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ホテル・サイドニアのようです
346
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 02:54:01 ID:Ye8YRezw0
(´<_` )「吹っ切れないでくれよ、つまらないじゃないか」
高みの見物の弟者は、画面に映し出されるドクオの乱打を
観察しながら愚痴をこぼした。ドクオのは乱打といっても、
いつの間にか手にしていた太い古枝を中心とした攻撃の連続で、
キャリアの弱点とも言える関節……それも、腰のあたりを集中したものだった。
(#'A`)「くそっ、くそっ、くそォ!」
常人より反応速度の遅い保菌者を一方的に殴ることは容易い。
罪悪というものを完全に捨てきればこその話であるが。
それよりドクオは、ハインリッヒの手のナイフにも注意を払わないと
いけなかった。動きの怠慢になったハインリッヒの左腕――ナイフの
持つ方をあらん限りの力を込め、古枝で殴打した。
从;;;;;∀从 ガッアッアッ……
ナイフを吹き飛ばす魂胆だったが、しかしそれは握られたままだった。
(;'A`)「!?」
ハインリッヒの左腕は完全に伸びきった。そうして、ドクオの目には
そのナイフが綺麗な弧を描いて振り下ろされようとする瞬間が映った。
347
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 02:57:43 ID:Ye8YRezw0
バックステップで逃れようとする。だが、意外なことに
そのナイフの切っ先はドクオの身体を狙ったものではなかった。
――ざくり。と肉を切り裂く嫌な音がしたかと思うと、
その傷跡からやけに濁った血が噴水のように吹き出た。
(´<_` )「ははは……」
从;;;;;∀从
ハインリッヒの手首の先が、皮のみで繋がれてぷらぷらと頼りなく
揺れている。刃はハインリッヒの右手首、厳密にはそこの
動脈を狙って、振り下ろされたものだった。
(´<_` )「ナイフはねぇ、お前を捕えるためだけじゃない。
このシャワーを浴びせるためでもあったのさ……。
お味はどうかな? ハインの愛液はお気に召したかい?」
(;'A`)「………!」
弟者の目論見はこの上なく成功した。ハインリッヒから吹き出た
血は、ドクオの顔面に万遍なく注がれたのだった。
348
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:06:58 ID:Ye8YRezw0
弟者は確認し、ぞっとするような笑みを浮かべた。
ドクオは保菌者に完璧に"接触"してしまった。
画面上では、ドクオの位置がきらびやかに映し出された。
( A )
残されたドクオの行動は、満身創痍のハインリッヒを
身体が崩れるほどに痛めつけることのみであった。
右手首から放たれた血はハインリッヒ自身にも付着し、
あわれな緋色のドレスを形作っている。
从;;;;;o从
それでもなおドクオに接触しようとするハインリッヒを、
自信の手で葬らねばならない。ドクオは生気のない瞳で、淡々とおこなっていく。
(´<_` )「なんて惨い野郎なんだ。笑えてくるぜ」
.
349
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:09:28 ID:Ye8YRezw0
見物する弟者の居る、その裁判館の一室にベガーがやってきた。
それと共に、縄で囚われたデルタも。
(´<_` )「おお、ついに来たか」
弟者は目をぎらつかせてデルタをみやった。
言いつけ通りに西部開拓時代さながらに、後ろ手にされた挙句に
木の板で拵えた手枷をはめ、足首と喉に巻きつけた縄
によって自由を奪われたその姿は、奴隷と呼ぶにふさわしい。
下がれ、の一言でベガーが部屋を後にした。
そこに残ったのは、奴隷のようなデルタと、流石兄弟のみであった。
判事らしく黒のスーツを乙に着こなして、嫌味なくらいに優雅な弟者と
頭から足までカウボーイルックを決めている兄者、
そして、それらとは対照的に薄汚れたシャツとジーンズのデルタ。
立場を一挙に伝えるめいめいの服装であった。
( "ゞ)「………」
( ´_ゝ`)
(´<_` )「間近に会えて嬉しいよデルタ。とりあえず楽にしたまえよ。
その格好で、座れることが出来るんならな……」
弟者は立ち上がると、デルタの方へ歩み寄っていった。
扉の近くには兄者がやはり立ちふさがっている。
デルタが逃げることは、まず不可能といってよかった。
350
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:15:10 ID:Ye8YRezw0
弟者は片膝をついて、デルタと対等の目線になると、
(´<_` )「すでに調べはついている。君は我々の優しさを裏切り、
ドクオに情報を提供したことはねぇ……」
( "ゞ)「………」
やれやれ、といった口ぶりの弟者を、デルタは睨み続ける。
すると弟者は一度口元に笑みを浮かべてから、デルタの顔面を
一殴りした。鼻に狙いに定めただけあって、弟者の拳に
鼻骨の砕ける爽快な感覚が走った。
( ";;;゙)「ぐあっ……」
そのままデルタは倒れ込んだ。
潰れた鼻からは血が吹き出て、鼻水と共に顔中を汚していく。
その鮮血は床にぽたり、ぽたりと垂れていった。
( ";;;゙)「うう……」
(´<_` )「君にはプライドがないようだね。原住民だったお前を、
寛大な我々が仲間に入れてやったというのに、
お前はこの私さえ裏切ってドクオの犬に成り下がるとは」
弟者は立ち上がると、芋虫のように悶えているデルタを踏みつけた。
靴裏をデルタの頬に無理やり擦りつけている。
351
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:19:41 ID:Ye8YRezw0
( ";;;゙)「……!」
(´<_` )「だがチャンスをくれてやろう。ドクオのことを
洗い浚いに吐けば、寛大な心で許してやろうじゃないか」
弟者は踏みつけをやめると、再び屈んで、倒れたままのデルタを
膝立たせた。目と目が合った瞬間ににこりと微笑んで、猫撫で声のまま、
(´<_` )「ハンターの高潔なプライドを取り戻すのだ……。
あるいは人間らしさを! やはり我々の側に戻るとすれば、
まだ君にも救いが生まれるというものだよ」
( ";;;゙)「ぷ、ぷらい……」
(´<_` )「ん? なにかね?」
( ";;;゙)「プライドなんざ……とうに捨ててる……だが、
だが……貴様には、にどと従わない……!」
(´<_` )「………」
弟者の表情から笑みはさっと消えた。
立ち上がってデルタを見下ろすと、唾を吐いてため息をついた。
(´<_` )「常に、愚かな奴は愚かなことしか考えられないものだな」
.
352
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:22:08 ID:Ye8YRezw0
.
( ";;;゙)「――ぐふゥッ!!」
デルタのみぞおちに容赦ない蹴りが加わった。たちまち鋭い痛覚と、
革靴の先が腹部にめり込んだ衝撃がデルタを苦しめた。
涎を吹いて倒れ落ち、引きつけを起こしたように痙攣をした。
(; ";;;゙)「うぐ、ぐ……!」
(´<_` )「これは申し訳ない。ゴミかと思って蹴飛ばすつもりだったよ。
ああ、いいや、ゴミだったなぁ貴様は。ろくな考え事もプライドもない、
貧相で下品な面構え。卑しいったらありゃしない……」
(; ";;;゙)「あ、あ、……」
みぞおちの痛みは尚やまない。深く呼吸をしても、神経が引き裂かれた
ような感覚が癒えることもなく、ましてや弟者に反撃など出来ようもない。
(´<_` )「絶望ってのを見せてやろうか」
(´<_` )「こんな村で育たなければよかったなぁって
後悔させてから殺してやるよ……ハハハ、ッハッハッハ!」
353
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:25:39 ID:Ye8YRezw0
( ";;;゙)「……後、悔……」
はぁはぁと荒い息遣いをしていたデルタだったが、ようやく
痛みに慣れだしてきた。鼻は見るも無残に潰れ、塞がりかけた鼻腔は
凝固した血によって機能しない。顎が強ばったようで動かしづらいが、
少なくとも喋ることは身体が許してくれた。
( ";;;゙)「ハーモニーに生まれて……後悔…だと」
(´<_` )「そうじゃないのかね。ハーモニーなんぞで暮らさなければ
少なくともこうして、苦しみ死ぬことはなかったのだからねぇ」
( ";;;゙)「ふん。なら……ありえねぇ話だ……」
デルタの顔ががたがたと痙攣した、それは彼にとっての笑いだった。
( ";;;゙)「俺には……ハーモニーの、、楽しかった思い出が、ある。
どんなに…苦しもうが……俺の、記憶、は……あせないんだ。
いつも、ずぅっと……この村を、愛す……」
(´<_` )「ふぅん」
すると再び、弟者はデルタのみぞおちを狙って蹴りを加えた。
( ";;;゙)「あがっ……!」
(´<_` )「馬鹿が。それごと踏み躙ってやるっつってんだよ……!」
.
354
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:30:51 ID:Ye8YRezw0
弟者は背を向けると、拷問道具の一式揃ったキャビネットを弄りながら、
(´<_` )「俺は過去、なんども拷問をしては殺してきた。数え切れない
ほどの経験から言うが、お前も御多分に漏れず、後悔して死んでいく」
さそり毒の入った注射器を手に取って、針の先端をためつすがめつし、
(´<_` )「死の恐怖、耐え難い苦痛……これらを目の当たりにすれば、
虚勢なんぞ糞の役にも立たない。そして命乞いするには
遅すぎたと知ったとき、どいつもこいつも同じ表情をする」
(´<_` )「そいつのくだらない人生を表現したような哀れな表情さ。
糞みたいな人生が凝縮された、情けなさの極みって奴よォ!」
( ";;;゙)「………」
身を捩りながら、デルタは体勢を直した。力の入りきらない
下半身を鞭打って、足枷から不自由を貰いながらも、立ち上がった。
(´<_` )「おやおや、そんなに元気があるなら楽しめそうだねぇ」
( ";;;゙)「(俺は……絶望などしない)」
(´<_` )「弱者の意地って奴だな。ふふ、私も昔は弱者だったものだよ」
( ´_ゝ`)
.
355
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:33:32 ID:Ye8YRezw0
(´<_` )「だが、きみにはチャンスも無ければ頭脳もない。
まことに残念だがね、情報を吐かないのなら死ぬ。
それが運命というものだ」
( ";;;゙)「(あれは、弟者のタブレットコンピュータ……!)」
デルタはふらふらした足取りのまま、弟者のデスクへ向かおうとした。
そんな思惑を知ってか知らずか、弟者はデルタの脛に一撃を加え、転ばせた。
まともに受身も取れず、デルタはまたも倒れ込んだ。
それでもやはり、立ち上がろうと身を奮い立たせる。
(´<_` )「おーおー、頑張るねぇ」
( ";;;゙)「(まだだ、まだ……)」
(´<_` )「そんな君にはとっておきの贈り物だ」
弟者はそういうと、動こうとするデルタの首筋にサソリ毒を注射した。
暴れないうちに手早く液体を流し込むと、硬直しだしたデルタに、
(´<_` )「おおっと安心してくれ、これはただのサソリ毒の一種さ。
のたうち回るくらいには危険なシロモノだが、これで
死ねるなんてありえないから安心してくれよ?」
( ";;;゙)「………!」
(´<_` )「ははは」
更にデルタの尻を蹴飛ばし、前のめりに倒しては空笑いをする。
356
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:34:52 ID:Ye8YRezw0
( ";;;゙)「(あと……少し……!)」
錯乱しかけたようにデルタは呻いた。
目的を悟られないように道化を演じることは慣れたことであった。
膝で這いずるように前進する。意外な重労働に呼吸が荒くなって、
呻きも次第々々に真実的になっていった。背中には弟者の嘲笑めいた
視線を強く感じている。蹴られた鳩尾は未だ鈍痛に悩まされている。
けれどどうしたことか、今は意外な程に冷静で、身体もほのかに暖かい。
( ";;;゙)「(あきら……めん)」
そのとき、弟者が新たな道具を探しに意識をデルタから逸した。
今だ、今しかない。デルタはあらん限りの力を込めて、まず膝立ちになると、
次によろめきつつもまったく立ち上がった。痛む膝に、不自由な足首。
毒が回っているのか、身体中の筋肉が燃えるように熱くなっていく。
目当てのタブレット・コンピュータは射程圏内に入っているか
否かの瀬戸際だった。だが、だが、今なんだ、今しかないんだ。
( ";;;゙)「(う……うう……)」
.
357
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:38:07 ID:Ye8YRezw0
デルタは限界を捨てて、おこなった。
( ";;;゙)「ぉおおおおおおッ!!!」
(´<_` )「!?」
弟者が振り向いたとき、デルタは無様な体勢でジャンプをしていた。
方向は弟者のデスクで、目標はタブレットコンピュータだと察知した
ときにはもう、デルタの身体はデスクにぶつかった。
(´<_` #)「……貴様ァッ!」
弟者が駆けつける。その三秒足らずの間に、デルタは衝撃で床に
落ちたタブレットを壊そうと躍起になっていた。タブレットの隅の一つに
砕く勢いで噛み付いている。罅割れた液晶にデルタの鼻血が入り込む。
(´<_` #)「乙な真似しやがると」
ついた弟者はデルタの髪を鷲掴みにすると、そのまま持ち上げた。
それでもタブレットを噛んだままであった。弟者はデスクの角に
デルタをそのまま叩きつける。三度、デルタのひたいを
打ち付けたところで呻きつつもようやく口を離した。
歯が何本も液晶に突き刺さった状態で落下した。
タブレットが破壊されたことは、誰の目にも明らかなことだった。
358
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:39:18 ID:Ye8YRezw0
( ";;;゙)「あが……あ……」
(´<_` #)「屑の分際で……」
弟者はアイスピックを取り出すと、怒りを抑えきれぬ様子で、
(´<_` #)「てめぇの腐った脳味噌かき乱してやらァ!!」
( ";;;゙)「やりたか……やぇ……おれぁもう…しあわせだ」
(´<_` )「んだと……!」
デルタはふっと目を閉じた。気にも留めていないようだが、既に
身体中を蠍毒が駆け巡って、顔は青ざめているし四肢の末端は腫れ上がっている。
顎が震えだす上に舌がうまく回らない。
まともに喋ることを身体が許してくれない。
359
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:40:37 ID:Ye8YRezw0
デルタは言葉では伝えない。行動と態度で弟者を嘲ろうとする。
一矢報いてやったことを、何もできない弱者ではなかったことを。
( ´_ゝ`)
権力に決して屈してやらないことを。
どれだけの苦痛をこれからうけようとも、
ハーモニーの暖かい記憶と夢を背負って死んでやるということを。
( ";;;゙)「は……は……ハ」
(´<_` )「……笑えなくしてやる」
弟者は冷徹に言い放った。
アイスピックを逆手に持つと、デルタの縛られた片手に狙いを定めた。
これから一本一本、串刺しにするつもりであった。
360
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:43:40 ID:Ye8YRezw0
.
( ";;;゙)「は……あ……は、はは」
デルタの脳裏に浮かぶのは、楽しかった頃の記憶だけ。
村を開拓する両親に連れてこられた少年時代、初めて
馬に乗ったときに転んだあのとき、しばらくして慣れた頃、
村中のみんなが褒めてくれたものだ。酒の飲める歳になったとき、
大人にバーを連れ回され、酔いながら村の歌を大合唱したもんだっけ。
いつしか立派なカウボーイになろうと決めた。ハーモニーを愛してしまった。
そうして、悪者を退治して村を守ろうと。守りたかった。守るつもりだ。
( ";;;゙)「…ふ……ふふ」
(´<_` )「悲鳴をあげなァ」
無防備なデルタの指を貫こうと、弟者がアイスピックを振り下ろした……
……そのときだった。空気を素早く切り裂く音が走ったかと思うと、
デルタの身体が無機質にのけぞった。そののち、呻きもなく吐血した。
361
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:47:45 ID:Ye8YRezw0
.
(´<_` )「!?」
( ";;;゙)
デルタを確認した。口から煙を上げ、満足気な笑みのまま硬直している。
身体を揺らすと尋常ではない量の鮮血が口から漏れた。
すでに、デルタは絶命していた。そう、
( ´_ゝ`)
兄者の放った銃弾によって、一瞬のうちに死を迎えたのだった。
(´<_` )「 兄 者 ………どうして」
困惑する弟者の問いには答えない。早業でホルスターに
銃を仕舞ったのち、またも無反応な人形になってしまった。
(´<_` ;)「お前……」
( ´_ゝ`)
.
362
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:50:15 ID:Ye8YRezw0
(´<_` )「………」
弟者は暫らく兄者を睨みつけた。だが兄者の目線は空虚を
定めたままで、なにを語るつもりもないことが容易に伺い知れた。
何分かの沈黙のうち、弟者はそっぽを向きながら、
(´<_` )「ドクオのところに向かえ。タブレットが壊れた以上、
キャリア一匹だけに任せてはおけん。階下の連中を
引き連れて、さっさと雑木林へ走れ。捕まえてくるんだ」
兄者がやはり無表情のまま、扉を開けて出ていった。
残された弟者は、立ち消えた兄者の後ろ姿を目で追い続けていた。
あとに残されたのは、呆然とした弟者と、
眠ったように死んだデルタだけであった。……
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
363
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:52:30 ID:Ye8YRezw0
ハーモニーの夜。狂態を眺めて月の笑う夜。
( A )
ドクオが居た。雑木林の外れ……保菌者と化したハインリッヒと
格闘したその付近で、彼は腐葉土に触れている。
――ハインリッヒとの格闘は、しかしドクオの一方的な
攻撃に終始していた。痛覚もなく明確な弱点も存在しないハインリッヒの、
その四肢と関節とに集中的に打撃を加えるだけの作業だった。
死者を徹底的に殴り、蹴った。
彼女の持っていたナイフを使用もした。
ハインリッヒの身体が身体として機能しなくなる頃になって、
ドクオは素早く腐葉土を掘り返し、彼女をそこに落とした。
そうして土をかけ直し、墓標代わりに細長い石を突き立てたのだった。
( )
ドクオは傍の木の陰に身を隠していた。
俯いたまま、息を殺していた。
それから少し経った頃、小走りに駆けてくる何者かの気配を感じた。
ドクオはそっと影から顔を出し、それの確認をした。
364
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:54:13 ID:Ye8YRezw0
||;‘‐‘||レ「はぁっはぁっはぁっ……!」
やって来たのはノーナンバーズのメンバーの一人、
エノーラに違いなかった。息遣いも荒いが表情はそれ以上に
苦悶に充ちていた。ドクオはそれを訝しげに思いつつも、
('A`)「来るな!」
||;‘‐‘||レ「!?………どうして?」
事実、エノーラはそれ以上足を踏み込むと、飛散したキャリアが
身体に付着するおそれがあった。ただしドクオにはそのことを
説明する気力もなければ、もとより時間もなかった。
('A`)「何であれ絶対近づくな。要件がないなら去るんだ」
しかしエノーラはドクオの予想とは裏腹に、反抗的な口調で返した。
||‘‐‘||レ「なんでよ?」
.
365
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:57:07 ID:Ye8YRezw0
('A`)「……説明する時間はない」
||#‘‐‘||レ「デルタはどこッ!?」
聞く耳を持たず、いきなりエノーラは感情的に問い詰めた。
状況を理解してしまった、
ドクオはこの状況にどう対処すべきか迷ったが、極めて穏やかに、
('A`)「頼む。全て後で話すから……このままだと、
そのデルタの意思ごと無駄にしてしまいかねない」
||#‘‐‘||レ「だからなんでよッ!? そうやって大雑把な
考えだからデルタが連れ去られたんじゃないの!?」
(;'A`)「………!」
||#‘‐‘||レ「デルタをどうにかしてよ!」
(;'A`)「いいか、絶対に俺に近づくなよ。……はっきり言おう。
デルタは既に殺されたと思って間違いはない」
||;‘‐‘||レ「!?」
('A`)「流石兄弟はもう容赦しない。こうなった以上、
終わるまで、振り返ってはいけないんだ……俺は悲しまない…」
||#‘‐‘||レ「そんなこと! 仲間が、仲間が居なくなったのに……!」
366
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 03:59:22 ID:Ye8YRezw0
(#'A`)「仲間が死んだからって立ち止まるつもりはねぇ!」
煮え切らないエノーラに、ドクオはついに荒々しい口調になって、
(#'A`)「ここで悔やんでどうすんだよ。いいか、俺の意思を言っておく。
はじめこの村に来たとき、俺は自分の目標しか考えてなかった!
ハーモニーのことなど二の次だったさ! だがな、今は違う。
俺はこの村を救ってみせる! ハンターぶちのめしてやる!
それが今の一番の目的だッ! 嘘偽りなくな!」
||‘‐‘||レ「……で、でも」
('A`)「絶対にこの村に笑顔を取り戻すから、今は耐えてほしい。
さあ、アジトに戻って明日の準備をしてくれ。お願いだ」
そういうと、ドクオは隠れ蓑に
していた樹木に登って、姿を隠してしまった。
||‘‐‘||レ「……わかった」
.
367
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/23(日) 04:01:45 ID:Ye8YRezw0
.
冷静になったのかどうか、エノーラは表情を普段に戻すと、
ドクオの居るであろう方角に向けて、弾丸を投げた。
('A`) オットット
||‘‐‘||レ「じゃ……そういうことで」
感情をつとめて無にし、エノーラは闇夜に消えていった。
('A`)「ああ、みんなも頑張ってくれ……」
独り言のようにドクオはぽつりと呟いた。それから直ぐに
気を引き締めた。深呼吸を繰り返し、ホルスターの銃と
弾数とを確認し、次なる敵に備え、
( A )「(絶対に許さねえぞハンターども。てめぇらの思い通りにはさせねぇ)」
ハインリッヒがまったく動かなくなった今、弟者は
追撃の手を用意するに決まっている。それが第二のキャリアか
ハンターの集団かそれとも兄者か、どれも可能性は考えられるが、
いずれにせよ正念場であることは間違いなかった。
('A`)「(明日がくれば、どちらにせよ全てが終わる、
この夜が、おれにとっての正念場……!)」
.
368
:
名も無きAAのようです
:2012/09/23(日) 04:03:40 ID:Ye8YRezw0
今日はここまで。
次もわりかし早く投下できると思います。
よい朝を。
369
:
名も無きAAのようです
:2012/09/23(日) 05:07:29 ID:6RnQAgZI0
おつ
兄者…
370
:
名も無きAAのようです
:2012/09/23(日) 05:13:30 ID:bKIDx/C20
オモロー
371
:
名も無きAAのようです
:2012/09/24(月) 00:06:47 ID:4HeJDXrkO
乙
この作品の兄者好きだわ
372
:
名も無きAAのようです
:2012/09/24(月) 00:18:21 ID:vaKELzrQ0
ドクオもなかなか器用なやつだな
373
:
名も無きAAのようです
:2012/09/24(月) 01:23:52 ID:7V71zeBI0
うおおおお乙!
兄者やってくれるって信じてた
374
:
名も無きAAのようです
:2012/09/24(月) 14:26:27 ID:Lo0WV0R.O
逆転の一手がどんなものなのか楽しみ
このドクオさんは顔以外のスペック高くて頼りになるわ
375
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/25(火) 07:52:35 ID:I35Ua3yA0
みんなレスありがとう、俺のモチベに繋がりますわ。
明日からieslというよくわからん学期がまた始まるからちょっと
更新ペースが遅くなるかもという報告。ちなみに現在8レス。
以下駄文
この頃の執筆ペースのはやさには自分でも驚いている。処女作を書いていた
あの当時並で、気分もどこかリフレッシュしているみたいだ。
で、やっとその訳に気付いたんだが、このハーモニー編って処女作の
綺麗な街とどこか似通った部分のあるストーリーなんだよね。だからこう、
なんというか無意識のうちにリメイクするような情熱を傾けていたのだろう、と俺は思う。
あの作品を今の俺が書いたらどうなるって感じで、自分自身に挑戦しているのかも知れんなあ。
こんなにハーモニー編が長くなったのもそれのせいかも。ってはなし。
376
:
名も無きAAのようです
:2012/09/25(火) 09:56:34 ID:487wW8L6O
別に長くなっても構わないけどホテル・サイドニアも忘れんなよ!主にタイトル的な意味で!
リアルに支障出ない程度に頑張って!
377
:
名も無きAAのようです
:2012/09/25(火) 18:13:20 ID:ypxqqbQk0
続き楽しみにしてるお
無理せずがんばって
378
:
名も無きAAのようです
:2012/09/25(火) 20:02:20 ID:OKx1neug0
米国の大学生なんかな?
ハーモニー編の全体に漂う緊張感がすごく好き。
今後の展開が楽しみだし筆が早いのは喜ばしいな
379
:
名も無きAAのようです
:2012/09/25(火) 22:17:51 ID:9WVde25U0
まとめで読んでたけどもう次が来てた!やった!
いつも楽しく読んでます
380
:
名も無きAAのようです
:2012/09/26(水) 13:34:24 ID:mf.vScxU0
乙乙
のんびり待ってるぜ
381
:
名も無きAAのようです
:2012/09/26(水) 18:35:03 ID:bLNopvMwO
全ブーン系の中でも宇宙船SIXが一番好き
しかしサイドニアは更に素晴らしいので是非とも完結させて頂きたい
382
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/28(金) 15:04:57 ID:u0nYxWd60
ううっ! わしゃァ幸せもんじゃけぇ!
暖かいレスみんな本当にありがとう、ぐっときたぜ。
年内にはドクオをホテル・サイドニアに帰してやりたいと思っていたり。
さて、この週末にちょっとですが投下をします。
よろしかったらお付き合いくださいなー。
383
:
名も無きAAのようです
:2012/09/29(土) 09:47:25 ID:JR/MmAOIO
よっしゃよっしゃ 全裸待機しとく
384
:
名も無きAAのようです
:2012/09/29(土) 11:46:53 ID:7dJqCxwc0
おっしゃー全力期待じゃけぇ!
385
:
名も無きAAのようです
:2012/09/29(土) 14:52:56 ID:41EEJbZQ0
なんということだ、投下ミス発覚。しかもけっこう重大な。
>>305
と
>>306
の間の抜けを今から投下します。
ちなみにこの時間のwifiはサックなんで、こっちでいう朝に本投下しちゃいます。
386
:
>>305と>>306の間
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/29(土) 14:56:13 ID:41EEJbZQ0
それから、シラヒーゲを加えた御一行は、シラヒーゲの
ダンサー談話をBGMにふたたび個人倉庫の解除作業をおこなった。
さすがに二度目となれば落ち着いて行動出来、扉はなんなく開かれた。
(’e’)「や〜っと開いたか」
川 ゚ -゚)「(このなかに……私の望んでいたものが……)」
( ´W`)「……でな、リアーナのアンブレラのカバーがこれまた……」
・・ ・・・
・・ ・・
・・ ・
”彼ら”は気がつかない。
陰から身じろぎせずに観察している連中を。
ファッカーが電話をした後に、手榴弾をバッグから取り出す、
その狂気じみた犯罪光景を。……
.
387
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 00:46:06 ID:AtOTda9o0
そして本投下じゃい!
新聞の深き谷にも光射すそれぞれの朝ホテルサイドニア
太陽の位置が少し遠ければ陽光もまた他人の優しさ
しみじみと酔えば恋しきわが故郷汚れ染めたるカード眺めつ
388
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 00:48:22 ID:AtOTda9o0
(#'A`)「仲間が死んだからって立ち止まるつもりはねぇ!」
煮え切らないエノーラに、ドクオはついに荒々しい口調になって、
(#'A`)「ここで悔やんでどうすんだよ。いいか、俺の意思を言っておく。
はじめこの村に来たとき、俺は自分の目標しか考えてなかった!
ハーモニーのことなど二の次だったさ! だがな、今は違う。
俺はこの村を救ってみせる! ハンターぶちのめしてやる!
それが今の一番の目的だッ! 嘘偽りなくな!」
||‘‐‘||レ「……で、でも」
('A`)「絶対にこの村に笑顔を取り戻すから、今は耐えてほしい。
さあ、アジトに戻って明日の準備をしてくれ。お願いだ」
そういうと、ドクオは隠れ蓑に
していた樹木に登って、姿を隠してしまった。
||‘‐‘||レ「……わかった」
.
389
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 00:50:11 ID:AtOTda9o0
冷静になったのかどうか、エノーラは表情を普段に戻すと、
ドクオの居るであろう方角に向けて、弾丸のカートリッジを投げた。
('A`) オットット
||‘‐‘||レ「じゃ……そういうことで」
感情をつとめて無にし、エノーラは闇夜に消えていった。
('A`)「ああ、みんなも頑張ってくれ……」
独り言のようにドクオはぽつりと呟いた。それから直ぐに
気を引き締めた。深呼吸を繰り返し、ホルスターの銃と
弾数とを確認し、次なる敵に備え、
( A )「(絶対に許さねえぞハンターども。てめぇらの思い通りにはさせねぇ)」
ハインリッヒがまったく動かなくなった今、弟者は
追撃の手を用意するに決まっている。それが第二のキャリアか
ハンターの集団かそれとも兄者か、どれも可能性は考えられるが、
いずれにせよ正念場であることは間違いなかった。
('A`)「(明日がくれば、どちらにせよ全てが終わる、
この夜だけは乗り切ってみせる。なんとしても……!)」
.
390
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 00:54:02 ID:AtOTda9o0
・・ ・・
・・ ・・・
さて、
ドクオが身を隠してから10分足らずの後にそれは起こった。
その異変はまず、隣の木の叫びだった。
その木はヒステリックな音を立てながら、震え始めた。
どんっ。どんっ。どんっ。
('A`)「!?」
等間隔に太鼓の音のようなものが聞こえたかと思うと、
それに呼応するように隣の木の揺れが徐々に徐々に増していった。
どん。どん。どん。
ドクオはとっさに周囲を確認する。音源は村外れの監視塔から
らしかったが、そこから丸く赤い光が音と同じタイミングで
明滅していた。どん、どん、どん。それからたちまち、
揺れていた木は激しくしなりだして、ぶちぶちと裂けるような音を立てた。
まもなく、支えを失ったかのようにその木は倒れてしまった。
その巨木の倒れた衝撃で葉っぱは舞い上がり、ドクオの顔にいくつも触れた。
ドクオは察知した。銃によって木が折られている。
大型銃によって緻密に暴力的に木を倒している奴が居る。
391
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 00:56:50 ID:AtOTda9o0
人間離れしたその射撃技術を、ドクオは無論のこと覚えていた。
(;'A`)「(兄者が、、狙ってきた……!)」
そして弾丸は二本目を狙いだしてきた。
またも聞こえる等間隔の音。どん、どん、どん。
その標的は、紛れもなくドクオの隠れ蓑だった。
(;'A`)「(うぐぉ……!)」
撃たれる度に、葉が枝が幹が振動した。見下ろすと、
砕けた木片がぱらぱらと腐葉土に落ちていく。
――どん、どん、どん。どん、どん、どん。
足場が、人を支えきれないほどに震えた。傾いてゆく。
ドクオは力任せに幹を掴んだが、視界はついにぐらんと揺れた。
木が、倒れだした。周囲にある無数の葉は
せわしなく動き、シンバルに似た音を立てて騒ぎ出した。
そうしてドクオは為すすべもなく、そのまま地面のほうに向かっていった。
392
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 00:59:26 ID:AtOTda9o0
巨木が大地に崩れ落ちるその衝撃と音は、
ドクオの身体をまんべんなく揺らし、鼓膜を刺激した。
(;'A`)「くっ」
そして乱暴な着地のとき、ドクオは思わず受身を取ってしまった。
しかしそれは大きな間違いだった。兄者のような観察者からすれば、
樹木に潜んでいたかいなかったかは、その動きで読み取れてしまうのだから。
案の定、わずかな音と動きを立ててしまったために、ハンター側に
ドクオの存在は完全に察知されたようであった。銃撃は途端に止んだ。
(;'A`)「(野郎ども勘づいたか……しかし、わざわざ木を倒す手段に
出たのはどうしてだろう。俺の所在はプログラムによって
知ることが出来るのに……単なる威嚇か、それとも……?)」
そうこう考えているうちに、複数人の足音が忍んできた。
重なった葉の間から様子を覗くと、それは紛れもなくハンター達であった。
ただしどれも雰囲気でただの下っ端ということが読み取れた。
.
393
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 01:02:22 ID:lihvIRU60
きたあああああああああ
394
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 01:16:39 ID:AtOTda9o0
ドクオはそっと銃を手にかけ、思案を重ねてみる。
連中が自分を追い詰めていることは承知だが、それにしては
すこし、連中から焦りを感じられる。キャリアという凶悪な追跡能力
を扱えるなら他にも方法はいくらでもありそうだが。
ドクオは知る由もないが、キャリアをプログラムしたコンピュータは
現在壊れてしまっている。もちろん別の端末に再度インストールすれば
いいだけの話で弟者も実行しているさなかであった。
そのために、ライフルという飛び道具を全面に押し出した捕獲を
しているのだが、ドクオにはまだ、その真実にたどり着けない。
ただひとつ言えるのは、全てが
チャンスでありピンチであるということ。
(::::::A`)
ドクオは呼吸を整えてからまず、やって来た下級ハンターの人数を
把握した。視界に入る分では5人であった。それから銃口の狙いを定める。
一番先頭を歩くハンターの、足元を狙い……
……撃った。とたんに「ぎゃん!」と犬みたいな叫び声が耳に届く。
それを契機にドクオは飛び出した。ハンターは対応しきれない。
だがドクオは一瞬で加速し、足を負傷したハンターの懐に入り込んだ。
そうして鳩尾を躊躇なく殴り込んだ。
「ぐうっ!」と絞るような声を上げて前のめりに倒れ込もうとする。
その辺りになって周りのハンターが状況に追いついて、怒声を上げながら
銃を抜き出したが、負傷したハンターが邪魔でドクオを狙うことが出来ない。
もとより、ドクオを殺害を許されないハンター達
にとって銃などあまり役に立つ代物ではなかったが。
395
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 01:25:20 ID:c4OR/G620
来てれぅー
支援
396
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 01:47:56 ID:bT0XvDj60
やったれドックン
397
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 01:48:15 ID:s8Lru0Dw0
tes
398
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 01:49:20 ID:s8Lru0Dw0
('A`)「おら!」
密着していたハンターを突き飛ばした、複数の声が聞こえる方へ。
すかさず銃を構えて別方向に居るハンターに向け、更に発射する。
兄者の狙撃時点で自身を殺す気はないと察知しているだけに、ドクオ
の自信あふれる喧嘩はとどまるところを知らなかった。
なにより、鬱憤が溜りに溜まっていたのであろう、拳銃で
怯ませてから懐に入っては打撃という戦術には容赦というものがなかった。
怒りに身を任せた一人が拳銃を乱射した。しかしそのときにはもう
ドクオは別のハンターの陰に隠れ、銃弾を回避している。
至近距離の発砲は肉壁にされたハンターを死に至らしめた。
「ああ…」と我に返ったときにはもう弾切れで、その隙を突いて
ドクオが突進してくる。真っ向から格闘するかリロードするかの
瀬戸際のときにはもう、ドクオのアッパーが彼の脳を思い切り揺らした。
失神しかけたそいつの襟元をドクオは掴んで、背負い投げの要領で
掲げたかと思うと、腰の引けた別のハンターにそいつを投げつける。
ふたたびドクオは走り出し、とどめにとタックルと頭突きを与えた。
半ば暴走状態のドクオだったが、脳だけはきっちりとフル回転を続けている。
残党の数と戦闘不能者を数えつつも、細かな殴打と蹴りで対応をしていた。
残りは二人だった。しかしそこでドクオの快進撃は止まることになる。
その二人はドクオの真正面と背後にそれぞれ陣取ってい、加えて
じりじりと銃の照準を定めていた。
('A`)「けっ……」
ドクオは蟹走りで照準から逸れると、壁を背にして振り返った。
――しかしその瞬間に頭に衝撃を受けた。動きに対応したハンターの
一人が古枝でドクオの後頭部に一撃をくわえたのだった。
399
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 01:53:17 ID:s8Lru0Dw0
(メ'A`)「………」
ドクオの身体がぐらりと傾いで壁にもたれ掛かった。舌なめずりを
するそのハンターが、二撃を与えようと棍棒めいた古枝を振り上げた。
その瞬間、ドクオは唾を吐いた。唾がそいつの鼻にかかった。
とっさの屈辱に一瞬ひるむ彼に、ドクオは前蹴りを放った。
会心の一撃だった。腹を突き上げられたそいつは倒れかけた。
すかさずドクオは彼の股間を蹴撃した。悲しげに沈んでいった。
残りの一人に目を向けると、そいつは電話をしている最中だった。
慌てふためいた敬語で、上層部に何か応援を要請しているのが把握できる。
むろんドクオは容赦せず近づくと、ストレートを加えて失神させた。
(メ'A`)「けっ」
ドクオはそいつの持っていた携帯電話を奪い、更にホルスターから
拳銃を抜き取った。逃げよう。逃げ道を探らなくては、
――しかし、背後から静かな足音が、聞こえてきた。
(メ'A`)「!?」
ドクオは知っている。その気配の主を。
紛れもなく、奴が辿りついたのだ。
( ´_ゝ`)
.
