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ダンゲロスSS3幕間SSスレ

1メインGK:2013/04/06(土) 00:25:24
溢れ出る創作欲をぶつけよう。

2ロケット商会:2013/04/06(土) 13:50:07
【ノートン卿の栄光・幕間SS(1/2)】

 都内には、私の写真が無数に貼られていた。
 千駄木、谷中、神保町といった古書の聖地では、賞金稼ぎどもが跋扈していることだろう。
 これも偉大なる宿命を背負った主人公のさだめか。

 ユキオの阿呆ヅラさえ私の写真の横に添付されていなければ、完璧だったが。

「俺は反省してますよ、ノートン卿」
 珍しく、ユキオは殊勝なことを口にした。
 ただしその目つきは陰惨かつ兇猛であり、内心では少しも反省などしていないことは、
 賢明なる私にはたやすく看破できた。

「なんでノートン卿の口車にのって、わざわざ都内にまで出てきちまったのか」
『人聞きの悪いことを言うな』
 口の悪いやつだ。学歴の低いやつはこれだから困る。

『私はきみに道を示したのだ。「導いた」という表現を使え、きみも編集者の端くれならば』
「表現の仕方にこだわるのは、ノートン卿のような大作家にお任せしますよ。
 ……千駄木の古本協会本部の噂を仕入れてみたんですけど、みんな血眼じゃないですか。
 古本屋を千人単位で雇ったって話です」

『よし。ちょうどいい』
 一騎当千、という私の力を証明するのに、実に都合のいい単位といえた。
 民は群れる。
 真の英雄はひとり立ち、それらを断固粉砕するのだ。

「いまさらノートン卿に文句言っても仕方ないんですけどね。
 ――見てください、これ」
 ユキオは手元のトラックボールを操作し、私を画面へと注目させた。
 そこには我々が打ち破ることになった、哀れな対戦相手の情報がディスプレイされる。

 我々がこの街について、まず転がり込んだのは、世田谷のインターネット喫茶だった。
 他に拠点らしい拠点はなく、特に、ユキオがかつての古本屋に捕捉されることは避けねばならなかった。
 このクズはほかの古本屋への営業妨害行為、ならびに傷害・暴行などで起訴されているため、
 そうした古本屋の勢力の強い土地は避ける必要があったためだ。
 英雄というのは、道化の従者によって足を引っ張られるようにできているのだから仕方がない。

「まず一人目。弓島由一。どう思いますかね」
『無理だな。ユキオが編集者ではまず勝てん』
 私は冷酷に告げた。

『まさに攻城兵器級の能力を持った魔人だ。
 この大会に参加しており、なおかつ一回戦で当たることになろうとは』
「ですよね。やっぱりこれって」
『私の主人公力が強すぎるためだろうな』
「違いますよ」
 ユキオは無礼にもうんざりした顔をした。

「いいっすか、二人目。こっちの、こいつ――ほら。倉敷 椋鳥。
 ヤバイ顔してるでしょう」
『無理だな。こちらもユキオが編集者ではまず勝てん』
 私は再び冷酷に告げた。

『城塞の天敵となる、例の戦術を使う可能性が極めて高い』
「それだけじゃなくて、似てませんかね。
 こいつのこのプロフィール、能力――」

3ロケット商会:2013/04/06(土) 13:50:46
【ノートン卿の栄光・幕間SS(2/2)】

『あんなやつの名前を口に出させるな』
 私は、私の宿敵であるオレイン卿について思いを馳せた。
 やつの編集コンセプトは『携帯する神殿』。
 人間の精神を操り、《天使》と呼ばれる存在を扱う殺戮文書。
 あのいけすかないクズ以下の冒涜的かつ邪悪――

『確かに似ていないこともない。
 この相手が、オレイン卿の精神汚染を受けていると言いたいのか?』
「もしかしたら、ですよ。いや、一人目の弓島だって。
 都合が悪すぎるぜ。千駄木古本協会が雇った、古本屋かもしれねえ」
『だとしたら、なんだ』

 私はまったく、断固として、軟弱なユキオの精神を糾弾する。
 正義は私にあり、私はこの物語の主人公だからだ。

『逃げ出すというのか? 追放者のように? こそこそと?
 恥を知れ! 私がきみに同行を許したのは、逃げ回るためではないぞ!』
「――わかってますよ。でも、小細工はします」
『策と言え。表現がよくない』
「どっちでもいいですけど。まずは、金かな。あと、コネも必要だ。
 忙しくなってきたぞ……おっと」

 ユキオは手早く画面を閉じ、シャットダウンの操作をした。
 その兇猛な目が、こちらのリクライニングシート付き個人席に近づいてくる、
 複数人の人影を認識していた。

「行きましょう。あいつらを相手にしてる暇はないし」
『よろしい。転身だ!』
「便利な表現があるよなあ」
 ユキオは感銘を受けたように呟いて、立ち上がり、私を開いた。
 乱暴な編集。
 スペルをかき集め、強引に固めるような力ずくの。

 そして、ユキオは周囲の客にも、向かってくる数名の人影――
 恐らく古本屋だろう、片手に魔導書と思しき本を持っている――にも聞こえるような、大声で怒鳴った。

「いいか! あんたらに今すぐ死なずに済む方法を教えてやる!」
 ユキオの影はうごめき、床を這い、壁を伝う。
 古本屋らしき男たちのひとりが、魔導書を開いて何かしようとしたが、遅すぎた。

「いますぐ武器を捨てて金を出せ! そして俺たちの言うとおりにしろ!」
 影が立体化し、私の攻撃が開始される。

 それにしてもユキオの言い方は人聞きが悪すぎる。
 まるで強盗か何かではないか?
 これはあくまでも徴発行為であり、我々に何もやましいことはない!

(以上)

4夜魔口赤帽&砂男:2013/04/11(木) 01:24:44
【幕間SS・『探偵』は推理する生物である】

ザ・キングオブトワイライト開催当日。

「それではっ!命知らずの参加選手たちのご紹介ですっ!」
実況の佐倉・解説の埴井コンビが暫定的に司会を務めながら、選手紹介が行われていた。

会場に設けられたモニターに、参加選手の姿と名前が映し出されていく――そんな中。
夜魔口赤帽の姿は、何故か映されることはなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数時間後、大控室にて。
選手全員を集め、試合に関する子細をスタッフが説明している最中のこと。

「……あー、ちょっといいか」
「ん、なんでしょう内亜柄選手」
「確か、夜魔口とかいうチンピラ……コンビでの参戦、とか言ってやがったのに
 さっきの映像も、そこにいんのも『一人』じゃあねえか。こりゃあ、反則失格退場モンだろ?」

魔人犯罪専門の検事・内亜柄影法が指摘した通り。
今、選手の集まっているこの会場には――夜魔口赤帽と思しき人物の姿は、どこにもなかった。

「あー…… 一応兄貴は幹部っちゅー立場上、姿をホイホイ見せるわけにいかねえんですよ。
 姿を覚えられると、色々と面倒があるっつーか……俺はチンピラなので構わないんですがね?」

頭を掻きながら、砂男が面倒そうに答える。
彼には珍しく、どこかトゲのある言い方なのは――チンピラ扱いに対しての、彼なりの抗議といえる。

「ま、別に構わんだろ。幹部が顔も晒さんような組織なんざ弱小に違いあるまいよ」

横から口を挟むのは、マフィアの首領・儒楽第。
彼自身組織のトップであるが故に、その言葉には内容以上の重みがある。

「……すいませんね、まあどうせ戦うことになりゃ嫌でも拝めるツラです。
 遅いか早いかの違いってことでカンベンしてつかーさいな。
 一応、ルール違反じゃあないってコトでしたし……
 どうせ、こん中にも色々伏せ札してる人はいるでショ。だーったら不平不満の言いっこなしでお願いしやす」

気怠げに答え、肩を竦める砂男。
結局、内亜柄も儒楽第も、他の者もそれ以上の追求はしなかった。
しかし、追求されなかっただけで――それを観察している者は、確かにいた。

――『探偵』達である。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

5夜魔口赤帽&砂男:2013/04/11(木) 01:27:57

「ん〜……な〜んで姿隠してんだろうね〜……
 案外『姿がない』魔人とか〜?いやいや、それなら多分スペクターとか〜
 透明っぽい名前をつけるよね〜……なんで『レッドキャップ』なのかな〜?」

偽名探偵こまね。
目を半分閉じながらも、間延びした独特の口調で呟く。
その頭脳に宿る『探偵』の本能に逆らうことなく、推理を進める。



「……姿を見せない……見せたくない。
 ――as a mock? (欺く、という意味の英語)」

ラーメン探偵・真野事実。
ラーメンと探偵、そして英語の巴調和による独自のスタイルは、異端ではあるが――
彼もまた、紛れもなく『探偵』なのだ。



「……何故、魔人能力や武器を明かしたのでしょうか」

そして――最も年少ながら、最も『探偵』らしい、『本格派』の少女。
遠藤終赤もまた、推理を始めていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「いずれにしても、次の対戦相手である以上……
 答え合わせはすぐ、ということになりそうですが」

試合の組み合わせが発表された後、遠藤はさらに推理を続けていた。
『本格派探偵』であるとはいえ、遠藤はまだ14歳。
探偵塾で叩き込まれた知識はあっても、裏社会の事情には――まだ、さほど明るくはない。
あの場で砂男が言った理由も、あながち間違ってはいないのだろうが……

(……あるいは。わざと『伏線』を張っている?何のために?
 『探偵』である拙や、他の選手に対する牽制……?)

「……サン、遠藤サン」

「えっ!?」

声をかけられ、大袈裟に驚く遠藤。
推理に没頭していたが故に、些細な呼びかけに対しても無防備になっていたのだ。

(不覚――! これが『現場』なら、私は死んでいた――)

己の迂闊を恥じながらも、感情を押し殺しながら声の主に向き直る。
声を掛けた相手は、他ならぬ次の対戦相手――夜魔口砂男だった。

「や、考えゴトしてた途中ですんませんね。
 ちょーっと相談事っつうか、お願いがありまして」

「お願い、ですか……先に断っておきますが、共同戦線はお断りいたします」

緩んだ表情の優男相手に、やや過剰とも言える警戒心で望む遠藤。
しかし、魔人ヤクザ相手に警戒心抜きで会話や交渉を行うことは、取り返しのつかない悪手であることを彼女は学んでいる。

だが、そんな彼女の警戒は肩すかしに終わる。

「や、それよりも。 戦闘の海上が海水浴場でしょ?
 もし良かったら、水着に着替えてくんねっスかねーとか思っちゃったりして」
「……はい?」
「だって海水浴場ッスよ?バトんなきゃいけないのはわかってんですけど、
 ただボコスカやるだけじゃー面白くないッスよ。勝つにしろ負けるにしろ、どうせなら
 潤いっつうかー、オアシスっつうかー、オニイサンちょっとした役得が欲しいなー、って」
「……申し訳ありませんが、拙は探偵としてこの戦いに挑んでおります。
 貴方と拙は敵であり、暴力団員と探偵でもあります。……馴れ合うことは、できません」

呑気に欲望丸出しの“お願い”をする砂男に、呆れるような溜息を思わず漏らしながら。
遠藤は、それでも年長者への礼儀を忘れぬよう、丁寧な言葉で断りを入れた。

「……ま、そりゃそうッスよねー。
 んじゃ、もしアンタが俺達に負けたら、そん時は水着姿拝ませて下さいな」
「……」

なおも食い下がる砂男に、遠藤は怒りや呆れを通り越し何か憐れめいた感情を抱き始める。
話を変えようと、遠藤は話題を切り替えにかかる――砂男が答えに詰まるであろう話題を。

6夜魔口赤帽&砂男:2013/04/11(木) 01:30:03
「砂男さん。パートナーの赤帽さんは何故、姿を晒さないのでしょうか」

その言葉が、遠藤の口から放たれた瞬間。砂男から、余裕が消えた。
引きつる口角、まばたきの回数の減少。
その一瞬の変化を見逃さず、遠藤は指を突きつける。

「……やー、それならさっき説明した通りで」
「いえ。きっと『真の理由』があるはずです」

取り繕う余裕は与えない。探偵術の初歩だ。
そんな初歩の探偵術に、あっさりと砂男は――折れたように見えた。

「あー……じゃあ、言いますけど……兄貴の面子にも関わるコトなんで、ご内密に。
 ……兄貴、身長が15cmしかないんですよ」
「……はい?」

深刻そうな表情を浮かべながら、兄貴分・赤帽について語り出す砂男。
対照的に、またも呆気にとられる遠藤。

「人斬りの悪鬼・夜魔口赤帽の正体がそんなちっこいのだってバレたら、威厳とか台無しでショ?
 なんで、伏せられるウチは伏せておきたかったんスよねー……あっはっは」

ケラケラと笑う砂男に、今度は遠藤が食い下がる番となる。

「身体的特徴がコンプレックスになっている、というだけでわざわざ隠すわけが――」

しかし、その食い下がりは――ここでは、無為に終わる。

「……あ、スンマセン兄貴、いや別に兄貴を笑いものにしたかったワケじゃ」

砂男の挙動が、急に不審なものとなる。
遠藤の探偵眼を発揮するまでもなく、その原因はすぐに解った――

砂男の喉元に、緋色の刃のドスがつきつけられている。
ドスは砂男の懐――ジャンパーの影、内ポケットの辺りから生えるように突き出ている。
おそらくは、あそこに居るのだろう……夜魔口赤帽が。

「と、とにかく! お互いガンバりましょうや、チャオ−!」

血相を変えたまま、砂男が踵を返して立ち去る。
おそらくは――この後、赤帽に叱責されるのだろう。口頭注意で済むかはともかくとして。

「……推理は『現場』で、ということですかね」

砂男を遠目に見ながら、遠藤は――改めて『探偵』の顔に戻る。
この戦いに望むことを諦めた『兄弟子』に恥じぬ推理をせねば、と決意を新たにしながら。

7ゾルさん:2013/04/11(木) 11:14:24
【異世界人ゾルテリアの挑戦ソシーズ カップラーメン編】

「ふむ、これが、『らあめん』か…」

どこかのお嬢様系アイドルかとばかりにゾルテリアは初めて見る
カップラーメンに興味津々だった。

参加者の一人にラーメンの使い手がいると聞かされた彼女はそのラーメンなるものが
自分の防御膜にどのように作用するのか試す必要があった。
果たしてラーメンとは性属性を持つのもか否か。
控え室に置いてあった選手用のカップラーメンを手にゾルテリアの挑戦が始まる…!

「…よ、読めない」

カップラーメンの側面に書かれた小さな字、ゾルテリアにはこの説明が読めなかった。
こちらの世界に来る際に転送魔法の補助効果で自動的に読み書きは習得していたが、
こればかりはどうしようも無い。

「おお、これは便利ね。私の居た世界にはこんなの無かったわ」

スタッフが貸してくれた老眼鏡を掛けると手元の小さな字がハッキリと見えた。

「蓋を開けて湯を入れ三分待つ。思ったより簡単だわね。それじゃあやってみよう」

ゾルテリアはカップラーメンの底をレイピアでくり抜き、そこから水道のお湯(45度)を注ぎ
三分間上手くできる様祈って待っていた。

「これで合ってるのよね?じゃあ実験開始」

カップラーメンをこぼさないように慎重に持ってトイレに入り、
タイツを脱いで準備完了。

「我が名は元女騎士ゾルテリア!この世界の悪を討ち再び騎士の証を取り戻す為、
いざっ勝負だカップラーメン!」

名乗りを上げた後、カップラーメンを傾けて中身を一気に股間に注ぎ込んだ。

「ふぁぁぁぁぁん!凄いぃぃん!!!!!らめぇおかしくなっちゃうのぉぉぉぉ!」

三分後、あっという間にイッてしまったゾルテリアは体型が崩れるより早くトイレを出て、
誰にも見られない様に自分用の個室に猛ダッシュで帰った。

「こ…これがらあめん…。技術の無い私が手探りで行なってこうなのだ。
あのらあめん使いが本気で来たら何秒持つだろうか…。くっ、奴と当たらない事を祈るしかないのか…」

ベッドに寝転がり、腹肉を揺らしながらゾルテリアはラーメンの恐ろしさに震える。
股間には底に穴の開いたカップラーメンが棒で固定してあるかのようにぶら下がり、
シーフードヌードル故かイカ臭を発していた。

こうしてゾルテリアはラーメンについて盛大な勘違いをしたまま、その対策に頭を悩ませたのだった。

おしまい

8聖槍院九鈴:2013/04/12(金) 08:29:37
【幕間SS・贖罪の天使#1】

「ドーモ、ロブスターです」
弟の九郎が両手のトングをカチカチと鳴らしている。
これは、小説『ニンジャスレイヤー』に登場する忍者の物真似である。
このロブスターというのは主人公ではなく悪役忍者だが、かなり人気が高いそうだ。
生体改造によって両腕が巨大な鋏になっており、暗黒神の手下として時空を超えて暗躍するらしい。
忍者の枠を超えすぎてると思うが、バルタン星人みたいなものだろうか。

だが、今は朝練前の大事な清掃活動中だ。
どうも弟は精神修養がなっていない。
あとで母さんに怒ってもらおう。
「まじめにやって」
練習用の竹トングで九郎の鼻をふにっと優しく挟む。
「アバーッ!サヨナラ!」
九郎は爆発四散した。

9聖槍院九鈴:2013/04/12(金) 08:32:36
【幕間SS・贖罪の天使#2】

九鈴は夢から目覚めた。
(フユコ……と……チノキ……)
九鈴は布団の中で、虚空に向けてチョップを繰り出した。
父と母が死んだのち、九郎が眠れぬ夜によくやっていた動作の真似だ。
小説『ニンジャスレイヤー』の主人公・フジキドは家族を失った孤独な男だ。
弟をも失った九鈴も、天涯孤独の身である。
だが、自分はフジキドとは違う……九鈴は自らの額にチョップした。

(わたしのせいだ。ごめんね……本当にごめんね)
九鈴は静かに泣いた。
核を落としたのは。
ウィルスを解き放ったのは。
自分なのだから。
彼女は狂っていた。

(幕間SS「贖罪の天使」おわり。第一回戦「雪山」に続く)

10猪狩誠:2013/04/12(金) 21:49:19
【幕間SS・試合前夜】

関東有数の指定暴力団、炭夜紫会。
その由来は江戸時代からの博徒の流れを汲み、今時珍しく任侠の志を残す組織である。
彼らは闇市の管理統制や、略奪行為からの市民の保護など、自警組織として核投下後の関東の秩序を裏から支えてきた存在であった。
しかし続くパンデミックにより組織の力は衰え、大陸や関西などから流入しようとする外部勢力の台頭に押され始めていた。
表立った組織的対立を避けたい彼らは、今回の大会「ザ・キングオブトワイライト」を、その威を示す一種の代理戦争の場として利用することを考えた。
猪狩誠にトーナメントの話を持ってきたヒイラギ組はこの炭夜紫会の傘下であり、よって誠は炭夜紫会の代表としてその威信を背負うことになる。
トーナメント前夜、壮行会へ呼ばれた誠は炭夜紫会本家へ向かっていた。

送迎のリムジンを運転するマサが後部座席の誠に声をかける。
「まさか本当に選抜を勝ち抜くとはな。推薦した俺も今日は鼻が高いってもんだ。改めて礼を言わせてもらう。ありがとうな、誠」
「やめてくださいよ、水臭い。マサさんも俺の家族じゃないですか」
「な、何言いやがる。よさねえか馬鹿野郎」
慌てたマサは思わずハンドルを切り損ね、危うくガードレールにぶつかりそうになる。
「俺みたいなヤクザと家族だなんて、冗談でも口にするもんじゃねえ」
「関係ないですよ、そんなこと。だって俺、世界中のみんなと家族になれたらなって、そう思ってるんですから」
バックミラー越しにマサを見つめる誠の眼差しは、どこまでも深く澄み渡り、マサは思わず視線を逸らした。
(誠。おめぇはやっぱり…)

11猪狩誠:2013/04/12(金) 21:51:18
「あのよ。俺の立場で今更こんなこと言うべきじゃないんだが」
マサはそこで言葉を切り、逡巡してから後を続けた
「今からでも辞退することはできないか?」
「マサさん…?」
「選抜だけで13人が殺されたってな。その現場の片付けをしたのが俺だ。
俺も極道の世界に足を踏み入れてから十年以上たつ。修羅場もそれなりに潜ってきたつもりだ。だがよ、あれは…」
<正気じゃねえ>マサは喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
「俺は魔人の戦いってのがどういうものだかまるでわかっちゃいなかった。
本番がこんな程度じゃすまねえくらいバカな俺にだって想像がつく。
お前みたいなガキによ、これ以上こんなことに関ってもらいたくないんだ。
…俺は昔、ドンさんに随分と世話になった。
その縁で、ドンさんが孤児院を開いてから陰でずっと手伝ってきた。
だからよ。俺にとっちゃ、お前らみんな…
……いや、なんでもねえ。やっぱり忘れてくれ」
「あはは。なんだ、マサさんも俺と同じ事思ってるんじゃないですか」
「かっ、勘違いすんじゃねえ!俺はおめえみたいな糞ガキの心配してんじゃねえんだよ。ただ、試合でお前の身体に何かあったら、チビどもが…」
「ご心配ありがとうございます、マサさん。でも、ここまで来て後に引くわけには行きません。それに、縁が」
最近になって入院中の縁の具合が急変したのだ。折しも選抜試験中だった誠にもそれは力の流入と言う形で伝わった。
現在は小康状態に落ち着いたものの、しばらくは絶対安静とのことで、いつまた発作が起きるかわからないらしい。
組から誠に前渡しされた報酬のほとんどを病院に支払ってなんとか手術の段取りをつけてもらってはいたが、術後のことも考えればまだまだ相当な費用が必要になる。
(待ってろ、縁。俺が必ずなんとかしてやるからな)
静かに決意を燃やす誠の瞳は、先ほどとは違い鋭利な光を宿していた。
「誠。変なこと言っちまって悪かったな。こうなったら俺も一蓮托生だ。俺に手伝えることがあったらなんでも言ってくれ」
「そう言ってもらえると助かります。実はマサさんにお願いしようと思っていたことが…」

一回戦に続く

12トリニティ:2013/04/13(土) 02:43:03
【プロローグのような幕間SSのような何か】

ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜参加者のひとりであるトリニティの宿泊するホテル。
水色の髪の少女―――トリニティを名乗る女性たちのひとりである栗花落三傘(つゆり みかさ)が備え付けられた机に向かい座っていた
正体を隠すためのフードは外している。

「ですけど」
(まさか、夢追さんがいらっしゃるとは思ってもみませんでした)
岩名が集められた会場を思い出しながら言う。
岩名と奏―――三傘と同じトリニティである彼女たちは三傘の中にいる。
そして同時に表に出ることはできない。
何も知らない人間がこの光景を見たならばただ三傘が独り言をしゃべっているだけに見えただろう。

(あれは正確には佐倉光素、夢追中とはまた別の存在)
岩名の言葉を奏が訂正する。
(そうでございましたね。私はあの方が復活した時にはすでに卒業していましたものですので)
岩名が言う。
(ふふ、それにしてもあの方は特にお変わりはないようで)
「そうですね。相変わらず、魔人能力観察が好きなようでした」
(インタビューにいつここに飛び込んできてもおかしくはない)
「雨弓さんがいることも考えれば思っていたより早く素性がバレるかもしれないですね」
雨弓が参戦していることで彼の妹の畢や傘部にいた雨竜院家の誰かが試合を観戦するかもしれない。
そうなったならかつて傘部にいた三傘のことに気づいてもおかしくはないだろう
(別によいでしょう。もとより長く隠し切れるなどと思っていなかったではありませんか)

戦いが始まれば、いずれ自分たちも能力や姿を見せることになるのだ。
そうなればわかる人間はどうせ出ただろう。
それが早くなるというだけの話だ。

「それにしても―――」
三傘が言葉を一度止めたあといった。
「この大会で何か元に戻るヒントが得られればいいのですけどね」

かつて、パンデミックの時にひとつになった身体から元に戻る方法を探す中、トラブルに巻き込まれた三人はその結果として招待状を手に入れた。
世界中から強者が集まるこの大会、何か情報をを得られるのではないかと考えた三人はトリニティと名乗り参加することにしたのだ。

別にひとつになったことでメリットもないわけではない。
身体はひとつだが命は独立している。故に表に姿を顕した誰かが殺されても、それだけで死ぬことはない。
それにこの身体になって命が長らえたことに感謝してもいる。

だが、友人同士であるとは言え元は別々の人間なのだ。
元に戻りたいという欲求が出てくるのは自然なことだろう。

(優勝で戻れるなら理想的)
副賞として可能な範囲なら願いを叶えるという。それで元に戻れるなら一番良い。


もしそうでなくても勝ち進む方が情報は得やすいだろう。

(ふふ、難しく考える必要はないではありませんか。ただ勝てばよいのですから。そしては私たちは十分な実力を持っているでしょう)
「そうですね」
(とてもシンプル)
(まずは目の前の敵を破りましょう)
「ええ」

決意を新たに三人の夜は更けていく。

13ゾルさん:2013/04/13(土) 07:34:57
【幕間SSゾルテリアの説明〜女騎士とは】

「ゾルさん、あなたのプロフィールについて質問いいかしら?」

今大会のマネージャーであり、こちらの世界にワープしてきた
ゾルテリアをスカウトした銘刈耀は書き込みの終わったプロフィール用紙を
見ながら疑問を口にした。

「職業元女騎士とあるけどそちらの世界ではどこかの国に仕えていたの?」
「えーと、国に仕えていたというのは正しくは無いですね。
国の為に害獣や異教徒や盗賊を倒すといった善行を積み、
その結果女騎士の資格を得て装備や給料が支給される形式でした」
「成程ね」

銘刈はRPGの冒険者の上級職の一つとして女騎士があるようなものだと理解する。
そしてもう一つの疑問を聞き出すことにした。

「それでゾルさん、あなたはこの大会で何を求めるの?
ああ、この質問は参加者全員に聞いてるもので、無回答でも構わないわよ」
「この大会には多くの悪がまぎれていると聞かされました。
ヤクザ・マフィアと呼ばれる暴力により存在を黙認されている賊、
破壊衝動に身を任せた危険人物、そういった存在を打ち倒す事が巡り巡って
私達の世界の平和にも繋がるのです」
「そういう建前はいいの、ゾルさん。私が聞きたいのは副賞に何を望むかって事」

ゾルテリアは少し考えてから答えた。

「良くある話ですが…、家族を一人生き返らせたい。
私達の世界の人達に気づかれぬ様に蘇生を行なってもらう事は可能ですか?」
「状況によるわ、優勝後に応相談ね」
「分かりました、ならばこのゾルテリア、大会に参加する全ての悪を打ち払い
主催者の為勝利する事を誓いましょう!」
「そんな事言っても贔屓はしないから」
「…言ってみただけです。結果的に私が悪を倒した事になって
女騎士の資格と大会の賞品が貰えればそれでいいんです」

それでいいのか元女騎士。そう思いつつも、こちらの世界とのしがらみの無い
ゾルテリアは運営側に都合の悪い選手を潰すのにもってこいの戦力ではあるなと
銘刈は思うのだった。

おしまい

14ふきゅう:2013/04/13(土) 18:18:16
【幕間SS・落葉の暗躍(1/2)】

「行方不明?」


七葉樹落葉は女の言葉をそのまま繰り返した。
スーツ姿のエージェント、銘刈耀が告げた内容は次の通りである。


昨夜未明、試合会場の一つである「図書館」の警備部隊「槐」が行方不明となった。
消えたのは警備に当たっていた者全て。
定時連絡が途絶え、交替のため詰めていた者たちが現場に急行。
会場外周で人数分のIDカードと破壊された通信機を発見した。

戦闘の形跡は一切なし。

一回戦では使用されない会場であるため、大会運営に支障なし――

……だが。

「まさか集団脱走ではないでしょう。何者かの攻撃によるものとみるのが妥当かと」
「でしょうね」

ぞんざいに同意して、落葉は時計を取り出して眺めた。
報告を吟味する。


銘刈は言葉を続けた。

「もっとも所詮『槐』は魔人能力も使えない末端にすぎません。
 この程度、我々にとってはたいした損害では……」
「お前たちにとってはそうだろうな。
 せいぜい遺族補償を負担するホエール・ラボラトリへの
 顛末書の内容でも考えていればいいのだから」
「……お言葉ですが、まだ彼らが死亡したと決まったわけでは」
「心にもないことを」

その鉄面皮の女が心中をけっしてのぞかせないというのは落葉も知っていた。
が、確信している。
……七葉の名のもとに雇われた一般人の安否など、どうとも思っていまい。

「……それで?」
「損害は軽微とはいえ、これは大会への敵対行為です。看過はできません。
 以降、機関の人員が事態を引き継ぎます」
「そう」





(骨の髄まで狗ね)
他にも二、三の報告をした後に退出した銘刈の様子を思い返し、
落葉はそんな感想を抱いた。

つまるところ、銘刈にとっての周囲は、
機関にとっての敵か、敵ではないかの二つでしかないのだ。
それで問題は生じない。
裏にどんな思惑があろうと、機関に仇なす行為は潰す。

明快な原理だ。
覆すのは容易ではないが、単純だとも言える。
そこに付け入る隙がある。

(自分たちが世界を相手取っているという思い上がりが結局は命取りなのよ――
 私も、あなたたちも……誰にもそこまでの力はない)


落葉は手元にある資料のことを思った。
森田が拾ってきた情報内容――
銘刈は『好戦的な選手同士の小競り合い』と評したが。

一つ一つの情報内容は些細でも、繋がりを見出すことは落葉には可能だった。

弱冠9歳という幼さで七つの財閥を束ねる長として君臨した落葉が、
五年もの長さにわたって表は優れた経営者として部下を導き、
裏は目高機関に気付かれぬよう牙を研ぐ――それを可能にした能力の一つ。

『未来予測』……魔人のような特殊能力ではない。
イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルは、政治家に不可欠なのは第一に
「将来なにが起きるかを予言する能力」だと発言した。
(第二に必要なのは「予言が外れたとき、それを弁解する能力」だと続いたが)
情報を収集し洞察力をはたらかせることについて、落葉は稀有な才覚がある。

その感覚が指し示す。

痕跡を残さない組織的な攻撃――
しかし、被害を考えると、奇襲のアドバンテージを有効活用したとは言い難い。

……襲撃者たちの目的が「目高機関」への攻撃だと考えるなら、だが。

15ふきゅう:2013/04/13(土) 18:18:45
【幕間SS・落葉の暗躍(2/2)】

(ねらいは……陽動)

落葉は静かに結論づけた。
資料を再び開帳する。
「槐」の件と同時期に世田谷で行われた戦闘行為。

参加者同士の小競り合いではなく、参加者に対する外部からの攻撃。
そこで起こったのは「書物」使い同士のぶつかり合い。

古書業界における昨今の人事異動の激しさと合わせて考えると……答えは見えた。

襲われた参加者の相川ユキオという男。
彼の手にする書物はおそらく「魔導書」――それも写本ではないだろう。
襲撃者の正体は、魔導書を求める古本屋。

グレードの低い「槐」への襲撃は、古本屋のねらいを悟られぬための目くらましだ。
彼らの本当のねらいは、機関に干渉されずに魔導書を回収すること。
しかしそれは叶わなかった……相川ユキオへの襲撃者は返り討ちに遭った。
ついでに相川ユキオがその場の不特定多数を相手に窃盗をはたらいたのが気になるが。


「……」
落葉は唇を噛む。

現時点ではいざ知らず、
銘刈が敵の正体に気がつけば――必ず気がつくだろうが――規模の大きさから見て、
必ず七葉の擁する戦力まで動員して古本屋の殲滅に動き出すだろう。

冗談ではない。
落葉の目的のためには、七葉の力をいたずらに損耗させるわけにはいかない。

かといって魔導書を七葉で回収するわけにもいかなかった。
相川ユキオと魔導書を確保したところで、古本屋の標的が変わるだけだ。
表立っての敵対は望んではいないというだけで、
実際に相手が目高機関になろうとも古本屋は撤退も容赦もしないだろう。

ならば。

「……森田」
「ここにおります」
落葉の声に、隣室に控えていた秘書はすぐに応じる。
満足して、落葉は立ち上がった。自ら扉を開く。

「お嬢様?」
「移動するわ。運営本部に、私が挨拶に出向くと通達して」




(相川ユキオを味方につけるしかない……か)
大会を運営するスタッフ、特に実況役と審判役には会っておく必要がある。
相川ユキオの邪魔をしないよう、それとなく誘導しておいたほうがいい。


古本屋が血眼になって魔導書を求めるのは、それだけの価値があるからだ。
――さながら千の軍勢に対抗するポテンシャルを秘めるほどの。

彼を暗にバックアップして古本屋を壊滅させる。
機関としても、利害が一致している以上は邪魔はしないだろう。

それは元々の落葉の思惑にも沿うものだった。
有望な参加者とのコネクションを作ること――機関へ復讐するための戦力として。



「……先手は譲ったから、今度はこちらの手番よ」


ウィンストン・チャーチルはこうも言っていた。
曰く、
「復讐ほど高価で不毛なものはない」――と。

落葉の目的の終わりに何が待つのか、本人ですら知らない。


(了)

16聖槍院九鈴:2013/04/13(土) 19:43:37
【幕間SS・残された者達】

「ひさしぶりです。雨弓先輩」
食堂で知り合いを見つけてしまった九鈴は意を決して話し掛けた。
雨竜院雨弓は九鈴より一学年上で、以前は雨竜院家と聖槍院家の間でそれなりに交流もあった。
「おう、九鈴じゃないか。久し振りだな。いつ以来か――」
そう言いかけて、雨弓はしまったという顔で固まった。
それは核の落ちた日。
九鈴の両親が亡くなった日以来であることを思い出したからだ。
九鈴の弟と親族も、新黒死病で亡くなったと聞いている。
雨弓も、大切な人を喪った悲しみについてはよく理解できる。
(だが、なんと切り出すのが良いか――)
雨弓の手が、無意識に胸のロケットペンダントを掴んでいた。
その手の動きを見た九鈴は、雨弓の考えていることをおおよそ理解した。
九鈴もまた、雨竜院家で起きた悲劇について知っているからだ。
しばしの優しい沈黙の後、二人は近況を述べ合い、お互いの一回戦の健闘を祈って別れた。

(――どうやら俺を避けてた理由があるみたいだな)
雨弓の顔が魔人警官の表情になった。
九鈴の持つ黒いトングから漂う血の匂いに気付いていたからだ。
だが、今の雨弓は魔人警官ではない。
雨弓は素の顔に戻り、ザンバラ頭をわしわしと掻いた。
トング道の殺人術としての側面はまだ見せてもらったことがない。
九鈴と戦うことになったらば、それは楽しい戦いになるだろう。
その前に、倒すべきは第一回戦の相手――黄樺地セニオとハレルア・トップライト。
激戦の予感に熱くなる体を鎮めるため、雨弓は冷たいアルコール飲料を一気に飲み干した。

17紅蓮寺工藤:2013/04/17(水) 03:50:06
【アンナウンスンー】

■登場人物紹介
防府野屠(ぼぶの・ぼぶ):観客の少年。自販機の前で困っていた紅蓮寺工藤に
小銭を貸したところ、雷が降ち『フィクション・ファンクション』を受ける。
あだ名はボブ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「みなさん……僕はいま、秘密のアジトにきています」
ボブは匍匐前進で会場の裏に忍び込んでいた。選手や運営など関係者以外は
立ち入り禁止のエリアだ。

「写真もいくつか手に入れました……後でみなさんにもお見せします」
なんたる違法行為! だが彼の写真の大半はピンボケで何も写ってはいなかった。

彼は先ほど、世界を手に入れた。真実を手に入れた。
世界は物語だ。ここでは物語を競っている。票が勝敗を決める。
同時に、むくむくとわき上がる疑問もあった。彼には強い使命感があった。
この疑問を、運営に確かめなければ!

「そうだ……みんなが、勝ち残らせたいほうに票を入れるだって? どうなってしまう?
戦いたくない相手に票は入れない! 奇抜なSSは認められなく、無難なものが……
コワイ、課金な……?」
「君は何を呟いているんだね」
「アイエッ!?」

突如、上から声がしてボブは悲鳴を上げてしまう。
声の主は耳の長い人影であった。その者は後光をまとっている。コワイ!

「『消去法の判断は必要ない』……積極票を投じろとwikiも言っている。キミは
wikiも読まないで投票に参加するのかね?」
「ヒッ」
「それと、ダンゲロスは全て無料のコンテンツだ。参加するのも読むのもすべて。
当然お金を払ったって勝利を買うことはできない。正々堂々だ。わかったね?」
「アッハイ」

そうしてボブはひかる人影に連れ帰られ、一緒にホームパーティーをしました。
よかったね!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■登場人物紹介
エルフの戦士(えるふのせんし):ゾルテリアと同郷から流れ着いたエルフ族。
属性は光でジョブは戦士。同じエルフが戦うと聞いて見物に来たところ、トイレ待ちの
紅蓮寺工藤に順番を譲った関係で『フィクション・ファンクション』を受ける。

18遠藤終赤:2013/05/02(木) 02:59:58
*肥溜野さんがフリー素材になったので勝手に書かせていただきました。


「いや!あああぁ……う……いや……ぁ、またッ」
『――ビタンッ!』

「ぁ……う……いや……あ、ぁぁぁっ」
『――ビタンッ!』

「や…ぁっ、いつまで……っ」
『――ビタンッ!』

「いつまで、続くの……」

 ビタン、ビタン、と何度も激しい痙攣を起こす女性。
 スーツに締め付けられた胸のヘドバン。豊満のヘヴィ・メタル。
 その観客ならぬ演奏者の肥溜野森長は愉悦の表情を浮かべていた。
「ぐふふふ……どうですか、どうですか、『銘刈』サン、…」懐中電灯代わりの携帯で照らされた女性のヘソ部分。彼はそこを凝視することで能力を使用している。

 ヒーローものにおいて、黒ずくめの全身タイツがアジトにしていそうな廃工場。その一室で、銘刈と呼ばれた女性を相手に、肥溜野はその能力『千年悪夢』を発動させている。
 ヘソを通じて、対象に最悪の敗北を幻視させる、凶悪な精神攻撃。
「や……ぁぁぁっ」肩をおさえる女性。
「何でしたっけ……魔人の大会……ですか。ぐふ、可愛い子がいるなら良いんですけどねェ、そうでないモンとぶつかったら、……嫌じゃあないですか。棄権ですよ。それが駄目ならそもそも参加したくはありませんねェ」彼は『銘刈』に大会の参加者として勧誘されていた。肥溜野に戦闘能力は無い。大金を手にするチャンスとはいえ、痛みを伴うリスク。自分のリビドーを満たせない仕事を積極的に受ける肥溜野ではなかった。

「う……あっ あっ」
「ぐふふ、なかなか時間がかかりますね。素晴らしい」『千年悪夢』は、その対象が『屈服』の言葉を放つことで、ようやく解放されることができる。それは、心からの屈服でなければならない。
 ここで彼女が屈服の言葉を発していれば、肥溜野が大会に参加することは無かっただろう。しかし、彼女の口からその言葉が発されることは『無かった』。
「しかし僕も興味をそそられます、見えてくる幻視の中で、アナタをいじめているこの女性は――」

「興味を持っていただけるとは光栄です」

「おわ!?」肥溜野の後頭部につきつけられた金属筒。思わず携帯を取り落とし、両手を挙げる。そのような状況にありながらも、前方に倒れた女性のヘソは凝視し続ける。「アナタは?」
「銘刈と申します」と背後の女性は言った。「そこに倒れているのは、私がスカウトした私の『代理人』。名を『綿谷』。肥溜野様の能力を警戒して、私のふりをさせ、接触させました」
「ではアナタも豊満なのですね」
「大会勧誘の件ですが」銘刈は続ける。「受けて、頂かないと困ります。現参加者中、精神攻撃能力者の層が薄く、これでは大会の意図した選抜が機能しません」
「はぁそうですか」と、肥溜野。「それじゃあ。僕も、困ります。受けて、頂かないと――」眼を伏せた。「――アナタにも僕の能力を受けて頂かないと、ほら、もう」口元が卑しく歪む。「我慢できない」

「ハァッ……ハァッ」二人の目の前に立ち上がったのは、『代理』と呼ばれた女性、綿谷だ。「うあ……あああああああああああああああっっ!!」

「――この人は銘刈サンを『愛して』いたのに、さっきまで銘刈サンに酷い目に『あわされていた』んです」肥溜野は冷静に告げた。「かぁわいそうに」
「あああああっ!銘刈さん!銘刈さん!ああ……信じていたのにッ!」
 対象にとって最悪の幻視を見せるという『千年悪夢』。
 もはや彼女は、幻視と現実の区別がつかなくなっていた。綿谷はそばに落ちていたガラス片を掴み取ると、二人に向かって駆け出す。

「……っ!」銘刈は肥溜野の上半身を組み伏せると、拳銃を取り出し発砲。

「――あッ」綿谷の肩に銃弾が当たり、ドサリ、と倒れる。
「……何とも浅慮な」銃を片手で構えた銘刈は大きく息をし、肥溜野を取り押さえた。
「ぐふ……ふふふ」
「ああ……あああっ」綿谷は肩をおさえて、泣き叫んでいる。
「ぐふ……。これで、近くにきました」下を向き、綿谷が取り落としたガラス片の反射を視る。「アナタの姿さえ、これで、見えれば……」
「…………」

「ヘソの位置さえわかれば。……能力も、使え――ガファッッ!!」言葉が中断される。「?ァ……が??」肥溜野の顎が銃弾で破壊された。

19遠藤終赤:2013/05/02(木) 03:00:15

「大丈夫よ、うちの医者が治してくれるから」肥溜野の両眼を蹴り潰し、ガラス片を踏み砕き、銘刈は言う。
 綿谷に向き直る。「貴女いま、『銘刈さん』って呼んだ?」倒れた彼女に近寄る。「いつもは『プロデューサーさんッ』って呼ばせているのに、おかしいわね……?」
「あ……ぁぁ」
「それに、私の『偶像崇拝(アイドルマスター)』の効果が、こんなに簡単に切れるとは思えない……」綿谷の顎を手に取り、顔を近づける。「頭に針でも埋め込まれた?……あの手芸者か、それとも、別の派閥かしら?」

 かの大災害、パンデミックを引き起こした『魔人』。それを支持し、匿う組織がかつて存在した。綿谷はその組織に所属し、パンデミック事件の片棒を担いだこともあった。事件収束後、綿谷を銘刈が見つけ、情報を引き出そうとしたが、……すでに関連した記憶は人為的に消去されていた。銘刈は彼女を匿い、顔を変えさせ、手足として使うことにした。綿谷の敵はあまりにも多い。

「ぁ……ぅぅう」
 綿谷の精神はまだ完全に壊れてはいない、綿谷が『屈服』の言葉を放つ前に、肥溜野が能力の使用を止めたからだ。しかし、それは綿谷にとって不幸なことだった。
「例の『記憶』のこともあるし。やっぱり、一度、ぜんぶ、壊さなきゃだめね」綿谷の首を指でなぞる銘刈。特殊金属の縄を取り出し、綿谷を縛る。
 悪堕ち――肥溜野の能力を『何度も』使えば、あるいは、失われた情報を、彼女の海馬から引き出せるかもしれない。と、銘刈は考えていた。今回の勧誘の半分は、それが目的だ。
 ――しかし、もういい。綿谷を壊すなら、せめて、自分の手で。「残念。……貴女のことは、愛していたのに、本当に、残念」

 言いながら、かすかに疑問を感じる。あの時、肥溜野はガラス片で背後の銘刈を見ようとした。この暗い工場内。下を向き、真っ先に眼に入るのは懐中電灯代わりの携帯の光だ。角度から考えて、銘刈の姿は肥溜野の影に隠されてどっちみち、見えなかったのではないか……。
「――ああ」


「影が…… ないわ」


 試しに綿谷の姿をライトで照らしてみると、『この世界』で、影はできなかった。



「いや!あああぁ……う……いや……ぁ、またッ」
『――ビタンッ!』

「ぁ……う……いや……あ、ぁぁぁっ」
『――ビタンッ!』

「や…ぁっ、いつまで……っ」
『――ビタンッ!』


「いつまで、続くの……」

20トラック野郎・等々力縁寛:2013/05/02(木) 08:27:13
妻も子も新黒死病で死に、職も我が家も失った。自分には何もない。
そして中年男性は、彼を社会的存在たらしめている最後の砦――衣服を破り捨てた。
「新黒死病に対抗して――チンコこすろう!」
極限大露出! しかしその怒張に手が添えられるよりも速く、制御を失ったトラックが轢殺!
制御を失った? いや、奪われたのだ。
少し離れたトラックヤードから事故現場を見守るひとりの魔人の能力によって!

彼の名は等々力縁寛(とどろき・ぺりかん)。能力はトラックを遠隔操作する『とらっく!とらっく!とらっく!』。
トラックに関するあらゆるミッションをこなすエージェントにして、全中男ハンターS級ライセンス保持者である。
縁寛は『我、奇襲ニ成功セリ』を意味する暗号通信で手短に任務完了を報告した後、背後の物陰に向けて声をかける。
「――コソコソ隠れてねぇで、出て来ねーか? ア?」
声に応じ、仕立ての良いスーツ姿の着衣中年男性が現れた。

「さすがは等々力縁寛さんですね。私の名は中無羅漢三郎。ひとつお手合わせ願えませんか」
「ハッ! トラックヤードで俺に挑むとは馬鹿な奴だ! 大量のトラックに轢き潰されて死ギャー!」
等々力はトラックに轢かれた。
「え? 俺のトラック……、あれ?」
さすがに魔人なんともないが、等々力には何が起こったか解らない。
等々力を轢いたトラックはひとりの黒子によって運転されていたが、それは誰にも見えないのだ。
認識不能の黒子を召喚して使役する『黒子がいるダンディー』、それが中無羅漢の能力だ。

「なるほど見事なタフネスです」
中無羅漢の身体が宙に浮き、一階建て事務所の屋根に着地する。
黒子が運んだのだ。
等々力はトラックを激突させて事務所を破壊することもできたが、しなかった。
不可解な能力によるトラック制御奪取を恐れたのだ。
そしてそれ以上に、事務所を破壊した場合の修理費を恐れた。
中無羅漢は続ける。
「しかし対応力に欠け、能力運用可能な地形も限られている。大会に招待できる実力はないようですね」
そして中無羅漢は忽然と消え失せた。
黒子の持つ黒い布がその姿を隠したのだ。

「糞がッ! なんなんだよ畜生ッ!」
等々力は4tトラックを殴りつけ横転させた。
それでもトラックが大破しない程度に加減しているのは、彼の高いコスト意識によるものか。
「『大会』だと? やってやろうじゃねぇか! 俺が優勝して奴に吠え面かかせてやる!」

21聖槍院九鈴:2013/05/04(土) 20:27:24
ほそくをします……。
上の奴は私(九鈴)の幕間で、【トラック野郎・等々力縁寛】は題名として扱ってください。

22ラーメン探偵・真野事実:2013/05/05(日) 16:22:16
『クロックタワーインフレイム』のエピローグSS、
「インタビュー・ウィズ・スズハラ」を投函します(正確には削った後編最後部分からデス)

トムジェリ話、約5000文字(長っ



======================================


その男は高みにいた。
戦いの舞台となる場所よりもはるか上空に、そして直立不動で眼下の喧噪を感じとっていた。

彼が動いたのはザ・キングオブトワイライト1回戦第一試合の決着がついたときであった。
モニター越しに確認した後、ゆっくりと彼は眼下にある標的に眼をやった。

我々は、彼を知っている。
空高く舞うVTOL(垂直離着機)の上、直立に立つその男の名を知っている。
その男の名は―

「第1試合の勝敗を確認した。
敗退者は速やかにXXX…問題ないこのまま業務に当たる。」

男は感情を感じさせぬ声で呟くとエンジン音を響かせるVTOLの機体から、
ゆらりと身を踊らし虚空へと踏み出したのだ。

その男の名はモリタ・イチロ―。またの名をダーク・シュゲイシャという。


――
そして時は僅かばかり遡る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


【幕間SS】
”クロックタワーインフレイム・エピローグ”
         〜インタビュー・ウィズ・スズハラ〜


(注意事項)
このエピソードは小説「飛行迷宮学園ダンゲロス」のトテモ重要どころかもしれないネタばれを含みます。
未読の方は実際危険、回避というか、そういってる時点で既読者にはもうオチが見え…(察し
貴方方は何も気づかない。そこは大人の対応が必要。イイネ。


†††


―都内、某所のラーメン屋―

時刻は正午を少し回ったお昼時。カウンターの席の前に一杯のラーメンがおかれた。
対象は女性の客だ。

かき入れ時にも関わらず、店に客はその一人のみ。閑散とした有様だった。
女性はこちらからは顔はうかがい知れないか、赤いスカーフに黒のスーツという後ろ姿。
その井出達からかなりスタイリッシュな性分であろうことが伺える。
TVではトーナメント・トワイライト第一試合「時計塔」のゴングが打ち鳴らされ、
対戦結果が表示されているところだった。女が感想を口に出す。

「ふむ、そういう結末になりましたか。丁度組織のアンプルが手元にあったので、
本家をまねてコピー&ペースト、混ぜ合わせて代理の人工魔人くんを作成してみたのですが、
なかなか上手くいかないものです。」

―いや逆に上手く嵌りすぎたというべきか、成長すれば面白いことになったんですが。
女は軽く肩をすくめる。
そのどこか人を喰ったような動きは先ほどまでTVに映っていた試合の男と被るところがあった。
雰囲気も、どことはいえないが似ている。

パリッ。箸を割る音。

ずるずる、そしてラーメンをすする音。
似た雰囲気?を喰ったような?ラーメン?
そうこの女性は画面に映るラーメン探偵と同類の、どこか同じ匂いを漂わせていたのだ。

そして今この場はラーメン屋と言う舞台設定である。
まさか、彼女もまたラーメン屋だと言うのか…!

