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ダンゲロスSS3幕間SSスレ

1メインGK:2013/04/06(土) 00:25:24
溢れ出る創作欲をぶつけよう。

94偽原 光義:2013/06/07(金) 10:08:11
ごめんなさい、>>93はミス。

「ファントムルージュによって与えられる認識とは何か、か……」

ファントムルージュの本質。
既にこの大会において4人の対戦相手と2人の協力者、計6人の魔人の精神を粉々に砕いた悪夢。
しかし、そのファントムルージュはとは何か?という問いに対し、偽原は何故か明確にこれだ、と言える解答を、実は未だ持ってはいない。
勿論実際に問われれば、漠然とは答えられるだろう。この7年間、偽原はファントムルージュを見続けた。かつて関西を滅ぼし、己の妻と娘を奪ったその忌まわしい映像を朝も昼も夜も無く見続けてきた。偽原は『この世界の』中においては誰よりもファントムルージュについて知っている。


だが……、いやだからこそ、というべきか。
誰よりもファントムルージュを知るからこそ、その本質について果たして自分はきちんと答えられるのだろうか?という問いが偽原の中にはあった。

もっとも、神について答えられるか?と問われて、すぐにはっきりとした答えを返せる宗教家といすぐにはっきりとした答えを返せる宗教家というのもそうはいないだろう。
だから偽原もその疑問については胸の奥底に押し留めていた。
あるいは、彼がこの大会に参加したのは、その答えを求めて、というのも理由の一つだったのかもしれない。

(しかし、この世界が創作されたものである、という紅蓮寺の認識が真実だったとしたら?)

あの関西で起きた惨劇も、偽原の家族を無残に奪ったあの悲劇も。
この大会でこれまで自らが起こってしまった数々の惨状も。
そして、これから未来に自らによって起こされるであろう……、今はまだそれは口に出せることではないが。
とにかく、そんなある意味で喜劇とも思えるようなこの状況を作り出した存在が、自分たちの別の世界にいるということだ。
そいつは何を思って、あの映画、ファントムルージュをこの世界に作ろうなどとと思ったのか?
その存在ならば、ファントムルージュについて答えられるというのか。
普通の人間にとっては馬鹿馬鹿しいと思えること、しかし今の偽原にとっては看過できない事態である。

(準決勝まで、まだ時間はあるが……)

試合を鑑賞していた本来の目的、黄樺地 セニオ対策は、実のところそのほとんどが既に頭の中で組み上がっている。
これ以上の思索は特に必要ない。後は準決勝まで、準備を進めていくだけである。
現在はまだ準決勝の組み合わせが発表されてから、さほども立っていない。準備期間はまだ数日残されている。
とはいえ、作戦のための備えを十全に整えるにはまだ余裕がある、とまでは言えなかった。

そして偽原が今考えている事は、準決勝を戦うにあたっては特にする必要もない、完全に余分なこと、のはずである。

(だが、やはり直接確かめてみなければならん)

今を置いては肝心の紅蓮寺工藤が姿を消してしまうかもしれない。
偽原は心を決めると、すぐにPCのモニターの画像を、セニオの戦いの映像から切り替え、そして凄まじい勢いでキーボートを操作し、これから行うべき目的のための作業へ取り掛かったのだった。

95偽原 光義:2013/06/07(金) 10:09:39
ザ・キングオブトワイライト、本会場。

紅蓮寺工藤は医務室から出た後、そのまま当てもなく会場内をふらふらしていた。

二回戦、城での戦いの最中、遠藤終赤の推理光線によって撃ち抜かれた彼女は、そのまま大会の治療班によって医務室の棺桶の中へ担ぎ込まれ、今日まで死亡状態であった。
そしてつい先ほど、ワン・ターレンの『死亡確認』を受け、冥府から蘇ったのである。
そして己の敗北を聞かされ、「ヒヒ、ア〜〜、俺は負けたのかア〜〜、じゃあなア〜〜」といって、医務室を後にした。

なんでも二回戦の敗者は裏トーナメントなるものに参加できる資格があるそうだが、今更そんなものに興味はないようである。
そもそも彼女が何を思って、何のためにこの大会に出たのか、それすらも理解している人間がこの世にいるのだろうか。
今の彼女は

(ア〜〜、たりぃ。オナニーでもして、帰っか)

という感じで漫然と会場内を歩いていた。
そんな時。

「……では、次のニュースです」

機械的な、アナウンサーの音声が耳に届いた。
見れば廊下の端の椅子に一人の大人が腰掛けている。帽子を被り、眼鏡をかけたその男は、ノートPCを広げて、TVのニュースを視聴中のようだ。周りの迷惑を考えていないのか、音が漏れていることにも気づいていない。
紅蓮寺工藤は特に興味もなく存在ばを立ち去ろうとしたが……。

「ネット上にて人気の小説、アンノウンエージェントが実写映画化されることが決定いたしました」


(……アン?)

アンノウンエージェント。
それは他でも無い、紅蓮寺工藤本人が登場している小説の題名である。
紅蓮寺工藤はその小説の作者の魔人能力によって、実体化された、元は架空の人物である。

(あのクソ小説を実写化だァ〜〜〜?物好きなことする奴がいるもんだなァ〜〜)

自分が登場している小説とはいえ、狂人である紅蓮寺にはあまり愛着というものは無いようだ。
しかし、それでもある程度関心はあるようで、ニュースから流れる情報へ紅蓮寺は耳を傾けた。

「プロデューサーは○倉△一郎氏、脚本は□村S二、という豪華なスタッフとなっており」

(ハァ? おいおい、聞きしに勝るクソスタッフどもじゃねぇか〜〜。ヒヒ、大丈夫なのかァ〜〜)

アナウンサーが映画の主要スタッフを述べていくが、どのスタッフもその道の人達には良く知られた、一癖も二癖もある陣容であった。
しかし紅蓮寺は、さほど作品自体の出来栄えやその行く末には全く案ずるところはなく、むしろどんな面白いことになるのか?と心の中でギャラギャラと笑いながらそのニュースに聞き耳を立てていた。
ところが。

96偽原 光義:2013/06/07(金) 10:10:45
「そして、最大の目玉として、」
「あの大女優、ハイパーストロング・AYAMEさんの紅蓮寺工藤役としての出演が決定しました!」


(……ハァ?)


「プロデューサー○倉氏の発言によりますと、紅蓮寺工藤は原作小説ではあまり人気が無いキャラなのですが、思い切ってAYAME氏に演じてもらうことで大幅なイメージチェンジと人気アップを図りました、とのことです」

(な、なななななな……)

「更にAYAME氏からのコメントです」


男性アナウンサーの音声が可愛らしい、しかしどこか尊大な感じを帯びた女性の声へと切り替わる。


「紅蓮寺さんは原作ではわけの分からない、ちょっと気が狂ったようなキャラなんですが、私はもっと爽やかで、可愛らしい。私なりの紅蓮寺さんを演じたいと思います」
「原作ファンの皆さんにも、こんな紅蓮寺さんもアリかも?って、思ってもらえたら嬉しいです! 応援よろしくお願いしまーす!」

(ふ、ふざ、ふざ、ふざけ………)

――ハイパーストロング・AYAME。
それは2012年頃から頭角を現し、その剛力ぶりでありとあらゆる原作付き実写ドラマや映画作品に出演し、破竹の勢いで創作界を暴れまわった女優である。
原作付き作品における、彼女のあまりの存在感は、遂には原作付き作品の完成度を測る単位として、pg(ピコ剛力)という新たな理論が学会へと提唱されたほどである。

その進撃は留まるところを知らず、2015年の関西、及び関東滅亡の後も彼女は滅びることなく生き続け、それどころか国内にライバルがいなくなったことから、遂には世界的大女優へと躍進を遂げた。
そして、ワールドワイドになったことから、剛力を超えた超力を持つ女優へと変身。それはまさに蛹から蝶へと脱皮するかの如き様相であった。
加えて名前も世界に進むに合わせて英語化され、ハイパーストロング・AYAMEとして進化した。
(超力を直訳するとスーパーパワー・AYAMEだが、語呂が悪いので、こうした意訳的な名前となっている)
2020年の現在では、今や世界中の人間が「次は一体どの物語が彼女の出演によって歪められるか?」と、戦々恐々、喧々諤々、畏れにも近い感情を持って、ただその時を待ち続け、受け入れるだけとなってしまっていた。

「フザケんなァァァーーーーー!!! オレを演じんのがあのクソギャラギャラギャラ(注:自主検閲により変換)女優だァーー!? そいつァ、何の冗談だァァァーーーーーー!!」

あまりの現実を前に、紅蓮寺はノートPCを広げた男を手で乱暴にどけ、そのニュースの映像を凝視した。
そこには。
紅蓮寺工藤役、ハイパーストロング・AYAME という文字と共に、笑顔のAYAMEと紅蓮寺のイラストが並べられた画像が映っていた。
もちろん、二人の人相は全く似つかない、何を思ったらこんなキャスティングになるのか、まったく分からない程、似ていないものである。

97偽原 光義:2013/06/07(金) 10:19:50
「マジじゃねぇかァァァーーーーーーーー!! アアアアアアアアアァァァァーーーーーーー!!」









フ ァ ン ト ム ル ー ジ ュ











「ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒ……な、なんだぁ〜〜、この、有り得ねえ……なんだぁ、このクソは。剛力とかAYAMEってレベルじゃあ、ねえ」
「か。返してくれ〜〜。オレを、元の世界へ……。もう、こんな映画は、こんな世界は嫌だァァ……」

ファントムルージュ・オンデマンド。
紅蓮寺工藤が見つめたノートPCの中の悪夢、ハイパーストロング・AYAMEと自分のイラストが並んだ画像は、たちどころにそれを上回る世界最大の悪夢の映画、ファントムルージュの映像へと切り替わった。

(成程、こうした姿を見ると、中々美人ではあるな、この女)
(ハイパーストロング・AYAMEというのは、少しやりすぎたか)

ファントムルージュによって生きる気力を奪われ、廊下の床へと転がる紅蓮寺の傍に立ち尽くすのは、先ほどノートPCでニュースを視聴していた男、眼鏡と帽子で軽く変装してはいるが、まぎれもなく偽原光義である。
彼は紅蓮寺の能力に自らかかるべく、こうして医務室から出てくる彼女を待ち構え、そして対紅蓮時として用意していた、先ほどのニュース映像を周囲に聞こえるように流していたのである。

再度の説明となるが、紅蓮寺工藤はアンノウンエージェントという小説に登場する架空のキャラクターが実体化した存在である。
架空のキャラクターにとって最も辛いこととは何か?
それはその存在が本来書かれた作者の意図、自らに込められた可能性を、欠片も残さず歪められた形で世に知らしめられてしまうことではないか?
その辛さ、恐ろしさは、それと全く同じ属性を持ったある映画の事をよく知る偽原だからこそ理解できる。
そして、ハイパーストロング・AYAMEによってキャラクターが演じられるということは、まさにその架空のキャラクターがこの世で最も恐れていた事態、死ぬよりももっと辛いことである。
紅蓮寺工藤がいかな狂人であるとしても、己という存在へのプライドは持っているはずである。ならばその自尊心を粉々に砕く映像を前に目を背けることはできない。

紅蓮寺工藤は二回戦で敗れたが、偽原は一回戦終了時から、次に戦う可能性のある相手と戦った時のシミュレーションを行っていた。この映像はその時に、紅蓮寺対策として既に思いついていたものである。
勿論、実際の試合の時は、これ程容易に相手に映像を見せつけることは難しいだろうし、映像にしても、もっと精巧な物を作るつもりだったが。

(とはいえ、急ごしらえにしては充分だったな。備えあれば、憂いなしだ)
(さて……)

偽原は眼鏡を外し、帽子を上げて倒れる紅蓮寺の目の前へ近づいた。

「紅蓮寺工藤、俺が分かるな」
「て、てめえは……」
「そう、偽原みつよ……」

その瞬間、雷が偽原の頭上を直撃する。
そして瞬く間にこの世界の真実に関する、ありとあらゆる情報が偽原の頭の中に流れ込んでくる。
この世界がダンゲロスSS3というキャンペーンであること、勝者のSSだけが正史となるルール、今自分が行っている行動は作者である人物が掲示板に書きこんでいる幕間SSであること、ダンゲロスのwiki、魔人のいない世界、架神恭介。
そして……。
そして、ファントムルージュのこと。
おおよそ作者が知りうる事は全て偽原の頭の中に流れ込んでくる。

98偽原 光義:2013/06/07(金) 10:21:13
「お、おおお、おおおおおおっ!!」

咆哮。
偽原は顔を天に向け咆哮していた。
その眼から涙がとめどなく溢れる。
完全な放心状態。彼はただただ天にいる何かに向かって叫び続けていた。
放っておけばそのまま何日も天を仰いだ状態でいるのではないか?
それ程今の偽原は異常な状態であった。

「ヒ、ヒヒ、なーにを途方にくれてやがんだぁ〜〜? あんなクソ下らねえことで」

その偽原に対し、紅蓮寺が声をかける。
偽原はようやく顔を下げ、涙を拭いながら答えた。

「そうか、お前の能力はこれを書いている人間の知ることが伝わるんだな」

紅蓮寺もまた、自らの能力の影響を受けている。
偽原が知った事実をそのまま、紅蓮寺も知ったのだ。

「くだらないこと、そうくだらないことだな。ファントムルージュ、それに……AYAMEか?」

偽原は意地悪い笑みを浮かべ、それに答えた。

「ヒ、ヒヒ、クソだ、ああ、クソくだらねーなァァーーー、アーヒャッハッハァァーーーー!!」
「フハハハハ、ハハハハ、ハーッハッハ!!」

狂った様に笑う紅蓮寺、そして偽原もまた、それに対応するかのように大きな哄笑を上げた。
狂笑、互いに数分続いたが、やがてどちらともなく止まった。

「俺のこと、忘れるな、紅蓮寺工藤」
「ああ、忘れねえさ。あんなクソを見せやがった野郎のことはなァァーー」

この瞬間、偽原と紅蓮寺の間に対戦相手以上の関係が生まれた。
これで偽原は紅蓮寺の能力の影響をずっと受け続けることになる。

(そう、忘れる訳にはいかない)
(この事を知ったままでなければ、俺は次へは進めないらしいからな。業腹なことだが)
(だが、そのためにも今は準備を進めねばな……)

そう、これは余計なこと。偽原にとって、本来はする必要のないことである。
次のセニオとの戦いの行く末はこの後の偽原の努力次第にかかっている。
例えこの世界が、作られたものであったとしても。そこに手を抜くことは許されない。
それはこの世界の作者が寝ていて締め切りまで過ごしても、SSを書き上げることが出来ないのと同じである。

(急がねばな。大分、時間を潰した)

偽原は表情を引き締めると、倒れた紅蓮寺をそのまま抱えて医務室へ運んだ後、本会場を後にしたのだった。

準決勝へ続く。

99偽原 光義:2013/06/07(金) 13:53:31
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件・女優とは一切関係ありません。

最後に上の一文をつけてください。
肝心なことわすれてた。

100サブGK:2013/06/09(日) 14:08:36
『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』本会場であるコロッセオ内の一角、
『レストラン・カーマラ』にて、今日も二人の男がグラスを交わす。
大会主催者の秘書兼世話係、森田一郎と、レストラン店員兼客席警備役、千歯車炒二だ。
厳しい男達が面突き合わせて一体何を話しているのか?
そっと耳をそばだてれば聞こえてくるその会話。

「裏トーナメントってヤツ?ひとまず開催おめでとうってとこかしら」
「そうだな……良い試合を見せてもらった」
「コッチにも客が流れてくるからホント万々歳ってところねー。
 商売になるし、試合の盛り上がり具合はアタシもバッチリ確認してるわよ」

それはきっと、裏トーナメント参加者達にとっては気になる話題だろう――



〜〜裏トーナメント第一回戦 試合別得票の流れ解説SS〜〜



■裏一回戦【遊園地】

「まずは遊園地ね。ココはあの探偵のおじょーちゃんが抜け出したわねえ」
「初日の時点で雨竜院・高島平の両者に1票、対して偽名探偵こまねは11票だったな」
「そのまんま伸びて勝っちゃったんだから大したモンね」
「他の二人も票こそ少なくとも好意的なコメントは多かったのだから、大したものだ」
「強い相手に圧勝したってワケよね」
「ここの勝者は後々まで目が離せないな」
「裏二回戦では探偵対決もあるみたいだしねぇ」
「裏一回戦、遊園地の勝者、偽名探偵こまね……」
「おねーさんも応援しちゃうわ」



■裏一回戦【底なし沼】

「底なし沼は……これまた飛び道具が出たわねぇ。笑っちゃったじゃない」
「ザリ・ガナー」
「やめて真面目な顔で言わないで我慢出来ない」
「ここも聖槍院九鈴が終始圧倒して終わったな」
「アキビンの渋さも捨てがたかったんだけどね」
「序盤に出遅れ、終盤に離され、それでも夜魔口組もコメントを残され、健闘だったな」
「これで裏二回戦では狂人がエルフとぶつかるんだから大変だわ。アタシ期待しちゃう」
「鋭い切れ味の『言葉』を武器にする検事もだな」
「裏一回戦、底なし沼の勝者、聖槍院九鈴。ドコまでやるかしら」



■裏一回戦【宇宙ステーション】

「ここの試合は……あらぁ残念、弓島由一の失格」
「大会ルールに則り、得票数は非公開だな」
「内亜柄影法は短く纏めてきたわねー」
「キメ台詞は長かったがな」
「コメントを見るとみんな好意的みたいだし、アタシもこーいうのは好きよ」
「そういえばお前もよく攻撃の際に叫んでいたな」
「気合よキ・ア・イ。裏二回戦でも熱血っぷりを見せてくれるかしら」
「対戦相手はどちらも真っ当とは言い難いからな。さてどう出るか」
「裏一回戦、宇宙ステーションの勝者、内亜柄影法。見ものね」



■裏一回戦【ホームセンター】

「ホームセンターは裏で唯一の混戦だったわねぇ」
「そして投稿時間ルールが初適用された試合でもあったな」
「最初は……あらまぁ意外。ゾルテリアは出遅れていたのね」
「トリニティ3票、倉敷椋鳥3票、ゾルテリアは1票だったな」
「中盤も倉敷が票を集めていたんだ。へえー」
「トリニティ、ゾルテリアは票が伸び悩んだな」
「なのに……あらあら、終盤になってゾルテリアの追い上げがスンゴイじゃない!」
「ぎりぎりでの巻き返しだったな。最終的には倉敷椋鳥との同票。そして早さで決着だ」
「裏一回戦、ホームセンターの勝者、エルフの元女騎士ゾルテリア。やるわねぇ」



〜〜〜〜



「――で、裏二回戦は特急列車がゾルテリアVS聖槍院九鈴VS内亜柄影法。
 温泉旅館が偽名探偵こまねと……表の二回戦敗退者から参加した遠藤終赤に山田ね」

森田と千歯車の会話が途切れた。
客のいなくなったレストランのバーカウンターに、空のグラスが置かれた。

「今日のところはこれでお開きだな」
「そうねぇ」

二人の男は立ち上がり、挨拶を済ませると思い思いに別れる。

「さぁて、次はどんな試合が見られるのかしら」

『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』準決勝、そして裏準決勝。
次に待つ、まだ見ぬ試合に大きな期待を寄せて――。