400
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 01:59:06 ID:bT0XvDj60
どうする
401
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 01:59:31 ID:s8Lru0Dw0
(メ'A`)「……くそ」
ドクオはたちまち銃を構えた。正面突破で太刀打ち
できる相手ではないことをドクオは身をもって知っているが、
この状況では闇に紛れて逃げることは不可能ということも承知であった。
兄者は構わず、少しずつ近づいてくる。ドクオもすり足で
うしろうしろへと離れようとしたが、距離は確実に詰められようとしていた。
( ´_ゝ`)
(メ'A`)
――さきに動いたのはドクオだった。定めていた照準から銃弾を
発射する。……だが、その弾は、途中で、逸れて、壁に、音を立ててめり込んだ。
ドクオは困惑したがすぐさまに理解をした。兄者がいつの間にか
拳銃をこちらに向けているばかりか、その銃口から煙が吹いている。
つまり、ドクオの撃った弾に対応して射撃し、弾道を変えたのであろう。
(;'A`)「………!」
人間技ではない。ドクオは戦慄した。
一流のガンマンともなれば、敵の撃ってくるタイミングが読めると
聞いたことがあるが、それを踏まえても信じ難い出来事だった。
402
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:02:21 ID:s8Lru0Dw0
この男から逃げられるのであろうか。
さきの出来事から言っても、兄者はドクオを本気で"捕獲"に来ている。
殺しにかかっていない。本来ならそこが付け目になるが、こと兄者に
そんな常識が通用するか、ドクオには判断しかねた。
(;'A`)「………」
ドクオはふたたび銃弾を放とうとした。しかしそれは叶わなかった。
さきに兄者の弾が発射され、ドクオの手の拳銃を吹き飛ばした。
指先に激痛が走り、手の付け根が折れそうになる。
その後の静寂に兄者が歩みをはやめた。
くそっ。そう言いさしながらドクオは弾けるように逃げ出した。
充分に背後の兄者をケアしつつ、全力疾走で闇夜に紛れようとする。
兄者も駆け足になって追いかけ始める。ドクオは横目で確認したが、
やはり銃殺される心配はないようだった。
403
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 02:06:20 ID:bT0XvDj60
チートだ!こんなもん!
404
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:08:32 ID:s8Lru0Dw0
――ただし、いつの間にか兄者の手にはロープが握られていた。
一方の先がゆるく輪をつくった、ロデオ用の投げ縄であった。
そうしてそれを走り去るドクオの背中めがけて投げつけた。
ひゅる、ひゅる、ひゅると風切る音を立てながら、投げ縄は
ドクオの浮いた右脚へ確実に向かっていった。ドクオは音から何が
迫ってきているかを察知し、縄に捕まる寸前で方向転換をし、それを回避した。
(;'A`)「ぐうぉおおおお!!」
( ´_ゝ`)
とっさの足さばきでアキレス腱に負担がかかった。
しかしドクオは躊躇せず、脚力を酷使して逃げ切ろうとする。
対し兄者は投げ縄の一環で追跡に遅れを取ることになった。
ふたたび追いかけるも、距離は先より伸びていく。
(;'A`)「………!!」
無我夢中に足を動かす。体力配分など考えなかった。
足場は次第に茂みや樹木が多くなり、森のほうへ向かっているのがわかった。
膝の負担が重くなる。急な斜面ではないが、ふくらはぎが痛んでくる。
ズボンが目に見えて汚れていく。若干ぬかるんでい、スピードが出しづらい。
405
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:12:21 ID:s8Lru0Dw0
背後で発砲音がした。かと思うと、前方の老いた木の枝が吹き飛んで、
ドクオの眼前に立ちふさがった。枝はためらわず突破するには大きすぎるが、
わざわざ避けるほどのものでもなかった。その思考で、一瞬だけ足の動きが緩んだ。
その緩みは、たちまちドクオに疲労感をもたらした。
息遣いも急激に荒くなって、膝ががくがくと笑い出した。
もう限界か。ドクオは逃げることを諦めた。覚悟を決めなければ。
迫ってくる兄者の足音は、次第次第にはっきり聞こるようになった。
(;'A`)「――!」
ドクオは枝の手前で急ブレーキを掛けると、逆方向――
駆け上ってくる兄者にむかって突撃をした。高低差はドクオに
利を与え、ドクオのタックルは程よい威力をもった。
(;'A`)「こなくそぉ!!」
( ´_ゝ`)
来る魔は急にとまれない。いきなりの反転をしたドクオには、
兄者も止まらざるを得なかった。しかし足を止めるその瀬戸際に、
ドクオの身体と兄者の身体とがぶつかった。
兄者が後方に飛ばされる……しかし、転ぶことはなく片膝で着地した。
ドクオは反撃の隙も与えず追撃の体勢をととのえた。
.
406
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:15:36 ID:s8Lru0Dw0
('A`)「……うらぁ!」
尽きかけた体力を振り絞って、ドクオは右ストレートを見舞おうとした。
兄者の顔面めがけて放たれたものだが、スウェーの要領で避けられる。
( ´_ゝ`)
(#'A`)「ち!」
疲労しているのに力を込めすぎたせいか、ドクオの身体のバランスが崩れかけた。
その瞬間に兄者がさらに接近してくる。ドクオは腰に力を入れて
体勢を無理やり立て直すと、その反動を利用してさらに裏拳を放つ。
いきなりの一撃だけに狙いはまったく定まっていなかったが、
兄者のこぶしに運良くヒットした。偶然によるものだったが、兄者の
殴打を食い止めたらしい。兄者はすかさずバックステップで間合いをとった。
(;'A`)「はぁ……はぁ……」
じりじりと互いを見つめる時間が続いた。
月光のみの暗い森の中では、ふたりの吐息以外に聞こえるものはなかった。
ドクオの体力は限界を迎えようとしていた。
普段の精密な格闘術も、常人以上の反射神経も披露できそうにない。
407
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:18:33 ID:s8Lru0Dw0
それでも、やるしかない。
ドクオはふたたびタックルを食らわそうとした。
だが集中力の欠いたそれには先刻の威力も速度も無く、
ただの高低差に身を任せたようなものだった。
兄者は激突する前に肘をまげ、拳を腰まで下げ、
( ´_ゝ`)
(#'A゚)「……ッ!?」
カミソリのようなアッパーカットを打った。兄者の右拳は
紛れもなくドクオの顎にクリーンヒットし、彼の脳に衝撃をくわえた。
(;'A`)「………!」
否でも応でもドクオは動くことができなくなった。
視界がぐらんぐらんと揺れ、あらゆる構えも取れやしない、
兄者を睨みつけることも、立ち続けることも、、、
そうして、意識も彼方へきえていった。
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
・・ ・・・・・・
・・ ・・・・・・・
408
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:22:59 ID:s8Lru0Dw0
・ ・ ・
(´<_` )「……ふん。ようやく起きたか」
(;'A`)「う……ぐぐ……?」
( ´_ゝ`)
ドクオは目を覚ました。薄らんだ視界は白く輝いたが、
見覚えのある白色灯だと気がつき始めた。頭がまだ痛むため
見回すことはできないが、そこは以前きたことのある裁判館の一室で
間違いはなかった。ただし今回は傍聴席には誰もいない。
―― 裁判館 1F
流石兄弟と、椅子と共に縄に縛られたドクオのたった三人だけであった。
(´<_` )「随分と手間取らせてくれたもんだ」
いつもの余裕さを見せず、弟者はぽつと呟いた。
ドクオの荷物を見やっては苦々しい表情をした。
('A`)「また此処かい……こんどは何を裁くつもりだ」
(´<_` )「さぁな」
.
409
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:27:57 ID:s8Lru0Dw0
(´<_` )「単刀直入に言うぞ、ドクオ。
いい加減に我々と手を組め」
('A`)「………」
広大な裁判室のなか、弟者は淡々と言葉を続ける。
(´<_` )「知っているだろう? キャリアに触れられた以上
お前がどこに行こうとも私には手に取るようにわかる。
よしんば逃げられたとしても、発掘箇所は筒抜けなんだ」
(´<_` )「その意味は理解できるだろう? それならば我々の
傘下に加わった方が、はるかに救われるというものだ」
('A`)「……たしかにな」
ドクオは逡巡した。傘下に加わることについてなどではない。
自身の信念を一端は無視をして、時間稼ぎのために
賛同の振りをするべきか否かについてであった。
だが、だがしかし――
ドクオにはもう、抵抗しがたい怒りが胸に宿っていた。
この目の前の男にひと時でも、屈するなど考えられぬことであった。
410
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:31:28 ID:s8Lru0Dw0
('A`)「ひとつ聞かせてくれ。デルタはどうなった」
(´<_` )「………。不慮の事故で亡くなったよ、
隠し通すことも出来んから言うがね。これは真実さ」
('A`)「そうかい」
('A`)「失せやがれ糞野郎」
(´<_` )「フン……」
弟者はつかつかと歩み寄り、ドクオの頬を思い切りビンタをする。
弾けるような音が走り去ると、ドクオは口から鮮血を一筋垂らした。
ドクオはきっと弟者を睨みつける。両者の表情は共にけわしい。
(´<_` )「今日の私は機嫌が悪い。言葉には慎んでもらおうか」
(´<_` )「ン? そうだろう? 未来の私の部下なのだから」
('A`)「はぁ? 誰が部下だって?」
不敵の目で弟者を睨め上げた。
弟者は笑いもせず怒りもせず、表情を変えぬままであった。
411
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:35:03 ID:s8Lru0Dw0
この状況でむやみに牙を剥くことは、けっして正しい選択肢とはいえなかった。
ただドクオには、名状し難い負の感情がこみ上げてくる。
理屈は充分理解していたが、ここで弱みを晒すことは彼の信念が許さない。
通さなくてはならない意地があった。
(´<_` )「命が無ければ、通すプライドも無意味なものだ」
( ´_ゝ`)
(´<_` )「愚かにも意地を張って苦しんでいく奴は何人も見ている。
……妥協しなければならないところで、強気に走ってしまう。
そうやって死ぬ愚か者どもさ。ちょうど、今のお前のようにな」
('A`)「お前らに屈したら、俺の全てがぶち壊しになるんだよ」
弟者は鼻で笑うと、ドクオを椅子ごと蹴り倒した。
蹴りと背凭れとの衝撃がドクオに苦痛を与えた。
森での疲労がそれに拍車をかけた。
しかしその体勢のままドクオは弟者を睨もうとする。
(´<_` )「お前も大概に阿呆だな。少しは才覚があると見込んでいたが?
そこで妥協して命拾いしろというのがわからんのか?」
('A`)「アホはおめーだ。他人の気持ちも読み取れねえ無能が」
412
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 02:37:42 ID:c4OR/G620
ドクオさんマジかっけぇッス
413
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:40:31 ID:s8Lru0Dw0
('A`)「コイツを見りゃわかるさ、お前が部下をどう扱ってるかってな」
そういってドクオは兄者のほうへ顔を向けた。
傍聴席との仕切りに腰を預けている兄者は、そんなふうに話題を
振られてもドクオに一瞥さえくれなかった。
相変わらず、無言で虚空を見つめていた。
( ´_ゝ`)
('A`)「てめえら兄弟に何かあったか知らねぇし知る気もねえ。
だが、ただ一つ言えんのはてめぇが部下を操り人形としか
思ってねえ無能上司ってことだけよ」
(´<_` )「………!」
弟者はやはり無表情のままだが、殺気を隠しきれずにいた。
('A`)「支配の項目もまるで落第点だ。お前、恐怖と暴力で無理やり
相手を手懐けるんだろ? それで人の上に立てたつもりか?」
(´<_` )
('A`)「俺には一人だけ部下がいる。けどそいつを恐怖で
縛ったことなんざねえよ。俺はそいつを信頼しているし、
そいつもきっと……いや、ぜったいに俺を信頼している。
弟者。お前には分かりゃしねえ話だろうがな」
(´<_` )「クックック……」
―― ゴリッ.....
414
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:43:49 ID:s8Lru0Dw0
.
('A゚)そ 「うぐッ!?」
(´<_` )「言いたいことはそれだけか?」
ドクオの縛られた手に――正確には左手の指に激痛が走った。
弟者はドクオの指を足で踏みつけていた。力を込めて、
潰れてもおかしくないほどに圧迫を加えている。
ぎりぎりと音を立てながら、弟者は抑揚のない声で、
(´<_` )「だから? 信頼がどうだとか、結局なにを伝えたいのだ」
(´<_` )「この状況を見れば分かるだろう。支配という言葉その意味を」
('A`;)「〜〜っ!!」
弟者は足の力に強弱をつけながら、見下してそういった。
対してドクオは苦悶の表情だった。指が折れてしまいかねない。
いや、このままの状態が続けば、あとはもう時間の問題であった。
(´<_` )「てめぇの信頼するセントジョーンズとやらは
いまのお前を救ってくれるのか? ああん?」
('A`;)「……う、る、、、せぇ」
.
415
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:47:12 ID:s8Lru0Dw0
(´<_` )「ははは、どうあれ無理だろうさ。彼はとっくに死んだからな」
('A`;)「………!」
(´<_` )「ククク……てめぇの目論見とともに木っ端微塵、さ」
弟者はそこでようやくドクオへの虐待を止めた。
腰を屈むと、苦痛でゆがみきったドクオの顔を存分に眺めながら、
(´<_` )「お前の希望とやらも潰れちまったんだよ。わかるだろう?
だから俺はお前に妥協しろといっている……
さ あ 、 服 従 し て お く れ …………!」
ドクオの額から脂汗がぽたりと垂れた。
どくんどくんと、心臓が裂けそうなほどに脈打っている。
脳裏を過るのはクー・スナオリャと、そしてセントジョーンズの姿だった。
(´<_` )「共に世界を築こう」
極めて穏やかな猫撫で声になって、
(´<_` )「私とキミなら、ハンター組合なんぞ敵じゃァないさ」
416
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:52:58 ID:s8Lru0Dw0
( ´_ゝ`)
( A )「下克上なら一人でやってろよ」
(´<_` )「………」
ぜぇぜぇと息づきながら言い放った。
弟者の沈黙を遮るために、ドクオは続けて、
( A )「俺はただ自分の…夢を切り開く、だけ……
なんどもいうが妥協は……あっちゃならない。。。
……てめぇが、ジョーンズが死んだと、いうなら……
あいつが俺の信頼抱いて、、、死んだなら尚更……
ぜってぇに諦めるわけにゃいけねぇんだよ、わかったかコラ……」
(´<_` )「ふうん、強情だな。この世の仕組みを分からせてやる」
そういうと弟者は兄者に向かって「戻せ」と命令した。
兄者が鷹揚に椅子を立ち上がらせる、そうして
ドクオの目にした光景は、弟者がナックルダスターを
胸ポケットから取り出すその動作であった。
417
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:56:44 ID:s8Lru0Dw0
そうして弟者はそれを自身の拳にはめ込んだ。
ドクオは舌打ちをすると同時に、強化された拳が頬にぶちあたった。
( A ;)「ぐっ……!」
口のなかで血の味が弾けるように広がり、強烈な鈍痛も響きはじめた。
(´<_` )「ふん……」
さらに続けて二発、三発とドクオの顔を集中的に殴打した。
ドクオは声を立てずにそれを耐えようとしたが、三発目には
悲痛な叫びを漏らした。耐えられないというよりも、
顔の筋肉が言うことを聞かなくなったような気分だった。
( A ;)「うッ……ぐふ……、ぐゥ……!」
(´<_` )「お次はこういうのはどうだいドクオ」
弟者は拳でのいたぶりを中断すると、
背後に回ってドクオの手のほうを確認した。
そうしてまだ痛みのひかない彼の小指を手に取ると、
(゚A゚;)「うぐぁ……ッ!」
ゆっくりゆっくり力を込めて、逆方向に曲げていった。
418
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 02:59:04 ID:s8Lru0Dw0
―― ぎり、ぎり、ぎり、ぎり……。
腱が裂けそうになる。小指の付け根は悲鳴をあげはじめる。
歯はがちがちと音を立て、その度に口内にたまった血が鉄の匂いを発した。
(゚A゚;)「や……やめ……!」
(´<_` )「他に言うことがあるだろう。ン?」
弟者は躊躇しない。
ばかりか、笑いながら力に緩急を加えた。
脂汗がドクオの傷だらけの顔に溢れていった。
(゚A゚;)「ぎ……うぎぎ……!」
(´<_` )「こんなのはまだ序の口だというのに……。
やはりお前も命乞いをするんだろうよ、ははは」
ドクオの目に涙がたまり始めた辺りになって、弟者は一端中断をした。
しかしドクオは息を整えると、震え声のまま、
('A`;)「てめぇなんかに……だれが……」
(´<_` )「……ほぉ?」
.
419
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:00:51 ID:s8Lru0Dw0
('A`;)「死んでも……逆らってやるぜ……このやろう!
てめぇのような、腐った……権力みてぇのにはよぉ……!」
( ´_ゝ`)
(´<_` )「そうかい、そうかい。ならば何かを失って頂こう」
弟者はやけに冷めた口調でつぶやくと、
自身のホルスターからリボルバーを引き抜いて、
(´<_` )「指を一本一本撃ち抜いてあげようじゃないか。
貴様の反抗心が、崩れ落ちるまでな」
( A ;)「………!」
思わず目を瞑った。歯軋りを立ててしまう。
しかし後悔は不思議と無かった。
目の前の男にだけは、何があろうと屈したくないのだ。
相対する弟者は優雅に、リボルバーの黒光りする銃身を見つめると、
シリンダーを回転させては点検をした。本気で撃つつもりらしい。
忍び笑いをしつつ、
(´<_` )「明日からは、まともな発掘も出来なくなりそうだねぇ……」
( A ;)「(くそが、くそが、くそがっ……!)」
420
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:02:58 ID:s8Lru0Dw0
弟者は弾の確認を済ませると、銃口をドクオの無抵抗の
小指にあてがった。しかし、
そのあたりになって弟者の背後で靴音がした。
弟者が不審に思い振り返ると、そこには兄者が立っていた。
( ´_ゝ`)
(´<_` )「……誰か動いていいと言ったか?」
弟者は苛立った声で咎めた。弟者は片膝立ちをやめて兄者と
同じ目線になると、それでも反応のない兄者に向かって、
(´<_` #)「誰が持ち場を離れろと言ったァ!? ああ!? 命令なく
歩くんじゃねぇッ!! 人形で居ろと言ったろうがッ!」
( ´_ゝ`)
ここに来て、ドクオも兄者の言わんとすることが理解できた。
つまりドクオへの過度な拷問に苦言を呈したがっているらしい。
(´<_` #)「……なんなんだよお前っ……兄者、兄者ァ……
意思を持つなとさんざ言ったじゃねぇか!」
( ´_ゝ`)
兄者は何も言わない。頭も振らない。
ただただ瞳の底には、言い知れぬ悲しみと激情とが秘められていた。
421
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:06:03 ID:s8Lru0Dw0
(´<_` #)「デルタのときもッ勝手な真似して楽しみ奪いやがって!
そしてお次はドクオもってか!? ふざけんなよッ!
正義気取りだかなんだか知らねえがよぉッ!!」
( ´_ゝ`)
弟者は物言わぬ兄者の頬に平手打ちをした。怒りに任せて
何度も何度も叩いた。兄者の唇が切れて血が顎に滴った。
(´<_` #)「………!」
( A ;)「おい、兄者おま」
しかしドクオの言葉はそこで遮られた。目にも止まらぬ兄者の早撃ちで
ドクオの脚近くの虚空を撃ち抜いた。発砲音とその残響だけが空間を支配する。
( ´_ゝ`)
(´<_` #)「何の真似だよ……俺に逆らいてえってか……」
422
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:08:24 ID:s8Lru0Dw0
.
( ´_ゝ`)
(´<_` #)「……くそが」
弟者は背を向いてつかつかと離れはじめた。
そうして壁に目を向けたまま、
(´<_` )「……ドクオをぶち込んでこい」
間を置かずに怒鳴って、
(´<_` #)「駐在所にだッ! さっさとやれェ!!!」
( ´_ゝ`)
( A ;)「………」
兄者はドクオと椅子とを繋いでいる縄を解くと、そのまま
ドクオを担いで扉へと向かっていった。ドクオはまったくの抵抗も
せず、生気を失ったようにぐったりとしている。
兄者が裁判館を離れ、広場の方へと歩いていく。
その姿を、弟者はやはりじっと見つめていた。
やがて、ぽつりと、
(´<_` )「なぜだ……兄者……」
.
423
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:11:59 ID:s8Lru0Dw0
・・ ・・
・・ ・・・
―― 同時刻 ノーナンバーズのアジト。
N| "゚'` {"゚`lリ「――明日、さ」
(((`・ω・´;)))
(*゚∀゚)「そうさね……」
||;‘‐‘||レ「………」
灯りのない古びたバーで、四人のメンバーは静かに語っていた。
デルタを失い、ドクオも囚われてしまった。
(*゚∀゚)「信じられないさね、明日がくるってのは……」
つーは髪の毛を弄りながら、落ち着かない様子で、
(*゚∀゚)「明日が、明日が……なんていうんだろうね、
こーんなこわくてちょっと気持ちよさそうなのってのも」
(((`・ω・´;)))
N| "゚'` {"゚`lリ「そうだな、俺も未来をどんな気持ちで受け止めていいのか判らない」
阿部は抑揚のない声で、
N| "゚'` {"゚`lリ「明日になれば、どんな形でも決着がつく。ドクオはそう言った」
424
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:17:17 ID:s8Lru0Dw0
N| "゚'` {"゚`lリ「俺達はやるしかない。仲間を失っても、
やるしかないのさ。ドクオは言っていたな、
"俺なんて俺のプランの歯車でしかない"って。
――死ぬつもりでやろう。デルタや、ドクオのように」
(*゚∀゚)「……そうさね」
(*゚∀゚)「そんじゃあたし、ほかの人に声かけしてくるさね」
つーはフラフラした足取りで外に向かっていった。
「気をつけろよ」の阿部の注意も、聞こえていなかったかも知れない。
(`・ω・´;)「神様オナシャス! 僕たちを……!」
||;‘‐‘||レ「私も……つーと一緒に」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、充分に注意してくれよな。
(ようやく、この村に転機が訪れるのか……。
そして俺にとって、俺の人生にとっても……)」
阿部は頭の中で昔の恋人を思い浮かべながら、
N| "゚'` {"゚`lリ「(正樹……俺には、復讐もお前も忘れられそうにねぇぜ……)」
.
425
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:19:01 ID:s8Lru0Dw0
(`・ω・´;)「なんでもしますから……なんでもしますから……」ブツブツ
N| "゚'` {"゚`lリ「(明日のためだけに、俺はここにやって来たんだからな……!)」
―― シェリフの駐在所。
( ´_ゝ`)
('A`;)「うぐっ……!」
兄者によって牢屋に放り込まれた。
ハーモニーに来て初日のあの牢屋と同じであった。
ただし今回はとても静かな夜だった。
怯えたように兄者を見つめる門番と、
物言わず牢内に倒れ込んだドクオ。
そして、やはり口を聞かない不気味なカウボーイの兄者。
.
426
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:21:14 ID:s8Lru0Dw0
「お疲れさまです」と門番が強ばった声で、去り際の兄者に挨拶をする。
そのときドクオはなんとか首を動かして様子を眺めようとした。
当然、兄者は何も応えない。立ち止まるつもりもないらしい、
ドクオは何かを言いたかったが、彼はそのまま闇夜に消えてしまった。
('A`;)「………」
弟者に弄ばれた小指が未だに強く痛んだ。
おそらく腱が損傷したに違いなかった。
だが、それよりも大事なものがドクオにはあった。
命とプライド、そしてプラン。
今夜はその全てを失いかねない危険性を
孕んでいたが、奇跡的になにもかもを守りきることに成功した。
427
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/09/30(日) 03:23:10 ID:s8Lru0Dw0
.
('A`#)「オリバー……ジャーブロ……!」
怒りを込めて、弟者の本名を呟いた。
看守はそれを聞いていたが、なにも言わずに俯いている。
牢屋の冷えた床の感触、その硬さを背中に感じながら、
解けない縄を手首と足首に感じながら、
('A`#)「(明日だ……明日、てめぇを……!
俺は負けねえぞ……! 何があっても、絶対……!
てめぇには屈しねえからな……!)」
月が狂態を見て笑う。
血と殺意に舞ったこの夜は、いままったく終わった。
そうして明日、その日が、その始まりが告げられようとしていた。……
.
428
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 03:25:11 ID:s8Lru0Dw0
今日はここで終わりです。途中時間があいて申し訳ない、
あまりにも寮のwifiが酷かったんでスタバのにつなげてますた。
ではよい夜を。
429
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 03:34:59 ID:c4OR/G620
乙
弟者は兄者の感じてることが本当にわかんないんだな…
430
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 04:00:44 ID:t9BFCbSA0
おつ!
読んでて凄いドキドキした
431
:
名も無きAAのようです
:2012/09/30(日) 13:20:59 ID:NORimOss0
朝から一気読みしたよ。面白いね。乙。
432
:
名も無きAAのようです
:2012/10/01(月) 13:43:05 ID:spFzvw.6O
乙
ハラハラする
指が無くなった時を想像して思ったが
この世界の義肢技術はどんぐらいなんだろ
433
:
名も無きAAのようです
:2012/10/01(月) 19:29:06 ID:zTluCLbk0
うあああああ乙!!
ドクオさんマジかっけぇっす!
何も語らないのに兄者の心情思うと辛い…
434
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/03(水) 13:32:30 ID:g65Ui6Ng0
レスどうもどうも。活力が湧いてきます。
ところで今週末は多分投下できそうにないです。
来週末かなぁ、いま現在は20レスくらい。
と、これだけも何なので、設定みたいのを垂れ流そうと思う。
作者でさえアヤフヤになった用語などの再確認などなど。
435
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/03(水) 13:38:08 ID:g65Ui6Ng0
・火星での人名
「 (称号) + 登録名 + 姓 + 名」の順に表記される。
登録名+姓が事実名、そこに名を加えて正式名と扱われる。
登録名は火星移住の際に自身で好きに付けられるが、大体は
ファーストネームの略称だったり愛称だったりが多い。
登録名と名が同じの場合、名をイニシャル表記にする。
(火星で生まれた人間は20歳のときに登録名変更の機会が与えられる。
ただし一般開放は17年前のため、この制度はまだまだ先の話である)。
例:あだ名がドクオのドンクホーテ・タケシ・ウツタール氏は
火星移住の際に「ドクオ・ウツタール」を事実名とした。
正式名は「ドクオ・ウツタール・ドンクホーテ・タケシ」である。
例:ジョン・セドリック・ワート・ジュニア氏はセントジョーンズという
名に憧れていたため、移住時に登録名をそれにした。よって、
「セントジョーンズ・ワート・(ジョン・セドリック)」
ちなみに父と同じ名でなくなった場合はジュニアを消してもよい。
例:登録名を面倒臭がったミルナルド・ジェームス・コットン氏は
「ミルナルド・ジェームス・コットン・(M・J)」の名を持っている。
阿部高和氏も「タカカズ・エイブ・(T)」が火星での正式名である。
(阿部は更に発音表記もしなかったため、エイブ読みにさせられた)。
例:流石兄弟は「兄者」「弟者」を登録名にしなかったため、
「アレン・ジャーブロ・(A・ニコラス)」
「オリヴァー・ジャーブロ・(O・トーマス)」が火星での正式名である。
436
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/03(水) 13:44:35 ID:g65Ui6Ng0
・事実名と正式名について
もっぱら事実名が日常生活の大部分で活躍する。正式名はパスポート
などにしか使われておらず、自分の名前なのに忘れそうになる人もしばしば。
セントジョーンズとか。
・火星考古学について
認知されてはいるが、火星人の存在を肯定する学問のため、
とんでも扱いされることも多い。文部省から補助金が降りていない
ため、大学で専門の講座は開かれていないし、大々的な活動もできない。
ドクオは火星考古学の第一人者だが、そうした問題のために
大学生時代から火星古生物学に籍をおいている。
・マーパーツについて
火星でごくたまに出土されるオーパーツ的存在。しかし世に出回っている
ものの殆どが紛い物である。そのため、オカルト扱いもしばしば。
多くはネックレスや人工的に加工された石など。
・エビについて
火星の古生物の化石の俗称。エビに似た生物が大多数をしめるためこう呼ばれる。
やはり偽物も多いが、マーパーツに比べると総数は非常に多い。
とても高価であるため、ハンターの活動の資金源にもなっている。
エビはマーパーツではない。流石兄弟の過去編で混合しちゃったけど
脳内変換してくださいネ。
437
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/03(水) 13:46:53 ID:g65Ui6Ng0
・火星人の最後の地
火星人の終の棲家。ドクオは火星の何処かに存在すると考えている。
この地を捜すために、マーパーツとエビを集めている最中である。
・火星の重力について
火星の重力は地球のと比べると非常に弱く、人間が活動する上では
不便であった。そのため、科学者達はどうにかして同等の重力に仕立て上げた。
よく分からないけど、とても凄いことだと思う。
・
>>432
火星の義肢技術
見た目が殆ど変わらない上、不自由ない生活を送れるレベルの義肢がある。
ただし火星はインフラが未発達なため、それを施せる病院は非常に少ない。
培養細胞による完全再生についても同様。地球で受けた方がはるかに安価。
ちなみにニューシベリアは、生身以上の性能を発揮する超技術の義肢を
作り上げたが、あまりにも高性能すぎたため、道徳上の問題で禁止された。
438
:
名も無きAAのようです
:2012/10/03(水) 15:42:36 ID:JDCVYnZ.0
乙乙です!
兄者好きだわ
精神は壊れても心はまだ死んでないってことか
439
:
名も無きAAのようです
:2012/10/07(日) 01:11:19 ID:xBcE0tsQO
やっぱり技術はめちゃくちゃ発展してるんだな
答えてくれてありがとう
440
:
名も無きAAのようです
:2012/10/07(日) 11:54:10 ID:67Z5dTEQO
久しぶりにきたらめちゃ更新してて嬉しい!乙乙!
441
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/10(水) 15:43:37 ID:jjCas4Rk0
どうもどうもー。
質問があったらこれからも遠慮なく。
それと、近いうちに投下します。
442
:
名も無きAAのようです
:2012/10/10(水) 22:07:25 ID:NAu9zDL60
予定通りだな
待ってるぜー
443
:
名も無きAAのようです
:2012/10/11(木) 15:33:36 ID:vbwQ4uyoO
wktkして待ってる
444
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:08:22 ID:SARND0eo0
投下するでよ
445
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:16:26 ID:SARND0eo0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
どれだけ望もうともフォボスが運動を止めること
はないし、太陽は常に顔を覗かせては朝を知らせにやってくる。
普段は埃っぽいハーモニーの往来も、このときだけは
朝露に濡れてしおらしい。がなり声を立てるハンターもいない
早朝のハーモニーは薄青い空の下、閑静な界隈になりきっていた。
太陽の光で空は紅く溶きほぐされたかと
思うと、瞬く間に明るげな青を取り戻していった。
縄で繋がれた馬達は、餌を待ちわびてそわそわと動き始める。
村外れの養鶏所も俄に騒がしくなっていく。
そう、運命の日はやって来た。
.
446
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:20:47 ID:SARND0eo0
―― シェリフ駐在所 その牢屋。
(メ'A`)「………」
看守に手足首の縄を解かれ、朝食のトレイを手渡された。
ドクオは物言わずにそのトレイを眺めている。
冷え切ったバターと一摘みの塩、薄く輪切りされた茹でジャガイモ、
その隣のコールスローにミルクの入ったカップ。それで全てらしい。
牢の鍵が締められてから、ドクオは食事を開始した。
不味いコールスローをミルクで無理やり流し込み、
バターと塩をそのまま口に放り込んだ。バターを口内で溶かしながら
ジャガイモの輪切りをどんどん頬張っては嚥下する。
途中、喉が詰まりそうになったら更にミルクを一飲みする。
(メ'A`) モグ モグ
さいごのひと切れを咀嚼しながら、ドクオは鉄格子の外を見た。
広場とその中央の一本杉。そこで処刑されたダミエルの死体は
当たり前だが撤去されていた。キャリアに利用されたのだろうか、
ドクオはそんなことをぼんやりと考えた。
447
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:27:39 ID:SARND0eo0
(メ'A`)「………」
そうして計画について思案を重ねた。この状況下では
ドクオ自身は何もできない。プランが成功しない限り、
一生自由にはなれない。ドクオは身震いしそうになったが、気を引き締めた。
(メ'A`)「(成功する……必ず……)」
そのとき、ハーモニーの上空で流星のようなものが光った。……
―― 裁判館 地下射撃場
( ´_ゝ`)
兄者は、映像空間でひたすら射撃をしている。
ときおり距離の設定を変えてはまた銃弾を放つ。
それを何度も、何度も繰り返していた。
両手に拳銃でピンポイントにエネミーの脳天を撃ち抜いていく。
448
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:31:13 ID:SARND0eo0
その殆どが満点を記録していた。たまに誤差が生じても、
次の弾ではきちんとエネミーを殺しきるという腕前だった。
( ´_ゝ`)
百人あまりの仮想敵を撃ち殺すと、それで本日のノルマは
達成になった。装置の電源を切って額の汗をタオルで拭いた。
タオルを脇のデスクに置いてから、ふと兄者はシャツの下を
まさぐってロケットを取り出した。開いて、なかの写真を確認する。
シアトル時代の流石ファミリーの宴会写真を縮小したものだった。
兄者の隣で座っているヒールは、大口を開けて笑っている。
そのヒールを挟んで隣にいる弟者は、グラスを片手に微笑んでいた。
( ´_ゝ`)
.
449
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:35:10 ID:SARND0eo0
―― アレンはいつもそうだッピャ、生きるのに全力で。
―― そ、そうかぁ、ははは……。
―― 本当に凄いと思うっピャ。流星のように生きる。
有言実行してて、カッコイイ! キャー!
―― 褒めてもなんもやんねーぞ?
―― 何言ってるっピャ? いつもアタイはアレンから貰ってるよ?
アレンの、眩しい眩しい光って奴をね。アレンはみんなの憧れなんだ。
( ´_ゝ`)
兄者は普段からウエスタンシャツに隠して
ロケットを携えていたが、頻繁に写真を眺めたりはしなかった。
ただ今日だけは、ふいに見たくなったのであろう。
そして兄者は気がつかない。
ハーモニーの上空でそのとき、流星らしき光が尾を引いているのを。
.
450
:
449の前にこれが
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:36:41 ID:SARND0eo0
兄者はなにを思って、それを見つめていたのか。
あるいは、その遠き過去を振り返りながら、
当時の自分や仲間のことを思い出していたのかも知れない。
―― ってわけでな、今夜からはゴアの残党刈りよ。
奴らも必死で俺を殺しにくるんだろうな、面白くなってくるぜ。
―― アレンは怖くないッピャか?
―― うーん、どうだろうな。怖くないわけじゃあないんだが……なんつうか、
ああやって命削って戦うとな、生きてるって感じがしてくるんだよ。
―― ………ふーん。
―― っておいおい、呆れたみたいな顔すんじゃねえよ!
―― 逆っピャ。
―― ん? 逆って?
.
451
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:38:42 ID:SARND0eo0
―― 裁判館 2F 弟者の仕事部屋
(´<_` )「……本部に繋がらないだと?」
部下のそんな報告に、弟者は眉をひそめて、
(´<_` )「まあいい、送金は正午辺りに私がやっておこう」
「ありがとうございます」と深々お辞儀する部下をよそに、
(´<_` )「しかし、不通か。そんなことが起こり得るものか……」
……弟者が村長に就任してから、ハーモニーは完全にハンター村と
化したのは有名な話である。そして当然ながら、ハンター組合本部から
庇護を受けている。治安自治権を獲得し、近辺のマーポール
とも癒着できるのは、やはり本部の力によるものであった。
ほかにも空域侵犯拒否エリアの設定、闇オークションのための
富豪たちへのコネクションなど、様々な恩恵を受けている。
そしてハーモニー側は、対価としてロイヤリティを本部に払っている。
今朝もそのつもりだったが、何故だか本部に連絡が取れなくなっていた。
前日のこともあり、ついつい弟者の脳裏に不安がよぎっていく。
452
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:45:23 ID:SARND0eo0
(´<_` )「(ドクオが何かをしでかしたのか? いや……流石に
本部を壊滅させられるわけはないし、電話線を
叩き切るという問題でもない。……奴はこの件には関係ないか)」
弟者の思考にそのとき、信じたくないような予想がポンと浮かんだ。
それはありえないと自身で打ち消そうとしたが、念のためにと、
(´<_` )「ファッカーに至急連絡をしろ。奴め、途中報告もなしとは
ふざけた真似をしていやがるが……」
「かしこまりました」
それから弟者はふいに背を向いて窓の向こうを見やった。
清々しい快晴だった。雲一つない、順調な空模様だった。
(´<_` )「……キャリアも用意だけはきちんとしておけ」
弟者はどうにも、胸騒ぎを覚えて仕方がなかった。
前日の兄者の予想だにしなかった行動。
ドクオの何処か余裕を隠し持った態度。
そして今の、連絡が途切れている状態。
(´<_` )「(………)」
453
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:48:30 ID:SARND0eo0
すると、電話番が慌てた様子で弟者の部屋に入り込んで、
「モアブ署のマーポール(警察)が至急会いたいと!」
また、不安材料がひとつ。
(´<_` )「……適当に、あしらっておけ」
「しかし……」
(´<_` )「口ごたえするな、 やるんだよ」
「は、はい!」
そういって電話番は飛び出ていった。
(´<_` )「………」
弟者は無言で空を見つめていたが、やがて部下相手に確認する口調で、
(´<_` )「……本部直々の迎撃ミサイル、あれさえあれば
最悪の手段も乗り越えられる。だろう」
部下の「最終兵器ですからね」という返事に頷いて、
(´<_` )「(……籠城も可能ならば、……いや、しかし……)」
454
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 01:53:07 ID:SARND0eo0
本部直々の迎撃ミサイル。それはハンター組合本部が設置した
防御用兵器で、敵からの攻撃を完全に無力化することに特化している。
ハーモニー近くのの鉱山ふもとに発射台は存在し、組合本部の衛星システム
によって自動防御システムが常時発動している。何らかの誘導体が
空域に侵入してきた場合、無条件でそれを墜落させ、ハーモニーを守護する。
仮にドクオがどんな凶悪な破壊工作軍を連れて来ようが、
飛び道具だけは確実に防ぐことが可能というわけだった。
ちなみにこのミサイル台は、サイドニアでは
組合本部とハーモニーの二箇所にしか存在していない。
迎撃ミサイルは基本を本部の制御室が管轄しているため、
無力化させるには本部自体を壊滅させるか、あるいは電波ジャック
でもして攪乱作戦といった方法が考えられるが、現実的ではない。
現実にドクオには、その二つの方法を取ることは不可能だった。……
.