ラーメンをすする音が止まる。
はぁと、謎の女性は一息おくと
「DA-MA-RASSHAI(何時までもパロネタ引っ張ってると殺しますよという意味の英語)」
地の文にくぎを刺しにきた。ア、ハイ。どーもスイマセン、コウケツ=サン。実際コワイ。
謎の女性は続ける。
「ん、ああシツレイ。わが社は組織ぐるみで”世界転覆屋”や”世界の敵”をこなしてまして、
僕はそこのトップセールスのような位置づけなんですよ。
今回の不幸な事件、そもそも発端はうちの会社に目高から招待状が来たところから始まりました。」

え、なんでこの人、いきなり自己紹介や解説し始めてるんですか。え、いいんですか
名探偵特典?しかも今さっきこっち干渉してきましたよね。この人。

23ラーメン探偵・真野事実:2013/05/05(日) 16:30:51
「そうそれは極めて不幸な偶然の重なりから発生した悲劇。」

構わず続ける謎の女性。まず人差し指を一本立てる。

1:目高組織からヒール役としてか否か”組織”にも世界大会の招待状を送られてくる。
2:世界最強を決めるというこの世界大会に組織も当然、参加を前向きに検討したのだが
3:組織の主力戦士総がかりで行う期間イベントに運悪く期間がバッテング、参加を断念(注1
4:それで名探偵という特殊性故、単独行動が多い自分にお鉢がまわってきた(注2
5:自分は参加者名簿を一目見るなり『重要な懸念事項』を発見し放り出すことに決定(注3

後ろ向きのまま人さし指から一本づつ順番に指を立てていき最後で手をひらひらとやる。
「最後。なので組織の『代理』が必要だった。」

あとは調達だった。
彼女は希望崎学園に向かい適当な人材を発見・登用・虐殺。そして現在に至る。
三姉弟が予選もなく決勝に即出られたのも『ズズハラ機関の戦士(代理)』という位置づけが
あったからということなのだろうか。

ずるずる、ラーメンをすする音。

「しかし、義理で第一試合、最後まで見ましたが。興行的にはこれ大失敗、大空振りですね。
内実を知ってる僕達のような人間ならともかく
一般人にとっては単にしょっぱい試合以外の何物でもないでしょうから」

しょっぱい=つまらない という意味の業界用語だ。さり気なく衝撃の事実が明かされた瞬間であった。

「黒田くんやミツゴ君達はそれぞれいい仕事していました。
問題があるのは受け側の某探偵のほう。TV生で見てれば誰だって気がつきます。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
彼が結局この試合1回も対戦相手を攻撃していないこと
相手にラーメン作って食べさせただけで試合を終わらせたことに。

しかも後半は温泉回でもないのに湯気で非常に試合が見ずらくなっているときている。
ラストの黒田くんの機転はそういう意味では非常によかったですね、あれはよい仕事(リカバー)でした。」

ハイそんな謎試合、見せられたら視聴者怒りますね。
女は慣れた手つきでスタイリッシュホンを嬲る。

「やはり。時計塔の試合に関して、ネットでかなり炎上していますネ。煽りがいがあります」

各方面からのクレーム

炎上。

……クロックタワー・炎上。

ここでまさかの題名回収である。なんと戯言遣い滅いた詐欺師的逃げ口上論法であることか。
近年まれにみるほどの酷いオチの付け方であった。

「しかも真野くん、―真実の配達人―とかカッコつけてますけど。
ある意味相当、事実ネジ曲げてますからね。
本来、光吾くん、精神的にも肉体的にも助からないはずでしたのに。無理やり存命にしてしまいました」

犯人の自滅や自殺といった展開は彼女の(もっといえばミステリーが)良く使う常套手段だ。
そして、その時点で真の黒幕である彼女へと繋がる糸が、論理能力によってぷつりと立ちきられる。
論理的にではない論理能力的にだ。

今回、彼女はミツゴ達に自らの『登場人物を殺し物語を改変する能力』のアンプルを与えた。
そして同時に偽名を名乗り、彼らに一つの方向性をも与えていた。

それは優しく諭して3匹の子ブタ達を崖下に転がるトロッコにのせる様な
僕と契約して魔法少女になってよと次々勧誘する淫獣のような
「世界の敵」であることを自覚した彼らが最終的には自らの能力「世界の敵の敵」を
発動し、自らを消し去り、自滅するような

そんな方向性を。

そんな方向性を、あの場、
誰かさんが適度に都合のいい真実を伝え、自らが敵意の矛先になることで
誰かさん達が毒素と瘴気のほとんどを引き受け、無言の覚悟で愛する者元から立ち去ることで
そして誰かさんが「ドンと来いコイツ引き受けるぜ」というほどの底抜けのお人好しであることで
捻じ曲げた。

あの場で行われていたのは三つ巴の戦いだけではなかったのだ。
ただ一人の少年の命を救うための、皆が皆、綱渡りめいた無言のバトンリレーを実施していたのだ。

「曲がりなりにも論理能力である僕の能力を”打ち破った”わけですから、寧ろ見事でしたと
称賛するべきでしょうか。奇跡と評してもいいレベルで」

蠍座の名探偵は冷たく微笑む
「なにせそもそも“La Amen”とは―――――――アレこない――少しタイ…」

“La Amen”とは――意味深な言葉の続きは、突如巻き起こった轟音にかき消された


― 轟 ―― 轟 ―― 轟 ―

24ラーメン探偵・真野事実:2013/05/05(日) 16:32:16
店内に巻き起こる塵煙。上から降ってきた『ソレ』により。
遥か上空「VTOL」より飛来した『ソレ』は、見事、目標を捉え、屋上から内部一階まで
轟着陸。建物の天上に群青色めいた青空を提供していた。

まさに自らの一手(一足)によって。

―ダイナミック・お邪魔します―

「3姉弟の一回戦敗退を受け、事後処理にお邪魔しました。子の責は親が担うが道理。
潔く保護者同伴してもらおうか、スズハラの赤ネズミめ。」

男は空手の構えを取る。
そのネズミの尻尾を掴むのがどれほどのことなのか。ましては捕縛など。
その困難さを知ってか知らずか捕縛宣言を行う男。
男の名はモリタ・イチロ―、またの名をダーク・シュゲイシャ。

周囲は完全包囲、退路も封じてある
そして、この時点で彼と女性との間、即ちカウンター席の距離は僅か畳一枚半。
まさに袋のねずみだ。
だが謎の女性はこの状況下にあってまだ振りむかない。口を尖らせたような声でクレームを入れる。
「流石に子持ち扱いは酷い。」
「Foo!」

シュゲイシャが、その一枚半の間合いを詰めるのに要した時間は、僅か0.4秒。
20cmの鋼鉄板をも貫く電撃的な手刀が謎の女性を席毎、後ろ向きに貫通する。
背から胸にかけ飛び出るモリタの手。そして彼女のその胸は平坦であった。

その一撃に女性は大きくぐらつき、衝撃でじゅるりと音を立てて首が落ちる。
カランコロンと乾いた音を立てて転がる首。乾いた? イヤというか捕縛するのではかったのか。

「…クグツか」
パチパチパチ。
そう呟くモリタの呟きに、応えるようにカウンターに置かれたスタイリッシュホンから拍手が
聞こえてきた。端から彼女本人はここにはいなかったのだ。
恐らくは彼を引きつけ、その間に逃走を図るためのトラップなのだ。

「ムチャンコ・ツヲイ級手芸者である貴方とまともにやり合う気はないですよ。
ただ、この未来探偵(ボク)の尻尾を捕まえかけたことは事実ですし、ご褒美に
今回のスズハラ側の事情をお伝えしましょう。
上層に伝えれば貴方へのお咎めはないはずですよ。
ただ、お約束で暗号文は機ごと自動消滅しますから、解析するのならお早めに
それでは〜」

BOMB!

女の形をした傀儡はその言葉を合図とするかのように紅色の薔薇の塊と化し、
バラの花弁は咽るほどの香りと共に火の粉のように舞い上がり
男を包み込む。

「…」
モリタは、いまだTVに映ったままの時計塔を一瞬だけ見やると携帯を掴み、
素早くラーメン屋を後にした。

†††

―時計塔1km付近の丘―

紅いシャツに黒のスーツの女は、『虐・殺』と裏にデザインされたスマホを
くるりと回すと華麗にポケットに仕舞いこんだ。

「登場人物は皆、殺すべし。イヤー、なんちゃって」

そう冗談めかして言い放つ”5人目”の探偵、未来探偵・紅蠍は軽やかに
時計塔へと至る道を歩み出す、いや、歩み出すはず予定だったのだが…

「…嘘でしょ。」
その足が信じがたいモノを見たように僅か数歩で止まった。彼女をしての驚愕。

「”彼”…こっちに一直線に向かって来てますよ。ひょとして、
あれだけの情報で、
今、僕がどこにいるのか―当たり付けてきましたか。地獄の猟犬ですか。本当に怖いヒトだ。

やれやれ、これでは時間も充分にとれないようなので。今回はこれにて勘弁を」

彼女はそういうと時計塔に自前の携帯を向けると包み込むようなアングルで一輪の薔薇を差し出した。
まるで炎に包まれているような時計塔がフレームに収まる。

僅かなシャッター音。
クロックタワー・イン・フレーム。

「それでは。今度こそ御機嫌よう。いやーここまで熱烈なアプローチは久しぶり。大変。大変。、」

女は帽子を押さえると言葉とは裏腹にどこか楽しそうに疾走しはじめた。
彼女の名は未来探偵・紅蠍。
十三の殺害属性の一つ「虐殺」を司る上級戦士。遅れてきた名探偵であり、諸悪の根源でもあり、
トムとジェリーでいえば明らかにジェリー側の存在である。

25ラーメン探偵・真野事実:2013/05/05(日) 16:39:47







(ザ・キングオブトワイライト1回戦・第一試合終了結果追記)

「真犯人」未来探偵・紅蠍   (喰い逃げ成功。後、最終的にも喰い逃げ、ギリ成功)
「闇手芸者」モリタ・イチロー(信じがたいことにインタビュー失敗。)



(注釈)
注1:スズハラ恒例の『温泉旅行』のこと。世界の命運と測りにかけた結果、彼らは社内行事を優先した。
注2:彼女は団体行動・集団行動がまるで出来ない。実際2回に1回は社内行事をバックレル。
注3:探偵四天王問題のこと。探偵が既に3名エントリーしていたため、これはキャラ被りしかねない
  と逃げの一手を打った。「この状況でノコノコ(赤)でていくわけにはいけない。ノコノコ(赤)と(キリ」。


以上、
話自身は前半・後半・エピローグも入れひとまとまりです。
なお、このエピローグにでているスズハラ機関はダンゲロス東西戦の設定準拠となっております。嘘いつわりのない

26稲枝田:2013/05/06(月) 01:30:09
現時点で投票終了した全キャラの
イラストを描きました

tp://inaeyunomi.blog.fc2.com/blog-entry-114.html

冷泉院 拾翠さんには申し訳ないのですが、
容姿が想像し辛かったため、今回は描いていません。
良かったら簡単にビジュアルについて教えていただければーとおもいます。

27あやまだ:2013/05/07(火) 02:57:43
【逆襲の『ドキドキ!光素ときららの試合場下見ツアー!』】

≪シーン1.これまでのあらすじ≫

「「大会参加選手たちが激闘により試合場を荒らす前に、楽しそうなところを
  取材という名目で一足先に堪能しつくしちゃおう!!」」

 そう考えた大会実況・佐倉光素と大会解説・埴井きらら。
 手始めに第一回戦の試合場へ下見と称し遊びにいこうと画策する二人だったが、
 海水浴場以外の十箇所は取材費(アイデアというルビ)が降りてこず、計画は頓挫した。

「しかし、我々の野望はこれからです! 第一回戦投票中の今こそ、幕間SSという手段で
 キャンペーンを盛り上げる格好の機会ではないでしょうか!?」

「そーだそーだ! 誰もプロローグに出してくれないなら、こっちから動くまでだー!」

 だが、二人は諦めていなかった! 逆風に晒され燃え上がる反骨心!

「という文を書いたのが、確か投票期間が始まってすぐのことでしたね!
 まさか猛烈なスランプにより遅々として進まず完成が投票期間終了後になってしまうとは!」

「ここでこんなとは!」

 まあ、そんなこともあるよね!
 なお数日前に大会参加者の紅蓮寺工藤選手と接触していた模様。道理でメタメタしい。

「というわけで、取材費(アイデアのルビ)が降りてきたので『温泉旅館』に行ってみましょう!」

「ウェーイ! 温泉ガチデ!」

 なお数日前に大会参加者の黄樺地セニオ選手とも接触していた模様。道理でチャラい。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


≪シーン2.温泉堪能編≫

「はーい、やってきました! こちらが試合場ナンバー16『温泉旅館』です!」

「ほほおー! なんだか、歴史を感じさせますな!」

 蝶ネクタイの晴れ着姿が眩しい光素とスタンダードな制服姿が可憐なきらら。
 二人を待ち構えていたのは、所謂『ザ・老舗』といった趣きの温泉旅館であった。
 ちなみに温泉旅館内に女将等の従業員はいない。試合場にNPCはいないらしいのだ。

「温泉だー! 旅館だー!」

「さて、まずは何をしましょうか」

 はしゃぎながら旅館にあがりこむきららに対し、彼女が脱ぎ散らかしたローファーを
 揃えつつ、光素はそう問うた。
 きららはくるりと振り返り、スカートの裾がふわりと躍る。

「温泉入りたい!!」

 そう答えた少女は、待ちきれぬとばかりにその場でトットットッと足踏みをしている。
 光素はにこりと笑い、

「ふふふ、私もです! では、お部屋に荷物を置いたら、浴衣に着替えてレッツゴー!」

28あやまだ:2013/05/07(火) 02:58:21
 ・
 ・
 ・

「ふわあー、極楽極楽……」

 視界いっぱいに日本の美しい景色を睥睨する露天風呂がこの旅館の持ち味である。
 かぽーん、という音が聞こえてきそうな安らぎのひと時を過ごす光素ときらら。

 タオルは浴槽にひたすことなく、もちろん下湯も済ませたよ!
 マナーを守って楽しく温泉!

「本当、いい御湯ですねえ」

 日頃の疲れを癒すように、ぐっと伸びをする光素。
 きららは肩まで湯に浸かりながら、そんな光素の身体――主に胸元を、じぃと見つめる。
 視線に気付いた光素はさっと胸を隠し、

「な、なんですかきららちゃんっ」

「光素ちゃん……あたしより年上なのに、あたしよりおっぱいちっちゃいね……」

「んまっ!」

 そう、哀しき胸囲の格差社会だったのだ。

 きららは先の海水浴場での取材中、マイクロビキニに包まれた光素の胸の慎ましさに
 密かに衝撃を受けたのだった。
 うわっ……光素ちゃんのおっぱい、小さすぎ……?

 もちろん控えめとはいえその胸は女性的な曲線美は有していたし、そもそもきららも
 他人のこと言えるほど胸が大きいわけではなかったが、それはそれとして二人の間には
 厳然たる勝敗の差が存在していた。

「た……確かに事実ですが、胸の大きさがどうとか、私は別に気にしてませんし……」

「うん……でもなんかごめんね……」

「むむむっ……!」

 本当にそこまで気にしてなかったのに、本人に悪気はないとはいえここまで
 憐憫の情を剥き出しにされては、光素としても釈然としないものがある。

(……はっ!) ぴきーん!

 そのとき、光素の頭に仕返しの妙案が閃く。
 元来イタズラや悪だくみの好きな彼女である。きららには少々悪いと思いつつ、

「では――――!」

 どっぱーん! と、突如として光素の両脇に大きな水柱が立ち上る!
 能力かはたまた技術か、いずれにせよ、光素は完全に呆気に取られたきららの背後へと
 水柱を目隠しにしつつ一瞬のうちに回り込み――――

「――――将来有望なきららちゃんのお胸に、御利益を分けてもらいまーーっす!」

「わひゃあああっ!」

 その胸を、掴む! 揉む!!

「や、やあぁーっ! こらーっ!」

「ふははははー! ここがええのんかー! ここがええのんかー!」

 きららの発展途上の微乳を弄ぶ光素!
 なんたる悪辣! 代わってほしい!

 なお、ここで光素がきららの不覚をとれた点について釈明しておきたい。
 いくら世界有数の武術家たるきららでも、先刻は露天の温泉に弛緩しきった状態であり、
 また光素自身も武術の心得があり、というか普通に『やる』人間である。
 これは当然の帰結であって、決してきゃっきゃうふふのためにキャラの格を不当に
 落としたりしてるわけではないということをどうかご理解いただきたく候。

「ちょっ……もーっ! やめなさーいっ!」

 顔を真っ赤にして腕をぶんぶん振り回し抵抗するきらら。
 攻撃20に殴られては敵わない、ということで光素はあっさりと飛び退った。
 荒い息で胸を押さえる少女と満足気に笑む少女の視線が、淡い湯煙の向こうで交差する。

「もおおーっ! きららも仕舞いにゃ怒るよっ!」

「あらら、自分のことは『あたし』って呼ぶんじゃなかったんですかー?」

「っ!! ぐぬぬ……!」

 動揺に付け込み、精神的な優位を逆転した両者。
 このままでは収まりがつかないきららは光素にやり返そうと思い、しかし二人が
 全力で追いかけっこをすればこの美しき露天温泉も無事では済むまいと考え――。

「…………よしわかった! この決着、温泉名物・卓球勝負でつけようじゃないか!」

「いいでしょう、臨むところです!」

29あやまだ:2013/05/07(火) 02:58:43


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


≪シーン3.卓球激闘編≫

 古式ゆかしい卓球台をはさみ、光素ときららが睨み合う。
 二人はともに浴衣姿。死地に臨む卓球闘士に相応しい戦装束であった。

「それではいきますよ! PING!」

 光素が右手のラケットを振り抜く! ZOOOOOM! 超音速でピンポン球が射出される!
 温泉旅行者同士がしばしば遊興に用いる浴衣卓球は、ピンポン球を弾き返せなければ
 まあ普通に相手に1点入り、11点先取された場合は相手のゲームになってしまう!

「PONG!」

 きららも負けじと右腕を振るう! そして激しい死のラリーが始まった!

「PING!」「PO、」「きららちゃん襟が肌蹴て胸が見えそう!」「わわっ!」がばっ

 慌てて襟を正すきららの横を、ぱしゅーーんとピンポン球が通り過ぎていく。
 あっ、ラリー続かなかった。

「え、えええーッ!?」

「ふっ……油断大敵!」

 なんという恐るべき精神攻撃であろうか!
 しかも浴衣も特に肌蹴ちゃいなかった。それは惜しい。実に惜しいが、ともあれ1点。
 光素のクスクスという笑い声を受け、きららの頬が屈辱色に染まってゆく。

「ふふん、この調子で次もいただきます! PING!」

 光素の強烈なサーブ! ちなみに卓球のサービスは2本交代である!
 きららは左手で襟を押さえながら俊敏な動きでコースに先回り!
 その右腕に縄のような筋肉が浮き上がる!

「PONG!」

 きららの渾身のレシーブ!
 光素の動いた方向と逆のコーナーへの痛烈な打球! これは返せないか!?

「残念でしたね! PING!」

 着弾の寸前、光素は右手のラケットを左手へとパス! 彼女は両利きであった!
 そのまま流れるようにライジングショットで返球!
 虚を突かれたきららは反応できず、打球は少女の後方へ! これは返せないか!?

「まだまだーっ!」

 きららは後方へと驚異的なスピードで空中回転移動! 物理法則を無視したかの如き跳躍!

「おおーーっ 何だあの動……」

 打球を追い越して遊興室の壁へと着地したきららはその勢いのままに壁を蹴り、返球!
 呆然とする光素は反応できず!

「ワイルド!」

 光素が叫ぶ! きららの勝ち誇ったような笑み!
 これでポイントは1−1! この二人、まったくの互角!

「次はこっちのサービスだね! PING!」

「負けませんよ! PONG!」

 ――――勝負はまだまだ分からない!!

「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」
「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」
「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」
「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」「PING!」「PONG!」

 ・
 ・
 ・

「ぜえっ、ぜえっ……!」

「はあっ、はあっ……!」

 筆舌に尽くし難き人智を超えた卓球対決は一時間以上にも及んだ。
 光素もきららも汗だくであり、温泉に入った意味を数多の哲学者が考えかねない惨状だ。
 浴衣も肌蹴に肌蹴きっており、うん、それはまことに眼福である。

「もう、やめましょっか……」

「そ、だね……」

 激闘の決着は、ピンポン球と卓球台が衝撃に耐えられず爆散するという形で訪れた。
 ポイントは99−99。引き分けであった。
 二人はもう一度、揃って温泉に入った。仲良きことは美しき哉。

30あやまだ:2013/05/07(火) 02:59:17


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


≪シーン4.少女夜話編≫

「おっふとーんっ! どーん!」

「もう、はしたないですよ、きららちゃん」

 畳の上に布団を並べ、飛び込むきららと嗜める光素。
 卓球勝負の後、二人は二度目の温泉を今度こそゆったりと堪能し、夕食に舌鼓を打ち、
 三度目の温泉をまったりと経て今に至る。
 なお、板前たちも当然いないので夕食は光素が作った。きららもお皿とか洗った。

「でも寝るには少し早いですし、お喋りとかしましょうか」

「お喋らいでか! 温泉旅館の夜といえば、そう! がーるずとーくですYO!」

 きららは枕をばっしんばっしん叩きながら力説する。テンション高えなこいつ。
 まあ、光素とてそういった与太話は望むところである。
 姦しい盛りの女子二人が布団に並ぶ。

「じゃあねえ、じゃあねえ! 光素ちゃん、ズバリ、好きな人いる!?」

「んー、……いますよ!」

「きゃーっ、きゃーっ! 誰、誰!?」

「それはですねえ…………きららちゃんです!」

「えへへへー! あたしも光素ちゃん大好きー! ……ってそうじゃなくてー!」

 ぺちーん! とスナップの利いたノリツッコミ! 仲ええなあこいつら。
 一拍置いて、きららはぷうと頬を膨らませ、つんと唇を尖らせる。

「まったくもー!! いくらあたしだって、そんな見え透いたはぐらかしには
 引っかからないよ! 観念して白状しろー! 貴様は完全に包囲されているー!」

「あはは、ごめんなさい。でもそういった話、特にないんですよー。ええ、本当に……」

「むうー……」

 光素は心から申し訳なさそうな調子で、というか自分で言っててちょっとダメージ
 負ってそうな雰囲気だったので、きららは大人しく引き下がった。
 そして、先手を譲った分、次はこっちの番だと言うかのように光素は目を光らせる。

「そう言うきららちゃんこそ! 真野さんとは最近どんな感じなんです!?」

「えへへへへー! 訊いちゃうかー! それを訊いちゃうかあー!!」

 自分に水を向けられると、途端「待ってました!」とばかりに目を輝かせるきらら。

 ちなみに、ここで言う『真野さん』とは、ダンゲロスSS3参戦キャラクターである
 『ラーメン探偵・真野事実』ではなく、ダンゲロスホーリーランド3という
 キャンペーンに投稿されたキャラクター『真野八方』のことを指す。
 同じ一族(厳密には違うらしいけど)のキャラがキャンペーンや投稿者の壁を越えて
 出てきたりするのもダンゲロスの魅力のひとつだぜ!(新規さん用コメント)
 で、そいつがどんな奴かと言うと――――、

31あやまだ:2013/05/07(火) 02:59:36
「真野さんねー! この前も『ここに来てくれ』ってデートのお誘いくれてねー!」

「ふむふむ」

「行ったらねー、爆弾とか火矢とか降って来て、強そーな人がいっぱいやって来てねー!」

「わーお、熱烈歓迎(物理)」

「でねー、みんな倒したら、真野さんさっきまでいたけど、もうどっか行っちゃったって
 言っててねー!」

「わーお、相変わらずですねー」

「そう! 相変わらずシャイなの! ホントはきららに会いたくてアトラクションとか
 用意してお友達と待ってたけど、直前で急に恥ずかしくなって帰っちゃったんだねー!
 まったく恥ずかしがり屋さんなんだからー! でもそんな可愛いところも好きー!!」

(大方、お金に困ったから適当な組織にきららちゃんをぶつけて、混乱に乗じて
 財産を奪って逃げたとか、そんなところでしょうねー)

 光素、大正解である。真野八方とはそういう男であった。
 傍から見れば酷いゲス野郎だが、きららは何故か彼のことを盲目的に信じ、好意を抱いている。

 そういったなんやかんやについて、君はダンゲロスホーリーランド3を見て詳しく
 調べてもいいし、しなくてもいい。本キャンペーンには直接関係のない知識だ。
 だがホリランは非常に楽しいキャンペーンなので、4とかあったら参加することを勧める。

(しかし……(相手がアレとはいえ)やはり恋愛は素敵に楽しそうですねえ……)

 まだまだ続いているきららの惚気(?)をBGMに、光素ははふうと憂いの溜め息。
 彼女は神に近しい存在ではあるが、心はしっかり乙女なのだ。

(きららちゃんだけじゃなく、かなめもほづみも、恋に生きる人たちはみんな幸せそう。
 ……はっ! きららちゃんの胸が私より大きいのも、もしや恋愛経験の賜物!?
 女性ホルモンがドバドバ出てるか枯れてるかの差、みたいな……!?)

 恐るべき仮説に震え上がる光素! 温泉での貧乳のくだりはまさかの伏線だった!?

 ちなみに、かなめ(夢追中)やほづみ(咲ノ倉ほづみ)については、光素の四つ子の
 姉妹だとかそんな感じのイメージで大丈夫だと思う。たぶん。
 それぞれ素敵な相手を見つけ、年がら年中イチャコラしているらしい。

 それらについて気になる人は「夢追中」でグーグル検索してもいいし、しなくてもいい。
 本キャンペーンには直接関係のない知識だろうし、全部追うと情報量がごっついのだ。
 だが夢追サーガは非常に読み応えがあるので、機会があれば調べてみて損はないだろう。

「(……あっ、つい自分の世界に没入しちゃってました!)
 えーーと、ごめんなさい、きららちゃん! 少しぼうっとしていて……」

 喪ん喪んとした思考から我に返った光素がきららに意識を向ける。
 だが、当の少女も意識は既にそちらにはなく、

「ぐう、ぐう……」

「あらー……寝ちゃってますね……」

 温泉や遊興室ではしゃぎ疲れたのか、喋り疲れたのか、はたまたその両方か。
 安らかな寝息をたてるきららを撫で、光素もふわりと微笑む。

「おやすみなさい、きららちゃん」

 そして、『こちら』に向き直り、

「皆さん、読了いただきありがとうございました。
 本日はここ、『温泉旅館』より、大会実況・佐倉光素と大会解説・埴井きららが
 お送りしました。それではまた次回っ。…………があるかは分かりませんが……!」

32サンライト=100しっこ:2013/05/08(水) 02:45:06
【ドキ! 男だらけの温泉大会〜コロシもあるよ〜】

 都心からのアクセスも容易な奥多摩の温泉宿。その駐車場に、一台の大型バスが停車した。

「さあ、着きましたよみなさん! ここが試合会場の一つ『温泉旅館』!」

 運転手を除くバスに乗っていた者全員が降りると、一番最初に降りた佐倉光素がそう宣言する。その隣には埴井きらら、そして彼女らの前にいるのは殆どが「夕闇の覇者」の参加選手だった。

 光素、きらら、そして選手一同は光素の発案した『ドキドキ! 光素ときららPRESENTS試合場下見ツアー!』でこの旅館を訪れていた。
「下見」というのはただの名目で、莫大な経済効果を生むだろう大会を盛り上げる選手達に対し、勝敗関係なく何か特典めいたモノがあってもいいのではとの考えからであり、マネージャーの銘刈耀も簡単に了承した。こうして選手ならば全額無料の慰安旅行が実現し、多くの者が参加して今に至るのだ。尤も、本当にただの慰安旅行というわけでは無く、選手達は旅行代の代わりにとあることに協力しなければならないのだが……。

「あれ? なんかここに凄く最近光素ちゃんと来た気がする……」

「何言ってるんですかきららちゃん? 私がここに来るのは初めてですよ?
 さて選手のみなさん。参加費は無料ですが、試合前に旅館の建物や備品を損壊すると弁償してもらいますから、暴れるのは試合で。
 今はマナーを守って楽しみましょう」

 光素がきららとのメタメタしいやり取りに続いてそのように注意を喚起する。選手の大半は残念なことにいい大人であるからそんな注意をするまでもないと思われるかも知れないが、そこが信用ならないのが魔人である。

「わあっ! 凄い景色! ヤッホー!」

 子供のようにはしゃぐのは、選手の家族ということで三千円で参加した雨竜院雨弓の妹・畢。見た目の幼さは大会最年少のはずの弓島由一や高島平四葉と変わらない。

「家族(ここでは『かぞく』と発音している)の皆も連れてきたかったけど、流石にあの
人数じゃな……」

 孤児院に残してきた自身を兄と慕う子供達を想って猪狩誠は優勝を誓った。「賞金で皆をどこへでも連れて行ってやろう」と。彼が優勝したとして、そのとき子供達が何人残っているかはわからないが。

「ささ、皆さんそろそろ旅館に入りましょう。チェックインは必要ありませんが、とりあ
えず部屋に荷物を置いてください」

 光素に先導されてぞろぞろと玄関をくぐる選手達。待ち受ける戦いを忘れて、今は純粋
に温泉を楽しめると、このときは多くの者が思っていた。

✝✝✝✝✝

「探偵・警官・ヤクザが同室か……三つ巴(meets dome、三竦みという意味の英語)だな」

 本大会の探偵四天王の一人、ラーメン探偵・真野真実が言う。三、四人に一つずつ部屋が割り当てられており、彼と一緒になったのは魔人警官・雨竜院雨弓と魔人ヤクザ・夜魔口赤帽、砂男のコンビだった。

「別に警官と探偵は敵じゃ無いっしょ。それに、ヤクザの二人も今くらい仲良くしようぜ」

 警官という職業と厳つい外見に似合わず、最もフランクな態度の雨弓はバッグからツマミにと持ってきた鮭とばを取り出し、皆に一つずつ差し出す。

「へへへ、こりゃどうも。つまんないもんですが、俺らからもこれ、お近付きの印にどうぞ」

 ヤクザコンビの若い方、砂男が売店で買った赤まむしドリンクを一ケースずつ真野と雨弓に差し出せば

「こらあ砂男!! 何を媚び売っとるんじゃバカタレ!!
 こんな若造二人に舐められてたまるか!!
 あとつまらんって何じゃ!!」

 砂男の胸ポケットから赤帽の怒声が飛ぶ。砂男がまあまあと宥めたとき、入り口の障子がシャッと開いて猪狩が顔を出し、言った。
 「みんな温泉行こうぜ!!」と。

✝✝✝✝✝

33サンライト=100しっこ:2013/05/08(水) 02:49:56
 ――女湯の露天風呂。

「ああ……いいお湯」

 姫将軍・ハレルア=トップライトは普段の固い表情を僅かに緩めて呟く。彼女の元いた世界でも天然温泉はあり、そこに浸かることもあったが、それを入浴施設として整備し、宿を建て、風光明媚な環境と合わせて観光地化するというのは、この世界に来るまで考えもしなかった。

(弱いけど凄いんだなあ……平たい顔族も……)

 心中でそう呟くハレルアから少し離れたところで、バチャバチャとお湯を撥ねさせながら戯れる二人があった。

「んふふ! きららちゃんちょっと大きくなったんじゃありません!?」

「やっ……ん。ホント? ってあれ、おっぱい触るのも前にやったような……」

 光素が背後からきららの発展途上の微乳をやわやわと揉めば、きららも戸惑いと快感、歓喜、そして疑問の入り混じった声をあげる。女湯に相応しい光景である。

「きららの胸、ちゃんとおっきくなるかなあ……。葦菜ちゃんみたいに」

 嘗て高校に入ってから数ヶ月で豊満になった親戚の少女の成長過程を思い出し、自分の胸部の将来に期待と不安を抱くきらら。

「平気平気!! 見よこれを!!」

 バシャリ、と立ち上がって胸を張る畢。その胸は平坦であった。傾斜90度の大絶壁である。

「きららちゃん、今だってボクよりずっと育ってるんだから、さ。
18歳くらいにはバインボインだよ!!」
 
 自分はそれでいいのかと思われそうな励まし方だが、畢の目には一点の曇も無く、きららの方も「バインボインか……」と少し嬉しそうな表情で自分の胸に手を当てる。

「そうそう!!
 でも男に揉んで貰えばもっとバインボインよ!!
 私みたいにぃ!!」

 見せつけるように自身の豊満を、巨乳を、いや奇乳を揉みしだく元女騎士・ゾルデリア。ぐいんぐいんと揺れる湯に濡れた乳房!!

 その暴力的な程の豊満と、「男に揉んでもらう」という言葉に、湯で火照っていた頬を更に赤らめる平たい胸族の三人。そんなとき、ゾルデリアの背後からそっと近寄る影があった。

「ああんっ!!」

 背中から脇の下を通って正面に手を回しさっとゾルデリアの乳房に触れたのは……偽名探偵こまね!! 探偵四天王の一人!! 平たい胸族四人目!!

「ゾルさんの胸おっきいね〜。男に揉まれたか〜。こんな感じ?」

 ぐにんぐにんと白魚のような指が乳房に食い込み、揉む!!

「あ、ふぅ……!! ら、ら……」

 処女のこまねだが、揉む手の動きはなかなかのものであり、そして彼女は意識していないがゾルデリアの背中と尻に、それぞれささやかな丘の頂点と、秘めやかな場所が当っているのだ。乳を揉まれた快感でゾルデリアが身を捩れば、それは更に擦り付けられる形となる。

「ふわっ……」

「らめえええええええええええええええええええええええええっ!!
 いっちゃいましゅうううううううううううっ!!」

 予期せず生じてしまった快感にこまねが漏らした微かな嬌声は、同時にゾルデリアが発した絶頂の叫びに掻き消される。
 ZTM(絶対にチンコなんかに負けない)あっさり解除!!

「あうん……らめえ!! ここで戻っちゃらめっんんぅ!!」

 急速に張りを失ってゆく女体をどうにかこうにか維持しつつ、膣からお湯を撒き散らしながらゾルデリアはダッシュで退場!!

 その際湯船の外で景色を眺めていた聖槍院九鈴を突き飛ばす形となった。衝撃で揺れる九鈴の胸(Bカップ。平たくは無い)!!

✝✝✝✝✝

34サンライト=100しっこ:2013/05/08(水) 02:51:32
 ――男湯。

「狭くね?」

 誰かが言った。露天風呂はそれなりに広かったが、むくつけき男たちが20数名、何故か一度に入浴しているのだ。実際狭い。

「これだけいれば狭いのは必然。というかもっと詰めて浸かればいいだろう?」

 そう言うのは蛭神鎖剃。周囲の者達は、皆彼から距離を置いて浸かっていた。その理由は、湯から突き出してそそり立つ彼の男根。大男である鎖剃だが、そのちんぽは魔人能力によって1m50cmという超哺乳類級のサイズを誇っている。しかも、先程薄い仕切りの向こうで女性陣の嬌声が聞こえ出してから更に怒張し、長さは2m超、化粧柱のような太さとグロテスクな青筋。同性とはいえ近寄りがたいのは当然であろう。
 しかし、そんなはた迷惑な鎖剃の息子を誰も責めようとはしない。なぜなら、濁り湯のためバレないが、浸かっているメンバーの大半が、彼とほぼ同じタイミングでペニーを膨らませていたのだから。男の悲しい性を見て見ぬふりをする情けが大会選手達にも存在した(彼が必要に応じてディックをミニマム化出来ると知ったら怒るだろうが)。

「あら〜男同士裸の付き合い? いいわねえ。
 アタシも仲間に入れてくれる?」

((((((誰だ…………?))))))

 内湯と繋がるドアがガラリと開いて、現れたのは一人の全裸中年男性。選手にはいなかったはずの男の登場に、全員が疑問符を浮かべる。
 全裸中年男性は、肉のつき過ぎた醜い身体を揺らしながら、軽いステップで湯船へと向かう。

「おっさん。走ると滑……」

「あっ、キャアッ!?」

 濡れた敷石に足を滑らせ、ToLOVEるめいた不自然な放物線を描いて全裸中年男性は宙を舞う。ぐるりと空中で一回転し、そのまま湯にダイブしそうになった彼は、咄嗟に目の前の「柱」にしがみついた。

「ヒャアン!!」

「うっ!!!!!!」

「「「「「「「あっ!!」」」」」」

「ふぅ……何故人は戦争などするのだろう……」

 10m程の高さまで打ち上げられ、春の夕空に咲く白い花火。
 全員が急いで湯船から出る中、全裸中年男性は一人(傍らに鎖剃もいたが)、恍惚とした表情で降り注ぐ欲望の残滓を浴びていた――。

シリアスパートに続く→

35聖槍院九鈴:2013/05/09(木) 19:37:36
【猥褻がいっさいないトング伝説温泉・前編】

雪山の戦いに敗れた高島平四葉は、魔人医師・王大人の治療によって奇跡的に命を取り留めた。
そして、佐倉光素によって半ば強制的に温泉旅館へ転送された。
「これから色々大変だと思うけど、ひとまず温泉でゆっくり回復してね!(光素)」

確かに一度死んでるのでとても疲れたし、湯に浸かりながら世界征服計画の修正案を練ろう露天風呂に行くとそこにいた。
岩風呂の中で何やら不気味なチャントを呟いている先客は聖槍院九鈴だ。
「タカシマダイラ……!『清掃婦は大いなるナイルよりトングを授かり、それを掲げ祈りを捧げた(イムホテプ17:31)』」
四葉を見据えトングを構える九鈴。
「湯船にトングを入れていいのかしら? またノシイカにされたくないなら、しまって欲しいな!」
戦闘態勢をとる四葉。一糸纏わぬ一触即発!

「これはいいのよ。お風呂用トングだから。見ててごらん。『その水面には憤怒、病、嫉妬、あらゆる醜いものが浮かんでいた(タハルカ2:17)』」
表情を和らげた九鈴は、水面を撫でるようにトングを滑らせた。
言われて見れば、樹脂製であまり怖くない感じのトングだ。
湯面に浮かぶ垢や髪の毛などがトングの先へ次々に吸着されてゆく!
九鈴の能力『タフグリップ』による異物捕獲だ。
「うわ、すごい。てゆーか意外と温泉ってきたない?」
「こんなものです。人は、ただ生きてるだけでその身からゴミを撒き散らす……。『獣は硫黄の息を吐きつつ地に満ち、やがて掃除されるだろう(アマルナ書3-45)』」
「ふーん」

「さらに、こちらは! じゃーん! なんとツボ押し器になってます!『私は挟む。私は癒やす(セクメト神の碑文)』」
お風呂用トングの柄を肩に押し当て、機能をアッピールする九鈴。
感心する四葉。
「そうだ、いまから! 四葉ちゃんをマッサージしてあげる! 私、トング道整体師の資格もってるからすごく効くよ!『あなたの心と体にもトングを用い、常に清浄に保ちなさい(ワセト14:51)』」
まったくしぜんで猥褻な意図が一切かんじられないていあんです!
キャラのブレもナントカ許容範囲内ですね!

(後編に続く)

36サンライト=100しっこ:2013/05/11(土) 05:12:07
「こら! また授業をサボったのか君は!」

 既に帰りのHRも終わった時刻、校舎の屋上で寝ていた雨弓が聞き慣れた声で目を覚ますと、目に映るのは晴れ渡る秋の空と、スカートから伸びる黒のタイツに包まれた細い脚。直後、秋風が吹き抜けてスカートの裾が大きくめくれ上がり、覗けたのはタイツと下着に包まれた秘密の場所。

「白か」

「――っ!!」

 スカートを慌てて抑えた彼女はダンダンと顔を踏みつけようとするが、雨弓は寝たままで華麗にそれを避けてみせる。このやり取りを、彼らはここ数年で幾度と無く繰り返していた。
 やがて彼女はハアッと息を吐いて、いつもの顔で雨弓を見下ろしてくる。

✝✝✝✝✝

目を開けば飛び込んでくる、見慣れた幼い顔立ち。くりくりとした大きな瞳は、彼に意識が戻ったのを確認するといっそう大きく見開かれた。

「お兄ちゃん!」

「……畢」

 嬉しそうに声をあげる妹に雨弓は口元を緩める。そこは医務室のベッドの上で、上体を起こせばすぐ隣で下の妹・金雨も椅子に腰掛けていた。

「死んでたんだっけか、俺」

「うん。一時間くらい前にここに運ばれてきて、そのときはもう『生き返って』たんだけど、今まで寝てたんだよ」

 金雨が言う。見ると二人共目の端が赤い。今生きている殆どの人類はそうなのだが、この六年余りで友人知人から親族まで数多の死を経験した二人が、生き返ると最初からわかっているとはいえ、やはり兄が死ぬところを見せられるのは辛かったのだろう。

「お兄ちゃん、もう平気?」

「ん?」

「ほら……『ファントム』」

「……ああ、悪ぃな怖い思いさせちまって。大丈夫だよ、多分だけど」

 合点が行った雨弓は順番に二人の頭を撫でてやる。戦場では狂気と暴力を撒き散らす彼も、親しい人の前では気さくな男で、妹には優しい兄だった。
 自分の心の内側で膨れ上がった何かに意識を塗り潰され、正気に戻るのは死の間際。そして、すぐに意識が闇に落ちていく感覚。
 ある人物の死の状況を、思い出していた。年月が過ぎても、たくさんの人が同じように死んでも、決して押し流されることなく、生前の思い出と共に彼の中に厳然と存在していた。

(あいつも……あんな感じだったのかねえ……)

 自分への罰では無いかと、彼にしては湿っぽい思いに心は満たされていた。

「……お兄ちゃん?」

「……ちぃっと、風に当たってくるわ」

 そう言って医務室を出る雨弓に金雨は恥じらいを含んだ制止の言葉をかけるが、ラノベ主人公への告白のように、相川ユキオへのノートン卿の言葉のように、それは届くことは無かった。

「……」
 
 風に当たるのが叶わないことは廊下に出てすぐにわかった。
 廊下には静かな雨の音が響いていた。ただ、普通の雨音とは些か趣が異なる。降り注ぐ液体の比重が重いからだ。窓カラス越しに覗く外の光景は黄色に染まっている。黄砂が降るときよりもずっと濃い黄色だ。閉め切られた窓を開けると、恐らくむせ返るようなアンモニア臭が入ってくるだろう。
 ――降り注ぐ液体とはつまり、「尿」である。

 魔人・雨竜院金雨が持つ「神の雫」は、周囲に尿の雨を降らせるという傍迷惑な降雨能力である。発動条件は失禁すること(自分の意志での放尿は不可)であり、姉譲りの緩い尿道と相俟って彼女の大きなコンプレックスを形成していた。

(二人共、朝見たときと下の服が変わってたな……)

 あんなことになったら無理も無いか、と心中でつぶやきつつ、黄色く染まる世界をぼうと見ていると、近づいてくる気配に気づく。見やれば、少し前に再会した後輩・聖槍院九鈴がそこにいた。

「……よう、負けちまったなあお互い」

「仕方ないですよアレは。実力ってわけじゃ……」

「それを言ったら、あの幼女のアレだって……実力かもな」

 自身の魔人能力を大胆過ぎる発想で応用し、大会最強の軍事力を得たのだ。それは実力と認めざるを得ないだろう。

「ま、それはいいや。ハレルと最後までやり合えなかったのは心残りだけどな」

 チャリ、と澄んだ音に九鈴が視界を向ける。指の中で音を立てる、雨弓の首から下がったロケットペンダント。

37サンライト=100しっこ:2013/05/11(土) 05:14:28
✝✝✝✝✝

 夕陽に照らされていても尚わかるほど、九鈴の親友・雨竜院雨雫の頬は赤く染まっていた。美化委員と風紀委員、互いの活動が終わった後、よく話をしながら一緒に帰っており、最近では雨雫の恋の相談が話題の中心となっていた。

「付き合えることになったの? 雨弓先輩と? 良かったじゃん雨雫!」

「ああ、雨弓君がね……。
 『俺の方から言うつもりだったのに』って悔しそうに! 
 でも、私から告白できたのはキミのおかげだよ。ありがとう九鈴」

 惚気つつ、そんな風にお礼を言う雨雫が可愛らしい。二人は幼馴染だった。頭が良くて、傘術家としても優秀で、いつもスマートな彼女が従兄である雨弓への恋にだけは不器用なのが見ていて楽しくて、だからそんな彼女の恋が叶ったのは嬉しくもあり寂しくもあり……。

「それじゃ、キューピットの私に何か奢ってもらおうか」

 後半の気持ちは表に出さず、冗談めかしてそう言う。
 二人が付き合い出してからもどこへ遊びに行けばいいか、だとか彼にプレゼントするなら何がいいか、だとか、雨弓が警察学校に入ってしまってしばらく会えないのが寂しいだとか、若干うっとうしく感じながらも相談に乗るのは楽しかった。自分は恋愛をしないのか、と聞かれることもあったが。
 
 ――雨雫が死んだのは、恋が実ってから約二年後のことだった。

✝✝✝✝✝

(やっぱり、この人は雨雫を……)

 パチン、と雨弓は開いていたペンダントを閉じ、そこに落としていた視線を九鈴へと向けた。

「願いは叶わないわけだけど、どうする?」

「……続けます。掃除を」

 尿が降り注ぐ外界に目を向けて宣言する。

『雨は埃を含んでいる。清浄に見える流れにさえゴミがあり、故に掃除は永遠だ(バアル7:9)』

 世界はするりと片付き申す、とはいくはずが無い。
ゴミできらめく世界が掃除婦を拒んでも続けるのだ。掃除を。
何は無くともトングを手に。トングが無くとも手づかみで。

 綺麗好きどころか部屋を散らかしまくる彼は、そんな決意を湛えた九鈴の横顔に呆れつつも、「頑張れよ」と言って妹たちの待つ医務室に戻る。

「雨弓先輩は……どうするんです?」

「戦うさ。好きだからな」

 目的が無くとも、戦えればいい。
 そんな自分を雨雫はどう思うだろう、と考えないでも無いが。しかし戦うことはやはり愉しい。まだまだ、戦い足りない。

「それでは、また」

「おう」

 それぞれ狂気を抱えた二人に裏トーナメント開催の報せが届くのは少し後のことである。

38聖槍院九鈴の担当者:2013/05/11(土) 13:18:18
【残念なお知らせ】
「猥褻がいっさいないトング伝説温泉・後編」は聖槍院九鈴の中の人先生が急病のため休載です。
掲載時期は先生の体調次第ですが未定です。
かわりに、サバンナ世代の俊英・ほまりん先生の作品をおたのしみください。

【サバンナダンゲロス・開戦前夜】 1of2

ザ・キングオブトワイライト第一回戦「サバンナ」――通称エルフェンルージュ。
そのおぞましき戦い、とりわけ偽名探偵こまねの悲惨な末路を目にした者の多くは、
精神を病み、肉体を破壊され、命を失った……。

しかし!
「サバンナ」の惨状を見てなお魔人として戦う決意をした者がいた!
番町グループ新メンバー! イリエワニ! &ruby(おおき){大着}ぐるみ! &ruby(なかがわ けん){Na香川賢}!
生徒会新メンバー! ムカイラ! &ruby(みなとがわ めいか){港河廻衣香}! &ruby(ながれ ぎんが){流銀牙}!
人は彼ら6人のことをこう呼ぶ――サバンナ世代と!

番長アリスメティック=ランタイムと、生徒会長サバンナ・ライオン。
いずれ劣らぬ武闘派である二人のリーダー。
極度の緊張状態はサバンナ世代の加入によって破綻し、交戦状態となる!

----

前哨戦。
学園の部室棟エリアで番長グループと生徒会の哨戒チーム同士が遭遇!
大着&&ruby(いちき みか){一木美香}&&ruby(ぼんのうぶっし){煩悩仏師}「いむっち」に、生徒会新人チーム、ムカイラ&港河&流が挑む!

「“オバサンさぁ、なんで社会人なのに番長グループに入り浸ってんの?”」
ムカイラの『至高の挑発』が一木に突き刺さった。
「うるせぇブッ殺すぞ糞餓鬼がァーッ!」
逆上した一木は、引き連れている奴隷ラノベ作家達と共に殴りかかる。
能力発動後の硬直で動けないムカイラに打撃が直撃!
骨が砕ける音が響く! 砕けたのは作家達と一木の拳!
魔人・ムカイラの耐久力は、殴った一般人の拳が砕けるほど高いのだ。
あと、一木は魔人だけど腕力は一般人並みなのだ。

「へんしんっ! 『あにまるちん』!」
大着の姿が絵本『ひとくい まんてぃこあ』に登場する怪物めいた着ぐるみに変わってゆく!
コウモリの翼とサソリの尾を持つライオンさんの姿に!
サソリの尾から針が発射される!
「あぶないみんな!」
港河が巨大なカメノテ状の腕で毒針をインターセプト!
カメノテは甲殻類でとても硬いのでノーダメージ! かと思ったら針の毒が!
「うう……きぶんわるい……」
港河は毒で目を回し、足を滑らして転倒! スリップダメージ!

