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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
1
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:47:16 ID:U5Z4bAHs0
潮の香る港に、日本人とはかけ離れた二人の男が降り立った。
ここ、小樽の港には日本人以外にも出稼ぎにきたロシア人も多く、
外国人はそう珍しいものでもなかったのだが、
二人の異色は際立っている。
( ´_ゝ`) 「いやー気持ち悪かったなー。揺れる揺れる。
船旅ってのはどうにもすかんね、俺は」
2月末とはいえ雪のまだ積もるこの土地で、
極彩色の派手なアロハシャツを羽織り、麦わら帽子を被った短パンの男と、
(´<_` ) 「アニジャ、静かにしろ。任務中だ。目立つ様な真似はするな」
対照的に、どこに売っているのかもわからない、
足首まで丈がある、フード付きの真っ青なローブをきた男の二人組。
( ´_ゝ`) 「はいはーい、わかってますよオトジャくん。
そんじゃ、粛々と静かーに会話もなく黙々と目的地目指しますか」
アニジャ、と呼ばれたアロハ男は軽く手を振るだけで、
なんら悪びれもせずに歩き出す。
その背をオトジャというローブの男が追い、
(´<_` ) 「分かったのなら行動で示してくれ」
愛想の無い口調でそうたしなめた。
目を引く二人ではあるが、港を少し離れていくと車道を走る車ばかりで、
人通りは少なくなっていき、彼らを気に掛けるものはいなくなった。
202
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:51:40 ID:TZdjw55g0
軽い柔軟体操を行い、
((ФωФ )
( ^ω^)) 「よろしくお願いしますお」
一礼を交わすと張り詰めた空気がブーンの肌を粟立たせる。
ロマネスクの放つ闘志によるものだ。
気を練り上げ、実戦さながらの緊迫感をブーンへ与える。
相手はかつて聖堂教会と魔術教会で繰り広げられた戦争に参加し、
代行者としても戦果をあげてきた歴戦の猛者だ。
一線を退いてはいるといっても、命を奪い合うという行為を行ったことのないブーンなど、
容易い相手である。内藤家の跡取りとして魔術の教練を受け拳を鍛えてきたとは言っても、
まだまだヒヨッコにしかすぎない。
間合いは10歩ほど離れているがすぐにでも詰め寄られてしまうことだろう。
ロマネスクの身体を通して出る"気"が重圧となり、どう攻めても返り討ちにされる結末が脳裏を過ぎった。
だからブーンは足を引き、間合いを開くことにした。
距離を置くことで攻撃が命中するまでの時間を稼ぎ、迎撃しようというのだ。
先手必勝とは言うが、時と場合による。
戦争においては待ち伏せ側が有利であるとブーンは承知していた。
203
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:53:38 ID:TZdjw55g0
経験と実力の差を戦術によって覆す。
靴を脱いだ素足は畳を踏みしめるも、感触はやけに重い。
身体全体が重く、呼吸が苦しくかんじられる。
まだ大して動いてもいないと言うのに、額からは大粒の汗が流れていく。
(;^ω^)
拳を構え、何時でも防御や反撃を行えるようにしたまま、ブーンはなお身を引かせた。
( ФωФ)「ッ!!」
おぉ、という叫びが聞こえたかと思えると、ロマネスクは動きを作り出す。
来た。
硬直した身が突貫するロマネスクを待ち構え、射程に入ると右の拳を放つ。
中指から小指までを上にした、傾き気味の拳は額を捉えた。
屈筋と伸筋を用いた拳は加速と停止を瞬時に行い、衝撃を増している。
鋭い音が空を切り、次いで肉と肉がぶつかり合う鈍い音が響いた。
その時には既にブーンは畳へ叩き付けられてしまっていた。
反転した視界にロマネスクが映る。
一瞬で勝敗は決してしまったが、くじけずに彼はもう一戦望んだ。
空気が再び張り詰めていく間もなく、構えたブーンは突っ込んでいく。
己の引き出せる最速を求め、畳を力の限り蹴り飛ばす。
生み出された振動を突き出した拳に伝動させ、胴へと余すことなく破壊力を与えた。
204
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:55:52 ID:TZdjw55g0
しかし、渾身の一撃はロマネスクの身を掠めて風を切る音が立つのみ。
(;^ω^) 「ッ!?」
素早く利き足を引き、間合いを取ろうとするが攻撃後に生まれた硬直を、
ロマネスクが逃すはずも無く、重々しい音が拳とともにブーンの下腹部へ突き立った。
(;゜ω゜)
あ、という喘ぎすら漏れずブーンは呼吸すらままならない。
力を失ったように両足は膝をついていき、四つん這いになって、
大きく開かれた口から涎がダラダラとこぼれて行く。
こみ上げて来た唾液の塊を吐き出すことで、ようやく呼吸が出来た。
朦朧とした意識の中、ブーンはロマネスクを見上げる。
( ФωФ)「ブーン、休もうか」
四十を過ぎた肉体であるにも関わらずに、彼は汗の一粒すら浮かべてはいない。
構えもせずに悠然と、慈愛の籠もった瞳でブーンを見つめていた。
これが今のブーンと聖杯戦争を生き延びた者との、覆しがたい実力差である。
だが決して彼が無力であるわけではない。
この十年の間、血反吐を吐くような鍛錬に臨んできたのだから。
拳法という武道の競い合いでは敵わぬが、これが実戦で、
魔術さえ扱えればまた結果は違うものになっていたに違いない、はずだ。
聖杯戦争を戦える力は充分に備えている。
205
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:58:02 ID:TZdjw55g0
ロマネスクに学んだものは少林寺拳法。
父と母からは魔術を。
この二つを用いて彼はこれから戦いに臨む。
ブーンはその前に「自分は勝ち抜ける」という自信を持ちたかった。
だからこうしてロマネスクの下を訪れたのであったが、この完敗が現実である。
勝てずとも、互角の勝負を演じられれば希望を持てただろう。
だが手も足も出なかった。
そんなはずはない、自分はもっとやれるはずだ。
ブーンは自らをそう鼓舞して、ロマネスクの視線に応える。
(;^ω^) 「いえ、回復しましたお……もう一度お手合わせお願いするお」
( ФωФ)「ふむ」
静かにロマネスクは笑みを作ると、ブーンが立ち上がる様を見届け、構えを作る。
若さが彼を駆り立てるのか、ブーンは猛然とロマネスクへともう一度立ち向かっていった。
206
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:59:35 ID:TZdjw55g0
******
組み手開始から三時間ほどが過ぎた頃、
地下に作られた道場ではブーンが畳の上で大の字になって倒れていた。
身体中に痣を作り、大量の汗を滴らせた彼は疲労困憊し、
深いダメージを受けた為立ち上がる気力は残っていないようだ。
ロマネスクは荒い息をつく彼へ、そっと近寄り、
( ФωФ)「少し休もう、ブーン」
対照的に、整った呼吸をして囁いた。
優しい、父性を匂わせる声だ。
(メ;´ω`) 「そうさせて……貰うお…」
力無く息を切らせながらも、ブーンは応えた。
ロマネスクには子供がいてもいい年頃なのだが、
残念ながら彼には妻も無く子も無い。
( ФωФ)「冷たい茶でも持ってこよう。そのまま休んでいなさい」
しかしブーンに接する彼は、父親と言っても差し支えはないだろう。
昔、シャキンとの間に交わされた約束が彼をそうさせたのだ。
「息子を見守ってくれ」と、死の際に放たれたシャキンの言葉が、
ロマネスクを一人の男として成長させ、慈愛の心と父性が今の彼を作り上げた。
207
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:00:17 ID:TZdjw55g0
事前に用意していたのか、上階へ向かったロマネスクは、
コップと麦茶が満たされたボトルを載せた盆を持って、すぐに帰ってくる。
ガラスコップ一杯に麦茶が注がれ、褐色に満たされていくとブーンへ差し出された。
(*´ω`)ノ旦ノ「おっおっ!」ゴッキュゴッキュ
水分を失った身体に、冷えた茶が染み渡る。
喉をならして飲み込んでいくブーンの口腔に、
麦の甘みが広がっていった。
(*^ω^) 「ありがとうだおロマおじさん! 美味しかったお!!」
汗を腕で拭い、笑みになったブーンを見て、ロマネスクも釣られて微笑する。
( ФωФ)「冬とは言っても運動後にはやはり冷たい茶だ。
良い茶を貰った。お婆さんに直接お礼を言わねばな」
( ^ω^) 「また、貰い物かお?」
( ФωФ)「私が昨日飲んでいた茶も、同じ方から頂いたものだ。
孫が世話になっているからと言われたが、
断ってもどうしてもと押し切られてな」
( ^ω^) 「ロマおじさんは、面倒見が良いからだお。
教会だっていうのに小っちゃい子達が児童館代わりに寄ってくる。仁徳だおね」
キリスト教の教会だからと毛嫌いして近寄らない、
ショボンのことを頭に浮かべながらブーンは呟いた。
208
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:03:32 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「本気を出させて貰った。実戦と、同じように。しかし実戦ではない。
実戦ならばブーンは魔術を使えたよ。
私とて内藤家の魔術師と殺しあえば敵うかはわからない」
( ^ω^) 「ロマおじさんだってそれは同じ条件じゃないかお」
( ФωФ)「いや、私はな。魔術のほうは治癒魔術や強化の魔術くらいしか扱えんのだ。
もし此度の聖杯戦争に参加していれば、老化もあって以前のようにはいかない。
君に屠られていただろうさ。全盛期は既に遠い昔の話だよ」
( ^ω^) 「全盛の頃だったら、この聖杯戦争も勝ち抜けたかお?」
( ФωФ)「私は既に、願いを果たした。挑む理由はないよ」
( ^ω^) 「もう願いは叶えられたから、力があったとしても挑まないのかお?」
( ФωФ)「若い私にあった強迫観念じみた使命感は、もはや無い。
聖杯戦争に挑む君の前で口にするのは憚れるが、年老いた私は学んだのだ。
命を天秤にかけてまで、叶えるべき願いなどはないのだと」
( ^ω^) 「……それは、勝者の余裕ですお」
( ФωФ)「そう言うだろうから、言うべきか悩んでいたのだ」
( ^ω^) 「何で今になって言ったんだお」
( ФωФ)「ふっ、君が中年の戯言に屈するような、
半端な意思で戦いに望んだわけではないのだと確信したからだよ」
209
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:07:34 ID:TZdjw55g0
(;^ω^) 「褒めている、のかお?」
( ФωФ)「あぁ、そうとも。しかし、この雪国の聖杯戦争に聖堂協会は反発している。
あまり表立った行動や、表社会に影響を及ぼすようなヘマはしないでくれ。
少しでも問題が起これば協会は間違いなく"異端狩り"を行うだろう」
( ^ω^) 「異端狩り?」
( ФωФ)「端的に言えば教義に反する者を抹消することだ。
聖堂協会は札幌に存在する聖杯を、"神の奇跡"を汚した贋作であり破棄すべきだと主張している。
だから十年前の戦争が起きた。君が幼い頃の話だから、忘れてしまっているかもしれないがね」
淡々と語るロマネスクではあったが、苦い記憶があるビジョンと共に脳裏に蘇った。
血を湛えた己の拳。
傷を負った肉体と精神は満身創痍となり、霞む視界には斃れた友の姿が浮かぶ。
戦場は騒音に満ちているというのに鼓動がやけに大きく聞こえ、
一対の陰剣と陽剣を構えた男はこちらを振り返り――
(`・ω・´)『あぁ……』
( ФωФ)「む……」
亡き友の姿が目前に現れた。
意思の強さが込められた鋭い眼光を向ける男性は、シャキンだ。
モララーと共に、一つ年下の自分を中学時代に魔道へと誘った男。
若さゆえの過ちとも呼べる事柄で、魔術師にとっては大問題であったのだが、
あの出会いがなければ今のロマネスクは無い。
210
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:08:27 ID:TZdjw55g0
師とも呼べるシャキンとモララーは、結果的に戦争では敵同士になってしまった。
彼が魔術を知らなければ、もしかしたら"聖杯戦争前哨戦”と呼ばれる戦いは起きなかったかもしれない。
しかし、シャキン達と出会っていなければ今のロマネスクが無いように、
ブーンもこのような男には成長しなかっただろう。
それを幸か不幸かを決めるのは、ブーン自身が決めることである。
( ФωФ)(ご子息を見に来たのですか……先輩? それとも、俺を笑いに?)