455
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:00:04 ID:SARND0eo0
(´<_` )「……ん?」
―― そのときだった。
澄み切った青空の彼方から流星らしきものが見えた。しかし、
目を凝らしてみると、それはただの自然現象でないことがわかる。
(´<_` )「……あれは、ミニ・マスドライバーか?」
ミニ・マスドライバー。発掘調査の補助のために
使われる輸送専用装置であり、物資を発射して目的地に送り込める。
いかにも、ドクオが大学院のセンターに頼んだ代物であった。
それはどんどんと此方へ向かって来る。
落下地点は間違いなくハーモニーの何処かに設定されているのだろう。
(´<_` )「……血迷ったかドクオ、迎撃されることも承知だろうに」
しかし、破壊されることもなくラグビーボール形の巨大カプセルが
近づいてくる。ひゅるひゅると音を立てながら落下運動に入り始めた。
.
456
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:01:48 ID:SARND0eo0
.
(´<_` )「な……っ」
おかしい。なぜだ。迎撃ミサイルが……なぜ発動しない?
混乱しながら弟者は、窓の向こうの光景を凝視した。
そうして、墜落されるべき巨大カプセルが、なんの障害もなく着地していった。
(´<_` ;)「な、なんだとぉ!?」
すぐに弟者は振り向いて、
(´<_` ;)「おいどうなっている!? ミサイルはなぜ仕事しない!?」
「わ、私にも……」と唖然とした表情の部下に、弟者は続けて、
(´<_` ;)「すぐにカプセルの方へ人を割け! 俺は今から
本部へ電話をする!……急げ! ドクオの仕業だ!
奴はなにかをやりやがったんだ!!」
.
457
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 02:04:01 ID:LuypbkqA0
どうなるどうなる
458
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:06:19 ID:SARND0eo0
慌てて飛び出す部下を尻目に、弟者はさっそく本部に連絡を取ろうとした。
しかし、まるで繋がらなかった。番号は間違いなく合っているが、
誰も応対しようとしなかった。どういうことだ、弟者は苛立ちながら受話器を置いた。
そのとき、窓の向こうでは再びミニ・マスドライバーからの発射物
がふたたび見えた。今度は三つであった。しかし、焦る弟者を嘲るように、
そのどれもが村外れに優雅に着陸していった。
迎撃ミサイルなど、まるではじめから無かったかのように。
(´<_` ;)「くそ……! いったい、なにが起こっている…?」
そこでふたたび扉が開いて、兄者とベガーがやって来た。
(´<_` ;)「ベガー! 緊急事態だ、至急この館内の組員に告げろ!
二手に分かれて片方はカプセルの押収、もう片方は
村の見回りだッ! そしてドクオを連れてこい!」
(´<_`#)「はやく動けェッ! もたついてんじゃねえ!!」
459
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:09:44 ID:SARND0eo0
怒鳴ってベガーを無理やり働かせた。部屋には兄者と弟者の
流石兄弟だけが残ったが、無論のこと相談も会話もしない。
(´<_` ;)「(どうなっている……どうなっているんだ……!?)」
( ´_ゝ`)
裁判館はみるまに慌ただしくなって、カプセルの落下地点の
把握に四苦八苦しているらしい。弟者は思考に身を沈める。
なぜ迎撃ミサイルが発動しないのか、なぜそのタイミングを
狙ってミニ・マスドライバーが放たれたのか、なぜファッカーや
本部などに連絡が取れないのか。さまざまなピースが回転しては
組み合さろうとする。やがてそのうち弟者は行き着く。
さきほど過ぎった"最悪の可能性"が、真実に近いということに。
(´<_` ;)「(まさか、まさか……そんな、そんな 馬 鹿 な !!
だとしてもどうやって連絡をつける、奴にそんな
コネクションがあるというのか、なにか……
……おれは何かを、見落としていたのだ……!?)」
そしてそのとき 村の何処かで、けたたましい爆発音が轟いた。……
460
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:14:03 ID:SARND0eo0
.
――― 前日。サンフラワの町外れ。
……ドクオの個人倉庫に立ち入ったセントジョーンズとクー、
それとシラヒーゲの三人は、まずはじめにデスクの上に置かれた
封されていない茶封筒を発見した。セントジョーンズが手にとって、
(’e’)「これはドクオさん直筆のっすね〜。あけますわ」
川 ゚ -゚)「わたしはこれを起動させよう」
といって、クーはスリープ状態のコンピュータに触れた。
( ´W`)「いか臭い部屋ですな、で、とにかくロックみたいにですね、……」
(’e’)「んーと、これは……緊急事態用みたいっすね」
セントジョーンズは、文面に目を落としながらぽつんと呟いた。
まさしくその通りで、ハーモニーに潜入する、もしものときは
マーポールに連絡を入れてくれといった内容のものだった。
日付や理由などを殊更に書き付け、サインにくわえて血印を
押しているのをみるに、ドクオのライフラインであることに疑いなかった。
461
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:18:19 ID:SARND0eo0
(’e’)「………」
文章を読みながらセントジョーンズが黙っているとき、
コンピュータのディスプレイに光が点った。クーとセントジョーンズは
さっと画面を眺めた。発掘カメラの、画像用フォルダが開かれている。
(’e’)「うおお〜」
川 ゚ -゚)「――これが、私たちの武器……!」
そこには既に、ハーモニーで撮られたであろう写真がサムネイルに
なって並んでいる。堅気ではない人間の歩き姿を隠し撮りしたもの、
銃弾の埋め込まれた壁や片腕のない原住民など、まるで昔の内戦地のようであった。
川 ゚ -゚)「で、私がこれらを使って記事にすれば良いのだな」
( ´W`)「ん〜、なんかドクオさんと誰かが写ってますな」
シラヒーゲが一つのファイルをクリックし、拡大した。
その画像は何故か、ドクオといい漢とのツーショットだった。
川;゚ -゚)そ 「阿部さん!? どうしてハーモニーに居るんだ?」
(’e’)「誰ですかぁ、このイイおとこは」
川;゚ -゚)「知り合いだ。誰かを捜すといって、行方不明になっていたんだが……」
462
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 02:19:35 ID:tuWD0ZeQ0
支援
どうなるんだ一体…
463
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:20:45 ID:SARND0eo0
川 ゚ -゚)「……ハーモニーに目当ての人間が居たのか、それとも
その道中で閉じ込められたか、どちらにせよ……」
( ´W`)「おやぁ、こちらは手紙を撮ったものぽいですな」
(;’e’)「ちょ、おま」
シラヒーゲは勝手に操作をし、別の画像ファイルを拡大した。
彼の言う通り、それは文章を写真におさめたものであった。
それはまさにドクオからの第二の手紙であった。
クーはシラヒーゲの代わりに操作し、画像の比率を上げて
文面をより読み取り易くした。だが、そうして明かされた文章は、
セントジョーンズとクーを混乱させるものであった。
川 ゚ -゚)「……どういうことだ?」
(;’e’)「は、え? ド、ドクオさぁん?!」
その"第二の手紙"の書き出しはこうであった。
丁寧な文字で、ドクオらしい筆記のまま、
” 親愛なるクー・スナオリャへ。これらの画像、及びこれから
送られる全ての画像は決して、 記 事 に し な い で 頂 き た い。"
.
464
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:24:44 ID:SARND0eo0
( ´W`)「はて、これじゃ何がなにやら。本末転倒ですな」
川 ゚ -゚)「………」
シラヒーゲの言うとおりだった。"ハーモニーの現状をとらえた
写真あるいはドクオの第一の手紙を基に、クーが記事を作り
公表する"というのが当初の――すなわち、セントジョーンズに
教えた計画のはずであった。だが、第二の手紙はそれを真っ向否定した。
第二を手紙をわざわざ、書置きせずに画像として転送した理由。
それはカメラが使用出来る状況でないと発動できない一手だった、
というのが真相なのだが、当のふたりにはまだ理解できていない。
ともかく、画面をスクロールして全ての文面を読みきった。
( ´W`)「……ほう」
(;’e’)「……はぃい?」
川;゚ -゚)「……そんな、ことを」
(;’e’)「で、出来るんですかぁ? 危険すぎないっすか!?」
セントジョーンズは慌ててクーに振り返って言った。
クーは目を瞬かせながら、
川;゚ -゚)「……そりゃ、あの事件以前から連絡はとっていたし、
無論のこと私のパソコンにはまだ残されているが……
だからといって、出来るかと言われたら……それは……」
465
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:27:34 ID:SARND0eo0
三人に静寂が訪れた。だが、
川 ゚ ー゚)「それは――――面白い。やってやろうじゃないか。
気に入ったよ、ドクオ・ウツタール。その徹底的に
喧嘩を売るって姿勢、まるで私とそっくりだな」
(;’e’)「クーさぁん! 当初の予定でもいいんじゃないっすかぁ!?」
川 ゚ -゚)「いや、此方の方が揺さぶりの面でも上等だ。画像自体にも
よるが、決まれば一気にハンター村を壊滅させられよう」
( ´W`)「しっかしギャンブルですなぁこの作戦」
(;’e’)「そうっすよ! 知らぬ存ぜぬだったらどうすんすか!?」
川 ゚ -゚)「そんなことは有り得ない。私を舐めているのかい?
それに私はね、こういう危険な一手が大好きなんだよ、知ってるだろう?」
.
466
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:29:58 ID:SARND0eo0
―― クーがそう言って不敵な笑みを浮かべたときだった。
外から、爆発音がした。
川 ゚ -゚) 「「「!!!???」」」 (´W` )(’e’)
三人は慌てて背後を振り向き、目を大きく見開いた。
壁や扉ががたがたと震えて、異変を如実に知らせていた。
音が残響していく中、ひときわ怯えながら、
(;’e’)「う、う、う、うわぁ〜〜〜〜!!!」
(;´W`)「ぅひぃ〜〜〜!!!」
川;゚ -゚)「……!(爆発音!? しかも……相当近かったぞ)」
そうだった。目先の嬉しいニュースにとらわれ、連中につけ狙われる
危険性を考慮していなかった。唇を噛んでからクーは己を恥じた。
やがて、爆音の余韻がおさまってきた。すると外から騒いだ声が届いてきた。
ただの野次馬かシラヒーゲのお仲間さんが慌てふためいているのかと
思ったが、声の調子はいやにドスが聞いていて、殺気立っている。
「……なんだてめぇらは!」
「…触るんじゃあねえ……!」
明らかに堅気ではない人間の声色と台詞だった。
ここまでくればセントジョーンズですら何が起きたか察せられる。
ハンター達だ。
.
467
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:34:23 ID:SARND0eo0
腰を抜かした男達を置いて、クーはそろりそろりと扉へと向かい、
騒ぎの内容に耳を澄ませてみた。すると、どうやらハンター達以外も
混じっているらしく、さらにハンターはなにやら抵抗をしているふうだった。
川;゚ -゚)「………」
抵抗した怒声に混じって、やけに妙な声色の調子も耳に届いてくる。
オカマというか、ゲイバーでよく耳にするような口調であった。
なんだか気の抜けてくるような語りもちらほら聞こえてくる。
更にいえば、おかまらしき人物は複数であるらしい。
――くそったれが! 触んじゃねえ気色悪いッ!! てめぇら
いったい何なんだよ!? 俺らを誰だか分かってんのか! ああ!?
……ええ、とうぜん承知ですとも、ええ、そうよ、ハンター村の
ハンターさんなんでしょう? お話は伺ってよ、あらァそんな顔
しないでったら、ねッ ねッ……………
川 ゚ -゚)「………」
川;゚ -゚)「開けて、みるか」
さしあたっての危機は無さそうだし、クーはドアノブを回して
そうっと外の様子を伺おうとしたが、さっそく火薬の臭いが鼻についた。
顔を顰めたくなるところで、砂埃が扉ごとクーを叩きつけてくる。
それでも目を凝らしてみるが、煙が至るところに立ち込めてい、状況の
完全な把握は不可能であった。一応、会話はより鮮明に聞き取れるように
なったものの、内容は相変わらず罵詈雑言とカン高いゲイトークに一貫している。
468
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:38:09 ID:SARND0eo0
風がやみ、視界も開けた頃になって、ようやくクーは周囲の人間の
姿を把握することが出来た。出来立てのクレーターを挟んださきに、
ハンターらしきならず者達が数名と、見たこともない屈強なゲイ達、
それに先程みかけたシラヒーゲの仲間達であった。もっとも、その
シラヒーゲのギーク友達は全員が同じように腰を抜かしてい、専ら
ゲイたちがハンター連中を縛り上げている。彼らの手には縄とナイフが
あり、前もって準備しておいたことが予測された。とはいえ、
クーには未だに、ことの全容が掴めないのだが。
川 ゚ -゚)「……おや?」
視界の端で何かが動いたので、とっさに
目を向けてみると、一人の老人が此方を眺めていた。
( ,'3 )
そのうち彼はビル陰に隠れ、それきり姿を現すことはなかった。
おおかた爆発音を聞きつけた野次馬だろうと、クーは気にも留めず、
騒動の中心人物達に注意を戻した。
呼吸を整えてから、一歩を踏み出した。意外にしっかりした
足取りで彼らに近づくと、ハンドバッグに手を突ッ込みつつ、
川 ゚ -゚)「何が起きたのか、説明してもらいたい」
「「「「「…………………」」」」」
ゲイもハンターも、ついでにギークもクーに注目を集めた。
たちまち縛り上げられたならず者共が騒ぎ始める。「殺す」だの
「犯してやる」だの聞くに耐えない下品な言葉を並び立てた。
469
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:41:21 ID:SARND0eo0
.
川 ゚ -゚)「(ああ煩い。貴様らの母体を今に壊滅させてやる)」
「あーらア、あなたがクー・スナオリャじゃないかしら。
ドクオちゃんの言ってたライターの使いって、あなたのことでしたの?」
ふいに声をかけてきたのは、黄色いセーターを着込んだ細いゲイボーイだった。
とはいえきちんと屈強なハンターを地面に押さえ付けているだけあって、
筋力はそれなりにあるらしいが、ともあれ彼は続けて、
「ええ、ええ、返答はいらなくってよ。私たち知ってますもの。
ドクオちゃんにあなた達を遠くから守りなさいって頼まれたのよ?」
川 ゚ -゚)「ドクオ・ウツタールが……」
クーは混乱したままだったが、とりあえず彼らゲイ・ボーイズがクー達の
命を守ってくれたのは確からしい。クーは警戒心を解いて
かれら正義のヒーローを眺めた。声を掛けてきた細面のハンサムから、
筋肉の塊のようなこわもて、化粧のけばけばしい中年男性と妙なくらいに
ラインナップが充実しているが、あとから聞いてみると、彼らは
寂れたゲイ・バーの売り子だという。おキミ――れいの黄色いセーターの
彼は、お侠な鼻声で「はじめましてね」と挨拶をしつつ、
「とりあえず、こいつらをとっ捕まえるのを手伝ってくれないかしら」
続けて、化粧のけばけばしいハルちゃんという名の筋肉漢が、
「あたしたちだけじゃ抑えるのに手一杯。ぐるぐる巻きにして
抵抗できないようにしなくっちゃ。いじめてやるったら」
それを機にハンターどもの怒声がより一層激しくなったが、
クーはただ「わかった」と了承し、倉庫内で未だ怯えているであろう
セントジョーンズとシラヒーゲを呼び寄せた。メンバーが集まってから、
話のすべてを聞くつもりでもあった。
470
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:45:02 ID:SARND0eo0
ともあれ、クーは必死にセントジョーンズとシラヒーゲ、それと
シラヒーゲの仲間を呼び寄せて確保の手伝いをさせると、
まるでインタビューをするかのようにゲイたちに話を聞き始めた。
そうしてわかった情報を並べ立てると、
―― ええ、そうなのよ。私たちはドクちゃんに頼まれて
一週間だけ見回りしてたのよ。目的はもちろん彼らの保護よ。
あたしたち、こーんな儚げでもそこらの男より強いったら。
―― そうよぉ。私たちはすぐに気がついたの。あ、この子ったら
悪い虫につかれてるんだわって。だからあなた達を尾行する
ハンターたちを尾行してたのよぉ。こいつらってば、ほんとアホね。
―― あーラ、ママもそう思うの? いくら捕まえられそうになったから
って持ってた手榴弾投げるだなんて、馬鹿の極みよねえ。
ええ、ええ、分かってますとも、危険な仕事ってのは。けれどね、
あのドクちゃんに頼まれたらウンとしか言えないわぁ。だってそうでしょ、
ドクちゃんたちは私たちのダンスや声色を褒めてくださるんですもの。
川 ゚ -゚)「把握した」
つまりドクオは、セントジョーンズやシラヒーゲには知らせずに
彼らの身の安全などを保障しようとしたらしい。それがまさに的中し、
弟者の放った刺客を見事にとっ捕まえられたという。たやすい話だった。
彼らは……ハンター連中は気がつかなかったのだ。
陰から身じろぎせずに観察している連中、ゲイの方々を。
.
471
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:47:06 ID:SARND0eo0
(;’e’)
(;´W`)
(;’e’)「ドクオさん……」
「――あとね、もう一つ頼まれたことがあって……」
と、ハルちゃんという筋肉が、縛ったハンターの隣に屈んで、
彼からクールフォン(携帯電話)を取り出そうとした。……そのときである。
そのハンター、ファッカーを捕らえていた縄は縛りが緩かったのであろう。
彼ががむしゃらに暴れだすと、するすると締め付けが弱まっていった。
それに気がついたファッカーは立ち上がって、抑えようとした
セントジョーンズを、その鼻をぶん殴った。
(;’e’)「ぐぇっ!?」
川;゚ -゚)「しまっ……」
後ろから抑えかかろうとするハルちゃんにもエルボーを食らわせ、
彼は颯爽と逃げ出した。慌ててゲイ連中とクーが追いかけるが、
死に物狂いのファッカーの脚を越すことはできなかった。
唯一、余力の残ったクーだけが路地裏に逃げ込んだファッカーの
足取りをおった。とはいえ、走りながらクーは不安を感じていた。
女性である自分に出来ることはあるのだろうか。
川;゚ -゚)「はぁっ……はぁ……」
「くそったれが!」と、先をゆくファッカーの舌打ち。
.
472
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:50:19 ID:SARND0eo0
ファッカーは再び角を曲がった。しかし、その際に追跡者を
視認していた。自身を追っているのはクー・スナオリャただひとり。
それをファッカーは知ってしまった。
クーの心中に恐怖が芽生える。逃げ込んだその角を曲がれば、
ファッカーが襲いかかってくるのではないか、と。
川;゚ -゚)
しかし、だからといって止めるわけにもいかない。
ここで取り逃せば、弟者にここでの一部始終を知られてしまえば、
最悪の展開が訪れることになるのだ。クーは息を弾ませながらも
意を決した。背後には仲間はもう居ない。全員振り切られてしまったようだ。
やるしかない。何がなんでも、ファッカーに"連絡"をさせてはいけない。
ぜったいに譲歩できないラインだった。そうして、
川;゚ -゚)「………!」
角を、まがった。
川 ゚ -゚)「!?」
そこで待っていたのは、信じられない光景だった。
ファッカーが、物も言わずに倒れ込んでいる。
.
473
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:55:02 ID:SARND0eo0
川 ゚ -゚)「(体力切れか?! いや、外傷のようだ……)」
咄嗟に後ずさって、その狭い路地裏を目で確かめる。
狭く不衛生な小道で、レンガ造りの建物に挟まれた典型的な路地裏だ。
そのちょうど道の中央で、ファッカーが俯せになっている。
彼のそばには彼が吐血したらしい痕が残っていた。そうして
奥に目をやってみると、不思議なことに老人が佇んでいた。
( ,'3 )
川 ゚ -゚)「………!?」
川;゚ -゚)「あなたは――いや、あなたが――」
しかし、質問を投げかけたときになって、
ビル風が吹き込んできた。砂埃が舞う。慌てて目を覆い、
それから視界を開けてみると、不思議なその老人はもう消えていた。
あとに残されたのは、呆然としたクーと動かないファッカーのみであった。
ファッカーを叩きのめしたのはその老人だろうか? しかし幾ら疑問を
抱いても、それが導かれる状況ではなかったし、何よりもまず
やるべきことがあった。クーはそうっとファッカーに近寄って
状態を確かめてみる。死んだように見えたが、脈はきちんと動いている。
ほっと息をついてから、その気絶したファッカーのポケットをあさった。
そうしてハンター御用達のクールフォンが手に入った頃になって、
仲間がどたどたと駆けつけてきた。全員で来なかったが、
それは残りのハンターを監視するためであろう。
474
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 02:58:55 ID:SARND0eo0
(;’e’)「だ、大丈夫ですかぁ!?」
鼻血を手で抑えながらセントジョーンズがまず言った。
クーは「ああ」と頷く。そうして、手にしたクールフォンを
振ってみせると、彼らはわぁっと喜んでみせた。
しかし次に気絶したファッカーを目にし、
(;´W`)「クーさんがやったのですか!?」
川 ゚ -゚)「あ、いや……それが……」
(;’e’)「どひえぇ〜〜!」
川 ゚ -゚)「(ああ、もう面倒だ) そうだよ、とにかく手に入ったんだ」
認めると、男達の顔からさっと血の気がひいたが、おキミちゃんだけは
私をみれば女が強いってわかるじゃなアい、なんて笑いながら近づいて、
「ほおんとありがとね、あなたが居なかったら……いいえ、
元々あなたありきの作戦ですもの、そんなこといってもしようがないわねえ。
でも、こっからは私の領域ですの、その電話を貸してくださらない?」
と、ばかばかしいくらいの丁寧な口調で言われたので、クーは
クールフォンを彼に手渡すと、おキミちゃんはさっそく発信履歴を
覗いてファッカーの上司たる「オリヴァー・ジャーブロ」の名と番号とを確認した。
475
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:00:29 ID:SARND0eo0
川 ゚ -゚)「? なにをするつもりなんだ?」
「まァ、見ててらっしゃいよ」
どこまでも外れた調子でおキミちゃんは返してくる。クーが
しかめっ面をすると、彼の同僚たるゲイ達がひそひそと、
「彼ったらアクロバティックも声色も玄人はだしなのよ。
だから……わかるでしょ? 私たちィ静かにしなくっちゃ」
川 ゚ -゚)「……声色? まさか……!」
そのまさかであった。おキミちゃんは喉を一通り撫でさすっては
声色を確かめると、躊躇なく弟者の番号へリダイレクトした。
セントジョーンズ含め、皆が皆、しぃんと静まり返って
おキミちゃんの演技を見守っていた。数回のコールのうちに
弟者が電話に出たようで、訝しがられないうちに矢継ぎ早に、
「ああ、弟者さん! ファッカーです。早速ですが
クー・スナオリャとセントジョーンズ・ワートを仕留めました」
電話口から、弟者が「おお、そうか。よくやった」と返ってくるが、
「ただし手榴弾を使ったので死体の損傷が激しくて、どうにも……。
……え、ああ……報告書。すみません、了解です。はい、はい……
了解しました、野次馬どもは私たちが、はい、了解です、それでは……」
.
476
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 03:01:54 ID:LuypbkqA0
なんと…
477
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:04:54 ID:SARND0eo0
声色使いに電話で真似をされればひとたまりもない。
ましてや此処は芸達者な人間のひしめくサンフラワである。
弟者はそこを失念していたらしく、
勘付く様子もなく、忙しいと言葉を残しただけで切ってしまった。
しぃん。ふたたび一同に静寂が訪れる。そこにクーが口火を切って、
川 ゚ -゚)「だ、だましきったのか?」
「ええ、でもその場凌ぎかしらねェ。明日にはバレてしまうわ」
(’e’)「明日ですか?! つーか、電話口で騙してどうすんですか!?」
「それも要領を得ないのよねぇ。ドクちゃんは"闇を引き摺りだす"
とかなんとか格好いいこと言ってたけど、ねぇ」
川 ゚ -゚)「カメラが無力化したと思わせるためにか? 確かに
その方がスクープショットが取れる可能性は上がるだろうが……」
(;’e’)「つまりそれってドクオさんが危険ってことじゃないですかぁ!?」
川 ゚ -゚)「そういうことになるな」
引っ捕えたハンター達に催眠スプレーをかけながら、そっけなく言い放った。
川 ゚ -゚)「ドクオ・ウツタールはこうなることを予想していたらしいな。
となると、私達も第二の手紙を従わなければ、全てを台無しにしてしまうだろう。
――彼はいま、死に物狂いでハーモニーと刺し違えようとしている。
私はそれを全力で支援しなくてはならない。そうだね?」
.
478
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:06:56 ID:SARND0eo0
騒動の片付けを済ませ、ゲイバアの方々と別れてから、
クーとセントジョーンズは再びドクオの個人倉庫に足を踏み入れた。
ふたたびコンピュータを起動し、第二の手紙が撮影された画像ファイル
をクリックする。その文章を眺めながら、
川 ゚ -゚)「……私の腕の見せ所だな。ところで彼は私のこんな性格
を見込んだ上で計画したのかな? たしかにジョルジュ
とのインタビューは、このプランと似た所があるんだが」
(’e’)「どうなんでしょうねぇ〜。ところで、本当に大丈夫なんですか?」
川 ゚ -゚)「常識で考えれば。いくら仲違いしたからって連絡先は
私もハンターも消しはしないさ。学生カップルじゃァないんだから。
私が送れば、あちらも相応の対応をしてくるのは違いない」
そういって、ふたたび第二の手紙を読み始めた。
479
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:09:29 ID:SARND0eo0
” 親愛なるクー・スナオリャへ。これらの画像、及びこれから
送られる全ての画像は決して、 記 事 に し な い で 頂 き た い。
なぜならこれらはハーモニーを潰すための武器に過ぎず、決して
ハンター組合全体の悪事を暴露するものではないからだ。
手短に目的を伝えよう。私はこれからも、カメラを利用して
徹底的にスクープショット、ハーモニーの抱える醜聞を
このコンピュータに転送し続ける。あなたはそれらを武器に
ハンター組合、いや、ジョルジュ・ナガオカを直接的に 脅 迫 し て も ら い た い。
あなたは有名なライターであり、ジョルジュとはホテル・サイドニアで
一悶着を起こしている。つまりあなたとジョルジュ双方には連絡先が
まだ残されているということ。なるべくハーモニーから手を切るよう、
暴露されたくなければハーモニーを解放しろという調子で誘導してもらいたい。
なるべく迅速に。あなたがこれを確認するのはいつなのか
承知できないが、時間が経てば経つほど確かにスキャンダルを
送られる可能性は高くなるだろう。だがその分、私の生存可能性も
低くなっていくのだ。そこの見極めをしっかりしてほしい。何故なら
私も自分の命は惜しいからね。
そしてセントジョーンズ。クーさんとジョルジュの交渉が
上手くいったら至急、ダディに連絡してミニ・マスドライバーを
打ち上げるように手配してくれ。直接の火力が無ければ、俺は
すぐに殺されてしまうだろうから。頼んだぞ、セントジョーンズ。
あなたとセントジョーンズの無事を願って。"
ドクオ・ウツタール
.
480
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:15:18 ID:SARND0eo0
.
ドクオの作戦は一点を揺さぶることに終始していた。
すなわち、標的たるハーモニーの上層部――組合本部や、
マーポールをとにかくけしかけて、ハーモニーの力を弱めることにあった。
ドクオはハーモニーに単身で乗り込む前に、ありとあらゆる状況と
その対策を練ろうとしたが、やはり確実なプランニングは出来なかったし、
確固たるものにする時間もなかった。クー・スナオリャとジョルジュの
インタビューの一件を聞いて「これは使えるぞ」と今回の作戦の
第一希望としたわけだが、まさかここまで
上手く行くとは当人も思わなかったに違いない。
ただ、そのホテル・サイドニアのインタビューの一件を
考えれば考えるほど、その実用性が見えてくるのだ。
まず第一に、その一部始終を知るものは限られてくるということ。
そしてクーの持つ、宣伝力や求心力を余すことなく利用できること。
ジョルジュの激怒し易くも狡猾な性格さえ、作戦の視野に入れられること。
無論のこと、弟者はその一件を知る由もない。
クー・スナオリャに勘づき、仲間になることを予想は出来ても、
まさか自身の直接の上司たるジョルジュを揺さぶることなど
想像もできないに違いなかった。ただ、彼女の持つ知名度を
利用してプレスなりを焚きつけるくらいと、弟者はたかをくくっていた。
本部に「切られた」ことは予想できても、
その理由を推察することは不可能であった。
.
481
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:19:09 ID:SARND0eo0
(’e’)「ドクオさぁん……」
必死に脅しの文面を考えているクーを
横目に、セントジョーンズはぼんやりと呟いた。
手榴弾を投げ込まれそうになり、あやうく命を落としかける
ところだったが、それによってセントジョーンズは、
ドクオの陥っている状況というものを肌で感じることが出来た。
どこか惚けていた自身の尻に、火がついたような気がした。
何が何でも、クーには成功してもらいたい。……
そうしてその夜、クーとドクオのもとに信じられないような
スクープが舞い込んできた。いかにも、それはハインリッヒの
死体を無慈悲に操作するキャリアの姿そのものであった。
クーは素早くそれをジョルジュに送りつけ、強気の脅しと
弱者の演技を駆使し、とにかく組合本部を揺さぶった。
組合本部も、キャリアの存在を公にされることだけは
避けたかったのであろう。そっけない返事が夜中に返ってきた。
「組合はハーモニーとの関係を断つ」という結論が、そこには書かれていた。
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
482
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:20:47 ID:SARND0eo0
―― そして本日に戻り、 渦中のハーモニー。
指定された場所は、アジトの傍の牧場だった。
今は牛も馬も舎で食事を取り、まさにミニ・マスドライバーの
着陸地点としてはうってつけであった。
ドクオはハーモニーに乗り込んでから、ノーナンバーズの
存在を知ったので、アジトから近いというのは全くの幸運だった。
阿部はそれを聞いて思った。運命は、俺達に味方していると。
(;`・ω・´)「き、来た……本当に来た!」
N| "゚'` {"゚`lリ「……ああ、ああ!」
阿部とシャキンは牧場のど真ん中で、空から降りてくる
ミニ・マスドライバーの卵型カプセルを見上げていた。
撃墜することもなく、カプセルは横回転をしながら緩やかに落下した。
風が、青々とした草を薙ぎ立ててはどっと吹き抜けていく。
音も立てずに着陸すると、機械的な音を立ててそのまま静止した。
阿部はとっさに周りを後ろを見、ハンター共が来ていないか確認する。
どうやらまだ来ていないらしく、人っ子ひとりいなかったが、
弟者にはミニ・マスドライバーのことは知られたことだろう、
やがて拳銃を手にしたハンターどもが列挙するに違いない。
.
483
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:22:39 ID:SARND0eo0
N| "゚'` {"゚`lリ「急ごう」
シャキンを急かすと、飛びつくようにカプセルに近づいた。
ボタンを押してロックを解除すると、中から様々な物資が顔をのぞかせた。
サンドクラウン、ジャンピンロープのような発掘用品に
ドクタービスケット、タウリンソイヴィタといった食料、
発炎筒や拡声器などの小道具類が敷き詰められ、
そして、サブマシンガンや麻酔銃、小火器たち。
(;`・ω・´)「やべぇよやべぇよ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「………!」
ふたりは鞄にそれらの物資類を詰め込みつつ、カービン銃の
重さや手榴弾の感触を確かめ、ポケットにしまいこんだ。
阿部はぞくぞくとチリ毛立つのを感じた。武器の持つ
怪しい光は、彼の瞳にうつっては吸い込まれていく。
「「なにをしているんだテメェらァアッ!?」」
N| "゚'` {"゚`lリ「「!?」」(`・ω・´;)
そのとき背後からドスのきいた声が届いた。
声の主の名前は分からなくとも、それが複数のハンターなのは承知だった。
といっても、弟者から直接指示を受けた人間ではないらしかった。
緊張よりも無知ゆえの苛立ちが声に出ていた。
阿部とシャキンは、ゆっくり、ゆっくりと振り返った。
484
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:24:19 ID:SARND0eo0
ふたりとも、手に麻酔マシンガンを携えながら。
「「!?」」
三人のハンターだった。明らかに強ばった表情をした。
ショックで未だ動けないその悪党どもに、阿部とシャキンは遠慮ない様子で、
N|# "゚'` {"゚`lリ「「喰らえぇえええッ!!!」」(`・ω・´#)
麻酔弾を乱射した。
だだだだだだ、と小気味よい連打音が牧場に響いた。
白煙が立ち上る。
その中を阿部とシャキンは鞄を肩に、銃を片手に疾走した。
倒れた三人のハンターなど見向きもせずに。……
485
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:26:16 ID:SARND0eo0
.
.
486
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:27:24 ID:SARND0eo0
.
「ドクオッ!!!」
(メ'A`)「!?」
独房のなか、ドクオは顔を上げた。そのときに、機関銃の
乱射音も同時に聞こえ、シェリフ駐在所は破壊にみちた。
鉄柵の向こうの騒動も混じって、混沌は強まった。
看守が物も言わずに倒れ、机やそれに乗っていた小道具も
地面に落ち、花瓶も水を立てながら壊れた。
煙がいっそうに舞って、しかしドクオの視野は狭くなった。
だが、
N| "゚'` {"゚`lリ「大丈夫か!? 生きているなっ!?」
(メ'A`)「……阿部さん!」
武器を片手に阿部が襲来してきたようだった。
阿部は鍵を看守からまさぐると、すばやく牢屋を解除した。
487
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:29:42 ID:SARND0eo0
ふらふらと立ち上がったドクオの肩を素早く
抱きかかえると、阿部は駐在所外を見やりながら、
N| "゚'` {"゚`lリ「お前のプランは成功したようだな」
(メ'A`)
N| "゚'` {"゚`lリ「シャキンが暴れてるお陰でここらが手薄でな。
おかげで簡単にお前を救出できた」
(メ'A`)「………」
そうして、ふたりで広場の方に目を向けた。
それは、まさに阿鼻叫喚のような光景だった。
488
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:31:32 ID:SARND0eo0
.
遠くで絶え間なく聞こえる爆発音――手榴弾が、ハーモニー全体で
投げ使われている。数え切れないほどの発炎筒は煙を立て、
ハーモニーの空を覆い尽くそうとしている。時折、機関銃の音も。
広場はごった返していた。シャキンやつーに物資を手渡された
原住民たちが、それによってハンターに立ち向かったり、
あるいは村の外へ出ようと走り回っている。彼らの走る音が、
地響きのように聞こえてくる。反対にハンターたちは右往左往としている。
銃によって抵抗しようにも、暴徒と化した原住民を抑えることなどできない。
棍棒をもって襲いかかる住民を銃で殺そうとしたその隙に、
後ろから別の原住民が殴りかかり、手も出ないままそのハンターは
地面にキスするという有様で、さらに走り去る連中に足蹴にされていた。
(メ'A`)
ドクオは狂熱に充ちたハーモニーの広場を、じぃっと見続けていた。
誰も駐在所に目を向けようともせず、ただただ出口へと駆けていく。
それらをどうにかして止めようとするハンター達は、
ただ、ただ、滑稽だった。
.
489
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:32:44 ID:SARND0eo0
叫び声と煙が混じり、さらに手榴弾の爆発音が騒動を後押しする。
前日からつーとエノーラによって、心の準備をするようにと
原住民たちに伝えていたらしい。皆が皆、混乱をしつつも
一つの道を進んでいこうとする。シャキンは特に銃で暴れまわり、
バイフックを襲撃すると更にその二階からハンターを狙撃していた。
(メ'A`)
流れ弾が駐在所に入り込んできた。だが、それさえドクオには
どうでもよかった。阿部から手渡されたエナジードリンクを一気に
飲み干すと、はぁはぁと荒い息遣いになって、
(メ;A;)「成功、したんだ……」
と、ぽつりと呟いた。涙を拭って、表情を戻そうとする。
そんな様子を見ながら阿部は、鞄から拡声器を取り出した。……
.
490
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:35:32 ID:SARND0eo0
―― 裁判館 2F
たちまち混乱に落とし込まれたハーモニーを、裁判館の
二階の窓から弟者は眺め続けていたが、部下が慌ただしく扉を開けると、
(´<_`;)「全ハンターに騒動の鎮圧を命令しろッ!
加えて貯蔵したキャリア共もオートで始動させるんだ!」
「しかし、キャリアは……」
まごつく部下の声。遠くから聞こえる手榴弾の爆発音に呼応するように、
(´<_` #)「黙って言う通りにしろ!! 撃ち殺すぞ!」
無理に焚きつけて其奴を働かせる。それから弟者は再度、
本部に電話をしてみたが、やはりの不通だった。弟者は
悟り始めていた。我々は、いや、ハーモニーは本部に切り捨てられたのだと。
(´<_`;)「(理由はスキャンダルか……? しかし、どこの
メディアも醜聞を伝えていない。なにが、なにが……!)」
.
491
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:38:09 ID:SARND0eo0
.
( ´_ゝ`)
兄者はいつも通りに起立していた。弟者のデスクの横で
人形らしく、不動のままだった。その視線は窓のさきの
破壊活動に向けられていた。巻き上がる白煙。銃撃音、
罵声、怒声、地鳴りのような音。それを見続けていた。
眺め続けていた。
(´<_`;)「こうなれば、徹底的に……!」
( ´_ゝ`)
弟者は気がつかない。傍に立っている兄者の瞳のいろに。
表情こそ無変化のままだったが、瞳の様子だけは変化していた。
ときおり広場で放たれる爆炎の光が、兄者の瞳を怪しく彩った。
.
492
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:39:25 ID:SARND0eo0
そのとき、拡声器で拡張された
誰かの訴えが、ハーモニー中に響き渡った。
『俺たちは自分たちのために戦乱を起こしたんじゃない!』
『俺達は弱者の代表として、この腐敗した世界に小石を投じたんだ!』
( ´_ゝ`)
(´<_`;)「!?」
弟者は慌てて外の様子をふたたび確認した。
兄者もやや遅れて、弟者の傍に立って広場を見下ろす。
ハーモニー中の騒乱はやや落ち着きを取り戻したように、
ホンの少しだけ静まった。その拡声器の主の次の言葉を
待つかのように、皆が皆、興奮をすこし抑えた。
493
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:41:25 ID:SARND0eo0
.
