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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )

1名も無きAAのようです:2012/11/23(金) 19:46:34 ID:tFLjG.4M0
ラノベ祭り参加作品

709名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:29:02 ID:ttGVJWA.0


が、それまでだ。

水の流れはゴーレムの体を大きく揺らすも、装甲を完全に砕くことも、体を倒すことのできないまま消える。
打撃を与えることは出来た。
巨人は、確実にその体力を失っている。
しかし、その体が巨大すぎて倒すことまではできない。


(; ´_ゝ`)「――くっ、無駄に頑丈」


.

710名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:30:26 ID:ttGVJWA.0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――



(#^ω^) ≪受け止めるお!!≫

(´<_` )「――!」


――空に放り投げられた弟者の体が、地面に叩きつけられることはなかった。
ブーンが引き起こした風が弟者の体を受け止め、その体を無事に地面に下ろす。
そして、それと同時に水の柱がゴーレムの頭を捉えるのを、弟者は見た。


/◎ ) `=,/、 )  AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA


.

711名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:32:46 ID:ttGVJWA.0


蒸気が、弟者の視界を埋め尽くしていく。
その向こうがどうなっているのかは、はっきりと見えない。
しかし、弟者は体勢を立て直すやいなや地を蹴った。


(´<_`#)「……」


その手には、もう武器はない。
シャムシールはどこかに飛び去り、青龍刀の柄はゴーレムの足を支える機関を貫いている。
唯一、手に入れたナイフも今はゴーレムの頭部へと突き刺さったまま。

弟者は地へと目を走らせる、そこに武器は見えない。


.

712名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:34:37 ID:ttGVJWA.0


(#'A`)「ナイフだ! あそこなら攻撃が通る」

(;^ω^)「でも、どうするんだお!」


ドクオの声に、弟者は視線をゴーレムの頭部へと向ける。
白い蒸気の向こうにそびえる巨体の姿は、はっきりとは見えない。
しかし、そこに武器はある。まだ、打つべき手はある。


(´<_`#)「そんなもの、後で考える」


ゴーレムの腕が向かってくる弟者を妨害しようと、無秩序に振るわれる。
それに対して、武器を持たない弟者の手が、もぞりと動いた。
その手が懐へと入り、何かをつかむ。


(´<_`#)「――クソが!」


紫のマントが翻り、中から取り出したそれを弟者は投げつける。
放たれたのは小さな何か。
それがいくつも、ゴーレムの腕に向かって飛来する。


/◎ ) `=,/、 ) !


.

713名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:38:41 ID:ttGVJWA.0

飛んできたそれから、身を守ろうとゴーレムの腕が一瞬止まる。
弟者は敵だという認識が取らせた、行動と判断。
それはゴーレムに、決定的な間を生んだ。


/◎ ) `=,/、 ) …


動きの止まったゴーレムの腕に、べたりとした何かが張り付き、あるいは跳ね返り飛んでいく。
投げつけられたそれは、武器でも、脅威でも、罠でもなかった。

しぃが調査隊本部で出した茶菓子。それから、硬貨がいくつか。
子供だまし以下の抵抗ともいえない抵抗。
しかし、それは目眩ましとしての役目を十分に果たした。


(#'A`)「そのままよじ登れぇぇぇ!!!」


止まった腕の間をすり抜けて、弟者は巨人の足元へと飛び上がる。
動きの止まった腕の上を走ると、その肩へとよじ登る。
そして、跳躍をはたすと、弟者はひび割れ変わり果てた巨人の頭部へと、たどり着く。

ナイフはゴーレムの動きにも、水の奔流にも負けずに巨人の“目”に突き立っていた。


(´<_`#)「死にさらせぇっ!!!」


.

714名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:40:07 ID:ttGVJWA.0

振り上げられた弟者の足が、小さなナイフをさらに押しこむように蹴りつける。


゛(´<_` )「――っ」

( ^ω^)「手伝うお!」


それと同時に、弟者の体を守るように吹いていた風がその流れを変えた。
ブーンの号令とともに、風が鎌鼬へと形を変え、ゴーレムの頭部へと襲いかかる。
物理的な衝動と、魔力による風。


/◎ ) `=,/、 )// W A A G A A


弟者とブーンの全力を込めた攻撃は、ナイフごとゴーレムの装甲の奥を貫いた。
その衝撃で、装甲の欠片がいくつか剥がれ落ちる。
しかし、そこまで。
装甲を破壊するには、まだ届かない。


(#'A`)「――まだ、ダメなのかよっ!?」


限界まで押し込まれたナイフは、それ以上は動かせない。
弟者の手に、もはや武器はない。
あと一歩というところまで迫りながら、弟者にはこれ以上は打つ手が無い。

.

715名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:42:17 ID:ttGVJWA.0

(´<_`#)「――ちっ」

( `ω´)「オトジャ、いったん下がるお!」


弟者の周囲に魔力混じりの風が吹き、その体を受け止める。
敵を捉えようと伸びたゴーレムの手を交わし、弟者の体は空中に逃れる。


(;'A`)「……どうする?」


このままでは、ゴーレムは倒せない。
兄者の魔法に期待するか、なんとかして結界を破壊し脱出するか。
どうする。どうすればいい――?


('A`)「何か手は……」


答えを出せないまま見回したドクオの視線が、銀色に光る何かを見つけた。
銀にひらめくそれは、折れた青龍刀の切っ先。間違いなく武器になり得るものだ。
これを弟者に手渡すことができれば――。


('∀`)「見つけたっ!!」


ドクオは青龍刀の欠片に、必死で手を伸ばした。


.

716名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:44:13 ID:ttGVJWA.0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


ゴーレムの頭部を覆う装甲は、あと少しで壊れる。
しかし、完全に破壊しきるには、まだ足りない。


( ´_ゝ`)  《砕


とっさに、叫びかけた言葉を兄者は慌てて切る。
無意識のうちに巡らせていた魔力を根性でねじ伏せて、魔法の発動を力づくで止める。
出口を失った魔力が体じゅうを暴れまわるが、それもやがては沈静化する。


(;´_ゝ`)「……くっ」


無意識のうちに魔法を放ちかけていた自分に、兄者は舌打ちをする。
この十年間、決して魔法を使わないように気をつけてきたのに、一度魔力を使えばすぐにこのザマだ。


.

717名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:46:39 ID:ttGVJWA.0


魔法は使えない。少なくとも、弟者の前でだけは使いたくない。


(;´_ゝ`)「……どうする?」


弟者が魔法を受け入れられなくなった原因は自分だ。
10年前のあの日、とっさに放った《止まれ》という魔法が、今も弟者を縛っている。
魔法がなければ、俺に魔法を使わせなければ……弟者は今もそう思っているはずだ


( ´_ゝ`)「……」


今でもあの時の決断は、後悔していない。
しかし、今は違う。今はまだ取るべき選択の余地がある。
だから、俺はあいつが平気になるまでは、あの時のような魔法は使えない。
それがあいつの兄貴としての精一杯の矜持だ。

だから――、


.

718名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:48:07 ID:ttGVJWA.0

兄者の視界に、それが映る。
火と水の石板。そして、その横。鞄に収められていた、黒いつややかな傷一つない石板。
まだ何の魔法も込められていない、まっさらな板。

媒介や魔道具を使っているから大丈夫だというのは、詭弁だ。
言葉を使って発する魔法と、本質的に何ら変わりがないのはわかっている。
それでもこれが、今考えうる限りで最良の選択肢だ。


(;´_ゝ`)「……ええい、面倒なことはあとで考える」


振るえる指を動かして、石板に手を伸ばす。
思うように動かない腕と、体に走る痛みに舌打ちをしながらも、どうにか石板を引き寄せる。
兄者は口元から流れる血を指で拭う。


(; _ゝ )「――間に合えっ!」


そして、その指を漆黒の石の表面に乗せた。
そこには、辿られるべき文字の刻は刻まれていない。
代わりに指を濡らす血が、赤の線を残した。

自分の内側にある、魔力をあつめる。
井戸から水を汲み上げるイメージ。
汲み上げた魔力を全身へと巡らせ、組み上げていく。


.

719名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:50:42 ID:ttGVJWA.0


(; ´_ゝ`)「――上手くいってくれよ」


ありったけの魔力を込めて魔法を刻む。
要になる文字はわかる。――体をめぐる魔力が、感覚が告げている。
組み上げた魔力を纏めあげる。そして、火と水の石板にあった魔法を増幅させるための文句と共に、血で刻みこむ。

一度もてば十分なほど雑に作られた、石板。
それに向けて兄者は全身の魔力を流し込み、血で描き上げた文字をなぞりあげていく。
黒い石板に浮かぶ、血で書かれた文様の一つ一つが兄者の魔力を受け白に、青に輝く。


(♯゚_ゝ゚)「いけぇぇぇぇっっ!!!」


刻み込まれた魔法は、《凍結》。
そして、それは瞬時に発動した。

――熱せられた巨人の体に染み込んだ水が、周囲に漂う白い蒸気の霧が、石板に呼応するように一斉に凍り出す。
岩で作られた装甲の、至るところから氷柱が突き出していく。


/◎ ) `-i=,/、 )


装甲が大きな音を上げ、ひび割れていく。
今や巨人の頭部の装甲は、薄くひび割れ無事なところは何処にもない。
しかし、決定的なダメージには一歩及ばない。


.

720名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:52:24 ID:ttGVJWA.0

――攻撃しなければいけないのは、装甲ではなく、その向こうにある核。
そのためにはまず、邪魔な装甲を完全に崩さなければならない。

魔力をかき集め、練り上げる。
体の中を駆け巡り勢いをました魔力は、熱くて内側から体が焼かれるようだ。
それでも、まだアイツを倒すには足りない。
あのゴーレムを打ち砕くには、もっと魔力が必要だ。

――昔から、普通、人が見えなかったり使えなかったりするものの扱いだけは得意だった。
だから、今回もきっとどうにかなる。どうにかならなくても、してみせる。


(♯゚_ゝ゚)「――まだだっ!!」

(;'A`) !


