感を覚えつつも、ドクオは身体を起こした。
前に進むために。
☆ ☆ ☆
593
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:00:01 ID:es9erg9o0
8階
国王の部屋へ続く道
ノパ⊿゚)「ひゃー、ずいぶん上ったなー」
たまたま壁にあった窓を覗いて、ヒートが感嘆する。
ノパ⊿゚)「よお、ドクオ。見てみろって」
(;'A`)「いや……高いのあんまり好きじゃないんだよ」
ノパ⊿゚)「そうだっけ? 忘れてたわ」
(;'A`)「お前なあ……昔話したことあっただろ」
ノパ⊿゚)「あー、なんとなく覚えているかも。
懐かしいねえ」
そんなことを言いながら、ヒートは窓辺の縁に座りこむ。
横目で窓の下の景色を眺めていた。
594
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:02:03 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「休憩しようよ。今のところ誰もいないみたいだし」
ヒートが提案する。
ドクオは顔をむすっとさせ、それから溜息をついた。
('A`)「……まあ、一気に上ってきたからな。
少しだからな? そしたら上っていこう」
ドクオはヒートの向かい側の廊下に座る。
胡坐をかいてだ。
ノパ⊿゚)「なんでそこなの?」
('A`)「この姿勢が一番素早く反応できるんだよ」
受け答えを聞いて、ヒートが目を閉じ首を左右に振る。
ノハ-⊿-)「相変わらず固いなあ」
やれやれと、身振り手振りであらわした。
ドクオはなおも硬い表情のままだ。
595
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:04:03 ID:es9erg9o0
ノパ⊿゚)「なあ、ドクオ。
昔の話が出たからさ、思い浮かべただけなんだけど」
ヒートはそこまで言って、目を再び窓側に向けた。
あまりドクオの方を向きたくなかったのかもしれない。
ノパ⊿゚)「姉さんは今も元気かな」
途端に、ドクオが立ち上がる。
ヒートを見下ろす形。
('A`)「そんなこと話すために休憩したのか?」
口早に責め立てた。
ヒートは一瞬眉根を寄せて、上目づかいでドクオを見つめた。
ノパ⊿゚)「ここに来たのはたまたまだよ。たまたま窓縁があっただけ。
でもさ、ほら。レジスタンスも随分賑やかになったから、なんだか楽しくて」
ノパ⊿゚)「年下も増えたし、面倒を見てなきゃで
最近その手の話題出して無かったじゃん。いわゆるあたしたちの話」
596
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:06:03 ID:es9erg9o0
('A`)「出さなくてもいいだろ、別に」
素っ気なくドクオが切り返す。
ノパ⊿゚)「必要あるよ」
今度はヒートがむくれた。
じーっとドクオを見据える。
その視線に、不穏な気配をドクオは感じ、わずかに身動ぎした。
(;'A`)「なんだよ」
我慢できずに、ドクオから口をひらく。
ヒートは目をかえずにそれに応えた。
ノパ⊿゚)「さっきブーンに戦争の話振られたとき、内心どきっとしたんじゃないの?」
(;'A`)「え……」
言ってから、うっかりという表情をドクオは浮かべた。
それをごまかすように咳払いする。
597
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:08:04 ID:es9erg9o0
('A`)「別に……何も」
ノパ⊿゚)「そう? あたしはしたけどなー。
姉さん以外にもあんなこと言う人いるんだなってね」
ノパ⊿゚)「それでも何も感じなかったっていうなら、あんたやっぱり――」
(#'A`)「そんなわけあるか!」
荒げられた声。
またも、言ってから顔を呆然とさせる。
ノパ⊿゚)「あたしに怒られても困るんだけどな」
そう呟いてから、ヒートは縁から離れて立ちあがった。
気持ち良さそうに伸びをする。
ノパ⊿゚)9m「よっし、休憩終わり。
途中で疲れても自己責任だからな」
ヒートの指がドクオにびしっと向けられた。
598
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:10:05 ID:es9erg9o0
('A`)「……ああ」
歯切れの悪い返事だけが返ってくる。
それを受けて、あからさまにヒートは機嫌を悪くした。
ノハ#゚⊿゚)「なんだよもー、これくらいで落ち込んじゃって。
ブーンやジョルジュの前だといつもすかした態度なくせに!」
キレのある指摘がドクオに突きささる。
ドクオは目を見開いた。
(;'A`)「な、そ……そうか?」
ノハ#゚⊿゚)「一時期暗くなったのは仕方ないとして、今では変な方向に行っちゃってるわ。
まったくもう、姉さんが見てたらなんて言うかねえ」
(;'A`)「…………お前だからあいつの話は」
ノハ;゚⊿゚)「え? あ! ごめんごめん。
今のはその、ほんとただのうっかりだから!
ショック受けさせたりしたらごめん!」
599
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:12:03 ID:es9erg9o0
(;'A`)「ええ? いやいやそれくらいでショックなんか」
ノパ⊿゚)「だって狼狽してんじゃん」
(;'A`)「してねえって!」
ノパ⊿゚)「してますわーその流れてる汗が証拠ですわー」
(;'A`)「はあ? それは、その……」
ドクオは言い返そうとするも、何も思いつかなかった。
唸り声を出しながら、頭をごしごしとこする。
ノパ⊿゚)「やーい、なんもいえねーのかよー、かっこつけー」
ヒートは口を窄めてドクオを野次り続けていた。
600
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:14:03 ID:es9erg9o0
そうしていくうちに、彼の唸りが、だんだんと細切れになっていく。
肩を震わせ、口元が綻び、破顔する。
はっきりと笑い声と認識できるようになった頃には
向かいに立つヒートの顔にも笑みが毀れていた。
ドクオはその時思っていた。
自分がこうして笑うのはいつぶりだろうって。
二人の若者にとって、それは束の間の休息となった。
☆ ☆ ☆
601
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:16:04 ID:es9erg9o0
ラスティア城7階から8階の間
王女の部屋へ続く道
ブーンは王女の部屋に戻りつつあった。
早く戻らなくては、そう思って焦る。
実のところ、7時40分はとっくに過ぎていた。若干読みが甘かったのだ。
20分以内に戻らなければ王女が怪しむかもしれない。
だから走る。
螺旋階段を駆け上り、8階へ。
部屋へと続く廊下には何もいなかった。
誰かが通った痕跡もない。
外に出ているうちに誰かに侵入されたということはないようだ。
ひとまずほっとするブーン。
足取り確かに、王女の部屋の扉の前に辿りついた。
呼吸を整えるため、やや時間を置く。
それから咳ばらいをした。
( ^ω^)「王女、帰ってきましたお」
602
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:18:01 ID:es9erg9o0
返事はない。
ブーンは首を傾げた。
(;^ω^)「王女? あー、少し遅れたこと、怒ってますかお?」
怖かったが、それでも尋ねた。
もしも怒っていたら、素直に謝ろうと思い始める。
しかし、やはり静かなままだ。
胸の奥がざわついた。
まさか、何か起こったのか?
そしたら、なおさら自分の身分が危ない。
(;^ω^)「王女!?」
慌ててドアをノックする。
やはり反応はない。
ポケットの中を探り、スペアのキーと取り出した。
もしものときはこれで部屋に入ることになっていたのである。
603
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:20:05 ID:es9erg9o0
(;^ω^)「失礼しますお!」
言ってから、急いで鍵穴に差し込む。
金属のぶつかり合う音。焦っているせいか、なかなか回せない。
落ちつけと自分に必死で言い聞かせる。
もし王女の身に何かあれば、自分は即刻罪人となるかもしれない。
あの王女に固執する国王のことだ、それくらいやりかねない。
なんとか鍵が回転する。
かちゃりという音。
ノブを捻って、一気に押す。
(;^ω^)「王女!!」
言葉だけがすっ飛んでいく。
顔面に向かってくる風を感じた。
604
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:22:11 ID:es9erg9o0
ブーンは目を白黒させる。
風など、どうして感じるのだろう。
どこから吹いているのだろう。
答えは目の前にあった。
王女の机の前にある窓が開いていたのだ。
夜風がそこから入り込んできていた。
ブーンは首を回し、部屋を確認する。
広い部屋、大きな家具、たくさん詰まった本棚に、ふかふかそうなベッド。
そして、誰もいない。
王女さえも。
(;^ω^)「」
絶句。
そして窓へと駆け寄った。
605
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:24:00 ID:es9erg9o0
まさか飛び降りたんじゃないだろうか。
サックに手をかけて、下をのぞく。
( ^ω^)「!!」
何かが垂れさがっているのがわかった。
ロープだ。それが、真下にある部屋のバルコニーに続いている。
ここは8階だが、まさかすぐ下にそんな足場があるとは知らなかった。
ロープはかなり余裕がある長さだ。
バルコニーでそれはくるくると丸まっており
その先端で大きな袋を結びつけていた。
ロープがどこから伸びているのか気になり、目線を登らせる。
カーテンに隠れた留め具のところを通過し、部屋の中へ続いていく。
やがてそれは大きな本棚の下に向かっていった。
どうやらその本棚を重石にしているようだ。
例えば一旦本をどかして軽くし、ロープの上に置くとする。
それから本を詰めていけば立派な重石が出来上がる。
少女一人を支えることもできるはずだ。
606
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:26:05 ID:es9erg9o0
じゃあ留め具は……考えようとしたが、何故そこを通してあったのかはわからなかった。
むしろ留め具が壊れたりすれば危ない気もするのだが。
方向を固定したかったのだろうか。
バルコニーの方には袋があった。
きっとあの袋にはおもりが入っていたのだろう。
デレはそこへ向けて、ここを伝い、降りたに違いない。
それ以外に脱出経路はない。
ブーンは再び窓の下の光景を見て、それからがっくりと肩を落とした。
いなくなったことそれ自体もショックであったし
デレと話す機会がまた無くなってしまったこともショックであった。
607
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:28:02 ID:es9erg9o0
どうすればいいだろう。
デレを探すべきか? でもどこにいるかもわからない。
この部屋に留まっている理由もない。
ならば、レジスタンスに協力する? でもそれはもう戻れないことの証。
(;^ω^)「あああ、どうしよう」
窓から離れ、ふらふらと動いて、それから椅子に座った。
机の前の、おそらくデレが使っていたであろう椅子。
やけに小さい。
ブーンの方が背が高いからだろうか。
それにしても、小さすぎる。幼いころのままなのではないか。
ここに、彼女はずっと座っていたのだろうか。
その姿を想起してしまう。
608
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:30:07 ID:es9erg9o0
それと同時に、思いだしたことがあった。
何かあったら、部屋をくまなく探すように。
それはデレが言った言葉。
609
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:32:04 ID:es9erg9o0
何かあったら……
あれは、自分で何かをすると宣言していたのだろうか。
そうだとしたら、デレがいなくなった今の状況こそ
部屋をくまなく探す機会。
でも、くまなく探すと言ってもどこを。
そこでまた、閃きがあった。
さきほど、デレの脱出経路考えるときに引っかかった場所。
どうしてカーテンの留め具をロープが通っているのか。
ロープを辿る。
留め具の場所を見るため、カーテンを動かした。
カーテンに隠れたその奥に煌めくものがあった。
( ^ω^)「そうか……」
610
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:34:07 ID:es9erg9o0
デレはロープをここに通した。
それは、これを発見させるためだったんだと、ブーンは合点がつく。
ゆっくりと手を動かす。
カーテンの留め具にかかっていたのは、銀色の小さな鍵だった。
鍵穴を探すこと、数分。
やがて、それが机の下にある小さな棚のものだと判明した。
人の棚を探ることには若干の抵抗はあったものの
思わせぶりに鍵がある以上、それを使いたくなるは無理もない。
( ^ω^)「……ダメだったら、それまでだお」
震える手で、また鍵穴にさしこむ。
さっきも似たような状況だったことを思い出した。
でも、さっきほどは緊張していない。
これがデレの真意に繋がっていると思ったからだ。
そう思うと、恐怖よりもわくわくする気持ちの方が勝る。
611
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:36:05 ID:es9erg9o0
鍵がはまり、解錠される。
棚の取っ手を引く。思いのほかするすると動いた。
普段から使われているのだろうか。
出てきたのは、一冊の厚いノートだった。
『日記帳』と書いてある。
(;^ω^)「これは……」
さすがにまずいと最初は思った。
個人の日記帳を盗み見るのは、いささか倫理に反している。
迷っているうちに、日記帳の上に紙切れがあるのに気付いた。
それを手に取る。
日記を見るよりは罪悪感は薄い。
小さなメモ書きだ。
その場に座り、折られている紙を開く。
(;^ω^)「……!?」
612
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:38:04 ID:es9erg9o0
目を見開いた。
そこに書いてあるのが、まぎれもなく自分のことだったからだ。
『ブーンさんへ
これを持って、読んでください。
それと、余計な音は立てないでね。
デレより』
☆ ☆ ☆
613
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:40:05 ID:es9erg9o0
―― 第五話 前半 終わり ――
―― 第五話 後半へ続く ――
.
614
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/05(木) 23:48:01 ID:es9erg9o0
今日はおしまい。
また明日。
615
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 00:43:39 ID:GN9bRVE20
おつ、また明日が楽しみ
616
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 03:03:32 ID:Rav1g4qUO
おい、いいところで……と思ったが明日ならいいか!
617
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 20:59:23 ID:.J/zgTc.0
第五話後半の始まりです。
618
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:00:17 ID:.J/zgTc.0
ラスティア城8階から9階までの間
すでに螺旋階段を何段も踏み進めてきていた。
お城の中央に聳える塔、その内部を着実に上っている。
いくら進んでも、ひたすらに赤い絨毯が現れてくる。
注意しなければ、自分が本当に進んでいるのかどうかもわからなくなってしまう。
ドクオはヒートの先を歩いていた。
この階段の最上階に国王の部屋があるはずなのだ。
そこへいけば、モララーの剣がある。
('A`)「!!」
突然、ドクオが息をのみ、ヒートの前に手を出した。
('A`)「止まれ」
ノパ⊿゚)「なんだ、魔人か?」
('A`)「ああ」
619
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:02:17 ID:.J/zgTc.0
ドクオはこのお城に入ってから、ずっと魔人の匂いを感じてきていた。
だけど、今彼の感じている匂いはこれまでよりもはっきりしたもの。
('A`)「どうやら、待ち伏せしていた奴がいるみたいだ」
ドクオの手が、腰の柄にかかる。
ノパ⊿゚)「先に言っておくと、魔人相手に大した戦闘はできないぞ」
そういうヒートの手には、既に小型のナイフが握られていた。
ノパ⊿゚)「必要最低限のことをしたら、さっさと上に行く」
('A`)「それでいい。長いは無用だ」
ドクオの剣が抜かれる。
暫く使っていなかった剣だが、しっかりと光沢を帯びている。
こういう道具の手入れは怠らないのが彼の信条だった。
その握り手に力が籠る。
周りの空気が変わったのを感じたからだ。
620
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:04:18 ID:.J/zgTc.0
「貴様ら、何者だ」
螺旋階段の奥から人の声がした。
('A`)「……わけあってな、国王の部屋にいかなくちゃならないんだ」
「それはできないな」
最初の声とは少し違う声色。
('A`)「二人か」
ドクオは剣を引き絞る。
「国王の部屋には俺の主君が用なのだ」
「誰も通すわけにはいかない」
強気な口調が階段に響く。
ドクオは舌打ちをする。
高低差のある場所では下にいる者の方が不利だからだ。
621
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:06:18 ID:.J/zgTc.0
('A`)「……そんなら、どうすればいい」
「わかりきったことを」
「そんなの決まっているさ」
ドクオはヒートに目線を送る。
顎で先を示す。
('A`)「敵が来たら駆け抜けてくれ」
せめてヒートだけでも先に送ってやると思ったのだ。
敵がこちらに向かってくる隙に彼女が走れば、そうやすやすとは追いつけないはず。
ノパ⊿゚)「了解した」
短く答え、それから走りだすポーズをする。
ドクオは前を向いた。
階段の壁に影が見える。
622
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:08:18 ID:.J/zgTc.0
影が、一気に大きくなる。
敵が近づいてきている、螺旋階段を駆け降りて。
ドクオは剣を腰に据えて走りだす。
ヒートがその背後に隠れるようにして続く。
敵の姿が露わになる。
二人の姿。
( ´_ゝ`)「俺たち流石兄弟!」
(´<_`;)「俺たちを倒せたらな……兄者、言葉がそろってないぞ」
ぐだぐだの声色が重ねられてくる。
623
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:10:18 ID:.J/zgTc.0
二本の斧が振るわれてくる。
ハルバード、槍斧だ。
その武器が使われだしたのは、14世紀からだと言われている。
槍と斧を組み合わせた武器であり、
まだ世界が戦争をしていた頃は、人気のある扱いやすい武器だった。
二人組のやりとりこそ茶番だが、この武器は本物だ。
('A`)「いいもんもってるじゃねえか」
ドクオは楽しそうに言う。
剣を握る手のひらに力が籠る。
早速、戦闘が開始となった。
624
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:12:18 ID:.J/zgTc.0
ドクオは向かって左の男からくる一撃を交わし、右の男の一撃を剣で弾く。
そのまま身体を右の男へぶつける。
(´<_` )「うお!」
( ´_ゝ`)「弟者、そいつを抑えろ!」
ドクオが体当たりした男、弟者は体勢を崩しつつもドクオの腕を掴んだ。
離れようとするが、力が強い。
目の前では兄者が斧を引き寄せている。すぐに次の攻撃が始まるだろう。
('A`)「ヒート! 走れ!」
ノパ⊿゚)「おうよ!」
( ´_ゝ`)「え?」
兄者の動きが止まる。
その背後をヒートが駆け抜けていく。
(;´_ゝ`)「ぬお、見逃したあ!」
(´<_`;)「兄者、今はそれはいいからこいつをむぐっ!?」
隙をついて、ドクオは弟者の顔に蹴り込んだ。
腕が離れる。その脇を抜け、上段に立つ。
625
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 21:13:50 ID:.KT3oBGQ0
お、きたか
弟の鼻が全角になってるよ
626
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:14:17 ID:.J/zgTc.0
(´<_`;)「ぐ……くそ」
鼻を抑えて、弟者が呻いた。
そこへ、ドクオは一気に斬り込む。
( ´_ゝ`)「おっと、そうはさせねえ」
弟者の前に兄者の斧が出され、ドクオの攻撃をはじいた。
ドクオの足は方向を変える。
兄者の方へ。
弾かれた剣を握りなおし、下からの攻撃に切り替える。
兄者は槍斧を使って盾とする。
斧という武器は、主に振り下ろして攻撃する。
石器時代から存在する人間の原始的な道具が発達したものだ。
そのフォルムから、近接戦闘では防御面で有利に立つことができる。
これは剣にも槍にもない利点と言えた。
槍斧にしても、斧がついている以上は同じことがいえる。
627
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:16:27 ID:.J/zgTc.0
しかし、防御をする際には刃の腹を敵に向けなければならない。
攻撃に切り替えるためには、刃を敵に向けてから振りかぶる動作が必要になる。
普通に扱うにしても動作が緩慢な斧にとって、そのタイムロスは重要な弱点であった。
兄者はなんとか柄を握りなおすチャンスを見極めようとしていた。
ドクオの攻撃がやむとき、バランスを崩すとき、なんだっていい、ちょっとの隙があれば。
だけど、ドクオとて元衛兵の一員、訓練は積んでいた。
その斬撃に無駄は無い。斬りかかってはすぐに身を引き、次の攻撃の構えへと続いていく。
素人目には攻撃がいつまでも続いているように見える。
もちろん戦闘慣れしていれば、剣を引いた一瞬をついてアクションを起こすこともできた。
手元を叩きつけてもいいし、武器など捨てて殴りかかってもいい。
だけど、兄者はただ冷や汗を流して剣の先を目で追うばかり。
その様子をみて、ドクオはすでに気付いていた。
彼らは実戦経験が少ないようだと。
(´<_`#)「このお!!」