―― その声の主は、シェリフ駐在所の二階に居るらしかった。
『今ここで! 既存体制をブッ壊さなければ!
もう我々に希望は生まれないのだッ!!』
(´<_` #)「誰が、誰がナメた真似を……!」
遥か昔の自分らの訴えを引用し、反乱に花を添えている。
弟者は血眼になって、その声の主を探し出そうとした。
如何にもそれは阿部だったが、流石兄弟は彼の声など覚えていない。
発声源は概ね特定できても、その正体は判らずじまいだった。
しかし、その次に拡声器を持った者の声だけは、聞きなれたものだった。
『落ち着いて行動をしてほしい! 原住民の方々よ、
どうか怒りに身を任さずッ 村の外に避難してほしい!!』
( ´_ゝ`)
(´<_`;)「この声は……」
(´<_` #)「ドクオ・ウツタール……!」
.
494
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:44:07 ID:SARND0eo0
流石兄弟の視界に、ドクオが現れた。駐在所の二階のテラスから、
身を乗り出して拡声器片手に、避難勧告を続けていた。
その様子を、弟者は歯軋りしながら眺めている。
(メ'A`)『 〜〜〜ッ! 〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』
近場のハンターがドクオを撃とうとしても、それをまた
別の原住民が阻害する始末で、弟者には屈辱の展開の連続だった。
(´<_`;)「馬鹿にしやがって……!」
( ´_ゝ`)
そうして、一通りの説明を終えたドクオは、今度は裁判館に向き合った。
拡声器
に口を当て、居るであろう流石兄弟へ向けて、
(メ'A`)『よう弟者。お前はどうやら、人を舐めすぎたみたいだな』
(´<_`;)「………」
(メ'A`)『気分はどうだ、この状況でも俺達を愚か者呼ばわりできるかい?』
(´<_`;)「……貴様ッ……!」
495
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/13(土) 03:46:00 ID:SARND0eo0
.
(メ'A`)『―― 覚 悟 し ろ よ 、 流 石 兄 弟 。
て め ぇ ら の 作 り 上 げ た こ の 偽 り の ハ ー モ ニ ー 、
ぶ っ 壊 し て や る ぜ 。 た っ た 今 か ら ッ ! !』
(´<_` #)「………ッ」
( ´_ゝ`)
―― なり止まぬ爆発音、白煙に覆われた村。
武器を手に入れた暴徒は、ハンター達を襲い続ける。……
.
496
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 03:47:32 ID:SARND0eo0
投下終了です、次は二週間後くらいかな? それではよい眠りを
497
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 04:01:19 ID:LuypbkqA0
乙 wktkすぎるぜ…
俺も寝る
498
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 04:26:30 ID:.1Ue9zwI0
最高に乙
499
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 04:26:54 ID:b5bJ64iM0
乙!!
楽しみに待ってる!
500
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 09:58:42 ID:XFISi6Y60
おつ
今までさんざんやられたぶんスカッとするな
501
:
名も無きAAのようです
:2012/10/13(土) 10:40:20 ID:CQLAFIVQ0
乙……!!wktk止まらん
やっちまえドクオ!!
502
:
名も無きAAのようです
:2012/10/14(日) 12:54:25 ID:4Y5pI0GMO
華麗に乙
503
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:15:43 ID:/iOXtpyE0
キャリア使用の証拠をクー・スナオリャに握られたと
いう痛手は、裏でハンター組合に絶縁されるほどのものだった。
結果的に本部から譲り受けた迎撃ミサイルさえ不能状態になり、
ドクオの放ったミニ・マスドライバーによってもたらされた
武器類によって、ハーモニー原住民は一揆をし始めた。
唐突な展開にハンターはついてゆけず、弟者は鎮圧を各々に命じたが、
今までの怒りに突き動かされた住民達の暴動は収まらなかった。
秩序の崩壊したハーモニー。
統制を乱されたハーモニー。
不協和音を奏るハーモニー。
こうして今も、村の外へ逃げ出す者が居れば、
今までの仕返しとばかりに武器を振りかざす者も、
この期に乗じて空き巣をしでかす輩も居た。
ハンターの中にだって、この状況に諦めを感じて
反旗を翻す不届き者や、逃亡者だって存在している。
オリバー・ジャーブロの作り上げたハーモニーは、
指揮者と団結の心をなくそうとしていた。
.
504
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:20:30 ID:/iOXtpyE0
・・・ ・・・・
・・・ ・・・・・
・・・ ・・・・・・
―― ヴィップグラードから続く、だらだらした公道。
そこを颯爽と走る一台の白塗りセダン。
スモークガラスをはり、ボンネットにはバッファローの角を
取り付けたその姿は、一目でアウトローの所有車だと決めつけられた。
やはりそれにいま乗っているのは、
運転手を除けばハンターの大物ふたり。
一人は組合の理事長、ジョルジュ・ナガオカ。
もう一人は幹部のリッチー・サイモン。
リッチーはクールフォンで部下と会話をし、
その隣に座っているジョルジュは、苛々しながら煙草を吸っていた。
( ゚∀゚)y-~「………」
( ゚ 」゚)「……なるほど、そうですか。いやいや、その脅しさえ
通じないというのなら、相当なバックが控えているようで」
( ゚ 」゚)「同様にスリープ・フラワーズも強硬な姿勢でね、
まったく、これでは何が何やら……組合の権威も地に堕ちたようで、ふふ」
505
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:30:04 ID:/iOXtpyE0
( ゚∀゚)y-~
( ゚ 」゚)「了解、了解。では、ごきげんよう」
リッチーは丁寧に電話を切ると、ふうとため息をついて外の
移ろいゆく風景を眺めた。シャープな男らしい顔立ちに、
黒目がちに潤んだバンビの瞳。それが、火星の荒土を捉え続ける。
派手なメイクをした見た目からはとても、ハンターの大御所とも思えない。
せいぜいが時代錯誤のミュージシャンといった風情だったが、それはともかく、
( ゚∀゚)「おい」
ジョルジュは煙草を灰皿にぐしりと押し付けてから、
( ゚∀゚)「なんだよ今の電話ァ。組合がどうとか適当なこと吹いてんじゃねえぞ」
( ゚ 」゚)「事実、だろう? たかが建設会社と花屋を脅しきれないのだから」
打って変わって口調が友人のようになると、リッチーは
ジョルジュのほうへ目を向けた。滲んだアイラインを見せつけながら、
( ゚ 」゚)「おまけにクー・スナオリャにはコケにされ続け、
ドクオ・ウツタールもその傘下に入ったという……
随分と情けない話じゃないか。これから落とし前をつけるといっても、
所詮は僕たちの領土の者たち。……今でも言うが、流石兄弟は、生かすべきだ」
( ゚∀゚)「だまりな。そうも言ってられねえんだよ」
( ゚ 」゚)「僕は殺しなんかしたくないし、見たくもないんだよ。
ましてやそれが同僚だなんて、とても耐えられそうにない」
506
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:31:22 ID:/iOXtpyE0
( ゚∀゚)「てめぇが殺すんだよ……!」
( ゚ 」゚)「………」
ジョルジュは歯をむき出しにしてリッチーを睨みつけた。
が、リッチーの左腕に、また新しい傷が増えているのを発見すると、
露骨に舌打ちをした。あからさまなセルフ・ミューティレーションの
痕は、これからの仕事を拒絶しているように思えたのだった。
( ゚∀゚)「お前がハーモニーの連中を粛清する。わかってんだろぉ?
今までさんざ、似たようなことをやって来たじゃねえか」
( ゚ 」゚)「覚えてないよ。目覚めが悪くなるんでね、全部忘れることにしている」
リッチーは露出した両腕をスーツを着ることで隠した。
ジョルジュはやれやれとポーズをとってみせると、
( ゚∀゚)「笑わせんなよ、"歩く兵器"のテメェがよ!!
いいか、この粛清は、次の絶頂、の、ための、犠牲だ……!
やるんだよォ!! ハーモニーでなァ!! 殺せ……!!」
( ゚ 」゚)「………」
ハンター組合の理事長、そして幹部。その
ふたりは渦中のハーモニーへと向かっていった。……
507
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 16:31:50 ID:r9ibIr9QO
キタ支援
508
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:33:33 ID:/iOXtpyE0
.
―― ハーモニー 裏路地
N|#"゚'` {"゚`lリ「おるぁあッ!!」
阿部は叫ぶと、傍のハンターに回し蹴りを食らわせた。
たまらず吹っ飛んだそのハンターは石造りの壁に激突し、
小さくうめき声をあげながら伸びた。阿部はそいつに寄ると、
ホルスターから拳銃を抜き取り、弾丸もついでに頂戴した。
間を置かず、背後から複数人の足音の気配を感じた。
さっと物陰に阿部は潜むと、やって来る者の正体を、銃を構えつつ
見極めようとする。またも周囲で発炎筒が焚かれたらしい、
白煙がその一帯を隠しはじめる。その機に乗じて阿部は
発砲しやすい位置まで歩いていく。声もはっきり聞こえてくる。
ああ、こいつらはハンターどもだな。と判断したところで、
N| "゚'` {"゚`lリ「強烈な一パツ、ぶちこんでやるよ」
銃を乱射する。一発とは名ばかりの連続した狙撃で、
白煙の向こうの連中もたまらず応戦と撃ち始める。一発が阿部の
頬を掠め、ひやりとさせたが、それで終いだった。
白のモヤが取り払われる頃には、ハンターは全滅していた。
しょせんハンターといっても銃撃や戦闘に慣れている者は少ない。
多くはろくに扱えもしないくせに持ち歩いて、威張り散らしている連中だった。
.
509
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:39:34 ID:/iOXtpyE0
そんなハンター達にとって、原住民の反乱を静めるのは難しいことだった。
なにしろようやく手に入れた自由への切符なのだ、原住民はそれこそ
死ぬ気になって抵抗し続ける。窮鼠が猫を噛むというわけでもない。
日々重労働を強いられた原住民の方が、フィジカルの面でも上である。
( `・ω・´)「――お前もしてほしいんだろ、ほらッ」 パンッ……
更に言えば、敵に相対したときの銃を放つスピードも違う。
これはむしろ、覚悟の差というべきだろうが、ともあれ
鎮圧を遂行するものはどんどん減っていった。
しばらくするとハンターには、この機に乗じて盗人を働こうと
いう輩も増え始めた。馬鹿正直に任務を遂行することに呆れ、
火事場泥棒の方が性に合っているのだろうが、
そこを阿部は食い物にしているのだった。
シェリフ駐在所でドクオと別れたのち、阿部はただひとり
こうしてハンターを倒し続けていた。それもこれも、
全てはただひとつのため。復讐。地球から持ち込んできた、復讐のため。
N| "゚'` {"゚`lリ「てめぇらフニャチンどもじゃ満足できねえんだよ……!」
足元に転がるハンターを蹴りつけながら、阿部はしずかに言い放った。
N| "゚'` {"゚`lリ「流石兄弟ィ……! 仇を取らせてもらうぞ……!!」
.
510
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:43:32 ID:/iOXtpyE0
―― 裁判館 2F
( ´_ゝ`)
(´<_`;)「………!」
騒動は収まるところを知らない。鎮圧を命じてしばらく経つが、
むしろ騒ぎは激しくなる一方のように見えた。この裁判館も
手榴弾や弾丸の被害は受けている。強固なセキュリティが無ければ、
いまごろは侵入されていたであろう。
弟者は窓から広場を眺めながら、なんども舌打ちをする。
(´<_`;)「おのれぇ……! ドクオの、野郎ォ……ッ!」
ドクオのあの宣戦布告を思い出すだけで、弟者の胸に憎悪が広がっていく。
なんとしても、この騒動を揉み消し……いや、
それよりもまず、あの生意気な学者の首を刎ねてしまいたかった。
手駒にする気は完全に失せ、代わりに膨大な殺意がふつふつとこみ上げていた。
.
511
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:46:04 ID:/iOXtpyE0
その怒りが、ためらっていた決断を後押しした。
戦火を眺めながら、振り返りもせず、
(´<_` )「……兄者」
( ´_ゝ`)
(´<_` )「この騒ぎを止めてこい……。そして、
ドクオ・ウツタールを討ち取ってくるのだ」
( ´_ゝ`)
(´<_` )「他の連中は役立たず……兄者、お前が行くしかない。
ボディーガードの任務は忘れて構わん、行け……」
革の椅子に腰掛けると、弟者は淡々と命令を告げた。
( ´_ゝ`)
そうして兄者は、やはり無言のままだったが、こくりと頷いた。
.
512
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:49:58 ID:/iOXtpyE0
兄者はゆっくりと、弟者のデスクに歩み寄った。
それから胸元からロケットを取り出すと、強ばったような
動作でそれをデスクに置き、訝しんでいる弟者をじぃっと見つめた。
(´<_` )「なんだ、これは……」
弟者はこわごわとロケットを開け、中の写真を確認した。
地球時代の、まだ力も無かった頃を写した一枚。
それを見るや苦々しげに、
(´<_` )「まだこんなものを……」
( ´_ゝ`)
弟者は苛立ちを顔に出しながら立ち上がって、
(´<_` )「何を望んでいるのか知らんがな……
うだうだせずに行ってこいッ! 緊急事態なんだよ!!」
( ´_ゝ`)
兄者は立ち止まったまま弟者の怒声を聞いていた。
やがて、ほのかに寂しそうな表情を浮かべたが、後ろを向いて
部屋を後にした。扉が静かに閉められる。弟者は、ひとりになった。
.
513
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 16:58:07 ID:r9ibIr9QO
ドクオどうなったんだ 支援
514
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 16:58:08 ID:/iOXtpyE0
(´<_` )「馬鹿な……いまさら、……今更、
昔に戻れるわけねえだろうが……」
弟者は吐き出すようにいうと、そのロケットを壁に投げつけ、再び椅子に座った。
すると、突然、言いようのない不安感に襲われた。
(´<_` ;)「………ッ!?」
―― 良いのか。兄者を行かせてしまって。
弟者は、過ぎたことにたいして自問自答をする。
このまま俺は孤独になっていいのか。
本当にそれでいいのか?
兄者を手元から離して、はたして本当によかったのか。
いま、いま俺に大事なことは――――
(´<_` ;)「………」
弟者は不安から逃げるように、兄者の出ていった扉を睨み続ける。
515
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:00:47 ID:/iOXtpyE0
.
黒塗りのその扉を見ているうち、
弟者は無意識に今までの人生を反芻しはじめた。
シアトルの貧民街で生まれ、物心つかぬうちに
両親を失い、兄者と共に食い扶持を求めて彷徨っていた少年時代。
火星移住に浮き立つ世間から背を向けて、ひたすら
勉強し続けていたが、奨学金をもらえずに大学進学を諦めた学生時代。
土木作業員として働く傍ら、汚い作業着のまま図書館に
入り浸っては読書をし、周りから煙たがられても知識を吸収した青年時代。
社会の構造と政府の怠慢に文字通り泣いて怒り、世間への復讐を決めた。
兄者を誘い、外貨為替で儲けた金を使って悪の道に染まったギャング時代。
苦渋に充ちた過去があったからこそ、弟者は死に物狂いで働き続けた。
その情熱はしかし、当時の、憎悪に突き動かされたものとはだんだんずれていった。
あれだけ敵意を向けてきた"権力"の、甘美な味を知ってしまった。
若かった頃とは考えが変わったことを、弟者はとうぜん感じている。
だがそれが何だというのだ。
矛先は変われど、情熱は絶えて、いない。
.
516
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:04:04 ID:/iOXtpyE0
.
(´<_` )「………」
それから弟者は、自身の服装に目を向けた。
オーダーメイドのブラックスーツに、眩しいほどに白いフリルシャツ。
シアトルの冷たい雨に濡れて泣いていた、あの見窄らしい少年の
痕跡はどこにも見当たらない。服装一つ取ってみても、自分が
どれだけ成功したか、どれだけ有能かが分かろうというものだ。
(´<_` ;)「くう……!」
弟者は髪をくしゃくしゃかき乱した。
整った髪型が無造作に跳ねていく。
それから手で顔を覆うと、机に突っ伏した。
未来についていくら考えても、悲壮感に塗りたくられる。
どう元通りのハーモニーに戻せばよいのか。
やって来るであろう本部からの刺客に、どう言い繕えばよいのか。
思考をすこし巡らすだけで、膿のたまったような溜息が出てくる。
( <_ ;)「失いたくない……! 絶対に嫌だ……
せっかく……せっかく成功したのに……!!」
・・・ ・・・
・・・ ・・・・
・・・ ・・・・・
.
517
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:09:17 ID:/iOXtpyE0
.
砂利道には薬莢やダイナマイトの切れッ端が点々とちらばり、
血痕もあらゆるところで垂れている。スイングドアの向こうは
そのどれもが暗いか、炎によって異常に明るいかのいずれかだった。
ハーモニーは西部開拓時代を思わせる街作りだったが、
それは火器を使用した反乱にはあまりにも脆弱であった。
防火ワニスの耐久性にも限界があるし、
そもそも松明ひとつで建物一つと、その周囲を火の海にさせられる。
逃げ惑う人々の中には、炎に囲まれて死を遂げた者もいたし、
乱闘騒ぎや、露骨すぎる通り魔によって命を落とす者もしばしばだった。
ノーナンバーズが先頭を切ったこの騒動も、騒ぎの種類が変わってきた。
村の外へ逃げる者とそれを阻止するハンター、そのハンターを殺すという
人間同志の阿鼻叫喚から、爆炎と崩壊による災害的なものにシフトしつつある。
混乱したハーモニーの大通りには人々の影は見るまに減っていった。
多くの生き残ったハンターは火事場泥棒に成り下がり、
血の気の多い原住民はそのハンターを狩ろうとする。
肉弾戦は屋内で淡々と行なわれた。
黒煙がハーモニーに立ち込めてくる。火星の強い、乾いた風が
それを吹き飛ばそうとしても、次から次へと溢れてくる有様だった。
518
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:15:30 ID:c0V8jmAk0
.
ドクオは阿部と別れてからすぐ、自身の発掘品が保管されている
であろう、れいの地下倉庫に走ったのだが、パスワードによって足止めを
くらっていた。どうしようかと迷っていたところで、忠誠心を失くした
火事場泥棒的ハンター数人と対峙したので、軽く一捻りしてやった。
(メ'A`)「ったく……これからが正念場ってのに」
足元に倒れたハンター達を踏んづけながら、ドクオは思案を重ねていった。
パスワードか何かに阻害されることは予想していたが、どうしてもこの現場を
確かめておきたかった。この倉庫は地下に位置するので判りづらいが、
外の騒動は着実に静かになってきているふうだった。
時間がない。チャンスも可能性も同じくなくなっていく。
マーポールに一端、押収されてから返品してもらう妥協案も
とうぜん受け入れているが、それでは肝心のモノが手に入らない。
(メ'A`)「……流石兄弟の手に入れた、マーパーツ」
確実な証拠はなかった。しかし、あるような気がしてならない。
ハンター組合の幹部であり、この一帯の発掘品を一挙に獲得できる
立場なのだから、何か学術的に貴重なものを持っていても可笑しくはない。
村の構造的にも、保管しているとしたら此処であろう。
無論、これもまた立派な火事場泥棒だった。
.
519
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:19:22 ID:/iOXtpyE0
そのとき、地下へと降りてくる複数の雑な足音を聞いた。
やれやれまた雑魚どもがやってきたぞ。
ドクオは影に隠れながら、奇襲の用意をした。……
・・ ・・・・・・・
―― ハーモニー 大通り
革製の長靴、防弾力を持つ褪せたジーンズ。
腰には二丁の拳銃がガンベルトに支えられている。
やはり防弾の役割を果たす新型ウエスタンシャツ、
真紅のいろをしたネッカチーフは緩く首に巻かれている。
人形と形容される表情のない顔と生気のない瞳、その上には
つばの広い茶色のカウボーイハットが乗っかっている。
典型的なハンターの身なりを纏ったその男は、なにも
見据えていないかのように、ゆっくりと大通りを歩いていた。
( ´_ゝ`)
その男、兄者の通る道の両脇に並ぶ様々な店からは、
一様に煙がスイングドアの隙間から溢れ、ひと気を感じさせない。
バーだった建物からは、素っ頓狂な鍵盤の音が漏れていたが、
それが自動再生なのか死を悟った奏者のものかは明らかではなかった。
( ´_ゝ`)
兄者は歩いていた。弟者に鎮圧を命じられたが、
もう人間らしい人間はほとんど居なかった。時折、路地裏で
動物めいた悲鳴が聞こえるくらいであるが、兄者は気にもせずに歩いていた。
.
520
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:23:21 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)
と、ふと兄者は足を止めた。かと思うと、目にも止まらぬ
速さでベルトからリボルバーを引き抜き、白煙に向かって発射をした。
たった一発、鉛玉を撃ち込んだ。銃声の残響する辺りになって、
その白煙から何かの倒れた音がし、流血が砂利を濡らしていった。
兄者はふたたび歩き出す。血の先からは生暖かい死者の腕が
伸びてい、その手には拳銃が力なく握られている。
この者がハンターか原住民かなど兄者にとってはどうでもよかった。
ただ、兄者は何かを求めるようにあるきつづけた。
( ´_ゝ`)
ざりっ、ざりっ、ざりっ、という足音を立てながら歩き続ける。
彼は運命にひかれるように、ハーモニーの入口へ向かい続けていた。……
―― ハーモニー 外
門から出て、更に進んだ荒野に住民の多くが避難している。
子どもやその母親たちは抱き合いながら、煙を上げ続けるハーモニーを
不安そうに見つめていた。重労働を生業とする連中はやたらに
舌打ちをしながら、悪態をついている。
原住民の皆が皆、此処に来ているというわけでもない。
道中でハンターに射殺されたのも居れば、爆発に巻き込まれた
被害者だっているし、血気盛んな奴になれば未だ村に留まっていることだろう。
521
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:25:29 ID:/iOXtpyE0
モアブ署のマーポールの応援が何台か駆けつけて来、住民
の保護や連絡に手間取っている。そのマーポールの傍で、
ノーナンバーズの一員であるつーは彼らの手伝いをしていた。
(*゚∀゚)「おぉいみんなー! 小さい子からこのバンに
乗ってってねー、あ、ステファニー、この子もよろしくゥー!!」
前日にこのことを伝えていた住民たちは覚悟を決めていただけあって、
移動や呼びかけにスムーズだったが、それ以外の者はそうでもない。
エノーラは難しい顔をしていたが、思い立ったように、
||‘‐‘||レ「ねえ、つー! わたしちょっと村に戻ってみるね」
(*゚∀゚)「え? ええ!? ちょ、あいつらに任せとこうよ!!
今もう絶対すごいことなってるって!!」
村に戻って残りの避難民を捜すというエノーラに、つーはやたら驚いたが、
||‘‐‘||レ「だってだって取り残された子がいたらどうすんの!
もしかしたら泣いてるかもしれないじゃない今もっ!」
522
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:27:58 ID:/iOXtpyE0
(*゚∀゚)「ウーン………」
つーはその提案に煮え切らない様子だったが、エノーラはすでに
腹を括っていた。つーの返事も聞かないで、さっさと村のほうに戻ってしまった。
(*゚∀゚)「エノーラー……死んでもおかしくないんだぞー……?
もうあそこに残ってるのは、やばい奴ばっかなんだぞー……?」
彼女の背を目で追いかけながら、信じられないとばかりに呟いた。
―― ハーモニー 正門
「そろそろ入りますか?」
見るからに新米であろうマーポールの巡査は、上司に
不安そうな面持ちで訪ねた。上司であろう背広男は、
「ウウム」と唸ったが、しきりにハーモニー内部から発される
爆破音と漂ってくる火薬の臭いに躊躇しているらしかった。
そして上司は周囲の部下の見回しながら、
「オリヴァーの奴さんと、話できれば良かったんだがなァ……」
ホルスターの拳銃を眺めつつ、部下が素っ頓狂に、
「オリヴァー? ああ、ここの主ですか? それはまたどうしてです?」
上司はパトロールカーに凭れかかって、呆れたように笑いながら、
「ここの自治権との関係よ。アポなしの突撃は問題になっちまうのさ」
そうして部下たちも、同様に乾いた笑いを立てた。
「でももう、取り消されたんでしょう? なら強気に攻めましょう!」
.
523
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:31:06 ID:/iOXtpyE0
.
風は吹いて、きめ細かな砂を吹き飛ばしては周囲を見えなくする。
更にハーモニーから発せられる白煙も合わされば、正門の近くで
待機していても内部の具体的な様子はわからなかった。
そのときだった。マーポールの職員一同は、誰かの足音を察した。
村の奥からこちらに向かって歩いている。その男の風貌は、
時が経つにつれて鮮明に浮かび上がってきた。
革製の長靴、防弾力を持つ褪せたジーンズ。
腰には二丁の拳銃がガンベルトに支えられている。
やはり防弾の役割を果たす新型ウエスタンシャツ、
真紅のいろをしたネッカチーフは緩く首に巻かれている。
人形と形容される表情のない顔と生気のない瞳、その上には
つばの広い茶色のカウボーイハットが乗っかっている。
典型的なハンターの身なりを纏った、その背の高い男は、なにも
見据えていないかのように、ゆっくりとアーチ型の門に向かって歩いていた。
「とまれ!」
背広を来たマーポールの巡査部長は、警戒しながら言い放った。
しかしその男は、聞こえていないかのように足を動かし続けた。
ようやく立ち止まったのは、ちょうど「Welcome」の書かれた
アーチのそのちょうど下の付近、くぐる瀬戸際のところだった。
.
524
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:34:14 ID:/iOXtpyE0
男は顔を上げる。
( ´_ゝ`)
たちまちマーポールの巡査らは、ホルスターから拳銃を
抜いて兄者に銃口を向けた。下手な行動をすれば撃つという、
明らかな脅しだった。そんななか、背広の巡査部長は穏やかな声で、
「キミは、ここのハンターかね? それともただの旅人かな?
すこゥし事情を聞かせてくれないかね、このクルマに乗りつ……」
と、しかし、とつぜん口を噤んでしまった。
感情というものを完全に削ぎ落としたような兄者の表情に、
一種の身の危険を感じたのだった。
こちらへ向かれたふたつの眼球からは、喜怒哀楽のなにも伝わって来ない。
巡査部長は、この目の前のハンターをアンドロイドか何かと疑いたくなった。
( ´_ゝ`)
兄者は、うんともすんとも応えない。首も降らなければ、
ガンベルトに手を掛けるつもりでもないようだった。
一切のコミュニケーションを排していた。
525
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:38:17 ID:/iOXtpyE0
「おい、なんとか言ったらどうだ。事情だけでも教えろっつってんだ」
上司の言葉を引き取るように、若手の巡査が力強くいった。
そうしてまた別の巡査が、啖呵でも切るように、
「お前は完全に包囲されている。逃げようとしたって無駄だ。
え? そうだろうが、お前もどうせここのハンターなんだろ?
ここでオリヴァー・ジャーブロと共に村を支配してたんだろうが」
( ´_ゝ`)
「なんとかいえよ、この野郎! 人形だからって歩けるだけかてめえ!」
その巡査の一言に、周囲はどっと笑った。しかし、ただひとり、
上司たる巡査部長は真剣な表情で兄者を見つめ続けている。
何処かで見たことがあるかと思えば、この村の支配者の
オリヴァー・ジャーブロと瓜二つの容貌をしていやがる。
ということは、こいつが噂の凄腕のガンマンなのか。
"お前はあのアレン・ジャーブロか?" と問い詰めたかった。
しかし、思うように口が回らない。そうして気がつけば、
身体も縮こまったように動かない。蛇に睨まれた蛙
の故事そのまま、なんの行動も起こせなかった。
( ´_ゝ`)
.
526
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:42:02 ID:/iOXtpyE0
一端、署のほうに戻ろう。巡査部長は本気で逃げることを考えた。
しかしそれとは裏腹に、部下である巡査らは完全に兄者を舐めきっていた。
四人がかりで銃を向け、しかも敵は人形のように動かないハンター
ひとりだけという状況ならば、あるいは仕方のないことかも知れない。
人形という単語から、次次に巡査たちは兄者の様子を揶揄しては
同僚の笑いを取っていた。会話機能は付いていないのか、や
人間の言葉はわかるか? などの類。このボディランゲージは
分かるか? と兄者に向けて中指を立てる者も居た。
( ´_ゝ`)
馬鹿にされるなか、恐怖されるなか、やはり兄者は動かなかった。
その瞳は、どれだけ罵倒されようとも色を付けはしないし、
人間の尊厳を傷つけるような侮辱をされても、手を銃に伸ばすことはなかった。
( ´_ゝ`)
やがて巡査の一人が、にやにや笑いながら、
「さぁてテメェは連行してやるよ。それを望んでんだろ?」
「正義の名の下にこの村を救わなきゃならないんでな。
お前はじっくりと絞ってやる、ははは、口聞けないんだっけか?」
「そりゃ、獄中死するっきゃねーな!」
527
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:46:41 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)
―― 正義。その言葉は、重く重く残響した。
( ´_ゝ`)
兄者は、兄者の脳は、ゆっくりと動きはじめた。
全てを拒絶していた彼の思考は、なにかを、
なにかをキッカケにして、今まさに立ち上がろうとしていた。
( ´_ゝ`)
あらゆる言葉が、走馬灯のように耳に響いていく。
.
528
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 17:48:30 ID:NGr.VczM0
なんと
529
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:48:56 ID:/iOXtpyE0
『兄者。……俺と一緒に、悪の道を走ってくれ』
『俺達は弱者の代表として、この腐敗した世界に小石を投じたんだ』
『あんね! あたいたちもアンタみたいになりたいんだピャ!』
( ´_ゝ`)
『ヒール! 俺は今まで道を見失っていたようだ。
忘れていたよ、俺は何かに縛られるために生まれたんじゃない
その縛っている見えないお化けを殺すのが目標だったんだ』
『弱者の意地って奴だな。ふふ、私も昔は弱者だったものだよ』
『やりたか……やれ……おれぁもう…しあわせだ』
( ´_ゝ`)
『死んでも……逆らってやるぜ……このやろう!
てめぇのような、腐った……権力みてぇのにはよぉ……!』
『―― 覚 悟 し ろ よ 、 流 石 兄 弟 』
『怖くないわけじゃあないんだが……なんつうか、
ああやって命削って戦うとな、生きてるって感じがしてくるんだよ』
『本当に凄いと思うっピャ。流星のように生きる。
有言実行してて、カッコイイ! キャー!』
『いつもアタイはアレンから貰ってるよ?
アレンの、眩しい眩しい光って奴をね。アレンはみんなの憧れなんだ』
( ´_ゝ`)
.
530
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:50:22 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)
.
531
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 17:50:50 ID:VI68emDI0
兄者…
532
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:51:20 ID:/iOXtpyE0
.
―― 心の何処かで、鎖の断ち切れるような音がした。
.
533
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 17:52:24 ID:r9ibIr9QO
支援
534
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:54:12 ID:/iOXtpyE0
.
( _ゝ )
そのとき、無反応を貫いていた兄者が、はじめて行動をおこした。
首をがくっと垂れ下げ、ガラス玉めいた瞳をいきなり伏せたのだった。
馬鹿にし続けていた巡査らも、前触れのないそのアクションに
ぎょっとしたが、すぐさま拳銃を構え直し、口調を取り繕って、
「動くな! 動くんじゃアない、ゆっくりと両手をあげろ!」
―― フフフ、
「おい、聞いているのか!? 撃たれなくなかったら、降伏をしろといっている!」
―― フッフッフ、
「いい加減ダンマリをやめろ! 洗い浚い悪事を吐いてもらうぞッ!」
―― ハッハッハッハ、
「おい、お前……?」
.
535
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 17:56:38 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)「――ハァーッハッハッハ!!!
フフフ、フフハ、ハハハ! ハッハッハ!!!」
.
536
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 17:58:28 ID:V8NzhcAk0
兄者……
537
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 18:01:14 ID:/iOXtpyE0
.
「お、おい……」
……おとこは、大声をあげて笑い始めた。ぞっとするような凄みがあった。
衰えていた声帯を急に使ったことで、ノイズの混じったような音質
になっている。調子ッ外れた、人間と思えないような笑い声であった。
巡査らは凍りついた。目を白黒させ、目の前のガンマンを凝視した。
泣き声にも似た、狂気のその笑いが消えゆくまで、警告の一つも出来なかった。
( ´_ゝ`)「ックックック……。正義だとォ……?
そんなもん、この世の何処にあるというッ!?」
「だ、黙れッ! 黙らねえかぁ!」
負けじと声を張り上げるも、兄者は怯む様子もない。唐突な
変化に、対応しきれない。目の前の人形だったはずのガンマンは、
神かその類かから命を吹き込まれたとしか思えないほどの豹変したのだった。
( ´_ゝ`)「ありゃーしねえんだ……! 正義なんてねぇからこそ、
俺はここに、いま! 居るんだよ……!」
「これ以上近づくと本当に撃つぞっ!?」
虚勢を貼り続ける部下らに、上司は悲鳴に似た声で、
「逃げろ! いいからこの男に構うな!! 本部に、はやく……!」
しかし、兄者は、
( ´_ゝ`)「正義の代わり、この世には二つのものがある」
.
538
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 18:01:22 ID:NGr.VczM0
三段笑い!
539
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 18:05:17 ID:/iOXtpyE0
.
電光石火で拳銃を引き抜き、一発。
( ´_ゝ`)「支配心と、
二発、三発、四発、そして五発目、
( ´_ゝ`)「―――――、反抗心、
巡査らの胸に、紅いひなげしが咲く。
( ´_ゝ`)「――――――――――、そのふたつが、ね」
そう言い切って、兄者が両のガンベルトに拳銃を仕舞いこんだ。
それと同時に、指揮されたように全ての職員らは、血に濡れて倒れこむ。
糸を切られた人形のように。
一陣の風が吹く。兄者はハットを押さえつつ、
( ´_ゝ`)「………さて」
.
540
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 18:10:08 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)「弟者の命令が残っているな」
兄者は振り返って、渦中のハーモニーを遠い目で再確認した。
とはいえ、目に付く人間も居なく、抉れたような地面や
屋根を吹き飛ばされた建物などしかなかった。
―― しかし、悪意は残っている。
( ´_ゝ`)「――― !?」
近くで手榴弾か何かが破裂したのか、建物がいきなり倒壊した。
兄者は咄嗟に身体を翻して熱波や衝撃波を避けると、笑顔になった。
久しぶりの笑みのため、ひくひくと痙攣したようなものだったが、
( ´_ゝ`)「……楽しいステージになったじゃねえか」
目をギラつかせ、リロードを手早く済ませると、
( ´_ゝ`)「さぁてそろそろ、生かせて貰うとするか……死地に!」
再びハーモニーの大通りを歩きはじめた。
.
541
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 18:15:12 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)「………」
大地を一歩一歩踏みしめながら、兄者は自身を確かめた。
自分でも制御できないような高揚感、燃え上がるような感覚。
抑え難い炎のようなものが、魂を突き動かして仕方がなかった。
先刻までの罪の鎖は、雲散してしまったようだ。
魂を冷たく濡らした罪は、消えていったようだ。
身体の末端という末端まで熱を帯びている。
情熱が血流に乗っている。身体を突き動かす。
自分の何もかもが炎を纏っているようだ。
ちょうど、流星が大気圏に突入したように。
( ´_ゝ`)「――そうさ、流れ星のように、だ。忘れていたよ……」
( ´_ゝ`)「見てるかいヒール? 久しぶりに今、輝いているぜ」
.
542
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/10/26(金) 18:18:45 ID:/iOXtpyE0
.
( ´_ゝ`)「フフ……」
兄者は小さく笑う、無人の大通りを進みながら。
この死地で、どうしても手合わせ願いたい人間が居た。
どんな窮地に陥ろうが、どれだけ苦痛を受けようが、
己を決して曲げずに、どこまでも反抗し続けた男。
( ´_ゝ`)「………」
あの学者の存在もまた、兄者の再燃に一役を買っていた。
燃え上がるような反抗心を持っていた考古学者。
そうしてついには、ハーモニーをひっくり返したあの男。
何度も相対するうち、ついに、感化してしまったようだ。
( ´_ゝ`)「ドクオ・ウツタール……!」
――― ――――――
――― ―――――
――― ――――
――― ―――
.
543
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 18:19:44 ID:/iOXtpyE0
次回はまたいつか。
544
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 18:21:05 ID:NGr.VczM0
兄者復活ッ!兄者復活ッ!乙ッ!
545
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 18:24:16 ID:TOo8NGyU0
乙乙!
兄者覚醒!!
546
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 18:37:10 ID:r9ibIr9QO
乙
547
:
名も無きAAのようです
:2012/10/26(金) 20:45:10 ID:SMAuQ.N60
兄者ktkr!!
乙!!続きが待ち遠しいわwww
548
:
名も無きAAのようです
:2012/10/27(土) 00:19:54 ID:QGQAFW660
兄者きたあああああああああああああ!!!!
乙!燃える!!
549
:
名も無きAAのようです
:2012/10/27(土) 12:45:04 ID:qpZZq/cAC
兄者かっけー!乙!
550
:
名も無きAAのようです
:2012/10/29(月) 19:08:55 ID:FoGygcxw0
うおおおきてた!乙です
兄者かっけーな……ドクオとの一騎打ち全力wktk!
551
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 21:44:28 ID:n2zj1U6M0
時間が戻る瞬間を始めてみたよ。すげーなサマータイム。
そして投下する
552
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 21:47:47 ID:n2zj1U6M0
.