そして、兄者は手を伸ばす。
伸ばすのは肉体そのものではなくて、イメージの手。魔力を操るその感覚の手を周囲に巡らせる。

兄者の回りを取り囲む影の結界。
それを支える魔力に手を伸ばす、結界を支える術をバラバラにして、魔力を飲み込む。
結界は霧散し、兄者の頭上には一気に青空が開ける。


(;゚A゚)「結界が……。まさか、兄者のやつ」


.

721名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:54:34 ID:ttGVJWA.0


(♯゚_ゝ゚)「まだ、足りないっっ!!!」


ドクオの戸惑いには気づかずに、兄者は声を張り上げる。

はっきりと見えるようになった視界。
宙に逃れた弟者と、ブーン。草陰の中でドクオが、信じられないものを見る表情を浮かべている。
……あいつらを守らなければならない。
そのためには魔力を。もっと集めなければ――。

兄者は大気に目を凝らし、その中にある魔力を感じ取る。
土の中にも、風の中にも、草にも魔力はある。
それをできうる限り引っ張って集め、取り込む。


(♯゚_ゝ゚)「――っ、く」


――全身が、炉になったようだ。
魔力を取り込み、回し、増幅させ、形を整える。
それだけの機関、それだけの機能。
そうして練り上げたありったけの魔力を、片っ端から石板に叩きこんでいく。


(♯ ゚_ゝ゚)「――っぁぁぁああああああ!!!」


兄者は吼える。ありったけの声と魔力をあげて吠え続ける。
そして、その声に応じるように、表中はより鋭く、大きく、力を増していく。


.

722名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:56:25 ID:ttGVJWA.0


/◎ ) `-i=,/、 ) gi



ピシリと音がする。
急激にその大きさを増していく氷の柱、広がる亀裂。

   

    ピシ

そして、


                             ピシ


           それがついに、




                           ゴーレムの体を、頭を貫いた。


.

723名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:58:13 ID:ttGVJWA.0

しかし、装甲はまだ崩れない。
兄者の息はつまり、目が霞むが、それでも兄者は魔力を操るのを止めない。

まだ、足りない――。
だから、


(♯゚_ゝ゚)「弟者ぁっ、全部借りていく!!!」

(´<_` )「いくらでも持っていけ!!!」


弟者の体から、ありったけの魔力をもっていく。
息を吸うよりも自然に、腕を伸ばすよりもはるかに簡単に、魔力は兄者の体へと流れる。
その魔力の感覚は、どこからかき集めた魔力よりも馴染む。

あたりまえだ。
これは、弟者の魔力であると同時に自分の魔力だ。

――できそこないの、一人。
不吉な存在、本来ならば殺されなければならなかった命。
不安定でいびつな命と引き換えに得た力が、まっすぐとゴーレムを貫き壊していく。



そして、


                    ありったけの魔力をこめた氷の柱が


.

724名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:00:29 ID:yZraviHw0

                                                / / \
                                   `              `< ̄`フ
               <j                                   ` ‐´


       /〉    __
         `´    /!  {_
           // ̄ 7´                               ,. ┐
        //   /                             ,、   ,//」
       j,/    /                               `    ´ ̄
      く、  /
        \/ ,.、                                      ,.r 、        
           `´                                ///| 
    トj                                        | [,-┘
    ´                                           ̄       

.         __,.、                                              ,∠、 ,
       /{  ,> , 7、                                          ,.イ´_,.-〉´
        ヽにノ '´ [,-1                          /|ヽ     ,. '´ /‐'´ ,/
          ノ / / ,ト、                         '-―'´    /  r'    |
         く∠-┘ '‐ '                                 , /  /`丶、  !
          __                                     /_, ‐'´    _,.>!
      l´\/                                     / ̄|    _,.-'´
        ̄                                       /   !   /



岩の巨人の装甲を粉々に打ち砕いた――。


.

725名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:02:28 ID:yZraviHw0


そして、崩れ落ちた装甲のその向こう。
――埋め込まれていた、核がついに姿を現す。

古びた粘土板。
いつのものかすらわからない、その板には――今では失われた言葉が刻まれている。


(;^ω^)「あそこだけなんか違うお!」

(#'A`)「それが、奴の本体だ!」


粘土板に刻まれたその言葉。
それこそが、巨人を動かす魔法そのものであった。

古の伝承曰く、ゴーレム。
はるかに魔法が発達した時代に作られた。石板を触媒とした魔法の祖にして頂点。
疲れることを知らず、痛みを知らず、命令のままに従う、岩の巨人を作り出す秘術。
創りだされた巨人に命はなく、核に記された文字がある限り――無限に再生する。


(#'A`)「あの核をぶち壊せ! そうでないと、いくらでも再生するぞ」

(;´_ゝ`)「……なん、とぉ」


先ほどの攻撃で全ての力を使い果たしたのか、兄者は力なくへたり込む。
その視線こそ装甲による守りを失ったゴーレムへと向けているが、兄者の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。


.

726名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:04:23 ID:yZraviHw0


兄者は、動けない。
弟者にはもう、攻撃の手段がない。


/◎ ) 、/、; )

(#^ω^)≪切り裂くお!!!≫


その硬直した状況を、ブーンの魔法が打ち砕いた。
魔力を帯びた鋭い風の刃が、粘土板を襲う。


(;^ω^)「なんで?!」


――が、その風は粘土板に直撃する前に霧散した。
まるで粘土板自体が、魔法の力を拒否したかのようだった。


(´<_` ;)「魔法が、きかないのか?!」

(;´_ゝ`)「……なん……だと」


兄者と、弟者が言葉を失う。
最後の最後まで追い詰めたと思った。――しかし、それもここまでというのか?
誰もが言葉を失いかけた、その時。


.

727名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:06:13 ID:yZraviHw0


(;'A`)「……」


ドクオはふと、手元に目を落とす。
……そこにあるのは、弟者に渡そうとしてそのままになっていた刃。
輝くそれは、最後に残った武器だ。


('A`)「――弟者っ、受け取れ!!」


そして、ドクオは声を上げる。
必死の力で刃を持ち上げると、弟者に向けて掲げてみせた。
兄者以上に非力なドクオが必死に持ち上げたそれは、――へし折れた青龍刀の切っ先。
弟者は宙から降りると、その刃をひったくるようにして奪い取った。


(´<_` )「恩に着る」

(*'A`)「お、おう!」


ドクオの返事を聞くよりも先に、弟者の体が弾丸のような速度で動きはじめる。


.

728名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:08:36 ID:yZraviHw0


(#´_ゝ`)「弟者っ、やれっ!!!」

(´<_` )「把握した」


兄者の声が響く。


    オレ
――兄者がやれといったのだから、それは弟者にとって絶対だ。


二人分の力を込めた渾身の速度。
巨人の顔から落ちた瓦礫の山を駆け上がりながら、ゴーレムの核を目指す。


(´<_`#)「今度こそ終わりだ!!!」


.

729名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:10:09 ID:yZraviHw0

崩壊した体を抱えたゴーレムが、最後の抵抗といわんばかりに蒸気を噴き上げた。
周囲をすっぽりと覆う、熱く白い霧。
体の守りの大半を失いながら、それでも岩の巨人は腕を伸ばす。


             ( <  ::)


そして、ゴーレムの腕は人影を見つける。
振るわれる腕は、その人影をはっきりと捉えなぎ払う。
ゴーレムは歓喜の音を上げ、


(#゚A゚)「オレの影をなめるなぁぁぁぁ!!!」


はじけ飛んだのは、ドクオの創りだした影だった。

ゴーレムの創りだした白い蒸気の幕に、黒い影がいくつも動く。
蠢く影の群れ。
その影の間を縫って、走り出たのは。


(´<_`#)「砕けろぉおおおお!!!!」



――弟者。


.

730名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:12:33 ID:yZraviHw0


折れた刃ごと、弟者の手が粘土板へ振るわれる。
しかし、握りのない刃では上手く力を込めることが出来ない。
弟者の手から血が流れ、粘土板を濡らしていく。


(´<_`#)「――くっ」


渾身の力を込めた一撃は、粘土板に浅い傷を作る。
しかし、そこまで。
粘土板は未だ健在で、砕かれるまでには至らない。


(;'A`)「くっ、あと少しなのにっ!」

(#゚ω゚)「まだだお!!!」


立ちあがった、ブーンの体から魔力が湧き起こる。
風がうなり、小石が舞い上がり、草が倒れ、千切れ飛んでいく。
その光景の中で、ブーンはとうとうそれを見つけた。

逆転のための最後の一手。
残された希望。


(#゚ω゚)「オトジャっ、手を伸ばすお!!!」


.

731名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:14:45 ID:yZraviHw0


(´<_` )つ


弟者は返事の代わりに、腕を伸ばす。


(#゚ω゚)≪飛ぶお!!!≫


ブーンの魔法が起こした強い風が、それを舞い上げる。
舞い上げられたそれが向かったのは弟者が伸ばした腕のその先。


(´<_` )つ==|ニニニ二フ


弟者の手がそれを掴む。
目で確認するまでもなく、握り慣れた感触がそれが何かを伝えてくる。
愛用の刀、シャムシール。

銀の軌跡が翻り、その手は一直線にひらめく。


.

732名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:18:10 ID:yZraviHw0




(´<_`#)「――トドメだぁぁぁぁぁっ!!!」



“獅子の尾”の名を持つ刀は、軽やかに翻り――主の命を完遂した。




.