否、と自ら投げかけた問いをロマネスクは打ち消す。
(`・ω・´)『そういうことかお』
逆八の字を象られた険しい眉は、緩やかな弧を描いていき、
鋭い目つきは真ん丸で人懐っこい瞳へと代わっていった。
亡霊の像が消えていく。
( ^ω^) 「双方、多大な犠牲が出て、今回の聖杯戦争が終了するまで聖堂協会は監視を行う。
その約束のおかげで魔術協会と聖堂協会の和平が実現した」
シャキンの姿をロマネスクに見せたのは、やはり親子であるが故に似通っているからだろうか。
彼はロマネスクの胸中も知らずに会話を続けていた。
(;^ω^) 「昔、そうロマおじさんやかーちゃんに教えてもらったの、思い出したお」
211
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:09:51 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「しっかりしてくれ、ブーン。もはや君は、一端の魔術師なのだぞ?」
(;^ω^) 「言いにくい話だけど、マスターとして半人前もいいとこだお。
僕は、サーヴァントを召還したはいいけど、ちょっと話したら見限られて、
もうどこにいるのかもわからない、半人前なんだお」
少し拗ねたように、ブーンは昨夜の失態を暴露する。
羞恥心が、言葉の歯切れを悪くさせた。
( ФωФ)「む、令呪を通しても存在を感知出来ないのか?
魔術回路がつながってる内は、念で交信できるはずなのだが……いや」
(;ФωФ)「まさか、ブーン。アーチャーを召還したのか?」
(;^ω^)) 「……」コク
ブーンは何も言わず、ただ頷きだけを返す。
(;ФωФ)「単独行動スキルが仇となったか……」
( ^ω^) 「でも! ちゃんと考えはあるんだお!!
情けない話だけど、手のうちようはあるんだお。
心配しなくても大丈夫ですお」
(;ФωФ)「そうか……監督役として、私は必要以上に君に肩入れすることは出来ない。
シャキンに恥じぬよう、しっかりやってくれたまえ」
212
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:13:35 ID:TZdjw55g0
( ^ω^) 「おっおっお、勿論だお! ロマおじさん、充分休んだことだし、そろそろ……」
呼吸を整えたブーンは立ち上がり、拳を構えるも、
ロマネスクは座ったまま首を横に振るう。
( ФωФ)「いや、止めておこう。今夜、戦闘になる恐れもある。
教会から出れば、戦闘区域だ。余力を残しておいたほうがいい」
( ^ω^) 「それもそうだお……でも、ロマおじさんに一本も取れなかったのは悔しいお」
( ФωФ)「まだ、拳のみの戦いでは私には敵わんよ。時間ももう遅い。帰りたまえ」
( ^ω^) 「ちぇー」
しぶしぶながらもブーンは立ち上がり、
部屋の隅に捨ててあったブレザーと、スタジアムジャンバーを羽織っていく。
( ФωФ) 「まぁ、また拳のみの勝負でよければ相手になろう。いつでも来たまえ」
(*^ω^) 「お言葉に甘えさせてもらうお」
畳を踏みしめ階段の脇に置いた靴を履き、ロマネスクの私室へと昇る。
礼拝堂を進み、玄関の扉に手をかけるとロマネスクが口を開いた。
( ФωФ)「……ブーン、最後に忠告が一つある」
( ^ω^) 「ん? なんだお?」
213
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:16:19 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「君の父……シャキンを殺したのは刃児耶ギコだ。
此度の聖杯戦争に参加している、セイバーのマスターだ」
(;^ω^)そ 「ロマおじさんッ!?」
外に出たブーンははっとして背後へ振り返るが、
白亜の扉は堅く閉ざされ、声に応える者はいなかった。
春風が混じり始めた寒空の下で、ブーンはギコという男の名を脳に刻み付ける。
( ^ω^) 「刃児耶……ギコ……セイバーのマスター」
ロマネスクの言が本当ならば、かつての戦争で父を殺めた仇の名を、ブーンは口ずさんだ。
シャキンの顔が目に、ローソクの炎のようにぼうっと浮かぶ。
街灯も少なく、月明かりだけが照らす夜の東区をブーンは歩む。
人気は無いといっていいほど少ない。
住人達の帰宅が住み、家で団欒をとっているのだろう。
労働で疲れ、帰宅してきた父を、母と子供が暖かく迎える。
夕餉に舌鼓を打って談笑し、風呂に入って一日の疲れを癒す。
そんな幸福な一時を誰もが迎えるわけではないが、父を自分と母から奪ったのはギコだ。
遠い過去の話ではあるが、父の葬儀で流した母の涙をブーンの眼は焼き付けている。
214
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:17:29 ID:TZdjw55g0
夜闇の如く暗い考えが胸を浸していく。
住宅街へ入り、公園を横切っていくと……。
「やっぱり、ロマおじさまのところに行っていたのね」
( ^ω^) 「ッ!?」
声がした。
清澄でいて、勝気さが滲み出た声。
少女の物と思われるそれは、聞き覚えがあった。
ξ゚⊿゚)ξ 「ここで貴方の迷いを終わらせてあげるわ。
戦いましょう、父様達もきっと喜んでいるはずよ。
聖杯戦争……魔術師として己の魔術を、存分に競い合える戦場」
(;^ω^) 「ツン……やるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、構えなさいブーン。一族の誇りと願いを賭けて」
ツンの全身を魔力が駆け巡っていき、右腕へと集約されていく。
周囲の空間が熱を孕み始め、朧のように歪むと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get set―――」
呪文が響いた。
己の気を高める、スイッチとなる頭語である。
募った魔力は魔術回路によって"力"へと変換され、
高密度に圧縮された炎が右手から噴射された。
215
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:19:05 ID:TZdjw55g0
Σ(;^ω^) 「くっ、本気かお!?」
ブーンの足元に炎の弾丸は突き立って、雪を音も無く溶かしていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「呆けているんじゃないわよ。サーヴァントを出しなさい、ブーン。
さもないと――――貴方、無様に死ぬわよ?」
言葉に表れたものは怒りと、
( ゚_ノ゚)
大きな銀と黒の十字を首から下げた、
鉤十字の装飾を施された軍服を身に纏うサーヴァントが現れた。
(;^ω^) (アーチャーを呼ばないと……!!)
令呪を使用する。
ブーンの生存本能が咄嗟に行動を取らせていくが、直前で理性が邪魔をした。
「こんなところで使ってしまって本当にいいのか?」
その躊躇いが空白を生み出してしまう。
かつて戦場で名を馳せた英霊が隙を見逃すはずも無く、
腰のホルスターから瞬く間に抜かれた、ワルサーP38がブーンへと向けられ―――
216
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:23:56 ID:TZdjw55g0
第4話 「get set―――」 part 乱世エロイカ②
投下終了。遅れてしまって申し訳ない。
待っていてくださった方々には感謝と謝罪をする。
これからは月一の投下を目標にします。
217
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 10:15:22 ID:fXUOG.TU0
マジか!乙
218
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:31:36 ID:CpT9oAKIO
乙!
219
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:37:05 ID:0VZCBLis0
おつー
220
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 20:00:11 ID:w12BCxLE0
ギコェ…
シィはもう
221
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 00:52:52 ID:zaN4V8hE0
乙!
続きが気になる
222
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 13:56:19 ID:P5IkB5k.0
ギコほど不幸が似合う奴はそうそういないぜ
223
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 04:56:44 ID:s0hHn/8Y0
ギコ視点に立つと、ギコにはドクオを倒して仇を討ってほしいな
224
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 06:16:11 ID:1vbJD/rM0
なんというギコへのエールwwww
225
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 11:39:51 ID:la8NPhW60
しかしシィの遺体食べられちゃったのに
ギコはどうやってドクオが仇だって気付くんだろう
226
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:48:55 ID:xvC0Jaek0
アサシンが何か言うんじゃね。
227
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:52:44 ID:1vbJD/rM0
アサシン「シィなら朝しんだwww」
228
:
名も無きAAのようです
:2012/08/02(木) 13:25:32 ID:iY/8zESo0
ギコが人気なのって、シローを彷彿とさせるからかな?
ドクオはキリツグと考えると、キリツグvsシロー(エミヤ?)だから胸熱
229
:
名も無きAAのようです
:2012/08/03(金) 10:54:59 ID:/a3o2mnY0
まだ大した活躍してないよな
230
:
名も無きAAのようです
:2012/09/06(木) 15:56:27 ID:1DJMbsfc0
まだかーまだかー
231
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 00:17:31 ID:QCpLB3rI0
明日の22時頃に投下する
遅れて申し訳ない
232
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 00:23:58 ID:gnaa9reI0
うひょー!!
来たか!!
233
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 08:53:13 ID:xFZfoilA0
キタゼー!
234
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:11:50 ID:QCpLB3rI0
夜の帳が落ちた札幌市東区、その片隅にある公園で小さな光が灯る。
遅れて乾いた音が響き、大柄の少年の足元に火花が散った。
(;^ω^) (本当に撃ってきたお!!)