「うおおおォォォー! いくぜ『釈迦釈迦トンファー』ッ!」
両腕のトンファーが銀色の光を放ち、流銀牙はトンファー概念と化した!
もはや流がトンファーであり、トンファーが流なのだ!
トンファーキックで一木の脳天を砕き、そのまま音速スプリント!
一瞬で大着といむっちの元に辿り着き、右腕に持つトンファー「仏陀」を大着に、
左腕に持つトンファー「釈尊」をいむっちが持つ全高10mの大仏に突き付ける。
「ひッ……お願いブッダ様だけは傷つけないで……」
「帰って番長に伝えな……うちのボスは俺よりも速くて強いぜ!」

39聖槍院九鈴の担当者:2013/05/11(土) 13:18:50
【サバンナダンゲロス・開戦前夜】2of2

そして決戦の日。
「会長“メンタル弱いから”心配だよ!」
「わたしがまもるんだから!」
「俺もいけるぜ!」
出撃を懇願する新人たちに、生徒会長サバンナ・ライオンは言った。
「いや、お前たちは置いていく。アリスメティックの紅茶道は強大だ……。
 そして何よりお前たちには未来がある。ここで死なせるわけにはいかない。
 俺たちの戦いをよく見ておいてくれ……!」

そして発表される出撃メンバー。
「クリームヒルデ! アリスの術に耐え切れるのはおそらく俺とお前だけだ」
「ヤー。毒殺しますよ!」
「火星! お前の能力なら番長グループの&ruby(てんみょうや){天明屋}を無力化できるだろう」
「おう。いっそ地球の文明ぜんぶを無力化したいがな」
「&ruby(いうち){居内}! お前の破壊力が必要だ。力を貸してくれ」
「いいですよ。番長グループにいるらしい生き別れの弟と逢える気がするんです」
「はたがみ織姫! あまり頼みたくないんだが……いざというときは頼む」
「ふふふっ。ムカイラちゃんと廻衣香ちゃんにも後でおいなりさん(隠語)食べさせたげるね」
そんなわけで、生徒会の新人チームは留守番となりました。
同じく留守番の白魔道士先輩が、魔人の戦いについて色々教えてくれました。
回復能力は役に立ちにくいんだよ、って自嘲気味に言う姿が印象的でした。

そして、生徒会室から姿を消した者がいた。
“魔法のアナキスト・マジカルてるみ”である。
てるみは、一木三鹿と古い友人であった。
魔法召喚した左翼活動家を奴隷作家化し、プロレタリア・ラノベで荒稼ぎした懐かしい日々をてるみは思い出していた。
あの「サバンナ」を見てやってきた新人たち。
一切の迷いなく一木の脳天を叩き割った恐ろしい新人たち。
果たして彼らが担う未来が、真に革命的で進歩的なものなのか、てるみにはわからなかったのだ。

----

一方、番長グループでは好戦的な新人たちが吠えていた。
「一木さんの弔い合戦だ! 生徒会を叩き潰して番長グループは俺が守る!」
Na香川が攻撃的な盾を振り回して暴れる。危険な男だ!
「ワニーッ! ワニーッ!」
イリエワニも吠える! 爬虫綱ワニ目クロコダイル科クロコダイル属!
大着さんは、さっきの戦闘で疲れたので休むそうです。

「仕方がありませんね。では参りましょう。戦いの地へ――」
荒ぶるNa香川とイリエワニをこれ以上抑えるのは危険と判断したアリスは出陣を許可した。
「いきますよ、シロちゃん、&ruby(かねくぎ){鐘釘}さん」
「ニャー」
シロちゃんは学園の裏庭に住んでる白猫で、たぶん魔人ですごくタフだ。
「ああ……。俺の剣が役に立つのなら行かせてもらう……」
鐘釘は正体不明の謎の剣士だが、持っている刀も錆びているが、腕前はすごい。

「破ァーッ!」
居残り組となった天明屋が、開戦の狼煙がわりに光弾を空に放つ。
開幕から参加するところの人員に選ばれることがなかったにも関わらず話の最後をはなばなしく飾るなんて、寺院で生まれたところの人間はいとはなはだしきことであるなあと、国際機関によって「この方は環境に配慮して育てられた、適正な日本人であるよ」という公的認定を受けた聡明なにほんじんであるところの私は思いました。

(サバンナダンゲロス――開戦!)

40サンライト=100しっこ:2013/05/11(土) 15:31:18
>>36-37

タイトルは「浄罪の雨」でお願いします。

41エルフの元女騎士ゾルテリア:2013/05/11(土) 17:24:55
【ゾルさんファンタジー・まさかの正体の巻き】

『ここまでのあらすじとこのSSについて!』
エルフの元女騎士ゾルテリアは色々と正体オカマフラグを積み重ねて来たが、
ファントムルージュ野郎偽原のSSが正史になり、その際最後まで女(ブタ)扱いに
なってしまった!よって設定のすり合わせが必要となり、これは
ゾルテリアの正体が本物の女性という設定かつこれまでのオカマフラグを
うまいこと回収しようと試みた幕間SSである。
無論、これを採用せず裏トーや本戦にてゾルテリアがオカマのおっさん
というSSを書く自由は参加者皆さんに存在する。


大会より前の時間、ここではない世界。一人の偉大な王が最後の時を迎えようとしていた。

「成程、比類なき強さ。だが、その愚直な物理属性のみの攻撃手段が貴方の敗因でもある。
脳筋なる王、貴方の命と国は今日ここで終わります」

王を追い詰めている人物は不敵な笑みを浮かべ距離を詰める。
王の剛剣を何度も受けているその肉体は、着ている服こそほぼ全裸になるまで破れているが
身体には傷一つついていない。

「やれやれ、娘が帰ってきたら結果は違っただろうに」
「そうならぬ様、あえて姫の留守を狙わせて頂きました。
貴方の娘は貴方より厄介という噂もありましたからね」
「…完敗だな。最後に名を聞かせてくれぬか?私の所まで一番に乗り込んだ戦士よ」
「我が名はカイエン・ゾルテリア、貴方の首にかけられた報酬を頂く為雇われた
何の大義も無い冒険者の一人です」



そして現在、上記の話とは関係無いこの温泉旅館にて。



「あーん!もう許して〜ハックション!オカマッ」

温泉旅館の隅っこ、今は使われてない空部屋にオカマ口調の裸のオッサンが縛られていた。

「全く…今まで何やってくれたのよ」

全裸のオッサンに蹴りを入れるのはエルフの元女騎士ゾルテリアだった。

「だってぇ、アンタに化ければタダで飲み食い出来るじゃない。
こういう機会は利用しないと」
「いい加減にしてよ!『お父さん』!」

裸のオッサンをゲシゲシ蹴りながらゾルテリアは彼を父と呼ぶ。
確かに、毛髪やチンチンの有無や顔のシワを除けばこのオッサンは
本来の体格バージョンのゾルテリアによく似ている。

「お父さんが私に化けてあっちこっちで色々やってるせいで私がオカマのオッサンだと
誤解されかねないじゃない。どーしてくれようか!」
「そんな〜見逃してよ〜リンダ〜、ぐっすん、ソフィーが亡くなった上に孫の部屋作るために
家を追い出されたからずっと一人ぼっちで寂しかったのよ〜。それで寂しさ頂点突破して
家に遊びに行ったら女騎士試験の話してたのが聞こえたから、つい。てへぺろ!」
「てへぺろ!じゃないーーーーーーー!」

ゲシゲシゲシ!ブヨブヨの身体に容赦無く蹴りが入る。ZTMは解除されてるので普通に痛い。

「取り敢えずこのままここに縛って放置しておくわね、お父さんが悪いのよ」
「あ〜ん、リンダ許して〜」

そんな訳で、これまでゾルテリアの正体がオカマっぽい情報があったかも知れないが
それはゾルテリアの父の仕業だったのだ…ということにして欲しい。
彼も女騎士の格好で仕事経験があり、苗字は同じゾルテリアなので
ゾルテリアと表記されていたのは矛盾ではない…ということにして欲しい。

え?ゾルテリアの父は死んだってOPSSで書かれていたって?
いいえ、そんな事書いてませんよ。ゾルテリアの父は家から居なくなって
墓で寝ていると書いただけですよ。自分と亡くなった妻の住んでたスペースを
孫の部屋として使わせ、自分は住み込みで墓守の仕事をして
職場のベッドで寝ているという意味の表記だったんですよ。
そうは読めないかもしれないけど、これ以外正史との矛盾を起こさないパターンが
思いつかなかったのでそういう事にしてくれると嬉しいなって。

「さてと、お父さんは縛ったままにしておけば大丈夫だし(ZTM使いには亀甲縛り捕縛が有効)
お風呂で汗を流しますか!」
「待ってッリンダ〜、縄を解いて〜。アアン!でも気持ちいいからこのままでもいいかも…」

という訳でこれからもエルフの元女騎士ゾルテリア(以後完全に本物の女性として扱う予定)を
どうぞ宜しくなのである。

42アスハル:2013/05/11(土) 17:35:12
一回戦幕間SS【姫将軍と偽名探偵のファントムルージュ感想戦】

 ザ・キングオブトワイライト、緊急治療室。
 がらがらがら、と運び込まれるストレッチャーが二つ。
 【洗浄上映中】のランプが灯る。

「駄目です、FR映像が海馬から大脳全体にまで及んでいます! パターン赤(ルージュ)! 危険域です!」
「こまねさん! 意識はありますか! こまねさん!」
「あ、あ、ファ、ファントム……」
「……測定結果出ました! 冒涜単位――980pg(ピコ剛力)!?
 どうかしている、人間が一年間に摂取できる原作レイプ量の約一千倍です……!」
「魔人とはいえ、こんな子供になんてものを……!」
「早く中和しろ! 『ドラゴンボール〜神と神〜』の映像はまだか! この際だ、原作を尊重してるなら変態仮面でも構わん!
 ――おい、そちらの子はどうだ!」
「う、うぅぅ、アメ……」
「ハレルア・トップライトさん……冒涜単位278pg! FR深度は比較的軽度ですが、外傷が酷いです! 輸血を! 彼女の登録票はどこですか!」
「ワン・ターレン様が来るまで保たせろ! 医療班の誇りに掛けて、傷跡一つ残させるな!」
「イエス、ドクター!」


「すいません、急患です! 同じ症状です、エルフの元女騎士――」
「だめよぉ! もっと! もっと見せて! もっとわたしをドッキリテクスチャーをチェーンジェイルして大事な所にビックバンインパクトちょうだいいいいい!!」

「「「それは放っておけェ!!!」」」


◆       ◆

43アスハル:2013/05/11(土) 17:35:51
◆       ◆

 ――数日後。
 ザ・キングオブトワイライト闘技場にほど近い大病院。その一室。

「あ〜、やっほー、お姫さま〜」

 銀髪の癖毛を揺らすこまねが、へにゃんとした笑みと共に、入ってきたハレルに小さく手を上げた。

「こんにちわ……こまね、さん」
「呼び捨てでいいってー。年も近いしね〜」

 もぞもぞとベッドの中で上体を起こすこまね。まだ体は本調子じゃないのだろう。
 ――ハレルと彼女は、試合の中で共通の『呪い』に晒された。
 その治療過程で知り合った二人は、年齢が近いこともあり、それなりに親交を築いていた。
 今では、やや症状が軽いハレルがこまねの病室を訪ねるのが日課のようになっている。

「二回戦の進出者が決まったらしいね〜」
「あ、うん」
「流石にそうそうたる面子だけど……アレに勝てるヒトはいるかなぁ?
 ……偽原、光義……あの『ファントムルージュ』に」
「……私も、サバンナの試合、見たけど……」

 ファントムルージュ。それが、彼女たちを襲った悪夢の名である。
 しかし、その存在は、一回戦が全て終わった現在でも、あまり知られてはいない。
 こまねを堕としたあの男の能力は「対戦相手を性狂いにする洗脳能力」と誤解されているし、
 ハレルが見させられたのは、彼女自身の眼球の中に投影された幻覚だ。

(『い、いやっ……。いやああぁぁぁ。もうだめぇ。もうだめだよぉぉ〜〜。死ぬぅ!死ぬじゃぅぅ〜〜〜^!』)
「う」
「あ……あはは〜。これは、お恥ずかしいね〜」

 ハレルは慌てて頭を振って、思い浮かんでしまった淫猥な映像を脳裏から追い出す。
 お前サバンナでも同じこと言えんの、とはよくも言ったものだ。
 あのおぞましい有様。自分が置かれた美術館は、アレに比べれば天国だとすら思えた……。

「実際……ひどかったよね〜。ハレルちゃん、原作は読んでないんだよね〜?」
「あ、……うん。……でも、分かるよ……お芝居くらいは、私の世界にもあったし」
『ところがどっこい……アメちゃんはね……知ってたんだな……原作……』

 けぷっ、と嗚咽のようなものが、ハレルが腰元に帯びた日本刀から漏れた。
 霊刀アメノハバキリ。ダンジョンでハレルに拾われる前に、既に千年以上生きていた彼女は、意外なほどに知識が広い。
 もっとも、今回はそれが仇となってしまったようだが。
 リハビリ課程を速やかにこなしたハレルが立って歩けるようになった現在でも、未だに元気がない。

「……え、そうなの?」「そうなんだ〜?」
『まさか……あのメーサクをあそこまでゲスに出来る人がいるなんて……』
「でもノブナガは格好良かったけどね〜」
『んー、まー、キャラクター目当てのファンサービスとしてはアリ……なのかな〜?』
「うーん、どうせ良さを全部再現出来ないんなら、そのうちの一つに特化させて、あとは投げ捨てるってのも、選択としては十分アリだと思うよ〜?」
『投げた先に地雷原と肥溜と有毒ガスでもたまってたってくらいのダメダメ具合じゃん……』
「確かに、取捨選択の結果じゃあないよね〜。……ああ、『脚本』そのものを投げたってのはあるかもしれないけど〜」
『あの脚本家、有名らしいねー? 魔人?』
「さあ、どーだろー?」
『もうちょい調べようカナー……ってあだだだだだ! ハレっち! いきなり何するのさ!』
「アメ。……ずるい。私、おいてきぼり」

 じとっとした目つきでかりかり鍔を引っ掻くハレルであった。
 また今度、読ませて貰おう。原作の方。精神空間にあるのだ。アメの読書遍歴(ほんだな)が。

『神聖なる霊刀の空間を漫喫代わり使わないでよネー!』
「マンキツ? アメが変な情報入れてるのが悪いんじゃない……」
『ギクゥッ! そ、それにしても、アレ専用の魔人までいるなんてね……大変だったね、こまっち』
「そうだね〜。まあ、結果的には良かったんじゃないかな〜。
 私の仕事はこの大会への『参加』だったし〜。しばらくは療養するよー」

 そう言いながらも、探偵の性か、こまねは目ざとく動いていたりする。
 何せここは“目高機関御用達の病院”だ。無数の『危険な噂話』は、既に幾千のシャボンとなって収集されている。

「それに、なんとなくだけど、勝った方が酷い目に遭う気がするしね〜」
「え?」
「なんでだろうね〜?」

 首を傾げるハレアメこまね。その言葉の真意は誰にも分からないだろう。
 紅蓮寺工藤あたりなら分かるかもしれない。

◆       ◆

44アスハル:2013/05/11(土) 17:39:29
◆       ◆

「そうそう、勝ったと言えば、あのチャラ男くんは、どうなの〜? 仮に当たったとして、
 あの上映(うんめい)に、もう一度抗えると思う〜?」
「…………わからないよ。私たちはファントムルージュ自体に勝ったわけじゃないし」
 
 黄樺地セニオ。チャラ男の王。
 彼が破ったのはファントムルージュではなく雨弓の能力であり、そこからはハレルとの共闘だ。
 それでも、二回戦の進出者を大方見ていると、彼が勝った理由も分かる気がした。

「でも……偽原、さん以外も、二回戦に行った人たちは、違う。魔人とか、そういう区別じゃなくて」
「それには……同意かな〜……。みんな、どこかしらね〜……」

 試合データを照覧したのはこまねも同じだ。そして彼女の洞察力ならば、嫌でも分かる。
 『一般的な魔人』の範疇に収まっているのは、せいぜいが二、三人だろう。
 あの、忌まわしきサバンナの緋い幻影を初めとして、精神か肉体かに異形を抱えた者ばかりだ。
 あるいは、ハレルやこまねが、一回戦で負けたことは幸運だったと思えるほどの地獄が、きっとこの先に待っている。

「ま、私は外から楽しませて貰うとするかな〜。シャボン玉みたいに〜」
「ん?」

 ううん、と首をゆらりと振る、こまね。
 ふと、手を叩いて、傍らに積み上げられたディスクの数々を漁る。
 リモコンを操作して、病室に相応しくない大きなスクリーンを下ろす。

「あ、そうだ、リハビリ用の映画、何か見る〜?」
「……るろうにケンシン! 実写版! 見たい!」
『またソレ!? アメちゃんもう飽きたよ! ベッドで寝てた頃から何百回見たと思ってるの!?』
「全部、覚える。あとで原作も読ませて。中で」
『えええ〜! 漫画は一日一時間までにしようよ〜!』
「……今さら聞くのもアレだけど〜、なんで異世界の霊刀が、こっちの世界の情報にそんな詳しいのかな〜?」


【姫将軍と偽名探偵のファントムルージュ感想戦】fin.







 ガラッ(扉が開く音)

「うふふふふふふ、そんなくだらないものよりも、こっちの原作レイプ作品を観ましょう!
 実写版デビルマン!! 実写版ドラゴンボール!! ビブリア古書堂の事件手帖ドラマ版!!
 アイドルマスターゼノグラシア……に関しては諸説あるので今回はおいておくわ!!
 ……ああ、はぁぁん! だめえ! わたし原作と一緒にレイプされちゃうう!! 大事な所に剛力ねじ込まれちゃうのぉ!! すごひいいいいいい!!」

「いやああああ!! 助け、助けて、ハレルちゃん助けてぇえぇ!! あああああだめ!! だめぇぅ!! だめだよぅ〜〜〜!! こわい、死ぬじゃう〜〜!!」
「うん、大丈夫、大丈夫だからね、こまねちゃん! 気をしっかり持って!
 ――アメ、行くぞォ!!(CV:姫将軍ただし姫:将軍=1:9比)」
「がってんしょうちのすけェ!! 吹き飛べゴラァ!!」

「いやーん、まいっちんぐぅぅぅぅぅぅ……(ドップラー効果)」

 なお、おいはぎの曲刀の効果もあり、ハレルはゾルテリアに特攻である。



こまね「うう、いやだ、いやだよぅ、ファントムいやあ、エルフこわい、エルフェンルージュには勝てないよぉ……ハレルぢゃあん……」
ハレル「うん、だいじょうぶ、だいじょうぶだからね、ファントム怖かったよね、わたしがいるからね……」

 ……こまねがエルフェンルージュ恐怖症から回復するのに、ハレルは大きく貢献していた。


【ハレこまは俺達の百合色の幻影】 fin.

【まあ】【裏トナメもあるので】【細かい所はパラレルに】【しよう】【しよう】【しよう】
【勝手にお借りしたキャラクターの中の人、ごめんなさい】

45冷泉院:2013/05/11(土) 22:40:05
冷泉院の口調とか性格が分かりづらいという事なので。

プロローグSSから(ローズ=拾翠が仮面を手に入れてから)二日目の夜

「……」
意識がまどろみの中に沈んでゆく。
仮面と魔人、二人の意識が交わり言葉を交わす事が出来るのはこのわずかな時間だけである。

「……霧、夕霧」
ローズをこの名前で呼ぶのは、今は仮面だけである。
「冷泉――」
冷泉とは夕霧が仮面に与えた名前だった。夕霧と冷泉。古い小説に出てくる異母兄弟の名前である。
「ええ、夕霧。あなたはまだ私に聞きたい事があるのでしょう?」
一つの身体を共有する事になった仮面の意識体に、夕霧は昨晩もいくつかの疑問をぶつけていた。
「俺が眠っている間はお前が体を動かす事が出来る」
「ええ、そう」
「といっても、その時間お前は、ほとんど何もせずにぼんやり過ごすだけ」
「私が作られたのは1000年も昔ですから。あなたが眠っている時間なんてあっという間に過ぎてしまうんですよね」
「ここまでは聞いた。今日聞きたい事は……そうだな」
さて、これを聞くべきか。夕霧は少し迷った。
「俺が誰かに殺された場合、お前はどうなるんだ?俺からそいつに乗り移るものなのか?」
「ふーん……」
夕霧に質問を躊躇った時間と同じだけ、冷泉は押し黙った。
「きっと、何も起こらないでしょう」
「私には本来、人から人に乗り移る能力はありませんから」
「へぇ?」
夕霧は驚いている体を装いながら、どこかその答えを予測していたように、やや白々しく応えた。
「私は私を手にとって、自分から被った者の意識と肉体を支配する。それだけの仮面なのですよ」
要するに、仮面もまた魔人の手によって創られたものである以上、その性能には魔人としての限界が存在するのである。
肉体と精神の支配、身体の強化に加え他者への憑依能力まで与えることは不可能に近い。
「私にも、あの時何が起こり、今がどういう状況なのかは分からないのですよね」
「……お前が俺の肉体を支配出来ないのは、それが関係しているのか?」
「……さぁ?どうなん……で……しょう……」

やがて二つの意識はぷかぷかと水中を漂うように離れてゆき、互いの声はくぐもって消えていった。

46冷泉院:2013/05/11(土) 22:40:31
2020年 6月4日

色とりどりの花が咲く池に木造の橋がかかっている。
拾翠がどこからか仕入れて来た資金と伝手で復旧した庭園である。
庭園の西側には二階建ての木造住宅が、やはり彼の手に依って復元されている。
拾翠亭と呼ばれるその建物のたたずまいを、彼はとても気にいり、偽名に使っている。

縁側に座り、庭園を眺めながら拾翠は心を落ち着かせた。
禅と呼べるような大層なものではない。ただうとうとと意識を緩めているだけである。
そうやって、仮面の意識に語りかけようとしていた。

「……冷泉。応えろ、冷泉」
意識の中を夕霧の声が波紋のように伝わってゆく。
不意にその円の端が別の波に触れた。
「あなたはもう、私と話をするつもりは無いのだと思っていましたよ、夕霧」
冷泉の少しつっかかるような態度を夕霧は無視した。
「お前に確認したい事がある」
「ええ、どうぞ」
「このあいだの試合、俺は確かに敵に殺された」
「はい?」
「しかし、記録では俺は敵に殺されるどころか、試合の勝者となっている」
「私の記憶でもそうなっていますが」
「だが、俺は自分の断末魔を、覚えている」
「不思議だこと。で、私の考えを聞きたいと?」
「冷泉、俺はいったいどうなってしまったのだろう」
あなたは、意外と甘えん坊ですね――。冷泉はそう言いかけてやめた。
短い沈黙ののち、冷泉から返された言葉は意外なものだった。
「夕霧、あなたは神さまを信じますか?」
「神さま……?あまりピンと来ないな」
夕霧は海賊を辞めて暫くの間、高野山で密教に匿われて隠遁生活を送っている。
しかし、それはそれとして、神仏問わず宗教に対する関心は非常に低い。
「じゃあ、この世界には一定のルールが存在しますよね。たとえば気まぐれに今日が昨日より長くなったりはしないでしょう?」
「認める」
「夕霧、あなたはルールの境目をまたいでしまったのだと思います」
予想していなかった冷泉の言葉に夕霧の思考は追いつけずにいた。
それをわかってか、冷泉は間を取りながら、ゆっくりと話す。
「たとえば、あなたが漂流者だった世界のルールと、この世界のルールは違うものなのかもしれません」
「或いは、あなたが海賊だった世界もまた、この世界のそれとは別の誰かが作ったルールが存在していたのでしょう」
「あなたはいつの間にか、それぞれ異なるルールが支配する世界と世界の境界を越えてしまったのでしょう」
「異なる世界のルールから生まれ、この世界のルールから外れた存在。極端に強くあり、或いは弱く居る事も出来る」
「そのような異端の存在を、あなたも知っているでしょう、夕霧。『転校生』と呼ぶんですよ」
「俺が、転校生だと?」
「実際には転校生の成り損ないといったところなのでしょうね」
「心しておきなさいね、夕霧。あなたの存在は複数の世界のルールの干渉を受け、ぶれて重なり不安定になっています」
「俺が、俺ではいられなくなる。そう言いたいのか?」
「或いは、突然にふっと消えて無くなってしまうかも。そして、それは私も同じです。夕霧」

冷泉はそれっきり何もしゃべらなかった。
夕霧の意識は覚醒へと向かい、ゆっくりと閉じていた瞳が開かれる。
サラサラと草木が風に揺れ、チラチラと水面は赤く夕陽に輝いている。
夕霧は冷泉がその体を支配している時と同じように、ぼんやりとそれを眺め続けていた。

47冷泉院:2013/05/11(土) 22:49:45
1回戦の決着があまりにも意味不明だと、二回戦を書く人が困るかもしれないので、補足しておきます。

(1)決着について
手首から先をロケットパンチの様に発射したとかではなく、トリニティを見つけてものすごい速さで走って取り押さえています。
状況的にこれで勝ちだろうということで終わっています。

(2)どうやってトリニティを見つけたのかについて
キャラ説に書いていない能力を使ったりしたわけではありません。
※監視カメラは人を自動的に認識する
※フロアには①冷泉院を向いてるカメラ②トリニティを向いているカメラ③動いてるカメラの3種類がある。
※②を見つければトリニティがどこにいるのか分かる
という流れのつもりでした。

48姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:41:59
■タイトル:ネタに詰まったら学園化しとけ■

注1)このSSはダンゲロスSS3・第1回戦にて惜しくも散ってしまった選手達を勝手に使った空気系オムニバスSSです。

注2)大半のキャラ設定と概ね全ての背景設定を蔑ろにしています。ごめんなさい。

注3)温泉アンソロが飽和したので、舞台は学園です。

注4)登場人物は全員18歳以上です。




■Chapter0:登校■

「いっけな〜い、遅刻遅刻〜!」

(―――――わたし、『四葉』! 『高島平 四葉』11歳、ぴっちぴちの小等部5年生!)

食パンを咥えながらダバダバと通学路を急ぐ脱法ロリ。

その背後より突如強風が吹き付け、スカートが捲れ上がり「天下布武」のバックプリントがあらわになる!
急いでスカートを押さえ、周囲を確認する四葉。

そこには突風の原因、天空よりハングライダーで舞い降りて来たクラスメイトの弓島由一の姿があった。

「おっすおっす、急がねーと遅刻だぞ」
「ゆっ、由一! いまっ! 見――――」

四葉の問いを流すように、一方的に挨拶だけ済まし、由一はパスッパスッとハングライダーに特殊弾を撃ち込んだ。

≪魔人能力 ガンフォール・ガンライズ≫

ハングライダーが重力に逆らって鉛直方向へと急速上昇する。
上昇→能力解除→滑空を繰り返して空を駆けることで登校時間を短縮しているのだろう。
実にしゃらくさい。

ある程度まで上昇したところで、由一は地上の四葉に向けて大声で言った。

「おまえのあだ名ー! 今日から『ノブナガ』なー!」

(―――――見られた)
カッと四葉の顔が赤くなる。

「もあーーーーーーーーーーー!!!」

≪魔人能力 モア≫

四葉の両手に出現する2丁の“ちょっと強い”エアガン。
天空に陣取る同級生に向け全力射撃。

しかし、こういう時の攻撃はゆるふわ補正によって当たらないものだ。
神は空気を読む。
スイスイと空を滑るように由一はエアガンの射程から離脱していった。

「おぼえてなさい! 次会ったら一族ろーとーみなごろす!」

肩で息をしながら物騒な負け台詞を吐く四葉の横を、猛烈な勢いでバイクが通り過ぎる。

―――COOL

――――――COOL

―――COOL

――――――COOL

愛車「スゴク・デュマエ・ハヤイ」を駆るクラスメイトのラーメン探偵だ!
再びあらわになる天下布武!

「もぉーっ! なんなのよーっ!」

重なった災難に憤慨する四葉の頭上から、どこか懐かしいメロディ。

♪ぼうや〜〜 よい子だねんねしな

♪いーまも昔もかわりなく〜

♪は〜〜〜はのめ〜ぐみの子守唄  (こもりうたー)

♪遠い〜むかしの〜〜〜もーのォがた〜り〜〜

見上げれば空を覆わんばかりの緑の和竜!
クラスメイトの倉敷椋鳥の通学風景だ。

竜を見たことで怒りを忘れ、わりと平穏な気持ちになった四葉。
竜ってスゴイ!
それはそれとして遅刻はした。

49姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:42:44
■Chapter1:持ち物検査■

「抜き打ち検査だオラァッ!」

やけに威勢のいい担任が、各生徒の持ち物をチェックしていく。

「まぁこれは銃刀法違反だわな」
「ガングニルううううううううううううう!!!」

取り上げられる槍。

「当然これもだな」
「アメええええええええええええええええ!!!」

取り上げられる刀。

「これは…よくわからんが没収だ」
「あにきいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

取り上げられる空き瓶。

「むぅっ! これは………!」

バカでかい傘を前にして、某桜吹雪のお奉行様を彷彿とさせていた名裁きが鈍る。

「今日は午後から降るらしいんでな。 別におかしくないだろう?」
「むむむ…」

もっともらしい所持理由を陳述する被疑者。
確かに空は曇り気味。

_人人人人人人人_
> 異議アリ! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

噛みつく獣人生徒!

「せんせー! その傘からは火薬の臭いがするぜっ!」
「おっ、そうか じゃあ没収ということで」
「くずりゅうううううううううううううう!!!」

取り上げられる武傘。

「テメェはよく鼻が効くな。よーしよしよしよし」

フワフワの毛並を撫でる担任。

「ケッ‥気安くさわんじゃねぇよ」

言葉に反し、しっぽをブルンブルンと回して喜びを表現する獣。
調子に乗って火薬の臭いをもう1件摘発。

くんかくんかと、とある女子生徒を嗅ぎ倒し、大量の拳銃を発見するに至った。
なお、その様は大変あざとかったので各自脳内保管すると幸せになれるであろう。

槍と刀と武傘と大量の銃で武装した担任は、気づけば現代版弁慶のようなシルエットになっていた。
復讐に燃えるグリーンベレーの精鋭でもこのような過剰武装はしないであろう。

50姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:43:00
■Chapter2:ホームルーム(席替え)■

「経費削減のためにジョークをひとつ」

ずらりと着席した生徒達を前にして担任、内亜柄影法が語り出す。

「テレビゲームばかりやっている息子に、
お父さんは勉強させようと偉い人の話をしました。

『ジミー。リンカーンって知ってるだろ?リンカーンがお前の年の頃には、
暖炉の明かりで勉強してたんだぞ。それぐらい勉強したんだ』

『ふうん。パパ、ボクも言っていい?』

『なんだ?』

『リンカーンはパパの年の頃には、アメリカの大統領だったよ』」

担任の唐突なアメリカンジョークに、どう反応していいのか戸惑う生徒達。
ゲラゲラと爆笑する黒田と、「………先生、それはどういう意味でしょうか…?」と真面目な顔で質問する姫将軍は例外的存在だ。

≪魔人能力 ロジカルエッジ≫

「白けたジョーク」が教師の武器である「白いチョーク」へとその様を変える。
この変換自体も苦しいジョーク、「白けたジョーク」の一環であり、連鎖的に数本の白チョークが生み出された。

そのうちの一本を手に取り、影法は黒板にある文字列を書きなぐった!

_人人人人人人人人人人人人人人_
> 今日は月に一度の席替え! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

ドキドキなイベントの発表に沸き立つクラス。
『好きなあの子の隣に』『早弁をしてもバレないあの席に』
教室の空気が邪な願望を蓄えて濁る。


【そして30分後……】


「あ〜、やっほー、お姫さま〜」
「………お世話になります。こまね」

百合百合しい二人が隣の席に。

「キメマス! キメマス! キメマス! アトデ=キメマスううううううううっ!」
「ノブナガ! ノブナガ! ノブナガ! ノブナガあああああああっ!」

11歳の少年少女が隣の席に。
朝のパンツに関連した騒動に端を発して、今はお互いのあだ名を連呼している。

「いやああああ!! 助け、助けて、ハレルちゃん助けてぇえぇ!! あああああだめ!! だめぇぅ!! だめだよぅ〜〜〜!! こわい、死ぬじゃう〜〜!!」
「ひ、く、ぅぅ……あああっ!」

“ノブナガ”という単語で何故かダメージを受ける百合組。
一体どのような理屈であろうか。

「テメェら、大人になったら嫌な奴と一緒に仕事をしなきゃなんねぇ時もあるんだ
いい機会だと思って頑張って仲良くしろい!」
11歳コンビを叱る担任。

「せんせー! 夜魔口君と雨竜院君がシマ争いでもめてます!」
「テメェらはもういい大人なんだからちゃんとしろよ!」

「せんせー! 儒楽第君と森田君がお互いの足をふんづけ合ってます!」
「テメェらはもっといい大人なんだからちゃんとしろよ! めんどくせェ!!」

「せんせー!隣の空飛ぶスパゲッティ・モンスター君が酸をッ!!
酸を飛ばしてうわあああああああああああ」
「うわあああああああああああああ」

51姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:43:33
■Chapter3:体育■

魔人サッカー。
それは、ルール無用の殺し合い。
ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!!するという原則はあるものの、基本的には超!エキサイティン!!な殺戮ゲーム。

開戦直後、機先を制して九鈴のトングがボールを掴んだ。
そこを目がけて放たれる銃弾の雨嵐。

―――――不必要に揺れる保険医のPカップ!

銃弾は幻影の“九鈴”をすり抜け、ゴールキーパー・蛭神を強襲。
しかし陰茎が固くて助かった!よかったね!

―――――不必要に揺れる保険医のPカップ!

ある肉体強化魔人がグラウンドにクレーターを作りながら駆け、またある魔人は雷を引き起こす。
空間に浮かんだ質量を伴った“英語”が、召喚されし異形の大群を縛る!

―――――不必要に揺れる保険医のPカップ!

ある魔人が、異形の軍団より“ちょっと強い”軍団を召喚し、それに対応すべく武闘系魔人達が背を合わせて集結する。
肉が裂け、骨が砕け、戦場が鮮血と阿鼻叫喚に包まれる。

ボールなど、とうの昔に破裂四散している。

「地獄」。

この授業を示すのにこれ以上適切な言葉はない。
しかし、まだ地獄には深部があった。

盛り上がりをみせるグラウンドに、突如として無数の小型ロボットLBX(※1)が襲来。学園のメンバーたちが応戦する中、ダックシャトル(※2)から新たなLBXが出現し……!?

人気TRPG「戦闘破壊学園ダンゲロス」と「ダンボール戦機W」がコラボレーションし、最強サッカーチームとLBX軍団が激闘を繰り広げる劇場版アニメ。

「劇場版戦闘破壊学園ダンゲロスGO vs ダンボール戦機」DVD好評発売中!

※1)コピペしたので詳細不明
※2)コピペしたので詳細不明

52姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:43:54
■Chapter4:体育後の…。■

シャワアアアアアアアア (漫画的擬音法)

「あーつかれたー!」
「死ぬかと思ったかも〜〜」
「ゴミめ……次こそ片づけてやる」
「………サッカー…これがサッカーなのですね…なんと楽しい……!」
「ふふふ、楽しい催しでしたね」

ここは、先ほどの体育で流した汗と涙と血と胃液を洗い流す女子シャワー室
……の、隣室。

「ぐふふふ」

いかにも下種な笑い声がその部屋に響く。
声の主はヘソを視認することで対象を悪堕ちさせる能力を持つ肥溜野森長だ。
目的は各自察して欲しい。

「おいおい楽しそうなことやりやがって、俺もまぜろよ!」

そこに面白そうな雰囲気を嗅ぎつけた黒田が加わる。

「うっわ……、おっさん達ナニやってんの?
まじキモイんだけど 通報した」

さらにそこに生意気な弓島由一が加わる。

「そんなこと言って、お前も見たいんだろォ〜?
素直になれよ〜〜〜!」
「なっ、ちげーし! 俺カノジョいっから!」
「……しずかにしろよ…… みつかったら……どうする? ぐふふ」

和気藹々としたズッコケ3人組にさらに新メンバーが加わる。

―――――空飛ぶスパゲッティ・モンスター。

瞬く間に3人は捕食された。

53姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:44:14
■Chapter5:放課後ティータイム■

放課後の部室に4人の人影。

ワン・ツー。
「シッ! シッ!」

ワン・ツー。
「シッ! シッ!」

ワン・ツー・スタンガン。
「シッ! シッ! (バチバチ!!)」

ワン・ツー・スタンガン・スタンガン。
「シッ! シッ! (バチバチ!!) (バチバチ!!)」

スタンガン・ツー・スタンガン・スタンガン。
「(バチバチ!!) シッ! (バチバチ!!) (バチバチ!!)」

スタンガン・スタンガン・スタンガン・スタンガン。
「(バチバチ!!)  (バチバチ!!)  (バチバチ!!) (バチバチ!!)」

奇妙な光景がその部室にて繰り広げられていた。
半裸の男子生徒が、謎の魔方陣の上、ボクシングの型のようなものに混ぜてスタンガンを振るっていたのだ。
そしてそれを見守る3人の男子生徒。
どこか暗黒儀式めいている。

―――――それは、“紅茶”を獲得するための儀式である。

この奇行を繰り返すこと、1600回。
中空から紅茶の注がれたティーカップが4つ出現した。

待ってましたとばかりに文字通り振って“沸いた”紅茶を受け止め、享受する4人組。
彼らは軽音部に属する“放課後ティータイム”というバンドである。

エレキギター担当:鎌瀬 戌
ボーカル担当:森田 一郎
物理攻撃担当:儒楽第
紅茶担当:不動 大尊

ひょんなことからバンドを結成した彼ら(遡ればカスタネットを志望して入部してきた儒楽第に関するエピソードがあるのだが、ここでは割愛する。)は、こうして放課後になる度に部室へと集合し、紅茶をすすっているのである。

不動大尊の魔人能力は“カップに入っている紅茶を1600度まで急速加熱する”というものであり、他のメンバーはその内容を知っている。
知った上で、カップの紅茶を飲むほどの信頼関係が彼らにはあった。

なお、連日このようにお茶を飲んでお菓子を食べてだべっているだけにも関わらず、彼らの音楽の実力は相当のものであり、学園祭のライブなどは練習なしでもそつなくこなして拍手喝采である。
実にファッキンシットな連中である。

「シッ!シッ! (バチバチ!!)」

お茶を飲み終えた不動 大尊が肉体言語で『セッションしようぜ!』と伝える。
こんな連中ではあるが、たまには思い出したように練習をするのだ。

その提案を受けて持ち場につくメンバー達。
サボり癖があるとはいえ、彼らも音楽を愛する魔人、本質的に練習は嫌いではない。

「「「「 いっせーのーで!!!! 」」」」

ギャギャギャァアアーーーーーン!!

掻き鳴らされるエレキギター!

「フンッ! ハァッ!!」

放たれる物理攻撃!

「粗茶ですが」

振る舞われる紅茶!

「ボエ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

脳を物理的に破壊する歌声。

今年もこのバンドは安泰であろう。

54姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:44:32
■Chapter6:ハルマゲドン■

横殴りの豪雨の中、人払いが完了し、インフラの止まった校内に二つの集団。
西校舎と東校舎をつなぐ渡り廊下を挟む形でその集団は集結し、対立していた。

―――――生徒会と番長グループ。

蠢くそれぞれの集団の中より、二人の魔人が進み出る。

西校舎より、生徒会長、聖槍院九鈴。
東校舎より、番長、黒田武志。

今にも弾けんばかりの各々の軍団を背で制しながら、二人は歩みを進め、やがて立ち止まり武器を構える。

両手に2つのトングを構えた聖槍院。
それぞれが天と地を挟むが如し王道の構え。

“聖槍院流 天地魔闘の構え”

伝統あるトング道流派、聖槍院流の正統後継者にして同流派五十段の完全熟達者(オーバー・アデプト)の彼女の構えは、基本にしてそれが奥義。

対する黒田武志は飄々とした自然体。
喋る槍・ガングニルを肩に軽く乗せたような恰好。

「油断するなよ武志。敵は強いぞ!」
「大丈夫、俺だって強いさ、だが―――――」

敵を前にして武器との会話。
戦いを舐めきっている。

その様子を受けてか、カチン、カチンと、聖槍院は2回トングを鳴らした。
聖槍院流の“お辞儀”にあたる行為。
すなわち、戦闘開始の合図―――――

「―――――なぁ、アンタ」

戦いを始めるぞという共通認識と殺気をするりと躱し、黒田は語りかける。

「俺は戦いたくないんだが、どうだろうか。」

カッと、聖槍院の瞳孔が開く。

―――――(この後に及んでまだそんなことを!)

「………これでも、同じことが言えますか?」

右手の“天”のトングが口へと咥えられる。
と同時に腰のホルダーから右手にトングを補充、再度頭上へ。
天地魔闘の構えの発展形、3トング流の構え。

“聖槍院流 天地人掃滅(ノア)の構え”

トングが縦一列に並び、そして―――――

―――――ガチリと、閉じられた。

“聖槍院流奥義 大尊(ダイソン)”

掃除機が発明されるきっかけとなった清掃術原初の奥義。
有り体に言ってしまえばそれは“吸い込み投げ”。
接触していないように見える対象を引き寄せ、掴むだけのシンプルな奥義。

しかし、現世においてこれを体現するトンゲリストは頂点たる聖槍院ただ一人。
吸引力の変わらないただ一つの奥義。

みっつのトングに挟まれた対象はガングニル!
挟む力 1950kg/cm2! サンタナのパワーの約2倍!!

何の前触れもなく訪れたその別れ。
4つの鉄棒へと無残にその姿を変えるガングニル。

カランと、“ガングニルだったもの”が床へと落ちた時、ようやく黒田は何が起こったかを理解した。

うお、ぉぉ?
「うおおお!」
きさま
「貴様!!」
よくも
「よくも、ガングニルををををををををををををををををををををををををををを」
ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを
ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを
ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを
ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを
ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを
ををををををををををををををををををををををををををををををををををををを
ををををををををををををををををををを!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

55姫将軍ハレル:2013/05/12(日) 22:44:47
■Chapter7:黒田の部屋■

「…が床へと落ちた時、ようやく黒田は何が起こったかを理解したまる」
ターン!と音高くエンターキーを叩き、黒田は満足げなため息を漏らす。
ここは黒田の部屋。机の上にはノートパソコン。
黒田は妄想混じりの、いや総て妄想でしかない学園生活を総括して、オムニバス小説を書いていたのだ
傍に立て掛けてあったガングニルがモニタを覗き低く呻く。
「ひどい。捏造だ。まんがタイムきららにでも持ち込む気か?」
「おいおい人聞きが悪いだろ。
読者に楽しんでもらうためのちょっとしたサービスさ」
黒田は小首を傾げ、肩をすくめて両手を広げた。

56稲枝田:2013/05/13(月) 00:43:54
埴井きららさんを描きました

tp://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=35658260&mode=medium

57弓島由一:2013/05/14(火) 02:37:02
 弓島由一の能力に関する九つの報告(幕間SSというより能力の補足的な何か)


1.運動中の物体に対しガンフォール・ガンライズを使用した場合、運動が連続している間は移動操作権が維持される。その際にガンフォール・ガンライズで移動させた場合、物体の慣性は消失する。

 運動中の物体にガンフォール・ガンライズを使ったらどうなるのか?
 外力が働いていないため、慣性運動中でもその効果を発揮できるだろうことは想像に難くない。
 由一はボールを空中に放り投げ、特殊銃のスタームルガーで撃ちぬいた。
 ボールを地面に向かってスライドするように下降させる。
 このとき、ボールの予測落下地点とガンフォール・ガンライズ使用時のボールの位置が大きく離れていたことから、ボールの慣性はガンフォール・ガンライズによる移動操作で消失したことになる。

2.壁や地面にぶつかって跳ね返ったりなど、運動の連続性が途切れた場合、ガンフォール・ガンライズによる移動操作権を消失する。2.

 同様に放り投げたボールを撃った後、一度バウンドさせる。壁にぶつける。別のボールをぶつけるなどの行為を行った。
 これらの後、ガンフォール・ガンライズによる移動操作が出来なかったことから、慣性運動の最中でも外力が加わると能力が解除されることが判明した。


3.慣性移動している密閉空間(自動車や電車など)にガンフォール・ガンライズを使用した場合、中にある物体ごと慣性は消失する。

 等速度運動を行なっている自動車にガンフォール・ガンライズを使用したら、1,2と同様にその慣性は消失した。
車だけに有効ならば、ドライバーは急ブレーキを掛けた時のように前方向に飛ばされるはずだが、そのような結果は得られず、車内の荷物は微動だにしなかった。
 このことから、運動する特定の密閉空間内の慣性も消失する、と考えられる。
 なお、この検証は大会運営の協力のもとに行ったものであり、無関係な一般市民を巻き込んではないないことを留意しておく。


4.慣性移動している密閉空間内の物体にガンフォール・ガンライズを使用した場合、外部から見た慣性は消失しない。

 走行している電車内でガンフォール・ガンライズを使うと、慣性が消失するならそのまま車内の奥まで飛ばされるように考えられたが、そのような結果は得られなかった。

58弓島由一:2013/05/14(火) 02:37:25
5.人間に向けて打つ場合、生身の部分に着弾させなければほぼ効果がない。生身の部分に着弾した場合、衣服や装備品は「人間の一部」として認識される。

 ガンフォール・ガンライズで発射された弾丸は、服に当たった場合その服を着た人間を沈めることは出来ない。
だが、生身の部分に当てると、衣服や装備品ごと沈めることができる。
 これは、「人間」を構成する要素に衣服や装備品が含まれるが、衣服を構成する要素に「人間」が含まれないからだ、と考えられる。
 すなわち「由一が人間をどう認識しているか」という問題でしかない。

6.ガンフォール・ガンライズによって操作させられた人が魔人能力などで武器を創りだした場合、前述の「人間の一部」として認識されない

 由一が自らにガンフォール・ガンライズを使用し、沈んでいく途中、ガンフォール・ガンライズで新たな銃を創りだした。
 その状態で沈もうとしても特殊銃は沈まなかった。
 これは、「着弾時の人間の状態」に左右されるからだと考えられる。

7.ガンフォール・ガンライズで移動させる時は静止しているものしか通り抜けられない。

 ガンフォール・ガンライズで平行移動しているボールに対して通常のボールをぶつけると、その移動操作権が失われた。
 当然のことだが、運動している物体まで通過できるならば、外力を加えることがほぼ不可能だ。
 そのため、静止している物体しか通り抜けられないのは普通だと考えられる。
 ただし、走行中の電車などをすり抜けて上昇可能なのを鑑みると、案外曖昧なのかもしれない。

8.ガンフォール・ガンライズにより物体を通り抜けている間に効果が解除された場合、物体の該当部に通り抜ける効果が残る。物体から脱出した場合、効果は完全に解除される。

 ガンフォール・ガンライズで自分の下半身を埋め、能力を解除した。両手で地面を押すとさしたる抵抗もなく体を浮き上がらせることができた。
 また、ベニヤ板を十字にクロスさせるよう沈めた後能力を解除したが、重力によって地面に垂直なベニヤ板は自由落下をしただけに終わった。
 2枚のベニヤ板に損傷は見当たらず、ベニヤ板が通り抜けた部分を触ったところで何も異常は見当たらなかった。


9.ガンフォール・ガンライズを解除するための外力は、無視出来るほど微小な場合、無効となる。

 ガンフォール・ガンライズで自身が浮いている最中に、BB弾を上方に向かって投げ、落ちてくる時のBB弾に当たるようにした。
しかし、BB弾があたっても能力は解除されなかった。
 能力を使用したボールにBB弾を当ててみたが、同じく解除されなかった。
 至近距離からボールにBB弾を射出すると、ボールにかけられた能力は解除された。
 このことから、加わる外力はある程度の大きさを要すると考えられる。

59サンライト=100しっこ:2013/05/15(水) 03:02:10
黄金の水〜高島平四葉編〜

 春の風に長い黒髪がさらさらとなびいた。どこの資産家の家だろうか、と思われるような大きな洋館の庭に朝日が差し込み、そこに佇む少女を照らしている。
 美しい少女である。小さな体躯は彼女を実年齢以上に幼く見せているが、顔立ちはずっと大人び、精緻なバランスと完成度を誇っている。
 しかしその内に秘める邪悪さは世界史上の様々な奸雄達を凌いでいた。
 一片の躊躇も無く故郷に殺人ウイルスをばら撒いた。ひょっとしたら人類滅亡の引き金を引くかも知れぬ行為を平然として見せる。
 それが彼女・高島平四葉だった。

 全ては世界を掴むために――。四葉は白い手をす……と伸ばす。今確かに、彼女の掌は世界を掴んでいた。
 布団に尿で描かれた「世界」は冷たかった。ここ数日嫌な夢にうなされて、失敗してしまうのだ。

「よーつばちゃん! 学校行こうー!!」

「あ、はい!! ちょっと待ってー!」

 玄関で呼ぶ声がする。&ruby(がっこう){希望崎学園初等部 }のクラスメイトだ。

「ごめんね……今日は病院に行かないといけなくて、学校おやすみするの。梨花ちゃんと由紀ちゃんだけで行って」

「そうなんだぁ。あれ? あのお布団……四葉ちゃんおねしょ?」

「ち、違っ!!」


 数時間後、とある地方都市の、新幹線が停まる駅からバスで15分程の商店街前に彼女は立っていた。
 アーケードの入り口には「そよかぜ銀座商店街」と名前が掲げられ、立て看板では数ヶ月前に放映されていたこの街を舞台にしたアニメ「風の吹く街」のメインヒロインが微笑んでいる。

「おやお譲ちゃん、どうしたんだい? 見ない子だね」

 商店街の名物おばあちゃんと言われ、アニメでヒロインの祖母のモデルにもなったオマチばっちゃんが声をかける。
 刻まれた皺が年輪のようで、しかしどこか愛らしいおばあちゃんだった。

「私、東京から来たんです」

「あらま、東京の子!!」

 見慣れた地元の芋臭い子供たちとは違う。老婆の目にも子供ながらに都会的で洗練されて映る美少女だった。
 東京者など、最近では放映中にしか来なかったキモオタばかりで印象が悪かったが、流石は都会の子だ、とオマチばっちゃんは心中で感心する。

「実はね、おばあさん私……」

「うん」

「この汚物みたいな街、消毒しに来たんです」

 次の瞬間、手ぶらだったはずの四葉はオマチばっちゃんが見たことも無い物を手にしていた。
 背中に何やら大きなタンクめいた物を負い、そこから伸びるホースをこちらへ向けている。
 驚き、魔人か! と思い、そして放水するつもりだと考えて止めようとしたばっちゃんだが、ホースから次の瞬間噴きだしたのは予想の真逆――炎!!

