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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
1
:
名も無きAAのようです
:2012/04/02(月) 21:47:16 ID:U5Z4bAHs0
潮の香る港に、日本人とはかけ離れた二人の男が降り立った。
ここ、小樽の港には日本人以外にも出稼ぎにきたロシア人も多く、
外国人はそう珍しいものでもなかったのだが、
二人の異色は際立っている。
( ´_ゝ`) 「いやー気持ち悪かったなー。揺れる揺れる。
船旅ってのはどうにもすかんね、俺は」
2月末とはいえ雪のまだ積もるこの土地で、
極彩色の派手なアロハシャツを羽織り、麦わら帽子を被った短パンの男と、
(´<_` ) 「アニジャ、静かにしろ。任務中だ。目立つ様な真似はするな」
対照的に、どこに売っているのかもわからない、
足首まで丈がある、フード付きの真っ青なローブをきた男の二人組。
( ´_ゝ`) 「はいはーい、わかってますよオトジャくん。
そんじゃ、粛々と静かーに会話もなく黙々と目的地目指しますか」
アニジャ、と呼ばれたアロハ男は軽く手を振るだけで、
なんら悪びれもせずに歩き出す。
その背をオトジャというローブの男が追い、
(´<_` ) 「分かったのなら行動で示してくれ」
愛想の無い口調でそうたしなめた。
目を引く二人ではあるが、港を少し離れていくと車道を走る車ばかりで、
人通りは少なくなっていき、彼らを気に掛けるものはいなくなった。
161
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/05(土) 17:16:26 ID:Xm/VcOpw0
ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
第三話 「invisible―――uroboros」part"乱世エロイカ"
以上で投下終わりです
少々忙しいので、次回も少し遅れるかもしれません
162
:
名も無きAAのようです
:2012/05/05(土) 19:42:20 ID:qjSrwb9A0
おつ
163
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 01:54:41 ID:dj6TV37o0
乙
ドクオかっこいいな
164
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 01:12:08 ID:7X8dDWl.0
乙。わくわく
165
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 21:03:09 ID:g6ApKFEA0
乙
166
:
名も無きAAのようです
:2012/05/08(火) 20:05:24 ID:0QR9ENqs0
乙乙
167
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/30(水) 23:13:00 ID:0SErUlTU0
申し訳ありませんが
しばらく投下が出来ません
プロットを書きなおすのに難航してまして
fate/zeroが最終回を迎える前には投下します
168
:
名も無きAAのようです
:2012/05/30(水) 23:23:11 ID:urOBYd/w0
約束された支援の剣
待つべき黄金の剣
169
:
名も無きAAのようです
:2012/05/30(水) 23:31:41 ID:5rQDM1ZE0
期待すぎる がんがれ
170
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/05/31(木) 22:45:06 ID:zvBq.XBc0
>>168
遥かなる長編完結
作者は未完にして死せず
171
:
名も無きAAのようです
:2012/06/18(月) 18:59:18 ID:vs5qusk60
おいそろそろ最終回なるぞ
172
:
名も無きAAのようです
:2012/07/03(火) 20:04:21 ID:j.P9Rmuk0
うぇい、
173
:
名も無きAAのようです
:2012/07/03(火) 22:44:05 ID:nh2hwTKA0
令呪を持って命ずる
続き投下しろ下さい
174
:
名も無きAAのようです
:2012/07/03(火) 23:10:26 ID:4xgPgeqU0
重ねて令呪をもって命ずる
続きをお願いします……
175
:
名も無きAAのようです
:2012/07/04(水) 13:58:08 ID:wwODdNuU0
せっかく復活したのに逃亡現行増やしただけってのは笑えんぜ?
がんばれよ
176
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/08(日) 22:56:54 ID:1fsBmsng0
すまぬ……すまぬ。
近頃忙しくて中々時間をとれないんだ。
少しずつではあるが書き溜めは進んでいる。
今月中に投下できるよう努力するので、申し訳ないがもう少しだけ待っておくれ。
177
:
名も無きAAのようです
:2012/07/08(日) 23:00:09 ID:dueMCOaQ0
構わん
気負わずに書くがいい雑種
178
:
名も無きAAのようです
:2012/07/09(月) 13:48:08 ID:lEhO9gjY0
我様乙
179
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/24(火) 00:58:34 ID:EJcW5b1g0
次の日曜日に投下する。
第四話は完成した。
180
:
名も無きAAのようです
:2012/07/24(火) 17:21:51 ID:ZCOgngGk0
おおお期待!
181
:
名も無きAAのようです
:2012/07/24(火) 18:12:13 ID:CO1nukFk0
よしこい
182
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 00:59:29 ID:TZdjw55g0
昼の西日を浴びてロマネ札幌キリスト教会は、白亜の輝きを放っていた。
小さな建築物の鐘の下、入口であるドアに手をかける者の姿がある。
赤いスポーツバイクを停車させ、茶色のライダースジャケットを羽織った男、
(,,゚Д゚) 「ロマネスク」
ギコは、教会に入るなりそう言った。
日焼けした肌と短く刈られた黒髪が、
彼の肉体の強靭さを牛皮繊維の上からでも主張し、冷ややかな雰囲気を放つ。
ハニヤ
( ФωФ) 「何かね、刃児耶ギコ」
呼ばれたロマネスク神父は礼拝堂の椅子に座り、湯気立つ湯呑みを傍に置いて、
詰襟の藍い僧衣を着た身体をギコのほうへ向けていく。
( ФωФ) 「貴様がここを再び訪れるとは思いもしなかったよ。茶でも飲むか?」
立ち上がった彼は湯呑みを右手に取り、差し出すと、
(,,゚Д゚) 「いらん、貴様と馴れ合うつもりはない」
拒否されてしまうが、表情も変えずにロマネスクは湯呑みを椅子に置く。
感情を窺わせない透明な瞳をギコへと向けて、
対照的に彼は刃の如く鋭い眼をロマネスクに突きつけた。
(,,゚Д゚) 「聖杯戦争の参加者、全員の名前を教えろ。
事前に教会から参加表明がされているはずだ。
監督役なら、把握しているのだろう?」
183
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:03:25 ID:TZdjw55g0
( ФωФ) 「いかにも。しかし私が把握しているのは参加を表明した者だけだ」
(,,゚Д゚) 「実際にサーヴァントを召喚した者、ではないということか?」
( ФωФ) 「そうだ。此度の聖杯戦争ではどうやら、既に異常が起き始めているようなのでな。
現状、私の力不足もあり全てのマスターを把握しているわけではないのだ。
サーヴァントが全て召喚されたことに変わりは無いのだがね」
(,,゚Д゚) 「参加を表明した魔術師でいい、教えろ」
( ФωФ) 「事前に聖杯戦争への参加表明をしてきたのは、表明順に述べていくと、
津出ツン、内藤ホライゾン、アニジャ・サスガ、ハインリッヒ・クーゲルシュライバー、
ティーチャー・イブンラハド、シィ・C・ルボンダールと貴様の七名だ」
(,,゚Д゚) 「ロマネスク、シィ・C・ルボンダールと言ったな? 彼女もなのか?」
( ФωФ) 「知り合いかね?」
(,,゚Д゚) 「古い、な」
( ФωФ) 「六名の魔術師の参加表明は受けていたのだが、
最後の一人が見つからなかった所、昨日彼女がやってきた。
貴様を探しているようだったぞ?」
(,,゚Д゚) 「俺を……?」
( ФωФ) 「貴様を追ってこの地までやってきたようだった。
北海道へ到着して数分後、令呪が宿ったと言う。
聖杯が、彼女も自らを手にするに値すると認めた証だ」
184
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:04:50 ID:TZdjw55g0
(,,゚Д゚) 「幸運だった、というわけだな。では、異常とは?」
( ФωФ) 「昨日、アニジャ=サスガが到着するはずだったのだが、
未だに私へ連絡が届いていない。サーヴァントが召喚されているところを見ると、
マスターが七人いることは間違いないのだが……」
(,,゚Д゚) 「アニジャである、という確証はないわけだな」
( ФωФ) 「あぁ、私はこの目でアニジャを確認していないのだ。
それに小樽で三名の焼死体が発見されたと聞く」
(,,゚Д゚) 「アニジャ含むサスガ家の者達がそこでやられ、参加表明をしていない、
外来の魔術師がサーヴァントを召喚したと、そういう予測か?」