<終わり>

101八津河喬二丁目:2013/06/12(水) 22:20:28
【復讐者の誓い その6】

「ええと、次の裏トーナメントから三人で出場したい…ですか」

運営の受付係員は山田達の頼みに対して困惑した表情で答える


「まあ、そんな感じです……けど…やっぱ無理ですよね…?」

「いやいや!元々さ、山田って名前は魔人賞金稼ぎとして活動するときに使ってた名前でさ!
そんときにはいつも私と穢璃ちゃんがサポートで支援した訳だからさ!これもう実質共同の名前じゃない?」

「そしてその名前で登録してるのだから三人で出場したい…無茶苦茶な屁理屈だとは分かってる。
けどそもそものこの大会自体、参加者のあらゆる武器の持ち込みが許可され
料理対決にバラエティ番組じみた戦いなんて物で勝敗を決めたり挙句の果てには
試合場に予め第三者を持ち込むなんて事までやっても反則にならないからには
この程度の事も許容されるべきなんじゃないかしら」

「あ、そうだ!そもそも第二回戦で淀輝ちゃんは穢璃ちゃんに向かって
対物ライフルを当てた訳じゃない?ならその時点で淀輝ちゃんは
『試合中、対戦相手以外の観客等に危害を加える行為』によって反則負けになってるはず
そしてもしそうならその後、偽原のオッサンは淀輝ちゃんに思いっきり攻撃をしてた訳だから
『勝敗確定後の戦闘行為』によって偽原のオッサンも反則負けで勝者はオーウェンに
なるはずだと思うんだけど?もしこれが覆らないのであればそれってつまりは
私達も『山田』の一部って事になるんじゃないの〜?どうなのどうなの?」


「…はあ、分かりました。ちょっと上層部の方に確認しますね」

係員はそう言うと窓口の備え付けの受話器を手に取る



「……本当に戦うんですか…?」

山田は心配そうに兎賀笈澄診と兎賀笈穢璃に尋ねる

「ハハー!君はいまさら何を言ってるのかねえ?」

兎賀笈澄診が芝居がかった低い声で架空のカイゼルヒゲを弄りながら答える

「澄診ちゃん、ふざけないでよ」

「…あのねえ、淀輝ちゃん、ふざけてるのはどっちよ!
何度も言うけど私達はもうとっくに覚悟決めてるのー」

「私達の事を心配してくれる気持ちは有難いわ…
でも、二回戦の事を考えれば私達は裏方に徹するという考えが強すぎたと思うの…
これからの戦い、そして本命の復讐の事を考えたら今まで通りのやり方や気持ちでは
また二回戦の二の舞になってしまうんじゃないかって思うの…」

「澄診ちゃん…穢璃さん…」

山田は二人の返答を聞いてしばし沈黙した

「分かりましたよ……そのかわり、二人とも
自分の事はしっかり自分で守って下さいよ?助けれる時は助けますけど
いつでも余裕があるとは限りませんからその事は覚悟して下さいね」

山田は本当は「二人を絶対守って見せる!」くらいの見栄を張りたいところであったが
二回戦で自分はなにも出来ずに偽原の成すがままにされ
自らの手で穢璃に危害を加えてしまった事を思うととてもそんな
勢いだけの都合のいい事を言う気分にはなれなかった


「まあ、でも実際に三人で戦えるかは運営の判断次第ですけどね」

102八津河喬二丁目:2013/06/12(水) 22:21:10
穢璃がそんな事を言い終えた丁度その時
係員は受話器を置き山田達に話しかけた


「あ、三人での参戦についてOKだそうです、ただし
条件付きで、次の試合ではちょっとしたペナルティが課せられるそうです」

「ペナルティ?どんな内容の?」

「それは実際に戦いが始まるまで秘密だそうです。
もし決勝戦に勝ち上がれた場合、決勝ではペナルティは無しで戦えるそうです。
また、翅津里淀輝さん一人で戦うという場合でしたらペナルティは無しになります」


「ペナルティか…どうします?俺はいいですけど」
「まあ私もオッケーだよ!どんな事が起きるか分からないのが人生!」
「二人が良いのなら私も大丈夫です」

「じゃあ決まりだね、次の戦いから三人で戦うって事でお願いします」

「了解しました」


「しかしペナルティが課せられる上に実際に戦いが始まるまで
内容を伏せられるとかなんかバラエティ番組みたいだよなあ」

「ホームセンターでの戦いといい、裏は結構軽いノリなのかもねー」

「ところで…これから三人で『山田』として戦うというのでしたら…
私も『山田』になるって事ですよね…?それなら私も山田さんの事を
淀輝さんって呼んだ方が良いかしら?」

「……っ!!当然ですよ!むしろそう呼んでもらえる方が大歓迎って言うか!」

翅津里淀輝はそう言いながら兎賀笈穢璃の手を両手で掴み軽く上下に振った

「淀輝ちゃん名前で呼んでもらえるってだけではしゃぎ過ぎっしょ…」

おわじ

103八津河喬二丁目:2013/06/12(水) 23:27:04
【復讐者の誓い その7】
裏トーナメント準決勝前日

都内某所地下
そこには四人の男女が居た


「ぅあっ……!…んぐぅっ…」

薄暗い地下室に女性の悲痛なうめき声が響き渡る
女性は両手に手枷を嵌められ天井に吊られている

「…ぃぁっ…ぃ……んんっ…いぅっ…!……ふぁぐっ…」

女性の身体には至るところにみみず腫れが浮かび上がっており
且つ様々な箇所にカラフルな押しピンが突き刺さっている。

そして先程から翅津里淀輝が通電を行う度に女性は
口に宛がわれた布を噛みしめながら僅かに悲鳴を漏らしている

翅津里淀輝は拷問を恍惚とした表情で行い
兎賀笈澄診はそれを嬉しそうにハンディカメラで撮影している
(他にも三台の固定カメラを設置している)

そして兎賀笈穢璃は翅津里淀輝の拷問を真剣な眼差しで見つめる


「えーと次は………生爪剥ぎか」

翅津里淀輝は拷問の手を一度休めメモを取り出し眺める
その内容は今日この女性に対して行う拷問のメニューが書かれている。


「…しかし、本当にここまでやっちゃって大丈夫ですかね?」


翅津里淀輝は兎賀笈穢璃の方を向き
はにかみながらぎこちなく問う。

今回の拷問における翅津里淀輝の様子はいつもと大分違う
いつも以上に嬉々としていながらもどことなくよそよそしく
何かを心配している様子である。


それにはいくつかの理由がある

普段の拷問のメニューは兎賀笈澄診が大まかな内容を事前に決め
そこに翅津里淀輝が口を挟んで準備をし
実際に拷問する際に更に二人のノリによって内容が変わったりする

しかし今回のメニューを決めたのは兎賀笈澄診でも翅津里淀輝でもなく
兎賀笈穢璃が全て一人で決めたのだ。


そして、今回の拷問の相手はいつものような
凶悪魔人犯罪者の賞金首ではなく罪なき者なのだ

そう、これはいわば彼らにとって一線を越えるための儀式と言っても良かった


「……大丈夫よ…むしろまだ生ぬるいくらいね…
私達が味わった地獄もこんなものじゃなかったでしょう…?」

兎賀笈穢璃はニッと笑顔を作りながら答えた




104ほまりん:2013/06/15(土) 14:18:34
トリニティ描いたんです!
トリニティはとても可愛いので、みんなどんどん描くべきなのです!

三人集合絵: tp://twitpic.com/cw4e7q
ゆるふわ四コマ: tp://twitpic.com/cwp0n2

105しらなみ:2013/06/23(日) 07:32:52
前2万字とかいったな…ありゃ嘘だ。

◆ダンゲロスSS3番外
DANGEROSRONPA『CHAPTER1:名探偵、負け犬達のサーカス』


【01】
絶叫の後、沈黙。
事実さんとあたし、こまねは互いに見つめ合うことも出来なく、
ただ、ただソレを見つめていた。

wanawanawana wananwanwana wananwanwana wananwanwan

zawazawazawazawa wanawanwa

突如、あたし達の前に現れたソレは、ヌイグルミと呼ぶには余りに歪で
へんてこりんな存在だった。白を基調とした身体に黒の歪なラインが無数に
走り全身を縫いとっているかのような怪存在。
そしてソイツはまるでそこが自分の定位置だといわんばかりにステージに
設置された椅子にちょこんと座った。

両脇にはスピーカーが設置され、登場時以降、不快なBGMを垂れ流している。
同じく左右に展開しているボンボリ達が狂ったように赤黒の点滅を繰り返し、
狂ったようなシュチエーションをモノノ見事に演出していた。

ナマモノは右手(らしきもの)をあげると
「というわけでグッドモーニングスター☆負け犬の皆さま。
ボクはこの大会マスコットにして運営者の”戮エモン”です。ドーモ、コンバンワ」
と妙に甘ったるい声で挨拶をかまして来た。

あたしは眼を細める。大会マスコット?
リクエ・モン?
そんなモンスターなど誰もリクエストなどしていないんだよ〜
普段なら余裕かましてそう一笑に伏すのだが、一概にそうできない
それは今対している相手が纏っている凶気とでもいうべき、禍々しさに合った。何者だ。

あたしたちは沈黙を続けていた。
次の瞬間、紅い瞳があたし達を覗きこむ。その不吉な紅に思わず悲鳴をあげかける。

「おやおや最初の豚のような悲鳴からダンマリデスか?ひょっとして死んだふり?」

覗きこまれるまで、全く接近の気配が読みとれなかった。今、どんな早業で近づいた。
あたしは内心の動揺を悟られないよう出来るだけゆっくりとソイツから視線を外す。
にやつく自称”リクエモン”

「くくくく。安心していいよ、ボク、クマさん設定じゃないから、死んだふりし
なくても取って食ったりしないから。
それにさ最近ゆるキャラとかクマなんとかとかがはやってるってはなしじゃない?
そこらへんも、ちゃんと考慮して、ボクのキャラ設定はクマではなくて未来から
やってきたネコ型のロb…」
「それ以上続けてはいけない!!」

??

奴は不思議そうに首をかしげた。
くっ。臍をかむ。
しまった、もっと情報を引きだすまで待つつもりが、思わずツッコンでしまった。
何か今放置していくとトンデモナイことになりそうな気がスゴクしたのだ。
この強制力…実は何かの魔人能力かもしれない。しかたなく、謎の相手に返事を返す。

「ハイ。で、その自称大会マスコットの”リクエモン”さんがあたし達に何の用でしょうか?
私達はその大会の為に試合会場に向かわないといけないのだけど。」

何気なく水を向けた、次の瞬間。

ざわ。
ざわ。
ざわ。

部屋の空気がざわめいた。ざわざわと”リクエモン”の後ろで文字が躍る。
本当にざわという文字がぼんぼりから浮きで踊っている。
どういう原理だ。
しかも人が能力が発動できずに困っているというのに、なんかスゴイむかつく。

「あー君達がソレを言う。遅刻者の君がネ。」
リクエモンが呆れたように言う。
――――は、遅刻したって。
「そーだよ。あれだけ時間厳守遅刻厳禁ですって言っておいたのに。
君達はいつまでたってもオちてこない。
しかも全く同じブロック全員が”遅刻”するとは思わなかった。こっちにも都合があるってのに。」

憤り・激しい・憤り。

彼の背後で激しく点滅するぼんぼりたちの文字。なるほど、そういう風にも使えるんだ。
感心している場合でなかった。リクエモンが気勢をあげる

106しらなみ:2013/06/23(日) 07:36:14
「そこで!!我々としては!遅刻対象者を粛清!―じゃなかった、反省を促すため
罰ゲームを実施することになりました。
各部屋、確定一名様にて!
極めて趣向を凝らした!
『お仕置き』を受けて頂くことにしました!!スイーツ(笑)」

頑張るボクへの御褒美と言うやつです。口に手を当ててシシシと笑う、リクエモン。
何が御褒美なのか言葉の意味はよくわからんがとにかく凄い説得力だ。

「遅刻…そんな訳が…」
「じゃ1回戦の記憶ある?
今日の自分の行動を振り返って『思い出せる』?無理だよね。君には記憶がないはずだ。」

りくえもんに断言され、そのまま口ごもる自分。
確かに会場に向かうところまでしか、記憶がない。例えば前日までの電話口でのやり取りや
対戦相手の過去を調べた詳細とかは覚えているのだが、そこからの記憶が…
ズキッ
頭に鈍い痛みが走る。いや本当にそうだったろうか?

「ま、というわけで『オシオキ』対象を選ぶクイズをぉぉぉとそんなことしたら
倒れちゃうよ。危ないよぉ」
「そんなの誰がみとめるかぁ、帰して帰して帰してよ」

あたしは思いっきり地を蹴り、縛られながらも地団駄を踏み暴れる。
だが哀しいかな女子の軽い体重(強調)では椅子をふらつかせるのがせいいっぱい。
イスは後ろ向きに少し動いただけでそのまま…倒れなかった。
その代わりゴスという背後に何か当たる音がした。
「事実くんナイスキーパー」
どうも真野さんが自分と同じように椅子を後方に飛ばして倒れかかったあたしを
支えてくれたようだ。
「そしてこまねゃん、嘘泣きしてもダメです。帰しません。バレバレです」

はぁはぁはぁ息を整えつつあたしはぺろっと舌を出す
「ありゃ、ばれてましたか、むむむ」

そういいつつも意識は背に集中する。
縛られた背後の手の人差し指を立ててみると何か柔らかいものに当たる感触が、
そして向うからも返し…アリ。こちらの手のひらに指が当たる感触がする。
初めから数十センチの距離だ、少し詰めれば手が触れ合える。
そしてここで取られるやり取りはこいつからは死角になって見えないはずだ。

コンタクトできる状況はなんとかできた。
こちらの企みにはまるで気づかない様子でリクエモンは続ける。

「そして、今回の『オシオキ』は画期的にも選択制を採用しております。
なんと前もって対象が『オシオキ』を選ぶことができるのです!
ではレディファーストでこだまちゃんまずはリスト、ドウゾ」

すると目の前に映像が浮かぶ。そこには



「なんか、お仕置きと言うより古今東西の選りすぐりの処刑方法が書いてある
気がするね。言葉のニュアンスが間違ってる気がするなんだね。」
「でーょぶだ、ワン・ターレンがある。」

なんか凄い悪い顔でなんか凄いこといわれた。
本当に大会本部絡んでたらそうだろうけど…、好んで処刑される謂われはない。
そして、ここで今までダンマリを決めていた事実さんが初めて口を開く。

「補足確認だ。片方がオシオキを受けた場合、その間、残された人間はどうなる?」
おお
今までの口数が少なかった分、ばーんと決めてほしいところである。
「うーん、基本オシオキ中はそれを観賞いただくかな。妨害なんかはさせないけどさ」
とリクエモン。
そして次の台詞で一同に電流が走った。

「では、この『色欲触手地獄(ういーんういーん)』を詳しく見せてほしい。」

ガーン。
いきなり膨らんだ期待を裏切られた。膨らんだのは読者の期待やナニのほうだった。
「変態!変態!変態!裏切り者!」
思わず泪目になって叫ぶ、こまね。今度は半ば本気だ。

ギラリ。これはリクエモンの反応。
こまねの反応を見、これは今いち薄い真野事実に対するキャラ付けのチャンスでは
ないかと考えたのだ。
つまり、勝てばJKが触手に貫かれる様を観賞でき、負ければ挿しぬかれるところを
JKに視姦される。ドッチに転んでも変態的なキャラ立てが御膳立てできる。
今でさえ拘束された状態で泪目になった女子高生に変態と罵倒されるという好位置。
真野事実、恐るべしとメタ視点の者に印象付けるべきではないかと。
だが彼はこの誘惑を退けたっていうか、それをすると進行の妨げになるし、
ぶっちゃけそれ以上に愚痴りたいことが彼にはあったのだ。

「あーあーこまねちゃん、お静かに。
んというか其処にはちょっと先客がいるんだけど?てーいうか最初の補足って確認したい
って意味だよね。それなら「実物」見て頂いたほうが早いかな。ハイご注目〜ポチっとな」

―場面転換―

薄暗がりの中、肉色の壁で覆われた部屋
そこで全裸の大柄な女性が、肉紐で全身を絡め取られていた。

107しらなみ:2013/06/23(日) 07:39:45
「イヤァァァァァ」

最初は悲鳴かと思われた。だが、多分に媚を含んだ甲高い甘い声にそれはすぐに過ちだと
気づかされる。聞くだけで濃厚な鼻をつくような匂いがここまで漂ってくるような声だった。

―まさか!?そんな!

こまねの意識がそちらに向くと同時に映像がズームインされる。そこには!

それには触手に全身の穴という穴を挿し貫かれ悶絶する
安定のエルフの元女騎士ゾルテリアさんのあられもない姿があった!
触手になんか私は絶対負けない…でも!

「「ですよねー」」*2

思わずハモる二人の反応。これにはリクエモンさんも困惑顔だ
「いやほら彼女の能力って一種の無敵防御じゃん。ほかのひとみたく綺麗に眠らせるわけ
行かなくてね。で。先に相手して説明していたら
『ほほほ、私がそんな脅しに屈すると思って☆その問答即受けてやるわ』とかいいだしてね』」

…何故だろうその光景が眼に映るようだ。

「でね速攻でこっちの出すクイズ間違えてね。予め触手地獄、選んでいてね。もう、なんだかね。」

…何故だろうその光景が眼に映るようだった。

しかし、これで大会参加者が3人目。しかも同ブロックからだ。
流石にこの無法を目高機関が見逃すとも思えない。何某の狂言を疑っていたがこれは思った
よりもヤバイかもしれない。いやマテマテ、こまねは我に返る。

「ネコさん!もうゾルテリアさんが確定1名の罰ゲーム受けてる状態だったら、私達が
オシオキ受ける必要全くn…」
「シャラープ!!!!!!」
そのナイスな提言を遮るように鋭い叫びが入った。紅の眼が怪しく光る。

憤り・激しい・憤り。

激しく机を叩くリクエモン。

「シャラープ!!!!!!!!!貴様らは何も分かっていない。
いいかい、オ・シ・オ・キというのはだね。一種の【極地】なのだよ!
焦燥・後悔・絶望、そして暗転。今まで積み上げてみたものが一瞬にして崩壊する
様々なものが入り混じった崩壊のコントラスト!!
それをあんなあんな、くっ。我々はあんな肉袋になんぞ用はないのだよ。」

再び、激しくドン。

「ということで部屋も違うしノーカンです。中のひと的に言っても、多分あれはNGだね。」
中の人いうな。
がっくし。どうやらこのナマモノのリビドー赴くまま、ケッタイなクイズアワーに
付き合うしかないようだ。危機的状況は続く。
そしてこの時あたしはなんだかんだで、向うのペースにまんまと乗ってしまっていたのだ。

そのことに気づいたのは全てが手遅れとなってからなのであったのたが…。


【MISSION】

『選択は2つです。
こちらの出すクイズに対し一発勝負で正解する、もしくは
4つ正解を答えた人が部屋から無事に出れマス。

そうでないと永久に出れません。
間違えたりギブアップしたりすると罰ゲーム『お仕置き』が待っています。

お楽しみに。


以上、細かい点はGKコールに従ってください。』


あたしたちはルール確認と紆余曲折の末、後者、4つの正解を答えることとなった。


◆◆◆question open(一発勝負の問題)

QUIZ

『ここには真実を運んでくれる正直者のお手伝いさんが6人居る。

そのひと達をボクに紹介して下さい。』

108しらなみ:2013/06/24(月) 21:27:56
【2】◆◆◆question1:私は誰?