「高島平四葉です!! 高島平四葉です!!」

 自分の名を声高に叫びながら、楽しげに炎を放つ少女。
 戦前に始まり、戦火を逃れ、ジャスコにもAmazonにも負けず、関西・東京滅亡後の大混乱を、パンデミックを生き残った商店街は、一人の悪魔によって焼き尽くされた。

 和菓子屋の若旦那が仕入先で報を聞き、駆けつけたときには悪魔の姿は既に無く、灰となった愛する街を前に立ち尽くすばかりだった。

偽名探偵こまね編に続く

60サンライト=100しっこ:2013/05/16(木) 00:10:12
偽名探偵こまね編

 都内の総合病院――。
 ここには、大会で負傷した選手達が多数運び込まれており、入院している者も何人かいた。
 そのうちの、一室。今は使われていない大きな部屋に一人、偽名探偵こまねはいた。
 ベッドもその他備品類も無いガラリとした無色の空間にポツンと佇むこまねと、その様子を部屋の前から大きな窓ガラス越しに見つめる姫将軍・ハレルア=トップライト。

 二人共、一回戦で敗退した身であり、更にどちらも史上最悪の映画「ファントムルージュ」が敗因だった。
 そんなことから意気投合し、友人となったのだが、今ハレルアが見つめるこまねは、迫る裏トーナメント一回戦に向けてある「特訓」に励んでいるところだ。

✝✝✝✝✝

「必殺技?」

「うん、私正直言って弱いじゃん? でも〜裏トーナメントでは探偵としてなんとしても勝ち上がらなきゃだし〜、必殺技を会得しようと思うのだよ」

 だから特訓するのだ、というこまねの言葉に対してハレルアは否定的だった。
 武芸の技量というものは平時の鍛錬と実戦経験、両方の長い年月での積み重ねから成るもので、一朝一夕で出来る小さな改善などでは実力差は到底埋まらない。
 こまねが数日特訓を重ねればあの雨竜院雨弓相手に食い下がれるなどあり得ない。況や必殺技など。
 それに比べれば、武人の自分としては不本意だが、持ち込み可能なのだから強力な武器を揃えるとか、それらを用いて作戦を練るだとかの方が数日で出来ることとしてはずっと現実的では無いか。

 こまねはそうしたハレルアの意見にもっともだと頷きつつも、しかしやはり必殺技が必要なのだと語り、その構想を語ってみせた。

✝✝✝✝✝

(こまね……)

 友人を見つめるハレルアの顔は青ざめていた。そして、特訓中のこまねはそれ以上に青い。事情を知らぬ者がハレルアと共に特訓を見ていたら、異常に体調の悪そうな少女が何か口を動かしていると映るだろう。

 こまねの「必殺技」案を聞いた時、戦慄が走った。確かにこまねにはそれが可能かも知れない。そしてそれは間違いなく強力無比な必殺技だ。
 だがそれ以上に恐ろしかった。こまね自身がそれをすることに耐えられる気がしなかった。

 しかし、今ハレルアの視線の先で、こまねは特訓を完遂しようとしている。顔面を汗だくで蒼白にし、全身をガタガタと震わせながら。
 部屋に入ることも、声をかけることさえも許されない自分が悔しくて、ハレルアは拳をギュッと握る。
 ――そして。

「……っ」

 こまねはハレルアの方へ向き直って力ない笑みを浮かべ、サムズアップするとその場に倒れ込んだ。

「こまねっ!!」

 慌てて部屋に入り、倒れたこまねを抱き起こす。患者用の水色の浴衣は汗でぐっしょりと濡れていた。エロイが、そんなことを言っている場合では無い。

「ハレルちゃん〜やったよ……私。……あっ」

 ハレルアの腕の中、こまねは小さく声をあげる。
 浴衣の股間に染みが広がり、やがて温かな迸りはハレルアの浴衣も汚していく。
 耐えられなかったのだ。自分がしていたことのおぞましさと、それから解放された安堵感に。

「ご、ごめんね……」

「ううん、いいよ。むしろ、お漏らしするほど怖かったのに、本当に頑張ったね。えらいよこまね」

 自分の浴衣が汚れることは一切気にならず、むしろこうして一番近くで彼女を讃えられることが、ハレルアは嬉しかった。

「でも、このままじゃ汚れちゃうし、看護婦さん呼んでお風呂入ろうか。綺麗にしてあげるから」

「あうう〜」

 病院内にもかかわらず腰に差していた刀が、ガタガタと震えた。

雨竜院雨弓編へ続く

※wiki掲載時は全て同じページにしていただけるとありがたいです

61姫将軍ハレル:2013/05/16(木) 01:06:33
■Chapter1:田舎のあぜ道■

深々と降る雪の中、黄色の傘をさした少女が路傍のお地蔵様に雪ウサギを備え、二度手を打った。


企画:サンライズ


「よしっ!」


原作:ダンゲロスプレーヤー
原案:戦闘破壊学園ダンゲロス「ダンゲロスSS3」より


立ち上がった少女は“目的地”へ向け、軽快に駆け出す。
しかし、一歩。二歩。
三歩目にして少女は―――――

「―――――あっ!」

雪に足をとられ、盛大に転倒した。


【復興歴
一〇七年 一月】




■Chapter2:面接会場■

「第1回 ダンゲロスSS3 オーディション面接会場」という看板が、その建物の前には掲げられていた。
いかにも安っぽいそうなその看板は、“面接”が急遽手配されたものであることを暗に物語る。


シリーズ構成:花田十輝


建物の中には十数名のうら若き乙女達。
各々台本のようなものを読んだり、手鏡片手に手櫛をかけたりと、きたる“面接”に向け余念がない。

その中で何をするわけでもなく、居心地悪そうに黄色のハンカチをけしけしと揉みしだく先ほどの少女。


キャラクターデザイン
アニメーションディレクター:竹内浩志


「次の方どうぞ」

不意に自分の番を告げられ、少女は小さく悲鳴をあげた。


メカデザイン:阿久津潤一(ビークラフト)
ゲストメカデザイン:大河 広行

セットデザイン:青木智由紀
デザインワークス:稲吉智重


多数のビデオカメラと3人の審査員が待ち構えし、重々しい雰囲気の面接室に少女は至った。
面接開始。
プレッシャーに半ば押しつぶされながら、彼女は何とか言葉を紡ぎ出す。

「ごっ! ……!! ………うぅっ」

その直後、審査員の前にも関わらず、両の手でしっかとハンカチを握りしめていたという事実に気付いて、あわあわとポケットにそれ押し込み、取り繕うように改めて彼女は自己紹介を再開した。
しかし、ただでさえ緊張でガチガチだったというのに、そんなトラブルに見舞われてしまっては、舌が上手くまわる道理はない。

「ごっ! 五番! “トリニティ”れす!!」

「です」を噛むのは当然の帰結。
だが、それでも少女はめげない。
懸命に二の句を継ぐ。

「よっ……! よろしくおねがいします!!」

その様子を受けて、審査員席の巨根の男・蛭神鎖剃は小さく笑った。


美術監督 徳田 俊之
色彩設計 横山さよ子
撮影監督 大石英勝
CGディレクター カトウヤスヒロ
編集 関 一彦


彼の巨根の傍で、なんと形容していいか分からないが、あからさまに物語の鍵を握りそうなキーホルダー状の怪しいアイテムが、オレンジ色の光を放った。

62姫将軍ハレル:2013/05/16(木) 01:06:47
■Chapter3:???■

同時刻。

―――――ガシャン
―――――ガシャン
―――――ガシャン
―――――ガシャン

薄暗い密閉空間。
機械的な音を伴い、格納されていた4つの薄型ディスプレイが展開された。
そのディスプレイには面接中のトリニティが映っている。

―――――唇・おしり・ローアングル・腰・瞳・うなじ・スカート・唇・瞳・瞳・腰・うなじ・瞳・腰・太もも・おしり

画面が高速でチカチカと切り替わる。




■Chapter4:民家■


【二月】


トリニティの実家の玄関先。

BOOOOOOOOOOM
郵便を届けた「スゴク・デュマエ・ハヤイ」が去って行く。

「………えいっ」

ラーメン探偵から受け取った郵便物を、意を決して開封する少女。
そしてそれを見守る老人・聚楽第。

「いってきまーす!」

夜魔口赤帽が野球道具一式を持って元気よく家を飛び出す。

「あれ……じーちゃん…?」
「―――――ウソ」

赤帽が家の前に立っていた聚楽第の存在を不思議がったのと同時に、トリニティが驚愕の声をあげた。

「うそ…うそ……!」

トリニティの手がふるえ、持っている手紙がカサカサと音をたてる。
その手紙には「合格通知書」の文字。

「ねーちゃん?」

不審がる赤帽を気にすることなく、トリニティは祖父を見つめて言った。

「じーちゃん」

「なんじゃ」

これから孫が何を言うのか、老人は察していた。
故にそのそっけない返事には僅かに温かみがあった。

「わたし‥東京へ行く…」
「東京へ行く! 東京へいく!! あははははっ!」

封筒に同封されていた謎のキーホルダー状のアイテムをトリニティは天高く放り投げた!
慣性にしたがって落下してくるその謎の物体Xが、トリニティの瞳に反射する。




―――――【ダンゲロスSS3 XENOGLOSSIA】

63夜魔口赤帽&砂男:2013/05/18(土) 00:21:51
≪夜魔口赤帽=アキビンというのが定着しつつあるけど正史があーなったので
 とりあえずなんとかしてみよう的なアレ≫


「……いやー、負けちまいましたね」
「じゃな。……あの小娘にしてやられたの」

ザ・キングオブトワイライト選手控え個室の一部屋。
ドアには『夜魔口赤帽様・夜魔口砂男様』と書かれた紙が貼ってある。

一回戦・海水浴場での戦いを終えた二人は、しかるべき治療などを受けた後
この控え室での待機を命じられたのだった。

「……まあ今更どうこう言うてもしゃあない、親父のことは改めて考え直しじゃ。帰るぞ」
「やー、そうもいかないみたいですよ?」

ぴら、と砂男が書類を取り出す。
『ザ・キングオブトワイライト参加契約書』と書かれた紙の束。
この戦いへの参加手続きの際に署名した書類である。

「ここの第9条に『大会参加者は大会全日程が終了する迄、大会参加者として扱われる』って
 書いてあるんスよね。……んで、色々他の項目と突き合わせて見ていったら……
 大会終わるまで帰るな、勝手に外出るなってことみてーです」
「……負けたワシらが何でそんな紙切れに縛られにゃあならんのじゃい。全く」
「まー、多分他の戦いへの下手な介入を防ぐとかの意味もあるんでしょ。
 負けた『元・大会参加者』が、勝った連中に盤面外での干渉をしてきたら
 この手の大会ってーのは茶番になりますしね」
「今更盤面外も何もないと思うがの。現に何人か、キナ臭い奴らもおったしのう」
「ははは、キナ臭いのは俺達もでショ? ヤクザなんだし」

ケラケラと気楽そうに笑う砂男を、赤帽が不機嫌そうに睨む。

「あと、これはまだ噂の段階ですが……
 負けた連中にももうひとチャンスある、とか」
「チャンス……フン。随分ムシのいい話じゃな。
 強者を選ぶトーナメントで負け犬を拾って、なんの益がある」
「ですよねー。万が一そんなムシのいい、あまりにもうさんくさーい話があったとして……
 乗っかるバカがいるわけが」
「アホウ。ヤクザっちゅうのはな、そういうムシのいい話を持ちかけたバカから
 身包み全部ムシリ取るもんじゃい。」
「……でも赤帽サン、その姿で……大丈夫ですか?」

一回戦での激闘において、自ら手首を切っての強制透析、並びに海中の鮫を操る程の大量の血を流した負担は
能力を乱用した『制約』という形で現れ――結果。

赤帽の姿は――『アキビン』と化してしまったのだった。

尤も、同じく制約によって『アキカン』と化した参加者、オーウェン・ハワードと違うのは――
アキビン化が永続的ではない、ということである。
体力・気力・ヤクザエネルギーが十分に回復すれば、やがては元の小人に戻るのだが……
それには少なくとも数週間かかる。酷いときは、一年ほどこの姿のままだったこともある。

ゆえに、この後巻き起こることになる“裏”の戦いにおいて――
彼は、アキビンのまま戦わねばならなくなった。
アキビンの身体には、無機物故のいくつかのメリットもあるのだが――反面、デメリットもある。
一発でも大きなダメージを食らえば割れて死ぬ、というアキビンとしての性質もその一つである。

だが、アキビンとなって尚。赤帽は不敵なヤクザスマイルを浮かべていた。

「アホウ。昔は休む間ァもなくカチコミ繰り返しとったんじゃ。
 この程度でいちいち怯んどったらヤクザなんぞやっとれんわい!
 ……それよりおどれこそ、大丈夫か?」
「……正直、結構シンドイッスよ」

砂男も一回戦において、大きなダメージを受けている。
遠藤によって、身体の大部分を『剥がされ』た上に『殺された』。
幸いにも、試合終了後、タイムリミット前に融合し、戻ることができたものの――
殺された肉体の分だけ、戦闘力は大きく削がれている。
赤帽の『紅い水』を飲むなど、ある程度は回復したものの……それでも、十分ではない。

「まー、出来ればゆっくり寝てたいンすけどね……
 実際のトコロ、そんなチャンスがあるかどうかもわかんねんですし」
「フン。もし向こうにやる気がないなら、やらせるまでじゃ」

ギラリ、とヤクザドスの鯉口を光らせる赤帽。
その姿に、砂男は肩を竦めるしかなかった。



そして、砂男の淡い期待とは裏腹に――“裏”の戦いは行われるのだった。

64倉敷椋鳥:2013/05/18(土) 17:47:58
◆倉敷椋鳥のあまり表プロローグと変わりない裏プロローグ【1】


「やあ、負け犬くん」

建物から出たところで椋鳥は立ち止まった。
なんとなく渋面になる。

傷の治療は完璧だった。それはもはや治療と呼べるレベルではない。
確かに死亡が確認されたはずの椋鳥だったがあっさりと蘇生は成功した。
傷ひとつない。
顔をしかめたのは痛みのせいではなく、その声に覚えがあるからだった。
「……なんでその格好なんだ?」
「え?」

とりあえず、最初に気になったことを質問する。
予測はしていなかったようだ。その女は困惑したように視線を下げた。

「これは仕事着だけど……何か変かな?」
「いや……」
おかしくはない。
普通のビジネススーツとタイトスカートで、一流企業のOLと言っても通用するだろう。
ただ。
(この前と違いすぎるだろ)
椋鳥の記憶ではそいつは和装の幽霊だったはずだ。
あまりにも着ているものが違うから聞いてみたのだが。

そいつがぴっと指を立てると椋鳥の襟に紙片が挟まる。
「なんなら名刺も渡そう。ほら」
「いらな……なんだこりゃ。メモ用紙か。馬鹿にしてるのか」
【くらしきちづる】と手書きで書かれたメモをむしりとって捨てる。

視線を戻す。
スーツ姿のその女は相変わらず半透明である。
死灰が降る中でなく、こうして日光の下で見るとますます存在感が無かった。
もしかすると自分の妄想が生み出した幻覚なのではないかと思ってしまうほどに。

「幽霊が今頃何しに来たんだ? もう俺は落ちたぞ」
「おお? なんだかご機嫌斜めだね」
「第一声で負け犬呼ばわりしておいて何寝ぼけたこと言ってんだ」
「酷いなあ。せっかく監視の範囲外に出るまで待ってやったのに」
「……うん?」
聞きとがめて、椋鳥は首をひねる。

「君が空中とお話するような人物だと噂を立てられないようにという気遣いを――」
「ちょっと待て」
「うん」
「俺に監視がついていると?」
「少なくとも監視カメラの映像は記録されているよ。敗退選手のもね」
「何のために?」
「さあ。誰かに聞けば。私は知らない」

椋鳥は嘆息する。
敗退者を集めて開催されるという噂の『“裏”の戦い』
それへの参加如何に関わらず、大会運営者は参加者への注目は解かないつもりらしい。
考えても仕方がない。
「……で、結局お前は何者で、何の用なんだよ。そろそろ教えてくれてもいいだろ」
「私は能力だ」
「あ?」
「遠隔地にメッセージを届ける能力『ダイレクト・M』で生み出された虚像だ。
 本体はここにはいない」
「……」

そいつが言いたいことだけを言い、言いたくないことは全てはぐらかすという、
人を苛立たせる性格であることはとっくにわかっていた。
やはり、椋鳥の求める答えとは違う。
構わずにそいつは続けた。

「用件はね……君にお願いにきたんだ」
「もう俺は負けた」
「それは別にどうでもいいんだ……私個人としては、勝ってほしかったとは思うけどね」
「意味がわからねぇよ」

もって回った言い回しにうんざりして、椋鳥は歩き出した。
どうやら幽霊でもなかったようだし、お願いなど知ったことではない。

「おいおいおいちょっと待ってくれ。話くらい聞いてくれよ」
「人に話を聞かせたいなら短くすませるんだな」
「わかった。わかったよ」

椋鳥は足を止めた。
無意識に左手に目を落とす。掌の紋様は今は消えていた。

65倉敷椋鳥:2013/05/18(土) 17:49:07
◆倉敷椋鳥のあまり表プロローグと変わりない裏プロローグ【2】


それが出てくるようになったのは、箱根でトーナメントチケットを受け取った時からだった。

紋様は能力を使用するときに、たまに光とともに浮き出てくる。
模様が出てから能力がそれまでと比べて変化したかというとそうでもなく、
魔人特有の病気かなにかじゃないのかとなんとなく不安になっている椋鳥だった。

「……で?」
「ああ、ええとね。君にはこのまま『裏トーナメント』に出ててもらいたいんだ」
「……お前、大会の関係者だったのか?」
「いや、違う」

きっぱりとした否定だがどこか嘘っぽかった。
視線を向け続けるとそいつは誤魔化すように言い足してきた。
内容は理解し難かったが。

「というより、君には成長してもらいたいんだ。そのために最適な舞台だからね」
「成長?」
「正確には、君の『能力』に成長してもらいたいんだよ」
「……理由は?」
「それは言えない」
とりあえず、はぐらかすよりは誠実な答えだと解釈することにして、椋鳥は腕を組んだ。

「それで、参加したとして、俺に何か得があるのか?」
「いや、それもまだ言えない。……が」
「?」
「応えてくれたなら、その時には君にとっていい話ができると思う」
「……やっぱり意味わからんな」

……結局のところ、この話から確実なことは何ひとつ読み取れない。
ただ一つわかったことがあるとすれば――

(俺の能力に成長の余地がある……?)
「……時間的に限界か」

女の言葉に顔を上げる。
同時に気がつく。
後方からやや早足で近づいてくる足音を感じる。

「倉敷様」
振り向くと、こちらもスーツに身を包んだ女性の姿。
何度か見たことのある顔だった。

「あんた、なんとか機関の……」
「『なんとか機関』ではありません。七葉に雇用されている労働者です」
眉ひとつ動かさず彼女は遮った。
その鉄面皮でなんとか思い出す。たしか銘刈という名前だった。

「1回戦を戦った皆様に『敗者復活戦』のお話がございましてうかがいました」
「……」
「少しお時間をいただけますでしょうか」

なんと答えたらいいものか思案して、椋鳥はわずかに首を巡らせる。
半透明の女の姿はいつの間にか消えていた。
「――」
どんな答えを返すか自分でもわからないままに、椋鳥は口を開く。

◆おしまい◆

66冥王星:2013/05/19(日) 17:32:14
鎌瀬戌幕間SS 〜負けちゃったよシロ姉〜

※   ※   ※

「あぁまったく、何やってんだか俺は・・」

薄暗い部屋で、ディスプレイの不健康そうな青白い光だけが爛々と周囲を照らしていた。
キーボードを走る手が止まる。
「クソッ・・・!!」
求めていた情報はなかった。
八つ当たり気味に鎖分銅でモニターを壊す。
身体に重くのしかかる疲労が精神を尖らせている。
これで3ヶ所目。
到底有りもしない物を求めて彷徨ってることは自覚している、つもりだ。
かませ犬派遣商会のとある拠点を潰した鎌瀬戌は次の目標拠点に向かう。
    
※   ※   ※

ザ・キングオブトワイライト第一回戦終了後。
鎌瀬戌は生活の拠点であるボロ小屋の傍らで蹲っていた。

「シロ姉・・・負けちゃったよ・・・ぐすっ・・・」

呼吸が荒く、焦点が定まっていない。
夢うつつな表情で、天井を、いや更にその先の遥か上空を見据えているようだ。
普段は活気のある彼らしくない状態。
いや、そもそも見た目からして普段の戌ではない。
白い長髪のカツラにネグリジェ。脱ぎかけたまま足に引っかかっている下着は明らかに女物。
彼の幼少時を支えた鎌瀬白。
その再現を、戌は自分の身体で行なっていた。
これは日課である。今になって始めたものではない。ここ何年間も続いた習慣の様なものである。
肌はなるべく白く。そのためにローブを常に羽織っていた。
あの痩せ気味の身体を再現するために、どんなに腹が空いていても食事は一定以上は食べなかった。

「はぁ・・・はぁ・・シロ姉、シロ姉、シロ姉・・・シロ姉・・」

うわ言の様に何度も呟く。
脳裏には常に白の顔を思い浮かべて。その想起に不純物は存在していない。
ただ在りし日の白の笑顔。それだけを浮かべて。
右手には陰茎が握られていた。一定の間隔で擦り、刺激を与える。
いわゆる自慰行為。
第二次性徴期が始まった頃に自慰を覚えて以来、何か辛いことがあった時はこうやって白に変装し自分を慰めていた。
白の見た目に対して性的欲情を感じているのではない。確かに彼女は女性として魅力的な要望ではあったが、違う。
戌が欲しいのは温もり、癒しである。
白の顔を思い出しながら愚痴を零すだけで心が慰められる。総てが浄化されるような癒しを得られる。それは狂信とも言うべきもの。
だが妄想するだけでは暖かさが足りない。
白の格好をすることで、自分と白の姿を重ねた。白の格好をしている自分の身体に触れていると白の温もりを感じられるような気がした。
自慰行為で快楽を得ることで心身ともに慰められるような気がした。
勿論それは虚構に過ぎないのだが、身寄りの無い戌はこういったものに縋ることでしか己を律せそうになかったのだ。
自分を抱きしめるように蹲り、快楽を貪った。

「・・・っ!・・・はぁ、はぁ・・ねーちゃん・・・・」

絶頂に達し、迸った精液の処理をする。
服を着替え、快楽の余韻が残る身体を気だるそうに布団に横たえる。
薄い掛け布団を握りしめ、戌はそのまま眠りについた。

翌朝目が覚めると、朝食も程々に颯爽と小屋を出て行く。
負けてからの行動は決まっていた。
『かませ犬派遣商会を潰す』大会の副賞によってそれを叶えることは不可能になったが、自力で潰せばいいのだ。
知り合いの情報通からかませ犬派遣商会の拠点を割り出してもらい、単騎で特攻を仕掛けに行った。まずは自分が幼少期を過ごした研究所を、白との思い出の場所を襲撃した。

※   ※   ※

「なぁ戌・・・そろそろ休んだらどうだ?」

大会の招待状を手配してくれた商人が、戌をいたわるようにそう言った。
戌は開放した幼いかませ犬達の保護と善良な孤児院(大会参加者猪狩誠の育った孤児院『どんぐりの家』ではない。)への預け入れを彼に任せていた。
戌の事情を知る商人はそれらの仕事を快く受けてくれた。
しかしここ数日間、連続で保護を頼まれるにつれ、戌を心配するようになっていた。
現在は早朝。かませ犬派遣商会の研究所への攻撃を始めてから戌は一睡もしてなかった。
疲労困憊な様子に、無造作に応急処置されたいくつもの傷跡。精神状態もとてもまともには思えない。そんな状態で過激な戦闘に赴くとなれば、心配するのも道理だろう。

「・・・俺は、行かなきゃならないんだ。」
伏せ目がちに戌は答えた。友人の気遣いを理解しながらも、歩みを止めることは出来そうになかった。
「そっか。そこまで言うなら止めねぇよ」
「・・・この子達を頼んだぞ。いいか皆、このお兄さんの言うことをよく聞くんだぞ。暴力も人体実験もない孤児院に連れて行ってくれるから。そこで皆幸せに暮らすんだ。」
小さなかませ犬達にそう告げて、去ろうとした瞬間。

67冥王星:2013/05/19(日) 17:33:42

「待って!」

子どもたちの中でも一際小さな少年が戌のローブの裾を引っ張っていた。
戌の脱走後、かませ犬派遣商会は男性かませ犬の量産化に成功していたようで、今まで救出したかませ犬の中にも男の子は何人か混じっていた。
ほとんどのかませ犬達が絶望したような諦めた目をしている中で、その少年だけはきらきらと輝く生気を瞳の中に宿していた。

「僕おにーちゃんに付いて行く!お願い、連れて行って!」
「付いて行くって、お前・・・」
「おにーちゃんの戦い見てたよ!カッコ良かった!僕もおにーちゃんみたいに強くなりたい!だから、弟子にして!強くなって、いつか色んな人を守れるようになりたいんだ。」

無垢な視線が戌を貫く。かつて自分も誓った「強くなりたい」という願い。
しかし自分とこの少年では見ている方向が違う。
一方は過去に引きずられていて。
他方は未来を見据えていて。
「やめろ・・・・やめてくれ・・」
恐らく真に他者を守りたいと願っている少年の思いが、不純な自分の願いを責め立てているような気がして―――――

「・・・やめろォッ!!」

自分でも驚く程の大声を出してしまっていた。
ハッとした時にはもう遅かった。
視界に映るのは幼いかませ犬達の怯えた様な表情。
戌を引き止めた少年も腰を抜かしたように硬直してしまった。

「・・・ッ!この子もちゃんと孤児院にあずけてくれよ、頼んだぞ!」
いたたまれなくなり、商人に念を押すように言付けてその場を去った。
(馬鹿か俺は。子どもたちに八つ当たりなんて・・・クソッ!)
自責の念に駆られながら、次の拠点に向かう。

※   ※   ※

「・・・はぁ・・・はぁ・・・ちっくしょー・・・」

――――危なかった。
撤退しようと決意するのが少しでも遅かったら死んでいた。
侵入した矢先に、重火器を備えたロボット兵に遭遇してしまい、負傷してしまった。
何度も各地の研究所を襲っていたのだ。警備が厳しくなる可能性をどうして考慮できなかったのだろう。
やはりそれだけ疲れているのか。
睡眠不足のせいか、頭が重い。
負傷した足を庇いながら身体全体を引きずる様にスラム街に逃げ帰ってきた。
時刻は深夜2時頃。街灯の光すら照らされてない薄暗闇の中、なんとか住処であるボロ小屋を見つけ、ドアを開ける。

「・・・お前。」
「よぉ、おかえり。その様子だと負けて帰ってきたって所か?まぁなんであれ生きて戻ってきてくれて良かったよ。『客人』は待ちくたびれて寝ちまったよ。」
思いもよらぬ商人の出迎えに呆気にとられる。商人が指し示した先には薄い掛け布団に包まれた今朝方の少年。

「おい、この子もちゃんと預けろって―――」
「どうしてもお前と話がしたいって言って聞かなくてな。面倒くせえから当人達でよく話し合って決めてくれ。後は任せた。」
「はぁ?」
「んじゃ俺も眠いし寝床に帰るとするかな」
「え、ちょ・・・!」
戌の制止もむなしく。バタン、と建付けの悪いドアが閉められた。

「・・・はぁ。仕方ない、か。」
ガシガシ頭を掻きながら、足の手当をすることにする。
消毒薬の鼻をつくような匂いに顔をしかめながら、怪我の様子をみる。
戌は魔人であり獣人であるため治癒力は高い。幸い思ったよりも傷は浅かったようで数日安静にしてれば治りそうだ。

「ん。うぅ・・・」
小さなうめき声がしたのでそちらを向くと、件の少年が布団を強く握りしめながらうなされていた。
比較的明るく振舞っていた彼も、他のかませ犬達と同様に酷い目に合っていたのだろうか。

「お前も辛かったんだな・・・もう大丈夫だから、安心して寝てろ。」

額を濡らす玉のような汗をタオルで拭き取り、硬めの短髪をそっと撫でてやる。
かつて白が自分にしてくれたように。
すると幾分か幼い少年の表情が穏やかになり、寝息も落ち着いた。
その寝顔を見てると、不思議とこっちまで穏やかな気分になれた。

「子供はそうやって無垢でいればいいんだ。俺みたいに子供らしくねぇことやって育つと、おかしくなっちまうぞ。」

小声でそう呟き、自分も布団に潜る。
どうせこの身体ではしばらく戦えまい。ならば休養して早く傷を治すのが吉というものだ。
隣に寝ている少年の頭をなんとなく撫でてみる。子供っていうのは可愛いものだな、と思う。自分を慕ってくれた少年なのだ、悪い気はしない。親愛の情すら湧いてくる。

「あ・・・」

そこで気づく。
これはもしかして、かつて自分に対して白が抱いてくれた感情なのではないかと。
決して戌の世話をするという義務から来るものではない、温かみのある慈愛をもって接してくれていた。

68冥王星:2013/05/19(日) 17:34:52

(俺もシロ姉と同じ感情を・・・シロ姉の残滓は俺の中にずっと残ってた・・・白はずっと俺の中にいたんだ!)

心の中で喜びを噛み締める。
これは正真正銘、シロが残してくれたもの。彼女が愛情をもって接してくれなかったら、この優しい気持ちを抱くことはできなかっただろう。
憧れの彼女がずっと傍にいてくれたのだと思い至り、幸せな気分に包まれた。
(心地良いなぁ・・・)
安らかな気持ちに寝不足も相まって、このままぐっすり眠りに身を委ねてしまいそうだ。
しかし、今はそれはできない。数時間で目を覚まさなくてはならない。
たった今、心に決めたことがあるのだから。

※   ※   ※

「やっぱり、この子を預けてくれ。」

午前5時。
戌はまだ眠りについたままの少年を抱きかかえて、商人の所にきていた。
叩き起こされた商人は寝ぼけ眼のままに、確認する

「・・・いいのか?」
「俺がこの子に教えられることなんて何もない。あるのは人を傷つける技だけだ。もっと真っ当に育って、人を幸せにする人間になって欲しいんだ。・・・歪んだ目的の『ついで』に助けた俺が言えることじゃねーけどな。」
「ふーん。起きたら説得がめんどくせえのは俺なんだぜ―――っと早速お目覚めなようだ」
「あ・・・」
見ると少年が状況をいまいち把握できていないのか、ぼーっとした顔で首を傾げている。二人の会話の声で起きてしまったようだ

「おにーちゃん?」
「えっとー悪いんだが・・・」
なんて切り出そうか考えあぐねていた戌を少年の言葉が遮った。
「あの、ごめんなさい!」
「・・・?」
謝られる理由が分からず、今度は戌が首を傾げた。言葉の続きを促すように無言でいると、幼いかませ犬はぽつりぽつりと話し始めた。

「昨日、おにーちゃんを怒らせちゃって、謝らなきゃって思ってて。だから、商人のお兄ちゃんにワガママ言って・・・」

(あれはただの八つ当たりだったのに・・・わざわざそんなことを。)
優しい子だな、と思う。自分よりもまだ幼いこの子の方がよっぽど人ができてる、とも。
「そっか、俺も怖がらせちゃってごめんな。アレはお前に怒ってたんじゃないから心配するな」
そう言うと、幼いかませ犬の表情がパッと明るくなる。

「よかった・・・!あ、あとね。おにーちゃんに迷惑かけられないから、弟子になるのは諦めて『こじいん』に行くことにするよ。本当に、ごめんなさい。」
「ああ、お前のためにもその方がいい。そして、俺のためを思ってくれるなら幸せになって、できたら周りの人も幸せにするような男になってくれ。そうしてくれると、助けた甲斐があったと思える」
「うん、わかった!」
「・・・いい子だ。」
笑顔で応える少年をわしゃわしゃと撫でる。この子とその周囲の人間が幸せになれるように、願いを込めて。

商人と少年に別れを告げて帰路につこうとする。
足を少し引きずって歩き出した戌の背に、心配そうな声がかかった。

「おにーちゃん、その足大丈夫?」
「ちょっとヘマしただけだ。すぐ治るよ。」
「そっかぁ。身体を大事にしてね!」
「あぁ、お前も元気でな!」
手を振り、今度こそ本当の別れを告げて去る。

(もちろん身体は大事にするさ。なにせ『シロ姉』もこの身体に宿ってるんだからな。)
心の中で、そう付け加えて。

今日は精をつけるためにも肉料理を食べようか。
そんなことを考えながら歩く戌の傍を、爽やかな風が通り抜けていった。
【END】

69“ケルベロス”ミツコ:2013/05/19(日) 18:22:36
SS アンラッキー家族(リソース)

何をやってもツイてないオレ達だったけど
やっとどんぐりの家に入れたぜ

MASARU(10)
MAYU(7)
MEI(8)
MARUKO(9)

今日は猪狩誠兄ちゃんの試合を応援するぜ

アンラッキー五本指

園長「じゃあ応援するぞ」
MASARU「ハイ、お願いします」
園長「孤児院の園長になって初めての仕事がリソースの管理だなんてついてるけど、なんか五本指だなんて不吉な呼び方だわ…。今までついてない人生だったらしいけど。四人しかいないしアフロだわ。」

MASARU「うわっ うわああああああああ」
MAYU&MEI&MARUKO「ま、MASARUゥー!!」

MASARUーーー!!
誠に気に入られて五本指になったはいいが
髪の毛が爆発し やむなく丸刈りにしようとしたが
髪質が硬すぎて髪が切れずアフロにしたが
家は泥棒に入られ そんなついてない人生にもめげず
ここまでがんばってきた
MASARUー!!
MASARUー!!

MARUKO「な…泣くなみんな!!涙という名のジュエルは心の牢獄(ジェイル)にしまえ!!」
MAYU「MASARUの為にも残ったオレ達ががんばるしかないじゃないか」
MEI「そうだ!!MAYUの言うとおりだぜ!!」
MAYU「うわっ うわああああああああ」
MEI&MARUKO「ま、MAYUゥー!!」

MAYUーーー!!
魔人を目指して中二力を高め
やっと特殊能力に目覚めたのはいいが 発動ができず
家は泥棒に入られ髪の毛は爆発した
そんなついてないアフロにもめげず
リソースに人生をかけた
MAYUー!!
MAYUー!!

70“ケルベロス”ミツコ:2013/05/19(日) 18:22:54
MARUKO「も もうだめだ オレ達の夢と言うなの翼(リソース)はもがれちまった…!」
MEI「バカヤロウ ここであきらたら誠兄ちゃんのがんばりがムダになるぞ」
MARUKO「でも もう 入院患者と五本指でもない二人だけになってしまったじゃないか」
MEI「だから何だってんだ!応援(リソース)ってのはたとえ…うわっ」
MARUKO「MEIー!!」

MEIーーー!!
誠兄ちゃんの彼女ポジションを目指したが
髪の毛が爆発してアフロ以外の髪型が立たれた上に
家は泥棒に入られ
誠兄ちゃんには
「わりとキライでした」と告白され
それでも人生をあきらめず
リソースに全てをかけた
MEIー!!
MEIー!!

MARUKO「なんてことだ…どうすればいいんだ…。とうとう入院患者の私一人になってしまった…」
園長「入院患者が残っちゃったの!?」
MARUKO「入院患者のみのリソースなんて 家族じゃなくてリソースと言う名の堕天使だよ…うわッ」
MARUKO「うわあああああああッ」
園長「入院患者の人ーッ!!」

私MARUKOは
立派な家族になろうと昼は入院
夜も入院と必死に闘病したが
髪の毛が爆発し家は泥棒に入られ
所属していた孤児院は よくみたら何かのリソースだった
そんなついてない人生にも
めげずにがんばって やっと
五本指という新しい夢をつかんだのに…
ここまでかよー
チクショーーーー!!

園長「全滅した…」

71猪狩誠:2013/05/21(火) 20:22:03
【ここまでの展開がよく分かる幕間】 1/2

1回戦終了の翌日、猪狩誠は彼を大会に推薦したヤクザ、ヒイラギ組のマサの元を訪れていた。

「よくやったな、誠。
お前が儒楽第を倒し、もう一つの目標だった夜魔口も一回戦で脱落。組の目的は達成された。
だが、上はお前が更に勝ち進むことを望んでいる。そのためのバックアップも惜しむなと言われている。」
「へへ、そりゃ良かった。俺の目的はまだこれからですからね。」
「ああ、約束通りこっちは賞金と副賞には関与しない。しっかりやれ。だがお前、随分と大親分に気に入られたみたいだからな。もうこっちの世界と手を切れなくなったかもしれんぞ。」
「何言ってんですか。望むところですよ。確か、盃を交わしたら家族になれるんですよね?」
「あ、ああ。まぁ、いずれはな…」
誠の無邪気な喜びように、マサは胃に重石をつめ込まれたような気分になった。


1時間後
「ただいまぁ。いい子にしてたか、お前ら。」
「おかえりなさーい」「おかえりー兄ちゃん」
孤児院「どんぐりの家」に帰ってきた誠に、子供たちが一斉に答える。
「今日はいいもんがあるぞ。商店街のケーキ屋さんが一回戦の勝利祝いだって。ほら。」
手に持っていた包みを開けると、中には大きなホールケーキ。
「すっげー!」「きゃー!」子供たちは歓喜のあまり半ば叫びのような声を上げた。
「ばか、みつる。汚い手のまま触るんじゃねえ。手ぇ洗ってこないと食わしてやんねえぞ!」
我れ先に手洗い場に駆けて行く子供たちを見送る誠の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「あーあー、全く散らかしっぱなしで。しょうがねえな。」
テーブルの上を片付けていると、園長室から園長が顔を出した。
「帰っておったか、誠。話がある。ちょっと来なさい。」
「あ、うん。俺からも話があったんだ。おいお前らちゃんといただきます言ってから食うんだぞ。」
「「わかってるー」」
「俺の分もちゃんと残しとけよー」
「「わかってるー」」

72猪狩誠:2013/05/21(火) 20:25:53
2/2

「病院に行っておったのか?」
湯のみに緑茶を注ぎながら園長が尋ねる。
「ああ。縁の手術日が決まったよ。来月の1日になるって。」
「ふむ」
カレンダーに目を向ける。それはちょうどトーナメントの決勝が行われる日でも有った。
「それまで体は持ちそうなのか?」
「医者の話では安定してるってさ。無菌室に移されてて窓越しに顔を見ることしか出来なかったけど。」
「そうか。」
園長は何やら考えこんだ様子でお茶を啜るが、その表情からは何の感情も読み取れない。
「まさるは、どうだった?」

猪狩誠の能力『All for one』は、家族や仲間が傷つけられると自らの力となる能力。
その特性を最大限に発揮するため、猪狩は1回戦開始前、自らの手でまさるを瀕死に追い込んだ。
そのまさるは試合の後、救急車で病院に運ばれ、現在も入院している。

「意識はまだ戻らないけど、命に別状はないってさ。」
「“力”の方は?」
「もうほんの僅かだな。試合までには無くなると思う。」
「そうか。いずれにせよまさるは当分リソースとしては使えんだろうな。」
「…まさるは、よく頑張ってくれたよ。」
「わかっておる。だが、あの時わしの言うとおりにしておれば、“まゆ”と“めい”まで失うこともなかったかもしれん。」
園長からは時限式のトラップを使って徐々に窒息させて殺すように伝えられていた。
言いつけに背いて不覚を取った誠のため、園長は更に二人の子供を手に掛けることとなった。

「…いや、言い過ぎた。すまん。
実はな、さきほど大会運営から連絡があって、次の2回戦、少々まずいことになっておるのだ。
相手は“ケルベロス”ミツコと冷泉院拾翠。三つ巴の戦いになるそうだ」
「!?」
猪狩は一息ついて飲みかけた緑茶が気管に入り、盛大に咳き込んだ。

「おそらく次が最大の難所となるじゃろう。5本指のうち、2本は覚悟しておかねばなるまい。」
準決勝と決勝が再び1:1に戻ると考えれば、倒すべき魔人は後4人。猪狩を最も慕う子供達『5本指』の残りを4本とすれば数は一致する。

「そのような顔をするな、誠。わしだって辛い。だが、だからと言ってここで立ち止まるわけにはいかんのだ。我らの悲願、世界の救済を成すためにはな。」

73冥王星:2013/05/22(水) 13:29:20
すみません!「鎌瀬戌幕間SS 〜負けちゃったよシロ姉〜」ですが一部抜けてました。
「〜〜白との思い出の場所を襲撃した。」と「なぁ戌・・・そろそろ休んだらどうだ?」の間の丁度区切れてる所に以下の文章が入るはずでした。

※   ※   ※

「・・・どこかに、どこかに無いのか・・!」

結果だけ述べると、拍子抜けする程に事は上手くいった。
仇討ちの一端を成し遂げたのだと、僅かな達成感を味わう。
―――――しかし、そこで戌は気づいてしまう。
制圧した後、彼がまず取った行動は施設内の探索だった。
・・・・監禁されているかませ犬達の開放を差し置いて。
『鎌瀬白』を知らずの内に求めてしまっていた。
白がここにいたという痕跡。遺体でなくとも髪の毛や服の切れ端、あるいはPC内のデータでも何でもよかった。

「・・・結局俺は商会の被害者を救うなんてのは建前で、本音では白の『何か』を求めていただけだ。情けねぇ、情けねぇなぁ。クッくく、ハハハ、アハハハハハハハハッッ!!」

大会の一回戦で負けたのも当然だ。
各ブロックの参加選手を思い浮かべる。抱えるものも、勝利に求めるものもそれぞれ違えど彼らは『本気』だった。
内亜柄影法と紅蓮寺工藤、対戦相手であった彼ら二人は我欲の強い人間だったが、自分自身に対しては清々しい程に正直だった。
それに引き換え自分が掲げたものはなんだ?「強くなったことを示す」?「かませ犬派遣商会の被害者を救うために商会を潰す」? とんだ笑い種だ。
前者はいつしか天国の白に褒めてもらうためだけの目標となっていた。後者はいざ達成してしてみれば、白の残骸をみつけたいが為の目標だったと分かってしまった。
ただ自分の名誉と心の安寧を求めるという我儘な欲求を、「弱者を守る、救う」なんて大層な美麗字句を並べて着飾っていた。
己すらも偽り、ヒロイックな感傷に浸ったガキの妄言。そんなものを掲げて勝てるはずもなかった。

「無い、か。・・・いや、どこかにあるハズだ!シロ姉はどこかにいるはずだ。そうだ、そうにきまってる!!アッハハ、そうだよ・・・絶対、どこかにッ・・・!」

結局、探し求めた物は見つからなかった。
名前さえ、彼女と思しき人物のデータさえ残っていなかった。
それでも諦めきれなかった。
開放したかませ犬達を信頼出来る知人に預け、すぐさま別の商会の拠点を潰しに行った。
白の居た研究所でなかったものが、他の研究所ではある訳ないと分かっていながらも諦めきれなかった・・・。

74高島平四葉:2013/05/23(木) 22:46:01
【はっここはファントムルージュの世界@裏その1の後】

ここは暗黒の世界で闇しかすべてだったが青い星が闇で負けたすごい力で粉々
「これはブラックホール」
ブラックホールは闇属性だったが吸い込まれたが死ななかった
「ここはブラックホールの世界はっ貴様はだれだ名乗れない殺す」
女はすべての属性とすべての技と魔法を1ターンごとに使ってきて強い死んだがなんか生きてた
「身の程を知ったかベリュル」
「負けたなぜこんな強い女」
「わたしは絶対に負けないなら相手より強くなるしそもそもも攻撃力とか無限だがファントムルージュ」
へんなシャボン玉もらうと中に映画が混乱になる
「くっファントムルージュおそろしいぜ夜ねむれなくなる子供」
「これを作ったやつ殺そう」
「殺そうしよう」
そしてファントムルージュの奥にすすんでピエロとか人形とか倒してくと白いとこから出た
「闇おわったから光」
またピエロとか人形が出てきて10倍くらいに手こずったが女は一撃でたおしたが光がでるとまた闇があったがさらに10倍になったが光も10倍になった・・・
「敵強いならもっと強くなれば技」
強くなれるモアで敵をサクサク倒したら闇と光が100くらい交互にきたらさいごはなんか変な空間にでた
「はっここは宇宙のはじまりできさまはファントムエクスデス」
エクスデスは特殊な技で97ターン状態異常地獄で即死がモアで耐性でたおしたがしかし変な空間が続いてエクスデス2がでてきてたおしたら次3がでてきてたおした
「くっ映画ひどくなっていく恐ろしいので元から断つ」
99のあと100になって500くらいつづいたら全部終わったらいた
「よくぞたどりついた私は神でファントムルージュつくったよ」
神は1ターンに99回攻撃して9999で死ぬのですばやさあげて先にモアで強くなってたおした
「これでファントムルージュはなくなる元の世界にもどれるさよなら」
「結局だれ」
「わたしの名前は四葉」
そしてファントムの世界は崩壊して四葉は元のファントムのない一巡後の世界に戻りベリュルは別の世界に飛んだ・・・・

75遠藤終赤:2013/05/24(金) 00:24:51
第二回戦SS「城」に関する補足とお詫び(ネタバレ)


ネタバレです
ラストのわかりにくい部分についての補足


















あのオチの理解の仕方は、2通りあります。どちらの理解でもOKです。
遠藤が望んだのは、自分が勝ったかもしれない世界です。その世界は、

1:セニオさんと遠藤の名前のうち、赤と黄色の言葉だけ入れ換わっている
2:世界中の赤と黄色の言葉の定義全体が入れ換わっている

の二つの可能性があります。
・1の解釈だと、黄色い血の存在は、
そこが本来と違う別の世界なのだという伏線となります

・2の場合は作者のうっかりでおかしくなっているので、補足とお詫びをさせてください。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
本来、赤い携帯電話の色は赤ではなく『紅』と表記するはずでした。

遠藤は赤と黄色のみが入れ換わる世界を望みます。なので、紅は入れ替わらずそのままです。
結果として、遠藤終赤となった彼女は『紅』の携帯電話を選ぶはずだし、ラストに書かれている通り、『紅』蓮寺工藤の名前は変わらず、そのままになります。

というわけで、各自脳内置換をよろしくおねがいします。
皮肉にも、地の文の嘘を暴く内容のSSで作者が地の文に嘘を書いてしまいました。すみません。遠藤に叱られてきます…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

というわけで、
よくわからないな。という場合、基本的には1の理解の仕方で大丈夫です。

76ぽぽ:2013/05/24(金) 23:04:06
〜〜名探偵っすか こまねちゃん〜〜

ここはサバンナ
こまねちゃんは 近所でも評判の名探偵だよ。
この世の全ての魔人は(たとえ 触手だろうが チャラ男だろうが)
決して容赦することなく 魔人公安に通報するくらいの心構えだよ。

「きゃー」
こまね「ムムッ 事件のようね」
偽原「ワアッ ひさびさに こまねちゃんの名推理が見られるぞ」

こまね「どうしたの?ゾルテリアちゃん」
エルフの元女騎士ゾルテリア「エーン エーン オカマッ」
こまね「机の中に リソースでも入れられてたの?」
偽原「恐ろしいよ 妙に発想がファントムだよ こまねちゃん」
こまね「世の中は ルージュだから 何が起こっても不思議ではないのよ 偽原さん」
エルフの元女騎士ゾルテリア「エーン エーン オカマッ」

偽原「何かが盗まれたとかだよ きっと…」
こまね「そうなの?」
エルフの元女騎士ゾルテリア「私の黒タイツ&ライトアーマーが盗まれたの エーンエーン」

偽原「なんてハレンチな ゆるせないね こまねちゃん。 ん?」
こまね「………」
偽原(ああッ こまねちゃんのしゃぼんだまがでっかくなった! これはこまねちゃんのインスピレーションが働いたしるしだ!
この特徴から こまねちゃんは別名「こまねちゃん シャボン玉でかッ」と呼ばれている!
あの音玉から逃れられる犯人は一人もいないんだ…!)

偽原(さあ 始まるぞ こまねちゃんの名推理が!)