( ФωФ) 「アニジャとオトジャ、二人合わせて全属性を司るサスガブラザーズ。
時計塔で教鞭を取りサスガファミリー稀代の天才と呼ばれたあの男を、
倒せる魔術師などそうはいないのだが、可能性があることは否めない」
(,,゚Д゚) 「確かにキナ臭い。もし事故では無く、アニジャを打ち負かした上で席を奪い取ったとなれば、
相当の手練で、正体不明ともなれば情報の収集にも骨が折れるだろう」
( ФωФ) 「世間では爆発事故で片付けられてしまっているが、聖堂協会は真相究明中だ。
手口が分かれば、その魔術師が何者かおのずと判明してくるものだろう」
(,,゚Д゚) 「手口……?」
ギコはその言葉に引っかかったようで、口に手を当てて少し考え込んだ。
一分ほどの間が過ぎ去り、やがて答えを得たのか頬を緩めていく。
185
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:06:51 ID:TZdjw55g0
(,,゚ー゚) 「ロマネスク、気を付けておけ。敵は"アサシン"かも知れんぞ?」
苦笑じみたものを浮かべる彼は満足したのか、踵を返して玄関へ向かう。
自分を探すシィ、かつての熱い感情が懐かしくなり、会ってみたくなったのだ。
ここでロマネスクなどに油を売っている時間は無い。
「最後に聞いておこう。昨夜、戦闘があったようだが死体は出たか?」
だが、去り際に背を向けたまま彼は再び問う。
腑に落ちない点があったのだろうか。
表情からはその意図は汲めそうにも無い。
( ФωФ) 「いや、こちらでも小規模の戦闘を確認したものの、死者は出ていない。
霊器盤を見るにサーヴァントの脱落も確認されていない。
恐らくは、互いに撤退したものと考えるべきだろう」
「果たして、どうだろうな。納得した、感謝する」
( ФωФ) 「なに、これも監督役としての務めだ」
186
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:09:45 ID:TZdjw55g0
「……そのまま変な真似はせず、励むことだな。
俺は貴様が不審な動きを見せれば真っ先に"斬り"にくるぞ」
そう言い残したギコはドアを開いて姿を消した。
ロマネスクは脇に置いた湯呑みを取り、すっかり冷めきってしまった茶をすすっていく。
( ФωФ) 「ふむ……」
湯呑みを離した口元をきつく結び、鼻を鳴らした彼は呟く。
( ФωФ) 「聖杯を求めるほどの願いを持つ者が、諦めるはずもあるまいか。
貴様がこの地に現われたとすれば、聖杯が貴様を選ぶのも道理」
アサシン
( ФωФ) 「聖杯に魅入られるというのは、呪縛のようだな……"隠匿の魔術師"よ」
187
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:13:45 ID:TZdjw55g0
******
刃児耶ギコという男は便利屋を営んでいる。
正義の下にあらゆる依頼をこなす、人呼んで"正義の便利屋"。
依頼主は主に魔術協会や聖堂協会といった、神秘の絡んでくる組織だ。
ギコは己の正義を下にそれを遂行し人々を救う。
組織の利権や体裁など彼には関係なく、揉め事が起きた際に駆け付け、
多くの人々を救う為に正義と剣を振りかざす、それが彼の仕事であり信念なのだ。
魔術協会にも法はあり、一般社会で魔術絡みの事件を起こした者は処刑されるが、
神秘の漏洩を防ぐことが目的であり、決して正義や倫理の為に下される裁きなどではない。
刃児耶ギコという男の心は魔術師にしてはあまりにも純粋すぎた。
だからこそ彼は自分の信じる正義の為、自らの学び舎である時計塔を飛び出し、
今の便利屋稼業に勤しんでいるのである。
きっかけは12年前に行われた中東の聖杯戦争だ。
19歳の頃、聖杯戦争が行われる一年ほど前にそれを知った彼は、
聖杯戦争について一年かけて調べ上げ、参加表明と共にイラクへ降り立った。
「あんな若造が無謀な真似を……」
魔術師達は口々に彼を詰り、或いは若さゆえの過ちと同情もした。
しかし、彼は見事終局まで勝ち抜き、後に刃児耶ギコ生涯の宿敵とも呼べる、
あの"アサシン"と対峙することとなった。
188
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:16:53 ID:TZdjw55g0
若くして魔術協会の封印指定執行者に選ばれ、暗殺の術を極めた一族の跡取りは、
黄金の鎧を纏ったアーチャーを従え、赤き衣を羽織るセイバーとギコは激闘を繰り広げる。
結果はギコの勝利に終わったが、彼は結局敗者になってしまう。
杉浦ロマネスクにまんまと出し抜かれ、聖杯を横取りされてしまったのだ。
当時のことをそれ以上、彼は思い出したくは無かった。
苦い記憶だ。
アサシン
辛くも"隠匿の魔術師"と刃児耶ギコは生き延びたが、
その出来事は彼らに深い傷を残してしまう。
ギコは中東の聖杯戦争を終え、便利屋となった。
数年戦い続け、多くの者を救い多くの者を殺し続けた。
理想の為だ。多数の命を救いたいという想いの為だ。
例え少数の犠牲が出ることになろうとも、大勢を救うためならば手を汚し続ける。
そして彼はこう呼ばれるようになった。
雇い主の都合の良い正義を振り下ろす"正義の便利屋"と。
皮肉な呼び名である。
彼は、ただ人々の命を守りたかっただけなのに……。
気付けばそんな名で呼ばれ、振り返れば死体の山が出来あがっていた。
そして以前よりも更に強く望むことになった。
189
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:18:08 ID:TZdjw55g0
"平和が永久に続く世界"が欲しい、と。
今度こそ望みを果たすべく、ギコはこの雪国の聖杯戦争に臨む。
己の正義を貫き通す、今度こそは。
だが今回の戦いにおいて不安要素が二つほどあり、もう一つ先程の会話で出来てしまう。
一つは今回の聖杯戦争の監督役が杉浦ロマネスクであるということだ。
監督役とは言え、以前自分から聖杯をかすめ取った男である。
信用出来る筈がなく、このまま大人しく傍観しているという保証はどこにもない。
彼の動きには注意を向ける必要があった。
アサシン
次に、"隠匿の魔術師"が参戦しているという可能性だ。
あの男が野垂れ死んでいなければ聖杯を逃すはずがないと、
そうは思っていたのだが、本当に現われるかは半信半疑だった。
しかし、この不穏な空気は奴によるものだろうと、ギコは確信している。
予感めいた物が彼の胸にはあるのだ。
確証は無く、それらしい動きを掴めてはいないが、
恐らく近いうちに戦うことになるだろう。
正面から来るはずは無い。暗殺を人一倍警戒しなければ、
いかに正義の便利屋と言えども成す術も無く殺される。
190
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:19:37 ID:TZdjw55g0
相手はその道のプロフェッショナルなのだ。
他のマスターと比べればその手口を知っていることは強みであるが、
頭痛の種であることには違いない。
最後に、シィの存在である。
時計塔時代に出会い、意気投合した彼女とは、
自然な成り行きで恋人同士になったのだが、
ギコは時計塔を抜けると共に、一方的に別れを告げてしまったのだ。
シィは大切な存在だった。
そのことに嘘偽りは無く、それ故に別れた。
明日も生きていられるか分からないような道を自分は生きる。
そう覚悟を決めた自分に、魔道の探究を捨ててまで付いてきてくれるとギコは思わなかったし、
付いてきて欲しくも無かった。魔術を用いた闘争の日々はあまりにも危険過ぎる。
だが、心の片隅にはいつも彼女がおり、彼は後悔もしていた。
孤独の連続で、裏切られることもザラだ。
191
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:22:30 ID:TZdjw55g0
一人だから乗り越えられたのだろうが、やはり空虚だった。
支えてくれる者のいない虚しさを耐えきり、正義を貫き続けるギコ。
孤高な正義の使者。
そんな男を追ってシィはロンドンから遥々北海道までやってきた。
もう、10年以上の時が過ぎているにもかかわらずに。
もしそれが本当なら、早く見つけて保護してやりたい。
許されるのならばこの両の手で抱きしめ、温もりを得て空白の時を埋めたかった。
それがギコの偽らざる気持ちだ。
戦うことになったら……と考えると、背筋が凍りつく。
だがそのような事態になったとしても、ギコは迷わず剣を振るうしかない。
正義の為、理想の為、争いのない世界の為に。
(,,゚Д゚) 「さて、ではまず円山のほうを探してみるか」
敵対することになろうとも、探さずにはいられない。
刃児耶ギコは一人の男として、マスターとして行動を開始していく。
真紅のフルカウルに覆われた、バンディット1250Fのキーを回し、
水冷エンジンを唸らせると極太のマフラーが震え、無色の煙を吐き出す。
膨大な排気音はサイレンサーに殺され、教会からギコを乗せたバンディットは弾け飛んでいった。
目的地はマナが最も豊富な円山だ。
そこが、シィの殺害現場であるとも知らずに。
192
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:25:50 ID:TZdjw55g0
******
茜色に染まった空の下、ブーン達は下校時刻を迎える。
ショボンと共に校門を潜ったブーンは、夕方になり冷えた空気に身を震わす。
黒の詰襟をスタジャンとマフラーで防寒していても、雪国に吹く凍てついた風は厳しい。
生まれてから今日までこの地に住まうブーンにもそれは例外ではなかった。
現在の気温は−8℃。温度計を見られれば、
彼にとっては「暖かいもんだ」と呟ける程度の気温である。
( ^ω^) 「暖かいうちにとっとと帰るかお」
(´・ω・`) 「ゲーセンにでも寄って帰らないかい?