横から弟者の怒鳴り。
ドクオは咄嗟に階段を跳んでのぼった。
目の前に一直線に伸びる槍斧。
628
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:18:18 ID:.J/zgTc.0
兄者の槍斧とぶつかり、金属音が聞える。
そんなことをすれば、お互いに傷がついてしまう。
ドクオはそのことがわかっていたので、顔を顰めた。
('A`)「立派な武器を持っているようだが、宝の持ち腐れだな」
双子が睨んでくる。
武器を引いて、それぞれ再び構えなおす。
('A`)「ほら、今度は俺が上に立ってる。形成は逆転だ」
挑発するドクオ。
これにのってくれれば、武器は自分に振るわれるだろう。
おのずとその攻撃領域も予想できる。
身体を上手く運べば、カウンターは容易い。たとえ敵が二人でも。
ドクオは頭の中でそう算段した。
一層の集中。
緊張が張られる。
629
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:20:17 ID:.J/zgTc.0
その緊張が破られたのは
意外なことに、ドクオよりもさらに上の階からだった。
ノハ;゚⊿゚)「な、なんだこれ」
ドクオが顔だけを素早く向ける。
何故か階段の途中でよろめくヒートが見えた。
(;'A`)「おい、どうした? 急げよ!」
ノハ;゚⊿゚)「違うんだ、何か、見えない壁があって」
「ふふふ」という笑い声。
ドクオとヒートは双子を見下ろした。
( ´_ゝ`)「俺の主君の出した命令はこうだ。
よしと言うまで誰もそこに入れるなってな」
630
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:22:14 ID:.J/zgTc.0
そう言って、兄者は頭を指さした。
( ´_ゝ`)「悪いがその見えない壁は俺が張らせてもらった。
誰もそこを通させやしない。俺を倒さない限りな」
髪の下が膨らみを持つ。
形となって持ちあがる。
('A`)「魔人か」
∧_∧
( ´_ゝ`)「その通り。
親切に教えておくと、契約してあるのは俺だけだ」
∧_∧
(´<_` )「……それはカッコつけてまで言わない方が良かったんじゃないか?」
∧_∧
(;´_ゝ`)「え、まじd」
兄者のセリフが途切れる。
ドクオがすぐに斬りかかったからだ。
631
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:25:07 ID:.J/zgTc.0
耳ずれ過ぎてて吹いた。
そういえばテストしてなかった……
少し直してきます。
632
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:28:01 ID:.J/zgTc.0
∧_∧
(;´_ゝ`)「な、おいちょっと空気読めって」
('A`)「んなもんしるか、だいたいさっきから匂いでわかってるよ」
∧_∧
(;´_ゝ`)「なに!? それを先に」
∧_∧
(´<_` )「兄者、うまく避けろよ」
簡素な忠告。
兄者が返答する暇もなかった。
直感的に、ドクオは数歩後ろに下がる。
弟者が槍斧を真横に振るったのだ。
その身体の半径1メートルが斬撃の通り道となる。
∧_∧
(;´_ゝ`)「あぶなあ!?」
もちろん、兄者もその射程圏内。
弟者の斬撃に巻き込まれそうになるのを、身体を反らせることで避ける。
手をばたばたと回して、なんとか転ばずに済んだ。
633
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:31:42 ID:.J/zgTc.0
兄者の槍斧が手からこぼれ落ちる。
なんとか踏みとどまった兄者が、歯噛みして弟者を睨みつけた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「弟者! 危ないじゃないか!」
手振りで精いっぱいに抗議のアピールをする。
それに対して弟者は冷ややかな視線を向けるだけ。
∧_∧
(´<_` )「いや、戦闘ってこういうものだろ」
そしてすぐに顔をドクオの方に向ける。
∧_∧
(´<_` )「さてと、戦闘といきましょうや」
('A`)「最初からそのつもりだが」
ドクオは改めて自らの剣を引き締めた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「まったく……ん?」
足元に目を向けて、ぴたっと動きが止まる。
さきほど落としたはずの槍斧が消えている。
いったいどこへ。
634
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:33:39 ID:.J/zgTc.0
ノパ⊿゚)「いいもんもらった」
ヒートが言う。
彼女がいるのは、兄者より数段下。
その得意そうな顔の横に、兄者の槍斧を掲げている。
盗むという本能に近い行動が、彼女を素早く行動させていた。
兄者が背後の音に気付いて振り向いたときにはもう
彼の顔面に向けて、槍斧の柄の部分が突かれていた。
∧_∧
(;´_ゝ`)「あ……」
ぽつり、と一言。
その視界はすぐに真っ黒に染まる。
∧_∧
(´<_` ;)「あ、兄者!」
弟者が慌てて足を向けようとする。
635
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:35:44 ID:.J/zgTc.0
しかし、その鼻先で煌めきが走り抜けた。
('A`)「お前の相手は俺だ」
ドクオは冷たく宣告する。
目を細めて、弟者の顔色をうかがっている。
∧_∧
(´<_` ;)「……うう」
弟者は歯を噛みしめながら、身体をドクオに向けた。
その腕の槍斧を再び握りなおす。
('A`)「いくぞ」
剣を引っ込め、振りかざす。
弟者が慌てて、槍斧を防御に活用する。
636
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:37:41 ID:.J/zgTc.0
ドクオと弟者の攻防が繰り返されている頃、階下でヒートは締めに入っていた。
ノパ⊿゚)「もういっちょ!」
わなわなと顔面を抑える兄者に対して、回し蹴りが炸裂する。
それ自体に威力があるわけではない。
でも、その靴の下にはバネが仕込まれていた。
シュールお手製の、高いところまで飛び跳ねることができる仕組み。
それは地面を離れた瞬間に、バネの力が靴の下側へと作用する。
その結果として思いっきり跳ねることができる。
ヒートの尋常ならざる脚力によって下支えされている道具であった。
今、ヒートの足が兄者の顔を離れようとする。
その瞬間に、
そのバネの力を利用した装置が作動した。
バネの力が靴の真下へ。
637
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:39:40 ID:.J/zgTc.0
兄者の頭を駆け抜ける衝撃。
壁に激突する後頭部。
血潮が駆け巡り、兄者の思考が混濁する。
∧ ∧
(;´_ゝ`)「くおお……」
か細い呻き。
目をいくら瞬いても、視界がぶれる。
力が抜けていく。
ノパ⊿゚)「じゃあね!」
そういって、ヒートは槍斧の柄を振りあげ、降ろした。
兄者の頭に目がけて。
すこんという小気味よい音が鳴る。
それがスイッチだったのだろう。
ほどなくして、身体を支える意志も消え、
兄者はあっさりと地面に突っ伏した。
638
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:41:41 ID:.J/zgTc.0
上階にて、ドクオは横目でその様子を確認する。
にやりとして、それから弟者に呼びかけた。
('A`)「おう、どうするよ」
∧ ∧
(´<_` ;)「……」
槍斧を構えたまま、弟者は話そうともしない。
ヒートが兄者を倒す間にも攻撃は交わされていた。
相変わらず、ドクオによる一方的な攻撃。
相手が弟者に変わろうとも、その優位は譲らせない。
それにもかかわらず、弟者は目をちらちらと階下に向けていた。
どうやらよほど兄者が気になっているようだ。
('A`)「おい」
しびれを切らして、ドクオが言う。
弟者は目を向けて、それから見開いた。
ドクオの剣の切っ先がまっすぐその顔に向けられている。
弟者の目に恐怖が浮かぶのが手に取るようにドクオにはわかった。
('A`)「おたくの連れはもうダメみたいだぜ?
いくら魔人のお前でも、不思議な力なしに前と後ろからはきついんじゃないか?」
639
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:43:41 ID:.J/zgTc.0
追い打ちをかける目的で、ドクオは語りかける。
なるべくなら無駄な乱闘はしたくない。
その思いから、譲歩のつもりで言っていた。
('A`)「どこでそんな武器を仕入れたかは知らないがな。
斧と剣の相性を考えてなかったのが悪いんだぜ?」
∧ ∧
(´<_` ;)「相性、か。
そうとも、何もかも兄者に任せていたからこうなったんだな」
弟者はそう言って、顔を強張らせた。
('A`)「なあ、あんたらの主人って誰だよ」
ドクオが質問する。
こうして魔人が防衛している以上、契約した相手がいるはずだ。
∧ ∧
(´<_` ;)「契約したのは兄者だ」
('A`)「そうかもな。でもお前もここにいる。
ってことは、お前にも雇い主がいるはずだろ?
兄者の契約主がお前に頼んできたのかもしれないしな」
∧ ∧
(´<_` ;)「……ご明察だよ。
だが、ここで言う必要もないだろう。どうせ上にいけばわかる」
640
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:45:46 ID:.J/zgTc.0
弟者はそういって、ドクオよりさらに上を顎でさした。
ドクオはそちらを見ず、弟者へ向けた剣も降ろさなかった。
('A`)「そうか。なら、退け」
∧ ∧
(´<_` ;)「……ああ、いいぜ」
弟者が息をもらし、肩を落とす。
槍斧も階段の一つに横になる。
刃の部分が大きいため、わずかに刃の方が段から外れ、浮いた形となる。
ドクオはそれを確認して、首を縦に振る。
許すときのサイン。
('A`)「いい判断だ」
途端に、弟者がほっとした様子になる。
緊張が解けた、と表情が語っていた。
('A`)「おい、ヒート、行くぞ」
641
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:48:03 ID:.J/zgTc.0
ドクオは階下のヒートに顔を向けて、手を振った。
こっちにこいという合図。
意識は完全にそちら側。
('A`)「おっと」
油断していたのか、ドクオはつい剣を落としてしまった。
からからと音を立てて、滑り落ちる。
それを拾おうとして、ドクオは思わず身を屈めそうになった。
∧ ∧
(´<_` )「……なんてな」
弟者が呟く。
彼は隙を見逃さなかった。
というよりも、最初から隙を探していた。
ノパ⊿゚)「……あ」
倒れた兄者の横で、彼女は顔を上げていた。
ドクオを見上げる状態。
だから気付くことができた。
642
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:49:40 ID:.J/zgTc.0
ノハ;゚⊿゚)「ドクオ、危ない!」
先程地面についた槍斧の先を、弟者が踏みつけた。
てこの原理。
槍斧の刃が下の段につき、代わりに柄が上に上がる。
半回転したそれは、弟者の手のひらに収まる。
そのまま勢いが活かされた。
手のひらは握りこぶしに変わり、肘が動く。
槍斧はさらに回転し、今まさに高く振りあげられていた。
ドクオはいまだに前傾姿勢。
その背に弟者の視線が突き刺さる。
∧ ∧
(´<_` ;)「ふん!!」
気合の一声。
振りかざされる槍斧。
剣で受け止めることもできない。
643
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:51:41 ID:.J/zgTc.0
それに対し、
ドクオは避けるどころかむしろ、敵の懐へと飛び込んだ。
∧ ∧
(´<_` ;)「!?」
空振り。
斧はただ空気を切り裂いただけ。
勢いで階段に突き刺さる。
一方で
刃も何もついていない柄の動きをはっきりと見極めてから
ドクオは右手を引いて力を込めた。
('A`)「いいことを教えてやるよ」
足が前に出る。
重心が移動する。
('A`)「武器に頼りきってちゃ、いつまでたっても見習いだぜ?」
身体の自然な流れに乗って、握られた拳が敵の顔面に突き刺さる。
鼻の骨の砕ける感触が、確かにドクオに伝わってきた。
悲鳴を出す間も無く、弟者の身体が横ざまに吹きとばされる。
644
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:53:41 ID:.J/zgTc.0
∧ ∧
(´<_` ;)「がっ……ふ」
壁にぶつかって呻く弟者。
床へと滑り落ちて、そのまま身を屈める。
嘆息。
ドクオのものだ。
弟者の垂れた頭を一瞥。
それから舌打ち。
('A`)「……ちょっと手が痛いわ」
忌々しげな目で、ドクオは自分の拳を睨んでいた。
645
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:55:43 ID:.J/zgTc.0
ノパ⊿゚)「やー、暴力的な人怖いわー」
飄々とヒートが上ってくる。
('A`)「……そっちは壁にめり込んでいるようだけど」
ノパ⊿゚)「うん」
('A`)「…………」
兄者が気絶したことで、すでに壁は無くなっていた。
二人は安心して先へ進む。
この先に誰が待ち構えているのかと気になりながら。
☆ ☆ ☆
646
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:57:40 ID:.J/zgTc.0
10階、すなわち、塔の最上階
国王の部屋
扉は開かれていた。
('A`)「……あいつらがいっていた奴か」
ノパ⊿゚)「誰がいるんだろうな?」
('A`)「さあ?
こんなときにこっそり忍び込もうって奴だ。
どうせ碌な奴じゃないんだろうさ」
階段を登りきる。
真っ暗な廊下。
部屋の明かりは異様にまぶしい。
人影が見えた。
壁の装飾品に顔を向けている。
後ろ姿だけでは誰か判別できなかった。
647
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 21:59:41 ID:.J/zgTc.0
彼が、あの双子の一人、兄者の契約者だろうか。
誰も通すなと指示した人物。
その人の腕が、上げられる。
壁にかけられた剣へと伸びていく。
('A`)「そいつに触れるな」
部屋に踏み込んだドクオは、さっそく告げた。
男が動きを止める。
右手ではすでにルビーの剣の柄を握っている。
「何者かな」
物静かな声。
振り返らなくても、誰かが来たことはわかっていたのかもしれない。
('A`)「それはこっちのセリ……フ?」
648
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:01:43 ID:.J/zgTc.0
最後の最後で、疑問符を浮かべた。
聞いたことのある声だったからだ。
数秒固まる。
沈黙。
そして、ドクオは息をのんだ。
(;'A`)「……あんた、まさか」
ドクオの声が震えていた。
ノパ⊿゚)「おい、どうしたんだよ?
知ってる人か、この人?」
ドクオの後方でヒートが聞いた。
だけど答えが返って来ない。
ドクオには答える余裕が無かった。
649
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:03:40 ID:.J/zgTc.0
(;'A`)「なんであんたなんかがここに……」
ドクオの頭の中が大きくうねる。
その人は、剣の柄をはっきりと握った。
そのまま、身を捻り、ドクオとヒートに対峙する。
剣の切っ先がまっすぐに二人に向けられた。
部屋の暖色の光を反射し、煌めく。
「良い剣だ」
端的に、男は評価する。
国王の部屋に、どうしてその人がいるのか、
ドクオには全く理解できなかった。
650
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:05:42 ID:.J/zgTc.0
ただ、今の自分が窮地に立たされていることだけははっきりとわかる。
( ФωФ)「この剣がここに飾られているのは、確かに惜しい」
ロマネスクはそう言って、冷ややかな目を向けてくる。
猫目が二人を捉える。
そして、ドクオとヒートがアクションを起こす前に
彼はもう片方の手を前へと突きだしていた。
☆ ☆ ☆
651
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:08:01 ID:.J/zgTc.0
8階
王女の部屋
足音が聞えてくる。
ブーンは思わず身を構えた。
日記はまだその右手に握られている。
実は少しだけ、既に中身を読んでいた。
最後の方だけだが。
胸が高鳴っている。
でも音が聞えている以上は気をつけなければならない。
いったい誰が来たというのか。
扉の前で、音が止まる。
開かれると、その先に顔が見えた。
652
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:10:03 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「あ……」
ブーンはほっとする。
見知った顔だったからだ。
なんだ、びっくりしてしまった。
( ^ω^)「どうしたんだお、ジョルジュ」
首を傾げて問いかける。
相手は肩をすくめた。
( ゚∀゚)「いや、なあに。大変かなと思ってさ」
ジョルジュは軽快な足取りでブーンに近づいた。
( ^ω^)「大変?」
言葉が気になったので、ブーンは繰り返した。
653
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:12:10 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「大変ってどういうことだお?」
( ゚∀゚)「そりゃ、単純に、お仕事がよ」
ジョルジュはそう言って笑う。
なんで笑っているのかわからなかったが、
ジョルジュはいつでもにやけているしそんなものかとブーンは思った。
( ^ω^)「まあ今夜はいろいろあったんだお。
ちょっと大変な面もあったお。
というか、レジスタンスの方はどうなったんだお」
( ゚∀゚)「ああ、ちょっとお前にも言いたいことがあってさ。
大丈夫。あいつらきっと上手く言ってるさ」
( ^ω^)「そうかお?
まあ、そう失敗する人たちじゃなさそうだおね。
あ、言いたいことと言えば僕もあるんだお!」
そう言って、ブーンは自分の手元に目をやる。
日記帳。
( ^ω^)「これをちょっとだけだけど、読んだんだお。
少ししか読んでいないけど……でも……」
654
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:14:02 ID:.J/zgTc.0
日記を持つ手に力が入る。
自分の考えを整理するブーン。
どうしても、この内容だけはちゃんと伝えなくては。
今後の自分の行動に関わる大切なことなんだから。
( ^ω^)「ひょっとしたら僕は、とんでもない間違いを――」
話しながら顔を上げた。
輝いていた目。
それが、急速に光を失う。
目の前に、矢があった。
ジョルジュの構えるクロスボウの矢。
(;^ω^)「…………は?」
思考が追いついていなかった。
655
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:16:01 ID:.J/zgTc.0
どうして自分に敵意が向けられているのかもわからなかった。
(;^ω^)「なんの冗談だお、ジョルジュ」
ブーンはおどけた調子で言う。
ジョルジュがいつものままなら、それにのっかって笑い飛ばしてくれるはず。
だけど、予想していた笑い声は聞こえてこない。
ジョルジュはただ、まっすぐな瞳でブーンを見つめてきていた。
☆ ☆ ☆
656
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:18:03 ID:.J/zgTc.0
国王の部屋
外を強風が吹き付けた。
ガラスが揺れる。
だけど、それは一瞬のこと。
すぐに部屋はもとの静寂に包まれる。
その部屋に突然
高笑いが響き渡った。
ロマネスクの高笑いだ。
彼は剣をくるくるとまわしていた。
その顔には満面の笑み。
不気味な細い目が光る。
( ФωФ)「すまないが、本気を出させてもらった」
ロマネスクの腕が振るわれる。
ルビーの剣が空気を切り裂く。
鋭い音がする。
657
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:20:02 ID:.J/zgTc.0
( ФωФ)「話す暇さえ与えなくてすまなかったな」
ロマネスクはそう言って、鼻を鳴らした。
( ФωФ)「しかし、万が一のことを考えてここを守っていて正解だった。
とんだ賊がいたものだ。こんなところまでご苦労なことよ」
ロマネスクはそう言って、身を捻った。
剣の鞘もまた飾られていたのだ。
その鞘を手に取り、ルビーの剣をおさめようとする。
綺麗な刀身。
それが、するりとおさまる。
( ФωФ)「おっと、まだだ」
そう言って、ロマネスクは腕を突きだした。
( ФωФ)「まだ少し、やらなきゃならないことはある」
そう言って、ロマネスクは歩きだした。
扉の方へ向けて。
☆ ☆ ☆
658
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:22:02 ID:.J/zgTc.0
王女の部屋
( ゚∀゚)「冗談じゃない、割と真剣だぜ?」
ジョルジュはそう言って、クロスボウの持ち手を握りなおす。
片手で引ける小型のクロスボウ。
( ゚∀゚)「ブーン、はっきりさせてくれ。
お前は敵か味方か、どっちなんだってな」
それははっきりとした宣告。
敵か味方か、その二者択一。
659
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:24:03 ID:.J/zgTc.0
どうして、ジョルジュがその質問をするんだろう。
なんで自分が心の中で自問して、結局は封印した内容をこの男が追求してくるんだ。
ブーンは瞳を揺らした。
( ^ω^)「…………何か、疑われるようなことしたかお?」
( ゚∀゚)「林の中でな」
ブーンの背筋が凍る。
それははっきり顔に表れていた。
だからジョルジュも顔をゆがめる。
( ゚∀゚)「心当たりはあるんだな」
(;^ω^)「あ……」
( ゚∀゚)「そうさ。お前があのウサギの耳の女の子と一緒にいたのを俺は見たんだ。
あの子は魔人の子なんだろ?」
660
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:26:06 ID:.J/zgTc.0
( ゚∀゚)「そしてお前はこうも言っていた。
その魔人の敵にはならないってな。
じゃあ、お前の立場は今どうなっているんだろうな」
(;^ω^)「て、敵じゃないお!