ピーポーピーポー
黒タイツ&ライトアーマーを着た偽原は逮捕された。

77ぽぽ:2013/05/24(金) 23:04:31
〜〜のぞきなんて最低だ!〜〜

「きゃー」
こまね「ムムッ 事件のようね」
偽原「あっ こまねちゃん 事件だよ」

こまね「何があったの ゾルテリアちゃん」
エルフの元女騎士ゾルテリア「のぞきよ こまねちゃん!誰かが私の入浴シーンをのぞいてたの!」

こまね「……」
偽原「なっ…違… 私ではないぞ!そんな目で私を見るなァ!確かに前科はあるけど…」
エルフの元女騎士ゾルテリア「偽原さんじゃないわ 犯人は逃げる途中「ファントム ルージュ!!」と言っていたもの」
こまね「ファントムルージュか…普通に考えれば 犯人はファントムルージュ…でも
ファンタ美味しいよ ゾルテリアさんの一糸まとわぬ裸体は!えーいトムと一緒にルー大柴とジュテームだよ!の略かもしれない」
偽原「その線はないと思うぞ!?ファンタ飲みながら外人とのぞきなんて犯罪史上例がないよ!」
偽原「真面目に考えなよこまねちゃん!許せないことだよ のぞきなんて!しかも操作をかく乱するために 魔人公安のくせに ファントムルージュの鳴きマネまで残すなんて 卑劣だよ!」

偽原「のぞきなんて最低で卑怯な行いだよ!」

ピーポーピーポー 偽原は逮捕された

78ぽぽ:2013/05/24(金) 23:04:51
〜〜こまねちゃん 最後の名推理〜〜

エルフの元女騎士ゾルテリア「悪質なストーカーから いやらしい手紙が来たの エーンエーン オカマッ」
こまね「な なんですって!」
偽原「わ 私の大好きな ゾルテリアになんてことを!ゆるせない!」

ゾルテリアへ
今日おまえの部屋で ファントムルージュ フフフ フフフ 偽原

ピーポーピーポー 偽原は逮捕された

79しらなみ:2013/05/25(土) 16:59:10
幕間SS『名探偵・負け犬たちのサーカス』OPです。

(注意事項)
このストーリーは連作でオ―プニング以降不定期投稿になります(2万文字超予定)
また某作品のパロディの意味合いが強いので、以降の投稿の際もネタばれ等を気にされる方はご注意ください。
(注:本文に過度なネタばれはありません)


=========CHAPTER1『名探偵・負け犬たちのサーカス』===========


―探偵、それは真実の配達人―

どこからか遠くで口笛の音が聞こえた。
次の瞬間―あたしは不意の睡魔に意識を失った―


◆◆◆

偽名探偵こまねが目を開けると彼女は見知らぬ密室にいた。

―動けない。
彼女は自分が身体を固定されている状態なのを認識すると薄らと眼を開け
その眠たげなまなこを右に左にと視野の届く範囲で走らせた。

薄暗い小部屋。
物置のような印象だが、調度品はほとんどなさそう。
出入り口も見える範囲では見受けられない。部屋の奥には何か踊り場。
左右に雪洞、中央にあれはマイクか?なにかステージのようなものが存在する。

「…。」
次に自身の記憶をたどる。
たしか自分は世界大会1回戦に出場するために朝方、事務所を出たはずだ。
その後…
うーん、そこからの記憶が見事に途切れている。どうしてこうなった。

最後に縛られ後ろに回ったままの手首に少し力を入れてみる。足は縛られていない。
(ガチガチだね、これ力づくでは無理か)
推測含む、まとめ。
現在、自分は見知らぬ部屋で後ろ手をロープで結ばれ椅子に縛られにさせられている。
連れ込まれた記憶はない。

「これは拉致られたんだねぇー……って、あれれれれ、なんで?」

発した自身の呟きに驚き、思わず疑問符の叫びを上げるこまね。
自分の声が”聞き取れた”のだ。なんでシャボン玉が出ないのかと。
音をシャボン玉に替える自分の魔人能力『音玉』が発動しなかったのだ。

「君の今の状態では能力は使えない。」
回答は即、真後ろからあった。抑揚のない落ち着いた男性の声だった。

声の位置からして自分と同じ椅子に座っている印象がする。声の向きは
彼女とは反対方向。距離は60〜70cmくらいか。
ということは自分達は部屋の真ん中ほぼ中央に背をむきあわせて座っている
ことになるだろうか。で、この声の主は…っと、MY脳検索実地。
なるー色々合点した。
「ちょっとねー。今振りむけない状態なのでこのまま御挨拶するねー。
あたしは偽名探偵こまねだねー、貴方は?」
「私は事実だ。」
男からは端的な答えが返ってきた。

うん、やはり、まの・じじつさん、今回の対戦相手の真野事実さんだ。
声を直で聞くのは初めてだけど、本人で間違えない。
可能な限り参加者の声は集めておいたのが地味に役に立ったわけだ。

そして彼もまた探偵。。

「mm…探偵が二人して捕まっちゃいましたね。」
「自分は縛られているが、捕まってはいないとだけいっておこう。」
「それって単なる強がりじゃ。」
「君はこの事態に悲鳴をあげていない。なら私もだ。ハードボイルドも探偵の一要素だろう。」
「???」

こまねはここで一度はなしを切る。なんだか禅問答のようなやり取りだ。
この人、こんなキャラだったっけ?
まあ確かに”この程度で”無様な悲鳴をあげているようでは探偵の名折れではある。
彼女はすーと目を細めるとさり気なく水を向けてみる。
「ここは一つ手”〜”とりあって見ます?」
返答は今回も即だった。
「お願いしたいところだな。”届く”ものなら」
そして続ける。
「ただ、とりあえずはお客さんの応対から始めることになるだろう。難儀な客のようだ」

その声に反応するように、部屋にあるステージの仕掛けが反応した。
ヨォーというかけ声がスピーカーから流れ、設置された両脇のボンボリ達が赤黒の点滅を繰り返す。
なんて人を不安にさせる悪趣味な作りなのだろう
作成者は間違いなく狂人だ。

そして何処か遠くでギギギと重い扉を開くような音。

Suhhhhhhhhhhhhhh……GAhと獣が唸るよう様な音。


こまねの聴覚は常人では感じとれないレベルまでずば抜けている。
聞きたくもないのに妙な音まで聞き取ってしまった。

そして『何か』が近づいている。
トントントントン。
比類して心臓が痛いほど跳ねている。なんだこのひとの心を掻き毟り凌辱しようとするような気配は

80しらなみ:2013/05/25(土) 17:03:19
なんだ。
なんだ。
あたしはこの気配を知っている。まさかまさか


ートン
ートン
ートン




ートントントン。



”   ーすとーんー         ”

そして『ソレ』は唐突に彼らの前に現れた。

身長約123cm。

白と黒のモノトーン。出来の悪いクマかタヌキのヌイグルミを思わせる外見。

紅く萌える瞳。

出来そこないのケモノのような歪なソレは過度に出来そこないでどこか凄く既視感があって出来そこないで出来そこないで
出来そこないでもうこないで。

『奴』はぽんぽこ腹を抱えて笑え声をあげると
呆然とする、こまね達の前で片手をあげ挨拶を繰り出した。

「ぐっどないとだぜ☆オマエラ〜


       ボク〜『戮(リク)エモン』です〜。」



……
すぅぅぅぅ


「「あうとぉぉぉぉぉxxxーーーーーーーーーー!!!!!(OUT:流石にそれは不味いだろという意味の英語)」」

一瞬の沈黙の後
閉ざされた空間に探偵たちの絶叫が響き渡った。


(イメージBGM的な何か)

tp://www.youtube.com/watch?v=6Q0qy3hhvwk

(間奏1分ほど オープンクレジット的な何か)

↑WIN 超ダンゲロス級三つ子“ケルベロス”ミツコ
               VS 超ダンゲロス級槍使い・黒田武志  ↓lose
                   VS 超ダンゲロス級“La Amen” ラーメン探偵・真野事実 ↓lose

↑WIN 超ダンゲロス級”両替師”赤羽ハル VS
               VS 超ダンゲロス”清掃員”聖槍院 九鈴 ↓lose
                 VS 超ダンゲロス級”よい子の帝王学”高島平 四葉  ↓lose


↓lose 超ダンゲロス級”豊満ピンク”エルフの元女騎士ゾルテリア
                 VS  超ダンゲロス級”廃人” 偽原 光義 ↑WIN
    ↓lose 超ダンゲロス級”名探偵”偽名探偵こまね


                   VS 超ダンゲロス級"かませいぬ”鎌瀬 戌 ↓lose
↑WIN 超ダンゲロス級”???”紅蓮寺工藤
                 VS超ダンゲロス級”有罪検事”内亜柄影法 ↓lose


                  VS超ダンゲロス級”兵傘”雨竜院雨弓
↑WIN 超ダンゲロス級”チャラ男”黄樺地 セニオ
           VS超ダンゲロス級”D&D”姫将軍 ハレル & 参謀喋刀 アメちゃん+98

(以下略シマスゴメンナサイ)


◆◆ダンゲロスSS3番外SS

D・A・N・G・E・R・O・S
R・O・N・P・A  

『CHAPTER1:名探偵、負け犬達のサーカス』


???
「フハハハハハ、ボクはこの大会の運営者様なのだぁーーーーー」

81聖槍院九鈴:2013/05/25(土) 21:09:59
【九鈴蝦地獄】

雪山で死んだ九鈴は、地獄の中を歩んでいた。
トングで次々に獄卒共を捉え投げ飛ばし、前へ。前へ。
「あわせてもらう……!私の友、雨竜院雨雫に!」
目的は只一つ。若くして命を落とした親友に再会すること。
殺人者である自分がここに来たのは必然。
だが、あの心優しき雨雫が地獄に居るというのは納得できない。
だから、本人に会って確かめる。
身の丈八尺の獄卒達の海を、トングで開き進んでゆく。

「うわああん、シンナちゃーん!亡者が暴れてるよー!」
情けない声を上げ、獄卒のひとりが“地獄のトラブルシューター”曼珠沙華深奈に助けを求めた。
深奈は亡者であるが、地獄に来た経緯が特殊であるためか、責め苦も受けつつ獄卒の手伝いもするという独特の立場にあった。
「自分らでどうにかしなよーアババッ」
ただいま責め苦の真っ最中。深奈は目、鼻、耳、口から業火を噴き出しながら、驚くべきことにある程度の寛ぎすら見せていた。
「それがさー、あの子“復活”が確定してるみたいで獄卒パワーが効かないんだよー」
「じゃあさ、アイツに行かせたら?アバッ、適任じゃないかなー?」
深奈は気分が乗らないので適当に代役を指名した。
(“また”雨雫さんに来客かー)
深奈は自分同様に肉親の“巻き添え”で地獄に来てしまった雨雫に同情的な感情を持っていた。
だが、それと同時に、羨ましくもあった。
死亡時に胎児であった深奈に、現世からの来客など、未来永劫ありないのだから。
(妬けちゃうよねー(物理))
そして、深奈は本日何度目かの炭化を迎えた。

82聖槍院九鈴:2013/05/25(土) 21:11:03
九鈴の前に、ひとりの魔人亡者があらわれた。
「ドーモ。ロブスターです」
「あっロブスター!弟がファンなんですサインください」
「ハハハ奴と私は微妙に別人で小銀河ダンゲロスMVPだ死ね」
「エクスしている・・・・」
そう、FFS人気に便乗してエクスしておりニンジャを越えたザリガニでまさにザリガニそのものでエクスデス・エクルヴィスと呼ぶべき存在だが倒すと
「アバハハハ真のロブスター今日ふはこれからで『ロブスターは無効票』全てなかったことになりこのSSはwikiにも載らない」
「くっだまされた」
そしてロブスターと共にこのSSは崩壊し九鈴は意識を失った・・・・

気がつくと病院で王大人「奇跡だ」
「くっわすれてる。地獄にいた記憶をなくしているが、このトングを持って旅に出よう」
新たな掃除・・・・

集中治療室のベッドの中で、九鈴はようやく己の敗北を理解した。
そして、何故だか雨竜院雨弓の戦いがどうなったのかが非常に気になった。
雨弓さんは勝てたのだろうか。
九鈴は映像資料を見せてもらおうと、ナースコールに手を伸ばした。

(「九鈴蝦地獄」おわり「浄罪の雨」に続く)

83アスハル:2013/06/03(月) 01:37:05
第二回戦第二試合『城』決着補足SS 【ギムレットにはまだ早い】


「『真実はいつも一つ』!」

 二人のセニオのこめかみを、桜色の推理光線が掠める。
 二回戦第二試合「城」。

「『じっちゃんの名に賭けて!』『犯人はお前だ!』『それは違うよ!』『意義あり!』
 ――『拙の頭は酢入りです』!『さあ、お前の罪を数えろ!』『戯言だよ』『傑作だぜ』
 『Q.E.D. 証明終了』! ――『ンーフフフ。どうも、皆さん。遠藤終赤でした〜』」

 無数の推理光線。セニオとのチャラさは――ここにきて、互角となっていた。
 周囲は死屍累々。セニオによって呼び出された誰かしらも、何人かは「終赤ちゃーん」と馴れ馴れしく近づいて来たが、既に地に沈んでいる。
 チャラ男VS探偵。考えぬ者と考える者。
 対極とも言える戦いは、しかし、それとは関係無い第三の要素で、決着を迎えようとしていた。

「この謎は――吾輩の舌の上dヒック」

 終赤の頬が上気している。
 呼吸も荒く、確かなアリバイを踏みしめていた足も、いまや千鳥足だ。

「くっヒック拙はヒックまだ――ンアーッ!」

 ぱしゃ、とその顔に、粘り気のある白い液体が掛かる!
 眼に入り、怯む終赤。
 酷い臭いだ。それだけではない、嗅ぐだけで、くらりと頭が揺れる感じがする。

「「ぶっかけ飲ませウウウェゥゥゥゥウゥ――ウェエエエエエエエエエエエエイ!!」」

 粘り気のある白い液体――醸造された日本酒を撒き散らしているのは、二人のセニオであった。
 飛沫だけではない、タル、柄杓、木製のマス、様々な容れ物に入れられた酒が、周囲を無数に飛び交っている。

「サイコー! 飲めってマジ! 飲めー!」「イッキ! イッキ! イッキ!」
「シューカちゃんさっすがァー!」「ヘェェェエエエーーイ!!」「イケルクチー?」
「シューカちゃん何デキルゥー?」「探偵出来るゥー?」「他に何デキルー?」「酒が飲めるー?」「ホントホント?」「ホントホント!」
「飲め飲めゴックン!」「ぶっかけヒャッホイ!」「酒飲みウワバミ、サッイッコー!!」「ウェーイ!」

「はぁ、はぁ……んぐ!」

 空気を求めて開いた口へ、日本酒に満たされた柄杓が投げ込まれ、終赤が眼を白黒させた。
 ごくりと飲み込まされ、セニオの詠唱(コール)がそれに合わせて高々と歌われる。
 両手に持った酒樽。片割れが、この城の地下倉庫で見つけてきたものだ。
 即席のビール掛け会場となった場所は既に、屋外でありながらリーグ優勝した野球チームのような騒がしさが顕現している。
 セニオが奇怪な能力で召喚した何人かの誰かしらも、既にこの強制飲み会によって潰されている!

◆       ◆

84アスハル:2013/06/03(月) 01:39:02
 セニオが奇怪な能力で召喚した何人かの誰かしらも、既にこの強制飲み会によって潰されている。

◆       ◆

「犯人は、ヒック、黄樺地セニヒック、ヒック、死因は――急性アルコール、ヒック、中毒、ック」

 終赤も、歴戦の探偵ではあるが――しかしまだ未成年!
 薬物系にこそ耐性はあるが、アルコールはまた別腹! ハードボイルド系探偵術も抑えていない!
 魔人耐久力がなかったら、とうの昔に倒れているだろう!
 なお、読者の皆さんはくれぐれも、未成年に飲酒の強要をしないで頂きたい! 犯罪である!

「ウェーイ!」「ンアーッ!」「ウェーイ!」「ンアーッ!」「ウェーイ!」「んあーっ!」
「ウェーイ!」「んあーっ……」「ウェーイ!」「んあっ……」「ウェーイ!」「ん……」

 終赤がその場に尻もちをついた。その瞳はとろんと溶けている。吐く息が熱い。

「――うう、ヒック、ふかく、です……。にかいへんで、女性が、ひなくなっへヒック、あたまを、あげられませヒック
 SSその3、セニオ様がいちばんかつやくしてないSSだと、いふのに……まひゃか」

 年相応の口調でたどたどしい言葉を吐く。
 もはや自分でも何を言っているか分からないのだろう。いくらか紅蓮寺の能力の影響も残っているようだ。

「拙は……まだ……! ――う゛」

 必死に起き上がろうとした瞬間、少女が胸を抑えて苦しげな声を上げる。
 次の瞬間――その背後に、二人の薄い、邪悪な笑みを浮かべたチャラ男が!

「ウェーイ!」「あ゛」

 終赤の、固く閉じた探偵衣装の胸元が、チャラい手によって開けられる!

「ウェーイ!」「あ」

 瞬く間に、上着が脱がされる! シャツ一枚!

「ウェーイ!」「あ」

 その襟元が開かれる! 薄い胸元を包むさらしが覗く! 外気の冷たさに身を震わせる!

「え゛」「ウェーイ!」

 その華奢な背中、チャラい掌でさすられる!
 終赤は無理矢理態勢を変えさせられ、膝をついてうつぶせに頭を下向きに抑えつけられる!
 ぼやけた視界一杯に、真っ茶色の紙のような何かが広がる!
 ゴウランガ!
 ――エチケット袋だ!
 それを目にした瞬間の、ある種の安堵感に、終赤の胸元に溜まっていた熱が限界を迎える!

「ウェーイ!」「う」「ウェーイ!」「え゛ぇぇ……っ」

 ※※※ しばらくお待ちください ※※※

「う……叔父上……」

 気が抜けたのか、終赤の体から力が抜ける。二人のセニオのなされるがままだ。
 周囲の瓦礫が払われ、終赤は仰向けではなく横向きに寝かされる! 枕元には丸められたセニオの上着! 掛け布団代わりに終赤の上着!
 完全な酔い潰れスタイル――そして襲い来る眠気!
 終赤は一回戦の、夜魔口砂男の能力すら思い起こさせるほどの猛烈な休息感に、急速に意識を手放していった――。

「さぁーてぇ?wwwww」「ちょいちょーいwwwきたんじゃねこれwwww」

 あまりにも一瞬の早技であった。無限の飲み会で無限の幹事経験をこなしてきたセニオは、泥酔者の介護に掛けて、熟練の救命救護士のそれすら上回るのである!

「シューカちゃん潰れっちまったしィ?」「これはァ?」「オモチカエリしか?」「ナーイんじゃないディスカー?wwwwwwwww」

 対面して笑うセニオ二人。――おお、ブッダよ、寝ているのですか!?
 このまま哀れな探偵少女は、セニオの選手控室ないしそれに準ずる場所にオモチカエリされ、その未解決(意味深)の真相(意味深)たる迷宮入りの謎(意味深)を、無遠慮な二人で一人のチャラ男に蹂躙されてしまうのか!?

『ピーンポーンパーンポーン』

『紅蓮寺工藤の死亡、遠藤終赤選手の戦闘不能が判断されました。第二回戦第二試合、勝者は黄樺地セニオ様になります――これより転送を行います』


「え、チョ待ーてよォー!wwwwwwwww」「マジないっすわwwwwwwwwww」

85冥王星:2013/06/04(火) 20:05:55
幕間SS〜アメ×ハレル?それともハレル×アメ?〜

乾燥した地面を踏みしめ、跳躍する均整のとれた足。
風一つない宙空に綺麗な流線を描き、瞬く剣閃。
広大な土地の真ん中で、二人の少女が熾烈を極める戦闘を行なっていた。

「ハレっち・・・見損なったよ。『あんなやつ』に魂を売るナンテ!」
紅色の着物を着た背の低い少女が悲しそうに言う。

「・・・それはこっちのセリフ。おかしいよ、アメ」
金髪を結い上げた少女が哀れんだ目で見つめ返す。

ここは、参謀諜刀アメちゃん+98の精神世界。アメ自身の精神の状態を表す心象世界は荒れ果てていた。
姫将軍ハレルと参謀諜刀アメは互いの思いをぶつけるように得物を振るっていた。
携えているのは木刀であったが、普段の修行とは違う真剣勝負。己の矜持を掲げる武人の仕合であった。

「私はゼーッタイ『あいつ』だけは認めないヨ!ハレっち、目を覚まして!」
「・・・多数派はこっちの方。・・・目を覚ますべきなのはアメの方だよ」

予定調和の様に木刀は交差し、弾き合い、体に届くことはない。
これは二人の実力が拮抗しているためだ。性格も、戦法も、技法も互いに知り尽くしている。
それ程までに無二のパートナーとして強く結びついていた彼女達の間に、今は亀裂が走っている。
おそらく、余程の事があったのだろう。その原因とは一体・・・?

一度距離を取った二人が木刀を構え、疾走を開始する。
それぞれの思いを口に出し、気合を入れる。

「「おいしいのは―――」」
奇しくも言葉が重なった。しかし続く言葉は決別の意を含んでいた。

「やさすいの方ダヨ!」
「・・・いろはすの方!」

――――いろはす・やさすい戦争!!!!
これは彼女達が衝突するのも仕方ない!宗教戦争や、きのこたけのこ戦争と同じく恋人や家族、親友同士ですら争いあう危険性のある火種なのだ。

「いろはすは味が濃すぎるジャン!」
やさすい派のアメが逆袈裟斬りを仕掛ける。余談だが作者はやさすい派である。アメちゃんがんばれ!
「・・・やさすいは味が薄すぎるんだよ」
いろはす派のハレルがアメの刃を受け止める。

ちなみにこの「いろはす・やさすい戦争」、少数勢力のやさすい派がムキになって突っかかっているだけのような気がするが、気にしてはいけない!きっと気のせいだ!

「・・・何より、やさすいは後味が微妙。」
「あの水を飲んだ時のようなスッキリとした後味がいいんジャンカ!日本人が備えるべき侘び寂び!おしとやかなヤマトナデシコの精神を具現化した飲み物がまさに『やさすい』ナンダヨ!」
「私・・・日本人じゃないし。」

長時間に及ぶ戦闘に、二人の身体は熱気を帯びていた。飛び散る汗。美少女の汗!!
作者的には正直「いろはす」や「やさすい」よりも美少女の汗をボトルに詰めたものが欲し―――失礼!いろはす・やさすい戦争に置いて他の飲み物の名前を挙げることは禁忌であることを失念していた。
きのこたけのこ戦争に於いてアルフォートの名を出す事と同義の愚行!
小学生同士の喧嘩に核兵器をぶち込むようなものと言えばどれだけ卑劣な行為かお分かりになるだろう。そう、小学生の喧嘩に例えられるようにこれは非常にレベルの低い争いなのだ。

しかし、どれだけ馬鹿らしい争いでもそこには譲れないものがある!!

「―――夜叉雨《やさすい》!!」
「―――色彩晴守《いろはす》!!」

己の信じるものを言霊として紡ぐことで、ついにその思いが剣技へと昇華した!
闘気が異様な密度で放たれ、視覚化する。
今、彼女達の背後には揺らめく陽炎のように、それぞれ「やさすい」と「いろはす」のパッケージが浮かび上がっていた。
・・・あれ?想像したらかなりダサい!まぁいいや!
土壇場での新奥義。唯一お互いが知り得ていない技。
故に決着が着くとすれば新技が炸裂した直後。

「ハアアアァァアァァアア!!!」
「・・・イヤアアアァァァ!!!」

信念が、狂気が、信仰が、煩悩が、凝縮され今解き放たれる―――――――――!!

86冥王星:2013/06/04(火) 20:08:00

※    ※    ※


思わず眠ってしまいそうな陽気に、時折肌を掠める微風が心地良い。
当たりは見渡す限りの草原。その中心に設けられた屋根付きの休憩所のベンチに、ハレルとアメは座っていた。

「運動後の水分補給にはやさすいが一番ダネ!」
「・・・何言ってるの、アメ。いろはすが一番だよ」

などと言いつつも、くっつくように隣合って座っているあたり仲の良さが伺える。
結局、勝敗はつかなかった。
実力が伯仲している相手との長時間の戦闘は体を蝕み、疲労を蓄積させていた。新技が相手に触れる直前に、糸が切れたように二人共その場に倒れてしまったのだ。
意識はあるものの、体が動かせなかった。なんとか立ち上がれる程には回復した数十分後、二人はコレ以上の戦闘は不可能と考え、互いの健闘をたたえ握手を交わし今に至るというわけである。アメ降って地固まる!

「・・・アメはいろはす飲んだこと無いんじゃないの?」
「あるよ!かなり前でまずかった記憶しかないダケド!」
「・・・やさすいと飲み比べてみたら?ほら、私のあげるから。」
「え!?いいの!?ハレっちとの間接キスいいの!?ヤッタ―!」
「!?ちょっ・・・」
ハレルが制止するも遅く、アメはいろはすのペットボトルを取り上げて飲み始めてしまう。
「ぷはぁ!ヘヘ、いろはすもハレっちの間接キッス味だと思えばおいしいネ!」
「・・・もう。アメったら。もうっ」
ハレルは目に見えて顔を赤くしている。アメはその様子を見て調子に乗るが如く、自分のペットボトルを突きつける。
「さぁハレっちもアメちゃんの飲みかけのやさすいを飲んで!まさにキスの味がするとおもうヨ!」
「・・・わ、私はいいから。やさすいはキスの味というより唾液の味でしょ?」
「キスしたことなんて無いクセによく言うヨ!額や頬にしたことはあっても唇にしたことはないデショ?」
「・・・そういうアメは、えっと・・・キスとか経験あるの?」
「エ!?いやあ、アメちゃん現実世界じゃあ刀だし・・・人の姿で接することが出来るのはハレっちだけだし、その、ナイヨ?」

珍しく戸惑うアメ。
ハレルは未だ赤面しつつも、アメの顔を見て躊躇いがちに何かを言おうとしている。
ハレルが言葉数が少ないのはいつものことなので、アメは続きを促すように黙っていた。
すると、とんでもないことを言い出した。
「・・・・・今ここでシテみる?」
「な、エエ!?ハレっちどうしたのサ!・・・まぁ、アメちゃんはハレっち相手なら構わないケド・・・」
「なら・・・ほら、いいでしょ?私もアメとなら・・・いいから。手、どけて?」
トン、とベンチに手をつきハレルが迫る。紅潮した綺麗な顔が近づいてくる。少し荒い息が顔にかかってしまいそうな距離だ。
「だ、ダメだヨ!この手は、えーっと、魚、そう!死にそうな魚を手の中で暖めてるんだヨ!」
「・・・馬鹿なこと言ってないで。ふふ・・・アメっていざ受けに回るとあたふたするよね。かわいい」
「やっ、まだ心の準備って奴がデスネ!―――あっ!」
横に置いてあったやさすいに手が触れててしまい、中身をぶちまけてしまう。
艶やかな色彩の着物の裾に染みが広がった。

87冥王星:2013/06/04(火) 20:17:12

「・・・あ、アメ。ごめん」

ハレルがしていた純白のタオルで、アメの着物をゴシゴシと擦る。
自然と二人の距離が近くなる。
アメの鼻孔に、迫られていた時には冷静でなかった為に気づけなかった匂いが漂ってくる。
微かな汗と、シャンプーの甘い匂いが混在した微香。
(ハレッチの、女の子な匂い・・)
ドクンと。アメの小さな心臓が一度大きく跳ねる。
困ったように、健気に自分の和服を拭いてくれているハレルを愛おしく感じた。
(あ、そうだ!)
心の奥に生じた、いじらしい感情を持て余しながらあることを思い付く。
さっき惑わしてくれた仕返し。これならきっとハレルの慌てふためく姿が見れるだろうと。
恋慕に近い気持ちを隠しながら、頬を膨らませて茶化すように言う。

「もーっ。ハレっちが迫ってくるからせっかくのやさすい少なくなったジャンカ!」
「・・・ご、ごめん。私のいろはすあげるから、許して?」

申し訳なさそうに上目遣いで許しを乞うハレル。
アメはそんなハレルを、カワイイな、と思う。
実際にこぼしてしまったのはアメなのに。ハレルは基本的に人を責めたりしない。
(ハレっちはお人好しなんだから・・・そのうち変な男に引っかかっちゃうゾ!)
ハレルが男に引っかかる様子をふと想像してしまい、慌てて首を振る。そんな事態は嫌だ。ハレルに寄ってくる虫は残らず撃ち落とそうと心の内で決意する。
そして意地悪な笑みを浮かべて言った。

「いろはすはいいからサ、ハレっちもやさすい飲んでみなよ。嫌とか言わせないよ!私の服を汚した罰ゲーム!」
「う・・・分かった」
「よーし!そう来なくっちゃネ!」
アメはガッツポーズを決めて、残量の少ないやさすいを・・・自分の口に含んだ。
「・・・え?」
てっきりペットボトルを突きつけてくるのかと思ったハレルはきょとんとする。
そして、アメはハレルの頬をそっと撫で、唇を近づけ―――――

88冥王星:2013/06/04(火) 20:17:35

「―――んっ」
口づけを交わした。
そのままやさすいを流し込む。うまく口渡しができずに数滴こぼれる。
ハレルの頬に触れた手が温かい。
目を閉じたままで分からないが、きっと顔を赤くしているのだろう。
やさすいを口にいれた後、少し調子に乗って舌も入れてみる。
ハレルの舌に触れると、ハレルの身体がびくっと跳ねた。
舌を絡めて幸福感に浸る。ハレルのファーストキスを奪った。それだけでアメの独占欲が満たされていく。
ハレルはされるがままだ。喜んでくれているといいな、と思う。
呼吸が苦しくなり、そっと顔を離す。名残惜しい感情を表すように、絡まった舌から唾液が糸を引き、そしてぷつんと切れた。

ごくん、と喉を上下をさせる音が聞こえた。ハレルが口に含まれたやさすいを飲み込んだ音だろう。
目を開けてハレルを見ると、爛熟したトマトの様に顔を真っ赤にして体を震わせている。
アメと目が合うと、ハレルは視線を逸らした。
「・・・あっ・・・っ・・・」
何かを言おうとして、口を開けたようだが言葉になっていない。
(―――やった!ハレっち戸惑ってる!カワイイな。カワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイ・・・!)
頭の中が「カワイイ」の四文字で埋まる。それ以外は考えられなくなって、思わず率直に聞いてしまう。

「ハレっち!アメちゃんとのキスはどうだった!?」
そんなアメを見て、ハレルはクスっと笑う。
「もうっ・・・やさすいの味を聞きたかったんじゃないの?」
アメははっとした。思わず落ち着きを失ってしまった自分を恥じる。これでは自分も結局戸惑ってしまったみたいじゃないか。実際その通りなのだけど。
(・・・だって、ハレっちが可愛いんだもん。)
心の中で呟く。なんだか返り討ちにされた気分だ。しかし、ハレルに夢中になっている自分というのも、どこか心地よかった。
平静を装ってアメは改めて尋ねる。
「ゴホン・・・で、やさすいはどうだった!?美味しいデショ!」
「・・・やっぱり微妙かな。」
「そっかぁ・・・」
その返答に、アメは少し落ち込んだ。
先程まで感じていた幸福感が少し薄れる。なんだかハレルと繋がり会えたような気がしていたのが、自意識過剰な感情に思えてきた。ただハレルはやさすいの感想を言っただけなのに、キスも「微妙」だと言われた気分になった。
「・・・でもね」
と、そこで。

ハレルはそっとアメを抱きしめた。

「・・・アメとのキスの味は甘くて柔らかくて、幸せ。やさすいはキスの味だなんて嘘。あんな素敵な味は、やさすいには出せないよ」

その言葉に、アメの心を快い微風が凪ぐ。
服を通して、ハレルの心臓の鼓動が感じられる。
ドクドクと、速い。
ハレルも自分と似たような思いをきっと感じてくれているのだ。
幸せ。幸せ。幸せ。
(・・・まったく。ハレっちはいつも無垢に、純粋に、アメちゃんを慰めてくれるんだから。)
親友であり相棒――――いや、今やそれ以上の感情を抱く相手に素直な思いを伝える。


「大好きだよ、ハレっち。」
「・・・私も、大好きだよアメ。」


アメの精神世界は、今、満開の花畑に包まれた。

【END】

89ゾルさん:2013/06/04(火) 20:29:13
『裏トー準決勝・特急予告』

裏トーナメント準決勝の戦場は電車。
電車に乗ったことないゾルテリアは電車がどんなものか調べながら
トイレでオナニーしていた。

ピコピコピコ クチュクチュクチュ

右手でオナニー、左手で携帯で検索。

「はあーん。電車っていうのは移動手段であり、敷かれた溝に沿って
高速で車輪を装着した鉄製の箱が通過するものね。
パンデミック前は毎日この箱に下層民が大量に詰め込まれ移動し、
最下層民はこの箱の前に飛び込み自殺していたと書かれてあるわ」

ピコピコピコ クチュクチュクチュ

「ハアハア、時速は各駅鈍行で平均最大70キロ前後。新幹線と言われる
高級仕様のもので200〜300キロ。急行・特急はその間。
だとすると今回の戦場をノンストップで走るとは言っても特急と明示
されている以上速さは100〜200キロぐらいに設定されているはずね。
馬車の5倍〜10倍の速度で人間数百人を載せられる鉄製の箱が走る、
おっそろしいわねえ」

ピコピコピコ クチュクチュクチュ

「そしてえ、その戦場では私の防御を突破しようとあっちこっちから
トングでつまみに来たり、言葉責めが来たり!ああーん、私とんでもない事に
なりそう!!でも女騎士は全ての攻撃を受け止めて勝つばっちこーい!」

完全にイク前にオナニーを止めゾルテリアは自分の胸に手を当て奇乳を押し込む。
すると力を込めた分、胸が数センチ小さくなり下半身にその分の肉が付いた。
激太りした分の肉をできる限りオッパイに集めるというやり方はあくまでも、
自分の趣味であり、夫や父が同じ術でチンチンのサイズを変えて男性器を隠してるのを
見ての通り、肉体操作術での肉の配分はこの様に自由にする事が出来る。

「電車での戦闘はバランス感覚を要求される、だからこうしてちょっと胸を小さくして
バランスを安定させて見ようかしら?それとも最初から肥満形態で挑もうかしら?」

色々声に出しながら考えているとトイレの外からざわざわと話し声が聞こえてきた。

「今のって…」
「裏トーナメントのゾルテリアじゃあ…」

「げーっ、トイレで戦場研究している間にいつの間にか思わず声に出して
それを聞かれていた私!それにいつまでもトイレ占領してるのもまずいし
そろそろでないと、その前にタイツ交換しておきましょ」

ゾルテリアは愛液で汚れた黒タイツを脱ぎ、汚物入れに入れる。
全身を覆う大きさなので全部は入り切らず、汚物入れの入口から真っ黒なタイツが
頭を出している。

そしてゾルテリアは新しいタイツを着込むとそのタイツの首の部分に指を引っ掛け
頭の上まで引き上げ、顔をタイツで隠してからトイレの外に出た。

「わ、私は通りすがりの黒タイツ大好きウーマン!ゾルテリアとは関係無いのよー!
おーっほおほほほほほほ!」

トイレに来ていた観客が唖然としている中、黒タイツウーマンは出ていった。


(果たしてこの予告は役に立つのか!)

90アスハル:2013/06/05(水) 16:26:18
【黄樺地セニオの能力『イエロゥ・シャロゥ』についての補足】

(大会運営会場のどこか)
(机の上に、一枚の報告書の草案が挙げられている)

―――――――――


『黄樺地セニオの能力『イエロゥ・シャロゥ』についての考察(草案)』


 かのコピー能力『イエロゥ・シャロゥ』は、誤解を恐れずに言えば、世界最強の能力である。
 何故なら、この世に最強の能力というものがあったとして(それ自体が荒唐無稽な仮定ではあるが)、彼はその能力を真似られるからだ。
 彼の能力コピーを逃れる手段は二つ、まず能力を使わないか、能力を見せたとしても、彼がそれを能力によるものだと認識しなかった場合のみである。

 しかし、強大な能力には強大な制約がある。
 ならば黄樺地セニオが持つ、希代の能力の代償とは何か?
 ――それを考察するには、先ず、その能力原理から明かさなければならない。


 読者諸兄は、チャラ男の『物真似』を見たことがあるだろうか。
 特に、身近な人間を対象にした物真似だ。
 友人のくだらないギャグの真似。いじられ役のクラスメイト、あるいはそうしても怒れないような立場の弱い者の言葉、行動を、過度に道化じみて、唇と突き出し、腰を振り、真似にもなっていない真似をする不可思議な行為。
 セニオの能力原理は、この延長線上にある。
 完全なチャラ男であるセニオは、その物真似も完全なものとなる。

 
 【他人の能力を茶化す能力】。
 結論から言えば、それがイエロゥ・シャロゥの能力原理である。


 彼の能力の使用制限である、最後に見てから約2時間しか使えないというものも、本人にとっては極めて分かりやすい理屈である。
 『茶化しネタは、タイムリーな方が通じるから』。それだけだ。
 また、これまでの試合中、彼はコピーした能力を積極的な破壊行動に使用していない。
 それが、この能力原理に伴う制約なのか、それとも単純な当人の性格によるものなのかは不明である。

◆       ◆

91アスハル:2013/06/05(水) 16:28:34
◆       ◆

 そして、物真似をされた経験がある者がいたら分かるだろうが、概してあの手の『茶化し』は、同じチャラ男以外にはウケない。
 自分の言動を滑稽に繰り返されて笑い物にされればその人物が怒るのは当然だし、多少なり良識のある人間ならば、真似されているのが自分とは関係のない赤の他人だろうと、不快に感じる。

 だが、だからこそ、『他人の言動を茶化す』ことは、チャラ男達にとって同属を探す為の非常に有効な手段であり、
 ゆえに黄樺地セニオは、かつて友人だった魔人に襲われた時、いつものように茶化そうとして、この能力に目覚めたのだ。

 チャラ男は本来、群れで暮らす生物である。それは習性以前の、生態だ。
 パンデミックによって友人連中を失い孤立した彼にとって、同属探しは何よりも急務だった。
 しかし、度重なる災害によって、チャラ男及び、その適性者は失われて久しい。
 そして、シリアスを理解出来ない黄樺地セニオにとって、災害によって『絶望』『悲劇』『悲哀』『苦痛』を抱える人物と分かり合うことは難しく、結果的に彼の孤立は癒えることがない。

 ――すなわち、こう結論づけることが出来るだろう。
 黄樺地セニオの、強力極まりないコピー能力の代償。
 それは、他のどんな弱小魔人の、どんなに矮小な能力でも、多かれ少なかれ備える、ある要素を持たない、ということである。
 魔人は自らの欲望を、妄想を、願いを――現実にする為に能力に覚醒する。
 だがセニオは、どれだけ能力を使ったところで、孤立の運命から逃れられない。

 セニオの能力は、セニオの願いを叶えない。

 それこそが、人類最後のチャラ男の帯びた、たった一つの代償(のろい)なのである。


―――――――――――


(報告書の草案の上に、メモ用紙がある)
(そこには、美麗な文字で走り書きが残されている)


『能力の発展の可能性』

『彼にとっては最低――ゆえに、世界にとっては最高』

『しかし、それは彼の能力が模倣の領域にしかないから』

『古今東西あらゆるコピー能力者が、唯一至りうるオリジナルへの可能性』

『私は可能性を見たい。それが私の能力。
 頂点に立った時の景色。そこに立つ者、それをプロデュースしたい』

『《イエロゥ・シャロゥ》

     ――《パレット》    』

『彼は、そこに至れるでしょうか?』

92偽原 光義:2013/06/07(金) 10:05:49
偽原準決勝幕間SS「事前準備」


―ですが彼らは同時に、『自分たちは誰かに書かれた存在である』という認識を現実に変えた、紅蓮寺様の能力の産物でしかない。
我ら三人の、それぞれの中の人。此度のGKを担う陸猫様、仲間同志様。それらを育むあちらの世界の人類の歴史。魔人のいない世界。ダンゲロス世界を作り上げた架神恭介様。
ふふ、架神恭介。「恭しき」「架空」の「神」――まさに誂えたような名ではございませんか?


「……興味深い、話だな」

ザ・キングオブトワイライト 本試合会場、そこからやや少し離れた街の、小さな旅館の一室。
偽原 光義はここを自らの寝床としていた。
選手用のホテルは、本試合会場の近くにも用意されていたが、わざわざ居所の知られる危険の高い場所に居住まいする必要などない。
偽原はホテルには泊まらず、普段はこの場所で次の試合への作戦を立てていた。

そして今は次なる戦い、準決勝第1試合、廃村での戦いに備えて、対戦相手である黄樺地(きかばじ) セニオの分析に勤しんでいた。
椅子に腰掛け、所有するノートPCにて、セニオの2回戦、古城での戦いを観戦し、次の試合へのヒントが得られないかと探っていたところだったのだが……。

「やはり、聞き逃せん……この話。これを見ている多くの人間は馬鹿馬鹿しい、と思うだろうが」

今、偽原の鑑賞はあるシーンを何度も繰り返しては止まっている。
それは、試合の中盤、遠藤終赤(えんどうしゅうか)が紅蓮寺工藤(ぐれんじくどう)の能力を語る場面。
紅蓮寺の能力が、『この世界が創作された世界である』という認識を他者に強制させるというものである、と語るところである。
会話の内容から類推するに、この世界はダンゲロスSS3という物語の中の世界であり、これを書いている人物が存在するらしい。
それも作者は複数。特に架神恭介、という人物が重要なようだ。

終赤の話は更にエスカレートしていき、その紅蓮寺が認識を強制する、この世界を創作した世界、いわば上位世界の存在は、そもそも紅蓮寺の認識によって作り出されただけの世界である、という話になっていくのだが……。

(まあ、遠藤終赤もどこまでハッタリで語っているのか分からんが……、この紅蓮寺という女の中に、この世界を創作したという世界に関して、確固たる認識があるのは事実だろうな)

そうでなければ、対戦相手が誰かも分からない、この大会において、誰に対しても共通の認識を呼び起こすことなどできない。
魔人能力ゆえ、どんなカラクリかは分からないが、対戦相手が誰であっても、その相手が納得できるような形で、この世界を創造した世界について、認識を強制させることが紅蓮寺工藤にはできるらしい。

それはある意味で、彼の持つ能力、ファントムルージュ・オンデマンドとも似た性質であると言えた。
ファントムルージュ・オンデマンドもまた、それを視聴した相手が誰であっても、精神を破壊し尽くし、生きる気力を根ごそぎ奪うという、いわば相手の精神に強制介入することができる性質を持っている。
「認識の強制」、という面においてはファントムルージュ・オンデマンドと紅蓮寺の能力、『創作の祭典(フィクション・ファンクション)』は確かに似た性質を持っていた。
だが……、

93偽原 光義:2013/06/07(金) 10:06:50
だが……、いやだからこそ、というべきか。
誰よりもファントムルージュを知るからこそ、その本質について果たして自分はきちんと答えられるのだろうか?という問いが偽原の中にはあった。

もっとも、神について答えられるか?と問われて、すぐにはっきりとした答えを返せる宗教家といすぐにはっきりとした答えを返せる宗教家というのもそうはいないだろう。
だから偽原もその疑問については胸の奥底に押し留めていた。
あるいは、彼がこの大会に参加したのは、その答えを求めて、というのも理由の一つだったのかもしれない。

(しかし、この世界が創作されたものである、という紅蓮寺の認識が真実だったとしたら?)

あの関西で起きた惨劇も、偽原の家族を無残に奪ったあの悲劇も。
この大会でこれまで自らが起こってしまった数々の惨状も。
そして、これから未来に自らによって起こされるであろう……、今はまだそれは口に出せることではないが。
とにかく、そんなある意味で喜劇とも思えるようなこの状況を作り出した存在が、自分たちの別の世界にいるということだ。
そいつは何を思って、あの映画、ファントムルージュをこの世界に作ろうなどとと思ったのか?
その存在ならば、ファントムルージュについて答えられるというのか。
普通の人間にとっては馬鹿馬鹿しいと思えること、しかし今の偽原にとっては看過できない事態である。

(準決勝まで、まだ時間はあるが……)

試合を鑑賞していた本来の目的、黄樺地 セニオ対策は、実のところそのほとんどが既に頭の中で組み上がっている。
これ以上の思索は特に必要ない。後は準決勝まで、準備を進めていくだけである。
現在はまだ準決勝の組み合わせが発表されてから、さほども立っていない。準備期間はまだ数日残されている。
とはいえ、作戦のための備えを十全に整えるにはまだ余裕がある、とまでは言えなかった。

そして偽原が今考えている事は、準決勝を戦うにあたっては特にする必要もない、完全に余分なこと、のはずである。

(だが、やはり直接確かめてみなければならん)

今を置いては肝心の紅蓮寺工藤が姿を消してしまうかもしれない。
偽原は心を決めると、すぐにPCのモニターの画像を、セニオの戦いの映像から切り替え、そして凄まじい勢いでキーボートを操作し、これから行うべき目的のための作業へ取り掛かったのだった。

94偽原 光義:2013/06/07(金) 10:08:11
ごめんなさい、>>93はミス。

「ファントムルージュによって与えられる認識とは何か、か……」

ファントムルージュの本質。
既にこの大会において4人の対戦相手と2人の協力者、計6人の魔人の精神を粉々に砕いた悪夢。
しかし、そのファントムルージュはとは何か?という問いに対し、偽原は何故か明確にこれだ、と言える解答を、実は未だ持ってはいない。
勿論実際に問われれば、漠然とは答えられるだろう。この7年間、偽原はファントムルージュを見続けた。かつて関西を滅ぼし、己の妻と娘を奪ったその忌まわしい映像を朝も昼も夜も無く見続けてきた。偽原は『この世界の』中においては誰よりもファントムルージュについて知っている。


だが……、いやだからこそ、というべきか。
誰よりもファントムルージュを知るからこそ、その本質について果たして自分はきちんと答えられるのだろうか?という問いが偽原の中にはあった。

もっとも、神について答えられるか?と問われて、すぐにはっきりとした答えを返せる宗教家といすぐにはっきりとした答えを返せる宗教家というのもそうはいないだろう。
だから偽原もその疑問については胸の奥底に押し留めていた。
あるいは、彼がこの大会に参加したのは、その答えを求めて、というのも理由の一つだったのかもしれない。

(しかし、この世界が創作されたものである、という紅蓮寺の認識が真実だったとしたら?)

あの関西で起きた惨劇も、偽原の家族を無残に奪ったあの悲劇も。
この大会でこれまで自らが起こってしまった数々の惨状も。
そして、これから未来に自らによって起こされるであろう……、今はまだそれは口に出せることではないが。
とにかく、そんなある意味で喜劇とも思えるようなこの状況を作り出した存在が、自分たちの別の世界にいるということだ。
そいつは何を思って、あの映画、ファントムルージュをこの世界に作ろうなどとと思ったのか?
その存在ならば、ファントムルージュについて答えられるというのか。
普通の人間にとっては馬鹿馬鹿しいと思えること、しかし今の偽原にとっては看過できない事態である。

(準決勝まで、まだ時間はあるが……)

試合を鑑賞していた本来の目的、黄樺地 セニオ対策は、実のところそのほとんどが既に頭の中で組み上がっている。
これ以上の思索は特に必要ない。後は準決勝まで、準備を進めていくだけである。
現在はまだ準決勝の組み合わせが発表されてから、さほども立っていない。準備期間はまだ数日残されている。
とはいえ、作戦のための備えを十全に整えるにはまだ余裕がある、とまでは言えなかった。

そして偽原が今考えている事は、準決勝を戦うにあたっては特にする必要もない、完全に余分なこと、のはずである。

(だが、やはり直接確かめてみなければならん)

今を置いては肝心の紅蓮寺工藤が姿を消してしまうかもしれない。
偽原は心を決めると、すぐにPCのモニターの画像を、セニオの戦いの映像から切り替え、そして凄まじい勢いでキーボートを操作し、これから行うべき目的のための作業へ取り掛かったのだった。

95偽原 光義:2013/06/07(金) 10:09:39
ザ・キングオブトワイライト、本会場。

紅蓮寺工藤は医務室から出た後、そのまま当てもなく会場内をふらふらしていた。

二回戦、城での戦いの最中、遠藤終赤の推理光線によって撃ち抜かれた彼女は、そのまま大会の治療班によって医務室の棺桶の中へ担ぎ込まれ、今日まで死亡状態であった。
そしてつい先ほど、ワン・ターレンの『死亡確認』を受け、冥府から蘇ったのである。
そして己の敗北を聞かされ、「ヒヒ、ア〜〜、俺は負けたのかア〜〜、じゃあなア〜〜」といって、医務室を後にした。

なんでも二回戦の敗者は裏トーナメントなるものに参加できる資格があるそうだが、今更そんなものに興味はないようである。
そもそも彼女が何を思って、何のためにこの大会に出たのか、それすらも理解している人間がこの世にいるのだろうか。
今の彼女は

(ア〜〜、たりぃ。オナニーでもして、帰っか)

という感じで漫然と会場内を歩いていた。
そんな時。

「……では、次のニュースです」

機械的な、アナウンサーの音声が耳に届いた。
見れば廊下の端の椅子に一人の大人が腰掛けている。帽子を被り、眼鏡をかけたその男は、ノートPCを広げて、TVのニュースを視聴中のようだ。周りの迷惑を考えていないのか、音が漏れていることにも気づいていない。
紅蓮寺工藤は特に興味もなく存在ばを立ち去ろうとしたが……。

「ネット上にて人気の小説、アンノウンエージェントが実写映画化されることが決定いたしました」


(……アン?)

アンノウンエージェント。
それは他でも無い、紅蓮寺工藤本人が登場している小説の題名である。
紅蓮寺工藤はその小説の作者の魔人能力によって、実体化された、元は架空の人物である。

(あのクソ小説を実写化だァ〜〜〜?物好きなことする奴がいるもんだなァ〜〜)

自分が登場している小説とはいえ、狂人である紅蓮寺にはあまり愛着というものは無いようだ。
しかし、それでもある程度関心はあるようで、ニュースから流れる情報へ紅蓮寺は耳を傾けた。

「プロデューサーは○倉△一郎氏、脚本は□村S二、という豪華なスタッフとなっており」

(ハァ? おいおい、聞きしに勝るクソスタッフどもじゃねぇか〜〜。ヒヒ、大丈夫なのかァ〜〜)

アナウンサーが映画の主要スタッフを述べていくが、どのスタッフもその道の人達には良く知られた、一癖も二癖もある陣容であった。
しかし紅蓮寺は、さほど作品自体の出来栄えやその行く末には全く案ずるところはなく、むしろどんな面白いことになるのか?と心の中でギャラギャラと笑いながらそのニュースに聞き耳を立てていた。
ところが。

96偽原 光義:2013/06/07(金) 10:10:45
「そして、最大の目玉として、」
「あの大女優、ハイパーストロング・AYAMEさんの紅蓮寺工藤役としての出演が決定しました!」


(……ハァ?)