733名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:19:09 ID:yZraviHw0




そのはち。  できそこないの一人


   おしまい



.

734名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:21:26 ID:PA7Y3QRs0
乙!すげーボリュームだった

735名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:21:37 ID:nESRoQx20
おつうううううううう

736名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:23:43 ID:yZraviHw0
オマケ10レス行きます

737名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:24:44 ID:yZraviHw0


 彡⌒ミ
.( ´_ゝ`)「姉者。父さんこれから母者さんと交代してくるけど、ひどいことはしないでね」

∬#´_ゝ`)「……はぁっ?」


 彡⌒ミ て
.(;´_ゝ`) そ ビクッ


 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`)「えっと、えーっとー、オワタやブームくんたちは大切だけど。
      儂はみんなのことも好きだから、疑うとか犯人探しとか怖いことは……」


∬#´_ゝ`)「父者は、私や母者に任せておけばいいの!!拒否権などない!!」


 彡⌒ミ
.(;´_ゝ`).。oO(なんか、母者さんと話してるみたいだなぁ)


∬´_ゝ`)「わかったら、とっとと行く! 交代が遅れると母者、怒るわよ」

 彡⌒ミ
.( ´_ゝ`) ハーイ


.

738名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:25:40 ID:yZraviHw0




グッ∬´_ゝ`)q「よしっ、父者は行ったと……」




.

739名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:26:23 ID:yZraviHw0



               ,--,   __〃 ̄⊃
              / /   (,,  /
             (,〜〜〜〜〜/
         彡三 ミ 〉  ノ   /
        (´く_`*)´     /
       /.|^,ミ彡,^|ヽ、三三´
 (^o^) / i |、  y ,| i \ー´   (|^o^|)
 ヽ|〃 (__.i_|`''―‐'''|_i__)      ヽ|〃

         \(^o^)/
          ヽ|〃
               愛する花に囲まれる 父者=流石氏




おまけ劇場   l从・∀・ノ!リ人 でざーと×しすたーのようです


.

740名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:27:14 ID:yZraviHw0


∬´_ゝ`)「妹者ちゃぁん」

l从・∀・;ノ!リ人.。oO(あの声は怒ってる声なのじゃ)


l从・−・;ノ!リ人「な、な、な、なんなのじゃー?」


∬´_ゝ`)「父者の花が踏み荒らされてるんだけど、何か知らないかしら?」


l从・∀・;ノ!リ人「はへ?」


l从・∀・ノ!リ人「お花? えっと、どのお花なのじゃ?」

∬´_ゝ`)「中庭」


Σ l从・д・ノ!リ人 ビクッ


.

741名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:27:56 ID:yZraviHw0


∬´_ゝ`)「中庭の花」


l从・д・;ノ!リ人


∬´_ゝ`)「知ってるわよね?」


::l从・Δ・;ノ!リ人:: アワワワ



ガシッ∬´_ゝ`)つl从・Д・;ノ!リ人 て


.

742名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:29:00 ID:yZraviHw0

∬´_ゝ`)「あんた。中庭の花、踏んだでしょ」

l从・∀・;ノ!リ人「……あ、うぅ、えーと」


∬^_ゝ^)「そうやって挙動不審になったりするのが何よりの証拠よ、妹者ちゃん」


l从・〜・ノ!リ人「……きょ、ど?」


                     . . .
∬*´_ゝ`)「正直に話して謝れば、父者は怒らないわよ。
      ほーら、素直になりなさいなー」


l从・Δ・;ノ!リ人「い、い、妹者はやってないのじゃ!」


.

743名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:29:42 ID:yZraviHw0


::::∬*::::_ゝ::)::::「じゃあ、中庭の花はどうしてぐちゃぐちゃなのかしら?
         お姉ちゃんに教えてほしいわぁ〜」

l从・д・;ノ!リ人「それは! ……それは……」

∬´_ゝ`)「それは?」


l从・∀・;ノ!リ人「……」


l从- 、-;ノ!リ人「……言えないのじゃ」



∬#´_ゝ`)つl从・−・;ノ!リ人 ビクッ


∬#´_ゝ`)「妹者ちゃんは、お姉ちゃんが身内に対しては気が短いのはしってるわよね。
      お姉ちゃんこのままだと怒っちゃうわよ。いいのね?」


l从・−・;ノ!リ人「……」


.

744名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:30:38 ID:yZraviHw0


l从- -;ノ!リ人「……」



l从-∀-ノ!リ人.。oO(妹者は、やくそくしたのじゃ)



l从・д・ノ!リ人「妹者は、言わないのじゃ」


∬#-_ゝ-)「……そう」



スッ∬#-_ゝ-)  l从・−・;ノ!リ人 …



∬´_ゝ`)「私からはもう何も言わないわ。
      でも、母者には報告することになるけど、それでいいわね」


.

745名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:31:28 ID:yZraviHw0


ll从・∀・;ノ!リ人「……ははじゃ」


ズシン


∬´_ゝ`)「そ。母者は家長なんだから、何かあったら報告するのが当然の義務でしょ」


ドシン


ll从・∀・;ノ!リ人「……ううっ」

∬´_ゝ`)「今なら、お姉ちゃんが聞いてあげなくもないわよ」


ガッ


ll从・Д・;ノ!リ人「だめなのじゃ!!!」


.

746名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:32:15 ID:yZraviHw0





∬´_ゝ`)「話をすればほら、母者のお帰りだわ」





::l从・д・illノ!リ人:: ガタガタ



つぎのはなしに   つづく

747名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:33:04 ID:PA7Y3QRs0
妹者かわいい

748名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:39:29 ID:rQ.Jnv2.0
ラスボス終わったと思ったらまたラスボスとな


749名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:41:15 ID:mwwkQGYAO
超乙。


ここ来てから気に入った作品が逃亡ばっかで、ずっと待ってた現行にリアルタイム遭遇するの今回が初めてで、20時からずっとアホみたいにリロードしてた。

待ってた現行をリアルタイムで読めるってこんな嬉しいんだな。
作品の結末を知る事ができるのってこんなわくわくすんだな。

書いてくれてありがとう。
投下してくれてありがとう。

書きながら「俺キメェwww」と思ってるけどどうしても謝意を伝えたい。
完結も後日談もものすごく楽しみにしてる。

750名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:42:13 ID:yZraviHw0
以上で投下終了です
最終話になる「そのきゅう。」は明日の夜、後日談は月曜日の夜に投下できたらと思います

751名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:45:16 ID:yZraviHw0
長時間の投下にもかかわらず乙や感想くれて、本当にありがとう
長かったこの話もなんとか終われそうだ

752名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:52:28 ID:rFEOdAMo0
乙乙!

明日の夜も楽しみに待機してるわ

753名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 00:54:38 ID:wPZQZ7uw0
乙乙!
続きが読めてよかった、面白かった!
次も楽しみにしてる

754名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 01:11:34 ID:PA7Y3QRs0
いよいよ最終話か、寂しいぜ
でも楽しみにしてるからな!!!

755名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 02:25:11 ID:DJ1Z7hbk0
おつ!超ボリュームおつ!
熱い戦いだった!最終回も楽しみにしてるよ

756名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 12:17:56 ID:VPyeQ90g0
おつ!

757名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:01:42 ID:yZraviHw0


/◎ ) 、/、; )  gu gi gi



一刀のもとに切り伏せられ、粘土板が崩れ落ちた。
ゴーレムを動かしていた、失われた文字が薄れ消えていく。
核の崩壊。その瞬間、ゴーレムを構成していた魔法は完全に消滅した。


(´<_` )つ==|ニニニ二フ

(;^ω^)


ごとりと音がして、ゴーレムの腕が落ちた。
無限軌道が潰れ、岩の重みに耐え切れず体が大きく倒れ込む。



( ´_ゝ`)

(゚A゚)


倒れてきた岩の衝撃に、地面が大きく揺れる。
ゴーレムはもはや、単なる巨大な岩の塊と化していた。


.

758名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:04:29 ID:yZraviHw0



_.◎ ) 、/、; :::



岩の巨人は動かない。
崩れ落ちた体を再生しようとする気配もなかった。


(*´_ゝ`)「おお」

ヽ('∀`)ノ「やった、やったぞ兄者!」


ゴーレムを構成していた岩たちが、砕けはじめる。
音もなく崩壊は続き、最後には大量の砂と岩の欠片が残るだけとなる。


(*^ω^)「すっごいお、オトジャ!」

(´<_` )「……やった、のか?」


もはやそこにゴーレムの原型はない。
――そして、石の巨人は死に至り。その動きを永遠に止めた。


.

759名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:05:29 ID:yZraviHw0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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760名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:06:21 ID:yZraviHw0





そのきゅう。 ――そして、旅の終わり




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761名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:08:05 ID:yZraviHw0

ゴーレムが完全に動かなくなったのを見届けると兄者はその場に完全に倒れ込んだ。
もう自分の体を支えることも出来ないらしく、倒れこんだ姿のまま兄者は動かない。
ただ、その口だけを動かして、兄者は大きく息をついた。


(; _ゝ )「流石にこれは――」

( <_ ;)「――疲れたな」


弟者もそう返事を返すと、兄者の傍らに座り込む。そして、そのままその場に転がった。
さっきまで剥き身の刃を握っていたせいか、弟者の手からはまだ血が流れ続けている。
ともに満身創痍な状況。兄弟そろって、命があるのが不思議なくらいだった。


(; ^ω^)「大丈夫かお!」


そんな兄弟たちの傍らに、ブーンは飛び寄る。
ドクオはその場に浮いたままだったが、ブーンが動くのを見て慌てて飛びはじめた。
兄者も弟者も倒れこんだまま、ぴくりとも動こうとはしない。


(; _ゝ )「おい、弟者。いい加減に体力とか力とかその他もろもろを返せ。
      もう口と指くらいしか動かんのだが……」

( <_ ;)「兄者が持っていったままの、疲労痛み傷その他もろもろを返せば考えてやろう」


.