前みたいにアリオのとこでさ」
学校から歩いて15分程の場所に大型ショッピングモールがある。
ここの生徒達にとっては最寄りにある娯楽の宝庫だ。
地下鉄に乗って札幌駅にで降り、街に寄っていく者達もいるが、
学校近辺に住む彼らにとっては遠すぎ、"寄り道"にはならない。
( ^ω^) 「いや、今日は他に寄りたいところがあるからやめておくお」
聖杯戦争に参加する魔術師7人が揃ったか否か。
ロマネスクに尋ねてみたかった。
単独行動を行うアーチャーとコンタクトを取れない今、状況を把握しなければならない。
状況如何によってどう立ち回るかが決まる。
193
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:27:30 ID:TZdjw55g0
(´・ω・`) 「お、デートかな?」
(;^ω^) 「誰とだお」
(´・ω・`) 「ツンとに決まっているじゃあないか」
(;^ω^) 「だから、ツンとはそういう仲じゃないお」
(´・ω・`) 「でも正味な話、中学くらいまでは仲がよかったんだろ?」
(;^ω^) 「最近は何だか付き合いが悪いんだお……昔みたいに話してくれないし」
ブーンとツンは幼少の頃よりの仲であった。
何故疎遠になったかは、理解は出来ているがショボンに語れる内容ではない。
聖杯戦争で敵同士になるから、彼の推測ではそんなところだ。
非情に徹しきれるよう、数年の時をかけて彼女はブーンへの情を捨てようとしているのだ。
(´・ω・`) 「ふーん。まぁ、デートじゃないっていうのなら、僕がついていっても良いかな?」
魔術の使用を一般人には見られてはならない。
秘匿されるべきことで、公になってしまえば魔術協会に粛清されてしまう。
社会へ混乱を招かぬ為の配慮だが、親しい友人にも明かせぬこの秘密に重責のようなものを感じていた。
(;^ω^) 「ロマネスクおじさんに稽古をつけてもらうんだお。だから……」
194
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:28:26 ID:TZdjw55g0
(´・ω・`)ノシ 「あぁ、なるほどね。お邪魔になるだろうし、また今度ということで」
やけにあっさりとショボンは手を振って去っていく。
寺生まれで将来僧侶になる道を志す彼はクリスチャンは嫌煙しているようで、
ロマネ札幌キリスト教会に近寄ることすら避けている節がある。
冷たさを感じられるほどの素っ気無さだ。
( ^ω^)ノシ 「おっおー」
ブーンは彼の気持ちを理解しているつもりである。
だから、この態度にも慣れたもので不快さを感じることは無かった。
足はロマネスクの元へと向いていく。
東へと進んでいくブーンの目には下校する生徒がちらほら目に付いた。
帰宅部生徒達の中には見知った顔もおり、
( ^ω^) 「お」
ξ゚⊿゚)ξ
ふわりとしたブロンドの後ろ髪が美しい、ツンもその一人だ。
視線に気づいたのかほんの一時だけ目が合うと、
ブルーの瞳は感情を窺わせまいとでもするかのように伏せられる。
金髪と共に赤いダッフルコートの裾は揺れ、ローファーが雪を踏みしめていった。
195
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:29:06 ID:TZdjw55g0
( ^ω^)ノ 「おーいツーン!」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
呼びかけるも、再び彼女が振り返ることはない。
( ^ω^) (やっぱり無視ですか)
まわりの生徒達の視線が突き刺さってくる気がして、
ブーンは気恥ずかしさを感じ、いてもたってもいられずツンの前へ出る。
( ^ω^) 「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ 「付いてきなさい」
そうして名を呼ぶが早いか、ツンは無機質な声で言う。
命じられるがままにブーンは彼女の足取りを追い、建物の陰へ。
ξ#゚⊿゚)ξ 「アンタ! 昨日言ったことを全然理解していなかったみたいね!!」
(;^ω^) 「お……」
人目が無くなった途端に烈火のごとく怒声が上がった。
鬼気迫る表情でブーンへ詰め寄っていくツン。
ξ#゚⊿゚)ξ 「私達はもう敵同士なのよ! 敵だって言うのに、
アンタはのこのこ学校までやって来て、間抜け面下げて私に付いてきて!!」
196
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:29:49 ID:TZdjw55g0
(;^ω^) (呼んでおいてそりゃないお)
うっかり口に出しそうになった言葉を喉奥へとしまい込む。
彼の経験上、こうなったツンに余計なことを言ってしまうと、
火に油を注ぐこととなってしまう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「良い? アンタと馴れ合うつもりはないのよ私は!
学校で攻撃しなかったのも、私はフェアに戦いたかっただけ。
他にマスターがいるとしたら、アンタみたいに気が緩んでる奴なんかすぐに殺されちゃうんだから!!」
( ^ω^) 「学校に、僕とツン以外に魔術師はいないはずだお」
ξ#゚⊿゚)ξ 「そういうことを言ってるんじゃないの! 気をつけろって言ってんの!!
サーヴァントを召還したその時から、私達は標的にされてんのよ。
津出、内藤と札幌にいる魔術師の家系はもう聖杯戦争の関係者達には割れてるわ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「お父様達が聖杯797号を発見したのだから、当然のこと。
どんな姑息な奴が参加してるかもしれないんだから、気をつけてなきゃいけないじゃない。
アンタ今日居眠りしてたでしょ? 私がその気ならいつだって呪いで殺せたんだからね!!」
(;^ω^) 「うぅ……」
たったの一言が三倍四倍となって返ってくるのだ。
右手で銃を作ったツンはブーンの喉元へ指先を突きつけ、
殺気の篭った声音で言い放つ。
ξ#゚⊿゚)ξy= 「今夜、アンタの迂闊さを思い知らせてあげるわ。
早々に決着をつけてしまいましょう」
197
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:34:50 ID:TZdjw55g0
手首に嵌められた、金細工のブレスレットがキラリと光る。
津出家に伝わる、魔術礼装だ。魔の気配がブーンの肌を指すほどに濃く感ぜられた。
彼女がその気になればこのままブーンは殺されてしまうだろう。
しかし、そうしないのは先ほどの言葉通り"フェアに戦いたい"からだ。
この宣戦布告は一発の銃弾にも等しい。
戦いは既に始まっているのだ。
ブーンへそう告げるための攻撃であり、ツン自身にも覚悟を持たせる一撃。
ξ゚⊿゚)ξ 「寝首を掻かれないよう、今度は居眠りしないことね」
背を向けて路地を抜けたツンは下校路に再びつく。
赤いコートの生地に覆われた背中を見送ったブーンも、
少し間を空けてから目的地へと進み始める。
( ^ω^) (途中までは一緒なんですけどねー)
ツンとブーンの家は近く、通学路もほぼ一緒だ。
お互いを認識しあっているのに無視しあい、黙々と歩き続ているというのに、
ツンの背中はブーンの視界から離れることはずっと無い。
まるでストーカーのようだお。
断じてありえないことではあるが、ブーンは内心そう苦笑いを浮かべていた。
しかしそんな妙なシチュエーションも彼が途中でコースを外れることで、終わりが訪れる。
整形外科病院のある辺りへ曲がり、住宅街を進むブーン。
198
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:35:49 ID:TZdjw55g0
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
彼へ振り返ったツンの瞳は暗く、どこか寂しげであった。
199
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:40:47 ID:TZdjw55g0
******
( ^ω^)
( ФωФ)「ブーン、来たか」
静けさに包まれた礼拝堂で茶を啜っていたロマネスクは、
ブーンが口を開くよりも早く声を上げた。
( ФωФ)「さて、何の用かな。監督役としてか、それとも神父としての私に用か?」
時刻は夕暮れ。
ギコが訪れてからこれまでの間、聖堂協会の者達を動員して調査を行っていたのだが、
有力な手がかりを得られないまま時が過ぎていき、
ロマネスクはこの件に関する調査を打ち切ろうかと考えていたところだった。
何も問題は起きてはいない。
だから彼はこうして休んでいたのだが、そこへブーンが現れた。
良いタイミングであったと言えよう。
( ^ω^) 「ロマおじさん、僕と組み手をして欲しいお」
200
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:41:52 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「何?」
ロマネスクの予想を反する要望であった。
聖杯戦争が開始された今さら、稽古をしてくれとせがまれるなど考えようも無い。
しかし、監督役としてではなく拳法の師匠として頼られることに、
ブーンとの変わらぬ絆をロマネスクは感じていた。
( ФωФ)「よろしい、では先に地下室で待っていなさい」
胸の内に微かな火がともり、頬を緩めたロマネスクは支度を始める。
紺色のコートを揺らし、扉の鍵を閉めるべく玄関へ向かうのを
ブーンは視界の端に収め、私室へと入り込んでいく。
休憩用のベッドと机、聖書などを収める本棚だけが置かれた、
小奇麗でいて殺風景な部屋の隅には階段がある。
地下室へと続く下り階段で、ブーンは慣れたように降りていくと、
教会には似つかない畳の敷かれた簡易な道場が視界に広がった。
壁はコンクリートで塗り固められており、壁紙は張られていない。
201
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:47:38 ID:TZdjw55g0
( ^ω^))
道場に入る前に一礼し、藁の青臭い香りを鼻腔で楽しむ。
ロマネスクの父は敬虔なクリスチャンであると同時に、求道的な武道家であった。
日本人で名のある空手家である父の元に生まれ、世界中のあらゆる武道を学んできたのだ。
ロシアでシステマの修練を行っている時に母と出会い、キリスト教徒である彼女を通じて入信したらしい。
当時のロシアでは宗教は弾圧されており、幾多の修羅場を潜り抜けた末に国外へ抜け出し、
こうして自らの教会を立ち上げることになったのだと。
ある時、ブーンはそう聞いたことがある。
この畳張りの部屋はその名残なのだ。
ロマネスクも父にここで鍛え上げられた。
そして、今はブーンが。
( ФωФ)「待たせたかね」
( ^ω^) 「ちっともだお」
武道家達が積み上げてきた歴史と、杉浦親子の間で結ばれてきた絆の温もりは、
弟子であるブーンの肌に道場へやって来る度伝わってくる。
スタジャンと制服を脱いでいき、部屋の隅に置くとブーンはTシャツ一枚になり、
ロマネスクは青い僧衣のまま対峙した。