「プロデューサー○倉氏の発言によりますと、紅蓮寺工藤は原作小説ではあまり人気が無いキャラなのですが、思い切ってAYAME氏に演じてもらうことで大幅なイメージチェンジと人気アップを図りました、とのことです」

(な、なななななな……)

「更にAYAME氏からのコメントです」


男性アナウンサーの音声が可愛らしい、しかしどこか尊大な感じを帯びた女性の声へと切り替わる。


「紅蓮寺さんは原作ではわけの分からない、ちょっと気が狂ったようなキャラなんですが、私はもっと爽やかで、可愛らしい。私なりの紅蓮寺さんを演じたいと思います」
「原作ファンの皆さんにも、こんな紅蓮寺さんもアリかも?って、思ってもらえたら嬉しいです! 応援よろしくお願いしまーす!」

(ふ、ふざ、ふざ、ふざけ………)

――ハイパーストロング・AYAME。
それは2012年頃から頭角を現し、その剛力ぶりでありとあらゆる原作付き実写ドラマや映画作品に出演し、破竹の勢いで創作界を暴れまわった女優である。
原作付き作品における、彼女のあまりの存在感は、遂には原作付き作品の完成度を測る単位として、pg(ピコ剛力)という新たな理論が学会へと提唱されたほどである。

その進撃は留まるところを知らず、2015年の関西、及び関東滅亡の後も彼女は滅びることなく生き続け、それどころか国内にライバルがいなくなったことから、遂には世界的大女優へと躍進を遂げた。
そして、ワールドワイドになったことから、剛力を超えた超力を持つ女優へと変身。それはまさに蛹から蝶へと脱皮するかの如き様相であった。
加えて名前も世界に進むに合わせて英語化され、ハイパーストロング・AYAMEとして進化した。
(超力を直訳するとスーパーパワー・AYAMEだが、語呂が悪いので、こうした意訳的な名前となっている)
2020年の現在では、今や世界中の人間が「次は一体どの物語が彼女の出演によって歪められるか?」と、戦々恐々、喧々諤々、畏れにも近い感情を持って、ただその時を待ち続け、受け入れるだけとなってしまっていた。

「フザケんなァァァーーーーー!!! オレを演じんのがあのクソギャラギャラギャラ(注:自主検閲により変換)女優だァーー!? そいつァ、何の冗談だァァァーーーーーー!!」

あまりの現実を前に、紅蓮寺はノートPCを広げた男を手で乱暴にどけ、そのニュースの映像を凝視した。
そこには。
紅蓮寺工藤役、ハイパーストロング・AYAME という文字と共に、笑顔のAYAMEと紅蓮寺のイラストが並べられた画像が映っていた。
もちろん、二人の人相は全く似つかない、何を思ったらこんなキャスティングになるのか、まったく分からない程、似ていないものである。

97偽原 光義:2013/06/07(金) 10:19:50
「マジじゃねぇかァァァーーーーーーーー!! アアアアアアアアアァァァァーーーーーーー!!」









フ ァ ン ト ム ル ー ジ ュ











「ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒ……な、なんだぁ〜〜、この、有り得ねえ……なんだぁ、このクソは。剛力とかAYAMEってレベルじゃあ、ねえ」
「か。返してくれ〜〜。オレを、元の世界へ……。もう、こんな映画は、こんな世界は嫌だァァ……」

ファントムルージュ・オンデマンド。
紅蓮寺工藤が見つめたノートPCの中の悪夢、ハイパーストロング・AYAMEと自分のイラストが並んだ画像は、たちどころにそれを上回る世界最大の悪夢の映画、ファントムルージュの映像へと切り替わった。

(成程、こうした姿を見ると、中々美人ではあるな、この女)
(ハイパーストロング・AYAMEというのは、少しやりすぎたか)

ファントムルージュによって生きる気力を奪われ、廊下の床へと転がる紅蓮寺の傍に立ち尽くすのは、先ほどノートPCでニュースを視聴していた男、眼鏡と帽子で軽く変装してはいるが、まぎれもなく偽原光義である。
彼は紅蓮寺の能力に自らかかるべく、こうして医務室から出てくる彼女を待ち構え、そして対紅蓮時として用意していた、先ほどのニュース映像を周囲に聞こえるように流していたのである。

再度の説明となるが、紅蓮寺工藤はアンノウンエージェントという小説に登場する架空のキャラクターが実体化した存在である。
架空のキャラクターにとって最も辛いこととは何か?
それはその存在が本来書かれた作者の意図、自らに込められた可能性を、欠片も残さず歪められた形で世に知らしめられてしまうことではないか?
その辛さ、恐ろしさは、それと全く同じ属性を持ったある映画の事をよく知る偽原だからこそ理解できる。
そして、ハイパーストロング・AYAMEによってキャラクターが演じられるということは、まさにその架空のキャラクターがこの世で最も恐れていた事態、死ぬよりももっと辛いことである。
紅蓮寺工藤がいかな狂人であるとしても、己という存在へのプライドは持っているはずである。ならばその自尊心を粉々に砕く映像を前に目を背けることはできない。

紅蓮寺工藤は二回戦で敗れたが、偽原は一回戦終了時から、次に戦う可能性のある相手と戦った時のシミュレーションを行っていた。この映像はその時に、紅蓮寺対策として既に思いついていたものである。
勿論、実際の試合の時は、これ程容易に相手に映像を見せつけることは難しいだろうし、映像にしても、もっと精巧な物を作るつもりだったが。

(とはいえ、急ごしらえにしては充分だったな。備えあれば、憂いなしだ)
(さて……)

偽原は眼鏡を外し、帽子を上げて倒れる紅蓮寺の目の前へ近づいた。

「紅蓮寺工藤、俺が分かるな」
「て、てめえは……」
「そう、偽原みつよ……」

その瞬間、雷が偽原の頭上を直撃する。
そして瞬く間にこの世界の真実に関する、ありとあらゆる情報が偽原の頭の中に流れ込んでくる。
この世界がダンゲロスSS3というキャンペーンであること、勝者のSSだけが正史となるルール、今自分が行っている行動は作者である人物が掲示板に書きこんでいる幕間SSであること、ダンゲロスのwiki、魔人のいない世界、架神恭介。
そして……。
そして、ファントムルージュのこと。
おおよそ作者が知りうる事は全て偽原の頭の中に流れ込んでくる。

98偽原 光義:2013/06/07(金) 10:21:13
「お、おおお、おおおおおおっ!!」

咆哮。
偽原は顔を天に向け咆哮していた。
その眼から涙がとめどなく溢れる。
完全な放心状態。彼はただただ天にいる何かに向かって叫び続けていた。
放っておけばそのまま何日も天を仰いだ状態でいるのではないか?
それ程今の偽原は異常な状態であった。

「ヒ、ヒヒ、なーにを途方にくれてやがんだぁ〜〜? あんなクソ下らねえことで」

その偽原に対し、紅蓮寺が声をかける。
偽原はようやく顔を下げ、涙を拭いながら答えた。

「そうか、お前の能力はこれを書いている人間の知ることが伝わるんだな」

紅蓮寺もまた、自らの能力の影響を受けている。
偽原が知った事実をそのまま、紅蓮寺も知ったのだ。

「くだらないこと、そうくだらないことだな。ファントムルージュ、それに……AYAMEか?」

偽原は意地悪い笑みを浮かべ、それに答えた。

「ヒ、ヒヒ、クソだ、ああ、クソくだらねーなァァーーー、アーヒャッハッハァァーーーー!!」
「フハハハハ、ハハハハ、ハーッハッハ!!」

狂った様に笑う紅蓮寺、そして偽原もまた、それに対応するかのように大きな哄笑を上げた。
狂笑、互いに数分続いたが、やがてどちらともなく止まった。

「俺のこと、忘れるな、紅蓮寺工藤」
「ああ、忘れねえさ。あんなクソを見せやがった野郎のことはなァァーー」

この瞬間、偽原と紅蓮寺の間に対戦相手以上の関係が生まれた。
これで偽原は紅蓮寺の能力の影響をずっと受け続けることになる。

(そう、忘れる訳にはいかない)
(この事を知ったままでなければ、俺は次へは進めないらしいからな。業腹なことだが)
(だが、そのためにも今は準備を進めねばな……)

そう、これは余計なこと。偽原にとって、本来はする必要のないことである。
次のセニオとの戦いの行く末はこの後の偽原の努力次第にかかっている。
例えこの世界が、作られたものであったとしても。そこに手を抜くことは許されない。
それはこの世界の作者が寝ていて締め切りまで過ごしても、SSを書き上げることが出来ないのと同じである。

(急がねばな。大分、時間を潰した)

偽原は表情を引き締めると、倒れた紅蓮寺をそのまま抱えて医務室へ運んだ後、本会場を後にしたのだった。

準決勝へ続く。

99偽原 光義:2013/06/07(金) 13:53:31
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件・女優とは一切関係ありません。

最後に上の一文をつけてください。
肝心なことわすれてた。

100サブGK:2013/06/09(日) 14:08:36
『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』本会場であるコロッセオ内の一角、
『レストラン・カーマラ』にて、今日も二人の男がグラスを交わす。
大会主催者の秘書兼世話係、森田一郎と、レストラン店員兼客席警備役、千歯車炒二だ。
厳しい男達が面突き合わせて一体何を話しているのか?
そっと耳をそばだてれば聞こえてくるその会話。

「裏トーナメントってヤツ?ひとまず開催おめでとうってとこかしら」
「そうだな……良い試合を見せてもらった」
「コッチにも客が流れてくるからホント万々歳ってところねー。
 商売になるし、試合の盛り上がり具合はアタシもバッチリ確認してるわよ」

それはきっと、裏トーナメント参加者達にとっては気になる話題だろう――



〜〜裏トーナメント第一回戦 試合別得票の流れ解説SS〜〜



■裏一回戦【遊園地】

「まずは遊園地ね。ココはあの探偵のおじょーちゃんが抜け出したわねえ」
「初日の時点で雨竜院・高島平の両者に1票、対して偽名探偵こまねは11票だったな」
「そのまんま伸びて勝っちゃったんだから大したモンね」
「他の二人も票こそ少なくとも好意的なコメントは多かったのだから、大したものだ」
「強い相手に圧勝したってワケよね」
「ここの勝者は後々まで目が離せないな」
「裏二回戦では探偵対決もあるみたいだしねぇ」
「裏一回戦、遊園地の勝者、偽名探偵こまね……」
「おねーさんも応援しちゃうわ」



■裏一回戦【底なし沼】

「底なし沼は……これまた飛び道具が出たわねぇ。笑っちゃったじゃない」
「ザリ・ガナー」
「やめて真面目な顔で言わないで我慢出来ない」
「ここも聖槍院九鈴が終始圧倒して終わったな」
「アキビンの渋さも捨てがたかったんだけどね」
「序盤に出遅れ、終盤に離され、それでも夜魔口組もコメントを残され、健闘だったな」
「これで裏二回戦では狂人がエルフとぶつかるんだから大変だわ。アタシ期待しちゃう」
「鋭い切れ味の『言葉』を武器にする検事もだな」
「裏一回戦、底なし沼の勝者、聖槍院九鈴。ドコまでやるかしら」



■裏一回戦【宇宙ステーション】

「ここの試合は……あらぁ残念、弓島由一の失格」
「大会ルールに則り、得票数は非公開だな」
「内亜柄影法は短く纏めてきたわねー」
「キメ台詞は長かったがな」
「コメントを見るとみんな好意的みたいだし、アタシもこーいうのは好きよ」
「そういえばお前もよく攻撃の際に叫んでいたな」
「気合よキ・ア・イ。裏二回戦でも熱血っぷりを見せてくれるかしら」
「対戦相手はどちらも真っ当とは言い難いからな。さてどう出るか」
「裏一回戦、宇宙ステーションの勝者、内亜柄影法。見ものね」



■裏一回戦【ホームセンター】

「ホームセンターは裏で唯一の混戦だったわねぇ」
「そして投稿時間ルールが初適用された試合でもあったな」
「最初は……あらまぁ意外。ゾルテリアは出遅れていたのね」
「トリニティ3票、倉敷椋鳥3票、ゾルテリアは1票だったな」
「中盤も倉敷が票を集めていたんだ。へえー」
「トリニティ、ゾルテリアは票が伸び悩んだな」
「なのに……あらあら、終盤になってゾルテリアの追い上げがスンゴイじゃない!」
「ぎりぎりでの巻き返しだったな。最終的には倉敷椋鳥との同票。そして早さで決着だ」
「裏一回戦、ホームセンターの勝者、エルフの元女騎士ゾルテリア。やるわねぇ」



〜〜〜〜



「――で、裏二回戦は特急列車がゾルテリアVS聖槍院九鈴VS内亜柄影法。
 温泉旅館が偽名探偵こまねと……表の二回戦敗退者から参加した遠藤終赤に山田ね」

森田と千歯車の会話が途切れた。
客のいなくなったレストランのバーカウンターに、空のグラスが置かれた。

「今日のところはこれでお開きだな」
「そうねぇ」

二人の男は立ち上がり、挨拶を済ませると思い思いに別れる。

「さぁて、次はどんな試合が見られるのかしら」

『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』準決勝、そして裏準決勝。
次に待つ、まだ見ぬ試合に大きな期待を寄せて――。



<終わり>

101八津河喬二丁目:2013/06/12(水) 22:20:28
【復讐者の誓い その6】

「ええと、次の裏トーナメントから三人で出場したい…ですか」

運営の受付係員は山田達の頼みに対して困惑した表情で答える


「まあ、そんな感じです……けど…やっぱ無理ですよね…?」

「いやいや!元々さ、山田って名前は魔人賞金稼ぎとして活動するときに使ってた名前でさ!
そんときにはいつも私と穢璃ちゃんがサポートで支援した訳だからさ!これもう実質共同の名前じゃない?」

「そしてその名前で登録してるのだから三人で出場したい…無茶苦茶な屁理屈だとは分かってる。
けどそもそものこの大会自体、参加者のあらゆる武器の持ち込みが許可され
料理対決にバラエティ番組じみた戦いなんて物で勝敗を決めたり挙句の果てには
試合場に予め第三者を持ち込むなんて事までやっても反則にならないからには
この程度の事も許容されるべきなんじゃないかしら」

「あ、そうだ!そもそも第二回戦で淀輝ちゃんは穢璃ちゃんに向かって
対物ライフルを当てた訳じゃない?ならその時点で淀輝ちゃんは
『試合中、対戦相手以外の観客等に危害を加える行為』によって反則負けになってるはず
そしてもしそうならその後、偽原のオッサンは淀輝ちゃんに思いっきり攻撃をしてた訳だから
『勝敗確定後の戦闘行為』によって偽原のオッサンも反則負けで勝者はオーウェンに
なるはずだと思うんだけど?もしこれが覆らないのであればそれってつまりは
私達も『山田』の一部って事になるんじゃないの〜?どうなのどうなの?」


「…はあ、分かりました。ちょっと上層部の方に確認しますね」

係員はそう言うと窓口の備え付けの受話器を手に取る



「……本当に戦うんですか…?」

山田は心配そうに兎賀笈澄診と兎賀笈穢璃に尋ねる

「ハハー!君はいまさら何を言ってるのかねえ?」

兎賀笈澄診が芝居がかった低い声で架空のカイゼルヒゲを弄りながら答える

「澄診ちゃん、ふざけないでよ」

「…あのねえ、淀輝ちゃん、ふざけてるのはどっちよ!
何度も言うけど私達はもうとっくに覚悟決めてるのー」

「私達の事を心配してくれる気持ちは有難いわ…
でも、二回戦の事を考えれば私達は裏方に徹するという考えが強すぎたと思うの…
これからの戦い、そして本命の復讐の事を考えたら今まで通りのやり方や気持ちでは
また二回戦の二の舞になってしまうんじゃないかって思うの…」

「澄診ちゃん…穢璃さん…」

山田は二人の返答を聞いてしばし沈黙した

「分かりましたよ……そのかわり、二人とも
自分の事はしっかり自分で守って下さいよ?助けれる時は助けますけど
いつでも余裕があるとは限りませんからその事は覚悟して下さいね」

山田は本当は「二人を絶対守って見せる!」くらいの見栄を張りたいところであったが
二回戦で自分はなにも出来ずに偽原の成すがままにされ
自らの手で穢璃に危害を加えてしまった事を思うととてもそんな
勢いだけの都合のいい事を言う気分にはなれなかった


「まあ、でも実際に三人で戦えるかは運営の判断次第ですけどね」

102八津河喬二丁目:2013/06/12(水) 22:21:10
穢璃がそんな事を言い終えた丁度その時
係員は受話器を置き山田達に話しかけた


「あ、三人での参戦についてOKだそうです、ただし
条件付きで、次の試合ではちょっとしたペナルティが課せられるそうです」

「ペナルティ?どんな内容の?」

「それは実際に戦いが始まるまで秘密だそうです。
もし決勝戦に勝ち上がれた場合、決勝ではペナルティは無しで戦えるそうです。
また、翅津里淀輝さん一人で戦うという場合でしたらペナルティは無しになります」


「ペナルティか…どうします?俺はいいですけど」
「まあ私もオッケーだよ!どんな事が起きるか分からないのが人生!」
「二人が良いのなら私も大丈夫です」

「じゃあ決まりだね、次の戦いから三人で戦うって事でお願いします」

「了解しました」


「しかしペナルティが課せられる上に実際に戦いが始まるまで
内容を伏せられるとかなんかバラエティ番組みたいだよなあ」

「ホームセンターでの戦いといい、裏は結構軽いノリなのかもねー」

「ところで…これから三人で『山田』として戦うというのでしたら…
私も『山田』になるって事ですよね…?それなら私も山田さんの事を
淀輝さんって呼んだ方が良いかしら?」

「……っ!!当然ですよ!むしろそう呼んでもらえる方が大歓迎って言うか!」

翅津里淀輝はそう言いながら兎賀笈穢璃の手を両手で掴み軽く上下に振った

「淀輝ちゃん名前で呼んでもらえるってだけではしゃぎ過ぎっしょ…」

おわじ

103八津河喬二丁目:2013/06/12(水) 23:27:04
【復讐者の誓い その7】
裏トーナメント準決勝前日

都内某所地下
そこには四人の男女が居た


「ぅあっ……!…んぐぅっ…」

薄暗い地下室に女性の悲痛なうめき声が響き渡る
女性は両手に手枷を嵌められ天井に吊られている

「…ぃぁっ…ぃ……んんっ…いぅっ…!……ふぁぐっ…」

女性の身体には至るところにみみず腫れが浮かび上がっており
且つ様々な箇所にカラフルな押しピンが突き刺さっている。

そして先程から翅津里淀輝が通電を行う度に女性は
口に宛がわれた布を噛みしめながら僅かに悲鳴を漏らしている

翅津里淀輝は拷問を恍惚とした表情で行い
兎賀笈澄診はそれを嬉しそうにハンディカメラで撮影している
(他にも三台の固定カメラを設置している)

そして兎賀笈穢璃は翅津里淀輝の拷問を真剣な眼差しで見つめる


「えーと次は………生爪剥ぎか」

翅津里淀輝は拷問の手を一度休めメモを取り出し眺める
その内容は今日この女性に対して行う拷問のメニューが書かれている。


「…しかし、本当にここまでやっちゃって大丈夫ですかね?」


翅津里淀輝は兎賀笈穢璃の方を向き
はにかみながらぎこちなく問う。

今回の拷問における翅津里淀輝の様子はいつもと大分違う
いつも以上に嬉々としていながらもどことなくよそよそしく
何かを心配している様子である。


それにはいくつかの理由がある

普段の拷問のメニューは兎賀笈澄診が大まかな内容を事前に決め
そこに翅津里淀輝が口を挟んで準備をし
実際に拷問する際に更に二人のノリによって内容が変わったりする

しかし今回のメニューを決めたのは兎賀笈澄診でも翅津里淀輝でもなく
兎賀笈穢璃が全て一人で決めたのだ。


そして、今回の拷問の相手はいつものような
凶悪魔人犯罪者の賞金首ではなく罪なき者なのだ

そう、これはいわば彼らにとって一線を越えるための儀式と言っても良かった


「……大丈夫よ…むしろまだ生ぬるいくらいね…
私達が味わった地獄もこんなものじゃなかったでしょう…?」

兎賀笈穢璃はニッと笑顔を作りながら答えた




104ほまりん:2013/06/15(土) 14:18:34
トリニティ描いたんです!
トリニティはとても可愛いので、みんなどんどん描くべきなのです!

三人集合絵: tp://twitpic.com/cw4e7q
ゆるふわ四コマ: tp://twitpic.com/cwp0n2

105しらなみ:2013/06/23(日) 07:32:52
前2万字とかいったな…ありゃ嘘だ。

◆ダンゲロスSS3番外
DANGEROSRONPA『CHAPTER1:名探偵、負け犬達のサーカス』


【01】
絶叫の後、沈黙。
事実さんとあたし、こまねは互いに見つめ合うことも出来なく、
ただ、ただソレを見つめていた。

wanawanawana wananwanwana wananwanwana wananwanwan

zawazawazawazawa wanawanwa

突如、あたし達の前に現れたソレは、ヌイグルミと呼ぶには余りに歪で
へんてこりんな存在だった。白を基調とした身体に黒の歪なラインが無数に
走り全身を縫いとっているかのような怪存在。
そしてソイツはまるでそこが自分の定位置だといわんばかりにステージに
設置された椅子にちょこんと座った。

両脇にはスピーカーが設置され、登場時以降、不快なBGMを垂れ流している。
同じく左右に展開しているボンボリ達が狂ったように赤黒の点滅を繰り返し、
狂ったようなシュチエーションをモノノ見事に演出していた。

ナマモノは右手(らしきもの)をあげると
「というわけでグッドモーニングスター☆負け犬の皆さま。
ボクはこの大会マスコットにして運営者の”戮エモン”です。ドーモ、コンバンワ」
と妙に甘ったるい声で挨拶をかまして来た。

あたしは眼を細める。大会マスコット?
リクエ・モン?
そんなモンスターなど誰もリクエストなどしていないんだよ〜
普段なら余裕かましてそう一笑に伏すのだが、一概にそうできない
それは今対している相手が纏っている凶気とでもいうべき、禍々しさに合った。何者だ。

あたしたちは沈黙を続けていた。
次の瞬間、紅い瞳があたし達を覗きこむ。その不吉な紅に思わず悲鳴をあげかける。

「おやおや最初の豚のような悲鳴からダンマリデスか?ひょっとして死んだふり?」

覗きこまれるまで、全く接近の気配が読みとれなかった。今、どんな早業で近づいた。
あたしは内心の動揺を悟られないよう出来るだけゆっくりとソイツから視線を外す。
にやつく自称”リクエモン”

「くくくく。安心していいよ、ボク、クマさん設定じゃないから、死んだふりし
なくても取って食ったりしないから。
それにさ最近ゆるキャラとかクマなんとかとかがはやってるってはなしじゃない?
そこらへんも、ちゃんと考慮して、ボクのキャラ設定はクマではなくて未来から
やってきたネコ型のロb…」
「それ以上続けてはいけない!!」

??

奴は不思議そうに首をかしげた。
くっ。臍をかむ。
しまった、もっと情報を引きだすまで待つつもりが、思わずツッコンでしまった。
何か今放置していくとトンデモナイことになりそうな気がスゴクしたのだ。
この強制力…実は何かの魔人能力かもしれない。しかたなく、謎の相手に返事を返す。

「ハイ。で、その自称大会マスコットの”リクエモン”さんがあたし達に何の用でしょうか?
私達はその大会の為に試合会場に向かわないといけないのだけど。」

何気なく水を向けた、次の瞬間。

ざわ。
ざわ。
ざわ。

部屋の空気がざわめいた。ざわざわと”リクエモン”の後ろで文字が躍る。
本当にざわという文字がぼんぼりから浮きで踊っている。
どういう原理だ。
しかも人が能力が発動できずに困っているというのに、なんかスゴイむかつく。

「あー君達がソレを言う。遅刻者の君がネ。」
リクエモンが呆れたように言う。
――――は、遅刻したって。
「そーだよ。あれだけ時間厳守遅刻厳禁ですって言っておいたのに。
君達はいつまでたってもオちてこない。
しかも全く同じブロック全員が”遅刻”するとは思わなかった。こっちにも都合があるってのに。」

憤り・激しい・憤り。

彼の背後で激しく点滅するぼんぼりたちの文字。なるほど、そういう風にも使えるんだ。
感心している場合でなかった。リクエモンが気勢をあげる

106しらなみ:2013/06/23(日) 07:36:14
「そこで!!我々としては!遅刻対象者を粛清!―じゃなかった、反省を促すため
罰ゲームを実施することになりました。
各部屋、確定一名様にて!
極めて趣向を凝らした!
『お仕置き』を受けて頂くことにしました!!スイーツ(笑)」

頑張るボクへの御褒美と言うやつです。口に手を当ててシシシと笑う、リクエモン。
何が御褒美なのか言葉の意味はよくわからんがとにかく凄い説得力だ。

「遅刻…そんな訳が…」
「じゃ1回戦の記憶ある?
今日の自分の行動を振り返って『思い出せる』?無理だよね。君には記憶がないはずだ。」

りくえもんに断言され、そのまま口ごもる自分。
確かに会場に向かうところまでしか、記憶がない。例えば前日までの電話口でのやり取りや
対戦相手の過去を調べた詳細とかは覚えているのだが、そこからの記憶が…
ズキッ
頭に鈍い痛みが走る。いや本当にそうだったろうか?

「ま、というわけで『オシオキ』対象を選ぶクイズをぉぉぉとそんなことしたら
倒れちゃうよ。危ないよぉ」
「そんなの誰がみとめるかぁ、帰して帰して帰してよ」

あたしは思いっきり地を蹴り、縛られながらも地団駄を踏み暴れる。
だが哀しいかな女子の軽い体重(強調)では椅子をふらつかせるのがせいいっぱい。
イスは後ろ向きに少し動いただけでそのまま…倒れなかった。
その代わりゴスという背後に何か当たる音がした。
「事実くんナイスキーパー」
どうも真野さんが自分と同じように椅子を後方に飛ばして倒れかかったあたしを
支えてくれたようだ。
「そしてこまねゃん、嘘泣きしてもダメです。帰しません。バレバレです」

はぁはぁはぁ息を整えつつあたしはぺろっと舌を出す
「ありゃ、ばれてましたか、むむむ」

そういいつつも意識は背に集中する。
縛られた背後の手の人差し指を立ててみると何か柔らかいものに当たる感触が、
そして向うからも返し…アリ。こちらの手のひらに指が当たる感触がする。
初めから数十センチの距離だ、少し詰めれば手が触れ合える。
そしてここで取られるやり取りはこいつからは死角になって見えないはずだ。

コンタクトできる状況はなんとかできた。
こちらの企みにはまるで気づかない様子でリクエモンは続ける。

「そして、今回の『オシオキ』は画期的にも選択制を採用しております。
なんと前もって対象が『オシオキ』を選ぶことができるのです!
ではレディファーストでこだまちゃんまずはリスト、ドウゾ」

すると目の前に映像が浮かぶ。そこには



「なんか、お仕置きと言うより古今東西の選りすぐりの処刑方法が書いてある
気がするね。言葉のニュアンスが間違ってる気がするなんだね。」
「でーょぶだ、ワン・ターレンがある。」

なんか凄い悪い顔でなんか凄いこといわれた。
本当に大会本部絡んでたらそうだろうけど…、好んで処刑される謂われはない。
そして、ここで今までダンマリを決めていた事実さんが初めて口を開く。

「補足確認だ。片方がオシオキを受けた場合、その間、残された人間はどうなる?」
おお
今までの口数が少なかった分、ばーんと決めてほしいところである。
「うーん、基本オシオキ中はそれを観賞いただくかな。妨害なんかはさせないけどさ」
とリクエモン。
そして次の台詞で一同に電流が走った。

「では、この『色欲触手地獄(ういーんういーん)』を詳しく見せてほしい。」

ガーン。
いきなり膨らんだ期待を裏切られた。膨らんだのは読者の期待やナニのほうだった。
「変態!変態!変態!裏切り者!」
思わず泪目になって叫ぶ、こまね。今度は半ば本気だ。

ギラリ。これはリクエモンの反応。
こまねの反応を見、これは今いち薄い真野事実に対するキャラ付けのチャンスでは
ないかと考えたのだ。
つまり、勝てばJKが触手に貫かれる様を観賞でき、負ければ挿しぬかれるところを
JKに視姦される。ドッチに転んでも変態的なキャラ立てが御膳立てできる。
今でさえ拘束された状態で泪目になった女子高生に変態と罵倒されるという好位置。
真野事実、恐るべしとメタ視点の者に印象付けるべきではないかと。
だが彼はこの誘惑を退けたっていうか、それをすると進行の妨げになるし、
ぶっちゃけそれ以上に愚痴りたいことが彼にはあったのだ。

「あーあーこまねちゃん、お静かに。
んというか其処にはちょっと先客がいるんだけど?てーいうか最初の補足って確認したい
って意味だよね。それなら「実物」見て頂いたほうが早いかな。ハイご注目〜ポチっとな」

―場面転換―

薄暗がりの中、肉色の壁で覆われた部屋
そこで全裸の大柄な女性が、肉紐で全身を絡め取られていた。

107しらなみ:2013/06/23(日) 07:39:45
「イヤァァァァァ」

最初は悲鳴かと思われた。だが、多分に媚を含んだ甲高い甘い声にそれはすぐに過ちだと
気づかされる。聞くだけで濃厚な鼻をつくような匂いがここまで漂ってくるような声だった。

―まさか!?そんな!

こまねの意識がそちらに向くと同時に映像がズームインされる。そこには!

それには触手に全身の穴という穴を挿し貫かれ悶絶する
安定のエルフの元女騎士ゾルテリアさんのあられもない姿があった!
触手になんか私は絶対負けない…でも!

「「ですよねー」」*2

思わずハモる二人の反応。これにはリクエモンさんも困惑顔だ
「いやほら彼女の能力って一種の無敵防御じゃん。ほかのひとみたく綺麗に眠らせるわけ
行かなくてね。で。先に相手して説明していたら
『ほほほ、私がそんな脅しに屈すると思って☆その問答即受けてやるわ』とかいいだしてね』」

…何故だろうその光景が眼に映るようだ。

「でね速攻でこっちの出すクイズ間違えてね。予め触手地獄、選んでいてね。もう、なんだかね。」

…何故だろうその光景が眼に映るようだった。

しかし、これで大会参加者が3人目。しかも同ブロックからだ。
流石にこの無法を目高機関が見逃すとも思えない。何某の狂言を疑っていたがこれは思った
よりもヤバイかもしれない。いやマテマテ、こまねは我に返る。

「ネコさん!もうゾルテリアさんが確定1名の罰ゲーム受けてる状態だったら、私達が
オシオキ受ける必要全くn…」
「シャラープ!!!!!!」
そのナイスな提言を遮るように鋭い叫びが入った。紅の眼が怪しく光る。

憤り・激しい・憤り。

激しく机を叩くリクエモン。

「シャラープ!!!!!!!!!貴様らは何も分かっていない。
いいかい、オ・シ・オ・キというのはだね。一種の【極地】なのだよ!
焦燥・後悔・絶望、そして暗転。今まで積み上げてみたものが一瞬にして崩壊する
様々なものが入り混じった崩壊のコントラスト!!
それをあんなあんな、くっ。我々はあんな肉袋になんぞ用はないのだよ。」

再び、激しくドン。

「ということで部屋も違うしノーカンです。中のひと的に言っても、多分あれはNGだね。」
中の人いうな。
がっくし。どうやらこのナマモノのリビドー赴くまま、ケッタイなクイズアワーに
付き合うしかないようだ。危機的状況は続く。
そしてこの時あたしはなんだかんだで、向うのペースにまんまと乗ってしまっていたのだ。

そのことに気づいたのは全てが手遅れとなってからなのであったのたが…。


【MISSION】

『選択は2つです。
こちらの出すクイズに対し一発勝負で正解する、もしくは
4つ正解を答えた人が部屋から無事に出れマス。

そうでないと永久に出れません。
間違えたりギブアップしたりすると罰ゲーム『お仕置き』が待っています。

お楽しみに。


以上、細かい点はGKコールに従ってください。』


あたしたちはルール確認と紆余曲折の末、後者、4つの正解を答えることとなった。


◆◆◆question open(一発勝負の問題)

QUIZ

『ここには真実を運んでくれる正直者のお手伝いさんが6人居る。

そのひと達をボクに紹介して下さい。』

108しらなみ:2013/06/24(月) 21:27:56
【2】◆◆◆question1:私は誰?

QUIZ

『ここには真実を運んでくれる正直者のお手伝いさんが6人居る。

そのひと達をボクに”紹介”して下さい。』


それが一発勝負のクイズ内容だった。

(確か昔読んだおぼえがある。イギリスの童話作家の詩の一節だ。
これは、その変形バージョンってことかな。)

確認の為、背後に回した手でやり取りすると事実さんも同じように捉えているようだ。
いきなり答えが判ってしまった形だが…『紹介』と言われている以上、
その予想回答にプラスの詳細が求められるのだろう…結局”監禁されている”自分たち
では答えようがない。

「ちなみにゾルティアさんはこちらの一発勝負を選んで間違えました。」

彼女は『探偵』と答えたらしい。そして順番に名前を挙げて行った。なるほど、三つ子も
含めると丁度探偵が6人になる勘定か。ただ残念ながら回答は探偵ではなかったようだ。

そして彼女の「今」はすぐ、そこにあった。
先ほど映し出された映像は音量こそ落ちているが引き続き、映されており、肉と肉が
交わり合う淫猥な音が鳴り響いている。

イケナイナンデイケナイノイキタイノニー

現在は絶賛スンドメ地獄らしい、うわーキツソウ。
なんか、聞いてると、こうモゾモゾしてくるので、そろそろ消してほしいんだけど、うん。

「それでは引き続き手前の映像をご覧ください。」

そんなこちらの心境を知ってか知らずか、リクエモンの手により空中に映し出される新たな映像。

問題
『単連結な2次元閉多様体においては、どのような輪であっても引き絞れば
回収できるようであれば、その表面(表皮部分)は2次元球面に同相であることを証明しろ。』

以上である。

それから暫く待ったが「答えろ」とか「ハイヨーイドン」とか言われなかった。
あたしは一つ咳払いをすると出来るだけ猫なで声で出題者に声をかけることにした。

「ニャーニャーニャ?」
「あ、ボク、ネコ語とか判らないんで日本語でおK」
さいですか。
「もう始まってるの?」
「勿論、始まってますよ。」
やれやれと肩を竦めるとあたしは後ろに向かって声をかけた。

「事実さん、映っている内容、教えて貰っていいですか、こちらの内容はポアンカレ予想でした」
映されている映像が同一とは限らない、確認が必要だった。
返事はまた即だった。
「こちらも同じだ。ミレニアム問題『ポアンカレ予想の証明』」

その返答に軽く頷く。
ミレニアム問題。いきなりの無理難題である。
小説や推理ゲームでよく話題に出てくる数学上の超難問を取り扱った例のアレで有る。
米国のクレイ数学研究所によって100万ドルの懸賞金がかけられている7つの数学上の未解決問題のこと。
そして、このポアンカレ予想はミレニアム7問中、唯一解決されてる問題でもある。

逆に言うと未解決は”6つ”ある。
つまり4問正解先取だろうと時間無制限だろうと残りの未解決問題を出されたらおしまいである。
これを拘束状態で解けというのは如何な名探偵だろうと無理。
そもそもミレミアム問題の解が正解かどうか確認する手段って世界中の学者が2年くらいかけて
正しいかどうかを検証し、矛盾がないか必死こいて間違い探ししてようやく正解認定という代物なのだ。
    、、、、、、、、、、
それに問題を解けとは言われなかった。
つまりこの出題はフェイク、裏の意図を読み解いて何某の『正解』を探しださなければいけないわけだ。


…まあ現時点で、さっぱり思いつかないんだけどね。

109しらなみ:2013/06/24(月) 21:29:16
その上でプラス解決すべき事案が2点。
我々を監禁しているこの犯人の目的と正体。
本当に大会に関係あるのか、それとも何か別の意図があって、こんな馬鹿げたゲームをさせているのか。
そして、あたしと事実さん二人とも無事に助かる方法を見つけ出すこと。この2点。
さてどこから手をつけるべきか。
あたしの決意を知ってか知らずか、リクエモンがこちらに声をかける。

「ねえねぇ、ちょっと聞いていいかな?今さっき気がついたことあるんだけど」
ハイ、なにかなネコ語も判らない落第ネコさん。
「こまねちゃんてさ、推理するとき、なんか目付き凄く悪くなるよね。」
!?
がっ、しまった。対策を取らねば。対策〜対策〜

「ハイ、今から…こまねちゃんは超推理睡眠のお時間だよ…zzzz…質問にはノーコメントだよ」
「うわ、タヌキ寝入り始めたよ。」

見られてしまった。昔から推理中、目付きが悪くなる癖があって対策にちょっと眠たげというキャラ
付けをすることでその欠点を見事、克服した経緯があるのだ。
くっあたしの小学生時代のトラウマ呼び起こしやがって。余計な発言があの時の同級生を彷彿とさせる。
元気かな…数々の犯罪と寒いギャグの数々を犯しシベリア行きとなった少年A吉(仮名)くん。
だいたいこの出題者、回答者にちょっかいかけすぎなのである。
まあ大会参加者全員を閉じ込めてるわけでも個別管理しているわけでもないので、時間に余裕があるのは…

あれ?片目を薄らと開け、ゾルティアさんの映像を見やる。個別管理?
どういうことだ。
次に事実さんのほうをみようとして、無理。これは首が回らなかった。

そして目の前のミレニアム問題。
懸賞問題…ひょっとして、これ”検証”問題ってこと?

……第一問は間違い探しということなのか?…なら…

あたしはうっすらと開けていた目を再び閉じる。
落ち着いて基本に立ち返って検証してみよう。まずはアレからだ。
数を数える。
あたしは羊を数える要領で頭数を数える。

「1、3、5、7、11、13、17、23、…で…28…28か。」

大会選手はエントリー数で29。ソレは確かだ。素数だったので記憶に残っている。
だが今数えた結果は人数は28どまり。とするとこの中で一番怪しいのは…
あたしは背後の事実さんに向かい問いを発した。

「事実さん、一つ答えてもらっていいですか?『真野事実の魔人能力』を教えてください」
「…。」
答えは沈黙。いつもは間髪いれず来るはずの答えは今回返ってこなかった。

「うぷぷ。確か変身能力ぽいなにかじゃなかったかなぁ」
代わりに答えたのはリクエモンだった。
あたしはそれを無視して質問を続ける。

「じゃ、娘さんのお名前教えて頂いていいですか?いらっしゃいますよね」
「…。」
またまた沈黙。
ふむ、では切り口を変えてみよう。

「私のポケットにはメモ帳には貴方のこと、なんて書かれてましたか?」
「『往年の名探偵。長らく消息不明だったが本大会にエントリー。”本物なら”
顔見せするのは20年以上ぶりとなる。弁舌に長け、NO武力で事件をスマートに
解決するのが特徴。魔人能力もそれに絡んだものか? 
年齢不詳だが、おそらく本大会最年長と思われる。個人的にはロマンスグレー希望』」

「個人的にはロマンスグレー希望。乙女か!」
リクエモンがツッコミを入れるが、ここまで来るとあたしも同じく笑うしかない。
なるほど”彼”はあたしの知っている限りの『事実』を答えてくれるわけだ…。

「では最後にあたしの1回戦の対戦相手の名前を教えてください。」
「対戦相手の名前はゾルティアと―――」

なるほど、聞き覚えがない名だ。
一問目の『正解』が”ソレ”だという前提にたつのなら考えられるのは
精神ショックを記憶が吹っ飛んだ後、その記憶障害を補うため、関連する記憶の封印
や改ざん処理を施したというあたりだろう。

「回答は順不同でいいんだよねー」
「モチノロン」

あたしは最初の正解を口にする。

「最初の回答。『Who(誰)』はあたし・偽名探偵こまねなんだね。
要するに最初から、この部屋にはあたし一人しかいなかった。」

リクエモンは軽く頷くとあっさり答えた。
「正解です。」

110しらなみ:2013/06/24(月) 21:32:19
†††

「一応、答え合わせしておこうか。その様子だと最初のクイズは解けてるね。」

リクエモンは椅子に座ったまま片腕を上げる。
すると右の壁の上段がひっくり返り「最初の問題」が表示されたボードが現れる。
こういうとこは無駄に凝ってる…。タイプでいえば劇場型犯罪者というか。

「えーと、その問題は英国の児童文学者キップリングの詩からの引用だよね。

『私にはうそをつかない正直者のお手伝いさんが6人居るんだよ。
その者達のなまえは
「なに?(What)」さん、
「なぜ?(Why)」さん、
「いつ?(When)」さん、
「どこ?(Where)」さん、
「どんなふうに?(How)」さん、それから「だれ?(Who)」さんと言うんだよ。』

行動原則の5W1H。そこから解釈すると『なぜ?いつ?どこに?だれに?
どんなふうに?閉じ込められているのか理由を説明して下さい。』という風に読み解ける。」

まあ、それが最初から答えれたら世話はない。
「あたしはさっきまで事実さんと一緒に助かる方法を見つけようって意気こんでいたわけなんだけど。
なにか変だなという違和感があったのも事実なんだよねー。本来リーダーシップを発揮するべき
はずの事実さんがなんというか、とことん消極的だった。」

どころか発言も少なめ、同音異口かこちらの振った話の鸚鵡返ししかしてこない。

「確かに”本物の”真野事実ならもっと上手くやっただろうね。」
ぷぷぷと笑うリクエモン、なんか引っかかるものいいだな。

「例外なのは触手地獄話への誘導くらいだけど、思い返すとアレは、ネコさんの操作だよね。
『質問』でなく『補足』っていってたし」
「ハイそうです。あそこ、あんまりこまねちゃんのリアクションが面白かったので
彼そのまま変態キャラ路線でいかせようかとちょっと迷いました。」

オイお前は人様のキャラなんだと思ってるんだ。

「ただ、それが一番のヒントでもあったんだねー。
ゾルティアさんと別室で面通しなしなのに事実さんとは一緒の部屋だなんて明らかに不自然だよ。
そうなると色々と可能性が見えてくる。これが大会運営者ではなく対戦相手(じじつさん)の
魔人能力によって作りだされた幻覚じゃないかとかね。
で、基本に立ち返って自分が調べた大会選手のデータ―を検証していたら、私の記憶に色々
齟齬があることが判ってきた。特に偽原さんとは電話で事前会話しているし娘さんのことも
あったし、流石に対戦相手を真野さんとするには食い違いが大きくなってきた。
で”本人”に直接聞いてみたというわけ。」

まさか山彦現象が起こっているとは思わなかったけど。たぶん彼はあたしの正しい記憶なのだ。
一体どうなっているのかはちょっと興味がある。

「なるほど、でもなんで答えで偽原くんって指定しなかったの?確信あったみたいだけど」
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「そりゃ、あたしが気づかないくらい瓜二つの声。そんな上手く声真似できるのってあたしぐらいしか考えられない」


「「Who」に関しては自分ではなく犯人という可能性もあったけど、そう指定してしまうと私は
『二人のまま』の上、嘘つきということになって『部屋から出られない』可能性がある。
嘘つきが正直者になるには正解の中に混ぜて貰うしかとりあえず手はなさそうだよね。」

「おおむねOKです。
今回の主体は飽く迄、キミです。他の誰かじゃありません。それだけは忘れないでね。

じゃまとめ行きますね。

相手の言うことそのまま鵜呑みにするのが普通の人。
自分の見たことしか信用しないのが捜査官
自分で見たことすら疑ってかかる猜疑心の塊、そのくせ自身の才覚に絶対の自信を持って揺るがない、そういうダメダメな存在が名探偵。

君は自らが偽証している事実すら受け入れ、それを証明した。実に探偵としての資質を示したと言えるね。おめでとさん」

探偵を嘲るような自嘲するようなその声にあたしは―
自分の足で椅子から立ちあがると奴に人差し指を突き付ける。

「偽証――正確には私の欠けた記憶、そこが次の問題かな。
でも余裕かましてていいのかなネコさん、もう結構目星をつけられちゃったりして、このまま一気に行ちゃうかもよ?」

あたしの挑発に動じることなくリクエモンは悠然とうけて立った。

「そこは楽しいアトラクション多数用意してますのでご安心を。
それに色々”欠けた”のは君だけじゃない。今は激動の時期なのだよ。ぷぷぷ油断すると足元掬われるよ」

そうだよ

――
―――
ボクは君が立ちあがってくれるのを待っていたンダ。それでこそスクイガイがアルってモノだヨ。

111夜魔口砂男&赤帽:2013/06/26(水) 02:17:24
TITLE:合縁奇縁・その1

ザ・キングオブトワイライト参加選手用ホテル、その一室にて。


「……うう、まだ痛ぇッスよ……」

若き魔人ヤクザ・夜魔口砂男が――デカいタンコブをさすりながら、呟く。

「アホウ、痛いで済むだけマシじゃろうがい。
 ヘタしとったら、おどれの首と胴が生き別れとっても文句は言えんのじゃぞ」

アキビン姿の魔人ヤクザ・夜魔口赤帽が呆れながら言葉を返す。

「生き別れどころか、纏めて粉砕されるトコだったんスけど」

砂男がそう愚痴るのも無理はない。
彼のタンコブを作ったのは――尊敬すべき、畏怖すべき親分・夜魔口組組長その人である。

新黒死病に伏せっていたさなか、とある陰謀によってこの戦いの会場へと運び込まれたり
探偵・遠藤終赤によって防具代わりに巻き付けられたりした結果、
大会専属医師ワン・ターレンの手によって綺麗サッパリ全快した彼は、これまでの経緯を知り
砂男と赤帽を盛大にドヤしつけたのである。砂男に至っては、ゲンコツまで喰らう始末だった。
無理もない。全国放送される格闘大会の一回戦で負け、敗者復活の裏の戦いでもザリガニに負けたのだから。
(もちろん実際にはザリガニに負けたわけではないが、何故かそういう誤解をされてしまったのだ)

とはいえ、己の病が発端ということもあり、更に自分自身も拉致同然に連れてこられた手前
それ以上二人を咎めずに、組長は帰っていったのだった。

「しかしまあ、あの探偵嬢ちゃんが親父の知り合いと縁があったとはの。
 わからんもんじゃな、人の縁っちゅーのは」
「……そーッスね。世間は、狭いもんですよ」

この二人には珍しく、他愛のない会話が続く。
……理由は、簡単だ。
彼らが大会に拘泥する最大の理由にして目的が――達成されてしまったからだ。
棚から落下したボタモチが、頭を強打したような流れに、二人は少し燃え尽き気味だったのだ。

……尤も、片方は。まだ、燃え尽きるわけにいかない理由が、新たにできていた。

112聖槍院九鈴ちゃん:2013/06/27(木) 18:27:34
■九鈴ちゃんの告白■

頭まですっぽりと布団にくるまって、九鈴はじたばたもがいていました。
特急列車のことを思い出しているのです。
やってしまいました。TONGUが全国放送されちゃいました。
しかも、自分が同性愛者だと誤解されたかもしれません。

ちがう、ちがうの。あれはゾルテリアに勝つために仕方なくやったことなの。
温泉旅館のこともちがうの。そうじゃないの。
あれは四葉ちゃんの心の闇を掃除するためにしたことで、決して楽しんだわけじゃ……まぁちょっと楽しかったけど。

みていたかしら。雨弓さんはあの試合を。
たぶん見ていたんだろうな。
恥ずかしい恥ずかしい。
そして、雨弓さんに誤解されるのだけは――絶対に嫌だ。

雨弓さんは、九鈴の親友だった雨竜院雨雫(しずく)のいとこです。
雨弓さんと雨雫は(たぶん結婚するつもりで)交際していました。
二人の仲を取り持ったのは、他ならぬ九鈴です。
いまはもう、雨雫はこの世にはいませんが……。

これはまずいぞ。絶対に誤解されてる……!
なにしろ、雨雫にはちょっぴりレズっ気があったのです。
ちがう、ちがうの。絶対ちがうの。私と雨雫はそーゆー関係じゃないの。
はなしをしなきゃ。雨弓さんと直接はなして誤解を解かなくちゃ。

――違う。

私が雨弓さんに言わなければならないのは、そんなことではない。
これは雨雫への裏切りになるだろうか。
――雨雫は、あの世で自分の幸福を願ってくれていると、九鈴は思う。
それは身勝手な願望に過ぎないかもしれない。
でも、この秘密を胸の奥に抱えたままでは、自分はこれ以上先には進めないと九鈴は予感していました。

ドキドキしてる。
こんなに胸が苦しいのはいつ以来だろう。(※)
雨弓さんは、ありのままの私を受け入れてくれるだろうか。
それとも酷く軽蔑されるのだろうか。
雨弓さんのもとへと向かう九鈴の心は、まるで初恋に悩む乙女のようでした。
ちなみに26歳です。

※カベクイグソクムシ以来。詳細はダンゲロスWar&Wallを参照のこと。

113聖槍院九鈴ちゃん:2013/06/27(木) 18:35:18
あ、ミスっちゃった。
グソク様以来はないわー。
その後に父さんと母さんと九郎が死んでるもんね。
まいっかー。てへぺろ☆
胸の苦しさの種類が違うってコトで、上記のままで訂正ナシです。