762名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:10:25 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「ハハハー、何のことかなー」

(´<_`#)「ハハハー、もちろん兄者のことだ」


動こうとはせず、口だけを使って兄弟の応酬は続く。
視線だけを動かして睨み合うが、互いに限界なのか殴りあうような気配はない。
弟者は拗ねたように顔を尖らせ、兄者といえばそっと弟から視線をそらした。


(´<_`#)「いいから、早く返せ」

(;´_ゝ`)「ちょっ、やめ、おねがいやめ!」


視線を逸らした兄者の胸ぐらを、弟者が掴む。
力を使い果たしたように横になっていた弟者が、動くとは思っていなかったのだろう。
突然の弟者の動きに、兄者の顔が驚いたかのように歪む。
兄者は弟の腕になんとか抵抗しようと大声を上げ、その瞬間顔面を真っ青にした。


(; ゚_ゝ゚)「っう――!!」

(´<_`#)「さっさと返せと言っているだろう。この阿呆!」

(iii ´_ゝ`)「えー、大丈夫だってぇ。全然、大したこと無いし……」


.

763名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:12:17 ID:yZraviHw0


(´<_`#)「何度同じことを言わせる気だ、この馬鹿」

(#´_ゝ`)「いいや、決めましたー。ダメーですぅー」


兄者はそう言い切ると、弟者から全力で目をそらす。
弟者はそんな兄の姿を睨みつけるが、殴りかかるわけにもいかなかったのか手を放す。


(;´_ゝ`)「っう……」

( ;ω;)「あばばばば、やめるお。やめるおー」

(;'A`)「お前ら兄弟は、どうしてこう仲が悪いんだ……」


ドクオの声が聞こえたのか、弟者から開放された兄者の口元がわずかに歪む。
しかし、何も告げる気はないのだろう。兄者の口からは言葉は出てこなかった。


( ;ω;)「アニジャー、だいじょうぶかお? こういうときは、だいじょうぶでいいんだおね?」

( ´_ゝ`)「ふむ。この場合は、大丈夫であってるな」

( ;ω;)「ほんとかお? アニジャはだいじょうぶかお? だいじょうぶ?」


.

764名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:15:11 ID:yZraviHw0


兄者の口元の歪みが消え、変わりに笑みが浮かぶ。


(*´_ゝ`)「なんて言ったって俺は流石だからな。
       この程度ならば、全然平気だし。ものすごーく、元気な件」

( <_  )「……」


('A`;)::「――っ」


かわりに弟者の顔から表情らしいものが根こそぎ消えたのを、ドクオだけが見た。


(´<_` )「兄者、聞かせてくれ。
      俺に痛みを返さないのは、本当に大丈夫だからか?」

(;´_ゝ`)「う、え?」


風向きが変わったことを悟ったのだろう、兄者の表情に困惑が浮かぶ。
弟者の声は静かで、感情らしい感情が見えない。
……これはマズい傾向だ、という思いが、兄者の脳裏に小さく広がる。


(;´_ゝ`)「えっと、ちょっとくらいは痛い件?」


( ;゚_ゝ゚)と( <_  )


.

765名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:16:13 ID:yZraviHw0


とりあえずそう告げてみた兄者に向けて、弟者の腕が伸びる。
弟者は兄者の服の胸元を掴み、力任せにぐいと持ち上げた。


(iii ゚_ゝ゚)「――っ」


兄者の顔が一気に白くなり、呻き声とも呼吸とも付かない声が喉から漏れる。


(iii _ゝ )「ぐっ……っカ……ハッ」

と(´<_`#)「これでも大丈夫だというのか!?
       本当はとっくに限界なんじゃないのか!?」


兄者の喉からは言葉にならない息が漏れるだけだ。
やめろと言いたいのか、何度か同じ形に口が動くが、それすらも声にならなかった。


(;゚A゚)「おい、兄者のやつ。やばいぞ!」

(#^ω^)「やめるお!!」

と(゚<_゚ ♯)「ろくに動けないんだろう? 話すことだって、つらいはずだ。
       なのに、なんで兄者はそうやってヘラヘラと笑っていられるんだ!!!」


.

766名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:18:31 ID:yZraviHw0


ドクオとブーンが弟者の肩をひっぱり、彼を止めようとする。
しかし、一度激高した弟者は止まらない。


(iii _ゝ`)「……っぃ」

と(<_゚ #)「俺がいつもどんな思いでいたか、兄者はわかってるのか!!!」


(#^ω^)≪放すお!≫


なおも兄者を締め上げようとする弟者の動きを、魔力の流れが断ち切る。
ブーンの使った暗示の力により、弟者の手の力が緩み兄者から離れる。


(*'A`)」「よしっ、ブーンよくやった!」

(;^ω^)「オトジャだめだお! そういうのぜんぜん楽しくないお!」

( <_ #)「なんで……」


弟者の目が、魔法を放ったブーンを捉える。
その口が歪みブーンに向けて怒りの声を上げようとし――、響いた声がそれを止めた。


(iii _ゝ )「……わか……って……た」


.

767名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:20:48 ID:yZraviHw0


途切れ途切れに響いたその声の主は、兄者だった。

弟者の動きが止まる。
一方の兄者は浅い呼吸を何度か繰り返し、ようやく深く息をついた。


(iii ´_ゝ`)「……ほんと……容赦ないの……な」

(;'A`)「おい、兄者。本当に大丈夫か?」

(iii ´_ゝ`)「あー、骨が何本かいってるかな? 命には別状はないと思われ」


そのまま動かずに呼吸を繰り返すと、兄者の顔色はようやく落ち着いた。
「痛かったー」と呟く表情は、もういつもの兄者のものだ。
本気なのか、それとも表情を取り繕っているだけなのか。人間の感情に疎いドクオには理解できない。


(;^ω^)「……オトジャ」

( <_  )「……」


弟者の顔からは、怒りの色は引いていた。
代わりに浮かぶのは、途方に暮れ呆然とした表情だった。


(´<_` )「……わかっていたとは、どういうことだ?」


.

768名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:22:30 ID:yZraviHw0


辺りに沈黙が落ちる。
弟者の視線は今や、ブーンではなく兄者に向けられていた。


( ´_ゝ`)「……」

('A`)「おい、答えてやれよ兄者」

(;^ω^)「……」


ドクオが促すように、兄者の肩を叩く。
ブーンは黙りこくって、兄者の姿を見守っている。
沈黙は長いようにも短いようにも思えた。そして、兄者は黙り込んだ末に、ようやく口を開いた。


(;´_ゝ`)「……やっぱ、話さなきゃダメだよな」


こういうのは柄じゃないんだよな、と頬をかきながら兄者は言う。
「むむー」とか「ふむー」とか意味のない言葉を呟いた後で、兄者はようやく語り始めた。


(;´_ゝ`)「あー、お前が10年前の件で後悔してるのは知ってた。
      魔法や神秘のたぐいに俺を近づけないようにしてたのもな。まあ、やたらと暴力的ではあったけど」


.

769名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:24:19 ID:yZraviHw0


(゚<_゚ ; )「気づいていたのか……」


弟者の瞳が、驚愕に見開かれた。
その声はかすかに震え、信じられないと呟いている。
そんな弟の態度に、失礼だなと言うように兄者は口元を歪ませた。


( ´_ゝ`)「だって、昔そう言ってたし。あれだけ露骨だと、流石の俺でも気づくわ。
      というか、弟者は俺が気づいているって知らなかったことに驚きな件。
      ブーンやドクオとかに対する態度とか、本当にもうひどかったし」

(;^ω^)て「そ、そうだったのかお!! オトジャはブーンがキライだったのかお?!」

('A`)「……ブーン。お前ってやつは、本当にいいやつだな」


心の底から驚いたような声を上げるブーンの姿に、ドクオはしみじみと言った。
ドクオとて弟者の行動原理を理解していたわけではない。しかし、嫌われているということくらいはわかっていた。
しかし、あれだけ無視され続けていたのに、嫌われていると思わなかったとは……。ブーンの脳天気さが、ドクオは少しだけ羨ましくなる。


(´<_` ;)「なら、どうして」

(;´_ゝ`)「いやぁー。俺もなぁー。
      弟者が頑張ってるなら、その通りにしてもいいかな〜って思ったこともあったさ」


.

770名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:26:22 ID:yZraviHw0


( -_ゝ-)「でも」


ドクオの戸惑いなど気づかないように、兄弟の会話は続く。
兄者は瞳を閉じて沈黙した後、意を決したように言葉を告げる。


( ´_ゝ`)「世界はさ、俺らがまだ知らないものや、面白いもので満ちてるんだ。
      それを見ないふりをするだなんて、俺にはできない。ブーンじゃないが、そういうのは楽しくない」


そうやって、告げられた言葉はなんとも脳天気なものだった。
深い考えがあるだけではないその言葉に、ドクオは思わず声を上げようとする。
しかし、その言葉が向けられているのはドクオではなくて弟者だ。ドクオは出かかった声を、なんとか抑えた。


(*´_ゝ`)「お前が嫌いな、魔法や神秘のたぐいだってさ。悪いことだらけじゃないよ」

(´<_`#)「だが!」


弟者の声が怒りの色を帯びる。
しかし、弟のその様子に兄者は気分を害した様でもなく平然としていた。


( ´_ゝ`)「ブーンは悪いやつだったか?
      今日起こった出来事は、本当に散々なことばかりだったのか?」


.