202
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:51:40 ID:TZdjw55g0
軽い柔軟体操を行い、
((ФωФ )
( ^ω^)) 「よろしくお願いしますお」
一礼を交わすと張り詰めた空気がブーンの肌を粟立たせる。
ロマネスクの放つ闘志によるものだ。
気を練り上げ、実戦さながらの緊迫感をブーンへ与える。
相手はかつて聖堂教会と魔術教会で繰り広げられた戦争に参加し、
代行者としても戦果をあげてきた歴戦の猛者だ。
一線を退いてはいるといっても、命を奪い合うという行為を行ったことのないブーンなど、
容易い相手である。内藤家の跡取りとして魔術の教練を受け拳を鍛えてきたとは言っても、
まだまだヒヨッコにしかすぎない。
間合いは10歩ほど離れているがすぐにでも詰め寄られてしまうことだろう。
ロマネスクの身体を通して出る"気"が重圧となり、どう攻めても返り討ちにされる結末が脳裏を過ぎった。
だからブーンは足を引き、間合いを開くことにした。
距離を置くことで攻撃が命中するまでの時間を稼ぎ、迎撃しようというのだ。
先手必勝とは言うが、時と場合による。
戦争においては待ち伏せ側が有利であるとブーンは承知していた。
203
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:53:38 ID:TZdjw55g0
経験と実力の差を戦術によって覆す。
靴を脱いだ素足は畳を踏みしめるも、感触はやけに重い。
身体全体が重く、呼吸が苦しくかんじられる。
まだ大して動いてもいないと言うのに、額からは大粒の汗が流れていく。
(;^ω^)
拳を構え、何時でも防御や反撃を行えるようにしたまま、ブーンはなお身を引かせた。
( ФωФ)「ッ!!」
おぉ、という叫びが聞こえたかと思えると、ロマネスクは動きを作り出す。
来た。
硬直した身が突貫するロマネスクを待ち構え、射程に入ると右の拳を放つ。
中指から小指までを上にした、傾き気味の拳は額を捉えた。
屈筋と伸筋を用いた拳は加速と停止を瞬時に行い、衝撃を増している。
鋭い音が空を切り、次いで肉と肉がぶつかり合う鈍い音が響いた。
その時には既にブーンは畳へ叩き付けられてしまっていた。
反転した視界にロマネスクが映る。
一瞬で勝敗は決してしまったが、くじけずに彼はもう一戦望んだ。
空気が再び張り詰めていく間もなく、構えたブーンは突っ込んでいく。
己の引き出せる最速を求め、畳を力の限り蹴り飛ばす。
生み出された振動を突き出した拳に伝動させ、胴へと余すことなく破壊力を与えた。
204
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:55:52 ID:TZdjw55g0
しかし、渾身の一撃はロマネスクの身を掠めて風を切る音が立つのみ。
(;^ω^) 「ッ!?」
素早く利き足を引き、間合いを取ろうとするが攻撃後に生まれた硬直を、
ロマネスクが逃すはずも無く、重々しい音が拳とともにブーンの下腹部へ突き立った。
(;゜ω゜)
あ、という喘ぎすら漏れずブーンは呼吸すらままならない。
力を失ったように両足は膝をついていき、四つん這いになって、
大きく開かれた口から涎がダラダラとこぼれて行く。
こみ上げて来た唾液の塊を吐き出すことで、ようやく呼吸が出来た。
朦朧とした意識の中、ブーンはロマネスクを見上げる。
( ФωФ)「ブーン、休もうか」
四十を過ぎた肉体であるにも関わらずに、彼は汗の一粒すら浮かべてはいない。
構えもせずに悠然と、慈愛の籠もった瞳でブーンを見つめていた。
これが今のブーンと聖杯戦争を生き延びた者との、覆しがたい実力差である。
だが決して彼が無力であるわけではない。
この十年の間、血反吐を吐くような鍛錬に臨んできたのだから。
拳法という武道の競い合いでは敵わぬが、これが実戦で、
魔術さえ扱えればまた結果は違うものになっていたに違いない、はずだ。
聖杯戦争を戦える力は充分に備えている。
205
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:58:02 ID:TZdjw55g0
ロマネスクに学んだものは少林寺拳法。
父と母からは魔術を。
この二つを用いて彼はこれから戦いに臨む。
ブーンはその前に「自分は勝ち抜ける」という自信を持ちたかった。
だからこうしてロマネスクの下を訪れたのであったが、この完敗が現実である。
勝てずとも、互角の勝負を演じられれば希望を持てただろう。
だが手も足も出なかった。
そんなはずはない、自分はもっとやれるはずだ。
ブーンは自らをそう鼓舞して、ロマネスクの視線に応える。
(;^ω^) 「いえ、回復しましたお……もう一度お手合わせお願いするお」
( ФωФ)「ふむ」
静かにロマネスクは笑みを作ると、ブーンが立ち上がる様を見届け、構えを作る。
若さが彼を駆り立てるのか、ブーンは猛然とロマネスクへともう一度立ち向かっていった。
206
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:59:35 ID:TZdjw55g0
******
組み手開始から三時間ほどが過ぎた頃、
地下に作られた道場ではブーンが畳の上で大の字になって倒れていた。
身体中に痣を作り、大量の汗を滴らせた彼は疲労困憊し、
深いダメージを受けた為立ち上がる気力は残っていないようだ。
ロマネスクは荒い息をつく彼へ、そっと近寄り、
( ФωФ)「少し休もう、ブーン」
対照的に、整った呼吸をして囁いた。
優しい、父性を匂わせる声だ。
(メ;´ω`) 「そうさせて……貰うお…」
力無く息を切らせながらも、ブーンは応えた。
ロマネスクには子供がいてもいい年頃なのだが、
残念ながら彼には妻も無く子も無い。
( ФωФ)「冷たい茶でも持ってこよう。そのまま休んでいなさい」
しかしブーンに接する彼は、父親と言っても差し支えはないだろう。
昔、シャキンとの間に交わされた約束が彼をそうさせたのだ。
「息子を見守ってくれ」と、死の際に放たれたシャキンの言葉が、
ロマネスクを一人の男として成長させ、慈愛の心と父性が今の彼を作り上げた。
207
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:00:17 ID:TZdjw55g0
事前に用意していたのか、上階へ向かったロマネスクは、
コップと麦茶が満たされたボトルを載せた盆を持って、すぐに帰ってくる。
ガラスコップ一杯に麦茶が注がれ、褐色に満たされていくとブーンへ差し出された。
(*´ω`)ノ旦ノ「おっおっ!」ゴッキュゴッキュ
水分を失った身体に、冷えた茶が染み渡る。
喉をならして飲み込んでいくブーンの口腔に、
麦の甘みが広がっていった。
(*^ω^) 「ありがとうだおロマおじさん! 美味しかったお!!」
汗を腕で拭い、笑みになったブーンを見て、ロマネスクも釣られて微笑する。
( ФωФ)「冬とは言っても運動後にはやはり冷たい茶だ。
良い茶を貰った。お婆さんに直接お礼を言わねばな」
( ^ω^) 「また、貰い物かお?」
( ФωФ)「私が昨日飲んでいた茶も、同じ方から頂いたものだ。
孫が世話になっているからと言われたが、
断ってもどうしてもと押し切られてな」
( ^ω^) 「ロマおじさんは、面倒見が良いからだお。
教会だっていうのに小っちゃい子達が児童館代わりに寄ってくる。仁徳だおね」
キリスト教の教会だからと毛嫌いして近寄らない、
ショボンのことを頭に浮かべながらブーンは呟いた。
208
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:03:32 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「本気を出させて貰った。実戦と、同じように。しかし実戦ではない。
実戦ならばブーンは魔術を使えたよ。
私とて内藤家の魔術師と殺しあえば敵うかはわからない」
( ^ω^) 「ロマおじさんだってそれは同じ条件じゃないかお」
( ФωФ)「いや、私はな。魔術のほうは治癒魔術や強化の魔術くらいしか扱えんのだ。
もし此度の聖杯戦争に参加していれば、老化もあって以前のようにはいかない。
君に屠られていただろうさ。全盛期は既に遠い昔の話だよ」
( ^ω^) 「全盛の頃だったら、この聖杯戦争も勝ち抜けたかお?」
( ФωФ)「私は既に、願いを果たした。挑む理由はないよ」
( ^ω^) 「もう願いは叶えられたから、力があったとしても挑まないのかお?」
( ФωФ)「若い私にあった強迫観念じみた使命感は、もはや無い。
聖杯戦争に挑む君の前で口にするのは憚れるが、年老いた私は学んだのだ。
命を天秤にかけてまで、叶えるべき願いなどはないのだと」
( ^ω^) 「……それは、勝者の余裕ですお」
( ФωФ)「そう言うだろうから、言うべきか悩んでいたのだ」
( ^ω^) 「何で今になって言ったんだお」
( ФωФ)「ふっ、君が中年の戯言に屈するような、
半端な意思で戦いに望んだわけではないのだと確信したからだよ」
209
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:07:34 ID:TZdjw55g0
(;^ω^) 「褒めている、のかお?」
( ФωФ)「あぁ、そうとも。しかし、この雪国の聖杯戦争に聖堂協会は反発している。
あまり表立った行動や、表社会に影響を及ぼすようなヘマはしないでくれ。
少しでも問題が起これば協会は間違いなく"異端狩り"を行うだろう」
( ^ω^) 「異端狩り?」
( ФωФ)「端的に言えば教義に反する者を抹消することだ。
聖堂協会は札幌に存在する聖杯を、"神の奇跡"を汚した贋作であり破棄すべきだと主張している。
だから十年前の戦争が起きた。君が幼い頃の話だから、忘れてしまっているかもしれないがね」
淡々と語るロマネスクではあったが、苦い記憶があるビジョンと共に脳裏に蘇った。
血を湛えた己の拳。
傷を負った肉体と精神は満身創痍となり、霞む視界には斃れた友の姿が浮かぶ。
戦場は騒音に満ちているというのに鼓動がやけに大きく聞こえ、
一対の陰剣と陽剣を構えた男はこちらを振り返り――
(`・ω・´)『あぁ……』
( ФωФ)「む……」
亡き友の姿が目前に現れた。
意思の強さが込められた鋭い眼光を向ける男性は、シャキンだ。
モララーと共に、一つ年下の自分を中学時代に魔道へと誘った男。
若さゆえの過ちとも呼べる事柄で、魔術師にとっては大問題であったのだが、
あの出会いがなければ今のロマネスクは無い。
210
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:08:27 ID:TZdjw55g0
師とも呼べるシャキンとモララーは、結果的に戦争では敵同士になってしまった。
彼が魔術を知らなければ、もしかしたら"聖杯戦争前哨戦”と呼ばれる戦いは起きなかったかもしれない。
しかし、シャキン達と出会っていなければ今のロマネスクが無いように、
ブーンもこのような男には成長しなかっただろう。
それを幸か不幸かを決めるのは、ブーン自身が決めることである。
( ФωФ)(ご子息を見に来たのですか……先輩? それとも、俺を笑いに?)