114サブGK:2013/07/01(月) 01:05:43
「どうするんだね……『新黒死病』と大会関係者に繋がりがあるなんて事になれば……」
「既に公安が身構えているそうじゃないか。そっちの対処は末端の役目だろう」
「まあまあ、一尾花は良く動いてくれたじゃないか。大会の注目度も利益もなかなか」
「だがそっちにコネのある企業連は危ないとみて手を引きはじめたぞ。決勝は――」
「あのなんたら言う宗教団体、ほれ、3つほど、あれらは売名に血眼だ」
「出来て日も浅いからコネも無い、か。大会の宣伝効果に釣られて……いい金蔓だな」

WL本社ビル58階・取締役室に設えられたアンティーク調のデスクの上で、
厳しい老人達のビジネストークが展開されていた。
声の発信源はデスクに置かれた音声・映像通信端末である。
端末から発せられる青白い光を受けて、七葉樹落葉の顔は青白く輝いていた。

「――それで大会賞金の負担割合だが、六匂草としては配分を少々下方に修正したい」
「いや、まだ大会自体には十分な商品価値があるのではないですかな?公安といえ――」
「では五時見の傘下にもう少し出すべきものを捻出していただくとしようか」
「や……いや、それは――」

黒衣の少女は、青白い眉間に深い皺を刻んだまま、静かに溜息を吐いた。
直立不動の姿勢で後ろに控える森田一郎は、眼前の光景に対し、知らず拳を握っていた。



〜〜〜〜



「コッチは客も多くてイイ――でもソッチはゴタゴタしてそうねぇ。顔見れば分かるわ」

『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』本会場であるコロッセオ内の一角、
『レストラン・カーマラ』にて、今日もまた二人の男がグラスを交わす。
森田と『カーマラ』の店員兼客席警備役、千歯車炒二である。
森田は黙ったままグラスを空け、千歯車は肩をすくめて空いたグラスにボトルを注ぐ。

「ま、辛気臭い話はやめましょ。ホラ、運営がどんなでも試合は盛り上がってんだから。
 裏トーナメントの準決勝だって、アレもアタシ盛り上がっちゃったわよ〜!」
「……そうだな」

ようやく口を開いた森田に、我が意を得たりと千歯車も声を張る。
バーカウンターの光量を抑えたオレンジの明かりが、大柄な二人の背中を照らしている。
その話題は、今日もまた――



〜〜裏トーナメント準決勝戦 試合別得票の流れ解説SS〜〜



■裏準決勝戦【温泉旅館】
「まずは温泉旅館。ココは今大会注目の探偵対決だったわねぇ」
「結果は遠藤終赤の圧勝だったな」
「文字数も得票数も、他の二人を圧倒したもんねぇ」
「偽名探偵こまねと山田は、どちらも実力を出し切れたと言えない結果だったな」
「アーララ……って感じかしら」
「これもまた、大会の一側面ということだな」
「勝ち残った探偵サンには裏の決勝戦でもう一度、イイ試合を見せてもらいたいわね」
「裏準決勝戦、温泉旅館の勝者、遠藤終赤……」
「更に鋭い名推理を披露してくれるかしら」



■裏準決勝戦【特急列車】
「そんで特急列車……はっちゃけた試合だったわねぇ。アタシ大笑いしちゃったわ」
「ネタにエルフに転校生化。話題には事欠かないな」
「ちょっともうエルフって単語が意味変わっちゃってるじゃない」
「票は終始聖槍院九鈴が多く集めてそのまま勝ったが、他二人は一波乱あったな」
「最初は内亜柄影法よりゾルテリアが勝ってたけど、終盤で逆転したのよね」
「どちらにも好意的なコメントが寄せられたし、三者三様の良い試合だったな」
「そこを勝ち抜いた聖槍院九鈴の裏決勝には期待しちゃうわねぇ」
「裏準決勝戦、特急列車の勝者、聖槍院九鈴……」
「裏のてっぺんで何をしでかすのかしら」



〜〜〜〜



「――で、裏決勝戦は遠藤終赤VS聖槍院九鈴。試合場は旧東京駅ね。
 いよいよ、表のトーナメントも裏のトーナメントも決勝なのねぇ……」

しみじみとした声で千歯車は視線を泳がす。
六年前のトーナメントに『バロネス夜渡』の源氏名で参戦した経験を持つ男である。
やはり魔人同士の能力バトル大会の決勝という場に、特別な思い入れがあるのか――

――カン、と、森田のグラスが乾いた音を立ててカウンターに置かれた。

「今日もこれでお開きだな」
「そうね」

二人の男は挨拶を交わすと、それぞれ夜闇にその姿を溶かしていった。

「きっとイイモノが見れるわね……おねーさん張り切っちゃう」

明かりを落とされた店内に、熱の篭った声だけが残響した。
『ザ・キングオブトワイライト 〜夕闇の覇者〜』表・裏の決勝。
長く続いた大会の、その頂には、きっとそこに相応しい名勝負が供されると信じて――



<終わり>

115少年A:2013/07/06(土) 00:43:37
TITLE:合縁奇縁 その3

ザ・キングオブトワイライト参加選手用ホテルの、とある一室。

一人の男が、燃え尽きたように――しかし、どこか清々しさを得たような表情のまま
ベッドに寝転がり、天井を見つめていた。

偽原 光義。
かつて、緋色の悪夢によって絶望した男。
その絶望を撒き散らさんとするも、その野望はチャラ男の王・黄樺地セニオによって挫かれた。

「……?」

ぼんやりと寝転がっていた偽原の耳に、微かなノックの音が飛び込んでくる。
気怠そうに身体を起こし、ドアを開けると――そこには、予想外の相手がいた。

「邪魔するぞ」
「……こりゃあまた、珍しい客だな」

魔人ヤクザ・夜魔口赤帽である。

「フン。憑き物が落ちたような顔しおってからに」
「……よく言われるよ。多分、これからも言われるんだろうな」

アキビンの姿でも衰えぬ眼光で、偽原を睨みながら赤帽が皮肉を口にする。
偽原も肩をすくめながら、足元のアキビンを見下ろす。

「で、何の用だ? 憎まれ口を叩きに来たわけじゃあないだろう」

「……おどれが『使わんかった』情報が欲しい」

「情報?」

「ああ。準決勝のためにおどれが用意しとった『リスト』をな」

116少年A:2013/07/06(土) 00:44:02
なぜそんなものを俺が持っていると思ったのか、と言わんばかりに偽原が少し訝しげな表情を浮かべる。
赤帽はその考えも予想していたのか、更に言葉を紡ぐ。

「準決勝――おどれは、あのチャラいのを影ながら応援しとった連中をまとめて潰しとった。
 サビ付いたとはいえ魔人公安、その手の企みを見抜いて潰すんはお手の物、っちゅうわけじゃな」

「……まあな。彼らもその程度のリスクを考えていなかった訳じゃあるまいし、
 そこで恨まれるのは筋違い……と言いたいところではあるが、な」

「フン、別にワシらも責めるつもりはないわ。ヤクザはもっとエゲツないしのう!
 ……話を戻すぞ。おどれは二回戦で見せた手口の延長線で、準決勝を戦うつもりじゃった。
 本来なら――あのチャラ男の昔の友人あたりを『犠牲』にしてな」

ニヤリ、と赤帽がアキビンフェイスで不敵な笑みを浮かべる。
偽原は無表情のまま、黙って話を聞いている。

「チャラ男の友人連中は、カタギになっとる連中ばかり……ヘタしたら、ルールに抵触する。
 『大会部外者への狼藉を禁止する』っちゅうルールに。
 じゃが、参加選手じゃったら? どう転んでも『大会部外者』ではないからの。そこで、ターゲットを切り換えた。
 向こうが打倒・ファントムルージュを掲げとったんなら、向こうが悪いという言い分も立つしのう」

「やれやれ……探偵のお嬢ちゃんと戦って、探偵癖でも感染ったか?
 まあ、否定はせんよ……そんなところだ。あとは……調べたのは良いが、遠方にいる連中も多くてな。
 仕込みに時間を食って、試合をすっぽかすようなマネは避けたかったのもある。
 それに、黄樺地にとって『過去の友人』がどれだけ心を揺さぶれるかもわからなかった」

「案外、効く手やとは思うが……まあ、それはたらればの話じゃ。
 要はその『情報』が欲しいんじゃ。チャラ男やった連中の居場所、そのデータがな」

赤帽が、それまでのヤクザの顔から――真面目な表情に切り替わる。
一瞬面食らう偽原だったが、彼の答えは毅然としていた。

「生憎だが、ヤクザに個人情報を渡すわけにはいかんな。
 腐っても、魔人公安だった者としては……
 どう利用……悪用するつもりかは知らないが、答えはNOだ」

「頼む」

ぱたり、とビンが倒れる。……いや、違う。土下座だ。
泣く子も黙る魔人暴力団・夜魔口組の幹部ともあろう者が。
アキビンの身体をおして、土下座を見せたのだ。ヤクザ界における最上級の誠意の証。
遠く錆び付いていても、かつて魔人公安だった偽原には解る。
それが、どれだけ重く、心の底からの懇願なのかを。

「……わからんな。何故そこまでして、この情報に拘る?
 強請り集りのタネにするにしても、他にもっと絞れる奴はいるだろうに」

「……理由が要るなら、説明するわい。それは――」

赤帽が、口を開く。その口調は、何かの『決意』を強く感じさせるものだった。

「――――」

拘る『理由』を聞き終えた偽原は、顎に手を当てながら答えた。

「――成程。そちらの事情は分かった。
 ……だが、渡すことはどのみちできんよ。選手同士の物品のやりとりは禁止だ」

当然と言えば当然の答え――
しかし、次の偽原の言葉は意外なものだった。

「だが。独り言は別に禁止されてはいないし、
 その独り言をお前さんが聞くのも、何かにメモすることも禁止はされてない」

「……! ……すまん……!恩に、着るッ!!」

「何を謝ることがある? 俺はたまたま、使い道を無くしたリストを
 なんとはなしに読み上げるだけで、部屋にアキビンが転がってるのは偶然だ」

赤帽は土下座したまま、わなわなと震えながら――涙を堪えた。
そんな足元の様子を見ながら、偽原は最後に呟く。

「それに――お前さんらの企みとやらは、俺の最初の『償い』にもなりそうなんでな」

117ゾルさん:2013/07/08(月) 13:34:48
名探偵っすね、こまねちゃん(ゾルテリア・エピローグ)

ゾル「エルフの元女騎士ゾルテリア。大会で最初にファントムルージュの
被害を受けた参加者であり、偽原のナイフ術を体験している。
偽探偵こまねと同時期に治療を受けており連絡を取るのも容易」

こまね「うん、そ〜だね〜」

ゾル「なんで呼んでくれなかったの」

こまね「え?」

ゾル「セニオ対偽原戦の会議メンバー!私がいたらこまねちゃん達があんな風に
ならずに済んだかもしれなかったじゃない。私だってあの男を止めたいって気持ちは
あったのに何で呼んでくれなかったのよ」

こまね「あ〜、それは最悪の状況を回避したかったんだよ〜。準決勝のあの結果以上のね〜」

ゾル「あれ以上の最悪?」

こまね「もう終わった事だから言うけど、ゾルさんを呼んだら多分ゾルさんの
お父さんがゾルさんのフリして介入してくると思ってね〜」

ゾル「ま、まあ確かにあの変態はそういう事やりそうだけど」

こまね「あの変態との接触はなるべく避けたかったんだ〜。
その影響で一緒にいる誰かが『世界の敵』として覚醒してもおかしく無かったから〜」

ゾル「え?」

こまね「やっぱりゾルさんは分かって無かったか〜、今回の大会は
『世界の敵』となる可能性をもった人物が集められてたんだよ〜。例外もいるけど〜」

ゾル「『世界の敵』?確かに最近参加者の何人かがそんな言葉を口に出してたけど。
いくらウチのアレが変態だからって、それで覚醒したりするもんじゃ…」

こまね「するかもしれないんだよ〜。希望崎ダンジョンのゲートを通じて
ハレルちゃんの世界へ侵略し、王を排して資源を根こそぎ奪っていった。
アレの所業は(注)ラヴォス型の『世界の敵』としかいいようがないんだよ〜」

(注)世界の敵は二種類に分類される。今回の大会で覚醒しかけた面々の様に
己の生まれた世界を滅ぼす要因となるのは『オディオ型』、
ゾル父の様に己自身や己の属する世界の利益の為に他の世界を滅ぼすのは『ラヴォス型』。

118ゾルさん:2013/07/08(月) 13:35:37
こまね「大会運営側が自信満々にエルフの元女騎士ゾルテリアを優勝候補として
紹介していたのは物理無効という事以外に、彼だけが既に完成された『世界の敵』だと
知っていたから。でも予想外の事が起こったんだよね〜。ゾルさんが選手になったのは
そういう事なんだよ〜」

ゾル「えーと、つまり…父は世界の敵とやらで、銘刈さんは『世界の敵候補なぞ
世界の敵ぶつければ楽勝―!まあ相手が世界の敵として覚醒してくれてもそれでよーし』
的なノリでスカウトしようとしていて、でも参加者が私で、何で私が参加者に?」

こまね「ここまでの状況から犯人候補は一人しかいないね〜」

ゾル「ちょっと親父問い詰めてくる!」ドドドドドドドド

【温泉旅館】

ゾル父「ハアハア…実の娘の亀甲縛りたまらないわあ〜」

ゾル「父さん」ガラッ

ゾル父「あ、リンダ。これほどいてくれるの?」

ゾル「取りあえずシルバーレイピア突き!」

ゾル父「あふんっ!もうどうしたのよ〜」

ゾル「今すぐ、ステータス見せなさい。ジョブレベルのところ」

ゾル父「まあ、実の親に向かって大事なところ見せろだなんて〜。
いいわよん。いつかそういう日が来ると思ってたわ。
さあ見てーん!私の大事なトコロ全部!!」

カイエン・ゾルテリア ジョブレベル一覧
小剣士(フェンサー)6、狩人(ハンター)7、性賢者(オナニスト)18、
紋章性術師(スペルマ・スター)14、女騎士(レディナイト)1、
世界の敵(ワールドエネミー)2

ゾル「世界の敵だったー!うわあああああん、酷い奴とは前々から思ってたけど、
まさかここまでクズだったなんて!」

ゾル父「わあお、予想以上の反応!娘のショック顔オカズにオナニーが進むわ!
(シコシコシコ)ハアハア…ウッ!敏腕スカウトウーマンの召喚にリンダを
送り付けて、自分の呼んだのと違うのに気付いた時のガッカリ顔も良かったけど
やっぱ娘の失望顔は格別よお!」

世界の敵カイエン・ゾルテリア。この世界での大暴れと他の世界の敵候補の
覚醒要因となる事を期待されていたオカマ。だが、そういうシチュエーションは
脳筋王の軍相手にもうやっているから別のオナネタが欲しいなーと思った彼は
自分と同じ『エルフの元女騎士ゾルテリア』という呼称の存在に役割を押し付け、
オナネタ探しに没頭していた。そして今最高の形で彼のささやかな夢は叶い、
この世界の犠牲も最少で済んだ。
すなわち、めでたしめでたしちう事である。

ゾル「めでたくなーい!」

おちまい

119ほまりん:2013/07/10(水) 08:41:12
穴埋めパズルを作りました。
お暇でしたらやってみてください。
tp://twitpic.com/d1p7tg

120少年A:2013/07/15(月) 22:53:58
TITLE:合縁奇縁 その4


都内某所。
かつての核戦争よりも遙か以前に、地下に封じられた『ダンジョン』。
その内部に、三人の魔人と――無数の、生ける屍の姿あり。


「ジャカァッシャー!」

ヤクザシャウトと共に、緋色のドスを振り抜く小さな影!
魔人ヤクザにしてアキビン、夜魔口赤帽!

「ふんぬらばぁーッ!!」

股間に二メートルを超える怒張を携えた全裸の巨漢!
異形の格闘家、蛭神鎖剃!

「はっ!」

凜とした気品と、剛毅さを兼ね備えた姫騎士!
ハレルア・トップライトとその愛刀・アメノハバキリ!

三人の魔人を取り囲むは――かつての『黄金時代』の亡霊!
金舞い上がり、人舞い踊る栄華の時代を未だに生き続ける亡者!

「トレン……ディー……」
「ジュリアナー!」
「24時間戦エマスカーッ!」

バブルゾンビである!

バブル時代の繁栄を忘れられず、その崩壊を信じられぬまま骸となってなお彷徨う存在、それがバブルゾンビ!
ある者は体型のハッキリ浮き出るボディコン姿、
ある者は肩に過剰パッドを入れたスーツ、
またある者はDCブランドで上から下まで固めているのだ!
その口からは腐臭匂い立つ泡と、バブルスラングが飛び出す!

なぜこの三人が、かような異形を相手取っているのか?
それを知るには、時間を巻き戻さねばならない――!

++++++

「おどれらの手を借りたい」

ザ・キングオブトワイライト会場、その一角。
赤帽が、蛭神とハレルに協力を持ちかけたのは準決勝が終わった翌日――砂男との会話の後のことである。
――都内某所の『ダンジョン』に眠る“ある品”の回収および、ダンジョン内の脅威の排除。


「ちょっとちょっと!ここまでなんも絡みとかなかったクセに
 ここに来ていきなり手を借りたいとかムシがいいにも程があるよっ!」

異議を真っ先に挟んだのは、アメノハバキリ、通称アメちゃんであった。
刀でありながら、否、刀故なのか――そのテンションは切れ味鋭く、高い。

「大体、準決勝見てたならハレっちがどんな目に遭ったかわかってるでショ!?
 病み上がり状態でダンジョン探索だなんて、そんなムチャさせられな」
「……やる」
「そう、やる…… アレェ!?ハレっち!?」

まくしたてるアメノハバキリの言葉を遮るように、ハレルが小さく頷く。

「私も、手伝いたいもの――その『計画』」
「……まあ、ハレっちがそーいうなら、アメちゃんも協力するけどねー」

ハレルの口調から、固い決意を感じ取り――あっさりと、主の意向に従うアメノハバキリ。
その様子を、困惑しつつ見ていた蛭神が、赤帽に疑問を投げかける。

「そこの娘っこはわかるが……なんでワシにまで声をかける?
 アキビンとなっても、お主が戦闘力で不安を感じるということはなかろうに」
「ダンジョンの奥の『宝』運ぶにゃぁ、人手が要る。
 アキビンの身体じゃあ持ち運べんのでな。それに」

言葉を区切り、赤帽が不敵なヤクザスマイルを蛭神に向ける。

「おどれも、無様に負けたまま帰りとうはないじゃろ。
 武勇伝の一つくらい、土産に持って帰らんかい」
「……フン、言ってくれる」

こうして、二人(と一振り)の協力を取り付け、赤帽は『ダンジョン』へと向かった。
――栄華の時代で時を止めた、朽ち果てた理想郷へと。

121少年A:2013/07/15(月) 22:55:13
++++++

「やぁっ!」

ハレルとアメノハバキリ、人刀一体の斬撃がバブルゾンビの服をはじき飛ばす!

「ブットビー!」

全裸となった女バブルゾンビは断末魔の叫びをあげて崩壊!
バブルゾンビにとってブランド衣服はアイデンティティを通り越して肉体そのもの!
故に、追い剥ぎの能力がついているアメノハバキリでもバブルゾンビを倒せるのだ!

「どらぁっしゃああぁぁっ!」

蛭神の巨大なイチモツが別のバブルゾンビを薙ぎ倒す!

「ゴジカラオトコーッ!」

巨大重機クレーンをも薙ぎ倒す程の筋肉塊による一撃!骸の身体はひとたまりもない!
渋谷系ファッションを纏ったヤンエグゾンビは壁に叩き付けられ崩壊!

「クタバリャーッ!」

赤帽のヤクザドス斬りが別のヤクザゾンビの首を刎ねた!

「ボクハ死ニマシェーン!」

ロングヘアの木訥トレンディゾンビの首が宙を舞いながら末期の言葉を吐く!
トラックにはね飛ばされたかの如く、肉体も吹き飛び壁に激突崩壊!

そんな光景が、数十回以上もリフレインする。
過去の妄執との、壮絶な百人組み手――!


……数刻後。
ダンジョンの広間には、静寂と、残滓だけが残った。

++++++

「……どうやら、辿り着いたようじゃな」

一行が辿り着いた『ダンジョン』最奥部は、明らかにこれまでとは気配が違っていた。
煌びやかさが無いにもかかわらず、どこか荘厳な美しさを感じさせる扉。
地下に押し込められ、古び、朽ちてはいるが――かつての輝きが、僅かに残されている。

ドアノブに手が届かない赤帽に代わり、ハレルがその扉を引き開く。
中に広がっていたのは――

無数のビンが並ぶ、ひんやりとした空間だった。
埃が積もったカウンターは、磨けば今にも光りそうな大理石で出来ている。

「ここは……バーか?」
「おうよ。金持ち共がこぞって酒を呑んだ、カネを呑む場所の名残よ」

蛭神の呟きに、赤帽が答える。

「カネを呑む、ですか……」
「言っておくけどハレっち、硬貨を丸呑みするとかじゃないからね?」
「わかってるってアメちゃん!」

異世界人のハレルが少しとぼけた発想をしているのを、アメノハバキリがすかさずフォローする。
そんな微笑ましい様子を気にも留めず、赤帽はビンの並ぶバックケースを眺める。

「……あった。これじゃ」

赤帽が、目当ての物を見つける。
箱に入れられ飾られたままの、未開封の酒瓶数十本――全て、同じ酒だ。
バブル時代、カネにあかせて買い集められた希少なる名酒。

「“ドン・ペリニヨン”――三十年モノ、か。
 流石にちいとばかし勿体ない気もするが――じゃからこそ、ええんじゃ」

赤帽が、一瞬唇の端で笑い――すぐに、表情を引き締める。
これを手に入れてもなお、『可能性』は――まだ、低いのだ。

122しらなみ:2013/07/21(日) 12:19:45
SS『とある人物のエピローグその1または、某能力に対する追加推察』


彼の手元、一枚の報告書の草案のコピーがある。
それには【黄樺地セニオの能力『イエロゥ・シャロゥ』についての補足】と題されていた。


―トワイライト決勝戦―

かくて、その人知れず行われた、二人の立会人と対戦者のみが知る最後の戦いは幕を閉じた。

だが、本来しめやかに行われた『それ』の一部始終を高みの件物で見届けた存在がいた。
それは―

「いやー念のため、残っておいて正解だったね。最後に面白いものがみれた。」

パチパチパチ、まるで誠意の感じられない柏手を打ち、それは『鳥居』の上にいた。

山腹に位置する神社の鳥居の上に悠然と腰かけた若い男が、頬杖を突いたまま一人ごちる。
元々寂れた神社なのか、周囲に人の気配はない。
もしいればこの神の杜に対する不謹慎極まりない所業を咎めただろうか?
それとも余りに自然にそこに溶け込んでいるためオブジェか何かと勘ちがいして看過してしまい
結局見咎めずにそのまま過ぎ去ってしまうのだろうか?

実際、その姿はそういう奇妙さを持ち合わせていた。
長細い白い帽子に同じく白一色のスーツ、縫いとりの装飾以外を全身を白で固めたその姿は
無機質でまるで白い筒のような錯覚に陥らせ、酷く現実感を感じさせない。
いや必ず誰もが一度くらいは見ているはずの衣装なのだが、あまりに場違いで思い出せないというか…。

服装と見た目だけでなく彼本体の印象もどこかちぐはぐだ。年は若い少年、10代といっても通じそうだし、
逆に20代後半といっても通じそうな人物だった。なんだか軸が安定していないあやふやな幼さがある。
そんな奇妙さであった。

そして独りごとのはずの白帽子の男の台詞に反応がある。
キャラ設定で『割と無口』と記されてれていた例のアレだ。

「ココに来てまた世界改変だと。せっかく計画も予定通りに進んでたものを。影響力はどの程度だ」
多少のノイズと共にどこか呻くような掠れた声は彼の横に置かれた鉄製の箱から聞こえた。
壊れかけのレディオではない。
達筆な字で白蘭と書かれたその鉄製の箱はgagagaと音を立てつつもはっきりと音を立てた。彼は
とても人見知りで傍聴…もとい人に聞かれる可能性がある場合、決して声をあげることはないのだ。

その質問に少し間をおいてから男は哀しそうに被りを振って嘆息する。
その様子は傍から見ても態とらしくとても演技臭かった。

「たぶん影響は出ないだろうね。
存在自体が消えちゃって『概念』だけの存在になったのは2回戦でリソースされた「真野事実」と
同じケースだけど、使い手としてのセニオくんの『認識』がひじょーにビミョーなだけに難しい。
いくらセニオくんが”ソース”として強力でも世界改編まで及ぼせるかは疑問だネ。うむ、興味深い」

白帽子はひとり頷き言葉を続ける。

「『世界の敵の敵』は、元々自らがそうと認識した災厄をリソースを使って”恣意的に”弄る力な
わけなんだけど、そもそも論としてチャラ男という存在が非常にネックなんだ。なにせ
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
今ある困難を危機として上手く『認識できない』がために時代に適合できず絶滅した存在だからね。

故に奇跡的にこの時代を生き残ったカリスマ存在といえど、今ある『この世界の災厄』をきちんと認識して
取り除けるかといわれたら…ちょっと話に無理あるんじゃないかといわざるえない。
彼自身あんま根性に持続力あるタイプとも思えないし、今のままだと方向性なく拡散していって
中途半端に終わる可能性が高いね。」

そういうと白帽子はすいっと空中に手を走らせ、何かを掴む仕草をする。
何某の手ごたえを感じたのか、そのまま、ついと横に視線を走らせる。

「なるほど、では放置で問題ないな。」
視線の先、鉄製の箱からは予想通りざっくり切って捨てた『指令』が発せられた。
興味がないのだ。この世界に。

―相変わらず”手堅い”考え方をする連中だ。
心中の念はさておき、彼は掴んだ手をゆっくりと開ける。そこには、ちいさなちいさな”w”の文字が浮いていた
白帽子は変わらぬ笑顔のまま、少しだけ声を大きくして言葉を続ける。

「いや、不安定な状況のままではこの先の『任務』に危惧が残るYONE! 
どうするつもりか本人に”直接”聞いてみるとしよう。じゃ、レッツ」

白帽子が手を掲げる。次の瞬間


” ぶわッ ”


彼の手より無限の”w”が湧きいでた。


「"La amen"」

123しらなみ:2013/07/21(日) 12:21:32
†††

彼の手より湧きでた”w”は
まるで古の予言者が岩を杖でうちつけ清水を湧き出させたかのように沸騰し
その手より溢れ出る。そして水上に浮かぶ蓮に積み重なるごとく、天より落ちることなく彼の足元にたまっていった。

1cm…2cm…踝を超える。

超高速純度の物質のコピー&ペースト。
それは全てのラーメン屋達の基礎にして奥義、だがその始まりは、なお深い。

伝説によれば、彼らの『開祖』は、彼に救いを求めた五千に及ぶ「客」たちを前に
たった一つかみの小麦を材料とし、粉を練り、麺をうち料理をふるまったという。
その奇跡の業前に人々は驚嘆し、彼を讃えた。
だが彼は、人々に神への感謝の言葉をのみ促し、それを戒めた。今より2000年前以上のことである。


「"La amen"」

開祖の死後、十二人から成る弟子たちは上手いこと時代の流れにのり、やがて世界を席巻する。

十二の流派は様々に分かれ、融合と衝突を繰り返し、最終的には
物質的充足と欠乏の危機に矢面に立つことを己が職(食)任とする『東』、
人々の精神的庇護と人類の十全なる結束とを是とする『西』、
その西と東の二つの思想形態へと判れ、激しく対立を繰り返すことになる。

そして、その歴史上には何度か原点回帰ともいうべき、両者の特性をもった特異点が存在した。
そして、それはその能力が故に例外なく『開祖』と同じ道を歩むことになる。
即ち『業界』から追放される苦難の道を。

男はいつの間にか手にした赤い本を開く。
足元に溜まっていたwの文字が、横手に持ち下に開いた本に下から上へとまるで
撒き戻し映像のように流れ込んでいく。

その表紙には「ラーメン戦士烈伝」vol3」と書かれていた。

「モード『"CHA=La=men”黄樺地セニオ』IN」


†††

次の瞬間
”彼”は既に金髪を靡かせ、軽薄な笑みを浮かべていた。
着装とは装いを着ること、着想とは何か?思想か思考だろうか。だがそれだけではない。

彼はそれを身に纏う。
彼はその人の『物語』をそのまま纏う。ヒトそれを模倣芸術(パスティーシュ)と呼ぶ。

「ヴェヴェ、ラーメンに遊び人枠キタコレwwww。
マジッスカ、キツイバイトとかマジ勘弁ってカンジナンッスッガ。さっさとゴッドとチャラリングしてアドゥーって感じwww」


(あーまた暴走し始めたよ…このセルフ・ダーマ神殿め…)

鉄製の箱、オカモチさんの嘆息がマイク越しから聞こえるようだった。
その心持(いつう)を知ってか知らずか、青き空に向け手を広げ、元祖セニオにチャラリングを試みるダーマ神殿(現職:遊び人)。
この世に唯一あるチャラ男属性を持つ者として今や”GOD”とともいえる存在となった”彼”と同調しようとしているのだ。

いきなりガチでマジモードだった。たぶん3分持たない。

集中。

その指の先まで大きく広げられた手は、神に祈りを捧げる聖職者のようであった。
それは神々しくも雄大に
煌々と祝詞をアゲアゲで奉りたてまつった。

「CHA―RAN〜〜 

KON―PEIデーーーースーーー(「おお神よザフトーンを恵みたまえ」という意味の英語)」

と。


(ーーーーーチャラ男ちゃうーーー。確かにチャラいしウザいけど、ーーー断じてチャラ男ちゃうーーー」
オカモチさんが遠距離通信でツッコミを入れる。なんでコンなののシリモチさせられてるんだという疑問を抱えながら。

そして  ペカー

『ヒャヒャヒャ、マジ受けるwwwドーモ、創世記チャラ男のヤマダです。
ザフートンお持ちしました。
エ、ナニナニ?オレのそっくりさんイル。ヤベ、シュウロクシュウロクチュウ?ご本人サン降臨来ちゃった。』

ペカーという威厳を感じない効果音を共になんかお空に神々しい光と、軽薄な声があたりに響いた…。

(ヤマダってチャラ男だったのかよ!って、概念的存在がそんな軽くでてくんなよ。)

絶望的な呟きがオカモチより再び発せられた。



――
―――

なんか。今までの感動を。ごめんなさい。


そして神社に特大の蚊柱(w群)がたった。

124しらなみ:2013/07/21(日) 12:31:03
†††

「なるほどね。これは盲点だった。」

ゴッドとの対話を終えた白帽子(元の姿に戻った)は境内の石畳から身を起こすと
ついっと指を手繰る。その一動作で鳥居の上にあったオカモチが手繰り寄せられ、
彼の手にすっぽり収まった。

「結局黄樺地セニオにとっての所謂『世界の危機』はたった一つのことでしかなかったと。
流石ゴッド。なかなか趣深い対話だった。」

(いやお前らの話さっぱり意味不明で判らなかったんだが)

げっそりしたようにいうオカモチ。
かわされた会話は正に空中セッポウ、極めて高次元かつ軽薄なものだったのだ。
ほとんどブッタ、故にアンブッタ。

「えっとね」
白帽子は身体にまとわりついているwたちに指を向けると続きのスペルを指でなぞる。

"when"
"where"
"who"
”what”
”why"

「これらのボクの投げかけに関して彼は全て”all”と答えた。
予想通りチャラ神は、凡百の脅威なんか全然、把握してなかったんだ。
だからこそ世界は救われたといえる。
彼に掛けられた”呪い”が結局、世界を救ったという形になるね」

???。やはりさっぱり判らない。
白帽子が指をくるくる回すと文字はどこかに消えて行く。

「黄樺地セニオにとってのこの世界の脅威というのは『時代がシリアスすぎてた』という
一点だけだったんだ。
この時代、シリアスを理解できない彼の目の前に現れる人間人間がことごとく
深刻な顔と心境で現れる。
まさに果てしなく続く『アヴェー』(敵地)っという感じだった。
なので彼が自身を使って変えたのはその空気だけ、変えたかったのは最初からその一点だけだったんだ」

―セカァー、ウィー、ヘェイー、ワー! ヒュゥー! オレマジ天才ウェーイ!―
―逆っしょwwwアンタが真面目すぎウケるwww―

「そして」
人差し指と親指の間にちょっとだけ間
「この世界、準決勝戦直後からチャラ因子の拡散で全人類が、徐々にチャラくなってる。
まあ、ほんの5mmばかしなんだけど」

オカモチが蒼くなった。
(…駄目だろそんな世界、滅びる)
「いや脅威に対する『認識』が変わったという意味では悪くない。
皆が皆が深層意識レベルで『脅威』を上手く認識できなくなり、それに対しソートー
楽天的になってる状態だ。深刻すぎたこの世界には”今のバランス”で丁度いい。丁度いい『認識』なんだ」
(そういうことか…)
頷く白帽子。
「人類の脅威は確かにある、だが『世界の敵』なんてものは元々この世界には存在しない。
そのことを我々は十分知っている。
結局『世界の敵』を『世界の敵』たらせているのはそういった存在がある”はず”という
人間の『認識』ということをね。」

「シリアスが認識できないというチャラ男の呪いが薄く広く拡散することによって世界は
「世界の敵」という幻想から解放された。
以降はチャラ因子をもつ楽天的な人々の認識と手によって世界は救われていくはずだ。
空気を読まず『脅威』をアヴェーにして駆逐していく形でね。
自分に上手く認識できないなら上手くできる”ツレ”にやらせればいい。
実にチャラ男らしい発想。上手くいけばいずれ近い将来、彼らの中からチャラ男が生まれてくるだろう。」

うぇーい。

うん、今のは幻聴と言うことにしておこう、白帽子が首を振る。
個の力と犠牲を持って世界を救おうとした少年のことがちょっと頭をよぎったのかもしれない。

「皆の意識がちょっとだけ変わるだけ。それが完成版『世界の敵の敵』。
いやはや、これは世界改編などとはとても呼ばない代物だ。まあ強いていうなら…

皆でつくる『明るい未来』。

黄樺地セニオは『救世主』のくせして世界の救済全部人任せ、全人類にぶんなげていきやがったわけだ。」

男はそれ以上声を上げることなく静かに笑った。
ひとしきり笑い終わった後、白帽子は境内の階段のほうを見やる。誰かが上がってくる気配がある。

「かくてこの世界もことはなし。今日もボク達はかくも無力なりけり。
さて、あとは彼らに任せ、異邦人たる我々は音もなく立ち去るとしようか。」

彼は舞台を降りるため、静かに境の一線を超える。
そしてそれは上がってくる者と交わることはなかった。

(あーなんだかな。しかし、何か忘れてるような…)
(ぎくっ まーいーじゃん。)


                          (黄樺地セニオ「"La amen"」ラーニング終了)

125しお:2013/08/19(月) 21:02:40
・内亜柄影法〜エピローグ〜


「よう。元気か」

これが元気に見えるか。

…と言いたい気持ちを飲み込んで起き上がる。

「アンタは元気そうだなァ、雨竜院の旦那…と、偽原の旦那か」
「そうでもねぇよ。『救済』期間中の誰かさんにさんざこき使われたからな」
「フ、そう言うな。楽しんでいただろう、お前も」

あの死人みてーだった偽原の旦那が冗談を言うなんてな。
まるでファントムの呪いがかかる前に戻ったみてーだ。
(検事ってのは警察の関係者だからな、顔を合わせたこともある)

…これも、チャラ男とやらのお陰かねぇ。

「しかし内亜柄よ。4階から飛び降りて気絶だけで済んだとは見なおしたぞ」
「…いや。さすがにあそこから飛び降りて無傷というわけには行かんだろう。何かしらの能力だな」

心当たりは…そうだな。「慣性の法則を無視してゆっくり人を降ろせる」奴がいたな。

「じきこの戦争も終わる。黄樺地の能力の残滓で明日には平和な日常が戻るだろう」
「お前、どうする?今なら俺たちの口利きでまた検事に復帰できるかもしれねえぜ」
「そいつァありがてえ話だ。だが…」

今まで、俺は魔人共はみんながみんなロクでもねぇ奴だと思っていた。
中にはそりゃあロクでもない奴もいる。
でもいいやつも悪い奴も、みんな頑張って生きてるんだ。
そんな当たり前のことを、こいつらの戦いを見て思い出したんだ。

「検事はちょっとお休みだ。これからはこんな感じで…ヨロシク!」

『あいさつ』の言葉が『武器』になる。
その『武器』を二人に投げつけ…

「ッと、…何だァ?」
「フフフ、お前らしいといえばお前らしい。応援させてもらうぞ」

その『武器』―商売人にとって『名刺』は立派な『武器』だ―にはこう書かれている。


『内亜柄魔人相談事務所
 所長・内亜柄影法』

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「おいッ!いつまでゴロゴロしてやがる!とっとと調査に行きやがれ!」
「ん〜、もうちょっと、もう1時間だけ〜」
「アホか!そんな待たされたらターゲットも証拠隠滅して高飛びするわ!いいから起きろグータラ娘!」
「所長!例の件、嗅ぎつけたぜ!すぐにでも行けるぞ!」
「さッすが鎌瀬、どこかのニセ探偵とは違うなッ!オラ行くぞ駒音!」
「そ〜んなに急がなくても大丈夫だってば〜。もうそこには伏線張ってあるから〜」
「良しッ!仕事してるならしてるって言え!クソ優秀だなお前ら!」

〜内亜柄なんでも事務所〜

鎌瀬戌の協力により自宅跡地の地下深くに埋められていた隠し金庫を発掘した内亜柄は、
その金を使い、発掘作業を手伝ってくれた鎌瀬とそのへんにいたこまねを半ば強引に雇用、
魔人能力による困り事や相談などを解決する相談事務所を設立したのであった。

「そういえば、夜魔口さんとこにカチコミにきた奴がどうこうって依頼はどうしたのさ?」
「あァ、ああいう荒事は山田のとこに仕事を回した」
「まぁね〜、私達よりあちらさんのが向いてるよね〜」

こんな感じでバタバタしているが、あのトーナメントの参加者からの依頼がちょくちょく入ってくるから
まあそれなりに忙しくはある。(たまに依頼料を踏み倒されそうになったりするけどな!)

いいやつがいて、悪い奴がいる。そんな世界で、今日も俺たちは生きていくんだ。

「せか〜、ウィ〜、ヘェイ、ワァ〜…ってかァ?」
「なぁにそれ〜?」
「なんだかわかんないけど、懐かしい響きだな!」
「おう、俺たちみんなの『トモダチ』の最強の『言葉(ぶき)』だぜ!」

〜to be continued〜

126聖槍院九鈴:2013/08/21(水) 08:49:50
【雨竜院雨雫・死の3日前の話】

九鈴と雨雫は、小さな喫茶店で夕食を共にしていた。
高校卒業後も二人はしばしばこうして会っているのだが、どうも今夜の雨雫は様子が変だと九鈴は感じていた。

「明日は学園祭で久々に希望崎に行くんだ。九鈴は来れないのかい?」

「ざんねんだけど。秋の清掃キャンペーンが重なってしまったの」
残念なのは本当だが、九鈴の目は別のことを語っていた。
本題は違うんでしょ? 何か言いたいことがあるんでしょ? と。

「ええと、うん、雨弓君が新潟に行ってることは、もう言ったよね」
九鈴の視線に観念して、雨雫はついに本題に入った。
「で、あの、約束したんだ。新潟から無事に戻ったら……あげるって」

「それってフラグ……」

「ちょっと九鈴! 不吉なこと言わないでくれ!」

「ごめんなさいね。それで、もしかして、ソレについての相談?」

「そうなんだ。私、不安で……。経験豊富な九鈴に、アドバイスを貰いたいんだ」

「ほうふじゃないよ……!」
豊富、は言い過ぎだが、とある事件で胸が大きくなって以降の九鈴はかなりモテていた。
付き合った男性の数は三人。ただし、いずれも長続きはしなかった。

「やっぱり、初めてはすごく痛いんだろうか?」

「ひとによるけど……。覚悟しといた方がいいよ。雨弓先輩は特に凄いもの持ってそうだし……」

「ひゃあああ」

「だいじょうぶだよ。最初は大変かもしれないけど、何回目かで慣れると思うよ」

「うん……。あと心配なのが、毛のことなんだ。毛深すぎるのは嫌われるよね?」

「うーん、どうかな? 雨雫の場合は、自然な感じである程度の手入れは必要かもね」

◆業務連絡◆
ふたりのトークはまだまだ続きますが、僕の限界を既に超えてるので端折ります。
◆業務連絡(了)◆

笑顔で小さく手を振って、二人は別々の帰路についた。
気紛れにトングで、目に付く路傍のゴミをひょいひょいと拾いながら、九鈴は雨雫を羨んだ。
心から愛する人に、初めてを捧げられるなんて、なんて幸せなんだろう。
興味本位で気軽に経験してしまった自分が、ゴミのように汚なく感じた。
雨弓さんと雨雫は、いよいよ永遠に結ばれるんだ。
そう思うと、九鈴は嬉しくも寂しくもあった。
まさか、この三日後に雨雫が死ぬなどとは、夢にも思わなかった。

127雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:23:33
サムデイズインザレイン

 雨竜院家奥津城――墓石にはそう刻まれていた。明治時代に東京に移って以降の雨竜院家の者達が眠る墓だ。
 雨竜院雨弓と聖槍院九鈴、2人がその前で手を合わせ、沈黙のままに1分程過ぎる。その後、雨弓は持ってきた如雨露で墓石に水をかけ始めた。

「なんで如雨露なんです?」

 その様を見て九鈴が問いかければ

「『雨露の如く』で『如雨露』だぜ? 雨竜院家の墓参りにゃあ風情があっていいだろ」

 と雨弓が返す。

「そんな仕来りが」

「いや、俺が勝手に考えた。親父に知られると怒られるから内緒な」

 水をかけ終わり、笑って言う雨弓に九鈴は呆れつつ同様に少し笑う。雨弓は雨竜院家の長男ながら、自身は降雨能力者では無い。それはこの墓の下に眠る雨弓の恋人・雨雫も同様で、そんな2人を知る九鈴には雨を降らせる真似事をする雨弓の姿が微笑ましく思われたのだ。

「雨雫のお墓参りなんて5年ぶ……あれ? 去年の命日も来てましたっけ?」

「来てたっぽいぜ。この世界のお前は」

 関西滅亡、東京への核の投下、パンデミック、そして本当に人類滅亡の瀬戸際まで追い詰められた世界だったが、トーナメント優勝者の赤羽ハルや九鈴、雨弓を含むその他参加者の奮戦、そして最大の功労者であるチャラ男の王の力により、世界は理不尽な大破局の無い、平和なそれへと改変されたのだ。
 そして、殆どの人々の記憶は世界と共に改変され、世界は元から今の平穏な運命を辿ったと認識されているが、トーナメント参加者など一部の者達には元の記憶も残っており、2つの世界の記憶が混在した状態になっていた。

「時々混乱するし、それになにか怖いですよね。こっちの世界の記憶はあるけどイマイチ実感無いっていうか。取ってつけた感っていうか」

「まあ、実際俺達が生きてた世界の記憶も依然あるわけだしなあ。わかるよ。
 でも良かったじゃねえの。お前の家族も、みんな生きてたんだ。あのチャラ男に感謝だな」

 そう言って雨弓は、視線を九鈴から横の墓石へと向け、寂しげに笑う。

「雨弓さん……」

 雨弓は、嘗て失くした、それも自ら手にかけた雨雫を生き返らせたいという望みを抱いて大会に参加したが結果それは叶わなかった。
 セニオの世界改変によって、過去の理不尽な力に巻き込まれ命を落とした多くの人々も生き返った……正確には死んでいないことになったのだが、しかしこの世界でも、雨雫が辿った運命は変わっていなかった。
 無論、今の世界でも歴史上、理不尽なことが一切起こっていないわけではない。大きな戦争も災害も犯罪も起こっている。理不尽の程度の問題なのか、どこまで遡るかという問題なのか、全てはチャラ男のチャラついたフィーリングによるのか。最後が最もそれらしく思われたが、当人の既に消失した今問い質すことも出来ないし、世界を救った彼に今以上の世界をと望むなどしようとも思わない。

「どっちの世界にしても、もう8年経ってんのになあ。
 どうも俺は、昔自分で思ってたよりずっと女々しいタチらしい」

 自嘲気味にそう呟いて空を見上げる。九鈴は前の世界での自分を思い出して何も言えずにいたが、空を覆う鉛色の雲から雫が一粒、二粒と零れ落ち、やがて雨となって降り注いだ。

「おお、降ってきたな。入るか?」

「ありがとうございます」

 雨弓が差した武傘の下に九鈴も入り、連れ立って墓地を後にする。2人共、8年前の秋、雨雫が死んだ日のことを思い出していた。

-----

128雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:24:56
雨弓は九鈴を連れて帰宅し、九鈴も共に夕食の席についた。雨弓の両親は小さな頃から知っている九鈴が遊びに来た、という以上に彼女の来訪を喜んでいて母は前日から下準備をしていたご馳走を並べてくれ、ちょっとした宴の様相を呈していた。
 その後、泊まっていってはどうかと薦められ、母のやんわりとした口調の裏になにか有無を言わせないものを感じた九鈴は困惑しながらも了承する。

(何か勘違いされてる気がするなあ……)

 浴室にて、シャンプーやボディソープの泡をシャワーで洗い落としながら九鈴は心中で呟く。

「私も一緒に浸かっていいかな?」

「うん!」

 全て洗い流し、既に湯に浸かっていた雨弓の妹・畢に声をかければ彼女は元気よく返事をした。むしろ待ってましたと言わんばかりだ。
 雨竜院家の浴室はちょっとした旅館程度に広く、檜造りの湯船も大人2人が十分に足を伸ばせるサイズだった。

「かなちゃんが普段は寮だから誰かとお風呂なんて久しぶり」

「私も、九郎と入らなくなって以来だから、2年ぶりくらいかなあ」

 そんなやり取りをしつつ湯船に入り、腰を下ろそうとすると畢の視線に気付く。つぶらな瞳がじぃっと九鈴の裸体を見上げているのだ。
 流石に女同士とはいえ近距離でまじまじと見られるのは恥ずかしく、上と下をさっと隠して湯の中へ身を沈める。

「ど、どうしたの?」

「んー、やっぱり九鈴ちゃんの身体大人だなあって……」

 九鈴の瞳にはゆらゆらと揺れる水面の下、畢の幼い裸体が映っていた。「前の世界」で一緒に温泉に入った高島平四葉(11)を思い出す。彼女がリアル幼女だったのに対して畢は23歳。背は四葉より高いものの、発育具合は……。

(変わんないなあ……)

 畢が幼女ぶりを気にしていたこと自体への驚きや、四葉のことを思い出すと鎌首をもたげそうになる劣情を抑えつつ、何かしら慰めの言葉を探そうとする。

(畢ちゃんみたいなツルペタが好きな男も……いや、嬉しくないよねこれ。
うーん、あっ! 肌ツヤ凄い! 年下とはいえ20代なのに幼女そのもの! 羨ましい! よし、これだ……)

九鈴が脳内で考えを巡らせている間、畢の両手がすっと伸びて、彼女の胸に2つある豊満な浮袋へと触れた。

「あっ……畢ちゃん!?」

 畢は自分の小さな手に余る双球をやわやわと揉みほぐした。愛撫と呼ぶにはあまりに稚拙だったが、人に触られるのは数年ぶりなことや劣情を抱きかけた直後であることが手伝い、彼女の中に快楽が芽生えていた。

「雨雫お姉ちゃんはね……小さかったんだ。流石にボクよりはあったけど」

「ん……雨雫?」

 揉まれたことにもだが、今日墓参りに行ったばかりの亡き親友の名を出され、自身の発育を気にしての発言では無かったことと相俟って九鈴は困惑する。

「九鈴ちゃんは……お兄ちゃんとはもう……しちゃったの? エッチ……」

「え!? い、いやしてないけど……」

 乳を揉む手も止めて、真剣な表情で発せられた畢の問に九鈴は更に驚きながら答える。

「そっか……多分ね、お兄ちゃん、したことないと思うんだ」

129雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:25:41
「え? え?」

 雨弓が童貞だと言われ、九鈴はまたまた驚く。彼のイメージからは程遠い情報に思われたが、畢曰く、雨雫の死の前夜、初めての行為に及ぼうとした2人を自分はブラコンゆえの嫉妬心から邪魔をしてしまった。そして、雨雫が死んで以降の雨弓は女性と関係をもつことを避けている節があり、心配した母が親戚筋から持ってきた見合い話も全て断っているという。

「あの人が……。そうなんだ」

 九鈴は雨弓にそれなりには好意を持っていたが、恋愛や性的な部分に関してはだらしない人物だと勝手に思っており、風俗通いをしているようなイメージがあった。意外な義理堅さを知らされ、自分を恥じると同時に感心の気持ちが湧いてきていた。

「でもね、そんなお兄ちゃんがまた人を好きになれたなら、1番の友だちの九鈴ちゃんとお兄ちゃんなら、お姉ちゃんも天国で喜んでくれると思うんだ」

「……」

「お姉ちゃんはちっちゃかったけど、ベッドの下情報ではお兄ちゃん、おっきぃのが好きみたい。だから、ね!」

 畢は九鈴の手を、ではなく先程揉んでいた双球をぎゅっと掴む。

「畢ちゃん……」

 雨弓と九鈴が恋愛関係にある前提で話が進んでいることへの困惑はいつの間にか消え去っていた。
 畢の真剣な眼差しを受け止め、九鈴は思う。前の世界での、家族を喪い、弟に手をかけたことから狂気に苛まれていた自分。今の雨弓は狂っているわけではなく、むしろ美点とも言えるのかも知れないが、しかし失くした物に縛られて生きているとも言える。
 私は自分で自分を救えなかった。ならば、おせっかいかも知れないし、自分が言えた立場で無いのかも知れないが、しかし――。