もちろんレジスタンスとも。じゃないと協力はしないお!」
ブーンは冷や汗をかきながらも訴えかけた。
その足がすくむ。
( ゚∀゚)「確かに、今日もこうして手伝ってくれているしな。
お前はレジスタンスに敵対するつもりはないんだろ」
ブーンは一旦、息を吐く。
とにかく落ちつこうとした。
まだジョルジュは自分を敵とみなしたわけではない。
クロスボウで狙われているものの、落ち着いて話せば理解してもらえるはず。
661
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:28:05 ID:.J/zgTc.0
(;^ω^)「すごく……微妙な立場なのはわかっているお」
ブーンは最初にそう付け加えた。
(;^ω^)「モララーさんのことを知っていたから、あの人の描いた理想の世界に興味が湧いて
それで君らと協力していたお。それはそれで、確かに楽しかったんだお」
(; ω )「でも、身近に魔人の友達がいることがわかって……
その子からもレジスタンスの活動には協力しないでくれと懇願されていて」
(; ω )「確かに魔人と仲良くすることはレジスタンスの考え方と反してしまうお。
だけど僕は……正直なところ彼女と、ツンとは真っ向から対立できないお。
そこまでして魔人を恨むつもりは無かったんだお。ただ、モララーさんの後を追っかけていただけで」
(; ω )「だから、それでレジスタンスに迷惑がかかるなら
僕はもう君らに近づかないお。協力する資格なんてないんだから……」
ブーンの頭が垂れる。
今まで、レジスタンスと共に活動してきた。
ほんのひと月のこと。
それでもブーンの心には残っている。
662
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:30:09 ID:.J/zgTc.0
だけど、どこまでもその組織についていけるわけじゃない。
特にツンからの告白を受けてからそう強く思うようになった。
いつかは抜けなくちゃならない。
この作戦が終わったら考えようとしていた。
それが、今こうしてジョルジュに問われている。
先延ばしにしてきた結論を言わなければならない。
だから思いのほかすらすらと、ブーンは自分の考えを伸びた。
すでに考えは固まっていたのだろう。
ブーンは自分の発言を客観視した。
それがここまで言えなかったのは
レジスタンスと一緒にいた日々が楽しかったから。
モララーさんが亡くなってから彼らと過ごして、笑うことを取り戻した。
仲間という存在ができた。
自分でも気がつかないうちに、それが大きな支えになっていた。
前を向く力になっていたのである。
663
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:32:03 ID:.J/zgTc.0
それをこうして、自分の手で手放さなきゃならない。
せっかくの支えをまた無くす。
ブーンの腹の底に寂しさがあった。
暗い渦巻のように、全てを掻き乱す。
耐えきろうとして、歯を強く噛んでいた。
目もぎゅっと閉じる。
もし緩めれば、涙が流れてしまいそうだった。
( ゚∀゚)「つまり、敵でも味方でもないってことだな」
ジョルジュの声が耳に届いてくる。
その発言の真意は測りかねた。
中途半端すぎただろうか。
結局味方でないのだからと、自分は射抜かれてしまうのだろうか。
それとも自分の優柔不断を笑い飛ばされるだろうか。
664
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:34:04 ID:.J/zgTc.0
不安がこみあげてくる。
心臓が早鐘を打ち始めた。
苦しい。
自分の考えを述べることはこんなに辛かったんだ。
久しく忘れていた恐怖心がよみがえってくる。
どうかこの時間をすぐに終わらせてくれ。
頭の中で、そう念じた。
誰に対してでもなく。
やがて、何かのこすれる音がした。
それを引き金にして、ふっと目が開く。
665
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:36:01 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「……?」
まだ撃たれてはいない。
恐る恐る、顔を上げる。
( ゚∀゚)「そう言うと思ったさ」
ジョルジュが武器を降ろしていた。
顔にはいつものような、不敵な笑み。
( ^ω^)「……え?」
クエスチョンマークが浮かんでくる。
( ゚∀゚)「あの林の中で、俺は二つの可能性を考えた」
ジョルジュが愉快そうに話し始めた。
666
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:38:05 ID:.J/zgTc.0
指を一本突き立てる。
( ゚∀゚)「お前が魔人と通じて俺らの邪魔をする可能性が一つ。
もしこれだったら、ここまで来る間にお前に対してこれを撃っていた。
少しでも怪しいことをすれば、な」
( ゚∀゚)「睨みは効かせていたけど、結局何も起きなかったし安心したぜ」
ジョルジュはそう言って歯を出し、にやりとする。
腕はすっかりだらけていて、後頭部を抑えている。
そして、二本目の指が突き立てられた。
( ゚∀゚)「もう一つは、お前が単純に板挟み状態な可能性。
もしこれならお前は悩んでいるんだろうなって思っていた。
俺たちも、そのツンっていう女の子のことも裏切れない性格だろうしな」
「え」と、思わずブーンの口から声が漏れる。
(;^ω^)「じゃあ何かお。
ここに来た時点で僕は君らの敵にはならないってわかっていたのかお?」
667
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:40:04 ID:.J/zgTc.0
( ゚∀゚)「確率はだいぶ低いと思っていたよ」
(;^ω^)「じゃ、なんでそんな物騒なもん僕に向けたんだお!?」
( ゚∀゚)「だってお前、これくらいしないと自分の考えなんか言わないじゃん。
それに他のレジスタンスの仲間がいた場合も、きっとみんなに気を使って本音を隠すだろうし」
ブーンは口をポカンと開けた。
(;^ω^)「え……ええ、えええ??」
目を瞬いて、頭を抑える。
(;^ω^)「僕はどれだけ気弱に思われているんだお……」
( ゚∀゚)「ま、敵でないってはっきりするのはいいことさ。
そして俺も、お前の敵にはならん」
ジョルジュのあっけらかんとした発言を耳にして、ブーンは小首を傾げた。
668
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:42:04 ID:.J/zgTc.0
( ^ω^)「いいのかお?
僕はレジスタンスには協力できないってはっきり言っちゃったけど」
( ゚∀゚)「ああ、でも個人としては別さ。
お前はモララーさんも認めた奴なんだし、俺だって気にいってる。
きっと将来的に何かでかいことをしでかすと期待しているんだ」
期待、と聞いてつい萎縮してしまった。
(;^ω^)「うう……そうかお?」
( ゚∀゚)「ああ。だから困ったことがあったら言ってくれ。
きっと役に立つはずさ」
ジョルジュが手を伸ばしてくる。
握手。
669
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:44:04 ID:.J/zgTc.0
ブーンは溜息をついた。
腹の底の渦巻が消えていく。
平和な凪いだ海。
( ^ω^)「ありがとうだお、ジョルジュ」
手を握るブーン。
それを見て、ジョルジュは小さく頷き、それから言葉をつづけた。
( ゚∀゚)「それに、俺もそろそろレジスタンスを離れようと思っていたころなんだ」
唐突な発言だった。
手を離して、ブーンは目を見開く。
(;^ω^)「なんでだお?」
( ゚∀゚)「そろそろ国に帰らなきゃいけないみたいなんだよね」
670
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:46:04 ID:.J/zgTc.0
ジョルジュはちらりと窓の外を見た。
城下町の方。
なんでそちらを見たのだろう?
( ^ω^)「テーベ国にかお……それは残n――」
言葉が途切れてしまったのは、気配を感じたからだ。
音が聞えてくる。
ばたばたとした音。
(;^ω^)「誰かここにくるみたいだお!」
(;゚∀゚)「え、まじで?」
もしかして王女が帰ってきたのだろうか。
それとも別の警備の、魔人や衛兵だろうか。
どちらにしろ今この場でジョルジュを見つけられてしまうのはまずい。
(;^ω^)「ジョルジュ、窓だお窓!
脱出できるロープがあるんだお!」
671
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:48:03 ID:.J/zgTc.0
急いで彼を促す。
二人は窓辺へ移動する。
ロープは相変わらずだらりと階下のバルコニーに垂れさがっていた。
( ^ω^)「これを使って下へ逃げて、隙を見て逃げてくれお」
( ゚∀゚)「おおう、結構難易度高そうだな」
ジョルジュはそうぼやく。
しかしその顔は笑っている。
彼はそういう人なんだとブーンは思う。
楽しいこと、興味があることをする、そうしているうちは目いっぱい笑う。
自分を助けてくれるのも興味があるからだ。何かをしてくれるという期待。
そうして偏見もなく、立場も推してまっすぐに意見を聞いてくれる。
寄宿舎で会ったときとは全然違う。
よほどモララーさんに絞られたんだろうなと思い、ブーンはくすりと笑った。
672
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:50:08 ID:.J/zgTc.0
( ゚∀゚)「何笑ってんだよ」
(;^ω^)「お、お前に言われたくないお!」
言い返そうとするジョルジュだったが、部屋の扉がものすごい勢いで叩かれたために中断する。
( ゚∀゚)「じゃ、いくわ。
もしテーベに行く機会があったらこれを持っていきな」
ジョルジュは胸ポケットから一枚の紙切れを出し、ブーンに渡した。
それは何かと追求する前に、とっととジョルジュは降りてしまう。
いつも通りの勝手な奴。
しかたなしに、紙をポケットにしまい込む。
「おい、ブーン! いるんだな!」
扉の向こう側から声がする。
673
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:52:14 ID:.J/zgTc.0
聞いたことのない声。きっとお城を警備していた衛兵だ。
とにかく急いで対応しようと思い、ブーンは近づく。
「お前に聞きたいことがある。王女のことだ」
ドアのノブに手をかける直前、そう言われた。
ブーンの手が止まる。
王女はどこへいったのか。
何かあったのだろうか。
嫌な汗が流れる。
674
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:54:04 ID:.J/zgTc.0
(;^ω^)「い、今開けますお!」
慌ててそう言い、ノブを捻る。
それが王女の部屋で起こったお話。
☆ ☆ ☆
675
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:56:22 ID:.J/zgTc.0
('A`)「…………」
ドクオは黙っていた。
ロマネスクを見据える。
後ろのヒートにしていたって同じことだ。
彼らの目は、ロマネスクの突きだした手に集中している。
そこには、スケッチブックが握られていた。
素朴な読みやすい字が見える。
頭の中で、何度もその文章を読んでいた。
その通りにしていた。
だから、黙っているのである。
それは、次の文章だった。
676
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 22:58:03 ID:.J/zgTc.0
『 無駄話をするな!
全部聞かれているぞ! 』
.
677
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:00:13 ID:.J/zgTc.0
( ФωФ)「すまないが、長くなってしまうだろうな。
そもそも君らのことも知らないし、少し場所を移してゆっくり話そうではないか」
('A`)「……俺らを殺そうとする可能性は」
( ФωФ)「ない……とは言い切れないな。
ただ、よほどのことが無い限り私はお前たちに危害は加えんよ。
何分複雑な事情を抱えているのでな」
('A`)「じゃあ、一つだけ先に教えてくれ。
あんたはその剣をどうして手に入れようとしていたんだ?」
ドクオの指先が、ルビーの剣に伸びていく。
今もまだロマネスクの手中にある。
( ФωФ)「ああこれか。大したことではない。
王女がどうしても傍に置いておきたいと言っていたんだ。
あの……モララー殿の形見をな」
懐かしそうに目を細めるロマネスク。
その目に敵意が無いことは、ドクオたちの目にも明らかであった。
それが国王の部屋で起きたお話。
☆ ☆ ☆
678
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:02:10 ID:.J/zgTc.0
7時50分頃
ラスティア城敷地内
南にある大木の裏
彼女がここにいう理由を簡単に説明する必要がある。
まず、彼女は落とし穴にはまった。
落下に身を任せ、自らの発明品でその衝撃を受け流しているうちに
気がついたらお城の外へと吐きだされてしまっていたのである。
そのまま、しばらくは身を潜めていた。
すぐに助けはくるかなとタカをくくっていた。
しかし、いくら待っても誰もこない。
てっきりジョルジュあたりが駆り出されてくると思ったのに、薄情な奴らだと彼女は思った。
とはいえ、愚痴っている場合でもない。
下手にうろついていたら衛兵に見つかってしょっ引かれてしまう。
彼女にできることは、外で仲間が出てくるのを待つことだけだ。
679
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:04:03 ID:.J/zgTc.0
そのため、静かに大木の裏で息を潜めていた。
そこは茂みが近く、いざとなれば隠れられる。
門からも近い。仲間が助けに来なければ、寝ぼけている衛兵を吹きとばしてでも脱出しよう。
心の中で算段を決めていた頃
lw;´- _-ノv「……なんだ、あれは」
彼女が見たのは、人影。
お城の前をこそこそと歩いている。
その人の衣服がドレスなので、シュールはもしやと思った。
あれは王女なのではないか。
興味が湧いた。
なんで王女が自分の住んでいるお城でこそこそするのだろう。
680
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:06:02 ID:.J/zgTc.0
あとはその好奇心に従った。
彼女は小屋が立ち並ぶ場所へと向かっていった。
シュールもそれの後を追う。見つからないように気をつけながら。
必要以上に近づくわけにはいかない。
だからやや遠いところから見ているしかない。
くぐもった声だけ聞えていた。
王女が何事かを話しているのか。
いったい誰と話しているんだろう。
先程の魔人だろうか。
lw´‐ _‐ノv「……!!」
尖った叫びを聞いた。
恐ろしい声。
lw;´‐ _‐ノv「…………え?」
彼女の顔が強張る。
お城から、植えこみから、あらゆる場所に人影が現れたのが見えた。
681
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:08:04 ID:.J/zgTc.0
それも、いつの間にか。
一人、二人、どんどん増えていく。
しかもそのほとんど全てに耳がついていた。
それはどう見ても魔人だった。
王女の下に寄ってきているのか。
lw;´‐ _‐ノv「これは……まずいな」
そう呟き、振り返る。
間に合わなくなる前に逃げなくては。
だけど、その目の先で真っ赤な目の輝きがいくつも光っていた。
lw;´‐ _‐ノv「ああ……あうとー」
ふらふらした声が伸びていく。
682
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:10:03 ID:.J/zgTc.0
このお城には、すでに安全な場所は無かったんだな。
そう悟って、力なく微笑んだ。
新嘗祭の花火の音がする。
祭は盛況のようだ。
その祭が
ラスティア国の最後の祭事となった。
683
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:12:05 ID:.J/zgTc.0
―― 第五話 新嘗祭とラスティア城 おわり ――
―― 第六話 王女デレと勇者モララー へ続く ――
.
684
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:16:29 ID:.J/zgTc.0
―― コラム⑤ 世界地図 ――
うpロダお借りしました。
ちゃんとできているでしょうか。
ttp://u3.getuploader.com/boonnews/download/49/%E5%84%AA%E3%81%97%E3%81%84%E8%A1%9B%E5%85%B5%E3%81%A8%E5%86%B7%E3%81%9F%E3%81%84%E7%8E%8B%E5%A5%B3.jpg
絵などは描けませぬ。
場所も特別に想定はしていません。
685
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/06(金) 23:18:30 ID:.J/zgTc.0
はい。
今日の投下は以上です。
次回はいわば謎解き回です。
城下町でのお話も、次回でおしまい。
最初のうちはAA乱れてすいません。
それでは。
686
:
名も無きAAのようです
:2013/09/06(金) 23:18:53 ID:yDbP2bLY0
状況が一気に動いて衝撃の嵐だよおい面白いよおつ
地図ちゃんと見れた。樹海に走っている人がいるんですがそれは
687
:
名も無きAAのようです
:2013/09/07(土) 00:31:16 ID:1CmE/4U2O
さすがに次は少し待つ覚悟は出来てるんだからね
688
:
名も無きAAのようです
:2013/09/07(土) 02:39:17 ID:vNH/BBHE0
おつ
689
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/10(火) 00:00:21 ID:bamZPyCA0
―― 予告 ――
.
690
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/10(火) 00:01:41 ID:bamZPyCA0
305年 11月17日
私はこの声の主を、『魔王』と呼ぶことにしました。
.
691
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/10(火) 00:03:33 ID:bamZPyCA0
―― 第六話 ――
―― 王女デレと勇者モララー ――
12日木曜日9時から前半
13日金曜日9時から後半を投下します。
692
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 00:30:51 ID:wugBzvVg0
どんなペースよ
693
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 00:52:26 ID:xUcAIp96O
ホントにペース早いな
694
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 04:38:07 ID:cvczrJEU0
あああああああああどんどん気になる
695
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 10:13:22 ID:tabyqJ3c0
無理しないでくれよ
と言いつつすごく楽しみにしてる
696
:
名も無きAAのようです
:2013/09/10(火) 20:41:07 ID:Cf7eUUhA0
ペース早くて読むのが追いつかないからまとめて読むの楽しみ
697
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 20:59:19 ID:eEgCKf9U0
そろそろ投下ですね。
698
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:00:34 ID:eEgCKf9U0
( ^ω^)「…………」
( ^ω^)「酷い目にあったお」
( ^ω^)「しばらく出られそうにないおね」
( ^ω^)「…………持ち物はあるお」
( ^ω^)「王女の日記も。しかし分厚いお」
( ^ω^)「暇だから最初から読むお」
☆ ☆ ☆
699
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:01:31 ID:eEgCKf9U0
304年 12月10日
今日は私の12歳の誕生日です。たまにはいいことがあるものです。
何か新しいことを始めようと思ったので、日記をつけることにしました。
毎日書くのは大変そうでも、頑張って出来事を記していきたいと思います。
今日、誕生日プレゼントということで白馬を頂きました。
とっても大きなマルティア国の国王様が私にくださったんだそうです。
私に白馬を見せるとき、父は苦笑いをしていました。
きっと父は、本当はあんまり他の国と関わりたくないと思っているのです。
母が亡くなったときからずっとそう。
でも大きな国からの、そういう良いものは受け取らないと後で嫌な顔をされてしまいます。
だから受け取らなきゃならない。そんな複雑な意味合いがあの苦笑いには含まれていたのだと思います。
父はむすっとしていて、いつも何かを抱え込んでいる人なので
これからもあの白馬に乗せたりして、楽しませてあげられればいいな。
そうしたら、いつか私もこのお城の外に出ることができるのかな。
出たいなあ。
700
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:02:46 ID:eEgCKf9U0
305年 1月1日
新しい年が始まりました。
お城の中でお祝いがありました。町の人たちを呼んでのです。
相変わらず父は私を外に出そうとしてくれません。
どうしてあんなに強情なのでしょうか。
出たいといくらいっても、危ないからとしかいいません。
父は私をそんなに弱い存在だと思っているのでしょうか。
私には父がよくわからないです。
・
・
・
305年 1月13日
今日は衛兵見習いの中でも成績優秀な方々とお会いしてきました。
遅めの新年会のようなものです。
彼らからしてみたら、私に会えることは光栄なことらしいです。
それは私があまり皆さんの前に顔を出さないからでしょうか。
ただ外に出られないものだから悔しくて
外にいらっしゃる皆さんとはお会いしにくいだけなのに
なんだか勝手な話だなと思いました。
でも一人カッコいい人がいたな……
701
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:03:27 ID:eEgCKf9U0
・
・
・
305年 4月16日
父はやっぱり嫌いです。
私は鳥籠の中の鳥なのでしょう。
・
・
・
305年7月24日
変わり映えのしない毎日です。
・
・
・
305年 8月15日
毎日、誰かが私に手を差し伸べてくれないかと考えています。
そんな方が現れれば、喜んでついていきますのに。
702
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:04:26 ID:eEgCKf9U0
305年 9月23日
声が聞えました。
どうやら魔人らしいのです。
私を出してくれるために、父とお話をすると言っていました。
あのお方が父を変えてくれるのでしょうか。
もしそうでしたら、私は本当にうれしくて……
☆ ☆ ☆
703
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:05:25 ID:eEgCKf9U0
|
第
六
話
|
―― 王女デレと勇者モララー ――
.