否、と自ら投げかけた問いをロマネスクは打ち消す。
(`・ω・´)『そういうことかお』
逆八の字を象られた険しい眉は、緩やかな弧を描いていき、
鋭い目つきは真ん丸で人懐っこい瞳へと代わっていった。
亡霊の像が消えていく。
( ^ω^) 「双方、多大な犠牲が出て、今回の聖杯戦争が終了するまで聖堂協会は監視を行う。
その約束のおかげで魔術協会と聖堂協会の和平が実現した」
シャキンの姿をロマネスクに見せたのは、やはり親子であるが故に似通っているからだろうか。
彼はロマネスクの胸中も知らずに会話を続けていた。
(;^ω^) 「昔、そうロマおじさんやかーちゃんに教えてもらったの、思い出したお」
211
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:09:51 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「しっかりしてくれ、ブーン。もはや君は、一端の魔術師なのだぞ?」
(;^ω^) 「言いにくい話だけど、マスターとして半人前もいいとこだお。
僕は、サーヴァントを召還したはいいけど、ちょっと話したら見限られて、
もうどこにいるのかもわからない、半人前なんだお」
少し拗ねたように、ブーンは昨夜の失態を暴露する。
羞恥心が、言葉の歯切れを悪くさせた。
( ФωФ)「む、令呪を通しても存在を感知出来ないのか?
魔術回路がつながってる内は、念で交信できるはずなのだが……いや」
(;ФωФ)「まさか、ブーン。アーチャーを召還したのか?」
(;^ω^)) 「……」コク
ブーンは何も言わず、ただ頷きだけを返す。
(;ФωФ)「単独行動スキルが仇となったか……」
( ^ω^) 「でも! ちゃんと考えはあるんだお!!
情けない話だけど、手のうちようはあるんだお。
心配しなくても大丈夫ですお」
(;ФωФ)「そうか……監督役として、私は必要以上に君に肩入れすることは出来ない。
シャキンに恥じぬよう、しっかりやってくれたまえ」
212
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:13:35 ID:TZdjw55g0
( ^ω^) 「おっおっお、勿論だお! ロマおじさん、充分休んだことだし、そろそろ……」
呼吸を整えたブーンは立ち上がり、拳を構えるも、
ロマネスクは座ったまま首を横に振るう。
( ФωФ)「いや、止めておこう。今夜、戦闘になる恐れもある。
教会から出れば、戦闘区域だ。余力を残しておいたほうがいい」
( ^ω^) 「それもそうだお……でも、ロマおじさんに一本も取れなかったのは悔しいお」
( ФωФ)「まだ、拳のみの戦いでは私には敵わんよ。時間ももう遅い。帰りたまえ」
( ^ω^) 「ちぇー」
しぶしぶながらもブーンは立ち上がり、
部屋の隅に捨ててあったブレザーと、スタジアムジャンバーを羽織っていく。
( ФωФ) 「まぁ、また拳のみの勝負でよければ相手になろう。いつでも来たまえ」
(*^ω^) 「お言葉に甘えさせてもらうお」
畳を踏みしめ階段の脇に置いた靴を履き、ロマネスクの私室へと昇る。
礼拝堂を進み、玄関の扉に手をかけるとロマネスクが口を開いた。
( ФωФ)「……ブーン、最後に忠告が一つある」
( ^ω^) 「ん? なんだお?」
213
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:16:19 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「君の父……シャキンを殺したのは刃児耶ギコだ。
此度の聖杯戦争に参加している、セイバーのマスターだ」
(;^ω^)そ 「ロマおじさんッ!?」
外に出たブーンははっとして背後へ振り返るが、
白亜の扉は堅く閉ざされ、声に応える者はいなかった。
春風が混じり始めた寒空の下で、ブーンはギコという男の名を脳に刻み付ける。
( ^ω^) 「刃児耶……ギコ……セイバーのマスター」
ロマネスクの言が本当ならば、かつての戦争で父を殺めた仇の名を、ブーンは口ずさんだ。
シャキンの顔が目に、ローソクの炎のようにぼうっと浮かぶ。
街灯も少なく、月明かりだけが照らす夜の東区をブーンは歩む。
人気は無いといっていいほど少ない。
住人達の帰宅が住み、家で団欒をとっているのだろう。
労働で疲れ、帰宅してきた父を、母と子供が暖かく迎える。
夕餉に舌鼓を打って談笑し、風呂に入って一日の疲れを癒す。
そんな幸福な一時を誰もが迎えるわけではないが、父を自分と母から奪ったのはギコだ。
遠い過去の話ではあるが、父の葬儀で流した母の涙をブーンの眼は焼き付けている。
214
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:17:29 ID:TZdjw55g0
夜闇の如く暗い考えが胸を浸していく。
住宅街へ入り、公園を横切っていくと……。
「やっぱり、ロマおじさまのところに行っていたのね」
( ^ω^) 「ッ!?」
声がした。
清澄でいて、勝気さが滲み出た声。
少女の物と思われるそれは、聞き覚えがあった。
ξ゚⊿゚)ξ 「ここで貴方の迷いを終わらせてあげるわ。
戦いましょう、父様達もきっと喜んでいるはずよ。
聖杯戦争……魔術師として己の魔術を、存分に競い合える戦場」
(;^ω^) 「ツン……やるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、構えなさいブーン。一族の誇りと願いを賭けて」
ツンの全身を魔力が駆け巡っていき、右腕へと集約されていく。
周囲の空間が熱を孕み始め、朧のように歪むと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get set―――」
呪文が響いた。
己の気を高める、スイッチとなる頭語である。
募った魔力は魔術回路によって"力"へと変換され、
高密度に圧縮された炎が右手から噴射された。
215
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:19:05 ID:TZdjw55g0
Σ(;^ω^) 「くっ、本気かお!?」
ブーンの足元に炎の弾丸は突き立って、雪を音も無く溶かしていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「呆けているんじゃないわよ。サーヴァントを出しなさい、ブーン。
さもないと――――貴方、無様に死ぬわよ?」
言葉に表れたものは怒りと、
( ゚_ノ゚)
大きな銀と黒の十字を首から下げた、
鉤十字の装飾を施された軍服を身に纏うサーヴァントが現れた。
(;^ω^) (アーチャーを呼ばないと……!!)
令呪を使用する。
ブーンの生存本能が咄嗟に行動を取らせていくが、直前で理性が邪魔をした。
「こんなところで使ってしまって本当にいいのか?」
その躊躇いが空白を生み出してしまう。
かつて戦場で名を馳せた英霊が隙を見逃すはずも無く、
腰のホルスターから瞬く間に抜かれた、ワルサーP38がブーンへと向けられ―――
216
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:23:56 ID:TZdjw55g0
第4話 「get set―――」 part 乱世エロイカ②
投下終了。遅れてしまって申し訳ない。
待っていてくださった方々には感謝と謝罪をする。
これからは月一の投下を目標にします。
217
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 10:15:22 ID:fXUOG.TU0
マジか!乙
218
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:31:36 ID:CpT9oAKIO
乙!
219
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:37:05 ID:0VZCBLis0
おつー
220
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 20:00:11 ID:w12BCxLE0
ギコェ…
シィはもう
221
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 00:52:52 ID:zaN4V8hE0
乙!
続きが気になる
222
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 13:56:19 ID:P5IkB5k.0
ギコほど不幸が似合う奴はそうそういないぜ
223
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 04:56:44 ID:s0hHn/8Y0
ギコ視点に立つと、ギコにはドクオを倒して仇を討ってほしいな
224
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 06:16:11 ID:1vbJD/rM0
なんというギコへのエールwwww
225
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 11:39:51 ID:la8NPhW60
しかしシィの遺体食べられちゃったのに
ギコはどうやってドクオが仇だって気付くんだろう
226
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:48:55 ID:xvC0Jaek0
アサシンが何か言うんじゃね。
227
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:52:44 ID:1vbJD/rM0
アサシン「シィなら朝しんだwww」
228
:
名も無きAAのようです
:2012/08/02(木) 13:25:32 ID:iY/8zESo0
ギコが人気なのって、シローを彷彿とさせるからかな?
ドクオはキリツグと考えると、キリツグvsシロー(エミヤ?)だから胸熱
229
:
名も無きAAのようです
:2012/08/03(金) 10:54:59 ID:/a3o2mnY0
まだ大した活躍してないよな
230
:
名も無きAAのようです
:2012/09/06(木) 15:56:27 ID:1DJMbsfc0
まだかーまだかー
231
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 00:17:31 ID:QCpLB3rI0
明日の22時頃に投下する
遅れて申し訳ない
232
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 00:23:58 ID:gnaa9reI0
うひょー!!
来たか!!
233
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 08:53:13 ID:xFZfoilA0
キタゼー!
234
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:11:50 ID:QCpLB3rI0
夜の帳が落ちた札幌市東区、その片隅にある公園で小さな光が灯る。
遅れて乾いた音が響き、大柄の少年の足元に火花が散った。
(;^ω^) (本当に撃ってきたお!!)
少年、ブーンはロマネスクとの稽古で火照った身から、
血の気が引いていく感覚を味わう。
恐怖によるものだ。
( ゚_ノ゚) 「……」
軍服姿の男は構えていたワルサーの照準を修正し、
素早くブーンの額へ狙いを定めていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、威嚇する必要はないのよ。英霊さん?」
引き金にかけられた指を注視し発砲の間際にブーンが飛び退いたことは、
ツンの目にも明らかなことであったが、意地悪くサーヴァントへ激を飛ばす。
英霊とのみ呼んでクラス名を伏せる抜け目無さは周到であると言えよう。
(;^ω^) (飛び道具? ってことはアーチャーかお?)
短絡的な思考でクラスを結びつけるが、「いや」と否定する。
アーチャーは自分が召喚したはずだ。
同じクラスのサーヴァントが召喚されることはない。
ではこの英霊は一体どのクラスに該当するのか?