兄者はゆく。
( ´_ゝ`)
自信に充ちた足取りで、その一歩一歩には意思が感じられた。
兄者の進んでいる大通りは先程と変わりない様子で、戦地の市街
のような濁った緊張感と、薄く灰いろに滲んだ空気が漂っている。
右手の床屋からは轟々とした炎の音と、黒煙が扉から溢れてい、
ものの数分もしないうちに他の建物へ燃え移ることが予想された。
( ´_ゝ`)「……ここの住民にゃ、酷い話だろうが」
それでも兄者は、この状況――死と隣り合わせの戦場に、
興奮を抑えきれない。魂が燃え立ち、神経や筋肉は踊った。
( ´_ゝ`)「こんな楽しいときは無いってくらいさ」
―― そうだ。燃え尽きるまで、生き続けてやる。
.
553
:
名も無きAAのようです
:2012/11/04(日) 21:51:00 ID:P6.o3zCQO
おおっと マジですかいこりゃあ 支援支援支援
554
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 21:51:12 ID:n2zj1U6M0
( ´_ゝ`)「……む」
兄者は背後の気配を感じ取って、足をとめた。
聞きなれた女性の声だった。避難を呼びかけている、眩しい訴えだった。
そのまま身じろぎせずに、声のする方を見つめて
いると、砂埃の中から、華奢な体躯のカウガールが現れた。
||‘‐‘;||レ「!?」
( ´_ゝ`)「よう、エノーラじゃないか」
対面した瞬間、エノーラは戦いた。しかし顔には恐怖よりかは
単純な驚きが現れている。ハンターには憎しみが湧いて仕方がないが、
この兄者は無言で色々な手伝いをしてもらっていた。そしていま、
いままで人形のように喋らなかった兄者が、屈託なく挨拶を投げ掛けてきた。
かろうじて喉から絞り出たのは、
||‘‐‘;||レ「あ、……えと、おはようござい、ます」
( ´_ゝ`)「ああ」
兄者は腕組みをし、噛み締めるように頷いた。
エノーラと戦うつもりはもとより無いが、隠れている賊ら
による不意打ちに警戒しているらしい。
( ´_ゝ`)「ここは危険だ、さっさと村の外へ逃げてったらどうだ」
||‘‐‘;||レ「やらないといけないことが……残ってて」
( ´_ゝ`)「なるほど、救助活動ってわけか」
555
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 21:55:48 ID:n2zj1U6M0
そこから数拍、沈黙になった。小さな風がひゅうっと吹いて
砂をあしらった。先に口火を切ったのは、エノーラで、
||‘‐‘;||レ「あなたこそ、何を……してらっしゃるんです?」
( ´_ゝ`)「ん? そうだな、残党狩り……いや、戦いに行く感じか」
||‘‐‘;||レ「あの、もうすぐマーポールの応援が来ますよ……
門の、あ、でも……すぐに来ます、大人しく避難した方が」
たちまち兄者は乾いた笑いを立てた。
( ´_ゝ`)「大人しく、避難? ハハハ、お断りだよそんなもん」
||‘‐‘;||レ「でも、兄者さん……あなたは、逮捕されるでしょうね」
エノーラの口調から柔らかさが失せた。続けて、
||‘‐‘||レ「ここで避難して自首すれば、あなたも助かる……これが、
あなたが、これから生きる上で、これが最良と思いませんか?」
( ´_ゝ`)「……思わないね。まったく」
||‘‐‘||レ「どうしてですか!?」
( ´_ゝ`)「そんな道に興味無いんだ、まるでね」
.
556
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:01:11 ID:n2zj1U6M0
それから兄者はエノーラを一瞥した。
エノーラの姿を確認し直したのだが、兄者は眉を寄せて、
( ´_ゝ`)「そんなことよりお前、ドーグ持ってないのか?」
||‘‐‘||レ「え……道具?」
エノーラはアタフタと返した。
( ´_ゝ`)「武器だよ武器。……お前、何も持たずに丸腰の
身一つで避難呼びかけてたってのか? こんな戦場で!
ハハハ、面白い奴だなぁお前。まずは自分の心配しろよな」
愉快そうに兄者は肩を揺らした。戸惑うエノーラは彼の
感情表現を見つめ続けている。やがて兄者は「ふむ」と言うと、
腰のガンベルトをひとつ、解き始めた。実銃の入ったままのそれを
手に持つと、いきなりエノーラに放って寄越し、
( ´_ゝ`)「そのリボルバーだったら女でも片手で大丈夫だろ。
狙いに自信がないなら、利き腕じゃないほうをこう、
胸の前に曲げて、銃口を手首に乗せながら撃つといい」
||‘‐‘;||レ「あ、あの……でもこれは、、、」
手の中のリボルバー入りのガンベルトを持ったまま、エノーラは慌てたが、
( ´_ゝ`)「死にたくないんだろ? なら、とっとけよ」
557
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:03:45 ID:n2zj1U6M0
兄者は背を向いて歩こうとしたが、「ああ、そうそう」と付け加え、
( ´_ゝ`)「このメインストリートに救助を待つ奴なんかいない。
建物内も、お前が助けたいと思いたくねえ連中ばっかだろ。
裏路地を注意深く歩いていけばいい筈だ。わかったかい」
||‘‐‘||レ「あ、はい。……でも!」
エノーラは兄者の後ろ姿を見ながら叫ぶように、
||‘‐‘;||レ「なんで! 危険に突っ込む真似するんですか!?
まだ、まともな人生、歩めるのに……なんで……
死にに行くようなもんじゃないですかッ!!」
( ´_ゝ`)「死ぬために行くんじゃないんだよ」
兄者は振り返ると、涼しい笑顔で、
( ´_ゝ`)「生きるために行くのさ、俺にとってはね!」
そうして、煙の彼方に進んでいった。……
エノーラは知らなかった。正門前で倒れていたマーポール職員を見て、
この村の現状を痛感したが、その犯人は兄者とは別人に考えていた。
だからこそ兄者には逃げてほしいと、なんども訴えていたのだった。
エノーラは感じなかった。兄者の燃え立つような魂の、その熱を。
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
558
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:07:11 ID:n2zj1U6M0
.
( ´_ゝ`)「………っ!?」
それから先のメインストリートにて、兄者は不審を感じて立ち止まった。
道を挟んだ建物から取り出したであろう木箱やダンボール、果ては
丸机などが所狭しと道に置かれていた。バリケードのように。
誰が、何のために、こんなことを。
しかしそれを考える必要はなかった。
先程から感じている明確な悪意を顧みれば、意図も分かろうというもの。
その明確な悪意、兄者に向けられた、ドス黒い殺意を考慮に入れれば。
( ´_ゝ`)「てめぇは誰だい……」
兄者は気配の感じる物陰に向かって、声を掛けてみた。
すると反応があり、「クックック」という笑いが漏れ出した。
「……長らく貴様らを追いかけてたが、肉声を聞いたのは始めてさ」
何者かが、邪気に充ちた声で言い続ける。
聞いたことのある声であった。そうだ、あのアナウンスの……。
「ここまで死ぬ気で頑張ってきた、その苦労ってものが報われるよ」
( ´_ゝ`)「それは良かったな」
.
559
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:10:35 ID:n2zj1U6M0
.
「いやいや、ははは。貴様らディアボロ兄弟を殺すためならと、
火星にだって乗り込んだ。そしてこのチャンスを思えば、くそみそなもんよ。
はてさて! この悪魔兄弟はまたも、俺の同志を葬っちまったわけだ。
正樹を殺し、そしてついにはデルタまでを殺めちまったんだ貴様ら。
――この瞬間を、俺は、たまんねえくらい待ち望んでいたよ!
そうだ、この場所が貴様の墓となる。死んで、償ってもらおう……」
( ´_ゝ`)「ならば出てきたらどうだ!? 決闘なら受けてやる」
決闘……決闘! その言葉を口にしただけで、
兄者は自身の魂が燃え上がっていくのを感じた。
エノーラに銃を渡したために、残りは一丁だけであったが、
そんなハンデも、あらゆる状況が、兄者に闘志を抱かせる。
―― 復讐戦か。いいねえ、面白い。俺の命を削ってみろよ!
―― 殺意だけじゃ届かないぞ、命を捨てる覚悟が無けりゃ、
( ´_ゝ`)「お前に俺は殺せないッ……! フッフッフ」
「………!」
.
560
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:16:31 ID:/Wswjaq.0
.
「ほざいてろ……アレン・ジャーブロ。冥土の土産に
俺の名を知りたいか? 死にゆく者に名乗るほどでもないんだが、
いいだろう。俺は、阿部高和という」
その男はゆらりと物陰から現れた。ブルーベリー色の
防弾チョッキを何重にも着込んだ、日系のいい男だった。
流線型のヘルメットを被り、片手にはリボルバーが黒光りする。
カプセルから調達した、可能な限りのフル装備だった。
( ´_ゝ`)「………」
N| "゚'` {"゚`lリ「 や ら な い か」
―― 直後、閃光が視界を覆った。
.
561
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:20:21 ID:/Wswjaq.0
閃光と同時に、爆音と凄まじい衝撃が兄者の左半身を襲った。
( ´_ゝ`)「!?」
兄者はとっさに受身を取り、状況の把握に努めた。時限式の
爆弾をバリケードの影にセットしたらしい、長話で間を調節しつつ。
幸い威力は大したことはなかった、が、兄者といえども
爆風に耐えることなど不可能であった。まばゆい光が収まるころには、
兄者は爆心地と逆方向のバリケード用木箱に背を叩きつけられた。
(;´_ゝ`)「ぐゥ!」
……その瞬間、背中に鋭い痛みが走った。剥き出しの刃先が
脆いバルサに隠されていたらしい。前方の焼けるような苦痛も
あいまって、兄者の動きがほんのわずかに緩んだ。
兄者の着込んだ防弾シャツは、機動性を重視したものであった。
それゆえに、銃弾で身を貫かれることはないにせよ、打撲痕は
残るような、その程度の防御力しか持っていない。そして今の
ふたとおりの苦痛を、防ぎきることなどできない。
N|#"゚'` {"゚`lリ「はぁッ!!」
完全防備の阿部が、隙を作った兄者に目掛けて射撃をした。
.
562
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:25:57 ID:/Wswjaq.0
(;´_ゝ`)「ぬう!」
――鉛玉が胸部に直撃する。貫通こそしないものの、筋肉の
損傷するような感覚が走った。反撃をしなければ。だが、
手榴弾の閃光に目をやられてしまったようだった。視界が
白くボヤけ、人影も朧であった。阿部は構わずに連射をする。
(;´_ゝ`)「………ッ!」
精密性は悪くなかった。弾の殆どが、兄者の身体の何処かしらを
殴った。背中の刃物も、より深く兄者に突き刺さっていく。
だが、その連撃は兄者に位置を教えるようなものであった。
( ´_ゝ`)「―――!」
電光石火の一発。兄者は目にも止まらぬ速さで、阿部の
居るであろう位置に向けて銃弾を放った。
「ッうぐう!」
狙いは兄者にしては悪いものだったが、常人にしては
良すぎるものだった。弾は阿部の、防御の薄い脚に当たった。
自身のターンになると、視界の閉ざされたまま、兄者は連射をした。
しかし、その殆どが完全防備された胸部や腕にあたっていった。
不幸中の幸いか、阿部は苦痛ゆえ前のめりの体勢になっているためで、
兄者は怯ませることもできない。
563
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:31:17 ID:/Wswjaq.0
兄者は更に脚に踏ん張りをつけて、前方にあゆみ出た。
背中から複数の刃先が抜けていく。同時に、流血も激しくなった。
(;´_ゝ`)「(……きたか!)」
阿部から狙撃を受けた。そのうちの一つが兄者の右肩に当たった。
骨の揺れる気持ち悪い振動が走った。が、構わずに兄者も反撃を
しようと引き抜いた。しかし阿部の居るであろう位置で
素早く走り抜ける足音がした。バリケードに隠れたらしい。
( ´_ゝ`)「(目が見えないんじゃ、無駄撃ちになる。
この"数秒"だけは、な)」
兄者は目を閉じ、立ち尽くした。それから"数秒"後、
阿部が物陰から半身を乗り出して射撃の体勢に入った。
放たれる一発の弾丸、しかしそれは、
( ´_ゝ`)
兄者の真正面から放った弾によって、弾道を無理やり変えられてしまった。
「!?」
阿部はその事実に畏怖した。 そして思わず、
N|;"゚'` {"゚`lリ「馬鹿な……」
564
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:35:30 ID:/Wswjaq.0
( ´_ゝ`) ニヤリ
N|;"゚'` {"゚`lリ「!?」
驚きの余りに呟いた一言が、阿部の位置を完全に知らせてしまった。
慌てて阿部は再び発射しなおすが、兄者は走りに交えた横運動によって
安易にそれを回避した。奪われた視界が、そろそろ物の判別をつけていた。
N|;"゚'` {"゚`lリ「(糞!)」
阿部は物陰に引っ込んで、銃の代わりにナイフを手にした。
兄者が追走してくる。片手に銃を構えた状態で、角を曲がった。
N|;"゚'` {"゚`lリ「―――ッ!?」
死角から兄者の首を切り裂くつもりであった。しかし、
兄者はそれさえも見越したのか、ぎらつくその刃に、電光石火で弾を撃ち込んだ。
ナイフがひしゃげて吹き飛んだ。振りかざした腕も巻き込まれ、
阿部は無防備の姿勢になった。間髪を容れず、兄者の拳が阿部のヘルメットを捉える。
N|;"゚'` {"゚`lリ「ぐ!」
565
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:37:47 ID:/Wswjaq.0
ヘルメット越しに伝わる衝撃、なまじ被り物をしただけに、
振動が脳を直に揺さぶった。兄者はさらに回し蹴りを放つ。
阿部の身体がバリケードに叩きつけられる。急場凌ぎで作られた
壁は阿部のぶつかった衝撃に耐え切れず、横になって倒壊した。
( ´_ゝ`)「素人の殺意を感じ取る、余裕な話さ」
N|#"゚'` {"゚`lリ「貴様ァっ!」
阿部は胸元から投げナイフを取り出すと、蹴りの体勢に
入った兄者に向かって、それを投げた。兄者の腹に横になって刺さる。
( ´_ゝ`)「効くねぇ……」
一端、兄者は蹴りをやめることにして後ろへ下がった。
それから銃を素早く構えると、阿部の防御の薄い脚に鉛玉を撃った。
どんッどんッどん! と銃声がワルツを奏でた。
N|#"゚'` {"゚`lリ「あっぐうゥウ!!」
阿部が苦痛をヘルメットから漏らす。紅い血が阿部の腿から
滴った。その血の流れは両の腿に幾つも出来ている。
566
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:44:48 ID:/Wswjaq.0
N|#"゚'` {"゚`lリ「てめぇっ……てめぇェエ……ッ!」
阿部は歩行はもとより、倒れたこの体勢を直すことさえ出来なかった。
背中に感じるバリケードの木箱の硬さが、阿部に死の味を伝えている。
( ´_ゝ`)「これで終わりかな」
身体中に傷をつけ、そこから血を流す兄者だったが、
阿部と違い立っているばかりか、腕を組んで微笑みを顔に貼り付けていた。
N| "゚'` {"゚`lリ「ふふふ……」
阿部は力なく笑い、右手を上げた。その手には銃――
( ´_ゝ`)「!?」
――しかし、これは囮だ。兄者は察知した。
阿部の闘志が消えていないばかりか、
そのドス黒い殺意は、いま再び燃え上がったことを。
(;゚_ゝ`)そ 「――っぐ!?」
細かな痛覚が、いきなり兄者を襲った。背中に銃弾を受けたよう
だった。メインストリートに面した建物の二階から、何者かが兄者を
狙撃したのだった。さらに正面からも阿部が撃とうとしたが、
兄者はその構えられた拳銃に向けて鉛玉を放った。強引に、それを吹き飛ばす。
.
567
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:47:16 ID:/Wswjaq.0
それから、兄者は振り返ようとしない。既にその阿部の支援者は死角に
引っ込んだことが察せられたからであった。初撃でのトラップによる
裂傷に加え、先程の銃弾のダメ押し。防弾シャツは、そろそろ
機能しなくなっていく。だがそれでも、兄者は立ったままであった。
(;´_ゝ`)「……お前の、仲間か」
N| "゚'` {"゚`lリ「卑怯者だと俺を笑うか」
阿部は力なく言った。しかし兄者は素知らぬ表情で「全然」と呟いて、
( ´_ゝ`)「むしろ本気で殺そうとしてくれた方が、やりがいがある」
N|;"゚'` {"゚`lリ「………」
( ´_ゝ`)「無駄だ」
兄者はぶっきらぼうに言い放った。と、同時に背後に向けて発射する。
鈍い音と短い断末魔。それからその男の倒れる音。
阿部の支援者は瞬く間もなく絶命した。
( ´_ゝ`)「さて、まだ手はあるのかい」
.
568
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:51:09 ID:/Wswjaq.0
.
N|;"゚'` {"゚`lリ「……くそ」
阿部は憎悪に充ちた目で、目の前のガンマンを睨みつけた。
ここまで来て、どうして奴を殺せない。最愛の恋人を殺されて、
復讐を胸に火星までやって来た。悪魔の兄弟がハーモニーを
支配していると知れば、興味もないのにこんな辺鄙な村にやって来た。
そうしてあっけなく捕われ奴隷のようにこき使われても、甘んじて受け入れた
その理由は、ただ一つ……復讐を完結させるためだった。
だというのにこのザマはなんだ。
阿部は自嘲するよりも、虚無感に包まれて仕方がなかった。
対し、兄者は楽しくて仕方ないという表情で、
( ´_ゝ`)「なかなか楽しませてくれたよ、阿部とやら。
最後に一つ教えてやろう。お前が敗北した理由を。
――それは覚悟だ。いくら復讐心がドス黒くっても、
刺し違える覚悟ってもんがなきゃ、俺を殺すことはできない」
N|;"゚'` {"゚`lリ「………!」
阿部の心に、その一言が深く突き刺さった。同時に、
今までの黒い炎のような復讐心とは違う、氷のような殺意がもたげた。
.
569
:
名も無きAAのようです
:2012/11/04(日) 22:54:14 ID:RaRhfbRk0
支援!!
兄者かっけええええ
570
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:56:25 ID:/Wswjaq.0
.
( ´_ゝ`)「そういうわけだ、まあ、やすらかに眠ってくれ」
兄者が鷹揚にリロードをした、その瞬間……
N|;"゚'` {"゚`lリ「(……いまだ)」
阿部は最後の武器を、至近距離の兄者へ投げた。
( ´_ゝ`)「!?」
突如眼前に現れたそれ、その特徴的な外見に兄者は
思わず後ずさった。知りすぎるほどに知っているそのかたち。
手榴弾。殺意が目の前に放って寄越された。
N|#"゚'` {"゚`lリ「――なら覚悟を見せてやらァァアアッ!!!!」
(;´_ゝ`)「くっ!」
銃弾でさえ防御できない、その手榴弾は空中でいきなり光り輝いた。
と、同時に、凄まじい轟音と炎を周囲に撒き散らした。
.
571
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 22:59:57 ID:/Wswjaq.0
.
――――――ッ!
(;´_ゝ`)「ぐぅぉおお!」
とっさの才覚でバックステップをしても、躱しきれるものではない。
真正面からの殺人的なエネルギーに、兄者は後方へ吹き飛ばされる。
爆発が、その周囲360度を加減なく破壊しようとする。バリケードも、
兄者も、阿部さえも。
(;´_ゝ`)「――ぐぅ!!」
石造りの壁に背中が思い切り叩きつけられる。鈍く重いその衝撃に
顔を歪める間もなく、熱波が兄者に襲いかかった。
(;´_ゝ`)
せめて頭だけは守ろうと、右手を差し出したのが駄目たった。
突き出した腕は熱にやられ、手袋の革が手の皮膚に張り付くほど
に焦がしてしまった。ようやく収まった頃には、もう右手は完全に麻痺していた。
.
572
:
名も無きAAのようです
:2012/11/04(日) 23:01:25 ID:.H38blUw0
おお、来てる!支援!!
573
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:03:36 ID:/Wswjaq.0
(;´_ゝ`)「………」
動かそうと試みるだけでも、激痛が右手全体を貫いた。
何もせずとも、焦げた嫌な臭いが嗅覚を刺激する。
熱湯に手を浸しているような感覚が続いた。
間違いなく右手は壊死しただろう。革手袋を剥がしたその中身は
見るに耐えないものとなっているはずだ。兄者は左手で首のスカーフを
ほどくと、それを右肘の辺りに強く縛った。
(;´_ゝ`)「くっ……」
左手を駆使して衣服の煤や汚れを払った。
風に切られた頬の血をぬぐい、それからよろよろと歩き出して
周囲の確認をする。阿部の用意していたバリケード類は、すべて
爆心地から放射線状になぎ倒されている。阿部は何処だと目を光らせると、
自分とは真反対の壁のすぐ下で、ぐったりと倒れていた。
N| " '` {" `lリ
生きているのか、死んでいるのかは定かではない。
ただし、動こうとする気配は感じられないし、何より
先刻までのドス黒い殺意というものが、雲散しきっていた。
もはや生死の確認をするまでもなく、兄者の勝利で決着がついたのだった。
574
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:05:20 ID:/Wswjaq.0
.
( ´_ゝ`)「悪いな……」
兄者は片手でカウボーイハットを直しながら、阿部の
怒りの言葉の連続を反芻した。復讐者の怒りを噛み締めて、
( ´_ゝ`)「マサキ、デルタ、そして阿部よ。
俺はまだ、生きているんでね……」
そうして兄者は広場の方へ、ゆっくり歩き出し、
( ´_ゝ`)「面白かったよ。ここまで傷を負わされるとはな……」
( ´_ゝ`)「無傷でドクオと殺り合いたかったが、人生そうも上手くいかねえか」
一陣の風が吹く。陽がわずかに傾いて、兄者の影をながく伸ばした。
じきに、夕焼けが来るであろうという前兆が、そこにあった。
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
.
575
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:07:07 ID:/Wswjaq.0
―― ハーモニー 裏路地
(;`xωx´)「アッー!!」
シャキンが叫び声をあげると、同時に転げ回った。
手にしていた銃も放り出して物陰に必死に隠れる。
右の腿から鮮血が吹き出ていた。ジーンズごと肉を貫いた
鉛玉のその痕から、とめどなく溢れている。
激痛が走って、シャキンは動こうにも動けない状態だった。
そうしてシャキンを撃ったその張本人は、警戒を怠らないまま
シャキンの方へ忍び寄っていく。
(;` ω ´)「ひぃっひぃっひぃ……!」
ごちゃごちゃと物の積まれた狭い路地裏で、必死に逃げ道を求めた。
しかし誰も助けに来ない。あと数秒でそのハンターに追いつかれ、
とどめを刺されるかと思うと、恐怖で胸が張り裂けそうになる。
576
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:08:16 ID:/Wswjaq.0
.
(;` ω ´)
同時にシャキンの胸中には後悔の念が生まれていた。
ドクオの用意した銃火器によって、あらゆる悪党どもを
この短時間で撃ってきた。そこには恐怖さえなく、爽快感のみだった。
しかし、だがしかし今は違った。自分が馬鹿みたいに振り回し、
扱ってきた銃の危険性が、太腿の苦痛とともに身にしみてくる。
自分はなんて愚かだったのか、涙が視界をにじませる。
( `;ω;´)
こんなことになるのなら、始めから参加なんかしなければよかった。
安っぽい正義感に振り回されて、悪党どもを蹴散らすなんて馬鹿な真似をせずに。
自分はなんて愚かだったのか、そら見てみろ、既に追いつかれたようだ。
俺の脚を撃ったこの悪魔が、影からぬっと現れてにやりと笑いやがった……。
.
577
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:10:43 ID:/Wswjaq.0
そのハンターは銃口を、ゆっくりとシャキンの胸元に向けた。
シャキンには全てがスローモーションに映った。
と、そのときだった。そのハンターの笑い顔に向かって、
なにかが飛んできた。その何かは棒状のものだった。綺麗な弧を
描きながら、それの先端――ブーツが、ハンターの鼻先に向かっていく。
( `;ω;´)「!?」
最初はわからなかった。しかし、そのハンターがいきなり鼻血を
出しながら後方へ吹っ飛んでいった。なんだ? 助かったのか?
シャキンがそう思う頃には、その助けてくれた棒状のものは引っ込んで、
代わりに、真新品のハンタールックに包まれた"誰か"の後ろ姿が
眼前に現れた。誰だろう。味方か? しかし問いかける暇もなく、
その誰かはハンターに向かって駆け出していった。止めの一撃とばかりに、
踵落としをハンターのみぞおちに叩き込んだ。
斜めにさした陽の光のせいで、具体的な姿はわからない。しかし、
その仮借なく打撃を加える頼もしさは、見覚えのあるものだった。
そして、その男が振り返って、
(メ'A`)「大丈夫かシャキン」
( `;ω;´)「あ、ああ……ドクっオさん……!」
ドクオに、すくわれた。
578
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:13:09 ID:/Wswjaq.0
ドクオは近寄って、倒れたシャキンの傷を見やって、
(メ'A`)「こりゃ歩けねーだろ。ちょいと待ってな」
そういって周囲の材木から、簡易な松葉杖になりうるものを探した。
ドクオのその様子を、シャキンはずっと見続けている。
汚れに汚れた今までの衣装を捨て、支援物資からカウボーイジャケットや
ジーンズを調達したらしい。頭にはウシャンでなくテンガロン・ハットを
乗っけている辺り、見た目はそこらへんのハンターと変わりなかった。
しかし、この衣装の殆どは高価な防弾仕様であり、しかも
その耐久性は兄者の着ているものと殆ど同じであった。
無論、そんなことは当人らには知るよしもないのだが、ともかく
ドクオに助けられてシャキンは起き上がった。包帯で傷口を巻いて
もらった頃には、安堵感で痛みを忘れられた。
(`;ω;´ )「ありがとうございます……!」
(メ'A`)「大人しく避難するんだな。残党ももうほとんど居ないしな。
……シャキン、門まで送ってやろうか?」
(`・ω・´;)「いえ、大丈夫です!」
しゃきんとした返事をすると、
(`・ω・´;)「ドクオさんには、まだやることがあるんでしょう!?」
(メ'A`)「ん、まあな……」
579
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:16:18 ID:/Wswjaq.0
ドクオは曖昧に返事をした。
これからのことを考えると、心の余裕がなくなってくる。
今、ここで、シャキンと共に逃げるという選択肢だって"残されていた"。
しかし、
(メ'A`)「俺はまだ残る。ただ、どうか俺の……」
(`・ω・´)「?」
(メ'A`)「健闘を、祈ってくれないか」
何処か弱気を見せた発言だった。
シャキンは気にする様子もなく、
(`・ω・´)「はいっ! 頑張ってください!!」
(メ'A`)「ありがとうよ。そんじゃ、お前も達者でな」
その言葉でふたりは別れることになった。……
.
580
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:19:28 ID:/Wswjaq.0
広場へ通じる狭い道。その影にドクオは居た。
一方の壁に手を当てて、俯き加減に佇んでいる。
(メ'A`)「………」
まだ障害を完全に取り除いたわけではない。
これから先、あの男と対決をしなくてはならないだろう。
戦利品を手に入れる過程で、まず衝突は免れないであろう、あの男。
裁判館は相変わらず扉を閉ざし、交渉も望めそうにない。
出合ったハンターも殆どが三下なので、倉庫のパスワードは手に入れられなかった。
(メ'A`)「ふぅ……」
蓄積した疲労が肩や腰に伸し掛った。このハーモニーに来てから、
身体を酷使したうえにあらゆるダメージを受けてしまった。
もういい加減に休みたいと、身体が悲鳴をあげている。
581
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:21:26 ID:/Wswjaq.0
.
(メ'A`)「(まだ……ぶっ倒れるわけにいかねえ!)」
ポケットからエナジードリンクを飲んで、身体に喝を入れる。
ケミカルの味が喉から食道を刺激した。疲労が感じなくなるといっても、
しょせんはごまかしに過ぎない。最後は根性の戦いになるであろう。
ドクオは深呼吸を何度かし、壁から手を離した。
息を整えてきってから、ドクオはおもむろに広場に足を踏み入れた。
(メ'A`)「………」
耳の横で風がひゅうと鳴いた。乾いた地面に、ダミエルの
吊るされた一本杉。あれほど決まっていた西部劇調の建物も、
廃墟のように一部が崩れ落ちたり、焼けていたりする。
孤独な空間だった。ドクオはゆっくりと、足を慣らすように歩いた。
(メ'A`)「(ん?)」
すると、反対の方向で人の気配を感じた。
それも複数の男の声、苛立ってはいるが、敵意の感じない声色だった。
ドクオはゆっくりと近づいていった。
三人の男が、広場の隅で何者かをリンチをしていた。その被害者の
姿かたちは見て取れなかったが、その三人が原住民であることは
衣服で察せられた。
(メ'A`)「(ハンターへの怒りをぶつけてるってわけか……)」
.
582
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:22:58 ID:/Wswjaq.0
わからぬ行動でもないが、それにしてもリンチはやり過ぎだろうと感じた。
その"ハンター"は何の抵抗もせず、ときおり痙攣めいた動きをするだけだ。
(メ'A`)
ドクオはさらに近づいて、「止めて早く避難しろ」と言おうとした。
(メ'A`)「!?」
しかし出掛かった言葉を飲み込んだ。近づいて、よく判った。
三人の原住民が発する罵り言葉に、「裏切り者」という言葉が
頻発するのも判った。その者がゾンビのような動きをしているのも判った。
(;'A`)「お、おい……」
ドクオに気がつくことなく蹴りを加え続ける原住民たち。
相変わらず何の抵抗もしないそのハンター。
(#'A`)「……おいてめぇらッ!! やめろ!!」
いきなりの恫喝に、その三人組は動きを止めて振り返った。
.
583
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:24:47 ID:/Wswjaq.0
そのどれもがドクオの顔を見るなり、きょとんとした表情になった。
やはり原住民に違いなく、虐げられていた側の人間だったのだろうが、
(#'A`)「とっとと避難でもしやがれ! そいつを解放しろ!!」
「けどねえ旦那! この男は俺らを裏切ってハンターになった……」
ああ、そうか。それで妙な恨みを買われていたってわけか、しかし、
(#'A`)「関係ねえよ……デルタに危害加えるんじゃねえ!」
( ";;;゙) ガッタ......
男たちがわずかに離れ、痙攣しているデルタの姿が映った。
数々の怪我や身体にこびりついた血のりで見えづらいが、
紛れもなく、直前までドクオをサポートし続けていた男、デルタだった。
.
584
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:29:18 ID:/Wswjaq.0
「あのなあ!」
一番気性の争うな男が、ドクオに近づいて、
「あんたにゃ感謝してるけどよ! お前しょせんッ他所者だろォッ!?
こっちにはこっちの事情があんだよ! 絞める奴は絞めねえと……」
(#'A`)「黙れってんだ……!」
デルタは、全てを失ったような虚ろな表情をしていた。
どうみても致命的な出血の痕、人間とは思えない痙攣。
彼もまた、ハインリッヒと同じくキャリアに冒されたのだった。
追跡者として彷徨っていたところを、二重スパイの事情を知らぬ
人間らに取り押さえられ、殴る蹴る、罵倒の暴行を加えられていたのである。
今度はドクオが詰め寄って、
(#'A`)「俺はヒーローでもなきゃ、救世主でもないんでな……ッ!
罪なきてめぇらブン殴ることにゃ抵抗ねえんだぞ!!」
.
585
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:31:17 ID:/Wswjaq.0
凄みをきかせた言葉に気圧されたらしい。
三人の原住民は驚いた顔になると、しぶしぶ引き下がった。
舌打ちをしながら、一番近い小道に入り、避難経路に向かっていく。
(メ'A`)
それからドクオは、起き上がろうとするデルタを見つめた。
( ";;;゙) ガク....ガクッ
骨格のみを頼りにした起き上がり方は、やはりキャリアのそれだった。
濁った血を滴らせ、ゆっくり、ゆっくりとドクオの方へ近づいていく。
( ";;;゙) ズ....ズズ.....
(メ'A`)「……デルタ」
.
586
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:34:02 ID:/Wswjaq.0
この男さえも、この村を愛していただけの、
この男さえも俺は手に掛けなくてはならないのか。
(メ'A`)
ドクオは葛藤した。
デルタはぎこちなく動いてくる。人口ウイルスによって、
機械的に腐肉を動かされていく。
……くるのか、デルタ。来るのかい、
ドクオは内心で問いかけ続ける。
――だが、ドクオの予想を裏切った。
(メ'A`)「!?」
デルタの歩行は、ドクオを追い掛けるそれではなかった。
わずかにドクオの方から逸れると、そのまま身体を引きずっていく。
通常、キャリアは対象者を設定する。
この状況において弟者が設定した対象は、ドクオに違いなかった。
( ";;;゙) ズ....ズズ.....
(メ'A`)「お前……」
にも関わらず、デルタはドクオに危害を加えようとしなかった。
.
587
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:36:37 ID:/Wswjaq.0
やがてデルタは歩みをやめた。そこはドクオから少し離れた先の
ちいさな看板だった。「ハーモニーへ ようこそ」と書かれた看板、
そこのすぐ傍にデルタは居た。そうして、まるで力尽きたかのように
看板にもたれ掛かった。身体を小刻みに揺らしている。表情は分からない。
(( ";;;゙)) ... ....
(メ'A`)「………」
おかしい、これはキャリアではないのか?
ドクオの頭に疑問が過ぎった。
キャリアは対象者を、対象物をずっと追い続け……
(メ'A`)「……そうか、そういうこと」
( ";;;゙) ウ...ウ...ウ....
(メ'A`)「そうだよな、お前が、追い求めてたものは……それだもんな」
.
588
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:39:37 ID:/Wswjaq.0
ドクオはデルタを見つめ続ける。もたれ掛かりながらも、デルタは
その小さな町看板を抱きしめようとしていた。強ばった動作で、
痙攣をしながら、血飛沫をあげながら抱きしめている。全身全霊で、
愛を表現している。その様子を、ドクオは見つめ続けていた。
( ";;;゙).... .....
(メ'A`)
(メ'A`)「もう少しだ……もう少しなんだよ、デルタ。
あとちょっとで、このハーモニーにも笑顔が戻ってくる」
( ";;;゙).... .....
(メ'A`)「だから、安心して、」
(メ A )「……ねむって、くれねぇか?」
.
589
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:41:34 ID:/Wswjaq.0
.
(メ'A`)「安心して、天国から見てくれねぇか」
(メ'A`)「なあ……デルタ……」
(( ";;;゙))
( ";;;゙)「……ッぁ、ッぁ、……ぁあ……!」
言葉にならない言葉を発しながら、デルタはひたすらハーモニーの
町看板を抱擁し続ける。しかし、やがて、そのうち、デルタの顔が
安らんだかと思うと、彼は動かなくなった。次第に痙攣も間隔が大きくなり、
デルタの人生は、いま全く幕をおろしきった。
.
590
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:45:28 ID:/Wswjaq.0
(メ'A`)
すさんだ風がどっと吹き降りて、地面の細かな砂を大量に舞い上げた。
砂埃が辺りに立ち込めた。ドクオとデルタの間にも例外はなく、
視界が蜃気楼めいて、デルタの亡骸を揺らした。
(メ'A`)「必ず……だ。約束するよ、デルタ」
天を見上げてドクオは呟いた。空は既に橙いろに移り変わって、
細切れの白い雲が申し訳程度に浮いているばかりだった。
(メ'A`)
今までの喧騒とはうってかわって、ハーモニーは静かになっていった。
崩れた西部調の建物が夕焼けに晒され、廃墟めいた空気を出している。
ドクオはしかし、それでも立ち止まっていた。まるで何かを待つように。
―――― そして、そのときだった。
砂を踏む、何者かの足音がした。
591
:
名も無きAAのようです
:2012/11/04(日) 23:45:35 ID:YtZtmOs60
泣けるな、チクショウ
592
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:49:55 ID:/Wswjaq.0
.
――― ざりっ……
(メ'A`)「!?」
ドクオは咄嗟に振り返った。大通りの方からそれは聞こえた。
眩しい陽光と埃のせいでよく見えないが、確かに人影が、そこにあった。
――― ざっ……ざっ……
その者は小さく笑い声を立てながら、ゆっくりと近づいてくる。
――― ざっ……ざっ……
(メ'A`)「………!」
その笑い声は、始めて聞くものだった。けれども、
不思議と慣れ親しんだ声のようにも思われた。
――― ざっ……ざっ……
ドクオは握りこぶしを作った。ついに、来たようだ。
これまでドクオは、様々な策によって障害を乗り越えてきた。
ハーモニーに無数にあった障害。そしてこの目の前の男は、いままで
取り除けなかった障害であり、かつ最大の驚異と考えていたものだった。
――― ざっ……
.
593
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/11/04(日) 23:55:30 ID:/Wswjaq.0
.
( ´_ゝ`)「………」
(メ'A`)「………」
夕焼けの荒野、廃墟の建物。ドクオと対峙する、最強のガンマン。
兄者は既に手負いの身だったが、背筋をまっすぐに伸ばし、
ドクオを睨みつけている。ふたりの男は、しばらく相対していたが、
( ´_ゝ`)「フッフッフ……」
( ´_ゝ`)「―― サシを挑むぞ…… 考 古 学 者 ァ ! ! 」
(メ'A`)「………ッ!」
そうして、斜陽のハーモニーで、最後の決闘が始まろうとした。……
.
594
:
名も無きAAのようです
:2012/11/04(日) 23:58:45 ID:/Wswjaq.0
今日はここまで、次回はいつかの週末に。
>>584
気性の争うな男→気性の荒そうな男。 ミスです。
595
:
名も無きAAのようです
:2012/11/05(月) 00:04:47 ID:76Yhj9.E0
支援しようとしたら終わってた
しびれる…!!乙です!!
596
:
名も無きAAのようです
:2012/11/05(月) 02:36:42 ID:AVDPl4V60
濃密すぎて言葉にならないぜ
乙!
597
:
名も無きAAのようです
:2012/11/05(月) 10:01:05 ID:lRCtW6w.O
乙
598
:
名も無きAAのようです
:2012/11/05(月) 19:36:32 ID:JCywC5Rw0
乙!