704
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:06:25 ID:eEgCKf9U0
305年 9月25日
(´・ω・`)「魔人をお城の中に招き入れようと思うんだ」
夜の会食のときに、ショボンは突然口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「え? どうして?」
(´・ω・`)「うん。ちょっと、気が変わってね」
フォークをいじりながら、ショボンは顔をあげてデレを向いた。
(´・ω・`)「魔人は不確かな面が多くて、私も今まで避けていた。
私が国王になってからすでに十数年、ずっと。妻が亡くなってからはなおさらだ」
(´・ω・`)「だから、このお城と城下町はなるべく魔人から遠ざけた。
距離がある町や村だと魔人を使っているらしいが、それは大目に見た。
少なくとも私の目の届く範囲では避けたんだ。彼らを元々の居住区である森に籠らせておいてね」
(´・ω・`)「だけど彼らが有用なのは事実だ。
私情で彼らを避けていれば、いずれこの国は他国よりも後進国になってしまう。
そんなことになってしまっては国民を守れない」
705
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:07:25 ID:eEgCKf9U0
(´・ω・`)「だから、そろそろ意識を変えなきゃいけないと思ったんだ。
魔人を受け入れて、一緒に働き、平和な国を築く」
(´・ω・`)「それが理想だと先日気付いたんだ。
長々話してすまなかったね。大丈夫かい?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、もちろん」
デレは大きく頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「とても素敵な考え方だと思います」
言いながら、内心では昨日聞いた声のことを思い出していた。
きっとあの魔人さんが上手く交渉したんだ、国王相手にそんなことできるなんてすごいなあ、と
純粋な気持ちで、デレは心の中で声の魔人を称えていた。
(´・ω・`)「……そうだ、来週ちょっと外へ出てみないか」
ζ(゚ー゚*ζ「え!?」
706
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:08:25 ID:eEgCKf9U0
いきなりの提案に、デレは思わず大きな声を出してしまった。
手を口で覆うデレを見ながら、ショボンが微笑む。
(´・ω・`)「外交しようと思って、急いで手紙を送ったんだ。
前々から交渉しようと言ってきていた国でね。
先程言ったように後進国にならないためにも、これからは積極的に外交していきたいんだ」
(´・ω・`)「それで、そのついでになるけど
デレも一緒に来てくれるかな、と思ったんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「行きます!」
デレは二つ返事する。
ζ(゚ー゚*ζ「行きますわ! お父様。ああ、本当に、嬉しい……」
口を両手で押さえながら、デレが感嘆を漏らす。
油断すれば涙がこぼれそうになる。
さすがにそこまでしたらショボンを驚かせてしまうので、なんとか堪えていた。
それにしても、こうまでして自分の願いを叶えてしまうとは
あの声の魔人は本当にすごい魔人だったのだな、とデレは再びの賛辞を送った。
707
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:09:25 ID:eEgCKf9U0
その日の晩
ζ(゚ー゚*ζ「魔人さん、いらっしゃる?」
自分の部屋で魔人に話しかけた。
相手は姿が見えないので、話すときは厄介なのだが
部屋で声をかければ返事をしてくれた。
「……なんだい?」
やや遅れた返答。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたにとっても感謝しているの!」
デレは諸手を挙げて喜びを表した。
声の反応はない。
仕方なく口で説明する。
ζ(゚ー゚*ζ「お父様が魔人をここに受け入れるって。
それと、私も外交に連れて行ってもらえることになったのよ!」
「ああ、すごいじゃないか!」
魔人もまた嬉しそうに言う。
その日は魔人に対して、デレはひたすらに、いかに自分が嬉しいかを説明して聞かせていた。
708
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:10:25 ID:eEgCKf9U0
10月1日
デレはマルティア国にいた。
マルティア国の差し向けた鳥型魔人の牽く飛行船に乗ってである。
ショボンの説明により、マルティアが魔人受入れの先進国であるということをデレも知っていた。
今回はその先進国に、魔人受入れについてのアドバイス等を求めに来たのだそうだ。
ただし、デレは話し合いの中心には参加せず
マルティアの従者たちに連れられてお城の周囲を回っていた。
ラスティアの北にあり、さらに山の上にあるマルティア。
10月にしてすでに肌寒く、山の上には雪が張っていた。
国の北東に一際巨大な山脈が見えた。
300年前に魔人が初めて現れたと言われている場所だ。
その荘厳な峰も、上部が雪をかぶっている。
ζ(゚ー゚*ζ「綺麗……」
壮大な光景に、ただただデレは感動していた。
709
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:11:25 ID:eEgCKf9U0
10月2日
ラスティア城から手紙が届いた。
プレゼントとしてマルティアからもらいうけた白馬の容態が悪い、との知らせた。
ζ(゚ー゚*;ζ「お父様、大変!」
手紙を持ってデレは急いで父のもとへ急いだ。
デレは父に泣きつき、帰国したいと懇願した。
あの白馬は、お城に閉じ込められているデレにとって、唯一純粋に接することができる存在であった。
唯一の友達とも言える。
だからこそ、白馬の具合が悪くなったことにデレは心を痛めたのである。
本当なら上手くはいかない懇願だろう。
しかし、交渉相手がその白馬の送り主であるマルティア国王であったため
特別に許しをもらえた。
デレとショボンは自国へと急いだ。
交渉はまた後日、ということになった。
710
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:12:26 ID:eEgCKf9U0
夜にはラスティア城に辿りついた。
デレは白馬の元へ駆けつける。
その小屋の中でぐったりしているその姿を見て、息をのんだ。
それから、その首筋に抱きついた。
(√;゚ー゚)「王女様、あまり近寄られては……」
デレのいない代わりに白馬の世話をしていた衛兵たちが止めようとする。
(√;゚ー゚)「もしも何かの病気ならば、感染する危険もあります」
そう言われても、デレは必死に首を横に振った。
ζ(゚ー゚*;ζ「一緒にいたいの! お願い!」
(√;゚ー゚)「しかし……」
711
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:13:26 ID:eEgCKf9U0
衛兵の返答は尻すぼみになる。
大きな音に遮られた。
白馬が一声、嘶いたからだ。
首を持ち上げて反らす白馬。
それからデレに視線を向ける、
ζ(゚ー゚*ζ「……元気になったの?」
まるで人の言葉がわかるかのように、馬はまたひとつ嘶く。
デレは笑って、一層強くその背中に身を寄せた。
獣医が来てから診察したものの、病気の兆候はみられず
どうもデレがいなくて寂しいだけだった、と結論を下した。
その日からデレは、もし外交に行くとなれば
必ずその白馬を伴っていこうと誓ったのだった。
712
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:14:30 ID:eEgCKf9U0
10月15日
朝起きてすぐに、ショックを受けた。
ζ(゚ー゚*;ζ「え、やめるのですか?」
彼女の専属だったメイドが今月いっぱいで辞めることになっていた。
そのときはしかたなく、その老齢のメイドにねぎらいの言葉をかけるしかなかった。
しかし、徐々にデレは異変に気付き始めた。
お城を試しに数分歩いてみた。
人とは会う。貴族を含め、お城で働く人々の姿。
元々そこまで交流はしていなかった。
向こうとしても、王女と気軽に遊んだりするわけにはいかなかったのだろう。
だけど、ぱっと見ても、お城の大半の人が入れ替わっていることがわかった。
デレは嫌な予感がしたので、急いで父の所へ急いだ。
713
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:15:26 ID:eEgCKf9U0
(´・ω・`)「なんだいデレ。今忙しいんだよ」
素っ気ない態度でかわされてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「そうなの……そんなに大変?」
(´・ω・`)「ああ、人事面でいろいろ忙しくてね」
ζ(゚ー゚*ζ「そのことで少し話したいことが」
(´・ω・`)「悪いが、人事については僕にまかせてくれ」
あまりにもきっぱりと断られ、デレも口をつぐんでしまう。
父が何を考えているのかわからなくない。
一時は良くなったと思ったのに。
以前抱いていた苛立ちを、デレはこの頃からまた抱き始めた。
714
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:16:25 ID:eEgCKf9U0
10月26日
|゚ノ ^∀^)「デレちゃんこんにちは〜」
ショボンの従妹、レモナが子どもを連れてきた。
彼女のように、お城に入ってくる貴族は近頃増えていた。
ショボンの気が変わったところに付け込んだのだろうとデレは推測した。
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、レモナさんこんにちは」
|゚ノ ^∀^)「ずっと昔に会ったのよ? 覚えてるかしら」
ζ(゚ー゚*ζ「微かには……」
|゚ノ ^∀^)「私の息子とも一緒に遊んだりして、ああ懐かしいわあ」
その時はたまたま、彼女の息子であるヒッキーとは会わなかった。
715
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:17:24 ID:eEgCKf9U0
|゚ノ ^∀^)「ショボンちゃん、お城の手伝いならしてあげるからね」
(´・ω・`)「ああ、レモナは文章が得意なんだっけ」
|゚ノ ^∀^)「ええ、任せて!」
そういって、彼女は強く腕を握る。
とても明るい人だと、傍から見ていたデレも思った。
でも、どうせこのお城の居心地がいいからきただけの人なんだ。
他の人と同じように。
そう思うと、どうしても素直に接することができなくなった。
716
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:18:27 ID:eEgCKf9U0
11月1日
ミセ*゚ー゚)リ「こんにちは! あたらしいメイドです! ミセリといいます!」
王女の部屋にやたらと黄色い声を出す女性がやってきた。
どうも新しい専属のメイドとして連れてこられたらしい。
確かに、ひそかに次は自分と近い年齢のメイドがいいなとぼやいたこともある。
でもまさかこんなに若そうな人がくるとは。
デレは困惑しつつも、ミセリと握手を交わした。
ミセ*゚ー゚)リ「頑張りますので!」
にっこりと笑う彼女を見て、デレもまた微笑んだ。
ここ最近少しだけ不安があったので、
その朗らかなメイドの存在はデレにとってありがたいものだった。
717
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:19:29 ID:eEgCKf9U0
11月9日
久しぶりにショボンが王女の部屋の扉を叩いた。
デレが招き入れると、見たことのある衛兵が入ってきた。
( ФωФ)「衛兵隊長のロマネスクです」
猫目の男性は深々と頭を下げた。
人間にしては鋭すぎる目に、デレは若干たじろいだ。
(´・ω・`)「デレ、彼を君の護衛役にしたいんだ。
今後、外交が増えると危険も増す。そんなときは誰かに守ってもらわなきゃならない」
( ФωФ)「私からも頼れる人に呼びかけます」
ロマネスクはそう言って胸を叩いた。
( ФωФ)「衛兵見習いにもなかなか骨のある奴がいますゆえ、必ずお役に立ちましょうぞ」
衛兵見習い。
ふっと思い浮かんだのは、あの新年会で出会った若い男性だった。
718
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:20:26 ID:eEgCKf9U0
11月15日
この日は夜が騒がしかった。
お城に働きに来た魔人の中に悪い魔人がいたらしい。
そんな風の噂が流れてきた。
ζ(゚ー゚*ζ「悪い魔人……」
不穏な気持ちが湧きあがった。
このお城はどんどん魔人を受け入れている。
その魔人が全員良い人とは限らない。
ひょっとしたら人間のことを見下している魔人だっているかもしれない。
そういう人が現れるのは、とっても怖いことだ。
なかなか寝付けずに、その怖さばかりを考えていた。
719
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:21:26 ID:eEgCKf9U0
11月16日
ζ(゚ー゚*ζ「昨日の魔人はどうなりましたの?」
朝目覚めて、ミセリと出会いがしらにそう質問した。
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、お城にいた悪い魔人っていう」
ミセ*゚ー゚)リ「なんのことですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
その後、お城中の人々に聞いて回った。
昨日の魔人はどうなったのか。
ミセリだけが知らない、という可能性だってある。
でも、誰一人としてまともに答えを教えてくれる者はいなかった。
720
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:22:29 ID:eEgCKf9U0
教育係にその話をして、こっぴどく怒られたのち
デレはようやく自分の不安が正しいことを悟った。
魔人の噂をもみけしてしまうなんて。
それほど魔人を守ろうとする人が多いのだろうか。
きっと、同じ魔人は守ろうとするのだろう。
じゃあ、人間に話を聞いてみないと。
あれ
誰が人間なんだっけ。
721
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:23:26 ID:eEgCKf9U0
11月17日
お城中を駆け回った。
この前よりもはるかに真剣に。
たったひと月しかたっていない。
それなのに、もうお城の中は様変わりしていた。
ζ(゚ー゚*;ζ「なんで……みんな代わっているの」
かつて働いていた人たちの姿が見えない。
この数日でそんなにも激しい人事があったのか。
どうしてそんなことを。
少しずつ、人間だけが狙い撃ちされて、追い出されていたのか。
722
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:24:30 ID:eEgCKf9U0
ミセ*゚ー゚)リ「王女様!」
ミセリの声が聞えても、デレは部屋の扉を開けようとしなかった。
ミセ*゚ー゚)リ「どうして開けてくれないのですか!」
ζ(゚ー゚*;ζ「一人にしてちょうだい!」
ドアノブの握りしめて、叫ぶように懇願した。
ミセリも最初のうちは扉を必死に叩いていた。
困ります、出てきてください、御病気ですか。お悩みですか。
やがて、その声も静まっていった。
ミセリはどこかへ向かったようだ。
ほっとして、デレは扉の前でしゃがみこむ。
723
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:25:27 ID:eEgCKf9U0
「どうしたんだい?」
その声を聞いたのは久しぶりだった。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたは……」
724
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:26:26 ID:eEgCKf9U0
「ずいぶん荒れているようだけど」
内容だけ見れば心配してくれているようだった。
でも、その声の軽さはどうやっても拭いきれていなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「……お父様に何を言ったの?」
相手の姿が見えないので、しかたなく天井を睨んだ。
「お城で魔人が働けるように。最初にもいったじゃないか」
ζ(゚ー゚*;ζ「でも、まさかみんなが入れ替わっちゃうなんて」
そこで、甲高い笑い声が響いた。
「そうだよ、ようやく気付いたんだね」
嬉しそうな口元が目に浮かぶようであった。
「でも僕は嘘をついていないよ。
何人働かせるかなんて言ってないもの」
725
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:27:25 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「お父様がこの話をしたがらないの」
笑い声を無視して、デレは続ける。
ζ(゚ー゚*;ζ「いったい何を吹き込んだの」
「そんなことお前に教える義理はないよ」
ζ(゚ー゚#ζ「どうしてよ!」
思わず声を荒げる。
「僕らは契約以上のことはしないんだ。
まあ、個人の考え方次第だけど。とりあえず僕はそのルールに従ってるよね」
ζ(゚ー゚#ζ「ルールって……」
「でも……そうだな。言った方が面白いかもしれない」
声は小さく、「なるほど」とか、「うん」とか呟いていた。
726
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:28:24 ID:eEgCKf9U0
「じゃあ特別にルール違反して、教えてあげるよ」
愉快そうに、声は言う。
「とはいっても、簡単なことだけどね。
僕がいつでも娘の傍にいるって、言っただけ。
それでもし僕の要求を拒んだら……後はわかるでしょ?」
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あなたは……」
恐ろしい考えが、頭の中で渦巻きだした。
ζ(゚ー゚*;ζ「まさか私を人質にして、こんなことを」
「非常に俗っぽい言い方で気に食わないけど、うん、そういうことだよ。
君の命なんて簡単に奪えるからね。
契約している以上、僕は君の居場所がわかるから」
デレは息を吐いて、胸を手で押さえた。
心臓の拍動が伝わってくる。
なんとかしてそれを抑え込もうとする。
この魔人は自分を煽ってくる。
これにのせられちゃだめだ。
727
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:29:25 ID:eEgCKf9U0
落ちついてから、デレは話し始めた。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたは私の願い事を利用したんですね」
「酷い言い方だなあ」
声が茶化してくる。
ζ(゚ー゚*ζ「お城に侵入するために」
「あのさ、君だって僕を利用して外に出ようとしたんだ。
他の魔人は何もしないけど、願い事に対価を求めたっていいだろ?
むしろそれが自然なことじゃないか」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、契約を破棄します」
魔人との契約は破棄すれば無くなる。
そうすれば、魔人はもう願い事をかなえる義務もなくなる。
そう考えて、提案した。
答えはない。
何も音のない時間が流れる。
728
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:30:26 ID:eEgCKf9U0
最初に、鼻で笑う音がした。
明らかに、あの声の主のもの。
それから、弾けるような笑い声。
これまで聞いたどの甲高い声よりも耳障りなものが、デレの頭の中で暴れまわった。
思わず耳を抑える。
いくらか音は和らいだ。
それでも音量が大きすぎるのか、消しきれない。
ζ(゚ー゚#ζ「なんなんですか!」
必死で喉を震わせた。
ζ(゚ー゚#ζ「何がおかしいんですか! 言って御覧なさいよ!」
「やあ、ごめんごめん」
息切れをしながら、声が謝ってくる。
729
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:31:25 ID:eEgCKf9U0
「あまりにも世間知らずなんだなと思ってさ」
ζ(゚ー゚#ζ「……」
歯を噛みしめて、言い返したくなるのを堪えていた。
「契約を破棄するためには、僕の頭に触れていなくちゃならないんだよ」
声が淡々と述べる。
デレはそれを聞いて、唖然とする。
ζ(゚ー゚*;ζ「そんな……私はあなたが誰なのかも知らないのに」
力が抜け、目の前がぼやけてくる。
それが涙だと気付いて、デレは急いで顔を手で覆った。
こんな姿、絶対に見せたくない。
そう思ったから。
730
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:32:25 ID:eEgCKf9U0
でもどうしたらいいんだろう。
デレは必死に思考を巡らせた。
姿の見えない相手との契約を破棄するなんて。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ」
そこでふと、気付いたことがあった。
首を上げて、口を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、じゃあ契約するときは?」
湧いてきた疑問。
それと同時に見えてくる希望。
ζ(゚ー゚*ζ「あなた、本当に私と契約したの?」
契約しなければ不思議な力は使えない。
それなのに、この魔人は不思議な力を使って自分に話しかけてきていた。
ζ(゚ー゚*ζ「もしそうなら、どうしてあなたは最初からその力を使えたの?」
731
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:33:25 ID:eEgCKf9U0
言葉が次々と出てくる。
自分の予測に乗っかって、質問を浴びせかける。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、答えてみてよ!」
もしまだ契約していないとしたら
自分は声から逃げることができるんじゃないか。
「いや」
含み笑いもなく、声が言う。
思えばこの魔人の真剣な声を初めて聞いた。
「君とはちゃんと契約しているよ。
でも、そうだね。もっと正確に言えば、あの部屋のときに君と契約したんじゃないよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
732
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:34:26 ID:eEgCKf9U0
「僕は君と、もっと前に会っていたんだよ」
「一度、強い願いを持って魔人と触れればいいんだ。それが契約成立の方法。
君はずっと外に出たいと思っていたんでしょ? だから、僕に触れたときにちゃんと契約した」
「そこからずっと君のことを見ていたんだけど、なかなか本心がわからなくてね。
この前部屋で呟いたのを聞いて、ようやく外に出たいんだってことがはっきりとわかった」
「だから僕は出てきたんだ。この力を使って」
希望が消え、新しい疑問に変わる。
すでに会っていた?