235
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:13:23 ID:QCpLB3rI0
戦場に初めて入り込んでしまった緊張感とツンの言動が、
ブーンを当惑させ冷静な思考能力を奪っていた。
( ゚_ノ゚) 「貴様、何故サーヴァントを呼ばない?」
剥き出しの銃身が踊り、ワルサーの銃口がブーンを捉える。
雪の敷積もった足元には穴があり、弾丸が減り込んでいた。
一瞬、ほんの一瞬反応が遅ければこれが額に風穴を空けていたことだろう。
明確な殺意を以って放たれた弾丸はブーンの背筋に何か冷たいものを走らせる。
心臓は早鐘を打ちサーヴァントの口の動きがやけに緩慢に見えた。
何故サーヴァントを呼ばないのか。
違う、呼ばないのではない。呼べないのだ。
アーチャーの作戦が裏目に出てしまったことで生じた自体に、
怒りとも恐怖ともつかぬ感情が湧いてきた。
助けがくることはない。令呪を使えば、話は別であるが。
目前には規格外の魔力の集合体であるサーヴァントとそのマスター。
ツン一人ならまだしも、魔力そのものとも呼べるサーヴァントに、
人間であるブーンが行使できる魔術程度で、傷を負わせることなど、
ましてや倒すことなど不可能だ。
銃撃は外れたが、そんなものに攻撃されたという事実は、
ブーンを恐慌状態に至らせるに充分だった。
令呪を使用するという考えも、吹き飛んでしまう。
236
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:15:25 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
磨いてきた魔術も拳法もサーヴァントには歯が立たない。
絶対に敵わぬ敵を前にしてブーンは背を向けて逃げ出す。
今の彼に魔術師としてのプライドなど微塵もない。
策などでもなく、ただの恐怖による逃亡だ。
圧倒的に己を上回る力量を持ち決して倒せぬ敵は恐れそのものである。
相対した者は逃げるか許しを請うか、
全てを諦め黙って命を差し出すかの選択しか与えられない。
勝算のない戦いを挑む者がいようものか。
逃げ出した彼を嘲笑うことなど出来やしない。
死を受け入れず足掻いてみせただけでもブーンには勇気があったと言えよう。
(;^ω^) 「ツン、やめてくれお! 僕達が戦う必要なんてないんだお!!
同じお菓子食べて一緒に本を読んでた、ツンちゃんじゃないのかお!?」
そして彼には、停戦を申し込むだけの勇気すらもあった。
ツンと殺し合うなど、耐え切れなかったのだ。
敵意による恐怖を跳ね除けて、精一杯心の叫びをブーンは上げる。
237
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:16:51 ID:QCpLB3rI0
ξ ⊿ )ξ 「……無様ね、ブーン」
しかし思いの丈は彼女には届かなかった。
むしろこれは、ツンからしてみれば決闘に対する侮辱ですらあった。
夜の海の如き暗さに沈んだ少女の表情は、
ξ#゚⊿゚)ξ 「命乞いとはッ!!」
瞬く間に憤怒の色に染まり、背を向けるブーンに罵声を浴びせて右腕を構える。
アミュレットが煌き魔力回路が巡って手のひらへと集約されていくと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get―――set」
詠唱。
次いで甲高い音が響く。
銃声にも似たそれに遅れて火球が右手から放たれ、ブーンに襲いかかった。
238
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:17:47 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「ッ!?」
背後から迫る熱気に、彼女の扱う魔術を知悉していたブーンは身を崩し、
慌てて転げていくと先程まで頭のあった位置へと、火球が過ぎ去っていく。
安堵の息をつく間もなく、立ち上がって走り去ろうとするが、
( ゚_ノ゚) 「マスター、威嚇する必要はないんだぞ!?」
銃声が響いた。
(;^ω^) 「ぐっ!!」
起き上がろうとしていたブーンは雪の上で尻餅を突いてしまい、遅れて痛みを感じる。
右足を撃たれたようだ。制服のズボンには黒いシミが広がっており、
弾丸は脛の肉を打ち破って骨を砕いていた。
その部分だけ火鉢を押し付けられたような高熱を感じる。
あまりの衝撃に痛覚が麻痺してしまったのだ。
だが、徐々に正常な働きを取り戻してきた神経は、
強烈な痛みをブーンへもたらしていく。
( ω ) 「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
これまでに感じたことのない激痛に、ブーンは涙をこぼしかける。
打ち身や骨折ならば稽古や試合で何度も経験してきたが、
銃で撃たれるなど銃社会でもない日本で経験できるはずもない。
239
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:19:02 ID:QCpLB3rI0
銃傷にもだえる彼へ、ツンとライダーはゆっくりと、
確実に追い詰めるかのように近寄っていく。
彼らの足音はブーンにとって、死刑囚が絞首台から聞く処刑人の足音も同義であった。
人間の脚力などでサーヴァントから逃れようという考え自体が無謀だったのだ。
百戦錬磨の英霊にとって背を向けて逃げ出す獲物の、何と狩り易いことか。
ξ゚⊿゚)ξ 「サーヴァントも連れず……アンタ、私をどこまで馬鹿にしたら気が済むの?
失望したわ、ブーン。シャキンおじ様もきっと悲しまれることでしょうね。
お父様の娘である私と、息子であるアンタとの決着が、こんな無様なものになるなんて」
冷徹に見下ろしたツンは、手で銃を形作り銃口をブーンへ向ける。
魔力が指先へと、高度に圧縮されていくのがブーンにもわかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「これで……おしまい……」
火球が現れ、魔力の流れが止まる。後は放つのみ。
(;^ω^) 「ツン……」
死の際というものはこんなにも静かなものなのだろうか。
ブーンの心は不気味なくらいに穏やかで、何の感情も湧いてはこなかった。
ツンが行使した火の魔術が自分へ襲いかかるというのに、まるで他人事のようにしか映らない。
あぁ、あれが己を焼き尽くすのだろう。
そう傍観することしか今の彼にはできなかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「……"ライダー"。殺って」
炎で構成された球体がぼっと音を立てて消えていき、ツンはサーヴァントを呼んだ。
240
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:20:29 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「手を汚すのが怖いか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなわけ、ないじゃない。魔力を温存しておきたいだけよ」
( ゚_ノ゚) 「ならば……」
ライダーと、最後にクラス名が明らかになった死刑執行者は、
ブーンの額へと銃を押し当てて引き金に指をかける。
茫然自失となったブーンにもはや、アーチャーを令呪を使用して呼ぶという考えはなかった。
ただ死を受け入れるだけの家畜である。
( ^ω^) (……ごめんお、とーちゃん)
死の直前に脳裏を過ぎったのは父の顔だった。
( ゚_ノ゚)
だが彼の目に写っている者は軍服姿のサーヴァントである。
押し付けられた拳銃の重みが、ブーンに死を予感させた。
続けざまに胸を突く思い出が蘇る。
*( )*
それは後悔の記憶―――
魔術でも救えぬ物があると、幼心に刻みつけられたトラウマ。
無意識ながらも、彼の"人々を救いたい"という想いに駆られる、要因となった出来事。
失われてしまった友人の顔が心の奥底で浮かび上がり、
241
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:22:13 ID:QCpLB3rI0
(#^ω^) 「ッ!!」
気づけばブーンは動き出していた。
起き上がりに生じる臀力に乗せた右の拳が風となり、ライダーの頬を捉える。
渾身のストレートがぶちかまされた。
が、拳に感触は無く、しかしライダーは宙を飛んだ事実に変わりはない。
何故拳が空を切ったというのに奴は飛んだのか?
答えは遅れてやってきた音によって明かされる。
銃声だ。
その時、ブーンの脳裏には声が聞こえてきた。
サーヴァントとマスターのみが行える念波による交信である。
(<`十´> 『待たせたな、マスター』
(;^ω^) (アーチャー!?)