QUIZ

『ここには真実を運んでくれる正直者のお手伝いさんが6人居る。

そのひと達をボクに”紹介”して下さい。』


それが一発勝負のクイズ内容だった。

(確か昔読んだおぼえがある。イギリスの童話作家の詩の一節だ。
これは、その変形バージョンってことかな。)

確認の為、背後に回した手でやり取りすると事実さんも同じように捉えているようだ。
いきなり答えが判ってしまった形だが…『紹介』と言われている以上、
その予想回答にプラスの詳細が求められるのだろう…結局”監禁されている”自分たち
では答えようがない。

「ちなみにゾルティアさんはこちらの一発勝負を選んで間違えました。」

彼女は『探偵』と答えたらしい。そして順番に名前を挙げて行った。なるほど、三つ子も
含めると丁度探偵が6人になる勘定か。ただ残念ながら回答は探偵ではなかったようだ。

そして彼女の「今」はすぐ、そこにあった。
先ほど映し出された映像は音量こそ落ちているが引き続き、映されており、肉と肉が
交わり合う淫猥な音が鳴り響いている。

イケナイナンデイケナイノイキタイノニー

現在は絶賛スンドメ地獄らしい、うわーキツソウ。
なんか、聞いてると、こうモゾモゾしてくるので、そろそろ消してほしいんだけど、うん。

「それでは引き続き手前の映像をご覧ください。」

そんなこちらの心境を知ってか知らずか、リクエモンの手により空中に映し出される新たな映像。

問題
『単連結な2次元閉多様体においては、どのような輪であっても引き絞れば
回収できるようであれば、その表面(表皮部分)は2次元球面に同相であることを証明しろ。』

以上である。

それから暫く待ったが「答えろ」とか「ハイヨーイドン」とか言われなかった。
あたしは一つ咳払いをすると出来るだけ猫なで声で出題者に声をかけることにした。

「ニャーニャーニャ?」
「あ、ボク、ネコ語とか判らないんで日本語でおK」
さいですか。
「もう始まってるの?」
「勿論、始まってますよ。」
やれやれと肩を竦めるとあたしは後ろに向かって声をかけた。

「事実さん、映っている内容、教えて貰っていいですか、こちらの内容はポアンカレ予想でした」
映されている映像が同一とは限らない、確認が必要だった。
返事はまた即だった。
「こちらも同じだ。ミレニアム問題『ポアンカレ予想の証明』」

その返答に軽く頷く。
ミレニアム問題。いきなりの無理難題である。
小説や推理ゲームでよく話題に出てくる数学上の超難問を取り扱った例のアレで有る。
米国のクレイ数学研究所によって100万ドルの懸賞金がかけられている7つの数学上の未解決問題のこと。
そして、このポアンカレ予想はミレニアム7問中、唯一解決されてる問題でもある。

逆に言うと未解決は”6つ”ある。
つまり4問正解先取だろうと時間無制限だろうと残りの未解決問題を出されたらおしまいである。
これを拘束状態で解けというのは如何な名探偵だろうと無理。
そもそもミレミアム問題の解が正解かどうか確認する手段って世界中の学者が2年くらいかけて
正しいかどうかを検証し、矛盾がないか必死こいて間違い探ししてようやく正解認定という代物なのだ。
    、、、、、、、、、、
それに問題を解けとは言われなかった。
つまりこの出題はフェイク、裏の意図を読み解いて何某の『正解』を探しださなければいけないわけだ。


…まあ現時点で、さっぱり思いつかないんだけどね。

109しらなみ:2013/06/24(月) 21:29:16
その上でプラス解決すべき事案が2点。
我々を監禁しているこの犯人の目的と正体。
本当に大会に関係あるのか、それとも何か別の意図があって、こんな馬鹿げたゲームをさせているのか。
そして、あたしと事実さん二人とも無事に助かる方法を見つけ出すこと。この2点。
さてどこから手をつけるべきか。
あたしの決意を知ってか知らずか、リクエモンがこちらに声をかける。

「ねえねぇ、ちょっと聞いていいかな?今さっき気がついたことあるんだけど」
ハイ、なにかなネコ語も判らない落第ネコさん。
「こまねちゃんてさ、推理するとき、なんか目付き凄く悪くなるよね。」
!?
がっ、しまった。対策を取らねば。対策〜対策〜

「ハイ、今から…こまねちゃんは超推理睡眠のお時間だよ…zzzz…質問にはノーコメントだよ」
「うわ、タヌキ寝入り始めたよ。」

見られてしまった。昔から推理中、目付きが悪くなる癖があって対策にちょっと眠たげというキャラ
付けをすることでその欠点を見事、克服した経緯があるのだ。
くっあたしの小学生時代のトラウマ呼び起こしやがって。余計な発言があの時の同級生を彷彿とさせる。
元気かな…数々の犯罪と寒いギャグの数々を犯しシベリア行きとなった少年A吉(仮名)くん。
だいたいこの出題者、回答者にちょっかいかけすぎなのである。
まあ大会参加者全員を閉じ込めてるわけでも個別管理しているわけでもないので、時間に余裕があるのは…

あれ?片目を薄らと開け、ゾルティアさんの映像を見やる。個別管理?
どういうことだ。
次に事実さんのほうをみようとして、無理。これは首が回らなかった。

そして目の前のミレニアム問題。
懸賞問題…ひょっとして、これ”検証”問題ってこと?

……第一問は間違い探しということなのか?…なら…

あたしはうっすらと開けていた目を再び閉じる。
落ち着いて基本に立ち返って検証してみよう。まずはアレからだ。
数を数える。
あたしは羊を数える要領で頭数を数える。

「1、3、5、7、11、13、17、23、…で…28…28か。」

大会選手はエントリー数で29。ソレは確かだ。素数だったので記憶に残っている。
だが今数えた結果は人数は28どまり。とするとこの中で一番怪しいのは…
あたしは背後の事実さんに向かい問いを発した。

「事実さん、一つ答えてもらっていいですか?『真野事実の魔人能力』を教えてください」
「…。」
答えは沈黙。いつもは間髪いれず来るはずの答えは今回返ってこなかった。

「うぷぷ。確か変身能力ぽいなにかじゃなかったかなぁ」
代わりに答えたのはリクエモンだった。
あたしはそれを無視して質問を続ける。

「じゃ、娘さんのお名前教えて頂いていいですか?いらっしゃいますよね」
「…。」
またまた沈黙。
ふむ、では切り口を変えてみよう。

「私のポケットにはメモ帳には貴方のこと、なんて書かれてましたか?」
「『往年の名探偵。長らく消息不明だったが本大会にエントリー。”本物なら”
顔見せするのは20年以上ぶりとなる。弁舌に長け、NO武力で事件をスマートに
解決するのが特徴。魔人能力もそれに絡んだものか? 
年齢不詳だが、おそらく本大会最年長と思われる。個人的にはロマンスグレー希望』」

「個人的にはロマンスグレー希望。乙女か!」
リクエモンがツッコミを入れるが、ここまで来るとあたしも同じく笑うしかない。
なるほど”彼”はあたしの知っている限りの『事実』を答えてくれるわけだ…。

「では最後にあたしの1回戦の対戦相手の名前を教えてください。」
「対戦相手の名前はゾルティアと―――」

なるほど、聞き覚えがない名だ。
一問目の『正解』が”ソレ”だという前提にたつのなら考えられるのは
精神ショックを記憶が吹っ飛んだ後、その記憶障害を補うため、関連する記憶の封印
や改ざん処理を施したというあたりだろう。

「回答は順不同でいいんだよねー」
「モチノロン」

あたしは最初の正解を口にする。

「最初の回答。『Who(誰)』はあたし・偽名探偵こまねなんだね。
要するに最初から、この部屋にはあたし一人しかいなかった。」

リクエモンは軽く頷くとあっさり答えた。
「正解です。」

110しらなみ:2013/06/24(月) 21:32:19
†††

「一応、答え合わせしておこうか。その様子だと最初のクイズは解けてるね。」

リクエモンは椅子に座ったまま片腕を上げる。
すると右の壁の上段がひっくり返り「最初の問題」が表示されたボードが現れる。
こういうとこは無駄に凝ってる…。タイプでいえば劇場型犯罪者というか。

「えーと、その問題は英国の児童文学者キップリングの詩からの引用だよね。

『私にはうそをつかない正直者のお手伝いさんが6人居るんだよ。
その者達のなまえは
「なに?(What)」さん、
「なぜ?(Why)」さん、
「いつ?(When)」さん、
「どこ?(Where)」さん、
「どんなふうに?(How)」さん、それから「だれ?(Who)」さんと言うんだよ。』

行動原則の5W1H。そこから解釈すると『なぜ?いつ?どこに?だれに?
どんなふうに?閉じ込められているのか理由を説明して下さい。』という風に読み解ける。」

まあ、それが最初から答えれたら世話はない。
「あたしはさっきまで事実さんと一緒に助かる方法を見つけようって意気こんでいたわけなんだけど。
なにか変だなという違和感があったのも事実なんだよねー。本来リーダーシップを発揮するべき
はずの事実さんがなんというか、とことん消極的だった。」

どころか発言も少なめ、同音異口かこちらの振った話の鸚鵡返ししかしてこない。

「確かに”本物の”真野事実ならもっと上手くやっただろうね。」
ぷぷぷと笑うリクエモン、なんか引っかかるものいいだな。

「例外なのは触手地獄話への誘導くらいだけど、思い返すとアレは、ネコさんの操作だよね。
『質問』でなく『補足』っていってたし」
「ハイそうです。あそこ、あんまりこまねちゃんのリアクションが面白かったので
彼そのまま変態キャラ路線でいかせようかとちょっと迷いました。」

オイお前は人様のキャラなんだと思ってるんだ。

「ただ、それが一番のヒントでもあったんだねー。
ゾルティアさんと別室で面通しなしなのに事実さんとは一緒の部屋だなんて明らかに不自然だよ。
そうなると色々と可能性が見えてくる。これが大会運営者ではなく対戦相手(じじつさん)の
魔人能力によって作りだされた幻覚じゃないかとかね。
で、基本に立ち返って自分が調べた大会選手のデータ―を検証していたら、私の記憶に色々
齟齬があることが判ってきた。特に偽原さんとは電話で事前会話しているし娘さんのことも
あったし、流石に対戦相手を真野さんとするには食い違いが大きくなってきた。
で”本人”に直接聞いてみたというわけ。」

まさか山彦現象が起こっているとは思わなかったけど。たぶん彼はあたしの正しい記憶なのだ。
一体どうなっているのかはちょっと興味がある。

「なるほど、でもなんで答えで偽原くんって指定しなかったの?確信あったみたいだけど」
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「そりゃ、あたしが気づかないくらい瓜二つの声。そんな上手く声真似できるのってあたしぐらいしか考えられない」


「「Who」に関しては自分ではなく犯人という可能性もあったけど、そう指定してしまうと私は
『二人のまま』の上、嘘つきということになって『部屋から出られない』可能性がある。
嘘つきが正直者になるには正解の中に混ぜて貰うしかとりあえず手はなさそうだよね。」

「おおむねOKです。
今回の主体は飽く迄、キミです。他の誰かじゃありません。それだけは忘れないでね。

じゃまとめ行きますね。

相手の言うことそのまま鵜呑みにするのが普通の人。
自分の見たことしか信用しないのが捜査官
自分で見たことすら疑ってかかる猜疑心の塊、そのくせ自身の才覚に絶対の自信を持って揺るがない、そういうダメダメな存在が名探偵。

君は自らが偽証している事実すら受け入れ、それを証明した。実に探偵としての資質を示したと言えるね。おめでとさん」

探偵を嘲るような自嘲するようなその声にあたしは―
自分の足で椅子から立ちあがると奴に人差し指を突き付ける。

「偽証――正確には私の欠けた記憶、そこが次の問題かな。
でも余裕かましてていいのかなネコさん、もう結構目星をつけられちゃったりして、このまま一気に行ちゃうかもよ?」

あたしの挑発に動じることなくリクエモンは悠然とうけて立った。

「そこは楽しいアトラクション多数用意してますのでご安心を。
それに色々”欠けた”のは君だけじゃない。今は激動の時期なのだよ。ぷぷぷ油断すると足元掬われるよ」

そうだよ

――
―――
ボクは君が立ちあがってくれるのを待っていたンダ。それでこそスクイガイがアルってモノだヨ。

111夜魔口砂男&赤帽:2013/06/26(水) 02:17:24
TITLE:合縁奇縁・その1

ザ・キングオブトワイライト参加選手用ホテル、その一室にて。


「……うう、まだ痛ぇッスよ……」

若き魔人ヤクザ・夜魔口砂男が――デカいタンコブをさすりながら、呟く。

「アホウ、痛いで済むだけマシじゃろうがい。
 ヘタしとったら、おどれの首と胴が生き別れとっても文句は言えんのじゃぞ」

アキビン姿の魔人ヤクザ・夜魔口赤帽が呆れながら言葉を返す。

「生き別れどころか、纏めて粉砕されるトコだったんスけど」

砂男がそう愚痴るのも無理はない。
彼のタンコブを作ったのは――尊敬すべき、畏怖すべき親分・夜魔口組組長その人である。

新黒死病に伏せっていたさなか、とある陰謀によってこの戦いの会場へと運び込まれたり
探偵・遠藤終赤によって防具代わりに巻き付けられたりした結果、
大会専属医師ワン・ターレンの手によって綺麗サッパリ全快した彼は、これまでの経緯を知り
砂男と赤帽を盛大にドヤしつけたのである。砂男に至っては、ゲンコツまで喰らう始末だった。
無理もない。全国放送される格闘大会の一回戦で負け、敗者復活の裏の戦いでもザリガニに負けたのだから。
(もちろん実際にはザリガニに負けたわけではないが、何故かそういう誤解をされてしまったのだ)

とはいえ、己の病が発端ということもあり、更に自分自身も拉致同然に連れてこられた手前
それ以上二人を咎めずに、組長は帰っていったのだった。

「しかしまあ、あの探偵嬢ちゃんが親父の知り合いと縁があったとはの。
 わからんもんじゃな、人の縁っちゅーのは」
「……そーッスね。世間は、狭いもんですよ」

この二人には珍しく、他愛のない会話が続く。
……理由は、簡単だ。
彼らが大会に拘泥する最大の理由にして目的が――達成されてしまったからだ。
棚から落下したボタモチが、頭を強打したような流れに、二人は少し燃え尽き気味だったのだ。

……尤も、片方は。まだ、燃え尽きるわけにいかない理由が、新たにできていた。

112聖槍院九鈴ちゃん:2013/06/27(木) 18:27:34
■九鈴ちゃんの告白■

頭まですっぽりと布団にくるまって、九鈴はじたばたもがいていました。
特急列車のことを思い出しているのです。
やってしまいました。TONGUが全国放送されちゃいました。
しかも、自分が同性愛者だと誤解されたかもしれません。

ちがう、ちがうの。あれはゾルテリアに勝つために仕方なくやったことなの。
温泉旅館のこともちがうの。そうじゃないの。
あれは四葉ちゃんの心の闇を掃除するためにしたことで、決して楽しんだわけじゃ……まぁちょっと楽しかったけど。

みていたかしら。雨弓さんはあの試合を。
たぶん見ていたんだろうな。
恥ずかしい恥ずかしい。
そして、雨弓さんに誤解されるのだけは――絶対に嫌だ。

雨弓さんは、九鈴の親友だった雨竜院雨雫(しずく)のいとこです。
雨弓さんと雨雫は(たぶん結婚するつもりで)交際していました。
二人の仲を取り持ったのは、他ならぬ九鈴です。
いまはもう、雨雫はこの世にはいませんが……。

これはまずいぞ。絶対に誤解されてる……!
なにしろ、雨雫にはちょっぴりレズっ気があったのです。
ちがう、ちがうの。絶対ちがうの。私と雨雫はそーゆー関係じゃないの。
はなしをしなきゃ。雨弓さんと直接はなして誤解を解かなくちゃ。

――違う。

私が雨弓さんに言わなければならないのは、そんなことではない。
これは雨雫への裏切りになるだろうか。
――雨雫は、あの世で自分の幸福を願ってくれていると、九鈴は思う。
それは身勝手な願望に過ぎないかもしれない。
でも、この秘密を胸の奥に抱えたままでは、自分はこれ以上先には進めないと九鈴は予感していました。

ドキドキしてる。
こんなに胸が苦しいのはいつ以来だろう。(※)
雨弓さんは、ありのままの私を受け入れてくれるだろうか。
それとも酷く軽蔑されるのだろうか。
雨弓さんのもとへと向かう九鈴の心は、まるで初恋に悩む乙女のようでした。
ちなみに26歳です。

※カベクイグソクムシ以来。詳細はダンゲロスWar&Wallを参照のこと。

113聖槍院九鈴ちゃん:2013/06/27(木) 18:35:18
あ、ミスっちゃった。
グソク様以来はないわー。
その後に父さんと母さんと九郎が死んでるもんね。
まいっかー。てへぺろ☆
胸の苦しさの種類が違うってコトで、上記のままで訂正ナシです。

114サブGK:2013/07/01(月) 01:05:43
「どうするんだね……『新黒死病』と大会関係者に繋がりがあるなんて事になれば……」
「既に公安が身構えているそうじゃないか。そっちの対処は末端の役目だろう」
「まあまあ、一尾花は良く動いてくれたじゃないか。大会の注目度も利益もなかなか」
「だがそっちにコネのある企業連は危ないとみて手を引きはじめたぞ。決勝は――」
「あのなんたら言う宗教団体、ほれ、3つほど、あれらは売名に血眼だ」
「出来て日も浅いからコネも無い、か。大会の宣伝効果に釣られて……いい金蔓だな」

WL本社ビル58階・取締役室に設えられたアンティーク調のデスクの上で、
厳しい老人達のビジネストークが展開されていた。
声の発信源はデスクに置かれた音声・映像通信端末である。
端末から発せられる青白い光を受けて、七葉樹落葉の顔は青白く輝いていた。

「――それで大会賞金の負担割合だが、六匂草としては配分を少々下方に修正したい」
「いや、まだ大会自体には十分な商品価値があるのではないですかな?公安といえ――」
「では五時見の傘下にもう少し出すべきものを捻出していただくとしようか」
「や……いや、それは――」

黒衣の少女は、青白い眉間に深い皺を刻んだまま、静かに溜息を吐いた。
直立不動の姿勢で後ろに控える森田一郎は、眼前の光景に対し、知らず拳を握っていた。



〜〜〜〜



「コッチは客も多くてイイ――でもソッチはゴタゴタしてそうねぇ。顔見れば分かるわ」

『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』本会場であるコロッセオ内の一角、
『レストラン・カーマラ』にて、今日もまた二人の男がグラスを交わす。
森田と『カーマラ』の店員兼客席警備役、千歯車炒二である。
森田は黙ったままグラスを空け、千歯車は肩をすくめて空いたグラスにボトルを注ぐ。

「ま、辛気臭い話はやめましょ。ホラ、運営がどんなでも試合は盛り上がってんだから。
 裏トーナメントの準決勝だって、アレもアタシ盛り上がっちゃったわよ〜!」
「……そうだな」

ようやく口を開いた森田に、我が意を得たりと千歯車も声を張る。
バーカウンターの光量を抑えたオレンジの明かりが、大柄な二人の背中を照らしている。
その話題は、今日もまた――