いったいいつ?
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あなたなんて知らない!」
首を思いっきり左右に振る。
この声を断ち切りたくて。
733
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:35:25 ID:eEgCKf9U0
再び天井を睨みつける。
さっきよりもずっと強い目で。
ζ(゚ー゚*;ζ「そ、そうよ、どうせそれもはったりなんでしょ!」
興奮を抑えきれず、声色にありありと乗せる。
ζ(゚ー゚*;ζ「どうせ私を殺せるっていうのもはったりでしょう!
そうやって言っておけば父を脅せるから、だからあなたは――」
言葉は続かなかった。
不意に心臓が跳ね上がり、動作を中断せざるを得なくなった。
呼吸ができない。
理由はわからなかった。
口元を抑えて、デレはその場に膝をついた。
なおも気持ちの悪い感触が、腹の底から湧き出てくる。
苦しくて目も開けていられない。
734
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:36:24 ID:eEgCKf9U0
「わかった?」
声がする。
同時に、胸への圧迫感が消えた。
ウソみたいに苦しみも無くなる。
舌を出して、なんとか呼吸を整えようとした。
答えられる状況じゃない。
胸の鼓動はいまだ速い。
あのまま苦しみが続けば、どうなっていたことか。
わからない。だからこそ恐ろしかった。
「というわけで僕は君を殺せるのです」
嫌に勝ち誇った声が聞えてくる。
735
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:37:24 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「……私に、こんなことするなんて……」
歯を食いしばって吐き気を我慢する。
なんとか絞り出した言葉。
ζ(゚ー゚*;ζ「こんなこと、絶対許さないから」
心臓が落ち着いてくる。
意識して深呼吸をして、言葉を重ねていく。
ζ(゚ー゚#ζ「私はこの国の王女なのよ。
こんな悪いこと、いずれは誰かに見つかって、あなたは」
「君らが本当に、王や王女だって言えるのかな」
声もまた、言い返してくる。
「言っておくけど、僕はそのうち国王だって簡単に殺せるようになるよ。
そうなれば君らは完全に僕の手のひらの上。
そんな状況で果たして君らは王族と呼べるのかな」
736
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:38:24 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「…………」
答えられなかった。
でも、決して彼女は諦めたわけではなかった。
その目の光はまだ失われていなかった。
ζ(゚ー゚*;ζ「見てなさい」
静かにそう告げる。
もう声は何も言ってこなかった。
笑い声さえもない。
聞えなかったのかもしれない。
デレは机へと向かった。
いつも使っていた日記帳。
そこに今日の出来事を書きくわえた。
☆ ☆ ☆
737
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:39:26 ID:eEgCKf9U0
305年 11月17日
私はこの声の主を、『魔王』と呼ぶことにしました。
いずれ必ず倒すべき存在として。
.
738
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:40:24 ID:eEgCKf9U0
☆ ☆ ☆
12月23日
メティス城
デレとショボンはこのラスティアよりはるか西にあるこの国のクリスマスパーティに招待されていた。
国内に巨大な河川と、魔人の住処を抱える国。
人々の生活には余裕が見られる。魔人との調和と言う観点ではマルティアをも凌ぐ国だ。
メティス城にて、パーティが行われていた。
大人たちはお酒を飲み、場の空気がのぼせていく。
その会場の隅で、デレは縮こまっていた。
先程から、こっそりと声に話しかけていた。
でも何も返って来ない。
思えばいつも部屋の中でしか彼と話していない。
739
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:41:26 ID:eEgCKf9U0
もしかしたら、新しい場所では彼の声は届かないのかも。
そう思って、即席の計画を作り立てた。
メティス国に逃亡する計画。
きっと父、そしてラスティアの人々は驚くだろう。
自分の王女という身分は、それだけ人の感心を引き寄せる性質がある。
忌々しいことなのだけど。
そして逃げた後、このメティスの北にあるエウロパの森へ向かう。
世界有数の魔人の住処。
そこへいけば、悪い魔人を退治してくれる魔人だっているかもしれない。
魔王を倒す方法がわかるかもしれない。
以前、魔王に脅された王女は、口に出さないまま
心の内側でで逞しく刃向う術を考えていたのである。
740
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:42:28 ID:eEgCKf9U0
パーティ会場を見まわした。
( ФωФ)
まず、衛兵隊長が目に入った。
貴族の血も含まれているという彼。
もしそれが本当なら、魔人である可能性は低い。
ということは魔王の仲間とは言い切れない。
ただ、あの猫のような目はどうにも気に入らなかった。
ひょっとしたら、猫型の魔人が自分を騙しているのかもしれないと、デレは警戒していた。
次に、視線を移す。
ミセ*゚ー゚)リ(゚、゚トソン
従者が二人ほど見えた
トソンがミセリを引きずって、部屋の外に連れ出している。
また何かしたのだろうか。
彼女たちのうち、ミセリは確実に後から来た人だ。
よって魔人である可能性が高い。
たとえ見た目が間抜けそうでも気を抜いちゃいけない。
ただ、そのために魔王である可能性は低いだろう。
彼女と会う前にデレは魔王と会っていたのだから。
横に居る女性はトソンという。
従者のリーダーらしいが、以前に会ったことはない。
だいたい従者も激しく入れ替わっていた。
だから彼女が後から来た人だと、みんな知らないだけかもしれない。
今のところは怪しいという段階だ。
741
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:43:26 ID:eEgCKf9U0
|゚ノ ^∀^)(-_-)
次に見たのが、このちぐはぐな親子。
彼女たちもまた部屋の外へと出るところだった。
レモナがショボンの従妹というのはどうやら本当らしい。
さすがに従妹の顔を忘れるようなショボンではないだろう。
ただ、その横に居る暗い彼。
その顔は全く見覚えが無かった。
それに、ほとんどしゃべっていない。
声がわからない。これは相当怪しいのではないか。
デレはそう思って、警戒のレベルを高めていた。
( ´W`)
他にも大臣たちが何人か見られる。
彼らとて後から来た人たちだ。
魔人である可能性はもちろん高いと言える。
(´・ω・`)
最後に見たのが、父親。
魔人ではない。もちろん魔王でもない。
脅されているだけの男。
742
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:44:40 ID:eEgCKf9U0
そして
最後
一人、見たことのある青年が混ざっていた。
( ・∀・)
彼は、ロマネスクが連れてきたらしい。
骨のある若者だと言って。
そういう話に目が無いショボンは、喜んでこの若者、モララーを連れてくる許可をだした。
実際成績はトップで、来年にはもう衛兵になるのではないかと噂されていた。
いや、そのような噂はどうでもよかった。
デレはその顔を見たことがあった。
もう一年近く前、まだ魔王の声を聞く前に、彼女は新年会で彼の姿を見た。
わずかに心が躍る。
声には出さないけど、自然と見てしまう。
そんな華やかさを彼は持っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「いけないわ」
首を振って、思考を止める。
何もモララーを見るためにここまで来たわけじゃないのだ。
ちゃんと自分がやるべきことをしなければ。
743
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:45:27 ID:eEgCKf9U0
時刻は夜の8時
ζ(゚ー゚*ζ「すみません、少しお部屋に忘れ物を」
そういって宴会場を抜け出した。
温和なメティス国の人が相手だからこそ、こんなに簡単な嘘が通じたのだろう。
すれ違う人々も、頭を下げればもう追求は無し。
外へでて、大きな三日月を見上げ、デレは一人ほくそ笑んだ。
自分の計画が滞りなく進むことに。
ζ(゚ー゚*ζ「さてと」
移動手段は考えていた。
あの白馬。
もちろん今回の外交にも連れてきている。
貴重な移動手段を、何の疑問も持たれずに連れてこれる。
デレにとっては幸運な状況だ。
あの白馬の寂しがりやな性格があってこそ、この計画は進められるのだ。
744
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:46:25 ID:eEgCKf9U0
白馬は現在、メティス城の厩舎に留められている。
そこへ向けて、進んでいく。
いくら温和な人々といっても、夜に厩舎にすたすたと歩いていけば怪しまれてしまうだろう。
だから、他の人には見つからないように、慎重に。
ζ(゚ー゚*ζ「?」
厩舎の傍で人の声を聞いた。
誰かいるのだろうか。
こっそりと、入口を覗きこむ。
真っ黒な二つの影。
体格からして大柄な男のように見えた。
こんなときになんだろう、とデレは心の内で恨み事を吐く。
その人影えおゆっくりと観察し、その頭を見たとき
ζ(゚ー゚*ζ「!」
耳があるのが確認できた。
745
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:47:29 ID:eEgCKf9U0
魔人がこんなところにいるのだろうか。
さすがに計画どころじゃないとデレは思った。
仮にも王女の白馬のいる厩舎、そんなところでこそこそと謀をする魔人。
どう考えても友好的な存在ではないだろう。
だから踵を返して引き返そうとした。
「誰だ!」
声をかけられて、咄嗟にデレは横に跳んだ。
草むらへ。
ほとんど反射的な動きだった。
勢いのままにしゃがみこむ。
心臓が早鐘を打つ。
草の陰から、厩舎の入口を眺める。
鋭い爪が見えた。
月明かりの下で、艶めかしく輝いている。
746
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:48:33 ID:eEgCKf9U0
デレは目を閉じた。
顔を下げて、腕の内側へと入れる。
「誰だ?」
また一つの声。
さきほどの魔人の声だろう。
「おい」
誰かに呼びかけているようにも思える。
もしかして自分になのだろうか。
もう見つかってる? だとしたら……
混濁する思考の隅で、空気を切り裂く音を聞いた。
叫び声がいくつかあがる。
何が起きているのかはわからなかった。
いくつかそれが続き、やがて静かになる。
747
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:49:39 ID:eEgCKf9U0
危機が去ったのだろうか。
恐る恐る、顔を上げた。
( ・∀・)「行ったか……」
先ほどとは別の意味で、言葉を失った。
宴会場に居たはずの彼が、どうして?
ζ(゚ー゚*ζ「あ、あの……」
立ち上がりざまに声をかけた。
( ・∀・)「あ、よかった」
青年は心底ほっとしたような表情になる。
( ・∀・)「いえね、あなたが宴会場を出ていくのが見えて、
帰って来ないものですから心配になって探し回っていたんです。
あなたを警護するという目的でここに来て連れてこられましたし」
748
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:50:24 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*ζ「探すって言ったって……どうやって」
( ・∀・)「だって、あなたこの国に来たの初めてでしょう?
知っている人も全員宴会場にいるわけだし、それで他に行くとしたら白馬のところかなと」
事もなげに、青年は言ってのける。
デレはぼーっとして、その顔立ちを見ていた。
(;・∀・)「あの、何かついてます?」
モララーが自分の顔をぺたぺたと触りだす。
それでようやくデレは目を瞬いた。
ζ(゚ー゚*;ζ「え、いや、そんなつもりじゃ!」
顔と手を勢いよく振る。
そのあと、モララーに連れられて、デレは父のもとへと向かった。
749
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:51:25 ID:eEgCKf9U0
宴会はまだ続いていた。
( ・∀・)「国王、ちょっと」
その隅で、彼はショボンを呼び出した。
(´・ω・`)「えっと、君は……」
( ・∀・)「モララーです。衛兵見習いですが、このたびロマネスクさんの推薦でこちらにきました。
王女の護衛をするためにです」
(´・ω・`)「ああ、そうだった! 御苦労さまだね。
それで、何かあったのかい?」
( ・∀・)「実は先程、王女が魔人に襲われました」
(;´・ω・`)「「なんだって!?」
途端に大きな声を出すショボン。
宴会場の賑わいが、一瞬静まる。
(;´・ω・`)「あ、ああいや、何でもないですよみなさん。
宴会を続けてください」
慌てふためきながらも、ショボンは手振りを交えて皆にそう伝えた。
止んでしまった話声が、徐々にまた始まっていく。
750
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:52:32 ID:eEgCKf9U0
(;´・ω・`)「続けてくれ」
今度は声を潜めて、ショボンはモララーに言った。
( ・∀・)「王女は少し休憩したくて宴会場の外に出たんです。
そこで怪しい男に声を掛けられ、逃げようとしたところを襲われました。
私がそこを助けました」
淡々とモララーが説明するも、その内容は事実とは異なっていた。
(;´・ω・`)「本当かい、デレ」
困惑した表情で、ショボンが確認してくる。
ζ(゚ー゚*ζ「えっと」
正しく言うべきなのか、判断に困っていた。
ふと、モララーと目があう。
彼はデレを直視して、ゆっくりと頷いた。
751
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:53:20 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「間違いありません」
嘘をつくことにした。
自分が厩舎に赴いたことも何も言わず。
(´・ω・`)「ふむむ……そうか」
ショボンは唸った。
それから顔を再びモララーに向ける。
(´・ω・`)「ありがとう、モララーくん。
君はデレの命を救ってくれた。このことはいずれ、君への褒賞としよう」
(*・∀・)「本当ですか?」
モララーは目を輝かせて言う。
(´・ω・`)「もちろんだとも。君が望むものならなんだってやろう。
私が最も大事にしているデレのために尽くしてくれたのだから」
(*・∀・)「謹んで考えさせていただきます」
にやりと笑って、彼は頭を下げた。
752
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:54:21 ID:eEgCKf9U0
(´・ω・`)「怖い思いをさせてすまなかった、デレ」
ショボンは悲しそうな顔で、デレを見つめた。
(´・ω・`)「この件はあとでメティス国王に相談しておこう。
せっかくのパーティでこんな目にあわせてしまうなんて」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、いいんですお父様」
首を軽く振る。
ζ(゚ー゚*ζ「ちゃんとこうして優秀な衛兵見習いさんに守ってもらったのだし
何も問題はなかったのですから、いいんです。
宴会だってまだまだ楽しめますわ」
思いのほかすらすらと、デレの口からショボンを慰める言葉が出てきた。
デレ自身がそれに驚いていた。
(´・ω・`)「そうか……ありがとう、デレ。
この件は外交にも響くだろう。大事にならなくてよかった。
もしそんなことになれば、騒ぎが広まって国が荒れただろう」
さらりと恐ろしいことを述べる。
753
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:55:21 ID:eEgCKf9U0
ζ(゚ー゚*;ζ「……」
デレはショボンの言葉に答えず、ただ冷や汗を流していた。
(´・ω・`)「私はメティス国王に話してくるよ」
ショボンがその場を後にする。
宴会の向こう側へ。
後に残ったのは、デレとモララーだけ。
ζ(゚ー゚*;ζ「……良かった」
ショボンの背中を見ながら、デレは思わず呟いた。
もし自分が計画通りに行動していたらどうなっていたのだろうとふと思ってしまい、ぞっとする。
国は乱れ、国民も混乱し、きっとショボンだって今以上に忙しくなったはずだ。
自分がいなくなって、騒ぎが広まったらどうなっていただろう。
ショボンの心労はますます酷いものになっていたに違いない。
そうならなくて良かった、その思いが、思わず口をついてでてきたのだ。
754
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:56:25 ID:eEgCKf9U0
誰にもばれていないことを、ひそかに喜んでいた。
だけど、それは思い込みだった。
( ・∀・)「良かったですね」
いつの間にかデレの横に立っていたモララーが言う。
( ・∀・)「逃げ出そうとしたことがばれなくて」
ζ(゚ー゚*;ζ「え!?」
耳を疑った。
冷や汗を引っ込めるように、首を小さく振る。
ζ(゚ー゚*ζ「な、なんのことだか」
( ・∀・)「だって、あんな夜中に厩舎にいくなんて、それしかないでしょう?」
またもあっけらかんとした口調。
デレは呆然として、それから慌てて首を振る。
ζ(゚ー゚*;ζ「あの……誰にも言わないでくださる?」
755
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:57:22 ID:eEgCKf9U0
( ・∀・)「まあ、いろいろおありなんでしょうね」
モララーはそう言って、笑ってくれた。
( ・∀・)「もちろん、誰にも言うつもりはありません。
私はただ、あなたを護衛する任を果たしただけですから」
そういって、ごく自然なしぐさで、彼は身をかがめた。
その手がデレの腕に伸び、その手の甲に唇を合わせようとする。
ζ(゚ー゚*;ζ「!」
身を強張らせ、ついその腕を振り払ってしまう。
(;・∀・)「あ、ちょっとキザ過ぎましたかね? すいません」
頭をかいて、おどけた表情でモララーは言う。
( ・∀・)「あれ、王女? お酒でも飲みました? 顔が」
756
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:58:21 ID:eEgCKf9U0
ζ(////ζ「飲んでません!」
やや叫び気味に言い、デレはその場を後にした。
モララーを残して。
後ろに残されたモララーは、ただ肩をすくめるばかり。
頬の火照りを感じながら、デレは微かな光を感じていた。
あの聡明さならば、もしかしたら
魔王に対抗できるのではないか。
この胸に抱く淡い心を抜きにしても、試してみる価値はあるのではないか。
それが、王女デレと勇者モララーの出会いだった。
757
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 21:59:41 ID:eEgCKf9U0
―― 第六話 前半 終わり ――
―― 後半へ続く ――
.
758
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/12(木) 22:00:22 ID:eEgCKf9U0
今日はおしまい。
また明日。
759
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 22:21:50 ID:5X/2wQhw0
乙
760
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 02:34:31 ID:Fy0LKOgQO
ζ(゚ー゚*ζは敵なのか味方なのか、過去編では味方っぽいけど
761
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 18:59:12 ID:2tbziXDo0
乙
待ってるぞ
762
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 20:57:42 ID:.nLUMdgE0
そろそろですかね。9時からいきます
763
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:00:02 ID:.nLUMdgE0
306年 1月5日
この日は講堂に行くようにと言われました。
お父様がお触れを出したからです。
それは、モララーさんを衛兵とするとの内容でした。
先日私を助けてくれたことに、お父様がいたく感激したからです。
とはいえ、仮入隊というものらしく
モララーさんはまだしばらくあの寄宿舎で暮らすようですが。
私はお父様の隣で、彼の顔を伺っていました。
彼は努めて冷静に、お父様の言葉を受け止めているようでした。
こうして、彼は私の護衛の任に着くことを認められたのです。
不安渦巻くこのお城で、彼の存在は唯一の安心。
なんと嬉しいことなのでしょうか。
思わずあの講堂で彼に駆け寄りたかったくらい
私の心は踊っておりました。
764
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:00:59 ID:.nLUMdgE0
306年 1月10日
なんと、モララーさんが外防衛とやらに行ってしまわれました。
新人の衛兵に対する洗礼だそうです。
まだ正式じゃないのだから、そっとしておけばいいのに。
いったいあの人はどこまで私を焦らすというのでしょうか。
本当に心苦しい。
ですが負けてばかりもいられません。
幸いなことに、ひと月もすれば帰ってくるそうです。
ここは耐え忍んで、ちゃんと笑顔であの人を迎えられるようにしておかなければ。
ああ、本当に、待ち遠しい。
・
・
・
☆ ☆ ☆
765
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 21:01:20 ID:w2CjkoeI0
わーい!待ってた!