デルタ・・・
599
:
名も無きAAのようです
:2012/11/05(月) 22:58:03 ID:OEvOrsQ.O
弟者ノリノリ!おつです。
600
:
名も無きAAのようです
:2012/11/06(火) 06:21:03 ID:nE5C.Jbc0
思いの向こう側の作者さんが兄者の絵を描いてくださいました。
むちゃくちゃ嬉しいです。ほんとうにありがとうございます!
http://vippic.mine.nu/up/img/vp96921.jpg
601
:
名も無きAAのようです
:2012/11/06(火) 17:45:36 ID:wH8RLcAwO
かっけー!!!
602
:
名も無きAAのようです
:2012/12/12(水) 20:16:24 ID:lSSy0RH20
本当にかっこいい兄者だな
603
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 20:29:18 ID:KYRNhUOs0
旅行でしばらく取れないので、書き溜め分だけ投下します
604
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 20:33:18 ID:KYRNhUOs0
.
―― 自分の人生はどうしようもない糞なことなんて、ガキの頃から知っていた。
―― だからこそ、弟者の示したこの悪の道……覚悟と命だけの世界が、
―― とても、とても眩しくて……この世界で輝こうと誓った。
. .
605
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 20:37:00 ID:KYRNhUOs0
.
タンブルウィードの転がる、日暮れかけた世界だった。
静まり返った風景だが、対峙しているふたりの男の内側はそうでもない。
ひとつのきっかけに流血を促す、一触即発の気配を滲ませていた。
( ´_ゝ`)「お前には命を賭けてもらうぜ……」
(メ'A`)「………」
互いに互いを凝視していた。怪我の具合からして既に満身創痍
に見受けられる兄者は、その割に余裕の笑みを浮かべてドクオを睨んでいる。
そうして、ドクオは兄者の様子を確認しながら、
(メ'A`)「ならひとつ、約束してもらおうか……」
( ´_ゝ`)「ん?」
(メ'A`)「その決闘で俺がお前を打ち負かしたら……そのときは……」
(メ'A`)「この村の抱えてるマーパーツ、ぜんぶ俺が戴くぞ!」
兄者は薄く笑って、
( ´_ゝ`)「いいだろう、幾らでもくれてやるさ……」
.
606
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 20:43:37 ID:KYRNhUOs0
.
(メ'A`)「………」
その言葉で、心が逆立つのを感じた。
これは最大のピンチであるとともに、最大のチャンスでもあった。
兄者の変貌はドクオにとって、状況が好転したともいえる。
口ぶりからして、兄者は嘘をついているとも思えない。
ほんとうに兄者を打ち負かすことが”出来れば”、今までの苦労が報われる。
想像できないほどの幸せが、目の前にちらちら光っている。
しかし、それから、兄者は今までの人形めいた風貌
からは想像もつかないような、凄みのある顔になって、
( ´_ゝ`)「もし、貴様が…… 勝 て た ら な ァ ッ !!!」
(メ'A`)「ッ!」
その一言が、戦闘の合図となった。
.
607
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 20:52:08 ID:VfqNRqAE0
きてたー!支援支援!
608
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 20:52:19 ID:KYRNhUOs0
途端に兄者から発された、
迸る情熱がドクオにその「始まり」を告げる。
(メ'A`)「ッ!」
先に動いたのはドクオだった。
反射神経が、すばやくドクオの筋肉を動かす。
そうして移動した先は――相対する兄者とは真横の方向。
ある建物のスイングドアに目掛けて全力で走り出した。
( ´_ゝ`)「フン」
その動きを見透かしたかのように、兄者も行動しはじめる。
いつの間にか握った拳銃で、移動するドクオのボディに照準を合せ、
一発を、
(メ゚A`)「―― うっぐ!」
撃ち込んだ。
放たれた弾丸は、走り抜けるドクオを待ち構えていたようだった。
ドクオの胸元に銀の弾が衝突した。
防弾シャツ越しに感じる苦痛、肋骨が悲鳴を上げ、呻きが漏れそうになった。
609
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:00:03 ID:KYRNhUOs0
(メ;'A`)「……ッ!」
被弾の衝撃で身体が痺れる。足が縺れそうになった。
( ´_ゝ`)「どうした! 逃げるつもりかッ!?」
兄者は続けて、撃鉄をなんどもおろしていく。
続けて更に二発が撃たれた。直線上のドクオを射抜こうとする。
一つは脇腹に、もう一つは鳩尾を鋭く殴った。立て続けの苦痛に
ドクオは倒れかけた。が、それでも体勢を立て直して走り続ける。
(メ;'A`)「(ってえ! 機動性重視の防弾シャツじゃ、こんなもんか!)」
スイングドアに向けて足をがむしゃらに動かし続ける。そうして
防弾性について素早く考えた。この程度の防弾力なら二度続けて
同じ箇所を撃たれた場合、即座に手酷い傷を負うことになるのは違いなかった。
このシャツは、あくまで突然の狙撃による致命傷を防ぐためのものであって、
けっして戦場に単騎突撃するためのものではなかった。
なにより、いま対峙している男は、火星どころか人類史で見ても
最強レベルに位置するであろう凄腕のガンマンなのだから。
少しでも立ち止まれば、連続狙撃によって鉛玉が身体にきりきりと入り込むであろう。
(メ;'A`)「(――早く! 早く! 早く!)」
脚をとにかく働かせる。砂ばかりの地面で滑りそうになっても、
ひたすら建物を目指し続けた。走り出してからまだ5秒も経過していない。
だというのに、すでに此方には一撃死のリスクが待ち構えていた。
.
610
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:07:46 ID:KYRNhUOs0
( ´_ゝ`)「ふん」
脱兎のごとく駆け出すドクオだったが、兄者は集中して狙おうとしなかった。
最初の三発で打ち止めにしてしまった。瞳だけはギラついて、ドクオの
進行先と身体状況を測っている。逃げ出したドクオに、いささか興ざめして
しまったのかも知れない。この状況で狙い続けるのは、決闘ではなくただの狩りになってしまう。
ドクオがスイングドアにタックルをし、強引に中に滑り込んでいった。
その入り込んだ場所はバーであった。始めて顔を合わせたあのバー。
ぼんやりとそう考えると、ドクオの姿はすでに見えなくなった。
ギイギイとスイングドアが唸って、忙しなく振り子のように動いている。
( ´_ゝ`)
兄者はそれから、ようやく歩きだした。目指す先は無論、そのバーである。
中の様子を、気配を感じ取ろうとする。あのドクオが無計画に逃げるわけはない。
必ずなんらかの反撃を仕掛けてくるに違いない。果たしてそれはどのようなものか。
( ´_ゝ`)「……殺気はあるみたいだな」
バーから立ち込める雰囲気、それは追い込まれた弱者の放つそれではなかった。
必ずや反撃をしてやるという意思が、ありありと感じ取れた。
奴はなにかを企んでいる。歩きながら、兄者はほくそ笑んだ。
――そうだ、そうこなくっちゃァな。それでこそ殺りがいがあるってもんだ。
互いに,魂を削り合おうじゃないか。命の輝きを感じようじゃねえか!
.
611
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:12:54 ID:KYRNhUOs0
しかし、そんな思いとは裏腹に、唐突な痛苦が兄者の背中に走った。
血だらけの背に、いくつかの鉛玉が容赦なく衝突したのだった。
何者かに狙撃されたらしい。たちまち兄者はふらついた。
(;´_ゝ`)「っ……!」
振り向くことなく、兄者は反撃の銃弾を放った。しかしその
鉛弾は狙撃手を殺すことはなかった。すぐに物陰に隠れたらしく、
その銃弾が木の壁に突き刺さる虚しい音だけが響いた。
(;´_ゝ`)「くそ……!」
残党が未だに残っているらしい。それも二階のテラスから
標的を見つけては撃つ、兄者とは違ったタイプのガンスタイルだった。
そもそも兄者は弟者の絶対的な下僕という認識が、それぞれの
ハンターの常識に刻まれていた。となれば、火事場泥棒紛いをしている
連中にとって、兄者は邪魔な存在であり、排除する対象になっているのだ。
兄者は体勢を立て直しつつ、ドクオの居る酒場へ向かった。
吐き捨てるように、
(;´_ゝ`)「ちっ……色気もねえ弾を喰らっちまった」
(;´_ゝ`)「これもまた、人生って奴かい……」
雑魚に構う暇などない。
兄者は足取りも確かに、すすんでいった。
始めて互いに顔を合わせた、あの酒場「バイフック」へ。
.
612
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:18:05 ID:KYRNhUOs0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
―― 裁判館 2F
(´<_` ;)
弟者は立ち止まっていた。外套を羽織り、必要な書類や生きるために
必要な高価な物資の類をアタッシュ・ケースに詰め、逃げ立つ準備を
しきったというのに、弟者はこの部屋から出られないままだった。
その理由というのは、
(´<_` ;)「……さっさと、帰ってこい……!」
絶対的な下僕、兄者が未だ帰還していない。それひとつだった。
弟者は逃走について、色々考えていたのだが、これから先の
人生において、間違いなく兄者の存在は必要不可欠になるであろう。
逃亡者として生きる上で、裏切る心配もなく、圧倒的な戦闘力を
持つ兄者の存在は、あまりにも大きいものだった。
.
613
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:22:00 ID:KYRNhUOs0
自分一人で、なにが出来るというのだ。焦りを隠せぬ脚に、
弟者は心のなかでなんども叱咤した。権力を失った自分には、
他者をコントロールして成り上がる術など使えようもなかった。
もとより、ハンター組合に追いかけられる身では、どうすることさえできない。
兄者が必要だった。
これから先、生きる上では、必ず。
(´<_` ;)
弟者は今の無力さを自嘲していた。愚かな人間だと馬鹿にしつつ他者を
操って、こうして成り上がっていたというのに、いざ地盤が崩れたら
どうだろう。俺も何も変わらないじゃないか。
他人が居なければ、無力な人間なんだ、おれは。
(´<_` ;)「くそったれ……!」
弟者は扉を睨みつける。見慣れた扉はしかし、修羅の道へ誘う
死神に成り下がった。恐怖と利が、ハーモニーから逃げることを許さない。
まるで、鎖か何かで縛られている感覚であった。
兄者という存在に、弟者は鎖で縛り付けられた気分だった。
614
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:25:59 ID:KYRNhUOs0
.
(´<_` ;)「こんなところで、俺は終われないんだ……ッ!」
(´<_` ;)「なんでもいいっ……ハーモニーなぞどうでもいい!
兄者ッ! 早く帰ってきてくれ……お前が居なきゃ……!」
先刻の己の判断ミスを呪いながら、扉を睨みつけながら、
恐怖から目を逸らすように、弟者は力強く心境を吐露した。
それから窓の方へ向かい、防弾ガラスの冷たさを掌で
感じながら、荒涼とした広場を見下ろした。笑えるほどに夢の跡。
,
615
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:28:37 ID:KYRNhUOs0
(´<_` )「………?」
ふと気になった、とある建物を注視する。
見知ったその酒場、「バイフック」のスイングドアを
押そうとしている、見知った後ろ姿のその男。シャツがずたずたに
裂けてい、さらに溢れ出た血がべっとりと汚れを覆っている。
だが、紛れもなく、それは実の兄の背であった。
( ´_ゝ`)
(´<_` ;)「兄者ッ!!」
声は無論届かない。だが、弟者の視線は兄者に釘付けだった。
だが、次の瞬間、
(´<_` ;)「!?」
強烈な閃光が、バイフックの扉から物凄い勢いで放たれた。
そして兄者がその光、火炎、エネルギーに巻き込まれ、
後ろへ吹き飛ばされる。爆発だ。弟者はそれを手榴弾と直感した。
何者かと戦闘をしている。そして、
この戦いが終わらぬ限り、兄者は帰ってこない。
(´<_` ;)「……兄者……」
.
616
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:35:15 ID:KYRNhUOs0
―― バイフック。入口手前。
(;´_ゝ`)「――ぬぅうううッ!!」
スイングドアを吹き飛ばすほどの爆炎が、兄者に襲いかかってきた。
またも手榴弾だった。咄嗟の才覚で受身を取り、更に脚が地に着いた
と同時に、無理やり方向転換をする。ドア前で放たれた爆発ゆえ、その
扉の延長線を避けさえすれば、最悪の事態は免れられる。
ふたたび味わった凶悪な熱風だったが、回避は以前のものよりは容易だった。
ダメージは受けているものの、いまだ兄者の戦意を削ぐに至っていない。
(;´_ゝ`)「くっ……!」
よろりと立ち上がって、バイフックの焦げ付いた店先を睨みながら、
(;´_ゝ`)「どれだけ手榴弾に愛されてんだか……」
息を整えつつ、器用に片手で銃をリロードした。
同時に脳内では、情報の整理をする。阿部に二回使われ、そして
たった今受けたこの手榴弾は全て同型のものだった。抗争に
明け暮れた兄者にとっては珍しい「サターン」と呼ばれるタイプだ。
617
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:40:50 ID:KYRNhUOs0
「サターン」が既存の手榴弾と決定的な違いは、爆発の形状が
一番大きい。サターンの爆発は、さながら土星のリングのように
炎の円盤が一気に広がっていく。そのエネルギーは地面を抉ることはないし、
天井を焼き尽くすこともない。高低差さえ見極めれば、
使用者はほんの至近距離でも巻き込まれずに済む。
また、通常のタイプに比べると殺傷力は低い。
主に牽制に使われるもので、大量死を望まないドクオの考えに
よって発注されたのだ。しかし、これによって、
( ´_ゝ`)「(貴様の位置、ある程度検討がついたぜドクオ……!)」
兄者は再び、バイフックの店先に立った。
それから躊躇なくその店内に入っていく。
硝煙は薄くなっているため、視界に不自由はない。
酒場「バイフック」は、不気味なほど薄暗かった。
今、兄者の立っているその位置が大体の爆心地であるらしい。
周囲の丸机は奥の方へ飛ばされ、あちこちに横たわっている。
そしてそのどれもが、死角を作っている。
奥にはカウンターバー、ガラスに守られた酒棚。
といっても酒棚は荒れに荒らされ、高価なボトルは盗まれているし、
空き瓶はそこらじゅうに散らばっている。
そしてバーの途切れたさきに、
( ´_ゝ`)「(………)」
二階へと続く、木造の階段があった。
618
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:43:59 ID:KYRNhUOs0
兄者は確かな足取りで階段へ向かっていった。自身の存在を
示すかのような歩き方だった。一歩々々、床を踏むたびに
ミシミシと木材の軋む音が鳴った。
( ´_ゝ`)
熱意が、静まりきったバイフックの店内に溢れているのを感じる。
阿部のドス黒い殺意とはまた違った、計算され尽くしたような
冷静さが顕著だった。しかしそれは、青い炎のように、静かながらも
確かな「殺意」が根底で息づいている。
( ´_ゝ`)「(……この緊張感、久しぶりだな。シアトル以来だ)」
未だ眼前に、ドクオは現れていない。
階段までもう少しのところだった。
歩くたび、ドクオを打ち抜きたくて左腕がウズウズと興奮した。
指がクモの手足のようにせわしなく蠢いた。
緊張感と高揚感が脳一杯に広がっていった。
619
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:45:19 ID:KYRNhUOs0
張り詰めた店内を、兄者は鷹揚に歩き続ける。
身体の隅々にまで行き渡る闘志と共に歩き続ける。
( ´_ゝ`)
もうすこしで階段、という辺りまでやって来た。
空気に混じった殺気が一段と濃くなっている。
背中の流血のためか、ときおり貧血めいて力が抜けていきそうに
なるが、その波さえ去ればまた闘志が身体の隅々に行き渡っていく。
( ´_ゝ`)
一歩、右脚を前に出して、それから、
身体の重心を前方に移す、そのときであった。
――兄者の左腕が素早く動いた。
ホルスターから黒光りする銃が抜き取られ、もう構えられた。
.
620
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:46:32 ID:KYRNhUOs0
.
( ´_ゝ`)「ッ―――!」
(メ'A`)「―――ッ!」
二人は互いに互いを視認した。構えられた二つの銃でさえ、
持ち主と同じように対峙してい、そうして、ほとんど同じタイミングで
トリガーを引いた。痺れるような
振動が、銃身から腕、身体全体に伝わっていく。
発射した弾丸ふたつは、極めて短い時間にすれ違ったかと思うと、
まっすぐ標的に向かっていった。ドクオの弾丸は兄者にめり込んだ。
兄者の弾丸はドクオにめり込んだ。
(;'A`)「ぐッ!」
(;´_ゝ`)「……ッ!」
威力こそ同じだが、手負いの兄者の方がダメージが大きかった。
621
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:51:41 ID:KYRNhUOs0
両者ともに弾丸を胸元に食らい、怯んだが、
さきに行動できたのはドクオの方であった。
(メ'A`)「!」
身軽に体勢を立て直すと、グリップを握ったままで
兄者の傍へ駆け出していく。立ち上がったものの、
未だ反撃の様子を見せない兄者のもとへ。
(;´_ゝ`)
兄者の思考が、末端の神経一本々々が、不動の筋肉に
反して暴走したように騒いでいる。向かってくるドクオを視認する、
鉛玉を撃ち込むプランが、刹那のタイミングで浮かんでは修正されていく、
というのに、身体が言うことをきかない、多量の流血に加えて、
複数回も攻撃を受けた経緯が、この瞬間に現れてきたらしい。
(;´_ゝ`)「(くっ……! 動けッ…休むな、俺の身体――!)」
ドクオを睨みつけながら、命令をしているが、思う通りに動けない。
敵はいつの間にか銃をホルスターに仕舞い、隠し持っていたらしき
キッチンナイフを右手に構えている。その刃は銀いろに加えて
ぬらぬらと不気味な光沢を放っている。もう、時間がない、
(;´_ゝ゚)「(――ぬゥウ!!)」
左手に全神経を集中させた、グリップの硬さを再確認する、
と、同時に撃鉄をすばやくおろして、トリガーに掛かった指を動かす。
622
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:54:01 ID:KYRNhUOs0
.
銃声が一回だけ、また響いた。
(;;'A`)「――ううッ!」
鉛玉がドクオを確かに抉った。たちまちドクオの表情が
苦悶に歪んで、脚の動きも僅かながら緩んだ。兄者が狙った
ドクオの部位は、ナイフを握る右手、それも力の集中する
手首であった。が、
(;´_ゝ`)「………ッ!?」
ドクオの右手には未だナイフがあった。その理由は、ドクオの
体勢を見れば明白であった。ドクオはとっさの才覚で兄者が
発砲する、それもナイフを吹き飛ばす魂胆を見抜き、ばかりか
左腕でナイフごと右手を庇ったのだった。故に、狙撃された
部位は右手首ではなく、左手の甲。撃たれた衝撃で、刃先に
触れてしまいそうだったが、それもなんとか持ちこたえた、
今となっては、もう、刃の射程距離にまで到達したのだった。
(メ'A`)「(今だッ!)」
クラウチングスタートめいて体勢を前かがみにすると、ドクオは
ナイフのグリップを一層ちからづよく握り締めた。ステンレス製の
刃がきらりと光る。しかし、兄者にしてみれば、先刻の攻防で
重要性、危険性を察知したドクオのそのキッチンナイフを放って
おけるわけもなかった。といっても、左手に鞭打って再び
狙撃するには時間がなさ過ぎた。攻撃の姿勢をしたドクオは一歩踏み込んで、
いままさにナイフをまっすぐ兄者向けて突き出したのだから。
(;´_ゝ`)「ッ!」
.
623
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:56:09 ID:KYRNhUOs0
兄者のとった行動は、刃が来る間際に横へ崩折れるというものだった。
身体がぐらりと傾いで、視界が90°変わっていく。
ひゅん、と風を切る音が兄者のすぐ傍で聞こえた。それは
無論のこと、空振りに終わったドクオの渾身の攻撃だった。
ドクオは、追撃するには時間を要した。全体重を込めた
突きの一撃、しかしその空振りによって、体勢が崩れてしまった。
それは倒れ込んだ兄者も同様だったが、すんでのところで回避したアドバンテージ、
若干の時間差優位に立っていた。倒れた衝撃を活かして身体を
一回転し、膝立ちをする。視界に映るのは、身体のバランスを
失った、無防備なドクオの横姿だった。
( ´_ゝ`)「(……今だ)」
(メ'A`)「!?」
反撃のチャンスはこの瞬間だと悟った。――いつものように、
素早く冷静に銃を構えると、ドクオの無防備な脇腹を撃った。
乾いた銃声が、二発、ふたたび響いた。
それに呼応してドクオの短い叫び声が、店内に響いた。……
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
624
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:58:24 ID:KYRNhUOs0
―― ハーモニー 大通り
(;`・ω・´)「………!?」
入り組んだ裏道を抜け、大通りを出てすこし歩いた先のことだった。
異様な光景――木箱やダンボールが滅茶苦茶に乱雑している――が
まず目に飛び込んできて、それから、見知った二人の顔を視認した。
(;`・ω・´)「阿部さん! エノーラ!」
いかにもそれはノーナンバーズの二人だった。生死不明で
ぐったりした状態の阿部を、エノーラが必死に呼びかけている
その光景に、シャキンはいち早く駆けつける。傍のヘルメットを
蹴り飛ばす勢いで、動かない阿部に抱きついて、
(;`・ω・´)「あ、阿部さんッ!!!!!!!!!」
返事はなかった。シャキンは唾を撒き散らしながら、
(;`・ω・´)「エノーラ!! どういうことだよ!?」
||‘‐‘;||レ「わからないよッ! 私が来たときには、もう……!」
シャキンは再び、阿部の容態を確認した。頑丈なはずの防護シャツ
を重ね着しているが、そのどれもが焦げて黒ずんでいる。更に
注意して見てみると、いたるところに銃痕と滲んだ血があった。
額が切れてい、流血した痕が残っている。脈は確認できるため、
死んでいはいないだろうが、重体には違いなかった。
625
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 22:00:33 ID:KYRNhUOs0
(;`・ω・´)「これはひどい」
||‘‐‘;||レ「動かした方がいいのかな……ここにいたら危ないし」
(;`・ω・´)「……や、首が骨折してたら危ない……。ぼくが
……ここは……」
言葉はしかし、そこで途切れた。
砂を踏む、何者かの足音を聞いたからであった。
||‘‐‘;||レ「ひっ……」
エノーラが小さく怯えた。ゆっくりとシャキンは振り返る。
そこには、残党らしきハンターが一人、下卑た笑いを浮かべて立っていた。
||‘‐‘;||レ「……なにか、用ですか」
あまりに無意味な問いかけだった。当たり前のように
その襲来者は返答をせず、変わらず目の前の獲物を眺めている。
(;`・ω・´)「っ………」
いままでの経験上から断言できた。
このハンターの要求、望みなど聞かなくてもわかる。
「金を寄越せ」「そして死ね」だ。
.
626
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 22:02:26 ID:KYRNhUOs0
今日はここまで。眠さが限界ですので。よい夜を。
627
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 22:04:05 ID:k8K5I4t.0
おつー
ハラハラするぜ、また次を楽しみにしてる
628
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 22:14:50 ID:sNISGESg0
おつ
629
:
名も無きAAのようです
:2012/12/15(土) 00:22:16 ID:xh61z38Y0
乙!しびれるぜ
630
:
名も無きAAのようです
:2012/12/15(土) 19:52:40 ID:gkOzk75s0
乙
631
:
名も無きAAのようです
:2012/12/15(土) 22:40:32 ID:S0gEu/gs0
おつ
632
:
名も無きAAのようです
:2012/12/31(月) 09:41:01 ID:Vu796Qi6O
脇役ハンターが輝いてるな
633
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:18:27 ID:j2823KTo0
―― ハーモニー 大通り
(;`・ω・´)「………!?」
入り組んだ裏道を抜け、大通りを出てすこし歩いた先のことだった。
異様な光景――木箱やダンボールが滅茶苦茶に乱雑している――が
まず目に飛び込んできて、それから、見知った二人の顔を視認した。
(;`・ω・´)「阿部さん! エノーラ!」
いかにもそれはノーナンバーズの二人だった。生死不明で
ぐったりした状態の阿部を、エノーラが必死に呼びかけている
その光景に、シャキンはいち早く駆けつける。傍のヘルメットを
蹴り飛ばす勢いで、動かない阿部に抱きついて、
(;`・ω・´)「あ、阿部さんッ!!!!!!!!!」
返事はなかった。シャキンは唾を撒き散らしながら、
(;`・ω・´)「エノーラ!! どういうことだよ!?」
||‘‐‘;||レ「わからないよッ! 私が来たときには、もう……!」
シャキンは再び、阿部の容態を確認した。頑丈なはずの防護シャツ
を重ね着しているが、そのどれもが焦げて黒ずんでいる。更に
注意して見てみると、いたるところに銃痕と滲んだ血があった。
額が切れてい、流血した痕が残っている。脈は確認できるため、
死んでいはいないだろうが、重体には違いなかった。
634
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:20:19 ID:j2823KTo0
(;`・ω・´)「これはひどい」
||‘‐‘;||レ「動かした方がいいのかな……ここにいたら危ないし」
(;`・ω・´)「……や、首が骨折してたら危ない……。ぼくが
……ここは……」
言葉はしかし、そこで途切れた。
砂を踏む、何者かの足音を聞いたからであった。
||‘‐‘;||レ「ひっ……」
エノーラが小さく怯えた。ゆっくりとシャキンは振り返る。
そこには、残党らしきハンターが一人、下卑た笑いを浮かべて立っていた。
||‘‐‘;||レ「……なにか、用ですか」
あまりに無意味な問いかけだった。当たり前のように
その襲来者は返答をせず、変わらず目の前の獲物を眺めている。
(;`・ω・´)「っ………」
このハンターの要求、望みなど聞かなくてもわかる。
「金を寄越せ」「そして死ね」だ。
.
635
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:22:19 ID:j2823KTo0
.
(;` ω ´)「………」
心の中で、シャキンはなんどもなんども毒づいた。
恩人の阿部が瀕死の状態で、友人の女性は怯えている。
この状況、覆しようのない絶体絶命。自分は何をすべきなのか。
戦闘の二文字が頭に過ぎっただけで、ふくらはぎの傷が
またも痛んで、心が竦んだ。しかしどうやって切り抜ければ、
自分がしないといけないのに、助けなくちゃいけない人が、いるのに。
(;` ω ´)「……なんで……」
ふと、目を地面に落とすと、その合間に武器を発見した。
それは紛れもない、兄者がエノーラに託したリボルバーだった。
エノーラの腰で頼りなく揺れるホルスターのなかで、ぎらりと黒光りした。
(;` ω ´)「............」
―― なんだよ、なんでなんだよ。絶対に来て欲しくない
タイミングでお前は来ちまうんだ。このときだけは、
阿部さんを安全な場所に移す、この時間だけは、邪魔されたくないのに。
.
636
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:27:16 ID:j2823KTo0
(;` ω ´)「――ふざ、けんなよ……」
シャキンはやおら立ち上がった。素早くエノーラの持つ
拳銃を抜き取ると、険しい表情に変化したそのハンターに向かって、
実弾を放った。それも、顧みない乱射をしながら、
( `;ω;´)「ふざけんなよッ! こっちは必死なんだよッ!!
阿部さんを助けなくちゃいけない!
ハーモニーを取り返さなくちゃいけない!!!」
その射撃に対応して撃ち返してくるハンター。
鉛玉がお互いの身体をえぐっていく。
||‘‐‘;||レ「シャキン!」
( `;ω;´)「必死なんだよッ!! 生きるのにも、
助けるにも必死で頑張ってるんだッ!!
それを、お前らがッ……へらへら笑って
いろいろ奪ってくお前らがっ……!!!
ふざけるなよ!! ふざけるなァアアッ!!!!!」
青年の慟哭は、相対したその男が絶命するまで続いた。
そしてそれでもなお、彼は涙をながし続けたのだった。……
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
.
637
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:30:53 ID:j2823KTo0
.
―― バイフック 戦場と化した酒場
火薬と血との臭いが、狭くも広くもない木造りの酒場を満たしている。
二人の男が相対し、相手の死角に隠れようとする靴の擦れる音、
それと荒い吐息が、狭くも広くもないバイフックで絶え間なく響いた。
( ´_ゝ`)
(メ'A`)
先程と違うのは、銃を多用しなくなったことであった。
この袋小路のようなバイフックでは、リロードの時間さえ惜しく、
時間がたつにつれて銃弾の重要性が増していった。
(;'A`)
( ´_ゝ`)
更に言えば、体力が残っていたドクオがダメージを負ったことにより、
動きの速さが互いに等しくなってしまったのである。
ドクオは兄者の姿を視認すると、素早く横倒れの丸テーブルの裏に身を隠す。
兄者はゆっくりと近づいて、そのドクオの隠れた壁を凝視する。
(;'A`)「(この状況はまずいぜ……)」
.
638
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:34:02 ID:j2823KTo0
兄者の立てる足音に耳をそばたてながら、
(;'A`)「(
俺が兄者に優っていた唯一の、決定的なアドバンテージ……
体力が削られていく、この状況は非常に不味い……。
兄者自身も確実に体力を消耗しているが、人間の体力は
ある程度下回ると反応速度やらが著しく下がる……。そこに、
同じ土俵に引き込まれたら、俺に勝ち目はないッ!!)」
息を整えようとするも、鼓動は早まるばかりだった。
(;'A`)「(時間を与えれば、兄者の体力もちょっぴりだが回復しちまう。
現に兄者はさっきより機敏になりつつある。……くそ、あの一撃を
ミスったのはキツすぎる。あそこからズルズルとこんな展開にさせられちまった)」
ドクオは汗塗れの掌を、壁にしている丸テーブルの支柱で拭いた。
(;'A`)「(だが、こっちにもまだナイフは残っている。……それに、
今ならまだ! 兄者のスピードを上回っているッ!!)」
( ´_ゝ`)
.
639
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:37:25 ID:j2823KTo0
.
( ´_ゝ`)「(流れはこっちに傾いている……)」
兄者は驚くほど落ち着いていた。流血も
止まり、傷跡から響く痛苦もゆるやかに収まってきている。
ドクオの隠れた丸テーブルを見やった。影から、ドクオの焦りが
吹き出ているのを感じる。だらしなく倒れたテーブルは、
ほんのすこしの衝撃でころころと独楽のように動きそうだった。
( ´_ゝ`)「ふっ」
ならば、その壁を撃ってやればいい。貫通はしないだろうが、
銃撃の弾みでテーブルの影からドクオの身体は剥き出すであろう。
ついでにリロードをしてから、兄者は実行するつもりだった。
しかし、弾を詰めようとしたその瞬間だった――
( ´_ゝ`)「ッ!?」
状況が変わった。そのテーブルの影から、たちまち殺気が漏れ始めた。
隙をついてやろうと油断した瞬間に、ドクオが反撃の意思を見せた。
――丸テーブルが浮上し始めた。ドクオが死角を維持しつつ、
いかにもそれを持ち上げたのだった。壁から盾に変わった瞬間だった。
640
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:44:08 ID:j2823KTo0
(#'A`)「(……ぅらぁあああ!!!)」
ドクオはテーブルの支柱を両手に持ちながら、兄者の
いる方向に向かって突撃をした。兄者がリロードをしだした
その間隙を突いた。装填状態から撃つことはできない――
(;´_ゝ`)「ちぃっ!」
兄者は反撃しようにも、両手が塞がっている。蹴りは
隙が大きいうえにその場凌ぎにしかならない。避けるしかない、
しかし、駆け出そうとしたその一刻に、
(;´_ゝ`)「ぐぉ!!」
物凄い勢いで丸テーブルの平面が、兄者の前身と衝突をした。
そのまま兄者の身体は壁に叩きつけられ、更にその状態で、
テーブルがふたたび圧迫を加えていった。
(#'A`)「おらあ!!」
(;´_ゝ`)「っ!!!」
激突のせいで、兄者の手元から銃弾がこぼれ落ちた。
.
641
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:47:51 ID:j2823KTo0
ぎり、ぎり、と音がする。
(;´_ゝ`)「っ………!」
(#'A`)「ッ………!!」
ドクオは圧迫の力を緩めず、体重を乗せてますます強めていく。
兄者は状態が状態だけに身動きも取れず、体力をじりじり奪われていく。
これでは落とした弾を拾うことも出来ない。それどころか、
圧迫されたせいで、塞がりかけた背中の傷が再び痛みはじめた。
ぎり、ぎり、ぎり、ぎり、、、
(;´_ゝ`)
(#'A`)
充分な力を加えてから、唐突にドクオはテーブルを引っ込めた。
兄者が、ほんのわずかに解放される。たまらずふらつく兄者だったが、
(;´_ゝ`)!
驚異は再びやってきた。ドクオは、今度はテーブルをさながら
野球のバットのように振り回してきたのだった。丸テーブルの側面が、
兄者に向かって、物凄いスピードで向かっていった。そして、
(; _ゝ )「――!!」
鈍い音がした。そのまま、兄者と激突し、兄者はもろに衝撃を受けた。
受身も取れないまま、兄者は倒れて床を転がった。
しかし拳銃だけはしっかりと握り締め、庇うように両手で守っていた。
.
642
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:51:25 ID:j2823KTo0
(メ'A`)「―――」
丸テーブルを放り投げ、ドクオは駆けた。駆けた先は
無論のこと兄者の元だった。ドクオの手元には再び、
怪しく光るキッチンナイフが握られていた。
そしてその刃先は、兄者の太腿に突き立てられようとした。
防弾加工されたジーンズに守られた太腿、それでも
戦闘で破れた箇所を狙って、鋭い刃が突っ込んでいく。
そして、
(;´_ゝ`)「っぐ!」
熱を帯びた激痛が、兄者の左太腿に走った。筋肉をずたずたに
引き裂いて、血管を貫いていくドクオのナイフ。
(;´_ゝ`)「くぅ……!」
だが、勢いをつけてナイフを突き付けたために、ドクオの
モーションはわずかに止まった。兄者はほんの少し体勢を変えると、
銃口をドクオに向けた。
(メ'A`)「!」
そして発射する。ドクオの胸元に鉛玉が乱暴にぶつかった。
643
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:53:41 ID:j2823KTo0
(;'A`)「ァアッ!」
衝撃で後ろへ倒れそうになった。肋骨にヒビのはいる感覚。
予想していなかった反撃故に、受けたダメージも大きかった。
しかし、すんでのところで体勢を立て直した。
それから素早く兄者を見やった。
兄者は起き上がろうとしている。が、
(;'A`)「………(これでいい)」
ドクオは後ろ足でスイングドアまで移動していった。
そうして、バイフックから立ち去ったのであった。
・・ ・・
・・ ・・・
.
644
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:58:56 ID:j2823KTo0
(;´_ゝ`)「……はぁ……はぁ……」
兄者の身体に異変が起きたのは、それから間もなくのことであった。
応急処置で左太腿を止血してから直ぐのことだった。
立ち上がることが困難になった。たとえそれに成功しても、
歩こうと足を踏み出せば、また転びそうになるのだ。
身体が妙に火照った。動悸が更に激しくなった。
頭痛が起きてきた。倦怠感と、気持ち悪さが身体を襲った。
(;´_ゝ`)「これは……アル、、、コールか……!」
床に転がったそのキッチンナイフから、血の臭いに混じって
きついアルコール臭がプンと漂った。蒸発しきっていない、その純粋な臭い。
(;´_ゝ`)「……ド、クオ、め……」
ドクオのナイフには、度数のきついスピリタスが塗られていた。
蒸発すれば、隙をついてふたたび垂らし、何度も何度も機会を伺った。
直接アルコールを注入してやるために、
一突きで兄者の身体を戦闘不能にするために。
.
645
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:03:30 ID:j2823KTo0
(;´_ゝ`)「うう……!」
よろけながらも、しかし兄者はドクオの後を追おうとした。
スイングドアに手をかけ、ふらふらのまま外に出た。
夕焼けに染まった廃墟のハーモニーが目に飛び込んできた。
ハットを被っていても分かる、強烈なその日光。
一歩進むだけでも苦痛だった。アルコールによる身体の不調が、
傷つけられた筋肉が、傷跡に響く痛みが、襲いかかってくる。
太腿につけられた深い傷は、兄者の歩行をさらに困難にさせた。
しかし、体力もとっくに限界を超えていた。ほんの
一秒でも休んでしまえば、兄者の身体は倒れ、そのまま動けなくなる。
絶対的な予感が兄者にはあり、またそれだけは避けようとしていた。
痛みの中、進んでいくしかなかった。
死が、着実と兄者に忍び寄っていく。
(#´_ゝ`)「(上等じゃねえかァっ……!
流れ星は、燃え尽きるまで進み続けるッ……)」
.
646
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:08:07 ID:j2823KTo0
真っ赤に染まったハーモニーでは、夕焼けが多くの影を伸ばしている。
ただでさえ朦朧としてきた兄者にとって、ドクオを捜すなど
無謀きわまりないものだった。
(;´_ゝ`)「……どこ、だ……ドクオ……どこに、いやがる……」
広場の中央で、ふらつきながらも兄者は動いていた。
ドクオを捜すために。人生に花添えるために、
ドクオとの死闘を望んでいた。
(;´_ゝ`)「で、出て……こいッ……」
(; _ゝ )「………俺と……戦えェ……!」
砂を擦る兄者の足からは、血が垂れていく。しかしその血がすぐに
見えなくなってしまうほど、太陽は真っ赤に広場を照らしている。……
.
647
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:11:50 ID:j2823KTo0
(メ'A`)「(……兄者が、来ている)」
建物の影に隠れながら、ドクオは広場で呻く兄者を観察していた。
やはり逆光のせいでよく見えないが、動きからして、
満身創痍なのは確かだった。今にも膝から崩れそうな様子だった。
(メ'A`)「(……堅実に行かせてもらうぜ、俺はよ)」
銃を構えながら、ドクオは息を潜めた。
兄者の声は届かない。射程距離に入ったら、攻撃を開始する――
(メ'A`)「!?」
――つもりだった。
しかし、いきなり予想外の展開が起こった。……
死角からの、狙撃。
.