〜〜裏トーナメント準決勝戦 試合別得票の流れ解説SS〜〜



■裏準決勝戦【温泉旅館】
「まずは温泉旅館。ココは今大会注目の探偵対決だったわねぇ」
「結果は遠藤終赤の圧勝だったな」
「文字数も得票数も、他の二人を圧倒したもんねぇ」
「偽名探偵こまねと山田は、どちらも実力を出し切れたと言えない結果だったな」
「アーララ……って感じかしら」
「これもまた、大会の一側面ということだな」
「勝ち残った探偵サンには裏の決勝戦でもう一度、イイ試合を見せてもらいたいわね」
「裏準決勝戦、温泉旅館の勝者、遠藤終赤……」
「更に鋭い名推理を披露してくれるかしら」



■裏準決勝戦【特急列車】
「そんで特急列車……はっちゃけた試合だったわねぇ。アタシ大笑いしちゃったわ」
「ネタにエルフに転校生化。話題には事欠かないな」
「ちょっともうエルフって単語が意味変わっちゃってるじゃない」
「票は終始聖槍院九鈴が多く集めてそのまま勝ったが、他二人は一波乱あったな」
「最初は内亜柄影法よりゾルテリアが勝ってたけど、終盤で逆転したのよね」
「どちらにも好意的なコメントが寄せられたし、三者三様の良い試合だったな」
「そこを勝ち抜いた聖槍院九鈴の裏決勝には期待しちゃうわねぇ」
「裏準決勝戦、特急列車の勝者、聖槍院九鈴……」
「裏のてっぺんで何をしでかすのかしら」



〜〜〜〜



「――で、裏決勝戦は遠藤終赤VS聖槍院九鈴。試合場は旧東京駅ね。
 いよいよ、表のトーナメントも裏のトーナメントも決勝なのねぇ……」

しみじみとした声で千歯車は視線を泳がす。
六年前のトーナメントに『バロネス夜渡』の源氏名で参戦した経験を持つ男である。
やはり魔人同士の能力バトル大会の決勝という場に、特別な思い入れがあるのか――

――カン、と、森田のグラスが乾いた音を立ててカウンターに置かれた。

「今日もこれでお開きだな」
「そうね」

二人の男は挨拶を交わすと、それぞれ夜闇にその姿を溶かしていった。

「きっとイイモノが見れるわね……おねーさん張り切っちゃう」

明かりを落とされた店内に、熱の篭った声だけが残響した。
『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』表・裏の決勝。
長く続いた大会の、その頂には、きっとそこに相応しい名勝負が供されると信じて――



<終わり>

115少年A:2013/07/06(土) 00:43:37
TITLE:合縁奇縁 その3

ザ・キングオブトワイライト参加選手用ホテルの、とある一室。

一人の男が、燃え尽きたように――しかし、どこか清々しさを得たような表情のまま
ベッドに寝転がり、天井を見つめていた。

偽原 光義。
かつて、緋色の悪夢によって絶望した男。
その絶望を撒き散らさんとするも、その野望はチャラ男の王・黄樺地セニオによって挫かれた。

「……?」

ぼんやりと寝転がっていた偽原の耳に、微かなノックの音が飛び込んでくる。
気怠そうに身体を起こし、ドアを開けると――そこには、予想外の相手がいた。

「邪魔するぞ」
「……こりゃあまた、珍しい客だな」

魔人ヤクザ・夜魔口赤帽である。

「フン。憑き物が落ちたような顔しおってからに」
「……よく言われるよ。多分、これからも言われるんだろうな」

アキビンの姿でも衰えぬ眼光で、偽原を睨みながら赤帽が皮肉を口にする。
偽原も肩をすくめながら、足元のアキビンを見下ろす。

「で、何の用だ? 憎まれ口を叩きに来たわけじゃあないだろう」

「……おどれが『使わんかった』情報が欲しい」

「情報?」

「ああ。準決勝のためにおどれが用意しとった『リスト』をな」

116少年A:2013/07/06(土) 00:44:02
なぜそんなものを俺が持っていると思ったのか、と言わんばかりに偽原が少し訝しげな表情を浮かべる。
赤帽はその考えも予想していたのか、更に言葉を紡ぐ。

「準決勝――おどれは、あのチャラいのを影ながら応援しとった連中をまとめて潰しとった。
 サビ付いたとはいえ魔人公安、その手の企みを見抜いて潰すんはお手の物、っちゅうわけじゃな」

「……まあな。彼らもその程度のリスクを考えていなかった訳じゃあるまいし、
 そこで恨まれるのは筋違い……と言いたいところではあるが、な」

「フン、別にワシらも責めるつもりはないわ。ヤクザはもっとエゲツないしのう!
 ……話を戻すぞ。おどれは二回戦で見せた手口の延長線で、準決勝を戦うつもりじゃった。
 本来なら――あのチャラ男の昔の友人あたりを『犠牲』にしてな」

ニヤリ、と赤帽がアキビンフェイスで不敵な笑みを浮かべる。
偽原は無表情のまま、黙って話を聞いている。

「チャラ男の友人連中は、カタギになっとる連中ばかり……ヘタしたら、ルールに抵触する。
 『大会部外者への狼藉を禁止する』っちゅうルールに。
 じゃが、参加選手じゃったら? どう転んでも『大会部外者』ではないからの。そこで、ターゲットを切り換えた。
 向こうが打倒・ファントムルージュを掲げとったんなら、向こうが悪いという言い分も立つしのう」

「やれやれ……探偵のお嬢ちゃんと戦って、探偵癖でも感染ったか?
 まあ、否定はせんよ……そんなところだ。あとは……調べたのは良いが、遠方にいる連中も多くてな。
 仕込みに時間を食って、試合をすっぽかすようなマネは避けたかったのもある。
 それに、黄樺地にとって『過去の友人』がどれだけ心を揺さぶれるかもわからなかった」

「案外、効く手やとは思うが……まあ、それはたらればの話じゃ。
 要はその『情報』が欲しいんじゃ。チャラ男やった連中の居場所、そのデータがな」

赤帽が、それまでのヤクザの顔から――真面目な表情に切り替わる。
一瞬面食らう偽原だったが、彼の答えは毅然としていた。

「生憎だが、ヤクザに個人情報を渡すわけにはいかんな。
 腐っても、魔人公安だった者としては……
 どう利用……悪用するつもりかは知らないが、答えはNOだ」

「頼む」

ぱたり、とビンが倒れる。……いや、違う。土下座だ。
泣く子も黙る魔人暴力団・夜魔口組の幹部ともあろう者が。
アキビンの身体をおして、土下座を見せたのだ。ヤクザ界における最上級の誠意の証。
遠く錆び付いていても、かつて魔人公安だった偽原には解る。
それが、どれだけ重く、心の底からの懇願なのかを。

「……わからんな。何故そこまでして、この情報に拘る?
 強請り集りのタネにするにしても、他にもっと絞れる奴はいるだろうに」

「……理由が要るなら、説明するわい。それは――」

赤帽が、口を開く。その口調は、何かの『決意』を強く感じさせるものだった。

「――――」

拘る『理由』を聞き終えた偽原は、顎に手を当てながら答えた。

「――成程。そちらの事情は分かった。
 ……だが、渡すことはどのみちできんよ。選手同士の物品のやりとりは禁止だ」

当然と言えば当然の答え――
しかし、次の偽原の言葉は意外なものだった。

「だが。独り言は別に禁止されてはいないし、
 その独り言をお前さんが聞くのも、何かにメモすることも禁止はされてない」

「……! ……すまん……!恩に、着るッ!!」

「何を謝ることがある? 俺はたまたま、使い道を無くしたリストを
 なんとはなしに読み上げるだけで、部屋にアキビンが転がってるのは偶然だ」

赤帽は土下座したまま、わなわなと震えながら――涙を堪えた。
そんな足元の様子を見ながら、偽原は最後に呟く。

「それに――お前さんらの企みとやらは、俺の最初の『償い』にもなりそうなんでな」

117ゾルさん:2013/07/08(月) 13:34:48
名探偵っすね、こまねちゃん(ゾルテリア・エピローグ)

ゾル「エルフの元女騎士ゾルテリア。大会で最初にファントムルージュの
被害を受けた参加者であり、偽原のナイフ術を体験している。
偽探偵こまねと同時期に治療を受けており連絡を取るのも容易」

こまね「うん、そ〜だね〜」

ゾル「なんで呼んでくれなかったの」

こまね「え?」

ゾル「セニオ対偽原戦の会議メンバー!私がいたらこまねちゃん達があんな風に
ならずに済んだかもしれなかったじゃない。私だってあの男を止めたいって気持ちは
あったのに何で呼んでくれなかったのよ」

こまね「あ〜、それは最悪の状況を回避したかったんだよ〜。準決勝のあの結果以上のね〜」

ゾル「あれ以上の最悪?」

こまね「もう終わった事だから言うけど、ゾルさんを呼んだら多分ゾルさんの
お父さんがゾルさんのフリして介入してくると思ってね〜」

ゾル「ま、まあ確かにあの変態はそういう事やりそうだけど」

こまね「あの変態との接触はなるべく避けたかったんだ〜。
その影響で一緒にいる誰かが『世界の敵』として覚醒してもおかしく無かったから〜」

ゾル「え?」

こまね「やっぱりゾルさんは分かって無かったか〜、今回の大会は
『世界の敵』となる可能性をもった人物が集められてたんだよ〜。例外もいるけど〜」

ゾル「『世界の敵』?確かに最近参加者の何人かがそんな言葉を口に出してたけど。
いくらウチのアレが変態だからって、それで覚醒したりするもんじゃ…」

こまね「するかもしれないんだよ〜。希望崎ダンジョンのゲートを通じて
ハレルちゃんの世界へ侵略し、王を排して資源を根こそぎ奪っていった。
アレの所業は(注)ラヴォス型の『世界の敵』としかいいようがないんだよ〜」

(注)世界の敵は二種類に分類される。今回の大会で覚醒しかけた面々の様に
己の生まれた世界を滅ぼす要因となるのは『オディオ型』、
ゾル父の様に己自身や己の属する世界の利益の為に他の世界を滅ぼすのは『ラヴォス型』。

118ゾルさん:2013/07/08(月) 13:35:37
こまね「大会運営側が自信満々にエルフの元女騎士ゾルテリアを優勝候補として
紹介していたのは物理無効という事以外に、彼だけが既に完成された『世界の敵』だと
知っていたから。でも予想外の事が起こったんだよね〜。ゾルさんが選手になったのは
そういう事なんだよ〜」

ゾル「えーと、つまり…父は世界の敵とやらで、銘刈さんは『世界の敵候補なぞ
世界の敵ぶつければ楽勝―!まあ相手が世界の敵として覚醒してくれてもそれでよーし』
的なノリでスカウトしようとしていて、でも参加者が私で、何で私が参加者に?」

こまね「ここまでの状況から犯人候補は一人しかいないね〜」

ゾル「ちょっと親父問い詰めてくる!」ドドドドドドドド

【温泉旅館】

ゾル父「ハアハア…実の娘の亀甲縛りたまらないわあ〜」

ゾル「父さん」ガラッ

ゾル父「あ、リンダ。これほどいてくれるの?」

ゾル「取りあえずシルバーレイピア突き!」

ゾル父「あふんっ!もうどうしたのよ〜」

ゾル「今すぐ、ステータス見せなさい。ジョブレベルのところ」

ゾル父「まあ、実の親に向かって大事なところ見せろだなんて〜。
いいわよん。いつかそういう日が来ると思ってたわ。
さあ見てーん!私の大事なトコロ全部!!」

カイエン・ゾルテリア ジョブレベル一覧
小剣士(フェンサー)6、狩人(ハンター)7、性賢者(オナニスト)18、
紋章性術師(スペルマ・スター)14、女騎士(レディナイト)1、
世界の敵(ワールドエネミー)2

ゾル「世界の敵だったー!うわあああああん、酷い奴とは前々から思ってたけど、
まさかここまでクズだったなんて!」

ゾル父「わあお、予想以上の反応!娘のショック顔オカズにオナニーが進むわ!
(シコシコシコ)ハアハア…ウッ!敏腕スカウトウーマンの召喚にリンダを
送り付けて、自分の呼んだのと違うのに気付いた時のガッカリ顔も良かったけど
やっぱ娘の失望顔は格別よお!」

世界の敵カイエン・ゾルテリア。この世界での大暴れと他の世界の敵候補の
覚醒要因となる事を期待されていたオカマ。だが、そういうシチュエーションは
脳筋王の軍相手にもうやっているから別のオナネタが欲しいなーと思った彼は
自分と同じ『エルフの元女騎士ゾルテリア』という呼称の存在に役割を押し付け、
オナネタ探しに没頭していた。そして今最高の形で彼のささやかな夢は叶い、
この世界の犠牲も最少で済んだ。
すなわち、めでたしめでたしちう事である。

ゾル「めでたくなーい!」

おちまい

119ほまりん:2013/07/10(水) 08:41:12
穴埋めパズルを作りました。
お暇でしたらやってみてください。
tp://twitpic.com/d1p7tg

120少年A:2013/07/15(月) 22:53:58
TITLE:合縁奇縁 その4


都内某所。
かつての核戦争よりも遙か以前に、地下に封じられた『ダンジョン』。
その内部に、三人の魔人と――無数の、生ける屍の姿あり。


「ジャカァッシャー!」

ヤクザシャウトと共に、緋色のドスを振り抜く小さな影!
魔人ヤクザにしてアキビン、夜魔口赤帽!

「ふんぬらばぁーッ!!」

股間に二メートルを超える怒張を携えた全裸の巨漢!
異形の格闘家、蛭神鎖剃!

「はっ!」

凜とした気品と、剛毅さを兼ね備えた姫騎士!
ハレルア・トップライトとその愛刀・アメノハバキリ!

三人の魔人を取り囲むは――かつての『黄金時代』の亡霊!
金舞い上がり、人舞い踊る栄華の時代を未だに生き続ける亡者!

「トレン……ディー……」
「ジュリアナー!」
「24時間戦エマスカーッ!」

バブルゾンビである!

バブル時代の繁栄を忘れられず、その崩壊を信じられぬまま骸となってなお彷徨う存在、それがバブルゾンビ!
ある者は体型のハッキリ浮き出るボディコン姿、
ある者は肩に過剰パッドを入れたスーツ、
またある者はDCブランドで上から下まで固めているのだ!
その口からは腐臭匂い立つ泡と、バブルスラングが飛び出す!

なぜこの三人が、かような異形を相手取っているのか?
それを知るには、時間を巻き戻さねばならない――!

++++++

「おどれらの手を借りたい」

ザ・キングオブトワイライト会場、その一角。
赤帽が、蛭神とハレルに協力を持ちかけたのは準決勝が終わった翌日――砂男との会話の後のことである。
――都内某所の『ダンジョン』に眠る“ある品”の回収および、ダンジョン内の脅威の排除。


「ちょっとちょっと!ここまでなんも絡みとかなかったクセに
 ここに来ていきなり手を借りたいとかムシがいいにも程があるよっ!」

異議を真っ先に挟んだのは、アメノハバキリ、通称アメちゃんであった。
刀でありながら、否、刀故なのか――そのテンションは切れ味鋭く、高い。

「大体、準決勝見てたならハレっちがどんな目に遭ったかわかってるでショ!?
 病み上がり状態でダンジョン探索だなんて、そんなムチャさせられな」
「……やる」
「そう、やる…… アレェ!?ハレっち!?」

まくしたてるアメノハバキリの言葉を遮るように、ハレルが小さく頷く。

「私も、手伝いたいもの――その『計画』」
「……まあ、ハレっちがそーいうなら、アメちゃんも協力するけどねー」

ハレルの口調から、固い決意を感じ取り――あっさりと、主の意向に従うアメノハバキリ。
その様子を、困惑しつつ見ていた蛭神が、赤帽に疑問を投げかける。

「そこの娘っこはわかるが……なんでワシにまで声をかける?
 アキビンとなっても、お主が戦闘力で不安を感じるということはなかろうに」
「ダンジョンの奥の『宝』運ぶにゃぁ、人手が要る。
 アキビンの身体じゃあ持ち運べんのでな。それに」

言葉を区切り、赤帽が不敵なヤクザスマイルを蛭神に向ける。

「おどれも、無様に負けたまま帰りとうはないじゃろ。
 武勇伝の一つくらい、土産に持って帰らんかい」
「……フン、言ってくれる」

こうして、二人(と一振り)の協力を取り付け、赤帽は『ダンジョン』へと向かった。
――栄華の時代で時を止めた、朽ち果てた理想郷へと。

121少年A:2013/07/15(月) 22:55:13
++++++

「やぁっ!」

ハレルとアメノハバキリ、人刀一体の斬撃がバブルゾンビの服をはじき飛ばす!

「ブットビー!」

全裸となった女バブルゾンビは断末魔の叫びをあげて崩壊!
バブルゾンビにとってブランド衣服はアイデンティティを通り越して肉体そのもの!
故に、追い剥ぎの能力がついているアメノハバキリでもバブルゾンビを倒せるのだ!

「どらぁっしゃああぁぁっ!」

蛭神の巨大なイチモツが別のバブルゾンビを薙ぎ倒す!

「ゴジカラオトコーッ!」

巨大重機クレーンをも薙ぎ倒す程の筋肉塊による一撃!骸の身体はひとたまりもない!
渋谷系ファッションを纏ったヤンエグゾンビは壁に叩き付けられ崩壊!

「クタバリャーッ!」

赤帽のヤクザドス斬りが別のヤクザゾンビの首を刎ねた!

「ボクハ死ニマシェーン!」

ロングヘアの木訥トレンディゾンビの首が宙を舞いながら末期の言葉を吐く!
トラックにはね飛ばされたかの如く、肉体も吹き飛び壁に激突崩壊!

そんな光景が、数十回以上もリフレインする。
過去の妄執との、壮絶な百人組み手――!


……数刻後。
ダンジョンの広間には、静寂と、残滓だけが残った。

++++++

「……どうやら、辿り着いたようじゃな」

一行が辿り着いた『ダンジョン』最奥部は、明らかにこれまでとは気配が違っていた。
煌びやかさが無いにもかかわらず、どこか荘厳な美しさを感じさせる扉。
地下に押し込められ、古び、朽ちてはいるが――かつての輝きが、僅かに残されている。

ドアノブに手が届かない赤帽に代わり、ハレルがその扉を引き開く。
中に広がっていたのは――

無数のビンが並ぶ、ひんやりとした空間だった。
埃が積もったカウンターは、磨けば今にも光りそうな大理石で出来ている。

「ここは……バーか?」
「おうよ。金持ち共がこぞって酒を呑んだ、カネを呑む場所の名残よ」

蛭神の呟きに、赤帽が答える。

「カネを呑む、ですか……」
「言っておくけどハレっち、硬貨を丸呑みするとかじゃないからね?」
「わかってるってアメちゃん!」

異世界人のハレルが少しとぼけた発想をしているのを、アメノハバキリがすかさずフォローする。
そんな微笑ましい様子を気にも留めず、赤帽はビンの並ぶバックケースを眺める。

「……あった。これじゃ」

赤帽が、目当ての物を見つける。
箱に入れられ飾られたままの、未開封の酒瓶数十本――全て、同じ酒だ。
バブル時代、カネにあかせて買い集められた希少なる名酒。

「“ドン・ペリニヨン”――三十年モノ、か。
 流石にちいとばかし勿体ない気もするが――じゃからこそ、ええんじゃ」

赤帽が、一瞬唇の端で笑い――すぐに、表情を引き締める。
これを手に入れてもなお、『可能性』は――まだ、低いのだ。

122しらなみ:2013/07/21(日) 12:19:45
SS『とある人物のエピローグその1または、某能力に対する追加推察』


彼の手元、一枚の報告書の草案のコピーがある。
それには【黄樺地セニオの能力『イエロゥ・シャロゥ』についての補足】と題されていた。


―トワイライト決勝戦―

かくて、その人知れず行われた、二人の立会人と対戦者のみが知る最後の戦いは幕を閉じた。

だが、本来しめやかに行われた『それ』の一部始終を高みの件物で見届けた存在がいた。
それは―

「いやー念のため、残っておいて正解だったね。最後に面白いものがみれた。」

パチパチパチ、まるで誠意の感じられない柏手を打ち、それは『鳥居』の上にいた。

山腹に位置する神社の鳥居の上に悠然と腰かけた若い男が、頬杖を突いたまま一人ごちる。
元々寂れた神社なのか、周囲に人の気配はない。
もしいればこの神の杜に対する不謹慎極まりない所業を咎めただろうか?
それとも余りに自然にそこに溶け込んでいるためオブジェか何かと勘ちがいして看過してしまい
結局見咎めずにそのまま過ぎ去ってしまうのだろうか?