766
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:01:58 ID:.nLUMdgE0
( ^ω^)「…………」
( ^ω^)「ここから日付が連続するお」
( ^ω^)「会いたいとばっかり……」
( ^ω^)「よほどモララー先輩の存在が大きかったんだおね」
☆ ☆ ☆
767
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:02:58 ID:.nLUMdgE0
・
・
・
306年 2月7日
モララーさんが外防衛から帰ってまいりました。
ようやくです。
私はこの日が来るのを待ちわびておりました。
立派な馬に乗って門をくぐりぬけてくる彼の姿。
その姿を見たときの感動を、私はどう表現したらいいものかわかりません。
私はもう、この胸の高鳴りが何のためによるものなのか、理解しております。
きっとお父様にばれたら大騒ぎになるでしょう。
たとえそうなったとしても、私の気持ちは揺るがないでしょうが。
・
・
・
☆ ☆ ☆
768
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:04:00 ID:.nLUMdgE0
デレとモララーが出会って、数か月が経過した頃。
世界情勢に暗雲が立ち込め始めた。
北のマルティア国や西のテーベ国でも、怪しい動きが見られていた。
ラスティア国はその二国と海と砂漠に挟まれた場所なので
その乱れの影響で世界のニュースも届きにくくなっていった。
そんな中、ショボンはますます忙しく働いていたし
デレもその空気は感じていた。
大変な父親を見て辛そうだなとは思っていた。
でも、それを申し訳ないと思いながらも、
デレは隙を見てモララーと出会っていた。
仕事の合間、護衛としての連絡の際
会っていないときでさえも、モララーのことを考えていた。
そうすることで、お城に抱いていた不安が薄れたのだ。
769
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:04:59 ID:.nLUMdgE0
魔王のこともモララーに話した。
部屋にいると聞えてくる声の話。
最初のうち、デレは魔王が人間には感知できない方法でデレのことを監視しているものだと思っていた。
だから、いつでもデレを逃がさないなどと言えるのだと。
それを、モララーは否定した。
( ・∀・)「魔人といったって、なんでもできるわけではない。
彼らの能力は一つの願い事につき一つです。それは契約した時に決まります」
( ・∀・)「その力は魔人の潜在能力で決まりますし、第一現実に起こりうる現象でなければなりません。
声はまだしも、唐突に人間の命を奪える力があるとは思えない」
( ・∀・)「いつも使っているのがその声の力だというなら
あなたを襲った頭痛や吐き気もその応用なのではないですか?」
770
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:05:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……不思議な力について詳しいんですね」
( ・∀・)「昔親を魔人に襲われましてね。それで奴らについてはいろいろ調べたんです」
( ・∀・)「それに契約相手であるあなたを殺したらもう力が使えなくなりますよね?
そんなデメリットがあるのにあなたを攻撃する意味はありません」
( ・∀・)「それなのに攻撃してきたのは。
ただあなたを脅したいだけだったのではないでしょうか」
ζ(゚ー゚*;ζ「確かに……」
魔王ならばありえる、とデレも納得した。
( ・∀・)「一つ実験をしてみましょう。
魔王の能力の限界を探る実験です。
これから言うとおりにしてください」
771
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:06:59 ID:.nLUMdgE0
それから、モララーの提案通りにある実験をした。
王女の部屋にて。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さーん」
天井へ向けて呼びかける。
「おや、どうしたんだい、そっちからなんて」
いつものように、やや遅れてからの返事。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さんのばーか」
「…………はあ?」
ζ(゚ー゚*ζ「なんだか急に腹が立ったのよ」
「だからってなんで急にそんなこと」
772
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:08:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「だって、いっつも私のこと馬鹿にしてくるからむかついちゃって」
「だって事実じゃないか」
こうして煽ってくるのもいつも通り。
ζ(゚ー゚*ζ「もう嫌なの! やめて!」
なるべく声を荒げている様を演じた。
自分が本当に怒っていると思ってくれるように。
「はあ……あのねえ、何度も言ったけど。君のことなんていつでも殺せるの。
ほら、今でもこんなふうに――」
最後の言葉を聞き切る前に、デレは扉の方へと走り出していた。
心臓が跳ねる。
これもいつも通り。
そこで、扉を開く。
「あ!」
驚きの声が聞えてくる。
773
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:09:00 ID:.nLUMdgE0
それを無視して、外へ。
廊下にて、デレは立ち止まった。
自分の拍動を確認する。
何も以上は見られない。
声だってもう聞えてこない。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さーん」
逸る気持ちを抑えて呼びかけてみる。
返事はない。
ζ(゚ー゚*ζ「ばーか」
再び罵倒してみるも、やはり返ってくる言葉は無かった。
いつもならすぐに反応して、攻撃してくるのに。
774
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:09:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……本当なんだ」
デレは笑みを浮かべて、そう呟いた。
モララーさんの予想通りだった。
魔王の声はデレの部屋の中でしか聞えてこない。
そしてあの攻撃もまた、デレの部屋の中だけでしか行えない。
能力を発揮できる場所が限定されているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ただーいま!」
今度は元気よく言いながら、デレは自分の部屋に戻った。
すぐに舌打ちが聞こえてくる。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの? ちょっと外にいる人に用があったんだけど
どうしてすぐのお話やめちゃったの?」
目を細めながらデレは言った。
775
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:11:01 ID:.nLUMdgE0
「へえ……誰か来てたの」
ζ(゚ー゚*ζ「見えなかったの?」
「!! …………ああ、見逃しちゃってた」
言葉の前に空白があった。
それがはっきりわかったから、デレはますます笑みをこぼした。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王さん、急に馬鹿にしちゃってごめんね〜」
軽やかにいいつつ、自分の席へ向かう。
ζ(゚ー゚*ζ「これからは仲良くしましょ!」
「あ、ああ……」
躊躇いがちの返事。
それっきり、声は聞えなかった。
776
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:11:58 ID:.nLUMdgE0
デレは声を出さず、ただその場で手足をばたばたさせた。
とにかく嬉しくて仕方なかった。
この煩わしい魔王を出し抜くことができたのだから。
デレは急いで紙にペンを走らせた。
魔王に対する実験結果を書くために。
魔王はおそらく声、つまりは音の能力を持っている。
ゆえに目は見えない。だから紙に何かを書いていてもばれやしない。
部屋を出てしまえば魔王の声も届かない。
だから、この部屋を避けてモララーと話せば問題ない。
あの身体を襲ってくる攻撃も音を応用したもの。
モララーはすでに、その攻撃についてひとつの仮説を立てていた。
いまだに人間の科学力が残っているテーベでの噂話。
長いこと稼働している機械の傍に立っていると、急な頭痛や吐き気に襲われるとのこと。
その原因は、機械が発している微弱な音の振動だと言われている。
攻撃をしてくる最中に部屋を出たら、攻撃はやんだ。
そのことから察するに、この攻撃は微弱な音波を応用したものに過ぎないのだろう。
黙々と紙に事物を書き込んでいく。
モララーに言われた通りに。
777
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:12:59 ID:.nLUMdgE0
ミセ*゚ー゚)リ「王女様!」
突如として扉が叩かれる。
ミセリの声が聞えてきた。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっとご用があるのですが!」
思わず舌打ちしてしまう。
なんて間の悪い従者だろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめん、もう少しまって!」
この紙を隠さなければ、そう思った。
ミセリは魔人である可能性が高いのだから、魔王と繋がっているかもしれない。
もしかしたらこの突然の訪問も、自分を邪魔しに来たのかも。
机、そして棚を見回す。
ζ(゚ー゚*ζ「あ」
見つけたのは、使っていない鍵つきの棚。
何かしらの重要な物を入れる場所だが、いまだに使ったことはなかった。
778
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:13:58 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「ここへ……」
デレは鍵を取り出しそれを引き出す。
埃もなにもかぶっていない綺麗な空間。
そこへ紙を押し込める。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ」
デレが次に見たのは、自分の日記帳。
あそこにはモララーのことが書いてある。
もしミセリがこれをみたら、魔王に告げ口してしまうかも。
そう思って、デレはその日記もまた棚に押し込んだ。
ミセ*゚ー゚)リ「王女様!」
ζ(゚ー゚*ζ「いきますよー」
デレは確かに鍵を回し、城をかけた。
そしてその鍵を、重たいカーテンの一番奥にある留め具にかけた。
以後、その鍵つき棚はデレの日記と秘密の手紙の隠れる専用の空間となった。
779
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:15:00 ID:.nLUMdgE0
数時間後
( ・∀・)「そうか、当たってましたか……」
お城のとある物陰にて、デレはモララーに実験の結果を伝えた。
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
デレは目を輝かせて言う。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます、何から何まで」
デレは深々と頭を下げ、謝辞を述べる。
モララーは手を前に出して首を横に振った。
( ・∀・)「まだ魔王の特徴がわかっただけです。
正体についてはわからないまま」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、探してくれるんでしょう?」
(*・∀・)「それは、もちろん!」
モララーは力強く胸を叩いた。
(*・∀・)「そうしてあなたを護衛するのが私の役目ですし」
780
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:16:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……嬉しい」
そう呟くと同時に、デレは頭をモララーの胸板に寄せた。
(;・∀・)「ちょ、ちょっと王女!」
慌ててモララーが手をあげ、デレの肩を押そうとする。
ζ(゚ー゚*ζ「やめて!」
急いでデレは叫んだ。
モララーの動きが止まる。
ζ(゚ー゚*ζ「……こうさせて」
今度は小さな、静かな声。
モララーの溜息が、その頭にかかった。
(;・∀・)「やれやれ、こんな姿、国王に見つかったらえらい目にあいそうだ」
そうぼやいて、ゆっくりと身を後進させていく。
建物の壁に寄り掛かった。
781
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:16:59 ID:.nLUMdgE0
モララーの手がデレの肩から離れる。
一旦空中で止まり、それからデレの背中へと回った。
デレはその感触が伝わるのをひたすらに待っていた。
その瞳が潤みだして、彼女は思わず目を閉じる。
また自分は泣こうとしている。
前にも涙を堪えたことがあったなと、そのとき思った。
でも、もうそれがいつなのかも思いだせなかった。
やがて今はもう泣いてもいいのだと気付き、感情を堰き止めるのをやめた。
涙も、声もそのまま
何も隠さずに
自然にそのような行いをするのは久しぶりだった。
デレの思考がまっさらになっていった。
ただ温かな感触だけを感じて。
☆ ☆ ☆
782
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:18:00 ID:.nLUMdgE0
魔王の能力が判明した後、デレは国王に手紙を見せた。
(;´・ω・`)「…………」
国王の部屋で、彼は冷や汗を流しながらそれを読んでいた。
後日、デレとショボンはお城の外にて向かい合い、状況を理解し合った。
ζ(゚ー゚*ζ『それじゃ、やっぱりお父様は私を人質に脅されていたのですね』
(´・ω・`)『ああ、そうだ』
声を聞かれるのを防ぐために、筆談で会話した。
ζ(゚ー゚*ζ『それじゃ、これでもう大丈夫だとわかったでしょう。
私はあのお城から出ていきます。そうすればもう魔王に襲われることもない。
お父様だってあいつを追い出すことができますよね?』
文章を見せたところ、ショボンは残念そうに頭を垂れた。
783
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:18:59 ID:.nLUMdgE0
(´・ω・`)『残念ながら、すでに時間が経ち過ぎている』
ζ(゚ー゚*;ζ「?」
首を傾げ、デレはショボンの言葉の続きを待った。
(´・ω・`)『最近、世界のニュースが届かないとは思わなかったかね?』
ようやく返ってきた言葉が質問であり、いまいち要領を得なかったため、デレは訝しんだ。
ただ、ニュースが届かないことは事実であったので、首を縦に振った。
(´・ω・`)『実はね、この国の北にあるマルティア国と、西にあるテーベ国の雲行きが怪しいからなんだ』
(´・ω・`)『魔人の力を利用することに長けたマルティアと、人間の力を今だ信じてやまないテーベは
その根本から対立するところの多い国だった。だから、近いうちに折衝があるのではと噂されてもいる。
その間に位置するこの国が、内政で動揺したらどうなるか』
(´・ω・`)『基盤の弱まっているこの国に、両国の軍隊が押し寄せてくるだろう。
ただ戦争用の地力を強めるために、ラスティアの国民はその土地を追われてしまう。
そうならないためには、毅然とした態度を示し続けなければならない』
(´・ω・`)『だから、大規模な混乱を見せる行為は政治的に良くないことなんだ。
君がお城を出ていくことも、そのひとつ。隠し通せることではないんだよ』
784
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:19:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ『そんな!』
デレは文字と、身振り手振りで自分の衝撃を表した。
ζ(゚ー゚*;ζ『そうでしたら、お部屋を移るのはどうですか』
(´・ω・`)『いや、そうしたら魔王に、君が何を知ったのかばれてしまう。
あのお城はすでに魔王の手下で満ちている。その場所で魔王と明白に対立してしまうわけにはいかない』
ζ(゚ー゚#ζ『それじゃ、私はこれからもずっとあそこで鳥籠の鳥を演じてなければならないんですか!!』
父親に詰め寄って、デレは睨みつけた。
ショボンは引きつりながらもペンを動かした。
(;´・ω・`)『どうしても、ということになれば逃げるんだ。
ぎりぎりまで、国民に迷惑をかけるわけにいかない。どうかわかってくれ』
懇願するショボン。
そんな姿を見ても、デレの憤りはなかなか収まらなかった。
それでも、まだ刃向うことはできる。
モララーという希望があったからこそ、まだデレは自分の感情を抑え込めることができた。
785
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:20:59 ID:.nLUMdgE0
それから日々が流れていった。
魔王の正体は掴めないまま、1年以上の歳月が流れた。
デレは14歳になり、前よりも遥かに逞しくなった。
以前はただ魔王の存在に怯えていた。
だけど最近は魔王も何もしてこない。
そもそも面と向かって対立しなければ、無害な存在だった。
第一、今はモララーという存在ができた。
信頼できる人。自分が心の内を曝け出せる人。
閉塞感を感じる環境でも、彼がいることで心に余裕を持つことができた。
彼に会うこと自体が楽しみになっていったから。
残念ながら魔王の正体は掴めないままだったが
デレは次第に問題の解決に焦らなくなった。
変わり映えは無くとも、それは幸せな日々に変わりなかった。
だから、こっそりとなのだけど
この何事もない日々がずっと続いてほしいとも思っていた。
そうは上手くいかないだろうと、心の隅ではデレも理解していたのだけど。
☆ ☆ ☆
786
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:21:59 ID:.nLUMdgE0
307年 10月5日
(´・ω・`)「デレ、話があるんだ」
国王の部屋に呼び出されたのは、夕方のことだった。
こんな風に仕事の時間に、自分にかまってもらえるのは久しぶりだったので
デレは意気揚々と部屋の扉を潜った。
(´・ω・`)「ある衛兵さんとこっそり会っているよね?」
唐突に彼の名前が出てきて、デレはきょとんとしてしまう。
ζ(゚ー゚*;ζ「……え」
(;´・ω・`)「いやね、デレがこそこそ物陰に行っているのが見えたから。
つい追っちゃって、さ」
うっかりしていたのは事実だ。
彼と会うことに関しては魔王に見つからないように、とばかり気にしていた。
だから、実の父親に見破られる時がくるかもしれないということを、考えていなかった。
787
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:22:59 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「な、何してるの!?」
(;´・ω・`)「そりゃあ僕らのお城なんだ。気になるじゃないか。
だいたい君だって年頃の女の子なんだし、もしかしたらって」
ζ(゚ー゚#ζ「勝手なことしないで!」
鋭い目を国王に向ける。
ショボンはやや動揺したようだが、すぐに居住まいを正した。
(´・ω・`)「デレ、頼むから静かに話を聞いてくれ。
それ以上あの人に会っていたら、危険なことになるかもしれない」
その言葉を受けて、デレは目を瞬かせる。
ζ(゚ー゚*;ζ「な、何を言ってらっしゃるの?」
(´・ω・`)『いいか、良く聞いてくれ』
紙を持って、ショボンがすぐに文字を記入する。
(´・ω・`)『魔王の声はたまにこの部屋でも聞えてくる。だから筆談に移る』
788
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:23:59 ID:.nLUMdgE0
(´・ω・`)『衛兵さん、はっきり書けば、モララーが君のために努力してくれていることはもうわかった。
そこでただ君らが親密な関係になるだけなら、僕だって邪魔しようとはしない』
(´・ω・`)『でもここには魔人がいるんだ。
現に僕だって、お城で働く魔人からこの話を聞いた。ただの世間話としてだが』
(´・ω・`)『今はただのかわいい噂程度で通っている。
しかしそのうち君らが話している内容までばれてしまうかもしれない』
(´・ω・`)『魔王に仇名す人だとばれてしまう前に、彼と会うことを控えなければ』
ζ(゚ー゚*ζ『……さっぱり理解できません』
デレは口を真一文字に結んで文字を見せつけた。
ζ(゚ー゚*ζ『どうしてそんな危険があると断定できるんですか。
あの人と会ってもうすでに1年半以上が過ぎています。
その間何も起きていないのに、どうして今になって』
789
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:24:57 ID:.nLUMdgE0
(´・ω・`)『最近、魔王の声の届く範囲が広がっているからだ。
この国王の部屋以外にも、声の聞える場所が表れ始めている』
その情報は、デレの全く知らないものだった。
ζ(゚ー゚*;ζ『どうしてそんなことに?』
(´・ω・`)『おそらく……能力を使う場所として
最初にインプットしてあったのがこの私の部屋と、君の部屋だったんだろう。
だけどこのお城に粘着するうちに構造を覚え、声の伝わる範囲を拡大させてきたのではないかな』
(´・ω・`)『とにかく、油断していれば君もモララーも危なくなる。
まだ狙われていない今のうちに手を引くんだ』
ζ(゚ー゚*ζ「そんなの……」
デレはもう、紙の上にペンを動かす気力さえなくなっていた。
ζ(゚ー゚#ζ「そんなの聞きいれられるわけないでしょう!!」
叫んで、部屋を飛び出した。
魔王に聞かれようが知ったことじゃないと彼女は思った。
790
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:25:58 ID:.nLUMdgE0
辿りついたのは、いつかモララーに抱擁してもらった、あの建物の陰。
そこでただひたすら、デレは泣き続けた。
人目の届かない場所だが、それでもなお声を潜めて。
こんなの馬鹿げていると彼女は思った。
身体は自由なのに、思うままに行動できない制約があるなんて。
ただ会いたい人に会うことすらできないなんて。
妥協していた気持ちがなくなっていく。
心の内で、魔王に対する怒りが再び湧いてきていた。
必ずあの声の正体を突きとめてやる。
自分の手で、その息の根を止めてやりたい。
そんな凶暴な思いさえ抱くようになっていた。
791