771名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:28:19 ID:yZraviHw0


( <_  ;)「――っ!」


そして告げられた問いかけに、弟者はとうとう言葉を失った。
何度か口を開いて反論しようとした末に、弟者はブーンの顔を見た。


(;^ω^)「……あうあう」

(´<_`; )「……」


弟者の口からは言葉が出ない。
かわりにその眉がひそめられて、表情の薄い顔に困った様な色が浮かぶ。
兄者はそんな弟の表情を見て取ると、それ以上はたたみかけようとはせずに話題を変えた。


(*´_ゝ`)「それにだなー。お前が心配するからちゃんと、魔法は使わなかったんだぞー。
       石板だけ……魔道具だけでなんとかしちゃったお兄ちゃんマジ偉い、マジ立派!」

(*^ω^)キャーカッコイイー  シンデー('A`*)


(*´_ゝ`)「ほら、石板魔法ってもさー、魔力なしで誰でも使える便利アイテムだからさー。
       技術の進歩って偉大だよねー。こんなに使えるんだって、わかったろ? だから今後も使用の許可をオネシャス」


ドゲシッ(#´_>`)つ)#)゚_ゝ゚)アイヤー


.

772名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:31:58 ID:yZraviHw0


(´<_`#)「こ の 大 嘘 つ き が !」


怒りが限界を超えたのだろう、弟者は兄の顔を殴りつけると、とうとう大声を上げた。
さっきまで「とっくに限界なのだろう」と問いかけていたのと同じ人間とは思えない殴りっぷりに、ドクオは言葉を失った。


(#);_ゝ;)「ひどいっ、弟者たんのおにちくっ! 悪魔の所業っ!」

(´<_`#)「マッチ程度の火しか出せないシロモノで、あんな大火力出しておいて何言ってやがる!
      さんざん魔力を使い倒しておいて、何が便利アイテムだ! それに最後の攻撃、お前その場で魔法石板作っただろ!
      ”使う”と”作る”じゃ大違いだ、この阿呆!」

(;´_ゝ`))「ヤ、ヤダナーソンナコトシテナイデスヨー。
       そ、それに仮についさっきというか今作ってたとしても、石板使ったことにはかわりないじゃないですかー」


(;'A`)「……お前ら、なんだかんだ言って本当は元気だろ」


殴られたと文句を言う兄に、怒り顔で詰め寄る弟。
その姿は兄者が動かないことさえ除けば、朝から見慣れた二人の姿そのものだ。


⊂(´<_`#)「俺に気を使ったつもりだろうが……全然気遣いになってないぞ。
        わざわざ面倒くさい真似しやがって、このアホ兄貴! 馬鹿たれ!」


.

773名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:34:30 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)「……だって、かっこつけたかったんだもん」


弟者に言われるがままになっていた兄者が、ぼそりと声を上げる。
その声は小さかったが、弟者はしっかりと聞いていた。


(´<_`#)「は?」

(#´_ゝ`)「俺だってお兄ちゃんだから、弟に対してかっこつけたくなるんですぅぅ!!!」


弟に聞きつけられて開き直ったのか、兄者は大きな声を上げる。
しかし、そう言い切ったことで満足したのか、兄者は怒りの表情を引っ込める。


( ´_ゝ`)「俺は、お前や妹者の兄貴だからな。こういう時くらいは、かっこつけさせてくれ」


そして、あげられた言葉は、先ほど上げた声とは対照的に落ち着いていた。
その真剣ともいえる言葉に、弟者の表情が固まる。
弟者の顔から興奮した様子が掻き消え、浮かんでいた表情が消える。


( <_  )「……」


一瞬、和らいだ空気が再び凍っていく。
兄者がしまったと思う頃には、もう遅かった――。


.

774名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:36:52 ID:yZraviHw0


(;^ω^)「お? どうしたんだお?」


弟者の表情の変化に、ブーンが声を上げた。
しかし、ブーンの声に言葉を返すものは誰もいない。


(´<_` )「……兄者は俺だ」


長い長い沈黙の末、弟者は口にする。
絞り出したようなその声は、とても小さかった。


(´<_` )「俺の考えることが兄者の考えることで、兄者の考えることが俺の考えることだろう?」


泣くのを我慢する、子供のような声だった。
それでも、弟者の顔には何の表情も浮かんではいかなった。


(´<_` )「だから、兄貴なんて言うのは止めろ……」


泣くわけでも、すがるでもないその姿に、兄者は黙り込んだ。


.

775名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:39:18 ID:yZraviHw0


( -_ゝ-)「……」


再び沈黙が流れた。
兄者は長い長い時間をかけて、弟者へ向ける言葉を探しているようだった。
沈黙は重く、どう反応していいのかわからないらしいブーンが辺りを飛び回りはじめる。


( ´_ゝ`)「弟者。お前も本当はわかっているんだろう?
      こうしてつながってしまってはいるけど、俺とお前は別の存在だって」


そして、沈黙の末。
兄者はようやく答えを口にした。


(´<_` )「……兄者が何を言いたいのかわからない。俺は兄者で、兄者は俺だ」


('A`)「……」


それが、兄者と弟者の間にある決定的な考えの違いなのだろうと、ドクオは悟る。
遺跡の中でドクオが兄者に問いかけた、仲が悪いだろうという問いの答えはきっとこれなのだろう。
双子だから、魂を共有しているからこそ発生する、決定的な価値観の相違。
「仲が悪いわけじゃないんだ」という兄者の言葉の意味が、ドクオにはようやく理解できた気がした。


.

776名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:40:33 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「あー、違うって言っても通じないんだろうなぁ、お前さんには。
      お前の言いたいこともわかるが、それは違うんだ。間違ってる」


兄者の言葉は、途切れ途切れではっきりとしなかった。
しかし、そこには紛れも無く真剣な響きがあった。


( ´_ゝ`)「俺とおまえは確かにつながっている。それは変えようのない事実だ。
      だけど、さ。一度別れてしまったものは、もう取り戻すことなんて出来ないんだよ」


兄者の言葉に、弟者の眉がぴくりと動く。
弟者は顔をしかめ不愉快だという表情を隠しもしなかったが、兄の言葉をじっと聞いていた。


( ´_ゝ`)つ「お前の毛並みは若草の色だろう? 俺は、空の色だ。染めたってもう元には戻らない。
        お前の背は俺よりずっと高いよな。誰も、俺がお前の兄貴だなんて思わない」


( ´_ゝ`)「お前は星が読めるか? 風は、空は読めるか? 無理だよな。
      俺だってお前から力をぶんどったとしても弟者みたいに動けないし、料理だって作れない」


「ほら、違うだろう?」と兄者は言う。
そして、彼は真剣な表情のままさらに続きを口にする。


.

777名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:43:40 ID:yZraviHw0

       オレ   オレ
( ´_ゝ`)「兄者は弟者じゃない。
      だって、そうじゃないと俺らが別の人間として生まれた意味がないだろう?」


――それは、弟者にとって致命的な一言だった。
兄者がそれに気づいているかどうかは、わからない。
しかし、その言葉は兄者がこれまでの思いを何とか言葉にしているようにも見えた。


(´<_` )「……俺は!」

             オレ  オレ
( ´_ゝ`)「それにさ、兄者は弟者であるよりも、お前や妹者の兄貴でいたい」


弟者の言葉を遮るようにして、兄者が最後の言葉を口にする。
言い切ると同時に、兄者の顔にようやく笑みが浮かんだ。


(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)σ「まあ、お兄ちゃんとしては、弟者はちょっとばかし俺に甘えすぎではないのかと思うのだが。
        俺にばっかりべったりしてないで、少しはお兄ちゃん離れしなさいってことだ」


そして、出た言葉はかなりふざけた口調だった。
これまでの真剣な様子を恥ずかしいとでも思ったのか、兄者の口調にはさっきまでの真面目さは欠片もない。


.

778名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:45:07 ID:yZraviHw0


( <_  ;)「そんな子供みたいなことはしていない」

( ´_ゝ`)「ええ? そうかぁ?」

(´<_`#)「だが、しかしっ!」


弟者の言葉は激しかった。
しかし、怒りの表情を浮かべながらも、弟者の口からそれ以上の言葉が出てこない。
ドクオは兄弟の姿をまじまじと眺め。そして、弟者に向けて助け舟をだすように、口を開いていた。


(;'A`)「……話し中のとこすまないが、兄者の話に説得力が皆無なんだが」


自分でも、どうしてそのようなことを言い出したのかドクオ自身もわからない。
ただ、一度話しだすとそれから先は意識しないでも、言葉はあふれだす。


(;´_ゝ`)て「なんと!」


.

779名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:48:11 ID:yZraviHw0


('A`)「あっさりと盗賊の人質になった姿をオレは忘れない」

(;´_ゝ`)「ぐ、ぐぬ?!」

('A`)「砂クジラにふらふら近づこうとした姿をオレは忘れない」

(;´_ゝ`)て「はひぃ?!」


ドクオの言葉に、兄者の言葉の調子が面白いほど変わる。
先程までの真剣な色は薄れ、ろくに意味を成さない声が兄者の口からあがる。
それに調子を良くして、ドクオは思うがままに語り始めた。


('A`)「弟者の思惑に気づいてたのに、そのまま放置。
   思うところがあってもなかなか言えないで、その挙句に兄弟仲悪化!」

::::( ∩_ゝ∩)::「ごめんなさい、俺が悪かったです」


途中から兄者が涙目になるが、ドクオは止まらなかった。
影の精霊の性質なのだろう。ドクオは意識しないまま、兄者が言われたら嫌であろう言葉を投げつけていた。


('A`)σ「ぶっちゃけ、学習能力ないだろお前……」

(;^ω^)て「もうやめてあげてー!!!」


.