648
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:14:23 ID:j2823KTo0
―― 裁判館 2F
(´<_` )「お、おい……!」
(´<_`;)「兄者ッ!!」
窓の外に広がる光景。紅く染まった大地に立ち尽くしていた
兄者が、突然、背後から何者かに狙撃されたらしく、ばたりと倒れた。
死角からの狙撃。弟者は冷や汗を垂らして驚いた。
ガラスに顔をつけながら、弟者は兄者の様子を伺った。
しかし兄者はひくひくと痙攣したまま、立ち上がろうとしない。
(´<_`;)「く……!」
兄者から目線を外し、狙撃犯を探す。すると、近くの建物の
バルコニーに居るのを容易に発見した。犯人は見知った部下の
一人だったが、彼はヘッドショットを食らったようで、既に事切れていた。
信じられないことだが、兄者は倒れる間際に反撃を完了していたらしい。
そんな実の兄を、弟者は再び注視しはじめた。
.
649
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:18:33 ID:j2823KTo0
.
(´<_`;)「………」
兄者は、必死に立ち上がろうとしている。
両手で砂を掴みながら、起きようとしている。
しかし、足に力が入らないようで、なかなか上手くいかないようだ。
遠くから観察しても、兄者が死に直面しているのは容易に察せられた。
弟者は、胸のうちでこみ上げてくる不思議な感情に動揺しつつも、
兄者が起き上がるのを必死に見守っていた。
(´<_`;)「……死ぬというのか、、、兄者よ……」
そう呟くと、たちまち脳裏に今までの思い出が蘇ってきた。
物心つかないうちから、生きるために互いを支え合っていた少年時代。
パイク・プレース・マーケットで、隠れながら共に食料を求め合ったときを。
マフィアの下っ端をしながら、経済状況を支えてくれた兄者。
大学に進学できないと涙を流したら、「俺がなんとかする」と言ってくれた兄者。
そうして必死にアルバイトをした兄者。それでも、入学費には届かず、
申し訳なさそうに項垂れてた兄者。悪の道に入ることに賛同してくれた兄者。
死に怯えることなく、最強の切り込み隊長として活躍した兄者。
そうして、人形のように振る舞いつつも、俺の手として護衛として徹した、おれの、あに。
(´<_` )「………」
.
650
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:20:40 ID:j2823KTo0
.
(´<_` )「くそ……!」
今すぐにでも駆け寄りたいが、それが出来ない自分が惨めだった。
この部屋から出ようとするだけで、恐怖で胸がいっぱいになる。
築き上げてきた権力の崩壊を、認めてしまうことになってしまう。
帰ってこい、兄者。
(´<_`;)「死なないでくれ………!」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
.
651
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:25:27 ID:j2823KTo0
.
( _ゝ )
(メ'A`)「………」
ドクオもこの状況を、ただ見守ることしか出来なかった。
頭の中では、これが最高の攻撃の機会ということは理解できている。
しかしそれを、ドクオの矜持が否定をした。この機に乗じて
追撃することは、プライドが許さない。かといって、
救出も理の外にありすぎて、結局ドクオはアクションを起こせないでいた。
(メ'A`)「(倒れる間際にヘッドショットを成功させるなんて、あの男、
まじで常識外に生きてやがる……。奴に銃がある以上、
真正面から行くことも出来ねえが、どうするべきか)」
そのまま、何分か過ぎ去った。兄者は起き上がろう
としては失敗を繰り返し、戦闘態勢を取れないままであった。
目を背けたくなるほどの、哀れな様子で這っている。
(メ'A`)「(……これで、終わりなのか……?)」
客観的に
見ても、兄者の容態は戦闘不能扱いされるものであった。
多量の出血、疲労、無数の深い傷、身体を混乱させるアルコール。
だが――
.
652
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:27:17 ID:j2823KTo0
.
(; _ゝ )「くぅ……!」
広場の中央で、俯せに倒れている。
起きようと砂を掴んでも、筋肉が言うことをきかない。
すぐに力が抜けてしまい、また地面に衝突をする。
身体が、地面にへばりついているかのようだった。
血と砂に塗れた兄者の吐息には、時折、咳が混じった。
(; _ゝ )「………!」
―― ここで、死ぬっていうのか……?
あんな安っぽい弾を食らっただけで、
俺の命はここで尽きちまうってのか……?
(; _ゝ )「(命なんざ、惜しく ね ェ ……!)」
(; _ゝ )「(問題は、死に様って奴だ……!)」
.
653
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:30:34 ID:j2823KTo0
―― 自分の人生はどうしようもない糞なことなんて、ガキの頃から知っていた。
―― 明日も無けりゃ夢もねえ、希望なんてとうの昔に捨てちまった。
―― だからこそ、弟者の示したこの悪の道……覚悟と命だけの世界が、
―― 命を、魂を納得出来るほどに、散らしてくれる暴力の世界が、
―― とても、とても眩しくて……この世界で輝こうと誓った。
(; _ゝ )「(明日なんかいらねえッ……未来がどうなろうと知らん!
今、この一瞬だけだ……俺が望むのはこの一瞬だけ。
負け犬が唯一輝ける、流星のように燃え尽きる、
決闘が!! ドクオとの決着が!! 俺の望みッ!!!)」
再び、手に力を込めて、立ち上がろうとする。
.
654
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:35:14 ID:j2823KTo0
.
ありったけの力を込め、足に力を込め、身体を震わせ、
―― そうだ、俺は、俺は俺の魂を、
(; _ゝ )「――全うさせるためにぃいいッ!!!!」
(メ'A`)「!?」
兄者は立ち上がった。
そうして、慟哭のように、
(#´_ゝ`)「出てこいドクオォオオオオッ!!!」
喉が避けるほどに絶叫する。決闘だ、それだけが望み。
そのためなら銃など要らぬと、それを投げ捨てて、
(#´_ゝ`)「つまらねえじゃねえかよぉおおッッ!!!!」
.
655
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:40:39 ID:j2823KTo0
.
(メ'A`)「………!」
物陰から、叫んでいる兄者を眺めていた。
兄者は銃を捨ててまで、ドクオとの決着を望んでいる。
(メ'A`)「(正気じゃあないぜ、この男……! そこまでして、
戦いを望むっていうのか!?)」
ドクオの
足が一歩、前へ出る。
(;'A`)「(俺は戦闘狂でも何でもねえ、単なる学者だぜ!
夢のためなら命を賭けても、決闘のためには死ねねえ!
戦いに対する誇りなんざ、お前と違ってこれっぽっちも――!)」
そして、もう一歩、
.
656
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:45:46 ID:j2823KTo0
.
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「ククク……」
(;'A`)「………!」
ドクオは更に二三歩動いて、兄者の眼前に、完全に姿を現した。
(メ'A`)「(だが、だが、この男は"納得ずく"で倒すしかねぇ……!)」
( ´_ゝ`)
(メ'A`)「(この俺がだ!!)」
.
657
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:48:13 ID:j2823KTo0
血と泥に塗れた兄者は、ほのかに笑顔を見せながら、
( ´_ゝ`)「おいでなすったかい」
(メ'A`)「……パスワードのためさ。わざわざ出てきてやったぜ。
理屈もいらねえ、理論も知らん。ただ、心の底から、
信念って奴で、お前を倒してやるよ……アレン・ジャーブロ!!」
ドクオも、ホルスターごと銃を投げ捨て、ゆっくり兄者に近づいた。
( ´_ゝ`)「………!」
( ´_ゝ`)「なら、決着のときだな……!」
.
658
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:49:58 ID:j2823KTo0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
(´<_` )「兄者……」
血と泥に塗れながらも、兄者は絶叫をしながら立ち上がった。
そうしてやって来たドクオ。一騎打ちは目前だった。
どうしてそこまで戦えるんだ。
そんな言葉は無粋もいいところなのだろう。
保身も未来も捨てた兄者の心意気は、情熱は、
もう弟者には眩しいものだった。懐かしささえ感じさせる、そんな。
.
659
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:53:09 ID:j2823KTo0
.
(´<_` )「………」
(´<_`;)「は、ははは……」
兄者を見続ける。
おれは決着がつくまで、ずっと見ることになるだろう。
兄の勇姿を、最後の晴れ舞台を。
(´<_` )
(´<_` )「流石だな、兄者……」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
.
660
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:54:35 ID:j2823KTo0
.
―― ハーモニー 中央広場
.
661
:
名も無きAAのようです
:2013/01/20(日) 20:00:56 ID:76bVaZkk0
乙!明日も投下とは!嬉しいでござんす!
662
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 00:08:58 ID:Eyy.D00g0
乙!熱いぜ!
兄者流石すぎる……!!
663
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 09:56:43 ID:N8QZpaZ20
おつ
なんかウルッときちゃったよ
664
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 16:35:20 ID:NUezLvvQ0
兄者マジで男前だわ…どうなるか楽しみ
乙乙!
665
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 22:01:20 ID:Eyy.D00g0
ついに決着か……!?
666
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:42:06 ID:s37uEuCU0
.
. ―― ハーモニー 中央広場
.
667
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:44:02 ID:s37uEuCU0
.
その空間にて。ひと呼吸おいてから、
( ´_ゝ`)
(メ'A`)「――忠告だけしよう。これ以上、無理したら間違いなく死ぬぜ?」
ドクオは、諭すような口調で兄者に向かって、
( ´_ゝ`)「………」
(メ'A`)「多量の出血、極度の疲労、どうして今立ってんのか不思議なほどだ。
……それを"覚悟"というなら、俺はもう何も言わん。だが……」
血染めの兄者は、しかし愉快そうに、
( ´_ゝ`)「"明日どうなろうと、どうでもいい"……さ」
(メ'A`)「………?」
夕焼けのハーモニーで、二人の男が対峙している。
( ´_ゝ`)「俺にとっちゃあ、未来なんてとうに捨てたゴミに過ぎん。
今この一瞬だけを、死ぬ気で生き抜く。死に様が、そのまま生き様さ。
……あるいは、俺はシアトル時代の過去の亡霊なんだろう」
668
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:48:01 ID:s37uEuCU0
.
ドクオを見据えつつも、どこか遠くを眺める表情になって、
( ´_ゝ`)「あのときの情熱が忘れらんねえだけかも知れねぇ。
が、どっちにしろ、俺に明日なんざいらねえんだ」
(メ'A`)
兄者は、「お前もそうだろう」と呟いてから、息を整え、
( ´_ゝ`)「考古学なんて過去に生きてェやがる……そうさ、
過去に生きた者同士、明日を捨てた決闘を……
しようじゃ…… ね え か ァ ッ ! ! ! 」
(メ'A`)「!」
一瞬の躊躇いの後、ドクオが駆けだし、一気に距離を詰めた。
.
669
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:50:57 ID:s37uEuCU0
(メ'A`)
勢いをつけて、肉弾戦の射程に入ると、すぐさま
右拳を腰のあたりまで引いて、打撃の準備に入った。
いまだ兄者は動かない。間近で見るに、満身創痍だった。
( ´_ゝ`)
いける。ドクオはこの上ないタイミングで、まず
足払いを放った。ドクオの靴が、兄者の脛を横殴り、
態勢を崩させる算段だった、しかし、
( ´_ゝ`)
(メ'A`) !?
兄者は微動だにしなかった。意外な結果にドクオは
ほんの僅か――ほんの一瞬だけ、自身の勢いを殺してしまった。
それでもテンポの乱れた右拳を突こうとするそのとき、
(;'A`)「――ぐッ!?」
ドクオの首筋に鋭く、重い衝撃が走った。意識していない
左側を襲撃されたらしい。それも、左首筋から神経の集中する裏側に
かけて、猛烈な痛み、それに付随して圧迫感が追従してきた。
(;´_ゝ`)
兄者の反撃は単純で、右手でチョップを繰り出しただけであった。
しかし負傷しているその右手での一撃は、ドクオの予想していない
ものであった。兄者にも同様に、凄まじい痛覚が、電流のようにながれた。
670
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:52:43 ID:s37uEuCU0
(;'A`)
ドクオの右ストレートは、兄者の腹を撫でることさえできず、
虚空を揺蕩って仕舞いになった。加えて身体全体も、チョップの
衝撃そのままに、右側へ倒れ込もうとしていた。しかし、
兄者の左脚――ナイフの刺し傷の生々しいその脚――が、
受身の取れないドクオの身体に、膝蹴りを食らわせようと準備している。
そうして、
(;´_ゝ`)「ぉらああ!!」
(;゚A゚)「!!」
傷に無遠慮なまま、最大限の力を持って、ドクオの身体を蹴りつけた。
ドクオはされるがままに、後方へ飛ばされる。ただちに兄者の左太腿に、
引き裂かれるような痛覚が再来する。流石に追撃は不可能だった。
ドクオは砂地を転がり、脚に踏ん張りをつけて体勢を戻した。
チョップの影響か、脳震盪のような感覚があった。
だが目の前の戦闘に意識しなければならない。
(メ'A`)「くっ……」
すり足をし、少しずつ兄者と距離を取った。
兄者は身体を大きく揺らしながら、こちらへ寄ろうとしている。
671
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:55:33 ID:s37uEuCU0
(メ'A`)
(メ'A`)「………」
ドクオはその不屈の姿勢を眺め、自身の考えを改めていた。
(メ'A`)「(――俺は、心のどっかでこの男に哀れみを持ってた……)」
( ´_ゝ`)
(メ'A`)「(少なくとも、この状況ならまず負けはしねえだろうって、
哀れだからちょいと付きやってやるとか、そんな……そんな緩みが)」
(メ'A`)「(――だがそれは思い上がりもいいところだ!
あれだけ満身創痍のくせして、俺の体術を上回ろうとしてやがる!)」
(メ'A`)「(アドバンテージなど考えるな、俺。妙な計算なんかするな!)」
(メ'A`)「(……紛れなし。俺たちは、今、決闘をしているんだ……!)」
.
672
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:02:12 ID:s37uEuCU0
.
兄者が距離を詰めてくる。しきりに身体を傾いでいる。
(メ'A`)「(……ちくしょう、死ぬのは怖いぜ……だが、だが――)」
(#'A`)「――ぅおおおおおッ!!!」
( ´_ゝ`)「!?」
ドクオの瞳に激しい炎が宿った。ふたたび走り出し、兄者に
駆け寄る。兄者もまた、それに合わせてファイティングポーズを取る。
動作は同時。
ドクオはしかし、しかしドクオは兄者の射程範囲に
入る間際になって、右脚で、足元の砂を蹴り上げた。
ざっという小気味良い音と共に、両者の間に埃が立ち込める。
茶いろの煙幕が、とつぜん現れたのだった。
673
:
名も無きAAのようです
:2013/01/22(火) 16:03:00 ID:JAMlSzF60
兄者…
支援
674
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:05:41 ID:s37uEuCU0
.
兄者の殺気がほんのわずかに緩んだ。あらかじめドクオは目を閉じている。
砂に視界を奪われ怯むこともなく、先制した肉弾戦を試みた。
………だが、ふいにぞっとするような気配がドクオを襲った。
すかさず首元に強烈な圧力が掛けられ、四肢の全てが動きを止めてしまう。
呼吸がたちまち出来なくなった。口が酸素を求めてだらんと開く。
(;'A`)「……っぐぅ」
兄者の左手が喉輪を仕掛けたらしい。薄目に状況を観察すると、
晴れてきた砂埃の向こうで、兄者の血みどろの顔が浮かんできた。
それと、チョップの準備の整った、反った兄者の右腕までも。
( ´_ゝ`)
(;'A`)「………!」
.
675
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:06:47 ID:s37uEuCU0
(;'A`)「ぅおおおおおお!!!」
とっさの才覚で、両腕に力を込めた。それから自分の
首を絞めている兄者の左手――その腕の、それも肘のあたりを、
思い切り打ち付ける。両の拳骨が、兄者の伸ばしきった腕骨に打撃を与えた。
(;´_ゝ`)「っが――!!」
(メ'A`)「ふん!!」
拘束力は若干弱まった。
後ろに下がって無理やり引き剥がすと、
腰を落として右拳を固く握り締めた。
676
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:08:27 ID:s37uEuCU0
間髪いれず、ドクオは右ストレートを放った。視界に映る
兄者は、先の攻防をひきずったような体勢をしている。
(;´_ゝ`)「!?」
(メ'A`)「(いけ!)」
ドクオに慢心など無かった。ドクオの右ストレート
は、きわめて的確に兄者を狙った。拳骨から伝わる、
シャツ越しの兄者のアバラの固さ。瞬間、兄者が呻いた。
衝撃のままにぐらついたが、後ずさりをして
体勢を立て直す寸前になって、兄者に異変が起こった。
677
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:12:04 ID:s37uEuCU0
対峙するドクオさえ、硬直するような異変であった。
(;´_ゝ`)「………」
兄者の身体が、首から胴、胴から四肢にかけて、
ぴくぴくと人間らしからぬ痙攣をし始めたのだった。
息遣いも一層荒くなり、目も虚ろになりだした。
(;´_ゝ`)「く……!」
(;'A`)「!」
顔面を見れば、鼻血がどっと吹き出ている。
歯軋りのような音が口から溢れて聞こえ出してくる。
兄者は、混濁する意識を無理に押さえつけていた。
(; _ゝ )「ぅぅぅ……! ぅぅッ……!」
(メ'A`)「………」
(メ'A`)「兄者」
(#´_ゝ`)「まだだ……まだ、まだァッ……!」
ひゅう、ひゅうと吐息を漏らしながら、兄者は
ファイティングポーズをとった。それを見てから、
ドクオも構え、距離を取りはじめた。
678
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:14:19 ID:s37uEuCU0
.
(# _ゝ )「……来ないなッら、こっちからいくぞ……」
うわごとのように呟く。
ゆらゆらとドクオに近づいていく。
(メ'A`)
ドクオは、兄者を視界に収めながら、
(メ'A`)「終わらせてやる」
燃え立つ夕焼けに染まりきった大地を蹴って、距離をいっきに詰めた。
.
679
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:17:11 ID:s37uEuCU0
(#´_ゝ`)「おおおおお!!!」
兄者の右拳が大きく振りかぶった。上擦った体勢であった、
虚空をかきわけて、ドクオにいま、それは衝突しようとした、が、
(メ'A`)「(甘い!)」
しかしその速度は、ドクオに充分見切れるレベルに低下していた。
襲いかかる兄者の右腕の、その手首をドクオは左手で掴んだ。
( ´_ゝ`)「!?」
そうして直ちに、掴んだまま、左腕をおもむろにひいた。
兄者の身体も釣られて前のめりになり、腹部も無防備になった。
既にドクオは右ストレートを放つ体勢になっている。
隙だらけになった兄者に目掛けて、ありったけの力を込め、
(#'A`)「おらあ!」
(#´_ゝ`)「ぐゥ!!」
どん、と鈍い音が走った。兄者の顔が苦痛に歪んだ。
680
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:19:02 ID:s37uEuCU0
(; _ゝ )「……ァ、……ァァッ……!」
兄者の鳩尾に、ドクオの右拳がめり込んでいる。
ドクオは力を緩めない。兄者は反撃をすることが出来ず、
ちからの抜けた吐息をするばかりだった。
ドクオは考える。極めて短いその一瞬のなか、
(メ'A`)「(……明日を捨てる決闘。俺には出来ねえよ、兄者)」
(; _ゝ )「………!」
(メ'A`)「(だって俺は過去に生きてなんか居ねえ……!)」
(; _ゝ )「………」
兄者の身体から力が抜けていく。倒れる間際であった。
ドクオの右拳に身体を支えられている状態になる。
.
681
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:21:29 ID:s37uEuCU0
(メ'A`)「(明日も、ずっと、これからも、
(メ'A`)「(俺にはやらなきゃいけねえことがある。なぜなら――)」
すかさず、ドクオはめり込んだその右拳に再び力を込めた。
そしていっきに振り抜けた。兄者は糸の切れた人形のように
だらんと一瞬だけ傾いでから、ドクオの拳に推され――
.
682
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:23:23 ID:s37uEuCU0
.
ドクオは右拳に全力を込めて、叩きつける。
(#'A`)「―― 俺には夢があるッ!!!」
(;゚_ゝ゚)「っぐう!」
兄者の身体は地面に叩きつけられた。
四肢が遅れて音を立てる。
(; _ゝ )「う、うう……」
(#'A`)「明日が欲しいんだ、俺はァっ!!」
息を切らしながら、ドクオは叫んだ。
静寂のハーモニーに響き渡っていく。……
(;'A`)「はぁッ はぁッ………!」
荒々しい空気をよそに、一陣の風が、ひゅうっとふいた。
.
683
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:25:26 ID:s37uEuCU0
.
熱っぽい身体を冷やしたがるような、乾いた風が走り抜けていく。
――兄者は、動こうとしない。
(メ'A`)
ドクオは、その様子をただ見つめていた。
(; _ゝ )
.
684
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:28:57 ID:s37uEuCU0
.
仰向けになった兄者の眼前には、真っ赤な空が広がっている。
(; _ゝ )「う、うう……」
―――― だめだ、身体が動かねえ。まるで、そこが人形になっちまったかのように。
―――― 首から上だけが……今の俺は、首から上だけしか生きていない……。
―――― ああ、そうか、
( _ゝ )「(……燃え尽きた、んだな)」
―――― おれは、もう
.
685
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:30:23 ID:s37uEuCU0
.
(メ'A`)
( _ゝ )
それからまた、少し時間が経った。
そうして、兄者が軽く息を整えてから、
(; _ゝ )「俺の名前で……『jarbro-family』、だ……」
(メ'A`)「!」
( _ゝ )「それがパスワードだ、好きにするがいい……」
(;'A`)「………!」
すると、兄者は穏やかな表情になった。
紫の忍びはじめた黄昏空を見つめながら、ふっと笑う。
686
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:31:46 ID:s37uEuCU0
.
( ´_ゝ`)「――お前の勝ちだよ」
(メ'A`)
( ´_ゝ`)「流石だな、ドクオ……」
.
687
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:33:48 ID:s37uEuCU0
今日はここまで。あと二回でハーモニー編完結です。
688
:
名も無きAAのようです
:2013/01/22(火) 16:45:54 ID:JAMlSzF60
乙
最後のセリフいいな
689
:
名も無きAAのようです
:2013/01/22(火) 20:19:32 ID:0V07AhME0
兄者もドクオもかっこよすぎんだよ!
乙乙!!!!!
次も楽しみにしてるからな!
690
:
名も無きAAのようです
:2013/01/23(水) 01:40:04 ID:BE6nDoiU0
乙!
691
:
名も無きAAのようです
:2013/01/23(水) 14:06:39 ID:TTx/Ogac0
来てたのか
乙乙
692
:
名も無きAAのようです
:2013/01/23(水) 14:43:38 ID:b3uREk.c0
一文一文読み進めていくごとの高揚と緊張感がたまらない
サイドニアの兄者好きだぜ!!!かっこよすぎる乙
693
:
名も無きAAのようです
:2013/01/28(月) 12:28:35 ID:GqrJtFEsO
ナナバツガイ、ログソクエビ、ショウセツナイトを発掘してここまで来た
今まで読んでなかったのが悔やまれるよ
694
:
名も無きAAのようです
:2013/02/18(月) 10:15:26 ID:0mDbMeUA0
久々に来たが戦闘描写が良いな
ドクオもアニジャもかっけーわ
695
:
名も無きAAのようです
:2013/03/02(土) 13:45:44 ID:RcBeEyY60
面白い
696
:
名も無きAAのようです
:2013/03/06(水) 18:16:04 ID:5PjNrPaMO
乙
待ってる
697
:
名も無きAAのようです
:2013/03/07(木) 09:09:20 ID:x0yVGf0M0
レスサンクスです。
燃え尽き症候群で全然書けてなかったですが、これからギア入れて頑張ります
698
:
名も無きAAのようです
:2013/03/07(木) 14:37:27 ID:TEo52VH20
ググったら燃え尽き症候群って誤用じゃまいか。
ともかく、頑張ります
699
:
名も無きAAのようです
:2013/03/07(木) 23:43:44 ID:ZOyN1NNc0
楽しみにしてる!!
700
:
名も無きAAのようです
:2013/03/10(日) 01:42:43 ID:etl8YZzQ0
薪入れろ!薪入れろ!
701
:
名も無きAAのようです
:2013/03/21(木) 00:58:58 ID:hrEri9gQ0
はよはよ
702
:
名も無きAAのようです
:2013/05/05(日) 00:52:18 ID:jfv4PVkA0
ドクオvs兄者を何回も読んでしまう
703
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:48:12 ID:pBPHgVk.0
ようやく時間が取れました
704
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:51:56 ID:pBPHgVk.0
.
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
( ´_ゝ`)「どうした、さっさと取りに行けよ」
(メ'A`)「……できねえよ」
ドクオは兄者の傍にどかりと座り込むと、苦々しい顔になって、
(メ'A`)「放置すりゃお前はまず死ぬ、だのに見捨てるような真似なんてよ」
( ´_ゝ`)「助けろとは死んでも言わんぞ」
(メ'A`)「分かってら、んなこと。だからってこのままじゃ後味悪くなるだろうが」
( ´_ゝ`)「………」
(メ'A`)「結論は、お前をこうして見守るってことだ」
兄者は一瞬うつろな目になったが、すぐに呆れた顔をし、
( ´_ゝ`)「知るか……お前の後味どうとかよ……」
(メ'A`)「フン!」
705
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:54:58 ID:pBPHgVk.0
( ´_ゝ`)「(弟者に殺される運命だろうに、呑気な奴だな)」
( ´_ゝ`)「(弟者は、どうしてるかな? 今頃ここを去って、クルマの中か)」
いまのドクオと兄者の間には、ただ、穏やかなときが流れている。
鼻につく火薬の臭いも、景観を損ねる黒煙も雲散しきっていた。
兄者は息を整えてから、ふいにこんな話をしだす。
( ´_ゝ`)「……地元に、パイク・プレース・マーケットって市場があってな」
(メ'A`)「?」
( ´_ゝ`)「そこのスターバックス1号店隣りにさ、ピロシキ屋があって……
……ガキの頃から好きだった、金もねえのに、兄弟ふたりとも」
(メ'A`)
( ´_ゝ`)「けどよ、午後から売り切れになるくらい、人気なとこでよ…
廃棄なんか滅多に貰えなかったんだ。ははは……」
兄者の笑い声は、風に乗って軽やかに廃墟に溶けていく。
706
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:56:40 ID:pBPHgVk.0
( ´_ゝ`)「俺ら兄弟は……惨めだなって、……表通りを遠目から……
ずっと見てた、そういうときはさ。……腐ったベリーをしゃぶって、
俺ら兄弟……ずっと、道行くひとを、華やかなとこ見てたんだ」
( ´_ゝ`)「ただ情けなくって……ひもじかったなァ……あの時は、
弟者もそう思ってたんだろうが……」
(メ'A`)「……そうか」
一息つくと、まばたきを何度もしてから、
( ´_ゝ`)「ギャングになって、ある朝……ピロシキ買いに
いったら……そこ、潰れてた。ふふ、弟者の差金さ」
それからドクオに視線を向け、力なく、
( ´_ゝ`)「弟者は冷酷な奴さ……お前、二度と安息なんかねえぜ……
お前はあいつを逃がしちまったんだからなァ……」
(メ'A`)「けっ……ますます、あの野郎がムカついてきたぜ」
( ´_ゝ`)「?」
(メ'A`)「俺も知ってるさ、そのピロシキ。おれ、バンクーバーだから
シアトル近ぇんだ。……あの野郎、あんな美味い店を……!」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「……ふ、ふふ……」
.
707
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:00:36 ID:pBPHgVk.0
.
ドクオはこほんと一拍置いてから、
「さっきまで興味なかったが」と前置きをして、
(メ'A`)「なあ、お前ら兄弟は……何があって、あんな関係だったんだ?」
( ´_ゝ`)「何のことはないさ」
兄者はドクオから目を逸らし、薄紫の空を見やって、
( ´_ゝ`)「俺は、弟者のように変われなかった。
弟者は、俺のように立ち止まれなかった……
それだけ、そんだけさ」
(メ'A`)「………」
目に見えて兄者の生気が薄らいでいくのがわかった。
それに反して、兄者の表情にはゆとりのようなものが満ちていく。
失血で不気味なほどに青白い兄者の顔には、紛れもない笑顔があった。
(メ'A`)「、……そうだったのか」
( ´_ゝ`)「………」
708
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:10:28 ID:pBPHgVk.0
ドクオは何をするでもなく、兄者の傍に座って彼の状態を
見続けていた。しかし、表情や声の調子とは裏腹に、兄者の
身体はほぼ死にかけている。文字通り、これは彼の最期であった。
燃え尽きてからカーテンフォールに移る、その合間のような時間。
それからしばらく経った頃、大通りの方から女性の声が響いてきた。
「……誰か、誰かいませんかッ?! ――――」
「頑張って声を出してみてください――私は敵じゃありません――」
(メ'A`)「……あれは」
( ´_ゝ`)「(エノーラ……)」
たった一人の救助活動として、残された人が居ないか呼びかけをしている。
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「
クックック」
(メ'A`)「?」
( ´_ゝ`)「おいドクオ。失せな」
.
709
:
修正
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:14:11 ID:pBPHgVk.0
ドクオは何をするでもなく、兄者の傍に座って彼の状態を
見続けていた。しかし、表情や声の調子とは裏腹に、兄者の
身体はほぼ死にかけている。文字通り、これは彼の最期であった。
燃え尽きてからカーテンフォールに移る、その合間のような時間。
それからしばらく経った頃、大通りの方から女性の声が響いてきた。
「……誰か、誰かいませんかッ?! ――――」
「頑張って声を出してみてください――私は敵じゃありません――」
(メ'A`)「……あれは」
( ´_ゝ`)「(エノーラ……)」
たった一人の救助活動として、残された人が居ないか呼びかけをしている。
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「クックック」
(メ'A`)「?」
( ´_ゝ`)「おいドクオ。失せな」
710
:
修正
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:16:14 ID:pBPHgVk.0
(メ'A`)「は……?」
唐突に笑い出したかと思うと、今度はしかめっ面をみせる
兄者に若干戸惑ったが、兄者はそんなこと気にせぬとばかりに、
( ´_ゝ`)「俺はこれからあの娘に優しく抱かれ死んでく……。
さあ、空気を読んで退散しやがれ」
(メ;'A`)「あ……え、えーっと」
( ´_ゝ`)「死の寸前まで…てめえのツラ拝むなんざ、ごめんだ」
(メ;'A`)「わかったよ……」
渋々立ち上がった。エノーラの姿が視界に入らぬうちに
パスワードを入力しに走るつもりだった。そんなふうに背を向けながら、
(メ'A`)「……じゃあ、達者でな。アレン・ジャーブロ」
( ´_ゝ`)「………」
首も満足に動かせず、兄者は目線だけでドクオの背を見つめていた。
711
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:18:40 ID:pBPHgVk.0
それから、走り去ろうとする寸前のドクオに、兄者は声をかける。
( ´_ゝ`)「――おい、ドクオ!」
(メ'A`)「………?」
( ´_ゝ`)「夢があるだの……明日が欲しいだの……さんざ、宣いやがったな?」
(メ'A`)「………」
( ´_ゝ`)「ククク……なら、これから……せいぜい、もがきやがれ」
( ´_ゝ`)「せいぜい夢を追いかけやがれ……死ぬまで……!!」
(メ'A`)「……言われなくても、」
ドクオは振り返ることなく駆け出した。
(メ'A`)「そのつもりさッ!!!」
・・ ・・
・・ ・・・
( ´_ゝ`)「……いいねぇ」
.
712
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:23:14 ID:pBPHgVk.0
―― 裁判館 2F
(´<_`;)
弟者の視線の先には、ボロ雑巾のように朽ちた兄者の
姿が映っている。窓越しにも、この距離でさえ、
兄者が死に近づいていることがはっきり理解できた。
(´<_`;)「……もう、……だめだァ……」
威勢も張りようがなかった。弟者は賭けに敗れた。
一人で逃げることよりも兄者の生還に期待したが、
結果は、致命的な時間のロスを生むことになった。
(´<_`;)
兄者からいったん目線を外し、ハーモニーの状態を見渡した。
惨いものであった。自身の築いたはずの王国は廃墟に果てた。
ドクオの宣言通り、この張りぼてのハーモニーは”ぶっ潰され”てしまった。
あとに残ったのは兄弟ふたり。死にかけの兄と、無力な弟。
713
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:25:32 ID:pBPHgVk.0
(´<_`;)「………」
この始末を、ハンター組合がどうつけるかなど想像したくはない。
どう取り繕っても、自身の死を避けることが出来ないだろう。
地獄のど真ん中に突っ立ってる自分の状況を思い返すと、思わず身震いが走った。
(´<_`;)「に、逃げなきゃ……!」
慌てて外套をひっ被り、重要な書類と当面の資金を
アタッシュケースに詰め込んでいった。だが、ケースを閉めると
同時に、不可思議な音が一階から聞こえてきた。
乱暴なドアの開閉音。そして、その者たちのまっすぐこちらへ向かう足音。
(´<_`;)「………ッ!」
階段を駆け上がるその者たち、まっすぐ、
まっすぐに弟者の居る部屋へ向かっていく。
弟者は姿を見ずとも正体を確信していた。
ジョルジュと、リッチーであろう。
死神二人が、やってくる。
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
714
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:29:09 ID:pBPHgVk.0
―― ハーモニー 中央広場
||‘‐‘||レ「……あれは、」
広場の隅で、多量出血している男が横たわっていた。
地に汚れ泥に汚れてはいるが、その姿は間違いなく、
(; _ゝ )
||‘‐‘;||レ「兄者さんッ!!」
さっと駆け寄ると、彼の状態を確認した。
大きく出血している部位をためつすがめつする。
既に死んでいると動揺しかけたが、脈を確めるとほんのわずかに
動いている。どす黒く固まった血で唇本来の色さえ判別できないが、
不自由ながらも呼吸はしているらしかった。まだ、生きてはいる。
しかし、
||‘‐‘;||レ「ひどい……こんな、こんなっ……!」
どんな名医でさえ助けられないだろう。阿部の容態が
可愛らしく思える惨状だった。目は虚ろで視線は宙を彷徨って
エノーラを視認していなかった。
(; _ゝ )「………ッグ」
ドクオが去るとたちまち、兄者に残された生気が立ち消えていたのだ。
独りになった途端、死が身体のあらゆる箇所を鷲掴みにしていった。
715
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:32:27 ID:pBPHgVk.0
||‘‐‘;||レ「………」
エノーラは死にゆく男をゆっくり抱きしめた。
生者特有のほのかな温かみも感じない。
だが、しかし兄者は抱えられると、ほんの少し反応を見せた。
目がわずかにエノーラに近づいて、はっきりと微笑んだ。
そして、小さい声だったが、
(;´_ゝ`)「エノーラ……!」
||;‐;||レ「アレンさん……!」
エノーラは気がついたら涙を流していたし、気がついたら
自身の気持ちを再確認していた。村を実行支配され、虐げられ、
全てに疑心暗鬼になっていた頃、この男はハンター側の人間にも
関わらず、無言のまま手助けをしてくれていた。
あの頃は、ハンターだからと気持ちにタガをつけていた。
しかしこんな状況になったからこそ、心の底から感謝の気持ちに溢れた。
ところが、エノーラが口火を切る前に、兄者が口を震わせながら、
(;´_ゝ`)「すまなかった……」
||‘‐‘;||レ「……え?」
(;´_ゝ`)「この……村のこと、、、謝っても、謝りきれること……じゃ……」
||‘‐‘;||レ「………」
716
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:34:02 ID:pBPHgVk.0
||‘‐‘;||レ「……アレンさん」
(;´_ゝ`)「っれ……ダけは、言いたかっ……」
(; _ゝ )「さいごに……謝りたくて……」
||‘‐‘;||レ「.........」
それから、兄者はまた口を閉じた。エノーラは言葉をぽつぽつ
と返し、しまいには涙をながし嗚咽するのだが、間近にいる
兄者は気がつかず、ただ目の前のぐるぐる回る景色に見とれていた。
―― ああ、これが走馬灯って奴か……。
.
717
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:38:06 ID:pBPHgVk.0
ぐにゃぐにゃと異様なカタチに蠢いていた視界はやがて、
兄者の故郷のシアトルへ変貌していった。小雨のけだるい
空の下、アメリカにしては妙に洗練されたオレンジ基調の往来が浮かんでいく。
やがて風景は夜に変わり、隣りには
弟者がボルサリーノを被りながら不敵に笑っている。
(´<_` )
その横にシーン、そしてヒールといった懐かしい面々が立っていた。
( ・−・ )
川*` ゥ´)
( ´_ゝ`)
.
718
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:40:49 ID:pBPHgVk.0
舞台はシアトルを、地球を離れて火星に切り替わっていく。
火星の無機質な赤い大地、そこに夕焼けが差したかと思うと、
流石ファミリーの懐かしい面々が、次次と血まみれになって倒れていった。
.
( ´_ゝ`)……すまなかったな、
( ´_ゝ`)今から、地獄の底まで突き落とされてやる……!
,
719
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:43:02 ID:pBPHgVk.0
―― ――― ――――
||‘‐‘;||レ「「アレン……アレンさん……」
(; _ゝ )「っぁ……ヒー……ル」
極めて小さな声で、唇と舌を無理やりに動かす兄者を、
エノーラは呆然としながら見つめている。目を離せば、
その隙に死んでしまいそうな、そんな姿であった。
エノーラの耳には届かない。
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
720
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:46:52 ID:pBPHgVk.0
.
……いやいや、違うんだよ、聞いてくれヒール……
……ああ、まあ、そうだな、ウン。
流星になるって言った割には、随分長く生き延びちまった……。
え? クサいか? ハハハ……ああ、うん。フフ……。
流れ星を追いかけてたら、迷子になっちまったのさ……。
フフフ……
ハハハッ……!
アッハハハハハァッ……!!!
.
721
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:48:38 ID:pBPHgVk.0
.