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:26:56 ID:.nLUMdgE0
307年 12月27日
デレが15歳になって、暫くした頃。
モララーに通達が出された。
二度目の遠征、しかも今度は8カ月という長丁場だった。
出発の前の日、デレはショボンに許しを請うた。
どうかモララーに合わせてくれと。
ショボンは仕方ないといった表情で、二人に特別の部屋を用意した。
元々倉庫だった場所を整理した空間。
もちろん魔王の声が聞えたことも無かったし、普通の労働者だってめったに寄りつかない場所だった。
(´・ω・`)『それじゃ……僕が定期的にこの外を巡回しておくから』
デレとモララーをその部屋に入れたのち、ショボンは外に出て扉を閉めた。
鍵のしまる音。
もう中からしか開けることはできない。
792
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:27:55 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『さて、と』
先に紙を見せたのはモララーだった。
( ・∀・)『遠くに行くことになっちゃったみたいです』
手短に書いて、モララーはぎこちなく笑った。
デレの方はというと、首を曲げて俯くばかり。
どうにも言葉が思い浮かばなかった。
( ・∀・)『……私はこのままお城には帰らない方が安全なんでしょうね』
不意に、モララーが自分の考えを書き始めた。
わずかばかり首を持ち上げて、デレはその文字を虚ろな目で追った。
( ・∀・)『このまま遠くへ行ったまま、帰ることを拒否すれば
私はあなたに会わなくて済む。そうすれば魔王に目をつけられることもない』
( ・∀・)『たとえ私が戻らなくても、あなたと国王は亡命するという手段がある。
国民のためになかなか使えない手段でしょうが、魔王の手から逃れるために最終的にはそうせざるを得ない。
テーベを越えてメティスにでも行けばもっと安全でしょう』
793
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:28:55 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『私が戻ってくる意味なんてない。
そう思ってしまうのですが、デレ様はどうお考えでしょうか』
文字が途切れる。
デレはゆっくりと首を上げ、モララーを見た。
彼は静かにその言葉に対する答えを待っているようであった。
モララーが言うことは理解できたし、実際にそう思うこともデレにはあった。
合理的には正しい選択なのだろう。
このまま国の滅ぶのを見ながら、生き延びるという選択肢。
でも、どうしてか身体が言うことを聞かなかった。
デレは首を左右に動かす。
794
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:29:55 ID:.nLUMdgE0
ζ( ー *ζ「……帰ってきてほしいです」
ζ( ー *ζ「ちゃんとお城に帰ってきて、また私とこうして会ってほしいんです」
ペンを握れず、震える声でそう伝えた。
亡命したらもう会えなくなるかもしれない。
たったそれだけの事柄が、彼女を縛り付けていた。
( ・∀・)『……わかりました』
モララーはそう書いて、壁に寄り掛かった。
( ・∀・)『私はいつか必ずここに戻ってきます。
それで、そのときには必ずあなたを救います。奴を倒すために』
デレは、はっとする。
モララーははっきりと魔王と立ち向かう意思を示した。
自分の言葉のせいで。
795
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:30:55 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「あ、あの…………」
口を開いて言葉を探した。
彼を思いとどめる言葉を。
ζ(゚ー゚*;ζ「……どうかさっきのこと、忘れてくれませんか」
ζ(゚ー゚*;ζ「この際私が嘘を言っていると疑ってしまってもいいです。
ほら、ここが魔王に聞かれているかもしれないのだし」
ζ( ー *;ζ「……私が本当のことを言っている保証なんて、どこにもないんですから」
ずっと自分に嘘をついてきていたからこそ、その発想が生まれた。
この場で口にすることができた。
自分は本当のことなど言っていないと、彼に思われたかった。
そうすれば彼は生きていられる。
合理的な選択できる。
796
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:31:56 ID:.nLUMdgE0
自分はいろんなものが欠けていたんだ。
デレは目を閉じて、思い返した。
母が死んだその日から、父によってお城に閉じ込められた。
そこで社交性を捨てた。
外に出たいという思いだけを募らせ、父への恨みを重ねてしまった。
そこを魔王に付け込まれた。
今、その結果として一見すると外に出られている。
でも、その実監視されている。
能力がわかっても、行動の制約があることに変わりはない。
何よりも、魔王に聞かれないためにと言葉を奪われてしまっている。
そのことがとても辛い。
自分の意見を伝えるのに、どうしたらいいのかわからない。
伝えない方がいいのかもしれない。
信じるなと言ってしまえば、どれほど楽か。
関係など断ち切ってしまえば、傷つくことなど何もないのだから。
797
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:32:55 ID:.nLUMdgE0
目を閉じているために、視界は真っ暗。
何も見えない。
自分の思考と同じ世界。
そんな世界の中で
いつかと同じ、温かさを感じた。
モララーの大きな手のひらを背中に感じ
彼の身体が寄るのを感じた。
デレの身が強張る。
でも怖くはなかった。
たとえ何も見えなくとも、何を言わなくとも構わない。
そう思えたからこそ、全てを受け入れられた。
デレの僅かな喘ぎ声が掻き消されたときにはすでに
言葉すら必要ではなくなっていた。
☆ ☆ ☆
798
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:33:55 ID:.nLUMdgE0
(;^ω^)「…………」
(;^ω^)「ここから先を読むのは、人として……」
( ^ω^) ペラペラ
( ^ω^)「……ん?」
( ゚ω゚)
(゚ω゚ )=( ゚ω゚)
(;^ω^) フゥ
( ^ω^)「もう少し、こう、流し読みで……」
☆ ☆ ☆
799
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:34:55 ID:.nLUMdgE0
308年 8月26日
モララーが帰還した。
そしてすぐに、デレと会った。
( ・∀・)「考えはあります」
こっそりと、モララーはデレにそう告げた。
( ・∀・)「この8カ月、私は状況を整理していました。
もうほとんど確証に近い考えを抱いています。
あなたにも協力していただきたい」
心強い言葉。
( ・∀・)「隙ができたらまた連絡します」
そのときはそれっきり、会話は終了した。
800
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:35:56 ID:.nLUMdgE0
308年 9月1日
ラスティア国、南の山にて事件が起こった。
テーベ国からの商人の死体が発見されたのである。
その死体は衛兵によって処理されたため、詳しい事情は国民には知らされなかった。
しかし、噂はすぐに広まった。
その人物の足取りから察するに、彼はラスティア城へと向かっていた。
しかしその人がいったい何をしようとしていたのかはわかっていない。
全てはラスティア城の衛兵により持ち去られてしまったからだ。
その商人の持ち物は、きっとお城にとって都合の悪いものだったのだろうというのが
噂話のだいたいの締め言葉となっていた。
801
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:36:56 ID:.nLUMdgE0
308年 9月13日
国王が2週間の外交に出かけた。
マルティア城に赴く、比較的規模の大きな外交であった。
前々から話し合いは続いており、その内実はデレにも知らされていなかった。
ただ、状況から察するに、テーベとも関係する事柄だろうと思われた。
最近では世界のニュースは届いてきていない。
不穏がラスティアの周囲を取り囲んでいた。
ニュースを見ることができない国民は、その状況を知る由もなかったが。
外交は戦争を避けるために行われる。
しかしそれが叶わない場合は、国民を守るために行われる。
なるべく被害を減らすために。
デレは、すでに後者の段階に至っていることを肌で感じていた。
モララーが彼女に手紙を送ったのは、その日の晩であった。
802
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:37:57 ID:.nLUMdgE0
手紙の内容を見る。
ζ(゚ー゚*ζ「これは……」
小さな言葉が口を突いて出てくる。
これくらいなら魔王に聞かれることはない。
その程度の加減はすでにできるようになっていた。
そこに書いてあった文字を見て、彼女は目を見開いた。
モララーの淡々とした字が目に映る。
『 作戦はすぐ行いましょう。
国王のいない間に、魔王を特定します。
あなたには、ある演技をしてもらいたいのです。 』
まさかこんなにすぐに動き出すとは思わなかった。
だからこその驚き。
そして、目はさらに下方へと移る。
何を演じたらいいのか、それが書いてあった。
803
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:38:57 ID:.nLUMdgE0
『 ・
・
・
まずは講堂にて
冷たい王女を演じてください。
・
・
・ 』
☆ ☆ ☆
804
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:39:55 ID:.nLUMdgE0
9月20日
南の山へ赴く前日
デレとモララー、そしてロマネスクは衛兵訓練場の近くで会合した。
どうしてロマネスクがいるのだろうとデレは不思議に思った。
だけどそれを聞く前に、もっと伺っておきたいことがある。
ζ(゚ー゚*ζ『言われた通りに演じることができていたでしょうか』
文字を見せつつ、デレは不安そうに首を傾げた。
モララーは微笑み、それからあらかじめ用意してあったメモを見せてくれた。
( ・∀・)『完璧です。これで、明日は大丈夫』
デレは安堵のため息をつく。
それからまたペンを動かし、次の言葉を綴った。
ζ(゚ー゚*ζ『それで、計画とはどのようなものなのでしょう』
真剣な視線が交錯する。
805
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:40:55 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『魔王であると思われる人を連れていきます』
それから、モララーはその人物の名前を述べた。
デレは息をのむ。
ζ(゚ー゚*;ζ『そんな、まさか』
( ・∀・)『あくまでも推測です。
ただ、もしそうだとすると、あなたは国家レベルの陰謀に巻き込まれたということになりますね』
( ・∀・)『とにかくその人を連れて、我々は城下町の脱出を図ります』
脱出、という文字がデレの両眼に映る。亡命するのだろうか。
目を見開くデレ。モララーの続きを待つ。
( ・∀・)『もしその人が魔王でないならば、あなたは逃げることができます。
私が最も信頼する二人の衛兵と、このロマネスクがひっそりと護衛していますから』
モララーの指がロマネスクに向けられた。
ロマネスクは小さな咳払いをする。
( ФωФ)『恐れ多くも、王女様、私も尽力いたします。
それに私には信頼できる双子の魔人もついておりますゆえ、必ずお役にたちましょう』
魔人という言葉を見て、デレは微かに怯える。
ロマネスクは首を振って、その疑いを晴らそうとした。
( ФωФ)『大丈夫、彼らは私の地元からついてきている弟子のようなもの。
このモララーでさえ彼らのことは認めております。正しい心を持った魔人であると』
その言葉を見て、モララーは鼻で笑い、頷いた。
806
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:41:56 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)『私はこそこそ暗躍する魔人が嫌いなだけなんですよ。
とはいえ昔のトラウマから、魔人に対する疑いを完全には拭いきれていない。
それが私の弱さでもありますが』
そこまで書いて、モララーは首を横に振る。
こんな話を続けてもしかたない、といった様子だ。
( ・∀・)『話を戻しましょう。
もしその人物が魔王ならば、きっと私たちを襲ってきます』
( ・∀・)『ただし、あなたを直接襲うということはありません。
そんなことをすれば不思議な力を失うことになってしまいますから』
( ・∀・)『ですから、必ず他の魔人を利用しての攻撃を仕掛けてくるはずなのです。
もしわずかでも怪しい動きがあれば、私はそれを証拠として、その人物が魔王であると断定します』
( ・∀・)『そこから先は流れのまま、私は魔人と対決します。
そして私が勝ったとしても、あるいは負けたとしても、
最後には、この計画は私と言う不穏分子を消すためのものであった、と言い張ってください』
( ・∀・)『そうすれば魔王は、この旅路が逃亡のためのものでなかったと納得するでしょう。
あとは隙をついて、その人を倒せばいい。あなたは解放される』
807
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:42:55 ID:.nLUMdgE0
( ФωФ)『厄介事を消すために、私の連れの魔人が連れ添いの衛兵を眠らせます。
双子の弟の方がその能力を持ってますゆえ、できることなのです』
( ФωФ)『重要なのはその衛兵たちにそのような事件があったと理解させることです。
噂が広まれば魔王の行動は制約される。そうなると勝手にあなたを外へ出そうとはしなくなる。
あなたが外に行くことで生じる面倒な事態、正体がばれる危険をなくそうとするわけです』
( ФωФ)『魔王は外からの視線に意識を向け始め、隙が生じるでしょう。
そのときこそが、お城の内部にいる我々が奴を倒すチャンスとなるのです』
( ・∀・)『これが私の考えた計画です。
ご理解をいただけたでしょうか』
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
デレは考えた。
今、一気に見させられた計画は、確かに良くできている。
でもどうにも腑に落ちない点が一つ。
それを、ゆっくりと紙に書き出していく。
808
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:43:55 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ『もし、その人物が魔王で、あなたが負けたらどうなってしまうのでしょう』
疑問を書き述べる。
モララーは腰に手を据えて息を吐き、それから一気にペンを走らせた。
翻る手。
デレの目に映る文字。
( ・∀・)『私はあなたを逃亡させようとしている悪者なのですから
魔王の側も躍起になって私を襲ってくるでしょう』
( ・∀・)『おそらくは、致命傷以上の傷を負わされます。
最悪の場合はその場で殺されてしまうかもしれません』
モララーは何事でもないというように、すらすらとペンを動かした。
そこから先へと話を進めるべく。
だけど、その動きは止められてしまう。
懐には見慣れた黄金の髪が見えた。
愛おしく弧を描いたそれらが、左右に振られる。
静かな、言葉も出せない否定。
809
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:44:55 ID:.nLUMdgE0
デレは彼の胸に顔をうずめた。
そのまま二度と動きたくないと思った。
目を合わせれば最後、彼が遠くへ行ってしまう気がしたからだ。
この場を離れれば、もう二度と彼は自分を抱擁しないだろう。
彼女はひたすら、その背中に彼の手が触れるのを待った。
彼と出会ってからいつも、彼女が涙するたびに現れてくれる温もり。
悩みを打ち明けた時も、遠征行きが決定した時も
それは優しく彼女を迎えてくれた。
だから今回も来てくれる。
この涙を止めるために。
いつだって来てくれたのだから。
そんな期待を抱くようになっていた。
810
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:45:55 ID:.nLUMdgE0
モララーの吐く息が、彼女の頂きにかかった。
空気が頭をなでる。
( ∀ )「ロマネスク」
モララーの声がする。
顔色はうかがえないものの、それは確かに彼の声だった。
彼女がずっと聴きたかったもの。
( ФωФ)「しゃべっていいのか?」
ロマネスクが怪訝そうに言う。
モララーは肩をすくめた。
( ∀ )「少しくらいなら問題ないだろ。
魔王だって、こんな衛兵だけが使う場所の隅っこのところまで
聞いてもしかたないだろうしな」
相変わらずの落ちついた口調。
彼女はその一字一句から安心を掬い取っていた。
( ∀ )「こいつを連れ出してくれ」
そんな健気な行いに、彼の言葉が止めを刺した。
811
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:46:54 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「!?」
顔を一息に上げ、彼の顔を伺おうとする。
だけどその前に肩に力がかかり、足がよろめいた。
モララーが彼女を突き飛ばしたのだ。
デレの腕が宙をばたつく。
その腕の一端を、ロマネスクはしっかり握りしめた。
( ФωФ)「また明日、な」
ロマネスクはそうモララーに呼びかけた。
彼からの返事はない。
デレの目の前で、モララーは背をむけていた。
顔色も何も伺えない。
何も知ることはできない。
デレは困惑した。
なぜ自分は見捨てられてしまったのか。
どうして彼の手のひらは自分の背中を包み込もうとしなかったのか。
812
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:47:56 ID:.nLUMdgE0
崖を墜落する心持だった。
目の前に岩壁がある。
モララーの姿は崖の上。
何も見えないし聞えない。
手を伸ばしても届かない。
ただ下へ下へと落ちていくだけ。
誰も自分を救ってはくれない。
そんな暗い予想が一挙に彼女を包み込む。
どんな鳥籠よりも怖い暗闇。
背筋を駆け巡る悪寒が、彼女の喉を震わせた。
813
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:49:01 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*;ζ「どうして!?」
絶叫。
身体は既に扉の外に出ている。
返事はこず、音を立てて扉が塞がる。
もう一度叫ぼうとした。
その口が手のひらで塞がれる。
(;ФωФ)「こんな夜に叫んではなりませぬ!」
ロマネスクが彼女を制止しようとしていた。
デレは頭をふり、その手のひらから逃れようとする。
それが叶わないと悟ると、口を開いて歯をむき出しにした。
そのまま、噛みつく。
(;ФωФ)「!?」
814
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 21:49:39 ID:nfamNBCU0
デュクォォ…
815
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:50:02 ID:.nLUMdgE0
動揺する手。
間隙。
デレは身をかがめ、前へと突き進もうとした。
再び彼のいる扉へと。
(#ФωФ)「なりませぬ!」
ロマネスクの怒声。
腕が再び掴まれる。
猛烈な勢いで、背後に引き寄せられた。
身体の軸がぶれ、よろめき、地面へと投げつけられる。
衝撃で目がくらむ。
草の匂いが飛び交う。
薄目の先に人影を見た。
例の猫目。
816
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:51:01 ID:.nLUMdgE0
ロマネスクはデレに馬乗りとなり、顔を向けてきていた。
考えている余裕もなかった。
デレはすぐに肘を絞り、平手を振りかざそうとする。
( ФωФ)「ふん」
鼻を鳴らす音だけ聞えた。
腕が止まる。
ロマネスクによって平手が食い止められたことを、やや遅れて認識する。
(#ФωФ)「聞き分けのない小娘め。
モララー殿が何を思ってそなたと顔を合わせないのか、わからんのか」
ζ( ー *ζ「何が、ですか……」
彼女は久しぶりに口を開いた。
か細い声。
腕にますます力が籠った。
ζ(゚−゚#ζ「何がわからないっていうんですか!」
そこから彼女は、感情の赴くままに言葉を吐露した。
ずっと押し殺してきた言葉。
言ってはいけないと思い、耐え忍んできた気持ち。
817
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:52:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚−゚#ζ「あなたがたはまだ何を隠しているって言うんですか!
私が何をしたっていうんですか。せっかく何もかもひた隠しにして生きてきたのに。
自分の気持ちに嘘をつき続けて、やっとの思いでここまでこれて、
魔王の正体だってもう少しで掴めそうだっていうときに!」
ζ(゚−゚#ζ「目の前で……ずっと会いたかった人がいなくなってしまうかもしれない。
そんな話を聞かされるなんて、思いもよらないに決まっていますよね?
だったら泣いたっていいじゃないですか! それくらい当然の感情でしょう!?
それなのに何も声をかけてもらえず、抱いてももらえず、あげくはその人本人にまで遠ざけられて……」
ζ(;−;#ζ「何のためにそんなことするっていうんですか!
ただ愛する人のそばにいることがそんなにいけないことだっていうんですか!
どうして私はそんなにも我慢しなくちゃいけないんですか、ねえ。
私が何をしたっていうの。答えてよ! 何が陰謀よ、何が魔王よ!」
ζ(;−;#ζ「みんな少しだって私の気持ちを考えたことはあるの?
私がどんな気持ちで毎日あの暗いお城の中で過ごしてきたと思っているの?
そこから抜け出そうとすることが、そんなに悪いことだったって言うの?
私はそんなにひどいことをしたの? なんでこんな目にあうの?」
ζ( − #ζ「お父様なんて嫌い。いっつも何にも言ってくれなくて、何考えてるのかわからなくて。
私をこんな目に合わせた奴らだって、嫌い。よその国だろうとなんだろうと。
魔王だって魔人だって人間だってみんな、みんな嫌い! 大っ嫌い!!