780名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:49:05 ID:yZraviHw0


('A`)⊂(´<_`#) ガシッ


そして、その瞬間。横から伸びてきた腕に、ドクオの体は掴まれた。
ぎりぎりと力を込めて、ドクオの細い体が握りつけられる。
ドクオを潰さんばかりに力を込めるその手は、弟者のものだ。弟者は、怒りの色を隠さないまま叫ぶ。


(´<_`#)「俺に何を言う、このクソ精霊!!」

(;´_ゝ`)「だから、俺はお前じゃなくて兄者でぇぇぇ!!!」

(´<_`#)「どっちも同じだろ、クソ兄者! どうせ半分は俺だ」

::(;゚A゚)::「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


(;^ω^)「あばばばば」


ピントのズレた弟者の言葉に、兄者の悲鳴にも似た声が重なる。
しかし、弟者は兄の声に、罵声にも似た言葉を投げ返した。
ただ一人、その場の会話の流れに置いて行かれたブーンは、どうすることも出来ずに言葉にもならない声を上げる。


.

781名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:51:36 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「だぁーかぁーらぁー!! もう大人なんだからやめなさいって!
      お前がお兄ちゃんのことを俺というたびに、家庭内の空気がどんどんと悪く」

(´<_`*)「……誰も居ないところならいいのか、俺?」


兄者の言葉に、ずっと機嫌が悪そうにしていた弟者の表情が輝く。
その表情を見て、兄者はとうとう頭をガクリと落とした。
体の具合が良ければ頭を抱えたり、両手を振り上げていたであろう勢いで兄者は大きく嘆く。


(#´_ゝ`)「そういう問題じゃない! 嬉しそうにするのもやめ!
       自分と他人はしっかりと区別しなさいというお話だ!」
 _,
(´<_` )「む? よくわからんぞ、兄者。だって兄者は俺なんだろ?」

(;´_ゝ`)「ああ、もう! これだから嫌だったんだ俺は!
      こんなもん子供のうちに、自然とわかる問題だぞ」


(;^ω^).。oO(なんだかわかんないけど、たいへんだおー)


兄弟の話の流れに置いて行かれた、ブーンは首をかしげながら思う。
そして、精霊のもう一人。弟者の手に握られているドクオは、ふと思った。


('A`).。oO(あ、これオレ助かったんじゃね?)


.

782名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:53:23 ID:yZraviHw0


(´<_` )「?」

(  _ゝ )「もうやだ、お兄ちゃんやめたい。
        なんで、本気でわからないとかそんな顔してるの?」

(´<_` )「……つまり、俺の方が兄をやればいいのか?
      まあたしかに、肉体的には俺のほうが2年ほど年上になるが……」

(#´_ゝ`)「ダメー、お兄ちゃんの座はゆずりません!!」

(´<_` )「……? 違うのか?」


双子は互いにしかわからない話をずっと続けている。
ドクオは兄弟の言葉を、なんとなく聞きながら。彼ら兄弟がもめている根本的な原因に気づいた。
なるほどそういうことか、とドクオは弟者に握りつけられているのをすっかり忘れて、呟いた。


('A`)「つまりは、弟者が兄離れできない心配性だったのが全ての原因だと」


('A`)⊂(´<_`#)ギリギリギリ


その言葉と、弟者の腕に力がこもるのはほぼ同時だった。
弟者は兄者との言い争いに必死だったのを忘れて、腕に力を入れドクオの体を締め付けていく。
その力は、細いドクオの体を引きちぎろうとするほど強力だ。


.

783名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:55:37 ID:yZraviHw0


(;゚ω゚)て

(;´_ゝ`)「ちょ、弟者弟者! 顔が真顔! やめて!」


弟者の行動に、ブーンの表情が凍る。
突如黙り込んだ弟を不思議に思った兄者も、顔を上げて真っ青になった。


(;゚A゚)「イダイイダイ!! 羽もげちゃうぅぅ!!!」

(´<_` )「オレとしては死んでくれても問題はないのだが」


( ;ω;)「おーん! やめるおー!!!」


ドクオを握る弟者の手にさらに力がこもる。
締め付けられる力は一向に緩む気配はなく、やがてドクオの意識が遠のいていく。


.

784名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 20:57:26 ID:yZraviHw0


(#´_ゝ`)「やめろ!!」


兄者の声が聞えると、ドクオは思った。
――そう思うと同時に、弟者の手の力が急に弱くなる。


(*'A`)「勝つる!」


しめたと思いながら、ドクオは弟者の手の間から脱出すると、あわてて距離をとった。


(;'A`)「ふぅ。たすかったぁぁぁ……」

(´<_`#)「このっ!」


弟者が、逃げたドクオを再びつかもうと腕を伸ばす。
それを押さえ込んだのはブーンと、動けなくなっていたはずの兄者だった。


.

785名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:00:04 ID:yZraviHw0


(#´_ゝ`)つ「いい加減にしろ。これ以上やるなら、日干しにするぞ!」


兄者の一喝が、弟に向けて飛ぶ。
さっきまでちっとも動けなかったのが嘘のように、兄者の体はがっちりと弟を押さえ込んでいる。


(゚<_゚ ii)「――ぐっ」


一方、押さえつけられた弟者の顔は真っ青だ。
その唐突な弟者の変化に、ドクオは兄者が弟者の力を奪ったのかとようやく気づく。いや、痛みを戻したのかもしれない。
そうか、兄者にも出来たのかとドクオは弟者の姿を眺めながら思った。


(∩#´_ゝ`)∩「弟者っ、返事っ!」

(´<_` ii)「とてつもなく痛いのだが……」

( ´_ゝ`)「安心しろ、俺はもっと痛いから」


顔を青くした弟者は、先ほどまでとは一転してかすれた声で言う。
そんな弟に視線を向けながら、兄者はきっぱりと言い切った。


.

786名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:02:42 ID:yZraviHw0


(´<_` ii)「なんだと……よくもそれで、大丈夫だと言ったな」

(;^ω^)「いたいのはよくないお……」

(;´_ゝ`)「あー、正直すまんかった」


兄弟とブーンの会話に、ドクオは今度こそ本当に助かったらしいと悟る。
しかし、このままでいれば、また下手なことを呟いて弟者に握りつぶされかねない。
ドクオはなんとか弟の前から脱出できないかと、辺りを見回し――気づく。


('∀`)「結界が解けてるじゃねーか!!!」


ゴーレムの出現以後、部屋にかかっていた結界が消えている。
どういうわけで、結界が消えたのかはドクオにはわからない。
しかし、脱出を阻んでいた障害が消えたことに、ドクオは心の底から喜んだ。


(;´_ゝ`)「なんと!!」

(; ゚ω゚)「え? え? どうしたんだお?!」


('A`)>「というわけで、オレは助けを求めに行ってくるから!」


.

787名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:04:16 ID:yZraviHw0


兄者やブーンの驚きの声に言葉を返さないまま、ドクオの姿が掻き消えた。
どうやら影に潜り込んだらしい。と、兄者は少し遅れて理解する。


(;^ω^)「おーん、ドクオまつおー!!」


ブーンも少し遅れて理解したのか、ドクオの消えた先――、影へと飛び込もうとする。
が、ブーンの体は音を立てて、固い地面へと激突した。
ブーンは起き上がると、ドクオが潜り込んだ草むらの影ヘ向けて腕を伸ばす。


( ´ω`)ノ「入れないお……」


影を叩いてみるが、地面の硬い感触が返ってくるだけで何も反応がない。
ブーンは肩を落とすと、兄者や弟者の元へと舞い戻る。


(;´_ゝ`)σ「逃げたわけじゃないよな……さっき思いっきり、弟者に握りつぶされてたし」

(-<_- ii)「知らん。俺は兄者のいうことはもう聞かん」

(;´_ゝ`)「……弟者のやつまた、スネてるし」


ブーンが舞い戻った先では、双子の兄弟はまた言い争いをはじめた。
しかし、その空気は先程までと比べると幾分か柔らかい。


.

788名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:07:03 ID:yZraviHw0


(-<_- ii)「拗ねてない」

(;´_ゝ`)>「ちぇー、スネてると思うんだけどなぁ」


兄者は大きく溜息をつくと、ブーンに向けて苦笑いをしてみせる。
兄者はさてどうしようと辺りを見回し、草むらへと視線を向ける。


( ´_ゝ`)「弟者の尊い犠牲のお陰で動けるようになったし。今のうちに……」

( ^ω^)「アニジャ、どうしたんだお?」

( ´_ゝ`)「ちょっと忘れ物をだな」


兄者はブーンの言葉に応えると、壁へと向かって足を向ける。
顔を時折、引きつらせるのはまだ胸や体が痛むからなのだろう。
弟者が不機嫌そうに眉をひそめたが、兄を力づくで止めようとまではしなかった。


(*´_ゝ`)「よしっ――」


兄者は草をかき分けて進むと辺りを見回し、そしてその場に屈みこんだ。
何かを拾い上げているようだが、それが何かまでは弟者の場所からは見えない。
それは何だと弟者が問いかけるよりも早く、兄者は拾い上げたそれを懐へと仕舞いこんでいた。


.

789名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:08:39 ID:yZraviHw0

 _,
(´<_` )「……」

( ^ω^)「うーん、何だおねー?」

(´<_` )「さてな」


( ゚ω゚) !


弟者の短い素っ気ない返事に、ブーンの瞳が大きく見開かれる。
なにかおかしな事でも言っただろうかと弟者は内心で首を傾け、ブーンに向けて短く問いかける。


(´<_` )「……どうした?」

(*^ω^)「オトジャがお話してくれたお! うれしいお!!」


話すだけならもっと前から話しているだろうと弟者は言いかけて、その言葉を飲み込む。
弟者がブーンにしっかりと話しだしたのは、ゴーレムが出現した時からだ。
ブーンからしてみれば、非常事態に対応するための一時的な手段と思っても不思議ではないだろう。


.