―― ―――
―― ――――
―― ―――――
―― ――――――
―― ―――――――
722
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:50:55 ID:pBPHgVk.0
―― 裁判館 2F
(´<_`;)「いッ……嫌だッ! 来るなァァァ……!」
( ゚∀゚)y-~「おいおい。上司に向かって酷いこと言うなって」
( ゚ 」゚)
弟者はそれでも落ち着こうとしない。腰を抜かしながら、
部屋の隅ににじり寄って、来訪者二人を見上げている。
歯はがちがち鳴り、目元には涙が浮かんでくる。
始末される。この二人に。
弟者は自身の運命を受け入れられない。
(´<_`;)「ど……どうかッ! 寛大な処置をお願いします……!
負債なら、この件に関しての負債はッ……一生!
(゚<_゚ ;)「一生かけてもっ! 返済しますから!」
( ゚∀゚)y-~「………」
( ゚∀゚)「はぁ?w」
723
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:53:23 ID:pBPHgVk.0
( ゚ 」゚)「もうそんな事態じゃないのさ。金額云々というね」
リッチーは一歩前に出ると、自身の左手首を右手で捻り出す。
( ゚ 」゚)「今後の損失分は途方もないことになるよ。お前の
年収を上回る流出が、毎日……毎日伸し掛ってくる」
( ゚ 」゚)「組合全体にだ」
リッチーは己の左手首から先を、さながら玩具のように取り外した。
手首の断面には、あるべき血管や神経の代わりに、黒光りした、
悪意に満ちた銃口が露出していた。
弟者は小さく悲鳴を上げる。
( ゚∀゚)「パフォーマンスが必要なんだよ……俺らにはさ」
(゚<_゚ ;)「………!」
( ゚∀゚)「こんな最悪な村を作り上げた、黒幕さんを始末するっつーよォ」
(゚<_゚ ;)「お願いです! お願いしますゥ! 死にたくありません!!」
あらん限りのその叫びも、しかしジョルジュは鼻で笑うと、
( ゚∀゚)「いやいや……死ねよw」
.
724
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:55:41 ID:pBPHgVk.0
( ゚ 」゚)「オリヴァー……とても残念だ。キミを始末するというこの現実が」
縮こまった弟者の方へ、リッチーは鷹揚に進み出ると、
その鼻先に銃口――左手首から露出している――を向けた。
(;<_;#)「嫌だ! 嫌だァァッァァァ!!!」
泣き叫びながら、銃口から逸れるように首をなんども振るったが、
その悪意から逃れることは、できなかった。
( <_ ;)「死にたくないィィ……生きたいよぉぉぉ」
( ゚∀゚)「wwwwwwwwww」
( ゚ 」゚)「……目を瞑って来世に祈るんだ、オリヴァー」
この魔人から逃げ切るなんて、不可能ごとであった。
弟者の顔はたちまち涙と鼻水で汚れに汚れる。
725
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:57:45 ID:pBPHgVk.0
.
( <_ ;)「ぁあ……ああああ……!!」
死の恐怖が、身体を怯ませる。何度呼吸をしてもし足りない。
何度祈っても、恐怖から逃げ出せない。死から逃げられない。
( <_ ;)「〜〜〜〜!!!」
( <_ ;)「っ助けてくれ……!」
(;<_;#)「助けてくれェ!! 兄者ぁぁぁぁ!!」
( ゚∀゚)「ばーか」
( ゚ 」゚)
銃口は弟者の額に押し当てられ、そうして、
.
726
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:59:20 ID:pBPHgVk.0
.
. ―――― パシュッ………
.
727
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:02:33 ID:pBPHgVk.0
.
―― ハーモニー 地下倉庫付近
(;'A`)「く、くそ……ったれ」
入口にもたれ掛かって、ドクオは肩で息していた。
その足元にはずた袋があって、それを地下から持ち出してきたのだが、
いかんせんその重量が満身創痍のドクオには耐え難いものであった。
(;'A`)「時、時間が……」
肌で感じるタイムリミット。マーポールはすぐに突入し、
証拠物件としてこれを奪い取られてしまうであろう。
このずた袋を。
(;'A`)「(せっかく、、、奪い返したってぇのに……!)」
ドクオは地上への階段前で、弱音を吐いていた。……
728
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:04:51 ID:pBPHgVk.0
.
……兄者のパスワードは正しかった。空のずた袋片手
に地下倉庫でタイプしてみると、みごとに扉は開かれた。
その扉の向こうには金銀財宝、
に相当するような価値を持つ盗掘品が所狭しと並べられていた。
鉱石やエビのそれぞれは、モアブ地方では取れないと思われていたもの
ばかりで、もしそれらがこの近辺で発見されたとしたら、
それだけで学会はひっくり返るに違いない。
はやる気持ちを抑え、自身の研究に役立つであろう代物を袋に丁寧に詰めた。
特に、火星原住民の匂いを感じ取れるようなものを重点的に選んだ。
あまり多く盗んでも、のちのち来るマーポールに疑われてしまう。
そうしてドクオは、ようやく、今回の目的の品を発見した。
(メ'A`)
それは、樹の大きな化石であった。全体的に黒ずんでいて、
平べったい。よくよく見れば、年輪らしきものを確認できる。
――これこそが、まさしくドクオの発掘思案から盗掘されたものであった。
ドクオはそれを手にとった瞬間、先住民の生活に思いを馳せた。
きっと彼らは、火星の特殊な耐火樹をバーベキューのプレートとして
使用していたのだろう。このプレートには、彼らの食事風景が刻まれていた。
729
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:06:44 ID:pBPHgVk.0
ドクオは涙を拭き取ると、それをずた袋に入れ、腰を上げた。
もうこれで充分だった。一刻もはやく、研究所に持ち込んで調べてみたい。
しかし、ドクオの身体はすでに限界に達していたのであった。……
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
(;'A`)「……はぁっはぁっ!」
ずた袋を抱えてなんとか階段をのぼりきり、ドクオは
地面に降り立った。既にそらは黒ずんで、一等星は輝いている。
――だだっ広い広場。兄者との死闘を繰り広げた激戦地だったが、
いまはもう廃墟の空気を漂わせていた。ここからは、兄者の
死体もデルタの死体も目に届かなかった。だだっ広い広場。
気を抜くだけで失神してしまいそうだった。今からこれを
隠さねばならないと思うと、絶望を通り越して笑いが込み上げてくる。
(;'A`)「………」
こんなところで挫けていられない。
しかし、しかし……。
.
730
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:08:28 ID:pBPHgVk.0
震える手で、ずた袋を持とうとしたそのときだった。
広場の向こう側から、足音と話し声が聞こえてきた。
(;'A`)「くっ……」
ついにマーポールが来たか。ドクオは泣きたくなった。
ここまで来たのに、やっと、取り返せたというのに。
その足音の主たちは、確実にドクオの方へ向かっていた。
声から察するに、男女の二人組らしかった。
ところが、その声にはどこか聞き覚えがあった。
姿かたちははっきりしていないが、確かに、聞き覚えが。
(;'A`)「………まさか」
―― 少なくとも、この男のほうはマーポールではない。
―― いや、それどころか、こいつらは……!
―― こいつらは……!
.
731
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:09:50 ID:pBPHgVk.0
(;'A`)
(メ'A`)
(メ'A`)
(メ;A;)「せ、せ、せ……」
.
732
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:11:33 ID:pBPHgVk.0
その二人組は、顔の分かる位置にまで歩いてきた。
川 ゚ -゚)(’e’)
(メ;A;)「セントジョ―――ンズッ!!!!!」
疲れを忘れきって、ドクオはクーとセントジョーンズに駆け寄った。
(’e’) !?
(;’e’)「ド、ドクオさぁぁぁん!!」
(メ;A;)「ジョーンズ!! ジョーンズウウ!!」
(’e’)「ドクオさあああん!!!」
733
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:13:32 ID:pBPHgVk.0
.
――生きていたか! 来てくれたかジョーンズ!!
薄明かりのなか、ドクオの傷だらけの顔が
セントジョーンズの視界に映った。
(メ;A;)
(;’e’)「わッ ひっでえツラ!」
. ドゴォ
(メ#'A`)=○)e’)∵.・ イヤチガイマスコレハソウイウイミジャジャバァ!
川;゚ -゚)
.
734
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:16:38 ID:pBPHgVk.0
(;'A`)「うっ……」 グラリ
(;’e’)「ド、ドクオさぁん!?」
セントジョーンズを殴ったところで、ドクオの身体は
一気に力を失ってしまった。セントジョーンズが無事だったこと
に気が緩んだ上、無理に身体を動かしたその結果である。
セントジョーンズが抱きかかえると、ドクオはにやりと笑って、
(メ'∀`)「生きてやがったか。この野郎めが……」
(’e’)「男のツンデレとかやめてください〜」
(メ'∀`)「うっせぇ……ん?」
川 ゚ -゚) ペコリ
(メ'A`)「(クー……スナオリャ……)」
(’e’)「何から何まで、協力してくれたんすよ」
川 ゚ -゚)「初めましてですね、ドクオ・ウツタールさん。
ライターのクー・スナオリャです」
(メ'A`)
(’e’)「ほら、挨拶挨拶」
(メ'A`)「(うるせえ)」
.
735
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:19:15 ID:pBPHgVk.0
(メ'A`)「は、は……
(メ;'A`)「はじめまshhおfwwhかdshfcdsjヴぉなそfvれ。
vfんsおあvんrvjkdぶえsんkldfvsdんvんjvfs?
(はじめまして、見た目麗しいペンの剣士さんよ。
アンタのおかげで万事解決ってとこかな?)」
(’e’)「ドクオさァん噛みすぎっすよおwwwwwwwwwwww」
美女の前に、緊張し過ぎてしまった。
川;゚ -゚)「う、うむ……」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
736
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:22:33 ID:pBPHgVk.0
そうして、このハーモニーの一日は
カーテンフォールを迎えようとしていた。
雲一つない美しい夜空には、移動する天然衛星も人工衛星も鮮明だった。
それらの放つ光が、闇のはずの夜をほんの僅かに明るくしている。
静かな夜だった。マーポールはまだ来ていない。というのも、
兄者の正門での惨殺が原因で、明日以降に持ち越されたのであった。
ドクオは無論、知らないことであったが。
クーの提案で物陰に移り、しどろもどろながらに情報交換をした彼らだったが、
事の顛末を話し終えた途端、ドクオは急に険しく哀しい表情になって、
(メ'A`)「すこし、たのみたいことがある」
(’e’)「ん? その袋なら持ってきたっすよ」
そういってズタ袋を指差すジョーンズに、ドクオは首を振って、
(メ'A`)「違うんだ。そうじゃない。……さっき話した、二人の話さ」
川 ゚ -゚)「この広場で倒れた、二人の男性ですか?」
(メ'A`)「そう……だ……」
737
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:24:09 ID:pBPHgVk.0
(メ'A`)「……遠くないところで眠っている、
その二人を、見つけてくれねえか……頼む、弔いてぇんだ」
(’e’)「………」
(メ'A`)「勝手なことだけどよ……あいつらだけは、
あの、アレンとデルタの二人をよ……」
川 ゚ -゚)「ドクオさん……」
ためらいがちに、クーは一歩進み出て、
川 ゚ -゚)「気持ちはわかりますが、今こうしてる時間さえ、、、」
(メ'A`)「それでも」
(メ'A`)「あの二人に手を合わせたいんだ……! 頼む、この通りだ……!」
ドクオは頭を下げた。一歩も引くつもりはないらしかった。
.
738
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:25:33 ID:pBPHgVk.0
川 ゚ -゚)「………」
川 ゚ -゚)「急ぎましょう、まだこの暗さなら探せますし……」
(’e’)「そうっすね〜!」
セントジョーンズに支えられながら、ドクオはなんども
声にならない声で感謝の言葉を述べ続けた。
そして、兄者とデルタの亡骸を探そうと
うしろを向いた際、奇妙な感覚に三人は囚われた。
かすかに耳に届く、ぱちぱちという拍手のような音。
しかし、決して誰かを祝福しているそれではなかった。
(メ'A`)!?
慌てて振り返ると、その視線の先にそびえ立つ裁判館、
流石兄弟の居城の一角が、いやに明るく光っていることに気がついた。
炎だ。黒煙は夜の闇にとけているが、紛れもなく、裁判館には火がつけられていた。
.
739
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:28:31 ID:pBPHgVk.0
次第に、拍手と勘違いした奇妙な音は、ごうごうと燃え盛る音にかき消される。
窓枠の向こう、裁判館の内部では激しく炎が燃え盛っている。
裁判館には、火がつけられていた。
川;゚ -゚)「……火事……!?」
(;’e’)「う、うわぁ〜〜〜!!」
(メ'A`)「………」
三人は、次第次第に激しさを増す炎を見つめていた。
(メ'A`)「(誰が、火をつけたんだ……?)」
(メ'A`)「(弟者が観念して焼身自殺を? いや、それより可能性が高いのは……)」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
―― 30分前 裁判館 2F
.
740
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:32:06 ID:pBPHgVk.0
.
( ゚∀゚)「……ドックオくんじゃあぁあぁぁぁあぁン……!」
窓にへばりつき、筋の通った鼻がガラスに擦れる。
ジョルジュは大学時代の同期を、裁判館から見下ろしていた。
( ゚∀゚)「……クーちゃんもいるんだねェ、あー……犯してえなァ。
犯してやりてぇなあ……」
( ゚ 」゚)「………」
.
741
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:35:24 ID:pBPHgVk.0
( ゚∀゚)「この、、、タイミングで現れるなんて……あー、、、
殺してやりてえのになァ。あー……」
目を血走らせて、
( #゜∀゜)「あー……! ここでは駄目だ、あー……ッ!」
苛立ち紛れに、ジョルジュは少し歩いて足元の死体を蹴り飛ばした。
眉間を打ち抜かれた弟者の死体は、さながら人形のように崩れ落ちた。
傍に転がるフェイクの拳銃が、血にすこし汚れた。
( ゚∀゚)「いくぞリッチー。帰り際に火を放て」
( ゚ 」゚)「わかっている」
ジョルジュの狂態と弟者の亡骸を視線から逸らしていたリッチー
だったが、帰る段取りになってようやく口を開いた。
( ゚ 」゚)「ところでジョルジュ。部下からの電話で一つ、
考えた部分があるんだが……。キミがご執着のスナオリャについてさ。
時間がないから車内で話すことにしようか……」
742
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:37:54 ID:pBPHgVk.0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
――その、帰りの車内。
( ゚∀゚)「んで、なんだ話ってのはヨ?」
煙草に火をつけながら、ぼんやりとジョルジュは尋ねた。
リッチーは、夜空を見上げながら、
( ゚ 」゚)「クー・スナオリャのバックについてさ。我々、
ハンター組合の圧力に屈しない企業をリストアップしたら、
ひとつの共通点が浮かんできたんだ。
それは、その企業のどれもが、ある一つの企業と取引を、
あるいは何らかの関わりを持っているのだ」
( ゚∀゚)y-~「勿体ぶらねえで、その黒幕ってのをさっさと教えろや」
( ゚ 」゚)「………」
743
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:39:21 ID:pBPHgVk.0
.
( ゚ 」゚)「―― ホテル・サイドニアだ」
( ゚∀゚)y-~「はあ? なんで一宿泊業が突っかかって……」
クーとジョルジュが衝突した舞台は、確かにホテル・サイドニアだったが、
だからといってそれがクーを支援する理由にはならないだろう。
( ゚ 」゚)「だが確定的だ。それに、さっきあの場に居たドクオとやらも
そのホテルの滞在者らしい。恐ろしいほどに、運命づけられている
だろう? たかが一宿泊業……されど一宿泊業だ。
あのホテル自体、非常に謎が多いことで有名でね。たとえば
出資元ですら、いくつものダミー会社で隠しているんだよ」
( ゚∀゚)y-~「………」
ホテル・サイドニアの神秘性については、ジョルジュもなんども耳にしている。
火星の一般開放が行われると同時にオープンした、不気味なモノリスめいたホテル。
マーパーツと世間は騒ぎ立てているが、あのホテル自体が、奇妙なオブジェクトにほかならない。
( ゚∀゚)y-~「へーェ……」
だからこそ、ジョルジュはそこを踏み潰してやりたいと燃えてきた。
744
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:41:34 ID:pBPHgVk.0
( ゚∀゚)y-~「あの三流ホテルが、ふざけた真似してるんか……」
( ゚ 」゚)「だが一つ厄介な噂があってね。出資者の一人と噂される
大物が、我々にとって非常に厄介な存在だ。
キミも知っているだろう。ニューシベリアの極右政治屋の……」
( ゚∀゚)「プーチニコフ!! あの糞垂れが全ての黒幕かッ!?」
( ゚ 」゚)「そこはまだわからないが、ホテル・サイドニアは確定的だろう」
( ゚ 」゚)「我々のやるべきことは、もう運命づけられているだろう?」
( ゚∀゚)「フン……」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
745
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:42:37 ID:pBPHgVk.0
.
ハンター村、ハーモニー。
その権力者の、象徴であった裁判館。
純白の建物は炎に包まれ、朽ちようとしていた。
.
746
:
rasuo
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 18:43:29 ID:pBPHgVk.0
.
・「兄者」アレン・ジャーブロ・A・ニコラス。
・「弟者」オリヴァー・ジャーブロ・O・トーマス。
―― 通称、「流石兄弟」
―― 同日に、死亡。
.
747
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 18:44:30 ID:pBPHgVk.0
今日はここまでです。遅くなってすまぬ
748
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 18:47:40 ID:pPfLkVCQ0
おつ
ここでホテルサイドニアがでてくるのか
749
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 19:18:13 ID:mvqfyRtAO
盛り上がるなぁ! 好きだ!
750
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 19:29:08 ID:GURftNa.0
おつ
兄者も弟者も…
751
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 19:47:19 ID:sdISpLN6O
やっと来たか、まとめで読んで追いついてから楽しみにしてた!
.
752
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 21:59:54 ID:JVGYuclk0
おっつん、ハーモニ編面白かった
私とデレがずっと気になっていたがまたホテル中心に戻るのかな
753
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 22:42:28 ID:VBT4jl3E0
乙
ドクオも兄者もかっけぇなあ、かっけぇ。
754
:
名も無きAAのようです
:2013/05/29(水) 23:34:34 ID:BIKE6YUU0
乙・・・!
755
:
名も無きAAのようです
:2013/06/04(火) 04:59:54 ID:lb0rdfDM0
またヒート相手にはしゃぐドクオが見たいぜ
756
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/06/04(火) 09:32:53 ID:LM5Y.Yb60
>>752
これ以上タイトル詐欺は続けられないよね!
以下、ちら裏
6月3日で俺の作者デビュー6周年になりました。はっぴーでー、おれ。
いろいろ思い出でも語ろうかと思ったが、そもそも適当に過ごしてきただけなんで
語れるものはほとんどないし、忘れた。唯一語れるのは、現行の進行状況ぐらいか。
いま20パーセント書けたくらいです。それと、この作品に付き合ってくださっている
全ての読者さんに感謝を。ほんとうに励みになります。それではまた、投下する日まで。
760
:
名も無きAAのようです
:2013/06/04(火) 20:23:05 ID:xArap.gwO
ハーモニー決着ついてたのか!6年目もおつです!今作も空も待ってます!
761
:
名も無きAAのようです
:2013/06/05(水) 17:46:25 ID:eI70l3Zc0
兄者は最期までかっこよかったのに弟者と来たら・・・
762
:
名も無きAAのようです
:2013/08/09(金) 01:55:02 ID:UawQEMw20
やっぱおもしれえわ
まだかいな
763
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 21:45:26 ID:4Q7BCeVU0
ハロー、あたし。締めなんて簡単に書けるだろと
放置してたらこんなに日数が経過していました。
推敲し次第投下します
764
:
名も無きAAのようです
:2013/09/11(水) 21:47:44 ID:zQJDDFj20
ハロー
765
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 21:58:50 ID:4Q7BCeVU0
.
モアブ地方の一村、ハーモニーの狂気の一幕は、
裁判館の焼失とともに幕を下ろしたが、村の人々にとっては、
これからが物語の始まりなのかも知れない。
('A`)
ハンターの支配から解き放ったドクオは、英雄と語られるに相応しい。
だが、ハンター組合との取引、ドクオ自身の都合により、
その英雄譚が外に漏れることは、これからも無いであろう。
事実、ハーモニーのこの事件は二面の下のほうに
ちいさく掲っているだけで、その6行の記事の中には
ハンター組合も、ドクオの名前も書かれておらず、終わりに
ただ村長の弟者の名前が、自殺の二文字で締めくくってある。
.
766
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:04:27 ID:4Q7BCeVU0
弟者は実際には殺されたのだが、それは当事者の
ドクオにも知られることではなかった。都合の悪い出来事は、
ぼやかされ、捻じ曲げられ、世間へ伝わっていく。
流石兄弟の死の翌朝、盛大な後出しジャンケンでやって
来たマーポールの面々は、被害状況と死亡者の確認に徹した。
無論、村人やドクオ達は簡単な取り調べを受けたが、
どうにもやる気のないもので、逮捕は生き残りのハンター達だけにとどまった。
組合に切り捨てられたチンピラだけを、悪と定めるつもりであろう。
そこにドクオはある種の憤りを感じたものだった。
('A`)「(こいつら、正義気取ってる癖にとんだ臆病者ばかりじゃねえか。
マーポールとハンター組合……開拓されて間もない火星で
こうも癒着しやがるなんて、悲しくなってくるもんだね)」
そんな愚痴をセントジョーンズに話すと、彼は難しそうな顔をしながら、
(’e’)「なんかイヤな話ですね〜」
と、理解しているのかしていないのかな返答をした。
結局、このハーモニーの一事は「村長派と反対派の喧嘩」という
筋書きに留まり、どの新聞も軽く取り扱ったのは、先に述べた通りである。
.
767
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:15:18 ID:4Q7BCeVU0
クー・スナオリャはマーポールが来る数時間前、バイクに
跨り帰ったため、どの取り調べにも応じることはなかった。
ところで、クーは帰る間際になって、ドクオにこんな言葉を残した。
川 ゚ -゚)「私達はもう、組合と対峙するしか道はない……。
その事はドクオさんもご承知でしょう」
(;'A`)「え、あ、ふぁい」
川 ゚ -゚)「これからも、手を組みましょう。ドクオ・ウツタール」
('A`)
川 ゚ -゚)「ホテル・サイドニアで待っているから」
そういうとエンジンを掛け、颯爽と走り去っていった。
(’e’)「いや〜後ろ髪も美人っすね〜」
('A`)「………」
('A`)
(*'A`)「ホ、ホテルで……待っているだなんてっ……!」ドキドキ
(;’e’)「 」
.
768
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:24:28 ID:4Q7BCeVU0
ドクオの気にかかった話といえば、もう一つあった。
阿部は病院に送られ、暫らく入院することになったのだが、
救急車に乗り込んだシャキンが、不安そうな顔でこう語った。
(`・ω・´;)「阿部さん……泣いてたっす。兄者の名を
いいながら、チクショウ、チクショウって……」
(`・ω・´;)「ほんとうに、まじで悔しそうに。
……これ、言っていい話かわかんないスけど」
('A`)「………」
ドクオは阿部と最初に出会ったときの、会話を反芻しながら、
(A` )「あの、嘘つき野郎め……」
そうぼやくと、グラスのコニャックを一息に呷った。
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
769
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:34:50 ID:4Q7BCeVU0
あの夜から二日経過した。マーポールのキーピングシールも
外されていないが、もう取り調べを受ける義務もなくなった。
ドクオはひっそりとハーモニーから出ることにした。
セントジョーンズに荷物の確認を任せ、ドクオは傷の
手当てを自力で施している。といっても包帯を替えたり
消毒液を垂らす程度のものだが。
セントジョーンズのバギーは、ハーモニーの入口に停めてある。
いよいよ、帰宅の時間だった。
('A`)(’e’)
閑散としていて、ドクオたちを見送る者は居ないのは、
ドクオ自身が照れくさかったというものがあった。あの一件以来、
英雄のように祀られ、慕われたものだが、どうにも居心地が悪かった。
(’e’)「いいんスか〜? 黙って出てくだなんて」
('A`)「きゃーきゃー言われるのは性に合わないんだっての」
770
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:41:01 ID:4Q7BCeVU0
そういって、とっとと乗り込もうとするドクオを見て、
(’e’)「っつーか、慣れてないだけっすよね〜?」
('A`)「ウルヘエ」
助手席にどかっと座り、ドクオはサイドミラーからハーモニーを
眺めだした。何故だか淋しい気分になる。色んなことが、ここにはあった。
借りを返すために乗り込んで、命の危険に晒された。
内心には恐怖もあったが、しかし自分の夢が、勇気を奮い立たせた。
ハンターの幹部を倒したことも、決して些細なことではないが、
それ以上に、多種多様のマーパーツを手に入れられた。
ギャンブルに勝ったのだ。
('A`)
ここに来て、よかった。
と、そのときになって、ドクオの無言の旅立ちに気がついた
らしい面々が、サイドミラー越しに現れて戸惑いだした。
ノーナンバーズの面々にはほんとうにお世話になった。
だがしかし、セントジョーンズのバギーが、発車をする。
771
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:45:39 ID:4Q7BCeVU0
(’e’)「しゅっぱーつ、しんこー」
ドクオは窓を開けると、
追いかけようとする彼らに向かって手を振って、
('A`)ノシ「おおおーい!! みんなー!!!」
('A`)ノシ「元気で暮らせよなー!!!!!」
('A`)ノシ「開拓心を、忘れんなよー!!!!」
バギーは速度を上げていく。やがて、ハーモニーの
姿が、見えなくなっていった。……
.
772
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:52:23 ID:4Q7BCeVU0
('A`)「ふぅ……」
ドクオは一息つくと、カウボーイハットを深めに被り、
寝るような体勢になった。セントジョーンズがちらりと
見やると、ドクオは疲労に支配されているように映った。
(’e’;)「(ま、ほんとうにお疲れっすよドクオさぁん。
よくここまで完璧に立ち回れたもんです……。
まじで、凄いと思いますよ俺は……)」
火星の荒土を、バギーは走る。
無機質なエンジンの音。舗装されていない道の揺れ。
( A )「………」
(’e’;)「
………」
( A )「ジョーンズ……」
(’e’;)「あ、はい! なんすか」
( A )「あのさ、……
('∀`)「カレーでも、食いにいかねえか……?」
(’e’)「………」
(’e’*)「いいっすねえ!」
773
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 22:58:33 ID:4Q7BCeVU0
バギーが走る。
荒野を走る。
('∀`)「〜〜〜〜」
(’e’;)「〜〜〜ッ!?」
ドクオのよく分からないカレーへのこだわりと、店の
突飛なセレクトに、セントジョーンズが突っ込みを入れる。
(’e’;)「や〜れやれっすよ……」
セントジョーンズは、話を紛らわすようにカーラジオを点けた。
ラジオ内容は大昔の隠れた名曲セレクトで、ちょうど
イントロが鳴り響いたところであった。
http://www.youtube.com/watch?v=6d8WX_zSZlw
乾いたギターリフの印象的なこの哀愁に充ちた曲を
ハーモニーの鎮魂歌として、もしかしたらドクオは重ね合わせたかも知れない。
('A`) zzz....
曲を真剣に聴いているうち、ドクオは深い眠りに包まれていった。
目的地のカレー屋まで、彼は休み続けることになった。……
・・ ・・・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・
・・ ・・
・・ ・
774
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 23:02:25 ID:4Q7BCeVU0
.
Manic Street Preachers - Just A Kid
Afraid of the sun, so afraid of the sky
[太陽が恐ろしくて空も恐れていた]
Touch it and taste it,but don't reach too high
[触れて確かめようにも遠すぎて手が届かないから]
Bewildered by them. Then so uncomplicated
[困惑し、単純化された]
All these feelings not fully created
[それらの感覚全てが、完璧に作られていない]
.
775
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 23:04:26 ID:4Q7BCeVU0
.
Just a kid amongst the autumn leaves
[枯葉に囲まれた、単なる少年]
A kid kicking around with no worries
[ためらいなく虐める、一人の少年]
Just a kid searching through the debris
[ごみを漁る、単なる少年]
Just a kid acting like I used to be
[昔の俺のように振舞う、単なる少年]
Just a kid acting like I used to be
[昔の俺のように振舞う、単なる少年]
.
776
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 23:06:10 ID:4Q7BCeVU0
.
Afraid of the sun, so afraid of the sky
[太陽が恐ろしくて、空も恐れていた]
Touch it and taste it, but don't reach too high
[触れて確かめようにも、遠すぎて手が届かない]
Hurting and yearning,and yet so carefree
[苦しみ憧れても、まだ楽観的でいる]
Waking and dreaming, the world at my feet
[世界を感じた白昼夢]
.
777
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 23:09:04 ID:4Q7BCeVU0
.
Just a kid amongst the autumn leaves
[枯葉に囲まれた、単なるの少年]
A kid kicking around with no worries
[ためらいなく虐める、単なる少年]
Just a kid searching through the debris
[ごみを漁る、単なる少年]
Just a kid acting like I used to be
[昔の俺のように振舞う、単なる少年]
Just a kid acting like I used to be
[昔の俺のように振舞う、単なる少年]
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
.
778
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 23:10:41 ID:4Q7BCeVU0
.
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
・・ ・・・・・・
舞台は大きく変わって、ホテル・サイドニアのエントランス。
ここでは、とある事件が起きようとしていた。.......
.
779
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/09/11(水) 23:16:10 ID:4Q7BCeVU0
いや、遅くなってすまんかった。なんども言うけど、
この程度の分量二日あれば余裕っしょと調子こいた結果の数ヶ月でした。
明日から本気だします。
それと、以上をもって、ホテル・サイドニアのハーモニー編は完です。
めちゃくちゃ長かった(431kb)ので、ちょいと感慨深かったり。
俺の処女作、綺麗な街のある種リメイクのような一編でしたし。
投下がめっちゃ遅くって、すんませんでした。明日から本気出します。
780
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 00:01:15 ID:/WE2MaSM0
おつ!!!
781
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 03:28:25 ID:xJJ5L/VU0
乙っ!
782
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 09:10:37 ID:fYZxTM7I0
乙!
ハーモニー編最高だった
次にも期待
783
:
名も無きAAのようです
:2013/09/12(木) 09:39:10 ID:AIffu.pMO
おつおつ!本気に期待!
784
:
名も無きAAのようです
:2013/09/16(月) 15:35:12 ID:0vVX8.LY0
いい締めだ
これにしかない雰囲気がよく出てる
開拓史って感じだ
乙
785
:
か
:2014/01/07(火) 02:15:53 ID:aTHZG7Xk0
あげ
786
:
名も無きAAのようです
:2014/01/11(土) 02:06:24 ID:tnwdLTBw0
Y
787
:
名も無きAAのようです
:2014/01/13(月) 23:17:04 ID:uAVnAEYQ0
はよ続き!
788
:
名も無きAAのようです
:2014/01/15(水) 15:37:50 ID:S/qLRBpg0
まだか
789
:
名も無きAAのようです
:2014/01/15(水) 18:16:03 ID:S/qLRBpg0
面白いからこそ、そろそろ締めに入ってほしい
790
:
◆tOPTGOuTpU
:2014/01/16(木) 11:37:00 ID:Ba8k//Ns0
えー、おひさしぶりですね。あけましておめでとうございます。
ageられていたので、進行状況をぶっちゃけます。
5レスほど書いてずっと放置してました。
ちょいと一休みのつもりが、気がつけば数ヶ月経っていてびっくりです。
がんばります。
791
:
名も無きAAのようです
:2014/01/16(木) 12:00:12 ID:VPSoFsmc0
がんばれ
792
:
名も無きAAのようです
:2014/01/16(木) 16:24:31 ID:PubPrKgM0
んもー
793
:
名も無きAAのようです
:2014/01/16(木) 19:04:46 ID:n68eTOsI0
期待して待ってるからな!
794
:
名も無きAAのようです
:2014/01/20(月) 06:05:47 ID:dpT7zc/E0
期待あげ
795
:
名も無きAAのようです
:2014/02/28(金) 02:48:52 ID:pVbTWnEQ0
色んな作品見てるとちょいちょい思い出す
そろそろ10レスくらいは出来たか?
796
:
◆tOPTGOuTpU
:2014/03/03(月) 18:39:32 ID:dX/IAMYM0
はい、導入部分は完成しているのよ。
ところで、総合で聞け的な質問になっちゃうんだけど
macで書き溜めできるいいソフトどなたか知らないかなあ。
windowsの方がイカレて(書き溜めはhd内だから無事)、にっちもさっちも行かなくて。
797
:
名も無きAAのようです
:2014/03/03(月) 21:43:39 ID:VH0/DklA0
Emacs
798
:
◆tOPTGOuTpU
:2014/03/04(火) 14:52:03 ID:nwSPpWyQ0
ありがとん、試してみます
799
:
名も無きAAのようです
:2014/04/03(木) 21:51:28 ID:bJeHJKvo0
最初からじっくり読み直したらとてもテンションが上がったので、その勢いで絵を描いたよ
http://s1.gazo.cc/up/80465.jpg
作中の随所に見られるドクオの真っ直ぐで熱い心が素敵だね。
応援してます
800
:
名も無きAAのようです
:2014/04/04(金) 10:56:38 ID:Yt3rTfhU0
SUGEEEEE
カッケエ!!
801
:
名も無きAAのようです
:2014/04/04(金) 11:15:42 ID:psSUn5r.0
サムネでみると昔のレコードのケーズみたい(誉め言葉)
802
:
名も無きAAのようです
:2014/04/04(金) 12:05:34 ID:9hSqBRSY0
なんというか渋いタッチの絵だ
803
:
名も無きAAのようです
:2014/04/04(金) 20:35:51 ID:9H7CpzWYO
こいつぁシャレオツな絵だぜ
804
:
◆tOPTGOuTpU
:2014/04/06(日) 12:28:48 ID:TIf422Co0
す、すげええええええ!!1
まじでテンションあがりました、ありがとうございます!
いまから書き溜めます!
805
:
名も無きAAのようです
:2014/05/19(月) 21:29:06 ID:BtEbGIQc0
待ってる
806
:
名も無きAAのようです
:2014/05/25(日) 16:45:31 ID:iUD6mwjM0
待ってるお
807
:
名も無きAAのようです
:2014/08/10(日) 13:14:34 ID:.pMPc1c20
まだなのかー
808
:
名も無きAAのようです
:2014/08/31(日) 06:26:04 ID:NDFyXtAQ0
えっもう1年経つのか!!?
809
:
名も無きAAのようです
:2014/09/23(火) 07:03:04 ID:7gZbeUKE0
きてくれー
810
:
名も無きAAのようです
:2014/09/27(土) 15:15:35 ID:0F8ssJ860
逃亡
811
:
名も無きAAのようです
:2014/09/27(土) 15:21:53 ID:vG./QLXc0
多分
>>797
のせいでEmacsにハマってしまったんだろ
812
:
名も無きAAのようです
:2014/10/03(金) 03:55:33 ID:v80xhaNU0
テキストエディタにハマるって何だよ・・・
813
:
、
:2014/10/03(金) 14:15:31 ID:zof7MrNk0
>>812
使ったことないの丸分かりw
814
:
名も無きAAのようです
:2014/10/03(金) 17:04:43 ID:/8EIjjIs0
使ったことないけどそれが?
いきなりどうしたよ
815
:
名も無きAAのようです
:2014/10/03(金) 21:23:52 ID:5VgLRQGA0
>>814
おこるなよw
816
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 14:22:35 ID:UzGYGgws0
大丈夫かこいつ
それでEmacsにハマるってなんなん?
817
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 14:25:36 ID:aX49noVg0
>>816
荒らすなボケ
一人でageまくってる基地外
みんなももうこいつに構うな
818
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 15:56:19 ID:X4TPvi4w0
>>817
わかった
819
:
名も無きAAのようです
:2014/10/04(土) 18:43:26 ID:zQK2wD9o0
以上、自演乙の提供でお送りいたしました
820
:
名も無きAAのようです
:2014/10/07(火) 13:30:47 ID:RRWSANvM0
820げと
821
:
名も無きAAのようです
:2015/01/04(日) 19:40:05 ID:lFvTsGA60
がんばれー!
待ってるぞ!
822
:
名も無きAAのようです
:2015/06/01(月) 14:18:08 ID:.s.aoslY0
待ってるよー
823
:
名も無きAAのようです
:2015/10/14(水) 18:03:00 ID:Iz1kUalA0
カモンщ(゚д゚щ)カモーン
824
:
名も無きAAのようです
:2015/10/14(水) 20:21:16 ID:HbHVicsQ0
カモンじゃねぇよ
来たかと思ったわ
825
:
名も無きAAのようです
:2015/10/14(水) 20:31:16 ID:4QrL84ec0
ごめんυ(゚д゚υ)ゴメーン
826
:
名も無きAAのようです
:2015/10/14(水) 21:07:44 ID:So4BASbc0
なに無駄にageてんだ
更新きてねーじゃねぇかカスが
期待して損したわ
827
:
名も無きAAのようです
:2015/10/14(水) 21:27:39 ID:NHLdkNOg0
4レスともなると流石に期待してしまったんだぜ?
828
:
名も無きAAのようです
:2015/10/15(木) 19:56:16 ID:/J6WUSJQ0
上げんな。
二度とこのスレにドントカモン
829
:
名も無きAAのようです
:2015/11/10(火) 20:32:22 ID:OeFBp87w0
久々に読み返そうの思ったらまとめサイトが消えてる...
830
:
名も無きAAのようです
:2015/11/10(火) 20:48:53 ID:LsaJt.bo0
http://nanabatu.sakura.ne.jp/boon/hotel_sidenia.html
ななばつは移転したんだぜ
831
:
名も無きAAのようです
:2016/05/03(火) 17:03:44 ID:333ac0Oc0
ボカァまだ諦めてないよ
832
:
名も無きAAのようです
:2018/08/30(木) 08:27:07 ID:lDCtq1iY0
支援
https://i.imgur.com/NGJ2dKy.png
833
:
名も無きAAのようです
:2019/10/28(月) 22:36:23 ID:l0.yNgKo0
あなたが誰なのか知るまでは諦めんぞ
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