少年、ブーンはロマネスクとの稽古で火照った身から、
血の気が引いていく感覚を味わう。
恐怖によるものだ。
( ゚_ノ゚) 「……」
軍服姿の男は構えていたワルサーの照準を修正し、
素早くブーンの額へ狙いを定めていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、威嚇する必要はないのよ。英霊さん?」
引き金にかけられた指を注視し発砲の間際にブーンが飛び退いたことは、
ツンの目にも明らかなことであったが、意地悪くサーヴァントへ激を飛ばす。
英霊とのみ呼んでクラス名を伏せる抜け目無さは周到であると言えよう。
(;^ω^) (飛び道具? ってことはアーチャーかお?)
短絡的な思考でクラスを結びつけるが、「いや」と否定する。
アーチャーは自分が召喚したはずだ。
同じクラスのサーヴァントが召喚されることはない。
ではこの英霊は一体どのクラスに該当するのか?
235
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:13:23 ID:QCpLB3rI0
戦場に初めて入り込んでしまった緊張感とツンの言動が、
ブーンを当惑させ冷静な思考能力を奪っていた。
( ゚_ノ゚) 「貴様、何故サーヴァントを呼ばない?」
剥き出しの銃身が踊り、ワルサーの銃口がブーンを捉える。
雪の敷積もった足元には穴があり、弾丸が減り込んでいた。
一瞬、ほんの一瞬反応が遅ければこれが額に風穴を空けていたことだろう。
明確な殺意を以って放たれた弾丸はブーンの背筋に何か冷たいものを走らせる。
心臓は早鐘を打ちサーヴァントの口の動きがやけに緩慢に見えた。
何故サーヴァントを呼ばないのか。
違う、呼ばないのではない。呼べないのだ。
アーチャーの作戦が裏目に出てしまったことで生じた自体に、
怒りとも恐怖ともつかぬ感情が湧いてきた。
助けがくることはない。令呪を使えば、話は別であるが。
目前には規格外の魔力の集合体であるサーヴァントとそのマスター。
ツン一人ならまだしも、魔力そのものとも呼べるサーヴァントに、
人間であるブーンが行使できる魔術程度で、傷を負わせることなど、
ましてや倒すことなど不可能だ。
銃撃は外れたが、そんなものに攻撃されたという事実は、
ブーンを恐慌状態に至らせるに充分だった。
令呪を使用するという考えも、吹き飛んでしまう。
236
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:15:25 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
磨いてきた魔術も拳法もサーヴァントには歯が立たない。
絶対に敵わぬ敵を前にしてブーンは背を向けて逃げ出す。
今の彼に魔術師としてのプライドなど微塵もない。
策などでもなく、ただの恐怖による逃亡だ。
圧倒的に己を上回る力量を持ち決して倒せぬ敵は恐れそのものである。
相対した者は逃げるか許しを請うか、
全てを諦め黙って命を差し出すかの選択しか与えられない。
勝算のない戦いを挑む者がいようものか。
逃げ出した彼を嘲笑うことなど出来やしない。
死を受け入れず足掻いてみせただけでもブーンには勇気があったと言えよう。
(;^ω^) 「ツン、やめてくれお! 僕達が戦う必要なんてないんだお!!
同じお菓子食べて一緒に本を読んでた、ツンちゃんじゃないのかお!?」
そして彼には、停戦を申し込むだけの勇気すらもあった。
ツンと殺し合うなど、耐え切れなかったのだ。
敵意による恐怖を跳ね除けて、精一杯心の叫びをブーンは上げる。
237
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:16:51 ID:QCpLB3rI0
ξ ⊿ )ξ 「……無様ね、ブーン」
しかし思いの丈は彼女には届かなかった。
むしろこれは、ツンからしてみれば決闘に対する侮辱ですらあった。
夜の海の如き暗さに沈んだ少女の表情は、
ξ#゚⊿゚)ξ 「命乞いとはッ!!」
瞬く間に憤怒の色に染まり、背を向けるブーンに罵声を浴びせて右腕を構える。
アミュレットが煌き魔力回路が巡って手のひらへと集約されていくと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get―――set」
詠唱。
次いで甲高い音が響く。
銃声にも似たそれに遅れて火球が右手から放たれ、ブーンに襲いかかった。
238
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:17:47 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「ッ!?」
背後から迫る熱気に、彼女の扱う魔術を知悉していたブーンは身を崩し、
慌てて転げていくと先程まで頭のあった位置へと、火球が過ぎ去っていく。
安堵の息をつく間もなく、立ち上がって走り去ろうとするが、
( ゚_ノ゚) 「マスター、威嚇する必要はないんだぞ!?」
銃声が響いた。
(;^ω^) 「ぐっ!!」
起き上がろうとしていたブーンは雪の上で尻餅を突いてしまい、遅れて痛みを感じる。
右足を撃たれたようだ。制服のズボンには黒いシミが広がっており、
弾丸は脛の肉を打ち破って骨を砕いていた。
その部分だけ火鉢を押し付けられたような高熱を感じる。
あまりの衝撃に痛覚が麻痺してしまったのだ。
だが、徐々に正常な働きを取り戻してきた神経は、
強烈な痛みをブーンへもたらしていく。
( ω ) 「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
これまでに感じたことのない激痛に、ブーンは涙をこぼしかける。
打ち身や骨折ならば稽古や試合で何度も経験してきたが、
銃で撃たれるなど銃社会でもない日本で経験できるはずもない。
239
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:19:02 ID:QCpLB3rI0
銃傷にもだえる彼へ、ツンとライダーはゆっくりと、
確実に追い詰めるかのように近寄っていく。
彼らの足音はブーンにとって、死刑囚が絞首台から聞く処刑人の足音も同義であった。
人間の脚力などでサーヴァントから逃れようという考え自体が無謀だったのだ。
百戦錬磨の英霊にとって背を向けて逃げ出す獲物の、何と狩り易いことか。
ξ゚⊿゚)ξ 「サーヴァントも連れず……アンタ、私をどこまで馬鹿にしたら気が済むの?
失望したわ、ブーン。シャキンおじ様もきっと悲しまれることでしょうね。
お父様の娘である私と、息子であるアンタとの決着が、こんな無様なものになるなんて」
冷徹に見下ろしたツンは、手で銃を形作り銃口をブーンへ向ける。
魔力が指先へと、高度に圧縮されていくのがブーンにもわかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「これで……おしまい……」
火球が現れ、魔力の流れが止まる。後は放つのみ。
(;^ω^) 「ツン……」
死の際というものはこんなにも静かなものなのだろうか。
ブーンの心は不気味なくらいに穏やかで、何の感情も湧いてはこなかった。
ツンが行使した火の魔術が自分へ襲いかかるというのに、まるで他人事のようにしか映らない。
あぁ、あれが己を焼き尽くすのだろう。
そう傍観することしか今の彼にはできなかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「……"ライダー"。殺って」
炎で構成された球体がぼっと音を立てて消えていき、ツンはサーヴァントを呼んだ。
240
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:20:29 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「手を汚すのが怖いか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなわけ、ないじゃない。魔力を温存しておきたいだけよ」
( ゚_ノ゚) 「ならば……」
ライダーと、最後にクラス名が明らかになった死刑執行者は、
ブーンの額へと銃を押し当てて引き金に指をかける。
茫然自失となったブーンにもはや、アーチャーを令呪を使用して呼ぶという考えはなかった。
ただ死を受け入れるだけの家畜である。
( ^ω^) (……ごめんお、とーちゃん)
死の直前に脳裏を過ぎったのは父の顔だった。
( ゚_ノ゚)
だが彼の目に写っている者は軍服姿のサーヴァントである。
押し付けられた拳銃の重みが、ブーンに死を予感させた。
続けざまに胸を突く思い出が蘇る。
*( )*
それは後悔の記憶―――
魔術でも救えぬ物があると、幼心に刻みつけられたトラウマ。
無意識ながらも、彼の"人々を救いたい"という想いに駆られる、要因となった出来事。
失われてしまった友人の顔が心の奥底で浮かび上がり、
241
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:22:13 ID:QCpLB3rI0
(#^ω^) 「ッ!!」
気づけばブーンは動き出していた。
起き上がりに生じる臀力に乗せた右の拳が風となり、ライダーの頬を捉える。
渾身のストレートがぶちかまされた。
が、拳に感触は無く、しかしライダーは宙を飛んだ事実に変わりはない。
何故拳が空を切ったというのに奴は飛んだのか?
答えは遅れてやってきた音によって明かされる。
銃声だ。
その時、ブーンの脳裏には声が聞こえてきた。
サーヴァントとマスターのみが行える念波による交信である。
(<`十´> 『待たせたな、マスター』
(;^ω^) (アーチャー!?)