「わかったよ、畢ちゃん! 私、雨弓先輩の童貞をもらう!」

「九鈴ちゃん、頑張って!」

「でも、なんかこのまま雨弓先輩の前に行くには火が点き過ぎな気がするからちょっと発散させて」

「えっ、九鈴ちゃん!? ひゃあっ」

 自分は大人しい性格だと思っている九鈴だが、しかしこの世界でも彼女はヒートアップすると一旦行くところまで行かねば止まらなくなるタイプでもあった。

「畢ちゃんが悪いんだからね。別に胸揉む必要無かったし。
 あ、もう勃ってる、カワイイ」

「や、やめて! ごめんなさい! 謝るからっ」

「別に怒ってるわけじゃ無いし。こっちはツルッツルでカワイイなあ……。
綺麗なピンク♪ 畢ちゃんもまだなんだ。大丈夫、傷つけないようにしたげるから」

 10分弱風呂場に響いた嬌声が止むと、九鈴は跪いて桶の湯を身体にかけ、尿と愛液を洗い流す。雨雫が昔していたのを真似ただけで作法など正しいのかわからないが、紛れも無い禊の儀式であった。

「ありがとう、行ってくるね畢ちゃん」

「が……がんばって……」

-----

130雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:26:47
 客間にいた雨弓は、家族のそれとは違う気配が近づいて少しばかり胃が重くなるのを感じる。
 2人の寝室として誂えられた客間には布団が2つ、並べて敷かれていた。今は離してあるが、若い男女が同じ部屋で寝るというだけで「そういう」雰囲気にならざるを得ない。しかも自分は、そういう雰囲気の経験が無い。

「ったく……」

 雨弓が呟いたところでふすまがすっと開き、白い襦袢に身を包んだ九鈴が姿を現す。

「ああ、悪い九鈴。妙な雰囲気に……おい?」

 九鈴は部屋に入るや電灯のヒモを1度引き、部屋は淡いオレンジの光と窓から差し込む月光に照らされた状態となる。

「見られるのが恥ずかしいわけじゃないけど、雰囲気出ますし」

 そう言うと、九鈴は帯を解き始めた。
 シュルリ、と音を立てて解けた帯がハラリと落ちると、九鈴は襦袢の襟に手をかける。

(えっ……え? こいつ、その気に……)

 畢も、彼女から聞いた九鈴も勘違いしているが、雨弓は童貞では無い。
 高校時代、雨弓は三つ編み眼鏡のビッチの後輩に筆下ろしされ、以降雨雫のことが気になりだすまでは彼女のおやつ係の1人として関係を持っていたのだ。とは言え、雨弓が経験したのは彼女のみであり、また雨雫の死後は畢が知る通り女を断っているため、こういったシチュエーションに関して彼の経験値は童貞と相違無い。

(いや、ダメだ。俺は)

 雨弓が拒絶の言葉を発する前に、九鈴の裸体は晒されていた。

 暗がりにぼうと浮かび上がる九鈴の裸。細身で且つ筋肉質ながらもその身体は女性的な曲線を描き、色の無い産毛が月光に照り映えるのが幻想的に映った。
 鍛えあげられた身体において豊かな乳房は普通の女性と変わらず柔らかそうで、三角の丘では黒い叢が性の匂いを発している。

「……!」

 女を断ってもビッチ魔人などの裸は職務上幾度と無く見てきた。しかし、今目の前にした九鈴の裸は、否この空間に流れる空気までもがそれらとは明らかに違う。「夜の和室に男女が2人。SEXでしょう」とでも言っているかのようだ。自身の股間の有り様がそれを証明していた。

「九鈴、お前……」

「畢ちゃんから聞きました。雨弓さん、雨雫が死んでからは女性と進んで関わろうとしないって。
私と付き合って欲しいってわけじゃ無いです。一夜限りでいい。
ただ、雨雫のことにケジメをつけてもって思うんです。おせっかいなのはわかってますけど」

 雨雫の名前を出され、真剣な顔で言われて雨弓は一旦黙るが、暫くして口を開き、返答する。

「別に一生雨雫に操を立てるとか、そんなことを思ってるわけじゃねえさ。昼間も言った通り、俺が未練たらしいだけだよ。
お前の言うことが正しいとは思う。そして今俺は正直スゲーヤりたい……。ただ、それでも……」

 膨らんでいた股間が、徐々に萎んでいく。
 薄闇の中、無言で2人は見つめ合っていた。沈黙は数分続いたが、やがて九鈴は観念して床に落ちた帯を拾い、肌蹴ていた前を閉じて再び締める。

「わかりました、雨弓さん。
 それじゃあ……お互い武術家同士。『勝負』で決めましょう」

 九鈴の発した言葉に、雨弓は佐倉光素から言われた「野試合」の件を思い出していた。
 
-----

「改変後のこの世界でも、魔人同士の真剣勝負は最高のエンターテインメントのはずです。
 ですから、もしも皆さんが個人的に、死人を出したくないけど命がけで戦いたいとお望みであれば、その模様の配信と引き換えに、大会と同条件で試合をセッティングしましょう。その際は今お渡しした連絡先までご一報を」

-----

「私達、大会で思いっきりフラグ立ててたのに結局当たらなかったじゃ無いですか。雨弓さんなんかまともに戦ってたのは一回戦の前半だけだし」

「まあ……そうだな……。試合、してくれるのか?」

 九鈴と戦える、ということに雨弓は昂ぶりを感じていた。様々な感情がないまぜになった先程の性的興奮よりも純粋に。

「私が勝ったら、雨弓さんは私とエッチする。
 雨弓さんが勝てば……どうします?」

「どうもしなくていいさ。俺にはお前と戦えるってだけで人参には十分だ」

 睨み合い、バチバチと火花を散らす2人は、――その後普通にお布団に入って、何事も無く眠った。

131雨竜院雨弓:2013/08/24(土) 05:27:25
-----

 試合当日、雨竜院家――。

「わあ、かっこいいよお兄ちゃん!」

 雨竜院家の傘術家が纏う戦闘服――龍が絡みついた傘の紋章入りのフード付きローブ――に身を包んだ雨弓を見て畢は声を上げる。

「そうか?」

 雨弓は戦いのために特別な服を着るということ自体あまり好きでなかったが、縁浅からぬ聖槍院家の九鈴との戦いなのだからと父や叔父に着せられ、可愛い妹がこうして喜んでいるとまあいいかという気持ちになっていた。

「頑張ってね、お兄ちゃん」

「畢、お前は俺に負けて欲しくないのか?」

 九鈴との関係が野試合に委ねられて以降、家族内では口には出さないものの、雨弓が負けるのが都合がいいのではという雰囲気になっていた。

「うーん、九鈴ちゃんを炊きつけたのはボクだけど、でもお兄ちゃんが戦うなら勝って欲しいってのもあるし。
 お兄ちゃんが勝負を受けたなら、勝っても負けても後悔しないと思うし。
 だから、『どっちも頑張って』かな? ボクは」

 付き合ってるって勘違いしててごめんね、と最後に謝る畢の頭を雨弓は撫でてやり、恐らく自分を1番応援してくれる妹に言葉をかける。

「ありがとう……頑張るよ」

 雨雫を生き返らせようと参加した大会も、思えばどこかに、本当に生き返らせるべきかという迷いがあった。雨雫を過去のものにするのか。雨雫を思い続けるのか。勝負の結果がそのまま答えでは無いが、答えを出す後押しとしては武術家の自分に相応しい気がした。

「決めなきゃ、なあ」

 雨弓は手にしたロケットペンダントを開いて、そこにいる雨雫の笑顔を見つめる。いつもは首にぶらさげているそれを、この日初めて雨弓はポケットにしまいこんで家を出た。
この日もまた、雨が降っていた。

試合に続く

132黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:17:21
【黄樺地セニオエピローグ:世界の合言葉はチャラ男】



 ザ・キングオブトワイライト。
 その終了とともに、世界は、急速に復興した。
 本当に、『急速に』復興した。
 物理的に考えれば、明らかに矛盾していると言っても良い速度で。
 その細部の記憶を、確りと保持しているものはほとんどおらず、しかし、それを検証しようとする者は現れなかった。
 人々の共通認識。

「なんか、おれらが/わたしたちが/ぼくたちが/思ってたより、世界は絶望的な状況じゃなかったらしい」

 関東と関西が包まれた核の炎――そこまで汚染されていなかった。
 手足が腐りながら死んでいく奇病――そこまで大規模な発生じゃなかった。
 人類の三割が死滅した災害――そこまで深刻じゃあなかった。
 人々が絶望し狂乱した悪魔の映画――やっぱり酷かったけども。

 世界はかつての姿を取り戻した。
 昔通りの活気。昔通りの混沌。
 当然そこには、昔通りの悲劇も――存在する。

「う、うう、ううう……」

 繁華街の路地裏で、少女が一人、縮こまって震えていた。
 端々が焦げた、ぼろぼろの制服。
 靴も無く、夢中で走ってきたのだろう、靴下は破れて、ところどころ血が滲んでいる。
 その瞳は、自らの手を、まるで血塗れのナイフのように見つめていた。

「わ、わた、わたし、いや……」

 少女は、今しがた、自らの暮らした家を燃やしてきたところだった。
 比喩ではない。魔人能力《月刊少女りBOMB》。
 ――思春期特有の、ありふれた衝動から発露したパイロキネシスである。
 逃げた時点で、居間は全焼していた。腕に大きな火傷を負った父親が、消火器で奮戦していたのが最後の記憶だ。
 だが、突如の異能の発露と、大事な家族を怪我させてしまった混乱と不安は、少女の中で際限なく膨れ上がっていた。
 彼女の中では、自分はもはや大好きな家族を焼き殺した殺人鬼であり、もう元の生活には一生戻れない犯罪者だった。
 繁華街。道からはネオンの光。
 近くの飲み屋からは、無闇に楽しそうな人々の騒ぐ声が聞こえてくる。
 光が妬ましい。自分の境遇を理解しない奴らがいるだけで、憎しみがこみ上げて来た。

「おっ!wwキミカワウィ〜ネ〜へっへえwwwwオニィィーーサンとアソバね?ww」

 その時。
 少女の無差別な憎悪の炎に、自ら手を突っ込むような、愚劣で無遠慮な声が掛かった。

「ちょwwwお前見境なさすぎッショ〜wwww」
「ヤッベ! パッネ! JKじゃぁ〜んwww」

 数人の若者。先頭の男が、路地のゴミ箱の裏に隠れていた少女を目ざとく見つけていた。
 金髪・癖毛・長身。モブっぽいほどほどのイケメン。一挙手一投足全てがチャラい。
 見るからに、今しがたどこぞで飲んできて、二次会の会場を探している……そんな様子の。

「……来ないで……」
「えっ、何ィ〜?www聞こえねっすわwww遊びたいって?www」

 普段なら接触することのない相手からの無遠慮なアプローチ。
 恐怖や怯えではなく、追い詰められていた彼女は、もっと過激な感情を覚えてしまう。

「来るなァ!」

 能力発動。虚空から火炎が発生し、眼前のクソモブチャラ男を燃やしつくそうとする。
 それはとりもなおさず少女が抱いた生まれて初めての殺意であり、取り返しのつかない衝動のはずだった。
 だが。

「わおwwwwナニコレチョーウケルわwwww」
「……え……?」

 クソモブチャラ男の眼前で、その炎が四散した。
 否、四散しただけではない。炎はチャラ男の手に掴まれ、まるで線香花火のように、パチパチとその周囲を輝き照らす。
 まるで、彼女の能力を真似たかのように――茶化すかのように。

「ウェーイwww見れコレ見れコレwwwwサイコーじゃね〜?www」
「花火とかいつの間に買ってたんお前www」
「コーエン行こうぜ〜www」
「この辺にあるかよそんなんアホwww」
「え……え?」

 唖然とする少女。だが、すぐにその手が掴まれる。
 ぐいと強引に引きずり出される。ネオンの光が、そして、チャラ男の掌に纏われた黄色の光が、闇に包まれていた少女をあっさりと照らした。

「ダイッジョブダッテ! ナニモシナイッテ! OKデマシターっ! 女子確保〜ッ!」
「お、ナイスー! ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
「え? え? あれ?」

133黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:27:48
 連行される。手近な飲み屋。

「ウェーイ! オツカレィ!」「二次かゥィ〜! ガチデェー!」「JKウェーイ!www」「女子一人と犯罪者一名追加でぇーっすwww」「ヒドスwwwパナスwwww」
「え、あ、私、お金」
「オッケェーウェーイ!」「ウェーイガチデー!」「あ、次の注文注文〜ww推してっちょwww」
「あ、えっと、はい」ピコーンピコーンピコーンピコーン
「ちょwwww押しすぎサイコーwwwワロwwww」
「ご、ごめんなさ、分からなくて」
「なにこの子カワイイ〜!www誰が連れてきたの〜ォ?www」「JKナイスっしょwwwwサイコーwwwwウェーイ!」
「う、うぇーい……?」

 最初こそおどおどしていた少女も、いつしか彼らのノリに合わせてしまっていた。
 やがて、その人員も少しずつ少なくなり、お開きとなる。
 飲み屋で傍迷惑に転がるチャラ男達。それを介抱する、どうやら彼らのまとめ役らしき茶髪のチャラ男に声を掛ける。

「あの、本当に良いんですか、お金……」
「んあ? 良いしょ良いしょ。金払わせたらオレらがヤンバーい」
「そ、それで……わたしを連れて来た人ってどこですか?」
「うっわこいつゲロってやがるwえ?wえーっと、誰だっけ?wwww」
「金髪で、長身の……花火を持ってた……あれ?」

 見渡す。しかし見ると、四人ほど残っているチャラ男たちに、該当する相手が見当たらない。
 既に帰ったのだろうか?
 すると、少女の言葉に考え込んでいた茶髪の青年が、ポンと手を叩いた。

「おいお前らwwwまた“セニオ”が出たぞww」
「うぇー……んあ、なに? セニオ? またかよwいい加減にしろっての」
「セニオ……な、何ですかそれ?」
「都市伝説ーww飲み会やってるとさwwいつの間にか人数が一人増えてるwww」
「な、何ですかその嫌な座敷童……」
「しかもたまーに、アンタみたいに、余所の奴も混ぜてくる……
 チャラ男に混じってチャラ男を増やす神サマ、みてーな……?」
「割り勘代払ってけって話だわー……あー頭痛い……」
「でもアレよ? セニオが出た飲み会に最後まで残ってたメンバーはマブダチになれるって話だぜ?www」

 信じられない話だが、彼らはそれで納得しているらしい。
 まるでチャラ男につままれた気分だった。

「とにかく、ありがとうございます」
「へっへっへwいーっていーってwあwメルアド交換しとくゥ〜?w」
「お前マジ犯罪者ァ〜」
「分かってるってのwんで、どーすんの?ww駅まで送ってく?ww」
「あ、いえ……」

 少女は、アルコールの臭いに頭がいたくなりながらも、明るく、笑って言う。

「家族のところに帰ります。きっと、みんな無事に――心配してると思うから」

 家を出て来たことを謝って。怒られて。燃やした家が直るまで、みんなで頑張ろう。
 もとの生活に、きっと戻れる。目覚めたこの力も、きっと制御出来るはずだ。
 あまりにも適当な、楽観視。
 でも――だって、そうだろう。
 あんなクソモブチャラ男にすら効かなかった彼女の異能が、そんな大きな被害をもたらせるわけがない。
 それは、神霊レベルとは程遠いまでも、その加護を受けた程度の、軽薄さ。
 少女の肩口で、浅瀬めいた黄色の光が、僅かに光った。

◆       ◆

 朝焼けの中、残った四人が店を出る。

「オッカシィ〜と思ったんだよなァ〜wwwいつの間にかJK混じってるんだもんwww」
「だよなだよなwwwマジテンションおかしかったわwww」
「あ゛〜、頭いてえ……」
「あのさー、こんなこと言うのもアレなんだけどさ」
「ん、何やん?」
「“セニオ”って名前、どーにも聞き覚えがある気がするんだよね、俺」
「あ゛ー……実を言うと、俺もだわ。ホラ、前に、ちょっとした災害あったじゃん?」
「いや、確かにアレで一旦俺ら連絡つかなくなったけどさ、基本俺らこの四人っしょ?」
「そりゃ、そうだと思うんだけどなあ」
「……ま、いーじゃんいーじゃぁん? セニオ出てきたってことは俺らのキズナも盤石ってことっしょ?www」
「ヤッベwwwお前天才すぎっしょwwwww」
「マジカッケーwww惚れるwwww」
「だなwww絆、サイコー!」

 拳を握って、空に上げた腕。
 その一瞬だけ、また、五人分の腕と、五人分の声。

チャラ男1、2、3、4、5「「「「「ウェーイ!wwwwwww」」」」」

◆       ◆

134黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:28:19


 金色のチャラ男粒子が、風となって世界を巡る。
 決して少なくない数いる、彼の存在を忘れていない者たちのもとへ。
 軽薄にして希薄にして浅薄なるチャラ男の存在そのものを、深刻に捉えていたものたちが。


「杯なぞ、久しぶりじゃのお……」
「まあひとまず、万々歳じゃないっスか? 俺達の戦績は……まあ、褒められたもんじゃありやせんが、当座の目的は果たせましたし」
「おどれにも、色々言いたいことはあるが、だが、この場で言うのは野暮ってもンか」
「んじゃま、我らが夜魔口組の、今後を祝して――乾杯」
「乾杯」
「乾杯ウェーイwww」
「「……ん?」」



≪【以前変わりなく、己が物語を続けるもの】≫



「くっそ! まぁた古本屋かよ畜生! うわ、いきなり撃って来やがった! ちょ待っウェイ! ウェーイッ!」
「突破するのだユキオ! そして、その耳障りな発音を慎め!」



「さて、あの映画の収奪ミッションがどうなるメカかね。
 ザ・キングオブトワイライト……予想通り、酷いものだったメカ。
 特異能力者を一所に集めるとロクにならないことが証明されたのは良いことメカね。
 世界を救うついでに、この身体も戻ってくれれば良かったメカが……」



「いくぜェ、九鈴! 悪いが、手加減なしだ!」
「おしてまいります。雨弓先輩……!」
「ハハハハハハ! そうだ! この感じだ! 戦、俺にはそれが必要だ! 
 ……ったく、真剣勝負ってのは良いモノだぜ、ファントムやポータル・ジツの邪魔が入らなきゃ、尚更だ……!」



「《ヒトヒニヒトカミ》! ――最近調子良いな。見ててくれてるか、シロ姉……あ、あの雲、シロ姉の顔に似て……」
『ウェーイ!』
「……気のせいだな。うっすら金色の粒子が混ざった雲がチャラ男の顔に見えた気がしたが気のせいだな」



「……またですか。
 失礼な態度と共に他人の女に手を出し、シャワールームで恋人と行為に及ぼうとし、
 深夜に酔って出歩き、犯罪者がこの中にいるからと真っ先に単独行動をしようとしたチャラ男が殺されている……。
 やはり、彼の者が『被害者』属性なのはこの世界でも変わらずと」

「すっかり希少な生き物じゃなくなったからねえ〜。
 ねえ、知ってる〜? 目高機関とかで、あの彼のことをうっすら覚えてる人たちの一部が、チャラ男の生態研究を始めようとしたらしいけど、
 サンプルが多すぎて馬鹿らしくなってすぐにやめちゃったんだって〜」



「わたくしたちは、これからどうしましょう?」
「……雨弓さんと、九鈴さんの試合でも観に行きましょうか」
「『九鈴さん』? 三傘、あの方とも仲が良かったのですか?」
「あれ? そういえば、会ったことない……ですね。だけど、何か、とても応援されていた気がして」
「予想。黄樺地セニオ。彼の能力で、何らかの改変が起きた?」
「あるいはその残滓……どうでしょう。関係ない気もいたしますわ」
「結論保留。それで、どうする?」
「……やっぱり、観に行きましょうか。なんとなく」
「そうですわね。なんとなく」
「賛成。なんとなく」



「動くなァ! このバスは俺が乗っ取った! ――あっつ! って、いや熱ゥッ!?」
「やれやれ、世界は平和になったんじゃなかったのか。
 言っておくが俺の紅茶は1600度だ……なあ、熱膨張って知ってるか?」



「黄樺地セニオ……チャラ男とビッチ、一度、正面から戦ってみたかったわ。
 くっそれにしてもここはどこかしら、新たなダンジョン……!
 あっ! あんなところに、黒髪三つ編み瓶底眼鏡の如何にも文学少女然とした女学生が!
 性攻撃なんて全く知らなそうなあの子がここのボスね! 行くわよー!」



135黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:29:27
≪【真実を見出したもの】≫



「世界には、人にはどうしようもない悲劇がある。それは確かだ。
 ……だが、その一方で、努力すればなんとかなるのに、当事者が悲観的になってしまっているがゆえに生じる悲劇も、多くある」
「疑心暗鬼。過剰な警戒心。むしろ、世界の敵の多くは、そちらのパターンの方かもしれないわね〜。あの目高機関の、金ならいくらでも払う人みたいに」
「黄樺地セニオは、悲劇が理解できなかった。途方も無いチャラ男適性。それは、場合によっては世界の敵になりえるほどの歪みだった」
「でェ? あの時に、アイツはアタシらの能力をパクって、その認識を『分散させた』ってのか? あの、黄色のチャラ男粒子がそれだってのか?」
「いや……『配り当てられた』んだ。それを必要とする人々に。『世界』に。
それが彼の歪みの行きついた果て。ゆえに、その名を――《世界への最後配当》。
 まさか、世界の敵が世界を救うなんて、思いもしませんでした。毒も、少量なら薬になる……そういうこと、なのかな」



「複数の世界。過去は分岐する。そして未来は分岐する。それは奴が証明した。
 ――冷泉。お前が望むのならば、俺も、世界を変えてみせよう」



「俺は芸人だった。芸人だったはずなんだが……なんだこの徒労感というか、残念感は……」
「まあまあ。あなたには私がいるじゃないですか。ドーモ、出てくる度に平行世界でなかったことにされることに定評がある、空飛ぶスパゲッティモンスターです」
「誰だ貴様っ!?」



「La Amen。true true(“真実を啜る”を意味する音韻詩)。
 俺はただ届けるだけだ。ラーメンも、メンマも、スープも劣化する。だが真実は劣化しない。すなわち、真実こそが、究極のラーメンなのだ」



≪【新たな世界に適応したもの】≫



「……はい、はい。じゃあいつも通りお願いします、穢璃さん、澄診さん。
 ふう、『紅い幻影』の後始末に、高島平四葉、儒楽第にって、問題起こしまくる奴らのおかげで食うに困らないのはいいけどさ。
 今にして思えば、よく生き残れたもんだ。ウェーイ、ラッキィ〜ってか?
 ……変な後遺症残ってないよな、あのウィルス」



「ああ? またその案件かよ! だからウチは調査じゃなくてその後処理がメインだっつってんだろ! 探偵に回しとけ!
 ――ったく、商売繁盛で何よりだぜ! チャラ男サマサマだっつんだよ? なあ!」



「ぐふふふふ……世界が平和になったから悪堕ちもさせ放題だ……うっ! ふう。
 ……おやおや、あんなところに、いかにも悪堕ちさせがいのありそうな、黒髪三つ編み瓶底眼鏡の純朴文学少女学生がいるねえ……次のターゲットはあれにしよう……ぐふふ……」



「オラァ、きびきび動けよ、目高機関の元幹部どもォ……!
 あの家族野郎にリソース認定されちまったテメエらを救ってやったのは誰だと思ってる?
 世界は平和になった? だから何だ?
 平和になったってことは、つまり、戦争が殺されたってことだ。
 所詮この世は地獄。殺し合い、食い合う、それだけだ。
 猪狩も。森田も。全てだ! 全て噛み殺す……!」



「……これは、また儒楽第の工作ね。
 平和になっても、私たちのいる裏の世界にはそこまで影響はなかったか。
 行くわよ、森田、黒田」
「御意に、お嬢様」
「おお、こりゃすげー」
「……その軽薄な態度、どうにかならないの? あの準優勝者じゃないんだから」
『武志は調子に乗っている。給料を下げることを提案する』
「おいおい、久々に喋ったと思ったらそりゃねえだろぉガングニル!」



「みんなに紹介するぜ、新しい孤児院の家族だ! おーい、出てこいよキセ!
 生まれつき金髪ピアスでコミュ力に溢れてて誰とでも軽薄に接することができるキセ! KISEーっ!」



「キングオブトワイライトには、己の一物を満足せてくれる猛者はいなかった……。
 しかし、世界が新生したとなれば新たな猛者もいるはず。
 ……むっ、あそこにいたいけな黒髪三つ編み瓶底眼鏡の純朴文学少女学生がいるな……道を尋ねるか」



136黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:30:48
≪【救われた世界を俯瞰するもの】≫



「ぐっ、また失敗。……流石に無理があるのかしら?
 『モア・エンタングルメント(重ね合わせ)』。私の武器たるモア、そのものの強化創造。
 『強化複製した武器を融合し、わたしのためのただ一つの武器を作り出す』能力。
 でも、チャラ男に出来たのだから、私に出来ないはずがない。
 私の夢は世界征服。それは、世界が平和になった今でも、以前変わりなく――」



「どいつもこいつも、チャラ男なんかに影響されちゃってなっさけない。これだから大人は。
 ちなみにこれはエキシビションに出られなかったことへの僻みじゃないからな。
 宇宙ステーションに留まっていたオレだけが、この世界で唯一チャラ男粒子の影響を免れた。
 ちなみにこれはエキシビションに出られなかったことへの僻みじゃない」



「ヒヒヒヒヒヒ! おいおいテメエ、俺の扱い小さくねえか?
 他にもキャラごとに全体的に扱いに差がねえか?
 まあ全員分書くのは流石に無理あるもんなあ? 無茶しなきゃよかったのになあ?
 俺にここで言い訳して貰う気か? 甘ぇなァー甘ぇなァー!
 ヒヒヒヒヒヒヒヒ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラ



≪【直にその影響を受けたものたち】≫



「あの、お客様。当書店は、そろそろ閉店の時刻でして……」
「ああ。……済まないが、この作品、一巻から最新刊まで、頂けるか?」
「え? ああ、はい大丈夫ですよ。……子供さんにですか?」
「いや、自分用だ。くく、そういう風には見えないか?」
「あ、いえ、失礼しました。この漫画は、大人から子供まで楽しめる作品ですからね」
「ああ……その通りだ。作者の悪い癖を含めても、屈指の名作だと思う。
 私はそれを、とあるチャラ男に教えられた。いや、思い出させて貰った」
「……お客様?」
「いや……失礼。そう……この作品は面白い。世界が平和であることと、同じように」



「……お世話になった人に、お礼を言いに行きたい?」
「うん。正直、あのあたりの記憶は曖昧なんだけど。ハルくんは覚えてるんだよね。
 だから、向こうがわたしのこと、覚えてなくても、お礼を言いに行きたいの」
「真面目だなあ、ちひろさんは。そんなところもかわいいけど」
「かわ、だから、からかわないでって、もう。……だめ、かな?」
「いや。いいよ、誰か、覚えている人いる?」
「あのね。……わたしのこと、チッヒーって呼んでた人、分かる?」
「やっぱりやめよう。ソイツは駄目だ。色んな意味で」

137黄樺地セニオ:2013/08/27(火) 00:31:16
≪【そして――……】≫


「いやーハレっち! 良かったネ!」

 神刀が快哉を上げる。

「まさかハレっちが向こうであのエロ外道を倒したことで過去が分岐して、アイツが王国が滅ぼさなかった未来になったなんて!
 おいはぎの曲刀にまさか性属性付与の裏効果があるなんて思いもしなかったしネ!
 これもアメちゃんの助言のお陰って感じかな!」
「……うん」
「ツッコンデよ! ……どしたの? 建国記念パーティだよ?
 露出度高いドレスきておめかしもしたんだし、楽しまなくちゃー!
 それともアレ? お父サンがあんなエロ外道に負けてたのがなんとなくイヤンな感じ?
 確かにそれはちょっとアメちゃん思うけど、仕方ないよ! 相性が悪かったんだモン!」
「……うん」
「……思い出してるの?」
「…………………」
「わーっ! ゴメンゴメン! 泣かないで!
 ……仕方ない、っていうと、アレだけどさ。アイツはアイツの考えがあったんだって
 きっとサ」
「うん…………」
「仕方ないなあ……。……ん、なんかあっちの方で騒ぎ起きてない? どしたの?」
「は、申し訳ありません王女様、アメノハバキリ様。部外者が侵入してしまっていて……」
「部外者? 警備員は何してるのサ?」
「それが……ウェーイ、などと、謎の鳴き声を上げながらあちこち飛び回るもので。
 ……あ、今しがた、バルコニーに追い詰めたそうです。これで……」
「え?」
「――ちょっと! それ、どこのバルコニー!? 案内して! 今すぐ!」
「へ、……はい?」


 ――古の伝説。
 ――宴会をしていると、いつの間にか男が一人、増えている。
 ――彼は、見たことも無い軽薄な格好をしていて、言語に絶するほど浅薄な態度で、しかし、その存在感は、ひどく希薄である。

「ヤッバ! ウッマ! マジウッマ! パなくね! ヤバくね!」

 夜空を背景にしたバルコニー。男が一人、下品な声を上げながら飲み食いしている。
 バイキング形式の皿とグラスを柵の上に置き、宮廷の作法など知ったことかという風情、
 その身体は――よく見ると、細部がうっすらと金色にほつれている。
 
「あ、……」
「ナンデ……!?」

 窓を開け、外気に身を晒す少女と神刀。

「お? おうおうおおうおおうおうーーーう♪ もっしかせんでもチョーマブいじゃぁん!
 チュリッス! カワウィーネェー↑! ドレス、チョーあり! 肩出しチョーエロイ!
 アメちゃんも元気しーてたァー? ウッウェーーーーイ!」

 男が指差し確認するように、人差し指を二人に向ける。
 少女の瞳に涙が溜まる。彼の名を、声をあげようとして、詰まる。
 その様子に、男はチャラい動きを止め、肩を竦める。
 ほんの少しだけ、その笑みが、凡人のそれになった。

「――な、言ったっしょ」

 男は笑った。

「オレ、女の子との約束、破ったことねーって」







 こうして、チャラ男の王にしてセニオ・マジゴッドは世界に解けた。
 ――だが、人々よ、忘れるな。
 ふたたび世にシリアスが満ち、人々からチャラさが失われた時。
 あとなんか適当に飲み会でウェーイしてる時。
 彼は、今度こそ世界をチャラ男で埋め尽くすべく、適当な理屈とアバウトな行動原理とともに、現世に復活するであろう……。


「なんでほのかにラスボス風味なのサっ!?」
「ウェーイwwwwマジ勘弁wwwww」


【黄樺地セニオエピローグ:世界の合言葉はチャラ男 /  了  】

138聖槍院九鈴:2013/09/04(水) 22:48:32
【落下停止】

手のひらの上で玩ばれ、パチンコ玉がチャラチャラと音を立てている。
やがてひょいと上に投げられた玉たちは、そのまま落ちずに空中でふわふわと留まった。

「弓島君には助けられたよ。私が見てると知ったら、二人とも気まずいだろうからね」

地獄の蓋まで、チャラくなったと言うわけなのか。

「きひひひっ。寝取られ展開でますます不幸に磨きがかかったなァ、哀れな妹よ」

女性の左肩のあたりから、男の声がする。

「これでいいのさ。こうなるのが遅すぎたぐらいだよ。本当に、二人ともバカなんだから」

両手を広げ「まいったね」のポーズで首を振る。
背中で、細長く編んだ髪が尻尾のように揺れる。

「まあ、これでお前も、やっと心残りなく輪廻できるってわけだ」

冥府より地上侵攻を目論んだ、邪悪な者が居たという。
その者は、己の手駒を増やさんと、罪なき者すら地獄に引きずり込みもした。
しかし、やがて不正は糺されて、輪廻の環は再び正しく巡りだす。

「ようやく兄者ともお別れだ。戻ったら彼に伝えてあげてくれ。
 光素ちゃんは元気そうにやっていたってね」

広げた手のひらに、落ちかたを思い出した玉たちが戻ってくる。
それを巾着袋にしまい、傘で地面をトンと突くと、彼女の姿は消え失せた。

――これにて、呪われた双子の物語は終わる。
兄は虫花地獄で、己の為した罪に対する責め苦を正しく受けるだろう。
妹は生まれ変わり、今度は祝福に包まれた人生を送ることだろう。

彼女の人生は短く悲しいものだった。
しかし、永遠にその名が忘れ去られることはなく、
墓前に供えられる花が絶えることはないだろう。

139雨竜院雨弓:2013/12/31(火) 05:58:10
雨竜院雨弓エピローグSS

 九鈴は1人、墓前で手を合わせていた。雨竜院家の墓に眠る親友に。
 あの子は、今の私達をどう思っているのだろう。親友でも恋人でも、互いにわからないことなんていくらでもある。況してや彼女は鬼籍に入ってもう8年――。
 揺らめく線香の煙が昇る先、空を見上げて九鈴は想う。あの優しい親友が、慈雨となって降り注ぐような、そんな道を歩けたらと。

「みててね、しずく」

 そう言って、墓前にくるりと背を向けた。家路につく足取りが軽いのは、決意を固めたことと、晩ご飯がエビフライなこと、その半々だった。

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 水族館前の駅、改札を出たところで雨弓は待っていた。九鈴が歩み寄ってくると、少し驚いたように目を見開く。

「どうしたんです? 顔に何かついてます?」

「いやあ。九鈴のそういう格好、久々に見たな、と思ってさ。
 似合ってんな」

 確かに、清掃用の作業着だったり、道着の袴姿だったり、汚泥に潜る河太郎だったりと、雨弓が知る最近(大会中)の九鈴は普通の女性らしさとは縁遠い格好をしていた。
 この日の彼女はワンピースに薄手のカーディガンを羽織り、足元はトングサンダル。若い女性がデートに着て来てもおかしくない、それなりにオシャレをした姿だった。

「うん……ありがとう。少し頑張ってみたから」

 掃除に人生を捧げるつもりだった自分が、美容院に行ったり、服を選んだり。ウブなネンネの雨雫とは違うけれど、恋人に外見を褒められたというのはやはり嬉しくて頬が少しばかり赤くなる。

「でもあゆみさん。そういうこと言うのって少し意外」

 九鈴はてっきり彼が恋人の髪型の変化に気付かないタイプだと思っていた。というか、生前の雨雫は実際そんなことをボヤいていた気がする。

「はは、そうか。まあ、……しず、いや、何でもない。
 畢が言ってたんだ。彼女が外見に気をつけてんなら気づいてやれって」

 その言い方に、九鈴は引っかかるものを覚え数瞬、心中で思いを巡らす。その間、雨弓の視線が少しばかり開いた豊満な胸元へ落ちていたことには気づかなかった。

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140雨竜院雨弓:2013/12/31(火) 06:00:54
>>139の続き

 その後2人は博物館のデートを満喫した。定番のイルカショーやぐるりと楕円を描く巨大水槽を泳ぐ回遊魚の群れも見て回ったが、やはり九鈴が1番楽しみにしていたのは甲殻類のコーナーで、テトロドトキシンを持つヒョウモンダコを、片方の鋏脚を失いながらも仕留めるタスマニアオオガニの勇姿にトランペットを見つめる少年のように目を輝かせる。
 雨竜院家で縁起の良い生き物とされているウミウシが鮮やかに体色を変化させるのを見たり、何故か併設されている船の博物館で戦火に沈んだ駆逐艦の写真を眺めたりと、楽しい時を過ごしていた。異様な巨体の上、雨の予報でも無いのに番傘など持っている雨弓がやたらと目立ってはいたが、普通の恋人同士だった。


「しずく、まだすき? 雨弓さん」

 館内のレストランにて、渡り蟹のスパゲティを食しながら九鈴が発した問いに雨弓はあからさまに動揺し、冷酒を飲んでいたこともあってゲホゲホと咳き込んだ。

「な、何で急に……?」

 初デートでこんなことを聞いてくる彼女を、雨弓は少しばかりジト目になって睨む。威圧的な風体の雨弓がやると傍目にはたいそう恐ろしげなのだが、ある程度親しい相手からすると迫力が欠けていた。
 聞き返された九鈴も、こんなことを聞いて雨弓を困らせる自分を些かどうかと思いながらも、しかしやはり、伝えねばならないことがあった。

「いいかけたでしょ? 最初、『雨雫』って。
 責めてるわけじゃなく、どうなのか知りたいの」

 そう、真剣な瞳を向けてくる九鈴に雨弓は暫し困った顔になった後、バツが悪そうに答える。

「好き、なんだろうな……多分。すまん。中途半端だったよ」

 責めてはいないと言われても、やはり謝ってしまう。
 付き合っていた頃に言われていた。「服装や髪型の変化には気づいて欲しい」と。生前はあまり答えられなかった要望に、今になって、別な相手に対して。九鈴と雨雫、両方への罪悪感が心中に同居していた。

「そうではないの」

 九鈴の言葉に、雨弓は下げていた頭を上げる。目線が等しくなった恋人は声音にも表情にも、上辺だけでない喜ばしい気持ちが滲み出ていた。

「むしろげんめつ。雨弓さんが雨雫をあっさり忘れてたら」

 お互い、引きずっていたと思っていた。しかし、この前実家の物置を掃除した折、出てきた漫画を久々に読み返して少々考えが変わったのだ。
 年上の未亡人に恋をした主人公は、彼女の前夫の墓前で告げる。「貴方をひっくるめて彼女を貰います」と。
 少女時代に読んだ時はフィクションの中の台詞でしか無く、今の自分たち3人の関係は彼らのそれ以上に複雑だ。雨弓も雨雫も幼馴染で、雨雫はかけがえの無い親友で、彼女の恋を応援して、結ばれたら祝福して、関係の深まる様を見守って、けれど雨弓は彼女を最も苦しい形で喪って。今は自分が雨弓のことを好きで。

「しずくはだいじ。雨弓さんは恋人の、私は親友の雨雫、あの子のことがとても好き。
 私、雨雫を好きな雨弓さんが好き。だから……」

 雨雫ごと、雨弓を愛したい。その言葉に、雨弓は聞こえるかどうかの声で「九鈴」と名を呼んだ。
 都合がいいかも知れない。欺瞞かも知れない。結局雨雫の気持ちなど本当のところはわからないのだから。それでも、今の自分に尽くせる誠意があるなら、2人の中の彼女が喜んでくれそうな選択を。

 「蛍の光」の流れる中、連れ立って水族館を後にする。外は静かな雨が降り注いでいた。宵闇に燐光を放つ「九頭龍」が2人の頭上を覆う。

「てをつなぎたい」

「……ん」

 相合傘の下で、互いに手を差し出す。少しばかり、距離の縮んだ証。
 雨雫と繋いで以来のことに幾らか照れた様子の雨弓の横顔を見ながら、九鈴は想う。
 「タフグリップ」は概念を掴めるようなチート能力じゃないから、雨弓の心を掴んで離さないなんて出来ないけれど、能力でじゃなく、少しずつ寄り添って、互いに隣が最も居心地がいいと思えるようになって、こうして歩いて行けたら、と。
 ゆとり粒子が輝く雨でも、尿臭漂う金の雨でも無い。天から滴るような雫が、2人の頭上に濯いでいた。

141雨竜院雨弓:2014/01/01(水) 04:37:44
>>140の内容をお手数ですが以下に差し替えお願いします。  

 その後2人は水族館デートを満喫した。定番のイルカショーや数万匹の魚が泳ぎ回る巨大水槽も見て回ったが、やはり九鈴が1番楽しみにしていたのは甲殻類のコーナーで、テトロドトキシンを持つヒョウモンダコを、片方の鋏脚を失いながらも仕留めるタスマニアンキングクラブの勇姿にトランペットを見つめる少年のように目を輝かせる。
 雨竜院家で縁起の良い生き物とされているウミウシが鮮やかに体色を変化させるのを見たり、何故か併設されている船の博物館で戦火に沈んだ駆逐艦の写真を眺めたりと、楽しい時を過ごした。異様な巨体の上、雨の予報でも無いのに番傘など持っている雨弓がやたらと目立ってはいたが、普通の、初々しい恋人同士だった。


「しずく、まだすき? 雨弓さん」

 館内のレストランにて、渡り蟹のスパゲティを食しながら九鈴が発した問いに雨弓はあからさまに動揺し、冷酒を飲んでいたこともあってゲホゲホと咳き込んだ。

「な、何で急に……?」

 初デートでこんなことを聞いてくる彼女を、雨弓は少しばかりジト目になって睨む。大人と子供ほど身長差のある雨弓がやると傍目にはたいそう恐ろしげなのだが、ある程度親しい相手からすると迫力が欠けていた。
 聞き返された九鈴も、こんなことを聞いて雨弓を困らせる自分を些かどうかと思いながらも、しかしやはり、伝えねばならないことがあった。

「いいかけたでしょ? 最初、『雨雫』って。
 責めてるわけじゃなく、どうなのか知りたいの」

 そう、真剣な瞳を向けてくる九鈴に雨弓は暫し困った顔になった後、バツが悪そうに答える。

「好き、なんだろうな……多分。すまん。中途半端だったよ」

 責めてはいないと言われても、やはり謝ってしまう。
 付き合っていた頃に言われていた。「服装や髪型の変化には気づいて欲しい」と。生前はあまり答えられなかった要望に、今になって、別な相手に対して。九鈴と雨雫、両方への不義理な気持ちが心中に同居していた。

「そうではないの」

 九鈴の言葉に、雨弓は下げていた頭を上げる。目線が等しくなった恋人は声音にも表情にも、上辺だけでない多幸感が滲み出ていて雨弓は驚いた。

「むしろげんめつ。雨弓さんが雨雫をあっさり忘れてたら」

 お互い、引きずっていたと思っていた。しかし、この前実家の物置を掃除した折、出てきた漫画を久々に読み返して少々考えが変わったのだ。
 年上の未亡人に恋をした主人公は、彼女の前夫の墓前で告げる。「貴方をひっくるめて彼女を貰います」と。
 少女時代に読んだ時はフィクションの中の台詞でしか無く、今の自分たち3人の関係は彼らのそれ以上に複雑だ。
 雨弓も雨雫も幼馴染で、雨雫はかけがえの無い親友で、彼女の恋を応援して、結ばれたら祝福して、関係の深まる様を見守って、けれど雨弓は彼女を最も苦しい形で喪って。今は自分が雨弓のことを好きで。

「しずくはだいじ。雨弓さんは恋人の、私は親友の雨雫。私達、あの子のことが大好き。
 私、雨雫を好きな雨弓さんが好き。だから……」

 雨雫ごと、雨弓を愛したい。雨弓にも、自分の中の彼女まで愛して欲しい。雨雫自身は悲しい結末を迎えても、2人の中に思い出が生きていることはとても幸せなのだと思いたかった。
 その言葉に、雨弓は聞こえるかどうかの声で「九鈴」と名を呼んだ。
 
 都合がいいかも知れない。欺瞞かも知れない。結局雨雫の気持ちなど本当のところはわからないのだから。それでも、今の自分に尽くせる誠意があるなら、2人の中の彼女が喜んでくれそうな選択を。

 「蛍の光」の流れる中、連れ立って水族館を後にする。外は予報に無い、しかし穏やかな雨模様。宵闇に燐光を放つ「九頭龍」が2人の頭上を覆う。

「て、つないでいい?」

「……ん」

 相合傘の下で、互いに手を差し出す。大きくゴツゴツした雨弓の手。九鈴の手もそれに比べれば小さく細いけれど、固く皮が張って、指にはタコが出来ている。戦いの人生を歩んできた2人の指が絡まると、雨弓にはひやりとした感覚が、九鈴には温もりが伝わった。
 繋がれた手と、照れを隠せずにいる雨弓の横顔を交互に見て九鈴は思う。
 「タフグリップ」は概念を掴めるようなチート能力じゃないから、雨弓の心を掴んで離さないなんて出来ないけれど、能力でじゃなく、少しずつ寄り添って、互いに隣が最も居心地がいいと思えるようになって、こうして歩いて行けたら撿撿。
 
 ゆとり粒子が輝く雨でも、尿臭漂う金の雨でも無い。天から滴るような雫が、2人の頭上へと濯いでいた。

142聖槍院九鈴:2014/01/08(水) 08:49:44
【予告編テイストなエピローグ】

ガラガラガラ。ガラガラガラ。石畳の上でキャリーバッグが車輪を鳴らし引きずられてゆく。◆座礁した原油タンカーから染み出したドス黒い油が海面へ広がってゆく。エビが……カニが……南海の豊かな生態系が危ない……。

ガラガラガラ。ガラガラガラ。石畳の上でキャリーバッグが車輪を鳴らし引きずられてゆく。◆入り組んだ路地裏に遺棄された狂科学者のラボ。ズルリ。乱雑に積まれたバイオ廃棄物の中から奇怪な触手が這い出した。望まれず生まれた異形の復讐が始まる……。

ガラガラガラ。ガラガラガラ。石畳の上でキャリーバッグが車輪を鳴らし引きずられてゆく。◆大規模不法投棄組織のプラントから戦闘ヘリが飛び立つ。機銃を構えたガンナーが赤外線スコープで地上の標的を視認。その人物は……!?

車輪の音が消える。足を止めたキャリーバッグの持ち主の女性は、鋭い視線を上空に向ける。その両手には……二本のトング!緋色の光を纏った漆黒のトングが獲物を求めて牙を開く!

右トングに挟まれた巨大なオイルフェンス塊が頭上高く差し上げられる!左トングに挟まれた台船が揺れる!梃子の原理による大質量ハンドリング!そして……投擲!海面を走るように一瞬でフェンスが敷設される!

右から!左から!襲い来る無数の触手を次々にトングで挟み壁面に床面にタフグリップ固定しながら走る!目指すは触手の湧き出す中心地!コアを破壊しない限り無尽蔵に触手は増え続けるのだ!

容赦ない機銃掃射!降り注ぐ対地ミサイル!だが標的の姿は既に無い!上だ!トングのバネで自らを射出して武装ヘリよりも更に高く!高速回転するローターをトングが捉えタフグリップ固定!揚力を失い落下してゆく……!

地面に激突した武装ヘリの爆発光が、女性の表情を照らし出す。その鋭い瞳は、遥か先を見据えている。

人生は一瞬。掃除は永遠。◆「だからわたしは……。挟み続ける!」◆聖槍院九鈴の掃除は、まだ終わらない!

「頼む!目を覚ましてくれ!」妹の身体を揺すり、雨弓は懸命に呼び掛けた。だがその言葉は届かない。「もう……ておくれね……」沈痛な面持ちで九鈴が呟く。雨竜院畢は目を閉じて静かに微笑んでいる。しかし、その四肢は既に力を失っていた。

143聖槍院九鈴:2014/01/08(水) 08:53:10
「畜生!このままじゃ畢は……」雨弓は床を拳で殴りつけ、空になった酒瓶を恨めしそうに睨みつけた。「おねしょしちゃうね……」九鈴は溜め息をついた。新年会で慣れないお酒を飲み過ぎて泥酔した畢は、安らかな寝息を立てている。

雨弓は畢の小さな体を軽々と持ち上げ寝室へ運ぼうとした。すると、下の妹の金雨が裾をちょいと引っ張った。「おトイレに運んで。私がなんとかしてみる」最年少ながら兄妹で最もしっかり者の金雨は、酔い潰れた姉の世話をする気まんてんだった。

実際、金雨は上手くやり遂げた。絶望的に見えた畢になんとかトイレを済まさせることに成功したのだ。そして、パジャマに着替えた畢と金雨は、兄たちと両親に就寝の挨拶をして仲良く寝室に向かっていった。

……新年会の後片付けを終え、雨弓の部屋にやってきた九鈴は意味ありげに微笑みを浮かべて言った。「わたしもすこし……」九鈴は雨弓の大きな体にしなだれかかる「よっちゃったかな?」「大丈夫か?」雨弓は優しく抱きとめるが……背に隠して構えたトングに気付いていない!

「えーいっ!」素早く繰り出された4本のトングが雨弓の両手両足を床面にタフグリップ固定!身動きのできない雨弓の上へ馬乗りになった九鈴は、胸の前でガチガチとトングを鳴らす!「せめたいきぶん!」酒癖が悪い!

「ちょっと待て九鈴!」おとなしくマグロになっていればいいものを、身の危険を感じた雨弓は反射的に『睫毛の虹』で幻覚攻撃を仕掛けてしまう!風邪予防の加湿器によって湿度は十分!極彩色のベイズリー渦が九鈴の視界を覆い尽くす!

「おえええええっ!」酔っ払いの視界を幻術ジャックすれば当然こうなる!九鈴の口から嗚咽と共に吐き出される新年会の御馳走の成れの果て!タフグリップ固定された雨弓は回避不能!顔面直撃!雨弓はたまらず……もらいゲロ!

あれ……おかしいな……九鈴のイメージが……おかしいな……。まあ、幸せそうだからイイんじゃないかな!

世界改変後の九鈴ですが、清掃局に勤務する傍らトング道場で師範代として後進の指導に当たってます。大会の宣伝効果で門下生も増えたようです。そして時折、七葉からの依頼で危険な清掃ミッションに挑んでます。

2021年春に結婚、秋に第一子を授かります。雨弓と九鈴の間にどんな子が生まれたかって?その話は、またの機会にいたしましょう。

【聖槍院九鈴エピローグ、おわり】


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