実際、その姿はそういう奇妙さを持ち合わせていた。
長細い白い帽子に同じく白一色のスーツ、縫いとりの装飾以外を全身を白で固めたその姿は
無機質でまるで白い筒のような錯覚に陥らせ、酷く現実感を感じさせない。
いや必ず誰もが一度くらいは見ているはずの衣装なのだが、あまりに場違いで思い出せないというか…。

服装と見た目だけでなく彼本体の印象もどこかちぐはぐだ。年は若い少年、10代といっても通じそうだし、
逆に20代後半といっても通じそうな人物だった。なんだか軸が安定していないあやふやな幼さがある。
そんな奇妙さであった。

そして独りごとのはずの白帽子の男の台詞に反応がある。
キャラ設定で『割と無口』と記されてれていた例のアレだ。

「ココに来てまた世界改変だと。せっかく計画も予定通りに進んでたものを。影響力はどの程度だ」
多少のノイズと共にどこか呻くような掠れた声は彼の横に置かれた鉄製の箱から聞こえた。
壊れかけのレディオではない。
達筆な字で白蘭と書かれたその鉄製の箱はgagagaと音を立てつつもはっきりと音を立てた。彼は
とても人見知りで傍聴…もとい人に聞かれる可能性がある場合、決して声をあげることはないのだ。

その質問に少し間をおいてから男は哀しそうに被りを振って嘆息する。
その様子は傍から見ても態とらしくとても演技臭かった。

「たぶん影響は出ないだろうね。
存在自体が消えちゃって『概念』だけの存在になったのは2回戦でリソースされた「真野事実」と
同じケースだけど、使い手としてのセニオくんの『認識』がひじょーにビミョーなだけに難しい。
いくらセニオくんが”ソース”として強力でも世界改編まで及ぼせるかは疑問だネ。うむ、興味深い」

白帽子はひとり頷き言葉を続ける。

「『世界の敵の敵』は、元々自らがそうと認識した災厄をリソースを使って”恣意的に”弄る力な
わけなんだけど、そもそも論としてチャラ男という存在が非常にネックなんだ。なにせ
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
今ある困難を危機として上手く『認識できない』がために時代に適合できず絶滅した存在だからね。

故に奇跡的にこの時代を生き残ったカリスマ存在といえど、今ある『この世界の災厄』をきちんと認識して
取り除けるかといわれたら…ちょっと話に無理あるんじゃないかといわざるえない。
彼自身あんま根性に持続力あるタイプとも思えないし、今のままだと方向性なく拡散していって
中途半端に終わる可能性が高いね。」

そういうと白帽子はすいっと空中に手を走らせ、何かを掴む仕草をする。
何某の手ごたえを感じたのか、そのまま、ついと横に視線を走らせる。

「なるほど、では放置で問題ないな。」
視線の先、鉄製の箱からは予想通りざっくり切って捨てた『指令』が発せられた。
興味がないのだ。この世界に。

―相変わらず”手堅い”考え方をする連中だ。
心中の念はさておき、彼は掴んだ手をゆっくりと開ける。そこには、ちいさなちいさな”w”の文字が浮いていた
白帽子は変わらぬ笑顔のまま、少しだけ声を大きくして言葉を続ける。

「いや、不安定な状況のままではこの先の『任務』に危惧が残るYONE! 
どうするつもりか本人に”直接”聞いてみるとしよう。じゃ、レッツ」

白帽子が手を掲げる。次の瞬間


” ぶわッ ”


彼の手より無限の”w”が湧きいでた。


「"La amen"」

123しらなみ:2013/07/21(日) 12:21:32
†††

彼の手より湧きでた”w”は
まるで古の予言者が岩を杖でうちつけ清水を湧き出させたかのように沸騰し
その手より溢れ出る。そして水上に浮かぶ蓮に積み重なるごとく、天より落ちることなく彼の足元にたまっていった。

1cm…2cm…踝を超える。

超高速純度の物質のコピー&ペースト。
それは全てのラーメン屋達の基礎にして奥義、だがその始まりは、なお深い。

伝説によれば、彼らの『開祖』は、彼に救いを求めた五千に及ぶ「客」たちを前に
たった一つかみの小麦を材料とし、粉を練り、麺をうち料理をふるまったという。
その奇跡の業前に人々は驚嘆し、彼を讃えた。
だが彼は、人々に神への感謝の言葉をのみ促し、それを戒めた。今より2000年前以上のことである。


「"La amen"」

開祖の死後、十二人から成る弟子たちは上手いこと時代の流れにのり、やがて世界を席巻する。

十二の流派は様々に分かれ、融合と衝突を繰り返し、最終的には
物質的充足と欠乏の危機に矢面に立つことを己が職(食)任とする『東』、
人々の精神的庇護と人類の十全なる結束とを是とする『西』、
その西と東の二つの思想形態へと判れ、激しく対立を繰り返すことになる。

そして、その歴史上には何度か原点回帰ともいうべき、両者の特性をもった特異点が存在した。
そして、それはその能力が故に例外なく『開祖』と同じ道を歩むことになる。
即ち『業界』から追放される苦難の道を。

男はいつの間にか手にした赤い本を開く。
足元に溜まっていたwの文字が、横手に持ち下に開いた本に下から上へとまるで
撒き戻し映像のように流れ込んでいく。

その表紙には「ラーメン戦士烈伝」vol3」と書かれていた。

「モード『"CHA=La=men”黄樺地セニオ』IN」


†††

次の瞬間
”彼”は既に金髪を靡かせ、軽薄な笑みを浮かべていた。
着装とは装いを着ること、着想とは何か?思想か思考だろうか。だがそれだけではない。

彼はそれを身に纏う。
彼はその人の『物語』をそのまま纏う。ヒトそれを模倣芸術(パスティーシュ)と呼ぶ。

「ヴェヴェ、ラーメンに遊び人枠キタコレwwww。
マジッスカ、キツイバイトとかマジ勘弁ってカンジナンッスッガ。さっさとゴッドとチャラリングしてアドゥーって感じwww」


(あーまた暴走し始めたよ…このセルフ・ダーマ神殿め…)

鉄製の箱、オカモチさんの嘆息がマイク越しから聞こえるようだった。
その心持(いつう)を知ってか知らずか、青き空に向け手を広げ、元祖セニオにチャラリングを試みるダーマ神殿(現職:遊び人)。
この世に唯一あるチャラ男属性を持つ者として今や”GOD”とともいえる存在となった”彼”と同調しようとしているのだ。

いきなりガチでマジモードだった。たぶん3分持たない。

集中。

その指の先まで大きく広げられた手は、神に祈りを捧げる聖職者のようであった。
それは神々しくも雄大に
煌々と祝詞をアゲアゲで奉りたてまつった。

「CHA―RAN〜〜 

KON―PEIデーーーースーーー(「おお神よザフトーンを恵みたまえ」という意味の英語)」

と。


(ーーーーーチャラ男ちゃうーーー。確かにチャラいしウザいけど、ーーー断じてチャラ男ちゃうーーー」
オカモチさんが遠距離通信でツッコミを入れる。なんでコンなののシリモチさせられてるんだという疑問を抱えながら。

そして  ペカー

『ヒャヒャヒャ、マジ受けるwwwドーモ、創世記チャラ男のヤマダです。
ザフートンお持ちしました。
エ、ナニナニ?オレのそっくりさんイル。ヤベ、シュウロクシュウロクチュウ?ご本人サン降臨来ちゃった。』

ペカーという威厳を感じない効果音を共になんかお空に神々しい光と、軽薄な声があたりに響いた…。

(ヤマダってチャラ男だったのかよ!って、概念的存在がそんな軽くでてくんなよ。)

絶望的な呟きがオカモチより再び発せられた。



――
―――

なんか。今までの感動を。ごめんなさい。


そして神社に特大の蚊柱(w群)がたった。

124しらなみ:2013/07/21(日) 12:31:03
†††

「なるほどね。これは盲点だった。」

ゴッドとの対話を終えた白帽子(元の姿に戻った)は境内の石畳から身を起こすと
ついっと指を手繰る。その一動作で鳥居の上にあったオカモチが手繰り寄せられ、
彼の手にすっぽり収まった。

「結局黄樺地セニオにとっての所謂『世界の危機』はたった一つのことでしかなかったと。
流石ゴッド。なかなか趣深い対話だった。」

(いやお前らの話さっぱり意味不明で判らなかったんだが)

げっそりしたようにいうオカモチ。
かわされた会話は正に空中セッポウ、極めて高次元かつ軽薄なものだったのだ。
ほとんどブッタ、故にアンブッタ。

「えっとね」
白帽子は身体にまとわりついているwたちに指を向けると続きのスペルを指でなぞる。

"when"
"where"
"who"
”what”
”why"

「これらのボクの投げかけに関して彼は全て”all”と答えた。
予想通りチャラ神は、凡百の脅威なんか全然、把握してなかったんだ。
だからこそ世界は救われたといえる。
彼に掛けられた”呪い”が結局、世界を救ったという形になるね」

???。やはりさっぱり判らない。
白帽子が指をくるくる回すと文字はどこかに消えて行く。

「黄樺地セニオにとってのこの世界の脅威というのは『時代がシリアスすぎてた』という
一点だけだったんだ。
この時代、シリアスを理解できない彼の目の前に現れる人間人間がことごとく
深刻な顔と心境で現れる。
まさに果てしなく続く『アヴェー』(敵地)っという感じだった。
なので彼が自身を使って変えたのはその空気だけ、変えたかったのは最初からその一点だけだったんだ」

―セカァー、ウィー、ヘェイー、ワー! ヒュゥー! オレマジ天才ウェーイ!―
―逆っしょwwwアンタが真面目すぎウケるwww―

「そして」
人差し指と親指の間にちょっとだけ間
「この世界、準決勝戦直後からチャラ因子の拡散で全人類が、徐々にチャラくなってる。
まあ、ほんの5mmばかしなんだけど」

オカモチが蒼くなった。
(…駄目だろそんな世界、滅びる)
「いや脅威に対する『認識』が変わったという意味では悪くない。
皆が皆が深層意識レベルで『脅威』を上手く認識できなくなり、それに対しソートー
楽天的になってる状態だ。深刻すぎたこの世界には”今のバランス”で丁度いい。丁度いい『認識』なんだ」
(そういうことか…)
頷く白帽子。
「人類の脅威は確かにある、だが『世界の敵』なんてものは元々この世界には存在しない。
そのことを我々は十分知っている。
結局『世界の敵』を『世界の敵』たらせているのはそういった存在がある”はず”という
人間の『認識』ということをね。」

「シリアスが認識できないというチャラ男の呪いが薄く広く拡散することによって世界は
「世界の敵」という幻想から解放された。
以降はチャラ因子をもつ楽天的な人々の認識と手によって世界は救われていくはずだ。
空気を読まず『脅威』をアヴェーにして駆逐していく形でね。
自分に上手く認識できないなら上手くできる”ツレ”にやらせればいい。
実にチャラ男らしい発想。上手くいけばいずれ近い将来、彼らの中からチャラ男が生まれてくるだろう。」

うぇーい。

うん、今のは幻聴と言うことにしておこう、白帽子が首を振る。
個の力と犠牲を持って世界を救おうとした少年のことがちょっと頭をよぎったのかもしれない。

「皆の意識がちょっとだけ変わるだけ。それが完成版『世界の敵の敵』。
いやはや、これは世界改編などとはとても呼ばない代物だ。まあ強いていうなら…

皆でつくる『明るい未来』。

黄樺地セニオは『救世主』のくせして世界の救済全部人任せ、全人類にぶんなげていきやがったわけだ。」

男はそれ以上声を上げることなく静かに笑った。
ひとしきり笑い終わった後、白帽子は境内の階段のほうを見やる。誰かが上がってくる気配がある。

「かくてこの世界もことはなし。今日もボク達はかくも無力なりけり。
さて、あとは彼らに任せ、異邦人たる我々は音もなく立ち去るとしようか。」

彼は舞台を降りるため、静かに境の一線を超える。
そしてそれは上がってくる者と交わることはなかった。

(あーなんだかな。しかし、何か忘れてるような…)
(ぎくっ まーいーじゃん。)


                          (黄樺地セニオ「"La amen"」ラーニング終了)

125しお:2013/08/19(月) 21:02:40
・内亜柄影法〜エピローグ〜


「よう。元気か」

これが元気に見えるか。

…と言いたい気持ちを飲み込んで起き上がる。

「アンタは元気そうだなァ、雨竜院の旦那…と、偽原の旦那か」
「そうでもねぇよ。『救済』期間中の誰かさんにさんざこき使われたからな」
「フ、そう言うな。楽しんでいただろう、お前も」

あの死人みてーだった偽原の旦那が冗談を言うなんてな。
まるでファントムの呪いがかかる前に戻ったみてーだ。
(検事ってのは警察の関係者だからな、顔を合わせたこともある)

…これも、チャラ男とやらのお陰かねぇ。

「しかし内亜柄よ。4階から飛び降りて気絶だけで済んだとは見なおしたぞ」
「…いや。さすがにあそこから飛び降りて無傷というわけには行かんだろう。何かしらの能力だな」

心当たりは…そうだな。「慣性の法則を無視してゆっくり人を降ろせる」奴がいたな。

「じきこの戦争も終わる。黄樺地の能力の残滓で明日には平和な日常が戻るだろう」
「お前、どうする?今なら俺たちの口利きでまた検事に復帰できるかもしれねえぜ」
「そいつァありがてえ話だ。だが…」

今まで、俺は魔人共はみんながみんなロクでもねぇ奴だと思っていた。
中にはそりゃあロクでもない奴もいる。
でもいいやつも悪い奴も、みんな頑張って生きてるんだ。
そんな当たり前のことを、こいつらの戦いを見て思い出したんだ。

「検事はちょっとお休みだ。これからはこんな感じで…ヨロシク!」

『あいさつ』の言葉が『武器』になる。
その『武器』を二人に投げつけ…

「ッと、…何だァ?」
「フフフ、お前らしいといえばお前らしい。応援させてもらうぞ」

その『武器』―商売人にとって『名刺』は立派な『武器』だ―にはこう書かれている。


『内亜柄魔人相談事務所
 所長・内亜柄影法』

--------------------------------------------------------------------------

「おいッ!いつまでゴロゴロしてやがる!とっとと調査に行きやがれ!」
「ん〜、もうちょっと、もう1時間だけ〜」
「アホか!そんな待たされたらターゲットも証拠隠滅して高飛びするわ!いいから起きろグータラ娘!」
「所長!例の件、嗅ぎつけたぜ!すぐにでも行けるぞ!」
「さッすが鎌瀬、どこかのニセ探偵とは違うなッ!オラ行くぞ駒音!」
「そ〜んなに急がなくても大丈夫だってば〜。もうそこには伏線張ってあるから〜」
「良しッ!仕事してるならしてるって言え!クソ優秀だなお前ら!」

〜内亜柄なんでも事務所〜

鎌瀬戌の協力により自宅跡地の地下深くに埋められていた隠し金庫を発掘した内亜柄は、
その金を使い、発掘作業を手伝ってくれた鎌瀬とそのへんにいたこまねを半ば強引に雇用、
魔人能力による困り事や相談などを解決する相談事務所を設立したのであった。

「そういえば、夜魔口さんとこにカチコミにきた奴がどうこうって依頼はどうしたのさ?」
「あァ、ああいう荒事は山田のとこに仕事を回した」
「まぁね〜、私達よりあちらさんのが向いてるよね〜」

こんな感じでバタバタしているが、あのトーナメントの参加者からの依頼がちょくちょく入ってくるから
まあそれなりに忙しくはある。(たまに依頼料を踏み倒されそうになったりするけどな!)

いいやつがいて、悪い奴がいる。そんな世界で、今日も俺たちは生きていくんだ。

「せか〜、ウィ〜、ヘェイ、ワァ〜…ってかァ?」
「なぁにそれ〜?」
「なんだかわかんないけど、懐かしい響きだな!」
「おう、俺たちみんなの『トモダチ』の最強の『言葉(ぶき)』だぜ!」

〜to be continued〜

126聖槍院九鈴:2013/08/21(水) 08:49:50
【雨竜院雨雫・死の3日前の話】

九鈴と雨雫は、小さな喫茶店で夕食を共にしていた。
高校卒業後も二人はしばしばこうして会っているのだが、どうも今夜の雨雫は様子が変だと九鈴は感じていた。

「明日は学園祭で久々に希望崎に行くんだ。九鈴は来れないのかい?」

「ざんねんだけど。秋の清掃キャンペーンが重なってしまったの」
残念なのは本当だが、九鈴の目は別のことを語っていた。
本題は違うんでしょ? 何か言いたいことがあるんでしょ? と。

「ええと、うん、雨弓君が新潟に行ってることは、もう言ったよね」
九鈴の視線に観念して、雨雫はついに本題に入った。
「で、あの、約束したんだ。新潟から無事に戻ったら……あげるって」

「それってフラグ……」

「ちょっと九鈴! 不吉なこと言わないでくれ!」

「ごめんなさいね。それで、もしかして、ソレについての相談?」

「そうなんだ。私、不安で……。経験豊富な九鈴に、アドバイスを貰いたいんだ」

「ほうふじゃないよ……!」
豊富、は言い過ぎだが、とある事件で胸が大きくなって以降の九鈴はかなりモテていた。
付き合った男性の数は三人。ただし、いずれも長続きはしなかった。

「やっぱり、初めてはすごく痛いんだろうか?」

「ひとによるけど……。覚悟しといた方がいいよ。雨弓先輩は特に凄いもの持ってそうだし……」

「ひゃあああ」

「だいじょうぶだよ。最初は大変かもしれないけど、何回目かで慣れると思うよ」

「うん……。あと心配なのが、毛のことなんだ。毛深すぎるのは嫌われるよね?」

「うーん、どうかな? 雨雫の場合は、自然な感じである程度の手入れは必要かもね」

◆業務連絡◆
ふたりのトークはまだまだ続きますが、僕の限界を既に超えてるので端折ります。
◆業務連絡(了)◆

笑顔で小さく手を振って、二人は別々の帰路についた。
気紛れにトングで、目に付く路傍のゴミをひょいひょいと拾いながら、九鈴は雨雫を羨んだ。
心から愛する人に、初めてを捧げられるなんて、なんて幸せなんだろう。
興味本位で気軽に経験してしまった自分が、ゴミのように汚なく感じた。
雨弓さんと雨雫は、いよいよ永遠に結ばれるんだ。
そう思うと、九鈴は嬉しくも寂しくもあった。
まさか、この三日後に雨雫が死ぬなどとは、夢にも思わなかった。

127雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:23:33
サムデイズインザレイン

 雨竜院家奥津城――墓石にはそう刻まれていた。明治時代に東京に移って以降の雨竜院家の者達が眠る墓だ。
 雨竜院雨弓と聖槍院九鈴、2人がその前で手を合わせ、沈黙のままに1分程過ぎる。その後、雨弓は持ってきた如雨露で墓石に水をかけ始めた。

「なんで如雨露なんです?」

 その様を見て九鈴が問いかければ

「『雨露の如く』で『如雨露』だぜ? 雨竜院家の墓参りにゃあ風情があっていいだろ」

 と雨弓が返す。

「そんな仕来りが」

「いや、俺が勝手に考えた。親父に知られると怒られるから内緒な」

 水をかけ終わり、笑って言う雨弓に九鈴は呆れつつ同様に少し笑う。雨弓は雨竜院家の長男ながら、自身は降雨能力者では無い。それはこの墓の下に眠る雨弓の恋人・雨雫も同様で、そんな2人を知る九鈴には雨を降らせる真似事をする雨弓の姿が微笑ましく思われたのだ。

「雨雫のお墓参りなんて5年ぶ……あれ? 去年の命日も来てましたっけ?」

「来てたっぽいぜ。この世界のお前は」

 関西滅亡、東京への核の投下、パンデミック、そして本当に人類滅亡の瀬戸際まで追い詰められた世界だったが、トーナメント優勝者の赤羽ハルや九鈴、雨弓を含むその他参加者の奮戦、そして最大の功労者であるチャラ男の王の力により、世界は理不尽な大破局の無い、平和なそれへと改変されたのだ。
 そして、殆どの人々の記憶は世界と共に改変され、世界は元から今の平穏な運命を辿ったと認識されているが、トーナメント参加者など一部の者達には元の記憶も残っており、2つの世界の記憶が混在した状態になっていた。

「時々混乱するし、それになにか怖いですよね。こっちの世界の記憶はあるけどイマイチ実感無いっていうか。取ってつけた感っていうか」

「まあ、実際俺達が生きてた世界の記憶も依然あるわけだしなあ。わかるよ。
 でも良かったじゃねえの。お前の家族も、みんな生きてたんだ。あのチャラ男に感謝だな」

 そう言って雨弓は、視線を九鈴から横の墓石へと向け、寂しげに笑う。

「雨弓さん……」

 雨弓は、嘗て失くした、それも自ら手にかけた雨雫を生き返らせたいという望みを抱いて大会に参加したが結果それは叶わなかった。
 セニオの世界改変によって、過去の理不尽な力に巻き込まれ命を落とした多くの人々も生き返った……正確には死んでいないことになったのだが、しかしこの世界でも、雨雫が辿った運命は変わっていなかった。
 無論、今の世界でも歴史上、理不尽なことが一切起こっていないわけではない。大きな戦争も災害も犯罪も起こっている。理不尽の程度の問題なのか、どこまで遡るかという問題なのか、全てはチャラ男のチャラついたフィーリングによるのか。最後が最もそれらしく思われたが、当人の既に消失した今問い質すことも出来ないし、世界を救った彼に今以上の世界をと望むなどしようとも思わない。

「どっちの世界にしても、もう8年経ってんのになあ。
 どうも俺は、昔自分で思ってたよりずっと女々しいタチらしい」

 自嘲気味にそう呟いて空を見上げる。九鈴は前の世界での自分を思い出して何も言えずにいたが、空を覆う鉛色の雲から雫が一粒、二粒と零れ落ち、やがて雨となって降り注いだ。

「おお、降ってきたな。入るか?」

「ありがとうございます」

 雨弓が差した武傘の下に九鈴も入り、連れ立って墓地を後にする。2人共、8年前の秋、雨雫が死んだ日のことを思い出していた。

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128雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:24:56
雨弓は九鈴を連れて帰宅し、九鈴も共に夕食の席についた。雨弓の両親は小さな頃から知っている九鈴が遊びに来た、という以上に彼女の来訪を喜んでいて母は前日から下準備をしていたご馳走を並べてくれ、ちょっとした宴の様相を呈していた。
 その後、泊まっていってはどうかと薦められ、母のやんわりとした口調の裏になにか有無を言わせないものを感じた九鈴は困惑しながらも了承する。

(何か勘違いされてる気がするなあ……)

 浴室にて、シャンプーやボディソープの泡をシャワーで洗い落としながら九鈴は心中で呟く。

「私も一緒に浸かっていいかな?」

「うん!」

 全て洗い流し、既に湯に浸かっていた雨弓の妹・畢に声をかければ彼女は元気よく返事をした。むしろ待ってましたと言わんばかりだ。
 雨竜院家の浴室はちょっとした旅館程度に広く、檜造りの湯船も大人2人が十分に足を伸ばせるサイズだった。

「かなちゃんが普段は寮だから誰かとお風呂なんて久しぶり」

「私も、九郎と入らなくなって以来だから、2年ぶりくらいかなあ」

 そんなやり取りをしつつ湯船に入り、腰を下ろそうとすると畢の視線に気付く。つぶらな瞳がじぃっと九鈴の裸体を見上げているのだ。
 流石に女同士とはいえ近距離でまじまじと見られるのは恥ずかしく、上と下をさっと隠して湯の中へ身を沈める。

「ど、どうしたの?」

「んー、やっぱり九鈴ちゃんの身体大人だなあって……」

 九鈴の瞳にはゆらゆらと揺れる水面の下、畢の幼い裸体が映っていた。「前の世界」で一緒に温泉に入った高島平四葉(11)を思い出す。彼女がリアル幼女だったのに対して畢は23歳。背は四葉より高いものの、発育具合は……。

(変わんないなあ……)

 畢が幼女ぶりを気にしていたこと自体への驚きや、四葉のことを思い出すと鎌首をもたげそうになる劣情を抑えつつ、何かしら慰めの言葉を探そうとする。

(畢ちゃんみたいなツルペタが好きな男も……いや、嬉しくないよねこれ。
うーん、あっ! 肌ツヤ凄い! 年下とはいえ20代なのに幼女そのもの! 羨ましい! よし、これだ……)

九鈴が脳内で考えを巡らせている間、畢の両手がすっと伸びて、彼女の胸に2つある豊満な浮袋へと触れた。

「あっ……畢ちゃん!?」

 畢は自分の小さな手に余る双球をやわやわと揉みほぐした。愛撫と呼ぶにはあまりに稚拙だったが、人に触られるのは数年ぶりなことや劣情を抱きかけた直後であることが手伝い、彼女の中に快楽が芽生えていた。

「雨雫お姉ちゃんはね……小さかったんだ。流石にボクよりはあったけど」

「ん……雨雫?」

 揉まれたことにもだが、今日墓参りに行ったばかりの亡き親友の名を出され、自身の発育を気にしての発言では無かったことと相俟って九鈴は困惑する。

「九鈴ちゃんは……お兄ちゃんとはもう……しちゃったの? エッチ……」

「え!? い、いやしてないけど……」

 乳を揉む手も止めて、真剣な表情で発せられた畢の問に九鈴は更に驚きながら答える。

「そっか……多分ね、お兄ちゃん、したことないと思うんだ」

129雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:25:41
「え? え?」

 雨弓が童貞だと言われ、九鈴はまたまた驚く。彼のイメージからは程遠い情報に思われたが、畢曰く、雨雫の死の前夜、初めての行為に及ぼうとした2人を自分はブラコンゆえの嫉妬心から邪魔をしてしまった。そして、雨雫が死んで以降の雨弓は女性と関係をもつことを避けている節があり、心配した母が親戚筋から持ってきた見合い話も全て断っているという。

「あの人が……。そうなんだ」

 九鈴は雨弓にそれなりには好意を持っていたが、恋愛や性的な部分に関してはだらしない人物だと勝手に思っており、風俗通いをしているようなイメージがあった。意外な義理堅さを知らされ、自分を恥じると同時に感心の気持ちが湧いてきていた。

「でもね、そんなお兄ちゃんがまた人を好きになれたなら、1番の友だちの九鈴ちゃんとお兄ちゃんなら、お姉ちゃんも天国で喜んでくれると思うんだ」

「……」

「お姉ちゃんはちっちゃかったけど、ベッドの下情報ではお兄ちゃん、おっきぃのが好きみたい。だから、ね!」

 畢は九鈴の手を、ではなく先程揉んでいた双球をぎゅっと掴む。

「畢ちゃん……」

 雨弓と九鈴が恋愛関係にある前提で話が進んでいることへの困惑はいつの間にか消え去っていた。
 畢の真剣な眼差しを受け止め、九鈴は思う。前の世界での、家族を喪い、弟に手をかけたことから狂気に苛まれていた自分。今の雨弓は狂っているわけではなく、むしろ美点とも言えるのかも知れないが、しかし失くした物に縛られて生きているとも言える。
 私は自分で自分を救えなかった。ならば、おせっかいかも知れないし、自分が言えた立場で無いのかも知れないが、しかし――。

「わかったよ、畢ちゃん! 私、雨弓先輩の童貞をもらう!」

「九鈴ちゃん、頑張って!」

「でも、なんかこのまま雨弓先輩の前に行くには火が点き過ぎな気がするからちょっと発散させて」

「えっ、九鈴ちゃん!? ひゃあっ」

 自分は大人しい性格だと思っている九鈴だが、しかしこの世界でも彼女はヒートアップすると一旦行くところまで行かねば止まらなくなるタイプでもあった。

「畢ちゃんが悪いんだからね。別に胸揉む必要無かったし。
 あ、もう勃ってる、カワイイ」

「や、やめて! ごめんなさい! 謝るからっ」

「別に怒ってるわけじゃ無いし。こっちはツルッツルでカワイイなあ……。
綺麗なピンク♪ 畢ちゃんもまだなんだ。大丈夫、傷つけないようにしたげるから」

 10分弱風呂場に響いた嬌声が止むと、九鈴は跪いて桶の湯を身体にかけ、尿と愛液を洗い流す。雨雫が昔していたのを真似ただけで作法など正しいのかわからないが、紛れも無い禊の儀式であった。

「ありがとう、行ってくるね畢ちゃん」

「が……がんばって……」

-----

130雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:26:47
 客間にいた雨弓は、家族のそれとは違う気配が近づいて少しばかり胃が重くなるのを感じる。
 2人の寝室として誂えられた客間には布団が2つ、並べて敷かれていた。今は離してあるが、若い男女が同じ部屋で寝るというだけで「そういう」雰囲気にならざるを得ない。しかも自分は、そういう雰囲気の経験が無い。

「ったく……」

 雨弓が呟いたところでふすまがすっと開き、白い襦袢に身を包んだ九鈴が姿を現す。

「ああ、悪い九鈴。妙な雰囲気に……おい?」

 九鈴は部屋に入るや電灯のヒモを1度引き、部屋は淡いオレンジの光と窓から差し込む月光に照らされた状態となる。

「見られるのが恥ずかしいわけじゃないけど、雰囲気出ますし」

 そう言うと、九鈴は帯を解き始めた。
 シュルリ、と音を立てて解けた帯がハラリと落ちると、九鈴は襦袢の襟に手をかける。

(えっ……え? こいつ、その気に……)

 畢も、彼女から聞いた九鈴も勘違いしているが、雨弓は童貞では無い。
 高校時代、雨弓は三つ編み眼鏡のビッチの後輩に筆下ろしされ、以降雨雫のことが気になりだすまでは彼女のおやつ係の1人として関係を持っていたのだ。とは言え、雨弓が経験したのは彼女のみであり、また雨雫の死後は畢が知る通り女を断っているため、こういったシチュエーションに関して彼の経験値は童貞と相違無い。

(いや、ダメだ。俺は)

 雨弓が拒絶の言葉を発する前に、九鈴の裸体は晒されていた。

 暗がりにぼうと浮かび上がる九鈴の裸。細身で且つ筋肉質ながらもその身体は女性的な曲線を描き、色の無い産毛が月光に照り映えるのが幻想的に映った。
 鍛えあげられた身体において豊かな乳房は普通の女性と変わらず柔らかそうで、三角の丘では黒い叢が性の匂いを発している。

「……!」

 女を断ってもビッチ魔人などの裸は職務上幾度と無く見てきた。しかし、今目の前にした九鈴の裸は、否この空間に流れる空気までもがそれらとは明らかに違う。「夜の和室に男女が2人。SEXでしょう」とでも言っているかのようだ。自身の股間の有り様がそれを証明していた。

「九鈴、お前……」

「畢ちゃんから聞きました。雨弓さん、雨雫が死んでからは女性と進んで関わろうとしないって。
私と付き合って欲しいってわけじゃ無いです。一夜限りでいい。
ただ、雨雫のことにケジメをつけてもって思うんです。おせっかいなのはわかってますけど」

 雨雫の名前を出され、真剣な顔で言われて雨弓は一旦黙るが、暫くして口を開き、返答する。

「別に一生雨雫に操を立てるとか、そんなことを思ってるわけじゃねえさ。昼間も言った通り、俺が未練たらしいだけだよ。
お前の言うことが正しいとは思う。そして今俺は正直スゲーヤりたい……。ただ、それでも……」

 膨らんでいた股間が、徐々に萎んでいく。
 薄闇の中、無言で2人は見つめ合っていた。沈黙は数分続いたが、やがて九鈴は観念して床に落ちた帯を拾い、肌蹴ていた前を閉じて再び締める。

「わかりました、雨弓さん。
 それじゃあ……お互い武術家同士。『勝負』で決めましょう」

 九鈴の発した言葉に、雨弓は佐倉光素から言われた「野試合」の件を思い出していた。
 
-----

「改変後のこの世界でも、魔人同士の真剣勝負は最高のエンターテインメントのはずです。
 ですから、もしも皆さんが個人的に、死人を出したくないけど命がけで戦いたいとお望みであれば、その模様の配信と引き換えに、大会と同条件で試合をセッティングしましょう。その際は今お渡しした連絡先までご一報を」

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「私達、大会で思いっきりフラグ立ててたのに結局当たらなかったじゃ無いですか。雨弓さんなんかまともに戦ってたのは一回戦の前半だけだし」

「まあ……そうだな……。試合、してくれるのか?」

 九鈴と戦える、ということに雨弓は昂ぶりを感じていた。様々な感情がないまぜになった先程の性的興奮よりも純粋に。

「私が勝ったら、雨弓さんは私とエッチする。
 雨弓さんが勝てば……どうします?」

「どうもしなくていいさ。俺にはお前と戦えるってだけで人参には十分だ」

 睨み合い、バチバチと火花を散らす2人は、――その後普通にお布団に入って、何事も無く眠った。

131雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:27:25
-----

 試合当日、雨竜院家――。

「わあ、かっこいいよお兄ちゃん!」

 雨竜院家の傘術家が纏う戦闘服――龍が絡みついた傘の紋章入りのフード付きローブ――に身を包んだ雨弓を見て畢は声を上げる。

「そうか?」

 雨弓は戦いのために特別な服を着るということ自体あまり好きでなかったが、縁浅からぬ聖槍院家の九鈴との戦いなのだからと父や叔父に着せられ、可愛い妹がこうして喜んでいるとまあいいかという気持ちになっていた。

「頑張ってね、お兄ちゃん」

「畢、お前は俺に負けて欲しくないのか?」

 九鈴との関係が野試合に委ねられて以降、家族内では口には出さないものの、雨弓が負けるのが都合がいいのではという雰囲気になっていた。

「うーん、九鈴ちゃんを炊きつけたのはボクだけど、でもお兄ちゃんが戦うなら勝って欲しいってのもあるし。
 お兄ちゃんが勝負を受けたなら、勝っても負けても後悔しないと思うし。
 だから、『どっちも頑張って』かな? ボクは」

 付き合ってるって勘違いしててごめんね、と最後に謝る畢の頭を雨弓は撫でてやり、恐らく自分を1番応援してくれる妹に言葉をかける。

「ありがとう……頑張るよ」

 雨雫を生き返らせようと参加した大会も、思えばどこかに、本当に生き返らせるべきかという迷いがあった。雨雫を過去のものにするのか。雨雫を思い続けるのか。勝負の結果がそのまま答えでは無いが、答えを出す後押しとしては武術家の自分に相応しい気がした。

「決めなきゃ、なあ」

 雨弓は手にしたロケットペンダントを開いて、そこにいる雨雫の笑顔を見つめる。いつもは首にぶらさげているそれを、この日初めて雨弓はポケットにしまいこんで家を出た。
この日もまた、雨が降っていた。

試合に続く

132黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:17:21
【黄樺地セニオエピローグ:世界の合言葉はチャラ男】



 ザ・キングオブトワイライト。
 その終了とともに、世界は、急速に復興した。
 本当に、『急速に』復興した。
 物理的に考えれば、明らかに矛盾していると言っても良い速度で。
 その細部の記憶を、確りと保持しているものはほとんどおらず、しかし、それを検証しようとする者は現れなかった。
 人々の共通認識。

「なんか、おれらが/わたしたちが/ぼくたちが/思ってたより、世界は絶望的な状況じゃなかったらしい」

 関東と関西が包まれた核の炎――そこまで汚染されていなかった。
 手足が腐りながら死んでいく奇病――そこまで大規模な発生じゃなかった。
 人類の三割が死滅した災害――そこまで深刻じゃあなかった。
 人々が絶望し狂乱した悪魔の映画――やっぱり酷かったけども。

 世界はかつての姿を取り戻した。
 昔通りの活気。昔通りの混沌。
 当然そこには、昔通りの悲劇も――存在する。

「う、うう、ううう……」

 繁華街の路地裏で、少女が一人、縮こまって震えていた。
 端々が焦げた、ぼろぼろの制服。
 靴も無く、夢中で走ってきたのだろう、靴下は破れて、ところどころ血が滲んでいる。
 その瞳は、自らの手を、まるで血塗れのナイフのように見つめていた。

「わ、わた、わたし、いや……」

 少女は、今しがた、自らの暮らした家を燃やしてきたところだった。
 比喩ではない。魔人能力《月刊少女りBOMB》。
 ――思春期特有の、ありふれた衝動から発露したパイロキネシスである。
 逃げた時点で、居間は全焼していた。腕に大きな火傷を負った父親が、消火器で奮戦していたのが最後の記憶だ。
 だが、突如の異能の発露と、大事な家族を怪我させてしまった混乱と不安は、少女の中で際限なく膨れ上がっていた。
 彼女の中では、自分はもはや大好きな家族を焼き殺した殺人鬼であり、もう元の生活には一生戻れない犯罪者だった。
 繁華街。道からはネオンの光。
 近くの飲み屋からは、無闇に楽しそうな人々の騒ぐ声が聞こえてくる。
 光が妬ましい。自分の境遇を理解しない奴らがいるだけで、憎しみがこみ上げて来た。

「おっ!wwキミカワウィ〜ネ〜へっへえwwwwオニィィーーサンとアソバね?ww」

 その時。
 少女の無差別な憎悪の炎に、自ら手を突っ込むような、愚劣で無遠慮な声が掛かった。

「ちょwwwお前見境なさすぎッショ〜wwww」
「ヤッベ! パッネ! JKじゃぁ〜んwww」

 数人の若者。先頭の男が、路地のゴミ箱の裏に隠れていた少女を目ざとく見つけていた。
 金髪・癖毛・長身。モブっぽいほどほどのイケメン。一挙手一投足全てがチャラい。
 見るからに、今しがたどこぞで飲んできて、二次会の会場を探している……そんな様子の。