ξ゚⊿゚)ξ 「何っ!?」
凍てついた空気が震え、高い高い音が彼方より張り詰めていくが、
飛び上がったライダーはツンを抱えて駆け出し、
積もった雪の飛沫が足元で爆ぜる。
銃声のした方角を見やったライダーは目を鋭くして、
( ゚_ノ゚) 「サーヴァントを呼んだのか?」
242
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:25:21 ID:QCpLB3rI0
ξ;゚⊿゚)ξ 「違うわ、ライダー。令呪を使ったわけじゃないわ。
敵サーヴァントは私達が隙を見せるのを待っていたのよ!」
銃声一つでサーヴァントと断じるのは早合点とも取れるが、
何が起きるかはわからぬ戦闘において、
常に最悪の状況を想定しておくほどの用心深さは必要不可欠である。
そしてその用心深さからくるツンの判断は、正しかった。
同時に自らの浅はかさに冷水を浴びせられた。
ブーンはサーヴァントを隠し、ライダーのマスターであるツンが無防備になったところを狙撃させ、
勝負をつけようと策を練っていたのだ。サーヴァントを出さぬのは別行動をとっているのか、
あるいは戸惑いによるものなのかとツンは"思わされて"しまっていた。
先日から、いや、ここ数年のブーンの態度、
それすらも己を欺くための演技だったのだとツンは彼の狡猾さを思い知る。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうやら私は貴方を過小評価していたようね……ブーン。
貴方は私と同じ、ここからは一人前の魔術師として扱わせて貰うわ」
しかし、こうなっては下手に行動を取れない。
真っ先にブーンを仕留めようにも、敵は狙撃が可能なサーヴァント。
恐らくはアーチャーかキャスターのクラスだ。
ライダーにも先程の狙撃のみでは位置を割り出せないらしく、
彼はツンの目を見ると首を横に振った。
膠着状態と言えよう。
243
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:26:50 ID:QCpLB3rI0
張り詰めた空気がピリピリとツンの肌を刺激していき、
次の一手を目まぐるしく頭の中で探っていく。
撤退すらも、既に選択肢の一つとして浮かび上がっていた。
(;^ω^) 『アーチャー! 今までどこに!?』
ツンの焦燥を知る由もなく、ブーンは魔力のパスが再び繋がった、
どこにいるかもわからぬアーチャーへ念によって問う。
(<`十´> 『そんなことより目の前の状況に集中しろ。
間一髪だった。お前がそのままジッとしてれば仕留められたものを……』
(#^ω^) 『いるならいると言えば―――』
(<`十´> 『マスターに知らせれば勘付かれていた。演技が出来る人物でもあるまい。
良いから集中しろ、先ほどのように。敵はこちらの位置には気づけん。
イニシアチブはこちらが取ったが、依然お前が無防備であることに変わりない』
(<`十´> 『ゆっくりと、そのまま敵から目を離さずに後退しろ。
敵の出方を探り、追ってくるのならば仕留める』
( ^ω^) 『追ってこなかったらどうするんだお?』
(<`十´> 『家へ帰れ。マスターが逃げれば敵も今夜は下がるだろう。
奴らからすれば、お前のサーヴァントのクラスが絞れただけでも大した情報だ。
だがそうはいかん。私が撤退する敵を追跡し、仕留める』
244
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:36:10 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 『仕留めるって、ツンは……』
口に出しかけたところで、ブーンは躊躇った。
攻撃してくるのならばと先程は無意識で拳を振るったが、
平静を一度取り戻すとやはり、ツンを傷つけたくはないという気持ちが勝ってしまう。
(<`十´> 『知っているさ。夕刻の会話、聞かせて貰ったぞ。だから私がここにいる』
アーチャーは彼らの関係を知った上で今夜、現れた。
ブーンの気持ちをよく理解し、利用してこの戦法を取ったのだ。
聖杯を掴み取る為に召喚に応じ契約を交わすサーヴァント。
そして聖杯を欲するマスター。
あらゆる願いを叶えるという聖杯を手にする為に呼ばれ、
自らにも求める理由があるからには、己の"任務"を最大限に全うするのみだ。
サーヴァントとはそういうものなのだ。
6人の魔術師とサーヴァントを討ち取るマシーンなのだ。
私情などを挟むブーンはアーチャーに蔑まれて当然である。
聖杯戦争を勝ち抜くべくアーチャーという武器を手にしたのは彼なのだから。
(;^ω^) 『アーチャー!』
245
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:39:10 ID:QCpLB3rI0
(<`十´> 『恨み言を聞いてやる時間はない。下がれ』
(;^ω^) 『くっ!!』
苦虫を噛み潰したような表情でブーンは一歩下がっていく。
視線はツンとライダーへ向けたままだ。
ξ゚⊿゚)ξ 『逃げる気ね』
( ゚_ノ゚) 『そのようだ、敵サーヴァントの居場所が読めん。
こちらにとって攻め込むには不利だが、
奴からしてみればこちらを攻めるに不利だ。距離が離れてしまってはな』
ξ゚⊿゚)ξ 『狙撃が失敗した今、撤退するほうが無難、ということね』
ツンはブーンの動きをじっと観察し、ライダーは弾丸が飛んできた方角を見やるその間も、
ブーンはまた一歩後退し公園の外へと向かっていった。
(;^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ 『仕方ないわね。今回は見逃しましょう。
ブーンのサーヴァントが、遠距離攻撃が出来るってことがわかっただけで―――』
意思をライダーへと送る、その最中。
突如として疾風が舞い込んできた。
246
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:41:49 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「なっ!?」
疾風の中、ブーンはそれを見た。その者が見えた。
その身を守る鎧は西洋の物ではなく、東洋の具足と呼ばれる物。
両腕を覆う金属板は矢と槍から頭部を守るべく長方形に広がり、
兜には鹿角を模した装飾がなされている。
闇に紛れるかのようなその具足は禍々しさを放っていたが、
何よりブーンの目を引いたものは肩に下げられた黄金の数珠と、
長さ5メートルは優に越える長槍だ。
刃ですら50センチ近く、切っ先は鋭く笹の葉の如き形状をしており、
街灯に照らされただけで暗闇が霞むような眩い光を放っていた。
それはブーンの槍という物の概念を変えてしまった。
驚きとも興奮ともつかない奇妙な気持ちをブーンは味わったのだ。
本で、斬馬刀という長すぎる太刀を初めて見た時の感覚にこれは似ている。
こんな物を使って本当に戦えるのか?
一体重さは何キロあるというのだ?
目,`゚Д゚目
見るからに扱いにくそうなこの槍を、
片手で軽々と持ち上げるこの男は、一体何者か?
247
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:43:40 ID:QCpLB3rI0
その問は、愚問である。
(<`十´> 『マスター敵だ! 脇目も振らずに逃げろ!! 全力だ!!』
唖然とするブーンへアーチャーは怒号を飛ばす。
人形のように立ち尽くしていたブーンよりも早く、敵は彼を見た。
目,`゚Д゚目 「聞けい! 我は槍がサーヴァントランサー!!
内藤ホライゾン殿、御首頂戴致す」
振り返ると同時に、ランサーは槍を構える。
切っ先は長槍ゆえブーンの喉に触れかかっており、
些細な力が加えられただけで肉を突き破ることだろう。
(;^ω^) 「……」
だが、ブーンは動かなかった。
槍の放つ輝きとランサーの強烈な殺気が、彼から意思を奪い取っていたのだ。
蛇に睨まれた蛙の如く、動くことが出来なかった。
目前にまで突きつけられた刃はこれから自分の喉を掻き切る。
そんなことも理解出来ないほどに、彼は恐怖に支配されてしまっていた。
逃げようと思考することも許されない。
身体全体を強固な鎖で縛り付けられているようだ。
248
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:45:58 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目
ランサーの目は己の得物に匹敵するほど鋭く、ブーンの瞳を射抜いていた。
そして行動は迅速だった。
構えられた槍が横凪に振るわれる。あ、と声を出す間もない。
代わりに金属音が響いた。
目,`゚Д゚目 「見切っているぞ、アーチャー」
視線を離さず、ランサーはそうアーチャーへと告げた。
ブーンの視界の端へと槍は振るわれており、切っ先から火花が散る。
(<`十´> 『……ッ! マスター! 早く逃げろ!!』
再びアーチャーの怒号。
自然と足は動いていた。
言われたとおり脇目も振らずに、後方へと。公園の外へとひた走る。
アーチャーの声により緊張が解け、槍とともに恐怖が遠のいたのだ。
人は痛みを恐怖する。ブーンは包丁で指を切った経験があった。
あの槍に刺されればそんなチンケな刃物と比べ物にならぬ痛みを味わうだろう。
だからそれとの距離が離れたことで硬直状態から脱することができたのだ。
249
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:49:16 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
しかし"恐怖"は既に背後から迫っていた。
逃げ出し距離を離したブーンへ、一足飛びのみで急接近したのだ。
槍を振るった、そのままの姿勢でだ。
上半身を捻り込むことで足から加わった力を槍へ乗せ、
風の唸る音と共にブーンの胴へ柄が炸裂する。
(;゚ω゚) 「ぐぅぅぅぅッ!!」
衝撃は肋骨を打ち砕いて肺にまで達して収縮し、一時的な呼吸困難の苦しみに襲われた。
吹き飛んだブーンの身は地面へと激突して跳ねるが、
積もっていた雪がクッションとなってそれ以上の傷は負わずにすんだ。
うつ伏せに倒れたブーンをランサーは更に追撃する。
アーチャーが援護するべく狙撃するも、やはり弾かれた。
硬質な音が、虚しく響き渡る。
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
250
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:52:52 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> 「チィ……」
ランサーの言葉通り、アーチャーが正面から立ち向かえばブーンを守ることは出来るだろう。
彼の位置からの狙撃では着弾まで数コンマほどのタイムラグがあり、人間同士の戦闘ならばいざしらず、
音速の域に達する速さで移動する、サーヴァント同士の戦いにおいては大きな負い目だ。
相手が敏捷に長けるランサーであるというのならば致命的と言えよう。
だからと、ランサーの前に出ればそれこそ思う壺だ。
アーチャーは遠距離攻撃を得意とするクラスであり、
逆を言えば接近戦では有用な攻撃手段をあまり持たない。
比べて、ランサーは近接戦闘のエキスパート。
敏捷、筋力、耐久において彼に勝るステータスは無いだろう。
考えうる限り最悪の状況である。相手はあのランサーだけではなく、
ライダーとそのマスターツンまでいるのだ。
もしライダーがランサーと共にブーンへ攻撃を加えれば、もはやアーチャーに防ぐ術はない。
ブーンが殺されたとしてもアーチャーは他のマスターを探し、
契約を行えば良いだけの話しだが、見つかるかは運だ。
単独行動スキルにより他のサーヴァントよりは長生きできるが、
魔力が尽きれば肉体を維持できなくなりアーチャーの聖杯戦争はそれまでとなる。
しかしその僅かな望みでさえ潰すため、ランサーはアーチャーを引っ張り出そうと挑発しているのだ
251
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:55:35 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> (もしだ。もし、これが単なる偶然で、偶然で私達の戦闘に遭遇し、
迷わず私のクラスを特定し、あの少女とサーヴァントから逃げようとしたマスターを狙い、乱入し!
ランサーに誘き出させようとしているのなら、そのマスターは何者だ?)
(;<`十´> (戦い慣れし、聖杯戦争を知悉した者だ。そいつは始めから私を狙っていたのか?
マスターだけを始末しても私は単独行動スキルで数日生き延び、新たなマスターを見つけることも、
私のマスターを始末したそいつに復讐することも出来る。奴にとって私はアサシンほど厄介なのだろう)
(;<`十´> (だとしたら、何時から見ていた? 何時から私たちの戦闘を、行動を監視していた?)