790名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:10:16 ID:yZraviHw0

喜ぶのはそれでか。
弟者は、ブーンの考えを推測すると小さく笑みを浮かべる。


(´<_` )「そんなことが嬉しいとは、ブーンは変なやつだな」

(#^ω^)「そんなことじゃないお! ブーンにとってはすっごく大事なんだお!」


ブーンの様子が真剣なものだから、弟者はつい笑ってしまう。
そして、笑ってから弟者は、あれだけ毛嫌いをしていた精霊相手に笑える自分に驚いた。

  _,
( ^ω^)「むぅぅ、なんでオトジャは笑うんだお?」

(´<_` )「さてな」

(;^ω^)「オトジャがいじわるするおー」


不思議と嫌悪感は湧き上がってこなかった。
むしろ、こうなってしまえばもっと前から話せばよかったとすら思えるから不思議だ。


(´<_`*)「はいはい」


ブーンの言葉に弟者は笑って、空を見上げた。
脇腹をはじめとした体の至る部分が痛みを訴えてくるが、そう嫌な気持ちではなかった。


.

791名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:13:16 ID:yZraviHw0





ドクオが帰ってくる気配はなかった。
逃げてしまったのか、それとも本人の申告の通り助けを呼びに行ったのか。
確かめることが出来ない弟者にはわからない。


(´<_`; ).。oO(流石にいつまでもこのままというわけには、いかないな)


しかし、外に出る気力や体力は、尽き果ててしまっている。
痛みを訴える脇腹や、疲労にあえぐ全身が、もう寝てしまえと強烈に誘いかけてくる。
それでも、どうにかして外に出なければならない。


(´<_` )「兄者、いつまでそうしている。
      動けるならばそろそろ助けを――」


意を決して声を上げた、その瞬間。
弟者の目の前に、薄水色の毛並みの手がつきつけられる。
驚いて視線をあげると、そこには辺りを歩いて満足したらしい兄者の姿があった。


.

792名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:14:59 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)「ほい、忘れ物。これを忘れるなんてとんでもない」

(´<_`;)「あ……ああ」


兄者の手から差し出されたものを弟者は受け取る。
一体なんだろうと手を開いてみれば、そこにあるのは金貨や銀貨だった。
――そういえば、ゴーレムに向けて投げつけていたのだった。
弟者はそう思い、礼を言おうとして――扉の外が、急に騒がしくなっていることに気づいた。


(   )「…い!……、  !      …か!?」

(   )「  える?      、…    !」


ドンドンと何かを叩きつける音、それから扉越しではっきりしないが呼びかける声も聞こえる。


(´<_` )「兄者、何か聞こえ……」


弟者がそう声を上げた瞬間、足元が揺らぐ。
一体、何事だと弟者はシャムシールの柄に手を掛ける。
敵か? だとしたら戦わなければならない――。


.

793名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:16:16 ID:yZraviHw0


しかし、弟者の警戒は杞憂で終わった。
弟者の足元を一瞬だけ揺るがして登場したのは、ドクオだった。


(;'A`)「おい! 人を呼んできたぞ!」


おそらくは、影から出たのであろう。
ドクオは自らの言葉通り、ちゃんと仕事を果たしたらしい。
逃げたのではなかったのか、と弟者は反射的に言いかけて、精霊ではあるとはいえ流石に失礼かと思い直す。


(*´_ゝ`)「おお、本当に助けを呼んできたのか! てっきり逃げたのかと!」

<(;'A`)>「もう、それは忘れてくれ!」


一方の兄者は、ドクオに驚いたような表情を浮かべると、すぐにそう言い放った。
どうやら兄者は思慮という言葉をどこかに置き去りにしてきてしまったらしい。


( ^ω^)「ドクオ、呼んできたって誰をだお?」

(;'A`)「そうだ! そうだよ、聞いてくれよ!」


.

794名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:18:14 ID:yZraviHw0


ドクオは兄者の言葉に頭を抱えてのたうちまわった末、扉を指さした。


(;'A`)ノ「ちゃんと連れてきたぞ、麗しのしぃさんを!」

(,,#゚Д゚)「ゴルァーーっ!!!」


ドクオの声と、男の野太い声が聞こえるのはほぼ同時だった。
全身の毛を逆立てたギコが、扉をこじ開けその中へと入ってくる。


(,,#゚Д゚)「坊主ども、いるか!?」

( ;_ゝ;)「しぃ者、随分とゴツくなって!」

(;^ω^) !?


兄者たちのいる最奥の壁際と、入り口の扉は遠い。
だから、あまりにもひどいその言葉はギコには届かなかった。


(,,*゚Д゚)「よかった! そこにいやがったか!」

(;゚ー゚)「みんな、大丈夫?!」


.

795名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:20:13 ID:yZraviHw0


ギコの後に続くようにして、しぃの姿が現れる。
黒のドレスと赤の飾り紐が風に揺れ、しぃの桃色の毛並みが鮮やかに見えた。
広間の一番奥に兄者や弟者がいることに気づくと、しぃはドレスが汚れるのにも構わず駆け出した。


(;゚ー゚)「血まみれじゃない!? 大丈夫なの兄者くん」


しぃは長い距離を駆け抜け兄弟のすぐ傍らにたどりつくと、顔を青くした。
手当も何もしていない兄者の頭は、流れだした血で赤く染まっている。


( ´_ゝ`)「あー、これは俺じゃなくて弟者が」

(#゚ー゚)「兄者くんは、黙ってて!」

(;´_ゝ`)て「なんと理不尽な!?」


そう叫んだ瞬間に、口の中が切れたのか、兄者の口元から血が溢れ出る。
兄者はあわてて血を拭うが、その行動は遅かった。
しぃは真っ青な顔で兄者の怪我を見、弟者の様子を尋ねた。


(;゚−゚)「弟者くんは、大丈夫なの?」

(´<_`; )「俺は、兄者に比べればマ」

(#゚ー゚)「やっぱり、血が出てる。それに、全身ボロボロじゃない」


.

796名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:22:56 ID:yZraviHw0


(,;゚Д゚)「おい、本当に何かあったのか?」


最奥の間は、ギコが知るものとは異なっていた。
何か大きなものに滅茶苦茶にされた地面と、踏み荒らされた草。
部屋の奥には何処から出現したのかわからない、大きな岩の塊――ゴーレムの成れの果てがゴロゴロとしている。
祭壇の周りは割れたり倒れたりした壺や燭台が散乱している。

そして何より目を引いたのは、部屋の最も奥に位置する壁が焼け焦げたかのように黒く汚れていることだ。


( ´ω`)「すっごいいろいろあったんだお……たいへんなんだお……」

(,,;゚Д゚)「二人はボロボロだし、一体どうしたんだ」


武器を構え周囲を警戒し、何もないことを確認したところでギコはそう口にした。
しかし、ギコの疑問に答えるものはいない。
正確にはブーンが答えているのだが、ブーンの言葉では説明にはなっていないし、精霊を見ることの出来ないギコにはわからない。


(,,;゚Д゚)「おい、兄者」

(;゚ー゚)「ギコくん。今はそれより応急処置を」

(,,;-Д-)「……だな」


.

797名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:24:21 ID:yZraviHw0

ギコは背負っていた荷物から、何やら袋を取り出すとしぃに手渡した。
そこには包帯や塗り薬らしきものが入れられている。


(;゚ー゚)「怪我の具合はどうなの?」

(;´_ゝ`)「そう言われると、説明のしづらい……」

(*'A`)ノ「しぃさん、お手伝いしますぅ!」


しぃは袋の中から布を水筒と取り出すと、兄者の被り布を外し傷の観察をはじめる。
兄者はそれに、居心地悪そうに視線を外すと、言葉を濁す。
ドクオはといえばしぃと一緒にいるのが嬉しいのか、ニヤニヤと笑顔を浮かべしぃの周りをひたすら飛び回っている。


(*'∀`)「しぃさん! しぃさん!」

(;´_ゝ`)「お前はちょっと黙ったほうがいいと思う件」

(;゚ー゚)「ほら、兄者くん。おしゃべりしてないで、ちゃんと怪我を見せて」

(#'A`)「ずるいぞ! オレだってしぃさんに優しく手当てされたい!」


しぃは兄者の怪我の具合を見ると、困ったように息をついた。


(;゚ぺ)「どうしよう、仙丹で足りるかしら。あまり具合がひどいようなら、もっと他のお薬を……」


.

798名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:27:16 ID:yZraviHw0


(,,゚Д゚)「弟者は手を出せ。薬の前に怪我の方をどうにかする」

と(´<_` )「把握した」

( ^ω^)「いたいのいたいのとんでいけーだお!」


一方、弟者にはギコが慣れた手つきで治療の準備を始める。
弟者の手を眺め「無茶しやがって」と口にすると、鞄の中から布を引っ張り出した。


(´<_` )「それは何だ?」


( ^ω^)「オマジナイってやつらしいおー」

(,,;゚Д゚)「え? 止血用の普通の布だが……」


弟者の問いかけに、ブーンとギコが同時に言葉を返す。
両者の答えに弟者は「ふむ」と呟くだけだ。
弟者の様子にギコは「そんなに変なものに見えるか?」大きく首をかしげると、弟者の腕を縛り上げ止血をしていく。


(´<_`;)「また、あの胡散臭い薬を飲まされるのか……」


弟者はギコにされるがままになりながら、小さく呟いた。


.