ξ゚⊿゚)ξ 「何っ!?」
凍てついた空気が震え、高い高い音が彼方より張り詰めていくが、
飛び上がったライダーはツンを抱えて駆け出し、
積もった雪の飛沫が足元で爆ぜる。
銃声のした方角を見やったライダーは目を鋭くして、
( ゚_ノ゚) 「サーヴァントを呼んだのか?」
242
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:25:21 ID:QCpLB3rI0
ξ;゚⊿゚)ξ 「違うわ、ライダー。令呪を使ったわけじゃないわ。
敵サーヴァントは私達が隙を見せるのを待っていたのよ!」
銃声一つでサーヴァントと断じるのは早合点とも取れるが、
何が起きるかはわからぬ戦闘において、
常に最悪の状況を想定しておくほどの用心深さは必要不可欠である。
そしてその用心深さからくるツンの判断は、正しかった。
同時に自らの浅はかさに冷水を浴びせられた。
ブーンはサーヴァントを隠し、ライダーのマスターであるツンが無防備になったところを狙撃させ、
勝負をつけようと策を練っていたのだ。サーヴァントを出さぬのは別行動をとっているのか、
あるいは戸惑いによるものなのかとツンは"思わされて"しまっていた。
先日から、いや、ここ数年のブーンの態度、
それすらも己を欺くための演技だったのだとツンは彼の狡猾さを思い知る。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうやら私は貴方を過小評価していたようね……ブーン。
貴方は私と同じ、ここからは一人前の魔術師として扱わせて貰うわ」
しかし、こうなっては下手に行動を取れない。
真っ先にブーンを仕留めようにも、敵は狙撃が可能なサーヴァント。
恐らくはアーチャーかキャスターのクラスだ。
ライダーにも先程の狙撃のみでは位置を割り出せないらしく、
彼はツンの目を見ると首を横に振った。
膠着状態と言えよう。
243
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:26:50 ID:QCpLB3rI0
張り詰めた空気がピリピリとツンの肌を刺激していき、
次の一手を目まぐるしく頭の中で探っていく。
撤退すらも、既に選択肢の一つとして浮かび上がっていた。
(;^ω^) 『アーチャー! 今までどこに!?』
ツンの焦燥を知る由もなく、ブーンは魔力のパスが再び繋がった、
どこにいるかもわからぬアーチャーへ念によって問う。
(<`十´> 『そんなことより目の前の状況に集中しろ。
間一髪だった。お前がそのままジッとしてれば仕留められたものを……』
(#^ω^) 『いるならいると言えば―――』
(<`十´> 『マスターに知らせれば勘付かれていた。演技が出来る人物でもあるまい。
良いから集中しろ、先ほどのように。敵はこちらの位置には気づけん。
イニシアチブはこちらが取ったが、依然お前が無防備であることに変わりない』
(<`十´> 『ゆっくりと、そのまま敵から目を離さずに後退しろ。
敵の出方を探り、追ってくるのならば仕留める』
( ^ω^) 『追ってこなかったらどうするんだお?』
(<`十´> 『家へ帰れ。マスターが逃げれば敵も今夜は下がるだろう。
奴らからすれば、お前のサーヴァントのクラスが絞れただけでも大した情報だ。
だがそうはいかん。私が撤退する敵を追跡し、仕留める』
244
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:36:10 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 『仕留めるって、ツンは……』
口に出しかけたところで、ブーンは躊躇った。
攻撃してくるのならばと先程は無意識で拳を振るったが、
平静を一度取り戻すとやはり、ツンを傷つけたくはないという気持ちが勝ってしまう。
(<`十´> 『知っているさ。夕刻の会話、聞かせて貰ったぞ。だから私がここにいる』
アーチャーは彼らの関係を知った上で今夜、現れた。
ブーンの気持ちをよく理解し、利用してこの戦法を取ったのだ。
聖杯を掴み取る為に召喚に応じ契約を交わすサーヴァント。
そして聖杯を欲するマスター。
あらゆる願いを叶えるという聖杯を手にする為に呼ばれ、
自らにも求める理由があるからには、己の"任務"を最大限に全うするのみだ。
サーヴァントとはそういうものなのだ。
6人の魔術師とサーヴァントを討ち取るマシーンなのだ。
私情などを挟むブーンはアーチャーに蔑まれて当然である。
聖杯戦争を勝ち抜くべくアーチャーという武器を手にしたのは彼なのだから。
(;^ω^) 『アーチャー!』
245
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:39:10 ID:QCpLB3rI0
(<`十´> 『恨み言を聞いてやる時間はない。下がれ』
(;^ω^) 『くっ!!』
苦虫を噛み潰したような表情でブーンは一歩下がっていく。
視線はツンとライダーへ向けたままだ。
ξ゚⊿゚)ξ 『逃げる気ね』
( ゚_ノ゚) 『そのようだ、敵サーヴァントの居場所が読めん。
こちらにとって攻め込むには不利だが、
奴からしてみればこちらを攻めるに不利だ。距離が離れてしまってはな』
ξ゚⊿゚)ξ 『狙撃が失敗した今、撤退するほうが無難、ということね』
ツンはブーンの動きをじっと観察し、ライダーは弾丸が飛んできた方角を見やるその間も、
ブーンはまた一歩後退し公園の外へと向かっていった。
(;^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ 『仕方ないわね。今回は見逃しましょう。
ブーンのサーヴァントが、遠距離攻撃が出来るってことがわかっただけで―――』
意思をライダーへと送る、その最中。
突如として疾風が舞い込んできた。
246
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:41:49 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「なっ!?」
疾風の中、ブーンはそれを見た。その者が見えた。
その身を守る鎧は西洋の物ではなく、東洋の具足と呼ばれる物。
両腕を覆う金属板は矢と槍から頭部を守るべく長方形に広がり、
兜には鹿角を模した装飾がなされている。
闇に紛れるかのようなその具足は禍々しさを放っていたが、
何よりブーンの目を引いたものは肩に下げられた黄金の数珠と、
長さ5メートルは優に越える長槍だ。
刃ですら50センチ近く、切っ先は鋭く笹の葉の如き形状をしており、
街灯に照らされただけで暗闇が霞むような眩い光を放っていた。
それはブーンの槍という物の概念を変えてしまった。
驚きとも興奮ともつかない奇妙な気持ちをブーンは味わったのだ。
本で、斬馬刀という長すぎる太刀を初めて見た時の感覚にこれは似ている。
こんな物を使って本当に戦えるのか?
一体重さは何キロあるというのだ?
目,`゚Д゚目
見るからに扱いにくそうなこの槍を、
片手で軽々と持ち上げるこの男は、一体何者か?
247
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:43:40 ID:QCpLB3rI0
その問は、愚問である。
(<`十´> 『マスター敵だ! 脇目も振らずに逃げろ!! 全力だ!!』
唖然とするブーンへアーチャーは怒号を飛ばす。
人形のように立ち尽くしていたブーンよりも早く、敵は彼を見た。
目,`゚Д゚目 「聞けい! 我は槍がサーヴァントランサー!!
内藤ホライゾン殿、御首頂戴致す」
振り返ると同時に、ランサーは槍を構える。
切っ先は長槍ゆえブーンの喉に触れかかっており、
些細な力が加えられただけで肉を突き破ることだろう。
(;^ω^) 「……」
だが、ブーンは動かなかった。
槍の放つ輝きとランサーの強烈な殺気が、彼から意思を奪い取っていたのだ。
蛇に睨まれた蛙の如く、動くことが出来なかった。
目前にまで突きつけられた刃はこれから自分の喉を掻き切る。
そんなことも理解出来ないほどに、彼は恐怖に支配されてしまっていた。
逃げようと思考することも許されない。
身体全体を強固な鎖で縛り付けられているようだ。
248
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:45:58 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目
ランサーの目は己の得物に匹敵するほど鋭く、ブーンの瞳を射抜いていた。
そして行動は迅速だった。
構えられた槍が横凪に振るわれる。あ、と声を出す間もない。
代わりに金属音が響いた。
目,`゚Д゚目 「見切っているぞ、アーチャー」
視線を離さず、ランサーはそうアーチャーへと告げた。
ブーンの視界の端へと槍は振るわれており、切っ先から火花が散る。
(<`十´> 『……ッ! マスター! 早く逃げろ!!』
再びアーチャーの怒号。
自然と足は動いていた。
言われたとおり脇目も振らずに、後方へと。公園の外へとひた走る。
アーチャーの声により緊張が解け、槍とともに恐怖が遠のいたのだ。
人は痛みを恐怖する。ブーンは包丁で指を切った経験があった。
あの槍に刺されればそんなチンケな刃物と比べ物にならぬ痛みを味わうだろう。
だからそれとの距離が離れたことで硬直状態から脱することができたのだ。
249
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:49:16 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
しかし"恐怖"は既に背後から迫っていた。
逃げ出し距離を離したブーンへ、一足飛びのみで急接近したのだ。
槍を振るった、そのままの姿勢でだ。
上半身を捻り込むことで足から加わった力を槍へ乗せ、
風の唸る音と共にブーンの胴へ柄が炸裂する。
(;゚ω゚) 「ぐぅぅぅぅッ!!」
衝撃は肋骨を打ち砕いて肺にまで達して収縮し、一時的な呼吸困難の苦しみに襲われた。
吹き飛んだブーンの身は地面へと激突して跳ねるが、
積もっていた雪がクッションとなってそれ以上の傷は負わずにすんだ。
うつ伏せに倒れたブーンをランサーは更に追撃する。
アーチャーが援護するべく狙撃するも、やはり弾かれた。
硬質な音が、虚しく響き渡る。
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
250
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:52:52 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> 「チィ……」
ランサーの言葉通り、アーチャーが正面から立ち向かえばブーンを守ることは出来るだろう。
彼の位置からの狙撃では着弾まで数コンマほどのタイムラグがあり、人間同士の戦闘ならばいざしらず、
音速の域に達する速さで移動する、サーヴァント同士の戦いにおいては大きな負い目だ。
相手が敏捷に長けるランサーであるというのならば致命的と言えよう。
だからと、ランサーの前に出ればそれこそ思う壺だ。
アーチャーは遠距離攻撃を得意とするクラスであり、
逆を言えば接近戦では有用な攻撃手段をあまり持たない。
比べて、ランサーは近接戦闘のエキスパート。
敏捷、筋力、耐久において彼に勝るステータスは無いだろう。
考えうる限り最悪の状況である。相手はあのランサーだけではなく、
ライダーとそのマスターツンまでいるのだ。
もしライダーがランサーと共にブーンへ攻撃を加えれば、もはやアーチャーに防ぐ術はない。
ブーンが殺されたとしてもアーチャーは他のマスターを探し、
契約を行えば良いだけの話しだが、見つかるかは運だ。
単独行動スキルにより他のサーヴァントよりは長生きできるが、
魔力が尽きれば肉体を維持できなくなりアーチャーの聖杯戦争はそれまでとなる。
しかしその僅かな望みでさえ潰すため、ランサーはアーチャーを引っ張り出そうと挑発しているのだ
251
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:55:35 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> (もしだ。もし、これが単なる偶然で、偶然で私達の戦闘に遭遇し、
迷わず私のクラスを特定し、あの少女とサーヴァントから逃げようとしたマスターを狙い、乱入し!
ランサーに誘き出させようとしているのなら、そのマスターは何者だ?)
(;<`十´> (戦い慣れし、聖杯戦争を知悉した者だ。そいつは始めから私を狙っていたのか?
マスターだけを始末しても私は単独行動スキルで数日生き延び、新たなマスターを見つけることも、
私のマスターを始末したそいつに復讐することも出来る。奴にとって私はアサシンほど厄介なのだろう)
(;<`十´> (だとしたら、何時から見ていた? 何時から私たちの戦闘を、行動を監視していた?)