アーチャーのライフルにはスコープはついていなかった。
陽光や電灯によってガラスが反射する恐れがある為だ。
故に彼は伝説となり、こうしてサーヴァントとして戦っているのだ。
生前から行っていた肉眼による長距離射撃は、固有スキルである千里眼が補助し、
最新式の光学照準器よりも正確な狙撃を可能とする。
だがその狙撃も、この状況では歯が立ちそうにはない。
――――たった一つの攻撃方法を除けば。
(<`十´> (この距離、真名開放を行えば仕留められる。
標的は3つ。例え"宝具"を開放しようとも目撃した敵を全て消せば……)
宝具の使用は諸刃の剣である。
一撃で敵を屠るほどの威力を持つ物や、戦況を絶対的に優位に立たせる物などがあるが、
皆全て、英霊の過去や伝説に纏わる武器であり、使用すれば真名が露見してしまう恐れがあるからだ。
真名が分かれば、後は文献を調べて弱点を見出しそこを叩けばよい。
252
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 22:56:19 ID:dzQ0jLO60
キタ
253
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:00:17 ID:QCpLB3rI0
アーチャーにとってこれは起死回生の一手でもあり、地獄行きへの切符でもある。
(<`十´> 「何、変わりはない―――」
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
ランサーが動きを作る。
攻撃の挙動だ。前進し、槍を振り上げて起き上がろうとするブーンの首を刎ねようというのだ。
もはやアーチャーが割って入ろうにも間に合わない。
一瞬の猶予もならない事態にもかかわらず、アーチャーの心は穏やかだった。
身体に力が篭ってはおらず、引き金にかけた指の動きは恋人に愛撫するかのように優しかった。
その指つきが、かつて505人もの兵士へ死を与えた魔弾を放つ。
(<`十´> 「これも、訓練だ」
雪と一体化した狙撃兵は独白する。
―――そして、
グリムリーパーバレット
(<`十´> 『白き死神の魔弾!!』
宝具の真名が謳われると共にライフルへと死神が込められていき、
高密度の魔力を帯びた十六の弾丸がランサーを撃ち抜いた。
254
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:02:48 ID:QCpLB3rI0
******
彼女は夢を見ていた。
懐かしき故郷の乾いた風の匂いが鼻腔を満たし、
建物に遮られることなく照りつける陽の光が肌に心地よい。
石で作られた店の並ぶ市場を男に連れられて彼女は歩いていた。
足に伝わる熱砂の感触は小さな針が無数に突き刺さってくるようで、
時たま転がっている石を踏んでしまった時などは槍で刺されたかと思うほどだ。
だが、奴隷には靴など与えられない。服があればいい方だ。
その服も自分を売っていた店主に破かれてしまったのだが、
"クー"という名と共に男は服を与えてくれた。
もはや服としての役割を果たさないボロ切れの上から、
自分の新たな人生への一歩を踏みしめる気持ちでそれを羽織った。
オリーブドラブという濃い緑色の生地で作られたコートを、
人はミリタリーパーカーともモッズコートとも呼ぶ。
モッズの人々に好まれたことからモッズコートとの名が付いたのだが、
元はアメリカ軍に採用された物で、男から与えられた物の装飾性は低く、
無骨なデザインで本来の用途で扱われるべく作られたのだろう。
彼は兵士だった。クーの故郷の地形に溶け込むべく砂漠を模した迷彩服を着込み、
首には似たような色のストールを掛けていて、何よりもクーに「兵士だ」と思わせた物は、
ベルトで肩に掛けていたアサルトライフルだった。この銃にまで迷彩は施されている。
255
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:03:50 ID:QCpLB3rI0
クーが羽織っているコートは戦場で使うわけではなく、
市場へ出かける際の日除けとして羽織ってきた物なのだろう。
目付きが険しく表情には生気というものが感じられない。
自分を買った主を観察しながら付き従っていると、不意に言葉をかけられた。
「あぁ、そういえば靴を持っていなかったな。痛むだろ?」
抑揚のない声だ。
その意味をクーは見出そうとする。
自分を買い、すぐに手放して家へ返そうとしたこの男の心理が気になり、
"良い人"なのか"悪い人"なのか探り続けているのだ。
服装を観察していたのもこの為だ。
しかし、どちらか判明しないまま付いて来たのは彼女のほうだ。
いや、彼女にはそうする他なかった。
帰る家などもう無いのだから。
川 ゚ -゚) 「うん」
短く返し、次に男がどんな言葉を投げかけるのか、
神経を研ぎ澄ませて耳を立てていく。
256
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:05:14 ID:QCpLB3rI0
「コートならサイズが大きくても良いが、靴はそうはいかねぇよな……」
実際、わずか十歳でしかないクーにはミリタリーコートは大きすぎた。
手どころか足まで隠してしまい、歩く度裾が引きずられてしまっている。
男が目指す場所に着く頃にはボロボロになっていることだろう。
しかし、靴は小さすぎても大きすぎても履くことは出来ない。
裸足で砂上を歩くクーのことを気に病んでいるらしく、
男は市場をキョロキョロと見回し始めた。
が、靴を売っている店は中々見つからないしあったとしても大人のサイズしかない。
無表情のまま立ち止まり、口に手を当てて何やら考え事をすると、彼は屈みこんだ。
クーに背を向けたまま、
「肩車だ、肩車。靴なら後で用意する。良いか? 肩車だぞ?
おんぶはダメだ。暑いからな」
川 ゚ -゚) 「……」
いきなり、そんなことを言われてクーは子供ながらに戸惑った。
見ず知らずの大人に急に肩車をすると言われても、乗り難い。
第一、クーは奴隷として買われた身なのだ。
主人の肩に乗る奴隷などいようものか。
彼女には、この状況を理解出来なかった。
それでも「ほら」と急かされてはそうする他ない。
恐る恐る迷彩服の肩へ足を掛けていき、前屈みになって安定を取る。
両足が乗った感触を確かめた男は「立つぞ」と声をかけた。
257
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:06:30 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「あっ」
浮上していく視点。
地面が離れていきより多くの物が見えた。
ダンボールを集めて作った台の上に乗せられた果物、
壊れかけ錆が浮くラジオなど機械を売っている店と豚を解体している男。
色々な物が目に移り、市場を見渡せるようになった。
川*゚ -゚) 「わぁ〜」
子供らしい純粋な感動が胸を満たしていった。
心臓が高鳴り全身が嬉色に染まっていくのを覚えた。
「歩くぞ、落ちるなよ」
対照的なほどぶっきらぼうな声が返る。
男が一歩進む度に視界が揺れたが、それすらにも喜びがあった。
これ以上素足で歩かせぬ為にしただけの肩車は、クーに様々な想いを巡らせる。
想いには、悲しみも含まれていた。
川 ゚ -゚)
足から伝わる筋肉の硬さと太さが男の屈強さを伝え、クーに安らぎを与えたのだが、
そんな頼りになる男がほんの数日前まで共にいた父と兄を想起させたのだ。
258
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:08:40 ID:QCpLB3rI0
父達の背は彼ほど逞しくはなかったが、クーにとっては絶対であった。
牧家であった彼女の家は市場から離れており、
少し遠出をすれば獣や害虫に襲われることもあったのだが、彼らは必ず守ってくれた。
男家族の頼もしさは母や兄弟、そしてクーに安寧を与えていた。
父と長男がいればどんな苦難や危険も乗り越えられるだろう、なんとかしてくれると、
普段そんなことを思うことはなかったが、それほどまでに安全を保証されていたのだ。
だが、父は"聖戦士"達に銃弾で穴だらけにされ、兄は片腕を切り落とされてしまい、
母とクー達は乱暴されて奴隷として市場に卸された。
妹が二人いたのだが早々に売り落とされ、母は聖戦士達の元にいる。
家族は離れ離れになってしまったのだ。あんなに強い父と兄がいたというのに。
男の肩が物語る強さは彼女にとって空虚なものだった。
空虚であるだけならばまだ良い。蘇っては痛みを与える記憶がその空虚を満たそうとしてくるのだ。
喉の奥が乾いていき、目が熱くなってくる。頬を涙が伝っていく。
気道に何かが突っかかったかのように苦しかった。
それでも、心の叫びが嗚咽混じりに口から漏れ出てきた。
川 ; -;) 「私は……どうしたらいいの? どこへ行けばいいの?」
鎖に繋がれて店の前に出され、買い手を待つ日々は思考能力を奪う。
何かをする自由を与えられずただ使役され、店主の相手をさせられる。
まだ10歳の少女にとってどれほど過酷な日々だったのだろうか。
259
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:09:47 ID:QCpLB3rI0
しかしそんな時にこの男と出会い、買われた。
飼い主が変わるだけで彼女の日々に何の変化ももたらさないはずだったが、
この男は「家に帰っていいよ」と自由を与えた。
とぼけた命令だ。
「帰る家が奴隷にあるはずがない!」と怒鳴り返す者もいるだろうが、
クーの中にその言葉で生まれたものは問いであった。
「どうして?」「どうすれば?」「どこへ?」と疑問ばかりが生じる。
目の前で行われようとしていた邪悪な行為を止めようと、
手を差し伸べただけだった彼には迷い続ける彼女を救うほどの覚悟はなかった。
しかしその問いを聞いた彼は、今度は覚悟を決めて、
少女を"救う"覚悟をして再び手を差し伸べたのだ。
「君は新しい家で暮らすんだ。父もいなければ母もいないし、兄弟だっていない。
だがそこは君の新しい家であり出発点だ。いずれは独り立ちをするものだが、
それまでは俺が君を護り育てよう。不自由をさせるだろうが、俺が与えられる限りの物を与えてやる」
260
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:10:59 ID:QCpLB3rI0
川 ; -;) 「貴方が、私を育てる?」
「あぁ」と短いながらも力強い声を男が返す。
だが、その頼もしさがクーには不安だった。
彼との生活に不満はないが、再び家族を失うことが怖かったのだ。
川 ; -;) 「貴方は……大丈夫? し、死んじゃうんじゃ……」
問いの真意がもしかしたら、この言葉では伝わらないかもしれない。
クーにそんなことを考える余裕はなかったが、
男は少し笑って、肩に乗るクーにもそれは聞こえた。
「大丈夫さ、クー。ここだけの話しだが、俺は魔法が使えるんだ」
今のは、冗談なのだろうか。どんな冗談なのだ。
どこが面白いのだろう。意味もわからないしつまらないが、
川 ;ー;) 「ふふっ」
釣られて、クーも笑った。
261
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:14:36 ID:QCpLB3rI0
******
円山の木々が生い茂る場所で、クーは目覚めた。
人であった頃の記憶が夢として蘇り、暖かい気持ちが懐いていたが、
それも空腹によって意識を呼び覚まされたとあっては消し飛んでしまう。
川 ゚ -゚) 「行くゾ、バーサーカー。食事ダ」
彼女は、血に飢えていた。
人間の頃に抱いた喜びも死徒には必要のないものだ。
魂蟲によってズタズタにされた声帯も、死徒故の高い治癒力により、
徐々に治り始め人間らしい発音が出来るようになってきた。
それが必要か不要かは分からないが、肉体はそう適応した。
バーサーカーは霊体から肉のある身体へと変化して現れると、
「――――――――ッ!!」
応じるようにそう叫んだ。
森の中で響き渡る咆哮に動物達は一斉に逃げ出す。