あなただって、モララーだって――」
818
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:53:00 ID:.nLUMdgE0
口は動いても、言葉が続かなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃに崩れていく。
浮かんでいたはずの言葉が出てこない。
言おうとしているのに、身体のどこかがそれに刃向った。
ζ( − ζ「なんでよ……」
自分の口を抑えた。
どうにかしてその震えを止めようとした。
だけど、その腕も手も、同様に震えている。
指が上手く動いてくれない。
目で確認したいのに、霞んでいて何もわからない。
口から、目元へと手のひらを動かした。
流れて止まらないそれを止めようとした。
とうとう誰も止めてくれなくなったそれを、自分の手で。
何も塞ぐものが無くなった口から、声が漏れた。
言葉を覚えてもいない赤子のように。
意味をなさない音の羅列となって、夜気を切り裂いていく。
819
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:54:00 ID:.nLUMdgE0
( ФωФ)「…………」
ロマネスクは静かに横に異動してくれた。
おかげで彼女は身が軽くなるのを感じた。
今ならもう一度走りだせる。
ロマネスクを逃れて、もう一度あの小屋に入ることだって。
だけど、そんな発想さえももう思い浮かばないほどに
彼女の思考は退行していた。
悲しみを埋めるために、自分の手では小さすぎる。
一人では何も満たすことはできない。
涙を止めることさえもできない。
デレは今更のように痛感していた。
( ФωФ)「…………彼はあなたを愛しています。
愛しているからこそ突き放すのです。
あなたに生きていてほしいから。情が残っていては、魔王は騙せません」
820
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:55:00 ID:.nLUMdgE0
淡々とロマネスクが説明してくれた。
味気ないその厳めしい語りが、今の彼女には心地よかった。
その事実を理解するのに、誰の感情も介在してほしくなかったから。
( ФωФ)「どうか、わかってやってください、王女様。
彼はあなたに願いを託したのです。
それをどうか、無駄にしないでください」
草の上を撫でる音がした。
デレは指の隙間から覗き見た。
ロマネスクが深々と頭を下げているのが見えた。
821
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 21:55:40 ID:zwr5HcQQ0
モララー…
822
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:56:00 ID:.nLUMdgE0
ζ( ー *ζ「……やめてください」
しゃがれた声で、ロマネスクに語りかける。
ζ( ー *ζ「魔王であろうとなかろうと、いずれにしろ私は王女じゃなくなってしまうのです。
そうなればもう、ただの小娘と同じですよ」
力ない笑いが続いた。
空気を震わせることさえできない微笑み。
夜空で輝く星が見えた。
ようやく目は滲まなくなっていた。
心が絞られた。
何をすべきか、わかったから。
☆ ☆ ☆
823
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:56:59 ID:.nLUMdgE0
308年 9月20日
私は明日、モララーさんと一緒に南の山へ向かいます。
モララーさんはこれまで、一人で魔王の正体を推理してくれていたそうです。
これまで私が話したこと、一緒にいたこと、その全てから。
もしも彼の言うことが正しければ
私は大きな政治的陰謀に巻き込まれてしまったということになります。
いいえ、私だけではありません。
国王も、そしてモララーさんも、みんな。
こんなに非道な話は他に聞いたことがありません。
今回の調査に、モララーさんは決死の覚悟で臨んでいます。
私だって、同じ思いを抱いています。
私は近いうちに決着をつけます。
全てを終わらせるために。
☆ ☆ ☆
824
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:58:00 ID:.nLUMdgE0
10月25日 新嘗祭の夜
夜7時50分頃
デレは外にいた。
人影を避け、闇夜に紛れ。
その華奢な手には似つかわしくない、銀のナイフを握って。
彼女は以前日記に書いたとおり
全ての決着をつけるために、ある場所へと向かっていた。
そこには魔王が潜んでいる。
それを証明してくれたのはほかでもないモララーだった。
あの日の手紙を、デレは思い返していた。
行われていた計画も。
ひと月前のことでも、鮮明に記憶されている。
825
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 21:59:00 ID:.nLUMdgE0
お城の角を曲がる。
小屋が立ち並ぶ場所があった。
あそこが目当ての場所。
デレは唾を飲み込んだ。
手が震えている。
何度も魔王を殺す想像はしてきた。
このひと月で、何度も。
国王の帰りを待ち望んでいた。
あの性格からして、絶対に新嘗祭を敢行すると思ったからである。
しかし確定ではなかったため、目つきが鋭くなることはあったが。
一番隙が生まれるのはこの新嘗祭だと思っていた。
国王も、衛兵も手薄になるこのときこそ、自分が行動する絶好のチャンス。
826
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:00:00 ID:.nLUMdgE0
国王には内緒にしておいた。
どうせ心配され、止められてしまうと思ったからだ。
もう言うことを聞いている場合ではない。
モララーを殺されたことに対するデレの怒りは、もはや収まるものではなかった。
モララーの死体を確認してから、ロマネスクと話し合った。
計画の第二段階、魔王の暗殺を企てるために。
ロマネスクは確かに信頼できる人だった。
( ФωФ)『魔王は私が仕留めて見せますよ』
10月に入ってから、彼が一度提案してくれた。
( ФωФ)『あなたよりも私の方が力はありますし、魔王は油断するんじゃないですかな』
ζ(゚ー゚*ζ『いえ、私にやらせてください』
デレは丁寧な文字でそれに応えた。
ζ(゚ー゚*ζ『私は人質なんです。魔王は簡単に私を殺せない。
だからこそ油断が生じる。そこを倒しに行くんです。
それに何よりも、私があの人を殺したい』
827
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:01:01 ID:.nLUMdgE0
最後に付け加えた物騒な文字を見て、ロマネスクは狼狽していた。
(;ФωФ)『王女、そのような言葉を使われては……』
ζ(゚ー゚*ζ『いいんです。前にも言ったでしょう、私はただの一人の小娘。
だからどんな言葉を使っても責めないでください』
(;ФωФ)『…………そうですか』
( ФωФ)『では、私ももう少しフランクに接しますかな、小娘さん』
それから妙に、デレはロマネスクに気に入られだした。
よく尽くしてくれる人だとデレも感謝している。
今ごろは国王の部屋でモララーの形見を取りにいってくれていた。
最も、その命令には、
魔王を倒す方に手出ししてほしくないという思いも込められていたのだけど。
828
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:02:00 ID:.nLUMdgE0
小屋。
より詳しく言えば、それは厩舎だ。
デレはその扉を開いた。
魔王はいた。
いつものように、綺麗な体毛を棚引かせている。
ζ(゚ー゚*ζ「…………あなたが」
一言、デレは呟いた。
ナイフがまっすぐ前を向く。
829
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:03:00 ID:.nLUMdgE0
マルティア国から、数年前プレゼントとして彼をもらった。
青い目の白馬。
ナイフを握りなおす。
ζ(゚ー゚*ζ「魔王だったのね」
言うと同時に、デレは駆け出した。
月明かりから外れる。
真っ黒な通路を、ナイフを突きだして。
830
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:04:00 ID:.nLUMdgE0
魔人の特徴は獣の部分。
多くの場合、それは耳として現れる。
ただし中には、骨格レベルで変形してしまう者もいる。
人の身体と、馬の身体、二つを併せ持つ者もありうる。
モララーはそのことを考慮して
魔王の正体をその贈呈された白馬だと睨んだ。
だからあの日、南の山へ白馬も連れてくるように言った。
道中で、モララーが魔人を憎んでいることもにおわせて。
そうすれば魔王はモララーを襲いに来る。
ひょっとしたら殺しに来るだろう。
そうなれば、確実に、白馬が魔王と決まる。
結果として、モララーは殺された。
魔王の手下によって。
831
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:05:04 ID:.nLUMdgE0
デレは最後まで、演じ切った。
モララーの死体を前にして、あくまでも冷徹に振る舞った。
ロマネスクがこっそり連れてきていた魔人によって、ブーンたちも眠らせた。
計画は確かに上手く行ったのである。
それでも抑えきれない思いがあり
彼の額に口付けをすることで、その気持ちを静めた。
冷たくなる彼の顔を見降ろした彼女は、どうしても言いたくなった。
ζ(゚ー゚*ζ「人が口で言ったことを信じるなんて、馬鹿みたい」
あの倉庫で、デレが言ったこと。
帰ってきてほしいと言ってしまったこと。
それをモララーは実行した。
だから死んでしまった。
なんて馬鹿なんだろう。
少なくとも魔王だったら、絶対にそう言って嘲るだろう。
832
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:06:00 ID:.nLUMdgE0
だけど、
彼女はその愚かなまでのモララーの熱心さに救われた。
彼女は決して、モララーを嘲りたかったのではない。
魔王に疑われないように、細心の注意を払って呟いた
精一杯の労いの言葉だったのである。
833
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:07:03 ID:.nLUMdgE0
ナイフが振りあげられた。
全てを断ち切るために、
デレの顔が歪む。
これで終わるのだという安堵と共に。
「君は、まさか」
魔王の声がする。
口を動かしているようには見えないが、聞えてくる。
獣の部分が出ていれば、能力を使うことができる。
白馬の姿をしているから、能力を使ってきている。
声が聞えることも不思議ではない。
だから振り下ろす。
一気に。
834
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:08:00 ID:.nLUMdgE0
「僕がずっと白馬でいたと、本気で思っているのかい?」
ナイフが空を切る。
白馬の身体が縮んだからだ。
デレは舌打ちする。
言葉はよく聞き取れなかった。
でも聞いていても意味はないだろう。
それよりも早く仕留めなければ。
再び腕を振るおうとした。
だけど、その腕を後ろから握られる。
ζ(゚ー゚*;ζ「!?」
息をのみ、顔を振り向く。
835
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:09:00 ID:.nLUMdgE0
(゚、゚トソン「……いけませんよ」
従者の一人がそこにいた。
ζ(゚ー゚*;ζ「そんな、どうしてあなたが」
腕を振りほどこうとするも、信じられないほどの力がかかって離せない。
(゚、゚トソン「あなたにわかりやすいように説明するならば
私はずっとこのお城の内情を探っていたのです」
「そういうこと」
前で声がする。
デレは再び、魔王の声を向いた。
「この国はもう、前から目をつけられていたんだ。
マルティアにね」
836
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:10:00 ID:.nLUMdgE0
魔王の姿は変わっていた。
人間の姿へ。
ζ(゚ー゚*ζ「あ……」
言葉にならない音が漏れた。
ζ(゚ー゚*;ζ「そんな……」
思考が書き変わる。
今までの常識が覆る。
ζ(゚ー゚*;ζ「いったいどうやって!?」
837
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:11:00 ID:.nLUMdgE0
(゚、゚トソン「このお城が魔人のものになっていたからですよ」
後ろに立つトソンが淡々と説明してくれた。
(゚、゚トソン「最低でも半分以上が、我々の仲間ならば
多少不自然なところがあっても誤魔化すことができるというわけです」
(゚、゚トソン「だからある程度時間が経過した後に、あなたに近づいた。
そうして、実際に目でもあなたを監視していたんですよ」
「とはいえ、何を企んでるかまではわからなかったけどね。
その点は凄いと思うよ。南の山では完全に乗せられていたし」
「今日だって、こうして仲間に見張らせるくらいしか対策のしようが無かったもの」
ζ(゚ー゚*;ζ「対策って……どうして今日ここへ来るってわかったの?
ひと月も間が空いているのに」
838
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:12:00 ID:.nLUMdgE0
「君の性格からして」
魔王がデレに歩み寄る。
その指先が、デレの額に触れた。
恐ろしいほどに冷たい指先。
「誰にも邪魔されない日を選ぶだろうなとは思ったよ。
国王にも、衛兵にも邪魔されず、自分だけで決着をつけに来るって」
「結局君は誰も信じてないんだよ。しいていえばモララーだけを信じていた。
そのモララーを殺されれば、そりゃもう怒って僕を殺しに来るだろうな。
一番お城に隙ができる日を狙ってくるだろう、じゃあ防いでおこうってね」
指が離れる。
魔王はゆっくりと歩みを進めた。
外へ向かって。
デレの視線がそれを追いかけていった。
839
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:13:00 ID:.nLUMdgE0
ζ(゚ー゚*ζ「……こんなことをしたら、もうこのお城にはいられないんじゃありませんか?」
ζ(゚ー゚*ζ「もしここで私に何かしようものなら、お父様が黙ってないですよ。
このお城に残っていた人から疑われます。そうなればあなたもただじゃすまないはず」
「だから、ここはもう魔人や僕らの味方ばっかりなんだって」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、まだ国王は人間です。
ちゃんとした人間の王様で、私のお父様。
第一、国民だって人間の方が多いんですよ? 魔人の王政なんて続くわけが」
「あてはあるよ。ちゃんと上に立てそうな人間はいる。
僕らの考えに協力してくれそうな人が」
魔王の身体が、進む。
840
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:13:17 ID:hqYQ83Bw0
しえn
841
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:14:00 ID:.nLUMdgE0
「それに、残念だけど王女様。
もうほとんど僕らの計画は終わりの段階だよ」
「もう君に人質の価値はほとんどない」
入口の前。
月の光が差し込んでいる。
ζ(゚ー゚*;ζ「価値は、ないって……」
「そりゃまあ、生かしてはおくけど」
魔王が指を鳴らした。
その背後に、多数の赤い目が浮かぶ。
魔人が来ている。
いつの間にか、厩舎を取り囲んでいたのだ。
魔王は改めて、デレを見据えた。
842
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:15:28 ID:.nLUMdgE0
「君らの王政は」
その顔がより鮮明になる。
見間違いではないことも、はっきりと思い知らされた。
ミセ*゚ー゚)リ「もう終わり!」
嬌声が響き渡る。
声質が違っていても、すぐにわかる。
あの魔王の声と同じ人が発する声。
843
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:16:28 ID:.nLUMdgE0
赤い目が迫ってくるのが見えた。
いくつもいくつも。
尖った叫び声が聞えてきた。
魔人の叫び声だ。
この厩舎に入ってこようとしている。
デレは歯を噛みしめた。
844
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:17:28 ID:.nLUMdgE0
ミセ*゚ー゚)リ「残念だったね、あと少しだったのに」
すっかり勝ち誇った表情のミセリが、声をかけてきた。
ζ( ー *ζ「……そう」
俯いたまま、彼女は言う。
ほとんど聞き取れないほどの小さな声で。
ζ( ー *ζ「これで勝ったと思うのなら、そう思っておけばいいわ」
髪に隠れたその奥で
デレの瞳は光を失わずに輝いていた。
頭に浮かんでいたのは、部屋に置いてきた日記帳。
魔王は間違っている。そうデレは思った。
彼女にはもう一人、信じている人間がいた。
☆ ☆ ☆
845
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:18:07 ID:oUUFHOhs0
うおお…支援
846
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:18:29 ID:.nLUMdgE0
南の山へ赴いた日
あの湖の畔で
彼女はモララーと会話した。
そのときの話題は、いったいどんな人を連れて来たのかということだった。
モララーは信頼できる人を連れてきたと言っていたが、それ以上のことは何も聞かされていなかった。
( ・∀・)「今ちょうど、あの馬のところにいますよね。あっと、振り向かないで。
下手に振り向いたらこっちに来ちゃうかもしれませんし」
そう語る彼の姿は、どこかにやけていた。
( ・∀・)「まずあの大きな鼻を持った細身の男はドクオと言います。
あいつは実はレジスタンスにいて、隙あらばお城に刃向おうとしています。お城にとっては悪者ですね」
ζ(゚ー゚*;ζ「い、いいんですか? そんなこと言っちゃって」
( ・∀・)「あ、捕まえたりしないでくださいよ? まあ、それくらい許してやってください。
あいつもまた魔人のせいで、とても辛い経験をしているのです。
立場こそあれ、だからこそ強い。だから信頼できると私は思っています」
847
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:19:28 ID:.nLUMdgE0
( ・∀・)「で、もう一人の少年。実は衛兵見習いなのですが」
ここで、モララーは口元を抑えて笑った。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたのですか?」
( ・∀・)「いえね、あいつは……すごく優しいんです」
ζ(゚ー゚*ζ「優しい、ですか」
奇妙な言葉のように感じた。
そんなものが必要になるものなのかと、訝しんだ。
その気持ちも見透かすように、モララーは笑っていた。
( ・∀・)「何物も憎みきれない。だからこそ、誰にも選べないような選択をしてくれる。
あいつはきっと、魔人と人間のかけ橋になってくれる、そんな気がしてならないんです」
( ・∀・)「それが、ブーンを連れてきた理由なのです。
どうか、この計画が終わったのちは、彼を信じてやってください」
☆ ☆ ☆
848
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:20:27 ID:.nLUMdgE0
託すべきバトンは全て渡した。
モララーの信じたあの少年へ。
あの人の願いに自分の願いを重ねたのだ。
デレはそう思ったから、頬を緩ませていた。
ミセ*゚ー゚)リ「?」
不思議そうな声が聞えてくる。
そうだろうと思い、すぐに表情を切り替える。
胸の内に、思いは潜める。
これまで何度もしてきたことだ。
いつか、この冷たい感情を、
あの優しい衛兵が打ち砕いてくれるそのときまで
待っていようと心に決めた。
それもまた、一つの決意。
849
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:21:28 ID:.nLUMdgE0
こうして、
ラスティア国王女デレは、一旦世界の表舞台から姿を消すこととなった。
.
850
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:22:27 ID:.nLUMdgE0
'´ `ヽ !
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851
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:23:28 ID:.nLUMdgE0
―― 第六話 おわり ――
―― 第七話へつづく ――
.
852
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:24:10 ID:4fDvgHLE0
おおー……乙
853
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/09/13(金) 22:24:46 ID:.nLUMdgE0
―― コラム⑥ 小ネタ ――
ミセ*゚ー゚)リ……M=魔王
(゚、゚トソン……S=しもべ
ラスティア城下町編はおしまいです。
次はテーベ国編なのですが、区切りもいいことですし
一旦時間をおいたり別の作品書いたりして頭を冷やしたいと思います。
ゆっくりお待ちください。
それでは。
854
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:30:29 ID:hqYQ83Bw0
乙!
そんな所に伏線?があったとは・・・
855
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:31:44 ID:Fy0LKOgQO
投下に気づいたら終わってた
今から読む
856
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:32:03 ID:.ZFC89Ss0
乙…上手いなぁ
857
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 22:55:22 ID:YSp3Icqc0
おつです!
すっごくドキドキした…!
ゆっくり待つよ!
858
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 23:24:13 ID:Fy0LKOgQO
予想外だったが今になってあれもこれも伏線だったのかと気づかされた
859
:
名も無きAAのようです
:2013/09/13(金) 23:28:32 ID:NXaVFmGwO
ω・)おつ
860
:
名も無きAAのようです
:2013/09/14(土) 00:09:16 ID:SJI1rzyc0
さっぱり気付かなかったわ…
乙
861
:
名も無きAAのようです
:2013/09/14(土) 00:58:27 ID:fFlqprUo0
おつ
伏線やべえ!流石としかいいようがない
読んでてここまでドキドキしたのは久々だ
862
:
名も無きAAのようです
:2013/09/14(土) 04:11:45 ID:Nfa/SWck0
すげー…
863
:
名も無きAAのようです
:2013/09/30(月) 21:03:31 ID:yGuuVFcwO
ξ゚⊿゚)ξ別に待ってなんかいないんだからね
テストのために書きこんだだけよ、勘違いしないでね
864
:
名も無きAAのようです
:2013/10/13(日) 23:09:53 ID:/DR6zPF60
竜騎士になったデレを旗頭に、魔人たちを最も深き迷宮へ押し戻す…
あれ?
入れ替わり物の疑心暗鬼ドキドキ感は異常
865
:
名も無きAAのようです
:2013/12/09(月) 19:20:42 ID:wfZ2VIa.0
落ちついたらこっちも読ませてくれ
楽しみにしてる
866
:
◆MgfCBKfMmo
:2014/02/02(日) 00:56:54 ID:QffNqF060
第一話〜第六話までを『第一部 王女と勇者の章』とします。
第七話からの『第二部 戦士と魔女の章』を小説板2にて投下を初めます。
今後もよろしくお願いします。
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/16305/1391263019/l50
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