「……来ないで……」
「えっ、何ィ〜?www聞こえねっすわwww遊びたいって?www」

 普段なら接触することのない相手からの無遠慮なアプローチ。
 恐怖や怯えではなく、追い詰められていた彼女は、もっと過激な感情を覚えてしまう。

「来るなァ!」

 能力発動。虚空から火炎が発生し、眼前のクソモブチャラ男を燃やしつくそうとする。
 それはとりもなおさず少女が抱いた生まれて初めての殺意であり、取り返しのつかない衝動のはずだった。
 だが。

「わおwwwwナニコレチョーウケルわwwww」
「……え……?」

 クソモブチャラ男の眼前で、その炎が四散した。
 否、四散しただけではない。炎はチャラ男の手に掴まれ、まるで線香花火のように、パチパチとその周囲を輝き照らす。
 まるで、彼女の能力を真似たかのように――茶化すかのように。

「ウェーイwww見れコレ見れコレwwwwサイコーじゃね〜?www」
「花火とかいつの間に買ってたんお前www」
「コーエン行こうぜ〜www」
「この辺にあるかよそんなんアホwww」
「え……え?」

 唖然とする少女。だが、すぐにその手が掴まれる。
 ぐいと強引に引きずり出される。ネオンの光が、そして、チャラ男の掌に纏われた黄色の光が、闇に包まれていた少女をあっさりと照らした。

「ダイッジョブダッテ! ナニモシナイッテ! OKデマシターっ! 女子確保〜ッ!」
「お、ナイスー! ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
「え? え? あれ?」

133黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:27:48
 連行される。手近な飲み屋。

「ウェーイ! オツカレィ!」「二次かゥィ〜! ガチデェー!」「JKウェーイ!www」「女子一人と犯罪者一名追加でぇーっすwww」「ヒドスwwwパナスwwww」
「え、あ、私、お金」
「オッケェーウェーイ!」「ウェーイガチデー!」「あ、次の注文注文〜ww推してっちょwww」
「あ、えっと、はい」ピコーンピコーンピコーンピコーン
「ちょwwww押しすぎサイコーwwwワロwwww」
「ご、ごめんなさ、分からなくて」
「なにこの子カワイイ〜!www誰が連れてきたの〜ォ?www」「JKナイスっしょwwwwサイコーwwwwウェーイ!」
「う、うぇーい……?」

 最初こそおどおどしていた少女も、いつしか彼らのノリに合わせてしまっていた。
 やがて、その人員も少しずつ少なくなり、お開きとなる。
 飲み屋で傍迷惑に転がるチャラ男達。それを介抱する、どうやら彼らのまとめ役らしき茶髪のチャラ男に声を掛ける。

「あの、本当に良いんですか、お金……」
「んあ? 良いしょ良いしょ。金払わせたらオレらがヤンバーい」
「そ、それで……わたしを連れて来た人ってどこですか?」
「うっわこいつゲロってやがるwえ?wえーっと、誰だっけ?wwww」
「金髪で、長身の……花火を持ってた……あれ?」

 見渡す。しかし見ると、四人ほど残っているチャラ男たちに、該当する相手が見当たらない。
 既に帰ったのだろうか?
 すると、少女の言葉に考え込んでいた茶髪の青年が、ポンと手を叩いた。

「おいお前らwwwまた“セニオ”が出たぞww」
「うぇー……んあ、なに? セニオ? またかよwいい加減にしろっての」
「セニオ……な、何ですかそれ?」
「都市伝説ーww飲み会やってるとさwwいつの間にか人数が一人増えてるwww」
「な、何ですかその嫌な座敷童……」
「しかもたまーに、アンタみたいに、余所の奴も混ぜてくる……
 チャラ男に混じってチャラ男を増やす神サマ、みてーな……?」
「割り勘代払ってけって話だわー……あー頭痛い……」
「でもアレよ? セニオが出た飲み会に最後まで残ってたメンバーはマブダチになれるって話だぜ?www」

 信じられない話だが、彼らはそれで納得しているらしい。
 まるでチャラ男につままれた気分だった。

「とにかく、ありがとうございます」
「へっへっへwいーっていーってwあwメルアド交換しとくゥ〜?w」
「お前マジ犯罪者ァ〜」
「分かってるってのwんで、どーすんの?ww駅まで送ってく?ww」
「あ、いえ……」

 少女は、アルコールの臭いに頭がいたくなりながらも、明るく、笑って言う。

「家族のところに帰ります。きっと、みんな無事に――心配してると思うから」

 家を出て来たことを謝って。怒られて。燃やした家が直るまで、みんなで頑張ろう。
 もとの生活に、きっと戻れる。目覚めたこの力も、きっと制御出来るはずだ。
 あまりにも適当な、楽観視。
 でも――だって、そうだろう。
 あんなクソモブチャラ男にすら効かなかった彼女の異能が、そんな大きな被害をもたらせるわけがない。
 それは、神霊レベルとは程遠いまでも、その加護を受けた程度の、軽薄さ。
 少女の肩口で、浅瀬めいた黄色の光が、僅かに光った。

◆       ◆

 朝焼けの中、残った四人が店を出る。

「オッカシィ〜と思ったんだよなァ〜wwwいつの間にかJK混じってるんだもんwww」
「だよなだよなwwwマジテンションおかしかったわwww」
「あ゛〜、頭いてえ……」
「あのさー、こんなこと言うのもアレなんだけどさ」
「ん、何やん?」
「“セニオ”って名前、どーにも聞き覚えがある気がするんだよね、俺」
「あ゛ー……実を言うと、俺もだわ。ホラ、前に、ちょっとした災害あったじゃん?」
「いや、確かにアレで一旦俺ら連絡つかなくなったけどさ、基本俺らこの四人っしょ?」
「そりゃ、そうだと思うんだけどなあ」
「……ま、いーじゃんいーじゃぁん? セニオ出てきたってことは俺らのキズナも盤石ってことっしょ?www」
「ヤッベwwwお前天才すぎっしょwwwww」
「マジカッケーwww惚れるwwww」
「だなwww絆、サイコー!」

 拳を握って、空に上げた腕。
 その一瞬だけ、また、五人分の腕と、五人分の声。

チャラ男1、2、3、4、5「「「「「ウェーイ!wwwwwww」」」」」

◆       ◆

134黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:28:19


 金色のチャラ男粒子が、風となって世界を巡る。
 決して少なくない数いる、彼の存在を忘れていない者たちのもとへ。
 軽薄にして希薄にして浅薄なるチャラ男の存在そのものを、深刻に捉えていたものたちが。


「杯なぞ、久しぶりじゃのお……」
「まあひとまず、万々歳じゃないっスか? 俺達の戦績は……まあ、褒められたもんじゃありやせんが、当座の目的は果たせましたし」
「おどれにも、色々言いたいことはあるが、だが、この場で言うのは野暮ってもンか」
「んじゃま、我らが夜魔口組の、今後を祝して――乾杯」
「乾杯」
「乾杯ウェーイwww」
「「……ん?」」



≪【以前変わりなく、己が物語を続けるもの】≫



「くっそ! まぁた古本屋かよ畜生! うわ、いきなり撃って来やがった! ちょ待っウェイ! ウェーイッ!」
「突破するのだユキオ! そして、その耳障りな発音を慎め!」



「さて、あの映画の収奪ミッションがどうなるメカかね。
 ザ・キングオブトワイライト……予想通り、酷いものだったメカ。
 特異能力者を一所に集めるとロクにならないことが証明されたのは良いことメカね。
 世界を救うついでに、この身体も戻ってくれれば良かったメカが……」



「いくぜェ、九鈴! 悪いが、手加減なしだ!」
「おしてまいります。雨弓先輩……!」
「ハハハハハハ! そうだ! この感じだ! 戦、俺にはそれが必要だ! 
 ……ったく、真剣勝負ってのは良いモノだぜ、ファントムやポータル・ジツの邪魔が入らなきゃ、尚更だ……!」



「《ヒトヒニヒトカミ》! ――最近調子良いな。見ててくれてるか、シロ姉……あ、あの雲、シロ姉の顔に似て……」
『ウェーイ!』
「……気のせいだな。うっすら金色の粒子が混ざった雲がチャラ男の顔に見えた気がしたが気のせいだな」



「……またですか。
 失礼な態度と共に他人の女に手を出し、シャワールームで恋人と行為に及ぼうとし、
 深夜に酔って出歩き、犯罪者がこの中にいるからと真っ先に単独行動をしようとしたチャラ男が殺されている……。
 やはり、彼の者が『被害者』属性なのはこの世界でも変わらずと」

「すっかり希少な生き物じゃなくなったからねえ〜。
 ねえ、知ってる〜? 目高機関とかで、あの彼のことをうっすら覚えてる人たちの一部が、チャラ男の生態研究を始めようとしたらしいけど、
 サンプルが多すぎて馬鹿らしくなってすぐにやめちゃったんだって〜」



「わたくしたちは、これからどうしましょう?」
「……雨弓さんと、九鈴さんの試合でも観に行きましょうか」
「『九鈴さん』? 三傘、あの方とも仲が良かったのですか?」
「あれ? そういえば、会ったことない……ですね。だけど、何か、とても応援されていた気がして」
「予想。黄樺地セニオ。彼の能力で、何らかの改変が起きた?」
「あるいはその残滓……どうでしょう。関係ない気もいたしますわ」
「結論保留。それで、どうする?」
「……やっぱり、観に行きましょうか。なんとなく」
「そうですわね。なんとなく」
「賛成。なんとなく」



「動くなァ! このバスは俺が乗っ取った! ――あっつ! って、いや熱ゥッ!?」
「やれやれ、世界は平和になったんじゃなかったのか。
 言っておくが俺の紅茶は1600度だ……なあ、熱膨張って知ってるか?」



「黄樺地セニオ……チャラ男とビッチ、一度、正面から戦ってみたかったわ。
 くっそれにしてもここはどこかしら、新たなダンジョン……!
 あっ! あんなところに、黒髪三つ編み瓶底眼鏡の如何にも文学少女然とした女学生が!
 性攻撃なんて全く知らなそうなあの子がここのボスね! 行くわよー!」



135黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:29:27
≪【真実を見出したもの】≫



「世界には、人にはどうしようもない悲劇がある。それは確かだ。
 ……だが、その一方で、努力すればなんとかなるのに、当事者が悲観的になってしまっているがゆえに生じる悲劇も、多くある」
「疑心暗鬼。過剰な警戒心。むしろ、世界の敵の多くは、そちらのパターンの方かもしれないわね〜。あの目高機関の、金ならいくらでも払う人みたいに」
「黄樺地セニオは、悲劇が理解できなかった。途方も無いチャラ男適性。それは、場合によっては世界の敵になりえるほどの歪みだった」
「でェ? あの時に、アイツはアタシらの能力をパクって、その認識を『分散させた』ってのか? あの、黄色のチャラ男粒子がそれだってのか?」
「いや……『配り当てられた』んだ。それを必要とする人々に。『世界』に。
それが彼の歪みの行きついた果て。ゆえに、その名を――《世界への最後配当》。
 まさか、世界の敵が世界を救うなんて、思いもしませんでした。毒も、少量なら薬になる……そういうこと、なのかな」



「複数の世界。過去は分岐する。そして未来は分岐する。それは奴が証明した。
 ――冷泉。お前が望むのならば、俺も、世界を変えてみせよう」



「俺は芸人だった。芸人だったはずなんだが……なんだこの徒労感というか、残念感は……」
「まあまあ。あなたには私がいるじゃないですか。ドーモ、出てくる度に平行世界でなかったことにされることに定評がある、空飛ぶスパゲッティモンスターです」
「誰だ貴様っ!?」



「La Amen。true true(“真実を啜る”を意味する音韻詩)。
 俺はただ届けるだけだ。ラーメンも、メンマも、スープも劣化する。だが真実は劣化しない。すなわち、真実こそが、究極のラーメンなのだ」



≪【新たな世界に適応したもの】≫



「……はい、はい。じゃあいつも通りお願いします、穢璃さん、澄診さん。
 ふう、『紅い幻影』の後始末に、高島平四葉、儒楽第にって、問題起こしまくる奴らのおかげで食うに困らないのはいいけどさ。
 今にして思えば、よく生き残れたもんだ。ウェーイ、ラッキィ〜ってか?
 ……変な後遺症残ってないよな、あのウィルス」



「ああ? またその案件かよ! だからウチは調査じゃなくてその後処理がメインだっつってんだろ! 探偵に回しとけ!
 ――ったく、商売繁盛で何よりだぜ! チャラ男サマサマだっつんだよ? なあ!」



「ぐふふふふ……世界が平和になったから悪堕ちもさせ放題だ……うっ! ふう。
 ……おやおや、あんなところに、いかにも悪堕ちさせがいのありそうな、黒髪三つ編み瓶底眼鏡の純朴文学少女学生がいるねえ……次のターゲットはあれにしよう……ぐふふ……」



「オラァ、きびきび動けよ、目高機関の元幹部どもォ……!
 あの家族野郎にリソース認定されちまったテメエらを救ってやったのは誰だと思ってる?
 世界は平和になった? だから何だ?
 平和になったってことは、つまり、戦争が殺されたってことだ。
 所詮この世は地獄。殺し合い、食い合う、それだけだ。
 猪狩も。森田も。全てだ! 全て噛み殺す……!」



「……これは、また儒楽第の工作ね。
 平和になっても、私たちのいる裏の世界にはそこまで影響はなかったか。
 行くわよ、森田、黒田」
「御意に、お嬢様」
「おお、こりゃすげー」
「……その軽薄な態度、どうにかならないの? あの準優勝者じゃないんだから」
『武志は調子に乗っている。給料を下げることを提案する』
「おいおい、久々に喋ったと思ったらそりゃねえだろぉガングニル!」



「みんなに紹介するぜ、新しい孤児院の家族だ! おーい、出てこいよキセ!
 生まれつき金髪ピアスでコミュ力に溢れてて誰とでも軽薄に接することができるキセ! KISEーっ!」



「キングオブトワイライトには、己の一物を満足せてくれる猛者はいなかった……。
 しかし、世界が新生したとなれば新たな猛者もいるはず。
 ……むっ、あそこにいたいけな黒髪三つ編み瓶底眼鏡の純朴文学少女学生がいるな……道を尋ねるか」



136黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:30:48
≪【救われた世界を俯瞰するもの】≫



「ぐっ、また失敗。……流石に無理があるのかしら?
 『モア・エンタングルメント(重ね合わせ)』。私の武器たるモア、そのものの強化創造。
 『強化複製した武器を融合し、わたしのためのただ一つの武器を作り出す』能力。
 でも、チャラ男に出来たのだから、私に出来ないはずがない。
 私の夢は世界征服。それは、世界が平和になった今でも、以前変わりなく――」



「どいつもこいつも、チャラ男なんかに影響されちゃってなっさけない。これだから大人は。
 ちなみにこれはエキシビションに出られなかったことへの僻みじゃないからな。
 宇宙ステーションに留まっていたオレだけが、この世界で唯一チャラ男粒子の影響を免れた。
 ちなみにこれはエキシビションに出られなかったことへの僻みじゃない」



「ヒヒヒヒヒヒ! おいおいテメエ、俺の扱い小さくねえか?
 他にもキャラごとに全体的に扱いに差がねえか?
 まあ全員分書くのは流石に無理あるもんなあ? 無茶しなきゃよかったのになあ?
 俺にここで言い訳して貰う気か? 甘ぇなァー甘ぇなァー!
 ヒヒヒヒヒヒヒヒ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラ



≪【直にその影響を受けたものたち】≫



「あの、お客様。当書店は、そろそろ閉店の時刻でして……」
「ああ。……済まないが、この作品、一巻から最新刊まで、頂けるか?」
「え? ああ、はい大丈夫ですよ。……子供さんにですか?」
「いや、自分用だ。くく、そういう風には見えないか?」
「あ、いえ、失礼しました。この漫画は、大人から子供まで楽しめる作品ですからね」
「ああ……その通りだ。作者の悪い癖を含めても、屈指の名作だと思う。
 私はそれを、とあるチャラ男に教えられた。いや、思い出させて貰った」
「……お客様?」
「いや……失礼。そう……この作品は面白い。世界が平和であることと、同じように」



「……お世話になった人に、お礼を言いに行きたい?」
「うん。正直、あのあたりの記憶は曖昧なんだけど。ハルくんは覚えてるんだよね。
 だから、向こうがわたしのこと、覚えてなくても、お礼を言いに行きたいの」
「真面目だなあ、ちひろさんは。そんなところもかわいいけど」
「かわ、だから、からかわないでって、もう。……だめ、かな?」
「いや。いいよ、誰か、覚えている人いる?」
「あのね。……わたしのこと、チッヒーって呼んでた人、分かる?」
「やっぱりやめよう。ソイツは駄目だ。色んな意味で」

137黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:31:16
≪【そして――……】≫


「いやーハレっち! 良かったネ!」

 神刀が快哉を上げる。

「まさかハレっちが向こうであのエロ外道を倒したことで過去が分岐して、アイツが王国が滅ぼさなかった未来になったなんて!
 おいはぎの曲刀にまさか性属性付与の裏効果があるなんて思いもしなかったしネ!
 これもアメちゃんの助言のお陰って感じかな!」
「……うん」
「ツッコンデよ! ……どしたの? 建国記念パーティだよ?
 露出度高いドレスきておめかしもしたんだし、楽しまなくちゃー!
 それともアレ? お父サンがあんなエロ外道に負けてたのがなんとなくイヤンな感じ?
 確かにそれはちょっとアメちゃん思うけど、仕方ないよ! 相性が悪かったんだモン!」
「……うん」
「……思い出してるの?」
「…………………」
「わーっ! ゴメンゴメン! 泣かないで!
 ……仕方ない、っていうと、アレだけどさ。アイツはアイツの考えがあったんだって
 きっとサ」
「うん…………」
「仕方ないなあ……。……ん、なんかあっちの方で騒ぎ起きてない? どしたの?」
「は、申し訳ありません王女様、アメノハバキリ様。部外者が侵入してしまっていて……」
「部外者? 警備員は何してるのサ?」
「それが……ウェーイ、などと、謎の鳴き声を上げながらあちこち飛び回るもので。
 ……あ、今しがた、バルコニーに追い詰めたそうです。これで……」
「え?」
「――ちょっと! それ、どこのバルコニー!? 案内して! 今すぐ!」
「へ、……はい?」


 ――古の伝説。
 ――宴会をしていると、いつの間にか男が一人、増えている。
 ――彼は、見たことも無い軽薄な格好をしていて、言語に絶するほど浅薄な態度で、しかし、その存在感は、ひどく希薄である。

「ヤッバ! ウッマ! マジウッマ! パなくね! ヤバくね!」

 夜空を背景にしたバルコニー。男が一人、下品な声を上げながら飲み食いしている。
 バイキング形式の皿とグラスを柵の上に置き、宮廷の作法など知ったことかという風情、
 その身体は――よく見ると、細部がうっすらと金色にほつれている。
 
「あ、……」
「ナンデ……!?」

 窓を開け、外気に身を晒す少女と神刀。

「お? おうおうおおうおおうおうーーーう♪ もっしかせんでもチョーマブいじゃぁん!
 チュリッス! カワウィーネェー↑! ドレス、チョーあり! 肩出しチョーエロイ!
 アメちゃんも元気しーてたァー? ウッウェーーーーイ!」

 男が指差し確認するように、人差し指を二人に向ける。
 少女の瞳に涙が溜まる。彼の名を、声をあげようとして、詰まる。
 その様子に、男はチャラい動きを止め、肩を竦める。
 ほんの少しだけ、その笑みが、凡人のそれになった。