799名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:28:58 ID:yZraviHw0




治療にはそれほどの時間はかからなかった。
弟者は「あんな胡散臭い薬は嫌だ」と抵抗していたが、それも虚しく終わった。
しぃの笑顔と、ブーンの「おクスリのまなきゃダメだおー」という言葉が効いたらしいが真相は定かではない。


ヾ(*´_ゝ`)ノ「見ろ、ブーン!! 俺、復活! 俺、ふっかーつ!!」

( ;ω;)「よかったおー」


兄者も弟者も受けたダメージが大きすぎたためか、仙丹を使っても完全回復というわけには行かなかった。
とはいえ、一時は完全に動けなくなっていた兄者にとってはそれでも嬉しいのだろう。大はしゃぎだった。


(;゚ー゚)「もう、あくまで応急処置なんだから無茶しないで」

(´<_`;)「……応急処置ってことは、まだあるのか?」

(,,;-Д-)「しぃは胡散臭い薬を集めるのが好きだからな。覚悟しとけ」


(*'A`)「しぃさん……なんて素敵な趣味なんだ」


.

800名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:30:36 ID:yZraviHw0


( ´_ゝ`)b「まぁ、何事も経験だ。諦めろ」


眉をひそめて嫌そうな表情を浮かべた弟に向けて、兄者は言い放つ。
弟者はその言葉に言葉を返そうとして、ギコが何かを言おうとしていることに気づいた。
弟者が顔を向けると、ギコはそれを会話終了の合図と見たのか、大きく口を開いた。


(,,゚Д゚)「――で、何があったんだ?」

(*゚−゚)「……」


猫の耳をピン立てて告げたギコの言葉に、兄者の顔がひきつり固まる。
兄者は助けを求めるように視線を右へ左へと泳がせたが、誰からも助けを出そうとはしない。
兄者は「ぐぬ」と奇声を発すると、答えを考えこむように黙った後ゆっくりと声を上げた。


(;´_ゝ`)「……いや、ちょっと大冒険みたいな?」

(´<_` )「ゴーレムが出た」


(,, Д )    ゚ ゚


.

801名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:32:47 ID:yZraviHw0


おそらくは話が穏便に済むようにと考えられた言葉は、弟者によって即座に打ち砕かれた。
その言葉に、ギコは絶句し、目玉が飛び出さんばかりに目を見開いた。
青い毛並みに覆われた顔が青ざめ、尻尾が一気に逆立つ。


(,,ii゚Д゚)「な、ななななな」

(;゚ 。゚)「そ、それってどういうこと?」


ゴーレムという言葉は、ギコにもしぃにも覚えがあった。
その昔に、猛威を振るったという人工の怪物。その名は老人の口や、お伽話によって聞かされている。
さらに言えば、しぃはソーサク遺跡の調査の責任者を務める学者だ。
ゴーレムが出現した時の恐ろしさは、彼女が誰よりもよくわかっていた。

 _,
(´<_`#)「どういうことだもない。ここは安全なんじゃなかったのか?」

(,,ii゚Д゚)「何十回も調査してるんだぞ、何でよりにもよってそんなことに」

( - -)「ギコくん。もういいわ、これはこちらの落ち度よ。
     本当にごめんなさい」


動揺を隠しきれないギコとは対照的に、しぃは冷静さを取り戻していた。
責任者らしくピンと背筋を伸ばして、彼女は謝罪の礼をとる。そこには先ほどまでの動揺は微塵も見られない。
代わりに、緊張をたたえたような硬い表情だけがそこにあった。


.

802名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:34:33 ID:yZraviHw0


(;´_ゝ`)「ギコ者やしぃ者が悪いわけじゃないんだから、時に落ち着け弟者!
      しぃ者もそこまで深刻にならなくとも、俺らは平気だし。大事には……」

(*゚−゚)「ダメよ。責任はちゃんと取らなきゃいけないわ。
    申し訳ないのだけれど、ここを出たらもっと詳しく話を聞かせて貰える?」

(;´_ゝ`)「……ぐ、ぬぅ」


しぃの言葉は正論だ。
それがわかってしまうから、兄者もそれ以上庇い立てするような言葉が出せない。


(,,;-Д-)「……」

(´<_`;)「……」

( ^ω^)「……お?」


しぃの言葉を否定するものは誰もいなかった。
弟者はしぃの言葉に毒気を抜かれたように黙り込み、ギコは悔しそうな表情を浮かべ小さく舌打ちをする。
ただ一人、状況をあまり理解できていないらしいブーンだけが、首を横にかしげて飛んでいた。


.

803名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:36:09 ID:yZraviHw0


( ゚−゚)「じゃあ、話は後ですることにして、とりあえずは外に出ましょう?
     ここじゃあ、何かあっても対処できないわ」

(*'A`)「素晴らしいです、しぃさん!」

(*゚ー゚)「ギコくんも、ね?」

(,,-Д-)「……わかったよ」


誰からの答えがないのを、肯定の合図ととったのかしぃが話をまとめる。
彼女はなだめるようにギコの肩を叩くと、兄者と弟者を扉へ向かうように促す。


( ´_ゝ`)「うーむ。名残惜しいような気がするが、この場所とはお別れか」

(´<_`;)「名残惜しいなどとよく言えたものだな。俺はこんなところはもう御免だ」

( ´ω`)「もう出れないかと思ったお…」


そんな会話を繰り広げながら、兄弟は立ち上がる。
治療の甲斐もあって、二人の足取りは軽い。遺跡から出るのには何の支障も無いだろう。
先ほどまで大怪我をしていたとは思えない彼らの気楽な様子に、ギコは大きく溜息を付いた。


.

804名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:38:08 ID:yZraviHw0


(,,;゚Д゚)「まったく、お前ら二人は。
     どうしてそう毎度、毎度、厄介事に巻き込まれるんだ?」


それは、ギコにとっては心の底から出た言葉だった。
信じられないという気持ちと、おそらく自分ならば耐えられないだろうという感服の気持ちを込めてギコは告げる。


(´<_`#)「そんなの俺が知りたいくらいだ」

(,,-Д-)「ほんとに、毎回命があるのが不思議なくらいだぞ」

(*´_ゝ`)「うむ。退屈な日常にはこれくらいのスパイスがないとな」

(´<_`#)「兄者はっ――、」


ギコと兄者の言葉に声を荒げながら、弟者の思考は一瞬止まった。

兄者は余裕な様子で、笑顔を浮かべている。
あれほどひどい目にあったのに、笑っていられる兄者が不思議で……。
自分はこんなにも苛ついているのというのに、どうして兄者はそうなんだと声を上げようとして、弟者はふと気づく。


(´<_` )「……」


.

805名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:40:20 ID:yZraviHw0





――俺と、兄者が違うというのはこういうことか。





.

806名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:42:16 ID:yZraviHw0


考えてみれば当たり前なことだったが、それは弟者にとってはじめての感覚だった。
こんな簡単なことに、なぜこれまで気づかなかったのだろう。
そう不思議に思いかけたところで、弟者は先ほどの兄者の発言に聞き逃せない部分があったことにようやく気づく。


( ´_ゝ`)「ん? どうかしたか?」

(´<_`#)「こんなことがそう毎度毎度あってたまるか。
       お前はアホか! 馬鹿か! 死ぬのか!」

('A`)「同じようなこと兄の方も言ってなかったか?」

( ^ω^)「んー、おそろいなのかお?」

(´<_`#)「こんなのと一緒にされてたまるか!!!」


気づけば、兄者はにやにやと笑顔を浮かべている。
何が面白いのかわからないが、兄者は笑いながら口を開いた。


( ´_ゝ`)「でも、ま。大丈夫だろうさ。
      俺だけなら死ぬかもしれんが、俺にはよくできた弟がいるしな」

(´<_` )「……なんというか。兄者はたまに本気ですごいな」


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807名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:44:23 ID:yZraviHw0


「俺」ではなくて、弟扱いされたのは癪だった。
けれども、いつもの笑顔でそう言い切れる兄者は、実はすごいやつなのではないか。
――気づけば弟者は、そう自然に思っていた。


\(*´_ゝ`)/「そうかそうか〜。お兄ちゃんは本当にすごいか〜
          かっこよくてイッケメーン!で、道行くおにゃのこたちも惚れちゃう感じか」

(´<_` )「ああ、自分一人で必死だったのがアホらしくなった。
      でも、イッケメーン!じゃないし、道行くおにゃのこたちは惚れないから安心しろ」

\( ;_ゝ;)/「ひどい」


「俺」というくくりを外して、兄者を別の人間としてみる。
兄者の言うことは今はまだ正直よくわからないが、少しずつ気づいて、慣れていけばいい。
いくらでも時間はあるのだから――。

弟者ははじめて、自分とは違う存在である兄へと向けて、言った。


(´<_`*)「流石だよ、兄者は」


弟者は笑顔を浮かべている。
それは人ではないブーンやドクオのような精霊ではなかなかできない、少年のような笑みだった。


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808名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:46:38 ID:yZraviHw0


(,,゚Д゚)「おい、いつまで話してるんだ? さっさと行くぞ!」

(*゚−゚)「もしかして、まだ具合が悪い?」


ギコとしぃが、呼ぶ声が聞こえる。
いつの間にやらギコは、しぃとともに扉の間近へと進んでいた。


(*'∀`)「しぃさん待ってくださーい!!」

(;^ω^)「おいてかないで、だおー」


二人の呼びかけに、ドクオとブーンが飛んで行く。
そして、残された兄弟も笑い合うと、扉へと向けて走りだした。


ヾ(*´_ゝ`)ノシ「今行くぞー」

(´<_` )「急ぐのはいいが、転ぶなよ」


走りながらも、弟者は最後に一度だけ振り向いた。
崩れ落ちた巨大な岩の欠片、焼け焦げた壁、荒らされた祭壇と地面。
――戦闘の傷をいたるところに残しながらも、遺跡はひっそりと、静かに眠っている。

弟者は小さく頷くと、今度こそ振り返らずに走り始めた。


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