野生に生きるものたちの生存本能が危険を訴えたのだ。
狂気の闇に染まる鎧に覆われた巨体が、荒野を行く百獣の王の如く山を降りていく。
そんな恐るべき存在を、付き人のように後ろを歩かせる黒いドレスを纏ったクー。
異様な二人を前にして近寄ろうと考える者はいないだろうが、
262
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:16:48 ID:QCpLB3rI0
「お姉さんどこ行くの!? 綺麗なドレス着てるね〜。
ちょっと遊んでいかない? 俺さ〜遅くまでやってる良い店知ってんだよね〜」
街に降り立ったところで、ドレスから覗くクーの珠のような白い肌に魅了されたのか、
街灯に群がる羽虫さながらに男が声をかけてきた。
「ねぇどう? コスプレならさ、もっとイイ衣装あるしさ〜奢るよ〜?」
この男は背後のバーサーカーに対して愚かな勘違いをしているらしい。
妖艶でいて、危険な微笑をクーは浮かべると、
川 ゚ー゚) 「お前はウマイのカナ?」
「やっだな〜お姉さ〜ん。俺そんなんじゃないよー。俺ってさ、ピュア。ピュアだがば……」
男の喉笛を噛み千切り、言葉を遮った。
両腕を押さえ込んでいくクー。抵抗させぬ為でも逃さぬ為でもなく、
これは単に食べやすいように小分けする為に行われた。
クーの細腕には吸血鬼の怪力が宿っており、人間でしかない男の腕など小枝を折るほど容易い。
掴まれた両腕が呆気なく引きちぎられてしまうが、喉を食い破られた男には悲鳴を上げる事もできなかった。
263
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:17:55 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「マズイな……」
ぷっ、と肉片を吐き捨てると拳程もある蟲が死体を這っていき、食い尽くしていく。
バーサーカーも腕の欠片を拾い上げると口に含み、魔力を補充した。
人間の体内に生じる魔力(オド)などサーヴァントにとって微量なものでしかないが、
塵も積もればなんとやらだ。そして"塵"はこの街に履いて捨てるほどある。
バーサーカーとクーは通行人を見かけると一目散に駆け出し、喰らっていった。
人々が住まい生活する円山の街はもはや、弱肉強食の世界と成り代わった。
死徒より食物連鎖の下に立つ人間達は彼女にとって食料にしか過ぎない。
幸い夜遅く、人通りは少ない為犠牲者は少なく住んでいるが、
クー達がこのまま東へ向かえばそこには北海道の中枢を担う札幌がある。
大都市にこの二匹の化物が訪れれば未曾有の大量殺戮が起きてしまうことだろう。
だが―――それを許す"正義の便利屋"ではなかった。
(,,゚Д゚) 『trace―――on!』
必死に馴染ませた呪文が発され、黒白の夫婦剣が、
死肉を貪るクー達へ立ちはだかるギコの両手に現れた。
<人リ゚‐゚リ
蒼白のプレートアーマーを纏う少女、セイバーと共に彼は邪悪へと斬りかかっていく。
264
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:19:39 ID:QCpLB3rI0
第5話 「trace―――on!」part 乱世エロイカ③ 投下終了
これからおまけ投下
265
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:20:24 ID:QCpLB3rI0
日本式住宅の立ち並ぶモダンな住宅街の中、異色を放つ家屋がある。
真新しく、西洋様式を取り入れた洋館じみた建築物。
古めかしい、未だ木造建築が目に付く街の、
近代化の先駆けと言えるその一軒家は、津出家の住まいだ。
鍵を開けて、玄関へと赤いダッフルコートを羽織ったツンは入っていき、
ξ゚⊿゚)ξ 「ただいま帰りました、お母様」
大理石をローファーで踏み鳴らすと習慣通り挨拶をした。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、お帰りなさいツン。寒かったでしょう?」
するとすぐさま母、デレがやってきて娘を迎える。
揺れるブロンドは絹がごとく、サファイアを思わせる瞳をした淑女は、
西欧系の白人である。仕草の一つ一つが優雅で、育ちの良さが伺われた。
ツンが礼儀正しく、きちんと「ただいま」と言えるのは単に、
彼女の教育の賜物と言えるであろう。
ξ゚⊿゚)ξ 「お母様、心配いりませんわ」
が、ブーンと話している時と比べると、まるで別人だ。
勝手知ったる仲であるから、と言えば聞こえは言いが、
この少女は猫を被っているにしか過ぎない。
266
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:21:24 ID:QCpLB3rI0
ツンの凶暴性とも猛々しさとも言えるものが出ることは滅多になく、
社交性があると称える者もいることだろう。
実際彼女は、上手く立ち回っていた。
学校では成績優秀な上に容姿端麗で、素行も良い。
どの親が見ても「自慢の娘さん」と呼べるだろうが、
ツンは父モララーに恥じぬよう生きてきただけで、
目標達成には貪欲な少女である。
彼女の目標にして、モララーの悲願であった“根源への到達”だ。
何らかの障害が生じた際には"お嬢様"の皮などズルリと剥げる。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、そう。ココアでも飲む?」
リビングへ向かいながら、デレはそう訪ねた。
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、遠慮しておきますお母様。私は今夜"ライダー"と共に討って出ますので、
仮眠を取ろうと思います。くれぐれも、夜は出歩かないようお気をつけて」
ζ(゚ー゚*ζ 「わかったわ。無茶はしちゃダメよ? 危なくなったらいつでも戻ってきなさい」
ξ゚⊿゚)ξ 「お母様、敵の追撃に合うかもしれないというのに、
ここへ引き返すことなど出来ませんわ。
出会った敵は全て、片っ端から薙いでいきます」
267
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:23:07 ID:QCpLB3rI0
ζ(゚ー゚*ζ 「貴女も一流の魔術師だけど、聖杯を求めて札幌にやってきた魔術師達も、
みんな腕に自信があるからこんな殺し合いに参加してるのよ?
敵を過小評価してはいけないわ。いざとなったら私もツンの力になるわ。だから―――」
ξ゚⊿゚)ξ 「敵も一流であるというのなら、札幌は既に戦場であるということも理解してくださいお母様。
こうして家にいることも危険です。魔術を扱えるとは言え、
サーヴァントがいなくては丸腰であるのと同義。そう説明していたはずです」
ζ(゚ー゚*ζ 「でもね、ツン……」
ξ-⊿-)ξ 「今からでも構いません、お婆様のお宅へお向かいください。
聖杯戦争が始まった今となっては――――」
苛立ちを堪えながらも、ツンは自室へ向かいながら言い放つ。
ξ ⊿ )ξ 「お母様は足でまといです。お父様の為にも、私の為にも早く……お願いします」
心無いを言葉を吐いてしまい胸を痛めつつも、
ツンは二階にある自室への階段を上っていった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……私は、母親として貴女を守ってあげたいだけなのよ?」
娘の背を見送ったデレは、彼女の主張を最もなものだと理解しながらも、
ここから離れるわけにはいかないと、決意を固める。
デレの言葉は二人っきりの家の中で生まれた虚無へと、溶けていってしまった。
268
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:24:51 ID:QCpLB3rI0
******
陽が落ち、カーテンによって月明かりすら差し込まぬ、
暗闇に包まれた部屋に軽い電子音が響く。
ξ-⊿-)ξ 「ん……」
寝ぼけ眼でベッドを手探るものの、音源は見つからず、
苛立ちを募らせたツンは身に震えを覚えた。
寝返りを打ってみると、身体のあった場所でケータイが震えていた。
ξ#-⊿゚)ξ 「うっさいわねぇ」
スライド式のそれは以前似たような失態を晒してしまったが故の配慮だ。
ケータイ上部を展開したツンは耳障りなアラームを切り、時刻を確認する。
十九時四十六分―――可笑しい。
アラームは三十分に設定してあったはずなのだが……。
鈍い頭を擦り、崩れたブロンドを震わせるツン。
ξ;゚⊿゚)ξ 「あっ!」
思い至ったものはリジューム機能である。
アラームにも気づかぬほど熟睡していた彼女は完全な寝坊をかましてしまったのだ。
事切れたアラームは三十分を過ぎて持ち主を目覚めさせるべく、
リジュームにより電子音を響かせ、その事実を確認するまでもなくツンはベッドから飛び出す。
269
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:26:29 ID:QCpLB3rI0
壁に打った釘へ掛けた衣紋掛けから赤いダッフルコートをひったくると、
己の魔術礼装であるアミュレットを見やる。寝る時であろうとこいつは欠かせない。
これが自身を守る武器となるのだから。銃社会に住まう者が枕元に銃を隠しておくのと同じことである。
ブーンはブレスレットだと言うが、この魔術礼装は正しく言うとアミュレットなのだ。
アミュレットとはいわゆる護符やお守りといった物の類で、霊的な悪しき力を断つと言われる。
それにはツンの青い瞳とは対照的な、鮮やかな真紅を持つルビーが嵌められていた。
ルビーを基点として、黄金の輪を這うかの如く刻まれた文字は、
今は失われた言語で組まれた呪文であり、津出家の初代当主の血で綴られている。
同じ血が流れる者にはこのアミュレットは歯車が噛み合うかのように合致し、
詠唱の補助から魔力の高効率化までを成し遂げ、術者の魔術回路と共に魔術を放つ。
言ってしまえば魔術刻印のようなものだ。
きちんと先祖代々より受け継がれてきた礼装を確認したツンは、
"敵"が辿るであろうルートで待ち伏せるべく、部屋から飛び出していく。
目も当てられぬような失態で、時間を無駄に消耗してしまった。
270
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:27:21 ID:QCpLB3rI0
猶予はない。
ぎり、と歯ぎしりの一つでもしたかったが、そんな時間すらも惜し―――
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
―――いのだが。
( ゚_ノ゚) 「1っ、2っ、3っ、4っ! 5っ、6っ、7っ! 8っ!!」
扉の前で床に座り込み、上半身を前へ可能な限り倒して柔軟体操を行う、
軍服のズボンに白いランニングシャツ一枚という、ラフな格好をした金髪男が邪魔だった。
ランニングから伸びた白い腕は太く、汗の粒が輝く。
上体をゆっくり起こしていく男は、
( ゚_ノ゚) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
一瞬ツンと顔を見合わせたが、
271
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:28:23 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「2、2、3、4っ! 5、6、7……」
再び身を伏せて屈伸運動を続けていくものの、
ξ#゚⊿゚)ξ 「無視してんじゃないわよ!!」
怒号と共に浴びせられたツンの蹴りに背中から倒されてしまう。
思わぬ仕打ちに頭を打ち付けたが、屈強な肉体を持つ男はけろりとしてツンを見た。
軽く息をつき、まるでくつろぐかのようにそのまま脇にあった牛乳パックを手に取る。
ごく、ごくと喉を鳴らして牛乳を飲み干していく男は、
( ゚_ノ゚) 「どうしたマスター? 何を慌てている」
ξ#゚⊿゚)ξ 「人の家の牛乳勝手に持ってきて呑気に体操してる場合じゃないの!