「――な、言ったっしょ」

 男は笑った。

「オレ、女の子との約束、破ったことねーって」







 こうして、チャラ男の王にしてセニオ・マジゴッドは世界に解けた。
 ――だが、人々よ、忘れるな。
 ふたたび世にシリアスが満ち、人々からチャラさが失われた時。
 あとなんか適当に飲み会でウェーイしてる時。
 彼は、今度こそ世界をチャラ男で埋め尽くすべく、適当な理屈とアバウトな行動原理とともに、現世に復活するであろう……。


「なんでほのかにラスボス風味なのサっ!?」
「ウェーイwwwwマジ勘弁wwwww」


【黄樺地セニオエピローグ:世界の合言葉はチャラ男 /  了  】

138聖槍院九鈴:2013/09/04(水) 22:48:32
【落下停止】

手のひらの上で玩ばれ、パチンコ玉がチャラチャラと音を立てている。
やがてひょいと上に投げられた玉たちは、そのまま落ちずに空中でふわふわと留まった。

「弓島君には助けられたよ。私が見てると知ったら、二人とも気まずいだろうからね」

地獄の蓋まで、チャラくなったと言うわけなのか。

「きひひひっ。寝取られ展開でますます不幸に磨きがかかったなァ、哀れな妹よ」

女性の左肩のあたりから、男の声がする。

「これでいいのさ。こうなるのが遅すぎたぐらいだよ。本当に、二人ともバカなんだから」

両手を広げ「まいったね」のポーズで首を振る。
背中で、細長く編んだ髪が尻尾のように揺れる。

「まあ、これでお前も、やっと心残りなく輪廻できるってわけだ」

冥府より地上侵攻を目論んだ、邪悪な者が居たという。
その者は、己の手駒を増やさんと、罪なき者すら地獄に引きずり込みもした。
しかし、やがて不正は糺されて、輪廻の環は再び正しく巡りだす。

「ようやく兄者ともお別れだ。戻ったら彼に伝えてあげてくれ。
 光素ちゃんは元気そうにやっていたってね」

広げた手のひらに、落ちかたを思い出した玉たちが戻ってくる。
それを巾着袋にしまい、傘で地面をトンと突くと、彼女の姿は消え失せた。

――これにて、呪われた双子の物語は終わる。
兄は虫花地獄で、己の為した罪に対する責め苦を正しく受けるだろう。
妹は生まれ変わり、今度は祝福に包まれた人生を送ることだろう。

彼女の人生は短く悲しいものだった。
しかし、永遠にその名が忘れ去られることはなく、
墓前に供えられる花が絶えることはないだろう。

139雨竜院雨弓:2013/12/31(火) 05:58:10
雨竜院雨弓エピローグSS

 九鈴は1人、墓前で手を合わせていた。雨竜院家の墓に眠る親友に。
 あの子は、今の私達をどう思っているのだろう。親友でも恋人でも、互いにわからないことなんていくらでもある。況してや彼女は鬼籍に入ってもう8年――。
 揺らめく線香の煙が昇る先、空を見上げて九鈴は想う。あの優しい親友が、慈雨となって降り注ぐような、そんな道を歩けたらと。

「みててね、しずく」

 そう言って、墓前にくるりと背を向けた。家路につく足取りが軽いのは、決意を固めたことと、晩ご飯がエビフライなこと、その半々だった。

-----

 水族館前の駅、改札を出たところで雨弓は待っていた。九鈴が歩み寄ってくると、少し驚いたように目を見開く。

「どうしたんです? 顔に何かついてます?」

「いやあ。九鈴のそういう格好、久々に見たな、と思ってさ。
 似合ってんな」

 確かに、清掃用の作業着だったり、道着の袴姿だったり、汚泥に潜る河太郎だったりと、雨弓が知る最近(大会中)の九鈴は普通の女性らしさとは縁遠い格好をしていた。
 この日の彼女はワンピースに薄手のカーディガンを羽織り、足元はトングサンダル。若い女性がデートに着て来てもおかしくない、それなりにオシャレをした姿だった。

「うん……ありがとう。少し頑張ってみたから」

 掃除に人生を捧げるつもりだった自分が、美容院に行ったり、服を選んだり。ウブなネンネの雨雫とは違うけれど、恋人に外見を褒められたというのはやはり嬉しくて頬が少しばかり赤くなる。

「でもあゆみさん。そういうこと言うのって少し意外」

 九鈴はてっきり彼が恋人の髪型の変化に気付かないタイプだと思っていた。というか、生前の雨雫は実際そんなことをボヤいていた気がする。

「はは、そうか。まあ、……しず、いや、何でもない。
 畢が言ってたんだ。彼女が外見に気をつけてんなら気づいてやれって」

 その言い方に、九鈴は引っかかるものを覚え数瞬、心中で思いを巡らす。その間、雨弓の視線が少しばかり開いた豊満な胸元へ落ちていたことには気づかなかった。

-----

140雨竜院雨弓:2013/12/31(火) 06:00:54
>>139の続き

 その後2人は博物館のデートを満喫した。定番のイルカショーやぐるりと楕円を描く巨大水槽を泳ぐ回遊魚の群れも見て回ったが、やはり九鈴が1番楽しみにしていたのは甲殻類のコーナーで、テトロドトキシンを持つヒョウモンダコを、片方の鋏脚を失いながらも仕留めるタスマニアオオガニの勇姿にトランペットを見つめる少年のように目を輝かせる。
 雨竜院家で縁起の良い生き物とされているウミウシが鮮やかに体色を変化させるのを見たり、何故か併設されている船の博物館で戦火に沈んだ駆逐艦の写真を眺めたりと、楽しい時を過ごしていた。異様な巨体の上、雨の予報でも無いのに番傘など持っている雨弓がやたらと目立ってはいたが、普通の恋人同士だった。


「しずく、まだすき? 雨弓さん」

 館内のレストランにて、渡り蟹のスパゲティを食しながら九鈴が発した問いに雨弓はあからさまに動揺し、冷酒を飲んでいたこともあってゲホゲホと咳き込んだ。

「な、何で急に……?」

 初デートでこんなことを聞いてくる彼女を、雨弓は少しばかりジト目になって睨む。威圧的な風体の雨弓がやると傍目にはたいそう恐ろしげなのだが、ある程度親しい相手からすると迫力が欠けていた。
 聞き返された九鈴も、こんなことを聞いて雨弓を困らせる自分を些かどうかと思いながらも、しかしやはり、伝えねばならないことがあった。

「いいかけたでしょ? 最初、『雨雫』って。
 責めてるわけじゃなく、どうなのか知りたいの」

 そう、真剣な瞳を向けてくる九鈴に雨弓は暫し困った顔になった後、バツが悪そうに答える。

「好き、なんだろうな……多分。すまん。中途半端だったよ」

 責めてはいないと言われても、やはり謝ってしまう。
 付き合っていた頃に言われていた。「服装や髪型の変化には気づいて欲しい」と。生前はあまり答えられなかった要望に、今になって、別な相手に対して。九鈴と雨雫、両方への罪悪感が心中に同居していた。

「そうではないの」

 九鈴の言葉に、雨弓は下げていた頭を上げる。目線が等しくなった恋人は声音にも表情にも、上辺だけでない喜ばしい気持ちが滲み出ていた。

「むしろげんめつ。雨弓さんが雨雫をあっさり忘れてたら」

 お互い、引きずっていたと思っていた。しかし、この前実家の物置を掃除した折、出てきた漫画を久々に読み返して少々考えが変わったのだ。
 年上の未亡人に恋をした主人公は、彼女の前夫の墓前で告げる。「貴方をひっくるめて彼女を貰います」と。
 少女時代に読んだ時はフィクションの中の台詞でしか無く、今の自分たち3人の関係は彼らのそれ以上に複雑だ。雨弓も雨雫も幼馴染で、雨雫はかけがえの無い親友で、彼女の恋を応援して、結ばれたら祝福して、関係の深まる様を見守って、けれど雨弓は彼女を最も苦しい形で喪って。今は自分が雨弓のことを好きで。

「しずくはだいじ。雨弓さんは恋人の、私は親友の雨雫、あの子のことがとても好き。
 私、雨雫を好きな雨弓さんが好き。だから……」

 雨雫ごと、雨弓を愛したい。その言葉に、雨弓は聞こえるかどうかの声で「九鈴」と名を呼んだ。
 都合がいいかも知れない。欺瞞かも知れない。結局雨雫の気持ちなど本当のところはわからないのだから。それでも、今の自分に尽くせる誠意があるなら、2人の中の彼女が喜んでくれそうな選択を。

 「蛍の光」の流れる中、連れ立って水族館を後にする。外は静かな雨が降り注いでいた。宵闇に燐光を放つ「九頭龍」が2人の頭上を覆う。

「てをつなぎたい」

「……ん」

 相合傘の下で、互いに手を差し出す。少しばかり、距離の縮んだ証。
 雨雫と繋いで以来のことに幾らか照れた様子の雨弓の横顔を見ながら、九鈴は想う。
 「タフグリップ」は概念を掴めるようなチート能力じゃないから、雨弓の心を掴んで離さないなんて出来ないけれど、能力でじゃなく、少しずつ寄り添って、互いに隣が最も居心地がいいと思えるようになって、こうして歩いて行けたら、と。
 ゆとり粒子が輝く雨でも、尿臭漂う金の雨でも無い。天から滴るような雫が、2人の頭上に濯いでいた。

141雨竜院雨弓:2014/01/01(水) 04:37:44
>>140の内容をお手数ですが以下に差し替えお願いします。  

 その後2人は水族館デートを満喫した。定番のイルカショーや数万匹の魚が泳ぎ回る巨大水槽も見て回ったが、やはり九鈴が1番楽しみにしていたのは甲殻類のコーナーで、テトロドトキシンを持つヒョウモンダコを、片方の鋏脚を失いながらも仕留めるタスマニアンキングクラブの勇姿にトランペットを見つめる少年のように目を輝かせる。
 雨竜院家で縁起の良い生き物とされているウミウシが鮮やかに体色を変化させるのを見たり、何故か併設されている船の博物館で戦火に沈んだ駆逐艦の写真を眺めたりと、楽しい時を過ごした。異様な巨体の上、雨の予報でも無いのに番傘など持っている雨弓がやたらと目立ってはいたが、普通の、初々しい恋人同士だった。


「しずく、まだすき? 雨弓さん」

 館内のレストランにて、渡り蟹のスパゲティを食しながら九鈴が発した問いに雨弓はあからさまに動揺し、冷酒を飲んでいたこともあってゲホゲホと咳き込んだ。

「な、何で急に……?」

 初デートでこんなことを聞いてくる彼女を、雨弓は少しばかりジト目になって睨む。大人と子供ほど身長差のある雨弓がやると傍目にはたいそう恐ろしげなのだが、ある程度親しい相手からすると迫力が欠けていた。
 聞き返された九鈴も、こんなことを聞いて雨弓を困らせる自分を些かどうかと思いながらも、しかしやはり、伝えねばならないことがあった。

「いいかけたでしょ? 最初、『雨雫』って。
 責めてるわけじゃなく、どうなのか知りたいの」

 そう、真剣な瞳を向けてくる九鈴に雨弓は暫し困った顔になった後、バツが悪そうに答える。

「好き、なんだろうな……多分。すまん。中途半端だったよ」

 責めてはいないと言われても、やはり謝ってしまう。
 付き合っていた頃に言われていた。「服装や髪型の変化には気づいて欲しい」と。生前はあまり答えられなかった要望に、今になって、別な相手に対して。九鈴と雨雫、両方への不義理な気持ちが心中に同居していた。

「そうではないの」

 九鈴の言葉に、雨弓は下げていた頭を上げる。目線が等しくなった恋人は声音にも表情にも、上辺だけでない多幸感が滲み出ていて雨弓は驚いた。

「むしろげんめつ。雨弓さんが雨雫をあっさり忘れてたら」

 お互い、引きずっていたと思っていた。しかし、この前実家の物置を掃除した折、出てきた漫画を久々に読み返して少々考えが変わったのだ。
 年上の未亡人に恋をした主人公は、彼女の前夫の墓前で告げる。「貴方をひっくるめて彼女を貰います」と。
 少女時代に読んだ時はフィクションの中の台詞でしか無く、今の自分たち3人の関係は彼らのそれ以上に複雑だ。
 雨弓も雨雫も幼馴染で、雨雫はかけがえの無い親友で、彼女の恋を応援して、結ばれたら祝福して、関係の深まる様を見守って、けれど雨弓は彼女を最も苦しい形で喪って。今は自分が雨弓のことを好きで。

「しずくはだいじ。雨弓さんは恋人の、私は親友の雨雫。私達、あの子のことが大好き。
 私、雨雫を好きな雨弓さんが好き。だから……」

 雨雫ごと、雨弓を愛したい。雨弓にも、自分の中の彼女まで愛して欲しい。雨雫自身は悲しい結末を迎えても、2人の中に思い出が生きていることはとても幸せなのだと思いたかった。
 その言葉に、雨弓は聞こえるかどうかの声で「九鈴」と名を呼んだ。
 
 都合がいいかも知れない。欺瞞かも知れない。結局雨雫の気持ちなど本当のところはわからないのだから。それでも、今の自分に尽くせる誠意があるなら、2人の中の彼女が喜んでくれそうな選択を。

 「蛍の光」の流れる中、連れ立って水族館を後にする。外は予報に無い、しかし穏やかな雨模様。宵闇に燐光を放つ「九頭龍」が2人の頭上を覆う。

「て、つないでいい?」

「……ん」

 相合傘の下で、互いに手を差し出す。大きくゴツゴツした雨弓の手。九鈴の手もそれに比べれば小さく細いけれど、固く皮が張って、指にはタコが出来ている。戦いの人生を歩んできた2人の指が絡まると、雨弓にはひやりとした感覚が、九鈴には温もりが伝わった。
 繋がれた手と、照れを隠せずにいる雨弓の横顔を交互に見て九鈴は思う。
 「タフグリップ」は概念を掴めるようなチート能力じゃないから、雨弓の心を掴んで離さないなんて出来ないけれど、能力でじゃなく、少しずつ寄り添って、互いに隣が最も居心地がいいと思えるようになって、こうして歩いて行けたら撿撿。
 
 ゆとり粒子が輝く雨でも、尿臭漂う金の雨でも無い。天から滴るような雫が、2人の頭上へと濯いでいた。

142聖槍院九鈴:2014/01/08(水) 08:49:44
【予告編テイストなエピローグ】

ガラガラガラ。ガラガラガラ。石畳の上でキャリーバッグが車輪を鳴らし引きずられてゆく。◆座礁した原油タンカーから染み出したドス黒い油が海面へ広がってゆく。エビが……カニが……南海の豊かな生態系が危ない……。

ガラガラガラ。ガラガラガラ。石畳の上でキャリーバッグが車輪を鳴らし引きずられてゆく。◆入り組んだ路地裏に遺棄された狂科学者のラボ。ズルリ。乱雑に積まれたバイオ廃棄物の中から奇怪な触手が這い出した。望まれず生まれた異形の復讐が始まる……。

ガラガラガラ。ガラガラガラ。石畳の上でキャリーバッグが車輪を鳴らし引きずられてゆく。◆大規模不法投棄組織のプラントから戦闘ヘリが飛び立つ。機銃を構えたガンナーが赤外線スコープで地上の標的を視認。その人物は……!?

車輪の音が消える。足を止めたキャリーバッグの持ち主の女性は、鋭い視線を上空に向ける。その両手には……二本のトング!緋色の光を纏った漆黒のトングが獲物を求めて牙を開く!

右トングに挟まれた巨大なオイルフェンス塊が頭上高く差し上げられる!左トングに挟まれた台船が揺れる!梃子の原理による大質量ハンドリング!そして……投擲!海面を走るように一瞬でフェンスが敷設される!

右から!左から!襲い来る無数の触手を次々にトングで挟み壁面に床面にタフグリップ固定しながら走る!目指すは触手の湧き出す中心地!コアを破壊しない限り無尽蔵に触手は増え続けるのだ!

容赦ない機銃掃射!降り注ぐ対地ミサイル!だが標的の姿は既に無い!上だ!トングのバネで自らを射出して武装ヘリよりも更に高く!高速回転するローターをトングが捉えタフグリップ固定!揚力を失い落下してゆく……!

地面に激突した武装ヘリの爆発光が、女性の表情を照らし出す。その鋭い瞳は、遥か先を見据えている。

人生は一瞬。掃除は永遠。◆「だからわたしは……。挟み続ける!」◆聖槍院九鈴の掃除は、まだ終わらない!

「頼む!目を覚ましてくれ!」妹の身体を揺すり、雨弓は懸命に呼び掛けた。だがその言葉は届かない。「もう……ておくれね……」沈痛な面持ちで九鈴が呟く。雨竜院畢は目を閉じて静かに微笑んでいる。しかし、その四肢は既に力を失っていた。

143聖槍院九鈴:2014/01/08(水) 08:53:10
「畜生!このままじゃ畢は……」雨弓は床を拳で殴りつけ、空になった酒瓶を恨めしそうに睨みつけた。「おねしょしちゃうね……」九鈴は溜め息をついた。新年会で慣れないお酒を飲み過ぎて泥酔した畢は、安らかな寝息を立てている。

雨弓は畢の小さな体を軽々と持ち上げ寝室へ運ぼうとした。すると、下の妹の金雨が裾をちょいと引っ張った。「おトイレに運んで。私がなんとかしてみる」最年少ながら兄妹で最もしっかり者の金雨は、酔い潰れた姉の世話をする気まんてんだった。

実際、金雨は上手くやり遂げた。絶望的に見えた畢になんとかトイレを済まさせることに成功したのだ。そして、パジャマに着替えた畢と金雨は、兄たちと両親に就寝の挨拶をして仲良く寝室に向かっていった。

……新年会の後片付けを終え、雨弓の部屋にやってきた九鈴は意味ありげに微笑みを浮かべて言った。「わたしもすこし……」九鈴は雨弓の大きな体にしなだれかかる「よっちゃったかな?」「大丈夫か?」雨弓は優しく抱きとめるが……背に隠して構えたトングに気付いていない!

「えーいっ!」素早く繰り出された4本のトングが雨弓の両手両足を床面にタフグリップ固定!身動きのできない雨弓の上へ馬乗りになった九鈴は、胸の前でガチガチとトングを鳴らす!「せめたいきぶん!」酒癖が悪い!

「ちょっと待て九鈴!」おとなしくマグロになっていればいいものを、身の危険を感じた雨弓は反射的に『睫毛の虹』で幻覚攻撃を仕掛けてしまう!風邪予防の加湿器によって湿度は十分!極彩色のベイズリー渦が九鈴の視界を覆い尽くす!

「おえええええっ!」酔っ払いの視界を幻術ジャックすれば当然こうなる!九鈴の口から嗚咽と共に吐き出される新年会の御馳走の成れの果て!タフグリップ固定された雨弓は回避不能!顔面直撃!雨弓はたまらず……もらいゲロ!

あれ……おかしいな……九鈴のイメージが……おかしいな……。まあ、幸せそうだからイイんじゃないかな!

世界改変後の九鈴ですが、清掃局に勤務する傍らトング道場で師範代として後進の指導に当たってます。大会の宣伝効果で門下生も増えたようです。そして時折、七葉からの依頼で危険な清掃ミッションに挑んでます。

2021年春に結婚、秋に第一子を授かります。雨弓と九鈴の間にどんな子が生まれたかって?その話は、またの機会にいたしましょう。

【聖槍院九鈴エピローグ、おわり】


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