アーチャーのライフルにはスコープはついていなかった。
陽光や電灯によってガラスが反射する恐れがある為だ。
故に彼は伝説となり、こうしてサーヴァントとして戦っているのだ。
生前から行っていた肉眼による長距離射撃は、固有スキルである千里眼が補助し、
最新式の光学照準器よりも正確な狙撃を可能とする。
だがその狙撃も、この状況では歯が立ちそうにはない。
――――たった一つの攻撃方法を除けば。
(<`十´> (この距離、真名開放を行えば仕留められる。
標的は3つ。例え"宝具"を開放しようとも目撃した敵を全て消せば……)
宝具の使用は諸刃の剣である。
一撃で敵を屠るほどの威力を持つ物や、戦況を絶対的に優位に立たせる物などがあるが、
皆全て、英霊の過去や伝説に纏わる武器であり、使用すれば真名が露見してしまう恐れがあるからだ。
真名が分かれば、後は文献を調べて弱点を見出しそこを叩けばよい。
252
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 22:56:19 ID:dzQ0jLO60
キタ
253
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:00:17 ID:QCpLB3rI0
アーチャーにとってこれは起死回生の一手でもあり、地獄行きへの切符でもある。
(<`十´> 「何、変わりはない―――」
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
ランサーが動きを作る。
攻撃の挙動だ。前進し、槍を振り上げて起き上がろうとするブーンの首を刎ねようというのだ。
もはやアーチャーが割って入ろうにも間に合わない。
一瞬の猶予もならない事態にもかかわらず、アーチャーの心は穏やかだった。
身体に力が篭ってはおらず、引き金にかけた指の動きは恋人に愛撫するかのように優しかった。
その指つきが、かつて505人もの兵士へ死を与えた魔弾を放つ。
(<`十´> 「これも、訓練だ」
雪と一体化した狙撃兵は独白する。
―――そして、
グリムリーパーバレット
(<`十´> 『白き死神の魔弾!!』
宝具の真名が謳われると共にライフルへと死神が込められていき、
高密度の魔力を帯びた十六の弾丸がランサーを撃ち抜いた。
254
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:02:48 ID:QCpLB3rI0
******
彼女は夢を見ていた。
懐かしき故郷の乾いた風の匂いが鼻腔を満たし、
建物に遮られることなく照りつける陽の光が肌に心地よい。
石で作られた店の並ぶ市場を男に連れられて彼女は歩いていた。
足に伝わる熱砂の感触は小さな針が無数に突き刺さってくるようで、
時たま転がっている石を踏んでしまった時などは槍で刺されたかと思うほどだ。
だが、奴隷には靴など与えられない。服があればいい方だ。
その服も自分を売っていた店主に破かれてしまったのだが、
"クー"という名と共に男は服を与えてくれた。
もはや服としての役割を果たさないボロ切れの上から、
自分の新たな人生への一歩を踏みしめる気持ちでそれを羽織った。
オリーブドラブという濃い緑色の生地で作られたコートを、
人はミリタリーパーカーともモッズコートとも呼ぶ。
モッズの人々に好まれたことからモッズコートとの名が付いたのだが、
元はアメリカ軍に採用された物で、男から与えられた物の装飾性は低く、
無骨なデザインで本来の用途で扱われるべく作られたのだろう。
彼は兵士だった。クーの故郷の地形に溶け込むべく砂漠を模した迷彩服を着込み、
首には似たような色のストールを掛けていて、何よりもクーに「兵士だ」と思わせた物は、
ベルトで肩に掛けていたアサルトライフルだった。この銃にまで迷彩は施されている。
255
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:03:50 ID:QCpLB3rI0
クーが羽織っているコートは戦場で使うわけではなく、
市場へ出かける際の日除けとして羽織ってきた物なのだろう。
目付きが険しく表情には生気というものが感じられない。
自分を買った主を観察しながら付き従っていると、不意に言葉をかけられた。
「あぁ、そういえば靴を持っていなかったな。痛むだろ?」
抑揚のない声だ。
その意味をクーは見出そうとする。
自分を買い、すぐに手放して家へ返そうとしたこの男の心理が気になり、
"良い人"なのか"悪い人"なのか探り続けているのだ。
服装を観察していたのもこの為だ。
しかし、どちらか判明しないまま付いて来たのは彼女のほうだ。
いや、彼女にはそうする他なかった。
帰る家などもう無いのだから。
川 ゚ -゚) 「うん」
短く返し、次に男がどんな言葉を投げかけるのか、
神経を研ぎ澄ませて耳を立てていく。
256
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:05:14 ID:QCpLB3rI0
「コートならサイズが大きくても良いが、靴はそうはいかねぇよな……」
実際、わずか十歳でしかないクーにはミリタリーコートは大きすぎた。
手どころか足まで隠してしまい、歩く度裾が引きずられてしまっている。
男が目指す場所に着く頃にはボロボロになっていることだろう。
しかし、靴は小さすぎても大きすぎても履くことは出来ない。
裸足で砂上を歩くクーのことを気に病んでいるらしく、
男は市場をキョロキョロと見回し始めた。
が、靴を売っている店は中々見つからないしあったとしても大人のサイズしかない。
無表情のまま立ち止まり、口に手を当てて何やら考え事をすると、彼は屈みこんだ。
クーに背を向けたまま、
「肩車だ、肩車。靴なら後で用意する。良いか? 肩車だぞ?
おんぶはダメだ。暑いからな」
川 ゚ -゚) 「……」
いきなり、そんなことを言われてクーは子供ながらに戸惑った。
見ず知らずの大人に急に肩車をすると言われても、乗り難い。
第一、クーは奴隷として買われた身なのだ。
主人の肩に乗る奴隷などいようものか。
彼女には、この状況を理解出来なかった。
それでも「ほら」と急かされてはそうする他ない。
恐る恐る迷彩服の肩へ足を掛けていき、前屈みになって安定を取る。
両足が乗った感触を確かめた男は「立つぞ」と声をかけた。
257
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:06:30 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「あっ」
浮上していく視点。
地面が離れていきより多くの物が見えた。
ダンボールを集めて作った台の上に乗せられた果物、
壊れかけ錆が浮くラジオなど機械を売っている店と豚を解体している男。
色々な物が目に移り、市場を見渡せるようになった。
川*゚ -゚) 「わぁ〜」
子供らしい純粋な感動が胸を満たしていった。
心臓が高鳴り全身が嬉色に染まっていくのを覚えた。
「歩くぞ、落ちるなよ」
対照的なほどぶっきらぼうな声が返る。
男が一歩進む度に視界が揺れたが、それすらにも喜びがあった。
これ以上素足で歩かせぬ為にしただけの肩車は、クーに様々な想いを巡らせる。
想いには、悲しみも含まれていた。
川 ゚ -゚)
足から伝わる筋肉の硬さと太さが男の屈強さを伝え、クーに安らぎを与えたのだが、
そんな頼りになる男がほんの数日前まで共にいた父と兄を想起させたのだ。
258
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:08:40 ID:QCpLB3rI0
父達の背は彼ほど逞しくはなかったが、クーにとっては絶対であった。
牧家であった彼女の家は市場から離れており、
少し遠出をすれば獣や害虫に襲われることもあったのだが、彼らは必ず守ってくれた。
男家族の頼もしさは母や兄弟、そしてクーに安寧を与えていた。
父と長男がいればどんな苦難や危険も乗り越えられるだろう、なんとかしてくれると、
普段そんなことを思うことはなかったが、それほどまでに安全を保証されていたのだ。
だが、父は"聖戦士"達に銃弾で穴だらけにされ、兄は片腕を切り落とされてしまい、
母とクー達は乱暴されて奴隷として市場に卸された。
妹が二人いたのだが早々に売り落とされ、母は聖戦士達の元にいる。
家族は離れ離れになってしまったのだ。あんなに強い父と兄がいたというのに。
男の肩が物語る強さは彼女にとって空虚なものだった。
空虚であるだけならばまだ良い。蘇っては痛みを与える記憶がその空虚を満たそうとしてくるのだ。
喉の奥が乾いていき、目が熱くなってくる。頬を涙が伝っていく。
気道に何かが突っかかったかのように苦しかった。
それでも、心の叫びが嗚咽混じりに口から漏れ出てきた。
川 ; -;) 「私は……どうしたらいいの? どこへ行けばいいの?」
鎖に繋がれて店の前に出され、買い手を待つ日々は思考能力を奪う。
何かをする自由を与えられずただ使役され、店主の相手をさせられる。
まだ10歳の少女にとってどれほど過酷な日々だったのだろうか。
259
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◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:09:47 ID:QCpLB3rI0
しかしそんな時にこの男と出会い、買われた。
飼い主が変わるだけで彼女の日々に何の変化ももたらさないはずだったが、
この男は「家に帰っていいよ」と自由を与えた。
とぼけた命令だ。
「帰る家が奴隷にあるはずがない!」と怒鳴り返す者もいるだろうが、
クーの中にその言葉で生まれたものは問いであった。
「どうして?」「どうすれば?」「どこへ?」と疑問ばかりが生じる。
目の前で行われようとしていた邪悪な行為を止めようと、
手を差し伸べただけだった彼には迷い続ける彼女を救うほどの覚悟はなかった。
しかしその問いを聞いた彼は、今度は覚悟を決めて、
少女を"救う"覚悟をして再び手を差し伸べたのだ。
「君は新しい家で暮らすんだ。父もいなければ母もいないし、兄弟だっていない。
だがそこは君の新しい家であり出発点だ。いずれは独り立ちをするものだが、
それまでは俺が君を護り育てよう。不自由をさせるだろうが、俺が与えられる限りの物を与えてやる」
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◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:10:59 ID:QCpLB3rI0
川 ; -;) 「貴方が、私を育てる?」
「あぁ」と短いながらも力強い声を男が返す。
だが、その頼もしさがクーには不安だった。
彼との生活に不満はないが、再び家族を失うことが怖かったのだ。
川 ; -;) 「貴方は……大丈夫? し、死んじゃうんじゃ……」
問いの真意がもしかしたら、この言葉では伝わらないかもしれない。
クーにそんなことを考える余裕はなかったが、
男は少し笑って、肩に乗るクーにもそれは聞こえた。
「大丈夫さ、クー。ここだけの話しだが、俺は魔法が使えるんだ」
今のは、冗談なのだろうか。どんな冗談なのだ。
どこが面白いのだろう。意味もわからないしつまらないが、
川 ;ー;) 「ふふっ」
釣られて、クーも笑った。
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