私は霊体化していたアンタに今夜敵マスターと戦うって伝えたはずよね?」
( ゚_ノ゚) 「マスター。誤りがあるぞ? この牛乳は君のムーター(母)に貰ったものだ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「……そんなことは聞いてないわ。"ライダー"、作戦を忘れたのかしら?」
( ゚_ノ゚) 「正面から立ち向かい、実力でねじ伏せる。そんな物は作戦とは呼べんよ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「あら、不服かしら?」
ツンにとって策謀などは不要であった。
272
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:30:22 ID:QCpLB3rI0
聖杯戦争は聖杯を奪い合う戦争と銘を打っているものの、
これは魔術師同士の魔術の競い合いである。
誰何かの魔術師が根源への到達に相応しいか、聖杯によって篩にかけられるのだ。
ならば正々堂々と魔術によって他者を圧倒するのみ。
最も根源へ到達するにたる魔術の腕を持つ者が聖杯を手にするのだから。
父から十全な状態で魔術刻印を引き継ぎ研鑽を続けてきたツンには、
己こそが根源へ到達するに値する魔術師である自信があった。
怒りに染まった瞳の奥に、実力に裏打ちされたその自恃を見取ったサーヴァント、
"ライダー"は不敵に微笑んだ。
( ゚_ノ゚) 「いや、敵がいるのなら撃滅する。出撃だ」
立ち上がったライダーは踵を合わせ、不動の姿勢で敬礼をマスターへ捧げる。
それは腕を斜め上に張り出すナチス式敬礼であった。
ツンとライダーの作戦が今夜、開始されようとしていた。
273
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 23:33:37 ID:dzQ0jLO60
おまけ終了か。やっぱ引き込まれるなこの話。乙やでーい。
274
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:33:58 ID:QCpLB3rI0
おまけ終わり
投下遅れてすいませんでした
今月末にもう一度投下出来ればいいかなと思っています
275
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:36:15 ID:QCpLB3rI0
>>273
乙ありがとうございます!きっとfateという元ネタの魅力のおかげでしょう
投下遅れても読んでくれることに感謝。
276
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 23:39:08 ID:SUR4swNM0
結構近代の英霊が多いんだな、もしも〜みたいな感じで好きだわ
277
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:48:54 ID:QCpLB3rI0
>>276
僕の考えた最強のサーヴァント()を集めて北海道舞台で書きたい、という思いから書き始めました。
ありがとうございます
278
:
名も無きAAのようです
:2012/09/09(日) 09:03:01 ID:cI5hYG3s0
乙
みんなかっけぇのにブーンだけしょっぺぇなwwwww
覚醒すんのかwww
279
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/21(金) 23:38:52 ID:HyRI3nPU0
今月は厳しいので、来月末くらいを目処に次の投下を考えています
もう少々お待ちを
280
:
名も無きAAのようです
:2012/09/22(土) 06:49:50 ID:Vd2IKoZU0
まぁゆっくりな
281
:
名も無きAAのようです
:2012/09/22(土) 12:57:05 ID:zB6IN/Fc0
リョーカイでーす。
282
:
名も無きAAのようです
:2012/09/27(木) 10:06:29 ID:2Y6qSEacO
追い付いた
原作知らんけどなかなか面白い
因縁が絡み合っていくな
283
:
名も無きAAのようです
:2012/10/15(月) 23:41:26 ID:Phpmb.dI0
もうすぐだな。
284
:
名も無きAAのようです
:2012/10/22(月) 01:17:17 ID:UUu7PF720
あぁ、もうすぐだ。
285
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/23(火) 18:34:53 ID:ZAsAokfo0
/{,
! ヽ,
| ヽ, ,イ
l, ヽ / /
!, \ / /
ヽ i、 ,i" /
\ ヽ、 ,rーー、 ,r' /
\ ゝ、 iレ<ッソ ,r' /
\ `、 ,rーッヽ'イ、 ,r' /
\ ヽ_ ,.-'´ : ;リ`ヽ;iヽ\ ,r'" ,/
\ ヽ ,. - ': : :_;、: ::/l_;};;;{_ヾ! / ,/
ヽ_, ,.-ヘ─'´: : ;.-‐'´ `\;〉イi;7i':::\ / /
_,,..------.、 ヾ彡ヘ-─'´ r'`フ=={ヽ: :`ヽ-;ッ-、 /
 ̄ ̄ヾ、:.`ヽ、 _ヽ〉 ,rー'´_;ノ:;;:i};:ヽ\``'7'クシ'´ _,..--‐;:=ー
,-=;' ´ ̄ ̄ ̄: : : : : :.``ー─‐‐'"ブ´:::-、::::リシ::\``'ー'--‐'' ´ /´`
〈 ;:、 ;:: -─-,.-ッ: : : : : : : ;/:ヾヽ:;:-'ヘ:;:::/ヘiヽ、: : : : : : : :ヽ、__
/'´ '´ ,rー'´: : ;: : :,.-‐ヘ\:::;>"´: : : : :``'、:::!レ彡、: : : : : : : : : : : :`ー- 、
,..‐'´: : : :;;r','/:::::::::::;ゞ'´: : : : : :.i"::::`ーッネぐ:::::ヽ: : : : : : : : ; -─'⌒`
_,..- ''´: : : : : ;:_ノ;ヘヾ!::::::;/: : : : : : : : : }ヾ、r={{::::::{{:::::::::): : : : : :/
´  ̄`ヽ;.:- '´ /::::::゙ヾゞ'´: : : : : : :; : : : :.'!;::::;i  ̄r'^‐<、,、:(⌒′
,ヘヽ;::::/ヽ、: : : : : //-─ー^ー'`` ̄` `
/::::::ツ'´ ゝ─-i'´ ′
,..〈;::::::/
/:ヽニソ'
i' ̄ヽ;/
ヽ._,/
10月31日の23時頃に出来れば投下したいと思います
所用によって出来ない可能性もありますが、その際はまた報告させて頂きます
286
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:17:53 ID:LjnB6O220
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
まってたわ
287
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:26:00 ID:a8V/VFO20
待ってた!後誰だったっけこのAA
288
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:57:10 ID:o0IgIWzg0
待ってる
289
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 21:55:35 ID:eq6Sgaaw0
来たか
かっこいいアーチャーじゃないですかー
290
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/30(火) 15:06:08 ID:psvYex6A0
予告通り明日投下します
しかし、少々短くなりそうです。申し訳ない
/ : : : : : : : : 〉′: : : ::::::|:/ |: :/│:{: : : |:..:/ 1ハ: : :..:.:::::::| |: ::: : : : : : : : \
/: : ::::::::::::::::::::}: /: :..:.::::::::|',__|:/ !/|: : :ハ:.:{ __,|i斗-- ::::::::| |::::::::::::::::::::::::::/
 ̄ `ヾ:::::::::::::::::|∧: : ´ ̄/二ヾ{==--!: :/ |: |===彡--リ-|: : : ::::::::| |::::::::::::::::::::/
\:::::::::}::::}: : ::::ィ:iγ⌒ヽ\ヽ!:/ :::! /γ⌒ヽ!:ヽ::::::/:j/:::::::::::::::/
. /::::::/:::rヘ:.:.:::::::l.乂:::::ノ ,. j' } リ {:. 、.乂:::::ノ|: イ::://{|::::::::::::::::\
/::::::::::/:::::| ∨:! ::|ミ===彡ィ !.:.. \/..ミ==彡: : /.′j::::::::::::::::::::::ヽ
イ--――=ァ:::| 冫リ∨..{:::::::::}..{ ,ノ}:.、:. }..{ }.....|: / ′リ}:::::}  ̄ ̄ ̄
/:::::ハ..い{ }..{ }..{ --―-- 、...{ ......|/ .′ イト、:::,
ノ:≦iニヽ :、}..{ } /」´ ̄ ̄`i」:, }{ }...′' /::::|_ ヾ{
__,,イ二ニニ|ニニ\:.}..{ }{ .′: : : : : : : :..:.,}.{ }.{ /¨´:/ヽ:!ニ=-
ニニニニニニニ|ニア:、::::\:.. }{,′r――― 、:.:}.{ }.{/:::: /ニニi|ニニニニニニ=-
ニニニニニニニ|=/ニ \:::::: 、 ..{{/ } {ハ}.{ }イ:::::/二ニ|ニニニニニニニニ ふざけるな!
ニニニニニニニ|/二二 }八{ \{∨ j./..{ /|/}:イニ\ニi|ニニニニニニニニ ふざけるな!
ニニニニニニニ|ニニニニム \\ー――/ / /ニニニ=ヾlニニ/ニニニニニ ばかやろー!
ニニニニニニニ|二ニニニニム \ 二二. / ハ二二二二i|二 /ニニニニニニ
ニニニニニニニ|二二二ニニム ー―‐ ′ {ニニニニニ|ニ.′ニニニニニ
291
:
名も無きAAのようです
:2012/10/30(火) 15:40:23 ID:Il.CQKPQ0
www
切嗣わろたwww
待ってるよ
292
:
名も無きAAのようです
:2012/10/30(火) 20:11:10 ID:b5B5XIxU0
まぁ落ち着けよケリィ
293
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 22:57:13 ID:TimGRJiI0
******
円山と呼ばれる街は住宅地と山が密接し、
自然と都市が入り混じった混沌としたその町外れには、
深夜ということもあり人気というものが無く、しんと静まり返っていた。
ほんの―――数分前までは。
蒼と銀の影は巨大な黒を中心として踊り、光が弾ける。
遅れて大気の爆発と共に激しい音が街中を震わせ、夜の闇を街灯よりも鮮やかに彩っていく。
影は甲冑を纏う少女の姿をしており、両腕には黄金に輝く西洋剣が握られていた。
黒は巨躯の男の姿であり、民族風の衣装と特異な鎧で身を覆う。
そして、丸太の如き右腕には漆黒の片刃剣が構えられ、
先程の光は西洋剣との衝突によって生まれたものだった。
再び、西洋剣が振るわれ、少女は連続して斬撃を男へと浴びせていく。
男は巨岩のようにじっと構え、沈着に全ての攻撃を防いでいった。
轟音に次ぐ轟音が休むことなく発せられ、彼らのいる地点だけ嵐がやってきたかのようだ。
全ての動きは音速の域に達しており、その速度を以て放たれる一撃が激突しあうことで暴風が生まれ、
人知を超えた、人ならざる者が繰り広げる戦闘の激しさを物語っていた。
彼らは古の英雄であり、聖杯の招きによって現世へ再び現れたサーヴァントである。
蒼のドレスと白銀のプレートアーマーを纏う少女、
セイバーは体格で勝るバーサーカーへ技を凝らして斬りかかっていく。
294
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 22:58:03 ID:TimGRJiI0
彼女の小柄な身は巨躯のバーサーカーの死角へと回り込み易く、
そこにセイバーが付け入る隙があった。
力任せに振り下ろされる片刃剣をセイバーは屈んでかわし、
息吐く間もなく右足の蹴りが繰り出されるが、
その頃には既に身を転げさせて背後へと回っていた。
遅れて、バーサーカーの左足から血飛沫が吹き出していく。
すれ違いざまにセイバーが両刃剣で切りつけていたのだ。
以#。益゚以 「―――――――ッ!!」
痛みによるものか、それとも怒りか。バーサーカーが咆哮を上げる。
以前よりも荒々しさを増した彼は片刃剣を振り回し、セイバーへ叩きつけた。
輝く剣で彼女は防いで見せるが、バーサーカーの勢いは尚も止まらず、
その剛力が刀身を通して身を震わし、ほんの一時怯んでしまう。
すかさずバーサーカーは狂ったように斬りかかっていき、セイバーには防ぐことしか出来なかった。
徹底的に叩き潰さんとする、猛襲である。
一撃、もう一撃と目にも止まらぬ速さで繰り出され、
去なし、避け、辛うじて防いでいたが、このままでは押し切られ、
いずれ切り捨てられてしまうことは必至であった。
窮したセイバーへ、地を強く踏みしめたバーサーカーの、
膨れ上がった全筋力が渾身の一撃を叩きつけられていく。
295
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:00:30 ID:TimGRJiI0
理性を失い狂暴性のみで行動するバーサーカーに、
少女を切り捨てる躊躇いなどはなかった。
轟、と風が唸りを上げ、両刃剣が金属音を一際けたたましく響かせる。
神々しく輝く剣はその輝きに値する程の名声があるのだろう。
騎士達がその輝きに魅せられ、我も我もと戦場へ勇んで足を踏み入れることもあっただろう。
しかし如何に名剣と言えども、こう休む間もなく打ち続けられれば金属疲労により砕けてしまう。
黒刃を受けた黄金の剣はあらぬ方向へと吹き飛んでいき―――
バーサーカーの首筋へと返っていく。
以#。益゚以 「ッ!?」
星の煌きの如く走った刃が肉を裂き、血が飛沫を上げる。
セイバーは全身の力を抜いてバーサーカーの攻撃を受け、
その際に生じた衝撃を利用して身を一転させ、斬りかかったのだ。
己の全筋力を用いて放った剣の威力を、
その身に受けたバーサーカーの首が切断されていき、
痛みに声を上げる間もなく宙へと舞っていった。
夜空に血と首が月明かりで映し出され、
今までの戦闘行動の速さからは信じられぬ程の穏やかな時間が流れ、
やがて肉がアスファルトを跳ねる生々しい音が響き渡る。
黒き巨躯が、倒れていく。
セイバーの手に敵を打ち倒した感触が残っていた。
だというのに、周囲は不気味な静粛に包み込まれてしまっている。
296
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:03:09 ID:TimGRJiI0
達成感はすぐに違和感へと変化し、
<人リ゚‐゚リ 「……!」
それは形となって現れた。
カザ
地に伏した巨体が首を逸したまま立ち上がり、闇雲に剣を振り翳し始めたのだ。
あまりにも突飛な出来事に腰を抜かす者もあるだろうが、流石は英霊である。
即座に足を引き、距離を置いてバーサーカーの出方を伺ったセイバーは、
<人リ゚‐゚リ 「……ッ!?」
川 ゚∀゚) 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
背後から襲いかかるクーに不意を打たれてしまった。
狂気に染まった笑みで襲いかかってきた彼女は、
セイバーに取り付こうとしていくが、
(,,゚Д゚) 「逃がさん」
追跡してきたギコがそれを阻んだ。
両手に持った黒白の中華剣をクーへ投擲する。
夜闇を切り裂いて進む刃はしかし、あらぬ方向へと飛び去ってしまう。
297
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:05:06 ID:TimGRJiI0
振り向きざまに、クーが魔術を用いたのだ。
一体、どのような術を?その疑問を浮かべる間もなく、
(,,゚Д゚) 「trace―――on」
呪文を唱え、再びギコの両手に黒と白、対となる剣が現れる。
中国の歴史を思わせるような、小振りな曲刀だ。
構え、対峙したクーは右腕を翳し、掌へと走らせていく。
刹那、それは蒼いエネルギーの奔流となってギコへと押し寄せた。
魔力を物理的な形に変換して放つ、という魔術である。
雷鳴じみた音が轟き、閃光が周囲を満たす。
ほぼ同時に莫大な火花が散った。
(,,゚Д゚) 「ふん」
双の剣を交差させることでクーの飛ばした雷を防いだのだ。
そのままの姿勢でギコは疾走していき、間合いを詰める。
接近を許さぬと、破竹の勢いで魔力で出来た雷弾を雨霰の如く飛ばすクー。
しかしギコの動きは留まらぬばかりか、益々速度を上げて懐へ入り込み、
構えた剣を頭上へ振りかぶり、敵を捉えた。
交差し、膂力を活かした二重の斬撃が、クーへと襲いかかる。
かと思われたが、刃が切ったものは虚空であった。
二度目の空振りに肩透かしを食らい、直ぐさま反対方向へと振り返る。
己が、先程まで向いていた位置へと。
焦燥が危機意識と共に脳内を駆けてゆき、何か冷たいものが背筋を撫ぜた。
298
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:06:24 ID:TimGRJiI0
川#゚ -゚) 「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!!」
眼を真っ赤に染め上げたクーが、ギコの首筋へと噛み付かんとしていたのだ。
彼女の両手からは電流のように魔力が駆け巡っており、
先程の投擲を避けたのと同じ魔術を行使したことが察せられた。
右手が彼の左肩を掴んでおり、咄嗟に右足をクーの胴へと叩き込んでやると、
革靴がドレスごしに肉を打つ生々しい音が響き渡る。
くの字に折れ曲がった彼女の身体は三、四歩仰け反り、
もう数秒遅れれば首に食らいついていたはずの八重歯が遠ざかっていった。
警戒し、ギコも同じく下がり、敵の動きを観察しようとするが、
(,;゚Д゚) 「ぬうぅぅぅッ」
何事が起きたのか、口内が鉄の味で満たされ、
左腕が膨れ上がりあらぬ方向へと曲がっていくと、
破裂した水風船の如く血が飛び散った。
だらり、と力なく左腕は垂れ下がり、無事な右手で口を拭う。
すると右の手にべったりと赤い物がこびりついた。
どうやら、吐血したようである。
何故、と自らに問うまでもない。これがクーの扱う魔術だ。
299
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:07:20 ID:TimGRJiI0
(,,゚Д゚) 「死徒め」
一見しただけでギコは彼女の正体を見極めていた。
常人であればただの猟奇殺人者にしか思えぬはずだが、
この類の生物を彼は何度か相手取ってきたことがある。
吸血鬼ドラキュラと言えば、一般的にもよく知られる存在であり、
それは伝説や創作物でのみ語られる想像上の怪物でしかない。
だが、そのイメージに近い生物がこの世には存在しているのだ。
それが、死徒である。
死徒は他の死徒によって血を吸われ、死亡して脳が溶け、
魂が肉体より解放されることで食屍鬼(グール)になる。
食屍鬼は腐り落ち欠けてしまった肉体を取り戻すべく、他の肉体を喰らう。
そうして新たな脳を構築することで、食屍鬼は吸血鬼と呼ばれる存在になることが出来る。
全ての人間が死徒となれるわけではなく、
肉体的ポテンシャルや魂の強度が優れた者のみが不老不死の化物になれるのだ。
今、ギコと対峙しているこの女は、紛れもない吸血鬼である。
肉体を取り戻すべく食欲だけで動く食屍鬼などではない。
その能力の高さは、推して測るべしである。
300
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:09:53 ID:TimGRJiI0
右手に構えた剣の柄を、彼は更に力を込めて握った。
何度か吸血鬼との戦闘経験はあるものの、
初めて命の駆け引きをした時のような、耐え難い緊張をギコは味わう。
(,,゚Д-) (この吸血鬼は莫大な魔力を抱えている……)
戦闘が開始してからというものの、隠しきれぬほどの魔力を彼は感じ取っていた。
吸血鬼の身体能力は一般に伝わっているように超人的であるものの、
魔術などは人間とさして変わらない。
真祖と呼ばれる吸血鬼がおり、文字通り祖である彼らは超越的な力を持つが、
それは不老不死を活かして長年魔道を探究し続けた結果であり、
人間が同程度の時間を掛ければ彼らと同等の能力を得られる。
では、果たしてこの女は、クーは真祖であるか否か。
何故吸血鬼なぞが聖杯戦争に紛れ込んできたのか。
疑問は多々あるが、確実なことはクーが絶対的な強者である、ということだけだ。
(,,゚Д゚) (次は、抜からん)
左腕を右手で強引に元の位置へ戻し、魔術によって筋繊維を再生させる。
魔力が糸のようになり、神経を繋ぎ止めることで激痛が走るが、
ギコは決してクーへ注ぐ視線を外しはしない。
301
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:18:51 ID:TimGRJiI0
苦痛に眉根を歪めながら睨みつけ、彼女の所作一つ一つを観察する。
間合いは八歩ほど離れていたが体制は既に立て直されていた。
蹴りを食らわされたクーの表情は憤怒に歪み、すぐにでも飛びかかってくることだろう。
地を強く踏みしめ、一点へと集められる魔力に大気が歪む。
来る、とギコが確信したその時、
<人リ゚‐゚リ 「――――――!」
主の危機を察したのか、セイバーがクーへ斬りかかった。
輝く剣が柔らかい肉体を大きく切り裂き、
内蔵を晒した胴をクーはセイバーへと晒すこととなった。
その顔には、不敵な笑み。
止めを刺さんとギコが駆けるが、セイバーの背後にはバーサーカーが迫っていた。
失われたはずの首が生え、獰猛な獣そのものの表情に衰えはない。
首と左胸にはサーヴァントの心臓たる魔力の核があるはずなのだが……。
バーサーカーの真名へ迫りつつある高揚感と、
何か恐ろしい物に対峙するような絶望を抱きながらも、
ギコは構えた剣を振るった。
バーサーカーへ、だ。
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